(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-06
(54)【発明の名称】中鎖トリグリセリド(MCT)からのケトン産生を増加させるために食前にMCTの投与を用いる方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/23 20060101AFI20220425BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220425BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20220425BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20220425BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20220425BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220425BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220425BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20220425BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20220425BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220425BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20220425BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220425BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20220425BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220425BHJP
A23L 33/115 20160101ALI20220425BHJP
A61K 31/19 20060101ALN20220425BHJP
A61K 31/121 20060101ALN20220425BHJP
【FI】
A61K31/23
A61P3/10
A61P3/04
A61P9/04
A61P3/00
A61P1/16
A61P25/00
A61P25/08
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/18
A61P25/28
A61P25/06
A61P21/00
A23L33/115
A61K31/19
A61K31/121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549852
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(85)【翻訳文提出日】2021-08-25
(86)【国際出願番号】 EP2020057315
(87)【国際公開番号】W WO2020193291
(87)【国際公開日】2020-10-01
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】クナウド, ベルナルト
【テーマコード(参考)】
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD14
4B018ME14
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB12
4C206DB06
4C206DB48
4C206MA01
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4C206MA37
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA06
4C206ZA02
4C206ZA06
4C206ZA15
4C206ZA16
4C206ZA18
4C206ZA36
4C206ZA70
4C206ZA75
4C206ZB26
4C206ZC35
4C206ZC52
(57)【要約】
方法は、個体による中鎖トリグリセリド(MCT)の経口摂取から誘導されるケトンの産生を増加させる。その方法は、MCTを含有する組成物を個体に経口投与し、続いて、MCTを含有する組成物の経口投与の少なくとも約10分後及びMCTを含有する組成物の経口投与の約1時間以内に、食事を個体に経口投与することを含む。例えば、食事は、MCTを含有する組成物の投与の約30分後に投与することができる。ケトン生成は、ほぼ同時にMCT及び食事を経口投与することによるケトン産生と比較して増加する。食事は朝食であってよい。MCTを含有する組成物は、準完全栄養を提供する経口栄養補助(ONS)用液とすることができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体による中鎖トリグリセリド(MCT)の経口摂取から誘導されるケトンの産生を増加させる方法であって、
前記MCTを含む組成物を前記個体に経口投与することと、
続いて、前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与後、及び前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与の約1時間以内に、前記個体に食事を経口投与することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記個体が、高齢である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記MCTを含む前記組成物が、液体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が、1サービング中に少なくとも約15.0gの前記MCT~最大約30.0gの前記MCTを含み前記個体に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が、タンパク質、脂質、炭水化物、及び乳化剤からなる群から選択される少なくとも1種の追加の成分で乳化された前記MCTを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与の約10分後から前記MCTを含む前記組成物の前記投与の約1時間後までの間に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与の約15分後から前記MCTを含む前記組成物の前記投与後約40分以内の間に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与の約30分後に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記食事が、朝食である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記MCTの少なくとも一部が、オクタン酸又はデカン酸のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ケトンの少なくとも一部が、β-ヒドロキシブチレート、アセトン-アセテート及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記個体における前記ケトンの産生が、前記MCTを含む前記組成物及び前記食事を前記個体にほぼ同時に経口投与することによるケトン産生と比較して増加する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が、準完全栄養の経口栄養補助(ONS)用液である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記個体が、前記MCTによる胃腸副作用を経験しない、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記個体が、前記個体に対する前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与から始まり、前記個体に対する前記食事の前記経口投与で終わる期間中に、任意の水分補給以外にいかなる食品製品も摂取しない、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
中鎖トリグリセリド(MCT)からのケトン産生の増加が有益である状態を治療又は予防する方法であって、
前記状態又は前記状態のリスクを有する個体に、前記MCTを含む組成物を経口投与することと、
続いて、前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与の少なくとも約10分後及び前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与の約1時間以内に、前記個体に食事を経口投与することと、を含む、方法。
【請求項17】
