(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-25
(54)【発明の名称】CD137およびGPC3に特異的な新規融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20220418BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220418BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220418BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220418BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20220418BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20220418BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220418BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220418BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220418BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20220418BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/13 ZNA
C12N15/12
C07K19/00
C07K16/30
C07K14/435
C12Q1/02
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549919
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(85)【翻訳文提出日】2021-10-05
(86)【国際出願番号】 EP2020054821
(87)【国際公開番号】W WO2020173897
(87)【国際公開日】2020-09-03
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】509029645
【氏名又は名称】ピエリス ファーマシューティカルズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ベル アイバ ラシダ シハム
(72)【発明者】
【氏名】ボッセンマイアー ビルギット
(72)【発明者】
【氏名】ジャキン トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ペッパー-ガブリエル ジャネット
(72)【発明者】
【氏名】ハンスバウアー エバ-マリア
(72)【発明者】
【氏名】シュロッサー コリーナ
(72)【発明者】
【氏名】オルヴィル シェーン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QS40
4B063QX10
4B064AG01
4B064AG27
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4B064CC24
4B064CE07
4B064CE12
4B064DA01
4C085AA13
4C085BB01
4C085CC23
4C085DD62
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA22
4H045GA26
(57)【要約】
本開示は、GPC3ターゲット依存的にリンパ球活性化を共刺激するために使用することができる、CD137とGPC3の両方に特異的な融合タンパク質を提供する。そのような融合タンパク質は、例えば抗がん剤および/または免疫調節剤などとして、さまざまな腫瘍などのヒト疾患の処置または予防のために、多くの薬学的応用において使用することができる。本開示は、本明細書記載の融合タンパク質を作製する方法、ならびにそのような融合タンパク質を含む組成物にも関する。本開示はさらに、そのような融合タンパク質をコードする核酸分子ならびにそのような融合タンパク質および核酸分子を生成させるための方法に関する。加えて、本願は、そのような融合タンパク質の、およびそのような融合タンパク質のうちの1つまたは複数を含む組成物の、治療的および/または診断的使用を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD137とGPC3との両方に結合する能力を有する融合タンパク質であって、該融合タンパク質は少なくとも2つのサブユニットを任意の順序で含み、第1サブユニットは完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインを含みかつGPC3に特異的であり、第2サブユニットはリポカリンムテインを含みかつCD137に特異的である、前記融合タンパク質。
【請求項2】
少なくとも2つのサブユニットを含む融合タンパク質であって、第1サブユニットは完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインを含みかつGPC3に特異的であり、第2サブユニットはリポカリンムテインを含みかつCD137に特異的であり、第2サブユニットは、N末端において、第1サブユニットの各重鎖のC末端に、任意でリンカーを介して連結されている、前記融合タンパク質。
【請求項3】
(a)最大でも約1nMのK
D値で、または第1サブユニットに含まれる免疫グロブリンもしくはその抗原結合ドメインの単独でのK
D値と同等かそれより低いK
D値で、GPC3に結合する能力を有するか、
(b)最大でも約3nMのEC
50値で、または第2サブユニットに含まれるCD137に特異的なリポカリンムテインのEC
50値と同等かそれより低いEC
50値で、CD137に結合する能力を有するか、
(c)カニクイザルGPC3と交差反応するか、
(d)ELISAアッセイにおいて融合タンパク質を測定した場合に、最大でも約10nMのEC
50値でCD137とGPC3とに同時に結合する能力を有するか、
(e)GPC3発現腫瘍細胞に結合する能力を有するか、
(f)IL-2分泌の増加を誘導する能力を有するか、
(g)SEQ ID NO:83より高レベルに、および/またはSEQ ID NO:83と比較してより良い効率で、IL-2分泌の増加を誘導する能力を有するか、
(h)リンパ球媒介性細胞傷害性を誘導する能力を有するか、
(i)SEQ ID NO:83よりも強化された、T細胞によって媒介されるGPC3発現腫瘍細胞の殺滅を誘導する能力、および/またはSEQ ID NO:83と比較してより良い効力で細胞傷害性T細胞活性化を誘導する能力を有するか、
(j)GPC3依存的にT細胞応答を共刺激する能力を有するか、または
(k)腫瘍微小環境におけるT細胞応答を共刺激する能力を有する、
請求項1または請求項2記載の融合タンパク質。
【請求項4】
マウスにおいて少なくとも50時間、少なくとも75時間、少なくとも100時間、少なくとも125時間、少なくとも150時間、少なくとも175時間、少なくとも200時間、少なくとも250時間の、もしくはさらに長い半減期を有し、および/またはマウスにおいてSEQ ID NO:83の半減期よりも長い半減期を有する、請求項1~3のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項5】
少なくとも6.5、少なくとも6.8、少なくとも7.1、少なくとも7.4、少なくとも7.5、少なくとも7.7の、もしくはさらに高い等電点を有し、および/またはSEQ ID NO:83の等電点よりも高い等電点を有する、請求項1~4のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項6】
リポカリンムテインが、成熟ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)の直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置28、36、40~41、49、52、65、68、70、72~73、77、79、81、83、87、94、96、100、103、106、125、127、132および134に対応する位置に、1つまたは複数の変異アミノ酸残基を含む、請求項1~5のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項7】
リポカリンムテインが、成熟ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)の直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置20、25、28、33、36、40~41、44、49、52、59、68、70~73、77~82、87、92、96、98、100、101、103、122、125、127、132および134に対応する位置に、1つまたは複数の変異アミノ酸残基を含む、請求項1~5のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項8】
成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)と比較して、リポカリンムテインのアミノ酸配列が、以下の変異アミノ酸残基のセットのうちの1つを含む、請求項1~7のいずれか一項記載の融合タンパク質:
。
【請求項9】
リポカリンムテインのアミノ酸配列が、SEQ ID NO:39~57からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して、少なくとも85%の配列同一性を有する、請求項1~8のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項10】
リポカリンムテインが、成熟ヒト涙液リポカリンの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置5、26~31、33~34、42、46、52、56、58、60~61、65、71、85、94、101、104~106、108、111、114、121、133、148、150および153に対応する位置に、1つまたは複数の変異アミノ酸残基を含む、請求項1~5のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項11】
成熟ヒト涙液リポカリンの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)と比較して、リポカリンムテインのアミノ酸配列が、以下の変異アミノ酸残基のセットのうちの1つを含む、請求項1~5および請求項10のいずれか一項記載の融合タンパク質:
。
【請求項12】
リポカリンムテインのアミノ酸配列が、SEQ ID NO:32~38からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して、少なくとも85%の配列同一性を有する、請求項1~5および請求項10~11のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項13】
第2サブユニットが、N末端において、リンカーを介して、第1サブユニットの各重鎖定常領域(CH)のN末端もしくはC末端または第1サブユニットの各軽鎖定常領域(CL)のN末端もしくはC末端に連結されている、請求項1~12のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項14】
抗体が、それぞれSEQ ID NO:78とSEQ ID NO:79、SEQ ID NO:129とSEQ ID NO:79、SEQ ID NO:114とSEQ ID NO:115、もしくはSEQ ID NO:126とSEQ ID NO:127である重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、または、SEQ ID NO:78とSEQ ID NO:79、SEQ ID NO:129とSEQ ID NO:79、SEQ ID NO:114とSEQ ID NO:115、もしくはSEQ ID NO:126とSEQ ID NO:127に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくはそれ以上の配列同一性を有する配列を有する重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む、請求項1~13のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項15】
抗体の重鎖が以下のCDR配列のセット:
を含み、抗体の軽鎖が以下のCDR配列のセット:
を含む、請求項1~14のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項16】
抗体がIgG4バックボーンを有する、請求項1~15のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項17】
IgG4バックボーンが以下の突然変異のうちの1つまたは複数を有する、請求項16記載の融合タンパク質:
S228P、N297A、F234A、L235A、M428L、N434S、M252Y、S254TおよびT256E。
【請求項18】
SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:88とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:89に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:90に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:91とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:92とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:93に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:94に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:95とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸、またはSEQ ID NO:96とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸を含む、請求項1~17のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項19】
SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:88とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:89、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:90、SEQ ID NO:91とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:92とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:93、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:94、SEQ ID NO:95とSEQ ID NO:82、またはSEQ ID NO:96とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%またはそれ以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~18のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項記載の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
【請求項21】
請求項1~19のいずれか一項記載の融合タンパク質を生産する方法であって、該融合タンパク質が、該融合タンパク質をコードする核酸から出発して生産される、前記方法。
【請求項22】
CD137の下流シグナリング経路の活性化とGPC3陽性腫瘍細胞の会合とを同時に行う方法であって、腫瘍を含む組織に、請求項1~19のいずれか一項記載の1つもしくは複数の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む1つもしくは複数の組成物を適用する工程を含む、前記方法。
【請求項23】
T細胞の共刺激とGPC3陽性腫瘍細胞の会合とを同時に行う方法であって、腫瘍を含む組織に、請求項1~19のいずれか一項記載の1つもしくは複数の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む1つまたは複数の組成物を適用する工程を含む、前記方法。
【請求項24】
GPC3陽性腫瘍細胞の近傍において限局的リンパ球応答を誘導する方法であって、腫瘍を含む組織に、請求項1~19のいずれか一項記載の1つもしくは複数の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む1つまたは複数の組成物を適用する工程を含む、前記方法。
【請求項25】
GPC3陽性腫瘍細胞のリンパ球媒介性細胞溶解の増加を誘導する方法であって、腫瘍を含む組織に、請求項1~19のいずれか一項記載の1つもしくは複数の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む1つもしくは複数の組成物を適用する工程を含む、前記方法。
【請求項26】
請求項1~19のいずれか一項記載の1つまたは複数の融合タンパク質を含む、薬学的組成物。
【請求項27】
GPC3陽性がんを予防、改善または処置する方法であって、腫瘍を含む組織に、請求項1~19のいずれか一項記載の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む1つまたは複数の組成物を適用する工程を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
I. 背景
グリピカン3(GPC3;DGSX、GTR2-2、MXR7、OCI-5、SDYS、SGB、SGBSおよびSGBS1とも呼ばれる)は、グリコシル-ホスファチジルイノシトールアンカーヘパリン硫酸プロテオグリカンのグリピカンファミリーに属する腫瘍胎児性抗原である。GPC3は、発生中にさまざまな組織において発現し、例えば線維芽細胞増殖因子(FGF)、非カノニカルWntまたはインスリン様成長因子シグナリング経路を介して、形態形成および成長に重要な役割を果たす(Cheng et al.,Carcinogenesis,2008、Song et al.,J Biol Chem,2005、Song et al.,J Biol Chem,1997)。しかしGPC3発現は、大半の正常成人組織では、ダウンレギュレートされるか、発現停止される。加えて、GPC3は細胞成長を、細胞タイプに依存して正にも負にも調節しうる。GPC3の機能喪失型突然変異は、希少X染色体連鎖型過成長障害であるシンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群、別名シンプソン異形症症候群(SGBS)の原因であり、SGBSの患者は、ウィルムス腫瘍を含む胚性腫瘍のリスクが増加している(Pilia et al.,Nat Genet,1996)。
【0002】
GPC3は、肝臓がん、胃癌、黒色腫、高異型度尿路上皮癌、精巣がんならびに一部の子宮がんおよび膣がんを含むさまざまなタイプのがんで発現する(Aydin et al.,Diagn Pathol,2015、Ushiku et al.,Cancer Sci,2009、Gailey and Bellizzi,Am J Clin Pathol,2013、Yamanaka et al.,Oncology,2007、Nakatsura et al.,Clin Cancer Res,2004、Zynger et al.,Am J Surg Pathol,2006、Montalbano et al.,Int J Oncol,2016、Midorikawa et al.,Int J Cancer,2003)。特にGPC3は肝細胞癌(HCC)において高度に発現する(Capurro et al.,Gastroenterology,2003、Nakatsura et al.,Biochem Biophys Res Commun,2003、Sung et al.,Cancer Sci,2003、Zhu et al.,Gut,2001)。肝細胞癌(HCC)は、肝がんの主要形態であって、すべての肝がんの90%を占め、毎年少なくとも500,000例の死亡をもたらす(Jelic et al.,Ann Oncol,2010)。GPC3については、HCCおよび他のがんタイプ用の診断バイオマーカーおよび治療ターゲットとして、広範な研究が行われてきた。GPC3を標的とする抗体は、ヒト化マウス抗体YP7およびGC33ならびにヒト抗体HN3およびMDX-1414を含めて、いくつか作製されているが、それらはHCC細胞増殖を阻害しまたはアポトーシスを誘導する能力を示していない(Feng and Ho,FEBS Lett,2014)。例外的にGC33は現在HCCに関して臨床試験で評価されているところである。GC33機能の機序には抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)が含まれるが、GC33がGPC3陽性腫瘍細胞の増殖を直接阻害することはない(Takai et al.,Cancer Biol Ther,2009、Nakano et al.,Biochem Biophys Res Commun,2009、Ishiguro et al.,Cancer Res,2008)。しかし、GC33がインビボで腫瘍成長阻害を呈することは示されているものの、その臨床効力は十分ではなかった。一方、ノックダウン実験およびsiRNA実験の結果から、GPC3はHCC細胞にとって致死遺伝子ではないことが示唆されており、そのことが、効率のよい腫瘍退縮を抗GPC3抗体が引き起こしうるかどうかを不確かにしている。
【0003】
分化抗原群137、すなわちCD137(4-1BBまたはTNFRS9としても公知である)は、共刺激免疫受容体であり、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)スーパーファミリーのメンバーである。これは、主に活性化CD4+T細胞および活性化CD8+T細胞、活性化B細胞ならびにナチュラルキラー(NK)細胞上に発現するが、休止状態の単球および樹状細胞(Li and Liu,Clin Pharmacol,2013)または内皮細胞(Snell et al.,Immunol Rev,2011)にも見いだすことができる。CD137は免疫応答の制御において重要な役割を果たし、したがってがん免疫治療のターゲットである。CD137リガンド(CD137L)はCD137の唯一公知の天然リガンドであり、活性化B細胞、単球、および脾臓樹状細胞などといった数タイプの抗原提示細胞上に構成的に発現しており、Tリンパ球上に誘導される場合もある。
【0004】
CD137Lは、膜結合型としても可溶性変異体としても存在する三量体タンパク質である。しかし、可溶性CD137Lの、CD137、例えばCD137発現リンパ球上のCD137を活性化する能力は限定的であり、効果を誘発するには高い濃度が必要である(Wyzgol et al.,J Immunol,2009)。CD137の活性化の自然な経路は、CD137陽性細胞とCD137L陽性細胞との会合によるものである。CD137活性化は、反対側の細胞上のCD137Lによるクラスター化によって誘導され、それがCD137陽性T細胞におけるTRAF1、TRAF2およびTRAF3を介したシグナリング(Yao et al.,Nat Rev Drug Discov,2013、Snell et al.,Immunol Rev,2011)ならびにそれに付随するさらなる下流効果につながると考えられている。それぞれのコグネイトターゲットの認識によって活性化されたT細胞の場合、CD137の共刺激によって誘発される効果は、活性化のさらなる強化、生残および増殖の強化、炎症誘発性サイトカインの産生ならびに殺滅能の改良である。
【0005】
がん細胞の排除に関するCD137共刺激の利益はいくつかのインビボモデルで実証されている。例えば腫瘍上でCD137Lの発現を強制すると腫瘍拒絶につながる(Melero et al.,Eur J Immunol,1998)。同様に、腫瘍上で抗CD137 scFvの発現を強制するとCD4+T細胞およびNK細胞依存的な腫瘍の排除につながる(Yang et al.,Cancer Res,2007、Zhang et al.,Mol Cancer Ther,2006、Ye et al.,Nat Med,2002)。全身性に投与された抗CD137抗体が腫瘍成長の遅滞につながることも実証されている(Martinet et al.,Gene Ther,2002)。
【0006】
CD137は、ヒト腫瘍において天然に存在する腫瘍反応性T細胞の優れたマーカーであること(Ye et al.,Clin Cancer Res,2014)、および抗CD137抗体は、養子T細胞治療に応用されるCD8+黒色腫腫瘍浸潤リンパ球の拡大および活性を改良するために使用できることが示されている(Chacon et al.,PLoS One,2013)。
【0007】
CD137共刺激の潜在的治療利益の前臨床的実証は、BMS-663513(米国特許第7,288,638号に記載)およびPF-05082566(Fisher et al.,Cancer Immunol Immunother,2012)を含む、CD137をターゲットとする治療用抗体の開発に拍車をかけた。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、なかんずく、CD137に対する結合特異性およびGPC3に対する結合特異性という特性を有する1つまたは複数の融合タンパク質を介して、CD137とGPC3に同時に会合するための新規なアプローチを提供する。
【0009】
II. 定義
以下のリストでは、本明細書全体を通して使用される用語、語句および略号を定義する。本明細書において列挙され定義される用語はすべて、あらゆる文法形を包含するものとする。
【0010】
本明細書において使用される場合、別段の指定がある場合を除き、「CD137」とはヒトCD137(huCD137)を意味する。ヒトCD137とは、UniProt Q07011によって規定される完全長タンパク質、そのフラグメントまたはその変異体を意味する。CD137は、4-1BB、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー9(tumor necrosis factor receptor superfamily member 9:TNFRSF9)、およびILA(induced by lymphocyte activation)としても公知である。いくつかの特定態様では、非ヒト種のCD137、例えばカニクイザルCD137およびマウスCD137が使用される。
【0011】
本明細書において使用される場合、別段の指定がある場合を除き、「グリピカン3」すなわち「GPC3」は、ヒトGPC3(huGPC3)を意味する。ヒトGPC3とは、UniProt P51654によって規定される完全長タンパク質、そのフラグメントまたはその変異体を意味する。ヒトGPC3はGPC3遺伝子によってコードされている。GPC3は、DGSX、GTR2-2、MXR7、OCI-5、SDYS、SGB、SGBS、またはSGBS1としても公知である。いくつかの特定態様では、非ヒト種のGPC3、例えばカニクイザルGPC3およびマウスGPC3が使用される。
【0012】
本明細書にいう「結合アフィニティー」とは、本開示の生体分子(例えばポリペプチドまたはタンパク質)(例えばリポカリンムテイン、抗体、融合タンパク質、または他の任意のペプチドもしくはタンパク質)の、選択されたターゲットに結合して複合体を形成する能力を表す。結合アフィニティーは、当業者には公知のいくつかの方法によって、例えば限定するわけではないが蛍光滴定、酵素結合免疫吸着アッセイ(enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)ベースのアッセイ、例えば直接ELISAおよび競合ELISA、熱量測定法、例えば等温滴定熱量測定(isothermal titration calorimetry:ITC)および表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance:SPR)などといった方法によって、測定される。これらの方法は当技術分野では確立されており、本明細書には、そのような方法のいくつかの例を、さらに記載する。それにより、結合アフィニティーは、これらの方法を使って測定される解離定数(KD)、50%有効濃度(half maximal effective concentration)(EC50)または50%阻害濃度(half maximal inhibitory concentration)(IC50)の値として報告される。低いKD値、EC50値またはIC50値は、良好な(高い)結合能(アフィニティー)を表す。したがって、ある選択されたターゲットに対して、2種の生体分子の結合アフィニティーを測定し、比較することができる。選択されたターゲットに対する2種の生体分子の結合アフィニティーを比較する場合、「ほぼ同じ」、「実質的に同じ」または「実質的に類似する」という用語は、一方の生体分子が、結合アフィニティー測定の実験的変動の範囲内で他方の分子と同一であるか類似するKD値、EC50値またはIC50値として報告される結合アフィニティーを有することを意味する。結合アフィニティー測定の実験的変動は使用する具体的方法に依存し、当業者には公知である。
【0013】
本明細書において使用される「実質的に」という用語は、関心対象の特徴または特性を完全なまたはほぼ完全な程度または度合で呈する定性的状態も指しうる。生物学的現象および化学的現象が完結することおよび/もしくは完全に進行することまたは絶対的結果を達成もしくは回避することは、たとえあったとしてもごくまれであることは、生物学分野の当業者には理解されるであろう。そえゆえに「実質的に」という用語は、本明細書では、多くの生物学的現象および化学的現象に内在する潜在的な完全性の欠如をとらえるために使用される。
【0014】
本明細書において使用される「検出する」、「検出」、「検出可能な」または「検出すること」という用語は、量的レベルでも、質的レベルでも、またそれらの組合せでも理解される。したがってこれは、本開示の生体分子に対して行われる定量的、半定量的および定性的な測定を包含する。
【0015】
本明細書にいう「検出可能なアフィニティー」とは、一般に、KD値、EC50値またはIC50値によって報告される生体分子とそのターゲットとの間の結合能力を意味し、最大でも約10-5M以下である。10-5Mより高いKD値、EC50値またはIC50値によって報告される結合アフィニティーは、一般的には、ELISAおよびSPRなどといった普通の方法ではもはや測定可能でなく、それゆえにその重要性は二次的でしかない。
【0016】
本開示の生体分子とそのターゲットとの間の複合体形成は、それぞれのターゲットの濃度、競合物質の存在、使用される緩衝系のpHおよびイオン強度、結合アフィニティーの決定に使用される実験方法(例えば蛍光滴定、競合的ELISA(competitive ELISA)(競合ELISA(competition ELISA)ともいう)、および表面プラズモン共鳴)、さらには実験データの評価に使用される数学的アルゴリズムなど、多種多様な因子の影響を受けることに留意されたい。それゆえに、KD値、EC50値またはIC50値によって報告される結合アフィニティーは、方法および実験設定に依存して、一定の実験的範囲内で変動しうることは、当業者には明白である。これは、例えばELISA(直接ELISAまたは競合ELISAを含む)によって決定されたか、SPRによって決定されたか、別の方法によって決定されたかに依存して、測定されたKD値、EC50値またはIC50値にはわずかな変動、すなわち許容差範囲がありうることを意味する。
【0017】
本明細書にいう「に対して特異的」、「特異的結合」または「結合特異性」は、生体分子の、所望のターゲット(例えばCD137およびGPC3)と1つまたは複数のリファレンスターゲット(例えば好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンに対する細胞受容体)とを区別する能力に関する。そのような特異性は、絶対的ではなく相対的な特性であり、例えばSPR、ウェスタンブロット、ELISA、蛍光活性化細胞選別(FACS)、ラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay:RIA)、電気化学ルミネセンス(electrochemiluminescence:ECL)、イムノラジオメトリックアッセイ(immunoradiometric assay:IRMA)、免疫組織化学(ImmunoHistoChemistry:IHC)およびペプチドスキャンに従って決定することができると理解される。
【0018】
CD137とGPC3に結合する本開示の融合タンパク質に関連して本明細書において使用される場合、「に特異的」、「特異的結合」、「特異的に結合する」または「結合特異性」という用語は、融合タンパク質が、本明細書に記載するとおり、CD137とGPC3に結合し、それらと反応し、またはそれらを指向するが、別のタンパク質には本質的に結合しないことを意味する。「別のタンパク質」という用語は、CD137ではなくGPC3でもなく、CD137またはGPC3と近縁または相同であるタンパク質でもない任意のタンパク質を包含する。しかし、ヒト以外の種からのCD137またはGPC3ならびにCD137またはGPC3のフラグメントおよび/もしくは変異体が、「別のタンパク質」という用語によって除外されることはない。「本質的に結合しない」という用語は、本開示の融合タンパク質が、CD137および/またはGPC3ではない別のタンパク質に低い結合アフィニティーでしか結合しないこと、すなわち30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満、特に好ましくは9、8、7、6または5%未満の交差反応性を示すことを意味する。融合タンパク質が上に定義したように特異的に反応するかどうかは、なかんずく本開示の融合タンパク質とCD137および/またはGPC3との反応を、該融合タンパク質と(1種または複数種の)別のタンパク質との反応と比較することなどによって、容易に試験することができる。
【0019】
本明細書において使用される「リポカリン」という用語は、円柱状のβプリーツシート超二次構造領域を有する、重量がおよそ18~20kDaの単量体タンパク質であって、前記円柱状のβプリーツシート超二次構造領域は複数のβストランド(好ましくはA~Hと呼ばれる8本のβストランド)を含み、それらが一端において複数の(好ましくは4つの)ループによってペアワイズに接続されることでリガンド結合ポケットを構成しリガンド結合ポケットへの入口を規定しているものを指す。好ましくは、本発明において使用されるリガンド結合ポケットを構成するループは、βストランドAとB、CとD、EとFおよびGとHの開口端を接続するループであり、それらはループAB、CD、EFおよびGHと呼ばれる。他の点では剛直なリポカリンスキャフォールドにおける該ループの多様性が、リポカリンファミリーメンバーの間に、サイズ、形状および化学的特徴が異なるターゲットを収容する能力をそれぞれが有するさまざまな異なる結合様式を生じさせることは、確立されている(例えばSkerra,Biochim Biophys Acta,2000、Flower et al.,Biochim Biophys Acta,2000、Flower,Biochem J,1996に総説がある)。リポカリンファミリーのタンパク質は、全体の配列保存率が並外れて低レベルであるにも関わらず(配列同一性は20%未満であることが多い)高度に保存された全体的フォールディングパターンを保って、広範なリガンドに結合するように自然進化したと理解される。さまざまなリポカリンにおける位置同士の対応も、当業者には周知である(例えば米国特許第7,250,297号参照)。本明細書にいう「リポカリン」の定義に包含されるタンパク質としては、ヒトリポカリン、例えば涙液リポカリン(Tlc、Lcn1)、リポカリン-2(Lcn2)または好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(neutrophil gelatinase-associated lipocalin:NGAL)、アポリポタンパク質D(ApoD)、アポリポタンパク質M、α1-酸性糖タンパク質1、α1-酸性糖タンパク質2、α1-ミクログロブリン、補体成分8γ、レチノール結合タンパク質(RBP)、精巣上体レチノイン酸結合タンパク質、グリコデリン、匂い物質結合タンパク質IIa、匂い物質結合タンパク質IIb、リポカリン15(Lcn15)およびプロスタグランジンDシンターゼが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0020】
本明細書において使用される場合、別段の指定がある場合を除き、「涙液リポカリン」とは、ヒト涙液リポカリン(hTlc)を指し、さらに成熟ヒト涙液リポカリンを指す。タンパク質を特徴づけるために使用される場合、「成熟」という用語は、本質的にシグナルペプチドを含まないタンパク質を意味する。本開示の「成熟hTlc」は、シグナルペプチドを含まない成熟型のヒト涙液リポカリンを指す。成熟hTlcは、SWISS-PROTデータバンクにアクセッション番号P31025として登録されている配列の残基19~176によって記載され、そのアミノ酸配列をSEQ ID NO:1に示す。
【0021】
