(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-26
(54)【発明の名称】量子ビットの誤りを検出するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G06F 7/38 20060101AFI20220419BHJP
H03M 13/47 20060101ALI20220419BHJP
H01L 39/00 20060101ALI20220419BHJP
G06N 10/00 20220101ALI20220419BHJP
【FI】
G06F7/38 510
H03M13/47
H01L39/00 A
G06N10/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021550075
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(85)【翻訳文提出日】2021-10-25
(86)【国際出願番号】 EP2020053735
(87)【国際公開番号】W WO2020173714
(87)【国際公開日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】102019202661.3
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501188672
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム ユーリッヒ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ランロック ファイト
(72)【発明者】
【氏名】ディヴィンチェンゾ デイビッド
【テーマコード(参考)】
4M113
5J065
【Fターム(参考)】
4M113AC45
5J065AD01
5J065AE01
5J065AH01
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、データ量子ビットにおける誤り状態の適切な検出を可能にすることである。
【解決手段】
本発明は、パリティ量子ビット(1、2、11、12)を用いてデータ量子ビット(6、7、10)の状態を検出するための方法及び装置において、上記データ量子ビットと上記パリティ量子ビットの両方が移動手段によって移動させられることができ、上記データ量子ビットと上記パリティ量子ビットとの間隔は非常に広いため、上記パリティ量子ビットは上記データ量子ビット(6、7、10)の状態を問い合わせることができず、上記データ量子ビットを第1の経路に沿って移動させ、上記パリティ量子ビットを第2の経路に沿って移動させることによって、上記パリティ量子ビットが上記データ量子ビット(6、7、10)の状態を問い合わせることができるまで、上記データ量子ビットと上記パリティ量子ビットとの上記間隔が狭められる、方法及び装置であって、上記第1の経路が上記第2の経路よりも長いこと、且つ/又は上記パリティ量子ビット(1、2、11、12)の移動速度が上記データ量子ビット(6、7、10)の移動速度よりも大きいことを特徴とする方法及び装置に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パリティ量子ビット(1、2、11、12)を使用してデータ量子ビット(6、7、10)の誤り状態を検出する方法において、少なくとも前記パリティ量子ビット(1、2、11、12)は、移動デバイスによって移動させられることができ、前記データ量子ビット(6、7、10)と前記パリティ量子ビット(1、11、12)との間隔が非常に広いため、前記パリティ量子ビット(1、11、12)は前記データ量子ビット(6、7、10)ともつれを形成できず、前記データ量子ビット(6、7、10)を第1の経路に沿って移動させ、前記パリティ量子ビット(1、11)を第2の経路に沿って移動させることによって、前記データ量子ビット(6、7、10)が前記パリティ量子ビット(1、11)ともつれを形成し得るまで、前記データ量子ビット(6、7、10)と前記パリティ量子ビット(1、11)との前記間隔が狭められる、方法であって、前記第2の経路が前記第1の経路よりも長いこと、且つ/又は前記パリティ量子ビット(1、2、11、12)の移動速度が前記データ量子ビット(6、7、10)の移動速度よりも大きいことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記パリティ量子ビット(1)が、もつれの形成目的で1個又は複数のデータ量子ビット(6、7、10)へと移動させられる前は、測定可能状態にあることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パリティ量子ビット(1、2、11)が2個のデータ量子ビット(6、7、10)の間に移動させられることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記パリティ量子ビット(11)が、2個のデータ量子ビット(7、10)の間に移動させられた後、別の2個のデータ量子ビット(7、10)の間に移動させられることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記パリティ量子ビット(2)が、2個のデータ量子ビット(6、7、10)の間に移動させられた後、データ量子ビット(6、7、10)から遠ざけられ、前記パリティ量子ビット(1、2、11、12)の状態が測定されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
複数のパリティ量子ビット(1、2、11)が同時に、データ量子ビット(6、7、10)の間に移動させられることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
1列のパリティ量子ビット(1、2、11)が、2列のデータ量子ビット(6、7、10)の間に移動させられることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
