(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-27
(54)【発明の名称】標的グルコース輸送体及び/又はインクレチン経路へのニューロモデュレーション
(51)【国際特許分類】
A61N 7/00 20060101AFI20220420BHJP
【FI】
A61N7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021550063
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(85)【翻訳文提出日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 US2020022418
(87)【国際公開番号】W WO2020186073
(87)【国際公開日】2020-09-17
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】コテロ, ビクトリア ユージニア
(72)【発明者】
【氏名】プレオ, クリストファー マイケル
(72)【発明者】
【氏名】グラフ, ジョン フレデリック
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160JJ33
(57)【要約】
本開示の主題は、組織へとエネルギー(例えば、超音波エネルギー)を印加し、グルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子における変化を引き起こすことを含む、ニューロモデュレーション用の技術に一般的には関する。一実施形態において、ニューロモデュレーションは代謝性疾患の処置として実施される。
【選択図】
図9A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
代謝性疾患を有する対象を処置する方法であって、
前記代謝性疾患を有する前記対象の内部組織に超音波エネルギーを印加し、前記対象においてグルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子に変化を引き起こし、前記代謝性疾患を処置することであって、前記超音波エネルギーが体外式エネルギー印加デバイスによって印加されることと、
前記対象における前記変化又は前記変化の指標を測定することと、
前記測定に基づき、前記超音波エネルギーが、前記グルコース輸送体経路分子及び/又は前記インクレチン経路分子に対して前記変化を引き起こし、前記対象を処置したことを決定することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記内部組織が肝臓である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記印加することが、前記肝臓の小領域のみに前記超音波エネルギーを印加することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記小領域が前記肝臓の肝門部である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記内部組織が胃腸組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記内部組織の関心領域を同定するために前記内部組織をイメージングすることと、前記関心領域に前記超音波エネルギーを印加することと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記代謝性疾患が2型糖尿病である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記代謝性疾患が高血糖症である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記代謝性疾患がインスリン抵抗性である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記変化が、前記グルコース輸送体経路分子及び/又は前記インクレチン経路分子の濃度変化、活性変化、及び/又は位置変化を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記変化が、前記内部組織ではない内部器官における前記グルコース輸送体経路分子及び/又は前記インクレチン経路分子の濃度変化を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記グルコース輸送体経路分子及び/又は前記インクレチン経路分子が、ナトリウムグルコース共輸送体2タンパク(SGLT2)、グルコース輸送体2(GLUT-2)、グルコース輸送体4(GLUT-4)又はグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)のうち1つ以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記変化の前記指標を測定することが、前記印加前に取得された基線測定に対する、尿中に排出されたグルコースにおける上昇を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
対象における代謝性疾患を処置するためのシステムであって、前記システムが、
前記対象の内部組織にエネルギーを印加するように構成されたエネルギー印加デバイスと、
前記エネルギーを印加し、前記対象においてグルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子に対する変化を引き起こす前記エネルギー印加デバイスを制御するよう適合されたコントローラと、
前記変化を表す入力を受信するように構成された評価デバイスと、を備える、システム。
【請求項15】
前記評価デバイスがグルコースモニタである、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記エネルギー印加デバイスが、超音波トランスデューサ又は機械的アクチュエータを備える、請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
前記コントローラが、前記入力に基づき、前記エネルギー印加を制御する1つ以上のパラメータを変更するように構成されている、請求項14に記載のシステム。
【請求項18】
代謝性疾患を有する対象を処置する方法であって、
前記対象の肝臓における関心領域を選択することと、
前記肝臓の前記関心領域に超音波エネルギーを印加し、前記対象においてグルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子に対する変化を引き起こすことと、
前記対象の、血糖値、排出されたグルコース濃度、又はその両方を測定することと、
前記血糖値、前記排出されたグルコース濃度、又はその両方に基づき、前記超音波エネルギーが、前記グルコース輸送体経路分子及び/又は前記インクレチン経路分子に対する前記変化を引き起こし、前記対象を処置したことを測定することと、を含む、方法。
【請求項19】
前記超音波エネルギーが前記変化を引き起こすことを決定することは、前記血糖値が基線又は閾値に対して低下し、前記排出されたグルコース濃度が基線又は閾値に対して上昇したことを決定することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記対象が前記代謝性疾患のための薬物治療を受けない、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
代謝性疾患を有する対象を処置する方法であって、
前記対象の胃腸組織において関心領域を選択することと、
前記胃腸組織中の関心領域に超音波エネルギーを印加し、グルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子に対する変化を引き起こすことと、
前記対象の血糖値、前記血中グルカゴン様ペプチド1濃度、又はその両方を測定することと、
前記血糖値、前記血中グルカゴン様ペプチド1濃度、又はその両方に基づき、前記超音波エネルギーが前記グルコース輸送体経路分子及び/又は前記インクレチン経路分子に対する前記変化を引き起こし、前記対象を処置したことを測定することと、を含む、方法。
【請求項22】
前記関心領域が小腸の空腸領域内に存在する、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、「NEUROMODULATION TO TARGET GLUCOSE TRANSPORTER AND/OR INCRETIN PATHWAYS」と題する、2019年3月12日に出願された米国仮特許出願第62/817,373号、及び「NEUROMODULATION TO TARGET GLUCOSE TRANSPORTER AND/OR INCRETIN PATHWAYS」と題する、2019年3月29日に出願された米国仮特許出願第62/826,517号に対する優先権及びその恩典を主張するものであり、その内容は、全ての目的のために本明細書において完全に参照として組み入れられる。
【連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載】
【0002】
本発明は、国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency,DARPA)により与えられた認可番号HR0011-18-C-0040の下で、政府援助により行われた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【技術分野】
【0003】
本発明書に開示される主題は、標的組織内の末梢神経又は分泌細胞の構成成分を刺激することによるニューロモデュレーション又は分泌細胞の調節に関し、より具体的には、ニューロモデュレーションによるグルコース輸送体及び/又はインクレチン経路といった標的経路用の技術に関する。
【背景技術】
【0004】
ニューロモデュレーション又は神経刺激は、臨床的有用性のため、特定の神経経路を標的にする刺激デバイスを使用することに関与する。例えば、中枢神経系構造の刺激は、疼痛を処置するために使用されてもよい。特定の神経刺激戦略は、埋め込まれたデバイスによりアクセスされ得る大規模神経又は皮膚表面に近い神経を刺激するために、恒久的に埋め込まれた電極、経皮的電磁場、又は適合された脳刺激技術を使用する。ただし、器官に存在する又は器官で終端する末梢神経系のより小規模神経は、より大規模な中枢神経系構造よりも標的とするのが更に困難である。末梢神経系(PNS)の解剖学的構造は困難な課題を提示している。末梢神経内部では、個々の軸索が群(束)になって強固に束ねられ、保護組織の中に包まれている。このことにより、特定の器官中に終端し、器官内部の伝達細胞の機能を唯一調節する軸索のサブセットを選択的に刺激することが困難となっている。非侵襲的に特定の標的を刺激し、かつ器官特異的な神経活性と臨床症状の広範な臨床解釈及び処置に関する機能とを相関させるために、新規の神経刺激方法が必要とされる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本発明のこれら及び他の特徴、態様、及び利点は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読むことでよりよく理解されるであろう。添付の図面では、図面全体を通して、同様の符号が同様の部分を表す。
