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特表2022-523765光学メタサーフェス、関連する製造方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-26
(54)【発明の名称】光学メタサーフェス、関連する製造方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/02 20060101AFI20220419BHJP
【FI】
G02B1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021547590
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(85)【翻訳文提出日】2021-10-12
(86)【国際出願番号】 EP2020053988
(87)【国際公開番号】W WO2020165448
(87)【国際公開日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】1901570
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512302876
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デクス-マルセイユ
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】518215415
【氏名又は名称】エコール サントラル ドゥ マルセイユ
(71)【出願人】
【識別番号】521358615
【氏名又は名称】マルチウェーブ イノベーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ミヘーヴァ,エレナ
(72)【発明者】
【氏名】アブデダイム,レドハ
(72)【発明者】
【氏名】イーノック,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】リュモー,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォズニュク,イヴァン
(72)【発明者】
【氏名】アントナカキス,トリフォン
(57)【要約】
本発明は、所与の動作スペクトル帯域で動作するように構成された光学メタサーフェスを製造するための方法(100)に関するものである。本方法は、
複数のパターンからなる2Dアレイ(220)を得る工程(110)であって、前記複数のパターンの各々は1つ以上のナノ構造体を含み、前記1つ以上のナノ構造体は、前記動作スペクトル帯域で共振する誘電体素子(222)を形成するとともに少なくとも1種類の感光性誘電体材料に作製され、前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料は、その屈折率を、感光スペクトル帯域内に一波長を有する少なくとも1種類の書き込み電磁波への曝露によって変化させることが可能なものである、工程と、
前記曝露後に2Dアレイの各パターンが、動作スペクトル帯域内の一波長を有する入射電磁波に、前記曝露中に前記パターンに生じる屈折率変化に対応する位相変化を生じさせるように、前記2Dアレイを、前記感光スペクトル帯域内に少なくとも一波長を有する1種類の書き込み電磁波に、曝露する工程(120)であって、前記書き込み電磁波は、2Dアレイの平面において、意図された位相プロファイルに応じた空間エネルギー分布を有する、前記工程と、を含む方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与の動作スペクトル帯域(Δλ)で動作するように構成された光学メタサーフェス(200)を製造するための方法(100)であって、
複数のパターンからなる2Dアレイ(220)を得る工程(110)であって、前記複数のパターンの各々は1つ以上のナノ構造体を含み、前記1つ以上のナノ構造体は、前記動作スペクトル帯域で共振する誘電体素子(222)を形成するとともに少なくとも1種類の感光性誘電体材料に作製され、前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料は、その屈折率を、感光スペクトル帯域内に一波長を有する少なくとも1種類の書き込み電磁波への曝露によって、変化させることが可能なものである、前記工程(110)と、
前記曝露後に前記2Dアレイの各パターンが、前記動作スペクトル帯域内の一波長を有する入射電磁波に、前記曝露中に前記パターンに生じる屈折率変化に対応する位相変化を、生じさせるように、前記2Dアレイを、前記感光スペクトル帯域内に少なくとも一波長を有する1種類の書き込み電磁波(314)に、曝露する工程(120)であって、前記書き込み電磁波(314)は、前記2Dアレイの平面において、意図された位相プロファイルに応じた空間エネルギー分布を有する、前記工程(120)と、を含む方法。
【請求項2】
前記2Dアレイを得る工程は、基板(210)上に前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料を堆積させること(112)と、前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料に前記ナノ構造体を作製すること(114)と、を含む、請求項1に記載の光学メタサーフェスの製造方法。
【請求項3】
前記2Dアレイを得る工程は、前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料を含む基板に前記ナノ構造体を作製することを含む、請求項1に記載の光学メタサーフェスの製造方法。
【請求項4】
前記位相プロファイルはマルチレベルである、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学メタサーフェスの製造方法。
【請求項5】
前記曝露中に前記2Dアレイの少なくとも1つの領域の前記複数のパターンに生じる屈折率変化を、リアルタイムでモニタリングする工程(130)をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学メタサーフェスの製造方法。
【請求項6】
前記複数のパターンは同一であり、二方向に沿って周期的に配置され、各方向に沿った周期はサブ波長である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学メタサーフェスの製造方法。
【請求項7】
所与の動作スペクトル帯域(Δλ)で動作するように構成された光学メタサーフェス(200)であって、
