(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-09
(54)【発明の名称】クローン植物の作製方法
(51)【国際特許分類】
A01H 5/00 20180101AFI20220426BHJP
C12N 15/82 20060101ALI20220426BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20220426BHJP
C12N 15/29 20060101ALN20220426BHJP
【FI】
A01H5/00 A
C12N15/82 Z ZNA
C12N15/11 Z
C12N15/29
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021554753
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(85)【翻訳文提出日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 US2020021844
(87)【国際公開番号】W WO2020185751
(87)【国際公開日】2020-09-17
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】500207899
【氏名又は名称】パイオニア ハイ-ブレッド インターナショナル, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126354
【氏名又は名称】藤田 尚
(72)【発明者】
【氏名】ゴードン-カム,ウィリアム ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ロー,キース エス.
(72)【発明者】
【氏名】リーンダース,ジョン アーロン タッカー
(72)【発明者】
【氏名】イェ,ファスン
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB02
2B030CA24
2B030CA28
2B030CB02
(57)【要約】
本明細書に開示される方法は、形態形成遺伝子が植物のゲノムに組み込まれない非トランスジェニック植物及びトランスジェニック植物を作製するために形態形成遺伝子を使用するクローン植物の作製を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クローン植物を作製する方法であって、
第1の植物細胞に形態形成遺伝子発現カセットを提供する工程;
第2の植物細胞の成長応答を誘発する工程であって、前記第2の植物細胞は前記形態形成遺伝子発現カセットを含まない、工程;及び
前記第2の植物細胞から前記クローン植物を再生する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記第1の植物細胞は、1n細胞に由来する細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1n細胞は小胞子である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1n細胞は胚である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の植物細胞は接合胚である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の植物細胞は2n胚である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の植物細胞への提供は、前記形態形成遺伝子発現カセットの微粒子銃送達を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の植物細胞への提供は、前記形態形成遺伝子発現カセットの細菌媒介送達を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、
(i)機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;又は
(ii)ベビーブーム(BBM)ポリペプチド若しくは胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;又は
(iii)(i)及び(ii)の組み合わせ
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記機能的WUS/WOXポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、WUS1、WUS2、WUS3、WOX2A、WOX4、WOX5、及びWOX9からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ヌクレオチド配列は、前記ベビーブーム(BBM)ポリペプチド又は前記胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ベビーブーム(BBM)ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、BBM2、BMN2及びBMN3からなる群から選択され、又は前記胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列はODP2である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ヌクレオチド配列は、前記機能的WUS/WOXポリペプチド、及び前記ベビーブーム(BBM)ポリペプチド又は前記胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記機能的WUS/WOXポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、WUS1、WUS2、WUS3、WOX2A、WOX4、WOX5及びWOX9からなる群から選択され、前記ベビーブーム(BBM)ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、BBM2、BMN2及びBMN3からなる群から選択され、又は前記胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、ODP2である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記細菌媒介送達は、リゾビウム目(Rhizobiales)菌株によって提供される、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記リゾビウム目(Rhizobiales)菌株は、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌、及びリゾビウム科(Rhizobiaceae)菌からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)は、AGL-1、EHA105、GV3101、LBA4404及びLBA4404 THY-の群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌は表2から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記リゾビウム科(Rhizobiaceae)菌は表3から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、表4又は表5から選択されるプロモーターをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項21】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列に作動可能に連結されたPLTPプロモーターを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、表6から選択される発現調節エレメント(EME)をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、表7から選択されるエンハンサーをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、表6から選択される発現調節エレメント(EME)及び表7から選択されるエンハンサーをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記発現調節エレメント(EME)は、表6から選択される発現調節エレメント(EME)の3つのコピーを含む、請求項22又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記エンハンサーは、表7から選択されるエンハンサーの3つのコピーを含む、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項27】
前記発現調節エレメント(EME)は、表6から選択される発現調節エレメント(EME)の3つのコピーを含み、前記エンハンサーは、表7から選択されるエンハンサーの3つのコピーを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記発現調節エレメント(EME)の前記3つのコピーは、表6から選択される同じ発現調節エレメント(EME)であるか、又は表から選択される異なる発現調節エレメント(EME)である、請求項25又は27に記載の方法。
【請求項29】
前記エンハンサーの前記3つのコピーは、表7から選択される同じエンハンサーであるか、又は表7から選択される異なるエンハンサーである、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項30】
前記発現調節エレメント(EME)の前記3つのコピーは、表6から選択される同じ発現調節エレメント(EME)であるか、又は表6から選択される異なる発現調節エレメント(EME)であり、且つ前記エンハンサーの前記3つのコピーは、表7から選択される同じエンハンサーであるか、又は表7から選択される異なるエンハンサーである、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、LEC1遺伝子に作動可能に連結されたユビキチンプロモーターをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項32】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、LEC1遺伝子に作動可能に連結されたPLTPプロモーターをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項33】
機能的WUS/WOXポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、T2AウイルスペプチドLEC1遺伝子融合体に融合されている、請求項21に記載の方法。
【請求項34】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、ウイルス又は植物エンハンサー配列をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項35】
機能的WUS/WOXポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、T2AウイルスペプチドBBM遺伝子融合体に融合されている、請求項21に記載の方法。
【請求項36】
機能的WUS/WOXポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、T2AウイルスペプチドRepA遺伝子融合体に融合されている、請求項21に記載の方法。
【請求項37】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、PKLamiRNA融合体に作動可能に連結されたPLTPプロモーターをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項38】
前記第2の植物細胞を染色体倍加剤と接触させ、倍加一倍体植物を再生する工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
再生されたクローン植物を、所望の遺伝子型/表現型を含む植物と交雑させる工程;及び
前記所望の遺伝子型/表現型を有する子孫を成長させる工程
をさらに含む、請求項5又は38に記載の方法。
【請求項40】
請求項39に記載の植物種子、及びそれから生じる子孫。
【請求項41】
請求項1~5のいずれか一項に記載の植物種子、及びそれから生じる子孫、並びに所望の遺伝子型/表現型を含む植物との請求項1~4のいずれか一項に記載の再生クローン植物の交雑に由来する植物種子、及びそれから生じる子孫。
【請求項42】
前記第2の植物細胞又は前記第2の植物細胞に由来する細胞を特徴付ける工程;
前記特徴付けられた第2の植物細胞又は前記特徴付けられた前記第2の植物細胞に由来する細胞のゲノムデータに基づいて生物学的モデルを使用して表現型性能を予測し、その予測された表現型の性能に基づいて前記第2の植物細胞又は前記第2の植物細胞に由来する前記細胞を選択する工程;及び
前記選択された第2の植物細胞又は前記選択された前記第2の植物細胞に由来する細胞に由来するクローン植物を再生する工程
をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
特徴付けは、
前記第2の植物細胞若しくは前記第2の植物細胞由来の前記細胞から単離されたDNAの遺伝子型の同定;又は
前記第2の植物細胞若しくは前記第2の植物細胞由来の前記細胞から単離されたRNA転写産物の測定;又は
前記第2の植物細胞若しくは前記第2の植物細胞由来の前記細胞から単離されたクロマチンのヌクレオソーム量若しくは密度の測定;又は
前記第2の植物細胞若しくは前記第2の植物細胞由来の前記細胞から単離されたクロマチンのヒストンタンパク質の翻訳後改変の測定;又は
前記第2の植物細胞若しくは前記第2の植物細胞由来の前記細胞から単離されたDNA若しくはRNAのエピジェネティック改変の測定;又は
前記第2の植物細胞若しくは前記第2の植物細胞に由来する前記細胞から単離されたクロマチンのタンパク質:DNA相互作用の測定;又は
前記第2の植物細胞若しくは前記第2の植物細胞由来の前記細胞から単離されたタンパク質:RNA相互作用若しくは複合体の測定
からなる群から選択される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
表現型性能の予測は、
前記第2の植物細胞又は前記第2の植物細胞に由来する前記細胞のDNAシーケンシングによる遺伝子型の同定に基づくゲノムデータの使用;前記第2の植物細胞又は前記第2の植物細胞に由来する前記細胞のアッセイによる遺伝子型の同定に基づくゲノムデータの使用;
前記第2の植物細胞又は前記第2の植物細胞に由来する前記細胞の既知の又は予測される発現状態に基づくゲノムデータの使用;
前記第2の植物細胞又は前記第2の植物細胞に由来する前記細胞の既知の又は予測されるクロマチン状態に基づくゲノムデータの使用;
前記第2の植物細胞又は前記第2の植物細胞に由来する前記細胞の既知の又は予測されるエピジェネティック調節状態に基づくゲノムデータの使用;
