(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-28
(54)【発明の名称】自己抗体介在性自己免疫疾患の処置のための、抗CD38抗体及びその医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20220421BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220421BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220421BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220421BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20220421BHJP
A61K 31/52 20060101ALI20220421BHJP
A61K 31/365 20060101ALI20220421BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20220421BHJP
A61K 31/69 20060101ALI20220421BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220421BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220421BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220421BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61P13/12
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K45/00
A61K31/573
A61K31/52
A61K31/365
A61K31/519
A61K31/69
A61P37/06
A61P43/00 111
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021554758
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(85)【翻訳文提出日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 EP2020056757
(87)【国際公開番号】W WO2020187718
(87)【国際公開日】2020-09-24
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】316005432
【氏名又は名称】モルフォシス・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・クランカー
(72)【発明者】
【氏名】ライナー・ボックスハンマー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ヘルトレ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・シュタイドル
(72)【発明者】
【氏名】ティアントム・ヤルタート
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
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4H045AA11
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、自己抗体介在性自己免疫疾患の予防及び/又は処置におけるCD38に特異的な抗体又は抗体断片の使用に関する。本発明によれば、抗CD38抗体は、抗PLA2R陽性膜性糸球体腎症の処置において有効である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己抗体介在性膜性腎症の処置での使用のための、CD38に特異的な抗体又は抗体断片。
【請求項2】
前記自己抗体介在性膜性腎症が、抗PLA2R及び/又は抗THSD7A陽性膜性腎症である、請求項1に記載の使用のための抗体又は抗体断片。
【請求項3】
前記抗体がADCC及び/又はADCPにより形質細胞を枯渇させる、請求項1又は2に記載の使用のための抗体又は抗体断片。
【請求項4】
前記抗体が、CD38低発現細胞(例えばNK細胞)よりも形質細胞において顕著により高い特異的な細胞死滅を示す、請求項1~3の何れか一項に記載の使用のための抗体又は抗体断片。
【請求項5】
抗体投与が内因性自己抗体力価の低下につながる、請求項1~4の何れか一項に記載の使用のための抗体又は抗体断片。
【請求項6】
前記内因性自己抗体力価が抗PLA2R及び/又は抗THSD7A自己抗体を含む、請求項5に記載の使用のための抗体又は抗体断片。
【請求項7】
前記CD38に特異的な抗体又は抗体断片がヒト抗体である、請求項1~6の何れか一項に記載の使用のためのCD38に特異的な抗体又は抗体断片。
【請求項8】
前記CD38に特異的な抗体又は抗体断片がIgG1である、請求項1~7の何れか一項に記載の使用のためのCD38に特異的な抗体又は抗体断片。
【請求項9】
前記抗体が、アミノ酸配列配列番号1のHCDR1領域、アミノ酸配列配列番号2のHCDR2領域、アミノ酸配列配列番号3のHCDR3領域及びアミノ酸配列配列番号4のLCDR1領域、アミノ酸配列配列番号5のLCDR2領域及びアミノ酸配列配列番号6のLCDR3領域を含む、請求項1~8の何れか一項に記載の使用のためのCD38に特異的な抗体又は抗体断片。
【請求項10】
前記CD38に特異的な抗体又は抗体断片が、配列番号7の可変重鎖領域及び配列番号8の可変軽鎖領域を含む、請求項1~9の何れか一項に記載の使用のためのCD38に特異的な抗体又は抗体断片。
【請求項11】
さらなる治療剤との組み合わせでの、請求項1~10の何れか一項に記載の使用のための抗体又は抗体断片。
【請求項12】
前記さらなる治療剤が、自己抗体介在性自己免疫疾患の予防及び/又は処置のための薬剤である、請求項11に記載の使用のための抗体又は抗体断片。
【請求項13】
前記さらなる治療剤が、免疫抑制薬、例えばデキサメタゾン、アザチオプリン、ミコフェノール酸、メトトレキサートなど、又はプロテアソーム阻害剤、例えばボルテゾミブなどである、請求項12に記載の使用のための抗体又は抗体断片。
【請求項14】
前記抗体又は抗体断片が静脈内投与される、請求項1~13の何れか一項に記載の使用のための抗体又は抗体断片。
【請求項15】
前記抗体又は抗体断片が、週に1回16mg/kgで1回目の処置サイクルにおいて投与される、請求項1~14の何れか一項に記載の使用のための抗体又は抗体断片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己抗体介在性自己免疫疾患(AD)の処置及び/又は予防において有用であるCD38に特異的な抗体又は抗体断片に関する。特に、本発明は、抗CD38抗体を単独で、又は1つ以上の免疫抑制薬と組み合わせて使用した、抗体分泌細胞の枯渇による自己抗体力価の低下のための方法を提供する。本発明によれば、抗CD38抗体は、単独で又は組み合わせて、抗PLA2R陽性膜性腎症(aMN)の処置及び/又は予防において有効であり得る。抗CD38抗体としてはMOR202が挙げられるが限定されない。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患及び自己抗体
自己免疫疾患(AD)は、西側諸国の人口のおよそ5%に影響を及ぼす70を超える様々な障害を含む(非特許文献1)。ADは、自己反応性T細胞又は自己反応性B細胞又はその両方の活性化により引き起こされる臨床状態である。ある種のADは、病原性自己抗体の生成を特徴とする。自己抗体は、自己抗原と反応する免疫グロブリンである。このような自己抗原は、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質又はこれらの様々な組み合わせを含み得、全ての細胞において存在し得るか(例えばDNA)又は生物のある臓器における特異的な細胞型に高度に限定され得る。自己抗体介在性の体液性ADにおいて、自己抗体は通常、患者の血清中で高い力価で生じる。多くのADに対して、自己抗体形成、特異性及び病態形成の明白で明らかな関連が証明される(非特許文献2)。病原性自己抗体は、免疫複合体(IC)及び炎症の蓄積、受容体機能の刺激又は阻害、酵素機能の刺激又は阻害、抗原取り込みの促進、細胞溶解、微小血栓及び好中球活性化を含め、多くの方法で疾患経路に影響を及ぼす(非特許文献3)。
【0003】
全身性紅斑性狼瘡(SLE)
全身性紅斑性狼瘡(SLE)は例えば、有病率が100,000人あたり約50症例であり、男性よりも女性で罹患頻度が高い多遺伝子自己免疫障害である。SLE患者における中心的な免疫撹乱は、抗体分泌細胞の増殖及び様々な自己抗体の産生につながる、自己反応性メモリーB細胞の不適切な活性化及び増殖である。SLEにおける主要な自己抗原は、DNA又はリボ核タンパク質(RNP)のような核成分であり、これらの抗原に反応性がある自己抗体は、高親和性であり、体細胞性に突然変異があり、IgGアイソタイプである。SLE患者は、高レベルの血清抗核抗体(ANA)を示す。細胞質抗原、細胞膜抗原、リン脂質関連抗原、血液細胞、内皮細胞、神経系抗原、血漿タンパク質、マトリクスタンパク質及び種々の抗原に対する自己抗体も存在し得る(
図12)。SLEにおいて、これらの自己抗体の多くは、いくつかの組織での蓄積後に直接的に病原性になると思われるICの形成につながる。
【0004】
SLEに対する処置の選択肢は、抗マラリア薬、ステロイド及び非ステロイド抗炎症剤、免疫抑制薬(シクロホスファミド(CTX)、アザチオプリン(AZA)、ミコフェノール酸(MMF)及びメトトレキサート(MTX)を含む)並びに免疫細胞標的療法を含む(非特許文献4)。
【0005】
これらの免疫抑制又は細胞傷害性薬及び抗CD20介在性B細胞枯渇は、SLE患者において寛解を誘導し得る。しかし、現在の処置プロトコールは、再発を予防できないことが多い(非特許文献5)。
【0006】
グレーブス病(バセドウ病)
中毒性びまん性甲状腺腫としても知られるグレーブス病は、甲状腺に影響を及ぼす自己免疫疾患である。グレーブス病は男性の約0.5%及び女性の3%で発症する(非特許文献6)。この疾患の結果として甲状腺機能亢進症が起こることが多く、米国では甲状腺機能亢進症の最も多い原因である(原因の約50~80%)。甲状腺機能亢進症の症状は、易刺激性、筋力低下、睡眠障害、速い心拍、熱に対する耐性低下、下痢、故意ではない体重減少、脛骨前粘液水腫として知られる脛骨上の皮膚の肥厚及び眼の膨隆、グレーブス病眼障害により引き起こされる状態、を含み得る。グレーブス病の直接的な原因は、甲状腺刺激ホルモンに対する受容体(甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR))に対する自己抗体である。サイログロブリンに対する及び甲状腺ホルモンT3及びT4に対する自己抗体も産生され得る。TSHR自己抗体はTSHを模倣し、無制御にTSHRを活性化し、それによって甲状腺機能亢進症を引き起こす。グレーブス病に対する治療選択肢は、抗甲状腺(チオナミド(thionamide))薬、放射性ヨウ素による甲状腺除去及び外科手術(甲状腺摘除術)を含む。しかし、TSHR自己抗体の発生又は進行中の産生を阻害することは、依然としてグレーブス病を処置する際の課題である。
【0007】
重症筋無力症(MG)
重症筋無力症(MG)は、50~200/100万人に影響を及ぼす。毎年、3~30/100万人が新たに診断される。MGは、様々な程度の骨格筋力低下及び異常な易疲労感につながる長期神経筋ADであり、神経筋接合部(神経と筋肉との間の接合部)に局在するシナプス後筋肉終板の構成成分と反応性がある自己抗体反応の存在により引き起こされる。特に、これらの自己抗体は、ニコチン性アセチルコリン受容体を遮断又は破壊し、続いて、神経インパルスが筋肉収縮を惹起することを妨げる。他の自己抗体は、MuSKと呼ばれる関連タンパク質、筋肉特異的キナーゼ及びLRP4、アグリン及びチチンタンパク質に対して発見されている。一般に、MGは、ネオスチグミン及びピリドスチグミンなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤として知られる薬物で処置される。プレドニゾン又はアザチオプリンなどの免疫抑制剤も使用することが多い。ある一定の場合では、甲状腺の外科手術的切除により、疾患の症状が改善され得る。プラズマフェレーシス及び高用量静脈内免疫グロブリン(IVIG)は、それぞれ、循環から推定自己抗体を除去するために、又は循環する抗体を希釈し、結合させるために、状態の急な再燃中に使用され得る。これらの処置の両方とも、利益があるのは比較的短期間であり、一般的には週単位で評価され、高いコストが付随することが多い。呼吸筋が顕著に弱くなる場合、人工呼吸器が必要となり得る。
【0008】
抗PLA2R陽性膜性糸球体腎炎(aMN)
歴史的に特発性膜性糸球体腎炎又は特発性膜性腎症(IMN)と呼ばれることが多い抗PLA2R-自己抗体介在性膜性腎症(aMN)は、原発性膜性腎症であり、成人でのネフローゼ症候群の一番多い原因である(非特許文献7)。約80%の膜性腎症は特発性であり、一方で20%は他の疾患又は曝露に関連する。総合的な全世界での発生率は1.2/100,000人/年と推定される。この疾患は通常ゆっくりと進行するものの、患者のおよそ30%~40%は最終的に最終ステージの腎臓疾患に進む。ネフローゼのままであるMN患者は、血栓塞栓性及び心血管系事象に対するリスクが上昇する。しかし、MNの病態形成の全ての態様が理解されているわけではないものの、この疾患は、もはや特発性とはみなされ得ない。ポドサイト上で発現されるM型ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)、膜貫通タンパク質は、MNの主要な自己抗原として定義されている(非特許文献8)。PLA2R抗原に結合する自己抗体は原発性MNに対して非常に特異的である。最近の研究から、IMN患者のおよそ75%において抗PLA2R自己抗体の存在が疾患活性と相当相関することが明らかになった(非特許文献9)。疾患を定義する糸球体基底膜の変化がPLA2Rタンパク質並びに抗体複合体蓄積の両方を含有するという事実から、抗PLA2R抗体がMNにおいて主要な原因として働くという証拠が提供される。抗PLA2R抗体について陰性である患者のさらなる5%は、別のポドサイト抗原-トロンボスポンジン1型ドメイン含有7Aに対する抗体を有する(非特許文献10)。稀な新生児MN症例において、ポドサイトの足突起膜上に位置する中性エンドペプチダーゼ(NEP)及び腎臓尿細管の刷子縁が関連抗原として同定されている(非特許文献11)。まとめると、IMN患者の約80%が特異的で識別可能なポドサイト抗原に対する抗体を有する。膜性腎症の症状としては、下肢及び足首の腫脹、尿中タンパク質の増加、浮腫、低アルブミン血症、血清脂質上昇、特に高コレステロールが挙げられるが限定されない。従って、自己免疫膜性腎症は、抗PLA2R自己抗体及び/又は抗THSD7A自己抗体の存在を特徴とする免疫介在性の糸球体疾患である。新生児自己免疫MNにおいて、母親から移されたNEPに対する自己抗体が存在する。
【0009】
