(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-20
(54)【発明の名称】スピルリナ抽出物の製造方法、スピルリナ抽出物を含む認知機能改善用薬学的組成物及び健康機能食品
(51)【国際特許分類】
A61K 35/748 20150101AFI20220413BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20220413BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220413BHJP
A61K 31/409 20060101ALI20220413BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220413BHJP
【FI】
A61K35/748
A61K9/19
A61P25/28
A61K31/409
A23L33/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021551853
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(85)【翻訳文提出日】2021-08-31
(86)【国際出願番号】 KR2020002354
(87)【国際公開番号】W WO2020180025
(87)【国際公開日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】10-2019-0025275
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513107735
【氏名又は名称】コリア インスティチュート オブ オーシャン サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】カン ドヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム テホ
(72)【発明者】
【氏名】リー ヨン ドゥク
(72)【発明者】
【氏名】チョイ ウン-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ユウ ヨン キュン
(72)【発明者】
【氏名】リー ウォン キュー
(72)【発明者】
【氏名】パク アレウミ
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD08
4B018MD89
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF04
4B018MF06
4C076AA29
4C076BB01
4C076CC01
4C076GG06
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB04
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA44
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA15
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC30
4C087BC90
4C087CA11
4C087MA44
4C087MA52
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA15
(57)【要約】
本発明の目的は、スピルリナ抽出物の抽出収率を上げるとともに、抽出物に含まれているクロロフィルの総含量を保存するためである。また、スピルリナ抽出物を有効成分として含む退行性脳神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物及び健康機能食品を提供して、スピルリナ抽出物を用いた退行性脳神経疾患の治療方法を提供するためである。本発明は、(a)スピルリナ粉末を準備するステップ;(b)前記スピルリナ粉末に50~80%の酒精を加えて、15~35℃で超音波前処理するステップ;(c)50~80℃でスピルリナ抽出物を抽出するステップ;(d)前記スピルリナ抽出物を真空濃縮するステップ;及び(e)前記真空濃縮されたスピルリナ抽出物を凍結乾燥するステップ;を含むスピルリナ抽出物の製造方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)スピルリナ・マキシマ(Spirulina maxima)粉末を準備するステップ;
(b)前記スピルリナ・マキシマ粉末に50~80%(v/v)の酒精を加えて、15~35℃で超音波前処理するステップ;
(c)50~80℃でスピルリナ・マキシマ抽出物を抽出するステップ;
(d)前記スピルリナ・マキシマ抽出物を真空濃縮するステップ;及び、
(e)前記真空濃縮されたスピルリナ・マキシマ抽出物を凍結乾燥するステップ;を含む、
スピルリナ抽出物の製造方法。
【請求項2】
(a)スピルリナ・マキシマ(Spirulina maxima)粉末を準備するステップ;
(b)前記スピルリナ・マキシマ粉末と50~80%(v/v)の酒精を1:8~1:10(w/w)の割合で混合して、15~35℃で6~10時間超音波前処理するステップ;
(c)50~80℃でスピルリナ・マキシマ抽出物を2~6時間抽出するステップ;
(d)前記スピルリナ・マキシマ抽出物を真空濃縮するステップ;及び、
(e)前記真空濃縮されたスピルリナ・マキシマ抽出物を凍結乾燥するステップ;を含む、
スピルリナ抽出物の製造方法。
【請求項3】
前記(b)ステップにおいて、
前記スピルリナ・マキシマ粉末と前記酒精を1:8~1:10(w/w)の割合で混合することを特徴とする、
請求項1に記載のスピルリナ抽出物の製造方法。
【請求項4】
前記(b)ステップの、
前記超音波の周波数が30~50kHzであることを特徴とする、
請求項1に記載のスピルリナ抽出物の製造方法。
【請求項5】
前記(b)ステップの、
前記超音波前処理は、6~10時間行われることを特徴とする、
請求項1に記載のスピルリナ抽出物の製造方法。
【請求項6】
前記(c)ステップの、
前記スピルリナ・マキシマ抽出物の抽出は、2~6時間行われることを特徴とする、
請求項1に記載のスピルリナ抽出物の製造方法。
【請求項7】
前記(d)ステップの、
前記真空濃縮は、30~60℃で50~150hPaの圧力で行われることを特徴とする、
請求項1に記載のスピルリナ抽出物の製造方法。
【請求項8】
前記(e)ステップの、
前記凍結乾燥は、-70~-40℃で0~10mTorrの圧力で行われることを特徴とする、
請求項1に記載のスピルリナ抽出物の製造方法。
【請求項9】
スピルリナ・マキシマ(Spirulina maxima)粉末を準備し、前記スピルリナ・マキシマ粉末に50~80%(v/v)の酒精を加えて、15~35℃で超音波前処理した後、50~80℃でスピルリナ・マキシマ抽出物を抽出して、前記抽出物を真空濃縮し、凍結乾燥して得たスピルリナ抽出物を有効成分として含む、認知機能改善用薬学的組成物。