本明細書にいう「リポカリン-2」または「好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン」は、ヒトリポカリン-2(hLcn2)またはヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)を指し、さらに成熟ヒトリポカリン-2または成熟ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンを指す。タンパク質を特徴づけるために使用される場合、「成熟」という用語は、本質的にシグナルペプチドを含まないタンパク質を意味する。本開示の「成熟hNGAL」は、シグナルペプチドを含まない成熟型の好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンを指す。成熟hNGALは、SWISS-PROTデータバンクにアクセッション番号P80188として登録されている配列の残基21~198によって記載され、そのアミノ酸配列をSEQ ID NO:2に示す。
【0022】
本明細書にいう「ネイティブ配列」は、自然に存在する配列を有するか、または野生型配列を有する、タンパク質またはポリペプチドを指し、その調製方式は問わない。そのようなネイティブ配列タンパク質またはネイティブ配列ポリペプチドは、自然から単離するか、他の手段によって、例えば組換え法または合成法などによって生産することができる。
【0023】
「ネイティブ配列リポカリン」とは、自然由来の対応するポリペプチドと同じアミノ酸配列を有するリポカリンを指す。したがって、ネイティブ配列リポカリンは、任意の生物、特に哺乳動物からの、それぞれの天然(野生型)リポカリンのアミノ酸配列を有することができる。リポカリンに関連して使用される場合、「ネイティブ配列」という用語は、リポカリンの天然の切断型または分泌型、リポカリンの天然の変異体型、例えば選択的スプライス型および天然のアレル変異体を、特に包含する。用語「ネイティブ配列リポカリン」と「野生型リポカリン」は、本明細書では相互可換的に使用される。
【0024】
本明細書にいう「ムテイン」、「突然変異(mutated)」実体(タンパク質であるか核酸であるかを問わない)または「突然変異体(mutant)」は、天然(野生型)のタンパク質または核酸と比較して、1つまたは複数のアミノ酸またはヌクレオチドの交換、欠失または挿入を指す。この用語には本明細書記載のムテインのフラグメントも含まれる。本開示は、円柱状のβプリーツシート超二次構造領域を有する本明細書記載のリポカリンムテインであって、前記円柱状のβプリーツシート超二次構造領域は8本のβストランドを含み、それらが一端において4つのループによってペアワイズに接続されることでリガンド結合ポケットを構成しリガンド結合ポケットへの入口を規定しており、前記4つのループのうちの少なくとも3つのループのそれぞれの少なくとも1つのアミノ酸がネイティブ配列リポカリンと比較して突然変異しているものを、明示的に包含する。本発明のリポカリンムテインは、好ましくは、本明細書に記載するようにCD137に結合する機能を有する。
【0025】
本開示のリポカリンムテインに関連して本明細書において使用される「フラグメント」という用語は、完全長成熟hTlcもしくは完全長成熟hNGALまたはリポカリンムテインに由来するタンパク質またはポリペプチドであって、N末端および/またはC末端が切断されているもの、すなわちN末端および/またはC末端アミノ酸を少なくとも1つは欠くものを指す。そのようなフラグメントは、成熟hTlcもしくは成熟hNGALまたはリポカリンムテインの一次配列のうちの少なくとも10個またはそれ以上、例えば20個もしくは30個またはそれ以上の連続アミノ酸を含むことができ、通常は、成熟hTlcまたはhNGALのイムノアッセイにおいて検出可能である。そのようなフラグメントは、最大2個、最大3個、最大4個、最大5個、最大10個、最大15個、最大20個、最大25個または最大30個(その間の数をすべて含む)のN末端および/またはC末端アミノ酸を欠きうる。具体的一例として、そのようなフラグメントは、成熟hTlcの1つ、2つ、3つもしくは4つのN末端(His-His-Leu-Leu)および/または1つもしくは2つのC末端アミノ酸(Ser-Asp)を欠きうる。フラグメントは、好ましくは、元の成熟hTlcもしくは成熟hNGALまたはリポカリンムテインの機能的フラグメントであると理解される。これは、そのフラグメントが、元の成熟hTlc/hNGALまたはリポカリンムテインの結合特異性、好ましくはCD137に対する結合特異性を保っていることを意味する。具体的一例として、そのような機能的フラグメントは、少なくとも、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列に対応する位置5~153、5~150、9~148、12~140、20~135または26~133のアミノ酸を含みうる。別の具体的一例として、そのような機能的フラグメントは、少なくとも、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列に対応する位置13~157、15~150、18~141、20~134、25~134、または28~134のアミノ酸を含みうる。
【0026】
本開示の融合タンパク質の対応するターゲットCD137またはGPC3に関して「フラグメント」とは、N末端および/もしくはC末端が切断されたCD137もしくはGPC3またはCD137もしくはGPC3のタンパク質ドメインを指す。本明細書に記載するCD137のフラグメントまたはGPC3のフラグメントは、完全長CD137または完全長GPC3の、本開示の融合タンパク質によって認識されかつ/または結合される能力を保っている。具体的一例として、フラグメントはCD137またはGPC3の細胞外ドメインでありうる。具体的一例として、そのような細胞外ドメインはCD137の細胞外サブドメインのアミノ酸、例えばドメイン1(UniProt Q07011の残基24~45)、ドメイン2(残基46~86)、ドメイン3(87~118)およびドメイン4(残基119~159)の個々のまたは組み合わされたアミノ酸配列を含みうる。
【0027】
本明細書において使用される「変異体」という用語は、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列の置換、欠失、挿入および/または化学修飾などによる突然変異を含む、タンパク質またはポリペプチドの誘導体に関する。いくつかの態様において、そのような突然変異および/または化学修飾は、当該タンパク質またはペプチドの機能性を低減しない。そのような置換は保存的でありうる。すなわち、アミノ酸残基は、化学的に類似するアミノ酸残基で置き換えられる。保存的置換の例は、以下のグループのメンバー間での置き換えである:1)アラニン、セリン、スレオニン、およびバリン、2)アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、およびアスパラギン、およびヒスチジン、3)アルギニン、リジン、グルタミン、アスパラギン、およびヒスチジン、4)イソロイシン、ロイシン、メチオニン、バリン、アラニン、フェニルアラニン、スレオニン、およびプロリン、ならびに5)イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン。そのような変異体には、1つまたは複数のアミノ酸がそれぞれのD-立体異性体によって置換されているか、20種の天然アミノ酸以外のアミノ酸、例えばオルニチン、ヒドロキシプロリン、シトルリン、ホモセリン、ヒドロキシリジン、ノルバリンなどで置換されているタンパク質またはポリペプチドが含まれる。そのような変異体には、例えば、N末端および/またはC末端において1つまたは複数のアミノ酸残基が付加または除去されたタンパク質またはポリペプチドも含まれる。一般に変異体は、ネイティブ配列のタンパク質またはポリペプチドに対して、少なくとも約50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、92%、95%または少なくとも約98%のアミノ酸配列同一性を有する。変異体は、好ましくは、元のタンパク質またはポリペプチドの生物学的活性、例えば同じターゲットへの結合を保っている。
【0028】
本開示の融合タンパク質の対応するタンパク質リガンドCD137またはGPC3に関して本明細書において使用される「変異体」という用語は、CD137またはGPC3のネイティブ配列(野生型CD137またはGPC3)、例えば本明細書に記載するようにUniProt Q07011に登録されているCD137またはUniProt P51654に登録されているGPC3との比較で、1つまたは複数の、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、40、50、60、70、80個またはそれ以上の、アミノ酸の置換、欠失および/または挿入を有する、それぞれCD137もしくはGPC3またはそのフラグメントに関する。CD137変異体またはGPC3変異体は、それぞれ、好ましくは、野生型CD137または野生型GPC3に対して少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%または95%のアミノ酸同一性を有する。本明細書記載のCD137変異体またはGPC3変異体は、本発明において開示されるCD137とGPC3に特異的な融合タンパク質に結合する能力を保っている。
【0029】
リポカリンムテインに関して本明細書において使用される「変異体」という用語は、配列が、置換、欠失および挿入を含む突然変異ならびに/または化学修飾を有する、本開示のリポカリンムテインまたはそのフラグメントに関する。本明細書記載のリポカリンムテインの変異体は、元のリポカリンムテインの生物学的活性、例えばCD137への結合を保っている。一般に、リポカリンムテイン変異体は、元のリポカリンムテインに対して少なくとも約50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、92%、95%、98%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0030】
本明細書において使用される「突然変異導入」という用語は、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列への突然変異の導入を指す。突然変異は、好ましくは、タンパク質またはポリペプチド配列の所与の位置に天然に存在するアミノ酸が改変されうるような、例えば少なくとも1つのアミノ酸によって置換されうるような、実験条件下で導入される。「突然変異導入」という用語は、1つまたは複数のアミノ酸の欠失または挿入による配列セグメントの長さの(付加的)修飾も包含する。したがって、例えば選ばれた配列位置にある1つのアミノ酸が、一続きになった3つのアミノ酸で置き換えられて、ネイティブタンパク質またはネイティブポリペプチドのアミノ酸配列のそれぞれのセグメントの長さと比較して2つのアミノ酸残基が付加されたことになるのは、本開示の範囲内である。そのような挿入または欠失は、本開示において突然変異導入の対象となりうる配列セグメントのいずれにおいても、互いに独立して導入されうる。例示的な本開示の一態様では、ネイティブ配列リポカリンのループABに対応するアミノ酸配列セグメントに、挿入が導入されうる(国際特許出願WO 2005/019256参照。この特許出願は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)。
【0031】
本明細書において使用される「ランダム突然変異導入」という用語は、前もって決定された突然変異(アミノ酸の改変)が一定の配列位置に存在するのではなく、突然変異導入中に所定の配列位置に少なくとも2種のアミノ酸が一定の確率で組み込まれうることを意味する。
【0032】
本明細書において使用される「配列同一性」または「同一性」という用語は、配列間の類似性または関係性を測る配列の一特性を表す。本開示において使用される「配列同一性」または「同一性」という用語は、本開示のタンパク質またはポリペプチドの配列を問題の配列と(相同)アラインメントした後の、それら2つの配列のうちの長い方の残基数を基準とした、ペアごとの同一残基のパーセンテージを意味する。配列同一性は、同一アミノ酸残基の数を残基の総数で割り、その結果に100を掛けることによって測られる。
【0033】
本明細書において使用される「配列相同性」または「相同性」という用語は、その通常の意味で使用され、相同なアミノ酸には、本開示のタンパク質またはポリペプチド(例えば本開示の任意の融合タンパク質またはリポカリンムテイン)の直鎖アミノ酸配列において等価な位置にある同一アミノ酸および保存的置換とみなされるアミノ酸が含まれる。
【0034】
標準的なパラメータを使って配列相同性または配列同一性を決定するために利用することができる、例えばBLAST(Altschul et al.,Nucleic Acids Res,1997)、BLAST2(Altschul et al.,J Mol Biol,1990)、およびSmith-Waterman(Smith and Waterman,J Mol Biol,1981)などのコンピュータプログラムは、当業者にはわかるであろう。配列相同性または配列同一性のパーセンテージは、本明細書では、例えばプログラムBLASTPバージョン2.2.5(2002年11月16日;(Altschul et al.,Nucleic Acids Res,1997)を使って決定することができる。この態様において、相同性のパーセンテージは、プロペプチド配列を含む全タンパク質配列または全ポリペプチド配列のアラインメントに基づき(行列:BLOSUM 62;ギャップコスト:11.1;カットオフ値は10-3に設定)、好ましくは野生型タンパク質スキャフォールドを、ペアワイズ比較におけるリファレンスとして使用する。これは、BLASTPプログラム出力に結果として示される「ポジティブ(positive)」(相同アミノ酸)の数を、プログラムがアラインメントのために選択したアミノ酸の総数で割ったパーセンテージとして計算される。
【0035】
具体的には、リポカリンムテインのアミノ酸配列のアミノ酸残基が、野生型リポカリンのアミノ酸配列中の一定の位置に対応する野生型リポカリンとは異なるかどうかを決定するために、当業者は、例えば手作業によるアラインメント、またはBLAST2.0(これはBasic Local Alignment Search Toolの略である)もしくはClustalWなどのコンピュータプログラム、または配列アラインメントを作成するのに適した他の任意の適切なプログラムを使ったアラインメントなど、当技術分野において周知の手段および方法を使用することができる。したがって、リポカリンの野生型配列が「対象配列」または「リファレンス配列」として役立ちうるのに対し、本明細書記載の野生型リポカリンとは異なるリポカリンムテインのアミノ酸配列は「クエリー配列」として役立つ。「野生型配列」、「リファレンス配列」および「対象配列」という用語は、本明細書では相互可換的に使用される。リポカリンの好ましい野生型配列は、SEQ ID NO:1に示すhTLcの配列またはSEQ ID NO:2に示すhNGALの配列である。
【0036】
「ギャップ」とは、アミノ酸の付加または欠失の結果であるアラインメント中の空白をいう。したがって、厳密に同じ配列である2つのコピーは100%の同一性を有するが、それほど高度には保存されていなくて、欠失、付加、または置き換えを有する配列は、それより程度の低い配列同一性を有しうる。
【0037】
本開示において使用される「位置」という用語は、本明細書に示すアミノ酸配列内でのアミノ酸の位置、または本明細書に示す核酸配列内でのヌクレオチドの位置を意味する。「対応する」または「対応」という用語が1つまたは複数のリポカリンムテインのアミノ酸配列位置との関連で本明細書において使用される場合、対応位置は、先行するヌクレオチドまたはアミノ酸の数だけでは決定されないことを理解すべきである。したがって本開示によれば、所与のアミノ酸の絶対的位置は、(突然変異体または野生型)リポカリン中の他のどこかにあるアミノ酸の欠失または付加ゆえに、対応位置から変動しうる。同様に本開示によれば、所与のヌクレオチドの絶対的位置も、ムテインまたは野生型リポカリンの5’-非翻訳領域(UTR)、例えばプロモーターおよび/もしくは他の任意の制御配列中または遺伝子(エクソンおよびイントロンを含む)中の他のどこかにある欠失または追加ヌクレオチドゆえに、対応位置から変動しうる。
【0038】
本開示による「対応位置」は、本開示によるペアワイズアラインメントまたは多重配列アラインメントにおいてそれが対応する配列位置にアラインメントする配列位置でありうる。好ましくは、本開示による「対応位置」に関して、ヌクレオチドまたはアミノ酸の絶対的位置は、隣接ヌクレオチドまたは隣接アミノ酸とは異なっていて、交換、欠失または付加されたそれら隣接ヌクレオチドまたは隣接アミノ酸が同じ1つまたは複数の「対応位置」に含まれる場合もありうると理解すべきである。
【0039】
加えて、本開示によるリファレンス配列に基づくリポカリンムテイン中の対応位置については、好ましくは、リポカリン間で高度に保存された全体的フォールディングパターンに照らして当業者には理解されるとおり、リポカリンムテインのヌクレオチドまたはアミノ酸の位置は、たとえそれらが絶対的位置番号の点で異なりうるとしても、リファレンスリポカリン(野生型リポカリン)または別のリポカリンムテイン中の他のどこかにある位置と、構造的に対応しうると理解すべきである。
【0040】
本明細書では相互可換的に使用される「コンジュゲートする」、「コンジュゲーション」、「融合する」、「融合」または「連結された」という用語は、例えば遺伝子融合、化学的コンジュゲーション、リンカーまたは架橋剤によるカップリング、および非共有結合的会合などの手段による、あらゆる形態の共有結合または非共有結合を介した、2つ以上のサブユニットの互いの繋ぎ合わせを指す。
【0041】
本明細書において使用される「融合ポリペプチド」または「融合タンパク質」という用語は、2つ以上のサブユニットを含むポリペプチドまたはタンパク質を指す。いくつかの態様において、本明細書記載の融合タンパク質は、2つ以上のサブユニットを含み、それらのサブユニットのうちの少なくとも1つはCD137に特異的に結合する能力を有し、さらに別のサブユニットはGPC3に特異的に結合する能力を有する。融合タンパク質内では、これらのサブユニットが共有結合または非共有結合によって連結されうる。好ましくは、融合タンパク質は、2つ以上のサブユニット間の翻訳融合物である。翻訳融合物は、あるサブユニットのコード配列を別のサブユニットのコード配列と読み枠を合わせて遺伝子操作することによって作製しうる。両サブユニットの間には、リンカーをコードするヌクレオチド配列を介在させうる。ただし、本開示の融合タンパク質のサブユニットは、化学的コンジュゲーションによって連結することもできる。融合タンパク質を形成するサブユニットは、典型的には、互いに、あるサブユニットのC末端が別のサブユニットN末端に、またはあるサブユニットのC末端が別のサブユニットのC末端に、またはあるサブユニットのN末端が別のサブユニットのN末端に、またはあるサブユニットのN末端が別のサブユニットのC末端に連結される。融合タンパク質のサブユニットは任意の順序で連結することができ、構成サブユニットのいずれかを2つ以上含んでもよい。サブユニットのうちの1つまたは複数が2つ以上のポリペプチド鎖からなるタンパク質(複合体)の一部であるなら、「融合タンパク質」という用語は、融合された配列を含むタンパク質とそのタンパク質(複合体)の他のすべてのポリペプチド鎖も指しうる。具体的一例として、完全長免疫グロブリンが免疫グロブリンの重鎖または軽鎖を介してリポカリンムテインに融合されている場合、「融合タンパク質」という用語は、リポカリンムテインを含む単一のポリペプチド鎖と免疫グロブリンの重鎖または軽鎖を指しうる。「融合タンパク質」という用語は、免疫グロブリン全体(軽鎖と重鎖の両方)ならびにその重鎖および/もしくは軽鎖の一方または両方に融合されたリポカリンムテインも指しうる。
【0042】
本明細書において使用される場合、本明細書において開示する融合タンパク質の「サブユニット」という用語は、単独で安定したフォールディング構造を形成して、ターゲットに対する結合モチーフを与えるというユニークな機能を規定しうる、単一のタンパク質または独立したポリペプチド鎖を指す。いくつかの態様において、好ましい本開示のサブユニットはリポカリンムテインである。他のいくつかの態様において、好ましい本開示のサブユニットは、完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインである。
【0043】
本開示の融合タンパク質に含まれうる「リンカー」は、本明細書記載の融合タンパク質の2つ以上のサブユニットを互いに繋ぎ合わせる。結合は共有結合または非共有結合であることができる。好ましい共有結合は、アミノ酸間のペプチド結合などのペプチド結合による。好ましいリンカーはペプチドリンカーである。したがって好ましい一態様において、リンカーは、1つまたは複数のアミノ酸、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個またはそれ以上のアミノ酸を含む。本明細書には、グリシン-セリン(GS)リンカー、グリコシル化GSリンカー、およびプロリン-アラニン-セリンポリマー(PAS)リンカーなどといった、好ましいペプチドリンカーを記載する。いくつかの好ましい態様において、GSリンカーはSEQ ID NO:13に記載の(G4S)3であり、融合タンパク質のサブユニット同士を繋ぎ合わせるために使用される。他の好ましいリンカーとして化学的リンカーが挙げられる。
【0044】
本明細書において使用される「アルブミン」という用語は、ヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンまたはラット血清アルブミンなど、あらゆる哺乳動物アルブミンを包含する。
【0045】
本明細書において使用される「有機分子」または「小有機分子」という用語は、少なくとも2つの炭素原子を含むが、好ましくは7個以下または12個以下の回転可能な炭素結合を含み、100~2,000ダルトン、好ましくは100~1,000ダルトンの範囲の分子量を有し、任意で1つまたは2つの金属原子を含む、有機分子を表す。
【0046】
「試料」は、任意の対象から採取された生物学的試料と定義される。生物学的試料には、血液、血清、尿、糞便、精液、または腫瘍組織を含む組織が包含されるが、それらに限定されるわけではない。
【0047】
「対象」は脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。「哺乳動物」という用語は、本明細書では、哺乳動物に分類される任意の動物を指すために使用され、ヒト、家畜および農用動物、ならびに動物園動物、スポーツ動物、またはペット動物、例えばヒツジ、イヌ、ウマ、ネコ、ウシ、ラット、ブタ、サル、例えばカニクイザルなどを含むが、ここでは具体例をいくつか挙げただけで、それらに限定されるわけではない。好ましくは、本明細書にいう「哺乳動物」はヒトである。
【0048】
「有効量」とは、有益な結果または所望の結果を得るのに十分な量である。有効量は1回または複数回の個別投与または1つまたは複数の個別用量で投与することができる。
【0049】
本明細書にいう「抗体」には、全抗体またはその任意の抗原結合性フラグメント(すなわち「抗原結合部分」)もしくは単一の鎖が含まれる。全抗体とは、ジスルフィド結合によって相互に接続された少なくとも2つの重鎖(HC)と2つの軽鎖(LC)とを含む糖タンパク質を指す。各重鎖は、重鎖可変ドメイン(VHまたはHCVR)と重鎖定常領域(CH)とで構成される。重鎖定常領域は3つのドメインCH1、CH2およびCH3で構成される。各軽鎖は軽鎖可変ドメイン(VLまたはLCVR)と軽鎖定常領域(CL)とで構成される。軽鎖定常領域は1つのドメインCLで構成される。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる保存度の高い領域が間に挿入された相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に、さらに細分することができる。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序で配置された3つのCDRと4つのFRとで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原(例えばGPC3)と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、任意で、宿主組織または宿主因子、例えば免疫系のさまざまな細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的補体系の第1成分(C1q)などへの、免疫グロブリンの結合を媒介しうる。
【0050】
本明細書にいう抗体の「抗原結合性フラグメント」とは、抗原(例えばGPC3)に特異的に結合する能力を保っている、抗体の1つまたは複数のフラグメントを指す。抗体の抗原結合機能が完全長抗体のフラグメントによって履行されうることは示されている。抗体の「抗原結合性フラグメント」という用語に包含される結合性フラグメントの例としては、(i)VH、VL、CLおよびCH1ドメインからなるFabフラグメント、(ii)ヒンジ領域におけるジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含むF(ab’)2フラグメント、(iii)VH、VL、CLおよびCH1ドメインならびにCH1ドメインとCH2ドメインの間の領域からなるFab’フラグメント、(iv)VHドメインとCH1ドメインとからなるFdフラグメント、(v)抗体の単一アームのVHドメインとVLドメインとからなる一本鎖Fvフラグメント、(vi)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al.,Nature,1989)、および(vii)単離された相補性決定領域(CDR)または任意で合成リンカーによって結合されていてもよい2つ以上の単離されたCDRの組合せ、(viii)同じポリペプチド鎖中で短いリンカーを使って接続されたVHとVLとを含む「ダイアボディ」(例えば特許文書EP 404,097、WO 93/11161、およびHolliger et al.,Proc Natl Acad Sci U S A,1993参照)、(ix)VHまたはVLだけを含有する「ドメイン抗体フラグメント」であって、場合によっては、2つ以上のVH領域が共有結合で繋ぎ合わされているものが挙げられる。
【0051】
抗体は、ポリクローナルもしくはモノクローナル、異種、同種異系もしくは同系、またはそれらの修飾型(例えばヒト化、キメラまたは多重特異性)であってよい。また、抗体は完全にヒト抗体であってもよい。
【0052】
本明細書にいう「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域(CDR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。
【0053】
「フラグメント結晶化可能領域(fragment crystallizable region)」または「Fc領域」とは、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を指し、ネイティブ配列Fc領域と変異体Fc領域とを包含する。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界はさまざまでありうるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常は、KabatのEUインデックスによるナンバリングで位置Cys226またはPro230のアミノ酸残基からそのカルボキシル末端までと定義される(Johnson and Wu,Nucleic Acids Res,2000)。Fc領域のC末端リジン(KabatのEUインデックスで残基447)は、例えば抗体の生産もしくは精製中に、または抗体の重鎖をコードする核酸を組換え的に作製することにより、除去されうる。したがって、インタクトな抗体の組成物は、すべてのK447が除去されている抗体集団、K447残基が1つも除去されていない抗体集団、およびK447残基を持つ抗体と持たない抗体の混合物を有する抗体集団を含みうる。本発明の抗体における使用に適したネイティブ配列Fc領域としては、ヒトIgG1、IgG2(IgG2A、IgG2B)、IgG3およびIgG4が挙げられる。
【0054】
「Fc受容体」または「FcR」とは抗体のFc領域に結合する受容体を指す。
【0055】
本明細書にいう「単離された抗体」とは、その自然環境を本質的に含まない抗体を指す。例えば、単離された抗体は、それが由来する細胞源または組織源からの細胞性の物質および他のタンパク質を本質的に含まない。「単離された抗体」とは、さらに、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指す。本件の場合、GPC3に特異的に結合する単離された抗体は、GPC3以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない。ただし、GPC3に特異的に結合する単離された抗体は、他の抗原、例えば他の種からのGPC3分子に対する交差反応性を有しうる。
【0056】
本明細書にいう「モノクローナル抗体」とは、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は、ある特定エピトープに対して単一の結合特異性およびアフィニティーを呈する。
【0057】
本明細書にいう「ヒト化抗体」は、ヒト以外の哺乳動物に由来する抗体のCDRと、ヒト抗体のまたはヒト抗体由来のFR領域および定常領域とからなる抗体を指す。いくつかの態様において、ヒト化抗体は、Ehrenmannら(2010)が記載しているようにImmunogenetics Information System(IMGT)DomainGapAlignツールを使って評価した場合に、全体として分析すると、他の種よりもヒトに近い可変領域アミノ酸配列を有する可変ドメインを含む。いくつかの態様において、ヒト化抗体は、免疫原性が低減しているので、治療用作用物質における有効成分として役立ちうる。「治療用作用物質」または「治療活性作用物質」という用語は、本明細書において使用される場合、治療上有用な作用物質を指す。治療用作用物質は、疾患、生理的状態、症状を予防、改善または処置するための、またはそれらを評価もしくは診断するための、任意の作用物質でありうる。
【0058】
本明細書にいう「ヒト抗体」には、フレームワーク領域とCDR領域がどちらもヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する抗体が含まれる。さらにまた、抗体が定常領域を含有する場合、その定常領域もヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えばインビトロでのランダム突然変異導入もしくは部位特異的突然変異導入によって導入される突然変異またはインビボでの体細胞突然変異によって導入される突然変異)を含みうる。ただし、本明細書において使用される「ヒト抗体」という用語は、マウスなど別の哺乳動物種の生殖細胞系に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列上に移植されている抗体を包含しないものとする。
【図面の簡単な説明】
【0059】
III. 図面の説明
【
図1】ターゲットCD137およびGPC3に対して二重特異性である本願記載の代表的融合タンパク質の設計の概略を示す。代表的融合タンパク質は、GPC3に特異的な抗体(例えば重鎖がSEQ ID NO:81によって与えられるか、SEQ ID NO:78の重鎖可変ドメインを含むか、GYTFTDYE(HCDR1、SEQ ID NO:72)、LDPKTGDT(HCDR2、SEQ ID NO:73)およびTRFYSYTY(HCDR3;SEQ ID NO:74)のCDR配列を含み、かつ軽鎖がSEQ ID NO:82によって与えられるか、SEQ ID NO:79の軽鎖可変ドメインを含むか、QSLVHSNRNTY(LCDR1、SEQ ID NO:75)、KVS(LCDR2、SEQ ID NO:76)およびSQNTHVPPT(LCDR3;SEQ ID NO:77)のCDR配列を含む抗体)と、CD137に特異的な1つまたは複数のリポカリンムテイン(例えばSEQ ID NO:40のリポカリンムテインまたはSEQ ID NO:49に対して97%の配列同一性を有しCD137Ac1と呼ばれるリポカリンムテイン)とに基づいて作製された。
図1A~
図1Iに示すように、1つまたは複数のリポカリンムテインを、GPC3特異的抗体の重鎖または軽鎖のいずれかのC末端および/またはN末端に遺伝子融合することにより、融合タンパク質、例えばSEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:88とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:89、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:90、ならびにCD137Ac1融合物1、CD137Ac1融合物2、CD137Ac1融合物3、CD137Ac1融合物4、CD137Ac1融合物5、CD137Ac1融合物6およびCD137Ac1融合物7(SEQ ID NO:91とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:92とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:93、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:94、SEQ ID NO:95とSEQ ID NO:82、またはSEQ ID NO:96とSEQ ID NO:82に対して97%の配列同一性を有する融合タンパク質)を得た。加えて、生成した融合タンパク質は、(例えば
図1A~
図1Dに示すように)CD137に対して二価であるか、(例えば
図1E~
図1Hに示すように)CD137に対して四価であるか、または(例えば
図1Iに示すように)CD137に対してさらに高い価数を有することができる。(例えば
図1J~
図1Kに示すように)1つまたは複数のGPC-3特異的リポカリンムテインまたはCD137特異的リポカリンムテインを、本明細書に記載するように提供される抗体のFc領域のC末端に、ペプチドリンカーを介して融合することにより、さらなる単一特異性融合タンパク質を生成させた。その結果得られた単一特異性融合タンパク質を、例えばSEQ ID NO:97およびSEQ ID NO:98に掲載する。
【
図2-1】ヒトCPC3(
図2A)、カニクイザルGPC3(
図2B)およびヒトCD137(
図2C)への代表的融合タンパク質の結合を実施例3に記載するように決定したELISA実験の結果を表す。GPC3またはC末端Hisタグ付きCD137をマイクロタイタープレート上にコーティングし、100nMの最高濃度から出発して、被験作用物質をタイトレートした。結合した研究対象の作用物質を、抗ヒトIgG Fc-セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)または抗NGAL-HRPでそれぞれ検出した。EC
50値と最大シグナルを自由パラメータとし、傾きを1に固定して、データを1:1結合モデルに当てはめた。その結果得られたEC
50値を表4に掲載する。
【
図3】代表的融合タンパク質の、両方のターゲットGPC3およびCD137に同時に結合する能力を、実施例4で述べるように決定した例示的ELISA実験の結果を図解している。組換えhuGPC3(
図3A)またはhuCD137-His(
図3B)をマイクロタイタープレート上にコーティングした後、融合タンパク質のタイトレーションを行った。次に、それぞれ、一定の濃度のビオチン化huCD137-His(
図3A)またはビオチン化huGPC3(
図3B)を加え、それをExtrAvidin-ペルオキシダーゼで検出した。EC
50値と最大シグナルを自由パラメータとし、傾きを1に固定して、データを1:1結合モデルに当てはめた。その結果得られたEC
50値を表3に掲載する。
【
図4-1】実施例6で述べるようにヒトCD137発現CHO細胞(
図4A)およびヒトGPC3発現SK-Hep1細胞(
図4B)を用いるフローサイトメトリーによる融合タンパク質のターゲット結合の評価の結果を表す。モックトランスフェクト細胞を用いた場合には結合は観察されなかった。蛍光強度の幾何平均を使用してEC
50値を算出した。それらを表6に掲載する。
【
図5】フローサイトメトリーを使って評価されたGPC3陽性腫瘍細胞への融合タンパク質の結合を表す。GPC3発現レベルが異なる腫瘍細胞株(高発現~中発現:HepG2(
図5A)>Hep3B(
図5B)>MKN-45(
図5C))およびGPC3陰性細胞株NCI-N87(
図5D)を、実施例7で述べるように、異なる融合タンパク質または対照と共にインキュベートした。対応する結合アフィニティー(EC
50)を表7に要約する。
【
図6】CD137バイオアッセイを使って評価した、代表的融合タンパク質の、GPC3ターゲット依存的にT細胞活性化を共刺激する潜在能力を表す。NFκB-luc2/CD137 Jurkat細胞を、さまざまな濃度の融合タンパク質または対照の存在下で、GPC3発現腫瘍細胞株(高発現~中発現:HepG2>Hep3B>MKN-45、GPC3陰性:NCI-N87、それぞれ
図6A、
図6B、
図6Cおよび
図6D)と共培養した。4時間後に、ルシフェラーゼアッセイ試薬を加え、発光シグナルを測定した。EC
50値を算出するために4パラメータロジスティック曲線解析を行った(表7参照)。融合タンパク質はGPC3が豊富に存在する場合にのみT細胞活性化を共刺激し(
図6Aおよび
図6B)、GPC3が不十分であるか存在しない場合にはT細胞活性化を共刺激しない(
図6Cおよび
図6D)。対照的に、リファレンス抗CD137 mAb(SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27)は、GPC3発現のレベルとは関わりなく、GPC3発現細胞の非存在下、あらゆる腫瘍細胞の非存在下で、類似する活性化を呈する。
【
図7-1】代表的融合タンパク質の、GPC3の存在下でT細胞活性化を共刺激する能力を実証している。融合タンパク質に含まれるGPC3抗体(SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82)、GPC3特異的リポカリンムテイン(Fc融合物)(SEQ ID NO:97)、従来公知のCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質(SEQ ID NO:83)およびアイソタイプ対照(SEQ ID NO:24とSEQ ID NO:25)を並行して試験した。ヒトGPC3をトランスフェクトするか(
