(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-02
(54)【発明の名称】電気駆動式有機半導体レーザーダイオードおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/36 20060101AFI20220422BHJP
H01S 5/12 20210101ALI20220422BHJP
【FI】
H01S5/36
H01S5/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022500211
(86)(22)【出願日】2020-03-11
(85)【翻訳文提出日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2020012809
(87)【国際公開番号】W WO2020184731
(87)【国際公開日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2019047762
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】519423895
【氏名又は名称】株式会社KOALA Tech
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】サンダナヤカ サンガランゲ ドン アトゥラ
(72)【発明者】
【氏名】松島 敏則
(72)【発明者】
【氏名】ベンシュイク ファティマ
(72)【発明者】
【氏名】リビエル ジャン チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】小松 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】寺川 しのぶ
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョンウク
(72)【発明者】
【氏名】セネヴィラッネ アディカリ ムディヤンセラゲ チャトゥランガニー
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
(72)【発明者】
【氏名】ダレオ アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】藤原 隆
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AB50
5F173AF15
5F173AK02
5F173AL02
5F173AL15
(57)【要約】
一対の電極と、分布帰還型(DFB)構造を有する光共振器構造と、有機半導体から構成される光増幅層を含む1つ以上の有機層とを含む電気駆動式有機半導体レーザーダイオードであって、分布帰還型構造が1次ブラッグ散乱領域、2次元分布帰還、または円形分布帰還から構成されている、電気駆動式有機半導体レーザーダイオードが開示されている。
【選択図】
図26
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、分布帰還型(DFB)構造を有する光共振器構造と、有機半導体から構成される光増幅層を含む1つ以上の有機層とを含む電気駆動式有機半導体レーザーダイオードであって、以下の条件(i)~(iii):
(i)前記分布帰還型構造が1次ブラッグ散乱領域から構成されていること、
(ii)前記分布帰還型構造が2次元分布帰還から構成されていること、および、
(iii)前記分布帰還型構造が円形分布帰還から構成されていること、
の1つを満たす、電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項2】
条件(i)を満たす、請求項1に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項3】
端面放出型である、請求項2に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項4】
放出端面は、50μm以上の導波路長さを有するガラス導波路の端面である、請求項3に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項5】
放出端面は、50μm以上の光放射方向での厚さを有する透明樹脂でコーティングされている、請求項3または4に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項6】
条件(ii)を満たす、請求項1に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項7】
条件(iii)を満たす、請求項1に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項8】
前記分布帰還型構造は、格子構造を有する、請求項7に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項9】
前記分布帰還型構造は、レーザー放出波長に対する次数の点で異なるDFBグレーティング構造の混合構造を有する、請求項6~8のいずれか一項に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項10】
前記混合構造は、1次ブラッグ散乱領域および2次ブラッグ散乱領域から構成されている、請求項9に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項11】
前記2次ブラッグ散乱領域は、前記1次ブラッグ散乱領域によって取り囲まれている、請求項10に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項12】
前記1次ブラッグ散乱領域および前記2次ブラッグ散乱領域は、交互に形成されている、請求項10に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項13】
条件(ii)および(iii)を満たす、請求項1に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項14】
前記光増幅層中に含まれる前記有機半導体は、非晶質である、請求項1~13のいずれか一項に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項15】
前記光増幅層中に含まれる前記有機半導体の分子量は、1000以下である、請求項1~14のいずれか一項に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項16】
前記光増幅層中に含まれる前記有機半導体は、非ポリマーである、請求項1~15のいずれか一項に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項17】
前記光増幅層中に含まれる前記有機半導体は、少なくとも1つのスチルベン単位を有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項18】
前記光増幅層中に含まれる前記有機半導体は、少なくとも1つのカルバゾール単位を有する、請求項1~17のいずれか一項に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項19】
前記光増幅層中に含まれる前記有機半導体は、4,4’-ビス[(N-カルバゾール)スチリル]ビフェニル(BSBCz)である、請求項1~18のいずれか一項に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項20】
前記有機層の1つとして電子注入層を有する、請求項1~19のいずれか一項に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項21】
前記電子注入層は、Csを含む、請求項20に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項22】
無機層として正孔注入層を有する、請求項1~21のいずれか一項に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項23】
前記正孔注入層は、酸化モリブデンを含む、請求項22に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項24】
前記光増幅層中に含まれる前記有機半導体の濃度は、3重量%以下である、請求項1~23のいずれか一項に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【請求項25】
複数の電気駆動式OSLDチップを製造する方法であって、