【請求項10】
前記スピルリナ・マキシマ抽出物は、クロロフィルaを含むことを特徴とする、
請求項9に記載の認知機能改善用薬学的組成物。
【請求項11】
前記組成物は、退行性脳神経疾患の症状である認知機能低下を回復させることを特徴とする、
請求項9に記載の認知機能改善用薬学的組成物。
【請求項12】
スピルリナ・マキシマ(Spirulina maxima)粉末を準備し、前記スピルリナ・マキシマ粉末に50~80%(v/v)の酒精を加えて、15~35℃で超音波前処理した後、50~80℃でスピルリナ・マキシマ抽出物を抽出して、前記抽出物を真空濃縮し、凍結乾燥して得たスピルリナ抽出物を有効成分として含む、認知機能改善用健康機能食品。
【請求項13】
前記スピルリナ・マキシマ抽出物は、クロロフィルaを含むことを特徴とする、
請求項12に記載の認知機能改善用健康機能食品。
【請求項14】
前記健康機能食品は、脳神経疾患の症状である認知機能低下を回復させることを特徴とする、
請求項12に記載の認知機能改善用健康機能食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピルリナ抽出物の製造方法、スピルリナ抽出物を含む退行性脳神経疾患の予防または治療用薬学的組成物及び健康機能食品、及びスピルリナ抽出物を用いた退行性脳神経疾患の治療方法に関するものであって、より詳細には、抽出収率を上げるとともに、抽出物に含まれているクロロフィルの総含量を保存することのできるスピルリナ抽出物の製造方法、スピルリナ抽出物を含む退行性脳神経疾患の予防または治療用薬学的組成物及び健康機能食品、及びスピルリナ抽出物を用いた退行性脳神経疾患の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症は、記憶力障害、判断力喪失など、精神機能に全般的な障害が現われることを特徴とし、人の暮らしを疲弊させる疾患である。韓国65歳以上の高齢者における認知症の有病率は、約8%位であるが、現在、韓国高齢者人口の約430万人のうち35万人位が認知症疾患を患っていると推定される(ソウル特別市認知症センター、2015年、認知症患者実態調査報告書)。
【0003】
急速な人口高齢化が進むことにしたがって、認知症患者の数が急増することが予想され、認知症による対策用意が至急である実情である。さらに、高齢者診療費が増えつつある中、2010年の高齢者認知症診療費は、前年比32%急増したと示された(健康保険審査評価院、2010年、診療費統計指標)。
【0004】
認知症の種類のうち、71%と最大部分を占めているアルツハイマー病(Alzheimer’s disease,AD)は、今まで発病の原因が正確に解明されていないが、アルツハイマー病患者の脳組織を観察してみると、コリン性神経の損傷が深刻に起こったことを確認することができる。このように、アルツハイマー病の原因をコリン性神経の損傷に注目して説明しようとする説をコリン仮説と言い、最近、アセチルコリン(acetylcholine)の機能低下を誘導するために、アセチルコリンエステラーゼ(acetylcholinesterase)の活性を阻害しようとする試みがたくさん行われている。また、アルツハイマー病患者の脳では、β、γ-secretaseの活性によりAmyloid betaという非正常的な毒性タンパク質が沈着して、老人斑と神経原線維変化が形成されて、認知機能の損傷をもたらすと知られている。
【0005】
現在、アルツハイマー病の治療剤として使用される薬物は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤であって、タクリン(tacrine)、ドネペジル(donepezil)、リバスチグミン(rivastigmine)、及びガランタミン(galantamine)などがある。このうち、ガランタミン(galantamine)は、最も最近、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration,FDA)より承認を受けて使用されているが、アセチルコリンの分解を阻止し、シナプスにおけるアセチルコリン濃度を維持させることにより、低下した認知機能を改善させる効果を奏する。
【0006】
しかしながら、かかる医薬品は、合成によって作られた単一製剤薬物であって、効果が一時的かつ微小であり、脳のみに選択的に作用しないため、様々な副作用によって長期間の薬物投与が難しい短所を持っている。また、ガランタミンは、毒性と副作用によって安全性が疑われており、かかる副作用は、消費者の信頼度を落としている実情である。よって、さらに安全、かつ、効能に優れる天然機能性素材の医薬品の開発が求められている。また、次世代のアルツハイマー病の治療剤として最も期待されているAmyloid betaの沈着に係るβ-secretaseの活性抑制物質は、未だ開発されていない実情である。
【0007】
一方、スピルリナ(Spirulina)は、アフリカのチャド湖及びメキシコのテスココ湖のような熱帯地域のアルカリ性湖の水面で旺盛に自生する、極めて小さい藻類(algae)に属する微生物である。スピルリナの細胞中には、多量のクロロフィルとフィコシアニンなどが入っており、太陽光線を吸収して、炭素同化作用を活発に行える。クロロフィルとフィコシアニンなどの色素は、藍青色を帯びており、昔からスピルリナを藍藻類(blue-green algae)と分類していた。
【0008】
スピルリナは、人が食べられる微生物であって、タンパク質が55-70%、脂肪が6-9%、炭水化物が15-20%含有されており、多量の無機質、ビタミン、繊維質及び色素成分を含有している。スピルリナは、タンパク質の含量が高いだけでなく、8種の必須アミノ酸を含んでおり、脂肪成分の中では、脂肪酸(free-fatty acid)が70-80%に至り、リノール酸(linoleic acid)、γ-リノレン酸(γ-linolenic acid)などの脂肪酸が大きな比重を占めている。スピルリナの炭水化物含有量は、少ないものの、主にラムノ-スとグリコーゲンから構成されており、インスリンに頼らず吸収されて、糖尿患者のエネルギー源として用いられる。現地人たちは、長い間、この微細藻類を採取して、食用として使用してきており、栄養学的研究の結果、タンパク質の高い含量と、アミノ酸を始め各種栄養素成分の組成が、人体の健康に非常に有益な成分たちからなっていることが分かった。
【0009】
一方、本発明に係る先行技術として韓国登録特許公報第10-1418545号は、退行性神経系脳疾患の予防または治療用薬学組成物を提供しているが、本発明のように、天然機能性素材を用いた退行性脳神経疾患の治療用組成物に関する開示はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、退行性脳神経疾患の予防または治療のためスピルリナ抽出物の抽出収率が上げられるスピルリナ抽出物の製造方法を提供することである。
【0011】
