(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-25
(54)【発明の名称】子宮瘢痕形成を予防するための間葉系幹細胞シートの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20220418BHJP
A61K 35/51 20150101ALI20220418BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220418BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220418BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20220418BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220418BHJP
C07K 14/78 20060101ALN20220418BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20220418BHJP
C07K 14/54 20060101ALN20220418BHJP
C07K 14/52 20060101ALN20220418BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K35/51
A61P15/00
A61P43/00 105
C12N5/0775
C12Q1/02
C07K14/78
C07K14/435
C07K14/54
C07K14/52
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021541025
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(85)【翻訳文提出日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 US2020013622
(87)【国際公開番号】W WO2020150310
(87)【国際公開日】2020-07-23
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】399047002
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藏本 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】岡野 光夫
(72)【発明者】
【氏名】シルバー,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】グレイガー,デイビッド
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
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4C087ZB21
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA01
4H045DA02
4H045EA34
(57)【要約】
本開示は、それを必要とする対象の子宮において線維性組織の形成を低減する方法であって、前記対象の前記子宮に間葉系幹細胞(MSC)シートを適用するステップを含み、前記MSCシートは凝集したコンフルエントな間葉系幹細胞(MSC)の1つ以上の層を含み、前記子宮に前記MSCシートを適用することにより、前記MSCシートが適用されない子宮と比較して前記子宮における線維性組織の形成が低減される方法を提供する。本開示はまた、それを必要とする対象の子宮において子宮筋層再生を増加させる方法であって、前記対象の前記子宮に間葉系幹細胞(MSC)シートを適用するステップを含み、前記MSCシートは凝集したコンフルエントな間葉系幹細胞(MSC)の1つ以上の層を含み、前記子宮に前記MSCシートを適用することにより、前記MSCシートが適用されない子宮と比較して子宮筋層再生が増加する方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象の子宮において線維性組織の形成を低減する方法であって、前記対象の前記子宮に間葉系幹細胞(MSC)シートを適用するステップを含み、前記MSCシートは凝集したコンフルエントな間葉系幹細胞(MSC)の1つ以上の層を含み、前記子宮に前記MSCシートを適用することにより、前記MSCシートが適用されない子宮と比較して前記子宮における線維性組織の形成が低減される方法。
【請求項2】
それを必要とする対象の子宮において子宮筋層再生を増加させる方法であって、前記対象の前記子宮に間葉系幹細胞(MSC)シートを適用するステップを含み、前記MSCシートは凝集したコンフルエントな間葉系幹細胞(MSC)の1つ以上の層を含み、前記子宮に前記MSCシートを適用することにより、前記MSCシートが適用されない子宮と比較して子宮筋層再生が増加する方法。
【請求項3】
前記MSCシートが前記子宮の切開部位に適用される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記子宮に前記MSCシートを適用することにより、前記MSCシートが適用されない子宮と比較して前記子宮の線維性表面積が少なくとも20%低減する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記MSCシートがMSCから本質的になる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞シートが細胞外マトリックスを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞外マトリックスがフィブロネクチン、ラミニン及びコラーゲンからなる群から選択される1つ以上のタンパク質を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞シートが細胞接着タンパク質及び細胞接合タンパク質を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞接合タンパク質がビンキュリン、インテグリン-β1、コネキシン43、β-カテニン、インテグリン連結キナーゼ及びN-カドヘリンからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記MSCがヒト臍帯組織の上皮下層から単離される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記MSCがCD44及びCD90から選択されるタンパク質を発現する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記MSCが、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)及びインターロイキン-10(IL-10)からなる群から選択されるサイトカインを発現する、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞シートでの前記サイトカインの発現が、同等の数の細胞を含有するMSC懸濁物と比較して増加する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞シートが、宿主生物体の組織への移植の後の少なくとも10日間前記サイトカインを発現する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞シートが、宿主生物体の組織への移植の後の少なくとも10日間細胞外マトリックスタンパク質及び細胞接合タンパク質を発現する、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞外マトリックスタンパク質がフィブロネクチン、ラミニン及びコラーゲンからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞接合タンパク質がビンキュリン、インテグリン-β1、コネキシン43、β-カテニン、インテグリン連結キナーゼ及びN-カドヘリンからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞シートを調製するために使用される細胞培養支持体中の前記MSCの初期細胞密度が0.5×10
4/cm
2から9×10
5/cm
2である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記MSCが、ヒト白血球抗原-DRアイソタイプ(HLA-DR)、ヒト白血球抗原-DPアイソタイプ(HLA-DP)、又はヒト白血球抗原-DQアイソタイプ(HLA-DQ)を発現しない、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記MSCが微小絨毛及び糸状仮足を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞シートが、前記組織への移植の後の少なくとも10日間宿主生物体の組織に付着したままである、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞シート中の前記MSCが前記対象に対して同種異系である、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記対象がヒトである、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が少なくとも1回の帝王切開分娩をしている、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記対象が少なくとも2回の帝王切開分娩をしている、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記対象が少なくとも1回の子宮手術をしている、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
それを必要とする対象で子宮切開の断裂を予防又は低減する方法であって、前記対象の前記子宮に間葉系幹細胞(MSC)シートを適用するステップを含み、前記MSCシートは凝集したコンフルエントな間葉系幹細胞(MSC)の1つ以上の層を含み、前記子宮に前記MSCシートを適用することにより、前記MSCシートが適用されない子宮の切開と比較して前記子宮切開の断裂が予防又は低減される方法。
【請求項28】
前記MSCがヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)である、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、その内容が完全に本明細書に組み込まれる2019年1月16日に出願の米国特許仮出願第62/793,195号への優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
帝王切開分娩及び他の子宮手術の後の子宮瘢痕の発生は、子宮断裂及び異常な胎盤形成などの合併症を引き起こすことがある。これらの合併症は、母体及び胎児の双方にとって非常に重大な予後をもたらすことがある。臨床研究は、周産期の死亡率及び罹患率のより高い発生率を予防するために、子宮断裂による胎児障害の診断の後に非常に速やかに(例えば18分以内に)帝王切開分娩を実行するべきであると報告した。Leung et al., 1993, Am J Obstet Gynecol 169: 945-950を参照のこと。これらの合併症のリスクは、帝王切開分娩が実行される回数によって増加する可能性がある。特に、複数回の帝王切開分娩をした女性は、より高いリスクを有するかもしれない。したがって、帝王切開分娩及び他の子宮手術からもたらされる潜在的合併症を予防する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0003】
ある特定の態様では、本開示は、それを必要とする対象の子宮において線維性組織の形成を低減する方法であって、前記対象の前記子宮に間葉系幹細胞(MSC)シートを適用するステップを含み、前記MSCシートは凝集したコンフルエントな間葉系幹細胞(MSC)の1つ以上の層を含み、前記子宮に前記MSCシートを適用することにより、前記MSCシートが適用されない子宮と比較して前記子宮における線維性組織の形成が低減される方法に関する。
【0004】
ある特定の態様では、本開示は、それを必要とする対象の子宮において子宮筋層再生を増加させる方法であって、前記対象の前記子宮に間葉系幹細胞(MSC)シートを適用するステップを含み、前記MSCシートは凝集したコンフルエントな間葉系幹細胞(MSC)の1つ以上の層を含み、前記子宮に前記MSCシートを適用することにより、前記MSCシートが適用されない子宮と比較して子宮筋層再生が増加する方法に関する。
【0005】
ある特定の態様では、本開示は、それを必要とする対象で子宮切開の断裂及び異常な胎盤形成を予防又は低減する方法であって、前記対象の前記子宮に間葉系幹細胞(MSC)シートを適用するステップを含み、前記MSCシートは凝集したコンフルエントな間葉系幹細胞(MSC)の1つ以上の層を含み、前記子宮に前記MSCシートを適用することにより、前記MSCシートが適用されない子宮の切開と比較して前記子宮切開の断裂及び異常な胎盤形成が予防又は低減される方法に関する。
【0006】
一部の実施形態では、MSCシートが前記子宮の切開部位に適用される。一部の実施形態では、子宮にMSCシートを適用することにより、MSCシートが適用されない子宮と比較して前記子宮の線維性表面積が少なくとも20%低減される。一部の実施形態では、前記MSCシートがMSCから本質的になる。一部の実施形態では、前記細胞シートが細胞外マトリックスを含む。一部の実施形態では、前記細胞外マトリックスがフィブロネクチン、ラミニン及びコラーゲンからなる群から選択される1つ以上のタンパク質を含む。一部の実施形態では、前記細胞シートが細胞接着タンパク質及び細胞接合タンパク質を含む。一部の実施形態では、前記細胞接合タンパク質がビンキュリン、インテグリン-β1、コネキシン43、β-カテニン、インテグリン連結キナーゼ及びN-カドヘリンからなる群から選択される。一部の実施形態では、前記MSCがヒト臍帯組織の上皮下層から単離される。一部の実施形態では、前記MSCがCD44及びCD90から選択されるタンパク質を発現する。一部の実施形態では、前記MSCが、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)及びインターロイキン-10(IL-10)からなる群から選択されるサイトカインを発現する。一部の実施形態では、前記細胞シートでの前記サイトカインの発現が、同等の数の細胞を含有する、培養され、単離されたMSC懸濁物と比較して増加する。一部の実施形態では、前記細胞シートが、宿主生物体の組織への移植の後の少なくとも10日間前記サイトカインを発現する。
【0007】
一部の実施形態では、前記細胞シートが、宿主生物体の組織への移植の後の少なくとも10日間細胞外マトリックスタンパク質及び細胞接合タンパク質を発現する。一部の実施形態では、前記細胞外マトリックスタンパク質がフィブロネクチン、ラミニン及びコラーゲンからなる群から選択される。一部の実施形態では、前記細胞接合タンパク質がビンキュリン、インテグリン-β1、コネキシン43、β-カテニン、インテグリン連結キナーゼ及びN-カドヘリンからなる群から選択される。一部の実施形態では、前記細胞シートを調製するために使用される細胞培養支持体中の前記MSCの初期細胞密度が0.5×104/cm2から9×105/cm2である。一部の実施形態では、前記MSCが、ヒト白血球抗原-DRアイソタイプ(HLA-DR)、ヒト白血球抗原-DPアイソタイプ(HLA-DP)、又はヒト白血球抗原-DQアイソタイプ(HLA-DQ)を発現しない。一部の実施形態では、一部の実施形態では、前記MSCが微小絨毛及び糸状仮足を含む。一部の実施形態では、前記細胞シートが、前記組織への移植の後の少なくとも10日間宿主生物体の組織に付着したままである。
【0008】
一部の実施形態では、前記細胞シート中の前記MSCが前記対象に対して同種異系である。一部の実施形態では、前記対象がヒトである。一部の実施形態では、前記対象が少なくとも1回の帝王切開分娩をしている。一部の実施形態では、前記対象が少なくとも2回の帝王切開分娩をしている。一部の実施形態では、前記対象が少なくとも1回の子宮手術をしている。一部の実施形態では、前記MSCがヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、細胞シート実験プロトコールを示す。ヒト臍帯幹細胞(hUC-MSC)を温度応答性細胞培養皿(TRCD)に播種し、37℃細胞培養インキュベーター内でコンフルエントとなるまで培養した。タンパク質分解酵素処理を使用することなく、細胞外マトリックス(ECM)及び細胞間接合を含む本質的特色を保存しつつ、室温(RT)で20分以内に、培養された細胞をインタクトな細胞シートとしてTRCDから脱離した。
【
図2A-B】
図2A~
図2Bは、2×10
4個の細胞/cm
2で播種した細胞継代(passage)4、6、8、10及び12を使用した、hUC-MSCシートの形態的観察を示す。(a)シート脱離前に位相差顕微鏡を使用して観察された継代4、6、8、10及び12細胞の形態。(b)継代4、6、8及び10細胞を使用した、成功したhUC-MSCシート製作。対照的に、継代12細胞は、切れ目のある(non-contiguous)連絡切断(disconnected)細胞構造として脱離した。スケールバー=100μm。
