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特表2022-523546Sat2Oトリグリセリドを含む脂肪組成物
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  • 特表-Sat2Oトリグリセリドを含む脂肪組成物 図1a
  • 特表-Sat2Oトリグリセリドを含む脂肪組成物 図1b
  • 特表-Sat2Oトリグリセリドを含む脂肪組成物 図1c
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-25
(54)【発明の名称】Sat2Oトリグリセリドを含む脂肪組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20220418BHJP
   A23G 1/36 20060101ALI20220418BHJP
   A23G 1/46 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
A23D9/00
A23D9/00 510
A23G1/36
A23G1/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021552512
(86)(22)【出願日】2020-03-05
(85)【翻訳文提出日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2020055905
(87)【国際公開番号】W WO2020178396
(87)【国際公開日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】1950284-8
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515062913
【氏名又は名称】エイエイケイ、アクチボラグ (ピーユービーエル)
【氏名又は名称原語表記】AAK AB (PUBL)
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ユール ビャーネ
【テーマコード(参考)】
4B014
4B026
【Fターム(参考)】
4B014GB01
4B014GB02
4B014GG11
4B014GG14
4B026DC01
4B026DC06
4B026DG15
4B026DG20
(57)【要約】
本発明は、少なくとも75%がSat2O型であるトリグリセリドを含む脂肪組成物に関し、該脂肪組成物において、a) St2Oの含有量が総脂肪の30%以下であり、b) 比率(StOSt+StStO)/(POSt+PStO+StPO)が少なくとも0.95である。本発明はまた、本発明による脂肪組成物の使用、および本発明による脂肪組成物を含むコーティング剤、チョコレートまたはチョコレート様製品に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも75%がSat2O型であるトリグリセリドを含む脂肪組成物であって、該脂肪組成物において、
c) St2Oの含有量が総脂肪の30%以下であり、
d) 比率(StOSt+StStO)/(POSt+PStO+StPO)が少なくとも0.95である、
脂肪組成物。
【請求項2】
前記トリグリセリドの75%~85%がSat2O型である、請求項1に記載の脂肪組成物。
【請求項3】
前記トリグリセリドの77%~83%がSat2O型である、請求項1または2に記載の脂肪組成物。
【請求項4】
St2Oの含有量が総脂肪含有量の28%以下である、前記請求項のいずれか一項に記載の脂肪組成物。
【請求項5】
比率(StOSt+StStO)/(POSt+PStO+StPO)が少なくとも1である、前記請求項のいずれか一項に記載の脂肪組成物。
【請求項6】
比率(StOSt+StStO)/(POSt+PStO+StPO)が1~3である、前記請求項のいずれか一項に記載の脂肪組成物。
【請求項7】
乳脂肪をさらに含み、脂肪組成物中の乳脂肪の含有量が、総脂肪含有量の20wt%以下、例えば総脂肪含有量の15wt%以下、例えば総脂肪含有量の10wt%以下である、前記請求項のいずれか一項に記載の脂肪組成物。
【請求項8】
トリグリセリドの%含有量が、AOCS Ce 5b-89標準法に従って測定される、前記請求項のいずれか一項に記載の脂肪組成物。
【請求項9】
コーティング剤である、前記請求項のいずれか一項に記載の脂肪組成物。
【請求項10】
チョコレートまたはチョコレート様の脂肪組成物である、前記請求項のいずれか一項に記載の脂肪組成物。
【請求項11】
人消費用の加工食品を製造するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の脂肪組成物の使用。
【請求項12】
菓子製品の材料としての、請求項1~10のいずれか一項に記載の脂肪組成物の使用。
【請求項13】
菓子製品用のコーティング剤の材料としての、請求項1~10のいずれか一項に記載の脂肪組成物の使用。
【請求項14】
チョコレートまたはチョコレート様製品の材料としての、請求項1~10のいずれか一項に記載の脂肪組成物の使用。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか一項に記載の脂肪組成物を15重量%~60重量%、例えば20重量%~50重量%含む、コーティング剤、チョコレートまたはチョコレート様製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本開示は、少なくとも75%がSat2O型であるトリグリセリドを含む脂肪組成物に関する。本発明はまた、本開示による脂肪組成物の使用、および該脂肪組成物を含むコーティング剤またはチョコレートもしくはチョコレート様製品に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