現在、MNに対する承認済みの標準治療はない。最新の治療レジメンは、主に様々な非免疫抑制及び免疫抑制薬の適用外使用を含む。MNと診断され、蛋白尿>3.5g/日である患者は最初に、最新の臨床標準に従って、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi)又はアンジオテンシンII受容体ブロッカー(ARB)、スタチン及び利尿薬の組み合わせでの支持療法を受ける。数カ月以内に蛋白尿の顕著な低下を伴う応答がない場合、免疫抑制療法(IST)への拡大が指示される。免疫抑制療法は、これらの薬物の中でMNでの使用に対して承認されているものはないものの、アルキル化剤(例えばシクロホスファミド)及びカルシニューリン阻害剤(CNI、例えばサイクロスポリンA、タクロリムス(FK506))、ミコフェノラト-モフェチル(MMF)又はリツキシマブと交互にコルチコステロイドを含む。比較的規模は少ないが、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が使用されている。これらの薬物の組み合わせの治療効果は同様であると思われ:蛋白尿の寛解は、支持療法のみで処置した対照で寛解率が約30%(自然寛解)であるのと比較して、1年目に患者のうち約50~60%、2~3年で約70~80%と予想され得る。
【0010】
ISTを受けていない原発性膜性腎症の全患者のうち、30%~40%が疾患発症後10年で最終ステージの腎臓疾患に進行する。ISTは進行率を10%以下に低下させる。蛋白尿の再発は、以前にISTで処置した患者の約25%で見られる。これらの症例は通常、異なるISTの組み合わせで再治療される。上記のISTの欠点は、それらが相当な程度の毒性を示し、顕著な副作用を付随し、再発率が高いことである。シクロホスファミドで処置した患者のうち25%が有害事象を示し、これには、人生での後の感染、不妊、血液毒性及び悪性腫瘍が含まれる。CNの欠点には長期の腎毒性が含まれ、薬物レベル及び高血圧及び糖尿病に対するリスク上昇を入念に監視する必要がある。カルシニューリン阻害剤での再発率は、シクロホスファミドを用いた場合よりも高いと思われる(40~50%対25%)。抗PLA2R抗体が疾患活性と相関することを示すかなりの証拠により、以前に確立された治療アルゴリズムが変化している。
【0011】
抗CD20治療抗体リツキシマブでの最近導入された適用外療法は、原因となる抗PLA2R自己抗体の産生において前駆体として関与するB細胞集団を枯渇させることによって、より特異的なISTアプローチを可能にする。リツキシマブ応答率は、アルキル化剤及びCNIと同程度と思われ、一方で副作用は、ISTで使用される他の薬物の場合よりも少ないと思われる。しかし、リツキシマブの標的であるCD20は、(内因性免疫グロブリンの主要な供給源である)成熟した長命な抗体分泌形質細胞上には存在しない。初期形質芽細胞上では、成熟B細胞上のCD20発現と比較して、少数の常在CD20発現しかない。これは、抗PLA2R抗体力価が高いMN患者において、リツキシマブ療法が最適以下の効力であることに対する考えられる説明である。
【0012】
この点において、形質芽細胞並びに形質細胞の直接的標的化は、一般に免疫グロブリンのより明白な低下に、従って自己抗体の低下にもつながるはずである。aMNにおける抗PLA2R抗体の相当な部分は、CD20陰性であるがCD38陽性である免疫表現型の長命な形質細胞プールにより産生される可能性があり、これは、分化しているB細胞の連続的な補充には依存しない。従って、直接的な形質細胞標的化ストラテジーは、病原性自己抗体の抑制におけるより顕著な効果を有し得る。特に、これは、B細胞枯渇にもかかわらず高レベルの自己抗体力価を維持する、リツキシマブ(抗CD20)療法に対する応答が不十分である患者にとって重要である。
【0013】
天疱瘡
尋常性天疱瘡は、水泡形成が起こる皮膚及び口の自己免疫表皮内皮膚粘膜障害である。病変は、毎年0.5~3.2例/100,000人の高い発症率で起こる。これらの病変は、主に40~60歳で起こり、性別による偏りはない。天疱瘡患者は、上皮角化細胞上で、天疱瘡抗原(デスモグレイン3、デスモグレイン1、デスモコリン、プラコグロビン)に対する循環自己抗体を示す。抗原-自己抗体反応によるこれらの抗原の崩壊は、表皮の整合性に顕著な影響を有し、その結果、細胞剥離(棘融解)、スプラバシラー・クレフティング(suprabasilar clefting)、及び引き続いて、水泡形成が起こる。角化細胞への自己抗体の結合の結果また、棘融解をさらに増幅する、細胞からのプロテアーゼ及びプラスミノーゲン活性化因子(プラスミノーゲンをプラスミンに変換)放出も起こる。高度病変に対する治療選択肢としては、全身性グルココルチコイド、及びコルチコステロイド、免疫抑制剤、パルス療法、フォトフォレーシス及びプラズマフェレーシスの組み合わせが挙げられる。
【0014】
シェーグレン症候群
シェーグレン症候群は、外分泌腺及び涙腺へのリンパ球の病巣浸潤を特徴とする全身性自己免疫疾患であり、その結果、それぞれドライマウス(口内乾燥)及びドライアイ(乾性角結膜炎)が起こる。シェーグレン症候群において、病巣の存在は、唾液腺上皮細胞に対する自己抗体の放出を伴う慢性炎症性浸潤と関連する。シェーグレン症候群における他の自己抗体は、リボ核タンパク質自己抗原Ro/SS-A及びLa/SS-B、コイルドコイル含有分子、ゴルジンファミリーのメンバー、ポリ(ADP)リボースポリメラーゼ(PARP)及び3型ムスカリン受容体に対するものである。現在、シェーグレン症候群の標的化治療は利用可能ではなく、現在の治療アプローチは、例えばそれぞれピロカルピン、ブロムヘキシン及びヒドロキシクロロキンで乾燥及び疲労症状を処置することによる対症的なものしかない。
【0015】
抗NMDA脳炎
最も一般的な抗体介在性急性自己免疫性脳炎は、抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)脳炎である(非特許文献12)。その発症率は、3~5/1.000.000人集団及び年と推定される。抗NMDA脳炎は、シナプス構造を標的とする自己抗体の検出を特徴とする症候群に対するモデル疾患に相当する。抗NMDAR抗体は最も一般的であり、この後、ロイシンリッチ神経膠腫不活性化-1(LGI1)に対する抗体が続く。コンタクチン関連タンパク質様2(Caspr2)、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸受容体(AMPAR)、ガンマ-アミノ酪酸(GABA)-A及び-B受容体、ジペプチジル-ペプチダーゼ様タンパク質-6(DPPX)及びグリシン受容体(GlyR)抗体は、ニューロン細胞表面抗体の他の例である。抗NMDAR脳炎は、若年成人及び小児、主に女性(80%)で主に起こる。患者のおよそ70%は、前駆症状(例えば頭痛、発熱、挙動の急激な変化、不安症、幻覚及び精神病)を発する。異常運動(例えば口腔顔面運動障害、舞踏病及び常同運動)及び意識低下、昏睡及び重度の全体的な自立性の調節不全(しばしば低換気及び収縮不全につながる)が結果として生じる。疾患のあらゆる段階でてんかん発作及びてんかん重積が起こり得る。凡そ、患者の50%はIVIG、ステロイド又は血漿交換によく応答し、他の50%は、リツキシマブのみ又はシクロホスファミドとの組み合わせを必要とする。しかし、一部の患者では、回復は不完全であり、数年を要し、集中治療合併症による死亡率は7%と高いものであり得る。
【0016】
上記で例証される自己抗体介在性自己免疫疾患における病原性自己抗体の存在は、対応する自己抗原に対する中枢及び/又は末梢B細胞寛容の失敗又は破壊の結果である。
【0017】
中枢及び末梢B細胞寛容性
B細胞発生は骨髄で始まる。そこで、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖遺伝子セグメントの体細胞組み換えにより、新生膜結合B細胞受容体(BCR)レパートリーが生成される。無作為な体細胞V(D)J組み換えによる初期BCRレパートリーにおけるこの巨大な多様性を生成する負の側面は、病原性である可能性を有し得る自己抗体の同時生成である。自己免疫の発生を予防するために少なくとも3つの機序が存在する。第1に、自己反応性B細胞はアポトーシスにより欠失させられる。第2に、自己反応性B細胞は、受容体編集と呼ばれる過程である二次的Ig軽鎖組み換えによるVLドメインの変化を通じて、それらのBCRの自己反応性親和性を低下させる。自己反応性B細胞を抑制するための第3の機序はアネルジーであり、これにより、このような細胞が抗原に非応答性になる。これらの中枢寛容性機序は骨髄で起こる。従って、出現する抗体レパートリーの自己反応性は、自己反応性抗体を発現するB細胞における、アポトーシス、受容体編集及びアネルジーの誘導により防がれる(非特許文献13)。
【0018】
B細胞分化中、骨髄から出現する移行期のB細胞は、末梢リンパ系器官で(例えば脾臓、リンパ節で)成熟し続け、そこでさらなる末梢寛容機序が起こる。末梢寛容性の正確な機序は依然として研究途上であるが、BCRによるリガンド(抗原)認識が、骨髄における中枢寛容性チェックポイントと同様に関与する。これらは、BAFF、CD22、Siglec-G、miRNA及び濾胞性制御T細胞(Treg)の、遊走制御及び利用可能性の制限も含み得る。
【0019】
B細胞分化の最終段階の生成物は抗体分泌形質細胞である。抗原による活性化時に、成熟ナイーブB細胞は、抗体分泌細胞に直接進むか(T細胞非依存性)、又はプレ形質芽細胞及び形質芽細胞の増殖を介した胚中心でのT細胞依存性免疫反応中に固着の非分裂形質細胞又はメモリーB細胞へと分化するかの何れかである。形質芽細胞及び形質細胞の両方は、抗体を産生し、分泌し、それにより液性免疫を提供する。それらが自己反応性B細胞由来である場合、形質芽細胞及び形質細胞は自己抗体産生に寄与する(非特許文献14)。
【0020】
中枢及び/又は末梢寛容性機序の1つ以上の失敗は、自己抗体介在性ADの発生に好都合である多くの循環型の自己反応性B細胞(即ち自己抗体発現B細胞)及び自己反応性形質芽細胞及び形質細胞(即ち自己抗体発現及び分泌細胞)の増加につながる。自己抗体の産生が開始されると、それらの産生レベルは、結果として短命な形質細胞の連続的形成を引き起こす自己反応性B細胞の継続的な活性化によるか又は長命な形質細胞の形成を通じるかの何れかで、又は両方で、維持される(非特許文献15)。
【0021】
自己抗体は自己免疫病態の基本的な原因であることが多いので、B細胞、形質芽細胞及び形質細胞はADにおける有望な治療標的である。短命な形質細胞は、増殖する形質芽細胞及びB細胞を直接阻害する通常の免疫抑制薬に応答する。増殖しない短命な形質細胞は、最早補充されないため、これらの治療開始の数日内に消失する。抗CD20(リツキシマブ)及び抗BAFF(ベリムマブ)(例えば(特許文献1)、(特許文献2)参照)などのB細胞を標的とする治療は、このような低下を必要とする患者においてB細胞レベルを低下させ、従って短命形質芽細胞及び形質細胞の産生を減弱させるが、このような治療は長命メモリー形質細胞コンパートメントに影響しない。自己抗体産生がこの治療ストラテジーにより影響を受けない場合、自己抗体が潜在的に長命メモリー形質細胞により分泌されることを考慮するべきである。さらに、例えばI型インターフェロン(IFN)、TH細胞又は制御T(Treg)細胞を標的とすることにより、自己反応性B細胞を刺激する因子又は細胞の遮断が短命形質芽細胞及び形質細胞の発生を防ぐが、形質細胞メモリーを防がないことが想定され得る。
【0022】
ヒトにおいて、長命な骨髄由来形質細胞集団は、表現型的にCD19-、CD38hi、CD138+(非特許文献16)として定義される。周知の一般的な汎B細胞マーカーであるCD20は通常、ヒト形質芽細胞(非特許文献17)又は長命ヒト形質細胞(非特許文献16)では発現されない。
【0023】
長期抗体応答の維持の基礎をなす潜在的な機序は一般に、メモリーB細胞依存性及びメモリーB細胞非依存性モデルに分けられ得る。アカゲザル動物モデルにおいて、潜在的なB細胞リザーバーを固形組織(例えば脾臓及びリンパ節)から外科手術的に除去し、並びに抗CD20抗体を使用して循環から全ての検出可能な破傷風特異的メモリーB細胞を枯渇させた後、破傷風特異的血清抗体力価は、免疫宿主の寿命に対する防御的な閾値を上回って維持され続け、崩壊速度カイネティクスは未処置対象と区別不能であったことが示されている(非特許文献18)。従って、破傷風ワクチン接種後の抗体応答は長命であり、この疾患に対する生涯防御免疫を提供する。破傷風特異的な形質細胞のさらなる分析から、免疫付与から10年後、長命ワクチン誘導形質細胞がある一定の骨髄コンパートメントにおいて優先的に同定されたことが明らかになった。まとめると、これらの研究は、長期血清抗体応答の維持が、メモリーB細胞とは独立に、長命形質細胞により維持されると思われる枠組みを提供する。
【0024】
上に記載のように、ADの最新治療選択肢は、全身性免疫抑制(即ち高用量のデキサメタゾンなどのコルチコステロイドで)を含む。細胞傷害薬シクロホスファミド(Endoxan(登録商標))は、T-ヘルパー細胞機能を抑制し、アルキル化剤からのBリンパ球の回復速度がより遅いためにB細胞の減少が長引き、それによりシクロホスファミドがB細胞活性化を抑制することが示されている。さらなる免疫抑制薬としては、アザチオプリン、ミコフェノール酸及びメトトレキサートが挙げられるが限定されない。プロテアソーム阻害剤、例えばボルテゾミブなどは、短命及び長命形質細胞を枯渇させることが示され、SLE及び血栓性血小板減少性紫斑病の処置のためにボルテゾミブを使用した最初の臨床試験は有望である(非特許文献19;非特許文献20)。
【0025】
(特許文献3)は、抗CD38抗体を開示し、非常に多くの自己免疫疾患に対するそれらの可能な治療的用途を主張する。実際に、(特許文献3)は、HuScidマウスモデルにおいて抗破傷風応答を究明し、コラーゲン誘導性関節炎及びSLE自己免疫マウスモデルでのみ、代替マウス抗CD38抗体を用いて行った実験を示す。(特許文献3)は、抗CD38治療後のヒト試料中の抗体力価を決定することに関しては沈黙しており、抗CD38抗体で処置しようとする抗PLA2R陽性膜性腎症に対するデータについては言及がなく、全く示されない。
【0026】
(非特許文献21)は、自己免疫溶血性貧血の処置のための抗CD38抗体ダラツムマブの使用を記載する。(非特許文献22)は、RA及びSLE患者の処置におけるダラツムマブの可能性を評価する。
【0027】
(非特許文献23)は、特発性膜性腎症患者においてB細胞を枯渇させるための抗CD20抗体リツキシマブの使用を開示する。この開示は、これらの患者における抗CD38抗体での形質細胞の枯渇を教示又は示唆しない。
【0028】
それにもかかわらず、AD患者は依然として罹患率が高く、死亡率が上昇している。新規抗自己免疫剤(ボルテゾミブなど)の発生における進歩にもかかわらず、CD38陽性自己抗体分泌細胞をほぼ確実に含む多くの自己抗体介在性ADは依然として予後不良である。上で言及される治療選択肢は全て欠点、副作用を有するか、又はそれらの使用がある一定のタイプの患者群に限定される。
【0029】
従って、自己抗体介在性ADに罹患している患者に対する、新規の改善された処置方法に対する高く、未だ対処されていない医学的ニーズがある。
【0030】
発明者らは、自己抗体介在性自己免疫障害(例えばSLE、aMN)において形質芽細胞及び形質細胞などの抗体分泌細胞を直接標的とするために、CD38が優れており有効な抗原を提示することを確認している。第1に、CD38は、形質芽細胞及び形質細胞上で非常に高い発現を示し(
