IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フォトピル・メディカル・リミテッドの特許一覧

<>
  • 特表-腸微生物叢操作の方法及びデバイス 図1
  • 特表-腸微生物叢操作の方法及びデバイス 図2
  • 特表-腸微生物叢操作の方法及びデバイス 図3
  • 特表-腸微生物叢操作の方法及びデバイス 図4
  • 特表-腸微生物叢操作の方法及びデバイス 図5
  • 特表-腸微生物叢操作の方法及びデバイス 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-25
(54)【発明の名称】腸微生物叢操作の方法及びデバイス
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220418BHJP
   A61K 35/741 20150101ALI20220418BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 1/10 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220418BHJP
   A61N 5/06 20060101ALI20220418BHJP
   A61N 5/067 20060101ALI20220418BHJP
   A61B 18/20 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A61K35/741
A61K9/48
A61P1/04
A61P1/12
A61P1/10
A61P1/14
A61P3/04
A61P3/10
A61P25/24
A61P25/28
A61P31/04
A61P31/18
A61P37/08
A61P39/02
A61P35/00
A61N5/06 Z
A61N5/067
A61B18/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021552776
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(85)【翻訳文提出日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 IL2020050239
(87)【国際公開番号】W WO2020178819
(87)【国際公開日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】62/813,543
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521397197
【氏名又は名称】フォトピル・メディカル・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベン・イェフダ,シャロン
(72)【発明者】
【氏名】ベン・イェフダ,ラム
【テーマコード(参考)】
4B065
4C026
4C076
4C082
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AC09
4B065BD50
4B065CA44
4C026AA10
4C026FF60
4C026HH03
4C026HH24
4C076AA53
4C076BB01
4C076CC16
4C076FF68
4C082PA02
4C082PC10
4C082PE10
4C082PJ30
4C082RA10
4C082RE60
4C082RL03
4C082RL24
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087CA09
4C087MA37
4C087MA52
4C087NA13
4C087ZA12
4C087ZA16
4C087ZA66
4C087ZA68
4C087ZA70
4C087ZA72
4C087ZA73
4C087ZB13
4C087ZB26
4C087ZB35
4C087ZC35
4C087ZC37
4C087ZC55
(57)【要約】
本開示は、生体試料中の細菌増殖、存在量及び多様性を操作するシステム並びに方法を一般に提供する。特に、本発明は、腸微生物叢を操作するシステム及び方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸微生物叢の複数の細菌種の増殖を操作する方法であって、複数の細菌種を少なくとも1つのプロトコールに供する工程を含み、前記プロトコールが、前記あらかじめ定義された条件の組を含み、条件の組が、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明のエピソードを含む、方法。
【請求項2】
腸微生物叢の複数の細菌種の増殖を操作することが、対象から腸微生物叢の試料を得る工程と、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明のエピソードを含む少なくとも1つのプロトコールに前記試料を供する工程とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
腸微生物叢の複数の細菌種の増殖を操作することが、インサイチュで行われ、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明のエピソードを含む少なくとも1つのプロトコールに対象のGI管の少なくとも一部分を供する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
腸微生物叢の複数の細菌種の増殖を操作することが、インサイチュで行われ、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明のエピソードを含む少なくとも1つのプロトコールに対象のGI管の2つ以上の部分を供する工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
腸微生物叢の複数の細菌種の増殖を操作することが、複数の細菌種のうち少なくとも1つの増殖を阻害する工程を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
腸微生物叢の複数の細菌種の増殖を操作することが、複数の細菌種のうち少なくとも1つを排除する工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
腸微生物叢の複数の細菌種の増殖を操作することが、複数の細菌種のうち少なくとも1つの増殖を増強させる工程を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つのプロトコールが、細菌種の特定のプロファイルを創出するように設計されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つのプロトコールが、照明用量、波長、各照明の継続時間、照明エピソード回数、照明エピソードの頻度、酸素への曝露、湿度、音波への曝露、pH、無線周波数への曝露、温度、医薬品の存在、細菌種の存在及び生理活性物質の存在からなる群から選択されるパラメータのうち少なくとも1つをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
腸微生物叢の細菌種の所望のプロファイルを有する試料を得るための方法であって、
a)腸微生物叢の細菌種の開始試料を準備する工程と;
b)腸微生物叢の開始試料中の細菌種のプロファイルを決定する工程と;
c)細菌種の増殖を操作するように設計されたプロトコールを少なくとも1つ選択する工程であって、前記プロトコールが、あらかじめ定義された条件の組を含み、前記あらかじめ定義された条件の組が、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明エピソードを含む、工程と;
d)開始試料を少なくとも1つのプロトコールに供する工程と;任意に、
e)試料中の細菌種のプロファイルを決定する工程と
を含む、方法。
【請求項11】
少なくとも1つのプロトコールが、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも2回の照明エピソードを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つのプロトコールが、400nm~900nmの範囲の波長での連続した複数回の照明エピソードを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
照明の波長が、各エピソードで類似している、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも2つの異なる波長の照明を含む、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つのプロトコールが、開始試料中の細菌種の少なくとも1つの型の増殖を増強させるように設計されている、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つのプロトコールが、開始試料中の細菌種の少なくとも1つの型の増殖を阻害するように設計されている、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つのプロトコールが、開始試料中の細菌種の少なくとも1つの型を減量するように設計されている、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