【
図3A-C】
図3A~
図3Cは、9.6cm
2の表面積を有する35mm直径TRCDに2×10
5、1×10
5及び5×10
4個の初期細胞数で播種されたhUC-MSCに関する形態的観察、細胞増殖速度及び細胞シート製作を示す。(a)TRCDに培養され、シート脱離に先立ち観察された細胞。(b)細胞がTRCDに播種された後に、hUC-MSCシートが観察されるまで、血球計数器を使用して計数された細胞数。(c)コンフルエントの1日前、2×10
5、1×10
5及び5×10
4個の初期細胞播種群において、それぞれ3、4及び5日目、における連絡切断断片として脱離された細胞。インタクトな細胞シートは、2×10
5、1×10
5及び5×10
4個の初期細胞数の群の播種密度に関して、それぞれ4、5及び6日目に製作に成功した。コンフルエント1日後、2×10
5、1×10
5及び5×10
4個の初期細胞播種群に関してそれぞれ5、6及び7日目に、培養された細胞はTRCD温度変化なしで凝集断片として自発的に脱離する。スケールバーは、(a)において100μmを指し示す。スケールバーは、(c)において1cmを指し示す。
【
図4A-D】
図4A~
図4Dは、細胞懸濁培養物(A及びB)及びin vitroのhUC-MSCシート(C及びD)におけるhUC-MSCにおけるCD44及びCD90陽性発現を示す。
【
図5A-E】
図5A~
図5Eは、免疫組織化学的検査(IHC)及び透過型電子顕微鏡(TEM)を使用した細胞間構造解析を示す。培養された細胞は、播種後4日目の温度変化により、TRCDからシートとしての脱離に成功した。細胞シートを、それぞれECM((a)フィブロネクチン及び(b)ラミニン)、及び(c)細胞接合β-カテニンの抗体で染色して(明るい領域、5A~5C)、細胞シートで、脱離後にそれらの機能に係る構造が保存されたことを確認した。TEM画像において、hUC-MSCシートでは、脱離後にそれらの(d)ECM及び(e)細胞間接合構造が保存された。hUC-MSCシートにおける、5D矢印=ECM;5E矢印=細胞接合。スケールバーは、(a~c)において100μmを指し示す。スケールバー(d)及び(e)は、それぞれ5μm及び1μmを指し示す。
【
図6A-D】
図6A~
図6Dは、hUC-MSCシートから分泌されたヒト肝細胞増殖因子(HGF)及び腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)のサイトカイン解析を示す。hHGF(抗炎症性サイトカイン)及びhTNF-α(炎症促進性サイトカイン)は、24時間培養された細胞の培養上清において検出された。(a)2×10
5、1×10
5及び5×10
4個の初期細胞播種群におけるhHGF分泌に有意差はない。(b);hTNF-αは、ほとんど検出されず、2×10
5、1×10
5及び5×10
4個の初期細胞播種群において有意に異ならなかった。(c)継代が増加するにつれて、hUC-MSCシートから分泌されるhHGFの有意な低減。(d)継代4細胞を使用して製作されたhUC-MSCシートは、継代6、8、10及び12細胞を使用して製作されたhUC-MSCシートと比較して、有意に少ない量のhTNF-αを分泌した。*p<0.05。
【
図7A-E】
図7A~
図7Eは、in vivoでの植え込まれたhUC-MSCシート保持を示す。免疫不全マウスの皮下組織内に植え込まれたhUC-MSCシート。(c及びd)植込み後10日目に、組織学的観察のためにhUC-MSC移植された皮下組織部位を採取した。H&E染色画像において、(a)正常皮下組織(対照)と比較して、(b)hUC-MSC細胞シートは、皮下組織植込み部位において明らかに確認された。その上、(e)細胞シート植込み群において、豊富な血管構造が観察される。(b)における矢印=植え込まれた細胞シート;(e)における矢印=血管。スケールバー(a及びb)及び(e)は、それぞれ100μm及び50μmを指し示す。スケールバー(c及びd)は、0.5cmを指し示した。
【
図8A-B】
図8A~
図8Bは、hUC-MSCシートの細胞間接合関連遺伝子発現レベルを示す。継代12における細胞接合に関連する(a)インテグリン結合タンパク質キナーゼ(ILK)及び(b)N-カドヘリン(Ncad)の遺伝子発現レベルは、継代6におけるレベルよりも低かった。
【
図9A-C】
図9A~
図9Cは、細胞採取プロセスの図解を示す。35mm温度応答性細胞培養皿(TRCD)又は組織培養プレート(TCP)にヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)を播種し、コンフルエントに達するまで5日間培養した。細胞シート技術、化学的破壊及び物理的破壊を表す3種の異なる方法を使用して、hUC-MSCを採取した。A)細胞シートは、温度変化によって切れ目なくかつインタクトな状態で採取され、B)細胞は、酵素によるタンパク質分解(トリプシン)で処理されて、単細胞懸濁物及び細胞凝集塊を生じ、C)細胞は、細胞スクレーパーを使用して物理的に採取されて、不均一な多細胞断片及び凝集塊を生じる。
【
図10A-D】
図10A~
図10Dは、ヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)シートの調製物を示す。(A)従来の組織培養プレート(TCP)又は温度応答性細胞培養皿(TRCD)において細胞を5日間培養した。位相差顕微鏡を使用して、TCP及びTRCDにおいて培養された細胞形態を観察した。(B)TCP又はTRCDにおいて100時間培養したときの細胞数を、血球計数器を使用して計数した。(C)TRCDにおいて培養された細胞は、温度低減によってシートの形で脱離された。(D)採取された細胞シートの組織学的解析をH&E染色によって行って、シートの形の中の個々の細胞体及び核を示した。スケールバーは、A及びDにおいては200μmを、Cにおいては10mmを指し示す。
【
図11A-H】
図11A~
図11Hは、トリプシン タンパク質分解によって採取されたhUC-MSC細胞、及び酵素を用いずに温度変化を使用して採取されたhUC-MSCシートの異なる形態的観察を区別する。(A)走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して観察されたトリプシン処理されたMSC表面の形態。(B)透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して解析された、温度採取されたhUC-MSCシート及びトリプシン処理されたhUC-MSCの微細構造。(E)における白色の矢印は、インタクトなMSCシート細胞接合を指し示し、(H)における暗灰色の矢印は、インタクトなhUC-MSCシートECMを指し示す。SEM及びTEMにおけるスケールバー=5μm。
【
図12A-C】
図12A~
図12Cは、トリプシン処理されたhUC-MSCと比較した、温度採取されたhUC-MSC細胞シートに関するウエスタンブロット及び免疫組織化学的検査を使用した細胞動力学関連タンパク質発現解析を示す。(A)トリプシン処理された細胞と比較した、インタクトな細胞シート(左レーン)におけるF-アクチン、ビンキュリン及びGAPDHのウエスタンブロット(細胞全体のライセート、10mgタンパク質/レーン)。(B)F-アクチン細胞骨格、(C)ビンキュリン及び核DAPI(明るい点状スポット)に関する、トリプシン処理されたhUC-MSC採取(右レーン)と比較した、インタクトなhUC-MSC細胞シート(左画像)の免疫染色蛍光イメージング比較。スケールバー=10μm。
【
図13A-C】
図13A~
図13Cは、トリプシン処理されたhUC-MSC採取(右画像)と比較した、インタクトなhUC-MSC細胞シート(左画像)のウエスタンブロット及び免疫組織化学的蛍光イメージングを使用したECMタンパク質発現比較を示す。(A)細胞全体のライセート(10mgタンパク質/レーン)におけるフィブロネクチン、ラミニン及びGAPDHのウエスタンブロット。(B)フィブロネクチン、(C)ラミニンの免疫染色及び核(nucelar)DAPI(明るいスポット)。スケールバー=10μm。
【
図14A-C】
図14A~
図14Cは、トリプシン処理されたhUC-MSC採取(右レーン)と比較したインタクトなhUC-MSC細胞シート(左画像)のウエスタンブロット及び免疫組織化学的蛍光イメージング比較を使用した、細胞-ECM及び細胞間接合タンパク質発現比較を示す。(A)細胞全体のライセート(10mgタンパク質/レーン)におけるインテグリンβ-1、コネキシン43及びGAPDHのウエスタンブロット。(B)インテグリンβ-1、(C)コネキシン43の免疫染色画像及びDAPI(明るいスポット)。スケールバー=10μm。
【
図15A-C】
図15A~
図15Cは、インタクトなhUC-MSC細胞シートにおける生細胞及び死細胞と、トリプシン処理されたhUC-MSC懸濁物における生細胞及び死細胞を、染料に基づくアッセイを使用して比較する:(A)細胞シート(左側)及びトリプシン処理された細胞懸濁物(右レーン)の生及び死染色の顕微鏡画像。細胞脱離の直後に、カルセイン及びエチジウムホモ二量体-1によって細胞を染色した。スケールバー=100μm;(B)画像解析からの、トリプシン処理されたhUC-MSCと比較した細胞シートに関する生細胞及び死細胞の定量化;(C)(B)に示すグラフの生/死細胞定量化のデータ。
【
図16】
図16は、hUC-MSC細胞シートと、トリプシン処理されたhUC-MSC懸濁物のウエスタンブロットを使用したタンパク質メカノセンサー発現解析を比較する。細胞全体のライセート(10μgタンパク質/レーン)におけるYes関連タンパク質(YAP)、リン酸化YAP及びGAPDHのウエスタンブロット。
【
図17】
図17は、ヒト血小板ライセート(hPL)(左)又はウシ胎仔血清(FBS)(右)を含有する培養培地において調製されたhUC-MSCシートを示す。示されている定規はcm単位である。
【
図18A-B】
図18A~
図18Bは、免疫不全マウスの皮下組織内に植え込まれたhUC-MSCシートにおけるin vivoでのHGF発現の免疫染色蛍光イメージングを示す。植込み後1日目(A)及び10日目(B)に、組織学的観察のためにMSCシート移植皮下組織部位を採取した。hUC-MSCシートからのヒトHGF発現の検出のために抗ヒトHGF抗体で試料を染色し、細胞核をDAPIで染色した。
【
図19A-B】
図19A~
図19Bは、TRCD内で、20%FBSを含有する細胞培養培地において2×10
4、4×10
4、6×10
4、8×10
4又は10×10
4個の細胞/cm
2の初期細胞密度で生成されたhUC-MSCシートを示す(A)。増加する初期細胞密度は、濃度依存的な様式でHGF遺伝子発現を増加させた(B)。
【
図20A-B】
図20A~
図20Bは、継代数の関数として、hUC-MSC単細胞懸濁培養物における(A)及び採取されたMSC細胞シート(B)における、HLAのDR、DP、DQ発現を示す。単細胞懸濁培養物における継代4~12のHLA発現を測定した(A)。(A)におけるパーセンテージは、HLAを発現する細胞のパーセンテージを表す。HLA-DR遺伝子発現は、hUC-MSCシートにおいて検出不能であった一方、ヒト脂肪由来幹細胞(hADSC)又はヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)から同じ様に調製された細胞シートは、比較すると相対的に高レベルのHLA-DR遺伝子発現を示した(B)。
【
図21】
図21は、hUC-MSCシートの移植前の子宮瘢痕発生のヌードラットモデルにおける縫合された子宮を示す。
【
図22】
図22は、ラット子宮への蛍光標識hUC-MSCシート(上段右画像)の移植前及び後の、子宮瘢痕発生のヌードラットモデルにおける縫合された子宮を示す。明るいin vivo顕微鏡画像(下段右画像)は、縫合及びシート移植後のラット子宮におけるin situの蛍光細胞シートを指し示す。
【
図23】
図23は、蛍光標識hUC-MSCシート移植の1、3、7又は14日後に採取されたヌードラット子宮を示す。子宮における/その周りの明るい画像は、保持されたhUC-MSC蛍光細胞シートからのシグナルを指し示す。
【
図24】
図24は、対照(細胞処理なし、縫合のみ)子宮切片と、hUC-MSCシート移植14日後の子宮切片の組織学的比較を示す。対照子宮角横断面は、細胞シート子宮角移植群と比較した染料染色によって、線維性領域増加を表示する。
【
図25】
図25は、シート移植14日後のヌードラット子宮の対照及びhUC-MSC移植角の間で評価される線維性領域を子宮筋層領域と比較する。6匹のラット及び総計18個の組織学的検体を、組織学的染料染色から線維性瘢痕領域に関して評定した(
図24に従う)。
【
図26】
図26は、シート移植14日後のヌードラット子宮の対照及びhUC-MSC移植角の間で評価される線維性領域対子宮筋層領域比を比較する。6匹のラット及び総計18個の組織学的検体を、組織学的染料染色からの線維性瘢痕領域に関して評定した(
図24及び
図25に従う)。
【
図27】
図27は、移植14日後のヌードラット子宮の対照及びhUC-MSCシート移植角の間で瘢痕(対照)及び細胞シート移植領域における厚さ(ミクロン)を比較する。6匹のラット及び総計18個の組織学的検体を、組織学的染料染色試料から線維性厚さに関して評定した。
【
図28A-B】
図28A~
図28Bは、シート蛍光染料染色後の、ヌードラット子宮瘢痕モデル及びhUC-MSC細胞シート移植手順を示す。(a)細胞シート移植プロセスの概略図(i~viを参照):i)子宮角を外科的に露出、ii)両方の子宮腔を開放、iii)創傷を閉鎖、iv)採取された染料標識されたヒト幹細胞シートの漫画と、下にある対応する実際の明視野シート顕微鏡写真の画像、v)緑色蛍光染料によって染色された細胞シートの漫画と、下にある対応する実際の蛍光シート顕微鏡写真の画像、vi)ラット左子宮角のみ(右角対照)への標識された細胞シートの移植。(b)ヌードラットにおけるin situでのhUC-MSC細胞シート移植プロセスの肉眼的in vivo写真。ii)(概略図におけるエレメントiiに対応)外科的に開放された子宮腔であり、破線は、子宮内膜表面を指し示し、iii)子宮創傷閉鎖であり、黒色の矢印は、縫合された子宮部位を指し示し、vi)蛍光染色されたhUC-MSCシートの移植であり、白色の矢印は、子宮縫合線における移植された細胞シートを指し示す。
【
図29A-C】
図29A~
図29Cは、hUC-MSC細胞シート製作を示す。(a)培養物におけるhUC-MSCの倒立(Top-down)顕微鏡画像形態。左列:播種の1日目;右列:播種後5日目、細胞は、培養物表面に集密(confluent)する。スケールバーは、上部顕微鏡画像において=200μm及び下部顕微鏡画像において500μm、(b)採取された細胞シートの肉眼的観察。培養温度を20℃に低減させた後に、細胞シートは、自発的かつ自然に採取される。スケール=1mm。(c)放出されたhUC-MSC細胞シートの組織学的染色された横断面画像。スケールバー=200μm(左)及び50μm(右);右の顕微鏡写真は、左の画像から拡大された差し込みボックスを指し示して、個々の幹細胞核(濃い)及び接続された細胞体と、発現された細胞間接合及び細胞外マトリックスを示す。
【
図30A-B】
図30A~
図30Bは、蛍光染色されたhUC-MSCシートの追跡を示す。(a)in situ蛍光顕微鏡及び明視野顕微鏡を使用して画像化されたヌードラット子宮の肉眼的観察(それぞれ最上段及び2番目の段)。子宮角の水平横断面蛍光画像(3番目の段)。細胞シート蛍光の組織学的イメージング(最下段)。スケールバー=100μm。齧歯類角移植後1及び3日目にin situで確認された、細胞シート由来の明るい蛍光シグナル(矢印)。小型の蛍光染色された断片(矢印)は、移植後7日目に確認された。染色された細胞は、移植後14日目に観察されない。(b)移植後1、3、7及び14日目における、細胞シート移植子宮からのヒト肝細胞増殖因子(HGF)及びヒト血管内皮増殖因子(VEGF)の遺伝子発現。瘢痕対照子宮(細胞シートなし)からのヒトHGFメッセージ(message)及びヒトVEGFメッセージの遺伝子発現は、全ての日で検出されなかった。細胞シート移植及び対照群の間のヒト遺伝子発現の差は、1及び3日目に有意である(*p<0.01)。瘢痕対照子宮遺伝子発現は検出不能であり、データは図示していない。
【
図31A-E】
図31A~
図31Eは、ラット子宮角組織試料における移植後3日目の線維芽細胞数の評価を示す(a~d)。ラット子宮角の、横断面HE染色された組織学的顕微鏡画像(a、b)及び線維芽細胞に特異的な免疫組織学染色されたS100A4タンパク質画像(c、d)。スケールバー=500μm。組織学的画像における濃い破線は、ラット子宮の子宮筋層を指し示す。黒色の矢印は、移植されたヒト臍帯間葉系幹細胞シートを指し示す。子宮瘢痕対照群におけるS100A4陽性染色された細胞(線維芽細胞)は、細胞シート移植群よりも多い存在量を示す。(e)ラット子宮瘢痕対照及びhUC-MSCシート子宮移植群におけるS100A4陽性細胞数を比較するグラフ。瘢痕対照群におけるS100A4陽性細胞は、hUC-MSCシート移植群よりも有意に多い(*p<0.05、n=18)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この開示は、間葉系幹細胞(MSC)シートの移植からもたらされる子宮瘢痕形成の減少及び子宮筋層再生の増加を記載する。例えば、この開示は、子宮の縫合された切開部位へのヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)シートの移植の後の線維性組織の形成の減少及び子宮筋層再生の増加を記載し、hUC-MSCシートの適用が子宮瘢痕形成を低減したことを示す。対照群では、創傷治癒の結果として宿主の子宮筋領域の間に大きな線維性領域が存在していた。対照的に、hUC-MSCシート移植群における線維性領域は対照群におけるより有意に小さかった。具体的には、子宮へのhUC-MSCシートの適用は、子宮の線維性表面積を、対照群と比較して概ね27%低減し、対照群と比較して33%を超えて線維性子宮筋層表面と正常な子宮筋層表面との比を低減した。したがって、hUC-MSCシートの移植は、子宮筋層表面の線維化を有意に低減した。したがって、本明細書に記載されるhUC-MSCシートは子宮瘢痕の治癒を向上させ、異常な子宮瘢痕形成に関係した罹患率を低下させる能力を有する。
