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特表2022-524033ジルコニウム合金の処理方法及び用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-27
(54)【発明の名称】ジルコニウム合金の処理方法及び用途
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/04 20060101AFI20220420BHJP
   A61L 27/10 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
A61L27/04
A61L27/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021552811
(86)(22)【出願日】2019-11-13
(85)【翻訳文提出日】2021-10-26
(86)【国際出願番号】 CN2019117752
(87)【国際公開番号】W WO2020177382
(87)【国際公開日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】201910172951.X
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521285045
【氏名又は名称】スーチョウ マイクロポート オーソレコン カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シェン,ユー
(72)【発明者】
【氏名】ユー,ティエンバイ
(72)【発明者】
【氏名】ウェン,チー-シン
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB05
4C081AB06
4C081AB18
4C081AB31
4C081AB36
4C081AC03
4C081CF122
4C081CG08
4C081DC02
4C081DC03
4C081EA16
(57)【要約】
ジルコニウム合金の表面層に表面層酸化及び除去処理を実行することを含む、ジルコニウム合金の処理方法。表面層酸化及び除去処理は、ジルコニウム合金の表面層に酸化処理を実行して酸化物表面層(41)を得ること、及び次いで、酸化物表面層(41)を除去して金属基材(30)を露出させることを含む。本出願はまた、ジルコニウム合金の表面酸化物セラミック層(10)を製造する方法、及び医療用インプラントのための材料を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム合金を処理する方法であって、ジルコニウム合金に表面層酸化及び除去処理を実行するステップを含み、表面層酸化及び除去処理が、ジルコニウム合金の表面層に酸化処理を実行して酸化物表面層を得ること、及び酸化物表面層に除去処理を実行して金属基材を露出させることを含む、方法。
【請求項2】
ジルコニウム合金が、0.5重量%~8重量%の範囲に及ぶハフニウム元素の初期含有率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化処理が、500℃~700℃の温度かつ0.5時間~10時間の処理時間において実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酸化物表面層が、研削、微細機械加工、機械的研磨、振動研磨又はこれらの任意の組み合わせによって除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
除去処理において除去される酸化物表面層の厚さが、1μm~20μmの範囲に及ぶ、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
除去処理において除去される酸化物表面層の厚さが、3μm~12μmの範囲に及ぶ、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
表面層酸化及び除去処理を実行するステップを1~5回反復することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ジルコニウム合金の表面に酸化物セラミック層を生成する方法であって、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法によってジルコニウム合金を処理すること、及び露出した金属基材の表面に酸化処理を実行することを含む、方法。