開始試料を2つ又はより多くのプロトコールに供する工程を含み、各プロトコールが、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明エピソードを含む、請求項10~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
各プロトコールが、異なる細菌種の増殖を操作するように設計されている、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
開始試料を連続した複数のプロトコールに供する工程であって、各プロトコールが、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明エピソードを含む、工程を含む、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1つのプロトコールが、照明用量、波長、各照明の継続時間、照明エピソード回数、照明エピソードの頻度、酸素への曝露、湿度、音波への曝露、pH、無線周波数への曝露、温度、医薬品の存在、細菌種の存在及び生理活性物質の存在からなる群から選択されるパラメータのうち少なくとも1つをさらに含む、請求項10~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
420~460nmの範囲の波長である、請求項10~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
640~680nmの範囲の波長である、請求項10~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
830~880nmの範囲の波長である、請求項10~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
ヒト腸微生物叢をインサイチュで操作するためのシステムであって、
a)所望の細菌種プロファイルを有するヒト微生物叢の試料;
b)ヒト対象のGI管を通って移動するように構成されている嚥下可能な媒体であって、前記媒体が、少なくとも1つの発光ユニット、及びヒト微生物叢の試料を運搬及び放出するように構成されている少なくとも1つの貯蔵部を含む、媒体;
c)腸微生物叢を操作するための少なくとも1つのプロトコールであって、前記プロトコールが、あらかじめ定義された条件の組を含み、前記条件の組が、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明エピソードを含む、プロトコール;
d)媒体を制御するように構成されている、ソフトウェアによって稼働する制御装置;及び
e)少なくとも1つのあらかじめ定義された条件の組を、ソフトウェアによって稼働する制御装置にアップロードするように構成されているソフトウェア
を含む、システム。
【請求項26】
ソフトウェアによって稼働する制御装置が、発光ユニットの機能を調節する、媒体の運動を調節する、媒体の場所を同定する、媒体がGI管の所望の場所に到達するように指示する;所望の場所で腸微生物叢を操作するために少なくとも1つのプロトコールを送達する、所望の場所で少なくとも1つの貯蔵部からのカーゴの放出を作動させる機能のうち少なくとも1つを実現するように構成されている、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
発光ユニットが、400nm~900nmの範囲の波長で発光するように構成されている複数の発光素子を含む、請求項25又は26に記載のシステム。
【請求項28】
発光素子が、LED又はレーザービームである、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
システムが、制御装置と通信する熱電素子を少なくとも1つさらに含み、前記熱電素子が、局所温度を制御するように構成されている、請求項25~28のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項30】
媒体が、制御装置と通信する第2の貯蔵部をさらに含み、前記貯蔵部は、液体媒体をローディングされている、請求項25~29のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項31】
液体培地が、所望の場所で第2の貯蔵部から放出される、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
液体培地が、水又は生理食塩水である、請求項30又は31に記載のシステム。
【請求項33】
制御装置が、所望の場所で腸微生物叢を操作するために2つ又はより多くのプロトコールを送達するように構成されている、請求項25~32のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項34】
2つ又はより多くのプロトコールが、GI管の同一部位に送達される、請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
2つ又はより多くのプロトコールが、GI管の異なる位置に送達される、請求項33に記載のシステム。
【請求項36】
制御装置が、複数のプロトコールを送達するように構成されている、請求項33~35のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項37】
腸微生物叢を操作することによってヒト対象における障害を処置するための方法であって、
a)インサイチュでヒト腸微生物叢を操作するシステムを提供する工程であって、前記システムが、ヒト対象のGI管を通って移動するように構成されている嚥下可能な発光媒体;ソフトウェア;ソフトウェアによって稼働する制御装置及び腸微生物叢を操作するための複数のプロトコール含み、各プロトコールが、あらかじめ定義された条件の組を含み、前記条件の組が、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明エピソードを含む、工程と;
b)障害を処置するのに適切な腸微生物叢を操作するための複数のプロトコールのうち少なくとも1つを選択する工程と;
c)前記少なくとも1つのプロトコールを媒体のソフトウェアによって稼働する制御装置にアップロードする工程と;
d)媒体を嚥下する工程と;
e)対象のGI管の所望の場所で腸微生物叢を操作するために少なくとも1つのプロトコールを送達する工程と
を含む、方法。
【請求項38】
嚥下可能な媒体が、カーゴを運搬及び放出するように構成されている少なくとも1つの貯蔵部を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
所望のプロファイルの細菌種を有するヒト腸微生物叢から得られた試料を少なくとも1つの貯蔵部にローディングする工程をさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
腸微生物叢から得られた試料を貯蔵部にローディングする工程が、工程dに先行する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
対象のGI管の所望の場所でヒト腸微生物叢から得られた試料又はその一部を放出する工程をさらに含む、請求項39又は40に記載の方法。
【請求項42】
試料を放出する工程が、工程eに先行する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
試料を放出する工程が、工程eの後に続く、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
少なくとも1つのプロトコールが、複数の照明エピソードを含む、請求項37~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
ソフトウェアによって稼働する制御装置が、発光ユニットの機能を調節する、媒体の運動を調節する、媒体の場所を同定する、媒体がGI管の所望の場所に到達するように指示する;所望の場所で腸微生物叢を操作するために少なくとも1つのプロトコールを送達する、所望の場所で少なくとも1つの貯蔵部からのカーゴの放出を作動させる機能のうち少なくとも1つを実現するように構成されている、請求項37~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
少なくとも1つのプロトコールが、照明用量、波長、各照明の継続時間、照明エピソード回数、照明エピソードの頻度、酸素への曝露、湿度、音波への曝露、pH、無線周波数への曝露、温度、医薬品の存在、細菌種の存在及び生理活性物質の存在からなる群から選択されるパラメータのうち少なくとも1つをさらに含む、請求項37~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
