(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-22
(54)【発明の名称】水溶性が改善された抗真菌剤
(51)【国際特許分類】
C07H 17/08 20060101AFI20220415BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20220415BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
C07H17/08 K
A61K31/7048
A61P31/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544561
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(85)【翻訳文提出日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 US2020016165
(87)【国際公開番号】W WO2020160443
(87)【国際公開日】2020-08-06
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】311016949
【氏名又は名称】シグマ-アルドリッチ・カンパニー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Sigma-Aldrich Co. LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】アミル,アビラン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥヴァシュ,タマル
(72)【発明者】
【氏名】レビン-カリファ,ミハル
(72)【発明者】
【氏名】アッカーマン,テオ
【テーマコード(参考)】
4C057
4C086
【Fターム(参考)】
4C057AA18
4C057CC04
4C057DD01
4C057KK24
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086EA15
4C086GA13
4C086GA14
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA02
4C086NA14
4C086ZB32
(57)【要約】
水溶性が改善されたポリエンマクロライド抗真菌性物質を調製する方法。本方法は、カルボン酸基を有するポリエンマクロライド抗真菌性物質を提供すること;カルボン酸基を活性化すること;活性化ポリエンマクロライド抗真菌性物質に1級アミンを加えること;十分な時間反応させて、カルボン酸をアミドに変換させること、および反応を停止させて、得られた生成物がポリエンマクロライドアミドまたはその塩であること、を含む。本明細書ではまた、水溶性ポリエンマクロライド誘導体が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸基を有するポリエンマクロライド抗真菌性物質を提供すること;
そのカルボン酸基を活性化すること;
得られた活性化ポリエンマクロライド抗真菌性物質に1級アミンを加えること;
十分な時間反応させて、そのカルボン酸をアミドに変換させること、および
反応を停止させること
を含む、水溶性が改善されたポリエンマクロライド抗真菌性物質を調製する方法であって、得られた生成物がポリエンマクロライドアミドまたはその塩である方法。
【請求項2】
ポリエンマクロライド抗真菌性物質が、ナイスタチン、アンフォテリシン、カンジシジン、ナタマイシン、ポリフンジンおよびレボリンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリエンマクロライド抗真菌性物質が、ナイスタチンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
カルボン酸基が、カップリング剤で活性化される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
カップリング剤が、HCTUを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
1級アミンが、置換されていてもよいC
1-C
10アルキルアミン、置換されていてもよいC
1-C
10アルコールアミン、アミノ酸およびヒドロキシルアミンからなる群から選択され、ここで、置換基が存在する場合、その置換基は、アルコール、アミン、カルボン酸およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