【0006】
【
図1】腸組織サンプルが、管腔関門組織にわたるグルコース輸送体タンパク質濃度変化又は転位変化の両方の試験を可能とするために管腔ストリッピング技術を使用して収集されるように、肝刺激された肥満性ズッカー動物と偽対照の肥満性ズッカー動物の両方から収集される肝臓、腎臓、及び腸組織における、ナトリウムグルコース共輸送体タンパク(腸内のSGLT1又は腎臓内のSGLT2)、グルコース輸送体2(GLUT-2)、及び肝臓組織、腎臓組織及び腸組織内のグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)についてELISAにより測定されるタンパク質濃度レベルを示す。
【
図2】肝刺激された肥満性ズッカー動物と偽対照の肥満性ズッカー動物の両方から収集された、肝臓組織、筋肉組織、腸組織、及び腎臓組織からのmRNA、タンパク質、及びグルコース-6-リン酸濃度レベルを示す。
【
図3】肝刺激された肥満性ズッカー動物と偽対照の肥満性ズッカー動物の両方から収集された視床下部組織からのmRNA、タンパク質、及びグルコース-6-リン酸濃度レベルを示す。
【
図4】腸組織及び腎臓組織中のGLUT2での上昇及び腸組織中のGLP1での上昇を示す、肝刺激された肥満性ズッカー動物と偽対照の肥満性ズッカー動物の両方から収集された腸組織又は腎臓組織からの、ELISAにより測定されるタンパク質濃度レベルを示す。
【
図5】様々なグルコースの使用、インスリンの使用及び/又は代謝関連タンパク質により媒介される同時発生する変化及び相互接続変化を示す、肝刺激された肥満性ズッカー動物と偽対照の肥満性ズッカー動物の両方から収集された様々な組織のmRNA濃度レベルを示す。
【
図6】肝組織、膵臓組織又は胃腸組織の刺激対対照の結果としての5´-活性化プロテインキナーゼ濃度レベル、及びLPS誘発高血糖症モデルの動物における肝刺激対対照の結果としてのグルタマートレベルを示し、膵臓刺激は、インスリン放出及び視床下部における直接のインスリンシグナル伝達によってそれ自体が引き起こされることを示す。
【
図7A】インビトロ3次元(3D)神経培養物における末梢集束超音波(pFUS)神経活性化の実験的プラットフォームを示す。
【
図7B】
図7Aのインビトロ培養物における細胞の関心領域内のカルシウムトランジェントを示す、実験的タイムライン及び画像化された末梢神経ネットワークを示す。
【
図7C】
図7Aのインビトロ培養物における、細胞のパルス超音波刺激後の蛍光強度を示す。
【
図7D】
図7Aのインビトロ培養物における、カルシウムトランジェントと印加された超音波圧力との関係を示す。
【
図8A】迷走神経系及び副交感神経系に沿う、細胞体接合部及び/又はシナプス接合部を含有する複数の位置で超音波刺激を集束した末梢集束超音波標的の概略図である。
【
図8B】LPC誘発炎症及び高血糖症モデルの動物内部で実施された超音波刺激及び血液採取のタイムラインを示す。
【
図8C】LPS単独(すなわち、超音波なし)対照と比較した、脾臓及び腸内コリン作動性抗炎症経路(すなわち、脾臓、仙骨神経節及び投与なしの神経節)内部の異なる解剖学的部位に標的される、pFUS後のTNF(サイトカイン)濃度及びグルコース濃度を示す。
【
図8D】LPS対照(LPS CTRL)と比較した、3つの異なる解剖学的標的部位でのpFUS後に、神経伝達物質(すなわち、エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン、及びアセチルコリン)の血中濃度/血液濃度の程度を示す。
【
図9A】公知の軸索集団の神経支配点が、集束パルス超音波を使用する刺激のために標的とされている、pFUSベースの高精度器官ベースのニューロモデュレーションの概略である。
【
図9B】LPS誘発高血糖症モデル内部で実施されたpFUS刺激及び血液採取のタイムラインである。
【
図9C】循環血糖値が、LPS対照(pFUSなし、黄色円)、肝臓pFUS(青色円)、膵臓pFUS(紫色円)、及びGIpFUS(オレンジ色円)群に対し、0、5、15、30、及び60分時点にて示されることを示す。
【
図10A】インスリン受容体基質1(IRS1)、リン酸化プロテインキナーゼB(phos-Akt)、グルコース輸送体4(GLUT4)、及びグルコース-6-リン酸(G-6-phos)の視床下部マーカを示す。
【
図10B】インスリン、グルカゴン、レプチン、及びGLP1濃度を含む、収集された血液サンプルからの血中ホルモン及びマーカの血中マーカである。
【
図11A】各標的刺激部位におけるpFUS後のエピネフリンの血中濃度及びLPS/pFUSなしの対照(LPS CTRL)を示す。
【
図11B】各標的刺激部位におけるpFUS後のノルエピネフリンの血中濃度及びLPS/pFUSなしの対照(LPS CTRL)を示す。
【
図11C】各標的刺激部位におけるpFUS後のドーパミンの血中濃度及びLPS/pFUSなしの対照(LPS CTRL)を示す。
【
図12】本開示の実施形態による、パルスジェネレータを使用するニューロモデュレーションシステムの概略図である。
【
図13】本開示の実施形態による、ニューロモデュレーションシステムのブロック図である。
【
図14】本開示の実施形態による、ニューロモデュレーション技術のフロー図である。
【
図15】本開示の実施形態による、ニューロモデュレーション技術のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1つ以上の具体的な実施形態を以下に説明する。これらの実施形態の簡潔な説明を提供するために、実際の実施態様のすべての特徴が本明細書に記載されているわけではない。エンジニアリング又は設計プロジェクトのような実際の実施の開発では、開発者の特定の目標を達成するために、例えばシステム関連及び事業関連の制約条件への対応など、実施に特有の決定を数多く行わなければならないが、これらの制約条件は実施ごとに異なる可能性があることを理解されたい。更に、そのような開発努力は複雑で時間を要するかもしれないが、それにもかかわらず、本開示の利益を有する当業者にとっては設計、製作、及び製造の日常的な仕事であることを理解されたい。
【0008】
本明細書で与えられる任意の例又は例示は、それらが使用される任意の1つ以上の用語に対する制限、限定、又は定義を表すものと決して見なされるべきではない。代わりに、これらの例又は例示は、様々な特定の実施形態に関して説明されていると見なされるべきであり、例示としてのみ見なされるべきである。当業者であれば、これらの例又は例示が利用される任意の1つ以上の用語は、それと共に又は本明細書の他の場所で与えられても与えられなくてもよい他の実施形態を包含し、すべてのそのような実施形態は、その1つ以上の用語の範囲内に含まれることが意図されることを理解するであろう。そのような非限定的な例及び例示を指定する言語は、「例えば(for example)」、「例えば(for instance)」、「など」、「例えば(e.g.)」、「含む」、及び「一実施形態において」を含むが、これらに限定されない。
【0009】
代謝経路は複雑なフィードバックにより制御される。例えば、食糧が不足している間、神経学的内分泌系は下方制御され、代謝を遅くし、腎臓により取り除かれている過剰なグルコースの再吸収を増加させ得る。対照的に、グルコースの過剰供給により、2型糖尿病(T2DM)、肥満又は他の代謝性疾患の発症に寄与し、更にはその原因となる役割を担うことすらある内分泌系、末梢神経系、及び/又は中枢神経系の生理学的機能が原因で、これらの系の異常な活性化及び異常な制御が生じることがある。
【0010】
ある特定の薬物適用又は医薬的治療により、再吸収の原因となるグルコース輸送体又は腎臓(SGLT2)及び腸(GLUT2)の両方でのグルコース取り込みの両方に関連する分子経路並びにインスリン刺激性グルコース利用を増強するインクレチン/ホルモン経路が刺激又は阻害される。腎臓では、SGLT2阻害薬(T2DM薬物の1クラス)を使用し、(近位尿細管のS1セグメント又はSGLT2タンパク質の位置にて)グルコースの再吸収を直接遮断する。これにより、続いて尿内のグルコース排出が増加し、結果として血糖値を低下させる。腸内では、組織へのナトリウム(Na)の共輸送体における変化が、脱分極、L型カルシウムチャネルの活性化、及びGLUT2輸送に関与した細胞骨格系構造のCa依存性再構築を引き起こすため、SGLT1活性は、腸管吸収上皮細胞の基底外側から頂端側へのGLUT2の転位の開始に関与すると考えられている。食事後、この転位を活性化させることで、頂端側/管腔から腸管吸収上皮細胞(及び最終的には血液)へのグルコース吸収を増加させることができる。SGLT1阻害薬(T2DM薬物の第2クラス)は、分泌のため、腸内部に更に大量のグルコースを保持しつつ、この増強されたグルコース吸収機構を遮断する。
【0011】
更に、精製小麦粉/砂糖及び低繊維を基とする食事に関して、GLUTの転位又は標準的なSGLT1活性のいずれかが原因である小腸の初期区域における迅速な吸収能力は、食物/糖が回腸の遠位部分に到達するのを阻害する可能性がある。これは、この小腸の下部(すなわち回腸)には、代謝に関与するホルモンのクラスであるGLP1などのインクレチンを分泌する腺が存在するという点で問題である。これらのホルモンからのシグナル伝達は、他の末梢組織にシグナル伝達してインスリンに対するそれらの応答(すなわち、インスリン感受性)を調節し得る。別のクラスであるT2DM薬物であるGLPアゴニストは、インクレチン並びにインスリン分泌活性化及び感作といった機能を模倣するように作用する。SGLT1及びSGLT2の活性は、アデニリルシクラーゼを介してアドレナリン受容体と結合することによるアドレナリンシグナル伝達により、影響される可能性がある。
【0012】
特定の代謝経路及び分子を標的とするニューロモデュレーション及び分泌細胞調節のための技術が本明細書で提供される。そのような代謝経路又は分子は、腸内部でのグルコース吸収対排出(SGLT1)、腎臓内でのグルコース吸収対排出(SGLT2)、及び神経経路を介したGLP/インクレチンシグナル伝達(SGLT1/GLUT2活性及び輸送を介した改変された腸内グルコース濃度)を含んでもよい。したがって、一実施形態において、代謝組織の関心領域(肝臓、胃腸管、膵臓、腎臓)に焦点を合わせるように超音波エネルギーを印加してもよい。1箇所以上の関心領域は、1回印加される、又は治療レジメンの一部として一定期間内に投与される個々の量で印加される、1つ以上の用量の超音波エネルギーを含む処置に供されてよい。処置の結果として、目的の特定の分子の活性、濃度、及び/又は位置が変化する。変化は、1箇所以上の関心領域が位置する組織、又は関心領域に対してエネルギーを直接印加することから生じる神経シグナル伝達に応答する、他の組織に存在し得る。一実施形態において、治療は、代謝性疾患又は臨床症状を有する対象を処置するために使用される。一実施形態において、代謝性疾患を有する患者は、患者の内部組織に超音波エネルギーを印加することによって処置され、この超音波エネルギーは、体外式エネルギー印加デバイスによって印加され、超音波エネルギーを印加することにより、患者中のグルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子に対する変化を引き起こす。別の実施形態において、代謝性疾患を処置するためのシステムは、対象の内部組織にエネルギーを印加するように構成されたエネルギー印加デバイスと、エネルギーを印加し、対象においてグルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子に対する変化を引き起こすために、エネルギーを印加する前記エネルギー印加デバイスを制御するよう適合されたコントローラと、を含んでもよい。一実施形態において、処置は、変化を直接測定することによって、又は変化の特徴もしくは指標を測定することによって評価される。