前記第2の植物細胞又は前記第2の植物細胞に由来する前記細胞の共有された一倍体ゲノムデータ及び/或いは前記第2の植物細胞又は前記第2の植物細胞に由来する前記細胞の系統履歴データの遺伝型インピュテーションの使用;並びにこれらの組合せ
からなる群から選択される、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項45】
前記第2の植物細胞又は前記第2の植物細胞に由来する前記細胞は、カルス、未分化のカルス、未成熟の胚、成熟胚、未成熟の接合胚、未成熟の子葉、胚軸、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉、葉細胞、根細胞、師部細胞、花粉、種子、懸濁培養物、外植体、胚、接合胚、体細胞胚、胚形成カルス、分裂組織、体細胞分裂組織、器官形成カルス、成熟した穂由来の種子に由来する胚、葉基、成熟植物の葉、葉の先端、未成熟の花序、房、未成熟の穂、絹糸、子葉、分裂組織領域、葉からの細胞、茎からの細胞、根からの細胞、シュートからの細胞、配偶体、胞子体、小胞子、多細胞構造(MCS)、胚様構造、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項46】
請求項42に記載の再生クローン植物の植物種子、及び請求項42に記載の再生クローン植物を別の植物と交雑させ、1つ以上の所望の形質を有する前記交雑種の子孫を成長させて得られる植物種子又は子孫。
【請求項47】
形質遺伝子発現カセットの1コピーを有するトランスジェニック植物を作製する方法であって、
形質遺伝子発現カセット及び形態形成遺伝子発現カセットを一倍体胚又は胚様構造に提供する工程;
前記形質遺伝子発現カセットを含み、形態形成遺伝子発現カセットを含まない、一倍体胚又は一倍体胚様構造を選択する工程;
前記選択された一倍体胚又は前記選択された一倍体胚様構造を、倍加一倍体胚又は倍加一倍体胚様構造を生成するのに十分な期間、染色体倍加剤と接触させる工程、及び
前記形質遺伝子発現カセットを含み、形態形成遺伝子発現カセットを含まない、前記選択された倍加一倍体胚又は前記選択された倍加一倍体胚様構造からトランスジェニック植物を再生する工程
を含む方法。
【請求項48】
前記一倍体胚又は前記胚様構造への提供は、前記形質遺伝子発現カセット及び前記形態形成遺伝子発現カセットの微粒子銃送達を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記一倍体胚又は前記胚様構造への提供は、前記一倍体胚又は前記胚様構造を、前記形質遺伝子発現カセット及び前記形態形成遺伝子発現カセットと同時に接触させることを含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記一倍体胚又は前記胚様構造への提供は、前記一倍体胚又は前記胚様構造を、前記形質遺伝子発現カセット及び前記形態形成遺伝子発現カセットと順次接触させることを含む、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
前記一倍体胚又は前記胚様構造への提供は、前記形質遺伝子発現カセット及び前記形態形成遺伝子発現カセットの細菌媒介送達を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項52】
前記細菌媒介送達は、前記一倍体胚又は前記胚様構造を、第1菌株における前記形質遺伝子発現カセットを含むT-DNA及び第2菌株における前記形態形成遺伝子発現カセットを含むT-DNAと同時に接触させることを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記細菌媒介送達は、前記一倍体胚又は前記胚様構造を、1つの菌株における、前記形質遺伝子発現カセットを含むT-DNA及び前記形態形成遺伝子発現カセットを含むT-DNAと接触させることを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、
(i)機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;又は
(ii)ベビーブーム(BBM)ポリペプチド若しくは胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;又は
(iii)(i)及び(ii)の組み合わせ
を含む、請求項47~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記機能的WUS/WOXポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、WUS1、WUS2、WUS3、WOX2A、WOX4、WOX5、及びWOX9からなる群から選択される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記ヌクレオチド配列は、前記ベビーブーム(BBM)ポリペプチド又は前記胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記ベビーブーム(BBM)ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、BBM2、BMN2及びBMN3からなる群から選択され、又は前記胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列はODP2である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記ヌクレオチド配列は、前記機能的WUS/WOXポリペプチド、及び前記ベビーブーム(BBM)ポリペプチド又は前記胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする、請求項54に記載の方法。
【請求項59】
前記機能的WUS/WOXポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、WUS1、WUS2、WUS3、WOX2A、WOX4、WOX5及びWOX9からなる群から選択され、前記ベビーブーム(BBM)ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、BBM2、BMN2及びBMN3からなる群から選択され、又は前記胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、ODP2である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記形質形成遺伝子発現カセットは、
害虫耐性を付与する遺伝子、除草剤耐性を付与する遺伝子、ストレス耐性を付与する遺伝子、乾燥耐性を付与する遺伝子、窒素利用効率(NUE)を付与する遺伝子、病害耐性を付与する遺伝子、及び代謝経路を変化させる能力を付与する遺伝子からなる群から選択される形質遺伝子を含む、請求項47~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記形質遺伝子発現カセットは、ベビーブーム(BBM)ポリペプチド又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記ベビーブーム(BBM)ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、BBM2、BMN2及びBMN3からなる群から選択され、又は前記胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列はODP2である、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記形質遺伝子発現カセット又は前記形態形成遺伝子発現カセットは、部位特異的ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項47~53及び60~62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記部位特異的ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、TALEN、及びCRISPR-Casヌクレアーゼからなる群から選択される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記CRISPR-Casヌクレアーゼは、Cas9又はCpflヌクレアーゼである、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記部位特異的ヌクレアーゼは、挿入、欠失、又は置換変異をもたらす、請求項63に記載の方法。
【請求項67】
前記形質遺伝子発現カセット又は前記形態形成遺伝子発現カセットから発現されるガイドRNAを提供する工程をさらに含む、請求項64に記載の方法。
【請求項68】
前記ガイドRNA及びCRISPR-Casヌクレアーゼは、リボ核タンパク質複合体である、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記細菌媒介送達は、リゾビウム目(Rhizobiales)菌株によって提供される、請求項51~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項70】
前記リゾビウム目(Rhizobiales)菌株は、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌、及びリゾビウム科(Rhizobiaceae)菌からなる群から選択される、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記第1の菌株と前記第2の菌株は同じ菌株である、請求項69に記載の方法。
【請求項72】
前記同じ菌株は、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌、及びリゾビウム科(Rhizobiaceae)菌の群から選択される、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)は、AGL-1、EHA105、GV3101、LBA4404及びLBA4404 THY-の群から選択される、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌は表2から選択される、請求項72に記載の方法。
【請求項75】
前記リゾビウム科(Rhizobiaceae)菌は表3から選択される、請求項72に記載の方法。
【請求項76】
前記第1の菌株と前記第2の菌株は異なる菌株である、請求項69に記載の方法。
【請求項77】
前記異なる菌株は、
(i)無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)とオクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌;
(ii)無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)とリゾビウム科(Rhizobiaceae)菌;及び
(iii)リゾビウム科(Rhizobiaceae)菌とオクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌
から選択される、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)は、AGL-1、EHA105、GV3101、LBA4404及びLBA4404 THY-の群から選択される、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌は表2から選択される、請求項77に記載の方法。
【請求項80】
前記リゾビウム科(Rhizobiaceae)菌は表3から選択される、請求項77に記載の方法。
【請求項81】
前記第1の菌株と前記第2の菌株は50:50の比で存在する、請求項71~80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
前記第1の菌株と前記第2の菌株は75:25の比で存在する、請求項71~80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
前記第1の菌株と前記第2の菌株は90:10の比で存在する、請求項71~80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項84】
前記第1の菌株と前記第2の菌株は95:5の比で存在する、請求項71~80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項85】
前記第1の菌株と前記第2の菌株は99:1の比で存在する、請求項71~80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項86】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、表4又は表5から選択されるプロモーターをさらに含む、請求項54に記載の方法。
【請求項87】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列に作動可能に連結されたPLTPプロモーターを含む、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、表6から選択される発現調節エレメント(EME)をさらに含む、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、表7から選択されるエンハンサーをさらに含む、請求項87に記載の方法。
【請求項90】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、表6から選択される発現調節エレメント(EME)及び表7から選択されるエンハンサーをさらに含む、請求項87に記載の方法。
【請求項91】
前記発現調節エレメント(EME)は、表6から選択される発現調節エレメント(EME)の3つのコピーを含む、請求項88又は90に記載の方法。
【請求項92】
前記エンハンサーは、表7から選択されるエンハンサーの3つのコピーを含む、請求項89又は90に記載の方法。
【請求項93】
前記発現調節エレメント(EME)は、表6から選択される発現調節エレメント(EME)の3つのコピーを含み、前記エンハンサーは、表7から選択されるエンハンサーの3つのコピーを含む、請求項90に記載の方法。
【請求項94】
前記発現調節エレメント(EME)は、表6から選択される発現調節エレメント(EME)の3つのコピーを含み、前記エンハンサーは、表7から選択されるエンハンサーの3つのコピーを含む、請求項90に記載の方法。
【請求項95】
前記発現調節エレメント(EME)の前記3つのコピーは、表6から選択される同じ発現調節エレメント(EME)であるか、又は表から選択される異なる発現調節エレメント(EME)である、請求項91又は93に記載の方法。
【請求項96】
前記エンハンサーの前記3つのコピーは、表7から選択される同じエンハンサーであるか、又は表7から選択される異なるエンハンサーである、請求項92又は93に記載の方法。
【請求項97】
前記発現調節エレメント(EME)の前記3つのコピーは、表6から選択される同じ発現調節エレメント(EME)であるか、又は表6から選択される異なる発現調節エレメント(EME)であり、且つ前記エンハンサーの前記3つのコピーは、表7から選択される同じエンハンサーであるか、又は表7から選択される異なるエンハンサーである、請求項94に記載の方法。