前記状態が、てんかん、神経疾患、神経変性疾患、心不全、先天性代謝異常、肥満、2型糖尿病、糖尿病性心筋症、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、脳エネルギー欠乏状態、片頭痛、記憶障害、加齢性記憶障害、脳損傷、脳卒中、アミロイド側索硬化症、多発性硬化症、認知障害、集中治療後の認知障害、加齢性認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、遺伝性代謝障害、双極性障害、統合失調症、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与の少なくとも約10分後及び前記MCTを含む前記組成物の前記投与後約1時間以内に投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与の少なくとも約15分後及び前記MCTを含む前記組成物の前記投与の約40分後に投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与の約30分後に投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
神経学的健康、認知機能、又は運動能力のうちの少なくとも1つを改善又は維持する方法であって、
中鎖トリグリセリド(MCT)を含む組成物を個体に経口投与することと、
続いて、前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与の少なくとも約10分後及び前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与後約1時間以内に、前記個体に食事を経口投与することと、を含む、方法。
【請求項22】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与の少なくとも約10分後及び前記MCTを含む前記組成物の前記投与後約1時間以内に投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与の少なくとも約15分後及び前記MCTを含む前記組成物の前記投与後約40分以内に投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与の約30分後に投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
栄養を提供するためのキットであって、
前記中鎖トリグリセリド(MCT)を含む経口投与可能な組成物と、
前記キットにおいて、前記MCTを含む前記経口投与可能な組成物とは別に保存された、食事の少なくとも一部と、
説明書と、を含み、
前記説明書が、MCTを含む組成物を個体に経口投与し、続いて、前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与の少なくとも約10分後及び前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与の約1時間以内に、前記個体に食事を経口投与するための説明書と、を含む、キット。
【請求項26】
中鎖トリグリセリド(MCT)を含む組成物を個体に経口投与し、続いて、前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与後及び前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与の約1時間以内に、前記個体に食事を経口投与することによって、前記個体における前記MCTの経口摂取から誘導されるケトンの産生を増加させる際に使用するための組成物。
【請求項27】
中鎖トリグリセリド(MCT)からのケトンの産生の増加が有益である状態の治療又は予防において使用するための組成物であって、前記状態又は前記状態のリスクを有する個体に経口投与し、前記組成物が、MCTを含み、続いて、前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与後及び前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与の約1時間以内に、食事を前記個体に経口投与する、組成物。
【請求項28】
中鎖トリグリセリド(MCT)を含む組成物を個体に経口投与し、続いて、前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与後及び前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与の約1時間以内に、食事を前記個体に経口投与することによって、神経学的健康、認知機能、又は運動能力のうちの少なくとも1つを改善又は維持する際に使用するための組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001]本開示は、概して、食事を投与する前に中鎖トリグリセリド(MCT)を投与すること、例えば、食事の約30分前にMCTを投与することに関する。
【0002】
[0002]主要な2つのケトンであるベータ-ヒドロキシブチレート(BHB)及びアセトアセテート(AcA)は、脳、心臓又は骨格筋のような肝外組織にとって重要な代替エネルギー源である。更に、ケトンがシグナル伝達において直接的又は間接的な役割も有し得ることを示唆する証拠も増えている。血中ケトンを増加させることを目的とする製品は、てんかん、神経疾患及び神経変性疾患、心不全、糖尿病性心筋症、先天性代謝異常、肥満、2型糖尿病、癌、運動能力、及び非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、例えば非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を含むいくつかの状態において治療効果を有する可能性がある。
【0003】
[0003]BHB及びAcAは、モノカルボン酸トランスポーター1(MCT1)によって脳へと能動的に輸送され、その結果、脳内濃度は血中濃度に正比例する。したがって、高レベルかつ持続的な血漿ケトン濃度を提供する製品は、血漿ケトンの上昇がより小さくかつ短時間である(AUC曲線下の面積がより小さい)製品と比較して、より強く長時間に及ぶ(AUC曲線下の面積がより大きい)効果を有するものと予想される。したがって、血中ケトンに対する曝露を最大化することが重要である。しかしながら、ケトン前駆体に由来し、ケトンの血漿AUCの増加(drive)に関与する因子は知られていない。
【0004】
[0004]中鎖トリグリセリド(MCT)は、経口でボーラス投与された場合に効率的なケトン前駆体である。MCTは速やかに消化され、消化により生成された遊離中鎖脂肪酸(MCFA)は、長鎖脂肪酸の通常の消化吸収プロセスを経ずに門脈によって効率的に吸収され、肝臓に運ばれてその大部分がケトンへと代謝される。これらの特定の製剤は、ケトン体の生成効率及び消化管での忍容性に影響し得る。
【0005】
[0005]近年、様々なMCT製剤のヒトにおける薬物動態(PK)特性が報告されており、様々な鎖長のMCTから得られる内因性ケトンの産生効率は多様であること、炭素数8(C8)のMCTが最も有効であることが示されている。加えてヒトにおいては、MCT油の良好なエマルションは、乳化していないMCT油と比較して、経口摂取後にはるかに高いケトン産生を示すことが報告された。
【0006】
[0006]しかしながら、MCTの経口摂取によるケトン産生は多様であり、最適なものではない。更に、食品を併用せずにMCTを摂取すると、多くの場合、下痢などの胃腸(GI)副作用が生じる。
【発明の概要】
【0007】
[0007]本発明者の知る限りでは、特定のタイミングでの食事がMCTによるケトン産生効果に影響することは、本願以前には報告されていない。本明細書で以下により詳細に記載されるように、本発明者らが実施した試験により、食事の前にMCTエマルションを投与すると、食事と一緒に投与した場合と比較して、GI副作用を生じさせずに最も多量(the largest amount)の血中ケトンを提供すること(一緒に投与した場合、及び食事のみの場合のいずれも、提供される血中ケトン量はより少なくなる)が、驚くべきことに、かつ予想外に示された。具体的には、食事の相対的なタイミングが、MCTエマルションからのケトン産生に強く影響した。
【0008】
[0008]したがって、非限定的な実施形態では、本開示は、中鎖トリグリセリド(MCT)からのケトン産生を増加させる方法を提供する。当該方法は、MCTを含む組成物を、個体に経口投与し、続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約1時間以内、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約40分以内、最も好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の約30分後に、個体に食事を経口投与することを含む。一実施形態では、個体は高齢である。
【0009】
[0009]例えば、MCTを含む組成物の経口投与は、食事の投与の約10分前から食事の投与の約1時間前までの間であってよく、好ましくは、食事の投与の少なくとも約15分前、及び食事の投与前の約40分以内、最も好ましくは、食事の投与の約30分前であってよい。好ましくは、個体は、MCTを含む組成物の投与から始まり、食事の投与で終わる期間中に、任意の水分補給以外にいかなる食品製品も摂取しない。
【0010】
[0010]組成物は、1サービング当たり最大で約30gのMCT、例えば、約5g~約30gのMCT、約10g~約30gのMCT、又は約15g~約30gのMCTを提供する1サービングを個体に投与することができる。MCTの少なくとも一部は、オクタン酸又はデカン酸のうちの少なくとも1つを含み得る。MCTから産生されるケトンの少なくとも一部は、β-ヒドロキシブチレート、アセト-アセテート及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0011】