障害が、炎症性腸疾患;クローン病;2型糖尿病;HIV;GI管の悪性腫瘍;潰瘍性大腸炎;直腸炎;過体重;過敏性大腸症候群;アルツハイマー;鬱病;セリアック病;特定の食事性アレルギー;クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium Difficile)感染症;下痢;慢性便秘;腸内毒素症からなる群から選択される、請求項37~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
対象における糞便の移植の方法であって、
a)対象のGI管における移植に適切な糞便試料を準備する工程と、
b)ヒト対象のGI管を通って移動するように構成されている嚥下可能な媒体を提供する工程であって、前記媒体が、少なくとも1つの発光ユニット、ソフトウェアによって稼働する制御装置、及び糞便試料を運搬及び放出するように構成されている少なくとも1つの貯蔵部を含む、工程と;
c)貯蔵部に糞便試料をローディングする工程と;
d)GI管内の所望の場所に糞便試料を送達するように、ソフトウェアによって稼働する制御装置をプログラムする工程と;
e)媒体を嚥下する工程と;
f)GI管の所望の場所で糞便試料を放出する工程と
を含む、方法。
【請求項49】
腸微生物叢を操作するための少なくとも1つのプロトコールを送達する工程であって、各プロトコールが、あらかじめ定義された条件の組を含み、前記条件の組が、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明エピソードを含む、工程をさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
プロトコールが、複数の照明エピソードを含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
少なくとも1つのプロトコールが、照明用量、波長、各照明の継続時間、照明エピソード回数、照明エピソードの頻度、酸素への曝露、湿度、音波への曝露、pH、無線周波数への曝露、温度、医薬品の存在、細菌種の存在及び生理活性物質の存在からなる群から選択されるパラメータのうち少なくとも1つをさらに含む、請求項48~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
対象が、正常でない腸微生物叢によって特徴付けられる障害に罹患している、請求項48~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
障害が、炎症性腸疾患;クローン病;2型糖尿病;HIV;GI管の悪性腫瘍;潰瘍性大腸炎;直腸炎;過体重;過敏性大腸症候群;アルツハイマー;鬱病;セリアック病;特定の食事性アレルギー;クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium Difficile)感染症;下痢;慢性便秘;腸内毒素症からなる群から選択される、請求項52に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体試料中の細菌増殖及び存在量を操作するシステム並びに方法の分野に一般に関する。特に、本発明は、腸微生物叢を操作するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの試みが、腸微生物叢と健康の間の関連の理解に注がれてきた。腸常在微生物の組成を変化させることが、特定の健康状態に対して著しい効果を有する可能性があることが明らかに示された。これまでに蓄積されてきた科学的証拠及び進行中の研究に基づいて、GI管内の微生物の組成を選択的に管理する能力は様々な疾患に影響を及ぼし、処置の助けになり得ると思われる。さらに、食品補助剤として特定の細菌を添加することでは、不十分であることが実証されてきた。影響を与えるには、腸微生物叢と呼ばれる様々な種を含むGI管内の微生物の集団全体が考慮されるべきである。したがって、微生物の特定の集団を富化することによって腸微生物叢の組成を制御する能力は、強い治療的潜在性を有する。実際、GI管内の生物多様性を維持することが、様々な食物アレルギー、GI管の炎症性疾患、糖尿病及び肥満に有益であることが示されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
治療的標的としての腸微生物叢の多様性及びヒトGI管の複雑性を踏まえて、ヒト腸微生物叢を操作するための有効で、利用可能で、使いやすい治療的ツールの満たされていない必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の要旨)
したがって、胃腸(GI)管内外でヒト腸微生物叢を操作するための効果的なシステム及び方法を提供すること並びに潜在的な治療的ツールとしてのそのようなシステムの使用が本発明の主要な目的である。本発明は、腸微生物叢の複数の細菌種の増殖を操作する方法であって、複数の細菌種を少なくとも1つのプロトコールに供する工程を含み、前記プロトコールがあらかじめ定義された条件の組を含み、前記条件の組が400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明のエピソードを含む、方法を提供する。
【0005】
本発明は、腸微生物叢の細菌種の所望のプロファイルを有する試料を得るための方法であって、
a)腸微生物叢の細菌種の開始試料を準備する工程と;
b)腸微生物叢の開始試料中の細菌種のプロファイルを決定する工程と;
c)細菌種の増殖を操作するように設計されたプロトコールを少なくとも1つ選択する工程であって、前記プロトコールが、あらかじめ定義された条件の組を含み、前記あらかじめ定義された条件の組が、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明エピソードを含む、工程と;
d)開始試料を少なくとも1つのプロトコールに供する工程と;任意に、
e)試料中の細菌種のプロファイルを決定する工程と
を含む、方法をさらに提供する。
【0006】
本発明は、ヒト腸微生物叢をインサイチュで操作するためのシステムであって、
a)所望の細菌種プロファイルを有するヒト微生物叢の試料;
b)ヒト対象のGI管を通って移動するように構成されている嚥下可能な媒体であって、前記媒体が、少なくとも1つの発光ユニット、及びヒト微生物叢の試料を運搬及び放出するように構成されている少なくとも1つの貯蔵部を含む、媒体;
c)腸微生物叢を操作するための少なくとも1つのプロトコールであって、前記プロトコールが、あらかじめ定義された条件の組を含み、前記条件の組が、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明エピソードを含む、プロトコール;
d)媒体を制御するように構成されている、ソフトウェアによって稼働する制御装置;及び
e)少なくとも1つのあらかじめ定義された条件の組を、ソフトウェアによって稼働する制御装置にアップロードするように構成されているソフトウェア
を含む、システムをさらに提供する。
【0007】
本発明は、腸微生物叢を操作することによってヒト対象における障害を処置するための方法であって、
a)インサイチュでヒト腸微生物叢を操作するシステムを提供する工程であって、前記システムが、ヒト対象のGI管を通って移動するように構成されている嚥下可能な発光媒体;ソフトウェア;ソフトウェアによって稼働する制御装置及び腸微生物叢を操作するための複数のプロトコール含み、各プロトコールが、あらかじめ定義された条件の組を含み、前記条件の組が、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明エピソードを含む、工程と;
b)障害を処置するのに適切な腸微生物叢を操作するための複数のプロトコールのうち少なくとも1つを選択する工程と;
c)前記少なくとも1つのプロトコールを媒体のソフトウェアによって稼働する制御装置にアップロードする工程と;
d)媒体を嚥下する工程と;
e)対象のGI管の所望の場所で腸微生物叢を操作するために少なくとも1つのプロトコールを送達する工程と
を含む、方法をなおさらに提供する。
【0008】
本発明は、対象における糞便移植の方法であって、
a)対象のGI管における移植に適切な糞便試料を準備する工程と、
b)ヒト対象のGI管を通って移動するように構成されている嚥下可能な媒体を提供する工程であって、前記媒体が、少なくとも1つの発光ユニット、ソフトウェアによって稼働する制御装置、及び糞便試料を運搬及び放出するように構成されている少なくとも1つの貯蔵部を含む、工程と;
c)貯蔵部に糞便試料をローディングする工程と;
d)GI管内の所望の場所に糞便試料を送達するように、ソフトウェアによって稼働する制御装置をプログラムする工程と;
e)媒体を嚥下する工程と;
f)GI管の所望の場所で糞便試料を放出する工程と
を含む、方法をなおさらに提供する。
【0009】
本発明の追加の特徴及び優位性は、以下の図面及び説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】糞便試料中の腸微生物のプロファイルを示すヒートマップを例示する図である。
図2】微生物叢組成を示す主座標分析(PCoA)を例示する図である。
図3】Faithの系統発生多様性推定値を使用する処理によるアルファ多様性(群集の豊かさ)希薄化プロットを例示する図である。
図4】観察されたOTU(操作的分類単位)推定値を使用する処理によるアルファ多様性(群集の豊かさ)希薄化プロットを例示する図である。