【請求項98】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、LEC1遺伝子に作動可能に連結されたユビキチンプロモーターをさらに含む、請求項87に記載の方法。
【請求項99】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、LEC1遺伝子に作動可能に連結されたPLTPプロモーターをさらに含む、請求項87に記載の方法。
【請求項100】
機能的WUS/WOXポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、T2AウイルスペプチドLEC1遺伝子融合体に融合されている、請求項87に記載の方法。
【請求項101】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、ウイルス又は植物エンハンサー配列をさらに含む、請求項87に記載の方法。
【請求項102】
機能的WUS/WOXポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、T2AウイルスペプチドBBM遺伝子融合体に融合されている、請求項87に記載の方法。
【請求項103】
機能的WUS/WOXポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、T2AウイルスペプチドRepA遺伝子融合体に融合されている、請求項87に記載の方法。
【請求項104】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、PKLamiRNA融合体に作動可能に連結されたPLTPプロモーターをさらに含む、請求項87に記載の方法。
【請求項105】
前記再生されたトランスジェニック倍加一倍体植物を、所望の遺伝子型/表現型を含む植物と交雑させる工程;及び
前記所望の遺伝子型/表現型を有する子孫を成長させる工程
をさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項106】
請求項105に記載の植物種子、及びそれから生じる子孫。
【請求項107】
請求項47又は105に記載の植物種子、及びそれから生じる子孫、並びに所望の遺伝子型/表現型を含む植物との請求項47又は105に記載の再生トランスジェニック植物の交雑に由来する植物種子、及びそれから生じる子孫。
【請求項108】
減数分裂の生成物から生じる遺伝子組換え植物を作製する方法であって、
体細胞胚形成を誘導する形態形成遺伝子発現カセットを二親性交雑から生じる2n胚に提供する工程;
前記2n胚を体細胞胚形成の誘導前、誘導中、又は誘導後の条件に曝露し、それによって前記2n胚の細胞運命を変化させて、前記2n胚の減数分裂への移行を可能にし、それによって1n胚を発生させる工程;
形態形成遺伝子発現カセットを含まない1n胚を選択する工程;
前記1n胚を染色体倍加剤と、倍加1n胚を発生させるのに十分な期間、接触させる工程;及び
形態形成遺伝子発現カセットを含まない前記倍加1n胚から遺伝子組換え植物を再生させる工程
を含む方法。
【請求項109】
形態形成遺伝子発現カセットを含まない前記遺伝子組換え植物から種子又はその子孫を得る工程をさらに含む、請求項108に記載の方法。
【請求項110】
前記提供及び/又は暴露は、微粒子銃送達を含む、請求項108に記載の方法。
【請求項111】
前記微粒子銃送達は、前記2n胚を前記形態形成遺伝子発現カセットと減数分裂誘導発現カセットに同時に接触させることを含む、請求項110に記載の方法。
【請求項112】
前記微粒子銃送達は、前記2n胚を前記形態形成遺伝子発現カセットと減数分裂誘導発現カセットに順次接触させることを含む、請求項110に記載の方法。
【請求項113】
前記提供及び/又は曝露は、細菌媒介送達を含む、請求項108に記載の方法。
【請求項114】
前記細菌媒介送達は、前記2n胚を、第1の菌株中の前記形態形成遺伝子発現カセットを含むT-DNAと、第2の菌株中の減数分裂誘導発現カセットを含むT-DNAに、同時に接触させることを含む、請求項113に記載の方法。
【請求項115】
前記細菌媒介送達は、前記2n胚を、1つの菌株中の前記形態形成遺伝子発現カセットを含むT-DNAと減数分裂誘導発現カセットを含むT-DNAに接触させることを含む、請求項113に記載の方法。
【請求項116】
前記形態形成遺伝子発現カセットは、
(i)機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;又は
(ii)ベビーブーム(BBM)ポリペプチド若しくは胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;又は
(iii)(i)及び(ii)の組み合わせ
を含む、請求項108~115のいずれか一項に記載の方法。
【請求項117】
前記機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、WUS1、WUS2、WUS3、WOX2A、WOX4、WOX5、及びWOX9から選択される、請求項116に記載の方法。
【請求項118】
前記ヌクレオチド配列は、前記ベビーブーム(BBM)ポリペプチド又は前記胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする、請求項116に記載の方法。
【請求項119】
前記ベビーブーム(BBM)ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、BBM2、BMN2及びBMN3から選択され、又は前記胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列はODP2である、請求項118に記載の方法。
【請求項120】
前記ヌクレオチド配列は、前記機能的WUS/WOXポリペプチド、及び前記ベビーブーム(BBM)ポリペプチド又は前記胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする、請求項116に記載の方法。
【請求項121】
前記機能的WUS/WOXポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、WUS1、WUS2、WUS3、WOX2A、WOX4、WOX5及びWOX9から選択され、前記ベビーブーム(BBM)ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、BBM2、BMN2及びBMN3から選択され、又は前記胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列は、ODP2である、請求項120に記載の方法。
【請求項122】
前記減数分裂誘導発現カセットは、DNAポリヌクレオチドから産生される1つ又は複数の遺伝子の産物、RNAポリヌクレオチドから産生される1つ又は複数の遺伝子の産物、タンパク質又はタンパク質複合体の一部としての1つ又は複数の遺伝子の産物、及びこれらの組み合わせを含む、請求項108~115のいずれか一項に記載の方法。
【請求項123】
前記1つ又は複数の遺伝子は、表19、表20、表21、及びこれらの組み合わせに列挙される配列のいずれかから選択される、請求項122に記載の方法。
【請求項124】
表19、表20、表21、及びこれらの組み合わせから選択される前記1つ又は複数の遺伝子は、サイクリンである、請求項123に記載の方法。
【請求項125】
前記サイクリンは、サイクリン依存性タンパク質セリン/トレオニンキナーゼ調節活性を有するサイクリンを含む、請求項124に記載の方法。
【請求項126】
前記サイクリンは、減数分裂進行中の前期Iにおけるシナプシス及び組換えを調節する、請求項124に記載の方法。
【請求項127】
表19、表20、表21、及びそれらの組み合わせに列挙される配列のいずれかは、減数分裂を刺激するように変異される、請求項122に記載の方法。
【請求項128】
前記細菌媒介送達は、リゾビウム目(Rhizobiales)菌株によって提供される、請求項113~115のいずれか一項に記載の方法。
【請求項129】
前記リゾビウム目(Rhizobiales)菌株は、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌、及びリゾビウム科(Rhizobiaceae)菌からなる群から選択される、請求項128に記載の方法。
【請求項130】
前記第1の菌株と前記第2の菌株は同じ菌株である、請求項128に記載の方法。
【請求項131】
前記同じ菌株は、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌、及びリゾビウム科(Rhizobiaceae)菌の群から選択される、請求項130に記載の方法。
【請求項132】
前記無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)は、AGL-1、EHA105、GV3101、LBA4404及びLBA4404 THY-の群から選択される、請求項131に記載の方法。
【請求項133】
前記オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌は表2から選択される、請求項132に記載の方法。
【請求項134】
前記リゾビウム科(Rhizobiaceae)菌は表3から選択される、請求項132に記載の方法。
【請求項135】
前記第1の菌株と前記第2の菌株は異なる菌株である、請求項128に記載の方法。
【請求項136】
前記異なる菌株は、
(i)無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)とオクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌;
(ii)無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)とリゾビウム科(Rhizobiaceae)菌;及び
(iii)リゾビウム科(Rhizobiaceae)菌とオクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌
から選択される、請求項135に記載の方法。
【請求項137】
前記無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)は、AGL-1、EHA105、GV3101、LBA4404及びLBA4404 THY-の群から選択される、請求項136に記載の方法。
【請求項138】
前記オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌は表2から選択される、請求項136に記載の方法。
【請求項139】
前記リゾビウム科(Rhizobiaceae)菌は表3から選択される、請求項136に記載の方法。
【請求項140】
前記第1の菌株と前記第2の菌株は50:50の比で存在する、請求項130~139のいずれか一項に記載の方法。
【請求項141】
前記第1の菌株と前記第2の菌株は75:25の比で存在する、請求項130~139のいずれか一項に記載の方法。
【請求項142】
前記第1の菌株と前記第2の菌株は90:10の比で存在する、請求項130~139のいずれか一項に記載の方法。
【請求項143】
前記第1の菌株と前記第2の菌株は95:5の比で存在する、請求項130~139のいずれか一項に記載の方法。
【請求項144】
前記第1の菌株と前記第2の菌株は99:1の比で存在する、請求項130~139のいずれか一項に記載の方法。
【請求項145】
前記曝露は、前記2n胚を低酸素環境に曝露すること、前記2n胚を還元剤に前記2n胚中の活性酸素種の量を低下させる濃度で曝露すること、及びこれらの組み合わせをさらに含む、請求項108及び110~115のいずれか一項に記載の方法。
【請求項146】
前記低酸素環境は酸素含有量が10%未満の環境を含む、請求項145に記載の方法。
【請求項147】
前記低酸素環境は酸素含有量が19.5パーセント未満の環境を含む、請求項145に記載の方法。
【請求項148】
前記低酸素環境は、前記2n胚をガスに曝露することによって作り出される、請求項147に記載の方法。
【請求項149】
前記低酸素環境は、酸素のパーセンテージに対して、非大気的パーセンテージの二酸化炭素及び窒素を使用して作り出される、請求項148に記載の方法。
【請求項150】
前記還元剤は、レドックス調節化合物を含む液体である、請求項145に記載の方法。
【請求項151】
前記レドックス調節化合物は、前記液体に溶解している、請求項150に記載の方法。
【請求項152】
前記レドックス調節化合物は固体形態であり、前記2n胚と接触させる、請求項150に記載の方法。
【請求項153】
前記レドックス調節化合物はヨウ化カリウム化合物を含む、請求項150に記載の方法。
【請求項154】
前記レドックス調節化合物はニトロプルシドナトリウム化合物を含む、請求項150に記載の方法。
【請求項155】
人工種子を作製する方法であって、
二親性交雑により生じる2n胚を、形態形成遺伝子発現カセットを含むT-DNAと接触させる工程;
形態形成遺伝子発現カセットを含まないクローン体細胞胚を採取する工程;
前記採取したクローン体細胞胚を処理して、形態形成遺伝子発現カセットを含む成熟胚を得る工程;及び
前記成熟胚を用いて人工種子を作出する工程
を含む方法。
【請求項156】
人工種子を作製する方法であって、
体細胞胚を形態形成遺伝子発現カセットを含むT-DNAと接触させる工程;
形態形成遺伝子発現カセットを含まないクローン体細胞胚を採取する工程;
前記クローン体細胞胚を処理して、成熟胚を得る工程;及び
前記成熟胚を使用して人工種子を作出する工程
を含む方法。
【請求項157】
前記2n胚又は前記体細胞胚は、F1ハイブリッド、又は二親性交雑から生じたBC1である、請求項155又は156に記載の方法。
【請求項158】
前記人工種子は、クローン植物を生成するために使用される、請求項155~157のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、植物組織培養法を含む、植物分子生物学の分野に関する。より具体的には、本開示は植物育種に有用な不応性植物種のクローン一倍体植物増殖及びマイクロプロパゲーションの迅速で非常に効率的な方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年3月11日に出願された米国仮特許出願第62/816,580号明細書に基づく優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
EFS-WEB経由のテキストファイルとして提出された配列表の参照
配列表の正式な写しは、2020年3月9日に作成したファイル名8041-WO-PCT_ST25の、1,342,139バイトのサイズを有するASCIIフォーマット配列表として、EFS-Webを介して電子的に提出され、本明細書と同時に提出される。このASCIIフォーマットの文書に含まれる配列表は、本明細書の一部であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
植物育種プログラムは、所望の特性を有する個体を同定するために多数の植物をスクリーニングすることによって、新しい栽培品種を同定する。一般的には、交雑種からの多数の子孫を、理想的には複数の年及び環境にわたって栽培し、評価して、最も望ましい特性を有する植物を選択する。
【0005】