[0011]一実施形態では、MCTを含む組成物を食事の投与前に投与すること(例えば、食事の約30分前にMCTを投与)によって達成されるケトン産生は、MCTを含む同一配合の組成物を食事の投与とほぼ同時に投与することによるケトン産生よりも大きい。MCTを含む組成物は、準完全栄養を提供する経口栄養補助食品(ONS)であり得る。任意選択で、組成物は、MCTに追加して1つ以上の配合成分、例えば、タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル、賦形剤、乳化剤、安定剤、及びこれらの混合物からなる群から選択される任意選択の追加の成分を含むことができる。最終製剤は、すぐに摂取できる液体状とすることができ、又は使用前に水で再構成される粉末状とすることができる。
【0012】
[0012]別の実施形態では、MCTを含む組成物は、MCTによるケトン産生の増加が有益である状態を治療又は予防する方法において使用される。当該方法は、MCTを含む組成物を、投与を必要とする又はリスクのある個体に経口投与し、続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約1時間以内、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約40分以内、最も好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の約30分後に、個体に食事を経口投与することを含む。
【0013】
[0013]いくつかの実施形態では、MCTを含む組成物は、てんかん、神経疾患、神経変性疾患、心不全、糖尿病性心筋症、先天性代謝異常、肥満、2型糖尿病、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、脳エネルギー欠乏状態、片頭痛、記憶障害、加齢性記憶障害、脳損傷、脳卒中、アミロイド側索硬化症、多発性硬化症、認知障害、集中治療後の認知障害、加齢性認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、遺伝性代謝障害、双極性障害、統合失調症、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される状態を治療又は防止するために使用される。
【0014】
[0014]別の実施形態では、MCTを含む組成物は、神経学的健康、認知機能、又は運動能力のうちの少なくとも1つを改善又は維持する方法において使用される。当該方法は、MCTを含む組成物を、個体に経口投与し、続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約1時間以内、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約40分以内、最も好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の約30分後に、個体に食事を経口投与することを含む。
【0015】
[0015]追加の特徴及び利点は、以降の発明の詳細な説明及び図面に記載され、これらにより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本明細書に開示される代謝試験に関し、ケトンの平均総血漿濃度の変化を4時間にわたり示すグラフである。T0は、MCT製品の摂取に対応し、大きな記号は朝食摂取のタイミングに対応している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[0017]定義
[0018]以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0018】
[0019]パーセンテージは全て、特に明記しない限り組成物の総重量に対する重量によるものとする。同様に、比は全て、特に明記しない限り重量によるものとする。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。
【0019】
[0020]更に、本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数、整数又は分数を含むものと理解されたい。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項をサポートすると解釈されたい。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲をサポートするものと解釈されたい。「~の間(between)」を使用して定義される範囲は、参照される端点を含む。
【0020】
[0021]本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、別途文脈が明らかに示していない限り、単数形の単語は複数形を含む。したがって、「1つの」、「ある」、及び「当該」」(「a」、「an」及び「the」)の言及には、概してそれぞれの用語の複数形が包含される。例えば、「原材料(an ingredient)」又は「方法(a method)」と言及する際は、複数の、かかる「原材料」又は「方法」が含まれる。「X及び/又はY」という文脈で使用される用語「及び/又は」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。同様に、「X又はYのうちの少なくとも1つ」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びYの両方」と解釈されるべきである。
【0021】
[0022]同様に、「含む/構成される(comprise)」、「含む/構成される(comprises)」、及び「含む/構成される(comprising)」という用語は、排他的ではなく、包含的に解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは他を包含し得るものであると解釈される。しかし、本開示により提供される実施形態は、本明細書で具体的に開示されない任意の要素を含まない場合がある。したがって、用語「含む(comprising)」を用いて規定される実施形態の開示は、開示される構成要素「から本質的に構成される」、及び「から構成される」実施形態の開示でもある。「から本質的に構成される」とは、実施形態又はその構成成分が、個別に特定された構成成分を50重量%超、好ましくは個別に特定された構成成分を少なくとも75重量%、より好ましくは個別に特定された構成成分を少なくとも85重量%、最も好ましくは個別に特定された構成成分を少なくとも95重量%、例えば、個別に特定された構成成分を少なくとも99重量%含むことを意味する。
【0022】
[0023]本明細書で使用するとき、用語「例(example)」は、特に、後に用語の列挙が続く場合に、単に例示的なものであり、かつ説明のためのものであり、排他的又は包括的なものであるとみなすべきではない。本明細書で開示される全ての実施形態は、特に明示的に示されない限り、本明細書で開示される任意の別の実施形態と組み合わせることができる。
【0023】
[0024]「動物」としては、齧歯類動物、水生哺乳動物、イヌ及びネコなどの飼育動物、ヒツジ、ブタ、ウシ及びウマなどの家畜、並びにヒトを含むがこれらに限定されない哺乳動物が挙げられるが、これらに限定されない。「動物」又は「哺乳動物」、又はこれらの複数形が使用される場合には、これらの用語は、その節の文脈により示される又は示されることが意図される効果を得られる任意の動物、例えば、ケトンから利益を受ける動物にも適用される。用語「個体」又は「対象」は、本明細書において多くの場合にヒトを指すのに用いられるが、本開示はそのように限定されない。したがって、用語「個体」又は「対象」は、本明細書に開示される方法及び組成物から利益を得ることができる任意の動物、哺乳動物又はヒトを指す。
【0024】
[0025]「改善された」、「増加した」、「強化された」などの相対的な用語は、本明細書に開示される方法の効果を指しており、特に、MCTを含有する組成物を食事の投与前(例えば、食事の約30分前)に投与した場合を、MCTを含有する同一に配合された組成物を食事と一緒又は食事後(例えば、食事の約30分後に)に投与した場合と比較した効果を指している。用語「維持された」及び「持続的な」は、神経の健康状態、認知機能、又は運動能力などの個体の特徴が、前週の平均レベル、前月の平均レベル、又は前年の平均レベルとほぼ同じであることを意味する。
【0025】
