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特表2022-522936埋込可能な変換器アレイを使用した腫瘍治療電場(TTFIELDS)の送達
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-21
(54)【発明の名称】埋込可能な変換器アレイを使用した腫瘍治療電場(TTFIELDS)の送達
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20220414BHJP
   A61N 1/05 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
A61N1/36
A61N1/05
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021539032
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(85)【翻訳文提出日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 IB2020051660
(87)【国際公開番号】W WO2020174429
(87)【国際公開日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】62/811,311
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519275847
【氏名又は名称】ノボキュア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ゼーヴ・ボンゾン
(72)【発明者】
【氏名】ハダス・サラ・ヘルシュコヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】アリエル・ナヴェー
(72)【発明者】
【氏名】モシェ・ギラディ
(72)【発明者】
【氏名】エイロン・キルソン
(72)【発明者】
【氏名】ゴラン・バル-タル
(72)【発明者】
【氏名】タリ・ボロシン-セラ
(72)【発明者】
【氏名】ヨラム・ワッサーマン
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053CC10
4C053JJ40
(57)【要約】
腫瘍治療電場(TTFields)が、人体内に複数の埋込可能電極素子セットを埋め込むことにより送達され得る。また、電極素子にて温度を計測するために位置決めされた温度センサが、これらの温度センサから温度計測値を収集する回路とともに埋め込まれる。いくつかの実施形態では、複数の電極素子セットにわたるAC電圧を印加するように構成されたAC電圧発生器が、人体内にさらに埋め込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍治療電場を送達するための装置であって、
複数の電極素子セットであって、前記電極素子セットのそれぞれが、人体内に埋め込まれるように構成される、複数の電極素子セットと、
前記人体内に埋め込まれるように構成され、前記電極素子セットのそれぞれにて温度を計測するように前記電極素子セットに対して位置決めされた複数の温度センサと、
前記人体内に埋め込まれるように構成され、複数の前記温度センサから温度計測値を収集するように構成された回路と、
前記人体内に埋め込まれるように構成され、複数の前記電極素子セットにわたりAC電圧を印加するように構成されたAC電圧発生器と、
を備える装置。
【請求項2】
前記人体内に埋め込まれるように構成され、前記AC電圧発生器に給電するように構成された誘導結合回路をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記人体内に埋め込まれるように構成され、前記AC電圧発生器に給電するように構成されたバッテリをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記人体内に埋め込まれるように構成され、前記バッテリを充電するように構成された誘導結合回路をさらに備える、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記電極素子セットのそれぞれが、複数の容量結合電極素子を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記容量結合電極素子のそれぞれが、セラミックディスクを備える、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記温度センサのそれぞれが、サーミスタを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
複数の前記電極素子セット、複数の温前記度センサ、前記回路、および前記AC電圧発生器はいずれも、前記人体内に埋め込まれる、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
腫瘍治療電場を送達するための装置であって、
複数の電極素子セットであって、前記電極素子セットのそれぞれが、人体内に埋め込まれるように構成される、複数の電極素子セットと、
前記人体内に埋め込まれるように構成され、前記電極素子セットのそれぞれにて温度を計測するように位置決めされた複数の温度センサと、
前記人体内に埋め込まれるように構成され、複数の前記温度センサから温度計測値を収集するように構成された回路と
を備える、装置。
【請求項10】
前記電極素子セットのそれぞれが、複数の容量結合電極素子を備える、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記温度センサのそれぞれが、サーミスタを備える、請求項9に記載の装置。
【請求項12】
複数の前記電極素子セット、複数の前記温度センサ、および前記回路はいずれも、前記人体内に埋め込まれる、請求項9に記載の装置。
【請求項13】
腫瘍治療電場を送達するための装置であって、
複数の電極素子セットであって、前記電極素子セットのそれぞれが、人体内に埋め込まれるように構成される、複数の電極素子セットと、
前記人体内に埋め込まれるように構成され、前記電極素子セットのそれぞれにて温度を計測するように位置決めされた複数の温度センサと、
前記人体内に埋め込まれるように構成され、複数の前記電極素子セットにわたりAC電圧を印加するように構成されたAC電圧発生器と
を備える、装置。
【請求項14】
前記人体内に埋め込まれるように構成され、前記AC電圧発生器に給電するように構成された誘導結合回路をさらに備える、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記人体内に埋め込まれるように構成され、前記AC電圧発生器に給電するように構成されたバッテリをさらに備える、請求項13に記載の装置。
【請求項16】
前記人体内に埋め込まれるように構成され、前記バッテリを充電するように構成された誘導結合回路をさらに備える、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記電極素子セットのそれぞれが、複数の容量結合電極素子を備える、請求項13に記載の装置。
