(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-21
(54)【発明の名称】ポンプおよびワイパアセンブリ、関連する粘性クラッチ、および関連する方法
(51)【国際特許分類】
F16D 35/02 20060101AFI20220414BHJP
【FI】
F16D35/02 P
F16D35/02 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544492
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(85)【翻訳文提出日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 US2019067119
(87)【国際公開番号】W WO2020159637
(87)【国際公開日】2020-08-06
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506038235
【氏名又は名称】ホートン, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ヘネシー, デビッド, アール
(57)【要約】
粘性クラッチ(120、220)は、回転軸(A)の周りに回転可能な入力部材(22)と、回転軸の周りに選択的に回転可能な出力部材(26)と、入力部材および出力部材によって境界付けられた作動チャンバ(30)と、リザーバ(32)と、リザーバを作動チャンバに流体的に接続する解放ボア(36)と、作動チャンバ内に延在する先行のワイパ(140A;240A)と、先行のワイパに隣接して配置され、作動チャンバをリザーバに流体的に接続する先行のポンプボア(142A;242A)と、作動チャンバ内に延在する後続のワイパ(140B;240C)と、後続のワイパに隣接し、作動チャンバをリザーバに流体的に接続する先行のポンプボアの下流に配置された後続のポンプボア(142B;242C)と、を含む。後続のワイパの幅(WB1;WC2)は、先行のワイパの幅(WA1;WA2)よりも大きい。
【選択図】
図6A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の周りに回転可能な入力部材と、
前記回転軸の周りに選択的に回転可能な出力部材と、
前記入力部材および前記出力部材によって境界付けられた作動チャンバであって、前記作動チャンバ内に存在するせん断流体の体積に基づく流体摩擦力を介して前記入力部材と前記出力部材との間でトルクが選択的に伝達され得る作動チャンバと、
前記せん断流体の供給を保持することができる内部容積を画定するリザーバと、
リザーバ内に配置された円弧状壁であって、閉鎖端および開放端を有するリザーバの第1の部分を規定し、かつ、壁円弧セグメントに亘って前記開放端と前記閉鎖端との間を円周方向に延びる円弧状壁と、
前記リザーバを前記作動チャンバに流体的に接続する解放ボアと、
前記作動チャンバに沿って配置されたポンプおよびワイパアセンブリと、を備え、
前記ポンプおよびワイパアセンブリは、先行のポンプおよびワイパサブアセンブリと、後続のポンプおよびワイパサブアセンブリとを含み、
前記先行のポンプおよびワイパサブアセンブリは、先行のワイパ及び先行のポンプボアを含み、前記先行のポンプボアは前記作動チャンバを前記リザーバに流体的に接続し、前記先行のポンプボアは前記先行のワイパに隣接して配置されており、
前記後続のポンプおよびワイパサブアセンブリは、後続のワイパおよび後続のポンプボアを含み、前記後続のポンプボアは前記作動チャンバを前記リザーバに流体的に接続し、前記後続のポンプボアは前記後続のワイパに隣接して配置されており、前記後続のポンプおよびワイパサブアセンブリは前記先行のポンプおよびワイパサブアセンブリよりも下流に配置されており、
前記解放ボア、前記先行のポンプボア、および前記後続のポンプボアは、全て、前記円弧状壁の前記壁円弧セグメントより円周方向に小さいボア円弧セグメント内で、前記リザーバの前記第1の部分に流体的に直接接続されている、粘性クラッチ。
【請求項2】
前記リザーバは、前記入力部材に対して相対回転不能に固定されており、前記リザーバは、前記作動チャンバから半径方向内方に位置決めされている、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項3】
前記入力部材はロータディスクを含み、前記出力部材はハウジングを含み、前記リザーバは前記ロータディスクに対して相対回転不能に固定されている、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項4】
前記先行のワイパ及び前記後続のワイパはそれぞれ、前記ロータディスクの外径面から半径方向外側に突出している、請求項3記載の粘性クラッチ。
【請求項5】
前記リザーバから前記解放ボアを通って前記作動チャンバへのせん断流体の流れを選択的に制御するように作動可能であるバルブをさらに備える、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項6】
前記ボア円弧セグメントは、前記リザーバの前記第1の部分の前記開口端から円周方向に離間して配置されている、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項7】
前記ボア円弧セグメントは、前記リザーバの前記第1の部分の前記開放端よりも前記リザーバの前記第1の部分の前記閉鎖端の近くに配置されている、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項8】
前記リザーバの前記第1の部分は、前記円弧状壁の半径方向外側に配置されている、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項9】
前記先行のポンプボアは、前記後続のポンプボアの直径よりも小さい直径を有する、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項10】
中間ワイパおよび中間ポンプボアを含む中間ポンプおよびワイパサブアセンブリであって、前記中間ポンプボアは前記作動チャンバを前記リザーバに流体的に接続し、前記中間ポンプボアは前記中間ワイパに隣接して配置されており、前記先行のポンプおよびワイパサブアセンブリの間において円周方向に配置される中間ポンプおよびワイパサブアセンブリをさらに備える、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項11】
前記中間ワイパは山形であり、前記先行のポンプボアは、前記後続のポンプボアの直径よりも小さい直径を有しており、前記中間ポンプボアは、前記後続のポンプボアの直径よりも小さい直径を有している、請求項10記載の粘性クラッチ。
【請求項12】
前記先行のワイパは山形である、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項13】
前記先行のワイパは、前記後続のワイパの軸方向幅よりも小さい軸方向幅を有している、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項14】
前記先行のワイパの内部に延在する凹部を更に備え、前記先行のポンプボアは、前記先行のワイパの内部に延在する前記凹部にまたは前記凹部の内部に配置された入口を有している、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項15】
前記先行のワイパの内部に延びる前記凹部は三角形の形状を有している、請求項14記載の粘性クラッチ。
【請求項16】
前記後続のワイパの内部に伸びる凹部を更に備え、前記後続のポンプボアは、前記後続のワイパの内部に延在する前記凹部にまたは前記凹部の内部に配置された入口を有している、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項17】
プラットフォームを更に備え、前記先行のポンプボアは、前記プラットフォームにまたは前記プラットフォームの内部に配置された入口を有している、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項18】
前記壁円弧セグメントは、前記回転軸に対して180°以下で延在している、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項19】
前記解放ボア、前記先行のポンプボア、および前記後続のポンプボアはすべて、前記回転軸に対して45°のボア円弧セグメント内に配置されている、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項20】
前記先行のポンプボアは、第1の周方向において前記先行のポンプワイパの上流側に配置されており、前記後続のポンプボアは、前記第1の周方向において前記後続のポンプワイパの上流側に配置されている、請求項1記載の粘性クラッチ。
【請求項21】
作動チャンバおよびリザーバを有する粘性クラッチを使用する方法であって、当該方法により、前記作動チャンバ内に存在するせん断流体の体積を変化させることによって、前記粘性クラッチの出力滑り速度が制御可能であり、当該方法は、
壁を用いて前記リザーバの残りの部分から前記リザーバの第1の部分を部分的に遮蔽するステップと、
前記リザーバの前記第1の部分に流体的に直接接続される解放ボアを通して、前記リザーバから前記作動チャンバへのせん断流体の流れを選択的に制御するステップと、
先行のワイパおよび前記先行のワイパに関連する先行のポンプボアを用いて前記作動チャンバから前記リザーバにせん断流体を圧送するステップであって、前記先行のポンプボアは前記リザーバの前記第1の部分に流体的に直接接続する圧送するステップと、
後続のワイパおよび前記後続のワイパに関連する後続のポンプボアを用いて前記作動チャンバから前記リザーバにせん断流体を圧送するステップであって、前記後続のポンプボアは前記リザーバの前記第1の部分に流体的に直接接続する圧送するステップと、を含む方法。
【請求項22】
中間ワイパおよび前記中間ワイパに関連する中間ポンプボアを用いて前記作動チャンバから前記リザーバにせん断流体を圧送するステップであって、前記中間ポンプボアは前記リザーバの前記第1の部分に直接流体的に接続し、前記中間ポンプボアの入口は、前記先行のポンプボアの入口と前記後続のポンプボアの入口との間に円周方向に配置されているステップを更に含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記せん断流体の体積は、前記後続のポンプボアを通って圧送する前に、前記ロータディスクから半径方向外側の位置で前記先行のワイパを円周方向に迂回する、請求項21記載の方法。
【請求項24】
先行のワイパおよびこれに関連する先行のポンプボアを用いてせん断流体を前記作動チャンバから前記リザーバに圧送する前記ステップは、受動的な圧送のみを含み、後続のワイパおよびこれに関連する後続のポンプボアを用いてせん断流体を前記作動チャンバから前記リザーバに圧送する前記ステップは、受動的な圧送のみを含む、請求項21記載の方法。
【請求項25】
第1回転方向において前記粘性クラッチにトルク入力を提供するステップを更に含み、先行のワイパおよびこれに関連する先行のポンプボアを用いてせん断流体を前記作動チャンバから前記リザーバに圧送する前記ステップと、後続のワイパおよびこれに関連する後続のポンプボアを用いてせん断流体を前記作動チャンバから前記リザーバに圧送する前記ステップとは、前記第1回転方向において前記トルク入力が前記粘性クラッチに与えられている間に、両方とも実施される、請求項21記載の方法。
【請求項26】
前記先行のポンプボアおよび前記後続のポンプボアは前記せん断流体を前記リザーバに同時に圧送する、請求項21記載の方法。
【請求項27】
クラッチ入力とクラッチ出力との間の速度差が比較的高い場合よりも、前記クラッチ入力と前記クラッチ出力との間の速度差が比較的低い場合に、前記作動チャンバから前記リザーバへ圧送する総速度はより大きくなる、請求項21記載の方法。
【請求項28】
回転軸の周りに回転可能な入力部材と、
前記回転軸の周りに選択的に回転可能な出力部材と、
前記入力部材と前記出力部材とによって境界付けられた作動チャンバであって、前記作動チャンバ内に存在するせん断流体の体積に基づく流体摩擦力を介して前記入力部材と前記出力部材との間でトルクを選択的に伝達することができる作動チャンバと、
前記せん断流体の供給を保持することができる内部容積を画定するリザーバと、
前記リザーバを前記作動チャンバに流体的に接続する解放ボアと、
前記作動チャンバ内に延びる先行のワイパと、
前記先行のワイパに隣接して配置された先行のポンプボアであって、前記作動チャンバを前記リザーバに流体的に接続する先行のポンプボアと、
前記作動チャンバ内に延びる後続のワイパであって、軸方向において前記先行のワイパの幅よりも大きい幅を有する後続のワイパと、
前記後続のワイパに隣接し、前記先行のポンプボアの下流に配置され、前記作動チャンバを前記リザーバに流体的に接続する後続のポンプボアと、を備える粘性クラッチ。
【請求項29】
