(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-21
(54)【発明の名称】イオノマー膜セパレーター及び自立電極を有する金属イオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/36 20100101AFI20220414BHJP
H01M 4/42 20060101ALI20220414BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220414BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01M4/42
H01M4/48
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021545760
(86)(22)【出願日】2020-02-04
(85)【翻訳文提出日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 IN2020050109
(87)【国際公開番号】W WO2020161738
(87)【国際公開日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】201911004481
(32)【優先日】2019-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508176500
【氏名又は名称】カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミーナ・ゴーシュ
(72)【発明者】
【氏名】ビドゥヤーナンド・ヴィジャヤクマール
(72)【発明者】
【氏名】スリークマール・クルンゴト
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK02
5H029AL11
5H029AM16
5H029CJ16
5H029HJ00
5H029HJ18
5H029HJ19
5H050AA07
5H050BA08
5H050CA02
5H050CB13
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA23
5H050GA18
5H050HA00
5H050HA18
5H050HA19
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、高放電容量及び高サイクル能を有するエネルギー貯蔵装置を提供する。より詳細には、本発明は、カチオン選択性イオノマー膜及び自立電極を有するZn/V2O5電池を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードとしてZn、カソードとして官能化炭素上の電着されたV
2O
5、カチオン選択性イオノマー膜セパレーターとしてスルホン化テトラフロオルエチレンコポリマー(STC)、及び電解質としてZnSO
4を含む、エネルギー貯蔵装置。
【請求項2】
自立電極をさらに含む、請求項1に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項3】
電池である、請求項1に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項4】
前記電池が、5Ag
-1の電流密度での1300サイクル後に85%の維持率、及び10Ag
-1電流密度での1800サイクル後に88%の維持率の優れたサイクル安定性を示す、請求項3に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項5】
前記電池が、250~400Whkg
-1のエネルギー密度を提供する、請求項3に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項6】
請求項1に記載のエネルギー貯蔵装置を作製する方法であって、
a.電解液中の二極セルアセンブリに10V~20Vのバイアス電位を5~10分間印可することによって、1枚の新品の炭素紙(pCP)に対して陽極酸化又は電気化学的官能化を行って、官能化炭素紙を得る工程と、
b.前記官能化炭素紙に活物質を電気化学的に堆積させて、活物質が堆積した炭素紙を得る工程と、
c.カソードとして前記活物質が堆積した炭素紙、アノードとして1枚の金属箔、及び電解質兼セパレーターとして電解質が含浸されたイオノマー膜を使用することによって、前記エネルギー貯蔵装置を組み立てる工程と、を含む方法。