【0011】
この開示は、子宮瘢痕形成の低減で使用するためのMSCシートを調製する方法も記載する。例えば、温度応答性ポリマーでコーティングされた温度応答性細胞培養皿(TRCD)を使用して細胞シートをin vitroで調製するために、hUC-MSCを使用した。コンフルエントな細胞シートが播種の4~6日後に形成され、培養を室温に冷却することによってTRCDから脱離された。凝集したコンフルエントな細胞の1つ以上の層を含有する頑強で均一なhUC-MSCシートの生成の成功を可能にする、様々な培養条件を特定した。これらの培養条件には、TRCDに細胞を加える前の継代培養(継代)数の最適化、TRCDにおける初期細胞密度、細胞培養溶液へのヒト血小板ライセート(hPL)などの細胞増殖因子の添加、及び温度応答性ポリマーからの脱離の前のTRCDにおける培養時間が含まれた。
【0012】
I.間葉系幹細胞(MSC)
本明細書に記載される方法で使用するのに好適な間葉系幹細胞(MSC)には、臍帯、臍帯血、肢芽、骨髄、歯組織(例えば臼歯)、脂肪組織、筋肉及び羊水からのMSCが、非限定的に含まれる。
【0013】
特定の実施形態では、間葉系幹細胞はヒト臍帯間葉系幹細胞である。本明細書で使用される用語「ヒト臍帯間葉系幹細胞」又は「hUC-MSC」は、ヒト臍帯から単離された間葉系幹細胞を指す。
【0014】
間葉系幹細胞(MSC)は、主にそれらの特異な免疫調節的役割及び再生能力のために、広範囲の衰弱性疾患を処置する注目すべき臨床潜在能力を有する(Caplan and Sorrell, 2015, Immunol Lett 168(2): 136-139)。ヒトMSCのための便利な供与源は臍帯であり、それは出産後に廃棄されるので治療のための幹細胞へのアクセスが容易で、論争の的にならない供与源を提供する(El Omar et al., 2014, Tissue Eng Part B Rev 20(5): 523-544)。hUC-MSCは、ヒト臨床治験において懸濁物として安全性及び有効性に関して検証されている(Bartolucci et al., 2017, Circ Res, 121(10), 1192-1204)。更に、hUC-MSCは、実験動物疾患モデルにおいて好結果で使用されている(Zhang et al., 2017, Cytotherapy 19(2): 194-199)。
【0015】
臍帯からMSCを単離する方法は当技術分野で公知であり、例えば、参照により完全に本明細書に組み込まれる米国特許第9,903,176号に記載される。ヒト臍帯は、臍動脈、臍静脈、ウォートンゼリー及び上皮下層を含む。一部の実施形態では、hUC-MSCはヒト臍帯の上皮下層から単離される。一部の実施形態では、hUC-MSCは、ヒト臍帯のウォートンゼリーから単離される。上皮下層から単離されるhUC-MSCを同定するために、様々な細胞マーカーを使用することができる。例えば、一部の実施形態では、上皮下層から単離されるhUC-MSCは、CD29、CD73、CD90、CD146、CD166、SSEA4、CD9、CD44、CD146及びCD105から選択される1つ以上の細胞マーカーを発現する。特定の実施形態では、hUC-MSCはCD73を発現する。一部の実施形態では、上皮下層から単離されるhUC-MSCは、CD45、CD34、CD14、CD79、CD106、CD86、CD80、CD19、CD117、Stro-1、HLA-DR、HLA-DP及びHLA-DQから選択される1つ以上の細胞マーカーを発現しない。特定の実施形態では、hUC-MSCは、HLA-DR、HLA-DP又はHLA-DQを発現しない。一部の実施形態では、本明細書に記載される細胞シートは、低いHLA発現を有する間葉系幹細胞(MSC)で調製され、例えば、細胞シートの中のMSCの5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%又は0.1%未満が、HLA(例えばHLA-DR、HLA-DP及び/又はHLA-DQ)を発現する。
【0016】
臍帯中のhUC-MSCは細胞外マトリックス(ECM)によって囲まれ、細胞間接合構造によって他のタイプの臍帯細胞(例えば、内皮細胞、上皮細胞、筋細胞及び線維芽細胞)に連結される。臍帯中の内因性hUC-MSCと対照的に、本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、hUC-MSCが他のタイプの臍帯細胞にではなく他のhUC-MSCに連結されている、凝集したコンフルエントなhUC-MSCの1つ以上の層を含む。本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、いくつかの点でhUC-MSC懸濁培養物とも異なる。hUC-MSCの懸濁培養物は、それらの細胞間接合の中のそれらの細胞接着性タンパク質は、細胞懸濁培養物の調製に一般的に使用される培養表面から、細胞を採取して懸濁させるために除去しなければならないので(例えばタンパク分解性トリプシン処理によって)、ECM又は細胞間接合が欠如している単一細胞を含む。hUC-MSCの単一細胞懸濁物と対照的に、本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、細胞によって生成される内因性ECM及び細胞シートの形成中に生成されるhUC-MSCの間のインタクトな細胞間接合を含有する。細胞シートの形成、製作及び取扱いの間に保持される内因性ECM及び固有の(intrinsic)細胞間接合は、宿主生物体への移植の間のそれらの表現型の保存、細胞機能及び標的組織へのhUC-MSCシートの接着のための重要な特性の保持を容易にする。
【0017】
II. MSCから生成される細胞シート
ある特定の態様では、本開示は、コンフルエントな間葉系幹細胞(MSC)の1つ以上の層を含む間葉系幹細胞シートに関する。本明細書で使用される用語「間葉系幹細胞シート」又は「MSCシート」は、in vitroにおいて細胞培養支持体の上で間葉系幹細胞を増殖させることによって得られる細胞シートを指す。一部の実施形態では、MSCシート中のMSCは凝集しているか又は物理的に連続している。一部の実施形態では、間葉系幹細胞シートは、ヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)シートである。本明細書に記載されるMSCシートは、いかなる酵素処理もなしに温度応答性培養皿(TRCD)を使用して温度シフトによってインタクトなシートとして採取される。MSCシートは、組織様構造、アクチンフィラメント、細胞外マトリックス、細胞間タンパク質及び高い細胞生存能力を保持することによってそれらの完全性及び形状を維持するが、これらの全ては細胞生存及び細胞機能の向上に関係する。したがって、本明細書に記載される細胞シートは、天然の細胞外マトリックス、細胞接着タンパク質及び細胞接合タンパク質を含む、細胞生存及び細胞機能を向上させる構造的特色を含むことができる。したがって、本明細書に記載される方法によって調製されるMSCシートは、他の方法によって生成されるMSCと比較していくつかの有益な特徴を有する。例えば、酵素処理は細胞外及び細胞内タンパク質(細胞間及び細胞とECMの間の接合)を破壊するので、化学的破壊方法は細胞の組織様構造並びに細胞間連絡(cell-cell communication)を維持することができない。したがって、酵素によるタンパク質切断は、細胞生存能力及び細胞機能を低下させる。物理的破壊(すなわち、ゴムポリスマン又は培地吸引による)は、細胞間接合の破壊及び培養された接着性シートの細胞凝集体への崩壊をもたらす。
【0018】
一部の実施形態では、細胞外マトリックスは、フィブロネクチン、ラミニン及びコラーゲンからなる群から選択される1つ以上のタンパク質を含む。一部の実施形態では、細胞接合タンパク質は、ビンキュリン、インテグリン-β1、コネキシン43、β-カテニン、インテグリン連結キナーゼ及びN-カドヘリンからなる群から選択される。
【0019】
細胞シート中のMSCは、追加の構造的特色、例えば微小絨毛及び糸状仮足を維持することもできる。微小絨毛は、吸収、分泌及び細胞接着を含む多種多様の細胞機能に関与する細胞膜突起である。糸状仮足は、細胞間相互作用において役割を果たす細胞質突起である。したがって、これらの構造的特色の維持は、それらの適用のために有益である細胞機能及びシグナル伝達を維持するのを助けることもできる。
【0020】
一部の実施形態では、細胞シートはMSCからなる。一部の実施形態では、細胞シートはMSCから本質的になる。一部の実施形態では、細胞シート中の細胞の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%はMSCである。一部の実施形態では、細胞シート中の細胞の100%がMSCである。
【0021】
細胞シートの形成又はその特徴を最適化するために、MSCは様々な細胞密度で細胞培養支持体中の温度応答性ポリマーの上の培養液に加えることができる。例えば、細胞培養支持体(例えばTRCD)中のMSCの初期細胞密度を制御することによって、MSC中のサイトカイン発現レベルを最適化することができる。一部の実施形態では、細胞培養支持体中のMSCの初期細胞密度を増加させることは、サイトカイン発現(例えば、HGF)を増加させる。一部の実施形態では、細胞培養支持体中のMSCの初期細胞密度を増加させることは、サイトカイン発現を減少させる。一部の実施形態では、細胞シートの調製のために使用される細胞培養支持体中のMSCの初期細胞密度は、0.5×104/cm2から9×105/cm2である。一部の実施形態では、細胞培養支持体中のMSCの初期細胞密度は、少なくとも0.5×104、1×104、2×104、3×104、4×104、5×104、6×104、7×104、8×104、9×104、1×105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×105、7×105、8×105又は9×105個の細胞/cm2である。細胞培養支持体中のMSCの初期細胞密度の範囲を規定するために、これらの値のいずれかを使用することができる。例えば、一部の実施形態では、細胞培養支持体中の初期細胞密度は、2×104から1×105個の細胞/cm2、4×104から1×105個の細胞/cm2、又は1×104から5×104個の細胞/cm2である。
【0022】
本明細書に記載されるMSCシートは、治療的使用のために宿主生物体(例えば、ヒト)の標的組織に移植することができる。標的組織へのMSCシートの移植は、宿主組織中の新しい毛細血管の形成(血管新生)並びに移植された細胞シートと宿主組織の間の血管形成を促すことができる。この新毛細管形成は、生着、生存能力及び組織再生のための重要な機能である。更に、標的組織の上のシートへのこの新血管補充は、この生着をモジュレートするために植え込まれたMSCシートが連続的にパラクリン因子を分泌することを示唆する。
【0023】
一部の実施形態では、MSCシートは、1つ以上のサイトカイン、例えば、1つ以上の抗炎症サイトカイン及び/又は1つ以上の炎症性サイトカインを発現する。一部の実施形態では、抗炎症サイトカインは、肝細胞増殖因子(HGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)及びインターロイキン-10(IL-10)に由来する。一部の実施形態では、炎症性サイトカインは腫瘍壊死因子-α(TNF-α)である。一部の実施形態では、細胞シート中のサイトカイン発現(例えば、抗炎症サイトカイン又は炎症性サイトカイン)は、同等数の細胞を含有するMSC懸濁物と比較して増加する。一部の実施形態では、サイトカイン(例えば、抗炎症サイトカイン又は炎症性サイトカイン)の発現は、同等数の細胞を含有するMSC懸濁物と比較して減少する。一部の治療的使用の場合、細胞シートによる炎症性サイトカインの分泌を低減させることが有益であろう。例えば、特定の実施形態では、細胞シートは、in vitroにおいて24時間あたり培養液1mLにつき100、90、80、70、60、50、40又は30pg未満の速度で培養液中に腫瘍壊死因子-α(TNF-α)を分泌する。
【0024】
本明細書に記載されるMSCシートは、宿主生物体の標的組織への移植後にサイトカインを連続して発現することができる。一部の実施形態では、細胞シートは、宿主生物体の組織への移植後に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25又は30日間、サイトカインを発現する。一部の実施形態では、細胞シートは、宿主生物体の組織への移植後に少なくとも1、2、3、4、5又は6カ月間、サイトカインを発現する。
【0025】
本明細書に記載されるMSCシートは、宿主生物体の標的組織への移植後に細胞外マトリックスタンパク質及び細胞接合タンパク質を連続して発現することもできる。例えば、一部の実施形態では、細胞シートは、宿主生物体の組織への移植後に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25又は30日間、細胞外マトリックスタンパク質及び/又は細胞接合タンパク質を発現する。一部の実施形態では、細胞シートは、宿主生物体の組織への移植後に少なくとも1、2、3、4、5又は6カ月間、細胞外マトリックスタンパク質及び/又は細胞接合タンパク質を発現する。一部の実施形態では、移植後に細胞シートの中で発現される細胞外マトリックスタンパク質は、フィブロネクチン、ラミニン及びコラーゲンから選択される。一部の実施形態では、移植後に細胞シートの中で発現される細胞接合タンパク質は、ビンキュリン、インテグリン-β1、コネキシン43、β-カテニン、インテグリン連結キナーゼ及びN-カドヘリンから選択される。
【0026】
現行の幹細胞療法は、生検から単離される培養された幹細胞を注射用細胞懸濁物としてしばしば使用する(Bayoussef et al., 2012, J Tissue Eng Regen Med, 6(10))。注射される細胞懸濁物は、病気の臓器又は組織へのより低い生着及びその中での、より低い保持を一般的に示す(Devine et al., 2003, Blood, 101(8), 2999-3001)。採取時の酵素的破壊による幹細胞懸濁物中のインタクトなECM及び細胞間接合(すなわち、連絡)の喪失は、in vivoにおける幹細胞機能、生着及び生存を損なわせ、in vivoにおける治療有効性を制限する可能性がある。対照的に、本明細書に記載されるMSCシートの調製方法は、固有の細胞機能構造を保存し、移植後の標的組織への細胞シートの付着を向上させる。例えば、一部の実施形態では、細胞シートは、宿主生物体の組織への移植後に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25又は30日間、宿主生物体の標的組織に付着したままである。一部の実施形態では、細胞シートは、宿主生物体の組織への移植後に少なくとも1、2、3、4、5又は6カ月間、宿主生物体の標的組織に付着したままである。
【0027】
ヒト白血球抗原(HLA)は、ヒトにおいて主要組織適合性複合体(MHC)タンパク質を構成する細胞表面タンパク質であり、免疫系の調節の役割を担う。HLAマーカーは、組織移植及び宿主受入れを制御するために重要である。MHCクラスIIに対応するHLA(DP、DM、DO、DQ及びDR)は、「自己」としての宿主認識をモジュレートするために細胞表面から宿主Tリンパ球に抗原を提示する。これらの抗原はヘルパーT細胞(CD4+T細胞)の増殖を刺激し、それは次に抗体産生B細胞を刺激してその特異抗原に対する抗体を生成する。したがって、HLAの発現を最小にすることは、宿主生物体において移植されたhUC-MSCシートへの宿主免疫応答を最小にするために有益である。一部の実施形態では、本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、ヒト白血球抗原-DRアイソタイプ(HLA-DR)、ヒト白血球抗原-DPアイソタイプ(HLA-DP)又はヒト白血球抗原-DQアイソタイプ(HLA-DQ)の1つ以上を発現しない。一部の実施形態では、細胞シートの中のhUC-MSCの5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%又は0.1%未満は、HLA(例えばHLA-DR、HLA-DP及び/又はHLA-DQ)を発現する。
【0028】
III. in vitroでMSCシートを生成する方法
ある特定の態様では、本開示は、凝集したコンフルエントな間葉系幹細胞(MSC)の1つ以上の層を含む細胞シートを生成する方法であって、
a)例えば、よく見られるように細胞培養支持体の基質表面に薄膜としてコーティングされた温度応答性ポリマー表面の上の培養液中でMSCを培養するステップであって、温度応答性ポリマーは0~80℃の水中でのより低い臨界溶液温度を有するステップ、
