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特表2022-523208疼痛の治療に使用するための医薬組成物
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  • 特表-疼痛の治療に使用するための医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-21
(54)【発明の名称】疼痛の治療に使用するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/24 20060101AFI20220414BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 31/381 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 23/02 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
A61K47/24
A61K9/127
A61K47/28
A61K31/167
A61K31/40
A61K31/381
A61P23/02
A61K31/445
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549691
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(85)【翻訳文提出日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 US2020019806
(87)【国際公開番号】W WO2020176568
(87)【国際公開日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】62/848,286
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/810,378
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514090142
【氏名又は名称】ティーエルシー バイオファーマシューティカルズ、インク.
(71)【出願人】
【識別番号】507317971
【氏名又は名称】タイワン リポソーム カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120857
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】タイ ティエン-チュ
(72)【発明者】
【氏名】ツェン ユン-ロン
(72)【発明者】
【氏名】シー シェウエ-ファン
(72)【発明者】
【氏名】クオ ミン-ウェン
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン カール オスカー
(72)【発明者】
【氏名】ワン フイ-ティン
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ ウィーニー イェウン ング
(72)【発明者】
【氏名】フー ペイ-シエン
(72)【発明者】
【氏名】ユー ワン-ニー
(72)【発明者】
【氏名】ホン キールン
(72)【発明者】
【氏名】カオ ハオ-ウェン
(72)【発明者】
【氏名】リン イー-ユー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076BB11
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC01
4C076DD15F
4C076DD63F
4C076DD70F
4C076FF16
4C076FF31
4C076FF43
4C076FF67
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA10
4C086BB02
4C086BC07
4C086BC21
4C086GA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA24
4C086MA66
4C086NA06
4C086NA12
4C086ZA21
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA10
4C206GA19
4C206GA31
4C206KA01
4C206KA14
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA44
4C206MA86
4C206NA06
4C206NA12
4C206ZA21
(57)【要約】
術後痛の治療に使用するための医薬組成物が提供される。この医薬組成物は、脂質ベースの複合体を含む。この脂質ベースの複合体は、アミド型麻酔薬と少なくとも1種の脂質とを含み、この脂質ベースの複合体の少なくとも1種の脂質に対するアミド型麻酔薬のモル比は少なくとも0.5:1である。上記アミド型麻酔薬の総量は、そのアミド型麻酔薬を用いて術後痛を治療するための標準的な治療用量の少なくとも1.5~5倍であり、目的の長期の鎮痛効果を伴って向上した疼痛の制御が達成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
術後痛の治療に使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物は脂質ベースの複合体を含み、前記脂質ベースの複合体は、アミド型麻酔薬と少なくとも1種の脂質とを含み、前記脂質ベースの複合体の前記少なくとも1種の脂質に対する前記アミド型麻酔薬のモル比は少なくとも0.5:1であり、前記医薬組成物の前記アミド型麻酔薬の総量は、前記アミド型麻酔薬を用いて術後痛を治療するための標準的な治療用量の少なくとも1.5~5倍である医薬組成物。
【請求項2】
前記アミド型麻酔薬の前記総量が、約3mg~約1000mgの範囲にある請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記アミド型麻酔薬の前記総量が、約100mg~約800mgの範囲にある請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記アミド型麻酔薬の前記総量が、約300mg~約600mgの範囲にある請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記術後痛がヘルニア修復手術によって引き起こされたものである請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記アミド型麻酔薬の前記総量が、約3mg~約300mgの範囲にある請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記アミド型麻酔薬の前記総量が、約10mg~約250mgの範囲にある請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記術後痛が、バニオン切除手術によって引き起こされたものである請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記医薬組成物が、少なくとも10mg/mLの前記アミド型麻酔薬を含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物が、15mg/mL~25mg/mLの前記アミド型麻酔薬を含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記脂質ベースの複合体の前記少なくとも1種の脂質に対する前記アミド型麻酔薬のモル比が0.5:1~2:1である