代表的な育種法は2つの親植物を交雑させるが、この雑種第1代(F1ハイブリッド)は、最初の雑種世代である。市販のF1ハイブリッドにおける雑種強勢は、異なるヘテロ強勢群からの2つの親株(一般的には近交系)が交雑されたときに観察される。雑種強勢は、すなわちその親の遺伝的寄与を組み合わせた後に生じる任意の生物学的品質の改善又は増加した機能は、商業的なトウモロコシの種子生産に重要であり、これらの商業的な雑種性能の改善は、新しい近交系親株の継続的な開発を必要とする。
【0006】
トウモロコシ近交系開発法は、母性(雌性発生(gynogenic))倍加一倍体生産を用い、いわゆる「一倍体誘導体」系統から花粉を受精させた第一世代交配から生じた植物の穂の受精に続いて母性一倍体胚を選択する。一倍体誘導体系統の花粉で雌花を受粉させると、母性ゲノムと父性ゲノムの両方のコピーを受け継ぐのとは対照的に、一倍体母性ゲノムのみを含む胚珠レベルの上昇をもたらし、母性一倍体胚が生じる。雌花の中の胚珠は減数分裂の産物であり、各母性胚珠は独特の減数分裂組換え一倍体ゲノムであり、それにより母性の倍加一倍体組換え体集団を迅速に生成することを可能にする染色体倍加処理を含むインビトロ組織培養法を用いて、未成熟母性一倍体胚を単離し、処理することを可能にする。トウモロコシ一倍体誘導体系統からの花粉で標的植物を受精させて生じる多くのトウモロコシ母性一倍体胚は、稔性の倍加一倍体植物体に再生できず、インビトロ組織培養及び小植物体再生法では1つの一倍体胚から複数の稔性植物体を増殖させることはできない。したがって、トウモロコシの母性配偶子倍加一倍体に適用可能な、倍加一倍体植物を生産する方法を改良する必要がある。
【0007】
大部分のトウモロコシ近交系は、父性(アンドロゲン性)配偶子倍加一倍体を作出するための小胞子単離、インビトロ組織培養、小植物体再生法に不応性である。したがって、トウモロコシの父性配偶子倍加一倍体に適用可能な、倍加一倍体植物を生産する方法が必要である。
【0008】
細胞質雄性不稔(CMS)雌系統は形質移入過程で生産され、これは手受粉を必要とし、しばしば低い種子量をもたらす。低種子セットのこの限界は、冬小麦では春化の必要性によってその度が増し、プロセスを1年当たり1サイクルに制限する。加速された増殖はこのプロセスをスピードアップし、商品の市場へ出る時間及びコストを減少させる。
【0009】
したがって、植物育種家は、広範な受粉制御法を必要としない、又は自家受精系統を同質遺伝子型の状態に増殖させるのに要する長時間を必要としない、非組換え及び組換え近交系の集団を開発する方法から恩恵を受けるであろう。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、作物育種プログラムにおいて有用な1n及び2n細胞並びに植物に対する方法及び組成物を含む。さらなる態様では、本開示は、本明細書に開示した方法によって生産される植物の種子を提供する。
【0011】
本開示は、第1の植物細胞に形態形成遺伝子発現カセットを提供する工程、第2の植物細胞の成長応答を誘発する工程(ここで、第2の植物細胞は形態形成遺伝子発現カセットを含まない)、及び第2の植物細胞からクローン植物を再生する工程を含む、クローン植物の作製方法を提供する。さらなる態様では、第1の植物細胞は、1n細胞に由来する細胞である。さらなる態様では、1n細胞は小胞子である。一態様では、1n細胞は胚である。さらなる態様では、第1の植物細胞は接合胚である。さらなる態様では、第1の植物細胞は2n胚である。さらなる態様では、第1の植物細胞への提供は、形態形成遺伝子発現カセットの微粒子銃送達を含む。さらなる態様では、第1の植物細胞への提供は、形態形成遺伝子発現カセットの細菌媒介送達を含む。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、(i)機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;(ii)ベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチド又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;(iii)(i)及び(ii)の組み合わせを含む。さらなる態様では、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、WUS1、WUS2、WUS3、WOX2A、WOX4、WOX5、及びWOX9からなる群から選択される。さらなる態様では、ヌクレオチド配列は、ベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチド又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする。さらなる態様では、ベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、BBM2、BMN2及びBMN3からなる群から選択され、又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、ODP2である。さらなる態様では、ヌクレオチド配列は、機能的WUS/WOXポリペプチド、及びベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチド又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする。さらなる態様では、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、WUS1、WUS2、WUS3、WOX2A、WOX4、WOX5及びWOX9からなる群から選択され、ベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、BBM2、BMN2及びBMN3からなる群から選択され、又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、ODP2である。さらなる態様では、細菌媒介送達は、リゾビウム目(Rhizobiales)菌株によって提供される。さらなる態様では、リゾビウム目(Rhizobiales)菌株は、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌、及びリゾビウム科(Rhizobiaceae)菌からなる群から選択される。さらなる態様では、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)は、AGL-1、EHA105、GV3101、LBA4404及びLBA4404 THY-の群から選択される。さらなる態様では、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌は表2から選択される。さらなる態様では、リゾビウム科(Rhizobiaceae)菌は表3から選択される。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、表4又は表5から選択されるプロモーターをさらに含む。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたPLTPプロモーターを含む。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、表6から選択される発現調節エレメント(EME)をさらに含む。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、表7から選択されるエンハンサーをさらに含む。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、表6から選択される発現調節エレメント(EME)及び表7から選択されるエンハンサーをさらに含む。さらなる態様では、発現調節エレメント(EME)は、表6から選択される発現調節エレメント(EME)の3つのコピーを含む。さらなる態様では、エンハンサーは、表7から選択されるエンハンサーの3つのコピーを含む。さらなる態様では、発現調節エレメント(EME)は、表6から選択される発現調節エレメント(EME)の3つのコピーを含み、エンハンサーは、表7から選択されるエンハンサーの3つのコピーを含む。さらなる態様では、発現調節エレメント(EME)の3つのコピーは、表6から選択される同一の発現調節エレメント(EME)であるか、又は表から選択される異なる発現調節エレメント(EME)である。さらなる態様では、エンハンサーの3つのコピーは、表7から選択される同一のエンハンサーであるか、又は表7から選択される異なるエンハンサーである。さらなる態様では、発現調節エレメント(EME)の3つのコピーは、表6から選択される同じ発現調節エレメント(EME)であるか、又は表6から選択される異なる発現調節エレメント(EME)であり、且つエンハンサーの3つのコピーは、表7から選択される同じエンハンサーであるか、又は表7から選択される異なるエンハンサーである。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、LEC1遺伝子に作動可能に連結されたユビキチンプロモーターをさらに含む。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、LEC1遺伝子に作動可能に連結されたPLTPプロモーターをさらに含む。さらなる態様では、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、T2AウイルスペプチドLEC1遺伝子融合体に融合されている。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、ウイルス又は植物エンハンサー配列をさらに含む。さらなる態様では、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、T2AウイルスペプチドBBM遺伝子融合体に融合されている。さらなる態様では、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、T2AウイルスペプチドRepA遺伝子融合体に融合されている。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、PKLamiRNA融合体に作動可能に連結されたPLTPプロモーターをさらに含む。さらなる態様では、本方法は、第2の植物細胞を染色体倍加剤と接触させ、倍加一倍体植物を再生する工程をさらに含む。さらなる態様では、本方法は、再生されたクローン植物を、所望の遺伝子型/表現型を含む植物と交雑させる工程、及び所望の遺伝子型/表現型を有する子孫を成長させる工程をさらに含む。さらなる態様では、所望の遺伝子型/表現型を有する植物種子、及びそれから生じる子孫が提供される。さらなる態様では、植物種子、及びそれから生じる子孫、並びに所望の遺伝子型/表現型を含む植物との再生クローン植物の交雑に由来する植物種子、及びそれから生じる子孫が提供される。さらなる態様では、本方法は、第2の植物細胞又は第2の植物細胞に由来する細胞を特徴付ける工程;特徴付けられた第2の植物細胞又は特徴付けられた第2の植物細胞に由来する細胞のゲノムデータに基づいて生物学的モデルを使用して表現型性能を予測し、その予測された表現型性能に基づいて第2の植物細胞又は第2の植物細胞に由来する細胞を選択する工程;及び選択された第2の植物細胞又は選択された第2の植物細胞に由来する細胞に由来するクローン植物を再生する工程をさらに含む。さらなる態様では、特徴付けは、第2の植物細胞又は第2の植物細胞由来の細胞から単離されたDNAの遺伝子型の同定;第2の植物細胞又は第2の植物細胞由来の細胞から単離されたRNA転写産物の測定;第2の植物細胞又は第2の植物細胞由来の細胞から単離されたクロマチンのヌクレオソーム量又は密度の測定;第2の植物細胞又は第2の植物細胞由来の細胞から単離されたクロマチンのヒストンタンパク質の翻訳後改変の測定;第2の植物細胞又は第2の植物細胞由来の細胞から単離されたDNA又はRNAのエピジェネティック改変の測定;第2の植物細胞又は第2の植物細胞に由来する細胞から単離されたクロマチンのタンパク質:DNA相互作用の測定:第2の植物細胞又は第2の植物細胞に由来する細胞から単離されたタンパク質:RNA複合体の相互作用の測定、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。さらなる態様では、表現型性能の予測は、第2の植物細胞又は第2の植物細胞に由来する細胞のDNAシーケンシングによる遺伝子型の同定に基づくゲノムデータの使用;第2の植物細胞又は第2の植物細胞に由来する細胞のアッセイによる遺伝子型の同定に基づくゲノムデータの使用;第2の植物細胞又は第2の植物細胞に由来する細胞の既知の又は予測される発現状態に基づくゲノムデータの使用;第2の植物細胞又は第2の植物細胞に由来する細胞の既知の又は予測されるクロマチン状態に基づくゲノムデータの使用;第2の植物細胞又は第2の植物細胞に由来する細胞の既知の又は予測されるエピジェネティック調節状態に基づくゲノムデータの使用;第2の植物細胞又は第2の植物細胞に由来する細胞の共有された一倍体ゲノムデータの及び/或いは第2の植物細胞又は第2の植物細胞に由来する細胞の系統履歴データの遺伝型インピュテーションの使用;並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される。さらなる態様では、第2の植物細胞又は第2の植物細胞に由来する細胞は、カルス、未分化のカルス、未成熟の胚、成熟胚、未成熟の接合胚、未成熟の子葉、胚軸、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉、葉細胞、根細胞、師部細胞、花粉、種子、懸濁培養物、外植体、胚、接合胚、体細胞胚、胚形成カルス、分裂組織、体細胞分裂組織、器官形成カルス、成熟した穂由来の種子に由来する胚、葉基、成熟植物の葉、葉の先端、未成熟の花序、房、未成熟の穂、絹糸、子葉、分裂組織領域、葉からの細胞、茎からの細胞、根からの細胞、シュートからの細胞、配偶体、胞子体、小胞子、多細胞構造(MCS)、胚様構造、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。さらなる態様では、再生されたクローン植物の植物種子、及び再生されたクローン植物を別の植物と交雑させ、1つ以上の所望の形質を有する交雑種の子孫を成長させて得られる植物種子又は子孫が提供される。
【0012】