【請求項18】
前記容量結合電極素子のそれぞれが、セラミックディスクを備える、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記温度センサのそれぞれが、サーミスタを備える、請求項13に記載の装置。
【請求項20】
複数の前記電極素子セット、複数の前記温度センサ、および前記AC電圧発生器はいずれも、前記人体内に埋め込まれる、請求項13に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年2月17日に出願された米国仮特許出願第62/811,311号に基づく利益を主張する。この仮特許出願の全体を参照として本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
TTFields(腫瘍治療電場)療法は、腫瘍を治療するための立証済みのアプローチである。図1を参照すると、TTFieldsを送達するための先行技術のOptune(登録商標)システムでは、TTFieldsは、腫瘍のごく近傍において患者の皮膚上に配置された4つの変換器アレイを介して患者に対して送達される。これらの変換器アレイは、2対の形態で構成される。それらの一方の対(A/A)は、頭部の左右側部上に位置決めされ、それらの他方の対(B/B)は、頭部の前部および後部の上に位置決めされる。各変換器アレイが、マルチワイヤケーブルを介してAC電圧発生器に対して接続される。AC電圧発生器は、(a)第1の期間中に一方のアレイ対を介してAC電流を送出し、次いで(b)第2の期間中に他方のアレイ対を介してAC電流を送出し、次いで治療期間にわたりステップ(a)および(b)を繰り返す。
【0003】
各変換器アレイは、可撓性ワイヤにより相互接続された容量結合電極素子セット(直径約2cm)として構成される。各電極素子が、導電性医療用ゲルの層と接着テープとの間に挟まれたセラミックディスクを備える。患者の上にこれらのアレイを配置すると、医療用ゲルは、患者の皮膚の輪郭に対して接着し、身体とデバイスとの良好な電気的接触を確保する。この接着テープは、患者が日常活動を送るときでもアレイ全体を患者上において定位置に保持する。
【0004】
変換器アレイを介して送達される交流電流の振幅は、皮膚温度(変換器アレイ下の皮膚上で計測されるような)が41℃の安全閾値を超過しないように制御される。患者の皮膚上の温度計測値は、変換器アレイのディスクの中のいくつかの下方に配置されたサーミスタを利用して取得される。既存のOptune(登録商標)システムでは、各アレイは、アレイの各ディスクの下方に1つのサーミスタが位置決めされる状態で、8個のサーミスタを備える(ほとんどのアレイが9個以上のディスクを備え、その場合に温度計測はアレイ内のディスクのサブセット下方にてのみ実施される点に留意されたい)。
【0005】
4個のアレイのそれぞれのサーミスタは、長尺ワイヤを介して「ケーブルボックス」と呼ばれる電子デバイスに対して接続される。この場合に、全32個のサーミスタ(4個のアレイ×アレイA、A、B、Bごとに8個のサーミスタ)から温度が計測され、サーミスタごとにデジタル値へとアナログ/デジタル変換される。次いで、これらの計測値は、ケーブルボックスとAC電圧発生器との間における双方向デジタルシリアル通信を容易にする追加の2つのワイヤを介して、ケーブルボックスからAC電圧発生器へと送信される。AC電圧発生器におけるコントローラは、これらの温度計測値を利用することにより、患者の皮膚上において41℃未満の温度を維持するために、アレイA、A、B、Bの各対を介して送達されることとなる電流を制御する。この電流自体は、AC電圧発生器からケーブルボックスを経由してアレイへ延在する追加のワイヤを介して各アレイに対して送達される(すなわち各アレイに1つのワイヤ)。
【0006】
既存のOptune(登録商標)では、4本の長尺10ワイヤケーブル(それぞれがそれぞれのアレイとケーブルボックスとの間に延在する)と、AC電圧発生器とケーブルボックスとの間に延在する1本の8ワイヤスパイラルコードと、が存在する。各10ワイヤケーブルは、8個のサーミスタからの信号を搬送するための8本のワイヤと、全8個のサーミスタの共有である1本のワイヤと、アレイに対してTTFields信号を送信するための1本のワイヤと、を有する。8ワイヤスパイラルコードは、ケーブルボックスに対して給電するための1本のワイヤ(Vcc)と、ケーブルボックスに対して接地するための1本のワイヤと、データ通信用の2本のワイヤと(AC電圧発生器に対して温度読取値を送信するための)、TTFields信号用の4本のワイヤ(すなわち4個のアレイのそれぞれの1本)と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0050200号明細書
【特許文献2】米国特許第9910453号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Dissanayakeら、「IFMBE proceeding」vol.23
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、腫瘍治療電場を送達するための第1の装置に関する。この第1の装置は、複数の電極素子セットを備え、これらの電極素子セットのそれぞれが、人体内に埋め込まれるように構成される。また、第1の装置は、人体内に埋め込まれるように構成され、電極素子セットのそれぞれにて温度を計測するように電極素子セットに対して位置決めされた複数の温度センサをさらに備える。また、第1の装置は、人体内に埋め込まれるように構成され、複数の温度センサから温度計測値を収集するように構成された回路を備える。また、第1の装置は、人体内に埋め込まれるように構成され、複数の電極素子セットにわたりAC電圧を印加するように構成されたAC電圧発生器を備える。
【0010】
第1の装置のいくつかの実施形態は、人体内に埋め込まれるように構成され、AC電圧発生器に給電するように構成された誘導結合回路をさらに備える。
【0011】
第1の装置のいくつかの実施形態は、人体内に埋め込まれるように構成され、AC電圧発生器に給電するように構成されたバッテリをさらに備える。任意には、これらの実施形態は、人体内に埋め込まれるように構成され、バッテリを充電するように構成された誘導結合回路をさらに備えてもよい。
【0012】
第1の装置のいくつかの実施形態では、電極素子セットのそれぞれが、複数の容量結合電極素子を備える。任意には、これらの実施形態では、容量結合電極素子のそれぞれが、セラミックディスクを備える。
【0013】
第1の装置のいくつかの実施形態では、温度センサのそれぞれが、サーミスタを備える。第1の装置のいくつかの実施形態では、複数の電極素子セット、複数の温度センサ、回路、およびAC電圧発生器はいずれも、人体内に埋め込まれる。
【0014】