【請求項7】
前記活物質がV
2O
5であり、前記金属がZnであり、前記イオノマー膜がSTCである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(a)において、前記電解質がNa
2SO
4であり、前記工程(c)において、前記電解質がZnSO
4である、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオノマー膜セパレーター及び自立電極を有する効率的なエネルギー貯蔵装置としての金属イオン電池に関する。より詳細には、本発明は、カチオン選択性イオノマー膜及び自立電極を有するZn/V2O5電池を提供する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー貯蔵装置の開発は、再生可能資源からのエネルギー出力の貯蔵のために不可欠である。この文脈では、リチウムイオン電池(LIB)技術は最も成長したものである。しかし、LIBでの有機電解質の使用により、その大規模な適用が妨げられている。可燃性、高コスト、及び面倒な作製手順などのLIBに関連するいくつかの難題を克服することができる有望なエネルギー貯蔵装置の1つとして水系イオン電池(AIB)が検討されている。この点では、Zn系AIB(ZAIB)への関心が高まっている。遷移金属酸化物(TMO)、例えば、MnO2、V2O5が、ZAIB(Zn/TMO電池)の将来性があるカソード材料として出現している。しかし、ZAIBの技術は、電池の容量がより少なく寿命が劣るのでまだ初期段階である。電解質にある添加物塩を導入することで電池の寿命は改善するが、それは、しばしば容量を低くしてしまう。従って、容量に妥協せずに、ZAIBの寿命を増加させる方策を見つけることが確かに非常に重要である。従来のZAIBでは、多孔質膜がセパレーターとして使用されている。カチオン及びアニオンの両方の輸送はシステムに抵抗を付与し、長期サイクル中に電池性能を低下させる。従って、カチオン選択膜の使用は、Zn2+の輸送を増加することができ、同時に、電池のサイクル寿命を向上することができる実行可能な解決策になり得る。また、電池の性能における別の主な複雑さは、電荷貯蔵のための活性部位数を低減する電極作製の従来法に由来する。従って、高容量ZAIBを達成するためには、電極作製のために判断力ある方策を採用することも重要であり、それは電荷貯蔵のための活性中心の最大の利用を確保することができる。
【0003】
非特許文献1は、最適な低刺激性の水系ZnSO4
-系溶液が電解質として使用される高可逆性亜鉛/酸化マンガン系の実証を報告しており、酸化マンガン相α-MnO2のナノファイバーがカソードとして使用されている。
【0004】
非特許文献2は、高可逆性亜鉛/ナトリウムバナジウム酸塩系を報告しており、ナトリウムバナジウム酸塩水和物ナノベルトが正極として機能を果たし、硫酸ナトリウム添加剤を備えた硫酸亜鉛水溶液が電解質として使用されている。亜鉛/ナトリウムバナジウム酸塩水和物電池は、亜鉛イオン吸蔵/放出のみの亜鉛イオン電池における従来のエネルギー放出/貯蔵とは異なり、同時に起こるプロトン、及び1000サイクルにわたる380mAhg-1の高可逆容量及び82%の容量維持率などのそれらの優れた性能に主に関与する亜鉛イオン吸蔵/放出プロセスを有する。更に、準固体亜鉛/ナトリウムバナジウム酸塩水和物電池も、可とう性エネルギー貯蔵装置の良好な候補である。
【0005】
しかし、ZAIBの進歩は著しく進んだが、それは、高容量、高レート能力、及び長いサイクル寿命などの理想的なエネルギー貯蔵装置の所望の態様をすべてまとめることがまだ困難である。遷移金属酸化物は、高い理論容量及びいくつかの酸化状態によりZAIB用の効率的なカソード材料として相当な関心を得ている。しかし、それらの材料は、理論上の期待値からはるかに遅れている制限のある容量をしばしば示す。このTMO系ZAIBの非能率的な性能は、1.従来の電極作製の方策(絶縁性高分子結合剤の混合による)は、電極に電気抵抗を付与し、装置の出力に悪影響を与える、2.導電性添加剤をレドックス活物質と物理的に混合することは、電極全体にわたって均質な電気伝導率をもたらさず、使用しうるレドックス活性部位数が低減される、3.多孔質セパレーターを使用した従来のZAIBでは、多孔質セパレーターを介した放電生成物の拡散は、アノードを汚染する可能性があり、電池の寿命を低下する可能性もある、などの理由に起因する可能性がある。
【0006】
