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特表2022-524140遺伝子置換による希少な眼疾患のための改善された治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-27
(54)【発明の名称】遺伝子置換による希少な眼疾患のための改善された治療方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20220420BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220420BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220420BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220420BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220420BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
A61P27/02
A61K31/7088
A61K35/76
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021553393
(86)(22)【出願日】2020-03-09
(85)【翻訳文提出日】2021-10-27
(86)【国際出願番号】 EP2020056199
(87)【国際公開番号】W WO2020182722
(87)【国際公開日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】19305276.8
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19306381.5
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521404048
【氏名又は名称】ユニベルシテ パリ-サクレー
(71)【出願人】
【識別番号】516086358
【氏名又は名称】サントル ナショナル デ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】521402181
【氏名又は名称】レティナ フランス
(71)【出願人】
【識別番号】521402192
【氏名又は名称】ヴァリアント
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー,ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】グラリエ,エロディー キム
【テーマコード(参考)】
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA33
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA33
(57)【要約】
本発明は、それを必要とする対象でのCRX関連IRDの処置に使用するための、またはCRXの標的遺伝子のhypomorphic変異により引き起こされる遺伝性網膜ジストロフィーの処置に使用するための、網膜の転写因子である錐体-杆体ホメオボックス(CRX)をコードする核酸配列を担持する組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象においてCRX関連IRDの処置に使用するための、網膜の転写因子である錐体-杆体ホメオボックス(CRX)をコードする核酸配列を含むベクター組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター。
【請求項2】
AAV2血清型である、請求項1に記載のAAVベクター。
【請求項3】
AAV2/5またはAAV2/8の血清型である、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドが、ロドプシン(Rho)、β-ホスホジエステラーゼ(PDE)、網膜色素変性症1(RP1)、またはヒトロドプシンキナーゼ1(GRK1)のプロモーターから選択される、杆体光受容器および錐体光受容器における発現を駆動するプロモーターの制御下にある、請求項1~3のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドが、GRK1プロモーターの制御下にある、請求項4に記載のAAVベクター。
【請求項6】
前記CRX関連IRDが、CRX遺伝子の優性変異からもたらされる網膜症から選択されるか、またはCRXの発現により治癒されるhypomorphic変異に起因する症状をもたらす、請求項1~5のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項7】
前記CRX関連IRDが、網膜色素変性症、レーバー先天黒内障、もしくは錐体-杆体ジストロフィーから選択されるか、またはPDE6B、NMNAT1、ARL13b、AIPL1、もしくはABCA4遺伝子などのCRXの標的遺伝子におけるhypomorphic変異に関連する、請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
治療有効量で前記対象に投与される、請求項1~7のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項9】
前記ベクターの量が、10~1012vg/眼、より好ましくは1×10~1×1012vg/眼である、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
前記ベクターが、疾患の発症前に投与される、先行する請求項のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項11】
前記ベクターが、光受容器の変性の開始後に投与される、先行する請求項のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項12】
機能的な錐体光受容器および/または杆体光受容器が存在する限り投与される、先行する請求項のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項13】
前記ベクターが、組成物、より具体的には医薬組成物に含まれている、先行する請求項のいずれか1項に記載のベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜疾患を処置するための方法および活性物質としてCRXを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝性網膜疾患(IRD)における光受容器(PR)の進行性の消失は、視力障害の一般的な原因であり、これは1/4,000の有病率であり、フランスにおいて約17,000名の患者を意味する。これらは、同定された60超のヒト遺伝子を伴う遺伝的および臨床的に異種性の疾患のグループを形成する。アデノ随伴ウイルス(AAV)の眼内注射による遺伝子療法の効力および安全性は、臨床有効性と言い換えられる前臨床の成功で証明されている。このような手法は、ほとんどの場合、機能の変異の劣性の喪失を有する患者に使用される。この目的は、完全に機能的なコピーで疾患を引き起こす変異した遺伝子を補償することである。
【0003】
PR変性の優性型は、網膜色素変性症(RP)の症例の少なくとも20%を表す。今日では、これら優性型で、非常に限定された数の治療上の手法が開始されている。実際に、優性変異は、遺伝子産物の活性を増大させ得るか、または遺伝子産物の新規活性を提供し得る。よって、劣性型とは対照的に、PR変性の優性型は、失う機能を修復することが十分ではない場合があるため、治癒することがより困難である。実際に、優性型は、同時に起こる変異した遺伝子産物のサイレンシングを伴い、健常なコピーを発現することを必要とし得る。
【0004】
ヒトCRX遺伝子の50超の変異が、常染色体優性レーバー先天黒内障(LCA)、錐体-杆体ジストロフィー(CORD)、およびRPに関連する。
【0005】
転写因子である錐体-杆体ホメオボックス(Cone-Rod Homeobox)(CRX)は、網膜の主要な光検知細胞である、杆体光受容器および錐体光受容器の遺伝子発現の制御において中心的な役割を果たしている。錐体-杆体ホメオボックス(CRX)のタンパク質は、杆体光受容器および錐体光受容器の転写の調節に重要である「対形成されたような(paired-like)」ホメオドメイン転写因子である。CRXは、コアクチベーターと相互作用し、標的遺伝子プロモーターでヒストンアセチル化を促進し、標的の光受容器の遺伝子のエンハンサー/プロモーターの染色体内のループ形成の相互作用を媒介することにより、転写アクチベーターとして作用する。
【0006】
これに関連して、驚くべきことに、CRX関連疾患、すなわちCRXにおける優性網膜変異に関連する遺伝性ジストロフィー、を有する対象または少なくとも1つのCRXの標的遺伝子に少なくとも1つのhypomorphic変異を有する対象を、副作用を全く伴うことなく処置するために転写因子CRXの発現を利用できることが見出された。
【0007】
本発明は、全般的に、組み換えウイルスベクター、および網膜疾患を罹患する対象の網膜においてCRXタンパク質を発現するために組み換えウイルスベクターを使用する方法に関する。
