(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-26
(54)【発明の名称】キメラ抗原受容体を発現する細胞とモノクローナル抗体との組み合わせを用いたがん免疫療法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220419BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220419BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220419BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220419BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220419BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K47/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021547557
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(85)【翻訳文提出日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 US2020018127
(87)【国際公開番号】W WO2020168090
(87)【国際公開日】2020-08-20
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520156616
【氏名又は名称】コイミューン インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】521358040
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ マティルデ テッタマンティ エ メノッティ デ マルキ オンラス
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ギアリングス マウリツ ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】ビオンディ アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ランバルディ アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ダストリ ジュゼッペ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE59
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC03
4C085CC23
4C085EE03
(57)【要約】
悪性B細胞を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように操作された免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)を、悪性B細胞を標的とする抗体(例えば、モノクローナル抗体、抗体-薬物コンジュゲート)と組み合わせて使用する、CAR B細胞悪性腫瘍治療レジメンの有効性を高めるまたは増強する方法が提供される。また、CAR B細胞悪性腫瘍治療レジメンと、悪性B細胞を標的とする抗体とを対象に投与することを含む、対象におけるB細胞悪性腫瘍を治療する方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その必要がある対象における悪性B細胞を標的とするCAR免疫療法がん治療の有効性を高めるまたは増強する方法であって、該対象に、悪性B細胞を標的とする抗体を、該CAR免疫療法と組み合わせて投与することを含む、方法。
【請求項2】
がんが、血液がんである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
CAR免疫療法が、BCA CARを発現するように操作された免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
免疫エフェクター細胞がCD19を標的とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
B細胞を標的とする抗体が、ヒト化またはヒトモノクローナル抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
抗体がイノツズマブオゾガマイシンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
その必要がある対象におけるB細胞悪性腫瘍を治療する方法であって、該対象に、悪性B細胞を標的とする抗体を、悪性B細胞を標的とするCAR免疫療法がん治療と組み合わせて投与することを含む、方法。
【請求項8】
がんが、血液がんである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
CAR免疫療法が、BCA CARを発現するように操作された免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞)を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
免疫エフェクター細胞がCD19を標的とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
B細胞を標的とする抗体が、ヒト化またはヒトモノクローナル抗体である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
抗体がイノツズマブオゾガマイシンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
がんが、白血病およびリンパ腫から選択される、請求項1または7に記載の方法。
【請求項14】
CAR免疫療法がん治療が、前記対象に何らかの臨床的利益を提供するとは期待されない単回、低用量の免疫エフェクター細胞を投与することを含み、かつ抗体が、投与時の高い腫瘍負荷および/または前記対象の体調不良のために、がんの完全寛解(CR)をもたらすとは期待されない用量で投与される、請求項13を除く上記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
白血病が、B細胞性急性リンパ性白血病(「B-ALL」)、T細胞性急性リンパ性白血病(「T-ALL」)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、および慢性リンパ性白血病(CLL)から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