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記少なくとも1種の脂質が中性の飽和リン脂質を含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記中性の飽和リン脂質が1種以上の飽和脂肪酸を含み、各飽和脂肪酸が、独立に、炭素数が18以下の炭素鎖を含む請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記中性の飽和リン脂質が、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)及びこれらの組み合わせからなる群から選択される請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記少なくとも1種の脂質が、1種以上の中性の飽和リン脂質及びステロールから実質的になる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記ステロールがコレステロールである請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記アミド型麻酔薬が、リドカイン、ブピバカイン、レボブピバカイン、ロピバカイン、メピバカイン、ピロカイン、アルチカイン、プリロカイン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記脂質ベースの複合体のメジアン径が5μm~200μmの範囲にある請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記脂質ベースの複合体が、
(a)前記アミド型麻酔薬、及び前記少なくとも1種の脂質を含む脂質ケーキを準備することと、
(b)前記脂質ケーキを、5.5~8.0のpHの薬学的に許容できる緩衝溶液で水和して、前記脂質ベースの複合体を形成することと
によって調製される請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
麻酔施行を必要とする対象における、神経ブロックを介した、周囲麻酔を介した、又は浸潤麻酔を介した疼痛の治療に使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物は、
アミド型麻酔薬及び中性の飽和リン脂質を含む脂質ベースの複合体
を含み、
前記中性の飽和リン脂質は飽和脂肪酸を含み、各飽和脂肪酸は、独立に、炭素数が18未満の炭素鎖を含み、前記脂質ベースの複合体中の前記中性の飽和リン脂質に対する前記アミド型麻酔薬のモル比は少なくとも0.5:1であり、前記脂質ベースの複合体のメジアン径は5μm~200μmの範囲にあり、
前記医薬組成物の前記アミド型麻酔薬の総量は約3mg~約1000mgである使用するための医薬組成物。
【請求項21】
前記アミド型麻酔薬の前記総量が約475mgである請求項20に記載の使用するための医薬組成物。
【請求項22】
前記医薬組成物が、約10mg/mL~約30mg/mLの前記アミド型麻酔薬を含む請求項21に記載の使用するための医薬組成物。
【請求項23】
麻酔施行を必要とする対象における術後痛の治療方法であって、
神経ブロックを介して、周囲麻酔を介して、又は浸潤麻酔を介して、請求項1に記載の医薬組成物を投与する工程
を含む方法。
【請求項24】
前記術後痛が、ヘルニア修復手術によって引き起こされたものである請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記アミド型麻酔薬の総量が、約100mg~約800mgの範囲にある請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記アミド型麻酔薬の総量が、約300mg~約600mgの範囲にある請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記術後痛が、バニオン切除手術によって引き起こされたものである請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記アミド型麻酔薬の総量が、約3mg~約300mgの範囲にある請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記アミド型麻酔薬の総量が、約10mg~約250mgの範囲にある請求項27に記載の方法。
【請求項30】
手術後の疼痛の治療方法であって、
手術前の約半時間~3時間以内に、又は手術中に、請求項1に記載の医薬組成物を投与する工程
を含み、疼痛の軽減は、手術後のある期間の0から10の尺度のNPRSスコアに従って少なくとも約2であり、前記期間が少なくとも48時間である方法。
【請求項31】
前記期間が少なくとも72時間である請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記期間が少なくとも96時間である請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記期間が少なくとも168時間である請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記アミド型麻酔薬の総量が、約100mg~約800mgの範囲にある請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記手術がヘルニア修復手術であり、前記アミド型麻酔薬の総量が、約300mg~約600mgの範囲にある請求項30に記載の方法。
【請求項36】
前記手術がバニオン切除手術であり、前記アミド型麻酔薬の総量が、約3mg~約300mgの範囲にある請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、疼痛の制御における麻酔薬組成物の使用に関する。本開示は、疼痛を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
局所麻酔薬は、電位依存性ナトリウムチャネルを可逆的に阻害し、神経線維の活動電位をブロックする能力があるため、外科麻酔及び術後鎮痛に広く使用されている。しかし、この種の麻酔薬は、血漿中の濃度が高くなると、他のイオンチャネルとも相互作用して、急性の神経毒性及び心臓毒性、並びにアレルギー反応を引き起こす。いわゆる局所麻酔薬中毒(LAST)は、すべての局所麻酔薬の、どのような投与経路においても、常に潜在的な合併症であり、致命的なものとなる可能性がある。
【0003】
ロピバカインは、1996年に純粋なS(-)異性体のアミド型局所麻酔薬として登場し、2000年にNaropin(登録商標)の商品名で米国食品医薬品局(FDA)に承認された。ロピバカインは、ブピバカイン(Marcaine(登録商標))と比較して、親油性及び運動神経ブロックが大幅に減少し、心毒性が軽減されているため安全域が大きくなっている。Naropin(登録商標)は、脊髄麻酔、硬膜外麻酔、局所ブロック、局所浸潤等、様々な注入経路で投与することができる。他の局所麻酔薬に比べて多くの利点があるにもかかわらず、0.5%Naropin(登録商標)(200mgロピバカイン塩酸塩注射液)を創部浸潤により単回投与した後の鎮痛持続時間は約6~8時間に過ぎなかった。これは、手術後の回復時間のかなりの部分をカバーするには不十分であり、特に、重要な術後3日間の範囲をカバーするには不十分である。
【0004】
局所麻酔薬は、作用持続時間が短く、LASTのリスクがあるという制約がある。局所麻酔薬(例えばロピバカイン塩酸塩)の浸潤及びNSAIDも、術後痛管理レジメンとして広く受け入れられている。しかしながら、NSAIDの使用に関しては安全性に関するいくらかの潜在的な懸念があり、局所麻酔薬による術後鎮痛の持続時間は一般的に約8時間に限られている。医学的な目的は、術後の重要な2~4日の間、オピオイドを使用せずに急性の術後痛を和らげることである。このように、製剤の単回の周術期投与による、持続時間が長くてオピオイドを使用せず、より安全で効果的な術後痛管理方法を提供するという、満たされていない医療ニーズがある。
