IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナノファイバー ソリューションズ、インク.の特許一覧

特表2022-523724培養肉製造のための電界紡糸によるポリマー繊維
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-26
(54)【発明の名称】培養肉製造のための電界紡糸によるポリマー繊維
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/00 20060101AFI20220419BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20220419BHJP
   A23J 3/22 20060101ALI20220419BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20220419BHJP
【FI】
A23J3/00 503
D04H1/728
A23J3/22
A23L13/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544479
(86)(22)【出願日】2020-02-03
(85)【翻訳文提出日】2021-09-18
(86)【国際出願番号】 US2020016368
(87)【国際公開番号】W WO2020160533
(87)【国際公開日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】62/800,051
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517377411
【氏名又は名称】ナノファイバー ソリューションズ、エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン、ジェド ケイ.
(72)【発明者】
【氏名】オースト、デヴァン
【テーマコード(参考)】
4B042
4L047
【Fターム(参考)】
4B042AC09
4B042AD36
4B042AH01
4B042AP30
4B042AT05
4L047AA16
4L047AA21
4L047AB08
4L047CC15
4L047EA22
(57)【要約】
【要約】
【解決手段】 培養肉製品は、電界紡糸ポリマー繊維を含むスキャフォールドと、細胞集団とを含んでいても良い。培養肉製品は、約100μm~約500mmの厚さを有していても良い。このような培養肉製品を製造する方法は、スキャフォールドを準備する工程と、スキャフォールドをバイオリアクターに入れる工程と、細胞の集団をバイオリアクターに加える工程と、スキャフォールドを含むバイオリアクター内で細胞集団を一定期間培養し、それによって培養肉製品を形成する工程と、バイオリアクターから培養肉製品を取り出す工程とを含んでも良い。培養肉製品は、伝統的な屠殺肉の味、質感、サイズ、形状、および/または地形を模倣するように構成されていても良い。
【選択図】 図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養肉製品であって、
電界紡糸ポリマー繊維を含むスキャフォールドと、および
細胞集団と、を含み、
前記培養肉製品は、約100μm~約500mmの厚さを有する、培養肉製品。
【請求項2】
請求項1記載の培養肉製品において、前記電界紡糸ポリマー繊維が、ナイロン、ナイロン6,6、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキシドテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシドテレフタレート-コ-ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、シリコーン、ポリカーボネート、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリラクチド-コ-グリコリド、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)、ポリグリセロールセバケート、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシブチレート、ポリ-4-ヒドロキシブチレート、トリメチレンカーボネート、ポリジオール、ポリエステル、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、フィブロネクチン、アルブミン、ヒアルロン酸、エラスチン、キトサン、アルギン酸、シルク、ゼイン、大豆タンパク、植物タンパク、炭水化物、それらのコポリマー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるポリマーを含む、培養肉製品。
【請求項3】
請求項1記載の培養肉製品において、前記電界紡糸ポリマー繊維が、分解して副生成物を生成するように構成されるポリマーを含む、培養肉製品。
【請求項4】
請求項3記載の培養肉製品において、前記副生成物が、乳酸、グリコール酸、カプロン酸、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、培養肉製品。
【請求項5】
請求項1記載の培養肉製品において、前記電界紡糸ポリマー繊維が、唾液にさらされると分解するように構成されるポリマーを含む、培養肉製品。
【請求項6】
請求項1記載の培養肉製品において、前記スキャフォールドが、互いに実質的に平行に配列された複数の電界紡糸ポリマー繊維を含む、培養肉製品。
【請求項7】
請求項1記載の培養肉製品において、前記培養肉製品の厚さが約5mm~約75mmである、培養肉製品。
【請求項8】
請求項1記載の培養肉製品において、前記培養肉製品は、伝統的な屠殺肉の特性を模倣するように構成される、培養肉製品。
【請求項9】
請求項8記載の培養肉製品において、前記特性が、味、食感、サイズ、形状、トポグラフィー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、培養肉製品。
【請求項10】
請求項1記載の培養肉製品において、前記細胞集団が、間葉系幹細胞、筋細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、培養肉製品。
【請求項11】
請求項1記載の培養肉製品において、前記スキャフォールドが、最大長さが約10mmの複数の電界紡糸ポリマー繊維片をさらに含む、培養食肉製品。
【請求項12】
培養肉製品を製造する方法であって、
電界紡糸ポリマー繊維を含むスキャフォールドを準備する工程と、
前記スキャフォールドをバイオリアクターに入れる工程と、
前記細胞集団を前記バイオリアクターに加える工程と、
