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特表2022-523545前立腺癌に罹患するリスクを評価する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-25
(54)【発明の名称】前立腺癌に罹患するリスクを評価する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/493 20060101AFI20220418BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
G01N33/493 A
G01N27/12 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021552169
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(85)【翻訳文提出日】2021-09-08
(86)【国際出願番号】 EP2020055555
(87)【国際公開番号】W WO2020178284
(87)【国際公開日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】19160856.1
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】504312771
【氏名又は名称】ヒューマニタス・ミラソーレ・エス.ピー.エー.
(71)【出願人】
【識別番号】501193001
【氏名又は名称】ポリテクニコ ディ ミラノ
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO-Italy
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】タヴェルナ,ジャンルイージ
(72)【発明者】
【氏名】グリッツィ,ファビオ
(72)【発明者】
【氏名】カペリ,ラウラ・マリア・テレサ
(72)【発明者】
【氏名】バックス,カルメン
(72)【発明者】
【氏名】シローニ,セレナ
(72)【発明者】
【氏名】エウゼビオ,リディア・ジュゼッピーナ
【テーマコード(参考)】
2G045
2G046
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CB03
2G045DA78
2G045FB05
2G046AA18
2G046BA07
2G046BA09
2G046DB05
2G046DC18
2G046FB02
2G046FC01
2G046FC08
2G046FE02
2G046FE03
2G046FE10
2G046FE11
2G046FE22
2G046FE24
2G046FE28
2G046FE29
2G046FE31
2G046FE39
2G046FE44
2G046FE48
(57)【要約】
本発明は、少なくとも3つの金属酸化物半導体ベースのガスセンサーを用いて尿検体のガスヘッドスペースを分析することによって、男性被験者が前立腺癌に罹患しているリスクを評価するための方法と、そのような癌が高悪性度であるリスクを評価するための方法とに関し、第1のガスセンサーの金属酸化物は純SnO又はドープSnOであり、第2のセンサーの金属酸化物は純ZnO又はドープZnOであり、第3のセンサーの金属酸化物は純SnO又はドープSnO、純TiO又はドープTiO及び純Nb又はドープNbである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者が前立腺癌に罹患しているリスクを評価するインビトロの方法であって、前記方法が、
a)自然に排尿された尿検体の最後の噴流を含まない前記被験者からの尿検体を提供するステップと、
b)前記検体を、閉じた湿度制御された環境において50℃超まで加温するステップと、
c)ステップb)で加温された前記検体のヘッドスペースを、湿度制御下で、少なくとも3つの金属酸化物半導体(MOS)ベースのガスセンサーを用いて分析し、第1のガスセンサーの金属酸化物が純SnO又はドープSnOであり、第2のセンサーの金属酸化物が純ZnO又はドープZnOであり、第3のセンサーの金属酸化物が純SnO又はドープSnO、純TiO又はドープTiO及び純Nb又はドープNbである、ステップと、
d)ステップc)で得られた値をセンサーごとの基準値と比較することにより、被験者が前立腺癌に罹患している前記リスクを評価するステップと
を含む、インビトロの方法。
【請求項2】
前記基準値が、他の手段によって前立腺癌なし又は前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体で得られた基準値である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップの前記比較が、他の手段によって前立腺癌なし又は前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体の分析から取得されたデータに対する、ステップc)で取得されたデータの、多変量統計解析を通じて得られたスコアリングを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
被験者が高悪性度型の前立腺癌に罹患しているリスクを評価するインビトロの方法であって、前記方法が、
a)自然に排尿された尿検体の最後の噴流を含まない前記被験者からの尿検体を提供するステップと、
b)前記検体を、閉じた湿度制御された環境において50℃超まで加温するステップと、
c)ステップb)で加温された前記検体のヘッドスペースを、湿度制御下で、少なくとも3つのMOSベースのガスセンサーを用いて分析し、第1のガスセンサーの金属酸化物が純SnO又はドープSnOであり、第2のセンサーの金属酸化物が純ZnO又はドープZnOであり、第3のセンサーの金属酸化物が純SnO又はドープSnO、純TiO又はドープTiO及び純Nb又はドープNbである、ステップと、
d)ステップc)で得られた値をセンサーごとの基準値と比較することにより、被験者が高悪性度型の前立腺癌に罹患しているリスクを評価するステップと
を含む、インビトロの方法。
【請求項5】
前記基準値が、他の手段によって高悪性度である特定のリスクを有する前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体で得られた基準値である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップd)の前記比較が、他の手段によって高悪性度である特定のリスクを有する前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体の分析から取得されたデータに対する、ステップc)で取得されたデータの、多変量統計解析を通じて得られたスコアリングを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のセンサーの前記金属酸化物がMoOをドープされている、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のセンサーの前記金属酸化物がMoをドープされている、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2のセンサーの前記金属酸化物が純ZnOである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第3のガスセンサーの前記金属酸化物がドープされていない、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