【0013】
実験結果は、自律神経系の代謝成分の活性化に見合ったレベルでの代謝組織の毎日の刺激が、グルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子の濃度、位置及び/又は活性を改変するように働き、治療的な方式でグルコース取り込み対排出レベルを変化させることを示す。更に、これは局所的な方式で達成され、副作用に関連する他の経路に影響に及ぼされない。したがって、開示されるようなニューロモデュレーション技術は、同様の生理学的変化/治療成果を達成するための薬物治療と比較して副作用が少ない可能性があり、代謝性疾患を有する対象用の既存の薬物療法の代替又は補足として働き得る。
【0014】
図1は、偽対照と比較して、肝臓刺激群の肥満性ズッカーラットの糖尿病モデルでの腎臓組織、腸組織及び肝臓組織における酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって測定されるタンパク質濃度を示す。この刺激群では、神経経路及び感覚細胞又は分泌細胞の活性化が可能となり、腸及び腎臓を含む下流標的組織におけるグルコース輸送及びインクレチン活性、濃度又は位置における測定される変化を提供するのに十分な力で、動物の肝臓に毎日超音波刺激することで刺激した。偽対照は、超音波トランスデューサをその標的器官に配置はするが、超音波刺激を印加することなく実施された。数日間にわたる毎日の処置の後、動物の屠殺後に組織サンプルを収集した。腸内のタンパク質レベル(対腸からの他の組織及び/又はmRNAデータ)は、腸の内層から掻爬(したがって、上皮内層の頂端側又は管腔側のみを収集)することにより採取されたサンプルからのものである。
【0015】
肝臓のニューロモデュレーションにより、血中マーカ及び他の組織の両方において代謝経路及びシグナル伝達分子の変化が生じる。超音波刺激群においては、吸収経路/分泌経路の変更に関連する循環血糖の低下が測定された。肝臓へ毎日エネルギーを印加することにより、偽対照と比較して、腎臓及び腸におけるGLUT2の変化、及び腸におけるGLP-1の変化もまた生じる。
【0016】
測定されるタンパク質の変化は、mRNA配列決定によって測定されるRNA発現において変化を伴った。
図2は、
図1に記載されるように処置される、肝臓刺激された肥満性ズッカー動物及び偽対照肥満性ズッカー動物の両方からの、肝臓組織、筋肉組織、腸組織及び腎臓組織における目的の様々な分子についてのタンパク質、mRNA及びアッセイデータを示す。
図3は、
図1に記載されるように処置される、刺激された肥満性ズッカー動物及び偽対照肥満性ズッカー動物の両方からの、視床下部組織における目的の様々な分子についてのタンパク質、mRNA及びアッセイデータを示す。SGLT2はグルコース再吸収にとって重要なタンパク質であるが、腎臓のGLUT2はグルコースの除去又は尿中への排出の主要手段である。ラットモデルにおいて毎日超音波刺激することにより、腸においてはSGLT1のmRNA及びGLUT2のmRNAの両方の上方制御がもたらされたが、腎臓においてはSGLT2のmRNA及びGLUT2のmRNAの両方の下方制御がもたらされた。上記のように、グルコース輸送体の発現及び/又は転位により、グルコース再吸収対排出の変更が生じる。刺激及び結果として生じる効果はまた、代謝系内のGLP/インクレチンの濃度を調節する。ラットモデルにおいて毎日超音波刺激することにより、肝臓における両方のGLUT2のmRNAの上方制御がもたらされた。
【0017】
図4は、肝刺激された肥満性ズッカー動物と偽対照の肥満性ズッカー動物の両方から収集された腸組織又は腎臓組織からの、ELISAにより測定されるタンパク質濃度レベルを示し、これは腸組織及び腎臓組織ではGLUT2での上昇及び腸組織中のGLP1での上昇を示す。
【0018】
図5は、肝刺激された肥満性ズッカー動物と偽対照の肥満性ズッカー動物の両方から収集された様々な組織におけるmRNA濃度レベルを示し、これは細胞膜タンパク質により媒介された同時発生する変化及び相互接続変化を示す。例えば、肝臓におけるグルコース調節は、ラットモデルにおいて毎日肝臓に超音波刺激を行う結果として上昇するGLUT2により媒介される。グルコースの骨格筋輸送はGLUT4により媒介される。腎臓では、多数の同時発生する変化はラットモデルにおいて毎日の肝臓への超音波刺激に関連した。プロテインキナーゼC(PKC)、SGLT2、GLUT2及びIrs2の下方制御は、尿中へのグルコースの排出及び血中の再吸収の妨害に関連し得る。
【0019】
図6は、肝組織、膵臓組織又は胃腸組織の刺激対対照の結果としての5’-活性化プロテインキナーゼ濃度レベル、及びLPS誘発高血糖症モデルの動物における肝刺激対対照の結果としてのグルタマートレベルを示す。5’AMPは、視床下部への直接のインスリンシグナル伝達及びインスリン依存性経路の活性化の、公知の尺度である。
【0020】
インビトロ3次元(3D)神経培養物に超音波刺激を印加することによる、直接末梢集束超音波(pFUS)神経活性化を確認する実験結果も本明細書で提供される。開示される新規3D培養システム(
図7A)は、従来の切除神経束標本と比較した末梢神経検査のためのインビトロ実験的プラットフォームを提供する。複雑なニューラルネットワークの形成は、培養プラットフォーム内で観察され、インビトロシステムを使用して超音波トランスデューサ及び観察蛍光顕微鏡をニューロンに結合させた。カルシウム指示薬色素の使用により、ニューロン活性の直接観察が可能となった。インビボニューロモデュレーションに関連する超音波圧力は、培養システムにおいて直接的な神経活性化を引き起こすことが確認された。結果は、超音波刺激が末梢ニューロンを活性化可能であることを実証した。
【0021】
図7Aは、3Dインビトロ末梢ニューロン培養システムの概略図である。単離された末梢ニューロン((すなわち後根神経節細胞)、DRG)をヒドロゲル微粒子と混和(mize)し、培養プレートに同時注入した。注入後、微粒子ヒドロゲルをアニーリングし、神経細胞接着のため、機械的に堅い成長表面及び神経突起伸長のための相互接続された微細孔の両方を提供する、神経細胞を含む不均一なスキャフォールドを残した。DRGニューロンを、25ng/mlのNGFを含む200μLのNbActiv4中で、37℃及び5%のCO2濃度のインキュベータ中で培養し、培地の50%を3日ごとに交換した。DRGニューロンを、Caイメージングのために、プロベネシドの250倍の10-3Mプロベネシド原液を含む、Fluo-4 Directカルシウムアッセイキットと共にインキュベートした。手短に5mLのカルシウムアッセイバッファを混合し、100μLのプロベネシド原液でボルテックスを行って2倍の添加色素溶液を作成した。次いで色素溶液を培地と共に1:1の比率で細胞へと加え、1時間インキュベートしてイメージングし、その後ヒドロゲルを通して十分拡散させた。
【0022】
図7Bは、3Dヒドロゲルスキャフォールド中のDRGニューロン細胞の、対応する右視野及び蛍光画像と共に示される実験的タイムラインを示す。ヒドロゲルの直径は約100μmであり、ヒドロゲル粒子の孔径は約1μmであった。DRGニューロン細胞は、ヒドロゲル粒子の細孔間で3次元的に増殖した。蛍光画像は、pFUS刺激中のカルシウムイメージングの時間経過を示す。pFUS刺激は観察開始時点から10秒後に行われ、開始から120秒後に再び停止した。次いで、刺激を再開する前に超音波を2分間停止した(超音波後の画像又は停止時の画像の撮影を可能とした)。DRGニューロン細胞のカルシウム濃度は、撮像されたニューロン内部の蛍光の増加によって示されるように、超音波発射後に増加した。pFUSシミュレーション後、細胞のカルシウム濃度は刺激前と同じレベルに戻った。
【0023】
図7Cは、撮像されたニューロンの各時点における平均ΔF/F0値及び最大ΔF/F0値を示す。ΔF/F0はpFUS刺激なしでは変化しない(左側)。一方、ΔF/F0はpFUS刺激中に増加する(右側)。
図7Dは、反復実験で利用されたpFUSの異なる振幅間の関係を示す。200mVpp(又は0.83MPaピーク陽圧)は、同様のDRG培養物内部の蛍光が大きく変化したことを示した(各群についてN>5)。これは、ニューロモデュレーション用に実証された有効な超音波圧力に対応する。
【0024】
DRGは3D培養環境に良好に応答し、ヒドロゲル微粒子表面に付着し、神経突起を微細孔に投射させた。細胞体及びシナプス神経の両方の特徴は、軸索投射に加えて培養物において明らかであった(
図7B)。軸索伸長により、微粒子間に形成された微細孔間隙にわたってニューロンネットワーク形成がもたらされた。Ca2+指示薬を充填した培地(Fluo-4直接カルシウムアッセイキット)中の末梢ニューロンネットワークを撮像することによって、培養物内の関心領域内のカルシウムトランジェントを撮像した(
図7B)。カルシウムシグナル伝達の超音波誘導性変化(すなわち、神経活性における超音波誘導性増加)を測定するために、超音波トランスデューサ(及び焦点)を光学視野(FOV)の中心に位置合わせした。
図7Bは、パルス超音波刺激後にFOV中の蛍光強度(したがって、ニューロン内の平均カルシウム濃度)が増加したことを実証している(1.1MHz、136.36μsのパルス長、0.5msのパルス繰り返し周期USパルスを使用)。これらのカルシウムトランジェントの出現及び振幅は超音波圧力依存性であり、最大神経活性化(
図7D、0.83MPa又は23mW/cm
2が一致)を達成する印加圧力は、動物モデルにおけるニューロモデュレーション用の有効な超音波圧力に対応した。
【0025】
更に、本明細書において、感覚神経節(すなわち、迷走神経の下神経節又は投与なしの神経節)及び混合(感覚性及び遠心性)された神経支配の末梢神経節(すなわち、仙骨神経節)を含む、末梢神経細胞体及びシナプスを含有することが知られている代替部位のpFUS刺激が提供される。コリン作動性抗炎症経路の活性化(すなわち、LPS誘発血中サイトカイン濃度の調節)は、各部位での超音波刺激後に観察され(すなわち、終端器官/脾臓、用量なし、及び仙骨神経節)、サイトカイン減少の大きさと他のオフターゲット効果(すなわち、血糖値の同時変化)の存在の両方が、刺激部位依存性であることが示された。最後に、特定の病理学的状態(すなわち、LPS誘発高血糖症の低減)における介入は、代謝制御に関連する複数の戦略的解剖学的位置の刺激によって達成された。これらの探索的刺激部位には、末梢グルコースセンサを含有する肝臓部位、インスリン分泌ベータ細胞に関連する膵臓、及びインクレチン分泌腸内分泌細胞を含む腸部位が含まれた。高血糖症の超音波誘導性減弱は、それぞれの解剖学的標的を刺激することで達成された。しかし、血糖減少の大きさは刺激部位に依存し、その効果は各部位で異なる分子機構によって作動され得る。合わせて、このデータは超音波刺激が直接末梢神経(及び他の神経内分泌細胞)を活性化させることが可能であり、pFUSが代替治療用バイオエレクトロニクス薬剤刺激部位の有効性を効率的に評価することが可能であると実証している。
