(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-26
(54)【発明の名称】鉄系合金
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220419BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20220419BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20220419BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C22C38/00 303S
C21D6/00 C ZNM
C21D8/12 H
H01F1/153 133
H01F1/153 108
H01F1/153 141
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021540439
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(85)【翻訳文提出日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 AU2020050011
(87)【国際公開番号】W WO2020142810
(87)【国際公開日】2020-07-16
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】304044531
【氏名又は名称】モナシュ ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スズキ, キヨノリ
(72)【発明者】
【氏名】パーソンズ, リチャード
(72)【発明者】
【氏名】リー, ズーユー
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041BD03
5E041CA01
5E041HB11
5E041NN01
5E041NN17
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】鉄系合金の提供。
【解決手段】式(Fe
1-xCo
x)
100-y-z-aB
yCu
zM
a(式中、x=0.1~0.4、y=10~16、z=0~1、a=0~8、及びM=Nb、Mo、Ta、W、Ni、又はSn)で表される合金であって、平均粒径が30nm以下の結晶粒を有する合金。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(Fe
1-xCo
x)
100-y-z-aB
yCu
zM
a
(式中、x=0.1~0.4、
y=10~16、
z=0~1、
a=0~8、及び
M=Nb、Mo、Ta、W、Ni、又はSn)で表される合金であって、
平均粒径が30nm以下の結晶粒を有する合金。
【請求項2】
xが約0.2~約0.3の範囲である、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
zが約0.2~1の範囲である、請求項1又は2に記載の合金。
【請求項4】
z及びaの両方が0である、請求項1~3のいずれか1項に記載の合金。
【請求項5】
磁化飽和(J
s)が少なくとも2Tである、請求項1~4のいずれか1項に記載の合金。
【請求項6】
上記結晶粒の平均粒径が10nm~30nmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の合金。
【請求項7】
合金の製造方法であって、該方法は、
式(Fe
1-xCo
x)
100-y-z-aB
yCu
zM
a
(式中、x=0.1~0.4、
y=10~16、
z=0~1、
a=0~8、及び
M=Nb、Mo、Ta、W、Ni、又はSn)で表される非晶質合金を調製する工程、及び
該非晶質合金を少なくとも200℃/秒の加熱速度で加熱する工程
を有する方法。
【請求項8】
上記非晶質合金を加熱する工程は、該合金を磁場に曝露する工程を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記非晶質合金を加熱する工程は、該合金を少なくとも0.3kA/mの範囲の回転磁場に曝露する工程を有する、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
上記非晶質合金を加熱する工程は、該合金を、配向及び/又は大きさが約1Hz~約3,000Hzの範囲で変化する磁場に曝露する工程を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
加熱工程後、上記磁場の存在下で上記合金を冷却する、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
上記非晶質合金を約350℃~約650℃の範囲のアニーリング温度まで加熱する、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
上記非晶質合金を所定のアニーリング温度で加熱し、該アニーリング温度で約0~約80秒間保持する、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
上記非晶質合金は、厚さが約5μm~約15μmの範囲の薄帯の形態である、請求項7~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
上記非晶質合金の加熱工程は、少なくとも約3kPaの圧力で予熱済みブロック間に該合金を挟み込んで行う、請求項7~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
上記非晶質合金の加熱工程は、予熱済みロール間で該合金を通過させて行う、請求項7~14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、合金及びその製造方法に関する。具体的にはFe系合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ結晶性Fe系合金は軟磁性特性を有することができ、典型的には急冷した非晶質前駆体を結晶化させて製造される。これらの合金はガラス形成元素を含む非晶質マトリックス中に埋め込まれたFeに富む結晶粒からなる二相微細構造を有する。
【0003】
このような材料は軟磁性特性を有するため、電流により生成される磁束の増強及び/又はチャネリングを必要とする用途において好ましいものとなる。例えば、上記材料は、有利に低い保磁力(Hc)、低い若しくは0に近い飽和磁歪、及び非常に低いコア損失を示し得る。しかしながら、例えば従来のFe-Si鋼に比べた場合、飽和磁化(Js)がFe-Si鋼のJs(すなわち、約2T)より低いので、上記材料の大規模生産及び適用は限られている。そのため、上記合金を用いて形成されたデバイスは比出力密度が制限され、航空宇宙産業で見られるような重量の影響を受けやすい用途には好ましくないものとなっている。
【0004】
近年、従来の軟磁性用途用Fe-Si鋼に代わる代替Fe系合金組成物の開発が継続的に進められている。しかしながら、これらの合金は十分に高いJsを有さないか、或いはHcを犠牲にしてのみ高いJsが得られるが、依然として望ましい高さではない。
【0005】
従って、既存の合金よりも軟磁性特性が改善されたFe系合金を開発する余地がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、式(Fe1-xCox)100-y-z-aByCuzMa(式中、x=0.1~0.4、y=10~16、z=0~1、a=0~8、及びM=Nb、Mo、Ta、W、Ni、又はSn)で表される合金であって、平均粒径が30nm以下の結晶粒を有する合金を提供する。
【0007】
本発明の合金が有する特定の組成及び微細構造によって、驚くべきことに、従来の合金組成物よりも高い磁気飽和(Js)及び低い磁気保磁力(Hc)を有利に併せ持つことができる。
【0008】
本明細書において、当業者には知られているだろうが、「磁気飽和」という表現は、印加する外部磁場を高くしてもそれ以上材料の磁化が増大しない場合に合金が到達する磁性状態を示す。更に、本明細書において、「磁気保磁力」という表現は、その慣用的な意味に準じて、すなわち、消磁されることなく合金が外部磁場に耐える能力の尺度のものとして使用される。
【0009】
本発明の合金は、有利には、高いJs値(1.98T超等)及び低いHc(25A/m未満等、例えば10A/m未満)を併せ持つことができる。いくつかの実施形態では、上記合金のJsは2Tより高い。典型的には、25A/m未満のHc値は商業的用途に非常に望ましい。このため、本発明の合金は、従来の軟磁性用途用Fe-Si鋼の代わりとして好ましい。従って、本発明の合金は、軟磁性合金として機能でき、特に、電流により生成される磁束の増強及び/又はチャネリングを必要とする用途での使用に適している。
【0010】
「軟磁性」合金として機能することにより、本発明の合金は磁場の影響を受けやすいが、合金の強磁性は、外部磁場が印加された後にのみ見られる。従って、本発明の合金は軟磁性合金と考えられる。すなわち、本発明は、式(Fe1-xCox)87-y-z-aByCuzMa(式中、x=0.1~0.4、y=10~16、z=0~1、a=0~8、及びM=Nb、Mo、Ta、W、Ni、又はSn)で表される軟磁性合金であって、平均粒径が30nm以下の結晶粒を有する軟磁性合金を提供するとも言える。
【0011】
更に、本発明は、合金の製造方法であって、該方法は、(i)式(Fe1-xCox)100-y-z-aByCuzMa(式中、x=0.1~0.4、y=10~16、z=0~1、a=0~8、及びM=Nb、Mo、Ta、W、Ni、又はSn)で表される非晶質合金を調製する工程、及び(ii)該非晶質合金を少なくとも200℃/秒の加熱速度で加熱する工程を有する方法を提供する。