リンパ腫が、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫、および濾胞性リンパ腫から生じたDLBCLから選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
CAR免疫療法がん治療が、前記対象に何らかの臨床的利益を提供するとは期待されない単回、低用量の免疫エフェクター細胞を投与することを含み、かつ抗体が、投与時の高い腫瘍負荷および/または前記対象の体調不良のために、がんの完全寛解(CR)をもたらすとは期待されない用量で投与される、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年2月13日に出願された「Cancer Immunotherapy Using Combinations of Cells Expressing Chimeric Antigen Receptors and Monoclonal Antibodies(キメラ抗原受容体を発現する細胞とモノクローナル抗体との組み合わせを用いたがん免疫療法)」と題する米国仮特許出願第62/805,052号の恩典を主張するものであり、その内容はあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本開示は、概して、B細胞悪性腫瘍を治療するために、悪性B細胞を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように操作された免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)を、悪性B細胞を標的とする抗体(例えば、モノクローナル抗体、抗体-薬物コンジュゲート)と組み合わせて使用することに関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
免疫療法は、がんの治療にとって有望なアプローチである。腫瘍により発現される抗原を標的としたキメラ抗原受容体(CAR)を発現する細胞による免疫療法は、がんに対する迅速かつ持続的な免疫反応を引き出すことができるという標的療法の利点を有する。CAR療法は、B細胞悪性腫瘍などの一部の血液がんの治療において、臨床で有望な結果を示している(例えば、FDA承認製品Kymriah(商標)およびYescarta(商標)についてのNovartis(2017年)添付文書を参照されたい;それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる)。CAR構築物、CAR療法、およびCAR毒性の概要については、X. Han, et al., Chronic Diseases and Translational Medicine 4 (2018) 225-243(非特許文献1); およびTariq S, Haider S Ali, Hasan M, et al. (October 23, 2018) Chimeric Antigen Receptor T-Cell Therapy: A Beacon of Hope in the Fight Against Cancer. Cureus 10(10)(非特許文献2)を参照されたい。CAR-T細胞と、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)もしくはプログラム細胞死1(PD-1)受容体またはPD-L1リガンドをブロックする抗体との組み合わせは、固形腫瘍部位でのCAR-T細胞のエフェクター機能を引き延ばすことが示唆されている(Gianpietro Dotti, Stephen Gottschalk, Barbara Savoldo and Malcolm K, Brenner Immunol Rev. 2014 January; 257(1)(非特許文献3); およびXU, et al., Oncology Letters 16: 2063-2070, 2018(非特許文献4))。
【0004】
しかしながら、CAR療法を受けているかなりの数の患者がそのような療法の後に再発するかまたは難治性のままであるため、CAR療法の有効性および/またはB細胞悪性腫瘍の治療有効性を高める治療法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】X. Han, et al., Chronic Diseases and Translational Medicine 4 (2018) 225-243
【非特許文献2】Tariq S, Haider S Ali, Hasan M, et al. (October 23, 2018) Chimeric Antigen Receptor T-Cell Therapy: A Beacon of Hope in the Fight Against Cancer. Cureus 10(10)
【非特許文献3】Gianpietro Dotti, Stephen Gottschalk, Barbara Savoldo and Malcolm K, Brenner Immunol Rev. 2014 January; 257(1)
【非特許文献4】XU, et al., Oncology Letters 16: 2063-2070, 2018
【発明の概要】
【0006】
発明の簡単な概要
本発明は、少なくとも一部には、それぞれが独特の作用機序を有する2つの治療薬の逐次投与から生じる予想外の驚くべき臨床結果に基づいている。1つ目の薬物は、キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞(chimeric antigen receptor-modified T cell)免疫療法とされた。2つ目の薬物は、再発性または難治性の前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病の治療に使用される抗体-薬物コンジュゲートとされた(詳細については、実施例の項を参照)。
【0007】
したがって、本発明は、少なくとも一部には、CAR免疫療法と、抗体-薬物コンジュゲートなどの抗体との組み合わせを対象に投与することによって、対象における腫瘍抗原の発現に関連する疾患、例えばB細胞悪性腫瘍、を治療する方法に関する。
【0008】
一局面では、本発明は、悪性B細胞を標的とするCAR免疫療法と、悪性B細胞を標的とする抗体とを対象に投与することを含む、対象におけるCAR B細胞悪性腫瘍治療レジメンの有効性を高めるまたは増強する方法を含む。
【0009】
別の局面では、本発明は、CAR B細胞悪性腫瘍治療レジメンと、悪性B細胞を標的とする抗体とを対象に投与することを含む、対象におけるB細胞悪性腫瘍を治療する方法を含む。
【0010】