b)ポリマーのより低い臨界溶液温度未満に培養液の温度を調整し、それによって基質表面を親水性にし、表面への細胞シートの接着を弱体化するステップ、及び
c)培養支持体から細胞シートを脱離するステップ
を含む方法に関する。
【0029】
一部の実施形態では、MSCは、ヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)である。hUC-MSCを単離する方法は当技術分野で公知であり、例えば、参照により完全に本明細書に組み込まれる米国特許第9,803,176号に記載される。例えば、hUC-MSCは、臍帯を洗浄して血液、ウォートンゼリー及び任意の他の物質を除去し、臍帯から上皮下層(SL)を切り裂く(dissect)ことによって臍帯の上皮下層から単離することができる。臍帯組織は、ダルベッコリン酸緩衝食塩水(DPBS)などのリン酸緩衝食塩水(PBS)の溶液の中で複数回洗浄してもよい。PBSは、血小板ライセート(すなわち、血小板ライセートの10% PRPライセート)を含むことができる。SLは、次に内側を下にして基質の上に置くことができる。ウォートンゼリーが除去された、切り裂かれた臍帯の全体を基質の上に直接置くか、又は切り裂かれた臍帯をより小さい断片(例えば1~3mm)に切断し、これらの断片を基質の上に直接置くことができる。基質は、細胞培養皿などの固体ポリマー材であってよい。SLは細胞培養処理プラスチックへの追加の前処理なしで細胞培養皿の基質の上に置くことができるか、又は寒天などの半固体培養培地の上に置くことができる。基質の上にSLを置いた後、SLを好適な培地で培養する(例えば、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(フェノールレッドなしで、グルコース(500~6000mg/mL)、1×グルタミン、1×NEAA及び0.1~20% PRPライセート又は血小板ライセート))。培養は次に正常酸素圧又は低酸素培養条件下で、一次細胞培養を確立するのに十分な時間(例えば3~7日間)培養することができる。一次細胞培養が確立された後、SL組織を除去して廃棄する。細胞又は幹細胞は、正常酸素圧又は低酸素培養条件でより大きな培養フラスコの中で更に培養し、増大化する。
【0030】
細胞シートを調製するための一般方法は当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第8,642,338号、第8,889,417号、第9,981,064号、及び第9,114,192号に記載され、各々は参照により完全に本明細書に組み込まれる。
【0031】
細胞培養支持体の基質をコーティングするために使用される温度応答性ポリマーは水性溶液中でより高いか又は低い臨界溶液温度を有し、それは一般的に0℃から80℃、例えば、10℃から50℃、0℃から50℃又は20℃から45℃の範囲内にある。
【0032】
温度応答性ポリマーは、ホモポリマー又はコポリマーであってよい。例示的なポリマーは、例えば、特開211865/1990号に記載される。具体的には、それらは単量体、例えば(メタ)アクリルアミド化合物((メタ)アクリルアミドはアクリルアミド及びメタクリルアミドの両方を指す)、N-(又は、N,N-ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体及びビニルエーテル誘導体のホモ重合又は共重合によって得ることができる。コポリマーの場合、上記の単量体などの任意の2つ以上の単量体を用いることができる。更に、それらの単量体は他の単量体と共重合させることができるか、1つのポリマーを別のものにグラフトすることができるか、2つのポリマーを共重合させることができるか、又はポリマー及びコポリマーの混合物を用いることができる。所望により、ポリマーは、それらの固有の特性を損なわない程度まで架橋させることができる。
【0033】
ポリマーでコーティングされる基質は、細胞培養で一般的に使用されるもの、例えばガラス、改変されたガラス、酸化シリコン、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリエステル、ポリカーボネート及びセラミックを含む任意のタイプであってよい。
【0034】
支持体を温度応答性ポリマーでコーティングする方法は当技術分野で公知であり、例えば特開211865/1990号に記載される。具体的には、そのようなコーティングは、基質及び上記の単量体又はポリマーを例えば電子ビーム(EB)曝露、γ線による照射、紫外線による照射、プラズマ処理、コロナ処理又は有機重合反応にかけることによって達成することができる。
【0035】
温度応答性ポリマーのカバレージは、0.4~3.0μg/cm2、例えば、0.7~2.8μg/cm2又は0.9~2.5μg/cm2の範囲内にあってよい。細胞培養支持体の形態は、例えば、皿、マルチプレート、フラスコ又は細胞インサートであってよい。
【0036】
培養された細胞は、支持材の温度を支持体基質の上のポリマーが水和し、その結果細胞を脱離することができる温度に調整することによって、細胞培養支持体から脱離し、回収することができる。細胞シートと支持体の間のギャップに水流を加えることによって、円滑な脱離を実現することができる。細胞シートの脱離は、細胞が培養された培養液又は他の等張性液のいずれか好適であるものの中で作用させることができる。
【0037】
特定の実施形態では、温度応答性ポリマーは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である。ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)は、31℃の水中でのより低い臨界溶液温度を有する。それが遊離状態である場合、それは31℃より上の温度の水の中で脱水を起こし、ポリマー鎖は凝集して汚濁を引き起こす。反対に、31℃以下の温度では、ポリマー鎖は水和して水に溶解し、それによってポリマーからの細胞シートの放出を引き起こす。特定の実施形態では、このポリマーはペトリ皿などの基質の表面をカバーし、その上に固定化される。したがって、31℃より上の温度で、基質表面のポリマーも脱水するが、ポリマー鎖は基質表面をカバーし、その上に固定化されるので、基質表面は疎水性になる。反対に、31℃以下の温度では、基質表面のポリマーは水和するが、ポリマー鎖は基質表面をカバーし、その上に固定化されるので、基質表面は親水性になる。疎水性の表面は、細胞の接着及び増殖のための適当な表面であるが、親水性の表面は細胞の接着を阻害し、細胞は単に培養液を冷却することによって脱離される。
【0038】
間葉系幹細胞のための培養液は当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第9,803,176号及び第9,782,439号に記載され、それぞれは参照により完全に本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、細胞培養液はヒト血小板ライセート(hPL)を含む。一部の実施形態では、培養液はウシ胎仔血清(FBS)を含む。一部の実施形態では、培養液はアスコルビン酸を含む。一部の実施形態では、培養液は、ゼノフリー培地、すなわちヒトから得られる生成物を含有することができるが、非ヒト動物から得られる生成物を含有しない培地である。一部の実施形態では、培養液は、非ヒト動物から得られる少なくとも1つの生成物(例えばFBS)を含有する。一部の実施形態では、培養液は、ヒトから得られる生成物を含有しない。特定の実施形態では、培養液は、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Life Technologies、CA、USA)、ヒト血小板ライセート(hPL、iBiologics、Phoenix、USA)、Glutamax(Life Technologies)、MEM非必須アミノ酸溶液(NEAA)(Life Technologies)及び抗生物質、例えばペニシリン、ストレプトマイシンの1つ以上を含む。
【0039】
MSC(例えばhUC-MSC)は、細胞培養支持体の基質表面にコーティングされた温度応答性ポリマーの上の培養液で細胞を培養する前に、1回以上の継代培養(すなわち、継代)を経ることができる。一部の実施形態では、MSC(例えばhUC-MSC)は、細胞培養支持体の基質表面にコーティングされた温度応答性ポリマーの上の培養液で細胞を培養する前に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15回の継代培養を経る。継代培養の回数の範囲を規定するために、これらの値のいずれかを使用することができる。例えば、一部の実施形態では、MSC(例えばhUC-MSC)は、温度応答性ポリマーの上で細胞を培養する前に、2~10回、4~8回又は1~12回の継代培養を経る。一部の実施形態では、継代培養の回数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15回未満である。一部の実施形態では、継代培養の回数は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15回である。
【0040】
MSCシートは、適用によってある範囲の異なるサイズで調製することができる。一部の実施形態では、MSCシートは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15又は20cmの直径を有する。MSCシートのサイズの範囲を規定するために、これらの値のいずれかを使用することができる。例えば、一部の実施形態では、MSCシートは、1から20cm、1から10cm又は2から10cmの直径を有する。一部の実施形態では、MSCシートは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250又は300cm2の面積を有する。MSCシートのサイズの範囲を規定するために、これらの値のいずれかを使用することができる。例えば、一部の実施形態では、MSCシートは、1から100cm2、3から70cm2又は1から300cm2の面積を有する。本明細書に記載される方法は、hUC-MSCシートの表面積がその厚さより大いに大きいhUC-MSCシートをもたらす。例えば、一部の実施形態では、hUC-MSCシートの表面積とその厚さとの比は、少なくとも10:1、100:1、1000:1又は10,000:1である。本明細書に記載されるhUC-MSCシートは、コンフルエントなヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)の1つ以上の層、例えばhUC-MSCの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ又は10個の層を含む。一部の実施形態では、hUC-MSCシートは、hUC-MSCの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ又は10個未満の層を含む。一部の実施形態では、hUC-MSCシートは、hUC-MSCの少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ又は10個の層を含む。
【0041】
IV. 子宮において線維性組織の形成を低減し、子宮筋層再生を増加させるためにMSCシートを使用する方法
一部の態様では、本開示は、それを必要とする対象の子宮において線維性組織の形成を低減する方法であって、対象の子宮に間葉系幹細胞(MSC)シートを適用するステップを含み、このSCシートは凝集したコンフルエントな間葉系幹細胞(MSC)の1つ以上の層を含み、子宮にMSCシートを適用することにより、MSCシートが適用されない子宮と比較して子宮における線維性組織の形成が低減される方法に関する。
【0042】
一部の態様では、本開示は、それを必要とする対象の子宮において子宮筋層再生を増加させる方法であって、対象の子宮に間葉系幹細胞(MSC)シートを適用するステップを含み、MSCシートは凝集したコンフルエントな間葉系幹細胞(MSC)の1つ以上の層を含み、子宮にMSCシートを適用することにより、MSCシートが適用されない子宮と比較して子宮筋層再生が増加する方法に関する。
【0043】
子宮は、4つの層、子宮内膜上皮、子宮内膜間質、子宮筋層及び子宮外膜を含む。子宮内膜は、内部の層として上皮及び間質層を含む。それは、基底層及び機能層を有する。機能層は厚くなり、次に月経周期又は発情周期の間に脱落する。子宮筋層は、主に子宮平滑筋細胞(別名、子宮筋細胞)からなるが、支持する間質及び脈管組織からもなる、子宮壁の中間層である。子宮筋層の主要な機能は、子宮収縮を誘導することである。子宮の外側の層は、子宮外膜である。
【0044】
帝王切開分娩の場合、母体の下腹部を通して約15cmの切開が一般的に施術され、次に第2の切開によって子宮が切開され、新生児が出産される。切開は次に複数の組織層で縫い合わされて閉じられる。
【0045】
除去される筋腫結節である筋腫摘出などの他の子宮手術の場合、病巣のサイズに依存する任意の長さ及び位置の切開が、患者の下腹部又は内視鏡下手術のための腹部の穴を通して施術され、正常な組織と異常な組織の間の境界線における切開で病巣が取り出される。切開は次に単一又は複数の組織層で縫い合わされて閉じられる。子宮手術の後、初期の瘢痕は一般的に線維組織であり、その線維性瘢痕は弱く、断裂及び他の問題を起こしやすく、正常な瘢痕形成、リモデリング及び子宮筋層再生による緩和を必要とする。
【0046】
MSCシートは、非外科的処置の後に使用することもできる。例えば、一部の実施形態では、MSCシートは、頸管拡張子宮内膜掻爬術(D&C)の後(例えば流産の後)、又は子宮筋腫の除去の後に子宮に適用される。MSCシートは、細胞シートを経膣的に利用する内視鏡で適用することができる。
【0047】
本明細書に記載されるMSCシートの1つの利点は、適用される細胞シートの細胞外マトリックスが対象の子宮組織に細胞シートを結合する天然の接着剤として作用し、そのため組織に細胞シートを接着するのに縫合(suture)も縫い合わせる(stitch)ことも必要とされないことである。MSCシートを対象の子宮組織に移動するために、支持膜又は他の器具を使用して、その後シート移動の後に取り出すことができる。支持体は、例えば、ポリ(ビニリデンジフルオリド)(PVDF)、酢酸セルロース、セルロースエステル、プラスチック及び金属であってよい。MSCシートは標的組織に容易に接着し、標的組織の上に短時間直接置かれた後に縫合なしに自己安定化する。例えば、一部の実施形態では、MSCシートは、組織との接触から5、10、15、20、25又は30分以内に標的組織に接着する。MSCシートが子宮組織に接着すれば、支持膜を摘出(excise)することができる。ある特定の実施形態では、細胞シート中のMSCは対象に対して同種異系である、すなわち対象と同じ種の異なる個体から単離され、そのため1つ以上の遺伝子座の遺伝子は同一でない。ある特定の報告された症例では、MSCはヒト及び動物モデルにおいて同種異系拒絶を回避するようである(Jiang et al., 2005, Blood, 105(10), 4120-4126)。したがって、本明細書に記載されるMSCシートは、既製の製品として同種異系細胞療法で使用することができる。
【0048】
同種異系細胞供与源は、宿主患者同種異系組織において標準の免疫適格性の下で意味のある治療を導き出すことが可能でなければならない。これには治療目的の組織部位への信頼できる細胞指向性、及びそこでの十分な期間の分割量(fractional dose)の生着又は保持が含まれる(Leor et al., 2000, Circulation, 102(19 Suppl 3), III 56-61)。現在の予想は、幹細胞懸濁物が対象に投与される場合、虚血性傷害に続く注射の3日後に、注射された幹細胞の3%未満が傷害を受けた心筋で保持されるというものである(Devine et al., 2003, Blood, 101(8), 2999-3001)。更に、標的組織に生着される細胞懸濁物からのほとんどの投与された細胞は、最初の数週間以内に死ぬ(Reinecke & Murry, 2002, J Mol Cell Cardiol, 34(3), 251-253)。対照的に、本明細書に記載されるMSC細胞シートは、移植の7日後に宿主組織に高い分割保持で安定して生着される。したがって、本明細書に記載されるMSCシートは、注射又は投与される間葉系幹細胞懸濁物と比較して異なる利点を提供する。
【0049】
一部の実施形態では、MSCシートは子宮の切開部位に適用される。一部の実施形態では、MSCシートが子宮に(例えば、子宮筋層の上部切開部位に)適用される前に、切開は縫合されて閉じられる。一部の実施形態では、子宮へのMSCシートの適用により、MSCシートが適用されない子宮と比較して、子宮の線維性面積が少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%低減する。一部の実施形態では、子宮へのMSCシートの適用により、MSCシートが適用されない子宮と比較して、帝王切開分娩の後の子宮瘢痕の厚さが少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%低減する。
【0050】
対象が以前に1回以上の帝王切開分娩又は以前に少なくとも1回の子宮手術を経験している場合、帝王切開分娩の合併症のリスクはしばしば増加する。一部の実施形態では、対象は以前に帝王切開分娩もいかなる子宮手術も受けていない。一部の実施形態では、対象は以前に少なくとも1、2、3、4、5、6、7又は8回の帝王切開分娩及び以前に少なくとも1回の子宮手術を受けていた。