図5】処理試料と対照の間で差異的に豊富な種の標準化した相対的存在量レベルを比較するボックスプロットを例示する図である。
図6】処理試料と対照の間で、科レベルで差異的に豊富な細菌の標準化した相対的存在量レベルを比較するボックスプロットを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明が、構築物の詳細及び以下の説明、例に述べられるか、又は図面に例示される成分の配置への適用に限定されないことを理解すべきである。本発明は、他の実施形態に適用可能であり、又は種々の方法で実行若しくは実施されるものである。また、本明細書に利用される語法及び用語は、説明目的であることを理解すべきであり、限定目的と考えられるべきでない。
【0012】
本発明は、腸微生物叢の複数の細菌種の増殖を操作する方法であって、複数の細菌種を少なくとも1つのプロトコールに供する工程を含み、前記プロトコールが、あらかじめ定義された条件の組を含み、前記条件の組が、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明のエピソードを含む、方法を提供する。本明細書では、用語「複数」とは、それだけには限らないが、腸と関連する微生物の多数の異なる型のことを指す。本発明の文脈において用語「複数」は、腸内の細菌種の「多様性」と理解され得る。本明細書では用語「腸微生物叢」は、それだけには限らないが、健康及び/若しくは病的状態のGI管若しくは腸に常在する並びに/又はそれと関連する微生物の全体と理解されることになる。一部の実施形態によると、腸微生物叢の複数の細菌種の増殖を操作することは、対象から腸微生物叢の試料を得る工程と、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明のエピソードを含む少なくとも1つのプロトコールに前記試料を供する工程とを含む。一部の実施形態によると、腸微生物叢の複数の細菌種の増殖を操作することは、インサイチュで行われ、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明のエピソードを含む少なくとも1つのプロトコールに対象のGI管の少なくとも一部分を供する工程を含む。句「GI管の少なくとも一部」は、それだけには限らないが、対象の消化管の胃、小腸若しくは大腸を含むが、これに限定されない領域又は小さい部分若しくは大きな部分のいずれかの部分と理解されることになる。あらゆる疑いを回避するために、GI管の2つ以上の部分が、本発明の方法に供され得る。一実施形態において、腸微生物叢の複数の細菌種の増殖を操作することは、インサイチュで行われ、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明のエピソードを含む少なくとも1つのプロトコールに対象のGI管の複数の部分を供する工程を含む。別の実施形態において、GI管の単一の部分が、1つ以上のプロトコールに供される。一実施形態において、GI管の単一の部分が、単一のプロトコールに繰り返し供される。さらに別の実施形態において、GI管の単一の部分が、複数のプロトコールに供される。一部の実施形態によると、対象のGI管の部分(単数)及び/又は部分(複数)は、所望の効果を達成するのに適した任意の順序又は任意の組合せで1つ及び/若しくは複数のプロトコールに供されてもよい。本明細書では、用語「操作する」とは、それだけには限らないが、細菌種集団の組成に影響を与えることを指す。一実施形態において、用語「操作する」とは、複数の細菌種のうち少なくとも1つの増殖を阻害することを指す。別の実施形態において、用語「操作する」とは、試料中の少なくとも1つの細菌種を排除することを指す。さらに別の実施形態において、用語「操作する」とは、試料中の少なくとも1つの細菌種の増殖を増強させることを指す。本明細書では、用語「プロトコール」とは、それだけには限らないが、所望の予後に至るように設計される条件の組合せの既定の組のことを指す。一実施形態において、プロトコールは、以下のうち少なくとも1つを含み:照明用量、波長、各照明の継続時間、照明エピソード回数、照明エピソードの頻度、酸素への曝露、湿度、音波への曝露、pH、無線周波数への曝露、温度、医薬品の存在、細菌種の存在、生理活性物質の存在からなる群から選択されるパラメータのうち少なくとも1つ又はその任意の組合せを含む。本明細書では、用語「生理活性物質」とは、それだけには限らないが、シグナル伝達分子、生体分子;遺伝子及び翻訳修飾核材料;デオキシリボ核酸(DNA);リボ核酸(RNA);有機分子;無機分子;アミノ酸;ビタミン;ポリフェノール、ステロイド、親油性の低可溶性薬物、脈管モジュレータ;ペプチド;神経伝達物質及びその類似体;ヌクレオシド;以下に限定されないが、成長因子、ホルモン、アプタマー、抗体、サイトカイン、酵素及び熱ショックタンパク質を含むタンパク質;カンナビノイド;テトラヒドロカンナビノール酸(THCa)、カンナビジオール酸(CBDa)、カンナビノール酸(CBNa)、カンナビクロメン酸(CBCa)などのカンナビノイド酸、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビノール(CBN)、カンナビジオール(CBD)、及びカンナビクロメン(CBC)、及びエンドカンナビノイド類、並びにそれらの類似体、又は生物学的機能を発揮し得る他の任意の分子のことを指す。本明細書では、用語「医薬品」とは、治療的効果を有する物質のことを指す。本明細書では、用語「治療的効果」とは、それだけには限らないが、結果が有用又は好ましいと判断されるあらゆる種類の処置後の応答のことを指す。これは、結果が、予想された、予想外であった、又は意図しなかった結果であっても真である。一実施形態において、治療的効果は、抗炎症性効果、抗線維化効果、抗腫瘍効果及び神経保護効果からなる群から選択される。糖尿病ネフロパシーなどの炎症、線維症、高解糖に対抗するための非限定的な薬品は、フェルラ酸など天然に得られる遍在するフェノール化合物、天然のフェノール類、例えばレスベラトロル、ルチン、ケルセチン、石炭酸、ビタミン並びにアリシン、テトラヒドロカンナビノール酸(THCa)、カンナビジオール酸(CBDa)、カンナビノール酸(CBNa)、カンナビクロメン酸(CBCa)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビノール(CBN)、カンナビジオール(CBD)及びカンナビクロメン(CBC)からなる群から選択されるカンナビノイド又は/及びその誘導体及び合成類似体、デキスメデトミジン、(α2-AR)アゴニスト、ビルダグリプチン、プリスチメリン、メトホルミン、ピリドキサミン、脈管モジュレータ、エピネフリン、ルチン、イソクスプリンを含むが、これに限定されない代謝保護剤を含む。抗腫瘍効果を及ぼす薬品の非限定的なリストは、シスプラチン、カルボプラチン、クロラムブシル、メルファラン、ネダプラチン、オキサリプラチン、四硝酸トリプラチン、サトラプラチン、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ及びラディシコールを含むが、これに限定されない化学療法剤;免疫調節性剤、抗血管新生剤、分裂抑制剤、ヌクレオシド類似体、DNAインターカレート剤、老化防止剤、ジペプチド、後成的因子及びモジュレータ、メトホルミン、ラパマイシン、バルプロ酸若しくは塩、ワートマニン、ポリアミンスペルミジン、HDAC阻害剤酪酸ナトリウム、酪酸、サーチュイン活性化因子、レスベラトロル、補酵素CoQ1、小ジカルボン酸、アスピリン、サリチル酸、安息香酸、カルニチン類似体、ヒト成長ホルモン、トポイソメラーゼ類似体、抗体、サイトカイン、葉酸代謝拮抗物質、抗解糖剤、ヒト発癌性若しくはプロト発癌性転写因子に対する阻害剤オリゴヌクレオチド、化学療法剤、免疫調節性剤、抗血管新生剤、分裂抑制剤、ヌクレオシド類似体、DNAインターカレート剤、トポイソメラーゼ類似体、抗体、サイトカイン若しくは葉酸代謝拮抗物質、ヘキソキナーゼ阻害剤、乳酸脱水素酵素阻害剤、ホスホフルクトキナーゼ2若しくはホスホフルクト-2-キナーゼ/フルクトース-2,6-ビスホスファターゼ阻害剤、ピルビン酸キナーゼM2阻害剤、トランスケトラーゼ阻害剤、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ阻害剤、ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ阻害剤、グルコース-6-ホスファートデヒドロゲナーゼ阻害剤、GLUT阻害剤、プロトン輸送阻害剤、モノカルボン酸輸送体阻害剤、低酸素誘導因子1アルファ阻害剤、AMP活性化型プロテインキナーゼ阻害剤、グルタミン阻害剤、アスパラギン阻害剤、アルギニン阻害剤、脂肪酸合成酵素阻害剤、ATPクエン酸リアーゼ阻害剤、ジメチルリンゴ酸、及びリンゴ酸酵素2阻害剤、又はその任意の組合せを含むが、これに限定されない。本明細書では用語「腸微生物叢の試料」とは、それだけには限らないが、ヒト対象のGI管を起源とする天然の試料のことを指す。本発明の試料は、対象のGI管から直接又は糞便など身体から排出された体内老廃物から採集されてもよい。一実施形態において、プロトコールは、400nm~900nmの範囲の波長で試料を照明するエピソードを少なくとも1回含む。一実施形態において、プロトコールは、420nm~880nmの範囲の波長で試料を照明するエピソードを少なくとも1回含む。一実施形態において、波長は、420~460nm;640~680nm;及び830~870nmである。