また、本発明の目的は、スピルリナ抽出物の抽出収率を上げるとともに、抽出物に含まれているクロロフィルの総含量を保存することのできるスピルリナ抽出物の製造方法を提供することである。
【0012】
また、本発明の目的は、スピルリナ抽出物を有効成分として含み、退行性脳神経疾患を予防または治療することのできる薬学的組成物及び健康機能食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、(a)スピルリナ粉末を準備するステップ;(b)前記スピルリナ粉末に50~80%の酒精を加えて、15~35℃で超音波前処理するステップ;(c)50~80℃でスピルリナ抽出物を抽出するステップ;(d)前記スピルリナ抽出物を真空濃縮するステップ;及び(e)前記真空濃縮されたスピルリナ抽出物を凍結乾燥するステップ;を含むスピルリナ抽出物の製造方法を提供する。
【0014】
上記(a)ステップの前記スピルリナは、スピルリナ・マキシマ(Spirulina maxima)、スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)、スピルリナ・ゲイトレリ(Spirulina geitleri)、スピルリナ・サイアミーゼ(Spirulina siamese)、スピルリナ・メイヤー(Spirulina major)、スピルリナ・サブサルサ(Spirulina subsalsa)、スピルリナ・プリンセプス(Spirulina princeps)、スピルリナ・ラキシシマ(Spirulina laxissima)、スピルリナ・クルタ(Spirulina curta)、及びスピルリナ・スピルリノイデス(Spirulina spirulinoides)からなる群より選択されるいずれかであってもよい。
【0015】
上記(b)ステップにおいて、前記スピルリナ粉末と前記酒精を1:8~1:10(w/w)の割合で混合することができる。
【0016】
上記(b)ステップの前記超音波前処理における超音波周波数は、30~50kHzであってもよい。
【0017】
上記(b)ステップの前記超音波前処理は、6~10時間行うことができる。
【0018】
上記(c)ステップの前記抽出は、2~6時間行うことができる。
【0019】
上記(d)ステップの前記真空濃縮は、30~60℃で50~150hPaの圧力で行うことができる。
【0020】
上記(e)ステップの前記凍結乾燥は、-70~-40℃で0~10mTorrの圧力で行うことができる。
【0021】
また、本発明は、スピルリナ粉末を準備し、前記スピルリナ粉末に50~80%の酒精を加えて、15~35℃で超音波前処理した後、50~80℃でスピルリナ抽出物を抽出して、前記抽出物を真空濃縮し、凍結乾燥して得たスピルリナ抽出物を有効成分として含む退行性脳神経疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0022】
前記スピルリナ抽出物は、クロロフィルaを含んでいてもよい。
【0023】
前記退行性脳神経疾患は、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、頭部損傷による認知症、またはパーキンソン病であり得る。
【0024】
前記組成物は、退行性脳神経疾患の症状である認知機能低下を回復させることができる。
【0025】
また、本発明は、スピルリナ粉末を準備し、前記スピルリナ粉末に50~80%の酒精を加えて、15~35℃で超音波前処理した後、50~80℃でスピルリナ抽出物を抽出して、前記抽出物を真空濃縮し、凍結乾燥して得たスピルリナ抽出物を有効成分として含む退行性脳神経疾患の予防または治療用健康機能食品を提供する。
【0026】
前記スピルリナ抽出物は、クロロフィルaを含んでいてもよい。
【0027】
前記退行性脳神経疾患は、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、頭部損傷による認知症、またはパーキンソン病であり得る。
【0028】
前記組成物は、脳神経疾患の症状である認知機能低下を回復させることができる。
【0029】
また、本発明は、スピルリナ粉末を準備し、前記スピルリナ粉末に50~80%の酒精を加えて、15~35℃で超音波前処理した後、50~80℃でスピルリナ抽出物を抽出して、前記抽出物を真空濃縮し、凍結乾燥して得たスピルリナ抽出物を退行性脳神経疾患に罹った個体に投与するステップを含む退行性脳神経疾患の治療方法を提供する。
【0030】
前記スピルリナ抽出物の1回投与量は、150mg/kg~450mg/kgであってもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によるスピルリナ抽出物の製造方法は、スピルリナ抽出物の抽出収率を上げるとともに、抽出物に含まれているクロロフィルの総含量を保存し得る効果がある。
【0032】
また、本発明によって抽出されたスピルリナ抽出物を有効成分として含む薬学的組成物及び健康機能食品を提供して、アルツハイマー病のような退行性脳神経疾患を予防して治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施例によるスピルリナ抽出物の製造方法の工程手順図。
【
図2】水中迷路実験における対照群とスピルリナ抽出物投与群の脱出待機時間(escape latency time)を比較したグラフ(*p<005、**p<001、***p<0001)。
【
図3】受動回避実験における対照群とスピルリナ抽出物投与群の遅滞時間(latency time)を比較したグラフ(*p<005、**p<001、***p<0001)。
【
図4】対照群とスピルリナ抽出物投与群のアセチルコリンエステラーゼ抑制活性を測定したグラフ(*p<005、**p<001、***p<0001)。
【
図5】対照群とスピルリナ抽出物投与群の神経栄養因子(BDNF)の発現活性化を測定したグラフ(*p<005、**p<001、***p<0001)。
【
図6】対照群とスピルリナ抽出物投与群の上位転写因子(p-CREB)の発現活性化を測定したグラフ(*p<005、**p<001、***p<0001)。
【
図7】対照群とスピルリナ抽出物投与群の上位転写因子(p-ERK)の発現活性化を測定したグラフ(*p<005、**p<001、***p<0001)。
【
図8】退行性脳疾患を誘導した実験マウスの脳の海馬を組織切開して、対照群とスピルリナ抽出物を投与した群の抗体蛍光染色の結果を比較した写真。
【0034】
[発明を実施するための最善の形態]
図1は、本発明の一実施例によるスピルリナ抽出物の製造方法の工程手順図である。
【0035】
図1を参照すれば、本発明の一実施例によるスピルリナ抽出物は、(a)スピルリナ粉末を準備するステップ;(b)前記スピルリナ粉末に50~80%の酒精を加えて、15~35℃で超音波前処理するステップ;(c)50~80℃でスピルリナ抽出物を抽出するステップ;(d)前記スピルリナ抽出物を真空濃縮するステップ;及び(e)前記真空濃縮されたスピルリナ抽出物を凍結乾燥するステップ、とによって製造される。