基板(210)と、
前記基板(210)上に堆積された少なくとも1種類の感光性誘電体材料に形成された共振誘電体素子(222)を形成する複数のナノ構造体からなる2Dアレイ(220)と、を備え、
前記複数のナノ構造体(222)は、前記2Dアレイの各パターンが、前記動作スペクトル帯域内の一波長を有する入射電磁波に、前記屈折率変化に対応する位相変化を生じさせるように、二方向に沿って前記基板上で周期的に繰り返される同一のパターンの形で、各々の方向に沿ってサブ波長の周期で配置され、各パターンは、基準となる屈折率に対して所与の屈折率の変化を有する、光学メタサーフェス。
【請求項8】
前記複数のナノ構造体(222)は、平行六面体または円柱形のブロックによって形成されている、請求項7に記載の光学メタサーフェス(200)。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか1項に記載の製造方法を実施するための光学メタサーフェス(200)を製造するためのシステム(300)であって、
前記2Dアレイ(220)を受けることが可能な支持体(340)と、
前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料の前記感光スペクトル帯域内に少なくとも一波長を有する電磁波(312)の放射源(310)と、
前記放射源(310)と前記支持体(340)との間に配置された書き込み装置(320)であって、前記2Dアレイの前記平面において、前記意図された位相プロファイルに応じた前記空間エネルギー分布を有する前記書き込み波(314)を形成するために、前記電磁波(312)の振幅および位相の少なくとも一方を変調するように構成された前記書き込み装置(320)と、
を備える、システム。
【請求項10】
前記書き込み装置(320)は、空間電磁波変調器と、前記空間電磁波変調器を制御するように構成されたコントローラ(325)とを備える、請求項9に記載の製造システム。
【請求項11】
前記曝露中に前記2Dアレイ(220)の少なくとも1つの領域の前記複数のパターンに生じる屈折率変化を、リアルタイムでモニタリングするように構成された光学装置(350)をさらに備える、請求項9または10のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学メタサーフェスの分野に関し、特に、需要に合わせた誘電体光学メタサーフェスの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
光ビームを制御するため、より一般的には電磁波を制御するために、従来の部品、例えばプリズムやレンズは、それらが形成される材料を伝搬する間に累積的な位相遅延を発生する。よって、例えばプリズムやレンズでは、空気中での伝搬に比べて光路を広げるために、所与の屈折率を持つ材料の中を伝搬する厚さが連続的に変化する。したがって、部品の光学的機能は、完全に、例えば形状や屈折率などの固有の特性によって決まる。
【0003】
現在、ナノテクノロジーによって、共振または準共振素子の格子を形成する、誘電体や金属材料で作られる例えばナノピラーやその他の粒子などのナノ構造体を含む2D光学素子によって作製される、「光学メタサーフェス」と呼ばれる新しいクラスの光学部品を設計することが可能になっている。例えばMinovichらによるレビュー記事Functional and nonlinear optical metasurfaces”, Laser Photonics Rev., 1-19 (2015)に記載された光学メタサーフェスは、特に、波長と同じような厚さのスケールで、位相、振幅、および偏光の少なくとも1つの急激な変化を可能にしている。このため、従来の光学部品と比較して、波長以下という非常に薄い平面部品であることに加えて、波面制御の自由度が高い。しかしながら、光学メタサーフェスで光の伝播を制御するには、3つの空間次元のうちの2つでサブ波長スケールの構造を作る必要があり、その技術的難易度は高い。
【0004】
例えば、公開された米国特許出願公開第2017/0212285号明細書には、複数の共振素子が2Dアレイに分散され、赤外域の入射波の位相制御を可能にする誘電体光学メタサーフェスが記載されている。これらの共振素子は構造的に異なり、所望の位相プロファイルを発生させるように分散されている。例えば、所望の位相プロファイルを発生させるために、共振素子は、異なる横方向の寸法を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した文書に記載されているような光学メタサーフェスで位相を局所的に制御するためには、メタサーフェスの各共振素子を波長スケールで完全に制御する必要がある。この制約のために、この方法を大きな規模で実施するのは困難である。そのため、これらの技術は、実験室での実証実験にとどまっていることが多い。
【0006】
本明細書の目的は、先行技術の困難さの少なくとも一部を克服することを可能にする、光学メタサーフェスを製造するための新規な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様によれば、本明細書は、所与の動作スペクトル帯域で動作するように構成された光学メタサーフェスを製造するための方法であって、
複数のパターンからなる2Dアレイを得る工程であって、前記複数のパターンの各々は1つ以上のナノ構造体を含み、前記1つ以上のナノ構造体は、前記動作スペクトル帯域で共振する誘電体素子を形成するとともに少なくとも1種類の感光性誘電体材料に作製され、前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料は、その屈折率を、感光スペクトル帯域内に一波長を有する少なくとも1種類の書き込み電磁波への曝露によって、変化させることが可能なものである、前記工程と、
前記曝露後に前記2Dアレイの各パターンが、前記動作スペクトル帯域内の一波長を有する入射電磁波に、前記曝露中に前記パターンに生じる屈折率変化に対応する位相変化を、生じさせるように、前記2Dアレイを、前記感光スペクトル帯域内に少なくとも一波長を有する1種類の書き込み電磁波に曝露する工程であって、前記書き込み電磁波は、前記2Dアレイの平面において、意図された位相プロファイルに応じた空間エネルギー分布を有する、前記工程と、を含む方法に関するものである。
【0008】
上述したような製造方法を用いることで、屈折率の局所的な制御が、事後的、すなわち、光学メタサーフェスで意図される光学的機能に応じて共振誘電体素子を含む複数のパターンからなる2Dアレイを得た後に、行われるという、需要に合わせた光学メタサーフェスの製造が可能になる。このようにして、数平方ミリメートルを超える大きな寸法の光学メタサーフェスを製造することができる。