菓子製品、例えばチョコレートまたはチョコレート様製品を製造する場合は、チョコレート特有の溶融性と味を維持しながら、同時に良好なブルーム安定性(bloom stability)、良好な形状安定性を備えた製品を製造することが非常に重要である。
【0003】
菓子製品では、カカオバター(cocoa butter:CB)とカカオバター同等物(cocoa butter equivalent:CBE)がよく知られている材料である。CBEの製造は、CBと同じトリグリセリドを含む脂肪、例えば、パーム油、シアバター、イリッペ(illipe)など、の画分に基づいている。トリグリセリドの主要部分は、対称性のSatUSat型(Sat=飽和脂肪酸、U=不飽和脂肪酸)、より具体的にはStOSt、POSt、およびPOP(P=パルミチン酸(C16:0)、St=ステアリン酸(C18:0)、O=オレイン酸(C18:1))である。
【0004】
カカオバター(CB)およびカカオバター同等物(CBE)は、AOCSの公定法であるCe 5b-89(The American Oil Chemists' society; Triglycerides in Vegetable Oils by HPLC)により測定して、約75~85%のSat2Oトリグリセリド(対称性と非対称性の両方)で構成されており、ほとんどの場合、77~83%のSat2Oトリグリセリドで構成されている。
【0005】
AOCS Ce 5b-89法は、C44~C56トリグリセリド(TAG)の測定を対象とする「相対」法である。AOCS法では、ピーク面積の合計が100%トリグリセリドに相当すると仮定して計算しているため、不純物は考慮されていない。この方法で使用する計算式は、以下の通りである。
%トリグリセリド=(ピークの面積/全ピークの合計)×100
【0006】
チョコレートまたはチョコレート様製品の官能性、食感(テクスチャー)、溶融プロファイル、収縮、テンパリング(tempering)挙動、ブルーム安定性、および熱安定性は、脂肪の様々な特性、すなわち、75~85%のSat2O TAGと、3つのTAG(POP、POSt、およびStOSt;ならびにそれらの異性体)間の比率とに密接に関係している。
【0007】
カカオバターでは、異なるSat2O TAG間の比率に若干のばらつきがあるが、POStの含有量が最も高く、次にStOStが続き、POPが最も低い。
【0008】
標準的なカカオバターは、表1に示すようなSat2O組成を有する。
【0009】
【表1】
【0010】
カカオバター同等物は通常、チョコレートのレシピに含まれるカカオバターの一部を交換するために使用される。そうすることで、カカオバター(CB)だけの使用では達成できない有益な特性、例えばブルーム安定性の向上が得られる。すでに多くの標準的なCBEが市場に出回っている。
【0011】
耐熱性およびより高い融点は、それに続いてワックスのような味があり、StOSt TAGのより高い含有量と密接に関連していることが知られている。この関係は、シアステアリン(shea stearin)またはサルステアリン(Sal stearin)などの異なる原料からのStOSt TAGをチョコレートに添加することにより業界で利用されている。より高いStOSt含有量はまた、昇温でチョコレートをよりブルーム安定性にするだろう。
【0012】
Ghazaniら(Cryst. Growth Des. 2019, 19, 90-97; The Triclinic Polymorphism of cocoa butter Is Dictated by Its Major Molecular Species, 1-Palmitoyl, 2-Oleoyl, 3-Stearoyl Glycerol (POS)(非特許文献1))は、POSの多形転移と、カカオバターのフォームV(チョコレートの結晶からの固体状態転移)からフォームVIへの変換との可能な関係性を示しており、フォームVIはブルーム現象と関連している。
【0013】
長鎖および短鎖脂肪酸を含むエステル交換した組成物を少量添加することは知られており、EP0530864B1(特許文献1)およびPCT/DK02/00728(特許文献2)に教示されるように、チョコレートのブルーム抑制脂肪として使用されるが、共晶効果、石けんのような味のリスク、得られた製品の水素添加の表示という欠点がある。
【0014】
非対称性TAGの添加は、チョコレートへのブルーム遅延効果があることが知られている(PCT/DK2005/000647(特許文献3))。
【0015】
上述のことから、カカオバターの認識できる溶融プロファイルを維持し、ワックスのような味がなく、良好なブルーム安定性を有する脂肪組成物が求められているようである。得られたチョコレートがブルーム現象を起こさないように、広い温度範囲にわたってブルーム安定性が存在する、すなわち、通常よりも高い貯蔵温度でも、通常よりも低い貯蔵温度でも、ブルーム耐性が達成される、ことが好ましい。
【0016】
したがって、本発明の主な目的は、昇温で良好なブルーム安定性が得られる脂肪組成物を提供することである。さらに、この脂肪組成物は、ワックスのような味がしないなど、官能的側面が良好であるべきである。
【0017】
もう一つの目的は、昇温で良好なブルーム安定性を示し、最終菓子製品にワックスのような味をつけない脂肪組成物を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】EP0530864B1
