(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-02
(54)【発明の名称】無細胞の生物学的反応のための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220422BHJP
C12P 19/34 20060101ALI20220422BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20220422BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20220422BHJP
C12N 5/00 20060101ALN20220422BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
C12P19/34 A
C12P21/00 C
C12N1/20 Z
C12N5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021553853
(86)(22)【出願日】2020-03-09
(85)【翻訳文提出日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 US2020021763
(87)【国際公開番号】W WO2020185708
(87)【国際公開日】2020-09-17
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520046904
【氏名又は名称】シンビトロバイオ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】トレゴ, ケリー エス.
(72)【発明者】
【氏名】メッツガー, ルイス イー. ザ フォース
(72)【発明者】
【氏名】チアオ, アベル シー.
(72)【発明者】
【氏名】サン, ザッカリー ゼット.
(72)【発明者】
【氏名】ロバートソン, ダン イー.
(72)【発明者】
【氏名】モーア, ベンジャミン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF23
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA10
4B064CA11
4B064CA21
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4B065AA01X
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4B065AA90X
4B065CA23
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本明細書で開示される組成物および方法は、種々の生物学的反応のための改善されたインビトロ無細胞系に関する。1つの局面において、本開示の組成物は、生物に由来する無細胞抽出物;核酸;および上記生物に対して異種のオルガネラを含む。一部の実施形態では、上記生物は、細菌および/または古細菌を含む原核生物、好ましくは、E.coliのような細菌細胞である。特定の実施形態では、上記生物は、植物および/または動物のような真核生物を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
生物に由来する無細胞抽出物;
核酸;および
前記生物に対して異種のオルガネラ、
を含む組成物。
【請求項2】
前記生物は、細菌および/または古細菌を含む原核生物、好ましくは、E.coliのような細菌細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記生物は、植物および/または動物のような真核生物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記生物は、HeLa、CHO、ニンジン、昆虫、コムギ胚芽、初代がん細胞株、初代細胞株、白血球、真核生物、植物、動物、古細菌、Escherichia spp.、Streptomyces spp.、Actinobacteria、Bacillus spp.、Vibrio spp.、Rhodococcus spp.、Clostridium spp.、細菌および前述の任意の組み合わせから選択され;好ましくは、前記生物は、HeLa、CHO、Bacillus、Pichia、コムギ胚芽、ニンジン、およびS.frugiperda昆虫細胞から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記抽出物は、約0.005~1000mg/ml、0.05~500mg/ml、0.5~100mg/mlまたは1~20mg/mlの濃度で存在し、好ましくは、前記抽出物は、少なくとも部分精製されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記核酸は、直鎖状DNAもしくはプラスミドDNAまたはRNAを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記核酸は、所望のRNAまたはタンパク質生成物への発現のためのテンプレート核酸を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記オルガネラは、無傷のオルガネラおよび/または無傷でないオルガネラを含み、ここで前記無傷でないオルガネラにおいて、前記オルガネラの外膜および/または内膜は、少なくとも部分的に破壊されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記オルガネラは、ミトコンドリア、葉緑体、細菌カルボキシソーム、および前述のうちの1またはこれより多くの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記オルガネラは、ミトコンドリアを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記オルガネラは、約0.000015~100mg/ml、0.00015~50mg/ml、0.0015~10mg/ml、または0.15~4.5mg/mlの濃度で存在する、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記オルガネラは、少なくとも部分精製されており、好ましくは、無細胞転写および翻訳に対するインヒビターを含まない溶液中で貯蔵される、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記抽出物 対 前記オルガネラの重量比は、約100,000,000:1~0.00005:1の間;600,000:1~0.005:1の間;300:1~0.05:1の間;または10:1~0.2:1の間である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記オルガネラは、植物細胞および/または動物細胞のような真核生物細胞に由来する、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
転写および/または翻訳のための補因子、酵素、および他の試薬をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
TCA回路に入り得る基質をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
タンパク質生成のための方法であって、前記方法は、
請求項1~16のいずれか1項に記載の組成物を提供する工程;
前記組成物の中で、前記核酸からインビトロでタンパク質を発現させる工程;および
前記タンパク質を前記組成物から単離する工程、
を包含する方法。
【請求項18】
組成物であって、
基質;
所望の生成物への前記基質の反応を触媒する酵素;および
第1の生物に由来するオルガネラ、
を含み;
ここで前記組成物は、前記所望の生成物への前記基質のインビトロでの触媒反応のための無細胞組成物である、組成物。
【請求項19】
前記第1の生物は、植物細胞および/または動物細胞のような真核生物細胞から選択される、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
第2の生物に由来する抽出物をさらに含み、ここで前記オルガネラは、前記第2の生物に対して異種である、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
前記第2の生物は、HeLa、CHO、ニンジン、昆虫、コムギ胚芽、初代がん細胞株、初代細胞株、白血球、真核生物、植物、動物、古細菌、Escherichia spp.、Streptomyces spp.、Actinobacteria、Bacillus spp.、Vibrio spp.、Rhodococcus spp.、Clostridium spp.、細菌および前述の任意の組み合わせから選択され;好ましくは、前記第2の生物は、HeLa、CHO、Bacillus、Pichia、コムギ胚芽、ニンジン、およびS.frugiperda昆虫細胞から選択される、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
生成物のインビトロ調製のための方法であって、前記方法は、
請求項18~21のいずれか1項に記載の組成物を提供する工程;
前記酵素が、前記所望の生成物への前記基質の反応を触媒することを可能にする工程;および
前記所望の生成物を前記組成物から単離する工程、
を包含する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2019年3月8日出願の米国仮出願第62/815,445号(その全体において本明細書に参考として援用される)に基づく優先権および利益を主張する。
【0002】
政府の権利の陳述
本発明は、米国国立衛生研究所(NIH)によって授与された助成金番号1R43HG009988-01および米国エネルギー省(DOE)によって授与された助成金番号DE-SC0019827の下で政府支援を得て行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
分野
本明細書で開示される組成物および方法は、改善されたインビトロ無細胞系に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
DNAの中にコードされた、未知の機能のものである広範な生物学的データが存在する。このデータは、天然に由来するタンパク質、ペプチド、および分子制御構成要素からその半合成のおよび操作された改変体まで多岐にわたる。ハイスループットシーケンシングの進歩に伴って、2017年当時、2.7兆を超える塩基の情報が知られ、ごくわずかな部分のみが発現されている。このDNAの生成物を決定し得るツールは、この情報を理解するには必須である。
【0005】
別途、合成生物学は、本質的なプロセスが理解されかつ操作され得る重要な分野として出現してきた。この分野では、天然、半合成、または操作された遺伝子、調節性の部分、および試験する必要性のある他の構成要素がともに存在する。
【0006】
努力し進歩しているにもかかわらず、ハイスループット機能的ゲノミクスを行って、DNAからの生成物を決定し、合成生物学アプローチを促進するには、現行のアプローチは限られている。既存の生物学的システムをリプログラミングし、新たな生物学的システムを構築し、そして生物学、工学、グリーンケミストリー、農学および医療を含む多様な分野において変革をもたらす将来的な適用のための遺伝子回路を試験するために必要とされる設計-構築-試験サイクルを加速する工学主導型のアプローチおよびシステムを開発するにあたって、難題はなお残っている。
【0007】
細胞と同様に挙動する環境(Niederholtmeyerら 2015;Takahashiら 2015)において遺伝子構築物(Sunら 2014)の迅速なプロトタイプ作製を可能にするインビトロ転写-翻訳(TXTL)システム(Shin & Noireaux 2012;Sunら 2013)を開発した。インビトロで作業するという主な目的のうちの1つは、迅速な速度を生み出し得ることである - インビトロでは、反応に8時間かかり得、1日に数千もの反応(細胞における類似の反応の数倍の改善)へと拡大し得る(Sunら 2014)。
しかし、TXTL系を拡大する可能性を十分に実現するために、特に、タンパク質生成および酵素反応を目的とした、改善されたTXTLシステムが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Niederholtmeyer, H. et al., 2015. Rapid cell-free forward engineering of novel genetic ring oscillators. eLife.
【非特許文献2】Takahashi, M.K. et al., 2015. Characterizing and prototyping genetic networks with cell-free transcription-translation reactions. Methods.
【非特許文献3】Sun, Z.Z. et al., 2014. Linear DNA for Rapid Prototyping of Synthetic Biological Circuits in an Escherichia coliBased TXTL Cell-Free System. ACS Synth Biol, 3(6), pp.387-397.
【非特許文献4】Shin, J. & Noireaux, V., 2012. An E. coliCell-Free Expression Toolbox: Application to Synthetic Gene Circuits and Artificial Cells. ACS Synth Biol, 1(1), pp.29-41.