【発明の概要】
【0008】
よって、本発明は、それを必要とする対象におけるCRX関連IRDの処置に使用するための、網膜の転写因子である錐体-杆体ホメオボックス(CRX)をコードする核酸配列を含むベクター組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに関する。
【0009】
本発明の一実施形態では、AAVベクターは、AAV2血清型である。
【0010】
本発明のより具体的な態様では、AAVベクターは、AAV2/5またはAAV2/8の血清型である。
【0011】
さらなる態様では、本発明のAAVベクターに含まれるポリヌクレオチドは、ロドプシン(Rho)、β-ホスホジエステラーゼ(PDE)、網膜色素変性症1(retinitis pigmentosa 1)(RP1)、またはヒトロドプシンキナーゼ1(GRK1またはRK1)のプロモーターから選択される、杆体光受容器および錐体光受容器における発現を駆動するプロモーターの制御下にある。
【0012】
より具体的な態様では、ポリヌクレオチドは、GRK1プロモーターの制御下にある。
【0013】
一実施形態では、本発明のベクターは、CRX関連IRDの処置に使用するためのものであり、ここで、CRX関連IRDは、CRX遺伝子における優性変異からもたらされる網膜症から選択されるか、またはCRXの発現により治癒されるhypomorphic変異に起因する症状をもたらす。
【0014】
さらなる実施形態では、本発明のベクターは、CRX関連疾患の処置に使用するためのものであり、ここで、CRX関連IRDは、網膜色素変性症、レーバー先天黒内障、もしくは錐体-杆体ジストロフィーから選択されるか、またはPDE6B、NMNAT1、ARL13b、AIPL1、もしくはABCA4遺伝子などのCRXの標的遺伝子におけるhypomorphic変異に関連する。
【0015】
さらなる態様では、本発明の使用のためのベクターは、治療有効量で対象に投与される。
【0016】
一実施形態では、本発明の使用のためのベクターは、10~1012vg/眼、より好ましくは1×10~1×1012vg/眼の量で投与される。
【0017】
一実施形態では、本発明のベクターは、疾患が発症する前に投与される。
【0018】
別の実施形態では、本発明のベクターは、光受容器の変性の開始後に投与される。
【0019】
さらなる実施形態では、本発明のベクターは、機能的な錐体光受容器および/または杆体光受容器が存在する限り投与される。
【0020】
一実施形態では、本発明の使用のためのベクターは、組成物、より具体的には医薬組成物に含まれている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
本発明では、以下の用語は以下の意味を有する。
【0022】
「AAV」は、アデノ随伴ウイルスの略語であり、このウイルス自体またはその派生体を表すように使用され得る。
【0023】
「AAV-CRXまたはAAV-hRK1-CRX」は、ヒトCRXの発現を駆動するヒトロドプシンキナーゼ1プロモーターを含むAAV2/5ベクターを表す。
【0024】
「AAV-GFPまたはAAV-hRK1-GFP」は、GFPの発現を駆動するヒトロドプシンキナーゼ1プロモーターを含むAAV2/5ベクターを表す。
【0025】
「CRX」は、錐体-杆体ホメオボックスCRX(NCBI:Nucleotide NM_000554.6;Protein NP_000545.1、またはEnsembl No. ENSG00000105392)を表し、網膜および脳の松果体細胞において脊椎動物の杆体光受容器および錐体光受容器の細胞で優先的に発現するOtd/OTX様の「対形成された」ホメオドメイン転写因子である。CRXは、機能的な哺乳類の杆体光受容器および錐体光受容器の発達および維持に重要な役割を果たす。CRXは、DNAの結合に寄与するそのN末端の近くのホメオドメイン(HD)を含む299のアミノ酸タンパク質をコードする。当業者は、CRXコード配列が、CRX遺伝子産物をコードするいずれかの核酸配列を含み得ることを理解するであろう。CRXコード配列は、介入する調節エレメント(たとえばイントロン、エンハンサー、または他の非コード配列)を含んでもよくまたは含まなくてもよい。
【0026】
「優性遺伝性網膜疾患」は、家族を介した疾患の遺伝の形式を表す。優性は、変異した遺伝子を担持する1つのみのアレルが、RP、CORD、およびLCAの特定の形態である疾患例を誘発するために十分であることを意味する。
【0027】
「hCRX」は、ヒトCRX遺伝子を表す。
【0028】
「異種性遺伝子」または「異種性ヌクレオチド配列」は、通常、ウイルスに天然に存在しない遺伝子またはヌクレオチド配列を表す。あるいは、異種性遺伝子またはヌクレオチド配列は、(たとえばウイルスに天然において結合しないプロモーターに結合することにより)天然に存在しない環境に置かれるウイルス配列を表し得る。
【0029】
「Hypomorphic変異」は、変化した遺伝子産物に対する活性のレベルの低下を提供する変異または変化した遺伝子産物の発現のレベルの低下をもたらす変異を表す。このような変異の非限定的な例は、ホスホジエステラーゼ6B(PDE6B)の変異の特定のサブタイプ、および、たとえばNMNAT1、ARL13b、AIPL1、またはABCA4遺伝子で同定された他の変異である。
【0030】
「ITR」または「末端逆位配列」は、AAVの溶解および潜伏のライフサイクルの完了に必要である、T字型のパリンドローム構造を形成し得るAAVベクターおよび/または組み換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)に存在する核酸配列の区間を表す(Muzyczka N and Berns KI 2001)。用語「非分解性ITR」は、Repタンパク質による分解が低減されるように修飾されたITRを表す。非分解性ITRは、非分解性ITRの低い分解または非分解をもたらし、自己相補的なAAVベクターの90~95%をもたらす、末端分解部位(TRS)を伴わないITR配列であり得る(McCarty et al 2003)。
【0031】
「操作可能に結合した」は、2つ以上のポリヌクレオチド(たとえばDNA)セグメントの間の機能的な関係を表す。通常、この用語は、転写される配列に対する転写制御配列の機能的な関係を表す。たとえば、プロモーターまたはエンハンサー配列は、適切な宿主細胞または他の発現系においてコード配列の転写を刺激または調節する場合、コード配列に操作可能に結合している。一般的に、転写される配列に操作可能に結合しているプロモーター転写制御配列は、転写される配列に連続しており、すなわちこれらはシス作用性である。しかしながら一部の転写制御配列、たとえばエンハンサーは、物理的に連続的である必要はなく、またはそれらが転写を増強するコード配列に近接した位置する必要はない。
【0032】
「目的のポリヌクレオチド」は、CRXをコードするいずれかのヌクレオチド配列を表す。
【0033】
「プロモーター」は、操作可能に結合した遺伝子、またはタンパク質をコードするヌクレオチド配列などの転写を調節する配列を表す。プロモーターは、転写、ならびにRNAポリメラーゼおよび効率的な転写に必要な他の転写因子の認識部位を方向付けるために十分な配列を提供し、細胞に特異的な発現を指示できる。転写を指示するために十分な配列に加えて、本発明のプロモーター配列はまた、転写の調節に関与する他の調節エレメント(たとえばエンハンサー、コザック配列、およびイントロン)の配列を含み得る。さらに、既知の調節エレメントを混合しマッチングすることにより機能的なプロモーターを作製するための標準的な技術が当該分野で知られている。「トランケートされたプロモーター」もまた、プロモーターフラグメントから、または既知の調節エレメントのフラグメントの混合およびマッチングにより、作製され得る。
【0034】
「対象」または「それを必要とする対象」は、哺乳類、好ましくはヒトを表す。一実施形態では、対象は、「患者」、すなわち、医療の受診を待機しているか、または医療を受診しているか、または過去/現在/将来医療の対象であった/ある/あり得るか、または疾患の発症に関してモニタリングされている温血動物、より好ましくはヒトであり得る。一実施形態では、対象は、成年(たとえば18歳超の対象)である。別の実施形態では、対象は、小児(たとえば18歳未満の対象)である。一実施形態では、対象は雄性である。別の実施形態では、対象は雌性である。
【0035】
遺伝性網膜ジストロフィー(IRD)の「処置(treatingまたはtreatment)」は、たとえばその発症またはその臨床症状の少なくとも1つを遅延または停止または低減することにより、IRDを軽減することを表す。「処置(treatingまたはtreatment)」はまた、患者により識別可能でなくてもよいものを含む少なくとも1つの身体的パラメータを緩和または軽減することを表し得る。「処置(treatingまたはtreatment)」はまた、物理的に(たとえば識別可能な症状の安定化)、生理的に(たとえば身体的パラメータの安定化)、またはその両方のいずれかで、IRDを調節することを表し得る。より具体的には、IRDの「処置」は、IRDを有する対象の視覚機能および/または局所的な解剖学的形態の改善または保存をもたらすいずれかの作用を意味する。「処置」はまた、本明細書使用される場合、IRDの発症(onset)または発症(development)または進行を予防または遅延することを表す「予防(preventingまたはprevention)」を包有する。「予防」は、IRDに関連する場合、IRDを有する患者ならびに視覚機能、網膜の解剖学的状態、および/またはIRDパラメータの悪化に関してリスクのある患者において、後述されるように上記悪化を予防または遅延させるいずれかの作用を意味する。疾患の処置および/または予防を評価するための方法は、当該分野で知られており、本明細書中以下で記載されている。