【0009】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、1つ以上の共振誘電体素子を含む前記複数のパターンは同一のパターンであり、二方向の各々に沿ってサブ波長の周期で周期的に配置されている。このように、まず均一な2Dアレイを製造し、屈折率の局所的な変化によって作られることが意図される位相プロファイルを、需要に合わせた方法で制御することが、可能である。
【0010】
光学メタサーフェスとは、3つの空間次元のうちの2つにおいてサブ波長スケールでナノ構造化された光学部品であり、ナノ構造体、例えば、誘電体や金属材料で作られるナノピラーやその他の粒子が、共振素子または準共振素子の格子を形成しているものである。
【0011】
「同一のパターン」という表現は、曝露前に同一のパターン、すなわち、パターンごとに形状と寸法がどちらも同一の共振誘電体素子が同一の並びで配置された、共振誘電体素子のパターンを意味することを意図している。
【0012】
他の例示的な実施形態では、本明細書による製造方法を用いて、例えば、初期の位相プロファイルを修正するために、必ずしも均一ではない2Dアレイに局所的な屈折率の変化を適用することも可能である。
【0013】
「サブ波長」という用語は、特に指定のない限り、通常、動作スペクトル帯域の最小長よりも短い周期を意味することを意図している。
【0014】
本明細書において、「誘電体材料」という用語は、屈折率の虚数部が支配的な金属とは対照的に、屈折率の実数部が支配的な材料を意味する。したがって、バンドギャップ幅よりも大きな光子エネルギーを除いて、半導体は低損失の誘電体材料である。
【0015】
本明細書では、「感光性誘電体材料」という用語は、少なくとも1つの書き込み電磁波への曝露によって屈折率を変化させることが可能な誘電体材料を意味する。感光スペクトル帯域は、屈折率が可変であるすべての波長を含む。
【0016】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、感光スペクトル帯域において、屈折率の値が最大で2%、有利には3%変化することが可能である。
【0017】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、2Dアレイを得る工程は、基板上に前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料を堆積させることと、前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料に前記ナノ構造体を作製することと、を含む。
【0018】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、2Dアレイを得る工程は、基板上に堆積される、誘電体材料の1つの層または複数の層からなるスタックを、堆積させることを含み、この層または前記複数の層からなるスタックは、前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料を含む。
【0019】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、2Dアレイを得る工程は、共振誘電体素子を形成するために、例えばマスクを用いて、基板上に感光性誘電体材料を選択的に堆積させることを含む。
【0020】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、前記複数の層からなるスタックは、前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料によって形成された少なくとも1つの層と、1つ以上の追加の層、例えば、前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料によって形成された前記少なくとも1つの層と基板との間の接続層および反射防止層の少なくとも一方と、を含む。1または複数の例示的な実施形態によれば、前記複数の層からなるスタックは、第2の感光性誘電体材料によって形成された少なくとも1つの第2の層を含む。
【0021】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、2Dアレイを得る工程は、基板上に前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料を堆積させることを含む。
【0022】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、基板は、動作スペクトル帯域において透過性を有する材料を含む。したがって、例えば、基板は、シリカ、ガラス、カルコゲナイドガラス、ZnSe(セレン化亜鉛)、ポリマーのうちの少なくとも1種の材料を含むものであってもよい。
【0023】
材料は、前記スペクトル帯域の各波長について、前記波長の波の少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%が透過する場合、本明細書で用いる意味で、スペクトル帯域において透過性を有するとする。
【0024】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、2Dアレイを得る工程は、前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料を含む基板に前記ナノ構造体を直接作製することを含む。
【0025】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、基板は、例えば反射防止層などの1つ以上の追加の層を備える。
【0026】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、動作スペクトル帯域は、前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料の透過性スペクトル帯域、すなわち、バンドギャップ(または光学的ギャップ)のエネルギーに対応する波長よりも長い波長を含むスペクトル帯域にある。
【0027】
実際には、動作スペクトル帯域は、共振誘電体素子の共振スペクトル帯域の周辺にあるが、前記共振スペクトル帯域に限定されるものではない。
【0028】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、動作スペクトル帯域は、幅が1nm~20nmまたは1nm~100nmであり、使用する材料や共振誘電体素子に応じて、可視スペクトル帯域、近赤外または中赤外、例えば400nmから15μmに位置する場合がある。
