(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-21
(54)【発明の名称】正極活物質、その製造方法、及びそれを含む正極を含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220414BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220414BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220414BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021548271
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(85)【翻訳文提出日】2021-08-17
(86)【国際出願番号】 KR2019018506
(87)【国際公開番号】W WO2020171367
(87)【国際公開日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】10-2019-0018822
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521363413
【氏名又は名称】エスエム ラブ コーポレーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セオ ミン ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム ジ ヨン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050EA01
5H050EA11
5H050FA17
5H050FA18
5H050FA19
5H050FA20
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
下記化学式1で表される化合物を含むコアと、コア表面に配されたリン含有化合物を含むコーティング層と、を含む正極活物質:
LiaZrαWβM1-α-βO2-bSb・・・(化学式1)
該化学式1で、M、Zr、W、a、α、β、bの定義は、本明細書を参照する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される化合物を含むコアと、
前記コアの表面に配されたリン含有化合物を含むコーティング層と、を含む、正極活物質。
Li
aZr
αW
βM
1-α-βO
2-bS
b・・・(化学式1)
前記化学式1で、
Mは、Zr及びWを除く遷移金属のうちから選択された1種以上の遷移金属であり、
0.98≦a≦1.02、0<α≦0.005、0<β≦0.005及び0<b≦0.1である。
【請求項2】
前記Mは、Ni、Co、Mn、Al、Mg、V及びTiのうちから選択された1種以上の遷移金属を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記Mは、Niを含み、
前記Niのモル比が60モル%を超える、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記bは、0<b≦0.01である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記化学式1は、下記化学式2-1ないし2-3のうちいずれか一つで表された、請求項1に記載の正極活物質。
Li
a’Zr
α’W
β’Ni
1-x’-y’-α’-β’Co
x’Mn
y’O
2-b’S
b’ ・・・(化学式2-1)
Li
a”Zr
α”W
β”Ni
1-x”-y”-α”-β”Co
x”Al
y”O
2-b”S
b” ・・・(化学式2-2)
Li
a’’’Zr
α’’’W
β’’’Ni
1-x’’’-α’’’-β’’’Co
x’’’O
2-b’’’S
b’’’・・・(化学式2-3)
前記化学式2-1で、
0.98<a’≦1.02、0<α’≦0.005、0<β’≦0.005、0<x’≦0.2、0<y’≦0.3及び0<b’≦0.1であり、
前記化学式2-2で、
0.98<a”≦1.02、0<α”≦0.005、0<β”≦0.005、0<x”≦0.2、0<y”≦0.05及び0<b”≦0.1であり、
前記化学式2-3で、
0.98<a’’’≦1.02、0<α’’’≦0.005、0<β’’’≦0.005、0<x’’’≦0.2及び0<b’’’≦0.1である。
【請求項6】
前記リン含有化合物は、結晶質、非晶質、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記正極活物質のおけるリンのモル比は、全体正極活物質の0.2モル%以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記リン含有化合物は、下記化学式3で表される化合物を含む、請求項1に記載の正極活物質。
Li
aPbO
c・・・(化学式3)
0<a≦3、0<b≦1及び0<c≦4である。
【請求項9】
前記コーティング層は、コア表面で連続したコーティング層、またはコア表面で部分的に存在するアイランド形態のコーティング層である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記正極活物質は、CuKα線を利用するXRD分析によって得たX線回折スペクトルの2θ=20°ないし25°でピークを有する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項11】
前記正極活物質は、単結晶である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項12】
前記正極活物質は、単一粒子である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項13】
前記正極活物質の平均粒度(D
50)は、0.1μmないし20μmである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項14】
リチウム前駆体、Zr前駆体、W前駆体、M前駆体、S前駆体及びリン含有化合物前駆体を混合し、前駆体混合物を得る混合段階と、
前記前駆体混合物を熱処理し、下記化学式1で表される正極活物質を得る熱処理段階と、を含む、正極活物質の製造方法。
Li
aZr
αW
βM
1-α-βO
2-bS
b・・・(化学式1)
前記化学式1で、
Mは、Zr及びWを除く遷移金属のうちから選択された1種以上の遷移金属であり、
0.98≦a≦1.02、0<α≦0.005、0<β≦0.005及び0<b≦0.1である。
【請求項15】