【非特許文献5】Sun, Z.Z. et al., 2013. Protocols for Implementing an Escherichia Coli Based TXTL Cell-Free Expression System for Synthetic Biology. Journal of Visualized Experiments, e50762(79), pp.e50762-e50762.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
要旨
1つの局面では、本明細書において、インビトロTXTLのための組成物であって、生物に由来する無細胞抽出物;核酸;および上記生物に対して異種のオルガネラを含む組成物が提供される。
【0010】
一部の実施形態では、上記生物は、細菌および/または古細菌を含む原核生物、好ましくは、E.coliのような細菌細胞である。特定の実施形態では、上記生物は、植物および/または動物のような真核生物を含む。一部の実施形態では、上記生物は、HeLa、CHO、ニンジン、昆虫、コムギ胚芽、初代がん細胞株、初代細胞株、白血球、真核生物、植物、動物、古細菌、Escherichia spp.、Streptomyces spp.、Actinobacteria、Bacillus spp.、Vibrio spp.、Rhodococcus spp.、Clostridium spp.、細菌および前述の任意の組み合わせから選択され得;好ましくは、上記生物は、HeLa、CHO、Bacillus、Pichia、コムギ胚芽、ニンジン、およびS.frugiperda昆虫細胞から選択される。一部の実施形態では、上記抽出物は、約0.005~1000mg/ml、0.05~500mg/ml、0.5~100mg/mlまたは1~20mg/mlの濃度で提供され得、好ましくは、上記抽出物は、少なくとも部分精製されている。
【0011】
一部の実施形態では、上記核酸は、直鎖状DNAもしくはプラスミドDNAまたはRNAを含む。一部の実施形態では、上記核酸は、所望のRNAまたはタンパク質生成物への発現のためのテンプレート核酸を含む。
【0012】
一部の実施形態では、上記オルガネラは、無傷のオルガネラおよび/または無傷でないオルガネラを含み得、ここで上記無傷でないオルガネラにおいて、上記オルガネラの外膜および/または内膜は、少なくとも部分的に破壊されている。一部の実施形態では、上記オルガネラは、ミトコンドリア、葉緑体、細菌カルボキシソーム、および前述のうちの1またはこれより多くの任意の組み合わせからなる群より選択される。一部の実施形態では、上記オルガネラは、ミトコンドリアを含む。一部の実施形態では、上記オルガネラは、約0.000015~100mg/ml、0.00015~50mg/ml、0.0015~10mg/ml、または0.15~4.5mg/mlの濃度で存在する。いくつかの実施形態において、抽出物 対 オルガネラの比は、重量で(例えば、タンパク質および他の構成要素の量に基づいて)、約100,000,000:1~0.00005:1;600,000:1~0.005:1;300:1~0.05:1;または10:1~0.2:1の間である。いくつかの実施形態において、上記オルガネラは、少なくとも部分精製されている。上記オルガネラは、無細胞転写および翻訳に対するインヒビターを含まない溶液中で貯蔵され得る。一部の実施形態では、上記オルガネラは、植物細胞および/または動物細胞のような真核生物細胞に由来する。
【0013】
一部の実施形態では、上記組成物は、転写および/または翻訳のための補因子、酵素、および他の試薬をさらに含む。一部の実施形態では、上記組成物は、TCA回路に入り得る基質をさらに含み得る。
【0014】
別の局面は、タンパク質生成のための方法であって、上記方法は、本明細書中に開示される組成物のうちのいずれかを提供する工程;上記組成物の中で、上記核酸からインビトロでタンパク質を発現させる工程;および上記タンパク質を上記組成物から単離する工程、を包含する方法に関する。
【0015】
さらなる局面は、所望の生成物を生成するための組成物であって、基質;所望の生成物への上記基質の反応を触媒する酵素;および第1の生物に由来するオルガネラ、を含み;ここで上記組成物は、上記所望の生成物への上記基質のインビトロでの触媒反応のための無細胞組成物である、組成物に関した。
【0016】
一部の実施形態では、上記第1の生物は、植物細胞および/または動物細胞のような真核生物細胞から選択される。一部の実施形態では、上記組成物は、第2の生物に由来する抽出物をさらに含み得、ここで上記オルガネラは、上記第2の生物に対して異種である。一部の実施形態では、上記第2の生物は、HeLa、CHO、ニンジン、昆虫、コムギ胚芽、初代がん細胞株、初代細胞株、白血球、真核生物、植物、動物、古細菌、Escherichia spp.、Streptomyces spp.、Actinobacteria、Bacillus spp.、Vibrio spp.、Rhodococcus spp.、Clostridium spp.、細菌および前述の任意の組み合わせから選択され;好ましくは、上記第2の生物は、HeLa、CHO、Bacillus、Pichia、コムギ胚芽、ニンジン、およびS.frugiperda昆虫細胞から選択される。
【0017】
本明細書においてまた提供されるのは、生成物のインビトロ調製のための方法であって、上記方法は、所望の生成物を生成するための組成物を提供する工程;上記酵素が、上記所望の生成物への上記基質の反応を触媒することを可能にする工程;および上記所望の生成物を上記組成物から単離する工程、を包含する方法である。
【0018】
所望の生成物(タンパク質生成物および低分子生成物を含む)を生成するためのキットがまた提供され、上記キットは、本明細書で開示される組成物のうちのいずれか1つのいくつかまたは全ての構成要素を含み得る。上記キットは、使用説明書を含むパンフレットをさらに含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、無細胞発現の概観を提供する。無細胞発現において、宿主は、溶解物へと変換され、DNAの、mRNAおよびタンパク質への変換を可能にする因子が供給される。
【0020】
【
図2】
図2は、旧来の異種発現と無細胞発現との比較を提供する。
【0021】
【
図3】
図3は、Tobacco細胞抽出物の調製を概説する。
【0022】
【
図4-1】
図4は、植物ミトコンドリアの調製を概説する。
【
図4-2】
図4は、植物ミトコンドリアの調製を概説する。
【0023】
【
図5】
図5は、タバコBY2のミトコンドリア調製物から得られた粗製画分が供給された、タバコBY2生物から作製された溶解物中のホメオスタシスの維持を示す。緩衝液反復1および2は、コントロールである;粗製ミトコンドリアは、Percoll勾配の前に採取した物質である;そしてfxn(画分)は、Percoll勾配後に採取した画分に相当する。1:10希釈は、指定した画分の1:10希釈を示す。600分間までGFP生成構築物の無細胞発現が示される。
【0024】
【
図6】
図6は、緩衝液+リボソーム+ミトコンドリアと比較した場合、緩衝液のみ、緩衝液+リボソームの添加を伴うE.coli溶解物中でのGFPの無細胞TXTL生成を示す。
【0025】
【
図7】
図7は、ミトコンドリアの補充が、GFPのE.coli無細胞発現を改善したことを図示する。
【0026】
【
図8】
図8は、BY2 粗製および精製ミトコンドリアのシトクロムオキシダーゼ活性を図示する。
【0027】
【
図9】
図9は、ミトコンドリアの完全性および活性を、シトクロムcオキシダーゼ活性を測定することによって間接的に決定したことを示す。
【0028】
【
図10】
図10は、タンパク質染色およびウェスタンブロットによって分析される場合の、ミトコンドリアを含む粗製調製物および精製ミトコンドリア調製物を示す。
【0029】
上記で特定した図面は、現在開示される実施形態を示すが、他の実施形態がまた、考察の中で注記されるように企図される。本開示は、代表によって例証的実施形態を示し、限定ではない。多くの他の改変および実施形態は、当業者によって考案され得るが、それは、現在開示される実施形態の原理の範囲および趣旨内に入る。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
無細胞系(「嫌気的インビトロシステム(anaerobic in vitro system)」とも称される)およびこれを使用する方法における種々の生物学的反応(例えば、タンパク質生成)および酵素反応のための組成物および製剤が、本明細書で開示される。いくつかの実施形態において、上記システムは、無細胞転写および翻訳(TXTL)システムであり得る。例えば、無細胞TXTLシステムは、1またはこれより多くの生物に由来する抽出物;核酸;および1またはこれより多くの異種オルガネラを含み得る。上記組成物はまた、リン酸電位または酸化還元電位を提供するために、別個のエネルギーリサイクルシステムを含み得る。一実施形態において、本明細書で記載される無細胞TXTLシステムは、転写および/または翻訳に必要な補因子、酵素、および他の試薬の第1のセット;エネルギーリサイクルに必要な補因子、酵素、および他の試薬の第2のセット;目的の遺伝子または遺伝子部分を含むテンプレート核酸;ならびに1またはこれより多くの異種オルガネラを含み得る。
【0031】
ある特定の実施形態において、上記システムは、種々の酵素反応のために設計され得る。このようなシステムは、1またはこれより多くの基質;上記1またはこれより多くの基質の反応を触媒する1またはこれより多くの酵素;および1またはこれより多くの異種オルガネラを含み得る。
【0032】
理論によって拘束されることは望まないが、本明細書で開示されるシステムは、少なくともこのシステムが無細胞系のホメオスタシスを効率的に維持し得るということから、従来のシステムより有利であると考えられる。これは、システムにおける特定の補因子または不均衡を単離することがしばしば困難であることから、特に、上記システムが入力物および周囲に依存して動的に変化していることから、重要である。オルガネラを上記システムへと提供することによって、ホメオスタシスは、動的に維持され得、それによって、上記インビトロシステムの十分な多用途性を解放する。特に、補因子(例えば、ATP(ADP/AMP)、NADPH(NADP+)、NADH(NAD+))の均衡は、上記システム全体を通じて維持され得る。ホメオスタシスの維持は、より長い無細胞発現時間(それによって、形成される生成物の量を最大化する)および発現条件をもたらし得る。
【0033】
推定70の構成要素が、E.coliにおける転写および翻訳の機序に関与する。発エネルギー性代謝経路は、エネルギー通貨を供給して、リン酸電位([ATP]/[ADP]+[Pi])、および酸化還元電位([NAD(P)H]/[NAD(P+)])の形態で遺伝子発現のエネルギー吸収性反応を駆動する。発現系構成要素の数、それが何であるか、特異性および機序は、系統にわたって変動し得、環境的な選択条件下での進化を反映し得る。
【0034】
補因子ホメオスタシスを維持する方法(例えば、外因性のシステム(例えば、PEP/CK、Cytomim、またはCP/CK)を経るATP再生)が存在するが、これらの方法は、維持され得る反応容積においてなお制限されている。さらに、これらの方法は、補因子自体の定義、ならびにその補因子の代謝および異化を必要とし、そのために溶解物中では困難であり得る。
