(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-22
(54)【発明の名称】緑内障の新規治療法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220415BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20220415BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220415BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220415BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220415BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220415BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220415BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220415BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220415BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20220415BHJP
G02C 7/04 20060101ALI20220415BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220415BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20220415BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20220415BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20220415BHJP
C07K 16/40 20060101ALN20220415BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220415BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P27/06
A61P27/02
A61K48/00
A61K39/395 N
A61K39/395 Y
A61K31/713
A61K9/06
A61K9/08
A61P43/00 111
A61K38/02
G02C7/04
C12N15/09 110
C12N15/113 Z
C07K16/18
C07K16/28
C07K16/40
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544331
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(85)【翻訳文提出日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 US2020015745
(87)【国際公開番号】W WO2020160197
(87)【国際公開日】2020-08-06
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504256408
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【住所又は居所原語表記】1111 Franklin Street,12th Floor,Oakland,California 94607 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ルー
(72)【発明者】
【氏名】シ,メン
【テーマコード(参考)】
2H006
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
2H006BB06
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA11
4C076AA22
4C076BB24
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4C086MA28
4C086MA34
4C086MA58
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZC75
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
緑内障または病因性眼圧を、治療を必要とする眼にWnt5a阻害薬を局所投与することにより治療する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑内障または病因性眼圧を治療する方法であって、治療を必要とするヒトに眼のWnt5aエフェクターの阻害薬を投与する工程を含み、前記エフェクターが、FZD2(frizzled-2)、FZD5(frizzled-5)、およびROR1(受容体型チロシンキナーゼ様オーファン受容体1);ならびにPLCB1(ホスホリパーゼC、β1)、PPP3R1(プロテインホスファターゼ3 制御サブユニットB、α)、NFATC3(活性化T細胞核内因子3)、およびCAMK2D(カルシウム・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII