(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-20
(54)【発明の名称】L718及び/又はL792変異型治療抵抗性EGFR阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20220413BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220413BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220413BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20220413BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20220413BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220413BHJP
C12Q 1/68 20180101ALN20220413BHJP
【FI】
A61K31/519 ZNA
A61P35/00
A61P43/00 111
G01N33/574 Z
C12Q1/6869 Z
C12N15/12
C12Q1/68 100Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021530234
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(85)【翻訳文提出日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051377
(87)【国際公開番号】W WO2020138400
(87)【国際公開日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2018247131
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000207827
【氏名又は名称】大鵬薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽迫 真一
(72)【発明者】
【氏名】宇野 貴夫
【テーマコード(参考)】
4B063
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA13
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4C086AA01
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4C086ZB26
4C086ZC20
(57)【要約】
本発明は、(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド(以下、「化合物A」とも称する)又はその塩を含有する、エクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者を治療するための抗腫瘍剤を提供するものである。[Xは任意のアミノ酸残基を示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド(以下、「化合物A」とも称する)又はその塩を含有する、エクソン18のL718X変異及びエクソン2のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者を治療するための抗腫瘍剤。
[Xは任意のアミノ酸残基を示す。]
【請求項2】
更に、エクソン19欠失変異、L858R、L861Q、G719X、E709X及びエクソン20挿入変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有する請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
更に、T790M変異を有する請求項2に記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
L718X変異が、L718Q変異である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項5】
L792X変異が、L792H、L792F、又はL792Yである、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項6】
エクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者に(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩を投与する工程を含む、悪性腫瘍患者の治療方法。
【請求項7】
エクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者を治療するための、(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩。
【請求項8】
(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩の、エクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者を治療するための使用。
【請求項9】
(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩の、エクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者を治療するための医薬を製造するための使用。
【請求項10】
(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩及び薬学的に許容できる担体を含む、エクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するEGFRを発現してい悪性腫瘍患者を治療するための、医薬組成物。
[Xは任意のアミノ酸残基を示す。]
【請求項11】
下記工程(1)~(2)を含む、悪性腫瘍患者における(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩を有効成分とする抗腫瘍剤を用いた化学療法の治療効果を予測する方法:
(1)当該患者から採取された生体試料に含まれるEGFR遺伝子の変異の有無を検出する工程、及び
(2)上記工程(1)における検出の結果、EGFR遺伝子がエクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有している場合、当該患者に対する当該化学療法が十分な治療効果を示す可能性が高いと予測する工程。
[Xは任意のアミノ酸残基を示す。]
【請求項12】
下記工程(1)~(3)を含む、悪性腫瘍患者の治療方法:
(1)当該患者から採取された生体試料に含まれるEGFR遺伝子の変異の有無を検出する工程、及び
(2)上記工程(1)における検出の結果、EGFR遺伝子がエクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有している場合、当該患者に対する(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩を有効成分とする抗腫瘍剤を用いた化学療法が十分な治療効果を示す可能性が高いと予測する工程、及び
(3)上記工程(2)において(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩を有効成分とする抗腫瘍剤を用いた化学療法が十分な治療効果を示す可能性が高いと予測された悪性腫瘍患者に、(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩を投与する工程。
[Xは任意のアミノ酸残基を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエクソン18及び/又はエクソン20治療抵抗性変異型上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor、以下、「EGFR」とも称する)を有する癌に対する抗腫瘍剤に関する。
【背景技術】
【0002】