【0051】
本明細書に記載される方法では、複数のMSCシートを子宮に適用することができる。一部の実施形態では、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はそれより多くのMSCシートを子宮に適用することができる。子宮に適用されるMSCシートの数の範囲を規定するために、これらの値のいずれかを使用することができる。例えば、一部の実施形態では、2~4、3~5又は1~10個のMSCシートが子宮に適用される。
【0052】
[実施例]
[実施例1]
ゼノフリー培地において調製された臍帯間葉系幹細胞シートの特性
材料と方法
1.1 ヒト臍帯幹細胞(hUC-MSC)培養
バンクに保存された、ヒト臍帯組織の上皮下層から単離されたヒト臍帯間葉系幹細胞(Jadi Cell LLC、Miami、USA IRB-35242)(Patelら、2013、Cell Transplant、22(3)、513~519)を、10%ヒト血小板ライセート(hPL、iBiologics、Phoenix、USA)、1%Glutamax(Life Technologies)、1%MEM NEAA(Life Technologies)、1%ペニシリン・ストレプトマイシン(Life Technologies)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Life Technologies、CA、USA)を含有するゼノフリー細胞培養培地において、37℃で、5%CO2の加湿雰囲気下にて5日間培養した。継代4から継代12まで、継代培養を行った。細胞培養培地を2日毎に交換した。
【0053】
1.2 hUC-MSC増殖速度
35mm組織培養プレート(TCP)(Corning、NY)に、5×104、1×105及び2×105個の細胞/皿の細胞数(すなわち、それぞれ5×103/cm2、1×104/cm2及び2×104/cm2の初期細胞密度)で、ゼノフリー細胞培養培地においてhUC-MSCを播種した。TCPにおける細胞を、トリプシンを用いて解離させ、血球計数器を使用して、1、2、3、4、5及び6日目に細胞数を計数した。3.5×103/cm2の細胞密度で、175cm2組織培養フラスコ(Corning、NY)にhUC-MSCを播種し、継代4から12まで培養した後に、TrypLE(life technologies)により5日目に継代した。血球計数器を使用して各継代で細胞数を計数した。
【0054】
1.3 分化能におけるhUC-MSC特徴付け
TCPにおいて2回の継代にわたり、ゼノフリー細胞培養培地においてhUC-MSCを培養した。継代4、6、8、10及び12において、造骨性及び脂肪生成性の分化のために細胞を調製及び誘導した。造骨性分化のため、5×103個の細胞/cm2で、35mmのTCP皿において、ゼノフリー細胞培養培地に細胞を蒔いた。60%コンフルエントになったら、αMEM、10nMデキサメタゾン、82μg/mLアスコルビン酸2-リン酸塩、10mM β-グリセロールリン酸塩(glycerolphosphate)(Sigma-Aldrich)を含有する造骨性分化培地により細胞を誘導した。造骨性培地において37℃で21日間細胞を培養し、培地を3日毎に交換した。陽性分化を検出するために、標準プロトコールを使用して、細胞を冷4%パラホルムアルデヒドで12分間固定し、アリザリンレッドS-(Sigma-Aldrich)で染色した。脂肪生成分化のため、1×104個の細胞/cm2で、35mmのTCP皿において、ゼノフリー細胞培養培地に細胞を蒔いた。80%コンフルエントになったら、高グルコースDMEM、100nMデキサメタゾン、0.5mM IBMX及び50μM IND(全てSigma-Aldrich)を含有する脂肪生成分化培地により細胞を誘導した。脂肪生成培地において37℃で21日間細胞を培養し、培地は3日毎に交換した。陽性分化を検出するために、標準プロトコールを使用して、細胞を冷4%パラホルムアルデヒドで12分間固定し、オイルレッドO(Sigma-Aldrich)で染色した。
【0055】
1.4 hUC-MSC表面表現型アッセイ
TCPでゼノフリー細胞培養培地においてhUC-MSCを培養した。HPL及びFBSで培養されたP6、P8、P10及びP12細胞の細胞懸濁物を調製した。次に、細胞を酵素により脱離し、PBSで1回洗浄した。抗体の非特異的結合を最小化するために、細胞をPBSにおける2%w/vウシ血清アルブミン(BSA)と共に30分間インキュベートした。次に、3~5×105/100μLの濃度で細胞をアリコートに分けた。1つのアリコートを未染色対照として確保し、残りを次の抗体で染色した:CD44、CD90及びHLA-DR、DP、DQ(Biolegend、San Diego、CA)。各アリコートに一次抗体を加えて、緩衝剤中の細胞と抗体との約20:1の比を達成した。約3~5×105個の細胞を、飽和濃度の(フルオロフォア)コンジュゲート抗体で染色した。細胞を暗所にて氷上で30分間インキュベートした。インキュベーション後に、細胞を3回洗浄し、次いでPBSに再懸濁した。細胞をフローサイトメトリーによって直ちに解析した。Becton、Dickinson FACS Canto(BD Biosciences、Sparks、MD)においてフローサイトメトリーを行った。未染色細胞を使用して、フローサイトメーター機器を設定した。前方対側方散乱によって細胞をゲーティングして、ダブレットを排除した。解析毎に最小で10,000事象が計数された。
【0056】
1.5 異なる初期細胞数及び継代数を使用したhUC-MSCシート調製
温度応答性細胞培養皿(TRCD)において、異なる初期細胞密度及び継代数を含む様々な条件下で、hUC-MSCシートを調製した(
図2)。35mm TRCD(CellSeed Inc.、Tokyo、Japan)において、5×10
4個の細胞/皿、1×10
5個の細胞/皿及び2×10
5個の細胞/皿の細胞数で、継代6細胞を播種した。2×10
5個の細胞/皿の細胞数(すなわち、2×10
4/cm
2の初期細胞密度)で、継代4~12細胞を播種した。細胞シートを作製するための16.4μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich、St. Louis、USA)を含む新鮮なゼノフリー細胞培養培地を播種後1日目に加えた。播種後4~6日目に形成されたコンフルエントな細胞シートを、室温でTRCDから脱離した。細胞シート脱離前に、Axio Visionソフトウェア(Carl Zeiss Microimaging)によりAX 10顕微鏡(Carl Zeiss Microimaging、Gottingen、Germany)を使用して細胞形態をモニターした。
【0057】
1.6 免疫組織化学的染色
培養された細胞シートを室温でTRCDから除去し、4%パラホルムアルデヒドで30分間固定し、次いでパラフィンに包埋した。包埋された検体を4μmスライスの切片にし、H&E、幹細胞表面マーカー、ECM(フィブロネクチン;FN及びラミニン;LM)及び細胞間接合(インテグリン連結キナーゼ;β-カテニン)で染色した。蛍光染色のため(FN、LM及びβ-カテニン)、スライドを抗原賦活化溶液(Sigma-Aldrich)に20分間100℃で浸漬し、PBS 1×で洗浄した。10%ヤギ血清(Vector Laboratories、Burlingame、USA)を含有するPBS 1×において非特異的結合を1時間室温でブロッキングした。一次抗体標識(Abcam、Cambridge、USA)(1:100)を4℃で一晩進め、次いでPBS 1×で洗浄した。これらの検体を、Alexa Fluor 594コンジュゲート二次抗体(Life Technologies)(1:200)で1時間処理し、ProLong Gold褪色防止試薬(Life Technologies)を用いてマウントした。AX 10顕微鏡(Carl Zeiss Microimaging)を使用して免疫蛍光画像を得て、Axiovisionソフトウェア(Carl Zeiss Microimaging)により解析した。H&E染色のため、検体をヘマトキシリン溶液(Sigma-Aldrich)で3分間、その後、エオシン溶液(Thermo Fisher Scientific、Kalamazoo、USA)で5分間処理した。H&E染色した検体を脱水し、Permount(商標)(Thermo Fisher Scientific)を用いてマウントした。BX 41顕微鏡(Olympus、Hamburg、Germany)を使用して、H&E画像を得た。
【0058】
1.7 透過型電子顕微鏡を使用して観察される細胞シート微細構造
hUC-MSCシートを、リン酸ナトリウム緩衝剤における2%パラホルムアルデヒド、2%グルタルアルデヒド、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝剤及び2%四酸化オスミウム(OsO4)の混合物で固定し、エタノールの段階的系列(grade series)において脱水した。次に、試料をエポキシ樹脂に包埋した。透過型電子顕微鏡(JEOL JEM1200EX)(JEOL USA、Peabody、USA)を用いて超薄切片(70nm厚さ)を観察した。
【0059】
1.8 hUC-MSCシートからの肝細胞増殖因子(HGF)及び腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)分泌の決定
TRCDにおいてhUC-MSC細胞シートを製作した。室温(RT)でTRCDからの細胞シート脱離の直前に、24時間接着性の培養された細胞の上にある上清培地を収集した。hUC-MSCから分泌されたHGF及びTNF-α量を、それぞれヒトHGF Quantikine ELISA及びヒトTNF-α Quantikine ELISAキット(R&D Systems、Minneapolis、USA)によって、測定した。
【0060】
1.9 免疫不全マウス皮下組織への細胞シート配置
4日間の培養後にRTでTRCDからhUC-MSC(継代6)細胞シートを脱離し、6週齢の免疫不全マウス(NOD.CB17-Prkdcscid/NCrCrl)(Charles River、San Diego、USA)の皮下背側組織に移植した。滅菌した非細胞毒性シリコーン膜(Invitrogen)を、細胞シート及び皮下背側組織の間に配置して、組織接着を妨げた。細胞シート移植10日後に、植え込まれたマウスを屠殺した。細胞シート移植された皮下組織を、組織学的解析のために10%パラホルムアルデヒド(Sigma-Aldrich)で1日間固定した。全手順は、ユタ大学(University of Utah)の施設内実験動物委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)(IACUC)(プロトコール #16-12017)によって承認されており、国の指針に従って行った。
【0061】
1.10 統計解析
定量的な値は全て、平均及び標準誤差(SE、平均±SE)として表現される。群間の有意差は、origin 2017ソフトウェア(OriginLab、Northampton、USA)を使用した一元配置分散分析によって検定された。0.05未満の確率値(p<0.05)は、統計的に有意と考えた。
【0062】
1.11 定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)解析
RTでTRCDからの脱離後にhUC-MSC細胞シートを収集した。製造業者のプロトコールに従ってトリゾール及びPureLink RNA Miniキット(Life Technologies)を使用して、細胞シートから全RNAを抽出した。大容量(high capacity)cDNA逆転写キット(Life Technologies)を使用して、1μgの全RNAからcDNAを調製した。Applied Biosystems Step One機器(Applied Biosystems(商標)、Foster City、USA)を使用して、TapManユニバーサルPCRマスターミックスを用いてRT-PCR解析を行った。次の遺伝子に関して、遺伝子発現レベルを評価した:1)ハウスキーピング遺伝子としてのグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH、Hs02786624_g1)、2)インテグリン連結キナーゼ(ILK、Hs00177914_m1)、3)N-カドヘリン(N-cad、Hs00983056_m1)。Applied Biosystemsによって全プライマーが製造された。比較CT方法(Schmittgen & Livak、2008)によって相対的遺伝子発現レベルを定量化した。GAPDH発現レベルに対して遺伝子発現レベルを正規化した。遺伝子発現レベルは、継代6細胞群のレベルに相対的である。
【0063】
結果
異なる初期細胞数及び継代数によるhUC-MSCシート調製
フラスコにおいてhUC-MSCを培養し、継代4~12に、5日毎にトリプシンを使用して継代培養した(表1)。継代培養において継代4~8の間に、初期細胞播種数から16~20倍に細胞を増殖させた。しかし、細胞増殖速度は、継代9から劇的に減少する。細胞数は、継代9、10、11及び12において初期細胞播種数から、それぞれ14、10.9、7.5及び3.1倍増加した。継代10における細胞は、コンフルエントに達して細胞シートを得るために、同じ播種密度での継代4~8における細胞よりも更に1日多く必要であった(
図2a及び
図2b)。継代12における細胞は、不均一に培養された形態を示し、接触阻害を失い、一貫した単層ではなく、塊をなして多層の凝集塊となった(
図2a)。培養温度を室温(RT)へと低減したとき、継代12における細胞はTRCDから脱離されたが、継代4~10から回収された場合ほどシート状ではなかった(
図2b)。細胞は、したがって、継代4~8で使用されて、一貫した細胞シート品質を産生するべきである。
【0064】
[表1]
表1. 継代4~12中のhUC-MSCの増殖速度
【0065】
5×10
4、1×10
5及び2×10
5個の細胞/皿の初期細胞播種数は、それぞれ6、5及び4日目にコンフルエントに達し(
図3a及び
図3b)、hUC-MSCシートを確実に産生した(
図3c)。全ての異なる初期細胞数群由来の細胞シートは、細胞が過密(over-confluent)になったら、2×10
5、1×10
5及び5×10
4個の播種細胞/皿群において、それぞれ5、6及び7日目における温度変化(すなわち、37℃で)なしでTRCDから自発的に脱離した(
図3c)。細胞のコンフルエント1日前には、接着性細胞は70~80%未満のコンフルエントであり、不十分な細胞密度のため、温度がRTに低減された場合、部分的に破損されたシート断片として脱離された。TRCDにおいて細胞がコンフルエントに達する1日前又は1日後のいずれかでのhUC-MSCシートの回収は不可能であった(
図3c)。これらの結果は、細胞を熱的に回収されたシートとして脱離するためには、細胞シートが、慎重に調製され、細胞が過疎でも過密でもない正確な時点で回収されなければならないことを指し示す。
【0066】
hUC-MSC表面マーカー特徴付け
hUC-MSC懸濁培養物及びhUC-MSCシートにおいてin vitroでCD44及びCD90発現を測定した。
図4に示す通り、hUC-MSCは、懸濁培養物(
図4A及び
図4B)及び細胞シート(
図4C及び
図4D)においてin vitroでCD44及びCD90を発現した。CD44及びCD90は、hUC-MSCにおいて発現されることが知られている。したがって、これらの結果は、hUC-MSCシートが、hUC-MSC特異的表現型を維持したことを指し示す。特に、
図4C及び
図4Dにおける結果は、細胞シートが、hUC-MSCを含有し、臍帯由来の他の細胞型及び分化した細胞を含有しないことを指し示す。
【0067】
hUC-MSCシートの構造解析
TRCDにおいて継代6細胞を4日間培養し、その結果得られる細胞シートを、RTへの温度低減ありで、TRCDから回収した。細胞シートをフィブロネクチン、ラミニン及びβ-カテニンで染色して、hUC-MSCシートの培養中及びシート脱離後の、機能に係る構造の保持を検証した。細胞及び組織付着を促進する重要なECM成分であるフィブロネクチン及びラミニン(Yue、2014、J Glaucoma 23: S20~S23;Kimら、2016、Int Neurourol J.: S23~S29)は、細胞シート表面全体にわたって強く発現された(
図5a及び
図5b)。細胞接着性接合を形成するタンパク質複合体の一部であるβ-カテニン(Nelson & Nusse、2004、Science, 303(5663)、1483~1487)は、細胞の間の顕著な染色を示す(
図5c)。ECM及び細胞接合タンパク質の保持は、培養中に産生された機能的なタンパク質が、細胞シート採取後に保存されていることを指し示す。
【0068】
細胞シート内の細胞間構造をTEMによって観察した。水平切片作製により、細胞シート内のECM構造が示され(
図5d)、これは、多数の細胞間接合を含んだ(
図5e)。これらの結果は、hUC-MSCシートが、天然の細胞機能、例えば、細胞連絡及び細胞接着に関する機能的なタンパク質を構造的に保持することを示唆する。
【0069】
肝細胞増殖因子(HGF)及び腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)の分泌
