IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニバシティ オブ メリーランド カレッジ パークの特許一覧

特表2022-523977ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池
<図1>
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図1
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図2
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図3
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図4
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図5
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図6
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図7
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図8
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図9
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図10
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図11
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図12
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図13
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図14
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図15
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図16
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図17
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図18
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図19
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図20
  • 特表-ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-27
(54)【発明の名称】ハロゲンインターカレーション黒鉛電極を備えた充電式Liイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20220420BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220420BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220420BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220420BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20220420BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20220420BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M4/36 A
H01M4/133
H01M4/1393
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021552631
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(85)【翻訳文提出日】2021-10-06
(86)【国際出願番号】 US2020021527
(87)【国際公開番号】W WO2020181244
(87)【国際公開日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】62/814,618
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501073817
【氏名又は名称】ユニバシティ オブ メリーランド カレッジ パーク
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】ワン,チュンシェン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,チョンギン
(72)【発明者】
【氏名】シュ,ジジアン
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK07
5H029AL07
5H029AM00
5H029CJ03
5H029CJ08
5H029CJ14
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ16
5H029HJ18
5H029HJ19
5H050AA08
5H050BA08
5H050CA15
5H050CB08
5H050DA09
5H050EA11
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA15
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA16
5H050HA18
(57)【要約】
本開示は、少なくとも1つのリチウム塩-黒鉛複合電極を含む充電式リチウムイオン電池を提供する。特に、本開示は、高電位を有する充電式「二塩中水」リチウムイオン電池であって、リチウム塩の少なくとも一部が水系電解質から相分離しており、黒鉛格子内でアニオンレドックス反応が起こる、充電式リチウムイオン電池を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのリチウム塩と黒鉛とを含む複合カソードと、
水系電解質と、
アノードと、
を含む充電式リチウムイオン電池であって、
200 mAh/g超の容量を有する、充電式リチウムイオン電池。
【請求項2】
前記少なくとも1つのリチウム塩の酸化生成物が、前記黒鉛内に挿入されている、請求項1に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項3】
前記複合カソードが、複数のリチウム塩を含む、請求項1に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項4】
前記複合カソードが、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化リチウム、及び他のハロゲン塩、又はこれらの組合せを含む、請求項1に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項5】
前記リチウム塩が、塩化リチウムとリチウム塩との組合せを含む、請求項4に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項6】
少なくとも400 Wh/kgのエネルギー密度を有する、請求項1に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項7】
少なくとも95%のクーロン効率を有する、請求項1に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項8】
少なくとも約4 V(Li/Li+に対する)の電位を有する、請求項1に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項9】
前記水系電解質が、二塩中水電解質(WiBS)、高濃度有機電解質、全固体セラミック電解質、又はこれらの組合せを含む、請求項1に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項10】
前記WiBSが、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiOTf)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF4)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)、リチウムヘキサフルオロアルセネート(LiAsF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、硝酸リチウム(LiNO3)、又はこれらの混合物を含む、請求項9に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項11】
充電式リチウムイオン電池において使用するリチウム塩-黒鉛複合カソードを製造する方法であって、リチウム塩-黒鉛複合材料と、ポリマーとの混合物を、リチウム塩-黒鉛複合カソードを製造するのに十分な条件下で圧縮し、これにより、前記リチウム塩を酸化して、前記リチウム塩の酸化生成物を前記黒鉛内に挿入することを含む、方法。
【請求項12】
前記ポリマーとの混合の前に、リチウム塩と黒鉛とを混合し、この混合物をミリングして、前記リチウム塩-黒鉛複合材料を作製する工程を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記リチウム塩が、臭化リチウムと塩化リチウムとを約1:1のモル比で含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記臭化リチウムと、前記塩化リチウムと、前記黒鉛との質量比が、約2:1:2である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマーが、ポリ(フッ化ビニリデン)(PTFE)、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル、又はこれらの混合物を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記リチウム塩-黒鉛複合材料と前記ポリマーとの質量比が、約95:5である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つのリチウム塩と黒鉛とを含む複合カソードと、
ここで、前記複合カソードは、前記リチウム塩が酸化されて、前記リチウム塩の酸化生成物が前記黒鉛内に挿入されるように構成されている;
水系ゲル電解質と、
高フッ素化エーテルポリマーを含むアノードと、
を含む、充電式リチウムイオン電池。
【請求項18】
少なくとも400 Wh/kgのエネルギー密度を有する、請求項17に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項19】