前記混合段階は、機械的混合する段階を含む、請求項14に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項16】
前記熱処理段階は、第1熱処理段階及び第2熱処理段階を含み、
前記第1熱処理段階の熱処理温度は、前記第2熱処理段階の熱処理温度より高い、請求項14に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項17】
請求項1ないし13のうちいずれか1項に記載の正極活物質を含む正極と、
負極と、
電解質と、を含む、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規組成の正極活物質、それを含む正極、及び前記正極を含むリチウム二次電池に関する。
【0002】
本発明は、「中大型リチウム二次電池用高強度/長寿命/高安定性NiリッチNCA(>210mAh/g、@4.3V)正極素材開発」という題目の課題固有番号P0009541の産業通商資源部の資金を支援されてなされたものである。
【背景技術】
【0003】
リチウム二次電池は、1991年、ソニー社によって商用化された後、モバイルIT製品のような小型家電から、中大型電気自動車及びエネルギー保存システムまで、多様な分野において需要が急増している。特に、中大型電気自動車及びエネルギー保存システムのためには、低価型高エネルギー正極素材が必須であるが、現在商用化されている正極活物質である単結晶型LiCoO2(LCO)の主原料であるコバルトは、高価である。
【0004】
そのために、最近、中大型二次電池用正極活物質として、LCOの代わりに、Coの一部を他の遷移金属に置き換えたLiNixCoyMnzO2(NCM;x+y+z=1)及びLiNixCoyAlzO2(NCA;x+y+z=1)で表されるNi系正極活物質を使用し、そのようなNCM系及びNCA系の正極活物質は、原料であるニッケルの価格が廉価であり、高い可逆容量を有するという長所を有する。特に、高容量の側面において、Niのモル比が50モル%以上であるNCM及びNCAが注目されている。一般的に、そのようなNi系正極活物質は、共沈法で合成した遷移金属化合物前駆体を、リチウムソースと混合した後、固相に合成して製造される。しかし、そのように合成されたNi系正極素材は、小さい一次粒子が塊になっている二次粒子形態で存在し、長期間の充電/放電過程において、二次粒子内部に微細亀裂(micro-crack)が生じるという問題点が存在する。該微細亀裂は、正極活物質の新たな界面と、電解液の副反応とを誘発し、その結果、ガス発生による安定性低下、及び電解液枯渇による電池性能低下のような電池性能劣化が誘発される。また、高エネルギー密度具現のために、電極密度の増大(>3.3g/cc)を必要とするが、それは、二次粒子の崩壊を誘発し、電解液との副反応による電解液枯渇を誘発し、初期寿命急減を誘発する。結局、既存の共沈法で合成した二次粒子形態のNi系正極活物質は、高エネルギー密度を具現することができないということを意味する。
【0005】
前述の二次粒子形態のNi系正極活物質の問題点を解決すべく、最近、単粒子型Ni系正極活物質に係わる研究がなされている。該単結晶型Ni系正極活物質は、そのエネルギー密度具現のために、電極密度増大時(>3.3g/cc)、粒子の崩壊が発生せず、すぐれた電気化学性能を具現することができる。しかし、そのような単結晶型Ni系正極活物質は、電気化学評価時、不安定なNi3+イオン、Ni4+イオンにより、構造的及び/または熱的な不安定性により、バッテリ安定性が低下されるという問題点が提起されている。従って、高エネルギーリチウム二次電池開発のために、単結晶型Ni系正極活物質の不安定なNiイオンを安定化させる技術への要求が続けて存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、前述のような単結晶型Ni系正極活物質中における不安定なNiイオンを安定化させ、高エネルギー密度が具現され、長寿命特性が向上された正極活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一側面により、下記化学式1で表される化合物を含むコアと、前記コア表面に配されたリン含有化合物を含むコーティング層と、を含む正極活物質:
LiaZrαWβM1-α-βO2-bSb・・・(化学式1)
前記化学式1で、Mは、Zr及びWを除く遷移金属のうちから選択された1種以上の遷移金属であり、0.98≦a≦1.02、0<α≦0.005、0<β≦0.005及び0<b≦0.1である。
【0008】
他の側面により、リチウム前駆体、Zr前駆体、W前駆体、M前駆体、S前駆体及びリン含有化合物前駆体を混合し、前駆体混合物を得る混合段階と、前記前駆体混合物を熱処理し、前記化学式1で表される正極活物質を得る熱処理段階と、を含む正極活物質の製造方法が提供される。
【0009】
さらに他の側面により、前記正極活物質を含む正極と、負極と、電解質と、を含むリチウム二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0010】
一側面による正極活物質は、コアに含まれた化合物の遷移金属のうち一部を、W及びZrで置き換え、酸素の一部をS元素で置き換えることにより、正極活物質に存在する不安定なNi陽イオンが安定化され、コア表面にリン含有化合物を含むコーティング層を提供することにより、電解液との副反応抑制及び残留リチウム低減により、安定性及び長寿命特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1及び比較例1の正極活物質に係わるSEM写真である。
【
図2】実施例1の正極活物質の粒度分布を示すグラフである。
【
図3】実施例1の正極活物質に係わるSTEMイメージ、及び白色四角形部分に係わるEDX分析結果である。
【
図4】実施例1の正極活物質に係わるSTEMイメージ、及び白色四角形部分に係わるEELS分析結果である。
【
図5】実施例1及び比較例1のXRDグラフである。
【
図6】実施例4及び比較例7のハーフセルに係わる寿命維持率グラフである。
【
図7】実施例4及び比較例8のハーフセルに係わる寿命維持率グラフである。
【
図8】実施例4及び比較例9のハーフセルに係わる寿命維持率グラフである。
【
図9】実施例4及び比較例10のハーフセルに係わる寿命維持率グラフである。
【
図10】実施例5及び比較例11のハーフセルに係わる寿命維持率グラフである。
【
図11】実施例6及び比較例12のハーフセルに係わる寿命維持率グラフである。
【
図12】例示的な具現例によるリチウム電池の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下で説明される本創意的思想(present inventive concept)は、多様な変換を加えることができ、さまざまな実施例を有することができるが、特定実施例を図面に例示し、詳細な説明によって詳細に説明する。しかし、それらは、本創意的思想を特定の実施例について限定するものではなく、本創意的思想の技術範囲に含まれる全ての変換、均等物または代替物を含むものであると理解されなければならない。
