(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-20
(54)【発明の名称】インプラントに対する有害反応のスクリーニング方法およびそのための化合物
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20220413BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220413BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220413BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220413BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20220413BHJP
【FI】
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
G01N33/53 M
C12Q1/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021551887
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(85)【翻訳文提出日】2021-10-26
(86)【国際出願番号】 GB2020050497
(87)【国際公開番号】W WO2020178567
(87)【国際公開日】2020-09-10
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521389790
【氏名又は名称】ピーエックスディー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】ラントン デイビッド
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA13
2G045FB02
2G045FB03
4B063QA01
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4B063QQ03
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4B063QR32
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(57)【要約】
有害局所組織反応(ALTR)としても公知の金属摩耗粉に対する有害反応(ARMD)を有するリスクがあるか否かを判定するために対象をスクリーニングする方法、そのような有害応答の予防または改善に使用するための化合物をスクリーニングする方法、および対象の処置に使用するための化合物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属摩耗粉に対する有害応答(ARMD)または有害局所組織反応(ALTR)の可能性を判定するために対象をスクリーニングする方法であって、
i)対象の生体試料を、有害応答に関連するマーカーの存在および/または非存在を検出するための手段とインビトロで接触させる工程と、
ii)前記対象が有害応答に関連する前記マーカーを有するかどうかを判定する工程と、
iii)有害応答を改善するために、前記対象を治療薬で処置する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
金属摩耗粉に対する有害反応(ARMD)および/または有害局所組織反応(ALTR)に関連する前記マーカーが、自己免疫性炎症状態に関連するHLA遺伝子型を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炎症状態が、関節リウマチ、セリアック病および/またはクローン病を含む群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
金属摩耗粉に対する有害反応(ARMD)および/または有害局所組織反応(ALTR)に関連する前記マーカーが、HLA-DRB1*01,DRB1*04,DRB1*10(18、19)、DQA1*05:01/DQB1*02:01、HLA-DRB1*07、HLA-DRB1*0103、HLA-DRB1*04およびHLA-DRB3*0301.(20)のいずれか1つまたは複数を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記生体試料が固体および/または流体試料を含む、請求項1、2、3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記流体試料が、血液試料、唾液、皮膚細胞または血液抽出物試料のうちの1つまたは複数を含む、請求項5に記載の方法。
前記生体試料が、頬側口腔からの皮膚細胞を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