本明細書に記載の方法のいずれかの他の態様では、CAR分子の抗原結合ドメインは、例えば悪性B細胞によって発現された、B細胞悪性腫瘍に関連する腫瘍抗原を標的とする(例えば、その腫瘍抗原に結合する)。いくつかの態様では、その腫瘍抗原は、白血病またはリンパ腫から選択される疾患に存在する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が関連する技術分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の方法および材料を本発明の実施に用いることができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書に記載される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、それらの全体が参照により本明細書に明示的に組み入れられる。矛盾が生じた場合は、定義を含めた本明細書が優先される。さらに、本明細書に記載される材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定することを意図したものではない。
【0012】
本明細書で使用する単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈が明らかに他を指示しない限り、複数の指示対象を含む。例えば、「1つの細胞(a cell)」への言及には、複数のそのような細胞が含まれ、「1つの抗体(an antibody)」への言及には、複数のそのような抗体が含まれる。
【0013】
用語「B細胞抗原」とは、B細胞の表面上に優先的に発現される分子であって、それに結合する薬剤により標的化され得る分子を指す。特に関心があるB細胞抗原は、哺乳動物の他の非悪性B細胞または非B細胞と比較して、悪性B細胞上に優先的に発現される。B細胞抗原の例としては、CD10、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD25、CD34、CD37、CD38、CD53、CD72、CD73、CD74、CD75、CD77、CD79a、CD79b、CD80、CD81、CD82、CD83、CD84、CD85、CD86、CD123、CD179b、ROR1、BCMA、およびFLT3が挙げられる。
【0014】
本明細書で使用する「B細胞悪性腫瘍」とは、哺乳動物に見られる当技術分野で公知のあらゆるタイプのB細胞悪性腫瘍を指し、固形腫瘍および血液がんが含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
本明細書で使用する「血液がん」は、哺乳動物に見られるあらゆるタイプの血液のがんおよび造血器の腫瘍、新生物または悪性腫瘍を指し、白血病およびリンパ腫が含まれるが、これらに限定されない。例を挙げると、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、B細胞性急性リンパ性白血病(「B-ALL」)、T細胞性急性リンパ性白血病(「T-ALL」)、急性リンパ芽球性白血病(ALL);例えば慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)を含むがこれらに限定されない、1つまたは複数の慢性白血病、または他の血液悪性腫瘍などである。
【0016】
本明細書で使用する「組み合わせて」投与するとは、対象が疾患に苦しんでいる過程で、2つ(またはそれ以上)の異なる治療が対象に投与されることを意味し、例えば、2つ以上の治療は、対象が疾患と診断された後で、かつ疾患が治癒されるかもしくは取り除かれる前に、または他の理由で治療が中止される前に投与される。いくつかの態様では、一方の治療の投与が、他方の投与を始める時点でまだ行われているため、投与期間の重複が存在する。これは、本明細書では「同時」または「併用」投与と呼ばれることがある。他の態様では、一方の治療の投与が、他方の治療の投与を始める前に終了している。いずれの場合も、いくつかの態様では、治療は、組み合わせ投与のためにより効果的であり、個々の治療で得られた効果と比較して、予想外に優れた効果をもたらす。例えば、第1または第2の治療は、第1の治療が第2の治療の非存在下で投与された場合に見られるよりも効果的であり、例えば、第1の治療の効果の向上または増強が第2の治療の後に見られるか、または同等の効果が第1の治療のより少ない量で見られ、同様の状況が第2の治療でも見られる。いくつかの態様では、投与は、疾患に関連する症状または他のパラメータの軽減が、一方の治療を他方の治療の非存在下で行った場合に観察されるものよりも大きくなるといったものである。2つの治療の効果は、部分的に相加的、完全に相加的、または相加的よりも大きい(つまり、相乗的)であり得る。投与は、投与された第1の治療の効果が、第2の治療を投与する際にまだ検出可能であるといったものであり得る。
【0017】
用語「キメラ抗原受容体」またはそれに代わる「CAR」は、少なくとも、細胞外抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、刺激性分子に由来する機能的シグナル伝達ドメインを含む細胞質シグナル伝達ドメイン(本明細書では「細胞内シグナル伝達ドメイン」、「細胞質シグナル伝達ドメイン」または「刺激性分子」とも呼ばれる)とを含む組換えポリペプチド構築物を指す。用語「キメラ抗原受容体」および「CAR」には、当技術分野で一般的に知られているCARが含まれる(例えば、Shi et al., Molecular Cancer 2014, 13:219を参照;その全体が本明細書に組み入れられる)。
【0018】
細胞質シグナル伝達ドメインは、一次シグナル伝達ドメイン(例えば、CD3ζの一次シグナル伝達ドメイン)を含むことができる。細胞質シグナル伝達ドメインは、少なくとも1つの共刺激分子に由来する1つまたは複数の機能的シグナル伝達ドメインをさらに含むことができる。共刺激分子は、4-1BB(すなわち、CD137)、CD27、ICOS、および/またはCD28から選択される。
【0019】
本明細書に記載される抗原などの特定の抗原Xを標的とする、例えば抗原Xに結合する、抗原結合ドメイン(例えば、モノクローナル抗体の一本鎖可変フラグメント(「scFv」))を含むCARは、X CARとも呼ばれる。例えば、CD19を標的とする抗原結合ドメインを含むCARは、CD19 CARと呼ばれる。特定の腫瘍抗原(TA)を標的とする抗原結合ドメイン(例えば、scFv)を含むCARは、TA CARとも呼ばれる。特定のB細胞抗原(BCA)を標的とする抗原結合ドメイン(例えば、scFv)を含むCARは、BCA CARとも呼ばれる。
【0020】
「悪性B細胞を標的とするCAR免疫療法がん治療」、「CAR B細胞悪性腫瘍治療レジメン」などの用語は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように操作されていて、悪性B細胞の1つまたは複数の腫瘍特異的受容体を特異的に標的とする免疫細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)を用いて、対象を治療することを意味する。CAR免疫療法は、当技術分野で広く知られている(例えば、Shi et al., Molecular Cancer 2014, 13:219を参照;その全体が本明細書に組み入れられる)。
【0021】
CAR構築物は、当技術分野で知られているウイルスまたは非ウイルス技術を用いて、免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)に導入することができる。