前記作業チャンバ内に延在する中間ワイパを更に備え、前記後続のワイパの幅は、軸方向において前記中間ワイパの幅よりも大きく、
前記中間ワイパに隣接して、かつ前記先行ポンプボアの下流に配置される中間ポンプボアを更に備え、前記中間ポンプボアは前記作動チャンバを前記リザーバに流体的に接続する、請求項28記載の粘性クラッチ。
【請求項30】
前記リザーバの第1の部分を前記リザーバの残りの部分から分離し、前記リザーバ内に配置される壁を更に備え、前記リザーバの前記第1の部分は、閉鎖端部と、周方向に反対側の開放端部とを有し、前記解放ボア、前記先行のポンプボア、および前記後続のポンプボアはそれぞれ、前記リザーバの前記第1の部分に流体的に直接接続されている、請求項28記載の粘性クラッチ。
【請求項31】
外径面を有するロータディスクと、
前記ロータディスクによって担持されたリザーバであって、前記ロータディスクの外径面から半径方向内側に位置するリザーバと、
前記ロータディスクの前記外径面から半径方向に突出する先行のワイパと、
前記先行のワイパに隣接して位置決めされた先行のポンプボアであって、前記ロータディスクの前記外径面から前記リザーバに延在する先行のポンプボアと、
前記ロータディスクの前記外径面から半径方向に突出する後続のワイパであって、軸方向において前記先行のワイパの幅よりも大きな幅を有する後続のワイパと、
前記後続のワイパに隣接しかつ前記先行のポンプボアの下流に位置決めされた後続のポンプボアであって、前記ロータディスクの前記外径面から前記リザーバに延在する後続のポンプボアと、を備える粘性クラッチのためのロータアセンブリ。
【請求項32】
前記ロータディスクの前記外径面から半径方向に突出する中間ワイパを更に備え、前記後続のワイパの幅は、軸方向において前記中間ワイパの幅よりも大きく、
前記中間ワイパに隣接しかつ前記先行のポンプボアの下流に配置される中間ポンプボアを更に備え、前記中間ポンプボアは、前記ロータディスクの前記外径面から前記リザーバに延在している、請求項31記載のロータアセンブリ。
【請求項33】
前記リザーバの第1の部分を前記リザーバの残りの部分から分離し、前記リザーバ内に配置される壁を更に備え、前記リザーバの前記第1の部分は、閉鎖端部および円周方向に反対側の開放端部を有し、前記先行のポンプボアおよび前記後続のポンプボアはそれぞれ、前記リザーバの前記第1の部分に流体的に直接接続されている、請求項31記載のロータアセンブリ。
【請求項34】
前記ロータの一部を通って延びる解放ボアであって、前記リザーバの前記第1の部分に流体的に直接接続される解放ボアを更に備える、請求項33記載のロータアセンブリ。
【請求項35】
作動チャンバ、リザーバ、およびロータディスクを有する粘性クラッチを使用する方法であって、当該方法により、前記作動チャンバ内に存在するせん断流体の体積を変化させることによって粘性クラッチの出力滑り速度が制御可能であり、当該方法は、
前記リザーバの前記第1の部分に流体的に直接接続された解放ボアを通して、前記リザーバから前記作動チャンバにせん断流体を搬送するステップと、
先行のワイパおよびこれに関連する先行のポンプボアを用いて前記作動チャンバから前記リザーバにせん断流体を圧送するステップと、
前記ロータディスクから半径方向外側の位置で、前記先行ワイパによってせん断流体の体積を周方向に通過させるステップと、
後続ワイパおよびこれに関連する後続ポンプボアを用いて、前記作動チャンバから前記リザーバにせん断流体を圧送するステップであって、前記先行ワイパの近傍を通過した前記せん断流体の体積の少なくとも一部は、前記後続のポンプボアに流入するステップと、を備える方法。
【請求項36】
前記先行ポンプボアおよび前記後続ポンプボアは、前記せん断流体を前記リザーバに同時に圧送する、請求項35記載の方法。
【請求項37】
クラッチ入力とクラッチ出力との間の速度差が比較的高い場合より、前記クラッチ入力と前記クラッチ出力との間の速度差が比較的低い場合に、前記作動チャンバから前記リザーバへ圧送する総速度はより大きい、請求項36記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年1月31日に出願された、米国仮出願第62/799,232号の優先権を主張する。
【0002】
本発明の実施形態は一般に、粘性クラッチ用のポンプおよびワイパアセンブリ、当該ポンプおよびワイパアセンブリを含む粘性クラッチ、当該ポンプおよびワイパアセンブリを含む粘性クラッチ用のロータアセンブリ、および関連する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
可変速クラッチは、回転機械の出力速度を制御するための様々な用途に使用されている。例えば、粘性(または流体摩擦)クラッチは、他の用途の中でも、特に冷却ファンおよびポンプを駆動するために自動車用途において開発に成功している。粘性クラッチは、典型的には、2つの回転可能な構成要素間でトルクを選択的に伝達するために、(より一般的にはせん断流体または粘性流体と呼ばれる)比較的どろどろしたシリコーン油を使用する。クラッチの係合又は切断は、入力部材と出力部材との間(例えば、ロータとハウジングとの間)に配置されたクラッチの作動チャンバ(又はせん断領域)へのせん断流体の出入りを選択的に許可することによって可能になり、この場合、せん断流体によって粘性せん断結合が生成されて、入力部材から出力部材にトルクを伝達することができる。バルブは、作動チャンバへ入る、及び/又は、作動チャンバから出るせん断流体の流れを制御するために使用される。幾つかの最近のクラッチ設計は、クラッチが切断/オフされている間に、クラッチの入力部材に取り付けられたリザーバ(又は貯蔵チャンバ)内にせん断流体が貯蔵されることを可能にしており、これにより、せん断流体内で利用可能な運動エネルギーを維持して、切断/オフ状態からの出力部材の比較的迅速な係合を可能にする。粘性クラッチはまた、典型的には、入力部材と出力部材との間の相対運動、またはそれらの間の「スリップ」を利用するポンプ装置を含み、これにより、作動チャンバからリザーバにせん断流体を移動させるためのパッシブな圧送動作を提供する。粘性クラッチポンプ装置の一例は、本出願人に譲渡されたPCT国際特許出願公報WO2014/047430A1号に開示されている。
【0004】
粘性クラッチは、広い速度範囲にわたって出力トルクを制御することができるので望ましい。また、それらは、トルク伝達手段としてせん断流体を使用するために望ましい。せん断流体は長寿命であり、一般にメンテナンスフリーである。
【0005】
しかしながら、既知の粘性クラッチは、その設計および作動において多くの困難に直面している。例えば、粘性クラッチの使用で経験される1つの問題は、(「ファンのとどろき音(“fan boom”)」、「付随的な回転」、「連れ回り」などの他の用語によっても呼ばれる)いわゆる「始動時の不調(“morning sickness”)」である。モータの電源がオフになっているとき(例えば、夜間未使用の車両に取り付けられているとき)クラッチが休止していると、せん断流体は、リザーバから作動チャンバに移動することができる。作動チャンバへの流体移動の程度は、休止時のクラッチの回転方向によってしばしば変化する。ある回転方向では、クラッチ内のボアまたは他の通路がクラッチの下部またはその近くにあり、この場合、重力は、かなりの量のせん断流体を、これらのボアまたは他の通路を通って作動チャンバ内に押し込むことができる。モータの始動時、作動チャンバ内に移動したせん断流体が存在するため、クラッチへの回転入力はクラッチ出力の著しい程度の望ましくない係合を生じ得る。「始動時の不調(“morning sickness”)」によるこのような望ましくないクラッチ出力の係合は、例えば、望ましくないファンノイズ、寄生動力損失、および過剰なエンジン冷却を伴う(ファンクラッチ用途における)比較的高いファン速度出力を生成する可能性がある。「始動時の不調(“morning sickness”)」による作動チャンバ内のせん断流体は、一般に、作動期間の後に作動チャンバからリザーバに迅速に圧送されるが、この効果を低減するか、または「始動時の不調(“morning sickness”)」現象をほぼ完全に回避することが望ましい。
【0006】
さらに、実質的に0%から100%の係合(および関連する滑り速度の範囲)の間での粘性クラッチ係合の程度を変化させる応答時間は、望ましくない遅れおよびヒステリシス効果を受ける可能性がある。言い換えると、クラッチの出力速度を増減させることが望ましい場合があるが、一般に、粘性クラッチのある領域にかなりの量のせん断流体が存在し、当該せん断流体を別の場所に移送するのに必要な時間のために、このようなクラッチ出力速度の所望の変化を行う場合にはある程度の遅れが生じる。クラッチの係合を減少させる(またはクラッチを完全に係合解除する)ためのより長い応答時間は、せん断流体が作動チャンバ内に存在するか、または残っているときに起こり得て、それによって、望ましくないことに、係合を延長するか、またはある期間にわたって意図された係合よりも高い係合を生成する。クラッチの係合を増加させる(または、係合解除/オフ状態からクラッチを係合させる)ためのより長い応答時間は、せん断流体がリザーバ内に残っているか、または作動チャンバに到達するのにかなりの時間を要する場合に生じ得る。このような遅延は、粘性クラッチの応答時間を望ましくないほど長くする。
【0007】
ファンクラッチの主な目的は、ファンを作動させる必要がないときに、トルクを提供するパワートレインからファンを切り離すことである。クラッチの切断時間が長いと、ファンは不必要に動力を使用する。
【0008】
アクティブポンプ機構を備えた粘性クラッチが知られている。これらのクラッチは、クラッチ内で、またはクラッチ内外にせん断流体を移動させるための電動ポンプを含む。しかしながら、このようなアクティブポンプは複雑であり、専用の制御システムを必要とする。また、このようなアクティブポンプは、ポンプおよびモータの存在を必要としており、当該ポンプおよびモータはスペースを使い質量を付加するものであり、当該ポンプおよびモータの各々は、コンパクトで相対的な低質量アセンブリが有益である自動車用途などの多くの用途にとって望ましくない。さらに、アクティブポンピングシステムは、摩耗および故障の対象となる多くの可動部分を有する。これらの理由から、アクティブポンピングシステムは、全ての最先端の粘性クラッチに共通するアクティブ制御可能なバルブシステムとは異なり、粘性クラッチには一般に好まれない。
【0009】
これと若干にているが、アクティブまたは他の可動のワイパまたはせき止め構造体を有する粘性クラッチが知られている。これらのアクティブ構造体はワイパまたはせき止め要素を含み、当該ワイパまたはせき止め要素は、クラッチ構成要素に取付けられて当該クラッチ構成要素に対して物理的に移動するものであり、ある動作条件下でせん断流体を多かれ少なかれ送り出すために、典型的には、多かれ少なかれ作業チャンバ内に突出している。しかしながら、このような移動するせき止め要素は、複雑さと潜在的な故障とを追加する。実際、このようなシステムの多くは、異なる回転速度で動作する別の部品に接触しなければならない可動エレメントに依存しており、それによって、摩耗と摩擦を生じる物理的な接触点を引き起こし、これは熱と抗力を付加し、また、クラッチによるトルク伝達に寄与しない寄生損失を表す。更に、このような可動エレメントは、例えば、振動を受ける車両に利用され、可動エレメントの意図された位置決めを妨げる可能性のある車両経路内の障害物によって予測不可能な衝撃が引き起こされる場合、クラッチ動作中にいくぶん予測不可能に挙動する可能性がある。更に、このようなアクティブ/可動ワイパ又はせき止め要素は、不所望に、クラッチを製造するために必要なステップ数を増加させる。
【0010】
したがって、運転停止状態の間にリザーバ内にせん断流体を保持する能力に負の影響を与えることなく、異なる運転条件の範囲にわたってクラッチ応答性を改善するのを助けるために、粘性クラッチ用の代替ポンプおよびワイパアセンブリを提供することが望まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
一態様において、粘性クラッチは、回転軸の周りに回転可能な入力部材と、回転軸の周りに選択的に回転可能な出力部材と、入力部材および出力部材によって境界付けられた作動チャンバであって、作動チャンバ内に存在するせん断流体の体積に基づく流体摩擦力を介して入力部材と出力部材との間でトルクが選択的に伝達され得る作動チャンバと、せん断流体の供給を保持することができる内部容積を画定するリザーバと、リザーバ内に配置された円弧状壁と、リザーバを作動チャンバに流体的に接続する解放ボアと、作動チャンバに沿って配置されたポンプおよびワイパアセンブリと、を備え、ポンプおよびワイパアセンブリは、先行のポンプおよびワイパサブアセンブリと、後続のポンプおよびワイパサブアセンブリとを含む。円弧状壁は、閉鎖端および開放端を有するリザーバの第1の部分を規定し、かつ、壁円弧セグメントに亘って開放端と閉鎖端との間を円周方向に延びる。先行のポンプおよびワイパサブアセンブリは、先行のワイパ及び先行のポンプボアを含み、先行のポンプボアは作動チャンバをリザーバに流体的に接続し、先行のポンプボアは先行のワイパに隣接して配置されている。後続のポンプおよびワイパサブアセンブリは、後続のワイパおよび後続のポンプボアを含み、後続のポンプボアは作動チャンバをリザーバに流体的に接続し、後続のポンプボアは後続のワイパに隣接して配置されており、後続のポンプおよびワイパサブアセンブリは先行のポンプおよびワイパサブアセンブリよりも下流に配置されている。解放ボア、先行のポンプボア、および後続のポンプボアは、全て、円弧状壁の壁円弧セグメントより円周方向に小さいボア円弧セグメント内で、リザーバの第1の部分に流体的に直接接続されている。望まれるのであれば、1つまたは複数の中間のポンプおよびワイパサブアセンブリが追加的に設けられてもよい。
