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特表2022-523192エラストマーを含有する廃棄物からの脱硫による官能基化ポリマーの合成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-21
(54)【発明の名称】エラストマーを含有する廃棄物からの脱硫による官能基化ポリマーの合成
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/22 20060101AFI20220414BHJP
【FI】
C08J11/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549179
(86)(22)【出願日】2020-02-18
(85)【翻訳文提出日】2021-10-15
(86)【国際出願番号】 EP2020054215
(87)【国際公開番号】W WO2020169589
(87)【国際公開日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】1901667
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509025832
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】520495722
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ カーン ノルマンディー
(71)【出願人】
【識別番号】521366931
【氏名又は名称】エコール ナシオナル シュペリウール ダンジェニユール ドゥ カーン
【氏名又は名称原語表記】ECOLE NATIONALE SUPERIEURE D’INGENIEURS DE CAEN
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】デズ,イザベル
(72)【発明者】
【氏名】ゴーモン,アニー-クロード
(72)【発明者】
【氏名】ノエル,ジャン-ニコラ
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA04
4F401AA05
4F401AB10
4F401AC02
4F401BA13
4F401CA53
4F401CA66
4F401CA69
4F401CA75
4F401EA57
4F401FA01Z
4F401FA06Z
(57)【要約】
本発明は、エラストマーを含有する廃棄物から脱硫によりポリマーを合成する方法に関し、前記方法は、a)前記エラストマーを含有する廃棄物を脱硫剤の存在下で溶媒と接触させるステップと、b)ステップa)で生成された混合物を、20℃~250℃の温度で15分~24時間の間、脱硫剤の存在下で加熱するステップとを含んでおり、脱硫剤の濃度は、エラストマー重量100に対する重量部(phr)で表現される前記脱硫剤濃度と、mlで表現される溶媒体積との比が、‐該方法が空気中で行われる場合は溶媒に対して0.3phr/mlより大きいか又は溶媒に対して0.2phr/ml未満であり、‐該方法が不活性雰囲気下で行われる場合は溶媒に対して0.06phr/mlより大きいようになっている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーを含有する廃棄物から脱硫によりポリマーを合成するための方法であって、前記方法は、
a)前記エラストマーを含有する廃棄物を、硫黄原子と該硫黄原子に結合した別の硫黄原子又は炭素原子とを具備している架橋点を脱硫するための脱硫剤の存在下で、溶媒と接触させるステップと、
b)ステップa)で得られた混合物を、20℃~250℃の温度で15分~24時間の間加熱するステップと
を含み、
前記方法は、
脱硫剤が式(1)
【化1】
の化合物であって、前記式中、R及びR’は同一であるか又は異なっており、かつ各々が、互いに独立に、供与基のメソメリー効果又は求引基のメソメリー効果又は供与基の誘起効果又は求引基の誘起効果をもたらす置換基であり、R及びR’は、互いに独立に、水素(‐H)、ハロゲン原子であって、ヨウ素、臭素、フッ素及び塩素から選択されるもの、(C1‐18)アルキル基、第一級アミン(‐NH)、第二級アミン(‐NHRaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)又は第三級アミン(‐NRaRaであって、Ra及びRaは同一であるか又は異なっており、各々が互いに独立に(C‐C)アルキル基又は芳香環であってよい)、ヒドロキシル(‐OH)、アルコラート(又は塩)(Ra‐Oであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)、(C‐C)アルコキシ基、チオール(‐SH)、チオエーテル(‐SRaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)、チオラート(又は塩)(Ra‐S)であって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)、芳香環、カルボン酸の共役塩基(‐COO)、カルボキシル基(‐COOH)、エステル(‐CORaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び複素環から選択される)、アルデヒド基(‐CHO)、カルボニル(‐COR)、ニトロ基(‐NO)、ニトリル基(‐CN)、スルホニル基(‐SO‐)、スルホン酸基(塩又は酸)(‐SO)、スルホン(‐SOR)、リン酸基 ‐O‐PO(ORa)(ORa)であって、Ra及びRaは同一であるか又は異なっており、各々が互いに独立に水素又は(C‐C)アルキル基又は芳香環であってよい)、第一級アミド基(‐CONH)、第二級アミド基(‐CONHRaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)又は第三級アミド基(‐CONRaRaであって、Ra及びRaは同一であるか又は異なっており、各々が互いに独立に(C‐C)アルキル基又は芳香環であってよい))を含んでいる群から選択され、かつR、R’又はその両方が水素原子以外である、ということを特徴とする方法。
【請求項2】
脱硫剤の濃度は、エラストマー重量100に対する重量部(phr)で表現される前記脱硫剤濃度と、mlで表現される溶媒体積との比が、
‐ 該方法が空気中で行われる場合は溶媒に対して0.3phr/mlより大きいか又は溶媒に対して0.2phr/ml未満であり、
‐ 該方法が不活性雰囲気下で行われる場合は溶媒に対して0.06phr/mlより大きい
ようになっている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶媒は有機溶媒又はイオン液体又は深共晶溶媒又はこれらの混合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
混合物の加熱時間は、該方法が不活性雰囲気下で行われる場合は2時間~4時間であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
混合物の加熱時間は、該方法が空気中で行われる場合は3時間~5時間である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)の前に、凍結乾燥によるか又は膨潤によってエラストマーを含有する廃棄物を活性化するステップを含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
脱硫反応、及びエラストマーを含有する廃棄物を活性化するステップは、連続的に実行される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
脱硫によるポリマーの合成は加硫度の高いエラストマーの廃棄物から行われることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