【0035】
補因子再生および均衡を行い得る「工場」とともに無細胞反応を提供するための方法が、本明細書で開示される。細胞が、ホメオスタシスに関する生化学的機序を通じてその生理学的状態を維持し得るその同じ方法で、無細胞反応は、内因的に自己調節するように操作され得る。このシステムは、無細胞発現系の動的制御を提供することによって、先行するシステムに対して改良を加える。これは、反応時間を延長し得、新たな適用の余地を開き得る。生物資源発見(biodiscovery)のために使用される場合、本明細書で開示される組成物および方法は、異種宿主における従来の遺伝子発現に対する大部分が未解決の障壁を除去し得、培養されていない生物、マイクロバイオーム、休眠遺伝子およびクラスターのライブラリーからの遺伝子の発現を介して、遺伝子配列空間の広大な領域を探索のために開く。
【0036】
いくつかの実施形態において、オルガネラを1つの種から別の種へと移すこと、または「異種(heterologous)」オルガネラは、より高い無細胞発現収量および/または速度を可能にすることが、驚くべきことに発見された。オルガネラは、1つの生物から別の生物へと高度に進化される。例えば、わずかな例外はあるものの、真核生物ドメインの生物のみが、ミトコンドリアおよび葉緑体を含む。Nicotiana tabacum(Tobacco) cv. BY-2およびEscherichia coliは、系統学的には互いに極めて離れている - それらは、属および種はもちろんのこと、異なるドメインに属する。従って、例えば、Tobaccoに由来するミトコンドリアを、異なる種(例えば、Escherichia coli)に由来する無細胞溶解物に補充する場合に、そのミトコンドリアが、無細胞発現の収量および/または速度をなお増大させることは、極めて驚くべきことである。これは、非常に遠い生物から示されるミトコンドリアが、別の遠い生物の生化学現象と相互作用し、明確な効果を提供することができることを示唆する。互いの間で異なるドメイン、界、門、綱、目、科、属、または種に由来するオルガネラを補充することが、明確な効果を提供し得ることもまた、驚くべきことである、なぜならオルガネラは非常に進化しているからである。これは、哺乳動物(例えば、Hela(Homo sapiens))無細胞発現系に植物(例えば、Tobacco)ミトコンドリアを補充することから来る無細胞発現の収量および/または速度に対する明確な効果を含む。なぜならTobaccoは、植物界に由来し、ヒトは動物界に由来するからである。さらに、Hela無細胞発現系にTobacco葉緑体を補充することは、H.sapiensが天然には葉緑体を有しないことを考えれば、さらに予測外である。
【0037】
定義
便宜上、本明細書、実施例、および添付の請求項において使用されるある特定の用語は、ここに集められている。別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0038】
冠詞「a(1つの、ある)」および「an(1つの、ある)」は、その冠詞の文法上の対象が1または1より多い(すなわち、少なくとも1)ことに言及するために本明細書で使用される。例示によれば、「1つの要素(an element)」は、1つの要素または1より多くの要素を意味する。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「約(about)」とは、20%以内、より好ましくは10%以内、および最も好ましくは5%以内を意味する。用語「実質的に(substantially)」とは、50%より多い、より好ましくは80%より多い、および最も好ましくは90%または95%より多い、を意味する。
【0040】
本明細書で使用される場合、「複数の(a plurality of)」とは、1より多い、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、もしくはより多い、例えば、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、もしくはより多い、またはこれらの間の任意の整数を意味する。
【0041】
用語「添加因子(additive)」とは、性質が化学的であろうが生物学的であろうが、天然であろうが合成であろうが、システムに提供される、追加されるものに言及する。例としては、酵素、オキシダーゼ、オキシゲナーゼ、糖、ベタイン、シクロデキストラン、溶媒、アルコール、タンパク質、酵素、核酸、オルガネラ、ミトコンドリア、および葉緑体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「核酸(nucleic acid)」、「核酸分子(nucleic acid molecule)」および「ポリヌクレオチド(polynucleotide)」は、交換可能に使用され得、1本鎖(ss)および2本鎖(ds)のRNA、DNAおよびRNA:DNAハイブリッドの両方を含む。これらの用語は、種々の長さを有し得るヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチドおよび/もしくはリボヌクレオチド、またはこれらのアナログもしくは改変を含む)のポリマー形態が挙げられるが、これらに限定されないことが意図される。核酸分子は、全長ポリペプチドもしくはRNAまたはこれらの任意の長さのフラグメントをコードしてもよいし、コードしていなくてもよい。
【0043】
核酸は、ヌクレオチドの天然に存在するまたは合成のポリマー形態であり得る。本開示の核酸分子は、天然に存在するヌクレオチドから形成され得る(例えば、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)分子を形成する)。あるいは、天然に存在するオリゴヌクレオチドは、それらの特性を改変する構造的改変(例えば、ペプチド核酸(PNA)におけるものまたはロック核酸(LNA)におけるもの)を含み得る。その用語は、ヌクレオチドアナログから作製されるRNAもしくはDNAのいずれかの等価物、アナログ、および記載されている実施形態に適用可能である場合には、1本鎖または2本鎖のポリヌクレオチドを含むことが理解されるべきである。本開示において有用なヌクレオチドとしては、例えば、天然に存在するヌクレオチド(例えば、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチド)、またはヌクレオチドの天然もしくは合成の改変、または人工塩基が挙げられる。改変はまた、増大した安定性のためのホスホロチオエート化塩基を含み得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、別段述べられなければ、用語「転写(transcription)」とは、DNAテンプレートからのRNAの合成に言及する;用語「翻訳(translation)」とは、mRNAテンプレートからのポリペプチドの合成に言及する。翻訳は概して、mRNA転写物の5’非翻訳領域(5’-UTR)の配列および構造によって調節される。1つの調節配列は、リボソーム結合部位(RBS)であり、これは、mRNAの効率的かつ正確な翻訳を促進する。原核生物のRBSは、Shine-Dalgarno配列、16S rRNA(30Sリボソーム小サブユニット内に位置する)の3’末端のUCCUコア配列に相補的な5’-UTRのプリンリッチ配列である。種々のShine-Dalgarno配列は、原核生物のmRNAの中で見出されており、一般には、AUG開始コドンから約10ヌクレオチド上流にある。RBSの活性は、RBSおよびイニシエーターAUGを分離するスペーサーの長さおよびヌクレオチド組成によって影響を与えられ得る。真核生物では、Kozak配列は、短い5’非翻訳領域内にあり、mRNAの翻訳を指向する。Kozakコンセンサス配列を欠くmRNAはまた、それが安定な二次構造を欠く中程度に長い5’-UTRを有する場合、インビトロシステムにおいて効率的に翻訳され得る。E.coliリボソームは、Shine-Dalgarno配列を優先的に認識するが、真核生物のリボソーム(例えば、網状赤血球溶解物(retic lysate)中で見出されるもの)は、Kozakリボソーム結合部位を使用する。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「宿主(host)」または「宿主細胞(host cell)」とは、任意の原核生物または真核生物の単一細胞(例えば、酵母、細菌、古細菌などの)細胞または生物に言及する。宿主細胞は、複製可能な発現ベクター、クローニングベクターまたは任意の異種核酸分子のレシピエントであり得る。宿主細胞は、Escherichia属もしくはLactobacillus属の種のような原核生物細胞、または酵母のような真核生物の単一細胞生物であり得る。異種核酸分子は、目的の配列、転写調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リプレッサーなど)および/または複製起点を含み得るが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、用語「宿主」、「宿主細胞」、「組換え宿主(recombinant host)」および「組換え宿主細胞(recombinant host cell)」は、交換可能に使用され得る。このような宿主の例に関しては、Green & Sambrook, 2012, Molecular Cloning: A laboratory manual, 第4版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York(これらは、それらの全体において本明細書に参考として援用される)を参照のこと。
【0046】
用語「古細菌(archaea)」または「古細菌ドメイン(domain Archaea)」とは、これらを細菌からおよび真核生物(植物および動物を含む、その細胞が規定された核を含む生物)から分離する別個の分子特性を有する単細胞の原核生物の群(すなわち、細胞が規定された核を欠いている生物)のいずれかに言及する。古細菌のメンバーとしては、以下が挙げられる: Pyrolobus fumarii(これは、113℃(235°F)での生命の上限温度を保持し、熱水噴出孔に生息していることが見出された);Picrophilusの種(これは、日本の酸性土壌から単離され、およそpH0で増殖し得ることが公知の最も耐酸性の生物である);およびメタン生成細菌(これは、代謝副生成物としてメタンガスを生成し、嫌気的環境において(例えば、沼地、温泉、および動物(ヒトを含む)の消化管において)見出される)。
【0047】
本明細書で使用される場合、用語「選択マーカー(selectable marker)」または「レポーター(reporter)」とは、宿主細胞または生物における発現の際に、比較的容易に選択、同定および/または測定され得るある特定の特性を付与し得る遺伝子、オペロン、またはタンパク質に言及する。レポーター遺伝子はしばしば、ある特定の遺伝子が宿主細胞または生物の中に導入されているか否か、または発現されているか否かを示すとして使用される。一般に使用されるレポーターの例としては、抗生物質耐性(「abR」)遺伝子、蛍光タンパク質、栄養要求性選択モジュール、β-ガラクトシダーゼ(細菌遺伝子lacZによってコードされる)、ルシフェラーゼ(ホタルに由来する)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT;細菌に由来する)、GUS(β-グルクロニダーゼ;一般には植物において使用される)、緑色蛍光タンパク質(GFP;クラゲに由来する)、および赤色蛍光タンパク質(RFP)が挙げられるが、これらに限定されない。代表的には、選択マーカーを発現する宿主細胞は、細胞増殖に対して毒性または阻害性である選択薬剤から保護され得る。
