(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-21
(54)【発明の名称】ミトコンドリアを標的とするイソケタール/イソレブグランジンスカベンジャー
(51)【国際特許分類】
C07F 9/54 20060101AFI20220414BHJP
A61K 31/216 20060101ALI20220414BHJP
A61K 31/4425 20060101ALI20220414BHJP
A61K 31/66 20060101ALI20220414BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220414BHJP
A61P 9/14 20060101ALI20220414BHJP
C07D 213/04 20060101ALI20220414BHJP
C07C 229/34 20060101ALI20220414BHJP
C07C 229/12 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
C07F9/54 CSP
A61K31/216
A61K31/4425
A61K31/66
A61P9/12
A61P9/14
C07D213/04
C07C229/34
C07C229/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021543240
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(85)【翻訳文提出日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 US2020015197
(87)【国際公開番号】W WO2020154724
(87)【国際公開日】2020-07-30
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511183973
【氏名又は名称】ヴァンダービルト ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】VANDERBILT UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】305 Kirkland Hall,2201 West End Avenue,Nashville, Tennessee 37240, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】ディカロフ,セルゲイ アイ.
(72)【発明者】
【氏名】アマーナス,ベンカタラマン
【テーマコード(参考)】
4C055
4C086
4C206
4H006
4H050
【Fターム(参考)】
4C055AA08
4C055BA01
4C055CA01
4C055DA01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC17
4C086DA34
4C086GA13
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA42
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA04
4C206BA05
4C206FA08
4C206FA11
4C206KA01
4C206KA17
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA42
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB23
4H006AB24
4H006BP10
4H006BT12
4H006BU32
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB23
4H050AB24
(57)【要約】
ミトコンドリアCypDを標的とする化合物を対象に投与して、血管の酸化ストレスを阻害し、血管機能を改善し、及び/又は高血圧症を軽減することを含む、血管の酸化ストレス、血管機能又は高血圧症の少なくとも一つを治療、予防、及び寛解する化合物及び方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式
【化1】
(式中、Xは結合手、-O-、又は-CH
2-であり、
RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩。
【請求項2】
次の式
【化2】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩。
【請求項3】
次の式
【化3】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩。
【請求項4】
次の式
【化4】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩。
【請求項5】
次の式
【化5】
(式中、Xは結合手、-O-、又は-CH
2-であり、
RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルであり、
R
1はC
1~C
12の置換又は非置換アルキル又はアセトキシメチルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩。
【請求項6】
次の式
【化6】
(式中、各Rは独立してC
1~C
12の置換又は非置換アルキルから選択され、
各R
1は独立してC
1~C
12の置換又は非置換アルキル又はアセトキシメチルから選択される)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩。
【請求項7】
次の式の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩。
【化7】
【請求項8】
次の式
【化8】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルであり、
R
2は-P-Ph
3から選択されるか、又は
【化9】
である)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩の有効量を投与することを含む、対象の高血圧症を治療、予防、及び寛解する方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物の有効量を投与することを含む、対象の血管の酸化ストレスを治療、予防、及び寛解する方法。
【請求項11】
ミトコンドリアCypDを標的とする化合物を対象に投与して、血管の酸化ストレスを阻害し、血管機能を改善し、及び/又は高血圧症を軽減することを含む、
血管の酸化ストレス、血管機能又は高血圧症の少なくとも一つを治療、予防、及び寛解する方法。
【請求項12】
対象の高血圧症の治療、予防、及び寛解に使用するための、請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項13】
対象の血管の酸化ストレスの治療、予防、及び寛解に使用するための、請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項14】
次の式
【化10】
(式中、Xは結合手、-O-、又は -CH
2-であり、
RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩の有効量を投与することを含む、対象の高血圧症を治療、予防、及び寛解する方法。
【請求項15】
対象の高血圧症の治療、予防、及び寛解に使用するための、
次の式
【化11】
(式中、Xは結合手、-O-、又は -CH
2-であり、
RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩。
【請求項16】
請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
政府の支援なし。
【0002】
発明の背景
本発明は、アラキドン酸及び他の多価不飽和脂肪酸、イソレブグランジン(イソケタール又はガンマケトアルデヒドとしても知られているisoLG)に由来する高反応性脂質ジカルボニルのミトコンドリアを標的とするスカベンジャー、そのような化合物を含む薬学的組成物、及び炎症、酸化ストレス、及び/又はミトコンドリア機能障害を含む状態を治療する方法に関する。
【0003】
本発明の一側面は、ミトコンドリアを標的とする新規化合物である。メカニズムや理論に縛られることなく、これらの化合物は典型的な抗酸化物質ではないが、炎症の産物を除去し、内皮依存性の弛緩を保護する。
【技術分野】
【0004】
isoLGなどの高反応性脂質ジカルボニルは、細胞機能障害、細胞毒性及び免疫原性を引き起こし、心血管疾患、高血圧症、癌、及び神経変性における炎症及び組織損傷を促進する。
【0005】
心血管疾患と癌は、西欧社会の主な死因である。2002年には、85歳未満の45万人以上のアメリカ人が癌で亡くなり、心臓病で亡くなっている。本発明は、両方の病的状態における酸化ストレスの寄与に基づく、心血管疾患及び癌の両方の治療に対する長年の必要性を満たす。
【0006】