1列のパリティ量子ビット(1、2、11、12)が、2列のデータ量子ビット(6、7、10)から遠ざけられ、その次に、前記パリティ量子ビット(1、2、11、12)が、外に移動させられた前記1列のパリティ量子ビット(1、2、11、12)から測定ステーション(8)へと移動させられることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
1量子ビットが、スピン1/2又は-1/2を有し得る少なくとも1つの電子を含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
輸送デバイスが電場を発生させ、量子ビット(1、2、6、7)が前記電場によって移動させられることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法を実行するための装置であって、前記装置が、データ量子ビット(6、7、10)及びパリティ量子ビット(1、2、11、12)を含み、前記データ量子ビット(6、7、10)及び前記パリティ量子ビット(1、2、11、12)が移動させられ得る移動デバイスが提供され、データ量子ビットとパリティ量子ビットとの間隔が非常に広くなり得るため、前記パリティ量子ビットは前記データ量子ビット(6、7、10)ともつれを形成できず、前記データ量子ビットを第1の経路に沿って移動させ、前記パリティ量子ビットを第2の経路に沿って移動させることによって、前記データ量子ビット(6、7、10)が前記パリティ量子ビットともつれを形成し得るまで、前記データ量子ビットと前記パリティ量子ビットとの上記間隔が狭められ得る、ことを特徴とする装置において、前記第1の経路が前記第2の経路よりも長く、且つ/又は前記パリティ量子ビット(1、2、11、12)の移動速度が前記データ量子ビット(6、7、10)の移動速度よりも大きくなり得る、ことを特徴とする装置。
【請求項12】
前記パリティ量子ビット(1、2、11、12)が測定可能状態にあり、特に一重項状態又は三重項状態にあることを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記パリティ量子ビット(1)が2個のデータ量子ビット(6、7、10)の間に移動させられ得ることを特徴とする、請求項11又は12に記載の装置。
【請求項14】
前記パリティ量子ビット(11)が、2個のデータ量子ビット(6、7、10)の間に移動させられた後、別の2個のデータ量子ビット(6、7、10)の間に低速で移動させられるように前記装置が構成されることを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記パリティ量子ビットが、2個のデータ量子ビット(6、7、10)の間に移動させられた後、データ量子ビット(6、7、10)から遠ざけられることができ、遠ざけられた前記パリティ量子ビット(1、2、11、12)の状態が測定され得ることを特徴とする、請求項11~14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
複数のパリティ量子ビット(1、2、11、12)が同時に、データ量子ビット(6、7、10)の間に移動させられ得ることを特徴とする、請求項11~15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
1列のパリティ量子ビット(1、2、11、12)が、2列のデータ量子ビット(6、7、10)の間に移動させられ得ることを特徴とする、請求項11~16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
1列のパリティ量子ビット(1、2、11、12)が、2列のデータ量子ビット(6、7、10)から遠ざけられることができ、その次に、前記パリティ量子ビット(1、2、11、12)が、外に移動させられた前記1列のパリティ量子ビット(1、2、11、12)から前記装置の1つ又は複数の測定ステーション(8)へと移動させられ得ることを特徴とする、請求項11~17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
パリティ量子ビットが2個の電子を含み、前記パリティ量子ビットは一重項状態又は三重項状態にあることを特徴とする、請求項11~18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
輸送デバイスが電場を発生させることができ、量子ビットが前記電場によって移動させられ得ることを特徴とする、請求項11~19のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ビットの誤りを検出するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ビット(略してキュービットと呼ばれる)は、量子コンピュータ又は量子暗号の最も小さいメモリ単位として機能する。それに合わせて、1量子ビットは、2つのみの測定可能な状態を取り得る。これらの状態は、ビットメモリ単位の場合と同様に、0と1として示され得る。
【0003】
1ビットとは異なり、1量子ビットは測定前に3つ以上の状態を取ることができる。
【0004】
2つの測定可能な状態が0と1として示される場合、0と1以外の状態は測定不能である。量子ビットは、その状態が測定された途端に、その測定によって状態0又は状態1のいずれかを帯びる。
【0005】
実際には、1量子ビットは通常、2つの測定可能状態のみを帯び得る量子物理系によって実現される。スピン1/2と-1/2、又は「上向きスピン」と「下向きスピン」のみが測定され得る電子を有する系が、1量子ビットとして機能し得る。電子のスピンは、測定前に量子力学的状態をとり得る。この状態は、上記の可能なスピン1/2と-1/2、又は「上向きスピン」と「下向きスピン」の重ね合わせから生じる。したがって、電子のスピンは、測定前は、1/2と-1/2の両方、又は「上向きスピン」と「下向きスピン」の両方になり得る。これらの状態の重ね合わせ(重畳)は、量子力学では重ね合わせと呼ばれる。非特許文献1が、電子スピンによって実現される量子コンピュータのための量子ビットを開示している。
【0006】