【0048】
用語「操作する(engineer)」、「操作する(engineering)」または「操作された(engineered)」とは、本明細書で使用される場合、バイオテクノロジー分野において一般に公知のDNA、RNAおよび/またはタンパク質のような生体分子の遺伝子操作または改変などの技術に言及する。
【0049】
本明細書で記載されるように、「遺伝子モジュール(genetic module)」および「遺伝子エレメント」は、交換可能に使用され得、任意のコード核酸配列および/または非コード核酸配列に言及する。遺伝子モジュールは、オペロン、遺伝子、遺伝子フラグメント、プロモーター、エキソン、イントロン、調節配列、タグ、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。いくつかの実施形態において、遺伝子モジュールとは、コード配列、プロモーター、ターミネーター、非翻訳領域、リボソーム結合部位、ポリアデニル化テール、リーダー、シグナル配列、ベクターおよび前述のうちのいずれかの組み合わせのうちの1またはこれより多くに言及する。ある特定の実施形態において、遺伝子モジュールは、本明細書で定義されるとおりの転写ユニットであり得る。
【0050】
本明細書で使用される場合、遺伝子もしくはタンパク質の「ホモログ(homolog)、「相同性(homology)」または「相同な(homologous)」とは、別の種でのその機能的な等価性に言及する。ペプチドの文脈での用語「実質的同一性(substantial identity)」とは、ペプチドが、特定された比較ウインドウにわたって、参照配列と少なくとも70% 配列同一性、例えば、参照配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99% 配列同一性を有する配列を含むことを示す。必要に応じて、最適なアラインメントは、Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同性アラインメントアルゴリズムを使用して行われる。2つのペプチド配列が実質的に同一であるというしるしは、一方のペプチドが、第2のペプチドに対して惹起される抗体と免疫学的に反応性であることである。従って、ペプチドは、例えば、その2つのペプチドが保存的置換によってのみ異なる場合、第2のペプチドと実質的に同一である。「実質的に類似」であるペプチドは、同一でない残基位置が、保存的アミノ酸変化によって異なり得ることを除いて、上記で注記されるとおりの配列を共有する。
【0051】
本明細書で使用される場合、遺伝子または核酸配列の「改変体(variant)」は、その参照した遺伝子または核酸配列と少なくとも10%同一性を有する配列であり、その参照した配列に関して1またはこれより多くの塩基の欠失、付加、または置換を含み得る。その配列における差異は、天然によるかまたは設計によるかのいずれでも、配列または構造における変化の結果によるものであり得る。天然の変化は、特定の核酸配列の性質において、通常の複製(replication)または複製(duplication)の過程の間に生じ得る。設計された変化は、具体的に設計され得、特定の目的のための配列に組み込まれ得る。このような特定の変化は、種々の変異誘発技術を使用して、インビトロで行われ得る。具体的に生成されるこのような配列改変体は、元の配列の「変異体(mutant)」として言及され得る。ペプチドまたはタンパク質の「改変体」は、参照ペプチドまたはタンパク質に対して1またはこれより多くのアミノ酸位置で変動するペプチドまたはタンパク質配列である。改変体は、天然に存在する改変体であり得るか、または改変体ペプチドもしくはタンパク質をコードする核酸分子に対する自発的な、誘導された、もしくは遺伝子操作された変異の結果であり得る。改変体ペプチドはまた、化学合成された改変体であり得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、用語「オルガネラ(organelle)」とは、特定の機能を有し、それ自体の脂質膜内に別個に囲まれた細胞内の特殊なサブユニットに言及する。よって、オルガネラのタイプとしては、核、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ装置、液胞、リソソーム、ペルオキシソーム、葉緑体、アクロソーム、オートファゴソーム、中心小体、繊毛、グリコソーム、グリオキシソーム、ヒドロゲノソーム、メラノソーム、マイトソーム、筋原線維、核小体、パレンテソーム、ペルオキシソーム、リボソーム、または小胞が挙げられ得る。用語「オルガネラ」はまた、形質膜、鞭毛、繊毛、細胞壁、細胞骨格、および原形質連絡を含む他の細胞下構成要素を含む。代表的実施形態において、オルガネラのタイプとしては、核、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ装置、液胞、リソソーム、形質膜、またはペルオキシソームが挙げられる。
【0053】
本明細書で使用される場合、用語「異種の(heterologous)」とは、オルガネラおよび無細胞抽出物の文脈において使用される場合、別の種に由来し、無細胞抽出物が由来する同じ細胞または生物に天然には存在しないこのようなオルガネラを意味する。
【0054】
本明細書で使用される場合、「補因子(cofactor)」とは、細胞内でリサイクルされ、およその定常状態レベルにおいて残っている生化学的反応に関与する化合物である。嫌気的発酵に関与する補因子の一般的な例としては、NAD+およびNADP+、ならびにADPが挙げられるが、これらに限定されない。代謝において、補因子は、酸化還元反応において作用して、電子を受容または供与し得る。有機化合物が、代謝において酸化によって分解される場合、それらのエネルギーは、NAD+へと、NADHへのその還元によって、NADP+へと、NADPHへのその還元によって、または別の補因子、FAD+へと、FAD3/4へのその還元によって、移され得る。次いで、その還元された補因子は、レダクターゼの基質として使用され得る。
【0055】
本明細書で使用される場合、用語「ホメオスタシス(homeostasis)」、およびその派生語は、状態が安定で比較的一定なままであるように、変数を調節する能力に言及する。これは、内部の代謝的平衡または無細胞系内の基質の定常状態の維持に関与する、生理学的プロセスならびに生物学的機序および経路を含む。例えば、ATPおよびADPレベルがホメオスタシスにある場合、そのレベルは、継続した無細胞発現を可能にする(0.8を上回る比にある)平衡内にあり、その範囲で維持される。
【0056】
組換え核酸技術ならびに分子生物学および細胞生物学の分野で使用される他の用語は、本明細書で使用される場合、適用可能な分野の当業者によって一般に理解される。
【0057】
無細胞組成物
上記インビトロ転写および翻訳システムは、細胞の文脈の外で転写および翻訳を行い得るシステムである。いくつかの実施形態において、このシステムはまた、「無細胞系(cell-free system)」、「無細胞転写および翻訳(cell-free transcription and translation)」、「TXTL」、「TXTL」、「TX/TL」、「抽出物システム(extract system)」、「インビトロシステム(in vitro system)」、「ITT」、または「人工細胞(artificial cell)」として言及される。例示的なインビトロ転写および翻訳システムは、宿主から作製される精製または部分精製されたタンパク質システム、宿主から作製されない精製または部分精製されたタンパク質システム、および「抽出物(extract)」として形成される宿主株から作製されるタンパク質システムを含む。一実施形態において、抽出物は、全細胞抽出物、核抽出物、細胞質抽出物、これらの組み合わせなどを含む。全細胞抽出物はまた、本明細書で溶解物と称される。本明細書で記載される溶解物、および溶解物システムは、抽出物の非限定的な例であることが意図される;溶解物が本明細書で記載される場合、他の抽出物、または抽出物およびタンパク質の組み合わせが使用され得ることが企図される。
【0058】
一実施形態において、無細胞系は、細胞に由来する細胞質および/または核の構成要素の組み合わせを含み得る。その構成要素は、抽出物、精製された構成要素、またはこれらの組み合わせを含み得る。上記抽出物、精製された構成要素、またはこれらの組み合わせは、タンパク質合成、転写、翻訳、DNA複製および/または当業者によって同定可能な細胞環境の中で起こるさらなる生物学的反応のための反応物を含む。
【0059】
無細胞転写-翻訳は、
図1に記載される。上、DNAを取り込み、反応を触媒するタンパク質を生成する無細胞発現。下、 無細胞生成の模式図およびGFP発現の384ウェルプレートフォーマットにおいて集めた代表的データ。細胞アプローチと対比した無細胞アプローチは、
図2に記載される。無細胞プラットフォームは、生細胞なしで多数の遺伝子からのタンパク質発現を可能にする。無細胞生成バイオテクノロジー方法は、入力物として組換えDNAを取り込み、対になった転写および翻訳を行って、酵素活性なタンパク質を出力することができる原核生物細胞からの溶解物を生成する。無細胞系は、発現するのに8時間しかかからない(むしろ細胞では、発現するのに数日~数週間かかる)。なぜならクローニングおよび形質転換の必要がないからである。それらはまた、細胞で実行するより少なくとも10倍安価であり、反応は試薬と同様であり、384ウェルプレートにおいて使用されることから、ハイスループットで実行され得る。原核生物システムの代表的収量は、750μg/mLのGFP(30μM)である。無細胞系は、複数の生物が実行され得、発現は、10μlから10mLまでのスケールで行われ得る。
【0060】
無細胞系の抽出物構成要素、特に、E.coliの溶解物を作製する方法に関する指示は、(Sunら 2013)(本明細書にその全体が参考として援用される)において見出され得る;溶解物を生成するための他の方法は、当業者に公知である。この手順は、E.coli無細胞系のために適合されるが、それは、他の生物および宿主(原核生物、真核生物、古細菌、真菌など)の他の無細胞系を生成するためにも使用され得る。他の無細胞系の生成の例としては、Streptomyces spp.(Thompsonら 1984)、Bacillus spp.(Kelwickら 2016)、およびTobacco BY2(Buntruら 2014)が挙げられるが、これらに限定されない(それらは、それらの全体において本明細書に参考として援用される)。溶解物を生成するための例示的なプロセスは、リッチな培地の中で宿主を対数増殖期中期まで増殖させ、続いて、洗浄し、フレンチプレスおよび/またはビーズ撹拌ホモジナイゼーションおよび/または等価な方法による溶解、ならびに清澄化することを含む。そのように処理された溶解物は、「溶解物(lysate)」または「処理された細胞溶解物」として言及され得、「抽出物」の非限定的な例である。一実施形態において、細胞は、嫌気的条件下で増殖され得る。一局面において、抽出物は、嫌気的条件下で調製され得る。