【0036】
「ウイルスベクター(Virus vectorまたはviral vector)」は、遺伝子送達ビヒクルとして機能し、ウイルス(たとえばAAV)のカプシドの中にパッケージングされた組み換えウイルスゲノムを含む、野生型ではない組み換えウイルス粒子を表すように意図されている。特定のタイプのウイルスベクターは、「組み換えアデノ随伴ウイルスベクター」または「AAVベクター」であり得る。ウイルスベクターにパッケージングされた組み換えウイルスゲノムはまた、本明細書中「ベクターゲノム」と呼ばれる。
【0037】
本発明の詳細な説明
本発明は、錐体光受容器細胞および杆体光受容器細胞の両方において異種性CRX遺伝子を発現するウイルスベクターの発見に基づく。
【0038】
よって、本発明は、錐体および杆体の細胞において網膜の転写因子である錐体-杆体ホメオボックス(CRX)の発現を指示する組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、当該ベクターを含む組成物、ならびにこのベクターまたは組成物の使用方法に関する。
【0039】
本発明のウイルスベクターは、組み換えアデノ随伴(rAAVまたはAAV)ベクターであり得る。AAVベクターは、効率的な複製を容易にするためのヘルパーウイルスを必要とする小分子の一本鎖DNAウイルスである。ウイルスベクターは、ベクターゲノムおよびタンパク質のカプシドを含む。ウイルスベクターのカプシドは、現在同定されているヒトおよび非ヒトのAAV血清型および未だ同定されていないAAV血清型を含む、当該分野で知られているAAV血清型のいずれかから供給され得る。ウイルスのカプシドは、ハイブリッドウイルスベクターを形成するために他のベクターの成分と混合およびマッチングされてよく、たとえばウイルスベクターのITRおよびカプシドは、異なるAAV血清型からもたらされてもよい。一態様では、ITRは、AAV2血清型由来であってもよく、カプシドは、たとえばAAV2またはAAV5血清型由来である。さらに、当業者は、ベクターのカプシドがモザイクカプシド(たとえば異なる血清型由来のカプシドのタンパク質の混合物から構成されるカプシド)またはさらにはキメラカプシド(たとえばマーカーを作製するためおよび/または組織の指向性を変えるために外来性または関連しないタンパク質配列を含むカプシドタンパク質)でもあり得ることを認識している。本発明のウイルスベクターはAAV2カプシドを含み得ることが企図されている。さらに本発明はAAV5カプシドを含み得ることが企図されている。
【0040】
本発明では、用語「AAV」は、AAV1型(AAV-1)、AAV2型(AAV-2)、AAV3型(AAV-3)、AAV4型(AAV-4)、AAV5型(AAV-5)、AAV6型(AAV-6)、AAV7型(AAV-7)、およびAAV8型(AAV-8)およびAAV9型(AAV9)を表す。様々なAAVの血清型のゲノム配列およびネイティブな末端反復(TR)、Repタンパク質、およびカプシドのサブユニットの配列は、当該分野で知られている。このような配列は、文献または公的なデータベース、たとえばGenBankで見出され得る。たとえばGenBankアクセッション番号NC_001401(AAV-2)、AF043303(AAV2)、およびNC_006152(AAV-5)を参照されたい。
【0041】
本明細書中使用される場合、「AAVベクター」は、杆体および/または錐体の細胞での遺伝子発現のための目的のポリヌクレオチド(すなわち異種性ポリヌクレオチド)を含むAAVベクターを表す。rAAVベクターは、5’および3’のアデノ随伴ウイルスの末端逆位配列(ITR)、および配列に操作可能に結合した目的のポリヌクレオチド(CRX)を含み、標的細胞においてその発現を制御する。
【0042】
特定の態様では、本発明のAAVベクターは、AAV2血清型である。
【0043】
別の態様では、本発明のAAVベクターは、AAV2/5またはAAV2/8血清型である。
【0044】
本発明のAAV2/5またはAAV2/8ベクターは、当該分野で知られている方法を使用して産生される。要約すると、本方法は、全般的に、(a)宿主細胞へのAAVベクターの導入、(b)宿主細胞へのAAVヘルパーコンストラクトの導入(ここでヘルパーコンストラクトは、AAVベクターから欠けているウイルスの機能を含む)、および(c)ヘルパーウイルスを宿主細胞へ導入することを含む。AAVビリオンの複製およびパッケージングのための全ての機能は、AAVビリオン内へのAAVベクターの複製およびパッケージングを達成するため、存在する必要がある。宿主細胞への導入は、同時にまたは経時的に標準的なウイルス学の技術を使用して行われ得る。最後に、宿主細胞は、AAVビリオンを産生するために培養され、塩化セシウム(CsCl)勾配などの標準的な技術を使用して精製される。残存するヘルパーウイルスの活性は、たとえば熱失活などの既知の方法を使用して失活され得る。その後、精製されたAAVビリオンは、本発明の方法に使用するための準備が整った状態にある。
【0045】
また本ベクターは、コードされたタンパク質の発現および分泌を可能にする制御配列、たとえばプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、配列内リボソーム進入部位(IRES)、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)をコードする配列などを含み得る。これに関して、本ベクターは、感染した細胞においてタンパク質の発現をもたらすまたは向上させるために、目的のポリヌクレオチドに操作可能に結合しているプロモーター領域を含む。このようなプロモーターは、感染した組織においてタンパク質の効率的かつ適切な産生を可能にするために、遍在性、組織特異性、強力、弱小、制御されたもの、キメラ性、誘導可能などであり得る。プロモーターは、コードされたタンパク質に対して同種性であり得るか、または細胞性プロモーター、ウイルスプロモーター、真菌プロモーター、植物プロモーター、または合成プロモーターを含む異種性であり得る。本発明の使用に好ましいプロモーターは、網膜色素変性症1(RP1)またはヒトロドプシンキナーゼ1(GRK1)などの錐体および杆体の細胞で発現を駆動することができるプロモーターの中から選択される。
【0046】
好ましい態様では、本発明は、CRXをコードするポリヌクレオチドがヒトロドプシンキナーゼ1(GRK1)プロモーターの制御下にあるAAVベクターに言及する。
【0047】
CRXの例示的なアミノ酸配列は、NCBI Reference Sequence:NP_000545.1であり、CRXの例示的な核酸配列は、NCBI Reference Sequence:NM_000554.6である。
【0048】
また本発明は、本発明のウイルスベクターを含む組成物および医薬組成物に言及する。本医薬組成物は、薬学的に許容される担体と共に製剤化されている。本組成物は、たとえばCRX関連IRDの処置または予防に適切な1つ以上の他の治療用作用物質をさらに含み得る。薬学的に許容される担体は、本組成物を増強もしくは安定化し、または本組成物の調製を容易にするために使用され得る。薬学的に許容される賦形剤は、いずれかの種類の非毒性の固体、半固体、または液体のフィラー、希釈剤、カプセル化材料、または製剤化助剤を表す。本発明の組成物に使用され得る薬学的に許容される賦形剤として、限定するものではないが、生理的に適合可能である溶媒、界面活性剤、分散媒体、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤など、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、リン酸塩などの緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分的なグリセリド混合物、水、塩、または電解質、たとえば硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、シリカ、コロイドシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質(たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム)、ポリエチレングリコール、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコール、および羊毛脂が挙げられる。
【0049】
本発明に係る医薬組成物は、限定するものではないが、アスコルビン酸、アスコルビルパルミタート、ブチルヒドロキシトルエン、ソルビン酸カリウム、またはローズマリー(Rosmarinus officinalis)抽出物を含む抗酸化剤をさらに含み得る。
【0050】
