(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-27
(54)【発明の名称】深部組織浸透性C5阻害剤としてのジルコプラン
(51)【国際特許分類】
A61K 38/12 20060101AFI20220420BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220420BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220420BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220420BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220420BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20220420BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20220420BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220420BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220420BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220420BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220420BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220420BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220420BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220420BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220420BHJP
A61P 11/16 20060101ALI20220420BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20220420BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220420BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220420BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220420BHJP
A61K 38/13 20060101ALI20220420BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220420BHJP
C07K 7/54 20060101ALN20220420BHJP
【FI】
A61K38/12
A61P43/00 111
A61P25/00
A61P29/00
A61P37/02
A61P9/04
A61P1/18
A61P27/02
A61P21/00
A61P13/12
A61P11/00
A61P43/00 105
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P17/00
A61P9/00
A61P17/02
A61P11/16
A61P21/02
A61P25/16
A61P25/28
A61P3/10
A61K38/13
A61P43/00 121
A61K45/00
C07K7/54 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021553001
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(85)【翻訳文提出日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 US2020021330
(87)【国際公開番号】W WO2020185541
(87)【国際公開日】2020-09-17
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516372114
【氏名又は名称】ラ ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】RA PHARMACEUTICALS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】マー、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チュー、ナンチュン
(72)【発明者】
【氏名】サッカベリー、エバン
(72)【発明者】
【氏名】ファルザネ-ファー、ラミン
(72)【発明者】
【氏名】リカルド、アロンソ
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
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4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
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4H045BA31
4H045BA57
4H045EA20
4H045FA33
4H045GA25
4H045HA03
(57)【要約】
本開示は、対象の補体関連の適応症を、対象の組織内部又は組織下のC5活性を阻害することにより治療する方法であって、対象を組織浸透性C5阻害剤と接触させることを含み、組織浸透性C5阻害剤がジルコプラン(RA101495)を含み、且つ組織浸透性C5阻害剤が組織を透過し、及び/又は組織を通じて拡散し、それにより組織内部又は組織下のC5活性を阻害する、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における補体関連の適応症を、前記対象の組織内部又は組織下のC5活性を阻害することにより治療する方法であって、前記対象を組織浸透性C5阻害剤と接触させることを含み、前記組織浸透性C5阻害剤がジルコプランを含み、且つ前記組織浸透性C5阻害剤が、前記組織を透過し、及び/又は前記組織を通じて拡散し、それにより前記組織内部又は前記組織下のC5活性を阻害する、方法。
【請求項2】
前記組織浸透性C5阻害剤が皮下注射により投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組織が細胞外マトリックス膜を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞外マトリックス膜が基底層を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記基底層が、ラミニン、コラーゲン、及びエラスチンの1つ以上を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記組織が、エクリズマブに対して不透過性であるか、又はエクリズマブに対してジルコプランよりも低い透過性を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記組織のジルコプランに対する前記透過性が、前記組織のエクリズマブに対する前記透過性よりも約3倍~約5倍大きい、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記補体関連の適応症が、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、アジソン病、抗GBM/抗TBM腎炎、自己免疫性心筋炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、皮膚筋炎、円板状ループス、巨細胞性動脈炎、ギラン・バレー症候群、IgA腎症、封入体筋炎、ループス、混合性結合組織病(MCTD)、視神経脊髄炎(デビック病)、特発性肺線維症、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、高安動脈炎、未分化結合組織病(UCTD)、血管炎、皮膚筋炎、関節リウマチ、臓器又は組織移植における拒絶、創傷、損傷、火傷、全身性エリテマトーデス(SLE)、血管炎症候群、天疱瘡、水疱性類天疱瘡、急性呼吸促迫症候群、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒中、外傷、心血管介入から生じる病態、心臓バイパス術から生じる病態、動脈グラフトから生じる病態、血管形成術から生じる病態、抗好中球細胞質自己抗体(ANCA)血管炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、レビー小体病、重症筋無力症、多発性硬化症、視神経脊髄炎、腎臓関連適応症、ループス腎炎、膜性糸球体腎炎(MGN)、血液透析合併症、IgA腎症、デンスデポジット病/膜性増殖性糸球体腎炎II型/C3糸球体症、巣状分節性糸球体硬化症、糖尿病関連の適応症、眼の適応症、加齢性黄斑変性症(AMD)、自己免疫ブドウ膜炎、糖尿病性網膜症、及びシュタルガルト病からなる群の1つ以上のメンバから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記組織が、肺、心臓、筋肉、小腸、大腸、脾臓、肝臓、骨、胃、リンパ節、脂肪、脳、膵臓、精巣、及び胸腺からなる群の1つ以上のメンバを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
組織中のC5活性を阻害する方法であって、前記組織を組織浸透性C5阻害剤と接触させることを含む、方法。
【請求項11】
前記組織浸透性C5阻害剤がポリペプチドを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組織浸透性C5阻害剤がジルコプランを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記組織を前記組織浸透性C5阻害剤と接触させることが、前記組織浸透性C5阻害剤を製剤の一部として前記組織に投与することを含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記製剤が皮下注射により投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組織浸透性C5阻害剤が、細胞外マトリックス膜を浸透することが可能である、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞外マトリックス膜が基底層を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記基底層が、ラミニン、コラーゲン、及びエラスチンの1つ以上を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記組織が、エクリズマブに対して不透過性であるか、又はエクリズマブに対してジルコプランよりも低い透過性を有する、請求項10~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記組織のジルコプランに対する前記透過性が、前記組織のエクリズマブに対する前記透過性よりも約3倍~約5倍大きい、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記組織が、肺、心臓、筋肉、小腸、大腸、脾臓、肝臓、骨、胃、リンパ節、脂肪、脳、膵臓、精巣、及び胸腺からなる群の1つ以上のメンバを含む、請求項10~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
請求項10~20のいずれか一項に記載の方法を含む、補体関連の適応症を治療する方法。
【請求項22】
対象における補体関連の適応症を治療する方法であって、シクロスポリンA及びジルコプランを前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項23】
シクロスポリンA及びジルコプランが組み合わせて投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
シクロスポリンA及びジルコプランが重複する投与レジメンで投与される、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
対象における補体関連の適応症を治療する方法であって、胎児性Fc受容体(FcRN)阻害剤治療及びジルコプランを前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項26】
前記FcRN阻害剤治療及びジルコプランが組み合わせて投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記FcRN阻害剤治療及びジルコプランが重複する投与レジメンで投与される、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記FcRN阻害剤治療がDX-2504及び/又はDX-2507を含む、請求項25~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記FcRN阻害剤治療が静脈内免疫グロブリン(IVIG)治療を含む、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記補体関連の適応症が、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、自己免疫性溶血性貧血、皮膚筋炎、多発性筋炎、関節リウマチ、全身性血管炎、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー、ALS、重症筋無力症、IgM抗MAGニューロパチー、多発性硬化症、類天疱瘡、及び天疱瘡からなる群の1つ以上のメンバから選択される、請求項25~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
対象における補体関連の適応症を、前記対象の組織内部又は組織下のC5活性を阻害することにより治療する方法における使用のためのジルコプランを含む組織浸透性C5阻害剤であって、前記方法が前記対象を前記組織浸透性C5阻害剤と接触させることを含み、前記組織浸透性C5阻害剤が、前記組織を透過し、及び/又は前記組織を通じて拡散し、それにより前記組織内部又は前記組織下のC5活性を阻害する、組織浸透性C5阻害剤。
【請求項32】
皮下注射により投与される、請求項31に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項33】
前記組織が細胞外マトリックス膜を含む、請求項31又は32に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項34】
前記細胞外マトリックス膜が基底層を含む、請求項33に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項35】
前記基底層が、ラミニン、コラーゲン、及びエラスチンの1つ以上を含む、請求項34に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項36】
前記組織が、エクリズマブに対して不透過性であるか、又はエクリズマブに対してジルコプランよりも低い透過性を有する、請求項31~35のいずれか一項に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項37】
前記組織のジルコプランに対する前記透過性が、前記組織のエクリズマブに対する前記透過性よりも約3倍~約5倍大きい、請求項36に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項38】
前記補体関連の適応症が、ADEM、アジソン病、抗GBM/抗TBM腎炎、自己免疫性心筋炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、皮膚筋炎、円板状ループス、巨細胞性動脈炎、ギラン・バレー症候群、IgA腎症、封入体筋炎、ループス、MCTD、視神経脊髄炎(デビック病)、特発性肺線維症、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、高安動脈炎、UCTD、血管炎、皮膚筋炎、関節リウマチ、臓器又は組織移植における拒絶、創傷、損傷、火傷、SLE、血管炎症候群、天疱瘡、水疱性類天疱瘡、急性呼吸促迫症候群、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒中、外傷、心血管介入から生じる病態、心臓バイパス術から生じる病態、動脈グラフトから生じる病態、血管形成術から生じる病態、ANCA血管炎、ALS、MS、パーキンソン病、アルツハイマー病、レビー小体病、重症筋無力症、多発性硬化症、視神経脊髄炎、腎臓関連適応症、ループス腎炎、MGN、血液透析合併症、IgA腎症、デンスデポジット病/膜性増殖性糸球体腎炎II型/C3糸球体症、巣状分節性糸球体硬化症、糖尿病関連の適応症、眼の適応症、AMD、自己免疫ブドウ膜炎、糖尿病性網膜症、及びシュタルガルト病からなる群の1つ以上のメンバから選択される、請求項31~37のいずれか一項に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項39】
前記組織が、肺、心臓、筋肉、小腸、大腸、脾臓、肝臓、骨、胃、リンパ節、脂肪、脳、膵臓、精巣、及び胸腺からなる群の1つ以上のメンバを含む、請求項31~38のいずれか一項に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項40】
組織中のC5活性を阻害する方法における使用のための組織浸透性C5阻害剤であって、前記方法が前記組織を前記組織浸透性C5阻害剤と接触させることを含む、組織浸透性C5阻害剤。
【請求項41】
ポリペプチドを含む、請求項40に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項42】
ジルコプランを含む、請求項40又は41に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項43】
前記組織を前記組織浸透性C5阻害剤と接触させることが、前記組織浸透性C5阻害剤を製剤の一部として前記組織に投与することを含む、請求項40~42のいずれか一項に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項44】
前記製剤が皮下注射により投与される、請求項43に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項45】
細胞外マトリックス膜を浸透することが可能である、請求項40~44のいずれか一項に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項46】
前記細胞外マトリックス膜が基底層を含む、請求項45に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項47】
前記基底層が、ラミニン、コラーゲン、及びエラスチンの1つ以上を含む、請求項46に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項48】
前記組織が、エクリズマブに対して不透過性であるか、又はエクリズマブに対してジルコプランよりも低い透過性を有する、請求項40~47のいずれか一項に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項49】
前記組織のジルコプランに対する前記透過性が、前記組織のエクリズマブに対する前記透過性よりも約3倍~約5倍大きい、請求項48に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項50】
前記組織が、肺、心臓、筋肉、小腸、大腸、脾臓、肝臓、骨、胃、リンパ節、脂肪、脳、膵臓、精巣、及び胸腺からなる群の1つ以上のメンバを含む、請求項40~49のいずれか一項に記載の使用のための組織浸透性C5阻害剤。
【請求項51】
対象における補体関連の適応症を治療する方法における使用のためのC5阻害剤であって、前記方法がシクロスポリンA及び前記C5阻害剤を前記対象に投与することを含み、前記C5阻害剤がジルコプランを含む、C5阻害剤。
【請求項52】
シクロスポリンA及び前記C5阻害剤が組み合わせて投与される、請求項51に記載の使用のためのC5阻害剤。
【請求項53】
シクロスポリンA及び前記C5阻害剤が重複する投与レジメンで投与される、請求項51又は52に記載の使用のためのC5阻害剤。
【請求項54】
対象における補体関連の適応症を治療する方法における使用のためのC5阻害剤であって、前記方法がFcRN阻害剤治療及び前記C5阻害剤を前記対象に投与することを含み、前記C5阻害剤がジルコプランを含む、C5阻害剤。
【請求項55】
前記FcRN阻害剤治療及び前記C5阻害剤が組み合わせて投与される、請求項54に記載の使用のためのC5阻害剤。
【請求項56】
前記FcRN阻害剤治療及び前記C5阻害剤が重複する投与レジメンで投与される、請求項54又は55に記載の使用のためのC5阻害剤。
【請求項57】
前記FcRN阻害剤治療がDX-2504及び/又はDX-2507を含む、請求項54~56のいずれか一項に記載の使用のためのC5阻害剤。
【請求項58】
前記FcRN阻害剤治療がIVIG治療を含む、請求項54~57のいずれか一項に記載の使用のためのC5阻害剤。
【請求項59】
前記補体関連の適応症が、ITP、自己免疫性溶血性貧血、皮膚筋炎、多発性筋炎、関節リウマチ、全身性血管炎、ギラン・バレー症候群、CIDP、多巣性運動ニューロパチー、ALS、重症筋無力症、IgM抗MAGニューロパチー、多発性硬化症、類天疱瘡、及び天疱瘡からなる群の1つ以上のメンバから選択される、請求項54~58のいずれか一項に記載の使用のためのC5阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、補体活性を調節するための化合物及び組成物、並びに関連する使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脊椎動物免疫応答は、獲得免疫及び自然免疫成分から構成されている。獲得免疫応答は特定の病原体に選択的であり、応答が遅いが、自然免疫応答の成分は幅広い範囲の病原体を認識し、感染すると迅速に応答する。自然免疫応答のそのような1成分は補体系である。
【0003】
補体系は、主として肝臓により合成される、約20の循環している補体成分タンパク質を含む。この特定の免疫応答の成分は、それらが細菌の破壊において抗体応答を補ったという観察により、最初に「補体」と名付けられた。これらのタンパク質は、感染に応答した活性化の前には不活性な形態のままである。活性化は、病原体認識により開始されて、病原体破壊に至るタンパク質分解切断の経路により起こる。3種のそのような経路が補体系において知られており、古典経路、レクチン経路、及び代替経路と称される。古典経路は、IgG又はIgM分子が病原体の表面に結合するときに活性化される。レクチン経路は、マンナン結合レクチンタンパク質が細菌細胞壁の糖残基を認識することにより開始される。代替経路は、具体的な刺激が全くない状態で、低レベルの活性を保っている。3種の経路は全て起因事象に関して異なるが、3種の経路は全て補体成分C3の切断に収れんする。C3は切断されて、C3a及びC3bと呼ばれる2種の産物になる。これらのうち、C3bは病原体表面と共有結合するのに対して、C3aは拡散性シグナルとして作用して、炎症を促進し、循環している免疫細胞を動員する。表面に付着したC3bは他の成分と複合体を形成して、補体系の後の成分の間の反応のカスケードを開始する。表面に付着する必要性のため、補体活動は局在化されたままであり、非標的細胞に対する破壊を最低限にする。
【0004】
病原体に付着したC3bは、病原体破壊を2種の方法で促進する。一経路において、C3bは食細胞により直接認識され、病原体の貪食がもたらされる。第2の経路において、病原体に付着したC3bは膜侵襲複合体(MAC)の形成を開始する。第1段階で、C3bは他の補体成分と合体して、C5転換酵素複合体を形成する。最初の補体活性化経路次第で、この複合体の成分は異なり得る。古典的補体経路の結果として形成されたC5転換酵素は、C3bの他にC4b及びC2aを含む。代替経路により形成される場合、C5転換酵素は、C3bの2つのサブユニット並びに1つのBb成分を含む。
【0005】
補体成分C5は、いずれかのC5転換酵素複合体によりC5a及びC5bに切断される。C5aは、C3aに似て、循環中に拡散し、炎症を促進して、炎症細胞の化学誘引物質として作用する。C5bは細胞表面に付着したままであり、そこで、C6、C7、C8、及びC9との相互作用によりMACの形成を引き起こす。MACは、膜全体に及ぶ親水性ポアであり、細胞への流体の自由な流出入を促進し、それにより細胞を破壊する。
【0006】
全免疫活性の重要な要素は、免疫系が自己と非自己の細胞を区別する能力である。病的状態は、免疫系がこの区別をつけられない場合に発生する。補体系の場合、脊椎動物細胞は、自身を補体カスケードの作用から保護するタンパク質を発現する。これにより、補体系の標的が病原性細胞に限定されることが確実になる。多くの補体関連の障害及び疾患は、補体カスケードによる自己の細胞の異常な破壊と関連している。一例では、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を患っている対象は、造血幹細胞上の補体調節タンパク質CD55及びCD59の機能的バージョンを合成することができない。これは、補体介在性溶血及び種々の下流合併症をもたらす。他の補体関連障害及び疾患は、自己免疫疾患及び障害;神経学的疾患及び障害;血液疾患及び障害;並びに感染性疾患及び障害を含むが、これらに限定されない。実験的証拠によると、多くの補体関連障害が補体活性の阻害を通じて緩和されることが示唆される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、関連する適応症(indication)を処置するため、補体介在性細胞破壊を選択的に遮断するための組成物及び方法が求められる。本開示は、それと関連する組成物及び方法を提供することによって、この要求を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0008】
いくつかの実施形態において、本開示は、対象における補体関連の適応症を、対象の組織内部又は組織下のC5活性を阻害することにより治療する方法を提供する。方法は、対象を組織浸透性C5阻害剤と接触させることを含み得る。組織浸透性C5阻害剤は、ジルコプランを含み得る。組織浸透性C5阻害剤は、組織を透過し、及び/又は組織を通じて拡散し、それにより組織内部又は組織下のC5活性を阻害し得る。組織浸透性C5阻害剤は、皮下注射により投与され得る。組織は、細胞外マトリックス膜を含み得る。細胞外マトリックス膜は、基底層を含み得る。基底層は、ラミニン、コラーゲン、及びエラスチンの1つ以上を含み得る。組織は、エクリズマブに対して不透過性であり得る、又はエクリズマブに対してジルコプランよりも透過性が低い可能性がある。組織のジルコプランに対する透過性は、組織のエクリズマブに対する透過性よりも約3倍~約5倍大きい可能性がある。補体関連の適応症は、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、アジソン病、抗GBM/抗TBM腎炎、自己免疫性心筋炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、皮膚筋炎、円板状ループス、巨細胞性動脈炎、ギラン・バレー症候群、IgA腎症、封入体筋炎、ループス、混合性結合組織病(MCTD)、視神経脊髄炎(デビック病)、特発性肺線維症、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、高安動脈炎、未分化結合組織病(UCTD)、血管炎、皮膚筋炎、関節リウマチ、臓器又は組織移植における拒絶、創傷、損傷、火傷、全身性エリテマトーデス(SLE)、血管炎症候群、天疱瘡、水疱性類天疱瘡、急性呼吸促迫症候群、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒中、外傷、心血管介入から生じる病態、心臓バイパス術から生じる病態、動脈グラフトから生じる病態、血管形成術から生じる病態、抗好中球細胞質自己抗体(ANCA)血管炎、筋萎縮性(amyelotrophic)側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、レビー小体病、重症筋無力症、多発性硬化症、視神経脊髄炎、腎臓関連適応症、ループス腎炎、膜性糸球体腎炎(MGN)、血液透析合併症、IgA腎症、デンスデポジット病/膜性増殖性糸球体腎炎II型/C3糸球体症、巣状分節性糸球体硬化症、糖尿病関連の適応症、眼の適応症、加齢性黄斑変性症(AMD)、自己免疫ブドウ膜炎、糖尿病性網膜症、及びシュタルガルト病の1つ以上を含み得る。組織は、肺、心臓、筋肉、小腸、大腸、脾臓、肝臓、骨、胃、リンパ節、脂肪、脳、膵臓、精巣、及び胸腺の1つ以上を含み得る、又はそれらの一部であり得る。