米国では約5000万人が顕性高血圧症を患っており、人口の最大60%が高血圧前症である。高血圧症は脳卒中、虚血性心疾患、その他の血管疾患による死亡のリスクを著しく高めるため、ヘルスケアの主要な懸念事項である。重要な介在物質はホルモンのアンジオテンシンIIであり、喉の渇きを増し、腎臓による塩分保持を促進し、血管収縮を引き起こし、神経と副腎からのカテコールアミンの放出を促進する。アンジオテンシンIIはまた、炎症とアテローム性動脈硬化症の発症を直接促進する。高血圧症は、血管の酸化ストレスとisolGなどの反応性脂質ジカルボニルの蓄積に関連している。サリチルアミン(2-HOBA)による反応性脂質ジカルボニルの除去は、動物実験において高血圧症を軽減し、炎症を防ぎ、内皮依存性弛緩を保護する。
【発明の概要】
【0007】
発明の要約
本発明の一実施形態は、脂質ジカルボニルのミトコンドリアを標的とするスカベンジャーである化合物である。
一実施形態では、次の式
【化1】
(式中、Xは結合手、-O-、又は -CH
2-であり、
RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0008】
別の実施形態では、ミトコンドリアを標的とするスカベンジャーは、次の式
【化2】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0009】
別の実施形態では、ミトコンドリアを標的とするスカベンジャーは、次の式
【化3】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0010】
別の実施形態では、ミトコンドリアを標的とするスカベンジャーは、次の式
【化4】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0011】
別の実施形態では、ミトコンドリアを標的とするスカベンジャーは、次の式
【化5】
(式中、Xは結合手、-O-、又は-CH
2-であり、
RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルであり、
R
1はC
1~C
12の置換又は非置換アルキル又はアセトキシメチルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0012】
別の実施形態では、ミトコンドリアを標的とするスカベンジャーは、次の式
【化6】
(式中、各Rは独立でありC
1~C
12の置換又は非置換アルキルから選択され、
各R
1は独立でありC
1~C
12の置換又は非置換アルキル又はアセトキシメチルから選択される)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0013】
別の実施形態では、ミトコンドリアを標的とするスカベンジャーは、次の式
【化7】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルであり、
R
2は-P-Ph
3から選択されるか、又は
【化8】
である)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0014】
さらに別の実施形態では、次の式
【化9】
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0015】
本発明の別の実施形態では、対象における高血圧症を治療、予防、及び寛解するための方法が提供され、本発明のミトコンドリアを標的とするスカベンジャー又はその薬学的に許容される塩の有効量を投与することを含む。
【0016】
本発明の別の実施形態では、対象における血管酸化ストレスを治療、予防、及び寛解するための方法が提供され、本発明のミトコンドリアを標的とするスカベンジャー又はその薬学的に許容される塩の有効量を投与することを含む。
【0017】
本発明の別の実施形態は、血管酸化ストレスの少なくとも1つを治療、予防、及び寛解し、血管機能を改善し、及び/又は高血圧症を軽減する方法であり、ミトコンドリアCypDを標的とする化合物を対象に投与して血管酸化ストレスを阻害し、血管機能を改善し、及び/又は高血圧症を軽減することを含む。
【0018】
本発明の別の実施形態は、対象の高血圧症を治療、予防、及び寛解するために使用される、次の式
【化10】
(式中、Xは結合手、-O-、又は -CH
2-であり、
RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩であり、
本発明の別の実施形態は、対象の高血圧症を治療、予防、及び寛解するために使用される、次の式
【化11】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩であり、
本発明の別の実施形態は、対象の高血圧症を治療、予防、及び寛解するために使用される、次の式
【化12】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩であり、
本発明の別の実施形態は、対象の高血圧症を治療、予防、及び寛解するために使用される、次の式
【化13】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩であり、
本発明の別の実施形態は、対象の高血圧症を治療、予防、及び寛解するために使用される、次の式
【化14】
(式中、Xは結合手、-O-、又は -CH
2-であり、
RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルであり、
R
1はC
1~C
12の置換又は非置換アルキル又はアセトキシメチルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0019】
本発明の別の実施形態は、対象の高血圧症を治療、予防、及び寛解するために使用される、次の式
【化15】
(式中、各Rは独立してC
1~C
12の置換又は非置換アルキルから選択され、
各R
1は独立してC
1~C
12の置換又は非置換アルキル又はアセトキシメチルから選択される)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0020】
別の実施形態では、対象の高血圧症を治療、予防、及び寛解するために使用される、ミトコンドリアを標的とするスカベンジャーは、次の式
【化16】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルであり、
R
2は-P-Ph
3から選択されるか、又は
【化17】
である)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0021】
本発明の別の実施形態は、対象の高血圧症を治療、予防、及び寛解するために使用される、次の式
【化18】
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、CypDの高アセチル化、血管の酸化ストレス、及び高血圧症を示す概略図である。本発明者らは、CypDの過剰アセチル化が血管の酸化ストレスを促進し、高血圧症に寄与すること、及びCypDのアセチル化及びCypD阻害を低減する手段が血管機能を改善し、高血圧症を軽減することを発見した。
【
図2】
図2A~2Dは、アンジオテンシンII誘発性高血圧症(A)、血管ミトコンドリアO
2
・_(B)、及びアセチルコリン(C)又はNOドナーSNP(D)による大動脈血管の血管拡張を示す一連のグラフである。血圧は遠隔測定法によって測定された。生理食塩水又はAng II(0.7 mg / kg / 日)を14日間注入した後、ミトコンドリアのO
2
・_と血管拡張を試験するために、マウスを屠殺し大動脈を単離した。* P <0.01 対シャム(Sham)、** P <0.01 対 WT + Ang II、*** P <0.01 対 WT(n = 8)。
【
図3】
図3A~3Dは、高血圧症におけるCypDの標的化の例を示す一連のグラフである。生理食塩水(シャム)、Ang II(0.7 mg / kg / 日)を注入した、又はAng II誘発性高血圧症(Ang II + SFA)の発症後にCypDブロッカー サングリフェリン A(SFA)で治療したC57Bl / 6Jマウスの血圧。血圧はテールカフ法(A)で測定した
3
。生理食塩水又はAng II注入の14日後、MitoSOX及びHPLCを使用してミトコンドリアO
2
・_を試験するため、又は血管拡張を試験するために、マウスを屠殺し大動脈を単離した。結果は平均±SEM(n = 6-8)である。* P <0.01 対シャム、** P <0.01 対 Ang II、*** P <0.01 対 Ang II + SFA(n = 8)。
【
図4】
図4A~4Dは、ex vivoでAng II(10 nM)、IL17A(10 ng / ml)及びTNFα(1 ng / ml)の組み合わせ(ATI)で24時間処理された、血管のミトコンドリアO
2
・_(A)と血管弛緩(B、C、D)を示す一連のグラフである。大動脈は、C57Bl / 6J(WT)、CypD
-/-、Tg
SOD2又はmCATマウスから単離された。ミトコンドリアO
2
・_はMitoSOXとHPLCで測定した
3
。結果は平均±SEMである(n = 8)。* P <0.01 対 WT、** P <0.05 対 WT + ATI。
【
図5】
図5は、正常血圧の対象と比較した本態性高血圧症の患者におけるSirt3発現とミトコンドリアタンパク質(mito Ac-K)のアセチル化のウエスタンブロットを示している。結果は平均±SEM(n = 6)である。* P <0.01 対正常血圧、** P <0.001対正常血圧。
【
図6】
図6は、高血圧症におけるミトコンドリアの高アセチル化とCypDのアセチル化を示している。AngIIを注入したC57Bl / 6J及びCypD