本発明に係る医薬組成物は、限定するものではないが、無機酸、たとえば塩酸もしくはリン酸、または有機酸、たとえば酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などで形成される酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基で形成)を含む薬学的に許容される塩をさらに含み得る。遊離カルボキシル基で形成された塩はまた、無機塩基、たとえばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄など、および有機塩基、たとえばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどに由来し得る。
【0051】
また賦形剤は、たとえば水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、および液体のポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、ならびにオレイン酸などの植物油を含む、溶媒または分散媒体であり得る。たとえば、レシチン(すなわちダイズレシチンまたは脱脂したダイズレシチン)などのコーティング剤の使用、分散の場合では必要とされる粒径の維持、および界面活性剤の使用により、適切な流動性が維持され得る。
【0052】
本発明のベクターまたは医薬組成物は、当該分野で知られている様々な方法により投与され得る。投与の経路および/または形式は、望まれる結果に応じて変動する。投与は、網膜下であることが好ましい。薬学的に許容される担体は、網膜下、硝子体内、静脈内、皮下、または局所投与に適している。
【0053】
本組成物は、無菌性かつ流動的であるべきである。適切な流動性は、たとえば、レシチンなどのコーティング剤の使用、分散の場合では必要とされる粒径の維持、および界面活性剤の使用により、維持され得る。多くの場合、等張剤、たとえば糖、マンニトールまたはソルビトールなどのポリアルコール、および塩化ナトリウムを本組成物に含むことが好ましい。
【0054】
関連する当業者は、たとえば塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、乳酸加リンゲル注射液などの等張性ビヒクルを使用して適切な液剤を良好に調製することができる。保存剤、安定化剤、バッファー、抗酸化剤、および/または他の添加剤が、必要に応じて含まれ得る。遅延放出では、本ベクターは、たとえば生体適合性ポリマーから形成されるマイクロカプセルまたは当該分野で知られている方法によるリポソームの担体系などの、徐放のために製剤化されている医薬組成物に含まれ得る。
【0055】
本発明の医薬組成物は、当該分野でよく知られており規定通り行われる方法により調製され得る。
【0056】
医薬組成物は、好ましくはGMPの条件下で製造される。通常、ウイルスベクターの治療上有効な用量または効果的な用量が、本発明の医薬組成物に使用される。ウイルスベクターは、当業者に知られている従来の方法により薬学的に許容される剤形へと製剤化され得る。投与レジメンは、最適な望ましい反応(たとえば治療反応)を提供するために調節される。たとえば、単回のボーラスが投与されてもよく、いくつかの分割した用量が経時的に投与されてもよく、または用量が治療状況の緊急時により示される場合などで比例的に低減もしくは増大されてもよい。投与の容易さおよび用量の均一性のための用量単位形態に非経口組成物を製剤化することが特に好適である。本明細書中使用される用量単位形態は、処置される対象に対して単位用量として適切な物理的に個別の単位を表し;各単位は、必要とされる薬学的な担体と共に望ましい治療効果をもたらすように計算された所定の量の有効な化合物を含む。
【0057】
本発明の医薬組成物中の有効成分の実際の用量のレベルは、患者に対する毒性を伴わない、特定の患者、組成物、および投与形式にとって望ましい治療上の反応を達成するために有効な有効成分の量を得るために変動し得る。選択された用量のレベルは、使用される本発明の特定の組成物の活性、投与経路、投与時間、使用される特定の化合物の排泄速度、処置の期間、使用される特定の組成物と併用して使用される他の薬物、化合物、および/または物質、処置される患者の年齢、性別、体重、状態、全般的な健康状態、以前の病歴などの要因を含む様々な薬物動態的な要因に応じて変化する。
【0058】
本発明は、錐体および杆体の細胞で発現する場合に網膜疾患に好適な作用を有するCRXをコードするポリヌクレオチドを含むAAVベクターを、それを必要とする対象の眼に送達することによる、前記対象のCRX関連IRDを処置するための方法を提供する。
【0059】
より具体的には、本発明は、それを必要とする対象のCRX関連IRDを処置するための方法であって、CRX関連IRDは、CRX遺伝子の優性変異からもたらされる網膜症に関するか、またはCRXの発現により治癒されるhypomorphic変異による症状をもたらす、方法を提供し、さらにより具体的には、RP、CORD、もしくはLCAなどの網膜変性疾患の優性型を処置するため、またはPDE6Bのhypomorphic変異を処置するための方法を提供する。
【0060】
さらなる態様では、本発明は、それを必要とする対象でのCRX関連IRDの処置に使用するための、CRXを発現するAAVベクターに言及する。
【0061】
本発明では、CRX関連IRDは、CRX遺伝子の優性変異からもたらされる網膜症に関連するか、またはCRXの発現により治癒されるhypomorphic変異による症状をもたらす。
【0062】
通常、対象は、CRX遺伝子の優性変異からもたらされるCRX関連IRDに罹患しているかまたは罹患している可能性が高い。この遺伝子の優性変異は、RP、CORD、またはLCAなどの網膜変性疾患の優性型に関連している。
【0063】
別の態様では、本発明はまた、CRX遺伝子の優性変異に由来するCRX関連IRDの処置に使用するためのベクターまたは組成物または医薬組成物に言及する。
【0064】
別の態様ではまた、本発明は、CRXの標的遺伝子のhypomorphic変異により引き起こされるCRX関連IRDの処置に使用するためのベクターまたは組成物または医薬組成物に言及する。
【0065】
より具体的な態様では、本発明はまた、PDE6Bのhypomorphic変異の処置に使用するためのベクターまたは組成物または医薬組成物に言及する。
【0066】
本発明では、処置は、治療上の処置または防止的もしくは予防的な処置のいずれかである。
【0067】
よって、処置される対象は、IRDにすでに罹患しているものおよびこの疾患を有する傾向があるものまたはこの疾患を予防すべきもののいずれかである。
【0068】
一実施形態では、本発明に係る化合物の治療有効量を投与された後、対象が特定の疾患に関連する1つ以上の症状の観察可能かつ/もしくは測定可能な低減;および/またはクオリティオブライフの改善を示す場合、対象の「処置」は成功している。
【0069】
処置の成功および疾患の改善を評価するためのパラメータは、医師によく知られている規定の手段により容易に測定可能である。
【0070】
別の態様では、本発明のベクター、組成物、または医薬組成物は、治療有効量で投与される。
【0071】
医師は、本医薬組成物で使用される本発明のウイルスベクターの投与を、望ましい治療効果を達成するために必要とされる用量よりも低いレベルで開始し、望ましい効果が達成されるまで用量を徐々に増大させることができる。一般的に、本発明の組成物の有効な用量は、本明細書中記載されるCRX関連の網膜ジストロフィーの処置で、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトまたは動物であるかどうか、行われる他の薬物療法、および処置が防止的または治療的であるかどうかを含む多くの異なる要因に応じて変動する。
【0072】
本明細書中使用される場合、「治療有効量」は、対象に治療上の利点を提供するAAVベクターの量を意味する。一実施形態では、用語「有効量」は、標的に有意な負の作用または有害な副作用を引き起こすことなく、(1)CRX関連IRDの発症を遅延もしくは予防するか、(2)CRX関連IRDの1つ以上の症状の進行、憎悪、もしくは悪化を遅延もしくは停止するか、(3)CRX関連IRDの症状の軽減をもたらすか、(4)CRX関連IRDの重症度もしくは発症頻度を低減するか、または(5)CRX関連IRDを治癒することを目的とするベクターのレベルまたは量を意味する。
【0073】
ベクターの用量は、疾患の状態、対象(たとえば患者の体重、代謝などによる)、処置スケジュールなどに応じて適応され得る。本発明の文脈の中での好ましい有効用量は、PR細胞で最適な発現を可能にする用量である。
【0074】
処置用量は、安全性および有効性を最適化するために用量設定される必要がある。ウイルスベクターを用いた網膜下投与では、用量は、1×10ベクターゲノム(vg)/眼~1×1012vg/眼の範囲であり得る。たとえば、用量は、1×10vg/眼、1.5×10vg/眼、2×10vg/眼、2.5×10vg/眼、3×10vg/眼、4×10vg/眼、5×10vg/眼、6×10vg/眼、7.5×10vg/眼、8×10vg/眼、9×10vg/眼、0.5×10vg/眼、1×10vg/眼、1.5×10vg/眼、2.5×10vg/眼、3×10vg/眼、4×10vg/眼、5×10vg/眼、6×10vg/眼、7×10vg/眼、7.5×10vg/眼、8×10vg/眼、9×10vg/眼、0.5×1010vg/眼、1×1010vg/眼、1.5×1010vg/眼、2.5×1010vg/眼、3×1010vg/眼、4×1010vg/眼、5×1010vg/眼、6×1010vg/眼、7×1010vg/眼、7.5×1010vg/眼、8×1010vg/眼、9×1010vg/眼、0.5×1011vg/眼、1×1011vg/眼、1.5×1011vg/眼、2.5×1011vg/眼、3×1011vg/眼、4×1011vg/眼、5×1011vg/眼、6×1011vg/眼、7×1011vg/眼、7.5×1011vg/眼、8×1011vg/眼、9×1011vg/眼、0.5×1012vg/眼、1×1012vg/眼であり得る。