前記スキャフォールドを含む前記バイオリアクター内で前記細胞集団を一定期間培養し、それによって約100μm~約500mmの厚さを有する培養肉製品を形成する工程と、および
前記培養肉製品を前記バイオリアクターから取り出す工程と、
を含む方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記期間が約1日~約6週間である、方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法において、前記期間が約3週間である、方法。
【請求項15】
請求項12記載の方法において、前記電界紡糸ポリマー繊維が、ナイロン、ナイロン6,6、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキシドテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシドテレフタレート-コ-ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、シリコーン、ポリカーボネート、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリラクチド-コ-グリコリド、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)、ポリグリセロールセバケート、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシブチレート、ポリ-4-ヒドロキシブチレート、トリメチレンカーボネート、ポリジオール、ポリエステル、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、フィブロネクチン、アルブミン、ヒアルロン酸、エラスチン、キトサン、アルギン酸、シルク、ゼイン、大豆タンパク、植物タンパク、炭水化物、それらのコポリマー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるポリマーを含む、方法。
【請求項16】
請求項12記載の方法において、前記電界紡糸ポリマー繊維が、分解して副生成物を生成するように構成されるポリマーを含む、方法。
【請求項17】
請求項16記載の方法において、前記副生成物が、乳酸、グリコール酸、カプロン酸、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
【請求項18】
請求項12記載の方法であって、前記電界紡糸ポリマー繊維を唾液にさらす工程をさらに含み、前記電界紡糸ポリマー繊維は、唾液にさらすと分解するように構成されるポリマーを含む、方法。
【請求項19】
請求項12記載の方法において、前記スキャフォールドが、互いに実質的に平行に配列された複数の電界紡糸ポリマー繊維を含む、方法。
【請求項20】
請求項12記載の方法において、前記培養肉製品の厚さが約5mm~約75mmである、方法。
【請求項21】
請求項12記載の方法であって、前記培養食肉製品が、伝統的な屠殺肉の特性を模倣するように構成される、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法において、前記特性が、味、食感、サイズ、形状、トポグラフィー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
【請求項23】
請求項12記載の方法において、前記細胞集団が、間葉系幹細胞、筋細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
【請求項24】
請求項12記載の方法において、前記スキャフォールドが、最大長さが約10mmの複数の電界紡糸ポリマー繊維片をさらに含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年2月1日に出願された「Electrospun Polymer Fibers for Cultured Meat Production」という名称の米国仮出願番号62/800,051の優先権および利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
実験室で育てた肉という概念は、もともと宇宙旅行の研究から生まれたものである。肉を体外で成長させることができれば、宇宙飛行士がより長い宇宙旅行を維持するための食料を育てることができると考えられた。間葉系幹細胞を筋肉、脂肪、結合組織に培養して、食肉に代わるものを作るというシンプルな発想である。このコンセプトが検討されて以来、いくつかの団体が培養肉、つまり「クリーン」な肉を商品化するための研究開発を始めている。この研究の背景には、持続可能性、動物福祉、二酸化炭素排出量、および消費者の健康などのアイディアが含まれる。
【0003】
いくつかの企業が、筋肉、脂肪、および/または結合組織を含む製品を育てるための細胞生物学的手法の開発に成功するが、これらの製品はすべて、ペトリ皿や試験管といった伝統的な収量に制限される。例えば、ほとんどの細胞を皿の中で培養すると、単層しか形成されず、皿の大きさや細胞の数によって層の表面積が制限される。そのため、従来の培養方法では、細胞の体積や厚みの増加を期待することはできなかった。これは、培養肉製品の品質や可能性に大きな影響を与える。また、これらの培養細胞は、一般的に食肉のような味や食感がない。したがって、味と食感が改善された、より厚みのある実験室培養の「クリーン」な食肉製品を製造する必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一実施形態では、培養肉製品は、電界紡糸ポリマー繊維を含むスキャフォールドと、細胞集団とを含んでいても良い。培養肉製品は、いくつかの実施形態において、約100μm~約500mmの厚さを有しても良い。一実施形態では、そのような培養肉製品を製造する方法は、スキャフォールドを準備する工程と、スキャフォールドをバイオリアクターに入れる工程と、細胞集団をバイオリアクターに加える工程と、スキャフォールドを含むバイオリアクター内で細胞集団を一定期間培養し、それによって培養肉製品を形成する工程と、培養肉製品をバイオリアクターから取り出す工程とを含んでも良い。いくつかの実施形態では、培養肉製品は、伝統的な屠殺肉の味、質感、サイズ、形状、および/または地形を模倣するように構成されていても良い。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1A図1Aは、本明細書に記載のスキャフォールドの一実施形態のSEM画像(8900倍)であり、このスキャフォールドは、100kMwのPEO+ゼイン溶液を用いて電界紡糸される。
図1B図1Bは、図1AのスキャフォールドのSEM画像(1700倍)である。
図2A図2Aは、本明細書に記載のスキャフォールドの一実施形態のSEM画像(1500倍)であり、このスキャフォールドは、1M MwのPEO+ゼイン溶液を用いて電界紡糸(エレクトロスパンElectrospun)される。