-/-マウスから解剖した大動脈から単離したミトコンドリアのウエスタンブロット。CypDのアセチル化は、CypD免疫沈降及び抗アセチルリジン抗体を用いたウエスタンブロットによって測定された。
図6は、3回の実験で得られた代表的なブロットも示している。
【
図7】
図7は、CypD又はGCN5L1アセチラーゼの枯渇がミトコンドリアのO
2
・_のシミュレーションを妨げるが、Sirt3の枯渇がO
2
・_の過剰産生につながることを示している。HAECをAngII(10 ng / ml)とTNFα(1 ng / ml)で24時間処理し、ミトコンドリアのO
2
・_をMitoSOXとHPLCで測定した。この図は、典型的なCypDウエスタンブロット分析も示している。結果は平均±SEM(n = 6)である。* P <0.01 対シャム、** P <0.05 対 NS、*** P <0.05 対 NS、§P<0.05対シャム。
【
図8】
図8は、isoLG又はisoLG-PEによって誘発されるミトコンドリアの腫れ(A)と呼吸障害(B)を示している。グルタミン酸及びリンゴ酸を含む無処置のマウス腎臓ミトコンドリアを、ビヒクルとしてのエタノール、isoLG(1 μM)又はisoLG-PE(1 μM)とともにインキュベート(5分)した後、ADP(50 μM)を添加し、酸素消費量を測定した。* P <0.001 対 対照、** P <0.03 対isoLG。
【
図9】
図9は、mito2HOBAによるミトコンドリアの酸化ストレスの抑制を示している。HAECをmito2HOBA(50nM)、2HOBA、又はisoLG不活性4HOBAで処理し、Ang II(100 nM)とTNFα(10 nM)で24時間インキュベートした後、HPLC(A)とLC / MSによるカルジオリピン酸化(B)を使用したMitoSOXによるミトコンドリアO
2
・_を測定した。* P <0.001 対 対照、** P <0.01 対AngII /TNFα。
【
図10】
図10は、大動脈ミトコンドリアにおけるAng II誘発性高血圧症、isoLG付加物、及びCypDアセチル化に対するmito2HOBAの効果を示している。(A)生理食塩水(シャム)又はAng II(0.7mg / kg / ml)を注入したC57Bl / 6Jマウスの血圧。Mito2HOBAは飲料水(0.1g / L)で補充された。(B)isoLG付加物(D11抗体)、CypD、GCN5L1、Sirt3及びCypDアセチル化(CypD i.p.及び抗アセチル-K WB)に関する大動脈ミトコンドリアのウエスタンブロット。結果は平均±SEMである。* P <0.01 対シャム、** P<0.01 対 Ang II(n = 8)。
【
図11】
図11A~11Bは、ミトコンドリアのisoLG-Lys-ラクタムタンパク質付加物のLS / MS / MS分析を示している。(A)代表的なLC / MS / MSクロマトグラム。(B)水(シャム)、mito2HOBA(0.1 g / L)を摂取したマウスの腎臓から単離され、Ang II(0.7 mg / kg / 日)を注入されたミトコンドリアのisoLG-Lys-ラクタムレベル。結果は平均±SEM(n = 3)である。* P <0.05 対 AngII。
【
図12】
図12は、mito2HOBAがmPTPの開孔を減らし、ミトコンドリアの機能障害を防ぐことを示している。C57Bl / 6Jマウスに、Ang II(0.7 mg / kg / ml)と飲料水中のmito2HOBA(0.1 g / L)を注入した。Ang II注入の14日後、動物を屠殺し、ミトコンドリア試験のために腎臓を単離した。Ca
2+保持容量を超えるミトコンドリアへのCaCl
2の添加は、mPTPの開孔とミトコンドリアの腫れを引き起こす。Ang IIを注入したマウスから単離されたミトコンドリアは、mPTP開孔の増加により、Ca
2+容量が大幅に減少し、CypD阻害剤であるシクロスポリンA(CsA)がCa
2 +保持容量を取り戻す(rescue)(A)。呼吸制御比(状態3 /状態4)は、グルタミン酸とリンゴ酸を含む単離された腎臓ミトコンドリアで測定された(B)。対照レベルは100%である。(B)腎臓ATPは、ルシフェラーゼベースの発光アッセイによって、新たに単離された組織で測定された。結果は平均±SEMである。* P <0.01 対シャム、** P<0.01 対 Ang II(n = 3-8)。
【
図13】
図13は、Ang IIを注入したマウスの大動脈O
2
・_(A)及び内皮NO(B)に対するmito2HOBAの効果を示している。(A)大動脈O
2
・_ はDHEプローブとHPLCで測定した。(B)内皮NOはESRとFe(DETC)
2によって分析された。C57Bl / 6JマウスにAngII(0.7 mg / kg / ml)を注入し、mito2HOBAを飲料水(0.1 g / L)で提供した。結果は平均±SEMである。* P<0.01 対シャム、** P <0.01 対 Ang II(n = 6)。
【
図14】
図14は、イソレブグランジンがミトコンドリア機能障害、血管酸化ストレス、及び高血圧症の一因となるCypDを活性化し、ミトコンドリアisoLGの除去が内皮機能障害を軽減し、高血圧症を減ずるという発見を示す概略図である。
【
図15】
図15は、isoLGとタンパク質リジン及びホスファチジルエタノールアミン(PE)との反応、及び2-ヒドロキシベンジルアミン(2HOBA)又はミトコンドリアを標的とするアナログmito2HOBAによるisoLGの除去を示している。
【
図16】
図16は、アンジオテンシンII誘発性高血圧症及びisoLGミトコンドリアタンパク質付加物の蓄積に対するmito2HOBAの効果を示している。(A)生理食塩水(シャム)又はAng II(0.7mg / kg / ml)のいずれかを注入したC57Bl / 6J野生型マウスの血圧。Mito2HOBAは飲料水(0.1g / L)で補充された。(B)ミトコンドリアisoLGは、以前に説明したように、D11抗体を使用して心臓ミトコンドリアのウエスタンブロットによって測定された。結果は平均±SEMである。* P <0.01 対シャム、** P<0.01 対 Ang II(n = 8)。
【
図17】
図17は、高血圧症におけるミトコンドリアの酸化ストレスを示している。(A)生理食塩水(シャム)又はAng II(0.3mg / kg /日)を注入したC57Bl / 6J野生型(WT)及びmCATマウスの収縮期血圧。(B)LC-MSによるカルジオリピン酸化の測定
36。生理食塩水又はAng II注入の14日後、カルジオリピン酸化の測定のために、マウスを屠殺し心臓を単離した。* P <0.01 対シャム、** P <0.01 対 Ang II(n = 6)。
【
図18】
図18は、AngIIを注入してmito2HOBAで処理したC57Bl / 6Jマウスから解剖した大動脈から単離したミトコンドリアのisoLGタンパク質付加物のウエスタンブロット分析である(A)。CypD-isoLG修飾は、CypD免疫沈降及び抗isoLG D11抗体を用いたウエスタンブロットによって測定された(B)。この図は、3回の実験から得られた代表的なブロットを示している。
【
図19】
図19は、mito2HOBAがミトコンドリア機能障害を軽減することを示している。(A)呼吸制御比(状態3/状態4)は、グルタミン酸とリンゴ酸を含む単離された腎臓ミトコンドリアで測定された。対照レベルは100%である。(B)腎臓のATPレベルは、ルシフェラーゼベースの発光アッセイによって、新たに単離された組織で測定された。C57Bl / 6JマウスにAngII(0.7 mg / kg / ml)を注入し、mito2HOBAを飲料水(0.1 g / L)で提供した。Ang II注入の14日後、動物を屠殺し、ミトコンドリアとATPの試験のために腎臓を単離した。結果は平均±SEMである。* P<0.01 対シャム、** P <0.01 対 Ang II(n = 3-8)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の化合物、組成物、物品、システム、装置および/または方法を開示し説明する前に、これら合成方法または薬剤は、当然に変化し得るので、そうでないと示されない限り、特定のものに制限されないことを理解すべきである。また、本明細書において使用される用語法が特定の観点のみを記述する目的であり、制限的であることを意図されていないことも理解すべきである。本明細書に記載のものに類似するか等価である任意の方法および材料を本発明の実施または試験に用いることができるが、ここでは例示の方法および材料を説明する。
【0024】
本明細書において言及される全ての刊行物は、当該刊行物が引用されている事項に関連する方法および/または材料を開示し説明するために、参照により本明細書中に組み込まれる。本明細書において言及される刊行物は、本願出願日前の開示に関してのみ提供されるにすぎない。本明細書において、本発明が先行発明のために当該刊行物に先行しているとする資格がないことを自認したように解釈されるものではない。更に、本明細書において提供される刊行物の刊行日は、実際の刊行日と異なることがあり、独立して確認する必要がある。
【0025】
本明細書および添付の請求の範囲において用いる場合、単数形は、その内容がそうでないことを明確に示していない限り、言及対象が複数であることも含む。よって、例えば、「官能基」、「アルキル」または「残基」への言及は、2または3以上の当該官能基、アルキルまたは残基の組合せも含む、といった具合である。