【0075】
本発明の好ましい実施形態では、ベクターまたは上記ベクターを含む組成物は、1×10~1×1012vg/眼の量で投与される。
【0076】
対象に本発明のベクターを投与することは、錐体および杆体の細胞におけるCRXの発現のため直接的な網膜下注射により行われ得る。
【0077】
別の態様では、本発明に係る使用のためのベクターまたは組成物は、疾患の発症の前かつこの発症を予防する必要がある場合に、投与される。
【0078】
別の態様では、本発明に係る使用のためのベクターまたは組成物は、光受容器の変性の開始後、より具体的には、機能的な錐体および/または光受容器が存在する限りかつ必要性がある限り、光受容器の変性の開始後に、投与される。
【0079】
本明細書中記載されるウイルスベクターは、主に、眼あたり1回の用量として使用され、ここで、以前の投与ではカバーされない網膜の領域を処置するための反復投与を行う可能性がある。投与の用量は、処置が防止的または治療的かどうかに応じて変動し得る。
【0080】
上記の個別のセクションおよび実施形態で言及される本発明の様々な特性および実施形態は、適宜、変更すべき点は変更して、他のセクションおよび実施形態に適用する。結果として、1つのセクションまたは実施形態で記述された特性は、他のセクションまたは実施形態で記述された特性と、適宜組み合わせられ得る。
【0081】
さらに本発明を、以下の図面および実施例により示す。しかしながらこれら実施例および図面は、本発明の範囲を限定するといかなる方法であっても解釈すべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】ヒトCRXの発現を駆動するヒトロドプシンキナーゼ1プロモーターを含む822-pKL.AAV.GRK1.hCRXの最終的なベクターのプラスミドマップ。このプロモーターは、制限部位SpeIおよびEcoRIを使用してサブクローニングされた。ヒトCRXをコードするcDNAは、粘着部位をもたらすKpn1消化を使用してサブクローニングされ、平滑末端化され、続いてXba1消化を行った。
図2】選択されたプロモーターと組み合わされた選択されたAAVベクターは、WT光受容器およびCrxRip/+の未成熟な錐体様の光受容器の効率的な形質導入を可能にする。 WTまたはCrxRip/+マウスに、P30で2.5×1010のAAV-GFPの単回網膜下注射を行った。切片作製および抗GFP抗体での免疫標識のため、14日後に眼を回収した。核は、DAPIで染色した。 ONL:外顆粒層;INL:内顆粒層;GCL:神経節細胞層。スケールバー、20μm。
図3】CrxRip/+におけるAAV-CRXの網膜下注射の後のCRXの過剰発現 CrxRip/+マウスに、P30で3つの異なる用量のAAV-CRX(0.5×1010、1×1010および2.5×1010vg/眼)の単回網膜下注射を行うかまたは行わなかった。14日後に、CRX発現をイムノブロッティングにより評価した。
図4】AAV-GFPまたはAAV-CRXの網膜下注射の後のCRX発現の定量化 CrxRip/+マウスに、P30~P40に、0.5×1010、1×1010、または2.5×1010vg/眼の3つの異なる用量のAAV-GFPまたはAAV-CRXの単回網膜下注射を行った。14日後に、CRX発現を、イムノブロッティングにより定量化した。発現は、チューブリンを使用して正規化した。全ての定量化は、0.5.1010vgのAAV-GFPを注射した動物における内因性CRX発現に対して報告した。 黒色のバー:AAV-GFPを注射したCrxRip/+における内因性CRX発現;白色のバー:AAV-CRXを注射したCrxRip/+マウスにおけるCRX発現。
図5】分化したPRが、AAV-CRXベクターを使用したCrxRip/+網膜で観察され得る。 CrxRip/+マウスに、P30で2.5×1010のAAV-CRXの単回網膜下注射を行った。 他の眼には注射せず、対照として使用した。1カ月後に、切片を作製し、抗ロドプシン抗体および抗錐体アレスチン抗体で標識するために、眼を回収した。核は、DAPIで染色した。 ONL、外顆粒層;INL、内顆粒層;GCL、神経節細胞層、スケールバー、20μm。
図6】外節で分化したPRが、低用量のAAV-CRXベクター(0.5.1010vg)を使用してCrxRip/+網膜で観察できる。 (A)CrxRip/+マウスの両眼に、P30で0.5×1010vgのAAV-CRXまたはAAV-GFPの網膜下注射を行った。2カ月後に眼を回収し、抗ロドプシン抗体および抗錐体アレスチン抗体で標識した後に、平面状に標本作製した。AAV-GFP網膜下注射の後にGFP発現が直接観察された。スケールバー、20μm。 (B)CrxRip/+マウスにて、P30で、0.5×1010のAAV-CRXおよび少ない用量(<1.10vg)のAAV-GFPの単回網膜下注射を、GFPを用いた低密度標識の形質導入光受容器のために行い、これらの形態を可視化した。複数のzセクションの共焦点の獲得は、3Dの再構築を可能にした。 1、外節;2:核;3、シナプス終末、スケールバー、5μm。
図7】AAV-CRX網膜下注射は、光受容器の光感受性の回復を可能にした。 CrxRip/+マウスの両眼に、P30で、0.5×1010のAAV-CRXまたはAAV-GFPの単回網膜下注射を行った。注射から4カ月後に、光応答を評価した。 (A)暗順応b波の応答の増大が、2.2 log cd.sec/mの刺激強度で、AAV-GFP対照と比較してAAV-CRXで処置した動物において統計上有意であった。(B)明順応b波の応答の増大が、1.6 log cd.sec/mの刺激強度で、AAV-GFP対照と比較してAAV-CRXで処置した動物において統計上有意であった。(C)明/暗の選択試験は、AAV-CRXを注射したCrxRip/+マウスが明室の区画に向かう線を横切った回数は、注射を行わなかったWTマウスに匹敵することを示した。対照的に、AAV-GFPを注射したCrxRip/+マウスはより頻繁にこの線を超え、光を検出するそれらの特性の不履行を示している。 灰色のバー、注射を行っていないWT;黒色のバー、AAV-GFPを注射したCrxRip/+マウス;白色のバー、AAV-CRXを注射したCrxRip/+マウス、*p<0.05、**p<0.01。
図8】2.5.1010vgの用量でのAAV-CRXベクター注射の後に、rd10マウスにおいて光受容器の変性が低減した。 (A)AAV-CRXベクターを、P14 Rd10マウスに注射するかまたは注射を行わなかった。注射から2カ月後に網膜を回収した。網膜の切片を、抗ロドプシン抗体(Rho)および抗錐体アレスチン抗体(CA)で免疫標識した。核は、DAPIで染色した。 (B)ヒストグラムは、AAV-CRXを注射した(白色のバー)または注射しなかった(NI、黒色のバー)rd10 ONLの厚さの測定を表す。ONL、外顆粒層;INL、内顆粒層;GCL、神経節細胞層。スケールバー、20μm。
図9】0.5.1010および1.1010vgの用量でのAAV-CRXベクター注射の後に、rd10マウスにおいて光受容器の変性が低減した。 ヒストグラムは、P14でのAAV-CRXの注射から2カ月後のrd10 ONLの厚さの測定を表す。パラフィン切片上のヒトCRXの特異的な検出は、形質導入した領域または形質導入しなかった領域の区別を可能にした。 黒色のバー、AAV-CRXを形質導入しなかった領域;白色のバー、AAV-CRXを形質導入した領域。
図10】錐体のみの網膜におけるCRXR41Wの発現は、AAV-CRXを使用して予防され得る錐体の変性をもたらす。 (A)2.8 log cd.sec/mの光刺激でNrl-/-と比較した2カ月齢のNrl-/-;Tg(CRXR41W)における明順応b波の振幅の減少を表すヒストグラム。 (B)AAV-GFPと比較したAAV-CRXで2カ月目に処置したNrl-/-;Tg(CRXR41W)における明順応b波の振幅の注射から2カ月後の保存を表すヒストグラム。*p<0.05。
【実施例
【0083】
本発明を、以下の実施例によりさらに示す。
【0084】
実施例1
材料および方法
動物
雄性および雌性の成年(3~8週齢)のC57BL/6Jの、CrxRip/+およびTg(CRXR41W)のマウス、ならびに雄性および雌性の若年(2週齢)のrd10マウスは、研究動物施設(Animalerie central - campus CNRS Gif sur Yvette)で産生された。
【0085】
全ての動物実験は、実験動物のケアおよび使用の欧州のガイドラインにしたがい行われ、地域の倫理委員会(CEEA59)により認可された。
【0086】
ベクター
ヒトロドプシンキナーゼ(GRK1)プロモーターの制御の下の緑色蛍光タンパク質(GFP)またはヒト錐体-杆体ホメオボックスタンパク質(CRX)を発現するrAAV2/5ベクターを産生した。
【0087】
