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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-20
(54)【発明の名称】複合材及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/06 20060101AFI20220413BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220413BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220413BHJP
   A01N 25/26 20060101ALI20220413BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20220413BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20220413BHJP
   C09C 1/04 20060101ALI20220413BHJP
   C09C 1/22 20060101ALI20220413BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20220413BHJP
   C09C 1/02 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
C09C3/06
A01P1/00
A01P3/00
A01N25/26
A01N59/16 Z
C09C3/08
C09C1/04
C09C1/22
C09C1/36
C09C1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021547476
(86)(22)【出願日】2020-01-21
(85)【翻訳文提出日】2021-08-31
(86)【国際出願番号】 SG2020050025
(87)【国際公開番号】W WO2020180242
(87)【国際公開日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】10201902068U
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504354117
【氏名又は名称】エイジェンシー・フォー・サイエンス,テクノロジー・アンド・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100120857
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 聡
(72)【発明者】
【氏名】チャン ユーゲン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジンチュアン
【テーマコード(参考)】
4H011
4J037
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BA01
4H011BB18
4H011BC06
4H011BC09
4H011BC18
4H011DA04
4J037AA09
4J037AA14
4J037AA21
4J037AA24
4J037CA14
4J037CA18
4J037CB09
4J037CB16
4J037CB22
4J037DD05
4J037EE03
4J037EE43
4J037EE47
4J037FF15
4J037FF26
(57)【要約】
カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む複合材が提供される。カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む複合材の調製方法であって、金属又は合金を酸と、高められた温度で、任意に溶媒の存在下で、継続期間のあいだ混合する工程を含む方法も提供される。抗菌剤としての複合材の使用、及び微生物感染症の治療又は予防における複合材の使用も提供される。微生物活性の阻害方法又は微生物感染症若しくは微生物病の治療方法であって、本明細書に開示される複合材を含む抗菌組成物を対象に投与する工程又はこの抗菌組成物を表面に塗布する工程を含む方法も提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む複合材。
【請求項2】
前記コアが、元素周期律表の第2族、第4族、第7族、第8族、第12族又は第13族からなる群から選択される金属、それらの組み合わせ、及びそれらの合金を含む請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記金属が、亜鉛、鉄、アルミニウム、チタン、マグネシウム、及びマンガンからなる群から選択される請求項1又は請求項2に記載の複合材。
【請求項4】
前記酸が、有機酸、無機酸、及びこれらの混合物からなる群から選択される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項5】
前記有機酸が、カルボン酸、アミノ酸、及びこれらの混合物からなる群から選択される請求項4に記載の複合材。
【請求項6】
前記カルボン酸が、式CH(CHCOOHの飽和モンカルボン酸であり、式中、nは0~20の整数である請求項5に記載の複合材。
【請求項7】
前記カルボン酸が、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、芳香族カルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、ケト酸、α-ヒドロキシル酸、及びジビニルエーテル脂肪酸からなる群から選択される請求項5に記載の複合材。
【請求項8】