【0013】
以下で使用される用語は、単に、特定実施例についての説明に使用されたものであり、本創意的思想を限定する意図ではない。単数の表現は、文脈上明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。以下において、「含む」または「有する」のような用語は、明細書上に記載された特徴、数、段階、動作、構成要素、部品、成分、材料、またはそれらの組み合わせが存在するということを示すものであり、1またはそれ以上の他の特徴、数、段階、動作、構成要素、部品、成分、材料、またはそれらの組み合わせの存在または付加の可能性を事前に排除するものではないと理解されなければならない。以下で使用される「/」は、状況により、「及び」とも解釈され、あるいは「または」とも解釈される。
【0014】
図面において、さまざまな層及び領域を明確に表現するために、厚みを拡大したり縮小したりして示されている。明細書全体を通し、類似した部分については、同一図面符号を付した。明細書全体において、層、膜、領域、板のような部分が、他の部分の「上」または「上部」にあるとするとき、それは、他の部分の真上にある場合だけではなく、その中間に、さらに他の部分がある場合も含む。明細書全体において、第1、第2のような用語は、多様な構成要素についての説明にも使用されるが、該構成要素は、用語によって限定されるものではない。該用語は、1つの構成要素を、他の構成要素から区別する目的のみに使用される。
【0015】
以下において、例示的な具現例による正極活物質、その製造方法、及びそれを含む正極を含むリチウム二次電池につき、さらに詳細に説明する。
【0016】
一側面による正極活物質は、下記化学式1で表される化合物を含むコアと、前記コア表面に配されたリン(P)含有化合物を含むコーティング層と、を含んでもよい。
LiaZrαWβM1-α-βO2-bSb・・・(化学式1)
前記化学式1で、Mは、Zr及びWを除く遷移金属のうちから選択された1種以上の遷移金属であり、0.98≦a≦1.02、0<α≦0.005、0<β≦0.005及び0<b≦0.1である。
【0017】
前記正極活物質は、化学式1で表される化合物において、遷移金属のうち一部がZr及びWに置き換えられ、酸素のうち一部がSに置き換えられる。それにより、前記正極活物質内部に存在する不安定なNiイオン、例えば、Ni3+またはNi4+は、安定した形態であるNi2+の形態に還元され、寿命特性が向上する。
【0018】
また、前記コーティング層に含まれたリン含有化合物は、コア表面に存在するLi2CO3またはLiOHのような残留リチウムと、リン前駆体化合物との反応によって生成された生成物である。前記残留リチウムは、不安定なNi3+のNi2+への自発的還元過程において、空気中の二酸化炭素及び水分と、リチウムとが反応して生成される。また、充電時、残留リチウムの電気化学的分解により、CO2ガスの発生、または電解液との副反応によるガス発生により、安定性問題を引き起こしてしまう。一方、前記正極活物質は、前記コーティング層の形成により、残留リチウムの量が顕著に低減されることにより、高エネルギー密度、及び向上された寿命特性を有する。
【0019】
一具現例によれば、前記Mは、Ni、Co、Mn、Al、Mg、V及びTiのうちから選択された1種以上の遷移金属を含んでもよい。
【0020】
一具現例によれば、前記Mは、Ni、Co、Mn、Al、Mg及びVのうちから選択された1種以上の遷移金属を含んでもよい。例えば、前記Mは、Ni、Co、Mn、Al及びMgのうちから選択された1種以上の遷移金属を含んでもよい。例えば、前記Mは、Ni、Co、Mn及びAlのうちから選択された1種以上の遷移金属を含んでもよい。
【0021】
一具現例によれば、前記Mは、Niを含み、前記Mにおいて、Ni原子のモル比は、60モル%を超えるものでもある。例えば、前記Mにおいて、Ni原子のモル比は、65モル%以上、66モル%以上、67モル%以上、68モル%以上、69モル%以上、70モル%以上、71モル%以上、73モル%以上、74モル%以上、75モル%以上、76モル%以上、77モル%以上、78モル%以上、79モル%以上でもある。
【0022】
一具現例によれば、前記化学式1で、bは、0<b≦0.09、0<b≦0.08、0<b≦0.07、0<b≦0.06、0<b≦0.05、0<b≦0.04、0<b≦0.03、0<b≦0.02または0<b≦0.01でもある。
【0023】
一具現例によれば、前記化学式1は、下記化学式2-1ないし2-3のうちいずれか一つによっても表される。
Lia’Zrα’Wβ’Ni1-x’-y’-α’-β’Cox’Mny’O2-b’Sb’ ・・・(化学式2-1)
Lia”Zrα”Wβ”Ni1-x”-y”-α”-β”Cox”Aly”O2-b”Sb” ・・・(化学式2-2)
Lia’’’Zrα’’’Wβ’’’Ni1-x’’’-α’’’-β’’’Cox’’’O2-b’’’Sb’’’ ・・・(化学式2-3)
【0024】
前記化学式2-1で、0.98<a’≦1.02、0<α’≦0.005、0<β’≦0.005、0<x’≦0.2、0<y’≦0.3及び0<b’≦0.1であり、前記化学式2-2で、0.98<a”≦1.02、0<α”≦0.005、0<β”≦0.005、0<x”≦0.2、0<y”≦0.05及び0<b”≦0.01であり、前記化学式2-3で、0.98<a’’’≦1.02、0<α’’’≦0.005、0<β’’’≦0.005、0<x’’’≦0.2及び0<b’’’≦0.1である。
【0025】
例えば、前記化学式2-1で、0.05≦x’≦0.2、0<x’≦0.15または0.05≦x’≦0.15でもある。
【0026】
例えば、前記化学式2-1で、0<y’≦0.2または0<y’≦0.1でもある。
【0027】
例えば、前記化学式2-2で、0.05≦x”≦0.2、0<x”≦0.15または0.05≦x”≦0.15でもある。
【0028】
例えば、前記化学式2-2で、0<y”≦0.2または0<y”≦0.1でもある。
【0029】
例えば、前記化学式2-3で、0.05≦x’’’≦0.2、0<x’’’≦0.15または0.05≦x’’’≦0.15でもある。
【0030】
一具現例によれば、前記リン含有化合物は、結晶質、非晶質、またはそれらの組み合わせでもある。
【0031】
例えば、前記リン含有化合物は、結晶質のLi3PO4を含むか、あるいはリチウム、リン及び酸素原子を含む非晶質のリン含有化合物を含んでもよい。
【0032】
一具現例によれば、前記正極活物質において、リン元素のモル比は、前記正極活物質に含まれた元素全体において、0.2モル%以下でもある。