in vitroにおける製作されたhUC-MSCシートのパラクリン効果を支持するために、培養上清におけるhUC-MSCから分泌されたヒト抗炎症性サイトカインHGF(Gong, Rifai, & Dworkin, 2006; J Am Soc Nephrol、17(9)、2464~2473)及び炎症促進性サイトカインTNF-α(Ertelら、1995、J Cell Sci、123(Pt 24)、4195~4200)(REF)を測定した。hHGFの量の有意差は、継代6の2×10
5、1×10
5及び5×10
4個の細胞/皿群において見られなかった(
図6a)。炎症促進性サイトカイン(hTNF-α)は、2×10
5、1×10
5及び5×10
4個の細胞/皿群においてほとんど検出不能であった(
図6b)。
【0070】
継代4細胞を使用して製作されたhUC-MSCシートは、継代6、8、10及び12細胞を使用して製作されたhUC-MSCシートと比較して、有意に高い濃度のhHGF(633pg/mL)を分泌した。hUC-MSCシートから分泌されたhHGFの量は、継代数が増加するにつれて劇的に減少した(
図6c)。hTNF-αは、hUC-MSCシートからほとんど分泌されず(16~35pg/mL)(
図6d)、継代4を使用して製作されたhUC-MSCシートは、継代6、8、10及び12細胞を使用して製作されたhUC-MSCシートと比較して、有意に低い濃度のhTNF-αを有した。結果は、したがって、継代数が、hUC-MSCシートサイトカイン特性における重要な因子であることを実証する。
【0071】
免疫不全マウスへの細胞シート植込み
免疫不全マウスにおける背側皮下ポケットにhUC-MSCシートを10日間植え込んで、in vivoにおける安定性及び生着を実証した。移植後10日目に、細胞シート移植がされた組織において毛細血管の形成(血管新生)が観察された一方、細胞シート移植なしの皮下組織は、ごく僅かな微細血管を示した(
図7c及び
図7d)。H&E染色データは、細胞シートは、移植領域における局在化を移植後10日間維持したことを実証した(
図7a及び
図7b)。細胞シート移植群において、移植された細胞シート及び宿主組織の間に多数の血管構造が観察された(
図7e)。このことは、細胞シートが移植可能であり、in vivoで10日間細胞シート構造を生着及び保存することを指し示す。更に、細胞シートは、生着、生存能力及び組織再生のための重要な能力として、新生毛細血管(neocapillary)形成を誘導する。
【0072】
考察
ゼノフリーhUC-MSCシート製作は、温度応答性培養皿(TRCD)を使用した培養物から実証された。このようなhUC-MSCシートは、(1)標的臓器に植え込まれた場合に天然のマトリックス接着剤として作用する、細胞間連絡に必須な天然の機能的な細胞間構造の保持(
図5);(2)血管新生及び抗線維性作用を誘導する肝細胞増殖因子(HGF)分泌(
図6);(3)植込み後10日間のin vivoにおける細胞保持;並びに(4)シート-組織生着を支持するin vivoにおける血管新生を示す(
図7)。
【0073】
再現性よく強力なMSC細胞シートを製作するために、hPLを補充した細胞培養培地において、継代4~12由来のhUC-MSCを増大化し、シートへと転換した。hUC-MSCの細胞増殖速度は、継代10の後に著しく低減され、細胞シート作製プロセス及び採取のタイムラインに影響した(
図2)。更に、継代12細胞は、継代増加後の低減した細胞増殖速度及び不適切な細胞間接合形成のため、安定したシートを形成することができなかった(表1及び
図8)。加えて、顕微鏡位相差画像(
図2)は、より多い継代数において、互いの上に積み重なった細胞及び細胞凝集塊の形成を示した。この特色は、継代数が増加するにつれて、特に、継代12細胞で、増加する傾向がある。骨髄由来の(BMSC)及び脂肪由来の(ADSC)幹細胞を使用した細胞凝集は、5%hPLを含む培地において培養された場合に発生することが報告される(Hemeda, Giebel, & Wagner、2014、Cytotherapy、16(2)、170~180)。hPLにおける活性凝固因子は、そのような凝集の誘導に関与し得る。この細胞凝集は、均一な細胞増殖及び細胞シート製作を妨害する。再現性があるhUC-MSCシートを調製するために、継代10を下回る継代数が好ましいであろう。
【0074】
hPLを含む細胞培養培地において培養されたhUC-MSCの急速増殖は、細胞シートの製作に要求される時間の低減において有益となり得る。逆に、シート培養物が、迅速にコンフルエントに達し、コンフルエントに達すると自発的に脱離する傾向があるため、これは、いくつかの処理上の困難性を導入する場合もある。したがって、適切な初期細胞播種数の賢明な使用は、hUC-MSCシート製作プロセスに重要である。2×10
5個の細胞/皿よりも高い初期細胞播種密度は、単層シートを生じない:そのような高密度は、細胞培養の2日以内にTRCDからの自発的な細胞脱離を誘導する(データ図示せず)。本研究において、2×10
5、1×10
5及び5×10
4個の細胞の初期密度が使用され、その全てが、各培養物がコンフルエントに達した際に、それぞれ4、5及び6日目にhUC-MSCシートを生じることに成功した(
図3)。コンフルエントに達する1日前に又は1日後に細胞が脱離された場合、不十分な細胞シート品質が観察された(
図3c)。したがって、最良のhUC-MSCシート製作のため、TRCD細胞シート回収のための採取時間は、継代数及び播種細胞密度の両方に依存する。
【0075】
これらの結果の中心となるのは、温度低減を使用して、破壊性酵素を用いずに細胞採取を容易にする温度応答性ポリマーコーティングをグラフトされた市販のTRCDを使用してhUC-MSCの安定した頑強な層を産生する信頼できる能力である(Okanoら、1995、Biomaterials、16(4)、297~303;Okanoら、1993、J Biomed Mater Res、27(10)、1243~1251)。この細胞シート技術は、インタクトな天然細胞間組織化、細胞間連絡、インタクトなECM及び組織様の表現型を有する培養された細胞の回収を産生する。培養温度の僅かな変化によってTRCDから回収された細胞シートは、細胞接着及びパラクリンシグナル伝達の促進において重要な役割を果たす、細胞表面関連ECM、例えば、フィブロネクチン及びラミニン、並びに細胞間接合タンパク質、例えば、β-カテニンを保存する(
図5)(Brownlee、2002、Curr Opin Plant Biol、5(5)、396~401)。天然の形態、コンフルエントの表現型及び組織化、細胞間連絡、インタクトな細胞外マトリックス(ECM)並びに組織様の挙動を有する細胞シートは、標的組織へと容易に移植させることができる(Miyaharaら、2006、Nat Med、12(4)、459~465)。免疫不全マウスにおける皮下組織部位に植え込まれたhUC-MSCシートは、10分以内に皮下組織表面に急速かつ自発的に付着した。in vivoで10日後に、植え込まれた細胞シートは、インタクトなシートとして残った(
図7)。
【0076】
全体的に見て、hUC-MSCシートは、同種異系MSC細胞療法を改善するためのいくつかの有益な特性を表示する。ここでの結果は、(1)信頼できるゼノフリーhUC-MSCシート製作のための特異的な条件;(2)TRCDからの細胞採取後に重要な細胞機能に係る構造及びパラクリン効果を保存するhUC-MSCシートのインタクトな特色;(3)10日間の植込み標的組織部位におけるインタクトなhUC-MSCシート保持;並びに(4)植え込まれたhUC-MSCシートが、パラクリン因子を連続的に分泌して生着をモジュレートすることを示唆する、標的組織におけるシートへの新たな血管リクルートメントを決定した。
【0077】
結論
hUC-MSC細胞シート技術は、現在の注射される細胞懸濁物を超えてMSC療法を改善することを目標とする、特有の細胞送達方法を表す。hPLでの、TRCDにおける単純な製作方法は、破壊性タンパク質分解酵素の代わりに温度の僅かな変化により採取される、頑強で均質なhUC-MSCシートの急速ゼノフリー産生を可能にする。細胞産生は、細胞播種密度、継代数、培地(hPL)及び培養時間及びTRCDを含む、いくつかの制御された培養変数に依存する。最適化された条件下で均一に培養される場合、hUC-MSC細胞シート再現性は増強され、hUC-MSC細胞シート産生プロセスは、スケーリングを行い易いルーチンへと単純化される。これは、パラクリン作用及び治療上の利益を増加させるための、より多い細胞数を有するhUC-MSCシートの将来的な産生を可能にする。そのパラクリン効果及び低いHLAプロファイルを考慮すると、製作されたゼノフリーhUC-MSCシートは、in vitro及びin vivoで構造的及び機能的の両方で有望な組織再生能を表す。信頼できる局所的組織部位配置、高い生着効率、in vivoでの長期保持及び生存により、hUC-MSCシートは、現在使用されている注射される幹細胞を超えて同種異系間細胞療法の治療価値を改善する潜在力を有する。
【0078】
[実施例2]
温度変化、トリプシン処理及び細胞スクレーパーによって採取されたヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)の比較
材料と方法
2.1 抗体
本研究において次の抗体を使用した;アクチン(ab8226)(Abcam、Cambridge、USA)、ビンキュリン(ab129002)(Abcam)、フィブロネクチン(ab6328)(Abcam)、ラミニン(ab11575)(Abcam)、インテグリンβ-1(ab179471)(Abcam)、コネキシン43/GJA1(ab11370)(Abcam)、YAP(#140794)(Cell Signaling Technology(CST)、Massachusetts、USA)、ホスホ-YAP(Ser127、#4911))(CST)、FAK(ab40794)(Abcam)、ホスホ-FAK(Tyr397、#8556)(CST)、GAPDH(ab9484)(Abcam)。Alexa flour 568ヤギ抗ウサギ、568ヤギ抗マウス、488ヤギ抗ウサギ及び488ヤギ抗マウス(life technologies)を二次抗体として使用した。
【0079】
2.2 ヒト臍帯幹細胞(hUC-MSC)培養
バンクに保存されたヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)をヒト臍帯組織の上皮下層から単離し(Jadi Cell LLC, Miami, USA IRB-35242)、10%ウシ胎仔血清(FBS)(Gibco)、1%GlutaMAX(Gibco)、1%MEM非必須アミノ酸(NEAA)(Gibco)、100ユニット/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシン(Gibco)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Gibco、Massachusetts、USA)において培養した。hUC-MSCを37℃で5%CO2により加湿チャンバー内でインキュベートし、細胞がコンフルエントに達したら継代した。5分間のTrypLE(Gibco)処理によりhUC-MSCを継代し、継代4~6の間、3000個の細胞/cm2で継代培養した。
【0080】
2.3 hUC-MSCシートの調製
35mm温度応答性培養皿(TRCD)(CellSeed、Tokyo、Japan)にhUC-MSCを播種した。hUC-MSCを2×105個の細胞/皿の密度で播種し(0日目)、コンフルエントとなるまで培養した(5日目)。16.4μg/mLのアスコルビン酸(Wako、Osaka、Japan)を含む細胞培養培地は、播種後1日目に交換した。温度を20℃に低減させることにより、60分以内にTRCDからhUC-MSCを単層シートとして採取した。血球計数器を使用したトリパンブルー(Gibco)排除検査により、hUC-MSCシートの総細胞数を計数した。
【0081】
2.4 hUC-MSCシートのヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色
試料を4%緩衝パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、パラフィンに包埋した。次に、試料を4μm厚切片にカットした。切片をメイヤー(Mayer)のヘマトキシリン及び1%エオシンアルコール溶液で染色した。次にこれを、permount(商標)(Thermo Fisher Scientific)を用いてマウントした。BX53顕微鏡(Olympus、Tokyo)を使用して、染色された試料を可視化した。
【0082】
2.5 走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡を使用したhUC-MSCの形態的観察
走査型電子顕微鏡(SEM)解析のため、洗浄緩衝剤(2.4%スクロース及び8mM塩化カルシウムを含有する0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝剤)において試料を5分間リンスし、次いで、洗浄緩衝剤における2%四酸化オスミウム(OsO4)で1時間室温にて固定した。試料をDI水でリンスして非結合オスミウムを除去し、次いで、エタノールの段階的系列を通して脱水した。その後、エタノールをヘキサメチルジシラザン(HMDS)と交換し、-30℃で乾燥させた。走査型電子顕微鏡(FEI Quanta 600 FEG、FEI、Oregon)で試料を観察した。透過型電子顕微鏡(TEM)解析のため、試料を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝剤における2%パラホルムアルデヒド、2%グルタルアルデヒド、2%OsO4の混合物で固定し、エタノールの段階的系列において脱水した。次に、試料をエポキシ樹脂に包埋して、70nmの厚さにカットした。透過型電子顕微鏡(JEOL JEM-1400 Plus、JEOL、Tokyo)で超薄切片を観察した。
【0083】
2.6 細胞生存率アッセイ
生及び死(live and dead)生存率/細胞毒性アッセイ(Thermo Fisher Scientific、Massachusetts)により細胞生存率を測定した。細胞シート及びトリプシン処理細胞群を2回洗浄し、生/死作業溶液(4mMエチジウムホモ二量体-1及び2mMカルセインAM)と共に30分間37℃で暗所にてインキュベートした。試料を洗浄し、AX 10顕微鏡(Carl Zeiss Microimaging、Gottingen、Germany)を使用して可視化し、Axiovisionソフトウェア(Carl Zeiss Microimaging)により解析した(Ex/Em 495/635、エチジウムホモ二量体-1;Ex/Em 495/515、カルセイン)。image J(National Institutes of Health、Bethesda、Maryland、USA)を使用して、単一懸濁物群における生及び死細胞の数を計数した。細胞シートにおける死細胞の数もimage J (National Institutes of Health)を使用して計数し、一方、細胞シートにおける生細胞は次式に基づき計算した。
【0084】
【0085】
図15Bに示す通り、死細胞の比を計算して、各試料における細胞生存率を比較した。
【0086】
2.7 細胞機能に関するタンパク質の定性的解析
hUC-MSC(2×10
5個の細胞/皿)を5日間培養し、温度変化(細胞シート技術)、トリプシン処理(化学的破壊)又は細胞スクレーパー(物理的破壊)によって採取した(
図9)。細胞溶解緩衝剤(RIPA緩衝剤、プロテイナーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤)(Thermo Fisher Scientific)により細胞を15分間4℃で溶解して、タンパク質抽出物を単離した。次に、9秒間で3回、試料を超音波処理した。ブラッドフォード法によって各試料のタンパク質濃度を決定した(Galipeauら、2018、Cell Stem Cell 22(6): 824~833)。同じ量(10μg)のタンパク質を含有する試料を70℃で10分間変性させ、SDS-PAGEゲル(3~8%トリス-アセテートゲル又は4~12%トリス-グリシンゲル(Thermo Fisher Scientific))にロードし、電気泳動によりPVDF膜(LC2002)(Thermo Fisher Scientific)に転写した。膜をブロッキング溶液5%ウシ血清アルブミン(BSA)で1時間室温にて処理し、一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした;アクチン(1:1000希釈)、ビンキュリン(1:10000希釈)、フィブロネクチン(1:2000希釈)、ラミニン(1:1000希釈)、インテグリンβ-1 (1:2000希釈)、コネキシン43(1:8000希釈)、YAP(1:1000希釈)、ホスホロ(phosphor)-YAP(Ser127)(1:1000希釈)、FAK(1:1000希釈)、ホスホ-FAK(Tyr397)(1:1000希釈)、GAPDH(1:5000希釈)。インキュベートした膜を適切なHRPコンジュゲート二次抗体で室温にて1時間処理した。増強ケミルミネッセンス(FluorChem HD2、ProteinSimple、California、USA)を使用することにより膜を可視化した。発現レベルをGAPDHに対して正規化した。
【0087】
2.8 細胞機能に関するタンパク質の免疫細胞化学染色
