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特表2022-523464脂肪性肝疾患を処置するためのモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-25
(54)【発明の名称】脂肪性肝疾患を処置するためのモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/231 20060101AFI20220418BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20220418BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20220418BHJP
【FI】
A61K31/231 ZNA
A61P1/16
A61P3/06
A23L33/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021541223
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(85)【翻訳文提出日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 IB2020051990
(87)【国際公開番号】W WO2020178803
(87)【国際公開日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】10-2019-0026326
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0086967
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】62/908,392
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516343099
【氏名又は名称】エンジーケム ライフサイエンシーズ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】ENZYCHEM LIFESCIENCES CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ソン,キ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジェ ファ
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ソン ヨン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD14
4B018ME07
4B018ME14
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB07
4C206DB48
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA75
4C206ZC33
(57)【要約】
脂肪性肝疾患を処置するための組成物が開示される。該組成物は、脂肪性肝疾患を処置するための有効成分として式1のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む。
【化1】
[式中、R1およびR2は、独立して、14~22個の炭素分子の脂肪酸残基である。]
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪性肝疾患を処置するための式1の化合物を含む組成物:
【化1】
[式中、R1およびR2は、独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である]。
【請求項2】
R1およびR2が、パルミトイル、オレオイル、リノレオイル、リノレノイル、ステアロイル、ミリストイル、およびアラキドノイルからなる群から独立して選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式1の化合物が式2の化合物:
【化2】
である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が肝線維症である、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
脂肪性肝疾患が1型糖尿病(T1D)によって誘発される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
式1の化合物が、肝細胞および血漿中のトリグリセリド(TG)の濃度を低減させる、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
式1の化合物がリポタンパク質リパーゼ(LPL)の発現を改善する、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
式1の化合物が、門脈におけるApoB48を含むアポリポタンパク質の発現を低減させる、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、前記組成物の0.001~100重量%の量で式1の1つまたは複数の化合物を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
対象に、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物を投与することを含む、脂肪性肝疾患を処置するための方法。
【請求項13】
脂肪性肝疾患を軽減または予防するための式1のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む健康機能性食品組成物:
【化3】
[式中、R1およびR2は、独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である]。
【請求項14】
R1およびR2が、パルミトイル、オレオイル、リノレオイル、リノレノイル、ステアロイル、ミリストイル、およびアラキドノイルからなる群から独立して選択される、請求項13に記載の健康機能性食品組成物。
【請求項15】
対象に、有効量の式1の化合物:
【化4】
[式中、R1およびR2が、独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である]を投与することを含む、脂肪性肝疾患に罹患しているかまたは易罹患性の対象を処置するための方法。
【請求項16】
R1およびR2が、パルミトイル、オレオイル、リノレオイル、リノレノイル、ステアロイル、ミリストイル、およびアラキドノイルからなる群から独立して選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
式1の化合物が以下の式2の化合物:
【化5】
である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
対象が非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)に罹患しているかまたは易罹患性である、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
対象が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に罹患しているかまたは易罹患性である、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
対象が肝線維症に罹患しているかまたは易罹患性である、請求項15~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
対象に、有効量の式1の化合物:
【化6】
[式中、R1およびR2が、独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である]を投与することを含む、非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝線維症、肝炎に起因する脂肪性肝疾患、肥満に起因する脂肪性肝疾患、糖尿病に起因する脂肪性肝疾患、インスリン抵抗性に起因する脂肪性肝疾患、高トリグリセリド血症に起因する脂肪性肝疾患、無ベータリポタンパク血症、糖原病、ウェーバー・クリスチャン病、ウォルマンズ病、妊娠時急性脂肪肝、および/またはリポジストロフィーに罹患しているかまたは易罹患性である対象を処置する方法。
【請求項22】
R1およびR2が、パルミトイル、オレオイル、リノレオイル、リノレノイル、ステアロイル、ミリストイル、およびアラキドノイルからなる群から独立して選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
式1の化合物が以下の式2の化合物:
【化7】
である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
対象が、非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝線維症、肝炎に起因する脂肪性肝疾患、肥満に起因する脂肪性肝疾患、糖尿病に起因する脂肪性肝疾患、インスリン抵抗性に起因する脂肪性肝疾患、高トリグリセリド血症に起因する脂肪性肝疾患、無ベータリポタンパク血症、糖原病、ウェーバー・クリスチャン病、ウォルマンズ病、妊娠時急性脂肪肝、および/またはリポジストロフィーに罹患していることが特定され;および
式1の化合物が、前記特定された対象に投与される、請求項17~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
対象が非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)に罹患していることが特定され、式Iの化合物が前記特定された対象に投与される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
対象が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に罹患していることが特定され、式Iの化合物が前記特定された対象に投与される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
対象が肝線維症に罹患していることが特定され、式Iの化合物が前記特定された対象に投与される、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
対象がヒトである、請求項12または15~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
(a)請求項1~11のいずれか一項に記載の化合物または組成物;
(b)対象における脂肪性肝疾患を処置または予防するために前記化合物を使用するための説明書、を含む、キット。
【請求項30】
(a)l-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG);
(b)脂肪性肝疾患を処置または予防するために前記PLAGを使用するための説明書、を含む、キット。
【請求項31】
治療有効量のPLAGを含む、請求項31に記載のキット。
【請求項32】
前記化合物またはPLAGの使用のための書面による説明書を含む、請求項29~31のいずれか一項に記載のキット。
【請求項33】
非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝線維症、肝炎に起因する脂肪性肝疾患、肥満に起因する脂肪性肝疾患、糖尿病に起因する脂肪性肝疾患、インスリン抵抗性に起因する脂肪性肝疾患、高トリグリセリド血症に起因する脂肪性肝疾患、無ベータリポタンパク血症、糖原病、ウェーバー・クリスチャン病、ウォルマンズ病、妊娠時急性脂肪肝、および/またはリポジストロフィーを処置するための前記化合物または前記PLAGの使用のための書面による説明書を含む、請求項29~32のいずれか一項に記載のキット。
【請求項29】
説明書が製品ラベルである、請求項29~33のいずれか一項に記載のキット。
【請求項34】
対象に、i)有効量の式1の化合物およびii)式1の化合物とは異なる1つまたは複数の追加の肝線維症処置薬:
【化8】