【0029】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、感光スペクトル帯域は、前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料の線形吸収スペクトル帯域、すなわち、バンドギャップエネルギーに対応する波長よりも短い波長にある。これを線形感光性という。
【0030】
線形感光性を有する誘電体材料では、屈折率の変化が材料に吸収されるエネルギーの量に依存する。そうすると、どのような光源でも書き込み電磁波の放射に用いることが可能であり、パワーをN倍にすることで、2Dアレイの曝露時間をN分の1に短縮することが可能となる。例えば、放射源は、発光ダイオード、レーザーダイオード、連続またはパルスレーザー、キセノンランプなどを含む。
【0031】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、線形感光性のスペクトル帯域は、300nm~1000nmの間にある。
【0032】
線形感光性を有する誘電体材料の例として、カルコゲナイドガラス(例えば、Ge25As3045、Ge33As12Se55、Asなど)があげられるが、これらに限定されるものではない。また、酸化物ガラスもあげることができ、例えば、J. Lumeau et al.[文献3]に記載された光熱屈折材料、例えばFoturan(登録商標)や、感光性ポリマー材料、例えばG. J. Steckman et al., “Characterization of phenanthrenequinone-doped poly(methyl methacrylate) for holographic memory,” Opt. Lett.23(16), 1310-1312 (1998)に記載されているPQ:PMMAなどである。
【0033】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、感光スペクトル帯域は、前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料の非線形吸収、例えば2光子吸収または多光子吸収のスペクトル帯域にある。これを非線形感光性という。
【0034】
非線形吸収メカニズムの期間は、(一般にパルスレーザーを用いて得られる)高出力密度が使用され、屈折率の変化は局所的な曝露強度(非線形効果)と材料に吸収されるエネルギー量(感光性効果)の両方に依存する。
【0035】
前記書込み波を放射するための光源は、非線形感光性の場合、例えば、多光子吸収現象を引き起こすのに十分なパルスあたりのエネルギーを有するパルスを放射するパルス光源であり、パルスは、例えば、100ns未満、有利には10ns未満のパルス持続時間と、数MW/cmを超える、有利には100MW/cmを超える発光強度を有する。
【0036】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、非線形感光性のスペクトル帯域は、300nm~2mの間にある。
【0037】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、書き込み波に対する2Dアレイの曝露は、所与の振幅のマスク、例えば、フォトリソグラフィで使用されるマスクと同様のマスク、例えばクロムマスクを介した投影を含む。
【0038】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、書き込み波に対する2Dアレイの曝露は、例えば、集光されたレーザーの走査を使用することによって、アレイを点ごとに照射することを含む。
【0039】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、2Dアレイの書き込み波への曝露は、液晶アレイまたはマイクロミラータイプの空間光変調器を使用することからなる。
【0040】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、意図された位相プロファイルは、マルチレベルの位相プロファイル、例えば2値の位相プロファイルであり、4レベル、8レベル、またはより一般的には2のレベルのものであり、ここでNは1以上の整数である。
【0041】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、意図された位相プロファイルは、動作スペクトル帯域において、以下の光学的機能、すなわち、収束レンズまたは発散レンズ、ビームコンバータ、ビームスプリッタ、投影画像、例えばレチクル、グリッド、またはより一般的には画像を形成する任意の強度分布のうちの少なくとも1つを、例えば遠方界に作り出すように構成されている。
【0042】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、共振誘電体素子は、ブロック、例えば断面が矩形または正方形の、平行六面体ブロック、あるいは、例えば断面が円形または楕円形の、円柱形ブロックによって形成される。
【0043】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、前記共振誘電体素子の少なくとも1つの寸法はサブ波長である。
【0044】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、光学メタサーフェスは、反射で動作するように構成されている。
【0045】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、光学メタサーフェスは、透過で動作するように構成されている。
【0046】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、本方法は、前記曝露中に2Dアレイの少なくとも1つの領域に生じる局所的な屈折率変化を、リアルタイムでモニタリングする工程をさらに含む。この工程により、前記メタサーフェスの製造時にキャリブレーションの工程を省略することが可能になる。
【0047】
例えば、モニタリングは、動作スペクトル帯域内の少なくとも一波長を有する電磁波で2Dアレイの少なくとも1つの領域を照射し、その結果得られる光学的機能を観察することを含む。
【0048】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、このようにして得られた光学メタサーフェスを、新たな用途のために再構成することができる。