図7A)モックトランスフェクトした(ヒトGPC3陰性、
図7B)SK-Hep1細胞、またはGPC3発現Hep-G2腫瘍細胞株(
図7C)を、抗ヒト抗CD3被覆プレートに播種した。汎T細胞(pan T cell)およびさまざまな濃度の試験分子を加え、3日間インキュベートした。実施例9で述べるように、上清中の分泌されたIL-2のレベルを電気化学ルミネセンスに基づくアッセイによって決定した。融合タンパク質SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82は、GPC3の存在下でのみ、IL-2分泌の強い用量依存的増加を、従来公知のCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質SEQ ID NO:83よりも強く誘導する。
【
図8-1】代表的融合タンパク質の、GPC3ターゲット依存的にT細胞活性化を共刺激する能力を表す。GPC3発現レベルが異なるさまざまな腫瘍細胞株(高発現~中発現:HepG2>Hep3B>MKN-45、それぞれ
図8A、
図8Bおよび
図8C;GPC3陰性:NCI-N87、
図8D)を、抗ヒトCD3被覆プレートに播種した。汎T細胞とさまざまな濃度の融合タンパク質および単一ビルディングブロックとを加え、3日間インキュベートした。分泌されたIL-2のレベルは、実施例10で述べるように、電気化学ルミネセンスに基づくアッセイによって決定した。融合タンパク質はGPC3依存的にIL-2分泌を増加させる能力を有する。対照的に、並行して試験されたリファレンスCD137抗体(SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27)によって誘導されるIL-2分泌は、GPC3依存的ではない。
【
図9-1】インピーダンスベースのT細胞殺滅アッセイで実証される、代表的融合タンパク質の、CD137共刺激シグナリング経路を活性化しGPC3発現腫瘍細胞のT細胞媒介性細胞溶解を誘導する能力を表す。GPC3発現HepG2細胞またはGPC3陰性NCI-N87細胞を電子マイクロタイタープレート(electronic microtiter plate)に播種して接着させ、次に抗CD3抗体、試験分子、および非接着性CD8+T細胞を加えた。インピーダンスは、実施例11で述べるように、無次元の「細胞指標(cell index:CI)」パラメータとして、3日にわたって15分ごとに測定した。融合タンパク質SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82は、GPC3依存的にCD137経路を活性化し、GPC3発現腫瘍細胞の用量依存的T細胞媒介性溶解を従来公知のCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質SEQ ID NO:83よりも高レベルに誘導する。
【
図10】実施例12で述べるように、ヒト化マウス腫瘍モデルにおける0.5、5および20mg/kgの例示的融合タンパク質、等モル濃度(0.39および3.9mg/kg)の、融合タンパク質に含まれているGPC3抗体、等モル濃度(3.9mg/kg)のリファレンスCD137抗体、または媒体対照(PBS)による処置後の、経時的な腫瘍体積を表す。NOGマウスの皮下にHepG2腫瘍を移植して、80~100mm
3のサイズまで成長させた。次に、マウスを処置(または対照)群に無作為化して、5×10
6個の新鮮ヒトPBMCを静脈内投与し、1日目、8日目および15日目に試験分子を表示した用量で腹腔内注射した。3~4日ごとに腫瘍成長を記録した。データをメジアンと四分位数間範囲のエラーバーとして示す。破線は、それ以前の日と比較した1群あたりの動物数の減少を示している。融合タンパク質は、高用量レベル(5および20mg/kg)では、試験中の腫瘍成長を完全に阻害し、低用量(それぞれ0.5または0.39mg/kg)では腫瘍成長に対して用量依存的ではあるが軽微な効果を有した。
【
図11】実施例13で述べるように、従来公知の2種のCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質(SEQ ID NO:83およびSEQ ID NO:84)と比較した、例示的融合タンパク質および融合タンパク質に含まれるGPC3抗体の、マウスにおける薬物動態分析の結果である。雄CD-1マウス(1時点あたり2匹)に融合タンパク質を2mg/kgまたは10mg/kgの用量で静脈内注射した。薬物レベルは、ターゲットGPC3および抗ヒトFcまたは抗NGALによって完全分子を検出するサンドイッチELISAを使って検出した。本開示の融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82)は、従来公知のCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質(SEQ ID NO:83およびSEQ ID NO:84)と比較して、著しく向上した薬物動態挙動および延長された半減期を示す。
【発明を実施するための形態】
【0060】
IV. 本開示の詳細な説明
本明細書に記載するとおり、本開示は、抗体などの二価CD137結合物質が、それだけでは、T細胞上またはNK細胞上のCD137をクラスター化して効率的な活性化をもたらすには十分でない場合があるという認識を包含する。加えて、TNFRファミリーメンバーをめぐる最近の研究では、抗体がそれらのFc領域を介してFc-ガンマ受容体と相互作用することで活性化Fc-ガンマ受容体発現免疫細胞と会合し、後続の抗腫瘍活性を促進するという、抗TNFR抗体の機序が示されている(Bulliard et al.,Immunol Cell Biol,2014、Bulliard et al.,J Exp Med,2013)。それゆえに、これは、腫瘍に選択的に局在化しているのではなく全身に分布しているFc-ガンマ受容体陽性細胞の存在量に依存して、抗CD137抗体がCD137のクラスター化をトリガーしうることを示唆している。したがって抗CD137単独治療の効力およびターゲット特異性が問題になりうる。事実、臨床試験中の一部の抗CD137治療薬、例えばウレルマブおよびウトミルマブは、低用量では期待はずれの効力結果を示し、および/または高用量または有効用量では毒性が露わになる(Bulliard et al.,Immunol Cell Biol,2014、Bulliard et al.,J Exp Med,2013)。このように、有効でありかつ安全であるCD137ターゲティング治療薬には、未充足のニーズがある。理想的なCD137ターゲティング作用物質はCD137のクラスター化をもたらすべきであると共に、それを腫瘍浸潤リンパ球上で腫瘍限局的にするべきである。本明細書において述べるように、そのようなCD137ターゲティング作用物質を得るために、一端ではCD137を標的とし、他端では差次的に発現する腫瘍ターゲットを標的とするように、二重特異性作用物質を設計しうる。
【0061】
本開示は、単一特異性GPC3ターゲティング作用物質がHCCなどの腫瘍の治癒的処置に十分なほど強力ではなく、免疫細胞を腫瘍部位に動員しならびに/または癌細胞の増殖および/もしくは生残を直接阻害することができる抗GPC3作用物質の抗腫瘍活性が関連しうるという認識を包含する。それゆえに、GPC3を標的とし付加的な抗腫瘍効果を持つ治療薬であって、単一特異性GPC3ターゲット作用物質のみと比較して強化された抗腫瘍活性を提供することができる治療薬には、未充足のニーズがある。
【0062】
本開示は、なかんずく、CD137に対する結合特異性およびGPC3に対する結合特異性を有する融合タンパク質を介して、CD137とGPC3とを同時に会合するための新規なアプローチを提供する。CD137とGPC3とを会合するために、抗GPC3抗体-CD137特異的リポカリンムテイン融合タンパク質が、例えばWO2016/184882に記載されている。しかし、GPC3発現腫瘍の成長を高い効率および選択性で抑制するために、融合タンパク質は、GPC3依存的なT細胞殺滅/免疫応答を誘導することが、依然として望ましい。本開示のさまざまな局面は、CD137が誘導するT細胞の活性化および拡大を抗GPC3が媒介する腫瘍細胞の細胞傷害性殺滅と組み合わせることができるように、CD137陽性T細胞を腫瘍微小環境において発現するGPC3と橋渡しすることにより、CD137のクラスター化を促進する融合タンパク質を提供する。本開示は、一分子でのコンビナトリアル治療の可能性を提供すると同時に、腫瘍微小環境における抗原特異的T細胞の限局的誘導を可能にして末梢毒性を潜在的に低減する融合タンパク質も提供する。これらに関連して、本開示の融合タンパク質は、単量体型のCD137治療またはGPC3治療と比較して強化されたIL-2産生、免疫応答、T細胞媒介性細胞溶解および/または抗腫瘍効果を提供しうる。
【0063】
加えて、カニクイザルは、新しい生物製剤を含む新しい治療の開発において、薬物動態または薬物安定性の研究に広く使用されてきたし、さらにそのような研究は規制当局の認可に必要な前提条件ともなりうるので、GPC3結合部分を持つ融合タンパク質であって、ヒトGPC3とカニクイザルGPC3の両方と交差反応するものがあれば望ましい。これらの交差反応性特徴を有するGPC3結合部分を持つ融合タンパク質は、今までに記載がない。
【0064】
さらにまた、二重特異性分子または多重特異性分子は、ターゲットアフィニティー、ターゲット特異性、安定性、血中での薬物動態、ならびに作用機序を含む一定の特性が、それらのビルディングブロックとは異なりうるので(Spiess et al.,Mol Immunol,2015,Sedykh et al.,Drug Des Devel Ther,2018)、高品質な臨床候補を得るために、本明細書でもそうするように、ビルディングブロックの注意深い選択と製造およびその他の実施の最適化とが行われる。例えば二重特異性分子または多重特異性分子は、ビルディングブロックのターゲット結合アフィニティーおよびターゲット特異性を部分的または完全に失って、望ましくないオフターゲット結合をもたらしうる。オフターゲット結合は、さらに、治療に使用するためのそのような二重特異性分子または多重特異性分子の薬物動態、組織分布、効力および毒性に影響を及ぼしうる。特に、好ましくない薬物動態プロファイルは治療効力に必要な用量プロファイルの実現を困難にし、患者ノンコンプライアンスにつながりうる(Alavijeh and Palmer,IDrugs,2004)。また、好ましい薬物動態は、投薬量を低下させ、皮下製剤の開発を可能にし、COGsを低減し、投薬間隔を例えば週1回、2週ごと、3週ごとまたは4週ごとに延ばす(Ryman and Meibohm,CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol,2017)。薬物動態特性は等電点(pI)による影響も受ける。pIの上昇は、血中クリアランスの増加および組織保持の増加をもたらし、半減期が短くなりうる。一方、pIの低下は、組織取込みを減少させ、より長い半減期をもたらしうる。観察結果はタンパク質クリアランスとpIの間の相関に関して相反しうるが、大半の細胞表面は負に荷電しているので、治療用抗体は、多くの場合、生理的pH7.4をわずかに上回るpI値を有する。これらに関連して、本開示のさまざまな局面は、高いアフィニティーおよび特異性、強化された安定性、適切なpI、および好ましい薬物動態特性を持つ、CD137およびGPC3について二重特異性である融合タンパク質を提供する。
【0065】
本開示が提供する用途に付随するこれらの特徴を有する上述の融合タンパク質は、今までに記載されてことがなかった。本明細書において提供される融合タンパク質とは対照的に、CD137とGPC3との両方を標的とする従来公知の融合タンパク質には、好ましくないPK、許容できない程度のオフターゲット結合、例えば免疫系などの許容できない程度の非特異的な(例えばGPC3非依存的な)活性化、ならびに/またはT細胞の活性化、増殖および/もしくは浸潤を媒介する能力の低減もしくは他の形での劣化のうちの1つまたは複数という問題点があった。
【0066】
A. 本開示のCD137およびGPC3に特異的な例示的融合タンパク質
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、少なくとも2つのサブユニット、すなわち(1)GPC3に特異的な完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインを含む第1サブユニット、および(2)CD137に特異的なリポカリンムテインを含む第2サブユニットを、任意の順序で含有する。
【0067】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は少なくとも2つのサブユニットを含み、第1サブユニットは完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインを含みかつGPC3に特異的であり、第2サブユニットはリポカリンムテインを含みかつCD137に特異的であり、第2サブユニットは、N末端において、第1サブユニットの各重鎖(HC)のC末端に、任意でリンカーを介して連結されている。
【0068】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は少なくとも2つのサブユニットを含み、第1サブユニットは完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインを含みかつGPC3に特異的であり、第2サブユニットはリポカリンムテインを含みかつCD137に特異的であり、第2サブユニットは、C末端において、第1サブユニットの各HCのN末端に、任意でリンカーを介して連結されている。
【0069】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は少なくとも2つのサブユニットを含み、第1サブユニットは完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインを含みかつGPC3に特異的であり、第2サブユニットはリポカリンムテインを含みかつCD137に特異的であり、第2サブユニットは、N末端において、第1サブユニットの各軽鎖(LC)のC末端に、任意でリンカーを介して連結されている。
【0070】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は少なくとも2つのサブユニットを含み、第1サブユニットは完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインを含みかつGPC3に特異的であり、第2サブユニットはリポカリンムテインを含みかつCD137に特異的であり、第2サブユニットは、C末端において、第1サブユニットの各LCのN末端に、任意でリンカーを介して連結されている。
【0071】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は少なくとも2つのサブユニットを含み、第1サブユニットは完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインを含みかつGPC3に特異的であり、第2サブユニットはリポカリンムテインを含みかつCD137に特異的であり、第2サブユニットは、N末端において、第1サブユニットの各重鎖定常領域(CH)のC末端に、任意でリンカーを介して連結されている。
【0072】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は少なくとも2つのサブユニットを含み、第1サブユニットは完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインを含みかつGPC3に特異的であり、第2サブユニットはリポカリンムテインを含みかつCD137に特異的であり、第2サブユニットは、N末端において、第1サブユニットの各軽鎖定常領域(CL)のC末端に、任意でリンカーを介して連結されている。
【0073】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、少なくとも1つの追加サブユニット、例えば第3のサブユニットも含有しうる。例えば融合タンパク質は、CD137に特異的な第3サブユニットを含有しうる。いくつかの態様において、第3サブユニットは、CD137に特異的なリポカリンムテインであるか、それを含みうる。例えば、第1免疫グロブリンサブユニットに2つのリポカリンムテインを、1つは免疫グロブリンのC末端に、1つは免疫グロブリンのN末端に融合しうる。いくつかの態様において、リポカリンムテインは、免疫グロブリンの重鎖または軽鎖に融合しうる。
【0074】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、1つまたは複数の追加サブユニット(例えば第4、第5または第6サブユニット)を含みうる。
【0075】
いくつかの態様では、少なくとも1つのサブユニットが、そのN末端および/またはそのC末端において、別のサブユニットに融合されうる。
【0076】
いくつかの態様では、少なくとも1つのサブユニットを、別のサブユニットにリンカーを介して連結することができる。いくつかのさらなる態様において、リンカーはペプチドリンカー、例えば構造不定(unstructured)のグリシン-セリン(GS)リンカー、グリコシル化GSリンカー、またはプロリン-アラニン-セリンポリマー(PAS)リンカーである。いくつかの態様において、GSリンカーはSEQ ID NO:13に示す(Gly4Ser)3リンカー((G4S)3)である。他の例示的リンカーをSEQ ID NO:14~23に示す。いくつかの態様において、ペプチドリンカーは、1~50個のアミノ酸、例えば1、2、3、4、5、10、11、12、13、14、15、16、17 18、19、20、25、30、35、40、45または50個のアミノ酸を有しうる。例えば、第1サブユニットが完全長免疫グロブリンを含む場合、第2サブユニットは、第2サブユニットのN末端と該免疫グロブリンの重鎖定常領域(CH)のC末端との間のペプチドリンカーを介して連結されうる。いくつかのさらなる態様では、第3サブユニットのN末端と該免疫グロブリンの軽鎖定常領域(CL)のC末端との間のペプチドリンカーを介して、第3サブユニットが連結されうる。
【0077】
いくつかの態様では、1つのサブユニットを、本質的に
図1に記載するように、別のサブユニットに連結することができる。一般に、1つのサブユニットは、そのN末端および/またはそのC末端において、別のサブユニットに融合されうる。例えばいくつかの態様では、リポカリンムテインサブユニットを、そのN末端および/またはそのC末端において、好ましくはペプチド結合を介して、免疫グロブリンサブユニットに融合することができる。さらなる例として、リポカリンムテインサブユニットはそのN末端において免疫グロブリンサブユニットの重鎖ドメイン(HC)のC末端に連結することができ(
図1A)、リポカリンムテインサブユニットはそのC末端において免疫グロブリンサブユニットのHCのN末端に連結することができ(
図1C)、リポカリンムテインサブユニットはそのN末端において免疫グロブリンサブユニットの軽鎖(LC)のC末端に連結することができ(
図1B)、および/またはリポカリンムテインサブユニットはそのC末端において免疫グロブリンサブユニットのLCのN末端に連結することができる(
図1D)。
【0078】
いくつかの態様では、リポカリンムテインサブユニットは、そのN末端および/またはそのC末端において、免疫グロブリンフラグメントに融合することができる。例えばいくつかの態様において、リポカリンムテインサブユニットは、好ましくはペプチドリンカーを介して、そのN末端において免疫グロブリンサブユニットの重鎖定常領域(CH)のC末端に連結するか、リポカリンムテインサブユニットは、好ましくはペプチドリンカーを介して、そのN末端において免疫グロブリンサブユニットの軽鎖定常領域(CL)のC末端に連結しうる。
【0079】
いくつかの態様において、あるサブユニットが完全長免疫グロブリンを含む場合は、第2サブユニットのN末端と該免疫グロブリンの重鎖定常領域(CH)のC末端との間で、第2サブユニットが連結されうる。
【0080】
いくつかの態様では、第3サブユニットのN末端と該免疫グロブリンの軽鎖定常領域(CL)のC末端との間で、第3サブユニットが連結されうる。
【0081】
いくつかの態様では、少なくとも1つのサブユニットが完全長免疫グロブリンであるか完全長免疫グロブリンを含みうる本開示の融合タンパク質に関して、融合タンパク質はCD137とGPC3に同時に会合しつつ、Fc受容体陽性細胞に対する完全長免疫グロブリンのFc領域のFc機能も同時に保存されていてよい。
【0082】
提供される融合タンパク質の少なくとも1つのサブユニットが完全長免疫グロブリンであるか完全長免疫グロブリンを含みうるいくつかの態様において、融合タンパク質はCD137とGPC3に同時に会合しつつ、Fc受容体陽性細胞に対する完全長免疫グロブリンのFc領域のFc機能は、タンパク質工学によって低減されまたは完全に抑制されていてもよい。いくつかの態様において、これは、例えばIgG1バックボーンからIgG4へと転換することによって達成されうる。IgG4は、IgG1と比べて低減したFc-ガンマ受容体相互作用を呈することが公知だからである。いくつかの態様では、Fc-ガンマ受容体への残存する結合をさらに低減するために、F234AおよびL235Aなどの突然変異を、IgG4バックボーン中に導入してもよい。いくつかの態様では、IgG4半抗体の交換を最小限に抑えるために、S228P突然変異をIgG4バックボーン中に導入してもよい(Silva et al.,J Biol Chem,2015)。いくつかの態様では、ADCCおよびADCPを減少させるためにF234AおよびL235A突然変異を導入し(Glaesner et al.,Diabetes Metab Res Rev,2010)、かつ/または血清中半減期を延ばすためにM428LおよびN434S突然変異またはM252Y、S254TおよびT256E突然変異を導入してもよい(Dall’Acqua et al.,J Biol Chem,2006、Zalevsky et al.,Nat Biotechnol,2010)。いくつかの態様では、天然のグリコシル化モチーフを除去するために、さらにN297A突然変異が融合タンパク質の免疫グロブリン重鎖に存在してもよい。
【0083】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質に含まれる免疫グロブリンのFc部は、融合タンパク質の血清中レベルの維持に寄与しうる。例えば、Fc部が内皮細胞上および食細胞上のFc受容体に結合すると、融合タンパク質は細胞内に移行して、血流へと再循環されることで、体内でのその半減期を向上させうる。
【0084】
一局面において、本開示の融合タンパク質は高いアフィニティーでCD137に結合する。別の一局面において、提供される融合タンパク質は高いアフィニティーでGPC3に結合する。いくつかの好ましい態様において、提供される融合タンパク質はCD137とGPC3に同時に結合する。いくつかの態様において、CD137およびGPC3への同時結合は、提供される融合タンパク質が耐久性のある抗腫瘍応答または抗感染応答を呈することを可能にする。
【0085】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、約6.5以上、例えば約6.8以上、約7.1以上、約7.4以上、約7.5以上、約7.7以上、約8.0以上、約8.5以上、もしくは約9.0の、またはさらに高い等電点(pI)を有しうる。いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、CD137とGPC3の両方に結合するSEQ ID NO:83のアミノ酸配列を含む従来公知の融合タンパク質よりも高いpIを有しうる。
【0086】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、最大でも約2nMまたはそれ未満、例えば約1.5nM以下、約1nM以下、約0.8nM以下、または約0.7nM以下のKD値で、GPC3に結合することが可能でありうる。いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、当該融合タンパク質に含まれているGPC3に特異的な免疫グロブリン、例えばSEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82とによって与えられる重鎖および軽鎖を有する抗体のKD値と同等か、それより低いKD値で、GPC3に結合することが可能でありうる。提供される融合タンパク質のKD値は、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイにおいて、例えば本質的に実施例2に記載するSPRアッセイにおいて、測定されうる。
【0087】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、最大でも約1nMまたはそれ未満、例えば約0.5nM以下、約0.3nM以下、約0.2nM以下、約0.15nM以下、または約0.1nM以下のEC50値で、GPC3に結合することが可能でありうる。いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、特定融合タンパク質に含まれているGPC3に特異的な免疫グロブリン、例えばSEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82とによって与えられる重鎖および軽鎖を有する抗体のEC50値と同等か、それより低いEC50値で、GPC3に結合することが可能でありうる。提供される融合タンパク質のEC50値は、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)アッセイにおいて、例えば本質的に実施例3に記載するELISAアッセイにおいて、測定されうる。
【0088】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、最大でも約5nMまたはそれ未満、例えば約3nM以下、約2nM以下、約1nM以下、約0.5nM以下、約0.2nM以下、または約0.1nM以下のEC50値で、CD137に結合することが可能でありうる。提供される融合タンパク質のEC50値は、例えばELISAアッセイにおいて、例えば本質的に実施例3に記載するELISAアッセイにおいて、測定されうる。
【0089】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質はカニクイザルGPC3と交差反応しうる。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、最大でも約2nMまたはそれ未満、例えば約1.5nM以下、約1nM以下、約0.8nM以下、または約0.7nM以下のKD値で、カニクイザルGPC3に結合することが可能でありうる。いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、当該融合タンパク質に含まれているGPC3に特異的な免疫グロブリン、例えばSEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82とによって与えられる重鎖および軽鎖を有する抗体のKD値と同等か、それより低いKD値で、カニクイザルGPC3に結合することが可能でありうる。提供される融合タンパク質のKD値は、例えばSPRアッセイにおいて、例えば本質的に実施例2に記載するSPRアッセイにおいて、測定されうる。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、最大でも約1nMまたはそれ未満、例えば約0.5nM以下、例えば約0.2nM以下、約0.1nM以下のEC50値で、カニクイザルGPC3に結合することが可能でありうる。提供される融合タンパク質のEC50値は、例えばELISAアッセイにおいて、例えば本質的に実施例3に記載するELISAアッセイにおいて、測定されうる。
【0090】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質はCD137とGPC3に同時に結合することが可能でありうる。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、最大でも約10nMまたはそれ未満、例えば5nM以下、3nM以下、2nM以下、1nM以下または0.5nM以下のEC50値で、CD137とGPC3に同時に結合することが可能でありうる。いくつかの別の態様において、提供される融合タンパク質は、最大でも約10nMまたはそれ未満、例えば8nM以下、5nM以下、または3nM以下または2nM以下のEC50値で、CD137とGPC3に同時に結合することが可能でありうる。同時結合は、例えばELISAアッセイにおいて、例えば本質的に実施例4に記載するELISAアッセイにおいて、決定されうる。
【0091】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、細胞上に発現したCD137に、最大でも約50nMまたはそれ未満、例えば約30nMまたはそれ未満、約25nMまたはそれ未満、約20nM以下、約15nM以下、約10nM以下、約5nM以下、約3nM以下、または約1nMもしくはそれ未満のEC50値で結合することが可能でありうる。提供される融合タンパク質のEC50値は、例えば本質的に実施例6に記載するフローサイトメトリー分析において、測定されうる。CD137を発現する細胞は、例えばヒトCD137がトランスフェクトされたCHO細胞でありうる。
【0092】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、細胞上に発現したGPC3に、最大でも約50nMまたはそれ未満、例えば約30nM以下、約25nMまたはそれ未満、約20nM以下、約15nM以下、約10nM以下、約5nM以下、約3nM以下、または約1もしくはそれ未満のEC50値で結合することが可能でありうる。提供される融合タンパク質のEC50値は、例えば本質的に実施例6に記載するフローサイトメトリー分析において、測定されうる。GPC3を発現する細胞は、例えばヒトGPC3がトランスフェクトされたSK-Hep1細胞でありうる。
【0093】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、腫瘍細胞上に発現したGPC3に結合することが可能でありうる。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、腫瘍細胞上に発現したGPC3に、最大でも約50nMまたはそれ未満、例えば約30nM以下、約25nMまたはそれ未満、約20nM以下、約15nM以下、約10nM以下、約5nM以下、約3nM以下、または約1もしくはそれ未満のEC50値で結合することが可能でありうる。GPC3発現腫瘍細胞に結合する融合タンパク質のEC50値は、例えば本質的に実施例7に記載するフローサイトメトリー分析において、測定されうる。GPC3を発現する腫瘍細胞は例えばHepG2、Hep3BおよびMKN-45細胞でありうる。
【0094】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質はCD137またはGPC3以外のターゲットには実質的に結合しない。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、CD137とGPC3の両方に結合するSEQ ID NO:83のアミノ酸配列を含む従来公知の融合タンパク質と比較して、CD137またはGPC3以外のターゲットへのオフターゲット結合が低減している。ターゲット結合のそのような評価は、実施例5で述べるように、ELISAアッセイによって行うことができる。
【0095】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、T細胞応答を共刺激することが可能でありうる。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82によって与えられる重鎖および軽鎖を有する融合タンパク質に含まれるGPC3抗体、SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27によって与えられる重鎖および軽鎖を有するリファレンスCD137抗体、またはCD137とGPC3の両方に結合するSEQ ID NO:83のアミノ酸配列を含む従来公知の融合タンパク質と比較して、同等またはより強いT細胞活性化をもたらす。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82によって与えられる重鎖および軽鎖を有する融合タンパク質に含まれるGPC3抗体、SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27によって与えられる重鎖および軽鎖を有するリファレンスCD137抗体、またはCD137とGPC3の両方に結合するSEQ ID NO:83のアミノ酸配列を含む従来公知の融合タンパク質と比較して同等またはより良い効率で、T細胞活性化をもたらす。刺激されたT細胞応答またはT細胞活性化は、例えば本質的に実施例8に記載するCD137バイオアッセイにおいて、または本質的に実施例9、実施例10および実施例11に記載する機能的T細胞活性化アッセイにおいて、測定されうる。
【0096】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、IL-2分泌の増加を誘導することが可能でありうる。いくつかの好ましい態様において、提供される融合タンパク質は、濃度依存的なIL-2分泌を誘導すること、および/またはより高濃度において、強化されたIL-2分泌を誘導する傾向を呈することが可能でありうる。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82によって与えられる重鎖および軽鎖を有する融合タンパク質に含まれるGPC3抗体、またはCD137とGPC3の両方に結合するSEQ ID NO:83のアミノ酸配列を含む従来公知の融合タンパク質と比較して、同等またはより良い効率で、IL-2分泌の増加をもたらしうる。IL-2分泌は、例えば本質的に実施例9および実施例10に記載する機能的T細胞活性化アッセイにおいて測定されうる。
【0097】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、T細胞媒介性細胞傷害性を誘導することが可能でありうる。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、用量依存的なT細胞媒介性細胞溶解をもたらしうる。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82によって与えられる重鎖および軽鎖を有する提供される融合タンパク質に含まれるGPC3抗体と比較して、同等またはより良い効力で、細胞傷害性T細胞活性化を誘導しうる。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27によって与えられる重鎖および軽鎖を有するCD137抗体、SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27によって与えられる重鎖および軽鎖を有するリファレンスCD137抗体、またはCD137とGPC3の両方に結合するSEQ ID NO:83のアミノ酸配列を含む従来公知の融合タンパク質と比較して同等またはより良い効力で、細胞傷害性T細胞活性化を誘導しうる。T細胞媒介性細胞傷害は、例えば本質的に実施例11に記載するインピーダンスベースのT細胞殺滅アッセイにおいて決定されうる。
【0098】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、GPC3依存的にT細胞応答を共刺激することが可能でありうる。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、GPC3トランスフェクト細胞またはGPC3発現腫瘍細胞などのGPC3陽性細胞の近傍において、T細胞によるIL-2生産の局所的誘導をもたらしうる。「GPC3陽性細胞の近傍において」とは、本明細書において使用される場合は、CD137とGPC3とに同時に結合する提供される融合タンパク質によって、T細胞とGPC3陽性細胞とが互いに接近していることを指す。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、GPC3発現腫瘍細胞の限局的なT細胞媒介性殺滅をもたらしうる。提供される融合タンパク質によるT細胞のGPC3依存的活性化は、例えば本質的に実施例8に記載するCD137バイオアッセイにおいて、または本質的に実施例9、実施例10および実施例11に記載する機能的T細胞活性化アッセイにおいて、決定されうる。
【0099】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、GPC3の非存在下では、T細胞応答を共刺激することができない。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、GPC3発現細胞の非存在下では、T細胞応答を共刺激することができない。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、GPC3の存在を識別し、SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27によって与えられる重鎖および軽鎖を有するCD137抗体よりも良好に、対応するT細胞活性化をもたらすことが可能でありうる。融合タンパク質のGPC3依存的作用は、例えば本質的に実施例8に記載するCD137バイオアッセイにおいて、または本質的に実施例9、実施例10および実施例11に記載する機能的T細胞活性化アッセイにおいて、決定されうる。