任意の所与のセンサーのドーパントが、存在する場合、Mo、MoO、Pd、Ag、Cu、Al、Pb、Cr、及びPtからなるリストから独立して選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップb)の前記温度が、51℃超、52℃超、53℃超、54℃超、55℃超、56℃超、57℃超、58℃超及び59℃超のリストの中から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップb)の前記温度が、61℃未満、62℃未満、63℃未満、64℃未満、65℃未満、66℃未満、67℃未満、68℃未満、69℃未満、70℃未満、71℃未満、72℃未満、73℃未満、74℃未満、75℃未満、76℃未満、77℃未満、78℃未満、79℃未満、80℃未満、81℃未満、82℃未満、83℃未満、84℃未満、85℃未満、86℃未満、87℃未満、88℃未満、89℃未満、90℃未満、91℃未満、92℃未満、93℃未満、94℃未満、95℃未満、96℃未満、97℃未満、98℃未満、99℃未満、及び100℃未満のリストの中から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも3つの金属酸化物半導体ベースのガスセンサーを用いて尿検体のガスヘッドスペースを分析することによって、被験者が前立腺癌に罹患しているリスクを評価するための方法と、そのような癌が高悪性度であるリスクを評価するための方法とに関し、第1のガスセンサーの金属酸化物は純SnO又はドープSnOであり、第2のセンサーの金属酸化物は純ZnO又はドープZnOであり、第3のセンサーの金属酸化物は純SnO又はドープSnO、純TiO又はドープTiO及び純Nb又はドープNbである。
【0002】
発明の背景
前立腺癌は、世界中で男性において2番目に多い癌(Siegel et al.,2017)であり、世界で5番目に頻度の高い癌である。血清前立腺特異抗原(Prostate-Specific Antigen(PSA))は、現在、前立腺癌の検出、経過観察及び治療モニタリングのための最も重要なバイオマーカーである。前立腺癌のPSAベースのスクリーニングは、この疾患の疫学に重要な影響を及ぼしてきた。PSAの使用は、前立腺癌の死亡率の有意な低下と関連付けられているが、低悪性度前立腺癌の過剰診断及び過剰治療ももたらし、多くの男性を利益のない治療にさらしている(Lee at al.,2017)。PSAの特異度及び感度の低さは、主に、血清PSAが良性前立腺肥大症や慢性前立腺炎などの良性症状でも増加し得るということに起因する。加えて、血清PSA濃度は、アンドロゲン濃度又は前立腺マニピュレーションの差に関連し得、明確な人種間のばらつきを有し得る生物学的変動性の影響を受ける(Kryvenko et al.,2016)。したがって、現在最も広く行われている診断方法は、PSA値が高い被験者男性に生検検体採取を受けさせることである。この処置は侵襲的であるだけでなく、低レベルの精度(すなわち、最初の生検での検出率はわずか30%)を伴い、敗血症及び死亡を含む様々な合併症を起こしやすい(Anastasiadis et al.,2013、Presti et al.,2008)。
【0003】
よって、患者が前立腺癌に罹患しているリスクを評価するより信頼性の高い非侵襲的方法が必要とされている。
【0004】
前立腺癌が高悪性度であるリスクを評価することに関しては、多くの利用可能な方法がある。1つの非常に信頼性の高い方法が、グリーソンスコア(Gleason Score(GS))による腫瘍悪性度と組み合わせたTNM分類による腫瘍ステージの組織学的分類にあるが、そのような方法は前立腺摘除術を伴う。
【0005】
最近、訓練されたイヌの嗅覚系が、高い推定感度及び特異度(97%)で尿検体中の前立腺癌特異的揮発性有機化合物(volatile organic compound(VOC))を検出することができることが実証された。このアプローチは、前立腺癌を検出するためのPSA検体採取及び前立腺生検の非侵襲的代替法を提供する可能性を有し得るが、イヌの訓練及び収容を必要とする。加えて、その結果は、前立腺癌特異的VOCが腫瘍の代謝過程に依存し得ることを示唆している。一般に、臭気分析は、感覚の客観化を伴うため、単純ではない。しかしながら、過去数十年において、臭気の特性評価及び測定のための特定の技法が実施及び開発されてきた(Capelli et al.,2016)。感覚的技法は、人間の評価者のパネル上で直接臭気検体によって引き起こされる感覚を参照して臭気を特徴付ける原理に基づくものである。化学分析は、より統合された方法ではあるが、非常に複雑であり、臭気分析に必ずしも有効ではないことが判明する可能性がある。これは、主に臭気物質混合の非常に複雑な効果が原因で、ヒトにおいて臭気混合物によって誘発される感覚をその化学組成に関連付けることが困難である複雑な臭気の特性評価に特に当てはまる。これらの理由から、哺乳類の嗅覚の活性を再現することができる電子鼻を使用する可能性が、早期の非侵襲的な診断、及びおそらくは前立腺癌の予後についての最新戦略の定義ための非常に興味深い課題として現れる。
【0006】
金属酸化物半導体(metal oxide semi conductor(MOS))ベースのガスセンサーは、現在、電子鼻を用いた臭気分析の分野において広く使用されている(James et al.,2005、Wilson and Baietto,2009,2011、Loutfi et al.,2015)。
【0007】
先行技術
最近、訓練されたイヌの嗅覚系が、高い推定感度及び特異度(97%)で尿検体中の前立腺癌特異的揮発性有機化合物(VOC)を検出することができること(Taverna et al.,2015)、並びに同じイヌが、根治的前立腺摘除術後の生化学的再発性前立腺癌(Biochemically Recurrent Prostate Cancer(BCR))を検出することもできること(Taverna et al.,2016)が実証された。
【0008】
Roine et al.(2012)は、WOベースのセンサーを備えた電子鼻が健康な前立腺細胞と癌性前立腺細胞とをどのようにして区別することができるかを記載している。
【0009】
Asimakopoulos et al.(2014)、Santonico et al.(2014)、Bernabei et al.(2008)並びにD’Amico et al.(2012a及び2012b)は、様々な金属ポルフィリンベースのセンサーを備えた電子鼻を尿検体に使用して前立腺癌をどのようにして診断することができるかを記載している。
【0010】
Roine et al.(2014)は、尿を37℃まで加温して作成された尿検体ヘッドスペースから、SnOとZnOとの複合体であるMOSセンサーを備えたガスクロマトグラファーを使用して前立腺癌を診断する方法を開示している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】尿ヘッドスペースの分析中及び分析後のMOSベースのガスセンサーの典型的な応答曲線を示す図である。