1級アミンが、エタノールアミン、リジン、ヒドロキシルアミン、ロイセノール、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1級アミンが、エタノールアミン、リジン、ヒドロキシルアミンおよびロイセノールからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
1級アミンが、エタノールアミンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ポリエンマクロライドアミド塩が、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、塩化物および硫酸塩からなる群から選択される対イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
得られたポリエンマクロライドアミドまたはその塩を分離して、単離されたポリエンマクロライドアミドまたはその塩を提供する工程を、さらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
式I
【化1】
[式中、Rは、C
1-C
10アルキル、C
1-C
10置換アルキル、C
1-C
10アルコール、C
1-C
10置換アルコールおよびヒドロキシルからなる群から選択され、ここで、該置換基は、アルコール、アミン、カルボン酸およびこれらの組み合わせからなる群から選択される]
で示される化合物、またはその塩。
【請求項13】
Rが、C
1-C
6アルキル、C
1-C
6置換アルキル、C
1-C
6アルコール、C
1-C
6置換アルコールまたはこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
Rが、エタノールである、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
対イオンが、塩からなる群から選択される、塩を含む式Iで示される化合物が、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、塩化物および硫酸塩からなる群から選択される対イオンを含む、請求項12に記載の化合物。
【請求項16】
【化2】
で示される構造を有するナイスタチンエタノールアミド、またはその塩。
【請求項17】
対象において真菌感染症を処置するための組成物であって、
式I
【化3】
[式中、Rは、C
1-C
10アルキル、C
1-C
10置換アルキル、C
1-C
10アルコール、C
1-C
10置換アルコールおよびヒドロキシルからなる群から選択され、ここで、該置換基は、アルコール、アミン、カルボン酸およびこれらの組み合わせからなる群から選択される]
で示される化合物またはその塩を含む組成物。
【請求項18】
対象において真菌感染症を処置する方法であって、式I
【化4】
[式中、Rは、C
1-C
10アルキル、C
1-C
10置換アルキル、C
1-C
10アルコール、C
1-C
10置換アルコールおよびヒドロキシルからなる群から選択され、ここで、該置換基は、アルコール、アミン、カルボン酸およびこれらの組み合わせからなる群から選択される]
で示される化合物またはその塩の薬理学的に許容できる量を、そのような処置を必要とする患者に投与する工程を含む方法。
【請求項19】
式Iで示される塩が
【化5】
またはその薬学的に許容できる塩である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
真菌感染症が、カンジダまたはアスペルギルスと関連している、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年1月31日出願の米国仮特許出願62/799,442の優先権の利益を主張し、その全内容は引用により本明細書に包含される。
【背景技術】
【0002】
真菌感染症は、皮膚発疹から死まで様々な程度で人々に影響を与える世界的な脅威である。侵襲性カンジダ症やアスペルギルス症から生じた最も重篤な病気は、細菌感染症に比べて死亡率が高い。さらに、免疫不全者は最もリスクが高く、最近の報告では、真菌感染症は集中治療室(ICU)の患者にとって腹立たしいほどの脅威であると認識されている。
【0003】
最も一般的な真菌感染症は、カンジダやアスペルギルスに関連するものである。カンジダ種は、鵞口瘡(がっこうそう)、膣カンジダ症および侵襲性カンジダ症など、いくつかの疾患を引き起こすことが知られている酵母である。ほとんどの場合、病原性種はC.アルビカンス、C.パラプシローシス、C.グラブラタである。アスペルギルスは、侵襲性感染症を引き起こす点ではカンジダほど一般的ではないカビである。ただし、侵襲性アスペルギルス症は生命を脅かす病気であり、誤って診断されることが多く、ICUユニットでの死亡原因となっている。
【0004】