【0033】
一具現例によれば、前記リン含有化合物は、下記化学式3で表される化合物を含んでもよい:
LiaPbOc・・・(化学式3)
0<a≦3、0<b≦1及び0<c≦4である。
【0034】
一具現例によれば、前記コーティング層は、コア表面における連続したコーティング層、またはコア表面において、部分的に存在するアイランド形態のコーティング層を有することができる。例えば、前記コーティング層は、コア表面において、アイランド形態のコーティング層を有することができる。
【0035】
一具現例によれば、前記正極活物質は、CuKα線を利用するXRD分析によって得たX線回折スペクトルの2θ=20°ないし25°でピークを有することができる。
【0036】
前記XRDグラフにおいて、2θ=20°ないし25°におけるピークは、Li3PO4の存在を意味する。また、後述するが、そのようなピークは、正極活物質のコーティング層で観察されるので、正極活物質のコア内部には、リン元素が存在しない。
【0037】
一具現例によれば、前記正極活物質は、単結晶でもある。ここで、該単結晶は、単一粒子とは区別される概念を有する。単一粒子とは、内部に、結晶の類型と個数とにかかわらず、1つの粒子に形成された粒子を称するものであり、該単結晶は、粒子内に単一結晶を含むものを意味する。前記コアが単結晶を有することにより、構造的安定性が非常に高い。また、多結晶に比べ、リチウムイオン伝導が容易であり、多結晶の活物質に比べ、高速充電特性にすぐれる。
【0038】
一具現例によれば、前記正極活物質は、単一粒子でもある。ここで、該単一粒子とは、複数の単一粒子の凝集体である二次粒子とは区別される概念である。前記正極活物質が単一粒子の形態を有することにより、高い電極密度においても、粒子の崩れを防止することができる。従って、正極活物質の高エネルギー密度の具現が可能になる。前記コアは、単一粒子であるので、圧延時に崩れが防止され、高エネルギー密度の具現が可能であり、粒子の崩れによる寿命劣化も防止することができる。
【0039】
一具現例によれば、前記正極活物質は、単結晶及び単一粒子である。単結晶及び単一粒子によって形成されることにより、構造的に安定し、高密度の電極の具現が可能であり、それを含むリチウム二次電池が、向上された寿命特性、及び高エネルギー密度を同時に有することができる。
【0040】
一具現例によれば、前記正極活物質の平均粒度(D50)は、0.1μmないし20μmでもある。例えば、前記平均粒度(D50)は、0.1μmないし15μm、0.1μmないし10μm、1μmないし20μm、5μmないし20μm、1μmないし15μm、1μmないし10μm、5μmないし15μm、または5μmないし10μmでもある。前記正極活物質の平均粒度が前記範囲に属する場合、所望する体積当たりエネルギー密度を具現することができる。前記正極活物質の平均粒度が20μmを超える場合、充放電容量の急激な低下をもたらすことになり、0.1μm以下である場合、所望する体積当たりエネルギー密度を得難い。
【0041】
以下、一側面による正極活物質の製造方法について詳細に説明する。
【0042】
一具現例による正極活物質の製造方法は、リチウム前駆体、Zr前駆体、W前駆体、S前駆体及びリン含有化合物前駆体を混合し、前駆体混合物を得る混合段階と、前記前駆体混合物を熱処理し、下記化学式1で表される正極活物質を得る熱処理段階と、を含んでもよい:
LiaZrαWβM1-α-βO2-bSb
【0043】
前記化学式1で、Mは、Zr及びWを除く遷移金属のうちから選択された1種以上の遷移金属であり、0.98≦a≦1.02、0<α≦0.005、0<β≦0.005及び0<b≦0.1である。
【0044】
前記化学式1に係わる具体的な説明は、前述のところを参照する。
【0045】
前記混合段階は、前記前駆体を機械的混合することを含む。前記機械的混合は、乾式によって遂行される。前記機械的混合は、機械的力を加え、混合する物質を粉砕して混合し、均一な混合物を形成するのである。該機械的混合は、例えば、化学的に不活性であるビード(beads)を利用するボールミル(ball mill)、遊星ミル(planetary mill)、撹拌ボールミル(stirred ball mill)、振動ミル(vibrating mill)のような混合装置を利用しても行われる。このとき、混合効果を極大化させるために、エタノールのようなアルコール、ステアリン酸のような高級脂肪酸を選択的に少量添加することができる。
【0046】
前記機械的混合は、酸化雰囲気で行われるが、それは、遷移金属供給源(例:Ni化合物)において、遷移金属の還元を防ぎ、活物質の構造的安定性を具現するためのものである。
【0047】
前記リチウム前駆体は、リチウムの水酸化物、酸化物、窒化物、炭酸化物、またはそれらの組み合わせを含んでもよいが、それらに限定されるものではない。例えば、リチウム前駆体は、LiOHまたはLi2CO3でもある。
【0048】
前記Zr前駆体は、Zrの水酸化物、酸化物、窒化物、炭酸化物、またはそれらの組み合わせを含んでもよいが、それらに限定されるものではない。例えば、Zr(OH)4、ZrO2、またはそれらの組み合わせでもある。
【0049】
前記W前駆体は、Wの水酸化物、酸化物、窒化物、炭酸化物、またはそれらの組み合わせを含んでもよいが、それらに限定されるものではない。例えば、W(OH)6、WO3、またはそれらの組み合わせでもある。
【0050】
前記M前駆体は、Ni、Mn、Co及びAlのうち1種以上の遷移金属の水酸化物、酸化物、窒化物、炭酸化物、またはそれらの組み合わせを含んでもよいが、それらに限定されるものではない。
【0051】
前記リン含有化合物前駆体は、リン元素を提供することができるリン含有化合物をいずれも含む。例えば、リン前駆体は、(NH4)2HPO4でもある。
【0052】
前記S前駆体は、Sの水酸化物、酸化物、窒化物、炭酸化物、アンモニウム化物、またはそれらの組み合わせを含んでもよいが、それらに限定されるものではない。例えば、SO2または(NH4)2Sでもある。
【0053】
前記混合する段階後、熱処理する段階を含んでもよい。前記熱処理段階は、第1熱処理段階及び第2熱処理段階を含んでもよい。前記第1熱処理段階及び前記第2熱処理段階は、連続して遂行されるか、あるいは第1熱処理段階後、休息期を有することができる。また、前記第1熱処理段階及び前記第2熱処理段階は、同一チャンバ内でもなされ、あるいは互いに異なるチャンバ内でもなされる。
【0054】
前記第1熱処理段階における熱処理温度は、前記第2熱処理段階における熱処理温度よりも高い。
【0055】
前記第1熱処理段階は、熱処理温度800℃ないし1,200℃でも遂行される。前記熱処理温度は、例えば、850℃ないし1,200℃、860℃ないし1,200℃、870℃ないし1,200℃、880℃ないし1,200℃、890℃ないし1,200℃、または900℃ないし1,200℃でもあるが、それらに限定されるものではなく、前記範囲内において、任意の2つの地点を選択して構成された範囲をいずれも含む。