EGFRは受容体チロシンキナーゼであり、正常組織においてはリガンドである上皮成長因子(Epidermal Growth Factor、以下「EGF」とも称する)と結合することで生理機能を発揮し、上皮組織において増殖やアポトーシス阻害に寄与している(非特許文献1)。また、EGFR遺伝子の体細胞変異は癌の原因遺伝子として知られており、例えばEGFRのエクソン19のコドン746~750が欠失したもの(以下、「エクソン19欠失変異」とも称する)やエクソン21のコドン858がコードするロイシンがアルギニンへ変異したもの(以下、「L858R変異」とも称する)はEGF非依存的なキナーゼ活性を恒常的に誘導し、癌細胞の増殖や生存に寄与する(非特許文献2)。これらの変異は、東アジアにおいては、例えば非小細胞肺癌の30~50%で認められ、また、欧米においても非小細胞肺癌のおよそ10%で認められると報告されており、癌の原因因子の1つとして考えられている(非特許文献3)。
【0003】
そのため、EGFR阻害剤の抗腫瘍剤としての研究開発は従来から活発に行われており、各種のEGFR変異陽性肺癌の治療に導入されている(非特許文献2、4)。ゲフィチニブ、エルロチニブ、及びアファチニブは、EGFR変異の90%を占めるエクソン19欠失変異型及びL858R変異型EGFR陽性肺癌に対する治療薬として用いられている。また、これらの治療継続中に獲得耐性が生じることが知られており、その原因の50%はエクソン20のコドン790がスレオニンからメチオニンへ変異した(以下、「T790M変異」とも称する)耐性変異型EGFRである。この変異を有する肺癌に対してはオシメルチニブが治療薬として用いられている。従って、主要なEGFR変異を有する肺癌患者に対して、EGFR阻害剤を用いた治療が確立されつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2015/175632A1号公報
【特許文献2】WO2015/025936A1号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nat.Rev.Cancer,vol.6,pp803-812(2006)
【非特許文献2】Nature Medicine,vol.19,pp1389-1400(2013)
【非特許文献3】Nat. Rev. Cancer,vol.7,pp169-181(2007)
【非特許文献4】Clin.Cancer Res.,vol.24,pp3097-3107(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
主要なEGFR変異を有する肺癌患者に対して、EGFR阻害剤を用いた治療が確立されつつある。一方、オシメルチニブ治療抵抗性を示す患者の存在も知られており、その原因の一部はEGFR遺伝子の変異であることが報告されている(非特許文献4)。例えばde novo変異であるエクソン19欠失変異又はL858R変異と獲得耐性変異であるT790M変異に加えて、エクソン18のコドン718がコードするロイシンが任意のアミノ酸に置換した点変異(以下、「L718X変異」とも称する)や、エクソン20のコドン792がコードするロイシンが任意のアミノ酸に置換した点変異(以下、「L792X変異」とも称する)を併せ持つ肺癌は、オシメルチニブ治療に対して抵抗性を示すことが確認されている。L718X変異やL792X変異によっておこるアミノ酸置換は立体障害および疎水性結合の減弱を誘導することでオシメルチニブとEGFRの結合を妨げることが提唱されている(非特許文献4)。このためにde novoの活性型変異とT790M獲得耐性変異、及びL718X変異又はL792X変異の複合変異を有するEGFRに対して高い阻害活性を有する阻害剤の開発が望まれる。
【0007】
従って、L718X又はL792Xを含む複合変異を有するEGFRに対して高い阻害活性を有する薬剤の開発は、オシメルチニブ治療抵抗性を示す肺癌に対して抗腫瘍効果を示すことが可能となることが予想され、治療法の確立されていない変異型EGFR陽性癌患者の延命やQOL向上に貢献することが期待される。更に、EGFR阻害剤治療に対する獲得耐性変異であるT790Mに対しても高い阻害活性を有する薬剤であれば、de novo変異であるエクソン19やエクソン21の変異型EGFRに対するEGFR阻害剤治療に際し、獲得耐性の発現頻度を減少させる可能性が予想され、がん患者の延命に貢献することが期待される。
【0008】
このような状況の下、本発明の課題は、従来のEGFR阻害剤で治療効果が十分ではない、オシメルチニブ治療抵抗性変異であるL718及びL792変異型EGFRへの阻害活性が高い阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、従来治療に導入されているEGFR阻害剤が、活性型変異及びT790M獲得耐性変異に加え、L718及びL792変異を含む複合変異型EGFRに対する阻害活性が乏しいことを見いだした。更に、本発明者らは、化合物の共結晶構造の比較を端緒として、鋭意研究した結果、本発明化合物は、L718及びL792変異を有するEGFRに対する優れた阻害活性を示すことを見いだし、更に上記複合変異型EGFRにも優れた阻害活性を示すことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は以下の態様を包含する。
【0011】
項1.
(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド(以下、「化合物A」とも称する)又はその塩を含有する、エクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者を治療するための抗腫瘍剤。[Xは任意のアミノ酸残基を示す。]
【0012】
項2.
更に、エクソン19欠失変異、L858R、L861Q、G719X、E709X及びエクソン20挿入変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有する項1に記載の抗腫瘍剤。
【0013】
項3.
更に、T790M変異を有する項2に記載の抗腫瘍剤。
【0014】
項4.
L718X変異が、L718Q変異である、項1~3のいずれか一項に記載の抗腫瘍剤。
【0015】
項5.
L792X変異が、L792H、L792F、又はL792Yである、項1~4のいずれか一項に記載の抗腫瘍剤。
【0016】
項6.
エクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者に(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩を投与する工程を含む、悪性腫瘍患者の治療方法。
【0017】
項7.
エクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者を治療するための、(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩。
【0018】
項8.
(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩の、エクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者を治療するための使用。
【0019】
項9.
(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩の、エクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者を治療するための医薬を製造するための使用。
【0020】
項10.
(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩及び薬学的に許容できる担体を含む、エクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者を治療するための、医薬組成物。
[Xは任意のアミノ酸残基を示す。]
【0021】
項11.
下記工程(1)~(2)を含む、悪性腫瘍患者における(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩を有効成分とする抗腫瘍剤を用いた化学療法の治療効果を予測する方法:
(1)当該患者から採取された生体試料に含まれるEGFR遺伝子の変異の有無を検出する工程、及び
(2)上記工程(1)における検出の結果、EGFR遺伝子がエクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有している場合、当該患者に対する当該化学療法が十分な治療効果を示す可能性が高いと予測する工程。
[Xは任意のアミノ酸残基を示す。]
【0022】
項12.