【0005】
連続的な注入又は反復的なボーラス投与のいずれかによって局所麻酔薬による長時間のブロックを利用する場合、毒性の血漿中濃度に達したり、局所神経損傷を誘発したりする危険性が高い。局所麻酔薬の神経毒性を裏付ける証拠は、局所麻酔薬注入後の知覚異常の持続性の分析から得られた。知覚異常の重症度は、変化した感覚の長さに関係している。ほとんどの場合、影響を受けた神経は一定期間で自然に回復するが、場合によっては、この望ましくない効果が長引き、数ヶ月間持続することもあり、この望ましくない効果によって神経が完全には回復できなくなることもありうる。
【0006】
それゆえ、所望の長期の鎮痛効果を有する有益で効果的な疼痛制御方法を達成するために、疼痛制御におけるロピバカイン又は他のアミド型麻酔薬の改良された使用に対する満たされていないニーズが存在する。本開示の組成物及び方法は、これら及び他のニーズを満たす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、疼痛の制御に対するこの長期の効果をもたらす、本開示のアミド型麻酔薬についての特定の用量範囲及び投薬スケジュールによる治療方法を提供する。特に、本開示は、現在使用されておりかつ/又は当該技術分野で公知の薬剤、組成物、方法及び/又は投与スケジュールと比較して、一定の利点を有する薬理活性薬剤、組成物、方法及び/又は投与スケジュールに向けられており、この利点には、疼痛制御又は麻酔効果における同等の効果を得るために、より少ない頻度で投与するか、又はより低用量を投与することができ、従って、アミド型麻酔薬を必要とする対象に対するアミド型麻酔薬の望ましくない効果を低減することができることが含まれる。これらの利点は、以下のさらなる説明から明らかになるであろう。
【0008】
本開示は、徐放性麻酔薬組成物、又は凍結乾燥(例えば、一段階凍結乾燥)を用いた徐放性麻酔薬組成物の調製方法であって、アミド型麻酔薬と少なくとも1種の脂質とを含む脂質ケーキであって、脂質ベースの複合体の少なくとも1種の脂質に対するアミド型麻酔薬のモル比が少なくとも0.5:1である脂質ケーキを得て、その後、その脂質ケーキを薬学的に許容できる緩衝溶液で水和して徐放性麻酔薬組成物を得る方法を提供する。この徐放性麻酔薬組成物は、迅速な麻酔の開始、及び最小限の毒性で局所麻酔の長い持続時間を提供する。
【0009】
1つの態様では、当該麻酔薬組成物は、必要とする対象における術後痛の治療に使用するための医薬組成物である。本開示に係る医薬組成物は、アミド型麻酔薬と少なくとも1種の脂質との脂質ベースの複合体を含み、この脂質ベースの複合体の少なくとも1種の脂質に対するアミド型麻酔薬のモル比は少なくとも0.5:1であり、当該医薬組成物のアミド型麻酔薬の総量は、アミド型麻酔薬の標準的な治療用量の少なくとも1.5~5倍である。当該医薬組成物のアミド型麻酔薬の総量は、約3mg~約1000mg、約100mg~約800mg、約200mg~約600mg、約300mg~約600mg、約300mg~約500mg及び任意に約380mg、約475mg、約570mgの範囲、又は約3mg~約300mg、約10mg~約250mg及び任意に約50mg、約152mg、約190mg又は約228mgの範囲であってもよい。いくつかの実施形態では、当該医薬組成物のアミド型麻酔薬は、アミド型麻酔薬の標準的な治療用量の少なくとも約1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2.0倍、2.1倍、2.2倍、2.3倍、2.4倍、2.5倍、2.6倍、2.7倍、2.8倍、2.9倍、3.0倍、3.1倍、3.2倍、3.3倍、3.4倍、3.5倍、3.6倍、3.7倍、3.8倍、3.9倍、4.0倍、4.1倍、4.2倍、4.3倍、4.4倍、4.5倍、4.6倍、4.7倍、4.8倍、4.9倍~5倍までの量で使用される。使用されてもよい他のアミド型麻酔薬としては、リドカイン、ブピバカイン、メピバカイン、レボブピバカイン、これらの塩基、又はこれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態では、アミド型麻酔薬は、ブピバカイン、ロピバカイン、又はそれらの塩基である。
【0010】
本開示によれば、脂質ベースの複合体は、アミド型麻酔薬と1種以上の脂質とを含む。いくつかの実施形態では、この脂質は、少なくとも1種の中性の飽和リン脂質を含む。この少なくとも1種の中性の飽和リン脂質は、炭素数が18以下の長い炭素鎖を有する飽和脂肪酸を含む。いくつかの実施形態では、脂質ベースの複合体は、前臨床使用のための所定の条件下、例えば、周囲温度で調製され、長い炭素鎖を有する飽和脂肪酸は、14、16及び/又は18の炭素数を有する。
【0011】
いくつかの実施形態では、当該麻酔薬組成物の脂質ベースの複合体は、凍結乾燥された脂質ケーキを、5.5より高いpHの薬学的に許容できる緩衝溶液で水和することによって形成される。理論上帯電していないロピバカインは、そのpKa(ロピバカインのpKaは8.1である)からの計算に基づいて、pH6.0では利用可能なロピバカインの0.8%である。いくつかの実施形態では、本開示に係る脂質ケーキは、無極性のロピバカイン、リン脂質、及びコレステロールを、溶媒系、例えば、tert-ブタノール単独又はtert-ブタノール/水共溶媒に溶解し、次いで、凍結乾燥技術を用いてこの溶媒系を除去することによって調製される。
【0012】
特定の実施形態では、脂質ベースの複合体におけるリン脂質に対するアミド型麻酔薬のモル比(mol薬物:molリン脂質)は、少なくとも0.5:1である。本発明の医薬組成物は、必要とする対象に十分な量のアミド型麻酔薬を提供して、インビボ局所投与後の麻酔の持続時間を延長することができる。加えて、脂質ベースの複合体に捕捉されていない遊離形態の所定量のアミド型麻酔薬は、最大血漿中濃度(Cmax)を最小限に抑えて迅速な麻酔の開始を達成することができる。
【0013】
別の態様では、本開示は、麻酔施行を必要とする対象における術後痛の治療方法も提供する。当該方法は、神経ブロックを介して、周囲麻酔を介して、又は浸潤麻酔を介して、本開示の医薬組成物を投与する工程を含んでもよい。
【0014】
特定の実施形態では、術後痛は、以下に限定されないが、ヘルニア修復手術、バニオン切除手術、泌尿器系手術、整形手術、産科手術、腹腔鏡手術、腹壁形成術、乳房手術及び腎移植手順(KTX)等の手術によって引き起こされる。
【0015】
さらに別の態様では、本開示は、術後痛の治療方法を提供する。当該方法は、手術前の約半時間(30分)~約3時間、任意に半時間(30分)~約2時間、任意に半時間~約1時間以内に、又は手術開始後(手術中)、特に手術完了前に、本開示に係る医薬組成物の投与量を投与する工程を含んでもよく、疼痛の軽減は、手術後のある期間の数値疼痛評価尺度(Numerical Pain Rating Scale、NPRS)スコアに従って少なくとも約2であり、その期間が少なくとも48時間、任意に少なくとも72時間、少なくとも96時間又は少なくとも168時間である。NPRSは、0から10の尺度であることができ、0は疼痛がなく、10は想像しうる最悪の疼痛である。いくつかの実施形態では、本開示に係る組成物が神経ブロック又は周囲麻酔を介して投与される場合、当該組成物は、手術の約半時間前から約1時間前に投与されてもよい。他の非限定的な実施形態では、本開示に係る組成物が、ヘルニア修復手術及びバニオン切除手術に適している、局所浸潤を介して投与される場合、当該組成物は、手術中、通常、切開部の最終閉鎖前の手術の最終段階で投与されてもよい。
【0016】
本開示の他の目的、利点、及び新規の特徴は、添付の図面と併せて考慮すると、以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、ヘルニア修復手術後の術後痛の治療のための本開示の麻酔薬組成物の臨床試験のための研究デザインを示す。
