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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-21
(54)【発明の名称】多層電極および固体電解質
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20220414BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220414BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220414BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220414BHJP
   H01M 4/583 20100101ALI20220414BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20220414BHJP
   C07C 311/48 20060101ALN20220414BHJP
   C07F 9/54 20060101ALN20220414BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/38 Z
H01M4/583
H01B1/10
C07C311/48
C07F9/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021509753
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(85)【翻訳文提出日】2021-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2019074214
(87)【国際公開番号】W WO2020053267
(87)【国際公開日】2020-03-19
(31)【優先権主張番号】18382657.7
(32)【優先日】2018-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517132935
【氏名又は名称】フンダシオン セントロ デ インベスティガシオン コオペラティバ デ エネルヒアス アルテルナティバス セイセ エネルヒグネ フンダツィオア
【氏名又は名称原語表記】FUNDACION CENTRO DE INVESTIGACION COOPERATIVA DE ENERGIAS ALTERNATIVAS CIC ENERGIGUNE FUNDAZIOA
【住所又は居所原語表記】Parque Tecnologico de Alava Albert Einstein 48,Edificio CIC E-01510 Vitoria-Gasteiz,Alava SPANA
(71)【出願人】
【識別番号】519016468
【氏名又は名称】フンダシオン テクナリア リサーチ アンド イノベイション
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】リョルデス ヒル、アナ
(72)【発明者】
【氏名】アグエセ、フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】グティエレス パルド、アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ザゴルスキー、ヤクブ
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス カレテロ、フランシスコ ホセ
(72)【発明者】
【氏名】シリワルダナ、アマル
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ルイス、アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ビリャベルデ センドージャ、ハイセア
【テーマコード(参考)】
4H006
4H050
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4H006AA03
4H006AB91
4H050AA03
4H050AB91
5G301CA05
5G301CD01
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ12
5H050AA07
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
(57)【要約】
本発明は、OIPCカバー材料を含む多層電極および/または固体電解質、当該多層を調製するための無溶媒方法、ならびに当該多層を含む全固体バッテリーに関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
・固体電解質層に面した表面を提示するアノード層と;
・前記アノード層に面した表面を提示する前記固体電解質層と;
・前記アノード層の前記表面と前記固体電解質層の前記表面との間に配置され、かつ、それら表面に接触しているカバー材料層と
を含む多層体であって、
前記カバー材料が、少なくとも1種の有機イオン性柔粘性結晶(OIPC)を含む、
多層体。
【請求項2】
前記OIPCが、下記から選択されるカチオン:
a)アンモニウムカチオン(NRp )、ホスホニウムカチオン(PR )、またはスルホニオムカチオン(SR
(ここで、各Rは、独立して、水素;C~C30アルキル基、好ましくはC~Cアルキル基;C~C30アルケニル基、好ましくはC~Cアルケニル基;またはC~C30アルキニル基、好ましくはC~Cアルキニル基であり;
前記アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は、無置換であっても、あるいはハロゲンまたはヒドロキシルで置換されていてもよく;
前記アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は、分岐鎖状または直鎖状であってもよい);または
b)そのヘテロ原子のいずれかにおいて正電荷を有する複素環
を含む、請求項1に記載の多層体。
【請求項3】
前記OIPCが、BF 、PF 、SCN-、I-、ニトレート、ホスフェート、または下記式のスルホニルイミドまたはスルホネート:
【化1】
[式中、各Rは、独立して、F;C~C30アルキル基、好ましくはC~Cアルキル基;C~C30アルケニル基、好ましくはC~Cアルケニル基;またはC~C30アルキニル基、好ましくはC~Cアルキニル基であり;ここで、前記アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は、完全にまたは部分的に、Fで置換されており;
前記アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は、分岐鎖状または直鎖状であってもよい]
から選択されるアニオンを含む、請求項1または2のいずれか一項に記載の多層体。
【請求項4】
前記OIPCが、前記カバー材料の総重量に対して50重量%超の量において存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の多層体。
【請求項5】
前記OIPCが、前記カバー材料の総重量に対して90重量%超の量において存在する、請求項4に記載の多層体。