図2】分析対象の尿ヘッドスペースを作成するための典型的な装置を示す図である。
図3】健康(H)な被験者対前立腺癌(PC)被験者をクラスター化するために使用される2つの主成分分析スコアプロットを示す図である。
図4】高腫瘍悪性度(GS4)の前立腺癌患者対中腫瘍悪性度(GS3+4)の前立腺癌患者をクラスター化するために使用される主成分分析スコアプロットを示す図である。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明者らは、驚くべきことに、3種類のMOSベースのガスセンサーの併用により、以下である限りにおいて、被験者の尿検体から、この被験者が前立腺癌に罹患しているリスクを評価することが可能になることを発見した。
・尿検体が、カテーテル、若しくは検体をその被験者の膀胱から直接採取することを可能にする同等の手段を介して採取されるか、又は自然に排尿された尿として採取された場合、公知の文献(Smith et al.,2008)に従って、その自然に排尿された尿の最後の噴流を含まないこと。
・尿検体が、分析にかけられる前に50℃超まで加温されること。
・分析が湿度制御された環境で行われること。
【0013】
したがって、本発明の第1の態様では、被験者が前立腺癌に罹患しているリスクを評価するインビトロの方法が提供され、この方法は、
a)自然に排尿された尿検体の最後の噴流を含まない前記被験者からの尿検体を提供するステップと、
b)検体を、閉じた湿度制御された環境において50℃超まで加温するステップと、
c)ステップb)で加温された検体のヘッドスペースを、湿度制御下で、少なくとも3つのMOSベースのガスセンサーを用いて分析し、第1のガスセンサーの金属酸化物が純SnO又はドープSnOであり、第2のセンサーの金属酸化物が純ZnO又はドープZnOであり、第3のセンサーの金属酸化物が純SnO又はドープSnO、純TiO又はドープTiO及び純Nb又はドープNbである、ステップと、
d)ステップc)で得られた値をセンサーごとの基準値と比較することにより、被験者が前立腺癌に罹患しているリスクを評価するステップと
を含む。
【0014】
本発明のこの第1の態様に基づく一実施態様では、基準値は、他の手段によって前立腺癌なし又は前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体で得られた基準値である。
【0015】
本発明者らはまた、驚くべきことに、上記の3種類のガスセンサーの併用により、前立腺癌が高悪性度であるリスクを評価することが可能になることも発見した。
【0016】
したがって、本発明の第2の態様では、被験者が高悪性度型の前立腺癌に罹患しているリスクを評価するインビトロの方法が提供され、この方法は、
a)自然に排尿された尿検体の最後の噴流を含まない前記被験者からの尿検体を提供するステップと、
b)検体を、閉じた湿度制御された環境において50℃超まで加温するステップと、
c)ステップb)で加温された検体のヘッドスペースを、湿度制御下で、少なくとも3つのMOSベースのガスセンサーを用いて分析し、第1のガスセンサーの金属酸化物が純SnO又はドープSnOであり、第2のセンサーの金属酸化物が純ZnO又はドープZnOであり、第3のセンサーの金属酸化物が純SnO又はドープSnO、純TiO又はドープTiO及び純Nb又はドープNbである、ステップと、
d)ステップc)で得られた値をセンサーごとの基準値と比較することにより、被験者が高悪性度型の前立腺癌に罹患しているリスクを評価するステップと
を含む。
【0017】
本発明のこの第2の態様に基づく一実施態様では、基準値は、他の手段によって高悪性度である特定のリスクを有する前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体で得られた基準値である。
【0018】
本発明のこの第2の態様に基づく別の実施態様では、基準値は、他の手段によって前立腺癌なし、及び高悪性度である特定のリスクを有する前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体で得られた基準値である。
【0019】
本明細書で使用される場合、「第1のガスセンサー」、「第2のガスセンサー」、及び「第3のガスセンサー」という用語は、センサーが本発明の方法において使用されるべき順序としてではなく、センサーを互いに明確に区別する方法としてのみ解釈されるべきである。
【0020】
電子鼻は、単純な臭気又は複雑な臭気を認識することができる、部分的な特異度を有する電子化学センサーのアレイと、適切なパターン認識(pattern recognition(PR))システムとを含む計器である。
【0021】
電子鼻のアーキテクチャは、哺乳類の嗅覚系の構造を模倣し、よって、以下の3つの構成要素に分割される。
・ガス検出システム:嗅覚受容体の作用が、広範囲の異なる臭気物質に応答するセンサーのアレイによってシミュレートされる。センサーは、分析対象の臭気空気に接触すると、応答信号を生成する。
・センサー信号処理システム:センサーからの情報が圧縮され、ヒトの嗅球の作用をシミュレートする。
・臭気認識システム:高度なPRシステムが、以前に格納されたデータセットに基づいて臭気を識別し、ヒトの脳で起こる過程をシミュレートする。
【0022】
センサーは特異的ではないため、電子鼻は個々の臭気発生化合物を認識せず、むしろ分析された空気の嗅覚シグネチャ(指紋)を提供する。これを行うためには、計器が訓練されなければならない。
【0023】
eノーズの訓練は、既知の臭気クラスに属する検体の分析に存し、すなわち、これらの訓練検体に対するセンサー応答が、識別されるべき異なる臭気クラスの「クラスター」を構成する。
【0024】
eノーズ機能は類似性の原理に依拠し、すなわち、類似した臭気が類似したセンサー応答を生成する。この原理に基づき、未知の検体の分類が、計器により、未知の検体によって生成されたセンサー応答を訓練検体の応答と比較することによって行われる。未知の検体は、次いで、最も類似している訓練クラスに帰せられる。
【0025】
このために使用することができる、いわゆる「多変量統計解析」に属する様々な数学的方法がある。
【0026】
訓練フェーズは、eノーズ分類能力の基礎である。訓練データセットを構成する異なる臭気クラスが十分にクラスター化されている、すなわち互いに十分に分離されている場合、これは、異なる臭気を識別する計器の優れた能力を示し、よって高い分類精度をもたらす。
【0027】
各eノーズセンサーは、典型的には、揮発性有機化合物に対して、図1に示されるような曲線を生成するその抵抗の変動を伴って応答する。
【0028】
分析されたすべての検体に対してセンサーによって生成された曲線のセットは、処理される必要がある電子鼻からの大量の「生」データを構成する。
【0029】
eノーズデータ処理は、以下の2つの基本ステップからなる。
1.特徴抽出及び選択
2.分類
【0030】
特徴抽出及び選択は、分類のためにさらに処理することができる数値データをセンサー応答曲線から抽出するために実行されるべき動作セットを表す。
【0031】
図1に示されるような曲線から抽出できる最も典型的な特徴は、分析中の検体が流れる前の抵抗Rと測定中に測定された抵抗のプラトー値Rとの間の抵抗比である。
【0032】
抽出できる特徴の他の例は、以下の通りである(網羅的ではない)(Blatt et al.,2007)。
・測定中のセンサーの抵抗変化
【数1】