図1A図1Aは、示されたような様々な投与量の本開示の麻酔薬組成物による術後痛の治療後のロピバカインの最大血漿中濃度を比較したチャートを示す。
図2図2は、本開示の麻酔薬組成物の臨床試験の研究結果を示す。AUC=疼痛時間曲線下面積;LS=最小二乗法;NPRS=数値疼痛評価尺度;応答としてNPRS AUCを、固定主効果として治療群を含むANOVAモデルからのLS平均値;窓付き最悪観測値引き延ばし補完(windowed worst observation carried forward、wWOCF)を用いて救援薬の使用について調整したNPRS;p<0.05対ロピバカイン。
図3図3は、ロピバカインと比較した475mgの用量の本開示の麻酔組成物についての運動時のLS平均(SE)疼痛を示す。LOCF(last observation carried forward、最終観察値引き延ばし補完)はデータ欠落のためである;wWOCF(窓付き最悪観測値引き延ばし補完)は救援薬のためである
図4図4は、バニオン切除手術後の術後痛の治療のための本開示の麻酔薬組成物の臨床試験の研究デザインを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記及び本開示全体で採用されている場合、以下の用語は、特段の記載がない限り、以下の意味を有すると理解されるものとする。
【0019】
本明細書で使用する場合、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈と明らかに矛盾しないかぎり、複数の指示対象を含む。
【0020】
本明細書のすべての数字は、量、時間的持続時間等の測定可能な値に言及する場合、特段の記載がないかぎり、指定された値から±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±1%、さらに好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味する、「約」によって修飾されたものとして理解されてもよい。というのも、所望の量のアミド型麻酔薬を得るためにそのような変動が適切であるからである。
【0021】
本明細書で使用される用語「治療する(こと)」、「治療された」、又は「治療」は、防止的(例えば予防的)、緩和的、及び治癒的な方法、使用又は結果を含む。用語「治療」又は「処置」は、組成物又は医薬品を指すこともできる。本願を通して、「治療する(こと)」とは、疼痛の1つ以上の症状若しくは兆候を軽減若しくは遅延させる方法、当該技術分野で公知の技術によって検出される疼痛の改善、又は疼痛を抑える薬の使用量の減少を意味する。疼痛及びその症状を評価するために、当該技術分野で認められた方法が利用できる。これらには、6点記述式疼痛評価尺度、11点NPRS、ビジュアルアナログスケール(visual analog scale)、ウィスコンシン簡易疼痛質問表(Wisconsin Brief Pain Questionnaire)、簡易疼痛調査用紙(Brief Pain Inventory)、マクギル疼痛質問表(McGill Pain Questionnaire)及び短形式、マクギル疼痛質問表、及び疼痛制御方法の患者全般評価(Patient Global Assessment、PGA)を含む他の採点方法が含まれるが、これらに限定されない。ヒト対象については、疼痛のレベルを特定するために、例えば、(0)無痛から(10)最大痛までの段階的な尺度を用いた自己報告が使用できよう。任意で、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を、本開示の医薬組成物の投与後の疼痛の減少を識別するために、対象に使用することができよう。例えば、開示された方法は、治療前の対象又は1つ以上の対照対象と比較して、対象の1つ以上の疼痛の症状に少なくとも1%の軽減がある場合、治療であると考えられる。従って、軽減は、約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、又はその間の任意の量の軽減であることができる。対象における治療は、オピオイド若しくは他の鎮痛薬等の疼痛制御の薬物の使用量の減少、及び/又はオピオイドの使用に関連する胃腸症状等、そのような鎮痛薬に関連する副作用の減少によって評価することもできよう。術後回復指数(postsurgical recovery index)等の追加の有効性質問表を使用すれば、疼痛及び回復だけでなく、オピオイドの使用に関連する可能性のある副作用を評価することができよう。特に、術後痛は、急性痛及び/又は慢性痛である可能性がある。急性痛は、直ちに、又は7日までに(例えば、手術後約1日、2日、3日、4日、5日、6日、又は7日に)経験される可能性がある。
【0022】
用語「対象」、「被験者」は、疼痛若しくは疼痛につながる病気を有するか若しくは発症するリスクのある脊椎動物、又は疼痛の治療若しくは管理が必要であると考えられる脊椎動物を指すことができる。対象には、霊長類を含む哺乳類等のすべての温血動物が含まれ、より好ましくは、ヒトである。人間以外の霊長類も対象となる。用語「対象」には、ネコ、イヌ等の飼い慣らされた動物、家畜(例えばウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等)、及び実験動物(例えばマウス、ウサギ、ラット、スナネズミ、モルモット等)が含まれる。従って、本明細書では、獣医学的用途及び医療用製剤が企図されている。
【0023】
「会合効率」(AE)は、脂質ベースの複合体に取り込まれた薬物の量を表し、分離前のもとの組成物中の薬物の総量に対する分離された脂質ベースの複合体中の薬物の量の比によって計算される。分離された脂質ベースの複合体は、当該技術分野で公知の任意の方法で得ることができる。いくつかの実施形態では、分離された脂質ベースの複合体は、遠心分離法、例えば、従来の遠心分離、密度勾配遠心分離、分画遠心分離、又は濾過法、例えば、透析濾過、ゲル濾過、及び膜濾過によって得られる。
【0024】
用語「標準的な治療用量」は、所望の効果又は結果をもたらすための指示された治療剤の量を指すことができ、特に、軟組織、筋肉及び脂肪等;及び硬組織、骨等の灌流の乏しい組織との薬物の平衡化によって例示される、本開示と同様の区画を指すことができる。標準的な治療用量は、当業者であれば決定することができる。各適応症に適した標準的な治療用量は、米国薬局方(USP)や、米国食品医薬品局が主催するDrugs@FDAのライブラリに掲載されている承認済みの医薬品(これらに限定されない)等、関連する麻酔薬の参考文献を参照することができる。治療用量は、手術部位に浸潤又は注入することができる。例えば、ヘルニア手術後の疼痛を局所浸潤より管理するための注射用のロピバカイン塩酸塩溶液(Naropin(登録商標))の標準的な治療用量は、300mg未満、特に2mg~200mgである。1つの実施形態では、バニオン切除手術後の疼痛の治療のための注射又は浸潤用の遊離ロピバカイン溶液の標準的な治療用量は50mgである。別の実施形態では、ブピバカイン塩酸塩注射USP(Hospira(ホスピーラ)製)の標準的な治療用量は、エピネフリン1:200,000を含む225mgまでと、エピネフリンを含まない175mgである。標準的な治療用量は、手術の種類に基づいて決定することができ、当業者であれば確立することができる。
【0025】
アミド型麻酔薬
用語「アミド型麻酔薬」は、神経終末部の興奮を抑制したり、末梢神経の伝導過程を阻害したりすることで、対象の周囲の感覚を失わせる1つ以上の物質群を指す。典型的なアミド型麻酔薬の構造は、-NHCO-結合で結ばれた親油性部分及び親水性部分を含有する。適切なアミド型麻酔薬としては、リドカイン、ブピバカイン、レボブピバカイン、ロピバカイン、メピバカイン、ピロカイン、アルチカイン、プリロカイン、及びそれらの遊離塩基が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、アミド型麻酔薬はロピバカイン塩基である。