【0061】
1またはこれより多くの添加因子は、遺伝子発現を維持するために抽出物と一緒に供給され得る。企図される添加因子としては、溶解物供給源生物のインビボ発現および/または代謝環境を複製するために合わせて作ったもの、例えば、酸化還元緩衝化剤、リン酸電位緩衝化剤、特注のエネルギー再生システム、天然のリボソーム、シャペロン、種特異的tRNA、pH緩衝化剤、金属(例えば、マグネシウムおよびカリウム)、浸透圧調節剤、ガス濃度;[O2]、[CO2]、[N2]、糖、マルトース、デンプン、マルトデキストリン、グルコース、グルコース-6-ホスフェート、フルクトース-1,6-ビホスフェート、3-ホスホグリセレート、ホスホエノールピルベート、ピルビン酸キナーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、ピルベート、アセチルホスフェート、酢酸キナーゼ、クレアチンキナーゼ、クレアチンホスフェート、グルタメート、アミノ酸、ATP、GTP、CTP、UTP、ADP、GDP、CDP、UDP、AMP、GMP、CMP、UMP、フォリン酸、スペルミジン、プトレシン、ベタイン、DTT、TCEP、b-メルカプトエタノール、TPP、FAD、FADH、NAD、NADH、NADP、NADPH、シュウ酸、CoA、グルタミン酸塩、酢酸塩、cAMP、天然のポリメラーゼ、合成ポリメラーゼ、ファージポリメラーゼ、温度調節条件が挙げられる。選択肢的な転化因子の総説は、(Chiaoら 2016)(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)に見出され得る。選択肢的な添加因子はまた、転写および翻訳を補助する構成要素(例えば、ファージポリメラーゼ、T7 RNAポリメラーゼ(RNAP)、SP6ファージポリメラーゼ、補因子、伸長因子、ナノディスク、小胞、および消泡剤)が挙げられ得る。選択肢的な添加因子はまた、DNAを保護する添加因子(例えば、gamS、Ku、junk DNA、DNA擬態タンパク質、chi site-DNA、または他のDNA保護因子が挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられ得る。
【0062】
いくつかの実施形態において、上記反応は、0.1%(w/v)より多くのクラウディング剤(crowding agent)を含み得る。高分子クラウディングとは、高分子を含まない溶液と比較した場合の、溶液に高分子を添加することの効果に言及する。このような高分子は、クラウディング剤と称される。企図されるクラウディング剤は、単一の供給源に由来し得るか、または異なる供給源の混合であり得る。上記クラウディング剤は、種々のサイズのものであり得る。いくつかの実施形態において、上記クラウディング剤は、ポリエチレングリコールおよびその誘導体、ポリエチレンオキシドまたはポリオキシエチレンを含む。
【0063】
エネルギーリサイクルおよび/再生システムは、ATPをシステムに提供することによって、ならびにADPをATPへとリサイクルすることによって、pHを維持し、概して転写および翻訳のためのシステムを支持することによって、システムホメオスタシスを維持することによって、mRNAおよびタンパク質の合成を駆動する。エネルギーリサイクルシステムの総説は、(Chiaoら 2016)(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)に見出される。エネルギーリサイクルおよび/または使用され得るシステムの例としては、グリセレート3-ホスフェート(3-PGA)(Sunら 2013)、クレアチニンホスフェート/クレアチニンキナーゼ(CP/CK)(Kigawaら 1999)、PANOx(Kim & Swartz 2001)、およびグルタメート(Jewett & Swartz 2004)が挙げられるが、これらに限定されない。他のリサイクルおよび/またはシステムとしては、酸化還元電位([NAD(P)H]/[NAD(P+)])を再生し得るものが挙げられる。酸化還元リサイクルの例は、(Opgenorthら 2014)に記載される。リサイクルおよび/またはシステムは、宿主に由来する先天的な中心的代謝経路(例えば、解糖、酸化的リン酸化)、外因的に供給される代謝経路、または両方を利用し得る。
【0064】
上記インビトロ転写および翻訳システムは、1またはこれより多くの核酸を含む。一実施形態において、上記核酸は、DNA、RNA、またはこれらの組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態において、DNAが供給され得、これは、上記抽出物および/または上記抽出物への添加因子中で転写および翻訳機構を利用することによって、タンパク質を生成し得る。このDNAは、例えば、OR2-OR1-Prプロモーター(Sunら 2013)、T7プロモーターまたはT7-lacOプロモーターの下で、RBS領域(例えば、λファージに由来するUTR1)とともに、調節領域を有し得る。上記DNAは、直線状またはプラスミドであり得る。いくつかの実施形態において、遺伝子配列は、溶解物供給源生物に由来するTXTLシステムにおいて無細胞発現のために操作され得る(例えば、改善されたTXTL結合のための5’の希なコドン、改善されたTXTL結合のための5’ AT/GC含有量、UTR、RBS、終結配列、改善されたTXTL結合のための5’融合、改善されたTXTL結合のための遺伝子融合、タンパク質安定性のための融合、膜タンパク質の可溶性を促進するための配列欠失、およびタンパク質タグ)。
【0065】
他の実施形態において、mRNAが供給され得、これは、タンパク質を生成するために、上記溶解物および/または上記溶解物への添加因子の中で翻訳構成要素を利用する。上記mRNAは、精製された天然供給源に由来し得るか、または合成して生成された供給源に由来し得るか、またはインビトロで、例えば、インビトロ転写キット(例えば、HiScribeTM、MAXIscriptTM、MEGAscriptTM、mMESSAGE MACHINETM、MEGAshortscriptTM)から生成され得る。
【0066】
いくつかの実施形態において、非標準的アミノ酸は、組成物中で利用され得る。非標準的アミノ酸は、細胞が生成する生成物中に天然に見出され得るか、または所望の特性(例えば、タグ化、可視化、分解への抵抗性、または標的化)を生じるように生成物に人工的に添加され得る。非標準的アミノ酸の実行は、細胞では困難であるが、無細胞系では、実行率は、非標準的アミノ酸で飽和する能力に起因して、より高い。非標準的アミノ酸の例としては、オルニチン、ノルロイシン、ホモアルギニン、トリプトファンアナログ、ビフェニルアラニン、ヒドロキシリジン(hydrolysine)、ピロリジン、または(Blaskovich 2016)(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)に記載されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
いくつかの実施形態において、上記入力核酸は、極限環境微生物または嫌気性生物に由来する。上記組成物は、宿主細胞の活性を(例えば、嫌気性環境を生成するにあたって)まねて、それによって、「人工細胞(artificial cell)または代替の異種発現プラットフォームとして作用することによってこれらの環境配列を使用して所望の生成物を生成し得る。
【0068】
オルガネラ
いくつかの実施形態において、オルガネラは、上記無細胞系に添加され得る。ある特定の実施形態において、その添加されたオルガネラは、ホメオスタシスを維持する助けとなり得る。上記オルガネラは、外因的に供給され得るおよび/または上記システムに添加因子として補充するための上記無細胞系への異種供給源に由来し得る。
【0069】
いくつかの実施形態において、上記オルガネラの活性は、酵素補因子および/または基質のリサイクルを可能にすることである。上記無細胞系が進行するにつれて、上記オルガネラは、上記無細胞系における補因子および/または基質不均衡に動的に応じ、補因子および/または基質を再生して、平衡を生じさせる。例えば、ATP 対 ADP比が発現にとって理想的ではない場合、上記オルガネラは、その比を調整して、最適なホメオスタシス状態を維持する。上記オルガネラの活性は、その天然の環境(例えば、それが由来した場所)におけるその活性を反映する。
【0070】
いくつかの実施形態において、上記オルガネラは、補因子平衡、ATP(ADP/AMP)、NADPH(NADP+)、NADH(NAD+)、および/またはGTP(GDP/GMP)を特異的に維持する。これらの補因子は、無細胞発現の進行にとって、および無細胞系におけるある特定の生成物の形成にとって重要であることが公知である。
【0071】
いくつかの実施形態において、上記オルガネラは、無細胞系の酸化還元電位を維持する。酸化還元電位は、還元または酸化している基質(例えば、DTTまたはTCEP)の添加によってさらに改変され得る。これは、異なる生成物の生成を補助し得る。
【0072】
いくつかの実施形態において、上記オルガネラは、無細胞系の反応継続時間を延ばす。上記オルガネラは、補因子および/または基質比が、毒性の状態に入らない継続時間を延ばすことによって、反応継続時間を延ばす。
【0073】
上記オルガネラは、外因的に上記無細胞反応に提供され、宿主無細胞反応のものと同じ生物に由来する必要はない。いくつかの実施形態において、上記オルガネラは、溶解物を含まないシステム(例えば、精製されたタンパク質無細胞系)に添加され、純粋にホメオスタシスを維持するとして役立つ。いくつかの実施形態において、上記オルガネラは、外因的に精製され、宿主無細胞系とは別個に生成され、次いで、上記無細胞系に無関係に添加される。
【0074】
いくつかの実施形態において、上記オルガネラは、分裂および増殖できない(例えば、静菌性である毒素を添加することによって)無細胞系に添加される原核生物である。そうするにあたって、上記原核生物は、宿主にとってのホメオスタシスを提供するが、それ自体の増殖を促進するために無細胞系の構成要素を消化できない。
【0075】
いくつかの実施形態において、上記オルガネラは、精製されたオルガネラとして上記反応に供給され得る。精製は、遠心分離、濾過、または当業者に公知の他の精製および分離技術によって達成され得る。分離の例としては、分画遠心分離または密度勾配遠心分離が挙げられる。精製されたオルガネラは、宿主無細胞系とは別個に生成され得、長期貯蔵を可能にする緩衝液中で貯蔵され得る。上記緩衝液は、スクロースおよび他の凍結保護物質を含み得る。上記オルガネラは、その元の緩衝液が無細胞発現と適合性である場合には上記緩衝液中、または透析または緩衝液移動によって適合性である別の緩衝液中のいずれかで、無細胞系へと、精製された構成要素として補充され得る。上記オルガネラの用量は、最適なホメオスタシス維持のために滴定され得る。上記オルガネラおよびその活性の存在は、染色および顕微鏡検査法を通じて、または抗体および可視化方法(例えば、液胞膜H+ ATPaseのεサブユニット、細胞区画抗体マーカー(例えば、カタラーゼ、luminal結合タンパク質、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、シトクロムオキシダーゼサブユニットII、電位依存性アニオン選択性チャネルタンパク質1))を使用する異なる構成要素の完全な精査を通じて検出され得る。