δ)から選択されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記阻害薬が、CRISPR遺伝子編集またはsiRNAなどの遺伝子操作によって前記エフェクターの発現を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記阻害薬が、前記エフェクターを直接阻害するものであり、抗体、低分子干渉ペプチドおよび低分子阻害剤から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記投与工程が、前記阻害薬の投与を必要としている眼に該阻害薬を局所的に投与することを含む、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記投与工程が、点眼剤による送達、または、前房内投与もしくは前房内注射、結膜下投与もしくは結膜下注射、もしくは硝子体内投与もしくは硝子体内注射による送達を含む、請求項1、2、3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記投与が外用であり、前記阻害薬が、外用眼科用のゲル剤、軟膏剤、懸濁剤もしくは液剤、またはコンタクトレンズの形態で投与される、請求項1、2、3、4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記阻害薬が、例えばシルムツズマブおよびKAN0439834から選択されるROR1阻害剤、例えば抗FZD5抗体であるIgG-2919およびIgG-2921から選択されるFZD5阻害剤、例えば選択的ペプチドであるdFz7-21および抗FZD2抗体から選択されるFZD2阻害剤、または本明細書に開示されているようなsiRNAである、請求項1、2、3、4、5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、眼のWnt5aエフェクターの阻害薬である第2の異なる阻害薬を前記眼に局所的に投与するか、前記阻害薬と共に該第2の異なる阻害薬を前記眼に局所的に投与することをさらに含む、請求項1、2、3、4、5、6または7に記載の方法。
【請求項9】
緑内障または病因性眼圧を治療するための、単位剤形の形態である眼のWnt5aエフェクターの阻害薬の眼科用製剤であって、前記エフェクターが、FZD2(frizzled-2)、FZD5(frizzled-5)、およびROR1(受容体型チロシンキナーゼ様オーファン受容体1);ならびにPLCB1(ホスホリパーゼC、β1)、PPP3R1(プロテインホスファターゼ3 制御サブユニットB、α)、NFATC3(活性化T細胞核内因子3)、およびCAMK2D(カルシウム・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII δ)から選択されることを特徴とする眼科用製剤。
【請求項10】
前記阻害薬が、CRISPR遺伝子編集またはsiRNAなどの遺伝子操作によって前記エフェクターの発現を阻害する、請求項9に記載の製剤。
【請求項11】
前記阻害薬が、前記エフェクターを直接阻害するものであり、抗体、低分子干渉ペプチドおよび低分子阻害剤から選択される、請求項9に記載の製剤。
【請求項12】
外用眼科用のゲル剤、軟膏剤、懸濁剤または液剤の形態である、請求項9、10または11に記載の製剤。
【請求項13】
前記剤形が、前記阻害薬を含有するコンタクトレンズ、点眼剤、デポ剤またはボーラス剤である、請求項9、10、11または12に記載の製剤。
【請求項14】
点眼剤ディスペンサーに充填されている、請求項9、10、11、12または13に記載の製剤。
【請求項15】
前房内投与用もしくは前房内注射用、結膜下投与用もしくは結膜下注射用、または硝子体内投与用もしくは硝子体内注射用のシリンジに充填されている、請求項9、10、11、12、13または14に記載の製剤。
【請求項16】
眼への直接的な外用による送達に適した添加剤および特性をさらに含み、該添加剤および該特性が、眼科用に適した透明性、pH緩衝性、等張性、粘性、安定性および無菌性からなる群から選択される、請求項9、10、11、12、13、14または15に記載の製剤。
【請求項17】
前記阻害薬が、例えばシルムツズマブおよびKAN0439834から選択されるROR1阻害剤、例えば抗FZD5抗体であるIgG-2919およびIgG-2921から選択されるFZD5阻害剤、例えば選択的ペプチドであるdFz7-21および抗FZD2抗体から選択されるFZD2阻害剤、または本明細書に開示されているようなsiRNAである、請求項9、10、11、12、13、14、15または16に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、米国国立衛生研究所より交付された助成番号EY028995の助成に基づき、米国政府の支援を受けてなされたものである。米国政府は、本発明に関し一定の権利を有する。
【0002】
序論
緑内障は、米国国内で300万人を超える人々、世界全体では6000万人が罹患している大きな健康問題の1つである。2040年には、世界全体で1億1180万人が緑内障に罹患すると推定されている。緑内障の主要な危険因子の1つとして、眼圧上昇(IOP)が挙げられる。眼圧上昇は視神経に障害を与える可能性があり、治療を行わなければ、永久的に失明することもある。現在、緑内障を治癒させる方法はない。既存の点眼薬や経口薬は、効果が限られており、多くの副作用を伴う。また、手術は、瘢痕化や線維化が生じて奏功しないことも多い。
【0003】
房水は、前眼房および後眼房を満たす無色透明の液体である。房水は、後眼房の毛様体で産生され、前房隅角から線維柱帯とシュレム管を通る通常の経路で流出するとともに、ぶどう膜強膜流出路という副経路でも流出する。正常な眼では、房水の産生と流出の動的平衡が保たれ、IOPが正常範囲に維持されている。
【0004】