【請求項6】
前記カバー材料が、イオン性液体、ポリマー、ドーパント、および無機充填剤から選択される少なくとも1種の追加成分を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の多層体。
【請求項7】
前記カバー材料が、前記OIPCからなる、請求項5に記載の多層体。
【請求項8】
前記カバー材料が、ポリマーを含まない、請求項1~6のいずれか一項に記載の多層体。
【請求項9】
前記カバー材料が、溶媒を含まない、請求項1~8のいずれか一項に記載の多層体。
【請求項10】
前記アノードが、Na、Li、Zn、Mg、Al、およびそれらの合金;Si系アノード;または六方充填または菱面体充填された炭素材料から選択される、請求項1に記載の多層体。
【請求項11】
前記固体電解質が、ガーネット、ペロブスカイト、アルジロダイト、硫化物、水素化物、ハロゲン化物、NASICON、LISICON、ホウ酸塩、およびリン酸塩から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の多層体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項において定義される多層体を製造する方法であって、
i.少なくとも1種の有機イオン性柔粘性結晶(OIPC)を含むカバー材料を、該OIPCの融点またはそれ以上に加熱する工程と;
ii.前記溶融したカバー材料を、アノード層の前記表面、または固体電解質層の前記表面、または該表面双方から選択される表面上に被着させる工程と;次いで、
iii.工程ii.が、前記溶融したカバー材料を前記表面の一方のみに被着させる工程を伴う場合に、前記被着されたOIPCを他方の表面に接触させる工程と
を含む方法。
【請求項13】
溶媒の不在下において実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記被着させる工程が、スピンコーティング、スプレーコーティング、スクリーン印刷、ディップコーティング、またはインクジェット印刷によって実施される、請求項12または13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか一項に記載の多層体を含む電気化学電池またはバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体バッテリーの分野に関する。より詳細には、本発明は、そのようなバッテリーにとって有用な多層電極および/または固体電解質、ならびに当該多層電極および/または固体電解質を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、全固体バッテリー(SSB)を開発するための多数の取り組みが為されてきた。固体電解質(SSE)を採用するSSBは、可燃性液体電解質を採用する従来のバッテリーが直面する主な問題、例えば、乏しい安全性またはエネルギー密度など、に対して、可能性のある解決策を提供する。その上、SSEにおけるイオン伝導率の向上に対する確実な進歩は、当該伝導率が有機電解質に匹敵することを示しているため、多くの注目を集めている。したがって、SSBは、特に、大規模なエネルギー貯蔵、例えば、固体リチウムバッテリー(SSLiB)が特に重要である電気自動車用途など、に関して、またはNaイオンバッテリー(SSNaB)が注目に値する電力網エネルギー貯蔵において、現状技術を凌ぐことが予想される。
【0003】
それらの認識された可能性にもかかわらず、SSBは、現在、市場での成功的な実用化に対する限界に直面している。主要な限界は、全電池開発にとって、SSEと電極との間の界面インピーダンスが小さく、かつ安定で効率的な界面が重要であるが、特にアノードにおいて、それがほとんど達成されていない点である。例えば、Li金属が、アノードとして最も高い容量(3860mAh/g)および最も低い電位(標準水素電極に対して-3.040)を有するという事実に鑑みて、SSEとLi金属アノードとの間の安定な界面を実現することが、特に重要なタスクである。
【0004】
さらに、そのようなSSBは、理想的には、バッテリーサイクルに関して効率的に機能しなければならず、特に、それらは、高電流密度において長いサイクル寿命を可能にする均一な金属電析を達成しなければならない。
【0005】
中でも最も研究されているSSEは、ガーネット構造のセラミックであり、と言うのも、それらは、高いLiイオン伝導率と、高い電位窓および化学安定性とを有するためである。しかしながら、セラミック材料の剛性および粗い表面により、当該ガーネットとLi金属との間の物理的接触は乏しく、それは、制限された接触点、高い界面抵抗、およびサイクル時のLi金属アノードとの機械的破断の原因となる。
【0006】
SSEと電極との間の界面抵抗を減らす試みが、先行技術において為されている。例えば、国際公開第2016/069749号では、特定の無機材料、例えば、Al、TiO、V、Yなど、の層、あるいは、有機ポリマー、例えば、ペルフルオロポリエーテル(PFPE)またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)系材料、あるいはリチウム塩を含む溶媒、で電極またはSSEをコーティングすることが開示されている。用いられているコーティング方法は、例えば、無機層の場合は原子層堆積、または有機層の場合は溶媒ベースの方法など、複雑なものである。
【0007】
上記を考慮すると、SSBの認識された可能性を具現化する安定で効率的なSSB電池またはその部品の開発を促進する差し迫った必要性が存在する。その上、工業規模でのそれらの適用性を最大化するために、当該電池またはその部品の製造も、可能な限り効率的で簡単であるべきである。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、上記において説明した問題に対処し、性能および製造の観点から産業的に特に価値のある多層構造を開発した。
【0009】
すなわち、第一態様において、本発明は、以下:
・電極の表面、特にアノードの表面;または
・固体電解質の表面
から選択される表面上に配置されたカバー材料を含む多層体であって、
当該カバー材料が、少なくとも1種の有機イオン性柔粘性結晶(OIPC)を含む、
多層体に関する。
【0010】
本発明者らは、そのような多層体が、ポリマー性コーティングをベースとする先行技術の電解質または電極を超える伝導率を達成することができ、ならびに短絡するまでに高電流密度に耐えることにより、向上したサイクル性を提供することを見出した。本発明の多層体のカバー材料は、電極とSSEとの間の不十分な接触およびバッテリーサイクルの間に体積変化によって生じ得る機械的故障を減じることができる。
【0011】
したがって、別の態様において、本発明は、本発明の第一態様による多層体を含む電気化学電池またはバッテリーにも関する。
【0012】
本発明の多層体自体の驚くべき特性に加えて、本発明者らは、本発明の第一態様の多層体の調製が、高真空/高温を用いる先行技術(例えば、ALD、スパッタリング、CVD)の被着技術のような複雑な被着技術を必要とせず、先行技術の溶媒ベースの方法では必要である、被着プロセス全体を通して必要な、溶媒の使用も必要としないことも見出した。電極活性物質と反応するかまたは金属アノードを劣化させ、能力低下および乏しいサイクル寿命など、最終的なバッテリー性能における悪影響の原因となる、当該多層体における痕跡量の残留溶媒の潜在的問題を排除するので;またはシステム障害をしばしば引き起こす、サイクルの際に吸収された痕跡量の溶媒の放出を防ぐので;または当該プロセスを工業規模に引き上げる場合に経済的支出および環境害を減じるので、後者は特に重要である。