【0049】
第2の態様によれば、本明細書は、所与の動作スペクトル帯域において所与の位相プロファイルを発生させるように構成された光学メタサーフェスに関し、前記メタサーフェスは、第1の態様による方法の例示的な実施形態のいずれか1つによる製造方法で得られる。
【0050】
本明細書は、より広義には、所与の動作スペクトル帯域において所与の位相プロファイルを発生させるように構成された光学メタサーフェスであって、
基板と、
前記基板上に堆積された少なくとも1種類の感光性誘電体材料に形成された共振誘電体素子を形成する複数のナノ構造体からなる2Dアレイと、を備え、
前記複数のナノ構造体は、前記2Dアレイの各パターンが、前記動作スペクトル帯域内の一波長を有する入射電磁波に、前記屈折率変化に対応する位相変化を生じさせるように、二方向に沿って周期的に繰り返される同一のパターンの形で、各々の方向に沿ってサブ波長の周期で配置され、各パターンは、基準となる屈折率に対して所与の屈折率の変化を有する、光学メタサーフェスに関するものである。
【0051】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、前記ナノ構造体は、平行六面体または円柱形のブロックによって形成されている。
【0052】
「同一のパターン」という表現は、パターンごとに形状と寸法がどちらも同一のナノ構造体が同一の並びで配置された、ナノ構造体のパターンを意味することを意図している。
【0053】
第3の態様によれば、本明細書は、第1の態様による方法を実施するための光学メタサーフェスを製造するためのシステムであって、
各々のパターンが1つ以上のナノ構造体を含む複数のパターンからなる前記2Dアレイを受けることが可能な支持体と、
前記少なくとも1種類の感光性誘電体材料の前記感光スペクトル帯域内に少なくとも一波長を有する電磁波の放射源と、
放射源と支持体との間に配置された書き込み装置であって、2Dアレイの平面において、前記意図された位相プロファイルに応じた空間エネルギー分布を有する前記書き込み波を形成するために、電磁波の振幅および位相の少なくとも一方を変調するように構成された書き込み装置と、を備えるシステムに関するものである。
【0054】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、前記書き込み装置は、空間電磁波変調器と、前記空間電磁波変調器のコントローラと、を備える。例えば、前記空間電磁波変調器は、液晶アレイまたはマイクロミラーのアレイで構成される。
【0055】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、前記書き込み装置は、2Dアレイを点ごとに照射するために、書き込みビームを二方向に走査する装置を備える。
【0056】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、前記書き込み装置は、振幅マスクを備える。
【0057】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、光学的メタサーフェスを製造するシステムは、光学的メタサーフェスを製造する方法をリアルタイムでモニタリングするように構成された光学イメージングシステムをさらに備える。
【0058】
1つ以上の例示的な実施形態によれば、前記光学イメージングシステムは、メタサーフェス上に以前に定義された較正領域に誘導される位相の変化を測定するように構成されている。
【0059】
以下の図面によって示される説明を読むことで、本発明の他の利点および特徴が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1図1は、本明細書による光学メタサーフェスを製造するための方法の一例を示す図である。
図2図2は、本明細書による光学メタサーフェスの一例を示す図である。
図3図3は、本明細書による光学メタサーフェスを製造するためのシステムの一例を示す図である。
図4A図4Aは、本明細書の一例によるメタサーフェスの2Dアレイについて、垂直入射で計算された透過係数を示す曲線である。
図4B図4Bは、本明細書の一例によるメタサーフェスの2Dアレイについて、共振誘電体素子の高さを変えた場合の、垂直入射で計算された透過係数を示す曲線である。
図4C図4Cは、本明細書の一例によるメタサーフェスの2Dアレイについて、異なる曝露時間での、垂直入射で計算された、一方では透過係数、他方では位相変化の変動を示す曲線である。
図5A図5Aは、2値である位相プロファイルの第1の例と、それに対応する遠方界での空間強度分布を示す画像である。
図5B図5Bは、4レベルの位相プロファイルの第2の例と、それに対応する遠方界での空間強度分布を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下の詳細な説明では、説明を明確にするために、いくつかの例示的な実施形態だけを詳細に説明するが、これらの例は、本明細書から明らかになる原理の一般的な範囲を限定することを意図したものではない。
【0062】
図1は、本明細書による光学メタサーフェスを製造するための方法100の一例を示す図であり、図2は、本明細書による光学メタサーフェス200の一例を示す。
【0063】
光学メタサーフェスを製造するための方法100についての図1に示す例は、所与の動作スペクトル帯域で共振する誘電体素子を形成するナノ構造体の2Dアレイを得る工程110を含み、続いて、このようにして得られた2Dアレイを書き込み波に曝露する(120)。
【0064】
一例によれば、工程110は、基板210(図2)上に、所与の感光スペクトル帯域で感光する誘電体材料の層を堆積させること(112)を含み、前記感光性材料は、例えば、薄膜の形態で堆積される。この堆積は、蒸着やスパッタリングなどの物理的な方法で行ってもよいし、プラズマ化学気相成長(PE-CVD)などの化学的な方法で行ってもよい。また、ポリマーの場合は、スピンコートやディップコートなどの方法も想定される。
【0065】
感光性誘電体材料は、本願では書き込み波と称する所与の電磁波に曝露されると、屈折率変化特性を示す。一般に、例えば屈折率の公称値に対して2%~3%の所与の最小量で屈折率を変化させることが可能な誘電体材料が求められている。この目的のために、様々な誘電体材料が想定される。それらは、無機物であればカルコゲナイドガラス(例えばGe33As12Se55(ゲルマニウム-ヒ素-セレン)、As(三硫化ヒ素)など)、有機物であればフェナントレンキノンを含有したポリ(メチルメタクリレート)(PQ:PMMA)などの、例えば線形感光性(linear photosensitivity)を有する材料であってもよい。また、一般に1ps未満の超短パルスに曝露した材料の非線形感光性を利用することもできる。その一例がシリカ(SiO)である。D. Homoelle et al., "Infrared photosensitivity in silica glasses exposed to femtosecond laser pulses," Opt. Lett. 24, 1311-1313 (1999), niobia (Nb2O5)を参照のこと。