【0009】
いくつかの実施形態において、本開示は、組織中のC5活性を、組織を組織浸透性C5阻害剤と接触させることにより阻害する方法を提供する。組織浸透性C5阻害剤は、ポリペプチドを含み得る。組織浸透性C5阻害剤は、ジルコプランを含み得る。組織を組織浸透性C5阻害剤と接触させることは、組織浸透性C5阻害剤を製剤の一部として組織に投与することを含み得る。製剤は、皮下注射により投与され得る。組織浸透性C5阻害剤は、細胞外マトリックス膜を浸透可能であり得る。細胞外マトリックス膜は、基底層を含み得る。基底層は、ラミニン、コラーゲン、及びエラスチンの1つ以上を含み得る。組織は、エクリズマブに対して不透過性であり得る、又はエクリズマブに対してジルコプランよりも透過性が低い可能性がある。組織のジルコプランに対する透過性は、組織のエクリズマブに対する透過性よりも約3倍~約5倍大きい可能性がある。組織は、肺、心臓、筋肉、小腸、大腸、脾臓、肝臓、骨、胃、リンパ節、脂肪、脳、膵臓、精巣、及び胸腺の1つ以上を含み得る、又はそれらの一部であり得る。
【0010】
いくつかの実施形態において、本開示は、対象における補体関連の適応症を、シクロスポリンA及びジルコプランを対象に投与することにより治療する方法を提供する。シクロスポリンA及びジルコプランは、組み合わせて投与され得る。シクロスポリンA及びジルコプランは、重複する投与レジメンで投与され得る。
【0011】
いくつかの実施形態において、本開示は、対象における補体関連の適応症を、胎児性Fc受容体(FcRN)阻害剤治療及びジルコプランを対象に投与することにより治療する方法を提供する。FcRN阻害剤治療及びジルコプランは、組み合わせて投与され得る。FcRN阻害剤治療及びジルコプランは、重複する投与レジメンで投与され得る。FcRN阻害剤治療は、DX-2504及び/又はDX-2507を含み得る。FcRN阻害剤治療は、静脈内免疫グロブリン(IVIG)治療を含み得る。補体関連の適応症は、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、自己免疫性溶血性貧血、皮膚筋炎、多発性筋炎、関節リウマチ、全身性血管炎、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー、ALS、重症筋無力症、IgM抗MAGニューロパチー、多発性硬化症、類天疱瘡、及び天疱瘡からなる群の1つ以上のメンバから選択され得る。
【0012】
いくつかの実施形態において、本開示は、対象における補体関連の適応症を、対象の組織内部又は組織下のC5活性を阻害することにより治療する方法において使用されるジルコプランを含む組織浸透性C5阻害剤を提供する。該方法は、対象を組織浸透性C5阻害剤と接触させることを含み得て、組織浸透性C5阻害剤は、組織を透過し、及び/又は組織を通じて拡散し、それにより組織内部又は組織下のC5活性を阻害する。組織浸透性C5阻害剤は、皮下注射により投与され得る。組織は、細胞外マトリックス膜を含み得る。細胞外マトリックス膜は、基底層を含み得る。基底層は、ラミニン、コラーゲン、及びエラスチンの1つ以上を含み得る。組織は、エクリズマブに対して不透過性であり得る、又はエクリズマブに対してジルコプランよりも透過性が低い可能性がある。組織のジルコプランに対する透過性は、組織のエクリズマブに対する透過性よりも約3倍~約5倍大きい可能性がある。補体関連の適応症は、ADEM、アジソン病、抗GBM/抗TBM腎炎、自己免疫性心筋炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、皮膚筋炎、円板状ループス、巨細胞性動脈炎、ギラン・バレー症候群、IgA腎症、封入体筋炎、ループス、MCTD、視神経脊髄炎(デビック病)、特発性肺線維症、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、高安動脈炎、UCTD、血管炎、皮膚筋炎、関節リウマチ、臓器又は組織移植における拒絶、創傷、損傷、火傷、SLE、血管炎症候群、天疱瘡、水疱性類天疱瘡、急性呼吸促迫症候群、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒中、外傷、心血管介入から生じる病態、心臓バイパス術から生じる病態、動脈グラフトから生じる病態、血管形成術から生じる病態、ANCA血管炎、ALS、MS、パーキンソン病、アルツハイマー病、レビー小体病、重症筋無力症、多発性硬化症、視神経脊髄炎、腎臓関連適応症、ループス腎炎、MGN、血液透析合併症、IgA腎症、デンスデポジット病/膜性増殖性糸球体腎炎II型/C3糸球体症、巣状分節性糸球体硬化症、糖尿病関連の適応症、眼の適応症、AMD、自己免疫ブドウ膜炎、糖尿病性網膜症、及びシュタルガルト病の1つ以上を含み得る。組織は、肺、心臓、筋肉、小腸、大腸、脾臓、肝臓、骨、胃、リンパ節、脂肪、脳、膵臓、精巣、及び胸腺の1つ以上を含み得る、又はそれらの一部であり得る。
【0013】
いくつかの実施形態において、本開示は、組織中のC5活性を阻害する方法における使用のための組織浸透性C5阻害剤であって、該方法が組織を組織浸透性C5阻害剤と接触させることを含む、組織浸透性C5阻害剤を提供する。組織浸透性C5阻害剤は、ポリペプチドを含み得る。組織浸透性C5阻害剤は、ジルコプランを含み得る。組織を組織浸透性C5阻害剤と接触させることは、組織浸透性C5阻害剤を製剤の一部として組織に投与することを含み得る。製剤は、皮下注射により投与され得る。組織浸透性C5阻害剤は、細胞外マトリックス膜を浸透可能であり得る。細胞外マトリックス膜は、基底層を含み得る。基底層は、ラミニン、コラーゲン、及びエラスチンの1つ以上を含み得る。組織は、エクリズマブに対して不透過性であり得る、又はエクリズマブに対してジルコプランよりも透過性が低い可能性がある。組織のジルコプランに対する透過性は、組織のエクリズマブに対する透過性よりも約3倍~約5倍大きい可能性がある。組織は、肺、心臓、筋肉、小腸、大腸、脾臓、肝臓、骨、胃、リンパ節、脂肪、脳、膵臓、精巣、及び胸腺の1つ以上を含み得る、又はそれらの一部であり得る。
【0014】
いくつかの実施形態において、本開示は、対象における補体関連の適応症を治療する方法における使用のためのC5阻害剤であって、該方法がシクロスポリンA及びC5阻害剤を対象に投与することを含む、C5阻害剤を提供し、C5阻害剤はジルコプランを含む。シクロスポリンA及びC5阻害剤は、組み合わせて投与され得る。シクロスポリンA及びC5阻害剤は、重複する投与レジメンで投与され得る。
【0015】
いくつかの実施形態において、本開示は、対象における補体関連の適応症を治療する方法における使用のためのC5阻害剤であって、該方法がFcRN阻害剤治療及びC5阻害剤を対象に投与することを含む、C5阻害剤を提供する。C5阻害剤は、ジルコプランを含み得る。FcRN阻害剤治療及びC5阻害剤は、組み合わせて投与され得る。FcRN阻害剤治療及びC5阻害剤は、重複する投与レジメンで投与され得る。FcRN阻害剤治療は、DX-2504及び/又はDX-2507を含み得る。FcRN阻害剤治療は、IVIG治療を含み得る。補体関連の適応症は、ITP、自己免疫性溶血性貧血、皮膚筋炎、多発性筋炎、関節リウマチ、全身性血管炎、ギラン・バレー症候群、CIDP、多巣性運動ニューロパチー、ALS、重症筋無力症、IgM抗MAGニューロパチー、多発性硬化症、類天疱瘡、及び天疱瘡の1つ以上を含み得る。
【0016】
本開示の特定の実施形態に関する前記及び他の目的、特徴、及び利点は、添付図面における以下の説明及び図面から明らかだろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】基底膜モデルを使用するインビトロ透過性アッセイにおける上側チャンバーから下側チャンバーへ移動する、試験された各化合物のパーセンテージを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示の実施形態は、補体活性を調節するための化合物及び組成物、並びに関連する使用方法に関する。補体活性は、体を外来の病原体から保護するが、活性増大又は制御不良により自己細胞破壊をもたらすことがある。補体修飾物質は、ジルコプランなどの補体阻害剤であり得る。ジルコプランは、古典、代替、又はレクチン経路の活性化時、サブナノモル親和性で補体成分5(C5)に結合し、C5a及びC5bへのその切断をアロステリックに阻害する大環状合成ペプチドである(例えば、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる米国特許第10,106,579号明細書を参照)。
【0019】
補体関連の適応症を、補体阻害剤(例えばジルコプラン)を投与することにより治療する方法が本明細書に含まれる。これら及び本開示の他の実施形態が以下に詳述される。
I.化合物及び組成物
いくつかの実施形態において、本開示は、補体活性を調節するように機能する化合物及び組成物を提供する。そのような化合物及び組成物は、補体活性化を遮断する阻害剤を含み得る。本明細書では、「補体活性」は、補体カスケードの活性化、C3若しくはC5などの補体成分からの切断産物の形成、切断事象後の下流複合体の集合、又は補体成分、例えば、C3若しくはC5の切断に伴う、若しくはそれから生じるあらゆるプロセス若しくは事象を含む。補体阻害剤は、補体活性化を補体成分C5のレベルで遮断するC5阻害剤を含み得る。C5阻害剤は、C5と結合して、C5転換酵素による切断産物C5a及びC5bへのその切断を妨げ得る。本明細書では、「補体成分C5」又は「C5」は、C5転換酵素により少なくとも切断産物C5a及びC5bに切断される複合体であると定義される。本明細書中で称される「C5阻害剤」は、切断前の(pre-cleaved)補体成分C5複合体又は補体成分C5の切断産物のプロセシング若しくは切断を阻害するあらゆる化合物又は組成物を含む。
【0020】
C5切断の阻害が、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合性タンパク質欠損赤血球に対する細胞溶解性の膜侵襲複合体(MAC)の集合及び活性を抑制することが理解されている。いくつかの場合に、本明細書に提示のC5阻害剤はC5bとも結合し、C6結合及びC5b-9MACのその後の集合も抑制し得る。
【0021】
C5阻害剤化合物は、表1に提示されるもののいずれも含み得るが、これらに限定されない。列記される参照文献及び列記される臨床試験番号を支持する情報は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0022】
【0023】
【0024】
ペプチド系化合物
いくつかの実施形態において、本開示のC5阻害剤はポリペプチドである。本開示によると、あらゆるアミノ酸系分子(天然又は非天然)が「ポリペプチド」と称され得て、この用語は、「ペプチド」、「ペプチドミメティクス」、及び「タンパク質」を包含する。「ペプチド」は従来大きさが約4~約50アミノ酸の範囲であると考えられている。約50アミノ酸より大きいポリペプチドは一般的に「タンパク質」と称される。
【0025】
C5阻害剤ポリペプチドは、直鎖でも、又は環状でもあり得る。環状ポリペプチドは、その構造の一部として、ループ及び/又は内部連結など1つ以上の環状の特徴を有するあらゆるポリペプチドを含む。いくつかの実施形態において、環状ポリペプチドは、分子が架橋部分として作用してポリペプチドの2つ以上の領域を連結するときに形成される。本明細書では、用語「架橋部分」は、ポリペプチド中の2つの隣接又は非隣接のアミノ酸、非天然アミノ酸、又は非アミノ酸の間に形成された架橋の1つ以上の成分を指す。架橋部分は、任意の大きさ又は組成でよい。いくつかの実施形態において、架橋部分は、2つの隣接又は非隣接のアミノ酸、非天然アミノ酸、非アミノ酸残基、又はそれらの組合せの間に1つ以上の化学結合を含み得る。いくつかの実施形態において、そのような化学結合は、隣接又は非隣接のアミノ酸、非天然アミノ酸、非アミノ酸残基、又はそれらの組合せ上の1つ以上の官能基の間であり得る。架橋部分は、アミド結合(ラクタム)、ジスルフィド結合、チオエーテル結合、芳香環、トリアゾール環、及び炭化水素鎖の1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態において、架橋部分は、それぞれアミノ酸、非天然アミノ酸、又は非アミノ酸残基側鎖中に存在するアミン官能基とカルボキシラート官能基の間のアミド結合を含む。いくつかの実施形態において、アミン又はカルボキシラート官能基は非アミノ酸残基又は非天然アミノ酸残基の一部である。
【0026】
C5阻害剤ポリペプチドは、カルボキシ末端、アミノ末端により、又は任意の他の簡便な結合点、例えば、システインの硫黄(例えば、配列中の2つのシステイン残基の間のジスルフィド結合の形成により)又はアミノ酸残基の任意の側鎖により環化し得る。環状ループを形成するさらなる結合は、マレイミド結合、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、チオールエーテル結合、ヒドラゾン結合、又はアセトアミド結合を含み得るが、これらに限定されない。
【0027】
いくつかの実施形態において、ペプチドは、固相ペプチド合成(SPPS)により固体担体(例えばリンクアミド樹脂)上で合成できる。SPPS方法は当技術分野に公知であり、直交保護基と共に実施できる。いくつかの実施形態において、本開示のペプチドは、SPPSにより、Fmocケミストリー及び/又はBocケミストリーと共に合成できる。合成されたペプチドは、標準的な技法を使用して固体担体から切断できる。
【0028】
ペプチドは、クロマトグラフィーにより精製できる[例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)及び/又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)]。HPLCは逆相HPLC(RP-HPLC)を含み得る。ペプチドは、精製後に凍結乾燥できる。精製されたペプチドは、純粋なペプチドとしても、又はペプチド塩としても得ることができる。ペプチド塩を構成する残留塩は、トリフルオロ酢酸(TFA)、酢酸塩、及び/又は塩酸塩を含み得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、本開示のペプチドは、ペプチド塩として得られる。ペプチド塩は、TFAとのペプチド塩であり得る。残留塩は、精製されたペプチドから、公知の方法により(例えば、脱塩カラムの使用により)除去できる。
【0029】
いくつかの実施形態において、本開示の環状C5阻害剤ポリペプチドは、ラクタム部分を使用して形成される。そのような環状ポリペプチドは、例えば、標準的なFmocケミストリーを使用する固体担体ワング樹脂上での合成により形成され得る。いくつかの場合に、Fmoc-ASP(アリル)-OH及びFmoc-LYS(アロック)-OHがポリペプチド中に組み込まれて、ラクタムブリッジ形成の前駆体モノマーとしての役割を果たす。
【0030】
本開示のC5阻害剤ポリペプチドはペプチドミメティクスであり得る。「ペプチドミメティック」又は「ポリペプチドミメティック」は、分子が、天然のポリペプチド(すなわち20種のタンパク質構成アミノ酸からのみ構成されているポリペプチド)にはみられない構造要素を含むポリペプチドである。いくつかの実施形態において、ペプチドミメティクスは、天然のペプチドの生物学的作用を反復又は模倣することが可能である。ペプチドミメティックは、多くの点で、例えば、骨格構造の変化により、又は天然に存在しないアミノ酸の存在により天然のポリペプチドとは異なり得る。いくつかの場合に、ペプチドミメティクスは、公知の20種のタンパク質構成アミノ酸にはみられない側鎖を有するアミノ酸;分子の末端若しくは内部部分の間の環化を起こすのに使用される非ポリペプチド系架橋部分;メチル基(N-メチル化)若しくは他のアルキル基によるアミド結合水素部分の置換;化学処理若しくは酵素処理に耐性がある化学基若しくは結合によるペプチド結合の置換;N末端及びC末端修飾;並びに/又は非ペプチド性伸長(ポリエチレングリコール、脂質、炭水化物、ヌクレオシド、ヌクレオチド、ヌクレオシド塩基、種々の小分子、又はホスファート若しくはスルファート基など)によるコンジュゲーションを含み得る。
【0031】
本明細書では、用語「アミノ酸」は、天然アミノ酸及び非天然アミノ酸の残基を含む。20種の天然のタンパク質構成アミノ酸は、下記の通り、1文字表記か又は3文字表記かにより本明細書で特定及び言及される:アスパラギン酸(Asp:D)、イソロイシン(Ile:I)、スレオニン(Thr:T)、ロイシン(Leu:L)、セリン(Ser:S)、チロシン(Tyr:Y)、グルタミン酸(Glu:E)、フェニルアラニン(Phe:F)、プロリン(Pro:P)、ヒスチジン(His:H)、グリシン(Gly:G)、リジン(Lys:K)、アラニン(Ala:A)、アルギニン(Arg:R)、システイン(Cys:C)、トリプトファン(Trp:W)、バリン(Val:V)、グルタミン(Gln:Q)メチオニン(Met:M)、アスパラギン(Asn:N)。天然に存在するアミノ酸は、その左旋性(L)の立体異性形態で存在する。本明細書で言及されるアミノ酸は、特記されない限り、L-立体異性体である。用語「アミノ酸」は、従来のアミノ保護基(例えばアセチル又はベンジルオキシカルボニル)を有するアミノ酸、並びにカルボキシ末端で保護されている天然及び非天然アミノ酸(例えば、(C1~C6)アルキル、フェニル、若しくはベンジルエステル、又はアミドとして;又はα-メチルベンジルアミドとして)も含む。他の好適なアミノ及びカルボキシ保護基は当業者に公知である(例えば、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるグリーン,T.W.(Greene,T.W.);ウッツ,P.G.M.(Wutz,P.G.M.)著、有機合成における保護基(Protecting Groups In Organic Synthesis);第2版、1991年、ニューヨーク、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley&sons,Inc.)及びそこに引用されている文書を参照されたい)。本開示のポリペプチド及び/又はポリペプチド組成物は、修飾されたアミノ酸も含み得る。
【0032】
「非天然の」アミノ酸は、先に列記された20種の天然のアミノ酸には存在しない側鎖又は他の特徴を有し、N-メチルアミノ酸、N-アルキルアミノ酸、アルファ、アルファ置換アミノ酸、ベータ-アミノ酸、アルファ-ヒドロキシアミノ酸、D-アミノ酸、及び当技術分野に公知である他の非天然アミノ酸を含むがこれらに限定されない(例えば、ジョセフソン(Josephson)ら著、(2005年)、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第127巻:p.11727-11735;フォルスター,A.C.(Forster,A.C.)ら著(2003年)、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第100巻:p.6353-6357;サブテルニー(Subtelny)ら著、(2008年)、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第130巻:p.6131-6136;ハートマン,M.C.T.(Hartman,M.C.T.)ら著(2007年)、プロスワン(PLoS ONE)2:e972;及びハートマン(Hartman)ら著、(2006年)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第103巻:p.4356-4361を参照されたい)。本開示のポリペプチド及び/又はポリペプチド組成物の最適化に有用なさらなる非天然アミノ酸には、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-1-カルボン酸、1-アミノ-2,3-ヒドロ-1H-インデン-1-カルボン酸、ホモリジン、ホモアルギニン、ホモセリン、2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、ベータ-アラニン、アミノプロピオン酸、2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、5-アミノペンタン酸、5-アミノヘキサン酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノイソ酪酸、2-アミノピメリン酸、デスモシン、2,3-ジアミノプロピオン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、ホモプロリン、ヒドロキシリジン、アロ-ヒドロキシリジン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロ-イソロイシン、N-メチルペンチルグリシン、ナフチルアラニン、オルニチン、ペンチルグリシン、チオプロリン、ノルバリン、tert-ブチルグリシン、フェニルグリシン、アザトリプトファン、5-アザトリプトファン、7-アザトリプトファン、4-フルオロフェニルアラニン、ペニシラミン、サルコシン、ホモシステイン、1-アミノシクロプロパンカルボン酸、1-アミノシクロブタンカルボン酸、1-アミノシクロペンタンカルボン酸、1-アミノシクロヘキサンカルボン酸、4-アミノテトラヒドロ-2H-ピラン-4-カルボン酸、(S)-2-アミノ-3-(1H-テトラゾール-5-イル)プロパン酸、シクロペンチルグリシン、シクロヘキシルグリシン、シクロプロピルグリシン、η-ω-メチル-アルギニン、4-クロロフェニルアラニン、3-クロロチロシン、3-フルオロチロシン、5-フルオロトリプトファン、5-クロロトリプトファン、シトルリン、4-クロロ-ホモフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、4-アミノメチル-フェニルアラニン、3-アミノメチル-フェニルアラニン、オクチルグリシン、ノルロイシン、トラネキサム酸、2-アミノペンタン酸、2-アミノヘキサン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノオクタン酸、2-アミノノナン酸、2-アミノデカン酸、2-アミノウンデカン酸、2-アミノドデカン酸、アミノ吉草酸、及び2-(2-アミノエトキシ)酢酸、ピペコリン酸、2-カルボキシアゼチジン、ヘキサフルオロロイシン、3-フルオロバリン、2-アミノ-4,4-ジフルオロ-3-メチルブタン酸、3-フルオロ-イソロイシン、4-フルオロイソロイシン、5-フルオロイソロイシン、4-メチル-フェニルグリシン、4-エチル-フェニルグリシン、4-イソプロピル-フェニルグリシン、(S)-2-アミノ-5-アジドペンタン酸(本明細書で「X02」とも称される)、(S)-2-アミノヘプタ-6-エン酸(本明細書で「X30」とも称される)、(S)-2-アミノペンタ-4-イン酸(本明細書で「X31」とも称される)、(S)-2-アミノペンタ-4-エン酸(本明細書で「X12」とも称される)、(S)-2-アミノ-5-(3-メチルグアニジノ)ペンタン酸、(S)-2-アミノ-3-(4-(アミノメチル)フェニル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(3-(アミノメチル)フェニル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-4-(2-アミノベンゾ[d]オキサゾール-5-イル)ブタン酸、(S)-ロイシノール、(S)-バリノール、(S)-tert-ロイシノール、(R)-3-メチルブタン-2-アミン、(S)-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-アミン、及び(S)-N,2-ジメチル-1-(ピリジン-2-イル)プロパン-1-アミン、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-2-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-5-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(5-フルオロ-1H-インダゾール-3-イル)プロパン酸、及び(S)-2-アミノ-3-(1H-インダゾール-3-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-2-イル)ブタン酸、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-5-イル)ブタン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ブタン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ブタン酸、(S)-2-アミノ-3-(5-フルオロ-1H-インダゾール-3-イル)ブタン酸、及び(S)-2-アミノ-3-(1H-インダゾール-3-イル)ブタン酸、2-(2’MeOフェニル)-2-アミノ酢酸、テトラヒドロ3-イソキノリンカルボン酸、並びにこれらの立体異性体(非限定的に、D及びL異性体を含む)があるが、これらに限定されない。
【0033】
本開示のポリペプチド又はポリペプチド組成物の最適化において有用な追加の非天然アミノ酸には、1つ以上の炭素結合水素原子がフッ素に置き換えられたフッ素化されたアミノ酸があるが、これに限定されない。含まれるフッ素原子の数は、1から水素原子の全てまで(全てを含む)の範囲になり得る。そのようなアミノ酸の例には、3-フルオロプロリン、3,3-ジフルオロプロリン、4-フルオロプロリン、4,4-ジフルオロプロリン、3,4-ジフルロプロリン(difluroproline)、3,3,4,4-テトラフルオロプロリン、4-フルオロトリプトファン、5-フルロトリプトファン(flurotryptophan)、6-フルオロトリプトファン、7-フルオロトリプトファン、及びこれらの立体異性体があるが、これらに限定されない。
【0034】
本開示のポリペプチドの最適化において有用なさらなる非天然アミノ酸には、α-炭素で二置換されているものがあるが、これに限定されない。これらには、α-炭素上の2つの置換基が同じであるアミノ酸、例えば、α-アミノイソ酪酸、及び2-アミノ-2-エチルブタン酸並びに置換基が異なるもの、例えば、α-メチルフェニルグリシン及びα-メチルプロリンがある。さらに、α-炭素上の置換基は共に環を形成することがあり、例えば1-アミノシクロペンタンカルボン酸、1-アミノシクロブタンカルボン酸、1-アミノシクロヘキサンカルボン酸、3-アミノテトラヒドロフラン-3-カルボン酸、3-アミノテトラヒドロピラン-3-カルボン酸、4-アミノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸、3-アミノピロリジン-3-カルボン酸、3-アミノピペリジン-3-カルボン酸、4-アミノピペリジン(aminopiperidinnne)-4-カルボキシリクス酸(carboxylix acid)、及びこれらの立体異性体である。
【0035】
本開示のポリペプチド又はポリペプチド組成物の最適化において有用な追加の非天然アミノ酸には、インドール環系が、N、O、又はSから独立に選択される0、1、2、3、又は4つのヘテロ原子を有する別の9又は10員二環式環系により置き換えられているトリプトファンの類似体があるが、これに限定されない。各環系は、飽和でも、部分不飽和でも、又は完全不飽和でもよい。環系は、0、1、2、3、又は4つの置換基により、任意の置換可能な原子で置換され得る。各置換基は、H、F、Cl、Br、CN、COOR、CONRR’、オキソ、OR、NRR’から独立に選択され得る。各R及びR’は、H、C1~C20アルキル、又はC1~C20アルキル-O-C1~20アルキルから独立に選択され得る。