【請求項9】
酸化物セラミック層が、0.3重量%~6重量%の範囲に及ぶハフニウム元素の含有率を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によって調製され、金属基材、酸素リッチ拡散層及び酸化物セラミック層を含み、金属基材がジルコニウム合金で作製されている、医療用インプラントにおける使用のための材料であって、金属基材中のハフニウム元素の含有率が、酸化物セラミック層中のハフニウム元素の含有率よりも高い、材料。
【請求項11】
金属基材中のハフニウム元素の含有率が0.5重量%~8重量%の範囲に及び、酸化物セラミック層中のハフニウム元素の含有率が0.3重量%~6重量%の範囲に及ぶ、請求項10に記載の材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、医療用インプラントのための材料の分野に関し、特に、ジルコニウム合金の処理方法及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用インプラントにおける使用のための材料には、高い強度、耐腐食性及び組織適合性を有することが要求される。これによって、金属合金の一部のみ、例えば、ベアリング人工器官及び非ベアリング人工器官を製造するための最も好適な材料として近年認識されている、316Lステンレス鋼、コバルト-クロム-モリブデン合金、チタン合金及びジルコニウム合金が、上記要件を満たす望ましい材料となる。
【0003】
概して、ジルコニウム合金は、1.5GPa~3GPaの範囲に及ぶ硬度を有する比較的柔らかい表面を有するため、より硬い第3の物体の粒子による摩損に対して脆弱となり、したがって、不良な耐摩耗特性を持つ。伝統的に、ジルコニウム合金の表面硬度は通常、先行技術における表面酸化又は表面窒化によって改善される。表面酸化の原理は、ジルコニウム合金上に酸化物セラミック表面を形成することである。酸化ジルコニウムの表面硬度は、最大12GPaであり得る。図1は、酸化物セラミック表面の構造モデルを示す。示されるように、酸化物セラミック表面層は通常、5~6μmの厚さを有し、約1.5~2μmの厚さを有する酸素リッチ拡散層が、酸化物セラミック表面層及び金属基材の間の境界面に存在する。このような構造によって、硬いセラミック表面を与えるとともにジルコニウム合金基材の良好な可塑性を保つことができ、これによって、摩耗及び引っ掻きに対する改善された表面耐性をもたらし、人工器官の製造にセラミック材料を使用することで起こる脆性クラッキングのリスクが回避される。
【0004】
米国特許第2,987,352号明細書及び同第3,615,885号明細書はそれぞれ、空気中でジルコニウム合金を加熱して、合金上に酸化物セラミック表面層を形成する手法を記載している。このような手法によって処理された医療用インプラントの表面は、摩耗、引っ掻き及び脆性クラッキングに対する優れた耐性を持ち、これによって、このような手法の良好な効果が示される。現在、実際の製造において使用されるジルコニウム合金材料は、表面酸化されて濃青色を有する酸化物セラミック表面層を形成する、原子力産業で使用されるジルコニウム合金材料に端を発する。濃青色を有する酸化物セラミック表面層は高い緻密度を有し、クラックはわずかである。しかしながら、原材料の非常に高い価格のため、最終製品は非常に高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第2,987,352号明細書
【特許文献2】米国特許第3,615,885号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般産業において使用される、遥かに低い価格を有するジルコニウム合金材料を採用して、酸化物セラミック表面層を有する医療用インプラントを生産する場合、同じ加工によって処理しても、灰白色を有する酸化物セラミック表面層を生じることになる。実際に、灰白色を有する酸化物セラミック層は、緻密度及び結合強度が粗悪であることが見出されており、これらの中には、断面サンプルの調製中に表面から酸化物粒子の脱落が見られるものさえある。表面から剥離した酸化物粒子は非常に高い硬度を有するため、このようなタイプの酸化物セラミック表面層でジルコニウム合金の耐摩耗性を改善することはできず、しかし大量の剥離酸化物粒子の発生に起因して摩耗の速度が加速し、医療用インプラントの製造のためには適用できない。