【0026】
図8A~
図8Cは、脳-脾臓神経経路内部の複数の位置にてコリン作動性抗炎症経路(CAP)を活性化するpFUSの結果を示す。
図8Aは、pFUS刺激を迷走神経系及び副交感神経系に沿って細胞体接合部及び/又はシナプス接合部を含有する複数の位置にて集束させた、活性化の概略を示す。これらには、投与なしの神経節(すなわち、脳へと投射する多数の迷走神経の求心性神経の細胞体の位置)、仙骨神経節(すなわち、混合された交感神経系及び副交感神経系の細胞体接合部及びシナプス接合部の位置)、並びに脾臓(すなわち、CAP特異ニューロンの位置)を含む。
【0027】
図8Bは、本明細書において実施されたインビボニューロモデュレーション研究のタイムラインを示す。ここではLPSは(本明細書において一般的に開示されるように)最初に導入され、炎症状態及び高血糖状態を作製する。次いで超音波を印加し、LPS対照(すなわち、超音波刺激なし)対LPS+超音波刺激コホート中の炎症マーカ又は代謝マーカを比較することで超音波ニューロモデュレーションの効果を測定した。
【0028】
図8Cは、脾臓ニューロモデュレーション及びCAPの活性化がLPS応答を減弱させるのに十分であることを示す。更に、脾臓部位でのCAPの局所活性化は、LPS誘発高血糖症の抑制といった、インプラントベースのVNS CAP活性化を使用して典型的には観察される追加(非CAP又は非標的)効果を制限する。投与なしの神経節及び仙骨神経節の両方におけるpFUS刺激により、LPS応答の減弱も生じる。更に、投与なしの超音波ニューロモデュレーションは、仙骨部位又は脾臓部位のいずれかにおける刺激よりも大きな程度でLPSの効果を減弱させた。これにより、CAP(すなわち、投与なしの神経節を通ってCNSに入るニューロン)のトリガーとなる活性化において迷走神経の求心性神経の重要性が確認された。ただし、これは追加で迷走神経のニューロン及び交感神経性ニューロンを含む経路の遠心弓もまた拡大させる。
【0029】
ただし、サイトカイン抑制のレベル上昇にも関わらず、投与なしの神経節における刺激も、LPS誘発高血糖症の抑制をもたらした(
図8D)。脾臓部位での標的又は高精度の超音波ニューロモデュレーション(迷走神経の求心性神経ニューロンを含有しないと報告されている)により、CAPにより分離可能な活性化対他の非標的経路(肝臓におけるグルコース感知細胞など)が生じる。本明細書にて、炎症経路対代謝経路の分離可能な調節もまた仙骨刺激部位では可能であるが、投与なしの神経節での迷走神経の求心性神経の刺激により、複数の経路の活性化が生じる(従来の頸部VNSと同様である)。
【0030】
更に、異なる部位中の刺激後の血中神経伝達物質における変化の分析はまた、CAP経路のアップデートされた全体図に一致する。
図8Dは、LPS対照(LPS CTRL)と比較した、3つの異なる解剖学的標的部位でのpFUS後に、神経伝達物質(すなわち、エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン、及びアセチルコリン)の血中濃度/血液濃度の程度を示す。アスタリスクは、LPSのみの対照に対し、両側t検定を使用して統計学的有意性(0.05未満のp値閾値を有する)を特徴付け、二重交差はLPS対照及び代替的な刺激部位データの両方に対する有意性を特徴付ける。各実験状態についてN=5であった。血液神経伝達物質のプロファイルは、存在する豊富なコリンアセチル転移酵素(choline acetlytransferesase、ChaT)陽性T細胞の活性化と一致する脾臓部位の標的刺激後のアセチルコリン(Ach)により支配される。これは、ChaT T細胞の活性化について、(投与なしの刺激と比較して)脾臓部位におけるカテコールアミンの適度な上昇を伴う。対照的に、投与なしの刺激によりAchにおいてより適度な上昇がもたらされたが、血中カテコールアミンにおいては更に大きな上昇がもたらされた(複数の遠心性CAPアーム、すなわち脾臓CAP経路及び腸CAP経路のシステム全体の活性化と一致する)。最終的に、仙骨神経節刺激は、(脾臓刺激部位又は投与なしの刺激とそれぞれ比較して)Ach及びカテコールアミンの両方において適度な上昇をもたらしたが、この部位における刺激により、血中ドーパミンにおいては最も高い上昇を引き起こした。これは、副腎腺にマッピングされた追加の迷走神経媒介抗炎症経路の活性化を示唆している。まとめるとこれらの結果は、画像/解剖学的標的pFUSは、マッピングされた反射内の複数の位置にてニューロンを活性化させることが可能であり、PNS内部の非標的神経経路に対する標的の活性化レベルを評価するためにこれを使用可能であることを実証した。
【0031】
図9A~
図9Cは、代謝系全体にわたる、器官に基づく末梢集束超音波ニューロモデュレーション(pFUS)を示す。
図9Aは、公知の軸索集団の神経支配点が、集束パルス超音波を使用する刺激用に標的とされている、pFUSベースの高精度である器官ベースのニューロモデュレーションの概略である。本明細書において調査される標的は、肝臓、膵尾部、及び小腸の空腸領域内部の神経支配点及び感覚末端を含む(これらの部位を位置づけ標的とするために使用される方法は、方法セクションにて説明される)。
図9Bは、LPS誘発高血糖症モデル内部で実施されたpFUS刺激及び血液採取のタイムラインである。
図9Cは、循環血糖値が、LPS対照(pFUSなし、黄色円)、肝臓pFUS(青色円)、膵臓pFUS(紫色円)、及びGI pFUS(オレンジ色円)群に対する、0、5、15、30、及び60分時点にて示されることを示し、各群はn=6であった。
【0032】
図10A~
図10Bは、代謝マーカにおける代替的なpFUS刺激部位の効果の比較を示す。
図10Aは、pFUSを使用して刺激された動物の視床下部マーカを示す。ELISA光学強度及び分子の濃度は、インスリン受容体基質1(IRS1)、リン酸化プロテインキナーゼB(phos-Akt)、グルコース輸送体4(GLUT4)、及びグルコース-6-リン酸(G-6-phos)を含むインスリンシグナル伝達及びグルコース使用に関連した。LPS対照(pFUSなし、LPS CTRL)、肝臓pFUS(肝臓)、膵臓pFUS(膵臓)、及び胃腸管pFUS(GI)に関するデータを示す。
図8BはpFUSを使用して刺激された動物の血中マーカを示す。収集された血液サンプルからの血中ホルモン及びマーカのELISAに基づく濃度は、インスリン濃度、グルカゴン濃度、レプチン濃度、及びGLP1濃度を含む。アスタリスクは、LPSのみの対照(0.05未満のp値閾値を有する)に対し、両側t検定を使用して統計学的有意性を特徴付ける。各実験状態において、n-6であった。
【0033】
胃腸管(GI)pFUSは、肝刺激結果と比較すると、視床下部マーカ及び血中代謝マーカ(
図10A及び
図10B)における有意に異なる効果を有した。膵臓刺激同様、GI刺激は血中インスリン、血中グルカゴン、又は血中レプチンに対して効果を有さなかった。ただし、GI刺激もまた、IRS活性又は視床下部内のGLUT4及びグルコース-6-リン酸レベルにおける効果は有さなかった。したがって、膵臓刺激又は肝刺激とは異なり、GIの結果は非インスリンシグナル伝達経路がLPS誘発高血糖症においてGI刺激効果の原因である可能性があることを示唆している。更に、GI刺激された視床下部サンプルにおけるpAkt活性の上昇は、直接的に、又は間接効果として、この他の経路において視床下部が関与している可能性を示唆している。GIの超音波刺激は、本技術の特定の実施形態において、小腸内でのインクレチン及びグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)分泌の調節をもたらし得る。
【0034】
図11Aは、各標的刺激部位におけるpFUS後のエピネフリンの血中濃度及びLPS/pFUSなしの対照(LPS CTRL)を示す。
図11Bは、各標的刺激部位におけるpFUS後のノルエピネフリンの血中濃度及びLPS/pFUSなしの対照(LPS CTRL)を示す。
図11Cは、各標的刺激部位におけるpFUS後のドーパミンの血中濃度及びLPS/pFUSなしの対照(LPS CTRL)を示す。アスタリスクは、LPSのみの対照(0.05未満のp値閾値を有する)に対し、両側t検定を使用し、統計学的有意性を特徴付ける。各実験状態において、n=6であった。本明細書にて提供されるように、肝臓pFUSは血中ノルエピネフリンにおいては上昇をもたらした。一方、膵臓刺激はノルエピネフリン濃度においては明らかな変化を引き起こさず、腸刺激は神経伝達物質のプロファイルにおいてドーパミンの特異的な変化を引き起こした(
図11A~
図11C)。交感神経は、肝門部にてグルコース及び脂肪酸を感知する求心性線維と同一の箇所に配置されている。これらの神経は、肝臓の血管収縮及び血圧調節のための機構を提供し得る。ドーパミン系ニューロンは腸内に存在する(ただし肝臓及び膵臓にはそれよりも少ない程度で存在する)。これらの神経はGLPを産生し、代謝制御及び恒常性において追加の調節成分として働く神経内分泌細胞と同一の箇所に局在する。本明細書においてデータは、pFUSを印加して(神経及び神経内分泌細胞の両方を起源とする)可能性のある治療刺激部位を迅速にスクリーニングすることができ、特定の解剖学的標的を局所的に高精度で刺激することで、調節の新規技術及び生理学的システムの更なる理解を提供すると実証する。
【0035】
インビボ刺激及びインビトロ刺激の両方にて本明細書に開示されるようなpFUS実験を、以下のように実施した。pFUS刺激に使用されるシステムは、1.1MHzのシングルエレメントトランスデューサ(Sonic Concepts H106)、マッチングネットワーク(Sonic Concepts)、RFパワーアンプ(ENI 350L)及びファンクションジェネレータ(Agilent 333120A)からなる。70mm径のトランスデューサは、65mmの曲率半径を有する球面を有した。トランスデューサは、トランスデューサの位置合わせ及び解剖学的標的の間に中心に撮像トランスデューサを挿入する20mm径の穴を有した。数値的にシミュレートされた圧力プロファイルは、横方向に1.8mm、深度方向に12mmの半値全幅(FWHM)振幅を有していた。脱気水で充填された6cmのコーンを使用して、動物に対し音響結合を行った。ファンクションジェネレータを使用し、RFアンプにより増幅されたパルス正弦波の波形を生成し、インピーダンスマッチングネットワークにこれを送った。この原稿における実験は、0.5msのパルス繰り返し周期(2000Hzのパルス繰り返し周波数に対応)、23W/cm2(バースト平均)のパルス振幅及び136μ秒のバースト持続時間(0.27のデューティサイクルに対応)を使用した。ニードル型ハイドロフォン(ONDA HNA-0400)を事前に使用してトランスデューサの電圧-圧力較正を実施し、報告した。