[0026]本明細書で使用するとき、「治療する」及び「治療」という用語は、ある状態を有する対象に対して、その状態に関連する少なくとも1つの症状を減弱、低減若しくは改善することを目的として、かつ/又はその状態の進行を遅延、低下若しくは阻止することを目的として、本明細書に開示される組成物を投与することを意味する。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」には、抑止的又は予防的治療(対象とする病的状態又は障害を予防する及び/又は発症を遅らせる治療)と、治癒的、治療的、又は疾患改質的治療との両方が含まれ、例えば、診断された病的状態又は障害の治癒、遅延、症状の軽減、及び/又は進行の停止のための治療的手段、並びに、疾患に罹患する危険性がある患者、又は疾患に罹患した疑いのある患者、及び体調不良の患者、又は疾患若しくは医学的状態に罹患していると診断された患者の治療が含まれる。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」は、対象が全快するまで治療することを必ずしも意味するものではない。「処置/治療」及び「処置/治療する」という用語はまた、疾患に罹患してはいないが不健康な状態を招きやすい可能性のある個体の健康を維持及び/又は促進することも指す。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」はまた、1つ又は複数の主たる予防又は治療手段の相乗作用、又はそうでない場合強化を含むことも目的としている。非限定的な例として、処置/治療は、患者、介護者、医師、看護師、又は別の医療専門家によって行うことができる。
【0026】
[0027]「予防する」及び「予防」という用語は、その状態の症状を何ら示していない対象に対して、その状態に関連する少なくとも1つの症状の発症を低減又は予防するために本明細書に開示される組成物を投与することを意味する。更に、「予防」には、状態又は障害の危険性、発生率、及び/又は重症度の低減が含まれる。本明細書で使用するとき、「有効量」とは、個体における、欠乏を治療若しくは防止する、疾患若しくは医学的状態を治療若しくは防止する、又は、更に一般的には、個体に対して、症状を軽減する、疾患の進行を管理する、若しくは栄養学的、生理学的若しくは医学的利益を提供する量である。
【0027】
[0028]本明細書で使用するとき、「投与する」は、言及されている組成物を個体が摂取できるよう当該組成物を個体に提供する別の人を含み、また、言及されている組成物を摂取する個体自身の行為のみも含む。
【0028】
[0029]用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」は、ヒトなどの個体による摂取を意図するものであり、個体に少なくとも1つの栄養素を提供する、組成物を意味する。「食品」及びその関連用語には、ヒト又は他の動物を対象とした任意の食品、餌、スナック、栄養補助食品、トリート、食事代用物、又は置換食が含まれる。動物用食品には、任意の飼養された動物又は野生種を対象とした食品又は餌が含まれる。好ましい実施形態では、動物用食品は、ペレット化された、押出成形された、又は乾燥させた食品、例えば、犬及び猫用食品などの押出成形されたペットフードを表す。
【0029】
[0030]本明細書で使用するとき、用語「サービング」又は「単位剤形」は、互換可能であり、対象とするヒト及び動物のための単位用量として好適な、物理的に別個の単位を指し、各単位は、好ましくは医薬として許容される希釈剤、担体、又はビヒクルと関連して所望の効果をもたらすのに十分な量で本明細書に開示されるMCTを含む組成物の所定量を含有する。単位剤形の仕様は、使用される具体的な化合物、達成しようとする効果、及びホスト体内の各化合物に関連する薬力学によって決まる。一実施形態では、単位剤形は、ボトルなどの容器内に収容された所定量の液体であり得る。
【0030】
[0031]「経口栄養補助食品」又は「ONS」は、少なくとも1つの主要栄養素及び/又は少なくとも1つの微量栄養素を含む組成物であり、例えば、滅菌液、半固体又は粉末の形態であり、例えば食品によるものなどの他の栄養摂取を補うことを意図する組成物である。市販のONS製品の非限定例としては、MERITENE(登録商標)、BOOST(登録商標)、NUTREN(登録商標)、及びSUSTAGEN(登録商標)が挙げられる。いくつかの実施形態では、ONSは、液体を更に添加せずとも摂取され得る、例えば、液量が組成物の1サービング分である、液体形態の飲料とすることができる。
【0031】
[0032]本明細書で使用するとき、「準完全栄養(incomplete nutrition)」とは、好ましくは、栄養製品が含有している主要栄養素(タンパク質、脂肪及び炭水化物)又は微量栄養素が、この栄養製品を投与される動物のための唯一の栄養源とするのに十分なレベルのものではない、栄養製品を指す。
【0032】
[0033]用語「キット」は、1つ若しくはそれより多くの容器中の又は容器を伴うキットの構成要素が、物理的に関連付けられており、製造、配送、販売、又は使用のための1つのユニットとして考えられることを意味している。入れ物としては、袋、箱、カートン、ボトル、任意の種類、設計若しくは材料の包装、上包装、シュリンク包装、添付された構成要素(例えば、ステープルで留められたもの、又は接着されたものなど)、又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
[0034]トリグリセリド(トリアシルグリセロール又はトリアシルグリセリドとしても知られている)は、グリセロールと3つの脂肪酸とから誘導されるエステルである。脂肪酸は、不飽和又は飽和のいずれであってもよい。他の分子に結合していない脂肪酸は、遊離脂肪酸(FFA)と呼ばれる。
【0034】
[0035]中鎖トリグリセリド(MCT)は、分子中の3つの脂肪酸部分の全てが中鎖脂肪酸部分であるトリグリセリドである。本明細書で定義されるとき、中鎖脂肪酸(MCFA)は、6~12個の炭素原子を有する脂肪酸である。8個の炭素原子を有する中鎖脂肪酸は、本明細書中で、「C8脂肪酸」又は「C8」と呼ばれることがある。10個の炭素原子を有する中鎖脂肪酸は、本明細書中で、「C10脂肪酸」又は「C10」と呼ばれる場合がある。
【0035】
[0036]用語「脂肪酸部分」とは、グリセロールとのエステル化反応において脂肪酸に由来するMCT部分を指す。非限定的な例として、グリセロールとオクタン酸のみとの間のエステル化反応では、オクタン酸部分を含むMCTが生じる。別の非限定的な例として、グリセロールとデカン酸のみとの間のエステル化反応では、デカン酸部分を含むMCTが生じる。
【0036】
[0037]オクタン酸(カプリル酸としても知られる)は、式CH3(CH2)6COOHの飽和脂肪酸である。
【0037】
[0038]デカン酸(カプリン酸としても知られる)は、式CH3(CH2)8COOHの飽和脂肪酸である。
【0038】
[0039]実施形態
[0040]本開示の態様は、中鎖トリグリセリド(MCT)からのケトン産生を増加させる方法を提供する。当該方法は、MCTを含む組成物を、個体に経口投与し、続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約1時間以内、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約40分以内、最も好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の約30分後に、個体に食事を経口投与することを含む。本明細書で使用するとき、「続いて」は、少なくとも約5分後、好ましくは10分後、より好ましくは少なくとも約15分後、更により好ましくは少なくとも約20分後、なおより好ましくは少なくとも約25分後、最も好ましくは約30分後を意味する。
【0039】
[0041]本明細書で使用するとき、「食事」は、それぞれが実質的に同時に摂取される1つ以上の食品製品を指し、好ましくは、その結果として、少なくとも1種の主要栄養素及び少なくとも1種の微量栄養素が、食事を摂取することによって提供され、より好ましくは、その結果として、1種以上のタンパク質、1種以上の炭水化物、1種以上の脂質、1種以上のビタミン及び1種以上のミネラルが、食事を摂取することによって提供される。好ましくは、食事は、複数の食品製品を含む。一実施形態では、食事は、200kcal~1,000kcal、好ましくは250kcal~900kcal、より好ましくは300kcal~850kcal、最も好ましくは350kcal~800kcalを提供する。一実施形態では、食事は、MCTを実質的に含まない(すなわち、2.5重量%未満、好ましくは2.0重量%未満、より好ましくは1.0重量%未満、最も好ましくは0.5重量%未満のMCT)、又はMCTを完全に含まない。
【0040】
[0042]MCTを含む組成物の投与は、食事の投与の約10分前から食事の投与の約1時間前までの間であってよく、好ましくは、食事の投与の少なくとも約15分前から食事の投与の約40分前までの間であってよく、例えば、食事の投与の約30分前であってよい。好ましくは、個体は、MCTを含む組成物の投与と、食事の投与との間の期間において、任意の水分補給以外にいかなる食品製品も摂取しない。
【0041】
[0043]いくつかの実施形態では、食事は朝食である。例えば、MCTを含む組成物は、朝食前に個体に投与することができ、続いて、MCTを含む組成物の投与後に朝食を個体に投与することができる。例えば、朝食は、MCTを含む組成物の投与の約10分後からMCTを含む組成物の投与の約1時間後までの間であってよく、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約40分以内、最も好ましくは、MCTを含む組成物の投与の約30分後であってよい。
【0042】
[0044]本明細書で使用するとき、「朝食」は、その日に個体によって摂取される最初の食事である。例えば、朝食は、個体の現地時間に従って正午前に摂取することができ、好ましくは、個体の現地時間に従って午前11:00時前に、より好ましくは、個体の現地時間に従って午前10:00時前に、最も好ましくは、個体の現地時間に従って午前9:00時前に摂取することができるが、個体が睡眠から目覚めた後、及び/又は個体の現地時間に従って午前4時以降、好ましくは、個体の現地時間に従って午前5時以降、より好ましくは、個体の現地時間に従って午前6時以降、最も好ましくは、個体の現地時間に従って午前7時以降に摂取することができる。