【0007】
そのため、生成する酸化物セラミック層の性能が要件を満たすという前提のもと、原子力産業において使用される高価なジルコニウム合金材料を、一般産業において使用されるジルコニウム合金材料で置き換えて費用を低下させることができる方法を開発することが望ましい。
【0008】
本発明者らは入念な研究を通じて、ジルコニウム合金についての酸化物セラミック層の緻密度の低さは、ジルコニウム合金材料中にハフニウム元素を過剰に含有するためであると考えられ、これによって多量のマイクロクラックが酸化物セラミック層に生じることを見出した。本出願は、ジルコニウム合金の表面におけるハフニウム元素の含有率を低減する方法及びその用途を提供して、ジルコニウム合金についての多量のマイクロクラック及び酸化物セラミック層の緻密度の低さという問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記技術的問題を解決するため、本出願の技術的解決は、
ジルコニウム合金を処理する方法であって、ジルコニウム合金に表面層酸化及び除去処理を実行するステップを含み、表面層酸化及び除去処理が、ジルコニウム合金の表面層に酸化処理を実行して酸化物表面層を得ること、及び酸化物表面層に除去処理を実行して金属基材を露出させることを含む、方法を提供する。
【0010】
任意選択で、ジルコニウム合金は、0.5重量%~8重量%の範囲に及ぶハフニウム元素の初期含有率を有する。
【0011】
任意選択で、酸化処理は、500℃~700℃の温度かつ0.5時間~10時間の処理時間において実施される。
【0012】
任意選択で、酸化物表面層は、研削、微細機械加工、機械的研磨、振動研磨又はこれらの任意の組み合わせによって除去される。
【0013】
任意選択で、除去処理において除去される酸化物表面層の厚さは、1μm~20μmの範囲に及ぶ。
【0014】
任意選択で、除去処理において除去される酸化物表面層の厚さは、3μm~12μmの範囲に及ぶ。
【0015】
任意選択で、この方法は、表面層酸化及び除去処理を実行するステップを1~5回反復することをさらに含む。
【0016】
本出願はまた、ジルコニウム合金の表面に酸化物セラミック層を生成する方法であって、上記方法によってジルコニウム合金を処理すること、及び露出した金属基材の表面に酸化処理を実行することを含む、方法を提供する。
【0017】
任意選択で、酸化物セラミック層は、0.3重量%~6重量%の範囲に及ぶハフニウム元素の含有率を有する。
【0018】
本出願はまた、金属基材、酸素リッチ拡散層及び酸化物セラミック層を含み、金属基材がジルコニウム合金で作製されている、医療用インプラントにおける使用のための材料であって、金属基材中のハフニウム元素の含有率が、酸化物セラミック層中のハフニウム元素の含有率よりも高い、材料を提供する。
【0019】
任意選択で、金属基材中のハフニウム元素の含有率は0.5重量%~8重量%の範囲に及び、酸化物セラミック層中のハフニウム元素の含有率は0.3重量%~6重量%の範囲に及ぶ。
【発明の効果】
【0020】
本出願の技術的解決では、高含有率のハフニウム元素を有するジルコニウム合金の酸化物セラミック表面層中の酸化ハフニウムの含有率を低下させて、高ハフニウム含有率ジルコニウム合金の酸化物セラミック表面層におけるマイクロクラックの問題を解決し、したがって、耐摩損性、硬度及び耐損傷性が改善した酸化物セラミック層を与えることができる。それだけでなく、この方法は単純であり、低費用である。加えて、高価な低ハフニウム含有率ジルコニウム合金を原材料として使用する方法と比較して、本出願において提供する方法は、同等の性能を有する酸化物セラミック層を達成できるのみならず、原材料の費用を劇的に低減することによって、市場における競争力を高めることができる。特に、本出願において提供する方法は、関節人工器官における使用のための材料の表面処理に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】先行技術においてジルコニウム合金上に形成される酸化物セラミック表面層の断面構造を、模式的に示す図である。