少なくとも95%のクーロン効率を有する、請求項17に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項20】
少なくとも約4 V(Li/Li+に対する)の電位を有する、請求項17に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項21】
前記水系ゲル電解質が、二塩中水電解質(WiBS)を含む、請求項17に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項22】
前記WiBSが、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiOTf)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF4)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)、リチウムヘキサフルオロアルセネート(LiAsF6)、非対称アンモニウム塩(Me3EtN・TFSI)、N-プロピル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(pyr13TFSI)、又はこれらの混合物を含む、請求項21に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項23】
前記水系ゲル電解質が、有機溶媒を更に含む、請求項17に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項24】
前記有機溶媒が、トリメチルホスフェート、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、エチルメチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジグリコールメチルエーテル、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、又はこれらの混合物を含む、請求項23に記載の充電式リチウムイオン電池。
【請求項25】
前記リチウム塩の少なくとも一部が、前記水系ゲル電解質から相分離している、請求項17に記載の充電式リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は2019年3月6日に出願された米国仮特許出願第62/814,618号(これらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす)の優先権の利益を主張する。
【0002】
[連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載]
本発明は、アメリカ合衆国エネルギー省のエネルギー高等研究計画局(Department of Energy, Advanced Research Projects Agency-Energy)により与えられたDEAR0000389による政府支援によりなされたものである。アメリカ合衆国政府は、本発明について或る特定の権利を有する。
【0003】
本発明は、リチウム塩-黒鉛複合電極を含む充電式リチウムイオン電池に関する。特に、本発明は、高電位を有する充電式「塩中水(water-in-salt)」リチウムイオン電池であって、リチウム塩の少なくとも一部が水系電解質から相分離した、充電式リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0004】
リチウムイオン電池は、便利で強力なエネルギー貯蔵の選択肢である。その用途は、様々な製品に広がりつつある。様々な製品としては、携帯型電子機器(例えば、コンピュータ、携帯電話、スピーカー等)からハイブリッド車及び電気自動車が挙げられるが、これらに限定されるものではない。リチウムイオン電池は、メンテナンスが少なく、小さなリチウムイオンをアノード材料に高密度に充填することができるため、より高い電荷貯蔵密度及び電圧を示し、かつ、典型的な鉛酸蓄電池よりも優れている。
【0005】
「塩中水」法による水系電解質における最近の進歩により、リチウムイオン電池の電気化学ポテンシャルが3.0 V~4.0 Vの範囲に大幅に拡大し、高電圧カソードと低電位黒鉛アノードとを組み合わせることが可能となった。しかしながら、リチウム遷移金属酸化物に基づくインターカレーションカソードの重量容量が制限される(200 mAh/g未満)ことが、より高いエネルギー密度の達成に対する基本的な障壁となる。
【0006】
現行の技術水準のLiイオン電池(LIB)において使用されるインターカレーションカソードの化学構造では、Li+をその格子内に収容し、電荷を遷移金属(Ni、Co、Mn、Fe等)のカチオンレドックス反応から補填することにより、電気エネルギーを貯蔵する。これは、優れた可逆性(長サイクル寿命)で起こるが、挿入されたLi+当たりのモル質量が重く、過脱リチウム化の際に構造的に不安定になる可能性があるため、平凡な容量(200 mAh g-1未満)をもたらす。一方、アニオンレドックス反応(O/O2-、S/S2-等)は、変換反応メカニズムに従うことによって、はるかに高い容量が見込めるが、各充放電サイクルにおける繰り返しの構造破壊及び再形成、並びにそれに伴う大きな体積変化に起因して、通常、極めて低い可逆性で進行する。これらのアニオンレドックス材料の電気伝導性及びイオン伝導性が低いことにより、問題が更に悪化する。
【0007】
インターカレーションホストにおけるカチオンレドックスメカニズムとアニオンレドックスメカニズムとの両方の組合せが、Li過剰遷移金属酸化物材料において最近発見された。その組合せでは、酸素層がセル反応に関与し、遷移金属酸化物全体の容量に大きく貢献している。インターカレーションホストで起こるアニオンレドックス反応に基づくリチウム電池は、アニオンレドックス変換反応の高エネルギーと、インターカレーションのトポタクティックメカニズムからの優れた可逆性との両方を引き継ぐため、非常に魅力的であると考えられる。「デュアルイオン」電池の電解質中のPF6 -アニオン、BF4 -アニオン、TFSI-アニオンは、可逆的に黒鉛に挿入することができる。しかしながら、これらのレドックス反応は、アニオン自体というよりも、黒鉛格子上のみで起こるため、容量が120 mAh g-1未満に制限される。多孔質炭素におけるS/Sn2-及びBr-/Br3 -カソード電解液のレドックスは高可逆性であるが、これらのアニオンは多孔質炭素に物理的に閉じ込められる/吸着されるだけであるため、望ましくないシャトル反応による高自己放電及び低サイクル寿命につながっていた。理想的には、シャトル反応を避けるためには、酸化したアニオンを固体ホストへのインターカレーションによって安定化しつつ、アニオンカソード電解液は電解質から相分離する必要がある。しかしながら、これまでのところ、高電位で十分な容量を有するこの理想的なエネルギー貯蔵メカニズムを支持するのに好適なアニオン、インターカレーションホスト、及び電解質は特定されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、より高い容量及び/又は高い電位を提供する好適なインターカレーションホスト及び電解質が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の幾つかの態様においては、黒鉛におけるハロゲン変換インターカレーション化学構造を利用して、高電位及び/又は高容量の充電式リチウム電池を提供する。本発明の特定の一態様においては、充電式リチウムイオン電池(すなわち、リチウム電池)を提供する。このリチウム電池は、(i)リチウム塩と黒鉛とを含む複合カソードと、(ii)電解質と、(iii)アノードとを含む。特定の一実施の形態においては、複合カソードは、リチウム塩の酸化生成物が上記黒鉛に挿入されているか、又は挿入されるように構成される。更に別の実施の形態においては、リチウムイオン電池は、200 mAh/g超、典型的には少なくとも約230 mAh/g、大抵少なくとも約240 mAh/g、ほとんどの場合少なくとも約250 mAh/gの容量を有する。更に別の実施の形態においては、リチウムイオン電池のエネルギー密度は、少なくとも約400 Wh/kg、典型的には少なくとも約430 Wh/kg、大抵少なくとも約460 Wh/kg、ほとんどの場合少なくとも約500 Wh/kgである。数値に言及する場合、「約」又は「およそ」という用語は、本明細書において交換可能に使用され、当業者によって決定された特定の値の許容誤差範囲内にあることを指す。このような値の決定は、その値がどのように測定又は決定されるか、例えば、測定システムの制限、すなわち、特定の目的に必要とされる精度の程度に少なくとも部分的に左右されるだろう。例えば、「約」という用語は、当該技術分野の慣行に従って、1標準偏差以内又は1標準偏差超を意味し得る。代替的には、数値に言及する場合、「約」という用語は、その数値の±20%、典型的には±10%、大抵±5%、大半の場合±1%であることを意味し得る。しかしながら、通常、本出願及び特許請求の範囲に特定の値が記載されている場合、特に明記しない限り、「約」という用語は、その特定の値の許容誤差範囲内にあること、典型的には1標準偏差以内にあることを意味する。
【0010】
別の実施の形態においては、上記リチウム電池のクーロン効率は、少なくとも約95%、典型的には少なくとも約98%、大抵少なくとも約99%、ほとんどの場合少なくとも約99.9%である。
【0011】
更に別の実施の形態においては、リチウムイオン電池は、少なくとも約4 V(Li/Li+に対する)、典型的には少なくとも約4.1 V、大抵少なくとも約4.15 V、ほとんどの場合少なくとも約4.2 Vの電位を有する。
【0012】
幾つかの実施の形態においては、複合カソードは、ハロゲン化リチウム塩等の複数のリチウム塩を含む。更に別の実施の形態においては、複合カソードは、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化リチウム、及び他のハロゲン塩、又はこれらの組合せを含む。特定の一実施の形態においては、複合カソードは、塩化リチウムと臭化リチウムとの組合せを含む。
【0013】
特定の一実施の形態においては、電解質は、フッ化物系電解質を含む。本発明のリチウム電池に使用することができる例示的なフッ化物系電解質としては、限定されるものではないが、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiOTf)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF4)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)、リチウムヘキサフルオロアルセネート(LiAsF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、硝酸リチウム(LiNO3)又はハロゲン化リチウム塩電解質と相分離可能な電解質、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0014】
別の実施の形態においては、上記電解質は、二塩中水(water-in-bisalt)電解質(WiBS)、高濃度有機電解質、全固体セラミック電解質、ハロゲン化リチウム塩電解質と相分離可能な電解質、又はこれらの組合せを含む。
【0015】