従って、このように、高性能ZAIBを実現するために電池の放電容量と同様にサイクル寿命も同時に改善することができる装置の作製のために判断力ある方策を採用することが本技術分野で必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Huilin Pan、他、「Reversible aqueous zinc/manganese oxide energy storage from conversion reactions」、Nature Energy volume 1, Article number: 16039 (2016)
【非特許文献2】Fang Wan、他、「Aqueous rechargeable zinc/sodium vanadate batteries with enhanced performance from simultaneous insertion of dual carriers」、Nature Communications volume 9, Article number: 1656 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主な目的は、イオノマー膜セパレーター及び自立電極を有するエネルギー貯蔵装置を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、エネルギー密度、出力密度、及びサイクル寿命の点から効率的なエネルギー貯蔵装置のすべての態様を与えることができるイオノマー膜セパレーター及び自立電極を有するエネルギー貯蔵装置の作製を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、本発明は、イオノマー膜セパレーター及び自立電極を有するエネルギー貯蔵装置を提供する。
【0011】
本発明は、アノードとしてZn、カソードとして官能化炭素上の電着されたV2O5、カチオン選択性イオノマー膜セパレーターとしてスルホン化テトラフロオルエチレンコポリマー(STC)、及び電解質としてZnSO4を含む、エネルギー貯蔵装置を提供する。より具体的には、本発明では、STCは、セパレーターとして機能するテトラフロオルエチレン-ペルフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマー(Nafion)である。
【0012】
イオノマー膜は、STC、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリAMPからなる群から選択される。
【0013】
自立電極は、V2O5、MnO2、Co3O4を含む様々なレドックス活物質群から選択され、それらは、炭素繊維紙、炭素フェルト、可とう性黒鉛、FTOガラス、CNTバッキーペーパーを含む様々な導電性基板群上に電着することができる。
【0014】
装置が電池であり、より詳細にはZn系水系イオン電池(ZAIB)である。
【0015】
本発明は、更に、エネルギー貯蔵装置の作製方法を提供し、
a.電解液中の二極セルアセンブリに10V~20Vのバイアス電位を5~10分間印可することによって、1枚の新品の炭素紙(pCP)に対して陽極酸化又は電気化学的官能化(酸素を含む親水性官能基)を行って、官能化炭素紙を得る工程と、
b.官能化炭素紙に活物質を電気化学的に堆積させて、活物質が堆積した炭素紙を得る工程と、
c.カソードとして活物質が堆積した炭素紙、アノードとして1枚の金属箔、及び電解質兼セパレーターとして電解質が含浸されたイオノマー膜を使用することによって、エネルギー貯蔵装置を組み立てる工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】STCイオノマー膜及び従来の多孔質膜セパレーターを含む異なるZn/V
2O
5電池の構成の略図である。
【
図2】V-CPサンプルの(a)低倍率FE-SEM像、(b)高倍率FE-SEM像、(c)V-CP試料から採取されたV
2O
5粒子のTEM像、(d)V-CP試料でのバナジウム及び酸素の逆重畳化XPSスペクトルである。
【
図3】(a)30℃の温度での3M-STC及び他の多孔質3M-Y膜のイオン伝導率、(b)3M-STC及び3M-Y多孔質膜のlnσ対1/Tプロットである。
【
図4】20~60℃での(a)3M-STC、(b)3M-ガラス繊維、(c)3M-濾紙、(d)3M-ポリプロピレンポリプロピレン膜のナイキストプロットである。
【
図5】CP-XM-STCセルにおけるスキャン速度5mVs
-1でのZnのメッキ/剥離挙動に対応するCV曲線である。