それぞれが一対の電極と該電極間に挟まれた複数の層とを基板上にその上で互いに隙間を空けて含む2つ以上の電気駆動式OSLDチップ積層体を形成することと、
積層体間の隙間を介して前記基板を切断して、それぞれが前記積層体と前記基板とから構成された複数の電気駆動式OSLDチップを得ることと、
を含む、方法。
【請求項26】
前記電気駆動式OSLDチップは、それぞれ1次ブラッグ散乱領域から構成された分布帰還型構造を有する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記電気駆動式OSLDチップは、端面放出型のものである、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
放出端面は、50μm以上の導波路長さを有するガラス導波路の端面である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
切断後に、前記電気駆動式OSLDチップの少なくとも一部を、樹脂でコーティングする、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記樹脂は、透明フッ素樹脂である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
NIRスペクトル領域で動作するOSLD。
【請求項32】
溶液処理技術を使用して製造されるOSLD。
【請求項33】
ゲスト-ホストポリマー系の活性層を有するOSLD。
【請求項34】
有機多層アーキテクチャからの電流注入レーザー発振。
【請求項35】
一重項励起子のエネルギー移動がForster機構を介してホスト分子からゲスト分子に伝達され得るブレンドからの電流注入レーザー発振。
【請求項36】
OSLDにおける三重項消光剤の使用。
【請求項37】
両極性電荷輸送ホスト材料に基づくOSLDの発光層。
【請求項38】
非反転アーキテクチャを有するOSLD。
【請求項39】
OSLDにおける正孔注入層としてのPEDOT:PSSの使用。
【請求項40】
TADFレーザー色素を利用する有機レーザーダイオード。
【請求項41】
長いフォトルミネッセンス寿命を有する発光化合物を利用する有機レーザーダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気駆動式有機半導体レーザーダイオードおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ポンピング有機半導体レーザー(OSL)の特性は、高利得の有機半導体材料の開発および高品質係数共振器構造の設計の両方が大きく進歩した結果、過去20年間に劇的に向上した。レーザー用の利得媒体としての有機半導体の利点としては、その高いフォトルミネッセンス(PL)量子収率、大きな誘導放出断面、および可視領域全体にわたる幅広い放出スペクトルとともに、化学的調整可能性および加工容易性が挙げられる。低閾値の分布帰還型(DFB)OSLの最近の進歩のおかげで、電気駆動式ナノ秒パルス無機発光ダイオードによる光ポンピングが実証され、新しい小型で低コストの可視レーザー技術への道筋が示された。しかしながら、最終的な目標は、電気駆動式有機半導体レーザーダイオード(OSLD)である。OSLDの実現は、有機フォトニクス回路と有機オプトエレクトロニクス回路との完全な統合を可能にするのに加えて、分光法、ディスプレイ、医療デバイス(網膜ディスプレイ、センサー、および光線力学療法デバイスなど)およびLIFI電気通信における新規用途を切り開くこととなる。
【0003】
有機半導体の直接電気ポンピングによるレーザー発振の実現を妨げている問題は、主に、電気接点からの光損失と高電流密度で起こる三重項およびポーラロンの損失とによるものである(例えば、非特許文献1を参照)。これらの基本的な損失の問題を解決するために提案された手法としては、一重項-三重項励起子消滅による三重項吸収損および一重項消光を抑制する三重項消光剤の使用、ならびに励起子形成が起こる場所と励起子放射崩壊が起こる場所とを空間的に分離し、ポーラロン消光過程を最小限に抑えるデバイス活性領域の縮小(例えば、非特許文献2を参照)が挙げられる。最近、本発明者らは、混合次数分布帰還型(DFB)共振器構造に基づく初めての電気ポンピング有機レーザーダイオードを実証することができた(非特許文献3を参照)。しかしながら、有機レーザーダイオードの効率および安定性をさらに改善する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】サミュエル,I.D.W(Samuel, I. D. W.)、ナムダス,E.B.(Namdas, E. B.)およびターンブル,G.A.(Turnbull, G. A.)著の「レーザー発振の認識の仕方(How to recognize lasing.)」ネイチャーフォトニクス(Nature Photon.)第3巻,第546頁~第549頁(2009年)
【非特許文献2】ハヤシ,Kら(Hayashi, K. et al.)著の「電流注入/輸送領域を50nmに狭めることによる有機発光ダイオードのロールオフ特性の抑制(Suppression of roll-off characteristics of organic light-emitting diodes by narrowing current injection/transport area to 50 nm.)」アプライド・フィジックス・レターズ(Appl. Phys. Lett.)第106巻,093301(2015年)
【非特許文献3】サンダナヤカ,A.S.D.ら(Sandanayaka, A. S. D. et al.)著の「有機半導体レーザーの連続波動作に向けて(Toward continuous-wave operation of organic semiconductor lasers.)」サイエンス・アドバンシス(Science Adv.)第3巻,e1602570(2017年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、新しい電気駆動式OSLDを提供することである。根気強い研究の結果、本発明者らは、本発明によって上記目的を達成することができることを見出した。本発明は、以下の実施形態を含む:
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]一対の電極と、分布帰還型(DFB)構造を有する光共振器構造と、有機半導体から構成される光増幅層を含む1つ以上の有機層とを含む電気駆動式有機半導体レーザーダイオードであって、以下の条件(i)~(iii):
(i)分布帰還型構造が1次ブラッグ散乱領域から構成されていること、
(ii)分布帰還型構造が2次元分布帰還から構成されていること、および、
(iii)分布帰還型構造が円形分布帰還から構成されていること、
の1つを満たす、電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0007】
[2]条件(i)を満たす、[1]に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0008】
[3]端面放出型である、[2]に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0009】
[4]放出端面は、50μm以上の導波路長さを有するガラス導波路の端面である、[3]に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0010】
[5]放出端面は、50μm以上の光放射方向での厚さを有する透明樹脂でコーティングされている、[3]または[4]に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0011】
[6]条件(ii)を満たす、[1]に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0012】
[7]条件(iii)を満たす、[1]に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0013】
[8]分布帰還型構造は、格子構造を有する、[7]に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0014】
[9]分布帰還型構造は、レーザー放出波長に対する次数の点で異なるDFBグレーティング構造の混合構造を有する、[6]~[8]のいずれか1つに記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0015】
[10]混合構造は、1次ブラッグ散乱領域および2次ブラッグ散乱領域から構成されている、[9]に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0016】