下記工程(1)~(3)を含む、悪性腫瘍患者の治療方法:
(1)当該患者から採取された生体試料に含まれるEGFR遺伝子の変異の有無を検出する工程、及び
(2)上記工程(1)における検出の結果、EGFR遺伝子がエクソン18のL718X変異及びエクソン20のL792X変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有している場合、当該患者に対する(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩を有効成分とする抗腫瘍剤を用いた化学療法が十分な治療効果を示す可能性が高いと予測する工程、及び
(3)上記工程(2)において(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩を有効成分とする抗腫瘍剤を用いた化学療法が十分な治療効果を示す可能性が高いと予測された悪性腫瘍患者に、(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩を投与する工程。
[Xは任意のアミノ酸残基を示す。]
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る抗腫瘍剤は、L718及びL792変異を有するEGFRへの高い阻害活性を示す。したがって、L718及びL792変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者に対する優れた治療効果を発揮する抗腫瘍剤を提供するものとして有用である。
【0024】
本発明はまた、L718及びL792変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者の治療方法を提供するものとして有用である。
【0025】
従来のEGFR阻害剤は、エクソン20領域の獲得耐性変異であるT790M変異存在下、もしくはL718及びL792変異存在下においてEGFR阻害活性が著しく低下するため、十分な治療効果を発揮することが困難であった。一方、本発明に係る抗腫瘍剤は、L718及び/又はL792変異を有し、かつEx19del又はL858R変異等の活性変異を有するEGFRへの阻害活性が高いため、これらの変異を複合的に有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者に対して優れた治療効果を発揮することができる。本発明に係る抗腫瘍剤は上記変異に加えて、T790M変異を有していても、L718及び/又はL792変異を有するEGFRへの阻害活性が高いため、これらの変異を複合的に有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者に対して優れた治療効果を発揮することができる。
【0026】
更に、本発明に係る抗腫瘍剤は、エクソン20領域の獲得耐性変異であるT790M変異の存在下においても、エクソン18及びエクソン20治療抵抗性変異型EGFRに対して、高い阻害活性を有するため、de novo変異であるエクソン18やエクソン21の変異型EGFRに対するEGFR阻害剤治療に際し、獲得耐性の発現頻度を減少させうる点で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】HEK293細胞を用いた変異型EGFR強制発現系におけるリン酸化評価結果(阻害活性)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
明細書の上記又は下記記載において、本発明範囲に含まれる様々な定義の好適例を、下記で詳細に説明する。
【0029】
本明細書において「EGFR」とは、ヒト上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor)タンパク質を示す。EGFRは、ErbB-1又はHER1とも呼ばれている。
【0030】
本明細書において「野生型EGFR」とは、体細胞変異を有していないEGFRを示し、具体的には配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である(GenBankアクセッション番号:NP_005219.2)。
【0031】
本明細書において「エクソン18」とは、野生型EGFRのアミノ酸配列(配列番号1)における688-728の領域を示す。
【0032】
本明細書において「エクソン18治療抵抗性変異」とは、野生型EGFR(配列番号1)のエクソン18領域のアミノ酸における点変異又は欠失変異を示す。好ましくは、エクソン18治療抵抗性変異としては、エクソン18領域の1のアミノ酸が置換された点変異であり、より好ましくは、エクソン18のコドン718にコードされるロイシンが任意のアミノ酸に置換した点変異であるL718Xである(Xは、遺伝情報にコードされるタンパク質を構成するアミノ酸のうち、ロイシン以外の任意のアミノ酸残基を示す。)。具体的には、L718Xとしては、エクソン18領域のコドン718にコードされるロイシンがグルタミンに置換した点変異であるL718Q、コドン718にコードされるロイシンがバリンに置換した点突然変異であるL718Vが挙げられ、これらが好ましい。
【0033】
本明細書において「エクソン18活性型変異」とは、野生型EGFR(配列番号1)のエクソン18領域のアミノ酸における点変異又は欠失変異を示す。好ましくは、エクソン18活性型変異としては、エクソン18領域の1のアミノ酸が置換された点変異であり、エクソン18のコドン709にコードされるグルタミン酸が任意のアミノ酸に置換した点変異であるE709X、及びエクソン18のコドン719によりコードされるグリシンが任意のアミノ酸に置換した点変異であるG719Xである。具体的には、E709Xとしては、エクソン18領域のコドン709にコードされるグルタミン酸がリシンに置換した点変異であるE709K、エクソン18領域のコドン709にコードされるグルタミン酸がアラニンに置換した点変異であるE709Aが挙げられ、これらが好ましい。G719Xとしては、エクソン18領域のコドン719にコードされるグリシンがアラニンに置換した点変異であるG719A、エクソン18領域のコドン719にコードされるグリシンがセリンに置換した点変異であるG719S、又はエクソン18領域のコドン719にコードされるグリシンがシステインに置換した点変異であるG719Cが挙げられ、これらが好ましい。
【0034】
本発明において「エクソン20」とは、野生型EGFRのアミノ酸配列(配列番号1)における824-875の領域を示す。
【0035】