図2B図2Bは、図2AのスキャフォールドのSEM画像(200倍)である。
図3A図3Aは、本明細書に記載のスキャフォールドの一実施形態のSEM画像(5000倍)であり、スキャフォールドは、PDLGA 5010+ゼイン溶液を用いて電界紡糸される。
図3B図3Bは、図3AのスキャフォールドのSEM画像(1650倍)である。
図4A図4Aは、本明細書に記載されるスキャフォールドの一実施形態のSEM画像(2150倍)であり、スキャフォールドは、PCL+大豆タンパク質単離物溶液を用いて電界紡糸される。
図4B図4Bは、図4AのスキャフォールドのSEM画像(215倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本開示は、記載された特定のシステム、デバイス、および方法に限定されるものではなく、これらは異なっていても良い。説明で使用される用語は、特定のバージョンまたは実施形態を説明するためだけのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。
【0007】
以下の用語は、本願の目的のために、以下に示すそれぞれの意味を有するものとする。特に定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、当業者が一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本開示のいかなる内容も、本開示に記載される実施形態が、先行発明により当該開示よりも前に権利を有するものではないことを認めるものではない。
【0008】
本明細書では、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに他を指示しない限り、複数の参照を含む。したがって、例えば、「繊維」への言及は、当業者に知られている1またはそれ以上の繊維およびその等価物への言及である。
【0009】
本明細書では、「約」という用語は、使用される数値のプラスマイナス10%を意味する。したがって、約50mmとは、45mm~55mmの範囲内を意味する。
【0010】
本明細書では、「~からなる(consist of)」または「~からなる(consisting essentially of)」という用語は、デバイスまたは方法が、特定の請求された実施形態または請求項に具体的に記載された要素、工程、または成分のみを含むことを意味する。
【0011】
また、移行句として「含む(comprising)」という用語が用いられる実施形態または請求項では、「含む(comprising)」という用語を「~からなる(consisting of)」または「~から実質的になる(consisting essentially of)」という用語に置き換えることで、そのような実施形態を想定することができる。
【0012】
本明細書では、「伝統的な食肉」とは、かつて生きていた動物から消費目的で得られた1またはそれ以上の種類以上の食肉を意味する。このような肉は、一般的ではないが、主に食料生産のために飼育または屠殺された家畜、魚、またはその他の動物から得られる。伝統的な屠殺肉の非限定的な例としては、鶏肉、七面鳥、豚肉、ステーキ、魚などが挙げられる。伝統的な食肉は、一般的に1またはそれ以上の哺乳類による消費に適する。
【0013】
本明細書では、「培養肉製品」という用語は、生きた動物の自然な構成要素として成長したのではなく、人間や機械の介入によって生産された肉製品を意味する。したがって、培養肉製品は、生きた動物の屠殺から直接得られるものではない。培養肉製品は、伝統的な食肉と同様に、1種またはそれ以上の種の哺乳類による消費に適する。
【0014】
実験室で育てた肉という概念は、もともと宇宙旅行の研究から生まれたものである。肉を体外で成長させることができれば、宇宙飛行士がより長い宇宙旅行を維持するための食料を育てることができると考えられた。間葉系幹細胞を筋肉、脂肪、結合組織に培養して、食肉に代わるものを作るというシンプルな発想である。このコンセプトが検討されて以来、いくつかの団体が培養肉、つまり「クリーン」な肉を商品化するための研究開発を始めている。この研究の背景には、持続可能性、動物福祉、二酸化炭素排出量、消費者の健康などのアイディアが含まれる。
【0015】
いくつかの企業が、筋肉、脂肪、および/または結合組織を含む製品を育てるための細胞生物学的手法の開発に成功するが、これらの製品はすべて、ペトリ皿や試験管といった従来の収量に制限される。例えば、ほとんどの細胞を皿の中で培養すると、単層しか形成されず、その皿の大きさや細胞の数によって層の表面積が制限される。これは、細胞が表面に付着したがるため、皿やフラスコのプラスチック製の底面に付着するために起こる現象である。細胞はより多くの表面積を求めて移動し、ある時点でこれらの細胞は単層として最大コンフルエンスに達する。しかし、これらの培養細胞には、細胞同士を適切に重ねるために必要な栄養環境が整っていない。ただし、適切なシグナル伝達因子が存在すれば、1~2層に重ねることができる細胞株もある。それでも、伝統的な細胞培養技術から顕著な体積や厚みの増加を期待するのは無理があり、この無理が培養肉製品の品質と可能性に大きな影響を与える。現在、クリーンな食肉製品を開発する企業は、同様の技術的課題に直面する。
【0016】
また、これらの培養細胞は、一般的に屠殺された肉のような味や食感を持たない。これは、上述した細胞培養の限界によるものである。伝統的な食肉は、繊維の配列や血管など、味の決め手となる要素が自然に備わる。培養された単層は、たとえ圧縮されていても、伝統的な肉の質感を模倣することはできない。そのため、伝統的な食肉と培養肉の味や食感の違いにより、現代の商品は大きく制限される可能性があり、培養肉の試みは企業にとって不利になる可能性がある。したがって、味と食感が改善された、より厚みのある実験室培養の「クリーン」な食肉製品の製造が必要とされる。
【0017】
エレクトロスピニングファイバー
エレクトロスピニングは、ポリマー溶液を繊維に加工するために使用される方法である。得られる繊維の直径がナノメートルスケールである場合、その繊維はナノファイバーと呼ばれることがある。繊維は、マンドレルやコレクターなどの様々な受け入れ面を使用して、様々な形状に形成することができる。いくつかの実施形態では、シートまたはシート状の繊維型、繊維スキャフォールドおよび/またはチューブ、または管状格子などの平らな形状を、実質的に円形または円筒形のマンドレルを使用して形成しても良い。特定の実施形態では、電界紡糸繊維を繊維型としてマンドレルから切断および/または繰り出して、シートを形成しても良い。得られた繊維型または形状は、フィルターなどを含む多くの用途に使用することができる。
【0018】