本発明の別の態様は、腫瘍治療電場を送達するための第2の装置に関する。この第2の装置は、複数の電極素子セットを備え、電極素子セットのそれぞれが、人体内に埋め込まれるように構成される。また、第2の装置は、人体内に埋め込まれるように構成され、電極素子セットのそれぞれにて温度を計測するように位置決めされた複数の温度センサを備える。また、第2の装置は、人体内に埋め込まれるように構成され、複数の温度センサから温度計測値を収集するように構成された回路を備える。
【0015】
第2の装置のいくつかの実施形態では、電極素子セットのそれぞれが、複数の容量結合電極素子を備える。第2の装置のいくつかの実施形態では、温度センサのそれぞれが、サーミスタを備える。第2の装置のいくつかの実施形態では、複数の電極素子セット、複数の温度センサ、および回路はいずれも、人体内に埋め込まれる。
【0016】
本発明の別の態様は、腫瘍治療電場を送達するための第3の装置に関する。この第3の装置は、複数の電極素子セットを備え、電極素子セットのそれぞれが、人体内に埋め込まれるように構成される。また、第3の装置は、人体内に埋め込まれるように構成され、電極素子セットのそれぞれにて温度を計測するように位置決めされた複数の温度センサを備える。また、第3の装置は、人体内に埋め込まれるように構成され、複数の電極素子セットにわたりAC電圧を印加するように構成されたAC電圧発生器を備える。
【0017】
第3の装置のいくつかの実施形態は、人体内に埋め込まれるように構成され、AC電圧発生器に給電するように構成された誘導結合回路をさらに備える。
【0018】
第3の装置のいくつかの実施形態は、人体内に埋め込まれるように構成され、AC電圧発生器に給電するように構成されたバッテリをさらに備える。任意には、これらの実施形態は、人体内に埋め込まれるように構成され、バッテリを充電するように構成された誘導結合回路をさらに備えてもよい。
【0019】
第3の装置のいくつかの実施形態では、電極素子セットのそれぞれが、複数の容量結合電極素子を備える。任意には、これらの実施形態では、容量結合電極素子のそれぞれが、セラミックディスクを備えてもよい。
【0020】
第3の装置のいくつかの実施形態では、温度センサのそれぞれが、サーミスタを備える。第3の装置のいくつかの実施形態では、複数の電極素子セット、複数の温度センサ、およびAC電圧発生器はいずれも、人体内に埋め込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ヒトの頭部に対してTTFieldsを送達するために使用される先行技術のOptune(登録商標)のブロック図である。
図2】患者の皮膚を通過しなければならない各ケーブル内の導線の本数を削減する一実施形態のブロック図である。
図3】変換器アレイおよびハブがともに患者の体内に埋め込まれる一実施形態のブロック図である。
図4】電極、ハブ、およびAC電圧発生器のすべてが患者の体内に埋め込まれる、埋込可能な電極を使用した別のアプローチを示す図である。
図5】無線接続を利用して電力がハブおよびAC電圧発生器に対して供給される、図4の実施形態の変形例を示す図である。
図6】埋込型バッテリにより給電される埋込型電極を使用する一実施形態を示す図である。
図7】電気制御スイッチセットの状態に基づき個別の電極素子への電流をオンまたはオフに切り替えることが可能な一実施形態を示す図である。
図8図7の実施形態にこれらのスイッチを実装するのに適した回路の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付の図面を参照として様々な実施形態を詳細に説明する。同様の参照符号は同様の要素を表し、破線は埋め込まれた構成要素の存在を表す。
【0023】
TTFieldsを送達するため患者の皮膚上に位置決めされた変換器アレイ(上述の図1の実施形態におけるような)を使用する代わりに、本明細書において説明される実施形態は、TTFieldsを送達するため患者の体内に埋め込まれる変換器アレイを使用する。変換器アレイの埋込みは、多くの潜在的利点をもたらし得る。これらの潜在的利点としては、(1)患者と関わる人々からこれらのアレイが隠蔽される点、(2)患者の快適性が改善される点(アレイが患者の皮膚上に位置決めされることの結果として起こり得る皮膚刺激、加熱感、および/または動作制限が回避されることによる)、(3)変換器アレイと患者の身体との間の電気的接触が改善される点、(4)アレイが配置される領域を剃毛する必要性(毛の成長がTTFieldsの送達に干渉するため)がなくなる点、(5)変換器アレイの脱落がTTFieldsの送達を中断させるリスクが回避される点、(6)TTFieldsの送達に必要な電力が大幅に低下する点(例えば変換器アレイと腫瘍との間の物理的距離を縮小し、例えば頭蓋骨などの高い抵抗を有する解剖学的構造体を迂回することによる)、(7)患者が携帯しなければならないデバイスの重量が大幅に低下する点(例えば電力要件の低下という利点を活用してより小型のバッテリを使用することによる)、(8)変換器アレイが患者の皮膚上に位置決めされる場合に起こり得る皮膚刺激が回避される点、および(9)患者の皮膚上に位置決めされた変換器アレイを使用しても治療不可能である解剖学的構造体(例えば脊髄、これは高導電性の脳脊髄液により囲まれ、さらに脊柱の骨構造体により囲まれる。脳脊髄液および脊柱の骨構造体はともに脊髄自体の中へのTTFieldsの透過に対して干渉する)に対してTTFieldsを送達することが可能になる点が含まれる。
【0024】
本明細書において説明される実施形態のいずれにおいても、組織温度が制御可能となり、組織に対する温熱損傷が回避されるように、変換器アレイ上のまたはその付近の温度を計測するためのセンサ(サーミスタなど)を備えることが重要である点に留意されたい。所与の変換器アレイが複数の個別の素子(例えばセラミックディスク)から構成される場合には、これらの複数の個別の素子の中に複数の温度センサ(例えばサーミスタ)を分散させることが好ましい。
【0025】
埋込可能な電極を使用するための1つのアプローチ(図示せず)は、上述の先行技術の図1の実施形態と同様のブロック図を有するが、変換器アレイA、A、B、Bがいずれも患者の体内に埋め込まれる(例えば頭皮と頭蓋骨との間、または硬膜に隣接してなど)点において異なる。このアプローチは、上述した利点(1)~(8)を享受するが、多くの欠点も被る。より具体的には、各変換器アレイが、外科切開部またはポートを介して体外へ延在する比較的長尺かつバルク性の高い10導線ケーブル(各変換器アレイに対してAC電圧を印加するための1本の導線と、各変換器アレイ上の8個の異なる位置から温度読取値を取得するために使用される9本の導線)を介してケーブルボックス/AC電圧発生器に対して接続される。この10導線ケーブルの使用により、システムのかさが大きくなり得る。さらに、ヒトの皮膚を通過して頭部内へと通過する構成要素を備えることにより、感染リスクが上昇し、これは特に脳の場合に問題となり得る。
【0026】