【0036】
いくつかの実施形態において、トリプトファンの類似体(本明細書で「トリプトファン類似体」とも称される)は、本開示のポリペプチド又はポリペプチド組成物の最適化において有用であり得る。トリプトファン類似体は、5-フルオロトリプトファン[(5-F)W]、5-メチル-O-トリプトファン[(5-MeO)W]、1-メチルトリプトファン[(1-Me-W)又は(1-Me)W]、D-トリプトファン(D-Trp)、アザトリプトファン(非限定的に、4-アザトリプトファン、7-アザトリプトファン、及び5-アザトリプトファン、を含む)5-クロロトリプトファン、4-フルオロトリプトファン、6-フルオロトリプトファン、7-フルオロトリプトファン、及びこれらの立体異性体を含み得るが、これらに限定されない。反対であると示される場合を除き、本明細書での用語「アザトリプトファン」及びその省略形「azaTrp」は7-アザトリプトファンを指す。
【0037】
本開示のポリペプチド及び/又はポリペプチド組成物の最適化に有用な修飾アミノ酸残基には、化学的にブロックされているもの(可逆的に又は不可逆的に);そのN末端アミノ基又はその側鎖基で化学的に修飾されているもの;アミド骨格中で化学修飾されているもの、例えば、N-メチル化された、D(非天然アミノ酸)及びL(天然アミノ酸)立体異性体;又は側鎖官能基が化学修飾されて別の官能基になった残基があるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、修飾アミノ酸は、非限定的に、メチオニンスルホキシド;メチオニンスルホン;アスパラギン酸-(ベータ-メチルエステル)、アスパラギン酸の修飾アミノ酸;N-エチルグリシン、グリシンの修飾アミノ酸;アラニンカルボキサミド;及び/又はアラニンの修飾アミノ酸を含む。非天然アミノ酸は、シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)(ミズーリ州、セントルイス)、バッケム(Bachem)(カリフォルニア州、トーランス)又は他の供給業者から購入できる。非天然アミノ酸は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる米国特許出願公開第2011/0172126号明細書の表2に列記されたもののいずれもさらに含み得る。
【0038】
本開示は、本明細書に提示されるポリペプチドの変形体及び誘導体を企図する。これらには、置換による、挿入による、欠失による、及び共有結合による変形体及び誘導体がある。本明細書では、用語「誘導体」は、用語「変形体」と同義に使用され、基準分子又は出発分子に対して任意の方法で修飾又は変化を受けた分子を指す。
【0039】
本開示のポリペプチドは、以下の成分、特徴、又は部分のいずれも含むことがあり、本明細書で使用されるその略語は下記を含む:「Ac」及び「NH2」は、それぞれアセチル及びアミド化された末端を示す;「Nvl」はノルバリンを表す;「Phg」はフェニルグリシンを表す;「Tbg」はtert-ブチルグリシンを表す;「Chg」はシクロヘキシルグリシンを表す;「(N-Me)X」は、N-メチル-Xと書かれる変数「X」の代わりに、1文字又は3文字アミノ酸コードにより示されるアミノ酸のN-メチル化形態を表す[例えば、(N-Me)D又は(N-Me)Aspは、アスパラギン酸のN-メチル化形態すなわちN-メチル-アスパラギン酸を表す];「azaTrp」はアザトリプトファンを表す;「(4-F)Phe」は4-フルオロフェニルアラニンを表す;「Tyr(OMe)」はO-メチルチロシンを表し、「Aib」はアミノイソ酪酸を表す;「(ホモ)F」又は「(ホモ)Phe」は、ホモフェニルアラニンを表す;「(2-OMe)Phg」は2-O-メチルフェニルグリシンを指す;「(5-F)W」は5-フルオロトリプトファンを指す;「D-X」は所与のアミノ酸「X」のD-立体異性体を指す[例えば、(D-Chg)はD-シクロヘキシルグリシンを表す];「(5-MeO)W」は5-メチル-O-トリプトファンを指す;「ホモC」はホモシステインを指す;「(1-Me-W)」又は「(1-Me)W」は1-メチルトリプトファンを指す;「Nle」はノルロイシンを指す;「Tiq」はテトラヒドロイソキノリン残基を指す;「Asp(T)」は(S)-2-アミノ-3-(1H-テトラゾール-5-イル)プロパン酸を指す;「(3-Cl-Phe)」は3-クロロフェニルアラニンを指す;「[(N-Me-4-F)Phe]」又は「(N-Me-4-F)Phe」はN-メチル-4-フルオロフェニルアラニンを指す;「(m-Cl-ホモ)Phe」はメタ-クロロホモフェニルアラニンを指す;「(des-アミノ)C」は3-チオプロピオン酸を指す;「(アルファ-メチル)D」はアルファ-メチルL-アスパラギン酸を指す;「2Nal」は2-ナフチルアラニンを指す;「(3-アミノメチル)Phe」は3-アミノメチル-L-フェニアラニン(phenyalanine)を指す;「Cle」はシクロロイシンを指す;「Ac-ピラン」は4-アミノ-テトラヒドロ-ピラン-4-カルボン酸を指す;「(Lys-C16)」はN-ε-パルミトイルリジンを指す;「(Lys-C12)」はN-ε-ラウリルリジンを指す;「(Lys-C10)」はN-ε-カプリルリジンを指す;「(Lys-C8)」はN-ε-カプリル酸リジンを指す;「[xキシリル(y,z)]」は、2つのチオール含有アミノ酸の間のキシリル架橋部分を指し、式中、xは、架橋部分を生成させる(それぞれ)メタ-、パラ-、又はオルト-ジブロモキシレンの使用を示すようにm、p又はoであり得て、数値識別子y及びzは、環化に参加するアミノ酸のポリペプチド内のアミノ酸位置を配置する;「[シクロ(y,z)]」は、2つのアミノ酸残基の間の結合の形成を指し、式中、数値識別子y及びzは、結合に参加する残基の位置を配置する;「[シクロ-オレフィニル(y,z)]」は、オレフィンメタセシスによる2つのアミノ酸残基の間の結合の形成を指し、式中、数値識別子y及びzは、結合に参加する残基の位置を配置する;「[シクロ-チオアルキル(y,z)]」は、2つのアミノ酸残基の間のチオエーテル結合の形成を指し、式中、数値識別子y及びzは、結合に参加する残基の位置を配置する;「[シクロ-トリアゾリル(y,z)]」は、2つのアミノ酸残基の間のトリアゾール環の形成を指し、式中、数値識別子y及びzは、結合に参加する残基の位置を配置する。「B20」は、N-ε-(PEG2-γ-グルタミン酸-N-α-オクタデカン二酸)リジン[別名(1S,28S)-1-アミノ-7,16,25,30-テトラオキソ-9,12,18,21-テトラオキサ-6,15,24,29-テトラアザヘキサテトラコンタン-1,28,46-トリカルボン酸]を指す。
【0040】
B20
【0041】
【0042】
「B28」はN-ε-(PEG24-γ-グルタミン酸-N-α-ヘキサデカノイル)リジンを指す。
B28
【0043】
【0044】
「K14」はN-ε-1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキサ-1-イリデン)-3-メチルブチル-L-リジンを指す。他の全記号は標準的な1文字アミノ酸コードを指す。
【0045】
いくつかのC5阻害剤ポリペプチドは、約5アミノ酸~約10アミノ酸、約6アミノ酸~約12アミノ酸、約7アミノ酸~約14アミノ酸、約8アミノ酸~約16アミノ酸、約10アミノ酸~約18アミノ酸、約12アミノ酸~約24アミノ酸、又は約15アミノ酸~約30アミノ酸を含む。いくつかの場合において、C5阻害剤ポリペプチドは少なくとも30アミノ酸を含む。
【0046】
本開示のいくつかのC5阻害剤はC末端脂質部分を含む。そのような脂質部分は、脂肪酸アシル基(例えば、飽和又は不飽和の脂肪酸アシル基)を含み得る。いくつかの場合において、脂肪酸アシル基はパルミトイル基であり得る。
【0047】
脂肪酸アシル基を有するC5阻害剤は、脂肪酸をペプチドに結び付ける1つ以上の分子リンカーを含み得る。そのような分子リンカーはアミノ酸残基を含み得る。いくつかの場合において、L-γグルタミン酸残基が分子リンカーとして使用され得る。いくつかの場合において、分子リンカーは、1つ以上のポリエチレングリコール(PEG)リンカーを含み得る。本開示のPEGリンカーは、約1~約5、約2~約10、約4~約20、約6~約24、約8~約32、又は少なくとも32のPEG単位を含み得る。
【0048】
本明細書に開示のC5阻害剤は、約200g/mol~約600g/mol、約500g/mol~約2000g/mol、約1000g/mol~約5000g/mol、約3000g/mol~約4000g/mol、約2500g/mol~約7500g/mol、約5000g/mol~約10000g/mol、又は少なくとも10000g/molの分子量を有し得る。
【0049】
いくつかの実施形態において、本開示のC5阻害剤ポリペプチドはジルコプラン(CAS番号:1841136-73-9)を含む。ジルコプランのコアアミノ酸配列([シクロ(1,6)]Ac-K-V-E-R-F-D-(N-Me)D-Tbg-Y-azaTrp-E-Y-P-Chg-K;配列番号1)は、4つの非天然アミノ酸[N-メチル-アスパラギン酸すなわち「(N-Me)D」、tert-ブチルグリシンすなわち「Tbg」、7-アザトリプトファンすなわち「azaTrp」、及びシクロヘキシルグリシンすなわち「Chg」]を含む15アミノ酸(全L-アミノ酸);ポリペプチド配列のK1とD6の間のラクタムブリッジ;及びN-ε-(PEG24-γ-グルタミン酸-N-α-ヘキサデカノイル)リジン残基(本明細書で「B28」とも称される)を形成する修飾側鎖を有するC末端リジン残基を含む。C末端リジン側鎖修飾は、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサ(PEG24)を含み、PEG24は、パルミトイル基により誘導体化されたL-γグルタミン酸残基に結合している。
【0050】
遊離酸型のジルコプランは、C172H278N24O55の分子式、3562.23ダルトン(Da)の分子量、及び3559.97amuの精密質量を有する。四ナトリウム型のジルコプランはC172H278N24O55Na4の分子式を有する。ナトリウム塩型のジルコプランの化学構造は構造Iに示される:
【0051】
【0052】
構造中の4つのナトリウムイオンは、明示されたカルボキシラートと会合して示されているが、それらは、分子中の酸性基のいずれとも会合し得る。ジルコプラン原薬は、典型的には、ナトリウム塩型として提供され、凍結乾燥されている。遊離塩基型のジルコプラン又はジルコプランの任意の薬学的に許容できる塩は、用語「ジルコプラン」により包含される。
【0053】
いくつかの実施形態において、本開示はジルコプランの変形体を含む。本明細書において、ジルコプランへの言及は、その活性代謝物又は変形体、すなわちC5阻害活性を有する活性代謝物又は変形体を含む。いくつかのジルコプラン変形体において、C末端リジン側鎖部分は変更され得る。いくつかの場合において、C末端リジン側鎖部分のPEG24スペーサ(24のPEGサブユニットを有する)は、より少ない又は追加のPEGサブユニットを含み得る。他の場合において、C末端リジン側鎖部分のパルミトイル基は、別の飽和又は不飽和の脂肪酸により置換され得る。さらなる場合において、C末端リジン側鎖部分のL-γグルタミン酸リンカー(PEGとアシル基の間)は、代替のアミノ酸又は非アミノ酸リンカーにより置換され得る。
【0054】
いくつかの実施形態において、C5阻害剤はジルコプランの活性代謝物又は変形体を含み得る。代謝物は、パルミトイルテールのω-ヒドロキシル化を含み得る。そのような変形体は、ジルコプラン前駆体のヒドロキシル化により合成又は形成され得る。
【0055】
いくつかの実施形態において、ジルコプラン変形体は、ジルコプランの環状又はC末端リジン側鎖部分特徴の1つ以上と組み合わせて使用され得る、ジルコプランのコアポリペプチド配列に対する修飾を含み得る。そのような変形体は、(配列番号1)のコアポリペプチド配列に対して、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%の配列同一性を有し得る。
【0056】
いくつかの場合において、ジルコプラン変形体は、ジルコプラン中に使用されているもの以外のアミノ酸の間にラクタムブリッジを形成することにより環化され得る。
いくつかの実施形態において、本開示のC5阻害剤は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる米国特許出願公開第2017/0137468号明細書の表1に列記されるもののいずれも含み得る。
【0057】
本開示のC5阻害剤は、特異的結合特性を達成するように開発又は修飾され得る。阻害剤結合は、特定の標的との会合速度及び/又は解離速度を決定することにより評価され得る。いくつかの場合において、化合物は、緩徐な解離速度と合わせて、標的と強力で迅速な会合を示す。いくつかの実施形態において、本開示のC5阻害剤は、C5と強力で迅速な会合を示す。そのような阻害剤は、C5との緩徐な解離速度をさらに示し得る。
【0058】
本明細書に開示のC5タンパク質結合C5阻害剤は、C5補体タンパク質に、約0.001nM~約0.01nM、約0.005nM~約0.05nM、約0.01nM~約0.1nM、約0.05nM~約0.5nM、約0.1nM~約1.0nM、約0.5nM~約5.0nM、約2nM~約10nM、約8nM~約20nM、約15nM~約45nM、約30nM~約60nM、約40nM~約80nM、約50nM~約100nM、約75nM~約150nM、約100nM~約500nM、約200nM~約800nM、約400nM~約1,000nM、又は少なくとも1,000nMの平衡解離定数(KD)で結合し得る。
【0059】
いくつかの実施形態において、本開示のC5阻害剤は、C5からのC5aの形成又は生成を遮断する。いくつかの場合において、C5aの形成又は生成は、補体活性化の代替経路の活性化の後で遮断される。いくつかの場合において、本開示のC5阻害剤は、膜侵襲複合体(MAC)の形成を遮断する。そのようなMAC形成阻害は、C5阻害剤がC5bサブユニットに結合することに起因し得る。C5bサブユニットに結合するC5阻害剤は、C6結合を妨げて、MAC形成の遮断をもたらし得る。いくつかの実施形態において、このMAC形成阻害は、古典経路、代替経路、又はレクチン経路の活性化の後で起こる。
【0060】
本開示のC5阻害剤は、化学的プロセスを利用して合成され得る。いくつかの場合において、そのような合成は、哺乳動物細胞系における生物学的製品の製造と関連するリスクを排除する。いくつかの場合において、化学合成は、生物学的製造プロセスより単純で費用効率がより高くなり得る。
【0061】
いくつかの実施形態において、C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)組成物は、少なくとも1種の薬学的に許容できる賦形剤を含む医薬組成物であり得る。いくつかの実施形態において、薬学的に許容できる賦形剤は、塩及び緩衝剤の少なくとも1つを含み得る。塩は塩化ナトリウムであり得る。緩衝剤はリン酸ナトリウムであり得る。塩化ナトリウムは、約0.1mM~約1000mMの濃度で存在し得る。いくつかの場合において、塩化ナトリウムは約25mM~約100mMの濃度で存在し得る。リン酸ナトリウムは約0.1mM~約1000mMの濃度で存在し得る。いくつかの場合において、リン酸ナトリウムは約10mM~約100mMの濃度で存在する。
【0062】
いくつかの実施形態において、C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)組成物は、約0.01mg/mL~約4000mg/mLのC5阻害剤を含み得る。いくつかの場合において、C5阻害剤は約1mg/mL~約400mg/mLの濃度で存在する。
【0063】
その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる国際公開第2018106859号パンフレットに記載の通り、古典的な補体経路転換酵素により、ジルコプランは、C5に結合し、C5の切断を阻害する。加えて、ジルコプランは、C5bに結合し、C5の非古典的な切断によって誘導された膜侵襲複合体の形成を妨げる。ジルコプランの結合及び阻害活性は、臨床的に関連するヒトC5多型(p.R885>H/Cを含む)の存在による影響を受けない。抗C5モノクローナル抗体阻害剤のエクリズマブと異なり、ジルコプランは、表面結合C5b-9又は可溶性膜侵襲複合体(sC5b-9)に結合しない。
【0064】
予備充填シリンジ
いくつかの実施形態において、本開示の化合物及び組成物は、予備充填シリンジの形態で提供され得る。本明細書では、「予備充填シリンジ」は、注射投与のための送達装置を指し、装置は、装置内に含まれる、注射対象のペイロードとともに、製造、パッケージング、保存、及び/又は分配される。環状ペプチドの安定性に起因し、環状ペプチド阻害剤は、特に予備充填シリンジにおける製造、保存、及び分配に充分に適している。さらに、予備充填シリンジは、特に自己投与(すなわち、医療従事者の支援なしで対象による投与)に充分に適している。自己投与は、遠隔に位置し得るか又はアクセスが困難である医療従事者に頼ることなく治療を得るための、対象において好都合な方法を表す。これは、自己投与のオプションを、頻回注射(例えば連日注射)を要する治療にとって十分に適したものにする。
【0065】
いくつかの実施形態において、本開示は、補体阻害剤を送達するための予備充填シリンジを提供する。予備充填シリンジは、注射用に製剤化された補体阻害剤組成物を含み得る。組成物は、皮下注射用に製剤化され得る。補体阻害剤は、環状ペプチドを含み得る。いくつかの実施形態において、予備充填シリンジはC5阻害剤を含む。C5阻害剤は、ジルコプラン又はその変形体若しくは誘導体を含み得る。ジルコプランは、予備充填シリンジ内のリン酸緩衝食塩水の溶液中に含まれ得る。ジルコプランは、約4mg/ml~約400mg/mlの濃度で溶液中に存在し得る。いくつかの実施形態において、予備充填シリンジは、PBS中、40mg/mlのジルコプラン溶液を含む。いくつかの実施形態において、シリンジは、約0.1ml~約1ml又は約0.5ml~約2mlの容積を含み得る。溶液は保存剤を含み得る。
【0066】
予備充填シリンジは、ウルトラセーフプラス(ULTRASAFE PLUS)(商標)パッシブニードルガード(ベクトン・ディッキンソン(Becton Dickenson)、ニュージャージー州、フランクリン・レイクス)を含み得る。他の予備充填シリンジは、ペン型注射器を含む。注射ペンは、多用量ペンであり得る。いくつかの予備充填シリンジはニードルを含む。いくつかの実施形態において、ニードルゲージは約20~約34である。ニードルゲージは約29~約31であり得る。
【0067】
同位体変種
本開示の化合物は、同位体である1つ以上の原子を含み得る。本明細書では、用語「同位体」は、1つ以上の追加の中性子を有する化学元素を指す。いくつかの実施形態において、本開示の化合物は重水素化され得る。本明細書では、用語「重水素化された」は、1つ以上の水素原子が重水素同位体に置き換えられた物質を指す。重水素同位体は水素の同位体である。水素の核は1つのプロトンを含むが、重水素核はプロトンと中性子の両方を含む。本開示の化合物及び組成物は、安定性などの物性を変えるために、又は診断及び実験用途での使用を可能にするために重水素化され得る。
【0068】
II.方法
いくつかの実施形態において、本開示は、種々の治療適応症の治療的処置のための化合物及び組成物を使用及び評価することに関連する方法を提供する。いくつかの方法は、本明細書に記載の化合物及び/又は組成物を使用して、補体活性を調節することを含む。
【0069】
治療適応症
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、本明細書で開示される化合物及び/又は組成物を使用して治療適応症を治療する方法を含む。本明細書での用語「治療適応症」は、いくつかの形態の治療又は他の治療介入(例えば補体阻害剤の投与)により軽減され、安定化され、改善され、治癒され、又は他の方法で対処され得るあらゆる症状、病態、障害、又は疾患を指す。治療適応症は、炎症性適応症、創傷、損傷、自己免疫適応症、血管適応症、神経学的適応症、腎臓関連適応症、眼の適応症、心血管適応症、肺の適応症、及び妊娠関連の適応症を含み得るが、これらに限定されない。補体活性及び/又は機能障害に関連する治療適応症は、本明細書中で「補体関連の適応症」と称される。いくつかの実施形態において、本開示の方法は、補体関連の適応症を、本明細書で開示される化合物及び/又は組成物(例えば補体阻害剤化合物)を投与することにより治療することを含み得る。
【0070】
いくつかの実施形態において、補体活性化が疾患、障害及び/又は病態の進行をもたらす場合、補体阻害剤化合物は、補体関連の適応症の治療において有用であり得る。そのような補体関連の適応症は、炎症性適応症、創傷、損傷、自己免疫適応症、血管適応症、神経学的適応症、腎臓関連適応症、眼の適応症、心血管適応症、肺の適応症、及び妊娠関連の適応症を含み得るが、これらに限定されない。補体関連の適応症は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる米国特許第10,106,579号明細書に列挙されるもののいずれも含み得るが、これらに限定されない。
【0071】
補体阻害剤化合物及び組成物は、例えば感染を有する対象における感染性疾患、障害及び/又は病態の治療において有用であり得る。いくつかの実施形態において、敗血症又は敗血性症候群を発現するリスクがある感染を有する対象は、本明細書に記載の補体阻害剤で治療され得る。いくつかの場合において、補体阻害剤化合物は、敗血症の治療において使用され得る。
【0072】
補体阻害剤化合物及び組成物は、補体阻害が所望される場合に臨床診断の結果を改善するためにも投与され得る。そのような診断は、移植(grafting)、移植(transplantation)、インプラント、カテーテル留置、挿管などを含み得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、補体阻害剤化合物及び組成物は、そのような診断において使用される装置、材料及び/又は生体材料をコーティングするために使用される。いくつかの実施形態において、管の内部表面は、インビボ又は生体外のいずれか、例えば体外シャント、例えば透析及び心臓バイパス術において、管を通過する体液中の補体活性化を妨げるため、化合物及び組成物でコーティングされ得る。
【0073】
本明細書での用語「治療する」、「治療」などは、病理学的プロセスからの軽減又はその緩和を指す。本開示と関連して、それが本明細書中の以下に挙げられる他の病態のいずれにも関することから、用語「治療する」、「治療」などは、そのような病態に関連する少なくとも1つの症状を軽減又は緩和すること、又はそのような病態の進行若しくは予想される進行を遅延又は逆転させることを意味する。
【0074】
疾患マーカ又は症状の文脈における「下げる」又は「減少させる」とは、そのようなレベルの著しい、多くの場合統計的に有意な減少を意味する。減少は、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%又はそれ以上であり得て、好ましくは、そのような障害のない個人の正常の範囲内として認識されているレベルまでである。
【0075】
疾患マーカ又は症状の文脈における「増加させる」又は「上げる」とは、そのようなレベルの著しい、多くの場合統計的に有意な増加を意味する。増加は、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%又はそれ以上であり得て、好ましくは、そのような障害のない個人の正常の範囲内として認識されているレベルまでであり得る。
【0076】
疾患の治療又は寛解の有効性は、例えば、疾患進行、疾患寛解、症状重症度、疼痛の低下、生活の質、治療効果を維持するのに要求される投薬量、疾患マーカのレベル、又は治療されている若しくは予防が標的とされている所与の疾患にとって適切な任意の他の測定可能なパラメータを測定することにより評価され得る。治療又は予防の有効性を、そのようなパラメータのいずれか1つ、又はパラメータの任意の組合せを測定することによりモニタリングすることは、充分に当業者の能力の範囲内である。ポリペプチド又はその医薬組成物の投与に関連して、疾患又は障害「に対して有効である」は、臨床的に適切な様式での投与が、少なくとも一部の患者において有益な効果、例えば、症状の改善、治癒、疾患負荷の減少、腫瘤若しくは細胞数の減少、延命、生活の質の改善、輸血の必要性の減少、又は特定タイプの疾患若しくは障害を治療することに精通した医師によりポジティブなものとして一般的に認識されている他の効果をもたらすことを示す。
【0077】
治療効果又は予防効果は、疾病状態の1つ以上のパラメータにおいて、著しい、多くの場合統計的に有意な改善がある場合に、又はそうでなければ予測されるだろう症状を悪化若しくは発現させることができないことにより明らかである。一例として、疾患の測定可能なパラメータの少なくとも10%の有利な変化、及び好ましくは少なくとも20%、30%、40%、50%又はそれ以上は、有効な治療を示し得る。所与の化合物又は組成物の有効性は、当技術分野に公知である通り所与の疾患の実験動物モデルを使用しても判断できる。実験動物モデルを使用する場合、治療の有効性は、マーカ又は症状に統計的に有意な調節が観察される場合に証明される。
【0078】
本開示の化合物と追加の治療剤を組み合わせて投与できる。そのような組合せは同じ組成物中であり得て、又は追加の治療剤を、別な組成物の一部として、若しくは本明細書に記載の別の方法により投与できる。
【0079】
いくつかの実施形態において、本開示は、組織を組織浸透性C5阻害剤と接触させることによる組織中のC5活性を阻害する方法を提供する。本明細書では、用語「組織浸透性」は、組織透過性を特徴とする性質を指す。組織浸透が増大した薬剤は、組織浸透が低いか又は全くない薬剤と比べると、組織におけるより良好な分布を示し得る。組織浸透は、基底膜を横切る能力により評価され得る。本明細書では、用語「基底膜」は、内皮細胞をその下の組織から分ける細胞外マトリックス(ECM)タンパク質層を指す。組織浸透評価は、インビボでも又はインビトロでも実施でき、基底膜モデルの使用を含み得る。そのようなモデルは、人工基底膜を通る化合物の拡散を測定することを含み得る。そのようなモデルは、人工基底膜により分離された上部及び下部リザーバの使用を含み得る。人工基底膜は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるアレンズ,F(Arends,F)ら著、2016年、インテクオープン(IntechOpen)、デジタルオブジェクト識別子:10.5772/62519に記載されたECMゲル膜のいずれも含み得る。神経筋接合部の基底板にみられるものを模倣したマトリックス成分を含むように、ECMゲル膜を調製できる。いくつかのモデルにおいて、試験されている化合物は上部リザーバに導入され、化合物拡散が下部リザーバで検出される。
【0080】
組織浸透評価は、例えば、蛍光標識を使用して基底膜を横切る分析物の動きを可視化することによる目視評価を含み得る。いくつかの評価は、基底膜の浸透された側から得られた試料の生化学的分析を含み得る。
【0081】
いくつかの実施形態において、化合物透過性は、定量的全身分析(quantitative whole body analysis)(QWBA)を使用して測定され得る。QWBAは、ラジオグラフィーを使用して、放射標識された分析物の分布を評価する分析の一形態である。いくつかの実施形態において、放射性標識された化合物が対象に投与されて、化合物の組織分布が時間経過とともに分析される。
【0082】
組織浸透性C5阻害剤はポリペプチドであり得る。組織浸透性C5阻害剤はジルコプランを含み得る。組織を組織浸透性C5阻害剤と接触させることは、組織浸透性C5阻害剤を製剤の一部として組織に投与することを含み得る。そのような製剤は皮下注射により投与され得る。組織浸透性C5阻害剤(例えばジルコプラン)は、組織を横切って透過及び/又は拡散する。組織浸透性C5阻害剤(例えばジルコプラン)は、基底膜に浸透することが可能であり得る。ポリペプチド組織浸透性C5阻害剤の基底膜透過性は、抗体などのより大きいタンパク質の基底膜透過性よりも高い可能性がある。そのような利点は、タンパク質及び抗体の制限になるほど大きなサイズによるものであり得る。ジルコプラン基底膜透過性は、エクリズマブの基底膜透過性の約3倍~約5倍になり得て、組織中のC5活性を阻害し、関連する補体関連の適応症を治療するための、エクリズマブより優れた利点を与える。いくつかの実施形態において、ジルコプラン透過性は、エクリズマブと比べて、肺、心臓、筋、小腸、大腸、脾臓、肝臓、骨、胃、リンパ節、脂肪、脳、膵臓、精巣、及び胸腺の1つ以上における分布を増大させる。