本明細書において「エクソン20治療抵抗性変異」とは、野生型EGFR(配列番号1)のエクソン20領域のアミノ酸における点変異を示す。好ましくは、エクソン20変異としては、エクソン20領域の1のアミノ酸が置換された点変異であり、より好ましくは、エクソン20領域のコドン792にコードされるロイシンが任意のアミノ酸に置換した点変異であるL792Xである(Xは、遺伝情報にコードされるタンパク質を構成するアミノ酸のうち、ロイシン以外の任意のアミノ酸残基を示す。)。具体的には、エクソン20領域のコドン792によりコードされるロイシンがヒスチジンに置換した点変異であるL792H、コドン792によりコードされるロイシンがフェニルアラニンに置換した点変異であるL792F、コドン792によりコードされるロイシンがチロシンに置換した点変異であるL792Y、コドン792によりコードされるロイシンがアルギニンに置換した点変異であるL792R、コドン792によりコードされるロイシンがバリンに置換した点変異であるL792V、コドン792によりコードされるロイシンがプロリンに置換した点変異であるL792Pが挙げられ、このうち、L792F、L792H及びL792Yが好ましい。
【0036】
本明細書において「エクソン20挿入変異」とは、EGFRのエクソン20領域(配列番号1における761~823番のアミノ酸配列)に1つ以上(好ましくは1~7つ、より好ましくは1~4つ)のアミノ酸が挿入された変異を示し、好ましくは、エクソン20領域の763番アラニンから764番チロシンの間にアミノ酸配列FQEA(N末側から順番にフェニルアラニン、グルタミン、グルタミン酸、アラニン)が挿入された変異(A763_Y764insFQEA)、エクソン20領域の769番バリンから770番アスパラギン酸の間にアミノ酸配列ASV(N末側から順番にアラニン、セリン、バリン)が挿入された変異(V769_D770insASV)、エクソン20領域の770番アスパラギン酸から771番アスパラギンの間にアミノ酸配列SVD(N末側から順番にセリン、バリン、アスパラギン酸)が挿入された変異(D770_N771insSVD)、エクソン20領域の770番アスパラギン酸から771番アスパラギンの間にアミノ酸配列NPG(N末側から順番にアスパラギン、プロリン、グリシン)が挿入された変異(D770_N771insNPG)、エクソン20領域の770番アスパラギン酸から771番アスパラギンの間にアミノ酸G(グリシン)が挿入された変異(D770_N771insG)、エクソン20領域の770番アスパラギン酸が欠失し替わりにアミノ酸配列GY(N末側から順にグリシン、チロシン)が挿入された変異(D770>GY)、エクソン20領域の771番アスパラギンから772番プロリンの間にアミノ酸N(アスパラギン)が挿入された変異(N771_P772insN)、エクソン20領域の772番プロリンから773番ヒスチジンの間にアミノ酸配列PR(N末側から順にプロリン、アルギニン)が挿入された変異(P772_R773insPR)、エクソン20領域の773番ヒスチジンから774番バリンの間にアミノ酸配列NPH(N末側から順番にアスパラギン、プロリン、ヒスチジン)が挿入された変異(H773_V774insNPH)、エクソン20領域の773番ヒスチジンから774番バリンの間にアミノ酸配列PH(N末側から順番にプロリン、ヒスチジン)が挿入された変異(H773_V774insPH)、エクソン20領域の773番ヒスチジンから774番バリンの間にアミノ酸配列AH(N末側から順番にアラニン、ヒスチジン)が挿入された変異(H773_V774insAH)、エクソン20領域の773番ヒスチジンから774番バリンの間にアミノ酸H(ヒスチジン)が挿入された変異(H773_V774insH)、エクソン20領域の774番バリンから775番システインの間にアミノ酸配列HV(N末側から順番にヒスチジン、バリン)が挿入された変異(V774_C774insHV)、エクソン20領域の761番アラニンから762番グルタミン酸の間にアミノ酸配列EAFQ(N末側から順番にグルタミン酸、アラニン、フェニルアラニン、グルタミン)が挿入された変異(A761_E762insEAFQ)等が挙げられる。より好ましくはエクソン20領域の769番バリンから770番アスパラギン酸の間にアミノ酸配列ASV(N末側から順番にアラニン、セリン、バリン)が挿入された変異(V769_D770insASV)、エクソン20領域の770番アスパラギン酸から771番アスパラギンの間にアミノ酸配列SVD(N末側から順番にセリン、バリン、アスパラギン酸)が挿入された変異(D770_N771insSVD)、エクソン20領域の770番アスパラギン酸から771番アスパラギンの間にアミノ酸G(グリシン)が挿入された変異(D770_N771insG)、エクソン20領域の773番ヒスチジンから774番バリンの間にアミノ酸配列NPH(N末側から順番にアスパラギン、プロリン、ヒスチジン)が挿入された変異(H773_V774insNPH)、エクソン20領域の773番ヒスチジンから774番バリンの間にアミノ酸配列PH(N末側から順番にプロリン、ヒスチジン)が挿入された変異(H773_V774insPH)が挙げられる。特に好ましくはエクソン20領域の763番アラニンから764番チロシンの間にアミノ酸配列FQEA(N末側から順番にフェニルアラニン、グルタミン、グルタミン酸、アラニン)が挿入された変異(A763_Y764insFQEA)、エクソン20領域の769番バリンから770番アスパラギン酸の間にアミノ酸配列ASV(N末側から順番にアラニン、セリン、バリン)が挿入された変異(V769_D770insASV)、エクソン20領域の770番アスパラギン酸から771番アスパラギンの間にアミノ酸配列SVD(N末側から順番にセリン、バリン、アスパラギン酸)が挿入された変異(D770_N771insSVD)、エクソン20領域の770番アスパラギン酸から771番アスパラギンの間にアミノ酸G(グリシン)が挿入された変異(D770_N771insG)エクソン20領域の773番ヒスチジンから774番バリンの間にアミノ酸配列NPH(N末側から順番にアスパラギン、プロリン、ヒスチジン)が挿入された変異(H773_V774insNPH)、及びエクソン20領域の773番ヒスチジンから774番バリンの間にアミノ酸配列PH(N末側から順番にプロリン、ヒスチジン)が挿入された変異(H773_V774insPH)等が挙げられる。
【0037】
本発明において「エクソン21」とは、野生型EGFRのアミノ酸配列(配列番号1)における824-875の領域を示す。
【0038】
本明細書において「エクソン21活性型変異」とは、野生型EGFR(配列番号1)のエクソン21領域のアミノ酸における点変異を示す。好ましくは、エクソン21活性型変異としては、エクソン21領域の1のアミノ酸が置換された点変異であり、より好ましくは、エクソン21領域のコドン858にコードされるロイシンが任意のアミノ酸に置換した点変異であるL858X、及びエクソン21領域のコドン861にコードされるロイシンが任意のアミノ酸に置換した点変異であるL861Xである(Xは、遺伝情報にコードされるタンパク質を構成するアミノ酸のうち、ロイシン以外の任意のアミノ酸残基を示す。)。具体的には、エクソン21領域のコドン858にコードされるロイシンがアルギニンへ変異した点突然変異であるL858R及びエクソン21領域のコドン861によりコードされるロイシンがグルタミンに置換した点変異であるL861Qが挙げられ、これらが好ましい。