式中、Rは、基準条件での抵抗値であり、Rは、経時的な抵抗値である。
・基準線と測定中に到達した抵抗の最小値との比
【数2】

式中、Rは、基準条件での抵抗値であり、R(t)は、経時的な抵抗値である。
・次式として定義される積分
【数3】

式中、Rは、基準条件での抵抗値であり、R(t)は、経時的な抵抗値である。
・次式として定義される測定の状態グラフのプロットによって決定される閉領域
【数4】

式中、R(t)は、経時的な抵抗値である。
・測定中に到達した抵抗の最小値
【数5】

式中、R(t)は、経時的な抵抗値である。
【0033】
センサー応答曲線から抽出できる特徴の数及び種類はほぼ無制限であるため、臭気の識別及び分類に効果的に関連する特徴を考慮するために、特徴選択が必要である。分類性能の最適化によって特徴選択を実行するために、フィルター法やラッパー法などの異なる方法を適用することができる(Pardo et al.,2006、Nowotny et al.,2013、Fang et al.,2015)。
【0034】
Borutaアルゴリズムは、オブジェクト間の特徴量のランダム置換によって生じる分類精度損失の測定を通じて特徴の重要度の尺度を提供する特徴選択ツールである(Kursa and Rudnicki,2010)。Borutaアルゴリズムは、ランダムフォレスト分類器の周りに構築されたラッパー法に基づくものであり、分類器は、特徴ランク付けを返すブラックボックスとして使用される。分類は、訓練セットの異なるバギングサンプルで独立して開発される、決定木と呼ばれる複数の不偏の弱い分類器の投票によって行われる。森の各木について、分類精度損失が別々に計算される。次いで、検査における特徴の重要度が、Zスコアと呼ばれる、平均精度損失とその標準偏差との比として計算される。
【0035】
特徴抽出及び選択の後、eノーズデータ(センサー応答曲線)は、分類目的で適切なアルゴリズムによって処理することができる数値データに変換される。前述のように、未知の検体の分類は、計器訓練中に定義された臭気クラスに関連するデータとの類似度を評価することによって行われる。未知の検体は、それが「最も類似している」と評価されるクラスに帰せられる。
【0036】
最も簡単なタイプの分類アルゴリズムは「カットオフ」法であり、これは「Yes/No」論理を使用して2つのクラスを区別する、すなわち、未知の検体に関連する特徴が所与の基準値を超える場合には、検体は一方のクラスに帰せられ、そうでない場合は他方のクラスに帰せられる。より多くの臭気クラス間の分類に適用することができる別の非常に一般的なアルゴリズム(k近傍法(kNN))では、類似度は、未知の検体に関連する選択された特徴からなるベクトルと訓練データに関連する同じベクトルとの間のユークリッド距離として評価される。検体は、最小距離が計算されるクラスに帰せられる。
【0037】
線形判別分析(Linear Discriminant Analysis(LDA))及び二次判別分析(Quadratic Discriminant Analysis(QDA))が、eノーズデータ処理に使用される一般的な分類アルゴリズムである。これらの方法は、較正データセットからの確率分布の推定に基づく、考察される各対のカテゴリ間の区切り関数の定義を含む(McLachlan,1992)。
【0038】
ランダム・フォレスト・アルゴリズムは、より洗練された分類モデルであり、ランダムな無相関決定木の森全体の構築を分類の基礎とする(Breiman,2001、Liaw and Wiener,2002)。初期データセットから開始して、モデルは2つの新しいデータセット、すなわち、「ブートストラップデータセット」(Boostrap Dataset(BD))及び「ブートストラップデータセット外」(Out Of Bootstrap Dataset(OOB))を構築する。BDは、元のデータセットのランダムに選択された検体を有する分類森の最初の木を構成する。木を構築するために、データが、所属のクラスによって検体を分割する際に最良の分類性能を提供する特徴を使用して、各ノードで分割される。特徴の選択は、データセット内に存在するすべての変数の中から選択された様々なランダム変数の性能の比較に基づくものである。木は、最後のノードが前のノードよりも悪い検体の分類性能を有する場合に成長を停止する。次いで、分類木を構築するために考察されていない元のデータセットの検体を含むOOBセットが、木の分類性能を試験するために使用される。この操作は、森全体を構築するために何度も繰り返される。森が作成されると、モデルを使用して、独立したデータセットから検体を分類することができる。未知の検体の分類は、ランダムフォレスト内の木の票の過半数に基づくものである。
【0039】
他の一般的なパターン認識アルゴリズムは、以下であるが、これらに限定されない(Gutierrez-Osuna,2002、Aggio et al.,2016、Qui et al.,2015)。
・サポート・ベクター・マシン(Support Vector Machine(SVM))
・部分的最小二乗法解釈(Partial Least Squares Interpretation(PLS))
・人工ニューラルネットワーク(Artificial Neural Network(ANN))
【0040】
本発明の任意の態様に基づく一実施態様では、ステップd)の比較は、センサーごとのカットオフ値に対するステップc)で取得されたデータのスコアリングを含む。
【0041】
本発明の任意の態様に基づく一実施態様では、ステップd)の比較は、センサーごとのカットオフ値に対するステップc)で取得されたデータのスコアリングに存する。
【0042】
本発明の第1の態様に基づく一実施態様では、ステップd)の比較は、他の手段によって前立腺癌なし又は前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体の分析から取得されたデータに対する、ステップc)で取得されたデータの、多変量統計解析を通じて得られたスコアリングを含む。
【0043】
本発明の第1の態様に基づく一実施態様では、ステップd)の比較は、他の手段によって前立腺癌なし又は前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体の分析から取得されたデータに対する、ステップc)で取得されたデータの、多変量統計解析を通じて得られたスコアリングに存する。
【0044】
本発明の第1の態様に基づく一実施態様では、ステップd)の比較は、他の手段によって前立腺癌なし又は前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体の分析から取得されたデータに対する、ステップc)で取得されたデータの、パターン認識アルゴリズムの適用を通じて得られたスコアリングを含む。