【0013】
本発明の第一態様の多層体を調製する方法は、以下の工程:
i.少なくとも1種の有機イオン性柔粘性結晶(OIPC)を含むカバー材料を、当該OIPCの融点までまたはそれ以上に加熱する工程と;
ii.当該溶融したカバー材料を、電極、好ましくはアノード、の表面または固体電解質の表面から選択される表面上に被着させる工程と
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明による複合体および電池の無溶媒調製を示す。
図2】OIPCコーティングなし(左側)およびOIPCコーティングあり(右側)でのLi金属アノードの走査電子顕微鏡写真を示す。当該コーティングされた表面において、カバー材料の均質で一様な層を観察することができる。
図3】(a)室温での本発明の実施例1の多層体のナイキストプロット(EISスペクトル)、および(b)0℃から70℃および70℃から0℃での対応するアレニウスプロットを示す。室温での本発明の多層体において1.9mS・cm-1の高イオン伝導率値が観察され、それは、70℃において最大で5.5mS・cm-1まで増加した。アレニウスプロットにおいて2つの直線領域を観察することができ、それは、イオン輸送メカニズムの変化を示している。傾きの変化は、OIPCにおいて提示される転移相に一致する。この転移温度未満では、活性化エネルギー(E)は、最大でも1eVまで増加し、これは、イオン移動の困難さを示している。しかしながら、この温度より上では、当該多層体の活性化エネルギーは、0.15eVまで低下し、これは、OIPC構造におけるLi輸送に対するエネルギー障壁が低いことを示している。
図4】実施例3のLiストリッピング-めっき実験の結果を表す。これらの実験は、(a)カバー材料の不在下および(b)カバー材料の存在下において、室温で実施した。
図5】実施例3のLiストリッピング-めっき実験の結果を表す。これらの実験は、(a)カバー材料の不在下および(b)カバー材料の存在下において、70℃で実施した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、以下:
・電極の表面;または
・固体電解質の表面
から選択される表面上に配置されたカバー材料を含む多層体であって、
当該カバー材料が、少なくとも1種の有機イオン性柔粘性結晶(OIPC)を含む、
多層体に関する。
【0016】
分子柔粘性結晶は、1960年代から知られていたが、有機イオン性材料における可塑性の実用的妥当性は、より最近の発見であり、例えば、Cooper and Angell, Solid State Ionics, 1986, 18-19 (part 1), 570-576において議論されている。
【0017】
イオン性液体とは対照的に、OIPCは、温度の関数として様々な結晶構造を有することによって特徴付けられ、その場合、高温結晶構造は、柔軟な可塑性の機械的特性および著しいイオン移動度を示す。これらの結晶構造は、回転相として知られている。したがって、本発明との関連において、OIPCは、より低い温度の固相と比較して、より高い温度の固相において、増加されたレベル、または少なくとも2倍のレベル、または少なくとも3倍のレベルの分子回転をもたらす、1つまたは複数の固相-固相転移を示す、有機イオン種である。これらの分子回転は、OIPCにおける片方または両方のイオンの回転運動に由来しており、換言すれば、当該イオンは、それらの三次元的秩序構造を失うことなく液体の特徴を有する、いくつかの運動特性を示すことができる。
【0018】
OIPCは、少なくとも1種の有機イオンを含み、それらは、アニオンまたはカチオンであり得る。本発明との関連において、有機イオンは、本発明の分野において一般的に認められる意味を有し、特に、C、H、O、N、S、P、Se、またはBを含むイオンを意味する。典型的な有機アニオンとしては、トリフルオロメタンスルホンイミド(ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド、TFSI、[(CFSON]としても知られる)、フルオロスルホニルイミド(ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI;[(FSON]としても知られる)、またはSCNが挙げられ、その一方で、典型的な有機カチオンとしては、窒素含有複素環化合物または第四級アンモニウム化合物のカチオンが挙げられる。ある実施形態において、当該OIPCのアニオンおよびカチオンの両方が、有機イオンである。
【0019】
本発明の実施形態において、OIPCは、上記において説明される種であり、その場合、最も高い温度の固相から溶融物までの融解のエントロピーΔSfusは、20JK-1mol-1未満である。
【0020】
OPICの固相-固相転移ならびに固体-溶融物転移は、示差走査熱量測定(DSC)によって特定され得る。特に、融解のエンタルピーΔHfusは、DSC曲線から計算することができ、そして、以下の式に従って、融解のエントロピーを特定することができる:
【数1】
式中、Tは、融点である。本発明との関連において、ΔHfusおよびΔSfusは、ASTM E793 - 06(2018)に従って計算することができる。
【0021】
同様に、当業者は、OIPCにおける固体-固体転移が、以下において説明されるカバー材料における様々な可能性のある成分によって、またはカバー材料におけるそれらの量によって、影響を受けるか否かを、各場合において、これらの方法により特定する方法を知っている。
【0022】
本発明との関連において、「多層体」は、少なくとも別の層によって部分的にまたは完全に覆われるかまたはコーティングされた第一層を含む構造を包含するための一般的用語として使用される。当該第一層は、電極またはSSEである。第二層は、当該カバー材料である。したがって、カバー材料による1つのコーティング層のみが電極またはSSE上に配置されたその最も簡素な形態において、当該多層体は、二層体である。ただし、当該二層体は、三層体などである多層体を得るために、カバー材料で再びコーティングしてもよい。
【0023】
したがって、本発明による多層体は、
その表面上に配置されたカバー材料を含み、当該カバー材料が少なくとも1種の有機イオン性柔粘性結晶(OIPC)を含む、電極、好ましくはアノード;または
その表面上に配置されたカバー材料を含み、当該カバー材料が少なくとも1種のOIPCを含む、SSE;または
SSEと、電極、好ましくはアノードとによって形成された複合体であって、当該SSEの表面と当該電極の表面との間に配置されたカバー材料を含み、当該カバー材料が少なくとも1種のOIPCを含む、複合体
であり得る。
【0024】
好適な層の例は、フィルム、シート、またはホイルである。
【0025】
好ましい実施形態において、当該OIPCは、以下から選択されるカチオン:
a)アンモニウムカチオン(NR )、ホスホニウムカチオン(PR )、またはスルホニオムカチオン(SR
(ここで、各Rは、独立して、水素;C~C30アルキル基、好ましくはC~Cアルキル基;C~C30アルケニル基、好ましくはC~Cアルケニル基;またはC~C30アルキニル基、好ましくはC~Cアルキニル基であり;