図4)、第2に、形質芽細胞及び形質細胞と比較して、他の細胞型では、CD38の発現がないか又は顕著により低い。従って、抗CD38抗体を使用することによって、持続可能な治療アプローチとして病原性自己抗体の供給源を標的とすることが可能になり、短命及び長命形質細胞の排除ゆえに効果が長期間持続する可能性がある。本質的には、このような標的化は、次のように一般化され得る:抗体分泌細胞のCD38表面抗原に特異的な抗体が患者に投与される。これらの抗CD38抗体は、正常抗体及び病原性自己抗体を産生する両抗体分泌細胞のCD38抗原に特異的に結合する。次に、CD38表面抗原に結合する抗体は、これらの細胞の破壊及び枯渇をもたらす。アプローチに関係なく、主なゴールは、自己抗体を産生する細胞を減少させることである。
【0031】
形質細胞機能におけるMOR202の影響を評価するための、マーカーとしての内因性抗破傷風抗体力価
マウス(非特許文献24)及びヒト(非特許文献25)における長期試験は、免疫系の寿命まで長期にわたり防御性を持続し、それを残す、抗体の有効血清濃度(抗体力価)を誘導し、維持するという長所を強調する。防御的な液性免疫は、例えば、例えば麻疹、流行性耳下腺炎、破傷風、ジフテリア又は天然痘に対する日常的なワクチン接種により産生される特異的抗体の安定な力価により付与される。形質細胞及びそれらの即時的な前駆体は、この液性免疫の細胞的な基礎として知られており、血清特異的抗体力価は液性アームの有用なマーカーなので、これらの抗体を産生する形質細胞の存在及び/又は活性に対する指標としてそれらが使用され得る。ナイーブ及びメモリーB細胞を枯渇させるために抗CD20処置を使用するマウス試験から、長時間の後でさえもB細胞の喪失が形質細胞プールに顕著に影響を与えなかったことが示された(非特許文献26)。同様に、B細胞除去療法を受けたヒトは、少なくとも1年間、一般的な抗原に対して血清抗体力価を維持する(非特許文献27)。従って、これらの報告は、(長命)形質細胞がマウス及びヒトにおいて持続的な液性記憶の必須の構成成分であることを示す。形質細胞は、最近活性化されたナイーブ又はメモリーB細胞からのインプットがなくても、長期間にわたり持続し得ることがよく裏付けられる。ここで、発明者らは、MOR202投与がヒト対象において内因性抗破傷風トキソイド抗体力価の低下につながることを初めて示し、MOR202での自己抗体介在性膜性腎症、特に抗PLAR2陽性自己免疫MNの処置がどのように実現されるかについて実施例で記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】国際公開第2002002641号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2009052293A1号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2012092612号パンフレット
【非特許文献】
【0033】
【非特許文献1】Lleo et al.Autoimmunity Reviews 2010 Mar;9(5):A259-66
【非特許文献2】Suurmond and Diamond,J Clin Invest.2015 Jun 1;125(6):2194-2202
【非特許文献3】Ludwig et al.Front.Immunol.2017 May;8:603
【非特許文献4】Yildirim-Toruner C,Allergy Clin Immunol.2011 Feb;127(2):303-12
【非特許文献5】Stichweh,D.Curr.Opin.Rheumatol.2004 16:577-587.5
【非特許文献6】Burch HB,Cooper DS,2015,JAMA 314(23):2544-54
【非特許文献7】Ronco P,Debiec H Lancet.2015 May 16;385(9981):1983-92
【非特許文献8】Beck LH Jr et al.N Engl J Med.2009 Jul 2;361(1):11-21
【非特許文献9】Bomback AS,Clin J Am Soc Nephrol.2018 May 7;13(5):784-786
【非特許文献10】Tomas NM et al.N Engl J Med 2014;371:2277-2287
【非特許文献11】Ronco P et al.J Am Soc Nephrol.(2005)16:1205-13
【非特許文献12】Granerod J et al.Lancet Infect Dis 2010,10:835-44
【非特許文献13】Wardemann and Nussenzweig,Adv Immunol.2007;95:83-110
【非特許文献14】Hiepe and Radbruch,Nat Rev Nephrol.2016 Apr;12(4):232-40
【非特許文献15】Manz RA et al.,Annu Rev Immunol(2005)23:367-86
【非特許文献16】Halliley JL et al.Immunity.2015 Jul 21;43(1):132-45
【非特許文献17】Ellebedy AH et al.Nat Immunol.2016 Oct;17(10):1226-34
【非特許文献18】Hammarlund E et al.Nat Commun.2017;8:1781
【非特許文献19】Alexander T et al.Ann Rheum Dis(2015)74:1474-8
【非特許文献20】Patriquin et al.Br J Haematol(2016)173:779-85
【非特許文献21】Schuetz C et al.(Blood Adv.2018;2(19):2550-2553)
【非特許文献22】Cole S et al.Arthritis Res Ther.2018;20(1):85
【非特許文献23】Beck LH et al.(J Am Soc Nephrol.2011;22(8):1543-50)
【非特許文献24】Manz RA,et al.Nature.1997;388:133-134
【非特許文献25】Hammarlund E et al.Nat Med.2003 Sep;9(9):1131-7
【非特許文献26】Ahuja A et al.Proc Natl Acad Sci USA.2008 Mar 25;105(12):4802-7
【非特許文献27】Cambridge G et al. Arthritis Rheum.2006 Mar;54(3):723-32
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明は、自己抗体介在性自己免疫疾患及び関連状態の処置及び/又は予防での使用のための、CD38に特異的な抗体又は抗体断片を提供する。特に、抗CD38抗体又は抗体断片は、特発性膜性糸球体腎炎の処置及び/又は予防での使用のためである。好ましくは、抗CD38抗体又は抗体断片は、抗PLA2R陽性膜性糸球体腎炎の処置及び/又は予防での使用のためである。いくつかの態様では、抗CD38抗体又は抗体断片は、全身性紅斑性狼瘡(SLE)の処置及び/又は予防での使用のためである。
【0035】
さらに、本発明は、自己抗体介在性自己免疫疾患の処置及び/又は予防での使用のための、治療的有効量のCD38に特異的な抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を提供する。特に、本医薬組成物の抗CD38抗体又は抗体断片は、特発性膜性糸球体腎炎の処置及び/又は予防での使用のためである。好ましくは、本医薬組成物の抗CD38抗体又は抗体断片は、抗PLA2R陽性膜性糸球体腎炎の処置及び/又は予防での使用のためである。いくつかの態様では、本医薬組成物の抗CD38抗体又は抗体断片は、全身性紅斑性狼瘡(SLE)の処置及び/又は予防での使用のためである。
【0036】
モノクローナルヒト抗CD38抗体であるMOR202は、主に抗体依存性細胞介在性細胞傷害性(ADCC)及び抗体依存性細胞介在性食作用(ADCP)を介して形質芽細胞及び形質細胞などの抗体分泌細胞を標的とする。MOR202での臨床試験中、腫瘍性の形質細胞(即ち多発性骨髄腫細胞)並びに良性形質細胞の効率的な死滅が明らかになった。多発性骨髄腫(MM)に罹患している患者において、MOR202による形質細胞枯渇は、M-タンパク質の顕著な減少につながる。Mコンポーネント、Mスパイク、スパイクタンパク質、パラプロテイン又は骨髄腫タンパク質としても知られるM-タンパク質は、悪性、腫瘍性の形質細胞クローンにより分泌される免疫グロブリン(抗体)又はその断片である。MMにおける悪性形質細胞の異常なモノクローナル増殖ゆえに、極めて過剰にM-タンパク質が産生され、これが、MMに対して特徴的な身体における多数の有害な影響につながる(例えば免疫機能不全、異常に高い血液粘度及び腎臓傷害)。MOR202は、M-タンパク質の供給源である形質細胞の枯渇において有効であり、結果的にM-タンパク質力価の低下につながる。
【0037】
形質細胞におけるMOR202の効果は、特異的な形質細胞の枯渇に対するマーカーとしての血清中の抗破傷風トキソイド(抗TT)抗体力価の評価により示される。MOR202投与後、MOR202投与前のベースラインと比較した場合、血清抗TT抗体レベルが顕著に低下した。
【0038】
全体的に、発明者らは、MOR202がヒト血清中の悪性(M-タンパク質)及び/又は防御的抗体(抗TT)レベルを効果的に低下させることを明らかにし、このことから、形質芽細胞及び形質細胞の長期枯渇が示される。他の抗CD38抗体と対照的に、MOR202は、低CD38発現細胞(例えばNK細胞)を温存し、従って最適な安全性プロファイルをもたらすことが予想される。
【0039】
血清抗体力価の低下におけるMOR202のこの観察される効果は新しく、先行技術は、自己抗体介在性ADの処置のためにMOR202を使用するための何らかの合理性を教示、示唆又は提供していない。
【0040】
本発明の特定の態様では、本抗体又は抗体断片は、自己抗体介在性自己免疫疾患の処置及び/又は予防での使用のための、特に全身性紅斑性狼瘡(SLE)又は特発性膜性糸球体腎炎の処置及び/又は予防での使用のための、好ましくは抗PLA2R陽性膜性糸球体腎炎の処置及び/又は予防での使用のための、アミノ酸配列配列番号1のHCDR1領域、アミノ酸配列配列番号2のHCDR2領域、配列番号3のアミノ酸配列のHCDR3領域、アミノ酸配列配列番号4のLCDR1領域、配列番号5のアミノ酸配列のLCDR2領域及びアミノ酸配列配列番号6のLCDR3領域を含む。
【0041】
本開示は、自己抗体介在性自己免疫疾患の予防及び/又は処置での使用のための、CD38に特異的な抗体又は抗体断片と、適切な医薬担体、賦形剤又は希釈剤と、を含む医薬組成物も提供する。
【0042】
さらなる特定の態様では、本医薬組成物は、本発明の抗体又は抗体断片と組み合わせた使用に適切なさらなる治療活性成分をさらに含み得る。より特定の態様では、さらなる治療活性成分は、自己抗体介在性自己免疫疾患の処置のための薬剤である。
【0043】
本発明の一態様では、本発明は、自己抗体介在性ADの予防及び/又は処置を必要とする対象における、特にヒトにおける、自己抗体介在性ADの予防及び/又は処置のための方法を提供し、この方法は、抗CD38抗体又は抗体断片を含む医薬組成物の有効量を前記対象に投与することを含む。
【0044】
本発明は、特発性膜性糸球体腎炎(IMN)の予防及び/又は処置を必要とする対象における、特発性膜性糸球体腎炎(IMN)の予防及び/又は処置のための方法も提供し、前記方法は、抗CD38抗体又は抗体断片を含む医薬組成物の有効量を前記対象に投与する段階を含む。
【0045】
特に、本発明は、抗PLA2R陽性膜性糸球体腎炎(aMN)の予防及び/又は処置を必要とする対象における、抗PLA2R陽性膜性糸球体腎炎(aMN)の予防及び/又は処置のための方法を提供し、前記方法は、抗CD38抗体又は抗体断片を含む医薬組成物の有効量を前記対象に投与する段階を含む。
【0046】
一態様では、本発明は、全身性紅斑性狼瘡(SLE)の予防及び/又は処置を必要とする対象における全身性紅斑性狼瘡(SLE)の予防及び/又は処置のための方法を提供し、前記方法は、抗CD38抗体又は抗体断片を含む医薬組成物の有効量を前記対象に投与する段階を含む。
【0047】
一態様では、本発明は、前記自己免疫疾患に罹患した、哺乳動物、特にヒトにおける自己抗体介在性ADの予防及び/又は処置での使用のためのCD38に特異的な抗体又は抗体断片を提供する。
【0048】
他の目的及び長所は、続く詳細な記載の検討から当業者にとって明らかになろう。
【0049】
さらに、本明細書中で開示される医薬組成物及び処置方法において有用なCD38に特異的な抗体又は抗体断片は、調製され、使用される場合、薬学的に許容可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】
図1は、B細胞分化及びCD19、CD20及びCD38発現のレベルの主要な細胞タイプを図示する。B細胞個体発生中のCD38発現は厳しく制御され:CD38は、骨髄前駆B細胞上に存在するが、成熟B細胞上では失われる。胚中心B細胞上で、CD38はアポトーシスを防ぐが、胚中心から出ていく際、メモリーB細胞が欠けるか、又は低レベルの抗原しかなくなる。抗体分泌細胞である最終的に分化した短命及び長命形質細胞上で、CD38は、少数の表面抗原のうち1つであり、高発現される(Hamblin TJ,Blood 2003 102:1939-1940)。
【
図2】
図2は、抗CD20B細胞枯渇抗体療法(例えばリツキシマブでの処置)により標的とされる主要なB細胞タイプを図示する。
【
図3】
図3は、抗CD38抗体療法(例えばMOR202での処置)により標的とされる主要な抗体分泌細胞タイプを図示する。
【
図4】
図4は、健康な個体及びFACSにより判定された多発性骨髄腫患者の形質細胞上での高いCD38発現を示す。
【
図5】
図5は、ベースラインと比較した、サイクル1の第15日(即ちMOR202処置開始から2週間後)でのMOR202投与後の対象における抗破傷風トキソイド(抗TT)抗体力価の変化(%)を示す。
【
図6】
図6は、ベースラインと比較した、サイクル2の第15日(即ちMOR202処置開始から6週間後)でのMOR202投与後の対象における抗破傷風トキソイド(抗TT)抗体力価の変化(%)を示す。
【
図7】
図7は、ベースライン(最大応答)と比較した、デキサメタゾンと組み合わせてMOR202で週に1回処置した患者コホートにおけるM-タンパク質レベルの変化(%)を示す。
【
図8】
図8は、ベースライン(最大応答)と比較した、レナリドミド/デキサメタゾンと組み合わせてMOR202で週に1回処置した患者コホートにおけるM-タンパク質レベルの変化(%)を示す。
【
図9】
図9は、ベースライン(最大応答)と比較した、ポマリドミド/デキサメタゾンと組み合わせてMOR202で週に1回処置した患者コホートにおけるM-タンパク質レベルの変化(%)を示す。
【
図10】
図10は、抗CD38抗体ダラツムマブ(Dara)及びイサツキシマブと比較した、CD38低発現NK細胞を温存する一方での、MOR202によるCD38高発現多発性骨髄腫形質細胞株の特異的な死滅を示す。
【
図11】
図11は、aMN対象で試験される臨床試験スケジュールMOR202を示す。
【
図12】