1.ベクタープラスミドクローニング(822-pKL.AAV.GRK1.hCRXベクター#6556 batch)
ベクタープラスミドを、以下に記載されるように2つの段階で構築した。
まず、754-pAAV.GRK1.eGFP.wpre.bGHからSpe1(185位)およびEcoR1(427位)のダブルダイジェスションによりプロモーターGRK1を抽出し、778-pKL.AAV.CAG.bGHベクタープラスミドをSpe1(188位)-EcoR1(1947位)により前もってダブルダイジェスションを行ってCAGプロモーターを抽出し、中間体のプラスミドpKL.AAV.bGHを得てから、プロモーターGRK1を挿入した。GRK1プロモーターを、pKL.AAV.bGHに挿入して、821-pKL.AAV.GRK1.bGHバックボーンプラスミドを作製した。
第2のステップ:821-pKL.AAV.GRK1.bGHバックボーンプラスミドを、EcoR1(531位)/Xba1(569位)のダブルダイジェスションにより直線状にした。hCRX遺伝子を、Kpn1消化(1171位)によりpcDNA4c.hCRXプラスミドから抽出し、粘着部位を作製し、平滑末端化し、続いてXba1消化(2120位)を行った。抽出したhCRX遺伝子を、直線状にしたpKL.AAV.hCRX.bGHの531位に挿入し、822-pKL.AAV.GRK1.hCRXの最終的なベクタープラスミドを作製した(図1)。
【0088】
822-pKL.AAV.GRK1.hCRXの最終的なベクタープラスミドは、発現カセットに対応する106位から2745bpまでシーケンスされている。
【0089】
2.AAV2/5の製造および精製の操作法
細胞の増幅、トランスフェクション、収集、および上清のPEG沈殿
ベントキャップを有するCellStack Cells 5チャンバー(CS5)に播種したHEK293細胞を、10%のFBSおよび1%のPen/Strepを補充したDMEMで培養した。約80%のコンフルエンスで、細胞に、CaPO沈殿技術を使用して、ベクタープラスミドおよびヘルパープラスミド(アデノウイルス(E2A、E4、およびVA RNA)由来のヘルパー遺伝子ならびにrepの血清型-2およびカプシド血清型-5に対応するrep cap遺伝子を含む)を同時にトランスフェクトする。培養培地を、CS5から除去し、トランスフェクション培地と交換し、次に細胞を、37±1℃および5±1%のCOで、6~15時間インキュベートする。次に、トランスフェクション培地をCS5から除去し、新鮮な交換培地(DMEM、1%のPen/Strep)に置き換えた後、37±1℃および5±1%のCOで3日間インキュベーションを行う。次に、トランスフェクトしたCS5の細胞を回収する。この上清のみを、PEGで一晩、5±3℃で沈殿させる。次に沈殿した上清を遠心分離する。この上清を廃棄し、PEG-ペレットを、TBSに再懸濁した後、ベンゾナーゼ(benzonase)による消化を行う。
【0090】
二重のCsCl勾配の超遠心分離によるベクター精製
ウイルスの懸濁液を遠心分離し、ベクターを含む上清を、SW28ローター用のUltra-Clearチューブに段階的な(step)密度のCsCl勾配で充填する。この勾配を、15℃で24時間、28000rpmで遠心分離する。完全な粒子のバンドを回収し、新規のSW41ローター用のUltra-Clearチューブに移す。第2の勾配を、38000rpmで48時間遠心分離する。次に、濃縮された完全な粒子のバンドを回収する。次に、ウイルスの懸濁液を、眼の製剤用のバッファー溶液に対してSlide-a Lyzerカセットにおいて4回の連続した透析に供する。最終的に精製したベクターを回収し、vgの力価および純度のアッセイのためにサンプリングし、ポリプロピレン低結合クライオバイアルに-70℃未満で保存する。
【0091】
3.クオリティコントロール:ベクターゲノムの定量化
ベクターの用量を決定するための基本的な単位は、ベクターゲノム(vg)である。ベクターゲノムは、目的の遺伝子を含む粒子の濃度に対応しており、D’Costaらの2016年の論文に記載されるITR-2に特異的なプライマーを使用した定量的なPCRにより定量化される。
【0092】
in vivoでの網膜下AAV注射
成年/若年のマウスに、リン酸緩衝食塩水(PBS)におけるキシラジン(1mg/mL)およびケタミン(10mg/mL)から構成される溶液をマウスあたり50μL/10g使用して、腹腔内注射で麻酔をかけた。特有の点眼剤(Mydriaticum(トロピカミド5mg 0.5%)およびNeosynephrine(塩酸フェニレフリン2.5%))を使用して虹彩を散大させた。眼に、Cebesine 0.4%を使用して麻酔をかけた。
【0093】
麻酔をかけた後、C57BL/6J、rd10およびCrxRip/+のマウスに、
5×10vg/眼(n=20匹のCrxRip/+マウス;n=3匹のrd10マウス;n=2匹のNrl-/-;Tg(CRXR41W
1×1010vg/眼(n=8匹のCrxRip/+マウス、n=2匹のrd10マウス)
2.5×1010vg/眼(n=3匹のC57BL/6Jマウス;n=10匹のCrxRip/+マウス;n=2匹のrd10マウス)
のAAV2/5.hGRK1.GFP(AAV-GFP)、または
5×10vg/眼(n=3匹のC57BL/6Jマウス;n=21匹のCrxRip/+マウス;n=3匹のrd10マウス;n=2匹のNrl-/-
1×1010vg/眼(n=9匹のCrxRip/+マウス;n=4匹のrd10マウス)
2.5×1010vg/眼(n=6匹のC57BL/6Jマウス;n=10匹のCrxRip/+マウス;n=14匹のrd10マウス)
のAAV2/5.hGRK1.hCRX(AAV-CRX)
を網膜下腔に注射した。
【0094】
5μLのハミルトンシリンジに取り付けられた33Gの斜角のついた針を、視神経近くのRPE/脈絡膜を通り腹側の網膜下腔へと挿入した。2μLをゆっくりと注射して、(約30秒の間に)RPE細胞から網膜を剥離した。
【0095】
タンパク質の抽出およびイムノブロット解析
マウスを、頸椎脱臼を用いて安楽死させた。網膜を解剖しドライアイスで凍結し、次に-80℃で保存した。タンパク質を、プロテアーゼ阻害剤(cOmplete(商標))を含む溶解バッファー(20mMのNaHPO、250mMのNaCl、5%のDTT、30mMのNaPPi、0.1%のNP-40、5mMのEDTA)を使用して抽出した。機械的な破壊を、超音波処理により達成し、遠心分離(10分間、13200rpm、4°C)の後にタンパク質を単離した。
【0096】
試験される各眼由来のタンパク質20μgを、7.5%~12%の勾配のアクリルアミドゲル(Biorad)上に充填した。このランを、一定の電圧(100V)で行った。完了後に、ウェスタンブロットの転写(transfer)を、ニトロセルロース膜(ThermoFisher Scientific)上でiBlot 2 Dry Blotting Systemを使用して行った。
【0097】
転写の後、ニトロセルロース膜を、ブロッキングバッファー(PBST[PBS、0.05%のTriton X-100]、5%のミルク)と共に室温で1時間インキュベートした。次に、一次抗体を、4℃で一晩(マウス抗Crx(A-9)、ref.:sc-377138[Santa Cruz Biotechnology, Inc.]、batches J1116およびH2918、希釈1/5000)、または室温で一時間(マウス抗チューブリンクローンDM1A、ref.:T9026[Sigma-Aldrich]、batch 052M4837、希釈1/10000)、新鮮なブロッキングバッファーに添加した。過剰量の一次抗体をPBSTで10分間、3回すすいだ。
【0098】
二次抗体を、室温で2時間(ヤギ抗マウスIgG-ペルオキシダーゼ、ref.:A4416[Sigma-Aldrich]、batch SLBH3692、希釈1/5000)、新鮮なブロッキングバッファーに添加し、その後、PBSTで10分間、3回すすいだ。
【0099】
ECL顕色キット(Supersignal(商標)West Dura Extended Duration Substrate:34076[ThermoFisher Scientific];batch SK256986)を、暗室で顕色を行う5分前に、ニトロセルロース膜に添加した(Carestream(登録商標)Kodak(登録商標)BioMax(登録商標)light film、ref.:Z373508[Sigma-Aldrich])。
【0100】
膜は、ストリッピングバッファー(1.5gのグリシン、1mLのSDS 10%、1mLのTween-20、milliQ水 qs. 100mL、pH2.2)を用いてストリッピングすることができる。よって、この膜を、室温で10分間、2回インキュベートした後、2回のPBS洗浄を10分間行い、最後に、PBSTで5分間、2回洗浄した。膜を、上述のように一次抗体および2次抗体とインキュベートした。顕色の後、フィルムをスキャンし、Image Jで解析した。
【0101】
組織学解析
マウスを、頸椎脱臼を用いて安楽死させた。眼を回収し、4%のパラホルムアルデヒド(PFA)で1時間固定し、PBSですすいだ後、脱水(dehydratation)およびパラフィン包埋(paraffin inclusion)を行った。7μm厚の切片を、ミクロトーム(ロータリーミクロトーム、ref.:HM 340E[ThermoFisher Scientific])で切断し、37℃で一晩載置し、その後、室温で保存した。免疫組織化学的検査(IHC)の前に、スライドを、脱パラフィンし、次に、熱したクエン酸塩バッファー(pH6、0.1M)において500Wで20分間インキュベートした。冷却した後、スライドを、PBSの中に載置した。平坦な標本の網膜上での免疫染色(IHC)のため、網膜を解剖し、4%のPFAで1時間固定し、PBSですすぎ、一次抗体と共に直接インキュベートした。