シュレム管(SC)は、前眼房の虹彩角膜角に存在する輪状の管である。シュレム管は、通常の房水流出システムの一部をなしており、ヒトでは眼から流出する房水の70~90%がシュレム管を通って流出する。シュレム管の内皮細胞からなる内層は、房水流出抵抗を示す主要な部位の1つで、IOPの主要な決定因子である。年齢とともに、あるいは病的な状況下でシュレム管の抵抗が増大すると、IOPが上昇し、不可逆的な視神経障害や視力喪失を伴う緑内障へと至る。したがって、シュレム管は緑内障治療の重要なターゲットである。我々は、最近、シュレム管が、リンパ管形成の主たる制御遺伝子であるProx-1を発現していることを初めて証明した(Truong TN, Li H, Hong YK, Chen L. Novel characterization and live imaging of Schlemm's canal expressing Prox-1. PLoS One. 2014; 9(5): e98245)。
【0005】
以前、我々は、Wnt5aがシュレム管で発現していること、そしてその発現量がずり応力の変化に応じて制御されることを報告している。さらに、Wnt5aを阻害することで、in vivoで効果的にIOPを降下させることができたことも報告している。Wnt5aは、細胞の種類、微小環境、刺激などに応じて、複数の代替的なシグナル伝達経路を介して作用する。緑内障の他の創薬ターゲットを同定するために、我々は、緑内障関連モデルを用いて下流のエフェクターを決定し、緑内障治療におけるそのエフェクターの創薬可能性を確認することを試みた。
【0006】
ここでは、特にFZD2(frizzled-2)、FZD5、およびROR1(受容体型チロシンキナーゼ様オーファン受容体1)がSCで発現していること、これらの発現がずり応力の変化、Wnt5aの刺激または介入により制御されていることを報告する。例えば、FZD2、FZD5、およびROR1の調節は、管形成などのSC機能を制御する。圧力下(高ずり応力下)で培養したSC細胞では、Wnt5a、Fzd2、Fzd5およびRoR1の増加が観察され、Wnt5aをダウンレギュレートすると、Fzd2、Fzd5およびROR1も同様にダウンレギュレートされ、ヒトSC細胞をWnt5aで刺激すると、これに応じてFzd5とROR1が増加した。
【0007】
さらに、カルシウムシグナル伝達系がSCの機能に関与していること、例えば、PLCB1(ホスホリパーゼC、β1)、PPP3R1(プロテインホスファターゼ3 制御サブユニットB、α)、NFATC3(活性化T細胞核内因子3)、CAMK2D(カルシウム・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII δ)などのいくつかの関連分子がずり応力の変化、Wnt5aの刺激または介入により制御されていることも開示する。我々は、このようなWnt受容体(FZD2、FZD5、ROR1など)およびカルシウムシグナル伝達経路の関連分子(PLCB1、PPP3R1、NFATC3、CAMK2Dなど)がSCの機能を調節し、緑内障を治療するためのターゲットとなることを開示する。
【0008】
Wnt5aが細胞の種類、微小環境、刺激などに応じて、複数の代替的なシグナル伝達経路を介して作用することは知られているものの、その下流のエフェクターが緑内障関連モデルにおいて作用しているのか否か、またそのようなエフェクターが存在するとすれば、どのエフェクターが眼圧をコントロールするような創薬の標的となるのかについてはこれまで不明であった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、緑内障または病因性眼圧を局所的に治療する方法および組成物を提供する。
【0010】
一態様において、本発明は、緑内障または病因性眼圧を治療する方法であって、治療を必要とするヒトに眼のWnt5aエフェクターの阻害薬を投与する工程を含み、前記エフェクターが、FZD2(frizzled-2)、FZD5(frizzled-5)、およびROR1(受容体型チロシンキナーゼ様オーファン受容体1);ならびにPLCB1(ホスホリパーゼC、β1)、PPP3R1(プロテインホスファターゼ3 制御サブユニットB、α)、NFATC3(活性化T細胞核内因子3)、およびCAMK2D(カルシウム・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII δ)から選択されることを特徴とする方法を提供する。
【0011】
いくつかの実施形態において、
【0012】
-前記阻害薬は、CRISPR遺伝子編集またはsiRNAなどの遺伝子操作によって前記エフェクターの発現を阻害するものであり、
【0013】
-前記阻害薬は、前記エフェクターを直接阻害するものであり、抗体、低分子干渉ペプチドおよび低分子阻害剤から選択され、
【0014】
-前記投与工程は、前記阻害薬の投与を必要としている眼に該阻害薬を局所的に投与することを含み、
【0015】
-前記投与工程は、点眼剤による送達、または、前房内投与もしくは前房内注射、結膜下投与もしくは結膜下注射、もしくは硝子体内投与もしくは硝子体内注射による送達を含み、
【0016】
-前記投与は外用であり、前記阻害薬は、外用眼科用のゲル剤、軟膏剤、懸濁剤もしくは液剤、またはコンタクトレンズの形態で投与され、
【0017】
-前記阻害薬は、例えばシルムツズマブおよびKAN0439834から選択されるROR1阻害剤、例えば抗FZD5抗体であるIgG-2919およびIgG-2921から選択されるFZD5阻害剤(Steinhardtら、Nat. Med. 2017; 23: 60-68)、例えば選択的ペプチドであるdFz7-21(Nileら、Nat. Chem. Biol. 2018; 14: 582-590)および抗FZD2抗体から選択されるFZD2阻害剤、または本明細書に開示されているようなsiRNAであり、かつ/または
【0018】
-前記方法は、眼のWnt5aエフェクターの阻害薬である第2の異なる阻害薬を前記眼に局所的に投与するか、前記阻害薬と共に該第2の異なる阻害薬を前記眼に局所的に投与することをさらに含む。
【0019】