図12は、全身性紅斑性狼瘡(SLE)患者において検出され得る様々な自己抗体を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0051】
定義
次の用語は、以下でそれとともに与えられる意味を有するものとし、本発明の説明及び意図される範囲を理解するために有用である。
【0052】
抗体、抗体断片、このような抗体又は抗体断片を含む医薬組成物及びこのような抗体、抗体断片及び組成物を使用する方法を含み得る本発明を記載する際、次の用語は、存在する場合、別段の指示がない限り次の意味を有する。
【0053】
冠詞「a」及「an」は、冠詞の文法的な目的語の1つ又は複数(即ち少なくとも1つ)を指すために本明細書中で使用され得る。例として、「類似体」は、1つの類似体又は複数の類似体を意味する。
【0054】
「CD38」という用語は、次の同義語:ADP-リボシルシクラーゼ1、cADPr ヒドロラーゼ1、環状ADP-リボースヒドロラーゼ1、T10を有するCD38として知られるタンパク質を指す。
【0055】
ヒトCD38(UniProt P28907)は次のアミノ酸配列を有する:
MANCEFSPVSGDKPCCRLSRRAQLCLGVSILVLILVVVLAVVVPRWRQQWSGPGTTKRFPETVLARCVKYTEIHPEMRHVDCQSVWDAFKGAFISKHPCNITEEDYQPLMKLGTQTVPCNKILLWSRIKDLAHQFTQVQRDMFTLEDTLLGYLADDLTWCGEFNTSKINYQSCPDWRKDCSNNPVSVFWKTVSRRFAEAACDVVHVMLNGSRSKIFDKNSTFGSVEVHNLQPEKVQTLEAWVIHGGREDSRDLCQDPTIKELESIISKRNIQFSCKNIYRPDKFLQCVKNPEDSSCTSEI (配列番号9)
【0056】
CD38は、II型膜貫通糖タンパク質及び抗体分泌細胞上で高発現される抗原の例である(自己抗体分泌形質芽細胞及び形質細胞を含む)。CD38に起因する機能としては、受容体介在性接着及びシグナル伝達事象及び(エクト)酵素活性の両方が挙げられる。エクト酵素として、CD38は、環状ADP-リボース(cADPR)及びADPRの形成だけでなく、またニコチンアミド及びニコチン酸-アデニンジヌクレオチドホスフェート(NAADP)の形成のためにも、NAD+を基質として使用する。cADPR及びNAADPは、Ca2+動員のために第2のメッセンジャーとして作用することが示されている。NAD+をcADPRに変換することにより、CD38は細胞外NAD+濃度を調節し、故にNAD誘導性細胞死(NCID)の調整によって細胞生存を調節する。Ca2+を介したシグナル伝達に加えて、CD38シグナル伝達は、T及びB細胞上の抗原-受容体複合体又は他のタイプの受容体複合体、例えばMHC分子、とのクロストークを介して起こり、このようにしていくつかの細胞応答に関与し、IgG抗体分泌の切り替え及び分泌にも関与する。
【0057】
「抗CD38抗体」という用語は、本明細書中で使用される場合、その最も広い意味において抗CD38結合分子を含み;CD38に特異的に結合するか又はCD38の活性若しくは機能を阻害する、又はCD38において何らかの方法により治療効果を発揮する、あらゆる分子が含まれる。CD38機能性を妨害するか又は阻害するあらゆる分子が含まれる。「抗CD38抗体」という用語としては、CD38に特異的に結合する抗体、CD38に結合する代替的なタンパク質骨格(例えば:フィブロネクチン骨格、アンキリン、マキシボディ(maxybodies)/アビマー、タンパク質A由来分子、アンチカリン、アフィリン、タンパク質エピトープ模倣物(PEM)など)、CD38に特異的な核酸(アプタマーを含む)又はCD38に特異的な小さな有機分子が挙げられるが限定されない。
【0058】
CD38に特異的な抗体は、例えばその全体において参照により組み込まれる国際公開第199962526号パンフレット(Mayo Foundation);国際公開第200206347号パンフレット(Crucell Holland);その全体において参照により組み込まれる米国特許出願公開第2002164788号明細書(Jonathan Ellis);国際公開第2005103083号パンフレット(MorphoSys AG)、その全体において参照により組み込まれる米国特許出願第10/588,568号明細書、国際公開第2006125640号パンフレット(MorphoSys AG)、その全体において参照により組み込まれる米国特許出願第11/920,830号明細書及び国際公開第2007042309号パンフレット(MorphoSys AG)、その全体において参照により組み込まれる米国特許出願第12/089,806号明細書;国際公開第2006099875号パンフレット(Genmab)、その全体において参照により組み込まれる米国特許出願第11/886,932号明細書;及び国際公開第2008047242号パンフレット(Sanofi-Aventis)、その全体において参照により組み込まれる米国特許出願第12/441,466号明細書に記載されている。
【0059】
CD38に特異的な抗体及び他の薬剤の組み合わせは、例えば、全てその全体において参照により組み込まれる、国際公開第200040265号パンフレット(Research Development Foundation);国際公開第2006099875号パンフレット及び国際公開第2008037257号パンフレット(Genmab);及び国際公開第2010061360号パンフレット、国際公開第2010061359号パンフレット、国際公開第2010061358号パンフレット及び国際公開第2010061357号パンフレット(Sanofi Aventis)に記載される。
【0060】
好ましくは、本明細書中に記載のような使用のための抗CD38抗体は、CD38に特異的な抗体である。より好ましくは、抗CD38抗体は、抗体又は抗体断片、例えばCD38に特異的に結合し、抗体分泌細胞を枯渇させるモノクローナル抗体である。このような抗体は、マウス、ラット、キメラ、ヒト化又はヒト抗体など、あらゆるタイプであり得る。
【0061】
「ヒト抗体」又は「ヒト抗体断片」は、本明細書中で使用される場合、フレームワーク及びCDR領域がヒト起源の配列由来である可変領域を有する抗体又は抗体断片である。抗体が定常領域を含有する場合、定常領域もこのような配列由来である。ヒト起源としては、例えばKnappik et al.,(2000)J Mol Biol 296:57-86)に記載のような、ヒト生殖細胞配列若しくはヒト生殖細胞配列の突然変異バージョン又はヒトフレームワーク配列分析に由来するコンセンサスフレームワーク配列を含有する抗体が挙げられるが限定されない。ヒト抗体は、例えば合成ライブラリから又はトランスジェニックマウス(例えばXenomouse)から単離され得る。抗体又は抗体断片は、その配列がヒトである場合、抗体が物理的に由来する、単離される又は製造される種に関係なく、ヒトである。
【0062】
免疫グロブリン可変ドメイン、例えばCDRの構造及び位置は、周知の付番スキーム、例えばKabat付番スキーム、Chothia付番スキーム又はKabat及びChothiaの組み合わせを使用して定められ得る(例えばSequences of Proteins of Immunological Interest、U.S.Department of Health and Human Services(1991),eds.Kabat et al.;Lazikani et al.,(1997)J.Mol.Bio.273:927-948参照);Kabat et al.,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th edit.,NIH Publication no.91-3242 U.S.Department of Health and Human Services;Chothia et al.,(1987)J.Mol.Biol.196:901-917;Chothia et al.,(1989)Nature 342:877-883;及びAl-Lazikani et al.,(1997)J.Mol.Biol.273:927-948。
【0063】
「ヒト化抗体」又は「ヒト化抗体断片」は、ヒト起源の配列由来の定常抗体領域及び可変抗体領域又はその一部を有する抗体分子として本明細書中で定義されるか、又はCDRのみが別の種由来である。例えば、ヒト化抗体はCDR移植され得、ここで可変ドメインのCDRは非ヒト起源であり、一方で可変ドメインの1つ以上のフレームワークはヒト起源であり、定常ドメイン(もしあれば)はヒト起源である。
【0064】
「キメラ抗体」又は「キメラ抗体断片」という用語は抗体分子として本明細書中で定義され、これは、1つの種で見られる配列に由来するか又はそれに対応する定常抗体領域及び別の種由来の可変抗体領域を有する。好ましくは、定常抗体領域は、ヒトで見られる配列に由来するか又はそれに対応し、可変抗体領域(例えばVH、VL、CDR又はFR領域)は、非ヒト動物、例えばマウス、ラット、ウサギ又はハムスターで見られる配列由来である。
【0065】
「単離抗体」という用語は、異なる抗原特異性を有する他の抗体又は抗体断片を実質的に含まない抗体又は抗体断片を指す。さらに、単離抗体又は抗体断片は、他の細胞性物質及び/又は化学物質を実質的に含み得ない。従って、いくつかの態様では、提供される抗体は、異なる特異性の抗体から分離されている単離抗体である。単離抗体はモノクローナル抗体であり得る。単離抗体は、組み換えモノクローナル抗体であり得る。しかし、エピトープ、アイソフォーム又は標的変異体に特異的に結合する単離抗体は、例えば他の種由来の他の関連抗原に対して交差反応性を有し得る(例えば種ホモローグ)。
【0066】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書中で使用される場合、単分子組成物の抗体分子の調製を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して特有の結合特異性及び親和性を有する特有の結合部位を提示する。
【0067】
さらに、本明細書中で使用される場合、本明細書による「免疫グロブリン」(Ig)は、クラスIgG、IgM、IgE、IgA又はIgD(又はその何らかのサブクラス)に属するタンパク質として定義され、全ての慣例的に公知の抗体及びその機能断片を含む。本発明での使用のための免疫グロブリンの好ましいクラスはIgGである。
【0068】
「抗体断片」という句は、本明細書中で使用される場合、(例えば結合、立体障害、安定化する空間分布による)抗原と特異的に相互作用する能力を保持する抗体の1つ以上の部分を指す。結合断片の例としては、Fab断片、VL、VH、CL及びCH1ドメインからなる一価断片;F(ab)2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結される2つのFab断片を含む二価断片;VH及びCH1ドメインからなるFd断片;抗体の単アームのVL及びVHドメインからなるFv断片;VHドメインからなるdAb断片(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546);及び単離相補性決定領域(CDR)が挙げられるが限定されない。さらに、Fv断片の2つのドメイン、VL及びVHは個別の遺伝子によりコードされるにもかかわらず、これらは、組み換え法を使用して、それらが1本タンパク質鎖として作製されることを可能にする合成リンカーにより連結され得、そこではVL及びVH領域が対になって一価分子を形成する(「1本鎖断片(scFv)」としても知られる;例えばBird et al.,(1988)Science 242:423-426;及びHuston et al.,(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.85:5879-5883を参照)。このような1本鎖抗体もまた、「抗体断片」という用語内に包含されるものとする。これらの抗体断片は、当業者にとって公知の従来技術を使用して得られ、この断片は、インタクトな抗体と同じように有用性に対してスクリーニングされる。抗体断片はまた、単ドメイン抗体、マキシボディ(maxibodies)、ミニボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、v-NAR及びbis-scFv(例えばHollinger及びHudson,(2005)Nature Biotechnology 23:1126-1136参照)に組み込まれ得る。III型フィブロネクチン(Fn3)などのポリペプチドに基づき、抗体断片を骨格に移植し得る(フィブロネクチンポリペプチドモノボディを記載する米国特許第6,703,199号明細書を参照)。抗体断片は、相補性軽鎖ポリペプチドと一緒に抗原結合部位の対を形成するタンデムFvセグメント(VH-CH1-VH-CH1)の対を含む1本鎖分子に組み込まれ得る(Zapata et al.,(1995)Protein Eng.8:1057-1062;及び米国特許第5,641,870号明細書)。
【0069】
本開示は、このような処置を必要とする対象に対する開示されるような抗CD38抗体の投与の治療的有効量を含む治療方法を提供する。「治療的有効量」又は「有効量」は、本明細書中で使用される場合、所望の生物学的応答を誘発するために必要なCD38に特異的な抗体の量を指す。本開示によれば、治療的有効量は、自己抗体介在性自己免疫疾患及び前記ADに付随する症状を処置及び/又は予防するのに必要なCD38に特異的な抗体の量である。特定の個体に対する有効量は、処置されている状態、患者の全体的な健康状態、投与の方法経路及び用量、並びに副作用の重症度などの因子に依存して変動し得る(Maynard,et al.(1996)A Handbook of SOPs for Good Clinical Practice,Interpharm Press,Boca Raton,Fla.;Dent(2001)Good Laboratory and Good Clinical Practice,London,UK)。
【0070】
本明細書中で使用される場合、「処置する(treat)」、「処置すること(treating)」などは、一時的又は永久的の何れかで、症状を緩和する、症状の原因を排除する、又は指定された障害若しくは状態の症状の出現を防ぐか若しくは遅らせることを意味する。
【0071】
「予防すること(preventing)」又は「予防(prevention)」は、疾患又は障害を得るか又は発症するリスクの低下を指す(即ち、疾患開始より前に、疾患原因物質に曝露され得るか又は疾患に罹患し易い傾向があり得る対象において疾患の臨床症状の少なくとも1つが発症しないようになる。「予防(prevention)」は、疾患若しくはその症状の発症を防ぐことを目的とする、又は疾患若しくはその症状の発症を遅らせる方法を指す。
【0072】
「予防(prophylaxis)」という用語は、「予防(prevention)」に関連し、疾患を処置又は治癒させるのではなく、予防することが目的である手段又は手順を指す。予防的な手段の非限定例は、ワクチン投与;例えば運動抑制のために血栓症に対するリスクがある入院患者への低分子量ヘパリンの投与;マラリアが風土病であるか又はマラリアに罹患するリスクが高い地理的領域への訪問前のクロロキンなどの抗マラリア剤の投与を含み得る。
【0073】
自己抗体介在性ADの1つ以上の症状を「軽減すること(palliating)」は、自己抗体介在性ADの個体又は個体集団において、1つ以上の望ましくない臨床症状の度合いを低下させることを意味する。