前記アミノ酸が、タンパク質構成アミノ酸、非タンパク質構成アミノ酸、及びこれらの混合物からなる群から選択される請求項5に記載の複合材。
【請求項9】
前記無機酸が、リン酸、ポリリン酸、タングステン酸、バナジン酸、モリブデン酸、及びヘテロポリ酸からなる群から選択される請求項4に記載の複合材。
【請求項10】
前記保護層が重合体又は非重合体である請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項11】
前記保護層が多孔質又は非多孔質である請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項12】
前記無機の金属又は合金のコアが0.01μm~100μmの範囲のサイズを有するか、又は前記保護層が5nm~1,000nmの範囲の厚さを有する請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項13】
前記保護層が、前記無機のコアの0.1重量%~20重量%の質量重量百分率範囲にある請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項14】
前記複合材が100nm~500,000nmのサイズ範囲にある請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項15】
カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む複合材の調製方法であって、金属又は合金を酸と、高められた温度で、任意に溶媒の存在下で、継続期間のあいだ混合する工程を含む方法。
【請求項16】
前記高められた温度が50℃~180℃の範囲にあるか、又は前記継続期間が1時間~50時間の範囲にある請求項15に記載の方法。
【請求項17】
抗菌剤としての複合材の使用であって、前記複合材は、カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む使用。
【請求項18】
微生物感染症の治療又は予防において使用するための複合材であって、前記複合材は、カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む複合材。
【請求項19】
微生物感染症の治療又は予防のための医薬の製造における複合材の使用であって、前記複合材は、カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む使用。
【請求項20】
微生物活性の阻害方法又は微生物感染症若しくは微生物病の治療方法であって、請求項1に記載の複合材を含む抗菌組成物を対象に投与する工程又は前記抗菌組成物を表面に塗布する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2019年3月7日出願のシンガポール出願番号第10201902068U号に基づく優先権を主張するものであり、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、複合材、その調製方法、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
微生物感染症と抗菌剤耐性の発現は、公衆衛生と安全保障が直面する最も重要な問題の1つとして注目されている。長期的な安定性及び活性を持つクリーンな抗菌表面を作ることは、医療機器、病院の表面、繊維製品(テキスタイル)、包装材、電気製品、海洋防汚、フィルター、及び公共の表面等、日常生活のほぼすべての局面に関わる非常に大きな用途を持つ。
【0004】
無機系抗菌材料、とりわけ半導体抗菌材料は、化学物質による汚染が少なく、長期安定性を有する。銀、酸化亜鉛、酸化チタンの粒子等の金属又は金属酸化物の一部は、様々な製品の抗菌成分として、又は抗菌性の表面コーティングに使用されてきた。しかしながら、これらの材料には、銀系材料では重金属汚染/毒性、酸化亜鉛材料及び酸化チタン材料では光照射に依存するため抗菌効果が低く、ナノ毒性が不確かである等、様々な制約がある。酸化還元活性のZn/ZnO、Zn/ZnS、Zn/ZnS1-x等の複合材料が開発され、優れた抗菌特性を発揮している。しかしながら、これらの種類の無機複合材は、製剤化や様々なマトリックスへの分散が困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
それゆえ、上述の欠点の1つ以上を克服又は改善する抗菌活性のためのプロセス及び複合材料を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、本開示は、カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体(錯体)を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む複合材に関する。
【0007】
有利なことに、当該複合材は、抗菌効果及び抗真菌効果の形で抗菌活性を示してもよい。従って、当該複合材は、一般的な抗菌剤若しくは抗菌性の表面コーティングとして単独で使用してもよいし、又は抗菌性の添加剤として他の系に混合されてもよい。
【0008】
さらに有利なことに、当該複合材は高活性で安定しており、長期的な活性を示してもよい。
【0009】
なおさらに有利なことに、当該複合材は容易に合成でき、スケールアップ製造が可能である。当該複合材は、容易に製剤化される可能性があり、様々なマトリクスに分散されてもよいため、当該複合材は、フィルム、プレート及び粒子等の様々な形態で提供されてもよい。
【0010】
別の態様では、本開示は、カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む複合材の調製方法であって、金属又は合金を酸と、高められた温度で、任意に溶媒の存在下で、継続期間のあいだ混合する工程を含む方法に関する。
【0011】