【0026】
脂質ベースの複合体及び脂質
本開示に係る脂質ベースの複合体は、1種以上の脂質と、アミド型麻酔薬とを含む。1つの実施形態では、この脂質ベースの複合体は、当該組成物の保存期間を延長するように製造され、長期的に保存されてもよい。脂質ベースの複合体は、臨床使用の直前に、1種以上の脂質及びアミド型麻酔薬を含有する脂質ケーキを水和することによって形成されてもよい。
【0027】
上述の脂質ケーキは、ステロールの不存在下で、1種以上のリン脂質及びアミド型麻酔薬を含んでいてもよい。あるいは、この脂質ケーキは、全脂質の量に対して、1種以上のステロール、例えばコレステロールが50%以下の状態で、アミド型麻酔薬及び1種以上のリン脂質を含んでいてもよい。特定の実施形態では、全脂質に対するコレステロールのモル%は、約0%~50%、任意に約33%~40%である。いくつかの実施形態では、リン脂質(1種又は複数種)及びコレステロールは、1:1~3:1のモル比にある。
【0028】
上記脂質ケーキは、1)1種以上の脂質及びアミド型麻酔薬を溶媒系に溶解して、1種以上の溶媒を含む液体構造体を形成して均一な溶液を形成し、2)溶媒を除去して脂質及びアミド型麻酔薬(複数種可)の製剤を固化することによって調製することができる。溶媒の除去は、凍結乾燥(冷凍乾燥)等の公知の技術を用いて行うことができる。凍結乾燥に適した溶媒系の例としては、アセトン、アセトニトリル、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、メタノール、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、及び四塩化炭素等の他の非水系溶媒を含む又は含まない、tert-ブタノール及びtert-ブタノール/水共溶媒系が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
いくつかの実施形態では、脂質ベースの複合体の脂質は、1種以上のリン脂質及びコレステロールを含み、脂質ベースの複合体のリン脂質に対するアミド型麻酔薬のモル比は、少なくとも0.5:1、任意に0.5:1~2:1の間、例えば、約0.5:1、約0.8:1、約1:1、約1.2:1、約1.5:1、約1.8:1、又は約2:1である。
【0030】
上記1種以上の脂質は、リン脂質、ジグリセリド、二脂肪族糖脂質等の二脂肪族鎖脂質;スフィンゴミエリン及びスフィンゴ糖脂質等の単一脂質;コレステロール及びその誘導体等のステロール;並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される。本開示に係るリン脂質の例としては、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PSPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(POPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DMPG)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DPPG)、1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(PSPG)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DSPG)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(DOPG)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DMPS)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DPPS)、2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DSPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-リン酸(ナトリウム塩)(DMPA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-リン酸(ナトリウム塩)(DPPA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-リン酸(ナトリウム塩)(DSPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-リン酸(ナトリウム塩)(DOPA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-ミオイノシトール)(アンモニウム塩)(DPPI)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホイノシトール(アンモニウム塩)(DSPI)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-ミオイノシトール)(アンモニウム塩)(DOPI)、カルジオリピン、L-α-ホスファチジルコリン(EPC)、及びL-α-ホスファチジルエタノールアミン(EPE)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
リン脂質の例としては、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(DOPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルセリン(DOPS)、ジオレオイルホスファチジン酸(DOPA)、卵ホスファチジルコリン(卵PC)、ホスファチジルエタノールアミン(卵PE)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルエタノールアミン(POPE)、カルジオリピン、及び1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-リン酸(ナトリウム塩)(DMPA)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
本開示に係る好適なリン脂質は、2つの飽和長炭素鎖脂肪酸で誘導される飽和リン脂質であり、各脂肪酸は、少なくとも12個の炭素、あるいは少なくとも14個の炭素;及び20個以下の炭素、あるいは18個以下の炭素、又は16個以下の炭素の長い炭素鎖を有する。いくつかの実施形態では、本開示に係る好適な飽和リン脂質は、DLPC、DMPC、DPPC、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0033】
いくつかの実施形態では、上記脂質ベースの複合体は、リポソーム及びアミド型麻酔薬を含む。このリポソームは、本開示に係る好適なリン脂質、正又は負に帯電したリン脂質、及び決定された量の不飽和リン脂質を含む1種以上の脂質を含み、この決定された量は、リン脂質の総量を基準にして10%モルパーセント未満であり、例えば、約9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%である。
【0034】
麻酔薬組成物
用語「麻酔薬組成物」及び「疼痛の治療に使用するための医薬組成物」は、互換的に使用される。特定の実施形態では、麻酔薬組成物は、脂質ベースの複合体と、捕捉されていない局所麻酔薬とを含む。いくつかの実施形態では、脂質ベースの複合体は、多層小胞体(マルチラメラ小胞)と、この多層小胞体に捕捉された局所麻酔剤とを含む。用語「捕捉する」又は「捕捉」は、多層小胞体の二分子膜が標的薬物を内包、埋め込み、又は会合していることを指す。