【
図6】(a)CP-3M-ガラス繊維、(b)CP-3M-濾紙、(c)CP-3M-ポリプロピレンセルにおけるスキャン速度5mVs
-1でのZnのメッキ/剥離挙動に対応するCV曲線である。
【
図7】それぞれ、15サイクル目よび3サイクル目の(a)スキャン速度10mVs
-1でのCP-0M-STCセル、(b)スキャン速度10mVs
-1でのCP-0M-STC及びCP-3M-STCにおける、Znのメッキ/剥離挙動に対応するCV曲線である。
【
図8】(a)3M-STC、(b)3M-ガラス繊維、(c)3M-濾紙、及び(d)3M-ポリプロピレンの存在下で、電流密度0.1mAcm
-2でのZn/Zn対称セルの定電流サイクルである。
【
図9】(a)0.1mVs
-1~1.0mVs
-1のCVプロットスキャン、(b)Log i対Log νプロット、(c)レート能力プロット、(d)V-3M-STCコインセルにおけるV-CP電極の充放電容量である。
【
図10】(a)0.25Ag
-1の電流密度でのV-XM-STC及びV-3M-Y電池の充電/放電曲線、(b)電流密度10Ag
-1でのV-3M-STC電池のサイクル安定性及びクーロン効率、(c)V-3M-STC電池の他のV-XM-Y電池とのサイクル安定性の比較、(d)V-3M-STC電池とともに異なるZAIBについてのラゴンプロットである。
【
図11】V-3M-STCセルのサイクル処理のZnアノードの表面形態であり、(a)及び(b)は電流密度5Ag
-1での500安定サイクル後、(c)及び(d)は1300安定サイクル後である。
【
図12】V-3M-ポリプロピレンセルのサイクル処理のZnアノードの表面の形態であり、(a)及び(b)は、500安定サイクル後であり、(c)及び(d)は、Zn箔のEDAXスペクトルであり、(c)は、V-3M-STCセル(1300サイクル後)、(d)は、V-3M-ポリプロピレンセル(500サイクル後)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、様々な態様をより完全に理解し、認識できるように、本発明を特定の好ましい任意選択の実施形態に関連して詳細に説明する。
【0018】
本発明は、イオノマー膜セパレーター及び自立電極を有するエネルギー貯蔵装置、及びそのエネルギー貯蔵装置の作製を提供する。
【0019】
イオノマー膜は、STC、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリAMPからなる群から選択される。
【0020】
より具体的には、本発明では、STCは、セパレーターとして機能するテトラフロオルエチレン-ペルフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマー(Nafion)である。
【0021】
自立電極は、V2O5、MnO2、Co3O4からなる様々なレドックス活物質群から選択され、それは、炭素繊維紙、炭素フェルト、可とう性黒鉛、FTOガラス、バッキーペーパー、可とう性黒鉛から剥離された炭素テープを含む様々な導電性基板群上に電着することができる。
【0022】
装置は電池であり、より具体的には、Zn系水系イオン電池(ZAIB)である。
【0023】
ある実施形態では、本発明は、アノードとしてZn、カソードとして官能化炭素上に電着されたV2O5、セパレーターとしてSTC、及び電解質としてZnSO4を含むエネルギー貯蔵装置を提供する。本発明で採用される方策は、MnO2、Co3O4、レドックス活性導電性高分子などの他のいくつかのカソード材料に拡大することができる。異なる他のイオノマー膜セパレーターは、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリAMPイオノマーを使用して設計することができ、それらは亜鉛イオン電池(Zn(CF3SO3)2及びZnCl2などの他のいくつかの電解質を備えた)の他に、アルミニウムイオン電池(アノードとしてAl、電解質としてAl2(SO4)3の水溶液)、マグネシウム電池(アノードとしてMg、電解質としてMg(TFSI)2又はMgSO4の水溶液)で十分に機能することができる。更に、それは、炭素繊維紙を、可とう性黒鉛、可とう性黒鉛から剥離された炭素テープ、可とう性FTO、炭素フェルト、CNTバッキーペーパーなどの他の可とう性基板に単に取り替えることによって可とう性電池の作製に使用することができる。
【0024】
ある実施形態では、エネルギー貯蔵装置は更に自立電極を含む。
【0025】