【0039】
本発明において、「エクソン18及び/又はエクソン20治療抵抗性変異」は、「エクソン18治療抵抗性変異」「エクソン20治療抵抗性変異」、「エクソン18及びエクソン20治療抵抗性変異」を包含する。
【0040】
本発明において、「点変異」とは、1又は複数(例えば、1~10個程度、好ましくは1~5程度個、より好ましくは1、2又は3個程度)のアミノ酸残基の置換、挿入又は欠失をもたらす変異を示し、核酸としてのインフレーム挿入及び/又は欠失変異も含みうる。
【0041】
「エクソン18及び/又はエクソン20治療抵抗性変異を有するEGFR」は、「エクソン18治療抵抗性変異を有するEGFR」、「エクソン20治療抵抗性変異を有するEGFR」及び「エクソン18及びエクソン20治療抵抗性変異を有するEGFR」を包含する。
【0042】
本明細書において「エクソン18治療抵抗性変異を有するEGFR」とは、エクソン18治療抵抗性変異として少なくとも上記エクソン18のL718X変異を有するEGFR示し、当該EGFRはL718X以外の他のエクソン18変異さらに有してもよいが、好ましくはエクソン18治療抵抗性変異としてL718X変異1つを有するものである。また、当該EGFRはエクソン18治療抵抗性変異以外の変異(例えば、エクソン19欠失変異、L858R変異、L790M変異など)を有していても良い。
【0043】
本明細書において「エクソン20治療抵抗性変異を有するEGFR」とは、エクソン20治療抵抗性変異として少なくとも上記エクソン20のL792X変異を有するEGFRを示し、当該EGFRはL792X以外の他の変異を有してもよいが、好ましくはエクソン治療抵抗性20変異としてL718X変異1つを有するものである。また、当該EGFRはエクソン20治療抵抗性変異以外の変異(例えば、エクソン19欠失変異、L858R変異、L790M変異など)を有していても良い。
【0044】
本明細書において「エクソン19」とは、野生型EGFRのアミノ酸配列(配列番号1)における729-823の領域を示す。
【0045】
本明細書において「エクソン19欠失変異」とは、野生型EGFR(配列番号1)のエクソン19領域において1つ以上のアミノ酸を欠失した変異を示す。当該領域の欠失に加えて1又は複数の任意のアミノ酸が挿入された変異も包含する。エクソン19欠失変異としては、エクソン19領域の746番グルタミン酸から750番アラニンの5アミノ酸が欠失した変異(Del E746-A750)、エクソン19領域の747番ロイシンから753番プロリンの7アミノ酸が欠失後にセリンが挿入された変異(Del 747―P753insS)、エクソン19領域の747番ロイシンから751番トレオニンの5アミノ酸が欠失した変異(Del L747-T751)、エクソン19領域の747番ロイシンから750番アラニンの4アミノ酸が欠失後にプロリンが挿入された変異(Del 747―A750insP)等を示す。好ましくは、エクソン19領域の746番グルタミン酸から750番アラニンの5アミノ酸が欠失した変異(Del E746-A750)が挙げられる。
【0046】
また、エクソン18及び/又はエクソン20治療抵抗性変異を有するEGFRは、更に、エクソン19欠失変異、L858R、L861Q、G719X、E709X及びエクソン20挿入変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有していてもよい。具体的には、エクソン19欠失変異を更に有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、エクソン19欠失変異を更に有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFR、L858Rを更に有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、L858Rを更に有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFR、L861Qを更に有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、L861Qを更に有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFR、G719Xを更に有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、G719Xを更に有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFR、E709Xを更に有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、E709Xを更に有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFR、エクソン20挿入変異を更に有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、エクソン20挿入変異を更に有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFRを示す。このうち、エクソン19欠失変異を更に有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、エクソン19欠失変異を更に有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFR、L858Rを更に有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、L858Rを更に有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFRが好ましい。
【0047】
また、エクソン18及び/又はエクソン20治療抵抗性変異を有するEGFRは、上記エクソン19欠失変異、L858R、L861Q、G719X、E709X及びエクソン20挿入変異に加えて、更にT790M変異を有していてもよい。T790Mはエクソン20領域の獲得耐性変異であり、既存のEGFR阻害剤を使用することによって生ずることが知られている。T790Mの獲得により、悪性腫瘍患者に対して既存の薬剤の効果が低くなる場合が多い。
【0048】
