(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-27
(54)【発明の名称】抗体の選択方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20220420BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220420BHJP
【FI】
C12N1/00 T ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021552898
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(85)【翻訳文提出日】2021-11-01
(86)【国際出願番号】 GB2020050538
(87)【国際公開番号】W WO2020183133
(87)【国際公開日】2020-09-17
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2019-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2019-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518305392
【氏名又は名称】オックスフォード ジェネティクス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OXFORD GENETICS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100100181
【氏名又は名称】阿部 正博
(72)【発明者】
【氏名】ロペス‐アントン ナンシー
(72)【発明者】
【氏名】ロバートソン ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ ティモシー
(72)【発明者】
【氏名】ケイウッド ライアン
(72)【発明者】
【氏名】ペイン トーマス
(72)【発明者】
【氏名】パーカー‐マヌエル リチャード
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA25
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、所望の標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)を識別するための方法に関する。特に、本方法は、細胞集団の各細胞が細胞の外面に標的ポリペプチドをディスプレイする特異的結合パートナーライブラリを哺乳類細胞集団において発現させること、及び細胞集団内の、特異的結合パートナーが結合される細胞を識別又は単離することを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナーを産生する細胞を識別する方法であって、
(a)哺乳類細胞集団において結合パートナーのライブラリを発現させるステップであり、各結合パートナーはフレームワーク及び複数の可変領域を含み、各複数の可変領域は、その結合パートナーに標的に対して特異的な結合親和性を与え、
前記哺乳類細胞集団の各細胞は、その細胞のゲノムに組み込まれた1又は複数のレトロウイルス(例えばレンチウイルス)ベクターから前記結合パートナーライブラリの少なくとも1つのメンバーを発現し、
各結合パートナーは、第1の検出可能なタグを含み、
各結合パートナーは、それが産生される細胞から分泌され、
前記哺乳類細胞集団の各細胞は、前記標的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現コンストラクトを含み、前記標的ポリペプチドは、所望により第2の検出可能なタグを含み、前記発現コンストラクトは、各細胞のゲノムに組み込まれる、前記ステップと、
(b)所望により、前記哺乳類細胞集団から、結合パートナーが結合する細胞を除去するステップと、
(c)前記標的ポリペプチドが前記哺乳類細胞集団の各細胞の外面にディスプレイされるように、前記発現コンストラクトから前記標的ポリペプチドを発現させる、又はその発現を誘導するステップと、
(d)前記哺乳類細胞集団内の、特異的結合パートナーが結合される細胞を単離又は識別するステップであり、
特異的結合パートナーが結合される細胞は、
(i)フローサイトメトリー、又は
(ii)磁気ソーティング、又は
(iii)前記哺乳類細胞集団の細胞が複数の分離したチャンバー中の各チャンバー内に含有されるマイクロ流体力学システム、
を用いて単離又は識別される前記ステップと
を含み、
特異的結合パートナーが結合される前記細胞は、前記標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナーを産生するものである、
方法。
【請求項2】
ステップ(a)において、前記プロモーターは誘導性プロモーターであり、ステップ(c)は、
(c)前記標的ポリペプチドが前記哺乳類細胞集団の各細胞の外面にディスプレイされるように、前記発現コンストラクトからの前記標的ポリペプチドの発現を誘導すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記結合パートナーは、抗体、抗体フラグメント又は抗体模倣物、好ましくは、scFv、又は可溶性T細胞受容体である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)の前に、更に、
前記哺乳類細胞集団をレトロウイルス(例えばレンチウイルス)粒子のライブラリに、少なくとも1つのレトロウイルス(例えばレンチウイルス)ベクターが前記ライブラリの各細胞(又は実質的に各細胞)のゲノムに組み込まれるような条件下で接触させるステップであり、各粒子は、結合パートナーライブラリのメンバー及び検出可能なタグをコードするレトロウイルス(例えばレンチウイルス)ベクターを含む前記ステップ
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)の前に、更に、
前記細胞集団の各(又は実質的に各)細胞のゲノムに、前記標的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーター(好ましくは、誘導性プロモーター)を含む発現コンストラクトを組み込むステップであり、前記標的ポリペプチドは所望により第2の検出可能なタグを含む前記ステップ
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記検出可能なタグはHA又はMycタグである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記誘導性プロモーターは、Tetリプレッサータンパク質(TetR)が結合可能な複数のTetオペレータ配列を含む、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(b)及び/又はステップ(c)は更に、
前記哺乳類細胞集団の全部又は一部を、標的ポリペプチド(及び所望により第2の検出可能なタグ)を発現するが、結合パートナーは発現しない過剰量の捕捉細胞と接触させるステップであり、
各捕捉細胞は、前記捕捉細胞を前記哺乳類細胞集団から識別可能とする標識(好ましくは、蛍光標識)を含む、前記ステップ
を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(d)において、特異的結合パートナーは、蛍光団又は常磁性粒子で標識される第1の検出可能なタグに対する抗体を用いて検出される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
各結合パートナーは、第1の検出可能なタグ(好ましくは、HA)を含み、前記標的ポリペプチドは、第2の検出可能なタグ(好ましくは、Mycエピトープ)を含み、前記第1及び第2の検出可能なタグは、ドナー-アクセプターFRET対の第1及び第2のメンバー(好ましくは、FITC及びAlexa Fluor 594)が付着している独立した抗体を用いて検出される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(d)において、フローサイトメトリーがFACSであるか、又は磁気ソーティングがMACSである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(d)において、前記マイクロ流体力学システムは、前記哺乳類細胞集団からの細胞が複数の分離した液滴の各液滴内に含有される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
各液滴は30~50細胞を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記液滴は1~2000pL、好ましくは100~1000pL、より好ましくは約200pLの容積を有する、請求項12又は請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(d)において、前記マイクロ流体力学システムは、前記哺乳類細胞集団からの細胞は固体基質(好ましくは、チップ)上にアレイとして配置されたペン内に含有される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記哺乳類細胞集団からの1又は複数の細胞が、分離したペンのアレイの各ペン内に含有され、非標的ポリペプチドディスプレイ細胞(好ましくは、CHO細胞)は、前記ペン内の細胞から分泌される結合パートナーが非標的ポリペプチドディスプレイ細胞と接触可能なように、前記アレイの分離したペンの端部と接触又は近接され、
結合パートナーの細胞表面結合が前記非標的ポリペプチドディスプレイ細胞の表面に検出されたペンを棄却する、
というマイクロ流体力学システムが使用される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(d)において、各チャンバーは、前記標的ポリペプチドを発現する1つの細胞及び前記標的ポリペプチドを発現しない複数(好ましくは、1~50)の細胞(好ましくは、CHO細胞)を含み、結合パートナーの細胞表面結合が検出されたチャンバーは、結合パートナーの細胞表面結合がチャンバーあたり1を超える細胞で検出される場合に棄却される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
(e)単離された細胞又は識別された細胞において、前記標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナーをコードするヌクレオチド配列(一部又は全部)を、好ましくは非サンガーシークエンシング法を用いて配列決定するステップ
を更に含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
哺乳類細胞集団を作製するためのプロセスであって、
(A)前記哺乳類細胞集団の各(又は実質的に各)細胞のゲノムに、標的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーター(好ましくは、誘導性プロモーター)を含む発現コンストラクトを組み込むステップであり、前記標的ポリペプチドは所望により第2の検出可能なタグを含む、前記ステップと、
(B)前記哺乳類細胞集団をレトロウイルス(例えばレンチウイルス)粒子のライブラリと接触させるステップであり、各粒子は、結合パートナーライブラリのメンバー及び第1の検出可能なタグをコードするレトロウイルス(好ましくは、レンチウイルス)ベクターを含む前記ステップと
を含み、
前記哺乳類細胞集団において各細胞(又は実質的に各細胞)が1又は複数の結合パートナー(好ましくは、抗体又は抗体模倣物)を分泌し、前記哺乳類細胞集団の各細胞がその細胞の外面に標的ポリペプチド及び所望により第2の検出可能なタグを(好ましくは、誘導時に)ディスプレイするか、又はディスプレイ可能である哺乳類細胞集団を作製する、
前記プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)を識別するための方法に関する。特に、本方法は、細胞集団の各細胞が細胞の外面に標的ポリペプチドをディスプレイする特異的結合パートナーライブラリを哺乳類細胞集団において発現させること、及び細胞集団内の、特異的結合パートナーが結合される細胞を識別又は単離することを含む。
【0002】
1986年のハイブリドーマ技術の発明以来、モノクローナル抗体は、標的選択性、効力、良好な生物学的半減期及び送達半減期、並びに比較的単純な大規模製造が組み合わさった、強力で多用途の生物学的治療薬として登場した。今日、80を超えるモノクローナル抗体が米国及び欧州で医療用に認可されており、他にも数多くが開発中である。モノクローナル抗体は、炎症(例えばリウマチ性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎など)、臓器移植、喘息、癌及び白血病、ウイルス及び細菌の感染、異常な血液凝固、その他多くを含む広範な疾患の治療に使用される。
【0003】
医学的には、モノクローナル抗体は通常、忍容性が高く、副作用がほとんどなく、人生を変えるような医学的メリットがあるといえる。しかしながら、治療可能性に対する評価の高まりにより、幅広い標的に対する新しいモノクローナル抗体の需要が高まっている。これにより、今度は、難易度の高い標的に対して、中でも注目すべきは内在性膜タンパク質などの細胞表面上の分子に対して十分な効力を有するモノクローナル抗体を定義する際に直面する困難が浮き彫りになった。このような標的は、抗体の選択中にその生理学的構成を保持する必要があり、これにより、それらを認識するモノクローナル抗体の産生に使用できる戦略が大幅に制限されてしまう(Jones,M.他、Scientific Reports,6,26240(2016))。開発中である多くの自己認識抗体のクローン除去が原因で、ヒト標的に結合する天然に存在するヒト抗体を定義することは特に困難である。
【0004】
GPCRは、その構成を保持するために膜結合性を維持する必要があるので、歴史的にモノクローナル抗体を産生することは困難であった。GPCRは、ヒトにおける膜タンパク質の最大ファミリーを構成し、ホルモン及び神経伝達物質、光感知、嗅覚及び味覚に対する細胞性応答を担う。現在の低分子量薬物の約半分がGPCRを標的としているが、標的にするには理解しづらいので、開発中の(研究中のものでさえ)モノクローナル抗体はほとんどない。良い例のひとつは、ニューロンの成長と発達、いくつかの行動反応を調節し、DRD2活性を調節するDRD1(ドーパミン受容体のD1サブタイプ)である。DRD1の調節解除は、統合失調症、ハンチントン病、パーキンソン病、高血圧、アルツハイマー病、その他多くで役割を果たすと考えられる。GPCR市場は現在16億ドルと推定される(http://www.transparencymarketresearch.com/g-protein-coupled-receptors-market.html)。DRD1を標的とする承認された47の薬剤のうち、モノクローナル抗体はない。これは、天然構成の膜抗原を認識する効果的なモノクローナル抗体を作製することの課題を示している。
【0005】
癌チェックポイント阻害抗体は現在、がん研究の最も刺激的な新しい局面であり、様々な標的に対していくつかの薬剤がすでに認可されている。これらの市場は2022年には驚異的な190億ドルに達すると予測される(http://immunecheckpoint-europe.com/partner/sponsorship-opportunities/)。これらの標的が共有するひとつの特徴は、それらが全て膜抗原であることである(例えばPD1、PDL1、CTLA4など)。
【0006】
抗体ディスプレイは、特定の標的ポリペプチドに対する抗体のスクリーニングに用いることができる。抗体ディスプレイの既存の技術としては、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、哺乳類ディスプレイ、リボソームディスプレイ、シス活性ベース(CIS)ディスプレイ、及び共有結合型抗体ディスプレイ(CAD)がある。これらの技術には全て、天然の折り畳まれた膜結合状態では膜標的ポリペプチド(「ベイト」)が提示されないという同じ制限がある。
【0007】
タンパク質相互作用のハイスループット・スクリーニングの古典的な方法は、ファージディスプレイである。このシステムでは、バクテリオファージコートタンパク質の遺伝子に抗体ライブラリが融合される。次に、ライブラリは大腸菌(E.coli)宿主株に変換され(ファージミドを使用)、その結果ファージ粒子の集団が得られ、それぞれがそのゲノム内に抗体の配列を含み、その表面にタンパク質自体をディスプレイする。はじめに、表面に固定された標的抗原でファージライブラリがスクリーニングされる。次に、未結合のファージは洗い流され、結合されたファージは回収され、バクテリアに感染させられ、その後ライブラリを強化するために増幅される。このプロセスは通常数回繰り返され、標的に対する親和性が徐々に向上する配列がもたらされる。ライブラリ内のファージのタンパク質配列(及び出現するコンセンサス又は相同性のレベル)は、個々のコロニーを単離し、適切な領域でそれらのDNAを配列決定することによって決定することができる。