[11]2次ブラッグ散乱領域は、1次ブラッグ散乱領域によって取り囲まれている、[10]に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0017】
[12]1次ブラッグ散乱領域および2次ブラッグ散乱領域は、交互に形成されている、[10]に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0018】
[13]条件(ii)および(iii)を満たす、[1]に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0019】
[14]光増幅層中に含まれる有機半導体は、非晶質である、[1]~[13]のいずれか1つに記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0020】
[15]光増幅層中に含まれる有機半導体の分子量は、1000以下である、[1]~[14]のいずれか1つに記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0021】
[16]光増幅層中に含まれる有機半導体は、非ポリマーである、[1]~[15]のいずれか1つに記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0022】
[17]光増幅層中に含まれる有機半導体は、少なくとも1つのスチルベン単位を有する、[1]~[16]のいずれか1つに記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0023】
[18]光増幅層中に含まれる有機半導体は、少なくとも1つのカルバゾール単位を有する、[1]~[17]のいずれか1つに記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0024】
[19]光増幅層中に含まれる有機半導体は、4,4’-ビス[(N-カルバゾール)スチリル]ビフェニル(BSBCz)である、[1]~[18]のいずれか1つに記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0025】
[20]有機層の1つとして電子注入層を有する、[1]~[19]のいずれか1つによる電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0026】
[21]電子注入層は、Csを含む、[20]に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0027】
[22]無機層として正孔注入層を有する、[1]~[21]のいずれか1つに記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0028】
[23]正孔注入層は、酸化モリブデンを含む、[22]に記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0029】
[24]光増幅層中に含まれる有機半導体の濃度は、3重量%以下である、[1]~[23]のいずれか1つに記載の電気駆動式有機半導体レーザーダイオード。
【0030】
[25]複数の電気駆動式OSLDチップを製造する方法であって、
それぞれが一対の電極と該電極間に挟まれた複数の層とを基板上にその上で互いに隙間を空けて含む2つ以上の電気駆動式OSLDチップ積層体を形成することと、
積層体間の隙間を介して基板を切断して、それぞれが積層体と基板とから構成された複数の電気駆動式OSLDチップを得ることと、
を含む、方法。
【0031】
[26]電気駆動式OSLDチップは、それぞれ1次ブラッグ散乱領域から構成された分布帰還型構造を有する、[25]に記載の方法。
【0032】
[27]電気駆動式OSLDチップは、端面放出型のものである、[25]または[26]に記載の方法。
【0033】
[28]放出端面は、50μm以上の導波路長さを有するガラス導波路の端面である、[27]に記載の方法。
【0034】
[29]切断後に、電気駆動式OSLDチップの少なくとも一部を、樹脂でコーティングする、[25]~[28]のいずれか1つに記載の方法。
【0035】
[30]樹脂は、透明フッ素樹脂である、[29]に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】パターン形成されたITOの上面図および側面図。
【
図2】パターン形成されたITO上にSiO
2をスパッタリングした後の産物の上面図および側面図。
【
図3】DFBを形成した後の産物の上面図および側面図。
【
図6】(A)デバイスの構造、および(B)レーザー検出のデバイス構成の側面図。
【
図7】(A)パルス動作下でのDFBレーザーダイオードのエレクトロルミネッセンススペクトル、(B)電流密度対電圧、(C)EL強度対電圧、および(D)EL強度対電流密度。
【
図8】1次DFBの光学的シミュレーション、(A)480nmでのモード(Q=832)、および(B)464nmでのモード(Q=573)。
【
図9】1次DFBの電気的シミュレーション、(A)電流-電圧特性、(B)一重項励起子密度、(C)光学モード、および(D)大きな空間的重なり。
【
図10】(A)2次正方格子-DFBのSEM画像、(B)2次2D-DFBのSEM画像、および(C)有機半導体レーザーダイオードの概略図。
【
図11】(A、B)光ポンピング下での放出スペクトル、および(C、D)導波モードについてのフォトニック阻止帯域。
【
図12】(A、B)光ポンピング下での放出強度対励起強度。
【
図13】(A、B)レーザー放出スペクトルの偏光依存性、および(C、D)光ポンピング下での偏光角に対する放出強度。
【
図14】正方格子-DFBの場合の光ポンピング下での近視野ビーム画像および遠視野ビーム画像。
【
図15】正方格子-DFBの場合の閾値未満(a)、閾値付近(b)、および閾値超(c)の光励起下での(A)近視野ビーム断面および(B)遠視野ビーム断面。
【
図16】2D-DFBの場合の光ポンピング下での近視野ビーム画像および遠視野ビーム画像。
【
図17】2D-DFBの場合の閾値未満(a)、閾値付近(b)、および閾値超(c)の光励起下での(A)近視野ビーム断面および(B)遠視野ビーム断面。
【
図19】デバイスについての電流密度-電圧(J-V)曲線およびOLEDにおける外部量子効率対電流密度。
【
図21】EODデバイスおよびHODデバイスについての電流密度-電圧(J-V)曲線。
【
図22】2次正方格子DFBおよび2次2D-DFBのSEM画像。
【
図23】デバイスについての電流密度-電圧(J-V)曲線およびDFBグレーティングOLEDについての外部量子効率対電流密度。デバイス構造は
図10(c)に示されている。
【
図25】2次2Dグレーティングの光学的シミュレーション、(A)2次2Dグレーティングの概略図、(B)481nmでの共振光学モード(Q=9071)、および(C)共振モードの上面図。
【
図27】(A、B)光ポンピング下での放出スペクトル、および(C、D)導波モードについてのフォトニック阻止帯域。
【
図28】(A、B)光ポンピング下での放出強度対励起強度。
【
図29】(A、B)レーザー放出スペクトルの偏光依存性、および(C、D)光ポンピング下での偏光角に対する放出強度。
【
図30】円形2次-DFBの場合の光ポンピング下での近視野ビーム画像および遠視野ビーム画像。
【
図31】円形2次-DFBの場合の閾値未満(a)、閾値付近(b)、および閾値超(c)の光励起下での(A)近視野ビーム断面および(B)遠視野ビーム断面。
【
図32】円形混合次数-DFBの場合の光ポンピング下での近視野ビーム画像および遠視野ビーム画像。
【
図33】円形混合次数-DFBの場合の閾値未満(a)、閾値付近(b)、および閾値超(c)の光励起下での(A)近視野ビーム断面および(B)遠視野ビーム断面。
【
図34】ITOパターン基板上にSiO
2を使用して作製された円形混合次数DFBグレーティング構造のレーザー顕微鏡画像。
【
図35】駆動ありの場合および駆動なしの場合の有機円形DFBレーザーの顕微鏡画像。円形DFBありの場合および円形DFBなしの場合のデバイスについての電流密度-電圧(J-V)曲線。DFBありの場合およびDFBなしの場合のOLEDにおける外部量子効率対電流密度。
【
図36】低閾値DFBグレーティング構造についてのSEM画像:(A)2次正方格子-DFB、(B)混合次数正方格子-DFB、(C)2次2D-DFB、(D)混合次数2D-DFB、(E)2次円格子-DFB、(F)混合次数円格子-DFB、および(G)2次円2D-DFB。スケールサイズ:(A)3nm、(B)40nm、(C)5nm、(D)10 50nm、(E)20nm、および(F)5nm。
【
図37】近赤外線混合次数DFB OSLDの構造。
【
図39】注入電流密度に対するNIR OSLDの放出スペクトル、ならびに様々な印加電圧および出力レーザービームで動作するデバイスを示す写真。