別の一態様において、本発明は、緑内障または病因性眼圧を治療するための、単位剤形の形態である眼のWnt5aエフェクターの阻害薬の眼科用製剤であって、前記エフェクターが、FZD2(frizzled-2)、FZD5(frizzled-5)、およびROR1(受容体型チロシンキナーゼ様オーファン受容体1);ならびにPLCB1(ホスホリパーゼC、β1)、PPP3R1(プロテインホスファターゼ3 制御サブユニットB、α)、NFATC3(活性化T細胞核内因子3)、およびCAMK2D(カルシウム・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII δ)から選択されることを特徴とする眼科用製剤を提供する。
【0020】
いくつかの実施形態において、
【0021】
-前記阻害薬は、CRISPR遺伝子編集またはsiRNAなどの遺伝子操作によって前記エフェクターの発現を阻害するものであり、
【0022】
-前記阻害薬は、前記エフェクターを直接阻害するものであり、抗体、低分子干渉ペプチドおよび低分子阻害剤から選択され、
【0023】
-前記製剤は、外用眼科用のゲル剤、軟膏剤、懸濁剤または液剤の形態であり、
【0024】
-前記剤形は、前記阻害薬を含有するコンタクトレンズ、点眼剤、デポ剤またはボーラス剤であり、
【0025】
-前記製剤は、点眼剤ディスペンサーに充填されており、
【0026】
-前記製剤は、前房内投与用もしくは前房内注射用、結膜下投与用もしくは結膜下注射用、または硝子体内投与用もしくは硝子体内注射用のシリンジに充填されており、
【0027】
-前記製剤は、眼への直接的な外用による送達に適した添加剤および特性をさらに含み、該添加剤および該特性は、眼科用に適した透明性、pH緩衝性、等張性、粘性、安定性および無菌性からなる群から選択され、かつ/または
【0028】
-前記阻害薬は、例えばシルムツズマブおよびKAN0439834から選択されるROR1阻害剤、例えば抗FZD5抗体であるIgG-2919およびIgG-2921から選択されるFZD5阻害剤、例えば選択的ペプチドであるdFz7-21および抗FZD2抗体から選択されるFZD2阻害剤、または本明細書に開示されているようなsiRNAである。
【0029】
本発明には、本明細書に記載の個々の実施形態のすべての組み合わせが包含される。
本発明の方法は、特定の実施形態を含む、開示されたあらゆる組成物を用いて実施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1A-1G】(A~C) ヒトのシュレム管細胞におけるFZD5、ROR1およびFZD2の発現量が、ずり応力 (A)、低分子干渉RNA(siRNA)によるWnt5a介入 (B)、またはWnt5aの刺激 (C)により制御されることを示すリアルタイム定量PCRデータである。(DおよびE) ヒトのシュレム管細胞の管形成が、FZD5 siRNA (D)またはROR1 siRNA (E)により阻害されることを示すデータをまとめたものである。ネガティブコントロールとしてスクランブルsiRNAを用いた。* P<0.05。(FおよびG) ヒトのシュレム管細胞の管形成が、siRNAを用いたFZD5介入 (F)またはROR1介入 (G)により制御されることを示す代表的な画像である。* P<0.05。
【0031】
【
図2A-2C】(A~C, 上段) ヒトのシュレム管細胞におけるPLCB1、PPP3R1およびNFATC3の発現量が、ずり応力 (A)、siRNAによるWnt5a介入 (B)、またはWnt5a刺激 (C)により制御されることを示すリアルタイム定量PCRデータである。(A~C, 下段) 細胞内のカルシウムシグナルが、ずり応力 (A)、siRNAによるWnt5a介入 (B)、またはWnt5a刺激 (C)により制御されることを示すFluo-4染色の代表的な画像とデータをまとめたものである。緑色:Fluo-4、青色:DAPI核染色。* P<0.05。
【0032】
【
図3A-3B】ヒトのシュレム管細胞におけるCAMK2Dの発現が、ずり応力 (A)またはwnt5a刺激 (B)により制御されることを示すリアルタイム定量PCRデータである。* P<0.05。
【0033】
【
図4A-4I】ヒトのシュレム管細胞の管形成が、in vitroにおける抗ROR1抗体 (A)、ROR1低分子阻害剤であるDB03208(0. 07%エタノール液)(B)、FZD2 siRNA (C)、抗FZD2抗体 (D)、抗FZD5抗体 (E)、CAMK2D siRNA (F)、PLCB1 siRNA (G)、PPP3R1 siRNA (H)、またはNFATC3 siRNA (I)の介入により阻害されることを示すデータをまとめたものである。抗体、低分子阻害剤であるDB03208、およびsiRNAで処理するアッセイにおいて、ネガティブコントロールとして、それぞれアイソタイプコントロール、ビヒクルコントロールのエタノール(0.07%)、またはスクランブルsiRNAを使用した。* P<0.05。
【0034】
【
図5A-5B】(A) ROR1低分子阻害剤。(B) ROR1抗体阻害剤。
【0035】
【
図6A-6B】(A) FZD5抗体阻害剤。(B) FZD2抗体阻害剤。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本明細書に記載されている実施例および実施形態は、単に本発明を説明するためのものであり、これらの実施例および実施形態に基づいて、様々な改変または変更が可能であることは当業者には明らかであり、またそのような改変または変更は本発明に含まれるものである。当業者であれば、種々の重要でないパラメータについては、変更または改変しても本質的に同様の結果が得られることは理解できるであろう。本発明は、本明細書において必須の構成要素としては開示されてない化合物、成分、要素または工程を含まなくてもよく、また、これらが存在しない状態で実施されてもよい。以下の記載および本明細書全体を通して、別異に解される場合または別段の記載がある場合を除き、「a」および「an」という用語は、1以上を意味する。本明細書に引用されたすべての出版物、特許および特許出願、またこれらに記載の引用文献は、あらゆる目的のために、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0037】