エレクトロスピニング法は、ポリマー注入システムとマンドレルとの間に高い直流電圧電位を印加することにより、ポリマー溶液から繊維をスピンする工程を含むことができる。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上の電荷が、エレクトロスピニングシステムの1またはそれ以上の構成要素に適用されても良い。いくつかの実施形態では、電荷は、マンドレル、ポリマー注入システム、またはそれらの組み合わせもしくは部分に適用されても良い。理論に拘束されることを望むものではないが、ポリマー溶液がポリマー注入システムから排出されると、電荷にさらされることにより不安定化すると考えられる。不安定化した溶液は、電荷を帯びたマンドレルに引き寄せられる可能性がある。不安定化した溶液がポリマー注入システムからマンドレルに移動すると、その溶媒が蒸発し、ポリマーが伸びて、マンドレルに堆積する細長い繊維が残ることがある。ポリマー溶液は、ポリマー注入システムから放出されて電荷にさらされると、テイラーコーンを形成することがある。
【0019】
特定の実施形態では、第1ポリマーを含む第1ポリマー溶液および第2ポリマーを含む第2ポリマー溶液をそれぞれ別個のポリマー射出システムで実質的に同時に使用して、第2ポリマーを含む1またはそれ以上の電界紡糸繊維が介在した第1ポリマーを含む1またはそれ以上の電界紡糸繊維を製造しても良い。このようなプロセスは、「共スピニング(co-spinning)」または「共エレクトロスピニング(co-electrospinning)」と呼ばれることがあり、このようなプロセスによって製造されたスキャフォールドは、共スピニングまたは共エレクトロスピニングスキャフォールドと記載されることがある。
【0020】
ポリマー注入システム
ポリマー注入システムは、ある程度の量のポリマー溶液を大気中に放出して、注入システムからマンドレルへのポリマー溶液の流れを可能にするように構成された任意のシステムを含むことができる。いくつかの実施形態では、ポリマー注入システムは、繊維に形成されるべきポリマー溶液の制御された体積流量を有する連続的または直線的な流れを供給しても良い。いくつかの実施形態では、ポリマー注入システムは、繊維に形成されるべきポリマー溶液の可変ストリームを供給しても良い。いくつかの実施形態では、ポリマー注入システムは、複数の繊維に形成されるべきポリマー溶液の断続的な流れを送出するように構成されても良い。いくつかの実施形態では、ポリマー注入システムは、手動または自動制御下のシリンジを含んでも良い。いくつかの実施形態では、ポリマー注入システムは、個別のまたは組み合わせた手動または自動制御下にある複数のシリンジおよび複数の針または針状部品を含んでも良い。いくつかの実施形態では、マルチシリンジポリマー注入システムは、複数のシリンジおよび複数の針または針状の構成要素を含んでも良く、各シリンジは同じポリマー溶液を含む。いくつかの実施形態では、マルチシリンジポリマー注入システムは、複数のシリンジおよび複数の針または針状の構成要素を含み、各シリンジは異なるポリマー溶液を含むことができる。いくつかの実施形態では、電荷は、ポリマー注入システム、またはその一部に適用されても良い。いくつかの実施形態では、電荷は、ポリマー注入システムの針または針のような構成要素に適用されても良い。
【0021】
いくつかの実施形態では、ポリマー溶液は、針1本あたり約5mL/hより小さいまたはそれと同等の流量でポリマー注入システムから排出されても良い。他の実施形態では、ポリマー溶液は、約0.01mL/h~約50mL/hまでの範囲の針あたりの流量でポリマー注入システムから排出されても良い。ポリマー溶液が針ごとにポリマー注入システムから排出される流量は、いくつかの非限定的な例では、約0.01mL/h、約0.05mL/h、約0.1mL/h、約0.5mL/h、約1mL/h、約2mL/h、約3mL/h、約4mL/h、約5mL/h、約6mL/h、約7mL/h、約8mL/h、約9mL/h、約10mL/h、約11mL/h、約12mL/h、約13mL/h、約14mL/h、約15mL/h、約16mL/h、約17mL/h、約18mL/h、約19mL/h、約20mL/h、約21mL/h、約22mL/h、約23mL/h、約24mL/h、約25mL/h、約26mL/h、約27mL/h、約28mL/h、約29mL/h、約30mL/h、約31mL/h、約32mL/h、約33mL/h、約34mL/h、約35mL/h、約36mL/h、約37mL/h、約38mL/h、約39mL/h、約40mL/h、約41mL/h、約42mL/h、約43mL/h、約44mL/h、約45mL/h、約46mL/h、約47mL/h、約48mL/h、約49mL/h、約50mL/h、またはこれらの値のいずれか2つの間の任意の範囲(エンドポイントを含む)を含む。
【0022】
ポリマー溶液がポリマー注入システムからマンドレルに向かって移動すると、得られる繊維の直径は約100nm~約1500nmの範囲になる。電界紡糸繊維の直径の非限定的な例としては、約100nm、約150nm、約200nm、約250nm、約300nm、約350nm、約400nm、約450nm、約500nm、約550nm、約600nm、約650nm、約700nm、約750nm、約800nm。約850nm、約900nm、約950nm、約1,000nm、約1,050nm、約1,100nm、約1,150nm、約1,200nm、約1,250nm、約1,300nm、約1,350nm、約1,400nm、約1,450nm、約1,500nm、またはこれらの値のいずれか2つの間の任意の範囲(エンドポイントを含む)を含む。いくつかの実施形態では、電界紡糸繊維の直径は、約300nm~約1300nmであっても良い。
【0023】
ポリマー溶液
いくつかの実施形態では、ポリマー注入システムは、ポリマー溶液で満たされても良い。いくつかの実施形態では、ポリマー溶液は、1またはそれ以上のポリマーを含んでいても良い。いくつかの実施形態では、ポリマー溶液は、熱の適用によってポリマー液体に形成された流体であっても良い。ポリマー溶液は、例えば、非吸収性ポリマー、再吸収性ポリマー、天然ポリマー、またはそれらの組み合わせを含んでも良い。