一部の実施形態によると、波長は、400nm、410nm、420nm、430nm、440nm、450nm、460nm、470nm、480nm、490nm、500nm、510nm、520nm、530nm、540nm、550nm、560nm、570nm、580nm、590nm、600nm、610nm、620nm、630nm、640nm、650nm、660nm、670nm、680nm、690nm、700nm、710nm、720nm、730nm、740nm、750nm、760nm、770nm、780nm、790nm、800nm、810nm、820nm、830nm、840nm、850nm、860nm、870nm、880nm、890nm、及び900nmである。一実施形態において、プロトコールは、照明エピソードを少なくとも2回含む。さらに別の実施形態において、プロトコールは、連続した照明エピソードを含む。別の実施形態において、類似の波長が、各照明エピソードに使用される。なおさらなる実施形態において、少なくとも2回の照明エピソードが、異なる波長で実施される。明快さのために、本発明のプロトコールは、必要とされる同数の照明エピソードを異なる又は同一の波長で、所望の継続時間で含んでもよい。示された波長での照明と他のパラメータとの任意の組合せは、本発明の不可欠な部分を構成する。一実施形態において、プロトコールは、試料中の複数の細菌種の特定のプロファイルを生成するように設計される。波長に対する照明エピソード後の糞便試料中の腸微生物のプロファイルを属レベルで示すヒートマップの典型的な実施形態を例示する図1について述べる。横線は、対照と比較して少なくとも50%の変化を呈した主要な属の相対的存在量を表す。各属の細菌存在量は、列基準で内部的に縮尺された標準偏差単位で表現され、色キーによって表されている。階層的クラスタリングは、ユークリッド距離測定及びウォード凝集法に基づいた。横のバーは、門、綱、目及び科レベルで異なる属の分類学的分類を示す。試料中の腸微生物の非限定的なリストは、ロゼブリア属(Roseburia);サテレラ属(Sutterella);プレボテラ属(Prevotella);ヘモフィルス属(Haemophilus);アナエロツルンカス属(Anaerotruncus);ゲオバクター属(Geobacter);ナイセリア属(Neisseria);シュードモナス属(Pseudomonas);パラプレボテラ属(Paraprevotella);アナエロスティペス属(Anaerostipes);デハロバクテリウム属(Dehalobacterium);コプロコッカス・オイタクツス(Coprococcus eutactus);ルミノコッカス属(Ruminococcus);ビフィオバクテリアム・ロンガム(Bifidobacterium longum);ドレア・フォルミシゲネランス(Dorea formicigenerans);バクテロイデス・カカエ(Bacteroides caccae);及びパラバクテロイデス・ゴルドニイ(Parabacteroides gordonii)の細菌種を含む。明快さのため、及びあらゆる疑いを回避するために、任意の腸微生物は、本発明の不可欠な部分である。一部の実施形態によると、偏性グラム陽性の嫌気性細菌種からなり、5つの種:R.インテスティナーリス(R.intestinalis)、R.ホミニス(R.hominis)、R.イヌリニボランス(R.inulinivorans)、R.フェシス(R.faecis)及びR.セ
シコーラ(R.cecicola)を含むロゼブリア属は、440nm処理で増大した。一部の実施形態によると、グラム陰性嫌気性菌を表す3つの種:S.パルビルブラ(S.parvirubra)、S.ステルコリカニス(S.stercoricanis)及びS.ワズワースエンシス(S.wadsworthensis)を含むサテレラ属は、660nm及び880nm処理で増大した。一部の実施形態によると、大きいゲノム多様性を伴ってほぼ40種の異なる種を含むプレボテラ属は、660nm及び880nm処理で増大した。一部の実施形態によると、ゲオバクター属種、ナイセリア属及びシュードモナス属は、全ての照明処理下で減少した。
【0013】
一実施形態において、本プロトコールは、インビトロ及び/又はインビボ及び/又はインサイチュで少なくとも1つの微生物属を富化するように設計される。本明細書では、用語「富化する」とは、それだけには限らないが、試料中の特定の細菌属及び/又は種の割合の増大のことを指す。一実施形態において、プロトコールは、少なくとも1つの細菌種を富化するように設計される。一実施形態において、プロトコールは、少なくとも1つの細菌属を富化するように設計される。一実施形態において、プロトコールは、少なくとも1つの細菌種及び/又は属の増殖を増大させ、同時に少なくとも1つの細菌種及び/又は属の増殖を阻害するように設計される。さらに別の実施形態において、プロトコールは、複数の細菌種及び/又は属の増殖を増大させ、同時に複数の細菌種及び/又は属の増殖を阻害するように設計される。一実施形態において、本プロトコールは、少なくとも1つの細菌種及び/又は属を排除するように設計される。一実施形態において、本プロトコールは、少なくとも1つの細菌種及び/又は属を減量するように設計される。一実施形態において、本プロトコールは、細菌種及び/又は属の所望のプロファイルを有するヒト腸微生物叢試料を得るように設計される。一実施形態において、プロトコール。本発明の一実施形態において、本プロトコールは、試料から微生物種を選択的に増強、減少又は排除して、所望のプロファイルを有するヒト腸微生物叢試料を得るように設計される。本明細書では、用語「プロファイル」とは、それだけには限らないが、腸微生物叢試料を構成している細菌種集団の定量化に基づく試料の特徴に関する情報のことを指す。
【0014】
本発明は、腸微生物叢の細菌種の所望のプロファイルを有する試料を得るための方法であって、
a)腸微生物叢の細菌種の開始試料を準備する工程と;
b)腸微生物叢の開始試料中の細菌種のプロファイルを決定する工程と;
c)細菌種の増殖を操作するように設計された少なくとも1つのプロトコールを選択する工程であって、前記プロトコールが、あらかじめ定義された条件の組を含み、前記あらかじめ定義された条件の組が、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明エピソードを含む、工程と;
d)開始試料を少なくとも1つのプロトコールに供する工程と;任意に、
e)試料中の細菌種のプロファイルを決定する工程と
を含む、方法をさらに提供する。
【0015】
一実施形態において、少なくとも1つのプロトコールは、少なくとも2回の照明エピソードを含む。別の実施形態において、少なくとも1つのプロトコールは、連続した複数回の照明エピソードを含む。一実施形態において、照明の波長は、各エピソードで類似している。一実施形態において、照明の波長は、各エピソードで類似している。一実施形態において、照明の波長は、各エピソードで類似している。別の実施形態において、照明エピソードは、少なくとも2つの異なる波長で実施される。一実施形態において、少なくとも1つのプロトコールは、開始試料中の少なくとも1つの細菌種集団の増殖を増強させるように設計される。別の実施形態において、少なくとも1つのプロトコールは、開始試料中の少なくとも1つの細菌種集団の増殖を阻害するように設計される。別の実施形態において、少なくとも1つのプロトコールは、開始試料中の少なくとも1つの細菌種集団の増殖を排除するように設計される。一実施形態において、開始試料は、少なくとも2つのプロトコールに供した。別の実施形態において、少なくとも2つのプロトコールが、開始試料中の異なる細菌種集団の増殖を操作するように設計される。一実施形態において、波長は、420~460nm;640~680nm;及び830~870nmである。一部の実施形態によると、波長は、400nm、410nm、420nm、430nm、440nm、450nm、460nm、470nm、480nm、490nm、500nm、510nm、520nm、530nm、540nm、550nm、560nm、570nm、580nm、590nm、600nm、610nm、620nm、630nm、640nm、650nm、660nm、670nm、680nm、690nm、700nm、710nm、720nm、730nm、740nm、750nm、760nm、770nm、780nm、790nm、800nm、810nm、820nm、830nm、840nm、850nm、860nm、870nm、880nm、890nm、及び900nmである。
【0016】
一実施形態において、少なくとも1つのプロトコールは、照明用量、波長、各照明の継続時間、照明エピソード回数、照明エピソードの頻度、酸素への曝露、湿度、音波への曝露、pH、無線周波数への曝露、温度、医薬品の存在、細菌種の存在及び生理活性物質の存在からなる群から選択されるパラメータのうち少なくとも1つをさらに含む。
【0017】
一部の実施形態によると、本発明は、ヒト腸微生物叢をインサイチュで操作するためのシステムであって、
a)所望の細菌種プロファイルを有するヒト微生物叢の試料;
b)ヒト対象のGI管を通って移動するように構成されている嚥下可能な媒体であって、前記媒体が、少なくとも1つの発光ユニット、及びヒト微生物叢の試料を運搬及び放出するように構成されている少なくとも1つの貯蔵部を含む、媒体;