【0056】
前記第2熱処理段階は、熱処理温度は、700℃ないし800℃でも遂行される。前記熱処理温度は、710℃ないし800℃、720℃ないし800℃、730℃ないし800℃、740℃ないし800℃、750℃ないし800℃、700℃ないし780℃、700℃ないし760℃、700℃ないし750℃、または700℃ないし730℃でもあるが、それらに限定されるものではなく、前記範囲内において、任意の2つの地点を選択して構成された範囲をいずれも含む。
【0057】
一具現例によれば、前記第1熱処理段階における熱処理時間は、前記第2熱処理段階における熱処理時間よりも短い。
【0058】
例えば、前記第1熱処理段階における熱処理時間は、3時間ないし5時間、4時間ないし5時間、または3時間ないし4時間でもあるが、それらに限定されるのではなく、前記範囲内において、任意の2つの地点を選択して構成された範囲をいずれも含む。
【0059】
例えば、前記第2熱処理段階における熱処理時間は、10時間ないし20時間、10時間ないし15時間でもあるが、それらに限定されるのではなく、前記範囲内において、任意の2つの地点を選択して構成された範囲をいずれも含む。
【0060】
前記第1熱処理段階は、800℃ないし1,200℃の熱処理温度で、3時間ないし5時間熱処理する段階を含んでもよい。
【0061】
前記第2熱処理段階は、700℃ないし800℃の熱処理温度で、10時間ないし20時間熱処理する段階を含んでもよい。
【0062】
前記第1熱処理段階は、リチウム遷移金属酸化物が、層状構造の正極活物質を形成すると共に、粒子の成長を誘発し、単結晶の形状をなすようにする。前記第1熱処理段階においては、二次粒子形状のリチウム遷移金属酸化物内のそれぞれの一次粒子が急激に成長し、粒子間応力に耐えることができないことにより、一次粒子の内部が現れながら互いに融合され、二次電池用単結晶正極活物質が形成されると考えられる。前記第2熱処理段階は、第1熱処理段階に置けるところよりも低い温度で熱処理を長期間行うことにより、第1熱処理段階で生成された層状構造の結晶度を高める。該第1熱処理段階及び該第2熱処理段階を介し、単一相、単結晶、単一粒子のニッケル系正極活物質が得られる。
【0063】
一具現例によれば、前記製造方法によって製造されたリチウム遷移金属酸化物は、単結晶、単一粒子であり、前記単結晶は、層状構造を有することができる。また、前記リチウム遷移金属酸化物の平均粒度は、0.1μmないし20μmでもある。
【0064】
また、前記正極活物質の製造方法によって製造された正極活物質は、W元素及びZr元素は、構造内遷移金属サイトに置き換えられ、S元素がOサイトに置き換えられる。W元素、Zr元素及びS元素が、Ni系正極活物質構造内に置き換えられることにより、既存に存在するNi3+イオンのNi2+イオンへの還元が誘発される。還元されたNi2+イオンとLi+イオンは、イオン半径が類似しており、Li/Ni無秩序化(disordering)が促進され、コア内において、部分的に酸素格子構造を変化させる。該酸素格子構造が部分的に変化され、リン元素は、構造内正四面体サイトを占めることにより、PO4構造を形成することができず、コア内の正四面体位置に、リン元素が侵透することができず、正極活物質表面に、リン含有化合物、例えば、Li3PO4形態で存在するのである。
【0065】
また、前記方法によって製造された正極活物質は、遷移金属のうち一部がZr及びWに置き換えられ、酸素のうち一部がSに置き換えされた遷移金属酸化物を含むコアと、該コア表面に、リン含有化合物を含むコーティング層と、を含むことにより、残留リチウムの量、及び不安定なNiイオンの量が同時に低減された正極活物質が得られ、そのような正極活物質を採用したリチウム二次電池は、高エネルギー密度及び長寿命を有する。
【0066】
他の側面によれば、前述の正極活物質を含む正極が提供される。さらに他の側面によれば、前記正極と、負極と、電解質と、を含むリチウム二次電池が提供される。
【0067】
前記正極、及びそれを含むリチウム二次電池は、次のような方法によっても製造される。
【0068】
まず、正極が準備される。
【0069】
例えば、前述の正極活物質、導電剤、バインダ及び溶媒が混合された正極活物質組成物が準備される。前記正極活物質組成物が、金属集電体上に直接コーティングされ、正極板が製造される。代案としては、前記正極活物質組成物が、別途の支持体上にキャスティングされた後、前記支持体から剥離されたフィルムが金属集電体上にラミネーションされ、正極板が製造されうる。前記正極は、前述のところで列挙した形態に限定されるものではなく、前述の形態以外の形態でもある。
【0070】
前記導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛のような黒鉛;カーボンブラック;炭素ナノチューブのような導電性チューブ;フルオロカーボン、酸化亜鉛、チタン酸カリウムのような導電性ウィスカ;酸化チタンのような導電性金属酸化物;などが使用されうるが、それらに限定されるものではなく、当該技術分野において、導電剤として使用されうるものであるならば、いずれも使用されうる。
【0071】
前記バインダとしては、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、またはそれらの混合物;金属塩、あるいはスチレンブタジエンゴム系ポリマーなどが使用されうるが、それらに限定されるものではなく、当該技術分野において、バインダとして使用されうるものであるならば、いずれも使用されうる。他のバインダの例としては、前述のポリマーのリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩またはナトリウム塩などが使用されうる。
【0072】
前記溶媒としては、N-メチルピロリドン、アセトンまたは水などが使用されうる、それらに限定されるものではなく、当該技術分野で使用されうるものであるならば、いずれも使用されうる。
【0073】
前記正極活物質、導電剤、バインダ及び溶媒の含量は、リチウム電池において、一般的に使用されるレベルである。リチウム電池の用途及び構成により、前記導電剤、前記バインダ及び前記溶媒のうち1以上が省略されうる。
【0074】
次に、負極が準備される。
【0075】
例えば、負極活物質、導電剤、バインダ及び溶媒を混合し、負極活物質組成物が準備される。前記負極活物質組成物が、3μmないし500μmの厚みを有する金属集電体上に、直接コーティングされて乾燥され、負極板が製造される。代案としては、前記負極活物質組成物が、別途の支持体上にキャスティングされた後、前記支持体から剥離されたフィルムが、金属集電体上にラミネーションされ、負極板が製造されうる。