【特許文献2】PCT/DK02/00728
【特許文献3】PCT/DK2005/000647
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Ghazaniら(Cryst. Growth Des. 2019, 19, 90-97; The Triclinic Polymorphism of cocoa butter Is Dictated by Its Major Molecular Species, 1-Palmitoyl, 2-Oleoyl, 3-Stearoyl Glycerol (POS)
【発明の概要】
【0020】
本発明は、少なくとも75%がSat2O型であるトリグリセリドを含む脂肪組成物であって、該脂肪組成物において、
a) St2Oの含有量が総脂肪の30%以下であり、
b) 比率(StOSt+StStO)/(POSt+PStO+StPO)が少なくとも0.95である、
脂肪組成物に関する。
【0021】
本発明は、カカオバターおよび/またはCBEをベースとしたチョコレートに見られるものと同じSat2O TAGをベースとするが、個々のTAG間のそれらの比率が標準的なチョコレートの該組成物中の比率と比べて非常に特殊である、定義された範囲の脂肪組成物を対象としている。
【0022】
本発明者らは、標準チョコレートと同じちょうど良い速さの溶融性を確実にするためには、St2O(すなわち、StOStおよびStStO)TAGの含有量を、標準チョコレート組成物に見られるSt2Oの含有量に近くするか、それよりも低くする必要があるが、同時に、昇温でのブルーム安定性を向上させ、かつ標準カカオバターを用いることで見られるちょうど良い溶融性をなおも保持するためには、StOSt/POSt(およびそれらの異性体)の比率をかなり高くする必要があることを示した。
【0023】
上記で定義されたブルーム安定性と良好な溶融性を有する脂肪組成物は、Sat2O TAGの含有量が少なくとも75%、St2Oの含有量が30%以下、(StOSt+StStO)/(POSt+PStO+StPO)の比率が0.95以上、例えば1~3の範囲、であるものと定義することができる。
【0024】
本開示からわかるように、StOStの含有量について述べるとき、それはその異性体StStOをも対象としており、また、上記の比率の(POSt+PStO+StPO)について述べるとき、それはPOStの異性体の全部である。したがって、本文中で比率StOSt/POStの短縮形式に言及する場合、それは、(StOSt+StStO)/(POSt+PStO+StPO)、つまりそれらの異性体の全部、を対象とすることを意味している。
【0025】
脂肪組成物は、カカオバターの起源、含有量、異なるカカオバター同等物の添加、および用量に応じて、多くの異なる方法で得ることができ、様々なトリグリセリド源を用いて作ることができる。脂肪組成物は、少なくともPOP源、POSt源、およびStOSt源を含む。これらのトリグリセリドの起源は、天然に存在してもよいし、合成的に製造されてもよい。
【0026】
標準的なCBでは、St2Oの含有量がやはり30%以下であるが、その場合、StOSt/POStの比率は0.95をかなり下回る(およそ0.7~0.8)。標準的なCBEでは、1を超える比率が観察されることがあるが、そのようなCBEは、St2O量が30%以下になることはない。
【0027】
前記の技術的効果を達成するためには、両方の特性を満たす必要がある。St2Oの量だけを増やすと、溶融特性が変化して、上述したようにワックスのような味と食感が生じる。この新規で十分に定義された特別の脂肪組成および利点を備えたチョコレートまたはチョコレート様製品には、総脂肪含有量の最大20wt%の乳脂肪、例えば総脂肪含有量の最大10wt%の乳脂肪、を含むチョコレートまたはチョコレート様製品も含まれる。
【0028】
実施例により支持されるように、ブルーム抑制効果とともに、このような良好な官能的側面を有する脂肪組成物の開発が可能であることは、驚くべきことである。
【0029】
また、昇温で改善されたブルーム安定性をもたらし、さらにワックスのような味がしないなどの良好な官能的側面を有する脂肪組成物の開発が可能であることも、驚くべきことである。
【0030】
本発明はさらに、人消費用の加工食品を製造するための脂肪組成物の使用に関する。
【0031】
本発明はまた、人消費用の食品に組み込まれることになる脂肪成分としての脂肪組成物の使用にも関する。
【0032】
菓子製品の材料としての、またはチョコレートもしくはチョコレート様製品の材料としての、または菓子製品のコーティング剤(coating compound)の材料としての脂肪組成物の使用も本明細書に開示される。
【0033】
本発明はまた、15~60重量%、例えば20~50重量%、の本開示による脂肪組成物を含むコーティング剤、チョコレート、またはチョコレート様製品に関する。
【0034】
昇温で改善されたブルーム安定性を示し、ワックスのような味がしない、本開示の脂肪組成物を含むコーティング剤、チョコレート、またはチョコレート様製品を製造することが可能であることは、驚くべきことである。
【0035】
定義
本発明との関係において、以下の用語は、説明で他に定義されない限り、以下を含むことを意味する。
【0036】
用語「約」、「ほぼ」、または「およそ」は、例えば、当技術分野で一般的に経験される測定の不確かさを示すことを意味し、例えば、±1、2、5、10%などの大きさであり得る。
【0037】
用語「含む」(「comprising」または「to comprise」)は、記載された部品、ステップ、特徴、または成分の存在を指定するが、1つまたは複数の追加の部品、ステップ、特徴、または成分の存在を排除しないと解釈されるべきである。