別の実施形態では、電池は、5Ag-1の電流密度で1300サイクル後に85%の維持率、10Ag-1の電流密度で1800サイクル後に88%の維持率を備えた優れたサイクル安定性を示す。
【0026】
別の実施形態では、電池は250~400Whkg-1のエネルギー密度をもたらす。
【0027】
本発明は、更に、エネルギー貯蔵装置の作製方法を提供し、方法は、
a.電解液中の二極セルアセンブリに10V~20Vのバイアス電位を5~10分間印可することによって、1枚の新品の炭素紙(pCP)に対して陽極酸化又は電気化学的官能化(酸素を含む親水性官能基)を行って、官能化炭素紙を得る工程と、
b.官能化炭素紙に活物質を電気化学的に堆積させて活物質が堆積した炭素紙を得る工程と、
c.カソードとして活物質が堆積した炭素紙、アノードとして1枚の金属箔、及び電解質兼セパレーターとして電解質が含浸されたイオノマー膜を使用することによって、エネルギー貯蔵装置を組み立てる工程と、を含む。
【0028】
更なる実施形態では、活物質はV2O5であり、金属はZnであり、イオノマー膜はSTCである。
【0029】
別の実施形態では、工程(a)では、電解質はNa2SO4であり、工程(c)では、電解質はZnSO4である。
【0030】
ZAIBの作製のために、Zn2+含浸STCイオノマー膜は、自立V2O5系正極と一体化されている。STCイオノマー膜の存在は、Zn2+の反応速度を向上し、同時に正極からの放電生成物の拡散による負極の汚染を妨げる。正極は、活物質の導電性基板との最大の接触が得られる電着技術の採用により調製されており、従って、電極の電荷蓄積容量を向上する。V2O5はあらかじめ官能化された炭素紙上に電着され、自立正極として使用される。複合効果として、STCイオノマー系Zn/V2O5電池は極めて高い容量の他に長いサイクル寿命ももたらす。
【0031】
図1は、STCイオノマー膜及び従来の多孔質膜セパレーターを含む異なるZn/V
2O
5電池構成の略図を示す。
【0032】
図2は、V-CP自立電極の物理的特性を示す。V-CP電極の形態をFE-SEM分析によって調査する。
図2a及び
図2bでは、炭素繊維の表面上の粗さは、その上のV
2O
5ナノ構造の成長を示す。V-CPサンプルのV
2O
5の大きな層間隔(0.9nm)をTEM像(
図2c)から観察し、それは、充電/放電プロセスの間にZn
2+及びH
+の共吸蔵/放出を可能にする。V-CP試料のXPSスペクトル(
図2d)では、V2p3/2及びV2p1/2二重線についての517.3eV及び525.2eVに位置するピークは、V.23の+5酸化状態に相当する。+4酸化状態の存在も515.9eV及び523.8eVの結合エネルギーで現われるピークから検知される。同じ図において、O1sピークの微細スペクトルは、V-CPサンプルでは、酸素が2つの異なる化学環境に存在することを示している。530.0eVに位置するピークは、V
2O
5中のV(V-O)と配位する酸素原子に起因する。532.6eVに位置する別のO1sピークは、炭素繊維紙中のH-Oの存在を示す。このピークの存在は、CPから官能基をすべて取り除くのには十分でない、比較的低いアニール温度により明らかである。
【0033】
セパレーターの選択の際に、3M-STCイオノマー膜のイオン伝導率を、30℃の周囲温度で他の従来の多孔質3M-Y膜と比較する(
図3a)。
図3aから、3M-STCが2.6mScm
-1のイオン伝導率を示し、それは、3M-ポリプロピレン及び3M-濾紙の同等物より高い。3M-ガラス繊維のわずかに高いイオン伝導率(2.8mScm
-1)は、そのより良好な湿潤性及び固有多孔性による。
【0034】
イオン伝導に関しての膜の活性化エネルギーを、20℃~60℃の温度範囲内でのlnσ対1/Tプロット(
図3b)の傾きから計算し、伝導性は、温度の上昇に線形的に依存することが観察される。3M-STC膜(
図3b)は、他のすべての多孔質膜と比較して、最低の活性化エネルギーを示す(対応するナイキストプロットを
図4に示す)。この観察から、3M-STCイオノマー膜のより高いイオン伝導率が、低い活性化エネルギーに加えて、セパレーターとしてのSTC膜を用いて組み立てられたZAIBの性能に決定的な役割を果たすことが分かる。
【0035】
Znのメッキ/剥離挙動に対する様々な膜セパレーターの影響を、Zn/CPセル構成における5mvS
-1のスキャン速度でサイクリックボルタンメトリー実験によって分析する。CP-3M-STC(
図5a)セルのCPへのZnメッキ/剥離について測定された過電圧は、わずか75mV(5mVs