図2】特定の実施形態による、ジルコニウム合金上の酸化物セラミック表面層中の酸化ハフニウムの含有率を低減するプロセスを、図によって示すフローチャートである。
図3】実施形態1によるサンプル1の酸化物セラミック層の断面を示す、走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図4】実施形態1によるサンプル2の酸化物セラミック層の断面を示す、走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図5】実施形態1によるサンプル3の酸化物セラミック層の断面を示す、走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図6】実施形態1によるサンプル1~3の酸化物セラミック層の硬度曲線グラフである。
図7】60kgの荷重下でロックウェルダイヤモンド圧子によって生じた、実施形態1によるサンプル2の押し込み写真である。
図8】60kgの荷重下でロックウェルダイヤモンド圧子によって生じた、実施形態1によるサンプル3の押し込み写真である。
図9】実施形態2によるサンプル4の酸化物セラミック層の断面モルフォロジーを示す、金属顕微鏡画像である。
図10】実施形態2によるサンプル5の酸化物セラミック層の断面モルフォロジーを示す、金属顕微鏡画像である。
図11】実施形態2によるサンプル6の酸化物セラミック層の断面モルフォロジーを示す、金属顕微鏡画像である。
図12】実施形態2によるサンプル4~6の酸化物セラミック層の硬度曲線グラフである。
【0022】
図面において、
10 酸化物セラミック表面層、20 酸素リッチ拡散層、30 金属基材、40 第1の表面層、41 第1の酸化物表面層、42 第2の表面層、及び43 第2の酸化物表面層である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは調査及び研究を通じて、2つの元素が本来は共存するため、ジルコニウム合金材料は不純物として一定量のハフニウム元素を不可避的に含有することを見出した。ジルコニウム鉱石において、ハフニウム元素の重量百分率のジルコニウム元素の重量百分率に対する比は、概して、1.5%~3.0%の範囲に及ぶ。ハフニウム元素及びジルコニウム元素の特性が非常に近いことにより、ハフニウム元素をジルコニウム元素から分離することは困難である。ハフニウムをジルコニウムから分離するための現行の技術は、すべて費用がかさみ、環境汚染を生じる傾向がある。一般的な産業用途では、ハフニウムの存在は合金の機械的特性及び化学的特性に影響しないため、ハフニウム元素の除去は概ね必要ではない。しかしながら、原子力産業では、ハフニウム元素が大きな熱中性子吸収面積を有するため、ハフニウムの存在によって、原子力産業における被覆材料としてのジルコニウム合金の使用が妨害される。そのため、ハフニウムをジルコニウム合金から分離して、非常に低含有率(<0.005%)のハフニウム元素を有するジルコニウム合金を生成する必要がある。
【0024】
酸化物セラミック表面層の検出を通じて、一般産業における使用のためのジルコニウム合金材料から生成した酸化物セラミック層の表面及び内部には、多数のマイクロクラックを有することが見出されている。酸化物セラミック層中の様々な主だった元素の含有率が、酸化物セラミック層の表面及び異なる断面深さにおいて測定されている。測定結果から、酸化ハフニウムが酸化物セラミック層内に広く分散していることが見出されている。
【0025】
本発明者らは上記事実から、酸化物セラミック層の緻密度減少の主要な理由は、酸化物セラミック層中の酸化ハフニウムが引き起こす、酸化物セラミック層中でのマイクロクラックの形成であると推測している。
【0026】
様々な主だった元素の含有率が、酸化されたジルコニウム合金の金属基材、酸素リッチ拡散層、及び酸化物セラミック表面層の表面において、並びに酸化物セラミック表面層の異なる断面深さにおいて測定されている。測定結果から、酸化ハフニウムは酸化物セラミック層内に広く分散しているが、ジルコニウム合金基材におけるハフニウム元素の含有率は、酸化物セラミック層の近くでは下がることが見出されている。
【0027】