c)腸微生物叢を操作するための少なくとも1つのプロトコールであって、前記プロトコールが、あらかじめ定義された条件の組を含み、前記条件の組が、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明エピソードを含む、プロトコール;
d)媒体を制御するように構成されている、ソフトウェアによって稼働する制御装置;及び
e)少なくとも1つのあらかじめ定義された条件の組を、ソフトウェアによって稼働する制御装置にアップロードするように構成されているソフトウェア
を含む、システムを提供する。
【0018】
一実施形態において、ソフトウェアによって稼働する制御装置は、発光ユニットの機能を調節する、媒体の運動を調節する、媒体の場所を同定する、媒体がGI管の所望の場所に到達するように指示する;所望の場所で腸微生物叢を操作するために少なくとも1つのプロトコールを送達する、所望の場所で少なくとも1つの貯蔵部からのカーゴの放出を作動させる機能のうち少なくとも1つを実現するように構成されており、400nm~900nmの範囲の波長で発光するように構成された複数の発光素子を含む。一実施形態において、発光素子は、発光ダイオード(LED)又はレーザー光である。一実施形態において、発光素子は、発光ダイオード(LED)である。一部の実施形態によると、システムは、制御装置と通信する熱電素子を少なくとも1つさらに含み、前記熱電素子は、局所温度を制御するように構成される。一実施形態において、少なくとも1つの熱電素子は、局所温度を増大させるか、又は低下させるように構成される。別の実施形態において、嚥下可能な媒体は、少なくとも2つの熱電素子を含む。一実施形態において、本発明の嚥下可能な媒体は、制御装置と通信し、液体培地をローディングし、GI管の所望の場所で液体培地を放出するように設計された第2の貯蔵部をさらに含む。一実施形態において、所望の場所における第2の貯蔵部からの液体培地の放出は、湿度変化をもたらす。一実施形態において、液体培地は、水又は生理食塩水である。一実施形態において、貯蔵部は分注器を含む。
【0019】
一部の実施形態によると、制御装置は、所望の場所で腸微生物叢を操作するために2つ又はより多くのプロトコールを送達するように構成される。一実施形態において、2つ又はより多くのプロトコールが、ヒト対象のGI管の同一部位に送達される。さらに別の実施形態において、2つ又はより多くのプロトコールが、GI管の異なる位置に送達される。一実施形態において、制御装置は、複数のプロトコールを送達するように構成される。一実施形態において、複数のプロトコールが、対象のGI管の異なる位置に送達される。
【0020】
本発明は、腸微生物叢を操作することによってヒト対象における障害を処置するための方法であって、
a)インサイチュでヒト腸微生物叢を操作するシステムを提供する工程であって、前記システムが、ヒト対象のGI管を通って移動するように構成されている嚥下可能な発光媒体;ソフトウェア;ソフトウェアによって稼働する制御装置及び腸微生物叢を操作するための複数のプロトコールを含み、各プロトコールが、あらかじめ定義された条件の組を含み、前記条件の組が、400nm~900nmの範囲の波長での少なくとも1回の照明エピソードを含む、工程と;
b)障害を処置するのに適切な腸微生物叢を操作するための複数のプロトコールのうち少なくとも1つを選択する工程と;
c)前記少なくとも1つのプロトコールを媒体のソフトウェアによって稼働する制御装置にアップロードする工程と;
d)媒体を嚥下する工程と;
e)対象のGI管の所望の場所で腸微生物叢を操作するために少なくとも1つのプロトコールを送達する工程と
を含む、方法をさらに提供する。
【0021】
一実施形態において、嚥下可能な媒体は、カーゴを運搬及び放出するように構成される少なくとも1つの貯蔵部を含む。別の実施形態において、所望のプロファイルの細菌種を有するヒト腸微生物叢から得られた試料を少なくとも1つの貯蔵部にローディングする工程をさらに含む。別の実施形態において、腸微生物叢から得られた試料を貯蔵部にローディングする工程は、工程dに先行する。さらに別の実施形態において、本方法は、対象のGI管の所望の場所でヒト腸微生物叢から得られた試料又はその一部を放出する工程をさらに含む。一実施形態において、試料を放出する工程は、工程eに先行する。別の実施形態において、試料を放出する工程は、工程eの後に続く。一実施形態において、プロトコールは、複数の照明エピソードを含む。一実施形態において、ソフトウェアによって稼働する制御装置は、発光ユニットの機能を調節する、媒体の運動を調節する、媒体の場所を同定する、媒体がGI管の所望の場所に到達するように指示する;所望の場所で腸微生物叢を操作するために少なくとも1つのプロトコールを送達する、所望の場所で少なくとも1つの貯蔵部からのカーゴの放出を作動させる機能のうち少なくとも1つを実現するように構成される。さらに別の実施形態において、プロトコールは、照明用量、波長、各照明の継続時間、照明エピソード回数、照明エピソードの頻度、酸素への曝露、湿度、音波への曝露、pH、無線周波数への曝露、温度、医薬品の存在、細菌種の存在及び生理活性物質の存在からなる群から選択されるパラメータのうち少なくとも1つをさらに含む。一部の実施形態によると、本発明の障害の非限定的なリストには、炎症性腸疾患、クローン病、2型糖尿病、HIV、GI管の悪性腫瘍、潰瘍性大腸炎、直腸炎、過体重、過敏性大腸症候群、アルツハイマー、鬱病、セリアック病、特定の食事性アレルギー、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium Difficile)感染症、下痢、慢性便秘及び腸内毒素症がある。
【0022】
本発明は、対象における糞便の移植の方法であって、
a)対象のGI管における移植に適切な糞便試料を準備する工程と;
b)ヒト対象のGI管を通って移動するように構成されている嚥下可能な媒体を提供する工程であって、前記媒体が、少なくとも1つの発光ユニット、ソフトウェアによって稼働する制御装置、及び糞便試料を運搬及び放出するように構成されている少なくとも1つの貯蔵部を含む、工程と;
c)貯蔵部に糞便試料をローディングする工程と;
d)GI管内の所望の場所に糞便試料を送達するように、ソフトウェアによって稼働する制御装置をプログラムする工程と;
e)媒体を嚥下する工程と;
f)GI管の所望の場所で糞便試料を放出する工程と
を含む、方法をさらに提供する。
【0023】
本明細書では、用語「糞便試料を調製する」とは、それだけには限らないが、糞便試料を本発明の少なくとも1つのプロトコールに供して、所望のプロファイルの細菌種を有する試料を得ることを指す。一実施形態において、糞便移植の方法は、腸微生物叢を操作するために少なくとも1つのプロトコールを送達する工程をさらに含む。一実施形態において、プロトコールは、400nm~900nmの範囲の波長で対象のGI管を照明するエピソードを少なくとも1回含む。一実施形態において、プロトコールは、照明エピソードを複数回含む。一実施形態によると、プロトコールは、照明用量、波長、各照明の継続時間、照明エピソード回数、照明エピソードの頻度、酸素への曝露、湿度、音波への曝露、pH、無線周波数への曝露、温度、医薬品の存在、細菌種の存在、生理活性物質の存在からなる群から選択されるパラメータのうち少なくとも1つ又はその組合せを含む。
【0024】
一部の実施形態によると、対象は、正常でない腸微生物叢によって特徴付けられる障害に罹患している。正常でない腸微生物叢によって特徴付けられる障害の非限定的なリストには、炎症性腸疾患、クローン病、2型糖尿病、HIV、GI管の悪性腫瘍、潰瘍性大腸炎、直腸炎、過体重、過敏性大腸症候群、アルツハイマー、鬱病、セリアック病、特定の食事性アレルギー、クロストリジウム・ディフィシル感染症、下痢、慢性便秘及び腸内毒素症がある。
【0025】
[実施例1] いくつかの照明レジメンを使用して糞便のマイクロバイオーム組成に対して試験した低レベル光療法(LLLT)の効果
研究の目的は、糞便の微生物叢組成に対する低レベル光療法の異なる3つの波長の効果をインビトロで試験することであった。
【0026】
研究を、3つの実験的なフレームワークを使用して実行した:
1. 処理後の微生物組成変化を判定するために試験された異なるレジメンの長期間照明曝露。
2. 細菌組成判定と炎症関連機能を組み合わせる短期間実験。
3. 細菌増殖に対するLLLTの特定の効果を評価するための、C.ディフィシル(C.difficile)毒素産生株実験。
【0027】
枠組み1:長期的な照明曝露による長期間実験
照明波長及び露出時間に関して試験したレジメンを、表2に詳述する。照明を5回の曝露で実行し、各日に、2回の曝露を2.5日間実行した(毎日同じ時間に、曝露の間に少なくとも8時間の間隔、すなわち午前8時00分及び午後16時00分)
【0028】
【表1】
【0029】
実験手順:
1. 糞便試料の調製
a.糞便試料を、無菌標本中に採集し(昨年に抗生物質で処置されていない個人から優先的に)、-20℃で直ちに凍結させた。研究室へ運搬する間、便試料を氷又はドライアイスを詰めた容器内でガスパック付き嫌気ジャー内に保持した。
b.研究室において、試料を-80℃に貯蔵した。
【0030】
2. 糞便試料の培養
a.培養のために、試料を嫌気性チャンバー内に置き、室温に調整した。
b.嫌気性チャンバー内で、糞便試料0.2gを、あらかじめ脱気した液体培地(補助剤を含むBHI)1800μLに希釈した。