本発明において、T790M変異を更に有するエクソン19欠失変異を有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、T790M変異を更に有するエクソン19欠失変異を有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFR、T790M変異を更に有するL858Rを有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、T790M変異を更に有するL858Rを有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFR、T790M変異を更に有するL861Qを有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、T790M変異を更に有するL861Qを有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFR、T790M変異を更に有するG719Xを有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、T790M変異を更に有するG719Xを有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFR、T790M変異を更に有するE709Xを有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、T790M変異を更に有するE709Xを有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFR、T790M変異を更に有するエクソン20挿入変異を有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、T790M変異を更に有するエクソン20挿入変異を有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFRを示す。このうち、T790M変異を更に有するエクソン19欠失変異を有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、T790M変異を更に有するエクソン19欠失変異を有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFR、T790M変異を更に有するL858Rを有するエクソン18領域のL718X変異を有するEGFR、T790M変異を更に有するL858Rを有するエクソン20領域のL792X変異を有するEGFRが好ましい。
【0049】
上記複合変異を有するEGFRにおいて、エクソン18領域ではL718Q変異を有するEGFR、エクソン20領域ではL792F変異を有するEGFR、L792H変異を有するEGFR、及びL792Y変異を有するEGFRが特に好ましい。
【0050】
本発明において、悪性腫瘍患者が発現しているEGFRが変異を有することの検出方法としては、上記の変異が検出できれば特に制限されず、公知の検出方法を使用することができる。
【0051】
EGFR変異の検出に供する試料としては、悪性腫瘍患者由来の生体試料、特に悪性腫瘍患者から採取したものであり悪性腫瘍細胞を含む試料であれば特に限定されない。生体試料としては、例えば体液(血液、尿等)、組織、その抽出物及び採取した組織の培養物などが例示できる。また、生体試料の採取方法は、生体試料の種類に応じ適宜選択することができる。
【0052】
生体試料は、測定方法に応じて、適切な処理をされることにより調製される。また、検出に用いられるプライマー又はプローブを含む試薬は、これらの測定方法に応じて、慣用される方法により調整することができる。
【0053】
本発明の1つの態様において、抗腫瘍剤の悪性腫瘍患者への投与の前に、悪性腫瘍患者が発現しているEGFRが本発明に係る変異を有することの検出する工程を行うことができる。
【0054】
なお、悪性腫瘍は異なる2種以上の悪性腫瘍細胞を含む場合がある。また、一人の患者において2以上の複数の悪性腫瘍が発生する場合がある。そのため、一人の患者が、EGFRの異なる変異(例えば、エクソン18変異が、L718Q及びL718Vのエクソン18変異;エクソン20変異が、L792F、L792H、L792Y、L792R、L792V及びL792Pのエクソン20変異が挙げられるがこれらに限定されない。)を同時に有する場合がある。
【0055】
本発明の抗腫瘍剤は、(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド(化合物A)又はその塩を有効成分として含有する。化合物Aは、下記化学式で表される。
【0056】
【0057】
次に、本発明に係る化合物の製造法について説明する:
本発明化合物Aは、例えば、WO2015/025936A1号公報に記載された製造法又は実施例に示す方法等により製造することができる。ただし、本発明化合物の製造法はこれら反応例に限定されるものではない。
【0058】
本発明化合物Aが、光学異性体、立体異性体、互変異性体等の異性体を有する場合には、特に明記しない限り、いずれの異性体も混合物も本発明化合物に包含される。例えば、本発明化合物に光学異性体が存在する場合には、特に明記しない限り、ラセミ体及びラセミ体から分割された光学異性体も本発明化合物に包含される。
【0059】
化合物Aの塩とは、薬学的に許容される塩を意味し、塩基付加塩又は酸付加塩を挙げることができる。
【0060】
該塩基付加塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;例えばカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;例えばアンモニウム塩;例えばトリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、プロカイン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩等の有機アミン塩等が挙げられる。
【0061】
該酸付加塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;例えば酢酸塩、ギ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、トリフルオロ酢酸塩等の有機酸塩;例えばメタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩等が挙げられる。
【0062】
本発明化合物又はその塩には、そのプロドラッグも含まれる。プロドラッグは、生体内における生理条件下で酵素や胃酸等による反応により本発明化合物又はその塩に変換する化合物、即ち酵素的に酸化、還元、加水分解等を起こして本発明化合物又はその塩に変化する化合物、胃酸等により加水分解等を起こして本発明化合物又はその塩に変化する化合物をいう。また、広川書店1990年刊「医薬品の開発」第7巻分子設計163頁から198頁に記載されているような生理的条件で本発明化合物又はその塩に変化するものであってもよい。
【0063】
[疾患の記載]