当該アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は、無置換であってもよく、またはハロゲン(例えば、F、Cl、Br、またはI)またはヒドロキシル基で置換されていてもよく;
当該アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は、分岐鎖状または直鎖状であり得る。ある実施形態において、各R基は同一である。)、
b)複素環カチオン、すなわち、そのヘテロ原子のいずれかにおいて正電荷を有する複素環。(「複素環」は、炭素原子と、窒素、酸素、および硫黄からなる群から選択される1個から5個のヘテロ原子とからなる、安定な3員環基から15員環基を意味し;当該環基は、芳香族または非芳香族であってもよく、ならびに、縮合環系を含んでいてもよい、単環式、二環式、または三環式であってもよい。好適な複素環カチオンとしては、ピロリジニウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、ピペラジニウム、またはジアゼパニウム(diazepanium)が挙げられる。好ましくは、塩基性(非カチオン性)複素環(Het)のヘテロ原子は、R基で置換されてカチオン性ヘテロ原子/複素環(Het-R)を生じ、この場合、Rは、すぐ上記において説明される通りである。例えば、当該複素環のN原子は、四級化されて、複素環カチオンを与え得る。)、
を含む。
【0026】
より好ましくは、当該OIPCは、上記において説明される、ホスホニウムカチオンまたはピロリジニウムカチオンから選択されるカチオン、より詳細には、ホスホニウムカチオン、を含む。したがって、上記において説明されるピロリジニウムカチオンは、構造(R)-ピロリジニウムであり、この場合、各Rは、上記において説明される通りであり、ピロリジン環の窒素原子に結合している。好適な特定のホスホニウムカチオンの例は、ジエチル(メチル)(イソブチル)ホスホニウム、メチル(トリエチル)ホスホニウム、トリイソブチル(メチル)ホスホニウム、またはトリエチル(メチル)ホスホニウムである。好適な特定のピロリジニウムカチオンの例は、N-エチル-N-メチル-ピロリジニウムまたはN,N-ジメチルピロリジニウムである。最も好ましい特定の実施形態において、当該OIPCは、トリイソブチル(メチル)ホスホニウムカチオンを含む。
【0027】
好ましい実施形態において、当該OIPCは、BF 、PF 、SCN-、I-、ニトレート、ホスフェート、または下記式のスルホネートまたはスルホニルイミド:
【化1】
[式中、各Rは、独立して、F;C~C30アルキル基、好ましくはC~Cアルキル基;C~C30アルケニル基、好ましくはC~Cアルケニル基;またはC~C30アルキニル基、好ましくはC~Cアルキニル基であり;この場合、当該アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は、完全にまたは部分的に、好ましくは完全に、Fで置換され;
当該アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は、分岐鎖状または直鎖状であり得;
各Rは、好ましくは同一である]
から選択されるアニオンを含む。
【0028】
好ましくは、当該アニオンは、上記において説明されるスルホネートまたはスルホニルイミドである。
【0029】
好ましい実施形態において、当該R基は、-CF、-CFCF、-CFCFCF、または-CFCFCFCFである。
より好ましくは、当該OIPCは、FSIまたはTFSI、さらにより好ましくはFSI、から選択されるアニオンを含む。
【0030】
上記において説明されるカチオンのタイプおよびカチオンのそれぞれは、さらなる特定のOIPCに達するために、上記において説明されるアニオンのタイプおよびアニオンのそれぞれを組み合わせてもよい。好ましい実施形態において、当該OIPCは、少なくとも有機カチオンと少なくとも有機アニオンとを含み、それらは、好ましくは、上記において説明されるものから選択される。特に好ましい実施形態において、当該OIPCは、上記において説明されるホスホニウムカチオンと上記において説明されるスルホニルイミドアニオン、例えば、トリイソブチル(メチル)ホスホニウムとFSI、またはトリイソブチル(メチル)ホスホニウムとTFSIなど、を含む。
【0031】
本発明のカバー材料は、電極または固体電解質の表面を被覆またはコーティングするために用いられる材料である。本発明の特定のカバー材料によるこの被覆またはコーティングは、電極と電解質との間の緊密な物理的接触(良好な濡れ性)を可能にし、界面抵抗(ASR)を下げるのに役立つ。
【0032】
当該カバー材料は、当該OIPCからなるか、または当該カバー材料は、当該カバー材料の総重量に対して少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、少なくとも40重量%、少なくとも45重量%、少なくとも50重量%、少なくとも55重量%、少なくとも60重量%、少なくとも65重量%、少なくとも70重量%、少なくとも75重量%、少なくとも80重量%、少なくとも85重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、または少なくとも99重量%の量において当該OIPCを含む。好ましくは、当該カバー材料は、当該カバー材料の総重量に対して少なくとも30重量%の量において当該OIPCを含む。特に、当該カバー材料は、当該カバー材料の総重量に対して40%超、例えば、50%超など、さらには、例えば、90%超など、の量において当該OIPCを含む。カバー材料が、OIPCを含む場合、当該カバー材料は、当該OIPCに加えて、少なくとも1種の追加成分を含んでもよい。好適な追加成分の例は、イオン性液体材料、ポリマー、ドーパント、および無機充填剤である。
【0033】
ある実施形態において、当該追加成分は、イオン性液体材料である。当業者は、上記において説明した方法に基づいて、どの材料がイオン性液体を構成するか、およびどの材料がOIPCを構成するかを知っている。イオン性液体(OIPCではない)は、典型的には、20JK-1mol-1を超える、通常はそれをはるかに超える、固相または最も高い温度の固相から溶融物までの融解のエントロピーΔSfusを有するであろう。
【0034】
当該イオン性液体は、トリアゾール、スルホニオム、オキサゾリウム、ピラゾリウム、アンモニウム、ピリジニウム、ピリミジンイウム、ピロリジニウム、イミダゾリウム、ピリダジニウム、ピペリジニウム、ホスホニウムから選択されるカチオンと、BF 、PF 、AsF 、SbF 、AlCl 、HSO 、ClO 、CHSO 、CFCO 、(CFSO、(FSO、Cl、Br、I、SO 、CFSO 、(CSO、および(CSO)(CFSO)Nから選択されるアニオンとを含む化合物から選択され得る。
【0035】
様々な実施形態において、当該イオン性液体は、当該カバー材料の総重量に対して30%未満、または25%未満、または20%未満の量において存在する。より詳細には、当該イオン性液体は、当該カバー材料の総重量に対して0.1重量%から30重量%、または1重量%から30重量%、または5重量%から30重量%の量において存在する。あるいは、当該イオン性液体は、当該カバー材料の総重量に対して0.1重量%から25重量%、または1重量%から25重量%、または5重量%から25重量%の量において存在する。好ましくは、当該イオン性液体は、当該カバー材料の総重量に対して0.1重量%から20重量%、または1重量%から20重量%、または5重量%から20重量%の量において存在する。