有利には、当該複合材の調製方法は、活性化された表面を生成し、抗菌効果を付与するために、様々な金属又は合金の表面に適用されてもよい。
【0012】
別の態様では、本開示は、抗菌剤としての複合材の使用であって、この複合材は、カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む使用に関する。
【0013】
有利には、当該複合材の使用により、18時間以内にグラム陽性菌、グラム陰性菌又は真菌の個体数が5log減少してもよい。
【0014】
別の態様では、本開示は、微生物感染症の治療又は予防において使用するための複合材であって、この複合材は、カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む複合材に関する。
【0015】
別の態様では、本開示は、微生物感染症の治療又は予防のための医薬の製造における複合材の使用であって、この複合材は、カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む使用に関する。
【0016】
別の態様では、本開示は、微生物活性の阻害方法又は微生物感染症若しくは微生物病の治療方法であって、本明細書に開示される複合材を含む抗菌組成物を対象に投与する工程又はこの抗菌組成物を表面に塗布する工程を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
添付の図面は、開示された実施形態を説明し、開示された実施形態の原理を説明するのに役立つ。しかしながら、図面は説明のためだけに設計されたものであり、本発明の限界を定義するものではないことを理解されたい。
【0018】
図1図1は、当該複合材の構造の模式図であり、無機の金属又は合金のコア100は、保護層200によって覆われている。この保護層は、当該複合材を抗菌活性に向けて活性化させ、当該複合材のさらなる製剤化(配合)や加工を可能にする役割も果たす。
図2A図2Aは、例1の合成プロセスに従って製造された複合材Aの走査電子顕微鏡法(SEM)画像である。倍率20,000倍及びスケールバー1μmの複合材AのSEM画像である。
図2B図2Bは、例2の合成プロセスに従って製造された複合材BのSEM画像である。倍率4,000倍及びスケールバー1μmの複合材BのSEM画像である。
図2C図2Cは、例3の合成プロセスに従って製造された複合材CのSEM画像である。倍率3,000倍及びスケールバー1μmの複合材CのSEM画像である。
図3A図3Aは、例1の合成プロセスに従って製造された複合材Aの透過電子顕微鏡法(TEM)画像である。スケールバー50nmの複合材AのTEM画像である。
図3B図3Bは、例2の合成プロセスに従って製造された複合材BのTEM画像である。スケールバー0.5μmの複合材BのTEM画像である。
図3C図3Cは、例3の合成プロセスに従って製造された複合材CのTEM画像である。スケールバー0.5μmの複合材CのTEM画像である。
図4図4は、例1の合成プロセスに従って製造された複合材Aの電界放出型透過電子顕微鏡法-エネルギー分散型X線(FTEM-EDX)画像であり、複合材Aの寸法にわたる炭素元素及び酸素元素のスキャンラインが提示されている。
図5図5は、例2の合成プロセスに従って製造された複合材BのFTEM-EDX画像であり、複合材Bの寸法にわたる炭素元素及び窒素元素のスキャンラインが提示されている。
図6A図6Aは、例2の合成プロセスに従って作製された複合材B中の亜鉛の走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線(SEM-EDX)元素マッピング画像(スケールバーは100nm)である。
図6B図6Bは、例2の合成プロセスに従って製造された複合材B中の炭素のSEM-EDX元素マッピング画像(スケールバーは100nm)である。
図6C図6Cは、例2の合成プロセスに従って製造された複合材B中の窒素のSEM-EDX元素マッピング画像(スケールバーは100nm)である。
図6D図6Dは、例2の合成プロセスに従って製造された複合材B中の酸素のSEM-EDX元素マッピング画像(スケールバーは100nm)である。
図7図7は、それぞれ例1及び例2の合成プロセスから製造された複合材A及び複合材Bのフーリエ変換赤外分光(FTIR)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
本明細書で使用される以下の単語及び用語は、示された意味を有するものとする。
【0020】
本明細書で使用される「複合材」という用語は、物理的及び/又は化学的特性の異なる2つ以上の構成要素から構成される材料であって、組み合わせたときに、結果として得られる材料がそれらの構成要素とは異なる特性を有し、完成した構造の中で個々の構成要素が分離して区別されたままになるような材料を指す。
【0021】
本明細書で使用される「抗菌」という用語は、細胞阻害、細胞傷害、細胞死を引き起こす能力、又は標的となる細菌及び真菌の微生物の増殖を制御する能力を指す。
【0022】
本明細書で使用される「添加剤」という用語は、別の物質又は製品に少量添加して、特定の所望の性能特性を付与又は向上させる物質を指す。
【0023】
特段の記載がない限り、「comprising(…を含む)」及び「comprise(…を含む)」という用語、並びにそれらの文法的変化形は、記載された要素を含むが、追加の未記載の要素を含めることも可能であるような、「オープンな」又は「包括的な」言語を表すことが意図されている。
【0024】
本明細書で使用される「約」という用語は、製剤、配合物の成分の濃度の文脈では、典型的には記載値の±5%、より典型的には記載値の±4%、より典型的には記載値の±3%、より典型的には記載値の±2%、さらにより典型的には記載値の±1%、さらにより典型的には記載値の±0.5%を意味する。
【0025】