もう1つの量子物理現象は、もつれ(インターリーブ)と呼ばれる。2個以上の粒子が互いにもつれを形成すると、それらは独立して振る舞わなくなる。2個の粒子が互いにもつれを形成している場合、一方の粒子の状態はもう一方の粒子の状態に依存し、その逆も同様である。これらの2個の粒子の間には相関関係がある。
【0007】
重ね合わせともつれが、量子コンピュータで計算に利用される。量子コンピュータが計算を完了すると、結果が測定される。電子の場合は、スピン状態が計算後に測定される。その測定結果が、計算結果を反映する。
【0008】
実際には、量子ビットを実現する方法は他にもある。例えば、2つの異なるレベルの電流のみが流れ得る超伝導共振回路によって、量子ビットが実現され得る。中性原子又はイオンの複数の励起レベルが、量子ビットの実現に実際に使用され得る。
【0009】
特許文献1から、物理的な量子ビット間の適切な相互作用を物理的に接続且つ実装することによって、論理量子ビットと呼ばれるマルチ量子ビット構造に、論理的な0及び1状態を保存することが知られている。
【0010】
量子情報の交換と処理、したがって量子計算の実行に関連付けられた多数の論理量子ビットが、量子プロセッサ、量子チップ、又は量子コンピュータと呼ばれる。
【0011】
特許文献1から知られている機構は、平面内における量子ビットのグリッドであり、リソグラフィ法によって製造され得る。
【0012】
特許文献1から、製造上の制約、材料上の制約、制御精度上の制約、外部ノイズ源との結合、外部粒子との相互作用などが、物理的な量子ビットの量子状態を、所望の量子状態からインコヒーレント状態へと減衰させることになることが知られている。したがって、物理的な量子ビットに格納されている情報(0と1の重ね合わせ)は、本質的に不安定である。
【0013】
特許文献1から、複数の物理的な量子ビットを使用して論理的量子状態を符号化することにより、情報を保存し、外部の影響を受け難くするはるかに安定した系が作成されることが知られている。誤りを検出して修正できるようにするために、「補助量子ビット」と呼ばれる量子ビットも使用される。監視目的で使用されるこれらの量子ビットを、以下ではパリティ量子ビットと呼ぶ。パリティ量子ビットを用いて誤りの無い状態が判定される量子ビットを、以下ではデータ量子ビットと呼ぶ。
【0014】
特許文献1から、パリティ量子ビットを使用してデータ量子ビットの誤りを検出する方法が知られている。
【0015】
非特許文献2に、過剰電子の電気的に制御されたスピンによる量子計算が記載されている。
【0016】
非特許文献3、非特許文献1及び特許文献2から、電子スピンによって実現される量子ビットが知られている。量子ビットは、傾斜磁場内で動かすことによって操作され得る。非特許文献1及び非特許文献4に、量子ビットが移動させられ得る輸送デバイスが記載されている。
【0017】
非特許文献5から、パリティ量子ビットによってデータ量子ビットの誤りを判定することが知られている。この非特許文献5から、量子ビットが、イオン、半導体のスピン又は超伝導回路によって実現され得ることが知られている。
【0018】
非特許文献6から、フェルミ粒子海からパリティ量子ビットを提供することが知られている。
【0019】
特許文献3及び非特許文献7から、パリティ量子ビットを使用してデータ量子ビットの誤り状態を検出する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】国際公開第2018/062991号
【特許文献2】米国特許出願公開第2017/0317203号
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/0185576号
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】リー(Li)他、「シリコン量子ドット量子ビットのためのクロスバーネットワーク(A crossbar network for silicon quantum dot qubits)」、サイエンス・アドバンシス(Science Advances)2018;4:eaar3960、2018年7月6日
【非特許文献2】ダニエル・ロス(Daniel Loss)及びデビッド・ピー・ディヴィンチェンツォ(David P. DiVincenzo)、「量子ドットを用いた量子計算(Quantum computation with quantum dots)」、フィジカル・レビュー・エー(PHYSICAL REVIEW A)、1998年1月、第57巻、第1号、p.120-126
【非特許文献3】米田淳 他、「電荷雑音に制限されたコヒーレンスと99.9%を超える忠実度を有する量子ドットスピン量子ビット(A quantum-dot spin qubit with coherence limited by charge noise and fidelity higher than 99.9%)」、ネイチャー・ナノテクノロジー(Nature Nanotechnology)、2018年2月、第13巻、p.102-106(https://www.nature.com/articles/s41565-017-0014-xを参照)
【非特許文献4】ジェイ・エム・テーラー(J. M. TAYLOR)他、「電気的に制御された半導体スピンを使用した量子計算のためのフォールトトレラントアーキテクチャ(Fault-tolerant architecture for quantum computation using electrically controlled semiconductor spins)」、ネイチャー・フィジックス(Nature Physics)、2005年12月、第1巻、p.177-183
【非特許文献5】オースティン・ジー.ファウラー(Austin G. Fowler)他、「表面コード:実用的な大規模量子計算に向けて(Surface codes: Towards practical large-scale quantum computation)」フィジカル・レビュー・エー(PHYSICAL REVIEW A)、86、032324(2012)、デジタルオブジェクト識別子(DOI):10.1103/PhysRevA.86.032324