本開示は、形質遺伝子発現カセットの1コピーを有するトランスジェニック植物を作製する方法であって、形質遺伝子発現カセット及び形態形成遺伝子発現カセットを一倍体胚又は胚様構造に提供する工程、形質遺伝子発現カセットを含み、形態形成遺伝子発現カセットを含まない、一倍体胚又は一倍体胚様構造を選択する工程、選択された一倍体胚又は選択された一倍体胚様構造を、倍加一倍体胚又は倍加一倍体胚様構造を生成するのに十分な期間、染色体倍加剤と接触させる工程、及び形質遺伝子発現カセットを含み、形態形成遺伝子発現カセットを含まない、選択された倍加一倍体胚又は選択された倍加一倍体胚様構造からトランスジェニック植物を再生する工程を含む方法を提供する。さらなる態様では、一倍体胚又は胚様構造への提供は、形質遺伝子発現カセット及び形態形成遺伝子発現カセットの微粒子銃送達を含む。さらなる態様では、一倍体胚又は胚様構造への提供は、一倍体胚又は胚様構造を、形質遺伝子発現カセット及び形態形成遺伝子発現カセットと同時に接触させることを含む。さらなる態様では、一倍体胚又は胚様構造への提供は、一倍体胚又は胚様構造を、形質遺伝子発現カセット及び形態形成遺伝子発現カセットと順次接触させることを含む。さらなる態様では、一倍体胚又は胚様構造への提供は、形質遺伝子発現カセット及び形態形成遺伝子発現カセットの細菌媒介送達を含む。さらなる態様では、細菌媒介送達は、一倍体胚又は胚様構造を、第1菌株における形質遺伝子発現カセットを含むT-DNA及び第2菌株における形態形成遺伝子発現カセットを含むT-DNAと同時に接触させることを含む。さらなる態様では、細菌媒介送達は、一倍体胚又は胚様構造を、1つの菌株における、形質遺伝子発現カセットを含むT-DNA及び形態形成遺伝子発現カセットを含むT-DNAと接触させることを含む。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、(i)機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;(ii)ベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチド又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;(iii)(i)及び(ii)の組み合わせを含む。さらなる態様では、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、WUS1、WUS2、WUS3、WOX2A、WOX4、WOX5、及びWOX9からなる群から選択される。さらなる態様では、ヌクレオチド配列は、ベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチド又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする。さらなる態様では、ベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、BBM2、BMN2及びBMN3からなる群から選択され、又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列はODP2である。さらなる態様では、ヌクレオチド配列は、機能的WUS/WOXポリペプチド、及びベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチド又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする。さらなる態様では、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、WUS1、WUS2、WUS3、WOX2A、WOX4、WOX5及びWOX9からなる群から選択され、ベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、BBM2、BMN2及びBMN3からなる群から選択され、又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、ODP2である。さらなる態様では、形質遺伝子発現カセットは、害虫耐性を付与する遺伝子、除草剤耐性を付与する遺伝子、ストレス耐性を付与する遺伝子、乾燥耐性を付与する遺伝子、窒素利用効率(NUE)を付与する遺伝子、病害耐性を付与する遺伝子、及び代謝経路を変化させる能力を付与する遺伝子からなる群から選択される形質遺伝子を含む。さらなる態様では、形質遺伝子発現カセットは、ベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチド又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含む。さらなる態様では、ベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、BBM2、BMN2及びBMN3からなる群から選択され、又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列はODP2である。さらなる態様では、形質遺伝子発現カセット又は形態形成遺伝子発現カセットは、部位特異的ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。さらなる態様では、部位特異的ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、TALEN、及びCRISPR-Casヌクレアーゼからなる群から選択される。さらなる態様では、CRISPR-Casヌクレアーゼは、Cas9又はCpflヌクレアーゼである。さらなる態様では、部位特異的ヌクレアーゼは、挿入、欠失、又は置換変異をもたらす。さらなる態様では、本方法は、形質遺伝子発現カセット又は形態形成遺伝子発現カセットから発現されるガイドRNAを提供する工程をさらに含む。さらなる態様では、ガイドRNA及びCRISPR-Casヌクレアーゼは、リボ核タンパク質複合体である。さらなる態様では、細菌媒介送達は、リゾビウム目(Rhizobiales)菌株によって提供される。さらなる態様では、リゾビウム目(Rhizobiales)菌株は、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌、及びリゾビウム科(Rhizobiaceae)菌からなる群から選択される。さらなる態様では、第1の菌株と第2の菌株は同じ菌株である。さらなる態様では、同じ菌株は、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌、及びリゾビウム科(Rhizobiaceae)菌の群から選択される。さらなる態様では、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)は、AGL-1、EHA105、GV3101、LBA4404及びLBA4404 THY-の群から選択される。さらなる態様では、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)細菌は表2から選択される。さらなる態様ではリゾビウム科(Rhizobiaceae)細菌は表3から選択される。さらなる態様では、第1の菌株と第2の菌株は異なる菌株である。さらなる態様では、異なる菌株は、(i)無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)とオクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌、(ii)無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)とリゾビウム科(Rhizobiaceae)菌、及び(iii)リゾビウム科(Rhizobiaceae)菌とオクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌から選択される。さらなる態様では、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)は、AGL-1、EHA105、GV3101、LBA4404及びLBA4404 THY-の群から選択される。さらなる態様では、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌は表2から選択される。さらなる態様では、リゾビウム科(Rhizobiaceae)菌は表3から選択される。さらなる態様では、第1の菌株と第2の菌株は50:50の比で存在する。さらなる態様では、第1の菌株と第2の菌株は75:25の比で存在する。さらなる態様では、第1の菌株と第2の菌株は90:10の比で存在する。さらなる態様では、第1の菌株と第2の菌株は95:5の比で存在する。さらなる態様では、第1の菌株と第2の菌株は99:1の比で存在する。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、表4又は表5から選択されるプロモーターをさらに含む。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたPLTPプロモーターを含む。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、表6から選択される発現調節エレメント(EME)をさらに含む。さらなる態様では形態形成遺伝子発現カセットは、表7から選択されるエンハンサーをさらに含む。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、表6から選択される発現調節エレメント(EME)及び表7から選択されるエンハンサーをさらに含む。さらなる態様では、発現調節エレメント(EME)は、表6から選択される3コピーの発現調節エレメント(EME)を含む。さらなる態様では、エンハンサーは、表7から選択される3コピーのエンハンサーを含む。さらなる態様では、発現調節エレメント(EME)は表6から選択される発現調節エレメント(EME)の3つのコピーを含み、エンハンサーは、表7から選択されるエンハンサーの3つのコピーを含む。さらなる態様では、発現調節エレメント(EME)は表6から選択される発現調節エレメント(EME)の3つのコピーを含み、エンハンサーは、表7から選択されるエンハンサーの3つのコピーを含む。さらなる態様では、発現調節エレメント(EME)の3つのコピーは、表6から選択される同一の発現調節エレメント(EME)であるか、又は表から選択される異なる発現調節エレメント(EME)である。さらなる態様では、エンハンサーの3つのコピーは、表7から選択される同一のエンハンサーであるか、又は表7から選択される異なるエンハンサーである。さらなる態様では、発現調節エレメント(EME)の3つのコピーは、表6から選択される同一の発現調節エレメント(EME)であるか、又は表6から選択される異なる発現調節エレメント(EME)であり、そしてエンハンサーの3つのコピーは、表7から選択される同一のエンハンサーであるか、又は表7から選択される異なるエンハンサーである。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、LEC1遺伝子に作動可能に連結されたユビキチンプロモーターをさらに含む。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、LEC1遺伝子に作動可能に連結されたPLTPプロモーターをさらに含む。さらなる態様では、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、T2AウイルスペプチドLEC1遺伝子融合体に融合される。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、ウイルス又は植物エンハンサー配列をさらに含む。さらなる態様では、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、T2AウイルスペプチドBBM遺伝子融合体に融合されている。さらなる態様では、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、T2AウイルスペプチドRepA遺伝子融合体に融合されている。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、PKLamiRNA融合体に作動可能に連結されたPLTPプロモーターをさらに含む。さらなる態様では、本方法は、再生されたトランスジェニック倍加一倍体植物を、所望の遺伝子型/表現型を含む植物と交雑させる工程、及び所望の遺伝子型/表現型を有する子孫を成長させる工程をさらに含む。さらなる態様では、所望の遺伝子型/表現型を有する植物種子及びそれに由来する子孫が提供される。さらなる態様では、植物種子、及びそれから生じる子孫、並びに所望の遺伝子型/表現型を含む植物との再生されたトランスジェニック植物の交雑に由来する植物種子、及びそれから生じる子孫が提供される。
【0013】
本開示は、減数分裂の生成物から生じる遺伝子組換え植物を作製する方法であって、体細胞胚形成を誘導する形態形成遺伝子発現カセットを二親性交雑から生じる2n胚に提供する工程;2n胚を体細胞胚形成の誘導前、誘導中、又は誘導後の条件に曝露し、それによって2n胚の細胞運命を変化させて、2n胚の減数分裂への移行を可能にし、それによって1n胚を発生させる工程;形態形成遺伝子発現カセットを含まない1n胚を選択する工程;1n胚を染色体倍加剤と、倍加1n胚を発生させるのに十分な期間、接触させる工程;及び形態形成遺伝子発現カセットを含まない倍加1n胚から遺伝子組換え植物を再生させる工程を含む方法を提供する。さらなる態様では、本方法は、形態形成遺伝子発現カセットを含まない遺伝子組換え植物から種子又はその子孫を得る工程をさらに含む。さらなる態様では、提供及び/又は暴露は、微粒子銃送達を含む。さらなる態様では、微粒子銃送達は、2n胚を形態形成遺伝子発現カセット及び減数分裂誘導発現カセットに同時に接触させることを含む。さらなる態様では、粒子銃送達は、2n胚を形態形成遺伝子発現カセット及び減数分裂誘導発現カセットに順次接触させることを含む。さらなる態様では、提供及び/又は曝露は、細菌媒介送達を含む。さらなる態様では、細菌媒介送達は、2n胚を、第1の菌株中の形態形成遺伝子発現カセットを含むT-DNAと、第2の菌株中の減数分裂誘導発現カセットを含むT-DNAに、同時に接触させることを含む。さらなる態様では、細菌媒介送達は、2n胚を、1つの菌株中の形態形成遺伝子発現カセットを含むT-DNAと減数分裂誘導発現カセットを含むT-DNAに接触させることを含む。さらなる態様では、形態形成遺伝子発現カセットは、(i)機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;(ii)ベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチド又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;(iii)(i)及び(ii)の組み合わせを含む。さらなる態様では、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、WUS1、WUS2、WUS3、WOX2A、WOX4、WOX5及びWOX9から選択される。さらなる態様では、ヌクレオチド配列は、ベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチド又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする。さらなる態様では、ベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、BBM2、BMN2及びBMN3から選択され、又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、ODP2である。さらなる態様では、ヌクレオチド配列は、機能的WUS/WOXポリペプチド、及びベビーブーム(Babyboom)(BBM)ポリペプチド又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードする。さらなる態様では、機能的WUS/WOXポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、WUS1、WUS2、WUS3、WOX2A、WOX4、WOX5及びWOX9から選択され、Babyboom(BBM)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、BBM2、BMN2及びBMN3から選択され、又は胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、ODP2である。