【
図40】電流密度に対する出力EL強度および印加電圧に対する出力EL強度。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の内容を以下で詳細に説明する。本発明の代表的実施形態および具体的な実施例を参照して、以下に構成要素を説明するが、本発明はこれらの実施形態および実施例に限定されない。本明細書では、「X~Y」によって表される数値範囲は、XおよびYの数値をそれぞれ下限および上限として含む範囲を意味する。
【0038】
本発明の電気駆動式OSLDは、少なくとも1対の電極と、分布帰還型構造を有する光共振器構造と、有機半導体から構成される光増幅層を含む1つ以上の有機層とを含む。本発明の電気駆動式OSLDは、以下の条件(i)~(iii):
(i)分布帰還型構造が1次ブラッグ散乱領域から構成されていること、
(ii)分布帰還型構造が2次元分布帰還から構成されていること、および、
(iii)分布帰還型構造が円形分布帰還から構成されていること、
の1つを満たす。
【0039】
本発明の構成および特性を以下で詳細に説明する。
【0040】
(光共振器構造)
本発明の電気駆動式OSLDにおいて、光共振器構造は、好ましくは電極上に形成され得る。光共振器構造は、分布帰還型構造を有する。
【0041】
(i)を満たす場合に、好ましくは、DFB構造(分布帰還型構造)の90%以上の面積は1次ブラッグ散乱領域から構成されており、その割合は95%以上であり得るか、または99%以上であり得て、より好ましくは100%である。1次ブラッグ散乱領域の具体例を
図3に示す。また、(i)を満たす場合に、好ましくは、電気駆動式OSLDは、端面放出型である。端面放出型のうち、放出端面は、好ましくはガラス導波路の端面である。ガラス導波路のうち、端面からの導波路長さは、好ましくは10μm以上であり、50μm以上もしくは80μm以上の範囲から選択され得るか、または500μm以下もしくは200μm以下の範囲から選択され得る。発光面は、透明樹脂(好ましくは、透明フッ素樹脂)でコーティングされ得て、端面放出型の場合に、光放射方向での樹脂厚さは、例えば、100μm以上もしくは300μm以上の範囲内であり得るか、または1000μm以下もしくは500μm以下の範囲内であり得る。
【0042】
(ii)を満たす場合に、DFB構造は2次元共振器構造である。(ii)を満たす電気駆動式OSLDの具体例としては、
図36(C)、(D)および(G)に示されるものが挙げられる。(ii)を満たす電気駆動式OSLDのDFB構造は、放出波長に対して同じ次数を有するDFBグレーティング構造のみから構成され得るか、または放出波長に対して次数の点で異なるDFBグレーティング構造の混合物を有し得る。前者の場合の例は、2次ブラッグ散乱領域のみから構成された構造である。後者の場合の例としては、1次ブラッグ散乱領域に取り囲まれた2次ブラッグ散乱領域から構成された光共振器構造、および2次ブラッグ散乱領域と1次散乱領域とが交互に形成された構造が挙げられる。(ii)を満たす電気駆動式OSLDの例としては、円形共振器構造およびウィスパリングギャラリー型光共振器構造が挙げられる。
【0043】
(iii)を満たす場合に、DFB構造の少なくとも一部は円形共振器構造である。円形共振器構造の典型的な例としては、
図26および
図34に示される同心円状パターン構造が挙げられる。好ましくは、円形共振器構造は、電気駆動式OSLDに含まれるDFB構造の50%以上の面積を占め、90%以上もしくは99%以上を占め得るか、または100%さえも占め得る。電気駆動式OSLDの具体例としては、
図36(E)、(F)および(G)に示されるものが挙げられる。(iii)を満たす場合に、DFB構造は、放出波長に対して同じ次数を有するDFBグレーティング構造のみから構成され得るか、または放出波長に対して次数の点で異なるDFBグレーティング構造の混合物を有し得る。後者の好ましい例は、
図36(F)に示される1次ブラッグ散乱領域に取り囲まれた2次ブラッグ散乱領域から構成された光共振器構造であるが、本発明で使用可能な構造は、この実施形態に限定されない。また、(iii)を満たす場合に、DFB構造は、
図36(E)および(F)のような格子状構造であり得るか、または
図36(G)のような2次元構造であり得る。(iii)を満たす電気駆動式OSLDは、レーザー発振閾値を下げることができるという点で優れている。
【0044】
光共振器構造を構成する材料としては、SiO2などの絶縁材料が挙げられる。グレーティングの深さは、好ましくは75nm以下であり、より好ましくは10nm~75nmの範囲から選択される。その深さは、例えば40nm以上であり得るか、または40nm未満であり得る。
【0045】
(光増幅層)
本発明の電気駆動式OSLDを構成する光増幅層は、炭素原子を含むが金属原子を含まない有機半導体化合物を含む。好ましくは、有機半導体化合物は、炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、およびホウ素原子からなる群から選択される1つ以上の原子から構成される。例えば、炭素原子、水素原子、および窒素原子から構成された有機半導体化合物を挙げることができる。有機半導体化合物の好ましい例は、スチルベン単位およびカルバゾール単位の少なくとも1つを有する化合物であり、有機半導体化合物のより好ましい例は、スチルベン単位とカルバゾール単位との両方を有する化合物である。スチルベン単位およびカルバゾール単位は、アルキル基などのような置換基で置換されていても、または非置換であってもよい。好ましくは、有機半導体化合物は、繰返単位を有しない非ポリマーである。好ましくは、化合物の分子量は1000以下であり、例えば750以下であり得る。光増幅層は、2種類以上の有機半導体化合物を含み得るが、好ましくは1種類のみの有機半導体化合物を含む。
【0046】
本発明で使用される有機半導体化合物は、光励起有機半導体レーザーの有機発光層で使用される場合にレーザー発振を可能にするレーザー利得有機半導体化合物から選択され得る。最も好ましい有機半導体化合物の1つは、4,4’-ビス[(N-カルバゾール)スチリル]ビフェニル(BSBCz)であり、これは薄膜での低い自然放射増幅(ASE)閾値(アイモノ,Tら(Aimono, T. et al.)著のアプライド・フィジックス・レターズ(Appl. Phys. Lett.)第86巻,71110(2005年)によれば800psパルス光励起条件下で0.30μJ cm-2)および2%を超える最大エレクトロルミネッセンス(EL)外部量子効率(ηEQE)を有するOLEDにおける5μsパルス動作下での2.8kA cm-2ほどの高さの電流密度の注入に耐える能力(非特許文献2を参照)などの光学的特性および電気的特性の組合せが優れているためである。さらに、80MHzの高い繰り返し数で30ミリ秒の長いパルス光励起下でのレーザー発振は、最近、光ポンピングBSBCz系DFBレーザーで実証され、主として、BSBCz膜のレーザー発振波長での三重項吸収損がきわめて小さいため可能であった。BSBCzとは異なり、例えば、アプライド・フィジックス・レターズ(Appl. Phys. Lett.)第86巻,71110(2005年)と同じ薄膜へと形成し、800psパルス光励起条件下で測定したときに、好ましくは0.60μJ cm-2以下、より好ましくは0.50μJ cm-2以下、さらにより好ましくは0.40μJ cm-2以下のASE閾値を有する化合物も使用可能である。さらに、非特許文献2と同じデバイスへと形成し、5μsパルス動作条件下で測定したときに、好ましくは1.5kA cm-2以上、より好ましくは2.0kA cm-2以上、さらにより好ましくは2.5kA cm-2以上の耐久性を示す化合物が使用可能である。
【0047】
本発明の電気駆動式OSLDを構成する光増幅層の厚さは、好ましくは80nm~350nm、より好ましくは100nm~300nm、さらにより好ましくは150nm~250nmである。
【0048】
光増幅層中の有機半導体化合物の濃度は、例えば、10重量%未満の範囲内、5重量%以下の範囲内、3重量%以下の範囲内、または1重量%以下の範囲内であり得る。
【0049】
(その他の層)
本発明の電気駆動式OSLDは、光増幅層の他に、電子注入層、正孔注入層などを有し得る。これらの層は、有機層であり得るか、または有機材料を含まない無機層であり得る。電気駆動式OSLDが2つ以上の有機層を有する場合に、電気駆動式OSLDは、好ましくは、非有機層を間に一切有しない有機層のみの積層体構造を有する。この場合に、2つ以上の有機層は、光増幅層と同じ有機化合物を含み得る。電気駆動式OSLDの性能は、その中の有機層のヘテロ界面の数が少ないほど良くなる傾向があり、したがって、その中の有機層の数は、好ましくは6つ以下、より好ましくは3つ以下である。電気駆動式OSLDが2つ以上の有機層を有する場合に、好ましくは、光増幅層の厚さは、有機層の全厚さの50%超、より好ましくは60%超、さらにより好ましくは70%超である。電気駆動式OSLDが2つ以上の有機層を有する場合に、有機層の全厚さは、例えば、100nm以上、120nm以上、もしくは170nm以上であり得て、かつ370nm以下、320nm以下、もしくは270nm以下であり得る。好ましくは、電子注入層および正孔注入層の屈折率は、光増幅層の屈折率よりも小さい。