【0008】
他のシステムも同様の概念を用いる。例えば、Isogenica独自のCISインビトロディスプレイ技術は、RepAと呼ばれるタンパク質の、自身のDNA配列に結合する能力を用いて、RepAが表現型と遺伝子型の間のリンカーとして機能できるようにする。このシステムの利点は、DNA配列をコードする抗体の選択ステップ後の迅速な回収を容易にすることである。しかしながら、このシステムの重大なデメリットは、インビトロ選択ステップ中にベイトタンパク質を固体担体に固定しなければならないことである。これにより、大きな複数回貫通型膜タンパク質などの特定のタンパク質の標的化ができなくなってしまう。
【0009】
細胞表面ディスプレイは、細胞外環境にさらされる細胞の機能的構成要素に融合させることにより、生細胞の表面に抗体タンパク質を発現させることである。細胞表面ディスプレイの原理はファージディスプレイに類似し、細胞表面にアンカリングされた組み換え抗体と、細胞内に存在するコード化DNAとを用いる。細胞表面ディスプレイの利点のひとつは、細胞がフローサイトメトリーによってスクリーニングされるのに十分な大きさであることである。非細胞アプローチとは対照的に、蛍光体で標識された抗原は、細胞ディスプレイされた抗体ライブラリと溶液中でインキュベートされ、その後、任意の抗原結合細胞が蛍光活性化細胞選別(FACS)によって単離される。ディスプレイ戦略は、細菌、酵母及び哺乳類細胞を用いて使用できるように展開されてきた。哺乳類細胞を用いることの利点は、高い忠実度で、更には適切な翻訳後修飾により、そのライブラリの抗体を発現し折り畳むことができることである。
【0010】
細胞ディスプレイ技術のデメリットのひとつは、細胞にライブラリをトランスフェクトするという制限のせいで、非細胞技術と比べて比較的小さいサイズのライブラリしかできないことである。
【0011】
しかしながら、哺乳類細胞ディスプレイの重要なデメリットは、抗原が溶液中に存在しなくてはならないことである。これにより、抗原は比較的小さく親水性のタンパク質に制限され、抗体発見の標的の重要なクラスである大きな複数回貫通型膜タンパク質は本質的に除外されてしまう。これに対処する試みには、膜小胞という観点から抗原を提示することが含まれるが、このアプローチは面倒であり、これまでのところあまり成功していない。
【0012】
Chen Zhouのグループは、全長抗体cDNAベースのライブラリをスクリーニングするための哺乳類ディスプレイ系を開発した(Zhou他,Acta Biochimica et Biophysica Sinica,42(8),575-84.2010;米国特許出願公開第2012/0101000号)。彼らの系は、哺乳類細胞の表面にヒト抗体の重鎖と軽鎖を一緒に発現させる。血小板由来成長因子受容体の膜貫通ドメインが重鎖に融合されて、抗体を発現した細胞の膜に抗体をアンカリングする。ヒト重鎖(IgG-1)ライブラリは、PBMCから可変ドメインを増幅し、それをプラスミドベクターにクローニングするRT-PCRにより、個別に構築された。ヒト軽鎖(カッパ)ライブラリも同様に構築され、該系を用いることにより、可溶性標的抗原に対する抗体の選択が成功した。これは、哺乳類細胞において標的に対するスクリーニングを行うのに必要な規模で、全長抗体ライブラリを使用できることを示す。しかしながら彼らのアプローチでは、生物学的選択のために可溶性タンパク質を必要とするので、複雑な膜結合標的(最も一般に必要とされる)に対する抗体を得ることはできない。
【0013】
国際公開第2018/167481号は、細胞上の標的タンパク質を認識する特異的結合パートナーの選択のための基本戦略を開示している。このアプローチは、ポリペプチド結合パートナー、例えば、抗体又は抗体模倣物のライブラリを分泌する細胞の表面に標的タンパク質を発現させ、その後、自己標識する細胞を単離することにより、既存の戦略を改善した。
【0014】
この解決策の利点のひとつは、膜結合型の標的ポリペプチドが、細胞の表面に提示される前に、適切な細胞折り畳み及び膜内挿入の経路を通過することである。ライブラリ内のポリペプチド結合パートナー(例えば抗体/模倣物)に対して提示される膜結合型の標的ポリペプチドのセグメントは、インビボ(細胞培養又は治療)設定において結合可能であり得るものと同じである。一般に膜タンパク質(免疫チェックポイント及びGタンパク質共役受容体を含む)は重要な治療標的であるので、膜タンパク質に結合する結合パートナーを選択する能力は重要である。
【0015】
しかしながら、国際公開第2018/167481号の方法には改善の必要がなおある。
【0016】
本発明の方法は、いくつかの新規な特徴を提供する。
【0017】
特異的結合パートナー及び標的ポリペプチドをコードする核酸配列の双方は宿主細胞のゲノムに組み込まれる。
【0018】
特異的結合パートナーをコードする核酸配列の組み込みは、レトロウイルスベクター、好ましくは、レンチウイルスベクターを用いて達成される。レトロウイルスは、高い効率で細胞に感染させるために使用できるので、高い割合の細胞が結合パートナーを発現することが保証される。結合パートナーのライブラリのサイズは109メンバーを超える場合があり、結果として多数の細胞を取り扱う必要があることを考慮すれば、このことは特に重要である。特に、レンチウイルスは、活性のあるクロマチンの領域に組み込まれる傾向があるので、各結合パートナーが検出するために十分発現されることが保証される。
【0019】
標的ポリペプチドをコードする核酸配列の組み込みは、部位特異的組み換えにより達成される。これは時間を節約し、標的ポリペプチドのより均一な発現を提供する。
【0020】
検出可能なタグが特異的結合パートナーに結合される。これにより特異的結合パートナーが結合される細胞のより容易な検出が助長される。
【0021】
特異的結合パートナーが結合される細胞は、フローサイトメトリー(例えばFACS)によるか、磁気ソーティング(例えばMACS)によるか又は哺乳類細胞集団の個々の細胞が複数の分離したチャンバー(例えば液滴又はペン)内に含有されるマイクロ流体力学システムの使用によって単離又は検出される。
【0022】
結合パートナーライブラリのメンバーは転写及び翻訳され、ER及び二次経路に輸送され、そこで標的ポリペプチドと遭遇し、標的ポリペプチドが細胞表面に輸送される前であっても結合し得ることが予想される。しかしながら、培養培地中に分泌される余分な結合パートナーが存在すると思われ、したがって、結合パートナーを産生するもの以外の標的ポリペプチド発現細胞に結合する機会もある。
【0023】
本出願者らは、この方法の感度の向上が結合パートナーとそれらの結合パートナーを産生しない細胞の間の交差結合のレベルを低減することによって達成され得ることを認識した。
【0024】
特に、フローサイトメトリー及び磁気ソーティングシステム(例えばFACS及びMACS)に関して、この交差結合は、選択プロセスのタイミングによって、例えば、細胞が内部に産生された結合パートナーによって最初に結合されるようになった時点で特異的結合パートナーの結合に関してアッセイすることによって低減することができる。いくつかの実施形態では、細胞集団から(非特異的)結合パートナーが標的ポリペプチドの発現誘導の前に結合される細胞を除去することも、非特異的結合レベルの低減に寄与する。
【0025】
本出願者らは今般、交差標識がマイクロ流体力学システムを使用することにより有意に低減され得ることを見出した。このようなシステムでは、細胞集団の1若しくは複数の細胞が必要な検出試薬とともに複数の分離したチャンバー内に含有され(液滴又はチップ表面のペン内など)、これにより、各個の細胞又は少数の細胞を、標的ポリペプチド特異的結合パートナーの産生に関して、表面に標的ポリペプチドをディスプレイする他の細胞から分離して独立にアッセイすることができる。
【0026】
例えば、細胞は安定化された油/水エマルジョンの小液滴に封入されてもよく、各液滴は200pL以下の体積である。細胞を含有する液滴は、細胞表面標識を示す特定の蛍光に関するレーザーによる分析のために、マイクロ流体チャネルに高速で通過させることができ、その後、陽性の液滴は、個々の陽性細胞の回収及び拡大培養のために単離し、マイクロタイタープレートに分注することができる。このような装置の一例として、Sphere Fluidics(ケンブリッジ、UK)により製造されたCyto-Mine(登録商標)がある。
【0027】
もうひとつのマイクロ流体力学的アプローチは、細胞が各ペンの蛍光イメージングを用いて所望の特性に関して反応チャンバー内で個別にアッセイされ得るようにチップ上に整列されたピコリットルサイズの反応チャンバー(例えばNanoPens(商標))に個々の細胞を移動させるために光及び数百万の光活性化画素を用いる光流体工学を使用することである。このような装置の一例として、Berkeley Lights(エメリービル、CA)により製造されたBeaconプラットフォームがある。
【0028】
特異的結合パートナーが結合する細胞が識別されれば、それらの細胞内の特異的結合パートナーのヌクレオチド配列が、非サンガーシークエンシングに基づくアプローチを用いて配列決定できる。これにより、個々の細胞だけでなく細胞プールの配列決定が可能となる。
【0029】
一実施形態では、本発明は、
標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナーを産生する細胞を識別する方法であって、
(a)哺乳類細胞集団において結合パートナーのライブラリを発現させるステップであり、各結合パートナーはフレームワーク及び複数の可変領域を含み、各複数の可変領域は、その結合パートナーに標的に対して特異的な結合親和性を与え、
前記哺乳類細胞集団の各細胞は、その細胞のゲノムに組み込まれた1又は複数のレトロウイルス(例えばレンチウイルス)ベクターから前記結合パートナーライブラリの少なくとも1つのメンバーを発現し、
各結合パートナーは、検出可能なタグを含み、
各結合パートナーは、それが産生される細胞から分泌され、
前記哺乳類細胞集団の各細胞は、前記標的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーター(好ましくは誘導プロモーター)を含む発現コンストラクトを含み、前記発現コンストラクトは、各細胞のゲノムに組み込まれる、前記ステップと、
(b)所望により、前記哺乳類細胞集団から、結合パートナーが結合する細胞を除去するステップと、
(c)前記標的ポリペプチドが前記哺乳類細胞集団の各細胞の外面にディスプレイされるように、前記発現コンストラクトから前記標的ポリペプチドを発現(好ましくは誘導発現)させるステップと、
(d)前記哺乳類細胞集団内の、特異的結合パートナーが結合される細胞を単離又は識別するステップであり、
特異的結合パートナーが結合される細胞は、
(i)フローサイトメトリー、又は
(ii)磁気ソーティング、又は
(iii)前記哺乳類細胞集団の細胞が複数の分離したチャンバー中の各チャンバー内に含有されるマイクロ流体力学システム、
を用いて単離又は識別される前記ステップと
を含み、
特異的結合パートナーが結合される前記細胞は、前記標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナーを産生するものである方法を提供する。
【0030】
好ましくは、レトロウイルスは、レンチウイルスである。
【0031】
好ましくは、本方法は、ステップ(a)の前に更に、
細胞集団の各(又は実質的に各)細胞のゲノムに、標的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーター(好ましくは誘導性プロモーター)を含む発現コンストラクトを組み込むステップ
を含む。
【0032】
好ましくは、本方法は、ステップ(a)の前に更に、
哺乳類細胞集団をレトロウイルス粒子のライブラリに、少なくとも1つのレトロウイルスベクターが前記ライブラリの各細胞(又は実質的に各細胞)のゲノムに組み込まれるような条件下で接触させるステップであり、各粒子は、結合パートナーライブラリのメンバー及び検出可能なタグをコードするレトロウイルスベクターを含む前記ステップ
を含む。
【0033】
本発明の方法は更に、ステップ(d)の前若しくは後に、又はステップ(d)の一部として以下のステップを含み得、このステップは1回以上繰り返され得る:
結合パートナーが結合する細胞の集団から、結合パートナーが標的ポリペプチド以外のポリペプチドに結合している細胞を除去するステップ。
【0034】
好ましくは、ステップ(d)において、フローサイトメトリーはFACSであるか、又は磁気ソーティングはMACSである。
【0035】
好ましくは、ステップ(d)のマイクロ流体力学システムにおいて、分離したチャンバーは、水性の液滴又は固体基質上の分離したペンである。
【0036】
好ましくは、本方法は更に、
(e)単離された細胞において、標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナーをコードするヌクレオチド配列の一部又は全部を配列決定するステップ
を含む。
【0037】
なお更なる実施形態において、本発明は、
哺乳類細胞集団を作製するためのプロセスであって、
(A)前記哺乳類細胞集団の各(又は実質的に各)細胞のゲノムに、標的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーター(好ましくは、誘導性プロモーター)を含む発現コンストラクトを組み込むステップと、
(B)前記哺乳類細胞集団をレトロウイルス粒子のライブラリと接触させるステップであり、各粒子は、結合パートナーライブラリのメンバー及び検出可能なタグをコードするレトロウイルスベクターを含む前記ステップと
を含み、
前記哺乳類細胞集団において各細胞(又は実質的に各細胞)が1又は複数の結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)を分泌し、前記哺乳類細胞集団の各細胞がその細胞の外面に標的ポリペプチドを(好ましくは、誘導時に)ディスプレイするか、又はディスプレイ可能である哺乳類細胞集団を作製する、
前記プロセス
を提供する。
【0038】
ステップ(A)及び(B)は、いずれの順序で行ってもよい。
【0039】
好ましくは、細胞集団内の各細胞(又は実質的に各細胞)は、1~3、1~2又は最も好ましくは1つのみの結合パートナーを分泌する又は分泌し得る。
【0040】
本発明の方法は一般にインビトロ又はエクスビボで実施される。
【0041】
哺乳類細胞集団の各細胞(又は実質的に各細胞)は、細胞の外面に標的ポリペプチドをディスプレイする。標的ポリペプチドは、細胞周囲の培地には分泌されず、標的ポリペプチドは細胞に結合したままである。
【0042】
一般に、細胞集団内の各細胞(又は実質的に各細胞)は、同じ標的ポリペプチドをディスプレイする。
【0043】
標的ポリペプチドは、細胞の細胞外膜に標的ポリペプチドを位置づけるために、好ましくは1又は複数の膜貫通ドメインを含む。一実施形態において、標的ポリペプチドは内在性膜タンパク質である。好ましくは、標的ポリペプチドは、細胞の外膜に直接的に組み込まれる。
【0044】
一実施形態において、標的ポリペプチドは、膜貫通ドメイン(例えば血小板由来増殖因子受容体ドメイン)に連結される抗原ポリペプチドを含む融合ポリペプチドである。膜貫通ドメインは、細胞膜に抗原ポリペプチドをアンカリングし、抗原ドメインがディスプレイされるようにする。抗原ポリペプチドのアミノ酸配列と膜貫通ドメインは、短いアミノ酸リンカー、例えば1~10個又は1~20個のアミノ酸によって連結されてよい。
【0045】
標的ポリペプチドは、検出可能なタグ(例えば下記に例示されるようなもの)、好ましくはMycエピトープを更に含み得る。
【0046】
標的ポリペプチドは、グリコシル化ポリペプチド又は非グリコシル化ポリペプチドであり得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、標的ポリペプチドは、1回膜貫通型膜タンパク質又は複数回貫通型膜タンパク質である。いくつかの実施形態では、標的ポリペプチドは、1、2、3、4、5、6、又は7個の膜貫通ドメインを含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、標的ポリペプチドはGタンパク質共役受容体(GPCR)(例えばDRD1)である。いくつかの実施形態では、標的ポリペプチドは免疫療法の標的(例えばCD19、CD40又はCD38)である。いくつかの実施形態では、標的ポリペプチドは、細胞の増殖を増大/低減させるタンパク質、例えば増殖因子受容体である。いくつかの実施形態では、標的ポリペプチドはイオンチャネルポリペプチドである。