例示的な高濃度有機電解質としては、限定されるものではないが、ジメトキシエタン中の2mリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)+2リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)、エチレンカーボネート(EC)中の4mリチウムテトラフルオロボレート(LiBF4)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)中の7mリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、並びに体積比1:1の混合エチレンカーボネート(EC)及びプロピレンカーボネート(PC)中の2mリチウムテトラフルオロボレート(LiBF4)が挙げられる。
【0016】
例示的な全固体セラミック電解質としては、限定されるものではないが、Li4(BH4)3I、Li4(BH4)3Br、Li4(BH4)3Cl、LiBH4-LiBr-LiCl固溶体、Li2Al2SiP2TiO13(LASPT)、Li7La3Zr2O12(LLZO)、及びPEO-LiTFSI高分子電解質が挙げられる。
【0017】
更に別の実施の形態においては、上記電解質は水系ゲルの形態である。更に別の実施の形態においては、上記電解質は、ポリ(エチレンオキシド)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリアクリル酸、ポリテトラヒドロフラン、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル、ビスフェノールAエトキシレートジメタクリレート、ポリビニルピロリドン及び他の親水性ポリマー、又はそれらの組合せを更に含む。
【0018】
本発明の他の態様においては、充電式リチウムイオン電池において使用するリチウム塩-黒鉛複合カソードを製造する方法を提供する。幾つかの実施の形態においては、リチウム塩は上記黒鉛に挿入されている。この方法は、リチウム塩-黒鉛複合材料と、ポリマーとの混合物を、リチウム塩-黒鉛複合カソードを製造するのに十分な条件下で圧縮し、これにより、リチウム塩を酸化して、該リチウム塩の酸化生成物を黒鉛内に挿入することを含む。
【0019】
幾つかの実施の形態においては、方法は、上記ポリマーとの混合の前に、リチウム塩と黒鉛とを混合し、この混合物をミリングして、上記リチウム塩-黒鉛複合材料を作製する工程を更に含む。特定の一実施の形態においては、リチウム塩は、2つ以上のリチウム塩、典型的にはハロゲン化リチウム塩を含む。
【0020】
特定の一実施の形態においては、リチウム塩は、臭化リチウムと塩化リチウムとの混合物である。臭化リチウムと塩化リチウムとのモル比は、約5:1、典型的には約3:1、大抵約2:1、ほとんどの場合約1:1である。
【0021】
更に別の実施の形態においては、上記臭化リチウムと、上記塩化リチウムと、上記黒鉛との質量比は、約2:0.25:2、典型的には約2:0.5:2、大抵約2:1:2である。
【0022】
更に別の実施の形態においては、上記ポリマーは、ポリ(フッ化ビニリデン)(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル、又はそれらの混合物を含む。特定の一実施の形態においては、上記ポリマーはPTFEを含む。
【0023】
別の実施の形態においては、上記リチウム塩-黒鉛複合材料と上記ポリマーとの質量比は、約90:10、典型的には約92:8、大抵約94:6、ほとんどの場合約95:5である。
【0024】
本発明の更に他の態様は、(i)少なくとも1つのリチウム塩と黒鉛とを含む複合カソードと、ここで、複合カソードは、リチウム塩が酸化されて、リチウム塩の酸化生成物が黒鉛内に挿入されるように構成されている;(ii)水系電解質と、(iii)高フッ素化ポリマーを含むアノードとを含む、充電式リチウムイオン電池を提供する。
【0025】
幾つかの実施の形態においては、上記水系電解質は、二塩中水電解質(WiBS)を含む。特定の一実施の形態においては、上記WiBSは、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiOTf)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF4)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)、リチウムヘキサフルオロアルセネート(LiAsF6)、非対称アンモニウム塩(Me3EtN・TFSI)、N-プロピル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(pyr13TFSI)、他のイオン液体又はこれらの混合物を含む。
【0026】
別の実施の形態においては、WiBSは有機溶媒も含むことができる。好適な有機溶媒としては、トリメチルホスフェート、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、エチルメチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジグリコールメチルエーテル、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、及びこれらの誘導体、並びに当業者に既知であるか、又はリチウムイオン電池において使用される他の有機溶媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす、Longらによる"Polymer electrolytes for lithium polymer batteries," J. Mater. Chem. A, 2016, 4, pp. 10038-10069を参照されたい。有機溶媒が存在する場合、水に対して使用する有機溶媒の量は、体積で約66%以下(すなわち、2以下:1)、典型的には体積で約50%以下(すなわち、1以下:1)、大抵体積で約20%以下(すなわち、1以下:4)である。
【0027】
更に別の実施の形態においては、上記リチウム塩の少なくとも一部が、上記水系電解質から相分離している。
【0028】
別の実施の形態においては、アノードは上記フッ素化ポリマーによって保護されている。幾つかの実施の形態においては、上記フッ素化ポリマーはフッ素化エーテルポリマーである。別の実施の形態においては、上記フッ素化ポリマーは、高フッ素化エーテル(HFE)ポリマーゲル(例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル、又はそれらの混合物を含む。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】WiBS水系ゲル電解質中でLBC-G複合体においてその酸化の際に起こる変換インターカレーションメカニズムの模式図である。2段階の反応が、Br-(約4.0 V)及びCl-(約4.2 V)の酸化、並びにそれに続く黒鉛構造へのインターカレーションに関与していた。放電は、充填プロセスの完全な逆転であった。
図2】スキャン速度0.05 mVs-1で、3.2 V(Li/Li+に対する)と4.9 V(Li/Li+に対する)との間のLBC-Gカソードのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
図3】電流密度80 mA g-1でのLBC-Gカソードの定電流充放電プロファイルを示す図である。挿入図:放電容量保持率及びクーロン効率。
図4】1 mV/sでAg/AgCl電極を参照として使用した、LiBr・3H2O、LiCl・3H2O、及びWiBS電解質におけるTiメッシュ集電体上の(PTFEバインダーのみを有する)純粋な黒鉛電極のリニアスイープボルタンメトリーを示す図である。各々、Br-、Cl-、及び水の酸化による約4.0 V(Li/Li+に対する)、4.5 V(Li/Li+に対する)、及び5.0 V(Li/Li+に対する)での開始前には、集電体の腐食並びに黒鉛及び水の酸化を含む副反応が起こらないことが示されている。
図5】電流密度80 mA g-1でのLBC-GカソードのGITT特性を示すグラフである。赤色曲線は、様々なリチウム化/脱リチウム化段階における準平衡電位であり、充放電の際の各開回路電圧期間の平均値から構成した。挿入図:GITT測定及びEIS測定から推定した反応物質の有限拡散係数D。
図6】3電極セルにおける様々なSOCでのEIS試験によって得られたLBC-Gカソードのナイキストプロットを示す図である。破線は、等価回路を用いたフィット曲線である。挿入図:フルスケールのプロット。
図7】充放電サイクル全体におけるLBC-Gのin situラマンスペクトル(100 cm-1~550 cm-1)を示す図であり、Br2インターカラント及びBrClインターカラントの発生を示している。赤線:黒鉛ホストを強レーザービームで意図的に不安定化した後のみに検出される自由BrClシグナルであり、BrClのインターカレーションを更に確認する。石英によるバックグラウンドは除去した。
図8】初回充電プロセスの際のLBC-G複合体のBr K端でのex situ XANESを示す図である(2b)。対照試料としての化学的に挿入したBr2及び液体Br2(破線曲線)を、同じセル構造で測定した。
図9】初回充電プロセスの際のLBC-G複合体のCl K端でのex situ XANESを示す図である(2c)。
図10】電流密度80 mA g-1での初回充電後のLBC-G複合体の充放電プロファイルを様々なLiBr/LiClモル比で示す図である。LiBr及びLiClの重量から比容量を推定した。モル比は、元のLiBr/LiCl/黒鉛複合体からLiClの一部を減ずることによってのみ変化させた。
図11】電流密度80 mA g-1での初回充電後のLBC-G複合体の充放電プロファイルを様々なLiBr/LiClモル比で示す図である(2f)。LiBr及びLiClの重量から比容量を推定した。モル比は、元のLiBr/LiCl/黒鉛複合体からLiBrの一部を減ずることによってのみ変化させた。
図12】充放電サイクル全体におけるLBC-Gのin situラマンスペクトル(1200 cm-1~2850 cm-1)を示す図であり(3a)、Br2及びBrClのインターカレーション/脱インターカレーションに伴う黒鉛構造の変化を示す。
図13】2回目のサイクルにおける様々な充放電段階でのLBC-G複合体のex situ XRDを示す図である(3b)。θ-2θスキャンモードを、反射配置でCu Kα線(1.5418 Å)を用いて採用した。左図:全体のスペクトル。中間図:2θ(24度~28度)の範囲の拡大図。右図:2θ(48度~60度)の範囲の拡大図。チタン集電体のピークを使用して、回折角を較正した。
図14】充放電サイクルの際のLBC-G複合体に対する(0 0 m+1)ピークのin situ XRDパターンを示す図であり(3c)、透過配置での高エネルギーX線照射(波長0.1173 Å)によって収集した。左図:対応する電圧プロファイル。右図:XRDパターンの2D等高線、及びインターカレーション/脱インターカレーションの際の黒鉛ホストのd間隔(3.30 Å~3.55 Å)の連続的な変化を示す代表的な曲線。便宜上、2θ回折角をd間隔に変換した(「方法」を参照のこと)。
図15】50%及び100%のSOCでのLBC-G複合体(電解質及び集電体は除去)のex situ高エネルギーXRDパターンを示す図である(3d)。高エネルギー透過型X線照射(0.1173 Å)をほとんどの黒鉛フラスコに対して垂直に設定して、面内構造特徴を明らかにした。