式3又は式3’
【化2】
の官能基化エラストマーであって、
上記式中、xは0~6の整数であり、nは6~600の整数であり、mは6~600の整数であり、Yは水素原子又はメチル基であり、かつ
R及びR’は、各ユニットにつき同一であるか又は異なっており、ヨウ素、臭素、フッ素及び塩素から選択されたハロゲン原子、(C1‐18)アルキル基、第一級アミン(‐NH)、第二級アミン(‐NHRaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)又は第三級アミン(‐NRaRaであって、Ra及びRaは同一であるか又は異なっており、各々が互いに独立に(C‐C)アルキル基又は芳香環であってよい)、ヒドロキシル(‐OH)、アルコラート(又は塩)(Ra‐Oであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)、(C‐C)アルコキシ基、チオール(‐SH)、チオエーテル(‐SRaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)、チオラート(又は塩)(Ra‐Sであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)、芳香環、カルボン酸の共役塩基(‐COO)、カルボキシル基(‐COOH)、エステル(‐CORaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び複素環から選択される)、アルデヒド基(‐CHO)、カルボニル(‐COR)、ニトロ基(‐NO)、ニトリル基(‐CN)、スルホニル基(‐SO‐)、スルホン酸基(塩又は酸)(‐SO)、スルホン(‐SOR)、リン酸基 ‐OPO(ORa)(ORa)であって、Ra及びRaは同一であるか又は異なっており、各々が互いに独立に水素又は(C‐C)アルキル基又は芳香環であってよい)、第一級アミド基(‐CONH)、第二級アミド基(‐CONHRaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)又は第三級アミド基(‐CONRaRaであって、Ra及びRaは同一であっても異なっていてもよく、各々が互いに独立に(C‐C)アルキル基又は芳香環であってよい)を含んでいる群から選択される、官能基化エラストマー。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法によって得られたポリマー組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の組成物の、界面活性剤、架橋剤又は鎖延長剤の種類の添加剤又は試薬としての、新鮮な、又は新しいエラストマーの混合物中における添加剤としての使用。
【請求項12】
材料としての、特に熱可塑性エラストマー又は生物医学的用途のためのエラストマーとしての、請求項9に記載の官能基化エラストマーの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然由来及び/又は合成物由来のエラストマーを含有する廃棄物についての処理の分野に関する。特に本発明は、大部分を廃タイヤが占める、ゴムを含有する廃棄物を対象とする。
【0002】
本発明は、例えば貨物自動車の廃タイヤのような、加硫度の高いエラストマーを含有する廃棄物の処理に関する。
【背景技術】
【0003】
ゴム廃棄物からのエネルギー回収は従来知られている。エネルギー回収は、エネルギーを生成するためにゴム廃棄物を焼却することで構成される。エネルギー回収は極めて強く環境を汚染する。
【0004】
ゴム廃棄物の機械的回収については従来知られている。この技法は、グラニュールを生成するために廃棄物を破砕することで構成され、該グラニュールはセメント工事の添加剤として使用されてもよいし、ある種の資材に組み込まれてもよい。
【0005】
ゴム廃棄物の化学的回収も従来知られている。化学的回収は熱分解及び脱硫から成る。熱分解は、数ある中でも特に熱分解油を得るために、部分的又は完全に酸素が存在する状態でゴム廃棄物を分解することで構成される。ゴム廃棄物の熱分解は非常に費用のかかる処理行程である。
【0006】
脱硫は、加硫ゴムの三次元構造を部分的又は完全に破壊するために、炭素‐硫黄結合及び/又はジスルフィド架橋結合の切断を引き起こすことにより架橋部を破壊することで構成される。機械的脱硫、マイクロ波脱硫及び化学的脱硫が従来知られている。
【0007】
機械的脱硫は、押出し処理によって行われてジスルフィド架橋結合の非選択的な切断を引き起こし、ポリマー鎖の炭素‐炭素結合も破壊される。
【0008】
マイクロ波脱硫は、規定のマイクロ波の放射により炭素‐硫黄結合又はジスルフィド架橋結合を破壊することを目指すものである。しかしながら、かつ特に廃タイヤの場合のようにゴム廃棄物の組成物中にカーボンブラックが存在する場合には、本方法は数秒で廃棄物の非常に顕著な温度上昇を引き起こす。この急激な温度上昇はポリマー鎖の炭素‐炭素結合の切断を引き起こす。
【0009】
最後に、ゴム廃棄物の化学的脱硫は、ジスルフィドメタセシス、又は脱硫剤を使ったジスルフィド架橋結合の切断のいずれかによるものが知られている。
【0010】
メタセシスの主な欠点は、メタセシスが可逆反応であるため高い脱硫度の達成は不可能であるということである。
【0011】
脱硫剤を使ったジスルフィド架橋結合の切断による脱硫に関しては、エネルギー消費が少ないという利点がある。しかしながらこの方法にはまだ、達成される脱硫度が比較的低いままであることと、この方法が選択性に欠けることとに関係する限界がある。この技法の主な限界は、脱硫されるゴムの加硫度が高い時に得られる脱硫度が極めて低いことにある。
【0012】
化学的脱硫に関しては、Rooj S., Maji P.K., Basak G.C., Bhowmick A.K., Journal of Polymers and the Environment, (独), 2011, Vol.19, p.382-390及びZohuri G., Asadi S., Kariminejad M., Mortazavi S.M., Chenar M.P., Sabzekar M., Polymer Degradation and Stability, (蘭), 2015, Vol.118, p. 88-95という文献が従来知られている。
【0013】
本発明の目的は、上記の欠点を克服すること、特に、エラストマーを含有する廃棄物の脱硫によるポリマー合成のための方法を提言することである。
【0014】
別の目的は、高い脱硫度を示す、エラストマーを含有する廃棄物の脱硫によるポリマー合成のための方法を提言することである。
【0015】
別の目的は、得られるポリマーの微細構造の制御を可能とする、エラストマーを含有する廃棄物の脱硫による選択的ポリマー合成の方法を提言することである。
【0016】
別の目的は、加硫度の高いゴム廃棄物を起点として高い脱硫度を達成することを可能にする、エラストマーを含有する廃棄物の脱硫によるポリマー合成のための方法を提言することである。
【0017】
別の目的は、官能基化ポリマーの合成を可能にする、エラストマーを含有する廃棄物の脱硫によるポリマー合成のための方法を提言することである。
【発明の概要】
【0018】
[本発明の提示]
上記目的のため、本発明の第1の態様によれば、エラストマーを含有する廃棄物からの脱硫によるポリマー合成のための方法が提言される。
本発明による方法は、
a)前記エラストマーを含有する廃棄物を、脱硫剤の存在下で溶媒と接触させるステップと、
b)ステップa)で得られた混合物を、20℃~250℃の温度で15分~24時間の間、加熱するステップと
を含む。
【0019】
よって本発明の第1の態様によれば、DAと表される脱硫剤はラジカル開始剤である。例えば、脱硫剤は、硫黄原子と、該硫黄原子に結合した別の硫黄原子又は炭素原子とを具備している架橋点についての脱硫剤である。
【0020】
ラジカル開始剤は、1以上のラジカルを形成することができる。好ましくは、脱硫剤はホモリシスによってラジカルを形成することができる。より好ましくは、脱硫剤は過酸化物である。