【0050】
電子注入層が設けられる場合に、光増幅層への電子注入を容易にする物質が電子注入層に存在するように作られる。正孔注入層が設けられる場合に、光増幅層への正孔注入を容易にする物質が正孔注入層に存在するように作られる。これらの物質は、有機化合物または無機物質であり得る。例えば、電子注入層用の無機物質は、Csなどのアルカリ金属を含み、有機化合物を含む電子注入層中のその濃度は、例えば、1重量%超、または5重量%以上、または10重量%以上であり得て、かつ40重量%以下、もしくは30重量%以下であり得る。電子注入層の厚さは、例えば、3nm以上、10nm以上、または30nm以上であり得て、かつ100nm以下、80nm以下、または60nm以下であり得る。
【0051】
本発明の1つの好ましい実施形態として、電子注入層および光増幅層が有機層として設けられ、かつ正孔注入層が無機層として設けられた電気駆動式OSLDが例示され得る。正孔注入層を構成する無機物質としては、酸化モリブデンなどのような金属酸化物が挙げられる。正孔注入層の厚さは、例えば、1nm以上、2nm以上、または3nm以上であり得て、かつ100nm以下、50nm以下、または20nm以下であり得る。
【0052】
(電極)
本発明の電気駆動式OSLDは1対の電極を有する。光出力のため、1つの電極は、好ましくは透明である。電極のために、当該技術分野で一般に使用される電極材料が、その仕事関数などを考慮して適切に選択され得る。好ましい電極材料としては、限定されるものではないが、Ag、Al、Au、Cu、ITOなどが挙げられる。
【0053】
(好ましい電気駆動式OSLD)
本発明の電気駆動式OSLDにおいては、好ましくは、電流励起によって生成される励起子は、実質的に消滅を受けない。励起子消滅による損失は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、さらにより好ましくは1%未満、またさらにより好ましくは0.1%未満、またさらにより好ましくは0.01%未満、最も好ましくは0%である。
【0054】
また好ましくは、本発明の電気駆動式OSLDは、レーザー発振波長で実質的なポーラロン吸収損を示さない。言い換えると、好ましくは、有機半導体レーザーのポーラロン吸収スペクトルと放出スペクトルとの間に実質的な重なりは存在しない。ポーラロン吸収による損失は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、さらにより好ましくは1%未満、またさらにより好ましくは0.1%未満、またさらにより好ましくは0.01%未満、最も好ましくは0%である。
【0055】
好ましくは、本発明の電気駆動式OSLDの発振波長は、励起状態、ラジカルカチオン、またはラジカルアニオンの吸収波長領域と実質的に重ならない。ここでの吸収は、一重項-一重項、三重項-三重項、またはポーラロン吸収によって引き起こされ得る。励起状態での吸収による損失は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、さらにより好ましくは1%未満、またさらにより好ましくは0.1%未満、またさらにより好ましくは0.01%未満、最も好ましくは0%である。
【0056】
好ましくは、本発明の電気駆動式OSLDは、三重項消光剤を含まない。
【0057】
(電気駆動式OSLDの製造方法)
本発明はまた、電気駆動式OSLDの製造方法を提供する。
【0058】
これまで、一対の電極と電極間に挟まれた複数の層とを含むOSLDは、それをウェーハから切り出すことによって製造されてきた。具体的には、基板上に一対の電極と電極間に挟まれた複数の層を形成してウェーハを製造した後に、そこから個々のOSLDチップが切り出される。個々のOSLDチップを切り出す際に、基板とともに電極間に形成された光共振器構造および光増幅層も切断される。その結果、層の切断面は必然的に粗面化される。調査の結果、本発明者らは、粗面化された切断面がレーザー発振特性に何らか悪影響を与えることを見出した。したがって、本発明者らは、個々のOSLDチップを切り出す際に、電極間に形成された層が切断されない製造方法を考えた。結果として、本発明者らは、切断される基板の領域にOSLDを構成する電極および層を形成せず、基板のみを切断するという構想を思い付き、問題のないOSLDチップの製造方法を開発した。具体的には、本発明の製造方法は、それぞれがOSLDチップ積層体と基板とから構成された複数のOSLDチップを製造する方法であって、それぞれが一対の電極と電極間に挟まれた複数の層とを基板上にその上で互いに隙間を空けて含む2つ以上のOSLDチップ積層体を形成することと、2つ以上のOSLDチップ積層体間の隙間を介して基板を切断して、それぞれがOSLDチップ積層体と基板とから構成された複数のOSLDチップを得ることとを含む、方法である。この製造方法によれば、個々のOSLDチップを切り出す際に、OSLDチップを構成する層を切断する必要がないため、切断面が粗面化されるのを防ぐことができる。
【0059】
本発明の製造方法は、特に、端面放出型電気駆動式OSLDを製造する方法として有用である。この方法は、主に1次ブラッグ散乱領域から構成された光共振器構造をそれぞれが有する複数の電気駆動式OSLDを製造する方法として有用であり、特に、1次ブラッグ散乱領域のみから構成された光共振器構造をそれぞれが有する複数の電気駆動式OSLDの製造方法として有用である。
【0060】
本発明の製造方法に従って切り出された電気駆動式OSLDの少なくとも一部は、樹脂でコーティングされ得る。例えば、基板上に形成された電極およびその上の電極間に挟まれたすべての層は、樹脂でコーティングされ得る。発光面および放出端面を樹脂でコーティングする場合には、透明樹脂を使用する。1つの好ましい樹脂は、CYTOP(商標)などの透明フッ素樹脂である。発光面または放出端面を樹脂でコーティングする場合には、光放射方向での樹脂厚さは、例えば、100μm以上もしくは300μm以上の範囲内であり得るか、または1000μm以下もしくは500μm以下の範囲内であり得る。樹脂でコーティングされる放出端面は、好ましくは、50μm以上の長さを有するガラス導波路の端面である。
【0061】
上述の本発明の電気駆動式OSLDは、好ましくは、本発明の製造方法に従って製造されたものである。しかしながら、本発明の製造方法以外の方法に従って製造されたものでさえ、これらが本出願の特許請求の範囲に記載された要件を満たす限り、本発明の電気駆動式OSLDの範囲に含まれる。
【実施例】
【0062】
以下に示される実施例を参照して、本発明の特性的特徴をより具体的に説明する。以下に示される材料、プロセス、手順などは、本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に示される具体的な実施例に限定されると解釈されるものではない。
【0063】
(実施例1)1次分布帰還型DFBを有する電気駆動式有機半導体レーザーダイオード
(デバイスの製造)
インジウムスズ酸化物(ITO)被覆ガラス基板(30nm厚のITO、株式会社厚木ミクロ)を、中性洗剤、純水、アセトン、およびイソプロパノールを使用した超音波処理によって清浄化した後に、紫外線-オゾン処理をした。DFBグレーティングとなる60nm厚のSiO2層をITO被覆ガラス基板上に100℃でスパッタリングした。スパッタリングの間のアルゴン圧力は、0.66Paであった。高周波電力を100Wに設定した。基板を再びイソプロパノールを使用した超音波処理によって清浄化した後に、紫外線-オゾン処理をした。SiO2表面を、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)により4000rpmで15秒間スピンコーティングすることによって処理し、120℃で120秒間アニールした。約70nmの厚さを有するレジスト層を、基板上にZEP520A-7溶液(日本ゼオン株式会社)から4000rpmで30秒間スピンコートし、180℃で240秒間焼き付けた。
【0064】
JBX-5500SCシステム(日本電子株式会社)を使用して0.1nC/cm
2の最適化線量で電子線リソグラフィを行って、レジスト層上にグレーティングパターンを描画した。電子ビーム照射後に、パターンを室温にて現像液(ZED-N50、日本ゼオン株式会社)中で現像した。パターン形成されたレジスト層をエッチングマスクとして使用し、一方で、基板をEIS-200ERTエッチングシステム(株式会社エリオニクス)を使用してCHF
3でプラズマエッチングした。FA-1EAエッチングシステム(サムコ株式会社)を使用して基板をO