【0026】
範囲は、本明細書においては、「約」が付された或る特定の値からとしておよび/または「約」が付された他の特定の値までとして表現され得る。このような範囲が表現されているとき、更なる観点は当該或る特定の値からおよび/または当該他の特定の値までを含む。同様に、値が先行詞「約」を用いて近似値として表現されるとき、当該特定の値が更なる観点を構成するものと理解される。更に、範囲の各端点は、その他の端点に対しても、その他の端点から独立しても、有意であると理解される。また、本明細書に開示される幾つかの値が存在すること、および各値は、本明細書においては、当該値自体に加えて、「約」が付された当該特定の値としても開示されているものと理解される。例えば、値「10」が開示されている場合、「約10」も開示されている。2つの特定の単位の間の各単位もまた開示されているものと理解される。例えば、10および15が開示されている場合、11、12、13および14もまた開示されている。
【0027】
本明細書で用いる場合、用語「任意に有していてもよい~」または「任意に~していてもよい」は、その後に記載する事象または状況が生じても生じなくてもよいこと、並びに当該記載が前記事象または状況が生じる場合の例および生じない場合の例の両方を含むことを意味する。
【0028】
本明細書で用いる場合、用語「対象者」とは投与の標的をいう。本明細書に開示される方法の対象者は、脊椎動物(例えば、哺乳動物)、魚類、鳥類、爬虫類または両生類であり得る。よって、本明細書に開示される方法の対象者は、ヒト、非ヒト霊長類、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ネコ、モルモットまたはげっ歯類であり得る。この用語は、特定の年齢も特定の性別も意味しない。よって、成体のおよび新生の対象者並びに胎児/胎仔が、雄性または雌性にかかわらず、包含されると意図されている。患者とは疾患または障害に罹患した対象者をいう。用語「患者」はヒトおよび獣医学的対象者を含む。
【0029】
本明細書で用いる場合、用語「治療」とは、疾患、病的状態または障害を治癒、寛解、安定化または予防する意図での患者の医学的管理をいう。この用語は、積極的治療、すなわち、疾患、病的状態または障害の改善に対して特異的に向けられた治療を含み、また、原因治療、すなわち、関連する疾患、病的状態または障害の原因の除去に向けられた治療も含む。加えて、この用語は、待期療法、すなわち、疾患、病的状態または障害の治癒より症状の軽減のために計画された治療;予防療法、すなわち、関連する疾患、病的状態または障害の最小化またはそれらの発症の部分的もしくは完全な阻止に向けられた治療;および支持治療、すなわち、関連する疾患、病的状態または障害の改善に向けられた他の特異的療法を補うために用いられる治療を含む。
【0030】
本明細書で用いる場合、用語「予防する」または「予防すること」とは、特に事前の作用により、何かの発生を防止すること、回避すること、取り除くこと、事前に措置すること、停止させることまたは妨げることをいう。低減する、阻害するまたは予防するが本明細書において使用される場合、具体的にそうでないと示されていない限り、他の2つの語の使用もまた、明確に開示されているものと理解される。本明細書において理解し得るように、治療および予防の定義は重複部分が存在する。
【0031】
本明細書で用いる場合、用語「診断される」は、当業者(例えば、医師)による健康診断を受け、本明細書において開示される化合物、組成物または方法により診断または治療することができる病的状態を有することが判明したことを意味する。本明細書で用いる場合、句「障害についての治療を必要としていると同定される」などとは、当該障害の治療の必要性に基づく対象者の選択をいう。例えば、対象者は、当業者による早期の診断に基づいて、障害(例えば、炎症に関連する障害)の治療の必要性を有していると同定され得、その後、当該障害について治療を受けることができる。同定は、1つの観点において、診断する人とは異なる人が行い得ることも企図されている。また、更なる観点において、施術は、その後に施術を行う者が行い得ることも企図されている。
【0032】
本明細書で用いる場合、用語「投与すること」および「投与」とは医薬調製物を対象者に提供する任意の方法をいう。このような方法は当業者に周知であり、経口投与、経皮投与、吸入投与、経鼻投与、局所投与、膣内投与、眼投与、耳内投与、脳内投与、直腸投与および非経口投与(注射可能な、例えば、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与および皮下投与を含む)を含むが、これらに限定されない。投与は連続的または間欠的であり得る。種々の観点において、調製物は、治療的に投与し得る;すなわち、既存の疾患または病的状態を治療するために投与され得る。更なる種々の観点において、調製物は予防的に投与し得る;すなわち、疾患または病的状態の予防のために投与され得る。
【0033】
本明細書で用いる場合、用語「有効量」とは、望ましくない状態に対して、所望の結果を達成するため、または或る効果を発揮するために十分である量をいう。例えば、「治療有効量」とは、望ましくない症状に対して、所望の治療結果を達成するためまたは或る効果を発揮するために十分であるが、有害な副作用を引き起こすには一般的に不十分である量をいう。任意の特定の患者についての具体的な治療有効用量レベルは、種々の因子(治療すべき障害および該障害の重篤度;用いる具体的組成物;患者の年齢、体重、健康一般、性別および食事;投与の回数;投与の経路;用いる具体的化合物の排泄速度;治療の継続期間;用いる具体的化合物と意図的に組み合わせて用いられるかまたは偶然に同時に投与される薬物などを含む、医療分野において周知の因子)に依存する。例えば、所望の治療効果の達成に必要なレベルより低いレベルの用量の化合物から始めて、所望の効果が達成するまで徐々に投薬量を増加させることは、当業者に周知である。所望であれば、効果的な日用量は投与目的で複数の用量に分割し得る。結果として、単回用量組成物は、そのような量または日用量となるようなその約数分量を含み得る。投薬量は、任意の配合禁忌の場合、個々の医師により調整され得る。投薬量は変化し得、1日に1回または2回以上の投薬で1日間または数日間投与され得る。ガイダンスは、所与の医薬品クラスの適切な投薬についての文献に見出すことができる。更なる種々の観点において、調製物は「予防有効量」;すなわち、疾患または病的状態の予防に効果的な量で投与され得る。
【0034】
本明細書で用いる場合、用語「薬学的に許容し得る担体」とは、滅菌の水性または非水性の溶液、分散物、懸濁物またはエマルジョン、および使用直前での滅菌の注射可能な溶液または分散物への再構成のための滅菌の粉体をいう。適切な水性および非水性の担体、希釈剤、溶媒またはビヒクルの例として、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、カルボキシメチルセルロースおよびそれらの適切な混合物、植物油(例えば、オリーブ油)および注射可能な有機エステル(例えば、オレイン酸エチル)が挙げられる。適切な流動性は、例えば、コーディング剤(例えば、レシチン)の使用により、分散物の場合には必要な粒子サイズの維持および界面活性剤の使用により維持され得る。これら組成物はまた、補助剤(adjuvant)、例えば、防腐剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤を含有し得る。微生物の作用の予防は、種々の抗細菌および抗菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などを含ませることにより保証し得る。等張剤、例えば、糖、塩化ナトリウムなどを含ませることが望ましいこともある。注射可能な剤形の延長された吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含ませることにより生じ得る。注射可能なデポー剤形は、生分解性ポリマー、例えば、ポリラクチド-ポリグリコリド、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)中に薬物のマイクロカプセルマトリクスを形成することにより製造される。薬物 対 ポリマーの比および用いる特定のポリマーの性質に依存して、薬物放出速度は制御し得る。デポー型の注射可能な製剤はまた、体組織と適合性であるリポソームまたはマイクロエマルジョン中に薬物を含ませることにより製造することもできる。この注射可能な製剤は、例えば、細菌保定フィルターでの濾過により、または滅菌水または他の滅菌の注射可能な媒体に使用直前に溶解もしくは分散させることができる滅菌固体組成物の形態で滅菌剤を組み込むことにより滅菌し得る。適切な不活性な担体として、糖、例えばラクトースを挙げることができる。望ましくは、活性成分の粒子の少なくとも95重量%が、0.01~10マイクロメーターの範囲の有効粒子サイズを有する。
【0035】
本明細書で用いる場合、用語「スカベンジャー」または「スカベンジング」とは、不純物または望まない反応生成物を除去または不活化するために投与され得る化学物質をいう。例えば、イソケタールは、タンパク質のリシル残基に対して特異的に、不可逆的に付加する。本発明のイソケタールスカベンジャーは、イソケタールがリシル残基に付加する前にイソケタールと反応する。したがって、本発明の化合物はイソケタールを「スカベンジング」することにより、イソケタールがタンパク質に付加することを予防する。
【0036】