本開示全体にわたって、特定の実施形態が範囲形式で開示されてもよい。範囲形式での記載は、単に利便性と簡潔性のためのものであり、開示された範囲の射程に対する柔軟でない制限として解釈されるべきではないことを理解すべきである。従って、ある範囲の記載は、可能なすべての部分範囲、及びその範囲内の個々の数値を具体的に開示していると考えるべきである。例えば、1~6という範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等の部分範囲、及びその範囲内の個々の数値、例えば、1、2、3、4、5及び6を具体的に開示していると考えるべきである。これは、範囲の広さに関係なく適用される。
【0026】
特定の実施形態が、本明細書で広く一般的に記載されることがある。一般的な開示に該当する狭義の種及び亜属のグループのそれぞれも、本開示の一部を形成する。これには、属から任意の主題を除去する但し書き又は否定的な限定を伴う実施形態の一般的な記載が含まれ、このことは、削除された材料が本明細書に具体的に記載されているか否かによらない。
【0027】
次に、複合材の例示的な非限定的な実施形態を開示する。
【0028】
当該複合材は、カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む。
【0029】
上記コアは、元素周期律表の第2族、第4族、第7族、第8族、第12族又は第13族からなる群から選択されてもよい金属、それらの組み合わせ、及びこれらの合金を含んでもよい。
【0030】
上記金属は、亜鉛、鉄、アルミニウム、チタン、マグネシウム、及びマンガンからなる群から選択されてもよい。この金属は、亜鉛、鉄及びチタンであってもよい。
【0031】
上記保護層を形成するために、酸が使用されてもよい。使用される酸の種類に応じて、これは形成される保護層の種類を決定するが、これは、保護層がカルボン酸塩であるか、金属酸化物であるか、金属酸化物塩であるか、又は金属-アミノ酸複合体であるかによらない。保護層は水和塩であってもよい。上記酸は、有機酸、無機酸、及びこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。上記金属(上で規定されたとおり)又は合金は、酸と反応して、上記保護層を形成してもよい。酸が有機酸である場合、保護層は、カルボン酸塩又は無機/有機複合体である。上記カルボン酸塩は、金属カルボン酸塩であってもよく、この金属カルボン酸塩の金属は、上記で規定したとおりである。酸が無機酸である場合、上記保護層は、金属酸化物、金属酸化物塩又は水和金属酸化物塩である。
【0032】
有機酸は、カルボン酸、アミノ酸、及びこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。
【0033】
上記カルボン酸は、式CH(CHCOOHの飽和モノカルボン酸であってもよく、式中、nは0~20の整数であってもよい。
【0034】
上記カルボン酸は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、芳香族カルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、ケト酸、α-ヒドロキシル酸、及びジビニルエーテル脂肪酸からなる群から選択されてもよい。
【0035】
上記カルボン酸は、メタン酸、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、2-メチルプロパン酸、ペンタン酸、3-メチルブタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、α-リノール酸、アラキドン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、アルダル酸、クエン酸、イソクエン酸、ピルビン酸、アセト酢酸、レブリン酸、安息香酸、サリチル酸、フタル酸、グリセリン酸、グリコール酸、乳酸、酒石酸、及びコルネール酸からなる群から選択されてもよい。
【0036】
上記アミノ酸は、タンパク質構成アミノ酸、非タンパク質構成アミノ酸、及びこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。
【0037】
上記アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン、リジン、フェニルアラニン、トリプトファン、グルタミン酸、アスパラギン酸、チロシン、γ-アミノ酪酸、カルニチン、レボチロキシン、ヒドロキシプロリン、及びセレノメチオニンからなる群から選択されてもよい。上記アミノ酸は、ヒスチジンであってもよい。
【0038】
上記無機酸は、リン酸、ポリリン酸、タングステン酸、バナジン酸、モリブデン酸、及びヘテロポリ酸からなる群から選択されてもよい。
【0039】
上記保護層は、重合体であっても非重合体であってもよい。
【0040】
上記護層は、多孔質であってもよく非多孔質であってもよい。
【0041】
上記保護層は、シェル層とみなされてもよい。
【0042】
無機のコアのサイズは、約0.01~約100μm、約0.05~約100μm、約0.1~約100μm、約0.5~約100μm、約1~約100μm、約5~約100μm、約10~約100μm、約50~約100μm、約0.01~約0.05μm、約0.01~約0.1μm、約0.01~約0.5μm、約0.01~約1μm、約0.01~約5μm、約0.01~約10μm、約0.01~約50μm、約0.05~約0.1μm、約0.05~約0.5μm、約0.05~約1μm、約0.05~約5μm、約0.05~約10μm、約0.05~約50μm、約0.1~約0.5μm、約0.1~約1μm、約0.1~約5μm、約0.1~約10μm、約0.1~約50μm、約0.5~約1μm、約0.5~約5μm、約0.5~約10μm、約0.5~約50μm、約1~約5μm、約1~約10μm、約1~約50μm、約5~約10μm、約5~約50μm、又は約10~約50μmであってもよい。
【0043】