【0036】
ある実施形態において、当該追加成分は、ポリマー、より好ましくは高分子電解質である。上記において言及したように、ポリマーは、電極または固体電解質界面層として先行技術において採用されている。好適な高分子電解質は、フルオロポリマー、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはペルフルオロポリエーテル(PFPE)など;アルキレンオキシドポリマー、例えば、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、またはポリ(ブチレンオキシド)など;シロキサンポリマー;またはアクリレートポリマーである。
【0037】
ある実施形態において、存在する場合、当該ポリマーは、当該カバー材料の総重量に対して0.1重量%から25重量%、より詳細には0.1重量%から5重量%の量において存在する。
【0038】
しかしながら、既に説明されているように、本発明のカバー材料は、改良されたASRおよびイオン伝導率を達成するためにそのようなポリマーを必要としない。したがって、本発明における好ましい実施形態において、当該カバー材料は、上記に列挙した高分子電解質のいずれも含まず、より詳細には、当該カバー材料は、アルキレンオキシドポリマー、例えば、ポリ(エチレンエンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、またはポリ(ブチレンオキシド)など、を含まない。当該アルキレンオキシドポリマーは、交互のアルキレン基とエーテル酸素基とを伴うアルキレンオキシド骨格を含むポリマーである。別の特定の実施形態において、当該カバー材料は、ポリマー、例えば、170℃を超える融点を有するような上記において説明したフルオロポリマー、例えば、PVDFなど、を含まない。
【0039】
ある実施形態において、当該追加成分は、ドーパントである。ドーパントは、適切な濃度の電荷キャリアイオンが当該電気化学系において電荷伝導のために利用可能であることを確実にするために、カバー材料に添加される物質である。本発明との関連において、好適なドーパントの例は、カチオンが、電荷輸送金属、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、またはBaなど、であるような、金属塩である。好ましくは、当該アニオンは、カバー材料、例えば、OIPCまたはイオン性液体など、に既に存在しているアニオンと同じアニオンかまたは同様の特性のイオンである。同様の特性のアニオンは、例えば、FSIおよびTFSIである。好ましい実施形態において、当該ドーパントは、M(TFSI)またはM(FSI)[式中、Mは、Li、Na、K、Rb、Csである];あるいはM(TFSI)またはM(FSI)[式中、Mは、Mg、Ca、Sr、またはBaである]から選択される。特に好ましい実施形態において、電荷キャリアは、Liであり、ドーパントは、Li(TFSI)またはLi(FSI)である。そのようなドーパントは、伝導性を増加させ、ならびにOIPCの相転移の温度を下げるのに役立つことが認められた。
【0040】
ある実施形態において、当該ドーパントは、当該カバー材料の総重量に対して0.1重量%から50重量%、より詳細には0.1重量%から20重量%から、さらにより詳細には1重量%から10重量%の量において存在する。
【0041】
ある実施形態において、当該追加成分は、無機充填剤である。
【0042】
ある実施形態において、当該無機充填剤は、活性充填剤(active filler)である。用語「活性」は、当該充填剤が、イオン伝導に関与することを示している。活性無機充填剤の例は、酸化物、例えば、Li3xLa2/3-xTiO、LiLaZr12、およびAl、Ga、Ba、Ta、Nbで置換された化合物など;硫化物、例えば、LiPS、Li10GeP12、LiGeS、Li11など;水素化物、例えば、Li1212、LiBH-LiIなど;オキシハロゲン化物、例えば、Li(OH)0.90.1Clなど;ニトリド系充填剤;リン酸塩、例えば、LiPO、LATP、LiZr(POなど、である。
【0043】
ある実施形態において、当該無機充填剤は、不活性充填剤(inactive fillerまたはpassive filler)である。用語「不活性」は、当該充填剤が、イオン伝導に関与しないが、電極または固体電解質にいくつかの他のタイプの有益な物理的特性、例えば、機械的特性など、を提供することを示している。不活性充填剤の例は、不活性金属酸化物、例えば、TiO、ZrO、Alなど;SiO;ゼオライト;希土類の酸化物、例えば、酸化セリウム(CeO)、SrBiTi15、La0.55Li0.55TiOなど;強誘電材料、例えば、BaTiOなど;固体超酸、例えば、硫酸塩およびリン酸塩、例えば、SO 2-/ZrO、SO 2-/Fe、SO 2-/TiO;セラミック、例えば、炭酸カルシウムまたはアルミン酸カルシウム、フライアッシュ、マイカ、モンモリロナイトなど;炭素、例えば、カーボンナノチューブなど;ヘテロポリ酸、例えば、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、モリブドリン酸、リンモリブデン酸など、である。
【0044】
ある実施形態において、当該無機充填剤は、当該カバー材料の総重量に対して0.1重量%から50重量%、より好ましくは5重量%から20重量%の量において存在する。
【0045】
様々な成分が当該カバー材料中に存在する場合、それらの百分率は、合計が100重量%となるように選択されることは理解されたい。
【0046】
好ましい実施形態において、当該追加成分は、上記の実施形態のいずれかにおいて説明される少なくとも1種のイオン性液体および少なくとも1種のドーパントである。
【0047】
特に好ましい実施形態において、当該カバー材料は、トリイソブチルメチルホスホニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(OIPC)、トリイソブチルメチルホスホニウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(イオン性液体)、およびLiTFSIを含む。
【0048】
本開示は、電極またはSSEの表面上に配置された、すなわち、物理的に接触した、カバー材料を提供する。換言すると、SSEまたは電極の表面の少なくとも一部または全てが、当該カバー材料に接触している。
【0049】
ある実施形態において、SSEの表面の少なくとも一部または全てが、当該カバー材料に接触している。別の実施形態において、電極、好ましくはアノード、の表面の少なくとも一部またはすべてが、当該カバー材料に接触している。
【0050】
好ましくは、ある実施形態において、電極に面している当該SSEの表面の少なくとも一部、好ましくは全体が、当該カバー材料に接触している。より好ましくは、アノードに面している当該SSEの表面の少なくとも一部、好ましくは全体が、当該カバー材料に接触している。
【0051】