本明細書で用いる場合、用語「置換(された)」は、有機化合物の許される置換基を全て含むものとする。1つの幅広い観点において、許される置換基として、有機化合物の非環式および環式の、分岐および非分岐の、炭素環式およびヘテロ環式並びに芳香族および非芳香族の置換基が挙げられる。例示的な置換基として、例えば下記のものが挙げられる。許される置換基は、適切な有機化合物について1または2以上の同じまたは異なるものであり得る。本開示の目的には、ヘテロ原子(例えば、窒素)は、水素置換基および/または本明細書に記載の有機化合物の任意の許される置換基(ヘテロ原子の価数を満足するもの)を有し得る。本開示は、有機化合物の許される置換基によって、如何なる様式でも制限されることを意図されていない。また、用語「置換」または「~で置換(された)」は、当該置換が置き換えられた原子および置換基の許される価数に従うこと、および置換が安定な化合物、例えば、(例えば、再配置、環化、除去などによる)変換を自発的に受けない化合物をもたらすことという暗黙の条件を含む。
【0037】
用語「アルキル」は、本明細書で用いる場合、1~24の炭素原子の分岐または非分岐の飽和炭化水素基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、s-ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシルなどである。アルキル基は環式または非環式であり得る。アルキル基は分岐または非分岐であり得る。アルキル基はまた置換または非置換であり得る。例えば、アルキル基は、1または2以上の本明細書に記載の基(任意に置換していてもよいアルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アミノ、エーテル、ハライド、ヒドロキシ、ニトロ、シリル、スルホ-オキソまたはチオールを含むが、これらに限定されない)で置換され得る。「低級アルキル」基は、1~6(例えば、1~4)の炭素原子を含むアルキル基である。
【0038】
本明細書を通じて「アルキル」は、一般に、非置換アルキル基および置換アルキル基の両方を指称するために用いられる;しかしながら、置換アルキル基はまた、アルキル基の具体的置換基を特定することにより、本明細書において具体的に言及される。例えば、用語「ハロゲン化アルキル」は、1または2以上のハライド(例えば、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素)で置換されたアルキル基を具体的に指す。用語「アルコキシアルキル」は、1または2以上の下記のようなアルコキシ基で置換されたアルキル基を具体的に指す。用語「アルキルアミノ」は、1または2以上の下記のアミノ基で置換されたアルキル基を具体的に指す。といった具合である。「アルキル」が或る1つの例で用いられ、具体的用語、例えば「アルキルアルコール」が別の或る1つの例で用いられる場合、用語「アルキル」も具体的用語、例えば「アルキルアルコール」を指すことを示唆すると意味していない。といった具合である。
【0039】
本発明の実施形態は、対象の高血圧症を治療、予防、及び寛解する方法を含む。
【0040】
本発明の他の実施形態は、対象の血管の酸化ストレスを治療、予防、及び寛解する方法を含む。
【0041】
本発明の他の実施形態は、ミトコンドリアCypDを標的として、血管の酸化ストレスを抑制し、血管機能を改善し、及び/又は高血圧症を軽減する方法を含む。
【0042】
本発明は、初めて、CypDを高血圧症の治療の標的として定義する。過去30年間、この病気に対する機構的に新規の治療方法はなかった。本発明の降圧剤はCypDを標的としており、高血圧症の治療を改善するために現在利用可能な治療用器具に追加し得る。
【0043】
アラキドン酸のフリーラジカル酸化は、ミトコンドリア透過性遷移孔(mPTP)の開孔によってミトコンドリア機能障害を引き起こす、高反応性イソレブグランジン(isoLG)を生成する。mPTP調節サブユニットであるシクロフィリンDを阻害すると、isoLG誘発性ミトコンドリア機能障害が軽減される(Free Radic Biol Med 2010; 49(4):567-79)。本発明者らは、シクロフィリンDの枯渇がミトコンドリアO2
・_を減少させ、血管弛緩を改善し、高血圧症を減少させることを発見した(Hypertension 2016; 67(6):1218-27)。本発明者らは、高血圧症がミトコンドリアisoLGの蓄積に関連し、ミトコンドリアを標的とするisoLGスカベンジャーが血管の酸化ストレスを低減し、高血圧症を軽減するというそれらの仮説を検証した。本発明者らは、親油性カチオントリフェニルメチルホスホニウムを2-ヒドロキシベンジルアミン(2HOBA)に結合させることにより、4-(アミノメチル)-3-ヒドロキシフェノキシ)ブチル)トリフェニルホスホニウム(mito2HOBA)化合物を含む、新規のミトコンドリア標的化isoLGスカベンジャー化合物を開発した。Mito2HOBAは水溶性化合物であり、培養ヒト大動脈内皮細胞(HAEC)及び飲料水中でMito2HOBAを投与されたマウスによって十分に許容された。mito2HOBA(50 nM)は、ミトコンドリアのO2
・_生成(MitoSOX / HPLC)を阻害し、TNFα及びアンジオテンシンIIと共にインキュベートしたHEACにおけるカルジオリピン酸化(LS-MS)を防止したが、2HOBA(50 nM)は効果がなかったことが発見された。ミトコンドリアisoLGの機能的役割は、高血圧症のアンジオテンシンIIモデルを使用してin vivoで試験された。C57Bl / 6JマウスにアンジオテンシンII(0.7 mg / kg / 日)又は生理食塩水(シャム)を注入し、飲料水中のmito2HOBA(0.1 g / L)を投与した。mito2HOBAがアンジオテンシンII誘発性高血圧症を有意に軽減することも発見された。高血圧症は、D11抗体を使用した心臓ミトコンドリアのウエスタンブロット分析によって測定されたミトコンドリアisoLGの形成の増加と関連し、mito2HOBAはアンジオテンシンIIを注入したマウスの心臓ミトコンドリアにおけるisoLG付加物の蓄積を減少させた。NOの減少は、血管の酸化ストレスによる高血圧症の内皮機能障害の特徴である。
【0044】
本発明者らは、蛍光O2
・_ プローブDHE(ジヒドロエチジウム)及びHPLCを使用した大動脈O2
・_の測定、及び電子スピン共鳴及び特定のNOスピントラップFe(DETC)2を使用した内皮NOの分析によって血管酸化ストレスを調べた。mito2HOBAは、アンジオテンシンIIを注入したマウスの血管O2
・_を減少させ、内皮NOを維持することが発見された。
【0045】
2-ヒドロキシベンジルアミン(2-HOBA、サリチルアミン)に代表される2-アミノメチルフェノールは、ジカルボニルを引き起こす疾患に対して並外れた反応性を示す。
【化19】
ミトコンドリアは、酸化部位であり、酸化ストレスの産物によって損傷を受ける可能性があり、多発性硬化症を含む多くの病気に起因する。2-HOBAはこれらの反応性分子を除去し、保護を提供することが期待できるが、ミトコンドリアにアクセスするために修飾される必要がある。特定のカチオン性アタッチメントは、これを達成するために過去に首尾よく使用されてきた。
【0046】
本発明の実施形態は、一連のミトコンドリアを標的とする化合物を含む。本発明の一実施形態は、次の式
【化20】
(式中、Xは結合手、-O-、又は -CH
2-であり、
RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0047】
本発明の別の実施形態は、次の式
【化21】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0048】
本発明の別の実施形態は、次の式
【化22】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0049】
本発明の別の実施形態は、次の式
【化23】
(式中、RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0050】
本発明の別の実施形態は、次の式
【化24】
(式中、Xは結合手、-O-、又は -CH
2-であり、
RはC
1~C
12の置換又は非置換アルキルであり、
R
1はC
1~C
12の置換又は非置換アルキル又はアセトキシメチルである)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0051】
本発明の別の実施形態は、次の式
【化25】
(式中、各Rは独立してC
1~C
12の置換又は非置換アルキルから選択され、
各R
1は独立してC
1~C
12の置換又は非置換アルキル又はアセトキシメチルから選択される)
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0052】
本発明の別の実施形態は、親油性エステル(好ましくはアセトキシメチル)を使用して、「プロドラッグ」を膜を横切って輸送し、細胞区画内に捕捉される細胞内エステラーゼ放出イオン酸による加水分解である。
【化26】
【0053】
本発明の別の側面は、加水分解時に、得られる2-HOBAのイオン性を増加させる追加の化合物である。
【化27】
【0054】
本発明の別の実施形態は、次の式
【化28】
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩である。
【0055】
本発明の実施例は、次の式