【0083】
ポリペプチド系C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)を使用して、迅速及び/又は増大した阻害剤組織分布から利益を得る補体関連の適応症を治療できる。組織は、筋及び/又は神経筋接合部(NMJ)を含み得る。ポリペプチド阻害剤(例えばジルコプラン)は、より小さいサイズ及び/又は有利な荷電プロファイルに基づいて、抗体と比べて筋及び/又はNMJへの優れた浸透を提供し得る。そのような浸透は、過度に活性が高い補体からのより速い解放をもたらし得る。さらに、ポリペプチド阻害剤(例えばジルコプラン)浸透は、MACポア形成を妨げることにより、NMJ膜電位を安定化及び/又は改善し得る。したがって、NMJでの安全係数は改善され得る。用語「安全係数」は、生理的ストレス下で神経筋伝達有効性を確実にする神経インパルス後に放出される過剰な伝達物質レベルを指す。過剰は、筋線維活動電位を引き起こすのに要する量を超えた量であり、膜電位回復に寄与する。
【0084】
特定の補体関連の適応症は、組織浸透性C5阻害剤(例えばジルコプラン)で、組織内部又は組織下で生じているような適応症に関連した補体活性に応じて、より容易に治療されるか又はそうでなくても対処され得る(すなわち、ここで組織浸透性のない阻害剤では、アクセスができないか又は限られる)。そのような補体関連の適応症の例として、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、アジソン病、抗GBM/抗TBM腎炎、自己免疫性心筋炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、皮膚筋炎、円板状ループス、巨細胞性動脈炎、ギラン・バレー症候群、IgA腎症、封入体筋炎、ループス、混合性結合組織病(MCTD)、視神経脊髄炎(デビック病)、特発性肺線維症、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、高安動脈炎、未分化結合組織病(UCTD)、血管炎、皮膚筋炎、関節リウマチ、臓器又は組織移植における拒絶、創傷、損傷、火傷、全身性エリテマトーデス(SLE)、血管炎症候群、天疱瘡、水疱性類天疱瘡、急性呼吸促迫症候群、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒中、外傷、心血管介入(例えば、心臓バイパス術、動脈グラフト、及び血管形成術)から生じる病態、抗好中球細胞質自己抗体(ANCA)血管炎、筋萎縮性(amyelotrophic)側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、レビー小体病、重症筋無力症、多発性硬化症、視神経脊髄炎、腎臓関連適応症、ループス腎炎、膜性糸球体腎炎(MGN)、血液透析合併症、IgA腎症、デンスデポジット病/膜性増殖性糸球体腎炎II型/C3糸球体症、巣状分節性糸球体硬化症、糖尿病関連の適応症、眼の適応症、加齢性黄斑変性症(AMD)、自己免疫ブドウ膜炎、糖尿病性網膜症、及びシュタルガルト病があるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、本開示の方法は、対象におけるそのような補体関連の適応症を、ジルコプランをそのような対象に(単独で又は他の治療剤と組み合わせて)提供する、又は組織浸透性のない補体阻害剤治療又は有効性が低い組織浸透性の補体阻害剤治療をジルコプラン治療と置き換えることにより治療する方法を含む。そのような方法によると、ジルコプランの組織及び細胞外マトリックスへの透過性並びに組織分布は、対象の組織内部又は組織下で改善された補体阻害をもたらし得る。さらに、ジルコプラン治療は、改善された組織透過性及び組織分布が理由で、他の治療(例えばエクリズマブを伴う)よりも優位に選択され得るか、又は他の治療と併用され得る。
【0085】
いくつかの実施形態において、本開示は、ジルコプランを他の治療剤と組み合わせて投与することによる、対象の補体関連の適応症を治療する方法を提供する。シクロスポリンAは、公知の免疫抑制剤、有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)1B1及びOATP1B3の阻害剤であり、PNH及び他の補体関連の適応症における潜在的な併用薬物(comedication)である。いくつかの実施形態において、シクロスポリンA及びジルコプランは、補体関連の適応症を有する対象に組み合わせて投与され得る。シクロスポリンA及びジルコプランは、重複する投与レジメンにおいて投与され得る。ジルコプランと組み合わせて、又は重複する投与レジメンにおいて投与され得る他の免疫抑制剤は、アザチオプリン、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル、メトトレキサート、タクロリムス、シクロホスファミド、及びリツキシマブを含み得るが、これらに限定されない。
【0086】
いくつかの実施形態において、本開示は、ジルコプランを胎児性Fc受容体(FcRN)阻害剤治療と組み合わせて投与することによる、対象の補体関連の適応症を治療する方法を提供する。FcRN阻害剤治療を使用して、自己抗体介在性組織破壊を含む自己免疫疾患を治療できる。FcRN阻害剤治療は、静脈内免疫グロブリン(IVIG)治療を含み得て、それは、高投与量の免疫グロブリンによりFcリサイクリング機構を圧倒することによりIgG抗体の半減期を減少させるものである。いくつかのFcRN阻害剤治療は、DX-2504又はその機能的に(funtionally)等価な変形体、例えば、凝集を減少させ製造性を改善する修飾を含むDX-2507(ニクソン,A.E.(Nixon,A.E.)ら著、2015年、フロンティアズ・イン・イムノロジー(Front Immunol.)、第6巻:p.176に記載された)の投与を含み得る。DX-2504はFcRNリサイクリングの阻害剤である。FcRNを阻害することにより、DX-2504は、Fc介在性リサイクリングを阻害し、それにより、IgG抗体の半減期を減少させる。DX-2504の投与は、IVIG治療のモデルにおいても使用され得る。
【0087】
エクリズマブは治療用IgG抗体であり、それはFc領域を含むことから、循環IgG抗体レベルに影響する、FcRN阻害剤治療を受けている対象における治療に適しない。ジルコプランは、FcRN阻害剤治療を受けている対象におけるエクリズマブ治療の代わりとなる。というのは、それはIgG抗体でなく、Fc領域が欠如しているためである。したがって、本開示の方法は、FcRN阻害剤治療で治療されてきたか又は治療中である対象における、補体関連の適応症をジルコプランで治療する方法を含む。ジルコプランは、そのようなFcRN阻害剤治療と組み合わせて投与され得る。組み合わせ投与は、ジルコプラン及びFcRN阻害剤治療の重複する投与レジメンを含み得る。FcRN阻害剤治療は、DX-2504(又はDX-2507)投与及び/又はIVIG治療を含み得る。
【0088】
FcRN阻害剤治療(例えば、DX-2504、DX-2507、及びIVIG)がジルコプランと組み合わせて投与され得る場合の補体関連の適応症は、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、自己免疫性溶血性貧血、皮膚筋炎、多発性筋炎、関節リウマチ、全身性血管炎、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー、ALS、重症筋無力症、IgM抗MAGニューロパチー、多発性硬化症、類天疱瘡、及び天疱瘡を含み得るが、これらに限定されない。
【0089】
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)
補体関連の適応症は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を含み得る。いくつかの実施形態において、補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、PNHの発現を治療し、予防し、又は遅延させ得る。いくつかの実施形態において、治療は、投与量依存的様式でのPNH赤血球の溶血の予防に関与し得る。
【0090】
ホスファチジルイノシトールグリカンアンカー生合成、多能性造血幹細胞に由来するクラスA(PIG-A)遺伝子における後天的突然変異は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)として公知の希少な疾患をもたらす(プー,J.J.(Pu,J.J.)ら著、「ベンチからベッドサイドへの発作性夜間ヘモグロビン尿症(Paroxysmal nocturnal hemoglobinuria from bench to bedside)」、クリニカル・アンド・トランスレイショナル・サイエンス(Clin Transl Sci.)、2011年6月、第4巻(3号)、p.219~24)。PNHは、骨髄障害、溶血性貧血及び血栓症を特徴とする。PIG-A遺伝子産物は、タンパク質を原形質膜に係留するために利用される、糖脂質アンカー、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)の産生にとって必要である。2つの補体調節タンパク質CD55及びCD59は、GPIの不在下で非機能的になる。これは、これら細胞の補体介在性破壊をもたらす。補体阻害剤は、PNHの治療において特に有用である。いくつかの実施形態において、化合物及び組成物を使用して、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)又は補体関連の貧血の発現を治療し、予防し、又は遅延させ得る。PNHを有する対象は、造血幹細胞上の補体調節タンパク質CD55及びCD59の機能的バージョンを合成することができない。これは、補体介在性溶血及び様々な下流合併症をもたらす。本明細書での用語「下流」又は「下流合併症」は、別の事象の後で、且つその結果として起こるあらゆる事象を指す。いくつかの場合において、下流事象は、C5切断及び/又は補体活性化の後で、且つその結果として起こる事象である。
【0091】
PNHは、低ヘモグロビン、増加レベルの乳酸脱水素酵素及びビリルビン、並びに低下レベルのハプトグロビンを特徴とする。PNHの症状は、貧血の症状、例えば疲労、頭痛、呼吸困難、胸痛、目まい、及び意識朦朧感を含む。
【0092】
PNHにおける現在の治療は、エクリズマブ(アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Alexion Pharmaceuticals)、コネチカット州、チェシャー)の使用を含む。いくつかの場合において、エクリズマブは、C5における突然変異、短い半減期、免疫反応、又は他の理由により、無効であり得る。いくつかの実施形態において、本開示の方法は、PNHを有する対象を治療する方法であって、そのような対象が以前にエクリズマブで治療されている、方法を含む。いくつかの場合において、エクリズマブはそのような対象において無効であり、本開示の化合物による治療が治療的軽減にとって重要になる。いくつかの実施形態において、本開示の化合物は、エクリズマブ治療に対して抵抗性がある対象を治療するため、使用され得る。そのような対象は、エクリズマブに対する抵抗性を与える、R885H/C多型を有する対象を含み得る。いくつかの場合において、本開示の化合物は、エクリズマブ療法と同時に又は併せて投与される。そのような症例では、対象は、より有効な軽減、より迅速な軽減及び/又はより少ない副作用を含むがそれらに限定されない、そのような組み合わせ治療の1つ以上の有益な効果を経験し得る。
【0093】
炎症性適応症
本開示の化合物及び/又は組成物で対処され得る治療適応症は、炎症性適応症を含み得る。本明細書では、用語「炎症性適応症」は、免疫系活性化を含む治療適応症を指す。炎症性適応症は、補体関連の適応症を含み得る。炎症は、補体系のタンパク質分解カスケードの間、上方制御され得る。炎症が有益な効果を有し得るが、過剰な炎症は、様々な病状をもたらし得る(マーキュースキー(Markiewski)ら著、2007年、アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(Am J Pathol.)、第17巻、p.715~27)。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、炎症性適応症の発現を治療し、予防し、又は遅延させ得る。
【0094】
炎症性適応症は、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、急性壊死性出血性白質脳炎、アジソン病、無ガンマグロブリン血症、円形脱毛症、アミロイドーシス、強直性脊椎炎、臓器移植後の急性抗体媒介性拒絶、抗GBM/抗TBM腎炎、抗リン脂質症候群(APS)、自己免疫血管浮腫、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性自律神経障害、自己免疫性肝炎、自己免疫性高脂血症、自己免疫性免疫不全、自己免疫性内耳疾患(AIED)、自己免疫性心筋炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、自己免疫性血小板減少性紫斑病(ATP)、自己免疫性甲状腺疾患、自己免疫性蕁麻疹、軸索及びニューロン神経障害、細菌性敗血症及び敗血症性ショック、バロ病(Balo disease)、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、キャッスルマン病、セリアック病、シャーガス病、慢性疲労症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、慢性反復性多巣性骨髄炎(CRMO)、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡/良性粘膜類天疱瘡、クローン病、コーガン症候群(Cogans syndrome)、寒冷凝集素症、先天性心ブロック、コクサッキー心筋炎、クレスト疾患、本態性混合型クリオグロブリン血症、脱髄性ニューロパチー、ヘルペス状皮膚炎、皮膚筋炎、デビック病(視神経脊髄炎)、I型糖尿病、円板状ループス、ドレスラー症候群、子宮内膜症、好酸球性食道炎、好酸球性筋膜炎、結節性紅斑、実験的アレルギー性脳脊髄炎、エヴァンス症候群、線維筋痛症、線維性肺胞炎、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、糸球体腎炎、グッドパスツール病、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)(ウェゲナー肉芽腫症を参照)、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本脳炎、橋本甲状腺炎、溶血性貧血(非定型溶血性尿毒症症候群及び血漿療法耐性非定型溶血性尿毒症症候群)、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、妊娠性疱疹、低ガンマグロブリン血症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA腎症、IgG4関連硬化性疾患、免疫調節性リポタンパク質、封入体筋炎、インスリン依存性糖尿病(1型)、間質性膀胱炎、若年性関節炎、若年性糖尿病、川崎症候群、ランバート・イートン症候群、大血管脈管障害、白血球破壊性血管炎、扁平苔癬、硬化性苔癬、木質性結膜炎、線状IgA病(LAD)、ループス(SLE)、ライム病、メニエール病、顕微鏡的多発血管炎、混合性結合組織病(MCTD)、モーレン潰瘍、ムッハ・ハーベルマン病、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性硬化症、多巣性運動ニューロパチー、筋炎、重症筋無力症、ナルコレプシー、視神経脊髄炎(デビック病)、好中球減少症、眼部瘢痕性類天疱瘡、視神経炎、変形性関節症、回帰性リウマチ、PANDAS(小児自己免疫性溶連菌関連性精神神経障害)、傍腫瘍性小脳変性症、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、パリー・ロンベルグ症候群、パーソネージ・ターナー症候群(Parsonnage-Turner syndrome)、毛様体扁平部炎(末梢ブドウ膜炎)、天疱瘡、末梢神経障害、静脈周囲性脳脊髄炎、悪性貧血、POEMS症候群、結節性多発動脈炎、I、II及びIII型自己免疫多腺性症候群、多腺性内分泌不全症、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、心筋梗塞後症候群、心膜切開後症候群、プロゲステロン皮膚炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、乾癬、乾癬性関節炎、特発性肺線維症、壊疽性膿皮症、赤芽球癆、レイノー現象、反応性関節炎、反射性交感神経性ジストロフィー、ライター症候群、再発性多発性軟骨炎、下肢静止不能症候群、後腹膜線維症、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、シュミット症候群、強膜炎、強皮症、志賀毒素産生性大腸菌感染による溶血性尿毒症症候群(STEC-HUS)、シェーグレン症候群、小血管脈管障害、精液精巣自己免疫(Sperm & testicular autoimmunity)、全身硬直症候群、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、スザック症候群、交感性眼炎、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、血小板減少性紫斑病(TTP)、トロサ・ハント症候群、横断性脊髄炎、尿細管自己免疫障害(tubular autoimmune disorder)、潰瘍性大腸炎、未分化結合組織病(UCTD)、ブドウ膜炎、小水疱水疱性皮膚病、血管炎、白斑、及びウェゲナー肉芽腫症(多発性血管炎を伴う肉芽腫症(GPA)として公知)を含み得るが、これらに限定されない。
【0095】
無菌性炎症
炎症性適応症は無菌性炎症を含み得る。無菌性炎症は、感染以外の刺激に応答して生じる炎症である。無菌性炎症は、物理的、化学的、又は代謝的な侵害刺激によって引き起こされるゲノムストレス、低酸素ストレス、栄養素ストレス又は小胞体ストレスなどのストレスに対する一般的応答であり得る。無菌性炎症は、非限定的に、虚血誘導損傷、関節リウマチ、急性肺損傷、薬剤誘発性肝損傷、炎症性腸疾患及び/又は他の疾患、障害若しくは病態などの多数の疾患の病態形成に寄与し得る。無菌性炎症の機序並びに無菌性炎症の症状の治療、予防及び/又は遅延のための方法及び化合物は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる、ルバルテリー(Rubartelli)ら著、フロンティアズ・イン・イムノロジー(Frontiers in Immunology)、2013年、第4巻、p.398~99、ロック(Rock)ら著、アニュアル・レビュー・オブ・イムノロジー(Annu Rev Immunol.)、2010年、第28巻、p.321~342又は米国特許第8,101,586号明細書に教示されるもののいずれも含み得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、無菌性炎症を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。
【0096】
全身性炎症応答(SIRS)及び敗血症
炎症性適応症は全身性炎症応答症候群(SIRS)を含み得る。SIRSは全身を冒す炎症である。SIRSが感染によって引き起こされる場合、それは敗血症と称される。SIRSは、外傷、損傷、熱傷、虚血、出血及び/又は他の状態などの非感染性事象によっても引き起こされ得る。敗血症及びSIRSの間、補体活性化は、補体活性化産物の過剰な生成をもたらし、対象における多臓器不全(MOF)を引き起こし得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、SIRSを治療し、及び/又は予防し得る。補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、SIRS、敗血症及び/又はMOFの予防及び治療のため、補体活性化を制御及び/又は平衡化し得る。補体阻害剤を適用し、SIRS及び敗血症を治療するための方法は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる、リッチルシュ(Rittirsch)ら著、クリニカル・アンド・ディベロップメンタル・イムノロジー(Clin Dev Immunol)、2012年、p.962927、米国特許出願公開第2013/0053302号明細書又は米国特許第8,329,169号明細書に教示されたものを含み得る。
【0097】
急性呼吸促迫症候群(ARDS)
炎症性適応症は急性呼吸促迫症候群(ARDS)を含み得る。ARDSは、肺の広範な炎症であり、外傷、感染(例えば敗血症)、重度の肺炎及び/又は有害物質の吸入によって引き起こされ得る。ARDSは、典型的には重度な生命を脅かす合併症である。試験では、好中球が、肺の損傷した肺胞及び間質組織における多形核細胞の蓄積に影響することにより、ARDSの発現に寄与し得ることが示唆される。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、ARDSの発現を治療し、及び/又は予防し得る。補体阻害剤化合物及び組成物を投与して、肺胞好中球における組織因子産生を減少させ、及び/又は予防し得る。補体阻害剤化合物及び組成物は、ARDSの治療、予防及び/又は遅延のため、場合によってはその内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる国際公開第2009/014633号パンフレットに教示された方法のいずれかに従い、さらに使用され得る。
【0098】
歯周炎
炎症性適応症は歯周炎を含み得る。歯周炎は、歯を支持し、囲んでいる組織である歯周組織の破壊を引き起こす広範な慢性炎症である。病態は、肺胞骨欠損(歯を保持する骨)も含む。歯周炎は、歯垢としても知られる歯肉線での細菌の蓄積を引き起こす口腔衛生の欠如によって引き起こされ得る。特定の健康状態、例えば糖尿病又は栄養失調及び/又は喫煙などの習慣は、歯周炎のリスクを高め得る。歯周炎は、脳卒中、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症、糖尿病、骨粗鬆症、早期陣痛、及び他の健康問題のリスクを高め得る。試験では、歯周炎と局所補体活性との間の相関が示される。歯周細菌は、補体カスケードの特定成分を阻害し、又は活性化し得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、歯周炎及び/又は関連病態の発現を治療又は予防し得る。補体活性化阻害剤及び治療方法は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる、ハジシェンガリス(Hajishengallis)、バイオケミカル・ファーマコロジー(Biochem Pharmacol.)、2010年、第15版、第80巻(12号)、p.1及びランブリス(Lambris)又は米国特許出願公開第2013/0344082号明細書に教示されたもののいずれも含み得る。
【0099】
皮膚筋炎
炎症性適応症は皮膚筋炎を含み得る。皮膚筋炎は、筋力低下及び慢性筋炎を特徴とする炎症性筋疾患である。皮膚筋炎は、同時に付随する皮疹から始まるか、又は筋力低下に先行することが多い。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、皮膚筋炎を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。
【0100】
関節リウマチ
炎症性適応症は関節リウマチを含み得る。関節リウマチは、手の手首及び小関節を冒す自己免疫状態である。典型的症状は、疼痛、関節の凝り、腫脹、及び熱感を含む。補体系の活性化成分は、補体カスケードの産物が、炎症誘発性活性、例えば血管透過性及び緊張、白血球化学走性、並びに複数の細胞型の活性化及び溶解を媒介するとき、関節リウマチの発現に影響する(ワング(Wang)ら著、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.)、1995年、第92巻、p.8955~8959を参照)。ワング(Wang)らは、動物におけるC5補体カスケードの阻害が関節炎の発症を予防し、確立された病態を寛解することを証明した。補体活性化阻害剤及び治療方法は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるワング(Wang)ら著、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.)、1995年、第92巻、p.8955~8959に教示されたもののいずれも含み得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、関節リウマチの発現を治療又は予防し得る。
【0101】
喘息
炎症性適応症は喘息を含み得る。喘息は、空気が肺内及び肺外を通過することを可能にする気道である気管支の慢性炎症である。病態は、気管支の狭窄、炎症及び応答性亢進を特徴とする。典型的な症状は、喘鳴、胸部絞扼感、咳嗽及び息切れの期間を含む。喘息は最も一般的な呼吸障害である。補体タンパク質C3及びC5は、喘息の多くの病態生理学的特徴、例えば、炎症細胞浸潤、粘液分泌、増強された血管透過性、及び平滑筋細胞収縮に関連し、それ故、補体活性化の下方制御を使用して、喘息を治療、管理又は予防し得ることが示唆されている。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、喘息を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。補体活性化阻害剤及び治療方法は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるカン(Khan)ら著、レスピラトリー・メディシン(Respir Med.)、2014年4月、第108巻(4号)、p.543~549に教示されたもののいずれも含み得る。
【0102】
アナフィラキシー
炎症性適応症はアナフィラキシーを含み得る。アナフィラキシーは、重度の潜在的には生命を脅かすアレルギー反応である。アナフィラキシーは、例えば、血圧の急落、気道の狭窄、呼吸困難、迅速な虚脈、発疹、悪心及び嘔吐を特徴とするショックを引き起こし得る。アナフィラキシーの間の心肺虚脱は、補体活性化並びにC3a及びC5aアナフィラトキシンの生成に関連している。バルゾ(Balzo)らは、アナフィラキシーの間に補体活性化が心機能不全を著しく増強することを示す動物試験を報告している(バルゾ(Balzo)ら著、サーキュレーション・リサーチ(Circ Res.)、1989年9月、第65巻(3号):p.847~57)。補体活性化阻害剤及び治療方法は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるバルゾ(Balzo)らに教示されたもののいずれも含み得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、アナフィラキシーを治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。
【0103】
腸炎症