【0036】
本明細書にて提供されるようにインビボ実験については、pFUSニューロモデュレーション前に解剖学的標的を撮像するために、Vivid E9又は11Lの超音波システム及びプローブ(GE Healthcare)を使用した。次いで、この初期撮像に基づき、pFUSトランスデューサを標的領域に配置した。より小さな撮像プローブ(3S、GE Healthcare)を使用し、2度目の超音波スキャンを実施した。これをpFUSトランスデューサ及び結合コーンの開口部に配置した。3Sプローブの撮像ビームをpFUSトランスデューサと位置合わせし、目的の器官及び解剖学的標的の確認を可能とした。pFUSトランスデューサの焦点深度を調整する必要がある場合には、超音波スタンドオフを使用した。解剖学的マーカを使用し、各標的刺激部位に超音波刺激を位置づけ、位置合わせした。解剖学的マーカを使用し、(迷走神経が頭蓋に向かってこれに沿って走行するため)内部頸動脈に含まれる投与なしの神経節及び神経節が頭蓋の基部にて迷走神経の細胞体腫大として存在することで知られている後部破裂孔に位置づけた。仙骨神経節については、仙骨の4つの椎骨に位置づけ、超音波トランスデューサを仙骨孔の方向に位置合わせした。肝刺激実験のために使用される解剖学的マーカは肝門部(いわゆる門脈の肝臓への入口)である。膵臓については、膵尾部の解剖学的マーカとして、脾静脈(非特異的な肝刺激を避けるように、脾臓を通って外側左側面を介して撮像された)を使用した。膵尾部は密集した島細胞を含有し、十二指腸から遠位に存在することが知られているため、これを選択した。腹腔の左上四分円の撮像を使用して小腸の空腸領域を同定した。これはドップラー超音波による診断イメージング下で、多数のひだを有する高度に血管化された折り畳み構造として現れる。
図8A及び
図9Aは、神経節及び末端器官の解剖学的超音波標的の位置に関する概略図及び説明を提供する。
【0037】
8~12週齢の成体オスのスプラーフドーリーラット(250~300g、Charles River Laboratories)を、12時間の明/暗サイクルで収容し、実験を実施する前に1週間順化させた。住居を25℃に維持し、通常のげっ歯類用固形飼料を自由に利用可能とした。大腸菌(Escherichia coli(0111:B4、Sigma Aldrich))由来のリポ多糖(LPS)を使用し、代謝障害(すなわち、高血糖症)を引き起こした。10mg/kgのLPSを腹腔内注射により投与し、LPS投与後の血液を0分時点、5分時点、15分時点、30分時点、及び60分時点で尾静脈から収集した。選択された時点は、LPS誘発サイトカインストーム及びインスリン抵抗性モデル内部の高インスリン血症/高血糖症の発症及び進行に対応する。血糖値をOneTouch Eliteグルコメータ(LifeScan、Johnson and Johnson)により測定した。60分時点の後、脳組織(視床下部)サンプルも末端にて収集し、ホスファターゼ(0.2mMのフッ化フェニルメチルスルホニル、5ug/mLのアプロチニン、1mMPCのベンゾアミジン、1mMのオルトバナジン酸ナトリウム、及び2uMのカンタリジン)及びプロテアーゼ阻害薬(Rocheの診断指示に従い、1uL~20mgの組織)を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の溶液中で均質化させた。追加の組織サンプル(例えば、神経節、脾臓、肝臓及び腸組織)を60分時点で取得し、分析後に液体窒素で素早く冷凍した。本研究全体を通して収集された血液サンプルを、(エチレンジニトリロ)テトラ酢酸二ナトリウム(EDTA)抗血液凝固薬と共に保存した。分析前に全サンプルを-80℃で保存した。製造業者の指示に従い、TNF(腫瘍壊死因子、Invitrogen)、インスリン(Crystal Chem)、グルカゴン(Aviva Systems Biology)、レプチン(Aviva Systems Biology)、IRS1(インスリン受容体基質1、Santa Cruz)、phos-Akt(リン酸化プロテインキナーゼB、MyBioSource)、GLUT4(グルコース輸送体4、Lifespan Biosciences)、及びグルコース-6-リン酸(G-6-phos、Lifespan Biosciences)を含む代謝性ホルモン又はシグナル伝達分子について、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)により組織及び末端血液サンプルを分析した。HPLCプロトコルを使用して組織サンプルからカテコールアミン濃度を測定し、短時間のうちに血清サンプルを前処理なしで直接機械に注入した。組織ホモジネートを、最初に0.1Mの過塩素酸と共に均質化させ、15分間遠心分離にかけた。この上清が分離した後、サンプルをHPLCへと注入した。インライン紫外線検出器を搭載したHPLCにより、カテコールアミン、ノルエピネフリン及びエピネフリンを分析した。この分析に使用した試験カラムは、Supelco Discovery C18(15cm×4.6mm内径、5μm粒径)であった。[A]アセトニトリル:[B]50=mM KH2PO4から二相性移動相を構成し、pH3(リン酸を使用)に設定した。次いで、溶液を100mgのEDTA及び200mg/Lの1-オクタン-スルホン酸を使用して緩衝させた。移動相混合物の最終濃度をA:B=5:95に設定した。利用した移動相の粘度から生じるカラムの圧力による圧縮を最小化するために、1mL/分の流量を使用し、カラムを一貫して20℃に保持しつつ全体のピーク解像度を向上させた。UV検出器を254nm波長に維持した。これはノルエピネフリン、エピネフリン及びドーパミンを含む、カテコールアミンの吸収を捕捉することで知られている。
【0038】
刺激のために、2~4%のイソフルランを使用して動物に麻酔をかけ、水循環加温パッド上に寝かせて、術式中の体温上昇を防止した。ニューロモデュレーション前に、目的の解剖学的領域より上の領域を使い捨てカミソリと動物用バリカンで剃毛した。標的(上に説明される通り)後、超音波刺激を1分の持続時間で適用した。次いで、最初の超音波刺激の直後にLPSを投与した(上記の通り)。次いで、LPS投与後に1分間の超音波刺激を合計2分の持続時間で適用した。次いで動物を麻酔下でインキュベートし、上に説明される通りに血液サンプルを採取した。インキュベーション後、動物を安楽死させ、組織及び血液サンプルを上に説明される通りに取得した。
【0039】
開示されるニューロモデュレーション技術により、腸、胃腸管、及び腎臓といった個々の組織中のグルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子に対して異なる変化が生じた。一実施形態において、腎臓におけるSGLT2低下は、腸におけるGLP1、SGLT1、GLUT2、及びGLUT5における上昇と同時に発生した。全体の複雑な変化の結果として、患者の血糖上昇率は、腎臓におけるニューロモデュレーション変化が、血液へのグルコースの再吸収を妨害するように作用し、腸におけるニューロモデュレーション変化は胃内容排出を増加させるように作用する。変化は肝臓のニューロモデュレーション後のシグナル伝達を介して、視床下部により媒介され得る。
【0040】
特定の実施形態において、本明細書にて提供されるニューロモデュレーションは、代謝性疾患を有する対象への処置として使用されてもよい。グルコース代謝及び関連する疾患の処置に適用され得る技術及び疾患の進行を変化させ得る技術もまた、本明細書にて提供される。一実施形態において、1箇所以上の関心領域における肝臓調節を使用し、糖尿病(すなわち、1型又は2型糖尿病)、高血糖症、敗血症、外傷、感染症、糖尿病関連認知症、肥満、又は摂食障害又は代謝性疾患を処置してもよい。一実施形態において、疾患と診断された患者は、ニューロモデュレーション処置に参加可能である。処置後、患者は健常な患者に関連する臨床的ベンチマークを達成している可能性がある。例えば、糖尿病に罹患している患者は、正常範囲を超える血糖値及び/又はインスリンレベルを呈し得る。処置後、患者は正常範囲内の血糖値及び/インスリンレベルを有している可能性がある。異常なインスリン及びグルコース利用に関する通常測定には、空腹時血糖検査、経口ブドウ糖負荷試験、連続グルコースモニタリング、HOMAスコア又はHOMA指数、グルコース及びインスリンクランプ、及び他の関連する技術が含まれる。
【0041】
本明細書にて提供されるように、本明細書にて提供されるニューロモデュレーション治療は、処置レジメンの一部として関心領域へのエネルギー印加に関与し得る。治療レジメンは、規定の処置時間内に印加される1回の用量又は複数回の用量を含み得る。例えば、ニューロモデュレーションは関心領域(例えば肝門部)では1日に1度であり得るが、それにより1日に1度の処置は、予め設定した調節パラメータに従い2日以上の連続した期間であってもよい。
【0042】
特定の実施形態において、エネルギーは電気刺激技術を使用してアクセスするのが困難である内部組織または内部器官である標的組織に印加される。考えられる組織標的には、胃腸管(GI)組織(胃、腸)、筋肉組織(心筋、平滑筋及び骨格筋)、上皮組織(上皮層、器官/GIの内層)、結合組織、腺組織(外分泌腺/内分泌腺)などが含まれる。一例において、神経筋接合部へのエネルギーの集束印加により、上流の活動電位なしに神経筋接合部での神経伝達物質の放出が促進される。他の例において、終端の軸索末端でのエネルギーの集束印加により、感覚ニューロン内部の活動電位を引き起こす累積的な活性が提供される。更に他の例において、近接する神経細胞の有無に関わらず、分泌細胞でのエネルギーの集束印加により、それらの細胞の活性化及び分泌が引き起こされる。考えられる調節標的には、インスリン放出を制御する原因となる膵臓の一部、グルコース調節の原因となる肝臓の一部、又はグルコース再吸収及び排出の原因となる腎臓の一部が含まれ得る。
【0043】
標的とされた関心領域へのニューロモデュレーションは、対象内の1つ以上の生理学的経路を妨害、低下又は増強するために生理学的手法で変化をもたらして所望の生理学的結果を得ることができる。更には、局地的なエネルギーの印加により全身の変化が生じることから、異なる生理学的経路は異なる方法で、体内の異なる位置にて変更される可能性があり、特定の対象用に標的とされたニューロモデュレーションの特性によって引き起こされる、対象内の生理学的変化の全体的な特徴的なプロファイルの原因となり得る。これらの変化は複雑である一方、現状のニューロモデュレーション技術は、処置される対象にとってニューロモデュレーションの結果であり、標的とされた1箇所以上の目的の領域に対するエネルギーの印加又は他の介入なしには獲得することができないであろう1つ以上の測定可能な標的とされた生理学的結果を提供する。更には、他のタイプの介入(例えば薬物治療)により、ニューロモデュレーションによって引き起こされた生理学的変化の一部分を得ることができる。特定の実施形態において、ニューロモデュレーションの結果として誘発された生理学的変化のプロファイルは、1箇所以上の標的とされた関心領域においてニューロモデュレーション(及びその関連する調節パラメータ)に特有のものであり得、患者によって異なる可能性がある。