【0012】
本明細書に記載の合金組成物を少なくとも200℃/秒の加熱速度で加熱することによって、本発明の方法は、有利には、軟磁性特性(すなわち、Hc)を著しく損なうことなく高いJsを併せ持つ合金を製造することができる。本発明の方法は、特に、高いCo含量(高いJsを提供)を有し、更に、Co含量が8%(原子)を超える合金に従来伴う保磁力レベルより著しく低い保磁力レベルを有する合金を合成できるという点で、従来の方法よりも有利である。
【0013】
以下に、更に本発明の態様及び/又は実施形態を概略する。
【0014】
以下に本発明の実施形態を下記図面を参照して説明するが、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)加熱中の合金の温度変化の概略図、及び(b)高速横磁場アニーリング(TFA)及び無磁場アニーリング(NFA)で得られる実施形態の(Fe
0.8Co
0.2)
87B
13合金について測定された磁気ヒステリシス曲線を示す。
【
図2】実施形態の手順に従った予熱済み(a)ブロック又は(b)ロールを使用するアニーリング構成例を示す。
【
図3】高速横磁場アニーリング(TFA)及び無磁場アニーリング(NFA)で得られる実施形態の(Fe
0.8Co
0.2)
87B
13合金について測定されたコア損失を示す。
【
図4】(a)(Fe
1-xCo
x)
87B
13鋳放品から得られるX線回折(XRD)パターン及び(b)アニーリング後に得られるX線回折(XRD)パターンを示す。
【
図5】(Fe
0.75Co
0.25)
87B
13について、加熱速度に対する直流(DC)保磁力(H
c)、平均粒径(D)、及び飽和磁気分極(J
s)を示す。
【
図6】(Fe
1-xCo
x)
87B
13について、アニーリング温度に対するDC保磁力を示す。
【
図7】(Fe
1-xCo
x)
87B
13について、Co含量に対するDC保磁力(H
c)、平均粒径(D)、及び飽和磁気分極(J
s)を示す。
【
図8】(a)(Fe
0.8Co
0.2)
87-zB
13Cu
z鋳放試料(z=0、0.5、1、及び比較用にz=1.5)のXRDパターン、及び(b)アニーリングされた(Fe
1-xCo
x)
86B
13Cu
1試料(x=0~0.3)のXRDパターンを示す。
【
図9】(Fe
0.8Co
0.2)
87-zB
13Cu
z試料(z=0、0.5、1、及び比較用にz=1.5)について、アニーリング温度に対するDC保磁力を示す。
【
図10】(Fe
0.8Co
0.2)
87-zB
13Cu
z試料(z=0、0.5、1、及び比較用にz=1.5)について、Cu含量に対するDC保磁力(H
c)、平均粒径(D)、及び飽和磁気分極(J
s)を示す。
【
図11】460℃(733K)~540℃(813K)で0.5秒間超高速アニーリングを行った後の(Fe
0.5Co
0.5)
87B
13のDC B-Hヒステリシス曲線及び記載された各粒径を示す。
【
図12】10,000℃/秒の加熱速度でアニーリングされた(Fe
1-xCo
x)
87B
13、(Fe
0.8Co
0.2)
87-zB
13Cu
z、及び(Fe
1-xCo
x)
86B
13Cu
1、並びに3.7~10,000℃/秒の範囲の加熱速度でアニーリングされた(Fe
0.75Co
0.25)
87B
13について、保磁力と平均粒径との関係を示す。
【
図13】アニーリングされた(Fe
1-xCo
x)
87B
13鋳放品、アニーリングされた(Fe
1-xCo
x)
86B
13Cu
1、及び結晶性Fe
1-xCo
xについて、Co含量xに対するJ
sを示す。
【
図14】横磁場アニーリング(TFA)試料、縦磁場アニーリング(LFA)試料、及び外部磁場を印加しないアニーリング(NFA)試料について、1000Hz(測定中に使用した磁場の周波数)で取得される印加磁場に対する複素透磁率を示す。
【
図15】(Fe
0.8Co
0.2)
87B
13実施形態の合金について、保磁力をアニーリング温度の関数として示す。
【
図16】最適アニーリング温度でアニーリングを行った後に(Fe
0.8Co
0.2)
87B
13実施形態の合金について測定されたDCヒステリシスループを示す。
【
図17】横磁場の存在下でアニーリングを行った後、該磁場の存在下又は非存在下で冷却することで得られる(Fe
0.8Co
0.2)
87B
13実施形態の合金の磁気分極特性にアニーリング及び冷却が及ぼす効果を示す。
【
図18】3重量%鉄-ケイ素鋼の比較試料について測定された50Hz、400Hz、及び1000Hzでのコア損失を、(Fe
0.8Co
0.2)
86B
13Cu
1実施形態の合金と比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、式(Fe1-xCox)100-y-z-aByCuzMa(式中、x=0.1~0.4、y=10~16、z=0~1、a=0~8、及びM=Nb、Mo、Ta、W、Ni、又はSn)で表される合金を提供する。特に明記しない限り、本明細書で使用される元素範囲及び組成値は、原子パーセントを指すことを意図する。
【0017】
特定の組成を有することから、本発明の合金は、非晶質相中に埋め込まれた、体心立方(bcc)Fe-Co結晶粒、又はNiが存在する場合にはbccFe-Co-Ni結晶粒からなる結晶相によって特徴付けられる二相微細構造を有する。上記非晶質相は、B、Cu、Nb、Mo、Ta、W、及びSn等の非強磁性元素が上記式の定義に従って存在する場合、該非強磁性元素を高濃度で含む。
【0018】
xが約0.1~約0.4の範囲であると、本発明の合金は、1.98Tを超える磁気飽和Jsが有利に得られる十分なコバルトを有する。Js値がこのような値であると、本発明の合金は、例えばFe-Si鋼をベースとする従来の軟磁性合金に対抗できるものとなる。また、xが0.1未満及び0.4を超える場合、上記合金のJsは1.98T未満となり、該合金が実用的な目的にはあまり好ましくないものとなることが確認された。いくつかの実施形態では、上記合金の磁気飽和は、有利には少なくとも2Tである。
【0019】
いくつかの実施形態では、xは、約0.2~約0.3の範囲である。これらの実施形態において、上記合金は、少なくとも2TのJsを確保するのに十分なコバルトを含む。
【0020】
本発明の合金は、原子含量で約10%~約16%(すなわち、y=10~16)の範囲のホウ素を含む。この範囲であると、非晶質相の安定性を確保できるとともに、磁気結晶異方性が大きいためにHcの増大に寄与し得る硬質磁性Fe-B化合物の存在量を最小限にできる。具体的には、少なくとも10%のホウ素が上記合金中に存在すると、非晶質相の安定性が高まり、ホウ素が16%未満であると、加熱後の不要なFe-B化合物が最小限に抑えられる。
【0021】
いくつかの実施形態では、yは少なくとも11である。例えば、yは少なくとも12であってもよい。これらの実施形態においては、鋳造時の非晶質相のガラス形成能が改善される(すなわち、結晶相を含まない非晶質相の製造が改善する)。
【0022】
いくつかの実施形態では、yは、少なくとも15%以下であり、例えば14%以下である。このような濃度であると、有利には、不要なFe-B化合物が上記合金に存在しないようにでき、上記合金の磁気飽和を改善する(すなわち、yが小さくなるにつれて磁気飽和が増大する)。
【0023】
上記合金は、更に銅を含んでもよい。具体的には、本発明の合金は、原子濃度で0~1%(すなわち、z=0~1)の銅を含む。上記合金組成物中の銅は、上記合金の結晶相を構成する結晶粒の微細化に寄与し得る。このことは、例えば上記合金の合成時に有利であり得る。銅が結晶相に不均一核生成サイトを提供すると考えられるためである。銅の濃度が低くても(例えば、z=0.2又はz=0.5)、結晶相の結晶粒微細化は確認された。一方、銅の量が過剰であると(例えば、1%を超える)、まず第一に非晶質相の形成が妨げられる可能性があり、上記合金が実用的な用途に使用するには脆くなりすぎて軟磁性が低下する。従って、いくつかの実施形態では、zは0.2~1、0.2~0.7、又は0.2~0.5の範囲である。
【0024】
本発明の合金は、更に、Nb、Mo、Ta、W、Ni、及びSnから選択される元素Mを含んでもよい。具体的には、上記合金は、Nb、Mo、Ta、W、Ni、又はSnの原子含量が0~8%である(すなわち、a=0~8)。元素Mが存在すると、上記合金のHcを最小限にするのに有利である。例えば、上記合金の合成時のこれらの元素はいずれも、結晶相の結晶粒成長を抑制でき、その結果、Hcが低下した合金が得られる。更に、元素Mが存在すると、元素Mを含まない合金よりも広い温度範囲にわたって非晶質相の一層の安定化を確保できる。一方、上記合金中に8%を超える過剰量の元素Mが存在すると、それに伴って上記合金中のFe及びCo含量が減少するため、上記合金のJsに悪影響をもたらし得る。
【0025】
従って、いくつかの実施形態では、aは0~7.5、0~5、0~2.5、又は0~1の範囲である。
【0026】
いくつかの実施形態では、z及びaの両方が0である。
【0027】
本発明の合金は、平均粒径が30nm以下の結晶粒を有する。特定の合金について、その結晶粒の「平均粒径」は、当業者に知られているであろう手順に従ってFe(110)bcc反射のラインブロードニングを参照して、合金のX線回折(XRD)パターンからScherrerの式によって決定される平均粒径である。
【0028】