【0076】
いくつかの実施形態において、上記オルガネラは、粗製形態において上記反応に供給され得る。このオルガネラ形態は、宿主無細胞系とは別個に生成され得るか、または宿主無細胞系の生成の間に単離され得る。好ましくは、上記オルガネラは、粗製細胞溶解物として単離され、これは、次いで、無細胞系へと用量設定され得る。上記粗製細胞溶解物は、無細胞発現を防止する阻害性構成要素(例えば、タンパク質、DNA、またはmRNA分解をもたらし得る、ペルオキシソームまたは液胞)を欠き得る。
【0077】
いくつかの実施形態において、上記オルガネラは、異なる生物に由来する。これらとしては、植物、動物、または真核生物および/もしくは細菌の単細胞生物が挙げられる。異なるオルガネラは、異なる無細胞系でより効果的であり得る。理論によって拘束されることは望まないが、インビトロ遺伝子発現の忠実性および収量が、最適な発現のために操作された遺伝子もしくはオルガネラを有する系統学的に類似のTXTLシステムの文脈内で最適であるという仮説が立てられている。
【0078】
いくつかの実施形態において、上記オルガネラは、外側細胞壁を有する。これは、植物システムに由来するオルガネラと頻繁に関連付けられる特性である。外側細胞壁は、貯蔵の間および無細胞系への添加の間の両方に、上記オルガネラのより高い安定性を可能にし得る。いくつかの実施形態において、上記オルガネラは、長期貯蔵のための凍結-融解サイクルを生き延び得る。それは、凍結-融解サイクルを天然に生き延びるシステム(例えば、植物)に由来するオルガネラと関連付けられる特性である。いくつかの実施形態において、上記オルガネラは、植物細胞株(例えば、ニンジン、タバコ、コムギ胚芽など)に由来する。
【0079】
いくつかの実施形態において、上記オルガネラは、ミトコンドリアおよび/または葉緑体および/または細菌カルボキシソームから選択される。具体的には、ミトコンドリアは、TCA(トリカルボン酸)サイクルを行い得、ATPを生成し得るが、エネルギー源および分子酸素の供給を必要とする。葉緑体は、炭素固定を行い得、二酸化炭素(これは、大気中にあり得る)および光源の供給を必要とする。これらは、同様に代謝され得るエネルギー源をさらに補充され得る。
【0080】
いくつかの実施形態において、上記組成物は、TCA回路 -炭水化物、脂肪およびタンパク質に由来するアセチル-CoAの、アデノシン三リン酸(ATP)および二酸化炭素への酸化を通じて、貯蔵されたエネルギー源を放出する、全ての好気性生物によって使用される一連の化学反応- に入り得る基質を含み得る。上記基質は、TCA回路に直接的にまたは間接的に入り得る。一般に使用される基質としては、グルタミン、グルタメート、スクシネート、およびマレートが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、グルタメート(精製形態においてまたは塩錯体(例えば、マグネシウム、カリウム)の一部としてのいずれでも)は、0.01mM~10M、優先的には0.1mM~1M、より優先的には1mM~500mMの濃度で上記反応に添加され得る。
【0081】
いくつかの実施形態において、上記無細胞系は、精製された酵素を含み、ここで酵素は、外因的に供給される入力物からまたは上記酵素自体からのいずれかで、生成物を精製するために一緒に合わされる。これらのインビトロ組成物は、(Opgenorthら 2014)(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)に記載される例が挙げられるが、これらに限定されない生成物を生成するために、転写および/または翻訳を行う必要はない。文献中の例としては、グルコースおよび/または他の糖の、バイオプラスチック、テルペノイド様分子(イソプレン、リモネン)への、水素への、タガトースへの、およびアルロースへの変換が挙げられるが、これらに限定されない。精製された酵素(エネルギーおよび/または酸化還元電位再生システムと一緒に添加される)は、高濃度(mg/mL)で入力から出力へと変換し得る。これらの反応のうちの多くについては、関わる酵素または基質は、適切に機能するか、または採算のとれる収量を生成するために、ホメオスタシスを必要とし得る。
【0082】
いくつかの実施形態において、上記無細胞酵素システムは、1またはこれより多くの天然のまたは操作された生物に由来する溶解物の組み合わせを含み、その組み合わせは、外因的に供給される入力物から、または溶解物自体の構成要素からのいずれかで、生成物を生成するために一緒に混合される。各溶解物内で、必要な酵素または経路は、遺伝子操作方法によって過剰生成され得る。一例は、限定ではないが、(Opgenorthら 2014;Karim & Jewett 2016)(これらは、それらの全体において本明細書に参考として援用される)において「無細胞代謝操作(cell-free metabolic engineering)」として記載される。さらに、いくつかの実施形態において、上記インビトロ組成物は、溶解物および精製された酵素の両方の組み合わせである。これらは、ホメオスタシスを提供するために、オルガネラとともに補充される。
【0083】
いくつかの実施形態において、異種オルガネラ(例えば、ミトコンドリアまたは葉緑体)は、無細胞発現および/またはインビトロ酵素反応を改善するために(例えば、増大した速度、持続した反応など)、真核生物無細胞系に添加され得る。動物界内ですら、異なる真核生物間では顕著な遺伝的バリエーションが存在するが、異種オルガネラの添加は、なお有益である。これは、種々のタンパク質、具体的には、治療目的のタンパク質(例えば、抗体、T細胞レセプター、薬物標的、抗原、および哺乳動物(例えば、HeLa)無細胞系での生成が、明確な利点(例えば、グリコシル化のような翻訳後修飾、ジスルフィド架橋維持)を提供し得るが、異種オルガネラ添加なしの現在のHeLa無細胞系の収量によって制限される他のもの)の生成に適用され得る。さらに、本明細書で記載される方法(例えば、実施例8)は、HeLa無細胞系に適用するのみならず、他の無細胞系(例えば、CHO、Sf9、Sf21、ニンジン、および真核生物起源の他のシステム)にも適用し得る。
【0084】
いくつかの実施形態において、提供されるオルガネラは、完全に無傷であるか、部分的に無傷であるか、または無傷でないかのいずれかであり得る。無傷のオルガネラの量は、光学顕微鏡検査法または電子顕微鏡検査法によって視覚的に決定され得る。顕微鏡検査法に関しては、上記オルガネラは、可視化を助けるために、比色溶液または蛍光溶液で予め染色され得る。さらに、ある特定のタイプの無傷のオルガネラ(例えば、ミトコンドリア)の量を間接的に決定するために、活性アッセイが使用され得る。例えば、シトクロムcオキシダーゼ活性は、外膜完全性のための代理として測定され得る。シトクロムcオキシダーゼは、通常、ミトコンドリア内膜上にあるが、外膜が損傷された破壊されたミトコンドリアでは、または界面活性剤(例えば、n-ドデシルβD-マルトシド、またはDDM)で処理されたミトコンドリアでは、フェリシトクロムcの酸化が測定され得る。次いで、その比: (DDMありのシトクロムcオキシダーゼ活性-DDMなしのシトクロムcオキシダーゼ活)×100/(DDMありのシトクロムcオキシダーゼ活性)は、損傷されていない外膜を有するミトコンドリアのパーセントを決定するために測定され得る。間接的アッセイはまた、無傷の葉緑体を測定する(例えば、光合成生成物への二酸化炭素の固定を測定する)ために使用され得る。
【0085】
部分的に無傷のまたは無傷でないミトコンドリアはまた、無細胞発現速度および/または収量を潜在的に増大させ得る。驚くべきことではあるが、破壊されたミトコンドリアの得られる生成物は、ミトコンドリア内の構成要素をなお維持していることから、その得られる溶液は、無細胞発現速度および/または収量をなお支持し得る。破壊されたミトコンドリアは特に、無細胞反応の文脈において、酸化的リン酸化をなお支持し得る。
【0086】
キットおよび方法
上記無細胞系を使用するための種々の方法が、本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、上記システムは、タンパク質合成またはインビトロTXTLのために使用され得る。上記方法は、本明細書で記載される無細胞TXTL組成物を提供する工程であって、ここで上記TXTL組成物は、1またはこれより多くのタンパク質を合成するように設計される工程;および上記1またはこれより多くのタンパク質を、上記組成物から単離する工程を包含し得る。
【0087】
さらなる局面は、酵素反応の結果である生成物のインビトロ調製のための方法に関する。上記方法は、本明細書で記載される無細胞酵素反応組成物を提供する工程、上記1またはこれより多くの酵素が、上記生成物を生成するように、上記組成物中に含まれる基質と反応することを可能にする工程、および上記生成物を上記組成物から単離する工程を包含し得る。いくつかの実施形態において、上記酵素およびそれらの基質は、反応し、所望の生成物を生成するために選択され得る。上記酵素は、組換え調製され得る。
【0088】
一実施形態において、生成物は、インビトロで作製され得、ここで1またはこれより多くの基質、1またはこれより多くの酵素、および1またはこれより多くの異種オルガネラは、その後の生成物を生成し、長い生成期間を持続させるために一緒に混合され得る。上記1またはこれより多くの酵素は、提供される基質と反応して、所望の生成物を生成し得る。上記生成物を生成する過程において、ホメオスタシスに関する平衡が達成され得る(例えば、ATP(ADP/AMP)、NADPH(NADP+)、NADH(NAD+)、および/またはGTP(GDP/GMP)の維持および平衡)。上記生成物の生成期間は、数日間から数週間に延ばされ得る。決定的なことには、異種オルガネラの添加は、転写および翻訳が起こっていないシナリオにおいてすら助けになる。
【0089】
上記生成物は、酵素の作用から作製される種々の低分子のもの、または酵素の作用から作製されるタンパク質に由来するもの(例えば、リボソームで合成され、翻訳後修飾されるペプチド(ここでは、入力物はペプチド配列である))であり得る。さらに、補因子の平衡を維持する酵素および添加因子の他の組み合わせは、上記反応において利用され得る。ミトコンドリアのようなオルガネラの存在は、上記反応が時間を経ても、平衡を保たないかまたは平衡が不十分であるかのいずれかである場合、補因子平衡を動的に調節し得、それによって生成物形成および/または生成物形成の継続期間を増大させる。
【0090】
キットがまた、本明細書で提供され、上記キットは、本明細書で開示される組成物のうちのいくつかのまたは全ての構成要素を含み得る。取扱説明書は、その使用法のために上記キットの中に提供され得る。
【実施例】
【0091】
実施例1. Tobacco無細胞系へのミトコンドリア添加
Tobacco無細胞系へのミトコンドリアの添加を試験するために、最初に、Tobacco無細胞溶解物を、
図3における概説に基づく改変を加えて、(Komodaら 2004)に記載される方法(これを含むが限定はしない)を使用して生成した。具体的には、プロトプラスト洗浄緩衝液は、12.5mM NaOAc、5mM CaCl
2、0.37M マンニトール(酢酸でpH5.8)からなった。上記洗浄緩衝液は、3%(v/v) Rohament CL、2%(v/v) Rohament PL、および0.1%(v/v) Rohapect UF(AB Enzymes, Darmstadt, Germany)に添加された酵素を有する。Percoll勾配を、以下で行った: 0.7M マンニトール - 20mM MgCl