【0100】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は抗腫瘍活性をもたらしうる。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は肝細胞癌HepG2細胞の腫瘍成長を阻害しうる。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82によって与えられる重鎖および軽鎖を有する融合タンパク質に含まれるGPC3抗体と比較して、同等またはより良い効力で、肝細胞癌HepG2細胞の腫瘍成長を阻害しうる。そのような抗腫瘍活性は、例えば本質的に実施例12に記載するHepG2異種移植片モデルなどを使って決定されうる。
【0101】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、腫瘍浸潤リンパ球のレベルを上昇させうる。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82によって与えられる重鎖および軽鎖を有する融合タンパク質に含まれるGPC3抗体と比較して増加した、CD3、CD4またはCD8 T細胞の腫瘍内浸潤をもたらしうる。腫瘍浸潤リンパ球は例えば実施例13に記載するように解析されうる。
【0102】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、好ましい安定性および薬物動態プロファイルを有する。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82によって与えられる重鎖および軽鎖を有する融合タンパク質に含まれるGPC3抗体と同等な薬物動態プロファイルを有する。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は抗体様の薬物動態を有する。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、約50時間以上、75時間以上、100時間以上、125時間以上、約150時間以上、約175時間以上、約200時間以上、約250時間以上の、またはさらに長い終末半減期を有する。いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、マウスにおいて、約50時間以上、75時間以上、100時間以上、125時間以上、約150時間以上、約175時間以上、約200時間以上、約250時間以上の、またはさらに長い終末半減期を有する。提供される融合タンパク質の薬物動態プロファイルは、実施例13で述べるように解析されうる。
【0103】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、SEQ ID NO:87~96のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含む。
【0104】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、SEQ ID NO:87~96のいずれか1つに示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%の、またはさらに高い配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0105】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:88とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:89、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:90、SEQ ID NO:91とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:92とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:93、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:94、SEQ ID NO:95とSEQ ID NO:82、またはSEQ ID NO:96とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸を含む。
【0106】
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質は、SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:88とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:89、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:90、SEQ ID NO:91とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:92とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:93、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:94、SEQ ID NO:95とSEQ ID NO:82、またはSEQ ID NO:96とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%の、またはさらに高い配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0107】
B. 融合タンパク質に含まれる例示的免疫グロブリン
いくつかの態様において、提供される融合タンパク質に関して、第1サブユニットは、GPC3に特異的な完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインであるか、それを含みうる。いくつかの態様において、免疫グロブリンは、例えばIgG1、IgG2またはIgG4でありうる。いくつかの態様において、免疫グロブリンはIgG4であるか、IgG4を含む。いくつかの態様において、免疫グロブリンはGPC3に対するモノクローナル抗体である。
【0108】
本開示のGPC3結合抗体の具体例は、コドリツズマブ(codrituzumab)(GC33またはRO5137382としても公知である)、YP7(ヒト化YP7を含む)、HN3およびHS20などといった公知の抗体の重鎖可変ドメイン(VH)領域および軽鎖可変ドメイン(VL)領域を含むGPC3結合抗体と同じエピトープを交差ブロックしまたはそのエピトープに結合する抗原結合領域を含みうる。いくつかの態様において、本開示のGPC3結合性抗体は、コドリツズマブ、YP7、HN3およびHS20からなる群より選択される抗体からの抗原結合領域、例えば3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)および3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)のうちのいずれか1つなどを含みうる。
【0109】
いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインは、SEQ ID NO:78、114、119、126および129からなる群より選択される重鎖可変領域(HCVR)、および/またはSEQ ID NO:79、115および127からなる群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)を有しうる。
【0110】
いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインの重鎖と軽鎖のペアは、それぞれ以下のHCVRおよびLCVRであるか、またはそれらを含む:SEQ ID NO:78とSEQ ID NO:79、SEQ ID NO:129とSEQ ID NO:79、SEQ ID NO:114とSEQ ID NO:115、またはSEQ ID NO:126とSEQ ID NO:127。
【0111】
いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインの重鎖と軽鎖のペアは、それぞれ、SEQ ID NO:78とSEQ ID NO:79、SEQ ID NO:129とSEQ ID NO:79、SEQ ID NO:114とSEQ ID NO:115、またはSEQ ID NO:126とSEQ ID NO:127に示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、またはそれ以上の配列同一性を有するHCVRおよびLCVRであるか、またはそれらを含む。
【0112】
いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインは、SEQ ID NO:80およびSEQ ID NO:81のいずれか1つである重鎖および/またはSEQ ID NO:82である軽鎖を有しうる。
【0113】
いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体の重鎖と軽鎖のペアは、SEQ ID NO:80とSEQ ID NO:82またはSEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸配列であるか、またはそれらを含む。
【0114】
いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体の重鎖と軽鎖のペアは、それぞれ、SEQ ID NO:80とSEQ ID NO:82またはSEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、またはそれ以上の配列同一性を有する重鎖および軽鎖であるか、またはそれらを含む。
【0115】
いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインは、SEQ ID NO:78、114、119、126および129からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%の、もしくはさらに高い、配列同一性を持つHCVR、および/またはSEQ ID NO:79、115および127からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%の、もしくはさらに高い、配列同一性を持つLCVRを有しうる。別の態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインは、SEQ ID NO:80およびSEQ ID NO:81からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%の、もしくはさらに高い、配列同一性を持つ重鎖、および/またはSEQ ID NO:82のアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%の、もしくはさらに高い、配列同一性を持つ軽鎖を有しうる。
【0116】
いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインの重鎖可変領域は、以下の配列を有する3つのCDRを有しうる:
。いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインの重鎖可変領域は、以下の配列を有する3つのCDRを有しうる:
。いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインの重鎖可変領域は、以下の配列を有する3つのCDRを有しうる:
。いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインの重鎖可変領域は、以下の配列を有する3つのCDRを有しうる:
。
【0117】
いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインの軽鎖可変領域は、以下の配列を有する3つのCDRを有しうる:
。いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインの軽鎖可変領域は、以下の配列を有する3つのCDRを有しうる:
。いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインの軽鎖可変領域は、以下の配列を有する3つのCDRを有しうる:
。
【0118】
いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインは、以下の配列を有する3つのCDRを有する重鎖可変領域:
と、以下の配列を有する3つのCDRを有する軽鎖可変領域:
とを含む。いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインは、以下の配列を有する3つのCDRを有する重鎖可変領域:
と、以下の配列を有する3つのCDRを有する軽鎖可変領域:
とを含む。いくつかの態様において、提供されるGPC3抗体またはその抗原結合ドメインは、以下の配列を有する3つのCDRを有する重鎖可変領域:
と、以下の配列を有する3つのCDRを有する軽鎖可変領域:
とを含む。
【0119】
別段の表示がある場合を除き、本明細書において開示するCDR配列はいずれも、Lefranc,M.-P.,The Immunologist,7,132-136(1999)に記載されているように、IMGT法に従って定義される。CDR1は位置27~38からなり、CDR2は位置56~65からなり、生殖細胞系V遺伝子の場合、CDR3は位置105~116、再配列されたV-J遺伝子またはV-D-J遺伝子の場合、CDR3は位置105~117(J-PHEまたはJ-TRP118の前の位置)からなって、13アミノ酸未満の再配列CDR3-IMGTの場合はループの最上部にギャップを、また13アミノ酸超の再配列CDR3-IMGTについては追加位置112.1、111.1、112.2、111.2などを伴う。このパラグラフに記載する位置は、Lefranc,M.-P.,The Immunologist,7,132-136(1999)に記載のIMGTナンバリングに従う。
【0120】
本開示の融合タンパク質に含まれるGPC3に特異的に結合する抗体は、本開示の二重特異性結合分子のインビボ半減期を延ばすことを可能にするFc部を含みうる。いくつかの態様において、そのようなFc部は、好ましくはヒト由来であり、より好ましくはIgG1抗体またはIgG4抗体のヒトFc部であり、さらに好ましくはエフェクター機能が活性化または無効化されているIgG1またはIgG4の工学的に操作されたヒトFc部である。いくつかの態様では、エフェクター機能を無効化することの方がエフェクター機能を活性化することより好まれうる。いくつかの態様において、そのようなFc部は、KabatのEUインデックスによるナンバリング(Johnson and Wu,Nucleic Acids Res,2000)で位置234および/または位置235における突然変異によってエフェクター機能を無効化するように操作されている。いくつかの態様では、エフェクター機能を無効化するために、提供される抗GPC3抗体の位置F234および位置L235に突然変異を導入しうる。別の態様では、エフェクター機能を無効化するために、提供される抗GPC3抗体の位置D265および位置P329に突然変異を導入しうる。これら突然変異候補のどちらのセットについても、ナンバリングはKabatのEUインデックスによる(Shields et al.,J Biol Chem,2001)。
【0121】
抗体およびそのフラグメントを生産するためのさまざまな技法が当技術分野では周知であり、それらは例えばAltshulerら(2010)に記載されている。したがって、例えばポリクローナル抗体は、添加剤およびアジュバントと混合された抗原による免疫化後に、動物の血液から得ることができ、モノクローナル抗体は連続継代性細胞株培養物によって産生される抗体を与える任意の技法によって生産することができる。そのような技法の例は、例えばHarlow and Lane(1999),(1988)に記載されており、Koehler and Milstein,1975によって最初に記載されたハイブリドーマ技法、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法(例えばLi et al.,Proc Natl Acad Sci U S A,2006、Kozbor and Roder,Immunol Today,1983参照)、およびヒトモノクローナル抗体を生産するためのEBV-ハイブリドーマ技法(Cole et al.,Cancer Res,1984)などがある。さらにまた、組換え抗体はモノクローナル抗体から得ることも、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、mRNAディスプレイ、または細胞ディスプレイなどのさまざまなディスプレイ方法を使って新規に調製することもできる。いくつかの態様において、組換え(ヒト化)抗体またはそのフラグメントの発現に適した系は、例えば細菌、酵母、昆虫、哺乳動物細胞株またはトランスジェニック動物もしくはトランスジェニック植物などから選択されうる(例えば米国特許第6,080,560号、Holliger and Hudson,Nat Biotechnol,2005参照)。さらに、一本鎖抗体の生産に関して記載された技法(なかんずく米国特許第4,946,778号参照)を、本発明のターゲットに特異的な一本鎖抗体を生産するために適合させることができる。ファージ抗体の効率を増加させるために、BIAcoreシステムにおいて利用されている表面プラズモン共鳴を使用することができる。
【0122】
C. 例示的な本開示のリポカリンムテイン
リポカリンは、リガンドに結合するように自然に進化したタンパク質性結合分子である。リポカリンは、脊椎動物、昆虫、植物および細菌を含む多くの生物に見いだされる。リポカリンタンパク質ファミリーのメンバー(Pervaiz and Brew,FASEB J,1987)は、典型的には、小さな分泌タンパク質であり、単一のペプチド鎖を有する。それらは一連の異なる分子認識特性、すなわち、主として疎水性のさまざまな低分子(レチノイド、脂肪酸、コレステロール、プロスタグランジン、ビリベルジン、フェロモン、味物質、および匂い物質など)へのそれらの結合、特異的細胞表面受容体へのそれらの結合、およびそれらの高分子複合体形成によって特徴づけられる。リポカリンは以前は主に輸送タンパク質として分類されていたが、現在では、リポカリンがさまざまな生理学的機能を果たすことが明らかになっている。それらには、レチノール輸送、嗅覚、フェロモンシグナリング、およびプロスタグランジンの合成における役割が含まれる。リポカリンは、免疫応答の制御および細胞ホメオスタシスの媒介にも関係づけられている(例えばFlower et al.,Biochim Biophys Acta,2000、Flower,Biochem J,1996に総説がある)。
【0123】
リポカリンが共有する全体的配列保存のレベルは異常に低く、多くの場合、配列同一性は20%未満である。それとは著しく対照的に、それらの全体的フォールディングパターンは高度に保存されている。リポカリン構造の中心的部分は、一周して閉じることで途切れなく水素結合したβバレルを形成する単一の8ストランド逆平行βシートからなる。このβバレルは中心に空洞を形成する。バレルの一端は、その底を横切るN末端ペプチドセグメントおよびβストランドを接続する3つのペプチドループによって、立体的にブロックされている。βバレルの他端は溶媒に向かって開いており、4つのフレキシブルなペプチドループ(AB、CD、EFおよびGH)によって形成されるターゲット結合部位を包含する。サイズ、形状、および化学的特徴が異なるターゲットを収容する能力をそれぞれが有するさまざまな異なる結合様式を生じさせるのは、他の点では剛直なリポカリンスキャフォールドにおける、ループのこの多様性である(例えばSkerra,Biochim Biophys Acta,2000、Flower et al.,Biochim Biophys Acta,2000、Flower,Biochem J,1996に総説がある)。
【0124】
本開示によるリポカリンムテインは、任意のリポカリンのムテインであってよい。ムテインの形で使用しうる適切なリポカリン(「リファレンスリポカリン」、「野生型リポカリン」、「リファレンスタンパク質スキャフォールド」または単に「スキャフォールド」と呼ぶ場合もある)の例としては、涙液リポカリン(リポカリン-1、Tlcまたはフォン・エブネル腺タンパク質)、レチノール結合タンパク質、好中球リポカリン型プロスタグランジンDシンターゼ、β-ラクトグロブリン、ビリン結合タンパク質(bilin-binding protein:BBP)、アポリポタンパク質D(APOD)、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、α2-ミクログロブリン関連タンパク質(A2m)、24p3/ウテロカリン(24p3)、フォン・エブネル腺タンパク質1(von Ebner’s gland protein 1:VEGP1)、フォン・エブネル腺タンパク質2(VEGP2)、および主要アレルゲンCan f1(ALL-1)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。関連態様では、リポカリンムテインが、ヒト涙液リポカリン(hTlc)、ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)、ヒトアポリポタンパク質D(hAPOD)およびオオモンシロチョウ(Pieris brassicae)のビリン結合タンパク質からなるリポカリン群から誘導される。
【0125】
本開示によるリポカリンムテインのアミノ酸配列は、他のリポカリンとの配列同一性と比較すると、その由来となったリファレンス(または野生型)リポカリン、例えばhTlcまたはhNGALとの比較において、高い配列同一性を有しうる(上記も参照されたい)。この一般的状況において、本開示によるリポカリンムテインのアミノ酸配列は、対応するリファレンス(野生型)リポカリンのアミノ酸配列に、少なくとも実質的に類似している。ただし、アラインメントには、アミノ酸の付加または欠失の結果である(本明細書に定義する)ギャップが存在しうる。対応するリファレンス(野生型)リポカリンの配列に実質的に類似している本開示のリポカリンムテインのそれぞれの配列は、いくつかの態様において、対応するリポカリンの配列に対して少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも82%、少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%の同一性、例えば少なくとも95%の同一性を有する。この点に関して、本開示のリポカリンムテインは、もちろん、CD137に結合する能力を当該リポカリンムテインに与える本明細書記載の置換を含有しうる。
【0126】
典型的には、リポカリンムテインは、野生型またはリファレンスリポカリン、例えばhTlcおよびhNGALとの比較で、リガンド結合ポケットを構成しリガンド結合ポケットの入口を規定する開口端にある4つのループ(上記参照)に、1つまたは複数の変異アミノ酸残基を含有する。上で説明したとおり、これらの領域は、所望のターゲットに対するリポカリンムテインの結合特異性を決定するのに不可欠である。いくつかの態様において、本開示のリポカリンムテインは、4つのループ以外にも変異アミノ酸残基領域を含有しうる。いくつかの態様において、本開示のリポカリンムテインは、リポカリンの閉鎖端においてβストランドを接続する3つのペプチドループ(BC、DEおよびFGと呼ばれるもの)のうちの1つまたは複数に、1つまたは複数の変異アミノ酸残基を含有しうる。いくつかの態様において、涙液リポカリン、NGALリポカリンまたはそのホモログから誘導されたムテインは、N末端領域中ならびに/または天然リポカリン結合ポケットとは反対側にあるβバレル構造の端部に配された3つのペプチドループBC、DEおよびFG中の任意の配列位置に、1、2、3もしくは4個またはそれ以上の変異アミノ酸残基を有しうる。いくつかの態様において、涙液リポカリン、NGALリポカリンまたはそのホモログから誘導されるムテインは、涙液リポカリンの野生型配列と比較して、βバレル構造の端部に配されたペプチドループDE中に変異アミノ酸残基を有さなくてもよい。
【0127】
いくつかの態様において、本開示によるリポカリンムテインは、そのようなリポカリンムテインがCD137に結合する能力を有するという条件の下で、対応するリファレンス(野生型)リポカリンのアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数の、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20個またはそれ以上の、変異アミノ酸残基を含みうる。いくつかの態様において、本開示のリポカリンムテインは、対応するリファレンス(野生型)リポカリンのネイティブアミノ酸残基がアルギニン残基で置換されている、少なくとも2つ、例えば2、3、4もしくは5個またはそれ以上の変異アミノ酸残基を含む。
【0128】
提供されるリポカリンムテインがCD137に結合するというその能力を保ち、かつ/またはリファレンス(野生型)リポカリン、例えば成熟hTlcまたは成熟hNGALのアミノ酸配列に対して、少なくとも60%、例えば少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%またはそれ以上の同一性である配列同一性を有する限り、任意のタイプおよび数の突然変異、例えば置換、欠失および挿入が想定される。
【0129】
いくつかの態様において、置換は保存的置換である。いくつかの態様において、置換は非保存的置換、または以下の例示的置換からの1つもしくは複数である。
【0130】
具体的には、リポカリンムテインのアミノ酸配列のアミノ酸残基が、リファレンス(野生型)リポカリンのアミノ酸配列中の一定の位置に対応するリファレンス(野生型)リポカリンと異なるかどうかを決定するために、当業者は、例えば手作業によるアラインメント、またはBLAST2.0(これはBasic Local Alignment Search Toolの略である)もしくはClustalWなどのコンピュータプログラム、または配列アラインメントを作成するのに適した他の任意の適切なプログラムを使ったアラインメントなど、当技術分野において周知の手段および方法を使用することができる。したがって、リファレンス(野生型)リポカリンのアミノ酸配列が「対象配列」または「リファレンス配列」として役立ちうるのに対し、リポカリンムテインのアミノ酸配列は「クエリー配列」として役立つ(上記も参照されたい)。
【0131】
保存的置換とは一般的には以下の置換であり、ここでは、変異させるアミノ酸別に列挙して、それぞれの後に、保存的であると解釈することができる1つまたは複数の置き換えが記されている:Ala→Ser、ThrまたはVal;Arg→Lys、Gln、AsnまたはHis;Asn→Gln、Glu、AspまたはHis;Asp→Glu、Gln、AsnまたはHis;Gln→Asn、Asp、GluまたはHis;Glu→Asp、Asn、GlnまたはHis;His→Arg、Lys、Asn、Gln、AspまたはGlu;Ile→Thr、Leu、Met、Phe、Val、Trp、Tyr、AlaまたはPro;Leu→Thr、Ile,Val、Met、Ala、Phe、Pro、TyrまたはTrp;Lys→Arg、His、GlnまたはAsn;Met→Thr、Leu、Tyr、Ile、Phe、Val、Ala、ProまたはTrp;Phe→Thr、Met、Leu、Tyr、Ile、Pro、Trp、ValまたはAla;Ser→Thr、AlaまたはVal;Thr→Ser、Ala、Val、Ile、Met、Val、Phe、ProまたはLeu;Trp→Tyr、Phe、Met、IleまたはLeu;Tyr→Trp、Phe、Ile、LeuまたはMet;Val→Thr、Ile、Leu、Met、Phe、Ala、SerまたはPro。他の置換も許容され、それらは実験的に決定することができるか、または他の公知の保存的もしくは非保存的置換に一致しうる。さらなる指針として、以下の群は、それぞれが、互いにとっての保存的置換を規定すると典型的に解釈することができるアミノ酸を含んでいる:
(a)アラニン(Ala)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、バリン(Val)
(b)アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、アスパラギン(Asn)、ヒスチジン(His)
(c)アルギニン(Arg)、リジン(Lys)、グルタミン(Gln)、アスパラギン(Asn)、ヒスチジン(His)
(d)イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、バリン(Val)、アラニン(Ala)、フェニルアラニン(Phe)、スレオニン(Thr)、プロリン(Pro)
(e)イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)。
【0132】
そのような保存的置換が生物学的活性の変化をもたらすのであれば、例えば以下のような、またはアミノ酸クラスに関してさらに後述するような、より実質的な変化を導入して、その生成物を所望の特徴についてスクリーニングしてもよい。そのようなより実質的な変化の例は、Ala→LeuまたはPhe;Arg→Glu;Asn→Ile、ValまたはTrp;Asp→Met;Cys→Pro;Gln→Phe;Glu→Arg;His→Gly;Ile→Lys、GluまたはGln;Leu→LysまたはSer;Lys→Tyr;Met→Glu;Phe→Glu、GlnまたはAsp;Trp→Cys;Tyr→GluまたはAsp;Val→Lys、Arg、Hisである。
【0133】
いくつかの態様において、リポカリン(ムテイン)の物理的および生物学的特性の実質的改変は、(a)置換領域における例えばシートコンフォメーションまたはらせんコンフォメーションなどとしてのポリペプチド主鎖の構造の維持、(b)標的部位における分子の電荷もしくは疎水性の維持、または(c)側鎖の嵩高さの維持に及ぼすその効果が著しく異なる置換を選択することによって達成される。
【0134】
天然残基は、共通する側鎖の特性に基づいてグループ分けすることができる:(1)疎水性:メチオニン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン;(2)中性親水性:システイン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン;(3)酸性:アスパラギン酸、グルタミン酸;(4)塩基性:ヒスチジン、リジン、アルギニン;(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:グリシン、プロリン;および(6)芳香族:トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン。いくつかの態様において、置換は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスと交換することを必然的に伴いうる。
【0135】
各リポカリンの適正なコンフォメーションの維持に関与していないシステイン残基はいずれも、その分子の酸化安定性を改良し異常な架橋を防ぐために、一般的にはセリンで、置換しうる。逆に、リポカリンには、その安定性を改良するために、システイン結合を加えてもよい。
【0136】
D. 例示的な本開示のCD137特異的リポカリンムテイン
上記のとおり、リポカリンは、その超二次構造、すなわち4つのループにより一端においてペアワイズに接続されることで結合ポケットを規定している8つのβストランドを含む円柱状のβプリーツシート超二次構造領域によって規定されるポリペプチドである。本開示は、本明細書において具体的に開示するリポカリンムテインに限定されない。この点に関して、本開示は、4つのループにより一端においてペアワイズに接続されることで結合ポケットを規定している8つのβストランドを含む円柱状のβプリーツシート超二次構造領域を有するリポカリンムテインであって、前記4つのループのうちの少なくとも3つのそれぞれの少なくとも1つのアミノ酸が突然変異していて、CD137に検出可能なアフィニティーで結合するのに有効であるリポカリンムテインに関する。
【0137】
いくつかの態様において、本明細書に開示するリポカリンムテインは、成熟ヒト涙液リポカリン(hTlc)のムテインであるか、それを含みうる。成熟hTlcのムテインを本明細書では「hTlcムテイン」と呼ぶことがある。他のいくつかの態様において、本明細書に開示するリポカリンムテインは、成熟ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)のムテインである。成熟hNGALのムテインを本明細書では「hNGALムテイン」と呼ぶことがある。
【0138】
一局面において、本開示は、リファレンス(野生型)リポカリンから誘導される、好ましくは成熟hTlcまたは成熟hNGALから誘導される、リポカリンムテインであって、CD137に検出可能なアフィニティーで結合するものを数多く包含する。関連する一局面において、本開示は、CD137に結合することによってCD137の下流シグナリング経路を活性化する能力を有するさまざまなリポカリンムテインを包含する。この意味において、CD137は、リファレンス(野生型)リポカリンの、好ましくはhTlcまたはhNGALの、非天然ターゲットとみなすことができ、ここで「非天然ターゲット」とは、生理的条件下でリファレンス(野生型)リポカリンに結合しない物質を指す。リファレンス(野生型)リポカリンを一定の配列位置における1つまたは複数の突然変異で工学的に操作することによって、非天然ターゲットであるCD137に対する高いアフィニティーおよび高い特異性が可能であることを、本発明者らは実証した。いくつかの態様では、CD137に結合する能力を有するリポカリンムテインを生成させる目的で、野生型リポカリン上の一定の配列位置をコードする1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11もしくは12個またはそれ以上のヌクレオチドトリプレットにおいて、ヌクレオチドトリプレットの部分集合でこれらの位置における置換を行うことによって、ランダム突然変異導入を実行しうる。
【0139】
いくつかの態様において、本開示のリポカリンムテインは、リファレンスリポカリンの、好ましくはhTlcまたはhNGALの、直鎖ポリペプチド配列に対応する1つまたは複数の配列位置におけるアミノ酸残基が、置換、欠失および挿入を含む突然変異を起こしていてもよい。いくつかの態様において、リファレンスリポカリンの、好ましくはhTlcまたはhNGALの、アミノ酸配列との比較で突然変異している本開示のリポカリンムテインのアミノ酸残基の数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20またはそれ以上、例えば25、30、35、40、45もしくは50であり、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11は好ましく、9、10または11はさらに好ましい。ただし本開示のリポカリンムテインはCD137に結合する能力を依然として有することが好ましい。
【0140】
いくつかの態様において、例えばSEQ ID NO:32~38など、本開示のリポカリンムテインは、それぞれのリファレンス(野生型)リポカリンと比較して、そのN末端の1、2、3もしくは4個、またはそれ以上のアミノ酸、および/またはそのC末端の1もしくは2個またはそれ以上のアミノ酸を欠いてもよい。いくつかの態様において、本開示は、成熟hTlcの最初の1つ、2つ、3つもしくは4つのN末端アミノ酸残基(His-His-Leu-Leu;位置1~4)および/または成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列の最後の1個もしくは2個のC末端アミノ酸残基(Ser-Asp;位置157~158)が欠失している、上に定義したhTlcムテインを包含する(例えばSEQ ID NO:32~38)。いくつかの態様において、本開示は、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列のアミノ酸残基(Lys-Asp-Pro、位置46~48)が欠失している、上に定義したhNGALムテインを包含する(SEQ ID NO:43)。さらに、本開示のリポカリンムテインは、変異アミノ酸配列位置以外に、リファレンス(野生型)リポカリンの、好ましくはhTlcまたはhNGALの、野生型(天然)アミノ酸配列を含みうる。
【0141】
いくつかの態様において、本開示のリポカリンムテインに組み入れられる1つまたは複数の変異アミノ酸残基は、指定されたターゲットへの結合活性およびムテインのフォールディングを、実質的に阻止または妨害しない。置換、欠失および挿入を含むそのような突然変異は、確立された標準的方法を使って、DNAレベルで達成することができる(Sambrook and Russell,2001,Molecular cloning:a laboratory manual)。いくつかの態様において、リファレンス(野生型)リポカリンの、好ましくはhTlcまたはhNGALの、直鎖ポリペプチド配列に対応する1つまたは複数の配列位置における変異アミノ酸残基は、ランダム突然変異導入により、リファレンスリポカリンの対応する配列位置をコードするヌクレオチドトリプレットをヌクレオチドトリプレットの部分集合で置換することによって導入される。
【0142】
いくつかの態様において、CD137に検出可能なアフィニティーで結合する提供されるリポカリンムテインは、ネイティブシステイン残基の、別のアミノ酸、例えばセリン残基による、アミノ酸置換を少なくとも1つは含みうる。いくつかの態様において、CD137に検出可能なアフィニティーで結合するリポカリンムテインは、リファレンス(野生型)リポカリンの、好ましくはhTlcまたはhNGALの、1つまたは複数のアミノ酸を置換する、1つまたは複数の非ネイティブシステイン残基を含みうる。いくつかの態様において、本開示によるリポカリンムテインは、ネイティブアミノ酸の、システイン残基によるアミノ酸置換を少なくとも2つは含み、これにより、1つまたは複数のシステイン架橋を形成する。いくつかの態様において、該システイン架橋は少なくとも2つのループ領域を接続しうる。これらの領域の定義は、本明細書では、(Biochim Biophys Acta,2000)、Flower(1996)およびBreustedtら(2005)による。
【0143】