実施形態の合金について測定したXRDパターンによると、結晶粒は体心立方(bcc)結晶構造を有している。理論で限定されることを望むものではないが、結晶粒の組成は、おおよそFe1-xCox(式中、xは標準組成である)に等しいと考えられる。元素B、Cu(存在する場合)、Nb(存在する場合)、Mo(存在する場合)、Ta(存在する場合)、W(存在する場合)、及びSn(存在する場合)は、一般に、結晶化の際に残留非晶質相へと排除されると考えられるため、結晶粒に含まれるとは考えられない。Niが存在する場合、Niだけは例外である。従って、Ni含有合金については、結晶粒は標準組成で表されるのと同じ割合のFe、Co、及びNiを含むと考えられる。
【0029】
上記結晶粒の平均粒径は、30nm未満であれば限定されない。いくつかの実施形態では、上記合金は、平均粒径が約20nm以下、約15nm以下、約10nm以下、又は約5nm以下の結晶粒を含む。例えば、上記合金は、平均粒径が約10~約30nmの結晶粒を含んでもよい。
【0030】
コバルト含量(x=0.1~0.4)と30nm未満の粒径との特定の組み合わせによって、本発明の合金は、有利には、保磁力を25A/m未満、例えば10A/m未満に維持しながら磁気飽和Jsは1.98Tを超えるという特徴を有する。このことは、コバルト含量が8原子%を超える合金では高いJsを得ることができるが、磁気誘導異方性に起因してHcが必ず高くなってしまうという従来の理解の観点からすると驚くべきことである。
【0031】
理論で限定されることを望むものではないが、本発明の合金の結晶相は、有利には、コバルトに関連した磁気誘導異方性の値が低いという特徴を有すると考えられる。そのため、本発明の合金は、従来のFe-Co合金よりも高い軟磁性を維持しながらより高いコバルト含量を有することが可能となり、Jsが少なくとも1.98T、Hcが約25A/m以下、例えば約10A/m以下の合金となる。
【0032】
本発明の合金の特定の微細構造によって、全体的にランダム化された磁気結晶異方性が得られ、結晶粒の局所的磁気結晶異方性を平均化するように作用すると考えられる。具体的には、各結晶粒ははっきりとした磁気軸を有してもよいが、全ての結晶粒のランダム化された空間的配向は、得られる合金全体の磁気異方性が最小となるようなものであってもよい。その結果、大きい固有磁気結晶異方性が保磁力に及ぼす影響を最小限にできる。この平均化処理の有効性は、合金にコヒーレント磁気誘導異方性が存在することで減少する。原則としては、磁気誘導異方性の程度は特定のパラメータを参照して定量化でき、有用なパラメータの1つとして合金全体の一軸異方性係数(Ku)が挙げられる。当業者に知られているであろうように、このようなパラメータによって合金の磁気特性の方向依存性を測定できる。
【0033】
この文脈において、本発明の合金に関連した異方性係数は、従来の軟磁性合金よりも著しく小さくできる。例えば、本発明の合金の一軸異方性係数(Ku)は約200J/m3未満であってもよい。いくつかの実施形態では、上記合金の異方性係数(Ku)は、約100J/m3未満、約50J/m3未満、約25J/m3未満、又は約10J/m3未満である。
【0034】
当業者であれば理解できるように、本発明の合金は更に不可避的不純物を含んでもよい。本明細書において、「不可避的不純物」という表現は、例えば合金前駆体にもともと存在する等の理由で、特定の合成によって得られた合金中に必然的に存在する、本発明の合金の元素以外の元素を指す。このような不純物としては、S、O、Si、Al、C、及びN等が挙げられる。
【0035】
また、本発明は、式(Fe1-xCox)100-y-z-aByCuzMa(式中、x=0.1~0.4、y=10~16、z=0~1、a=0~8、及びM=Nb、Mo、Ta、W、Ni、又はSn)で表される非晶質合金の調製を含む合金の製造方法を提供する。上記合金が「非晶質」であるとは、上記合金の体積の少なくとも80%が非結晶状態にあることを意味する。
【0036】
上記非晶質合金は、特定の組成を有する非晶質合金を得ることができる当業者に知られている任意の手順によって調製してもよい。例えば、上記非晶質合金は、合金溶湯を急冷することによって製造してもよい。
【0037】
典型的な手順では、まず合金溶湯を合成する。例えば、合金の構成要素(明細書中、「合金前駆体」ともいう)を溶融することによって合金溶湯を製造してもよい。合金前駆体をそれぞれ溶融した後、混合して合金溶湯を形成してもよい。或いは、合金前駆体の少なくとも1つを溶融し(典型的には合金の主要素)、そこへ他の要素を加えて完全に溶解させる。更なる代替例として、まず固体合金前駆体(例えば、粒子状、粉末状、又はインゴット状)を混ぜ合わせ、要素を溶融するのに十分な温度まで加熱し、溶融要素をブレンドして合金溶湯を生成する。合金前駆体は、それら全体が液化するのに十分な溶融温度まで加熱する。溶融温度としては、合金前駆体が液体となる温度よりも50℃、100℃、又は300℃(又はそれ以上)高い温度等が好適である。溶湯を吐出するときの雰囲気は特に限定されないが、非晶質合金に酸化物等が混入するのを低減する観点からは、不活性ガス等の雰囲気が好ましい。
【0038】
次いで、合金溶湯は、確実に合金溶湯を均質化するのに十分な時間上記溶融温度に保持してもよい。従って、溶融状態の実際の溶融温度及び時間は、合金前駆体を確実に完全に均質化する温度及び時間であれば限定されない。いくつかの実施形態では、合金溶湯は、少なくとも10分間、約300℃~2,000℃の温度で加熱し保持することで均質化できる。
【0039】
いくつかの実施形態では、合金前駆体の1つ以上を別々に加熱する。例えば、各合金前駆体を液化又は部分的に液化してから互いに混合することで、合金溶湯を形成してもよい。更に多くの実施形態では、合金前駆体の1つ以上を各種温度まで加熱した後に混合する。
【0040】
当業者に知られている任意の好適な手順に従って、合金前駆体を加熱して合金溶湯を得てもよい。例えば、合金溶湯は、抵抗溶解、アーク溶解、誘導溶解、又はこれらの組み合わせによって調製してもよい。抵抗溶解では、熱源として電気抵抗を使用する。アーク溶解の場合は、熱源として使用した電気アークによって加熱を行う。誘導加熱の場合は、高周波数で渦電流によって対象物中に発生させた熱を介して電磁誘導を実施して加熱を行う。
【0041】
次いで、確実に非晶質合金を形成できる任意の手順に従って合金溶湯を急冷してもよい。例えば、合金溶湯の冷却は、確実に非晶質合金を形成できる十分な速さの冷却速度で、溶融紡糸、遠心紡糸、又は溶体化急冷によって行ってもよい。
【0042】
いくつかの実施形態では、上記非晶質合金は、溶融紡糸によって、例えば、平面流鋳造手順において、合金溶湯を回転冷却ロール上に滴下することによって製造する。上記手順は、不活性条件下、例えばアルゴン下で行ってよい。上記冷却ロールは、非晶質合金を生成するように合金溶湯の急冷を促す任意の回転速度で回転させてもよい。例えば、上記冷却ロールは、約15m/s以上、約30m/s以上、又は約40m/s以上の周速度で回転してもよい。一部の実施形態では、上記冷却ロールは、55m/s以下、70m/s以下、又は80m/s以下の周速度で回転する。当業者であれば、非晶質合金を生成するように合金溶湯の急冷を促す好適な回転速度を考案できるであろう。
【0043】
上記急冷方法に応じて、上記非晶質合金は、薄帯、薄片、粒状物、又はバルクの形態で得られてもよい。例えば、上記非晶質合金を溶融紡糸により製造する場合、該合金は薄帯の形態で得られる。上記薄帯は、溶融及び紡糸条件に応じた寸法を有していてもよい。上記薄帯の厚さは、約5μm~約45μm、例えば約10μm~約15μmの範囲であってもよい。また、上記薄帯の幅は、約0.5mm~約220mm、例えば、約1mm~約200mm、約1mm~約150mm、約1mm~約100mm、約1mm~約50mm、約1mm~約25mm、又は約1mm~約12mmの範囲であってもよい。
【0044】
上記合金の組成中の特定の元素は、溶湯を急冷する際に上記合金の微細構造及び組成を決定するのに関与し得る。例えば、少なくとも10原子%のB(ホウ素)が合金組成物中に存在すると(y≧10)、非晶質形態の合金が形成されやすくなり、非晶質相の安定性が促進される。同時に、本明細書で説明されるように、ホウ素が16%以下(y≦16)であると、アニーリング中に形成される不要な硬質磁性Fe-B化合物が最小限に抑えられる。また、上記非晶質合金中のB含量が16原子%以下であると、非晶質相が結晶化する際のFe-B化合物の形成を回避できる。
【0045】
従って、いくつかの実施形態では、yは少なくとも11である。例えば、yは少なくとも12であってもよい。いくつかの実施形態において、yは、少なくとも15%以下、例えば14%以下である。このような濃度であると、有利には、不要なFe-B化合物が上記合金に存在しないようにできる。
【0046】
また、本発明の方法では、次に非晶質合金を少なくとも200℃/秒の加熱速度で加熱する必要がある。本発明における「加熱速度」は、上記合金と密接に熱的に接触する先端直径が0.1mmの非絶縁K型熱電対によって測定される、特定の非晶質合金を加熱する速度であると理解される。
【0047】
典型的な手順では、上記加熱速度は、単一段階プロセスにおける開始温度及び終了温度を参照して測定された温度上昇率に関して決定してもよい。上記開始温度は室温(例えば、約22℃)であってもよく、上記終了温度は、上記開始温度とアニーリングプロセスに使用する予熱表面の温度との差の95%にあたる値であってもよい。
図1(a)に、この種の測定に関連した温度プロファイルの概略図を、関連する参照パラメータの記載とともに示す。上記手順例では、確実に良好に接触させるのに十分な力(すなわち、約1GPaの熱電対表面圧力)で、熱電対の先端を平行な2つの予熱表面に迅速に(すなわち、0.1秒未満で)接触させる。予熱表面の温度は、接触領域から1mm以内の加熱表面内に埋め込まれた二次熱電対で測定し、且つ、表面温度を正確に表示できるように温度読み取り値を10秒以上安定させてから測定する。加熱表面の質量は、アニーリングプロセスの間中、その測定された温度変化が5℃/秒を超えないように十分に大きいものであるべきである。
【0048】