炎症性適応症は炎症性腸疾患(IBD)を含み得る。IBDは、軽度から重度の炎症の期間又は寛解の期間を有する再発状態である。一般的な症状は、下痢、疲労及び発熱、腹痛、体重減少、食欲低下及び血便を含む。IBDのタイプは、潰瘍性直腸炎、デキストラン硫酸ナトリウム大腸炎、直腸S状結腸炎(proctosigmoitidis)、左側大腸炎、全大腸炎(panconlitis)、重度の急性潰瘍性大腸炎を含む。IBD、例えばデキストラン硫酸ナトリウム大腸炎及び潰瘍性大腸炎は、補体活性に関連している(ウェッブ(Webb)ら著、インターナショナル・ジャーナル・オブ・メディカル・アンド・ファーマシュ-ティカル・ケース・レポーツ(Int J Med Pharm Case Reports)、2015年、第4巻(5号)、p.105~112及びアオマツ(Aomatsu)ら著、ジャーナル・オブ・クリニカル・バイオケミストリー・アンド・ニュートリション(J Clin Biochem Nutr.)、2013年、第52巻(1号)、p.72~5)。補体活性化阻害剤及び治療方法は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるウェッブ(Webb)ら著又はアオマツ(Aomatsu)ら著に教示されたもののいずれも含み得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、IBDの発現を治療し、予防し、又は遅延させ得る。
【0104】
心肺バイパス中の全身性炎症
炎症性適応症は、心肺バイパス(CBP)によって誘導される炎症性応答を含み得る。CBPは、心臓及び肺の機能を代替し、血液循環及び血液の酸素濃度を維持するための手術中に使用される技法である。CBDは、手術患者の合併症を引き起こし得る全身性炎症応答を誘発する。示唆された原因は、体外循環中に血液の活性化を人工的表面と接触させることに起因し得る。炎症性応答は、SIRSを引き起こし、生命を脅かし得る。
【0105】
補体活性化は、CBPによって誘導される炎症性応答に関連している。試験では、末端成分C5a及びC5b-9が体外血液循環中に血小板及び好中球活性化に直接的に寄与し、且つC5がCBPによって誘導される炎症性応答の予防及び治療における治療部位として同定されていることが示唆されている(リンダー(Rinder)ら著、ジャーナル・オブ・クリニカル・インベストメント(J Clin Invest.)、1995年、第96巻(3号)、p.1564~1572)。補体活性化阻害剤及び治療方法は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるリンダー(Rinder)ら著、ジャーナル・オブ・クリニカル・インベストメント(J Clin Invest.)、1995年、第96巻(3号)、p.1564~1572に教示されたもののいずれも含み得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、CBPによって誘導される炎症性応答の発現を治療し、予防し、又は遅延させ得る。
【0106】
器官又は組織移植における拒絶
炎症性適応症は、移植片の免疫拒絶を含み得る。移植片は、器官(例えば、心臓、腎臓、肝臓、肺、腸、胸腺及び膵臓)又は組織(例えば、骨、腱、皮膚、角膜、静脈)であり得る。様々な種類の移植片は、自己移植(患者自身の組織を移植すること)、同種移植片(同じ種の2つのメンバ間の移植)又は異種移植片(異種のメンバ間、例えば動物からヒトへの移植)を含む。臓器移植後の合併症は、典型的にはレシピエントの免疫系が移植された組織を攻撃するとき(例えばABO不適合性)に起こる。拒絶は、移植が実施されてから数分以内に起きている反応を示す、超急性であり得て、典型的にはドナー抗原がレシピエント抗原に対応しない場合に起こる。急性拒絶は、移植後の1週又は数月以内に起こり得る。いくつかの拒絶は慢性であり、長年にわたり起こる。
【0107】
移植片拒絶及び関連の炎症は、補体系に関連している。補体カスケードは、いくつかの様式で移植に関連する。これらは、抗体による同種移植片損傷のエフェクター機構として;虚血-再灌流傷害の促進;並びに同種抗体の形成及び機能を含むが、これらに限定されない(シーン(Sheen)及びヒーガー(Heeger)著、カレント・オピニオン・イン・オルガン・トランスプランテーション(Curr Opin Organ Transplant.)、2015年、第20巻(4号)、p.468~75)。補体標的療法は、移植患者の生存及び健康に対して有意性を有し得る。例として、試験では、エクリズマブによるC5のC5阻害が、臓器同種移植の初期の抗体媒介性拒絶(AMR)の発生率を減少させ(ステガル(Stegall)ら著、ネイチャー・レビュース・ネフォロロジー(Nature Reviews Nephrology)、第8巻(11号)、p.670~8、2012年)、C5の阻害が、ブタ対ヒト異種移植の生体外モデルにおける急性心組織損傷を予防し得る(クロシュス(Kroshus)ら著、トランスプランテーション(Transplantation)、1995年、第15版、第60巻(11号):p.1194~202)ことが示されている。補体活性化阻害剤及び治療方法は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる、ステガル(Stegall)ら著、ネイチャー・レビュース・ネフォロロジー(Nature Reviews Nephrology)、第8巻(11号)、p.670~8、2012年及びクロシュス(Kroshus)ら著、トランスプランテーション(Transplantation)、1995年、第15版、第60巻(11号):p.1194~202、及びシーン(Sheen)及びヒーガー(Heeger)著、カレント・オピニオン・イン・オルガン・トランスプランテーション(Curr Opin Organ Transplant.)、2015年、第20号(4号)、p.468~75に教示されたもののいずれも含み得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び/又は組成物を使用して、移植臓器又は組織を有するか又は受けている対象を治療し得る。いくつかの実施形態において、移植レシピエントは、移植後の1年又はそれ以上の間、補体阻害剤化合物で治療され得る。
【0108】
創傷及び損傷
本開示の化合物及び/又は組成物で対処され得る治療適応症は、創傷及び損傷を含み得る。本明細書での用語「損傷」は、典型的には、物理的外傷を指すが、局在性感染又は疾患過程を含み得る。損傷は、身体部位及び/又は器官に影響する外部事象によって引き起こされる害、損傷又は破壊を特徴とし得る。損傷の非限定的な例において、頭部外傷及び挫滅傷が含まれる。創傷は、皮膚に対する切り傷、打撃、熱傷及び/又は他の影響に関連し、皮膚は破壊又は損傷された状態で残る。創傷及び損傷は、補体関連の適応症を含み得る。創傷及び損傷は急性であるが、適切に治療されない場合、慢性合併症及び/又は炎症を引き起こし得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、異なるタイプの創傷及び/又は損傷を治療し、及び/又はそれらの治癒を促進させ得る。
【0109】
創傷及び火傷
いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、創傷を治療し、及び/又はその治癒を促進させ得る。健常な皮膚は、病原体及び他の環境的エフェクターに対して防水性の保護的バリアをもたらす。皮膚はまた、体温及び体液蒸発を制御する。皮膚が創傷される場合、これらの機能は破壊され、皮膚治癒が困難になる。創傷は、組織を修復し、再生させる免疫系に関する一連の生理学的過程を開始させる。補体活性化はこれらの過程の一つである。それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる、ヴァン・デ・グート(van de Goot)ら著、ジャーナル・オブ・バーン・ケア・アンド・リサーチ(J Burn Care Res)、2009年、第30巻、p.274~280及びカザンダー(Cazander)ら著、クリニカル・アンド・ディベロップメンタル・イムノロジー(Clin Dev Immunol)、2012年、2012:534291に教示された通り、補体活性化試験では、創傷治癒に関与するいくつかの補体成分が同定されている。いくつかの場合において、補体活性化は過剰であり得て、細胞死及び炎症の増大を引き起こす(創傷治癒の障害及び慢性創傷をもたらす)。いくつかの場合において、補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、そのような補体活性化を減少させ、又は除去し、創傷治癒を促進させ得る。補体阻害剤化合物及び組成物による治療は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる国際公開第2012/174055号パンフレットに開示された創傷を治療するための方法のいずれかに従って実施され得る。
【0110】
脳部外傷
創傷及び/又は損傷は頭部外傷を含み得る。頭部外傷は、頭皮、頭蓋骨又は脳への損傷を含む。頭部外傷の例として、脳振盪、挫傷、頭蓋骨折、外傷性脳損傷及び/又は他の損傷があるが、これらに限定されない。頭部外傷は、軽度又は重度であり得る。いくつかの場合において、頭部外傷は、長期の身体的及び/若しくは精神的合併症又は死亡を引き起こし得る。試験では、頭部外傷が不適当な頭蓋内補体カスケード活性化を誘導し得て、それが脳浮腫及び/又は神経細胞死の発現による二次脳損傷に寄与する局所的な炎症性応答を引き起こし得ることが示されている(その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるスタヘル(Stahel)ら著、ブレイン・リサーチ・レビューズ(Brain Research Reviews)、1998年、第27巻、p.243~56)。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、頭部外傷を治療し、及び/又は頭部外傷に関連した疾患、障害、及び/若しくは病態の発現を予防し、若しくは遅延させ得る。いくつかの実施形態において、補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、頭部外傷の二次合併症の発現を治療し、予防し、減少させ、又は遅延させ得る。補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、頭部外傷における補体カスケード活性化を制御する方法は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるホラーズ(Holers)ら、米国特許第8,911,733号明細書に教示されたもののいずれも含み得る。
【0111】
挫滅傷
創傷及び/又は損傷は挫滅傷を含み得る。挫滅傷は、身体に加えられる力又は圧力によって引き起こされる損傷であり、出血、皮下出血、骨折、神経損傷、創傷及び/又は他の損傷を身体に引き起こす。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、挫滅傷を治療し、及び/又はその治癒を促進させ得る。治療を使用して、挫滅傷後の補体活性化を減少させ、それにより(例えば、神経再生を促進させ、骨折治癒を促進させ、炎症、及び/若しくは他の関連合併症を予防又は治療することにより)挫滅傷後の治癒を促進させ得る。補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる、米国特許第8,703,136号明細書;国際公開第2012/162215号パンフレット;国際公開第2012/174055号パンフレット;又は米国特許出願公開第2006/0270590号明細書に教示された方法のいずれかに従い、治癒を促進させ得る。
【0112】
自己免疫適応症
本開示の化合物及び/又は組成物で対処される治療適応症は、自己免疫適応症を含み得る。本明細書での用語「自己免疫適応症」は、対象自身の免疫系による対象の組織及び/又は物質の免疫標的化に関する任意の治療適応症を指す。自己免疫適応症は補体関連の適応症を含み得る。自己免疫適応症は、身体の特定の組織又は器官を含み得る。免疫系は、自然及び適応システムに分けることができ、それぞれ非特異的な即時型防御機構及びより複雑な抗原特異的システムを指す。補体系は、病原体を認識し、除去する、自然免疫系の一部である。加えて、補体タンパク質は、獲得免疫を調節し、自然及び適応応答を結びつけ得る。本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、自己免疫疾患の治療及び/又は予防における補体を調節し得る。いくつかの場合において、そのような化合物及び組成物は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるバランティ(Ballanti)ら著、イムノロジカル・リサーチ(Immunol Res)、2013年、第56巻、p.477~491に提示された方法に従って使用され得る。いくつかの実施形態において、自己免疫適応症は重症筋無力症を含む。
【0113】
抗リン脂質症候群(APS)及び破局的抗リン脂質症候群(CAPS)
自己免疫適応症は抗リン脂質症候群(APS)を含み得る。APSは、血液が血餅になる原因である抗リン脂質抗体によって引き起こされる自己免疫状態である。APSは、器官における反復性静脈又は動脈血栓症、並びに、流産、死産、子癇前症、早産及び/若しくは他の合併症など、妊娠関連合併症を引き起こす胎盤循環における合併症を引き起こし得る。破局的抗リン脂質症候群(CAPS)は、いくつかの器官における静脈の閉鎖を同時に引き起こす類似病態の極度且つ急性バージョンである。試験では、補体活性化が、妊娠関連合併症、血栓性(凝固)合併症、及び血管性合併症を含むAPS関連合併症に寄与し得ることが示唆されている。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用し、APS及び/又はAPS関連合併症を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、補体活性化制御により、APSを予防し、及び/又は治療し得る。いくつかの場合において、補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるサーモン(Salmon)ら著、アナルズ・オブ・リウマティック・ディジーズィーズ(Ann Rheum Dis)、2002年、第61巻(Suppl II):ii46~ii50及びマックワース・ヤング(Mackworth-Young)、クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・イムノロジー(Clin Exp Immunol)、2004年、第136巻、p.393~401に教示された方法に従い、APS及び/又はAPS関連合併症を治療し得る。
【0114】
寒冷凝集素症
自己免疫適応症は、寒冷凝集素介在性溶血とも称される寒冷凝集素症(CAD)を含み得る。CADは、低体温範囲の赤血球と相互作用する高濃度のIgM抗体に起因する自己免疫疾患である(エンゲルハルト(Engelhardt)ら著、ブラッド(Blood)、2002年、第100巻(5号)、p.1922~23)。CADは、貧血、疲労、呼吸困難、ヘモグロビン尿症及び/又は先端チアノーゼなどの病態を引き起こし得る。CADは、強固な補体活性化に関連し、試験では、CADが補体阻害剤療法で治療され得ることが示されている。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、CADを治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。そのような使用は、補体活性を阻害することにより、CADを治療し得る。いくつかの場合において、補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる、ロス(Roth)ら著、ブラッド(Blood)、2009年、第113巻、p.3885~86又は国際公開第2012/139081号パンフレットに教示された方法に従い、CADを治療し得る。
【0115】
皮膚疾患
自己免疫適応症は皮膚疾患を含み得る。皮膚は免疫学的反応のスペクトルにおける役割を担い、異常であるか又は過剰活性化された補体タンパク質機能に関連する。自己抗体による自己免疫機構及び補体の細胞傷害性機能は、上皮又は血管細胞を冒し、組織損傷及び皮膚炎症を引き起こす(パレニウス(Palenius)及びメリ(Meri)、フロンティアーズ・イン・メディシン(Front Med)(ローザンヌ)、2015年、第2巻、p.3)。自己免疫及び補体異常に関連する皮膚疾患は、遺伝性・後天性血管浮腫、自己免疫蕁麻疹(蕁麻疹)、全身性エリテマトーデス、血管炎症候群及び蕁麻疹様血管炎、水疱性皮膚症(例えば、天疱瘡、水疱性類天疱瘡、粘膜性類天疱瘡、後天性表皮水疱症、ヘルペス状皮膚炎、妊娠性類天疱瘡(pemphigoides festationis)、及び部分型リポジストロフィー(partial lipodustrophy)を含むが、これらに限定されない。いくつかの場合において、補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるパレニウス(Palenius)及びメリ(Meri)、フロンティアーズ・イン・メディシン(Front Med)(ローザンヌ)、2015年、第2巻、p.3に教示された方法に従い、自己免疫皮膚疾患を治療し得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、皮膚疾患を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。
【0116】
肺の適応症
本開示の化合物及び/又は組成物で対処される治療適応症は肺の適応症を含み得る。本明細書での用語「肺の適応症」は、肺及び/又は関連気道に関連するあらゆる治療適応症を指す。肺の適応症は補体関連の適応症を含み得る。肺の適応症は、喘息、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、及び急性呼吸促迫症候群を含み得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、肺の適応症を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。
【0117】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
肺の適応症は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を含み得る。COPDは、進行性肺機能障害に関連する障害のクラスを指す。それらは、最も多くは息切れを特徴とする。補体機能異常は、COPDに関連する一部の肺の適応症に対する寄与体として示されている(パンジャ,P.H.(Pandya,P.H.)ら著、2013年、トランスレーショナル・レビュー(Translational Review)、第51巻(4号)、p.467~73、その内容は参照により本明細書にその全体として組み込まれる)。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、COPDを治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。
【0118】
心血管適応症
本開示の化合物及び/又は組成物で対処される治療適応症は心血管適応症を含み得る。本明細書での用語「心血管適応症」は、心臓及び/又は脈管構造に関連するあらゆる治療適応症を指す。心血管適応症は補体関連の適応症を含み得る。心血管適応症は、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒中、血管炎、外傷、及び心血管介入(非限定的に、心臓バイパス術、動脈グラフト及び血管形成術を含む)から起こる病態を含み得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、心血管適応症を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。
【0119】
血管適応症は、血管(例えば、動脈、静脈、及び毛細管)に関連する心血管適応症である。そのような適応症は、血液循環、血圧、血流、器官機能、及び/又は他の身体機能に影響し得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、血管適応症を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。
【0120】
凝固
いくつかの実施形態において、心血管適応症は、凝固、凝固カスケード、及び/又は凝固カスケード成分に関連する治療適応症を含む。歴史的に、補体活性化経路は凝固カスケードとは別なものと見なされたが、これら2つの系の間の相互作用がより最近になり認識されている。ホメオスタシスを維持するため、凝固及び補体は、共通の病態生理学的刺激に応答して重複する時空間的様式で協調的に活性化される。疾患は、自然免疫及び凝固応答の抑制されない活性化とともに出現し得る。例として、例えば、アテローム性動脈硬化症、脳卒中、冠動脈心疾患、糖尿病、虚血-再灌流傷害、外傷、発作性夜間ヘモグロビン尿症、加齢性黄斑変性症、及び非定型溶血性尿毒症症候群がある。
【0121】
補体と凝固との間のいくつかの分子の連結が現在認識されている。例えば、トロンビンは、C5を切断することにより補体活性化を促進することが見出された(フーバー・ラング(Huber-Lang)ら著、2006年、ネイチャー・メディスン(Nature Med.)、第12巻(6号)、p.682~687;その内容は参照により本明細書にその全体として組み込まれる)。トロンビンはR751でC5を切断する(C5a及びC5bを生成する)能力があるが、高度に保存されたR947部位でC5をより効率的に切断し、C5T及びC5bT中間体を生成する。C5bTは、他の補体タンパク質と相互作用し、C5b-9よりも有意に溶解性のある活性を有するC5bT-9膜侵襲複合体を形成する(クリシンガー(Krisinger)ら著、2014年、ブラッド(Blood)、第120巻(8号)、p.1717~1725)。
【0122】
補体は、凝固及び/又は炎症カスケードの追加の成分により活性化され得る。例えば、やや異なる基質特異性を有する他のセリンプロテアーゼは同様に作用し得る。ヒューバー・ラング(Huber-Lang)ら、2006年は、トロンビンがC5を切断するだけでなく、天然C3とともにインキュベートされる場合、インビトロでC3aを生成することを示した(ヒューバー・ラング(Huber-Lang)ら著、2006年、ネイチャー・メディスン(Nature Med.)、第12巻(6号)、p.682~687)。同様に、凝固経路の他の成分、例えば、FXa、FXIa及びプラスミンは、C5とC3の両方を切断することが見出されている。
【0123】
具体的には、トロンビン活性化により観察されたものに類似する機構において、プラスミン、FXa、FIXa及びFXIaが、C5を切断し、C5a及びC5bを生成することが可能であることが観察されている[アマラ(Amara)ら著、2010年、ジャーナル・オブ・イムノロジー(J.Immunol.)、第185巻、p.5628~5636;アマラ(Amara)ら著、2008年、カレント・トピックス・イン・コンプルメントII(Current Topics in Complement II)、J.D.ランブリス(J.D.Lambris)編、p.71~79]。好中球及びHMC-1細胞それぞれの用量依存性の走化性応答によって示された通り、生成されたアナフィラトキシンが生物活性があることが見出された。プラスミン誘導切断活性であれば、セリンプロテアーゼ阻害剤アプロチニン及びロイペプチンにより、用量依存性に遮断され得る。これらの知見は、凝固系に属する種々のセリンプロテアーゼが、確立された経路と独立に補体カスケードを活性化することが可能であることを示唆している。さらに、(免疫ブロット及びELISAにより検出されたとき)機能的なC5a及びC3aが生成され、それらの両方は、炎症性応答に大いに関与することが知られている。
【0124】
いくつかの実施形態において、本開示の化合物及び組成物を使用して、凝固、凝固カスケード、及び/又は凝固カスケード成分に関連する心血管適応症を治療し得る。凝固カスケード成分は、組織因子、トロンビン、FXa、FIXa、FXIa、プラスミン、又は他の凝固プロテアーゼを含み得るが、これらに限定されない。本開示の化合物及び/又は組成物を使用して、そのような心血管適応症に関連する補体活性化及び/又は凝固(例えば血栓症)を治療し得る。
【0125】
血栓性微小血管症(TMA)
血管適応症は血栓性微小血管症(TMA)及び関連疾患を含み得る。微小血管症は、身体の小血管(毛細管)を冒し、毛細血管壁が濃くなり、弱くなり、並びに出血及び遅い血液循環の傾向が出てくる。TMAは、血管血栓、内皮細胞損傷、血小板減少症、及び溶血の発現を引き起こす傾向がある。脳、腎臓、筋肉、胃腸系、皮膚、及び肺などの器官は冒され得る。TMAは、医療手術並びに/又は非限定的に、造血幹細胞移植(HSCT)、腎障害、糖尿病及び/若しくは他の病態を含む病態から起こり得る。TMAは、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるメリ(Meri)ら著、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・インターナル・メディスン(European Journal of Internal Medicine)、2013年、第24巻、p.496~502に記載の通り、根底にある補体系機能異常によって引き起こされ得る。一般に、TMAは、血栓症を引き起こす特定の補体成分のレベル増加から起こり得る。いくつかの場合において、これは、補体タンパク質又は関連酵素における突然変異に起因し得る。得られた補体機能異常は、内皮細胞及び血小板の補体標的化を引き起こし、血栓症の増加を引き起こし得る。いくつかの実施形態において、TMAは、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物で予防及び/又は治療され得る。いくつかの場合において、補体阻害剤化合物及び組成物でTMAを治療する方法は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる米国特許出願公開第2012/0225056号明細書又は米国特許出願公開第2013/0246083号明細書に記載のものに従って実施され得る。
【0126】
播種性血管内凝固(DIC)
血管適応症は播種性血管内凝固(DIC)を含み得る。DICは、血液中の凝固カスケードが広範に活性化され、特に毛細管内で血餅の形成をもたらす場合の病態である。DICは、組織の閉塞性血流を引き起こし得て、最終的に器官を損傷し得る。加えて、DICは、血液凝固の正常なプロセスを冒し、重度の出血をもたらし得る。本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、補体活性を調節することにより、DICの重症度を治療し、予防し、又は減少させ得る。いくつかの場合において、補体阻害剤化合物及び組成物は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる米国特許第8,652,477号明細書に教示されたDIC治療方法のいずれかに従って使用され得る。
【0127】
血管炎
血管適応症は血管炎を含み得る。一般に、血管炎は、組織を攻撃し、血管の腫脹を引き起こす白血球を特徴とする、静脈及び動脈を含む血管の炎症に関連する障害である。血管炎は、感染、例えばロッキー山紅斑熱、又は自己免疫に関連し得る。自己免疫関連血管炎の例には、抗好中球細胞質自己抗体(ANCA)血管炎がある。ANCA血管炎は、身体自身の細胞及び組織を攻撃する異常な抗体によって引き起こされる。ANCAは特定の白血球及び好中球の細胞質を攻撃し、それらが身体の特定の器官及び組織中の血管の壁を攻撃することを引き起こす。ANCA血管炎は、皮膚、肺、眼及び/又は腎臓を冒し得る。試験では、ANCA疾患が、代替補体経路を活性化し、血管損傷を起こす炎症増幅ループを創出する特定の補体成分を生成することが示唆されている(ジェネット(Jennette)ら著、2013年、セミナーズ・イン・ネフロロジー(Semin Nephrol.)、第33巻(6号)、p.557~64、その内容は参照により本明細書にその全体として組み込まれる)。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、血管炎を予防し、及び/又は治療し得る。いくつかの場合において、補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、補体活性化を阻害することにより、ANCA血管炎を予防し、及び/又は治療し得る。
【0128】
神経学的適応症