近年、抗真菌物質に耐性の真菌が出現している。C.アウリスは、入院患者から発見された生命を脅かす真菌の一例である。C.アウリスの分離株のほとんどはフルコナゾールに耐性があり、その約3分の1はアンフォテリシンに耐性があることが、見出されている。
【0005】
ポリエンマクロライド抗真菌剤は、ナイスタチン、アンフォテリシンB、およびナタマイシンを含む一群の小分子であり、臨床や研究で一般的に使用されている。ポリエンマクロライド抗真菌剤は水に不溶であるため、水系でのこれらの化合物のバイオアベイラビリティ(生物学的利用性)は低下する。これは、例えば、媒体が水溶液である生細胞培養物にそれらを導入するうえで課題を大きくしている。
【0006】
現在入手可能なナイスタチンは、DMSO/DMFに可溶化したものか、水性媒体に懸濁したものが使用されている。ナイスタチンまたは他のポリエンマクロライド抗真菌剤の水溶性形態の必要性は長い間認識されてきたが、これまでのところ適切な解決手段は見出されていない。
【0007】
ポリエンマクロライド抗真菌剤の水溶液への溶解性を高めるために、いくつかの方法が採用されてきたが、成功の度合いは様々であった。水性媒体への溶解性を高めるだけでなく、化合物の効力を維持しながら、例えば、細胞培養培地または臨床応用に使用する製剤の安全性を維持する必要がある。
【0008】
ポリエンマクロライド抗真菌剤の水系内への送達に使用されてきた一つの方法は、リポソームカプセル化であるが、この方法を使用した結果はまちまちである。例えば、Johnson et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy, Vol. 42, No. 6, June 1998を参照のこと。その他の方法として、いくつかが試され、成功している。GB809105Aには、水への溶解性を高めるためにポリエン抗生物質の多糖類コンジュゲート体を調製する方法が記載されている。US4783527Aには、様々な抗生物質のアミド誘導体およびそれらの誘導体が記載されているが、ナイスタチンに対する修飾は示唆されていない。US20090186838A1およびWO0191758A1にはそれぞれ、アンフォテリシンの水溶性アミド誘導体が記載されているが、エタノールアミンやエタノールアミド誘導体、またはそれらの製造方法はいずれも示されていない。WO2001051061A1には、ポリエンマクロライドの水溶性グリコシル誘導体が記載されている。WO2013132014には、抗真菌性抗生物質において立体的に障害されている誘導体であるナイスタチンA1、すなわち抗生物質のアミノ基に結合する置換基に巨大(バルキーな)断片を含む該誘導体の使用が記載されている。しかし、これらはいずれも、ナイスタチンまたは他の水不溶性ポリエンマクロライド抗真菌剤を水系媒体で使用するための適切な、広く適用される解決方法を提供するには至っていない。
【0009】
ナイスタチンや他のポリエンマクロライド抗真菌剤の効果的で安全な水溶性形態を提供するための上記の試み、および他の従前の試みにもかかわらず、細胞培養培地のような水を基本とする系において使用するための改善された水溶性抗真菌剤の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0010】
本明細書において、水溶性が改善されたポリエンマクロライド抗真菌性物質を調製するための改善方法が提供される。本発明の方法は、カルボン酸基を有するポリエンマクロライド抗真菌性物質を提供すること;そのカルボン酸基を活性化すること;得られた活性化ポリエンマクロライド抗真菌性物質に1級アミンを加えること;十分な時間反応させてそのカルボン酸をアミドに変換させること、および反応を停止させることで、ポリエンマクロライドアミドまたはその塩を得ること、を含む。
【0011】
様々な実施態様において、ポリエンマクロライド抗真菌性物質は、ナイスタチン、アンフォテリシン、カンジシジン、ナタマイシン、ポリフンジンまたはレボリンであり得る。特に好ましい実施態様において、ポリエンマクロライド抗真菌性物質はナイスタチンである。
【0012】
本発明の方法に使用される1級アミンは、非置換または置換C1-C10アルキルアミン、非置換または置換C1-C10アルコールアミン、非置換または置換アミノ酸、あるいはヒドロキシルアミンであり得る。本明細書に記載の様々な実施態様において、1級アミンは、エタノールアミン、リジン、ヒドロキシルアミン、ロイセノール(leucenol)、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンまたはブチルアミンであり得る。特に好ましい実施態様において、1級アミンはエタノールアミンである。
【0013】
ある実施態様において、方法は、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、塩化物または硫酸塩などの対イオンを含むポリエンマクロライドアミド塩である塩の生成に使用される。