上記保護層の厚さは、約5~約1000nm、約8~約1000nm、約10~約1000nm、約20~約1000nm、約50~約1000nm、約80~約1000nm、約100~約1000nm、約200~約1000nm、約500~約1000nm、約800~約1000nm、約5~約8nm、約5~約10nm、約5~約20nm、約5~約50nm、約5~約80nm、約5~約100nm、約5~約200nm、約5~約500nm、約5~約800nm、約8~約10nm、約8~約20nm、約8~約50nm、約8~約80nm、約8~約100nm、約8~約200nm、約8~約500nm、約8~約800nm、約10~約20nm、約10~約50nm、約10~約80nm、約10~約100nm、約10~約200nm、約10~約500nm、約10~約800nm、約20~約50nm、約20~約80nm、約20~約100nm、約20~約200nm、約20~約500nm、約20~約800nm、約50~約80nm、約50~約100nm、約50~約200nm、約50~約500nm、約50~約800nm、約80~約100nm、約80~約200nm、約80~約500nm、約80~約800nm、約100~約200nm、約100~約500nm、約100~約800nm、約200~約500nm、約200~約800nm、又は約500~約800nmであってもよい。
【0044】
当該複合材は、保護層含有量が、上記無機のコアの重量に基づいて、約0.1重量%~約20重量%、0.5重量%~約20重量%、0.8重量%~約20重量%、1重量%~約20重量%、5重量%~約20重量%、8重量%~約20重量%、10重量%~約20重量%、15重量%~約20重量%、18重量%~約20重量%、0.1重量%~約0.5重量%、0.1重量%~約0.8重量%、0.1重量%~約1重量%、0.1重量%~約5重量%、0.1重量%~約8重量%、0.1重量%~約10重量%、0.1重量%~約15重量%、0.1重量%~約18重量%、0.5重量%~約0.8重量%、0.5重量%~約1重量%、0.5重量%~約5重量%、0.5重量%~約8重量%、0.5重量%~約10重量%、0.5重量%~約15重量%、0.5重量%~約18重量%、0.8重量%~約1重量%、0.8重量%~約5重量%、0.8重量%~約8重量%、0.8重量%~約10重量%、0.8重量%~約15重量%、0.8重量%~約18重量%、1重量%~約5重量%、1重量%~約8重量%、1重量%~約10重量%、1重量%~約15重量%、1重量%~約18重量%、5重量%~約8重量%、5重量%~約10重量%、5重量%~約15重量%、5重量%~約18重量%、8重量%~約10重量%、8重量%~約15重量%、8重量%~約18重量%、10重量%~約15重量%、10重量%~約18重量%、又は15重量%~約18重量%であってもよい。
【0045】
当該複合材の粒子サイズ(粒子径)は、約100nm~500,000nmの範囲内であってもよい。
【0046】
当該複合材は、フィルム、プレート及び粒子等の異なる形態であってもよい。
【0047】
次に、当該複合材の調製方法の例示的で非限定的な実施形態を開示する。
【0048】
カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む当該複合材の調製方法は、金属又は合金を酸と、高められた温度で、任意に溶媒の存在下で、継続期間のあいだ混合する工程を含んでいてもよい。
【0049】
当該方法は、上記混合物を室温まで冷却する工程と、当該複合材を濾過によって回収する工程と、この複合材を適切な溶媒で繰り返し洗浄する工程とをさらに含んでもよい。
【0050】
上記溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトニトリル、アセトン、エタノール及びこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。
【0051】
当該方法で使用される高められた温度は、約50℃~約180℃、約70℃~約180℃、約90℃~約180℃、約110℃~約180℃、約130℃~約180℃、約150℃~約180℃、約170℃~約180℃、約50℃~約70℃、約50℃~約90℃、約50℃~約110℃、約50℃~約130℃、約50℃~約150℃、約50℃~約170℃、約70℃~約90℃、約70℃~約110℃、約70℃~約130℃、約70℃~約150℃、約70℃~約170℃、約90℃~約110℃、約90℃~約130℃、約90℃~約150℃、約90℃~約170℃、約110℃~約130℃、約110℃~約150℃、約110℃~約170℃、約130℃~約150℃、約130℃~約170℃、又は約150℃~約170℃であってもよい。
【0052】
当該方法で使用する継続時間は、約1~約50時間、約5~約50時間、約10~約50時間、約20~約50時間、約30~約50時間、約40~約50時間、約45~約50時間、約1~約5時間、約1~約10時間、約1~約20時間、約1~約30時間、約1~約40時間、約1~約45時間、約5~約10時間、約5~約20時間、約5~約30時間、約5~約40時間、約5~約45時間、約10~約20時間、約10~約30時間、約10~約40時間、約10~約45時間、約20~約30時間、約20~約40時間、約20~約45時間、約30~約40時間、約30~約45時間、又は約40~約45時間であってもよい。
【0053】
当該方法から調製された複合材は、上述の通りである。
【0054】
次に、複合材の使用の例示的で非限定的な実施形態を開示する。
【0055】
この複合材は、上述の通りである。この複合材は、組成物又は製剤中の添加剤として使用されてもよい。
【0056】
当該複合材が組成物又は製剤中の添加剤として使用される場合、その組成物又は製剤は非治療的であってもよい。
【0057】
上記組成物又は製剤は、抗菌性プラスチック、抗菌性顔料、及び抗菌性繊維製品からなる群から選択されてもよい。
【0058】