【0043】
[0045]一実施形態では、少なくとも約5gのMCT、例えば、少なくとも約10gのMCT、例えば、少なくとも約15gのMCTを提供する、1サービングの組成物が個体に投与される。いくつかの実施形態では、組成物の1サービングあたり最大30gのMCTが投与される。
【0044】
[0046]MCTは、3つの脂肪酸部分を含み、その各々は独立して6~12、6~11、6~10、7~12、7~11、7~10、8~12、8~11又は8~10個の炭素原子を有する。一実施形態において、MCTの少なくとも一部は、1つ以上のオクタン酸部分を含有する。一実施形態において、MCTの少なくとも一部は、1つ以上のデカン酸部分を含有する。
【0045】
[0047]好ましくは、組成物は、MCTの少なくとも一部をもたらす1つ以上の天然素材を含有する。MCTの好適な天然素材の非限定的な例としては、植物素材、例えば、ココナッツ、ココナッツ油、パーム核、及びパーム核油が挙げられ、また動物素材、例えば、ミルクも挙げられる。例えば、デカン酸及びオクタン酸は、それぞれ、ココナッツ油の脂肪酸組成の約5~8%及び4~10%を占める。
【0046】
[0048]追加的に又は代替的に、MCTの少なくとも一部は、グリセロールと、6~12個の炭素原子からなる尾部を有する1つ以上の中鎖脂肪酸(MCFA)とのエステル化によって合成され得る。例えば、各々8個の炭素原子を有する3つの脂肪酸部分を含むホモトリグリセリドは、グリセロールをC8脂肪酸(例えば、オクタン酸)でエステル化することによって合成でき、各々10個の炭素原子を有する3つの脂肪酸部分を含むホモトリグリセリドは、グリセロールをC10脂肪酸(例えば、デカン酸)でエステル化することによって合成できる。
【0047】
[0049]一実施形態では、組成物は、少なくとも1つのオクタン酸部分又はデカン酸部分を含むMCTを含み、組成物は、任意の他のトリグリセリドを含まない、又は実質的に含まない。本明細書で使用するとき、用語「任意の他のトリグリセリドを含まない」とは、組成物が、少なくとも1つのオクタン酸部分又はデカン酸部分を含有しないトリグリセリドを何ら含まないことを意味する。本明細書で使用するとき、用語「任意の他のトリグリセリドを実質的に含まない」とは、組成物が他の微量のトリグリセリド、すなわち、5モル%未満、好ましくは3モル%未満、より好ましくは2モル%未満、更により好ましくは1モル%未満、又は最も好ましくは0.5モル%未満の他のトリグリセリドを含有し得ることを意味する。
【0048】
[0050]いくつかの実施形態では、MCTを含む組成物は、栄養組成物又は栄養補助食品の形態であり得る。用語「栄養補助食品」は、対象の普段の食生活を補助することを意図した製品を指す。例えば、MCTを含む組成物は、準完全栄養を提供する経口栄養補助食品(ONS)であり得る。しかしながら、ONSは、MCTに加えて1つ以上の配合成分、例えば、タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル、及びこれらの混合物からなる群から選択される追加の成分を含むことができる。更に、代替実施形態では、MCTを含む組成物は、完全栄養製品の形態であってもよい。用語「完全栄養製品」は、対象にとって唯一の栄養源となり得る製品を指す。
【0049】
[0051]好ましい実施形態では、組成物は、タンパク質、脂質又は炭水化物のうちの1種以上の混合物で乳化されたMCTを含み、任意選択的に、食品用着香料(例えば、バニラ)を更に含む。
【0050】
[0052]好適なタンパク質の非限定的な例としては、動物タンパク質、例えば、乳タンパク質、肉タンパク質及び卵タンパク質;又は植物性タンパク質、例えば、大豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、エンドウ豆タンパク質、トウモロコシタンパク質、キャノーラタンパク質、オート麦タンパク質、ジャガイモタンパク質、ピーナッツタンパク質、及び豆、ソバ、若しくはレンズ豆由来の任意のタンパク質などが挙げられる。乳タンパク質、例えば、カゼイン及び乳清、並びに大豆タンパク質は、いくつかの用途で好ましい場合がある。タンパク質が乳タンパク質又は乳タンパク質画分である場合、タンパク質は、例えば甘性乳清、酸性乳清、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、ウシ血清アルブミン、酸カゼイン、カゼイネート、α-カゼイン、β-カゼイン及び/又はγ-カゼインであり得る。
【0051】
[0053]好適な炭水化物の非限定的な例としては、単糖類及び/又は二糖類、遅消化性高カロリー(fully caloric)炭水化物、オリゴ糖、又はこれらの混合物が挙げられる。特定の非限定的な例としては、マルトデキストリン、マルトース、高マルトースコーンシロップ、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0052】
[0054]MCTに追加される好適な脂質の非限定的な例としては、モノアシルグリセロール(MAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、長鎖トリグリセリド(LCT)、短鎖脂肪酸(SCFA)、分岐鎖脂肪酸(BCFA)、構造化MAG、構造化DAG、脂肪酸(遊離及び/又は結合している、例えば、グリセロールへとエステル化された、又はエチルエステルである脂肪酸)、リン脂質、リゾリン脂質、スフィンゴミエリン、ガングリオシド、特異的炎症収束性メディエーター(SPM)、又はこれらの混合物が挙げられる。遊離及び/又は結合している脂肪酸は、リノール酸(18:2n-6)、α-リノレン酸(18:3n-3)、ジホモγリノレン酸(20:3n-6)、γ-リノレン酸(GLA、18:3n-6)、ステアリドン酸(18:4n-3)、ドコサペンタエン酸(DPA、22:5n-3)、又はこれらの混合物のうちの1つ以上を含んでもよい。脂質源は、動物、植物、発酵、微細藻類、GMO、非GMO、又はこれらの混合物のうちの1つ以上であってもよい。
【0053】
[0055]MCTを含む組成物の一実施形態は、タンパク質、例えば、乳タンパク質濃縮物を更に含むことができる準完全栄養のONS用液である。この準完全栄養のONS用液の一実施形態では、組成物は、水、MCT及びタンパク質(例えば、乳タンパク質濃縮物)及び任意選択的に香味料から本質的になり得る。好ましくは、準完全栄養のONS用液は、例えば、約40mL~約400mL、より好ましくは約50mL~約300mL、最も好ましくは約70mLの体積を有する「ショット」である。好ましくは、準完全栄養のONS用液は、少なくとも約5gのMCT、より好ましくは少なくとも約10gのMCT、最も好ましくは少なくとも約15gのMCT、いくつかの実施形態では、30g以下のMCTを提供する単位剤形である。特に好ましい実施形態では、準完全栄養のONS用液は、MCTエマルションである。
【0054】
[0056]タンパク質は、組成物の0重量%~約50重量%、好ましくは組成物の約0.1重量%~約20重量%、より好ましくは組成物の約1.0重量%~約10.0重量%、最も好ましくは組成物の約5.0重量%とすることができる。タンパク質は、組成物の1サービングあたり0g~約30g、好ましくは組成物の1サービングあたり約5g~約30gとすることができる。
【0055】
[0057]MCTを含む組成物の別の実施形態は、タンパク質(例えば、ホエイ、カゼイン、乳タンパク質濃縮物のうちの1つ以上)、追加の脂質(例えば、長鎖トリグリセリド(LCT))及び炭水化物(ラクトース及び/又はグルコース)を更に含むことができる完全栄養の置換用液体食である。
【0056】
[0058]この完全栄養の置換用液体食の実施形態では、組成物は、水、MCT、タンパク質、追加の脂質、炭水化物、及び任意選択的に香味料から本質的になり得る。好ましくは、完全栄養の置換用液体食は、例えば、約40mL~約400mL、より好ましくは約50mL~約300mL、最も好ましくは約70mLの体積を有する「ショット」である。好ましくは、完全栄養の置換用液体食は、少なくとも約5gのMCT、より好ましくは少なくとも約10gのMCT、最も好ましくは少なくとも約15gのMCT、いくつかの実施形態では、30g以下のMCTを提供する単位剤形である。特に好ましい実施形態では、完全栄養の置換用液体食は、MCTエマルションである。
【0057】
[0059]MCT製品のフォーマットには、賦形剤、乳化剤、安定剤、及びこれらの混合物を含有させることができ、最終製剤は、すぐに摂取できる液体状若しくはゲル状、又は使用前に水で再構成される粉末状とすることができる。
【0058】
[0060]MCTは、組成物の約10~約120g/Lとすることができる。タンパク質は、組成物の0~約200g/L、好ましくは組成物の約10g/L~約200g/Lとすることができる。追加の脂質は、組成物の0~約120g/L、好ましくは組成物の約10g/L~約200g/Lとすることができる。炭水化物は、組成物の0~約200g/L、好ましくは組成物の約10g/L~約200g/Lとすることができる。
【0059】
[0061]いくつかの実施形態では、MCTを含む組成物は、食事の少なくとも一部も提供するキットで提供される。例えば、MCTを含む組成物と、食事の少なくとも一部とを、それぞれ別個の容器で準備して、この別個の容器の両方をより大きな容器内に収容することができる。
【0060】