【0076】
前記負極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発せず、導電性を有したものであるならば、特別に制限されるものではなく、例えば、銅、ニッケル、銅の表面に、カーボンで表面処理したものが使用されうる。
【0077】
前記負極活物質は、当該技術分野において、リチウム電池の負極活物質として使用されうるものであるならば、いずれも可能である。例えば、リチウム金属、リチウムと合金可能な金属、遷移金属酸化物、非遷移金属酸化物及び炭素系材料からなる群のうちから選択された1以上を含んでもよい。
【0078】
例えば、前記リチウムと合金可能な金属は、Si、Sn、Al、Ge、Pb、Bi、Sb、Si・Y合金(前記Yは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素、14族元素、遷移金属、希土類元素、またはそれらの組み合わせ元素であり、Siではない)、Sn・Y合金(前記Yは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素、14族元素、遷移金属、希土類元素、またはそれらの組み合わせ元素であり、Snではない)などでもある。前記元素Yとしては、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Rf、V、Nb、Ta、Db、Cr、Mo、W、Sg、Tc、Re、Bh、Fe、Pb、Ru、Os、Hs、Rh、Ir、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、B、Al、Ga、Sn、In、Ti、Ge、P、As、Sb、Bi、S、SeまたはTeでもある。
【0079】
例えば、前記遷移金属酸化物は、リチウムチタン酸化物、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物などでもある。
【0080】
例えば、前記非遷移金属酸化物は、SnO2、SiOx(0<x<2)などでもある。
【0081】
前記炭素系材料としては、結晶質炭素、非晶質炭素、またはそれらの混合物でもある。前記結晶質炭素は、無定形、板状、燐片状(flake)、球形または纎維型の天然黒鉛または人造黒鉛のような黒鉛でもあり、前記非晶質炭素は、ソフトカーボン(soft carbon:低温焼成炭素)またはハードカーボン(hard carbon)、メゾ相ピッチ(mesophase pitch)炭化物、焼成されたコークスなどでもある。
【0082】
該負極活物質組成物において、導電剤、バインダ及び溶媒は、前記正極活物質組成物の場合と同一物を使用することができる。
前記負極活物質、前記導電剤、前記バインダ及び前記溶媒の含量は、リチウム電池で一般的に使用するレベルである。リチウム電池の用途及び構成により、前記導電剤、前記バインダ及び前記溶媒のうち1以上が省略されうる。
【0083】
次に、前記正極と前記負極との間に挿入されるセパレータが準備される。
【0084】
前記セパレータは、リチウム電池において、一般的に使用されるものであるならば、いずれも使用可能である。電解質のイオン移動に対し、低抵抗でありながら、電解液含湿能にすぐれるものが使用されうる。前記セパレータは、単一膜または多層膜でもあり、例えば、ガラスファイバ、ポリエステル、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはそれらの組み合わせ物のうちから選択されたものであり、不織布または織布の形態でもよい。また、ポリエチレン/ポリプロピレン2層セパレータ、ポリエチレン/ポリプロピレン/ポリエチレン3層セパレータ、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層セパレータのような混合多層膜が使用されうる。例えば、リチウムイオン電池には、ポリエチレン、ポリプロピレンのような巻き取り可能なセパレータが使用され、リチウムイオンポリマー電池には、有機電解液含浸能にすぐれるセパレータが使用されうる。例えば、前記セパレータは、下記方法によっても製造される。
【0085】
高分子樹脂、充填剤及び溶媒を混合し、セパレータ組成物が準備される。前記セパレータ組成物が、電極上部に直接コーティングされて乾燥され、セパレータが形成されうる。または、前記セパレータ組成物が支持体上にキャスティングされて乾燥された後、前記支持体から剥離させたセパレータフィルムが電極上部にラミネーションされ、セパレータが形成されうる。
【0086】
前記セパレータ製造に使用される高分子樹脂は、特別に限定されるものではなく、電極板のバインダとして使用される物質であるならば、いずれも使用されうる。例えば、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、またはそれらの混合物などが使用されうる。
【0087】
次に、電解質が準備される。
【0088】
例えば、前記電解質は、有機電解液でもある。また、前記電解質は、固体でもある。例えば、ボロン酸化物、リチウムオキシナイトライドなどでもあるが、それらに限定されるものではなく、当該技術分野において、固体電解質として使用されるものであるならば、いずれも使用可能である。前記固体電解質は、スポッタリングなどの方法により、前記負極上にも形成される。
【0089】
例えば、該有機電解液は、有機溶媒にリチウム塩が溶解されても製造される。
【0090】
前記有機溶媒は、当該技術分野において、有機溶媒として使用されうるものであるならば、いずれも使用されうる。例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートのような環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネートのような鎖状カーボネート;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトンのようなエステル類;1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2-ジオキサン、2-メチルテトラヒドロフランのようなエーテル類;アセトニトリルのようなニトリル類;ジメチルホルムアミドのようなアミド類などがある。それらにつき、単独であるか、あるいは複数個組み合わせて使用することができる。例えば、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを混合した溶媒を使用することができる。
【0091】
また、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルのような重合体電解質に電解液を含浸させたゲル状重合体電解質や、LiI、Li3N、LixGeyPzSα、LixGeyPzSαXδ(Xは、F、Cl、Brである)のような無機固体電解質を使用することができる。