2でプラズマエッチングして、基板からレジスト層を完全に除去した。エッチング条件を、ITOが露出するまでDFB内の溝からSiO
2を完全に除去するように最適化した(
図1~
図3)。SiO
2表面に形成されたグレーティングをSEM(SU8000、株式会社日立製作所)で観察した(
図4)。DFB内の溝からSiO
2が完全に除去されたことを確認するために、EDX(6.0kV、SU8000、株式会社日立製作所)分析を行った。
【0065】
DFB基板を従来の超音波処理により清浄化した。次いで、1.5×10-4Paの圧力下で0.1nm/s~0.2nm/sの全蒸着速度での熱蒸着によって、有機層および金属電極を基板上に真空蒸着して、インジウムスズ酸化物(ITO)(30nm)/20重量%のCs:CBP(60nm)/10重量%のBSBCz:CBP(150nm)/MoO3(3nm)/HATCN(10nm)/Ag(100nm)の構造を有するOSLDを製造した。ITO表面上のSiO2層は、DFBグレーティングに加えて絶縁体として作用した。したがって、OLEDの電流領域は、CBPがITOと直接接触しているDFB領域に限定された。700×1400μmの活性領域を有する参照OLEDも同じ電流領域で作製した。
【0066】
(デバイスの特性評価)
湿気および酸素による劣化を一切防ぐ窒素充填グローブボックス内で、すべてのデバイスを
図5に示されるように中央で切断して、精細な端面を得た。すべてのデバイスの特性評価をN
2下で実施した。また、
図6に示されるようにCYTOP(商標)を使用して封止して測定を実施した。OSLDおよびOLEDの電流密度-電圧-ηEQE(J-V-ηEQE)特性(DC)を、室温で積分球システム(A10094、浜松ホトニクス株式会社)を使用して測定した。パルス測定のために、パルス発生器(株式会社エヌエフ回路設計ブロック、WF1945)を使用して、400nsのパルス幅、1msのパルス周期、1kHzの繰り返し周波数、および様々なピーク電流を有する矩形パルスを周囲温度でデバイスに印加した。これらの条件を使用して、良好なバッチから適切に動作するOSLDに、1kA/cm
2(閾値超)でほぼ50パルスを適用することができた。この作業において、デバイスは約50%の歩留まりで製造された。パルス駆動下でのJ-V-輝度特性を、増幅器(株式会社エヌエフ回路設計ブロック、HSA4101)および光電子増倍管(PMT)(C9525-02、浜松ホトニクス株式会社)で測定した。PMT応答と駆動矩形波信号との両方を、マルチチャンネルオシロスコープ(アジレント・テクノロジー株式会社、MSO6104A)で測定した。補正率とともにPMT応答EL強度から計算された光子の数を電流から計算された注入電子の数で割ることによって、ηEQEを計算した。レーザーパワーメーター(OPHIR Optronics Solution社、StarLite 7Z01565)を使用して、出力電力を測定した。
【0067】
スペクトルを測定するために、マルチチャンネル分光器(PMA-50、浜松ホトニクス株式会社)に接続され、デバイスから3cm離して配置された光ファイバーを用いて、光ポンピングOSLDおよび電気ポンピングOSLDの両方についての放出レーザー光をデバイスの端面から収集した。CCDカメラ(ビームプロファイラーWimCamD-LCM、DataRay社)を使用することによって、OSLDのビームプロファイルを確認した。光ポンピング下でのOSLDおよびOSLの特性のために、窒素ガスレーザー(NL100、N2レーザー、Stanford Research System社)からのパルス励起光を、レンズとスリットとを通して、デバイスの6×10-3cm2の面積に収束させた。励起波長は337nmであり、パルス幅は3nsであり、そして繰り返し数は20Hzであった。
【0068】
測定結果を
図7(A)~(D)に示した。
図7(A)は電流密度対電圧を示し、
図7(B)はパルス動作下でのエレクトロルミネッセンススペクトルを示し、
図7(C)はEL強度対電圧を示し、そして
図7(D)はEL強度対電流密度を示す。
図8および
図9は、1次グレーティングの光学的シミュレーションおよび電気的シミュレーションを示す。
【0069】
(実施例2)2次元分布帰還を有する電気駆動式有機半導体レーザーダイオード
DFB構造を
図10(A)または(B)に示されるように変更したことを除いて、電気駆動式有機半導体レーザーダイオードを実施例1と同様に製造した。製造されたレーザーダイオードは、
図10(C)および
図16に示される構造を有する。
【0070】
光ポンピング下での測定結果は、
図11~
図13に示されている。励起光はデバイスに端面で入射した。励起強度を一連の減光フィルターを使用して制御した。
図11~
図13において分光蛍光光度計(FP-6500、日本分光株式会社)および分光光度計(PMA-50)を使用して、定常状態PL分光を監視した。レーザービームプロファイラー(C9164-01、浜松ホトニクス株式会社)を使用してOSL、OSLD、およびOSLDの近視野像を撮影し、レーザービームプロファイラー(C9664-01G02、浜松ホトニクス株式会社)を使用してOSLの遠視野像を撮影した(
図14~
図17)。
【0071】
電気駆動式有機半導体レーザーダイオードの測定結果は、
図20~
図24に示されている。
図19は電流密度-電圧(J-V)曲線を示し、
図20はEODデバイスおよびHODデバイスの構造を示し、
図21はEODデバイスおよびHODデバイスについての電流密度-電圧(J-V)曲線を示し、
図22はDFBのSEM画像を示し、
図23は電流密度-電圧(J-V)曲線およびDFBグレーティングOLEDについての外部量子効率対電流密度を示し、そして
図24は電圧の変化に伴うレーザースペクトルを示す。
図25は2次2Dグレーティングのシミュレーションを示す。
【0072】
(実施例3)円形分布帰還を有する電気駆動式有機半導体レーザーダイオード
DFB構造を
図26および
図34に示されるように変更したことを除いて、電気駆動式有機半導体レーザーダイオードを実施例1と同様に製造した。励起光はデバイスに端面で入射した。励起強度を一連の減光フィルターを使用して制御した。
図27~
図29において分光蛍光光度計(FP-6500、日本分光株式会社)および分光光度計(PMA-50)を使用して、定常状態PL分光を監視した。レーザービームプロファイラー(C9164-01、浜松ホトニクス株式会社)を使用してOSL、OSLD、およびOSLDの近視野像を撮影し、レーザービームプロファイラー(C9664-01G02、浜松ホトニクス株式会社)を使用してOSLの遠視野像を撮影した(
図30~
図33)。
【0073】
光ポンピング下での測定結果は、
図27~
図33に示されている。電気駆動式有機半導体レーザーダイオードの測定結果は、
図35に示されている。
図27(A)および(B)は光ポンピング下での放出スペクトルを示し、
図27(C)および(D)は導波モードについてのフォトニック阻止帯域を示す。
図28は光ポンピング下での放出強度対励起強度を示す。円形2次-DFBについて、
図29(A)および(B)はレーザー放出スペクトルの偏光依存性を示し、
図29(C)および(D)は光ポンピング下での偏光角に対する放出強度を示し、
図30は光ポンピング下での近視野ビーム画像および遠視野ビーム画像を示す。
図31(A)、
図31(B)は、円形2次-DFBについての閾値未満(a)、閾値付近(b)、および閾値超(c)の光励起下での近視野ビーム断面、遠視野ビーム断面を示す。
図32は、円形混合次数-DFBについての光ポンピング下での近視野ビーム画像および遠視野ビーム画像を示し、
図33(A)および
図33(B)は、円形混合次数-DFBについての閾値未満(a)、閾値付近(b)、および閾値超(c)の光励起下での近視野ビーム断面および遠視野ビーム断面を示す。
図35は、駆動ありの場合および駆動なしの場合の有機円形DFBレーザーの顕微鏡画像、円形DFBありの場合および円形DFBなしの場合のデバイスについての電流密度-電圧(J-V)曲線、ならびにDFBありの場合およびDFBなしの場合のOLEDにおける外部量子効率対電流密度を示す。
【0074】
(DFBグレーティング構造の特性評価)
図36は、上記のように製造された有機半導体レーザーダイオードにおけるDFBグレーティング構造のSEM画像を示す。
図36(A)は2次正方格子-DFBを示し、
図36(B)は混合次数正方格子-DFBを示し、
図36(C)は2次2D-DFBを示し、
図36(D)は混合次数2D-DFBを示し、
図36(E)は2次円格子-DFBを示し、
図36(F)は混合次数円格子-DFBを示し、そして
図36(G)は2次円2D-DFBを示す。すべてのレーザーダイオード(A)~(G)からレーザー発振が観測された。
【0075】