本開示の化合物及び/又は組成物で対処される治療適応症は、神経学的適応症を含み得る。本明細書での用語「神経学的適応症」は、神経系に関連する任意の治療適応症を指す。神経学的適応症は、補体関連の適応症を含み得る。神経学的適応症は、神経変性を含み得る。神経変性は、一般に、ニューロンの死滅を含む、ニューロンの構造又は機能の低下に関する。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、非限定的に神経変性疾患及び関連障害を含む神経学的適応症を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。治療は、本開示の化合物及び組成物を使用して、神経細胞に対する補体活性の効果を阻害することを含み得る。神経変性関連障害は、筋萎縮性(Amyelotrophic)側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病、アルツハイマー病、及びレビー小体病を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、補体関連の神経学的適応症は重症筋無力症を含む。
【0129】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
神経学的適応症はALSを含み得る。ALSは、脊髄ニューロン、脳幹及び運動皮質の変性を特徴とする致死性運動ニューロン疾患である。ALSは、筋力の低下を引き起こし、最終的に呼吸不全を引き起こす。補体機能異常はALSに寄与し得て、それ故、ALSは、予防され得て、治療され得て、及び/又は症状は、補体活性を標的にする補体阻害剤化合物及び組成物による治療法により減少し得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、ALSを治療し、予防し、若しくはその発現を遅延させ得て、及び/又は神経再生を促進し得る。いくつかの場合において、補体阻害剤化合物及び組成物は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる、米国特許出願公開第2014/0234275号明細書又は米国特許出願公開第2010/0143344号明細書に教示された方法のいずれかに従い、補体阻害剤として使用され得る。
【0130】
アルツハイマー病
神経学的適応症はアルツハイマー病を含み得る。アルツハイマー病は、失見当識、記憶喪失、気分変動、行動障害及び最終的には身体機能の低下を含み得る症状を伴う慢性神経変性疾患である。アルツハイマー病は、補体タンパク質などの炎症関連タンパク質に関連するアミロイドの細胞外脳沈着によって引き起こされると考えられる(ショバーグ(Sjoberg)ら著、2009年、トレンズ・イン・イムノロジー(Trends in immunology)、第30巻(2号)、p.83~90、その内容は参照により本明細書にその全体として組み込まれる)。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、補体活性を制御することにより、アルツハイマー病を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。いくつかの場合において、補体阻害剤化合物及び組成物は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる米国特許出願公開第2014/0234275号明細書に教示されたアルツハイマーの治療方法のいずれかに従って使用され得る。
【0131】
多発性硬化症及び視神経脊髄炎
神経学的適応症は多発性硬化症(MS)又は視神経脊髄炎(NMO)を含み得る。MSは、免疫系が身体自身の組織に対して、特に神経を絶縁するミエリン鞘に対して攻撃を開始するときに中枢神経系を冒す炎症性病態である。病態は、未知の環境病原体、例えばウイルスによって引き起こされ得る。MSは進行性であり、最終的に脳と身体の他の部分との間の伝達の破壊をもたらす。典型的な初期症状は、霧視、部分的な失明、筋力低下、協調及び平衡障害、運動障害、疼痛及び発話障害を含む。NMO(デビック病としても知られる)は、免疫系が星状細胞を攻撃するときに視神経及び脊髄を冒す炎症性脱髄性疾患である。NMOは、時としてMSの変形とみなされる。NMOの典型的な症状は、下肢の筋力低下又は麻痺、感覚の喪失(例えば失明)、並びに膀胱及び腸の機能障害を含む。
【0132】
MS及びNMOは、例えば病理及び動物モデル試験による補体成分調節に関連している(イングラム(Ingram)ら著、クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・イムノロジー(Clin Exp Immunol.)、2009年2月、第155巻(2号)、p.128~139)。中枢神経系において、グリア細胞及びニューロンは、補体タンパク質の大半を生成し、炎症に応答して発現が増大する。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、MS又はNMOを治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。治療方法は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるイングラム(Ingram)ら著、クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・イムノロジー(Clin Exp Immunol.)、2009年2月、第155巻(2号)、p.128~139に教示されたもののいずれも含み得る。
【0133】
重症筋無力症
神経学的適応症は重症筋無力症を含み得る。重症筋無力症(MG)は、神経から筋肉への化学又は神経伝達物質シグナルの正常な伝達にとって決定的であるタンパク質、例えばアセチルコリン受容体(AChR)タンパク質を標的にする自己抗体の産生を特徴とする希少な補体介在性自己免疫疾患である。患者試料中のAChR自己抗体の存在は、疾患の指標として使用されることがある。本明細書での用語「MG」は、MGのあらゆる形態を包含する。患者の約15%が眼筋に限局された症状を有するが、患者の大半が全身性重症筋無力症を経験する。本明細書での用語「全身性重症筋無力症」又は「gMG」は、全身にわたる複数の筋肉群を冒すMGを指す。MGの予後は一般に良性であるが、患者の10%~15%が難治性MGを有する。本明細書での用語「難治性MG」又は「rMG」は、疾患制御が現在の治療法で達成できない、又は免疫抑制療法の重度の副作用をもたらす場合のMGを指す。MGのこの重度の形態は、米国における約9,000名の個人に罹患する。
【0134】
MGを有する患者は、特徴的には反復使用とともにより重篤になり、且つ休息とともに回復する筋力低下を呈する。筋力低下は、特定の筋肉、例えば眼球運動に関与するものに局所化されることがあるが、よりびまん性の筋力低下に進行することが多い。さらにMGは、筋力低下が横隔膜及び呼吸に関与する他の胸壁筋を含む場合、生命を脅かすようになり得る。これは、筋無力症クリーゼ又はMGクリーゼとして知られる最も恐れられるMGの合併症であり、入院、挿管、及び人工呼吸を要する。gMGを有する患者の約15%~20%は、診断の2年以内に筋無力症クリーゼを経験する。
【0135】
MGにおける自己抗体の最も一般的な標的は、神経筋接合部に位置するアセチルコリン受容体、すなわちAChRであり、その位置で運動ニューロンはシグナルを骨格筋線維に伝達する。gMGに対する現在の治療法は、AChRシグナルを増強するか又は自己免疫応答を非特異的に抑制するかのいずれかに注目する。症候性gMGに対する第一選択療法は、MGに対して唯一認可された治療法である、ピリドスチグミンなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤による治療である。ピリドスチグミン単独療法は、軽度の眼の症状の制御にとって時として充分であるが、通常は全身性脱力の治療にとって不充分であり、この療法の投与はコリン作動性副作用によって制限され得る。したがって、ピリドスチグミン療法に反して症候性を維持する患者において、全身免疫抑制剤を伴っても伴わなくても、コルチコステロイドが指示される(サンダーズ DB(Sanders DB)ら著、2016年、ニューロロジー(Neurology)、第87巻(4号)、p.419~25)。gMGにおいて使用される免疫抑制剤は、アザチオプリン、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル、メトトレキサート、タクロリムス、シクロホスファミド、及びリツキシマブを含む。現在まで、これらの薬剤についての有効性データはまばらであり、ステロイド系又は免疫抑制療法は、gMGの治療として全く認可されていない、さらに、これらの薬剤のすべてが充分に文書で立証された長期毒性に関連する。胸腺の外科的除去は、AChR自己抗体の産生を減少させる試みの中で、非胸腺腫gMG及び中等度から重度の症状を有する患者において推奨され得る(ウォルフェ GI(Wolfe GI)ら著、2016年、ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(N Engl J Med.)、第375巻(6号)、p.511~22)。静脈内(IV)免疫グロブリン及び血漿交換は、通常は筋無力症クリーゼ又は生命を脅かす適応症、例えば呼吸不全又は嚥下障害を有する患者における短期使用に制限される(サンダーズ(Sanders)ら著、2016年)。
【0136】
AChR自己抗体陽性gMGの病態形成における終末補体カスケードの役割を支持するという実質的な証拠がある。実験的自己免疫MGの動物モデルからの結果は、神経筋接合部での自己抗体免疫複合体形成が古典的補体経路の活性化を引き起こし、神経筋接合部でC3の局所的活性化及び膜侵襲複合体(MAC)の沈着をもたらし、シグナル伝達の欠如及び最終的な筋力低下をもたらすことを示している(クスナー LL(Kusner LL)ら著、2012年、ニューヨーク科学アカデミー年会誌(Ann N Y Acad Sci.)、第1274巻(1号)、p.127~32)。
【0137】
抗AChR自己抗体の筋肉終板への結合は、古典的補体カスケードの活性化及びシナプス後筋線維へのMACの沈着をもたらし、筋肉膜に対する局所的損傷及びニューロンによる刺激に対する筋肉の応答性低下を引き起こす。
【0138】
いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、MG(例えばgMG及び/又はrMG)を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。補体活性の阻害を使用して、MG(例えばgMG及び/又はrMG)から起こる補体介在性損傷を遮断し得る。
【0139】
腎臓関連適応症
本開示の化合物及び/又は組成物で対処される治療適応症は腎臓関連適応症を含み得る。本明細書での用語「腎臓関連適応症」は、腎臓を含むあらゆる治療適応症を指す。腎臓関連適応症は補体関連の適応症を含み得る。腎臓は、血流から代謝廃棄産物を取り除くことに関与する器官である。腎臓は、血圧、泌尿器系、及び恒常性機能を調節し、それ故、種々の身体機能にとって必須である。腎臓は、独特の構造的特徴及び血液への曝露に起因し、炎症により(他の器官と比較して)より重篤に冒され得る。腎臓はまた、感染、腎疾患、及び腎移植に対して活性化され得る、それら自身の補体タンパク質を産生する。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、場合によっては補体活性を阻害することにより、腎臓関連適応症を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。いくつかの場合において、補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるクイッグ(Quigg)著、ジャーナル・オブ・イムノロジー(J Immunol)、2003年、第171巻、p.3319~24に教示された方法に従い、腎臓関連適応症を治療し得る。
【0140】
非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)
腎臓関連適応症は非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)を含み得る。aHUSは血栓性微小血管症のスペクトルに属する。aHUSは、腎臓の小血管中で異常な血餅の形成を引き起こす病態である。病態は、一般に、溶血性貧血、血小板減少症及び腎不全を特徴とし、すべての症例の約半数において末期腎疾患(ESRD)を引き起こす。aHUSは、補体系の代替経路の異常に関連しており、代替経路の活性化増大を引き起こす遺伝子の1つにおける遺伝子突然変異によって引き起こされ得る(フェルハベ(Verhave)ら著、ネフロール・ディアル・トランスプラント(Nephrol Dial Transplant)、2014年、第29巻、Suppl 4:iv131~41及び国際公開第2016/138520号パンフレット)。aHUSは、C5活性化を含む補体活性化の代替経路を制御する阻害剤により治療され得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、aHUSを治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。補体阻害によりaHUSを予防及び/又は治療するための方法及び組成物は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる、フェルハベ(Verhave)ら著、ネフロール・ディアル・トランスプラント(Nephrol Dial Transplant)、2014年、第29巻、Suppl 4:iv131~41又は国際公開第2016/138520号パンフレットに教示されたもののいずれも含み得る。
【0141】
ループス腎炎
腎臓関連適応症はループス腎炎を含み得る。ループス腎炎は、全身性エリテマトーデス(SLE)と称される自己免疫疾患によって引き起こされる腎炎である。ループス腎炎の症状は、高血圧;泡沫尿;下肢、足、手、又は顔の腫脹;関節痛;筋肉痛;発熱;及び発疹を含む。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、場合によっては補体活性阻害により、ループス腎炎を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。関連方法は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる米国特許出願公開第2013/0345257号明細書又は米国特許第8,377,437号明細書に教示されたもののいずれも含み得る。
【0142】
膜性糸球体腎炎(MGN)
腎臓関連適応症は膜性糸球体腎炎(MGN)を含み得る。MGNは、炎症及び構造的変化を引き起こし得る腎臓の障害である。MGNは、腎毛細管(糸球体)中の可溶性抗原に結合する抗体によって引き起こされる。MGNは、体液濾過などの腎機能を冒し得て、腎不全を引き起こし得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、例えば補体活性を阻害することにより、MGNを治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。関連の治療方法は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる米国特許出願公開第2010/0015139号明細書又は国際公開第2000/021559号パンフレットに教示されたもののいずれも含み得る。
【0143】
血液透析合併症
腎臓関連適応症は血液透析合併症を含み得る。血液透析は、腎不全を有する対象における腎機能を維持するために使用される医療処置である。血液透析では、血液からクレアチニン、尿素、及び自由水などの廃棄産物の除去が外部的に実施される。血液透析治療の一般的な合併症は、血液と透析膜との間の接触によって引き起こされる慢性炎症である。別の一般的な合併症は、血液循環を閉塞する血餅の形成を指す血栓症である。試験では、これらの合併症が補体活性化に関連することが示唆されている。血液透析を補体阻害剤療法と組み合わせて、炎症性応答及び病理を制御し、及び/又は腎不全が原因で血液透析を受けつつある対象における血栓症を予防若しくは治療する手段を提供し得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、例えば補体活性化を阻害することにより、血液透析合併症を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。血液透析合併症の治療に関連する方法は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる、デアンジェリス(DeAngelis)ら著、イムノバイオロジー(Immunobiology)、2012年、第217巻(11号)、p.1097~1105又はコートゼリス(Kourtzelis)ら著、ブラッド(Blood)、2010年、第116巻(4号)、p.631~639に教示されたもののいずれも含み得る。
【0144】
IgA腎症
腎臓関連適応症はIgA腎症を含み得る。IgA腎症は、1年あたり100万名ごとに25名に罹患する糸球体腎炎の最も一般的な原因である。疾患は、糸球体におけるIgAのメサンギウム沈着及び補体成分を特徴とする。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、特定の補体成分の活性化を阻害することにより、IgA腎症を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。本開示の化合物及び組成物は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるメイラード N(Maillard N)ら著、ジャーナル・オブ・アメリカン・ソサエティ・オブ・ネフロロジー(J of Am Soc Neph)、2015年、第26巻(7号)、p.1503~1512で教示された補体阻害により、IgA腎症を予防し、及び/又は治療する方法に従って使用され得る。
【0145】
デンスデポジット病/膜性増殖性糸球体腎炎II型/C3糸球体症
腎臓関連適応症は、デンスデポジット病、膜性増殖性糸球体腎炎II型、及びC3糸球体症を含み得る。デンスデポジット病(DDD)は、腎障害を含む補体関連の適応症である。DDDは、蛋白尿、血尿症、尿の量の減少、血液中の低レベルのタンパク質、及び身体の多くの領域内の腫脹を含み得る。DDDは、C3及びCFH遺伝子の突然変異により;両方の遺伝的リスク因子及び環境トリガーにより;又は身体の免疫応答に必要なタンパク質の活性を遮断する自己抗体の存在により引き起こされ得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、DDDを治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。そのような使用は、補体代替経路活性を減少させ、及び/又は遮断することを含み得る。そのような方法は、糸球体C3沈着を予防し得る。
【0146】
巣状分節性糸球体硬化
腎臓関連適応症は巣状分節性糸球体硬化を含み得る。巣状分節性糸球体硬化(FSGS)は、小児及び成人における球体疾患の一般的要因であり、最も一般的には重度のネフローゼ症候群として現れる。FSGSの診断は、病理組織学的所見及びネフローゼ症候群において一般的な他の診断の除外に基づいてなされる。多数の患者が、生検時、硬化性領域にIgM及びC3の実質的な沈着を有することになる。加えて、補体活性化(B因子断片、C4a、可溶性MAC)に対するバイオマーカが、FSGSを有する患者からの血漿及び尿中で検出されており、Ba及びBbのレベルは疾患重症度と相関する(J.サーマン(J.Thurman)ら著、プロスワン(PLOSone)、2015年)。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、FSGSを治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。
【0147】
糖尿病関連の適応症
本開示の化合物及び/又は組成物で対処される治療適応症は、糖尿病関連の適応症を含み得る。本明細書での用語「糖尿病関連の適応症」は、血糖の上昇から起こるか又はそれに関連するあらゆる治療適応症を指す。糖尿病関連の適応症は補体関連の適応症を含み得る。糖尿病関連の適応症は、器官及び/又は組織の遷延性高血糖への曝露の結果として起こり得る。遷延性高血糖は、膜関連補体調節タンパク質CD59の糖化不活性化をもたらし、特定の細胞及び組織を補体攻撃されやすいままにし得る(P.ゴーシュ(P.Ghosh)ら著、2015年、エンドクリン・レビューズ(Endocrine Reviews)、第36巻(3号)、2015年)。糖尿病からの補体介在性の合併症は、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性心血管疾患、及び妊娠性糖尿病から起こる合併症、例えば高又は低出生体重及びそれから起こる合併症を含み得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、糖尿病関連の適応症を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。そのような使用は、補体活性阻害により糖尿病関連の適応症に対処することを含み得る。
【0148】
眼の適応症
本開示の化合物及び/又は組成物で対処される治療適応症は眼の適応症を含み得る。本明細書での用語「眼の適応症」は、眼に関連するあらゆる治療適応症を指す。眼の適応症は補体関連の適応症を含み得る。健常な眼において、補体系が低レベルで活性化され、病原体に対して保護する膜結合及び可溶性眼内タンパク質により継続的に調節される。したがって、補体の活性化は、眼に関連するいくつかの合併症における重要な役割を果たし、補体活性化の制御を使用して、そのような疾患を治療し得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、例えば補体活性を阻害することにより、眼の適応症を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。関連治療方法は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる、ジャ(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、2007年、第44巻(16号)、p.3901~3908又は米国特許第8,753,625号明細書に教示されたもののいずれも含み得る。
【0149】
眼の適応症は、加齢性黄斑変性症、アレルギー性及び巨大乳頭結膜炎、ベーチェット病、脈絡膜炎症、眼内手術に関連する合併症、角膜移植片拒絶、角膜潰瘍、サイトメガロウイルス網膜炎、ドライアイ症候群、眼内炎、フックス病、緑内障、免疫複合体血管炎、炎症性結膜炎、虚血性網膜疾患、角膜炎、黄斑浮腫、眼性寄生虫感染/移行、網膜色素変性症、強膜炎、シュタルガルト病、網膜下線維症、ぶどう膜炎、網膜硝子体炎症、及びフォークト・小柳・原田病を含み得るが、これらに限定されない。
【0150】
加齢性黄斑変性症(AMD)
眼の適応症は加齢性黄斑変性症(AMD)を含み得る。AMDは、中心視野のぼやけ、中心視野における盲点、及び/又は中心視の最終的低下を引き起こす慢性眼疾患である。中心視野は、読み、乗り物を運転し、及び/又は顔を認識する能力に影響する。AMDは、一般に非滲出性(乾燥)及び滲出性(湿性)の2種類に分かれる。乾燥AMDは、網膜の中心の組織である斑の増悪を指す。湿性AMDは、血液及び体液の漏出を引き起こす、網膜下の血管の障害を指す。いくつかのヒト及び動物試験では、AMDに関連する補体タンパク質が同定されており、新規な治療戦略が、ジャ(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、2007年、第44巻(16号)、p.3901~8で考察された通り、補体活性化経路を制御することを含んだ。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、眼の補体活性化を阻害することにより、AMDを治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。AMDを予防及び/又は治療するための補体阻害剤化合物及び組成物の使用を含む本開示の方法は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる米国特許出願公開第2011/0269807号明細書又は米国特許出願公開第2008/0269318号明細書に教示されたもののいずれも含み得る。
【0151】
角膜疾患
眼の適応症は角膜疾患を含み得る。補体系は、病原性粒子及び/又は炎症性抗原からの角膜の保護において重要な役割を果たす。角膜は、虹彩、瞳孔及び前眼房を多い、保護する眼の最外前部であり、それ故、外部の要素に曝露されている。角膜疾患は、円錐角膜、角膜炎、眼単純ヘルペス及び/又は他の疾患を含むが、これらに限定されない。角膜合併症は、疼痛、霧視、涕涙、発赤、光感受性及び/又は角膜瘢痕を引き起こし得る。補体系は、角膜保護にとって決定的であるが、補体活性化は、特定の補体化合物が重度に発現されるときに感染が排除された後、角膜組織に対する損傷を引き起こし得る。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、眼の補体活性化を阻害することにより、角膜疾患を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。角膜疾患の治療における補体活性を調節するための本開示の方法は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるジャ(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、2007年、第44巻(16号)、p.3901~8に教示されたもののいずれも含み得る。
【0152】
自己免疫ブドウ膜炎
眼の適応症は自己免疫ブドウ膜炎を含み得る。ぶどう膜は、眼の脈絡膜、虹彩及び毛様体を含む眼の色素性領域である。ブドウ膜炎は、発赤、霧視、疼痛、癒着を引き起こし、最終的に失明を引き起こし得る。試験では、補体活性化産物が自己免疫ブドウ膜炎を有する患者の眼内に存在し、補体が疾患発現における重要な役割を果たすことが示されている。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、ブドウ膜炎を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。そのような治療は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるジャ(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、2007年、第44巻(16号):p.3901~8に同定された方法のいずれかに従って実施され得る。
【0153】
糖尿病性網膜症
眼の適応症は、糖尿病患者における網膜血管の変化によって引き起こされる疾患である糖尿病性網膜症を含み得る。網膜症は、血管腫脹及び体液濾出及び/又は異常な血管の成長を引き起こし得る。糖尿病性網膜症は、視力を冒し、最終的に失明を引き起こし得る。試験では、補体の活性化が糖尿病性網膜症の発現において重要な役割を有することが示唆されている。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、糖尿病性網膜症を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。補体阻害剤化合物及び組成物は、その内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるジャ(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、2007年、第44巻(16号):p.3901~8に記載の糖尿病性網膜症の治療方法に従って使用され得る。
【0154】
シュタルガルト病