【0102】
0.3%のトリトンX-100を補充したDako REAL(tm)抗体希釈液(ref S2022 lot 20060091)における一次抗体を、乾燥チャンバー(マウス抗ロドプシンclone 4D2、ref.:MABN15[Merck]、batch 2935495、希釈1/1000;ウサギ抗錐体アレスチン、ref.:AB15282[Merck]、batch 2802590、希釈1/1000;ヤギ抗GFP、ref.:ab6673[Abcam]、希釈1/1000)において4℃で一晩、スライドに添加した。平坦な標本の網膜を、一次抗体と共に2日間インキュベートした。
【0103】
これらを、0.3%のトリトンX-100を補充したDako REAL(tm)抗体希釈液(ref S2022 lot 20060091)における二次抗体(ロバ抗マウスIgG Alexa Fluor 555、ref.:A31570[ThermoFisher Scientific]、希釈1/1000;ロバ抗ウサギIgG Alexa Fluor 488、ref.:A21206[ThermoFisher Scientific]、希釈1/1000;ロバ抗ヤギAlexa Fluor 488、ref.:A11055[ThermoFisher Scientific]、希釈1/1000)を添加する5分前に、PBSTで3回すすいだ。暗室において室温で2時間インキュベートした後、スライドをPBSTで5分間、3回すすぎ、DAPI(ref.:62248[ThermoFisher Scientific]、batch RJ2279362、希釈1/1000)をPBSTにおいて20分間添加した。最後に、スライドを、PBSTで3回すすいだ。平坦な標本の網膜を、二次抗体と共に一晩インキュベートした。
【0104】
平坦な標本の網膜で、網膜を、光受容器の側を上にしてスライド上に置いた。FluorSave(商標)Reagent(ref.:345789、Millipore、batch 3034632)を、カバースリップを追加するために使用した。スライドは、4℃で保存した。写真は、Imager M2顕微鏡(Zeiss)またはLSM710共焦点顕微鏡(Zeiss)を使用して入手し、ZenソフトウェアおよびImage Jを使用して解析した。
【0105】
網膜電図
網膜電図(ERG)の記録を、Micron IV(Phoenix Research Laboratory)に取り付けた局所ERGモジュールを使用して行った。簡潔に述べると、マウスを一晩暗順応させ、暗赤色灯の下実験のために調製した。マウスに、ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)を使用して麻酔をかけ、点眼剤を介して塩酸プロパラカイン(0.5%、Alcon)を局所的に投与した。瞳孔を、トロピカミド(1%、Alcon)およびフェニレフリン(2.5%、Alcon)を使用して散大させ、GONAKヒプロメロース点眼用粘滑溶液(hypromellose ophthalmic demulcent solution)(2.5%、Akorn)で軽くコーティングした。Micron IVのレンズを角膜上に直接載置し、参照電極をマウスの頭に載置した。暗順応応答を、-1.7から2.2cd.s/m2まで光強度を増大させる一連のフラッシュを用いて引き起こした。明順応応答を、-0.5から2.8cd.s/m2まで光強度を増大させる一連のフラッシュを用いて杆体を脱感作させるバックグラウンド光の下で引き起こした。a波およびb波の値を引き出し、目的のグループ間の比較のためプロットした。
【0106】
明-暗の選択
装置は、20cm高のプレキシグラスの壁を有し、トラップドア(6×6cm)により暗室ボックス(15×15cm)に接続した明るく照らされた白色のボックス(40×15cm)からなるものであった。暗室ボックスの照明は、10ルクス未満であった。明室ボックスでは、光は、40cmの区画の端に配置されており、よって、入口の600ルクスから区画の端の1500ルクスまで増大する照明の勾配を提供した。
【0107】
試験を、午前9時~12時に行った。各マウスを、暗室の区画に10秒間置き、次にトラップドアを開口し、5分間マウスに装置全体を自由に利用させた。ステップスルー潜時、進入の数、および明室の区画で過ごした時間の合計をスコア付けした。
【0108】
実施例2
CRX関連網膜症マウスモデルにおいて効率的に形質導入された光受容器に対して使用されるプロモーターおよびAAVベクターの血清型の選択
いくつかのAAV血清型およびプロモーターが試験されており、成年において成熟した光受容器の形質導入を示した。CrxRip/+網膜の場合、外顆粒層は、未成熟な錐体様の光受容器のみを含み、よって、分化した光受容器を処置するために一般に使用されるAAVベクターは効率的ではない場合がある。よって、本発明者らは、杆体光受容器および錐体光受容器での遺伝子発現を方向付ける、光受容器に特異的なプロモーターにより駆動されるGFPを発現するいくつかの血清型を試験した。i)すでに杆体光受容器および錐体光受容器において遺伝子を発現することが良好に特徴づけられている、ii)臨床試験ですでに使用されている(PDE6B)、iii)本発明者らの公開済みのトランスクリプトームのデータに基づき本発明者らのマウスモデルにおいて活性であるため、ヒトロドプシンキナーゼ1(GRK1)プロモーターを選択した。血清型では、本発明者らは、マウス光受容器を特異的に形質導入することが記載されたAAV2/5ベクターを選択した。
【0109】
異なる用量のGFPを発現するAAVベクターを、1×10~5×1010vg/CrxRip/+の眼の範囲で、出生後30日目(P30)に網膜下腔に注射した。直後に、網膜下注射の質を、OCT(光干渉断層撮影:Optical Coherence Tomography)により観察される網膜剥離の存在により確認した。2週間後に、網膜剥離が消失し、光受容器の形質導入の効率を、蛍光眼底イメージング(fluorescent fundus imaging)、次いで組織学解析を行うことにより評価した。注射した網膜由来の切片で行ったGFP免疫蛍光解析により、光受容器が局在する外顆粒層に限定される注射領域での強力なGFP発現が、明らかとなった(図2)。
【0110】
結論として、さらなる治療のために選択されたAAVベクター血清型は、GRK1プロモーターを含むAAV2/5ベクターである。
【0111】
実施例3
AAV2/5ベクターを使用したGRK1プロモーターにより駆動されるCRX発現の定量化
産物(CRXを発現するAAVベクターまたはAAV-CRX)がCRXタンパク質を産生できることを検証するために、一連の網膜下注射を、CrxRip/+網膜にて3回の異なる用量(0.5.1010、1.1010、および2.5.1010vg)で行い、14日後にCRX発現を評価した。試験した3つの全ての用量で、CRXの発現の増大が観察された。産生される量は、使用される用量よりも注射に依存していた(図3)。この実験は、網膜下注射の技術が完全に習得されたときに反復したが、このときは、対照としてGFPを発現するベクター(AAV-GFP)を3つの異なる用量(0.5.1010、1.1010および2.5.1010vg)で注射した(図4)。CRXの相対発現を、チューブリンの正規化の後に定量化し、0.5.1010vgでのAAV-GFP注射の後に内因性CRX発現に対して記録した。CRX発現は、使用される用量に比例してAAV-CRX注射後に明らかに有意に増大した。
【0112】
実施例4
AAV-CRX注射によるCrxRip/+網膜における光受容器分化の回復
光受容器の分化を回復させるための産物(CRXを発現するAAVベクターまたはAAV-CRX)の特性を評価するために、P30にAAV-CRXを2.5×1010vg/眼で注射した。組織学解析のため、2カ月後に網膜を回収した。免疫組織化学的検査の解析を、抗ロドプシンおよび抗錐体アレスチンを使用して行い、それぞれ杆体光受容器および錐体光受容器を標識した。その結果は、注射した領域周辺に、大きなロドプシンおよび錐体アレスチンに陽性の細胞の領域があることを明確に明らかにした(図5)。CrxRip/+におけるAAV-CRX網膜下注射から4カ月後の平坦な標本の網膜上のロドプシンおよび錐体アレスチンに陽性の細胞のイメージングは、0.5.10.10vgの用量で完全に分化した杆体光受容器および錐体光受容器を示した(図6A)。対照的に、AAV-GFPを注射した眼は、これらのマーカーに対し陽性の細胞を示さなかった。AAV-CRX処置から4カ月後に分化した光受容器の形態を良好に可視化するために、低量のAAV-GFP(<1.10)を同時に注射して、イメージングしやすい低密度のGFP陽性細胞の存在を得た。高い拡大率のAAV-CRXで形質導入された平坦な標本の網膜上のGFP陽性光受容器は、良好に形成された外節、およびシナプス終末の存在を示した(図6B)。
【0113】
実施例5
AAV-CRX注射によるCrxRip/+網膜における部分的な機能の回復