図2は、前段落において説明したアプローチに関する一改良例を示す。このアプローチでは、患者の皮膚を通過しなければならない各ケーブル内の導線の本数は、10本から4本へと削減され、これによりこれらのケーブルのバルク性およびサイズが大幅に縮小される。これは、例えば埋め込まれた変換器アレイA、Bのそれぞれに隣接して追加の電極Eを埋め込み、ハブベースアーキテクチャを利用することなどにより実現され得る。ハブベースアーキテクチャが利用される場合に、電子ブロックEのそれぞれが、温度計測値の取得に必要な導線の本数を9本から3本へ削減するマルチプレクサを備え、ハブ30hが、各変換器アレイから温度読取値を収集し、それらの読取値をAC電圧発生器30gへ転送するために使用される。次いで、AC電圧発生器30gは、変換器アレイの過熱が確実に生じないようにするために、変換器アレイ対A/A、B/Bのそれぞれに対して印加される電流を制御し得る。これらの電子ブロックEおよびハブの実装のために使用され得る回路の例は、「Temperature Measurement in Arrays for Delivering TTFields」と題する特許文献1に見ることが可能であり、その全体を参照として本明細書に組み込む。本実施形態は、ヒトの皮膚を通過しなければならないワイヤのサイズおよびバルク性を低下させ、上述した利点(1)~(8)をもたらすが、ヒトの皮膚を通り頭部内へと通過する構成要素に伴う感染リスクを緩和しない。
【0027】
図3は、図2のアプローチに関する変形例を示す。図3の実施形態では、患者の体外にハブを位置決めし患者の皮膚を貫通して4本のケーブルを延在させる(図2におけるように)代わりとして、電子機器E、変換器アレイA、B、およびハブ30hを患者の体内に埋め込む。図3の実施形態では、1本のみのケーブル(すなわちハブ30hとAC電圧発生器30gとの間に延在するケーブル)が、患者の皮膚を通過しなければならない。任意には、このケーブルは、図示するポート12を使用してコネクタ化される。図3に示す例では、ハブ30hは、患者の胸郭内のいずれかの位置に位置決めされ、4本の4導線ケーブルは、患者の頭部内の電子機器Eと変換器アレイA、Bとの間に延在し、ハブ30hは、患者の胸郭内に位置する。この位置決めは、外界から患者の頭部内へと直接的にワイヤが通されず、したがって重篤感染リスクが軽減されるため有利である。しかし、図3の実施形態の変形例では、ハブ30hは、患者の頭部内に位置決めされてもよく、この場合にはアクセスを可能にするポート12もまた、患者の頭部に位置決めされることになる。
【0028】
図3の実施形態では、ハブ30hは、電子機器Eを介して変換器アレイA、Bのそれぞれから温度計測値を収集し、ポート12を介してAC電圧発生器30gへとこれらの温度計測値を転送する。次いで、AC電圧発生器30gは、変換器アレイの過熱が確実に生じないようにするために、変換器アレイの対A/A、B/Bのそれぞれに対して印加される電流を制御し得る。また、この実施形態は、上述した利点1~8をもたらす。
【0029】
図4は、埋込可能な電極を使用しまた上述した利点1~8をもたらす別のアプローチを示す。この実施形態では、電極A、B、ハブ30h、およびAC電圧発生器30gはいずれも、患者の体内に埋め込まれる。ハブ30hおよびAC電圧発生器30gのための電力は、患者の皮膚上のいずれかの位置に(例えば胸郭)位置決めされたポート14を介して供給される。この実施形態の電源(例えばバッテリ)は、外部に位置し、バッテリは、ポートを介してハブ30hおよびAC電圧発生器30gに電力を供給する。ポート14は、適切な配線(例えば2本の導線ケーブル)を介してハブ30hおよびAC電圧発生器30gに対して接続される。
【0030】
TTFieldsを効果的に送達するためには10W~100Wのオーダの電力送達が必要となるため、AC電圧発生器30gが患者の体内に埋め込まれるあらゆる実施形態(この図4の実施形態を含む)では、放熱を最小限に抑制するように注意が払われなければならない。この理由は、あらゆる非効率性が電場発生器の周辺の組織の加熱をもたらし、それにより患者の体内組織の温熱損傷がもたらされ得るからである。この実現のために、AC電圧発生器30gは、非常に高い効率で動作しなければならない。高効率性のAC電圧発生器の埋込に適した回路の一例が、「High Voltage, High Efficiency Sine Wave Generator with Pre-Set Frequency and Adjustable Amplitude」と題する特許文献2に記載されており、その全体を参照として本明細書に組み込む。
【0031】
任意には、これらの実施形態におけるAC電圧発生器30gは、低電圧AC信号から始動し、その信号を変圧器およびLCフィルタを組み込んだ回路を使用して増幅およびフィルタリングすることにより動作し得る。いくつかの実施形態では、変圧器およびLCフィルタを組み込んだ独立回路が、各変換器アレイに対して(またはさらには各変換器アレイの各素子に対して)接続され得る。これらの実施形態では、この低電圧信号発生器は、アレイから遠隔地に配置されたワイヤを介して各アレイ(または素子)に対して接続され得る。この構成では、システム内で損失により発生する熱が、より大きなボリュームにわたり拡散されることにより、組織に対する温熱損傷リスクを軽減するとともに、より高い電場強度の送達を可能にする。損失をさらに低下させるために、各アレイ(または素子)上の回路は、信号発生器から入着する低電圧信号の切り替えを行うスイッチを有して設計されることが可能であり、これによりアレイにおける切替えに関連するシステム内の損失を潜在的に低下させることができる。
【0032】
任意には、図4の実施形態の電源は、生地片に織り込まれた複数の小型バッテリを備えてもよい。このタイプの設計は、より長期間にわたる高電力の送達を可能にするとともに、患者の不快感を最小限に抑制する。
【0033】
図5は、上述した利点1~8を同様にもたらす、図4の実施形態に対する変形例を示す。図5の実施形態では、ヒトの皮膚上に設置されたポート14を介して外界から患者の体内に通過する有線接続部によりハブ30hおよびAC電圧発生器30gへと直接的に電力を供給する(図4におけるような)代わりに、図5の実施形態では、電力は、無線接続を利用してハブ30hおよびAC電圧発生器30gへ供給される。これは、例えば患者の体内の患者の皮膚付近に第1の回路21を埋め込むことなどにより実現され得る。第1の回路は、誘導結合によりエネルギーを受けるように構成される。第2の回路22(任意にはバッテリおよび/またはACメインにより給電され得る)が、誘導結合により第1の回路21に対してエネルギーを送信するように構成される。第2の回路22は、動作中には患者の体外に第1の回路21に隣接して位置決めされ、それによりエネルギーは、第2の回路22から第1の回路21内へと誘導結合され得る。誘導結合によるエネルギー送受信を行うためのこれらの回路21、22の構成は、当分野において周知であり、例えば携帯電話等の充電などに対して一般的に利用される。
【0034】