-1で)である。CP-3M-STC(1~3サイクル目)(
図5a)のCV分析の間の電流密度の顕著な向上は、STCイオノマーのそれぞれのセルにおけるZn
2+の輸送を増加する能力を示す。電解質の濃度も、Znの電気化学反応に重大な役割を果たすことが観察される。塩濃度が3Mに増加される場合、Znメッキ/剥離についての対応する過電圧は、115mVから75mVに減少され、メッキ及び剥離反応の両方についての電流密度が2倍改善する(
図5b)。より高い電解質濃度で、Zn
2+を囲むより少ない数の水分子による溶媒和効果が低下すると、Zn
2+の輸送が促進され、それは関連する電気化学反応のより良好な可逆性を示唆する。
【0036】
図6a~
図6cは、多孔質膜系CP-3M-YセルのすべてがZnメッキ/剥離についてより高い過電圧を表すことを示す。3M-STCイオノマー膜の正の特質は、イオン伝導率の測定から得られるようなより高いイオン伝導率及び低い活性化エネルギーと関連することができる。多孔質セパレーターを含むCP-3M-YセルにおけるZnメッキ/剥離についての過電圧の大きさは、それぞれの膜のイオン伝導率の同様の傾向をたどる(
図3a)。
図5aから観察されるようなZnのより良好なメッキ/剥離挙動も、それぞれの電極(Zn及びCP)とSTCイオノマー膜によってより良好な界面が形成されることを示す。
【0037】
図7a(CP-0M-STCセル)から観察されるように、CVの1サイクル目におけるZnの酸化中に顕著な正電流応答はない。1~3サイクル目まで、Zn酸化に対応する電流密度は、徐々に増加することが分かる。これは、ある種のZnメッキ/剥離が、その系にZnSO
4が存在しない状態でさえ存在することを示す。0M-STC膜におけるSTCイオノマーの酸性質は、負極からのZnの溶解を引き起こし、それは、結局、作用電極上でメッキ/剥離反応に関与する。
図7bは、数サイクル後に、CP-0M-STCセルのCVプロフィール(15サイクル目)がCP-3M-STCセル(3サイクル目)に類似しているように見えることを示す。しかし、低電流密度(15サイクル目後)及びより高い過電圧(149mV)は、CP-0M-STCセルでのZnメッキ/剥離の反応速度がCP-3M-STCセルに比較して劣ることを示す。
【0038】
図7aから、CVの1サイクル目に1.5Vを超える別の異なるレドックスピークが、水の酸化により現われることが観察される。しかし、このピークは、Znに対応する酸化ピークの発生に伴って減少し始める。これは、Zn
2+の存在が、関連する電気化学反応に対してより良好な可逆性をもたらすだけでなく、電解質のアノード安定性を劇的に増加させることを明瞭に示唆する。
【0039】
図8は、0.1mAcm
-2の一定の充放電電流密度での電圧プロフィールを示す。3M-STCイオノマー膜を含む対称セルは、他の従来の多孔質膜の同等物と比較して、Znメッキ/剥離のより良好な可逆性を示す。様々なサイクルでの拡大部から、3M-STCは、サイクル時に、過電圧の著しい減少を示す(30サイクル目に71mV)。他の多孔質3M-Y膜の場合に充放電電圧の分離が徐々に増加することは、更にSTCイオノマー膜セパレーターの優位性を示す。
【0040】
図9aは、0.1mVs
-1から1.0mVs
-1に及ぶ異なるスキャン速度でのボルタンモグラムでの電流応答を示す。多数のアノード及びカソードピークの出現は、V-CPカソードへのZn
2+の多段階の可逆的なインターカレーションに起因し得る。
図9bのlog(i)対log(ν)のプロットは、スキャン速度への電流依存を示し、式i=aν
bから、ピークO1、O2、R1及びR2に対応するb値は、それぞれ、0.94、0.71、0.89及び0.80として得られる。0.5より相当高いb値は、V-CPカソードにおける電荷貯蔵機構が表面制御され、本質的に容量性であることを示す。このV-CPカソードの擬似容量性電荷貯蔵挙動は、Zn
2+のインターカレーション/デインターカレーション反応速度を増大し、それはエネルギー貯蔵装置の出力を向上するのに非常に望ましい。
【0041】
定電流充放電実験を0.25Ag
-1~10Ag
-1の電流密度で実行する。510mAhg
-1の平均放電容量は、0.25Ag
-1の電流密度で得られ(
図9c及び
図9d)、それは、ここまで報告したすべてのZAIBよりも十分に高い。V-3M-STC電池は、10Ag
-1の非常に高い電流密度(0.25Ag
-1の最低電流密度より40倍高い)で放電される場合、330mAhg
-1の平均放電容量をもたらし、0.25Ag