【0014】
いくつかの実施態様において、方法は、得られたポリエンマクロライドアミドまたはその塩を分離して単離されたポリエンマクロライドアミドまたはその塩を提供する工程をさらに含む。
【0015】
本明細書ではさらに、式I:
【化1】
[式中、Rは、C
1-C
10アルキル、C
1-C
10置換アルキル、C
1-C
10アルコール、C
1-C
10置換アルコールおよびヒドロキシルからなる群から選択され、ここで、該置換基は、アルコール、アミン、カルボン酸からなる群から選択される]で示される化合物およびその塩が提供される。特に好ましい実施態様において、Rはエタノールである。
【0016】
いくつかの実施態様において、式Iで示される化合物は塩であり得る。これらの実施態様において、例えば、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、塩化物および硫酸塩から選択される対イオンをさらに含む。
【0017】
特に好ましい実施態様において、化合物は、
【化2】
で示される構造を有するナイスタチンエタノールアミドまたはその塩である。
【0018】
本明細書ではさらに、対象において真菌感染症を処置するための組成物であって、式Iで示される化合物またはその薬学的に許容できる塩の薬理学的有効量を含む組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本明細書に記載の好ましいナイスタチンエタノールアミドの構造を示す。
【0020】
【
図2A】
図2Aは、本明細書に記載のナイスタチンエタノールアミドの質量スペクトルを示す。
【0021】
【
図3】
図3は、本明細に記載の方法を用いて調製される例示的ナイスタチンエタノールアミドのUV/Visスペクトルを示す。
【0022】
【
図4】
図4は、本明細書に記載の方法を用いて調製される例示的ナイスタチンエタノールアミドのHPLCクロマトグラムである。
【0023】
【
図5】
図5は、本明細書に記載の方法を用いて調製される例示的ナイスタチンエタノールアミドの、USP/81法による効能試験の結果を示す写真である。
【0024】
【
図6】
図6は、D
2O中のナイスタチンエタノールアミドのプロトンNMRである。
【0025】
【
図7】
図7は、D
2O中のナイスタチンエタノールアミドの2D NMRである。
【0026】
(詳細な説明)
本明細書では、水性系でのバイオアベイラビリティが改善されたポリエンマクロライド抗真菌剤の水溶性誘導体を調製する方法、およびこれらの方法によって調製される抗真菌剤が提供される。本明細書に記載の修飾は、化合物の抗真菌活性に有害影響を与えることなく、水溶性が向上したポリエンマクロライドを可能にする。本明細書に記載の方法で調製される化合物は、研究目的や潜在的な臨床使用に適している。
【0027】
本明細書で使用するとき、用語「抗真菌剤」とは、一般的にポリエンマクロライド抗真菌剤を意味し、本明細書では単にポリエンマクロライド抗真菌性物質、抗真菌性物質または抗真菌剤(antifungal agents)と称されることもある。本明細書に記載の方法に適した抗真菌剤には、例えば、ナイスタチン、アンフォテリシンB(「アンフォテリシン」とも称される)、カンジシジン、ナタマイシン、ポリフンジンおよびレボリンがある。
【0028】
用語「抗真菌活性」または「効力」という用語は、適切な条件下での抗真菌剤の微生物に対する阻害効果を、米国薬局方協会(USP)で制定された方法などの標準的な分析方法を用いて測定したもので、これらの用語は互換的に使用される。
【0029】
本明細書で使用するとき、用語「バイオアベイラビリティ」とは、水溶液中に可溶化され、その結果、接触した微生物に活性効果を及ぼすことができる抗真菌剤の割合を意味する。
【0030】
本明細書で使用される「バイオアベイラビリティが改善」とは、従来の調製物における同量の抗真菌剤と比較して、DMSO/DMF中における、または水性媒体に懸濁されるなど、抗真菌剤のバイオアベイラビリティが改善されることを意味する。
【0031】
水溶性が改善されたポリエンマクロライド抗真菌性物質を調製する方法は、カルボン酸基を有するポリエンマクロライド抗真菌性物質を提供すること;そのカルボン酸基を活性化すること;得られた活性化ポリエンマクロライド抗真菌性物質に1級アミンを加えること;十分な時間反応させて、そのカルボン酸をアミドに変換させること、および反応を停止させて、ポリエンマクロライドアミドまたはその塩を得ること、を含む。
【0032】
様々な実施態様において、ポリエンマクロライド抗真菌性物質は、ナイスタチン、アンフォテリシン、カンジシジン、ナタマイシン、ポリフンジン、またはレボリンであってもよい。特に好ましい実施態様において、ポリエンマクロライド抗真菌性物質は、ナイスタチンである。