【0012】
別の態様では、作動チャンバおよびリザーバを有する粘性クラッチを使用する方法が提供され、この場合、作動チャンバ内に存在するせん断流体の体積を変化させることによって、粘性クラッチの出力滑り速度が制御可能である。当該方法は、壁を用いてリザーバの残りの部分からリザーバの第1の部分を部分的に遮蔽するステップと、リザーバの第1の部分に流体的に直接接続される解放ボアを通して、リザーバから作動チャンバへのせん断流体の流れを選択的に制御するステップと、先行のワイパおよびこれに関連する先行のポンプボアを用いて作動チャンバからリザーバにせん断流体を圧送するステップと、後続のワイパおよびこれに関連する後続のポンプボアを用いて作動チャンバからリザーバにせん断流体を圧送するステップと、を含む。先行のポンプボアはリザーバの第1の部分に流体的に直接接続しており、後続のポンプボアはリザーバの第1の部分に流体的に直接接続している。
【0013】
別の態様では、粘性クラッチは、回転軸の周りに回転可能な入力部材と、回転軸の周りに選択的に回転可能な出力部材と、入力部材と出力部材とによって境界付けられた作動チャンバであって、作動チャンバ内に存在するせん断流体の体積に基づく流体摩擦力を介して入力部材と出力部材との間でトルクを選択的に伝達することができる作動チャンバと、せん断流体の供給を保持することができる内部容積を画定するリザーバと、リザーバを作動チャンバに流体的に接続する解放ボアと、作動チャンバ内に延びる先行のワイパと、先行のワイパに隣接して配置された先行のポンプボアであって、作動チャンバをリザーバに流体的に接続する先行のポンプボアと、作動チャンバ内に延びる後続のワイパであって、軸方向において先行のワイパの幅よりも大きい幅を有する後続のワイパと、後続のワイパに隣接し、先行のポンプボアの下流に配置され、作動チャンバをリザーバに流体的に接続する後続のポンプボアと、を備える。
【0014】
別の態様では、粘性クラッチのためのロータアセンブリは、外径面を有するロータディスクと、ロータディスクによって担持されたリザーバであって、ロータディスクの外径面から半径方向内側に位置するリザーバと、ロータディスクの外径面から半径方向に突出する先行のワイパと、先行のワイパに隣接して位置決めされた先行のポンプボアであって、ロータディスクの外径面からリザーバに延在する先行のポンプボアと、ロータディスクの前記外径面から半径方向に突出する後続のワイパと、後続のワイパに隣接しかつ先行のポンプボアの下流に位置決めされた後続のポンプボアであって、ロータディスクの外径面からリザーバに延在する後続のポンプボアと、を備える。後続のワイパは、軸方向において先行のワイパの幅よりも大きな幅を有する。
【0015】
さらに別の態様では、粘性クラッチを使用する方法が提供される。粘性クラッチは、作動チャンバ、リザーバ、およびロータディスクを有し、作動チャンバ内に存在するせん断流体の体積を変化させることによって粘性クラッチの出力滑り速度が制御可能である。当該方法は、リザーバの第1の部分に流体的に直接接続された解放ボアを通して、リザーバから作動チャンバにせん断流体を搬送するステップと、先行のワイパおよびこれに関連する先行のポンプボアを用いて作動チャンバからリザーバにせん断流体を圧送するステップと、ロータディスクから半径方向外側の位置で、先行ワイパによってせん断流体の体積を周方向に通過させるステップと、後続ワイパおよびこれに関連する後続ポンプボアを用いて作動チャンバからリザーバにせん断流体を圧送するステップと、を備える。先行ワイパの近傍を通過したせん断流体の体積の少なくとも一部は、後続のポンプボアに流入する。
【0016】
本発明の概要は、例示としてのみ提供されるものであり、限定するものとして提供されるものではない。本発明の他の態様は、本文全体、特許請求の範囲、および添付の図面を含む、本開示の全体を考慮して理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、粘性クラッチの一実施形態の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の粘性クラッチのロータ、リザーバ、ポンプおよびワイパアセンブリの後方斜視図であり、分離して示されている。
【
図3】
図3は、バルブの一部が示されている
図1および
図2のロータの前方斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1~
図3のロータ、ポンプ及びワイパアセンブリの一部の平面図である。
【
図5】
図5は、粘性クラッチの別の実施形態の断面図である。
【
図6A】
図6Aは、
図5の粘性クラッチのロータ、リザーバ、ポンプおよびワイパアセンブリの後方斜視図であり、分離して示されている。
【
図8】
図8は、シングルタイプのポンプ及びワイパアセンブリ、並びにデュアルタイプのポンプおよびワイパアセンブリに関する速度およびデューティサイクルの両方に対する粘性クラッチ係合のプロットを示すグラフである。
【
図9】
図9は、粘性クラッチのさらに別の実施形態の断面図である。
【
図10】
図10は、
図9の粘性クラッチのロータ、リザーバ、ポンプおよびワイパアセンブリの後方斜視図であり、分離して示されている。
【0018】
上述した図は本発明の1つまたは複数の実施形態を記載しているが、他の実施形態を含むことも意図されている。全ての場合において、本開示は、本発明の代表例を示すものであり、本発明を限定するものではない。当業者であれば、本発明の原理の範囲および精神に含まれる多数の他の修正および実施形態に想到できることを理解されたい。図面は一定の縮尺で描かれておらず、本発明の用途および実施形態は図面に具体的に示されていない特徴、ステップ、および/または構成要素を含むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
一般に、本発明の実施形態は、ポンプおよびワイパアセンブリ、並びに、当該ポンプおよびワイパアセンブリを組み込んだ粘性クラッチを提供し、当該粘性クラッチは、異なるクラッチ入力速度および異なる粘性クラッチ係合度に亘って、改善された粘性クラッチ応答時間を容易にする。これに関連して、ポンプおよびワイパアセンブリ、並びに、当該ポンプおよびワイパアセンブリを組み込んだ粘性クラッチを製造する方法、および使用する方法も開示される。いくつかの実施形態では、マルチポンプおよびワイパ構成体が提供され、これは、一方向への動作中に流体を同時に圧送できる一連の個々のポンプおよびワイパサブアセンブリを備える。個々のポンプおよびワイパサブアセンブリは、いくつかの実施形態において、上流および下流のサブアセンブリに関し、異なるサイズおよび形状など異なる構成を有することができる。本発明の実施形態は、一方向動作中に異なるレベルの圧送を提供することができ、これは、停止時にクラッチのリザーバ内にせん断流体を捕捉する能力を著しく制限することなく、異なるクラッチ係合条件下で異なる圧送効率を有益に生成する。換言すれば、圧送速度は、リザーバ流体保持特徴に影響を与えることなく、クラッチ係合の程度に関して非直線的に変化し得る。例えば、本発明の実施形態は、クラッチ入力側及び出力側の間での小さな速度差の状態でより効果的な圧送を提供し、クラッチ入力側及び出力側の間での大きな速度差の状態でより効果的でない圧送を提供する。本発明の実施形態はさらに逆流防止機構の使用を可能にし、これにより、「始動時の不調(“morning sickness”)」として知られる始動時に望ましくない係合を引き起こす、リザーバから作業チャンバへのせん断流体の流れが制限され、そして、ポンプおよびワイパアセンブリの開示される実施形態は、このような逆流防止機構に影響を与えない。例えば、壁部円弧セグメントにわたって円周方向に延在するリザーバの内面に逆流防止壁部を有する実施態様において、ポンプおよびワイパアセンブリのすべてのボア、ならびにすべてのリリースボアは、出口または入口を有することができ、これらの出口または入口はボア円弧セグメント内のリザーバに流体的に直接接続しており、当該ボア円弧セグメントは、逆流防止壁部の円弧セグメントよりも小さく、かつそのような逆流防止壁部の自由端から円周方向に離間され得る。本発明の実施形態はさらに、摩耗、故障、または誤作動を起こしやすいアクティブ制御または複雑な可動機構を必要とせずに、実質的にパッシブなせん断流体戻り圧送を達成することを可能にする。すなわち、ワイパおよびポンプボアは、入力または出力部材に対して固定および/または非可動であり得て、クラッチ動作中、ワイパおよびポンプボアは入力または出力部材に配置されている。多数の他の特徴および利点は、添付の図面を含む本開示の全体を考慮して、当業者によって理解される。
【0020】
図1は粘性クラッチ(または駆動装置)20の一実施形態の断面図であり、
図2~
図4は、
図1の粘性クラッチ20の特定の構成要素の一実施形態の様々な分離図である。図示の実施形態では、ロータ22は、クラッチ20に入力されたトルクを受け入れる「活」入力軸24に取り付けられ又は相対回転不能に固定されており、これにより、入力軸24に入力されたトルクがあればいつでもロータ22が回転するようになっている。入力軸24はクラッチ20の回転軸Aを規定する。入力軸24は、原動機(例えば内燃機関)からのトルク入力を受け取るために、駆動軸、滑車又はプーリ等(図示せず)に接続することができる。ロータ22は、図示された実施形態においてロータディスクとして構成されている。ハウジング26は、ロータ22に隣接して配置され、当該ロータ22を取り囲んでおり、ハウジング26は、クラッチ20の流体摩擦係合の程度に応じて、ロータ22に対して所与の滑り速度で選択的に回転可能である。図示のように、ハウジング26は、ベース及び当該ベースに固定されたカバー部分を含む多部品構造を有し、ハウジング26(例えば、ハウジング26のベース)は、ベアリング28で入力軸24に回転可能に支持されている。作動チャンバ(またはせん断領域)30は、ロータ22とハウジング26とによってこれらの間に画定され、これにより、作動チャンバ30内のせん断流体(例えば、シリコーンオイル)は、粘性せん断継手を介してトルクを伝達するために、ロータ22およびハウジング26の両方と摩擦接触することが可能になる。作動チャンバ30内に存在するせん断流体との摩擦接触に利用可能な全表面積を増加させるために、ロータ22及びハウジング26に、点在するリブ及び溝を設けることができる。更に、軸方向に延びる開口がロータ22を貫通して設けられており、これにより、作動チャンバ30内に存在するせん断流体を、ロータ22において反対側に位置する前側と後側との間で移動させることができる。クラッチ20の係合度、従ってクラッチ20の出力の滑り速度は、作動チャンバ30内に存在するせん断流体の体積量を調節することによって制御することができる。このようにして、クラッチ20の動作中、ハウジング26の回転速度を選択的に制御することができる。例えばファン、滑車(またはプーリ)、スプロケットなどの出力装置(図示せず)がハウジング26に取り付けられており、これにより、クラッチ20のトルク出力を受け入れることができる。
【0021】
ロータ22によってリザーバ32が担持されており、これにより、使用しないときにせん断流体の供給が保持される。図示の実施形態では、リザーバ32は、作動チャンバ30からほぼ半径方向内側に配置されている。さらに、図示の実施形態では、リザーバ32は、ロータ22に取り付けられた別個の構造であるリザーバプレート32-P(リザーバプレート32-Pはリザーバ32の内部貯蔵体積を明らかにするために、
図2では省略されている)とともに、ロータ22と一体的かつモノリシックに形成された(例えば鋳造された)構造体によって部分的に形成される境界によって内部貯蔵体積を規定する。例えば、
図1に示すように、内径境界32-ID、外径境界32-OD、およびリザーバ32の軸方向前方境界32-Fは、ロータ22と一体となった材料から成る壁またはウェブによって設けられており、その一方で、リザーバ32の軸方向後方境界はリザーバプレート32-Pによって設けられている。リザーバ32はロータ22に対して相対回転不能に固定されており、これにより、クラッチ20にトルクが入力されると、いつでもリザーバ32が回転するようになっている。クラッチ20の入力部分にリザーバ32を担持させることにより、クラッチ20にトルク入力があるときはいつでも、リザーバ32に貯蔵されたせん断流体に運動エネルギーが与えられ、これにより、利用可能な運動エネルギーを利用することによって、リザーバ32から作動チャンバ30にせん断流体を比較的迅速に移動させ、クラッチの係合度を増加させるための比較的迅速な応答時間が容易になる。代替の実施形態では、リザーバ32は、入力軸24またはロータ22に取り付けられた別個の構造とすることができ、これにより、リザーバ32は構造的にロータ22とは異なる境界を有するが、依然として、クラッチ20に入力されるトルクで回転する。更なる実施形態において、リザーバ32は、ハウジング26によって坦持され、またはハウジング26の内部に統合することもでき、この場合、ハウジング26がクラッチ入力として機能し、ロータ22がクラッチ出力として機能する。