【0021】
本発明の第1の態様によれば、
- ラジカル開始剤は式(1)
【化1】
の化合物であって、上記式中、R及びR’は同一であるか又は異なっており、かつ各々が互いに独立に、供与基のメソメリー効果若しくは求引基のメソメリー効果若しくは供与基の誘起効果若しくは求引基の誘起効果をもたらす置換基であるか、又は、
- 脱硫剤の濃度は、エラストマー重量100に対する重量部(phr)で表現される前記脱硫剤濃度とmlで表現される溶媒体積との比が
● 該方法が空気中で実行される場合は溶媒に対して0.3phr/mlより大きいか若しくは溶媒に対して0.2phr/ml未満であり、
● 該方法が不活性雰囲気下で実行される場合は溶媒に対して0.06phr/mlより大きい
ようになっているか、のいずれかである。
【0022】
本発明によれば、供与基のメソメリー効果、求引基のメソメリー効果、供与基の誘起効果、又は求引基の誘起効果をもたらすR及びR’は、互いに独立に、水素(‐H)、ハロゲン原子であってヨウ素、臭素、フッ素及び塩素から選択されたもの、(C1‐18)アルキル基、第一級アミン(‐NH)、第二級アミン(‐NHRaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)又は第三級アミン(‐NRaRaであって、Ra及びRaは同一であっても異なっていてもよく、各々が互いに独立に(C‐C)アルキル基又は芳香環であってよい)、ヒドロキシル(‐OH)、アルコラート(又は塩)(Ra‐Oであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)、(C‐C)アルコキシ基、チオール(‐SH)、チオエーテル(‐SRaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)、チオラート(又は塩)(Ra‐S)であって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)、芳香環、カルボン酸の共役塩基(‐COO)、カルボキシル基(‐COOH)、エステル(‐CORaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び複素環から選択される)、アルデヒド基(‐CHO)、カルボニル(‐COR)、ニトロ基(‐NO)、ニトリル基(‐CN)、スルホニル基(‐SO‐)、スルホン酸基(塩又は酸)(‐SO)、スルホン(‐SOR)、リン酸基 ‐O‐PO(ORa)(ORa)であって、Ra及びRaは同一であっても異なっていてもよく、各々が互いに独立に水素又は(C‐C)アルキル基又は芳香環であってよい)、第一級アミド基(‐CONH)、第二級アミド基(‐CONHRaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)又は第三級アミド基(‐CONRaRaであって、Ra及びRaは同一であっても異なっていてもよく、各々が互いに独立に(C‐C)アルキル基又は芳香環であってよい))を含んでいる群から選択される。
【0023】
(C‐C18)アルキルという用語は、1~18個の炭素原子を有する任意の直鎖状又は分岐鎖状の炭素鎖を示し、例えばメチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、イソブチル、tert‐ブチル、ネオペンチル、イソペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル及びオクタデシル基のような、1~18個の炭素原子を有する全てのアルキル基が含まれる。好ましくは、(C‐C18)アルキル基は、1~8個の炭素原子を備えた炭素鎖すなわち(C‐C)アルキル基、特にメチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、イソブチル、tert‐ブチル、ネオペンチル、イソペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基、より好ましくは1~5個の炭素原子を備えた炭素鎖すなわち(C‐C)アルキルであって例えばメチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、イソブチル、tert‐ブチル、ネオペンチル、イソペンチル基、並びにより好ましくは1~3個の炭素原子を備えた炭素鎖すなわち(C‐C)アルキル、具体的にはメチル、エチル、n‐プロピル及びイソプロピル基を含む。
【0024】
(C‐C)アルキルという用語は、1~5個の炭素原子を有する任意の直鎖状又は分岐鎖状の炭素鎖を示し、該用語には、1、2、3、4又は5個の炭素原子を有する全てのアルキル基、具体的にはメチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、イソブチル、tert‐ブチル、ネオペンチル及びイソペンチル基が含まれる。(C‐C)アルコキシという用語はO‐(C‐C)アルキル基であり、(C‐C)アルキル基は上記に定義された通りである。例として挙げられるのは、メトキシ、エトキシ、ブトキシ及びペントキシ基である。
【0025】
芳香環という用語には、アリール基、具体的にはフェニル、ベンジル、ナフチル、ビフェニル及びテトラヒドロナフチル基、並びに複素環、すなわち炭素原子の他に窒素、酸素及び硫黄のようなヘテロ原子も含んでいる環、が含まれる。よって複素環の例としては、ベンゾイミダゾリル、フリル、イミダゾリル、ピペラジニル、ピペリジニル、ピラニル、ピラジニル、ピロアゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリドオキサゾール、ピリドイミダゾールを挙げることができる。
【0026】
好ましくは、R及びR’は各々が、互いに独立に水素原子、フッ素原子、メトキシ基又はアセトキシ基を表わす。
【0027】
さらにより好ましくは、R及びR’は同一であり、かつ各々がフッ素原子、メトキシ基又はアセトキシ基を表わす。
【0028】
ラジカル開始剤が式(1)の化合物であるとき、方法の実行により得られるポリマーは官能基化ポリマーである。
【0029】
本発明の第1の態様の有利な実施形態では、
- ラジカル開始剤は式(1)の化合物であり、かつ
- 脱硫剤の濃度は、エラストマー重量100に対する重量部(phr)で表現される前記脱硫剤濃度と、mlで表現される溶媒体積との比が、
● 該方法が空気中で実行される場合は溶媒に対して0.3phr/mlより大きいか若しくは溶媒に対して0.2phr/ml未満であり、
● 該方法が不活性雰囲気下で実行される場合は溶媒に対して0.06phr/mlより大きい
ようになっている。
【0030】
好都合なのは、R、R’又は両方が水素原子以外であることである。換言すれば、R及びR’がいずれも水素原子以外であるか、又はRが水素原子以外であるか、又は、R’が水素原子以外である。換言すれば、R及びR’は同時に水素原子であることはない。
【0031】
本発明による方法により、ポリマーを得ることを可能となる。好ましくは、本発明の方法により、ポリマー、特にエラストマーを得ることが可能となる。
【0032】
本発明によれば、得られるポリマーは、式2及び/又は式2’
【化2】
の官能基化ポリマーであって、
上記式中、R及びR’は同一であっても異なっていてもよく、かつ上記に定義された通りであり、
xは0~6に含まれる整数であって好ましくは0、1、2、3、4、5又は6に等しく、
nは6~600に含まれる整数である。数値nは、脱硫の際にポリマー鎖に沿って挿入された、各々が官能基を具備しているユニットの数を表わす。
【0033】
好都合には、R及びR’は水素原子以外である。
【0034】
1又は複数の官能基がポリマー鎖の末端にしか挿入されない従来の方法とは異なり、1又は複数の官能基がポリマー鎖の内部に挿入される。よって、本発明の方法により、1又は複数の官能基をポリマー鎖の内部に挿入し、その結果として式2及び/又は式2’の官能基化ポリマーを得ることが可能となる。
【0035】