上記非晶質合金を少なくとも200℃/秒の加熱速度でアニーリングすることによって、非晶質相中に埋め込まれた、bcc Fe-Co、又は含まれる場合にはFe-Co-Niからなる微細な結晶相の形成を促進でき、その場合、結晶粒の平均粒径は有利には30nm未満である。一般に、加熱速度が速いほど、結晶粒の平均粒径は小さくなる。その結果、加熱速度が速いほど、有利には、Hc値が低くなる特徴を有する合金が得られる。特に、加熱速度が少なくとも200℃/秒であると、有利には、合金の微細構造(すなわち、粒径が30nm未満の結晶粒)を正確に制御でき、25A/m以下のHcの顕著な減少につながるとともに、高いJsを確保できる(すなわち、1.98Tを超える)ことが分かった。
【0049】
従って、この文脈において、加熱速度が速いほど、上記合金の磁気誘導異方性を全体的に減少させるのに有益であり、本明細書で説明されるようにHc値の低下を促すことが理解されよう。従って、本発明の方法は、アニーリング中に磁気誘導異方性を制御及び最小化できるため、Hcを損なうことなく高いCo含量(従って高いJs)を有するFe-Co合金の合成が可能であるという点で有利である。
【0050】
従って、いくつかの実施形態では、上記加熱速度は200℃/秒より速い。例えば、上記非晶質合金は、少なくとも約250℃/秒、少なくとも約500℃/秒、少なくとも約750℃/秒、少なくとも約1,000℃/秒、少なくとも約1,500℃/秒、少なくとも約2,000℃/秒、少なくとも約5,000℃/秒、少なくとも約7,500℃/秒、少なくとも約10,000℃/秒、又は少なくとも約15,000℃/秒の加熱速度で加熱してもよい。
【0051】
上記非晶質合金を少なくとも200℃/秒の加熱速度で加熱することを含む方法であれば、加熱手順は、完全にその速度での加熱工程で構成されていてもよいし、或いは多段階の加熱手順の一部としてその速度での加熱を行ってもよいことが理解されよう。いずれの場合も、結晶化プロセスの大部分(すなわち、50%を超える)の間、急速な加熱速度が実施される。
【0052】
本明細書に開示された速度で上記非晶質合金を加熱できるアニーリング手順はいずれも本発明の方法で好適に使用できるであろう。
【0053】
例えば、上記非晶質合金は、高温で予熱された発熱体に接触させてもよい。その点に関して、発熱体は、上記非晶質合金が発熱体と熱的に接触すると、上記非晶質合金を少なくとも200℃/秒の加熱速度で加熱することになる任意の温度に予熱してもよい。例えば、発熱体は、少なくとも約500℃、少なくとも約750℃、又は少なくとも約1,000℃で予熱してもよい。いくつかの実施形態では、発熱体は約500℃で予熱する。
【0054】
本明細書中に記載されるように予熱された発熱体と上記非晶質合金との接触は、意図する目的に好適であろう当業者に知られる任意の手段によって行うことができる。
【0055】
例えば、上記非晶質合金は、加熱ブロックの形態の予熱済み発熱体に接触させてもよい。これは、例えば、予熱済みブロック間に上記非晶質合金を挟み込むことができる装置によって行うことができる。上記ブロックは、所望の加熱温度まで予熱でき、上記合金へ確実に速く熱伝達できる任意の材料で作られていてもよい。従って、ブロックの材料としては、金属(例えば、銅、チタン)、合金(例えば、鋼、アルミニウム合金)、及びセラミック材料(例えば、アルミナ)等が好適である。上記挟み込みは、熱を上記合金全体に確実に均一に分布させることができるクランプ力を加えることで実施できる。いくつかの実施形態では、上記非晶質合金を加熱は、少なくとも約3kPa、例えば、少なくとも30kPa、又は少なくとも100kPaの圧力で予熱済みブロック間に該合金を挟み込んで行う。一実施形態によると、上記クランプ力は133kPaである。このような構成の一例として、予熱済み加熱用ブロック間に薄帯状の非晶質合金を挟み込んだものを
図2(a)に示す。
【0056】
別の構成によれば、上記非晶質合金は、熱間圧延構成における発熱体に接触させてもよい。これらの構成は、上記非晶質合金を連続的にアニーリングできるという点で特に好ましい。これらの例では、発熱体は、所望の温度に予熱された2つロールであって、一方のロールの回転が他方のロールの逆回転に相当するように互いに接触している2つロールの形態であってもよい。このような配置によれば、薄帯の形態の上記非晶質合金は回転ロール間を通過する。各ロールは、所望の加熱温度まで予熱でき、上記合金へ確実に速く熱伝達できる任意の材料で作られていてもよい。従って、この点に関して好適な材料としては、金属(例えば、銅、チタン)、合金(例えば、鋼、アルミニウム合金)、及びセラミック材料(例えば、アルミナ)が挙げられる。上記ロールは、少なくとも約3kPa、例えば、少なくとも30kPa、又は少なくとも100kPaのクランプ圧力が得られるように互いに押し付けてもよい。一実施形態では、上記ロールは、133kPaのクランプ力が得られるように互いに押し付ける。
【0057】
本発明に好適に使用できる熱間圧延構成の一例を
図2(b)に示す。図は、薄帯状の上記非晶質合金を通過させる一対の予熱済みローラに基づく構成を示す。上記ローラは、本明細書に記載の任意の好適な温度まで予熱し、各ロールの温度は、所望の合金構造になるように独立して調節してもよい。ロールが回転すると、上記非晶質合金薄帯は、繰り出しリールから繰り出され、ロール間を通過するが、その際ロールは、本明細書に記載されるような圧力で互いに押し付けてもよい。図に示した構成では、薄帯は、一方のロールとロールの外周の半分に沿って接線方向に接触させられる。しかしながら、薄帯とロールとの接触の程度は、薄帯を所望の程度に加熱できるように変化させることができる。薄帯がロール間の接触点から離れると、薄帯の温度は結晶化し始めるのに十分なレベルまで上昇している。ロールが回転する際に一方のロールに接触し続けることによって、結晶化中に発生する発熱を除去できる。その後、薄帯はロール表面を離れ、(自然対流、強制対流、冷却したブロック、又は液冷浴のいずれかによって)冷却されてから、巻き取りリールに巻き取られる。特定の構成では、サーボモータを一方のロールに取り付けて、制御された速度の回転を与えてもよい。回転速度を調節して薄帯のアニーリング時間を制御してもよい。また、繰り出しリール及び巻き取りリールに取り付けたサーボモータを使用して、薄帯に一定のトルク、ひいては張力を供給してもよい。更に、エンコーダをサーボモータに取り付ければ、2つのマンドレルの総回転数の差を監視及び記録できるので、アニーリングプロセス中に薄帯にかかる引張歪を評価及び制御できるであろう。このような場合には、最小限の厚さ、典型的には18μm未満の厚さの合金薄帯を製造することが特に有利である。これにより、薄帯が積層コアへと形成され、交流磁場に曝露される場合に、望ましくない渦電流の形成を確実に制限できるであろう。結果として、合金製造システムは、より高い効率(すなわち、より低い電力損失)のサーボモータを有するように設計でき、その結果、経済的に有益である。
【0058】
更に、少なくとも200℃/秒の加熱速度を得るのに好適であり得るアニーリング手順としては、液浴アニーリング及び熱風アニーリング等が挙げられる。
【0059】
液浴アニーリングでは、高温に保持された液浴中に上記非晶質合金を浸漬する。上記浴は発熱体として機能し、本明細書に記載されるような予熱温度に保持できる。上記非晶質合金は、所望の構造を得るのに好適な任意の時間(例えば、0.5~5秒等の数秒~数分の単位)浸漬してもよい。上記浴は、要求される浴温度で溶融状態になるであろう任意の材料で作製してもよい。この点に関して好適な材料としては、溶融Pb-Sn系はんだ、溶融ガリウム、溶融アルミニウム-ガリウム合金、及び溶融塩等が挙げられる。
【0060】
熱風アニーリングの場合、上記非晶質合金(例えば、薄帯の形態)は、発熱体として機能する高温空気のストリーム上で通過させて急速に加熱する。いくつかの構成では、上記合金は、第1スプールから引き出され、第2スプールによって巻き取られる薄帯の形態であってもよい。このような場合、スプールのトルク及び/又は速度を(例えば、サーボモータで)制御することによって、アニーリング中の薄帯の張力を調節できる。
【0061】
上記非晶質合金をどのように加熱するかにかかわらず、上記非晶質合金の実際の加熱速度の制御は、発熱体と非晶質合金試料との間に1つ以上の絶縁層を介在させることによって実施できる。このような層は、例えば、発熱体の材料と同じ又はそれよりも低い熱伝導率を有する材料で作製できる。例えば、上記加熱速度の制御は、発熱体と非晶質合金試料との間に金属(例えば、鉄、チタン)、合金(例えば、鋼、アルミニウム合金)、又はセラミック材料(例えば、アルミナ)の層を1つ以上介在させることによって実施してもよい。
【0062】
本発明の方法において、上記非晶質合金は、非晶質相中に埋め込まれた、Co及び存在する場合にはNiを含むbcc Fe結晶粒から主になる結晶相を特徴とする微細構造を有する合金を提供するのに好適な任意のアニーリング温度で加熱してもよい。理論で限定されることを望むものではないが、上記非晶質合金の微細構造は、加熱中に、(非晶質)→(Co又はNi(存在する場合)も含むbcc Fe)+(非晶質相)→(Co又はNi(存在する場合)も含むbcc Fe)+(Fe-B等の硬質磁性化合物)という順序による二段階結晶化機構に従って変化すると考えられる。
【0063】
従って、特定の加熱速度に関して適切なアニーリング温度は、確実に硬質磁性化合物の形成を最小限に抑えるか又は形成しないように、すなわち、保磁力が確実に最小限になるように決定してもよい。一般に、アニーリング温度が結晶化開始温度以上の場合に結晶相が形成される。その点で、アニーリング温度がFe-B化合物の結晶化開始温度を超える場合、硬質磁性Fe-B化合物の形成に関連した強い磁気-結晶異方性が誘起され得る。このように、アニーリング温度は、Fe-B化合物の結晶化開始温度に達しない又は超えないものとなるように決定できる。例えば、上記非晶質合金のアニーリング温度は、Fe-B化合物が形成し始める温度よりもわずかに低くてもよい(例えば、5~20℃低い)。