【0022】
リザーバ32はさらに、円弧状壁34を含んでおり、当該壁34は、逆流防止流体保持機能として作用し、クラッチ停止状態の間にリザーバ32内に含まれるせん断流体の一部が漏洩(および作動チャンバ30内への移動)するのを防止するのに役立ち、これにより、いわゆる「始動時の不調(“morning sickness”)」の問題が軽減され、始動時にクラッチ20が比較的迅速に係合解除するのを助ける。図示の実施形態では、円弧状壁34は、前方境界23-Fからリザーバプレート32-Pによって形成された後方境界まで、リザーバ32全体にわたって軸方向に延在し、ほぼ180°の円弧セグメントαに沿って円周方向に延在する。いくつかの実施態様において、円弧状壁34は、150°、120°、90°、60°、45°又は30°のような180°未満の円弧セグメントα′にわたって円周方向に延びることができる。さらに、円弧状壁34は、リザーバ32の内部貯蔵体積の半径方向中間部分に配置されており、当該円弧状壁34は、内径境界32-IDと外径境界32-ODとの間に、外径境界32-ODに実質的に半径方向に延びる端部壁34-1を備える。円弧状壁34は、端部壁34-1の反対に位置する自由端34-2を有する。端部壁34-aは、実質的に円弧状壁34において閉鎖端を形成することができ、自由端34-2は、以下にさらに説明するように、実質的に、閉鎖端の反対に位置する円弧状壁34における開放端を形成することができる。さらに、図示の実施形態では円弧状壁34は、端部壁34-1の近くに湾曲部又は段差部を有し、代替の実施形態では他の形状を有することができる。代替実施形態では、本出願人に譲渡されたPCT国際特許出願公報WO2017/096202A1号に開示された流体捕捉システムの実施形態に関する1つまたは複数の壁など、他のタイプの逆流防止機構および/または流体捕捉機構をリザーバ32内に設けることができる。
【0023】
また、クラッチ20には、解放(又は出口)ボア36(
図1には示されていない)と、ポンプ及びワイパアセンブリ38とが設けられており、解放(又は出口)ボア36は、リザーバ32から作動チャンバ30へせん断流体を分配するためのものであり、ポンプ及びワイパアセンブリ38は、少なくとも1つのワイパ(バッフル又はせき止め要素とも呼ばれる)40と、作動チャンバ30からリザーバ32へせん断流体を圧送して戻すための少なくとも1つのポンプボア(リターンボア又はスカベンジボアとも呼ばれる)42とを含む。解放ボア36及びポンプボア42は、作動チャンバ30とリザーバ32とを連結する流体回路を形成する。ポンプ及びワイパアセンブリ38は、図示の実施形態では、ロータ22におけるほぼ外径部分においてロータ22に担持されている。クラッチ20の作動中、入力及び出力部材として機能するロータ22とハウジング26との間の相対運動、又はそれらの間の「スリップ」は、ポンプ及びワイパアセンブリ38に実質的にパッシブな圧送作用を与え、これにより、せん断流体を作動チャンバ30からポンプボア42を通ってリザーバ32へ移動させる。一般に、ポンプおよびワイパアセンブリ38の少なくとも1つのワイパ40が、作動チャンバ30内に存在するせん断流体に遭遇すると、せん断流体は局所的に加圧され、それによって、少なくとも1つの対応するポンプボア42に押し込まれて、それを通過する。そのような圧送動作は、せん断流体に作用する遠心力、摩擦力、および/または他の力に抗して、せん断流体が作動チャンバ30からリザーバに圧送されることを可能にする。しかしながら、ロータ22とハウジング26(又はポンプ及びワイパアセンブリ38を支持し得る他の入力及び出力部材)との間の相対運動又は「スリップ」は別として、ポンプ及びワイパアセンブリ38は可動部品を有しておらず、従ってパッシブに動作する。このようにして、クラッチ20が使用されているときに、せん断流体は、作動チャンバ30からリザーバ32に戻って実質的に連続的に圧送されるが、以下にさらに説明するように、圧送の速度はある範囲の作動条件にわたって変化してもよい。
【0024】
円弧状壁34およびその端部壁34-1は、ボア36および42に対してリザーバ32内に部分的な障壁を形成する。すなわち、円弧状壁34は、リザーバ32を流体回路に沿って作動チャンバ30に接続するボア36および42に隣接して配置され、それによって、ボア36および42に直接流体的に接続されているリザーバ32の第1の部分32-1を、リザーバ32の残りの部分32-2から分離する。リザーバ32の第1の部分32-1は、円弧形状を有することができ、すなわち、円弧が360°未満の角度を有する環状セグメントとして構成することができ、一方、リザーバ32の残りの部分32-2は、円環状、円形等の形状を有することができる。さらに、円弧状壁34によって形成されたリザーバ32の第1の部分32-1は、端部壁34-1における閉鎖端および自由端34-2における開放端を有することができ、これにより、ボア36および42を介してリザーバ32に流入するまたはそこから流出する流体は、制御され、計量され、および/または円弧状壁34によって部分的にシールドされるようになる。図示の実施形態では、リザーバ32の第1の部分32-1は、リザーバ32の半径方向外側に位置し、円弧状壁34の略半径方向外側に位置する。いくつかの実施形態では、リザーバ32の残りの部分32-2の少なくとも一部は、回転軸Aの周りに完全に延在しており、すなわち、その残りの部分32-2に含まれる貯蔵せん断流体は、リザーバ32内で回転軸Aの周りに360°全体に流れることを可能にする。
【0025】
図2~
図4に示す実施形態では、単一のポンプボア42に、またはそれに隣接して位置する単一のワイパ40が示されており、当該ポンプボア42への入口はワイパにおける凹部44内に少なくとも部分的に位置する。図示の実施形態では、ワイパ40は、ロータ22の外径面22-ODから半径方向外側に突出しており、ロータ22の外径面22-ODの幅に等しい幅を有する略矩形の(ロータ22の曲率に合致するように湾曲している)外周と、半径方向外側を向いているポンプボア42への入口と、を含む。示されるように、凹部44は三角形状であり、各々が(例えば、接線方向に)ポンプボア42への略円形の入口開口部に延在する2つの平面境界セグメントによって形成されるが、さらなる実施形態では代替の構成が可能である。図示の実施形態では、凹部44はワイパ40よりも浅い深さを有しており、すなわち、突出した段差又はプラットフォーム43が、半径方向において、凹部44によって形成されている。凹部44およびプラットフォーム43は、ワイパ40の上流側に位置し、ワイパ40に直接隣接している。さらなる実施形態では、凹部44は、ポンプボア42への入口または当該入口に隣接して湾曲した形状を有するなど、他の構成を有することができる。ポンプボア42は半径方向に延びており、次いで、ロータ22の略外径部分を通って軸方向に延び、そして、軸方向に面し且つリザーバ32内に開口するポンプボア42からの出口で終端するが、ポンプボア42の形状および経路はさらなる実施形態で望まれるように変化し得る。ポンプボア42又は少なくともその出口は、円弧状壁34の解放ボア36と自由端34-2との間、並びに端部壁34-1と円弧状壁34の自由端34-2との間に円周方向に配置される。ボア36および42の少なくともそれぞれの入口および出口は、回転軸Aに対して円周方向ボア円弧セグメントθに位置する。さらに、図示の実施形態では、ポンプボア42は、解放ボア36から略15°だけ円周方向に離間し、円弧状壁34の自由端34-2は、解放ボア36から略175°且つポンプボア42から略160°延在しし、一方、端部壁34-1は、解放ボア36から円周方向の反対側に略8~10°に位置する。
【0026】
バルブ46(例えば、電磁的に作動されるバルブ)もクラッチ20内に設けられており、これにより、リザーバ32と作動チャンバ30との間で、流体回路に沿ってせん断流体の流れを調節する。クラッチ20は「フェールセーフ」または「フェールオン」構成を有することができ、これは、(例えば、流体が解放ボア36を通ってリザーバ32から流出することを可能にするために)バルブ46が初期設定によって開放方向に付勢されていることを意味し、例えば、電磁石コイル48に電力が印加されると、バルブ46は解放ボア36を覆うことによって閉じられ、せん断流体はリザーバ32内に捕捉される(すなわち、保持される)。電力が失われた場合、または電源を切った場合には、バルブ46は初期設定で開放位置になる。さらなる実施形態では、1つまたは複数の始動時の不調防止バルブ(図示せず)をさらに利用して、遮断状態の間、リザーバ32から流出するのせん断流体の移動を低減または排除することができ、例えば、本出願人に譲渡されたPCT国際特許出願公報WO2017/062330A1号に開示された逆止弁および/またはバルブが挙げられる。例えば、クラッチ20の作動の一次制御に利用されるバルブ46の使用に加えて、更に、始動時の不調防止バルブ又は逆止弁をボア36及び42のいずれか又は全てに使用することができる。図示の実施形態では、ポンプボア42に関連するバルブは存在せず、全てのクラッチ動作条件下で常に開口いている。さらに、解放ボア36およびポンプボア42は、一方向にのみ流体を流すために、クラッチがアクティブに作動している間で使用することができ、それにより、せん断流体はリザーバ32から作動チャンバ30への方向にのみ解放ボア36を通過し、せん断流体は作動チャンバ30からリザーバ32への方向にのみ、戻りボア42を通過するようになる。
【0027】
粘性クラッチ20の圧送能力を増加させるために、1つまたは複数の追加的で他と区別され得るポンプアセンブリおよびワイパアセンブリを追加することができる。従来技術では、複数の追加のポンプおよびワイパアセンブリは、同一で、等しく円周方向に間隔を空けて配置されていた。2つのポンプおよびワイパアセンブリの場合、それらは180°離れて配置され、3つの場合、それらは120°離れて配置される。例えば、本出願人に譲渡された米国特許第7,854,307を参照すると、出力ハウジングに2つのポンプボアが180°離れて設けられている。しかしながら、そのような等間隔で第2または第3のポンプおよびワイパアセンブリを追加すると、別のボア(具体的には別のポンプボア)がリザーバ32内で円弧状壁34の壁円弧セグメントαの外側に配置され、これにより、ボア36および42のすべてに直接流体的に接続されたリザーバ32の第1の部分32-1が遮蔽されず、且つ、リザーバ32の残りの部分32-2内にせん断流体のかなりの部分が保持されないことから、その円弧状壁34による、逆流防止機能および始動時の不調防止機能が概して無効になる。この点に関して、複数のポンプ及びワイパアセンブリを備えた従来技術の粘性クラッチは、リザーバ内にどのようにして逆流防止又は始動時の不調防止壁部を一体化するかを教示しておらず、実際にはこのような逆流防止又は始動時の不調防止機能の動作を妨げることになる。
【0028】
前述したように、パッシブポンプおよびワイパアセンブリによる圧送速度は一般に、粘性クラッチ20の作動条件にわたって変化する。ワイパ40によってポンプボア42への入口に蓄積される圧力は、ロータ22およびハウジング26の相対速度に比例し、すなわち、クラッチ20の入力(例えば、ロータ22)と出力(例えば、ハウジング26)との間の速度差に比例する。クラッチ20が完全に(100%)係合されているとき、相対速度は非常に小さく(すなわち、速度差は小さく)、通常、5~10%程度であり、これは入力が出力より5~10%速く回転していることを意味する。完全に係合された状態では、速度差が小さいため、ポンプおよびワイパアセンブリ38は、せん断流体をリザーバ32にゆっくり戻すように圧送し、係合解除にはかなり長い時間がかかることがあり、その結果、クラッチ応答時間は比較的遅くなる。この場合、第2または第3のポンプは、係合解除を著しく速めることができる。しかし、クラッチ20が係合しているとき、特に完全に係合解除された状態から係合しているときには、圧送が多すぎることが問題となり得る。この状態の間、クラッチ20は、係合解除状態から係合状態(またはより少ない係合状態からより多い係合状態)になる。クラッチの係合を増大させるために、バルブ46が開かれ、せん断流体は、リザーバ32からクラッチ20の作動チャンバ30内に移動することが可能となる。作動チャンバ内のせん断流体のずれにより流体摩擦が生じ、その結果、入力部と出力部(例えば、ロータ22およびハウジング26)との間でトルクが伝達される。ポンピング作用がこの状態であまりにも効果的である場合、すなわち圧送速度が高すぎる場合、せん断流体は、当該せん断流体がリザーバ32から作業チャンバ30に流出するよりも速く、作業チャンバ30からリザーバ32に戻るように圧送されることができ、クラッチ20は意図されたように係合することができず、実際の係合状態は少なくともある期間にわたって、所望されるよりも低くなり得る。これらの理由から、一定範囲の入出力速度差に関連して非線形の圧送速度を提供することができるが、アクティブまたは可動ポンプ装置の欠点および不利益を回避する純粋にパッシブなポンプおよびワイパアセンブリの利点を保持し得るクラッチの実施形態を提供することが望まれる。