一般に、本開示のリポカリンムテインは、成熟hTlc(SEQ ID NO:1)または成熟hNGAL(SEQ ID NO:2)のアミノ酸配列に対して、およそ少なくとも70%、例えば少なくとも約80%、例えば少なくとも約85%のアミノ酸配列同一性を有しうる。
【0144】
いくつかの局面において、本開示はCD137結合性hTlcムテインを提供する。これに関して、本開示は、約300nM、200nM、150nM、100nM、またはそれ未満の、KDによって測定されるアフィニティーでCD137に結合する能力を有する、1つまたは複数のhTlcムテインを提供する。いくつかの態様において、提供されるhTlcムテインは、約250nM、150nM、100nM、50nM、20nM、またはそれ未満のEC50値でCD137に結合する能力を有する。他のいくつかの態様において、CD137結合性hTlcムテインはカニクイザルCD137(cyCD137)と交差反応しうる。
【0145】
いくつかの態様において、本開示のhTlcムテインは、CD137へのCD137Lの結合を妨害しうる。
【0146】
いくつかの態様において、提供されるhTlcムテインは、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置5、26~31、33~34、42、46、52、56、58、60~61、65、71、85、94、101、104~106、108、111、114、121、133、148、150および153に対応する1つまたは複数の位置に、変異アミノ酸残基を含みうる。
【0147】
いくつかの態様において、提供されるhTlcムテインは、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置26~34、55~58、60~61、65、104~106および108に対応する1つまたは複数の位置に、変異アミノ酸残基を含みうる。
【0148】
いくつかの態様において、提供されるhTlcムテインは、さらに、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置101、111、114および153に対応する1つまたは複数の位置に、変異アミノ酸残基を含みうる。
【0149】
いくつかの態様において、提供されるhTlcムテインは、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置5、26~31、33~34、42、46、52、56、58、60~61、65、71、85、94、101、104~106、108、111、114、121、133、148、150および153に対応する1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25もしくは26個またはそれ以上の位置に、変異アミノ酸残基を含みうる。いくつかの好ましい態様において、提供されるhTlcムテインは、CD137、特にヒトCD137に結合する能力を有する。
【0150】
いくつかの態様において、提供されるhTlcムテインは、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置26~34、55~58、60~61、65、104~106および108に対応する1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11もしくは12個またはそれ以上の位置に、変異アミノ酸残基を含みうる。いくつかの好ましい態様において、提供されるhTlcムテインは、CD137、特にヒトCD137に結合する能力を有する。
【0151】
いくつかの態様において、本開示によるリポカリンムテインは、ネイティブシステイン残基の、例えばセリン残基によるアミノ酸置換を少なくとも1つは含みうる。いくつかの態様において、本開示によるhTlcムテインは、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置61および/または位置153に対応する位置にあるネイティブシステイン残基の、別のアミノ酸、例えばセリン残基によるアミノ酸置換を含む。これに関連して、システイン残基61とシステイン残基153とによって形成される野生型hTlcの構造的ジスルフィド結合(Breustedt,et al.,J Biol Chem,2005参照)の(それぞれのナイーブ核酸ライブラリーのレベルでの)除去が、安定にフォールディングされるだけでなく、所与の非天然ターゲットに高いアフィニティーで結合することもできるhTlcムテインを与えうることが見いだされている点に注目されたい。いくつかの態様において、構造的ジスルフィド結合の排除は、本開示のムテインにおける非天然ジスルフィド結合の生成または計画的導入を可能にし、それによってムテインの安定性を増加させるという、さらなる利点を提供しうる。ただし、CD137に結合し、Cys61とCys153の間に形成されたジスルフィド架橋を有するhTlcムテインも、本開示の一部である。
【0152】
いくつかの特定態様において、本開示のhTlcムテインは、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置61および/または位置153に対応する位置に、アミノ酸置換Cys61→Ala、Phe、Lys、Arg、Thr、Asn、Gly、Gln、Asp、Asn、Leu、Tyr、Met、Ser、ProもしくはTrpおよび/またはCys153→SerもしくはAlaのうちの1つまたは複数を含みうる。
【0153】
いくつかの態様では、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置61、101および153に対応する位置のシステインコドンのうちの2つまたは3つすべてが、別のアミノ酸のコドンで置き換えられる。さらに、いくつかの態様では、本開示によるhTlcムテインは、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置101に対応する位置にあるネイティブシステイン残基の、セリン残基またはヒスチジン残基によるアミノ酸置換を含む。
【0154】
いくつかの態様において、本開示によるムテインは、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置28または位置105に対応する位置における、システイン残基によるネイティブアミノ酸のアミノ酸置換を含む。さらに、いくつかの態様において、本開示によるムテインは、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置111に対応する位置における、ネイティブアルギニン残基の、プロリン残基によるアミノ酸置換を含む。さらに、いくつかの態様において、本開示によるムテインは、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置114に対応する位置における、ネイティブリジン残基の、トリプトファン残基またはグルタミン酸によるアミノ酸置換を含む。
【0155】
いくつかの態様において、提供されるCD137結合性hTlcムテインは、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置5、26~31、33~34、42、46、52、56、58、60~61、65、71、85、94、101、104~106、108、111、114、121、133、148、150および153に対応する1つまたは複数の位置に、以下の変異アミノ酸残基のうちの1つまたは複数を含みうる:Ala5→ValまたはThr;Arg26→Glu;Glu27→Gly;Phe28→Cys;Pro29→Arg;Glu30→Pro;Met31→Trp;Leu33→Ile;Glu34→Phe;Thr42→Ser;Gly46→Asp;Lys52→Glu;Leu56→Ala;Ser58→Asp;Arg60→Pro;Cys61→Ala;Lys65→ArgまたはAsn;Thr71→Ala;Val85→Asp;Lys94→ArgまたはGlu;Cys101→Ser;Glu104→Val;Leu105→Cys;His106→Asp;Lys108→Ser;Arg111→Pro;Lys114→Trp;Lys121→Glu;Ala133→Thr;Arg148→Ser;Ser150→Ile;およびCys153→Ser。いくつかの態様において、本開示のhTlcムテインは、成熟hTlc(SEQ ID NO:1)のこれらの配列位置に、2つまたはそれ以上の、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25もしくは26個またはそれ以上の、さらにはすべての、変異アミノ酸残基を含む。
【0156】
いくつかの態様において、提供されるCD137結合性hTlcムテインは、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)と比較して、以下の変異アミノ酸残基のセットのうちの1つを含みうる。
【0157】
いくつかの態様において、本開示のhTlcムテインの残りの領域、すなわち成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置5、26~31、33~34、42、46、52、56、58、60~61、65、71、85、94、101、104~106、108、111、114、121、133、148、150および153に対応する位置以外の領域は、変異アミノ酸配列位置以外に、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列の野生型(天然)アミノ酸配列を含みうる。
【0158】
いくつかの態様において、本開示のhTlcムテインは、成熟hTlcの配列(SEQ ID NO:1)に対して、少なくとも70%の配列同一性または少なくとも70%の配列相同性を有する。具体的一例として、SEQ ID NO:32のムテインは、成熟hTlcのアミノ酸配列に対して、およそ84%のアミノ酸配列同一性またはアミノ酸配列相同性を有する。
【0159】
いくつかの態様において、本開示のhTlcムテインは、SEQ ID NO:32~38のいずれか1つに示すアミノ酸配列またはそのフラグメントもしくは変異体を含む。
【0160】
いくつかの態様において、本開示のhTlcムテインは、SEQ ID NO:32~38からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、またはそれより高い配列同一性を有する。
【0161】
本開示は、SEQ ID NO:32~38からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するhTlcムテインの構造ホモログであって、該hTlcムテインとの関係において約60%超、好ましくは65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、92%超、最も好ましくは95%超のアミノ酸配列相同性またはアミノ酸配列同一性を有する構造ホモログも包含する。
【0162】
いくつかの局面において、本開示はCD137結合性hNGALムテインを提供する。これに関して、本開示は、約800nM、700nM、200nM、140nM、100nM以下、好ましくは約70nM、50nM、30nM、10nM、5nM、2nM、またはそれ未満の、KDによって測定されるアフィニティーでCD137に結合する能力を有する、1つまたは複数のhNGALムテインを提供する。いくつかの態様において、提供されるhNGALムテインは、約1000nM、500nM、100nM、80nM、50nM、25nM、18nM、15nM、10nM、5nM、またはそれ未満のEC50値で、CD137に結合する能力を有する。
【0163】
いくつかの態様において、提供されるCD137結合性hNGALムテインはカニクイザルCD137と交差反応しうる。いくつかの態様において、提供されるhNGALムテインは、約50nM、20nM、10nM、5nM、2nM、またはそれ未満の、KDによって測定されるアフィニティーでカニクイザルCD137に結合する能力を有する。いくつかの態様において、提供されるhNGALムテインは、約100nM、80nM、50nM、30nM、またはそれ未満のEC50値で、カニクイザルCD137に結合する能力を有する。
【0164】
いくつかの態様において、本開示のhNGALムテインは、CD137へのCD137Lの結合を妨害するか、CD137へのCD137Lの結合と競合しうる。他のいくつかの態様において、本開示のhNGALムテインは、CD137Lの存在下でCD137に結合する能力および/またはCD137/CD137L複合体に結合する能力を有しうる。
【0165】
いくつかの態様において、提供されるhNGALムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置28、36、40~41、49、52、65、68、70、72~73、77、79、81、83、87、94、96、100、103、106、125、127、132および134に対応する1つまたは複数の位置に、変異アミノ酸残基を含みうる。
【0166】
いくつかの態様において、提供されるhNGALムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置28、36、40~41、49、52、65、68、70、72~73、77、79、81、83、87、94、96、100、103、106、125、127、132および134に対応する1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20もしくは21個またはそれ以上の位置に、変異アミノ酸残基を含みうる。いくつかの好ましい態様において、提供されるhNGALムテインは、CD137、特にヒトCD137に結合する能力を有する。
【0167】
いくつかの態様において、提供されるhNGALムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置28、36、40~41、49、52、65、68、70、72~73、77、79、81、87、96、100、103、106、125、127、132および134に対応する1つまたは複数の位置に、変異アミノ酸残基を含みうる。いくつかの好ましい態様において、提供されるhNGALムテインはCD137、特にヒトCD137に結合する能力を有する。
【0168】
いくつかの態様において、提供されるhNGALムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置36、87および96に対応する1つまたは複数の位置と、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置28、40~41、49、52、65、68、70、72~73、77、79、81、83、94、100、103、106、125、127、132および134に対応する1つまたは複数の位置とに、変異アミノ酸残基を含みうる。
【0169】
他のいくつかの態様において、提供されるhNGALムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置20、25、28、33、36、40~41、44、49、52、59、68、70~73、77~82、87、92、96、98、100、101、103、122、125、127、132および134に対応する1つまたは複数の位置に、変異アミノ酸残基を含みうる。
【0170】
別の態様において、提供されるhNGALムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置36、40、41、49、52、68、70、72、73、77、79、81、96、100、103、125、127、132および134に対応する1つまたは複数の位置と、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置20、25、33、44、59、71、78、80、82、87、92、98、101および122に対応する1つまたは複数の位置とに、変異アミノ酸残基を含みうる。
【0171】
いくつかの態様において、本開示によるリポカリンムテインは、ネイティブシステイン残基の、例えばセリン残基によるアミノ酸置換を、少なくとも1つは含みうる。いくつかの態様において、本開示のhNGALムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置76および/または位置175に対応する位置にあるネイティブシステイン残基の、別のアミノ酸、例えばセリン残基によるアミノ酸置換を含みうる。これに関連して、システイン残基76とシステイン残基175とによって形成される野生型hNGALの構造的ジスルフィド結合(Breustedt,et al.,J Biol Chem,2005参照)の(それぞれのナイーブ核酸ライブラリーのレベルでの)除去が、安定にフォールディングされるだけでなく、所与の非天然ターゲットに高いアフィニティーで結合することもできるhNGALムテインを与えうることが見いだされている点に注目されたい。いくつかの態様において、構造的ジスルフィド結合の排除は、本開示のムテインにおける非天然ジスルフィド結合の生成または計画的導入を可能にし、それによってムテインの安定性を増加させるという、さらなる利点を提供しうる。ただし、CD137に結合し、Cys76とCys175の間に形成されたジスルフィド架橋を有するhNGALムテインも、本開示の一部である。
【0172】
いくつかの態様において、提供されるCD137結合性hNGALムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置28、36、40~41、49、52、65、68、70、72~73、77、79、81、83、87、94、96、100、103、106、125、127、132および134に対応する1つまたは複数の位置に、以下の変異アミノ酸残基のうちの1つまたは複数を含みうる:Gln28→His;Leu36→Gln;Ala40→Ile;Ile41→ArgまたはLys;Gln49→Val、Ile、His、SerまたはAsn;Tyr52→Met;Asn65→Asp;Ser68→Met、AlaまたはGly;Leu70→Ala、Lys、SerまたはThr;Arg72→Asp;Lys73→Asp;Asp77→Met、Arg、ThrまたはAsn;Trp79→AlaまたはAsp;Arg81→Met、TrpまたはSer;Phe83→Leu;Cys87→Ser;Leu94→Phe;Asn96→Lys;Tyr100→Phe;Leu103→His;Tyr106→Ser;Lys125→Phe;Ser127→Phe;Tyr132→GluおよびLys134→Tyr。いくつかの態様において、本開示のhNGALムテインは、成熟hNGAL(SEQ ID NO:2)のこれらの配列位置に、2つまたはそれ以上、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11もしくは12個、またはそれ以上、例えば13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23もしくは24個の、またはすべての変異アミノ酸残基を含む。
【0173】
いくつかの態様において、提供されるCD137結合性hNGALムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置20、25、28、33、36、40~41、44、49、52、59、68、70~73、77~82、87、92、96、98、100、101、103、122、125、127、132および134に対応する1つまたは複数の位置に、以下の変異アミノ酸残基のうちの1つまたは複数を含みうる:Gln20→Arg;Asn25→TyrまたはAsp;Gln28→His;Val33→Ile;Leu36→Met;Ala40→Asn;Ile41→Leu;Glu44→ValまたはAsp;Gln49→His;Tyr52→SerまたはGly;Lys59→Asn;Ser68→Asp;Leu70→Met;Phe71→Leu;Arg72→Leu;Lys73→Asp;Asp77→GlnまたはHis;Tyr78→His;Trp79→Ile;Ile80→Asn;Arg81→TrpまたはGln;Thr82→Pro;Cys87→Ser;Phe92→LeuまたはSer;Asn96→Phe;Lys98→Arg;Tyr100→Asp;Pro101→Leu;Leu103→HisまたはPro;Phe122→Tyr;Lys125→Ser;Ser127→Ile;Tyr132→Trp;およびLys134→Gly。いくつかの態様において、本開示のhNGALムテインは、成熟hNGAL(SEQ ID NO:2)のこれらの配列位置に、2つまたはそれ以上、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、または34個の変異アミノ酸残基を含む。
【0174】
いくつかの態様において、提供されるCD137結合性hNGALムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置36、40、41、49、52、68、70、72、73、77、79、81、96、100、103、125、127、132および134に対応する1つまたは複数の位置、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19個の位置に、以下の変異アミノ酸残基のうちの1つまたは複数を含みうる:Leu36→Met;Ala40→Asn;Ile41→Leu;Gln49→His;Tyr52→SerまたはGly;Ser68→Asp;Leu70→Met;Arg72→Leu;Lys73→Asp;Asp77→GlnまたはHis;Trp79→Ile;Arg81→TrpまたはGln;Asn96→Phe;Tyr100→Asp;Leu103→HisまたはPro;Lys125→Ser;Ser127→Ile;Tyr132→Trp;およびLys134→Gly。いくつかの態様において、提供されるCD137結合性hNGALムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置20、25、33、44、59、71、78、80、82、87、92、98、101および122に対応する1つまたは複数の位置、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14個の位置に、以下の変異アミノ酸残基のうちの1つまたは複数をさらに含みうる:Gln20→Arg;Asn25→TyrまたはAsp;Val33→Ile;Glu44→ValまたはAsp;Lys59→Asn;Phe71→Leu;Tyr78→His;Ile80→Asn;Thr82→Pro;Phe92→LeuまたはSer;Lys98→Arg;Pro101→Leu;およびPhe122→Tyr。
【0175】
いくつかの態様において、提供されるCD137結合性hNGALムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)と比較して、以下の変異アミノ酸残基のセットのうちの1つを含みうる。
【0176】
いくつかのさらなる態様では、残りの領域、すなわち、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置28、36、40~41、49、52、65、68、70、72~73、77、79、81、83、87、94、96、100、103、106、125、127、132および134以外の領域において、本開示のhNGALムテインは、変異アミノ酸配列位置以外に、成熟hNGALの野生型(天然)アミノ酸配列を含みうる。
【0177】
他のいくつかの態様において、提供されるCD137結合性hNGALムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)と比較して、以下の変異アミノ酸残基のセットのうちの1つを含みうる。
【0178】
いくつかの態様において、提供されるCD137結合性hNGALムテインは、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)と比較して、以下の変異アミノ酸残基のセットを含んでよく:Gln28→His;Leu36→Gln;Ala40→Ile;Ile41→Arg;Gln49→Ile;Tyr52→Met;Asn65→Asp;Ser68→Met;Leu70→Lys;Arg72→Asp;Lys73→Asp;Asp77→Met;Trp79→Asp;Arg81→Trp;Cys87→Ser;Asn96→Lys;Tyr100→Phe;Leu103→His;Tyr106→Ser;Lys125→Phe;Ser127→Phe;Tyr132→Glu、およびLys134→Tyr、ならびに/または提供されるムテインは、SEQ ID NO:40のアミノ酸配列に対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくはそれ以上の配列同一性を有しうる。
【0179】
いくつかの態様では、残りの領域、すなわち、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置20、25、28、33、36、40~41、44、49、52、59、68、70~73、77~82、87、92、96、98、100、101、103、122、125、127、132および134以外の領域において、本開示のhNGALムテインは、変異アミノ酸配列位置以外に、成熟hNGALの野生型(天然)アミノ酸配列を含みうる。
【0180】
いくつかの態様において、本開示のhNGALムテインは、成熟hNGALの配列(SEQ ID NO:2)に対して、少なくとも70%の配列同一性または少なくとも70%の配列相同性を有する。具体的一例として、SEQ ID NO:40のムテインは、成熟hNGALのアミノ酸配列に対して、およそ87%のアミノ酸配列同一性またはアミノ酸配列相同性を有する。
【0181】
いくつかの態様において、本開示のhNGALムテインは、SEQ ID NO:39~57のいずれか1つに示すアミノ酸配列またはそのフラグメントもしくは変異体を含む。
【0182】
いくつかの態様において、本開示のhNGALムテインは、SEQ ID NO:39~57からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、またはそれより高い配列同一性を有する。
【0183】
本開示は、SEQ ID NO:39~57からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するhNGALムテインの構造ホモログであって、該hNGALムテインとの関係において約60%超、好ましくは65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、92%超、最も好ましくは95%超のアミノ酸配列相同性またはアミノ酸配列同一性を有する構造ホモログも包含する。
【0184】
いくつかの態様において、本開示は、約5nM以下の、KDによって測定されるアフィニティーでCD137に結合するリポカリンムテインであって、SEQ ID NO:40のアミノ酸配列に対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも98%の、またはそれより高い配列同一性を有するリポカリンムテインを提供する。
【0185】
いくつかの態様において、本開示は、約5nM以下の、KDによって測定されるアフィニティーでCD137に結合するリポカリンムテインであって、SEQ ID NO:49のアミノ酸配列に対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも98%の、またはそれより高い配列同一性を有するリポカリンムテインを提供する。
【0186】
いくつかの態様において、本開示のリポカリンムテインは、リポカリンムテインの生物学的活性(そのターゲット、例えばCD137への結合)に影響を及ぼすことなく、そのN末端またはC末端に、好ましくはC末端に、異種アミノ酸配列、例えばStrep IIタグ(SEQ ID NO:12)または一定の制限酵素のための切断部位配列を、含むことができる。
【0187】
いくつかの態様では、ムテインの一定の特徴を調節するために、例えばフォールディング安定性、血清中安定性、タンパク質の耐性もしくは水溶性を改良するために、または凝集傾向を低減するために、またはムテインに新しい特徴を導入するために、リポカリンムテインのさらなる改変を導入しうる。いくつかの態様において、改変は、提供されるムテインの2つ以上の(例えば2、3、4、5、6、7、8、9または10個の)特徴の調節をもたらしうる。
【0188】
例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、ビオチン、ペプチドまたはタンパク質などの他の化合物へのコンジュゲーションのために、または非天然のジスルフィド結合を形成させるために、新しい反応性基を導入する目的で、リポカリンムテインの1つまたは複数のアミノ酸配列位置を突然変異させることが可能である。コンジュゲートされる化合物、例えばPEGおよびHESは、場合によっては、対応するリポカリンムテインの血清中半減期を増加させる。
【0189】
いくつかの態様では、リポカリンムテインの反応性基は、そのアミノ酸配列中の天然のシステイン残基など、該アミノ酸配列中に天然に存在しうる。他のいくつかの態様では、そのような反応性基を、突然変異導入によって導入しうる。反応性基が突然変異導入によって導入される場合、1つの可能性は、適当な位置にあるアミノ酸の、システイン残基による突然変異である。hTlcムテインのアミノ酸配列にシステイン残基を導入するためのそのような突然変異の例示的な可能性としては、hTlcの野生型配列(SEQ ID NO:1)の置換Thr40→Cys、Glu73→Cys、Arg90→Cys、Asp95→CysおよびGlu131→Cysが挙げられる。hNGALムテインのアミノ酸配列にシステイン残基を導入するためのそのような突然変異の例示的な可能性としては、hNGALの野生型配列(SEQ ID NO:2)の配列位置14、21、60、84、88、116、141、145、143、146または158に対応する配列位置のうちの1つまたは複数におけるシステイン残基の導入が挙げられる。生成するチオール部分は、例えばそれぞれのリポカリンムテインの血清中半減期を増加させる目的で、ムテインをPEG化またはHES化するために使用しうる。
【0190】
いくつかの態様では、上記の化合物のうちの1つをリポカリンムテインにコンジュゲートするための新しい反応性基として適切なアミノ酸側鎖を提供するために、人工的アミノ酸をリポカリンムテインのアミノ酸配列に導入しうる。一般に、そのような人工的アミノ酸は、より一層反応性であり、それゆえに所望の化合物へのコンジュゲーションが容易になるように設計される。例えば人工tRNAを使った突然変異導入によって導入されうるそのような人工的アミノ酸は、パラ-アセチル-フェニルアラニンである。
【0191】
いくつかの態様において、本開示のリポカリンムテインは、そのN末端またはそのC末端において、例えば抗体、シグナル配列および/またはアフィニティータグなどのタンパク質、タンパク質ドメインまたはペプチドに融合される。他のいくつかの態様において、本開示のリポカリンムテインは、そのN末端またはそのC末端において、例えば抗体、シグナル配列および/またはアフィニティータグなどのタンパク質、タンパク質ドメインまたはペプチドであるパートナーにコンジュゲートされる。
【0192】
Strep-tagまたはStrep-tag II(Schmidt et al.,J Mol Biol,1996)、c-mycタグ、FLAGタグ、HisタグまたはHAタグなどのアフィニティータグ、または容易な検出および/または組換えタンパク質の精製を可能にするグルタチオン-S-トランスフェラーゼなどのタンパク質が、適切な融合パートナーの例である。発色性または蛍光性を持つタンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein:GFP)または黄色蛍光タンパク質(yellow fluorescent protein:YFP)も、本開示のリポカリンムテインにとって適切な融合パートナーである。一般に、本開示のリポカリンムテインは、化学的、物理的、光学的、または酵素的反応において検出可能な化合物またはシグナルを直接的または間接的に生成する任意の適当な化学物質または酵素で、標識することが可能である。例えば、検出可能なシグナルとして蛍光またはx線を生成するように、リポカリンムテインに蛍光ラベルまたは放射性ラベルをコンジュゲートすることができる。アルカリホスファターゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼおよびβ-ガラクトシダーゼは、発色反応生成物の形成を触媒する酵素ラベル(それと同時に光学的ラベル)の例である。一般に、抗体によく使用されるラベルは(もっぱら免疫グロブリンのFc部の糖部分と共に使用されるものを除けば)すべて、本開示のリポカリンムテインへのコンジュゲーションにも使用することができる。
【0193】
いくつかの態様では、ムテインの血清中半減期を延ばす部分に、本開示のリポカリンムテインを融合またはコンジュゲートしうる(これについては、国際特許公報WO 2006/056464も参照されたい。この文献では、CTLA-4に対する結合アフィニティーを有するヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)のムテインに関連して、そのような戦略が記載されている)。血清中半減期を延ばす部分は、PEG分子、HES分子、脂肪酸分子、例えばパルミチン酸(Vajo and Duckworth,Pharmacol Rev,2000)、免疫グロブリンのFc部、免疫グロブリンのCH3ドメイン、免疫グロブリンのCH4ドメイン、アルブミン結合ペプチド、アルブミン結合タンパク質、またはトランスフェリンでありうるが、これらはほんの一例にすぎない。
【0194】
いくつかの態様において、コンジュゲーションパートナーとしてPEGを使用する場合、そのPEG分子は置換、無置換、線状または分枝状であることができる。それは活性化ポリエチレン誘導体であることもできる。適切な化合物の例は、インターフェロンに関して国際特許公報WO 1999/64016、米国特許第6,177,074号または米国特許第6,403,564号に記載されているPEG分子、または他のタンパク質、例えばPEG修飾アスパラギナーゼ、PEG-アデノシンデアミナーゼ(PEG-ADA)もしくはPEG-スーパーオキシドジスムターゼ(Fuertges and Abuchowski,Journal of Controlled Release,1990)に関して記載されているPEG分子である。そのようなポリマー、例えばポリエチレングリコールの分子量は、例えば分子量約10,000、約20,000、約30,000または約40,000ダルトンのポリエチレングリコールなど、約300~約70,000ダルトンの範囲に及びうる。さらに、例えば米国特許第6,500,930号または同第6,620,413号に記載されているように、HESなどの糖質オリゴマーおよび糖質ポリマーを、血清中半減期を延ばす目的で、本開示のムテインにコンジュゲートすることができる。
【0195】
いくつかの態様において、本開示のリポカリンムテインの血清中半減期を延ばす目的で免疫グロブリンのFc部を使用する場合は、Syntonix Pharmaceuticals,Inc(米国マサチューセッツ州)から市販されているSynFusion(商標)技術を使用しうる。このFc融合技術の使用は、より長時間作用する生物製剤の作出を可能にし、例えば、薬物動態、溶解度、および生産効率を改良するために抗体のFc領域に連結された2コピーのムテインからなりうる。
【0196】
リポカリンムテインの血清中半減期を延ばすために使用することができるアルブミン結合ペプチドの例は、例えば、米国特許公開第20030069395号またはDennisら(2002)に記載されているように、Cys-Xaa1-Xaa2-Xaa3-Xaa4-Cysコンセンサス配列を有するものであり、ここで、Xaa1はAsp、Asn、Ser、ThrまたはTrpであり、Xaa2はAsn、Gln、His、Ile、LeuまたはLysであり、Xaa3はAla、Asp、Phe、TrpまたはTyrであり、Xaa4はAsp、Gly、Leu、Phe、SerまたはThrである。血清中半減期を延ばすためにリポカリンムテインに融合またはコンジュゲートされるアルブミン結合タンパク質は、細菌アルブミン結合タンパク質、抗体、ドメイン抗体を含む抗体フラグメント(例えば米国特許第6,696,245号参照)、またはアルブミンに対する結合活性を持つリポカリンムテインでありうる。細菌のアルブミン結合タンパク質の例としては連鎖球菌プロテインGが挙げられる(Konig and Skerra,J Immunol Methods,1998)。
【0197】
いくつかの態様において、アルブミン結合タンパク質が抗体フラグメントである場合、それはドメイン抗体でありうる。ドメイン抗体(dAb)は、生物物理学的特性およびインビボ半減期を精密に制御して製品の安全性プロファイルおよび効力プロファイルを最適化することが可能になるように、工学的に操作される。ドメイン抗体は例えばDomantis Ltd.(英国ケンブリッジおよび米国マサチューセッツ州)から市販されている。
【0198】
いくつかの態様では、アルブミンそのもの(Osborn et al.,J Pharmacol Exp Ther,2002)またはアルブミンの生物学的に活性なフラグメントを、血清中半減期を延ばすための本開示のリポカリンムテインのパートナーとして使用することができる。「アルブミン」という用語は、ヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンまたはラットアルブミンなど、すべての哺乳動物アルブミンを包含する。アルブミンまたはそのフラグメントは、米国特許第5,728,553号または欧州特許公報EP0330451および同EP0361991に記載されているように、組換え生産することができる。したがって、組換えヒトアルブミン(例えばNovozymes Delta Ltd.(英国ノッティンガム)のRecombumin(登録商標))を、本開示のリポカリンムテインにコンジュゲートまたは融合することができる。
【0199】