【0066】
基板は、例えば、表面に堆積される薄膜として堆積された材料と共存可能である(接着性)か、あるいは、表面格子の製造用の支持体として用いる場合にはそれ自体が感光性である、有機材料(PMMA等)または無機材料(シリカ、カルコゲナイド等)である。
【0067】
この感光性材料は、単独で使用してもよいし、他の薄膜材料と組み合わせて使用してもよいものである。例えば、基板と層とを共存可能にするための接続層(クロム、酸化マグネシウム(MgO)など)を使用することや、界面での反射による損失を制限するため(反射防止構造)、共振現象を増すため、および、メタサーフェス(無彩色)の動作間隔を増加させるため、の少なくとも1つのために、感光層の上または下に多層構造を使用すること、などが挙げられる。
【0068】
次に、工程110は、複数の共振誘電体素子からなる2Dアレイを誘電体材料の層に形成すること(114)を含む。
【0069】
他の例示的な実施形態では、2Dアレイを得ること(110)は、共振誘電体素子を形成するために、マスク、例えば樹脂マスク、を介して基板上に感光性誘電体材料を堆積させることを含んでもよい。
【0070】
また、別の例示的な実施形態によれば、感光性誘電体材料からなる固体基板そのものに共振誘電体素子を直接形成してもよい。
【0071】
図2の例では、共振素子の2Dアレイを参照符号220で示す。共振誘電体素子222は、互いに垂直な二方向(x,y)に沿って周期的に並んだパターンの形で配置されている。この例では、各パターンは、1つの共振誘電体素子222を含む。この例の各共振誘電体素子は、断面が長方形で、辺の長さがa、a、高さがhであるブロックの形をしている。隣接する2つのブロックは、それぞれの方向に沿って距離p、p分離れている(p、pはサブ波長)ため、各方向に沿った周期がp=a+g、p=a+gに等しくなる。
【0072】
図2に示す共振誘電体素子222に対して、他の形状や配置、寸法が可能であることは、言うまでもない。特に、図2は、平行六面体の形状の素子222を示しているが、素子222は、例えば、断面が円形や楕円形の円柱ブロックなど、他の形状を有していてもよい。さらに、図2の例では、単数の誘電体素子222は、1つのパターンに相当する。しかしながら、1つのパターンの中に、形状および寸法の少なくとも1つが異なる複数の共振誘電体素子を設けることも可能である。いくつかの例示的な実施形態では、前記共振誘電体素子の数、形状、および寸法が同じであるパターンが、例えばアレイの二方向に所与のサブ波長周期で再現されるが、必ずしも同一周期でなくてもよい。
【0073】
曝露工程120により、パターンレベルでの屈折率の局所的な変化を導入することが可能となり、したがって、透過位相を制御することができる。
【0074】
一般に、2Dアレイの設計(共振素子の形状および寸法、複数のパターンの形での配置、周期など)は、動作波長(またはスペクトル範囲)と、意図された位相変化と、に左右される。設計方法については、図4Aから図4Cを参照して、以下で詳しく説明する。
【0075】
誘電体層に共振素子の2Dアレイを形成するための既知の方法の1つは、例えば、樹脂に所望のナノメートルサイズのパターンを形成するために電子ビームリソグラフィーを実施した後、イオンエッチングによって誘電体層にパターンを転写する工程を含む。もうひとつの方法は、ナノプリントによる共振素子を形成する工程を含む。具体的には、型を使用して、広い面で基本パターンを再現する。局所的な位相変化は光誘起される屈折率(photoinduced index)の変化の分布によって制御されるため、製造しようとしている光学メタサーフェスの意図された位相プロファイルとは関係なく、同一の基本パターンを使用することができる点に留意するとよい。
【0076】
共振素子の2Dアレイが得られたら、2Dアレイを書き込み波に曝露する工程120により、所望の光学的機能(例えば、点の配列、レチクル、渦、投影画像など)を生じさせるために意図された位相プロファイルを形成することが可能になる。意図された位相プロファイルは、例えば、Bernard KressおよびPatrick Meyrueisの著書である“Applied digital optics”, Chapter 6 “Digital Diffractive Optics: Numeric Type”, John Wiley & Sons, 2009に記載されているように、デジタルに作られるホログラムや回折光学素子を生成するために一般に計算されるものと同様である。位相プロファイルはマルチレベルプロファイルであり、例えば、2値のものや、さらにレベル数が多い(一般に2)ものである。
【0077】
図5を参照して、位相プロファイルと対応する光学的機能の例について説明する。
【0078】
光誘起によって屈折率を局所的に変化させるために、空間的および時間的の少なくとも一方で選択的に2Dアレイの曝露を行う。
【0079】
曝露時間については、例えば、所与の位相変化を生じさせるために光誘起される屈折率変化の関数とすることができる。よって、これは計算で得られたグレーティング型の構造(位相変化/屈折率変化の関係)と材料の感光特性とによって与えられることになる。ここで、光熱屈折ガラスの場合についてL. Siiman et al., "Nonlinear photosensitivity of photo-thermo-refractive glass by high intensity laser irradiation", Journal of Non-Crystalline Solids, 354, 4070-4074 (2008)で説明されているように、線形感光性の場合、曝露時間は曝露のエネルギー密度の関数となり得るが、非線形感光性の場合、曝露時間は曝露のエネルギー密度と曝露ビームの強度の関数となり得る。例えば、曝露量を制御することで、異なるレベルの屈折率変化を発生させることができ、これにより、動作スペクトル帯域の範囲内にある波長を持つ光波の位相変化の離散的な値を発生させることが可能となる。以下に詳細に説明するように、選択的な曝露は、例えば空間光変調器を用いて実施することができる。
【0080】