【0045】
本発明の第1の態様に基づく一実施態様では、ステップd)の比較は、他の手段によって前立腺癌なし又は前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体の分析から取得されたデータに対する、ステップc)で取得されたデータの、パターン認識アルゴリズムの適用を通じて得られたスコアリングに存する。
【0046】
本発明の第2の態様に基づく一実施態様では、ステップd)の比較は、他の手段によって前立腺癌なし及び/又は高悪性度である特定のリスクを有する前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体の分析から取得されたデータに対する、ステップc)で取得されたデータの、多変量統計解析を通じて得られたスコアリングを含む。
【0047】
本発明の第2の態様に基づく一実施態様では、ステップd)の比較は、他の手段によって前立腺癌なし及び/又は高悪性度である特定のリスクを有する前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体の分析から取得されたデータに対する、ステップc)で取得されたデータの、多変量統計解析を通じて得られたスコアリングに存する。
【0048】
本発明の第2の態様に基づく一実施態様では、ステップd)の比較は、他の手段によって前立腺癌なし及び/又は高悪性度である特定のリスクを有する前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体の分析から取得されたデータに対する、ステップc)で取得されたデータの、パターン認識アルゴリズムの適用を通じて得られたスコアリングを含む。
【0049】
本発明の第2の態様に基づく一実施態様では、ステップd)の比較は、他の手段によって前立腺癌なし及び/又は高悪性度である特定のリスクを有する前立腺癌に罹患しているとして分類された被験者の尿検体の分析から取得されたデータに対する、ステップc)で取得されたデータの、パターン認識アルゴリズムの適用を通じて得られたスコアリングに存する。
【0050】
本発明の任意の態様に基づく特定の実施態様では、パターン認識アルゴリズムは、k近傍法、ランダムフォレスト、線形判別分析、二次判別分析、サポート・ベクター・マシン、判別関数分析、部分的最小二乗法解釈、及び人工ニューラルネットワークのリストの中から選択される。
【0051】
当業者であれば、センサーは摩損を免れず、そのため使用される所与のセンサーごとの基準値が使用に伴って変動する可能性があり、時々再判定される必要があり得ることを知っているであろう。
【0052】
金属酸化物ベースのセンサーのドーピングは、特定の揮発性化合物/揮発性化合物のセットに対するその特定のセンサーの感度の調節を達成するための当分野における一般的な手法である(Godavarti et al.(2019)、Matsushima et al.(1988)、Ruiz et al.(2003)、Senguttuvan et al.(2007)、Yamazoe,(1991)、Zhang et al.(2019))。
【0053】
本発明の任意の態様に基づく一実施態様では、第1のセンサーのドーパントは、存在する場合、Mo、MoO、Pd、Ag、Cu、Al、Pb、Cr、及びPtからなるリストから選択される。
【0054】
本発明の任意の態様に基づく一実施態様では、第2のセンサーのドーパントは、存在する場合、Mo、MoO、Pd、Ag、Cu、Al、Pb、Cr、及びPtからなるリストから選択される。
【0055】
本発明の任意の態様に基づく一実施態様では、第3のセンサーのドーパントは、存在する場合、Mo、MoO、Pd、Ag、Cu、Al、Pb、Cr、及びPtからなるリストから選択される。
【0056】
本発明の任意の態様に基づく一実施態様では、第1のガスセンサーの金属酸化物は純SnOである。
【0057】
本発明の任意の態様に基づく別の実施態様では、第1のガスセンサーの金属酸化物は、MoOをドープしたSnOである。
【0058】
本発明の任意の態様に基づく別の実施態様では、第1のガスセンサーの金属酸化物は、MoをドープしたSnOである。
【0059】
本発明の任意の態様に基づく別の実施態様では、第2のガスセンサーの金属酸化物は純ZnOである。
【0060】
本発明の任意の態様に基づく別の実施態様では、ステップc)は、3つのガスセンサーを用いて限定して行われる。
【0061】
本発明の任意の態様に基づく別の実施態様では、尿検体は、カテーテルで採取される。
【0062】
本発明の任意の態様に基づく別の実施態様では、尿検体は、自然に排尿された尿検体の最初の噴流である。
【0063】
本発明の任意の態様に基づく別の実施態様では、尿検体は、自然に排尿された尿検体の中間の噴流である。
【0064】
本発明の任意の態様に基づく一実施態様では、ステップb)の温度は、50℃超、51℃超、52℃超、53℃超、54℃超、55℃超、56℃超、57℃超、58℃超及び59℃超のリストの中から選択される。
【0065】
本発明の任意の態様に基づく別の実施態様では、ステップb)の温度は、約51℃、約52℃、約53℃、約54℃、約55℃、約56℃、約57℃、約58℃、約59℃、約60℃、約61℃、約62℃、約63℃、約64℃、約65℃、約66℃、約67℃、約68℃、約69℃、約70℃、約71℃、約72℃、約73℃、約74℃、約75℃、約76℃、約77℃、約78℃、約79℃、約80℃、約81℃、約82℃、約83℃、約84℃、約85℃、約86℃、約87℃、約88℃、約89℃、約90℃、約91℃、約92℃、約93℃、約94℃、約95℃、約96℃、約97℃、約98℃、約99℃、約100℃、約101℃、約102℃、約103℃、約104℃、約105℃、約106℃、約107℃、約108℃、約109℃、約110℃、及び任意のそのような値を含む範囲のリストの中から選択される。
【0066】
本発明の任意の態様に基づく別の実施態様では、ステップb)の温度は、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃、60℃、61℃、62℃、63℃、64℃、65℃、66℃、67℃、68℃、69℃、70℃、71℃、72℃、73℃、74℃、75℃、76℃、77℃、78℃、79℃、80℃、81℃、82℃、83℃、84℃、85℃、86℃、87℃、88℃、89℃、90℃、91℃、92℃、93℃、94℃、95℃、96℃、97℃、98℃、99℃、100℃、101℃、102℃、103℃、104℃、105℃、106℃、107℃、108℃、109℃、110℃、及び任意のそのような値を含む範囲のリストの中から選択される。