レーザーダイオード(A)~(C)、(E)および(F)のそれぞれのレーザー放出波長(λDFB)、自然放射増幅閾値(Eth)、および半値全幅(FWHM)を表1に示す。レーザーダイオード(B)とレーザーダイオード(F)との比較により、円形グレーティングからのレーザー発振閾値の6分の1の低下が示される。損失を抑制し、カップリングを強化するための共振器および有機半導体の適切な設計および選択によって、電流駆動式有機半導体からのレーザー発振閾値のさらなる低下が可能となる。
【0076】
【0077】
溶液処理方式の近赤外有機レーザーダイオード
本発明は、溶液処理方式の近赤外有機レーザーダイオードに関する。
【0078】
本発明の概要
近赤外領域で発光する初めての電気ポンピング有機半導体レーザーダイオードを製造した。有機の活性利得材料を、スピンコーティング技術を使用して薄膜に堆積させた。OSLDデバイスの作製に溶液処理法を使用するのはこれが初めてである。もう1つの重要な点は、OSLDにおいて多層有機構造が初めて使用されるという事実であり、これは、有機ヘテロ界面をこのタイプのデバイスに使用することができることを示している。
【0079】
このようなNIRレーザーダイオードは、生体認証(顔認識、網膜認識、および虹彩認識)、光相互接続および電気通信、ならびにヘルスケアデバイスおよび光線力学療法デバイスを含む様々な用途に関心が持たれている。これらのNIRレーザーダイオードは、網膜ディスプレイ(銀行およびセキュリティーシステム用)、バイオセンサー、ならびにARグラス/VRヘッドセット用の視線追跡デバイス、自動車に組み込まれるOLEDディスプレイにも関心が持たれている。
【0080】
NIR OSLDは、これらがOLEDディスプレイ技術と互換性があるため、生体認証に特に適していることが強調されるべきである。
【0081】
本発明者らのNIR OSLDが有機利得媒体をスピンコーティングすることによって製造されたという事実は、この技術がインクジェット印刷などの溶液処理方式の製造方法と互換性があり、したがって印刷可能なエレクトロニクス技術と互換性があることを示している。
【0082】
従来技術の概要および問題点
近赤外領域で発光する無機発光ダイオードおよび無機レーザーダイオードは、様々な用途での光源として使用される。例えば、近赤外無機垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)は、スマートフォンで3D顔認識に使用される。しかしながら、無機半導体デバイスの製造には、多くの複雑で高コストのプロセスが必要とされる。さらに、これらの材料は、GaおよびInなどのレアメタルを使用する必要があり、機械的柔軟性/伸縮性/適合性がなく、湾曲した基板上に作製することができない。これらのデバイスは光学的透明性に欠けており、生体適合性ではない。最後に、この技術はOLEDプラットフォームおよび有機エレクトロニクスプラットフォームと互換性がなく、これらは異なる製造技術を使用して製造されることに言及することが重要である。これらの課題を解決する最も効果的な方法は、近赤外領域で発光する有機半導体レーザーダイオードを実現することである。
【0083】
OSLDは、最近、サンダナヤカら(Sandanayaka et al.)によって初めて実証された。該デバイスには、利得媒体としてのBSBCz薄膜と、様々なDFBグレーティング(2次、1次、混合次数、1Dおよび2D、円形)とが使用された。これらのデバイスは、これまでスペクトルの青色領域でのみ放出を示し、全体的に熱蒸着によって製造された。さらに、これらのBSBCzデバイス(CsドープBSBCz層およびBSBCz層に基づく)には、ヘテロ界面での電荷の潜在的な蓄積を一切避けるために、有機材料の多層は使用されなかった。電荷バランスおよび励起子閉じ込めを最適化するために高効率OLEDで広く使用されているこのような多層は、高電流密度で動作するデバイスにとって有害であると考えられている。
【0084】
本発明により解決されるべき課題
本発明において3つの主な課題が解決される。1つ目に、近赤外領域で発光する初めての電気ポンピング有機半導体レーザーダイオードが実証される。2つ目に、本発明者らのデバイスはまた、有機利得媒体がスピンコーティング技術によって薄膜に堆積される初めての有機レーザーダイオードである。解決されるべき3つ目の課題は、有機多層構造がOSLDに適しているという事実に関連している。
【0085】
本発明の詳細な説明
エミッターとして二フッ化ホウ素クルクミノイド誘導体を使用して、ほぼ10%の最大外部量子効率を有する近赤外TADF OLEDが実現された(国際公開第2018/155724号パンフレット;ネイチャーフォトニクス(Nature Photon.)2018年,第12巻,第98号)。この色素は、CBPホストにブレンドすると優れたTADF活性を示し、低い自然放射増幅(ASE)閾値を示す。この化合物の顕著な光物理的特性(良好なTADFとともに良好なASE特性)は、その大きな振動子強度および低い位置にある励起状態間の非断熱結合効果によって説明された。また、本発明者らは以前に、混合次数DFBグレーティング上にスピンコーティングされたCBPホストにクルクミノイド誘導体の膜を含む有機レーザーからの光ポンピング下での連続波レーザー発振を実証した。並行して、本発明者らは以前に、利得媒体としてBSBCz薄膜およびDFB共振器構造を含む電気ポンピング青色有機レーザーダイオードを製造した(国際公開第2018/147470号パンフレット)。これに関連して、近赤外有機レーザーダイオードの実現を目指して、本発明者らは、混合次数DFBグレーティングとともにNIRクルクミノイド誘導体をエミッターとして使用した。
【0086】
以前の本発明者らの結果に基づくと、従来のOLEDで近赤外発光層として使用される6重量%のCBPブレンドは、クルクミノイド誘導体のTADF特性のため、10%ほどの高さの外部量子効率を示す。しかしながら、このデバイスは高電流密度で強力な効率ロールオフを示すことから、このCBPブレンドがレーザーダイオードに適さない可能性があることを示唆している。本発明者らは、この後者の点を実験的に確認した。この課題を解決するために、F8BTホスト中で低ドーピング濃度の近赤外発光クルクミノイド誘導体を含むブレンドを使用した。最高のフォトルミネッセンス量子収率(45%)、最低の自然放射増幅閾値(1.5μJ/cm2)、およびOLEDでは、2.2%の最大外部量子効率が、1重量%のドーピング濃度を有する最適化されたF8BTブレンド膜で得られた。2.2%の外部量子効率は、CBPブレンドで測定された最良の値よりも低い。これは、F8BTホストの三重項エネルギーが近赤外発光色素の三重項エネルギーよりも低いという事実に起因する。これは、近赤外色素中で形成された三重項励起子がエネルギー伝達され、ホスト分子によって消光され、TADF活性が抑制されることを示唆している。TADF活性の抑制のため、F8BTブレンドの外部量子効率はCBPブレンドの場合よりも低いものの、ホスト材料による三重項の消光は、おそらくCBPブレンドにおける効率ロールオフを招く一重項-三重項消滅の抑制に関連しているはずである。
【0087】
本出願において、本発明者らは、1重量%のF8BTブレンドをOLEDアーキテクチャに組み込まれた混合次数DFBグレーティングと組み合わせることによって、近赤外有機レーザーダイオードを製造した。
【0088】
実施例
近赤外OSLDのアーキテクチャは、混合次数DFB BSBCzデバイスに類似している。最初に、インジウムスズ酸化物(ITO)ガラス基板上にスパッタリングされたSiO
2層を電子ビームリソグラフィーおよび反応性イオンエッチングで食刻して、30×90μmの面積を有する混合次数DFBグレーティングを作製した。それぞれ光帰還およびレーザー放出の効率的なアウトカップリングをもたらす交互の1次ブラッグ散乱領域および2次ブラッグ散乱領域を有するように、混合次数DFBグレーティングを設計した。ブラッグ条件mλ
Bragg=2n
effΛ
m(式中、mは回折の次数であり、λ
Braggは、クルクミノイド誘導体の最大利得波長に設定された(ここでは約805nmに選択された)ブラッグ波長であり、n
effは、構造の実効屈折率であり、1.75と決定された)に基づいて、1次領域および2次領域のそれぞれについて230nmおよび460nmのグレーティング周期を選択した。デバイスアーキテクチャについての情報は、
図37にまとめられている。
【0089】
ITO電極上に混合次数SiO2 DFBグレーティングを作製した後に、45nm厚のPEDOT:PSS層を基板上にスピンコーティングした。次いで、PEDOT:PSS層を空気中180℃でアニールした。1重量%のF8BTブレンドを、クロロホルム溶液からPEDOT上にスピンコーティングした。発光層の典型的な厚さは200nmであった。次いで、10nm厚のDPEPO層および55nm厚のTPBI層を熱蒸着によって堆積させた。デバイスを完成させるために、1nm厚のLiF層および100nm厚のAl層からなるカソードを、シャドウマスクを介してTPBI層上に熱蒸着した。活性領域はDFBグレーティングによって画定された。酸素および湿気による劣化の影響を防ぐために、窒素が充填されたグローブボックス内でデバイスを封止した。