【0049】
いくつかの好適な実施形態では、標的ポリペプチドは免疫チェックポイント分子である。好ましくは、免疫チェックポイント分子は、腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリーのメンバー(例えばCD27、CD40、OX40、GITR又はCD137)、又は、B7-CD28スーパーファミリーのメンバー(例えばCD28、CTLA4又はICOS)である。好ましくは、免疫チェックポイント分子はPD1、PDL1、CTLA4、Lag1又はGITRである。
【0050】
いくつかの実施形態では、標的ポリペプチドはアビジン又はストレプトアビジンではない。
【0051】
他の実施形態では、標的ポリペプチドは、標的ポリペプチド/MHC1複合体として、細胞の外面にディスプレイされる。このような実施形態では、MHCの溝における標的ポリペプチドの提示を達成するために、標的ポリペプチドとMHC1は両方とも細胞内で過剰発現されてよい。
【0052】
哺乳類細胞集団の各細胞は、標的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーター(好ましくは、誘導性プロモーター)を含む発現コンストラクトを含む。発現コンストラクトは、各細胞のゲノムに組み込まれる。
【0053】
同じ標的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、哺乳類細胞集団の全て又は実質的に全ての細胞に組み込まれる。
【0054】
発現コンストラクトは、好適ないずれの手段によって各細胞のゲノムに組み込まれてもよい。
【0055】
好ましくは、発現コンストラクトは、ウイルスベクターを用いて各細胞のゲノムに組み込まれるのではない。
【0056】
好適な組み込み方法の例としては、CRE-LoxP組み換え、FLP-FRT組み換え、CRISPRに基づく相同配列依存的組み換え、TALEN、メガヌクレアーゼ及びジンクフィンガーポリペプチドを用いる方法の使用がある。
【0057】
Cre/Lox及びFlp/Frtは両方とも、リコンビナーゼにより認識される特異的組み換え部位が、ランディングパッドを作り出すように細胞ゲノムに予め挿入されている必要がある。これらの組み換え部位は組み換えイベントの後にも残り、したがって、細胞ゲノムにフットプリントが残る。
【0058】
好ましくは、発現コンストラクトは、Flp/FRTを使用することによって各細胞のゲノムに挿入される。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態では、本方法は、更に、
細胞集団の各(又は実質的に各)細胞のゲノムに、標的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーター(好ましくは、誘導性プロモーター)を含む発現コンストラクトを組み込むステップ
を含む。
【0060】
発現コンストラクトは、プロモーター(好ましくは、誘導性プロモーター)エレメントを含む。プロモーターは、例えばSFFV、CMV、SV40、EF1-Aplha、PGK、E1A、ユビキチン、ニワトリβアクチン又はRSVプロモーターであり得る。
【0061】
好ましくは、誘導性プロモーターエレメントは、基本転写複合体を形成し転写を開始することのできるタンパク質に結合可能なDNA配列と、Tetリプレッサータンパク質(TetR)が結合可能な複数のTetオペレータ配列とを含む。この結合状態では、厳しい転写抑制が得られる。しかしながら、ドキシサイクリンの存在下では抑制が緩和されるので、プロモーターは完全な転写活性を獲得することができる。このような誘導性プロモーターエレメントは、好ましくは、別のプロモーター、例えばCMVプロモーター、又は上述の他のプロモーターのひとつの下流に配置される。
【0062】
発現コンストラクトは、好ましくは、標的ポリペプチドを細胞外膜に向かわせる適切なシグナルポリペプチドを含む。
【0063】
適切なシグナルポリペプチドの例としては、BM-40オステオネクチンSPARC)、水疱性口内炎ウイルスG(VSVG)タンパク質、キモトリプシノゲン、ヒトインターロイキン-2(IL-2)、ガウシアルシフェラーゼ、ヒト血清アルブミン、インフルエンザ血球凝集素、ヒトインスリン及び免疫グロブリン遺伝子に由来のものがある。
【0064】
いくつかの実施形態では、細胞は、発現される標的ポリペプチドのレベルを高めるために、標的ポリペプチド発現コンストラクトの複数のコピーを含み、好ましくは、これらはそれぞれ細胞ゲノムに組み込まれる。また、標的ポリペプチドの発現レベルの増大は、細胞培養の時間を長くすることによっても達成され得る。
【0065】
標的ポリペプチド発現コンストラクトは、抗生物質耐性遺伝子、例えばピューロマイシンに対する耐性をコードする遺伝子を含んでもよい。
【0066】
本発明の特に好適な実施形態では、抗アポトーシス因子は、標的ポリペプチドをコードする核酸の最後の停止コドンのIRES下流(すなわち3’)の後(すなわち3’)に挿入される。これにより、転写を開始するプロモーターが標的ポリペプチド遺伝子のコード配列の上流(すなわち5’)に存在し、その後にIRESが続き(3’)、その後に抗アポトーシス因子遺伝子のコード領域が続く(3’)構成が提供される。この構成では、標的ポリペプチドと抗アポトーシス因子の両方が同じmRNAによってコードされるが、IRESを介した翻訳の効率は比較的低いので、標的ポリペプチドは抗アポトーシス因子よりも大量に翻訳される。
【0067】
標的ポリペプチドは哺乳類細胞集団にディスプレイされる。細胞は単離細胞であってよく、例えば生きている動物に存在するものではない。
【0068】
哺乳類細胞の例としては、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、サル、ウサギ、ロバ、ウマ、ヒツジ、ウシ及び類人猿由来の任意の臓器又は組織由来の細胞がある。好ましくは、細胞はヒト細胞である。細胞は、初代細胞又は不死化細胞であってよい。好ましいヒト細胞としては、HEK293細胞、HEK293T細胞、HEK293A細胞、PerC6細胞、911細胞及びHeLa細胞がある。他の好ましい細胞としては、CHO細胞及びVERO細胞がある。最も好ましくは、細胞はCHO細胞である。
【0069】
好ましくは、集団の全て又は実質的に全ての細胞が標的ポリペプチドをディスプレイする。好ましくは、集団の全ての又は実質的に全ての細胞は、10未満又は5未満、より好ましくは1、2又は3、最も好ましくは単一の結合パートナーを発現する。
【0070】
本発明の方法では、哺乳類細胞集団において結合パートナーのライブラリが発現される。その目的は、標的ポリペプチドの露出した領域又はドメインに結合する少なくとも1つの特異的結合パートナーを、係る特異的結合パートナーが結合される細胞が識別及び/又は単離されることを可能にするような方法で、識別することである。
【0071】
本明細書で用いられるとき、「特異的結合パートナー」という用語は、結合パートナーの、所望の特異度及び/又は親和度で標的ポリペプチドに結合する能力に関する。特異的結合パートナーは、標的ポリペプチドのみに結合するわけではない。好ましくは、特異的結合パートナーは、その標的ポリペプチドに対する自身の親和性が非標的ポリペプチドに対する自身の親和性よりも約5倍大きい場合に、特異的に結合する。理想的には、望ましくない物質との有意な交差反応又は交差結合は存在しない。
【0072】
特異的結合パートナーの親和性は、例えば、非標的ポリペプチドに対する自身の親和性よりも、標的分子に対しては少なくとも約5倍、例えば10倍、例えば25倍、特に50倍、特に100倍以上大きくてよい。
【0073】
いくつかの実施形態では、特異的結合パートナーと標的ポリペプチドとの結合は、結合親和性が少なくとも106M-1であることを意味する。抗体は、例えば少なくとも約107M-1、例えば約108M-1~約109M-1、約109M-1~約1010M-1、又は約1010M-1~約1011M-1の親和性で結合してよい。
【0074】
結合パートナーは、例えば、50nM以下、10nM以下、1nM以下、100pM以下、又はより好ましくは10pM以下のEC50で結合してよい。本明細書で用いられるとき、「EC50」という用語は、50%の最大応答/効果をもたらす濃度を定量化することにより、化合物の効力に言及することを意図する。EC50は例えばスキャッチャード、FACS、ELISA又は生物学的効力アッセイによって決定されてよい。
【0075】
各結合パートナーはフレームワーク及び複数の可変領域を含み、複数の可変領域のそれぞれは該結合パートナーに標的に対する特異的な結合親和性を与える。コアフレームワークは1又は複数のポリペプチドを含んでよい。好ましくは、2~10個、より好ましくは2~6個、3~6個、4~6個又は5~6個の可変領域が存在する。結合パートナーは一般にポリペプチドである。これらはグリコシル化されてもされなくてもよい。結合パートナーは、標的ポリペプチドの潜在的な結合パートナー、又は潜在的な特異的結合パートナーと見なされてよい。
【0076】
結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)は、それが産生される細胞によって分泌されるか、又は該細胞から分泌されるか、又は該細胞の外部に分泌される。いくつかの実施形態では、結合パートナーは、それが産生される細胞外の細胞周辺の培地に分泌される。別の言い方では、本実施形態において、結合パートナーは細胞から放出される。
【0077】
他の実施形態では、結合パートナーは、それが産生される細胞から分泌される。結合パートナーはその後、細胞周辺の培地に放出されてもされなくてもよい。
【0078】
いくつかの実施形態では、分泌は、N末端シグナルポリペプチドの包含によって補助され得る。好適なシグナルポリペプチドの例としては、BM-40(オステオネクチンSPARC)、水疱性口内炎ウイルスG(VSVG)タンパク質、キモトリプシノゲン、ヒトインターロイキン-2(IL-2)、ガウシアルルシフェラーゼ、ヒト血清アルブミン、インフルエンザ血球凝集素、ヒトインスリン、及び免疫グロブリン遺伝子に由来のものがある。いくつかの好ましい実施形態では、シグナルポリペプチドは、免疫グロブリン軽鎖シグナル配列である。
【0079】
結合パートナー及び標的ポリペプチドは、哺乳類細胞において粗面小胞体(ER)に付着したリボソームによって合成される。これらのポリペプチドは両方とも、細胞の分泌経路へのポリペプチドの通過を指示するために、シグナルペプチドを含む。合成後、これらのポリペプチドはER内腔に移行し、そこでグリコシル化されることがあり、分子シャペロンがタンパク質の折り畳みを補助する。その後、ポリペプチドを含む小胞はゴルジ体に入る。ゴルジ体では、ポリペプチドの任意のグリコシル化が修飾されることがあり、切断や機能付与などの更なる翻訳後修飾が生じることがある。次にポリペプチドは分泌小胞に移動し、細胞骨格に沿って哺乳類細胞の端まで移動する。分泌小胞において更なる修飾が生じることがある。最終的に、エキソサイトーシスと呼ばれるプロセスにおいて、ポロソームと呼ばれる構造における細胞膜との小胞融合があり、その結果、小胞の内容物が周囲の培地に放出される。膜内在性タンパク質は、小胞の内容物が放出されたときに細胞の原形質膜に保持される。
【0080】
結合パートナーと標的ポリペプチドは両方ともこの分泌経路を介して産生されるので、一部の結合パートナーの標的ポリペプチドへの結合がこの経路の進行中に生じる可能性がある。この場合、その後、結合パートナーは細胞の外部の培地に分泌されず、標的ポリペプチドに結合したままになる。したがって、結合パートナーと標的ポリペプチドは(一緒に)細胞の外面に提示される。
【0081】
いくつかの実施形態では、結合パートナーは、それらのCDR配列が標的ポリペプチドに結合した形で、それらが産生される細胞から分泌される。他の実施形態では、結合パートナーは、それらのCDR配列が標的ポリペプチドに結合していない形で、それらが産生される細胞から分泌される。
【0082】
結合パートナーは、直接的又は間接的に、細胞の表面に共有結合しない。結合パートナーは、細胞周辺の培地内で自由に拡散する(分泌経路において標的ポリペプチドに結合する結合パートナーは別として)。
【0083】
いくつかの好ましい実施形態では、結合パートナーは抗体又は抗体模倣物である。本実施形態では、ステップ(a)は、とりわけ、哺乳類細胞集団において抗体又は抗体模倣物のライブラリを発現させることを含む。
【0084】
「抗体」は免疫グロブリン分子であり、免疫グロブリン分子の可変領域に位置する少なくとも1つの抗原認識部位を介して、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、ポリペプチドなどの標的に特異的に結合することができる。
【0085】
本明細書で用いられるとき、「抗体」は多種多様な構造を含み、当業者によって理解されるように、いくつかの実施形態では最低6個のCDRのセットを含み、限定ではないが例として、従来の抗体(モノクローナル抗体など)、ヒト化及び/又はキメラ抗体、抗体フラグメント、改変抗体、多特異性抗体(二重特異性抗体など)、本技術分野で既知の他の類似物がある。
【0086】
好ましくは、抗体は、少なくとも1つのVHドメインと少なくとも1つのVLドメインを含む。VHドメインとVLドメインは異なる種に由来してもよく、例えば、キメラ抗体及び/又はヒト化抗体がある。すなわち、CDRセットは、それらが元々取得されたもの以外のフレームワーク及び定常領域と共に用いることができる。
【0087】
いくつかの実施形態では、抗体は異なる種の混合、例えばキメラ抗体及び/又はヒト化抗体であってよい。すなわち、CDRセットは、それらが元々取得されたもの以外のフレームワーク及び定常領域と共に用いることができる。
【0088】
一般に、「キメラ抗体」と「ヒト化抗体」は両方とも、複数の種由来の領域を組み合わせる抗体を指す。例えば、「キメラ抗体」は伝統的に、マウス(又は場合によってラット)由来の可変領域と、ヒト由来の定常領域とを含む。「ヒト化抗体」は一般に、可変ドメインフレームワーク領域をヒト抗体に見られる配列に交換した非ヒト抗体を指す。一般に、ヒト化抗体では、CDRを除く抗体全体が、ヒト由来のポリヌクレオチドによってコードされているか、CDR内を除いてそのような抗体と同一である。CDR(一部又は全部が非ヒト生物に由来する核酸によってコードされる)は、ヒト抗体可変領域のベータシートフレームワークに移植されて、抗体を作製する。抗体の特異性は、移植されたCDRによって決定される。
【0089】
一実施形態において、抗体は抗体フラグメントである。具体的な抗体フラグメントとしては、これらに限定されないが、(i)VL、VH、CL及びCH1ドメインで構成されるFabフラグメント、(ii)VH及びCH1ドメインで構成されるFdフラグメント、(iii)単一の抗体のVL及びVHドメインで構成されるFvフラグメント、(iv)単一の可変領域で構成されるdAbフラグメント(Ward他、1989、Nature341:544-546)、(v)単離されたCDR領域、(vi)F(ab’)2フラグメント(2つの連結されたFabフラグメントを含む二価フラグメント)、(vii)単鎖Fv分子(scFv)(VHドメインとVLドメインは、2つのドメインが結合して抗原結合部位を形成できるようにするペプチドリンカーによって連結されている)(Bird他、1988、Science242:423-426、Huston他、1988、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:5879-5883)、(viii)二重特異性単一鎖Fv(例えば国際公開第03/11161号)、(ix)「ダイアボディ(diabody)」又は「トリアボディ(triabody)」(遺伝子融合によって構築された多価又は多特異性フラグメント)(Tomlinson他、2000、MethodsEnzymol.326:461-479;国際公開第94/13804号;Holliger他、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6444-6448)が挙げられる。
【0090】
「抗体」という用語は又、抗体部分又はフラグメントと抗原認識部位を含む融合タンパク質も含む。最も好ましくは、抗体はscFv抗体である。
【0091】
抗体ライブラリは、例えば、特定のタイプ又はクラスの免疫グロブリンポリペプチドを含んでよい。例えば、ライブラリは、抗体μ、γ1、γ2、γ3、γ4、α1、α2、ε若しくはδの重鎖、及び/又は抗体κ若しくはλの軽鎖をコードし得る。抗体アイソタイプは、IgM、IgD、IgG、IgA又はIgEであってよい。好ましくは、抗体はIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4である。
【0092】