[式中、R1およびR2が、独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である]を投与することを含む、脂肪性肝疾患に罹患しているかまたは易罹患性の対象を処置する方法。
【請求項35】
R1およびR2が、パルミトイル、オレオイル、リノレオイル、リノレノイル、ステアロイル、ミリストイル、およびアラキドノイルからなる群から独立して選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
式1の化合物が以下の式2の化合物:
【化9】
である、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
対象が非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)に罹患しているかまたは易罹患性である、請求項34~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
対象が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に罹患しているかまたは易罹患性である、請求項34~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
対象が肝線維症に罹患しているかまたは易罹患性である、請求項34~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
1つまたは複数の異なる肝線維症処置薬が、オベチコール酸(OCA)、エラフィブラノル(GFT505)、セロンセルチブ(GS-4997)、セニクリビロック(CVC)、リラグルチド、メタドキシン、ヒドロキシチロソールおよびビタミンE、NGM282(M70)、BMS-986036、エムリカサン(IDN-6556)、アラムコール、アトルバスタチンおよび/またはLカルニチン、MGL-3196、ボリキシバット(SHP626)、GS-9674、セマグルチド、サログリタザル、NCT02605616(Mayo Clinic,米国ミネソタ州ロチェスター市)の薬剤、LMB763、IVA337、LJN452、CF102、MT-3995、ピオグリタゾン、MN-001(チペルカスト)、MSDC-0602K、JKB-121、IMM-124Eおよび/またはARI-3037MO、ならびにその医薬上許容される塩または酸からなる群から選択される1つまたは複数を含む、請求項34~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
対象に、i)有効量の式1の化合物およびii)式1の1つまたは複数の前記化合物の化合物とは異なる有効量の1つまたは複数の肝線維症処置薬:
【化10】
[式中、R1およびR2が、独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である]を投与することを含む、非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝線維症、肝炎に起因する脂肪性肝疾患、肥満に起因する脂肪性肝疾患、糖尿病に起因する脂肪性肝疾患、インスリン抵抗性に起因する脂肪性肝疾患、高トリグリセリド血症に起因する脂肪性肝疾患、無ベータリポタンパク血症、糖原病、ウェーバー・クリスチャン病、ウォルマンズ病、妊娠時急性脂肪肝、および/またはリポジストロフィーに罹患しているかまたは易罹患性である対象を処置するための方法。
【請求項42】
R1およびR2が、パルミトイル、オレオイル、リノレオイル、リノレノイル、ステアロイル、ミリストイル、およびアラキドノイルからなる群から独立して選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
式1の化合物が以下の式2の化合物:
【化11】
である、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
対象が非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)に罹患しているかまたは易罹患性である、請求項41~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
対象が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に罹患しているかまたは易罹患性である、請求項41~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
対象が肝線維症に罹患しているかまたは易罹患性である、請求項41~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
1つまたは複数の異なる肝線維症処置薬が、オベチコール酸(OCA)、エラフィブラノル(GFT505)、セロンセルチブ(GS-4997)、セニクリビロック(CVC)、リラグルチド、メタドキシン、ヒドロキシチロソールおよびビタミンE、NGM282(M70)、BMS-986036、エムリカサン(IDN-6556)、アラムコール、アトルバスタチンおよび/またはLカルニチン、MGL-3196、ボリキシバット(SHP626)、GS-9674、セマグルチド、サログリタザル、NCT02605616(Mayo Clinic,米国ミネソタ州ロチェスター市)の薬剤、LMB763、IVA337、LJN452、CF102、MT-3995、ピオグリタゾン、MN-001(チペルカスト)、MSDC-0602K、JKB-121、IMM-124Eおよび/またはARI-3037MO、ならびにその医薬上許容される塩または酸からなる群から選択される1つまたは複数を含む、請求項41~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
(a)請求項1~11のいずれか一項に記載の化合物または組成物;
(b)請求項1~11のいずれか一項に記載の化合物または組成物とは異なる1つまたは複数の肝線維症処置薬;および
(c)対象における脂肪性肝疾患を処置または予防するために前記化合物および前記1つまたは複数の異なる肝線維症処置薬を使用するための説明書、
を含む、キット。
【請求項49】
(a)l-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG);
(b)異なる形態のPLAGである1つまたは複数の肝線維症処置薬;および
(b)脂肪性肝疾患を処置または予防するための前記PLAGおよび前記1つまたは複数の異なる肝線維症処置薬のための説明書、
を含む、キット。
【請求項50】
治療有効量のPLAGを含む、請求項49に記載のキット。
【請求項51】
前記化合物またはPLAGおよび前記1つまたは複数の異なる肝線維症処置薬を使用するための書面による説明書を含む、請求項48~50のいずれか一項に記載のキット。
【請求項52】
i)前記化合物または前記PLAGおよびii)前記1つまたは複数の追加の肝線維症処置薬を使用するための書面による説明書を含む、非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝線維症、肝炎に起因する脂肪性肝疾患、肥満に起因する脂肪性肝疾患、糖尿病に起因する脂肪性肝疾患、インスリン抵抗性に起因する脂肪性肝疾患、高トリグリセリド血症に起因する脂肪性肝疾患、無ベータリポタンパク血症、糖原病、ウェーバー・クリスチャン病、ウォルマンズ病、妊娠時急性脂肪肝、および/またはリポジストロフィーを処置するための、請求項48~51のいずれか一項に記載のキット。
【請求項53】
説明書が製品ラベルである、請求項48~52のいずれか一項に記載のキット。
【請求項54】
前記1つまたは複数の異なる肝線維症処置薬が、オベチコール酸(OCA)、エラフィブラノル(GFT505)、セロンセルチブ(GS-4997)、セニクリビロック(CVC)、リラグルチド、メタドキシン、ヒドロキシチロソールおよびビタミンE、NGM282(M70)、BMS-986036、エムリカサン(IDN-6556)、アラムコール、アトルバスタチンおよび/またはLカルニチン、MGL-3196(レスメチロム)、ボリキシバット(SHP626)、GS-9674、セマグルチド、サログリタザル、NCT02605616(Mayo Clinic,米国ミネソタ州ロチェスター市)の薬剤、LMB763、IVA337、LJN452、CF102、MT-3995、ピオグリタゾン、MN-001(チペルカスト)、MSDC-0602K、JKB-121、IMM-124Eおよび/またはARI-3037MO、ならびにその医薬上許容される塩または酸からなる群から選択される1つまたは複数を含む、請求項48~53のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年9月30日出願の米国仮特許出願公開第62/908,392号明細書、2019年3月7日出願の韓国特許出願第10-2019-0026326号公報、2019年7月18日出願の韓国特許出願第10-2019-0086967号公報の利益を主張しており、これらの内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、脂肪性肝疾患を処置するための有効成分としてモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む組成物、より詳細には、脂肪性肝疾患の症状を予防するおよび/または軽減する経口投与用のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
肝臓は、身体の器官の中で最も重要な代謝器官のうちの1つであり、胆汁分泌、栄養素貯蔵、解毒などの重要な機能を担っている。肝臓が異常な状態である場合、グルコース代謝、脂質代謝、タンパク質および窒素代謝、アミノ酸代謝、タンパク質代謝および肝脳疾患、ビタミン代謝、吸収不良などの代謝障害が起こることがある。加えて、肝疾患は、感染症、脂肪肝、肝硬変などによって悪化することがある。現在までに公知の肝疾患は、薬物に起因する急性肝炎、アルコール性脂肪肝、肥満、糖尿病、高脂血症に起因する非アルコール性脂肪肝、ウイルス感染に起因する急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変などと関係している。
【0004】
なかでも、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、アルコールの有無にかかわらず、肥満、糖尿病、および高脂血症を随伴する最も一般的な慢性肝疾患であり、肝臓内での過剰な脂質(主にトリグリセリド)の蓄積を特徴とする。一般に、NAFLDでは、総肝重量の5重量%超が脂質である。NAFLDは、脂肪性肝炎、線維化、肝硬変、さらには肝細胞癌にまで発展する可能性がある。
【0005】
NAFLDについては数多くの研究があるが、1型糖尿病(T1D)との関係については比較的知られていない。最近の報告では、T1Dが、慢性糖尿病合併症についての独立した危険因子であるNAFLDを引き起こし得ることが指摘されている。
【0006】
1型糖尿病(T1D)とは、患者自身の免疫系がベータ細胞を攻撃し破壊する自己免疫疾患である。1型糖尿病(T1D)における脂肪肝の病理発生はまだ明らかではない。しかしながら、RegnelllおよびLemmarkは、主に血流およびリンパ球の活性化を経て脂質を輸送するよう機能するリポタンパク質の異常、ならびに/またはグルコース代謝および脂質合成をそれぞれ調節する転写因子である炭水化物応答要素結合タンパク質(ChREBP)およびステロール調節要素結合タンパク質1c(SREBP-1C)の活性化によって引き起こされる可能性があることを示唆した(非特許文献1)。
【0007】
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の1つである。NASHの根本原因はわかっていない。しかしながら、NASHに罹患している患者を解析すると、NASHは、肥満、2型糖尿病、脂質異常症、またはメタボリックシンドローム(腹囲90cm超、トリグリセリド150mg/dL以上、HDL40mg/dL以下、空腹時血糖100mg/dL以上、収縮期血圧130mmHg以上)と関係している。それゆえ、これらは、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を引き起こすための因子とみなされており、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)患者の増加の主要因と認識されている。