【0029】
図5は粘性クラッチ(または駆動装置)120の別の実施形態の断面図であり、
図6A、6B、および7は、
図5の粘性クラッチ120の特定の構成要素のさまざまに分離して示す図である。より具体的には
図6A、6Bおよび7は、クラッチ120のロータ22の別の実施形態を示しており、ロータ22はポンプおよびワイパアセンブリ138を有し、当該ポンプおよびワイパアセンブリ138は、所定のクラッチ作動状態の間、対応するポンプボアを通してせん断流体を同時に圧送することができる複数のワイパおよびポンプボアサブアセンブリ138Aおよび138Bを含む。
図5に示されるクラッチ120の多くの構成要素(例えば、ロータ22、入力軸24、ハウジング26、作動チャンバ30、リザーバ32、円弧状壁34、解放ボア36、およびバルブ46)は、
図1(および
図2~4)のクラッチ20に関連して上述されたものと類似または同一であってもよく、または別の実施形態では特定の用途に対して所望されるように他の構成を有することができる。
【0030】
図5~
図7に図示された実施形態に示すように、ロータ22の外径面22-ODの円周に対して直列に配置された2つのサブアセンブリ138A及び138Bが設けられている。最初のまたは先行するサブアセンブリ138Aは、当該サブアセンブリ138Aに対して下流側に配置される後続または一続きのサブアセンブリ138Bに対して上流に配置され、サブアセンブリ138Aおよび138Bのそれぞれは、クラッチ120が同じ回転方向にトルク入力を有するときに、せん断流体をリザーバ32に圧送する動作をするように配置されており、これにより、せん断流体は、(一方向動作のための一連の流体流れにおいて)同じ円周側からサブアセンブリ138Aおよび138Bのすべてに遭遇する。サブアセンブリ138Aおよび138Bの全てを含むポンプおよびワイパアセンブリ138は、解放ボア36から円周方向の下流に位置する。本使用法では、上流とは、ロータ22の回転およびせん断流体のずれのために、作動チャンバ30内の所定の位置でせん断流体に早く遭遇する傾向のあるロータ22の外径の部分を指す。図示の実施例では、
図6A、6B、及び7に示すようなロータ22は、運転中、矢印Rで表される反時計回りに回転し、これにより、サブアセンブリ138Aがサブアセンブリ138Bに対して上流になる。さらに、図示の実施形態では、サブアセンブリ138Aおよび138Bの各々は、ロータ22から(例えば、ロータ22の外径面22-ODから半径方向外側に)突出するワイパ140Aまたは140Bと、リザーバ32と流体連通する関連するポンプボア142Aまたは142Bとを含む。図示の実施形態では、ポンプボア142Aおよび142Bはそれぞれ、それぞれのワイパ140Aおよび140Bの上流側に配置されており、すなわち、ポンプボア142Aおよび142Bはそれぞれ、対応するワイパ140Aおよび140Bの同じ円周側に配置される。さらに、サブアセンブリ138Aおよび138Bはそれぞれ、対応するワイパ140Aまたは140Bにおいて、前部プラットフォーム143Aまたは143Bと、凹部144Aまたは144Bとを含むことができる。ポンプボア142Aおよび142Bはそれぞれ、それぞれのワイパ140Aまたは140B内の凹部144Aまたは144Bに位置することができ、前部プラットフォーム143Aおよび143Bはそれぞれ、それぞれのポンプボア142Aまたは142Bの上流に延在することができ、それぞれの凹部144Aまたは144B内に少なくとも部分的(または全体的)に位置することができる。代わりに、プラットフォーム143Aまたは143B、および/または凹部144Aまたは144Bを完全に省略する実施形態において、ポンプボア142Aおよび/または142Bは、それぞれのワイパ140Aおよび/または140Bと隣接し、その上流に位置する入口を備えることができる。前部プラットフォーム143A及び143Bは、ワイパ140A及び140Bよりも少ない量だけロータ22の外径面22-ODから半径方向に突出することができ、したがって、流体加圧によってせん断流体を圧送するが、それでもポンプボア142A及び142B内への流体の流れを許容する。図示の実施形態では、凹部144Aおよび144Bはそれぞれ、先に開示した実施形態の凹部44と同様に、ほぼ三角形の形状を有し、ワイパ140Aおよび140Bの上流側でそれぞれのワイパ140Aおよび140Bに直接隣接する。しかし、以下でさらに議論するように、先行するポンプおよびワイパサブアセンブリ138Aは、後続のポンプおよびワイパサブアセンブリ138Bとは異なる構成を有することができる。作動中、クラッチ120の入力(例えば、ロータ22)と出力(例えば、ハウジング26)との間の速度差に起因して、それぞれのワイパ140A及び140Bによって、ポンプボア142A及び142Bへの入口で受動的に、圧力を構築することができる。
【0031】
最初の又は先行のサブアセンブリワイパ140Aは、ロータ22の外径面22-ODの軸方向幅WODよりも小さく、及び/又は後続のワイパ140Bの軸方向幅WB1よりも小さい軸方向幅WA1を有することができ、これにより、いくらかのせん断流体が、ポンプ及びワイパサブアセンブリ138Aを迂回し、後続のサブアセンブリ138Bに向かって下流に通過して後続のポンプ孔142Bに供給することが可能になる。幾つかの実施形態では、ワイパ140Aは、追加的に又は代替的に、外径面22-ODの上方で後部ワイパ140Bよりも小さい半径方向高さを有することができるが、図示の実施形態ではワイパ140A及び140Bが実質的に同じ半径方向高さを有する。ワイパ140Aのサイズが小さいということは、最初の又は先行のワイパ140Aがロータ22の外径面22-ODに隣接する作動チャンバ30の関連する局所領域を完全には占有せず、むしろ、部分的に、作動チャンバ30のかなりの隣接領域がワイパ140Aによって妨害されないということを意味し、これにより、作動チャンバ30内に存在するせん断流体のいくらかの流れが、先行の又は最初のサブアセンブリ138Aを通過する(又は迂回する)ことが可能になる。次いで、先行のワイパ140Aの近くを通過したせん断流体の体積の少なくとも一部が、後続のポンプボア142Bに入ることができる。
【0032】
ワイパ140Aは、凹部144Aの三角形状を補完する山形状又は「V」形状を有することができる。さらなる実施形態では、ワイパ140Aは、湾曲した後縁形状および/または湾曲した凹部144Aを有することができ、または他の適切な形状を有することができる。プラットフォーム143Aは、凹部144A及びワイパ140Aから上流に、例えば、湾曲しているがほぼ矩形の周囲を有するように延在することができる。図示の実施形態では、ワイパ140Aの形状は、その後縁又は下流縁において、ワイパ140Aの後縁が軸方向前方及び後方の位置におけるよりも軸方向中央部(ポンプボア142Aの近く)においてより小さな距離だけワイパ140Bから円周方向に離間するように構成されており、これは下流のポンプボア142Bへのせん断流体の流れを容易にするのに役立つ。さらに、先行のサブアセンブリ138Aのワイパ140Aは、後続のサブアセンブリ138Bの凹部144Bの形状を補完する後縁形状を有することができる。
【0033】
後続のサブアセンブリワイパ140Bは、凹部144Bがその中に延びるほぼ矩形のプリズム形状(外径面22-ODの曲率に適合するように湾曲した)を有することができる。後続のワイパ140Bは、先行のワイパ140Aの軸方向幅WA1よりも大きい軸方向幅WB1を有しており、図示された実施形態では、ロータ22の外径面22-ODの軸方向幅WODと実質的に等しく、これにより、幾らかのせん断流体は、ポンプおよびワイパサブアセンブリ138Aをバイパスし、後続のサブアセンブリ138Bに向かって下流に通過することができる。幾つかの実施形態では、後続のワイパ140Bは、追加的に又は代替的に、外径面22-ODの上方において先行のワイパ140Aよりも大きい半径方向高さを有することができるが、図示の実施形態ではワイパ140A及び140Bは実質的に同じ半径方向高さを有する。後続のワイパ140Bは、ロータ22の外径面22-ODに隣接する作動チャンバ30の関連する局所領域を実質的に完全に占有するようなサイズにすることができ、これにより、後続のポンプ及びワイパサブアセンブリ138Bに遭遇する外径面22-ODの外側に向かう作動チャンバ30内のせん断流体の全て又はほぼ全てが、ポンプボア142B内に圧送される。図示された実施形態のプラットフォーム143Bは、凹部144B及びワイパ140Bから上流に延在しておらず、代わりに、凹部144B内に収容され、ワイパ140Bの最上流部分と整列した前縁を有する。
【0034】
すでに述べたように、最初のサブアセンブリ138Aのワイパ140Aは、ロータ22の外径面22-ODの幅WODよりも狭い幅WA1を有する(また、後続のサブアセンブリワイパ140Bの幅WB1よりも狭くすることもできる)。この構成により、作動チャンバ30内に存在するせん断流体の一部が、最初のサブアセンブリワイパ140A(およびポンプボア142A)を通過して流れ、クラッチ120の作動中に後続のサブアセンブリ138Bのポンプボア142Bに流入することができる。さらに、サブアセンブリ138Aおよび138Bのポンプボア142Aおよび142Bは、異なるサイズを有し得る。例えば、先行のポンプボア142A(例えば、直径2.25mm)は、後続のポンプボア142B(例えば、直径3mm)よりも小さくすることができる。1つの非限定的な実施例として、先行するポンプボア142Aの直径は、後続のポンプボア142Bの直径の75%であってもよい。このような構成は、最初のサブアセンブリ138Aによる圧送を、特に高い速度差において、後続のサブアセンブリ138Bによる圧送よりも効果的でないものにする。いくつかの実施形態では、ボア142Aおよび142Bの直径は、それぞれの入口と出口との間でそれぞれ実質的に一定とすることができるが、他の実施形態では変更してもよく、この場合、ボア直径はそれぞれの最も狭い直径で比較することができる。複数のポンプおよびワイパサブアセンブリ138Aおよび138Bは、ポンプおよびワイパアセンブリ138全体が、ロータ22とハウジング26との間の小さな速度差(例えば、完全なクラッチ係合またはほぼ完全なクラッチ係合)の状態において比較的効果的であり、且つ、大きな速度差(例えば、係合解除/オフ状態またはその付近)の場合に比較的効果的でない状況を作り出す。このように、ポンプおよびワイパアセンブリ138の圧送速度は、可変のクラッチ入力速度に関連して一定の割合ではない。クラッチ入力とクラッチ出力との間の速度差が例えば50%を超えるような比較的高い場合よりも、ロータ22とハウジング26との間(又はより一般的にはクラッチ入力とクラッチ出力との間)の速度差が例えば10%以下のような比較的低い場合に、ポンプ及びワイパアセンブリ138による作動チャンバ30からリザーバ32への圧送の合計速度がより大きい。
【0035】
2つのポンプボア142Aおよび142Bの出口は円周方向に、互いに非常に接近しているため(例えば、クラッチ120の回転軸Aに対して、約45°、約25°、約15°、約10°、約5°、または5°未満)、クラッチ120が停止されるときに、円弧状壁34を用いたリザーバ32内のせん断流体の捕捉に関する影響は実施的には存在しない。円弧状壁34は、ポンプボア140Aと140Bとの間の間隔である周方向にさらに著しく延在する。さらに、図示された実施形態では、リザーバ32に直接流体的に接続するボア36、140A、および140Bのすべての少なくともそれぞれの入口または出口は、円弧状壁34の壁円弧セグメントαと円周方向に重なり、その中に配置され、ボア36、140A、および140Bのすべては、円弧状壁34と円周方向に重なり、端部壁34-1(およびリザーバ32の第1の部分32-1の閉鎖端)と自由端34-2(およびリザーバ32の第1の部分32-1の開放端)との間に円周方向に位置する。ボア36、140A、および140Bのすべては、回転軸Aに対して円周ボア円弧セグメントθ1を合計として画定しており、これにより、少なくともいくつかの実施形態では、ボア円弧セグメントθ1の外側には、リザーバ32を作動チャンバ30に接続するボアが存在しない。図示された実施形態では、ポンプボア142A及び142Bは、ロータ22の外径円周部分から5~10°の距離にあり、一方で、円弧状壁34は、端部壁34-2と自由端34-2の間を約180°に亘り延在する円弧セグメントαを規定し、解放ボア36から約175°、後続のポンプボン142Bから約150~155°延在しており、端部壁34-1は解放ボア36から円周方向で逆側に約8~10°に位置する。様々な例示的な実施形態では、ボア36、140A、および140Bのすべてによって占有される円周ボア円弧セグメントθ1は、円弧状壁34の壁部円弧セグメントαの75%未満、66%未満、50%未満、33%未満、25%未満、または15%未満とすることができる。様々な他の例示的な実施形態では、ボア36、140A、および140Bのすべてによって占有される円周壁円弧セグメントθ1は、回転軸Aに対して45°以下、30°以下、または20°以下とすることができる。さらに、ボア36、140A、および140Bのすべてによって占有される円弧セグメントθ1は、例えば端部壁34-1に近づけることなどによって、円弧状壁34の自由端34-2から円周方向に間隔を置いて配置することができる。