さらなる態様では、減数分裂誘導発現カセットは、DNAポリヌクレオチドから産生される1つ又は複数の遺伝子の産物、RNAポリヌクレオチドから産生される1つ又は複数の遺伝子の産物、タンパク質又はタンパク質複合体の一部としての1つ又は複数の遺伝子の産物、及びこれらの組み合わせを含む。さらなる態様では、1つ又は複数の遺伝子は、表19、表20、表21、及びこれらの組み合わせに列挙される配列のいずれかから選択される。さらなる態様では、表19、表20、表21、及びこれらの組み合わせから選択される1つ又は複数の遺伝子は、サイクリンである。さらなる態様では、サイクリンは、サイクリン依存性タンパク質セリン/トレオニンキナーゼ調節活性を有するサイクリンを含む。さらなる態様では、サイクリンは、減数分裂進行中の前期Iにおけるシナプシス及び組換えを調節する。さらなる態様では、表19、表20、表21、及びそれらの組み合わせに列挙される配列のいずれかは、減数分裂を刺激するように変異される。さらなる態様では、細菌媒介送達は、リゾビウム目(Rhizobiales)菌株によって提供される。さらなる態様では、リゾビウム目(Rhizobiales)菌株は、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌、及びリゾビウム科(Rhizobiaceae)菌からなる群から選択される。さらなる態様では、第1の菌株と第2の菌株は同じ菌株である。さらなる態様では、同じ菌株は、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌、及びリゾビウム科(Rhizobiaceae)菌の群から選択される。さらなる態様では、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)は、AGL-1、EHA105、GV3101、LBA4404及びLBA4404 THY-の群から選択される。さらなる態様では、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌は表2から選択される。さらなる態様では、リゾビウム科(Rhizobiaceae)菌は表3から選択される。さらなる態様では、第1の菌株と第2の菌株は異なる菌株である。さらなる態様では、異なる菌株は、(i)無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)とオクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌、(ii)無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)とリゾビウム科(Rhizobiaceae)菌、及び(iii)リゾビウム科(Rhizobiaceae)菌とオクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌から選択される。さらなる態様では、無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)は、AGL-1、EHA105、GV3101、LBA4404及びLBA4404 THY-の群から選択される。さらなる態様では、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)菌は表2から選択される。さらなる態様では、リゾビウム科(Rhizobiaceae)菌は表3から選択される。さらなる態様では、第1の菌株と第2の菌株は50:50の比で存在する。さらなる態様では、第1の菌株と第2の菌株は75:25の比で存在する。さらなる態様では、第1の菌株と第2の菌株は90:10の比で存在する。さらなる態様では、第1の菌株と第2の菌株は95:5の比で存在する。さらなる態様では、第1の菌株と第2の菌株は99:1の比で存在する。さらなる態様では、曝露は、2n胚を低酸素環境に曝露すること、2n胚を還元剤に2n胚中の活性酸素種の量を低下させる濃度で曝露すること、及びこれらの組み合わせをさらに含む。さらなる態様では、低酸素環境は酸素含有量が10%未満の環境を含む。さらなる態様では、低酸素環境は酸素含有量が19.5パーセント未満の環境を含む。さらなる態様では、低酸素環境は、2n胚をガスに曝露することによって作り出される。さらなる態様では、低酸素環境は、酸素のパーセンテージに対して、非大気的パーセンテージの二酸化炭素及び窒素を使用して作り出される。さらなる態様では、還元剤は、レドックス調節化合物を含む液体である。さらなる態様では、レドックス調節化合物は、液体に溶解している。さらなる態様では、レドックス調節化合物は固体形態であり、これは2n胚と接触させる。さらなる態様では、レドックス調節化合物はヨウ化カリウム化合物を含む。さらなる態様において、レドックス調節化合物はニトロプルシドナトリウム化合物を含む。
【0014】
本開示は、人工種子を作製する方法であって、二親性交雑により生じる2n胚を、形態形成遺伝子発現カセットを含むT-DNAと接触させる工程、形態形成遺伝子発現カセットを含まないクローン体細胞胚を採取する工程、採取したクローン体細胞胚を処理して形態形成遺伝子発現カセットを含む成熟胚を得る工程、及び成熟胚を用いて人工種子を作出する工程を含む方法を提供する。
【0015】
本開示は、人工種子を作製する方法であって、体細胞胚を形態形成遺伝子発現カセットを含むT-DNAと接触させる工程、形態形成遺伝子発現カセットを含まないクローン体細胞胚を採取する工程、クローン体細胞胚を処理して、成熟胚を得る工程、及び成熟胚を使用して人工種子を作出する工程を含む方法を提供する。
【0016】
さらなる態様では、2n胚又は体細胞胚は、F1ハイブリッド、又は二親性交雑から生じたBC1である。さらなる態様では、人工種子は、クローン植物を生成するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例5に記載のRV020636(配列番号186)プラスミドの使用に応答した、一倍体胚毎の再生植物のヒストグラム分布を示す。
【
図2A】
図2:
図2は、実施例7に記載の遺伝子推定育種価(GEBV)のヒストグラム分布を示す。推定育種価(x軸)に対応するDH系統数(y軸)のヒストグラム分布は、穀粒水分(
図2A)、穀粒収量(
図2B)、植物丈(
図2C)及び穂の長さ(
図2D)の表現型予測を示す。
【
図3】
図3は、T-DNAを有しないアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後の、出発胚(y軸)1個当たり回収された野生型コムギR0植物の数(x軸)を示す。合計26個の未成熟胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させ、7個のシュートの累積生産を行い、27%の増殖頻度を得た。
【
図4】
図4は、3XENH::PLTP::WUS2を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後の、出発胚(y軸)1個当たり回収された野生型コムギR0植物の数(x軸)を示す。合計35個の未成熟胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させ、182個のシュートの累積生産を行い、520%の増殖頻度を得た。
【
図5】
図5は、PLTP::ODP2を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後の、出発胚(y軸)1個当たり回収された野生型コムギR0植物の数(x軸)を示す。合計38個の未成熟胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させ、43個のシュートの累積生産を行い、113%の増殖頻度を得た。
【
図6】
図6は、3XENH::PLTP::WUS2+PLTP::ODP2を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後の、出発胚(y軸)1個当たり回収された野生型コムギR0植物の数(x軸)を示す。合計38個の未成熟胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させ、168個のシュートの累積生産を行い、442%の増殖頻度を得た。
【
図7】
図7は、T-DNAを有しないアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後の、出発胚(y軸)1個当たり回収された野生型ソルガムR0植物の数(x軸)を示す。合計56個の未成熟胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させ、102個のシュートの累積生産を行い、182%の増殖頻度を得た。
【
図8】
図8は、3XENH::PLTP::WUS2を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後の、出発胚(y軸)1個当たり回収された野生型ソルガムR0植物の数(x軸)を示す。合計33個の未成熟胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させ、103個のシュートの累積生産を行い、312%の増殖頻度を得た。
【
図9】
図9は、PLTP::ODP2を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後の、出発胚(y軸)1個当たり回収された野生型ソルガムR0植物の数(x軸)を示す。合計75個の未成熟胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させ、187個のシュートの累積生産を行い、249%の増殖頻度を得た。
【
図10】
図10は、3XENH::PLTP::WUS2+PLTP::ODP2を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後の、出発胚(y軸)1個当たり回収された野生型ソルガムR0植物の数(x軸)を示す。合計66個の未成熟胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させ、217個のシュートの累積生産を行い、329%の増殖頻度を得た。
【
図11】
図11は、T-DNAを有しないアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後の、出発胚(y軸)1個当たり回収された野生型トウモロコシR0植物の数(x軸)を示す。合計50個の未成熟胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させ、13個のシュートの累積生産を行い、26%の増殖頻度を得た。
【
図12】
図12は、3XENH::PLTP::WUS2を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後の、出発胚(y軸)1個当たり回収された野生型トウモロコシR0植物の数(x軸)を示す。合計50個の未成熟胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させ、77個のシュートの累積生産を行い、154%の増殖頻度を得た。
【
図13】
図13は、PLTP::ODP2を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後の、出発胚(y軸)1個当たり回収された野生型トウモロコシR0植物の数(x軸)を示す。合計50個の未成熟胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させ、13個のシュートの累積生産を行い、26%の増殖頻度を得た。
【
図14】
図14は、3XENH::PLTP::WUS2+PLTP::ODP2を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後の、出発胚(y軸)1個当たり回収された野生型トウモロコシR0植物の数(x軸)を示す。合計50個の未成熟胚にアグロバクテリウム(Agrobacterium)を感染させ、109個のシュートの累積生産を行い、218%の増殖頻度を得た。
【発明を実施するための形態】
【0018】
下記で、添付の図面を参照しながら本明細書中の開示をより詳しく説明するが、図面は可能な態様のいくつかを示すものであって全部ではない。実際、開示は、多くの異なる形態で具体化可能であり得、本明細書中で記載された態様に限定されると解釈すべきではなく、むしろ、これらの態様は、本開示が適用法的要件を満たすために提供されるものである。
【0019】
本明細書で開示されている多くの変更及び他の態様は、本開示の方法が関連する技術分野の当業者であって、以下の説明及び添付の図面に提示された教示を利用できる者であれば、思い付くであろう。したがって、本開示が、開示された特定の態様に限定されるべきではないこと、並びに変更及び他の態様が添付の特許請求の範囲に含まれることが意図されていることを理解しなければならない。本明細書中では特定の用語が使用されるが、それらは、一般的な且つ記述的な意味でのみ使用されるものであって、限定を目的として使用されるものではない。
【0020】
本明細書で使用される専門用語は、特定の態様を説明するという目的のためのものであるにすぎず、限定的であることは意図されていない。本明細書及び特許請求の範囲で使用する用語「~を含む(comprising)」には、「~からなる(consisting of)」態様が含まれ得る。別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示の方法が属する技術分野の当業者により一般に理解されるのと同一の意味を有する。この後に続く本明細書及び特許請求の範囲においては、本明細書で定義される多くの用語について言及するであろう。
【0021】
本開示は、形態形成遺伝子を使用して非トランスジェニック及びトランスジェニック植物を生産する方法を含む。本開示は、形態形成遺伝子を用い、野生型細胞中で体細胞胚形成を迅速に誘導することにより、非トランスジェニック植物を生産する方法を提供する。これらの方法は、植物育種プログラム、特に作物植物において有用である。例えば、トウモロコシでは本開示の方法は、特にサンプリングされた一倍体胚1個当たりの一倍体植物の再生を改善することによって、トウモロコシの母性倍加一倍体システムの生産性を改善する。生産過程を通しての損失のため、圃場条件下での一倍体誘導生産性は、生産された倍加一倍体1系統当たり平均14個の一倍体胚を必要とする。本開示は、一つの一倍体胚から複数のクローン一倍体植物を生産することによって生産性を高める方法を提供する。
【0022】
本開示の方法は、細胞がインビトロで培養されている間に、一倍体植物細胞の早期遺伝子型を同定することに適合しており、それによって、各植物細胞遺伝子型について、表現型性能を予測するために使用されるこれらの遺伝子型決定技術のデータアウトプットを可能にする。この予測選択は、現在の育種法に比べて遺伝子獲得の速度を加速することが期待されるような仕方で、望ましい遺伝子推定育種価を有する個体から構成される倍加一倍体(DH)集団をデザインする能力を提供する。現在の技術水準は、減数分裂組換え体がランダムに選択されることと、優れた結果(これは、DH集団当たりに割り当てられた組換え体が比較的少数であることによって制約される)を回収する確率とによって制限される。本開示の方法は、より多くの減数分裂組換え体のスクリーニングを可能にし、所望の表現型/遺伝子型特性を有する候補の選択を容易にする、早期の遺伝子型の同定を可能にする。