【0035】
本開示に係る脂質ベースの複合体の粒度分布は、当該技術分野における様々な公知の方法によって決定することができる。いくつかの実施形態では、当該麻酔薬組成物の脂質ベースの複合体の平均粒子サイズは、1μm以上であり、任意に5μm超、例えば5μm~50μm、又は10μm~25μmの範囲にある。あるいは、当該麻酔薬組成物の脂質ベースの複合体の体積メジアン粒径(D50)は、1μm以上であり、任意に5μm以上、例えば5μm~50μm、5μm~40μm、5μm~30μm、5μm~20μm、又は5μm~15μmの範囲にある。いくつかの実施形態では、メジアン粒径(D50)は、累積粒度分布において、凝集粒子から構成される脂質ベースの複合体の累積割合が50%となる粒径が5μm以上又は7μm以上であることを指す。いくつかの実施形態では、メジアン粒径(D50)は、累積粒度分布において、凝集粒子から構成される脂質ベースの複合体の累積割合が50%となる粒径が25μm以下、20μm以下、又は15μm以下、任意に5μm~25μm、5μm~20μm、又は5μm~15μmとなる粒径を指す。
【0036】
いくつかの実施形態では、当該麻酔薬組成物の脂質ベースの複合体の累積粒度分布における累積割合が90%のときの粒径(D90)は、10μm以上、例えば10μm~300μm、20μm~300μm、20μm~200μm、又は20μm~100μmの範囲にある。加えて、D90の下限値は、例えば、25μm以上又は30μm以上であるが、これに限定されない。加えて、単位投与量あたりの会合効率を向上させるための脂質ベースの複合体の凝集粒子の形状は、特に限定されない。
【0037】
いくつかの実施形態では、疼痛の治療に使用するための当該医薬組成物は、多層小胞体と、この多層小胞体によって捕捉されたアミド型麻酔薬の一部と、さらに遊離形態のアミド型麻酔薬(捕捉されていない状態)としても表記される遊離形態にあるアミド型麻酔薬の一部とを含む。本開示に係る脂質ベースの複合体の捕捉されたアミド型麻酔薬と一緒になった多層小胞体の粒度分布は、当該技術分野における様々な公知の方法によって決定することができる。いくつかの実施形態では、本開示に係る麻酔薬組成物の捕捉されたアミド型麻酔薬と一緒になった多層小胞体の粒子サイズは、1μm以上であり、任意に5μm超、例えば5μm~200μm、10μm~100μm、又は10μm~50μmの範囲にある。あるいは、本開示に係る麻酔薬組成物中の脂質ベースの複合体のメジアン径(D50)は、1μm以上であり、任意に5μm超、例えば5μm~100μm、又は10μm~50μmの範囲にある。
【0038】
いくつかの実施形態では、脂質ベースの複合体は、アミド型麻酔薬を含有する脂質ケーキを、5.5より高いpHの薬学的に許容できる緩衝溶液で水和することによって形成される。このようにして得られた麻酔薬組成物は、使用可能な状態のアミド型麻酔薬の徐放性を提供してもよいし、このあと投与前に水性緩衝溶液又は他の適切な希釈剤で希釈してもよい。いくつかの実施形態では、この水性緩衝溶液は、5.5~8.0、任意で6.0~7.5又は6.5~7.0のpH範囲にある。
【0039】
本開示に係る適切な水性緩衝液としては、クエン酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、ピペラジン、コハク酸塩、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、ヒスチジン、ビス-tris、リン酸塩、エタノールアミン、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、炭酸塩、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸(PIPES)、3-モルホリノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)、イミダゾール、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸(HEPES)、トリエタノールアミン、リジン、tris、及びグリシルグリシンの溶液が挙げられるが、これらに限定されない。当該組成物中の捕捉されていないアミド型麻酔薬の量は、臨床適応及び総注入量に基づいて水性緩衝溶液の適切なpH値を選択することにより、麻酔薬の分配係数に基づいて調整することができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、水性緩衝溶液は、1mM~200mM、10mM~150mM、20mM~140mM、30mM~130mM又は40mM~120mMの範囲の濃度のヒスチジンを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、水性緩衝溶液は、1mM~200mM、10mM~180mM、10mM~170mM、10mM~160mM、10~150mM、10mM~100mM、10mM~75mM、15mM~75mM、15mM~50mM、又は20mM~50mMの範囲の濃度のリン酸塩を含む。
【0042】
遊離形態のアミド型麻酔薬の量は、当該麻酔薬組成物の脂質ベースの複合体の会合効率(AE)の関数であり、この会合効率は遠心分離法によって決定される。数学的には、遊離形態のアミド型麻酔薬の量は以下のように表される。
非捕捉=A×(1-AE)
上記式中、A非捕捉は、捕捉されていないアミド型麻酔薬の量であり、Aは、当該麻酔薬組成物中のアミド型麻酔薬の総量であり、AEは、脂質ベースの複合体中のアミド型麻酔薬の量を、麻酔薬組成物中のアミド型麻酔薬の総量で割ることによって得られる。本開示に係るAEは、少なくとも60%であり、任意に60%~99%、70%~95%、及び80%~90%である。
【0043】
特定の実施形態では、脂質ベースの複合体の脂質(複数種可)に対するアミド型麻酔薬のモル比(mol薬物:mol脂質、D:PL)は少なくとも0.5:1であり、0.7:1、0.9:1、1.2:1、1.4:1又は2:1を含むがこれらに限定されない。特定の実施形態では、脂質ベースの複合体の粒子の集団のメジアン径(D50)は、1μm以上、例えば、5μm以上であり、任意に5μm~200μm、5μm~190μm、5μm~180μm、5μm~170μm、5μm~160μm、5μm~150μm、5μm~140μm、5μm~130μm、5μm~120μm、5μm~110μm、5μm~100μm、10μm~100μm、12μm~100μm、14μm~100μm、16μm~100μm、18μm~100μm、又は20μm~100μmの範囲内にある。
【0044】
当該麻酔薬組成物のアミド型麻酔薬の濃度は、臨床的な治療効果を得るために、2mg/mLよりも高くてもよい。適切なアミド型麻酔薬の濃度としては、少なくとも10mg/mL、2mg/mL~30mg/mL、10mg/mL~30mg/mL、10.5mg/mL~30mg/mL、11mg/mL~30mg/mL、11.5mg/mL~30mg/mL、12mg/mL~30mg/mL、12.5mg/mL~30mg/mL、10mg/mL~25mg/mL、10.5mg/mL~25mg/mL、11mg/mL~30mg/mL、11.5mg/mL~25mg/mL、12mg/mL~25mg/mL、12.5mg/mL~25mg/mL、15mg/mL~25mg/mLの範囲、特に19mg/mLまでの範囲が挙げられるがこれらに限定されない。本開示の麻酔薬組成物における捕捉されていないアミド型麻酔薬の制限された量は、(中枢神経系及び心血管系の毒性を引き起こす血漿麻酔薬濃度に応じて)より高い最大耐容投与量を達成するという利点を提供することができ、また、迅速な効力の発現を提供するために使用することができる。
【0045】