本明細書に記載の任意の1つのライブラリの各メンバーは、同じ重鎖又は軽鎖の定常領域をコードしてよいが、ライブラリは合計で、少なくとも106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014又は1015、又はより多くの異なる可変領域、すなわち共通の定常領域に関連付けられた「複数の」可変領域を含んでよい。
【0093】
本発明の特に好ましい実施形態において、結合パートナーはscFv抗体である。
【0094】
ライブラリにおけるscFv抗体は、フレームワーク領域のバリエーション(例えば重鎖及び/又は軽鎖定常領域のバリエーション)、及び/又は可変領域のバリエーション(例えばVH、VL又は1又は複数のCDR)を有してもよい。
【0095】
本発明の方法は、抗体を伴う方法に限定されない。該方法は抗体模倣物を用いて実施されてもよい。多種多様な抗体模倣物技術が当技術分野で知られている。特に、Affibody、DARPin、Anticalin、Avimer、Versabodyなどの技術は、従来の抗体結合を模倣しつつ、異なるメカニズムから生成され、それを介して機能する結合構造を採用する。
【0096】
Affibody分子は、ブドウ球菌タンパク質AのIgG結合ドメインのうちの1つに由来する、58アミノ酸残基のタンパク質ドメインに基づいた新しいクラスの親和性タンパク質を表す。この3ヘリックスバンドルドメインは、コンビナトリアル・ファージミド・ライブラリの構築の足場として使用されており、そこから、所望の分子を標的とするAffibodyバリアントをファージディスプレイ技術を用いて選択することができる(NordK,GunneriussonE,RingdahlJ,StahlS,UhlenM,NygrenPA,Bindingproteinsselectedfromcombinatoriallibrariesofanα-helicalbacterialreceptordomain(αヘリックス細菌受容体ドメインのコンビナトリアルライブラリから選択された結合タンパク質),NatBiotechnol1997;15:772-7.RonmarkJ,GronlundH,UhlenM,NygrenPA,humanimmunoglobulinA(IgA)-specificligandsfromcombinatorialengineeringofproteinA(プロテインAのコンビナトリアルエンジニアリングによるヒト免疫グロブリンA(IgA)特異的リガンド),EurJBiochem2002;269:2647-55.)。Affibody及びその製造方法の更なる詳細は、米国特許第5,831,012号を参照することにより得ることができる。
【0097】
DARPin(DesignedAnkyrinRepeatProtein)は、非抗体ポリペプチドの結合能力を活用するために開発された抗体模倣物DRP(DesignedRepeatProtein)技術の一例である。アンキリン又はロイシンに富んだ反復タンパク質などの反復タンパク質は、偏在する結合分子であり、抗体とは異なり、細胞内及び細胞外で発生する。その独自のモジュラーアーキテクチャは反復する構造単位(反復)を特徴とし、それらが重なり合って、可変のモジュラー標的結合表面をディスプレイする細長い反復ドメインを形成する。このモジュール性に基づき、高度に多様化された結合特異性をもつポリペプチドのコンビナトリアルライブラリを生成することができる。この戦略は、可変表面残基をディスプレイする自家和合性の反復とその反復ドメインへのランダムな会合のコンセンサス設計を含む。DARPin及びその他のDRP技術に関する追加情報は、米国特許出願公開第2004/0132028号及び国際公開第02/20565号を参照することができる。
【0098】
Anticalinは、更なる抗体模倣物技術である。しかしながら、この場合、結合特異性は、ヒトの組織及び体液で自然に豊富に発現される低分子量タンパク質のファミリーであるリポカリンに由来する。
【0099】
リポカリンは、化学的に敏感又は不溶性の化合物の生理学的輸送並びに貯蔵に関連する、インビボでの様々な機能を実行するために進化してきた。リポカリンは、タンパク質の一方の末端で4つのループを支持する高度に保存されたβバレルを含む堅牢な固有の構造をもつ。これらのループは結合ポケットへの入り口を形成し、分子のこの部分の立体配座の違いが、個々のリポカリン間の結合特異性の変動の要因となる。
【0100】
保存されたβシートフレームワークによって支持される超可変ループの全体的な構造は免疫グロブリンを連想させるが、リポカリンは、サイズが抗体とはかなり異なり、単一の免疫グロブリンドメインよりもわずかに大きい160~180アミノ酸の単一ポリペプチド鎖で構成される。
【0101】
リポカリンはクローン化され、そのループはAnticalinを作製するためにエンジニアリングされている。構造的に多様なAnticalinのライブラリが生成されており、Anticalinディスプレイにより、結合機能の選択及びスクリーニングが可能になり、その後、原核生物系又は真核生物系での更なる分析のために可溶性タンパク質の発現と産生が続く。事実上あらゆるヒト標的タンパク質に特異的なAnticalinを開発し単離することができること、ナノモル以上の結合親和性を得ることができることが、研究により成功裏に実証されている。
【0102】
Anticalinは、二重標的化タンパク質、いわゆるDuocalinとしてフォーマットすることもできる。Duocalinは、その2つの結合ドメインの構造配向性に関係なく、標的特異性及び親和性を保持しながら、標準的な製造プロセスを用いて簡単に産生される1つの単量体タンパク質において2つの別々の治療標的に結合する。Anticalinに関する追加情報は、米国特許第7,250,297号及び国際公開第99/16873号を参照することができる。
【0103】
本発明の文脈において有用な別の抗体模倣物技術は、Avimerである。Avimerは、インビトロのエクソンシャッフリング及びファージディスプレイにより、ヒト細胞外受容体ドメインの大きなファミリーから進化し、結合特性及び阻害特性をもつマルチドメインタンパク質を生成する。複数の独立した結合ドメインを連結すると、結合活性が生まれることが示されており、従来の単一エピトープ結合タンパク質と比較して親和性及び特異性が向上する。他の潜在的な利点には、大腸菌でのマルチターゲット特異的分子の単純且つ効率的な産生、熱安定性の向上、プロテアーゼ耐性が含まれる。様々な標的に対して、ナノモル以下の親和性をもつAvimerが得られている。Avimerに関する追加情報は、米国特許出願公開第2006/0286603号、米国特許出願公開第2006/0234299号、米国特許出願公開第2006/0223114号,米国特許出願公開第2006/0177831号、米国特許出願公開第2006/0008844号、米国特許出願公開第2005/0221384号、米国特許出願公開第2005/0164301号、米国特許出願公開第2005/0089932号、米国特許出願公開第2005/0053973号、米国特許出願公開第2005/0048512号及び米国特許出願公開第2004/0175756号を参照することができる。
【0104】
Versabodyは、本発明の文脈で使用できる別の抗体模倣物技術である。Versabodyは3~5kDaの小さなタンパク質で、15%を超えるシステインを含み、高ジスルフィド密度の足場を形成し、典型的なタンパク質が有する疎水性コアを置換する。疎水性コアを含む多数の疎水性アミノ酸を少数のジスルフィドで置換すると、MHCの提示に最も寄与する残基は疎水性であるので、タンパク質がより小さく、親水性が高まり(凝集及び非特異的結合が少なくなり)、プロテアーゼ及び熱に対する耐性が高まり、T細胞エピトープの密度が低くなる。これらの4つの特性は全て免疫原性に影響を与えることがよく知られており、これらが合わさると、免疫原性が大幅に低下することが予想される。
【0105】
Versabodyの構造を考慮すると、このような抗体模倣物により、多価、多重特異性、多様な半減期メカニズム、組織標的化モジュール、抗体Fc領域の欠如を含む、多目的なフォーマットが提供される。Versabodyに関する追加情報は米国特許出願公開第2007/0191272号を参照することができる。
【0106】
他の実施形態では、結合パートナーは、抗体又は抗体模倣物ではない。
【0107】
いくつかの実施形態では、結合パートナーは、T細胞受容体、好ましくは、可溶性T細胞受容体である。
【0108】
例えば、標的ポリペプチドの所望の特異的結合パートナーは、標的ポリペプチドが結合可能なポリペプチドリガンドであってよい。このような場合、結合パートナーのライブラリは、標的ポリペプチドに結合すると知られているポリペプチドリガンドのアミノ酸配列に基づくアミノ酸配列を有するポリペプチドのライブラリであってよい。例えば、そのようなライブラリのポリペプチドは、既知のポリペプチドリガンドとのアミノ酸配列の同一性が少なくとも60%、70%、80%、90%又は95%であってよい。
【0109】
本明細書で用いられるとき、「ライブラリ」という用語は、それぞれが異なる結合特異性及び/又は親和性を有する複数の(潜在的な)結合パートナーを指す。各結合パートナーは、フレームワーク(全ての結合パートナーに共通であっても共通でなくてもよい)と、複数の異なる可変領域とを有する。例えば、結合パートナーライブラリのメンバーはそれらのCDRの1つ又は複数のCDR配列が異なってもよい。
【0110】
複数の結合パートナーは一般に、複数のポリヌクレオチドによりコードされる。
【0111】
特定の実施形態では、結合パートナーのライブラリは、少なくとも106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014又は1015以上の異なるポリペプチドを含んでよい。
【0112】
いくつかの実施形態では、ライブラリの異なる結合パートナーは、例えば、単一の動物種(例えばヒト、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマ)、組織タイプ、臓器又は細胞タイプに由来する起源を通じて関連する。
【0113】
他の実施形態では、ライブラリは、天然に存在するポリペプチドのライブラリであり、富化されてよい。更に他の実施形態では、ライブラリは合成ポリペプチドのライブラリである。
【0114】
各結合パートナーは、検出可能なタグを含む。タグは親和性タグであってよい。
【0115】
タグの機能は、特異的結合パートナーが結合される細胞の同定及び/又は単離を補助することである。
【0116】
タグは、好ましくは、ポリペプチドタグであり、すなわち、結合パートナーは、結合パートナーとタグのアミノ酸配列が連続しているか、又はペプチドリンカー(例えば1~15アミノ酸)によって連結されている融合ポリペプチドを含む。
【0117】
ポリペプチドタグは、結合パートナーのN末端又はC末端に、好ましくは、C末端に連結されてよい。
【0118】
好適なタグの例としては、インフルエンザ血球凝集素ペプチド、T7遺伝子10ペプチド、バクテリオファージV5エピトープ、BPV E2エピトープ、FLAGタグ、ヒスチジン親和性タグ、6、8若しくは10若しくはそれを超える残基を含むポリヒスチジンタグ、HSVエピトープタグ、Mycエピトープ、タンパク質Cエピトープ、HBV S1エピトープ、ストレプトアビジン結合タンパク質、Strepタグ、VSVタンパク質GのC末端残基又は抗体若しくは他のタンパク質又はシステムによって高い親和性及び特異性で認識され得る任意の他のペプチド配列がある。
【0119】
結合パートナーは又、細胞表面で直接検出ができるようにする蛍光タンパク質(例えばGFP、RFP、YFP、BFP若しくは特異的励起の際に蛍光シグナルを発する任意の他のタンパク質)又は有色反応生成物を生成し得る酵素(例えばアルカリ性ホスファターゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ)又は光シグナルを生成する酵素(例えばカイアシ(Metridia)種、ウミシイタケ(Renilla)種、ホタル若しくは細菌由来のルシフェラーゼ)との融合によりタグ付けすることもできる。
【0120】
いくつかの実施形態では、タグは、その存在及び/又は活性が確立及び/又は定量可能な機能的ドメインを含む。係る機能的ドメインの例としては、細胞増殖(例えば成長因子の適当なドメイン)を促進又は阻害するドメインがある。
【0121】
いくつかの実施形態では(例えばフローサイトメトリーがFACSである場合)、タグは、好ましくは、抗体が高い親和性及び特異性で結合し得るポリペプチドタグ(例えば上記に挙げた通り)であり、係る抗体は、好ましくは、レーザーにより異なる波長の光を用いて励起した後に特異的光波長を発する蛍光体(例えばFITC、フィコエリトリン、APC、PerCP、種々の波長のDyLight及びAlexa系の蛍光体)と共有結合されている。
【0122】
最も好ましくは、タグは、HAタグ又はMycタグであり、及び/又は検出抗体は、FITC、PE、又はAlexa又はDylight蛍光体に連結される。
【0123】
他の実施形態では(例えば磁気ソーティングがMACSである場合)、タグは、好ましくは、抗体が高い親和性及び特異性で結合し得るポリペプチド抗原(上記に挙げた通り)であり、係る抗体は、好ましくは、常磁性粒子(例えばDynabeads(Thermofisher Scientific、ラフバラー、UK)、又はMACSマイクロビーズ(Miltenyi Biotec、ビスレー、UK))に共有結合され、これにより、常磁性ビーズで標識された細胞は磁石に付くことができる。最も好ましくは、タグは、HAタグ又はMycタグである。
【0124】
好ましくは、レトロウイルスベクターは、タグをコードするヌクレオチド配列を更に含み、すなわち、結合パートナー及びタグは融合ポリペプチドとして発現される。
【0125】
1又は複数の異なる検出可能なタグを使用してよく、すなわち、ライブラリの結合パートナーの全てが同じタグを含む必要はない。しかしながら、手順効率としては、全てが同じタグを有することが好ましい。
【0126】
上記の見解は、必要な修正を加えて、標的ポリペプチドの検出可能なタグにも当てはまる。
【0127】
哺乳類細胞集団の各細胞は、その細胞のゲノムに組み込まれた1又は複数のレトロウイルスベクターから結合パートナーライブラリの少なくとも1つのメンバーを発現する。
【0128】
例えば、哺乳類細胞集団の各細胞は、その細胞のゲノムに組み込まれた1つ、2つ、3つ、4つ又は5つのレトロウイルスベクターから結合パートナーライブラリの1つ、2つ、3つ、4つ又は5つのメンバーを発現し得る。
【0129】
好ましくは、哺乳類細胞集団の各細胞は、細胞のゲノムに組み込まれたレトロウイルスベクターから結合パートナーライブラリのただ1つのメンバーを発現する。
【0130】
レトロウイルスは好ましくは、それらのゲノム、又は修飾型を、分裂細胞及び非分裂細胞の両方の染色体に組み込み能力を有する。レトロウイルスは、好ましくは、マウス白血病ウイルス(MLV)、ネコ白血病ウイルス(FLV)、若しくはモロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)を含むガンマレトロウイルス科のメンバー、又はラウス肉腫ウイルス(RSV)などアルファレトロウイルス科のメンバーを包含する。
【0131】
レトロウイルスベクターは又、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)などの遺伝的に強化されたレトロウイルスベクターも含み得る。
【0132】
最も好ましくは、レトロウイルスベクターは、非分裂細胞及び分裂細胞を感染させる能力のあるレンチウイルスベクターである。
【0133】
レンチウイルスは、特に造血幹細胞及びT細胞などの前駆細胞集団におけるトランス遺伝子送達及びタンパク質発現のために使用されることが増えているレトロウイルス科のサブセットである。ほとんどのレトロウイルスとは異なり、レンチウイルスは、細胞周期に関わらずにそれらのゲノム、又はその修飾形態を送達し、多くの場合、より短い時間枠でより高い効率の細胞感染を達成することができる。このことはレンチウイルスを研究用と臨床用の両方ではるかにより有効なウイルスベクターとする。
【0134】
レンチウイルス科は、現在のところ10種のウイルスからなる。これらの種は、ウシレンチウイルス群(ウシ免疫不全ウイルス及びジェンブラナ病ウイルス)、ウマレンチウイルス群(馬伝染性貧血ウイルス、ネコレンチウイルス群、ネコ免疫不全ウイルス、ピューマレンチウイルス)、ヒツジ/ヤギレンチウイルス群(カプリン関節炎脳炎ウイルス、ビスナ/マエディウイルス)、霊長類レンチウイルス群、(ヒト免疫不全ウイルス1、ヒト免疫不全ウイルス2、サル免疫不全ウイルス)を含む5群に分類される。
【0135】
レトロウイルス(例えばレンチウイルス)は、哺乳類細胞に感染し得るものでなければならない。
【0136】