金属摩耗粉に対する有害反応(ARMD)および/またはインプラントに対する有害局所組織反応(ALTR)応答の処置に使用するための治療薬をスクリーニングする方法であって、前記薬剤をアルブミン-コバルト金属タンパク質と接触させて、結合が起こるかどうかを判定する工程を含む方法。
【請求項8】
前記有害反応がALVALである、請求項1から7のいずれか一項に記載のスクリーニングする方法。
【請求項9】
インプラント手技の前、最中および/または後に、対象のスクリーニングに使用するための、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
金属摩耗粉に対する有害反応(ARMD)および/またはインプラントに対する有害局所組織反応(ALTR)を予防するために対象を処置する方法であって、有害反応を改善または予防するための薬剤を投与する工程を含む方法。
【請求項11】
金属摩耗粉に対する有害反応(ARMD)および/またはインプラントに対する有害局所組織反応(ALTR)を予防するために、対象の処置に使用するための化合物。
【請求項12】
対象における金属摩耗粉に対する有害応答(ARMD)または有害局所組織反応(ALTR)の可能性の予防または改善に使用するための化合物をスクリーニングする方法であって、MHC媒介性免疫応答に干渉する化合物を同定する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害局所組織反応(ALTR)としても公知の金属摩耗粉に対する有害反応(ARMD)を有するリスクがあるか否かを判定するために対象をスクリーニングする方法、そのような有害応答の予防または改善に使用するための化合物をスクリーニングする方法、および対象の処置に使用するための化合物に関する。そのような反応の例としては、無菌性リンパ球優勢血管炎関連病変(ALVAL)が挙げられる。特に、本発明は、対象がインプラントに対する有害反応を有するリスクがあるか否かを判定することに関する。
【背景技術】
【0002】
人工股関節置換術または股関節形成術は、股関節が人工インプラントによって置換される手技である。全人工股関節置換術は、寛骨臼および大腿骨頭を置換することからなり、一方、半関節形成術は大腿骨頭のみを置換する。
【0003】
金属対金属(MoM)人工股関節置換術は、今世紀の終わりに世界的に再導入された(Treacy RB,McBryde CW,Pynsent PB.Birmingham hip resurfacing arthroplasty.A minimum follow up of five years.J Bone Joint Surg Br.2005;87(2):167-70)。安定性の向上(脱臼のリスクの低下)および摩耗の減少が見込まれるため、それらは世界中の外科医に急速に人気を得た(12th Annual Report.National Joint Registry of England and Wales.2015)。従来のプラスチック製人工股関節よりも耐久性があるように意図されて、それらは、若い患者が可能な限り活動的な生活に戻ることを可能にするために、主に彼らに埋め込まれた(McMinn D,Daniel J.History and modern concepts in surface replacement.Proc Inst Mech Eng H.2006;220(2):239-51)。
【0004】
残念なことに、合併症が現れ始めた。これは主に、人工股関節から発生した金属摩耗粉(主にコバルトおよびクロム粒子で構成される)に対して患者が発症した有害な免疫応答によるものであった(Pandit H,Glyn-Jones S,McLardy-Smith P,Gundle R,Whitwell D,Gibbons CL,et al.Pseudotumours associated with metal-on-metal hip resurfacings.J Bone Joint Surg Br.2008;90(7):847-51)。
【0005】
2つの一般的な細胞応答が存在すると思われる(Natu S,Sidaginamale RP,Gandhi J,Langton DJ,Nargol AV.Adverse reactions to metal debris:histopathological features of periprosthetic soft tissue reactions seen in association with failed metal on metal hip arthroplasties.J Clin Pathol.2012;65(5):409-18)。大量の金属曝露では、主な細胞応答はマクロファージ性であり、結果として生じる損傷はほとんどが骨に限定される。(10)中間レベルの金属曝露では、マクロファージ浸潤に伴って細胞応答(無菌性リンパ球優勢血管炎関連病変(「ALVAL」として公知))(11)が発症し得る。ALVALは、大量の流体流出および広範囲の軟組織壊死の発生に関連する(Langton DJ,Jameson SS,Joyce TJ,Hallab NJ,Natu S,Nargol AV.Early failure of metal-on-metal bearings in hip resurfacing and large-diameter total hip replacement:A consequence of excess wear.J Bone Joint Surg Br.2010;92(1):38-46)。ALVALの発症のリスク因子はほとんど理解されていない。