【0024】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、例えば、ナイロン、ナイロン6,6、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキシドテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシドテレフタレート-コ-ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、シリコーン、ポリカーボネート、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリラクチド-コ-グリコリド、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)、ポリグリセロールセバケート、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシブチレート、ポリ-4-ヒドロキシブチレート、トリメチレンカーボネート、ポリジオール、ポリエステル、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、フィブロネクチン、アルブミン、ヒアルロン酸、エラスチン、キトサン、アルギン酸、シルク、ゼイン、大豆タンパク、植物タンパク、炭水化物、それらのコポリマー、およびそれらの組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態では、得られる電界紡糸ポリマー繊維は、植物タンパク質、炭水化物、および合成ポリマーのうちの1またはそれ以上の組み合わせを含んでも良い。
【0025】
ポリマー溶液はまた、非吸収性ポリマー、再吸収性ポリマー、および天然由来のポリマーのうちの1またはそれ以上の組み合わせを、任意の組み合わせまたは組成比で含んでも良いことが理解されよう。代替的な実施形態では、ポリマー溶液は、2またはそれ以上の非吸収性ポリマー、2またはそれ以上の吸収性ポリマー、または2またはそれ以上の天然由来のポリマーの組み合わせを含んでも良い。いくつかの非限定的な例では、ポリマー溶液は、例えば、約5%~約90%の重量パーセント比を含んでいても良い。そのような重量パーセント比の非限定的な例としては、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約33%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約66%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、またはこれらの値のいずれか2つの間の任意の範囲(エンドポイントを含む)を含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、ポリマー溶液は、1またはそれ以上の溶媒を含んでも良い。いくつかの実施形態では、溶媒は、例えば、ポリビニルピロリドン、ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ナセトニトリル、ヘキサン、エーテル、ジオキサン、酢酸エチル、ピリジン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、トリフルオロ酢酸、ヘキサフルオロイソプロパノール、酢酸、ジメチルアセトアミド、クロロホルム、ジクロロメタン、水、アルコール類、イオン性化合物、またはこれらの組み合わせ。溶剤または溶媒中のポリマーまたはポリマーの濃度範囲は、限定されるものではないが、約1wt%から約50wt%であっても良い。溶液中のポリマー濃度のいくつかの非限定的な例としては、約1wt%、3wt%、5wt%、約10wt%、約15wt%、約20wt%、約25wt%、約30wt%、約35wt%、約40wt%、約45wt%、約50wt%、またはこれらの値のいずれか2つの間の任意の範囲(エンドポイントを含む)を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、ポリマー溶液はさらに追加の材料を含んでも良い。そのような追加材料の非限定的な例としては、蛍光材料、発光材料、抗生物質、成長因子、ビタミン、サイトカイン、ステロイド、抗炎症薬、小分子、糖、塩、ペプチド、タンパク質、細胞因子、DNA、RNA、脂肪、タンパク質、炭水化物、ミネラル、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられ得る。いくつかの実施形態では、追加材料は栄養価を有していても良い。
【0028】
いくつかの実施形態では、追加の材料は、ポリマー質量の約1wt%~約1500wt%の量で、ポリマー溶液または得られる電界紡糸(electrospun)ポリマー繊維中に存在しても良い。いくつかの非限定的な例では、追加の材料は、ポリマー溶液または得られる電界紡糸ポリマー繊維中に、約1wt%、約5wt%、約10wt%、約15wt%、約20wt%、約25wt%、約30wt%、約35wt%、約40wt%、約45wt%、約50wt%、約55wt%、約60wt%、約65wt%、約70wt%、約75wt%、約80wt%、約85wt%、約90wt%、約95wt%、約100wt%、約125wt%、約150wt%、約175wt%、約200wt%、約225wt%、約250wt%、約275wt%、約250wt%、約275wt%、約300wt%、約325wt%、約350wt%、約375wt%、約400wt%、約425wt%、約450wt%、約475wt%、約500wt%、約525wt%、約550wt%、約575wt%、約600wt%、約625wt%、約650wt%、約675wt%、約700wt%、約725wt%、約750wt%、約775wt%、約800wt%、約825wt%、約850wt%、約875wt%、約900wt%、約925wt%、約950wt%、約975wt%、約1000wt%、約1025wt%、約1050wt%、約1075wt%、約1100重量%、約1125重量%、約1150重量%、約1175重量%、約1200重量%、約1225重量%、約1250重量%、約1275重量%、約1300重量%、約1325重量%、約1350重量%、約1375重量%、約1400重量%、約1425重量%、約1450重量%、約1475重量%、約1500重量%、またはこれらの値のいずれか2つの間の任意の範囲(エンドポイントを含む)を含む量で存在しても良い。
【0029】
エレクトロスピニング構成要素への電荷の付与
電界紡糸システムでは、1またはそれ以上の電荷が、例えばマンドレルやポリマー注入システムなどの1またはそれ以上の構成要素、または構成要素の一部に印加されても良い。いくつかの実施形態では、正の電荷が、ポリマー注入システム、またはその一部に印加されても良い。いくつかの実施形態では、ポリマー注入システムまたはその一部に負の電荷を印加しても良い。いくつかの実施形態では、ポリマー注入システム、またはその一部は、接地されても良い。いくつかの実施形態では、正の電荷をマンドレルまたはその一部に印加しても良い。いくつかの実施形態では、マンドレル、またはその一部に負の電荷を印加しても良い。いくつかの実施形態では、マンドレルまたはその一部を接地しても良い。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上の構成要素またはその一部が、同じ電荷を受けても良い。いくつかの実施形態では、1またはそれ以上の構成要素またはその一部が、1またはそれ以上の異なる電荷を受けても良い。
【0030】