この現象の原理は、以下の通りであり得る。酸化において、二酸化ハフニウムの形成についてのギブズ自由エネルギーは-1087.2kJ/molであり、二酸化ジルコニウムの形成についてのギブズ自由エネルギーは-1038.7kJ/molである。二酸化ハフニウムの形成についてのギブズ自由エネルギーは、二酸化ジルコニウムの形成についてのものよりも低いため、ハフニウム元素は、ジルコニウム元素よりも容易に酸素と化合する。ハフニウム原子は、酸化において優先的に酸素に結合し、したがって表面で濃縮する。これによって、ジルコニウム合金基材におけるハフニウム元素の含有率が、酸化物セラミック層の近くでは減少する。
【0028】
したがって、第1の表面酸化の後、ハフニウム元素が濃縮された酸化物表面層(すなわち、酸化物セラミック層及び酸素リッチ拡散層)は、ハフニウム元素の含有率が低下した表面付近の基材まで研削及び研磨される。次いで、このような表面(すなわち、表面付近の基材)に第2の表面酸化を実行して、ハフニウム元素の含有率が低減した酸化物セラミック表面層を得ることによって、酸化物セラミック表面層内のマイクロクラックが低減し、酸化物セラミック表面層の品質が改善される。このような方法では、表面におけるハフニウムの含有率を低減できるに過ぎないが、合金内のハフニウムの存在は医療用インプラントの性能に影響を及ぼさないため、医療用インプラントにおける使用のための材料としてはまったく好適である。その上、原子力産業のためのジルコニウム合金を原材料として使用する方法と比較して、この方法は、原材料の入手がより容易であること及び遥かに低い費用の点で有利である。
【0029】
詳細には、本出願は以下の方法によって、医療用インプラントにおける使用のための材料を調製する。このような材料は、内側から外側に配列された、金属基材30、酸素リッチ拡散層20及び酸化物セラミック層10を含む。金属基材30は、表面酸化されていないジルコニウム合金である。酸化物セラミック層10は、酸素元素が本質的に酸化物の形態で存在する層である。酸素リッチ拡散層20は、酸素の含有率が金属基材中の酸素の含有率よりも高く、酸素元素が本質的に溶質原子の形態で存在する層である。ハフニウムは、0.5重量%~8重量%の量で金属基材30中に存在する。酸化物セラミック層10は、金属基材30よりも低いハフニウムの含有率を有し、ハフニウムの含有率は0.3重量%~6重量%、好ましくは0.3重量%~2重量%、より好ましくは0.3重量%~1重量%、例えば、0.4重量%、0.5重量%、0.7重量%又は0.9重量%である。
【0030】
図2に示すように、医療用インプラントにおける使用のための材料を調製する方法のステップは、以下の通りである。
【0031】
(1)0.5重量%~8重量%のハフニウム含有率を含有するジルコニウム合金金属基材30の第1の表面層40に、表面酸化処理を実行するステップ。表面酸化処理は、空気中又は任意の他の酸素含有雰囲気中で実行され得る。あるいは、蒸気、水浴又は塩浴を使用して実行されることもある。表面酸化プロセスは、500℃~700℃、好ましくは550℃~600℃の酸化温度において、0.5~10時間、好ましくは4~6時間の処理時間の間、実行され得る。表面酸化処理の後、中にハフニウムが濃縮された第1の酸化物表面層41が、金属基材30の表面に形成される。第1の酸化物表面層41は、酸素リッチ拡散層20及び酸化物セラミック層10からなる。
【0032】
(2)ハフニウムが濃縮された第1の酸化物表面層41を、研削、微細機械加工、機械的研磨、振動研磨及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される手法によって、1~20μm、好ましくは3~12μmの除去厚さで除去して、ハフニウム元素の含有率が低減した第2の表面層42を露出させるステップ。好ましくは、除去厚さは、第1の酸化物表面層41を正確に除去できる厚さとして選択される。すなわち、除去厚さは、酸素リッチ拡散層20及び酸化物セラミック層10を部分的な金属基材と一緒に、正確に除去できる厚さとして選択される。酸素リッチ拡散層20及び酸化物セラミック層10のそれぞれの厚さは、材料の断面測定から決定することができる。これは、酸素リッチ拡散層20及び酸化物セラミック層10が両方、肉眼によって材料の断面から区別できるためである。あるいは、厚さはまた、使用した酸化条件及び従前の経験に基づいて推測してもよい。
【0033】
(3)ステップ(1)を反復し、別の表面酸化処理を実行して、ハフニウム元素の含有率が低減した第2の酸化物表面層43を形成するステップ。
【0034】