-1で得られた容量保持率は60%である。V-3M-STCセルの性能は、V-CPカソード及びSTCイオノマー膜の使用の両方に起因する。V-CPカソードでは、炭素繊維骨格は、相互に接続された経路をもたらし、電極全体にわたる電子の輸送を促進する。炭素繊維上のV
2O
5の薄く均一な析出は、表面のレドックス活性部位数を増加させ、レドックス反応の速度及びV-CP電極のZn
2+取り込み能を同時に増加する。従って、STC膜を介したZn
2+のより高い輸送速度とV-CPカソードにおけるZn
2+の表面制御されたインターカレーション/デインターカレーションの複合効果は、V-3M-STCセルの容量及びレート能力を向上させる。
【0042】
Zn/V
2O
5電池は、従来の多孔質膜を用いて作製される。V-3M-STCセルの放電容量は、
図10aの多孔質膜の同等物と比較される。V-3M-STCの最も高い放電容量は、カチオン選択STCイオノマーを介したZn
2+の向上された輸送速度に起因し、それは、対応するセルにおけるZnのメッキ/剥離挙動と強く関連する。高い放電容量とは別に、V-3M-STC電池は、また、5Ag
-1及び10Ag
-1の電流密度で85%(1300サイクル後)及び88%(1800サイクル後)の維持率で優れたサイクル安定性をそれぞれ示す(10Ag
-1の電流密度でのサイクル安定性は
図10bに示される)。
図10cは、5mAcm
-2の電流密度での、他のすべての従来の多孔質膜系の同等物と比較して、V-3M-STCセルの最も高いサイクル安定性を示す。V-3M-STC電池のエネルギー及び出力密度を表すラゴンプロットを
図10dに示す。装置の優れたエネルギー及び出力密度は、更にその実際的な適応性を示す。装置は、195及び7800Wkg
-1の2つの異なる出力密度で、398及び257Whkg
-1の高エネルギー密度をもたらす(0.78Vの平均電圧として)。
【0043】
V-3M-STCセルのより高い安定性の理由を見つけるために、Zn箔の表面形態を500及び1300安定サイクル後に分析する。
図11aから、Zn箔が500サイクル後にV-3M-STCセルの場合にほとんど平坦な面を保持することが観察される。しかし、高倍率で、ナノフレーク状の成長パターンがZn表面に埋め込まれていることが観察される(
図11b)。1300サイクル後に、Znの表面形態は、多孔質の相互接続した薄いナノウォール状の構造に変化され(
図11c及び
図11d)、長期サイクルの際の埋め込まれたナノフレークの剥離により発生する。
図12a及び
図12bでは、非多孔質高密度粒子が、多孔質セパレーター系セル(V-3M-ポリプロピレン)のZn表面上に観察される。また、V-3M-ポリプロピレン及びV-3M-STCセルに対応するサイクル後Zn(アノード)についてEDAX分析を実行する。バナジウム信号は、STCイオノマー膜を備えたセル(
図12c)よりもポリプロピレン系セル(
図12d)の場合に明らかに高い。これは、カチオン選択STCイオノマーが負極への放電生成物の拡散に対するバリアとしての機能を果たすことを意味する(
図1に概略的に示す)。多孔質膜の場合には、放電生成物がアノードに向けてセパレーターを通り、アノード表面を汚染し、それは、結局、V-3M-ポリプロピレンセルの寿命を短くする。
【0044】
【0045】
【実施例】
【0046】
以下の実施例は、説明の目的で提供されるものであり、従って、発明の範囲を限定するように解釈されてはならない。
【0047】
(実施例1:電極の作製)
電着に先立って、1枚の新品の炭素紙(pCP)を、0.1MのNa2SO4電解液中の二極セルアセンブリに10Vのバイアス電位を5分間印可することによって陽極酸化した。陽極酸化中に、pCP及び白金ワイヤーを、正極及び負極としてそれぞれ使用した。電着用の前駆体溶液は、水及びエタノールが1:1の混合物中に0.2MのVOSO4・xH2O及び0.25MのLiClO4を含む。電気化学析出を、3電極セルアセンブリにおいてBioLogic SP-300ポテンシオガルバノスタットでクロノポテンショメトリー方法によって実行した。官能化炭素紙、Ptワイヤー、及び1枚の可とう性黒鉛を、作用電極、準参照電極、及び対極としてそれぞれ使用した。3mAの定電流を177秒間印加して、炭素紙の1cm2の面積に1mgの充填量のV2O5を得た。得られた電極を、250℃で2時間アニールして、V-CPとマークした。
【0048】
(実施例2:STCイオノマー膜の前処理)