【非特許文献6】ジェイ・エム・エルツァーマン(J. M. Elzerman)、アール・ハンソン(R. Hanson)、エル・エイチ・ウィレムス・ヴァン・ベヴェレン(L. H. Willems van Beveren)、ビー・ウィットカンプ(B. Witkamp)、エル・エム・ケー・ヴァンダーサイペン(L. M.K. Vandersypen)及びエル・ピー・クーウェンホーベン(L. P. Kouwenhoven)、「量子ドットにおける個々の電子スピンのシングルショット読み出し(Single-shot read-out of an individual electron spin in a quantum dot)」、ネイチャー(Nature)、2004年7月22日、第430巻、p.431-435
【非特許文献7】チャヴェリーニ(Chiaverini)他、「量子誤り訂正の実現(Realization of quantum error correction)」、ネイチャー(Nature)、2004年12月2日、第432巻、p.602-605
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の課題は、データ量子ビットにおける誤り状態の適切な検出を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
最初の請求項の特徴を備えた方法が、この課題を解決するのに役立つ。一装置が、上記方法を実行するための追加の請求項の特徴を備える。有利な実施形態は、従属請求項から得られる。
【0024】
上記の課題を解決するために、パリティ量子ビットを使用してデータ量子ビットの誤り状態を検出する方法が提供される。上記パリティ量子ビットは、移動デバイスによって移動させられ得る。さらに、上記データ量子ビットが移動させられ得る移動デバイスが提供され得る。上記データ量子ビットと上記パリティ量子ビットとの間隔は、最初は非常に広いため、上記パリティ量子ビットは上記データ量子ビットともつれを形成できない。上記データ量子ビットを第1の経路に沿って移動させ、上記パリティ量子ビットを第2の経路に沿って移動させることによって、上記データ量子ビットが上記パリティ量子ビットともつれを形成するまで、上記記データ量子ビットと上記パリティ量子ビットとの上記間隔が狭められる。上記第2の経路は上記第1の経路よりも長く、且つ/又は上記パリティ量子ビットの移動速度は上記データ量子ビットの移動速度よりも大きい。
【0025】
通常、データ量子ビットの状態は、パリティ量子ビットの最初に選択される状態に比べて不安定である。本発明によれば、データ量子ビットにおける誤りの発生は、そのデータ量子ビットを、パリティ量子ビットに対して相対的に短距離且つ/又はゆっくりとしか移動させないことによって回避される。パリティ量子ビットは、それらの状態が最初は比較的安定するように選択され得るため、比較的問題なく移動させられ得る。データ量子ビットの誤り状態が、信頼性高く検出され得る。データ量子ビットにおける誤りの発生は、そのデータ量子ビットを、短距離且つ/又はゆっくりとしか移動させないことによって回避される。パリティ量子ビットは、それらの状態が最初は比較的安定するように選択され得るため、より長距離を且つ/又はより高速で移動させてもあまり問題にはならない。
【0026】
したがって、パリティ量子ビットとデータ量子ビットとにもつれを形成させるために、好ましくは、最初に、パリティ量子ビットがデータ量子ビットの方向に高速で移動させられる。かかるパリティ量子ビットの高速移動後、そのパリティ量子ビットの方向に、好ましくはデータ量子ビットが低速で移動させられ、それによって間隔が狭まり、そのデータ量子ビットとパリティ量子ビットがもつれを形成する。パリティ量子ビットがデータ量子ビットと完全にもつれを形成すると、データ量子ビットが、好ましくは低速でパリティ量子ビットから遠ざけられる。データ量子ビットとパリティ量子ビットとの間隔が十分に広がると、パリティ量子ビットが、好ましくは高速で測定ステーションへと移動させられる。
【0027】
しかしながら、データ量子ビットまでの間隔が狭い場合は、エラー率の増大を回避するために、パリティ量子ビットもゆっくりと、すなわち低速で移動させられることが好ましい。このことは特に、パリティ量子ビットがすでに1個又は複数のデータ量子ビットともつれを形成しており、今度はそのパリティ量子ビットが、別の1個又は複数のデータ量子ビットともつれを形成する場合に起こる。したがって一実施形態では、最初に、1個又は複数のパリティ量子ビットが、データ量子ビットの方向に高速で移動させられる。データ量子ビットとの最初のもつれの形成後、上記パリティ量子ビットは、次のデータ量子ビットともつれを形成するために、まず低速で、さらに先へ移動させられる。
【0028】
ゆっくりとした移動又は低速とは、前述の速い移動又は高速に比べて速度が遅いことを意味する。
【0029】
上記パリティ量子ビットは、もつれの形成目的で1個又は複数のデータ量子ビットへと移動させられる前は、基本的に測定可能状態にある。したがって、パリティ量子ビットがスピン1/2粒子によって実現される場合は、スピンは1/2又は-1/2のいずれかになっている。そのため、人類の説明の試みによると、このパリティ量子ビットは、スピンが同時に1/2と-1/2の両方である量子力学的な重ね合わせ状態にはないことになる。その場合、パリティ量子ビットの状態は特に安定しているので、この理由だけで、僅かであっても無視できないほどの確率でその状態を変化させることなく、パリティ量子ビットは長距離を且つ/又は高速で移動させられ得る。
【0030】
有利には、上記パリティ量子ビットは2個のデータ量子ビットの間に移動させられる。この場合、1個のパリティ量子ビットが2個のデータ量子ビットと同時にもつれを形成し得る。
【0031】