本発明による方法は、該方法を実行する起点の廃棄物の中に存在する架橋点の脱硫によるポリマー合成に基づいている。架橋点は、少なくとも1つの硫黄原子と該硫黄原子に結合した別の硫黄原子又は炭素原子とを具備している。そのような架橋点は、特にエラストマーの中に存在する。よって、本発明によれば、エラストマーを含有する廃棄物、が意味するのは、該方法が実行された後に合成されたポリマーの量が十分であって回収可能であるような、十分なエラストマーを含有する廃棄物である。当業者は、当業者の一般知識に基づいて、処理されるべき廃棄物中のエラストマーの含有量から、本発明の方法を実行することによるポリマーの合成が妥当であるかどうかを明らかにすることができるであろう。
【0036】
本発明によれば、廃棄物の総重量に対して少なくとも10wt%、好ましくは少なくとも30wt%のエラストマーを含んでいる廃棄物は、前記廃棄物を起点として行なわれる本発明の脱硫によるポリマー合成のために十分な濃度を有している。
【0037】
本発明によれば、エラストマーを含有する廃棄物は、
- ポリイソプレン及び/若しくはポリブタジエン、並びに/又は
- ブタジエンアクリロニトリル(ニトリルブタジエンゴム(Nitrile Butadiene Rubber)すなわちNBR)、並びに/又は
- スチレン‐ブタジエン(スチレン‐ブタジエンゴム(Styrene-Butadiene Rubber) SBR)、並びに/又は
- エチレン‐プロピレンジエンモノマー(エチレン・プロピレン・ジエン・モノマー(Ethylene Propylene Diene Monomer)すなわちEPDM)を含んでいてもよく、並びに/又は
- 天然ゴム(NR)及び/若しくはブチルゴムの廃棄物であってもよい。
【0038】
好ましくは、エラストマーを含有する廃棄物は、加硫度が高いエラストマー廃棄物とされる貨物自動車の廃タイヤであってよい。「加硫度が高い」が意味しているのは、10-4mol/mlより高い、好ましくは10-3mol/mlより高い架橋密度を有するエラストマーである。
【0039】
非限定的な例として、廃棄物が廃タイヤである場合、該廃棄物は、金属部品が取り除かれてしまえば、基本的にはゴムと呼ばれるエラストマー及びフィラーと呼ばれるカーボンブラックを含有している。
【0040】
本発明の特定の実施形態によれば、使用される廃タイヤは、予め細片化されたタイヤ、シュレッド、クラムラバー又はグラニュール、好ましくはクラムラバー又はグラニュールである。
【0041】
好ましくは、該方法が空気中で実行される場合、脱硫剤の濃度は、
● 溶媒に対して0.3phr/mlと、溶媒中のDAの溶解限度に到達する濃度値(溶媒に対するphr/ml)との間であるか、又は
● 溶媒に対して0.2phr/ml未満
である。
【0042】
当業者は、自身の一般知識及び本文書の教示を適用して、可能であるか又は使用に適しているDAの最大濃度を決定することができるであろう。同様に、DAの濃度が溶媒に対して0.2phr/ml未満である場合、当業者は、自身の一般知識及び本文書の教示を適用して、可能であるか又は使用に適しているDAの最小濃度を決定することができるであろう。
【0043】
より好ましくは、該方法が空気中で実行される場合、DAの濃度は、
● 溶媒に対して0.3phr/ml~8phr/mlであるか、又は
● 溶媒に対して0.2phr/ml未満
である。
【0044】
より好ましくは、該方法が空気中で実行される場合、DAの濃度は、
● 溶媒に対して0.3phr/ml~0.6phr/mlであるか、又は
● 溶媒に対して0.2phr/ml未満
である。
【0045】
好ましくは、該方法がアルゴン下で実行される場合、DAの濃度は、溶媒に対して0.06phr/mlと、溶媒中のDAの溶解限界に到達する濃度の値(溶媒に対するphr/ml)との間に含まれる。
【0046】
より好ましくは、該方法が不活性雰囲気下で実行される場合、DAの濃度は、溶媒に対して0.06phr/ml~8phr/mlに含まれる。
【0047】
より好ましくは、該方法が不活性雰囲気下で実行される場合、DAの濃度は、溶媒に対して0.06phr/ml~0.6phr/mlに含まれる。
【0048】
本発明によれば、「不活性雰囲気」が意味しているのは、該方法が実行される条件下では反応しない雰囲気である。非限定的な例として挙げることができるのは、主に窒素及び/又は例えばアルゴンのような貴ガスで構成されている雰囲気である。好ましくは、雰囲気は窒素及び/又は貴ガスで構成される。
【0049】
好ましくは、該方法のステップbは、混合物の温度を20℃~150℃、より好ましくは40℃~120℃、さらにより好ましくは60℃~100℃として実行される。最も好ましくは、該方法は80℃の温度で実行される。
【0050】
好ましくは、加熱時間は1~8時間、より好ましくは1~6時間である。
【0051】
好ましくは、R及びR’は、1以上の炭素原子及び/又は酸素原子及び/又は窒素原子及び/又はリン原子及び/又は硫黄原子及び/又はハロゲン原子を含んでいる基から選択される。
【0052】
本発明の方法によって合成されるポリマーは、ポリマー及びオリゴマーを含んでいる混合物で構成される可能性がある。好ましくは、合成されるポリマーはオリゴマーである。本発明によれば、該オリゴマーは、2000g/mol未満のモル質量を有する鎖状に連なったモノマーと考えられる。
【0053】
本発明によれば、溶媒は有機溶媒又はイオン液体又は深共晶溶媒又はこれらの混合物であってよい。例として、イオン液体は、ホスホニウム系、イミダゾリウム系又はピリジニウム系から選択可能である。本発明によるイオン液体はアニオン及びカチオンを構成要素とし、以下の一般式
【化3】
のものであってよく、上記式中、
- An-は、PF 、NO 、F、Cl、Br、I、RSO 、ROSO 、RCO 、CFSO 、BF 、B(R 、CFCO 、RPO 、(CFSO)N、CHSO 、(C1225)CSO 、RCO を含んでいる群から選択されたアニオンであって;Rは、置換又は非置換のアルキル、置換又は非置換のアリール、及びアルコキシを含んでいる群から選択され;nは、前述のアニオンの陰電荷に応じて1、2又は3に等しく、(1/n)は、アニオンが1個の陰電荷を有する場合は1、アニオンが2個の陰電荷を有する場合は1/2、アニオンが3個の陰電荷を有する場合は1/3に等しく、
- Xは窒素原子、リン原子又は硫黄原子であり、ただしXが硫黄原子である場合、R、R、R、Rの基のうち少なくとも1つは存在せず、
- R、R、R、R、R、R、R及びRは同一であっても異なっていてもよく、各々が、水素、ハロゲン、アルコキシ、置換又は非置換のアルキル、置換又は非置換のアリールを含んでいる群から選択され、かつR‐R、R‐R、R‐R、R‐R、R‐R、R‐R、R‐R又はR‐Rは、5、6又は7個の炭素原子を備えた環に相当してもよく、
- Z、Z、Zは同一であっても異なっていてもよく、かつ炭素原子及び窒素原子を含んでいる群から選択され、ただしZ、Z及びZの原子のうち少なくとも1つは窒素原子を表し、かつZ、Z及びZの原子のうち1つが窒素原子である場合、対応する基R、R、Rは存在しない。
【0054】
これらのイオン液体は、仏国特許出願公開第3014104号明細書の第9~15頁に記載されている。
【0055】
本発明による深共晶溶媒は、
- 第四級アンモニウム塩及び金属塩化物の混合物であって;非限定的な例として、そのような混合物が1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウム及び塩化アルミニウム(AlCl)の混合物であるもの、
- 第四級アンモニウム塩と金属塩化物の水和物との混合物、
- 第四級アンモニウム塩及び水素結合供与体の混合物であって;非限定的な例として、水素結合供与体が尿素又は尿素誘導体であるもの、
- 金属塩化物の水和物及び水素結合供与体の混合物であって;非限定的な例として、水素結合供与体が尿素又は尿素誘導体であり、かつ非限定的な例として、前記混合物が塩化アルミニウム(AlCl)及び尿素の混合物であるもの
から選択可能である。
【0056】