【0006】
残念なことに、ARMD/ALTR(Langton DJ,Joyce TJ,Jameson SS,Natu S,Holland JP,Nargol AVF,De Smet K.Adverse reaction to metal debris following hip resurfacing the influence of component type,orientation and volumetric wear.Journal of Bone and Joint Surgery(Br)2011;93:566;Langton DJ,Jameson SS,Joyce TJ,Natu S,Nargol AVF.Early failure of metal-on-metal bearings in hip resurfacing and large-diameter total hip replacement.A CONSEQUENCE OF EXCESS WEAR.Journal of Bone and Joint Surgery(Br)2010;92-B;およびPseudotumours associated with metal-on-metal hip resurfacings.Pandit H,Glyn-Jones S,McLardy-Smith P,Gundle R,Whitwell D,Gibbons CL,Ostlere S,Athanasou N,Gill HS,Murray DW.J Bone Joint Surg Br.2008 Jul;90(7):847-51)は金属対金属デバイスに限定されない(Jacobs JJ,Cooper HJ,Urban RM,Wixson RL,Della Valle CJ.What do we know about taper corrosion in total hip arthroplasty?J Arthroplasty.2014;29(4):668-9)。過去10年間にわたって、ベアリングの組み合わせ(すなわち、金属対プラスチック、セラミック)に関係なく、より大きな直径のベアリングを標準として使用することが採用される世界的な傾向があった(12th Annual Report.National Joint Registry of England and Wales.2015)。しかしながら、この期間中、これらの大径ヘッド(雄型テーパ/トラニオン)を収容するための支持構造体はサイズが縮小された(Langton DJ,Sidaginamale R,Lord JK,Nargol AV,Joyce TJ.Taper junction failure in large-diameter metal-on-metal bearings.Bone Joint Res.2012;1(4):56-63)。本発明者らは、この境界面、すなわち「テーパ接合部」から重度の反応を患った数名の患者を観察した(Langton DJ,Jameson SS,Joyce TJ,Gandhi JN,Sidaginamale R,Mereddy P,et al.Accelerating failure rate of the ASR total hip replacement.J Bone Joint Surg Br.2011;93(8):1011-6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Treacy RB,McBryde CW,Pynsent PB.Birmingham hip resurfacing arthroplasty.A minimum follow up of five years.J Bone Joint Surg Br.2005;87(2):167-70
【非特許文献2】12th Annual Report.National Joint Registry of England and Wales.2015
【非特許文献3】McMinn D,Daniel J.History and modern concepts in surface replacement.Proc Inst Mech Eng H.2006;220(2):239-51