当該複合材の濃度は、以下の範囲であってもよい。
抗菌性プラスチックのプラスチックの約0.1重量%~約4.0重量%、約0.5重量%~約4.0重量%、約1.0重量%~約4.0重量%、約2.0重量%~約4.0重量%、約2.5重量%~約4.0重量%、約3.0重量%~約4.0重量%、約3.5重量%~約4.0重量%、約0.1重量%~約0.5重量%、約0.1重量%~約1.0重量%、約0.1重量%~約2.0重量%、約0.1重量%~約2.5重量%、約0.1重量%~約3.0重量%、約0.1重量%~約3.5重量%、約0.5重量%~約1.0重量%、約0.5重量%~約2.0重量%、約0.5重量%~約2.5重量%、約0.5重量%~約3.0重量%、約0.5重量%~約3.5重量%、約1.0重量%~約2.0重量%、約1.0重量%~約2.5重量%、約1.0重量%~約3.0重量%、約1.0重量%~約3.5重量%、約2.0重量%~約2.5重量%、約2.0重量%~約3.0重量%、約2.0重量%~約3.5重量%、約2.5重量%~約3.0重量%、約2.5重量%~約3.5重量%、又は約3.0重量%~約3.5重量%、
抗菌性顔料の顔料の約0.1%~約4.0重量%、約0.5重量%~約4.0重量%、約1.0重量%~約4.0重量%、約2.0重量%~約4.0重量%、約2.5重量%~約4.0重量%、約3.0重量%~約4.0重量%、約3.5重量%~約4.0重量%、約0.1重量%~約0.5重量%、約0.1重量%~約1.0重量%、約0.1重量%~約2.0重量%、約0.1重量%~約2.5重量%、約0.1重量%~約3.0重量%、約0.1重量%~約3.5重量%、約0.5重量%~約1.0重量%、約0.5重量%~約2.0重量%、約0.5重量%~約2.5重量%、約0.5重量%~約3.0重量%、約0.5重量%~約3.5重量%、約1.0重量%~約2.0重量%、約1.0重量%~約2.5重量%、約1.0重量%~約3.0重量%、約1.0重量%~約3.5重量%、約2.0重量%~約2.5重量%、約2.0重量%~約3.0重量%、約2.0重量%~約3.5重量%、約2.5重量%~約3.0重量%、約2.5重量%~約3.5重量%、又は約3.0重量%~約3.5重量%、及び
抗菌性繊維製品の繊維製品の約0.02重量%~約1.00重量%、約0.05重量%~約1.00重量%、約0.10重量%~約1.00重量%、約0.30重量%~約1.00重量%、約0.50重量%~約1.00重量%、約0.70重量%~約1.00重量%、約0.90重量%~約1.00重量%、約0.02重量%~約0.05重量%、約0.02重量%~約0.10重量%、約0.02重量%~約0.30重量%、約0.02重量%~約0.50重量%、約0.02重量%~約0.70重量%、約0.02重量%~約0.90重量%、約0.05重量%~約0.10重量%、約0.05重量%~約0.30重量%、約0.05重量%~約0.50重量%、約0.05重量%~約0.70重量%、約0.05重量%~約0.90重量%、約0.10重量%~約0.30重量%、約0.10重量%~約0.50重量%、約0.10重量%~約0.70重量%、約0.10重量%~約0.90重量%、約0.30重量%~約0.50重量%、約0.30重量%~約0.70重量%、約0.30重量%~約0.90重量%、約0.50重量%~約0.70重量%、約0.50重量%~約0.90重量%、又は約0.70重量%~約0.90重量%。
【0059】
抗菌剤としての複合材の使用であって、この複合材は、カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む使用も提供される。
【0060】
この複合材は上述の通りである。
【0061】
微生物は、黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・アウレウス、Staphylococcus aureus)、大腸菌(エシェリキア・コリ、Escherichia coli)、緑膿菌(シュードモナス・エルジノーサ、Pseudomonas aeruginosa)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilius)、肺炎桿菌(クレブシエラ・ニューモニエ、Klebsiella pneumonia)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)及びカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)からなる群から選択されてもよい。
【0062】
当該複合材の使用により、18時間以内にグラム陽性菌、グラム陰性菌又は真菌の個体数が5log減少してもよい。
【0063】
微生物感染症の治療又は予防において使用するための複合材であって、この複合材は、カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む複合材も提供される。
【0064】
微生物感染症の治療又は予防のための医薬の製造における複合材の使用であって、この複合材は、カルボン酸塩、金属酸化物、金属酸化物塩若しくは金属-アミノ酸複合体を含む保護層によって少なくとも部分的に覆われた無機の金属又は合金のコアを含む使用も提供される。
【0065】
この複合材は上述の通りである。
【0066】
微生物感染症は、黄色ブドウ球菌、大腸菌、緑膿菌、バチルス・サブティリス、肺炎桿菌、クリプトコッカス・ネオフォルマンス及びカンジダ・アルビカンスからなる群から選択される微生物によって引き起こされてもよい。
【0067】
次に、微生物活性の阻害方法又は微生物感染症若しくは微生物病の治療方法の例示的で非限定的な実施形態を開示する。
【0068】
微生物活性の阻害方法又は微生物感染症若しくは微生物病の治療方法であって、本明細書に開示される複合材を含む抗菌組成物を対象に投与する工程又はこの抗菌組成物を表面に塗布する工程を含む方法も提供される。
【実施例
【0069】