本開示のWnt5a受容体/エフェクターの阻害方法は、遺伝子操作、および/または低分子干渉RNA(siRNA)、抗体、低分子などの投与でありうる。低分子干渉RNA(siRNA)、抗体、低分子などの多くは、Applied Biological Materials社(ABM、ブリティッシュコロンビア州リッチモンド)、Life Technologies社(ThermoFisher Scientific社)、Sigma-Aldrich社などの供給者から市販されている。上記方法は、眼圧の降下および緑内障の予防もしくは治療を目的として単独で使用してもよく、かつ/または緑内障の予防もしくは治療を目的とする点眼剤、投薬、レーザー、移植デバイスおよび手術などの他の治療法などと組み合わせて使用してもよい。
【0038】
典型的な実施例
【0039】
Wnt5aの同定およびターゲティング
【0040】
我々は、WO2019/040311において、Wnt5aの同定およびターゲティングについて開示している。
【0041】
Wnt5aは、培養したヒト初代SC細胞での発現、またin vivoでもマウスのSCでの発現が確認されている。Wnt5aの発現は、ずり応力の変化に応じて制御されていることが、定量的リアルタイムPCRアッセイによる解析で明らかになっている。また、我々は、Wnt5aに特異的なsiRNAが、ヒトSC細胞のWnt5a発現をダウンレギュレートする作用を有するとともに、SC細胞の機能にも影響を与えることを確認している。SC特異的にWnt5a遺伝子を欠損させた条件付ノックアウトマウスでは、その同腹子であるコントロールマウスと比べて、緑内障モデルで誘導されるIOPの上昇が有意に抑制される。このノックアウトマウスと同腹子コントロールマウスとの間でベースラインのIOPに有意差はなかった。同腹子コントロールマウスでは、すべての測定時点でIOPの上昇が認められたが、Wnt5aノックアウトマウスでIOPの上昇が認められたのは初期の時点(24時間以内)のみであり、それ以降の時点ではIOPの上昇は認められなかった。このことから、Wnt5a介入により、IOPの上昇が持続できなくなることが示唆される。また、我々は、高眼圧症の制御において、wnt5a介入が、網膜神経線維層の保護およびSC透過性(上述した通常の流出システムによる水分移動を促進させるためのターゲット)の増加に有効であることも確認している(例えば、Tamら, Scientific Reports 7:40717, DOI: 10.1038/srep40717)。これらの実験は、Wnt5aが緑内障を制御するための有効な治療標的であることを示している。さらに、このような結果は、Huangら(Nature Communications, 2017; 8 (1) DOI: 10.1038/s41467-017-00140-3)の方法を用いて行ったCRISPR遺伝子編集によるWnt5aの選択的阻害によっても示されている。
【0042】
次に、我々は、Wnt5a阻害薬としてのWnt5a siRNAの投与によるIOP降下効果を確認するための実験プロトコールを開発した。このプロトコールの実施に際して、Wnt5a特異的siRNAは市販のもの(ヒトWNT5A siRNA, Life Technologies社;Anastasら, J. Clin. Investig. 2014, 124, 2877-2890)を入手した。1つのプロトコールでは、Yuenら(2014, Invest Ophthalmol Vis Sci. 2014;55:3320-3327)に記載の方法に従って、siRNAを結膜下注射する。siRNAまたはコントロールを投与するマウスをランダムに選択し、5μL(0.2lg/μL)の用量を、週2回、2週間結膜下注射する。別のプロトコールでは、Tamら(2017, Scientific Reports 7, 40717)に記載の方法に従って、siRNAを前房内注射する。マウスを腹腔内注射で麻酔して、瞳孔を拡大させる。まず、先端が平坦な引き伸ばしたガラス製マイクロ針で角膜に穴をあけて房水を抜く。穿孔後直ちに、先端が平坦な引き伸ばしたガラス製マイクロ針を10μLシリンジに取り付けて、穿孔した穴に挿入し、1μgのsiRNAを含むPBSを前眼房に1.5μL注入する。反対側の眼には、同じ濃度のスクランブルsiRNAを含むPBSを同様に1.5μL注入する。これらの実験から、Wnt5a阻害薬として結膜下注射または前房内注射により局所的に送達されたWnt5a特異的siRNAが、病因性IOPの治療に有効であることが確認された。
【0043】
点眼剤として送達されたsiRNAがIOPに与える効果を評価するために、我々は、Martinezら(Mol Ther. 2014 Jan;22(1):81-91)の方法に準じて、さらなるプロトコールを開発した。ニュージーランド白ウサギに、20nmol/日のsiRNAまたはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を4日間連続で外用投与する。siRNAを投与した眼では、ビヒクル投与群と比較してIOPの有意な降下が認められる。IOPに対するsiRNAの効果は、初回投与から2日後の時点で確認することができ、最終投与から2日後程度までベースラインレベルを下回るIOP値が維持される。また、我々は、緑内障で観察されるような病態におけるWnt5a siRNAのIOP降下効果を評価するために、ニュージーランド白ウサギで経口水過負荷モデルを作製した。まず、4種類の用量のsiRNA(10nmol、20nmol、40nmolおよび60nmol/片眼/日)を、高眼圧を誘導する48時間前、24時間前および2時間前の合計3回投与する。いずれの投与も両眼に対して行い、IOPの測定は、高眼圧誘導前と経口過負荷後に行い、経口過負荷後の測定は20分毎に120分後まで行う。結果を解析したところ、Wnt5a siRNAは、投与したいずれの用量においてもIOPの上昇を顕著に抑えることが示された。