【0074】
「投与される(administered)」又は「投与(administration)」は、例えば静脈内、筋肉内、皮内若しくは皮下経路などの注射可能な形態によるか、又は粘膜経路、例えば鼻腔噴霧又は吸入用エアロゾルとして、又は摂取可能な溶液、カプセル又は錠剤としての薬物の送達を含むが、限定されない。好ましくは、投与は注射可能な形態による。
【0075】
本明細書中で使用される場合、「対象」、「それを必要とする対象」などの用語は、1つ以上の症状又は自己抗体介在性自己免疫疾患の兆候を示す、及び/又は自己抗体介在性自己免疫疾患と診断されている、ヒト又は非ヒト動物を意味する。好ましくは、対象は、霊長類、最も好ましくは自己抗体介在性自己免疫疾患と診断されているヒト患者である。
【0076】
この文脈で使用される場合、「対象」又は「種」は、げっ歯類、例えばマウス又はラットなど、及び霊長類、例えばカニクイザル(マカカ・ファスシキュラリス(Macaca fascicularis))、アカゲザル(マカカ・ムラッタ(Macaca mulatta))又はヒト(ホモサピエンス(Homo sapiens))を含むあらゆる哺乳動物を指す。好ましくは、対象は霊長類、最も好ましくはヒトである。
【0077】
本明細書中で使用される場合、「自己抗体介在性自己免疫疾患」という用語は、「自己抗体関連自己免疫疾患」を含み、自己抗体の存在(自己抗体陽性)を特徴とする疾患の群を指し、ここで(i)疾患及びその付随症状の病態形成に対する自己抗体の原因となる相関及び直接的な寄与が与えられているか、又は(ii)疾患及びその付随症状の病態形成に対する自己抗体の原因となる相関及び直接的な寄与があまりはっきりしないが与えられ得るかの何れかである。自己抗体介在性自己免疫疾患としては、表1で列挙される代表的な疾患が挙げられるが限定されない。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
本明細書中で使用される場合、「約」という用語は、特定の列挙される数値に関して使用される場合、値が列挙される値から1%を超えない範囲で変動し得ることを意味する。例えば、本明細書中で使用される場合、「約100」という表現は、99及び101及びその間の全ての値を含む(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)。
【0082】
「薬物動態学」又は「PK」は、本明細書中で使用される場合、吸収及び分布のような機序並びに体内での薬物の代謝変化を通じて投与後に身体が具体的な薬物にどのように影響するか、及び薬物の代謝産物の効果及び排泄経路を述べる。薬物の薬物動態特性は、投与経路及び投与される薬物の用量により影響を受け得る。
【0083】
「薬学的に許容可能な」は、動物において、及びより特定にはヒトでの使用について、合衆国政府若しくは州政府の規制機関又は米国以外の国の対応する機関により承認されているか又は承認可能であること、又は米国薬局方若しくは他の一般的に認識される薬局方に挙げられていることを意味する。
【0084】
「薬学的に許容可能なビヒクル」は、抗体又は抗体断片が共に投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤又は担体を指す。
【0085】
この明細書全体を通じて、文脈が別段必要としない限り、「含む(comprise)」、「有する(have)」及び「含む(include)」という語及び「含む(comprises)」、「含むこと(comprising)」、「有する(has)」、「有すること(having)」、「含む(includes)」及び「含むこと(including)」などのそれらの個々の変形物は、述べられる要素若しくは整数又は要素若しくは整数の群を含むことを示唆するが、何らかの他の要素若しくは整数又は要素若しくは整数の群の排除ではないことが理解される。
【0086】
「MOR202」は、抗CD38抗体であり、また「MOR03087」又は「MOR3087」としても知られる。この用語は本開示で交換可能に使用される。MOR202はIgG1 Fc領域を有する。
【0087】
KabatによるMOR202 HCDR1のアミノ酸配列は、
SYYMN(配列番号1)である。
【0088】
KabatによるMOR202 HCDR2のアミノ酸配列は、
GISGDPSNTYYADSVKG(配列番号2)である。
【0089】
KabatによるMOR202 HCDR3のアミノ酸配列は、
DLPLVYTGFAY(配列番号3)である。
【0090】
KabatによるMOR202 LCDR1のアミノ酸配列は、
SGDNLRHYYVY(配列番号4)である。
【0091】
KabatによるMOR202 LCDR2のアミノ酸配列は、
GDSKRPS(配列番号5)である。
【0092】
MOR202 LCDR3のアミノ酸配列は、QTYTGGASL(配列番号6)である。
【0093】
MOR202可変重鎖ドメインのアミノ酸配列は、
QVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYYMNWVRQAPGKGLEWVSGISGDPSNTYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDLPLVYTGFAYWGQGTLVTVSS(配列番号7)
である。
【0094】
MOR202可変軽鎖ドメインのアミノ酸配列は、
DIELTQPPSVSVAPGQTARISCSGDNLRHYYVYWYQQKPGQAPVLVIYGDSKRPSGIPERFSGSNSGNTATLTISGTQAEDEADYYCQTYTGGASLVFGGGTKLTVLGQ(配列番号8)
である。
【0095】
MOR202可変重鎖ドメインをコードするDNA配列は、
CAGGTGCAATTGGTGGAAAGCGGCGGCGGCCTGGTGCAACCGGGCGGCAGCCTGCGTCTGAGCTGCGCGGCCTCCGGATTTACCTTTTCTTCTTATTATATGAATTGGGTGCGCCAAGCCCCTGGGAAGGGTCTCGAGTGGGTGAGCGGTATCTCTGGTGATCCTAGCAATACCTATTATGCGGATAGCGTGAAAGGCCGTTTTACCATTTCACGTGATAATTCGAAAAACACCCTGTATCTGCAAATGAACAGCCTGCGTGCGGAAGATACGGCCGTGTATTATTGCGCGCGTGATCTTCCTCTTGTTTATACTGGTTTTGCTTATTGGGGCCAAGGCACCCTGGTGACGGTTAGCTCA(配列番号10)
である。
【0096】
MOR202可変軽鎖ドメインをコードするDNA配列は、
GATATCGAACTGACCCAGCCGCCTTCAGTGAGCGTTGCACCAGGTCAGACCGCGCGTATCTCGTGTAGCGGCGATAATCTTCGTCATTATTATGTTTATTGGTACCAGCAGAAACCCGGGCAGGCGCCAGTTCTTGTGATTTATGGTGATTCTAAGCGTCCCTCAGGCATCCCGGAACGCTTTAGCGGATCCAACAGCGGCAACACCGCGACCCTGACCATTAGCGGCACTCAGGCGGAAGACGAAGCGGATTATTATTGCCAGACTTATACTGGTGGTGCTTCTCTTGTGTTTGGCGGCGGCACGAAGTTAACCGTTCTTGGCCAG(配列番号11)
である。
【0097】
本発明
本発明は、自己抗体介在性自己免疫疾患の予防及び/又は処置に有用な、CD38に特異的な抗体又は抗体断片に関する。いくつかの態様では、本抗体はMOR202であり、自己抗体介在性ADは表1から選択される何れかである。一態様では、本抗体はMOR202であり、自己抗体介在性ADはSLEである。特定の態様では、本抗体はMOR202であり、自己抗体介在性ADは特発性膜性糸球体腎炎、好ましくは抗PLA2R陽性膜性糸球体腎炎である。
【0098】
本発明は、自己抗体介在性自己免疫疾患の予防及び/又は処置を必要とする対象にCD38に特異的な抗体又は抗体断片を投与することを含む、自己抗体介在性自己免疫疾患の予防及び/又は処置のための方法も提供する。いくつかの態様では、前記方法で使用されるCD38に特異的な抗体又は抗体断片はMOR202であり、自己抗体介在性ADは表1から選択される何れかである。一態様では、前記方法で使用されるCD38に特異的な抗体又は抗体断片はMOR202であり、自己抗体介在性ADはSLEである。特定の態様では、前記方法で使用されるCD38に特異的な抗体又は抗体断片はMOR202であり、自己抗体介在性ADは、特発性膜性糸球体腎炎、好ましくは抗PLA2R陽性膜性糸球体腎炎である。
【0099】
本発明は、CD38に特異的な前記抗体又は抗体断片を含む医薬組成物、及びCD38に特異的な前記抗体又は抗体断片を投与することによる自己抗体介在性自己免疫疾患の予防及び/又は処置のための方法も提供する。
【0100】
医薬組成物
医薬品として使用する場合、CD38に特異的な抗体又は抗体断片は、一般的には医薬組成物中で投与される。このような組成物は、薬学の技術分野で周知のように調製され得、CD38に特異的な抗体又は抗体断片を含み得る。一般に、CD38に特異的な抗体又は抗体断片は有効量で投与される。実際に投与されるCD38に特異的な抗体又は抗体断片の量は一般的には、処置しようとする状態、選択される投与経路、投与される実際の抗体又は抗体断片、個々の患者の年齢、体重及び応答、患者の症状の重症度などを含む関連する状況に照らして医師により決定される。
【0101】
本開示の組成物は好ましくは、自己抗体介在性自己免疫疾患の処置のためのMOR202及び薬学的に許容可能な担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物である。
【0102】
薬学的に許容可能な担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄又は表皮投与(例えば注射又は点滴による)に適切であるべきである。薬学的に、担体は、本組成物を増強若しくは安定化する、又は本組成物の調製を促進する。薬学的に許容可能な担体は、生理学的に適合性である、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤などを含む。
【0103】
本組成物は、無菌であり流動性であるべきである。例えばレシチンなどのコーティングの使用によって、分散の場合は必要とされる粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって、適正な流動性が維持され得る。多くの場合、組成物中に、等張剤、例えば糖、ポリアルコール、例えばマンニトール又はソルビトールなど、及び塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能な組成物の長期吸収は、組成物中に吸収を遅らせる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウム又はゼラチンを含むことによりもたらされ得る。
【0104】
本開示の医薬組成物は、当技術分野で公知の様々な経路により投与され得る。本開示の抗体又は抗体断片に対する選択される投与経路としては、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、脊髄又は他の非経口投与経路、例えば注射若しくは点滴によるものが挙げられる。非経口投与は、通常は注射による腸内及び局所投与以外の投与形式を示し得、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、関節内、眼窩内、眼内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、脳内、病巣内及び胸骨内注射及び点滴が挙げられるが限定されない。或いは、本開示の組成物は、局所、表皮、皮膚又は粘膜投与経路、例えば、鼻腔内、経口、膣、直腸、舌下、経皮又は局所などの非非経口経路を介して投与され得る。さらに、本抗体又は抗体断片は、持続放出処方物として投与され得、この場合、頻度がより少ない投与が必要とされる。さらに、例えば吸入器又はネブライザー及びエアロゾル化剤との処方物の使用により、経肺投与も使用され得る。
【0105】
CD38に特異的な抗体又は抗体断片は、好ましくは注射可能な組成物として処方される。好ましい態様では、本開示の抗CD38抗体は静脈内投与される。他の態様では、本開示の抗CD38抗体は、皮下、関節内又は脊髄内投与される。
【0106】
投与経路に依存して、活性化合物、即ち抗体、抗体断片、二特異性及び多特異性分子は、化合物を不活性化し得る酸及び他の天然状態の作用から化合物を保護するための物質においてコーティングされ得る。
【0107】
注射可能な組成物は一般的には、注射可能な滅菌塩水又はリン酸緩衝食塩水又は当技術分野で公知の他の注射可能な担体に基づく。以前のように、このような組成物中のCD38に特異的な抗体又は抗体断片は一般的には、少量の構成成分であり、約0.05~10重量%であり、残りが注射可能な担体などであることが多い。必要に応じて、本組成物は、可溶化剤及び注射部位の痛みを和らげるためのリドカインなどの局所麻酔剤も含み得る。
【0108】
一態様では、本開示は、自己抗体介在性ADの処置での使用のための抗CD38抗体を含む組成物を対象とし、前記組成物は1つ以上の薬学的に許容可能な担体及び/又は希釈剤をさらに含む。
【0109】
本開示の重要な態様は、ADCC及びADCPによるCD38発現抗体分泌細胞(例えば形質芽細胞、形質細胞)の死滅に介在可能である医薬組成物である。
【0110】
処置方法
一実施形態では、本発明は、自己抗体介在性自己免疫疾患の予防及び/又は処置での使用のための、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又はCD38に特異的な抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物を提供する。
【0111】
一実施形態では、本開示は、全身性紅斑性狼瘡(SLE)の予防及び/又は処置での使用のための、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又はCD38に特異的な抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物を提供する。
【0112】
別の実施形態では、本開示は、特発性膜性腎症の予防及び/又は処置での使用ための、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又はCD38に特異的な抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物を提供する。
【0113】
一実施形態では、本発明は、自己免疫膜性腎症の予防及び/又は処置での使用のための、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又はCD38に特異的な抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物を提供する。
【0114】
特定の実施形態では、本開示は、抗PLA2R陽性膜性腎症の予防及び/又は処置での使用のための、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又はCD38に特異的な抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物を提供する。