【0033】
好ましい実施態様において、HCTUなどのカップリング剤は、カルボン酸基の活性化に使用される。
【0034】
1級アミンは、非置換または置換C1-C10アルキルアミン、非置換または置換C1-C10アルコールアミン、非置換または置換アミノ酸、あるいはヒドロキシルアミンであってもよい。1級アミンが置換される場合、アルコール、アミン、カルボン酸およびこれらの組み合わせからなる群から選択される一つまたはそれ以上の置換基によっていずれかの置換可能な位置で置換されていてもよい。本明細書に記載の様々な実施態様において、1級アミンは、エタノールアミン、リジン、ヒドロキシルアミン、ロイセノール(leucenol)、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンまたはブチルアミンであってもよい。好ましい実施態様において、1級アミンは、エタノールアミン、リジン、ヒドロキシルアミンおよびロイセノール(leucenol)から選択される。特に好ましい実施態様において、1級アミンはエタノールアミンである。
【0035】
本方法が塩を得るために使用される実施態様において、ポリエンマクロライドアミド塩は対イオンを含み;好ましい実施態様において、対イオンは、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、塩化物または硫酸塩であってもよい。
【0036】
いくつかの実施態様において、方法は、得られたポリエンマクロライドアミドまたはその塩を分離して単離されたポリエンマクロライドアミドまたはその塩を提供する工程をさらに含む。
【0037】
本明細書では、式I
【化3】
[式中、Rは、C
1-C
10アルキル、C
1-C
10置換アルキル、C
1-C
10アルコール、C
1-C
10置換アルコール、およびヒドロキシルからなる群から選択され、ここで、置換基は、アルコール、アミン、カルボン酸からなる群から選択される]で示される水溶性抗真菌性物質化合物およびその塩が提供される。いくつかの実施態様において、Rは、アミノ酸であってもよく、アミノ酸の誘導体であってもよい。
【0038】
いくつかの実施態様において、Rは、C1-C6アルキル、C1-C6置換アルキル、C1-C6アルコール、C1-C6置換アルコール、およびヒドロキシルからなる群から選択される。さらに他の実施態様において、Rは、C1-C3アルキル、C1-C3置換アルキル、C1-C3アルコール、C1-C3置換アルコール、およびヒドロキシルからなる群から選択される。
【0039】
Rが一つまたはそれ以上の置換基を含む実施態様において、置換基は、例えば、C1-C6アルキル、C1-C6置換アルキル、C1-C6アルコール、C1-C6置換アルコールまたはこれらの組み合わせの一つまたはそれ以上から選択されてもよい。
【0040】
さらに他の実施態様において、Rは一つまたはそれ以上の置換基を含み、置換基は、例えば、C1-C3アルキル、C1-C3置換アルキル、C1-C3アルコール、C1-C3置換アルコールまたはこれらの組み合わせの一つまたはそれ以上から選択されてもよい。
【0041】
特に好ましい実施態様において、Rはエタノールである。
【0042】
いくつかの実施態様において、式Iで示される化合物は塩であってもよい。これらの実施態様において、さらに、例えば、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、塩化物および硫酸塩から選択される対イオンを含む。
【0043】
特に好ましい実施態様において、化合物は、
【化4】
で示される構造を有するナイスタチンエタノールアミドまたはその塩である。
【0044】
塩の形態は、式IA
【化5】
[式中、陰イオンであるA
-は、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、塩化物、硫酸塩またはその組み合わせからなる群から選択される」で示される。Rは上記で定義されたとおりである。
【0045】
水溶性誘導体を調製する方法
【0046】
ポリエンマクロライド抗真菌剤は選択され、乾燥DMFに溶解される。本明細書に記載されているように、一級アミンが溶液に添加され、続いてHCTUなどのカップリング剤が添加される。この混合物を、反応が完了するのに十分な時間、反応させる。その後、反応を停止され、任意に塩の形に変換される。その後、得られた製品は精製され、任意に凍結乾燥される。
【0047】
上に概説した方法は、様々なポリエンマクロライド抗真菌剤、例えばナイスタチン、アンフォテリシン、カンジシジン、ナタマイシン、ポリフンジンおよびレボリン、ならびに他のポリエンマクロライドに対しても変更できる。
【0048】