【0092】
前記リチウム塩も、当該技術分野において、リチウム塩として使用されうるものであるならば、いずれも使用されうる。例えば、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiClO4、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、LiC4F9SO3、LiAlO2、LiAlCl4、LiN(CxF2x+1SO2)(CyF2y+1SO2)(ただし、x、yは、自然数である)、LiCl、LiI、またはそれらの混合物などである。
【0093】
図12から分かるように、前記リチウム電池1は、正極3、負極2及びセパレータ4を含む。前述の正極3、負極2及びセパレータ4がワインディンされたり、折り畳まれたりし、電池ケース5に収容される。次に、前記電池ケース5に有機電解液が注入され、キャップ(cap)アセンブリ6に密封され、リチウム電池1が完成される。前記電池ケース5は、円筒状、角形、ポーチ型、コイン型または薄膜型などでもある。例えば、前記リチウム電池1は、薄膜型電池でもある。前記リチウム電池1は、リチウムイオン電池でもある。
【0094】
前記正極と前記負極との間にセパレータが配され、電池構造体が形成されうる。前記電池構造体がバイセル構造に積層された後、有機電解液に含浸され、得られた結果物がポーチに収容されて密封されれば、リチウムイオンポリマー電池が完成される。
【0095】
また、前記電池構造体は、複数個積層されて電池パックを形成し、そのような電池パックが、高容量及び高出力が要求される全ての機器にも使用される。例えば、ノート型パソコン、スマートフォン、電気車両(EV:electric vehicle)などにも使用される。
【0096】
また、前記リチウム電池は、寿命特性及び高率特性にすぐれるので、電気車両にも使用される。例えば、プラグインハイブリッド車(PHEV:plug-in hybrid electric vehicle)のようなハイブリッド車両にも使用される。また、多量の電力保存が要求される分野にも使用される。例えば、電気自転車、電動工具、電力保存用システムなどにも使用される。
以下の製造例、実施例及び比較例を介し、本発明についてさらに詳細に説明される。ただし、該実施例は、本発明を例示するためのものであり、それらだけで本発明の範囲が限定されるものではない。
【実施例】
【0097】
(正極活物質の製造)
実施例1
100gのNi0.8Co0.1Mn0.1(OH)2、41.8gのLi2CO3、0.9gのZr(OH)4、1.5gのWO3、0.07gのSO2、及び0.30gの(NH4)2HPO4を、約15分機械的に混合する。混合された粉末を、1,000℃で4時間、及び700℃で10時間、焼成を介し、下記表1の組成を有する正極活物質を合成した。
【0098】
実施例2
100gのNi0.80Co0.15Al0.05(OH)2、42.2gのLi2CO3、0.9gのZr(OH)4、1.5gのWO3、0.07gのSO2、及び0.30gの(NH4)2HPO4を、約15分機械的に混合する。混合された粉末を、950℃で4時間、及び700℃で10時間、焼成を介し、下記表1の組成を有する正極活物質を合成した。
【0099】
実施例3
100gのNi0.9Co0.1(OH)2、42.0gのLi2CO3、0.9gのZr(OH)4、1.5gのWO3、0.07gのSO2、及び0.30gの(NH4)2HPO4を、約15分機械的に混合する。混合された粉末を、920℃で4時間、及び700℃で10時間、焼成を介し、下記表1の組成を有する正極活物質を合成した。
【0100】
比較例1
100gのNi0.8Co0.1Mn0.1(OH)2、41.8gのLi2CO3を、約15分機械的に混合する。混合された粉末を、1,000℃で4時間、及び700℃で10時間、焼成を介し、下記表1の組成を有する正極活物質を合成した。
【0101】
比較例2
100gのNi0.8Co0.1Mn0.1(OH)2、41.8gのLi2CO3、0.9gのZr(OH)4、1.5gのWO3、及び0.07gのSO2を、約15分機械的に混合する。混合された粉末を、950℃で4時間、及び700℃で10時間、焼成を介し、下記表1の組成を有する正極活物質を合成した。
【0102】
比較例3
100gのNi0.8Co0.1Mn0.1(OH)2、41.8gのLi2CO3、0.9gのZr(OH)4、1.5gのWO3、及び0.30gの(NH4)2HPO4を、約15分機械的に混合する。混合された粉末を、950℃で4時間、及び700℃で10時間、焼成を介し、下記表1の組成を有する正極活物質を合成した。
【0103】
比較例4
100gのNi0.8Co0.1Mn0.1(OH)2、41.8gのLi2CO3、0.9gのZr(OH)4、1.5gのWO3、0.10gのNH4HF2を、約15分機械的に混合する。混合された粉末を、950℃で4時間、及び700℃で10時間、焼成を介し、下記表1の組成を有する正極活物質を合成した。
【0104】
比較例5
100gのNi0.80Co0.15Al0.05(OH)2と、42.2gのLi2CO3とを、約15分機械的に混合する。混合された粉末を、950℃で4時間、及び700℃で10時間、焼成を介し、下記表1の組成を有する正極活物質を合成した。
【0105】
比較例6
100gのNi0.9Co0.1(OH)2と、42.0gのLi2CO3とを、約15分機械的に混合する。混合された粉末を、920℃で4時間、及び700℃で10時間、焼成を介し、下記表1の組成を有する正極活物質を合成した。
【0106】
(ハーフセルの製造)
実施例4
実施例1で得た正極活物質:導電剤:バインダを、94:3:3の重量比で混合し、スラリーを製造した。ここで、前記導電剤としては、カーボンブラックを使用し、前記バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、N-メチル-2-ピロリドン溶媒に溶解させて使用した。
前記スラリーをAl集電体に均一に塗布し、110℃で2時間乾燥させ、正極電極を製造した。極板のローディングレベルは、11.0mg/cm2であり、電極密度は、3.6g/ccであった。
前記製造された正極を作業電極として使用し、リチウムホイルを相対電極として使用し、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジエチルカーボネート(DEC)を、3/4/3の体積比で混合した混合溶媒に、リチウム塩として、LiPF6を、1.3Mの濃度になるように添加した液体電解液を使用し、一般的に知られている工程により、CR2032ハーフセルを作製した。
【0107】
実施例5,6
実施例1で得た正極活物質の代わりに、実施例2,3で得た正極活物質をそれぞれ使用した点を除いては、実施例4と同一方法でハーフセルを作製した。