本発明の非限定的な実施例は、具体的な例を参照してさらに詳細に説明されるが、これはいかなる意味でも本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0070】
材料及び方法
すべての試薬は、市販のサプライヤーから入手し、さらに精製せずに使用した。0.4μm~10μmの粒子サイズの市販の亜鉛末及び1μm~10μmのチタン粉は、Sigma-Aldrich(シグマ・アルドリッチ)(米国ミズーリ州セントルイス)から購入した。
【0071】
様々な合成した複合材料は、走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線(SEM-EDX)(モデルJEOL JSM-7400E)を用いて、加速電圧5kVでの撮影に供した。SEM撮影の前に、高分解能スパッタコーター(モデルJEOL JFC-1600 Auto Fine Coater(オートファインコーター))を用いて、上記複合材料に白金薄膜をスパッタコーティングした。透過電子顕微鏡法(TEM)(モデルFEI Tecnai F30)、電界放出型透過電子顕微鏡法-エネルギー分散型X線(FTEM-EDX)(モデルFEI Tecnai F30)、及びフーリエ変換赤外分光法(FTIR)(モデルPerkinElmer Spectrum 100)を用いて、複合材の表面を特性評価した。
【0072】
合成した組成物の抗菌特性評価に使用した微生物(グラム陰性菌大腸菌ATCC 8739、グラム陽性菌黄色ブドウ球菌ATCC 6538P及びカンジダ・アルビカンスATCC-10231)は、American Type Culture Collection(アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関、ATCC)から購入し、提案されたプロトコルに従って、凍結乾燥した粉末から再培養した。細菌用に使用した増菌培地は、Beckton Dickinson Diagnostics(ベクトン・ディッキンソン・ダイアグノスティックス)(シンガポール)から購入した汎用培地であるトリプティック大豆ブロス(TSB)であった。真菌用に使用した増菌培地は、Beckton Dickinson Diagnostics(シンガポール)から購入した酵母麦芽エキスブロス(YMB)であった。TSB及びYMBは、メーカーの説明書に従って調製した。微生物実験の前に、栄養寒天(Millipore(ミリポア)、シンガポール)プレート上で、微生物培養物をストックからリフレッシュ(再生)した。新鮮な微生物の懸濁液を、5mlのTSB又はYMB中で37℃で一晩増殖させた。増殖の対数段階で微生物細胞を回収し、懸濁液を光学密度(OD600)0.07に調整した。抗菌性試験の前に、懸濁液をさらに100倍に希釈した。
【0073】
例1:カルボン酸活性化亜鉛末(複合材A)の合成
新しい亜鉛末(2g)を、N,N-ジメチルホルムアミド(20ml)中で安息香酸(0.2g)と混合し、混合物を100℃で20時間撹拌した。室温まで冷却した後、複合材Aの固体残留物を濾過によって回収し、アセトンで洗浄した。合成した複合材Aの粒子サイズ範囲を測定したところ、約400nm~1,000nmであった。
【0074】
形成された複合材の構造の模式図が図1に描かれており、この場合、亜鉛はコア100に存在し、カルボン酸塩は保護層200に存在している。図2Aより、安息香酸の堆積層が亜鉛コアと反応して、亜鉛金属粒子上に安息香酸亜鉛の均一なシェル層を形成する。保護層の厚さは、使用するカルボン酸の量並びに反応の温度及び継続時間等のパラメータに依存する。
【0075】
前駆体である安息香酸によってもたらされた保護層の存在は、図3Aによって確認され、この図では、亜鉛粒子を覆うシェルがはっきりと観察された。亜鉛粒子を覆う炭素元素及び酸素元素の存在は図4に見られ、この図では、亜鉛粒子の直径に相当する領域(約150nmから500nmの間)において、炭素元素と酸素元素の透過率がゼロではない値を示し、亜鉛コアを覆うカルボン酸塩の存在を示している。図7から、グラフAに沿った指紋周波数で観測された約1000cm-1のピークは、有機基の存在を示す。
【0076】
例2:アミノ酸活性化亜鉛末(複合材B)の合成
新しい亜鉛末(2g)をエタノール(0.2ml)中でヒスチジン(0.1g)と混合し、混合物を120℃で24時間撹拌した。室温まで冷却した後、複合材Bの固体残留物を回収した。合成した複合材Bの粒子サイズ範囲を測定したところ、約400nm~1,000nmであった。
【0077】
形成された複合材の構造の模式図が図1に描かれており、この場合、亜鉛はコア100に存在し、ヒスチジンは亜鉛-ヒスチジン錯体の形で保護層200に存在している。図2Bから、ヒスチジンの堆積層が亜鉛コアと反応して、亜鉛金属粒子上に亜鉛-ヒスチジン錯体の均一なシェル層を形成する。前駆体であるヒスチジンによってもたらされた保護層の存在は、図3Bによってさらに確認され、この図では、亜鉛粒子を覆うシェルがはっきりと観察された。亜鉛粒子を覆う炭素元素及び窒素元素の存在は図5に見られ、この図では、亜鉛粒子の直径に相当する領域(約0.3μmから2.3μmの間)において、炭素元素及び窒素元素の透過率がゼロではない値を示し、亜鉛コアを覆う亜鉛-ヒスチジン錯体の存在を示している。複合材のシェル層における炭素元素、窒素元素及び酸素元素の存在は、図6A図6Dに描かれているSEM-EDX元素マッピング分析によってさらに確認され、図6A図6Dは、それぞれ炭素元素、窒素元素及び酸素元素の存在を示す。図7から、グラフBに沿った指紋周波数で観測された約1000cm-1のピークは、有機基の存在を示す。
【0078】
例3:無機酸活性化チタン粉末(複合材C)の合成
新しいチタン粉末(1g)を濃リン酸(0.03ml)と混合し、混合物を130℃で6時間撹拌した。室温まで冷却した後、複合材Cの固体残留物を回収した。合成した複合材Cの粒子サイズ範囲を測定したところ、約400nm~1,000nmであった。
【0079】