【0038】
本明細書で使用する「植物油」および「植物性脂肪」は、特に明記しない限り、交換可能に使用される。本明細書で使用する用語「植物(性)」(vegetable)は、その元の化学構造/組成を保持している植物に由来するものと理解される。したがって、植物性脂肪または植物性トリグリセリドは、脂肪成分またはトリグリセリドの化学構造が変化しない限り、分画などを経てもなお植物性脂肪または植物性トリグリセリドと理解されるべきである。植物性トリグリセリドが例えばエステル交換される場合、それらは本状況ではもはや植物性トリグリセリドとは理解されない。
【0039】
同様に、本明細書で使用する場合の「非植物性トリグリセリド」または「非植物性脂肪」との関係において用語「非植物性」とは、天然植物油もしくはその画分以外の供給源から得られたもの、またはエステル交換後に得られたものを意味することを意図している。非植物性トリグリセリドの例は、例えば、動物性脂肪および/またはエステル交換から得られたトリグリセリドであり得るが、これらに限定されない。
【0040】
本明細書で使用する用語「単細胞油」(single cell oil)とは、酵母、カビ(真菌)、細菌、または微細藻類の種である油脂性微生物からの油を意味するものとする。こうした単細胞油は、特定の成長条件下で(例えば、窒素制限と同時に過剰の炭素源の下で)定常期に細胞内で生成される。油脂性微生物の例は、菌類-ケカビ属(Mucor)およびクサレケカビ属(Mortierella)(様々な種、例:M. アルピナ(M. alpina));油脂性酵母-ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica);藻類-シゾキトリウム属(Schizochytrium)、ナンノクロロプシス属(Nannochloropsis)、クロレラ属(Chlorella)(様々な種);渦鞭毛藻の微細藻類(Dinoflagellate microalgae)-海洋性微細藻(Crypthecodinium cohnii);海洋細菌(Marine bacteria)-シェワネラ属(Shewanella)であるが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書で使用する用語「トリグリセリド」は、用語「トリアシルグリセリド」と交換可能に使用することができ、グリセロールと3つの脂肪酸から誘導されるエステルと理解すべきである。「トリグリセリド」は、TGまたはTAGと略記することができる。特定の分子式を有する単一のトリグリセリド分子は、植物性または非植物性のいずれかの起源のものである。例えばStOStトリグリセリドのような、いくつかのトリグリセリドは、植物源および/または非植物源の両方から得ることができる。したがって、StOStトリグリセリドを含む脂肪相は、植物源のみから得られたStOStトリグリセリド、または非植物源のみから得られたStOStトリグリセリド、またはそれらの組み合わせを含み得る;すなわち、前記脂肪相は、植物源から得られたいくつかのStOStトリグリセリド分子と、非植物源から得られたいくつかのStOStトリグリセリド分子を含み得る。
【0042】
脂肪組成物とは、チョコレートもしくはチョコレート様製品、またはコーティング剤の総脂肪含有量を意味し、植物性脂肪、カカオバイオマス由来のカカオバター(例えば、カカオパウダー、カカオリカー)を含むことができ、乳脂肪および他の脂肪源を含んでもよい。また、脂肪組成物とは、固形バーなどの菓子製品またはコーティング剤の総脂肪含有量を意味することもある。それゆえ、菓子製品の総脂肪含有量とは、詰め物(filling)を含まない菓子製品を意味する(すなわち、菓子製品に詰め物が含まれている場合には、詰め物の脂肪は総脂肪の計算から除外される)。
【0043】
本明細書で使用する「食用」とは、食物として、または乳製品もしくは菓子製品などの食品の一部として使用するのに適しているものである。したがって、食用脂肪は、食物または食品中の脂肪として使用するのに適しており、食用組成物は、食物または乳製品もしくは菓子製品などの食品中で使用するのに適した組成物である。
【0044】
トリグリセリド(TAG)の%量は、HPLCで植物油中のトリグリセリドを測定するための標準的な方法であるAOCS Ce 5b-89法を用いて測定される。そのため、トリグリセリドを測定する場合、%は、ある値が別の値のより小さな部分であるときの相対値(wt%または重量%ではない)を意味し、相対寄与(relative contribution)を説明することを目的としている。使用した方法(AOCS Ce 5b-89)は、TAGの異性体の状態の違いを測定せず、それゆえに所与のTAGの異なる異性体を考慮しないため、実施例で各TAGの下に指定された量には、非対称性の異性体が含まれている。したがって、例えば、本明細書の表にPOStが記載されている場合、それはその異性体であるPStOおよびStPOをも含む。
【0045】
本明細書で使用する「チョコレート」とは、チョコレートおよび/またはチョコレート様製品として理解されるべきである。あるチョコレートはカカオバターを、通常かなりの量で、含んでいるが、あるチョコレート様製品は、例えばカカオバターをカカオバター同等物、カカオバター代替物などに置き換えることで、少量のカカオバターを用いて、またはカカオバターを用いなくても、製造することができる。また、多くのチョコレート製品は、カカオパウダーまたはカカオマスを含んでいるが、典型的なホワイトチョコレートなどの一部のチョコレート製品は、カカオパウダーなしで、しかし例えばカカオバターからチョコレートの風味を引き出して、製造することができる。国および/または地域によっては、チョコレートとして販売される製品に様々な制限が存在することがある。チョコレート製品とは、少なくとも消費者がチョコレートとして感じるか、またはチョコレートに共通の官能的特性(例えば、溶融プロファイル、味など)を備えた菓子製品として感じる製品を意味する。