任意には、患者により携帯されなければならないハードウェアのバルク性および重量は、患者が頻繁に訪れる様々な場所に第2の回路22の複数のコピーを設けることにより有利に削減することが可能となる。例えば、第2の回路22の1つのコピーが患者のオフィスに設けられ、第2の回路22の第2のコピーが患者の車内に設けられ、第2の回路22の第3のコピーが患者のリビングに設けられ、第2の回路22の第4のコピーが患者のベッド内またはベッド付近に設けられてもよい。第2の回路22の複数のコピーが設けられる場合には、患者は、付近の第2の回路22が誘導結合により埋め込まれたAC電圧発生器30gに給電可能となるように、いずれかの第2の回路22が付近に位置する誘導結合領域に体内に埋め込まれた第1の回路21を隣接させる。この構成は、様々な場所を繰り返しパターンで移動する人々に対して特に有利となり得る(例えば毎日同じ車で職場まで運転し、毎日同じデスクで仕事をし、毎晩同じ居間で休息し、毎晩同じベッドで眠る人々など)。任意には、第2の回路22の複数のコピーが、マットレス内に組み込まれてもよく、これにより患者は、就寝時に配線接続する必要性がなくなり、マットレス上で動き回ることが可能になる。
【0035】
図6は、埋め込まれた電極を使用し、上述した利点(1)~(8)をもたらすさらに別の実施形態を示す。とりわけ、図6の実施形態におけるバッテリ25は、患者の体内に埋め込まれ、この埋め込まれたバッテリ25は、誘導により充電される。この設計に関する1つの難点は、埋め込まれたバッテリ25が比較的大量のエネルギーを蓄電しなければならない点である。したがって、誘導によるバッテリ25の充電には、長期間に及ぶ大磁束生成が必要となる。この問題を解消するための1つの方法は、コイルを組み込んだマットレスが使用されるシステムである。患者は、このマットレス上で眠り、TTFieldsデバイスに対して給電するバッテリ25は、患者の睡眠中に充電される。他の実施形態では、コイルがベッドを囲み得る。
【0036】
代替的には、埋込型バッテリ25を充電するために経皮的エネルギー伝送システム(例えば非特許文献1を参照)を使用し得る。この場合には、埋め込まれたバッテリを充電するように設計された回路に対して接続されたコイルが、経皮的に埋め込まれる。充電は、患者により埋め込まれたコイル23の付近に配置された別個のデバイス24を用いて実施される。この外部デバイスは身体に対して密着するように設計された衣類を使用して、または医療用接着剤を使用して患者の身体に対して固定され得る。患者は、埋め込まれたバッテリを充電する場合に外部充電器を使用することが必要となるにすぎない。これは、例えば患者の就寝中である夜間に行われることにより、患者が外部デバイスを携帯する必要性を最小限に抑制する。
【0037】
任意には、埋め込まれた変換器アレイ素子は、TTFields送達を最適化するために電場分布の動的変更を可能にするように構成され得る。外部変換器アレイを用いる場合とは異なり、これらの変換器アレイは、いったん埋め込まれると、患者の体内における電場分布を最適化するために変換器アレイの位置を調節することが実現不可能となる。したがって、埋込可能アレイが使用される場合には、患者の体内における電場分布を制御するための別のアプローチが望ましい。これを目的とした1つの適切なアプローチは、比較的多数の切替え可能素子を有する変換器アレイを埋め込むことである。この場合に、電場は、電場が送達される場合にオンに切り替えられるアレイ素子のサブセットを選択することによって形状設定され得る。時間の経過による腫瘍の変化につれて(応答または進行)、電場を発生させるアレイ素子の変更により電場分布を変更することが可能である。
【0038】
任意には、上述の実施形態のいずれにおいても、変換器アレイは硬膜上に位置決めされ得る。この構成の利点は、電場が頭蓋骨の高抵抗層を通過する必要性がなくなるため、脳にTTFieldsを送達するために必要な電力が低下する点である。同時に、この配置により、脳内にこれらのアレイを侵襲配置する必要性が低下し、脳組織に対する損傷リスクおよび場合によっては感染リスクが低下する。また、この構成により、腫瘍に対してのみTTFieldsを送達するのとは対照的に、脳の大部分に対するTTFieldsの送達が可能となる。いくつかの場合では、脳の大部分を治療することが有利となり得る。例えば、転移に関して脳治療する場合である。いくつかの実施形態では、頭部以外の身体領域を治療する場合に、アレイが皮下配置されることにより大領域の治療が可能となり得る。他の実施形態では、アレイは腫瘍の近傍に配置され得る。腫瘍の近傍への配置により、TTFieldsの局所的送達が可能となり、電場送達に必要な電力が低下する。
【0039】
上述の実施形態のいずれにおいても、埋め込まれるものとして説明された構成要素はいずれも、人体内への実際の埋込み前に埋め込まれるように構成されなければならない。これはすなわち、この構成要素が埋込位置内に合致するように寸法設定されなければならず、人体内で組織と接触状態になるあらゆる表面が生体適合性でなければならないことを意味する。
【0040】
任意には、上述の実施形態のいずれにおいても、変換器アレイが腫瘍の直近に埋め込まれる場合に、これらのアレイは、細胞毒性薬(例えば白金)から作製されるまたは細胞毒性薬で被覆されることが可能である。電場により引き起こされる電解は、腫瘍周囲の領域内への白金の放出をもたらすことが予期される。白金は、がん細胞に対して細胞毒性を発揮することが知られており、したがって腫瘍中への白金放出は、TTFields治療の抗がん効果を有利に増大させ得る。
【0041】
任意には、上述の実施形態のいずれにおいても、ヒトの頭部内に埋め込まれる変換器アレイA、Bおよび電子機器Eは、図7に関連して以下で説明されるように設計され得る。この構成の利点は、平均電場強度が最大化され得るとともに、各変換器アレイ内の各電極素子への電流を個別にモニタリングおよび調節することにより加熱リスクが最小限に抑制され、それによりTTFields送達効率が改善され得る点である。これらの実施形態は、個別の電極素子ごとにオン/オフへと交互に電流を切り替えることにより動作するが、それにより個別の電極素子は、残りの電極素子を通過する電流に影響を及ぼすことなく(これらの電極は過熱しない)電極素子の平均電流を低下させるように過熱を開始する。
【0042】
例えば、500mAの電流が10個の電極素子を備える変換器アレイを通過しており、それらの電極素子の中の1つのみが過熱し始めると仮定されたい。さらに、その単一の電極素子の過熱を防ぐために、この単一の電極素子を通過する電流を10%低下させることが必要になると仮定されたい。本明細書において説明される実施形態は、この単一の電極素子を通過する電流を90%のデューティーサイクルでオン/オフに切り替えつつ、残りのすべての電極素子については電流をフルタイムのままとすることにより、この単一の電極素子を通過する平均電流を10%削減することが可能になる。切替速度は、この単一の電極素子の瞬間温度が電極素子の熱慣性の観点から過剰な高さにならないように十分な速度でなければならない点に留意されたい。例えば、90msにわたり電流をオンに切り替え10msにわたり電流をオフに切り替えることにより、90%デューティーサイクルが達成可能となる。いくつかの好ましい実施形態では、電流のオン/オフ切替え期間は、1s未満である。
【0043】
このアプローチが利用される場合に、残りの9個の電極素子を通過する電流は、無変更のままとすることが可能であり(すなわち各電極素子あたり50mA)、この単一の電極素子を通過する電流のみが、45mAの平均へと低下される。この場合に、変換器アレイを通過する正味合計電流の平均は、495mA(すなわち9×50+45)となり、これは、電極素子がいずれも過熱することなく、大幅により多くの電流が人体に結合され得ることを意味する。