【0008】
また、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に罹患していない対照群と比較して、2型糖尿病を発症するリスクを2~4倍上昇させることも公知である。言い換えれば、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、インスリン抵抗性と密接に関連している。
【0009】
リポタンパク質リパーゼ(LPL)は、膵臓、肝臓、および内皮のリパーゼとして作用し、主に骨格筋、心臓および脂肪組織に分布する。リポタンパク質リパーゼ(LPL)は、ApoE(APOタンパク質)に結合してトリグリセリドを筋肉および脂肪組織に分配するカイロミクロン(CM)を含み、トリグリセリド(トリグリセリド、TG)を加水分解する超低密度リポタンパク質である。これらは、トリグリセリド(TG)を加水分解し、エネルギー源または貯蔵源のために筋肉および脂肪組織などの末梢組織からトリグリセリド(TG)を除去するのに重要な役割を担っている。それゆえ、リポタンパク質リパーゼ(LPL)が低減(喪失)すると、トリグリセリド(TG)が過剰に循環し、高トリグリセリド血症の原因となる。
【0010】
ストレプトゾトシン(STZ)は、細胞の迅速かつ不可逆的な壊死を誘導する選択的な膵β細胞毒素であり、糖尿病を誘発するために使用されることがよくある。STZはまた、脂肪肝をモデル化するのに適した候補でもある。STZ誘発性糖尿病は、高血糖症、脂質異常症、体重減少および脂肪肝を特徴とする。
【0011】
したがって、脂肪性肝疾患のための新たな療法を有することが望ましいであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】S.E.Regnell,A.Lernmark,Hepatic steatosis in type 1 diabetes Rev Diabet Stud 8(2011)454-467
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様では、モノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む脂肪性肝疾患を処置するための組成物および方法が提供される。好ましい方法および組成物では、肝細胞および血漿中のトリグリセリド(TG)レベルを低減させることができ、リポタンパク質リパーゼ(LPL)の発現を改善することができる。
【0014】
別の態様では、非毒性でありかつその症状を含めて脂肪性肝疾患を軽減するモノアセチルジアシルグリセロール化合物を有効成分として含む、脂肪性肝疾患を処置するための組成物および方法が提供される。
【0015】
より詳細には、脂肪性肝疾患を処置するための式1のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む組成物および方法が提供される。
【0016】
【化1】
【0017】
式中、RおよびRは独立して、14~22個の炭素原子からなる脂肪酸残基、好ましくは15~20個の炭素原子からなる脂肪酸残基である。
【0018】
一実施形態では、モノアセチルジアシルグリセロールは、以下の式2の化合物である。
【0019】
【化2】
【0020】
式2の化合物は、1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロールであり、式1のRおよびRがそれぞれパルミトイルおよびリノレオイルである式1の化合物に相当する。式2の化合物は、本開示では「PLAG」または「EC-18」と称されることがある。
【0021】
考察したように、式1および式2の化合物は、非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝炎に起因する脂肪性肝疾患、肥満に起因する脂肪性肝疾患、糖尿病に起因する脂肪性肝疾患、インスリン抵抗性に起因する脂肪性肝疾患、高トリグリセリド血症に起因する脂肪性肝疾患、無ベータリポタンパク血症、糖原病、ウェーバー・クリスチャン病、ウォルマンズ病、妊娠時急性脂肪肝、および/またはリポジストロフィーをはじめとする脂肪性肝疾患に罹患しているかまたは易罹患性である対象を処置するために使用されてもよい。
【0022】
詳細な態様では、式1および2の化合物は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に罹患しているかまたは易罹患性である対象を処置するために使用される。
【0023】
さらなる詳細な態様では、式1および2の化合物は、非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)に罹患しているかまたは易罹患性である対象を処置するために使用される。
【0024】
詳細な態様では、本明細書に開示される疾患または障害の処置のために対象が特定および選定され、次いで、式1または2の化合物が該特定および選定された対象に投与される。
【0025】
例えば、患者を非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に罹患していると特定および選定することができ、該非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に罹患していると特定された患者に式1または2の化合物を投与して、それにより非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を軽減または処置することができる。患者を非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)に罹患していると特定および選定することができ、該非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)に罹患していると同定された患者に式1または2の化合物を投与して、それにより非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)を軽減または処置することができる。患者を肝線維症に罹患していると特定および選定することができ、該肝線維症に罹患していると特定された患者に式1または2の化合物を投与して、それにより非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)を軽減または処置することができる。
【0026】
ある特定の態様では、式1もしくは2の1つまたは複数の化合物またはPLAGは、式1もしくは2の1つまたは複数の化合物またはPLAGとは異なる1つまたは複数の肝線維症処置薬と組み合わせてまたは協調して対象に投与することができる。ある特定の態様では、式1もしくは2の1つまたは複数の化合物、またはPLAGと同時投与されるかまたは組み合わせで投与される1つまたは複数の異なる肝線維症処置薬は、オベチコール酸(OCA)、エラフィブラノル(GFT505)、セロンセルチブ(GS-4997)、セニクリビロック(CVC)、リラグルチド、メタドキシン、ヒドロキシチロソールおよびビタミンE、NGM282(M70)、BMS-986036、エムリカサン(IDN-6556)、アラムコール、アトルバスタチンおよび/またはL-カルニチン、MGL-3196(レスメチロム)、ボリキシバット(SHP626)、GS-9674、セマグルチド、サログリタザル、NCT02605616(Mayo Clinic,米国ミネソタ州ロチェスター市)の薬剤、LMB763、IVA337、LJN452、CF102、MT-3995、ピオグリタゾン、MN-001(チペルカスト)、MSDC-0602K、JKB-121、IMM-124Eおよび/またはARI-3037MO、ならびにその医薬上許容される塩または酸であることができる。
【0027】
ある特定の好ましい態様では、PLAGは、例えば、NASHまたはNAFLDなどの脂肪性肝疾患または脂肪性肝障害に罹患している対象、例えばヒトを処置するなどのために、オベチコール酸(OCA)と同時投与されることができる。追加のある特定の好ましい態様では、PLAGは、例えば、NASHまたはNAFLDなどの脂肪性肝疾患または脂肪性肝障害に罹患している対象、例えばヒトを処置するなどのために、MGL-3196と同時投与されることができる。さらに追加のある特定の好ましい態様では、PLAGは、NASHまたはNAFLDなどの脂肪性肝疾患または脂肪性肝障害に罹患している対象、例えばヒトを処置するなどのために、MGL-3196およびオベチコール酸(OCA)の両方と同時投与されることができる。
【0028】
本明細書で言及されるように、肝線維症処置薬は、式1もしくは2の化合物、またはPLAGとは異なっており、肝線維症処置薬は、式1もしくは2の化合物、またはPLAGと化学構造が異なっている。例えば、異なる肝線維症処置は、モノアセチルジアシルグリセロール構造を含まなくてもよく、またはジアシルグリセロール構造化合物を含まなくてもよく、またはグリセロール構造を含まなくてもよい。投与された異なる肝線維症処置薬はまた、同時投与された式1もしくは2の化合物、またはPLAGと分子量が少なくとも5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90または100%(高くまたは低く)異なっていてもよい。
【0029】
ある特定の態様では、本治療方法は、肝炎に罹患している対象の処置と関係していない。この態様では、肝炎に罹患している対象および/または肝炎のための処置を求めている対象は、本治療方法から除外されるであろう。関連する態様では、肝炎に罹患していると特定された、処置を求めている対象は、本治療方法から除外されるであろう。
【0030】
さらなる態様では、本治療方法は、糖尿病に罹患している対象の処置と関係していない。この態様では、糖尿病に罹患している対象および/または糖尿病のための処置を求めている対象は、本治療方法から除外されるであろう。
【0031】
なおも追加の態様では、本治療方法は、創傷または損傷組織に悩む対象と関係していない。この態様では、創傷もしくは損傷組織に悩む対象および/または創傷もしくは損傷組織のための処置を求めている対象は、本治療方法から除外される。関連する態様では、組織の修復または再生を包含する処置を求めている対象は、本治療方法から除外される。
【0032】
さらなる態様では、先に明らかにされた式1または2の化合物を含む医薬組成物が提供される。該組成物は、適切には、1つまたは複数の医薬として許容され得る担体を含むことができる。好ましい実施形態では、該組成物は、本明細書に開示される脂肪性肝疾患の処置のために製剤されることができるか、またはさもなくば該処置に適合していることができる。好ましい態様では、該組成物は、錠剤またはカプセル剤として経口投与に適合していることができる。
【0033】
なおもさらなる態様では、本明細書に開示される脂肪性肝疾患を処置または予防するために使用するためのキットが提供される。本発明のキットは、適切には、1)式1または式2の1つまたは複数の化合物と、2)本明細書に開示される脂肪性肝疾患を処置するかまたは予防するために1つまたは複数の化合物を使用するための説明書とを含むことができる。好ましくは、キットは、治療有効量の式1または式2の1つまたは複数の化合物を含む。説明書は、適切には、製品ラベルをはじめとする、記載された形式であることができる。
【0034】
本発明はまた、脂肪性肝疾患を軽減するかまたは予防するための式1のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む健康機能性食品組成物も提供する。
【0035】
本発明の組成物は、門脈内でApoB48を含むapoBタンパク質の発現を低減させることができ、非毒性であり、脂肪性肝疾患を処置および/または軽減する。
【0036】
本発明の他の態様を以下に開示する。
本特許または出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含有している。本特許または特許出願公開の、カラー図面付きの写しは、請求および必要な料金の支払いに応じて特許庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、本発明の実験プロトコルを示す。
【0038】
図2図2図2のAおよび図2のBを含む)は、本発明による組成物を投与したときの体重変化を示すグラフおよびチャート(図2のA)ならびに肝重量変化を示すチャート(図2のB)を示す。
【0039】