【非特許文献4】Pandit H,Glyn-Jones S,McLardy-Smith P,Gundle R,Whitwell D,Gibbons CL,et al.Pseudotumours associated with metal-on-metal hip resurfacings.J Bone Joint Surg Br.2008;90(7):847-51
【非特許文献5】Natu S,Sidaginamale RP,Gandhi J,Langton DJ,Nargol AV.Adverse reactions to metal debris:histopathological features of periprosthetic soft tissue reactions seen in association with failed metal on metal hip arthroplasties.J Clin Pathol.2012;65(5):409-18
【非特許文献6】Langton DJ,Jameson SS,Joyce TJ,Hallab NJ,Natu S,Nargol AV.Early failure of metal-on-metal bearings in hip resurfacing and large-diameter total hip replacement:A consequence of excess wear.J Bone Joint Surg Br.2010;92(1):38-46
【非特許文献7】Langton DJ,Joyce TJ,Jameson SS,Natu S,Holland JP,Nargol AVF,De Smet K.Adverse reaction to metal debris following hip resurfacing the influence of component type,orientation and volumetric wear.Journal of Bone and Joint Surgery(Br)2011;93:566
【非特許文献8】Langton DJ,Jameson SS,Joyce TJ,Natu S,Nargol AVF.Early failure of metal-on-metal bearings in hip resurfacing and large-diameter total hip replacement.A CONSEQUENCE OF EXCESS WEAR.Journal of Bone and Joint Surgery(Br)2010;92-B
【非特許文献9】Pseudotumours associated with metal-on-metal hip resurfacings.Pandit H,Glyn-Jones S,McLardy-Smith P,Gundle R,Whitwell D,Gibbons CL,Ostlere S,Athanasou N,Gill HS,Murray DW.J Bone Joint Surg Br.2008 Jul;90(7):847-51
【非特許文献10】Jacobs JJ,Cooper HJ,Urban RM,Wixson RL,Della Valle CJ.What do we know about taper corrosion in total hip arthroplasty?J Arthroplasty.2014;29(4):668-9
【非特許文献11】12th Annual Report.National Joint Registry of England and Wales.2015
【非特許文献12】Langton DJ,Sidaginamale R,Lord JK,Nargol AV,Joyce TJ.Taper junction failure in large-diameter metal-on-metal bearings.Bone Joint Res.2012;1(4):56-63
【非特許文献13】Langton DJ,Jameson SS,Joyce TJ,Gandhi JN,Sidaginamale R,Mereddy P,et al.Accelerating failure rate of the ASR total hip replacement.J Bone Joint Surg Br.2011;93(8):1011-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本出願人らは、今後10年間にわたる、関節置換の初期不全を伴う世界的な問題があると考えている。したがって、本出願人らは、ARMD/ALTRを発症するリスクが最も高い患者の特定が、患者の監視を合理化するために、および/または特定の症例における破局的な患者の反応の可能性を回避するための代替アプローチを検討するために、有益であると判断した。
【0009】
それはまた、治療的介入の開発を促進し得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、金属摩耗粉(metal debris)に対する有害応答(ARMD)または有害局所組織反応(ALTR)の可能性を判定するために対象をスクリーニングする方法であって、