【0022】
本明細書で使用する用語「抗体」とは、抗原と特異的に結合する免疫グロブリン分子に由来するタンパク質またはポリペプチド配列を指す。抗体は、ポリクローナルもしくはモノクローナル、多鎖もしくは単鎖、またはインタクトの免疫グロブリンであり得、天然源に由来しても組換え源に由来してもよい。抗体は、免疫グロブリン分子の4量体であり得る。「抗体」という用語には、例えば、Fab'、F(ab')2、Fab、Fv、およびscFvフラグメントなどの機能的な抗体フラグメントが含まれる。抗体は、ヒト化抗体、ヒト抗体、および/または抗体-薬物コンジュゲートであり得る。用語「抗体」には、当技術分野で広く知られている抗体が含まれる。
【0023】
本明細書で使用する用語「有効量」、「安全かつ有効な量」、または「治療上有効な量」などは、本発明の方法で使用した場合に合理的なベネフィット/リスク比に見合う過度の有害な副作用(毒性、刺激性、アレルギー反応など)なしに、所望の治療応答をもたらすのに十分な、成分の量を意味する。例えば、治療の有効性を高めるもしくは増強する、がんの成長を遅らせる、またはがんを縮小させる、あるいは末梢血、骨髄および/または他の器官の悪性細胞数を減少させるのに有効な量である。特定の安全かつ有効な量または治療上有効な量は、治療を受ける特定の疾患、患者の健康状態、治療を受ける哺乳動物または動物の種、治療の期間、(もしあれば)併用療法の性質、使用する特定の製剤、および複合物(すなわち、免疫エフェクター細胞および/または抗体)の構造などの要因によって異なってくる。
【0024】
本明細書で使用する用語「有効性を高める」または「有効性を増強する」とは、がん細胞の集団を減少させることを意味する。がん細胞の数量(quantity)、数、分量(amount)、または割合を、陰性対照と比較して、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも65%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、または少なくとも99%減少させることができる。
【0025】
本明細書で使用する用語「治療する(treat)」、「治療(treatment)」、および「治療すること(treating)」とは、がんまたは増殖性疾患の進行、重症度、および/または持続期間を低減または改善すること、あるいは1つまたは複数の治療薬(例えば、本発明のCARおよび抗体などの1つまたは複数の治療薬)の投与から生じるがんまたは増殖性疾患の1つまたは複数の症状(好ましくは、1つまたは複数の識別可能な症状)を改善することを意味する。特定の態様では、用語「治療する」、「治療」、および「治療すること」は、必ずしも患者によって識別されない、腫瘍の成長などの、増殖性疾患の少なくとも1つの測定可能な物理的パラメータの改善を指す。他の態様では、「治療する」、「治療」、および「治療すること」という用語は、識別可能な症状の安定化などによって身体的に、物理的パラメータの安定化などによって生理学的に、またはその両方によって、がんまたは増殖性疾患の進行を抑制することを意味する。他の態様では、「治療する」、「治療」、および「治療すること」という用語は、腫瘍サイズまたはがん性細胞数の減少または安定化を指す。
【0026】
このように、治療には、有効性の向上もしくは増強、抑制、阻害、予防、治療、またはこれらの組み合わせが含まれ得る。治療は、とりわけ、疾患進行までの時間の長期化、寛解の促進、寛解の誘導、寛解の増強、回復の迅速化、代替治療薬の有効性の増加もしくは代替治療薬への耐性の低下、またはこれらの組み合わせを指す。「抑制」または「阻害」は、とりわけ、腫瘍関連症状の発症の遅延、疾患再発の防止、再発エピソードの数もしくは頻度の低減、症候性エピソード間の潜伏期間の長期化、症状の重症度の軽減、急性エピソードの重症度の軽減、症状の数の低減、疾患関連症状の発生率の低下、症状の潜伏期間の短縮、症状の改善、二次的症状の軽減、患者の生存期間の延長、またはこれらの組み合わせを指す。症状は一次的または二次的であり得る。「一次的」は、増殖性疾患(例えば、がん)の直接の結果である症状を指し、「二次的」は、一次的原因から派生するか、またはその結果として生じる症状を指す。
【0027】
「対象」という用語は、生物(例えば、哺乳動物、ヒト)を含むことを意図している。
【0028】
本明細書で使用する「再発性」または「再発」とは、例えばがん治療などの療法の先行治療の後の、改善または応答性の期間の後に、疾患(例えば、がん)またはがんなどの疾患の徴候および症状が再来または再出現することを意味する。応答性の初期期間は、がん細胞のレベルが特定の閾値より下に、例えば、20%、10%、5%、4%、3%、2%、または1%未満に、低下することを含み得る。再出現は、がん細胞のレベルが特定の閾値より上に、例えば、20%、1%、10%、5%、4%、3%、2%、または1%超、上昇することを含み得る。例えば、ALLの状況では、再出現は、完全寛解後に、例えば、血液、骨髄(>5%)、または任意の髄外部位に芽球が再び現れることを含み得る。これに関連して、完全寛解は、骨髄芽球が5%未満になることを必要とし得る。より一般的には、一態様では、寛解(例えば、完全寛解または部分寛解)は、検出可能なMRD(微小残存病変)が存在しないことを必要とし得る。一態様では、応答性の初期期間は、少なくとも1、2、3、4、5、もしくは6日間;少なくとも1、2、3、もしくは4週間;少なくとも1、2、3、4、6、8、10、もしくは12ヶ月間;または少なくとも1、2、3、4、または5年間続く。
【0029】
説明
本発明は、一部には、B細胞を標的とする抗体の投与と組み合わせた、悪性B細胞を標的とするCAR免疫療法がん治療レジメンが、CAR治療単独の使用と比較して、より高い治療効果をもたらした、という驚くべき発見に基づいている。
【0030】
したがって、本発明は、その必要がある対象における、悪性B細胞を標的とするCAR免疫療法がん治療の有効性を高めるまたは増強する方法であって、該対象に、悪性B細胞を標的とする抗体を、該CAR免疫療法と組み合わせて投与することを含む、方法を提供する。好ましくは、がんはB細胞悪性腫瘍である。より好ましくは、B細胞悪性腫瘍は血液がんである。好ましくは、CAR免疫療法は、TA CARまたはBCA CARを発現するように操作された免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)を含む。好ましくは、免疫エフェクター細胞は、CD19腫瘍抗原を標的とする。好ましくは、悪性B細胞を標的とする抗体は、ヒト化またはヒトモノクローナル抗体である。好ましくは、悪性B細胞を標的とする抗体は、CD22腫瘍抗原を標的とするヒト化またはヒトモノクローナル抗体である。
【0031】