図3図3は、本発明による組成物を使用したときのヘマトキシリン・エオシンおよびオイルレッドOで染色した肝臓切片の顕微鏡写真を示す。
【0040】
図4図4は、小腸において吸収された脂肪が肝臓に影響を及ぼす例示的な機序を示す。
【0041】
図5図5図5のAおよび図5のBを含む)は、本発明による組成物を使用したときの、肝臓および血漿中のトリグリセリドのレベルおよび含量を示すチャート(図5のA)および門脈血漿中のapoB48タンパク質発現を示すチャート(図5のB)を示す。
【0042】
図6図6図6のA~図6のCを含む)は、本発明による組成物を使用したときの、筋肉組織中のトリグリセリドの含量を示すチャート(図6のA)、筋肉組織中のLPLの相対的なmRNA発現を示すチャート(図6のB)、および筋肉切片におけるLPL染色の代表的な免疫組織化学的画像を示す写真(図6のC)を示す。
【0043】
図7図7図7のA~図7のCを含む)は、マウス由来の筋肉標本および骨格筋の重量を示すチャート(図7のA)、ならびに腓腹筋および大腿四頭筋をはじめとする筋肉組織におけるカベオリン3の相対的なmRNA発現の結果(図7のB)、ならびに筋芽細胞および筋管におけるカベオリン3およびミオゲニンの相対的なmRNA発現の結果(図7のC)を示す。
【0044】
図8図8図8のA~図8のDを含む)は、PLAGおよびPLGの構造化学式(図8のA)、ならびに各群の体重変化を示すチャート(図8のB)および肉眼的肝臓標本の写真(図8のC)、ならびにヘマトキシリン・エオシン染色した肝臓切片の写真(図8のD)を示す。
【0045】
図9図9は、本発明の別の実験プロトコルを示す。
【0046】
図10図10は、本発明による組成物を使用したときの体重変化を示すグラフである。
【0047】
図11図11図11のA~図11のCを含む)は、本発明による組成物を使用したときの体重(図11のA)、肝重量(図11のB)および肝重量対体重比(図11のC)を示すグラフである。
【0048】
図12図12図12のA~図12のCを含む)は、本発明による組成物を使用したときの、血漿ALT(図12のA)および血漿AST(図12のB)およびALT/AST比(図12のC)を示すグラフである。
【0049】
図13図13は、本発明による組成物を使用したときの、ヘマトキシリン・エオシンおよびオイルレッドOで染色した肝臓切片の顕微鏡写真を示す。
【0050】
図14図14図14のA~図14のDを含む)は、本発明による組成物を使用したときの、ヘマトキシリン・エオシンおよびオイルレッドOで染色した肝臓切片を示すグラフを示す。
【0051】
図15図15は、本発明による組成物を使用したときのシリウスレッド染色した肝臓切片の顕微鏡写真を示す。
【0052】
図16図16は、本発明による組成物を使用したときの肝臓組織の線維部分(シリウスレッド陽性面積)を示すグラフを示す。
【0053】
図17図17は、実施例12の第1~6の群の肝臓トリグリセリドのレベルのグラフを示す。
【0054】
図18図18は、実施例12の第1~6の群の血漿サイトケラチン18のグラフを示す。
【0055】
図19図19は、実施例12の第1~6の群のF4/80免疫染色された肝臓切片の代表的な顕微鏡写真を示す。
【0056】
図20図20は、実施例12の第1~6の群の炎症領域(F4/80陽性面積%)のグラフを示す。
【0057】
図21図21は、実施例12の第1~6の群の定量的RT-PCRによって測定された相対的な遺伝子発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本発明による脂肪性肝疾患を処置するための組成物は、式1のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を有効成分として含む。
【0059】
【化3】
【0060】
本発明では、「モノアセチルジアシルグリセロール化合物」という用語は、アセチル基と2個のアシル基とを含有するグリセロール誘導体を意味し、モノアセチルジアシルグリセロール(MADG)とも称される。
【0061】
式1中、RおよびRは、独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基であり、好ましくは15~20個の炭素原子の脂肪酸残基である。該脂肪酸残基は、-OH基がそのカルボキシル基から除外された脂肪酸における残存部分を意味する。したがって、式1中、R1およびR2の非限定的な例としては、パルミトイル、オレオイル、リノレオイル、リノレノイル、ステアロイル、ミリストイル、アラキドノイルなどがある。R1およびR2の好ましい組み合わせとしては、オレオイル/パルミトイル、パルミトイル/オレオイル、パルミトイル/リノレオイル、パルミトイル/リノレノイル、パルミトイル/アラキドノイル、パルミトイル/ステアロイル、パルミトイル/パルミトイル、オレオイル/ステアロイル、リノレオイル/パルミトイル、リノレオイル/ステアロイル、ステアロイル/リノレオイル、ステアロイル/オレオイル、ミリストイル/リノレオイル、ミリストイル/オレオイルなどがある。R1およびR2のより好ましい組み合わせは、パルミトイル/リノレオイルである。光学活性において、式1のモノアセチルジアシルグリセロール誘導体は、(R)-形態、(S)-形態またはラセミ混合物であることができ、好ましくはラセミ混合物であることができ、これらの立体異性体を含んでよい。
【0062】
一実施形態では、モノアセチルジアシルグリセロールは、以下の式2の化合物である。
【0063】
【化4】
【0064】
式2の化合物は、1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロールであり、式1のRおよびRがそれぞれパルミトイルおよびリノレオイルである式1の化合物に相当する。式2の化合物は、本開示では「PLAG」または「EC-18」と称されることがある。
【0065】
モノアセチルジアシルグリセロール化合物は、天然のシカの枝角から分離および抽出することができるか、または公知の有機合成法(韓国特許第10-0789323号公報)によって製造することができる。より具体的には、シカの枝角をヘキサンで抽出した後、残渣をクロロホルムで抽出し、クロロホルムを除去してクロロホルム抽出物を得る。この抽出のための溶媒の量は、シカの枝角を浸漬するのにちょうど十分である。一般に、シカの枝角1kgに対して約4~5リットルのヘキサンおよび/またはクロロホルムが使用されるが、これに限定されない。この方法によって取得された抽出物を、さらに、一連のシリカゲルカラムクロマトグラフおよびTLC法を用いて分画および精製して、本発明のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を取得する。抽出のための溶媒は、クロロホルム/メタノール、ヘキサン/酢酸エチル/酢酸から選択されるが、これらに限定されない。
【0066】
モノアセチルジアシルグリセロール化合物の調製のための化学合成方法は、韓国特許第10-0789323号公報に示されている。具体的には、該方法は、(a)1-R1-グリセロールの3位に保護基を導入することによって、1-R1-3-保護基-グリセロールを調製する工程、(b)1-R1-3-保護基-グリセロールの2位にR2を導入することによって、1-R1-2-R2-3-保護基-グリセロールを調製する工程、(c)1-R1-3-保護基-グリセロールの脱保護反応とアセチル化反応とを同時に行うことによって、所望のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を調製する工程を含む。モノアセチルジアシルグリセロール化合物は、必要な場合、さらに精製してよい。あるいは、モノアセチルジアシルグリセロール化合物は、ホスファチジルコリンの酸分解(アセトリシス)によって調製することができるが、これに限定されない。式1の化合物の立体異性体も本発明の範囲内である。
【0067】
本発明のモノアセチルジアシルグリセロール化合物は、脂肪性肝疾患の処置および/または軽減に有効に用いることができる。「脂肪性肝疾患」という用語は、肝臓に蓄積した過剰な脂肪(主としてトリグリセリド)を特徴とする疾患である。一般に、「脂肪性肝疾患」という用語は、肝臓の脂肪量が全肝重量の5重量%を超える状態を意味する。
【0068】
脂肪性肝疾患としては、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)がある。非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、アルコールの使用以外の原因による肝臓における過剰な脂肪の蓄積である。
【0069】
具体的には、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、過体重、肥満、インスリン抵抗性、糖尿病(1型糖尿病(T1D)、2型糖尿病など)、脂質異常症(高脂血症)、メタボリックシンドローム(例えば、高血圧、高血糖、腹部肥満、低HDLコレステロールおよび高トリグリセリドによって引き起こされるメタボリックシンドローム)などと関係している慢性肝疾患である。NAFLDは、アルコール使用以外の原因による肝臓での過剰な脂肪(主としてトリグリセリド)の蓄積によって引き起こされ、通常、総肝重量に関して5重量%を超える脂肪の蓄積を指す。本開示では、NAFLDとしては、NAFLDに起因する疾患が含まれる。
【0070】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)としては、肝細胞に損傷を与えることなく単に脂肪が肝臓に蓄積する非アルコール性脂肪肝だけでなく、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝線維症、肝硬変、さらには肝細胞癌も含まれる。具体的には、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、1型~4型に分類することができる。具体的には、1型は、脂肪変性のみを随伴し、肝細胞損傷を随伴しない単純な脂肪肝を意味する。2型は、重度および持続性の脂肪変性および肝細胞損傷による、小葉における炎症反応を随伴する脂肪性肝炎を意味する。3型は、肝細胞の風船状変化ならびに脂肪変性および脂肪壊死が現れている状態を意味する。4型は、3型の症状を随伴するマロリー体または線維化が現れている状態を意味する。3型および4型では、肝硬変が起こることがある。
【0071】
全脂肪性肝疾患患者の約10%が、脂肪性肝炎として公知である。非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、高インスリン血症によるトリグリセリドの上昇および脂肪代謝の低下によって引き起こされる。非アルコール性脂肪肝および非アルコール性脂肪性肝炎が処置されていない場合、肝機能が悪化することがあり、肝線維症を経て肝硬変が生じることがある。
【0072】
線維化とは、肝臓組織における創傷治癒過程の1種である。肝組織が肝炎ウイルス、非アルコール性脂肪肝、薬物などによって損傷されると、肝細胞が継続的に損傷され、再生されるにつれて、肝小葉において脈管構造が崩壊する。結果として、再生結節により喪失された機能が生じ、肝臓で線維化反応が起こり、肝硬変につながることがある。
【0073】
損傷した肝細胞は、フリーラジカルおよび炎症性物質を分泌して、クーパー細胞および炎症性細胞を活性化し、肝星細胞の活性化につながる。肝星細胞は、正常な状態ではビタミンAの貯蔵体であるが、肝損傷が起こると活性化され、コラーゲンなどのさまざまな細胞外基質を合成し、分泌して肝線維症を引き起こすことができる。肝損傷が慢性的に繰り返されると、損傷した肝細胞はもはや再生されることができず、コラーゲンなどの細胞外マトリックスと徐々に置き換えられ、肝線維症および肝硬変につながる可能性がある。
【0074】
すなわち、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、単純な非アルコール性脂肪肝から脂肪性肝疾患および肝線維症を経て肝硬変へと進行する連続的な疾患である。
【0075】
本発明のモノアセチルジアシルグリセロール化合物は、非アルコール性脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝線維症をはじめとする非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の処置に有効に使用することができる。「処置」という用語には、本発明の組成物を投与することによる、非アルコール性脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)および肝線維症の症状の遅延または低減、ならびに症状の部分的なもしくは完全な除去または予防が含まれる。