【0046】
チョコレートはまた、「ミルクチョコレート」と表示されていないが、乳脂肪を含むチョコレートであり得る。欧州の法律では、チョコレートをミルクチョコレートと表示するためには、チョコレートレシピ全体の最低3.5wt%の乳脂肪を含む必要があり、これは脂肪含有量に応じて標準的なチョコレートの脂肪組成物の7~14wt%に相当する。
【0047】
本明細書で使用する「カカオバター同等物」またはCBEとは、カカオバターと非常に類似した化学的・物理的特性を有し、かつカカオバターと適合性がある食用脂肪を意味することを意図している。カカオバターとカカオバター同等物では、両方とも、主な脂肪酸は通常、パルミチン酸とステアリン酸とオレイン酸である。トリグリセリドは典型的には、2-オレオジ飽和(SatOSat(Sat2O))である。カカオバター同等物は、カカオバターとのその類似性にもかかわらず、チョコレートではカカオバターのものとはかなり異なるトリグリセリド比で検出されることがある。カカオバター同等物は、例えば、パーム中融点画分(palm mid fraction)と、シアステアリンの分画部分またはSatOSatトリグリセリドが豊富な別の油画分との混合物から作られる;ここでSatは、鎖長がC16以上、例えばC16およびC18、の飽和脂肪酸である。
【0048】
飽和脂肪酸には略語SAFAが使用され、トランス不飽和脂肪酸には略語TFAが使用される。
【0049】
SまたはSatは飽和脂肪酸/アシル基を意味し、Uは不飽和脂肪酸/アシル基を意味する。式SSU、SUSなどのトリグリセリドに含まれ、SSU/SUS比で言及される脂肪酸は、同一または異なる、飽和および不飽和の脂肪酸であり得る。Stはステアリン酸/ステアレート(C18:0)を意味し、Oはオレイン酸/オレエート(C:18:1)を意味し、Pはパルミチン酸(C16:0)を意味し、St2OにはStOStとStStOが含まれ、Sat2OにはPOP、POSt、StOSt、PPO、PStO、StPOおよびStStOが含まれる。
【0050】
本明細書で使用する「熱安定性チョコレート」とは、高温および高温による影響に対して比較的高い耐性、特にブルーム安定性および形状安定性、を有するチョコレートのことである。特定の態様では、熱安定性チョコレートは、従来のチョコレート製品ではそのような安定性が通常失われる温度を上回っても、この熱安定性、特にブルーム安定性を保持するであろう。
【0051】
これに関連して、用語「ブルーム耐性」とは、ブルーム形成に抵抗するチョコレートの特性を指す。したがって、本文脈におけるチョコレートのブルーム耐性の増加または向上は、チョコレートが、表面上の白/灰色の脂肪層として観察されるブルーム現象に対してより高い耐性を有する、ことを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
本発明は、以下の図面によってさらに説明される。
図1a図1a:ダークチョコレートのStOSt/POStの比率とブルーム安定性との関係を示す。
図1b図1b:ダークチョコレートのBCI値とブルーム安定性との関係を示す。
図1c図1c:BCI値とStOSt/POStの比率との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
発明の詳細な説明
本明細書では、少なくとも75%がSat2O型であるトリグリセリドを含む脂肪組成物であって、該脂肪組成物において、
a) St2Oの含有量が総脂肪の30%以下であり、
b) 比率(StOSt+StStO)/(POSt+PStO+StPO)が少なくとも0.95である、
脂肪組成物が開示される。
【0054】
一態様では、前記トリグリセリドの75%~85%はSat2O型である。別の態様では、前記トリグリセリドの77%~83%はSat2O型である。
【0055】
St2Oの含有量は、一態様では、総脂肪含有量の29%以下である。St2Oの含有量は、一態様では、総脂肪含有量の28%以下である。
【0056】
St2Oの含有量は、一態様では、8%~30%、例えば10%~28%である。
【0057】
一態様では、比率(StOSt+StStO)/(POSt+PStO+StPO)は少なくとも1である。別の態様では、比率(StOSt+StStO)/(POSt+PStO+StPO)は1~3である。
【0058】
St2O TAGの含有量は、標準チョコレートと同じちょうど良い速さの溶融性を確実にするために、標準チョコレート組成物に見られるSt2Oの含有量に近くするか、それよりも低くする必要があるが、同時に、StOSt/POStの比率は、昇温でのブルーム安定性を向上させ、かつ標準カカオバターを用いることで見られるちょうど良い溶融性をなおも保持するために、かなり高くする必要がある。
【0059】
上記で定義されたブルーム安定性で良好な溶融性の脂肪組成物は、Sat2O TAGの含有量が75%より高く、St2Oの含有量が30%より低く、(StOSt+StStO)/(POSt+PStO+StPO)の比率が0.95以上、例えば1~3の範囲、であるものと定義することができる。
【0060】
実施例から示されるように、最大30%のSt2O TAGを含むチョコレートまたはチョコレート様製品の場合、StOSt/POStの比率を増加させると、25℃の等温で貯蔵されたダークチョコレートのブルーム安定性が向上することが観察され、結論付けられる。