【0044】
さらに、このシステムは、この単一の電極素子を通過する電流の低下を補償するために残りの9個の電極素子を通過する電流を上昇させるように構成され得る。例えば、残りの9個の電極素子を通過する電流は、各電極素子あたり50.5mAまで上昇されることが可能である(例えば電圧を1%上昇させるようにAC電圧発生器に対して要求を送信することにより)。この解決策が実施されると、変換器アレイ全体を通過する正味合計電流の平均は、(9個の電極×50.5mA+1個の電極×50.5mA×0.9デューティーサイクル)=499.95mAとなり、これは元の500mAの電流に極めて近いものとなる。
【0045】
後のいずれかの時点に(またはさらには同時に)、第2の電極素子の温度が過熱し始める場合には、同様の技術(すなわち100%から100%未満のいずれかの割合へのデューティーサイクルの低下)が、第2の電極素子の過熱を防ぐために利用され得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、この技術は、各電極素子を流れる電流を過熱を伴わずに最大化するために、各電極素子にてデューティーサイクルを個別にカスタマイズするために利用され得る。任意には、所与の電極素子が過熱し始めた場合にのみデューティーサイクルを低下させる是正措置をとる代わりに、システムは、アレイ内のすべての電極素子間の温度を均衡化するために、所与の変換器アレイ内の各電極素子にてデューティーサイクルを個別に先行設定するように構成されてもよい。例えば、システムは、各電極素子の設定温度付近に留まる温度を維持するように、各電極素子におけるデューティーサイクルを個別に設定するように構成され得る。任意には、システムは、この結果を実現するために必要に応じて電圧を上下させるようにAC電圧発生器に対して要求を送信するように構成され得る。
【0047】
このアプローチは、いずれの電極素子もが可能な最大平均電流を伝送する(過熱を伴わずに)ことが確保され、それにより腫瘍における電場強度が上昇し、それに応じた治療の改善がもたらされるように利用され得る。
【0048】
図7は、過熱し始めた個別の電極素子ごとに電流をオン/オフに定期的に切り替える一実施形態を示す。ハブ/AC電圧発生器30は、2つの出力(OUT1およびOUT2)を有し、これらの出力はそれぞれ2つの端子を有する。ハブ/AC電圧発生器30は、交互シーケンスで各出力の2つの端子間においてAC信号(例えば200kHz正弦波)を発生する(例えば交互シーケンスで1秒間にわたりOUT1を作動させ次いで1秒間にわたりOUT2を作動させる)。1対の導線51が、OUT1の2つの出力端子に対して接続され、これらの導線51のそれぞれが、左右の変換器アセンブリ31、32のそれぞれ一方へと続く。これらの変換器アセンブリはそれぞれ、複数の電極素子52(これは図2図6の変換器アレイA、Bに集合的に対応する)と、電子構成要素56、85(これは図2図6の電子機器Eに対応する)とを備える。第2の対の導線51は、OUT2の2つの端子に対して接続され、これらの導線51のそれぞれが、前方および後方の変換器アセンブリ(図示せず)のそれぞれ一方へと続く。この前後の変換器アセンブリの構造および動作は、図7に示す左右の変換器アセンブリ31、32の構造と同様である。
【0049】
各変換器アセンブリ31、32は、複数の電極素子52を備える。いくつかの好ましい実施形態では、これらの電極素子52がそれぞれ、容量結合電極素子である。しかし、この図7の実施形態では、これらの電極素子52のすべてを並列に配線するのではなく、電気制御スイッチ(S)56が各電極素子(E)52と直列で配線され、これらのS+E組合せ56+52のすべてが並列に配線される。各スイッチ56が、各コントローラ85のデジタル出力から届く各制御入力の状態に基づき、他のスイッチから独立してオン/オフに切り替わるように構成される。これらのスイッチ56の中の所与の1つがオンである(それぞれの制御入力の第1の状態に応答して)場合に、電流は、導線51と各電極素子52との間を流れ得る。逆に、これらのスイッチ56の中の所与の1つがオフである(それぞれの制御入力の第2の状態に応答して)場合に、電流は、導線51とそれぞれの電極素子52との間を流れることができない。
【0050】
いくつかの好ましい実施形態では、容量結合電極素子52のそれぞれが、ディスク形状であり、一方の側部に誘電層を有する。
【0051】
いくつかの好ましい実施形態では、容量結合電極素子52のそれぞれが、平坦面を有する導電性プレートを備え、誘電層は、導電性プレートの平坦面上に配設される。いくつかの好ましい実施形態では、すべての容量結合電極素子が支持構造体により定位置に保持される。いくつかの好ましい実施形態では、各電極素子52のそれぞれに対する電気接続部が、可撓性回路上の配線からなる。
【0052】
また、変換器アセンブリ31、32のそれぞれが、各電極素子52に位置決めされた温度センサ54(例えばサーミスタ)を備え、それにより各温度センサ54は、各電極素子52の温度を感知することが可能となる。各温度センサ54は、各電極素子52における(例えばその下方の)温度を表す信号を生成する。温度センサ54からのこれらの信号は、各コントローラ85のアナログフロントエンドに対して供給される。
【0053】
サーミスタが温度センサ54として使用される実施形態では、温度読取値は、各サーミスタを通過する既知の電流を送り、各サーミスタ間で現れる電圧を計測することにより取得され得る。いくつかの実施形態では、サーミスタベースの温度計測は、各サーミスタを順に選択するために双方向アナログマルチプレクサを使用して実施されてもよく、既知の電流(例えば150μA)を発生させる電流源が、マルチプレクサの背後に位置決めされ、それにより既知の電流が、任意の所与の瞬間にアナログマルチプレクサにより選択されたいずれかのサーミスタへと送られる。この既知の電流は、選択されたサーミスタにわたりある電圧を生じさせ、選択されたサーミスタの温度は、この電圧を計測することにより判定され得る。コントローラ85は、プログラムを実行し、このプログラムが、各サーミスタを順に選択し、各サーミスタにわたり現れる電圧(選択されたサーミスタにおける温度を表す)を順に計測する。各サーミスタから温度読取値を取得するために利用され得る適切なハードウェアおよび手順の一例が、特許文献1に記載されており、その全体を参照として本明細書に組み込む。
【0054】
いくつかの好ましい実施形態では、コントローラ85は、アナログフロントエンドおよびマルチプレクサが内蔵されたシングルチップマイクロコントローラまたはピーソック(Programmable System on Chip、PSoC)を使用して実装され得る。この目的に適したパーツ番号としては、CY8C4124LQI-443が挙げられる。代替的な実施形態では、関連技術の当業者には明らかなように、内蔵または別個のいずれかであるアナログフロントエンドおよびマルチプレクサを有する他のマイクロコントローラが使用され得る。
【0055】