図16図16A及び図16Bは、各々、ステージIIのC7[Br](図16A、SOC=50%)及びステージIのC3.5[Br0.5Cl0.5](図16B、SOC=100%)のBr EXAFS実験データの最適なフィットモードを示す図である。ここでのR空間でのEXAFSスペクトルは位相補正されておらず、2つの図面における2つのステージに対する距離Rは比較することができないが、両方とも実際の値より小さい。挿入図:DFTシミュレーションから得られたステージIIのC7[Br]及びステージIのC3.5[Br0.5Cl0.5]の面内構造。2セットの結合距離が赤線(短)及び青線(長)で示されている。
図17】無水LiBr/LiCl(青色)又はLiBr/LiCl一水和物(赤色)からなるLBC-Gカソードと、HFE/PEOで保護された黒鉛アノードとを備えた2つのLiイオンフルセルの典型的な充放電電圧プロファイル(3回目のサイクル)を示すグラフである(4a)。充電及び放電は、25℃で0.2 C(LBC-Gカソードに対して44 mA g-1)で行った。セル容量は、カソードの質量のみ(上側のX軸)、又はバインダーと保護コーティングとを含むカソードとアノードとの合計質量(下側のx軸)に基づいて算出した。
図18】本発明のリチウムイオン電池の特定の一実施の形態において、サイクル中のフルセルの放電容量(カソードとアノードとの合計質量に対する、白丸)及びクーロン効率(半黒丸)を示すグラフである(4b)。
図19】様々な電解質/電極(カソード+アノード)質量比を有する本発明の特定の一実施の形態のLBC-G/黒鉛フルセルにおいて、様々なレートでアノードとカソードとの合計質量に基づいて計算した放電容量を示す図である(4c)。
図20】4 mのLiBF4/DME電解質中でのLBC-Gカソードの電流密度80 mA g-1での定電流充放電プロファイルを示す図である。
図21】ナフィオン固体電解質中でのLBC-Gカソードの電流密度80 mA g-1での定電流充放電プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の幾つかの態様においては、(複合電極の総重量に対して)少なくとも約200 mAh/g、典型的には少なくとも約210 mAh/g、大抵少なくとも約220 mAh/g、大半の場合少なくとも約230 mAh/g、ほとんどの場合少なくとも約240 mAh/gの容量を有するリチウム電池を提供する。本発明の別の態様においては、少なくとも約4.0 V(Li/Li+に対する)、典型的には少なくとも約4.1 V(Li/Li+に対する)、大抵少なくとも約4.2 V(Li/Li+に対する)の平均電位を有するリチウム電池を提供する。
【0031】
このような高容量及び/又は高電位のリチウム電池は、本発明者らによる、リチウム塩を黒鉛内に挿入した新たな電極の発見により可能となる。理論に縛られるものではないが、本発明のリチウム電池においては、黒鉛格子内でアニオンレドックス反応が起こり、酸化されたアニオンが黒鉛格子内へのインターカレーションによって安定化することによって、インターカレーションカソード化学構造を利用した従来の電池に関連する問題が回避されると考えられる。
【0032】
Liイオン電池(LIB)において使用される従来のインターカレーションカソード化学構造では、Li+をその格子内に収容し、電荷を遷移金属(例えば、Ni、Co、Mn、Fe等)のカチオンレドックス反応から補填することにより、電気エネルギーを貯蔵する。これは、優れた可逆性(長サイクル寿命)で起こるが、挿入されたLi+当たりのモル質量が重く、過脱リチウム化の際に構造的に不安定になる可能性があるため、比較的低い容量をもたらす。さらに、インターカレーションホストにおいて電池のアニオンレドックス反応が起こる環境を提供することにより、アニオンレドックス変換反応の高エネルギーと、インターカレーションのトポタクティックメカニズムからの優れた可逆性との両方が得られると考えられる。
【0033】
簡潔性及び明確性のため、以下、ハロゲン化リチウム塩、特に、臭化リチウムと塩化リチウムとの組合せを備えた黒鉛を含む複合電極の使用を参照して、本発明を説明する。しかしながら、本発明の範囲がリチウム塩-黒鉛複合電極に限定されるものではないことを理解されたい。通常、本発明では、電極材料の結晶格子内でアニオンレドックス反応を起こし、酸化されたアニオンを電極材料の結晶格子内で安定化させる電極材料とアニオン塩との任意の組合せを使用することができる。
【0034】
幾つかの実施形態においては、本発明のリチウムイオン電池は、二塩中水(WiBS)電解質を含む。WiBS電解質は、変換インターカレーション反応を可能にするか、又は促進すると考えられる。特に明記しない限り、又は文脈がそれ以外を要求しない限り、本明細書において使用される「変換反応」は、アニオン酸化反応、例えば、臭化物イオンから臭素ガスへの変換、又は塩化物イオンから塩素ガスへの変換、又は臭化物イオンと塩化物イオンとの混合物から臭素ガス、塩素ガス、及び/又はBr-Clガスへの変換を指す。
【0035】
本発明の幾つかの態様は、ハロゲン化物アニオン(Br-及びCl-)のアニオンレドックス反応に基づいている。特に、ハロゲン化物アニオンのアニオンレドックス反応と、得られた酸化生成物との両方が電極、例えば、黒鉛の格子内に挿入又は取り込まれたままになると考えられる。本発明の特定の一実施形態においては、等モルのハロゲン化リチウム塩を有する黒鉛((LiBr)0.5(LiCl)0.5-黒鉛、以下LBC-Gと表示する)を含有する複合電極を活物質として準備した。幾つかの実施形態においては、本発明のリチウム電池においてWiBS電解質を使用する。高濃度WiBS電解質は、水和したLiBr及びLiClの少なくとも一部を固体カソードマトリックス内部に閉じ込めると考えられる。アニオンレドックス反応、すなわち、臭化物アニオン及び塩化物アニオンの酸化生成物、例えば、Br0及びCl0への酸化が黒鉛格子内で起こると考えられ、酸化生成物は黒鉛構造へのインターカレーションによって安定化する。
【0036】
本発明の別の態様においては、ハロゲン化物イオンの高密度充填及び塩中水電解質を利用して、水系電池において4ボルト超の電位を達成するリチウムイオン電池を提供する。黒鉛格子内のリチウム塩は、水系電解質から相分離していると考えられる。したがって、本発明の別の態様においては、リチウム塩の少なくとも一部が水系電解質から相分離した充電式リチウムイオン電池を提供する。リチウム塩の少なくとも一部が水系電解質から相分離することで、ハロゲン化物アニオン及びハロゲン化物アニオンの酸化生成物の拡散又はシャトルが回避され、これにより、電池のサイクル寿命が大幅に延長される。電池について言及する場合、「サイクル寿命」という用語は、少なくとも99%、典型的には少なくとも99.5%、大抵少なくとも99.9%のクーロン効率を維持したままでの再充電の総回数として定義される。代替的には、「サイクル寿命」という用語は、電池の容量がその理論容量の約80%、典型的には約85%、大抵約90%未満まで落ちるか又は低下するまでに、電池が再充電可能な総サイクル回数を指す。電池について言及する場合、「サイクル」という用語は、電池の再充電、典型的には、約5%以下の充電から少なくとも約90%の充電までの再充電を意味する。よって、当業者は、電池の充電を理論充電の約5%以下まで消耗させ、理論充電の少なくとも約90%まで電池を再充電し、電池のクーロン効率又は容量のいずれかが本明細書において規定する量を下回るまでプロセスを繰り返すことにより、電池の「サイクル寿命」を容易に決定することができる。
【0037】
更に幾つかの実施形態においては、本発明のリチウム電池は、100回のサイクル後に、少なくとも約70%、典型的には少なくとも約75%、大抵少なくとも約80%、大半の場合少なくとも約85%、ほとんどの場合少なくとも約90%の容量保持率を有する。
【0038】
また更に別の実施形態においては、本発明のリチウム電池は、100回のサイクル後に、少なくとも約80%、典型的には少なくとも約85%、大抵少なくとも約90%、大半の場合少なくとも約95%の容量保持率を有する。
【0039】
別の実施形態においては、本発明のリチウム電池は、そのサイクル寿命を通して、少なくとも約80%、典型的には少なくとも約85%、大抵少なくとも約90%、大半の場合少なくとも95%、ほとんどの場合少なくとも約98%のクーロン効率を有する。更に別の実施形態においては、本発明のリチウム電池は、そのサイクル寿命を通して、少なくとも99%、典型的には少なくとも99.5%、大抵少なくとも99.9%のクーロン効率を有する。
【0040】
更なる実施形態においては、本発明のリチウム電池は、少なくとも約250 Wh kg-1、典型的には少なくとも約300 Wh kg-1、大抵少なくとも約350 Wh kg-1、大半の場合少なくとも約400 Wh kg-1、ほとんどの場合少なくとも約450 Wh kg-1のエネルギー密度を有する。本発明の範囲がこれら特定のエネルギー密度に限定されるものではないことを理解されたい。実際には、本発明の特定の電池のエネルギー密度は、様々な因子に左右される。例えば、この因子は、リチウム塩(複数の場合もある)、アノード材料、水系電解質等であるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
4.0 V(Li/Li+に対する)~4.5 V(Li/Li+に対する)の高脱リチウム化/リチウム化電位における、LiBr及びLiClに対する理論エネルギー容量は、各々、309 mAh g-1及び632 mAh g-1であると算出された。これらの理論エネルギー容量及び電位の値は、他のアニオン、例えば、硫黄の約2.2 V又は酸素の約3.0 Vよりもはるかに高い。これらのハロゲン化物アニオンの可逆レドックス反応と、それに続く黒鉛へのインターカレーションにより、高密度充填されるステージIのインターカレーション化合物C3.5[Br0.5Cl0.5]が生じる。これは、(LBC-Gカソードの総質量に対して)243 mAh g-1の全容量に対応する。本発明者らによって開示された保護された黒鉛アノード(Yang, C.らによる4.0 V Aqueous Li-Ion Batteries. Joule 2017, 1, 122-132を参照)とLBC-Gカソードとを組み合わせることにより、4.0 Vクラスの水系フルセルが作製され、現行の技術水準のLIBのほとんど(300 Wh kg-1~400 Wh kg-1)よりもはるかに高いエネルギー密度(460 Wh kg-1)が提供された。本発明の充電式Liイオン電池の多くの利点の幾つかとしては、このようなこれまでに見られなかった高いエネルギー密度と共に、その水系の性質による固有の安全性と、多様な遷移金属酸化物と比較してハロゲン化物活物質のコストがはるかに低いことが挙げられる。
【0042】
ハロゲン化物アニオン(Br-及びCl-)のアニオンレドックス反応を用いて、等モルのハロゲン化リチウム塩を有する黒鉛((LiBr)0.5(LiCl)0.5-黒鉛、以下LBC-Gと表示する)を活物質として含有する複合電極を準備した。高濃度WiBS電解質が、部分的に水和したLiBr及びLiClを固体カソードマトリックス内部に閉じ込めるとともに、酸化の際に、Br0及びCl0が黒鉛構造へのインターカレーションにより安定化することにより、硫黄の電位約2.2 V又は酸素の電位約3.0 Vよりも高い4.0 V(Li/Li+に対する)~4.5 V(Li/Li+に対する)の高脱リチウム化/リチウム化電位で、LiBrの場合は309 mAh g-1の理論容量、LiClの場合は632 mAh g-1の理論容量が提供される。これらのハロゲン化物アニオンの可逆レドックス反応と、それに続く黒鉛へのインターカレーションにより、高密度充填されるステージIのインターカレーション化合物C3.5[Br0.5Cl0.5]が生じる。これは、(LBC-Gカソードの総質量に対して)243 mAh g-1の全容量に対応する。