【0061】
図1aは、StOSt/POStの比率が昇温でのチョコレートのブルーム安定性にとって非常に重要であることを示しており、StOSt/POStの比率が0.95以上になると、ブルーム安定性が大幅に向上すると結論付けることができる。
【0062】
一態様では、脂肪組成物のトリグリセリドの%含有量は、AOCS Ce 5b-89標準法に従って測定することができる。
【0063】
一態様では、脂肪組成物は乳脂肪を含まない。
【0064】
脂肪組成物は、一態様では、乳脂肪をさらに含むことができる。一態様では、乳脂肪の含有量は、総脂肪含有量の20wt%以下、例えば総脂肪含有量の15wt%以下、例えば総脂肪含有量の10wt%以下である。一態様では、乳脂肪の含有量は、総脂肪含有量の0~20wt%、例えば総脂肪含有量の0~15wt%、例えば総脂肪含有量の0~10wt%、例えば総脂肪含有量の0~5wt%である。
【0065】
一態様では、脂肪組成物は、チョコレートまたはチョコレート様の脂肪組成物である。別の態様では、脂肪組成物はコーティング剤である。
【0066】
さらに、人消費用の加工食品を製造するための、本開示の脂肪組成物の使用が開示される。
【0067】
さらに、人消費用の食品に組み込まれることになる、本開示の脂肪組成物の使用も開示される。
【0068】
さらに、菓子製品の材料としての、本開示の脂肪組成物の使用も開示される。
【0069】
さらに、菓子製品用のコーティング剤の材料としての、本開示の脂肪組成物の使用も開示される。コーティング剤は、通常、15~60重量%の脂肪組成物、例えば20~50重量%の脂肪組成物を含む。
【0070】
さらに、チョコレートまたはチョコレート様製品の材料としての、本開示の脂肪組成物の使用も開示される。チョコレートまたはチョコレート様製品は、通常、15~60重量%の脂肪組成物、例えば20~50重量%の脂肪組成物を含む。
【0071】
さらに、本開示の脂肪組成物を15~60重量%、例えば20~50重量%、含むコーティング剤、チョコレートまたはチョコレート様製品も開示される。
【実施例
【0072】
実施例では、25℃の等温貯蔵を代表的な温度として使用するが、これは、少なくとも夏の間、ほとんどの国で普通の貯蔵温度であるためである。しかし、チョコレート業界では、23℃および27℃でも問題がある;室温(19~21℃)を超える昇温は、ブルーム発生を促進し、かつ貯蔵寿命を著しく降下させる。
【0073】
実施例1:
ブルーム形成は、チョコレートの品質を評価するための標準的なパラメータの一つである。ブルームはチョコレートの貯蔵中に形成され、その形成は貯蔵温度の上昇とともに促進される。19℃~21℃の室温では、よく加工されたダークチョコレートの貯蔵寿命(すなわち、ブルームが形成されるまでの期間)は1年より長いが、25℃の等温貯蔵で保存した場合には、1.5~3ヶ月に短縮される。
【0074】
消費者はブルームのある製品を低品質の粗悪品として拒絶する反応を示すため、強いブルームの形成を避けることが望ましい。25℃という温度は多くの国で夏場によく見られる温度であり、それゆえ、この温度でのブルーム安定性を向上させることは、市場にとって大きな改善となる。こうした理由のため、全ての実施例は、訓練を受けた専門家パネルにより25℃±0.5℃で評価される。以下の実施例では、目に見える強いブルームが形成されるまでの日数が、貯蔵寿命の結果として記録される。
【0075】
カカオバター、シアステアリン、およびPMF IV 33(パーム中融点画分)を、少なくともStOSt源、POP源、およびPOSt源を含む特定のトリグリセリド組成物に混合することによって、6つの異なる脂肪組成物を作る。脂肪組成物Iは標準カカオバターであり、それゆえ基準脂肪である。6つの異なる脂肪組成物を用いて、表2のレシピに従って6つの異なるチョコレートを製造する。
【0076】
【表2】
注:脂肪組成物中の脂肪含有量の一部はカカオパウダー由来である。
【0077】
レシチン、バニリン、および脂肪の一部を除く全ての材料を混合した後、残りを加熱ジャケット付きのTeddyミキサーでマジパン(marcipan)の硬さになるまで混ぜる。その後、全部の混合物をBuehler社の3本ロールリファイナーで微粒子化して平均粒子サイズを20ミクロンとする。6つ全部のマスを3時間乾式コンチング(chonching)した後、残りの脂肪を加えてから3時間湿式コンチングする。コンチングが終わる0.5時間前に、レシチンとフレーバーを加える。このチョコレートをAasted社の自動テンパリングマシンに充填し、6つ全部のチョコレートに対してテンパリングを最適化して、良好なテンパーチョコレート(temper chocolate)にする;その後、良好なテンパーチョコレートを予め温めておいた型に流し込み、Blumenの3ゾーン冷却トンネルで30分間冷却して、100gのチョコレートバーを作る。温度をゾーン1および3では15℃に、ゾーン2では12℃に調整する。型から取り出したチョコレートタブレットを20℃で1週間保存し、次に25℃のキャビネットに移して等温貯蔵する。毎週、訓練を受けた専門家パネルがタブレットの目に見えるブルームを評価する;目に見える強いブルームが観察された場合には、その日数を貯蔵寿命の結果として書き留める。分析のために100gのタブレットを発送する。全ての脂肪を抽出し(AOAC 920.39(4.5.01)の方法を使用)、トリグリセリドの組成をAOCS Ce 5b-89法を用いて分析する。
【0078】