いくつかの態様において、本開示のリポカリンムテインの血清中半減期を延ばすためのパートナーとしてトランスフェリンを使用する場合は、ムテインを非グリコシル化トランスフェリンのN末端もしくはC末端またはその両方に遺伝子融合することができる。非グリコシル化トランスフェリンは14~17日の半減期を有し、トランスフェリン融合タンパク質も同様に延長された半減期を有するであろう。トランスフェリン担体は、高いバイオアベイラビリティ、体内分布および循環安定性も提供する。この技術は、BioRexis(BioRexis Pharmaceutical Corporation、米国ペンシルバニア州)から市販されている。タンパク質安定剤/半減期延長パートナーとして使用するための組換えヒトトランスフェリン(DeltaFerrin(商標))も、Novozymes Delt Ltd.(英国ノッティンガム)から市販されている。
【0200】
本開示のリポカリンムテインの半減期を延ばすためのさらに別の代替策は、ムテインのN末端またはC末端に、構造不定のフレキシブルな長いグリシンリッチ配列(例えば約20~80個の連続するグリシン残基を持つポリグリシン)を融合することである。例えば国際公報WO2007/038619に開示されているこのアプローチは、「rPEG」(組換えPEG)とも呼ばれている。
【0201】
E. CD137とGPC3に特異的な融合タンパク質の例示的な使用および応用
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、CD137とGPC3の二重ターゲティングによる相乗効果を生じうる。いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、CD137とGPC3の二重ターゲティングによる限局的抗腫瘍効果を生じうる。したがって医学では本開示の融合タンパク質の応用が数多く考えられる。
【0202】
いくつかの態様において、本開示は、CD137とGPC3の同時結合のための、本明細書に開示する1つもしくは複数の融合タンパク質の使用またはそのような融合タンパク質を含む1つもしくは複数の組成物の使用を包含する。
【0203】
本開示は、CD137および/またはGPC3との複合体形成のための、1つまたは複数の記載の融合タンパク質の使用も伴う。
【0204】
それゆえに本開示の一局面において、提供される融合タンパク質は、CD137およびGPC3の検出に使用されうる。そのような使用は、1つまたは複数の融合タンパク質を、CD137および/またはGPC3を含有すると疑われる試料と、適切な条件下で接触させ、それによって融合タンパク質とCD137および/またはGPC3との間の複合体の形成を可能にする工程、および適切なシグナルによって前記複合体を検出する工程を含みうる。検出可能なシグナルは、上に説明したようにラベルによって引き起こされるか、結合そのものによる、すなわち複合体形成そのものによる、物理的特性の変化によって引き起こされうる。一例は表面プラズモン共鳴であり、その値は、結合パートナー(そのうちの1つが金箔などの表面に固定化されているもの)の結合時に変化する。
【0205】
本開示の融合タンパク質は、CD137および/またはGPC3の分離にも使用されうる。そのような使用は、1つまたは複数の融合タンパク質を、CD137および/またはGPC3を含有すると思われる試料と、適切な条件下で接触させ、それによって融合タンパク質とCD137および/またはGPC3との間の複合体の形成を可能にする工程、および前記複合体を前記試料から分離する工程を含みうる。
【0206】
いくつかの態様において、本開示は、本開示による1つまたは複数の融合タンパク質を含む診断キットおよび/または分析キットを提供する。
【0207】
さらなる別の一局面において、本開示では、診断薬におけるそれらの使用に加えて、1つまたは複数の本開示の融合タンパク質と薬学的に許容される賦形剤とを含む薬学的組成物も考えられる。
【0208】
さらにまた、いくつかの態様において、本開示は、抗腫瘍および/または抗感染作用物質ならびに免疫調節剤として使用するための、CD137および/またはGPC3に同時に結合する融合タンパク質を提供する。いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、肝細胞癌(HCC)、黒色腫、メルケル細胞癌、ウィルムス腫瘍、および肝芽腫などのGPC3陽性がんを含むさまざまながんなどのヒト疾患を予防、改善、または処置する方法において使用されることが想定される。したがって、肝細胞癌(HCC)、黒色腫、メルケル細胞癌などのGPC3陽性がんを含むさまざまながんなどのヒト疾患を、その予防、改善または処置を必要とする対象において、予防、改善または処置する方法であって、治療有効量の1つまたは複数の本開示の融合タンパク質を該対象に投与する工程を含む方法も提供される。
【0209】
本開示の融合タンパク質を使って処置されうる他のがんの例としては、肝がん、骨がん、膵がん、皮膚がん、頭頸部がん、乳がん、肺がん、皮膚または眼内悪性黒色腫、腎がん、子宮がん、卵巣がん、結腸直腸がん、大腸がん、直腸がん、肛門部のがん、胃がん、精巣がん、子宮がん、ファロピウス管の癌、子宮内膜の癌、子宮頸部の癌、膣の癌、外陰部の癌、非ホジキンリンパ腫、食道のがん、小腸のがん、内分泌系のがん、甲状腺のがん、副甲状腺のがん、副腎のがん、軟部組織の肉腫、尿道のがん、陰茎のがん、小児期の固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱のがん、腎臓または尿管のがん、腎盂の癌、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮がん、扁平上皮細胞がん、アスベストが誘発するがんを含む環境誘発がん、血液悪性疾患、例えば多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫/原発性縦隔B細胞性リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性リンパ腫、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、免疫芽球性大細胞型リンパ腫、前駆Bリンパ芽球性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、急性リンパ芽球性白血病、菌状息肉腫、未分化大細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、および前駆Tリンパ芽球性リンパ腫、ならびに前記がんの任意の組合せが挙げられる。いくつかの態様において、本発明は転移がんの処置にも応用可能である。
【0210】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、HCC、黒色腫、メルケル細胞癌、ウィルムス腫瘍、および肝芽腫などの、GPC3が発現している腫瘍細胞のターゲティングと、そのような腫瘍細胞に近接する宿主免疫系のリンパ球の活性化とを同時に行いうる。いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、標的抗腫瘍T細胞活性を増加させ、抗腫瘍免疫を強化し、T細胞媒介性細胞溶解を誘導し、かつ/または腫瘍成長に対して直接的阻害効果を有し、それによって抗腫瘍結果を生じうる。いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、腫瘍微小環境における免疫応答を活性化しうる。いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、健常細胞に対するエフェクターリンパ球の副作用、すなわちオフターゲット毒性を、例えばがん遺伝子活性を局所的に阻害し、NK細胞および/またはT細胞による細胞媒介性細胞傷害性を誘導することなどによって、低減しうる。
【0211】
いくつかの態様において、本開示は、HCC、黒色腫、メルケル細胞癌、ウィルムス腫瘍、および肝芽腫などのGPC3陽性腫瘍細胞の近傍における限局的リンパ球応答を誘導するための、本開示の融合タンパク質の使用、または提供される融合タンパク質を含む組成物の使用を包含する。したがっていくつかの態様において、本開示は、HCC、黒色腫、メルケル細胞癌、ウィルムス腫瘍、および肝芽腫などのGPC3陽性腫瘍細胞の近傍において限局的リンパ球応答を誘導する方法であって、1つもしくは複数の本開示の融合タンパク質またはそのような融合タンパク質を含む1つもしくは複数の組成物を適用する工程を含む方法を提供する。「限局的」とは、CD137を介したT細胞の結合およびGPC3陽性腫瘍細胞との会合が同時に起きたときに、GPC3陽性細胞の近傍において、T細胞がサイトカイン、特にIL-2および/またはIFNガンマを生産することを意味する。そのようなサイトカインは、T細胞の活性化を反映し、それは結果として、GPC3陽性細胞を直接的に、またはT細胞もしくはNK細胞などの他のキラー細胞を誘引することによって間接的に、殺すことが可能でありうる。
【0212】
いくつかの態様において、本開示は、T細胞を共刺激し、かつ/またはCD137の下流シグナリング経路を活性化するための、本開示の融合タンパク質の使用、またはそのような融合タンパク質を含む組成物の使用を包含する。好ましくは、提供される融合タンパク質は、GPC3が発現している腫瘍細胞と会合したときに、T細胞を共刺激し、かつ/またはCD137の下流シグナリング経路を活性化する。したがって本開示は、好ましくは、HCC、黒色腫、メルケル細胞癌、ウィルムス腫瘍、および肝芽腫などの、GPC3が発現している腫瘍細胞と会合したときに、Tリンパ球増殖を誘導しかつ/またはCD137の下流シグナリング経路を活性化する方法であって、1つもしくは複数の本開示の融合タンパク質および/またはそのような融合タンパク質を含む1つもしくは複数の組成物を適用する工程を含む方法を提供する。
【0213】
いくつかの態様において、本開示は、T細胞上でのCD137のクラスター化および活性化を誘導し、そのようなT細胞を、HCC、黒色腫、メルケル細胞癌、ウィルムス腫瘍、および肝芽腫などの、GPC3の発現している腫瘍細胞に向かわせるための、本開示の融合タンパク質の使用、またはそのような融合タンパク質を含む組成物の使用を包含する。
【0214】
この開示のさらなる目的、利点、および特徴は、限定を意図しない以下の実施例および添付するその図面を検討すれば、当業者には明白になるであろう。したがって、例示的態様および随意の特徴によって本開示を具体的に開示するが、当業者は、本明細書に開示する、そこに体現されている開示の変更態様および変形態様を採用することができ、そのような変更態様および変形態様はこの開示の範囲内にあるとみなされることを理解すべきである。
【0215】
F. CD137とGPC3に特異的である、例示的な、提供される融合タンパク質の生産
いくつかの態様において、本開示は、提供される融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子(DNAおよびRNA)を提供する。いくつかの態様において、本開示は、提供される核酸分子を含有する宿主細胞を包含する。遺伝コードの縮重は、同じアミノ酸を指定する別のコドンによる一定のコドンの置換を許すので、本開示は、融合タンパク質をコードする本明細書記載の具体的核酸分子に限定されず、機能的融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むすべての核酸分子を包含する。これに関して、本開示は、提供される融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列にも関係する。
【0216】
DNAなどの核酸分子は、それが、転写制御および/または翻訳制御に関する情報を含有する配列エレメントを含み、そのような配列がタンパク質をコードするヌクレオチド配列に「機能的に連結され」ているのであれば、「核酸分子を発現する能力を有する」または「ヌクレオチド配列の発現を可能にすることができる」という。機能的連結とは、制御配列エレメントと発現されるべき配列とが遺伝子発現を可能にするような形で接続されている連結である。遺伝子発現に必要な制御領域の正確な性質は種間でさまざまでありうるが、一般にこれらの領域はプロモーターを含み、原核生物の場合、それは、プロモーターそのもの、すなわち転写の開始を指示するDNAエレメントと、RNAに転写されたときに翻訳開始のシグナルを出すことになるDNAエレメントとの両方を含有する。そのようなプロモーター領域は通常、転写および翻訳の開始に関与する5’非コード配列、例えば原核生物における-35/-10ボックスおよびシャイン・ダルガノ配列、または真核生物におけるTATAボックス、CAAT配列、および5’キャッピングエレメントを含む。これらの領域は、エンハンサーエレメントまたはリプレッサーエレメント、ならびにネイティブタンパク質を宿主細胞の特定コンパートメントにターゲティングするための、翻訳されるシグナル配列およびリーダー配列も含むことができる。
【0217】
加えて、3’非コード配列は、転写終結、ポリアデニル化などに関与する制御エレメントを含有しうる。ただし、これらの終結配列が特定の宿主細胞において十分に機能しない場合には、それらをその細胞において機能的なシグナルで置換しうる。
【0218】
それゆえに、本開示の核酸分子は、この核酸分子の発現を可能にするために、プロモーター配列などの1つまたは複数の制御配列に「機能的に連結され」うる。いくつかの態様において、本開示の核酸分子はプロモーター配列および転写終結配列を含む。適切な原核生物プロモーターは、例えばtetプロモーター、lacUV5プロモーターまたはT7プロモーターである。真核細胞における発現に役立つプロモーターの例は、SV40プロモーターまたはCMVプロモーターである。
【0219】
いくつかの態様において、本願に開示するリポカリンムテインをコードする核酸分子は、本明細書において開示する融合タンパク質の発現を可能にするように、本開示の免疫グロブリンをコードする別の核酸分子に「機能的に連結され」うる。
【0220】
いくつかの態様において、提供される方法は、提供される融合タンパク質に含まれるリポカリンムテインを得るために、成熟hTlcをコードする少なくとも1つの核酸分子を、hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置5、26~31、33~34、42、46、52、56、58、60~61、65、71、85、94、101、104~106、108、111、114、121、133、148、150および153に対応する1つまたは複数の位置をコードするヌクレオチドトリプレットにおける突然変異導入に付す工程を含みうる。いくつかの態様において、提供される方法は、提供される融合タンパク質に含まれるリポカリンムテインを得るために、成熟hNGALをコードする少なくとも1つの核酸分子を、hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置28、36、40~41、49、52、65、68、70、72~73、77、79、81、83、87、94、96、100、103、106、125、127、132および134に対応する1つまたは複数の位置をコードするヌクレオチドトリプレットにおける突然変異導入に付す工程を含みうる。いくつかの態様において、提供される方法は、提供される融合タンパク質に含まれるリポカリンムテインを得るために、成熟hNGALをコードする少なくとも1つの核酸分子を、hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置20、25、28、33、36、40~41、44、49、52、59、68、70~73、77~82、87、92、96、98、100、101、103、122、125、127、132および134に対応する1つまたは複数の位置をコードするヌクレオチドトリプレットにおける突然変異導入に付す工程を含みうる。
【0221】
加えて、融合タンパク質に含まれる本開示のhTlcムテインまたはhNGALムテインに関して、いくつかの態様では、Cys61とCys153の間またはCys76とCys175の間の天然のジスルフィド結合を除去しうる。したがってそのようなムテインは、還元的レドックス環境を有する細胞コンパートメントにおいて、例えばグラム陰性菌の細胞質において、生産することができる。
【0222】
さらに、融合タンパク質に含まれる本開示の提供されるhTlcムテインまたはhNGALムテインに関して、本開示は、いくつかの態様では表示した実験的突然変異導入の配列位置以外に1つまたは複数の追加突然変異を含んでもよいそのようなムテインをコードする核酸分子も包含する。そのような突然変異は許容されることが多く、例えばそれらがリポカリンムテインおよび/または融合タンパク質のフォールディング効率、血清中安定性、熱安定性またはリガンド結合アフィニティーの改良に寄与するのであれば、有利であると判明する場合さえある。
【0223】
いくつかの態様において、提供される核酸分子は、ベクター、または他の任意の種類のクローニング媒体、例えばプラスミド、ファージミド、ファージ、バキュロウイルス、コスミド、もしくは人工染色体の一部であることもできる。
【0224】
いくつかの態様において、提供される核酸分子は、ファージミド中に含まれうる。この文脈において使用される場合、ファージミドベクターとは、関心対象のcDNAに融合された、M13またはf1などの溶原性ファージの遺伝子間領域またはそれらの機能的部分をコードするベクターを表す。例えばいくつかの態様では、そのような提供されるファージミドベクターと適当なヘルパーファージ(例えばM13K07、VCS-M13またはR408)とによる細菌宿主細胞の重感染後に、インタクトなファージ粒子が生産され、それによって、コードされている異種cDNAを、ファージ表面にディスプレイされたその対応ポリペプチドに物理的にカップリングすることが可能になる(Lowman,Annu Rev Biophys Biomol Struct,1997、Rodi and Makowski,Curr Opin Biotechnol,1999)。
【0225】
さまざまな態様によれば、クローニング媒体は、上述の制御配列および本明細書記載の融合タンパク質をコードする核酸配列の他にも、発現に使用される宿主細胞に適合する種に由来する複製配列および制御配列、ならびに形質転換細胞またはトランスフェクト細胞に選択可能な表現型を付与する選択マーカーを含むことができる。当技術分野では数多くの適切なクローニングベクターが公知であり、市販されている。
【0226】
本開示は、いくつかの態様において、遺伝子工学的方法を使って、融合タンパク質またはその中の任意のサブユニットをコードする核酸から出発して、本開示の融合タンパク質を生産するための方法にも関係する。いくつかの態様において、提供される方法は、インビボで実行することができ、この場合、提供される融合タンパク質は、例えば細菌宿主生物または真核宿主生物において産生され、次にこの宿主細胞またはその培養物から単離することができる。本開示の融合タンパク質をインビトロで、例えばインビトロ翻訳系を使って生産することも可能である。
【0227】
融合タンパク質をインビボで生産する場合、そのような融合タンパク質をコードする核酸は、当技術分野において周知の組換えDNA技術を使って、適切な細菌宿主生物または真核宿主生物に導入しうる。いくつかの態様において、本明細書記載の融合タンパク質をコードするDNA分子、特にそのような融合タンパク質のコード配列を含有するクローニングベクターを、その遺伝子を発現させる能力を有する宿主細胞に形質転換することができる。形質転換は標準的技法を使って行うことができる。したがって本開示は、本明細書に開示する核酸分子を含有する宿主細胞にも向けられる。
【0228】
いくつかの態様において、形質転換された宿主細胞は、本開示の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列の発現に適した条件下で培養されうる。いくつかの態様において、宿主細胞は、原核細胞、例えば大腸菌(Escherichia coli)(E.coli)もしくは枯草菌(Bacillus subtilis)、または真核細胞、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、SF9またはHigh5昆虫細胞、不死化哺乳動物細胞株(例えばHeLa細胞またはCHO細胞)または初代哺乳動物細胞であることができる。
【0229】
本明細書に開示する融合タンパク質に含まれるものを含めて、本開示のリポカリンムテインが分子内ジスルフィド結合を含むいくつかの態様では、適当なシグナル配列を使って、酸化性の酸化還元環境を有する細胞コンパートメントに新生タンパク質を向かわせることが好ましいかもしれない。そのような酸化性環境は、大腸菌などのグラム陰性菌のペリプラズムによって、またはグラム陽性菌の細胞外環境において、または真核細胞の小胞体の内腔において提供されうるものであり、通常は構造的ジスルフィド結合の形成に有利である。
【0230】
いくつかの態様では、宿主細胞のサイトゾル、好ましくは大腸菌のサイトゾルにおいて、本開示の融合タンパク質を生産することも可能である。この場合、提供される融合タンパク質は、折り畳まれた可溶性の状態で直接得られるか、または封入体の形で回収された後、インビトロで復元することができる。さらなる選択肢は、酸化性の細胞内環境を有し、それゆえに、サイトゾルにおけるジスルフィド結合の形成を許しうる、特別な宿主株の使用である(Venturi et al.,J Mol Biol,2002)。
【0231】
いくつかの態様において、本明細書に記載する本開示の融合タンパク質は、必ずしも、その全部または一部が、遺伝子工学を使って生成または生産されるとは限らない。むしろ、そのようなタンパク質は、数多くの周知の従来技法、例えば普通の有機合成戦略、固相支援合成技法、市販の自動合成装置、またはインビトロでの転写および翻訳によって得ることもできる。例えば、分子モデリングを使って有望な融合タンパク質またはそのような融合タンパク質に含まれるリポカリンムテインを同定し、インビトロで合成し、関心対象のターゲットに対する結合活性について調べることが可能である。タンパク質の固相合成および/または液相合成の方法は当技術分野において周知である(例えばBruckdorfer et al.,Curr Pharm Biotechnol,2004を参照されたい)。
【0232】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、当業者に公知の確立された方法を使用するインビトロ転写/翻訳によって生産されうる。
【0233】
いくつかのさらなる態様において、本明細書記載の融合タンパク質は、従来の組換え技法だけによって、または従来の組換え技法と従来の合成技法との併用によっても調製されうる。
【0234】
さらにまた、いくつかの態様において、本開示による融合タンパク質は、個々のサブユニット、例えば融合タンパク質に含まれる免疫グロブリンおよびムテインを1つにコンジュゲートすることによって得られうる。そのようなコンジュゲーションは、例えば、あらゆる形態の共有結合または非共有結合により、従来の方法を使って達成することができる。
【0235】
本開示によって考慮されているがそのタンパク質配列または核酸配列が本明細書において明示的には開示されていない融合タンパク質を調製するのに役立つ方法は、当業者には理解されるだろう。概要として、アミノ酸配列のそのような改変には、例えば、一定の制限酵素のための切断部位を組み入れることによってタンパク質遺伝子またはその一部のサブクローニングを簡略化するための、単一アミノ酸位置の指向的突然変異導入が含まれる。また、融合タンパク質のそのターゲット(例えばCD137およびGPC3)に対するアフィニティーをさらに改良するために、これらの突然変異を組み入れることもできる。さらにまた、必要であれば、タンパク質の1つまたは複数の特徴を調節するために、例えばフォールディング安定性、血清中安定性、タンパク質の耐性もしくは水溶性を改良するために、または凝集傾向を低減するために、突然変異を導入することができる。
【0236】
本発明はさらに以下の項目を特徴としうる。
【0237】
第1項. CD137とGPC3との両方に結合する能力を有する融合タンパク質であって、該融合タンパク質は少なくとも2つのサブユニットを任意の順序で含み、第1サブユニットは完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインを含みかつGPC3に特異的であり、第2サブユニットはリポカリンムテインを含みかつCD137に特異的である、前記融合タンパク質。
【0238】
第2項. 少なくとも2つのサブユニットを含む融合タンパク質であって、第1サブユニットは完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインを含みかつGPC3に特異的であり、第2サブユニットはリポカリンムテインを含みかつCD137に特異的であり、第2サブユニットは、N末端において、第1サブユニットの各重鎖のC末端に、任意でリンカーを介して連結されている、前記融合タンパク質。
【0239】
第3項. 少なくとも2つのサブユニットを含む融合タンパク質であって、第1サブユニットは完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインを含みかつGPC3に特異的であり、第2サブユニットはリポカリンムテインを含みかつCD137に特異的であり、第2サブユニットは、C末端において、第1サブユニットの各重鎖のN末端に、任意でリンカーを介して連結されている、前記融合タンパク質。
【0240】
第4項. 少なくとも2つのサブユニットを含む融合タンパク質であって、第1サブユニットは完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインを含みかつGPC3に特異的であり、第2サブユニットはリポカリンムテインを含みかつCD137に特異的であり、第2サブユニットは、N末端において、第1サブユニットの各軽鎖のC末端に、任意でリンカーを介して連結されている、前記融合タンパク質。
【0241】
第5項. 少なくとも2つのサブユニットを含む融合タンパク質であって、第1サブユニットは完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合ドメインを含みかつGPC3に特異的であり、第2サブユニットはリポカリンムテインを含みかつCD137に特異的であり、第2サブユニットは、C末端において、第1サブユニットの各軽鎖のN末端に、任意でリンカーを介して連結されている、前記融合タンパク質。
【0242】
第6項. 最大でも約1nMのKD値で、または第1サブユニットに含まれる免疫グロブリンもしくはその抗原結合ドメインの単独でのKD値と同等かそれより低いKD値で、GPC3に結合する能力を有する、第1~5項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0243】
第7項. KD値が表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイによって決定される、第6項記載の融合タンパク質。
【0244】
第8項. 最大でも約0.5nMのEC50値で、または第1サブユニットに含まれる免疫グロブリンもしくはその抗原結合ドメインの単独でのEC50値と同等かそれより低いEC50値で、GPC3に結合する能力を有する、第1~7項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0245】
第9項. 最大でも約3nMのEC50値で、または第2サブユニットに含まれるCD137に特異的なリポカリンムテインの単独でのEC50値と同等かそれより低いEC50値で、CD137に結合する能力を有する、第1~8項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0246】
第10項. EC50値が酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)アッセイによって決定される、第8~9項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0247】
第11項. カニクイザルGPC3と交差反応する、第1~10項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0248】
第12項. ELISAアッセイにおいて測定した場合に、最大でも約10nMのEC50値で、CD137とGPC3とに同時に結合する能力を有する、第1~11項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0249】
第13項. フローサイトメトリー分析において測定した場合に、細胞上に発現したCD137に、最大でも約30nMのEC50値で結合する能力を有する、第1~12項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0250】
第14項. フローサイトメトリー分析において測定した場合に、細胞上に発現したGPC3に、最大でも約30nMのEC50値で結合する能力を有する、第1~13項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0251】
第15項. GPC3発現腫瘍細胞に結合する能力を有する、第1~14項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0252】
第16項. T細胞応答を刺激する能力を有する、第1~15項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0253】
第17項. IL-2の分泌の増加を誘導する能力を有する、第1~16項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0254】
第18項. SEQ ID NO:83よりも高レベルに、および/またはSEQ ID NO:83と比較してより良い効率で、IL-2分泌の増加を誘導する能力を有する、第1~17項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0255】
第19項. リンパ球媒介性細胞傷害性を誘導する能力を有する、第1~18項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0256】
第20項. SEQ ID NO:83よりも強化された、T細胞によって媒介されるGPC3発現腫瘍細胞の殺滅の強化を誘導し、および/またはSEQ ID NO:83と比較してより良い効力で細胞傷害性T細胞活性化を誘導する能力を有する、第1~19項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0257】
第21項. T細胞応答をGPC3依存的に共刺激する能力を有する、第1~20項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0258】
第22項. 腫瘍微小環境におけるT細胞応答を共刺激する能力を有する、第1~21項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0259】
第23項. GPC3の非存在下ではT細胞応答を共刺激しない、第1~22項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0260】
第24項. 抗体様の薬物動態プロファイルを有する、第1~23項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0261】
第25項. マウスにおいて少なくとも50時間、少なくとも75時間、少なくとも100時間、少なくとも125時間、少なくとも150時間、少なくとも175時間、少なくとも200時間、少なくとも250時間の、もしくはさらに長い半減期を有し、および/またはマウスにおいてSEQ ID NO:83の半減期よりも長い半減期を有する、第1~24項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0262】
第26項. 少なくとも6.5、少なくとも6.8、少なくとも7.1、少なくとも7.4、少なくとも7.5、少なくとも7.7の、もしくはさらに高い等電点を有し、および/またはSEQ ID NO:83の等電点よりも高い等電点を有する、第1~25項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0263】
第27項. リポカリンムテインが、成熟ヒト涙液リポカリンの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置5、26~31、33~34、42、46、52、56、58、60~61、65、71、85、94、101、104~106、108、111、114、121、133、148、150および153に対応する位置に、1つまたは複数の変異アミノ酸残基を含む、第1~26項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0264】
第28項. リポカリンムテインのアミノ酸配列が、成熟hTlcの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)の位置5、26~31、33~34、42、46、52、56、58、60~61、65、71、85、94、101、104~106、108、111、114、121、133、148、150および153に対応する1つまたは複数の位置に、以下の変異アミノ酸残基のうちの1つまたは複数を含む、第1~27項のいずれか一項記載の融合タンパク質:Ala5→ValまたはThr;Arg26→Glu;Glu27→Gly;Phe28→Cys;Pro29→Arg;Glu30→Pro;Met31→Trp;Leu33→Ile;Glu34→Phe;Thr42→Ser;Gly46→Asp;Lys52→Glu;Leu56→Ala;Ser58→Asp;Arg60→Pro;Cys61→Ala;Lys65→ArgまたはAsn;Thr71→Ala;Val85→Asp;Lys94→ArgまたはGlu;Cys101→Ser;Glu104→Val;Leu105→Cys;His106→Asp;Lys108→Ser;Arg111→Pro;Lys114→Trp;Lys121→Glu;Ala133→Thr;Arg148→Ser;Ser150→Ile;およびCys153→Ser。
【0265】
第29項. リポカリンムテインのアミノ酸配列が、成熟ヒト涙液リポカリンの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:1)と比較して、以下の変異アミノ酸残基のセットのうちの1つを含む、第1~28項のいずれか一項記載の融合タンパク質:
。
【0266】
第30項. リポカリンムテインのアミノ酸配列が、SEQ ID NO:32~38からなる群より選択されるアミノ酸配列またはそのフラグメントもしくは変異体を含む、第1~29項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0267】
第31項. リポカリンムテインのアミノ酸配列が、SEQ ID NO:32~38からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して、少なくとも85%の配列同一性を有する、第1~30項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0268】
第32項. リポカリンムテインが、成熟ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)の直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置28、36、40~41、49、52、65、68、70、72~73、77、79、81、83、87、94、96、100、103、106、125、127、132および134に対応する位置に、1つまたは複数の変異アミノ酸残基を含む、第1~26項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0269】
第33項. リポカリンムテインのアミノ酸配列が、成熟ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)の直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置28、36、40~41、49、52、65、68、70、72~73、77、79、81、83、87、94、96、100、103、106、125、127、132および134に対応する位置に、以下の変異アミノ酸残基のうちの1つまたは複数を含む、第1~26項および第32項のいずれか一項記載の融合タンパク質:Gln28→His;Leu36→Gln;Ala40→Ile;Ile41→ArgまたはLys;Gln49→Val、Ile、His、SerまたはAsn;Tyr52→Met;Asn65→Asp;Ser68→Met、AlaまたはGly;Leu70→Ala、Lys、SerまたはThr;Arg72→Asp;Lys73→Asp;Asp77→Met、Arg、ThrまたはAsn;Trp79→AlaまたはAsp;Arg81→Met、TrpまたはSer;Phe83→Leu;Cys87→Ser;Leu94→Phe;Asn96→Lys;Tyr100→Phe;Leu103→His;Tyr106→Ser;Lys125→Phe;Ser127→Phe;Tyr132→GluおよびLys134→Tyr。
【0270】
第34項. リポカリンムテインが、成熟ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(hNGAL)の直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置20、25、28、33、36、40~41、44、49、52、59、68、70~73、77~82、87、92、96、98、100、101、103、122、125、127、132および134に対応する位置に、1つまたは複数の変異アミノ酸残基を含む、第1~26項および第33項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0271】