【0076】
併用療法
【0077】
考察したように、式1もしくは2のうちの1つまたは複数の化合物、またはPLAGおよび1つまたは複数の肝線維症処置薬は、NASHをはじめとする脂肪性肝疾患に罹患しているヒトをはじめとする対象を処置するなどのために組み合わせて投与することができる。
【0078】
本明細書で使用する場合、対象への療法の投与の文脈における「組み合わせて」という用語は、治療上の利益のための1つを超える療法の使用を指す。投与の文脈における「組み合わせて」という用語はまた、少なくとも1つの追加の療法と共に使用されるときの対象への療法の予防上の使用を指すこともできる。「組み合わせて」という用語の使用は、療法(例えば、第1および第2の療法)が対象に投与される順序を制限しない。該療法は、本明細書に開示される処置を必要とする対象への第2の療法の投与の前(例えば、1分前、5分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、12時間前、24時間前、48時間前、72時間前、96時間前、1週間前、2週間前、3週間前、4週間前、5週間前、6週間前、8週間前、または12週間前)に、該投与と同時に、または該投与に続いて(例えば、1分後、5分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、12時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、1週間後、2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後、8週間後、または12週間後に)投与することができる。該療法は、該療法が一緒に作用することができるように、連続してかつある時間間隔内で対象に投与される。詳細な実施形態では、療法は、他の方法で投与された場合よりも高い恩恵をもたらすように、連続してかつある時間間隔内で対象に投与される。いずれの追加の療法も、その他の追加の療法と共に何らかの順序で投与することができる。
【0079】
化合物(例えば、式1もしくは2の化合物、またはPLAG)および1つまたは複数の肝線維症処置薬の投与は、他の成分と組み合わせて、脂肪肝疾患、例えば、非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝線維症、肝炎に起因する脂肪性肝疾患、肥満に起因する脂肪性肝疾患、糖尿病に起因する脂肪性肝疾患、インスリン抵抗性に起因する脂肪性肝疾患、高トリグリセリド血症に起因する脂肪性肝疾患、無ベータリポタンパク血症、糖原病、ウェーバー・クリスチャン病、ウォルマンズ病、妊娠時急性脂肪肝、および/またはリポジストロフィーを軽減し、低減させ、または安定化するのに有効な治療薬濃度を結果としてもたらす適切な手段によるものであってよい。
【0080】
化合物(例えば、式1もしくは2の化合物、またはPLAG)および1つまたは複数の異なる肝線維症処置薬は、同時にまたは逐次投与されてもよい。いくつかの実施形態では、肝線維症の処置は、疾患適応症のための確立された療法であり、化合物(例えば、式1もしくは2の化合物、またはPLAG)の添加によるものであり、このような処置により患者に対する治療上の恩恵が向上する。このような向上は、患者ごとの応答の上昇または患者集団における応答の上昇として測定することができる。併用療法はまた、より少量の用量またはより頻度の少ない治療薬の投与での応答性の向上をもたらし、結果としてより良好な許容される処置投与計画が得られる。示されるように、化合物(例えば、式1もしくは2の化合物、またはPLAG)と1つまたは複数の異なる肝線維症処置薬との併用療法は、さまざまな機序、例えば、小腸で吸収された脂肪が肝臓に影響を及ぼす機序(例えば、摂取量の増加または腸生理学的作用および微生物叢の調節不全のいずれかによる、小腸(腸)から肝臓への食事性脂肪送達の上昇)、2)非エステル化プールから(例えば、白色脂肪組織から)の遊離脂肪酸の流入の増加、3)過剰な炭水化物からのデノボ肝臓脂肪生成(およびまたは脂肪組織インスリン抵抗性からの高インスリン血症)の上昇などのさまざまな機序を経て臨床上の活性を提供する増強することができる。
【0081】
いくつかの態様では、該方法(例えば、脂肪肝疾患のための併用療法)は、第2の治療薬(式1もしくは式2の化合物またはPLAGとは異なる1つまたは複数の肝線維症処置薬)の投与、または肝線維症のための第2の療法(例えば、当技術分野において標準的である治療薬または療法)を用いた処置を含むことができる。
【0082】
いくつかの態様では、該方法(例えば、脂肪肝疾患のための併用療法)は、第2の治療薬(式1もしくは式2の化合物またはPLAGとは異なる1つまたは複数の肝線維症処置薬)の投与、またはNAFLDおよび/もしくはNASHの処置のための第2の療法(例えば、当技術分野において標準的である治療薬または療法)を用いた処置を含むことができる。
【0083】
例示的な治療薬としては、1つまたは複数の肝線維症処置薬がある。「肝線維症処置薬」とは、脂肪性肝疾患、例えば、非アルコール性脂肪酸肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝線維症、肝炎に起因する脂肪性肝疾患、肥満に起因する脂肪性肝疾患、糖尿病に起因する脂肪性肝疾患、インスリン抵抗性に起因する脂肪性肝疾患、高トリグリセリド血症に起因する脂肪性肝疾患、無ベータリポタンパク血症、糖原病、ウェーバー・クリスチャン病、ウォルマンズ病、妊娠時急性脂肪肝、および/またはリポジストロフィーの処置において有用な化合物である。
【0084】
本発明の方法、組成物およびキットにおける使用のための肝線維症処置薬の例としては、オベチコール酸(OCA)、エラフィブラノル(GFT505)、セロンセルチブ(GS-4997)、セニクリビロック(CVC)、リラグルチド、メタドキシン、ヒドロキシチロソールおよびビタミンE、NGM282(M70)、BMS-986036、エムリカサン(IDN-6556)、アラムコール、アトルバスタチンおよび/またはLカルニチン、MGL-3196(レスメチロム)、ボリキシバット(SHP626)、GS-9674、セマグルチド、サログリタザル、NCT02605616(Mayo Clinic,米国ミネソタ州ロチェスター市)の薬剤、LMB763、IVA337、LJN452、CF102、MT-3995、ピオグリタゾン、MN-001(チペルカスト)、MSDC-0602K、JKB-121、IMM-124Eおよび/またはARI-3037MO、ならびにその医薬上許容される塩または酸がある。考察されるように、ある特定の好ましい方法、キットおよび組成物は、対象、例えばNASHまたはNAFLDなどの脂肪性肝疾患または脂肪肝障害に罹患しているヒトを処置することをはじめとする、MGL-3196(レスメチロム)および/またはオベチコール酸(OCA)を含む1つまたは複数の肝線維症処置薬を含むことができる。
【0085】
加えて、肝線維症処置薬の例としては、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARα、PPARβ/δ、および/またはPPARγ)アゴニスト(例えば、GW501516、エラフィブラノル、チアゾリジンジオン、ピオグリタゾン、またはサログリタザル)、FXR-胆汁酸軸(例えば、オベチコール酸、FGF-19、NGM-282、NCT02548351における作用薬、NCT02443116における作用薬など)、脂質変化薬(例えば、ステアロイル-CoAデサチュラーゼ(SOD)阻害薬、アラムコール、)、インクレチン系療法(例えば、エキセナチド、リラグルチド、シタグリプチンなど)、炎症、細胞損傷もしくは細胞死(アポトーシス)および酸化ストレスを標的とする作用薬(例えば、ビタミンE、ENCORE-NFにおける作用薬、NCT02686762、ペントキシフィリンなど)、腸および微生物叢関連療法に使用する作用薬(例えば、IMM-124e、オルリスタット、NCT02510599における作用薬など)ならびに/または抗線維症療法のための作用薬(例えば、シンツズマブ、GR-MD-02など)がある。
【0086】
例えば、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)には、肝臓、脂肪組織、心臓、骨格筋および腎臓において発現し、B酸化、脂質輸送および糖新生をはじめとする複数の代謝過程を転写調節する核内受容体の群がある。
【0087】
本発明の方法、組成物およびキットにおいて使用することができる追加の肝線維症薬としては、国際公開第2017/136309号において開示されているような可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬、および米国特許出願公開第2018/0360846号明細書に開示されているようなセニクリビロックがある。
【0088】
考察されるように、1)式1もしくは2の化合物、またはPLAGおよび2)1つまたは複数の異なる肝線維症処置薬は、別個の医薬組成物として、または単一の医薬組成物中に混合してのいずれかで、対象に「同時投与され」、すなわち協調した様式で一緒に投与することができる。「同時投与される」によって、1つまたは複数の追加の別個の肝線維症処置薬はまた、式1もしくは2の化合物と同時に投与されてもよく、または異なるタイミングおよび異なる頻度をはじめとして、式1または2の化合物と別々に投与されてもよい。1つまたは複数の異なる肝線維症処置薬は、経口で、静脈内に、皮下に、筋肉内に、鼻になど、作用薬のための何らかの適切な経路によって投与することができ、該治療薬はまた、何らかの従来の経路によって投与することもできる。少なくともある特定の実施形態では、1つまたは複数の別個の肝線維症薬を経口投与することができる。
【0089】
いくつかの実施形態では、該化合物(例えば、式1もしくは2の化合物、またはPLAG)および/または1つまたは複数の別個の肝線維症処置薬は、毎日、例えば、24時間ごとに、または連続してもしくは1日あたり数回、例えば1時間ごと、2時間ごと、3時間ごと、4時間ごと、5時間ごと、6時間ごと、7時間ごと、8時間ごと、9時間ごと、10時間ごと、11時間ごと、または12時間ごとに投与することができる。
【0090】
別個の肝線維症処置薬の例示的な有効な1日用量には、0.1μg/kg~100μg/kg体重、例えば、0.1、0.3、0.5、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または99μg/kg体重がある。
【0091】
あるいは、別個の肝線維症処置薬は、1週間に約1回、例えば7日ごとに約1回投与される。または、別個の肝線維症処置薬は、1週間に2回、1週間に3回、1週間に4回、1週間に5回、1週間に6回、または1週間に7回投与される。肝線維症処置薬の例示的な有効な1週間用量には、0.0001mg/kg~4mg/kg体重、例えば、0.001、0.003、0.005、0.01.0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、または4mg/kg体重がある。例えば、別個の肝線維症処置薬の有効な1週間用量は、0.1μg/kg体重~400μg/kg体重である。
【0092】
本開示の実施例では、モノアセチルジアシルグリセロール化合物を用いると、(1)ストレプトゾトシン(STZ)によって低減した体重が回復したこと、(2)トリグリセリド(TG)が肝臓内に過剰に蓄積することにより増加した肝重量が低減したことが示されている(実施例1)。したがって、モノアセチルジアシルグリセロール化合物の投与により脂肪肝が改善されることがわかる。
【0093】
トリグリセリド(TG、中性脂肪)は、外生脂肪として小腸で吸収され、ApoB48のアポリポタンパク質を含む。トリグリセリド(TG)をApoB48と共にカイロミクロン(CM)と再度組み合わせる。高トリグリセリドCMは、全身を循環しながらリンパ系を経て血液中へと輸送され、トリグリセリド(TG)は、エネルギーまたは貯蔵のために、筋肉、脂肪組織および単球をはじめとする末梢組織内へと吸収される。次いで、CM中に含有されているトリグリセリド(TG)は、門脈を経て肝臓に輸送されることができるようにリポタンパク質リパーゼ(LPL)によって加水分解され、結果としてより小さなCM残存粒子となる。したがって、リポタンパク質リパーゼ(LPL)が低減すると、筋肉、脂肪組織および免疫細胞をはじめとする末梢組織内の未使用のCMは肝臓に輸送され、結果として肝臓へのトリグリセリド(TG)の過剰な循環をもたらす。このことは高トリグリセリド血症を引き起こし、脂肪性肝疾患につながる可能性がある。