カバー材料が、アノードに面するSSEの表面およびカソードに面するSSEの表面の両方の少なくとも一部または全体の上に配置される場合、当該各表面における当該カバー材料は、同じであってもまたは異なっていてもよい。同様に、カバー材料が、アノードおよびカソードの両方の上に配置される場合、当該各電極における当該カバー材料は、同じであってもまたは異なっていてもよい。
【0052】
好ましくは、当該カバー材料は、層形態において、好ましくは、SSEまたは電極の表面全体を覆う連続層において、SSEまたは電極の表面上に配置される。当該層の厚さは、0.01μmから100μm、好ましくは0.05μmから50μm、より好ましくは0.1μmから10μmの範囲であり得る。この厚ささは、カバー材料が配置された、当該SSEまたは電極の表面から垂直に測定される。
【0053】
本発明のSSEは、本明細書において、固体電解質、または単に電解質とも呼ばれる。
【0054】
ある実施形態において、当該SSEは、セラミック、例えば、ガーネット、より詳細には立方晶ガーネット、例えば、LiLaZr12など、またはβ-アルミナ、例えば、Li-β-アルミナなど;ペロブスカイト、例えば、Li3.3La0.56TiOなど;アルジロダイト、例えば、LiPSClなど;硫化物、例えば、LiS-Pなど;水素化物、例えば、水素化金属、例えば、LiBHなど;ハロゲン化物、例えば、ハロゲン化金属、例えば、LiIなど;NASICONs、例えば、LiTi(PO、NaZr(SiO(PO)など;LISICONs、例えば、Li14Zn(GeOなど;ホウ酸塩、例えば、Liなど;およびリン酸塩、例えば、金属リン酸塩、例えば、LiPOなど、から選択される材料を含むかまたはその材料で作製される。当該SSEは、好ましくは、無機物質を含むかまたは無機物質で作製される。特に好ましい実施形態において、当該SSEは、ガーネット、より好ましくはリチウムガーネットを含むかまたはそれにより作製され、さらにより好ましくは、当該ガーネットは、LLZOとしても知られるLiLaZr12である。
【0055】
リチウムガーネットの例としては、Li相リチウムガーネット、例えば、LiLa 12など[式中、Mは、Nb、Zr、Ta、Sb、またはそれらの組み合わせである];Li相リチウムガーネット、例えば、LiDLa 12など[式中、Dは、Mg、Ca、Sr、Ba、またはそれらの組み合わせであり、ならびにMは、Nb、Ta、またはそれらの組み合わせである];ならびにLi相リチウムガーネット、例えば、立方晶LiLaZr12およびLiZr12など、が挙げられる。
【0056】
ある実施形態において、当該SSEは、一方の電極から他方の電極へと移動する電気活性イオン、例えば、Liイオンなど、と電子的に相互作用することができる材料を含むかまたはそれらからなる。この材料は、電気活性イオンが当該材料を通って横断することを可能にする。したがって、例えば、アノードからカソードへと移動する電気活性イオンは、最初にカバー材料層を通過しなければならず、次いで、SSE層を通過しなければならない。
【0057】
ある実施形態において、当該SSEは、PVDFを含まない。
【0058】
ある実施形態において、当該SSE層および/またはアノード層は、微粒子形態ではなく、より詳細には、1000nm以上、例えば、350nm以上など、のサイズの寸法を有さない粒子または粒子の粒状物ではない。
【0059】
層の長さは、他の層に対して平行である(したがって、交差しない)、当該層の平面を意味する。層の厚さは、他の層に対して垂直な平面を意味する。これは、図1にグラフィカルに表されている。ある実施形態において、層なる用語は、その長さが、その厚さよりも少なくとも2倍大きい、好ましくは少なくとも5倍大きい、最も好ましくは少なくとも10倍大きい構造を意味する。特定の実施形態において、当該長さは、当該層の高さであり、好ましい高さは、約500nmから約30m、好ましくは約0.5cmから約30mの範囲である。別の特定の実施形態において、当該長さは、深さであり、好ましい深さは、約500nmから約30cm、より好ましくは約0.5cmから約30cmの範囲である。ある実施形態において、これらの高さ範囲および深さ範囲の両方が満たされる。したがって、長さ寸法は、様々な形状のバッテリーでの使用にとって好適な幾何学的形状、例えば、ボタン型(すなわち、実質的に平坦で円形または楕円形の表面)、長方形、円筒形、またはプリズム形の幾何学的形状など、を採用し得る。ある実施形態において、SSEまたは電極層の長さは、(電気化学電池の)SSEまたはアノード構造全体の長さに一致するか、または、当該長さは、(電気化学電池の)SSEまたはアノード構造全体の長さの少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%に一致する。ある実施形態において、当該カバー材料の体積の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%は、SSEまたはアノードとの複合体の形状において見出されない。逆に、様々な実施形態において、当該電極の体積の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%は、当該カバー材料との複合体の形状において見出されない。同様に、別の実施形態において、当該SSEの体積の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%は、カバー材料との複合体の形状において見出されない。より詳細には、当該カバー材料は、好ましくは、電極またはSSE層の厚さ全体には浸透しないが、例えば、当該厚さの最大でも50%、最大でも30%、または最大でも10%のみに浸透する。
【0060】
本発明に従ってコーティング/被覆される当該電極は、アノードまたはカソードである。好ましい実施形態において、当該電極は、アノード、より好ましくは金属アノードである。
【0061】
好適なアノードの例は、金属アノード、例えば、Na、Li、Zn、Mg、Al、またはそれらと、例えば、Al、Bi、Cd、Mg、Sn、Sb、またはInとの合金など;または、六方充填または菱面体充填された炭素材料、例えば、グラファイトなど;または、Si系アノード、例えば、Siとアルカリ金属、アルカリ土塁金属、または遷移金属との合金、例えば、MgSi、CaSi、NiSi、FeSi、CoSi、FeSi、およびNiSiなど、である。特に好ましいのは、Li金属アノード、ならびに、Al、Bi、Cd、Mg、Sn、またはSb、Inと合金化されたLiを含むアノード、例えば、Li-Alなどである。より好ましくは、当該アノードは、Li金属アノードである。
【0062】
好適なカソードの例は、リチウム金属酸化物、より詳細にはリチウム遷移金属酸化物、例えば、リチウム化されたニッケル、コバルト、クロムおよび/またはマンガン酸化物、例えば、LiNi0.5Mn0.5、Li1.2Cr0.4Mn0.4、またはLiNiCoMnO、より詳細にはリチウムマンガン酸化物スピネル、例えば、LiMn、または層化リチウムマンガン酸化物、例えば、Li2MnO3など;硫化リチウム、例えば、LiSなど;ナトリウム系カソード、例えば、NaV0.92Cr0.08POF、NaV0.96Cr0.04POF、またはNaVPOFなど;カンラン石、例えば、LiFePOなど;または空気である。電極および電解質が、電気化学電池または半電池を形成するように組み立てられる場合、当該SSEの表面上に配置されたカバー材料は、当該電極または電解質、好ましくはアノード、と接触する。同様に、当該カバー材料が、電極または電解質、好ましくはアノード、の表面上に配置される場合、当該カバー材料は、当該SSEと接触するであろう。