アミンは、非置換または置換C1-C10アルキルアミン、非置換または置換C1-C10アルコールアミン、非置換または置換アミノ酸、またはヒドロキシルアミンを含む様々な非置換または置換1級アミンのいずれかであってもよい。1級アミンが置換される場合、アルコール、アミン、カルボン酸およびこれらの組み合わせからなる群から選択される一つまたはそれ以上の置換基によっていずれかの置換可能な位置で置換されていてもよい。本明細書に記載の様々な実施態様において、1級アミンは、エタノールアミン、リジン、ヒドロキシルアミン、ロイセノール(leucenol)、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンまたはブチルアミンであってもよい。好ましい実施態様において、1級アミンは、エタノールアミン、リジン、ヒドロキシルアミンおよびロイセノール(leucenol)から選択される。特に好ましい実施態様において、1級アミンはエタノールアミンである。
【0049】
効力試験(POTENCY TESTING)
【0050】
効力試験は、米国薬局法(U.S. Pharmacopeia)、例えば、Pharmacopeial Forum, Vol. 36(6) [Nov.-Dec. 2010] <81> Antibiotics--Microbial Assays, USP 32 page 86 ffに記載されている方法でシリンダープレートアッセイを用いて行われる。
【0051】
水溶性抗真菌剤への使用
【0052】
水溶性が改善されているため、本明細書に記載のポリエンマクロライド抗真菌性物質誘導体は、誘導体化されていない対応するものよりもバイオアベイラビリティが改善されている。バイオアベイラビリティの改善により、投与量の減少を可能にし、その結果、毒性の減少を可能にする。また、バイオアベイラビリティが高くなることで、溶解性が低いためにこれまで実現していなかった抗真菌性物質への応用を可能にする。
【0053】
本明細書に記載の水溶性ポリエンマクロライド抗真菌剤の追加の応用には、ヒトおよび獣医用の追加の臨床応用が含まれる。皮膚科感染の真菌感染症に対する局所処置、口腔感染症や膣感染症に対する改善された製剤、菌血症/敗血症中および移植後の呼吸管における真菌の超感染などの全身性感染症のための注射可能な形態/または非経腸形態がある。
【0054】
真菌感染症の処置のための組成物は、薬学的に許容できる添加物を含むことができる。例えば、経口投与の場合は、そのような薬学的に許容できる添加物には、賦形剤、例えば結合剤、例えばプレゼラチン化(pregelatinised)トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース;充填剤、例えばラクトース、微結晶セルロースまたはリン酸水素カルシウム;滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカ;崩壊剤、例えばデンプンまたはデンプン誘導体;界面活性剤;またはコーティング剤が含まれる。液体調剤は、例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、水素添加食用脂などの懸濁剤;レシチンまたはアカシアなどの乳化剤;メチルもしくはプロピル-p-ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸などの防腐剤;適切な緩衝塩、香料添加剤、着色剤および甘味剤を含む、薬学的に許容できる添加物を用いて調製することができる。経口投与のための調剤は、活性化合物の放出を制御するために適切に製剤化され得る。
【0055】
他の実施態様において、本明細書に記載の水溶性抗真菌剤は、非経腸投与のための組成物、例えば、ボーラス注射または持続注入による注射のための組成物に製剤化され得る。注射のための製剤は、必要に応じて防腐剤を添加した、単位剤形、例えばアンプルまたは多回投与容器で提示することができる。本組成物は、水性ビヒクル中の懸濁液、溶液またはエマルションなどの形態をとることができ、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤などの調合剤を含むことができる。また、活性成分は、使用前に適切なビヒクル、例えば無菌の発熱性物質除去水で構成される粉末状であってもよい。
【0056】
局所調剤は、ローション、クリームまたは軟膏の形態であってもよい。軟膏は、担体、例えば軟パラフィンまたは白色ワセリン、および他の所望の添加物、例えば界面活性剤;溶媒;賦形剤;安息香酸などの防腐剤;ポリソルベートなどの乳化剤、例えばポリソルベート60;および粘度向上剤、例えばセトステアリルアルコールを、本明細書に記載の水溶性抗真菌剤と一緒に含むことができる。クリームは、適切な油性および水溶性界面活性剤と組み合わされた上記の溶解物としての軟膏の油性相と、薬物および適切な抗微生物防腐剤を含有する水性相を含む。
【0057】