【0094】
ApoB48とは、血中コレステロールおよびトリグリセリドを輸送するリポタンパク質である。ApoB48が過剰であるとき、トリグリセリド(TG)が高く、そのことが脂質異常症に寄与することを意味する。このため、肝臓におけるトリグリセリド(TG)の取り込みは、脂肪肝を引き起こす肝細胞の脂肪蓄積を促進し得る(図4を参照されたい)。
【0095】
本開示の他の例では、実験群の肝臓を観察し、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)を使用して小胞の脂肪を撮像し、オイルレッドO(ORO、Sigma Aldrich、米国ミズーリ州セントルイス市)を使用して肝臓脂肪の蓄積の程度を測定した。(1)肝細胞および血漿中のトリグリセリド(TG)濃度が低減し(実施例2、3)、(2)リポタンパク質リパーゼ(LPL)の発現が改善され(実施例4)、ならびに(3)門脈におけるApoB48を含むアポリポタンパク質の発現が低減した(実施例3)ことが示されている。モノアセチルジアシルグリセロール化合物により、リポタンパク質リパーゼ(LPL)を産生および分泌する末梢組織の機能改善が達成されることが確認された。これらの結果はまた、モノアセチルジアシルグリセロール化合物が脂肪肝を処置するのに有効であることも示している。
【0096】
本開示の他の例では、モノアセチルジアシルグリセロール化合物を使用すると、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に対するNAFLD活性スコア(NAS)、脂肪変性、小葉炎症および肝細胞風船様拡大が低減し(実施例10)、(2)肝組織の線維化部分が低減した(実施例11)ことが示されている。
【0097】
本発明のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む医薬組成物は、従来の医薬として許容され得る担体、賦形剤、または希釈剤を含むことができる。該医薬組成物中のモノアセチルジアシルグリセロールの量は、特に制限されず、幅広く変えることができ、具体的には、組成物の総量に関して、0.0001~100重量%、好ましくは0.001~90重量%であり、例えば、該モノアセチルジアシルグリセロールは、70~80重量%含有されてよい。
【0098】
本発明の医薬組成物はさらに、脂肪性肝疾患の治療効果を有する他の有効成分を含んでよい。該医薬組成物は、経口投与または非経口投与のための固形状、液状、ゲル状または懸濁状形態、例えば錠剤、ボーラス剤、散剤、顆粒剤、硬質または軟質のゼラチンカプセル剤などのカプセル剤、エマルション剤、懸濁剤、シロップ剤、乳化可能な濃縮物、滅菌水溶液剤、非水溶液剤、凍結乾燥製剤などに製剤されてよい。該組成物の製剤化では、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、および界面活性剤などの従来の賦形剤または希釈剤を使用することができる。経口投与用の固形製剤としては、錠剤、ボーラス剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などがあり、該固形製剤は、1つまたは複数の有効成分と、デンプン、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、ゼラチンなどの少なくとも1つの賦形剤とを混合することによって調製することができる。賦形剤の他に、ステアリン酸マグネシウムおよびタルクなどの潤滑剤もまた使用することができる。経口投与のための液体製剤としては、エマルション剤、懸濁剤、シロップ剤などがあり、水および流動パラフィンなどの従来の希釈剤を含んでよく、または湿潤剤、甘味料、香味料、および防腐剤などのさまざまな賦形剤を含んでよい。非経口投与用製剤としては、滅菌水溶液剤、非水溶液剤、凍結乾燥製剤、坐剤などがあり、このような液剤のための溶媒としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、オレイン酸エチルなどの注射器による注射のためのエステルがあってよい。坐剤の基剤材料としては、ウィテップゾール、マクロゴール、トゥイーン61、カカオバター、ラウリンおよびグリセロゼラチンがあってよい。
【0099】
モノアセチルジアシルグリセロール化合物は、医薬有効量で投与することができる。「医薬有効量」という用語は、医学的処置において所望の結果を達成するのに十分である量を指すために使用される。「医薬有効量」は、対象の区分、年齢、性別、疾患の重症度および種類、薬物の活性、薬物に対する感受性、投与時間、投与経路、排泄率などによって決定することができる。本発明の組成物は、単独で、または他の治療薬と共に逐次もしくは同時に投与することができる。本発明の組成物は、単回投与または複数回投与することができる。本発明の組成物の好ましい量は、患者の容態および体重、疾患の重症度、薬物の製剤の種類、投与経路ならびに処置期間によって変えることができる。1日あたりの適切な総投与量は、医師によって決定することができ、一般に約0.001~約5,000mg/kg、好ましくは約0.05~1,000mg/kgで1日1回であるか、または分割用量で1日に複数回投与することができる。本発明の組成物は、脂肪性肝疾患の予防または処置を必要とする何らかの対象に投与することができる。例えば、本発明の組成物は、ヒトだけでなく、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギなどの非ヒト動物(具体的には哺乳動物)にも投与することができる。
【0100】
いくつかの実施形態では、本発明は、式1のモノアセチルジアシルグリセロールを有効成分として含む、脂肪性肝疾患を予防、軽減または改善するための健康機能性食品組成物を提供する。
【0101】
本発明のモノアセチルジアシルグリセロール化合物は、対象における脂肪性肝疾患を改善するための健康機能性食品組成物へと含まれていてよい。モノアセチルジアシルグリセロール化合物および脂肪性肝疾患は、先に説明した通りである。本発明の化合物が健康機能性食品組成物へと含まれているとき、該健康食品組成物中のモノアセチルジアシルグリセロールの量は、意図した使用に応じて適切に決定することができる。一般に、モノアセチルジアシルグリセロールの量は、食品または飲料に含まれるとき、該健康機能性食品組成物の総量に関して、好ましくは0.01重量%以上15重量%未満である。しかしながら、モノアセチルジアシルグリセロールの量は増減してよい。健康管理および衛生の目的のための長期使用の場合、モノアセチルジアシルグリセロールの量は、先の範囲未満とすることができる。安全性の点で問題がないので、モノアセチルジアシルグリセロールは、先の範囲を超える量で使用してよい。本発明の化合物を添加することができる食品は、制限されておらず、さまざまな食品、例えば、食肉、ソーセージ、パン、チョコレート、飴、スナック菓子、ピザ、麺類、ガム類、アイスクリームなどの日用品、スープ、飲料、茶、嚥下可能な飲料、アルコール飲料、複合ビタミン類およびいずれの健康機能食品も含まれる。
【0102】
モノアセチルジアシルグリセロールが飲料製品において使用されるとき、該飲料製品は、甘味料、香味料または炭水化物を含んでよい。炭水化物の例としては、グルコースおよびフルクトースなどの単糖類、マルトースおよびスクロースなどの二糖類、デキストリンおよびシクロデキストリンなどの多糖類、ならびにキシリトール、ソルビトールおよびエリスリトールなどの糖アルコールがある。飲料組成物中の炭水化物の量は、具体的な制限がなく幅広く変えることができ、該飲料100mlあたり、好ましくは0.01~0.04g、より好ましくは0.02~0.03gである。甘味料の例としては、タウマチンおよびステビア抽出物などの天然甘味料、ならびにサッカリンおよびアスパルテームなどの人工甘味料がある。上記に加えて、本発明の健康機能性食品組成物には、さまざまな栄養素、ビタミン類、電解質、香味料、着色料、ペクチン酸およびその塩、アルギン酸およびその塩、有機酸、保護コロイド増粘剤、pH調節剤、安定剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる炭酸化剤などが含まれてよい。さらに、本発明の健康機能性食品組成物は、天然果汁および果汁飲料、ならびに野菜飲料を調製する上で使用されるような果実類を含んでよい。
【0103】
本発明は、脂肪性肝疾患の疑いのある個体に該医薬組成物を投与するステップを含む、脂肪性肝疾患を処置する方法を提供する。脂肪性肝疾患の疑いのある対象に該組成物を投与することによって、該脂肪性肝疾患が効率的に処置される。「脂肪性肝疾患の疑いのある対象」という用語は、脂肪性肝疾患に罹患している対象、または発症する可能性のある対象を指す。脂肪性肝疾患は、該脂肪性肝疾患を処置するかまたは予防する必要のある患者に、有効量の該化合物を投与することによって、処置または予防することができる。モノアセチルジアシルグリセロール化合物の種類、およびモノアセチルジアシルグリセロール化合物の用量、ならびに脂肪性肝疾患については、先に説明した通りである。「投与」という用語は、本発明の医薬組成物を何らかの適切な方法によって、必要とする患者に導入することを意味する。投与経路は、標的組織に到達することができる限り、経口または非経口と、何らかのまたはさまざまな経路であってよく、例えば、経口投与、腹腔内投与、経皮投与(局所適用など)、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、鼻腔内投与、直腸投与、鼻腔内投与、腹腔内投与などが使用されてよいが、これらに限定されない。
【実施例
【0104】
以下の実施例は、本発明をよりよく理解するために提供される。しかしながら、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0105】
脂肪性肝疾患の処置における1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(EC-18またはPLAG)の有効性を確認するために、ストレプトゾトシン(STZ)誘発性脂肪性肝疾患モデルを本実験に使用した。
【0106】
実験例1:非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の処置の有効性を確認するための対照群および実験群の準備
【0107】
図1は、本発明の実験プロトコルを示す。図1に示すように、マウスを無作為に対照群とストレプトゾトシン(STZ)処置群とに分けた。すべてのSTZ処置群に、200mg/kg体重(BW)の用量(1日)でSTZの腹腔内注射を行い、該用量は、クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)中に溶解した。
【0108】
ストレプトゾトシン(STZ)投与翌日、グルコメーター(ACCU-CHEK,Roche diagnostics Inc.)により糖尿病誘発を確認し、急性糖尿病を誘発した。空腹時血糖レベルが200mg/dLを超えるマウスはすべて、急性糖尿病に罹患しているとみなした。誘発を確認した後、実験群のマウスをさらに3つの群、すなわちSTZ単独処置群、ならびに低用量および高用量のPLAG+STZ処置群へと無作為化した。式2によって表される1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロール(PLAG)を有効成分として使用した。
【0109】
マウスにPLAGを経口強制飼養によって3日間投与した。意図する経口薬用量は、マウスにおいてそれぞれ250および50mg/kgBWとした。対照群およびSTZ単独処置群には同じPBSを3日間経口投与し、マウスを4日目に屠殺した。
【0110】
実施例1:体重および相対肝重量の解析
【0111】
先の実験において準備した対照群、ストレプトゾトシン(STZ)単独、ストレプトゾトシン(STZ)+低用量PLAG処置群、およびストレプトゾトシン(STZ)+高用量PLAG処置群の全マウスの体重を毎日同じ時刻に測定および記録し、結果を図2のAに示す。また、対照群および実験群の相対肝重量を以下の方程式を用いて計算したので、結果を図2のBに示す。
【0112】
(数式1)
(絶対肝重量)/(屠殺当日のBW)×100
【0113】