c.糞便材料を、5分間ボルテックスすることによって懸濁した。
d.糞便懸濁液を、5分間室温で立てておき不溶性成分を沈殿させた。
e.次いで、懸濁液50μLを寒天プレート(サイズ35mm)上に播き、続いて嫌気性条件で37℃において3日間インキュベーションし、その間、上で詳述した通り1日2回照明処理に曝露した。
f.試料を、照明曝露の間暗所でインキュベートした。
g.随意の細菌組成判定のために、グリセロール最終濃度25%に達するようにグリセロールを添加する(等容積の、増殖培地中の細菌懸濁液、及び1:1でPBSを含むあらかじめ脱気したグリセロール)ことによって開始糞便懸濁液500μLを凍結貯蔵物として-80℃で貯蔵した。
【0031】
3. 照明処理
照明を5回の曝露で実行し、各日に、2回の曝露を嫌気性チャンバー内で2.5日間実行した(毎日同じ時間に、曝露の間に少なくとも8時間の間隔、すなわち午前8時00分及び午後16時00分)。5回目の曝露後、照明と細菌採取の間に6時間の継続時間が、必要とされる。照明デバイスを、プレートからあらかじめ定義した特定の距離に保持して(特別なホルダーを使用する)、全てのプレート面を等しく曝露した。
【0032】
4. 終点における細菌採取
a.液体培地(BHI)0.5mLを、各プレートに添加し、細菌コロニーをこそぎとり、液体培地に懸濁した。
b.採取した細菌250μLを、等容積の、1:1でPBSを含むグリセロールに添加し(グリセロール最終濃度25%)、RNA抽出のために-80℃で凍結した。
c.次の共培養実験用として糞便懸濁液の残りを採集し、段階4.bに詳述されるように同じ様式で貯蔵した。
【0033】
枠組み2:処置後の細菌-宿主機能の判定による短期間実験
照明処理した糞便の微生物叢の直接的な効果を単離するために、共培養を使用して上皮細胞に対する無処理及び処理した糞便微生物叢(実験1で得た)の効果を試験した。
【0034】
1. HT-29細胞の前増殖:
a.細胞3~4×10個/mLの濃度で解凍したHT-29貯蔵物1mLを、10%(v/v)不活性化FCS(ウシ胎仔血清)及び2mMグルタミンで補充したあらかじめ暖めたマッコイ培地9mLに懸濁して、DMSOを洗浄した。
b.次いで、細胞を、室温において125gで10分間遠心分離した。
c.培地を吸引し、10%(v/v)FCS及び2mMグルタミンで補充したマッコイ培地10mLに懸濁した。
d.細胞を、T-25cm2フラスコに播いた。細胞を、5%CO空気雰囲気中で37℃において2~4日間インキュベートした。
e.80~90%のコンフルエント増殖に到達したら以下の通りに細胞を採取した:培地を吸引し、トリプシン(0.25w/v%トリプシン-0.53mM EDTA)1mLを添加し、その後37℃で5分間インキュベーションすることによって、細胞をフラスコから分離した。細胞の分離を、顕微鏡下で可視化した。
f.トリプシン活性を停止するために、10%(v/v)FCS及び2mMグルタミンで補充したマッコイ培地1mLを添加した。
g.次いで、培地をしかるべく添加して、最終濃度細胞5×10個/mLを得た。
【0035】
2. 共培養
a.HT29結腸上皮細胞を、10%不活性化FCS及び2mMグルタミンで補充したマッコイ培地1mL中に細胞5×10個/cmの密度で24ウェルプレートに播種し、5% CO及び95%空気中で37℃において24時間増殖させた。
b.共培養の場合、培地を脱気した培地に交換し、実験1の糞便細菌懸濁液100μLを24ウェルプレートの各ウェルに添加した。
c.共培養を、嫌気性条件下で37℃において6時間インキュベートした。
d.実験終点で:
a)細菌細胞懸濁液を、各ウェルから採集した(HT29は、底面に付着していることになる)。細菌懸濁液500μLを、等容積の、1:1でPBSを含むグリセロールに添加し(グリセロール最終濃度25%)、RNA抽出用として-80℃で凍結することになる。
b)次いで、RNA抽出手順(QIAGEN)の第1の工程に使用した細胞溶解試薬(RLT緩衝液+ベータメルカプトエタノール)350μLを、各ウェルに添加した。細胞をウェルからこそぎとって、溶解緩衝液へ移した。
c)次の抽出工程を、製造業者の指示に従って直ちに続けた。抽出したRNAを、リアルタイムPCRを使用する炎症性サイトカイン発現の判定用として-80℃で保存することになる。
【0036】
枠組み3:毒素産生C.ディフィシルの増殖に対する照明処理の効果。
【0037】
C.ディフィシル株選択:
株:
毒素A及び毒素Bの産生に必要なtcdAとtcdB遺伝子の両方を発現するC.ディフィシルの毒素産生株:トキシノタイプ(toxinotype)0に属するクロストリジウム・ディフィシル(Clostridioides difficile)(プレボ)Lawsonら[ATCC(登録商標)43255(商標)]を使用した。C.ディフィシル阻害を、IBDにおいて粘膜炎症マーカーを減少させることが報告されているビフィオバクテリアム・ロンガムなどの有益な参照種と比較した(MRS上で37℃において嫌気的に増殖され得る)
【0038】
1. C.ディフィシル貯蔵物の回復を、ATCC登録番号の指示に従って実行した。
2. C.ディフィシルを、イースト抽出物(0.5%、wt/vol)及び1-システイン(10%、wt/vol)で補充したブレーンハートインフュージョン培養液(BHIS-補充したブレーンハートインフュージョン)に播き、これまでに報告されているように嫌気性条件下で37℃において48時間インキュベートした。
【0039】
3. 照明処理:
a.C.ディフィシル培養物を、600nmで光学密度0.5(中間対数期)(OD600)に調整した。
b.調整した培養物を、4つの試料用ファルコンチューブに分割し、各ファルコンチューブは、試験した各照明処理用であった。
c.嫌気性チャンバー内で、無菌条件下で低い細菌懸濁液高(約0.5cm)を得るために、調整した培養物を表面積の広い無菌ディッシュに注いだ。
d.下表に詳述されるように照明曝露を実行した(可能ならば異なる継続時間の曝露による1回の処理が、推奨される):
【0040】
【表2】
【0041】
a.照明処理後の及び対照のC.ディフィシル培養物の光学密度(600nm)を37℃で48時間の嫌気性培養の間定期的に測定して、増殖を評価した(利用可能であれば、プレートリーダーを使用した)。
b.照明曝露の0、12、24、36、48時間後に、C.ディフィシル培養物500μLを段階希釈に使用し、BHIS寒天プレートに播き(100μL)、ODを並行して測定してCFU(コロニー形成単位)mLを評価した。プレートは、37℃で48時間嫌気的にインキュベートすることになる。CFU/mL/OD600を決定し、ODに基づくCFUの定量化のために他のOD測定の推定に用いた。
【0042】
結果:
図2は、処理(660nm及び850nm)が、対照と比較して微生物叢組成において有意な交替を誘導することを実証する。(A)微生物叢組成を示すPCoA(主座標分析)を使用して、ブレイカーチス距離に基づいて微生物組成の相違点を判定した。各点は、試験した異なる処理プロトコールの細菌組成プロファイルを表す:440nm波長(青色);660nm(橙色);850nm(赤色)及び対照である無処理試料(濃緑色)。番号は、異なる糞便ドナーを示した。(B)異なる処理相互間のPCI及びPC2座標を比較する箱ひげ図である。結果は、PC2座標値における有意差から示されるように、処理(660nm及び850nm)が、対照と比較して微生物叢組成において有意な交替を誘導することを実証する。
【0043】
図3は、処理によるアルファ多様性(群集の豊かさ)希薄化プロットを使用して、処理がIBD試料の微生物多様性を増大させることを実証する。微生物アルファ多様性を、Faithの系統発生多様性推定値を使用して異なる処理及び対照からの試料を比較する希薄化プロットを使用して判定した。エラーバーは、各処理群の試料の間の偏差に対応する。(A)440nm処理は、IBD試料において微生物多様性の増大を誘導する。(B)660nm処理は、IBD試料において微生物多様性の増大を誘導する。(C)850nm処理は、アルファ多様性に有意な効果がない。健康な試料は、ベースライン多様性がすでに高いため影響を受けなかった。結果は、440nm及び660nmの処理が、健康なドナー由来試料と類似のレベルへとIBD患者由来試料の微生物多様性の増大を誘導することを示す。
【0044】
図4は、処理が、IBD試料の微生物多様性を増大させることを実証する。微生物アルファ多様性を、観察されたOTU(操作的分類単位)推定値を使用して異なる処理及び対照からの試料を比較する希薄化プロットを使用して判定し、その推定値は、各試料における固有のOTUの計数を表す。エラーバーは、各処理群の試料の間の偏差に対応する。(A)440nm処理は、IBD試料において微生物多様性の増大を誘導する。(B)660nm処理は、アルファ多様性に有意な効果がない。(C)850nm処理は、アルファ多様性に有意な効果がない。健康な試料は、ベースライン多様性がすでに高いため影響を受けない。結果は、440nm及び660nmの処理が、健康なドナー由来試料と類似のレベルへとIBD患者由来試料の微生物多様性の増大を誘導することを示す。
【0045】