【発明を実施するための形態】
【0036】
下記の説明では、本発明の実施例を理解するために必要な部分のみ説明され、その他部分の説明は、本発明の要旨を曖昧にしない範囲で省略され得ることに留意しなければならない。
【0037】
以下に説明する本明細書及び請求範囲に使われた用語や単語は、通常的であるか辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者は、その自己の発明を最も最善の方法により説明するために、用語の概念として好適に定義し得るという原則に基づいて、本発明の技術的思想に符合する意味と概念に解釈されなければならない。よって、本明細書に記載の実施例と図面に示された構成は、本発明の好ましい実施例に過ぎないだけであり、本発明の技術的思想を全て代弁するものではないので、本出願時点において、これらに取り替える多様な均等物と変形例があり得ることを理解しなければならない。
【0038】
<スピルリナ抽出物の製造方法>
図1は、本発明の一実施例によるスピルリナ抽出物の製造方法の工程手順図である。
【0039】
図1を参照すれば、本発明の一実施例によるスピルリナ抽出物は、(a)スピルリナ粉末を準備するステップ;(b)前記スピルリナ粉末に50~80%の酒精を加えて、15~35℃で超音波前処理するステップ;(c)50~80℃でスピルリナ抽出物を抽出するステップ;(d)前記スピルリナ抽出物を真空濃縮するステップ;及び(e)前記真空濃縮されたスピルリナ抽出物を凍結乾燥するステップ、とによって製造される。
【0040】
まず、スピルリナ粉末を準備する(S10)。
【0041】
スピルリナは、青緑色の藍藻類であって、らせん形であり、大きさは、幅10μm、長さ300~500μm程度で、細胞一つ一つを目視でも観察することができる。スピルリナという言葉は、螺旋(spiral)という言葉と語源が同じであり、両方とも「ねじれた」、「らせん形の」を意味するラテン語に由来する。スピルリナが知られたのは、1967年、応用微生物国際会議においてエチオピア近くのアラングアディ湖(Alanguadi Lake)で自生するスピルリナに関する発表以降であるが、この新しい植物は、クロレラに似ていながらも、タンパク質の含量がさらに多く、消化吸収率がとても良くて培養・収獲が容易であり、強アルカリ性を示している。海藻類は、主な色合いによって請、緑、赤、茶色に分類されるが、スピルリナは、青緑の一種であって、その色は、細胞中の葉緑素(緑)のフィコシアニン(青色)が発散して出る色である。
【0042】
かかるスピルリナは、現在、アトピー予防効果があると知られているし、皮膚老化抑制効果があると知られており、脂質代謝を改善させる効果があると知られているが、未だ他の生理活性に対する研究は、不備な実情である。
【0043】
この点、本発明者たちは、体内で安定しつつ治療効果に優れる退行性脳神経疾患の治療及び予防用治療剤を見つけていたうちに、スピルリナ抽出物がこのような効果を持っていることを確認することで、本発明を完成した。
【0044】
特に、本発明では、スピルリナ抽出物が認知機能改善に優れる効果を有し、脳神経細胞を保護する活性が高いため、退行性脳神経疾患を治療するか予防するのに卓越した効果があることを確認した。
【0045】
本発明で使用する前記スピルリナは、スピルリナ・マキシマ(Spirulina maxima)、スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)、スピルリナ・ゲイトレリ(Spirulina geitleri)、スピルリナ・サイアミーゼ(Spirulina siamese)、スピルリナ・メイヤー(Spirulina major)、スピルリナ・サブサルサ(Spirulina subsalsa)、スピルリナ・プリンセプス(Spirulina princeps)、スピルリナ・ラキシシマ(Spirulina laxissima)、スピルリナ・クルタ(Spirulina curta)、及びスピルリナ・スピルリノイデス(Spirulina spirulinoides)からなる群より選択され得、好ましくは、スピルリナ・マキシマ(Spirulina maxima)又はスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)を、さらに好ましくは、スピルリナ・マキシマ(Spirulina maxima)を使用することができる。
【0046】
前記スピルリナ粉末は、乾燥粉末した状態または凍結乾燥した状態であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0047】
スピルリナ粉末に50~80%の酒精を加えて、15~35℃で超音波前処理する(S20)。
【0048】
スピルリナ抽出物を得るために、スピルリナ粉末に酒精(エタノール)を溶媒として溶解させる。前記酒精は、50~80%の酒精を用いるのが好ましく、さらに好ましくは、70%の酒精を用いた方が良い。
【0049】
しかし、本発明の技術的思想は、これに限定されず、薬学的に許容される有機溶媒を用いることができる。例えば、精製水、メタノール(methanol)、エタノール(ethanol)、プロパノール(propanol)、イソプロパノール(isopropanol)、ブタノール(butanol)などを含む炭素数1~4のアルコール、アセトン(acetone)、エーテル(ether)、ベンゼン(benzene)、クロロホルム(chloroform)、エチルアセテート(ethyl acetate)、メチレンクロライド(methylene chloride)、ヘキサン(hexane)、及びシクロヘキサン(cyclohexane)などの各種溶媒を単独で或いは混合して用いることができる。
【0050】
前記スピルリナ粉末と前記酒精は、1:8~1:10(w/w)の割合で混合することができる。
【0051】
スピルリナ粉末が溶解された前記溶液に超音波前処理する。超音波前処理した後に抽出するのが、前処理していない場合に比べて、スピルリナ抽出物に含有されている総クロロフィル含量が高くて、不純物の除去されたスピルリナ抽出物を得ることができるため、好ましい。
【0052】
前記超音波前処理は、30~50kHzの周波数で行うことができ、40kHzの周波数で行われるのが好ましい。
【0053】
前記超音波前処理は、15~35℃の温度で行うことができ、常温(25℃)で行われるのが好ましい。
【0054】
また、前記超音波前処理は、6~10時間行うことができ、好ましくは、8時間行うことができる。
【0055】
前処理条件が上記範囲未満であると、超音波前処理による効果が微小であり、前処理条件が上記範囲を超えると、認知機能改善に効果的でない構造に変質されたスピルリナ抽出物が得られるため、好ましくない。
【0056】
50~80℃でスピルリナ抽出物を抽出する(S30)。
【0057】
前記抽出は、50~80℃で行うことができるが、65℃で行われるのが好ましい。
【0058】