2 - 5mM PIPES-KOH(pH 7.0)中、70%、40%、30%、0% Percoll。遠心分離を、SW41ローターにおいて25℃で、10,000×gで1時間行った。翻訳緩衝液は、1錠のComplete Mini EDTA-free(Roche)とともに、30mM HEPES-KOH pH 7.4 - 60mM グルタミン酸カリウム - 0.5mM グルタミン酸Mg - 2mM DTT]からなった。
【0092】
さらに、ミトコンドリアを、
図4における概説に基づく改変を加えて、(Meyer & Millar 2008)に記載される方法(これを含むが限定はしない)を通じて、Tobacco細胞から分離した。
【0093】
次いで、無細胞反応を、上記ミトコンドリア調製物とは異なる分離で実行した。無細胞反応は、40mM Hepes-KOH(pH7.8)、8.5mM グルタミン酸Mg、3mM ATP、1.2mM CTP/UTP/GTP、30mM クレアチンリン酸、50ng/μl T7 RNAP、50μg/ml クレアチンキナーゼ、1mM アミノ酸、および80ng/μl DNAプラスミドテンプレート(T7プロモーター、TMV 5’ UTR/Omega、sfGFP cDNA、およびTMV 3’ UTRを含む)を含んだ。BY2溶解物を、30mM Hepes-KOH(pH7.4)、60mM グルタミン酸K、0.5mM グルタミン酸Mg、および2mM DTTを含む緩衝液中での反応の48% v/vで添加した。最後に、反応物を、0.3M スクロース、1mM EDTA、および10mM MOPS-KOH(pH7.2)を含む緩衝液中、8% 最終反応容積へと、粗製画分、またはPercoll分離画分(上、中央、下)に補充した。希釈物(1:10)およびモック反応物(緩衝液のみ)は、同じ緩衝液を使用した。各反応を、Nunc 384ウェルプレートの中で28℃において、10μLで実行し、ゲイン35において、485/励起 528/発光フィルターを使用して、Biotek Synergy 2で画像化した。無細胞反応の結果は、
図5中にある。ここで、画分「mid fxn」は、他の補充した画分または画分なしのコントロールより長い活性を有することが見られ得る。これは、1:10希釈における用量応答効果である。
【0094】
実施例2. Tobacco BY2細胞培養物からのミトコンドリア精製
図4に示されるように、ミトコンドリアを、Tobacco BY2細胞培養物から精製した。Tobacco BY2細胞を、対数増殖期中期まで培養物中で増殖させ、2層のMiracloth布を使用して濾過によって採取した。プロトプラストを、0.4M マンニトール、3% Rohament CL、0.1% Rohapect UF、2% Rohapect PLを有する0.7g/L MES-KOH(pH5.7)を含む酵素緩衝液で、1.5時間、25℃において消化することによって、全植物細胞から単離した。以下の工程の全てを、4℃において、氷冷緩衝液を用いて行った。プロトプラストを、5分間、100g(ブレーキなし)で遠心分離し、その添加される酵素なしの酵素緩衝液で2回洗浄した。2回目の洗浄後に、プロトプラストを、およそ等容積の破壊緩衝液(0.4M スクロース、3mM EDTA、50mM Tris-HCl(pH7.5)、0.1% BSA、2mM DTT(新たに添加))中で再懸濁した。その混合物を、ぴったりのペストルで15回、ダウンス型ホモジナイザーでホモジナイズした(dounce)。溶解を、光学顕微鏡検査法によって検証した。その溶解物を、3000gで角度固定ローターにおいて5分間遠心分離した。上清を新しい15mlチューブの中に取り出し、次いで、15,600gで角度固定ローターにおいて遠心分離した。その上清を除去し、粗製オルガネラを含む黄色のペレットを取っておいた。そのペレットを、3ml 洗浄緩衝液(0.3M スクロース、1mM EDTA、10mM MOPS-KOH(pH7.2))中で非常に穏やかに再懸濁した。その懸濁したペレットのうちのいくらかを保持し、アリコートに分け、粗製ミトコンドリア画分として-80℃で貯蔵した。この画分は、チラコイドまたはアミロプラスト膜、ペルオキシソーム、小胞体が夾雑したミトコンドリアを含む。その残りの画分を、Percoll密度勾配によって精製した。そのPercoll勾配を、SW41 遠心分離チューブの中に、洗浄緩衝液中、3ml 40%、4ml 23%、および2ml 15%のPercollで形成した。勾配を、パスツールピペットで形成し、各々後に続く層を、そのチューブの底に加えて、15%、次いで23%、次いで40%を載せた。そのチューブに、サンプルを載せ、15分間、15,800rpmにおいてブレーキなしで遠心分離した。その得られた勾配は、2つの大きなバンドを有した:上の物質、および中間の層のミトコンドリア。上の層を廃棄し、中間の層を取り出し、洗浄緩衝液で洗浄した。その洗浄したミトコンドリアを、小容積の洗浄緩衝液中で再懸濁し、アリコートに分け、-80℃で貯蔵した。その後の希釈およびモック反応(緩衝液のみ)は、同じ洗浄緩衝液を使用した。
【0095】
実施例3. E.coli無細胞系へのミトコンドリアの添加
Nicotiana tabacum cv. BY-2に由来するミトコンドリアが、エネルギーホメオスタシスを維持し、異種システムにおいてTXTLにエネルギーを付与する能力を試験するために、エネルギーホメオスタシスのために必要な反転膜小胞がなく、顕著な基質レベルのリン酸化がないE.coli無細胞系を、生成した。簡潔には、E.coli無細胞TXTL溶解物システムを、フレンチプレスを使用する生成という改変を加えて、Sunら(2013)に記載されるとおりの方法に従って作製した。次いで、反転膜小胞を、遠心分離(203,000相対重力で1時間)によって得られる溶解物から除去した。これらの反転膜小胞の除去は、システムが一次エネルギー源として酸化的リン酸化を行うことを防止する。さらに、203,000相対重力での遠心分離は、翻訳が起こることを可能にする多くのリボソームおよびポリソームを沈殿させる。エネルギー付与緩衝液を、Sunら(2013)に記載されるように使用するが、それは、得られるTXTLシステムが、一次エネルギー源として基質レベルのリン酸化を行うことができないように、3-PGAを欠いている。顕著なことには、上記緩衝液は、グルタメートを保持する。その得られるシステムは、「最小」システムと考えられる。
【0096】
次いで、30% v/vのこの溶解物、GFPのDNAテンプレート、gamS、ならびに10% v/vまでのNicotiana tabacum cv. BY-2ミトコンドリアおよび1.33μMまでの精製E.coli 70Sリボソームを含む無細胞TXTL反応を、実行した。各反応を、28℃においてNunc 384ウェルプレート中、10μLで実行し、485/励起 528/発光フィルターを使用して、ゲイン35において、Biotek Synergy 2で画像化した。
図6は、以下で実行される3つの条件を示す: BY-2ミトコンドリアの添加なしかつ単に緩衝液のもの(例えば、最小緩衝液)、BY2ミトコンドリアの添加なしかつリボソームありのもの(例えば最小+リボソーム)、およびBY2ミトコンドリアおよびリボソームの両方を添加したもの(例えば、最小+リボソーム+ミトコンドリア)(
図6上の点は、n=3の複製の平均を表す;エラーバーは、平均周辺の95% 信頼区間である)。これらの条件は、「最小緩衝液」最小システムが顕著なGFP生成を持続できないことを示す。リボソームが、より多くの翻訳を可能にするように添加し戻される場合、部分的に活性が回復され得るが、反応時間は120分以内に終了し、収量は低い。これは、ATP再生の限界を示唆する。しかし、ミトコンドリアが協力して添加される場合、反応時間は700分間を過ぎて回復し、発現速度は高く、高いままである。これは、ミトコンドリア補充が、「最小の」E.coli無細胞系を救済し得ることを示唆する;驚くべきことに、その補充源は、E.coliとは遺伝的に極めて類似でないNicotiana tabacum cv. BY2ミトコンドリアに由来する。
【0097】
図7は、Nicotiana tabacum cv. BY2ミトコンドリアの補充が、改善されたE.coli無細胞発現の原因であることをさらに示す。上記量の精製ミトコンドリアを投与することによって、0.1%~1% v/v 精製ミトコンドリアから明らかな投与量依存性の関係性を見ることができ、これは、無細胞発現の継続時間および長さに対してほとんど影響を示さないが、10%および25% v/v 精製ミトコンドリアは、無細胞発現の継続時間および長さの増大を示す。精製ミトコンドリアの効果が無視できる程度である場合、下限および上限が確立され得る。さらに、ミトコンドリアの粗精製は、改善効果を示さなかった;上記ミトコンドリアが貯蔵される緩衝液の効果は、上記緩衝液が転写、翻訳、または他の無細胞機能に対して毒性である場合に、ミトコンドリアの添加の明確な効果を否定し得る。
【0098】
実施例4. BY2粗製および精製ミトコンドリアのシトクロムオキシダーゼ活性
図8は、BY2 粗製および精製ミトコンドリアのシトクロムオキシダーゼ活性を図示する。ミトコンドリア活性は、粗製および精製ミトコンドリア調製物からの全タンパク質を、Bradford試薬とタンパク質標準としてウシ血清アルブミンとを使用して定量したことを除いて、実施例5にあるように測定した。その精製ミトコンドリアは、5~10mg/mlであり、粗製画分は、5.0mg/mlであった。上記シトクロムcオキシダーゼ活性は、抽出物1mgあたりの活性単位の関数として表される。本発明者らの結果は、精製ミトコンドリア調製物が、粗製画分と比較して、3.5~4.4倍高い比活性を有したことを示す。
【0099】
実施例5. ミトコンドリアの完全性および活性の決定
図9に示されるように、ミトコンドリアの完全性および活性を、シトクロムcオキシダーゼ活性を測定することによって間接的に決定した。シトクロムcオキシダーゼは、全ての動物、植物、酵母、およびいくらかの細菌の好気的代謝において高親和性酸素の主要なターミナルオキシダーゼである。キット(Sigma, CYTOCOX1)を使用して、ミトコンドリア活性を測定した。簡潔には、フェロシトクロムc基質溶液を、シトクロムCをジチオスレイトール溶液で還元することによって作製した。還元を、A
550/A
565比を比較することによって、10より大きいと確認した。550nmでのシトクロムcの吸収は、その酸化状態に伴って変化する。反応を、25℃においてキュベット中で行い、A
550における動的変動を追跡した。1単位を、25℃でpH7.0において1分間あたり1.0μモルのフェロシトクロムcを酸化する能力によって定義する。陽性コントロールのシトクロムcオキシダーゼを使用して、そのアッセイが記載されるように機能することを決定した。さらに、上記キットは、シトクロムC活性を、界面活性剤、n-ドデシルB-D-マルトシド(DDM)の添加ありおよびなしで比較することによって、ミトコンドリア外膜の完全性の決定を可能にする。顕著なことには、上記陽性コントロールは、DDM添加によって影響を及ぼされない。本発明者らの結果は、BYL8が少数の活性なミトコンドリアを含んだが、最高の活性は、精製ミトコンドリアで観察されたことを示す。損傷されていない膜を有するミトコンドリアは、90%(BYL8)および97%(精製ミトコンドリア)であった。