さらに、本発明は、その必要がある対象におけるがんを治療する方法であって、該対象に、悪性B細胞を標的とする抗体を、悪性B細胞を標的とするCAR免疫療法がん治療と組み合わせて投与することを含む、方法を含む。好ましくは、がんはB細胞悪性腫瘍である。より好ましくは、B細胞悪性腫瘍は血液がんである。好ましくは、CAR免疫療法は、TA CARまたはBCA CARを発現するように操作された免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)を含む。好ましくは、免疫エフェクター細胞は、CD19腫瘍抗原を標的とする。好ましくは、悪性B細胞を標的とする抗体は、ヒト化またはヒトモノクローナル抗体である。好ましくは、悪性B細胞を標的とする抗体は、CD22腫瘍抗原を標的とするヒト化またはヒトモノクローナル抗体である。
【0032】
本発明はまた、その必要がある対象における、既存の腫瘍負荷を低下させるもしくは排除する、腫瘍体積を低減する、腫瘍退縮を刺激する、再発を防止する、または全生存率を増加させる方法であって、該対象に、悪性B細胞を標的とする抗体を、悪性B細胞を標的とするCAR免疫療法がん治療と組み合わせて投与することを含む、方法を提供する。
【0033】
免疫エフェクター細胞が、悪性B細胞を標的とする抗体と組み合わせて対象に投与される態様では、該対象は以下の1つまたは複数を達成する可能性がある:1)免疫エフェクター細胞に対する耐性の増加;2)免疫エフェクター細胞の有効性の向上;3)免疫エフェクター細胞が拒絶される可能性の減少;および/または4)免疫エフェクター細胞が原因で起こり得る有害反応の増加もしくは減少。それゆえ、本明細書で提供する方法は、腫瘍抗原の発現に関連する疾患、例えば本明細書に記載のがん、を治療するための免疫エフェクター細胞療法および/または抗体療法の治療効果を高めるまたは増強する方法を特徴とする。
【0034】
免疫エフェクター細胞
一態様では、本発明は、免疫エフェクター細胞を悪性B細胞に向かわせる1つまたは複数のCARを含むように操作された免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)を提供する。これは、悪性B細胞抗原に特異的なCARの抗原結合ドメインを介して達成される。
【0035】
一態様では、B細胞抗原は、悪性B細胞の表面に発現される抗原である。該抗原は、次のタイプのB細胞のうちのいずれか1つの表面に発現され得る:前駆B細胞(例えば、プレB細胞またはプロB細胞)、早期プロB細胞、後期プロB細胞、大型プレB細胞、小型プレB細胞、未熟B細胞、例えばナイーブB細胞、成熟B細胞、プラズマB細胞、形質芽球、メモリーB細胞、B-1細胞、B-2細胞、辺縁帯B細胞、濾胞B細胞、胚中心B細胞、または制御性B細胞(Breg)。
【0036】
本発明は、CAR、例えば腫瘍抗原に結合するCAR分子(例:TA CAR)または悪性B細胞抗原に結合するCAR分子(例:BCA CAR)、をコードする配列を含む組換え核酸構築物を含む免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)を包含する;ここで、該CARは、腫瘍抗原または悪性B細胞抗原に特異的に結合する抗原結合ドメイン(例えば、抗体または抗体フラグメント)を含む。
【0037】
好ましくは、免疫エフェクター細胞の抗原結合ドメイン、例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、またはマクロファージによって発現されるCAR分子は、B細胞悪性腫瘍に関連する腫瘍抗原、例えばB細胞悪性腫瘍(好ましくは血液がん)によって発現される腫瘍抗原、を標的とする(例えば、該腫瘍抗原に結合する)。
【0038】
好ましい態様では、免疫エフェクター細胞によって標的化される腫瘍抗原は、白血病またはリンパ腫から選択される血液がんに存在する。好ましくは、白血病には、例えば、B細胞性急性リンパ性白血病(「B-ALL」)、T細胞性急性リンパ性白血病(「T-ALL」)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、または慢性リンパ性白血病(CLL)が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、白血病は、再発性または難治性の前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病である。好ましくは、リンパ腫には、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫、および濾胞性リンパ腫から生じたDLBCLが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、リンパ腫は再発性または難治性のB細胞リンパ腫である。
【0039】
本発明は、以下を含むがそれらに限定されない、例示的なB細胞抗原を標的とし得るCARを提供する:CD10、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD25、CD34、CD37、CD38、CD53、CD72、CD73、CD74、CD75、CD77、CD79a、CD79b、CD80、CD81、CD82、CD83、CD84、CD85、CD86、CD123、CD179b、ROR1、BCMA、およびFLT3。
【0040】
好ましい態様では、CARはCD19を標的とする(例えば、CD19に結合する)。より好ましくは、免疫エフェクター細胞を悪性B細胞に向かわせる1つまたは複数のCARを含むように操作された免疫エフェクター細胞は、CD19指向性遺伝子改変自己T細胞(例えば、チサゲンレクルユーセル(tisagenlecluecel)、アキシカブタゲンシロルユーセル(axicabtagene ciloleucel))またはCIK細胞である。
【0041】
悪性B細胞を標的とする抗体
悪性B細胞を標的とする(例えば、悪性B細胞に結合する)抗体は、B細胞悪性腫瘍に関連する腫瘍抗原、例えばB細胞悪性腫瘍(好ましくは血液がん)によって発現される腫瘍抗原、を標的とする。
【0042】
好ましい態様では、抗体によって標的化される腫瘍抗原は、白血病またはリンパ腫から選択される血液がんに存在する。好ましくは、白血病には、例えば、B細胞性急性リンパ性白血病(「B-ALL」)、T細胞性急性リンパ性白血病(「T-ALL」)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)または慢性リンパ性白血病(CLL)が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、白血病は、再発性または難治性の前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病である。好ましくは、リンパ腫には、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫、および濾胞性リンパ腫から生じたDLBCLが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、リンパ腫は再発性または難治性のB細胞リンパ腫である。
【0043】
好ましい態様では、悪性B細胞を標的とする抗体は、CD19、CD20、CD22、CD123、FLT-3、ROR-1、CD79a、CD79b、CD179b、CD10、またはCD34を含むがこれらに限定されない、本明細書に記載のB細胞抗原を標的とする。