電界紡糸システムの任意の構成要素またはその一部に印加される電荷は、エンドポイントを含めて、約-15kV~約30kVであっても良い。いくつかの非限定的な例では、電界紡糸システムの任意の構成要素またはその一部に印加される電荷は、約-15kV、約-10kV、約-5kV、約-4kV、約-3kV、約-1kV、約-0.01kV、約0.01kV、約1kV、約5kV、約10kV、約11kV、約11.1kV、約12kV、約15kV、約20kV、約25kV、約30kV、またはこれらの値のいずれか2つの間の任意の範囲(エンドポイントを含む)であっても良い。いくつかの実施形態では、エレクトロスピニングシステムの任意の構成要素、またはその一部が接地される。
【0031】
エレクトロスピニング中のマンドレルの動き
エレクトロスピニング中、いくつかの実施形態では、マンドレルは、ポリマー注入システムに対して移動しても良い。いくつかの実施形態では、ポリマー注入システムは、マンドレルに対して移動しても良い。別のエレクトロスピニング構成要素に対する1つのエレクトロスピニング構成要素の移動は、例えば、実質的に回転、実質的に並進、またはそれらの任意の組み合わせであっても良い。いくつかの実施形態では、エレクトロスピニングシステムの1またはそれ以上の構成要素は、手動制御の下で動いても良い。いくつかの実施形態では、エレクトロスピニングシステムの1またはそれ以上の構成要素は、自動制御の下で動いても良い。いくつかの実施形態では、マンドレルは、1またはそれ以上のモーターまたは動作制御システムを使用して移動することができる支持構造体と接触するか、またはその上に取り付けられていても良い。マンドレル上に堆積した電界紡糸繊維のパターンは、ポリマー注入システムに対するマンドレルの1またはそれ以上の運動に依存しても良い。いくつかの実施形態では、マンドレルの表面は、その長軸を中心に回転するように構成されていても良い。非限定的な一例では、直線軸に沿った移動速度よりも速い長軸の回転速度を有するマンドレルは、マンドレルに巻線を形成して電界紡糸繊維をほぼらせん状に堆積させることができる。別の例では、直線軸に沿った並進速度が回転軸に沿った回転速度よりも速いマンドレルは、マンドレルのライナー範囲に沿って電界紡糸繊維をほぼ直線的に堆積させることができる。
【0032】
培養肉製造用の電界紡糸ポリマー繊維
様々なサイズと厚さのスキャフォールドは、培養肉製品が現在直面している工学的問題の解決に役立つ可能性がある。一般的に、細胞とそのようなスキャフォールドを含む細胞工学プロセスを使用することで、スキャフォールドの全体にわたって細胞を移動させることができる可能性がある。しかし、既存のスキャフォールドの多くは、細胞外マトリックスを正しい再現を提供できていない。
【0033】
電界紡糸ポリマー繊維は、これらの課題に対する解決策を提供することができる。電解紡糸ポリマー繊維は、様々なサイズと厚さのスキャフォールドを作るために使用される。他の材料から作られたスキャフォールドとは対照的に、電界紡糸ポリマー繊維は、ディスク、チューブ、シートなどを含む様々な形状に形成される可能性があり、既存の細胞培養装置に容易に適合させることができる。電界紡糸ポリマー繊維のスキャフォールドを使用することで、既存の装置を使ってより大量の培養肉を作ることができる可能性がある。さらに、電界紡糸繊維スキャフォールドを使用して、最終製品の特定の体積および細胞環境をターゲットとした、特定の構造を有する製品(例えば、ステーキや刺身のような肉を含む)を開発することができる。電界紡糸ポリマー繊維は、例えば、高度に整列した繊維を有するスキャフォールドを作成するために使用することができる。このような整列した繊維は、培養中の細胞に必要な地形的および電気的な手がかりを与え、人工的な筋骨格系組織の開発に適切な刺激を与えることができる。
【0034】
さらに、理論に縛られるつもりはないが、伝統的な屠殺肉の味の一部は、乳酸のせいではないかと考えられる。乳酸は、強いストレスを受けたときと、嫌気性呼吸のときの2つの場合に発生する。研究によると、死後、筋肉細胞は短時間、嫌気呼吸を続けるという。その際に発生する乳酸により、肉のpHは5.5程度にまで低下すると考えられるが、肉によってはさらに幅広いpH値が存在する。電界紡糸ポリマー繊維は、一定期間で劣化または溶解して、乳酸、グリコール酸、カプロン酸などの生体内に存在する化学物質に変化するように設計することができる。この期間は、予定されている最終製品に応じて、約1日~約6週間とすることができる。電界紡糸ポリマー繊維がこれらの化学副生成物に溶解することで、より酸性の環境が形成され、改良された培養肉製品につながる可能性がある。また、細胞環境のpHのわずかな低下は、健康的で組織的な組織の成長を促す可能性がある。したがって、培養中にpHが低下すると、組織の成長が改善され(それによって食感が改善され)、培養肉製品の味も改善される可能性がある。
【0035】
さらに、電界紡糸ポリマー繊維は、上述したように様々な異なるポリマーから作られても良く、これらの異なるポリマーは、筋肉、脂肪、結合組織における筋細胞、脂肪細胞、軟骨細胞など、培養肉の異なる構成要素に対して、それぞれ異なる細胞分化および/または増殖特性を促進するために使用されても良い。これらの異なる組織タイプは、異なる環境や化学的シグナルに基づいて、それぞれ独自の方法で幹細胞を分化させる。電界紡糸ポリマー繊維を使用して、異なる特性を有する異なるセクションを有するスキャフォールドを作成することができ、各セクションは、所望の組織タイプを生成し、支持するように設計される。電界紡糸ポリマー繊維は、異なる弾性率、直径、表面性状、表面化学的相互作用、または空間的に制御された薬物送達システムで製造することができる。つまり、電界紡糸ポリマー繊維を使って、伝統的な食肉のような外観、感触、味を持つ培養肉製品を作ることができるのである。
【0036】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の培養肉製品は、スキャフォールドおよび細胞集団を含んでも良い。細胞集団は、いくつかの非限定的な例では、間葉系幹細胞、筋細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、またはそれらの任意の組み合わせを含んでも良い。電界紡糸ポリマー繊維上での筋細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞の培養を実証した出版物には以下のものがある。(1)Khan et al.Evaluation of Changes in Morphology and Function of Human Induced Pluripotent Stem Cell Derived Cardiomyocytes(HiPSC-CMs)Cultured on an Aligned-Nanofiber Cardiac Patch.PLOS One.2015;10(5):e0126338.doi:10.1371/journal/pone.0126338は、参照により本明細書に組み込まれる。および、(2)Pandey et al.Aligned Nanofiber Material Supports Cell Growth and Increases Osteogenesis in Canine Adipose-Derived Mesenchymal Stem Cells In Vitro.J Biomed Mater Res Part A 2018,106A:1780-1788は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0037】