【0064】
従って、いくつかの実施形態では、アニーリング温度は、約350℃~約650℃、約400℃~約650℃、約450℃~約600℃、約450℃~約550℃、又は約450℃~約500℃の範囲である。例えば、アニーリング温度は、約490℃、約500℃、約510℃、又は約520℃であってもよい。
【0065】
本発明の目的に好適なアニーリング温度を選択する際には、1つ以上の他の要因を考慮する必要があり得る。例えば、上記合金中の結晶相の形成に関連した結晶化反応は、それ自体が上記合金の加熱に寄与し得る顕著な潜熱の放出を伴う可能性がある。この点に関して、当業者であれば、加熱手順を考案する際に、このような追加の寄与を考慮するであろう。例えば、当業者であれば、アニーリング中の過剰な結晶化潜熱を抑制又は除去するのに好適な予防策(例えば、結晶相の形成中に潜熱を除去できるであろうような好適な質量及び熱伝導率を有する予熱表面を使用)を採用するであろう。
【0066】
本発明の方法において、上記非晶質合金は、非晶質相中に埋め込まれた、Co及び存在する場合にはNiを含むbcc Fe結晶粒から主になる結晶相を特徴とする微細構造を有する合金を提供するのに必要とされる時間、所定のアニーリング温度に維持してもよい。アニーリング時間としては、例えば、約0秒~約80秒、約0.1秒~約80秒、約0.1秒~約60秒、約0.1秒~約30秒、約0.1秒~約15秒、約0.1秒~約10秒、約0.1秒~約5秒、約0.1秒~約1秒、又は約0.1秒~約0.5秒が好適である。
【0067】
いくつかの実施形態では、上記非晶質合金はまた、加熱しながら、例えば引張応力及び/又は圧縮応力等の外力に供される。アニーリング中に引張応力及び/又は圧縮応力を加えると、アニーリング中に形成される結晶の構造に弾性歪が引き起こされる。これにより、上記合金のアニーリング中に形成される磁気誘導異方性の方向性の制御が促進される。
【0068】
当業者に知られている任意の手段によって、加熱中に上記非晶質合金を引張応力及び/又は圧縮応力に供することができる。例えば、発熱体間に上記非晶質合金を配置して、該合金を発熱体と熱的に接触させることで加熱を行う場合、発熱体を互いに押し付けて該合金に圧縮応力を加えてもよい。加えて又は代わりとして、上記非晶質合金は、発熱体に接触させながら該合金を両端部で引っ張ることによって引張応力に供してもよい。これは、当業者に知られている任意の手段によって実施できる。例えば、上記合金を両端部で挟み込み、機械的に引っ張ってもよい。或いは、発熱体が加熱ロールの形態である場合、上記合金の張力を本明細書に記載されるように調節してもよい。
【0069】
いくつかの実施形態では、上記非晶質合金の加熱は、該合金を磁場に曝露することを含む。これにより、上記合金のアニーリング中に形成される磁気誘導異方性の方向性を更に制御できる。特に、アニーリング中に上記合金を磁場に曝露することによって、磁気結晶異方性のランダム化の有効性を最大化でき、形成される間に結晶粒の局所的磁気結晶異方性の平均化が促進される。その結果、得られる合金のHcを更に最小化できる。
【0070】
上記磁場の強度は、結晶粒の形成中及び/又はアニーリング終了後の冷却プロセス中に材料の磁化を整列させるのに好適であろう任意の強度であってもよい。いくつかの実施形態では、上記磁場の強度は少なくとも約0.3kA/mである。例えば、上記磁場の強度は、少なくとも約1kA/m、少なくとも約3kA/m、少なくとも約10kA/m、少なくとも約30kA/m、又は少なくとも約300kA/mであってもよい。いくつかの実施形態では、上記磁場の強度は約1000kA/mである。
【0071】
いくつかの実施形態では、上記磁場は、合金材料に対して回転しているか、或いはその配向及び/又は大きさが変化している。合金材料に対して回転しているか、或いはその配向及び/又は大きさが変化している磁場を採用すると、本質的に等方性の磁化分布を有する合金を得ることができる。これにより、磁気誘導異方性が顕著に抑制されるため、上記合金の軟磁性特性(すなわち、より低いHc)を劇的に改善できる。
【0072】
合金材料に対してその配向及び/又は大きさが変化している磁場の存在下で上記非晶質合金をアニーリングできるであろう手段であればいずれも、本発明の目的に好適であろう。例えば、アニーリング中に磁気源を上記合金の周りで回転させることによって、回転磁場を得てもよい。或いは、上記合金は、アニーリング中に好適な回転支持体に固定して固定磁場内で回転させてもよい。或いは、大きさが交番する磁界(すなわち、印加磁場の大きさは、時間とともに変化できる)を、試料材料に対して3次元にわたって複数の固定配向で印加してもよい。
【0073】
上記磁場の上記合金に対する配向又は大きさは、上記合金内の磁気誘導異方性をランダム化するのに好適な任意の速度で変化してもよい。いくつかの実施形態では、上記磁場の配向又は大きさが変化する速度は、少なくとも約1Hz、少なくとも約30Hz、少なくとも約100Hz、少なくとも約300Hz、少なくとも約1,000Hz、又は少なくとも約3,000Hzである。例えば、上記磁場の配向又は大きさが変化する速度は、約1,000Hz~約3,000Hzである。
【0074】
いくつかの実施形態では、上記磁場は横磁場である。その点に関して、
図1に、490℃で0.5秒間高速アニーリングされた実施形態の(Fe
0.8Co
0.2)
87B
13合金について測定された磁気ヒステリシス曲線を示す。上記曲線は、横磁場の存在下で磁場アニーリングを行った合金試料(TFA曲線)を、磁場の非存在下でアニーリングされた対応試料のヒステリシス曲線(NFA曲線)と比較して示す。
【0075】
いくつかの実施形態では、上記磁場は縦磁場である。それらの場合、上記磁場は、磁力線が上記合金の主軸に対して実質的に平行に走っているようなものである。これらの実施形態では、上記合金試料は、縦磁場アニーリング(LFA)試料とされてもよい。
【0076】
更に、上記非晶質合金を磁場の存在下で加熱する利点は、磁場を印加しないでアニーリングされた対応合金と比較してコア損失が低い合金が得られることである。その点に関して、
図3に、印加磁場の存在下(TFAデータ)及び非存在下(NFAデータ)において490℃で0.5秒間高速アニーリングされた(Fe
0.8Co
0.2)
87B
13合金の50Hz、400Hz、及び1,000Hzでのコア損失を示す。TFA試料に見られる磁気コア損失が低いほど、透磁率(すなわち、
図1の0A/m~400A/mの範囲の曲線の勾配)が低く、TFA試料中の渦電流の形成が抑制されることを示していると考えられる。
【0077】
加熱後、上記合金は冷却してもよい。当業者に知られている任意の手段によって冷却を実施できる。例えば、自然対流又は強制対流によって冷却を実施してもよい。いくつかの実施形態では、上記合金を周囲条件に曝露して自然に室温まで冷却するように冷却する。いくつかの実施形態では、上記合金をより低温の表面又は要素に熱的に接触させて配置して冷却する。例えば、上記合金を冷却ブロック、冷液浴、又は冷気ストリームに熱的に接触させて配置してもよい。当業者であれば、この点に関して好適な冷却手順を考案できるであろう。
【0078】
典型的には、加熱中に得られた合金の結晶構造の維持を促す任意の冷却速度で冷却してもよい。例えば、上記合金は、少なくとも約1℃/秒、少なくとも約10℃/秒、少なくとも約50℃/秒、又は少なくとも約100℃/秒の冷却速度で冷却してもよい。いくつかの実施形態では、上記合金は、少なくとも約100℃/秒の冷却速度で冷却する。当業者であれば、加熱速度に関して本明細書に記載の手順に従って冷却速度を監視する方法を知っているであろう。
【0079】
いくつかの実施形態では、上記合金は、加熱した後、本明細書に記載されるような磁場の存在下で冷却する。例えば、上記合金は、加熱した後、加熱工程中に用いた同じ磁場の存在下で、例えば室温まで冷却する。有利であることには、上記合金を磁場の存在下で冷却する場合、上記合金の軟磁性特性を更に改善できることが観察された。
【0080】
本明細書において「室温」とは、例えば、10℃~40℃、より典型的には15℃~30℃であってもよい周囲温度を指す。例えば、室温は20℃~25℃の温度であってもよい。
【0081】
上記合金の特定の組成特徴は、加熱中の上記合金の結晶化動力学に関与し得る。例えば、上記合金中にCuが存在すると、上記合金の平均粒径を小さくするのに有効であり得る。理論で限定されることを望むものではないが、Cuは上記非晶質合金の加熱中に不均一核生成サイトとして作用すると理解される。具体的には、Fe系ナノ結晶軟磁性合金にCuを添加すると、結晶化開始前にCuに富むクラスターが形成される場合がある。このようなCuに富むクラスターは不均一核生成サイトとして作用でき、結晶粒微細化を助ける。また、Cu含量が増加すると、Cuクラスター化開始温度が低下し、その結果、結晶化開始前にCuクラスターの数密度が高くなるため、結晶粒微細化が改善すると考えられる。一般に、銅の濃度が低いと(例えば、z=0.2又はz=0.5)、結晶相の結晶粒微細化に顕著な影響を及ぼし得る一方、銅の量が過剰であると(例えば、1%を超える)、合金が実用的な用途に使用するには脆くなりすぎたり、或いはまず第一に非晶質相の形成が妨げられたりする可能性がある。従って、いくつかの実施形態では、zは0.2~1、0.2~0.7、又は0.2~0.5の範囲である。
【0082】