【0067】
本発明の任意の態様に基づく別の実施態様では、ステップb)の温度は、61℃未満、62℃未満、63℃未満、64℃未満、65℃未満、66℃未満、67℃未満、68℃未満、69℃未満、70℃未満、71℃未満、72℃未満、73℃未満、74℃未満、75℃未満、76℃未満、77℃未満、78℃未満、79℃未満、80℃未満、81℃未満、82℃未満、83℃未満、84℃未満、85℃未満、86℃未満、87℃未満、88℃未満、89℃未満、90℃未満、91℃未満、92℃未満、93℃未満、94℃未満、95℃未満、96℃未満、97℃未満、98℃未満、99℃未満、及び100℃未満のリストの中から選択される。
【0068】
当業者であれば、任意の所与の温度及び湿度で最適なヘッドスペースを作成するのに必要な時間の長さを、試行錯誤法によって過度の負担なしに決定することができるであろう。本発明の任意の態様に基づく一実施態様では、湿度制御された環境は、10%RH~90%RH、この範囲内に入る任意の整数値、及びこれらの整数値のいずれかを含む範囲のリストの中から選択された値に設定される。
【0069】
当業者はまた、自身又は他者の経験及びノウハウに基づいて、ヘッドスペースを作成すべきレシピエントを選択するであろう。
【0070】
すべての実施態様は組み合わせられ得る。
実施例
【0071】
次に、本発明を非限定的な実施例によって説明する。
【0072】
材料及び方法
検体採取
246人の被験者(69人の健常者(H)及び177人の前立腺癌罹患者(PC))の尿検体を、Castellanza(Varese)のHumanitas Hospitalで、又はRozzano(Milano)のHumanitas Hospitalでインフォームドコンセントを受けて採取した。前立腺癌患者の検体は、前立腺の生検、根治的前立腺摘除術又は経尿道切除術の前に採取した。健康な被験者は、月経前の若年女性、若年女性(20~35歳)、前立腺癌の家族歴がなく、PSA<1ng/ml及び直腸指診陰性である若年(28歳未満)及び中年(最高50歳まで)の男性、並びに腎盂尿管移行部症候群又は前立腺肥大症に罹患している患者の混合群からなった。
【0073】
177人の前立腺癌患者の悪性度リスクを以下の表1の基準に対して示した。
【表1】
【0074】
これらの患者を、以下の2つの群を形成するとみなすこともできる。
・A群:中リスク又は高リスク(159人の患者)
・B群:低リスク(18人の患者)
【0075】
各PC被験者は、1つがカテーテルを介して採取され、3つの検体が自然に排尿された尿(それぞれ最初の噴流、中間の噴流、及び最後の噴流)からである、4つの検体を提供したのに対し、健康な(H)被験者は自然に排尿された尿検体のみを提供した。
【0076】
検体を尿分析に一般的に使用される滅菌容器に採取し、採取直後に分析まで-20℃で凍結した。
【0077】
検体調製
典型的な手順では、分析する前に、各尿検体を37~40℃の水浴中で完全に液体になるまで解凍し、テフロンチューブを備えたNalophan(商標)バッグに封止したビーカーに移し(図2)、電子鼻による分析のためにNalophan(商標)バッグ内にヘッドスペースを作成するように、60℃/60%RHの気候室に1.5時間保持した。次いで、Nalophan(商標)バッグをビーカーから分離し、密封し、そのように作成されたヘッドスペースを、テフロンチューブを介して電子鼻に流入させる前に、60℃/20%RHで2.5時間保持した。
【0078】
ヘッドスペース分析
ヘッドスペースを、金属酸化物が以下である、5つのMOSベースのセンサーを備えたSACMI EOS507c電子鼻を用いた分析にかけた。
・cat MoをドープしたSnO
・MoOをドープしたSnO
・純SnO
・純ZnO
・SnO+TiO+Nb
【0079】
統計解析
以下の実施例1~実施例6の診断試験に関して、真陽性(TP)、真陰性(TN)、偽陽性(FP)及び偽陰性(FN)の数は、以下の式に従って試験の特異度、感度及び精度に影響を及ぼし、式中、CI95%は相対信頼区間を表す。
【数6】
【0080】
前立腺癌患者が上記で定義したA群に属するかそれともB群に属するかを評価することに関して、以下の実施例2では、方法の適合性は、
A群)に属する真陽性(TpA)、
B群に属する真陽性(TpB)
健康群に属する真陽性(TpH)
健康として分類されるA群患者(eAH)
健康として分類されるB群患者(eBH)
B群患者として分類されるA群患者(eAB)
A群患者として分類されるB群患者(eBA)
A群患者として分類される健康な被験者(eHA)
B群患者として分類される健康な被験者(eHB)
の数が、以下の各式に示されるようにリコール値及び精度にどのように影響を及ぼすかによって決定される。
【数7】
【0081】
前立腺癌患者が高悪性度型の前立腺癌に罹患する高リスクにあるかそれとも中リスクにあるかの評価に関して、以下の実施例4では、方法の適合性は、
・GS3+4群に属する真陽性(TpMedium
・GS4群に属する真陽性(TpHigh
・GS4群として分類されるGS3+4群の患者(eMedium;High
・GS3+4群として分類されるGS4群の被験者(eHigh;Medium
の数が、以下の各式に示されるようにリコール値及び精度にどのように影響を及ぼすかによって決定される。
【数8】
【0082】
実施例1:カットオフ値による前立腺癌に罹患しているリスクの評価。
上記の246人の被験者の最初の噴流検体を、上記の材料及び方法の項に記載されるように分析にかけた。
【0083】
表2に、使用したセンサーの数及び被験者を健康(H)又は前立腺癌に罹患している(PC)として割り当てるために使用した方法に応じた、試験の精度、感度及び特異度を示す。エントリー12及びエントリー13は、本発明の方法を使用して得られた値を表している。
【0084】
同様の結果が、自然に排尿された尿検体又はカテーテルで採取された検体の中間の噴流を分析することによって得られる。
【表2】
【0085】
実施例2:カットオフ値による悪性度リスクの評価
上記の246人の被験者の最初の噴流検体を、上記の材料及び方法に記載されているように悪性度リスク分析にかけた。表3に、分析で使用されたセンサーの数及び種類によって異なる様々な方法のリコール値及び精度を示し、被験者は、実施例1の対応する方法を使用して、健康又は前立腺癌罹患として分類した。エントリー12及びエントリー13は、本発明の方法で得られた値を表している。
【0086】
同様の結果が、自然に排尿された尿検体又はカテーテルで採取された検体の中間の噴流を分析することによって得られる。
【表3】