【0036】
一般に、ポンプおよびワイパサブアセンブリ138Aおよび138Bの個々の構成要素の特定のサイズおよび形状は、期待される動作条件にわたって所望の圧送速度を提供するために、特定の用途のために必要に応じて修正することができる。例えば、圧送速度は、予想されるクラッチ入力速度等に応じて、ポンプボアおよびワイパのサイズおよび形状を調整することによって、所望の動作特性に合わせることができる。
【0037】
図示の実施形態では、ポンプボア142Aまたは142Bのいずれにも関連するバルブは存在せず、これらはすべてのクラッチ動作条件下で常に開いている。しかし、バルブ46は、クラッチ120の滑り速度を出力するために、解放ボア36を選択的に覆い且つ解放(または閉鎖し、閉鎖解除)することができる。
【0038】
第2のポンプ及びワイパサブアセンブリ138Bの追加は、試験においてクラッチ120を切断する時間を短縮することが実証されている。
図8は、シングルタイプのポンプおよびワイパアセンブリ38、デュアルタイプのポンプおよびワイパアセンブリ138に関する、クラッチ係合と入力速度のプロットを示すグラフである。横軸は時間(分)を示す。左側の縦軸は毎分回転数(RPM)で表される速度を示し、一方、右側の縦軸は、バルブ46のパルス幅変調(PWN)デューティサイクルを示し、100%はバルブ46の全閉を示し、0%はバルブ46の全開状態を示す。結果が
図8にプロットされた試験では、先行するポンプボア142Aの直径が2.25mmで、後続のポンプボア142Bの直径が3mmである
図5~7に示す実施形態によるデュアルポンプおよびワイパアセンブリ138を有するクラッチ120が、直径813mmのHorton(登録商標)HS 11ファン(米国ミネソタ州ローズビル所在のHorton、Inc.から入手可能)を駆動するために構成された。基準クラッチ20は、単一の2.5mm直径のポンプボア42を有する
図1~4に示すようなシングルタイプのポンプおよびワイパアセンブリ38を有し、同じファンを駆動した。
図8は、入力速度I、バルブデューティサイクル信号V、クラッチ120の出力速度O120、およびクラッチ20の出力速度O20のプロットを含む。
【0039】
図8に示すように、クラッチ応答時間の性能差は、比較的低い入力速度Iで最も明らかであり、この場合、クラッチ20及び120は、入出力間(例えば、ロータ22とハウジング26との間)の利用可能な最少量の速度差を有する。入力速度Iが1000rpm(
図8の参考T1000参照)の場合、シングルタイプのポンプおよびワイパアセンブリ38を有する基準クラッチ20は、係合解除命令の時点から約5分後に切断され、一方、デュアルタイプのポンプおよびワイパアセンブリ138を有するクラッチ120は約3分後に切断され、これは基準クラッチ20が切断するのに約40%長くかかったことを意味する。これらの結果は、100%に切り替わるバルブデューティサイクル信号Vによって示されており、これは、バルブ46を閉じ、続いて、デュアルポンプ出力速度O120および基準クラッチ出力速度O20のプロットにおける対応する降下によって示され、ベースラインクラッチ出力速度プロットO20が、デュアルポンプ出力速度プロットO120に対して横軸(時間)に沿って右側に著しくシフトし、応答性がより低いことを示す。より低い入力速度Iでは、出力速度プロットO120およびO20の比較的急な降下によって示されるように、出力速度O120およびO20が急速に低下する前に、出力速度O120およびO20が比較的僅かに低下するとき、クラッチ20および120の両方が、バルブデューティサイクル信号Vが100%になった直後に出力速度が横ばい状態になる周期を有する傾向がある。しかし、デュアルタイプのポンプクラッチ120は、より短い横ばい状態を有し、出力速度グラフO20において、基準シングルタイプのポンプクラッチ20よりも早く出力速度O120の急激な低下を示した。より高い入力速度Iでは、両クラッチ20及び120の出力速度O120及びO20の低下が、かなりの初期の出力速度の横ばい状態を有することなく比較的迅速に生じたが、デュアルタイプのポンプクラッチ120は依然として、基準クラッチ20の出力速度O20と比較して、クラッチ出力速度O120のより速い低下を示した。デュアルタイプのポンプ及びワイパアセンブリ138はまた、完全に係合解除された状態において平坦部が減少したことを示し(例えば、
図8のTF4をTF1参照)、これは、バルブデューティサイクル信号Vが100%であり、送風機の回転が停止されようとするときに、低水準の係合/切断サイクルの傾向が少ないことを示している。また、
図8のグラフは、デュアルタイプのポンプ及びワイパクラッチ120があらゆる速度で係合することができ、基準クラッチ20が100%のバルブデューティサイクルVで入力速度Iより低い出力速度O20を生成した場合でも、デュアルタイプのポンプ及びワイパアセンブリ138は最高入力速度(約2100 RPM以上)で依然として許容可能な出力速度O120を僅かに低く生成したが、多すぎる圧送の感知可能な負の効果がないことを示すことを示す。さらに、0%のバルブデューティサイクルVに切り換えた後の両方のクラッチ20および120に対する係合時間は、ほぼ区別不能であり、これはデュアルタイプのポンプおよびワイパアセンブリ138が、クラッチ係合応答性にマイナスの影響を及ぼさなかったことを示している。
【0040】
1つ以上の追加の(すなわち、第3、第4などの)ポンプおよびワイパサブアセンブリを追加することも考えられる。
図9は粘性クラッチ220のさらに別の実施形態の断面図であり、
図10は、
図9の粘性クラッチ220における特定の構成要素の後方斜視図である。より詳細には、
図10は、トリプルタイプのポンプ及びワイパサブアセンブリの実施形態を示す。
図9に示されるクラッチ220の多くの構成要素(例えば、ロータ22、入力軸24、ハウジング26、作動チャンバ30、リザーバ32、円弧状壁34、解放ボア36、およびバルブ46)は、
図1のクラッチ20および/または
図5のクラッチ120に関して上述されたものと類似または同一であり得るか、または代替の実施形態では特定の用途に対して所望されるように他の構成を有することができる。
【0041】
図10に示す実施形態では、ロータ22上のポンプ及びワイパアセンブリ238は、先行の(又は最初の)ポンプ及びワイパサブアセンブリ238A、同一の構成を有する中間の(又は中央の)ポンプ及びワイパサブアセンブリ238B、並びに、異なる構成を有する後続のポンプ及びワイパサブアセンブリ238Cを含む。さらなる実施形態では、各サブアセンブリ238A-238Cは、他のすべてとは異なる構成を有することができ、あるいはそれぞれが同一の構成を有することができる。
【0042】
サブアセンブリ238A~238Cは、ロータ22の外径面22-ODの円周に対して直列に配置され、対応するポンプボアを通して所与のクラッチ作動状態の間、せん断流体を同時に圧送することができる。最初のまたは先行するサブアセンブリ238Aは、中間の(または中央の)サブアセンブリ238Bに対して上流に位置し、当該サブアセンブリ238Bは次のまたは後続のサブアセンブリ238Cの上流に位置し、当該サブアセンブリ238Cは、サブアセンブリ238Aおよび238Cの両方に対して下流に位置し、サブアセンブリ238A、238Bおよび238Cのそれぞれは、クラッチ220が同一の回転方向(矢印Rによって示される)にトルク入力を有する場合に、せん断流体をリザーバ32に圧送する動作をするように構成することができ、これにより、せん断流体は、同一の円周方向側から(一方向動作のための一連の流体流において)サブアセンブリ238A、238Bおよび238Cのすべてに遭遇する。上述したように、この文脈における上流とは、ロータ22の回転およびせん断流体のずれのために、作動チャンバ30内の所与の位置でせん断流体に早く遭遇することを意図したロータ22の外径部分を指す。図示の実施形態において、各サブアセンブリ238A~238Cは、ロータ22から(例えば、ロータ22の外径面22-ODから半径方向外側に)突出するワイパ240A、240B、または240Cと、リザーバ32と流体連通する関連するポンプボア242A、242B、または242Cとを含む。図示の実施形態において、ポンプボア242A、242B、および242Cはそれぞれ、それぞれのワイパ240A、240B、および240Cの上流側に配置されており、すなわち、ポンプボア242A、242B、および242Cはそれぞれ、対応するワイパ240A、240B、および240Cの同じ円周側に配置されている。さらに、各サブアセンブリ2388A、238B、および238Cは、対応するワイパ240A、240B、または240Cにおいて、前側プラットフォーム243A、243B、または243Cと、凹部244A、244B、または244Cとを含むことができる。ポンプボア242A、242B、および242Cはそれぞれ、それぞれのワイパ240A、240B、または240Cにおける凹部244A、244B、または244Cに、又は当該凹部244A、244B、または244C内に配置することができ、前側プラットフォーム243A、243B、および243Cはそれぞれ、それぞれのポンプボア242A、242B、または244Cの上流に延在することができ、且つ、それぞれの凹部244A、244B、または244C内に少なくとも部分的に(または全体的に)配置することができる。あるいは、プラットフォーム243A、243B、および/または243C、および/または、凹部244A、244B、および/または244Cが完全に省略される実施形態のように、ポンプボア242A、242B、および/または242Cは、それぞれのワイパ240A、240B、および/または240Cに隣接し、かつそれらから上流に位置する入口を有することができる。前側プラットフォーム243A、243B、および244Cは、ワイパ240A、240B、および240Cよりも少ない量だけロータ22の外径面22-ODから半径方向に突出することができ、したがって、流体加圧を補助してせん断流体を圧送するが、依然としてポンプボア242A、242B、および242Cへの流体の流れを許容する。図示の実施形態では、凹部244A、244B、および244Cはそれぞれ、上述した実施形態の凹部44、144A、および144Bと同様に、ほぼ三角形の形状を有する。図示の実施形態では、プラットフォーム243A、243B、および243C、ならびに凹部244A、244B、および244Cは、上流側でそれぞれのワイパ240A、240B、および240Cに直接隣接している。作動中、クラッチ120の入力(例えば、ロータ22)と出力(例えば、ハウジング26)との間の速度差に起因して、それぞれのワイパ240A、240B、および240Cによって、圧力が、ポンプボア242A、242B、および242Cへの入口で受動的に構築され得る。
【0043】
最初の又は先行のサブアセンブリワイパ240Aは、ロータ22の外径面22-ODの軸方向幅WODよりも小さく、及び/又は、後続のワイパ240Cの軸方向幅WC2よりも小さい、軸方向幅WA2を有することができ、これにより、いくらかのせん断流体がポンプ及びワイパサブアセンブリ238Aを迂回し、中間サブアセンブリ238B及び後続のサブアセンブリ238Bのいずれか又は両方に下流に通過して、当該せん断流体を、中間のポンプボア242B及び/又は後続のポンプボア242Cに供給することが可能になる。幾つかの実施形態では、ワイパ240Aは、追加的に又は代替的に、外径面22-ODの上方において、後続のワイパ240C及び/又は中間(又は中央)のワイパ240Bよりも小さい半径方向高さを有することができるが、図示の実施形態ではワイパ240A、240B、及び240Cは全て、実質的に同じ半径方向高さを有する。ワイパ240Aの寸法が小さいということは、最初の又は先行のワイパ240Aが、ロータ22の外径面22-ODに隣接する作動チャンバ30の関連する局所領域を完全には占有しないことを意味しており、むしろ、作動チャンバ30のかなりの隣接領域はワイパ240Aによって妨害されず、作動チャンバ30内に存在するせん断流体のいくらかの流れが先行の又は最初のサブアセンブリ238Aを通過する(又は迂回する)ことを可能にする。次いで、先行のワイパ240Aの近傍を通過したせん断流体の容積の少なくとも一部は、中央のポンプボア242Bおよび/または後続のポンプボア242Cに入ることができる。
【0044】
ワイパ240Aは、凹部244Aの三角形状を補完する山形状又は「V」形状を有することができる。さらなる実施形態では、ワイパ240Aは、湾曲した後縁形状および/または湾曲した凹部244Aを有してもよいし、または他の適切な形状を有してもよい。プラットフォーム243Aは、凹部244A及びワイパ240Aから上流に、例えば、湾曲しているがほぼ長方形の周囲を有するように延在してよい。図示の実施形態では、その後縁又は下流縁におけるワイパ240Aの形状は、ワイパ240Aの後縁が軸方向前方及び後方の位置におけるよりも軸方向中央部(ポンプボア242Aの近く)において、小さな距離だけワイパ240B(及びそのプラットフォーム243B)から円周方向に離間するように構成されており、これは、中間ポンプボア242Bへのせん断流体の流れを容易にするのに役立つ。さらに、先行のサブアセンブリ238Aのワイパ240Aは、中間のサブアセンブリ238Bの凹部244Bの形状を補完する後縁形状を有することができる。