本発明の対象となる腫瘍は特に制限はされないが、例えば、頭頚部癌、消化器癌(食道癌、胃癌、十二指腸癌、肝臓癌、胆道癌(胆嚢・胆管癌等)、膵臓癌、結腸直腸癌(結腸癌、直腸癌等)等)、肺癌(非小細胞肺癌、小細胞肺癌、中皮腫等)、乳癌、生殖器癌(卵巣癌、子宮癌(子宮頚癌、子宮体癌等)等)、泌尿器癌(腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍等)、造血器腫瘍(白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫等)、骨・軟部腫瘍、皮膚癌、脳腫瘍等が挙げられる。好ましくは、肺癌、乳癌、頭頸部癌、脳腫瘍、子宮癌、消化器癌、造血器腫瘍、又は皮膚癌であり、特に好ましくは肺癌である。
【0064】
本発明化合物又はその塩は医薬として用いるにあたっては、必要に応じて薬学的担体を配合し、予防又は治療目的に応じて各種の投与形態を採用可能であり、該形態としては、例えば、経口剤、注射剤、坐剤、軟膏剤、貼付剤等のいずれでもよく、好ましくは、経口剤が採用される。これらの投与形態は、各々当業者に公知慣用の製剤方法により製造できる。
【0065】
薬学的に許容できる担体としては、製剤素材として慣用の各種有機或いは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等として配合される。また、必要に応じて防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、安定化剤等の製剤添加物を用いることもできる。
【0066】
経口用固形製剤を調製する場合は、本発明化合物に賦形剤、必要に応じて賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。
【0067】
賦形剤としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、無水ケイ酸等が挙げられる。結合剤としては、水、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、α-デンプン液、ゼラチン液、D-マンニトール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。崩壊剤としては、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。滑沢剤としては、精製タルク、ステアリン酸塩ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。着色剤としては、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。矯味・矯臭剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0068】
経口用液体製剤を調製する場合は、本発明化合物に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。
【0069】
注射剤を調製する場合は、本発明化合物にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下、筋肉内及び静脈内用注射剤を製造することができる。
【0070】
pH調節剤及び緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。安定化剤としては、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。局所麻酔剤としては、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖、D-マンニトール、グリセリン等が挙げられる。
【0071】
坐剤を調製する場合は、化合物Aに当業界において公知の製剤用担体、例えば、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセリド等を、更に必要に応じてTween80(登録商標)のような界面活性剤等を加えた後、常法により製造することができる。
【0072】
軟膏剤を調製する場合は、化合物Aに通常使用される基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤等が必要に応じて配合され、常法により混合、製剤化される。
【0073】
基剤としては、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィン等が挙げられる。
【0074】
保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0075】
貼付剤を調製する場合は、通常の支持体に前記軟膏、クリーム、ゲル、ペースト等を常法により塗布すればよい。
【0076】
支持体としては、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布や軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン等のフィルム或いは発泡体シートが適当である。
【0077】
上記の各投与単位形態中に配合されるべき化合物Aの量は、これを適用すべき患者の症により、或いはその剤形等により一定ではないが、一般に投与単位形態あたり、経口剤では0.05-1000mg、注射剤では0.01-500mg、坐剤では1-1000mgとするのが望ましい。
【0078】
また、上記投与形態を有する薬剤の1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり一概には決定できないが、本発明化合物として通常成人(体重50kg)1日あたり0.05-5000mg、好ましくは0.1-1000mgとすればよく、これを1日1回又は2-3回程度に分けて投与するのが好ましい。
【0079】
本発明はまた、エクソン18及び/又はエクソン20治療抵抗性変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者に化合物A又はその塩を投与する工程を含む、悪性腫瘍患者の治療方法を提供する。
【0080】
本発明はまた、エクソン18及び/又はエクソン20治療抵抗性変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者を治療するための、化合物A又はその塩を提供する。
【0081】
本発明はまた、化合物A又はその塩の、エクソン18及び/又はエクソン20治療抵抗性変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者を治療するための使用を提供する。
【0082】
本発明はまた、化合物A又はその塩の、エクソン18及び/又はエクソン20治療抵抗性変異を有するEGFRを発現している悪性腫瘍患者を治療するための医薬を製造するための使用を提供する。
【0083】
本発明はまた、下記工程(1)~(2)を含む、悪性腫瘍患者における化合物A又はその塩を有効成分とする抗腫瘍剤を用いた化学療法の治療効果を予測する方法を提供する。