スキャフォールドは、本明細書に記載されるような電界紡糸ポリマー繊維を含んでいても良い。いくつかの実施形態では、電界紡糸ポリマー繊維は、ナイロン、ナイロン6,6、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキシドテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシドテレフタレート-コ-ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、シリコーン、ポリカーボネート、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリラクチド-コ-グリコリド、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)、ポリグリセロールセバケート、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシブチレート、ポリ-4-ヒドロキシブチレート、トリメチレンカーボネート、ポリジオール、ポリエステル、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、フィブロネクチン、アルブミン、ヒアルロン酸、エラスチン、キトサン、アルギン酸、シルク、ゼイン、大豆タンパク、植物タンパク、炭水化物、それらのコポリマー、およびそれらの組み合わせから選択されるポリマーを含んでも良い。いくつかの実施形態では、得られる電界紡糸ポリマー繊維は、植物タンパク質、炭水化物、および合成ポリマーのうちの1またはそれ以上の組み合わせを含んでも良い。
【0038】
特定の実施形態では、電界紡糸ポリマー繊維は、本明細書に記載されるように、互いに実質的に平行に配列した複数の電界紡糸ポリマー繊維から構成されても良い。他の実施形態では、電界紡糸繊維は、本明細書に記載されるように、ランダムに配向したもの、実質的に平行なもの、およびそれらの組み合わせを含む、互いに異なる配向を有する複数の電界紡糸ポリマー繊維から構成されていても良い。複数の電界紡糸ポリマー繊維を有する実施形態では、複数の電界紡糸ポリマー繊維は、本明細書に記載されているように、複数の配向および/または複数の繊維径を有しても良く、本明細書に記載されるように、1またはそれ以上のポリマーを含んでも良い。特定の実施形態では、スキャフォールドは、本明細書に記載されるように、複数の共スパン電界紡糸ポリマー繊維を含んでいても良い。
【0039】
いくつかの実施形態では、スキャフォールドは、1またはそれ以上の電界紡糸ポリマー繊維断片をさらに含んでも良い。電界紡糸ポリマー繊維片は、例えば、スキャフォールド全体に分散していても良いし、スキャフォールドの特定の部分に分散していても良い。理論に拘束されることを望むものではないが、電界紡糸ポリマー繊維片は、スキャフォールド内での細胞の培養および拡張を補助または支援することができる。いくつかの実施形態では、電界紡糸ポリマー繊維片は、約100μm~約10mmの長さを有していても良い。特定の実施形態では、電界紡糸ポリマー繊維片は、約1mmの最大長さを有しても良い。
【0040】
特定の実施形態では、スキャフォールドは、1またはそれ以上の電界紡糸ポリマー繊維タイプを含んでいても良く、1またはそれ以上の電界紡糸ポリマー繊維タイプは、共スパンされていても良い。一実施形態では、各電界紡糸繊維タイプは、1またはそれ以上以上の細胞の異なる生体組織への分化を支援するのに適していても良い。例えば、スキャフォールドは、筋肉への細胞の分化を支援するのに適した第1の電界紡糸ポリマー繊維タイプ、骨への細胞の分化を支援するのに適した第2の電界紡糸ポリマー繊維タイプ、軟骨への細胞の分化を支援するのに適した第3の電界紡糸ポリマー繊維タイプ、結合組織への細胞の分化を支援するのに適した第4の電界紡糸ポリマー繊維タイプ、血管への細胞の分化を支援するのに適した第5の電界紡糸ポリマー繊維タイプ、またはこれらの電界紡糸ポリマー繊維タイプの任意の組み合わせを含んでいても良い。
【0041】
スキャフォールドは、非限定的な一例として、ポリマーからなり、第1の種類の細胞の増殖をサポートする直径および/または配向を有する第1の複数の電界紡糸ポリマー繊維と、第2の種類の細胞の増殖をサポートする直径および/または配向を有する第2の複数の電界紡糸ポリマー繊維とポリマーと、第3のタイプの細胞の増殖をサポートする直径および/または配向を有する第3の複数の電界紡糸ポリマー繊維と、第4のタイプの細胞の増殖をサポートする直径および/または配向を有する第4の複数の電界紡糸ポリマー繊維とを含むが、これに限定されない。いくつかの実施形態では、そのような実施形態における第1、第2、第3、および第4のタイプの細胞は、筋肉細胞、血管細胞、脂肪細胞、結合組織細胞、神経細胞、またはそれらの組み合わせなど、任意の哺乳類の細胞を含んでも良い。
【0042】
いくつかの実施形態では、電界紡糸ポリマー繊維は、分解して副生成物を生成するように構成されたポリマーを含んでいても良い。特定の実施形態では、副生成物は、例えば、乳酸、グリコール酸、カプロン酸、およびそれらの組み合わせを含んでも良い。いくつかの実施形態では、電界紡糸ポリマー繊維は、物質にさらされると分解するように構成されていても良く、非限定的な一例では、物質は唾液を含んでいても良い。
【0043】
特定の実施形態では、電界紡糸ポリマー繊維は、本明細書に記載されているような追加材料を含んでいても良く、機械的な力の印加により追加材料の少なくとも一部を放出するように構成されていても良い。一実施形態では、機械的な力は、噛む、切る、壊す、またはそれらの組み合わせなどの動作によって生成されても良い。いくつかの実施形態では、培養肉製品は、無傷の電界紡糸ポリマー繊維を含んでも良いが、他の実施形態では、スキャフォールドの電界紡糸ポリマー繊維は、最終的な培養肉製品において完全にまたはほぼ完全に再吸収されても良い。一実施形態では、無傷の電界紡糸ポリマー繊維は、伝統的な屠殺肉の質感および/または他の特性を模倣するように構成されても良い。
【0044】