好ましい実施形態では、レンチウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス1、サル免疫不全ウイルス又は馬伝染性貧血ウイルスである。
【0137】
より好ましい実施形態では、レンチウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス1又は馬伝染性貧血ウイルスである。
【0138】
一実施形態では、哺乳類細胞集団は、細胞の初期(均質)集団に結合パートナーライブラリをコードする複数のレトロウイルス(例えばレンチウイルス)粒子を感染させることにより産生される。
【0139】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、ステップ(a)の前に、更に、
少なくとも1つのレトロウイルス(例えばレンチウイルス)ベクターがライブラリの各細胞(又は実質的に各細胞)のゲノムに組み込まれるような条件下で、哺乳類細胞集団をレトロウイルス(例えばレンチウイルス)粒子のライブラリと接触させるステップであり、各粒子が、結合パートナーライブラリのメンバー及び検出可能なタグをコードするレトロウイルス(例えばレンチウイルス)ベクターを含む、ステップ
を含む。
【0140】
例えば、各レトロウイルス(例えばレンチウイルス)粒子は、プロモーター(誘導性又は非誘導性である)、シグナルペプチド(結合パートナーの分泌を促進するため)、結合パートナーコード配列及び検出可能なタグコード配列を含むレトロウイルス(例えばレンチウイルス)ベクターを含み得る。これらのエレメントは、レトロウイルス(例えばレンチウイルス)の長い末端反復配列(LTR)によって挟み込まれている。
【0141】
プロモーターは、例えば、脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーターであり得る。
【0142】
ウイルス粒子を作製するために、係るベクターコンストラクトを含有するプラスミドは、生産細胞株に、複製及びキャプシド封入のための遺伝子をトランスで提供する付加的プラスミドを同時トランスフェクトすることができる。
【0143】
レトロウイルス(例えばレンチウイルス)ベクターを細胞ゲノムに組み込んだ後に、レトロウイルス(例えばレンチウイルス)ベクターはなお、プロモーター、シグナルペプチド、結合パートナーコード配列及び検出可能なタグコード配列、並びにLTR(すなわち、LTR間の配列の全てが宿主細胞のゲノムに組み込まれる)。
【0144】
レトロウイルス(例えばレンチウイルス)ベクターは、抗アポトーシス因子をコードするヌクレオチド配列を更に含んでよい。
【0145】
ステップ(b)は、
所望により、細胞集団から、結合パートナーが結合する細胞を除去する任意選択のステップを含む。
【0146】
このステップは、標的ポリペプチド発現コンストラクトが誘導性プロモーターを含む場合に特に適切である。
【0147】
この段階で、標的ポリペプチドの発現は誘導されない。したがって、細胞集団内の細胞は、外面の標的ポリペプチドをもはやディスプレイしない。結果として、この段階での結合パートナーと細胞の結合は標的ポリペプチドに特異的でない。
【0148】
このように、標的ポリペプチドのディスプレイの前に結合パートナーが結合される細胞は標的ポリペプチドが発現される前に細胞集団から除去される。これは結合パートナーの非特異的結合に低減に役立つ。
【0149】
このような細胞は、結合パートナーの細胞表面への結合が結合パートナー上のタグに対する蛍光体標識抗体を用いて検出され、非染色細胞の集団が回収され、染色細胞の集団が除去されるFACSによって除去され得る。或いは、このような細胞は、抗タグ抗体に連結された常磁性マイクロビーズを用い、非特異的結合剤が磁性カラムに保持され、非結合細胞がカラムを流れて回収されるようにされたMACSにより除去される。
【0150】
このネガティブセレクションステップは、ポジティブセレクションを行う前、又は1回目、2回目若しくは3回目のポジティブセレクションの後など、選択プロセスのいずれの段階で行ってもよい。更に、標的ポリペプチドに対する特異的結合パートナーの単離のために必要に応じていずれの数のポジティブセレクション及び/又はネガティブセレクションをいずれの組合せで行ってもよい。
【0151】
特に、本発明の方法は、更に、以下のステップ:
結合パートナーが結合する細胞の集団から細胞を除去するステップであり、結合パートナーが標的ポリペプチド以外のポリペプチドに結合されるステップを含んでよく、これをステップ(d)の前若しくは後、又はステップ(d)の一部として1又は複数回繰り返してよい。
【0152】
本発明の方法のステップ(c)は、標的ポリペプチドが哺乳類細胞集団の各細胞の外面にディスプレイされるように発現コンストラクトから標的ポリペプチドを発現させること、又はその発現を誘導することを含む。
【0153】
いくつかの実施形態では、発現コンストラクトは、誘導性プロモーターエレメントを含む。
【0154】
このプロモーターからの発現は、プロモーターの発現を誘導するか、又はその抑制を軽減することによって得ることもできる。
【0155】
例えば、プロモーターが複数のTetオペレータ配列を含み、Tetリプレッサータンパク質(TetR)が細胞内に存在する場合には、強固な転写抑制が得られる。しかしながら、ドキシサイクリンの存在下では抑制が緩和されるので、プロモーターは完全な転写活性を獲得することができる。
【0156】
したがって、ステップ(b)は、細胞をドキシサイクリン(Tetリプレッサータンパク質に取って代わるので、プロモーターは完全な転写活性を獲得することができる)と接触させるステップを含み得る。
【0157】
(i)分泌された結合パートナーの、哺乳類細胞の表面の非標的ポリペプチドへの結合、及び(ii)標的ポリペプチド特異的結合パートナーの、それらの結合パートナーが分泌されていない細胞への結合のレベルを低減するために、哺乳類細胞集団の全部又は一部を、標的ポリペプチドを発現するが結合パートナーは発現しない(例えば、結合パートナーライブラリの結合パートナーを発現しない)過剰量の細胞(「捕捉細胞」)と接触される(例えば共培養する)ことができる。
【0158】
よって、いくつかの実施形態では、ステップ(b)は、更に、
哺乳類細胞集団の全部又は一部を、標的ポリペプチド(及び所望により第2の検出可能なタグ)を発現するが結合パートナーは発現しない過剰量の捕捉細胞と接触させるステップであり、各捕捉細胞は捕捉細胞を哺乳類細胞集団から識別可能とする標識を含むステップ
を含む。
【0159】
或いは、このステップは、ステップ(c)の中で又は後に行われる。
【0160】
本実施形態において、過剰量の捕捉細胞は、哺乳類細胞の表面の非標的ポリペプチドに結合する分泌結合パートナーを培養培地から除去する助けをする。これにより非特異的結合のバックグラウンドレベルが低減される。
【0161】
更に、過剰量の捕捉細胞は、結合パートナーが分泌されていない細胞に結合される可能性のある分泌標的ポリペプチド特異的結合パートナーを培養培地から除去する助けをする。これにより非特異的結合のバックグラウンドレベルが低減される。
【0162】
捕捉細胞は、哺乳類細胞集団と同種のものであってもなくてもよい。好ましくは、捕捉細胞は哺乳類細胞集団と同種のものである。より好ましくは、捕捉細胞及び哺乳類細胞集団は両方ともCHO細胞である。
【0163】
捕捉細胞は、哺乳類細胞集団の細胞の数に対して過剰な量で存在する。好ましくは、過剰量は、少なくとも2:1過剰(捕捉細胞:哺乳類細胞集団)、より好ましくは少なくとも4:1又は9:1過剰である。いくつかの実施形態では、過剰量は、2:1~5:1過剰、5:1~10:1又は10:1~50:1過剰である。
【0164】
捕捉細胞は好ましくは、哺乳類細胞集団から識別可能とする標識(同じであっても異なっていてもよい)でそれぞれ標識される。この標識は一般に、結合パートナー又は標的ポリペプチドに結合されているいずれの検出可能なタグとも異なる。例えば、捕捉細胞はそれぞれ蛍光標識(例えば蛍光細胞内色素)で標識されてよい。好ましくは、蛍光標識は、クマリン系標識、例えば、7-アミノ-4-クロロメチル-クマリンである。
【0165】
好ましくは、標的ポリペプチドは、哺乳類細胞集団の標的ポリペプチドの発現と同じ様式で捕捉細胞において発現され、例えば、捕捉細胞中の各細胞は、標的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーター(好ましくは、誘導性プロモーター)を含む発現コンストラクトを含み、発現コンストラクトは各捕捉細胞のゲノムに組み込まれる。好ましくは、哺乳類細胞集団の標的ポリペプチドの発現のインデューサーは、捕捉細胞の標的ポリペプチドと同じ発現インデューサーである。
【0166】
捕捉細胞は、培養培地中の一部又は全部の分泌結合パートナーが捕捉細胞に結合できる時間、哺乳類細胞集団と接触させる(例えば共にインキュベートする)。
【0167】
発現コンストラクトが誘導性プロモーターを含む実施形態では、標的ポリペプチドの発現インデューサー(例えばドキシサイクリン)は、この時点で又はステップ(c)で培養培地に添加してよい。
【0168】
細胞はその後、採取し、結合パートナー上の検出可能なタグ及び標的ポリペプチド上の(異なる)検出可能なタグに対する(異なる)抗体で染色してよい。例えば、抗Myc-FITC抗体及び抗HA-PE抗体が使用可能であり、FRET分析には、抗HA-PE抗体及び抗Myc-AlexaFluor647抗体が使用可能である。
【0169】
好ましくは、捕捉細胞の標識の蛍光発光プロファイルは、検出可能なタグに対する蛍光標識抗体のいずれともオーバーラップしないので、捕捉細胞の標識の蛍光発光レベルは、哺乳類細胞集団から捕捉細胞を識別するために使用可能である。このようにして(又は他のいずれかの好適な方法で)、捕捉細胞を哺乳類細胞集団から分離することができる。捕捉細胞はその後廃棄してよい。
【0170】
捕捉細胞は、この時点で又はステップ(c)若しくはステップ(d)で、好ましくは、ステップ(d)で、哺乳類細胞集団から分離し得る。
【0171】
好ましくは、捕捉細胞は、フローサイトメトリー、例えばFACSを用いて哺乳類細胞集団から分離される。
【0172】
本発明の方法のステップ(d)は、哺乳類細胞集団内で、特異的結合パートナーが結合される細胞を識別及び/又は単離することを含む。特異的結合パートナーは、細胞上にディスプレイされる標的ポリペプチドに結合するものである。特異的結合パートナーが結合される細胞は、標的ポリペプチドに対して特異的結合パートナーを産生するものである。このようにして、標的ポリペプチドに対する特異的結合パートナーが識別及び/又は単離である。
【0173】
特異的結合パートナーが結合される細胞は、
(i)フローサイトメトリー、又は
(ii)磁気ソーティング、又は
(iii)細胞集団の細胞が複数の分離したチャンバー内に含有される、マイクロ流体力学システム
を用いて単離又は識別される。
【0174】
フローサイトメトリーにおいて、細胞は、自動セルソーターを用いて、特異的結合パートナーが細胞に結合されるかどうかに基づいて選別される。
【0175】
一実施形態では、フローサイトメトリーは、蛍光活性化細胞選別(FACS)であり、特異的結合パートナーに結合される検出可能なタグは、本明細書に開示されるようなポリペプチドタグであり、このポリペプチドタグは、蛍光体標識二次抗体を用いて検出される。
【0176】
別の実施形態では、磁気ソーティングは、磁気活性化細胞選別(MACS)であり、特異的結合パートナーに結合される検出可能なタグは、本明細書に開示されるようなポリペプチドタグであり、このポリペプチドタグは、常磁性粒子標識二次抗体を用いて検出される。磁気ナノ粒子は当技術分野で周知である(例えばMiltenyi Biotec製)。
【0177】
更なる特に好ましい実施形態では、特異的結合パートナーが結合される細胞は、マイクロ流体力学システムを用いて単離又は識別される。係るシステムにおいて、哺乳類細胞集団の細胞は、複数の分離したチャンバー内に含有される(そして維持される)。係るシステムのひとつの重要な利点は、各細胞(又は少数の細胞)が他の細胞(又は大多数の他の細胞)とは独立して、特異的結合パートナーの産生に関してアッセイできるということである。これにより交差標識の問題が軽減される。
【0178】
マイクロ流体力学は、幾何学上、小さな、一般にミリメートル未満スケールに拘束される流体の挙動、正確な制御及び操作を取り扱う。
【0179】
本発明の方法では、哺乳類細胞集団の細胞は、複数の分離したチャンバー(例えば別個の又は分離したユニット)内に含有される。チャンバーは、例えば、安定化された(水性液滴が融合しないように安定化された)油/水エマルジョン内の液滴(例えば水性液滴)又は固体基質の表面のペンであってよい。
【0180】
いくつかの実施形態では、各チャンバーは、1、1~2、1~5、1~10、5~10、10~20、20~30、30~40、40~50、50~100又は100~500細胞を含んでよい。いくつかの好ましい実施形態では、各チャンバーは、30~50細胞を含む。他の好ましい実施形態では、各チャンバーは、1細胞を含む。
【0181】
いくつかの実施形態では、各チャンバーは、1~2000pL、好ましくは100~1000pL、より好ましくは約200pLの流体(例えば液体)容量を有し得る。例えば、液滴は約200pLであってよく、ペンは1750pL、750pL、500pL、250pL又は1nLであってよい。
【0182】
各チャンバー内には、各細胞が標的ポリペプチド特異的結合パートナーの産生に関してアッセイできるように必要な検出試薬も含まれる。例えば、各チャンバーは又、検出可能なタグに対する標識二次抗体(例えば蛍光体標識二次抗体)も含んでよい。
【0183】
チャンバーは又、生理学上許容される水性組成物、例えば細胞培養培地も含んでよい。
【0184】
一実施形態では、チャンバーは、レーザーによる特異的蛍光に関する分析のためにマイクロ流体チャネルを通過可能な(好ましくは、高速で)水性液を含む液滴である。係る蛍光の検出は、蛍光標識特異的結合パートナーによる標的ポリペプチドの細胞表面標識を示す。陽性液滴はその後、個々の陽性細胞の回収及び拡大培養のために、単離及び分注することができる(例えばマイクロタイタープレート)。係る装置の一例がSphere Fluidics(ケンブリッジ、UK)により製造されたCyto-Mine(登録商標)である。
【0185】
本発明の別の実施形態では、チャンバーは、固体基質(例えばチップ)上にアレイとして配置されたペンである。この場合、固体基質は、基質の表面に分布された複数のペン(例えば別個の場所)を含んでよい。これらのペンは、フローチャネルに隣接するチップ上に水平に整列されたオープエンドチャンバーであってよい。
【0186】
例えば、チップは、1000~20000個のペン、より好ましくは1500~15000個のペン、最も好ましくは約1750、3500又は14000個のペン(最も好ましくはそれぞれ1700pL、750pL及び250pLの容量)を含み得る。
【0187】
個々の細胞をチャンバー(ペン)中に移動させるために光流体工学的技術(例えば光及び何百万の光活性化画素を使用)を使用してもよい。本実施形態では又、細胞は、各ペンの蛍光イメージングを用いて、所望の特性に関してチャンバー内で単独で(又は少数で)アッセイすることができる。係る装置の一例として、Berkeley Lights(エメリービル、CA)により生産されているBeaconプラットフォームがある。
【0188】
これらのシステムは両方とも、細胞の表面に集中する結合した蛍光体を検出することによって機能し、これは培養培地全体に分布し、したがって、拡散したシグナルを与える非結合蛍光体よりも強いシグナルを与える。好ましくは、検出可能なタグはHAタグであり、FITC又はPEに連結された抗体がHAタグを検出するために使用される。
【0189】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップ(d)は、細胞集団をフローサイトメトリー又はマイクロ流体力学システムに複数回(例えば2、3、4又は5回)通すことによって、特異的結合パートナーが結合される細胞又は細胞群を単離又は識別することを含む。その後の通過では、チャンバーあたりの細胞の数は、個々の特異的結合パートナーを発現する細胞が単離又は識別されるまで減らしてよい。
【0190】
例えば、1回目の通過では、各チャンバーは、チャンバーあたり最大約10、20、30、40又は50細胞(好ましくは、チャンバーあたり30~50細胞)を含んでよく、2回目の通過では、各チャンバーは、特異的結合パートナーを発現する細胞を識別するために、チャンバーあたり1~2細胞、好ましくは、1細胞を含んでよい。
【0191】