このようにして得られる光学メタサーフェスでは、動作スペクトル帯域での所望の位相プロファイルを得るための屈折率変化の変調が事後的に行われるため、基本的な誘電体構造の製造における誤差を抑えることができる。
【0081】
さらに、光学メタサーフェスを製造するための方法100は、任意に、in-situ光学モニタリング130、すなわち、屈折率の局所的変化をモニタリングすることを含んでもよく、これによって、光学メタサーフェスの製造プロセスをリアルタイムで制御するとともに、製造に必要な較正工程を排除することが可能になる。
【0082】
この場合、メタサーフェスの動作スペクトル帯域で発光するレーザーが、製造中のメタサーフェスに照射される。メタサーフェスにより透過される強度プロファイルを、遠方界で測定するためには、カメラを、任意にレンズと組み合わせてメタサーフェスの下流に配置すればよい。曝露は、得られる強度プロファイルが理論的に計算されたものと同一になったときに終了する。この終了基準は、理論的な応答と実験的な応答との間の平均偏差を定義するメリット関数として定義することができる。別の方法としては、干渉計またはシャックハルトマン型の波面測定システムを用いて、メタサーフェスの下流にある曝露部分と非曝露部分との間の位相差を測定することからなるものであってもよい。モニタリングは、光学メタサーフェスの所与の領域で行うことができる。
【0083】
図3は、本明細書による製造方法を実施するように構成された、光学メタサーフェスを製造するためのシステム300の一例を概略的に示す。
【0084】
製造システム300は、複数の共振誘電体素子222からなる2Dアレイ220を受けるように構成された支持体340を備える。上述したように、2Dアレイは、少なくとも1種類の書き込み電磁波への曝露後に、波長が動作スペクトル帯域の範囲内にある入射電磁波に対して、意図された位相プロファイルに沿って位相変化を生じさせるように、設計されている。
【0085】
製造システム300は、さらに、前記共振誘電体素子を形成する誘電体材料の感光スペクトル帯域に少なくとも一波長を有する少なくとも1種類の電磁波312の少なくとも1つの放射源310を備える。
【0086】
放射源は、適切なサイズと強度プロファイルの曝露ビームを発生させるために、例えば、レーザーダイオード、レーザー、任意にファイバーダイオードであってもよい発光ダイオード、ならびに、レンズまたはミラーからなる、ビームを整形するためのシステムとを含む。また、製造システム300は、放射源310と支持体340との間に配置され、電磁波312の振幅および位相の少なくとも一方を変調するように構成された書き込み装置320と、任意で、2Dアレイの平面で、屈折率のプロファイルに応じたエネルギー分布、したがって意図された位相プロファイルに応じたエネルギー分布、を有する書き込み波314を生成するために、当該書き込み装置320を制御するように構成されたコントローラ325と、を備える。
【0087】
書き込み装置320は、意図されたエネルギー密度を得るために書き込み波を振幅変調するように構成された空間光変調器(SLM)を含んでいてもよい。2値の素子(0およびπ)である場合、所与の曝露時間のあいだ、書き込み波の強度プロファイルを一定にしてもよい。また、2レベルより大きい書き込み位相プロファイルの場合、位相レベルに対応する各曝露後に、SLMを再構成してもよい。
【0088】
また、書き込み装置320は、マイクロミラーのアレイを含んでいてもよく、各マイクロミラーは、意図された空間エネルギー分布を形成するよう、所与の曝露時間のあいだ、コントローラによって傾けられるように構成されている。
【0089】
また、書込み装置320は、2Dアレイを点走査するシステムを含んでいてもよい。この場合、書き込みビームは、書き込みがなされる領域の大きさに合わせたスポット径、すなわち、最小の領域以下のスポット径で、書き込みがなされるメタサーフェスに集束されることになる。ここでいう領域とは、例えば2値位相プロファイルの場合であれば、0またはπの均一な位相変化を発生させることを意図した領域と理解される。メタサーフェスを固定しておき、例えば、ガルバノメトリックミラーなどを用いてスポットをサーフェス上でスキャンし、各ポイントの曝露時間を、期待される位相変化に応じて適合させる。別の選択肢として、書き込みビームを固定したまま試料を走査することからなるものであってもよい。
【0090】
また、書き込み装置320は、フォトリソグラフィで使用されるものと同様のクロムマスクタイプの固定振幅マスクを含んでもよい。
【0091】
図3に示す例では、製造システム300は、例えば1つ以上の対物レンズまたはレンズを含むリレー光学系330を備え、これは、書き込み波を2Dアレイに投影するように構成されている。例えば、リレー光学系330は、所与の倍率の光学系を含む。
【0092】
コントローラ325は、書込み波に対する所望の強度プロファイルに応じて書込み装置320を制御するように構成されている。コントローラは、例えば、命令を実行するために実装されたコンピュータを備える。これらの命令は、コントローラが読み取り可能な任意の記憶媒体に格納されていてもよい。
【0093】
図3の例では、製造システムは、曝露時に前記2Dアレイの前記パターンに生じる
屈折率の変化をリアルタイムにモニタリングするように構成された光学装置350をさらに備える。光学モニタリング装置350は、例えば、動作スペクトル帯域の波長を有するモニタリング波352を発するように構成された照明源352を備える。光学モニタリング装置350は、例えば2次元検出器、例えばCCDまたはCMOSカメラなどの検出器356をさらに備え、その検出器上に、製造中の光学メタサーフェスによって形成される光学的機能をリアルタイムで画像化することができる。
【0094】
図4A図4Cは、本明細書による光学メタサーフェスの製造を目的として共振誘電体素子の2Dアレイを設計するための工程を示す曲線を表している。
【0095】
2Dアレイの設計における最初の工程は、共振素子を形成するための1種類以上の感光性誘電体材料を選択することである。可視域、近赤外域、および中赤外域の波長範囲のスペクトル帯域の光波が照射されたときに、屈折率が大きく変化する、すなわち、一般に屈折率の最大2%~3%の変化が生じる感光性誘電体材料を選択すると都合がよい。
【0096】
また、感光性誘電体材料を基板に堆積させる際、基板の材料は、感光性材料との物理化学的な適合性、任意で動作スペクトル帯域における透過性、も考慮して選択される。
【0097】
上述したように、誘電体媒体には、感光性誘電体材料を含む複数の誘電体材料、任意で、空気/感光性誘電体材料界面での反射防止処理および基板/感光性誘電体材料界面での接合層の少なくとも一方が含まれていてもよい。