【0115】
別の態様では、本開示は、抗PLA2R抗体力価がある患者における膜性腎症の予防及び/又は処置での使用のための、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又はCD38に特異的な抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物を提供する。
【0116】
別の実施形態では、本開示は、自己抗体介在性自己免疫疾患の予防及び/又は処置での使用のための薬剤の製造における使用のための、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又はCD38に特異的な抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物を提供する。
【0117】
一態様では、本開示は、全身性紅斑性狼瘡(SLE)の処置及び/又は予防のための薬剤の調製における抗CD38抗体の使用を提供する。
【0118】
別の態様では、本開示は、特発性膜性腎症の処置及び/又は予防のための薬剤の調製における抗CD38抗体の使用を提供する。
【0119】
別の態様では、本開示は、自己抗体介在性膜性腎症の処置及び/又は予防のための薬剤の調製における抗CD38抗体の使用を提供する。
【0120】
好ましい態様では、本開示は、抗PLA2R陽性膜性腎症の処置及び/又は予防のための薬剤の調製における抗CD38抗体の使用を提供する。
【0121】
他の態様では、本開示は、自己抗体介在性自己免疫疾患の処置及び/又は予防における薬剤の調製でのMOR202の使用を提供する。
【0122】
他の態様では、本開示は、全身性紅斑性狼瘡(SLE)の処置及び/又は予防における薬剤の調製でのMOR202の使用を提供する。
【0123】
他の態様では、本開示は、特発性膜性腎症の処置及び/又は予防における薬剤の調製でのMOR202の使用を提供する。
【0124】
他の態様では、本開示は、自己抗体介在性膜性腎症の処置及び/又は予防における薬剤の調製でのMOR202の使用を提供する。
【0125】
好ましい態様では、本開示は、抗PLA2R陽性膜性腎症の処置及び/又は予防のための薬剤の調製におけるMOR202の使用を提供する。
【0126】
一実施形態では、本開示は、自己抗体介在性自己免疫疾患、好ましくは自己抗体介在性膜性腎症の予防及び/又は処置における使用のための、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片及び別の治療剤又はCD38に特異的な抗体若しくは抗体断片及び別の治療剤を含む医薬組成物を提供する。
【0127】
別の実施形態では、本開示は、全身性紅斑性狼瘡(SLE)の予防及び/又は処置における使用のための、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片及び別の治療剤又はCD38に特異的な抗体若しくは抗体断片及び別の治療剤を含む医薬組成物を提供する。
【0128】
別の実施形態では、本開示は、特発性膜性腎症の予防及び/又は処置における使用のための、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片及び別の治療剤又はCD38に特異的な抗体若しくは抗体断片及び別の治療剤を含む医薬組成物を提供する。
【0129】
好ましい実施形態では、本開示は、抗PLA2R陽性膜性腎症の予防及び/又は処置における使用のための、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片及び別の治療剤又はCD38に特異的な抗体若しくは抗体断片及び別の治療剤を含む医薬組成物を提供する。
【0130】
一実施形態では、本開示は、自己抗体介在性自己免疫疾患、好ましくは自己抗体介在性膜性腎症の予防及び/又は処置における使用のための薬剤の製造での使用のための、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片及び別の治療剤又はCD38に特異的な抗体若しくは抗体断片及び別の治療剤を含む医薬組成物を提供する。
【0131】
他の態様では、本開示は、自己抗体介在性自己免疫疾患、好ましくは自己抗体介在性膜性腎症の処置及び/又は予防のための薬剤の調製における、抗CD38抗体及び別の治療剤又は抗CD38抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物の使用を提供する。
【0132】
好ましい態様では、本開示は、全身性紅斑性狼瘡(SLE)の処置及び/又は予防のための薬剤の調製における、抗CD38抗体及び別の治療剤又は抗CD38抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物の使用を提供する。
【0133】
好ましい態様では、本開示は、特発性膜性腎症の処置及び/又は予防のための薬剤の調製における、抗CD38抗体及び別の治療剤又は抗CD38抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物の使用を提供する。
【0134】
他の態様では、本開示は、自己抗体介在性自己免疫疾患、好ましくは自己抗体介在性膜性腎症の処置及び/又は予防のための薬剤の調製における、MOR202及び別の治療剤又はMOR202を含む医薬組成物の使用を提供する。
【0135】
一態様では、本開示は、全身性紅斑性狼瘡(SLE)の処置及び/又は予防のための薬剤の調製における、MOR202及び別の治療剤又はMOR202を含む医薬組成物の使用を提供する。
【0136】
特定の態様では、本開示は、特発性膜性腎症の処置及び/又は予防のための薬剤の調製における、MOR202及び別の治療剤又はMOR202を含む医薬組成物の使用を提供する。
【0137】
特定の態様では、本開示は、抗PLA2R陽性膜性腎症の処置及び/又は予防のための薬剤の調製における、MOR202及び別の治療剤又はMOR202を含む医薬組成物の使用を提供する。
【0138】
特定の実施形態では、前記別の治療剤は自己免疫疾患治療剤である。特定の実施形態では、前記薬剤は、免疫抑制剤であり、ステロイド(例えばクロベタゾールプロピオナート、デスオキシメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、プレドニゾロン、ブデソニド又はデキサメタゾン)、プロテアソーム阻害剤(例えばボルテゾミブ)、細胞分裂停止剤(例えばシクロホスファミド、アザチオプリン、メトトレキサート)、イムノフィリンにおいて作用する薬物(例えばシクロスポリン、タクロリムス、シロリムス)及び他の免疫抑制剤を含む群から選択される。
【0139】
処置態様のさらなる方法では、本発明は、自己抗体介在性自己免疫疾患に罹患する哺乳動物の予防及び/又は処置の方法を提供し、この方法では、前記状態の処置及び/又は予防について記載される、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又は本明細書中の医薬組成物の1つ以上の有効量の投与を含む。
【0140】
一態様では、本発明は、前記対象に抗CD38抗体を投与することを含む、自己抗体介在性AD、好ましくは自己抗体介在性膜性腎症の処置のための方法を提供する。
【0141】
一実施形態では、本開示は、自己抗体介在性自己免疫疾患に罹患する哺乳動物の予防及び/又は処置の方法を提供し、前記方法は、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片との別の治療剤の投与を含む。特定の実施形態では、前記他の治療剤は自己免疫疾患治療剤である。特定の実施形態では、前記薬剤は免疫抑制剤である。
【0142】
本明細書中に記載の処置又は使用の方法において、自己免疫疾患は特に、自己抗体介在性自己免疫疾患(例えばSLE、グレーブス病、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、自己免疫脳炎、特発性膜性糸球体腎炎、抗PLA2R陽性膜性糸球体腎炎)である。
【0143】
特定の態様では、本開示は、対象において抗PLA2R陽性膜性糸球体腎炎の処置及び又は/予防のための方法を提供し、前記方法は、抗CD38抗体を前記対象に投与することを含む。
【0144】
一実施形態では、本開示は、中度から重度の自己抗体介在性ADに罹患する対象の予防及び/又は処置の方法を提供し、この方法は、前記状態の処置及び/又は予防のための、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又は本明細書中に記載の医薬組成物の1つ以上の有効量の投与を含む。
【0145】
いくつかの実施形態では、本開示は、自己抗体介在性AD罹患対象の予防及び/又は処置の方法を提供し、ここで前記対象は、コルチコステロイド又はカルシニューリン阻害剤又はB細胞枯渇療法(例えばリツキシマブ又は何らかの他の抗CD20抗体又は抗BAFF抗体による)を含む他の免疫抑制薬治療に抵抗性があり、この方法は、前記状態の処置及び/又は予防のための、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又は本明細書中に記載の医薬組成物の1つ以上の有効量の投与を含む。
【0146】
一態様では、本発明は、自己抗体介在性自己免疫疾患、好ましくは自己抗体介在性膜性腎症患者において予防又は治療効果を達成するために抗CD38抗体又は抗体断片を使用する方法を提供する。
【0147】
本明細書中で提供される別の態様は、自己抗体介在性自己免疫疾患が介在する症状を処置及び/又は予防するために抗CD38抗体を使用する方法である。
【0148】
別の態様では、本明細書中で提供されるのは、自己抗体介在性疾患症状の発生率を低下させる、自己抗体介在性疾患症状を寛解させる、自己抗体介在性疾患症状を抑止する、自己抗体介在性疾患症状を軽減する、及び/又は対象における自己抗体介在性疾患の発症、発生若しくは進行を遅延させるための方法であり、前記方法は、対象に抗CD38抗体の有効量を投与することを含む。
【0149】
好ましい実施形態では、本開示は、自己免疫疾患と関連する1つ以上の自己抗体特異性のレベル上昇を示す患者を処置するための方法を提供する。
【0150】
他の態様では、本開示は、抗核若しくは抗DNA自己抗体又は
図12で列挙されるような何らかの他のSLE自己抗体の存在により引き起こされるSLEの処置及び/又は予防のための方法を提供する。
【0151】
また他の態様では、本発明は、抗核若しくは抗DNA自己抗体又は
図12で列挙されるような何らかの他のSLE自己抗体の存在と関連するSLEの処置及び/又は予防のための方法を提供する。
【0152】
他の態様では、本開示は、抗ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)自己抗体の存在により引き起こされる疾患の処置及び/又は予防のための方法を提供する。また他の態様では、本発明は、抗ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)自己抗体の存在と関連する疾患の処置及び/又は予防のための方法を提供する。
【0153】
他の態様では、本開示は、抗トロンボスポンジン1型ドメイン含有7A自己抗体の存在により引き起こされる疾患の処置及び/又は予防のための方法を提供する。また他の態様では、本発明は、抗トロンボスポンジン1型ドメイン含有7A自己抗体の存在と関連する疾患の処置及び/又は予防のための方法を提供する。
【0154】
他の実施形態では、本開示は、自己抗体介在性自己免疫疾患に罹患する対象の血清中の自己抗体力価を低下させるための方法を提供し、この方法は、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又は本明細書中に記載の医薬組成物の1つ以上の有効量の投与を含む。
【0155】
好ましい実施形態では、本開示は、特発性膜性糸球体腎炎に罹患する対象の血清中の自己抗体力価を低下させるための方法を提供し、この方法は、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又は本明細書中に記載の医薬組成物の1つ以上の有効量の投与を含む。例えば、本明細書中で提供される方法は、抗PLA2R及び/又は抗トロンボスポンジン1型ドメイン含有7A自己抗体のレベルが上昇している患者に抗CD38抗体を投与することを含む。
【0156】
一実施形態では、抗PLA2R陽性膜性糸球体腎炎に罹患している対象の血清中の自己抗体力価の低下(変化)は、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又は本明細書中に記載の医薬組成物の1つ以上を投与した後、ベースラインと比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%又は少なくとも50%である。
【0157】
別の実施形態では、本開示は、個体における抗PLA2R陽性膜性糸球体腎炎と関連する蛋白尿の処置及び/又は予防のための方法を提供し、この方法は、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又は本明細書中に記載の医薬組成物の1つ以上の有効量の投与を含む。
【0158】
別の態様では、本開示は、抗PLA2R陽性膜性腎症がある個体において腎臓機能低下を予防するための方法を提供し、この方法は、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又は本明細書中に記載の医薬組成物の1つ以上の有効量の投与を含む。
【0159】
別の態様では、本開示は、膜性腎症の個体における高コレステロール血症(高コレステロール)の処置及び/又は予防のための方法を提供し、この方法は、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又は本明細書中に記載の医薬組成物の1つ以上の有効量の投与を含む。
【0160】
一実施形態では、本開示は、自己抗体介在性自己免疫疾患の処置のためのCD38に特異的な抗体又は抗体断片の使用に言及し、ここで前記抗体又は抗体断片は、CD38発現形質細胞に結合する。
【0161】
さらなる実施形態では、本開示は、CD38発現細胞に結合し、このようなCD38発現細胞の枯渇を導く抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を対象に投与することを含む、対象における自己抗体介在性自己免疫疾患の処置のための方法に言及する。
【0162】
好ましい実施形態では、本開示は、NK細胞などの低CD38発現の他の(抗体非分泌)細胞を温存しながら、CD38発現抗体分泌細胞に結合し、このようなCD38発現抗体分泌細胞の枯渇を導く抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を対象に投与することを含む、対象における自己抗体介在性自己免疫疾患の処置のための方法に言及する。
【0163】
特定の好ましい実施形態では、本開示は、NK細胞を温存しながら、CD38発現抗体分泌細胞に結合し、このようなCD38発現抗体分泌細胞の枯渇を導く、即ちNK細胞よりも抗体分泌細胞において顕著により高い特異的な細胞死滅を示す、抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を対象に投与することを含む、対象における自己抗体介在性自己免疫疾患の処置のための方法に言及する。