【0043】
本発明者らによって開示された保護された黒鉛アノード(Yang, C.らによる4.0 V Aqueous Li-Ion Batteries. Joule 2017, 1, 122-132を参照)とLBC-Gカソードとを組み合わせることにより、4.0 Vクラスの水系フルセルが作製され、現行の技術水準のLIBのほとんど(300 Wh kg-1~400 Wh kg-1)よりもはるかに高いエネルギー密度(460 Wh kg-1)が提供された。本発明の充電式Liイオン電池の多くの利点の幾つかとしては、このようなこれまでに見られなかった高いエネルギー密度と共に、その水系の性質による固有の安全性と、多様な遷移金属酸化物と比較してハロゲン化物活物質のコストがはるかに低いことが挙げられる。
【0044】
この変換インターカレーションLBC-G化学構造は、PF6 -、BF4 -、TFSI-等のアニオンによる全ての黒鉛インターカレーション化学構造と、少なくとも2つの面で明確に異なる。第1に、LBC-Gカソードは、希薄な液状電解質ではなく、高密度固体状態でアニオン源(Br-及びCl-)を貯蔵する。そのため、原理的には、塩の溶解度又は電解質の量によって容量が制限されない。第2に、充電の際、LBC-Gにおける酸化種は臭化物アニオン/塩化物アニオンであり、黒鉛ホストはほぼ損傷のないままであるが、いわゆる「デュアルイオン」電池における黒鉛カソードは、電子正孔をホストすることにより酸化され、アニオンインターカラント(PF6 -、BF4 -、TFSI-)はその化学状態を維持する。黒鉛における酸化状態がほぼゼロであるため、BrインターカラントとClインターカラントとの間のクーロン反発が小さいことにより、C3.5[H](H=ハロゲン)の高密度黒鉛インターカレーション化合物(GIC)が可能となった。これは、C24 +[X-]又はC20 +[X-](X-=PF6 -、BF4 -、TFSI-等)の一般式を有する希薄なGICのみが120 mAh g-1未満の容量で形成することができる「デュアルイオン」電池とは明確に対照的である。また、LBC-G化学構造は、遷移金属ハロゲン化物(FeF2、CuF2等)及びアニオンレドックスカップル(S/Sn2-、O/O2-、Br3 -/Br-等)としての伝統的な変換カソードとも異なる。遷移金属ハロゲン化物と比較すると、アニオンレドックスの電位及びエネルギーは、遷移金属カチオンレドックスの電位及びエネルギーよりもはるかに高い。さらに、LBC-Gにおけるハロゲンの黒鉛へのインターカレーションは、遷移金属ハロゲン化物における結晶再構成反応よりもはるかに速く、より可逆的でもある。この結晶再構成反応は、大きな速度ヒステリシス、大規模な体積変化、及び不可逆的な粒子崩壊を伴うことが多い。アニオンレドックスカップル(S/Sn2-、O/O2-、Br3 -/Br-等)に関してはまた、中間体の溶解により反応速度が改善されたが、最終充電生成物が、通常、高表面積の炭素ホスト上に堆積又は吸着し、副反応、寄生シャトル効果、及び低体積エネルギー密度につながる。超高濃度WiBS電解質を使用することにより、LBC-Gの繰り返しサイクルの際に、WiBSと熱力学的に非混和性の水和層におけるハロゲン化物アニオンを、カソード固体複合体内に閉じ込めることができるとともに、高反応性の酸化生成物(BrCl、室温で気体状)を黒鉛へのインターカレーションにより効果的に安定化し、これにより、この変換インターカレーション化学構造の高可逆性を確保する。
【0045】
無水LiBr及び無水LiClを黒鉛粉末に対して、2:1:2の質量比((LiBr)0.5(LiCl)0.5C3.7のモル比に対応)で混合することにより、LBC-G複合カソードを作製した。LBC-G複合カソードの電気化学的挙動を、対電極として活性炭素(作用電極の約50倍の質量)、参照電極としてAg/AgCl、並びに電解質として80重量%のWiBS水系ゲルポリマー(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を21 mol kg-1、リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiOTf)を7 mol kg-1で水中に溶解したもの)及び20重量%のポリエチレンオキシド(PEO)を用いた3電極セルにおいて評価した。WiBS電解質(作用電極の20倍の質量)に対する曝露の際、LBC-Gにおける無水LiBr-LiCl塩は、WiBSから微量の水(およそ2.4%)を抽出し、LBC-Gの表面上に水和LiBr-LiCl層を形成し(推定される全体の配合は、LiBr・0.34H2O-LiCl・0.34H2Oの水和塩である)、これが、溶媒和したアニオンの形態でハロゲンのレドックス反応を促進する。図1。一方、この水和塩層は、バルクWiBS電解質から熱力学的に相分離しており、動的水平衡を作り上げている。MDシミュレーション、並びにLiCl-LiBr溶液で500時間平衡化したWiBS電解質におけるクロマトグラフィー分析によって検出されたCl含量及びBr含量が極めて低い(32 ppm未満)ことから明らかなように、このような液状化層により、Li+の輸送が可能となる一方で、ハロゲン化物イオンの拡散及び望ましくないシャトルの可能性は阻止される。
【0046】
LBC-Gのサイクリックボルタンメトリー(図2)及び充放電プロファイル(図3)から、それぞれBr-インターカレーションに対する4.0 V(Li/Li+に対する)~4.2 V(Li/Li+に対する)、及びCl-インターカレーションに対する4.2 V(Li/Li+に対する)~4.5 V(Li/Li+に対する)での2つの別個の反応が分かった。これにより、(LiBr/LiCl塩と黒鉛とを含むLBC-G複合体の総質量に対して)243 mAh g-1という高可逆性放電容量が得られ、その82%が、電流密度80 mA g-1(0.2 C)で、80回目のサイクル後に100%のクーロン効率で230回のサイクルにわたって保持される。この2段階のレドックス反応は以下に対応する。
LiBr+Cn⇔Cn[Br]+Li++e- 4.0 V~4.2 V (1)
LiCl+Cn[Br]⇔Cn[BrCl]+Li++e- 4.2 V~4.5 V (2)
式中、nは、GICにおける挿入されたハロゲンに対する炭素原子のモル比である。充電プロセスの際、比較的低いレドックス電位を有する水和層中のBr-が、まず、ほぼゼロの酸化価数(Br0)まで電気化学的に酸化され、すぐ近くの黒鉛中間層に挿入され、Cn[Br]としてのBr2 GICを形成する(式1)。更に充電すると、より高電位で、Cl-の酸化及びCl0のインターカレーションが水和層において起こる(式2)。これは、従来は観察されたことのないものであり、これにより、混合インターカレーション化合物Cn[BrCl]が形成される。各ハロゲンの酸化は、1つ電子の移動を伴い、Br及びClの各々に対して同じモル容量を提供する。同時に、Li+がバルク電解質に移動し、アノードで還元される。放電プロセスの際、逆反応が起こる。すなわち、Cl及びBrが続いて黒鉛中間層から脱離し、還元され、戻ったLi+と再結合し、黒鉛ホストの外側で固体のLiCl結晶及びLiBr結晶、並びに液状化ハロゲン化物を形成する。よって、全ての活物質LiCl及びLiBrが固体電極内にうまく保持され、溶解及びシャトルによって大幅な損失は発生しない。LBC-Gの熱力学反応ポテンシャルは、密度汎関数理論(DFT)計算によって確認した。LBC-G複合体のフル充電生成物C3.5[Br0.5Cl0.5]は、約4.2 Vの平均電位で251 mAh g-1の理論貯蔵容量を実現した。この変換インターカレーション化学構造においては、WiBS電解質は、その水分子が約4.9 V(Li/Li+1に対する)まで酸化されないため、電気化学的可逆性において役割を果たす。これにより、中間の電位(4.0 V~4.5 V)で起こるハロゲン化物の酸化/還元が可逆的になる。図4に示されるように、ハロゲンのみが酸化される一方で、Ti集電体及び黒鉛は、作動電位で損傷のないままである。
【0047】
定電流間欠滴定法(GITT)を用いて、様々な段階における準平衡電位及び反応速度を試験した。準平衡電位は、Br-の酸化/インターカレーション反応に対しては約4.05 Vであり、Cl-の酸化/インターカレーション反応に対しては約4.35 Vである(図5)。一方、全拡散係数は、10-15 cm2 s-1~10-13 cm2 s-1の範囲であると推定された(図5の挿入図における赤色曲線及び青色曲線)。また、LBC-Gカソードの拡散係数を、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を用いて検討した。ここで、ナイキストプロット(図6)は、各々、約1250 Hz及び約20 Hzに特性周波数を有する2つの半円を示した。高周波数域での半円は、黒鉛マトリックスの表面上での電荷移動抵抗に起因し、中周波数域の半円は、水和層における塩の溶解/析出及び反応物質の有限拡散に対応し、低周波数域での傾斜テイルは、黒鉛中のハロゲン拡散による。等価回路を用いたナイキストプロットのフィッティングにより、反応物質の見掛けイオン拡散係数(溶解/析出を含む)は、6.85×10-15 cm2 s-1~2.07×10-14 cm2 s-1であると推定されたが(図5の挿入図中の緑丸)、これは、GITT測定から推定された全拡散係数(diffusivity values)と非常に一致する。黒鉛中間層におけるハロゲンの拡散係数が極めて高いことを考慮すると、固体塩と黒鉛表面との間でのBr-及びCl-の物質移動が、この化学構造において律速段階を構成しており、これは、有限拡散挙動からも証明された。
【0048】
LBC-Gは、4.2 V(Li/Li+に対する)の平均放電電圧で、(電極の総重量に対して)231 mAh g-1の実用重量容量、(電極の総体積に対して)450 mAh mL-1の体積容量を提供し、970 Wh kg-1の極めて高いエネルギー密度をもたらす。これは、Ni系、Co系、及びMn系のインターカレーションカソード材料のほぼ2倍の大きさであり、又は硫黄変換カソードと同等である。しかしながら、LBC-Gの体積エネルギー密度は、硫黄の場合よりもはるかに大きい。高重量エネルギー密度及び高体積エネルギー密度の両方を有するLBC-Gの変換インターカレーションの性質により、LBC-Gはリチウムイオン電池において最も有用なカソード化学構造の1つとなる。
【0049】