好ましくは、深共晶溶媒は塩化コリン及び尿素の混合物であってよい。より好ましくは、深共晶溶媒は、1mol/lの塩化コリン及び2mol/lの尿素の混合物であってよい。
【0057】
深共晶溶媒は、部分的に又は完全に、アコニット酸及び塩化コリンの混合物、リンゴ酸及びグルコースの混合物、リンゴ酸及びフルクトースの混合物、リンゴ酸及びスクロースの混合物、クエン酸及びスクロースの混合物、マレイン酸及びスクロースの混合物、グルコース及びフルクトースの混合物、フルクトース及びスクロースの混合物、グルコース及びスクロースの混合物、マレイン酸及びグルコースの混合物、クエン酸及びグルコースの混合物の中の、天然物を含むことができる。
【0058】
溶媒は溶媒の混合物であってもよい。好ましくは、溶媒は、有機溶媒及びイオン液体の混合物、又は有機溶媒及び深共晶溶媒の混合物であってよい。
【0059】
有機溶媒は、芳香族又は脂肪族の無極性溶媒から選択される。好ましくは、有機溶媒はキシレンである。
【0060】
混合物の加熱時間は、方法が不活性雰囲気下で実行される場合は1~12時間であってよい。
【0061】
好ましくは、混合物の加熱時間は、方法が不活性雰囲気下で実行される場合は2時間~4時間であるとよい。
【0062】
より好ましくは、混合物の加熱時間は、方法が不活性雰囲気下で実行される場合に3時間である。
【0063】
混合物の加熱時間は、方法が空気中で実行される場合に1~12時間であってよい。
【0064】
好ましくは、混合物の加熱時間は、方法が空気中で実行される場合に3時間~5時間であるとよい。
【0065】
より好ましくは、混合物の加熱時間は、方法が空気中で実行される場合に4時間である。
【0066】
より好ましくは、方法が空気中で実行される場合、DAの濃度は溶媒に対して0.2phr/ml未満である。
【0067】
該方法は、ステップa)の前に、凍結乾燥によるか又は膨潤によるか又は超臨界COを用いた処理によって、エラストマーを含有する廃棄物を活性化するステップを含んでもよい。膨潤は、有機溶媒、イオン液体又は深共晶溶媒の中で実行可能である。凍結乾燥は水中で直接行われて、その後に水が昇華によって除去されるとよい。凍結乾燥は、水以外の溶媒中で実行されてもよく、この場合、水とは異なる溶媒から溶媒交換を行うステップが、昇華のステップに先立って実行される。超臨界COを用いた処理については、廃棄物は流体COの中で膨潤せしめられ、次いでCOが蒸発によって除去される。当業者であれば自身の一般知識を適用して、上記の様々な廃棄物活性化の技法を応用することが可能である。
【0068】
膨潤による活性化ステップは、脱硫を行う時に使用される溶媒と同一の溶媒中でも、異なる溶媒中でも実行可能である。
【0069】
好ましくは、膨潤による活性化ステップは、
- 0.5~2.5デバイの双極子モーメントを有する有機溶媒中で、又は
- イオン液体中、深共晶溶媒中で、又は超臨界二酸化炭素を用いた処理によって
実行されるとよい。
【0070】
好ましくは、0.5~2.5デバイの双極子モーメントを有する有機溶媒は非プロトン性溶媒である。
【0071】
好ましくは、0.5~2.5デバイの双極子モーメントを有する有機溶媒は、ジクロロメタン(DCM)又はテトラヒドロフラン(THF)である。
【0072】
膨潤による活性化のステップが0.5~2.5デバイの双極子モーメントを有する有機溶媒中で実行される場合、該膨潤ステップは、脱硫の前に、混合物とは別に実行される。
【0073】
該方法はさらに、ステップb)に続いて、得られたポリマーを分離するステップを含むことができる。このステップは、当業者に周知の任意の技法、例えば濾別、遠心分離、沈澱生成によって、実行可能である。ポリマーを含有する液相が回収される。廃タイヤの場合、カーボンブラックを含有する固相は新たな配合に再使用されてもよい。
【0074】
本発明による脱硫の方法によって合成されたポリマーが、ポリマー及びオリゴマーを含んでいる混合物から成る場合、分離ステップは、
- ポリマーを溶解しない溶媒、例えば極性溶媒の中に溶解されたオリゴマーを回収するステップ、及び/又は
- オリゴマーの可溶化に使用される溶媒に不溶性であるポリマーの炭素‐炭素二重結合の切断を引き起こして前記溶媒に可溶性であるオリゴマーを形成する、メタセシスのステップ、
を含むことができる。
【0075】
脱硫反応、及びゴム廃棄物の活性化ステップは、連続的に実行されてもよい。
【0076】
好ましくは、脱硫反応及びエラストマーを含有する廃棄物の活性化ステップが連続的に実行される場合、それらは同時に実行される。
【0077】
好ましくは、脱硫反応及びエラストマーを含有する廃棄物の活性化ステップが連続的に実行される場合、それらは混合物中で実行される。
【0078】
好ましくは、脱硫反応及びエラストマーを含有する廃棄物の活性化ステップが連続的に実行される場合、混合物の溶媒はイオン液体又は深共晶溶媒である。
【0079】
脱硫反応及びエラストマーを含有する廃棄物の活性化ステップがイオン液体又は深共晶溶媒の中で連続的に実行される場合、得られるポリマーは該混合物中で直接沈殿する。
【0080】
本発明によれば、本発明の第1の態様による方法は、エラストマーを含んでいる廃棄物が利用されることを可能にするリサイクル処理工程である。
【0081】
本発明の第2の態様によれば、式3及び/又は式3’
【化4】
の官能基化エラストマーが提言され、上記式中、
xは0~6の整数であり、好ましくは0、1、2、3、4、5、又は6に等しく、
nは、各々が脱硫の際にポリマー鎖に沿って挿入された官能基を具備しているユニットの数を表し、かつ6~600の整数であり、
mは、ポリマーが含んでいるモノマーの数を表わし、かつ6~600の整数であり、
Yは水素原子又はメチル基であり、
R及びR’は、各ユニットにつき同一の場合もあれば異なる場合もあり、水素(‐H)、ハロゲン原子であってヨウ素、臭素、フッ素及び塩素から選択されたもの、(C1‐18)アルキル基、第一級アミン(‐NH)、第二級アミン(‐NHRaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)又は第三級アミン(‐NRaRaであって、Ra及びRaは同一であっても異なっていてもよく、各々が互いに独立に(C‐C)アルキル基又は芳香環であってよい)、ヒドロキシル(‐OH)、アルコラート(又は塩)(Ra‐O‐であって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)、(C‐C)アルコキシ基、チオール(‐SH)、チオエーテル(‐SRaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)、チオラート(又は塩)(Ra‐Sであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)、芳香環、カルボン酸の共役塩基(‐COO)、カルボキシル基(‐COOH)、エステル(‐CORaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び複素環から選択される)、アルデヒド基(‐CHO)、カルボニル(‐COR)、ニトロ基(‐NO)、ニトリル基(‐CN)、スルホニル基(‐SO‐)、スルホン酸基(塩又は酸)(‐SO)、スルホン(‐SOR)、リン酸基 ‐O‐PO(ORa)(ORa)であって、Ra及びRaは同一であっても異なっていてもよく、各々が互いに独立に水素又は(C‐C)アルキル基又は芳香環であってよい)、第一級アミド基(‐CONH)、第二級アミド基(‐CONHRaであって、Raは(C‐C)アルキル基及び芳香環から選択される)又は第三級アミド基(‐CONRaRaであって、Ra及びRaは同一であっても異なっていてもよく、各々が互いに独立に(C‐C)アルキル基又は芳香環であってよい)を含んでいる群から選択される。
【0082】