【化29】
の化合物及びその立体異性体及び薬学的塩を含む。
【0056】
I. 高血圧症
高血圧症は西欧社会の主要な健康問題であり、脳卒中、心筋梗塞、心不全の危険因子である。複数の薬剤を使用しているにもかかわらず、患者の3分の1で血圧が十分に管理されていないのは、おそらく現在の治療法の影響を受けない高血圧症の一因となるメカニズムが原因である。過去数年間で、ミトコンドリアが高血圧症で機能不全になっていることを示し、この病気におけるミトコンドリアのスーパーオキシド(O
2
・_)の新しい役割を定義した。本発明者らは、アンジオテンシンII及びサイトカインによるミトコンドリアO
2
・_の刺激におけるミトコンドリアシクロフィリンD(CypD)の重要な役割を示した。CypDは、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の調節サブユニットである。本発明者らは、高血圧症の発症後にCypD阻害剤で治療すると血圧が低下する一方で、遺伝的CypD枯渇が高血圧症を軽減することを見出した。本発明の一側面は、血管CypDの役割、及び血管機能不全及び高血圧症におけるCypDを標的とする治療の可能性を定義することである。本質的な高血圧症を伴う動物及びヒト対象における本発明者らの研究は、GCN5L1アセチルトランスフェラーゼと低下したSirt3デアセチラーゼ活性との間の不均衡によるK166アセチル化によるCypD活性化を示す。Sirt3レベルは高血圧症で低下し、残留Sirt3は高反応性ミトコンドリア脂質ジカルボニルであるイソレブグランジン(isoLG)によって遮断され、isolGスカベンジングはCypDの高アセチル化を防ぎ、高血圧症を軽減する(
図1)。
【0057】
本発明は、CypDを高血圧症の治療のための新しい標的として定義する。過去30年間、この病気に対する機構的に新しい治療法はなかった。CypDを標的とする新しいクラスの降圧薬は、高血圧症の治療を改善するために現在利用可能な治療用装備に追加される可能性がある。メカニズムや理論に縛られることなく、本発明者らは、内皮及び平滑筋における特定のCypD枯渇が血管の酸化ストレスを軽減し、血管の弛緩を保護し、高血圧症を軽減することを発見した。CypD-K166のアセチル化は、血管機能障害と高血圧症の一因となる。高血圧症の発症後のCypD阻害及びCypD高アセチル化の遮断は、血管機能を改善する。
【0058】
臨床データは、成人人口の3分の1が高血圧症を患っており、推定14億人が世界中で高血圧症を患っていることを示しているので、本発明は長年のニーズを満たす。この病気は、脳卒中、心筋梗塞、及び心不全の主要な危険因子である。複数の薬剤による治療にもかかわらず、高血圧患者の3分の1は高血圧症のままであり、おそらく現在の治療の影響を受けないメカニズムが原因である。しかし、過去30年間、この病気に対する機構的に新しい治療法はなかった。したがって、新しいクラスの降圧薬は、高血圧症の治療を改善するために現在利用可能な治療用装備に追加することができる。
【0059】
高血圧症は多因子性障害である。ただし、高血圧症のほとんどすべての実験モデルでは、活性酸素種(ROS:O2
・_及びH2O2)の生成が複数の臓器で増加している。脳では、ROSはニューロン発火を促進し、交感神経の流出を増加させる。腎臓では、ROSは複数の部位で作用してナトリウムの吸収と体積の保持を促進する。血管系では、ROSは血管収縮と再形成を促進し、全身の血管抵抗を増加させる。我々のグループは、NADPHオキシダーゼ、非結合型一酸化窒素シンターゼ、ミトコンドリアなどを含む、高血圧症に寄与するROSのいくつかの原因を明らかにし、それらの相互作用を定義した。ROSの過剰生産は、高血圧症の標的器官損傷を促進する酸化ストレスにつながる。抗酸化療法は現在利用できず、アスコルビン酸塩やビタミンEなどの一般的な抗酸化剤は心血管疾患や高血圧症の予防には効果がないが、特にミトコンドリアを標的とする療法は、標的器官の損傷を減らすための有望な戦略である。
【0060】
ミトコンドリア機能障害は、高血圧症と心血管疾患の病因に関与している。しかし、人間の健康と病気におけるミトコンドリアの中心的な役割にもかかわらず、ミトコンドリアを直接標的とする承認薬はない。ミトコンドリア機能障害は、ATP産生の障害と、細胞機能障害とアポトーシスにつながる酸化ストレスの増加を特徴としている。ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)は、高血圧症のミトコンドリア機能障害と末端器官損傷に重要な役割を果たす。本発明者らは、mPTP開孔の調節サブユニットであるシクロフィリンD(CypD)の枯渇又は阻害が血管機能を改善し、高血圧症を軽減することを発見した。以前の研究は、CypDが細胞死に関係していることを示しており、本発明者らは、CypDが血管の酸化ストレス及び内皮機能障害において重要であることを示した。本発明者らのデータは、mPTP開孔及び血管機能障害におけるCypDアセチル化及び反応性イソレブグランジン(isoLG)の新しい役割を示唆している。
【0061】
本発明者らは、内皮細胞から単離されたミトコンドリアにおけるCypDの阻害がスーパーオキシド(O2
・_)の過剰産生を防ぐことを以前に報告し、この研究において、血管CypDの遺伝子欠失又はCypDの特異的阻害が血管酸化ストレスを減少させ、内皮機能を改善し、高血圧症を軽減することを提唱する。
【0062】
本発明者らは、CypDノックアウトマウス(CypD
-/-)におけるCypD欠損が、アンジオテンシンII(AngII)注入マウスにおけるミトコンドリアO
2
・_の過剰産生を防ぎ(
図2A)、高血圧症を軽減し(
図2B)、野生型C57Bl / 6Jマウスと比較して内皮依存性及び内皮非依存性血管拡張を改善することを示した(
図2C、D)。
【0063】
本発明の一側面は、高血圧症の発症後のCypDを標的とすることである。本発明者らは、野生型マウスに、Ang II(0.7mg / kg /日)を含む浸透圧ポンプを移植し、AngII誘発性高血圧症の発症後にサングリフェリンAによる治療を開始した(
図3A)。実際、高血圧症マウスをCypD阻害剤サングリフェリンA(i.p. 10 mg / kg / 日)で治療すると、血圧が低下し(
図3A)、ミトコンドリアのO
2
・_産生が正常化され(
図3B)、血管拡張が改善される(
図3C、D)。
【0064】
本発明者らは、アンジオテンシンIIとサイトカインが協調してCypD依存性血管機能障害を誘発することを発見した。IL17AとTNFαはAngII誘発性高血圧症に必要である。これらのサイトカインは一般的にヒト高血圧症に関連しており、この病気の病因に寄与している。本発明は、Ang II、IL17A及びTNFαが、内皮細胞においてミトコンドリアO
2
・_を協調的に誘導することを示している。CypD依存性血管酸化ストレスの機能的役割は、ミトコンドリアO
2
・_スカベンジャーSOD2(Tg
SOD2)又はミトコンドリアを標的とするH
2O
2スカベンジャーカタラーゼ(mCAT)を過剰発現しているマウスから単離された大動脈切片で試験された。本発明者らのデータは、Ang II と IL17A とTNFα(ATI)とを用いた大動脈血管の治療が、CypD
-/-マウスから単離された大動脈において予防される内皮依存性血管拡張の重度の障害をもたらすことを示している。興味深いことに、SOD2の過剰発現又はミトコンドリアを標的とするカタラーゼの発現は、CypDの欠失によってもたらされる保護と同様に、血管拡張の障害を大幅に軽減した(
図4)。
【0065】
これらのデータは、Ang II及びサイトカインの酸化促進環境が重度の血管酸化ストレスを引き起こし、内皮NOを減少させ、血管拡張を損なうことを示している。これは、TgSOD2及びmCATマウスの血管におけるCypDの枯渇又はミトコンドリアO2
・_及びH2O2の除去によって防止される。さらに、本発明者らのデータは、血管の酸化ストレスの調節におけるCypDの重要な役割、高血圧症におけるミトコンドリアの酸化ストレス及び血管機能障害の刺激におけるCypDの重要な役割を確認している。ただし、CypD活性化の特定の経路は明確ではない。
【0066】
加齢に伴う高血圧症の増加は、Sirt3発現の低下と関連している。本発明者らは、Sirt3の不活性化がヒト高血圧症におけるミトコンドリアの高アセチル化に寄与することを発見した。本発明者らは、本態性高血圧症のヒト対象におけるSirt3発現及びアセチル化ミトコンドリアタンパク質を分析した。末梢血単核細胞のウエスタンブロットは、高血圧症の対象においてSirt3タンパク質レベルの1.4倍の減少と、ミトコンドリアのアセチル化の2.6倍の増加を示した(
図5)。
【0067】
本発明者らは最近、質量分析法及びウエスタンブロットによって測定されたヒト高血圧症及び高血圧症のマウスモデルにおけるミトコンドリアの高アセチル化を報告した。高血圧症におけるミトコンドリアの高アセチル化はCypDアセチル化を伴い、それは機能の獲得を表し、mPTPの開孔を促進する。これを試験するために、本発明者らは、正常血圧及び高血圧症マウスから単離された大動脈ミトコンドリアにおけるミトコンドリアタンパク質の総アセチル化及び特定のCypDアセチル化を測定した。野生型及びCypD