第35項. リポカリンムテインのアミノ酸配列が、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)の位置20、25、28、33、36、40~41、44、49、52、59、68、70~73、77~82、87、92、96、98、100、101、103、122、125、127、132および134に対応する位置に、以下の変異アミノ酸残基のうちの1つまたは複数を含む、第1~26項および第34項のいずれか一項記載の融合タンパク質:Gln20→Arg;Asn25→TyrまたはAsp;Gln28→His;Val33→Ile;Leu36→Met;Ala40→Asn;Ile41→Leu;Glu44→ValまたはAsp;Gln49→His;Tyr52→SerまたはGly;Lys59→Asn;Ser68→Asp;Leu70→Met;Phe71→Leu;Arg72→Leu;Lys73→Asp;Asp77→GlnまたはHis;Tyr78→His;Trp79→Ile;Ile80→Asn;Arg81→TrpまたはGln;Thr82→Pro;Cys87→Ser;Phe92→LeuまたはSer;Asn96→Phe;Lys98→Arg;Tyr100→Asp;Pro101→Leu;Leu103→HisまたはPro;Phe122→Tyr;Lys125→Ser;Ser127→Ile;Tyr132→Trp;およびLys134→Gly。
【0272】
第36項. リポカリンムテインのアミノ酸配列が、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)と比較して、以下の変異アミノ酸残基のセットのうちの1つを含む、第1~26項および第32~35項のいずれか一項記載の融合タンパク質:
。
【0273】
第37項. リポカリンムテインのアミノ酸配列が、SEQ ID NO:39~57からなる群より選択されるアミノ酸配列またはそのフラグメントもしくは変異体を含む、第1~26項および第32~36項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0274】
第38項. リポカリンムテインのアミノ酸配列が、SEQ ID NO:39~57からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して、少なくとも85%の配列同一性を有する、第1~26項および第32~36項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0275】
第39項. リポカリンムテインのアミノ酸配列が、成熟hNGALの直鎖ポリペプチド配列(SEQ ID NO:2)と比較して、以下の変異アミノ酸残基のセットを含み:Gln28→His;Leu36→Gln;Ala40→Ile;Ile41→Arg;Gln49→Ile;Tyr52→Met;Asn65→Asp;Ser68→Met;Leu70→Lys;Arg72→Asp;Lys73→Asp;Asp77→Met;Trp79→Asp;Arg81→Trp;Cys87→Ser;Asn96→Lys;Tyr100→Phe;Leu103→His;Tyr106→Ser;Lys125→Phe;Ser127→Phe;Tyr132→Glu、およびLys134→Tyr、ならびに/またはリポカリンムテインが、SEQ ID NO:40のアミノ酸配列に対して少なくとも85%の配列同一性を有する、第1~26項および第32~38項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0276】
第40項. 1つのサブユニットが別のサブユニットにリンカーを介して連結されている、第1~39項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0277】
第41項. 第2サブユニットが、N末端において、リンカーを介して、第1サブユニットの各重鎖定常領域(CH)のN末端もしくはC末端または第1サブユニットの各軽鎖定常領域(CL)のN末端もしくはC末端に連結されている、第1~40項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0278】
第42項. 第3サブユニットが、N末端において、リンカーを介して、第1サブユニットの各重鎖定常領域(CH)のN末端もしくはC末端、第1サブユニットの各軽鎖定常領域(CL)のN末端もしくはC末端、または各第2サブユニットのC末端に連結されている、第1~41項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0279】
第43項. リンカーが、構造不定の(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)3リンカー(SEQ ID NO:13)である、第40~42項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0280】
第44項. リンカーが、構造不定のグリシン-セリンリンカー、ポリプロリンリンカー、プロリン-アラニン-セリンポリマー、またはSEQ ID NO:13~23からなる群より選択されるリンカーである、第40~43項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0281】
第45項. 第1サブユニットが抗体である、第1~44項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0282】
第46項. 抗体の重鎖可変領域が、SEQ ID NO:78、114、119、126および129からなる群より選択されるか、SEQ ID NO:78、114、119、126および129に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%またはそれ以上の配列同一性を有する配列であり、抗体の軽鎖可変領域が、SEQ ID NO:79、115および127からなる群より選択されるか、SEQ ID NO:79、115および127に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%またはそれ以上の配列同一性を有する配列である、第1~45項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0283】
第47項. 抗体が、SEQ ID NO:80もしくは81またはSEQ ID NO:80もしくは81に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくはそれ以上の配列同一性を有する配列のいずれか一つである重鎖と、SEQ ID NO:82またはSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくはそれ以上の配列同一性を有する配列である軽鎖とを含む、第1~46項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0284】
第48項. 抗体が、それぞれSEQ ID NO:78とSEQ ID NO:79、SEQ ID NO:129とSEQ ID NO:79、SEQ ID NO:114とSEQ ID NO:115、もしくはSEQ ID NO:126とSEQ ID NO:127である重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、または、SEQ ID NO:78とSEQ ID NO:79、SEQ ID NO:129とSEQ ID NO:79、SEQ ID NO:114とSEQ ID NO:115、もしくはSEQ ID NO:126とSEQ ID NO:127に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくはそれ以上の配列同一性を有する配列を有する重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む、第1~47項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0285】
第49項. 抗体が、それぞれ以下の重鎖および軽鎖:SEQ ID NO:80とSEQ ID NO:82、またはSEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82を含むか、SEQ ID NO:80とSEQ ID NO:82、またはSEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%またはそれ以上の配列同一性を有する重鎖および軽鎖を含む、第1~48項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0286】
第50項. 抗体の重鎖が以下のCDR配列のセットのうちの1つを含む、第36項記載の融合タンパク質:
。
【0287】
第51項. 抗体の軽鎖が以下のCDR配列のセットのうちの1つを含む、第1~50項のいずれか一項記載の融合タンパク質:
。
【0288】
第52項. 抗体の重鎖が以下のCDR配列のセット:
を含み、抗体の軽鎖が以下のCDR配列のセット:
を含む、第1~51項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0289】
第53項. 抗体が以下のCDR配列のセットを含む、第1~51項のいずれか一項記載の融合タンパク質:
。
【0290】
第54項. 抗体がIgG4バックボーンを有する、第1~53項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0291】
第55項. IgG4バックボーンが以下の突然変異のうちの1つまたは複数を有する、第54項記載の融合タンパク質:S228P、N297A、F234A、L235A、M428L、N434S、M252Y、S254TおよびT256E。
【0292】
第56項. SEQ ID NO:87~96のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むか、またはSEQ ID NO:87~96のいずれか1つに示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%またはそれ以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、第1~55項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0293】
第57項. SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:88とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:89に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:90に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:91とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:92とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:93に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:94に示されるアミノ酸、SEQ ID NO:95とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸、またはSEQ ID NO:96とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸を含む、第1~56項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0294】
第58項. SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:88とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:89、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:90、SEQ ID NO:91とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:92とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:93、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:94、SEQ ID NO:95とSEQ ID NO:82、またはSEQ ID NO:96とSEQ ID NO:82に示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%またはそれ以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、第1~57項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0295】
第59項. 第1~58項のいずれか一項記載の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子。
【0296】
第60項. 第59項記載の核酸分子の発現を可能にするための制御配列に機能的に連結されている、第59項記載の核酸分子。
【0297】
第61項. ベクター中またはファージミドベクター中に含まれている、第59項または第60項記載の核酸分子。
【0298】
第62項. 第59~61項のいずれか一項記載の核酸分子を含有する宿主細胞。
【0299】
第63項. 第1~58項のいずれか一項記載の融合タンパク質を生産する方法であって、該融合タンパク質が、該融合タンパク質をコードする核酸から出発して生産される、前記方法。
【0300】
第64項. 融合タンパク質が、細菌宿主生物中または真核宿主生物中で生産され、かつこの宿主生物またはその培養物から単離される、第63項記載の方法。
【0301】
第65項. CD137の下流シグナリング経路の活性化とGPC3陽性腫瘍細胞の会合とを同時に行うための、第1~58項のいずれか一項記載の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む組成物の使用。
【0302】
第66項. CD137の下流シグナリング経路の活性化とGPC3陽性腫瘍細胞の会合とを同時に行う方法であって、腫瘍を含む組織に、第1~58項のいずれか一項記載の1つもしくは複数の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む1つもしくは複数の組成物を適用する工程を含む方法。
【0303】
第67項. T細胞の共刺激とGPC3陽性腫瘍細胞の会合とを同時に行う方法であって、腫瘍を含む組織に、第1~58項のいずれか一項記載の1つもしくは複数の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む1つもしくは複数の組成物を適用する工程を含む方法。
【0304】
第68項. リンパ球活性の誘導とGPC3陽性腫瘍細胞の会合とを同時に行う方法であって、腫瘍を含む組織に、第1~58項のいずれか一項記載の1つもしくは複数の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む1つもしくは複数の組成物を適用する工程を含む方法。
【0305】
第69項. T細胞上でのCD137のクラスター化および活性化を誘導し、該T細胞をGPC3陽性腫瘍細胞に向かわせる方法であって、腫瘍を含む組織に、第1~58項のいずれか一項記載の1つもしくは複数の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む1つもしくは複数の組成物を適用する工程を含む方法。
【0306】
第70項. GPC3陽性腫瘍細胞の近傍において限局的リンパ球応答を誘導する方法であって、腫瘍を含む組織に、第1~58項のいずれか一項記載の1つもしくは複数の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む1つもしくは複数の組成物を適用する工程を含む方法。
【0307】
第71項. GPC3陽性腫瘍細胞の近傍においてT細胞によるIL-2分泌の増加を誘導する方法であって、腫瘍を含む組織に、第1~58項のいずれか一項記載の1つもしくは複数の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む1つもしくは複数の組成物を適用する工程を含む方法。
【0308】
第72項. GPC3陽性腫瘍細胞のリンパ球媒介性細胞溶解の増加を誘導する方法であって、腫瘍を含む組織に、第1~58項のいずれか一項記載の1つもしくは複数の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む1つもしくは複数の組成物を適用する工程を含む方法。
【0309】
第73項. 第1~58項のいずれか一項記載の1つまたは複数の融合タンパク質を含む薬学的組成物。
【0310】
第74項. GPC3陽性がんを予防、改善または処置する方法であって、腫瘍を含む組織に、第1~58項のいずれか一項記載の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む1つもしくは複数の組成物を提供する工程を含む方法。
【0311】
第75項. 肝細胞癌を予防、改善または処置する方法であって、腫瘍を含む組織に、第1~58項のいずれか一項記載の融合タンパク質または該融合タンパク質を含む1つもしくは複数の組成物を提供する工程を含む方法。
【0312】
第76項. 治療に使用するための第1~58項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【0313】
第77項. がんの処置における使用である第76項記載の使用のための融合タンパク質。
【0314】
第78項. 医薬を製造するための第1~58項のいずれか一項記載の融合タンパク質の使用。
【0315】
第79項. 医薬ががんの処置用である、第78項記載の使用。
【実施例】
【0316】
V. 実施例
実施例1:代表的融合タンパク質の発現および分析
この実施例では、GPC3とCD137とを同時に会合するために、SEQ ID NO:81によって与えられる重鎖、またはSEQ ID NO:78の重鎖可変ドメインを含む重鎖、または
のCDRを含む重鎖、およびSEQ ID NO:82によって与えられる軽鎖、またはSEQ ID NO:79の重鎖可変ドメインを含む軽鎖、または
のCDRを含む軽鎖を有するGPC3特異的抗体と、SEQ ID NO:40のCD137特異的リポカリンムテインまたはSEQ ID NO:49に対して97%の配列同一性を有しCD137Ac1と呼ばれるCD137特異的リポカリンとを、リンカー、例えばSEQ ID NO:13の構造不定な(G
4S)
3リンカーなどを介して一つに融合することにより、代表的な抗体-リポカリンムテイン融合タンパク質を生成させた。生成させたさまざまなフォーマットを
図1に示す。例えば、そのような融合タンパク質、例えばSEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:88とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:89、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:90、ならびにCD137Ac1融合物1、CD137Ac1融合物2、CD137Ac1融合物3、CD137Ac1融合物4、CD137Ac1融合物5、CD137Ac1融合物6およびCD137Ac1融合物7(SEQ ID NO:91とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:92とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:93、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:94、SEQ ID NO:95とSEQ ID NO:82、またはSEQ ID NO:96とSEQ ID NO:82に対して97%の配列同一性を有する融合タンパク質)は、SEQ ID NO:40のリポカリンムテインまたはSEQ ID NO:49に対して97%の配列同一性を有するリポカリンムテインのうちの1つまたは複数を、SEQ ID NO:81によって与えられる重鎖、またはSEQ ID NO:78の重鎖可変ドメインを含む重鎖、または
のCDRを含む重鎖と、SEQ ID NO:82によって与えられる軽鎖、またはSEQ ID NO:79の重鎖可変ドメインを含む軽鎖、または
のCDRを含む軽鎖とを含む抗体の4つの末端のうちの1つまたは複数のいずれかに融合することによって、生成させた。生成した融合タンパク質は、(例えば
図1A~
図1Dに示すように)CD137に対して二価であるか、(例えば
図1E~
図1Hに示すように)CD137に対して四価であるか、または(例えば
図1Iに示すように)CD137に対してさらに高い価数を有することができる。
【0317】
この実施例で述べるGPC3特異的抗体およびすべての抗体リポカリンムテイン融合タンパク質は、インビトロおよびインビボでのIgG4半抗体交換を最小限に抑えるためのS228P突然変異を含有する工学的に操作されたIgG4バックボーンを有した(Silva et al.,J Biol Chem,2015)。ここで述べるすべての抗体および融合タンパク質において、IgG4バックボーンには、例えば突然変異F234A、L235A、M428L、N434S、M252Y、S254TおよびT256Eのうちの任意の1つまたは複数などといった、追加の突然変異も存在しうる。ADCCおよびADCPを減少させるために、F234AおよびL235A突然変異を導入しうる(Glaesner et al.,Diabetes Metab Res Rev,2010)。血清中半減期を延ばすためにM428LおよびN434S突然変異またはM252Y、S254TおよびT256E突然変異を導入しうる(Dall'Acqua et al.,J Biol Chem,2006、Zalevsky et al.,Nat Biotechnol,2010)。不均一性を回避するために、抗体はすべてカルボキシ末端のリジンなしで発現させた。
【0318】
加えて、
図1J~
図1Kに示すように、SEQ ID NO:40のCD137特異的リポカリンムテインまたはSEQ ID NO:64のGPC3特異的リポカリンムテインのうちの1つまたは複数を、リンカー、例えばSEQ ID NO:13の構造不定な(G4S)
3リンカーを介して、SEQ ID NO:28記載の抗体のFc領域のC末端に融合することによって、単一特異性リポカリンムテインFc融合物を生成させた。その結果得られたコンストラクトをSEQ ID NO:98に記載する。
【0319】
本発明は、例えば、抗体の一方の鎖はリポカリンムテインと融合されていてもよいが、他方はそうでない、非対称な抗体-リポカリンムテイン融合物フォーマットも体現する。
【0320】
融合タンパク質のコンストラクトを遺伝子合成によって生成させ、哺乳類発現ベクターにクローニングした。次に、Expi293FTM細胞(Life Technologies)中で、それらを一過性に発現させた。細胞培養培地中の融合タンパク質の濃度は、POROS(登録商標)プロテインAアフィニティーカラム(Applied Biosystems)を使用するHPLC(Agilent Technologies)によって測定した。融合タンパク質の力価を表1に要約する。
【0321】
融合タンパク質は、プロテインAクロマトグラフィーを使って精製した後、リン酸緩衝食塩水(PBS)でのサイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography:SEC)を使って精製した。SEC精製後に、単量体型タンパク質を含有するフラクションをプールし、分析用SECおよび単離体含量のパーセンテージを使って、再び分析した。
【0322】
SEC精製後の例示的融合タンパク質の単量体タンパク質含量を等電点(pI)と共に表1に要約する。提供される融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82)のpIは、従来公知のあるCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質SEQ ID NO:83と比較して上昇していた。
【0323】
【0324】
実施例2:表面プラズモン共鳴(SPR)によって決定されるGPC3に対する融合タンパク質の結合
組換えヒトGPC3(huGPC3)およびカニクイザルGPC3(cyGPC3)(R&D Systems)に対する例示的融合タンパク質の結合速度および結合アフィニティーを、表面プラズモン共鳴(SPR)により、Biacore T200機器(GE Healthcare)を使って決定した。
【0325】
標準的アミンケミストリーを使って抗ヒトIgG Fc 抗体(GE Healthcare)をCM5センサーチップ上に固定化した。すなわち、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を使って、チップ上のカルボキシル基を活性化した。次に、10mM酢酸ナトリウム(pH5.0)中、濃度25μg/mLの抗ヒトIgG Fc抗体溶液(GE Healthcare)を、6000~10000レゾナンスユニット(RU)の固定化レベルが達成されるまで、5μL/分の流速で適用した。その表面を横切るように1Mエタノールアミンの溶液を通すことにより、反応していない残存NHS-エステルをブロックした。リファレンスチャンネルも同様に処理した。次に、HBS-EP+緩衝液中、0.2μg/mlの試験融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82およびCD137Ac1融合物1)または融合タンパク質に含まれるGPC3抗体(SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82)を、10μL/分の流速で、チップ表面の抗ヒトIgG-Fc抗体によって180秒間、捕捉した。各捕捉工程後に、ニードルを洗浄した。
【0326】
アフィニティー決定のために、huGPC3またはcyGPC3の希釈液(100nM、25nM、6.25nMおよび1.56nM)を、HBS-EP+緩衝液(GE Healthcare)中に調製し、調製済チップ表面に適用した。結合アッセイは接触時間180秒、解離時間900秒および流速30μL/分で実行した。各注入後に、ニードルを40mM NaOH+20%イソプロパノールでクリーニングした。測定はすべて25℃で行った。チップ表面の再生は120秒にわたる3M MgCl2の注入で達成した。タンパク質測定に先だって、コンディショニングのために、3回のスタートアップサイクルを実施した。データはBiacore T200評価ソフトウェア(v2.0)で評価した。二重リファレンスを使用し、1:1結合モデルを使って生データの当てはめを行った。
【0327】
例示的融合タンパク質のkon、koffおよびその結果得られる平衡解離定数(KD)について決定された値を表2に要約する。被験融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82およびCD137Ac1融合物1)はhuGPC3にもcyGPC3にもナノモル濃度未満のアフィニティーで結合し、融合タンパク質に含まれるGPC3抗体および従来公知のあるCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質(SEQ ID NO:83)と同等である。
【0328】
(表2)SPRによって決定された融合タンパク質の速度定数およびアフィニティー
【0329】
実施例3. 酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)におけるGPC3またはCD137に対する融合タンパク質の結合
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を使って、GPC3およびCD137に対する例示的融合タンパク質の結合能を決定した。
【0330】
PBS中、濃度1μg/mLの組換えhuGPC3(R&D Systems)を、マイクロタイタープレート上に4℃で一晩コーティングした。100μLのPBS-0.05%T(0.05%(v/v)Tween 20を補足したPBS)で5回洗浄した後、プレートをPBS-0.1%T中の2%BSA(w/v)(PBS-0.1%T-2%BSA)で室温において1時間ブロックした。100μLのPBS-0.05%T(0.05%(v/v)Tween 20を補足したPBS)で5回洗浄した後、例示的融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:92およびCD137Ac1融合物1~7)または融合タンパク質に含まれるGPC3抗体(SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82)を、さまざまな濃度でウェルに加え、室温で1時間インキュベートした後、もう一度、洗浄工程を行った。結合した研究対象の分子は、PBS-0.1%T-2%BSA中で、1:5000希釈した抗ヒトIgG Fc-HRP(Jackson Laboratory)と共にインキュベートすることによって検出した。追加の洗浄工程後に、蛍光原性HRP基質(QuantaBlu、Thermo)を各ウェルに加え、蛍光マイクロプレートリーダーを使って蛍光強度を検出した。
【0331】
同じELISA設定を使用して、カニクイザルGPC3およびhuCD137に対する融合タンパク質の結合能も決定した。ただしこの場合は、組換えcyGPC3(R&D Systems)またはhuCD137-His(C末端ポリヒスチジンタグを持つ組換えヒトCD137、R&D Systems)をマイクロタイタープレート上にコーティングした。試験作用物質を同様にタイトレートし、結合した作用物質を抗NGAL-HRPで検出した。
【0332】
例示的結果を
図2A~
図2Dに、EC
50値および最大シグナルを自由パラメータとし傾きを1に固定した1:1結合シグモイドフィットによるフィット曲線と共に示す。その結果得られたEC
50値を表3に掲載する。
【0333】
提供される融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82およびCD137Ac1融合物1~7)の、ヒトGPC3に対する、EC50実測値は、従来公知のCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質(SEQ ID NO:83)および/または融合タンパク質に含まれるGPC3抗体(SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82)と非常に似ているか、同等だった。いくつかの被験融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82、CD137Ac1融合物3、およびCD137Ac1融合物4)は、ヒトCD137に対する強い結合アフィニティーを保っている。加えて、ある被験融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82)は、ヒトGPC3に匹敵するレベルで、カニクイザルGPC3に対する交差反応性も示す。すなわちこれは、ヒトGPC3に対する対応EC50値と同じ範囲内のEC50値でカニクイザルGPC3に結合する。
【0334】
(表3)GPC3結合またはCD137結合に関するELISAデータ
【0335】
実施例4. ELISAにおけるGPC3およびCD137への融合タンパク質の同時結合
GPC3およびCD137への例示的融合タンパク質の同時結合を実証するために、二重結合ELISAフォーマットを使用した。
【0336】
PBS中の組換えhuCD137-His(R&D Systems)(1μg/mL)を、マイクロタイタープレート上に4℃で一晩コーティングした。各インキュベーション工程後に100μLのPBS-0.05%Tでプレートを5回洗浄した。プレートを室温においてPBS-0.1%T-2%BSAで1時間ブロックした後、再び洗浄した。さまざまな濃度の被験融合タンパク質をウェルに加え、室温で1時間インキュベートした後、洗浄工程を行った。次に、ビオチン化huGPC3を、PBS-0.1%T-2%BSA中、1μg/mLの一定濃度で、1時間加えた。洗浄後に、PBS-0.1%T-2%BSA中のExtrアビジン-HRP(Sigma-Aldrich)の1:5000希釈液をウェルに加え、1時間インキュベートした。追加洗浄工程後に、蛍光原性HRP基質(QuantaBlu、Thermo)を各ウェルに加え、蛍光マイクロプレートリーダーを使って蛍光強度を検出した。
【0337】
組換えhuGPC3(R&D Systems)をマイクロタイタープレート上に1μg/mlでコーティングし、結合した融合タンパク質を5μg/mLのビオチン化huCD137-Hisを添加することによって検出する逆の設定でも、融合タンパク質の二重結合を試験した。
【0338】
例示的二重結合データを
図3に、EC
50値および最大シグナルを自由パラメータとし傾きを1に固定した1:1シグモイド結合フィットによるフィット曲線と共に示す。EC
50値を表4に要約する。融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82およびCD137Ac1融合物1~7)は、明確な結合シグナルを示すことから、これらはGPC3とCD137とを同時に会合できることが実証される。そのような融合タンパク質の大半は、従来公知のCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質SEQ ID NO:83と同等のレベルで、GPC3とCD137とを同時に会合することができる。
【0339】
(表4)GPC3とCD37の両方の同時ターゲット結合に関するELISAデータ
【0340】
実施例5. ELISAによって解析した融合タンパク質のオフターゲット結合
ELISAベースのアッセイを使用して、GPC3、GPC5および他のTNF受容体タンパク質を含む32種の異なるターゲットに対する融合タンパク質のオフターゲット結合を評価した(Frese et al.,MAbs,2013)。ターゲットを、PBS中、5μg/mLの濃度で、マイクロタイタープレート上に4℃で一晩コーティングした。PBS-0.05%Tで洗浄した後、プレートを室温においてPBS-0.1%T-2%BSAで1時間ブロックした。100μLのPBS-0.05%Tで5回洗浄した後、100nMまたは10nMの試験融合タンパク質をウェルに加え、室温で1時間インキュベートした後、もう一度、洗浄工程を行った。結合した研究対象の抗体は、PBS-0.1%T-2%BSA中で、1:5000希釈したヤギ抗ヒトIgG Fc HRP(Jackson Laboratory)と共にインキュベートすることによって検出した。追加洗浄工程後に、蛍光原性HRP基質(QuantaBlu、Thermo)を各ウェルに加え、1時間インキュベートした。蛍光マイクロプレートリーダーを使って蛍光強度を検出し、対照抗体(SEQ ID NO:106とSEQ ID NO:107)のシグナルに対して正規化した。32種のターゲットに対する各試験分子の結合の正規化されたシグナルを合計することで、所与の濃度、すなわち100nMまたは10nMにおける、集積結合比(cumulated binding ratio)を得た。各試験分子に関する100nMおよび10nMにおける集積結合比をさらに合計することで、集積結合比の和を得た。例えば、32種のターゲットのそれぞれに対する結合に起因する蛍光強度を対照抗体(SEQ ID NO:106とSEQ ID NO:107)に対して正規化したが、その対照抗体は、100nMまたは10nMのどちらかで試験した場合に32の集積結合比を有し、64の集積結合比の和を有する。結果を表5に示す。高い集積結合比は強いオフターゲット結合と相関する。
【0341】
SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82の提供される融合タンパク質は、融合タンパク質に含まれるGPC3抗体およびCD137特異的リポカリンムテイン(Fc融合物)(それぞれSEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82および SEQ ID NO:98)と同様に、オフターゲット結合を全くまたは無視できる程度にしか示さない(集積結合比の和<150)。一方、従来公知のあるCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質(SEQ ID NO:83)は、望ましくないオフターゲット結合を示す(累積結合比(cumulative binding ratio)の和>250)。
【0342】
【0343】
実施例6. CD137またはGPC3を発現する細胞への融合タンパク質結合のフローサイトメトリー分析
ヒトCD137発現細胞ならびにヒトGPC3発現細胞への例示的融合タンパク質のターゲット特異的結合をフローサイトメトリーによって評価した。
【0344】
Flp-Inシステム(Life technologies)を製造者の説明書に従って使用することにより、ヒトCD137またはモック対照をCHO細胞に安定にトランスフェクトした。Lipofectamine 2000(Invitrogen)を製造者の説明書に従って使用することにより、ヒトGPC3またはモック対照をSK-Hep1細胞に安定にトランスフェクトした。トランスフェクトされたCHO細胞は、10%ウシ胎児血清(Sigma-Aldrich)と500μg/mLハイグロマイシンB(Roth)とを補足したハムF12培地(Gibco)において維持された。トランスフェクトされたSK-Hep1細胞は、20%ウシ胎児血清(Sigma-Aldrich)と500μg/mL G418(Gibco)とを補足したRPMI1640+GlutaMAX培地(Gibco)において培養された。細胞を製造者の説明書に従って細胞培養フラスコ中で培養した(37℃、5%CO2雰囲気)。
【0345】
フローサイトメトリー分析のために、それぞれの細胞株を例示的融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82)、融合タンパク質に含まれるGPC3抗体またはCD137特異的リポカリンムテイン(Fc融合物)(それぞれSEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82およびSEQ ID NO:98)、リファレンスCD137抗体SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27、またはアイソタイプ対照(SEQ ID NO:24とSEQ ID NO:25)と共にインキュベートし、以下に説明するFACS分析において、蛍光標識抗ヒトIgG抗体を使って検出した。