【0044】
IOPに対するWnt5a siRNAの効果および特異性を確認するために、1群の動物数を増やし、用量を40nmol/片眼/日として4日間連続で投与する。投与4日目に水負荷により高眼圧を誘導する。コントロールの結果から、PBSを投与した動物では、高眼圧誘導から初めの1時間の間に水負荷によってIOPが上昇することが確認された。各測定時点でのIOP値を比較して解析したところ、siRNAの投与により、初めの1時間の間に、PBSを投与した動物と比較してΔIOP値が有意に低下した。スクランブル配列siRNAの投与はIOPに何ら影響を与えなかったことから、この効果は特異的な効果である。
【0045】
次に、我々は、Wnt5a阻害薬としてのWnt5a特異的抗体の投与によるIOP降下効果を確認するための実験プロトコールを開発した。このプロトコールでは、ウサギ精製免疫グロブリンとして得られた抗ヒトWNT5A抗体(緩衝水溶液)(Sigma-Aldrich社、SAB1411396)と、マウスクローン6F2で産生された抗ヒトWNT5Aモノクローナル抗体(腹水)(Sigma-Aldrich社、SAB5300183)の2種類の抗体を使用するが、その他のWnt5a抗体、例えばHanakiら, Mol Cancer Ther 11(2) Feb 2012;およびHeら, Oncogene. 2005, 24 (18): 3054-3058に記載されている抗体も使用可能である。上記のマウスとウサギのモデルの両方を使用して行った実験から、Wnt5a阻害薬として点眼剤の形態で局所的に送達されたWnt5a特異的抗体が、病因性IOPの治療に有効であることが確認された。
【0046】
IOPおよび緑内障のその他のパラメータ、例えば、角膜浮腫、網膜神経節細胞(RGC)死、RNFL(網膜神経線維層)の菲薄化などに対するWnt5a中和抗体の治療効果を評価するために、例示的なモデルシステムにおいて、野生型正常マウスの右眼(OD)で高眼圧を誘導し、Wnt5a中和抗体を投与した。コントロール群では各マウスの右眼のIOPが有意に上昇したが、Wnt5a抗体を投与した眼のIOPはそれより有意に低く、ベースラインレベルに維持されていた。また、光干渉断層計(OCT)を用いてin vivoで中心角膜厚を測定したところ、Wnt5a介入により、角膜浮腫が抑制されていた。IOPが上昇した後、コントロール群では角膜厚が増大したが、Wnt5a抗体を投与した眼では角膜厚の増大は認められなかった。また、Wnt5a抗体を投与した眼では、Wnt5a介入により、RGC死とともにRNFL菲薄化も抑制された。RGC死とRNFL菲薄化の抑制は、それぞれ免疫染色とOCTによって確認した。これらの結果から、緑内障マウスモデルにおいて、Wnt5a抗体の局所的介入により、IOPが有意に降下し、角膜と網膜が保護されることが確認された。
【0047】
次に、我々は、Wnt5a特異的なアンタゴニストペプチドと低分子阻害剤の投与によるIOP降下効果を確認するための実験プロトコールをデザインした。このプロトコールでは、Wnt5aの強力なアンタゴニストとして作用する、t-ブチルオキシカルボニル修飾Wnt5a由来ヘキサペプチド(Box5)(Jeneiら, PNAS USA, 106 (46), 19473-8)と、比較的毒性が低く、安定性に優れた強力なWNT-5A発現阻害剤である、6,7-ジヒドロ-10α-ヒドロキシラジシコール(Shinonagaら, Bioorg Med Chem. 2009 Jul 1;17(13):4622-35)を使用する。この場合も、上記のマウスとウサギのモデルの両方を使用して行った実験から、Wnt5a阻害薬として点眼剤の形態で局所的に送達された、Wnt5a特異的な修飾ペプチドとWnt5a発現の低分子阻害剤が、病因性IOPの治療に有効であることが確認された。
【0048】
下流エフェクターの同定およびターゲティング
【0049】
次に、我々は、FZD5(frizzled-5)、FZD2、およびROR1(受容体型チロシンキナーゼ様オーファン受容体1)がSCで発現していること、これらの発現がずり応力の変化、Wnt5aの刺激または介入により制御されていることを確認した。さらに、これらの調節により、管形成などのSC機能を制御することができることも確認した。具体的には、圧力下(高ずり応力下)で培養したSC細胞では、Wnt5a、Fzd5、Fzd2およびRoR1の増加が観察され、Wnt5aをダウンレギュレートすると、Fzd5、Fzd2およびROR1も同様にダウンレギュレートされ、ヒトSC細胞をWnt5aで刺激すると、これに応じてFzd5、Fzd2およびROR1が増加した。
図1を参照のこと。
【0050】
さらに、カルシウムシグナル伝達系がSCの機能に関与していること、例えば、PLCB1(ホスホリパーゼC、β1)、PPP3R1(プロテインホスファターゼ3 制御サブユニットB、α)、NFATC3(活性化T細胞核内因子3)、CAMK2D(カルシウム・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII δ)などのいくつかの関連分子がずり応力の変化、Wnt5aの刺激または介入により制御されていることも確認した。
図2および
図3を参照のこと。
【0051】
我々は、これらのWnt受容体(FZD5、FZD2、ROR1など)およびカルシウムシグナル伝達経路の関連分子(PLCB1、PPP3R1、NFATC3、CAMK2Dなど)が、SCの機能を調節し、緑内障を治療するためのターゲットとなることを開示する。
【0052】