使用に先立って、STCイオノマー膜をすべて、1)4質量%H2O2、2)DI水、3)0.8MのH2SO4、及び4)DI水中で80℃で30分間別々にそれぞれ処理した(数は、処理の順序を表す)。得られた活性化STCイオノマー膜を、0、1、2、及び3Mの塩濃度の所望の電解質(ZnSO4・7H2Oの水溶液)にそれぞれ3日間浸漬した。それぞれの膜にXM-STCとマークし、ここで、「X」は使用した電解質溶液の濃度を表す。
【0049】
(実施例3:従来の多孔質膜の変更)
ZAIBの性能に対する従来の多孔質セパレーターの影響を検討するために、3つの異なる多孔質膜(ポリプロピレン、ワットマン濾紙、ガラス繊維紙)を使用した。多孔質膜もすべて使用に先立って3MのZnSO4に浸漬し、対応する膜を3M-Yと呼び、ここで、「Y」は、使用した膜の種類を表す。
【0050】
(実施例4:Zn/V2O5電池アセンブリ)
Zn/V2O5セルをすべてCR2032コインセルアセンブリに作製した。Zn金属(面積1cm2)、V-CP電極(面積1cm2)、及び所望のSTC膜(XM-STC)を、アノード、カソード、及びセパレーターとしてそれぞれ使用した。ここで、アノード及びカソードという用語は、電池の放電状態を考えれば、負極及び正極にそれぞれ使用される。比較の目的で、他のいくつかのZn/V2O5電池も従来の多孔質膜セパレーターを使用して組み立てた。使用した様々なセパレーターによれば、それぞれのセルをV-XM-Yとし、ここで、「X」及び「Y」は、ZnSO4電解質の濃度及び使用した膜の種類をそれぞれ表す。
【0051】
(実施例5:材料特性)
形態の調査を、電界放出走査型電子顕微鏡(FESEM)Nova Nano SEM 450で行った。Tecnai T-20機器を200kVの加速電圧で透過型電子顕微鏡(TEM)画像化に使用した。XPS分析をThermo K-alpha+X線測定装置によって行った。
【0052】
(実施例6:電気化学的特性)
電気化学分析をBioLogic VMP3ポテンシオガルバノスタット機器で行った。電気化学インピーダンス分光(EIS)分析を使用して膜のイオン伝導率を決定した。EIS分析についての周波数を、正弦振幅10mV(Vrms=7.07mV)で開路電位に対して1MHzから1Hzまで変化した。伝導性セルを、厚みが1mmの2つのステンレス鋼板の間に所望の膜を保つことによって、CR2032コインセルアセンブリに作製した。伝導性の測定を、20℃~60℃で10℃の間隔で行った。Espec環境試験チャンバーを使用することによって温度を制御した。
【0053】
Znのメッキ/剥離挙動でのSTCイオノマー系膜の影響を検討するために、電気化学セルを、1枚のZn金属箔(面積1cm2)、pCP(面積1cm2)、及び所望のSTC膜をアノード、カソード、及びセパレーターとしてそれぞれ使用することによって作製した。比較の目的で、同じ種類のセルを他の多孔質膜で準備した。セルをCP-XM-Yとし、ここで、「X」及び「Y」は前のセクションで言及したのと同じ情報を伝える。これらのセルは、サイクリックボルタンメトリー(CV)分析によって特徴づけられた。様々なセパレーター膜が存在する状態でのZnのメッキ/剥離の可逆性も、2つのZn箔が所望のSTCイオノマー膜及び他の多孔質セパレーター膜によって分離されたZn/Zn対称セルの構成で検討した。
【0054】
これらのセルを、0.1mAcm-2の電流密度で80時間定電流充電/放電(CD)分析によって特徴づけた。
【0055】
Zn/V2O5電池CV(1.0、0.5、0.3、及び0.1mVs-1)及びCD(0.25、0.5、1、3、5、7、10Ag-1)の性能を確認するために、1.6V~0.2Vの電圧窓で分析を実行した。サイクル安定性試験を、5Ag-1及び10Ag-1の電流密度で行った。
【0056】
発明の効果
-カチオン選択膜セパレーターを水系Zn/TMO電池で使用するのは初めてである。
-自立電極を使用する方策を水系Znイオン電池で採用するのは初めてである。
-他のすべてのZn系電池の中で最も高い放電容量が得られる。
-イオノマー膜セパレーターは、従来の多孔質セパレーターと異なり、Zn/TMO電池の極めて長い寿命をもたらす。
-電池の高放電容量及び大きな電位窓は、以前に報告されたZAIBより優れ、商用リチウムイオン電池より著しく高い250~400Whkg-1の高エネルギー密度をもたらす。
-電解質イオンの表面制御挿入/引抜(実際は容量)は、いずれかの効率的なエネルギー貯蔵装置に非常に望ましい基準である高出力をもたらす。イオノマー系Zn/V2O5電池は、195Wkg-1~7800Wkg-1の極めて高い出力密度をもたらす。
-更に、この方策は、その上可とう性電池の作製のために採用することができる。
【国際調査報告】