CrxRip/+におけるAAV-CRX処置により新規に分化した杆体光受容器および錐体光受容器の機能性を評価するために、暗順応および明順応のERGの記録を行った。2.2 Log cd sec/mの最大刺激での暗順応B波の振幅の統計上有意な増加(図7A)が記録された。明順応応答では、全体的にわずかに改善したが、AAV-GFPで処置した動物と比較して1.6 Log cd sec/mの刺激でのみ統計上有意であった(図7B)。視覚に特化した脳領域に視覚シグナルを形質導入するためのCrxRip/+の新規に分化した光受容器の特性を推定するために、「明/暗の選択」と命名された挙動を使用した。WTマウスは、ボックスの暗部側で時間の大部分をすごし、未処置のCrxRip/+マウスは、完全な盲目のため無関係に両側に移動する。対照的に、AAV-CRXで処置したCrxRip/+マウスは、ボックスの明部側に通じる線を有意に少なく横切ることにより、暗部側でより多くの時間を過ごした(図7C)。まとめると、これら結果は、CrxRip/+光受容器の分化と、AAV-CRXで処置されたマウスの特に光を検出する特性による部分的な機能の回復とをもたらすAAV-CRX処置の特性を示した。
【0114】
実施例6
AAV-CRXは、細胞死からrd10光受容器を保護する。
過剰発現したCRXWTの潜在的な関心は、その標的遺伝子の発現を刺激することである。これらのうち、多くは、hypomorphic変異によるIRDに関連する酵素をコードし、特定のサブタイプのPDE6B変異などの低い発現または低い活性をもたらす。過剰発現したCRXWTによりCRXの標的遺伝子の発現を増強することは、発現および/または活性の特定の閾値に達することを可能にし、適切な光伝達および長期間のPRの維持を可能にする。これは、Pde6bのhypomorphic劣性の変異を担持するrd10マウスを使用して行った。注目すべきことに、網膜の変性は、このマウスにおいておよそP15で開始し、P30までに、杆体の大部分が消失する。十分な発現レベルの増大は、cGMPレベルを低減するために十分な酵素の活性の特定の閾値に達することを可能にし、よって、シグナル伝達カスケードを回復させる。よって、本発明の治療産物は、より多くの患者を潜在的に処置可能にする適用の幅広いスペクトラムを有する。
【0115】
hypomorphic変異に関するAAV-CRXベクターの潜在的な治療効果を評価するために、P14でrd10マウスに網膜下注射(2.5×1010vg)を行い、1カ月後に網膜を回収した。IHC解析は、対照と比較して処置した眼において良好なONLの保存を明らかにした。外節が顕著に減少した注射を行わなかった眼とは対照的に、杆体および錐体のPRは、良好に保存された外節を呈し、ここでロドプシンおよび錐体アレスチンは、健常な網膜などで局在化している(図8(A))。ONLの厚さの測定から、保存が確認された(図8(B))。さらに、P14での注射から1カ月後の効力を、2つのさらなる用量のAAV-CRX:0.5.1010vgおよび1.1010vgを用いて試験した。パラフィン切片を使用して、形質導入した領域を、AAVにより産生されるヒトCRXを特異的に認識し、内因性マウスCrxを特異的に認識しない抗CRXを使用して決定した。ONLの厚さの測定から、1.1010vgの用量が形質導入しなかった領域と比較して良好なONLの保存をもたらしたことが示された(図9)。これら結果は、IRDの特定のサブタイプに関する本発明の産物の使用の治療上の価値を明らかに示すものであった。
【0116】
しかしながら、P14で開始する変性の動態および注射時間により、AAV-CRX注射は、変性の発症の前にAAVによるCRX産生のためより多くの時間を提供することにより治療の効果の評価を改善するためにrd10の生涯において早期に行われなければならない。
【0117】
光受容器に特異的なヒト野生型CRX cDNAの正しい発現を実証した。月齢1カ月のCrxRip/+マウスにおけるAAV-CRXの予備的な網膜下注射は、i)0.5.1010vgの用量での毒性の不存在、ii)CRX発現レベルの増大、およびiii)処置を行わなかったマウスと比較して大きなロドプシンおよび錐体アレスチンに陽性の細胞の領域を伴う、注射から4カ月後のPR分化の再開を示した。特に、本発明の遺伝子療法産物は、杆体光受容器と比較して多い錐体の分化をもたらす。最後に、網膜下注射から4カ月後の暗順応および明順応の網膜電図(ERG)の応答のわずかな回復が観察された。まとめると、これらの非常に有望な結果は、成年のCrxRip/+網膜におけるPRの分化を回復させる本発明の産物の有効性を明らかに示している。
【0118】
実施例7
第2のマウスモデルは、CRXR41W変異を担持するCORDの発端者をそれぞれ伴うフランスの2家族の同定に基づき確立された。この優性変異は、CRXの核の局在化を変えないが、そのDNA結合の特性を低減し、その標的遺伝子の転写活性の減少をもたらす。この変異は、ドミナントネガティブ作用またはCRXR41Wを標的プロモーターに結合させない機能喪失をもたらし得る。よって、遺伝子導入系のTg(CRXR41W)が、レンチウイルスの手法(collaboration P. Charneau and L. Vives, Institut Pasteur, Paris)を使用して作製されている。この系は、Crxプロモーターの制御の下mycタグと融合した反復性ヒトCRXR41W変異を担持する。導入遺伝子の複数のコピーを有するTg(CRXR41W)創始者の第1のグループは、光受容器の変性による暗順応および明順応のERG応答の喪失を示した。コピー数を減らすために野生型(WT)のマウスと連続して交配させることにより、ERG応答の部分的な回復がもたらされ、疾患の発症におけるCRXWTおよびCRXR41Wの量の間の比率の重要性を示している。これらの知見は、変異したCRXの負の作用を補償するためにCRXWTの量を増大させる治療上の関心を明らかに示している。導入遺伝子CRXR41Wの1つのコピーを有する3つの系(ERG応答のわずかな減少を伴う光受容器の正常な分化が見出されている)が確立されている。光受容器における導入遺伝子の発現は、IHCにより検証された。
【0119】
Tg(CRXR41W)の2つのコピーを有するマウスが(1つのコピーを有する系から)得られている。Tg(CRXR41W)の1つのコピーを有する系がERG応答に欠陥を有さない場合、2つのコピーを有するマウスは、6カ月齢で明順応応答の低減を示した。よって、この系は、本発明の治療効果を試験するための良好な錐体-杆体ジストロフィーのモデルであるが、変性は、強力ではなくゆっくりとしたものである。この問題を回避するために、全ての光受容器が錐体であるNrl-/-バックグラウンド上でこの変異を発現する系を確立した。この系で、高い光刺激での明順応応答の減少が、2カ月で観察できた(図10(A))。2カ月齢の動物におけるAAV-CRXまたはAAV-GFPの予備注射は、注射から2カ月後に、AAV-CRXで処置したNrl-/-;Tg(CRXR41W)の明順応応答が、AAV-GFPで処置した動物と比較して保存されていることを示した(図10(B))。
【0120】
患者のCRX変異型iPSC株から分化した光受容器細胞の表現型の特徴および遺伝子置換の効力の評価
iPSCは、IRDを有する患者の線維芽細胞から初期化され得るため、概念実証遺伝子療法試験のための優れたモデルを提示する疾患に特異的な網膜細胞モデルを作製することが可能である。iPSC由来の光受容器モデルを、CORD(p.Arg41Trp);LCA(p.Pro232Argfs*139)およびRP(p.Asp65His)をもたらすCRX変異を担持する3名の患者から作製した。CORDおよびLCAの患者のiPSCを作製し、それらの多能性および遺伝子の安定性を確認した。さらに、対照およびCORDの個体由来のiPSCを、光受容器を含む網膜オルガノイドに分化させた。分化の異なる時間でのqPCR解析を使用して、2つの株の間の最大160日間の早期の光受容器マーカー(SIX3、VXVX2、RAX、OTX2、NEUROD1、NRL)の類似の発現パターンを観察した。CORD株のCRX発現は、対照と比較して160日目以前は類似しているように見えたが、それ以降は減少したことが検出された。対照的に、NR2E3発現の減少が、CORD株で試験された全ての時点で検出された。これは、NR2E3が杆体の発達に関してCRXと相互作用するため特に興味深い。さらに、CORD株は、対照と比較して、より成熟した錐体(OPN1SW、CAR、OPSN1MW)および杆体(RK、RCVRN)のマーカーの発現が減少していることが、検出された。さらに、ロドプシンの発現は、CORD株のmRNAまたはタンパク質のレベルで検出することができなかった。これら結果は、p.Arg41Trp/R41W変異の場合の光受容器の分化の遅延または変更を示すものである。
【0121】
網膜オルガノイドにおける患者に特異的なiPSC由来の光受容器を、AAV-CRXで形質導入して野生型のCRX発現を増大させ、この分化のプロファイルを経時的にモニタリングし、未処置および対照の細胞と比較した。
【0122】
結果、i)遺伝子型-表現型の相関を入手し、よって、各変異に関連する差次的な臨床プロファイルの基盤を解明し、ii)全ての形態が遺伝子置換戦略から利益を受けることができるかどうかどうか、およびCRX過剰発現に関連した毒性作用が存在するかどうかが決定された。これら試験は、in vivoでの投与のチャレンジの不存在下で、外因性のCRX発現の真の効果を評価することを可能にする。
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】