臨床使用のために、本開示の特定の実施形態における遊離形態のアミド型麻酔薬は、約1%~約50%、約5%~約40%、又は約10%~約30%の範囲であってもよい。脂質ベースの複合体の中の残りのアミド型麻酔薬は、治療上有効な用量を局所部位で維持するようにアミド型麻酔薬を局所環境に徐々に放出するためのデポとして機能する。いくつかの実施形態では、本開示に係る麻酔薬組成物の1回の皮下投与に由来するロピバカインの半減期は、未製剤のロピバカインの半減期と比較して少なくとも10倍延長される。本開示の麻酔薬組成物の投与後の麻酔効果の持続時間は、未製剤のロピバカインの持続時間を超えて有意に延長される。
【0046】
本開示に係る医薬組成物は、治療剤の有意な徐放性プロファイルを示し、臨床的に関連する用量の局所麻酔薬を投与した上での手術後の期間に、数値疼痛評価尺度(NPRS)スコアに従う0~10の尺度で2~4の即時かつ長期的な疼痛の軽減をもたらす。例えば、本開示の医薬組成物は、局所投与されたリポソーム麻酔薬組成物の半減期を延長する。本発明の組成物は、遊離の麻酔薬又は市販の麻酔薬を投与した場合と比較して、ヒトにおいて、24時間、48時間、72時間、4日、又は1週間を通じた時間間隔で、NPRSスコアに従って全てのポイントでの低い平均疼痛を示し、手術後の総疼痛を有意に減少させる可能性がある。
【0047】
本開示に係る脂質ベースの複合体は、神経周囲に、術野に、又は手術の傷口に投与されることが可能であろう。用語「術後痛」及び「手術後の疼痛」は、本明細書中では交換可能に使用され、様々な手術によって引き起こされる疼痛を指す。いくつかの実施形態では、術後痛は、ヘルニア修復手術、泌尿器系手術、痔核手術、腹部手術、胸部手術、整形手術(バニオン切除術、椎弓形成術、肩峰形成術、椎骨形成術、膝又は股関節の全置換術を含むがこれらに限定されない)、産科手術、乳房手術、歯科手術、腹壁形成術、乳房手術、腎移植手順(KTX)又は任意の種類の腹腔鏡手術によって引き起こされる。
【0048】
本開示に係る医薬組成物は、標準的な注射器及び針を用いて、注射、注入又は塗布されてもよい。本開示に係る医薬組成物の注入は、皮下、皮内、又は筋肉内の経路を介して行われてもよい。
【0049】
別の実施形態では、本開示に係る医薬組成物は、必要とする対象において、疼痛を伴う状態の予防的な治療、例えば、術後痛の治療のための手術前の投与として、神経ブロックとして投与される。いくつかの実施形態では、本開示に係る医薬組成物は、腰方形筋ブロック(Quadratus Lumborum Block、QLB)等の神経ブロックとして投与される。
【0050】
末梢神経ブロックは、疼痛の軽減のために又は無感覚を提供するために、末梢神経の近く又は中に薬剤を導入することを伴う。
【0051】
別の実施形態では、本開示に係る医薬組成物は、バニオン切除術のための複数の足神経のメイヨーブロック(Mayo block)、開腹術又は帝王切開術のための腹横筋膜面ブロック(TAPB)、及び全股関節又は膝関節置換術のための部位特異的局所麻酔法等の周囲麻酔として手術野に投与される。
【0052】
本開示は、以下の具体的かつ非限定的な例を参照してさらに説明される。
【実施例
【0053】
以下の実施例は、本開示の特定の実施形態の調製及び特性を示す。
【0054】
実施例1
麻酔薬組成物の調製
1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンは、日油株式会社(東京、日本)又はLipoid GmbH(リポイド)(ルートヴィヒスハーフェン(Ludwigshafen)、ドイツ)から購入した。コレステロールはSigma-Aldrich(シグマ・アルドリッチ)(ダルムシュタット、ドイツ)又はDishman Pharmaceuticals and Chemicals(ディッシュマン・ファーマシューティカル・アンド・ケミカルズ)(グジャラート(Gujarat)、インド)から購入し、ロピバカインはApollo Scientific(アポロ・サイエンティフィック)(チェシャー(Cheshire)、英国)又はDishman Pharmaceuticals and Chemicalsから購入した。他の化学物質はすべてSigma-Aldrichから購入した。
【0055】
脂質ケーキを調製するために、ロピバカインを、薬物対リン脂質比(D:PL)が1.458μmol/μmol、すなわちホスホコリン:コレステロール:ロピバカイン=2:1:2.9となるように、示された脂質複合体と組み合わせた。この脂質及びロピバカインを混合した後、tert-ブタノール又はtert-ブタノール/水の共溶媒系(1/1、体積/体積)に溶解して液状構造体を形成した。この液状構造体を凍結した後、一晩凍結乾燥して、アミド型麻酔薬の脂質ケーキを得た。
【0056】
ビヒクル対照用の脂質構造体を調製するために、モル比2:1のリン脂質:コレステロールを秤量し、次にtert-ブタノールに溶解した。得られた試料を凍結した後、一晩かけて凍結乾燥し、ビヒクル対照の脂質ケーキを得た。
【0057】
麻酔薬又はビヒクル対照の脂質ケーキを、周囲温度(AT)(25℃)以上の温度でpH6.5~6.8の緩衝溶液で水和して、それぞれ麻酔薬組成物及びビヒクル対照組成物を形成し、続いて会合効率及び粒度分布の特性評価を行った。
【0058】
麻酔剤組成物の特性評価
上述のような各調製物の会合効率(AE)を以下のようにして決定した。麻酔組成物の各試料の200マイクロリットルのアリコートを、4℃で3000×gで5分間遠心分離して、脂質ベースの複合体を得た。上澄み液をデカンテーションした後、脂質ベースの複合体を最終体積200μLに再懸濁した。濃度が既知の被験薬物の溶液をもとに、各薬物(例:ロピバカイン)について基準吸光度標品を設定した。もとの麻酔薬組成物及び脂質ベースの複合体の両方の薬物量を、紫外/可視(UV/Vis)分光光度計を用いて測定した。AEは、もとの麻酔薬組成物中の薬物量に対する脂質ベースの複合体中の薬物量の比率を表す。脂質ベースの複合体のD:PLは、凍結乾燥した脂質ケーキのD:PLにAEを乗じて算出し、「結果のD:PL」と表記した。
【0059】
各麻酔薬組成物の粒子サイズを、レーザー回折分析装置(LA-950V2、堀場製作所)を用いて測定した。凍結乾燥した脂質ケーキを薬学的に許容できる緩衝溶液(例えば、pH6.5の50mMヒスチジン緩衝液)で水和することによって形成した脂質ベースの複合体のメジアン径(D50)を調べた。
【0060】
麻酔薬組成物中の脂質ベースの複合体は、約1.32の結果の薬物対リン脂質比を有すると決定された。この麻酔組成物中の脂質ベースの混合物の粒子の集団のメジアン径(D50)は約5μm~10μmであった。
【0061】
実施例2 鼠径ヘルニア修復手術後の成人対象の疼痛の治療
鼠径ヘルニア修復手術後の成人対象において、単回の浸潤局所投与によるNaropin(登録商標)と比較した、本開示に係る麻酔組成物(TLC590と表記)の手術後の単回施用の安全性、PK、及び有効性を評価するための第I/II相、ランダム化、二重盲検、比較対照、用量逐次漸増試験を実施した。
【0062】
本研究では、4つのコホートにおいてすべてのエントリー基準を満たした約64名の評価可能な被験者が登録された。TLC590を手術後に単回投与する際の用量漸増は、Naropin(登録商標)と比較して、連続した用量レベルを用いて行った。用量漸増は、安全性監視委員会(SMC)による治療関連有害事象(treatment-related adverse events、TEAE)及びすべての重篤な有害事象(serious AE、SAE)の検討により決定した。
【0063】
組み入れ基準は以下の通りであった。
1. 書面によるインフォームド・コンセントを提供する能力と意思があること、
2. 18歳から65歳までの男性又は女性、
3. メッシュを用いた一次、片側のリヒテンシュタイン鼠径ヘルニア修復術を受ける予定であり、麻酔レジメンを使用することができること、
4. ASA身体状態分類が1又は2であること、