LBC-Gの充放電の際のハロゲン種のインターカレーションメカニズムを調べるために、in situラマン分光法(100 cm-1~550 cm-1)を行った(図7)。充電状態(SOC)が0%~50%の場合、特徴的なピーク(ω0=242 cm-1)が検出された。これは、黒鉛に挿入されたBr2分子のストレッチモードに対応する。更に充電すると、BrClインターカラントの新たな特徴的なピーク(ω0=310 cm-1)が導入された。これは、黒鉛へのBrClの化学的インターカレーションによって作製された参照によって検証された。BrClインターカラントのピーク強度は、LBC-Gを4.5 Vまで充電すると共に高くなる。グラフェン層による電荷移動により、ハロゲンインターカラントの原子間結合が弱まる。これにより、周波数が自由Br2分子(液体)に対する318 cm-1からBr2インターカラントに対する242 cm-1にダウンシフトし、自由BrCl分子(気体)に対する427 cm-1からBrClインターカラントに対する310 cm-1にダウンシフトする。3.2 Vと4.5 Vとの間の充放電中、完全に挿入されたBrCl GICを高強度レーザービームで意図的に不安定化しない限り、自由Br2又は自由BrClのピークが検出されなかったことに留意されたい(赤色曲線、図7)。ハロゲン化物アニオンのレドックス反応によって生成された全てのハロゲンは、黒鉛フレークの表面上での単なる吸収ではなく、黒鉛構造に挿入されたと考えられる。放電プロセスの際に、ラマンスペクトルにおいて完全に可逆的な変化が観察された。
【0050】
様々なSOCでのハロゲンの酸化状態は、LBC-Gカソードにおけるレドックス反応順序を反映しており、ex situ X線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルを用いてモニターした。Br K端の場合には、Br原子内の1s→4p遷移に起因する、約13473 eVでの明確で鋭いピークが、LBC-Gカソードを充電した直後に出現した。図8を参照のこと。この「ホワイトライン」のピーク強度は、Brの4p軌道の正孔密度を反映しており、青方シフトした吸収端(1s→連続帯、約13480 eV)を伴って徐々に高くなった。充電プロセスの初めからBr-が正孔を取り、Br0に酸化されたことは明らかである。Cl K端(図9)の場合には、約2825 eVの単一の吸収端(1s→連続帯)のみが初回の充電プラトー(SOC:0%~50%)で観察され、これは、全てのClが-1の酸化状態にとどまっていたことを示している。Cl原子内の1s→3p遷移に起因する「ホワイトライン」のピーク(約2821 eV)の出現によって示されるように、LBC-GカソードにおけるCl-の酸化は、2回目の充電プラトー(SOC:50%~100%)でのみ発生するように思われる。GICに化学的に挿入したBr2及び液体Br2の参照スペクトル(図8の破線)と比較すると、Brはほとんど酸化されているようだが、初回の充電プラトー(SOC:0%~50%)では完全にはBr0に達していなかった。DFTシミュレーションにおける電子密度の分布によると、Brの酸化状態は、グラフェン層との電荷移動により、50%のSOCのBr2 GICでおよそ-0.16のままである。続いて挿入されたClは、以前に挿入されたBrと結合する傾向があり、Brの酸化状態は、Clと比較して相対的に電気陰性度(electron negativity)が低いため、Br0に近づいて更に高くなる(-0.05)が、Clの酸化状態は-0.25になる。
【0051】
このLBC-Gカソードにおけるハロゲン変換インターカレーションメカニズムは、様々なLiBr及びLiClのモル比でのLBC-Gカソードの充放電プロファイルによっても支持されている。図10及び図11。2つの充放電プラトーの容量比はLBC-GカソードにおけるLiBr/LiClモル比と高度に相関しており、これは、2つの異なる電位プラトーが、各々、Br及びClの個々のレドックス反応に起因することを示唆している。0.2 C以下の低レートでの低電位プラトー(4.25 V未満、図10)におけるLBC-Gカソード中のLiBrの重量によって算出された比容量は、LiBrの理論レドックス容量(309 mAh/g)に非常に近い。一方、高電位充電プラトー(4.25 V超)における比容量は、LiClの重量に基づいて算出すると、LiClの理論レドックス容量(632 mAh/g、図11)に近い。興味深いことに、高電圧プラトーにおけるLBC-Gカソードのクーロン効率は、LiBr/LiCl比の増加とともに高くなる。これは、黒鉛へのCl0の単独インターカレーションは、Br0と組み合わせない限り、熱力学的に安定していないことを示している。これは、黒鉛中の最も安定したCn[Br/Cl]のインターカレーション化合物が、LiBr/LiCl比が1:1に近い場合に達成されるためである。明確に対照的に、黒鉛ホストがない正味の(LiBr)0.5(LiCl)0.5は、初期充電中に高い酸化容量を発揮し得るが、気体状ハロゲンが失われるため、放電容量は非常に低くなる。炭素ホストは、その黒鉛化度に従ってクーロン効率を更に高めつつ、ハロゲンの表面吸着によって可逆性と放電容量を向上させることができる。黒鉛インターカレーションは、ハロゲンの酸化生成物を収容するための可逆的でコンパクトな方法を提供すると考えられる。
【0052】
in situラマン分光法(1200 cm-1~2850 cm-1)では、ハロゲンインターカレーション中の黒鉛超格子の構造変化が示された。図12。挿入されたゲスト種が存在する最も近い2つの層の間の挿入されていないグラフェン層の数として定義されるGICステージ番号mは、重要な情報を提供する。黒鉛Gバンド(1584 cm-1)は、ハロゲンインターカレーション(充電)時に徐々に減少して二重(E2g2(b)モード及びE2g2(i)モード)に分かれ、50%のSOCでステージIIのGIC構造に特徴的なピーク(1612 cm-1、E2g2(b)モードのG2バンド)に変化する。完全に充電した状態では、このピークは、ステージIのGIC構造を示す1631 cm-1に更にシフトする。また、黒鉛のDバンド(1350 cm-1)は、黒鉛にインターカレーションが行われた直後に消える。これはGICの典型的な性質である。放電プロセスの際に、ラマンスペクトルにおいて完全に可逆的な変化が観察される。
【0053】
X線回折(XRD)スペクトルから、LBC-Gカソードのステージ構造の詳細な変化が明らかとなった。LBC-Gカソードのex situ XRD(反射配置、図13)では、ハロゲンのインターカレーション/脱インターカレーションの際に、(0 0 m+1)のシフト主要ピークと(0 0 2m+2)の準主要ピークが示され、参照パターンを更に確認した。綿密な試験により、LBC-GのSOCが0%から50%に増加すると、主要ピークのd間隔が元の黒鉛(0 0 2)に対する3.35 ÅからステージIIのBr2 GICに対するd003 約3.45 Åに連続して進行することが示唆された。インターカラント通路(gallery)の高さがわずかに低かったため、Clの更なるインターカレーションによってd間隔が徐々に縮小し、最終的に、100%のSOCでステージIのBrCl GIC(d002 約3.43 Å)に到達したと考えられる。これは、ラマンスペクトルによって明らかになったインターカレーションプロセスと一致する。LBC-Gカソードのin situ XRD(図14)では、(0 0 m+1)のd間隔が充放電中に連続シフトしたことが示された。これは、ハロゲン原子の収容によりグラフェン中間層が徐々に膨張したことを示している。上述の進行の完全な逆転が放電プロセス中に再び観察された。これは、脱インターカレーション後に黒鉛構造が完全に回復していることを示しており、これが、優れた可逆性の基盤を提供する。ステージIで最も高濃度のGICが形成されることで、LBC-G変換インターカレーション化学構造の高容量が確保される。反応1及び反応2で提案された反応メカニズムは、LBC-GICのステージ番号と対応する充放電容量との間の一貫性によって確認される。
【0054】
GICにおけるハロゲンインターカラントの面内構造及び配位によって、LBC-Gカソード化学構造の最適なインターカレーション濃度を決定する方法が提供される。面内インターカレーション構造はインターカレーション濃度から独立していたため、Cn[Br]及びCn[BrCl]の化学量論nは、全体的なインターカレーション濃度に関係なく、各インターカレーションドメインで常に同じままである。50%及び100%のSOCでの(電解質及び集電体を除去した後の)LBC-Gカソードのex situ高エネルギーXRD(垂直入射)(図15)では、グラフェン層及びPTFEバインダーに固有なピーク以外に非対称で重なり合う複数のピークが示された。これから、インターカラント面内構造の長距離秩序が中間レベルであることが明らかである。50%のSOCでは、単結晶Br2 GIC参照に従って、低回折角の3つのピークのみを指標とすることができる。これは、多相共存、局所的な不規則性、及び構造歪みを示している。DFTシミュレーションから、2つの化学量論nである7及び8の整数倍に基づいて、複数の可能な面内構造を予測した。全ての予測から、2.4 Å~3.2 Åの最短面内距離を有する-Br-Br-又は-Br-Cl-のジグザグポリマー様鎖が明らかとなった(図16A及び16Bの挿入図)。興味深いことに、これらのモデルは全て非常に類似した電位(20 mV以内)を有しており、ex situ XRDパターンによって証明されているように、これらの理想化モデル構造の共存により、実際の材料がわずかに不規則である可能性があることを示している(図15)。分子動力学シミュレーションから、わずかなBr過剰又は隣接するインターカラント鎖間の相互作用による密なBr-Br接触が、全体的な構造に不規則性をもたらす可能性があることが予測される。しかしながら、360℃への短時間のアニーリング及び60℃への緩和の後に一定圧力条件下で100 psの追加シミュレーションを行っても、気体発生及びそれに続く黒鉛剥離の兆候は観察されなかった。
【0055】
50%及び100%のSOCで、LBC-GカソードのBr拡張X線吸収微細構造(EXAFS)をフィッティングすることにより(各々、図16A及び図16B)、最も適合性のあるモデルはC7m[BrBr]及びC7m[BrCl]であった。両方とも、C8m[BrBr]及びC8m[BrCl]の一貫した距離ではなく、2セットの最短面内距離(Br-X1及びBr-X2、X=Br又はCl)を有していた。グラフェン面のπ電子との相互作用により、ハロゲンインターカラントの最短面内距離の平均値は、Br-Br1で2.50 Å、Br-Br2で3.15 Åである一方で、Br-Cl1で2.43 Å、Br-Cl2で3.00 Åであった。これらは、Br2自由分子の結合距離(約2.30 Å)及びBrCl自由分子の結合距離(2.18 Å)よりも長かった。しかしながら、これらの最短面内距離は、アルカリ金属のGIC(4.31 Å~4.92 Å)及び大きなアニオンのGIC(例えば、PF6 -、BF4 -、TFSI-、8 Å~10 Å)の場合よりもはるかに短く、これにより、ハロゲンインターカラントは、報告されている全てのGICの中で最も高い面内密度の1つを有することになる。理論に縛られるものではないが、この高密度充填は主にハロゲンインターカラントの酸化価数がほぼゼロであることによるものであると考えられる。これは、Li GICに対する+0.90超、大きなアニオンに対する-1と比較して、ハロゲン原子当たりの平均有効電荷が約-0.16のはるかに低いクーロン反発力を生成する。
【0056】
水系LIBフルセルを、WiBSに由来する水系ゲル電解質を用いて、LBC-Gカソードを高フッ素化エーテル(HFE)ポリマーゲルで保護された黒鉛アノードと組み合わせることによって構成した。0.2 Cにて4.1 Vの平均電圧で、(アノードとカソードとの総質量に対して)127 mAh/gの安定した放電容量が得られ(図17)、この初期容量の74%が99.8%の平均クーロン効率で150回のサイクルにわたって保持された(図18)。自己放電率が低いことから、超高濃度水系ゲル電解質が望ましくない反応、特に水の分解及びカソードからのハロゲン活物質の損失を効果的に抑制したことが分かった。
【0057】