(C‐C18)アルキルという用語は、1~18個の炭素原子を有する任意の直鎖状又は分岐鎖状の炭素鎖を示し、該用語には、1~18個の炭素原子を有する全てのアルキル基、例えばメチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、イソブチル、tert‐ブチル、ネオペンチル、イソペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル及びオクタデシル基が含まれる。好ましくは、(C‐C18)アルキル基は、1~8個の炭素原子を有する炭素鎖すなわち(C‐C)アルキル基、具体的にはメチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、イソブチル、tert‐ブチル、ネオペンチル、イソペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基、より好ましくは1~5個の炭素原子を有する炭素鎖すなわち(C‐C)アルキル、例えばメチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、イソブチル、tert‐ブチル、ネオペンチル、イソペンチル基、並びにより好ましくは1~3個の炭素原子を有する炭素鎖すなわち(C‐C)アルキル、具体的にはメチル、エチル、n‐プロピル及びイソプロピル基を含む。
【0083】
(C‐C)アルキルという用語は、1~5個の炭素原子を有する任意の直鎖状又は分岐鎖状の炭素鎖を示し、該用語には、1、2、3、4又は5個の炭素原子を有する全てのアルキル基、具体的にはメチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、イソブチル、tert‐ブチル、ネオペンチル及びイソペンチル基が含まれる。
【0084】
(C‐C)アルコキシという用語はO‐(C‐C)アルキル基であり、ここで(C‐C)アルキル基は上記に定義された通りである。例として、メトキシ、エトキシ、ブトキシ及びペントキシ基を挙げることができる。
【0085】
好ましくは、R又はR’は各々が互いに独立に、水素原子、フッ素原子、メトキシ基又はアセトキシ基を表わす。
【0086】
本発明によれば、R及びR’は水素原子以外であってよい。
【0087】
さらにより好ましくは、R及びR’はフッ素原子、メトキシ基又はアセトキシ基を表わす。
【0088】
上述のように、1又は複数の官能基がポリマー鎖の端にしか挿入されない従来の方法とは異なり、1又は複数の官能基はポリマー鎖の内部に挿入される。よって、本発明による方法は、1又は複数の官能基をポリマー鎖の内部に挿入すること、かつその結果として式3及び/又は式3’の官能基化ポリマーを得ることを、可能にする。
【0089】
式4は、エラストマーの一般的な化学構造を示している。
【化5】
【0090】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第2の態様による官能基化エラストマーの、材料としての使用が提言される。
【0091】
好ましくは、本発明の第2の態様による官能基化エラストマーの使用は、エラストマー材料、熱可塑性エラストマー、又は生物医学用のエラストマーとして、提言される。
【0092】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第1又は第2の態様による方法で得ることが可能なポリマー組成物が提言される。本発明の方法により、ポリマー組成物を得ることが可能となる。前記ポリマー組成物は、オリゴマー、又はポリマーとオリゴマーとを含んでいる混合物で構成されていてよい。該ポリマー組成物は、本発明による脱硫の方法に供される廃棄物に応じたものとなる。該ポリマー組成物は、廃棄物がエラストマーを含んでいるときにエラストマーを含む。
【0093】
本発明の第5の態様によれば、本発明の第4の態様によって得られたポリマー組成物の、界面活性剤、架橋剤又は鎖延長剤のような添加剤又は試薬としての、未使用すなわち新しいエラストマーの混合物中における添加剤としての使用が提言される。
【0094】
本発明の第4の態様によって得られたポリマー組成物の使用は、材料として、特に熱可塑性エラストマー又は生物医学分野におけるエラストマーとして、提言される。
【発明を実施するための形態】
【0095】
[実施形態の説明]
提示された実施形態によれば、脱硫処理工程は、貨物自動車の廃タイヤのグラニュール又はクラムラバーを出発点として行われる。脱硫剤を用いたジスルフィド架橋結合の切断による化学的脱硫の処理工程の可逆反応は、以下の反応スキーム1及び1’に示されている。
【化6】
【0096】
したがって、この脱硫処理工程は、廃タイヤを起点とするポリマー合成のための道筋を構成する。合成されるポリマーの種類は、鎖長という点では、この方法が行われる起点の廃棄物の中に含まれるエラストマーの重合度に主として左右される。記載の実施形態によれば、該方法が行われる起点のエラストマーを含有する廃棄物は、貨物自動車の廃タイヤに由来する。該方法を実行するために使用されるパラメータに応じて、合成によりオリゴマー、又はポリマーとオリゴマーとを含む混合物が得られる。反応スキーム1によって得られるポリマーは、脱硫の際にポリマー鎖に沿って挿入された官能基をそれぞれ含んでいるユニットの数であって、nで表され、6~600である数と、官能基をポリマー鎖に結合している硫黄原子の数であって、xで表され、0~6である数と、ポリマーが含んでいるモノマーの数であって、mで表され、6~600である数とを備えている。
【0097】
貨物自動車の廃タイヤは加硫度が高いことが知られている。脱硫剤は、ゴム廃棄物に対して6wt%程度用いられる。当業者は、重量比でゴム廃棄物100部あたりDAが6部であるこの比を「phr」として表し、「phr」は「ゴム100部あたり(per hundred rubber)」の略である。最初の廃棄物の重量は、提示された各々の実施形態を実行する場合、300mgである。
【0098】
本発明によれば、合成の処理工程が完了次第、合成されたポリマーを回収するためのさらなるステップが行なわれるが、該ステップは、官能基化されたポリマーを回収するための、脱硫済み廃棄物のアセトンを用いた24時間のソックスレー処理で構成される。合成されたポリマーが懸濁状態及び/又は溶媒和状態である時、当業者は、ポリマーを回収するのに最も適切な分離又は抽出のための化学処理工程を選択することができるであろう。
【0099】
本方法を実行した後に達成される、本明細書において以降はDDVと表される脱硫度は、Paul J. Flory及びJohn Rehner, The Journal of Chemical Physics, (米), 1943, Vol.11, p.521に記載された方法による架橋密度の変化量を通じてフローリーの原理により決定される。したがって脱硫度により、ジスルフィド架橋結合及び炭素‐硫黄結合の切断産物の特異的計測が可能となる。したがってDDVの値により、脱硫反応の効率を特異的に評価することが可能になるということである。従来技術の文献では、一般にDDVは、一般にソックスレー抽出法を用いて、かつ具体的には脱硫されたポリマーの可溶性画分を起点として、ゾル‐ゲルの計測値から測定される。測定される可溶性画分には、ジスルフィド架橋結合及び炭素‐硫黄結合の切断産物が含まれるが、ポリマー鎖の炭素‐炭素結合の切断産物も含まれる。
【0100】
ゴムは主としてポリイソプレンにより構成されており、かつ炭素‐炭素二重結合もフリーラジカルの影響を受けやすい、という見解に基づき、本発明者らは、解重合の主たる発生源はポリイソプレンの炭素‐炭素二重結合に対するDAの反応によって生じるものと推定した。よって、本発明による方法の選択性の正確な評価のために、廃タイヤに含まれるポリイソプレンの、本明細書において以降はDOFと表される官能基化の程度について、本方法を実行する時に使用されるのと同一の条件下で平行して検討を行った。DOFを測定するために選択されたポリイソプレンは、使用された貨物自動車の廃タイヤの重合度と同等の重合度を有する。したがってDOFの値により、ジスルフィド架橋結合及び炭素‐硫黄結合に関する脱硫反応の特異性について正確な評価が可能となることになる。DOFが30%未満となる処理工程は、許容可能な選択性を有していると見なされることになる。ポリイソプレン又はポリブタジエンの炭素‐炭素二重結合に対する脱硫剤の反応によるポリイソプレンの解重合の可逆反応は、次の反応スキーム2で示される。