5. 女性被験者は、妊娠していない、授乳中でない、試験中に妊娠する予定がない、許容できる形態の避妊具を使用することを約束する場合、又は男性被験者は、盲検化された試験薬の投与から少なくとも1週間後までの試験期間中、生殖不能であるか、信頼できる避妊方法を使用することを約束する場合にのみ資格がある、
6. 体格指数が35kg/m以下であること。
【0064】
被験者は、3:1の比で各コホートに登録された。各コホートは、ランダム化スケジュール及び用量漸増スキーム(図1)に従って、TLC590又は活性比較薬(Naropin(登録商標) 150mg;[0.5%、5mg/mL])の用量を受ける被験者で構成された。
【0065】
客観性を保つため、試験薬は、注射担当者、薬剤師、臨床研究員を含む独立した非盲検チームによって管理及び投与された。被験者、治験責任医師、及び被験者と直接対話し、安全性及び有効性を評価し、被験者データを収集する他のすべての施設スタッフは、盲検化されたままであり、盲検化されていないチームといかなる試験情報も伝達又は議論してはならない。
【0066】
群及び介入は以下のように設計した。

実験:TLC590群
TLC590(ロピバカイン組成物)は、ロピバカインの徐放性リポソーム製剤であり、ロピバカイン濃度が約19mg/mLの白色水性懸濁液である。
活性比較薬:Naropin(登録商標)
Naropin(登録商標)注射液はロピバカイン塩酸塩を含む。強さ:150mg/30mL(5mg/mL) サイズ:30mL充填、30mL単回投与バイアル入り。
【0067】
介入
薬物:TLC590(ロピバカイン組成物)
TLC590脂質ケーキをTLC590再構成溶液で再構成し、TLC590麻酔薬組成物を形成した。
薬物:Naropin(登録商標)
手術のための麻酔及び術後痛管理における鎮痛をもたらすためのNaropin(登録商標)の局所浸潤。Naropin(登録商標) 150mg[0.5%、5mg/mL]×30mL
他の名称:Naropin(登録商標)、0.5%注射液
【0068】
主要評価項目は以下の通りであった:安全性及び忍容性:(i)SAE及び治療関連の重篤なAEの数(MTDを決定するため)[時間枠:IP投与後30日までスクリーニング]
【0069】
副次評価項目は以下の通りであった。
1. 安静時及び運動時の疼痛の強さを、0点(無痛)から10点(起こりうる最悪の疼痛)までのスコアの11点NPRSを用いて評価した。
2. 疼痛制御方法の患者全般評価(PGA)(悪い、まあまあ、良い、又は素晴らしい)。
3. 安静時及び動作時のNPRSのAUC。
4. 予定された時点で疼痛のない(安静時のNPRSが0又は1と定義される)被験者の累積割合。
5. 予定された時点で疼痛のない(安静時のNPRSが0又は1と定義される)被験者の割合。
6. 12時間、24時間、36時間、48時間、72時間、及び96時間に救援鎮痛剤を使用しなかった被験者の累積割合。
7. 術後初めて救援鎮痛剤を使用するまでの時間。
8. 12時間、24時間、36時間、48時間、72時間、及び96時間における各種類の救援鎮痛剤の術後総使用量。
9. 24時間、48時間、72時間、及び96時間後の種類別の1日あたりの平均の救援鎮痛剤消費量。
10. NPRSスコア及び救援鎮痛剤消費量を用いた統合鎮痛スコア。
11. 12時間、24時間、36時間、48時間、72時間、及び96時間の間に術後制吐剤治療を使用しなかった被験者の累積割合。
12. 重症度別及び関連性別のすべての有害事象の発生率。
13. PKパラメータ及びNPRSスコアの間の曝露-応答関係。
【0070】
上記スクリーニングからの変化を統計で分析した。190mg、380mg、475mg及び570mgの用量での単回の浸潤局所投与を介したTLC590の療法は、上述のエンドポイントのいずれか1つ以上に従って有益な臨床応答をもたらした。
【0071】
結果
合計64名の被験者を4つのコホートにランダム化した。本試験では、重篤な有害事象又は局所麻酔薬中毒(LAST)の事象は観察されなかった。TLC590の4つの用量群はすべて、ロピバカイン150mgと同様の安全性と忍容性を示した。570mgでも、TLC590の平均最大血漿非結合ロピバカイン濃度は、ロピバカイン群の平均最大血漿非結合ロピバカイン濃度よりも低かった。TLC590容量の平均血漿中濃度は24時間程度プラトー状態で推移した後、低下し、観測されたt1/2はロピバカイン群より有意に長く、Cmaxは7.5mg/mLの浸潤用ロピバカイン溶液300mgのCmax(2.7mg/mL)(Regional Anesthesia and Pain Medicine 23(2): 189-196、1998)の5分の1未満であった(図1A)。TLC590の4つの用量はいずれも、NPRSの最小二乗法(LS)による疼痛曲線下面積(AUC)の平均値で測定すると、ロピバカイン群に比べて術後痛を軽減した。TLC590 475mgでは、ロピバカインと比較して、運動時及び安静時の疼痛の強さが時間の経過とともに持続的に、統計的に有意に、かつ臨床的に意味のある程度に減少し(図2)(すべてp<0.05;最高のp値は0.0131)、ロピバカインに対する疼痛の軽減は168時間後まで維持された(図3)。最初の救援鎮痛剤までの時間の中央値は、TLC590 475mgの方がロピバカイン群よりも3.2倍長かった(42時間対13時間)。TLC590(475mg)治療患者の大部分(58.3%)は、試験期間中に救援オピオイドをまったく使用しなかった。救援オピオイドを使用した患者では、術後の最初のオピオイドの使用までの時間の中央値は、ロピバカイン群の時間の中央値の約4倍であった(13.0時間対3.3時間)。術後96時間までのオピオイド総使用量の平均値は、ロピバカイン群のオピオイド総使用量に比べて54%少なかった。
【0072】
結論
TLC590は、ロピバカインと同様の安全性及び忍容性を示し、LAST事象は発生せず、ロピバカインよりも即時的かつ長期的な疼痛の軽減をもたらし、オピオイドの必要性を低減又は解消した。TLC590 475mgを投与された被験者は、臨床的に関連する用量の承認薬であるロピバカインよりも優れた効果を示し、すべてのポイントで平均疼痛が軽減し、術後4日目までの時間間隔で総疼痛が有意に軽減した。
【0073】
実施例3 バニオン切除手術後の成人被験者における疼痛の治療
第II相、ランダム化、二重盲検、比較プラセボ対照試験を実施し、バニオン切除手術後の成人被験者において、TLC590を単回の浸潤局所投与によって術後に単回施用することの安全性、PK、及び有効性をNaropin(登録商標)又はブピバカイン及びプラセボと比較して評価した。
【0074】
約223名の適格な被験者がこの研究に登録された。本試験は2つのパートに分けた。
パート1:TLC590及びNaropin(登録商標)の盲検薬物動態試験 約48名の被験者を、TLC590 152mg(8mL)、TLC590 190mg(10mL)、TLC590 228mg(12mL)、又はNaropin(登録商標)(50mg;10mL)による治療に1:1:1:1の割合でランダムに割り付けた。ランダム化スケジュールは、集中管理された双方向性のウェブ応答システム(IWRS)によって割り当てられた。盲検化されていない中間解析を行い、TLC590の3つの用量及びNaropin(登録商標)の安全性、有効性、薬物動態を試験のパート1で検討した。
パート2:TLC590対ブピバカイン及びプラセボの有効性及び安全性 本試験のパート2では、すべてのエントリー基準を満たした約150名の被験者が登録され、TLC590 228mg、ブピバカイン、プラセボの治療法に1:1:1の割合でランダムに割り付けた。ランダム化スケジュールは集中管理されたIWRSによって割り当てられた。研究デザインスキームを図4に示す。
【0075】
上記スクリーニングからの変化を統計で分析した。152mg、190mg及び228mgの用量での単回の浸潤局所投与を介したTLC590の療法は、上述のエンドポイントのいずれか1つ以上に従って有益な臨床応答をもたらした。
図1
図1A
図2
図3
図4
【国際調査報告】