(1)当該患者から採取された生体試料に含まれるEGFR遺伝子の変異の有無を検出する工程、及び
(2)上記工程(1)における検出の結果、EGFR遺伝子がエクソン18及び/又はエクソン20治療抵抗性変異を有している場合、当該患者に対する当該化学療法が十分な治療効果を示す可能性が高いと予測する工程。
【0084】
本発明はまた、下記工程(1)~(3)を含む、悪性腫瘍患者の治療方法を提供する。
(1)当該患者から採取された生体試料に含まれるEGFR遺伝子の変異の有無を検出する工程、及び
(2)上記工程(1)における検出の結果、EGFR遺伝子がエクソン18及び/又はエクソン20治療抵抗性変異を有している場合、当該患者に対する(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩を有効成分とする抗腫瘍剤を用いた化学療法が十分な治療効果を示す可能性が高いと予測する工程、及び
(3)上記工程(2)において(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩を有効成分とする抗腫瘍剤を用いた化学療法が十分な治療効果を示す可能性が高いと予測された悪性腫瘍患者に、(S)-N-(4-アミノ-6-メチル-5-(キノリン-3-イル)-8,9-ジヒドロピリミド[5,4-b]インドリジン-8-イル)アクリルアミド又はその塩を投与する工程。
【0085】
EGFR遺伝子の塩基配列は公知である。cDNAの塩基配列のGenBankアクセッション番号は、NM_005228.4である。
【0086】
なお、「治療効果」は、腫瘍縮小効果、再発抑制効果、延命効果などにより評価することができ、再発抑制効果は無再発生存期間の延長や再発率の改善の程度、延命効果は全生存期間や無増悪生存期間の中央値の延長の程度などにより表すことができる。化合物A又はその塩を有効成分として含有する抗腫瘍剤を用いた化学療法が「十分な治療効果を示す」とは、化合物A又はその塩を有効成分として含有する抗腫瘍剤を投与することにより、非投与の場合と比較して、生存期間を延長させたり、再発を抑制させたりするような優れた治療効果をいう。
【実施例】
【0087】
以下に試験例を示し、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例(試験例)に制限されるものではない。
【0088】
試験例1 In vitro 薬効試験
HEK293細胞を用いた変異型EGFR強制発現系における細胞内リン酸化評価結果
(阻害活性)
化合物の細胞内標的阻害活性は、Jump-In(商標) Grip(商標) HEK293細胞(Thermo Fisher Scientific Inc.)(以下、「HEK293細胞」とも称す)を用いた変異型EGFR強制発現系における細胞内EGFRリン酸化を指標に評価した。HEK293細胞は、10% 透析 ウシ胎児血清(dialyzed FBS)を含むD-MEM with GlutaMAX(商標)-I(High glucose)(Thermo Fisher Scientific Inc.)にて維持した。HEK293細胞を96ウェル平底マイクロプレートの各ウェルに1ウェルあたりの細胞数が10,000個になるように播種し、5%炭酸ガス含有の培養器中37℃で1晩培養した後、ヒトEGFR遺伝子(Del E746-A750(Ex19delとも称す)、Ex19del+T790M(+は両方の変異を有することを示す)、Ex19del+T790M+L718Q、Ex19del+T790M+L792H、Ex19del+T790M+L792F、Ex19del+T790M+L792Y、L858R、L858R+T790M、L858R+T790M+L718Q、L858R+T790M+L792H、L858R+T790M+L792F、L858R+T790M+L792Y)をコードしたpcDNATM6.2/V5―DESTベクターをOpti-MEM(商標) I(Thermo Fisher Scientific Inc.)と共にViaFect(商標) Transfection Reagent(プロメガ株式会社)を用いて導入し、再び5%炭酸ガス含有の培養器中37℃で1晩培養した。翌日、化合物A、エルロチニブ、アファチニブ及びオシメルチニブ(エルロチニブ、アファチニブ及びオシメルチニブを各々、以下、「比較化合物」とも称する)をDMSOに溶解し、DMSOもしくは培地を用いて希釈し、これを細胞の培養プレートの各ウェルに加え、5%炭酸ガス含有の培養器中37℃で6時間培養した。培養後、20% 中性緩衝ホルマリン液(和光純薬工業株式会社)を用いて細胞を固定し、ODYSSEY(商標) Blocking Buffer(PBS)(M&S TechnoSystems Inc.)により細胞をブロッキングした後、ODYSSEY(商標) Blocking Buffer(PBS)を用いて200分の1に希釈した一次抗体(EGFR Antibody Cocktail#AHR5062(Thermo Fisher Scientific Inc.)及びPhospho-EGFR Receptor(Tyr1068)Antibody#2234L(CST))に反応させ4℃で一晩静置した。翌日、ODYSSEY(商標) Blocking Buffer(PBS)を用いて800分の1に希釈した二次抗体(IRDye 800CW Goat aRabbit#926-32211及びIRDye 680RD Goat aMouse#926-68070(M&S TechnoSystems Inc.))に反応させ室温で1時間静置した。蛍光強度(Fluorescence intensity:以下「FI」とも称す)の検出は、Odyssay(商標) CLx Infrared Imaging System(LI-COR Bioscience) を用いて、蛍光波長800nm及び700nmで測定した。
【0089】
蛍光波長800nm及び700nmで検出したFI値から一次抗体を含まないウェルのFI値を差し引いた数値をそれぞれ、FI(800,EGFR)-Blank、FI(700,p-EGFR)-Blankとする。各ウェルのFI(700,p-EGFR)-BlankからFI(800,EGFR)-Blankを除した値をFI(p-EGFR/EGFR)値とする。以下の式よりリン酸化EGFR率を算出し、EGFRを50%リン酸化することのできる被検化合物の濃度(IC50(μM))を求めた。結果を表1に示す。
【0090】
リン酸化EGFR率(%)=T / C ×100
T:被検化合物を添加したウェルのFI(p-EGFR/EGFR)
C:被検化合物を添加しなかったウェルのFI(p-EGFR/EGFR)。
【0091】
表1から明らかなとおり、化合物AはL718Q及びL792Xを含む複合変異型EGFRに対して高い細胞内リン酸化阻害活性を示し、その活性はエルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブに比して高かった。
【0092】
【配列表】
【国際調査報告】