[0062]経口吸収後、MCTは遊離脂肪酸へと代謝され、更にケトンへと代謝される。遊離脂肪酸は、最初にβ-ヒドロキシブチレート(BHB)へと代謝され、次いでアセトアセテート(AcA)へと代謝される。MCFA及びケトンは、利用されるMCTに応じて、体液中で様々な量で産生され、これらの分子は、グルコースの代替エネルギー源として使用され、又はグルコースに由来するエネルギーを補うことができる。
【0061】
[0063]ケトンは、例えば、モノカルボン酸トランスポーター1(MCT1)によって脳へと輸送可能であり、脳では主にニューロンによって代謝される。遊離脂肪酸、例えば、C8遊離脂肪酸及びC10遊離脂肪酸は、拡散によって脳に到達することができ、これらは主に星状細胞によって代謝される。
【0062】
[0064]一実施形態では、対象への組成物の経口投与は、ケトン、C8脂肪酸、又はC10脂肪酸のうちの1種以上を、該対象の体液に提供する。好ましくは、ケトンは、β-ヒドロキシブチレート及び/又はアセトアセテートである。一実施形態では、MCTを含む組成物の食事前の投与(例えば、食事の約30分前)によって達成されるケトン産生は、食事とほぼ同時に投与されるMCTを含む同一配合の組成物によるケトン産生よりも大きい。ケトンへの対象の曝露は、例えば経口投与後4時間にわたって、対象の血漿中のケトンのレベルを測定することによって定量することができる。対象のケトンへの曝露は、時間(例えば、4時間の期間)に対する体液中、例えば、血漿中のケトン濃度のプロットにおける曲線下面積(AUC)を決定することによって計算することができる。一実施形態では、生体液は、分析前に有機溶媒で処理してタンパク質を沈殿させ、酵素アッセイ又は質量分析(MS)に適した溶媒で再構成する。ケトン体のレベルは、液体クロマトグラフィーを標準的な酵素アッセイ又は高分解能質量分析(LC-MS)と組み合わせて使用し評価することができる。特に、β-ヒドロキシブチレート(BHB)及びアセトアセテート(AcA)の濃度は、外部標準(external calibration)法を使用して定量的に測定することができる。
【0063】
[0065]MCTを含む組成物は、1つ以上の追加成分、例えば、ミネラル類;ビタミン類;塩類;又は、機能性添加剤、例えば、嗜好剤(palatant)、着色剤、乳化剤、抗菌剤、又は他の保存料などの1つ以上の追加成分を更に含んでもよい。本明細書に開示される組成物に好適なミネラル類の非限定的な例としては、カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、鉄、塩化物、ホウ素、銅、亜鉛、マグネシウム、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン、フッ化物、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。本明細書に開示される組成物に好適なビタミンの例としては、水溶性ビタミン(チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、パントテン酸(ビタミンB5)、ピリドキシン(ビタミンB6)、ビオチン(ビタミンB7)、ミオイノシトール(ビタミンB8)、葉酸(ビタミンB9)、コバラミン(ビタミンB12)及びビタミンCなど)及び脂溶性ビタミン(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、及びビタミンKなど)、並びにこれらの塩、エステル又は誘導体が挙げられる。イヌリン、タウリン、カルニチン、アミノ酸、酵素、補酵素、及びこれらの任意の組み合わせが、様々な実施形態に含まれ得る。
【0064】
[0066]組成物は、神経の全般的な健康状態を促進若しくは維持し、又は認知機能を更に向上させる、1つ以上の作用物質を更に含み得る。そのような薬剤の例としては、コリン、ホスファチジルセリン、アルファ-リポ酸、CoQ10、アセチル-L-カルニチン、ハーブ抽出物(例えば、イチョウ(Gingko biloba)、オトメアゼナ(Bacopa monniera)、コンボルブルス・プルリカウリス(Convolvulus pluricaulis)及びスノーフレーク(Leucojum aestivum))、オメガ-3又はオメガ-6多価不飽和脂肪酸(例えば、遊離脂肪酸としてのエイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸又はドコサヘキサエン酸)、脂肪族エステル(例えば、エチルエステル類、トリグリセリド類又はモノグリセリド類など)、及び魚油抽出物が挙げられる。
【0065】
[0067]対象は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ヤギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、シカ、又は霊長類などの哺乳動物であり得る。好ましくは、対象は、ヒトである。一実施形態において、対象は、乳児である。乳児は、例えば、新生児(すなわち、生後28日未満の乳児)又は未熟児(すなわち、37週の妊娠期間が完了する前に生まれた乳児)などのヒトであり得る。
【0066】
[0068]一実施形態において、対象は、年齢を重ねた対象である。例えば、対象は、その推定寿命の40、50、60、66、70、75又は80%に達した、年齢を重ねた対象であってよい。寿命の決定は、保険数理の表、計算又は推定を基準にしてもよく、かつ、過去、現在及び未来の影響、又は寿命にプラス若しくはマイナスに作用することが知られている因子を考慮してもよい。寿命を判定するときには、種、性別、体格、遺伝的因子、環境因子及びストレス因子、現在及び過去の健康状態、過去及び現在の栄養状態、並びにストレス因子が考慮され得る。年齢を重ねた対象は、例えば、年齢が40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95又は100歳を超えたヒト対象であり得る。
【0067】
[0069]更に、この点に関して、ヒトに関連した「高齢」という用語は、少なくとも60歳、好ましくは63歳超、より好ましくは65歳超、最も好ましくは70歳超の出生後年齢を意味している。ヒトの文脈での「中高年者(older adult)」という用語は、45歳以上、好ましくは50歳より上、より好ましくは55歳より上の出生後年齢を意味し、高齢の個体を含む。
【0068】
[0070]治療についての本明細書の全参照は、治癒的、緩和的、予防的治療を含む。治療には、疾患の重症度の進行を抑止することも含まれ得る。ヒトと動物の両方の治療が本開示の範囲内である。好ましくは、MCTを含む組成物は、治療有効量又は予防有効量のMCTを提供する、及び/又は治療有効量若しくは予防有効量のケトンへと代謝される量のMCTを提供する1サービング又は単位剤形として投与される。
【0069】
[0071]MCTから生成される遊離脂肪酸及びケトンは、グルコースの代替エネルギー源を供給し、星状膠細胞、筋細胞、心筋細胞又は神経細胞などの細胞のエネルギーを補充し、又はその代わりとなる。
【0070】
[0072]脳組織は、その体積に比して多量のエネルギーを消費する。平均的な健康な対象において、脳は、そのエネルギーの大部分を酸素依存的なグルコース代謝から得ている。典型的には、脳のエネルギーの大部分は、ニューロン又は神経細胞のシグナル伝達を助けるために使用され、残りのエネルギーは、細胞の健康維持のために使用される。例えば、グルコースの利用が障害されることによって引き起こされる脳のエネルギー欠乏は、神経活動の亢進、痙攣発作及び認知障害をもたらすことがある。
【0071】
[0073]脳エネルギーの欠乏状態又は疾患の例としては、片頭痛、記憶障害、加齢に伴う記憶障害、脳損傷、神経リハビリテーション、卒中及び卒中後、アミロイド側索硬化症、多発性硬化症、認知障害、集中治療後認知障害、加齢に伴う認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、先天性代謝異常症(グルコーストランスポーター1欠損症症候群及びピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症など)、双極性障害、統合失調症、及び/又はてんかんが挙げられる。
【0072】
[0074]本明細書で使用するとき、用語「神経学的状態」は、神経系の疾患を指す。神経学的状態は、病気又は外傷によって脳、脊柱又は神経に引き起こされた損傷に起因し得る。神経学的状態の症状の非限定的例としては、麻痺、筋力低下、協調運動不良、感覚喪失、痙攣発作、混乱、疼痛及び意識レベルの変化が挙げられる。接触、圧力、振動、四肢の位置、熱さ、冷たさ、及び痛み並びに反射に対する反応の評価を実施することで、対象において神経系に障害が生じているかを判定することができる。
【0073】
[0075]いくつかの神経学的状態は生涯にわたるものであり、その発症はいかなる時点においても経験され得る。脳性麻痺などのその他の神経学的状態は、出生時から存在する。デュシェンヌ型筋ジストロフィーなどのいくつかの神経学的状態は、一般に幼児期に顕在化するが、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの他の神経学的状態は、主に高齢者が罹患する。いくつかの神経学的状態は、頭部外傷若しくは脳卒中、又は脳及び脊椎の癌などの外傷又は病気によって突然発症する。
【0074】
[0076]一実施形態では、神経学的状態は、脳の外傷性損傷の結果である。付加的又は代替的に、神経学的状態は、脳又は筋肉におけるエネルギー欠乏の結果である。
【0075】