【0044】
本明細書にて論じられたニューロモデュレーション技術を使用し、グルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子といった、目的の分子の濃度の変化(例えば上昇、低下)及び/又は目的の分子の特性における変化といった生理学的結果を引き起こすことができる。本明細書にて提供されるように、グルコース輸送体経路分子は、細胞膜を横断するグルコース輸送を促進させる膜タンパク質のグループである。グルコース輸送体経路分子には、GLUT-1、GLUT-2、GLUT-3、GLUT-4、GLUT-5、GLUT-6、GLUT-7、GLUT-8、GLUT-9、GLUT-10、GLUT-11、GLUT-12、又はGLUT-13といったGLUT又はSLC2Aファミリータンパク質のうち1つ以上が含まれ得る。本明細書にて提供されるように、インクレチン経路分子には、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)及びインクレチンとして公知であり、グルコース刺激インスリン分泌を増強させる能力に基づくグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)が含まれ得る。インクレチンは小腸における内分泌系細胞によって分泌される。他のアプローチには、組織を刺激し、インクレチンの上流分子における変化及びそれらの分泌を標的とすることが含まれ、これにはDPP-4を含む、産生と放出に関連する酵素を含む。
【0045】
目的の分子、すなわち1つ以上のグルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子のニューロモデュレーションを介し、変化を引き起こすことは、1つ以上の組織(例えば、第1組織、第2組織など)における目的の1つ以上の領域(例えば、第1関心領域、第2関心領域など)にエネルギー印加する結果としての分子の濃度(血中、組織)又は特性(共有結合的修飾)を調節又はこれに影響することを指すことがある。グルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子の調節には、タンパク質の発現、分泌、転位といった分子の特性における変化、及びエネルギー印加それ自体から誘発される又はイオンチャネルに直接影響する分子の結果としてのいずれかであるイオンチャネル効果に基づく直接的な活性変化が含まれ得る。目的の分子の調節はまた、ニューロモデュレーションの結果として濃度において予測された変化又は変動が生じないように、分子の所望の濃度を維持することを指すことがある。目的の分子の調節は、酵素媒介共有結合性修飾(リン酸化、アセチル化、リボシル化など)といった分子特性の変化を引き起こすことを指すことがある。すなわち、目的の分子の選択的調節は、分子濃度及び/又は分子特性を指すことがあると理解されるであろう。目的の分子は、炭水化物(単糖類、多糖類)、脂質、核酸(DNA、RNA)又はタンパク質のうち1つ以上といった生物学的分子であり得る。特定の実施形態において、目的の分子はホルモン(アミンホルモン、ペプチドホルモン、又はステロイドホルモン)といったシグナル伝達分子であり得る。
【0046】
開示されるニューロモデュレーション技術及び細胞調節技術は、ニューロモデュレーションシステムと組み合わせて使用されてもよい。
図9は、神経伝達物質の放出を達成及び/又はエネルギーの印加に応答するシナプスの成分(例えば、シナプス前細胞、シナプス後細胞)を活性化させるニューロモデュレーション用のシステム10の概略図である。図示されたシステムには、エネルギー印加デバイス12(例えば、超音波トランスデューサ)に結合されたパルスジェネレータ14が含まれる。エネルギー印加デバイス12は、例えばリード線を介して、又は無線接続で、対象の内部組織又は内部器官の関心領域に方向付けられて使用し、続いてグルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子における変化を生じさせるエネルギーパルスを受信するように構成されている。特定の実施形態において、パルスジェネレータ14及び/又はエネルギー印加デバイス12は、生体適合性部位(例えば、腹部)に埋め込まれてもよく、1本以上のリード線はエネルギー印加デバイス12及びパルスジェネレータ14内部に結合する。例えば、エネルギー印加デバイス12は、容量性のマイクロマシン超音波トランスデューサといったMEMSトランスデューサであってもよい。
【0047】
特定の実施形態において、エネルギー印加デバイス12及び/又はパルスジェネレータ14は、例えば続いてパルスジェネレータ14に指示を提供することができるコントローラ16と、無線にて通信することができる。他の実施形態において、パルスジェネレータ14は体外式デバイスであってもよく、例えば経皮的に又は対象の身体の外側位置から非侵襲的方式にてエネルギーを印加する。特定の実施形態において、これはコントローラ16内部に一体化されていてもよい。パルスジェネレータ14が体外式である実施形態において、エネルギー印加デバイス12は介護者によって操作されてもよく、エネルギーパルスが所望の内部組織に経皮的に送達されるように、対象の皮膚上の点、又はその上部に配置されてもよい。所望の部位にエネルギーパルスが印加されるように配置されると、システム10はニューロモデュレーションを開始し、代謝性疾患の処置といった臨床効果を得ることができる。
【0048】
特定の実施形態において、システム10はコントローラ16に結合され、ニューロモデュレーションの結果としてのグルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子における変化が得られるかどうかを表す、特性を評価する評価デバイス20を含む。一実施形態において、特性は局所的であってもよい。例えば、調節は、組織構造の変化、特定の分子濃度の局所的変化、組織変位、流体運動の増加などの局所組織または機能の変化をもたらしてもよい。
【0049】
調節は全身の変化又は非局所的な変化を生じてもよく、標的生理学的結果は、血中分子の濃度変化、又はエネルギーが直接印加された関心領域を含まない組織の特性における変化に関連していてもよい。一例において、変位は所望の調節のための代理測定であってよく、予測された変位値以下の変位測定値は、予測された変位値が誘発されるまで調節パラメータの変更をもたらし得る。したがって、評価デバイス20はいくつかの実施形態において濃度変化を測定するように構成されていてもよい。いくつかの実施形態において、評価デバイス20は器官サイズ及び/又は位置の変化を評価するように構成されたイメージングデバイスであってもよい。システム10の図示された要素が個々に示される一方、いくつかの要素または全ての要素は互いに組み合わせられてもよいと理解されるであろう。更には、いくつかの構成要素または全ての構成要素は互いに有線方式又は無線方式で通信してもよい。
【0050】
評価に基づき、コントローラ16の調節パラメータは変更されてもよい。例えば、所望の調節が、規定された時間窓(例えば、エネルギー印加術式が開始してから5分、30分後)内で、又は術式の開始時又は開始前の基線測定と比較して濃度(1つ以上の分子の血中濃度又は組織濃度)における変化に関連する場合、パルス周波数といった調節パラメータ又は他のパラメータの変化が望ましくなることがある。これは続いて操作者により、パルスジェネレータ14のエネルギー印加パラメータまたは調節パラメータを規定又は調整するために、又は自動フィードバックループを介してのどちらかによってコントローラ16に提供され得る。
【0051】
本明細書にて提供されるシステム10は、様々な調節パラメータに従ってエネルギーパルスを提供してもよい。例えば、調節パラメータは、連続的なものから断続的なものに及ぶ様々な刺激時間パターンを含んでもよい。断続的に刺激しながら、シグナル点灯時間中、特定の周波数で一定期間にわたってエネルギーを送達してもよい。シグナル点灯時間の後、シグナルオフ時間と呼ばれるエネルギー送達のない期間が続く。調節パラメータはまた、刺激アプリケーションの周波数及び持続時間を含んでもよい。印加周波数は例えば連続でよく、又は1日以内若しくは1週間以内などの様々な期間で送達されてもよい。治療期間は限定されないが、数分から数時間を含む様々な期間にわたって継続してもよい。特定の実施形態において、特定の刺激パターンを有する治療期間は1時間継続し、例えば72時間間隔で繰り返されてもよい。特定の実施形態において、3時間ごと、更に短い持続時間では例えば30分といった高頻度で処置を送達してもよい。治療期間及び周波数といった調節パラメータに従うエネルギーの印加は、所望の結果を得るために調整可能に制御されてもよい。
【0052】
図10は、システム10の特定の構成要素のブロック図である。本明細書にて提供されるように、ニューロモデュレーション用のシステム10には、対象の組織に印加する、複数のエネルギーパルスを生成するように適合されているパルスジェネレータ14が含まれてもよい。パルスジェネレータ14は別個のものであってもよく、コントローラ16といった外部デバイスへと一体化されてもよい。コントローラ16には、デバイスを制御するためのプロセッサ30が含まれる。デバイスの様々な構成要素を制御するプロセッサ30で実行するためのソフトウェアコード及び指示は、コントローラ16のメモリ32中に記憶される。コントローラ16及び/又はパルスジェネレータ14は、1本以上のリード線33を介してエネルギー印加デバイス12に接続されてもよく、又は無線で接続されてもよい。
【0053】
コントローラ16にはまた、医師によって調節プログラムに選択入力すること又は調節パラメータを提供することが可能であるように適合されている入力/出力回路34を備えるユーザインターフェース及びディスプレイ36が含まれる。各調節プログラムには、パルス振幅、パルス幅、パルス周波数などを含む、1つ以上のセットの調節パラメータが含まれてもよい。パルスジェネレータ14は、コントローラデバイス16からの制御シグナルに応答し、その内部パラメータを変更し、エネルギー印加デバイス12が適用される対象へリード線33を介して伝送される、エネルギーパルスの刺激特性を変更させる。限定するわけではないが、定電流源、低電圧源、複数の独立電流又は独立電圧源などを含む、任意の好適な種類のパルス生成回路が使用されてもよい。印加されるエネルギーは、電流振幅及びパルス幅持続時間の関数である。コントローラ16により、特定の時間に調節パラメータを変更させること及び/又はエネルギー印加を開始すること又は特定の時間にエネルギー印加をキャンセルすること/抑制することにより、エネルギーを調整可能に制御することが可能となる。一実施形態において、エネルギー印加デバイスの調整可能な制御は、対象における1つ以上の分子(例えば血中分子)の濃度に関する情報に基づく。情報が評価デバイス20からのものである場合、フィードバックループは調整可能な制御を作動させることができる。例えば、血中又は尿中の血中グルコース濃度が評価デバイス20によって測定されるように、所定の閾値または範囲よりも上である場合、コントローラ16は、血中グルコースの減少に関連する調節パラメータを有する関心領域(例えば肝臓)へのエネルギー印加を開始してもよい。エネルギー印加の開始は、所定の(例えば所望の)閾値よりも上の又は規定範囲外に移動しているグルコース濃度によって引き起こされてもよい。別の実施形態において、調整可能な制御は、エネルギーの最初の印加が規定の時間枠(例えば、1時間、2時間、4時間、1日)内で標的生理学的結果(例えば、目的分子の濃度)の予測された変化を生じさせなかった時に、調節パラメータを変更させる形式であってもよい。