更に、これらのプラットフォームは、非標的を発現する細胞をこのシステムに組み込むことにより非特異的結合パートナー(すなわち、細胞(例えばCHO細胞)に非特異的に結合する又は他の細胞に細胞表面で結合する結合パートナー)を除外スクリーニングするために使用可能である。この場合、各チャンバーは、標的ポリペプチドを発現しない複数の細胞と混ざっている結合パートナー発現細胞を含む。この場合、チャンバー内の全ての細胞が結合パートナーにより標識されている場合、これは非特異的結合を示すが、1細胞のみが標識されている場合には、これは特異的結合を示す。次に、細胞をチャンバーから回収し、その後、チャンバーあたり1細胞で再びスクリーニングして特異的結合パートナーを発現する細胞を選択することができる。
【0192】
したがって又、各チャンバーが標的ポリペプチドを発現する1細胞及び標的ポリペプチドを発現しない複数(例えば1~50)の細胞(例えばCHO細胞)を含み、細胞表面結合が検出されたチャンバーは、細胞表面結合がチャンバーあたり2細胞以上に検出される場合に棄却される本発明の方法も提供される。好ましくは、検出可能なタグを検出するために第2の蛍光体標識抗体が使用される。
【0193】
Beaconシステムは、更に、ペンあたり1細胞で陽性細胞を識別する能力を提供し、次に、非標的ポリペプチド発現細胞(例えばCHO細胞)を、複数のCHO細胞が各ペンの入口に存在するがペンの中には入らないようにチップに流すことによって非特異的結合を直接アッセイすることができる。ペン内に含まれる細胞により分泌されたscFvはペンの入口に拡散する。ペンの入口におけるこれらのCHO細胞の標識は非特異的結合を示す。続いて、CHO細胞を非特異的に標識しない特異的結合メンバーを産生する細胞を含有するペンの場所を確認するために、標的ポリペプチド陽性細胞をチップに流すことができる。チップをフラッシュした後、これらの細胞を回収し、拡大培養することができる。
【0194】
これらのプラットフォームのいずれかをMACS又はFACS選択と組み合わせたワークフローに組み込むことができる。
【0195】
したがって又、マイクロ流体力学システムが使用され、哺乳類細胞集団の1又は複数の細胞が分離したペンのアレイとして各ペン内に含有され、非標的ポリペプチドディスプレイ細胞(例えばCHO細胞)が、ペン内の細胞から分泌される結合パートナーが非標的ポリペプチドディスプレイ細胞に接触可能なように、アレイとしての分離したペンの端部と接触させるか、又は並行に置き、細胞表面結合が非標的ポリペプチドディスプレイ細胞の表面に検出されたペンを棄却する、本発明の方法も提供される。
【0196】
本発明の方法を用いて特異的結合パートナーの識別のためにマイクロ流体力学システムの全般的適用可能性を実証するためにCyto-Mine(登録商標)装置及びBeacon装置が本明細書に記載されることが当業者により理解されるはずであり、個々の細胞を分離した反応チャンバーにおいてスクリーニング可能とするハイスループット検出システムも同様に使用可能である。
【0197】
本発明のいくつかの実施形態では、検出可能なタグは、検出可能なタグに対する蛍光体標識二次抗体を用いて検出され、ここで、蛍光体は、ドナー-アクセプターFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)対の一方のメンバーである。ドナー-アクセプターFRET対の他方のメンバーは、標的ポリペプチド上検出可能なタグ(例えばMycエピトープ)に対する抗体に結合させてよい。
【0198】
(FRET)は、その励起状態のドナー蛍光体がその励起エネルギーを隣接するアクセプター蛍光体に非放射的に移動させ、それによりアクセプターにその特徴的な蛍光を発せさせる物理的現象である。
【0199】
分泌される結合パートナー(例えばscFv)により標的ポリペプチド結合パートナーシグナルの特異性を高めるために、標的ポリペプチド結合パートナー複合体に同時に結合するアクセプターとドナー蛍光体の間のFRETシグナルを使用し得る。標的ポリペプチドは、標的ポリペプチドの一部である(例えばそれに融合された)、又は標的ポリペプチドに直接結合する第2の検出可能なタグ(例えばMycタグ、HISタグ、FLAGタグなど)に結合するFRETアクセプター抗体により結合され得る。FRETドナー抗体は、結合パートナー(例えばscFv)上の第1の(異なる)検出可能なタグ(例えばHAタグ或いは又、親和性タグ)に結合し得る。FRETアクセプター及びドナー抗体の役割は、当然のことながら、逆転され得る。分泌される結合パートナー(例えばscFv)が標的ポリペプチドに結合する場合、アクセプター/ドナー対はフェルスター距離内に入り、その後、それらはドナーが励起されたところでアクセプター蛍光体からFRETの放出を生じる。このシグナルは、その後、FACS試験において、例えば、標的ポリペプチドに結合する結合パートナーを特異的に発現する細胞集団を選別するために使用され得る。
【0200】
ドナー-アクセプターFRET対の例としては、FITC及びAlexa Fluor 594があるが。他の蛍光対も使用可能である。
【0201】
好ましい実施形態では、本発明は、標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナーを産生する細胞を識別する方法であって、
(a)哺乳類細胞集団において結合パートナーのライブラリを発現させるステップであり、各結合パートナーはフレームワーク及び複数の可変領域を含み、各複数の可変領域は、その結合パートナーに標的に対して特異的な結合親和性を与え、
前記哺乳類細胞集団の各細胞は、その細胞のゲノムに組み込まれた1又は複数のレトロウイルス(例えばレンチウイルス)ベクターから前記結合パートナーライブラリの少なくとも1つのメンバーを発現し、
各結合パートナーは、第1の検出可能なタグを含み、
各結合パートナーは、それが産生される細胞から分泌され、
前記哺乳類細胞集団の各細胞は、前記標的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現コンストラクトを含み、前記標的ポリペプチドは、所望により第2の検出可能なタグを含み、前記発現コンストラクトは、各細胞のゲノムに組み込まれる、ステップと、
(b)所望により、前記哺乳類細胞集団から、結合パートナーが結合する細胞を除去するステップと、
(c)前記標的ポリペプチドが前記哺乳類細胞集団の各細胞の外面にディスプレイされるように、前記発現コンストラクトから前記標的ポリペプチドを発現させるステップと、
(d)前記哺乳類細胞集団内の、特異的結合パートナーが結合される細胞を単離又は識別するステップであり、
特異的結合パートナーが結合される細胞は、
(i)フローサイトメトリー、又は
(ii)磁気ソーティング、又は
(iii)前記哺乳類細胞集団の細胞が複数の分離したチャンバー中の各チャンバー内に含有される、マイクロ流体力学システム
を用いて単離又は識別される、ステップと
を含み、
特異的結合パートナーが結合される前記細胞は、前記標的ポリペプチドに結合する特異的結合パートナーを産生するものであり、
各結合パートナーは、第1の検出可能なタグ(好ましくは、HA)を含み、前記標的ポリペプチドは、第2の検出可能なタグ(好ましくは、Mycエピトープ)を含み、第1及び第2の検出可能なタグは、ドナー-アクセプターFRET対(好ましくは、FITC及びAlexa Fluor 594)の第1及び第2のメンバーが付着している独立した抗体を用いて検出される、
方法を提供する。
【0202】
好ましい実施形態では、結合パートナーは、FITCに連結されたHAタグ付きscFVである。これは好ましくは、Alexa Fluor 594に連結された標的ポリペプチド上のMycタグに対する第2の抗体と共に使用される。
【0203】
これらの2つの蛍光体を、第2の抗体の、標的ポリペプチド及び標的ポリペプチドに結合するscFvへの結合によって近接させると、FITCのある波長で励起させ、Alexa Fluor 594による第2の波長における発光検出できる。
【0204】
FRETは1~10nmの範囲内のドナーとアクセプター双極子間の距離に感度が高いので、この検出方法のひとつの結果は、特異的結合パートナー/標的ポリペプチド相互作用だけが検出されるということであり得る。
【0205】
FRETは、ステップ(d)の単離/同定システムのいずれにおいても使用可能である。
【0206】
本発明の方法は、液体培地、半固体培地、固体培地(例えばゲル)で実施されてよく、又は細胞は完全に若しくは部分的に固定されてよい。
【0207】
好ましくは、本方法は、液体培地、例えば水性生理培地、例えば細胞培養と潜在的特異的結合パートナーの標的ポリペプチドへの結合とに適した水性生理培地で実施される。本実施形態では、分泌された結合パートナーは溶液中に存在するので、それらの分泌元の細胞だけでなく、他の(例えば隣接する)細胞にも自由に結合する。このような場合、細胞集団のうち特異的結合パートナーが結合された最初の細胞が、特異的結合パートナーを産生する細胞となる。経時的に、特異的結合パートナーは、それらの分泌元の細胞以外の細胞に(例えばそれらに向かって対流又は拡散することによって)接触できるようになるが、かなり静的な系では、特異的結合パートナーは最初に、それらの分泌元の細胞に結合する(特異的結合パートナーが標的ポリペプチドに結合可能である場合)。
【0208】
したがって、本発明の方法が液体培地で実施される場合、内部で産生された特異的結合パートナーに細胞がいつ最初に結合されたかを確定するために、多くの異なる時点(例えば4時間、6時間、24時間、48時間など)で特異的結合パートナーが結合しているかどうか細胞をアッセイする必要がある場合がある。係る細胞はその後、選別又は単離されてよい(例えば蛍光標識結合パートナーの場合には、蛍光活性化細胞選別(FACS)による)。
【0209】
したがって、いくつかの実施形態では、ステップ(d)は、
(d)細胞集団のうち、特異的結合パートナーが最初に結合された細胞を識別又は単離するステップ、
を含む。
【0210】
他の実施形態では、ステップ(d)は、
(d)細胞集団のうち、特異的結合パートナーが、特異的結合パートナー自身が分泌された細胞上にディスプレイされた標的ポリペプチドのみに結合しうる時点の後に、特異的結合パートナーが結合された細胞を識別又は単離するステップ、
を含む。
【0211】
ほとんどの方法では、標的ポリペプチドに結合可能な特異的結合パートナーを分泌する細胞は極めて少ないという事実に鑑みて、特異的結合パートナーの他の細胞への対流又は拡散の問題は重大であるとは考えられない。
【0212】
このような拡散の影響を低減する更なる方法は、連続的又は不連続的に液体培地を交換することにより、拡散している特異的結合パートナーを液体培地から除去することである。
【0213】
したがって、他の実施形態では、ステップ(a)は更に、本方法は連続的又は不連続に交換される液体培地において実施されるという特徴を含む。
【0214】
本発明のいくつかの実施形態では、特異的結合パートナーの、それらが産生された細胞から離れる動きを抑制することが望ましい。これにより、非特異的なバックグラウンド結合のレベルの低下、偽陽性細胞の産生の回避が助長される。
【0215】
これを行うためのひとつの方法は、動的粘度が25℃で水よりも大きい液体培地を用いて本発明の方法を行うことである。この方法において、結合パートナーが産生された細胞からのそれらの拡散は低減される。水の動的粘度は25℃で8.9×10-4Pa.sである。好ましくは、本発明の方法のステップ(a)が実施される液体培地の動的粘度は25℃で少なくとも10×10-4Pa.sである。
【0216】
より好ましくは、本発明の方法のステップ(a)が実施される液体培地の動的粘度は、25℃で1×10-4Pa.s~10Pa.s、いっそうより好ましくは25℃で0.01Pa.s~1Pa.s、最も好ましくは25℃で0.01Pa.s~0.1Pa.sである。
【0217】
例えば、液体培地の動的粘度は、中性の増粘剤、例えば、砂糖、ポリビニルピロリジン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG、分子量20KDaまで、より好ましくは約8KDa、最大50%vol/vol)又はポリ[N(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](好ましくは、10~100KDa、最大40%wt/vol)を用いて上昇させることができる。
【0218】
結合パートナーがそれらが産生された細胞から離れて拡散するのを防止する更なる方法は、本発明の方法をゲルで実施することである。ゲルは固体のゼリー状の材料であり、柔らかくて弱いものから硬くて強固なものまでの特性を持ち得る。ゲルは、実質的に希薄な架橋系として定義されており、定常状態では流動性を示さない。重量では、ゲルはほとんど液体であるが、液体内の3次元架橋ネットワークにより、固体のように挙動する。ゲルにその構造(硬度)を与え、粘着性接着力(タック)に寄与するのは、流体内の架橋である。このように、ゲルは固体内の液体の分子の分散物であり、固体は連続相であり、液体は不連続相である。
【0219】
好ましくは、ゲルはヒドロゲル、すなわち親和性ポリマー鎖の架橋ネットワークである。いくつかの実施形態では、ヒドロゲルは、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリレートポリマー、又は親水基を豊富に含むポリマー若しくはコポリマー(ポリ[N(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]ベースのコポリマー、又はポリエチレングリコール若しくはオリゴペプチドベースのブロックコポリマーなど)から形成される。他の実施形態では、ヒドロゲルは、アルギン酸塩、アガロース、メチルセルロース、ヒアルロン酸、又はその他の天然由来のポリマーから形成される。
【0220】
好ましくは、ゲルはアルギン酸ヒドロゲルであり、より好ましくはアルギン酸カルシウムヒドロゲルである。係るゲル内に閉じ込められた細胞は、二価カチオンキレート剤、例えばEDTA又はEGTAの適用時に容易に放出することができ、その後「標識」された細胞は通常の方法で単離することができる(例えば流動選別による)。ヒドロゲルはビーズの形態であってよい。
【0221】
細胞に対する特異的結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)の非特異的結合のバックグラウンドレベルは、ネガティブセレクションステップによって低減することができる。このステップでは、標的ポリペプチドが細胞上にディスプレイされる前(すなわち、発現コンストラクトが誘導性プロモーターを含む実施形態では、標的ポリペプチドの発現の誘導前)に結合パートナーが(非特異的に)結合された細胞が、最初に細胞集団から除去される。
【0222】
したがって、いくつかの実施形態では、ステップ(a)は更に、
細胞集団から、結合パートナーが結合する細胞を除去するステップ
を含む。
【0223】
標的ポリペプチドに対して特異的結合パートナーを産生する細胞(すなわち、特異的結合パートナーが結合するもの)が識別及び/又は単離されれば、それらの細胞を好適な任意の手段ンによって精製してよい。
【0224】
いくつかの実施形態では、特異的結合パートナーが結合する細胞は、例えばフローサイトメトリーにより、複数回(すなわち反復して)精製される。
【0225】
精製細胞によって産生された特異的結合パートナーをコードするポリヌクレオチドは配列決定されてよく、それにより全部又は一部の特異的結合パートナーのアミノ酸配列が提供される。好ましくは、結合パートナーライブラリのメンバー間で共通でない特異的結合パートナーの1又は複数の領域が配列決定される。より好ましくは、特異的結合パートナーのCDR配列の1又は複数のアミノ酸配列が得られる。
【0226】
好ましくは、配列決定法は、非サンガー配列決定法である。係る方法には、合成によるシークエンシング(例えばIllumina、Inc.)、ナノポアシークエンシング(例えばOxford Nanopore Technologies)、パックバイオシークエンシング(例えばPacific Biosciences)及びその他の次世代シークエンシング(NGS)法がある。
【0227】
次に、標的ポリペプチドに対するより高い親和性又は特異性を有する特異的結合パートナーを産生するために、最も有望な特異的結合パートナーのアミノ酸配列は、例えば、ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の変異誘発により、親和性成熟を受けてよい。
【0228】
更なる実施形態では、本発明は、本発明の方法によって識別された特異的結合パートナーを提供する。
【0229】
なお更なる実施形態では、本発明は、哺乳類細胞集団を作製するためのプロセスであって、
哺乳類細胞集団において各細胞(又は実質的に各細胞)が1又は複数の結合パートナー(例えば抗体又は抗体模倣物)を分泌し、前記哺乳類細胞集団の各細胞がその細胞の外面に標的ポリペプチドグを(好ましくは、誘導時に)ディスプレイするか、又はディスプレイ可能である哺乳類細胞集団を作製するために、
(A)前記哺乳類細胞集団の各(又は実質的に各)細胞のゲノムに、標的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーター(好ましくは、誘導性プロモーター)を含む発現コンストラクトを組み込むステップと、