(4)形成される酸化物セラミック層が、0.3重量%~6重量%、好ましくは0.3重量%~2重量%、より好ましくは0.3重量%~1重量%の低減したハフニウム含有率を有するまで、ステップ(1)~(3)を1回以上、好ましくは1~5回反復するステップ。
【0035】
理解を容易にするために、本出願において提供するジルコニウム合金の酸化物セラミック表面層中の酸化ハフニウムの含有率を低減する方法を、いくつかの実施形態を参照しながら以下に記載する。これらの実施形態は、説明の目的のために記載するに過ぎず、いかなる意味でもその保護範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0036】
特に述べない限り、以下の実施形態において使用する各材料又は試薬は市販されており、各プロセス又はパラメータは、現行の技術によって実現することができる。
【0037】
[実施形態1]
0.005%未満及び約2.26%のハフニウム含有率を有するジルコニウム合金を550℃に加熱し、それぞれ空気中でこの温度にそれらの合金を6時間維持することによって、それぞれ酸化物セラミック表面層を有するサンプル1及び2を調製した。断面モルフォロジーを示す走査型電子顕微鏡(SEM)画像を図3及び4に示した。画像のそれぞれにおいて、左に酸化物セラミック層、中間に酸素リッチ拡散層、右に金属基材があった。図3において見て取れるように、サンプル1の酸化物セラミック表面層は、欠陥がわずかで高い緻密度を有する。しかしながら、図4に示されるように、サンプル2の酸化物セラミック表面層には多数のマイクロクラックがあった。サンプル2の元素分析結果は、酸化物セラミック表面層(位置aにおける1.53重量%及び位置bにおける1.80重量%)並びに酸素リッチ拡散層(位置cにおける2.09重量%)は高含有率のハフニウム元素を有し、一方で酸化物セラミック層付近の基材の位置(位置d)では、合金の初期ハフニウム含有率(2.26重量%)よりも著しく低いハフニウム含有率(1.3重量%)を有することを示している。
【0038】
サンプル2の酸化物セラミック表面層を、機械的研削、研磨又は別の手法によって、約10μmの除去厚さで除去した。すなわち、酸化物セラミック表面層及び酸素リッチ拡散層を除去して、ハフニウム含有率が低い表面を露出させた。続いて、ハフニウム含有率が低い表面に、550℃に加熱し、空気中でこの温度に6時間維持することによる表面酸化処理を実行して、サンプル3を得た。図5は、サンプル3の断面モルフォロジー及び異なる位置における様々な元素の含有率を示す。図5において見て取れるように、上記方法によって得たサンプル3の酸化物セラミック表面層は、顕著なクラックがなく高い緻密度を呈する。エネルギー分散分析(EDS)によって測定した、サンプル2及び3の異なる断面位置における様々な主だった元素の百分率を、それぞれ図4及び5の右上隅に列挙した。測定は、サンプル3の酸化物セラミック表面層(位置a及びb)において、ハフニウム元素の含有率が大きく低減したことを示している。サンプル2の表面層について、ジルコニウム、ニオブ及びハフニウムの合計含有率中のハフニウムの百分率は約2.28重量%であり、一方で上記方法によって得たサンプル3の表面層について、ジルコニウム、ニオブ及びハフニウムの合計含有率中のハフニウムの百分率は約1.18重量%である。
【0039】
図6は、サンプル1~3の酸化物セラミック表面層の硬度曲線グラフを示す。硬度曲線グラフは、CSM(連続剛性測定)モードにおいて、ナノインデンテーション機器により、最大500nmの押し込み深さで測定され、プロットした値は、200~400nmの範囲内の押し込み深さにおいて測定した平均硬度であった。サンプル1及び3はそれぞれ、高い表面硬度値(それぞれについておよそ14.2GPa)を呈するが、一方でサンプル2は低い表面硬度値(およそ11.1GPa)を呈する。硬度値の増大は、材料の耐摩耗性の改善を実証している。したがって、この方法によって、高いハフニウム含有率を有するジルコニウム合金によって形成された酸化物セラミック表面層の耐摩耗性を改善することができる。
【0040】
図7及び8はそれぞれ、60kgの荷重下でロックウェルダイヤモンド圧子によって生じた、サンプル2及び3の押し込みを示し、酸化物セラミック表面層の抗潰れ特性を示している。見て取れるように、サンプル2に生じた押し込みはサンプル3のものよりも深くかつ広く、上記方法が、高含有率のハフニウム元素を有するジルコニウム合金の抗潰れ特性を改善できることを実証している。
【0041】