特定の実施形態では、培養肉製品は、約100μm~約500mmの厚さを有していても良い。厚さは、例えば、約100μm、約200μm、約300μm、約400μm、約500μm、約600μm、約700μm、約800μm、約900μm、約1mm、約5mm、約10mm、約25mm、約50mm、約75mm、約100mm、約125mm、約150mm、約175mm、約200mm、約225mm、約250mm、約275mm、約300mm、約325mm、約350mm、約375mm、約400mm、約425mm、約450mm、約475mm、約500mm、またはこれらの値のいずれか2つの間の任意の範囲(エンドポイントを含む)を含んでも良い。いくつかの実施形態では、培養肉製品は、約5mm~約75mmの厚さを有しても良い。一実施形態では、厚さは約25mmであっても良い。
【0045】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されている培養肉製品は、伝統的な屠殺肉の特性を模倣または密接に類似するように構成されていても良い。特性は、例えば、味、食感、サイズ、形状、トポグラフィー、またはそれらの任意の組み合わせを含んでも良い。
【0046】
いくつかの実施形態では、培養肉製品を製造する方法は、本明細書に記載のスキャフォールドを準備する工程と、スキャフォールドをバイオリアクターに入れる工程と、細胞集団をバイオリアクターに加える工程と、スキャフォールドを含むバイオリアクター内で細胞集団を一定期間培養し、それによって培養肉製品を形成する工程と、培養肉製品をバイオリアクターから取り出す工程とを含んでも良い。実施形態では、培養肉製品は、本明細書に記載された培養肉製品の特性および特徴を有することができる。いくつかの実施形態では、スキャフォールドおよび細胞集団は、それぞれ、本明細書に記載のスキャフォールドおよび細胞集団の特性および特徴を有しても良い。
【0047】
いくつかの実施形態では、バイオリアクター内で細胞の集団を培養する工程は、一定期間実施することができる。期間は、例えば、約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約6日、約1週間、約1.5週間、約2週間、約2.5週間、約3週間、約3.5週間、約4週間、約4.5週間、約5週間、約5.5週間、約6週間、またはエンドポイントを含むこれらの値のうちの任意の2つの間の任意の範囲であっても良い。一実施形態では、期間は約3週間であっても良い。
【実施例1】
【0048】
実施例1:培養肉製品のためのゼイン含有スキャフォールド
スキャフォールドの植物性タンパク質成分としての電界紡糸(Electrospun)ゼインは、ここに記載されるように、培養肉製品に含めるために検討された。蒸留水に90%エタノールを加えた溶液は、ゼインの粉末を素早く溶解した。この90%aqEtOH溶液は、エレクトロスピニングでゼイン繊維を製造することができたが、エレクトロスピニングプロセスは、ゼインのみの繊維には十分に安定していなかった。
【0049】
ゼインを用いたエレクトロスピニングプロセスの安定性を向上させるために、溶液中のゼインと組み合わせる追加のポリマー成分を検討した。ポリエチレンオキシド(PEO:1M Mwおよび100k MwのPEOポリマー樹脂を試験)と、DL-ラクチド/グリコリドの50/50コポリマー(PDLGA5010)である。これらのポリマーは、いずれも摂取しても安全であり、生体内に速やかに吸収され、かなりの弾性を有する。
【0050】
PEO+ゼインPEO+ゼイン溶液は、いずれもエレクトロスピニングプロセスに大きな改善をもたらした。どちらの分子量(Mw)のPEOも、質量の大部分がゼインである繊維を形成した。100kMwのPEO+ゼインでは、より円筒状の繊維が得られ、1MMwのPEO+ゼインでは、繊維束やリボン状の繊維が得られた。両方のスキャフォールドは、スキャフォールド中に分散したいくつかのゼイン凝集体を有するかなり多孔質であるように見えた。図1Aは、上述のように、100kMwのPEO+ゼイン溶液を用いて電界紡糸したスキャフォールドのSEM画像(8900倍)を示し、図1Bは、図1AのスキャフォールドのSEM画像(1700倍)を示す。図1Aおよび図1Bはいずれも、上述のように比較的円筒形の繊維を示す。図2Aは、上述したように、1M MwのPEO+ゼイン溶液を用いて電界紡糸したスキャフォールドのSEM画像(1500倍)を示し、図2Bは、図2AのスキャフォールドのSEM画像(200倍)を示す。図2A図2Bは、いずれも上述のようにリボン状の繊維を示す。
【0051】
PDLGA 5010+ゼインPDLGA 5010をHFIP中のゼイン粉末に添加し、ゼイン含有スキャフォールドの製造を助けた。この溶液を電界紡糸してスキャフォールドを形成した。図3Aは、上述のようにPDLGA 5010+ゼイン溶液を用いて電界紡糸したスキャフォールドのSEM画像(5000倍)を示す。図3Bは、図3AのスキャフォールドのSEM画像(1650倍)を示す。図3A図3Bは、ともにリボン状の繊維を示す。
【0052】
全体として、理論に縛られることなく、上述のように電界紡糸ポリマー繊維にゼインを添加することで、そのような繊維からなるスキャフォールドを用いて食肉製品のために細胞を培養する際に、細胞の成長速度を加速させることができる。また、培養された細胞がスキャフォールド内のゼインを完全に消費しない場合、ゼインは植物由来のタンパク質であり、消費しても安全である。
【実施例2】
【0053】
実施例2:培養肉製品のための大豆タンパク質単離物含有スキャフォールド
大豆タンパク単離物をポリカプロラクトン(PCL)溶液にPCLの50%の質量で添加し、大豆タンパク単離物が最終乾燥質量の約33%、PCLが最終乾燥質量の約67%の電界紡糸ポリマー繊維を作製した。この組み合わせにより、実質的な機械的整合性を有するシート状の材料が得られた。結果として得られた平均繊維径は約6.5μmで、大豆タンパク単離物は繊維の大部分を占めた。大豆タンパク質単離物の大きな凝集体が現れたものの、それらは繊維または繊維状構造に組み込まれるように見えた。また、得られた繊維は、かなりの程度の多孔性を維持しているように見えた。図4Aは、上述したPCL+大豆タンパク質単離物溶液を用いて電界紡糸したスキャフォールドのSEM画像(2150倍)である。図4Bは、図4AのスキャフォールドのSEM画像(215倍)である。
【0054】
本開示は、その例示的な実施形態の記載によって説明したが、また、実施形態は特定的に詳細に記載したが、添付の請求項の範囲をそのような詳細まで限定したり、いかなる方法でも限定したりすることは、本出願人の意図するところではない。追加の利点および修正は、当業者に容易に理解されるだろう。したがって、より広い局面での本開示は、示され、説明された特定の詳細、代表的な装置および方法、および/または例示的な実施例のいずれにも限定されない。したがって、本出願人の一般的な発明概念の精神または範囲から逸脱することなく、そのような詳細から逸脱し得る。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
【国際調査報告】