【0054】
一実施形態において、メモリ32は操作者によって選択可能である異なる操作モードを記憶する。例えば、記憶された操作モードには、肝臓、膵臓、胃腸管、脾臓における関心領域といった特定の治療部位に関連する一連の調節パラメータを実行するための指示が含まれてもよい。異なる部位は、異なる関連する調節パラメータを有し得る。操作者にこのモードを手動入力させるよりも、コントローラ16は、選択に基づいて適切な指示を実行するように構成されていてもよい。別の実施形態において、メモリ32は、異なるタイプの処置用の操作モードを記憶する。例えば、活性化は、組織機能の抑制又は遮断に関連するものに対し、異なる刺激圧力又は周波数範囲に関連していてもよい。一具体例においては、エネルギー印加デバイスが超音波トランスデューサであるときには、時間平均力(時間平均強度)及びピーク陽圧は、1mW/cm2~30,000mW/cm2(時間平均強度)及び0.1MPa~7MPa(ピーク圧力)の範囲である。一例において、時間平均強度は熱損傷及びアブレーション/空洞現象に関連するレベルを避けるため、関心領域においては35W/cm2未満である。別の具体例においては、エネルギー印加デバイスは機械的アクチュエータであるとき、振動の振幅は0.1~10mmの範囲である。選択された周波数は、例えば超音波アクチュエータ又は機械的アクチュエータなど、エネルギー印加のモードによって変化してもよい。
【0055】
別の実施形態において、メモリ32は、調節パラメータの調整又は変更により所望の結果を得ることが可能となる較正モード又は設定モードを記憶する。一例においては、刺激は低エネルギーパラメータにて開始し、自動的に又は操作者の入力を受信した際のいずれかで徐々に増加する。この方式では、操作者は、調節パラメータが変更されるときに誘発される効果の調整を得ることができる。
【0056】
本システムはまた、エネルギー印加デバイス12の集束を促進させるイメージングデバイスを含んでもよい。一実施形態において、イメージングデバイスは、異なる超音波パラメータ(周波数、開口又はエネルギー)が関心領域を選択(例えば、空間的に選択)するために、及び標的のために選択された関心領域にエネルギーを集束し、その後ニューロモデュレーションを行うために印加されるように、エネルギー印加デバイス12と一体化されてもよい、又はエネルギー印加デバイス12と同様のデバイスであってもよい。別の実施形態において、メモリ32は、器官又は組織構造内部の関心領域を空間的に選択するために使用される、1つ以上の標的モード又は集束モードを記憶してもよい。空間選択には、関心領域に対応する器官の体積を同定するために器官の小領域を選択することが含まれてもよい。空間選択は、本明細書にて提供される画像データに依拠してもよい。空間選択に基づき、エネルギー印加デバイス12は、関心領域に対応する選択された体積に集束されてもよい。例えば、エネルギー印加デバイス12は、始めに標的モードで操作され、関心領域を同定する目的で使用される画像データを捕捉するために使用される標的モードのエネルギーを印加するように構成されていてもよい。標的モードのエネルギーは、優先の活性化に好適なレベルではなく、及び/又は調節パラメータで印加される。ただし、関心領域が認識されると、次いでコントローラ16は優先の活性化に関連する調節パラメータに従い、治療モードで操作されてもよい。
【0057】
コントローラ16はまた、調節パラメータの選択に対する入力として標的生理学的結果に関連する入力を受け取るように構成されていてもよい。例えば、画像診断法を使用して組織特性を評価する時には、コントローラ16は特性の計算された指標又はパラメータを受け取るように構成されていてもよい。この指標又はパラメータが規定の閾値を上回るか下回るかに基づき、調節パラメータを変更してもよい。一実施形態において、パラメータは影響を受けた組織の組織変位の測定値又は影響を受けた組織の深度の測定値であり得る。他のパラメータには、1つ以上の目的の分子の濃度を評価すること(例えば、閾値又は基線/制御、変化の割合と比較して、1つ以上の濃度における変化を評価すること、濃度が所望の範囲内かどうかを決定すること)を含んでもよい。更には、エネルギー印加デバイス12(例えば、超音波トランスデューサ)は、a)標的組織内の関心領域を空間的に選択するために使用され得る組織の画像データを取得、b)調節エネルギーを関心領域に印加する、及びc)グルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子における変化に関連する標的生理学的結果が生じることを決定する(例えば、変位測定)ために画像を取得するように、コントローラ16の制御の下で動作してもよい。このような一実施形態において、イメージングデバイス、評価デバイス20及びエネルギー印加デバイス12は同様のデバイスであってもよい。
【0058】
別の実施態様において、所望の調節パラメータセットはまた、コントローラ16により記憶されてもよい。この方式では、対象に特異的なパラメータを決定してもよい。更には、こうしたパラメータの有効性は経時的に評価されてもよい。パラメータの特定セットが経時的には有効性が低い場合には、対象は活性化された経路に対して不感受性を発症している可能性がある。システム10が評価デバイス20を含む場合、評価デバイス20はコントローラ16に対するフィードバックを提供してもよい。特定の実施形態において、フィードバックをユーザ、又は標的生理学的結果の特性を表す評価デバイス20から受け取ってもよい。コントローラ16は、調節パラメータに従ってエネルギー印加デバイスにエネルギーを印加させるように、及びフィードバックに基づき調節パラメータを動的に調整するように構成されていてもよい。例えば、フィードバックに基づき、プロセッサ16は調節パラメータ(例えば、超音波ビーム又は機械的振動の周波数、振幅、又はパルス幅)を、リアルタイムで及び評価デバイス20からのフィードバックに応答して、自動的に変更してもよい。
【0059】
一例において、本技術を使用して、代謝性疾患を有する対象を処置してもよい。本技術を使用して、グルコース調節の疾患を有する対象の血糖値を調節してもよい。したがって、本技術を使用して、目的の分子の恒常性を増進させてもよい又は1つ以上の目的の分子(例えば、グルコース、インスリン、グルカゴン、又はそれらの組合せ)の所望の血中濃度範囲又は濃度範囲を増進させてもよい。一実施形態において、本技術を使用して血中の(すなわち、血液の)グルコース値を制御してもよい。一実施形態において、以下の閾値を使用し、正常範囲にて血糖値を動的平衡に維持してもよい。すなわち、
絶食時:
50mg/dL(2.8mmol/L)未満:インスリンショック
50~70mg/dL(2.8~3.9mmol/L):低血糖/低血糖症
70~110mg/dL(3.9~6.1mmol/L):正常
110~125mg/dL(6.1~6.9mmol/L):上昇/障害性(前糖尿病性)
125(7mmol/L):糖尿病性
非絶食時(食事後約2時間)
70~140mg/dL:正常
140~199mg/dL(8~11mmol/L):上昇又は「境界」/前糖尿病性
200mg/dL超:(11mmol/L):糖尿病である。
例えば、この技術を使用し、約200mg/dL以下及び/又は約70mg/dL以上であるような血中グルコース濃度を維持することができる。この技術を使用し、約4~8mmol/L又は約70~150mg/dLの範囲であるグルコースを維持することができる。この技術を使用し、対象(例えば患者)の正常血糖範囲を維持することができ、正常血糖範囲は体重、ボディマス指数、年齢、性別、遺伝学、臨床歴といった患者の個別の因子に基づく個々の範囲であってもよい。したがって、1箇所以上の関心領域に対するエネルギーの印加(例えば超音波エネルギー)は、目的の分子の所望の目的濃度に基づき、リアルタイムで調整されてもよく、評価デバイス20からの入力に基づき、フィードバックループにて調整されてもよい。例えば、評価デバイス20はグルコースモニタ(例えば、血糖、排出されたグルコース)である場合には、リアルタイムのグルコース測定はコントローラ16に対する入力として使用されてもよい。
【0060】
別の実施形態において、本技術を使用して生理学的変化の特徴的なプロファイルを誘導してもよい。例えば、特徴的なプロファイルは、エネルギー印加の結果として組織及び/又は血液内の濃度を上昇させる目的の分子の群、並びにエネルギー印加の結果として組織及び/又は血液内の濃度を低下させる目的の分子の別の群を含んでもよい。特徴的なプロファイルは、エネルギー印加の結果として変化しない分子の群を含んでもよい。特徴的なプロファイルは、所望の生理学的結果に関連する同時発生する変化を規定してもよい。例えば、このプロファイルは尿中排出されたグルコースにおける上昇と共に確認される、血中グルコースにおける低下を含んでもよい。
【0061】
所望の標的組織は、末梢神経の軸索末端と非神経細胞とのシナプスを含む内部組織又は内部器官であってもよい。このシナプスは、標的組織又は標的器官の関心領域に集束された超音波トランスデューサの焦点領域内部の軸索末端に直接エネルギーを印加することにより刺激され、シナプス間隙への分子の放出を引き起こしてもよい。例えば、神経伝達物質の放出及び/又はイオンチャネル活性における変化は続いて、グルコース代謝の活性化といった下流効果を引き起こす。関心領域は、特定のニューロンタイプの軸索末端、及び/又は特定のタイプの非神経細胞を有するシナプスを形成する軸索末端といった特定のタイプの軸索末端を含むように選択されてもよい。したがって、関心領域は所望の軸索末端(及び関連する非神経細胞)を有する標的組織の一部分と対応するように選択されてもよい。エネルギー印加は、シナプス内部の神経からの神経伝達物質といった1つ以上の分子の放出を優先的に引き起こす、又は直接のエネルギー伝達(すなわち、機械的シグナル伝達又は非神経細胞内部の電圧活性化タンパク質)により非ニューロン細胞自体を直接活性化させる、又は所望の生理学的効果を誘発させる神経細胞及び非神経細胞の両方の内部で活性化を引き起こすように選択されてもよい。関心領域は器官への神経入口部位として選択されてもよい。一実施形態において、肝刺激又は肝臓調節は、肝門部又は肝門部隣接部での関心領域の調節を指してもよい。
【0062】