この1個のパリティ量子ビットともつれを形成する2個のデータ量子ビットは、改良された形で誤りの傾向を低減するために冗長性を持たせるため、計画的に、相関関係を有する量子力学的状態にされ得る。例えばこの場合、2個のデータ量子ビットが同じ一つの量子力学的状態にされ得る。このとき、両データ量子ビットが相関関係を有する状態、例えば同じ一つの量子力学的状態にあるかどうかをチェックするために、パリティ量子ビットが使用され得る。同じ一つの量子力学的状態にある場合であれば、両データ量子ビットが計画された状態にある確率が高い。したがって、誤りは発生していない。2個のデータ量子ビットともつれを形成したデータ量子ビットを用いることによって、それらのデータ量子ビットの2個の状態が異なっていると判定された場合は、誤りが検出されたことになる。
【0032】
計画された状態とは、例えば、この系を用いて計算を可能にするよう意図された状態を意味する。パリティ量子ビットが1個又は複数のデータ量子ビットともつれを形成している場合、あるデータ量子ビットの状態が変化すると、そのパリティ量子ビットの状態も変化し得る。上記パリティ量子ビットの状態が最終的に測定され、そのパリティ量子ビットの状態が変化したと判定された場合、誤りの存在が検出されていることになる。
【0033】
一実施形態では、上記パリティ量子ビットが、2個の第1のデータ量子ビットの間に移動させられ、これらの2個の第1のデータ量子ビットへの問い合わせを行った後、別の2個のデータ量子ビットとやはりもつれを形成させるために、それらの間に移動させられる。上記4個のデータ量子ビットは、冗長性を持たせるため、計画的に相関状態にすることができ、或いは計画的に相関状態にされていてもよい。全体にわたって、このようにして、誤りを特に信頼性高く検出できるようにするために、冗長性を持たせるため提供された4個のパリティ量子ビットが意図された相関状態にあるかどうかを、パリティ量子ビットがチェックする働きをし得る。上記パリティ量子ビットの状態が最終的に測定され、その測定値がパリティ量子ビットの状態が変化したことを示している場合、このことによって、誤りが発生したことが確定される。
【0034】
上記パリティ量子ビットは、有利には、2個のデータ量子ビットの間に移動させられ、その2個のデータ量子ビットともつれを形成した後、それらのデータ量子ビットから遠ざけられる。これにより、パリティ量子ビットとデータ量子ビットとの間隔が広がり、パリティ量子ビットの状態を測定できる十分なスペースが利用可能になる。したがって、上記パリティ量子ビットが遠ざけられた後、そのパリティ量子ビットの状態が、比較的少ない技術的労力で測定され得る。
【0035】
有利には、各パリティ量子ビットと、少なくとも2個のデータ量子ビットとにもつれを形成させるために、複数のパリティ量子ビットが同時に、互いに対向するデータ量子ビットの各対の間に移動させられる。したがって、誤り検出は、スピードアップされ改良された形で実行され得る。
【0036】
有利には、1列のパリティ量子ビットが、2列のデータ量子ビットの間に移動させられる。一実施形態では、1列のパリティ量子ビットが2列のデータ量子ビットの間に移動させられると、その次に、上記2列のデータ量子ビットが上記パリティ量子ビットの方向に移動させられる。その移動は、各パリティ量子ビットと、2個の隣接するデータ量子ビットとにもつれを形成させるのに十分なほど、間隔が最終的に狭まるように行われる。この実施形態は、誤りの傾向をむやみに高めることなく、誤りが信頼性高く判定され得るようにすることに、改良された形でさらに貢献する。
【0037】
有利には、1列のパリティ量子ビットが、もつれの形成後、2列のデータ量子ビットから遠ざけられる。遠ざけられた後は、パリティ量子ビットとデータ量子ビットとの間隔が非常に広くなるため、技術的な労力をほとんどかけずにパリティ量子ビットの状態が測定され得る。このとき、上記遠ざけられたパリティ量子ビットは、測定ステーションへと移動させられ得る。この測定ステーションを用いて、上記パリティ量子ビットの状態が測定される。これは、1個又は複数のデータ量子ビットが、誤りのある状態、したがって計画されていない状態にあるかどうかをチェックするためである。
【0038】
一実施形態では、1量子ビットが、スピン1/2又は-1/2を有するちょうど1個の粒子、或るいはスピン1/2又は-1/2を有する複数の粒子を含む。上記粒子は、電子又は欠陥電子であり得る。スピン1/2又は-1/2を有する粒子は、本発明を実施するための比較的単純な技術的手段によって、従来技術で知られている形で移動させられ得る。1量子ビットを移動させるために提供される輸送デバイスが、1量子ビットを移動させるために、例えば電場を発生且つ/又は変化させ得る。具体的には、移動させるためにポテンシャル障壁が変更され、それによって量子ビットの存在確率が変化する。その場合、量子ビットは移動させられている。冒頭で述べた従来技術から知られている構造が、この目的のために提供され得る。
【0039】
本発明の一実施形態では、データ量子ビットとパリティ量子ビットが、本発明に従って互いに連続的にもつれを形成する。もつれの形成後、誤り監視を連続的に実行するために、パリティ量子ビットの状態が測定される。
【0040】
本発明はさらに、前述の方法が実行され得るように構成された装置に関する。
【0041】
かかる装置は、データ量子ビット及びパリティ量子ビットを含むか、或いは少なくとも、データ量子ビット及びパリティ量子ビットを生成する手段を含む。上記装置は、データ量子ビット及びパリティ量子ビットが移動させられ得る移動デバイスを含み得る。上記装置は、データ量子ビットとパリティ量子ビットとの間隔が非常に広くなり得るため、上記パリティ量子ビットが上記データ量子ビットともつれを形成せず、したがってもつれ状態にならない、ように構成され得る。上記装置は、上記データ量子ビットを第1の経路に沿って移動させ、上記パリティ量子ビットを第2の経路に沿って移動させることによって、上記データ量子ビットが上記パリティ量子ビットともつれを形成するまで、上記データ量子ビットと上記パリティ量子ビットとの上記間隔が狭められ得る、ように構成され得る。上記装置は、上記パリティ量子ビットと上記データ量子ビットとにもつれを形成させるために、上記第1の経路は上記第2の経路よりも長く、且つ/又は上記パリティ量子ビットの移動速度は上記データ量子ビットの移動速度よりも大きくなる、ように構成され得る。
【0042】