【0098】
第2工程には、共振波長間隔を特定するために、共振誘電体素子を形成するためのナノ構造体(形状、寸法、配置)を選択し、このようにして形成された構造体の透過および反射の少なくとも一方の応答をモデル化することを含む。もちろん、このモデリングでは、誘電体媒体を形成するすべての材料、特に基板と感光性誘電体材料ならびに追加の誘電体材料(反射防止材、界面)の特性(屈折率、層の厚さ)を考慮する。モデリングの際には、例えば、CST MICROWAVE STUDIO(登録商標)、COMSOL Multiphysics(登録商標)、ANSYS HFSS(登録商標)などの公知の市販ソフトウェアを使用してもよい。
【0099】
ナノ構造体は、2Dアレイの二方向に沿って周期的に配置されたパターンの形で並んでいる。0次での透過または反射で動作したり、より高い回折次数でのエネルギー損失を回避したりするために必要な動作波長間隔の最小波長未満の周期が選択される。
【0100】
したがって、図4Aは、例えば図2に示すような、基板上に堆積された長方形状の素子の2Dアレイの、波長に対する透過係数を示す曲線である。より正確には、図4Aの計算では、寸法a=600nmの立方体が、各方向にp=700nmに等しい周期で周期的に配置されている。感光性誘電体材料の屈折率はn=2.35、基板の屈折率はnSub=1.5である。この2Dアレイに光を垂直入射させ、垂直入射で伝搬する光の透過係数を算出する。
【0101】
図4Aに示すように、透過曲線には、素子の共振の位置に対応して、0次の領域に「1」と「2」の番号が付けられた2つの谷が見られる。これは、第1の共振(1)が主に電気双極共振であり、第2の共振(2)が主に磁気双極共振であることを示している。
【0102】
また、図4Aは、構造の周期性に起因する他の物理的効果も示している。波長λ<p・nSub(この例では1050nm)の場合、透過光は複数の回折次数の間に分布する。したがって、メタサーフェスは、ゼロ次のみを透過するように、所与の波長(この例では1050nm)よりも長い動作波長で動作するように設計されている。
【0103】
研究によると、基本パターンのアスペクト比(高さhと横方向の寸法aの比)を変化させることで、電気双極共振および磁気双極共振を互いにオフセットして、スペクトル的に一致するポイントを見つけることが可能である旨が明らかになっている。Gomez-Medina et al., “Electric and magnetic dipolar response of germanium nanospheres: interference effects, scattering anisotropy, and optical forces”, Journal of Nanophotonics, 5(1), 053512 (2011)を参照のこと。
【0104】
そして、第3の工程は、所与の形状のナノ構造体について、電気的共振と磁気的共振がスペクトル的に一致する高さhを決定することからなる。
【0105】
例として、図4Bは、一辺の長さがa=600nmの正方形の断面を持ち、高さhが250nm~600nmの間で変化するナノ構造体について、0次で計算した透過を示している。
【0106】
図4Bから明らかなように、ナノ構造体の高さhが低くなるにつれて、電気双極共振および磁気双極共振が異なる率で短波長側にシフトしていることがわかる。h=330nm付近では、これらの2つの極小値が図4BでIとして示す点を中心に重なっている。さらに、この点Iは、局所的な透過極大に対応している。
【0107】
第4の工程は、先に決定した高さhの周辺で、材料が曝露されない場合(n=2.35)と材料が曝露される場合(n=2.42)の基本パターン(選択した例では、正方形の断面を持つ平行六面体のブロック)について、0次の波長に対する透過係数の変化を計算することである。
【0108】
図4Cは、2Dアレイが曝露されていない場合(曲線420)と、2Dアレイがそれぞれ1J/cm(曲線421)、4J/cm(曲線422)、20J/cm(曲線423)の異なるエネルギー密度に曝露された場合に、0次で測定された透過係数Tを示す(上側の曲線)。
【0109】
図4Cはさらに、同一のエネルギー密度について、垂直入射で基本パターンに入射する光に生じる位相変化φexposed-φinitialを示す(下側の曲線)。より正確には、曲線431、432、433は、それぞれ、1J/cm(曲線431)、4J/cm(曲線432)、20J/cm(曲線433)のエネルギー密度の入射波によって生じる位相変化φexposed-φinitialを示す。
【0110】
位相φexposed-φinitialの最大変化には約4ラジアンが観察される。さらに、この位相変化は、初期の透過の50%以上すなわち初期の透過に近い状態を維持することができる透過に関連している。この変化は、損失のないバイナリ光学素子を設計するのに十分なものである。
【0111】
このように、例えば、4J/cmの曝露で得られる位相変化を示す曲線433を考えると、約1185nmを中心として、約10nmの幅を持つ波長間隔Δλでは、位相変化はπ±15%であり、透過は50%前後のままであることが観察される。したがって、この動作波長間隔であれば、2値の位相プロファイルを作り出すことが可能である。
【0112】
この手法は、0~2πの間の任意の位相シフトに拡張することができ、その値は材料の屈折率によって制御される。
【0113】
図5Aおよび図5Bは、本明細書に従って光学メタサーフェスを得るために、光誘起屈折率の変化を利用して2Dアレイに記録される位相プロファイルの2つの例を示している。それぞれの位相プロファイルについて、遠方界で計算された空間強度分布が示されている。
【0114】
このように、図5Aは、レチクルの形状の遠方界画像512の作成を可能にする、2値(0とπとの間の位相変動)である第1の位相プロファイル511を示す。
【0115】
図5Bは、5×5点のアレイの形をした遠方界画像514の作成を可能にする、4つの位相レベル(0、π/2、π、3π/2)を持つ第2の位相プロファイル513を示す。
【0116】
ある数の例示的な実施形態を用いて説明したが、光学メタサーフェスを製造するための方法および当該方法を実施するための装置は、当業者であれば容易に理解できる様々な変形、修正および改変が以下の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲の一部を形成することを考慮すると、これらの様々な変形、修正および改変を含んでいる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
【国際調査報告】