試料を4%緩衝PFAにおいて固定し、次いで、0.1%トリトンX-100(Thermo Fisher Scientific)により透過処理した。試料を10%ヤギ血清における1%BSAにより15分間ブロッキングし、次いで、一次抗体において一晩4℃でインキュベートした;1%BSAと10%ヤギ血清の存在下における、アクチン(5μg/ml)、ビンキュリン(1:50希釈)、フィブロネクチン(1:100希釈)、ラミニン(1:50希釈)、コラーゲン-1(1:100希釈)、インテグリンβ-1(1:200希釈)、コネキシン43(1:100希釈)。試料を二次抗体で1時間処理した。最後にこれを、マウント溶液(DAPIを含有するProLong Gold褪色防止封入剤)(Thermo Fisher Scientific)を用いてマウントし、IX73蛍光顕微鏡(Olympus)を使用して検査した。
【0088】
2.9 統計解析
値は全て、平均±SEMとして表現される。二元配置分散分析と、それに続くチューキーの検定を使用して、2を超える群間の差を評定した。確率(p<0.1、0.05)は、有意と考えた。
【0089】
結果
ヒト臍帯幹細胞(hUC-MSC)シートの調製
温度応答性細胞培養皿(TRCD)の上で培養されたhUC-MSCの形態及び増殖速度を検証するために、従来の組織培養プレート(TCP)又は35mm直径TRCDの上にhUC-MSCを2×10
5細胞の密度で播種し、5日間培養した。TRCDの上で培養した細胞は、細胞がTRCDの底面に付着したとき、丸い形状から紡錘形にその形態を変えた。この形態的変化は、TCPで培養された細胞でも観察された(
図10A)。更に、TRCDで培養したhUC-MSCの増殖速度は、TCPのそれと同じ増殖曲線を示した(
図10B)。これは、温度応答性ポリマーでコーティングした細胞培養皿表面が培養細胞増殖及び細胞の形態に影響を及ぼさなかったことを示す。更に、37℃から20℃への温度低減の結果、細胞はTRCDから首尾よく脱離され、シートは維持された(
図10C)。形成した製作された細胞シートは完全で連続した細胞層を含み、天然の構造に類似した細胞結合性タンパク質を維持した(
図10d)。
【0090】
hUC-MSCシートの形態学的観察
hUC-MSCシートの表面及び細胞間構造は、走査電子顕微鏡法(SEM)(
図11A~D)及び透過電子顕微鏡法(TEM)(
図11E~F)によって観察した。SEM分析では、hUC-MSCシートは細胞表面で連結した細胞膜構造を示した。それは、細胞脱離の後でさえ、それらが細胞培養皿の上で培養される場合に形成される天然の構造の保持をhUC-MSCシートが保存したことを意味する。天然の細胞膜構造は細胞表面タンパク質及び膜タンパク質で構成され、それは細胞の接着及び機能に関係する。この知見は、hUC-MSCシートが細胞表面タンパク質及び膜タンパク質を保持し、この保持は細胞接着及び細胞機能を向上させることができることを示唆する(Albuschies et al., 2013, Sci Rep 3: 1658)。対照的に、0.05%トリプシンで処理したhUC-MSCは、連結した組織構造がなく、解離した単一細胞形状を示した(
図11B~D)。更に、0.05%トリプシン処理群(5分、20分及び60分)における細胞表面は、トリプシン処理時間依存的にそれらの微小絨毛様構造を失った(
図11B~D)。その結果、hUC-MSCシートは組織様連結構造並びに微小絨毛様構造を維持し、0.05%トリプシン処理群における細胞表面のタンパク質は切断された。
【0091】
TEM分析では、hUC-MSCシートはECM(白色の点線)及び細胞間接合(白色実線の矢印)を維持し、これらは細胞接着及び細胞間連絡に関係する(Gattazzo et al., 2014, Biochim Biophys Acta 1840(8): 2506-19)(
図11E)。しかし、0.05%トリプシンで5分間処理したhUC-MSCは、細胞シート群と比較して切断された細胞間接合及びECMを示した(
図11F)。更に、hUC-MSCを0.05%トリプシンで20及び60分間処理した場合、hUC-MSCはそれらの細胞表面のその天然の糸状仮足を失い、核の不明瞭な核形状を有した(
図11G及びH)。0.05%トリプシンで60分間処理したhUC-MSCは小胞体(暗灰色の矢印)を示し、それは、細胞死と関連することが知られている(
図11H)。SEM及びTEMの結果は、細胞が細胞培養皿から脱離された後でさえ、hUC-MSCシートが細胞表面タンパク質及び細胞間タンパク質、例えば微小絨毛様構造、糸状仮足、ECM及び細胞間接合を維持していたことを示す。対照的に、0.05%トリプシンで処理したhUC-MSC群は、切断された微小絨毛、ECM及び細胞間接合を示し、核が傷害を受けた。これらの所見は、トリプシン処理(化学的破壊)が細胞及び組織構造(すなわち、接合タンパク質、ECM、核及び小胞体)において傷害を引き起こすことを示唆する。
【0092】
hUC-MSCは細胞動態力学に関係するアクチンフィラメントタンパク質を維持する
グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)タンパク質の発現は、ウエスタンブロットアッセイのためにタンパク質量を正規化するためのローディング対照として検出した。GAPDHタンパク質の発現レベルは、全ての群において類似していた。0.50%トリプシンで20及び60分間処理した細胞は、細胞シート、0.05%トリプシン及び細胞スクレーパー群でのそれより低いアクチンを発現した(
図12A)。これは、0.50%トリプシン処理が細胞質中のアクチンを破壊することを示す。細胞骨格構造を観察するために、hUC-MSCをアクチンで染色した。細胞が培養皿に付着しているとき、アクチンは細胞生存で重要な役割を演ずるストレス線維構造を形成する(Bachir et al., 2017, Cold Spring Harb Perspect Biol 9(7))。細胞シートが細胞培養皿から脱離された後でさえ、細胞シート群はアクチンのアクチンストレス線維構造を示した。対照的に、5、20及び60分間の0.05%トリプシン処理群はアクチン陽性領域を示したが、ストレス線維構造は観察されなかった(
図12B)。F-アクチンタンパク質の量は、細胞シート及び0.05%トリプシン処理群で類似していた。しかし、細胞シート群だけが細胞アクチンの特徴であるアクチンストレス線維構造を維持した。
【0093】
ビンキュリンは、細胞運動と関連するインテグリンファミリー及びアクチンを連結することによって局所接着を形成する膜細胞骨格タンパクである(Peng, 2011, Int Rev Cell Mol Biol 287: 191-231)。免疫組織化学で染色した場合、ビンキュリン発現は細胞シート及び0.05%トリプシン処理群の両方で観察された(
図12C)。ビンキュリン発現のウエスタンブロット分析で、化学的破壊群においてより低い分子量のバンドが、複数観察された(
図12A)。これは、ビンキュリンタンパク質が化学的破壊群で切断されたことを示す。トリプシンで処理した(化学的破壊)細胞は、非局在化アクチン線維構造、低減されたアクチンタンパク質及び切断されたビンキュリンタンパク質を明らかにし、化学的破壊方法が細胞形状及び細胞動態力学に関係したタンパク質を切断したことを示唆する。トリプシン濃度を増加させた場合、この切断は増加した。
【0094】
hUC-MSCシートは細胞接着に関係する細胞外タンパク質を維持する
フィブロネクチン及びラミニンは、細胞接着及び組織接着における重要なタンパク質である。ウエスタンブロットアッセイにおいて、細胞シート、5分間の0.05%又は0.50%トリプシン処理及び細胞スクレーパー群はフィブロネクチンを発現した。しかし、20分及び60分間の0.05%及び0.50%トリプシン処理群は、フィブロネクチンの検出可能な発現がなかった。細胞シート、5分間の0.05%トリプシン処理、0.50%トリプシン処理及び細胞スクレーパー群において、ラミニン発現が観察された。しかし、20分及び60分間の0.50%トリプシン処理群は、検出可能なラミニン発現を示さなかった。
【0095】
ECMタンパク質のECMタンパク質構造を観察するために、細胞をフィブロネクチン及びラミニン抗体を使用して染色した(
図13B)。0.05%トリプシンで処理した細胞と比較して、細胞シート群でフィブロネクチンのより高い発現が観察された。天然の組織構造(ECMの線維性構造)に類似して、細胞シート群は細胞シートの全ての細胞にわたってフィブロネクチン及びラミニンのより高い発現を示した。これらの結果は、細胞シート群がECMの破壊なしで細胞を脱離することができたことを示唆する。対照的に、ECMタンパク質は、細胞培養皿からの細胞脱離の後にトリプシン処理(化学的破壊)で切断された。
【0096】
hUC-MSCシートは細胞連絡に関連する細胞接合タンパク質を維持する
インテグリンβ-1は、細胞-ECM接合を形成する膜貫通膜タンパク質のインテグリンファミリーの主要なタンパク質である。インテグリンはアダプタータンパク質(例えば、ビンキュリン、タリン)を通して細胞のアクチン細胞骨格に連結し、細胞の表現型保存、生存、細胞接着及び組織修復に関与することが知られている(Moreno-Layseca, 2014, Matrix Biol 34: 144-53)。細胞シート、5分間の0.05%トリプシン処理及び細胞スクレーパー群は、類似したインテグリンβ-1発現を示した。インテグリンβ-1は、トリプシン濃度及び処理時間と共に徐々に切断された。コネキシン43は、ギャップ接合で細胞間連絡を容易にする膜貫通タンパク質である。コネキシン43は、生物学的情報の交換によって細胞及び組織のホメオスタシス及び機能を維持することにおいて必須の役割をする(Ribeiro-Rodrigues, 2017, J Cell Sci 130(21): 3619-3630)。コネキシン43は、細胞シート、0.05%トリプシン処理(5、20、60分)及び0.5%トリプシン処理(5分)群で発現された。しかし、20分及び60分間の0.50%トリプシン処理は、コネキシン43の発現がなかった。これは、20及び60分間処理した場合、コネキシン43タンパク質が0.50%トリプシンによって切断されたことを示唆する。
【0097】
細胞接合タンパク質の構造観察をインテグリンβ-1で実行し、コネキシン43タンパク質は免疫染色によって観察した。細胞シート群は細胞シートにわたって全て均一にインテグリンβ-1の陽性発現を示したが、0.05%及び0.50%トリプシン処理群ではインテグリンβ-1は細胞表面で僅かに発現された(
図14B)。コネキシン43の発現は、全ての群で観察された(
図14C)。特に、細胞シート群では、可視化領域の全域でのコネキシン43の発現が明らかになった。これは、細胞シートが連結された組織細胞-細胞構造を有し、細胞-接合タンパク質を維持することを実証する。対照的に、トリプシン処理(化学的破壊)はこれらの重要な接合タンパク質を切断した。
【0098】
化学的破壊方法は細胞死を誘導する
トリプシン処理(化学的破壊)又は温度変化(細胞シート技術)による細胞脱離の直後に、カルセイン及びエチジウムホモ二量体-1を使用して細胞を染色した。
図15で、緑色は生細胞を示し、赤色は死細胞を示す。結果については、5及び20分間の0.05%トリプシン処理群における死細胞と生細胞との比は類似していた。更に、60分間の0.05%トリプシン処理群の細胞の死細胞と生細胞との比は、5及び20分間0.05%トリプシンで処理した細胞と比較して有意に増加した(
図15B)。この結果は、細胞死がトリプシン処理(化学的破壊)によって誘導されたことを示唆する。
【0099】
アポトーシス細胞死は化学的破壊によって活性化される
細胞ホメオスタシスのためのメカノセンサー制御は、細胞外物理的刺激を細胞内化学的刺激に変換する(Humphrey, 2014, Nat Rev Mol Cell Biol 15(12): 802-12)。Yes関連タンパク質(YAP)は、細胞生存及び増殖を調節するための細胞核に局在する主要なメカノセンサータンパク質である(Jaalouk, 2009, Nat Rev Mol Cell Biol 10(1): 63-73)。YAPはSer127のリン酸化(ホスホロ-YAP、pYAP)を通して阻害され、それは細胞質保持及び細胞アポトーシスの誘導をもたらす。細胞が細胞-ECM接合を失う場合、アポトーシス細胞死、すなわちアノイキスは、YAPのリン酸化の後に誘導される(Halder et al. 2012, Nat Rev Mol Cell Biol 13(9): 591-600)。細胞シート、5、20及び60分間の0.05%及び0.50%トリプシン処理、及び細胞スクレーパー群でのYAP及びホスホ-YAP(pYAP)の発現は、ウエスタンブロッティングで決定した(
図16)。全ての群は、類似のYAPタンパク質発現を示したが、pYAPの発現は細胞シート及び細胞スクレーパー群と比較して0.05%及び0.50%トリプシン処理細胞で増加していた(
図16A)。これは、トリプシン処理(化学的破壊)がYAP活性を阻害し、YAPのリン酸化を誘導したことを実証する。更に、pYAPの誘導は細胞応答をアポトーシスの方にシフトさせることが知られている。
【0100】
考察
細胞骨格、細胞接合、細胞代謝及び細胞増殖に関連した細胞外の(Huang et al., 2010, J Biomed Sci 17: 36)及び細胞間の(Besingi, 2015, Nat Protoc 10(12): 2074-80)タンパク質の破壊を通して細胞培養皿から細胞を採取するために、化学的破壊方法が一般的に使用される。したがって、化学的破壊方法によって採取される細胞(例えば、トリプシン処理細胞)は、標的組織に接着するのに必要であるECMが不十分であり、グラフト-宿主連絡を通してそれらの正常な細胞機能を維持するための細胞接合が不十分であった(
図13及び14)。他方、TRCDを使用した細胞シート技術によって採取されたhUC-MSCシートは、連結した細胞の平滑な表面、微小絨毛、ECM及び細胞間接合を含む組織様構造を維持した(
図10、13及び14)。
【0101】
TEM結果は、化学的破壊群の中の0.05%トリプシンで5分間処理した細胞において、細胞外タンパク質の切断が観察されたことを示した。0.05%トリプシン処理の20分後の細胞において細胞質切断が観察され、60分後の0.05%トリプシン処理において細胞核が分解した。更に、細胞死に関係した小胞体変化が60分後の0.05%トリプシン処理において観察された(
図11)。インテグリンは、細胞膜とECMの間の相互作用に関与し、ECMを細胞骨格(アクチン)に連結して局所の接着も形成する鍵タンパク質である(Kim et al., 2011, J Endocrinol 209(2): 139-51)。化学的破壊による採取は、インテグリンβ-1、並びに細胞骨格(F-アクチン)、局所接着タンパク質(ビンキュリン)、ECM(フィブロネクチン及びラミニン)の切断を誘導した(
図12、13及び14)。他方、hUC-MSCシートは、細胞培養皿からの脱離の後でさえ、インテグリンβ-1、細胞骨格、局所接着タンパク質(ビンキュリン)、並びにECM(フィブロネクチン及びラミニン)の全てを維持した(
図12、13及び14)。これらの所見は、化学的破壊方法(例えば、タンパク分解性トリプシン処理)が、酵素による、膜受容体のタンパク分解性切断及び細胞-ECM接合の破壊により細胞生存を悪化させる苛酷な環境をもたらすことができることを示唆した。
【0102】
Yes関連タンパク質(YAP)は、細胞接着、増殖及び生存の調節において重要な役割を有する。アポトーシス細胞死はYAPの阻害及び続くpYAP誘導を通して誘導されることが知られている。同様に、細胞-ECM接合の分解は、YAPの阻害を通してアポトーシス細胞死を誘導する(Codelia, 2012, Cell 150(4): 669-70)。細胞をトリプシン(化学的破壊)で処理した場合、インテグリンβ-1は切断され(
図14)、インテグリンβ-1の切断はYAPを不活性化し、pYAPを誘導した(
図16)。最終的に、化学的破壊群でアポトーシス細胞死が起こった(
図11、15及び16)。対照的に、hUC-MSCシートはインテグリンβ-1を維持し、pYAPの発現を低減し(
図14及び16)、そして、それは有意に高い細胞生存率を示した(
図15及び16)。pYAPはインテグリンβ-1切断だけでなくF-アクチン重合の阻害によっても誘導されることがあると報告されている。hUC-MSCシートは、細胞培養皿からの細胞脱離の後でさえ、活発なアクチン重合を示すF-アクチンの細胞骨格線維構造を示した(
図12)。これは、hUC-MSCシートがインテグリンβ-1(細胞-ECM接合)及びF-アクチン線維の線維構造を保持し、細胞シートがトリプシン処理(従来の化学的破壊細胞採取方法)と比較してより高い細胞生存率を維持することを可能にすることを示唆する。これらの所見は、細胞-ECM接合及びアクチン線維維持構造が細胞生存を維持するための重要な因子であることを示唆する。化学的破壊方法を使用した場合、高い細胞生存率は困難である。
【0103】
この試験は、ECM、細胞間接合及び細胞-ECM接合のタンパク質が、より高い細胞生存率を保持するのに重要であることを実証する。化学的破壊(例えばトリプシン処理)は、細胞間接合、細胞-ECM接合及び細胞接着タンパク質を切断するので、化学的破壊採取方法を使用する従来の幹細胞療法では、低い生着効率の割合及び低い細胞生存率を回避することは可能でない。細胞シート技術は、いかなる構造破壊もなく、生存可能なシートの形で細胞を採取することを可能にする。更に、細胞シート技術は、細胞のための重要な構造(ECM、細胞-ECM接合、細胞間接合、細胞骨格及びメカノセンサー)を維持し、細胞生存率、生着効率を増強し、様々な重大な細胞機能を維持する。その結果、hUC-MSCシート中の細胞生存率は、化学的破壊方法で採取される細胞より有意に高い。
【0104】