図2のAに示すように、STZ処置マウスはすべて、対照群と比較してBWの統計学的に有意な低下を示した。しかしながら、高用量PLAG群は、STZのみを投与したマウスと比較してBWの減少が少ないことを示した。STZ群と低用量PLAG群との間でBWに差はなかった。このことは、経口PLAG投与が糖尿病による体重減少を減弱させたことを示唆している。
【0114】
図2のBに示すように、STZ単独群の相対肝重量(gBWあたり)は、対照群よりも有意に大きかった。しかしながら、PLAG処置群は、STZ群よりも平均肝重量が小さく、PLAG補充が脂肪肝を改善したことを示した。
【0115】
実施例2:組織病理学的解析
【0116】
4日間の実験期間の終了時に、マウスを6時間絶食させた後、屠殺した。図3は、H&EおよびOROで染色した肝臓切片の写真である。具体的には、肝臓脂肪の蓄積の程度を測定するために、対照群および実験群の肝臓を観察し、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)ならびにオイルレッドOを使用して撮像した。肝臓試料を直ちに室温で10%緩衝ホルマリン中で固定した後、組織をパラフィン内に包埋し、切片作製し、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)で染色した。凍結肝臓切片を4%パラホルムアルデヒドで20分間固定した後、室温で15分間ORO染色した。次に、試料をマイヤーのヘマトキシリンで10秒間対比染色し、載せた。画像は光学顕微鏡(オリンパス、日本国東京都)下で取得した。
【0117】
図3に示すように、予想通り、H&E染色によって、脂肪空胞数の増加(大滴性脂肪変性および小滴性脂肪変性)によって証明されるように、STZ単独群で肝脂肪変性の劇的な証拠が示された。しかしながら、250mg/kg/日の薬用量のPLAGは、微小胞脂肪変性を目に見えて低減させた。同じ程度ではないが、低用量PLAG処理マウス群も低下を呈した。
【0118】
ORO染色により、STZ単独群で肝臓TGがより高含量であることを明らかにし、これはPLAGによって低減した。これらの結果は、PLAGが用量依存的様式で肝脂肪変性を緩和することを示唆している。
【0119】
実施例3:肝臓および血漿のTGレベルの分析
【0120】
対照群および実験群の血漿に含まれるトリグリセリド(TG)の濃度を測定するために、眼出血(eye bleeding)により血液を採取し、3,000rpmで10分間の遠心分離によって血漿を分離した。血漿試料をアッセイまで凍結したままにした。
【0121】
図4は、小腸で吸収された脂肪が肝臓に影響を及ぼす機序の一例であり、図5は、本発明による組成物を使用したときの、肝臓および血漿中のTGのレベルおよび含量を示すチャート(図5のA)、ならびに門脈血漿中のapoB48タンパク質発現を示すチャート(図5のB)である。具体的には、肝細胞のトリグリセリド(TG)含量を測定するために、肝組織(20mg)を、組織粉砕機を用いてイソプロパノール中で均質化した。ホモジネートを5,000rpmで10分間遠心分離し、上清を回収した。上清のTG含量は、トリグリセリドHキット(Wako Diagnostics、米国バージニア州リッチモンド市)を用いて測定した。肝臓TGの取り込みを確認するために、本発明者らは、体内での高TGCMの輸送および取り込みのマーカーとして、門脈血におけるApoB48発現を測定した。
【0122】
図5に示されるように、STZ処理マウスのApoB48レベルは、対照群と比較して高かった。しかしながら、PLAG処理は、ApoB48レベルを用量依存的に低減させ、このことは、PLAGが、末梢組織または全身へのTGの取り込みを増強することによって脂質代謝を改善したことを示した。
【0123】
実施例4:免疫組織化学的解析
【0124】
図6は、本発明による組成物を使用したときの、筋肉組織中のTG含量を示すチャート(図6のA)、筋肉組織中のLPLの相対的なmRNA発現を示すチャート(図6のB)、および筋切片のLPL染色の代表的な免疫組織化学的画像を示す写真(図6のC)である。具体的には、TGクリアランスの律速酵素であるリポタンパク質リパーゼ(LPL)は、CMをはじめとする高TGリポタンパク質の異化を制御する。PLAG処理後の末梢組織によるTGクリアランスを調べるために、筋肉組織内のLPLタンパク質およびmRNAのレベルを調べた。
【0125】
図6に示すように、筋TG含量は群間で有意差がなかった(図6のA)。RT-PCRの結果は、LPLのmRNA発現が対照群と比較してSTZ群で低減したのに対し、高用量PLAG群では上昇したことを示した(図6のB)。
【0126】
免疫組織化学的性質は、対照群では豊富な発現を示し、STZ処理動物では低下した。しかしながら、PLAG処置群におけるLPLタンパク質発現は対照と同様であった。全体として、mRNAおよびタンパク質の所見は、PLAGが末梢組織におけるこの機能を回復させることによってTGクリアランスを誘導することを示唆している(図6のC)。
【0127】
実施例5:ウエスタンブロット法
【0128】
図7は、マウス由来の筋肉標本および骨格筋の重量を示すチャート(図7のA)、ならびに腓腹筋および大腿四頭筋をはじめとする含む筋肉組織におけるカベオリン3の相対的なmRNA発現の結果(図7のB)、ならびに筋芽細胞および筋管におけるカベオリン3およびミオゲニンの相対的なmRNA発現の結果(図7のC)である。具体的には、門脈血漿中のアポリポタンパク質B48(ApoB48)の相対量をウエスタンブロットにより評価した。一定量の血漿を5%ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法で分離した。タンパク質抽出物をApoB48抗体(1:500,Abcam,英国ケンブリッジ)により免疫ブロット法を施した。検出は、Immobilon Western Chemiluminescent HRP Substrate(Millipore Corporation,米国マサチューセッツ州ビレリカ町)を用いて行った。
【0129】
図7に示すように、筋萎縮は、筋肉量の減少として定義され、STZ誘発性糖尿病の状況で起こる。BWと同様に、筋重量もまたSTZ処理によって有意に低下した。PLAG処理は、筋肉量をわずかに改善したが、STZ単独群とPLAG群との間に有意差はなかった(図7のA)。
【0130】
それは、筋芽細胞から筋管への分化を測定することによって、筋機能に対するPLAGの効果を調べた。この形質転換は、形態および筋肉特異的遺伝子発現の変化を誘導する。本発明者らは、CAV3およびミオゲニンのmRNAレベルがSTZ処理C2C12細胞で低下したが、PLAG処理はレベルを正常まで回復させたことを発見した(図5のC)。このことは、大腿四頭筋および腓腹筋をはじめとする筋肉組織からのインビボでの結果と一致する(図5のB)。これらの結果は、STZが正常な筋芽細胞分化を損ない、PLAGが筋機能の正常化を助ける可能性があることを示す。
【0131】
実施例6:PLAGの特異性
【0132】
図8は、PLAGおよびPLGの構造化学式(図8のA)、ならびに各群の体重変化を示すチャート(図8のB)および肉眼的肝臓標本の写真(図8のC)、ならびにH&E染色した肝臓切片の写真である。具体的には、STZ誘発性マウスモデルにおけるPLAGおよびPLGの効果を比較することによって、PLAGの選択性を調べた。PLGはジアシルグリセロールの原型であり、PLAGはアセチル化ジアシルグリセロールの一種である。後述の図8に示すように、PLAG処理マウスは、STZのみを投与されたマウスと比較してBWの減少が少ないことを示した。STZ群とPLG処理マウスとの間でBWに差はなかった(図8のB)。加えて、結果は、PLAGが脂肪肝を減弱させることを示した。対照的に、肝損傷はPLGによって低下しなかった(C&D)。これらの結果は、PLAGがSTZ誘発性脂肪肝から肝臓を保護する上で具体的な役割を担っていることを示唆している。
【0133】
実施例7:RNA単離およびRT-PCR分析
【0134】
TRIzol試薬(Favorgen Biotech,台湾)を使用して、個々のマウスの筋肉から全RNAを単離した。M-MLV逆転写酵素を用いてcDNAを合成した。各試料からの遺伝子発現を二連で分析し、内部対照遺伝子グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)に対して正規化した。GAPDH、LPL、カベオリン3およびミオゲニンのプライマー配列を以下の表1に示す。
【0135】
[表1]
【表1】
【0136】
実験例2:非アルコール性脂肪性肝炎のSTAMモデルにおけるEC-18の効果を検討するための実験群の準備
【0137】
非アルコール性脂肪性肝炎および肝線維症の処置のための1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(EC-18またはPLAG)の有効性を決定するために、ストレプトゾトシン(STZ)かつ高脂肪食(HFD)由来モデルを用いて実験を行った。
【0138】
図9は、本発明の別の実験プロトコルであり、図9に示されるように、すべてのマウス(C57BL/6J)は、出生時に200μgのストレプトゾトシン(STZ)溶液を皮下注射され、4週齢後に高脂肪食(HFD)を与えられた。マウス群をさらに6群、すなわち対照群(PBS)、MGL-3196処置群、オベチコール酸(OCA)処置群、低EC-18群、中EC-18群および高EC-18群へと無作為化した。EC-18は、式2によって表される1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロールを使用し、MGL-3196は、2-(3,5-ジクロロ-4-((5-イソプロピル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリダジン-3-イル)オキシ)フェニル)-3,5-ジオキソ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,2,4-トリアジン-6-カルボニトリル(レスメチロム)を使用し、オベチコール酸(OCA)は、6α-エチル-ケノデオキシコール酸(6-ECDCA)を使用した。
【0139】
実施例8:体重および相対肝重量の解析
【0140】
図10は、本発明による組成物を使用したときの体重の変化を示すグラフであり、図11は、本発明による組成物を使用したときの体重(図11のA)、肝重量(図11のB)および肝重量対体重(図11のC)を示すグラフである。具体的には、実験例2のマウスは、処理前の体重を記録し、毎日同じ時刻に体重を測定し、体重変化を記録した。各投与のおおよそ60分後に、毒性、瀕死および死亡の有意な臨床徴候についてマウスを観察した。処理期間中、OCA群および中EC-18群の各々において1匹のマウスが死亡した。該マウスを9週目に屠殺した。マウスの相対肝重量および平均体重を以下の表2に示す。
【0141】
[表2]
【表2】
【0142】
図10および11ならびに表2に示されているように、屠殺日の平均体重において、対照群と処置群との間に有意差はなかった。MGL-3196および低EC18群は、対照群と比較して平均肝重量の有意な低下を示した。中EC-18群の平均肝重量は、対照群と比較して低下する傾向にあった。OCA群の肝臓対体重比は、ビヒクル群と比較して上昇する傾向にあり、MGL-3196群の肝臓対体重比は対照群と比較して低下する傾向にあった。
【0143】
実施例9:血漿の生化学的性質の測定
【0144】
図12は、本発明による組成物を使用したときの、血漿ALT(A)および血漿AST(B)およびALT/AST比(C)を示すグラフである。具体的には、抗凝固薬(Novo-ヘパリン)含有ポリプロピレンチューブに非絶食血液を採取し、1,000×gで15分間、4℃で遠心分離した。血漿アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)および血漿アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)をFUJI DRI-CHEM7000によって測定した。ALT/AST比を計算し、以下の表3に示した。
【0145】
血漿ALTは、肝細胞内に多量に含有される酵素である。肝臓が損傷を受けると、血漿ALT活性が上昇する。血漿ALTは、肝疾患の指標である。血漿ALTはまた、肝細胞の他に赤血球、骨格筋にも分布し、細胞が死滅/破壊されると血液中に放出される。
【0146】
[表3]
【表3】
【0147】