-/-マウスにAngII(0.7 mg / kg / 日)又は生理食塩水(ビヒクル)を14日間注入し、マウスを00ウエスタンブロット試験のためにミトコンドリアを大動脈から単離した。ウエスタンブロット分析は、シャム野生型マウスと比較して、Ang IIを注入した高血圧症マウスから単離されたミトコンドリア溶解物における総リジンアセチル化(Ac-K ab)の強力な増加を示した。CypD免疫沈降後、ウエスタンブロットは正常血圧及び高血圧症マウスのCypDレベル(WT CypD)の変化を示さなかった。ただし、CypDアセチル化は、高血圧症マウスから分離された大動脈ミトコンドリアで大幅に増加した。CypD
-/-マウスは高血圧症及び内皮機能障害から保護されており(
図2及び4)、ウエスタンブロットではCypD
-/-マウスの試料にCypD又はCypDのアセチル化は見られず、ウエスタンブロットの特異性が確認された。
【0068】
内皮機能障害におけるCypDアセチル化の役割は明らかではない。しかし、リジン166のアセチル化は、mPTP開孔を促進する機能の獲得であり、ミトコンドリアのSirt3はCypD-K166を脱アセチル化する。シクロスポリンAなどのCypD阻害剤は、K166の近くに結合し、CypDを介したmPTPの開孔を防ぐ。筋細胞では、K166のアルギニンへの変異(CypD-K166R)は脱アセチル化を模倣し、mPTP開孔を弱める一方で、K166のグルタミンへの変異(K166Q)はアセチル化を模倣し、mPTP開孔を高め、虚血再灌流傷害を悪化させる。GCN5L1を介したアセチル化は、Sirt3を介した脱アセチル化を逆調節する。本発明者らは、内皮細胞において、GCN5L1の枯渇がミトコンドリアO
2
・を減少させる一方で、Sirt3デアセチラーゼの枯渇がミトコンドリアO
2
・の産生を増強することを示している。ヒト大動脈内皮細胞(HAEC)に、非サイレンシングsiRNA(NS)、GCN5L1 siRNA、Sirt3 siRNA、又はCypD siRNAをトランスフェクトした。トランスフェクションの3日後、細胞をAng IIとTNFαで刺激し、O
2
・をMitoSOXのO
2
・特異的生成物であるMito-2OH-E
+のHPLC分析によって測定した。GCN5L1の枯渇は、CypDの枯渇と同様にO
2
・の過剰産生を無効にする一方で、Sirt3の枯渇は、基底ミトコンドリアと刺激されたミトコンドリアのO
2
・の両方を増加させることがわかった(
図7)。これらのデータは、内皮の酸化ストレスにおけるCypDアセチル化の役割を裏付けている。
【0069】
本発明者らはまた、アラキドン酸に由来する高反応性脂質ジカルボニルであるイソレブグランジン(isoLG)が、病原性活性酸素種と疾患の進行との間の機構的にづけるものであることを学び、ミトコンドリアの急性isoLG曝露がCypD依存性mPTP開孔を誘導し、ミトコンドリアの呼吸を阻害することを発見した(
図8)。反応性isoLGは、ミトコンドリア機能障害に独立して寄与することができるタンパク質-リジン付加物及び細胞毒性isoLG-ホスファチジルエタノールアミン付加物(isoLG-PE)を生成する。実際、isoLG-PEによる単離ミトコンドリアの急性治療は呼吸を41%抑制し、同様の用量のisoLGは呼吸を74%減少させ、ミトコンドリア機能障害におけるisoLG-PEとisoLGタンパク質-リジン付加物の両方の潜在的な役割をサポートする。
【0070】
本発明者らは、親油性カチオントリフェニルホスホニウムを2HOBAに接合(conjugate)させることにより、ミトコンドリアを標的とするisoLGスカベンジャーmito2HOBAを開発した。生細胞内のミトコンドリアの膜電位は、内部では負である(-150mV)。この膜電位は細胞内の他の細胞小器官よりもはるかに高いため、トリフェニルホスホニウム親油性カチオンはミトコンドリアマトリックスに500倍以上選択的に蓄積する。
【0071】
本発明者らは、Mito2HOBAがミトコンドリアのO
2
・産生を減少させ、カルジオリピンの酸化を阻害することを発見し、ミトコンドリアの酸化ストレスがisoLGを産生し、isoLGの除去がミトコンドリア機能を改善することを示した。培養ヒト大動脈内皮細胞(HAEC)におけるミトコンドリアO
2
・及びカルジオリピン酸化(ミトコンドリア機能障害及び酸化ストレスの特異的マーカー)をAngII及びTNFαとインキュベートした。これらの薬剤は、両方とも高血圧症の内皮機能障害に寄与することを示したため、組み合わせて選択された。Ang IIとTNFαは、ミトコンドリアO
2
・の2倍の増加とカルジオリピンの酸化の2.5倍の増加によって測定されるように、ミトコンドリアの酸化ストレスを誘発した。ミトコンドリアを標的としたisoLGスカベンジャーmito2HOBA(50 nM)による治療は、ミトコンドリアの酸化ストレスを軽減したが(
図9A)、同様の保護が必要な非標的2HOBAの濃度ははるかに高くなった。Mito2HOBAは、2HOBAよりもカルジオリピンの酸化の予防に効果的であった(
図9B)。これらのデータは、ミトコンドリア機能障害におけるisoLGのこれまで特定されていなかった役割を裏付け、治療目的で非常に低用量のmito2HOBAを使用することの実現可能性を示している。
【0072】
本発明者らは、Mito2HOBAが高血圧症を軽減し、ミトコンドリアのisoLGを減少させ、CypDの高アセチル化を防止し、ミトコンドリアを標的とするisoLGスカベンジャーmito2HOBAによる治療が血管の酸化ストレスを軽減し、内皮機能を保護し、高血圧症を軽減することを示す。シャム又はAngIIを注入したマウスには、mito2HOBAを添加した飲料水(0.1 g / L)又は普通の水を補充した。Mito2HOBAは、Ang II誘発性高血圧症を有意に軽減した(
図10A)。Ang II注入の14日後、マウスを屠殺し、ウエスタンブロット試験のために大動脈を単離した。高血圧症は、D11抗体によって測定されたミトコンドリアisoLG付加物の強力な増加と関連しており、mito2HOBAはisoLG付加物の蓄積を防ぐ。CypD発現は変化しなかった。しかし、高血圧症マウスではアセチルトランスフェラーゼGCN5L1が増加し、デアセチラーゼSirt3が減少した。これにより、ミトコンドリアのアセチル化経路と脱アセチル化経路の間の不均衡がもたらされ、Ac-K及びCypDの高アセチル化によって測定されるミトコンドリアタンパク質の高アセチル化が引き起こされる。Mito2HOBAは、GCN5L1とSirt3の間の不均衡を修正し、ミトコンドリアのAc-Kを減少させ、ミトコンドリアのisoLGがCypDのアセチル化に関与するCypDの高アセチル化を防ぐ(
図10B)。
【0073】
Mito2HOBAは、Ang IIによるミトコンドリアのisoLG-リシル-ラクタムタンパク質付加物の蓄積を防ぐ。本発明者らは、前述のように、抽出タンパク質のタンパク質分解消化後、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC / MS)によってisoLG-リシル-ラクタム付加物を測定した。高血圧症はミトコンドリアのisoLG-リシル-ラクタムタンパク質付加物の4倍の増加と関連していることが確認された。ミトコンドリアを標的としたisoLGスカベンジャーmito2HOBAの補給により、ミトコンドリアでのisoLG-リシル-ラクタム付加物の形成が無効になった(
図11)。
【0074】
高血圧症はミトコンドリア機能を損ない、mito2HOBAはミトコンドリア機能障害を軽減し、高血圧症におけるミトコンドリアisoLGの蓄積は、CypDアセチル化とmPTP開孔を促進し、ミトコンドリアの呼吸を損ない、ATPを低下させる。mito2HOBAによるミトコンドリアisoLGの除去は、これらの有害な作用を防ぐ。本発明者らは、対照マウス(シャム)、mito2HOBAを飲んでいるマウス、Ang IIを注入したマウス、及びmito2HOBAを補充したAng II注入マウス(mito2HOBA と Ang II)から単離した腎臓組織を分析した。確かに、Ang II注入は、Ca
2+保持容量を低下させ、mPTP開孔を増加させ、ミトコンドリアの呼吸を損ない、腎臓ATPを低下させた。しかし、mito2HOBAの補給により、CypDのアセチル化が減少し、mPTP開孔が弱まり、ミトコンドリアの呼吸が保護され、正常なATPが維持される(
図10、12)。これらのデータは、ミトコンドリアの機能障害と高血圧症におけるミトコンドリアisoLGの病態生理学的役割を示している。
【0075】
したがって、本発明の実施形態は、血管の酸化ストレスを低減し、内皮機能を改善するMito2HOBA化合物である。本発明者らは、血管のO
2
・過剰産生が高血圧症における内皮機能障害に寄与することを最初に示した。他の作用の中でも、O
2
・ は内皮一酸化窒素(NO)を不活性化し、血管収縮と血管再形成を促進し、最終的に全身の血管抵抗を増加させる。したがって、NOの生物学的利用能の低下は、NOの酸化、NOの生成の低下、及び内皮型NO合成酵素の脱共役による、高血圧症における内皮の酸化ストレスの特徴である。前述のように、蛍光O
2
・プローブDHEとHPLCを使用して大動脈O
2
・を測定した。内皮NOは、電子スピン共鳴(ESR)及び特定のNOスピントラップFe(DETC)
2によって定量化された。
図13に示すように、本発明者らは、mito2HOBAがAng II注入マウスの血管O
2
・を減少させ、NOの生物学的利用能を維持することを発見した。これらのデータは、血管の酸化ストレスと内皮機能障害におけるミトコンドリアisoLGのこれまで認識されていなかった役割を示している。
【0076】
II. 血管の酸化ストレス
本発明者らは、ミトコンドリアが高血圧症において機能不全であることを発見し、この疾患におけるミトコンドリアの酸化ストレスの新しい役割を定義した。ミトコンドリアはスーパーオキシドラジカル(O