このように、本発明によるスピルリナ抽出物の製造方法は、抽出の前に超音波前処理を行い、超音波前処理と抽出が行われる温度を異なって設定して、抽出収率を上げ、抽出物に含まれているクロロフィルの総含量も高めることができる。
【0059】
次に、スピルリナ抽出物を真空濃縮する(S40)。
【0060】
前記真空濃縮は、真空減圧濃縮機または真空回転蒸発機を利用するのが好ましいが、これに限定するものではない。
【0061】
前記真空濃縮は、30~60℃で行うことができ、45℃で行われるのが好ましい。
【0062】
前記真空濃縮は、50~150hPaの圧力で行うことができ、100hPaの圧力で行われるのが好ましい。
【0063】
最後に、スピルリナ抽出物を凍結乾燥する(S50)。
【0064】
前記凍結乾燥は -70~-40℃で行うことができ、好ましくは、-55℃で行うことができる。
【0065】
前記凍結乾燥は、0~10mTorrの圧力で行うことができ、5mTorrの圧力で行われるのが好ましい。
【0066】
<スピルリナ抽出物を有効成分として含む薬学的組成物>
本発明は、前記製造方法によって製造されたスピルリナ抽出物を有効成分として含む退行性脳神経疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0067】
スピルリナ抽出物は、クロロフィルa(chlorophyll a)を含んでいてもよい。クロロフィルaは、光合性をする生物が有する同化色素の一種であって、細胞内葉緑体に存在し、自然状態では、タンパク質またはリポタンパク質と結合した状態で存在する。
【0068】
クロロフィルaは、ポリフェノール(polyphenol)を含有しているが、ポリフェノールは 植物で発見される化学物質の一種であって、分子一つにフェノールユニットが二つ以上あることが特徴である。ポリフェノールは、我が体にある活性酸素(有害酸素)を害のない物質に変える抗酸化効果があり、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、頭部損傷による認知症、またはパーキンソン病のような退行性脳神経疾患を予防するのに優れた効果がある。
【0069】
前記薬学的組成物の製剤形態は、顆粒剤、酸剤、錠剤、被覆錠、カプセル剤、座剤、液剤、シロップ、汁、懸濁剤、乳剤、点滴剤または注射可能な液剤などになり得る。例えば、錠剤またはカプセル剤の形態への製剤化のために、有効成分は、エタノール、グリセロール、水などのような経口、無毒性の薬剤学的に許容可能な不活性担体と結合し得る。
【0070】
また、所望するか必要な際には、好適な結合剤、潤滑剤、崩壊剤及び発色剤も混合物として含まれうる。好適な結合剤は、緑末、ゼラチン、グルコースまたはベタ-ラクトースのような天然糖、トウモロコシ甘味剤、アカシア、トラガカント又はソジウムオレートのような天然及び合成ガム、ソジウムステアレート、マグネシウムステアレート、ソジウムベンゾエート、ソジウムアセテート、ソジウムクロライドなどを含んでいるが、これらに制限されるものではない。
【0071】
崩壊剤は、これに制限されるものではないが、緑末、メチルセルロース、アガー、ベントナイト、ザンタンガムなどを含む。液状溶液に製剤化される組成物において許容可能な薬剤学的担体としては、滅菌及び生体に適したものであって、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、及びこれら成分のうち1成分以上を混合して使用することができ、必要に応じて、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤など、他の通常の添加剤を添加することができる。
【0072】
また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び潤滑剤を付加して添加し、水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。さらには、当該分野における適宜な方法として、Remington's Pharmaceutical Science,Mack Publishing Company,Easton PAに開示の方法を利用して、各疾患によって又は成分によって好ましく製剤化することができる。
【0073】
本発明による前記薬学的組成物は、認知機能改善を通じて退行性脳神経疾患を治療するか予防することができる。
【0074】
前記退行性脳神経疾患は、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、頭部損傷による認知症またはパーキンソン病であり得る。
【0075】
<スピルリナ抽出物を有効成分として含む健康機能食品>
本発明は、上記製造方法に従って製造されたスピルリナ抽出物を有効成分として含む退行性脳神経疾患の予防または治療用健康機能食品を提供する。
【0076】
スピルリナ抽出物は、クロロフィルa(chlorophyll a)を含んでいてもよい。クロロフィルaは、光合性をする生物が有する同化色素の一種であって、細胞内葉緑体に存在し、自然状態では、タンパク質またはリポタンパク質と結合した状態で存在する。
【0077】
クロロフィルaは、ポリフェノール(polyphenol)を含有しているが、ポリフェノールは、植物で発見される化学物質の一種であって、分子一つにフェノールユニットが二つ以上あることが特徴である。ポリフェノールは、我が体にある活性酸素(有害酸素)を害のない物質に変える抗酸化効果があり、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、頭部損傷による認知症、またはパーキンソン病のような退行性脳神経疾患を予防するのに優れた効果がある。
【0078】
前記健康機能食品は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液状、丸などの形態に製造及び加工することができる。
【0079】
本発明における「健康機能食品」とは、健康機能食品に関する法律第6727号による、人体に有用な機能性を有する原料や成分を使って製造及び加工した食品を言い、人体の構造及び機能に対して栄養素を調節するか、生理学的作用などのような保健用途に有用な効果を得る目的で摂取することを意味する。
【0080】
本発明の健康機能食品は、通常の食品添加物を含んでいてもよく、食品添加物として適合するか否かは、他の規定がない限り、食品医薬品安全庁に承認された食品添加物公典の総則及び一般試験法などによって当該品目に関する規格及び基準に基づいて判定する。
【0081】
前記「食品添加物公典」に収載の品目としては例えば、ケトン類、グリシン、クエン酸カルシウム、ニコチン酸、桂皮酸などの化学的合成物;カキ色素、甘草抽出物、結晶セルロース、コウリャン色素、グアーガムなどの天然添加物;L-グルタミン酸ナトリウム製剤、麺類添加アルカリ剤、保存料製剤、タール色素製剤などの混合製剤類などが挙げられる。
【0082】