WiBSから2.4 mol%の水を抽出して水和LiBr/LiCl層を形成することは、高出力密度を達成するために重要であるため、WiSB電解質とカソードとの質量比は、LBC-Gカソードのレート性能に影響を与える可能性がある。図19の上部に示されるように、電解質/電極(カソード+アノード)の質量比が4:1から1:2に低下すると、レート容量が損なわれた。よって、幾つかの実施形態においては、電解質/電極比は、約1:1、典型的には約2:1、大抵約4:1である。一方、電解質と電極との比が高くなると、エネルギー密度が低下すると考えられる。1つの解決策は、LBC-Gカソードを作製する際に、LiBr一水和物及びLiCl一水和物(LiBr・H2O及びLiCl・H2O)を使用して、その無水塩を置き換えることである。これにより、水源としてのWiBS電解質への強い依存がなくなると考えられる。一水和物を含むLBC-Gカソードは、この一水和物によってもたらされる追加の水質量に起因して、比容量がわずかに低いこと(図17及び図18)を除いて、0.2 Cの低レートで無水のものとほぼ同じ充放電プロファイルを示した。しかしながら、LiBr・H2O-LiCl・H2O-G//Gフルセルのレート容量は、無水物のものよりもはるかに高く、電解質/電極の質量比の影響は最小限に抑えられている。LiBr-LiCl一水和物で構成された電池性能は電解質の量に依存しないため、このような水系LIBのエネルギー密度は、カソード(一水和物を含む)とアノードとの総質量に対して約460 Wh kg-1であると推定される。このようなエネルギー密度は、既知の水系電池では報告されておらず、現行の技術水準の既知の全ての非水系LIBよりも更に高い。電解質の質量を考慮しても、フルセルのエネルギー密度は304 Wh kg-1に達する可能性がある。この高いエネルギー密度は、その水系の性質のため、固有の安全性及び環境への低い影響性を伴うことに留意されたい。本明細書において開示されるこの新たな水系カソード化学構造によって、より高いエネルギーを有すると共に、費用効果が高く、安全で、柔軟性のある電池が提供される。
【0058】
非水系LIBコインセルを、高濃度の有機電解質を用いて、LBC-Gカソードをリチウムアノードと組み合わせることによって構成した。電流密度80 mA g-1で(カソードの質量に対して)151 mAh/gの高い放電容量が得られた(図20)。水系システムと同様に、2段階の反応には、Br-1の酸化(約3.6 V)及びCl-1の酸化(約3.8 V)、並びにそれに続く黒鉛構造へのインターカレーションが含まれていた。放電容量は、55%の初期クーロン効率に相当する83 mAh/gに低下した。一定の割合での低下は、主にBr2の溶解に起因する。ナフィオン固体電解質については、Br2の溶解を効果的に防ぐことができ、より安定した充放電性能を示す(図21)。
【0059】
本発明の更なる目的、利点及び新規の特徴は、本発明の以下の実施例の検討により当業者に明らかとなるが、これらは限定を意図するものでない。実施例において、推定実施される手順は現在時制で記載し、実験室で行なった手順は過去時制で述べる。
【実施例
【0060】
電極の作製
3電極セルに対して、無水LiBr(99.9%、Sigma-Aldrich)、無水LiCl(99.9%、Sigma-Aldrich)、及び合成黒鉛粉末(TIMCAL TIMREX(商標)KS4、平均粒径約4.1 μm)を、ジルコニアボールミルで15分間均一に混合することによって、(LiBr)0.5(LiCl)0.5-黒鉛複合体(LBC-Gサンプルとして指定)を得た。LiBr/LiClのモル比は1:1であり、LiBr/LiCl/黒鉛の質量比は約2:1:2であった。LiBr/LiCl一水和物を含むフルセルでは、無水LiBr/LiClをLiBr・H2O(99.95%、Sigma-Aldrich)及びLiCl(99.95%、Sigma-Aldrich)で置き換えることを除いて、全て同じ手順とした。他の対照サンプルは、複合体を調節することによって得た(LiCl-黒鉛の場合はLiCl/黒鉛が約1:3、(LiBr)0.5(LiCl)0.5-Tiの場合はLiBr/LiCl/チタンナノ粉末が約2:1:60、(LiBr)0.5(LiCl)0.5-ACの場合はLiBr/LiCl/活性炭素が約2:1:9、(LiBr)0.5(LiCl)0.5-CBの場合はLiBr/LiCl/黒鉛化アセチレンブラックが約2:1:9)。LBC-G複合体カソードは、チタン金属メッシュ(Alfa Aesar、100メッシュ)上で、LBC-G複合体とポリ(フッ化ビニリデン)(PTFE)とを95:5の重量比で圧縮することによって作製した。カソード材料の面積充填量は約38 mg cm-2であった。カソードの厚さは約200 μmである。黒鉛アノードは、ステンレス鋼メッシュ(200メッシュ)上で、合成黒鉛粉末(TIMCAL TIMREX(商標)KS44、粒径約45.4 μm)とポリ(フッ化ビニリデン)(PTFE)とを9:1の重量比で用いて作製した。
【0061】
電解質の作製
まず、21 mol kg-1のLiTFSI(98%、TCI Co., Ltd.)及び7 mol kg-1のLiOTf(99.996%、Sigma-Aldrich)を水(HPLCグレード)に溶解することによって、液体の「二塩中水」(WiBS)水系電解質を調製した。20重量%のポリ(エチレンオキシド)(PEO、平均Mv約600000、Sigma-Aldrich)をWiBS電解質と混合し、密封されたガラス型内にて80℃で1時間加熱することによって、水系ゲル電解質を調製した。室温まで冷却した後、粘着性のある半固体WiBSゲル電解質が得られた。これは、50℃で任意の形状に変化させることができる。
【0062】
HFE-PEOゲル保護コーティングを調製した。簡単に説明すると、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2',2',2'-トリフルオロエチルエーテル(Daikin America又はApollo)を、HFE/FEC(体積比=95:5)中で、0.5 MのLiTFSI(LiTFSI-HFEゲルと表示する)及び10重量%のPEO(Sigma-Aldrich)と混合し、撹拌しながら70℃で5分間加熱することによって、コーティングゲルを調製した。
【0063】
参照サンプルとしての化学的GICの作製
報告された手順に従って、化学的に挿入したBr2 GIC及びBrCl GICを参照サンプルとして合成した。例えば、Heald, S. M. & Stern, E. A. EXAFS study of Br2-graphite intercalation compounds. Synthetic Metals 1, 249-255, (1980)、及びFurdin, G., Bach, B. & Herold, A. A., C. R . Acad. Sci., Ser. C 271, 683, (1970)を参照のこと。簡単に説明すると、黒鉛フラスコ(TIMCAL TIMREX(商標)KS4)を、十分に密封されたフラスコ内で、高収縮のBr2(99.99%、Sigma-Aldrich)蒸気及びBrClガスに2時間曝露することによって、Br2 GIC及びBrCl GICを調製した。BrClは、Br2をトリクロロイソシアヌル酸と塩酸との反応によって得られた等モルのCl2と-70℃で混合することによって調製した。
【0064】
電気化学測定
3電極セルにおいて、LBC-G電極(又は他の参照電極)を作用電極として使用し、活性炭素を対電極として使用し、Ag/AgClを参照電極として使用した。作用電極と電解質との質量比は1:20であった。次いで、3電極セルを、Land BT2000バッテリーテストシステム(中国、武漢)を使用して、室温で定電流充放電した。サイクリックボルタンメトリーを、CHI 600E電気化学ワークステーションを使用して行った。GITT実験を、同じ電極構成の3電極装置で行った。サイクリングプロトコルは、20分間の0.2 C電流パルスと、120分間のOCV周期とを交互に行うことからなり、準平衡電位に到達する。様々な充放電状態でのLBC-Gカソード内の反応物質の見掛けイオン拡散係数(D)を、次の関係を使用してGITT測定より推定した。
【数1】
式中、Iは印加定電流密度であり、Vmは部分的に水和したLiBr/LiClのモル体積であり、Fはファラデー定数(96486 C mol-1)であり、Sは電解質と活物質との間の接触面積であり、dE/dxは組成xでの電量滴定曲線の勾配であり、dE/dt1/2は定電流パルス中の過渡電圧対時間の平方根のプロットから得ることができる。4点EIS測定を、Gamaryの345 interface 1000を使用して、目的の周波数範囲で5 mVの摂動を用いて行った。
【0065】
LBC-Gをカソードとして使用し、硫黄-炭素電極又は黒鉛電極のいずれかをアノードとして使用して、フルセルをCR2032型のコインセルとして組み立てた。黒鉛アノードセルの場合、カソード/アノード質量比は1.38:1に設定した。腐食を防ぐために、カソードとコインセルケースとの間にチタン金属箔ディスクを適用した。WiBSゲル電解質をフィルムに圧入して、電解質及びセパレーターの両方としてコインセルに適用した。全電極と電解質との質量比は、1:4~2:1の範囲であった。組み立て後、GPE自己修復のためにセルを50℃に加熱した。次いで、フルセルを、Land BT2000バッテリーテストシステム(中国、武漢)にて、室温で定電流サイクルした。
【0066】
フルセルの比(重量又は体積)エネルギー密度(E)を、以下の式から算出した。
E=C×U (4)
式中、Cは比(重量又は体積)セル容量であり、Uは平均出力セル電圧であった。重量容量Cmを、以下の式から算出した。
【数2】
式中、Ccellは絶対セル容量であった。mcathodeは、LiBr、LiCl、黒鉛、及びPTFEバインダーを含むカソードの総質量であった。manodeは、黒鉛、PTFEバインダー、及びポリマー不動態化コーティングを含むアノードの総質量であった。
【0067】
in situラマン及びXRD検討
in situラマン検討のために、(コインセル構成の)LBC-Gフルセルを0.1 Cで充放電した。カソード側に石英光学窓(φ=5 mm)を適用した。ラマンスペクトルを、Horiba Jobin Yvon Labram Aramisを用いて、3500 cm-1~60 cm-1の間のレーザー(波長=532 nm)を使用して収集した。高い信号対雑音比を得るために、4×4ポイントのデータを収集した。
【0068】
ex situ X線回折(XRD)の検討では、LBC-G電極(作用電極)を、0.1 Cで或る特定のSOCに充放電した後、3電極セルからリトレースした。in situ X線回折(XRD)の検討では、(コインセル構成の)フルセルを0.1 Cで充放電した。カプトン窓(φ=3 mm)をコインセルの両側に適用し、アノードを意図的に配置して、窓を通過するビームを避けるようにした。X線回折パターンを、斜入射配置のCu Kα線を用いてBruker D8 Advance X線回折装置で記録した。高エネルギーシンクロトロンXRD測定を、アルゴンヌ国立研究所のAdvanced Photon Source(APS)の11-ID-Cビームラインで行った。ビーム径0.2 mm×0.2 mm、波長0.1173 Åの高エネルギーX線を使用して、透過配置で2次元(2D)回折パターンを得た。X線パターンを、電池セルから1800 mmの位置に配置したPerkin-Elmerの大面積検出器で記録した。得られた回折パターンの間の間隔は5分であった。得られた2D回折パターンは、標準CeO2試料を使用して較正し、Fit2Dソフトウェアを使用して1Dパターンに変換した。