上記装置は、上記パリティ量子ビットが測定可能状態にさせられ得る、ように構成され得る。このことは、上記パリティ量子ビットが、測定によって判定不能な相対的に不安定な重ね合わせ状態にならないことを意味する。フェルミ粒子が、パリティ量子ビットを提供する働きをし得る。上記装置は、フェルミ粒子の測定可能なスピン状態が、例えば上記装置自体により提供又は生成され得る磁場を用いるなど、上記装置を用いて調整可能である、ように構成され得る。上記磁場は、量子ビットの状態を操作できるようにするために、好ましくは静的な傾斜磁場である。冒頭で述べた従来技術から知られている構造が、この目的のために提供され得る。或いは、量子ビットはスピン軌道相互作用によって操作される。
【0043】
上記装置は、上記パリティ量子ビットが、データ量子ビットの第1の対の間に移動させられ、そのデータ量子ビットの第1の対のうちの2個のデータ量子ビットともつれを形成した後、別のデータ量子ビットの対の間に移動させられて、別の2個のデータ量子ビットともつれを形成し得る、ように構成され得る。
【0044】
前述のパリティ量子ビットが、データ量子ビットの第1の対から、第2の対の別の2個のデータ量子ビットの間に移動するとき、2個の対向するデータ量子ビット間の間隔は、好ましくは変更されない。これにより、特にパリティ量子ビットをデータ量子ビットの第1の対から次のデータ量子ビットの対へと移動させる距離が非常に短くなり得るため、誤りの傾向がさらに改良された形で低減される。
【0045】
上記装置は、上記パリティ量子ビットが、2個のデータ量子ビット間に移動し、そのデータ量子ビットともつれを形成した後に、遠ざけられる、ように構成され得る。上記装置は、遠ざけられた上記パリティ量子ビットの状態が測定され得る、ように構成され得る。
【0046】
上記装置は、複数のパリティ量子ビットが同時に、互いに対向するデータ量子ビットの各対の間に移動させられ得る、ように構成され得る。上記装置は、その次に、もつれを形成させるために、上記データ量子ビットが上記パリティ量子ビットの方向に移動させられ得る、ように構成され得る。
【0047】
上記装置は、1列のパリティ量子ビットが、2列のデータ量子ビットの間に移動させられ得る、ように構成され得る。上記装置は、その次に、誤りチェックを可能にするために、各パリティ量子ビットと2個の隣接するデータ量子ビットとの間にもつれが生じるように、2列のデータ量子ビットが上記1列のパリティ量子ビットに向かって移動させられる、ように構成され得る。
【0048】
上記装置は、1列のパリティ量子ビットが2列のデータ量子ビットから遠ざけられることができ、その次に、遠ざけられた上記1列のパリティ量子ビットの各パリティ量子ビットが、上記装置の1つ又は複数の測定ステーションへと移動させられ得る、ように構成され得る。
【0049】
上記装置は、各パリティ量子ビットと、少なくとも2個のデータ量子ビットとにもつれを形成させ、そのもつれの形成後、それらのパリティ量子ビットを測定ステーションへと移動させるように、1列のパリティ量子ビットが反復的に2列のデータ量子ビットの間に移動させられる、ように構成され得る。
【0050】
上記装置は、1量子ビットが、スピン1/2又は-1/2を有し得るちょうど1個の、又は複数個の電子を含む、ように構成され得る。電子の代わりに、他のスピン1/2粒子が使用され得る。上記装置は、量子ビットを形成するために半導体が提供される、ように構成され得る。
【0051】
上記装置は、その装置の輸送デバイスが静電制限ポテンシャルを発生させ得る、ように構成され得る。この場合、静電制限ポテンシャルを用いて量子ビットが移動させられ得る。
【0052】
上記装置は、上記方法を実行できるように、1つ又は複数の交番する且つ/又は傾斜した電場及び/又は磁場を発生させ得る。上記装置は、量子ビットを提供するために、シリコン/シリコンゲルマニウムヘテロ構造を含み得る。ただし、上記装置はまた、量子ビットを提供するために、ゲルマニウム/シリコンゲルマニウムヘテロ構造又はセレン化亜鉛を含み得る。
【0053】
パリティ量子ビットの状態は、例えばパウリスピンブロッケードによって測定され得る。
【0054】
本発明の一実施形態では、パリティ量子ビットは、一重項状態の電子や三重項状態の電子などの少なくとも2個の粒子を含む。好ましくは、1個又は複数のパリティ量子ビットが、もつれの形成前に一重項状態にある。もつれの形成後、誤りのために、パリティ量子ビットの一重項状態が三重項状態に変換されている可能性がある。このことは、技術的な労力をほとんどかけずに測定することで、信頼性高く判定され得る。この場合、一装置が、フェルミ粒子溜めからの電子を、一重項状態又は三重項状態にする手段を含む。もつれを形成させた後、パリティ量子ビットの一重項状態は、2個の量子ドットにおける電荷状態に変換され得る(一重項は(2,0)、三重項は(1,1)により、レビューズ・オブ・モダンフィジックス(Reviews of Modern Physics)、79.1217を参照)。これはきわめて頑丈な形で輸送されることができ、その次に、労力をほとんどかけずに測定され得る。
【0055】
一実施形態では、上記装置は、データ量子ビットの状態を調整するために、電磁波を生成する手段を備える。
【0056】
或いは、上記装置は、傾斜磁場を提供する手段を含む。上記傾斜磁場の中でデータ量子ビットを動かすことにより、データ量子ビットの所望の状態が調整され得る。特に、データ量子ビットの状態を調整するための最後の経路は、技術的な実現可能性の限界に達することなく、上記アーキテクチャによって技術的に実現され得る。
【0057】
上記課題を解決するために、パリティ量子ビットのみが移動されられ得る。この場合、データ量子ビットは移動させられない。したがって、データ量子ビットの移動速度と第2の経路の長さはゼロである。それ以外の点では、この変形形態は、本発明及びその実施形態による別に説明した解決策と異ならない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】パリティ量子ビットを用いてデータ量子ビットの誤り状態を検出するためのアーキテクチャの概略図である。
【
図2】誤り監視を実行するための一ステップの概略図である。
【
図3】誤り監視を実行するための一ステップの概略図である。
【
図4】誤り監視を実行するための一ステップの概略図である。
【
図5】誤り監視を実行するための一ステップの概略図である。