【0346】
氷冷した5%ウシ胎児血清含有PBS(PBS-FCS)中で、1ウェルあたり5×104細胞を1時間インキュベートした。試験分子の希釈系列を細胞に加え、氷上で1時間インキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄した後、ヤギ抗hIgG Alexa647標識抗体またはヤギ抗hIgG Alexa488標識抗体と共に、氷上で30分間インキュベートした。次に細胞を洗浄し、iQueフローサイトメーター(Intellicyte Screener)を使って分析した。平均幾何(mean geometric)蛍光シグナルをプロットし、Graphpadソフトウェアで当てはめを行った。蛍光強度の幾何平均を使用し、ボトムをバックグラウンドに固定した4パラメータロジスティック回帰(a four-parameter logistic regression with bottom fixed to background)を使って、EC50値を算出した。
【0347】
ヒトGPC3およびCD137に結合する被験分子の能力を
図4に示す。ヒトGPC3およびヒトCD137発現細胞に対する融合タンパク質SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82の結合アフィニティー(EC
50)は、低ナノモル濃度域にあり、それぞれGPC3抗体(SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82)およびCD137特異的リポカリンムテイン(SEQ ID NO:98)またはCD137特異的抗体(SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27)と同等である(表6に要約する)。しかし、従来公知のあるCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質(SEQ ID NO:83)は、結合曲線が最大100nMの濃度でもプラトーに到達しなかったので、GPC3発現細胞には限られた用量依存的結合を示す(
図4B)。被験分子はいずれもモックトランスフェクト細胞には結合しなかった(データ省略)。
【0348】
(表6)GPC3またはCD137を発現する細胞に対する融合タンパク質の結合アフィニティー
【0349】
実施例7. GPC3陽性腫瘍細胞に対する融合タンパク質の結合アフィニティー
GPC3の発現レベルが異なる腫瘍細胞-HepG2、Hep3B、MKN-45およびNCI-N87-への融合タンパク質の結合をフローサイトメトリーによって評価した。
【0350】
HepG2細胞株は、10%ウシ胎児血清(Sigma-Aldrich)を補足したダルベッコ変法イーグル培地(DMSO、Pan Biotech)中で培養した。Hep3B細胞株は、10%ウシ胎児血清(Sigma-Aldrich)および2mM L-グルタミン(Gibco)を補足した最小必須培地(アール塩含有)(Gibco)中で培養した。MKN-45細胞株およびNCI-N87細胞株は、それぞれ20%または10%ウシ胎児血清(Sigma-Aldrich)を補足したRPMI-1640培地+GlutaMAX(Gibco)中で培養した。腫瘍細胞株はすべて、製造者の説明書に従って細胞培養フラスコ中で培養した(37℃、5%CO2雰囲気)。
【0351】
フローサイトメトリー分析のために、GPC3発現レベルが異なる腫瘍細胞株(高度~中等度発現:HepG2>Hep3B>MKN-45)およびGPC3陰性細胞株NCI-N87を、例示的融合タンパク質SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82、融合タンパク質に含まれるGPC3抗体またはCD137特異的リポカリンムテイン(Fc融合物)(それぞれSEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82およびSEQ ID NO:98)、リファレンスCD137抗体SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27、またはアイソタイプ対照(SEQ ID NO:24とSEQ ID NO:25)と共にインキュベートし、実施例6で述べたように蛍光標識抗ヒトIgG抗体を使って検出した。
【0352】
GPC3陽性腫瘍に対する融合タンパク質SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82の結合能を
図5に示し、対応する結合アフィニティー(EC
50)を表7に要約する。GPC3発現腫瘍細胞に対する融合タンパク質の結合アフィニティーは低ナノモル濃度域にあり、融合タンパク質に含まれるGPC3抗体(SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82)と同等だった。これらの結果は、融合タンパク質がGPC3陰性の腫瘍細胞には結合しないことも示唆している。
【0353】
(表7)GPC3陽性腫瘍細胞に対する融合タンパク質の結合アフィニティー
【0354】
実施例8. CD137バイオアッセイを用いるGPC3依存的T細胞共刺激
選択された融合タンパク質の、GPC3依存的にCD137シグナリング経路の活性化を誘導する潜在能力を、CD137とluc2遺伝子(ヒト化型のホタルルシフェラーゼ)とを発現し、luc2発現がNFκB応答エレメントによって駆動される、市販の二重安定トランスフェクトJurkat細胞株を使って評価した。このバイオアッセイでは、CD137会合が、NFκB媒介性ルミネセンスにつながるCD137細胞内シグナリングをもたらす。
【0355】
高レベルのGPC3を発現する肝細胞がん細胞株HepG2およびHep3B、ならびに中レベルのGPC3を発現する胃がん細胞株MKN-45、そしてGPC3陰性であるNCI-N87を、実施例7で述べたように培養した。アッセイの1日前に、1ウェルあたり6.25×103細胞の各腫瘍細胞をプレーティングし、加湿5%CO2雰囲気下、37℃で一晩接着させた。
【0356】
翌日、3.75×104個のNF-kB-Luc2/CD137 Jurkat細胞を各ウェルに加え、次に、典型的には0.00488nM~10nMの範囲の、さまざまな濃度の例示的融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82)、融合タンパク質に含まれるGPC3抗体またはCD137特異的リポカリンムテイン(Fc融合物)(それぞれSEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82およびSEQ ID NO:98)、リファレンスCD137抗体SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27、またはアイソタイプ対照(SEQ ID NO:24とSEQ ID NO:25)を加えた。プレートをガス透過性シールで覆い、加湿5%CO2雰囲気下、37℃でインキュベートした。4時間後に、30μLのBio-Glo(商標)試薬を各ウェルに加え、ルミノメーター(PHERAstar)を使って生物発光シグナルを定量した。GraphPad Prism(登録商標)で4パラメータロジスティック曲線分析を行って、EC50値を算出した(シェアードボトム)。それらを表8に要約する。融合タンパク質によるCD137会合のGPC3依存性を実証するために、並行して、最高濃度の試験分子を使用し、腫瘍細胞の非存在下で、同じ実験を行った。アッセイは三重に行った。
【0357】
代表的実験の結果を
図6に示す。
図6Aおよび
図6Bに示すデータは、例示的融合タンパク質SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82が、GPC3発現レベルの高い腫瘍細胞株の存在下で強いCD137媒介性T細胞共刺激を誘導したことを実証している。
図6C~
図6Eは、GPC3発現量が中程度であるか低い腫瘍細胞の存在下またはGPC3発現腫瘍細胞の非存在下では、NF-kB-Luc2/CD137 Jurkat細胞の活性化が検出されないので、融合タンパク質によるCD137の活性化がGPC3依存的であることを示している。対照的に、リファレンス抗CD137 mAb(SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27)は、標的細胞のGPC3発現レベルとは無関係に、また標的細胞の非存在下でも、CD137媒介性T細胞共刺激を示した。
【0358】
(表8)CD137バイオアッセイを用いたT細胞活性化の評価
【0359】
実施例9. 融合タンパク質によって誘導されるGPC3依存的T細胞活性化の評価
融合タンパク質によるGPC3ターゲット依存的T細胞共刺激を、T細胞活性化アッセイを使って分析した。融合タンパク質をさまざまな濃度で抗CD3刺激T細胞に適用し、ヒトGPC3トランスフェクトSK-Hep1細胞、モックトランスフェクトSK-Hep1細胞、またはGPC3陽性腫瘍細胞株HepG2と共に培養した。上清におけるIL-2分泌レベルを測定した。
【0360】
ポリスクロース密度勾配(Biocoll、1.077g/mL、Biochrom)での遠心分離により、Biochromのプロトコールに従って、健常ボランティアドナーのPBMCをバフィーコートから単離した。汎T細胞精製キット(Miltenyi Biotec GmbH)を製造者の説明書に従って使用することにより、Tリンパ球を、磁気細胞選別法で、PBMCからさらに精製した。精製された汎T細胞を、90%FCSおよび10%DMSOからなる緩衝液に再懸濁し、直ちに凍結し、さらなる使用時まで液体窒素中で保存した。アッセイのために、T細胞を融解し、10%ウシ胎児血清(Sigma-Aldrich)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)を補足した培養培地(RPMI-1640培地+GlutaMAX、Gibco)中、加湿5%CO2雰囲気下、37℃で一晩、休ませた。SK-Hep1細胞およびHepG2細胞はそれぞれ実施例6および実施例7で述べたように培養した。
【0361】
以下の手順を各実験条件について三重に行った。平底培養プレートを37℃において2時間、0.25μg/mL抗CD3抗体でプレコーティングしてから、PBSで2回洗浄した。増殖を阻止するために、ヒトGPC3がトランスフェクトされたSK-Hep1細胞またはモックトランスフェクトされたSK-Hep1細胞、およびGPC3陽性腫瘍細胞HepG2を、30μg/mlマイトマイシンC(Sigma Aldrich)で30分間処理した。マイトマイシン処理した細胞を次にPBSで2回洗浄し、培養培地中に1ウェルあたり1.0×104細胞の密度でプレーティングして、加湿5%CO2雰囲気下、37℃で一晩、接着させた。ターゲット発現細胞は、事前に標準条件下で成長させ、Accutase(PAA Laboratories)で剥離し、培養培地に再懸濁しておいた。
【0362】
翌日、プレートをPBSで2回洗浄した後、1ウェルあたり2.5×104個のT細胞を加えた。典型的には0.003nM~10nMの範囲の、融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82)、融合タンパク質に含まれるGPC3抗体(SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82)、従来公知のCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質(SEQ ID NO:83)、GPC3特異的リポカリンムテイン(Fc融合物)(SEQ ID NO:97)、リファレンスCD137抗体(SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27)、またはアイソタイプ対照(SEQ ID NO:24とSEQ ID NO:25)の希釈系列を、対応するウェルに加えた。プレートをガス透過性シールで覆い、加湿5%CO2雰囲気下、37℃で3日間インキュベートした。以下の手順で述べるように、ヒトIL-2 DuoSetキット(R&D Systems)を使って、上清中のIL-2レベルを評価した。
【0363】
384ウェルプレートを、PBS中の1μg/mL「Human IL-2 Capture Antibody(ヒトIL-2捕捉抗体)」で、室温において2時間コーティングした。次に、ウェルを80μlのPBS-0.05%Tで5回洗浄した。1%カゼイン(w/w)を含有するPBS-0.05%Tでの1時間のブロッキング後に、アッセイ上清および培養培地に希釈したIL-2標準の濃度系列をそれぞれのウェルに移し、4℃で終夜インキュベートした。翌日、0.5%カゼインを含有するPBS-0.05%T中の100ng/mLヤギ抗hIL-2-Bio検出抗体(R&D Systems)と1μg/mLスルホタグ標識ストレプトアビジン(Mesoscale Discovery)との混合物を加え、室温で1時間インキュベートした。洗浄後に、25μLの読取り緩衝液(reading buffer)(Mesoscale Discovery)を各ウェルに加え、結果として生じた電気化学ルミネセンス(ECL)シグナルをMesoscale Discoveryリーダーによって検出した。分析および定量はMesoscale Discoveryソフトウェアを使って行った。
【0364】
T細胞活性化アッセイを同様に使用して、さらなる従来公知のCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質SEQ ID NO:99とSEQ ID NO:27、SEQ ID NO:83、およびSEQ ID NO:84のT細胞応答共刺激能も評価した。この実験では、200μLの0.25μg/mL抗CD3抗体を使って、組織培養プレートを37℃で1時間プレコーティングし、PBSで2回洗浄した。1ウェルあたり1.25×104個のHepG2腫瘍細胞をプレーティングし、加湿5%CO2雰囲気下、37℃で一晩接着させ、37℃において10μg/mLマイトマイシンCで2時間処理した。プレートをPBSで2回洗浄し、5×104個のT細胞と濃度1μg/mLの試験分子とを各ウェルに加えた。プレートをガス透過性シールで覆い、加湿5%CO2雰囲気下、37℃で3日間インキュベートした。次に、上清におけるIL-2濃度を評価した。
【0365】
例示的データを
図7に示す。汎T細胞を、ヒトGPC3をトランスフェクトしたSK-Hep1細胞(
図7B)またはGPC-3発現HepG2腫瘍細胞(
図7C)と共に、融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82)の存在下で共培養すると、アイソタイプ対照と比較して強い用量依存的IL-2分泌が起こり、それは、IL-2の増加が観察されないか高用量においてIL-2分泌のわずかな増加が観察されたGPC3抗体(SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82、GPC3特異的リポカリンムテイン(SEQ ID NO:129)、または従来公知のCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質(SEQ ID NO:83)の場合よりも、はるかに強かった。モックトランスフェクトSK-Hep1細胞(GPC3陰性)と共培養した場合、試験分子は、IL-2分泌の用量依存的増加を呈さなかった。これらの結果は提供される融合タンパク質によるT細胞の活性化がGPC3依存的であることを例証している。
【0366】
実施例10. GPC3の発現レベルが異なる腫瘍細胞の存在下でのT細胞活性化の評価
さらなるT細胞アッセイを使って、GPC3ターゲット依存的にT細胞活性化を共刺激する例示的融合タンパク質の能力を評価した。GPC3発現レベルが異なる腫瘍細胞株の存在下で、抗CD3刺激T細胞に、融合タンパク質をさまざまな濃度で適用した。被験腫瘍細胞株には、HepG2、Hep3B、MKN-45およびNCI-N87(高度~中等度発現:HepG2>Hep3B>MKN-45、GPC3陰性:NCI-N87)。上清におけるIL-2分泌レベルを測定した。
【0367】
実施例9で述べたように、健常ボランティアドナーのPBMCをバフィーコートから単離して、リンパ球をPBMCから精製した。
【0368】
アッセイのために、T細胞を融解し、10%ウシ胎児血清(Sigma-Aldrich)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)を補足した培養培地(RPMI-1640培地+GlutaMAX、Gibco)中、加湿5%CO2雰囲気下、37℃で16時間、休ませた。
【0369】
以下の手順を各実験条件について三重に行った。平底培養プレートを37℃において2時間、0.25μg/mL抗CD3抗体でプレコーティングしてから、PBSで2回洗浄した。増殖を阻止するために、腫瘍細胞株HepG2、Hep3B、MKN-45またはNIC-N87を30μg/mlマイトマイシンC(Sigma Aldrich)で30分間処理した。マイトマイシン処理した腫瘍細胞を次にPBSで2回洗浄し、培養培地中に1ウェルあたり8.3×103細胞の密度でプレーティングして、加湿5%CO2雰囲気下、37℃で一晩、接着させた。ターゲット細胞は、事前に標準条件下で成長させ、Accutase(PAA Laboratories)で剥離し、培養培地に再懸濁しておいた。
【0370】
翌日、プレートをPBSで2回洗浄した後、1ウェルあたり2.5×104個のT細胞を腫瘍細胞に加えた。典型的には0.26nM~10nMの範囲の、例示的融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82)、融合タンパク質に含まれるGPC3抗体またはCD137特異的リポカリンムテイン(Fc融合物)(それぞれSEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82およびSEQ ID NO:98)、リファレンスCD137抗体(SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27)、またはアイソタイプ対照(SEQ ID NO:24とSEQ ID NO:25)の希釈系列を、対応するウェルに加えた。プレートをガス透過性シールで覆い、加湿5%CO2雰囲気下、37℃で3日間インキュベートした。
【0371】
3日間の共培養後に、上清中のIL-2レベルを実施例9で述べたように評価した。
【0372】
例示的データを
図8に示す。汎T細胞を、高レベルのGPC3を発現するHepG2細胞およびHep3B細胞と共に融合タンパク質SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82の存在下で共培養すると、hIgG4アイソタイプ対照と比較してIL-2分泌の明確な増加が起こる。加えて、MKN-45(GPC3中等度)またはNIC-N87(GPC3陰性)との共培養では、融合タンパク質を使ってもIL-2分泌レベルは増加しなかった。このデータは、T細胞を活性化する能力またはIL-2分泌を増加させる能力によって測定される融合タンパク質の機能的活性がGPC3依存的であることを示している。対照的に、リファレンスCD137抗体(SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27)によって誘導されるT細胞活性化またはIL-2分泌は必ずしもGPC3依存的ではなく、予測が難しい。
【0373】
実施例11. 融合タンパク質によって誘導されるGPC3発現腫瘍細胞のT細胞媒介性細胞溶解の評価
インピーダンスベースのT細胞殺滅アッセイを使って、融合タンパク質の、CD137共刺激シグナリング経路を活性化しGPC3発現腫瘍細胞のT細胞媒介性細胞溶解を誘導する能力を評価した。この目的のために、接着性腫瘍細胞を電子マイクロタイタープレート(Eプレート)のウェルに播種した。金マイクロ電極への細胞の接着は電極間の電流の流れを妨げる。このインピーダンスが無次元の「細胞指標」パラメータとして測定される。細胞指標(CI)は、細胞が付着し、次に時間と共に増殖すると増加する。非接着性CD8+T細胞、T細胞抗原を独立して活性化する抗CD3抗体、およびさまざまな濃度の試験分子を、HepG2細胞に加えた。添加そのものはインピーダンス変化を引き起こさなかった。試験分子がCD137シグナリング経路を活性化することによって細胞傷害性T細胞を共刺激すると、ターゲット細胞のT細胞媒介性細胞溶解が増加し、エフェクター細胞による接着性腫瘍細胞の破壊が、CIの減少として検出されうることで、リアルタイム殺傷曲線の作成が可能になる。
【0374】
健常ボランティアドナーのPBMCをバフィーコートから単離した。そのPBMCからCD8+T細胞を単離し、さらなる使用まで、液体窒素中に保存した。アッセイのために、CD8+T細胞を融解し、10%FBSおよび1%ペニシリン-ストレプトマイシンを補足したRPMI 1640培地からなるアッセイ培地中、加湿5%CO2雰囲気下、37℃で24時間、休ませた。
【0375】
以下の手順を、各実験条件につき三重に実施した。腫瘍細胞株HepG2(肝細胞癌細胞株、GPC3発現)またはNCI-N87(胃癌細胞株、GPC3陰性)を、アッセイ培地に入れてEプレートにプレーティングし、細胞接着および細胞増殖が可能になるように、加湿5%CO2雰囲気下、37℃で24時間インキュベートした。
【0376】
翌日、抗CD3抗体を腫瘍細胞に加え、次に例示的融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82)、融合タンパク質に含まれるGPC3抗体またはCD137特異的リポカリンムテイン(Fc融合物)(それぞれSEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82およびSEQ ID NO:98)、リファレンスCD137抗体(SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27)、従来公知のあるCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質(SEQ ID NO:83)、GPC3特異的リポカリンムテイン(Fc融合物)(SEQ ID NO:97)、またはアイソタイプ対照(SEQ ID NO:24とSEQ ID NO:25)の希釈系列を加えた。次に、休止CD8+T細胞を腫瘍細胞に5:1の比で加えた。プレートをガス透過性シールでカバーして3日間インキュベートし、その間にインピーダンスを定期的に測定した。
【0377】
RTCA HTソフトウェアV1.0.1(ACEA Biosciences)を使ってCI値を時間の関数としてプロットした。所与の時点(エフェクター細胞添加の20時間、30時間、40時間、50時間、60時間、70時間後)におけるCIを正規化時点(エフェクター細胞添加後最初の測定)のCIで割ったものとして、正規化CIを算出した。各三重試料について、平均正規化CI値と対応するSD値を使用し、以下の式を使って、特異的殺滅値(specific killing value)を算出した:100-(試験分子の正規化平均CI/ターゲット細胞およびエフェクター細胞の正規化平均CI)×100。特異的殺滅値をGraphPad Prism v7にエクスポートし、XYグラフにおいて関心対象の時間間隔に対してそれぞれのSD値と共にプロットした。
【0378】
例示的実験の結果を
図9に示す。このデータは、融合タンパク質SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82がGPC3発現HepG2細胞の用量依存的T細胞媒介性溶解を誘導したのに対し(
図9A~
図9C)、ターゲット陰性NCI-N87細胞の特異的溶解は観察されなかった(
図9D)ことを示しており、T細胞媒介性殺滅につながるCD137経路の、融合タンパク質によって誘導される活性化が、GPC3依存的であることを実証している。提供される融合タンパク質SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82は、等モル量の従来公知のCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質(SEQ ID NO:83)、GPC3抗体(SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82)、またはGPC3特異的リポカリンムテイン(Fc融合物)(SEQ ID NO:97)と比較してはるかに高レベルな、細胞傷害性T細胞によるGPC3陽性ターゲット細胞殺滅を誘導した(
図9C)。加えて、CD137特異的リポカリンムテイン(Fc融合物)(SEQ ID NO:98)、リファレンスCD137抗体(SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27)およびhIgG4アイソタイプ対照(SEQ ID NO:24とSEQ ID NO:25)は、CD8+T細胞媒介性殺滅を誘導しなかった(
図9C)。
【0379】
CD137/GPC3二重特異性融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82)によるHepG2細胞の強いT細胞媒介性溶解が、単独の抗GPC3と単独の抗CD137との組合せによるのではなく、その二重特異性デザインに依存することを実証するために、さらなる実験を行った。この実験は、本質的に上述のように行ったが、すべてのコンストラクトを10nMで加え、GPC3抗体(SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82)およびリファレンスCD137抗体(SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27)のカクテルならびにGPC3抗体(SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82)およびCD137特異的リポカリンムテイン(Fc融合物)(SEQ ID NO:98)のカクテルと比較した。ここでも融合タンパク質SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82については強いT細胞媒介性溶解が検出されたが、両カクテルによって媒介される特異的溶解はそれほど大きくなく、T細胞媒介性溶解を達成するためのこの二重特異性フォーマットの利益が実証された。
【0380】
実施例12. ヒトPBMCが移植された異種移植片マウスモデルにおける機能的インビボ活性の評価
提供される融合タンパク質のインビボ活性を調べるために、ヒトHepG2腫瘍細胞およびヒトPBMCが移植された免疫不全NOGマウスを使用した。
【0381】
4~6週齢のNOGマウスに、マトリゲル/PBS(1:1)溶液中の5×106個のHepG2細胞を、皮下(s.c.)注射した。腫瘍を80~100mm3のサイズまで成長させ、その時点を、実験の0日目と定義した。マウスを0日目に腫瘍サイズおよび動物の体重に応じて処置群(または対照群)に無作為化した。マウスに5×106個の新鮮ヒトPBMCを尾静脈注射により静脈内(i.v.)に投与した。1日目のi.v.PBMC注射後に、腹腔内(i.p.)注射によって処置マウスに処置または対照(PBS)を与え、8日目および15日目に再び処置または対照を与えた。研究対象の分子には、例示的融合タンパク質SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82(0.5、5または20mg/kg)、融合タンパク質に含まれるGPC3抗体(SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82)(0.39または3.9mg/kg、融合タンパク質による0.5または5mg/kg処置と等モル濃度)、およびリファレンスCD137抗体(SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27)(3.9mg/kg、融合タンパク質による5mg/kg処置と等モル濃度)を含めた。3~4日ごとに腫瘍成長を記録した。薬物ばく露がない動物はデータ解析から除外した。
【0382】
試験終了時(16日目)に、マウスを屠殺し、腫瘍をホルマリン固定パラフィン包埋した(FFPE)。腫瘍の組織学的および免疫組織化学分析はBioSiteHistoで行われた。FFPE異種移植片腫瘍組織を薄切し、H&Eで染色するか、T細胞マーカーCD3、CD4またはCD8で染色した。染色されたスライドを、3D Histech Pannoramic MIDI計測により20x対物レンズで撮像し、デジタル化した。デジタルスライドの顕微鏡観察にはCaseViewer 2.2を使用し、腫瘍面積に基づく分析にはImage Jを使用した。腫瘍面積-壊死面積あたりの腫瘍浸潤リンパ球(TIL)のパーセンテージを算出した。
【0383】
図10は、試験2日目、6日目、9日目、13日目および16日目に測定された腫瘍体積の変化を表す。融合タンパク質SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82および融合タンパク質に含まれるGPC3抗体SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82によって腫瘍成長阻害が達成された。融合タンパク質とGPC3抗体はどちらも(それぞれ5または3.9mg/kgの濃度で)、試験の間、腫瘍の成長を完全に阻害した。融合タンパク質およびGPC3抗体の効果は用量依存的であった。これより低い濃度(0.5または0.39mg/kg)では腫瘍成長に対する効果が軽微だったからである。リファレンスCD137抗体(SEQ ID NO:26とSEQ ID NO:27)による処置では、腫瘍成長に対する限定的な効果しか達成されなかった。
【0384】
表9に、腫瘍浸潤リンパ球の組織化学および免疫組織化学分析によって得られたデータを要約する。腫瘍内CD3、CD4またはCD8 T細胞浸潤を、(腫瘍面積-壊死面積)あたりの%TILとして示す。融合タンパク質による処置は、(腫瘍面積-壊死面積)の最大10%のT細胞浸潤をもたらした(すべての処置群)。GPC3抗体またはリファレンスCD137抗体による処置では、媒体対照と比較して、腫瘍内T細胞浸潤は誘導されなかった。
【0385】
(表9)腫瘍面積-壊死面積あたりの腫瘍浸潤リンパ球(TIL)のパーセンテージ
【0386】
実施例13. マウスにおける融合タンパク質の薬物動態
代表的融合タンパク質(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82)および融合タンパク質に含まれるGPC3抗体(SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82)の薬物動態の分析をマウスで行い、従来公知の2種のCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質(SEQ ID NO:83およびSEQ ID NO:84)のそれと比較した。およそ5週齢の雄CD-1マウス(1時点につき2匹、Charles River Laboratories)の尾静脈に、2mg/kg(SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82、SEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82)または10mg/kg(SEQ ID NO:83、SEQ ID NO:84)の用量で、それぞれのコンストラクトを注射した。マウスからの血漿試料を、抗体ベースのコンストラクトについては5分、24時間、168時間および336時間、ならびに5分、2時間、4時間、8時間、24時間、2日、3日、4日、7日、9日、11日、14日および21日の時点で得た。1匹あたり1時点あたり少なくとも30~50μLのLi-ヘパリン血漿が得られるように、十分な全血(イソフルラン麻酔下で採取)を収集した。血漿中薬物レベルをELISAで分析した。
【0387】
SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82またはSEQ ID NO:81とSEQ ID NO:82には、以下のプロトコールを使用した。ヒトGPC3をPBSに溶解し(1μg/mL)、マイクロタイタープレート上に4℃で一晩コーティングした。各インキュベーション工程後に80μLのPBS-0.05%Tでプレートを5回洗浄した。プレートを室温においてPBS-0.1%T-2%BSAで1時間ブロックした後、洗浄した。血漿試料を20%の血漿濃度になるようにPBS-0.1%T-2%BSAに希釈し、ウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。続いてさらに一回の洗浄工程を行った。結合した研究対象の作用物質を、PBS-0.1%T-2%BSAに希釈した1μg/mLのスルホタグ抗ヒト抗体(Mesoscale Discovery)または抗NGALアフィニティー精製ポリクローナル抗血清との1時間のインキュベーション後に検出した。追加の洗浄工程後に、25μLの読取り緩衝液を各ウェルに加え、各ウェルの電気化学ルミネセンス(ECL)シグナルをMesoscale Discoveryリーダーを使って読み取った。
【0388】
SEQ ID NO:83またはSEQ ID NO:84には、以下のプロトコールを使用した。ヒトCD137をPBSに溶解し(1μg/mL)、マイクロタイタープレート上に4℃で一晩コーティングした。各インキュベーション工程後に80μLのPBS-0.05%Tでプレートを洗浄した。プレートを室温においてPBS-0.1%T-2%BSAで1時間ブロックした後、洗浄した。血漿試料を20%の血漿濃度になるようにPBS-0.1%T-2%BSAに希釈し、ウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。続いてさらに一回の洗浄工程を行った。結合した研究対象の作用物質を、それぞれPBS-0.1%T-2%BSAに希釈した1μg/mLのヒトグリピカン-bioおよびストレプトアビジンスルホタグとの1時間のインキュベーション後に検出した。追加の洗浄工程後に、25μLの読取り緩衝液を各ウェルに加え、各ウェルのECLシグナルをMesoscale Discoveryリーダーを使って読み取った。
【0389】
データ解析と定量のために、標準タンパク質希釈液による検量線も調製した。例示的実験における試験分子の経時的な血漿中濃度を
図12にプロットした。Phoenix WinNonlin version 8.1を使って非コンパートメント解析をデータに適用した。結果を表10に要約する。
【0390】
このデータは、提供される融合タンパク質SEQ ID NO:87とSEQ ID NO:82が典型的な抗体薬物動態を示し、一方、従来公知のCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質SEQ ID NO:83およびSEQ ID NO:84はかなり損なわれた薬物動態プロファイルを示すことを実証している。
【0391】
【0392】
実施例14: 融合タンパク質の熱安定性評価
総合的安定性の一般的指標である融合タンパク質の融解温度(Tm)を決定するために、PBS(Gibco)中に1mg/mLのタンパク質濃度の試験分子を、キャピラリーナノDSC機器(CSC 6300、TA Instruments)を使って、1℃/分でスキャン(25~100℃)した。表示されたサーモグラムから、統合Nano Analyzeソフトウェアを使って、Tmを算出した。
【0393】
その結果得られた最大融解温度および融解開始温度を、例示的融合タンパク質について、下記表11に列挙する。融合タンパク質SEQ ID NO:72とSEQ ID NO:82およびCD137Ac1融合物2は、従来公知の一定のCD137/GPC3二重特異性融合タンパク質SEQ ID NO:83、SEQ ID NO:84およびSEQ ID NO:26とSEQ ID NO:102と比較して、改良された熱安定性を有する。
【0394】
(表11)ナノDSCで決定されたT
mおよび融解開始温度
【0395】
本明細書に例示的に記載された態様は、本明細書に具体的に開示されていない1つまたは複数の要素、1つまたは複数の制限が存在しなくても、適切に実施されうる。したがって、例えば「を含む」(comprising、including、containing)などの用語は、限定されることなく、拡張的に読解されるものとする。加えて、本明細書で使用される用語および表現は、限定ではなく説明の用語として使用されており、そのような用語および表現の使用に、表示され説明された特徴またはその一部分のいかなる均等物も除外する意図はなく、請求項に係る発明の範囲内でさまざまな変更が考えられると認識される。したがって、例示的な態様および随意の特徴によって本態様を具体的に開示したが、当業者であれば、その変更および変形に頼ることができ、そのような変更および変形が本開示の範囲内とみなされることは、理解すべきである。本明細書に記載する特許、特許出願、教科書およびピアレビューされた刊行物はいずれも、参照により、その全体が本明細書に組み入れられる。さらにまた、参照により本明細書に組み入れられる参考文献における用語の定義および使用が、本明細書において与えられるその用語の定義と一致しないか矛盾する場合は、本明細書において与えられるその用語の定義が適用され、参考文献におけるその用語の定義は適用されない。上位概念の開示に包含される下位概念および下位分類のそれぞれも、本開示の一部を形成する。これには、削除される事項が本明細書において具体的に言明されているか否かにかかわらず、上位概念からいずれかの対象事項を除外する但し書きまたは消極的限定を伴う、上位概念による本発明の説明が包含される。加えて、特徴がマーカッシュ群によって記載されている場合、本開示が、それにより、そのマーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはメンバーの部分群によっても記載されていることは、当業者にはわかるだろう。さらなる態様は以下の請求項から明らかになるであろう。
【0396】
均等物:本明細書に記載する本発明の具体的態様の数多くの均等物は、当業者にはわかるか、通常行われる程度の実験を使って確かめることができるだろう。そのような均等物は、下記特許請求の範囲に包含されるものとする。この明細書において言及する刊行物、特許、および特許出願はすべて、個々の刊行物、特許、または特許出願について参照により本明細書に組み入れられることを具体的かつ個別に示した場合と同じ程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【0397】
【配列表】
【国際調査報告】