[0077]神経学的状態の例としては、片頭痛、記憶障害、加齢に伴う記憶障害、脳損傷、神経リハビリテーション、卒中及び卒中後、アミロイド側索硬化症、多発性硬化症、認知障害、集中治療後認知障害、加齢に伴う認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、先天性代謝異常症(グルコーストランスポーター1欠損症症候群及びピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症など)、双極性障害、統合失調症、及び/又はてんかんが挙げられる。
【0076】
[0078]片頭痛は、悪心(体調不良)、視覚障害及び光又は音に対する感度の増大などの他の症状を伴う激しい頭痛である。片頭痛は、前兆が先に起こることがあり;前兆の主な症状は、ぼやけた視界(焦点を合わせるのが困難)、暗点、閃光又は中央視野から端に向かって動くジグザグパターンなどの視覚障害である。
【0077】
[0079]脳卒中(脳血管障害(CVA)及び脳血管傷害(CVI)としても知られる)は、脳への血流が不十分になり、その結果、細胞死が生じたときに起こる。脳卒中には、虚血性(血流不足に起因する)と、出血性(出血に起因する)の2つの主な種類がある。脳卒中により、脳の一部が正常に機能しなくなる。脳卒中の兆候及び症状には、身体の片側を運かすことができないこと、身体の片側の感覚がないこと、理解若しくは発話の問題、世界が回転しているような感覚、又は片側の視野欠損が含まれ得る。兆候及び症状は、多くの場合、脳卒中が起きた直後に現れる。
【0078】
[0080]筋萎縮性側索硬化症(ALS)(ルーゲーリッグ病、シャルコー病及び運動ニューロン病としても知られる)は、随意筋の制御を担うニューロンの死を伴う。ALSは、筋肉のこわばり、筋肉の単収縮、及び筋消耗によって徐々に悪化する虚弱を特徴とし;これにより、発話、嚥下、最終的には呼吸が困難になる。
【0079】
[0081]多発性硬化症は、脳及び脊髄の神経に影響を及ぼすものであり、筋肉運動の問題、運動機能及びバランスの問題、しびれ及びうずき、視界のぼやけ(典型的には片眼の視野欠損)並びに疲労を含む広範囲の症状を引き起こす。
【0080】
[0082]パーキンソン病は、主に運動系が冒される中枢神経系の変性疾患である。疾患の初期において、最も顕著な症状は、運動に関連するものであり;これらには、静止時振戦、固縮、動作緩慢及び歩行(walking and gait)の困難が含まれる。その後、疾患の経過中に思考及び行動上の問題が生じることがあり、疾患の進行期には一般に認知症が生じる。他の症状には、うつ症状、感覚、睡眠及び感情の問題が含まれる。
【0081】
[0083]アルツハイマー病は、進行性神経変性疾患である。アルツハイマー病は、認知症の最も一般的な原因である。症状には、記憶喪失、及び思考、問題解決又は言語の困難が含まれる。ミニメンタルステート検査(MMSE)は、アルツハイマー病の診断に使用される試験の一例である。
【0082】
[0084]ハンチントン病は、脳内の特定の神経細胞に損傷を与える遺伝性の状態である。ハンチントン病は、筋肉の協調に影響し、精神機能の低下(mental decline)及び行動症状に至る。最初期の症状では、多くの場合、気分又は認知に関係するささいな問題が生じる。次いで、協調運動の全般的欠如及び不安定歩行が起こる。疾患が進行するにつれて、精神的能力の低下及び行動症状とともに、ぎくしゃくした痙攣様の身体運動がより顕著になる。身体能力は、協調運動が困難になるまで徐々に悪化する。精神的能力は、一般に、認知症にまで低下する。
【0083】
[0085]先天性代謝異常症は、欠陥遺伝子によって引き起こされる様々な疾患である。典型的には、欠陥遺伝子(複数可)は、酵素又は輸送タンパク質の欠損をもたらし、これにより、身体による化合物の処理により当該化合物の毒性が蓄積するという仕組みで阻害が生じる。先天性代謝異常症は、あらゆる臓器に影響を及ぼし得、通常、2つ以上の臓器が影響を受ける。症状は、多くの場合、非特異的である傾向があり、通常、主要な臓器の機能障害又は機能不全に関係する。代謝異常症の発症及び重症度は、食生活及び併発している病気などの環境因子によって悪化する場合がある。
【0084】
[0086]グルコーストランスポーター1(Glut1)欠損症症候群は、血液脳関門、すなわち、小さな血管と脳組織を隔てる境界を通過してグルコースを輸送するGLUT1タンパク質が関与する遺伝性代謝異常である。最も一般的な症状は、痙攣発作(てんかん)であり、通常、生後数ヶ月以内に始まる。起こり得る更なる症状には、様々な程度の認知障害、並びに運動失調、ジストニア及び舞踏運動を特徴とする運動障害が含まれる。Glut1欠損症症候群は、GLUT1タンパク質を産生するSLC2A1遺伝子の変異によって引き起こされ得る。
【0085】
[0087]ピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症(ピルビン酸脱水素酵素欠損症又はPDCD)は、ミトコンドリアの代謝異常及び炭水化物の代謝が崩れることに関連する神経変性疾患である。PDCDは、体内における乳酸の蓄積及び種々の神経障害を特徴とする。この状態の兆候及び症状は、通常、出生直後にまず現れるが、罹患した個体間で大きく異なる場合がある。最も一般的な特徴は、生命を脅かす場合がある乳酸の蓄積(乳酸アシドーシス)であり、この蓄積は悪心、嘔吐、重度の呼吸困難及び異常な鼓動を引き起こし得る。他の症状としては、神経学的問題;精神的能力並びに座る及び歩くなどの運動技能の発達の遅れ;知的障害;痙攣発作;筋緊張の低下(緊張低下);協調運動不良、並びに歩行困難が含まれる。罹患した個体の中には、脳の左半球と右半球とを接続する組織(脳梁)の発育不全、大脳皮質として知られる脳の外側部の衰弱(萎縮)、又は脳の一部における複数の損傷組織部分(病変)などの異常な脳構造を有する者もいる。
【0086】
[0088]PDCDでは、ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDC)に含まれるタンパク質のうちの1つが欠損している。ピルビン酸脱水素酵素複合体は、E1、E2及びE3として同定された3種類の酵素を含み;E1酵素は、α及びβとして同定されたサブユニットを含有する。最も一般的なPDCDの形態は、X染色体上に位置するE1αサブユニット(PDHA1遺伝子)における異常遺伝子によって引き起こされる。いくつかのPDCD症例は、PDHX遺伝子、PDHB遺伝子、DLAT遺伝子、PDP1遺伝子及びDLD遺伝子などの別のピルビン酸脱水素酵素複合体サブユニットの遺伝子変異によって引き起こされる。
【0087】
[0089]双極性障害は、気分、エネルギー、活動レベル、及び日々のタスクを実施する能力に異常な移り変わりをもたらす脳疾患である。双極性障害は、気分が高揚した期間とうつ状態の期間とを特徴とする。双極性障害は、精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、DSM)又は世界保健機関の疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and RelatedHealth Problems)によるガイドラインを使用して診断することができる。
【0088】
[0090]統合失調症は、患者による現実の解釈に異常が生じており、脳に障害をもたらす、慢性の深刻な疾患である。統合失調症は、幻覚、幻聴、妄想並びに非常に混乱した思考及び行動のいくつかの組み合わせをもたらし得る。統合失調症は、精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、DSM)又は世界保健機関の疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and RelatedHealth Problems)によるガイドラインを使用して診断することができる。
【0089】
[0091]てんかんは、脳における神経細胞の活動が乱れ、痙攣発作が生じる、又は異常な行動、感覚及び時に意識消失の期間が引き起こされる神経疾患である。
【0090】
[0092]糖尿病性心筋症(DCM)は、糖尿病患者における心筋の障害である。肺又は脚に体液が蓄積することにより、心臓が血液を身体中に効果的に循環させることができず、心不全として知られている状態となり得る。
【0091】
[0093]「認知性障害」及び「認知障害」という用語は、認知に障害を生じさせる疾患、特に、学習、記憶、知覚及び/又は問題解決に主に影響を及ぼす疾患を指す。
【0092】
[0094]認知障害は、集中治療後の対象に生じることがある。認知障害は、老化の一部としても生じ得る。
【0093】
[0095]用語「認知」とは、知識、注意、長期記憶及び作業記憶、判断及び評価、推論及び「計算」、問題解決及び意思決定、言語の理解及び言語による創作を含む、一連の全ての精神的能力及び過程を指す。認知の水準及び改善は、情報処理速度、遂行機能及び記憶を評価するように設計された認知検査を含む、当該技術分野において既知である任意の好適な神経学的検査及び認知検査を用いて、当業者により容易に評価することができる。好適な試験の例としては、ミニメンタルステート検査(MMSE)、ケンブリッジ神経心理学的検査バッテリー(CANTAB)、アルツハイマー病評価尺度認知試験(ADAScog)、ウィスコンシンカード分類課題、言語及び図形流暢性検査並びにトレイルメイキングテスト、ウエクスラー記憶検査(WMS)、図形の即時再生及び遅延再生試験(完全液体食)(Trahan et al.Neuropsychology,1988 19(3)p.173-89)、レイ聴覚性言語学習検査(RAVLT)(Ivnik,RJ.et al.Psychological Assessment:A Journal of Consulting and Clinical Psychology,1990(2):p.304-312)、脳波記録(EEG)、脳磁図(MEG)、陽電子放出断層撮影法(PET)単一光子放出コンピュータ断層撮影法(SPECT)、磁気共鳴画像法(MRI)、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、コンピュータ断層撮影法並びに長期増強が挙げられる。