2
・_)の主要な供給源であり、不飽和脂肪酸が豊富である。アラキドン酸のフリーラジカル酸化は、高反応性イソレブグランジン(isoLG)を生成する。これは、本発明者らが、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)の開孔によってミトコンドリア機能障害を引き起こすことを発見したものであり、mPTP調節サブユニットシクロフィリンD(CypD)の阻害によって、isoLGによって誘発されるミトコンドリア機能障害が軽減される。最近我々は、CypDの枯渇又はCypDの阻害によるmPTP開孔の阻害が、ミトコンドリアのO
2
・_を減少させ、血管の弛緩を改善し、高血圧症を軽減することを発見した。本発明者らはまた、ミトコンドリアを標的とする新しいisoLGスカベンジャーmito2HOBA化合物を開発した。この新しい化合物は、ミトコンドリアのisoLGタンパク質付加物を減少させ、ミトコンドリアの酸化ストレスの特定のマーカーであるカルジオリピンの酸化を抑制し、血管のO
2
・_を減らし、内皮の一酸化窒素を正常化し、高血圧症を減らす。これらのデータは、ミトコンドリアの酸化ストレスのフィードフォワード刺激と一致しており、心血管疾患の治療においてミトコンドリアのisoLG標的化の治療上の利点を示している。isoLGは、CypDを介したミトコンドリア機能障害を引き起こし、末端器官の損傷を引き起こす。ミトコンドリアのisoLGを減らす対策は、CypDの活性化を低下させ、血管機能を改善する。この新しい概念は、心血管疾患の治療における新しい目標としてミトコンドリアisoLGを定義する際のパラダイムシフトにつながる可能性がある(
図14)。
【0077】
活性酸素種(ROS:O2
・及びH2O2)の産生は、脳、血管系、及び腎臓の重要な中心を含む複数の臓器の高血圧症で増加する。本発明者らは、NADPHオキシダーゼ、非結合型一酸化窒素シンターゼ、及びミトコンドリアを含む、高血圧症に寄与するROSのいくつかの供給源を示し、それらの相互作用を定義した。一方、抗酸化療法は現在利用できず、アスコルビン酸塩やビタミンEなどの一般的な抗酸化剤は、ミトコンドリアなどのROS産生の重要な部位に到達し難いので、心血管疾患や高血圧症の予防には効果がない。さらに、本発明者らは、高血圧症におけるミトコンドリア機能障害及び末端器官損傷の原因となる新しいisoLG依存性メカニズムを発見した。本発明の化合物は、ミトコンドリアの酸化ストレスを減少させ、血管機能を改善し、そして高血圧症を減少させるために、ミトコンドリアisoLGを標的とする。
【0078】
ミトコンドリア機能を改善するためにミトコンドリア内のisoLGを除去する例を示すために、ミトコンドリアを標的としたisoLGスカベンジャーmito2HOBA化合物が開発された(たとえば、
図15を参照)。生細胞内のミトコンドリアの膜電位は、内部では負である(-150mV)。この膜電位は細胞内の他の細胞小器官よりもはるかに高いため、トリフェニルホスホニウム(TPP)などの親油性カチオンがミトコンドリア内に選択的に蓄積する。したがって、TPPに結合した分子はミトコンドリアを標的とする。例として、mitoTEMPOはミトコンドリアマトリックス内に500倍以上濃縮している。
【0079】
上記の例は、培地中の細胞に供給され、飲料水中にて動物に供給され得る水溶性化合物である。我々の予備的なin vitro及びin vivo実験では、200 nMまでの濃度で、0.1~0.3 g / Lの用量で飲料水中に含まれるmito2HOBAが投与された場合、培養ヒト大動脈内皮細胞(HAEC)によって十分に許容された。mito2HOBAを含む飲料水(0.1 g / L)を5日間投与したマウスから単離した腎臓及び心臓ミトコンドリアの質量分析により、ミトコンドリア画分(80%)にμMレベルでmito2HOBAが顕著に蓄積していることが確認された。同様に、単離されたミトコンドリアをmito2HOBA(0.1 μM)とインキュベートすると、ミトコンドリアペレットにmito2HOBAが400~600倍強力に蓄積する(
図15、挿入)。
【0080】
本発明者らは、飲料水中のmito2HOBA(0.1g / L)又は普通水を投与されたC57Bl/6Jマウスに、Ang II(0.7mg / kg /日)又は生理食塩水(シャム)を含む浸透圧ミニポンプを移植した。mito2HOBAの補給は、Ang II誘発性高血圧症を有意に軽減することがわかった(
図16A)。Ang II注入の14日後、マウスを屠殺し、ミトコンドリア試験のために心臓を単離し、血管O
2
・_と内皮一酸化窒素の分析のために大動脈を単離した。予想通り、高血圧症は、D11抗体を使用した心臓ミトコンドリアのウエスタンブロット分析によって測定されたミトコンドリアisoLGの形成の増加と関連していた。さらに、mito2HOBAは、Ang IIを注入したマウスの心臓ミトコンドリアにおけるisoLG付加物の蓄積を減少させた(
図16B)。
【0081】
高血圧症がミトコンドリアの酸化ストレスに関連していること、及びミトコンドリアのH
2O
2の除去がミトコンドリアの機能障害を軽減し、高血圧症を軽減することを示すために、本発明者らは、C57Bl/6J野生型(WT)及びミトコンドリアを標的とするH
2O
2スカベンジャーであるカタラーゼ(mCAT)を発現しているトランスジェニックマウスを試験した。低用量のAngII(0.3 mg / kg / 日)を注入すると、野生型では血圧が上昇したが(136 mm Hg)、mCATマウスでは上昇しなかった(115 mm Hg)(
図17B)。Ang II注入の14日後、マウスを屠殺し、ミトコンドリアの酸化ストレス、カルジオリピンの酸化のマーカーを測定するために、前述のように、心臓を単離した。予想通り、高血圧症は野生型マウスのカルジオリピン酸化の増加と関連していた。興味深いことに、カルジオリピン酸化は、Ang IIを注入したmCATマウスでは完全に無効になった(
図17B)。
【0082】
これらのデータは、内皮機能障害と高血圧症におけるミトコンドリアの酸化ストレスとミトコンドリアのisoLGのこれまで認識されていなかった役割を裏付けている。上に示したように、本発明者らは、CypD
-/-マウスにおけるCypD欠損が、野生型C57Bl/6Jマウスと比較して、Ang II誘発性高血圧症を軽減し、ミトコンドリアO
2
・_の過剰産生を防ぎ、内皮依存性及び内皮非依存性の血管拡張を改善することを示している(
図9)。
【0083】
血管細胞のミトコンドリアにおけるCypD-isoLG相互作用の潜在的な役割を定義するために、本発明者らは、Ang IIを注入したマウスから解剖した大動脈からミトコンドリア画分を単離し、抗isoLGD11抗体を使用してisoLG-タンパク質付加体形成を測定した
32。Ang II誘発性高血圧症は、大動脈におけるミトコンドリアisoLGの強力な増加と関連しており、mito2HOBA補給はミトコンドリアisoLGの蓄積を弱めた(
図18A)。潜在的なCypD-isoLG付加物形成は、CypD免疫沈降及び抗isoLGD11抗体を用いたウエスタンブロットによって測定された。データは、Ang II注入がミトコンドリアのタンパク質isoLG付加物とCypD-isoLGの両方を増加させ、mito2HOBAがこれを減少させたことを示している(
図18B)。
【0084】
高血圧症はミトコンドリア機能を損ない、mito2HOBAはミトコンドリア機能障害を軽減する。上記の結果に基づいて、本発明者らは、高血圧症におけるミトコンドリアisoLGの蓄積がミトコンドリア呼吸の障害及びATP産生の低下をもたらし、mito2HOBAによるミトコンドリアisoLGの除去がミトコンドリア呼吸を改善し、ATP合成を維持すると仮定した。このことを示すために、本発明者らは、対照マウス(シャム)、mito2HOBAを飲んでいるマウス(mito2HOBA)、Ang IIを注入したマウス(Ang II)、及びmito2HOBAを補充したAng II注入マウス(mito2HOBA と Ang II)から単離した腎臓組織を分析した。高血圧症のAng IIを注入したマウスの腎臓では、ミトコンドリアの呼吸が損なわれ、腎臓のATPレベルが大幅に低下していることがわかった。興味深いことに、Ang IIを注入したマウスへのmito2HOBAの補給は、ミトコンドリアの呼吸を保護し、正常なATP産生を維持する(
図19)。これらのデータは、高血圧症に関連するミトコンドリア機能障害におけるミトコンドリアisoLGの病態生理学的役割を示している。
【0085】
本発明はこのように説明されるので、本発明を多くの方法で変化させ得ることは自明である。当業者に自明であるこのような変化は、本開示内に含まれるとみなされるべきである。
【0086】
そうでないことが示されていない限り、本明細書において用いる、成分の量、特性(例えば、反応条件)などを表す全ての数は、全ての場合で、用語「約」で修飾されていると理解されるべきである。したがって、そうでないことが示されていない限り、本明細書及び請求の範囲に示される数値パラメータは、本発明により決定すべきことが求められる所望の性質に応じて変動し得る近似値である。
【0087】
本発明の幅広い範囲を記載する数値範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、実験の節または実施例の節に示される数値は、可能な限り正確に記載した。しかしながら、いかなる数値も、本来的に、それぞれの試験測定に見出される標準偏差に必然的に起因する或る種の誤差を含む。
【国際調査報告】