[実施形態2]
0.005%未満及び約1.8%のハフニウム含有率を有するジルコニウム合金を600℃に加熱し、それぞれ空気中でこの温度に4時間維持することによって、それぞれ酸化物セラミック表面層を有するサンプル4及び5を調製した。金属顕微鏡を用いてサンプル4及び5の断面モルフォロジーを観察し、対応する金属顕微鏡画像をそれぞれ図9及び10に示した。画像のそれぞれにおいて、左に酸化物セラミック層、中間に酸素リッチ拡散層、右に金属基材があった。サンプル5と比較して、サンプル4は、高い内部緻密度、基材との境界面にいかなる裂け目もない密な結合、及び約9.66μmの厚さを備える酸化物セラミック表面層を有する。サンプル5は、約10.51μmという相対的に大きな厚さ、低い内部緻密度及び多数のマイクロクラック、さらにはクラッキングの傾向を備える酸化物セラミック層を有する。加えて、サンプル5の酸化物セラミック層は、明確な裂け目を有する、基材との不良な結合を有する。機械的研削、研磨又は別の手段を通じて、サンプル5の約12μmの表面厚さを除去することによって、サンプル5の酸化物セラミック表面層及び酸素リッチ拡散層の両方を除去した。続いて、サンプル5を再び空気中で4時間、600℃で加熱して、サンプル6を得た。サンプル6の金属断面モルフォロジーを図11に示した。サンプル6の酸化物セラミック層のモルフォロジーは、サンプル4の酸化物セラミック層のモルフォロジーに類似する。したがって、本出願の方法による処理後に、形成されたサンプル6の酸化物セラミック層は、約8.29μmの厚さを有し、大幅に改善された品質を獲得することによって、サンプル4に類似した低いハフニウム含有率を達成することができる。
【0042】
図12は、サンプル4~6の酸化物セラミック表面層の硬度曲線グラフを示す。硬度曲線グラフは、CSM(連続剛性測定)モードにおいて、ナノインデンテーション機器により、最大500nmの押し込み深さで測定され、プロットした値は、200~400nmの範囲内の押し込み深さにおいて測定した平均硬度であった。サンプル4及び6はそれぞれ、高い表面硬度値(それぞれおよそ14.0GPa及び13.6GPa)を呈するが、一方でサンプル5は低い表面硬度値(およそ9.7GPa)を呈する。より高い硬度値は、材料のより良好な耐摩耗性を意味する。したがって、この方法では、高いハフニウム含有率を有するジルコニウム合金によって形成された酸化物セラミック表面層の耐摩耗性をさらに改善することができる。
【0043】
ここで言及する医療用インプラントは、人体に外科的に創出された又は自然に発生した空隙中に載置することができる、移植可能な医療用機器を指すことに留意されたい。医療用インプラントの例としては、限定するものではないが、外科用インプラント、例えば人工関節(整形外科用、脊椎、心血管及び神経外科用)インプラント、構造的人工器官、義歯並びに他の人工臓器;金属材料(ステンレス鋼、コバルト系合金、チタン及びその合金、並びに形状記憶合金を含む)、ポリマー、高分子材料、無機非金属材料、セラミック材料等から作製されるインプラント;移植可能な機器、例えば移植可能な整形外科用機器、移植可能な審美的及び形成外科用機器及び材料;移植可能な器具、例えば骨(プレート、ネジ、ピン、ロッド)、脊椎内固定装置、ステープラ、膝蓋コンセントレータ、骨ワックス、骨再建材料、形成外科材料、心臓又は組織再建材料、眼内充填材料、神経パッチ等;介入的機器、例えば介入的カテーテル、ステント、塞栓及び他の装置;並びに整形(整形)外科用機器、例えば解剖刀、ドリル、剪刀、鉗子、のこぎり、のみ、やすり、鉤、針スリッカー、活性機器(active instrument)、肢伸長用ブレース、多目的一側外部固定装置及び整形(整形)外科的使用のための他の機器を挙げることができる。
【0044】
最後に、上記実施形態は本出願の技術的解決を説明するために提供されるに過ぎず、これを限定することを意図するものでは決してないことに留意されたい。上記実施形態を参照しながら本出願を詳細に記載してきたが、当業者によって、これらの実施形態への修正は依然として可能であり、又は技術的特徴部のすべて若しくは一部を等価物に置換することができる。このような修正置換は、対応する技術的解決の本質が、本出願の様々な実施形態の保護範囲から逸脱することをもたらさない。
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図12
【国際調査報告】