次に、我々は、阻害薬としてのWnt5a受容体siRNAの投与によるIOP降下効果を確認するための実験プロトコールを開発した。このプロトコールの実施に際して、FZD5、FZD2およびROR1のそれぞれに特異的なsiRNAは市販のもの(ThermoFisher Scientific社など)を入手した。1つのプロトコールでは、Yuenら(2014, Invest Ophthalmol Vis Sci. 2014;55:3320-3327)に記載の方法に従って、siRNAを結膜下注射する。FZD5 siRNA、FZD2 siRNA、ROR1 siRNAまたはコントロールを投与するマウスをランダムに選択し、それぞれ5μL(0.2lg/μL)の用量を、週2回、2週間結膜下注射する。別のプロトコールでは、Tamら(2017, Scientific Reports 7, 40717)に記載の方法に従って、FZD5 siRNA、FZD2 siRNAまたはROR1 siRNAを前房内注射する。マウスを腹腔内注射で麻酔して、瞳孔を拡大させる。まず、先端が平坦な引き伸ばしたガラス製マイクロ針で角膜に穴をあけて房水を抜く。穿孔後直ちに、先端が平坦な引き伸ばしたガラス製マイクロ針を10μLシリンジに取り付けて、穿孔した穴に挿入し、1μgのsiRNAを含むPBSを前眼房に1.5μL注入する。反対側の眼には、同じ濃度のスクランブルsiRNAを含むPBSを同様に1.5μL注入する。これらの実験から、阻害薬として結膜下注射または前房内注射により局所的に送達されたFZD5、FZD2、ROR1のそれぞれに特異的なsiRNAが、病因性IOPの治療に有効であることが確認された。
【0053】
点眼剤として送達されたsiRNAがIOPに与える効果を評価するために、我々は、Martinezら(Mol Ther. 2014 Jan;22(1):81-91)の方法に準じて、さらなるプロトコールを開発した。ニュージーランド白ウサギに、20nmol/日のFZD5 siRNA、FZD2 siRNA、ROR1 siRNAまたはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を4日間連続で外用投与する。siRNAを投与した眼では、ビヒクル投与群と比較してIOPの有意な降下が認められる。IOPに対するFZD5 siRNA、FZD2 siRNAおよびROR1 siRNAの効果は、初回投与から2日後の時点で確認することができ、最終投与から2日後程度までベースラインレベルを下回るIOP値が維持される。また、我々は、緑内障で観察されるような病態におけるFZD5 siRNA、FZD2 siRNAおよびROR1 siRNAのIOP降下効果を評価するために、ニュージーランド白ウサギで経口水過負荷モデルを作製した。まず、4種類の用量(10nmol、20nmol、40nmolおよび60nmol/片眼/日)の各siRNAを、高眼圧を誘導する48時間前、24時間前および2時間前の合計3回投与する。いずれの投与も両眼に対して行い、IOPの測定は、高眼圧誘導前と経口過負荷後に行い、経口過負荷後の測定は20分毎に120分後まで行う。結果を解析したところ、FZD5 siRNA、FZD2 siRNAおよびROR1 siRNAは、投与したいずれの用量においてもIOPの上昇を顕著に抑えることが示された。
【0054】
IOPに対するFZD5 siRNA、FZD2 siRNAおよびROR1 siRNAの効果および特異性を確認するために、1群の動物数を増やし、用量を40nmol/片眼/日として4日間連続で投与する。投与4日目に水負荷により高眼圧を誘導する。コントロールの結果から、PBSを投与した動物では、高眼圧誘導から初めの1時間の間に水負荷によってIOPが上昇することが確認された。各測定時点でのIOP値を比較して解析したところ、FZD5 siRNA、FZD2 siRNAまたはROR1 siRNAの投与により、初めの1時間の間に、PBSを投与した動物と比較してΔIOP値が有意に低下した。スクランブル配列siRNAの投与はIOPに何ら影響を与えなかったことから、この効果は特異的な効果である。
【0055】
次に、我々は、阻害薬としてのFZD5、FZD2、ROR1それぞれの特異的抗体の投与によるIOP降下効果を確認するための実験プロトコールを開発した。このプロトコールでは、OMP18R5(FZD5に結合するヒト化モノクローナル抗体)、Abcam ab52565(FZD2に結合するモノクローナル抗体)、およびシルムツズマブ(ヒト化IgG1抗ROR1モノクローナル抗体)を使用するが、ヒトのFZD5、FZD2 siRNAおよびROR1に対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は、複数の供給元、例えばThermoFisher Scientific社、Abcam社、Sigma-Aldrich社などから市販品を入手することができる。ヒトFZD5抗体に関してはUS9573998も参照のこと。上記のマウスとウサギのモデルの両方を使用して行った実験から、阻害薬として点眼剤の形態で局所的に送達されたFZD5、FZD2 siRNA、ROR1それぞれの特異的抗体が、病因性IOPの治療に有効であることが確認された。
【0056】
IOPおよび緑内障のその他のパラメータ、例えば、角膜浮腫、網膜神経節細胞(RGC)死、RNFL(網膜神経線維層)の菲薄化などに対するFZD5、FZD2またはROR1の中和抗体の治療効果を評価するために、例示的なモデルシステムにおいて、野生型正常マウスの右眼(OD)で高眼圧を誘導し、FZD5、FZD2またはROR1の中和抗体を投与した。コントロール群では各マウスの右眼のIOPが有意に上昇したが、FZD5抗体、FZD2抗体またはROR1抗体を投与した眼のIOPはそれより有意に低かった。また、光干渉断層計(OCT)を用いてin vivoで中心角膜厚を測定したところ、FZD5、FZD2またはROR1への介入により、角膜浮腫が抑制されていた。IOPが上昇した後、コントロール群では角膜厚が増大したが、FZD5抗体、FZD2抗体またはROR1抗体を投与した眼では角膜厚の増大は認められなかった。また、各抗体を投与した眼では、FZD5、FZD2またはROR1への介入により、RGC死とともにRNFL菲薄化も抑制された。RGC死とRNFL菲薄化の抑制は、それぞれ免疫染色および/またはOCTによって確認することができる。これらの結果から、緑内障マウスモデルにおいて、FZD5抗体、FZD2抗体またはROR1抗体の局所的介入により、IOPが有意に降下し、角膜と網膜が保護されることが確認された。