【0045】
中間サブアセンブリ238Bの構成要素は、先行のサブアセンブリ238Aの構成要素と同様であっても同一であってもよい。すなわち、外径面22-ODの円周に対するそれらのそれぞれの位置とは別に、ワイパ240Aおよび240B、ポンプボア242Aおよび244B、プラットフォーム243Aおよび243B、ならびに凹部244Aおよび244Bは、例えば山形または「V」字形を有するワイパ240Bなどと類似または同一の構成を有することができる。中間ワイパ240Bは、後続のワイパ240Cの軸方向幅WC2より小さい軸方向幅WB2を有し得る。図示の実施形態では、中間ワイパ240Bは、先行のワイパ240Aの軸方向幅WA2に実質的に等しい軸方向幅WB2を有する。次いで、先行のワイパ240Aの近傍を通過(または迂回)したせん断流体の容積の少なくとも一部は、中間ポンプボア242Bおよび/または後続ポンプボア242Cに入ることができ、同様に、中間ワイパ240Bの近傍を通過(または迂回)したせん断流体の容積の少なくとも一部は、次いで、後続のポンプボア242Cに入ることができる。さらに、中間サブアセンブリ238Bのワイパ240Bは、後続のサブアセンブリ238Cの凹部244Cの形状を補完する後縁形状を有することができる。さらに後述するように、先行のポンプおよびワイパサブアセンブリ238A、および中間のポンプおよびワイパサブアセンブリ238Bは、後続のポンプおよびワイパサブアセンブリ238Cとは異なるように構成することができる。
【0046】
後端のサブアセンブリワイパ240Cは、凹部244Bがその中に延びるほぼ矩形のプリズム形状(外径面22-ODの曲率に適合するように湾曲した)を有することができる。後続のワイパ240Cは、先行のワイパ240Aの軸方向幅WA2よりも大きく、かつ/または中間のワイパ240Bの軸方向幅WB2よりも大きい軸方向幅WC2を有しており、当該軸方向幅WC2は、図示されている実施形態では、ロータ22の外径面22-ODの軸方向幅WODと実質的に等しく、これは、幾らかのせん断流体が、ポンプおよびワイパサブアセンブリ238Aおよび238Bを迂回し、後続のサブアセンブリ238Cに向かって下流に通過することを可能にする。幾つかの実施形態では、後続のワイパ240Cは、追加的に又は代替的に、外径面22-ODの上方において、先行のワイパ240A及び/又は中間のワイパ240Bよりも大きい半径方向高さを有することができるが、図示の実施形態ではワイパ240A、240B、及び240Cは実質的に同じ半径方向高さを有する。後続のワイパ240Cは、ロータ22の外径面22-ODに隣接する作動チャンバ30の関連する局所領域を実質的に完全に占有するようなサイズにすることができ、これにより、後続のポンプ及びワイパサブアセンブリ238Cに遭遇する、外径面22-ODの外側に向かう作動チャンバ30内のせん断流体の全て又はほぼ全てが、ポンプ穴242C内に圧送される。図示された実施形態のプラットフォーム243Cは、凹部244C及びワイパ240Cから上流に延在しておらず、代わりに、凹部244C内に収容され、ワイパ240Cの最上流部分と整列した前縁を有する。
【0047】
すでに述べたように、最初のサブアセンブリ238Aのワイパ240Aは、ロータ22の外径面22-ODの幅WODよりも狭い幅WA2を有し、同様に、中間のサブアセンブリ238Bのワイパ240Bは、幅WODよりも狭い幅WB2を有する。この構成により、作動チャンバ30内に存在するせん断流体の一部は、最初のサブアセンブリワイパ240Aおよび中間のサブアセンブリワイパ240B(およびポンプボア242Aおよび242B)の両方を通過して流れ、クラッチ220の作動中に、後続のサブアセンブリ238Cのポンプボア242Cへ流入することが可能になる。さらに、この構成により、作動チャンバ30内に存在するせん断流体の一部は、最初のサブアセンブリワイパ240A(およびポンプボア242A)を通過して流れ、クラッチ220の作動中に、中間サブアセンブリ238Bのポンプボア242Bに流入することが可能になる。さらに、サブアセンブリ238A、238B、および238Cにおける少なくとも一部のポンプボア242A、242B、および242Cは、異なるサイズを有することができる。例えば、先行のポンプボア242Aは、後続のポンプボア242C(例えば、直径3mm)よりも小さく(例えば、直径2.25mm)することができ、中間のポンプボア242Bは、先行のポンプボア242Aと同じサイズであることなどによって、後続のポンプボア242Cよりも小さくすることができる。1つの非限定的な実施例として、先行のポンプボア242Aおよび中間のポンプボア242Bの直径は、それぞれ、後続のポンプボア242Cの直径の75%としてもよい。このような構成は、最初のサブアセンブリ238Aおよび中間のサブアセンブリ238Bによる圧送を、特に高い速度差において、後続のサブアセンブリ238Cによる圧送よりも効果的でないものにする。いくつかの実施形態では、ボア242A、242B、および242Cの直径は、それぞれの入口と出口との間でそれぞれ実質的に一定であることができるが、他の実施形態では変更してもよく、この場合、ボア直径はそれぞれの最も狭い直径で比較することができる。さらなる実施形態では、中間のポンプボア242Bは、先行のポンプボア242Aおよび後続のポンプボア242Cの両方と異なるサイズとすることができ、例えば、中間のポンプボア242Bは、先行のポンプボア242Aの直径よりも大きいが、後続のポンプボア242Cの直径よりも小さい。複数のポンプおよびワイパサブアセンブリ238A、238B、および238Cによって、ポンプおよびワイパアセンブリ238全体が、ロータ22とハウジング26との間の小さい速度差(例えば、完全なクラッチ係合またはほぼ完全なクラッチ係合)の状態において比較的有効であり、大きい速度差(例えば、係合解除またはほぼ係合解除)の場合に比較的有効でないという状況が生成される。このようにして、ポンプおよびワイパアセンブリ238の圧送速度は、可変のクラッチ入力速度に関連して固定された比率ではない。例えば、クラッチ入力とクラッチ出力との間の速度差が50%を超えるなど、比較的高い場合よりも、ロータ22とハウジング26との間(又はより一般的にはクラッチ入力とクラッチ出力との間)の速度差が10%以下など、比較的低い場合に、ポンプ及びワイパアセンブリ238による作動チャンバ30からリザーバ32への圧送の合計速度はより大きくなる。
【0048】
ポンプボア242A、242B、および242Cの出口は、円周方向に互いに非常に接近しているため(例えば、クラッチ220の回転軸Aに対して、略45°、略25°、略15°、略10°、略5°、または5°未満)、クラッチ220がシャットダウンされるときに、円弧状壁34を伴うリザーバ32内のせん断流体の捕捉に関する影響は本質的にない。円弧状壁34は、先行のポンプ孔240Aと後続のポンプ孔240Cとの間の間隔が円周方向に著しく延びている。さらに、図示の実施形態では、リザーバ32に直接流体的に接続するすべてのボア36、240A、240B、および240Cにおける少なくともそれぞれの入口または出口は、円弧状壁34の壁円弧セグメントαと重なって、当該壁円弧セグメントα内に配置され、すべてのボア36、240A、240B、および240Cは、円弧状壁34と円周方向に重なり、かつ端部壁34-1(およびリザーバ32の第1の部分32-1の閉鎖端部)と自由端34-2(およびリザーバ32の第1の部分32-1の開放端)との間で、円周方向に配置される。ボア36、240A、240B、および240Cのすべては、回転軸Aに対して円周ボア円弧セグメントθ2を合計として画定し、これにより、少なくともいくつかの実施形態では、ボア円弧セグメントθ2の外部でリザーバ32を作業チャンバ30に接続するボアが存在しない。図示の実施形態では、ポンプボア242A、242B、および242Cは、ロータ22の外径円周に対して互いに5~10°程度離間しており、一方、円弧状壁34は、端部壁34-2と自由端34-2との間でほぼ180°延在しており、解放ボア36からほぼ175°延在し、且つ、後続のポンプボア242Cからほぼ150~155°延在しており、一方、端部壁34-1は解放ボア36から反対の円周方向にほぼ8~10°に位置する。様々な例示的な実施形態では、ボア36、240A、240B、および240Cのすべてによって占有される円周ボア円弧セグメントθ2は、円弧状壁34の壁部円弧セグメントαの75%未満、66%未満、50%未満、33%未満、25%未満、または15%未満とすることができる。様々な他の例示的な実施形態では、ボア36、240A、240B、および240Cのすべてによって占有される円周弧セグメントθ2は、回転軸Aに対して45°以下、30°以下、または20°以下とすることができる。また、ボア36、240A、240B、および240Cのすべてによって占有される円弧セグメントθ2は、端部壁34-1に近づけることなどによって、円弧状壁34の自由端34-2から円周方向に離間して配置してよい。さらに、比較として、先行のポンプボア242Aは、上述したデュアルタイプのポンプにおける実施形態の先行のポンプボア142Aと実質的に同じ円周位置に配置することができ、一方、一部の実施形態では、後続のポンプボア242Cは、後続のポンプボア142Bよりも、解放ボア36から円周方向に遠くに配置することができる。
【0049】
一般に、ポンプおよびワイパサブアセンブリ238A、238B、および238Cの個々の構成要素の特定のサイズおよび形状は、期待される動作条件にわたって所望の圧送速度を提供するために、特定の用途に必要に応じて修正することができる。例えば、圧送速度は、予想されるクラッチ入力速度等に応じてポンプボアおよびワイパのサイズおよび形状を調整することによって、所望の動作特性に合わせることができる。さらに、さらなる実施形態では、1つまたは複数の追加のポンプおよびワイパサブアセンブリを、先行のサブアセンブリ238Aと後続のサブアセンブリ238Cとの間の円周方向における中間位置または中央位置において、ポンプおよびワイパアセンブリ238に設けることができる。このような追加のポンプ及びワイパサブアセンブリは、外径面22-ODの円周に沿った位置決めとは別に、中間サブアセンブリ238Bと同様又は同一の方法で構成された構成要素を有することができるが、更なる実施形態では、このような追加のポンプ及びワイパサブアセンブリは、異なる構成(例えば、異なるポンプボア直径)を有する構成要素を有してもよい。
【0050】
図示の実施形態では、全てのクラッチ動作条件下で常に開いているポンプボア242A、242B、または242Cのいずれにも関連するバルブは存在しない。しかし、バルブ46は、クラッチ220の滑り速度を出力するために、解放ボア36を選択的に覆い且つ解放(または閉鎖し、閉鎖解除)することができる。
【0051】
可能な実施形態の説明
粘性クラッチは、回転軸の周りに回転可能な入力部材と、回転軸の周りに選択的に回転可能な出力部材と、入力部材および出力部材によって境界付けられた作動チャンバであって、作動チャンバ内に存在するせん断流体の体積に基づく流体摩擦力を介して入力部材と出力部材との間でトルクが選択的に伝達され得る作動チャンバと、せん断流体の供給を保持することができる内部容積を画定するリザーバと、リザーバ内に配置された円弧状壁であって、これにより、閉鎖端および開放端を有するリザーバの第1の部分を規定し、かつ、壁円弧セグメントに亘って開放端と閉鎖端との間を円周方向に延びる円弧状壁と、リザーバを作動チャンバに流体的に接続する解放ボアと、作動チャンバに沿って配置されたポンプおよびワイパアセンブリと、を備えることができる。ポンプおよびワイパアセンブリは、先行のポンプおよびワイパサブアセンブリと後続のポンプおよびワイパサブアセンブリとを含み得て、先行のポンプおよびワイパサブアセンブリは、先行のワイパ及び先行のポンプボアを含み、先行のポンプボアは作動チャンバをリザーバに流体的に接続し、先行のポンプボアは先行のワイパに隣接して配置されており、後続のポンプおよびワイパサブアセンブリは、後続のワイパおよび後続のポンプボアを含み、後続のポンプボアは作動チャンバをリザーバに流体的に接続し、後続のポンプボアは後続のワイパに隣接して配置されており、後続のポンプおよびワイパサブアセンブリは先行のポンプおよびワイパサブアセンブリよりも下流に配置されている。解放ボア、先行のポンプボア、および後続のポンプボアは、全て、円弧状壁の壁円弧セグメントより円周方向に小さいボア円弧セグメント内で、リザーバの第1の部分に流体的に直接接続され得る。
【0052】
上述の粘性クラッチは、任意選択で、追加的および/または代替的に、以下の特徴、構成、および/または追加的構成要素のうちの任意の1つまたは複数を含むことができ、すなわち、
リザーバは、入力部材に対して相対回転不能に固定してもよく、
リザーバは、作動チャンバから半径方向内方に位置決めされてもよく、