【0090】
OSLDの電流密度-電圧(J-V)特性を、周囲温度でパルス条件(400nsの電圧矩形パルスおよび1kHzの繰り返し数)下で測定した。一部の電流はグレーティングの上の領域を流れるが(シミュレーションに基づけば約20%)、ほとんどは露出したITOの上の領域を流れる。簡素性および一貫性のために、露出したITO領域をすべてのOSLDの電流密度の計算に使用したが、これは多少の過大評価につながる可能性がある。ELスペクトルを測定するために、マルチチャンネル分光器(PMA-50、浜松ホトニクス株式会社)に接続され、デバイスから3cm離して配置された光ファイバーを用いて、OSLDから放出されたレーザー光をデバイス表面に対して垂直に収集した。パルス駆動下でのJ-V-輝度特性を、増幅器(株式会社エヌエフ回路設計ブロック、HSA4101)および光電子増倍管(PMT)(C9525-02、浜松ホトニクス株式会社)で測定した。PMT応答および駆動矩形波信号の両方を、マルチチャンネルオシロスコープ(アジレント・テクノロジー株式会社、MSO6104A)で測定した。
【0091】
図38は、印加パルス電圧条件(400ns、1kHz)下でのデバイスのJ-V曲線を示す。100mAほどの高さの電流および1kA/cm
2より高い電流密度をデバイスに注入することができることが分かる。電流注入レーザー発振を実現するには、このような高い電流密度を注入することができることが不可欠である。
【0092】
図39は、電流密度に対する放出スペクトルの進展を示す。705nmでのレーザー発振ピークは、1kA/cm
2の電流レーザー発振閾値よりも高い電流密度の場合に観察され得ることが分かる。様々な印加電圧でのパルス動作下のOSLDの写真に加えて、幾つかの写真は、デバイスから放出される明確なレーザービームを示している。
【0093】
図40は、電流密度または印加電圧のいずれかに対して測定された出力エレクトロルミネッセンス強度を示す。観察された傾きの変化を使用して、約1kA/cm
2のレーザー発振閾値が決定される。全体として、これらの結果は、NIR領域で発光するOSLDからの電流注入レーザー発振の初めての指標となる。
【0094】
結論
レーザーは、高強度、指向性、単色発光、および大きなコヒーレンス長を含む独自の有用な特性を有する光をもたらす。これらの特性のため、レーザーは、ほとんどすべての経済部門および産業部門で利用されている。レーザーは、私たちの日常生活で、例えばスキャナー、プリンター、およびセンサーにおいて普及している。レーザーの時間的特性、スペクトル的特性、および空間的特性を極めて正確に制御することができたことで、分光法、電気通信、およびセンシングの分野は変容を遂げ、記録的な感度および解像度がもたらされている。レーザーの絶え間ない開発と急速な改善とにより促進されて、レーザーは、ヘルスケア/医療デバイスを含む新しい分野にも参入し続けている。
【0095】
これまで、実用されるレーザーは、典型的には、無機発光材料、多くの場合に、無機半導体およびドープされた結晶に基づいている。これらの材料は一般に脆く、柔軟性がなく、その製造および加工には、しばしば反応性が高く毒性のある重金属前駆体だけでなく高真空機器も必要とされる。それに対して、有機半導体材料は一般に処理がより容易であり、得られるデバイスは機械的に柔軟性/伸縮性/パッチ可能であり得る。さらに、有機エミッター材料は、それらの無機対応物よりも害が少ないことが多く、それらに基づくデバイスは優れた生体適合性を有する。これらはまた、完全な互換性があり、有機エレクトロニクスプラットフォームおよびOLEDプラットフォームへと簡単に組み込むことができる。多くのクラスの有機半導体は高い光利得を示すことから、これらをレーザー媒体および光増幅器として使用することができる。それらの容易な加工性のため、多種多様な光共振器構造と互換性があり、多くの場合に共振器を有機利得媒体へと直接刻み込むことができるため、用途が広く低コストのレーザー構造につながる。
【0096】
本発明者らの見解では、本発明者らの技術は、有機材料の利点が重要な役割を果たし得る無機半導体レーザーに取って代わることとなる。これにより、機械的な柔軟性/伸縮性/パッチ可能性/適合性、OLEDプラットフォームおよび有機エレクトロニクスプラットフォームとの互換性、生体適合性、放出波長の調整可能性、ならびに透明性が重要な要素である様々な用途が示唆される。特に、本発明の形で報告されたNIR OSLD技術は、将来的に、生体認証(スマートフォンおよびOLED TVを含む)用の光源、セキュリティ問題のための網膜スキャン、VR/AR用の視線追跡、および自動車に組み込まれたOLEDディスプレイとして広く使用されることになると予想される。その他のタイプのデバイスとしては、化学センサーおよびバイオセンサー、ヘルスケアデバイスおよび光線力学療法デバイス、ならびに光相互接続が挙げられる。
【0097】
上述のように、本発明の重要な利点は、それらの無機対応物と比較した有機半導体の固有の利点に基づいている。この利点としては、OLEDプラットフォームおよび有機エレクトロニクスプラットフォームとの互換性、生体適合性、機械的な柔軟性/伸縮性/パッチ可能性/適合性、ELの化学的調整可能性、ならびにレーザー発振特性とともに、低コストでより簡単な製造技術が挙げられる。
【0098】
本発明は、NIR領域で動作するOSLDを初めて実証している。これは、OSLD技術が、可視OSLDを対象とする用途とは他の用途に関心が持たれることとなることを示唆している。本発明はまた、OSLDに関する本発明者らの以前の特許と比べて1つの非常に重要な利点を有する。本発明者らの以前の発明では、利得媒体、すなわちBSBCz薄膜は、熱蒸着によって作製された。これにより、本発明者らのOSLD技術は現在のOLEDディスプレイ技術と互換性がある(主要な製造業者のOLEDディスプレイは熱蒸着によって製造されている)。しかしながら、現在、学界だけでなく産業界でも、印刷方式のOLEDディスプレイおよび有機エレクトロニクスデバイス用の可溶性有機発光材料に対して集中的な研究開発活動が行われている。本発明は、溶液処理によってOSLDを製造する可能性を初めて実証している。これは、本発明者らの技術があらゆる印刷方式および溶液処理方式のエレクトロニクスプラットフォームと互換性があることを意味する。
【0099】
最後に、本発明によって実証された最後の重要な点は、有機多層アーキテクチャから電気的レーザー発振が実現される可能性である。本発明者らの以前のOSLDは以下のアーキテクチャに基づいていた:ITO(100nm)/20重量%のCs:BSBCz(60nm)/BSBCz(150nm)/MoO3(10nm)/Ag(10nm)/Al(90nm)。BSBCz膜のITO接点に近い領域にCsをドープすると、有機層への電子注入が改善され、MoO3が正孔注入層として使用される。最も効率的なOLEDは一般に電荷バランスの最適化のために多層アーキテクチャを使用するが、高電流密度では電荷が有機ヘテロ界面に蓄積する可能性があり、それがデバイスの性能および安定性に有害であると考えられていた。この問題を回避するために、OSLDは有機層としてBSBCzしか含まず、有機ヘテロ界面の数を最小限に抑えるように設計されている。有機界面での電荷の蓄積およびデバイスの安定性に対するその有害な作用に関するこの記述は多くの場合に正しいが、それにもかかわらず、本発明は、有機多層構造に基づくOSLDから電気的レーザー発振を実現することが可能である場合があることを示している。言い換えると、本発明は、多層有機アーキテクチャを使用して、OSLDにおける電荷バランスおよび励起子閉じ込めを最適化することができることを示している。
【0100】
新しい請求項につながり得るその他の特記事項。(1)OSLDの活性層がゲスト-ホストポリマー系に基づくのはこれが初めてである。(2)OSLDがブレンド材料に基づいており、一重項励起子のエネルギー移動がホスト分子からゲスト分子へと起こり得るのもこれが初めてである。(3)PEDOT:PSSは、デバイスへの正孔注入の改善のために、スピンコート方式のOLED、太陽電池などで広く使用されている。本発明者らは、PEDOTをOSLDで使用して、正孔注入を改善することができることを実証している。(4)BSBCzデバイスでは、ITOおよびCsでドープされたBSBCzから電子が注入された(いわゆる反転構造に相当する)。それに対して、本発明では、それぞれ、正孔はITOから注入され、電子は上部電極から注入される。(5)本発明で製造されるNIR OSLDでは、エミッターの三重項がポリマーホスト分子によって消光されることが改めて強調されるべきである。三重項消光剤の使用によりOSLD性能が向上し得ることを示している。(6)本発明で製造されるNIR OSLDでは、ポリマーホストは両極性電荷輸送材料である。
【国際調査報告】