形成された複合材の構造の模式図が図1に描かれており、この場合、チタンはコア100に存在し、水和金属酸化物塩は保護層200に存在する。図2Cより、リン酸の堆積層がチタンコアと反応して、チタン金属粒子上に酸化チタンリン酸塩水和物の均一なシェル層を形成する。前駆体であるリン酸によってもたらされた保護層の存在は、図3Cによってさらに確認され、この図では、チタン粒子を覆うシェルがはっきりと観察された。
【0080】
例4:合成した複合材の抗菌特性
合成した複合材の抗菌特性を試験するために、20mgの合成した複合材をエタノールに分散させ、2.5cm×2.5cmの寸法のスライドグラスに塗布した。陰性対照として、無処理(ブランク)のスライドグラスを用いた。大腸菌(グラム陰性、ATCC 8739)、黄色ブドウ球菌(グラム陽性、ATCC 6538P)及びカンジダ・アルビカンス(真菌)に対して、JIS Z 2801/ISO 22196法により表面の抗菌特性を評価した。手短に言えば、合成した複合材20mgをあらかじめ洗浄したスライドグラスに分散させ、希釈した細胞懸濁液のアリコート(150μL)(10CFU mL-1の濃度のグラム陽性若しくはグラム陰性の細菌、又は10CFU mL-1の濃度の真菌)をスライドグラスの表面を完全に覆うように使用した。このスライドグラスを37℃で18時間インキュベートし、細菌についてはTSB及び真菌についてはYMBを用いてインキュベート後の表面を洗浄し希釈し、その後、洗液を2枚の栄養寒天プレートに散布した。この栄養寒天プレートを37℃で一晩インキュベートした。その結果生じた、栄養寒天プレート上で成長したコロニーを、標準的なプレートカウント法を用いて計数した。
【0081】
1mLあたりのコロニー形成単位(cfu)の数を計算し、陰性対照と比較して、上記複合材のlog(対数)減少及び有効殺傷効率を決定した。コロニー形成単位の数は、懸濁液中の生存細胞の数と同等であると仮定した。実験は3連で行い、平均の結果を得た。18時間のインキュベート期間の後、無処理のスライドグラスでは、10CFU mL-1から10CFU mL-1まで10log単位の増加があるような微生物の増殖が観察されたのに対して、複合材A、B及びCで処理したスライドグラスでは、試験した3つの微生物すべてについて観察可能な微生物の増殖はなかった。log減少データ(表1)によると、複合材A、B及びCでコーティングされた表面は、すべて優れた抗菌特性を示した。上記複合材を有する表面に曝されたすべての試験微生物は、18時間のインキュベーション期間後に死滅し、大腸菌、黄色ブドウ球菌、カンジダ・アルビカンスについては、5logを超える微生物個体数の減少が観測され、合成した複合材の優れた抗菌特性が示された。
【0082】
プラスチック及び顔料等の基材材料に抗菌特性を付与する際の添加剤としての合成した複合材の有効性を試験するために、ポリエチレン(PE)プラスチック及びポリアクリル(PA)塗料に、基材の重量に対してそれぞれ2%及び1%の複合材Aを添加した。手短に言えば、10gのPEプラスチックを約200℃で溶融し、2%(w/w)の複合材Aを溶融したPEプラスチックと混合し、得られた混合物をプレートへとキャストした。ポリアクリル塗料については、市販のPA塗料(抗菌剤なし)を1%(w/w)の複合材Aと混合し、抗菌性PA塗料を作成した。得られた塗料をガラス表面に塗装し、塗装面を自然乾燥させた。複合材AをドープしたPEプラスチックと塗装したガラス面の両方について、上述のようにJIS Z 2801/ISO 22196法を用いて抗菌特性を評価した。
【0083】
合成した複合体の抗菌性繊維製品の添加剤としての有効性を試験するために、市販の液体洗剤を、酸でコーティングされた複合体Aと、液体洗剤150mlに対して複合体Aを1gの割合で混合した。ドープした洗剤液を繊維製品に加え、以下の手順で洗濯した。0.01gの複合材Aを1.5mlの市販の液体洗剤と混合し、150mlの水に注いでドープされた洗濯用混合液を作成した。繊維製品(10g)をドープされた洗濯用混合液に加え、洗濯サイクルをシミュレートするために25℃から60℃の間の温度で1時間撹拌した。洗濯後、この繊維製品を150mlの水で2回すすいだ。その後、この複合体Aをドープした繊維製品を、上述のようにJIS Z 2801/ISO 22196法を用いて抗菌特性について評価した。
【0084】
log減少データ(表1)によると、複合材Aをドープしたポリエチレンプラスチックは、大腸菌、黄色ブドウ球菌、及びカンジダ・アルビカンスに対して5logを超える微生物個体数の減少が観測され、優れた抗菌性が示された。複合材Aをドープしたポリアクリル塗料は、カンジダ・アルビカンス(2logを超える個体数の減少)よりも大腸菌(5logを超える個体数の減少)に対して良好な殺傷効力を示した。複合材Aをドープした繊維製品は優れた抗菌特性を示し、大腸菌に対して5logを超える微生物個体数の減少が観測された。これらの結果は、合成した複合材が、抗菌特性を付与するための添加剤として他の系に混合できることを示した。
【0085】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0086】
上記複合材は、一般的な抗菌剤として、消費者ケア、化粧品、ヘルスケア、パーソナルケア、公衆衛生、一般的な表面の殺菌、防汚、防カビ、病院及び医療機器の殺菌、農業産業等の様々な用途で使用されてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0087】
本発明の様々な他の変更例及び適応例が、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、上述の開示を読んだ後に当業者に明らかになるであろうし、そのようなすべての変更例及び適応例が添付の請求項の範囲内に入ることが意図されるということは明らかであろう。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
【国際調査報告】