表3は、表2からのチョコレートタブレットの、AOCS Ce 5b-89法を用いて得られた異なるSat2O TAGの含有量と、貯蔵寿命の比較を示す。使用した方法(AOCS Ce 5b-89)では、TAGの異性体状態の違いが測定されないため、実施例で各TAGの下に指定された量には非対称性の異性体が含まれている。したがって、例えば、表にPOStと記載されている場合、それには、その異性体であるPStOおよびStPOも含まれる。
【0079】
【表3】
**注:BCI値=Buehler結晶化指数。この方法は、この機器を製造しているBuehler社により記載されている。
【0080】
BCI値は、チョコレートおよび油脂業界で、カカオバターの結晶化挙動を素早く予測するために使用される。これは経験値であり、4を超えるBCI値は、結晶化挙動に関して良質のカカオバターであると広く認められている。このように、これは当業界で知られている経験値である。
【0081】
図1a、1b、および1cの結果は、脂肪組成物の25℃でのブルーム安定性とBCI値と比率StOSt/POStとの間に密接な関係があることを示している。
【0082】
図1bから明らかなように、驚くべきことに、BCI値が低いことは、脂肪組成物が昇温で最高のブルーム安定性を示すことを明示している;これは、BCI値が高いと品質がより良いというBCI値の一般的な理解とは正反対である。おそらく、これは結晶化に関しては真実であろうが、25℃でのブルームに関しては明らかに真実ではなく、1.6未満のBCI値が好ましいようである(図1bを参照)。
【0083】
チョコレートIは、100%カカオバター(基準)に基づく標準チョコレートであり、チョコレートIの脂肪組成物は、25℃の等温貯蔵キャビネット内で急速にブルームを形成し、わずか56日後に強いブルーム状態になることが明らかであり、これは、多くの用途において貯蔵寿命が短すぎる。
【0084】
最大30%のSt2O TAGを含むチョコレートの場合、StOSt/POStの比率を上げると、25℃の等温で貯蔵されたダークチョコレートのブルーム安定性が高まることが観察され、結論付けられる。
【0085】
図1aは、StOSt/POStの比率が昇温でのチョコレートのブルーム安定性にとって非常に重要であることを示しており、StOSt/POStの比率が0.95以上になると、ブルーム安定性が大幅に向上すると結論付けることができる。
【0086】
図2aは、チョコレートのBCI値と、25℃の等温でのブルーム安定性との相関関係を示している。低いBCI値は、高いBCI値よりも、25℃でのブルーム安定性をはるかに長くする;BCI値が1と2の間にある場合、それは、総Sat2O TAGのうちStOSt(および異性体)TAGを最大30%含むチョコレートでは、低いブルーム安定性から高いブルーム安定性へと変える。
【0087】
図1cは、特定の脂肪組成物のStOSt/POSt比率とBCI値との密接な関係を示している。StOSt/POSt比率が1.1未満の場合、BCI値は大幅に増加し、これは、結晶化が非常に速く、それによりブルーム形成との相関関係があることを示している。1.1を超えると、本発明による全ての脂肪組成物のBCI値はほぼ一定である。
【0088】
実施例2:
非対称性の異性体であるStStO、PStO/StPO、およびPPOの含有量は、特定の濃度で、チョコレートまたはチョコレート様製品のブルーム形成に影響を与えるであろう。使用した方法(AOCS Ce 5b-89)では、TAGの異性体状態の違いが測定されないため、実施例で各TAGの下に指定された量にはこれらの非対称性の異性体が含まれている。
【0089】
実施例2では、これらの異性体の濃度が一定の場合、(StOSt+StStO)/(POSt+PStO+StPO)の比率は、驚くべきことに、異性体の存在に関わりなく、25℃±0.5℃の等温で保存されたチョコレートバーのブルーム安定性に対してなおも大きな影響を与えることを示す;それゆえ、この実施例では、非対称TAGを一定に保つと、(StOSt+StStO)と(POSt+PStO+StPO)の関係がブルーム安定性に影響を与えることを示す。
【0090】
カカオバター、シアステアリン、およびPMF IV 33(パーム中融点画分)を、少なくともStOSt源、POP源、およびPOSt源を含む特定のトリグリセリド組成物に混合することによって、5つの異なる脂肪組成物を作る。
【0091】
5つの異なる脂肪組成物を用いて、表4のレシピに従って5つの異なるチョコレートを製造する。
【0092】
【表4】
注:脂肪組成物中の脂肪含有量の一部はカカオパウダー由来である。
【0093】
レシチン、バニリン、および脂肪の一部を除く全ての材料を混合した後、残りを加熱ジャケット付きのTeddyミキサーでマジパンの硬さになるまで混ぜる。その後、全部の混合物をBuehler社の3本ロールリファイナーで微粒子化して平均粒子サイズを20ミクロンとする。6つ全部のマスを3時間乾式コンチングした後、残りの脂肪を加えてから3時間湿式コンチングする。コンチングが終わる0.5時間前に、レシチンとフレーバーを加える。このチョコレートをAasted社の自動テンパリングマシンに充填し、5つ全部のチョコレートに対してテンパリングを最適化して、良好なテンパーチョコレートにする;その後、良好なテンパーチョコレートを予め温めておいた型に流し込み、Blumenの3ゾーン冷却トンネルで30分間冷却して、100gのチョコレートバーを作る。温度をゾーン1および3では15℃に、ゾーン2では12℃に調整する。型から取り出したチョコレートタブレットを20℃で1週間保存し、次に25℃のキャビネットに移して等温貯蔵する。
【0094】