図5は、処理により差異的に豊富な種を例示する。処理試料と対照の間で差異的に豊富な種の標準化した相対的存在量レベルを比較するボックスプロット。標準化は、係数1000で乗算される各試料内の各種の相対的存在量の最初の算出によって実行された。対照無処理群において、試料の少なくとも30%でゼロ以外の計数を有した試料だけを含めた。差異的存在量を、処理した試料と対照の間の対応のあるウィルコクソン検定を使用して推定した。結果は、440nm及び660nm処理後にラクノスピラ科(Lachnospiraceae)属種及びルミノコッカス・ラクタリス(Ruminococcus lactaris)の存在量に有意な増大を実証する。ラクノスピラ科及びルミノコッカス科は、健康な個人と正に関連することが公知であった。ラクノスピラ科ファミリーの一部の種は、酪酸塩産生株であり;ヒト腸における酪酸塩産生は、炎症誘発性応答を最終的に抑制し得るTreg細胞分化を促進するので、非常に重要である。
【0046】
図6は、処理による差異的豊富さを、ファミリーレベルで例示する。処理試料と対照の間で、科レベルで差異的に豊富な細菌の標準化した相対的存在量レベルを比較するボックスプロット。標準化は、係数1000で乗算される各試料内の各種の相対的存在量の最初の算出によって実行された。対照無処理群において、試料の少なくとも30%でゼロ以外の計数を有した試料だけを含めた。差異的存在量を、処理した試料と対照の間の対応のあるウィルコクソン検定を使用して推定した。結果は、440nm及び660nm処理後にラクノスピラ科ファミリーの存在量に有意な増大を示す。ラクノスピラ科は、重要な短鎖脂肪酸産生株である。
【0047】
本明細書に使用される用語は、特定の実施形態についてのみ記載することを目的とし、本発明を限定することを意図しない。文脈上別途明らかな指示がない限り、本明細書では、単数形「a」、「an」及び「the」は、複数形も含むことを意図している。用語「含む(comprises)」又は「含む(comprising)」は、本明細書において使用される場合、記載されている特徴、整数、工程、オペレーション、要素、成分及び/若しくは群又はその組合せの存在を指定するが、他の1つ以上の特徴、整数、工程、オペレーション、要素、成分及び/若しくは群又はその組合せの存在若しくは追加を排除しないことがさらに理解されることになる。本明細書では、用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」及びそれらの同根語は、「を含むが、これに限定されない」ことを意味する。用語「からなる」は、「含み、限定される」ことを意味する。
【0048】
本明細書では、用語「及び/又は」は、関連する挙げた項目の考え得るあらゆる組合せ又は1つ以上を含み、択一的に解釈される場合(「又は」)、組合せの欠如を含む。
【0049】
別段の規定がない限り、本明細書に使用される全ての用語(技術的及び科学的用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義されている用語などは、明示的に本明細書に定義されない限り、本明細書及び請求項の文脈における意味と整合する意味を有すると解釈されるべきであり、理想的な又は非常に形式的な意味で解釈されるべきでないことは、さらに理解されることになる。周知の機能又は構築については、簡潔さ及び/又は明快さのために詳述しない場合もある。
【0050】
要素が、別の要素の「上にある」、「付着される」、「作動的にカップリングされる」、「作動的に連結される」、「作動的に係合される」、「接続される」、「カップリングされる」、「接触する」、等と称される場合、その要素は、直接、他の要素の上にある、付着される、接続される、作動的にカップリングされる、作動的に係合される、カップリングされる及び/若しくは接触し得る、又は介在要素も存在し得ることは理解されることになる。それに対し、要素が、別の要素に「直接接触している」と称される場合、介在要素は存在しない。
【0051】
例えば「プロセッシング」、「コンピューティング」、「計算」、「決定」、「確立」、「分析」、「検査」その他などの用語が、コンピュータのレジスタ及び/若しくはメモリ内の物理(例えば、電子的)量として表されるデータを、コンピュータのレジスタ及び/若しくはメモリ若しくはオペレーション及び/若しくはプロセスを実行するための指示を格納し得る他の非一時的情報記憶媒体内の物理量として同様に表される他のデータへと操作並びに/又は変換するコンピュータ、コンピューティングプラットフォーム、コンピューティングシステム若しくは他の電子コンピューティングデバイスのオペレーション及び/若しくはプロセスのことを指し得ることは理解されることになる。用語、第1、第2などは、様々な要素、成分、領域、階層及び/又はセクションについて記載するために本明細書において使用され得るが、これらの要素、成分、領域、階層及び/又はセクションが、これら用語によって限定されるべきでないことは理解されることになる。むしろ、これらの用語は、ある要素、成分、領域、階層及び/又はセクションを別の要素、成分、領域、階層及び/又はセクションと区別するためにのみ使用される。
【0052】
明快さのために、別々の実施形態の文脈で記載されている本発明の特定の特徴を、単一の実施形態に組み合わせて提供してもよい。反対に、簡潔さのために、単一の実施形態の文脈で記載されている本発明の様々な特徴を、別々に若しくは任意の適切なサブコンビネーションで、又は本発明の記載されている他の任意の実施形態の中に適切に提供してもよい。
【0053】
様々な実施形態の文脈で記載される特定の特徴の要素なしに実施形態が作用しない場合を除いて、それら特徴は、実施形態の必須の特徴と見なされない。
【0054】
本出願の全体を通じて、本発明の様々な実施形態は、範囲形式で示される場合がある。範囲形式の説明は、単に便利さ及び簡潔さのためであることを理解すべきであり、本発明の範囲に対する確固たる制約と解されるべきでない。したがって、範囲の説明は、考え得る全ての部分的範囲及びこの範囲内の個々の数値を特に開示していると見なされるべきである。例えば、1~6などの範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等、などの部分的範囲、並びにこの範囲内の個々の数、例えば、1、2、3、4、5及び6を特に開示していると見なされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0055】
本明細書において数値的範囲が示される際は必ず、それは示された範囲内の任意の列記した数字(分数又は整数)を含むと定められる。慣用句、第1の表示数字と第2の表示数字の間の「範囲に及ぶ/範囲」、及び第1の表示数字から第2の表示数字の「範囲に及ぶ/範囲」は、本明細書において互換的に使用され、第1及び第2の表示数字並びにこの間の全ての分数及び整数を含むと定められる。
【0056】
用語「複数(plurality)」及び「複数(a plurality)」が使用される際は必ず、それは、例えば、「多数」又は「2つ又はより多く」を含むと定められる。用語「複数(plurality)」又は「複数(a plurality)」は、2つ又はより多くの成分、デバイス、要素、単位、パラメータ、その他について記載するために明細書の全体を通じて使用され得る。用語「組」は、本明細書において使用される場合、1つ以上の項目を含むことができる。明確に記載されない限り、本明細書に記載される方法の実施形態は、特定の順序又は順番に拘束されない。加えて、記載した方法の実施形態又はその要素の一部は、同時に、同じ時点で、若しくは並列に起こるか、又は実行され得る。
【0057】
本明細書では、用語「方法」とは、化学、薬理学、生物学、生化学並びに医学技術の実務者に公知か、又はその実務者によって公知の様式、手段、技術及び手順から容易に開発される、いずれかの様式、手段、技術及び手順を含むが、これに限定されない、所与の作業を完遂するための様式、手段、技術及び手順のことを指す。
【0058】
「患者」又は「対象」は、任意の哺乳動物を含むと定められる。本明細書では、「哺乳動物」とは、ヒト、サル、ラット、マウス及びモルモットを含めた実験動物、家畜及び農場動物、並びにイヌ、ウマ、ネコ、ウシ及び同類のものなどの動物園、運動又はペット動物を含むが、これに限定されない哺乳動物と分類される任意の動物のことを指す。
【0059】
本明細書では疾患を「処置する」又は「処置」は、疾患を防止する、すなわち、疾患に曝露若しくは罹らせ得るが、疾患の徴候をまだ経験していないか、若しくは示していない哺乳動物において疾患の臨床徴候を発症させないこと;疾患を阻害する、すなわち、疾患若しくはこの臨床徴候の発症を抑えるか、若しくは減少させること、又は疾患を軽減すること、すなわち、疾患若しくはこの臨床徴候の退行を引き起こすことを含む。
【0060】
矛盾がある場合、定義を含む特許明細書が、優先することになる。加えて、材料、方法及び例は、単なる例示であり、限定することを意図しない。本出願の全体を通じて、様々な刊行物、公開されている特許出願及び公開されている特許が参照される。
【0061】
本発明が、上文で特に図示及び記載されたことに限定されないことは当業技術者に認められることになる。正しくは、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義され、上文で記載されている様々な特徴の組合せとサブコンビネーションの両方並びにその変形及び修正を含み、前述の説明を読むことにより当業技術者に想起されることになる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】