入力部材はロータディスクであってもよく、またはロータディスクを含んでもよく、出力部材はハウジングであってもよく、またはハウジングを含んでもよく、リザーバはロータディスクに対して相対回転不能に固定されてもよく、
先行のワイパ及び後続のワイパはそれぞれ、ロータディスクの外径面から半径方向外側に突出してもよく、
リザーバから解放ボアを通って作動チャンバへのせん断流体の流れを選択的に制御するように作動可能であるバルブを含んでもよく、
ボア円弧セグメントは、リザーバの第1の部分の開口端から円周方向に離間して配置されてもよく、
ボア円弧セグメントは、リザーバの第1の部分の開放端よりもリザーバの第1の部分の閉鎖端の近くに配置することができ、
リザーバの第1の部分は、円弧状壁の半径方向外側に位置することができ、
先行のポンプボアは、後続のポンプボアの直径よりも小さい直径を有することができ、
中間ワイパおよび中間ポンプボアを含む中間ポンプおよびワイパサブアセンブリであって、中間ポンプボアは作動チャンバをリザーバに流体的に接続しており、中間ポンプボアは中間ワイパに隣接して配置されており、先行のポンプおよびワイパサブアセンブリの間に円周方向に配置される中間ポンプおよびワイパサブアセンブリを含んでもよく、
中間ワイパは山形であってもよく、
先行のポンプボアは、後続のポンプボアの直径よりも小さい直径を有してよく、中間ポンプボアは、後続のポンプボアの直径よりも小さい直径を有してもよく、
先行のワイパは山形であってもよく、
先行のワイパは、後続のワイパの軸方向幅よりも小さい軸方向幅を有してよく、
先行のワイパの内部に伸びる凹部を含んでもよく、
先行のポンプボアは、先行のワイパの内部に延在する凹部にまたは当該凹部の内部に配置された入口を有してもよく、
先行のワイパの内部に延びる凹部は三角形の形状を有してもよく、
後続のワイパの内部に伸びる凹部を含んでもよく、
後続のポンプボアは、後続のワイパの内部に延在する凹部にまたは当該凹部の内部に配置された入口を有してもよく、
プラットフォームを含んでもよく、
先行のポンプボアは、プラットフォームにまたは当該プラットフォームの内部に配置された入口を有してもよく、
壁円弧セグメントは、回転軸に対して180°以下で延在してよく、
解放ボア、先行のポンプボア、および後続のポンプボアはすべて、回転軸に対して45°のボア円弧セグメント内に配置することができ、及び/又は、
先行のポンプボアは、第1の周方向において、先行のポンプワイパの上流側に位置させることができ、後続のポンプボアは、第1の周方向において、後続のポンプワイパの上流側に位置させることができる。
【0053】
作動チャンバおよびリザーバを有する粘性クラッチを使用する方法であって、作動チャンバ内に存在するせん断流体の体積を変化させることによって、粘性クラッチの出力滑り速度が制御可能である方法は、壁を用いてリザーバの残りの部分からリザーバの第1の部分を部分的に遮蔽するステップと、リザーバの第1の部分に流体的に接続される解放ボアを通して、リザーバから作動チャンバへのせん断流体の流れを選択的に制御するステップと、先行のワイパおよび当該先行のワイパに関連する先行のポンプボアを用いて作動チャンバからリザーバにせん断流体を圧送するステップであって、先行のポンプボアはリザーバの第1の部分に流体的に直接接続する圧送するステップと、後続のワイパおよび当該後続のワイパに関連する後続のポンプボアを用いて作動チャンバからリザーバにせん断流体を圧送するステップであって、後続のポンプボアはリザーバの第1の部分に流体的に接続する圧送するステップと、を含むことができる。
【0054】
上述の方法は、任意選択で、追加的および/または代替的に、以下の特徴、構成、および/または追加的ステップのうちの任意の1つまたは複数を含むことができ、すなわち、
中間ワイパおよび当該中間ワイパに関連する中間ポンプボアを用いて、作動チャンバからリザーバにせん断流体を圧送するステップであって、中間ポンプボアはリザーバの第1の部分に直接流体的に接続され、中間ポンプボアの入口は、先行のポンプボアの入口と後続のポンプボアの入口との間に円周方向に配置されている、圧送するステップを含んでもよく、
せん断流体の体積は、後続のポンプボアを通って圧送する前に、ロータディスクから半径方向外側の位置で先行のワイパを円周方向に迂回させてもよく、
先行のワイパおよびこれに関連する先行のポンプボアを用いて、せん断流体を作動チャンバからリザーバに圧送するステップは、受動的な圧送のみを含むことができ、
後続のワイパおよびこれに関連する後続のポンプボアを用いて、せん断流体を作動チャンバからリザーバに圧送するステップは、受動的な圧送のみを含むことができ、
第1回転方向において粘性クラッチにトルク入力を提供するステップを含んでもよく、
先行のワイパおよびこれに関連する先行のポンプボアを用いて、作動チャンバからリザーバにせん断流体を圧送するステップと、後続のワイパおよびこれに関連する後続のポンプボアを用いて、作動チャンバからリザーバにせん断流体を圧送するステップとは、第1回転方向においてトルク入力が粘性クラッチに与えられている間に、両方とも実行可能であってもよく、
先行のポンプボアおよび後続のポンプボアは、せん断流体をリザーバに同時に圧送することができ、
クラッチ入力とクラッチ出力との間の速度差が比較的高い場合よりも、クラッチ入力とクラッチ出力との間の速度差が比較的低い場合に、作動チャンバからリザーバへ圧送する総速度はより大きくなってよい。
【0055】
粘性クラッチは、回転軸の周りに回転可能な入力部材と、回転軸の周りに選択的に回転可能な出力部材と、入力部材と出力部材とによって境界付けられた作動チャンバであって、作動チャンバ内に存在するせん断流体の体積に基づく流体摩擦力を介して入力部材と出力部材との間でトルクを選択的に伝達することができる作動チャンバと、せん断流体の供給を保持することができる内部容積を画定するリザーバと、リザーバを作動チャンバに流体的に接続する解放ボアと、作動チャンバ内に延びる先行のワイパと、先行のワイパに隣接して配置された先行のポンプボアであって、作動チャンバをリザーバに流体的に連結する先行のポンプボアと、作動チャンバ内に延びる後続のワイパであって、軸方向において先行のワイパの幅よりも大きい幅を有する後続のワイパと、後続のワイパに隣接して先行のポンプボアの下流に位置付けられ、作動チャンバをリザーバに流体的に連結する後続のポンプボアと、を含んでもよい。
【0056】
上述の粘性クラッチは、任意選択で、追加的および/または代替的に、以下の特徴、構成、および/または追加的構成要素のうちの任意の1つまたは複数を含むことができ、すなわち、
中間ワイパは、作業チャンバ内に延在していてよく、
後続のワイパの幅は、軸方向において、中間ワイパの幅よりも大きくてよく、
中間ポンプボアは、中間ワイパに隣接して、かつ先行ポンプボアの下流に配置することができ、中間ポンプボアは、作動チャンバをリザーバに流体的に接続してよく、
リザーバの第1の部分をリザーバの残りの部分から分離する壁をリザーバ内に配置することができ、
リザーバの第1の部分は、閉鎖端部と、周方向に反対側の開放端部とを有してよく、
解放ボア、先行のポンプボア、および後続のポンプボアはそれぞれ、リザーバの第1の部分に流体的に直接接続されてよい。
【0057】
粘性クラッチのためのロータアセンブリは、外径面を有するロータディスクと、ロータディスクによって担持されたリザーバであって、ロータディスクの外径面から半径方向内側に位置するリザーバと、ロータディスクの外径面から半径方向に突出する先行のワイパと、先行のワイパに隣接して位置決めされた先行のポンプボアであって、ロータディスクの外径面からリザーバに延在する先行のポンプボアと、ロータディスクの外径面から半径方向に突出する後続のワイパであって、軸方向において先行のワイパの幅よりも大きな幅を有する後続のワイパと、後続のワイパに隣接しかつ先行のポンプボアの下流に位置決めされた後続のポンプボアであって、ロータディスクの外径面からリザーバに延在する後続のポンプボアと、を備えることができる。
【0058】
上述のロータアセンブリは、任意選択で、追加的および/または代替的に、以下の特徴、構成、および/または追加的構成要素のうちの任意の1つまたは複数を含むことができ、すなわち、
中間ワイパは、ロータディスクの外径面から半径方向に突出してよく、
後続のワイパの幅は、軸方向における中間ワイパの幅よりも大きくてよく、
中間ポンプボアは、中間ワイパに隣接してかつ先行のポンプボアの下流に配置し、これにより、ロータディスクの外径面からリザーバまで延在してもよく、
リザーバの第1の部分をリザーバの残りの部分から分離する壁をリザーバ内に配置することができ、
リザーバの第1の部分は、閉鎖端部および円周方向に反対側の開放端部を有することができ、
先行ポンプボアおよび後続ポンプボアはそれぞれ、リザーバの第1の部分に流体的に直接接続されてよく、
解放ボアは、ロータの一部を通って延びることができ、および/または、
解放ボアは、リザーバの第1の部分に流体的に直接接続することができる。
【0059】
作動チャンバ、リザーバ、およびロータディスクを有する粘性クラッチを使用する方法であって、作動チャンバ内に存在するせん断流体の体積を変化させることによって粘性クラッチの出力滑り速度を制御可能とする方法は、リザーバの第1の部分に流体的に接続された解放ボアを通して、リザーバから作動チャンバにせん断流体を搬送するステップと、先行のワイパおよびこれに関連する先行のポンプボアを用いて、作動チャンバからリザーバにせん断流体を圧送するステップと、ロータディスクから半径方向外側の位置で、先行ワイパによってせん断流体の体積を周方向に通過させるステップと、後続ワイパおよびこれに関連する後続ポンプボアを用いて、作動チャンバからリザーバにせん断流体を圧送するステップと、を含むことができる。先行ワイパの近傍を通過したせん断流体の体積の少なくとも一部は、後続のポンプボアに流入することができる。
【0060】
上述の方法は、任意選択で、追加的および/または代替的に、以下の特徴、構成、および/または追加的ステップのうちの任意の1つまたは複数を含むことができ、すなわち、
先行ポンプボアおよび後続ポンプボアは、せん断流体をリザーバに同時に圧送することができ、
クラッチ入力とクラッチ出力との間の速度差が比較的高い場合より、クラッチ入力とクラッチ出力との間の速度差が比較的低い場合に、作動チャンバからリザーバへの圧送する総速度はより大きくなり得る。
【0061】
まとめ
「実質的に」、「本質的に」、「一般的に」、「略」など、本明細書で使用される任意の相対的な用語または程度の用語は、本明細書で明示的に述べられる任意の適用可能な定義または限定に従って解釈されるべきである。すべての場合において、本明細書で使用される任意の相対的な用語または程度は、任意の関連する開示された実施形態、ならびに、通常の製造公差変動、付随的な配向変動、熱、回転または振動動作条件によって誘発される過渡配向または形状変動などを包含するように、本開示の全体を考慮して当業者によって理解されるような範囲または変動を広く包含するように解釈されるべきである。さらに、本明細書で使用される任意の相対的な用語または程度の用語は、既定の開示または列挙において条件を付ける相対的な用語または程度の用語があたかも利用されていないかのように、指定された品質、特性、パラメータ、または値を、変動なしに明示的に含む範囲を包含するように解釈されるべきである。
【0062】
本発明は好ましい実施形態に関して説明されているが、当業者であれば、形状および細部に対する様々な変更が、本発明の精神および範囲から逸脱することなくなされてもよいことは認識できる。例えば、図示された実施形態はロータによって支持されたポンプ及びワイパアセンブリを示しているが、本明細書に開示されたポンプ及びワイパアセンブリは、ハウジング内にリザーバを有し、及び/又はクラッチ入力としてハウジングを有する粘性クラッチなど、別の実施形態ではハウジングに等しく実装することができる。例えば、ハウジング入力を有するクラッチでは、ポンプ及びワイパアセンブリは、作業チャンバに接するハウジングの半径方向内側に面する表面に接して又は当該表面に配置されたポンプ及びワイパサブアセンブリを用いて実装することができる。あるいは、ポンプおよびワイパアセンブリを、出力部材に位置決めすることもできる。さらに別の実施形態では、ポンプおよびワイパアセンブリは、作動チャンバの境界の任意の部分にまたは当該部分に沿って、クラッチの入力部材または出力部材のいずれかに配置することができる。さらに、
図1、
図5、および
図9は粘性クラッチの可能な構成を示しており、ここに開示されたポンプおよびワイパアセンブリは、直接検知型のバイメタル制御バルブを有する粘性クラッチ、および異なるタイプのバルブおよび/または異なるタイプのシャフトを有する電磁制御クラッチ(例えば、非回転または固定中心支持シャフトを有するクラッチ)、またはバルブを欠き、単に入力速度に基づいて動作するクラッチなど、他の構成を有する粘性クラッチで実施することができることを、当業者は認識するのであろう。最後に、図示した実施形態は、(例えば入力部材又はロータディスクのような)別のクラッチ構成要素と一体的かつモノリシックに形成されたワイパを示しているが、さらなる実施形態では、任意の所与のワイパが適切な方法で他のクラッチ構成要素に取り付けられた別個の要素とすることができる。
【国際調査報告】