【0108】
実施例7ないし12
実施例1で得た正極活物質の代わりに、比較例1ないし6で得た正極活物質をそれぞれ使用したことを除いては、実施例4と同一方法でハーフセルを作製した。
【0109】
評価例1:常温寿命評価
実施例4ないし6、及び比較例7ないし12で作製したハーフセルを10時間休止させた後、0.1Cで、4.3VまでCCモードで充電した後、0.05C該当する電流まで、CVモードで充電を進めた。次に、0.1Cで、3.0VまでCCモードで放電し、化成工程を完了した。
次に、常温(25℃)で、0.5Cで、4.3VまでCCモードで充電した後、0.05C該当する電流まで、CVモードで充電を進めた。次に、1Cで、3.0VまでCCモードで放電を進め、この過程を総50回反復。
初期容量につき、50回の充電及び放電の後の容量維持率を計算し、その結果は、下記表1に示す。また、サイクルによる容量維持率を示したグラフは、
図6ないし
図11に示す。
【0110】
【0111】
表1及び
図6を参照すれば、実施例4は、比較例7対比で、50サイクル後、約12%高い寿命維持率を示す。それは、構造内のZr元素及びW元素の導入が、構造内Niイオンの配列性(ordering)を向上させ、構造的安定性が向上され、構造内Sイオンが、遷移金属・酸素間の結合強度を増大させ、構造内酸素放出を抑制させ、電解液との副反応を抑制することにより、安定性及び寿命特性が向上されると見られる。また、正極活物質コア表面に存在するLi
3PO
4は、バインダ及び電解液塩の分解によって生成される強酸のHFと優先的に反応し、電解液中の水分とも反応することにより、正極活物質と、HFまたは電解液との副反応による正極活物質の劣化を抑制するために、長寿命を有すると見られる。
【0112】
表1及び
図7を参照すれば、単粒子型Ni系正極活物質表面に存在するLi
3PO
4コーティング層は、高いイオン伝導度を有することにより、リチウムイオンの迅速な移動を可能にするだけでなく、電解液との副反応を抑制することができる。従って、常温寿命評価の結果、実施例4は、比較例8対比で、50サイクル後、約4%寿命維持率が向上されたと見られる。
【0113】
表1、並びに
図8及び
図9を参照すれば、S元素を含まない比較例3の正極活物質を使用した比較例9のハーフセル、及びS元素の代わりに、F元素が置き換えされた比較例4の正極活物質を使用した比較例10のハーフセルは、実施例4のハーフセルに比べ、約1~2%低い寿命維持率を示した。それは、正極活物質構造内に、Sイオンが含まれることにより、遷移金属と酸素との結合強度が増大し、正極活物質と電解液との副反応が抑制され、それにより、寿命特性が向上されたと見られる。
【0114】
表1、並びに
図10及び
図11を参照すれば、実施例5,6のハーフセルは、正極活物質において、Zr、W、S及びコーティング層を含まない比較例5,6の正極活物質を使用する比較例11,12のハーフセルに比べ、顕著に向上された常温寿命特性を有することを確認することができる。
【0115】
評価例2:正極活物質の粒度評価
実施例1及び比較例1で合成した正極活物質の外観を、Verios 460(FEI社)装備を利用し、SEMイメージを得て、
図1に示し、Cilas 1090(scinco社)装備を利用し、粒度分布を測定し、下記表2及び
図2に示した。
【0116】
表2及び
図2を参照すれば、実施例1の正極活物質は、コーティング層が導入されたが、粒度の変化がなく、
図1を参照すれば、実施例1及び比較例1の正極活物質表面において、大差が観察されていないという点を考慮すれば、実施例1の正極活物質の表面にのみ存在するコーティング層は、nmサイズで存在するということが分かる。
【0117】
【0118】
評価例3:正極活物質の組成評価
実施例1及び比較例1で合成した正極活物質につき、700-ES(Varian)装備を利用し、ICP(inductively coupled plasma)分析を進め、その結果を下記表3に記載した。また、実施例1で合成した正極活物質のコア部分のEDX分析を進め、その結果は、
図3に示される。さらに、実施例1で合成した正極活物質のコーティング層部分の元素分析のために、EELS分析を進め、その結果は、
図4に示される。
【0119】
表3を参照すれば、実施例1の正極活物質は、リン0.2モル含むものであり、それは、遷移金属またはLiの化学量論値に影響を及ぼさないということが分かる。一方、
図3及び
図4を参照すれば、正極活物質のコア内部において、白色四角形部分に係わるEDX分析の結果、S、W及びZrの元素の存在は、確認されたが、リン元素の存在は、確認されず、
図4において、白色四角形で表示したコーティング層に係わるEELS分析において、約130eV近辺でピークが観察された。それは、リン元素の存在を確認するピークであるので、コーティング層に、リン元素が含まれているということが分かる。
【0120】
【0121】
評価例4:正極活物質の残留リチウム含量評価
実施例1及び比較例1で合成した正極活物質につき、残留リチウム含量を測定し、その結果は、下記表4に記載した。
【0122】
残留リチウム含量を、次のように測定した。
リチウム二次電池用正極活物質10gと脱イオン水(D.I.W)の溶液とを350r.p.mで30分撹拌させた後、40gの溶液をフィルタした後、さらに100g D.I.Wを添加し、電位差滴定器(potentiometric titrator;888 Titrando、Metrohm)を利用して測定した。
【0123】
【0124】
評価例5:正極活物質のXRD評価
実施例1及び比較例1で合成した正極活物質につき、2θ=10°ないし80°区間において、D/MAX2500 V/PC(Rigaku社)装備を利用し、X線回折スペクトルグラフを得て、その結果は、
図5に示される。
【0125】
図5を参照すれば、実施例1の正極活物質は、2θ=20°ないし25°区間において、比較例1で観察されていないピークが観察され、それは、Li
3PO
4を示す特徴的なピークである。従って、リン元素は、Ni系正極活物質表面に存在する残留リチウム化合物と反応し、コーティング層において、Li
3PO
4として存在すると見られる。理論に拘束されることなしに、コーティング層には、XRDによって観察されていないLi、P及びOを含む非晶質のリン含有化合物を含むと見られる。
【0126】
以上においては、図面及び実施例を参照し、本発明による望ましい具現例について説明されたが、それらは、例示的なものに過ぎず、当該技術分野において当業者であるならば、それらから、多様な変形、及び均等な他の具現例が可能であるという点を理解することができるであろう。従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって定められるものである。
【国際調査報告】