(B)前記哺乳類細胞集団をレトロウイルス(例えばレンチウイルス)粒子のライブラリと接触させるステップであり、各粒子は、結合パートナーライブラリのメンバー及び第1の検出可能なタグをコードするレトロウイルス(例えばレンチウイルス)ベクターを含む、ステップと
を含むプロセスを提供する。
【0230】
ステップ(A)及び(B)はいずれの順序で実施してもよい。
【0231】
好ましくは、細胞集団の各細胞(又は実質的に各細胞)は、1~3、1~2又は最も好ましくは1つのみの結合パートナーを分泌する、又は分泌することができる。
【図面の簡単な説明】
【0232】
【
図1】EpCAMタンパク質を発現している細胞の抗EpCAM単鎖抗体を用いた標識化。棒グラフは、蛍光標識した抗HA抗体による染色とその後のフローサイトメトリー分析の後の各細胞集団の蛍光強度の中央値を示す。EpCAM及び抗EpCAM単鎖抗体を用いてHEK293細胞を同時トランスフェクトした(一番上の棒グラフ)。コントロールには、EpCAM単独又は抗体単独又は空のベクターでトランスフェクトした細胞を含めた(下)。
【
図2A】EpCAM及びGFPを発現する細胞をEpCAM及び抗EpCAM scFvを発現する細胞と混合した。X軸はscFv標識の程度を示し、Y軸はGFP蛍光強度を示す。scFvではなくGFPを発現している細胞は、左上(UL)象限に現れ、scFvで自己標識されているがGFP陰性である細胞は右下(LR)象限に現れ、scFv発現細胞から可溶性scFvでトランス標識されたGFP陽性細胞は右上(UR)象限に現れる。EpCAM-scFv細胞に対するEpCAM-GFP細胞の比率が高い場合(25:1及び125:1)、任意の検出可能な抗体が集団の他の細胞に移行する機会が生じる前に、自己標識細胞の小さな亜集団が観察される。
【
図3】本発明の方法の一例であり、内在性膜タンパク質を認識する抗体を示す。A.分泌されたscFvライブラリ(細胞あたり平均1scFv)と同時の、ヒト細胞表面(白丸)でのベイトタンパク質の同時発現。B.ベイトに結合するscFVを発現する細胞は、自己標識化される。C.細胞は、蛍光二次抗体により、表面に結合したscFvについて染色される(星印)。D.蛍光細胞は、FACSによりマイクロタイタープレートの個々のウェルに分類される。上清結合活性が特徴付けられ、有力候補は親和性成熟の前に配列決定される。
【
図4】標的ポリペプチド(ベイト)発現コンストラクトの一例。
【
図5】scFv発現コンストラクトの一例。発現は脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーターによって駆動される。発現コンストラクトはC末端ヒトインフルエンザ血球凝集素(HA)タグをコードする。
【
図6】レンチウイルスLTRにより挟み込まれたPD-1を含有する発現カセットからなるレンチウイルスペイロードベクター。
【
図7】誘導無し又はドキシサイクリンで誘導した場合の、抗Myc-FITC抗体でN末端Mycタグに対して標識したPD-1発現カセットを形質導入したCHO細胞の例示的フローサイトメトリー分析。
【
図8】レンチウイルスLTRにより挟み込まれたscFV発現カセットからなるレンチウイルスペイロードベクター。
【
図9A】スパイクされたscFvライブラリを形質導入したCHO-PD1細胞に対する3回のMACS選択のフローサイトメトリー密度のプロット。細胞を抗HA-PEで標識した。これらのプロットは、各回の終了時のHA陽性細胞数の増加を示す。
【
図10A】下流のゲノムDNA単離及びNGS分析のための細胞選別を示すフローサイトメトリープロット。A,ドキシサイクリンの不在下で培養した(左のパネル)又は細胞選別のためにドキシサイクリンで誘導した後の(右のパネル)CHO細胞のプロファイルを示す密度プロット(結合したscFvの存在に関しては抗HA-PE(X軸)で、及びPD-1の存在に関しては抗Myc-FITC(Y軸)で染色した)。
【
図10B】B,細胞選別ゲートに着目したFACSプロット。太線の四角はPD-1標的とHAタグの二重陽性細胞を強調する。
【
図11A】(A)scFvのEpCAMへの結合によるFRETの精製の概略図。
【
図12】細胞内色素で標識された「捕捉」CHO細胞による分泌されたscFvの隔離を示す概略図。
【
図13】標的抗原及び同じ抗原に結合する分泌scFvを同時発現する形質導入(「捕捉」)CHO細胞のFACS分析。
【
図14A-1】再クローニングされscFv又は完全IgG1のいずれかとして発現される選択された抗EpCAM配列のEpCAM結合分析。a)scFv(左)及び完全IgG(右)の両方の、CHO-EpCAM細胞及びCHO-Xコントロール細胞への結合のフローサイトメトリー分析。
【
図14B】b)完全IgG1の形式とされ、EpCAM-ECDに結合するタンパク質Aセンサーチップ上に捕捉された抗体の単回動態SPRセンサーグラム。曲線フィッティングからのデータを表1に示す。SPRトレースは、4回の独立した実験からの代表的データを示す。
【
図15A】3つの選択抗体を用いて作製されたCAR-T細胞の抗原特異性の評価。a)48時間の培養の後にフローサイトメトリーにより測定した場合の、CHO-EpCAM細胞又はCHO-X細胞との同時培養(5:1日での同時培養)時のPBMC由来CAR-T細胞上の活性化マーカーCD25の誘導。
【
図15B】b)48時間の培養後にLDHの放出により評価した場合の、CHO-X又はCHO-EpCAMとの同時培養時のPBMC由来CAR-T細胞の細胞傷害性。
【
図15C】120時間にわたってモニタリングした、PBMC由来CAR-T細胞と同時培養した(1:5比で)CHO-X細胞(c)又はCHO-EpCAM細胞(d)xCELLigence分析。データは、3回の生物学的3反復で測定し、平均は実線で表し、標準誤差は同じ色の点線で示す。統計分析は2元配置ANOVAとボンフェローニ事後検定で行い、有意性は単独培養したT細胞又はCHO細胞に対して評価した(
***P<0.001)。
【
図15E】e)CHO-EpCAM細胞、MCF7細胞又はCHO-X細胞との4時間の同時培養(1:1比)後の活性化マーカーCD69の誘導のフローサイトメトリー分析によるJurkat CAR-T細胞活性化の評価。グラフは3回の独立した実験からの代表的データを示し、平均及びSEMを示す。統計分析はCHO-X細胞と比較するCHO-EpCAM細胞又はMCF7細胞に関する、テューキーの多重比較検定を用いた2元配置ANOVAにより行った(
****P<0.0001)。
【実施例】
【0233】
以下の実施例により本発明を更に説明するが、別段の記載がない限り、部及びパーセントは重量によるものであり、温度は摂氏である。なお、これらの実施例は、本発明の好適な実施形態を示しているが、例示のみを目的とすることが理解されるべきである。上記の議論とこれらの実施例から、当業者は本発明の本質的な特徴を確認することができ、その主旨及び範囲から逸脱することなく、本発明の様々な変更及び改変を行って、本発明を様々な用途及び条件に適合させることができる。よって当業者には、本明細書に図示及び記載されているものに加えて、本発明の様々な改変が前述の説明から明らかであろう。係る改変も、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0234】
本明細書に記載される各参考文献の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0235】
実施例1:抗EpCAM抗体を発現する細胞による自己標識の実証
適切な標的ポリペプチド(ベイト抗原)として上皮細胞接着分子(EpCAM)を選択した。EpCAMは、3つの潜在的なN結合型糖鎖付加部位を含む、グリコシル化された30~40kDaのI型膜タンパク質である。
【0236】
HEK293細胞を、分泌されたHAタグ付き抗EpCAM単鎖抗体発現コンストラクトと共に、EpCAM発現コンストラクトでトランスフェクトした(HEK293細胞は通常EpCAM陰性である)。24時間のインキュベーション期間の後、細胞を蛍光標識抗HAタグ抗体で染色し、フローサイトメトリーで分析して、どの細胞がコードされた抗EpCAM抗体で自身の膜EpCAMを自己標識したかを判定した。
【0237】
結果を
図1に示す。「ベイト」抗原(EpCAM)とscFvの両方を発現している細胞は強い蛍光を発している一方、他の細胞(EpCAMのみ又はscFvのみのいずれかを発現している)は全てそうではなかった。これは、scFvを分泌する細胞が自身の表面にある抗原を標識できることを示す。
【0238】
実施例2:無関係な細胞の標識を防ぐためのストリンジェンシーの最適化
EpCAM発現細胞の2つの集団を作製した。抗EpCAM抗体を発現するものもあれば、代わりに緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するものもあった。細胞を異なる比率で混合し(抗体を発現する細胞を常に少数派とした)、異なる時間インキュベートし、固定された表面結合抗体を赤チャネルで染色することによって視覚化した。抗体を発現している少数の細胞は必ず最初に自身を標識し、フローサイトメトリープロットの右下の象限に細胞が生じた(細胞は赤色であるが緑色ではなく、抗体産生細胞は無関係な細胞の前に標識されたことを示す)。
【0239】
結果を
図2に示す。1:125に希釈しても、かなりの数の細胞が右下の象限に現れる。これは、細胞表面の抗原に結合する抗体を発現している細胞を表す。
【0240】
実施例3:DRD1に対する抗体の産生
本実施例では、標的ポリペプチド(ベイト)はDRD1であり、これはCHO細胞で発現される(概要については
図3を参照)。レトロウイルス導入ベクターは、標的ポリペプチド(ベイト)コンストラクト及び抗体ライブラリをCHO細胞にクローン化するために用いられる。
【0241】
標的ポリペプチド(ベイト)細胞株は、レトロウイルス系を用いて、選択可能なマーカーと共に宿主細胞(CHO)ゲノムに標的ポリペプチド(ベイト)の遺伝子を組み込むことによって作製される(
図4を参照)。標的ポリペプチドコンストラクトはTetリプレッサー(TetR)の遺伝子も含む。標的ポリペプチド(ベイト)発現はドキシサイクリン誘導性プロモーターによって駆動される。
【0242】
ヒト様scFv配列のヒトscFv配列のcDNAベースのライブラリをコードするレトロウイルス粒子のライブラリを用いて、CHO細胞を感染させる。scFvライブラリの場合、レトロウイルス導入ベクターは、構成的プロモーター(SFFV)とscFv抗体サブユニットの隣接領域とを含むように改変される(
図5を参照)。各scFVはHAタグも含む。
【0243】
24時間のインキュベーション期間の後、細胞を蛍光標識抗HAタグ抗体で染色し、フローサイトメトリーで分析して、どの細胞がscFV抗体で自身の膜DRD1を自己標識したかを判定する。
【0244】
実施例4:MACS技術を用いたPD-1結合剤の選択
ドキシサイクリン誘導性プロモーターの制御下にヒトプログラム細胞死タンパク質(programmed cell death protein)1(PD-1、配列番号1)とN末端Mycタグ(EQKLISEEDL、配列番号2)の遺伝子を含んだレンチウイルスベクターを構築した。ベクターは又、ピューロマイシン選択マーカーも含み、この発現カセットは、レンチウイルスの長い末端反復配列(LTR)により挟み込まれている(
図6)。このプラスミドを、トランスで供給されるウイルス粒子の組み立てのために必要な遺伝子をコードするプラスミドと共にHEK293細胞株に同時トランスフェクトした(方法論の概要についてはSakuma他2012 Lentiviral vectors:basic to translational.Biochem J.443(3):603-618を参照)。封入されたPD-1遺伝子を含有する分泌されたウイルス粒子を採取し、0.5のMOIでCHO細胞に形質導入するために使用した。形質導入細胞をピューロマイシンで選択し、細胞プールとして増殖させた。選択された細胞をドキシサイクリンの存在下で4日間増殖させ、PD-1発現をフローサイトメトリーにより確認した(
図7)。
【0245】
アミノ酸リンカー(GGSSRSSEVQLVESGGG、配列番号4)により分離された、CDRH3及びCDRL3内にアミノ酸バリエーションを有するシングル抗体VL及びVH遺伝子を含んだ遺伝子合成(Oak Biosciences、サニーベール、CA)により、scFvタンパク質配列(配列番号3)の多様なレパートリーをコードするDNAフラグメントのライブラリを得、合計1×10
9ライブラリメンバーという理論的ライブラリの多様性を得た。これらのフラグメントをレンチウイルスベクターの、脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーターの制御下にクローニングし、増殖培地へのscFvの分泌を指示するための上流シグナル配列(免疫グロブリン軽鎖シグナル配列)及び検出のための下流HAタグを含めた。この発現カセットはレンチウイルスLTRにより挟み込まれている(
図8)。ウイルス粒子のライブラリは上記のように作製した。
【0246】
15アミノ酸の(G4S)3アミノ酸リンカー(配列番号6)により分離された、抗PD-1抗体(ペンブロリズマブ、国際公開第2012135408号、配列番号5)の可変ドメイン配列に基づく単一のscFv配列を含有すること以外はscFvライブラリベクターと同様の更なるレンチウイルスベクターも構築した。
【0247】
抗体発見プロセスの原理を実証するために、ドキシサイクリンの存在下で24時間増殖させた109のPD-1形質導入CHO細胞に、scFvライブラリを含有するレンチウイルスと抗PD-1を含有するレンチウイルスの106:1比の混合物を1のMOIで形質導入した。形質導入細胞を37℃で18時間、25℃で16時間増殖させた後、細胞を遠心分離により採取した。細胞を10%FBS及び2mM EDTAを含有する180mLのPBS pH7.4(「MACSバッファー」)に再懸濁させ、40μmのセルストレーナーに通した。2×109細胞を遠心分離し、1×108細胞/mLの密度で、20mLのMACSバッファー及び2mLのフィコエリトリン(PE)コンジュゲート抗HA抗体(Miltenyi Biotech、ビスレー、UK)に再懸濁させた。細胞を4℃で15分間インキュベートし、MACSバッファーで2回洗浄した。磁気標識のために、細胞を16mLのMACSバッファーに再懸濁させ、4mLの抗PEマイクロビーズ(Miltenyi Biotech、ビスレー、UK)と共に4℃で15分間インキュベートした。細胞を再び洗浄し、10mLのMACSバッファーに再懸濁させた後、重力流により磁気分離カラム(Miltenyi Biotech、ビスレー、UK)に通した。これらのカラムをMACSバッファーで2回洗浄した後、結合した細胞をMACSバッファーで溶出させた。標識細胞の磁気富化を第2のMACSカラムで繰り返した。
【0248】
磁気によるポジティブセレクションの前後で得られた標識細胞のサンプルを、Attune(商標)NxT Acoustic Focusing Cytometer(ThermoFisher Scientific、ラフバラー、UK)にてPE蛍光に関して分析した。溶出した細胞を増殖培地に戻し、少なくとも4日間拡大培養した後、新たな回のポジティブセレクションを開始した。サンプル(5×10
8細胞)に対して、上記のように、ドキシサイクリン誘導3日、その後にMACS、並びに各段階の後のフローサイトメトリーによる分析を含め、更に2回の磁気によるポジティブセレクションを行った(
図9)。3回目のポジティブセレクションの後に、非特異的にCHO細胞に結合したか、又は細胞表面のヒトPD-1以外のタンパク質に結合したscFv分泌細胞をライブラリから除去するためにネガティブセレクションを行い、この場合、PD-1の発現を停止させるために増殖培地中、ドキシサイクリン不含で8日間細胞を培養した後、上記のような選択プロセスを繰り返し、5×10
7細胞をカラムに適用し、溶出液ではなくフロースルー及び最初の洗浄画分を回収した。
【0249】
本実施例の目的では、3回目のポジティブセレクションの後にネガティブセレクションステップを行ったが、このステップは、ポジティブセレクションを実施する前、又は1回目、2回目若しくは3回目のポジティブセレクションの後など、選択プロセス中のいずれの段階で行ってもよい。更に、標的タンパク質に対する特異的結合剤の単離の必要に応じて、いずれの数のポジティブセレクション及び/又はネガティブセレクションをいずれの組合せで行ってもよい。
【0250】