【0023】
本開示の方法は、形態形成遺伝子を発現する形態形成遺伝子発現カセットで形質転換された植物細胞を提供し、それによって、発現された形態形成遺伝子ポリペプチドが、形質転換プロセスの間に形質転換されない細胞に作用することを可能にする。本開示の方法は、転座した形態形成遺伝子ポリペプチドの活性に応答して、野生型細胞における体細胞胚形成の迅速な誘導を提供する。複数の細胞において転座した形態形成遺伝子ポリペプチドの活性は、複数の体細胞胚の発生を刺激することができる。本開示の方法は、処理された外植片から複数のクローン胚を生成するために有用である。処理した外植片が母性の一倍体胚である場合、得られたクローン胚を染色体倍加剤と接触させて、母性一倍体胚1個当たり複数のクローン倍加一倍体植物体を作ることができる。
【0024】
本開示の方法は、一般的な一倍体胚に由来する2つの個々の植物の他家受精を行うことにより、植物育種の取り組みで使用される場合に生産性を改善する。これは、花の開発が2つのそれぞれの植物に移行した場合に特に有用であり、この場合1つの個体が花粉供与体として使用され、第2の個体が花粉受容体として使用され、それによって、クローン内での他家受精が可能になる。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「形態形成遺伝子」は、異所的に発現した場合に、植物を作製することができる体細胞から発生した構造体の形成を刺激する遺伝子を意味する。より正確には、形態形成遺伝子の異所性発現が、植物を作製することができる体細胞胚又はシュート分裂組織などの器官形成構造体のデノボ形成を刺激する。この刺激によるデノボ形成は、形態形成遺伝子が発現した細胞、又は隣接細胞で起こる。形態形成遺伝子は、他の遺伝子の発現を調節する転写因子、又は植物組織中のホルモン濃度に影響する遺伝子であり得、これらはいずれも形態形成変化を刺激することができる。本明細書中で使用される場合、用語「形態形成因子」は、形態形成遺伝子及び/又は形態形成遺伝子によって発現されるタンパク質を意味する。
【0026】
WUS/WOX遺伝子(WUS1、WUS2、WUS3、WOX2A、WOX4、WOX5、又はWOX9)などの形態形成遺伝子は、植物代謝、器官発生、幹細胞発生、細胞成長促進、器官形成、体細胞胚形成開始、体細胞胚成熟の促進、頂端分裂組織の分化及び/若しくは発達、シュート分裂組織の分化及び/若しくは発達、又はそれらの組み合わせに関係する。米国特許第7,348,468号明細書及び同第7,256,322号明細書、並びに米国特許出願公開第2017/0121722号明細書及び同第2007/0271628号明細書(これらの全体は、参照により本明細書に組み込まれる);Laux et al.(1996)Development 122:87-96;及びMayer et al.(1998)Cell 95:805-815;van der Graaff et al.,2009,Genome Biology 10:248;Dolzblasz et al.,2016,Mol.Plant 19:1028-39を参照されたい。WUS/WOXの調節は、植物代謝、器官発生、幹細胞発生、細胞成長促進、器官形成、体細胞胚形成開始、体細胞胚成熟の促進、頂端分裂組織の分化及び/若しくは発達、シュート分裂組織の分化及び/若しくは発達、又はそれらの組み合わせを含む植物及び/又は植物組織表現型を調節すると考えられる。アラビドプシス(Arabidopsis)WUSの発現は栄養組織に幹細胞を誘導することができ、これは体細胞胚に分化することができる(Zuo,et al.(2002)Plant J 30:349-359)。この点に関して、MYB118遺伝子(米国特許第7,148,402号明細書を参照)、MYB115遺伝子(Wang et al.(2008)Cell Research 224-235を参照)、ベビーブーム(BABYBOOM)遺伝子(BBM;Boutilier et al.(2002)Plant Cell 14:1737-1749を参照)、又はCLAVATA遺伝子(例えば、米国特許第7,179,963号明細書を参照)もまた興味深い。
【0027】
WUS/WOXホメオボックスポリペプチドの形態形成ポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、本開示の方法において有用である。本明細書で定義されるように、「機能的WUS/WOXヌクレオチド」はホメオボックスDNA結合ドメイン、WUSボックス、及びEARリプレッサードメインを含むタンパク質をコードする任意のポリヌクレオチドである(Ikeda et al.,2009 Plant Cell 21:3493-3505)。Rodriguez et al.,2016 PNAS www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1607673113によって示されるように、ホメオボックスDNA結合ドメイン、WUSボックス、及びEARリプレッサードメインの後に残る二量体化配列の除去は、機能的WUS/WOXポリペプチドを生じる。Wuschelタンパク質(以下、WUSという)は、多能性幹細胞プールを含む頂端分裂組織の分化及び維持に重要な役割を果たす(Endrizzi,et al.,(1996)Plant Journal 10:967-979;Laux,et al.,(1996)Development 122:87-96;及びMayer,et al.,(1998)Cell 95:805-815)。WUS遺伝子用のアラビドプシス(Arabidopsis)植物変異体は、特定されておらず、分化するように見える幹細胞を含む。WUSは、転写調節因子として機能すると推定される新規のホメオドメインタンパク質をコードする(Mayer,et al.,(1998)Cell95:805-815)。アラビドプシス(Arabidopsis)シュート分裂組織の幹細胞集団は、器官開始を促進するCLAVATA(CLV)遺伝子と幹細胞同一性に必要なWUS遺伝子との間の調節ループによって維持される(CLV遺伝子が転写レベルでWUSを抑制し、WUSが分裂組織細胞同一性と幹細胞マーカーCLV3の発現を十分に誘導し得るだけ発現する)と考えられている(Brand,et al.,(2000)Science 289:617-619;Schoof,et al.,(2000)Cell 100:635-644)。アラビドプシス(Arabidopsis)におけるWUSの構成的発現が葉からの不定のシュート増殖(植物内で)に導くことが示された(Laux,T.,the XVI International Botanical Congress Meeting),Aug.1-7,1999,St.Louis,Mo.での発表)。
【0028】
一態様では、本開示の方法に有用なWUS/WOXホメオボックスポリペプチドは、WUS1、WUS2、WUS3、WOX2A、WOX4、WOX5、WOX5A、又はWOX9ポリペプチドである(米国特許第7,348,468号明細書及び同第7,256,322号明細書、並びに米国特許出願公開第2017/0121722号明細書及び同第2007/0271628号明細書(これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、並びにvan der Graaff et al.,2009,Genome Biology 10:248を参照)。本開示の方法において有用なWUS/WOXホメオボックスポリペプチドは、本明細書に記載の植物のいずれかから得られるか、又はそれに由来し得る。本開示の方法に有用なさらなるWUS/WOX遺伝子を、以下の表1に列挙する。
【0029】
【0030】
本開示に有用な他の形態形成遺伝子としては、LEC1(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,825,397号明細書、Lotan et al.,1998,Cell 93:1195-1205)、LEC2(Stone et al.,2008,PNAS 105:3151-3156;Belide et al.,2013,Plant Cell Tiss.Organ Cult 113:543-553)、KN1/STM(Sinha et al.,1993.Genes Dev 7:787-795)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)由来のIPT遺伝子(Ebinuma and Komamine,2001,In vitro Cell.Dev Biol-Plant 37:103-113)、MONOPTEROS-DELTA(Ckurshumova et al.,2014,New Phytol.204:556-566)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)AV-6b遺伝子(Wabiko and Minemura 1996,Plant Physiol.112:939-951)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)IAA-h及びIAA-m遺伝子の組み合わせ(Endo et al.,2002,Plant Cell Rep.,20:923-928)、アラビドプシス(Arabidopsis)SERK遺伝子(Hecht et al.,2001,Plant Physiol.127:803-816)、アラビドプシス(Arabidopsis)AGL15遺伝子(Harding et al.,2003,Plant Physiol.133:653-663)、FUSCA遺伝子(Castle and Meinke,Plant Cell 6:25-41)、並びにPICKLE遺伝子(Ogas et al.,1999,PNAS 96:13839-13844)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「発現カセット」は、形質転換/トランスフェクトされた細胞における発現を制御する5’及び3’調節配列を含む、コード配列及び非コード配列からなるベクターDNAの個別の成分を意味する。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語「コード配列」は、タンパク質のアミノ酸をコードする開始コドン及び終止コドンを境界とするDNA配列の部分を意味する。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「非コード配列」は、メッセンジャーRNAを生成するために転写されるが、5’非翻訳領域、イントロン及び3’非翻訳領域などのタンパク質のアミノ酸をコードしないDNA配列の部分を意味する。非コード配列はまた、内因性遺伝子又は別の導入遺伝子の発現を下方制御することができる、マイクロRNA、干渉RNA又はRNAヘアピンなどのRNA分子を指し得る。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「調節配列」は、遺伝子の発現を増加又は減少させることができる核酸分子のセグメントを意味する。調節配列としては、プロモーター、ターミネーター、エンハンサーエレメント、サイレンシングエレメント、5’UTR及び3’UTR(非翻訳領域)が挙げられる。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「トランスファーカセット」は、右境界配列及び左境界配列が隣接する1つ又は複数の発現カセットを含むT-DNAを意味する。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「T-DNA」は、宿主植物細胞のゲノムに挿入されるTiプラスミドの一部を意味する。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「胚」は、胚及びその子孫、未成熟及び成熟胚、未成熟接合胚、接合胚、体細胞胚、胚形成カルス、及び成熟穂由来の種子に由来する胚を意味する。胚は、発芽して植物を形成することができる構造体である。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「1n細胞」は、単一セットの染色体、一般的には減数分裂の産物を含む細胞を意味する。1n細胞の例としては、精子細胞、卵細胞、又は、有糸分裂を通して配偶子に由来する組織(例えば、1n胚又は1n植物)などの配偶子が挙げられる。植物が通常二倍体で、配偶子が一倍体であるトウモロコシでは、このような配偶子由来の胚又は植物は、一倍体胚及び一倍体植物と呼ばれる。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「2n細胞」は、2組の染色体を含む細胞を意味する。2n細胞の例としては、接合子、接合子の有糸分裂から生じる胚、又は2n胚の発芽によって生成する植物が挙げられる。
【0040】
本明細書で使用される場合、用語「一倍体植物」又は「一倍体」は、単一組(ゲノム)の染色体を有し、一倍体植物の減少後の染色体数(n)が配偶子における染色体数と等しい植物を意味する。
【0041】
本明細書で使用される場合、用語「二倍体植物」は、の2組(ゲノム)の染色体を有する植物を意味し、染色体数(2n)は接合子中の染色体数と等しい。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「倍加一倍体」又は「倍加一倍体植物」又は「倍加一倍体細胞」は、一倍体セットの染色体の倍加によって発生するものを意味する。倍加一倍体植物から得られる植物又は種子で、何世代にもわたって自家受粉されるものは、依然倍加一倍体植物として同定されている。倍加一倍体植物はホモ接合植物と考えられる。植物は、植物の栄養部分全体が倍加染色体セットをもつ細胞から構成されていなくても、稔性があれば倍加一倍体と考えられる。例えば、植物がキメラであっても、生存可能な配偶子を含んでいれば、倍加一倍体植物であると考えられる。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「倍加一倍体胚」は、2組のホモ接合染色体を含有する1つ以上の細胞をもち、その後、倍加一倍体植物に成長することができる胚を意味する。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「クローン」は、遺伝的に、エピジェネティック的に、及び形態学的に同一である複数の増殖した植物細胞又は植物を意味する。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「配偶子」は、減数分裂から生じる精子細胞、卵細胞又は胚珠細胞などの1n生殖細胞を意味する。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「一倍体胚」は、配偶子由来の体細胞構造を意味する。
【0047】