【0044】
悪性B細胞を標的とする抗体の例には、悪性B細胞上に発現される抗原、例えば、本明細書に記載の悪性B細胞抗原、例えば、CD19、CD20、CD22、CD52、CD123、FLT-3、ROR-1、CD79a、CD79b、CD179b、CD10、またはCD34を標的とする、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二重特異性抗体、抗体コンジュゲート(例えば、抗体-薬物コンジュゲート)、またはそのフラグメントが含まれる。好ましくは、悪性B細胞を標的とする抗体として、ブリナツモマブ、リツキシマブ、オファツムマブ、オクレリズマブ、ベルツズマブ、オビナツズマブ、モキセツモマブパスドトクス、TRU-015、AME133V、Pro131921、イブリツモマブチウキセタン、トシツムマブが挙げられる。
【0045】
好ましい態様では、悪性B細胞を標的とする抗体は、CD22を標的とする(例えば、CD22に結合する)。例えば、一態様では、CD22を標的とする悪性B細胞を標的とする抗体には、以下が含まれる:抗CD22モノクローナル抗体-MMAEコンジュゲート(例:DCDT2980S);抗CD22抗体のscFv、例えば抗体RFB4のscFv;シュードモナス外毒素Aの全体または断片に融合された抗CD22抗体のscFv(例:BL22);ヒト化抗CD22モノクローナル抗体(例:エプラツズマブ);任意でシュードモナス外毒素Aの全体または断片(例えば、38KDa断片)に共有結合で融合された、抗CD22抗体のFv部分(例:モキセツモマブパスドトクス);または任意で脱グリコシル化リシンA鎖などの毒素にコンジュゲートまたは連結された、抗CD19/CD22二重特異性抗体。好ましくは、悪性B細胞を標的とする抗体は、細胞毒性剤または化学療法剤にコンジュゲートされるか、別の方法で結合される。好ましくは、悪性B細胞を標的とする抗体は、細胞毒性剤(例えば、カリケアマイシン、オゾガマイシン)にコンジュゲートされるか、別の方法で結合される。好ましくは、悪性B細胞を標的とする抗体は、ヒトCD22に特異的な組換えヒト化免疫グロブリン抗体(例えば、イノツズマブ)と、カリケアマイシンと、カリケアマイシンをイノツズマブにつなげるリンカーとを含む、CD22指向性抗体-薬物コンジュゲートである。最も好ましくは、悪性B細胞を標的とするCD22指向性抗体-薬物コンジュゲートは、モキセツモマブパスドトクス(Lumoxiti(登録商標))およびイノツズマブオゾガマイシン(例:注射用BESPONSA(登録商標)(イノツズマブオゾガマイシン))である。
【0046】
抗がん療法
一態様では、本明細書に記載のCAR免疫療法は、悪性B細胞を標的とする抗体の投与前、投与中、投与と同時、または投与後に対象に投与される。好ましくは、CAR免疫療法は、悪性B細胞を標的とする抗体の投与前または投与後に対象に投与される。最も好ましくは、CAR免疫療法は、悪性B細胞を標的とする抗体の投与前に対象に投与される。
【0047】
悪性B細胞を標的とするCARを発現するように操作された免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)および/または悪性B細胞を標的とする抗体は、当技術分野で知られている方法を用いて対象に投与される。好ましくは、該免疫エフェクター細胞および/または該抗体は、非経口的に、例えば、皮下、腹腔内、筋肉内、または静脈内に投与される。
【0048】
いくつかの好ましい態様では、対象は、悪性B細胞を標的とするCARを発現するように操作された免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)の投与前に、アセトアミノフェンとH1抗ヒスタミン薬を前投与される。
【0049】
いくつかの好ましい態様では、対象は、悪性B細胞を標的とする抗体の投与前に、コルチコステロイドと解熱薬と抗ヒスタミン薬を前投与される。
【0050】
いくつかの態様では、悪性B細胞を標的とするCARを発現するように操作された免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)は、静脈内に、例えば静脈内注入として、投与される。例えば、各注入は、約104~109細胞/kg体重、ある場合には105~106細胞/kg体重(これらの範囲内の全ての整数値を含む)を提供する。免疫エフェクター細胞組成物は、これらの投与量で複数回投与することもできる。
【0051】
いくつかの態様では、悪性B細胞を標的とする抗体は、静脈内に、例えば静脈内注入として、投与される。例えば、各注入は、悪性B細胞を標的とする抗体を約0.1~2000mg(この範囲内の全ての整数値を含む)提供する。いくつかの態様では、悪性B細胞を標的とする抗体は、0.01mg/m
2~750mg/m
2の用量(この範囲内の全ての整数値を含む)で投与される。好ましくは、各注入は、約0.5~1mg/m
2、0.8~10mg/m
2、10~100mg/m
2、150~175mg/m
2、175~200mg/m
2、200~225mg/m
2、225~250mg/m
2、250~300mg/m
2、300~325mg/m
2、325~350mg/m
2、350~375mg/m
2、375~400mg/m
2、400~425mg/m
2、425~450mg/m
2、450~475mg/m
2、475~500mg/m
2、500~525mg/m
2、525~550mg/m
2、550~575mg/m
2、575~600mg/m
2、600~625mg/m
2、625~650mg/m
2、650~675mg/m
2、または675~700mg/m
2を提供し、ここでm
2は、該対象の体表面積を示す。いくつかの態様では、悪性B細胞を標的とする抗体は、少なくとも4日、例えば4、7、14、21、28、35日またはそれ以上、の投与間隔で投与される。例えば、悪性B細胞を標的とする抗体は、少なくとも0.5週間、例えば0.5、1、2、3、4、5、6、7、8週間またはそれ以上、の投与間隔で投与される。いくつかの態様では、悪性B細胞を標的とする抗体は、本明細書に記載の用量および投与間隔で、一定期間、例えば少なくとも2週間、例えば少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20週間またはそれ以上にわたって、投与される。例えば、悪性B細胞を標的とする抗体は、本明細書に記載の用量および投与間隔で、治療サイクルごとに合計で少なくとも2回(例えば、治療サイクルごとに少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16回またはそれ以上)投与される。好ましくは、悪性B細胞を標的とする抗体は、イノツズマブオゾガマイシンであって、以下に示したサイクル1の投与レジメン、および治療への応答に応じた後続サイクルの投与レジメンに従って投与される。
a CRまたはCRiを達成している患者では、かつ/または毒性からの回復を可能にするために、サイクル期間を最大28日間まで延長することができる(つまり、21日目に開始する7日間の無治療期間)。
【0052】