【0069】
GICの周期的な繰り返し距離(Ic)、インターカラント通路の高さ(di)は、以下の式を使用して算出することができる。
Ic=di+3.35 Å×(m-1)=l×dobs (5)
式中、lは積層方向に配向した(0 0 l)面のインデックスであり、dobsはXRDパターンにおいて2つの隣接する面の間の間隔の観察値である。これはブラッグの法則により回折角から算出することができる。元の黒鉛のd間隔は3.35 Åである。強度パターンは、ステージmの黒鉛インターカレーション化合物(GIC)で通常見られるが、最も主要なピークは(0 0 m+1)である。(0 0 m+1)のd間隔値を、ブラッグの法則によってXRDデータから算出した。これには、観察したGICの最も主要なステージフェーズを割り当てることができる。
【0070】
ex situ XANES及びEXAFSの検討
ex situ X線吸収分光(XAS)測定を、in situ XRD測定に使用したのと同じセル構成で行った。この実験は、アルゴンヌ国立研究所のAPSのビームライン20-BM-Bにて遷移モードで行った。XANES測定を、臭素(13474 eV)及び塩素(2825 eV)のK端で行い、カソードにおけるBr及びClの原子価状態の変化をモニターし、Bi(LIII端=13419 eV)のXANESスペクトルの一次微分点を使用してエネルギー較正を行った。Cl測定中、X線ビーム全体、試料、及び検出器はヘリウムガスで保護した。参照スペクトルを、ビスマス金属箔を参照チャネルに配置した各in situスペクトルについて収集した。EXAFSスペクトルは、Athenaを使用して整列、統合、及び正規化した。コインセルは、測定前に定電流で或る特定の電圧に充電した。
【0071】
まず、Athenaプログラムを使用して、X線吸収実験データを処理して、正規化振動振幅χexp(k)を抽出した。光電子波数kは、
【数3】
で定義される。式中、E0は吸収端エネルギーである。理論的に計算されたχth(k)は、EXAFS式で与えられる。
【数4】
式中、jは同一の後方散乱を有するシェルを示し、Njはシェルの配位数であり、fjは後方散乱振幅であり、Rjは平均距離であり、σjは平均二乗変動であり、δjは散乱位相シフトであり、λは有効平均自由行程であり、S0 2は振幅減少因子である。FEFF6を使用して、fj、δj、及びλを算出した。Artemisプログラムを使用して、実験データにフィッティングし、構造パラメータS0 2、Nj、Rj、σ2を改良した。フィッティング用の初期結晶構造は、DFT最適化ステージIIのC7[Br]及びステージIのC3.5[Br0.5Cl0.5]から開始する。S0 2は1.0に固定した。2つのΔEをフィッティングに使用した。一方はBr-Br(又はCl)行程用であり、他方は左側のBr-C行程用である。
【0072】
SEMイメージング及び比表面積測定
サイクル後のカソードのSEMを、5 kVで作動するHitachi S-4700を用いて行った。試料の比表面積は、MicromeriticsのASAP 2020 Porosimeter Test StationによるN2吸着によって特徴付けた。試験前に、試料を180℃で12時間(真空中で)脱気した。比表面積は、吸着枝からBET法を使用して算出した。
【0073】
WiSEにおけるLiBrの分子動力学シミュレーション
18 m(塩のmol/溶媒のkg)のLiBr水溶液、及び18 mのLiBr+21 mのLiTFSIの混合塩水溶液に対して、MDシミュレーションを363 Kで行った。MDシミュレーションでは、LiTFSI水溶液に対して、以前に修正したCHARMM H2O力場47をAPPLE&P多体分極可能力場と組み合わせて利用した。これにより、5 m~21 mの幅広い塩濃度範囲にわたって実験と非常によく一致したLiTFSI-H2Oのイオン伝導率、イオン及び水の自己拡散係数、粘度、並びに密度が予測された。
【0074】
MDシミュレーションに、自社開発のMDシミュレーションパッケージの並列バージョンを使用する。18 mのLiBr水溶液シミュレーションセルは、448個のLiBr分子と1390個のH2O分子とを含有していた。混合塩MDシミュレーションセルは、1380個のH2Oと、512個のLiTFSIと、448個のLiBrとを含有していた。シミュレーションした全ての(LiTFSI)n(LiBr)m(H2O)k複合体により、70 Å及び95 Åの大きなシミュレーションセルが得られた。シミュレーションボックスの寸法は徐々に60 Åに減少した。Br/Brアニオン及びTFSI/TFSIアニオンをシミュレーションボックス全体に均一に分散させるために、Br/BrアニオンとTFSI/TFSIアニオンとの間の反発力を増加させた修正力場を使用して、363 Kの混合塩系に対して、NPTシミュレーションを363 Kで2 nsで行った。NPTアンサンブルにおけるMDシミュレーションの9 ns後に、LiBr(H2O)nがLiTFSI(H2O)mドメインから大幅に分離された。このような挙動は、相分離の初期段階を示すものであり、実験での観察と一致している。
【0075】
MDシミュレーションにおいて、永久電荷を伴う永久電荷と、k=63ベクトルの誘導双極子モーメントを伴う永久電荷との間の静電相互作用を扱うために、エバルトの合計法を利用した。0.5 fsの内部時間ステップ(結合相互作用)、7.0 Å~8.0 Åの切り捨て距離内の全ての非結合相互作用に対する1.5 fsの中央時間ステップ、及び7.0 Åと小さい方の非結合切り捨て距離19 Åとの間の全ての非結合相互作用に対する3.0 fsの外部時間ステップで、複数の時間ステップの統合を採用した。エバルトの逆数部分は、複数の時間ステップのうち最大のものでのみ更新した。Nose-Hooverサーモスタット及びバロスタットを使用して、10-2 fs及び0.1×10-4 fsの関連周波数で温度と圧力を制御した。原子座標を、事後分析のために2 psごとに保存した。
【0076】
原子双極子分極可能APPLE&P力場を使用したMDシミュレーションの、18 mのLiBr水溶液の密度及び導電率を予測する能力を333 Kで調べた。NPTアンサンブルにおける3 nsの平衡化後、NVTアンサンブルにおける8 nsのMDシミュレーションにより1649 kg m-3の電解質密度を予測した。これは、実験での密度1636.5 kg m-3よりも0.8%高い。50イオン伝導率(σ)を、以下の式に示すアインシュタインの関係式を使用して抽出した。
【数5】
式中、eは電子電荷であり、Vはシミュレーションボックスの体積であり、kBはボルツマン定数であり、Tは温度であり、tは時間であり、zi及びzjはLi+及びBr-の電荷であり、Ri(t)は時間tの間のイオンiの変位であり、<>はアンサンブル平均を示し、Nは拡散数である。シミュレーションセルのサイズが有限であるため、長距離の流体力学的相互作用が拡散を制限する。自己拡散係数に対するリーディングオーダー有限サイズ補正(FSC)は、以下の式で与えられる。
【数6】
式中、kBはボルツマン定数であり、Tは温度であり、Lはシミュレーション周期セルの線形寸法であり、粘度である。FCS補正後、MDシミュレーションにより、18 mのLiBr電解質の導電率が75 mS/cmであることが予測された。これは、実験的に求めた導電率98.89 mS/cmよりも30%低いが、高濃度電解質に対しては十分に正確である。
【0077】
インターカレーション構造構成のDFTシミュレーション
Vienna Ab Initio Simulation Package(VASP)に実装されている、平面波基底関数系と射影補強波(PAW)法とを使用したDFTを用いて全ての計算を行った。一般化勾配近似(GGA)におけるPerdew-Burke-Ernzerhof(PBE)汎関数を採用して、交換相関エネルギーを計算した。平面波基底には580 eVのエネルギーカットオフを使用し、ブリルアンゾーンはMonkhorst-Packスキームを使用してサンプリングした。optB86bのファンデルワールス密度汎関数(vdW-DF)を使用して、ファンデルワールスエネルギーを補正し、全ての場合において正確な層間間隔値を得た。C7[Br]、C3.5[Br0.5Cl0.5]及びC8[Br]、C4[Br0.5Cl0.5]に対して可能な構成の2つのセットを考慮した。これらの構成において、Br原子及びCl原子はランダムに初期化した。共役勾配法を使用して形状の最適化を行った。収束閾値は、エネルギーにおいて10-5 eV、力において0.01 eV/Åに設定する。電荷差プロットは、各々、C7[Br](C3.5[Br0.5Cl0.5])の電荷密度から、黒鉛及びBr(BrCl)の両方の電荷密度を引くことによって得た。原子上の電荷分布は、Bader解析法を使用して決定した。VESTAソフトウェアを使用して構造の視覚化を行った。
【0078】
インターカレーション電圧ステッププロファイルシミュレーション
CP2K v5.1で、分散補正(D3)PBE汎関数及びダブルゼータ(臭化物の場合はトリプルゼータ)短距離、分子的に最適化された原子価基底関数系、並びにコア電子に適当なGoedecker-Teter-Hutter(GTH)擬ポテンシャルを用いて、インターカレーション電圧プロファイルを計算した。平面波エネルギーカットオフは1000 Ryに設定し、ブリルアンゾーンはΓポイントでのみサンプリングした。形状及びセルの最適化は、0.0005 auのステップ間の原子位置の最大変化に収束した。他の収束基準はデフォルトのままであった。
【0079】
Li+/Liに対するインターカレーション電圧(Eint)は、エントロピーの寄与が無視できると仮定して、一連のエネルギー計算から以下のように計算することができる。
【数7】
式中、nxはアニオンの数であり、E(GrX)は挿入された黒鉛通路のエネルギーであり、E(Gr)はAB積層における純粋な黒鉛のエネルギーであり、Edesolv(LiX)は、PBEPBE+D3/6-31G(d)によるガウス計算からのクラスター連続法(最大8つの明示的な水を使用)を使用したLiX接触イオンペアの脱溶媒和エネルギーであり、Egas(LiX)は、10 Å×10 Å×10 ÅのセルにおけるLiX接触イオンペアのエネルギーであり、Eb(Li)は、バルク金属におけるLi当たりのエネルギー(-204.1894 eV/Li)である。ステージI~IV及びVIでは、12層の炭素でモデル化した。ステージVは、10層の炭素でモデル化した。各層は112個の炭素原子からなっていた。
【0080】
本発明の上述の考察は、例示及び説明の目的で提示されている。上記は、本明細書に開示されている単数又は複数の形態に本発明を限定する意図はない。本発明の記載は、1つ以上の実施形態並びに或る特定の変形形態及び変更形態の記載を含むが、他の変形形態及び変更形態も本発明の範囲内にある、例えば、本開示を理解した後に当業者の技能及び知識内にある場合がある。許容される範囲まで代替的な実施形態を含む権利を得ることが意図され、これには、特許請求されるものに対して代替の、互換可能な、及び/又は均等の構造、機能、範囲、又は工程が、そのような代替の、互換可能な、及び/又は均等の構造、機能、範囲、又は工程が本明細書に開示されているかにかかわらず、またいずれの特許請求可能な主題にも公然と供する意図はなく含まれる。本明細書に引用される全ての参考文献は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【国際調査報告】