毎週、訓練を受けた専門家パネルがタブレットの目に見えるブルームを評価し、目に見える強いブルームが観察される場合には、その日数を貯蔵寿命の結果として書き留める。100gのタブレットを分析のために発送する。全ての脂肪含有量を抽出し(AOAC 920.39(4.5.01)の方法を使用)、トリグリセリドの組成をAOCS Ce 5b-89法を用いて分析する。非対称性の異性体StStO+PStO/StPO+PPOの合計を分析する。分析は民間試験所で公知の方法により行うことができる。非対称性異性体の量は絶対法(absolute method)を用いて測定される。表5は、AOCS Ce 5b-89法を用いて見出された異なるSat2O TAGの含有量を示している。表5はまた、非対称性異性体StStO、PStO/StPO、およびPPOの総含有量も示している。このTAG組成物を、表4のレシピに基づくチョコレートタブレットの貯蔵寿命と比較する。
【0095】
【表5】
検出限界を下回る。
【0096】
チョコレートVII、VIII、およびIXは、ΣStStO+PStO+StPO+PPOが約1.6%±0.1%の一定の含有量である場合、比率StOSt/POStの増加と、25℃の等温貯蔵でのブルーム安定性の増加との間に明確な相関関係があることを示している。
【0097】
チョコレートXおよびXIは、ΣStStO+PStO+StPO+PPOが<0.5%の一定の含有量である場合、比率StOSt/POStの増加と、25℃の等温貯蔵でのブルーム安定性の増加との間に明確な相関関係があることを示している。
【0098】
これらの結果は、異性体StStO、PStO/StPO、およびPPOがチョコレートのブルーム遅延効果を有するとしても、25℃の等温での全体的なブルーム安定性を最大化するためには、StOSt/POStの比率を高めることが非常に重要であることを示している。
【0099】
実施例3:
St2O含有量の増加と25℃でのブルーム安定性の増加との相関関係だけでなく、St2O含有量の増加とチョコレートのよりワックス様で遅い溶融プロファイルとの間にも相関関係があることが知られている。そのため、チョコレートのようなテクスチャーとちょうど良い溶融性をなおも維持できる、チョコレートに含めることができるSt2O TAGの量には限度がある。この関連性を説明するために、4つのチョコレートを作り、Mettler Toledo社製のDSCで分析することにより、その融解ピーク値とエンドセット(end set)を調べた。表6は、DSC測定に使用した4つのチョコレートのレシピを示している。
【0100】
【表6】
注:脂肪組成物中の脂肪含有量の一部はカカオパウダー由来である。
【0101】
レシチン、バニリン、および脂肪の一部を除く全ての材料を混合した後、残りを加熱ジャケット付きのTeddyミキサーでマジパンの硬さになるまで混ぜる。その後、全部の混合物をBuehler社の3本ロールリファイナーで微粒子化して平均粒子サイズを20ミクロンとする。4つ全部のマスを3時間乾式コンチングした後、残りの脂肪を加えてから3時間湿式コンチングする。コンチングが終わる0.5時間前に、レシチンとフレーバーを加える。このチョコレートをAasted社の自動テンパリングマシンに充填し、4つ全部のチョコレートに対してテンパリングを最適化して、良好なテンパーチョコレートにする;その後、良好なテンパーチョコレートを予め温めておいた型に流し込み、Blumenの3ゾーン冷却トンネルで30分間冷却して、100gのチョコレートバーを作る。温度をゾーン1および3では15℃に、ゾーン2では12℃に調整する。型から取り出したチョコレートタブレットを20℃で1週間保存した後、グレーター(grater)で微粒子化する。表7は、AOCS Ce 5b-89法を用いて見出された異なるSat2O TAGの含有量を示している。TAG組成物を、4つの微粒子化チョコレートのDSC融解曲線のピーク値およびエンドセットと比較する。表6のレシピに基づく微粒子化チョコレート10mgをDSCカップに入れて秤量し、Mettler Toledo社のDSC装置で溶かす。プログラムは次のとおりである:20.0℃で2分間の等温、その後に20℃から50℃まで3℃/分の加熱速度が続く。融解曲線のピーク値とエンドセットの計算には、3回の分析の平均値を使用する。より高い値は、より高い融点およびより遅い溶融性、ならびに人が食べたときのワックスのような味と相関する。チョコレートXIIは、西アフリカ産のピュアプライムプレスカカオバターを使用した標準チョコレートである。表7の他の3つのチョコレートXIII、XIII、およびXVは、表7に示すようにStOSt(およびその異性体)がより多く添加されている。
【0102】
【表7】
【0103】
表7は、チョコレートのDSC融解曲線のピーク値とエンドセットに対するSt2O含有量の影響を示している。St2O TAGの含有量が高いほど、チョコレートが溶けたときのDSCのピーク値とエンドセットがより高くなる。「チョコレートのような」溶融挙動を維持するためには、ほとんどの人に受け入れられるSt2O TAGの最大レベルが存在するだろう。このレベルは、表7の結果とこの業界の常識に基づいて、最大30%と定義される。さらに良いのは、最大で29%、つまり使用されるカカオバターに限りなく近いレベルであろう。
【0104】
実施例4:
実施例4は、カカオバター組成物に乳脂肪を0wt%~10wt%の量で加えた場合、POSt、POP、StOStおよびそれらの異性体は単に希釈されるだけで、StOSt/POStの比率はほぼ一定であることを示す。
【0105】
それがカカオバターを含まないクリーンなCBE系であり、その組成物に最大10%の乳脂肪を配合した場合、StOSt/POStの比率に若干の影響があるだけで、大きな影響はなく、同じ傾向が見られる。
【0106】
したがって、該組成物への乳脂肪の添加量を比較的低く抑えれば、ブルーム安定性は影響されないと考えられる。
【0107】
【表8】
図1a
図1b
図1c
【国際調査報告】