i)対象の生体試料を、有害な応答または反応に関連するマーカーの存在および/または非存在を検出するための手段と接触させる工程と、
ii)前記対象が有害な応答または反応に関連するマーカーを有するかどうかを判定する工程と、任意選択的に、
iii)有害な応答または反応を改善または予防するために、前記対象を治療薬で処置する工程と、を含む方法が提供される。
【0011】
金属摩耗粉に対する有害反応(ARMD)またはALVALなどの有害局所組織反応(ALTR)は、埋め込まれた金属装置に応答して起こり得る新たに記載された病理学的応答であり、これはしばしば著しい疼痛、障害および不可逆的な組織破壊を伴う。これは、よく理解できていない状態であるが、世界中で金属インプラントを有する何十万人もの患者に影響を及ぼす可能性がある。
【0012】
MoM人工股関節の使用は、そのような合併症の観点から大幅に低減されているが、MoP(金属対プラスチック)デバイスにおけるALVALの報告数は増加している。ARMD/ALTRは、十分に、そして数十年にわたって、原因不明の疼痛および関節置換術後の患者満足度の低下の認識されていない原因であり得る可能性がある。したがって、ARMD/ALTRの理解を改善することは、リスクのある患者の現在の管理、人工装具の将来の開発、およびおそらく他の免疫媒介性/炎症性の状態の調査および処置にとって重要である。さらに、それは、特定の化合物に対する個体の遺伝的に決定された反応性によって導かれる個別化された関節置換のための新しい道を開くことができる。一例として、否定的な評判にもかかわらず、MoM表面置換型人工股関節置換術は、若年の活動的な男性患者において極めて良好に行われている。
【0013】
ARMD/ALTRに関連するマーカーは、一般的な自己免疫性炎症状態に関連するHLA遺伝子型のいずれか1つまたは複数を含み得る。
【0014】
ARMD/ALTRに関連するマーカーは、以下のいずれか1つまたは複数を含み得る:関節リウマチ(例えば、HLA-DRB1*01、DRB1*04、DRB1*10(18、19))、セリアック病(DQA1*05:01/DQB1*02:01)および/またはクローン病(例えば、HLA-DRB1*07、HLA-DRB1*0103、HLA-DRB1*04およびHLA-DRB3*0301.(20))など。
【0015】
ARMD/ALTRに関連するマーカーは、以下の対立遺伝子のいずれか1つまたは複数を含み得る:HLA-DRB1*01、DRB1*04、DRB1*10(18、19)、DQA1*05:01/DQB1*02:01、HLA-DRB1*07、HLA-DRB1*0103、HLA-DRB1*04 およびHLA-DRB3*0301.(20)。
【0016】
本出願人は、一般的な自己免疫性炎症状態に関連する特定のHLA遺伝子型(出願人らは「反応促進性」と呼ぶ)、例えば、関節リウマチ(例えば、HLA-DRB1*01、DRB1*04,DRB1*10(18,19))、セリアック病(DQA1*05:01/DQB1*02:01)およびクローン病(例えば、HLA-DRB1*07、HLA-DRB1*0103、HLA-DRB1*04およびHLA-DRB3*0301.(20))などがALVALの発症に関連すると決定した。
【0017】
ALVALはリンパ球駆動型応答であり、CoCr合金に関連しており、非コバルト含有成分に関連することはまれである。
【0018】
ALVALは、広範囲の不可逆的な組織損傷をもたらし得る。
【0019】
金属粒子が人工装具から遊離すると、それらは担体タンパク質と結合して金属タンパク質を形成する。金属タンパク質は、「食作用」と呼ばれる過程で樹状細胞またはマクロファージによって摂取される。食作用後、粒子はリソソームに輸送される。そこで、それは酸性化され、粒子はその構成ペプチド鎖に断片化される。リソソームでは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)と呼ばれる構造が、これらのペプチドの1つと結合することができる。これは、「ペプチド結合溝」と呼ばれるその構造の一部で行われる。
【0020】
MHC分子が十分な安定性で断片を結合した後、MHC分子および新たに結合したペプチドは細胞の表面に移動し、ペプチドを外部環境に「提示する」(このため、マクロファージおよび樹状細胞は「抗原提示細胞」と呼ばれている)。ここで、通過するリンパ球はいずれもこの複合体に結合し、次いで活性化され、サイトカインを放出し、抗原放出源に移動することができる。このリンパ球「活性化」は、ALVALが発症するかどうかを決定する重要なステップである。
【0021】
ペプチド結合溝の三次元構造は、どのペプチドが「提示される」かを決定する上で重要である。この構造は遺伝的にコードされている。一部の個体は、非常に異なるペプチド結合溝をコードする遺伝子を有する-したがって、一部の個体は異なる抗原に対して異なる応答を示すと思われる。
【0022】