例えば、錠剤状の健康機能食品は、本発明の有効成分であるスピルリナ抽出物を賦形剤、結合剤、崩壊剤、及び他の添加剤と混合した混合物を通常の方法で顆粒化した後、滑沢剤などを入れて圧縮成形するか、前記混合物を直接圧縮成形することができる。また、前記錠剤状の健康機能食品は、必要に応じてうま味調味料などを含んでいてもよい。
【0083】
カプセル状の健康機能食品のうち軽質カプセル剤は、通常の軽質カプセルに本発明の有効成分であるスピルリナ抽出物を賦形剤などの添加剤と混合した混合物を充填して製造することができ、軟質カプセル剤は、スピルリナ抽出物を賦形剤などの添加剤と混合した混合物をゼラチンのようなカプセル基剤に充填して製造することができる。前記軟質カプセル剤は、必要に応じてグリセリン又はソルビトールなどの可塑剤、着色剤、保存剤などを含有し得る。
【0084】
丸状の健康機能食品は、本発明の有効成分であるスピルリナ抽出物と賦形剤、結合剤、崩壊剤などを混合した混合物を既公知の方法で成形して調剤することができ、必要に応じて、白糖や他の製被剤で製被することができ、または澱粉、タルクのような物質で表面をコーティングすることもできる。
【0085】
顆粒状の健康機能食品は、本発明の有効成分であるスピルリナ抽出物と賦形剤、結合剤、崩壊剤などを混合した混合物を既公知の方法で粒状に製造することができ、必要に応じて着香剤、うま味調味料などを含んでいてもよい。
【0086】
前記健康機能食品は、飲料類、肉類、チョコレート、食品類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他麺類、ガム類、キャンディー類、アイスクリーム類、アルコール飲料類、ビタミン複合剤、及び健康補助食品類などであってもよい。
【0087】
本発明による前記健康機能食品は、認知機能改善を通じて退行性脳神経疾患を治療するか予防することができる。
【0088】
前記退行性脳神経疾患は、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、頭部損傷による認知症またはパーキンソン病であり得る。
【0089】
<退行性脳神経疾患の治療方法>
本発明は、薬学的に有効な量のスピルリナ抽出物を個体に投与するステップを含む退行性脳神経疾患の治療方法を提供する。
【0090】
前記退行性脳神経疾患は、認知症、アルツハイマー病、脳血管性認知症、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、頭部損傷による認知症またはパーキンソン病であり得る。
【0091】
前記個体は、人間を含むあらゆる動物が可能である。
【0092】
前記スピルリナ抽出物は、さらに同一または類似の機能を示す有効成分を1種以上含有し得る。
【0093】
前記投与は、経口投与または皮下注射、静脈注射または筋肉内注射による非経口での投与が可能であり、一般的な医薬品製剤の形態に使用することができる。
【0094】
前記投与の投与単位は、個別投与量の1、2、3または4倍を含有するか、または1/2、1/3または1/4倍を含有し得る。個別投与量は、好ましくは、有効薬物が1回に投与される量を含有し、これは、通常、1日投与量の全部、1/2、1/3または1/4倍に相当する。
【0095】
前記投与の投与量は、患者の年、体重、性別、投与形態、健康状態、及び疾患程度によって異なり得、医者または薬剤師の判断によって一定時間の間隔で1日に1回~数回に分割して投与することもできる。
【0096】
1回投与量は、150mg/kg~450mg/kgであってもよい。前記投与量の範囲未満であると、有意性のある効果が得られないし、前記投与量範囲を超える場合、非経済的であるだけでなく、常用量の範囲を外れるため、好ましくない副作用が現われるおそれがあるため、上記範囲にした方が良い。
【0097】
前記投与の投与頻度は、特にこれに制限されないが、1日1回投与するか、または用量を分割して数回投与することができる。
【0098】
<実施例>
以下では、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳説することとする。しかしながら、本発明による実施例は、様々な他の形態に変形され得、本発明の範囲が下記に上述する実施例に限定されるものと解釈してはならない。本発明の実施例は、当業界における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0099】
<実施例1:スピルリナ抽出物の製造>
スピルリナ抽出物を得るために、先ず、乾燥した粉末状のスピルリナ・マクシマ(Spirulina maxima)100gを、70%の酒精(エタノール)と1:10(w/w)の割合で混合した。その後、40kHzの周波数で25℃で8時間超音波前処理した後、65℃で4時間スピルリナ抽出物を抽出した。抽出後、得られたスピルリナ抽出物を45℃で100hPaの圧力で真空濃縮した後、-55℃で5mTorrの圧力で凍結乾燥して、粉末状に製造した後、下記の実験を行った。
【0100】
<実験例1:スピルリナ抽出物の抽出工程の収率比較>
上記実施例1のスピルリナ抽出物の抽出工程と、従来の熱水の抽出工程、70%及び100%エタノールの抽出工程別にそれぞれの抽出収率及び総クロロフィル含量を比較した(表1)。
【0101】
【0102】
実施例1と比較例1~3の抽出工程の収率は、10~13%の間に分布されることを確認した。
【0103】
実施例1によって得られたスピルリナ抽出物の抽出収率は、約11.6%と、既存の他工程に類似するか高い収率を示した。また、11.6%よりも高い収率を示す比較例1及び比較例2の抽出工程の場合、指標成分である総クロロフィル(total chlorophyll)の含量が実施例1に比べて低いことが確認できた。
【0104】
したがって、実施例1による抽出工程は、既存の他工程に類似するかさらに高い収率を有しながら、抽出物に含まれているクロロフィルの総含量も高められることが確認できた。
【0105】
<実験例2:スピルリナ抽出物のAβ1-42によって引き起こされた認知機能障害の改善能力測定>
<実験動物及び薬物投与>
Aβ1-42(Amyloid beta 1-42)による認知機能低下は、4週齢の雄マウスで評価された。ICRマウス(バイオリンク、忠北陰城郡、韓国)を購入して、実験動物室に1週間適応させて、任意に各群当たり6匹ずつ構成した。実験群として、実施例1によって製造されたスピルリナ抽出物(以下、SM70EE)を濃度別に投与した群と、クロロフィルa(Chlorophyll a)を投与した群を使用した。対照群としては、スピルリナ抽出物を処理していない群を使用し、比較群としては、認知症を引き起こすスコポラミン(scopolamine)を投与した群と、認知症治療剤であるドネペジル(donepezil)を投与した群を使用した。適応期間の間に飼料と水を制限なく自在供給しており、温度は、22±2℃、湿度は、50±10%を維持させて、明暗は、12時間を周期(09:00~21:00)に調節した。
【0106】
<認知能力評価方法>
(1)水中迷路分析評価実験(Morris Water maze test)