局所的、経口的、膣内または非経腸的に投与するための、本明細書に記載の水溶性抗真菌剤を含む他の適切な製剤は、当業者が容易に決定することができる。
【0058】
さらに本明細書では、対象において真菌感染症を処置する方法であって、そのような処置を必要とする対象に、本明細書で提供される水溶性ポリエンマクロライド抗真菌剤の薬理学的有効量を投与する工程を含む方法が提供される。本方法によれば、対象はヒトの対象であってもよく、あるいは対象は動物、すなわち獣医学的応用であってもよい。
【0059】
実施例
【0060】
ナイスタチンエタノールアミドは、以下のように製造する:
【0061】
ナイスタチン(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)8.73gを260mlの乾燥ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた。エタノールアミン5.2mlを添加した後、HCTU(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)8.73gを添加した。この混合物を反応させた後、別の部分のHCTUを添加し、さらに時間をかけて反応させた。HPLCはほぼ完全な変換を示した。反応混合物を2.5Lの酢酸エチルに流入させ、生成物を沈殿させた。混合物をデカントし、得られた油状の固体をメタノールに溶解し、逆相クロマトグラフィーで精製した。精製した画分をプールし、凍結乾燥させた。黄色がかった固体を250mLの水に溶解し、凍結乾燥させた。凍結乾燥させた固体を50mLのエタノールに溶解し、0.2-μmの膜で濾過し、水250mLを添加し、混合物を凍結乾燥させ、1.93g、20%収量のナイスタチンエタノールアミド(酢酸塩)を得た。
【0062】
ナイスタチンエタノールアミドの質量スペクトルを
図2Aに示し、
図2Bに940~1020のm/z領域を示す。これにより、ナイスタチンエタノールアミドの生成が確認された。
図3は、ナイスタチンエタノールアミドのUV/Visスペクトルを示す。生成物の純度は、
図4に示すようにHPLCで確認した。
【0063】
図5は、ナイスタチンエタノールアミド生成物のUSP/81法による効力試験の結果を示す写真である。ナイスタチンエタノールアミド1mgの効力(potency)は5500~6500Uであった。
【0064】
標準的な方法でエンドトキシン試験(LAL)を行ったところ、<30 Eu/mgと見出された。
【0065】
毒性:hep2細胞株を用いて、化合物とのインキュベーション後の生存率を確認することにより、毒性を試験した。50%の細胞生存率に相当する化合物の量が、細胞培養に適用で生きる化合物の最大量である。その場合、ナイスタチンエタノールアミドは、販売されていないナイスタチンと同じかそれよりも優れていた。
【0066】
最小発育阻止濃度(MIC)試験により、ナイスタチンエタノールアミドと比較抗真菌剤について測定した。
【0067】
ナイスタチン(固体)およびアンフォテリシンをDMFに溶解して1mg/mLとした。エコナゾール硝酸塩およびナイスタチンエタノールアミド(塩)をPBSに溶解して1mg/mLとした。
【0068】
抗生物質培地19を加圧滅菌器で滅菌し、滅菌後45℃に温度を下げたところで、胞子の懸濁液から1mLを添加した。この混合物から8mLを各ペトリ皿に分注した。
【0069】
各皿には6枚の無菌拡散紙ディスクを置き、各抗生物質を10μg/mL、15μg/mL、20μg/mL、25μg/mL、30μg/mL、35μg/mLの濃度で10μLずつ適用した。MIC濃度が10未満の場合は、2、5、7.5μg/mLの低濃度のものを使用した。
【0070】
ペトリ皿を30℃で一晩インキュベートした。阻害が可視化される下限濃度としてMICを測定した。その結果を以下の表1にまとめた。
【表1】
【0071】
観察。この拡散ディスクアッセイでは、C.アルビカンスとA.ニガーの成長を阻害するのに必要な各化合物の最小濃度を測定した。ナイスタチンエタノールアミドは、ナイスタチン14μg/mL、22.5μg/mLと同様にそれぞれC.アルビカンス(15.7μg/mL)、A. ニガー(23.6μg/mL)の増殖を阻害した。興味深いことに、ナイスタチンおよびナイスタチンエタノールアミド類似体であるナイスタチンメチルエステルは、C.アルビカンスに対しては活性が低く(30μg/mL)、A.ニガーに対しては阻害が観察されなかった。アンフォテリシンBは、ナイスタチンおよびナイスタチン水溶性と同様にC.アルビカンスの増殖を阻害した(16μg/mL)。しかし、アンフォテリシンBはA.ニガーの増殖を阻害する活性が低かった(31.5μg/mL)。
【0072】
本明細書に記載の実施例は、本質的に例示的なものであり、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を限定するものではない。
【国際調査報告】