【0087】
実施例3:様々なパターン認識アルゴリズムを使用した前立腺癌に罹患しているリスクの評価
246人の被験者のサブセット(11人の健常者、17人の前立腺癌罹患者)に関連するデータを、R値、R値及びR値について図1を参照して、以下の特徴(F)を抽出することによって処理した。
・抵抗比R/R
・分析後差分δ=R-R(式中、Rは測定の終了時に記録された抵抗値である、図1参照)
・単一点が測定中に到達した抵抗の最小値であり、R(t)は経時的な抵抗値である。
【0088】
これらのデータを、以下のセンサーのセットを使用して取得した。
純ZnO
MoをドープしたSnO
MoOをドープしたSnO
純SnO
SnO+TiO+Nb
【0089】
特徴抽出後の検体分析から得られたデータセットを主成分分析(PCA,Borgognone et al.,2001)で処理して、健康な被験者と前立腺癌に罹患した患者との区別を視覚化した。
【0090】
一例として、図3に、センサー応答曲線から抽出された異なる特徴を考慮して得られたPCAスコアプロットを示す。異なる臭気クラス、すなわち健康な被験者と前立腺癌に罹患した患者とは、プロットの異なる領域にクラスターを明確に形成している。
【0091】
第2のステップとして、訓練データセットに対して分類を行うために、異なる分類アルゴリズム(A)を適用した。一例として、異なる訓練セットをサポート・ベクター・マシン(SVM)及び線形判別分析(LDA)によって処理して、試験性能を評価した。上記の材料及び方法で定義された精度、感度及び特異度について得られた結果を表4に示す。
【表4】
【0092】
カットオフ法は、精度及び感度に関して最良の結果を提供するが、他の分類技法もまた、前立腺癌診断のための許容可能な結果を提供することができることが判明した。
【0093】
実施例4:高悪性度リスクと中悪性度リスクとの区別
表1に従って高リスク又は中リスクにあるとして分類された、前立腺癌に罹患した患者(20人の患者)のみを含む246人の被験者のサブセットに関連するデータを、以下の特徴を考慮して処理した。
抵抗比R/R、式中、Rは、eノーズ分析の開始時の抵抗値であり、Rは、尿ヘッドスペースの分析中に記録された最小抵抗値である。
【0094】
これらのデータを、以下のセンサーのセットを使用して取得した。
純ZnO
MoをドープしたSnO
MoOをドープしたSnO
純SnO
SnO+TiO+Nb
【0095】
図4に、センサーの抵抗比を特徴として考慮して得られたPCAスコアプロットを示す。分析された検体は、グリーソンスコア値に従ってグラフの異なる領域でクラスター化し、グラフの左部分ではGS3+4の検体がクラスター化しているのに対して、グラフの右部分ではより高いGSの検体が優勢である。
【0096】
第2のステップ(分類)では、SVMアルゴリズムを適用した。よって、この場合に適用されるデータ処理の組み合わせは、抵抗比(F)+SVM(A)である。
【0097】
特徴と分類アルゴリズムのこの組み合わせを用いてeノーズによって操作される分類に関連する混同行列と、対応する精度及びリコールの値とを、それぞれ、表5と表6とに示す。
【表5】