【化7】
【0101】
ポリイソプレン又はポリブタジエンの炭素‐炭素二重結合に対する脱硫剤の反応によるポリイソプレンの解重合の可逆反応には、次の反応スキーム3を補足することができる。
【化8】
【0102】
第1の実施形態によれば、脱硫によってオリゴマーを合成するための方法は空気中で実行され、かつDAは、R及びR’が水素原子である式1の化合物に相当する式1a
【化9】
の過酸化ベンゾイルである。
【0103】
使用される溶媒はキシレンである。
【0104】
表1は、第1の実施形態による方法に対する温度の影響を示す。温度80℃から温度100℃へと移行することにより、DDVは2倍、DOFは12倍になる、ということが認められるであろう。これは、解重合反応が80℃を越えると顕著であることを実証している。
【表1】
【0105】
表2は、第1の実施形態による方法に対する時間の影響を示す。表2は、DDVが上昇して反応時間4時間で最大に到達し、次いでゆっくり低下することを示している。DOFについては、比較的安定かつ低値である。DOFは、2時間及び3時間の反応時間における5%から、4時間及び5時間の反応時間では7%へと変化する。
【表2】
【0106】
表3は、第1の実施形態による方法に対するDAの濃度の影響を示す。溶媒1ミリリットル当たり0.24phrの濃度、すなわち溶媒体積25ml中にDAの量6wt%では、DDVは比較的低く、DOFは5%である。溶媒に対して0.6phr/mlのDA濃度、すなわち溶媒体積10ml中にDAの量6wt%の高濃度では、DDVは61.3%でありDOFは82%である。溶媒に対して0.06phr/mlのDA濃度、すなわち溶媒体積100ml中にDAの量6wt%の低濃度では、DDVは61.2%でありDOFは18%である。驚くべきことに、方法を実行する時間が全く同一の場合、高濃度のDAで得られるDDVは、低濃度のDAで得られるDDVと類似している。高濃度のDAを用いて方法を実行した時に観察された高値のDOFは、二次的な解重合反応の存在を裏付けている。注目すべきなのは、高濃度のDAを使用する場合に選択性が低くても、13.5×10-4mol/mlの架橋密度を有する貨物自動車の廃タイヤのような加硫度の高い廃棄物について得られるDDVは、典型的には2.6×10-4mol/mlであるはるかに低い架橋密度を有するゴムについて得られるDDVと、少なくとも同等であるか又はそれより高い、ということである。低濃度のDAについては、該方法は良好なDDV値を得ることを可能とし、かつDOFが18%という非常に優れた選択性を有していることが分かる。
【表3】
【0107】
第2の実施形態によれば、該方法は不活性雰囲気下であるアルゴン下で実行され、DAは式1aの過酸化ベンゾイルであり、使用される溶媒はキシレンである。
【化10】
【0108】
表4は、第2の実施形態によるDDVに対する不活性雰囲気の影響を示す。DDVは、空気中で同一条件下で行われた方法と比較して2倍となっている。しかしながら、DOFは同じく2倍であるが依然として低い値である。よって、最適な選択性が必要とされる場合は空気中で該方法を実行するのが好ましいことになる一方、最適な脱硫効率が必要とされる場合はアルゴン下で該方法を実行することが優先されることになる。
【表4】
【0109】
表5は、第2の実施形態による方法に対する時間の影響を示す。表5は、DDVが上昇して反応時間3時間で最大に達し、次いで急速に低下することを示している。DOFについては、時間とともに上昇する。DOFは、2時間及び3時間の反応時間における10%から、4時間及び5時間の反応時間では14%、次いで16%へと変化する。
【表5】
【0110】
表6は、第2の実施形態による方法に対するDAの濃度の影響を示す。DAの濃度の低下によりDDVの低下及びDOFの上昇がもたらされることが分かる。よって、空気中で該方法を実行するのとは対照的に、該方法がアルゴン下で実行される時は溶媒に対して0.06phr/mlより高いDA濃度の値が好ましいことになる。これは、該方法がアルゴン下で実行される場合、脱硫反応及びラジカル解重合の反応に加えて、付加的な反応が現われることを示している。それは例えば、ポリマー鎖のジスルフィド架橋結合及び/又は二重結合における、硫黄を含有するラジカルの架橋であってよい。
【0111】
さらに、溶媒に対して0.06phr/mlより高いDA濃度の値で第2の実施形態による方法を行うことにより、方法が溶媒に対して0.2phr/ml未満のDA濃度の値で第1の実施形態に従って実行された時に得られる値と同等であるか又はわずかに優れたDDV値及びDOF値が得られることも分かる。
【表6】
【0112】
本発明による方法の特定の実施形態によれば、廃タイヤのグラニュールを活性化するステップが脱硫反応の前に実行される。
【0113】
第1の変形実施形態によれば、活性化はグラニュールを膨潤させるステップを含む。表7は、グラニュールの膨潤度、及び溶媒で可溶化されたグラニュールの比率に対する、溶媒の種類の影響を示す。この膨潤ステップは、廃タイヤ由来の所定量のグラニュールを溶媒中に所定時間入れておくことと、廃タイヤのうち溶媒で可溶化された分を回収することとで構成される。実験は各々3回実行され、計算された平均値が表7に示されている。表7は、極性溶媒であるアセトン(双極子モーメントμ=2.86デバイ)は効果的ではなく、廃棄物のうち可溶化される比率が非常に低く膨潤度も非常に低いことを示している。無極性溶媒であるペンタン(双極子モーメントμ=0.2D)は、あまり効果的ではない。しかしながら、低極性の溶媒であるジクロロメタン(DCM)(双極子モーメントμ=1.55D)及びテトラヒドロフラン(THF)(双極子モーメントμ=1.75D)は、非常に効率の良い廃棄物の溶解及び廃棄物の膨潤を示している。これは特に、実験がソックスレー型の抽出器を使用して実行される場合にそうなっている。一般に、無極性溶媒は0.5D未満の極性モーメントを有し、極性溶媒は2Dより大きく2.5Dにもなる双極子モーメントを有すると考えられている。溶媒のプロトン性又は非プロトン性という面に関しては、プロトン性溶媒の効率が最も低いように思われるであろう。事実、比較すると、THFと同等かつアセトンより低い双極子モーメントを有するエタノール(μ=1.74D)は、膨潤度が最も低く廃棄物の溶解が最も少ない。
【表7】
【0114】
第2の変形実施形態によれば、活性化はグラニュールを凍結乾燥するステップを含む。グラニュールは第1の変形実施形態に記載された方法によりDCM中で24時間膨潤せしめられる。その後DCM‐エタノール、次にエタノール‐水の溶媒交換が行われる。その後、水‐膨潤グラニュールは凍結されて48時間凍結乾燥される。
【0115】
表8は、廃タイヤ由来のグラニュールの脱硫に対する凍結乾燥による活性化の影響を示す。
【0116】
該方法が凍結乾燥されたグラニュールを起点として空気中で実行される場合、DDVは活性化を経ていないグラニュールで得られるDDVよりも顕著に高い。DOFには変化がなく、低いままである。
【0117】
該方法が凍結乾燥されたグラニュールを起点としてアルゴン下で行われる場合、DDVは著しく低下するがDOFは一定のままである。これは、該方法がアルゴン下で実行される場合に見られるラジカル架橋が、廃タイヤが凍結乾燥されているときに増大されることを示している。さらに、DA濃度が溶媒に対して0.24phr/mlから溶媒に対して0.06phr/mlに低下すると、DDVは低下してDOFは上昇する。これもまた、上記の結果及びDAの濃度が低下するとラジカル架橋が増幅されるという表6に示された結果を裏付けている。
【表8】
【0118】
第3の変形実施形態によれば、活性化は、グラニュールを商品名「Cyphos101」で知られるイオン液体のトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリドの中で12時間膨潤させるステップを含む。
【0119】