眼の適応症はシュタルガルト病を含み得る。劣性シュタルガルト黄斑変性症とも称されるシュタルガルト病は、発症年齢が生後20年以内である眼の遺伝性疾患である。シュタルガルト病からの合併症は、視力低下を含み得る(ラドゥ(Radu)ら著、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem)、2011年、第286巻(21号)、p.18593~18601)。疾患は、ABCA4遺伝子における突然変異に起因する。疾患の特徴はリポフスチンの蓄積を含む。試験では、リポフスチンの蓄積が補体カスケードを活性化することが示されている(ラドゥ(Radu)ら著、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem)、2011年、第286巻(21号)、p.18593~18601)。さらに、試験(タン(Tan)ら著、米国科学アカデミー紀要(PNAS)、2016年、第113巻(31号)、p.8789~8794)では、ABCA4遺伝子突然変異がオルガネラ輸送に影響し、リポフスチンの蓄積を起こし、さらにRPE細胞表面上のCD59の下方制御を起こし、それらを補体活性化により損傷を受けやすくすることも示されている。いくつかの実施形態において、本開示の補体阻害剤化合物及び組成物を使用して、例えば眼の補体活性化を阻害することにより、シュタルガルト病を治療し、予防し、又はその発現を遅延させ得る。
【0155】
妊娠関連の適応症
本開示の化合物及び/又は組成物で対処される治療適応症は、妊娠関連の適応症を含み得る。本明細書での用語「妊娠関連の適応症」は、出産及び/又は妊娠を含むあらゆる治療適応症を指す。妊娠関連の適応症は補体関連の適応症を含み得る。妊娠関連の適応症は、子癇前症及び/又はHELLP(1)溶血、2)肝酵素上昇及び3)低血小板数を特徴とする症候群を表す略称)症候群を含み得る。子癇前症は、血圧上昇、腫脹、息切れ、腎機能障害、肝機能障害及び/又は低血小板数を含む症状を伴う妊娠の障害である。子癇前症は、典型的には高尿タンパク質レベル及び高血圧により診断される。HELLP症候群は、溶血、肝酵素上昇、低血小板状態の組み合わせである。溶血は、赤血球からのヘモグロビンの放出を引き起こす赤血球の破裂を含む疾患である。肝酵素上昇は、妊娠誘導性の肝臓状態を示し得る。低血小板レベルは凝固能低下を引き起こし、過剰出血の危険をもたらす。HELLPは子癇前症及び肝障害に関連する。HELLP症候群は、典型的には妊娠の後期段階中又は出生後に起こる。それは典型的には血液検査により診断され、それが含む3つの病態の存在が示される。典型的にはHELLPは、出産を誘導することにより治療される。
【0156】
試験では、補体活性化がHELLP症候群及び子癇前症の間に起こり、且つ特定の補体成分がHELLP及び子癇前症の間に増加したレベルで存在することが示唆される。本開示の補体阻害剤を治療剤として使用して、これら及び他の妊娠関連の適応症を予防し、及び/又は治療し得る。補体阻害剤化合物及び組成物は、それぞれの内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれる、ヒーガー(Heager)ら著、オブステトリクス・アンド・ジネコロジー(Obstetrics & Gynecology)、1992年、第79巻(1号)、p.19~26又は国際公開第2014/078622号パンフレットに教示された、HELLP及び子癇前症を予防及び/又は治療する方法に従って使用され得る。
【0157】
製剤
いくつかの実施形態において、本開示の化合物又は組成物、例えば医薬組成物は、水溶液中に製剤される。いくつかの場合において、水溶液は、1種以上の塩及び/又は1種以上の緩衝剤をさらに含む。塩は、約0.05mM~約50mM、約1mM~約100mM、約20mM~約200mM、又は約50mM~約500mMの濃度で含まれ得る塩化ナトリウムを含み得る。さらなる溶液は、少なくとも500mM塩化ナトリウムを含み得る。いくつかの場合において、水溶液はリン酸ナトリウムを含む。リン酸ナトリウムは、約0.005mM~約5mM、約0.01mM~約10mM、約0.1mM~約50mM、約1mM~約100mM、約5mM~約150mM、又は約10mM~約250mMの濃度で水溶液中に含まれ得る。いくつかの場合において、少なくとも250mMリン酸ナトリウム濃度が使用される。
【0158】
本開示の組成物は、約0.001mg/mL~約0.2mg/mL、約0.01mg/mL~約2mg/mL、約0.1mg/mL~約10mg/mL、約0.5mg/mL~約5mg/mL、約1mg/mL~約20mg/mL、約15mg/mL~約40mg/mL、約25mg/mL~約75mg/mL、約50mg/mL~約200mg/mL、又は約100mg/mL~約400mg/mLの濃度のC5阻害剤を含み得る。いくつかの場合において、組成物は、少なくとも400mg/mLの濃度のC5阻害剤を含む。
【0159】
本開示の組成物は、およそ、約、又は正確に以下の値のいずれかの濃度のC5阻害剤を含み得る:0.001mg/mL、0.2mg/mL、0.01mg/mL、2mg/mL、0.1mg/mL、10mg/mL、0.5mg/mL、5mg/mL、1mg/mL、20mg/mL、15mg/mL、40mg/mL、25mg/mL、75mg/mL、50mg/mL、200mg/mL、100mg/mL、又は400mg/mL。いくつかの場合において、組成物は少なくとも40mg/mLの濃度のC5阻害剤を含む。
【0160】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、少なくとも水及びC5阻害剤(例えば環状C5阻害剤ポリペプチド)を含む水性組成物を含む。水性C5阻害剤組成物は、1種以上の塩及び/又は1種以上の緩衝剤をさらに含み得る。いくつかの場合において、水性組成物は、水、環状C5阻害剤ポリペプチド、塩、及び緩衝剤を含む。
【0161】
水性C5阻害剤製剤は、約2.0~約3.0、約2.5~約3.5、約3.0~約4.0、約3.5~約4.5、約4.0~約5.0、約4.5~約5.5、約5.0~約6.0、約5.5~約6.5、約6.0~約7.0、約6.5~約7.5、約7.0~約8.0、約7.5~約8.5、約8.0~約9.0、約8.5~約9.5、又は約9.0~約10.0のpHレベルを有し得る。
【0162】
いくつかの場合において、本開示の化合物及び組成物は、適正製造基準(GMP)及び/又は現行GMP(cGMP)に従って調製される。GMP及び/又はcGMPを実施するのに使用されるガイドラインは、米国食品医薬品局(FDA)、世界保健機関(WHO)、及び医薬品規制調和国際会議(ICH)の1つ以上から得ることができる。
【0163】
投与量及び投与
ヒト対象の治療のために、C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)は、医薬組成物として製剤され得る。治療される対象、投与様式、及び望まれる治療の種類(例えば、予防(prevention)、予防(prophylaxis)、又は療法)によって、C5阻害剤は、これらのパラメータと調和する方法で製剤され得る。そのような技法のまとめは、それぞれ参照により本明細書に組み込まれているレミントン:薬科学(Remington:The Science and Practice of Pharmacy)、第21版、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス(Lippincott Williams&Wilkins)、(2005年);及び薬理学テクノロジー百科事典(Encyclopedia of Pharmaceutical Technology)、J.スウォーブリック(J.Swarbrick)及びJ.C.ボイラン(J.C.Boylan)編、1988-1999、マルセル・デッカー(Marcel Dekker)、ニューヨークに見出される。
【0164】
C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)は、治療上有効な量で提供され得る。いくつかの場合において、C5阻害剤の治療上有効な量は、約0.1mg~約1mg、約0.5mg~約5mg、約1mg~約20mg、約5mg~約50mg、約10mg~約100mg、約20mg~約200mg、又は少なくとも200mgの投与量の1種以上のC5阻害剤の投与により達成され得る。
【0165】
いくつかの実施形態において、対象は、そのような対象の体重に基づいて治療量のC5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)を投与され得る。いくつかの場合において、C5阻害剤は、約0.001mg/kg~約1.0mg/kg、約0.01mg/kg~約2.0mg/kg、約0.05mg/kg~約5.0mg/kg、約0.03mg/kg~約3.0mg/kg、約0.01mg/kg~約10mg/kg、約0.1mg/kg~約2.0mg/kg、約0.2mg/kg~約3.0mg/kg、約0.4mg/kg~約4.0mg/kg、約1.0mg/kg~約5.0mg/kg、約2.0mg/kg~約4.0mg/kg、約1.5mg/kg~約7.5mg/kg、約5.0mg/kg~約15mg/kg、約7.5mg/kg~約12.5mg/kg、約10mg/kg~約20mg/kg、約15mg/kg~約30mg/kg、約20mg/kg~約40mg/kg、約30mg/kg~約60mg/kg、約40mg/kg~約80mg/kg、約50mg/kg~約100mg/kg、又は少なくとも100mg/kgの投与量で投与される。そのような範囲は、ヒト対象への投与に好適な範囲を含み得る。用量レベルは、病態の性質;薬物有効性;患者の状態;開業医の判断;並びに投与の頻度及び様式に高度に依存し得る。いくつかの実施形態において、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体は、約0.01mg/kg~約10mg/kgの投与量で投与され得る。いくつかの場合において、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体は、約0.1mg/kg~約3mg/kgの投与量で投与され得る。
【0166】
いくつかの場合において、C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)は、試料、生体系、又は対象におけるC5阻害剤の所望のレベル(例えば、対象中の血漿レベル)を達成するように調整された濃度で提供される。いくつかの場合において、試料、生体系、又は対象中のC5阻害剤の所望の濃度は、約0.001μM~約0.01μM、約0.005μM~約0.05μM、約0.02μM~約0.2μM、約0.03μM~約0.3μM、約0.05μM~約0.5μM、約0.01μM~約2.0μM、約0.1μM~約50μM、約0.1μM~約10μM、約0.1μM~約5μM、約0.2μM~約20μM、約5μM~約100μM、又は約15μM~約200μMの濃度を含み得る。いくつかの場合において、対象血漿中のC5阻害剤の所望の濃度は、約0.1μg/mL~約1000μg/mLであり得る。対象血漿中のC5阻害剤の所望の濃度は、約0.01μg/mL~約2μg/mL、約0.02μg/mL~約4μg/mL、約0.05μg/mL~約5μg/mL、約0.1μg/mL~約1.0μg/mL、約0.2μg/mL~約2.0μg/mL、約0.5μg/mL~約5μg/mL、約1μg/mL~約5μg/mL、約2μg/mL~約10μg/mL、約3μg/mL~約9μg/mL、約5μg/mL~約20μg/mL、約10μg/mL~約40μg/mL、約30μg/mL~約60μg/mL、約40μg/mL~約80μg/mL、約50μg/mL~約100μg/mL、約75μg/mL~約150μg/mL、又は少なくとも150μg/mLであり得る。他の実施形態において、C5阻害剤は、少なくとも0.1μg/mL、少なくとも0.5μg/mL、少なくとも1μg/mL、少なくとも5μg/mL、少なくとも10μg/mL、少なくとも50μg/mL、少なくとも100μg/mL、又は少なくとも1000μg/mLの最大血清濃度(Cmax)を達成するのに充分な投与量で投与される。
【0167】
いくつかの実施形態において、C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)は、対象の体重のkgあたり約0.1mg/日~約60mg/日を送達するのに十分な投与量で連日投与される。いくつかの場合において、各投与量で達成されるCmaxは約0.1μg/mL~約1000μg/mLである。そのような場合において、投与の間の曲線下面積(AUC)は約200μg*時/mL~約10,000μg*時/mLであり得る。
【0168】
本開示のいくつかの方法によると、C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)は、所望の効果を達成するのに必要とされる濃度で提供される。いくつかの場合において、本開示の化合物及び組成物は、所与の反応又はプロセスを半分減少させるのに必要とされる量で提供される。そのような減少を達成するのに必要とされる濃度は、本明細書において、半数阻害濃度又は「IC50」と称される。或いは、本開示の化合物及び組成物は、所与の反応、活性、又はプロセスを半分増加させるのに必要とされる量で提供され得る。そのような増加のために必要とされる濃度は、本明細書において、半数効果濃度又は「EC50」と称される。
【0169】
C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)は、合計で組成物の総重量の0.1~95重量%となる量で存在し得る。いくつかの場合において、C5阻害剤は静脈内(IV)投与により提供される。いくつかの場合において、C5阻害剤は皮下(SC)投与により提供される。
【0170】
C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)のSC投与は、いくつかの場合において、IV投与より優れた利点を与え得る。SC投与により、患者が自己治療を提供することができる。そのような治療は、患者が自宅で自身に治療を提供でき、供給者又は医療施設に移動する必要性が回避される点で好都合であり得る。さらに、SC治療により、患者が、感染症、静脈アクセスの喪失、局所血栓症、及び血腫など、IV投与と関連する長期合併症を避けることができる。いくつかの実施形態において、SC治療は、患者コンプライアンス、患者満足感、生活の質を増加させ、治療コスト及び/又は薬物の要件を減少させ得る。
【0171】
いくつかの場合において、連日SC投与は、1~3回の投与、2~3回の投与、3~5回の投与、又は5~10回の投与以内に到達される定常状態C5阻害剤濃度を提供する。いくつかの場合において、約0.1mg/kg~約0.3mg/kgの連日SC投与量は、2.5μg/mL以上の持続したC5阻害剤レベル及び/又は90%を超える補体活性の阻害を達成し得る。
【0172】
C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)は、SC投与後の緩徐な吸収動態(4~8時間を超える最高濃度到達時間)及び高いバイオアベイラビリティ(約75%~約100%)を示し得る。
【0173】
いくつかの実施形態において、用量及び/又は投与が変更されて、対象又は対象流体(例えば血漿)中のC5阻害剤レベルの半減期(t1/2)が調節される。いくつかの場合において、t1/2は、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも6時間、少なくとも8時間、少なくとも10時間、少なくとも12時間、少なくとも16時間、少なくとも20時間、少なくとも24時間、少なくとも36時間、少なくとも48時間、少なくとも60時間、少なくとも72時間、少なくとも96時間、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも8日、少なくとも9日、少なくとも10日、少なくとも11日、少なくとも12日、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも8週間、少なくとも9週間、少なくとも10週間、少なくとも11週間、少なくとも12週間、又は少なくとも16週間である。
【0174】
いくつかの実施形態において、C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)は、長い終末相t1/2を示し得る。長い終末相t1/2は、大規模な標的結合及び/又は追加の血漿タンパク結合によるものであり得る。いくつかの場合において、C5阻害剤は、血漿と全血の両方において24時間を超えるt1/2値を示す。いくつかの場合において、37℃のヒト全血中で16時間のインキュベーション後に、C5阻害剤は機能活性を失わない。
【0175】
いくつかの実施形態において、用量及び/又は投与が変更されて、C5阻害剤の定常状態分布容積が調節される。いくつかの場合において、C5阻害剤の定常状態分布容積は、約0.1mL/kg~約1mL/kg、約0.5mL/kg~約5mL/kg、約1mL/kg~約10mL/kg、約5mL/kg~約20mL/kg、約15mL/kg~約30mL/kg、約10mL/kg~約200mL/kg、約20mL/kg~約60mL/kg、約30mL/kg~約70mL/kg、約50mL/kg~約200mL/kg、約100mL/kg~約500mL/kg、又は少なくとも500mL/kgである。いくつかの場合において、C5阻害剤の用量及び/又は投与が調整されて、定常状態分布容積が全血液体積の少なくとも50%であることが確実にされる。いくつかの実施形態において、C5阻害剤分布は、血漿コンパートメントに限定され得る。
【0176】
いくつかの実施形態において、C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)は、約0.001mL/時/kg~約0.01mL/時/kg、約0.005mL/時/kg~約0.05mL/時/kg、約0.01mL/時/kg~約0.1mL/時/kg、約0.05mL/時/kg~約0.5mL/時/kg、約0.1mL/時/kg~約1mL/時/kg、約0.5mL/時/kg~約5mL/時/kg、約0.04mL/時/kg~約4mL/時/kg、約1mL/時/kg~約10mL/時/kg、約5mL/時/kg~約20mL/時/kg、約15mL/時/kg~約30mL/時/kg、又は少なくとも30mL/時/kgの総クリアランス率を示す。
【0177】
対象中(例えば対象血清中)のC5阻害剤の最大濃度が維持される期間(Tmax値)は、用量及び/又は投与(例えば、皮下投与)を変更することにより調整され得る。いくつかの場合において、C5阻害剤は、約1分~約10分、約5分~約20分、約15分~約45分、約30分~約60分、約45分~約90分、約1時間~約48時間、約2時間~約10時間、約5時間~約20時間、約10時間~約60時間、約1日~約4日、約2日~約10日、又は少なくとも10日のTmax値を有する。
【0178】
いくつかの実施形態において、C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)は、オフターゲット効果なしに投与され得る。いくつかの場合において、C5阻害剤は、300μM以下の濃度ですらhERG(ヒトエーテル・ア・ゴー・ゴー関連遺伝子)を阻害しない。10mg/kgまでの用量段階を有するC5阻害剤のSC注射は忍容性が良好であり得て、心血管系(例えば、心室再分極延長の高いリスク)及び/又は呼吸器系の有害作用を全くもたらさない。
【0179】
C5阻害剤投与量は、別の種に観察された無有害作用量(NOAEL)を使用して決定され得る。そのような種は、サル、ラット、ウサギ、及びマウスを含み得るが、これらに限定されない。いくつかの場合において、ヒト等価用量(HED)は、他の種で観察されたNOAELからのアロメトリックスケーリングにより決定され得る。いくつかの場合において、HEDは、約2倍~約5倍、約4倍~約12倍、約5倍~約15倍、約10倍~約30倍、又は少なくとも30倍の治療マージン(therapeutic margins)をもたらす。いくつかの場合において、治療マージンは、霊長類における曝露及びヒトにおける推定ヒトCmaxレベルを使用することにより決定される。
【0180】
いくつかの実施形態において、本開示のC5阻害剤は、補体系の長期に及ぶ阻害が有害である感染症の場合に、迅速な休薬期間を可能にする。
本開示によるC5阻害剤投与は、対象に対する潜在的な臨床リスクを減少させるために調節され得る。ナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidis)による感染症は、エクリズマブを含むC5阻害剤の公知のリスクである。いくつかの場合において、ナイセリア・メニンジティデス(Neisseria meningitides)による感染症のリスクは、1つ以上の予防的段階を設けることにより最小化される。そのような段階は、既にこれらの細菌が定着している可能性がある対象の除外を含み得る。いくつかの場合において、予防的段階は、1種以上の抗生物質の共投与を含み得る。いくつかの場合において、シプロフロキサシンが共投与され得る。いくつかの場合において、シプロフロキサシンは、約100mg~約1000mg(例えば500mg)の投与量で経口で共投与され得る。
【0181】
いくつかの実施形態において、C5阻害剤(例えば、ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくは変形体)は、毎時、2時間ごとに、4時間ごとに、6時間ごとに、12時間ごとに、18時間ごとに、24時間ごとに、36時間ごとに、72時間ごとに、84時間ごとに、96時間ごとに、5日ごとに、7日ごとに、10日ごとに、14日ごとに、毎週、2週ごとに、3週ごとに、4週ごとに、毎月、2か月ごとに、3か月ごとに、4か月ごとに、5か月ごとに、6か月ごとに、毎年、又は少なくとも毎年の頻度で投与される。いくつかの場合において、C5阻害剤は、1日1回又は1日を通して適切な間隔で2、3、若しくはそれ以上の副投与量として投与される。
【0182】
いくつかの実施形態において、C5阻害剤は複数の1日量で投与される。いくつかの場合において、C5阻害剤は7日間連日投与される。いくつかの場合において、C5阻害剤は、7~100日間連日投与される。いくつかの場合において、C5阻害剤は、少なくとも100日間連日投与される。いくつかの場合において、C5阻害剤は無期限に連日投与される。
【0183】
静脈内に送達されるC5阻害剤は、注入により、5分、10分、15分、20分、又は25分の期間にわたるなど、ある期間にわたり送達され得る。投与は、例えば、毎時、毎日、毎週、隔週(すなわち2週ごとに)など定期的に、1か月、2か月、3か月、4か月、又は4か月より長く反復され得る。初期の治療レジメンの後、治療は、頻度を減らして投与され得る。例えば、3か月間の隔週投与の後、投与は、1月あたり1回、6か月間又は1年以上反復され得る。C5阻害剤投与は、(例えば、患者の細胞、組織、血液、尿又は他の部分中の)結合又は任意の生理学的に有害なプロセスを、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、若しくは少なくとも90%、又はそれ以上減少させ、低下させ、増加させ、又は変更し得る。
【0184】
全量のC5阻害剤及び/又はC5阻害剤組成物の投与の前に、患者に、全量の5%など、より低い投与量を投与して、アレルギー反応若しくはインフュージョンリアクションなどの有害作用に関して、又は脂質レベル若しくは血圧の上昇に関してモニタリングできる。別の例において、サイトカイン(例えば、TNF-アルファ、IL-1、IL-6、又はIL-10)レベル増加などの望まれない免疫賦活効果に関して患者をモニタリングできる。
【0185】
遺伝的素因は、いくつかの疾患又は障害の発症において役割を果たす。したがって、C5阻害剤を必要とする患者は、家族歴分析又は例えば1つ以上の遺伝子マーカ若しくはバリアントのスクリーニングにより特定され得る。医療提供者(例えば、医師又は看護師)又は血縁者は、本開示の治療用組成物を処方又は投与する前に、家族歴情報を分析し得る。
【0186】
III.キット及び装置
いくつかの実施形態において、本開示は、キット及び装置を提供する。そのようなキット及び装置は、本明細書に記載の化合物又は組成物のいずれも含み得る。非限定的な例において、ジルコプランが含まれ得る。そのようなキットは、本明細書に記載の補体関連の適応症を治療する方法を実施するため、使用され得る。
【0187】
キット成分は、液体(例えば水性又は有機)媒体中でも、乾燥(例えば凍結乾燥)形態でも包装され得る。キットは、バイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、又はバッグを含み得るが、これらに限定されない容器を含み得る。キット容器を使用して、キット成分を小分けにし、保存し、貯蔵し、隔離し、及び/又は保護できる。キット成分は、共に包装しても、別々に包装してもよい。いくつかのキットは、滅菌された、薬学的に許容できる緩衝剤及び/又は他の希釈剤(例えばリン酸緩衝食塩水)の容器を含み得る。いくつかの実施形態において、キットは、乾燥形態のキット成分の容器を、乾燥した成分を溶解させる溶液の別な容器と共に含む。いくつかの実施形態において、キットは、1種以上のキット成分を投与するためのシリンジを含む。
【0188】
ポリペプチドが乾燥粉末として提供される場合、10マイクログラム~1000ミリグラムのポリペプチド又は少なくともその量若しくは多くともその量がキット中に提供されることが企図される。
【0189】
容器は、ポリペプチド製剤が配置され、好ましくは、好適に配分され得る少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、及び/又は他の入れ物を含み得る。キットは、滅菌された、薬学的に許容できる緩衝剤及び/又は他の希釈剤用の容器も含み得る。
【0190】
キットは、キット成分を利用すること並びにキットに含まれていない任意の他の試薬の使用のための説明書を含み得る。説明書は、実行可能な変形体を含み得る。
いくつかの実施形態において、本開示は、ジルコプランを有するシリンジ及び説明書を含むキットを提供する。シリンジは、自己注射装置であり得る。自己注射装置は、BDウルトラセーフプラス(BD ULTRASAFE PLUS)(商標)自己投与装置(ベクトン・ディッキンソン(BD)、ニュージャージー州フランクリン・レイクス)を含み得る。キットは、針刺し傷(syringe wounds)に対処するための1つ以上の物品を含み得る。そのような物品は、アルコールワイプ及び創傷被覆材(例えば、綿球、メッシュパッド、包帯、テープ、ガーゼなど)を含み得るが、これらに限定されない。キットは、使用済みキット成分の廃棄のための廃棄容器をさらに含み得る。廃棄容器は、ニードル及びシリンジなどの鋭利な物体の廃棄のために設計され得る。いくつかのキットは、鋭利な物体の廃棄のための説明書を含み得る。
【0191】
いくつかの実施形態において、本開示のキットは、粉末形態又は溶解状態のジルコプランを含む。溶液は水溶液であり得る。溶液はPBSを含み得る。ジルコプラン溶液は、約4mg/ml~約200mg/mlジルコプランを含み得る。いくつかの実施形態において、ジルコプラン溶液は約40mg/mlジルコプランを含む。ジルコプラン溶液は保存剤を含み得る。いくつかの実施形態において、ジルコプラン溶液は保存剤不含である。
【0192】
IV.定義
組み合わせて投与される:本明細書での用語「組み合せて投与される」又は「併用投与」は、同時に、又は対象が時間内のいくかのポイントで両方に同時に曝露され、且つ/若しくは患者に対する各薬剤の効果において重複があり得るような時間間隔以内に投与される、2つ以上の薬剤に同時に曝露されることを意味する。いくつかの実施形態において、少なくとも1回の投与量の1つ以上の薬剤は、1つ以上の他の薬剤の少なくとも1回の投与から約24時間、12時間、6時間、3時間、1時間、30分、15分、10分、5分、又は1分以内に投与される。いくつかの実施形態において、投与は重複する投与レジメンでなされる。本明細書では、用語「投与レジメン」は、時間間隔が隔てられた複数の投与量を指す。そのような投与は、規則的間隔でなされ得るか、又は投与における1回以上の休止を含み得る。バイオアベイラビリティ:本明細書での用語「バイオアベイラビリティ」は、対象に投与された所与の量の化合物(例えばC5阻害剤)の全身アベイラビリティを指す。バイオアベイラビリティは、対象への化合物の投与後の化合物の未変化体の曲線下面積(AUC)又は最大血清若しくは血漿濃度(Cmax)を測定することにより算定できる。AUCは、化合物の血清又は血漿濃度を縦座標(Y軸)に、時間を横座標(X軸)にプロットする場合の曲線下面積の決定である。一般的に、特定の化合物のAUCは、当業者に公知である方法を使用して、及び/又は内容が参照により本明細書にその全体として組み込まれるG.S.バンカー(G.S.Banker)、モダン・ファーマシューティクス,ドラッグズ・アンド・ザ・ファーマシューティカル・サイエンシズ(Modern Pharmaceutics,Drugs and the Pharmaceutical Sciences)、第72巻、マルセル・デッカー(Marcel Dekker)、ニューヨーク、Inc.、1996年に記載の通り計算できる。