本実験例における受動回避分析評価実験は、Morrisの方法を応用して行われた。Water maze pool(直径:90cm、高さ:45cm)に牛乳を交ぜた水(水温:20±1℃)を満たす。プールを四等分して、一か所に白いプラットホーム(直径:6cm、高さ:29cm)を中央に配置し、プラットホームが約1cm程度浸かるようにして、水面で見えないようにした。適応のため実験の一番目の日は、プラットホームなしに60秒間スイミング練習のみさせて、二番目の日からプラットホームを配置したプールで4日間test trialを実施して、薬物を投与した実験マウスがプラットホーム上に逃避するのにかかる時間である脱出待機時間(escape latency time)を測定した。
【0107】
120秒内にプラットホームに逃避しない実験マウスは、実験者が直接プラットホーム上に上げて、10秒間逃避状態にあるようにした。プラットホームの位置は、4日間固定させて、実験マウスの入水位置は、異なりにした。
【0108】
試料の投与は、二番目の日から4日間毎日実施し、スコポラミン(1mg/kg)を生理食塩水に溶かして製造し、訓練を行う30分前に皮下注射して、認知症を引き起こした。スコポラミンを投与する1時間前に、スピルリナ抽出物(SM70EE)(200、400mg/kg)、Chlorophyll a(10mg/kg)、そして、陽性対照群であるドネペジル(1mg/kg)を経口投与して、スコポラミンによって誘導された認知症に試料がどのような影響を及ぼすかを確認した。
【0109】
(2)受動回避分析評価実験(Passive avoidance test)
受動回避測定装置の回避箱(40×20×20cm)を明るい箱と暗い箱とに分けて、部屋の間に実験マウスが移動可能なドアを設置した。箱の底に厚さ3mmのステンレス棒が0.5cm間隔で設置された明るい箱に入れたマウスが暗い箱に入ったとき、ステンレス棒を介して0.1mA/10g体重の電気刺激を与える訓練をさせた。24時間後、同じ試験を実施して、実験マウスが明るい部屋に泊まる時間を測定して、前日の訓練を憶える指標とした。試料は、経口投与しており、スコポラミンは、皮下投与を実施した。
【0110】
実験の120分前に、スピルリナ抽出物(SM70EE)(200、400mg/kg)、Chlorophyll a(10mg/kg)、そして陽性対照群であるドネペジル(1mg/kg)を経口投与しており、90分後、対照群は、normal salineを皮下投与し、他のグループにはスコポラミン(1mg/kg)を皮下投与した。スコポラミンを投与して30分後、実験を進めた。24時間後、同じ実験を進めて、実験マウスが回避箱に移動する時間(escape latency time)を測定した。180秒間、実験マウスの動きがないと、実験を中止した。
【0111】
<実験の結果>
(1)水中迷路分析評価実験における4日間の脱出待機時間(escape latency time)
4日間の水中迷路分析評価実験において、スピルリナ抽出物(SM70EE)の空間的認知機能改善活性を確認した。
【0112】
図2は、水中迷路実験における対照群とスピルリナ抽出物投与群の脱出待機時間(escape latency time)を比較したグラフである(*p<005、**p<001、***p<0001)。
【0113】
図2を参照すれば、対照群の場合、1日目から4日目まで有意に脱出待機時間を減少させており、スコポラミンのみを処理した群は、脱出待機時間を増加させた。スピルリナ抽出物(SM70EE)は、4日目において、濃度依存的にスコポラミンによって増加した脱出待機時間を減少させており、200及び400mg/kgの濃度においていずれも類似な水準の低い脱出待機時間を示したが、400mg/kgの濃度において66.39±25.70秒の脱出待機時間と、最も低い水準を示すことを確認した。Chlorophyll a(10mg/kg)の場合も、濃度依存的に脱出待機時間を減少させることを確認した。
【0114】
(2)受動回避分析評価実験における遅滞時間(latency time)
受動回避実験によってスピルリナ抽出物(SM70EE)の記憶力改善活性を測定した。
【0115】
図3は、受動回避実験における対照群とスピルリナ抽出物投与群の遅滞時間(latency time)を比較したグラフでる(*p<005、**p<001、***p<0001)。
【0116】
図3を参照すれば、スコポラミンを処理した実験マウスの場合、対照群と比較して遅滞時間が大きく減少した。スピルリナ抽出物(SM70EE)は、200及び400mg/kg濃度においてスコポラミンによって減少した遅滞時間を有意に増加させており、400mg/kgの濃度において73.33±19.35秒に減少した遅滞時間を最も高く増加させることを確認した。また、Chlorophyll a(10mg/kg)も、スコポラミンによって減少した遅滞時間を増加させた。
【0117】
<実験例3:スピルリナ抽出物のアセチルコリンエステラーゼ(AChE)の抑制活性測定>
本実験例では、前記実験例2の動物実験で使用された各実験群のマウスの海馬を摘出して、アセチルコリンエステラーゼ抑制活性を測定しようとした。
【0118】
図4は、対照群とスピルリナ抽出物投与群のアセチルコリンエステラーゼ抑制活性を測定したグラフである(*p<005、**p<001、***p<0001)。
【0119】
アセチルコリンエステラーゼは、脳のコリン性システムにおける神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素であって、活性が高くなると、記憶力及び認知機能を減少させる。
【0120】
各対照群と実験群マウスの海馬にホスファート緩衝液(Phosphate buffer)を入れて、homogenizerを介して均質化させた後、4℃で20分間12,000rpm条件で遠心分離を実施して、上等液を得た。96well plateに上等液、standard、blankを50μLずつ分注した。20μMのAcetylcholinesterase assay solutionを50μLずつ入れた後、15分間培養した後、410nmにおける吸光度を測定した。
【0121】
図4を参照すれば、スコポラミンを投与した実験マウスの場合、140.39±7.55%のアセチルコリンエステラーゼ活性が測定されており、対照群に比べて増加した。スピルリナ抽出物(SM70EE)の場合、200、400mg/kgの濃度別にそれぞれ116.16±7.11%、117.55±25.96%のアセチルコリンエステラーゼ活性が測定されており、スコポラミンによって増加したアセチルコリンエステラーゼ活性を有意に減少させる傾向を示した。これによって、スピルリナ抽出物(SM70EE)がアセチルコリンエステラーゼの活性を抑制させて、認知能力改善に影響を与えることを確認することができる。
【0122】
また、最適投与量を確認した結果、200mg/kgと400mg/kg濃度において認知機能活性が濃度依存的に増加した。但し、その偏差が微小であり、両濃度における活性度が類似すると評価されるため、生産時に経済性を考慮して、200mg/kgの投与量が認知機能改善活性に好適であると判断される。