また、本発明の合金は、Nb、Mo、Ta、W、Ni、及びSnから選択される元素Mを含んでもよい。具体的には、上記合金は、Nb、Mo、Ta、W、Ni、又はSnを0~8原子%含む(すなわち、a=0~8)。追加元素Mの役割は、上記非晶質合金の加熱中の非晶質マトリックス相の結晶粒微細化及び/又は安定化に関連していることが分かった。その結果、元素Mが存在すると、上記合金のHcを最小化するのに有利であり得る。例えば、上記合金を合成する際にこれらの元素はいずれも、結晶相の結晶粒成長を抑制でき、その結果、Hcが低下した合金が得られる。更に、元素Mが存在すると、Mを含まない合金よりも広い温度範囲にわたって非晶質マトリックス相の一層の安定化を確保できる。一方、上記合金中に8%を超える過剰量の元素Mが存在すると、それに伴って上記合金中のFe及びCo含量が減少するため、上記合金のJsに悪影響をもたらし得る。従って、いくつかの実施形態では、aは0~7.5、0~5、0~2.5、又は0~1の範囲である。いくつかの実施形態では、z及びaは両方とも0である。
【実施例】
【0083】
実施例1
(Fe1-xCox)87B13(式中、x=0~0.5)の標準組成を有する前駆体非晶質薄帯をAr雰囲気中で溶融紡糸法(平面流鋳造法)により製造した。厚さ約10~15μm、幅1~12mmの薄帯を得た。薄帯を厚さ20μmのCuホイルパケット内に置き、Ar雰囲気中で超高速アニーリングを行った。次に、これらのパケットを2つの予熱済みCu製ブロック(長さ150mm、幅50mm)間で、空気圧シリンダ及び自動タイミング機構を用いて950Nの力で0.5秒間圧縮した。
【0084】
平均粒径(D)は、CoKα源を用いたX線回折(XRD)によってScherrerの式を用いて評価した。密度は、Heガス比重計を用いて評価した。飽和磁気分極(Js=μ0Ms)は、振動試料磁力計(VSM)BHV-35H(理研電子製)を用いて0.8MAm及び22℃(295K)の条件で評価した。Hcの評価は、ヒステリシスループトレーサーBHS-40DC(理研電子製)を用いて295Kで行った。
【0085】
図4(a)は、(Fe
1-xCo
x)
87B
13の組成を有する各種の非晶質薄帯鋳放品を選択し、それらから取得したXRDパターンを示す。該パターンは、薄帯の鋳造ホイールと接触しない側から取得した。x=0~0.3では識別可能な結晶反射ピークは見られないため、これらの薄帯は、XRDで検出可能な長さスケールにわたって非晶質であると考えられる。x=0.4及び0.5では、bcc Feとして同定される結晶反射ピークが約52.8°で見られる。しかしながら、この結晶反射ピークの強度がブロードな非晶質バックグラウンドに比べて低いことから、鋳放品としてのbcc Feの体積分率が20%未満であることが示唆される。
図4(b)は、超高速アニーリングプロセス後に取得されたXRDパターンを示す。該パターンは、bcc Feに属すると同定される結晶反射ピークを示す。
【0086】
図5は、加熱速度(α)に対する(Fe
0.75Co
0.25)
87B
13のH
c、XRDで決定されるD、及びJ
sを示す。用いた加熱速度(α)ごとに、一次結晶化の開始後にH
cが最小になるようにアニーリング時間を選択した。加熱速度は、試料と予熱済み銅製ブロックとの間に絶縁材料を配置することによって変更した。加熱速度が3.7から約10,000℃/秒に増加すると、H
cは約70A/mから10A/mに減少することが認められるが、J
sは全ての条件において2Tを超えたままである。
図5に示されるH
cの減少は、対応する24.3から19.7nmへのDの減少に関連していると考えられ、この合金システムの軟磁性を最大にするために超高速アニーリングプロセスを利用できることが明らかとなる。
【0087】
図5のデータによると、加熱速度の増加とともに保磁力及び粒径は減少することが確認される。
図5のプロットが示す傾向線(破線)から、30nm未満(本実施例では22nm以下)の粒径を得るには、加熱速度を200℃/秒以上にすることが有利であると理解できる。これは25A/m以下の保磁力(H
c)に相当し、一方、磁化飽和(J
s)は1.98Tを超える値に維持できる。本明細書で議論されるように、25A/m以下の低い保磁力は、典型的に商業的用途に必要とされるものであろう。全体として、データから、200℃/秒以上の速度で合金を加熱することにより得られる顕著な利点が確認できる。
【0088】
図6は、いずれも最大加熱速度約10,000℃/秒及び保持時間0.5秒でアニーリングを行った各選択合金組成物についてアニーリング温度(T
a)に対するH
cを示す。最適アニーリング温度(T
op)は、各合金について保磁力が最小となる温度として特定できる。T
opは、x=0及び0.2の場合、約490℃(763K)の付近に認められ、x=0.3、0.4、及び0.5の場合、それぞれ約500℃(773K)、約510℃(783K)、及び約520℃(793K)の付近に認められる。
【0089】
図7に、加熱速度約10,000℃/秒及び保持時間0.5秒としてT
opでアニーリングを行った後の(Fe
1-xCo
x)
87B
13のH
c、D、及びJ
sを示す。x値(Co含量に対して)が0.25未満であると、中程度のH
cの増加が見られるのみで、x=0では6.4A/mであり、x=0.25では10.2A/mである。Co含量が0.25を超えると、H
cの急激な増加が見られ、x=0.5ではピークが24A/mである。このCo含量に伴うH
cの増加は、xが0.1増加するごとにDが約1.3nm増加するため、一部は微細構造の粗大化によるものであり得る。しかしながら、x=0.25を超える際のH
cの急激な増加は、
図7に見られるDの段階的な変化に反映されない。また、Coを添加するとJ
sが増加することが認められ、x=0.25で最大値2.04Tが見られ、これはまさに測定値2.0Tを有するFe-3重量%Siに匹敵する。
【0090】
実施例2
ナノ結晶(Fe0.8Co0.2)87-zB13Cuz(式中、z=0~1.5)にCu添加が及ぼす効果についても調べる。この文脈において、比較のため、z=1.5の試料を作製した。(Fe0.8Co0.2)87-zB13Cuz及び(Fe1-xCox)86B13Cu1(式中、z=0~1.5(z=1.5の試料は比較用)及びx=0~0.3)の標準組成を有する前駆体非晶質薄帯をAr雰囲気中で溶融紡糸法(平面流鋳造法)により製造した。厚さ約10~15μm、幅1~12mmの薄帯を得た。薄帯を厚さ20μmのCuホイルパケット内に置き、Ar雰囲気中で超高速アニーリングを行った。次に、これらのパケットを2つの予熱済みCu製ブロック(長さ150mm、幅50mm)間で、空気圧シリンダ及び自動タイミング機構を用いて950Nの力で0.5秒間圧縮した。
【0091】
粒径は、CoKα源を用いたX線回折(XRD)によってScherrerの式を用いて評価した。本研究で報告した密度の値はHeガス比重計を用いて評価した。飽和磁気分極(Js=μ0Ms)は、振動試料磁力計(VSM)BHV-35H(理研電子製)を用いて0.8MAm及び295Kの条件で評価した。Hcの評価は、ヒステリシスループトレーサーBHS-40DC(理研電子製)を用いて295Kで行った。
【0092】
図8(a)は、急冷した(すなわち、アニーリング前)非晶質(Fe
0.8Co
0.2)
87-zB
13Cu
z試料(z=0、0.5、1、1.5(最後は比較用))のXRDパターンを示す。
図8(b)は、アニーリングされた(Fe
1-xCo
x)
86B
13Cu
1(x=0~0.3)について測定されたXRDパターンを示す。
【0093】
図9は、(Fe
0.8Co
0.2)
87-zB
13Cu
z(式中、z=0、0.5、1、及び1.5(最後は比較用))についてT
aに対するH
cを示す。これらの組成物の薄帯鋳放品をXRD(
図8参照)で調べたところ、z=0~1(例えば、z=0.5及び1.0)の合金では識別可能な結晶反射ピークは見られなかった。それらの場合、データは、非晶質合金相を示すブロードな反射を示す。しかしながら、z=1.5の合金では幾分かの結晶化が見られた。
図9から、Cuの添加によってT
opが約10℃低下し、H
cがアニーリング温度の変化に対してより影響を受けるようになることが認められる。
図9のプロットにおける保磁力データの一般的な傾向を考慮すると、Cu量が1%から0%(すなわち、z=1からz=0)に減少すると、非常に低い保磁力(すなわち、15A/m未満)を可能にするアニーリング温度ウィンドウが徐々に拡大することが確認できる。全体として、Cu含量が1%を超える(例えば、1.5%)合金に比べて、z=0~1の合金では、非常に高い磁気飽和と非常に低い保磁力との有利な組み合わせを得るために採用されるアニーリング温度ウィンドウが幅広くなる。
【0094】
図10は、加熱速度約10,000℃/秒及び保持時間0.5秒としてT
opでアニーリングを行った(Fe
0.8Co
0.2)
87-zB
13Cu
zについてCu含量に対するH
c、D、及びJ
sを示す。アニーリングされた試料においてXRDにより同定された相は、bcc Feに属する相のみであった。Cuを添加するとDは減少し、z=0及びz=1.5はそれぞれ20.6~16.8nmの平均粒径を示す。
【0095】
図10から、0.5原子%のCuを添加するとH
cが9.3から6.9A/mに減少すること、及び更にCu含量を増加させるとH
cが10A/m未満に維持されることが認められる。全体として、
図10のデータから、Cu(z)含量がz=0からz=1.0に増加すると、保磁力が有利に低下する(すなわち、それぞれ9.3から6.9A/mへ約2.4A/m低下する)ことが確認される。しかしながら、Cu(z)量が1%を超える(すなわち、zが1より大きい)と、保磁力が増加し始める(z=1.5の場合、8A/mまで増加)。
【0096】
図10の飽和磁化(J
s)データを参照すると、その値は、Cu量の増加に伴ってわずかに低下し、Cuの原子%あたり平均して約0.01T低下することも確認される。J
sの低下がわずかであるにもかかわらず、データによると、Cu量を1%以下に制御することによって、J