図示しないが、代替的な実施形態では、サーミスタに連係するための代替アプローチ(例えば従来の分圧器アプローチ)が、上述の定電流アプローチの代わりに利用されてもよい。他の代替的な実施形態では、異なるタイプの温度センサが、上述のサーミスタの代わりに使用されてもよい。例としては、熱電対、RTD、およびAnalog Devices AD590およびTexas Instruments LM135などの集積回路温度センサが含まれる。当然ながら、これらの代替の温度センサのいずれかが使用される場合には、回路に対する適切な修正(関連技術の当業者には明らかな)が必要となる。
【0056】
いくつかの実施形態では、コントローラ85は、各変換器アセンブリ31に内蔵された知能を使用してすべての電極素子における温度を安全閾値未満に維持するようにプログラミングされる。これは、例えば各スイッチ56が継続的にオンとなる(すなわち100%デューティーサイクル)ようにデジタル出力を設定することによりコントローラ85を始動させるようにプログラミングすることなどによって実現され得る。次いで、コントローラ85のアナログフロントエンドを経由して届く信号に基づき、コントローラ85は、各電極素子における温度が安全閾値未満である閾値上限を超過するか否かを判定する。コントローラ85がこの条件を検出した場合には、コントローラ85は、所望のデューティーサイクルで対応するデジタル出力を切り替えることによって対応するスイッチ56のデューティーサイクルを低下させる。これは、同一のデューティーサイクルで対応する電極素子52に対する電流を中断させ、それにより閾値上限を超過した温度を有する特定の電極素子52における平均電流を低下させる。電流の低下レベルは、デューティーサイクルにより決定される。例えば、50%デューティーサイクルを使用すると、電流が半分だけ削減され、75%デューティーサイクルを使用すると、電流が25%だけ削減される。
【0057】
特に、この手順は、変換器アセンブリ31上の電極素子52の中の特定のものに対する電流のみを中断させ、この変換器アセンブリ31上の残りの電極素子52に対する電流を中断しない。これにより、これらの電極素子の中の少数のもののみが高温になっている場合にこれらの電極素子を介して送られている電流を切断する必要性が解消または低下する。
【0058】
数値的な例が、この点を説明するのに有用であろう。図7の実施形態において、左右の変換器アセンブリ31、32が、被験者の頭部の左右の側にそれぞれ埋め込まれ、変換器アセンブリ31、32内のすべてのスイッチ56が、100%デューティーサイクルでON状態にあり、ハブ/AC電圧発生器30が、最初に500mAの電流を導線51へ出力していると仮定されたい。あるAC電圧が、左側の変換器アセンブリ31の電極素子52と右側の変換器アセンブリ32の電極素子52との間に現れ、500mAのAC電流が、被験者の頭部を通過する電極素子52を介して容量結合される。各変換器アセンブリ31、32内のコントローラ85は、コントローラ85のアナログフロントエンドを介して各温度センサ54からの信号を入力することにより、その変換器アセンブリ内の各電極素子52における温度をモニタリングする。次に、変換器アセンブリ31内の電極素子52の中の所与の1つが過熱し始めると仮定されたい。この条件は、対応する温度センサ54からの信号を介して変換器アセンブリ31内のコントローラ85へ報告される。所与の電極素子52が過熱していることをコントローラ85が認識すると、コントローラ85は、所与の電極素子52への電流を定期的に中断しより低い平均電流を維持するために、所望のデューティーサイクルで対応するスイッチ56へ進む制御信号を切り替える。
【0059】
残りの電極素子52の中の1つのみにおけるデューティーサイクルが低下しつつある場合には、元の500mAの電流を維持する(および全電流の使用から得られる利点を享受する)ことが可能となり得る点に留意されたい。しかし、十分に多数の電極素子52におけるデューティーサイクルが低下しつつある場合には、元の500mAの電流を降下させなければならない場合がある。この実現のために、コントローラ85は、コントローラ85内のUARTを介してハブ/AC電圧発生器30へ要求を送信することが可能である。ハブ/AC電圧発生器30がこの要求を受信すると、ハブ/AC電圧発生器30は、対応する出力OUT1における出力電流を低下させる。
【0060】
任意には、コントローラ85により選択されるデューティーサイクルは、所与の電極素子52に対する電流の印加後に所与の電極素子52が加熱する速度(温度センサ54およびコントローラ85のアナログフロントエンドにより計測されるような)に基づき制御され得る。より具体的には、所与の電極素子52が予想の2倍の速度で加熱しつつあることをコントローラ85が認識した場合には、コントローラ85は、その電極素子に対して50%のデューティーサイクルを選択し得る。同様に、所与の電極素子52が予想よりも10%速く加熱しつつあることをコントローラ85が認識した場合には、コントローラ85は、その電極素子に対して90%のデューティーサイクルを選択し得る。
【0061】
他の実施形態では、デューティーサイクルを下げることにより平均電流を画定的に削減する代わりに、コントローラ85は、所与の電極素子52への電流をオフに切り替え、温度センサ54を使用して計測される温度が第2の温度閾値未満に降下するまで待機することにより、リアルタイム温度計測値に基づき所与の電極素子52における平均電流を低下させ得る。温度がこの第2の温度閾値未満に降下すると、コントローラ85は、所与の電極素子52への電流を元に戻し得る。これは、例えば以前にオフに切り替えられたスイッチ56への制御入力の状態を制御することによりスイッチ56がON状態に復帰し、それにより電流が導線と各電極素子52との間を流れることが可能となることなどによって実現されてもよい。これらの実施形態では、所与の電極素子52への電流は、所与の電極素子52における温度を安全閾値未満に維持するために、リアルタイム温度計測値に基づき反復的にオン/オフに切り替えられ得る。
【0062】
図7の実施形態では、変換器アセンブリ31、32のそれぞれが、各ケーブルを介してハブ/AC電圧発生器30へ接続される。特に、4本のみの導線が、変換器アセンブリとハブ/AC電圧発生器30との間に延在する各ケーブル内に必要となる(すなわち、シリアルデータ通信を実装するためのVcc、データ、および接地、ならびにAC電流TTFields信号用の1本の追加の導線51)。
【0063】
図7では、各変換器アセンブリ31、32が、9個の電極素子52、9個のスイッチ56、および9個の温度センサ54を備える点に留意されたい。しかし、代替的な実施形態では、各変換器アセンブリ31、32は、異なる個数の(例えば8~25個の間の)電極素子52ならびに対応する個数のスイッチおよび温度センサを備えることが可能である。
【0064】