【0063】
したがって、好ましい実施形態において、本発明は、以下:
・SSEに面した表面を提示する電極、好ましくはアノードと;
・電極、好ましくはアノード、に面した表面を提示するSSEと;
・両方の表面の間に配置された(すなわち、接触する)カバー材料と
を含み、
当該カバー材料が、少なくとも1種の有機イオン性柔粘性結晶(OIPC)を含む、
電極-SSE多層複合体に関する。
【0064】
別の実施形態において、当該多層複合体は、以下:
・SSEに面した表面を提示するアノードと;
・SSEに面した表面を提示するカソードと;
・当該アノードに面した第一表面と、当該カソードに面した第二表面とを提示する、当該SSEと;
・アノードの表面とSSEの第一表面との間および/またはカソードの表面とSSEの第二表面との間のどちらか、好ましくは、アノードの表面とSSEの第一表面との間、に配置されたカバー材料と
を含み、
当該カバー材料は、少なくとも1種の有機イオン性柔粘性結晶(OIPC)を含む。
【0065】
多層体に対して上記において説明した全ての実施形態は、この電極-SSE多層複合体に適用される。
【0066】
特に好ましい実施形態において、本発明の多層体または複合体における電極および/または電解質の表面上に配置されたカバー材料は、溶媒を含まない。別の実施形態において、当該カバー材料は、当該カバー材料の総重量に対して最大でも5重量%の水、または最大でも1重量%の水、または最大でも0.1%重量%の水を含むが、さらなる溶媒を含まない。
【0067】
特に好ましい実施形態において、本発明の多層体または複合体は、溶媒を含まない。別の実施形態において、当該多層体または複合体は、当該多層体または複合体の総重量の、最大でも5重量%の水、または最大でも1%重量%の水、または最大でも0.1重量%の水を含むが、さらなる溶媒を含まない。
【0068】
これは、下記においてさらに説明されるように、本明細書において開示される多層体を調製する方法が、その調製工程のいずれにおいても、より詳細にはカバー材料を被着させる工程において、溶媒を必要としないためである。溶媒の例は、芳香族炭化水素、例えば、トルエンまたはキシレンなど;脂肪族炭化水素、例えば、ジエチルエーテル、ヘプタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンなど;塩素化炭化水素、例えば、二塩化エチレン、ジクロロメタン、トリクロロエチレンなど;ケトン、例えば、アセトンなど;エステル、例えば、酢酸エチルなど;アルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、またはブタノールなど、である。
【0069】
上記において説明したように、このことは、多層体または複合体を含む電池またはバッテリーが適切に機能することを確実にするために、ならびに環境の観点からも、特に有利である。
【0070】
本発明は、本明細書において説明した実施形態のいずれかの本発明の多層体または多層複合体を含む半電池、電池、またはバッテリー(SSB)も対象とする。
【0071】
当該半電池または電池は、さらに、カソード側集電材、例えば、Alホイルなど、および/またはアノード側集電材、例えば、Cuなど、を含む。
【0072】
当該バッテリーは、特にそれぞれの隣接する対となる当該電池が、バイポーラー板であってもよいセパレータによって分離されている場合、複数の当該電池を含むことができる。
【0073】
ある実施形態において、本発明のSSBは、リチウム金属バッテリー;リチウムイオンバッテリー;リチウム-硫黄バッテリー;ナトリウム金属バッテリー;ナトリウムイオンバッテリー;金属-空気バッテリーであって、当該金属が、Li、Na、K、Zn、Mg、Ca、Al、またはFe、より好ましくはLi、Na、またはZnから選択され、さらにより好ましくは当該金属がLiであるような、金属-空気バッテリー、である。好ましい実施形態において、当該SSBは、リチウムイオンバッテリーまたはリチウム金属バッテリー、より好ましくはリチウム金属バッテリーである。
【0074】
本発明は、電子的物品、例えば、コンピュータ、スマートフォン、または携帯式電子機器(例えば、ウエラブル)など;乗り物、例えば、自動車、航空機、船、潜水艦、または自転車など;または、電力網、例えば、ソーラーパネルまたは風力タービンに関連するものなど、におけるエネルギー貯蔵のための、当該多層体、複合体、半電池、電池、またはバッテリーの使用も対象とする。
【0075】
好ましい実施形態において、当該使用は、当該カバー材料のOIPCが、上記において説明した「回転」相であるような温度においてである。この温度は、様々な方法、例えば、DSC、例えばASTME793-06(2018)など、によって特定することができる。
【0076】
別の態様において、本発明は、本明細書において開示される実施形態のいずれかにおいて説明される本発明の多層体を調製する方法であって、以下の工程:
i.少なくとも1種の有機イオン性柔粘性結晶(OIPC)を含む当該カバー材料を、当該OIPCの融点までまたは融点を超えるまで加熱する工程と;
ii.当該溶融したカバー材料を電極の表面または固体電解質の表面上に被着させる工程と
を含む方法に関する。
【0077】
既に言及したように、本発明の方法は、溶融したカバー材料の被着を達成するために、いかなる溶媒の使用も必要としない。したがって、好ましい実施形態において、本発明の多層体を調製する方法は、溶媒の不在下において実施される。
【0078】
好ましい実施形態において、当該カバー材料の加熱は、溶融したOIPCカバー材料が被着される表面(すなわち、アノード、カソード、またはSSE)の融点未満の温度までである。換言すれば、当該カバー材料は、好ましくは、OIPCが当該表面の融点より低い温度で溶融するようなものである。これは、カバー材料と当該表面との間の有害反応が生じず、均一なコーティングが達成されることを確実にする。例えば、当該カバー材料が、リチウムアノード上に配置される場合、当該カバー材料は、好ましくは、OIPCが180.5℃未満において溶融するようなものである。
【0079】
ある実施形態において、当該被着させる工程は、スピンコーティング、スプレーコーティング、スクリーン印刷、ディップコーティング、またはインクジェット印刷、好ましくはスピンコーティングによって実施される。
【0080】
ある実施形態において、溶融したOIPCカバー材料が上に被着される電極および/またはSSEの表面は、当該溶融したOIPCカバー材料の温度より低い温度であり、例えば、それは、室温である(20~25℃)。
【0081】
被着後、被着された当該溶融したカバー材料は、当該カバー材料の凝固を達成するために、OIPCの融点未満に冷却される。当該電極またはSSEの表面上に被着されたカバー材料の厚さは、被着技術の選択および選択された技術のために用いた条件に基づいて変えることができる。
【0082】
ある実施形態において、本発明の多層体は、本明細書において説明される実施形態のいずれかにおいて説明される本発明の方法によって得られる多層体である。
【0083】
次いで、本発明の多層複合体を調製するために、本発明の当該多層体は、当該多層体がSSEを含む場合には電極の表面に接触させられ;または、当該多層体が電極を含む場合には当該SSEの表面に接触させられる。
【0084】