【0100】
実施例6. BY2粗製および精製ミトコンドリアの分析
図10に示されるように、BY2粗製および精製ミトコンドリアを、ウェスタンブロットを使用して分析した。全タンパク質(20μg)を、SDS-PAGEによって分離し、ニトロセルロース膜に転写した。膜を、Ponceau Sで染色して、転写を検証し、次いで、無脂肪乳でブロッキングした。膜を、ミトコンドリアに特異的な一次抗体(ミトコンドリア外膜タンパク質ポリン1の抗VDAC(電位依存性アニオン選択性チャネルタンパク質1)(Agrisera AS07 212, 抗ウサギポリクローナル抗体, 1:5000希釈)を含む)、およびミトコンドリアマトリクスに位置する植物NADH依存性イソクエン酸デヒドロゲナーゼの抗IDH(イソクエン酸デヒドロゲナーゼ)(Agrisera AS06 203A, 抗ウサギポリクローナル抗体, 1:2500希釈)でプローブした。使用した二次抗体は、抗ウサギHRP(1:5000)であり、続いて、増強型ケミルミネッセンスおよびVersadoc画像化(Biorad)によって検出した。予測されるように、粗製および精製画分は、ミトコンドリアマーカー、VDAC1およびIDHに対して陽性に染色された。しかし、精製ミトコンドリアは、装填した同じタンパク質に対して、ミトコンドリアタンパク質のより濃いバンドを有した。これは、比活性が顕著により高いことを示す。
【0101】
実施例7. アセチルCoAからのテルペノイド前駆体メバロネートの生成
反応において、10mMのアセチルCoAを、基質として供給し得る。酵素アセトアセチル-CoAチオラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、およびHMG-CoAレダクターゼはまた、7.5mg/mLにおいて、精製構成要素として反応に供給される。これらの酵素の遺伝子配列を、His6タグとともに、タンパク質生成ベクター(例えば、pETベクター)へとクローニングし、続いて、E.coli株へと形質転換し、上記プラスミドを有する株に対して選択する。次いで、100mLの各株を、対数増殖期中期のODになるまで増殖させ、誘導し、機械的技術を使用して溶解し、次いで、タンパク質を、Ni-NTA樹脂を使用して上記溶解物から精製し、グリセロール凍結保護物質を有する塩緩衝液中で貯蔵する。上記反応をまた、50mM Tris-Cl(pH7.5)、5mM グルタミン酸マグネシウム、5mM グルタミン酸カリウム、0.5mM NAD+、0.5mM NADP+、1mM CoA、10mM 無機ホスフェート、0.1mM ピロホスフェート、1mM DTTを補充する。さらに、補因子平衡を提供し、さらなるアセチルCoAを生成するために、上記反応に、7.5mg/mLのヘキソキナーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、アルドラーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、グリセルアルデヒド3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ、ホスホグリセレートキナーゼ、ホスホグリセロムターゼ、エノラーゼ、ピルビン酸キナーゼ、ピルベートデヒドロゲナーゼ(複合体)、100mMのグルコース、2mMのATP、2mMのADP、0.25mM 2,3ビホスホグリセレート、1mM FBPを補充し得る。
【0102】
上記の反応において、2.5mg/mLでミトコンドリアを補充したものと、ミトコンドリアを補充なかったものとで比較を行い得る。ミトコンドリアを補充した反応は、ミトコンドリアを補充しなかったものと同じかまたはより多くのメバロネートを作製するはずであることは予測される。さらに、ミトコンドリアを補充した反応は、ミトコンドリアを補充なかったもの以上のより長い期間にわたってメバロネートを作製するはずである。さらに、さらなる酵素(例えば、NADHオキシダーゼ)またはE.coliグリセルアルデヒド3-ホスフェートデヒドロフェナーゼのメタゲノム改変体の使用はまた、人工的なホメオスタシス平衡を提供することによって、反応期間を延ばし得る。ミトコンドリアを使用することによる改善は、人工的ホメオスタシス平衡を提供することによる改善に類似であると予測される。
【0103】
実施例8: ミトコンドリアおよび/または葉緑体を補充したHeLa無細胞系におけるDNAテンプレートからのGFPの生成
HeLa S3細胞を、スピナーフラスコ中、37℃で10% ウシ胎仔血清、ペニシリン(1ユニット/mL)、およびストレプトマイシン(0.1mg/mL)ならびにGlutaMAX(2mM)を補充したS-MEM培地中で培養した。その細胞を、0.8~1.5×106 細胞/mlの間の細胞密度で採取した。その細胞を、約1200rpmでの遠心分離によって集めた。その細胞ペレットを、35mM HEPES-KOH(pH7.5)、140mM NaCl、および11mM グルコースを含む氷冷洗浄緩衝液で3回、および20mM HEPES-KOH(pH7.5)、45mM 酢酸カリウム、45mM KCl、1.8mM 酢酸マグネシウム、および1mM ジチオスレイトールを含む抽出緩衝液中で1回洗浄した。その細胞ペレットを、等容積の抽出緩衝液中で3.0×108 細胞/mlへと再懸濁した。その再懸濁した溶液を、フレンチプレスを使用して破壊した。得られた溶解物を、20mM HEPES-KOH(pH7.5)、945mM 酢酸カリウム、945mM KCl、1.8mM 酢酸マグネシウム、および1mM DTTを含む1/29容積の高カリウム緩衝液と混合した。次いで、そのホモジネートを、1,200×gにおいて5分間、4℃で2回遠心分離し、その上清を回収した。その最終抽出物は、26mg/mlであり、これをアリコートに分け、液体窒素中で凍結し、―80℃において貯蔵した。
【0104】
次いで、HeLa抽出物を、緩衝液およびサブクローニングしたGFPを有するT7-GFP発現プラスミド(例えば、pT7CFE1-Chis)と合わせて、無細胞転写および翻訳を可能にし得る。特に、12.5μLのHeLa抽出物を、2.5μLのアクセサリータンパク質(例えば、組換えK3L、組換えGADD34)、5μLの反応ミックス、0.5mg/mLのサブクローニングしたGFPを有するpT7CFE1-Chisを2μL、および3μLの水と合わせ、25μL 反応になるようにし得る。その反応の最終濃度は、50% v/v HeLa抽出物、0.83mM GTP、CTP、およびUTP、1.25mM ATP、20mM クレアチンホスフェート、60μg/mL クレアチンキナーゼ、90μg/mL 牛肝臓tRNA、8~120μMの20種のアミノ酸、3.8mM~8.5mMのグルタミン酸マグネシウム、100~180mMのグルタミン酸カリウム+KCl、54mMのHEPES-KOH、11.1μg/mL T7 RNAポリメラーゼ、0.5mM スペルミジン、ならびに最適な活性レベルになるように用量設定および添加した組換えK3lおよび組換えGADD34である。これは、「HeLa無細胞系」である。範囲は、無細胞系が、特に、グルタミン酸マグネシウム、グルタミン酸カリウム+KCl、組換えK3l、および組換えGADD34の量において最適化される必要があることから、いくつかの領域において示される。なぜなら各HeLa抽出物調製は、転写および翻訳を可能にするために、マグネシウムおよびカリウム要件の異なる量を生じるからである。
【0105】
重要なことには、上記HeLa無細胞系は、グルタメートのatmM濃度の供給源を含む必要がある。これは、添加されたミトコンドリアが酸化的リン酸化を行う基質として使用され得る。これは、グルタミン酸塩を酢酸塩の代わりに使用することによって提供され得る。次いで、2つの条件を試験する:一方の条件において、HeLa無細胞系に、0.1~25% v/v Nicotiana tabacum cv. BY-2ミトコンドリアの用量設定量を補充する;もう一方の条件において、HeLa無細胞系は、添加されるミトコンドリアを含まない。次いで、GFP生成を、マイクロタイタープレートリーダーにおいて追跡し得る(例えば、32℃において、Nunc 384ウェルプレート中、25μL、そして485/励起 528/発光フィルターを使用してゲイン35においてBiotek Synergy 2で画像化)。Nicotiana tabacum cv. BY-2ミトコンドリアが、反応へと用量設定される条件は、等しいかまたはより大きい速度の無細胞発現および等しいかまたはより大きい量のGFP生成を示すはずである。ミトコンドリアが貯蔵される緩衝液およびミトコンドリア調製物中に存在する任意の補助タンパク質が、HeLa転写および翻訳プロセスに干渉も相互作用もしないように、ミトコンドリアが極めて純粋であることを担保することは、重要である。
【0106】
この結果は、HeLa無細胞系へのミトコンドリアの添加が、無細胞発現の速度および/または生成量を改善し得ることを示し得る。
【0107】
他の異種オルガネラ(例えば、葉緑体)も、HeLa無細胞系に添加され得る。葉緑体の添加に関しては、精製したArabidopsis葉緑体は、(Seigneurin-Berny 2008)の方法に従うことによって得られ得、無細胞転写および翻訳に対するインヒビターを欠く緩衝液に移され得る。使用直前に、0.5mMのATPを、上記溶液に必要に応じて添加して、葉緑体活性を開始し得る。次いで、精製葉緑体を、Nicotiana tabacum cv. BY-2ミトコンドリアの代わりに前述のHeLa 無細胞系に添加し得る。次いで、4つの条件を試験し得る:1つの条件において、HeLa無細胞系に、0.1~25% v/v Arabidopsis葉緑体の滴定された量を補充し、白熱光源からの光条件で実行する;別の条件において、葉緑体を滴定するが、遮光して実行する;別の条件において、HeLa無細胞系は、添加される葉緑体を含まず、白熱光源からの光条件で実行する;最後の条件において、HeLa無細胞系は、添加される葉緑体を含まず、遮光して実行する。次いで、GFP生成を、マイクロタイタープレートリーダーにおいて追跡し得る(例えば、32℃において、Nunc 384ウェルプレート中、25μL、そして485/励起 528/発光フィルターを使用してゲイン35においてBiotek Synergy 2で画像化)。Arabidopsis葉緑体が反応へと滴定される条件は、等しいかまたはより大きい速度の無細胞発現および等しいかまたはより大きい量のGFP生成を示すはずである。これは、光条件または遮光条件のいずれでも起こる。
【0108】
均等物
本開示は、とりわけ、入力核酸テンプレートインビトロ転写/翻訳(TXTL)システムを保護することに関する本明細書で開示される組成物および方法を提供する。本開示の具体的実施形態が考察されているが、上記明細書は、例証であって限定ではない。本開示の多くのバリエーションは、本明細書を検討すれば、当業者に明らかになる。本開示の全範囲は、請求項をそれらの均等物の全範囲とともに、および本明細書をこのようなバリエーションとともに参照することによって、決定されるべきである。
【0109】
援用の表示
本明細書で言及される全ての刊行物、特許および配列データベースエントリーは、各個々の刊行物または特許または配列データベースエントリーが具体的にかつ個々に援用されることが示されているかのように、それらの全体において参考として援用される。
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【国際調査報告】