悪性B細胞を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を発現する細胞は、悪性B細胞を標的とする抗体の投与前(すなわち、事前)、投与中(すなわち、同時)または投与後(すなわち、事後)に投与することができる。好ましい態様では、悪性B細胞を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を発現する細胞は、悪性B細胞を標的とする抗体の投与前に投与される。好ましい一態様では、悪性B細胞を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を発現する細胞は、悪性B細胞を標的とする抗体の投与の、5分、10分、20分、30分、40分、50分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、8時間、10時間、12時間、16時間、18時間、20時間、24時間、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、14日、28日前、またはそれ以上前に投与される。最も好ましくは、悪性B細胞を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を発現する細胞は、悪性B細胞を標的とする抗体の投与の28日前に投与される。
【0053】
悪性B細胞を標的とするCARを発現するように操作された免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)および/または悪性B細胞を標的とする抗体の用量は、1回または複数回投与することができる。いくつかの態様では、免疫エフェクター細胞を1回投与し(すなわち、単回投与)、抗体を所定の持続期間にわたって週1回、週2回、週3回、週4回、週5回、週6回、または週7回投与することが好ましい。所定の持続期間は、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、最大1年またはそれ以上であり得る。
【0054】
一態様では、CAR免疫療法の有効性を高めるもしくは増強する方法、またはがん(例えば、B細胞悪性腫瘍)を治療する方法は、本明細書に記載の腫瘍抗原を発現するがん細胞の増殖を抑制するか、またはがん細胞の集団を減少させることを含み、該方法は、本明細書に記載の腫瘍抗原発現がん細胞集団(例えば、B細胞悪性腫瘍)に、本明細書に記載の腫瘍抗原発現B細胞に結合する抗体と組み合わせて、悪性B細胞を標的とするCARを発現するように操作された免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)を接触させることを含む。特定の態様では、本発明の組み合わせは、本明細書に記載の腫瘍抗原の発現に関連するがんを患う対象において、陰性対照と比較して、細胞および/またはがん細胞の数量、数、分量または割合を少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも65%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、または少なくとも99%減少させる。一局面では、前記がんはB細胞悪性腫瘍、例えば血液がんである。
【0055】
好ましい態様では、治療すべき血液がんは白血病またはリンパ腫から選択される。好ましくは、白血病には、例えば、B細胞性急性リンパ性白血病(「B-ALL」)、T細胞性急性リンパ性白血病(「T-ALL」)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)または慢性リンパ性白血病(CLL)が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、白血病は、再発性または難治性の前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病である。好ましくは、リンパ腫には、大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫、および濾胞性リンパ腫から生じたDLBCLが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、リンパ腫は再発性または難治性のB細胞リンパ腫である。
【0056】
一態様では、CAR分子、例えば本明細書に記載の悪性B細胞を標的とするCAR分子、を発現する細胞は、対象に何らかの臨床的利益を提供するとは期待されない単回の低用量として投与され、悪性B細胞を標的とする抗体は、投与時の高い腫瘍負荷および/または対象の体調不良のために、がんの完全寛解(CR)をもたらすとは期待されない用量で投与される。
【0057】
B細胞を標的とするCAR分子を発現する免疫エフェクター細胞と、悪性B細胞を標的とする抗体は、組み合わせて使用する場合、本明細書に記載の同じB細胞抗原を標的としても、本明細書に記載の異なるB細胞抗原を標的としてもよい。例えば、CD19悪性B細胞抗原を標的とするCAR分子を発現する免疫エフェクター細胞は、CD19悪性B細胞抗原を標的とする抗体またはCD22悪性B細胞抗原を標的とする抗体と組み合わせて使用することができる。
【0058】
別の態様では、悪性B細胞を標的とする抗体の投与は、例えば未治療の対象と比較して、対象におけるCAR発現細胞の増殖を増加させるか、または長期化させる。ある態様では、増殖の増加は、CAR発現細胞の数の増加を伴う。別の態様では、悪性B細胞を標的とする抗体の投与は、例えば未治療の対象と比較して、対象におけるCAR発現細胞によるがん細胞(例えば、悪性B細胞)の死滅を増加させる。
【0059】
別の態様では、対象は、細胞の移植、例えば同種幹細胞移植の前に、CAR発現細胞および本明細書に記載の悪性B細胞を標的とする抗体の注入を受ける。
【0060】
患者に投与される上記治療の投与量および治療スケジュールは、治療される疾患の正確な性質および治療のレシピエントによって異なってくる。ヒトに投与するための投与量の増減(scaling)は、当技術分野で受け入れられている実施方法に従って行うことができる。
【0061】
組み合わせ療法
本明細書に記載の悪性B細胞を標的とする抗体と組み合わせた悪性B細胞を標的とするCAR発現細胞は、他の公知の薬剤および治療法とさらに組み合わせて使用することができる。
【0062】
本明細書に記載の組み合わせ療法、例えば、本明細書に記載の悪性B細胞に結合する抗体と組み合わせた、本明細書に記載の悪性B細胞を標的とする1つまたは複数のCARを発現するように操作された免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CIK細胞、マクロファージ)は、少なくとも1つの追加の治療薬と組み合わせて投与することができる。一態様では、少なくとも1つの追加の治療薬は、本明細書に記載の組み合わせ療法の前に、同時に、または後に、同じ組成物でもしくは別々の組成物で、または逐次的に投与され得る。逐次投与の場合は、本明細書に記載のCAR発現細胞および/またはB細胞を標的とする抗体を最初に投与して、追加の治療薬を2番目に投与するか、またはそれらの投与順序を逆にしてもよい。