【0094】
[0096]EEG、脳の電気的活動度の測定は、様々なランドマークで頭皮に電極を配置し、脳信号を大きく増幅して記録することによって達成される。MEGは、電場に関係する磁場を測定するという点で、EEGに類似している。MEGは、神経系における同期波を含む自発的な脳活動を測定するために使用される。
【0095】
[0097]PETは、酸素利用及びグルコース代謝の測定を提供する。この技術では、放射性ポジトロン放出トレーサーを投与し、脳によるトレーサーの取り込みは脳の活動度と相関する。これらのトレーサーはガンマ線を放出し、放出されたガンマ線は頭を取り囲むセンサによって検出され、これにより脳活動の3Dマップが得られる。トレーサーが脳によって取り込まれるとすぐに、局所的な脳血流量に応じ、放射能が検出される。活性化の間、脳の血流量及び神経のグルコース代謝の増大を、数秒以内に検出することができる。
【0096】
[0098]好適な分析はまた、神経心理学試験、臨床検査、及び個別の認知機能の低下についての訴え(例えば、主観的記憶喪失)に基づいてもよい。更に好適な検査は、運動、記憶及び注意、発作感受性、並びに社会的関わり合い及び/又は社会認識についての評価をベースにしてもよい。
【0097】
[0099]記憶障害は、記憶の保存、保持及び想起が阻害されるような、脳構造への神経損傷の結果である。記憶障害は、加齢に伴って進行することがあり(例えば、アルツハイマー病)、あるいは、例えば、頭部損傷から直接的に生じることもある。記憶障害のレベル及び改善は、アルツハイマー病評価尺度認知試験(ADAScog)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、コンピュータ断層撮影法(CT)スキャン、磁気共鳴画像法(MRI)、単一光子放出コンピュータ断層撮影法(SPECT)、陽電子放出断層撮影法(PET)及び脳波記録(EEG)などの当該技術分野において知られている任意の好適な検査を使用して、当業者によって容易に評価することができる。
【0098】
[0100]上記の開示を鑑みれば、本明細書で提供される実施形態は、個体による中鎖トリグリセリド(MCT)の経口摂取から誘導されるケトンの産生を増加させる方法であり、当該方法は:MCTを含む組成物を個体に経口投与し;続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、個体に食事を経口投与すること、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約1時間以内、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約40分以内、最も好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の約30分後に、個体に食事を経口投与すること、を含む。
【0099】
[0101]個体におけるケトンの産生は、好ましくは、MCTを含む組成物及び食事を、個体にほぼ同時に経口投与することにより得られるケトン産生と比較して増加する。
【0100】
[0102]個体は高齢であり得る。MCTを含む組成物は、液体であり得る。組成物は、1サービング中に少なくとも約15.0gのMCT~最大約30.0gのMCTを含ませて個体に投与することができる。組成物は、タンパク質、脂質、及び炭水化物からなる群から選択される少なくとも1種の追加の成分で乳化されたMCTを含むことができる。
【0101】
[0103]MCTの少なくとも一部は、オクタン酸又はデカン酸のうちの少なくとも1種であってよい。ケトンの少なくとも一部は、β-ヒドロキシブチレート、アセト-アセテート及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0102】
[0104]食事は朝食であり得る。組成物は、準完全栄養の経口栄養補助(ONS)用液であり得る。
【0103】
[0105]好ましくは、個体はMCTによる胃腸副作用を経験しない。好ましくは、個体は、個体に対するMCTを含む組成物の経口投与から始まり、個体に対する食事の経口投与で終わる期間中に、任意の水分補給以外にいかなる食品製品も摂取しない。
【0104】
[0106]本明細書で提供される別の実施形態は、中鎖トリグリセリド(MCT)からのケトンの産生の増加が有益である状態を治療又は予防する方法であり、当該方法は:MCTを含む組成物を、当該処置を必要とする又はリスクのある個体に経口投与し;続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、個体に食事を経口投与すること、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約1時間以内、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約40分以内、最も好ましくはMCTを含む組成物の経口投与後約30分以内に、個体に食事を経口投与すること、を含む。
【0105】
[0107]前記状態は、てんかん、神経疾患、神経変性疾患、心不全、先天性代謝異常、肥満、2型糖尿病、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、脳エネルギー欠乏状態、片頭痛、記憶障害、加齢性記憶障害、脳損傷、脳卒中、アミロイド側索硬化症、多発性硬化症、認知障害、集中治療後の認知障害、加齢性認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、遺伝性代謝障害、双極性障害、統合失調症、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0106】
[0108]本明細書で提供される別の実施形態は、神経学的健康、認知機能、又は運動能力のうちの少なくとも1つを改善又は維持する方法であり、当該方法は:中鎖トリグリセリド(MCT)を含む組成物を個体に経口投与し;続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、個体に食事を経口投与すること、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約1時間以内に、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約40分以内、最も好ましくはMCTを含む組成物の経口投与の約30分後に、個体に食事を経口投与すること、を含む。
【0107】
[0109]本明細書で提供される別の実施形態は、栄養を提供するためのキットであり、当該キットは:MCTを含む経口投与可能な組成物と;MCTを含む経口投与可能な組成物とはキットにおいて別に保存された食事の少なくとも一部と;説明書と、を含み、当該説明書は、中鎖トリグリセリド(MCT)を含む組成物を個体に経口投与し、続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約1時間以内、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約40分以内、最も好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の約30分後に、個体に食事を経口投与するためのものである。
【実施例】
【0108】
[0111]以下の非限定的な例は、本開示の概念を発展させ及びサポートする臨床データを提示する。
【0109】
[0112]健康なボランティアを対象として代謝試験を実施した。標準的な朝食の経口投与を、MCTエマルション(5%水性タンパク質溶液70mL中15gのMCT)の摂取中(B群)又は摂取後30分(A群)に実施した。血漿ケトン濃度は、標準的な酵素アッセイによって様々な時点で測定した。対照群Cは、朝食のみを摂取した。
【0110】
[0113]
図1は、1群あたり15名の患者からなるA群、B群、及びC群の平均血漿ケトン濃度の経時変化を示している。時間0は、MCT製品の経口摂取に対応している。大きな記号は、朝食の摂取時間に対応している。
【0111】
【0112】
[0114] 表1は、各群について得られたAUCの増分を示している。A群とB群との間で統計的有意差が得られた(p<0.05)。
【0113】
[0115]これらの結果は、食事前にMCT製品を投与した場合には、食事中に同じ量のMCTを投与した場合と比較して、有意により多量のケトンが産生されることを示している。
【0114】
[0116]本明細書で説明されている現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び改変が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。かかる変更及び改変は、本発明の主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、行うことができる。それゆえ、そのような変更及び修正は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
【国際調査報告】