これらの実施形態では、電極素子52の中の1以上への平均電流を下げるためにデューティーサイクルを調節するあるいは所与の変換器アセンブリ31、32内のスイッチ56の中の1以上をオフに切り替えるという決定は、その変換器アセンブリ31、32内のコントローラ85により各変換器アセンブリ31、32内で局部的に行われる。しかし、代替的な実施形態では、デューティーサイクルを調節するあるいはこれらのスイッチ56の中の1以上をオフに切り替えるという決定は、ハブ/AC電圧発生器30(または別の遠隔デバイス)により行われてもよい。これらの実施形態では、変換器アセンブリ31、32のそれぞれの中のコントローラ85は、各変換器アセンブリ内の各温度センサ54から温度読取値を取得し、コントローラ85のUARTを介してハブ/AC電圧発生器30へそれらの温度読取値を送信する。ハブ/AC電圧発生器30は、デューティーサイクルの調節を必要としているスイッチがある場合にいずれのスイッチがこれを必要としているかを、またはオフに切り替えられるべきスイッチがある場合にいずれのスイッチが切り替えられるべきであるかを、受領した温度読取値に基づき判定し、対応する変換器アセンブリ31、32内の対応するコントローラ85に対応する命令を送信する。コントローラ85が、ハブ/AC電圧発生器30からこの命令を受信すると、コントローラ85は、適時に対応するスイッチ56をオフに切り替える状態へとデジタル出力を設定することにより応答し、それによりハブ/AC電圧発生器30によって発行された命令が実施される。これらの実施形態では、ハブ/AC電圧発生器30は、各電極素子52における温度を安全閾値未満に維持するために電流低下が必要である場合には、出力電流を低下させるようにプログラミングされることも可能である。
【0065】
これらの実施形態では、コントローラ85は、ハブ/AC電圧発生器30内に位置するマスターコントローラに対するスレーブとして動作するようにプログラミングされてもよい。これらの実施形態では、コントローラ85は、静止状態で始動し、この場合にコントローラ85が行うことは、UARTを経由して届くマスターコントローラからの入着命令をモニタリングすることのみである。マスターコントローラから届き得る命令の例としては、「温度データを収集せよ」命令、「温度データを送信せよ」命令、および「スイッチを設定せよ」命令が含まれる。「温度データを収集せよ」命令が届いたことをコントローラ85が認識すると、コントローラ85は、温度センサ54のそれぞれから温度読取値を取得し、バッファ内に結果を格納する。「温度データを送信せよ」命令が届いたことをコントローラ85が認識すると、コントローラ85は、UART86を介してバッファからハブ/AC電圧発生器30へ前回に収集された温度読取値を送信する手順を実行する。さらに「スイッチを設定せよ」命令が届いたことをコントローラ85が認識すると、コントローラ85は、ハブ/AC電圧発生器30から届くデータに基づき、所望の状態へ各スイッチ56を設定するために(すなわちON、OFF、または命令されたデューティーサイクルでのオンオフ間の切替えのいずれか)、デジタル出力にて適切な電圧を出力する手順を実行する。
【0066】
上述の実施形態では、単一のコントローラ85が、各変換器アセンブリ31、32内において使用されることにより、そのアセンブリ内のスイッチ56を制御し、またそのアセンブリ内の各温度センサ54からの温度計測値を取得する。代替的な実施形態では、これらのスイッチ56を制御し温度計測値を取得するために単一のコントローラ85を使用する代わりに、それら2つのタスクが2つのコントローラ間で分割され、一方のコントローラは、スイッチ56を制御するためにのみ使用され、他方のコントローラは、各温度センサ54からの温度計測値を取得するために使用されてもよい(例えば上述のアプローチのいずれかを利用してなど)。これらの実施形態では、これらの2つのコントローラは、相互に直接的におよび/またはハブ/AC電圧発生器30と直接的に通信し得る。
【0067】
他の代替的な実施形態では(図示せず)、温度計測は、電極素子52の近傍に位置決めされる局部コントローラに依存しない。代わりに、ワイヤが、各温度センサ54からハブ/AC電圧発生器30へ戻るように延在し、ハブ/AC電圧発生器は、各温度センサ54にて温度を判定するためにこれらのワイヤを経由して届く信号を使用する。
【0068】
図8は、上述の図7の実施形態におけるスイッチ56、56´を実装するのに適した回路の概略図である。この回路は、直列配線された2つの電界効果トランジスタ66、67を備え、双方向に電流を流し得るような構成である。この回路に適したFETの一例は、BSC320N20NSEである(図8に示すダイオードはFET66、67自体内に本来的に含まれる点に留意されたい)。2つのFET66、67の直列組合せ体は、上述のコントローラ85のデジタル出力の中の1つから届く制御入力の状態に応じて、電流を伝導するかまたは阻止するかのいずれかを行う。直列の組合せ体が導電中である場合には、電流は、共有される導線51と各電極素子52、52´との間を流れ得る。他方において、FET66、67の直列組合せ体が導電中ではない場合には、電流は、共有される導線51と各電極素子52、52´との間を流れない。
【0069】
任意には、電流感知回路60が、スイッチ56、56´と直列で位置決めされ得る。電流感知回路60は、関連技術の当業者には明らかな様々な従来のアプローチのいずれかを利用して実装され得る。電流感知回路60が備えられる場合には、電流感知回路60は、電流を表す出力を生成し、この出力は、コントローラ85へ戻され報告される(図7に図示)。次いで、コントローラ85は、この情報を使用して、計測された電流が予期されるようなものであるかを判定し、必要に応じて適切な措置を取り得る。例えば、過電流条件が検出される場合には、コントローラ85は、対応するスイッチをオフに切り替え得る。当然ながら、電流感知回路60が省かれた実施形態では、電流感知回路60は、電流が共有される導線51と上方FET66のトップレッグとの間を流れ得るようにワイヤ(または他の導線)で置き換えられるべきである。
【0070】
図示する実施形態では、電流感知回路60は、共有される導線51と上方FET66のトップレッグとの間に位置決めされる。しかし、代替的な実施形態では、電流感知回路は、下方FET67のボトムレッグと各電極素子52、52´との間に位置決めされ得る。さらに他の代替的な実施形態では(図示せず)、電流感知回路は、スイッチ自体の回路内に組み込まれ得る。
【0071】
いくつかの実施形態を参照として本発明を開示したが、添付の特許請求の範囲に定義されるような本発明の領域および範囲から逸脱することなく、説明した実施形態に対する多数の修正、代替、および変更が可能である。したがって、本発明は、説明した実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲の文言により定義されるすべての範囲およびその均等物を含むように意図される。
【符号の説明】
【0072】
12 ポート、14 ポート、21 第1の回路、22 第2の回路、23 コイル、24 デバイス、25 バッテリ、30 ハブ/AC電圧発生器、30g AC電圧発生器、30h ハブ、31,32 変換器アセンブリ、51 導線、52 電極素子,容量結合電極素子、52´ 電極素子、54 温度センサ、56 電子構成要素,電気制御スイッチ、56´ スイッチ、60 電流感知回路、66 上方FET、67 下方FET、85 電子構成要素,コントローラ、OUT1 出力、OUT2 出力、A,B 変換器アレイ、E 電極,電子ブロック,電子機器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】