生体試料は、固体および/または流体試料を含み得る。流体試料は、血液試料、唾液または血液抽出物試料であり得る。生体試料は、例えば、頬側口腔からの皮膚細胞を含み得る。
【0023】
本方法は、インビトロ法であり得る。
【0024】
本方法は、ARMD/ALTR関連不全を発症する患者のリスクを判定するために関節置換術の前に使用されるために、および/またはARMD/ALTR関連不全の将来のリスクを判定するために血中金属イオン濃度と組み合わせてインサイチュで関節に使用され得る。
【0025】
本発明の別の態様によれば、対象における金属摩耗粉に対する有害応答(ARMD)または有害局所組織反応(ALTR)の可能性の予防または改善に使用するための化合物をスクリーニングする方法であって、MHC媒介性免疫応答に干渉する化合物を同定する工程を含む方法が提供される。
【0026】
本発明のさらなる態様によれば、対象における金属摩耗粉に対する有害応答(ARMD)または有害局所組織反応(ALTR)の可能性を予防または改善に使用するための組成物が提供される。
【0027】
組成物は、テストステロンまたはその代謝前駆体を含み得る。
【0028】
好ましくは、試料は全血試料である。
【0029】
本出願人は、数千の外植された人工装具をリバースエンジニアリングして、体内で生じた摩耗の量を決定した。失われた材料の総量は、「体積摩耗」と呼ばれる。
【0030】
本出願人らは、DQA1/DQB1の遺伝的組み合わせが入力された場合に、得られたペプチド結合溝の形状をコンピュータモデル化する既存のソフトウェアを使用した。このソフトウェアは、ペプチド結合溝の組み合わせの各候補に対する様々なペプチド断片の結合の強度を予測した。本出願人は、アルブミンのN末端ペプチド断片に適した遺伝子型を有する患者が、ALVALを発症する可能性が有意に高いことを発見した。他の遺伝子型は、マクロファージのみのARMD応答の存在下で疼痛と関連していた。
【0031】
患者の年齢および性別を変数として含む回帰統計モデリングを使用して、本出願人らは、ARMD(マクロファージ優勢またはリンパ球優勢(ALVAL)のいずれか)を発症する、患者の相対リスクを推定する手段を発明した。これは、追跡調査の戦略を助言するために術後に使用することができるが、インプラント選択を導くために術前にも使用することができる。
【0032】
HLA遺伝子(具体的にはクラスII遺伝子DQA1/DQB1)は、頬スワブなどからの非侵襲的方法を用いて収集することができる。
【0033】
ALVAL応答を開始する患者は、「抗原」に対する抗体を発現する可能性が高い。抗原が、遺伝的に決定されたペプチド結合溝に対して特定の親和性を有することが分かると、血液試験を使用して、リスクのある患者においてALVALが活性であるかどうかを判定することができる。
【0034】
本発明の方法は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)の使用を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
ここで、添付の実施例および図面を参照して、本発明を単なる例として説明する。
【
図1】
図1は、ATCUNバインダー、MMBSバインダーおよび非特異的結合に対する特定の対立遺伝子の親和性を決定するための実験の結果を示す表である。
【
図2】
図2は、ATCUNおよびMMBSに対する親和性ランクを示す図である。
【
図3】
図3は、データセットから収集したデータの結果をまとめた表である。
【
図4】
図4は、ALVAL応答の可能性およびセリアック病マーカーの相関関係を示す表である。
【実施例】
【0036】
切除された組織は、前述のように、顧問組織病理医による半定量的格付けに日常的に供される。(13、17)この患者プールから、3つのリストを作成した:
【0037】
摩耗率が最も低い重症ALVAL患者群(A群)
【0038】
高摩耗に曝露されたALVAL患者群(B群)
【0039】
ALVAL所見がない患者群(C群)
【0040】
これらの患者のHLAクラスIおよびクラスII遺伝子を、6桁の精度まで次世代シーケンシングを使用して試験した。
【0041】
遺伝子型を、群間および以前の研究からの約8500人の患者のバックグラウンド集団と比較した。
【0042】
特定のDQA1/DQB1の組み合わせが、C群および対照群と比較してA群の患者においてより一般的であることが明らかになった。
【0043】
疼痛および低体積曝露摩耗を有するC群患者を同定および単離すると、対照集団と比較して遺伝子ハプロタイプの異常な分布が示された。これらのハプロタイプは、ALVAL応答に関連するハプロタイプと同じであった。このことは、これらの患者は、1.リンパ球浸潤(ALVAL)の発生前に取り込まれたこと、または2.これらの遺伝子は、リンパ球動員なしで有害な臨床的続発症を引き起こすことができる反応性亢進マクロファージに関連すること、を示していた。
【0044】