【0057】
次に、我々は、FZD5、FZD2、ROR1のそれぞれに特異的なアンタゴニストペプチドと低分子阻害剤の投与によるIOP降下効果を確認するための実験プロトコールをデザインした。このプロトコールでは、強力なアンタゴニストとして作用するFZD5フラグメント変異体(例えば、Liuら, Hum Mol Genet. 2016 Apr 1; 25(7): 1382-1391)と経口用ROR1低分子阻害剤(KAN0439834; Hojjat-Farsangiら, Leukemia 32, p2291-2295, 2018)を使用する。この場合も、上記のマウスとウサギのモデルの両方を使用して行った実験から、点眼剤の形態で局所的に送達された、FZD5、FZD2、ROR1のそれぞれに特異的な修飾ペプチド阻害剤と低分子阻害剤が、病因性IOPの治療に有効であることが確認された。
【0058】
レーザーで強膜上静脈を閉塞して緑内障を発症させる、確立された緑内障モデルマウスを用いて、例示的なモデルにおけるin vivoデータを得た(Zhang Lら, Establishment and Characterization of an Acute Model of Ocular Hypertension by Laser-Induced Occlusion of Episcleral Veins. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2017 Aug 1; 58(10): 3879-3886)。マウスの右眼(OD)で高眼圧を誘導し、左眼(OS)はコントロールとする。これらの例では、マウスの右眼に高眼圧を誘導した後、1日目から毎日、阻害剤または対応するコントロールを結膜下注射で右眼に局所投与した。左眼はコントロールとした。3日目または7日目に、OCTを用いてin vivoで中心角膜厚とRNFLを測定した。すべてのin vitroデータは、培養ヒトシュレム細胞から収集したものである。
【0059】
ROR1阻害剤
【0060】
1) シルムツズマブ
【0061】
2) KAN0439834;
Hojjat-Farsangら, Leukemia. 2018 Oct;32(10):2291-2295. doi: 10.1038/s41375-018-0113-1を参照;関連する阻害剤についてはUS2018/0002329も参照されたい。これらの文献は参照により本明細書に援用される。
【0062】
3) ROR1 siRNA、Thermofisher社
【0063】
4) ROR1抗体、R&D Systems社、Cat# AF2000
【0064】
5) ROR1低分子、DB03208、Medkoo Biosciences社、Cat#: 564580
【0065】
6) ROR1低分子、ストリクチニン;
Fultang N.ら, Strictinin, a novel ROR1-inhibitor, represses triple negative breast cancer survival and migration via modulation of PI3K/AKT/GSK3s activity. PLoS One. 2019 May 31;14(5):e0217789を参照。
【0066】
7) ROR1ブロッキングペプチド;
https://www.mybiosource.com/blocking-peptide/ror1/544396を参照。
【0067】
8) ARI-1、ROR1阻害剤として同定;
Liu X.ら, Novel ROR1 inhibitor ARI-1 suppresses the development of non-small cell lung cancer. Cancer Lett. 2019 Aug 28;458:76-85を参照。
【0068】
9) ROR1-cFab(抗ROR1キメラFab抗体);
Yin Z.ら, Antitumor activity of newly developed monoclonal antibody against ROR1 in ovarian cancer cells. Oncotarget. 2017 Oct 7;8(55):94210-94222を参照。
【0069】
FZD2阻害剤
【0070】
FZD2 siRNA、Thermofisher社
【0071】
FZD2抗体、Abcam社 ab52565
【0072】
FZD5阻害剤
【0073】
FZD5 siRNA、Thermofisher社
【0074】
FZD5抗体、R&D Systems社 AF1617
【0075】
CAMK2D阻害剤
【0076】
CAMK2D siRNA、Thermofisher社
【0077】
PLCB1阻害剤
【0078】
PLCB1 siRNA、Thermofisher社
【0079】
PPP3R1阻害剤
【0080】
PPP3R1 siRNA、Thermofisher社
【0081】
NFATC3阻害剤
【0082】
1) NFATC3 siRNA、Thermofisher社
【0083】
組換え抗ヒト抗体およびバリアント:
【0084】
2) Creative Biolabs社 組換え抗ヒトNFATC3抗体 10188
【0085】
3) Creative Biolabs社 組換え抗ヒトNFATC3抗体 Fabフラグメント 10189
【0086】
4) Creative Biolabs社 組換え抗ヒトNFATC3抗体 scFvフラグメント 10190
【0087】
【手続補正書】
【提出日】2021-09-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】