【0063】
本発明の別の局面では、本明細書に開示される悪性B細胞を標的とする1つまたは複数のCAR発現細胞および悪性B細胞を標的とする抗体を含むキットが提供され、そのようなキットは、投与上の指示を含む添付文書または他のラベルを含むことができる。
【0064】
薬学的組成物
本発明の薬学的組成物は、CAR発現細胞、例えば本明細書に記載の悪性B細胞を標的とする複数のCAR発現細胞、および/または本明細書に記載の悪性B細胞を標的とする抗体を、1つまたは複数の薬学的または生理学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて含むことができる。そのような組成物は、緩衝剤、例えば、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水など;炭水化物、例えば、グルコース、マンノース、スクロース、デキストロースまたはデキストラン、マンニトール;タンパク質;ポリペプチドまたはアミノ酸、例えばグリシン;酸化防止剤;キレート剤、例えば、EDTAまたはグルタチオン;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);ヒト血清アルブミン、電解質(例えば、Plasma-Lyte A);および防腐剤(例えば、Cryoserv(登録商標)ジメチルスルホキシド)を含み得る。本発明の組成物は、一局面では、静脈内投与用に製剤化される。好ましくは、悪性B細胞を標的とするCAR発現細胞は、患者専用の輸液バッグ内に懸濁され、悪性B細胞を標的とする抗体は、用時調製用の凍結乾燥粉末の形態である。
【実施例】
【0065】
以下の実験例を参照することにより、本発明をさらに詳細に説明する。この実施例は、例示のみを目的として提供されており、特に明記されない限り、限定することを意図したものではない。したがって、本発明は、決して、以下の実施例に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書で提供される教示の結果として明らかになる、あらゆる変形形態を包含すると解釈されるべきである。
【0066】
実施例1:
予想外の臨床結果は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)と診断された27歳の成人男性患者に関するもので、この患者は10ラウンドの標準治療を受けて、再発していた。その後、この患者は、ALL細胞および他のB細胞悪性腫瘍上に過剰発現しているCD19抗原を標的とするようにデザインされた、CAR改変T細胞の単回投与の安全性と有効性を検討する、実験的臨床第1/2a相用量漸増試験への登録資格を得た。この臨床試験で使用されたCAR改変T細胞の特定の集団は、T細胞の亜集団におけるCD56の同時発現により定義されるような、サイトカイン誘導性キラー(CIK)細胞の集団としても知られている。
【0067】
この患者には、規制当局の承認に基づき、この初めての臨床試験の最低用量である体重1kgあたり100万個のCAR発現T細胞が投与された。この用量は、患者に何らかの臨床的利益をもたらすとは期待されなかったが、ヒトでの最初の安全性シグナルを確立するであろう。CAR改変T細胞を投与した時点で、患者の骨髄は60%の芽球で構成されており、これは、投与されたCAR発現T細胞の量に対して、腫瘍負荷量が高いと考えられる。
【0068】
患者の末梢血中のCAR改変T細胞の存在は、標準的なPCR法を用いてベクターコピー数(VCN)の測定を通してモニタリングした。一般的に、CAR改変T細胞の治療活性は、患者の末梢血中でのこれらのT細胞の増殖・拡大に対応しており、これはVCNレベルの上昇と一致している。CAR改変T細胞を注入してから14日目までに、この患者のVCN数はピークに達し、0日目と比較して4645コピー/mcg倍に増加した。21日目と28日目には、VCN数はそれぞれ221コピー/mcgと定量レベル未満に減少し、28日目には患者の骨髄中の芽球数は90%に増加していた。これらの観察を考慮すると、CAR改変T細胞の該用量はこの患者に何らかの臨床的利益を提供したとは考えられなかった。この患者の腫瘍負荷は拡大し続けていたため、腫瘍の成長速度を制御する目的で、28日目に0.8mg/m2のイノツズマブを単回投与した。
【0069】
イノツズマブの治療上の作用機序は、腫瘍細胞の死を促進することができる。しかし、投与された用量が完全寛解(CR)をもたらすとは期待できなかった;その理由は、投与時の腫瘍負荷が高く、患者の体調が不良であるためであり、イノツズマブの治療効果にマイナスの影響を及ぼすと考えられた。イノツズマブ投与後+1日目に、この患者は重大なサイトカイン放出症候群(CRS)を発症し、集中治療室(ICU)に収容する必要があった。
【0070】
CRSは、単独(stand-alone)のイノツズマブ療法を受けている患者には一般的に観察されていない(イノツズマブの添付文書を参照)。その代わり、CRSは、特に腫瘍負荷が高い患者において、CAR改変T細胞療法と相関して見られる臨床上の有害事象である。したがって、この患者の生命を脅かすCRSは、予想外の重篤な有害事象(SAE)であった;その理由は、この場合も、CAR改変T細胞の先行用量が治療量以下であると認識されていたこと、およびVCNによって測定され、かつCAR改変T細胞の注入後最初の28日間に拡大する腫瘍負荷によって測定されるように、これらの細胞の治療効果が観察されなかったことにある。
【0071】
+35日目に、この患者は分子的CR(molecular CR)になったと考えられ、治癒の可能性がある同種骨髄移植を受けるまで、その後56日間この状態で安定したままであった。注入後9ヶ月目とHSCT後5ヶ月目には、この患者はまだ分子的CRの状態にあった。観察されたCRSと同様に、分子的CRの臨床転帰も予想外のことであった。一方、分子的CRは、チサゲンレクルユーセルなどの、単独療法としてのCAR改変T細胞で治療された患者によく見られ、通常、CRSの発生に伴ってまたは発生の後に観察される;その場合、CRSの強さによっては、患者をICUに収容する必要がある。
【0072】
上記の予期せぬ結果は、CAR改変T細胞が患者の末梢血中に最大70日間またはそれ以上も残存する能力を示したため、イノツズマブとこれらの細胞間の相乗効果の仮説を裏付けている。この患者には、CAR改変T細胞の注入後28日目にイノツズマブを投与した;このことは、これらの細胞が、イノツズマブの投与によって影響を受けており、それによって腫瘍細胞に対して治療上活性になり得ることを意味している。
【0073】
本発明は、ポリマーハイブリッドコア-シェルナノキャリアの設計および調製に関するものであり、そのコアは、トランスポゾン、トランスポザーゼ、ならびに/またはトランスポゾンおよび/もしくはトランスポザーゼを含むプラスミドおよびミニサークルに結合するように設計されており、そのシェルは、ペイロードを保護し、ナノキャリアを安定化させ、このシステムに生体適合性を与え、特定の細胞および組織へのターゲティングを可能にし、ナノキャリアからのペイロードの効率的な細胞内放出を促進するように設計されている。
【国際調査報告】