結論
ECM細胞間接合及び細胞-ECM接合などの組織様構造を保持することが、移植細胞の細胞生存率の増強と関連することを我々は実証する。細胞シート技術は、いかなる有害なタンパク質分解酵素(化学的破壊)も使用せずに、シートの形で細胞を採取することを可能にする。組織様細胞構造、ECM、細胞間接合及び細胞-ECM接合を保持する採取されたhUC-MSCシートは、従来の化学的破壊方法(トリプシン処理)と比較してより高い細胞生存率を有した。細胞シートは天然の組織様構造を模倣するので、この技術は、幹細胞療法のより高い治療効果だけでなく、再生医療研究において細胞機能を向上させるための新しい概念も提供する。
【0105】
[実施例3]
ヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)シートにおける遺伝子発現
細胞培養培地が20% hPL又は20% FBSを含有したこと以外は上の実施例1に記載される方法によって、細胞シートをhUC-MSCから調製した。hUC-MSCシートは、
図17に示す。hUC-MSCの単一細胞懸濁培養物は、細胞培養皿の上でhUC-MSCを培養し、それらがコンフルエントのとき、細胞をトリプシン(TryLE、Gibco)で処理することによって調製した。hUC-MSCのトリプシン処理した単一細胞懸濁物を、フローサイトメトリーによって分析した。
【0106】
20% hPLを含有する培地でhUC-MSCシートを培養し、上の実施例1に記載の通り免疫不全マウスの皮下組織の中に植え込み、植込みの1日後及び10日後に組織学的観察のために皮下組織部位からhUC-MSCシートを採取した。採取後、HGF発現の検出のために試料をヒト増殖因子(HGF)抗体で染色し、細胞核はDAPIで染色した。
図18に示すように、hUC-MSCシートは植込みの1日後にHGFを発現し、植込みの10日後にもなお顕著なHGF発現を維持した。これらの結果は、hUC-MSCシートが植込み後の少なくとも10日間、宿主生物体の組織中への連続的HGF発現を維持することを示唆する。
【0107】
hUC-MSCシート中のHGF発現に及ぼす初期細胞密度の影響も決定した。細胞シートは、20% FBSを含有する細胞培養培地中に2×10
4、4×10
4、6×10
4、8×10
4又は10×10
4個の細胞/cm
2の初期細胞密度により、TRCD中のhUC-MSCから調製した。
図19に示すように、初期細胞密度を増加させることは、HGF発現を細胞密度依存的に増加させた。例えば、1×10
5個の細胞/cm
2で生成された細胞シートは、2×10
4、4×10
4、6×10
4、8×10
4又は1×10
5個の細胞/cm
2で生成された細胞シートと比較してより高いHGF遺伝子発現を有した。これらの結果は、細胞培養支持体(例えばTRCD)中の初期細胞密度を制御することによって、hUC-MSCシート中のHGF発現レベルを最適化することができることを示唆する。
【0108】
第4~第12継代の懸濁培養物中のhUC-MSCにおいて、及びヒト脂肪由来間葉系幹細胞(hADSC)、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)又はhUC-MSCから調製された細胞シートにおいて、HLAのDR、DP、DQ発現を決定した。細胞は、20% hPLを含有する培養培地で増殖させた。HLA発現は、上の実施例1に記載の通りに決定した。
図20Aに示すように、hUC-MSCは、細胞懸濁培養における第4~12継代でHLAのDR、DP、DQの細胞表面での低い発現を維持した。
図20Bに示すように、hUC-MSCシートではHLA-DR遺伝子発現は検出できなかったが、hADSC又はhBMSCから調製された細胞シートは比較的高いレベルのHLA-DR遺伝子発現を示した。低いHLA発現は、宿主臓器に移植されたhuC-MSC細胞シートへの宿主免疫応答の低減にとって望ましい。したがって、これらの結果は、hADSC又はhBMSCから生成された細胞シートと比較してhUC-MSCシートが移植後に宿主生物体において免疫応答を誘導する可能性は低いことを示唆する。
【0109】
[実施例4]
ヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)シートの移植は、ヌードラットモデルで子宮瘢痕発生を予防する
熱応答性細胞培養皿(TRCD)(UpCell(登録商標)、Tokyo、Japan)の中で3.0×10
5の初期細胞密度を使用して上の実施例1に記載の通りに細胞シートを作製するために、ヒト臍帯間葉系幹細胞(hUC-MSC)を使用した。細胞シートの画像は、
図29A~29Cに提供される。以前のヒト臨床治験で使用した市販のヒト臍帯間葉系幹細胞を市販の温度応答性細胞培養皿で培養し、5日目のコンフルエントまで増殖させた(
図29A)。細胞シートは、30分間にわたる破壊的なタンパク質分解酵素なしで低減させた培養温度(20℃)において自然に採取された(
図29B)。HE染色は、通常のタイトな細胞間連結を有する連続した細胞シート、及び細胞シートを含む単一の二層状立方体様細胞を明白に示していた(
図29C)。全ての播種された温度応答性細胞培養皿は細胞シートをもたらし、使用した方法の実現可能性が確認された。生じたヒト臍帯間葉系幹細胞シートは、次に細いプラスチックスパチュラを使用してラットの子宮移植部位に移すことができた(
図29B)。
【0110】
採取後、移植後の細胞シートの特定を可能にするために、細胞シートは蛍光性マーカー、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識した。非妊娠雌ヌードラットを使用して瘢痕形成を誘導するために、子宮切開を施術した(
図21)。細胞移植プロセスの模式図及び写真は、
図28A~28Bに提供される。
【0111】
双子宮性のラット子宮の各角に、長軸方向の切開を施術した。両方の子宮切開の縫合修復の後、子宮の1つの角の子宮切開修復の表面にhUC-MSCシートを移植し、子宮の反対側の角は対照の役目をした。移植群では、表面積が概ね1cm
2のhUC-MSCシートを子宮に移植し、移植した細胞シートの位置は、蛍光顕微鏡検査によって緑色領域として確認された(
図22)。移植のために、細胞シートは細胞培養皿の中の培地に浮遊させ、次に幅が概ね1cmの四角形のプラスチックシートに移した。細胞シートは、プラスチックシートの上で子宮に移動させた。細胞シートは、鉗子でプラスチックシートから滑らすことによって子宮創傷に移した(
図22)。細胞シートの形状及び接着性細胞外マトリックスは、いかなる足場も縫合もなしで子宮創傷に直接固定されることを可能にした。
【0112】
細胞シートの適切な配置及び位置は蛍光顕微鏡検査によって確認し、手術から1、3及び7日目に評価した。術後1、3、7及び14日目に、肉眼分析並びにヘマトキシリン-エオジン(HE)染色及びマッソン-トリクローム染色による組織学的評価のために子宮を採取した。線維性(青色)及び正常な(紫/赤色)子宮筋層表面は、AmScope (登録商標)ソフトウェアを使用して分析し、線維性子宮筋層と正常な子宮筋層の表面積の比を検体ごとに計算した。
【0113】
ヒト肝細胞増殖因子(HGF)及び血管内皮増殖因子A(VEGFA)の発現を、定量的リアルタイムPCRによって測定した。1、3、7及び14日目に対照の及び細胞シートを移植した角の瘢痕を採取し、液体窒素の中で冷凍した(n=群につき3つの角)。次に機械的ホモジナイザーで各角を細かく刻んだ後に、Rneasy(登録商標)線維組織ミニキット(74704、Qiagen、Germany)を使用して各試料からRNAを抽出した。高性能cDNA逆転写キット(4368814、Thermo Fisher Scientific)を使用してcDNAを合成し、TaqMan (登録商標)遺伝子発現アッセイ(4331182、Thermo Fisher Scientific)及び各標的遺伝子に特異的なPCRプローブを使用したPCR分析(StepOnePlus (商標)リアルタイムPCRシステム、4376600、Thermo Fisher Scientific)にかけた。
【0114】
結果
6匹のラットから、子宮の各角から2つ又は4つの18個の子宮検体がこの分析に含まれた。移植から1、3及び7日後に、子宮創傷に移植されたhUC-MSCシートの存在を蛍光顕微鏡検査によって確認した(
図23及び28A)。細胞シートは、縫合なしに30分後に自発的に角創傷部位表面に安定して接着した。術後1、3、7及び14日目に一群の子宮を採取した。移植された細胞シートは、直接的な蛍光顕微鏡検査観察によって1及び3日目にin situで容易に検出された。しかし、7日目にはより少ない蛍光細胞シート断片をみとめた。14日目までに、細胞は観察可能でなかった(
図30A、最も上の列)。移植された細胞シートと子宮表面の間の境界は1及び3日後に良好に画定されたが、7及び14日後に不明瞭になった(
図30A、2番目及び3番目の列)。緑色に染色された細胞が1、3及び7日目に組織学的試料に存在したが、14日目には存在しなかった。染色された細胞の存在は連続的に減少し、14日目にはもはや明白でなかった(
図23及び
図30A、最も下の列)。
【0115】
対照群では、創傷治癒の結果として宿主の子宮筋層領域の間に大きな線維性領域が存在していた。対照的に、hUC-MSCシート移植群における線維性領域は対照群におけるより有意に小さかった(
図24)。具体的には、対照群(n=18)における平均線維性表面積は129185.7μm
2(範囲60838.1~245836.1μm
2)であったが、hUC-MSCシート移植群(n=18)では95861.6μm
2(範囲47090.5~154446.7μm
2)であった(
図25)。したがって、子宮へのhUC-MSCシートの適用は、hUC-MSCシートが適用されなかった対照群と比較して概ね27%子宮の線維性表面積を低減した。対照及びhUC-MSCシート移植群における線維性子宮筋層と正常な子宮筋層表面の計算された比の平均は、それぞれ0.28及び0.19であった(p<0.01)(
図26)。したがって、子宮へのhUC-MSCシートの適用は、hUC-MSCシートが適用されなかった対照群と比較して、線維性子宮筋層と正常な子宮筋層表面の比を33%を超えて低減した。したがって、hUC-MSCシートの移植は、子宮筋層表面の線維化を有意に低減した。
【0116】
対照(n=18)及びhUC-MSCシート移植群(n=18)の両群における切開領域の厚さは、それぞれ191.5μm(範囲90.0~296.4μm)及び274.3μm(範囲143.7~448.8μm)であった(p<0.01)(
図27)。
【0117】
細胞シートを移植した子宮からのヒト肝細胞増殖因子(HGF)及びヒト血管内皮増殖因子(VEGF)の遺伝子発現を、移植後1、3、7及び14日目に測定した。瘢痕化した対照子宮からのヒトHGFメッセージ及びヒトVEGFメッセージの遺伝子発現は、全ての日で検出されなかった。細胞シート移植群と対照群の間のヒト遺伝子発現の差は、1及び3日目に有意である(*p<0.01)。瘢痕化した対照子宮の遺伝子発現は検出可能でなく、示していない。
【0118】
子宮筋層組織の中の線維芽細胞の数は、線維芽細胞に特異的なS100A4タンパク質の免疫染色を使用して検出された(Kong, et al., 2013, Am J Physiol Heart Circ Physiol. 305(9): p. H1363-72)。子宮筋層(点線)、子宮内膜及び移植された細胞シート領域(矢印)の境界は、HE染色検体で特定された。線維芽細胞特異的タンパク質特異的免疫染色を使用して、S100A4陽性細胞を子宮筋層領域において計数した。対照角での716/mm
2(SD:194/mm
2)と比較して、細胞シートを移植した角における線維芽細胞の平均数は483/mm
2(SD:137/mm
2)であった(
図31B)。対照角におけるS100A4陽性細胞の数は、細胞シート移植群のそれより有意に高い(p=0.0002)。
【0119】
ヒト肝細胞増殖因子(HGF)及びヒト血管内皮増殖因子A(VEGFA)の遺伝子発現は1及び3日目に検出し、対照角と比較して細胞シート移植角でより高かった。しかし、これらの遺伝子は、7及び14日目に発現されなかった(
図30B)。
【0120】
考察
免疫不全ラット子宮切開モデルにおいて、我々は、天然の接着を伴う適切な大きさのシートの開発(developement)によって、及び数日後の免疫組織化学による標的領域での幹細胞の保持によって判断されるように、外科的修復の時点での子宮切開へのヒト臍帯間葉系幹細胞シートの移植が実行可能なことを実証した。更に我々は、子宮切開領域における線維芽細胞補充の低減、線維化形成の減少、手術後の子宮筋層厚の増加、及び正常な子宮筋層と線維性組織の比の向上によって実証されるように、幹細胞シート移植は向上した創傷治癒を刺激することを実証した。
【0121】
この試験では、ヒト心不全を処置するために臨床的に注射された細胞懸濁物として以前に使用されたヒト臍帯由来の幹細胞を使用した。以前の研究は、ウシ胎仔血清(FBS)で培養したこれらのヒト臍帯間葉系幹細胞シートが主要組織適合複合体(MHC)クラスII抗原を低く発現し、細胞シート調製の間、低いMHCクラスII抗原発現を維持することを示している。これらのヒト臍帯間葉系幹細胞は、正常なMHCクラスI遺伝子だけでなく、非正規クラスI MHC遺伝子(ヒト白血球抗原[HLA]-E、HLA-F及びHLA-G)も発現する(La Rocca, et al., 2009, Histochem Cell Biol, 131(2): p. 267-82)。MHCクラスI抗原は、一部のナチュラルキラー細胞誘導性の死滅過程から細胞を保護する役目を果たすことができる。全ての3つの非正規クラスI MHCタンパク質は過剰絨毛性の栄養芽細胞によって発現され、半同種異系胚への母体の寛容性に関連することが報告されている。
【0122】
臨床用幹細胞調製物は、ほとんど注射懸濁物として投与される。注射された幹細胞懸濁物は、弱く一時的な短期サイトカイン分泌(すなわち、3日未満)(Elman, et al., 2014, PLoS One, 9(2): p. e89882)及び非常に低い組織生着効率を示し、それらの局所効果を減少させる。しかし、本明細書に記載される細胞シート移植は局所的に、自発的に、速やかに、及び効率的に生着され、移動することなしで移植部位において最大の治療効果を促進した。したがって、これらのヒト臍帯間葉系幹細胞シートは、宿主免疫組織適合性、最適な治療的及び信頼できる生着プロセスのためのヒト臍帯間葉系幹細胞にとって重要であると考えられる構造的特色、信頼できる表現形質、並びに組織係合を示す。
【0123】
この試験はヒト臍帯間葉系幹細胞シートの使用を子宮外科適用に拡張し、実現可能性を実証する。これらの幹細胞から構築される細胞シートは、注入又は注射される幹細胞と対照的に、治療的有効性及び生着有効性に関係する、細胞間連絡に関連した細胞間接合タンパク質及び細胞接着に関連した細胞外マトリックスタンパク質を含む重大な細胞接着性タンパク質、並びにサイトカイン肝細胞増殖因子(HGF)を保持する(Kim, et al., 2019, Sci Rep, 2019. 9(1): p. 14415)。これらの細胞シートは、移植後最高7日間、光学的に追跡することができた(参照、
図30)。ヒト臍帯間葉系幹細胞シート移植は、子宮壁厚の増加、創傷部位線維化の減少及び創傷線維芽細胞の存在の低減と関連した。両方とも創傷治癒及び組織再生にとって重要であるヒト肝細胞増殖因子(HGF)及びヒト血管内皮増殖因子(VEGF)は、対照角と比較して初期治癒段階(phase)のヒト臍帯間葉系幹細胞シート移植角で検出された(
図30)。これらの所見は、ヒト臍帯間葉系幹細胞シート移植が、ヌードラット子宮切開において創傷治癒を向上させることを示唆する。我々のデータは、永続的な生きているシートとして適用されるヒト臍帯間葉系幹細胞が、子宮切開修復のために有望であることを示唆する。
【0124】
移植された幹細胞シートがどのように子宮筋層再生を促進するかという正確な機構は、不確定である。しかし、本質的な幹細胞機能は、炎症を減少させるプラスミノーゲン活性化因子インヒビター-1(PAI-1)、マクロファージ遊走阻害因子(MIF)及びインターロイキン-6(IL-6)、宿主組織の再生及び増殖を促進し、VEGFと血管新生を促進するHGF及び他のものを含むサイトカイン及びケモカインの分泌を通したそれらのパラクリン効果である。以前の試験は、移植された幹細胞の子宮筋層組織への転換は、少なくとも急性段階以外で、修復への重要な寄与因子である可能性が低いことを示した(Ho, C.H., et al., 2018, J Chin Med Assoc, 81(3): p. 268-276)。更に、同種異系子宮筋層細胞の移植は、動物子宮修復モデルで子宮切開創傷治癒を向上させなかった(Ho et al., 2018, ibid)。
【0125】
このモデルにおける創傷部位の線維性表面積及び線維芽細胞存在度の両方の著しい低減は、固有のヒト臍帯間葉系幹細胞シートの抗炎症効果に帰することができる。炎症性細胞媒介物(単球及びマクロファージ)は、ヒト臍帯間葉系幹細胞シート移植で弱められる(La Rocca, et al., 2009, Histochem Cell Biol, 131(2): p. 267-82)。
【0126】
結論
これらの結果は、hUC-MSCシート移植のない対照と比較して、ラット子宮の修復された子宮切開へのhUC-MSCシート移植の後の線維性組織の形成の減少及び子宮筋層再生の増加を実証する。したがって、本明細書に記載されるhUC-MSCシートは子宮瘢痕の治癒を向上させ、異常な子宮瘢痕形成に関係した罹患率を低下させる潜在能力を有する。
【国際調査報告】