【
図6】誤り監視を実行するための一ステップの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
図1に、パリティ量子ビットを用いてデータ量子ビットの誤り状態を検出するためのアーキテクチャが示されている。パリティ量子ビット1、2、3、4は、測定可能な「上向きスピン」と「下向きスピン」のスピンを有する電子、又は欠陥電子などの他のスピン1/2粒子を含む。以下で電子について言及する場合、その言及は、特に明記しない限り、他のスピン1/2粒子にも同様に適用される。
図1に示されているパリティ量子ビット1と3は、下向きの矢印で表される。したがって、これらは「下向きスピン」状態にある。パリティ量子ビット4は、上向きの矢印で表される。これらは「上向きスピン」状態にある。
【0060】
電子溜めが、フェルミ海5で表される。まず、上記フェルミ海からの各電子が、下向きスピン状態にさせられる。これは、図のように直列に配列され得る複数のパリティ量子ビット1を提供するためである。これらの下向きスピン状態のパリティ量子ビット1が、データ量子ビット6と7の間に移動させられ得る。データ量子ビット6及び7が、それらの間にあるパリティ量子ビット2へと移動させられ得る。その移動は、パリティ量子ビット2から2個のデータ量子ビット6及び7までの間隔が、パリティ量子ビット2とそれに隣接するデータ量子ビット6及び7との間にもつれが生じるのに十分なほど、狭まるように行われる。これは、誤り検出の点から、2個のデータ量子ビット6及び7の状態を判定するために行われる。このことのためにデータ量子ビット6及び7が移動しなければならない経路は、パリティ量子ビット1がデータ量子ビット6及び7の間に達するために移動しなければならない経路よりも短い。
【0061】
もつれの形成後、データ量子ビット6及び7は互いから遠ざけられる、すなわち、データ量子ビット6と7との間隔が広くなる。それらのデータ量子ビット6及び7から、パリティ量子ビット2が遠ざけられる。このことのためにデータ量子ビット6及び7が移動しなければならない経路は、パリティ量子ビット2がデータ量子ビット6及び7から遠ざけられるために移動しなければならない経路よりも短い。
【0062】
遠ざけられたパリティ量子ビット3の下向きスピン状態は変化していない。遠ざけられたパリティ量子ビット4のスピン状態は変化している。したがって、これらの量子ビットは「上向きスピン」状態にある。パリティ量子ビット3及び4のスピン状態は、1つ又は複数の測定デバイス8によって測定される。
【0063】
パリティ量子ビット3のスピンの状態が変化していない場合、それともつれを形成しているデータ量子ビット6及び/又は7の欠陥状態は検出され得なかったということである。パリティ量子ビット4のスピンの状態は、それともつれを形成している1個又は複数のデータ量子ビット6及び/又は7の状態に欠陥があったため、変化した。したがって、パリティ量子ビット3及び4のスピン状態を測定することにより、誤りが検出され得る。
【0064】
パリティ量子ビット3と4のスピン状態の測定後、パリティ量子ビット3と4の電子は、フェルミ海に戻され得る。
【0065】
このアーキテクチャでは、新しいパリティ量子ビット1が連続的に提供され得る。これは、それらと、データ量子ビット6及び7とにもつれを形成させ、最終的に誤り監視のためにスピン状態を測定するためである。したがって、すでに使用されたパリティ量子ビットを再利用する必要がない。有利には、すでに使用された量子ビットのリセットが省略され得る。上記アーキテクチャは、データ量子ビット列に沿って自在に延長され得る。したがって、上記アーキテクチャはスケーラブルである。上記アーキテクチャは、技術的に簡単な形で製造され得る。これは特に、量子ビットを提供するために半導体が使用される場合に当てはまる。
【0066】
図2~6に、可能性のあるシーケンスがより詳細に示されている。
【0067】
図2に、7個のパリティ量子ビット1が示されている。これらのパリティ量子ビット1は、8個のデータ量子ビット6及び7から、それらともつれを形成しないように、離間されている。8個のデータ量子ビット6からなる第1の列と、その反対側に、8個のデータ量子ビット7からなる第2の列が存在する。これらのデータ量子ビット6と7の間に、7個のパリティ量子ビット2が存在している。上記データ量子ビット6と7は、可能な限り互いに向かって移動させられている。したがって、一方の側のデータ量子ビット6ともう一方の側のデータ量子ビット7との間隔は最小になっている。ポテンシャル障壁9のため、この間隔をさらに狭めることはできない。この間隔が狭いため、データ量子ビット6及び7は、パリティ量子ビット2ともつれを形成している。データ量子ビット6及び7で2個の誤りが発生したため、2個のパリティ量子ビット2のスピンが反転している。左から右に見て2番目と4番目のパリティ量子ビット2のスピン状態が、変化している。したがって、これらのパリティ量子ビット2は、元の「下向きスピン」状態ではなく、「上向きスピン」状態になっている。
【0068】
7個のパリティ量子ビット2の、データ量子ビット6と7の間における配置は、対向するデータ量子ビット6と7の先頭の対が、結局もつれの形成に参加しなかった形になっている。
【0069】
8個のデータ量子ビット7の下には、さらに8個のデータ量子ビット10が一列に配置されている。データ量子ビット7とデータ量子ビット10とは、その間の間隔が最大になるように離間されている。
【0070】
データ量子ビット7とデータ量子ビット10との間には、7個のパリティ量子ビット11が運ばれている。データ量子ビット7とデータ量子ビット10との間隔が最大になっているため、パリティ量子ビット11は、それぞれ割り当てられたパリティ量子ビット7及び10とまだもつれを形成していない。パリティ量子ビット2とは対照的に、パリティ量子ビット11は、対向するデータ量子ビット1と10の末尾の対、つまり右側にある対の間には存在しない形で、データ量子ビット7と10の間に移動させられている。
【0071】
パリティ量子ビット11の右側には、7個のパリティ量子ビット12が存在している。これらのパリティ量子ビット12は、データ量子ビット7及び10から、もつれの形成後、遠ざけられているものであることから、測定に利用可能である。