関心領域にて及び内部組織又は内部器官の部分(すなわち小領域)のみへと、エネルギーを集束又は実質的に集中させてもよい。例えばこれは、組織又は器官の総体積の約50%、25%、10%、又は5%未満である。一実施形態において、エネルギーは標的組織の2箇所以上の関心領域へと印加されてもよく、2箇所以上の関心領域の総体積は、組織の総体積の約90%、50%、25%、10%、又は5%未満であってもよい。一実施形態において、エネルギーは組織の総体積の約1%~50%にのみ、組織の総体積の約1%~25%にのみ、組織の総体積の約1%~10%にのみ、又は組織の総体積の約1%~5%にのみに印加される。特定の実施形態において、標的組織の関心領域における軸索末端46のみが印加されたエネルギーを直接受け取り、神経伝達物質を放出する。一方、関心領域の外側の未刺激軸索末端は実質的なエネルギーを受け取らず、これにより同様の方式では活性化/刺激されない。いくつかの実施形態において、このエネルギーを直接受け取る組織の一部分の軸索末端46は、神経伝達物質の放出の変更を誘発させることがある。この方式では、組織小領域はニューロモデュレーションのために粒状の方式にて標的化されてもよい。例えば、1箇所以上の小領域が選択されてもよい。いくつかの実施形態において、エネルギー印加パラメータは、所望の組み合わせられた生理学的効果を誘発するために、直接エネルギーを受け取る組織内部の神経成分又は非神経成分のいずれかに優先の活性化を誘発させるように選択されてもよい。特定の実施形態において、エネルギーは約25mm3未満の体積内で集束または集中されてもよい。特定の実施形態において、エネルギーは約0.5mm3~50mm3の体積内で集束または集中されてもよい。関心領域内部でエネルギーを集束又は集中させるための焦点体積及び焦点深度は、エネルギー印加デバイス12のサイズ/構成によって影響を受ける可能性がある。エネルギー印加の焦点体積は、エネルギー印加デバイス12の焦点領域によって規定されてもよい。
【0063】
本明細書にて提供されるように、標的方式にてシナプスを優先的に活性化させるためにエネルギーは1箇所以上の関心領域のみに実質的に印加されて標的生理学的結果を得てもよく、組織全体にわたって一般的な方式又は非特異的な方式では実質的には印加されない。したがって、組織において、複数の異なるタイプの軸索末端の小領域のみが直接エネルギー印加に曝露される。組織又は器官のイメージングデータは、エネルギーを関心領域に集束させることができ、周辺の組織には集束されないように、標的器官の関心領域を同定するために機能してもよい。例えば、血管、神経、又は他の解剖学的標識のいずれかを含有する器官内の関心領域は空間的に選択され、特異的な軸索末端又はシナプスを有する領域を同定するために使用されてもよい。イメージング情報を使用する、関心領域の開示される選択は、器官又は組織構造(例えば、肝臓、膵臓、胃腸組織)と組み合わせて使用されてもよい。
【0064】
開示される技術は、ニューロモデュレーション又は細胞調節効果の評価に使用されてもよく、続いてこれは、ニューロモデュレーションパラメータを選択又は改変するための入力又はフィードバックとして使用されてもよい。開示される技術は、標的生理学的結果として、組織状態又は機能の直接的な評価を使用してもよい。評価は、ニューロモデュレーションの前(すなわち、基線評価)、ニューロモデュレーション中、及び/又はニューロモデュレーション後に行われ得る。
【0065】
評価技術には、磁気共鳴機能画像診断法、拡散テンソル磁気共鳴画像診断法、陽電子放出断層撮影、又は音響モニタリング、熱モニタリングのうち少なくとも1つが含まれてもよい。評価技術にはまた、タンパク質及び/又はマーカ濃度評価が含まれてもよい。評価技術による画像は、自動評価又は手動評価のためのシステムによって受け取られてもよい。画像データに基づき、調節パラメータも変更してもよい。例えば、器官サイズにおける変化又は変位は、局所的な神経伝達物質濃度のマーカとして使用されてもよく、表現型調節神経伝達物質に局所細胞を曝露させるための代替マーカとして使用されてもよい、及びグルコース代謝経路において予測された効果のマーカとして効果的に使用されてもよい。局所濃度は、エネルギー印加の焦点領域内部の濃度を指してもよい。
【0066】
加えて又は代替的には、システムは、組織又は血液中の血中の1つ以上の分子の存在又は濃度を評価することができる。組織内の濃度は、局所濃度又は常在濃度と呼ばれることがある。組織は、細針吸引により取得され、目的の分子(例えば、代謝分子、代謝経路のマーカ、ペプチド伝達分子、カテコールアミン)の存在又はそのレベルの評価は、例えば酵素結合免疫吸着検定法、mRNA配列決定といった当業者に公知である任意の好適な技術により実施されてもよい。
【0067】
他の実施形態において、標的生理学的結果には、限定するわけではないが、組織変位、組織サイズの変化、1つ以上の分子の濃度における変化(局所的、非局所的、又は血中濃度)、遺伝子発現又はマーカ発現における変化、求心性活性化、及び細胞移動などが含まれてもよい。例えば、組織変位(例えば、肝臓変位)は、組織へのエネルギー印加の結果として生じ得る。組織変位を評価(例えば、イメージングを介する)ことにより、他の効果が推定されることがあり得る。例えば、特定の変位は分子濃度における特定の変化に特有である可能性がある。一例において、5%の肝臓変位は、実験によるデータに基づいて血中グルコース濃度の望ましい減少を表す可能性があり、又はこれに関連する可能性がある。別の例においては、組織変位は、変位のパラメータを決定するために、参照画像データ(組織へのエネルギー印加前の組織画像)と処置後画像データ(組織へのエネルギー印加後に取得された組織画像)とを比較することで評価されてもよい。パラメータは組織の最大変位値又は平均変位値であってもよい。変位パラメータが変位閾値よりも大きい場合、エネルギーの印加は、所望の標的生理学的結果を引き起こす傾向があると評価されてもよい。
【0068】
図11は、患者(すなわち、治療対象)を処置する方法50のフロー図である。方法50では、対象は同定52される。対象は、本明細書にて提供されるように代謝性疾患を有する患者であってもよい。また、同定は好適な診断技術を介したものであってもよい。同定されると、対象は、対象54の標的組織へとエネルギーを印加することにより、代謝性疾患を処置される。一実施形態において、エネルギー印加デバイス(超音波エネルギー、機械的エネルギー)は、エネルギーパルスが工程54にて内部組織(例えば、肝臓、GI、腎臓、膵臓)の所望の関心領域で集束され、パルスジェネレータが標的組織の関心領域に1つ以上のエネルギーパルスを印加し、標的組織中のシナプスのサブセットを優先的に活性化させるように位置づけられる。例えばこれは、軸索末端を刺激し、本明細書にて提供されるようなグルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子を変更するように位置づけられる。特定の実施形態において、方法50にはエネルギー印加の効果を評価する工程が含まれてもよい。例えば、1つ以上の直接評価又は間接評価が使用されてもよい。評価に基づき、1つ以上のエネルギーパルスの調節パラメータは、対象の処置を達成するために変更(例えば、動的に又は調整可能に制御)されてもよい。
【0069】
一実施形態において、評価は、調節の結果としてグルコース濃度における変化を評価するために、エネルギーパルスを印加する前後で実施されてもよい。グルコース濃度が閾値を上回るか下回る場合には、調節パラメータに適切な変更を施すことができる。例えば、グルコース濃度が所望の生理学的結果を有する場合には、ニューロモデュレーション中に印加されたエネルギーは、所望の結果を支持する最小レベルへと後退してもよい。閾値に対する特性の変化がグルコース濃度における不十分な変化と関連する場合、限定するわけではないが、調節振幅又は周波数、パルス形状、刺激パターン及び/又は刺激位置といった特定の調節パラメータが変更されてもよい。
図12は、方法60のフロー図であり、これは同定されると(ブロック62)、対象は非侵襲的超音波エネルギーを肝臓の関心領域へと印加することにより処置される(ブロック64)。非侵襲的超音波エネルギーの印加により、肝臓のニューロモデュレーションの結果として、身体中の1つ以上の組織におけるグルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子が変化する。続いて、こうした変化は、上手くいっている処置又は標的生理学的結果を表す、血中グルコースの変化(例えば低下)及び尿中に排出されたグルコースの変化(例えば上昇)を引き起こす。ニューロモデュレーションは、グルコース輸送体経路分子及び/又はインクレチン経路分子に関係する多くの生理学的効果を引き起こすことが可能であり、1つ以上のこれらの変化が評価可能であると理解されるであろう。
【0070】
評価される特性又は状態は、例えば、流量、濃度、細胞集団、又はこれらの任意の組合せといった値又は指標であり、続いてこれは好適な技術により分析されてもよい。例えば、閾値を超える相対的変化は、調節パラメータが変更されているかどうかを決定するために使用されてもよい。組織構造のサイズ(例えばリンパ節のサイズ)における増加の有無、1つ以上の放出された分子の濃度における変化(例えば、ニューロモデュレーション前の基線濃度に対しての変化)といった、測定される臨床結果により、所望の調節を評価してもよい。一実施形態において、所望の調節は、例えば、基線に対して約50%、100%、200%、400%、1000%の濃度上昇といった、閾値より上の濃度上昇に関与してもよい。遮断治療については、評価は、例えば目的の分子において、少なくとも10%、20%、30%、50%、又は75%といった、経時的な分子濃度の低下を追跡することに関与していてもよい。更には、特定の対象については、所望の遮断処置は、分子濃度を上昇させる傾向を有し得る他の臨床徴候の文脈における特性の分子が、相対的に安定した濃度を維持していることに関与していてもよい。すなわち、所望の遮断は電位上昇を遮断することができる。上昇又は低下又は他の誘発効果及び測定可能な効果は、処置開始から特定の時間窓内で測定されてもよい。例えばこれは、約5分間以内、約30分間以内である。特定の実施形態において、ニューロモデュレーションを所望するか決定する場合、ニューロモデュレーションにおける変更は、エネルギーパルスの印加を停止する指示である。別の実施形態において、1つ以上のニューロモデュレーションのパラメータは、ニューロモデュレーションが所望されない場合には変更される。例えば、調節パラメータにおける変化は、1~10000Hzの周波数における段階的な上昇といったパルス繰り返し周波数の上昇及び所望のニューロモデュレーションが達成されるまでの所望の特性の評価であってもよい。別の実施態様では、パルス幅を変更してもよい。他の実施形態においては、2つ以上のパラメータを、並行して又は順番に共に変更してもよい。複数のパラメータを変更した後、ニューロモデュレーションが所望されない場合には、エネルギー印加の焦点(いわゆる部位)を変更してもよい。
【0071】
本発明の技術効果は、対象を処置するためにニューロモデュレーションにより、代謝経路及び/又は代謝分子において標的変化を誘発することを含む。
【0072】
本明細書は、最良の形態を含む本発明を開示するために、また、任意の装置又はシステムの製作及び使用並びに任意の組み込まれた方法の実行を含む本発明の実施を当業者にとって可能にするために、例を使用している。本発明の特許性がある範囲は、特許請求の範囲によって定義され、当業者が想到する他の実施例を含むことができる。そのような他の例は、それらが特許請求の範囲の文言と異ならない構造要素を有する場合、又はそれらが特許請求の範囲の文言と実質的に異ならない同等の構造要素を含む場合、特許請求の範囲内にあることが意図される。
【国際調査報告】