表9は、イオン液体中で膨潤を行うステップを経たグラニュールを起点として空気中で方法を実行することの影響を示す。活性化せずに得られたDDV及びDOFと比較すると、DDVは2倍に上昇し、DOFの明らかな上昇が認められる。凍結乾燥による活性化の際に得られたDDV及びDOFと比較すると、DDVは感知できる程度に上昇し、DOFの明らかな上昇が認められる。
【表9】
【0120】
第4の変形実施形態によれば、活性化は、超臨界CO(ScCO)を用いた処理によってグラニュールを膨潤させるステップを含む。該活性化ステップは、エタノール中又はアセトン中での膨潤によりグラニュールを処理することと、次いで脱水装置の中でエタノール又はアセトンとScCOとの間の溶媒交換を行うこととで構成される。ScCOを用いた処理によって膨潤したグラニュールを起点として実行された脱硫によるポリマー合成の結果は、表10に示されている。
【表10】
【0121】
本発明による方法の別の実施形態によれば、使用される脱硫剤は、R及びR’が水素原子以外である式1に相当する。したがってこれらのDAは過酸化ベンゾイル(BPO)の誘導体である。前記誘導体の使用により、ゴム廃棄物の脱硫によって式3及び/又は式3’の官能基化オリゴマーを合成することが可能となる。合成されるオリゴマーはゴム廃棄物に由来するという事実に加え、該オリゴマーが官能基化されているという事実は、該オリゴマーのその後の使用という観点でさらなる利点となる。実際、官能基が本発明により提言されるように置換基R、R’の幅広い選択肢を含みうるので、結果としてその後の使用が容易となり、潜在的用途の技術分野が広くなる。好都合には、使用されるPBO誘導体は、式1に相当するものであって式中のR及びR’が同一でありペルオキシド基に対してパラ位にある誘導体である。さらに好ましい実施形態では、誘導体は式1b、1cおよび1dに相当する。式1bの化合物は置換基R及びR’として2個のフッ素原子を含み、これらのフッ素原子は、結合している芳香環に対して求引基の誘起効果に類する効果を及ぼす。式1cの化合物は置換基R及びR’として2個のメトキシ基(‐OCH3)を含み、これらのメトキシ基は、結合している芳香環に対して供与基のメソメリー効果に類する効果を及ぼす。式1dの化合物は置換基R及びR’としてアセトキシ基(‐C(=O)OCH3)を含み、これらのアセトキシ基は、結合している芳香環に対して求引基のメソメリー効果に類する効果を及ぼす。
【化11】
【0122】
方法は、活性化を経ていない貨物自動車の廃タイヤ由来のグラニュールを起点として空気中で実行された。様々な置換基R及びR’の効果は表11に示されている。BPOの誘導体(1b、1c及び1d)はそれぞれ、DDVを明らかに改善する。化合物1b及び1dは、DDVを2倍に改善させる。化合物1b及び1cはDOFの顕著な上昇ももたらすが、それでもDOFは30%未満のままである。しかしながら化合物1dはDOFを2%まで低下させ、その結果として該方法の選択性を高める。驚くべきことに、芳香環の電子密度が供与基の効果を及ぼす置換基の影響によって上昇しようと、又はその電子密度が求引基の効果を及ぼす置換基の影響によって激減しようと、DDVは、供与基又は求引基の置換基R及びR’を具備している置換型BPO誘導体を用いるときは顕著に高いままである。
【0123】
したがってこれにより、種々様々の官能基化オリゴマーの合成を構想することが可能となる。方法を実行する時に化合物1dが用いられた場合に得られる結果は、選択性及びDDVの点で特に興味深い。
【表11】
【0124】
本実施形態では、その他の過酸化ベンゾイル(BPO)誘導体がDAとして使用された。これらの化合物は、1e、1f、1g及び1hと表される。化合物1eは置換基R及びR’として2個のメチル基(‐CH)を具備し、これらのメチル基は、結合している芳香環に対して供与基の誘起効果を及ぼす。化合物1fは置換基R及びR’として2個のニトロ基(‐NO)を具備し、これらのニトロ基は、結合している芳香環に対して求引基のメソメリー効果を及ぼす。化合物1gは置換基R及びR’としてオルト位に2個の塩素原子を具備し、これらの塩素原子は、結合している芳香環に対して求引基の誘起効果を及ぼす。化合物1hは置換基R及びR’として2個の臭素原子を具備し、これらの臭素原子は、結合している芳香環に対して求引基の誘起効果を及ぼす。
【化12】
【0125】
該方法は、活性化を経ていない貨物自動車の廃タイヤ由来のグラニュールを起点として空気中で実行された。様々な置換基R及びR’の効果は表12に示されている。提示されたBPO誘導体はすべて、DDVを明らかに改善する。化合物1e、1g及び1hは、2倍よりも大きくDDVを改善させる。化合物1fはさらにDOFも顕著に上昇させるが、それでもDOFは30%未満のままである。化合物1f及び1hはさらに、それぞれ6%及び3%にDOFを低下させ、結果として該方法の選択性を高めている。この場合も、芳香環の電子密度が供与基の効果を及ぼす置換基の影響によって上昇しようと、又はその電子密度が求引基の効果を及ぼす置換基の影響によって激減しようと、DDVは、供与基又は求引基の置換基R及びR’を具備している置換型BPO誘導体を用いるときは顕著に高いままである。
【0126】
化合物1gに関しては、提示された他の化合物(1b、1c、1d、1e、1f及び1h)と同等レベルのDDVを得るために3時間という反応時間が選択されたことに注意すべきである。4時間の反応時間では、化合物1aで得られたのと同等のDDVがもたらされ、かつDOFの大幅な上昇がもたらされる。
【0127】
これらの結果は、種々様々の官能基化オリゴマーの合成を構想する可能性を裏付けている。該方法を実行する時に化合物1f及び1hが用いられた場合に得られる結果は、選択性及びDDVの点で特に興味深い。該方法を実行する時に化合物1e及び1hが用いられた場合に得られる結果は、DDVの点で特に興味深い。化合物1d及び1hは、該化合物により獲得可能となる高いDDV、及び低いDOF(選択的反応、すなわち解重合がほとんどない)という点で、特に興味深いように思われる。
【表12】
【0128】
第3の実施形態によれば、方法を実行する時に使用される溶媒は、「Cyphos101」という名で市販されているイオン液体のトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリドであり、使用されるDAは式1aの過酸化ベンゾイルであり、かつ該方法は空気中又は不活性雰囲気下で実行される。溶媒としてイオン液体を使用することにより、脱硫に付随して自動的に廃棄物の膨潤が引き起こされる。これにより、上記に議論されるようにDDVを上昇させることが可能となる。更に、溶媒としてイオン液体を使用することにより、実際には合成された官能基化オリゴマーの析出がもたらされる。従って、該方法を連続的に実行することが可能であり、脱硫を実行した後の抽出ステップはもはや必要ない。
【0129】
第3の実施形態によれば、溶媒の影響について例証するために追加の実験が行われた。共晶溶媒である2aと表示された塩化コリン/尿素、並びにイオン液体であってそれぞれ2bと表示された「Cyphos101」及び2cと表示されたジオクチルイミダゾリウムブロミド([DOIM][BR])の中で方法が実行された後、DDV及びDOFが計測された。該方法は、事前の活性化を経ていない貨物自動車の廃タイヤ由来のグラニュールを起点として空気中で実行された。BPOがDAとして使用された。結果は表13に示されている。
【0130】
「Cyphos101」の場合、脱硫反応の生成物の抽出がDOFを測定するのに十分ではなかった。これらの結果を表11の化合物1a(BPO)で得られた結果と比較すると、イオン液体又は共晶溶媒が使用される場合にDDVはかなり高くなることが分かる。反対に、共晶溶剤が使用される場合はDOFのわずかな上昇が、イオン液体が使用される場合はかなり大きな上昇が認められる。
【表13】
【0131】
上記に示された結果は、本発明に従って脱硫によりポリマーを合成する方法によって、数ある中でも特に、多数の異なる置換基を含みうる官能基化ポリマーと、通常使用される方法で得られるよりも低い解重合度と、通常使用される方法で得られるよりも高い脱硫度とを得ることが可能となることを実証している。
【国際調査報告】