sが1.98Tを超える、例えば2T以上の合金を得ることができることが示されている。これにより、Cu量を1%未満に制御することに関して本明細書中でなされた議論が更に補強される。その点に関して、上記合金の適切な機械的特性及び非晶質相の形成を確保するために、Cu量を1%以下(すなわち、z=0~1)に制限することも推奨される。このことは、特に上記合金を薄帯形態で製造する場合に関係してくることになり、この場合、zが1を超える(すなわち、Cu含量が1%を超える)合金の乏しい機械的特性によって、厚みが20μmより著しく小さい、例えば15μm未満の薄帯の形成が妨げられる可能性がある。
【0097】
Coを添加すると、Cuクラスター化開始温度(Tclust)が高くなる。例えば、Feの20%をCoに置換すると、Tclustは結晶化開始温度に等しい値まで高くなる。結晶粒微細化を助けるためには、顕著な結晶化が始まる前にCuのクラスター化が起こる必要があるので、FeをCoで置換するとCuの核形成剤としての有効性が低下し得る。また、Cu含量が増加すると、Cuクラスター化開始温度が低下し、その結果、結晶化開始前にCuクラスターの数密度が高くなるため、結晶粒微細化が改善し得る。
【0098】
本明細書中に記載のデータから、(Fe
0.8Co
0.2)
87B
13にCuを添加すると粒径が明らかに減少することが分かる。
図10に見られる傾向によると、Cuの添加量が0.5原子%と少量であっても、結晶粒微細化に有効であり得る。このことは、T
opで高速アニーリングを行った際に少量のCu添加量であっても、この合金系においてはT
clust開始温度が結晶化開始温度より低いことを示唆し得る。この効果は、超高速アニーリング技術により可能になる比較的高いアニーリング温度によるものである可能性がある。更に、Cuをより多く添加するとDが減少することは、結晶化開始前にCuクラスターの数密度が高くなることを示唆し得る。
【0099】
従って、一般的な意味で、Cuは平均粒径を減少させるのに有効であり、試料合金の軟磁性特性をいくらか改善できるという見解が、このデータによって裏付けられる。それでもなお、Cu量によって上記合金の機械的安定性又は非晶質相の形成が確実に損なわれないようにする点について注意すべきである。その点に関して、本明細書中で議論しているように、上記合金の適切な機械的特性及び非晶質相の形成を確保するために、Cu量を1%以下(すなわち、z=0~1)に制限することが推奨される。データから、
図11に示すように、粒径と軟磁性とのいずれの断絶も、交換軟化プロセスに悪影響を及ぼすCoの添加時にかなり大きい磁気誘導異方性が形成されることによるものであり得ることも示されている。
【0100】
図11は、460℃(733K)~540℃(813K)で0.5秒間超高速アニーリングを行った後の(Fe
0.5Co
0.5)
87B
13のDC BHヒステリシス曲線及び記載された各粒径を示す。
図4のBH曲線を得るために使用した試料は長さが約100mm、幅が約1mmであり、空芯補償ピックアップコイルを備えた長さ0.5mのソレノイドにおける開磁路を用いて測定した。Dも評価しており、同様に
図4に示す。Dはアニーリング温度が高くなると低下することが明らかである。このようにアニーリング温度によって結晶粒微細化が改善することは、認められたH
cの低下の原因として可能性が高い。しかしながら、
図4から、480℃(753K)でアニーリングされた試料のBH曲線は、バルクハウゼンジャンプの兆候を明確に示していることも認められる。このことと、直角度の高いBH曲線(高い残留/飽和比)とから、本材料には著しい誘導異方性が存在し得ることが示唆される。更に、480℃(753K)を超える温度でアニーリングされた試料では、バルクハウゼンジャンプの兆候はなく、BHの直角度が認められる。
【0101】
実施例3
図12は、10,000℃/秒の加熱速度でアニーリングされた(Fe
1-xCo
x)
87B
13、(Fe
0.8Co
0.2)
87-zB
13Cu
z、及び(Fe
1-xCo
x)
86B
13Cu
1についてH
cとDとの関係を示す。
図5からの、3.7~10,000℃/秒の範囲の加熱速度でアニーリングされた(Fe
0.75Co
0.25)
87B
13のH
c及びDも含まれる。
【0102】
粒径が20nmより大きい場合、保磁力はD6依存性によって良く説明され、粒径が小さい場合、この依存性はD3に近い。D6依存性及びD3依存性は両方ともHerzerのランダム異方性モードにより予測する。D3依存性は、交換長さより大きい長さスケールにわたってコヒーレントな誘導異方性によって交換長さが制御される場合に起こることが示されている。従って、磁気誘導異方性(Ku)は試験試料のCo含量の二乗に対応すると考えられる。これにより、(Fe0.8Co0.2)87-xB13CuzのDの変化に対するHcの相対的非感受性は、これらの材料中にかなり大きいKuが存在することに起因するという見解が更に裏付けられる。
【0103】
更に、
図12から、約20nm未満のD
3領域ではデータがかなり散乱していることも認められる。この散乱は、各組成物に存在するKuレベルが異なっていることを反映していると理解できる。H
cのD
6からD
3粒径依存性への切り替えは、ランダム磁気結晶異方性のK
uに対する比が約1:2である場合に起こることが知られている。従って、
図12の組成物間でK
uが約1桁変化すると、粒径依存性の切り替えが各種粒径で起こり、データの散乱が見られることになると予想される。
【0104】
図7で既に見られたように、ナノ結晶(Fe
1-xCo
x)
87B
13では、Dは徐々に変化するにもかかわらず、H
cはx=0.2で急激に増加している。
図12から、(Fe
1-xCo
x)
87B
13でのこのようなH
cの増加は、D
6からD
3依存性への移行に相当することが認められる。従って、x=0.2で見られるH
cの急激な増加は、Coの添加によりもたらされたK
uの増加によるものであると示唆される。従って、回転磁場アニーリングによって磁気誘導異方性をランダム化することは、試験試料の軟磁性を改善するのに有効であろう。
【0105】
図13は、鋳放しナノ結晶状態の(Fe
1-xCo
x)
87B
13及びナノ結晶状態の(Fe
1-xCo
x)
86B
13Cu
1のJ
sを示す。3重量%及び6.5重量%Siを含む無方向性Fe-Si鋼のJ
sの一般的な値も示している。ナノ結晶(Fe
1-xCo
x)
87B
13(x=0.2、0.25、及び0.3)では、2Tを超えるJ
sに達し、まさにFe-3重量%Si鋼に匹敵することが認められる。
【0106】
Coを含まない組成物Fe87B13に0.1のCo含量を添加した場合、鋳放し状態でJsの単一の最大増加が見られる。このような薄帯鋳放品のJsの増加は、Coの添加によりもたらされたキュリー温度(Tc)の増加(約220℃(497K)から一次結晶化開始温度である約370℃(643K)よりも高い値に増加する)によるものであり得る。
【0107】
結晶性Fe-CoのJsピークは、Co含量x=0.35付近に位置することが十分に認められている。しかしながら、アニーリングされた(Fe1-xCox)87B13鋳放試料では、このピークの中心はそれぞれx=0.2及び0.25付近にある。
【0108】
このようなJsピーク位置の差は、
Js=Vf
cryJs
cry+(1-Vf
cry)Js
amo
(式中、Vf
cryは結晶体積分率である)となるような残留非晶質相(Js
amo)及び結晶相(Js
cry)からの局所的体積加重平均寄与分を反映していると理解できる。
【0109】
ナノ結晶化後に両相へCoを均一に分割すると仮定すると、結晶相の平衡体積分率は質量バランスにより評価できる。アニーリング後の残留非晶質相の組成がFe3Bの組成に近づくと仮定すると、結晶体積分率は約50%になると予想される。従って、Bに富む残留非晶質相及び結晶性Fe-Co相が、それらのバルク対応物と類似したJsのCo依存性を有するならば、二相ナノ結晶材料は、非晶質(x=0.2)相とFe-Co結晶(x=0.35)相との間のCo含量でJsピークを有することになると予想される。
【0110】
表1に、高速アニーリングされた(Fe0.8Co0.2)87B13及び(Fe0.8Co0.2)86B13Cu1のHc、Js、及び密度(P)を、従来の軟磁性材料の対応する特性と比較して要約する。この比較から、本発明の合金は、市販のHiBナノパーム合金、ナノ結晶性Fe73.5Cu1Nb3Si15.5B7(ファインメット(Finemet))、Fe系非晶質無方向性(NO)Fe-Si鋼を含む従来の軟磁性材料よりも優れた高いJs(2Tを超える)と低いHc(10A/m未満)との組み合わせを得ることができることが理解できる。
【0111】
表1:本研究で調べた(Fe-Co)-B-(Cu)組成物の特性と、ナノ結晶材料、非晶質材料、及び結晶材料の文献値。
【0112】
【0113】
実施例4
図14は、横磁場アニーリング(TFA)試料、縦磁場アニーリング(LFA)試料、及び外部磁場を印加しないアニーリング(NFA)試料について、1000Hz(測定中に使用した磁場の周波数)で取得される印加磁場に対する複素透磁率を示す。上記試料の組成は(Fe
0.8Co
0.2)
87B
13であり、3つの条件全てにおいて10,000℃/秒(10,000K/s)の加熱速度で490℃で0.5秒間アニーリングを行った。
【0114】
測定方向に対して横方向に配向した約24,000A/mの印加磁場の存在下で、2つの予熱済み銅製ブロック間に試料を置いてTFAを行った。測定方向に対して長手方向に配向した約3,000A/mの印加磁場の存在下で、2つの予熱済み銅製ブロック間に試料を置いてLFAを行った。
【0115】
図14において、複素透磁率は、3種類のアニーリング法全てについて約40A/mで最大となることが認められる。LFA試料は、複素透磁率の最も高いピーク値(約30,000)を有することが認められ、TFA試料は、最も低いピーク値(約7,000)を有することが認められる。このようなTFA試料の複素透磁率の低下は、方向性磁気誘導異方性の形成によるものである。この方向性磁気誘導異方性はTFA試料の測定方向に垂直であるため、NFA試料と比較して複素透磁率が低下するように作用する。LFA試料は逆の効果を示し、磁気誘導異方性が測定方向に平行に誘起され、試料の相対的複素透磁率が増加する。