【表6】
【0098】
実施例5:温度の影響
以下の表7及び表8に、本発明の診断方法(表7)又は予後(表8)(実施例1及び実施例2のエントリー13)で得られた統計値を、検体を60℃ではなく50℃に保持した場合に得られた統計値と比較して示す。
【0099】
246人の被験者のサブセット(19人の健常者、29人のA群患者、6人のB群患者)に対して50℃でのデータを取得した。
【表7】

【表8】
【0100】
実施例6:湿度制御の影響
以下の表9に、尿ヘッドスペースの濃縮及び電子鼻を用いた分析が本発明の方法どおりに湿度制御下で実行される、実施例1のエントリー13のセンサーを使用した場合に得られた統計値を、濃縮後の尿ヘッドスペースが同じ条件で、ただし湿度制御なしで分析された場合に得られた統計値と比較して示す。
【0101】
この評価のために考慮された検体は、246人の被験者のサブセットを構成する(5人の健常者、5人のA群患者)。このサブセットを使用して、実施例1のエントリー13のセンサーでは、カットオフ値は以下の通りである。
純ZnO:2.5
MoをドープしたSnO:2.5
MoOをドープしたSnO:2.5
純SnO:2.5
SnO+TiO+Nb:4.1
【表9】
【0102】
実施例7:様々なパターン認識アルゴリズムを使用した前立腺癌に罹患しているリスクの評価。
38人の被験者(14人の対照者、24人の前立腺癌に罹患した男性)を含む、246人のサブセットに関連するデータを、以下のセンサーのセットを使用して取得した。
純ZnO
MoをドープしたSnO
MoOをドープしたSnO
純SnO
SnO+TiO+Nb
【0103】
データを、訓練セットを構築するために使用した、R値及びR値について図1を参照して、以下の特徴を抽出することによって処理した。
・RとRとの比、
・RとRとの差、
・積分によって定義される曲線R(t)下面積、
【数9】

式中、Rは、基準条件における抵抗値であり、R(t)は、揮発性有機化合物の脱着中に記録された経時的な抵抗値(すなわち、分析後)である、
・揮発性有機化合物の吸着フェーズに関連する抵抗曲線R(t)の勾配(すなわち、分析中)、
・分析中フェーズの中心点で記録された抵抗値と分析中フェーズの終了時に記録された抵抗値との差。
【0104】
第2のステップとして、訓練データセットに対して分類を行うために、異なる分類アルゴリズムを適用した。一例として、異なる訓練セットをk近傍法(kNN)及びランダムフォレスト(RF)によって処理して、試験性能を評価した。上記の特徴と分類アルゴリズムとの組み合わせを用いてeノーズによって操作される分類に関連する混同行列を、RFモデルとkNNモデルとについてそれぞれ、表10と表11とに示す。精度、感度及び特異度について得られた結果を表12に示す。
【表10】

【表11】

【表12】
【0105】
精度、感度及び特異度は、表13を参照して以下のように定義される。
【数10】

【表13】
【0106】
実施例8:高悪性度リスクと中悪性度リスクとの区別
表1に従って高リスク又は中リスクにあるとして分類された、前立腺癌に罹患した患者(24人の患者)のみを含む246人の被験者のサブセットに関連するデータを、訓練セットを構築するために、R値及びR値について図1を参照して、以下の特徴を考慮して処理した。
・RとRとの比、
・RとRとの差、
・積分によって定義される曲線R(t)下面積、
【数11】

式中、Rは、基準条件における抵抗値であり、R(t)は、揮発性有機化合物の脱着中に記録された経時的な抵抗値(すなわち、分析後)である、
・揮発性有機化合物の吸着フェーズに関連する抵抗曲線R(t)の勾配(すなわち、分析中)、
・分析中フェーズの中心点で記録された抵抗値と分析中フェーズの終了時に記録された抵抗値との差。
【0107】
データを、以下のセンサーのセットを使用して取得した。
純ZnO
MoをドープしたSnO
MoOをドープしたSnO
純SnO
SnO+TiO+Nb
【0108】
分類を目的として、訓練データセットに対して分類を行うために、k近傍法(kNN)及びランダムフォレスト(RF)分類アルゴリズムを適用した。上記の特徴と分類アルゴリズムとの組み合わせを用いてeノーズによって操作される分類に関連する混同行列を、RFモデルとkNNモデルとについてそれぞれ、表14と表15とに示す。特徴と分類アルゴリズムのこの組み合わせを用いてeノーズによって操作される分類に関連する対応する精度及びリコールの値を表16に示す。
【表14】

【表15】

【表16】
【0109】
リコール及び精度は、表17を参照して以下のように決定される。
【数12】

【表17】
【0110】
参考文献
【表18】

図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】