あるいは、例えば、SSEと電極の両方を同じ溶融したOIPCカバー材料に接触させることによって、同じ溶融されたOIPCカバー材料、すなわち、当該OIPCが依然として配分されているカバー材料を、電極およびSSEの両方に適用することができる。
【0085】
本発明の複合体は、次いで、図1に示されるように、本発明の電池を実現するために、残りの電極と、任意選択により集電材と共に組み立てられる。好ましい実施形態において、本発明の複合体は、アノードを含み、当該複合体は、次いで、カソードに接触させられる。当該多層体自体がセパレータとして機能するため、セパレータは必要ない。
【0086】
好ましい実施形態において、当該溶融されたOIPCカバー材料が上に被着される当該電極またはSSEは、上記において定義されるような微粒子形態または粒状形態ではないが、既に層形態である。
【0087】
最後に、本発明の電池は、本発明によるバッテリーを調製するために、一緒に組み立てることができる。当該電池は、並列または直列またはその両方において組み立ててもよい。ある実施形態において、任意の、いくつかの、またはそれぞれの電池が、電池性能、例えば、電池温度、電圧、充電状況、または電流など、をモニターするためのモジュールに接続される。バッテリー組み立ての方法は、当技術分野において周知であり、例えば、Maiser, Review on Electrochemical Storage Materials and Technology, AIP Conf. Proc. 1597, 204-218 (2014)において概説されている。
【0088】
好ましい実施形態において、本明細書において開示される任意の実施形態において、当該電極は、リチウム(金属リチウム)アノードであり、当該SSEは、ガーネットである。さらに、より詳細な実施形態において、当該OIPCは、本明細書において説明されるホスホニウムカチオンおよびスルホニルイミドアニオンを含み、好ましくは、当該ホスホニウムカチオンは、トリイソブチル(メチル)ホスホニウムであり、当該アニオンは、FSIである。さらに、より詳細な実施形態において、当該カバー材料は、本明細書において説明されるイオン性液体およびドーパントを含み、好ましくは、当該イオン性液体は、トリイソブチル(メチル)ホスホニウムTFSIであり、当該ドーパントは、LiTFSIである。
【実施例
【0089】
実施例1-本発明によるカバー材料および電池の調製
トリイソブチルメチルホスホニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(85重量%)、トリイソブチルメチルホスホニウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(10重量%)、およびLiTFSI(5重量%)を混合することによって、カバー材料を調製した。
【0090】
トリイソブチルメチルホスホニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(P1444FSI)を、以下のように合成した:30gのトリイソブチルメチルホスホニウムトシレート(Iolitec、製品番号:IN-0011-TG、CAS番号:344774-05-6)を、500mLの蒸留水に溶解させ、一晩撹拌した。次いで、21gのカリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(Iolitec AQ-0022-0100)を加えて、白色沈殿物を形成させた。当該固体をろ過し、蒸留水で数回洗浄し、最後に、真空下において100℃で乾燥させた。
【0091】
トリイソブチルメチルホスホニウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(P1444TFSI)の合成では、30gのトリイソブチルメチルホスホニウムトシレート(Iolitec、製品番号:IN-0011-TG、CAS番号:344774-05-6)を、500mLの蒸留水に溶解させ、一晩撹拌した。次いで、27gのリチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(Sigma Aldrich、製品番号:15224、CAS番号:90076-65-6)を加えて、同様に白色沈殿物を形成させた。当該固体をろ過し、蒸留水で数回洗浄し、最後に、真空下において100℃で乾燥させた。
【0092】
次いで、(P1444FSI)および(P1444TFSI)を、両方を50℃で溶融させ、Arを満たしたグローブボックスにおいて一晩撹拌することにより、混合した。
【0093】
電気化学試験のため、5重量%のLiTFSIを、Arを満たしたグローブボックスにおいて、(P1444FSI)および(P1444TFSI)の混合物に添加することにより、当該材料に伝導性を付与し、ならびに当該相温度を下げた。(P1444FSI)が液体状態であることを確実にするために、当該添加は80℃で実施した。結果として製造された当該カバー材料を、50℃に維持するかまたは50℃に加熱することにより、カバー材料液体を得て、それを、LLZO SSEの表面上に直接被着させ、室温まで冷却することにより、本発明による多層体を得た。次いで、当該カバー材料層を、アノード層に接触させ、結果として得られる複合体を、LiFePO(LFP)カソードである市販のLFPラミネート(LFP、負荷:2.0mAh・cm-2および比容量:150mAh・g-1、活性物質:83%、Customcells GmbH製)と一緒に組み立てることにより、本発明による電池を得た。
【0094】
実施例2-伝導率試験
実施例1の多層体の伝導率を、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)によって測定し、他のSSEを含む電池と比較した。結果を下記表に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
結果は、本発明による多層体における伝導率の素晴らしい向上を実証している。対応するEISおよびアレニウスプロットを図3に示す。
【0097】
その上、室温で測定される面積比抵抗(area specific resistance:ASR)が、実施例1の多層体において、カバー材料を用いない同じSSEと比較して、640Ω・cmから、約5倍低い130Ω・cmへと減少することが確認された。実施例1の伝導率が、室温と70℃の両方において、カバー材料を用いない同じSSEよりも優れていることが確認された。
【0098】
実施例3-ストリッピング/めっき試験
ガルバノスタットサイクルの際の、実施例1において説明されるカバー材料を電極とLi金属との間に配置することの影響を評価するために、様々な電流密度において、2時間の工程による5サイクルのLiストリッピング/めっき実験を実施した。実験の前に、カバー材料の界面での良好な接触を確実にするために、当該電池を、24時間にわたって70℃に調整した。
【0099】
図4および5に結果を示す。カバー材料を加えることにより、当該電池は、試験した両方の温度、すなわち、室温および70℃において、カバー材料を用いない場合と比べて、最大で1臨界電流密度高くまで(2倍)耐えることができた。特に、本発明の多層体は、70℃において最大で200μA/cmまで、および室温において最大で50μA/cmまで短絡を防ぐことができた。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】