図12および表3に示すように、対照群と処置群との間で血漿ALTレベルに有意差はなかった。対照群とその他の処置群との間で血漿ASTレベルに有意差はなかった(図12のA)。OCA群の血漿ASTレベルは、対照群と比較して低下する傾向にあった(図12のB)。対照群とその他の処置群との間でALT/AST比に有意差はなかった。OCA群のALT/AST比は、対照群と比較して上昇する傾向にあった(図12のC)。
【0148】
実施例10:組織学的解析
【0149】
図13は、本発明による組成物を使用したときの、ヘマトキシリン・エオシンおよびオイルレッドOで染色した肝臓切片の写真を示す。図14は、本発明による組成物を使用したときの、ヘマトキシリン・エオシンおよびオイルレッドOで染色した肝臓切片を示すグラフである。具体的には、NAFLD活性スコア(NAS)について、Dunnettの多重比較検定を用いて統計解析を実行し、以下の表4に示す。加えて、各処置群のNASを統計解析した結果を表5に示す。
【0150】
NASの数値では、0.05未満のP値を統計学的に有意とみなした。他のデータについては、ボンフェローニ多重比較検定を用いて統計解析を実行した。0.05未満のP値を統計学的に有意とみなした。片側t検定が0.1未満のP値を返したとき、傾向変動または傾向を仮定した。すべての結果を平均±標準偏差として表した。NAS値のスコアについての範囲を以下の表6に示す。
【0151】
[表4]
【表4】
【0152】
[表5]
【表5】
【0153】
[表6]
【表6】
【0154】
図13および図14ならびに先の表4に示すように、対照群の肝臓切片は、小滴性および大滴性の脂肪沈着、肝細胞の風船様拡大ならびに炎症性細胞浸潤を呈した。OCA群および高EC-18群は、対照群と比較してNASの有意な低下を示した。MGL-3196群、低EC-18群および中EC-18群のNASは、対照群と比較して低下する傾向にあった。
【0155】
実施例11:肝線維化に対する有効性を判定するための組織学的解析
【0156】
実験例1で使用したマウスの肝細胞を同じ様式で使用した。図15は、HE染色した肝臓切片の顕微鏡写真である。具体的には、コラーゲン沈着を可視化するために、Bouin固定された肝臓切片を、ピクロシリウスレッド溶液を用いて染色した。線維化領域の定量解析のために、シリウスレッド染色切片の明視野画像を、デジタルカメラを200倍の倍率で使用して、中心静脈の周りで無作為にとらえた。
【0157】
図16は、本発明による組成物を使用したときの肝臓組織の線維部分(シリウスレッド陽性面積)を示すグラフである。具体的には、ピクロシリウスレッド液を用いて染色した肝臓切片において、線維化部位を観察し、その部分の数値を以下の表7に示した。
【0158】
[表7]
【表7】
【0159】
図15および表7に示すように、対照群の肝臓切片は、肝小葉の中心周囲領域におけるコラーゲン沈着の上昇を示した。OCA群および高EC-18群は、対照群と比較して線維化領域(シリウスレッド陽性面積)の有意な低下を示した。MGL-3196および低EC-18群における線維化面積は、ビヒクル群と比較して低下する傾向にあった。ビヒクル群と中EC-18群との間で線維化面積に有意差はなかった。
【0160】
実施例に示すように、低EC-18および高EC-18は、NASおよび線維化面積における統計的な低減を示し、中EC-18は対照群と比較してNASにおける統計的な低減を示した。結論として、EC-18は、抗NASH効果および抗線維化効果の特色を示した。
【0161】
実施例12:非アルコール性脂肪性肝炎のSTAM(商標)マウスモデルにおけるEC-18のインビボでの有効性の試験
【0162】
非アルコール性脂肪性肝炎のSTAMモデルにおけるEC-18のインビボでの有効性の試験を追加で行った。
【0163】
用語
CK-18:サイトケラチン18
MCP :単球走化性タンパク質
NASH :非アルコール性脂肪性肝炎
OCA :オベチコール酸
PBS :リン酸緩衝生理塩類溶液
SD :標準偏差
SMA :平滑筋アクチン
STAM :Stelic動物モデル
TGF :形質転換成長因子
TIMP :メタロプロテイナーゼ組織阻害剤
TNF :腫瘍壊死因子
【0164】
材料および方法
試料
以下の群の肝臓および血漿の試料を使用した。
第1の群:ビヒクル
8匹のNASHマウスに、ビヒクル(PBS)を5mL/kgの量で1日1回、6週齢から9週齢まで経口投与した。
第2の群:MGL-3196
8匹のNASHマウスに、3mg/kgの用量で(5mL/kgの量で)MGL-3196を補充した[水中2%Klucel LF、0.1%Tween80]を、6週齢から9週齢まで1日1回経口投与した。
第3の群:OCA
7匹のNASHマウスに、30mg/kgの高用量の(5mL/kgの量の)OCAを補充した[1%メチルセルロース]を6週齢から9週齢まで1日1回経口投与した。
第4の群:EC-18 30mg/kg
8匹のNASHマウスに、30mg/kgの用量の(5mL/kgの量の)EC-18を補充したビヒクルを6週齢から9週齢まで1日1回経口投与した。
第5の群:EC-18 100mg/kg
7匹のNASHマウスに、100mg/kgの用量の(5mL/kgの量の)EC-18を補充したビヒクルを6週齢から9週齢まで1日1回経口投与した。
第6の群:EC-18 250mg/kg
8匹のNASHマウスに、250mg/kgの用量の(5mL/kgの量の)EC-18を補充したビヒクルを6週齢から9週齢まで1日1回経口投与した。
【0165】
肝トリグリセリド含量の測定
肝臓全脂質抽出物をFolchの方法(Folch J.et al.,J.Biol.Chem.1957:226:497)によって得た。肝臓試料をクロロホルム-メタノール(2:1(v/v))中で均質化し、室温で一晩インキュベートした。クロロホルム-メタノール-水(8:4:3(v/v/v))で洗浄した後、抽出物を蒸発乾固させ、イソプロパノール中に溶解した。肝トリグリセリド含量をトリグリセリドE-検査キット(富士フィルム和光純薬工業株式会社、日本国)によって測定した。
【0166】
血漿CK-18レベルの測定
血漿CK-18レベルをマウスサイトケラチン18-M30 ELISAキット(Cusabio Biotech Co.,Ltd,中国)によって定量した。
【0167】
組織学的解析
免疫組織化学用に、Tissue-Tek O.C.T.コンパウンド中に包埋した凍結肝臓組織の切片を切り出し、アセトン中で固定した。内在性ペルオキシダーゼ活性を、0.03%H2O2を用いて5分間遮断し、続いてBlock Ace(DS Pharma Biomedical Co.,Ltd、日本国)と共に10分間インキュベートした。切片を抗F4/80抗体と共に室温で1時間インキュベートした。次に、切片をビオチン結合二次抗体(VECTASTAIN Elite ABCキット、Vector laboratoriesmInc.米国)、続いてABC試薬と各々室温で30分間インキュベートした。3,3’-ジアミノベンジジン/H2O2溶液(ニチレイバイオサイエンス株式会社、日本国)を用いて酵素基質反応を行った。炎症領域の定量解析のために、デジタルカメラ(DFC295、Leica)を用いて200倍の倍率でF4/80免疫染色切片の明視野画像を中心静脈周辺で捕捉し、ImageJソフトウェア(米国国立衛生研究所)を用いて5視野/切片の陽性面積を測定した。一次抗体および二次抗体のプロファイルを表8に示す。
【0168】
[表8]
【表8】
【0169】
定量的RT-PCR
全RNAを、RNAiso(タカラバイオ、日本国)を製造元の説明書によって使用して肝臓試料から抽出した。4.4mMのMgCl2(F.Hoffmann-La Roche、スイス国)、40UのRNアーゼ阻害剤(東洋紡、日本国)、0.5mMのdNTP(プロメガ、米国)、6.28μMのランダムヘキサマー(Promega)、5×第一の鎖の緩衝液(Promega)、10mMのジチオトレイトール(Invitrogen、米国)および200UのMMLV-RT(Invitrogen)を20μLの最終量で含有する反応混合物を使用して、1μgのRNAを逆転写した。反応は、37℃で1時間、続いて99℃で5分間行った。リアルタイムPCR DICEおよびTB Green(商標)Premix Ex Taq(商標)II(タカラバイオ)を使用してリアルタイムPCRを行った。相対的なmRNA発現レベルを計算するために、各遺伝子の発現を参照遺伝子36B4(遺伝子記号:Rplp0)の発現に対して正規化した。PCR-プライマーセットおよびプレートレイアウトの情報を表9~表10において説明した。
【0170】
[表9]PCRプライマー
【表9】
【0171】
[表10]PCRプレート
【表10】
【0172】
統計的検定
統計解析は、GraphPad Prism 6(GraphPad Software Inc.,米国)に対するボンフェローニ多重比較検定を用いて行った。0.05未満のP値を統計学的に有意とみなした。片側t検定が0.1未満のP値を返したとき、傾向変動または傾向を仮定した。結果を平均±標準偏差として表した。
【0173】
結果
生化学的性質
肝トリグリセリド(図17および表11)
MGL-3196群は、ビヒクル群と比較して肝トリグリセリド含量の有意な低下を示した。EC-18 100mg/kg群およびEC-18 250mg/kg群における肝トリグリセリド含量は、ビヒクル群と比較して低下する傾向にあった。ビヒクル群とその他の処置群との間で肝トリグリセリド含量に有意差はなかった。
【0174】
血漿CK-18(図18および表11)
EC-18 30mg/kg、EC-18 100mg/kgおよびEC-18 250mg/kg群は、ビヒクル群と比較して血漿CK-18レベルの有意な低下を示した。OCA群の血漿CK-18レベルは、ビヒクル群と比較して低下する傾向にあった。ビヒクル群とMGL-3196群との間で血漿CK-18レベルに有意差はなかった。
【0175】
[表11]
【表11】
【0176】
F4/80免疫染色および炎症領域(図19図20および表12)
F4/80免疫染色切片の代表的な顕微鏡写真を図2.1に示す。ビヒクル群の肝臓切片のF4/80免疫染色は、肝小葉におけるF4/80+細胞の蓄積を実証した。OCA群およびEC-18 250mg/kg群は、ビヒクル群と比較して炎症領域(F4/80陽性面積)の有意な低下を示した。EC-18 30mg/kg群およびEC-18 100mg/kg群における炎症領域は、ビヒクル群と比較して低下する傾向にあった。
【0177】
[表12]組織学的解析
【表12】
【0178】
遺伝子発現解析(図21および表13)
MCP-1
MGL-3196群におけるMCP-1mRNA発現レベルは、ビヒクル群と比較して下方調節する傾向にあった。ビヒクル群とその他の処置群との間でMCP-1mRNA発現レベルに有意差はなかった。
【0179】
TNF-α
ビヒクル群といずれの処置群との間でもTNF-α mRNA発現レベルに有意差はなかった。
【0180】
TGF-β
MGL-3196群におけるTGF-βmRNA発現レベルは、ビヒクル群と比較して下方調節する傾向にあった。ビヒクル群とその他の処置群との間でTGF-βmRNA発現レベルに有意差はなかった。
【0181】
TIMP-1
ビヒクル群といずれの処置群との間でTIMP-1mRNA発現レベルに有意差はなかった。
【0182】
α-SMA
ビヒクル群といずれの処置群との間でα-SMAmRNA発現レベルに有意差はなかった。
【0183】
[表13]遺伝子発現解析
【表13】
【0184】
概要
MGL-3196
MGL-3196による処理は、ビヒクル群と比較して、肝トリグリセリド含量の有意な低下、ならびにMCP-1およびTGF-β mRNA発現レベルの低下傾向を示した。
【0185】
OCA
OCAによる処理は、ビヒクル群と比較して、炎症領域の有意な低下、および血漿CK-18レベルの低下傾向を示した。
【0186】
EC-18
30mg/kgの用量でのEC-18による処置は、ビヒクル群と比較して血漿CK-18レベルの有意な低下、および炎症領域の低下傾向を示した。100mg/kgの用量でのEC-18による処置は、ビヒクル群と比較して血漿CK-18レベルの有意な低下、ならびに肝トリグリセリド含量および炎症領域の低下傾向を示した。250mg/kgの用量でのEC-18による処置は、ビヒクル群と比較して血漿CK-18レベルおよび炎症領域の有意な低下、ならびに肝トリグリセリド含量の低下傾向を示した。
【0187】
本明細書で言及されるすべての文書は、参照により本明細書に完全に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21-1】
図21-2】
【国際調査報告】