ネガティブセレクションの後、PD-1の発現を再開させるために、回収された画分を3日間(37℃で48時間、次いで、25℃で18時間)ドキシサイクリンの存在下で拡大培養し、その後、FACS(SH800セルソーター、Sony Biotechnology、ウェーブリッジ、UK)を用いて細胞選別を行った。この目的で、細胞を抗HA-PE抗体(Miltenyi Biotech、ビスレー、UK)及び抗Myc-FITC抗体(Abcam、ケンブリッジ、UK)で二重染色した。SYTOX(商標)AADvanced(商標)Dead Cell Stain Kit(ThermoFisher Scientific、ラフバラー、UK)を生存能色素として用いて死細胞を排除した。SH800ソフトウエアを用いる自動補正を設定するために適当な単一染色補正コントロールを使用した。二重染色細胞(
図10)を回収し、溶解させ、DNeasy Blood & Tissue Kit(Qiagen、マンチェスター、UK)を製造者の説明書に従って用いてゲノムDNAを精製した。
【0251】
選別細胞のゲノムDNAを、scFv発現カセットに隣接するプライマー(配列番号7及び配列番号8)を用いたPCRにより増幅し、ペアエンドMiSeq次世代シークエンシング(NGS)技術(Illumina、ケンブリッジ、UK)を用いてアンプリコンを配列決定した。配列決定データを分析して、富化されたscFvのCDRを同定したところ、限られた数のscFvだけがこの選択プロセスを通過し、そのうち18%がペンブロリズマブの配列であり、したがって、上記の方法論を用いて特異的PD-1結合剤のおよそ200,000倍の富化が示された。
【0252】
実施例5:マイクロ流体力学を用いた抗原結合scFvを分泌するCHO細胞の単離
実施例4に記載のとおりに作出したPD-1形質導入CHO細胞をドキシサイクリンの不在下で拡大培養し、これも又実施例4に記載のとおりに、scFvのライブラリを含有するレンチウイルスで更に形質導入した。形質導入細胞をドキシサイクリンの不在下、37℃で28時間及び25℃で16時間増殖させた後、遠心分離により採取した。これらの細胞をMACS分離向けに準備し、実施例4に記載のとおりにMACSカラムに通し、フロースルーと最初の洗浄画分を回収した。これらの画分をプールし、遠心分離し、細胞をMACSバッファーに再懸濁させ、第2のMACSカラムに適用し、再びフロースルーと最初の洗浄画分を回収した。これは1回目のネガティブセレクションステップに当たる。回収した細胞を、ドキシサイクリンを含有する増殖培地に戻し、少なくとも4日間拡大培養した後に、実施例4に記載のとおりにポジティブセレクションを1回行った。
【0253】
このポジティブセレクションステップ後の細胞を、ドキシサイクリンを含有する増殖培地で4日間拡大培養した後、遠心分離し、洗浄し、封入培地(16%OptiPrep(商標)(Sigma-Aldrich、プール、UK)、0.1%プルロニック(登録商標)(ThermoFisher Scientific、ラフバラー、UK)、抗HAタグFITC(1:200、Miltenyi Biotech、ビスレー、UK)及び抗MycタグAlexa Fluor 594(1:200、Abcam、ケンブリッジ、UK)を含有する増殖培地)に1×108細胞/mLの密度で再懸濁させた。この細胞懸濁液をCyto-Cartridge(登録商標)(Sphere Fluidics、ケンブリッジ、UK)のリザーバーに入れ、このカートリッジをCyto-Mine(登録商標)装置(Sphere Fluidics、ケンブリッジ、UK)に装填した。200pLの培地中にそれぞれ平均30個のCHO細胞を含有する液滴をCyto-Surf(登録商標)試薬(Sphere Fluidics、ケンブリッジ、UK)中に封入し、カートリッジインキュベーションチャンバーに向け、そこでそれらを37℃で2~4時間インキュベートしてscFvの発現を促進する。これらの液滴をその後カートリッジの検出モジュールに通し、緑色蛍光と赤色蛍光の両方を分析し、培地中の拡散標識と細胞表面周辺に集中した標識を識別することができる。抗Myc Alexa Fluor 594(細胞表面のPD-1の存在を示す)と抗HA FITC(結合したscFvを示す)の両方で細胞表面が標識された細胞を含有する液滴をカートリッジの回収チャンバーに向け、その後、ウェルあたり50μlのドキシサイクリン含有増殖培地を予め充填した384ウェルプレートに、ウェルあたり1液滴で分注する。
【0254】
これらのプレートを37℃で48時間インキュベートし、各ウェルから細胞を回収し、合わせて細胞プールとする。その後、この細胞プールを更に48時間拡大培養した後、遠心分離し、洗浄し、封入培地に1.2×106細胞/mlの密度で再懸濁させる。その後、液滴あたり1細胞を最大密度として細胞を封入すること以外はCyto-Mine(登録商標)の実施を上記のとおり繰り返す。これらの液滴を上記のようにカートリッジに通し、赤色及び緑色蛍光チャネルで検出する。加えて、これらの液滴をフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)により、FITC蛍光体の励起とAlexa Fluor 594蛍光体による発光の分析によって分析する。緑色及び赤色の両方の発光が陽性の液滴は、scFvでも標識されたPD-1発現が陽性の細胞の存在を示す。加えてFRETシグナルを発する液滴は、FITC標識及びAlexa Fluor 594標識が近接している(<10nMの距離)ことを示し、したがって、シグナルは、scFvと細胞表面の他のタンパク質の間の非特異的相互作用ではなく、scFvとPD-1の間の特異的相互作用の結果としてのものである可能性がより高い。選択された液滴はカートリッジの回収チャンバーに向け、その後、ウェル当たり50μlの増殖培地を予め充填した384ウェルプレートに、ウェル当たり1液滴で分注した。
【0255】
必要であれば、これらの細胞を、ドキシサイクリンを含有する培地で増殖させることにより非特異的結合剤の存在に関して更に分析し、その後、遠心分離し、洗浄し、1.2×107の親CHO細胞(すなわち、PD-1を発現しない細胞)も含有する封入培地に、1.2×106細胞/mlの細胞密度で再懸濁させる。この細胞懸濁液をCyto-Mine(登録商標)に装填し、それぞれ平均10細胞を含有する液滴に封入する。これらの液滴を上記のようにこの装置で処理し、赤色蛍光及び緑色蛍光を分析する。低レベルの赤色蛍光(1細胞又は2細胞でのPD-1発現)及び高い緑色蛍光を示す液滴は、液滴中の細胞の全てに結合している、したがって、CHO細胞に特異的に結合しているscFvの存在を示す。蛍光を示さない液滴は、scFvを発現している細胞を含有しない。陽性であるが低い赤色蛍光(1細胞又は2細胞でのPD-1発現)且つ陽性であるが低い緑色蛍光(1細胞又は2細胞のscFv染色)を示す液滴は、PD-1に特異的なscFv結合剤の存在を示す。これらの液滴をカートリッジの回収チャンバーに向け、その後、ウェル当たり50μlのドキシサイクリン含有増殖培地を予め充填した384ウェルプレートに、ウェル当たり1液滴で分注する。その後、回収した細胞をプールし、ドキシサイクリンを含有する増殖培地中で拡大培養し、プールを行わずに単一の選別細胞に由来するクローン培養で維持されるPD-1に特異的なscFvを発現している単細胞を再び単離するために、上記のように、液滴あたり1細胞を最大としてCyto-Mine(登録商標)で処理する。
【0256】
各培養からの細胞のサンプルを溶解させ、ゲノムDNAを単離し、サンガーシークエンシングにより配列決定して陽性scFvDNAの配列及びタンパク質配列を特定する。完全抗体の発現のために重鎖可変領域と軽鎖可変領域の対を発現ベクターにクローニングし、次にこれをHEK 293細胞に一過性にトランスフェクトする。細胞培養上清をELISAにより抗体の存在及び発現量に関してアッセイし、その後、PD-1を発現しているCHO細胞に対する結合に関してフローサイトメトリーにより分析する。
【0257】
実施例6:scFvのEpCAMへの結合を検出するためのFRETの使用
分泌されたscFvによる抗原結合シグナルの特異性を増強するために、標的-scFv複合体に同時に結合するアクセプターとドナー蛍光体の間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)シグナルを使用した。膜結合型標的抗原EpCAMは、抗原に融合されたMyc親和性タグに結合したFRETアクセプター抗体により結合された。FRETドナー抗体はscFv上のHAタグに結合した。分泌されたscFvが細胞表面抗原に結合した場合、アクセプター/ドナーはフェルスター共鳴距離内に入り、ドナーが励起されたならばアクセプター蛍光体からのFRETの放出を生じた。その後、このシグナルは、細胞表面標的抗原に結合したscFvを特異的に発現した細胞集団を選別するためにFACS実験で利用された。
【0258】
実験の設定及び結果を
図11に示す。この図は、抗HA-PE抗体及び抗MYC-AF647抗体を細胞表面複合体に同時に結合させることにより、scFvのEpCAMへの結合によってFRETを生成する概略図を示す(左のパネル)。EpCAM及びEpCAMに結合したscFvを同時に発現するCHO細胞のFACSデータを右のパネルに示す。左のパネルは、抗HA-PEによる単一の染色を示し、右のパネルは、ドナー及びアクセプター蛍光体(PE及びAF647)による二重染色を示す。ゲート画分(下のパネル)は、FRETを示した細胞集団を強調する。
【0259】
実施例7:バックグラウンドシグナルを軽減するための「捕捉細胞」の使用
哺乳類細胞のスクリーニング及び選択中に、可溶性抗体は形質導入細胞亜集団により継続的に放出される。これらの抗体は不必要に隣接細胞の自身のエピトープ(所望の標的上又は任意の膜タンパク質上)に結合することができ、選別された集団への交差標識細胞の混入につながる。
【0260】
この交差標識を低減するために、対象とするCHO細胞サンプルを、PD1標的抗原を発現する、1:4又は1:9過剰の非形質導入CHO細胞(「捕捉細胞」)と共培養した。これらの捕捉細胞は、培地中に分泌されたscFv抗体を隔離した。共培養の前に、捕捉細胞を蛍光細胞内色素(CellTracker(商標)Blue CMAC、ThermoFisher Scientific、ラフバラー、UK)で標識した。各細胞上に標的抗原の発現を誘導するために、混合した細胞サンプルをドキシサイクリンの存在下で2~4日間インキュベートした。細胞を採取し、好適な抗体対(抗Myc-FITCと抗HA-PE)で染色した。この細胞内色素の発光プロファイルは蛍光標識抗体のいずれともオーバーラップしなかったことから、このCMAC蛍光のレベルを使用して、細胞サンプルから捕捉細胞を識別すること、及び更なる分析又は選別のために非捕捉CHO細胞を除外することができる。
【0261】
図12は、形質導入CHO細胞から分泌されたscFvが、細胞内色素で標識された捕捉CHO細胞により隔離された実験の概略図を示す。この設定は、細胞間を交差標識する抗体の影響を著しく軽減した。
【0262】
図13は、標的抗原(PD1)及び同じ抗原に結合した分泌scFvを同時発現した形質導入CHO細胞のFACS分析を示す。シグナルは抗HA-PEモノクローナル抗体から生成された。上のパネルは、標準的な形質導入細胞集団(捕捉細胞不含)の抗HA標識を示す。下のパネルは、細胞内色素(CMAC)で標識された標的抗原を発現するCHO細胞と共培養する影響を示す。CMACシグナルは非形質導入集団を区別するために使用され、よって、交差標識の低減及び真の自己標識陽性画分のFACS選別を可能とする。
【0263】
実施例8:候補scFv配列の同定、IgGの再フォーマット並びにCHO-EpCAM細胞及びSPRに対するバリデーション
2回目のFACS富化の生成物から、選択された複数のEpCAM陽性結合剤の可変ドメイン遺伝子をPCR増幅し、配列決定した。3つのクローン(SP12-E10、SP14-C8及びSP17-F7)は共通の重鎖配列であったが、異なる軽鎖配列を持っていた。
【0264】
3つの配列全てをscFv及び全長IgG1の両方として発現プラスミドに再クローニングし、EBNA1を発現するように改変した懸濁HEK293細胞にトランスフェクトした(OX293-EBNA)。トランスフェクト細胞からの上清をもう一度CHO-EpCAM細胞又はCHO-Xコントロール細胞に適用し、それらの特異性を確認した。SP12-E10、SP14-C8及びSP17-F7(
図14a)は、scFv及び完全IgG1の形式とした両方の場合でCHO-EpCAM細胞と特異的に結合することが判明した。これら3つの陽性クローンは、sscFv又は完全IgG1のいずれかとして、CHO-EpCAM細胞に異なる結合特徴を示し、各場合で、クローンSP14-C8は最も強い結合を示し、SP12-E10は最も弱い結合を示した。その後、IgG1変換クローンをタンパク質Aアフィニティカラムで精製した。
【0265】
EpCAMの組み換えヒト細胞外ドメインをアナライトとして用いる、Biacore T200での、タンパク質A表面に固定されたSP12-E10、SP14-C8及びSP17-F7の単回動態SPR分析により、それぞれ5.92nM、0.76nM及び58.9nMの親和性が得られた(表1)。
【0266】
【0267】
SP14-C8の会合速度定数(Ka)(1.28×1051/Ms)は、他の2つの抗体に関するものよりも有意に速かったが、3つ全ての抗体間の解離速度定数(Kd)の違いは2倍より小さかった。よって、本発明者らは、独自の哺乳類ディスプレイ技術を用いて、明らかにナノモル以下の親和性を有する抗EpCAM特異的抗体を単離した。
【0268】
実施例9:EpCAM scFvを用いたCAR-Tコンストラクトの作出及びCAR-T細胞アッセイ
キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞を、本発明者らの3つのEpCAM結合剤のパネルを用いて試験した。抗体選択に用いた2つのEpCAM陽性細胞株MCF-7(乳癌細胞株)及びCHO-EpCAM細胞株を標的として用い、Jurkat細胞及びヒト末梢血単核細胞(PBMC)由来のCD3+T細胞の両方をエフェクター細胞として使用した。CAR-T細胞は、Jurkat細胞又はヒトPBMC由来CD3+T細胞のいずれかのレンチウイルス形質導入により作出した。第2世代CARスキャフォールドを、CD8由来膜貫通領域に融合された抗EpCAM scFv、続いて4-1BB補助刺激ドメイン及びCD3ζ鎖と共にコードするようにレンチウイルスを操作した。
【0269】
形質導入された、ヒトPBMC由来CD3+T細胞を10日間拡大培養した後に試験した。同じ構造及びCD19を認識するscFvを有するコントロールCAR-T細胞も又作出した。CAR-T細胞の抗原特異性は、CHO-X細胞株及びCHO-EpCAM細胞株との共培養で試験した。EpCAM-CAR-T細胞は、親CHO-X細胞とではなく、標的CHO-EpCAM細胞と共培養した際にのみ、活性化マーカーCD25の発現の有意な増大を示し(SP14-C8及びSP12-E10によりそれぞれ36.5%及び29%、
図15a)、細胞傷害性を惹起した(SP14-C8及びSP12-E10によりそれぞれ40%及び52%、
図15b)。コントロールCD19-CAR-T細胞は、CD25発現がT細胞単独で見られたバックグラウンドレベルと同等であったことから、活性化を示さなかった。しかしながら、CHO-EpCAM細胞に対する細胞傷害性の増大は見られ(27%、
図15b)、ある程度の交差反応性が示唆される。本発明者らは更に、CAR-T細胞が、CHO-X細胞及びCHO-EpCAM細胞の共培養時に、細胞生存能の無単位の指標である細胞指数によりリアルタイムで測定される標的細胞の死滅を誘導したかどうかを調べた。コントロールCD19-CAR-T細胞の存在下で、CHO-X及びCHO-EpCAM細胞は120時間持続したが(
図15c)、EpCAM-CAR-T細胞を用いた場合(SP14-C8及びSP12-E10)、CHO-EpCAM細胞の完全な溶解が30時間以内に見られた(
図15d)。親CHO-X細胞中のEpCAM-CAR-T細胞(SP14-C8及びSP12-E10)でも、又はCD19-CAR-T細胞と一方の細胞株でも、細胞傷害性は見られなかった。
【0270】
最後に、抗EpCAM scFv CARコンストラクトを、レンチウイルス形質導入Jurkat細胞をエフェクターとして用いてMCF7及びCHO-EpCAM細胞に対して試験した。CAR形質導入Jurkat細胞を、上記と同じSP14-C8、SP12-E10及びCD19レンチウイルスコンストラクトを用いて作出し、EpCAM発現標的細胞と共培養した際の活性化を評価した。CAR Jurkat細胞を親CHO-X細胞、CHO-EpCAM細胞及びMCF7細胞と共に4時間インキュベートした後、CD69発現によってJurkat細胞の活性化を評価した。SP14-C8 CARコンストラクトだけが、親CHO-X細胞に比べてCHO-EpCAM標的細胞及びMCF7標的細胞の両方の存在下で有意なレベルのCD69を誘導した(
図15e)。
【0271】
これらの所見は、SP14-C8及びSP12-E10の両EpCAM CAR-T細胞が機能的に活性を持ち、抗原特異的活性化及び細胞傷害性を示すこと、並びにSP14-C8は、そのより高い親和性と一致してSP12-E10よりも有効であることを示唆する。
【0272】
【配列表】
【国際調査報告】