【0193】
生体系:本明細書では、用語「生体系」は、細胞膜、細胞内区画、細胞、細胞培養物、組織、器官、器官系、生物、多細胞生物、体液、又はあらゆる生物学的実体内で、少なくとも1つの生物学的機能又は生物学的役割を実行する細胞、一群の細胞、組織、器官、一群の器官、細胞小器官、体液、生物学的シグナル伝達経路(例えば、受容体活性化シグナル伝達経路、荷電活性化(charge-activated)シグナル伝達経路、代謝経路、細胞シグナル伝達経路など)、一群のタンパク質、一群の核酸、又は一群の分子(生体分子を含むがこれに限定されない)を指す。いくつかの実施形態において、生体系は、細胞内及び/又は細胞外シグナル伝達生体分子を含む細胞シグナル伝達経路である。いくつかの実施形態において、生体系はタンパク質分解性カスケード(例えば補体カスケード)を含む。
【0194】
緩衝剤:本明細書では、用語「緩衝剤」は、pHの変化に抵抗する目的で溶液に使用される化合物を指す。そのような化合物は、酢酸、アジピン酸、酢酸ナトリウム、安息香酸、クエン酸、安息香酸ナトリウム、マレイン酸、リン酸ナトリウム、酒石酸、乳酸、メタリン酸カリウム、グリシン、炭酸水素ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、及び酒石酸ナトリウムを含み得るが、これらに限定されない。
【0195】
クリアランス率:本明細書では、用語「クリアランス率」は、特定の化合物が生体系又は流体から除去される速度を指す。
化合物:本明細書では、用語「化合物」は個々の化学物質を指す。いくつかの実施形態において、特定の化合物は、(立体異性体、幾何異性体、及び同位体を含むがこれらに限定されない)1つ以上の異性体又は同位体形態で存在し得る。いくつかの実施形態において、化合物は、唯一のそのような形態で提供又は利用される。いくつかの実施形態において、化合物は、(立体異性体のラセミ混合物を含むがこれに限定されない)2つ以上のそのような形態の混合物として提供又は利用される。当業者は、いくつかの化合物が異なる形態で存在し、異なる性質及び/又は(生物学的活性を含むがこれに限定されない)活性を示すことを認識するだろう。そのような場合に、本開示に従って使用するための特定の形態の化合物を選択又は回避することは当業者の通常の技量の範囲内にある。例えば、非対称に置換された炭素原子を含む化合物は、光学活性又はラセミ形態で単離できる。
【0196】
環状又は環化された:本明細書では、用語「環状」は、連続的ループの存在を指す。連続的ループは、(本明細書で「環状結合」とも称される)化合物の異なる領域間の化学結合により形成され得る。環状分子は円形である必要はなく、サブユニットの切れ目のない鎖を形成するように結合する必要があるのみである。環状ポリペプチドは、2つのアミノ酸が架橋部分により結合するときに形成された「環状ループ」を含み得る。環状ループは、架橋されたアミノ酸の間に存在するポリペプチドに沿ってアミノ酸を含む。環状ループは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ以上のアミノ酸を含み得る。
【0197】
下流事象:本明細書では、用語「下流」又は「下流事象」は、別の事象の後で、及び/又はその結果として起こるあらゆる事象を指す。いくつかの場合において、下流事象は、C5切断及び/又は補体活性化の後で、且つその結果として起こる事象である。そのような事象は、C5切断産物の生成、MACの活性化、溶血、及び溶血関連疾患(例えばPNH)を含み得るが、これらに限定されない。
【0198】
平衡解離定数:本明細書では、用語「平衡解離定数」又は「KD」は、2種以上の作用物質(例えば2種のタンパク質)が可逆的に分離する傾向を表す値を指す。いくつかの場合において、KDは、二次作用物質の総レベルの半分が一次作用物質と会合する、一次作用物質の濃度を示す。
【0199】
半減期:本明細書では、用語「半減期」又は「t1/2」は、所与のプロセス又は化合物濃度が最終的な値の半分に達するのにかかる時間を指す。「終末相半減期」又は「終末相t1/2」は、ある因子の濃度が偽平衡に達した後で、その因子の血漿濃度が半分に減少するのに必要とされる時間を指す。
【0200】
同一性:本明細書では、ポリペプチド又は核酸に言及される場合の用語「同一性」は、配列間の相対的な関係を指す。用語は、ポリマー配列の間の配列の相似性の程度を記述するように使用され、ギャップアラインメント(存在する場合)が特定の数学的モデル又はコンピュータプログラム(すなわち「アルゴリズム」)により検討されている状態で、一致するモノマー成分のパーセンテージを含み得る。関連するポリペプチドの同一性は、公知の方法により容易に計算できる。そのような方法には、他の者により以前に記載されたもの(レスク,A.M.(Lesk,A.M.)編、コンピュテーショナル・モレキュラー・バイオロジー(Computational Molecular Biology)、オックスフォード大学出版局(Oxford University Press)、ニューヨーク、1988年;スミス,D.W.(Smith,D.W.)編、バイオコンピューティング:インフォマティクス・アンド・ゲノムプロジェクツ(Biocomputing:Informatics and Genome Projects)、アカデミック・プレス(Academic Press)、ニューヨーク、1993年;グリフィン,A.M.(Griffin,A.M.)ら編、コンピュータ・アナリシス・オブ・シーケンスデータ パート1(Computer Analysis of Sequence Data,Part 1)、ヒューマナ・プレス(Humana Press)、ニュージャージー、1994年;フォン・ハインジェ,G.(von Heinje,G.)著、シーケンス・アナリシス・イン・モレキュラー・バイオロジー(Sequence Analysis in Molecular Biology)、アカデミック・プレス(Academic Press)、1987年;グリブスコフ,M.(Gribskov,M.)ら編、シーケンス・アナリシス・プライマー(Sequence Analysis Primer)、M.ストックトン・プレス(M.Stockton Press)、ニューヨーク、1991年;及びカリロ(Carillo)ら著、アプライド・マセマティクス,ソサイエティ・フォー・インダストリアル・アンド・アプライド・マセマティクス・ジャーナル(Applied Math,SIAM J)、1988年、第48巻、p.1073)があるが、これらに限定されない。
【0201】
阻害剤:本明細書では、用語「阻害剤」は、特定の事象;細胞シグナル;化学経路;酵素反応;細胞プロセス;2つ以上の実体の間の相互作用;生物学的事象;疾患;障害;又は病態の発生を遮断又はその減少を起こすあらゆる作用物質を指す。
【0202】
初期負荷投与量:本明細書では、「初期負荷投与量」は、1つ以上のその後の投与量とは異なり得る治療剤の最初の投与量を指す。初期負荷投与量を使用して、その後の投与量が投与される前に、治療剤の初期濃度又は活性のレベルが達成され得る。
【0203】
静脈内:本明細書では、用語「静脈内」は、血管内の部分を指す。静脈内投与は、典型的には、血管(例えば静脈)への注射による血液中への化合物の送達を指す。
インビトロ:本明細書では、用語「インビトロ」は、生物(例えば、動物、植物、又は微生物)内ではなく、人工環境(例えば、試験管又は反応容器内、細胞培養物中、ペトリ皿内など)中で起こる事象を指す。
【0204】
インビボ:本明細書では、用語「インビボ」は、生物(例えば、動物、植物、又は微生物若しくはその細胞若しくは組織)内で起こる事象を指す。
ラクタムブリッジ:本明細書では、用語「ラクタムブリッジ」は、分子中の化学基の間にブリッジを形成するアミド結合を指す。いくつかの場合において、ラクタムブリッジは、ポリペプチド中のアミノ酸の間に形成される。
【0205】
リンカー:本明細書での用語「リンカー」は、2つ以上の実体を結合するのに使用される原子団(例えば10~1,000原子)、分子、又は他の化合物を指す。リンカーは、そのような実体を、共有結合性又は非共有結合性の(例えば、イオン性又は疎水性)相互作用により結合し得る。リンカーは、2つ以上のポリエチレングリコール(PEG)単位の鎖を含み得る。いくつかの場合において、リンカーは切断可能であり得る。
【0206】
分時換気量:本明細書では、用語「分時換気量」は、1分あたりの吸いこまれた又は対象の肺から吐き出された空気の体積を指す。
非タンパク質構成:本明細書では、用語「非タンパク質構成」は、非天然アミノ酸など、非天然の成分を有するものなど、あらゆる非天然のタンパク質を指す。
【0207】
患者:本明細書では、「患者」は、治療を探し求めるか若しくは治療を必要とし得て、治療を要求し、治療を受けており、治療を受けるだろう対象、又は特定の疾患若しくは病態のために訓練された専門家のケアを受けている対象を指す。
【0208】
医薬組成物:本明細書では、用語「医薬組成物」は、有効成分を治療上有効であるようにする形態及び量の少なくとも1種の有効成分(例えばC5阻害剤)を有する組成物を指す。
【0209】
薬学的に許容できる:句「薬学的に許容できる」は、健全な医学的判断の範囲内で、妥当なベネフィット/リスク比に釣り合い、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症なしに、ヒト及び動物の組織と接触して使用するのに好適である化合物、材料、組成物、及び/又は剤形を指すように本明細書で使用される。
【0210】
薬学的に許容できる賦形剤:本明細書での句「薬学的に許容できる賦形剤」は、医薬組成物中に存在し、患者において実質的に非毒性且つ非炎症性である性質を有する、活性薬剤(例えば、活性薬剤ジルコプラン及び/又はその活性代謝物若しくはその変形体)以外のあらゆる成分を指す。いくつかの実施形態において、薬学的に許容できる賦形剤は、活性薬剤を懸濁又は溶解させることが可能なビヒクルである。賦形剤は、例えば:粘着防止剤、酸化防止剤、結合剤、コーティング、圧縮助剤、崩壊剤、染料(着色剤)、軟化剤、乳化剤、充填剤(希釈剤)、被膜形成剤又はコーティング、着香剤、香料、流動促進剤(流動増大剤(flow enhancers))、滑沢剤、保存剤、印刷用インク、吸着剤、懸濁剤又は分散化剤、甘味剤、及び水和の水を含み得る。例示的な賦形剤には下記があるがこれらに限定されない:ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム(二塩基性)、ステアリン酸カルシウム、クロスカルメロース、架橋ポリビニルピロリドン、クエン酸、クロスポビドン、システイン、エチルセルロース、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、マルチトール、マンニトール、メチオニン、メチルセルロース、メチルパラベン、微結晶性セルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポビドン、アルファ化デンプン、プロピルパラベン、パルミチン酸レチニル、シェラック、二酸化ケイ素、カルボキシメチルセルロースナトリウム、クエン酸ナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、ソルビトール、デンプン(トウモロコシ)、ステアリン酸、スクロース、タルク、二酸化チタン、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンC、及びキシリトール。
【0211】
血漿コンパートメント:本明細書では、用語「血漿コンパートメント」は、血漿により占められる血管内空間を指す。
塩:本明細書では、用語「塩」は、カチオン及び結合アニオンでできた化合物を指す。そのような化合物は、塩化ナトリウム(NaCl)又は酢酸塩、塩化物、炭酸塩、シアン化物、亜硝酸塩、硝酸塩、硫酸塩、及びリン酸塩を含むがこれらに限定されない他の種類の塩を含み得る。用語「塩」はまた、本明細書に記載のポリペプチドの塩形態(例えばジルコプラン塩)を指すように使用され得る。そのようなポリペプチド塩は、ジルコプランナトリウム塩を含み得る。
【0212】
試料:本明細書では、用語「試料」は、源から採取された、及び/又は分析若しくは処理用に提供されたアリコート又は部分を指す。いくつかの実施形態において、試料は、組織、細胞、又は構成部分(例えば、血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、羊膜帯血液(amniotic cord blood)、尿、膣液、及び精液を含むがこれらに限定されない体液)など、生体源由来である。いくつかの実施形態において、試料は、例えば、血漿、血清、脊髄液、リンパ液、皮膚の外部片、呼吸器管、腸管、及び泌尿生殖器管、涙、唾液、乳、血液細胞、腫瘍、又は器官を含むがこれらに限定されない生物全体又はその組織、細胞、若しくは構成部分のサブセット、又はその一部若しくは部分から調製されたホモジネート、ライゼート、又は抽出物であり得るか、又はそれを含み得る。いくつかの実施形態において、試料は、タンパク質などの細胞成分を含み得るニュートリエントブロス又はゲルなどの媒体であるか、又はそれを含む。いくつかの実施形態において、「一次」試料は源のアリコートである。いくつかの実施形態において、一次試料は1つ以上の処理(例えば分離、精製など)工程に付されて、分析又は他の使用のための試料が調製される。
【0213】
皮下:本明細書では、用語「皮下」は、皮膚の下の空間を指す。皮下投与は、皮膚の下への化合物の送達である。
対象:本明細書では、用語「対象」は、例えば、実験、診断、予防、及び/又は治療目的で、本開示による化合物又は方法が投与又は適用され得るあらゆる生物を指す。典型的な対象は、動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ対象、非ヒト霊長類、及びヒトなどの哺乳動物)を含む。
【0214】
実質的に:本明細書では、用語「実質的に」は、問題にしている特徴又は性質の全体又は全体に近い程度又は度合を示す定性的状態を指す。生物学分野の当業者は、生物学的及び化学的現象が、完了に至り、及び/又は完全性まで進行するか、又は絶対的な結果を達成するか若しくは避けることが、皆無ではないとしても稀であることを理解するだろう。したがって、用語「実質的に」は、本明細書において、多くの生物学的及び化学的現象に固有の完全性の潜在的な欠如を記録するように使用される。
【0215】
治療上有効な量:本明細書では、用語「治療上有効な量」は、疾患、障害、及び/又は病態を患っているか又はかかりやすい対象に投与される場合に、疾患、障害、及び/又は病態を治療し、その症状を改善し、診断し、予防し、及び/又はその発症を遅延させるのに充分である、送達される薬剤(例えばC5阻害剤)の量を指す。
【0216】
1回換気量:本明細書では、用語「1回換気量」は、(特別の努力がない状態で)呼吸の間に追い出される空気の通常の肺の容量を指す。
Tmax:本明細書では、用語「Tmax」は、対象又は流体中の化合物の最大濃度が維持される期間を指す。
【0217】
治療すること:本明細書では、用語「治療すること」は、特定の疾患、障害、及び/又は病態の1つ以上の症状又は特徴を、部分的又は完全に緩和し、寛解させ、改善し、軽減し、その発症を遅延させ、その進行を阻害し、その重症度を減少させ、及び/又はその発生率を減少させることを指す。治療は、疾患、障害、及び/若しくは病態の徴候を示していない対象に、及び/又は疾患、障害、及び/若しくは病態の早期の徴候しか示していない対象に、疾患、障害、及び/又は病態と関連する病状を起こすリスクを減少させる目的で投与され得る。
【0218】
治療投与量:本明細書では、「治療投与量」は、治療適応症に対処又は緩和する過程で投与される治療剤の1つ以上の投与量を指す。治療投与量は、体液又は生体系中の治療剤の所望の濃度又は活性のレベルを維持するために調整され得る。
【0219】
分布容積:本明細書では、用語「分布容積」又は「Vdist」は、血液又は血漿中と同じ濃度で体内に全量の化合物を含むのに要する流体の体積を指す。分布容積は、化合物が血管外組織に存在する程度を反映し得る。大きい分布容積は、化合物が血漿タンパク質成分と比べて組織成分と結合する傾向を反映する。臨床状況で、Vdistを使用して、化合物の負荷投与量を決定し、その化合物の定常状態濃度を達成できる。
【0220】
V.等価物及び範囲
本発明の種々の実施形態が詳細に示され、説明されてきたが、形態又は詳細の種々の変更が、添付される請求項により定義される本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずになされ得ることが当業者により理解されるだろう。
【0221】
当業者は、定型的な実験を利用するのみで、本明細書に記載の本発明による具体的な実施形態の多くの等価物を認識するか、又は確認できるだろう。本発明の範囲は、上記説明に限定されないものではなく、添付される請求項に述べられる通りである。
【0222】
請求項において、「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「前記(the)」などの冠詞は、そうでないと示されない限り又は文脈から明らかでない限り、1つ又は2つ以上を意味し得る。群の1つ以上のメンバの間に「又は」を含む請求項又は説明は、そうでないと示されない限り又は文脈から明らかでない限り、1つ、2つ以上、又は全ての群メンバが、所与の製品又はプロセスに存在し、利用され、又は他の点で関係する場合、満たされているとみなされる。本発明は、群のまさに1メンバが、所与の製品又はプロセスに存在し、利用され、又は他の点で関係する実施形態を含む。本発明は、2つ以上又は全ての群のメンバが、所与の製品又はプロセスに存在し、利用され、又は他の点で関係する実施形態を含む。
【0223】
用語「含んでいる(comprising)」が開放型であるものとし、追加の要素又は工程の包含を許すが要求しないことも留意される。用語「含んでいる」が本明細書で使用される場合、用語「からなる(consisting of)」及び「又は含んでいる(or including)」も包含され、開示される。
【0224】
範囲が与えられる場合、端点は含まれる。さらに、特記されない限り又は文脈及び当業者の理解から明らかでない限り、範囲として表される値が、本発明の異なる実施形態における述べられた範囲内のあらゆる具体的値又は副範囲を、文脈上そうでないとする明確な指示がない限り、その範囲の下限の単位の10分の1までとり得ることが理解されるべきである。
【0225】
さらに、従来技術内にある、本発明の任意の特定の実施形態が、請求項のいずれか1つ以上から明確に排除され得ることが理解されるべきである。そのような実施形態は当業者に公知であるとみなされるため、それらは、排除が本明細書中に明確に述べられていないとしても排除され得る。任意の特定の実施形態の本発明の組成物(例えば、任意の核酸又はそれによりコードされるタンパク質;任意の製造方法;任意の使用方法など)は、従来技術の存在に関連するかどうかを問わず、何らかの理由でいずれか1つ以上の請求項から排除され得る。
【0226】
全ての引用された源、例えば、参照文献、刊行物、データベース、データベースエントリー、及びそこに引用された技術は、引用文中に明白に述べられていないとしても、参照により本願に組み込まれる。引用された源の発言と本願が矛盾する場合、本願中の発言が優先するものとする。
【0227】
項及び表の見出しは限定的でないものとする。
【実施例】
【0228】
実施例1.ジルコプラン水溶液の調製
ポリペプチドは、標準的な固相Fmoc/tBu方法を使用して合成した。リバティ(Liberty)自動マイクロ波ペプチド合成装置(シーイーエム(CEM)、ノースカロライナ州マシューズ)で、リンクアミド樹脂と共に標準的なプロトコルを使用して合成を実施したが、マイクロ波の能力のない他の自動合成装置も使用できる。全てのアミノ酸は商業的供給源から得た。使用したカップリング試薬は、2-(6-クロロ-1-H-ベンゾトリアゾール-1イル)-1,1,3,3,-テトラメチルアミニウムヘキサフルオロホスフェート(HCTU)であり、塩基はジイソプロピルエチルアミン(DIEA)であった。ポリペプチドは、95%TFA、2.5%TIS、及び2.5%水により3時間樹脂から切断し、エーテルによる沈殿により単離した。粗製のポリペプチドは、C18カラムを使用する逆相分取HPLCで、アセトニトリル/水0.1%TFAの30分にわたる20%~50%の勾配により精製した。純粋なポリペプチドを含むフラクションを回収し、凍結乾燥させ、全ポリペプチドをLC-MSにより分析した。
【0229】
国際公開第2017105939号パンフレット及び国際公開第2018106859号パンフレットに記載のジルコプラン(配列番号1;CAS番号:1841136-73-9)は、15個のアミノ酸(そのうち4つは非天然アミノ酸である)、アセチル化N-末端、及びC末端カルボン酸を含む環状ペプチドとして調製した。コアペプチドのC末端リジンは修飾された側鎖を有し、N-ε-(PEG24-γ-グルタミン酸-N-α-ヘキサデカノイル)リジン残基(reside)を形成する。この修飾された側鎖は、パルミトイル基により誘導体化されたL-γグルタミン酸残基に結合したポリエチレングリコールスペーサ(PEG24)を含む。ジルコプランの環化は、L-Lys1及びL-Asp6の側鎖の間のラクタムブリッジによるものである。ジルコプラン中のアミノ酸は全てL-アミノ酸である。ジルコプランは、3562.23g/molの分子量及びC172H278N24O55の化学式を有する。
【0230】
エクリズマブと同様に、ジルコプランは、C5のC5a及びC5bへのタンパク質分解切断を遮断する。エクリズマブとは違い、ジルコプランはC5bにも結合でき、C6結合を遮断でき、それがその後のMACの集合を妨げる。
【0231】
ジルコプランは、40mg/mLのジルコプランを、pH7.0の50mMリン酸ナトリウム及び75.7mM塩化ナトリウムの製剤中に含む注射用の水溶液として調製した。得られた組成物を使用して、現行の適正製造基準(cGMP)に従って医薬品を調製したが、医薬品は、針安全自己投与装置(BDウルトラセーフプラス(BD ULTRASAFE PLUS)(商標)(ベクトン・ディッキンソン(Becton Dickenson)、ニュージャージー州フランクリン・レイクス))内に配置された29ゲージの12.7mm(1/2インチ)ステーキドニードル(staked needle)と共に1mlガラスシリンジを含んでいた。
【0232】
実施例2.ジルコプラン投与及び保存
皮下(SC)又は静脈内(IV)注射によりジルコプランを投与し、投与される投与量(投与量体積)をmg/kgの方式で対象体重に基づいて調整する。これは、1組の固定された投与量と、1組の体重が並んだ組合せ表(bracket)を使用して達成する。全体として、ヒト投薬は、43~109kgの幅広い体重範囲を支持する。より多い体重(109kg超)を呈する対象には、個々の場合に応じて、メディカルモニターと相談して対応する。
【0233】
ジルコプランを2℃~8℃[36°F~46°F]で保存する。いったん対象に分配されると、ジルコプランを制御された室温(20℃~25℃[68°F~77°F])で最長30日間保存し、高温又は光への曝露などの過度の温度変動の源から保護する。室温から外れたジルコプランの保存は避けることが好ましい。ジルコプランは、これらの条件下で最長30日間保存できる。
【0234】
実施例3.ジルコプランは自己抗体誘導性補体活性を神経筋接合部(NMJ)で阻害する
ヒト筋管と神経芽細胞腫細胞の共培養物を調製し、インビトロNMJモデルとしてヒト血清と共に培養した。細胞を、10μMジルコプランと共に又はなしで、及びIgG1フォーマットかIgG4フォーマットかの抗アセチルコリン受容体(AChR)637抗体と培養した。IgG1抗体は、補体介在性C5b-9沈着を促進することが知られているが、IgG4抗体は促進しない。その後のC5b-9の沈着を、抗C5b-9抗体(aE11、アブカム(AbCam)、ケンブリッジ、英国)を使用して免疫蛍光法により観察した。C5b-9沈着を、ジルコプランなしで抗AChR 637 IgG1と共に培養した細胞で観察した。C5b-9沈着は、同じ条件下だが10μMジルコプランと共に培養した細胞にはなかった。
【0235】
実施例4.ジルコプラン透過性
ジルコプランインビトロ透過性を、基底膜モデルを使用して評価した。モデルにおいて、ジルコプランが細胞外マトリックス(ECM)ゲル膜(アレンズ,F.(Arends,F.)ら著、2016年、インテクオープン(IntechOpen)、デジタルオブジェクト識別子:10.5772/62519に記載の通り調製)を通過する拡散を評価し、エクリズマブの拡散と比較した。モデルにおいて、下部リザーバからECMゲル膜により分離された上部リザーバに化合物を導入した。ECMゲル膜は、神経筋接合部の基底板にみられるものを模倣したマトリックス成分を含むように調製した。化合物が膜を通過する透過性を、下部リザーバ内の検出により評価した。上部リザーバに導入したジルコプランの20%超が12時間後に下部リザーバに拡散し、24時間までに60%超が拡散した(
図1参照)。対照的に、24時間後に下部リザーバに拡散したエクリズマブは20%未満であった。結果は、エクリズマブと比べてジルコプランの基底膜を通る優れた透過性(約4倍高い)を実証し、優先的な組織浸透を示唆する。
【0236】
ジルコプランの透過性増大を定量的全身分析(QWBA)により確認した。この試験のために、ジルコプランC末端リジンを14Cにより放射標識し、ラットに投与した。動物をイメージングして、複数の器官及び組織における放射標識されたジルコプランの濃度を経時的に(24時間)測定した。分析した各器官又は組織の濃度曲線下面積(AUC)を血漿AUCのパーセンテージとして表し、以下の表2に表す体内分布値を与えた。シャー,D.K.(Shah,D.K.)ら著、2013年、エムアブス(mAbs)、第5巻:p.297-305に発表されたモノクローナル抗体体内分布試験に基づいた推測されるエクリズマブ体内分布値を比較のために与える。
【0237】
【0238】
これらの結果は、C5阻害剤組織浸透が必要でありエクリズマブ組織浸透が不充分である組織中のC5活性を阻害するためのジルコプランの使用を支持する。
実施例5.ジルコプラン薬物間相互作用
ジルコプランインビボ薬物間相互作用試験を、NHPにおける使用可能性がある併用薬物と共に実施した。最初に調査したのは、ジルコプランの薬物動態に対するシクロスポリンAの影響であり、逆も同様であった。シクロスポリンAは、有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)1B1及びOATP1B3の公知の阻害剤であり、PNHにおいて使用可能性がある併用薬物である。シクロスポリンA投与後にジルコプラン曝露に対する影響は全く観察されず、ジルコプラン投与後にシクロスポリンA曝露に対する影響は全く観察されなかった。これらの結果は、ジルコプランとシクロスポリンAを組み合わせた投与による、対象における補体関連の適応症を治療する方法を支持する。
【0239】
第2のインビボ薬物間相互作用試験は、ジルコプラン及び胎児性Fc受容体(FcRN)リサイクリングの阻害剤DX-2504(ニクソン,A.E.(Nixon,A.E.)ら著、2015年、フロンティアズ・イン・イムノロジー(Front Immunol.)、第6巻:p.176に記載)により実施した。FcRNを阻害することにより、DX-2504はFc介在性リサイクリングを阻害し、それによりIgG抗体の半減期を減少させる。DX-2504の投与は、高投与量の免疫グロブリンによりFcリサイクリング機構を圧倒することによりIgG抗体の半減期を減少させる静脈内免疫グロブリン(IVIG)治療のモデルとして機能する。ジルコプラン薬物動態及び薬力学は、カニクイザル(Cynomolgus monkey)において、抗FcRnモノクローナル抗体(DX-2507、DX-2504の、製造を改善するためのCysからAlaへの突然変異を有する機能的に等価な変形体)の同時投薬により変化しなかった。さらに、ジルコプランレベルの変化は、IVIGの同時治療投与を受けている患者において全く観察されなかった。これらの結果は、ジルコプラン薬物動態に対するFcRN阻害の影響が全くないことを示し、ジルコプランとFcRN阻害剤(DX-2504、DX-2507、又はIVIG)を組み合わせた投与による、対象における補体関連の適応症(例えば重症筋無力症)を治療する方法を支持する。
【配列表】
【国際調査報告】