【0123】
<実験例4:スピルリナ抽出物の神経栄養因子(BDNF)の発現、上位転写因子(CREB、ERK)の発現測定>
本実験例では、上記実験例2の動物実験で使用された各実験群マウスの海馬を摘出して、神経栄養因子(BDNF)の発現及び上位転写因子(CREB、ERK)の発現を測定しようとした。
【0124】
図5は、対照群とスピルリナ抽出物投与群の神経栄養因子(BDNF)の発現活性化を測定したグラフであり、
図6は、対照群とスピルリナ抽出物投与群の上位転写因子(p-CREB)の発現活性化を測定したグラフで、
図7は、対照群とスピルリナ抽出物投与群の上位転写因子(p-ERK)の発現活性化を測定したグラフである(*p<005、**p<001、***p<0001)。
【0125】
BDNFは、新しい神経突起を生成して、神経細胞間の連結を強化し、連結の数を増やして認知機能を増やし、CREBは、学習と記憶過程で必要な遺伝子であって、BDNFの発現の上位転写因子として活動する。
【0126】
実験群と対照群のマウスの海馬にホスファート緩衝液(Phosphate buffer)を入れて、homogenizerを介して均質化させた後、4℃で20分間12,000rpmで遠心分離を実施して上等液を得た。96well plateに上等液、standard、blankを100μLずつ分注して、1h30分間37℃でインキュベーターに培養した。プレート内にある上等液を捨てて、100μL biotinylated anti-Mouse BDNF antibody working solutionを入れて、1時間37℃でインキュベーターに培養した。プレート内にある上等液を捨てて、0.01Mのホスファート緩衝液で3回洗浄した。100μL ABC working solutionを入れて、30分間37℃でインキュベーターに反応させた。0.01Mホスファート緩衝液で5回洗浄した後、90μL TMB color developing agentを入れて、37℃でインキュベーターに20-25分間反応させた後、450nmの吸光度で測定した。
【0127】
図5~
図7を参考すれば、スコポラミンを投与した実験マウスの場合、対照群のBDNFの発現値よりも低い発現値を示した。スピルリナ抽出物(SM70EE)を200及び400mg/kg濃度で投与した実験マウスの海馬部位でスコポラミンによって減った神経栄養因子であるBDNFの量が有意に活性化したことを確認した。また、スピルリナ抽出物(SM70EE)は、p-CREBの量も有意に活性化させることを確認しており、ERK活性も誘導するという結果を確認した。
【0128】
したがって、スピルリナ抽出物(SM70EE)は、減少した神経栄養因子(BDNF)及び上位転写因子(CREB、ERK)の発現量を増加させて、認知機能改善に影響を与えることを確認することができる。
【0129】
また、動物行動実験による最適投与量を確認した結果、200mg/kgと400mg/kg濃度において認知機能活性が濃度依存的に増加した。但し、その偏差が微小であり、両濃度における活性度が類似であると評価されるため、生産時に経済性を考慮して、200mg/kgの投与量が認知機能改善活性に好適であると判断される。
【0130】
<実験例5:抗体蛍光染色法を利用したスピルリナ抽出物のアセチルコリンエステラーゼ(AChE)の抑制活性、上位転写因子(CREB)の発現、及びグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)の発現能力測定>
本実験例では、スピルリナ抽出物の脳の海馬におけるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)の抑制活性能力、上位転写因子(CREB)の発現能力、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)の発現能力を確認するために、実験マウスの脳の海馬を組織切開して、抗体蛍光染色を行った。
【0131】
図8は、退行性脳疾患を誘導した実験マウスの脳の海馬を組織切開して、対照群とスピルリナ抽出物を投与した群の抗体蛍光染色の結果を比較した写真である。
【0132】
図8を参照すれば、スコポラミンを投与した群では、アセチルコリンエステラーゼの活性度が、海馬全体と大脳皮質で全体的に増加することを観察することができた。ドネペジル投与群とスピルリナ抽出物を投与した群では、スコポラミン投与群よりもアセチルコリンエステラーゼの活性度が下がることを確認することができた。
【0133】
また、スコポラミン投与群では、control群に比べて、CREBの活性度が著しく減少したが、ドネペジルとスピルリナ抽出物を投与した群では、CREB活性度の減少程度が微小であることを確認することができた。
【0134】
一方、グリア線維性酸性タンパク質(Glial Fibrillary acidic protein;GFAP)は、脳にある星状膠細胞または星状細胞であるastrocyteに局在しており、これら細胞のマーカーとして使用される。astrocyteの発現程度を確認するためにGFAPの免疫染色を行った。
【0135】
図8を参照すれば、Control群におけるGFAP-positive astrocyteは、脳の海馬で均一に分布しており、一部のastrocyteは、歯状回(Dentate Gyrus;DG)でまるまるとした形態、つまり活性化した状態であることを確認することができた。スコポラミン投与群の海馬全体では、GFAPの陽性反応が増加した反面、ドネペジルとスピルリナ抽出物投与群では、歯状回で活性化したastrocyteが減って、海馬部位が安定する現象を観察することができた。
【0136】
かかる結果は、スピルリナ抽出物が脳細胞の内外で退行性脳疾患を起こす老廃物を低減させた結果と判断される。
【0137】
今まで、本発明の一実施例によるスピルリナ抽出物の製造方法、スピルリナ抽出物を含む退行性脳神経疾患予防または治療用薬学的組成物及び健康機能食品、及びスピルリナ抽出物を用いた退行性脳神経疾患の治療方法に関する具体的な実施例について説明したが、本発明の範囲から外れない限度内では、様々な実施変形が可能であることは自明である。
【0138】
よって、本発明の範囲は、説明した実施例に定められてはならず、後述する特許請求の範囲のみならず、この特許請求の範囲と均等なものなどによって定めるべきである。
【0139】
すなわち、前述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならず、本発明の範囲は、詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲によって示され、その特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から想到するあらゆる変更または変形形態は、本発明の範囲に含まれるものと解釈しなければならない。
【国際調査報告】