【0164】
一実施形態では、本開示は、NK細胞などの低CD38発現の他の(抗体非分泌)細胞を温存しながら、CD38発現抗体分泌細胞に結合し、このようなCD38発現抗体分泌細胞の枯渇を導く抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を対象に投与することを含む、対象における自己抗体介在性自己免疫疾患の処置のための方法に言及し、標準的なADCCアッセイで判定した場合、抗体分泌形質細胞の特異的な細胞死滅は、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%であり、抗体非分泌NK細胞の特異的な細胞死滅は、30%未満、25%未満、20%未満又は15%未満である。
【0165】
CD38に特異的な抗体又は抗体断片は、唯一の活性物質として投与され得るか、又は他の治療剤と組み合わせて投与され得る。特定の実施形態では、2つの(又はそれを超える)薬剤の同時投与によって、それぞれの顕著により低い用量を使用することが可能となり、それにより副作用の軽減が見られる。
【0166】
ある実施形態では、CD38に特異的な抗体若しくは抗体断片又はCD38に特異的な抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物が薬剤として投与される。特定の実施形態では、前記医薬組成物はさらに、さらなる活性成分を含む。
【0167】
同時投与には、当業者にとって明らかであるように、同じ治療レジメンの一部として患者に2つ以上の治療剤を送達するあらゆる手段が含まれる。単一の処方物中で、即ち単一医薬組成物として、2つ以上の薬剤が同時に投与される一方で、これは必須ではない。この薬剤は、異なる処方物中で異なる時間に投与され得る。
【0168】
本開示の組み合わせ治療の治療剤(例えば予防又は治療剤)は、対象に同時に又は連続的に投与され得る。
【0169】
本開示の組み合わせ治療の治療剤(例えば予防又は治療剤)は、周期的にも投与され得る。サイクル治療は、治療剤(例えば薬剤)のうち1つに対する抵抗性の発展を軽減するための、治療剤(例えば薬剤)の1つの副作用を回避するか又は軽減するための、及び/又は治療剤の効力を向上させるための、ある期間にわたる第1の治療剤(例えば第1の予防又は治療剤)の投与、これに続くある期間にわたる第2の治療剤(例えば第2の予防又は治療剤)の投与及びこの連続投与の繰り返し、即ちサイクルを含む。
【0170】
本開示の組み合わせ療法の治療剤(例えば予防又は治療剤)は、同時に対象に投与され得る。「同時に」という用語は、正確に同じ時間での治療剤(例えば予防又は治療剤)の投与に限定されないが、むしろ、これは、それらが別に投与された場合よりも利益を向上させるために、本開示の抗体が他の治療剤と一緒に作用し得るような時間間隔内に本開示の抗体又は抗体断片を含む医薬組成物が対象に順に投与されること意味する。
【0171】
抗体
本開示のある一定の実施形態では、本開示によるCD38に特異的な抗体又は抗体断片は、国際公開第2007/042309号パンフレットで示されるようなCD38特異的な抗体のアミノ酸配列の何れかを含む可変重鎖可変領域、可変軽鎖領域、重鎖、軽鎖及び/又はCDRを含む。
【0172】
一実施形態では、前記CD38に特異的な抗体又は抗体断片は、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1領域、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2領域、配列番号3のアミノ酸配列を含むHCDR3領域、配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR1領域、配列番号5のアミノ酸配列を含むLCDR2領域及び配列番号6のアミノ酸配列を含むLCDR3領域を含む。
【0173】
一実施形態では、前記CD38に特異的な抗体又は抗体断片は、配列番号1のHCDR1領域、配列番号2のHCDR2領域、配列番号3のHCDR3領域、配列番号4のLCDR1領域、配列番号5のLCDR2領域及び配列番号6のLCDR3領域を含む。
【0174】
一実施形態では、前記CD38に特異的な抗体又は抗体断片は、配列番号7の可変重鎖領域及び配列番号8の可変軽鎖領域を含む。
【0175】
別の実施形態では、前記抗体又は抗体断片は、配列番号7の可変重鎖領域及び配列番号8の可変軽鎖領域、又は配列番号7の可変重鎖領域に対して、及び配列番号8の可変軽鎖領域に対して、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%の同一性を有する可変重鎖領域及び可変軽鎖領域を含む。
【0176】
配列番号7のアミノ酸配列を含む可変重鎖領域及び配列番号8のアミノ酸配列を含む可変軽鎖領域を含む代表的な抗体又は抗体断片は、MOR202として知られるヒト抗CD38抗体である。
【0177】
一実施形態では、本開示は、前記CD38に特異的な抗体又は抗体断片をコードする核酸配列又は複数の核酸配列を含む核酸組成物に言及し、前記抗体又は抗体断片は、配列番号1のHCDR1領域、配列番号2のHCDR2領域、配列番号3のHCDR3領域、配列番号4のLCDR1領域、配列番号5のLCDR2領域及び配列番号6のLCDR3領域を含む。
【0178】
別の実施形態では、本開示は、単離モノクローナル抗体又はそれらの断片をコードする核酸に言及し、ここでこの核酸は、配列番号10のVH及び配列番号11のVLを含む。
【0179】
一実施形態では、CD38に特異的な開示される抗体又は抗体断片は、モノクローナル抗体又は抗体断片である。
【0180】
一実施形態では、CD38に特異的な開示される抗体又は抗体断片は、ヒト、ヒト化又はキメラ抗体である。
【0181】
ある一定の実施形態では、前記CD38に特異的な抗体又は抗体断片は、単離抗体又は抗体断片である。
【0182】
別の実施形態では、前記抗体又は抗体断片は、組み換え抗体又は抗体断片である。
【0183】
さらなる実施形態では、前記抗体又は抗体断片は、組み換えヒト抗体又は抗体断片である。
【0184】
さらなる実施形態では、前記組み換えヒト抗体又は抗体断片は、単離組み換えヒト抗体又は抗体断片である。
【0185】
さらなる実施形態では、前記組み換えヒト抗体又は抗体断片又は単離組み換えヒト抗体又は抗体断片は、モノクローナルである。
【0186】
一実施形態では、開示される抗体又は抗体断片は、IgGアイソタイプのものである。
【0187】
別の実施形態では、前記抗体はIgG1である。
【0188】
一実施形態では、前記抗体断片は二価抗体断片である。
【0189】
本発明の特定の態様では、抗CD38抗体はMOR202である。
【0190】
一実施形態では、本開示は、CD38に特異的なMOR202又はそれらの断片及び薬学的に許容可能な担体又は賦形剤を含む医薬組成物に言及する。
【0191】
特定の実施形態では、CD38に特異的な抗体又は抗体断片は、CD38に特異的に結合する抗体又は抗体断片である。
【0192】
特定の実施形態では、前記CD38に特異的な抗体又は抗体断片は、ヒトCD38に特異的に結合する抗体又は抗体断片である。
【0193】
特定の実施形態では、前記CD38に特異的な抗体又は抗体断片は、ヒトCD38に特異的に結合する単離モノクローナル抗体又は抗体断片である。
【0194】
別の実施形態では、本開示は、CD38に特異的な抗体又は抗体断片を提供し、これはCD38発現抗体分泌細胞を枯渇させる。
【0195】
好ましい態様では、本開示は、SLEの対象において血清自己抗体レベルを低下させるための予防及び/又は治療剤を提供し、前記薬剤は、活性成分として抗CD38抗体を含む。
【0196】
好ましい態様では、本開示は、aMNの対象において血清自己抗体レベルを低下させるための予防及び/又は治療剤を提供し、前記薬剤は、活性成分として抗CD38抗体を含む。
【0197】
特定の態様では、本開示は、aMNの対象において血清抗PLA2R自己抗体レベルを低下させるための予防及び/又は治療剤を提供し、前記薬剤は、活性成分として抗CD38抗体を含む。
【0198】
別の態様では、本開示は、aMNの対象の腎臓において蓄積する抗PLA2R自己抗体を低下させるための予防及び/又は治療剤を提供し、前記薬剤は、活性成分として抗CD38抗体を含む。
【0199】
さらなる態様では、本開示は、aMNの対象において蛋白尿を低下させるための予防及び/又は治療剤を提供し、前記薬剤は、活性成分として抗CD38抗体を含む。
【0200】
別の態様において、本開示は、aMNの対象において高脂血症(例えば高コレステロール血症、高コレステロール)を軽減するための予防及び/又は治療剤を提供し、前記薬剤は、活性成分として抗CD38抗体を含む。
【0201】
別の態様では、本開示は、aMNの対象においてCKD-epi式に基づいて、糸球体ろ過率(eGFR)により示される腎臓機能を、回復させる、寛解させる、又は正常化させるための予防及び/又は治療剤を提供し、前記薬剤は、活性成分として抗CD38抗体を含む。
【実施例】
【0202】
次の実施例で使用されるCD38に特異的な代表的抗体はヒト抗体MOR202である。
【0203】
実施例1:ワクチン抗原としての破傷風トキソイドに対する既存の抗体力価に対するMOR202の有効性
既存の抗体力価に対するMOR202処置の影響を評価するために、発明者らは、MOR202投与後の定められた時間点で対象から回収したヒト血清中で抗破傷風トキソイド力価を測定した。
【0204】
1.1.試験設計
次の生体分析評価は、再発/難治性多発性骨髄腫の成人対象において、ヒト抗CD38抗体MOR03087の安全性及び予備的な効力の特徴を調べるための、オープンラベル、多施設共同用量漸増臨床試験の一部である。本実験の目的は、モノクローナル抗CD38抗体(MOR03087=MOR202)が既存の抗体力価を低下させることにおいて有効であることを明らかにするための、試験中に得られたヒト血清試料中の抗破傷風トキソイド(抗TT)IgG抗体力価の定量的な測定であった。ELISAにより抗破傷風トキソイド(抗TT)IgGレベルについてヒト血清試料を分析した(表4)。
【0205】
1.2.定量的ELISAによる抗破傷風トキソイドIgGの決定
分析まで-75±15℃で血清試料を保管した。試料中での抗破傷風トキソイドIgGの測定のために、市販の免疫アッセイキット(VaccZyme(商標)、結合部位、product code MK010)を使用した。試料分析前に生体分析試験サイトでアッセイの品質を調べ、製造者の推奨に従い全ての測定を行った。バッチ特異的な目標値及び範囲の2つの品質管理(QC)試料がキットとともに提供された。QC目標値(高QC/低QC):1.31/0.22IU/mL(バッチ1)、1.32/0.23IU/mL(バッチ2)、1.39/0.25IU/mL(バッチ3)、1.3/0.25IU/mL(バッチ4)、1.27/0.28IU/mL(バッチ5)。認定実験中に、認定実験の結果に従い、3つのさらなる濃度レベルを評価した:ULOQ(7IU/mL)、LLOQ(0.01IU/mL)、HQC(2.8~3.5IU/mL)(ULOQ:品質評価の上限、LLOQ:品質評価の下限、HQC:高品質管理)。即時使用キットを用いて較正基準試料を提供した。較正基準の1セットは、0.01、0.03、0.09、0.26、0.78、2.33、7IU/mLからなった。
【0206】
1.2.1.測定性能
アッセイキットで提供されるように、1セットの較正基準試料及び2セットのQC試料と一緒に、実験中に2つ組として試料を分析した(1回の実験=1枚の96ウェルプレート)。抗TT IgG ELISAの実施のために、試料処理は必要ない。試料希釈剤での希釈(最低必要な希釈1:101)後に試料を測定した。
【0207】
1.2.2.試験の原理
VaccZyme(商標)抗破傷風トキソイドIgG酵素免疫アッセイキットは、2段階酵素連結免疫吸着アッセイである。8ウェルのストリップ12本に切り離されるウェルをクロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)からの破傷風トキソイドでコーティングした。標準物質、対照及び希釈血清試料をウェルに添加し、最初の温置中に破傷風トキソイド抗原を認識する抗体が結合する。全ての未結合のタンパク質を除去するためにウェルを洗浄した後、精製ペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ヒトIgG(ガンマ鎖特異的)複合物を添加する。複合物は、捕捉されるヒト抗体に結合し、さらなる洗浄段階により過剰な未結合の複合物が除去される。青色の反応産物を与える3,3’,5,5’テトラメチルベンジジン(TMB)基質を用いて結合複合物を可視化するが、強度は試料中の抗体濃度に比例する。リン酸を各ウェルに添加して反応を停止させる。これは、黄色のエンドポイント色を生じさせ、これは450nmで読み取られる。
【0208】
1.2.3.データ評価
4-パラメーターロジスティックを用いて、TECAN Austria GmbH からのMagellan(商標)ソフトウェアバージョン6.6を用いてマイクロプレートリーダーからの出力のデータ整理を行った。標準曲線を使用して、品質対照及び試験試料の光学密度を濃度(IU/mL)に変換した。定量の上限及び下限に近い濃度を計算可能にするために外挿を行った(外挿因子1.1)。有効数字3桁で全ての測定及び計算される濃度データを報告する。
【0209】
1.2.4.結果
22回のアッセイ実行でヒト血清試料を分析した。22回の容認されたアッセイ実行における較正基準試料から、アッセイ間の正確度及び精度データを評価した。正確度(バイアスとして表される)及び精度(変動係数;CVとして表される)データを表2で示す。
【0210】
【0211】
22回の容認されたアッセイ実行中最大22セットのQC試料から、アッセイ間の正確度及び精度データを評価した。正確度(バイアスとして表される)及び精度(変動係数;CVとして表される)データを表3で示す。
【0212】
【0213】
ベースライン及び「サイクル、第15日」又は「サイクル2、第15日」データ点のうち少なくとも1つが利用可能であった74名の対象からの血清試料の抗TT濃度(IU/mL)を表4で示す。これらの同時投薬因子は偏りのある結果につながるので、臨床試験中に同時投薬を受けた対象(IVIG投与又はブーストワクチン接種など)は分析に含めなかった。
【0214】
【0215】
【0216】
【0217】
【0218】
【0219】
【0220】
抗TT抗体力価に対するMOR202の影響を決定するために、MOR202投与後、第0日(MOR202処置前、表4で「ベースライン」として示される)、第15日(サイクル1)及び第43日(=サイクル2、第15日)に得られた血清試料を分析した。サイクル1の第15日に、MOR202処置後、殆どの対象が、第0日のベースラインと比較して、抗TT抗体力価の顕著な低下を示した。サイクル1の第15日(「サイクル1、第15日」として示される)に得られた試料と比較した、第0日で得られる「ベースライン」試料の抗TT濃度の%変化を
図5で示す。サイクル2の第15日(「サイクル2、第15日」として示される)に得られた試料と比較した、第0日で得られた「ベースライン」試料の抗TT濃度の%変化を
図6で示す。MOR202処置対象の多くにおいて、抗TT抗体力価がさらに低下し(即ちサイクル1、第15日からサイクル2、第15日に、より高いパーセンテージ変化)、抗体力価に対するMOR202の長期的効果が示唆される。