これらの組み合わせを公開されたソフトウェアに入力して、遺伝的にコードされたペプチド結合溝がより高い親和性で結合するペプチドを決定した。
【0045】
結果は、患者が金属摩耗粉に対する臨床的に有害なリンパ球応答を開始しやすくする、特定の比較的一般的な遺伝子型があることを示している。ALVALを発症した患者と発症しなかった患者との間で最も明白な分布の差を示した対立遺伝子は、DQA1/DQB1遺伝子座に見出された。本研究の開始時に、本発明者らは、ALVALが、セリアック病などのいくつかの炎症性自己免疫/自己免疫様状態と臨床的および病理学的特徴を共有するため、ゲノムのこの領域に焦点を当てた。これらの結果は、これらのMHC分子が実際に、非特異的な、主としてマクロファージ優勢な微粒子摩耗粉に対する応答に加えて、リンパ球の動員において重要な役割を果たすという我々の仮説を実証していると思われる。
ALVALの免疫遺伝学
【0046】
本出願人らは、ALVALの発症に関連した細胞応答の相違に注目した。本発明者らは、2つの主要な臨床的理由のためにALVALに特に焦点を当てた。第1に、ALVALと血中金属イオン試験との間の関係は複雑であると思われ、イオン濃度は、状態の判定において信頼できる診断指標ではないと思われる。第2に、ALVALは、進行性および不可逆性の軟組織損傷の発生において、最も重要ではないにしても重要な因子であると思われる。
【0047】
マクロファージ駆動型炎症領域へのリンパ球の動員は、APCの膜上のMHCII分子による粒子摩耗粉の取り扱いおよびCD4+T細胞への提示と密接に関係する。ペプチド-MHC結合はT細胞免疫原性の必要条件であり、複数の研究が、MHCペプチド結合強度とペプチド免疫原性との間に強い相関があることを示している。安定なペプチド-MHC複合体を形成するペプチドは細胞表面に蓄積し、ペプチド-MHC複合体の総数がT細胞活性化に重要であることが示されている。
【0048】
粒子状物質がマクロファージによって摂取されると、リソソームで産生されるペプチド断片がMHC分子の結合溝と競合する。
【0049】
本出願人は、リンパ球動員を開始するためにAPCによって提示される抗原(エピトープ)は、アルブミン-Co金属タンパク質の分解に由来するペプチドであると考える。さらに、ALVAL患者群と非ALVAL患者群との間で頻度が異なるMHC II遺伝子は、アルブミン由来ペプチドに対してより大きな相対的結合親和性を示すと思われる。したがって、若齢および男性に付与されていると思われる保護を考慮すると、テストステロン由来ペプチドは、これらの結合部位に対してアルブミンと競合する可能性がある。
【0050】
各患者は、4つの可能性のあるDQA1/DQB1の組み合わせを有する。したがって、三次元構造の効果を調査する際に、構築ブロックの一部のみを単独で、すなわち患者群間の単一遺伝子の対立遺伝子頻度を単純に比較することによって研究することは理想的ではない。理論的結合親和性を計算することによって、患者を個々の対立遺伝子においてホモ接合性/ヘテロ接合性/欠如であると分類する古典的なアプローチを超えた、患者の遺伝的構成の定量的尺度が得られた。
【0051】
本出願人らは、アルブミン断片に結合するのに特に適したDQ分子がALVALの発症と有意に関連することを発見した。逆に、より高い親和性でテストステロン断片に結合するDQ分子は、ALVALの発症と負の関連があった。特に重要なのは、トランスのDQアイソフォームが、シスの組み合わせと比較して統計的モデリングへの影響が比較的少なかったことであると本発明者らは考えている。シスDQアイソフォームは、より容易に形成され、細胞膜上により多く存在し、T細胞活性化にとってより重要であると考えられている。
アルブミン結合および抗原提示
【0052】
抗原認識およびリンパ球活性化の後、ケモカイン放出は流体滲出物の発生をもたらし、関節液中により高濃度のアルブミンが形成される。したがって、リンパ球が抗原に感作され、それがさらに大量に存在するようになり、悪循環が起こる可能性がある。タンパク質に結合した金属の割合が増加すると、より小さな溶質およびイオンが可能であるため、滑膜を直接介するのではなく、リンパ系を介して関節から出る金属の量も増加する。
テストステロンの調節効果
【0053】
性ホルモンは、免疫調節において重要な役割を果たす。さらに、テストステロンは、低摩耗MoMデバイスから生成された金属イオンの濃度に匹敵する濃度で、健康な関節および関節炎の関節の滑液中に存在する。テストステロンのかなりの部分がアルブミンに結合しており、これは、マクロファージおよび樹状細胞によって消化された粒子が様々な量のCo、Cr、アルブミンおよびテストステロン由来ペプチドを含有する可能性が高いことを意味する。滑液中の性腺ステロイドのレベルは、年齢と逆の関係を示す。明らかに、性ホルモンによる免疫応答の調節は非常に複雑である。しかしながら、女性および高齢患者がALVALに対してより脆弱であり得る理由の1つは、それらの滑膜テストステロン濃度の低下、したがってMHC結合空間に対する競合の低下に起因し得ることを、本発明者らは示唆する。
【国際調査報告】