【0072】
図3に示されているデータ量子ビット6、7及び10は、
図2に示されている位置を起点として、中間位置に戻るように低速で移動させられている。これは、高速でデータ量子ビット6、7及び10が移動させられると、誤りのリスクが高まるからである。データ量子ビット6、7及び10からパリティ量子ビット1、2及び11までの間隔は非常に広いため、データ量子ビットとパリティ量子ビットのもつれは形成され得ない。したがって、この時点で、パリティ量子ビット2を測定ステーションに運ぶために、
図2の状況を起点として、そのパリティ量子ビット2が右に移動させられる。この移動は、データ量子ビット6、7及び10が移動させられる速度に比べて、より高速で行われる。これは、パリティ量子ビット2では、速度の増加によって誤りを引き起こすリスクが低いためである。その移動と同時に、パリティ量子ビット1をデータ量子ビット6と7の間に運ぶために、
図2に示されている状況を起点として、そのパリティ量子ビット1がデータ量子ビット6及び7の方向に移動させられる。この移動も、より高速で行われる。
【0073】
図3を起点として、データ量子ビット7及び10が、やはり低速で、
図4に示されているように可能な限りパリティ量子ビット11へと移動させられる。データ量子ビット7と10の間隔は最小になる。これにより、もつれが形成される。このもつれは、
図4のパリティ量子ビット11の円形表示で示されている。もつれが形成されている間、各パリティ量子ビット11は、データ量子ビット7とデータ量子ビット10との間に位置している。したがって、パリティ量子ビット11は、データ量子ビット7及び10に対して横方向には、ずれていない。
【0074】
図4によると、データ量子ビット6が、パリティ量子ビット1及び2から可能な限り上方に引き離すようにゆっくりと移動させられている。データ量子ビット6と7の間隔は最大になっている。したがって、パリティ量子ビット1は、データ量子ビット6及び7ともつれを形成できない。
【0075】
さらに
図4には、測定ステーションの設置スペースが利用可能な領域へとパリティ量子ビット2を移動させるために、そのパリティ量子ビット2が、さらに右に移動させられることが示されている。したがって、パリティ量子ビット2の状態は、技術的な労力をほとんどかけずに測定され得る。上記に加えて、パリティ量子ビット1が、さらに右に、データ量子ビット6と7の間へ移動させられる。パリティ量子ビット1及び2は、継続して高速で移動させられる。
【0076】
図5に、
図4に示されている状況から次は、左から右にみて末尾から7個のデータ量子ビット7及び10がパリティ量子ビット11ともつれを形成するように、そのパリティ量子ビット11が移動させられていることが示されている。このとき、その移動は、誤りの発生を回避するために低速で行われる。例えば(左から右に見て)先頭のパリティ量子ビット11は、先頭のデータ量子ビット7と10の2個と、その次に、2番めのデータ量子ビット7と10の2個と、もつれを形成している又はするということが実現される。したがって、改良された形で誤りを検出できるように、1個のパリティ量子ビット11と、合計4個のデータ量子ビット7及び10それぞれとにもつれを形成させるために、この手順が使用され得る。
【0077】
例えば、データ量子ビット7と10の先頭の複数の対が、誤り率を減らすため冗長性を持たせる理由から、同じ一つの測定不能状態にされ得る。
【0078】
したがって、1つのパリティ量子ビット11が逐次、データ量子ビット7と10の複数の対と、もつれを形成し得る。
【0079】
図6に、パリティ量子ビット1がデータ量子ビット6と7の間に完全に移動させられたことが示されている。したがって、データ量子ビット6及び7が可能な限りそれらのパリティ量子ビット1へと移動させられると、先頭側7個のデータ量子ビット6及び7が上記パリティ量子ビット1ともつれを形成するようになる。
【0080】
パリティ量子ビット2は、データ量子ビット6及び7から高速で完全に遠ざけられ、これで測定の準備が整う。
【0081】
パリティ量子ビット11とデータ量子ビット7及び10とのもつれの形成は完了している。したがって、パリティ量子ビット11は再び矢印で表されている。2個のパリティ量子ビット11の状態が変化している。したがって、誤りが発生しており、それらの誤りが、2個のスピンの反転を引き起こしている。
【0082】
ここで示したデータ量子ビットの数及び/又はパリティ量子ビットの数は変更され得る。例えば、合計16のデータ量子ビットともつれを形成させるために、7個のパリティ量子ビットの代わりに、9個のパリティ量子ビットが使用され得る。
【0083】
上記方法は連続的に実行され得る。提供される測定ステーションの数は、測定による遅延が発生しないように選択され得る。例えば、もつれの形成後に7個のパリティ量子ビット12が移動させられる場合、14個などの7個を超える測定ステーションが存在し得る。その場合、測定によって状態を判定するために、7個のパリティ量子ビット12が、先頭側7個の測定ステーションへと移動させられる。このとき、最初の7個のパリティ量子ビット12の状態の測定がまだ完了していなければ、次の7個のパリティ量子ビットは、測定によって状態を判定するために、測定ステーション8~14へと移動させられる。したがって、測定ステーションの数は、データ量子ビットともつれを形成した後にデータ量子ビットから遠ざけられるパリティ量子ビットの数の少なくとも2倍であることが好ましい。測定ステーションの数は、測定ステーションでの測定が速度を制限しないように、パリティ量子ビットを「パーキング(park)」させておくことができるように選択され得る。
【0084】
上記各図は、パリティ量子ビットが移動させられ得る距離に比べて、データ量子ビットは短い距離のみ移動させられ得ることを示している。
【0085】
上記各図は実施例のみを示している。したがって、特許請求の範囲の保護範囲はそういった実施例に限定されない。
【符号の説明】
【0086】
1、2、3、4、11、12 パリティ量子ビット
5 フェルミ海
6、7、10 データ量子ビット
8 測定ステーション
9 ポテンシャル障壁
【国際調査報告】