【0221】
まとめると、これらのデータから、血清抗体力価の低下においてMOR202が有効であることが明らかとなる。従って、抗CD38抗体(例えばMOR202)を用いた自己抗体介在性ADの有効な処置及び/又は予防は非常に真実味がある。
【0222】
実施例2:M-タンパク質レベルの決定
2.1.試験設計
キャピラリー電気泳動(CE)アッセイ、特に血清タンパク質電気泳動(SPEP)及び尿タンパク質電気泳動(UPEP)により、(実施例1の試験に登録された)多発性骨髄腫患者の血清試料中のM-タンパク質レベルを定量的に決定した。
【0223】
2.2.キャピラリー電気泳動-試験の原理
荷電分子は、アルカリ性緩衝液中の特異的なpHでのそれらの電気泳動による移動により分離される。電解質pH及び電気浸透流に従い、分離が起こる。希釈緩衝液中で各試料を希釈し、キャピラリーに分離緩衝液を満たし;次にキャピラリーの陽極末端への吸引により試料を注入する。この後、高圧タンパク質分離を行う。続いて、キャピラリーの陽極末端において、特異的な波長で異なるタンパク質分画の直接的な検出及び定量を行う。
【0224】
M-タンパク質レベルの評価のためのさらなるアッセイとしては、免疫固定法電気泳動(IFE)、血清不含軽鎖(sFLC)アッセイ及び総タンパク質測定が挙げられるが限定されない(Keren DF and Schroeder L,Clin Chem Lab Med.2016 Jun 1;54(6):947-61)。さらに、国際公開第2017/149122号パンフレットに記載されるようにIFEに基づくREFELXアッセイを行い得る。
【0225】
2.3結果:
図7は、MOR202処置後の多発性骨髄腫患者におけるM-タンパク質レベルのパーセンテージ[%]として与えられる変化を示す。
【0226】
M-タンパク質の減少におけるMOR202の効果は、M-タンパク質産生悪性形質細胞の破壊及び枯渇を間接的に示す。
図5及び6で示されるように、実施例1の結果に加えて、MOR202投与後のM-タンパク質の低下(
図7~9)は、抗体力価の低下においてMOR202が有効であるさらなる証拠を提供する。
【0227】
実施例3:ナチュラルキラー(NK)細胞が介在するADCCの評価
3.1実験設定
(i)CD38高発現多発性骨髄腫細胞株(NCI-H929)及び(ii)CD38低発現ヒトNK細胞に対する、ナチュラルキラー細胞が介在する、MOR202、ダラツムマブ及びイサツキシマブ(SAR650984)の特異的な死滅効果を試験するために、ADCCアッセイを行った。MACS(Miltenyi Biotec、Cat No.:130-092-657)によりヒト血液からNK細胞を精製した。CD3/CD16+CD56/CD45 Tritest(商標)(Becton Dickinson Cat No.:342411)を使用して、FACSによってNK細胞純度を評価した。定められた濃度及び3:1のエフェクター:標的細胞比で個々の抗体とともに、37℃で2~4時間、NCI-H929標的細胞を温置した。NK細胞:NK細胞設定については標的及びエフェクター細胞が同じであるので、個々の抗体のみとともに37℃で2~4時間、NK標的細胞を温置した。細胞傷害性を調べるために、温置後、ヨウ化プロピジウム(PI)を細胞試料に添加し、フローサイトメトリーによって、死んだ細胞へのPI取り込みをすぐに評価した。
【0228】
3.2結果
NCI-929及びNK細胞におけるMOR202、ダラツムマブ及びイサツキシマブに対する特異的な細胞死滅の結果[%]を
図10で示す。
【0229】
実施例4:抗PLA2R陽性膜性腎症(aMN)の対象におけるMOR202の安全性及び効力の評価
4.1試験設計
この試験の目的は、抗PLA2R陽性膜性腎症(aMN)患者においてヒト抗CD38抗体MOR202の安全性、忍容性及び効力を評価すること及び血清抗PLA2R抗体レベルに対するMOR202の効果を評価することである。
【0230】
MOR202投与は、多発性骨髄腫(MM)における実施例1の臨床試験並びにPK/PDモデリングアプローチの結果に基づく。そこで、MOR202は、サイクル1第4日の負荷用量を含め、週に1回(QW)又は2週間ごと(Q2W)に0.1~16mg/kg i.v.の用量漸増スキームで投与した。MOR202は、単剤(単剤療法)として又はDEX、POM/DEX又はLEN/DEXの組み合わせの何れかで適用した。全体的な処置持続時間は、最長でも3年以下の連続処置での臨床応答に基づいた。この結果により、MM対象とaMN対象との間での異なる標的発現率を考慮して、集団に基づくPK/PDモデルが確立された。このモデルを使用して、この試験で予想されるような薬物曝露を模倣し(即ち16mg/kg:4xQW、続いて5xQ4Wで投与)、同じ処置期間を考慮して、この結果を実施例1の試験のデータと比較した。第4日での負荷用量を含め、16mg/kg QWで実施例1の試験において、6名の患者に少なくとも24週間投与した。これは、同様の最大血清濃度での現在の試験における予測される用量及び投与レジメンと比較して、MOR202曝露において2.4倍過剰に至るはずである。治験の目的は、初めての免疫抑制療法の対象である、又はリツキシマブ(抗CD20)療法を含む免疫抑制療法(IST)に応答しなかった、抗PLA2R陽性膜性腎症(aMN)患者において、ヒト抗CD38抗体MOR202の安全性及び効力を評価することである。
【0231】
実施例5:M-PLACE:MOR202(NCT04145440)でのaMN患者の2つのコホートの処置のための第Ib/IIa相多施設オープンラベル試験
30名の参加者の推定登録で抗PLA2R抗体陽性膜性腎症(aMN)におけるヒト抗CD38抗体MOR202の安全性及び効力を評価するための第Ib/IIa相オープンラベル多施設共同臨床試験が開始されており、米国及びヨーロッパの6か所の少なくとも14の施設において募集している。ClinicalTrials.gov identifier(NCT番号):NCT04145440。
【0232】
5.1.試験設計
この試験の目的は、抗PLA2R陽性膜性腎症(aMN)患者におけるヒト抗CD38抗体MOR202の安全性、忍容性及び効力を評価すること及び血清抗PLA2R抗体レベルに対するMOR202の効果を評価することである。
【0233】
主要な処置の理論的根拠は、抗CD38抗体MOR202による自己抗体産生形質細胞の標的化枯渇を通じた膜性腎症(MN)疾患特異的な抗PLA2R抗体の低下である。
【0234】
処置しようとする患者集団は、生検で証明された抗PLA2R抗体に対して陽性のMNである成人対象を含む。試験に適格な年齢:18~80歳(成人、高齢者)。全ての性別が試験に適格である。
【0235】
重要な組み入れ基準:
・尿タンパク質/クレアチニン比が≧3.0g/g(24h尿回収から測定した場合)
・スクリーニング開始前の直近6カ月以内に得られた腎臓生検において、推定糸球体ろ過率≧50mL/分/1.73m2又は>30及び<50mL/分/1.73m2及び間質性線維症及び尿細管萎縮スコアが25%未満。
・スクリーニング前少なくとも4週間にわたりアンジオテンシン変換酵素阻害剤又はアンジオテンシンII受容体ブロッカーでの支持治療において、安定用量に達している。
・収縮期BP≦150mmHg及び拡張期BP≦100mmHg
・インフォームドコンセントの署名の日付前最近3年以内に肺炎球菌に対するワクチン接種済み(対象は、この基準に合わせるためにスクリーニング中にワクチン接種され得;MOR202の最初の投与までの間隔は少なくとも14日でなければならない)。
・コホート1a(新たに診断された患者):Euroimmun ELISAによるスクリーニングで測定して、血清抗PLA2R抗体≧150.0応答単位(RU)/mL。
・コホート1b、再発対象:医師の判断に従い完全な免疫学的及び/又は臨床的寛解が起こっていなければならず、Euroimmun ELISAにより測定したスクリーニングで測定して、血清抗PLA2R抗体≧50.0RU/mL。
・コホート2:以前の治療の失敗、即ち対象は、シクロスポリンA、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、ACTH又はアルキル化剤(例えばシクロホスファミド)又はリツキシマブを含有する認識されるIST中又はその完了後、医師の判断に従い、完全な免疫学的及び/又は臨床的寛解に達しなかった。Euroimmun ELISAによりスクリーニングで測定して、血清抗PLA2R抗体≧20.0RU/mL。
【0236】
重要な組み入れ基準:
・ヘモグロビン<90g/L
・血小板減少症:血小板<100.0x109/L
・好中球減少症:好中球<1.5x109/L
・白血球減少症:白血球<3.0x109/L
・低ガンマグロブリン血症:血清免疫グロブリン≦5.0g/L
・MNの二次的な原因(例えば全身性紅斑性狼瘡、薬物療法、悪性腫瘍)
・MN以外の随伴性腎臓疾患(例えば糖尿病性腎疾患、狼瘡腎炎、IgA腎症)。
【0237】
コホート1は、ISTに適格である、蛋白尿(>5g/24h)及び抗PLA2R抗体の高く安定な血清力価などの都合の悪い予後特性がある、スクリーニングにおけるACEI/ARBでの支持的ケア処置時に安定なおよそ20名のaMN患者(≧150.00応答単位(RU)/mL、EuroImmun ELISA)又は少なくとも6カ月にわたり20RU/mL未満の血清抗PLA2R抗体力価を含む完全又は部分的な蛋白尿応答後に再発している対象を含む。対象は、新たに診断され得るか(コホート1a)、又は蛋白尿及びISTに対する以前の免疫応答の後に再発している者であり得る(コホート1b)。
【0238】
コホート2は、それらの最後の前治療ラインに対して免疫学的に応答せず、従って難治性と考えられる、第2又は第3のラインのISTを必要とするおよそ10名のaMN患者を含む。前治療の不成功、即ち対象は、治療開始後少なくとも6カ月後に測定して、CSA、タクロリムス、MMF、ACTH又はアルキル化剤(例えばシクロホスファミド)又はリツキシマブを含有する認識されるIST中又はその完了後に、20RU/mL未満への血清抗PLA2R抗体力価の低下を達成しなかった。
【0239】
コホート1及びコホート2の両方に対する除外基準は、活動性感染、MN(例えばSLE、薬物療法、悪性腫瘍)の二次的原因、1型又は2型糖尿病、妊娠又は授乳、試験薬及びその賦形剤に対する過敏症が既知であるか又はその疑いがあることである。
【0240】
2つのコホートのMOR202単剤治療は、24週間の治療相にわたり、その後、28週間の観察フォローアップ相が続く(
図11)。
【0241】
5.2.MOR202(MOR03087)の投与
MOR202は、ラベル付きガラスバイアル中で再構成用の凍結乾燥粉末として供給される。MOR202は使用まで2~8℃で保管しなければならない。薬物調製のために、各バイアルは、注射(WFI)用の4.8mLの水で再構成しなければならない。再構成後、各バイアルは、5mLの抽出可能な体積中で325mgのMOR202(MOR03087)を含有する(65mg/mL)。点滴の場合は250mLの0.9%塩化ナトリウム溶液中で希釈する。
【0242】
6回の28日処置サイクルに分けて、24週間にわたり全対象を処置する。全体で、次の処置日にMOR202の9回分が投与される:サイクル1、第1、8、15及び22日及びサイクル2~6の第1日(
図11)。最初の処置サイクルにおいて、週に1回、MOR202を16mg/kgで投与する(即ち全体でサイクル1に対して4回投与)。処置サイクル2~6において、各サイクルの初日に4週間ごとに1回、16mg/kgでMOR202を投与する(即ちC2D1、C3D1、・・・;全体でサイクル2~6にわたり5回投与)。
【0243】
最初のMOR202 i.v.点滴は遅い(およそ90分間、約3mL/分)。急性輸液反応が起こらない場合、点滴時間は1時間まで短縮し得るか、又はその後の点滴を短縮し得るが、表5で概説される短縮化段階に限定される。点滴時間は30分よりも短くすべきではない。輸注関連反応(IRR)の予防としての抗ヒスタミン及び解熱薬(例えばパラセタモール/アセトアミノフェン)による対象の前投薬が推奨される。表5で概説されるとおり、最初の3回の適用に対しては、MOR202点滴開始前およそ30分でのi.v.デキサメタゾン(又はi.v.投与される同等のグルココルチコイド)によるIRRの予防のための同時投薬が必須である。
【0244】
【0245】
5.3.安全性、免疫原性及び薬物動態の評価
安全性は、健康診断、バイタルサイン、酸素飽和度、心電図、血液学的及び生化学試験、有害事象及び免疫原性の点で評価する。有害事象は、NCI CTCAE、バージョン4.03に従い類別する。免疫原性及び薬物動態について監視するために、一連の試験中に、選択した時点でそれぞれ、抗MOR202抗体(抗薬物抗体)の存在及びMOR202の血清濃度を評価する。
【0246】
5.4.有効性評価
主要な有効性評価は、次のものを含む:(i)MOR202治療の前、その最中及びその後、一連の免疫応答を追跡するためにELISAにより測定される血清抗PLA2R抗体レベル。(ii)MOR202治療中及びその後に測定される24h尿/スポット尿からのUPCRに基づく蛋白尿。(iii)CKD-epi式に基づき糸球体ろ過率(eGFR)を推定することによる、MOR202治療の前、その最中及びその後に測定される腎臓機能。(iV)24h尿から決定される尿ナトリウム排泄。
【0247】
5.5.バイオマーカー
選択された時間点での抗PLA2R抗体の存在及び力価(即ち抗PLA2R抗体力価のカイネティクス)を一連の試験中に全対象に対して測定する。任意選択的に、さらなる自己抗体力価(例えば抗トロンボスポンジン1型ドメイン含有7A、抗THSD7A)、選択された時間点での抗破傷風トキソイド及び/又は抗EBV抗体が監視され得る。総IgG、IgA及びIgMの血清濃度をELISAにより評価し得る。末梢血フローサイトメトリー又はELISPOTアッセイによって、選択された時間点で定量的NK細胞、B細胞、T細胞(制御T細胞を含む)、形質芽細胞、形質細胞数を決定し得る。
【0248】
5.6.KDQOL-36
MOR202で処置された自己免疫膜性腎症の患者におけるベースラインからのスコア変化として定義されるクオリティーオブライフ(QoL)の評価のために、The Kidney Disease Quality of Life(KDQOL-36(商標))調査を使用する。
【0249】
実施例6:抗PLA2R抗体レベルの決定
製造指示書に従う一特異性ELISA(単一抗原、Euroimmune,Order No.EA1254-Gでの酵素免疫アッセイ)によってヒト血清試料中の抗ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)抗体レベルを定量的に測定する。簡潔に述べると、精製PLA2R抗原でコーティングしたポリスチレンマイクロプレートストリップを固相として使用する。血清希釈物1:101を調製し、マイクロプレートのウェルに結合する抗原上で温置する。試料が陽性である場合、希釈された血清試料中の特異的な抗体は、固相にカップリングされたPLA2R抗原に連結する。未結合の抗体を洗い流し、さらなる段階で、連結される抗PLA2R特異的な抗体をペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgGで検出する。結合される抗体は、色素原/基質溶液を使用して可視化され、これは、発色反応を促進可能である。生成される色の強度は血清試料中の抗体濃度に比例する。
【配列表】
【国際調査報告】