【0116】
高い透磁率が軟磁性材料中の磁区の急速な再配列に関連することは十分に認められている。また、この磁区構造の急速な変化は、低透磁率の材料には典型的であるように、ゆっくり回転する磁区構造よりも大きい渦電流の形成に関連することもよく知られている。従って、
図3及び表2においてNFA試料に対してTFA試料に見られるコア損失の低下は、横磁場アニーリングプロセスにより可能となる材料の透磁率の低下によって渦電流損失が減少した結果である。
【0117】
また、表2から、高速アニーリングされた(Fe0.8Co0.2)87B13試料のコア損失は、印加磁場の有無にかかわらず、Fe-3重量%Si鋼と比較してかなり低いことが認められる。
【0118】
表2:最大磁化を1.5Tとした50Hz、400Hz、及び1000Hzでの高速アニーリングされた(Fe0.8Co0.2)87B13のACコア損失
【0119】
【0120】
実施例5
ナノ結晶性(Fe1-xCox)87-y-a-zByCuzMa(式中、x=0.1~0.4、y=13~14、z=0~1、及びa=0~8)に対するM添加の効果についても調べた。下記表3に記載したものと同じ標準組成を有する前駆体非晶質薄帯をAr雰囲気中で溶融紡糸(平面流鋳造法)により製造した。
【0121】
厚さ約10~15μm、幅1~12mmの薄帯を得た。薄帯を厚さ20μmのCuホイルパケット内に置き、Ar雰囲気中で超高速アニーリングを行った。次に、これらのパケットを2個の予熱済みCu製ブロック(長さ150mm、幅50mm)間で、空気圧シリンダ及び自動タイミング機構を用いて950Nの力で0.5秒間圧縮した。
【0122】
CoKα源を用いたXRDによって、鋳造プロセス後に非晶質相が形成されており、その体積分率が80%以上であることを確認した。また、XRDによって、残留非晶質相中に埋め込まれたbcc Fe-Co又はFe-Co-Ni(Niが存在する場合)の結晶相が形成されているのを確認した。飽和磁気分極(Js=μ0Ms)は、振動試料磁力計(VSM)BHV-35H(理研電子製)を用いて0.8MA/m及び295Kの条件で評価した。Hcの評価は、ヒステリシスループトレーサーBHS-40DC(理研電子製)を用いて295Kで行った。
【0123】
表3に、(Fe1-xCox)100-y-a-zByCuzMaの組成を有する様々な高速アニーリングされたナノ結晶性軟磁性材料のHc及びJsを示す。
【0124】
表3:本研究で調べた(Fe1-xCox)100-y-a-zByCuzMa(式中、M=Nb、Mo、Ta、W、Ni、又はSn)組成物の特性
【0125】
【0126】
元素Mの添加は主にガラス形成能を改善するためであるが、組成によってはHcを減少させることも確認される。しかしながら、全ての元素Mの添加によってJsが低下することも認められる。これは、強磁性Fe及びCoを置換するy及びzの元素を添加する場合に当てはまることも認められる。
【0127】
実施例6
図15~17に(Fe
0.8Co
0.2)
87B
13試料の別の磁気特性評価を示す。
【0128】
図15は、(Fe
0.8Co
0.2)
87B
13試料について測定されたアニーリング温度に関する保磁力を示す。予熱済み銅製ブロック間に0.5秒間挟み込むことによって試料を高速アニーリングした。また、該図は、3.4A/mの最小保磁力では、約763K(すなわち、490℃)で最適アニーリング温度(T
op)を示す。
【0129】
図16は、最適アニーリング温度で得られた(Fe
0.8Co
0.2)
87B
13試料について測定された直流(DC)ヒステリシスループを示す。保磁力は3.4A/mであった。VSMによる独立測定によって、試料の飽和分極が2.02Tであることが分かった。
【0130】
図17は、印加横磁場の存在下で(Fe
0.8Co
0.2)
87B
13の高速アニーリングを行い、その後の冷却を、該印加磁場の存在下又は非存在下のいずれかで行った際の効果を示す。図から、予熱済み銅製ブロックを用いて753K(すなわち、480℃)で高速アニーリングを行った後の(Fe
0.8Co
0.2)
87B
13のDCヒステリシスループの形状に対する磁場アニーリングの影響が理解できる。アニーリング後の薄帯を磁場の影響を除いて冷却すると、磁場の影響下で薄帯を冷却する場合と比較して、磁場アニーリング法の有効性が低下することが認められる。従って、最適な磁気特性を得るためには、磁場アニーリングを採用する場合、アニーリングの全ての段階で磁場が存在すべきである。関連パラメータを下記表に概説する。
【0131】
【0132】
【0133】
実施例7
図18に、(Fe
0.8Co
0.2)
86B
13Cu
1試料の磁気特性評価を示す。特に、データは、本発明の一実施形態による高速アニーリングされた(Fe
0.8Co
0.2)
86B
13Cu
1試料と比較した、3重量%鉄-ケイ素鋼について50Hz、400Hz、及び1000Hzで測定されたコア損失に関する。データから、試験した全ての周波数及び磁化レベルにおいて、(Fe
0.8Co
0.2)
86B
13Cu
1のコア損失は鉄-ケイ素鋼よりも著しく低いことが理解できる。
【0134】
本明細書とこれに続く特許請求の範囲とにわたり、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という語及び「含む(comprises)」や「含んでいる(comprising)」等の変化形は、述べられた整数若しくは工程、又は整数若しくは工程の群を含むことを意味しているが、他のいかなる整数若しくは工程、又は整数若しくは工程の群も排除しないことを理解されたい。
【0135】
本明細書におけるいずれの先行刊行物(若しくはそれに由来する情報)又はいずれの既知の事項への言及も、その先行刊行物(若しくはそれに由来する情報)又は既知の事項が、本明細書が関連する傾注分野における共通の一般知識の一部であると容認若しくは承認、或いは何らか形で示唆しているとは見なされず、見なされるべきではない。
【手続補正書】
【提出日】2021-09-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(Fe
1-xCo
x)
100-y-z-aB
yCu
zM
a
(式中、x=0.1~0.4、
y=10~16、
z=0~1、
a=0~8、及び
M=Nb、Mo、Ta、W、Ni、又はSn)で表される合金であって、
平均粒径が30nm以下の結晶粒を有する合金。
【請求項2】
xが約0.2~約0.3の範囲である、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
zが約0.2~1の範囲である、請求項1又は2に記載の合金。
【請求項4】
z及びaの両方が0である、請求項1~3のいずれか1項に記載の合金。
【請求項5】
磁化飽和(J
s)が少なくとも2Tである、請求項1~4のいずれか1項に記載の合金。
【請求項6】
上記結晶粒の平均粒径が10nm~30nmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の合金。
【請求項7】
合金の製造方法であって、該方法は、
式(Fe
1-xCo
x)
100-y-z-aB
yCu
zM
a
(式中、x=0.1~0.4、
y=10~16、
z=0~1、
a=0~8、及び
M=Nb、Mo、Ta、W、Ni、又はSn)で表される非晶質合金を調製する工程、及び
該非晶質合金を少なくとも200℃/秒の加熱速度で加熱する工程
を有する方法。
【請求項8】
上記非晶質合金を加熱する工程は、該合金を磁場に曝露する工程を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記非晶質合金を加熱する工程は、該合金を少なくとも0.3kA/mの範囲の回転磁場に曝露する工程を有する、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
上記非晶質合金を加熱する工程は、該合金を、配向及び/又は大きさが約1Hz~約3,000Hzの範囲で変化する磁場に曝露する工程を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
加熱工程後、上記磁場の存在下で上記合金を冷却する、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
上記非晶質合金を約350℃~約650℃の範囲のアニーリング温度まで加熱する、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
上記非晶質合金を所定のアニーリング温度で加熱し、該アニーリング温度で約0~約80秒間保持する、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
上記非晶質合金は、厚さが約5μm~約15μmの範囲の薄帯の形態である、請求項7~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
上記非晶質合金の加熱工程は、少なくとも約3kPaの圧力で予熱済みブロック間に該合金を挟み込んで行う、請求項7~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
上記非晶質合金の加熱工程は、予熱済みロール間で該合金を通過させて行う、請求項7~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
上記非晶質合金を少なくとも1,000℃/秒の加熱速度で加熱する工程を含む、請求項7に記載の方法。
【国際調査報告】