本明細書で使用される場合、用語「体細胞構造」は、組織、器官又は生物を意味する。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「体細胞」は、配偶子ではない細胞である。体細胞、組織又は植物は、一倍体、二倍体、三倍体、四倍体、六倍体などであり得る。染色体の完全なセットは1n(一倍体)と呼ばれ、1組の染色体にみられる染色体の数を一倍体数(x)と呼ぶ。例えば、二倍体植物のトウモロコシでは2n=2x=20全染色体であるが、二倍体のイネ(Oryza sativa)では2n=2x=24全染色体である。バナナのような三倍体植物では、2n=3x=33全染色体である。六倍体のコムギ(トリーティクム・アエスティウム(Triticum aestivum))では、2n=6x=42である。倍数性レベルもまた、サトウキビ(Saccharum officinarum)などの同じ種内の品種間で変動することがあり、2n=10x=80染色体であるが、市販サトウキビ品種は100~130染色体の範囲である。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「葯」は、フィラメントに付着した小胞子嚢を含む雄蕊の一部を意味する。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「子房室」は、小型配偶体形成の間、雄性配偶子を含む葯内の区画を意味する。
【0051】
本明細書で使用される場合、用語「小型配偶体形成」は、本明細書中で「小胞子」と呼ばれる小型配偶体が花粉粒中でその発達の3細胞段階にまで成長する、植物生殖におけるプロセスを意味する。
【0052】
本明細書で使用される場合、用語「小胞子嚢(複数形はマイクロスポウランジア(microsporangia))」は、雄性配偶体を生成する胞子を生じる胞子嚢を意味する。ほとんどすべての陸上植物で、胞子嚢は減数分裂の場であり、遺伝的に異なる一倍体胞子を生成する。
【0053】
本明細書で使用される場合、用語「小胞子胚形成」は、小胞子を用いるアンドロゲン性胚形成の活性化を意味する。
【0054】
本明細書で使用される場合、用語「小胞子由来胚」又は「胚様体」又は「胚様構造」は、胚形成を受ける細胞運命及び細胞発達特性を有する小胞子に由来する1つ又は複数の細胞を意味する。
【0055】
本明細書で使用される場合、用語「アンドロゲン性」は、雄核発生の誘導、例えば、胚が一倍体又は二倍体細胞の父性染色体のみを含む単為生殖の誘導を意味する。
【0056】
本明細書で使用される場合、用語「接触する」、「~と接触する」、又は「~と接触している」は、「直接的接触」又は「間接的接触」を意味する。例えば、倍加剤を含む培地は一倍体細胞との「直接接触」を有してもよく、又は倍加剤を含む培地は、ろ紙、植物組織、又は他の細胞によって一倍体細胞から分離されてもよく、したがって、倍加剤は一倍体細胞との「間接接触」を有し、ろ紙、植物組織、又は他の細胞を通して一倍体細胞に移される。
【0057】
本明細書で使用される場合、用語「二親性交雑」は、子孫の第1世代及び/又はその後の任意の連続する世代を得るための、2つの遺伝的に異なる植物の他家受精である。本明細書で使用される場合、二親性交雑は子孫の任意の最終世代の子孫である子孫を含み、その親株の1つ又はその親に遺伝的に類似する個体に子孫を他家受精させて、「戻し交雑」及び/又はその後の任意の連続戻し交雑世代と呼ばれる親の遺伝的同一性により近い遺伝的同一性を有する子孫を得ることを含む。
【0058】
本明細書で使用される場合、用語「媒体」は、液体、気体、又は固体状態の化合物を含む。
【0059】
本明細書で使用される場合、用語「選択マーカー」は、形質転換/トランスフェクトされた細胞において発現した場合に、形質転換/トランスフェクトされていない細胞に対して毒性を示す抗生物質、除草剤及び他の化合物などの選択剤に対する耐性を付与する導入遺伝子を意味する。
【0060】
本明細書で使用される場合、用語「EAR」は、転写因子内の転写抑制シグナルとして作用する、LLxLxL、DNLxxP、LxLxPP、R/KLFGV、又はTLLLFRの一般的なコンセンサス配列を有する「エチレン応答エレメント結合因子関連両親媒性抑制モチーフ」を意味する。転写因子、dCAS9、又はLEXA(例として)などのDNA結合タンパク質にEAR型抑制エレメントを加えると、融合タンパク質に転写抑制機能が付与される(Kagale,S.,and Rozwadowski,K.2010.Plant Signaling and Behavior 5:691-694)。
【0061】
本明細書で使用される場合、用語「転写因子」は、プロモーターのDNA配列に結合し、発現を上方制御又は下方制御することによって、特異的遺伝子の転写速度を制御するタンパク質を意味する。形態形成遺伝子でもある転写因子の例としては、AP2/EREBPファミリー(例えば、BBM(ODP2))のメンバー、多血症及びアインテグメンタサブファミリー、LEC1及びHAP3などのCAATボックス結合タンパク質、並びにMYB、bHLH、NAC、MADS、bZIP及びWRKYファミリーのメンバーが挙げられる。
【0062】
胚珠発生タンパク質2(ODP2)ポリペプチド、及び関連ポリペプチド、例えばベビーブーム(Babyboom)(BBM)タンパク質ファミリータンパク質の形態形成ポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、本開示の方法において有用である。一態様では、2つのAP2-DNA結合ドメインを含むポリペプチドは、ODP2、BBM2、BMN2、又はBMN3ポリペプチドであり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2017/0121722号明細書を参照されたい。本開示の方法において有用なODP2ポリペプチドは、2つの予想されるAPETALA2(AP2)ドメインを含み、AP2タンパク質ファミリーのメンバーである(PFAMアクセッションPF00847)。推定転写因子のAP2ファミリーは、広範な発達プロセスを調節することがわかっており、ファミリーのメンバーは、AP2 DNA結合ドメインを有することを特徴としている。この保存コアはDNAに結合する両親媒性のアルファヘリックスを形成すると予想される。AP2ドメインは最初にAPETALA2、すなわち、分裂組織の決定、花器の特定、種皮の発達、及び花芽のホメオティック遺伝子の発現を調節するアラビドプシス(Arabidopsis)のタンパク質で確認された。今では、AP2ドメインは様々なタンパク質で見出されている。
【0063】
本開示の方法において有用なODP2ポリペプチドは、AP2ファミリーのいくつかのポリペプチドと相同性を共有する(例えば、米国特許第8420893号明細書の
図1を参照されたい(この文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれ、そこには2つのAP2ドメインを有する8種の他のタンパク質と共に、トウモロコシ及びイネのODP2ポリペプチドのアラインメントが示されている))。米国特許第8420893号明細書のアラインメントに示されている全タンパク質のコンセンサス配列もまた、その
図1に示されている。本開示の方法において有用な2つのAP2-DNA結合ドメインを含むポリペプチドは、本明細書中に記載される植物のいずれかから得られ得るか、又はそれに由来し得る。一態様では、本開示の方法において有用な2つのAP2-DNA結合ドメインを含むポリペプチドは、ODP2ポリペプチドである。一態様では、本開示の方法において有用な2つのAP2-DNA結合ドメインを含むポリペプチドは、BBM2ポリペプチドである。本開示の方法において有用なODP2ポリペプチド及びBBM2ポリペプチドは、本明細書に記載の植物のいずれかから得られ得るか、又はそれに由来し得る。
【0064】
形態形成遺伝子は、植物のゲノムに安定的に組み込まれることもあれば、一時的に発現されることもある。一態様では、形態形成遺伝子の発現が制御される。制御された発現は、特定の期間の形態形成遺伝子の間欠的な発現であり得る。或いは、形態形成遺伝子は一部の形質転換細胞においてのみ発現され、他の細胞においては発現されないことがあり得る。形態形成遺伝子の発現の制御は、以下の本明細書中に開示する様々な方法によって行うことができる。本開示の方法において有用な形態形成遺伝子は、本明細書に記載される任意の植物種から得られ得るか、又はそれに由来し得る。
【0065】
「植物」という用語は、全植物体、植物器官(例えば、葉、茎、根など)、植物組織、植物細胞、植物部分、種子、栄養繁殖体、胚、及びこれらの子孫を指す。植物細胞は、分化又は未分化であり得る(例えば、カルス、未分化カルス、未成熟胚及び成熟胚、未成熟接合胚、未成熟子葉、胚軸、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉、葉細胞、根細胞、師部細胞、及び花粉)。植物細胞としては、限定されないが、種子由来の細胞、懸濁培養物、外植片、未成熟胚、胚、接合胚、体細胞胚、胚発生カルス、分裂組織、体細胞分裂組織、器官形成カルス、プロトプラスト、成熟穂由来種子に由来する胚、葉基、成熟植物由来葉、葉頂、未成熟の花序、房、未成熟の穂、絹糸、子葉、成熟子葉、成長点領域、カルス組織、葉由来細胞、茎由来細胞、根由来細胞、シュート由来細胞、配偶体、胞子体、花粉、小胞子、多細胞構造(MCS)及び杯様構造からの細胞が挙げられる。植物部としては、以下に限定されないが、根、茎、シュート、葉、花粉、種子、腫瘍組織、及び様々な形態の培養細胞(例えば、単細胞、プロトプラスト、胚、及びカルス組織)を含む分化組織及び未分化組織が挙げられる。植物組織は、植物中に存在してもよいし、植物の器官、組織、又は細胞培養物に存在してもよい。穀粒は、種の栽培又は繁殖以外の目的で栽培業者が生産する成熟種子を意味することが意図されている。再生植物の子孫、改変体、及び変異体もまた、これらの子孫、改変体、及び変異体が導入ポリヌクレオチドを含むならば、本開示の範囲に含まれる。
【0066】
本開示は、以下に限定されないが、単子葉植物及び双子葉植物を含む任意の植物種の形質転換に使用され得る。単子葉植物として、以下に限定されないが、オオムギ、トウモロコシ(maize)(トウモロコシ(corn))、キビ(millet)(例えば、トウジンビエ(ペニセツム・グラウクム(Pennisetum glaucum))、キビ(proso millet)(パニクム・ミリアセウム(Panicum miliaceum))、アワ(セタリア・イタリカ(Setaria italica))、シコクビエ(エレウシネ・コラカナ(Eleusine coracana))、テフ(エラグロスティス・テフ(Eragrostis tef))、オートムギ、イネ、ライムギ、セタリア属(Setaria)種、ソルガム、ライコムギ、若しくはコムギ、又は葉及び茎作物、例えば、以下に限定されないが、竹、マラムグラス、牧草、アシ、ライグラス、サトウキビ;芝、観賞用草本、並びにスイッチグラス及び芝草などの他の草が挙げられる。或いは、本開示で使用される双子葉植物としては、以下に限定されないが、ケール、カリフラワー、ブロッコリー、カラシナ、キャベツ、エンドウ、クローバー、アルファルファ、ソラマメ、トマト、ラッカセイ、キャッサバ、ダイズ、キャノーラ、アルファルファ、ヒマワリ、ベニバナ、タバコ、アラビドプシス(Arabidopsis)、又はワタが挙げられる。
【0067】
目的の植物種の例として、以下に限定されないが、トウモロコシ(ゼア・マイズ(Zea mays))、ブラシカ属(Brassica)種(例えば、B.ナプス(B.napus)、B.ラパ(B.rapa)、B.ジュンセア(B.juncea))、特に、種子油源として有用なブラシカ属(Brassica)種、アルファルファ(メディカゴ・サティバ(Medicago sativa))、イネ(オリザ・サティバ(Oryza sativa))、ライムギ(セカレ・ケレアレ(Secale cereale))、ソルガム(ソルガム・ビコロール(Sorghum bicolor)、ソルガム・ブルガレ(Sorghum vulgare))、キビ(millet)(例えば、トウジンビエ(ペニセツム・グラウクム(Pennisetum glaucum))、キビ(proso millet)(パニクム・ミリアセウム(Panicum miliaceum))、アワ(セタリア・イタリカ(Setaria italica))、シコクビエ(エレウシネ・コラカナ(Eleusine coracana))、ヒマワリ(ヘリアンサス・アンヌス(Helianthus annuus))、ベニバナ(カルタムス・ティンクトリウス(Carthamus tinctorius))、コムギ(トリーティクム・アエスティウム(Triticum aestivum))、ダイズ(グリシン・マックス(Glycine max)、タバコ(ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum))、ジャガイモ(ソラヌム・ツベロスム(Solanum tuberosum))、ラッカセイ(アラキス・ヒポガエア(Arachis hypogaea))、ワタ(ゴシピウム・バルバデンセ(Gossypium barbadense)、ゴシピウム・ヒルスツム(Gossypium hirsutum))、サツマイモ(イポモエア・バタツス(Ipomoea batatus))、キャッサバ(マニホト・エスクレンタ(Manihot esculenta))、コーヒー(コフィア属(Coffea)種)、ココナツ(ココス・ヌシフェラ(Cocos nucifera))、パイナップル(アナナス・コモスス(Ananas comosus))、カンキツ樹(シトラス属(Citrus)種)、ココア(テオブロマ・カカオ(Theobroma cacao))、チャノキ(カメリア・シネンシス(Camellia sinensis))、バナナ(ムサ属(Musa)種)、アボカド(ペルセア・アメリカーナ(Persea americana))、イチジク(フィクス・カシカ(Ficus casica))、グアバ(プシディウム・グアジャバ(Psidium guajava))、マンゴー(マンギフェラ・インディカ(Mangifera indica))、オリーブ(オレア・エウロパエア(Olea europaea))、パパイア(カリカ・パパヤ(Carica papaya))、カシュー(アナカルジウム・オクシデンタレ(Anacardium occidentale))、マカダミア(マカダミア・インテグリフォリア(Macadamia integrifolia))、アーモンド(プルヌス・アミグダルス(Prunus amygdalus))、テンサイ(ベタ・ブルガリス(Beta vulgaris))、サトウキビ(サッカルム属(Saccharum)種)、カラスムギ、オオムギ、野菜、観賞植物、及び球果植物が挙げられる。
【0068】
特定の態様では、本開示の方法により形質転換される植物は、作物(例えば、トウモロコシ、アルファルファ、ヒマワリ、ブラシカ属(Brassica)、ダイズ、ワタ、ベニバナ、ラッカセイ、イネ、ソルガム、コムギ、キビ、タバコなど)である。特に目的とする植物としては、目的とする種子を提供する穀物植物、油糧種子植物及びマメ科植物が挙げられる。目的の種子として、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、イネ、ソルガム、ライムギなどの穀物の種子が挙げられる。油糧種子植物として、ワタ、ダイズ、ベニバナ、ヒマワリ、ブラシカ属(Brassica)、トウモロコシ、アルファルファ、パーム、ココナツなどが挙げられ、マメ科植物として、マメ及びエンドウマメが挙げられるが、これらに限定されない。マメとして、グアー、イナゴマメ、フェヌグリーク、ダイズ、インゲンマメ、ササゲ、リョクトウ、ライマビーン、ソラマメ、レンズマメ、及びヒヨコマメが挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
本開示はまた、本明細書に開示した任意の方法により得られる植物を含む。本開示はまた、本明細書に開示した任意の方法により得られる植物由来の種子を含む。トランスジェニック植物は、導入遺伝子を含む成熟した稔性植物と定義される。
【0070】
本開示の方法では、未成熟胚、1~5mmの接合胚、3~5mmの胚、並びに、成熟した穂由来の種子、葉基、成熟植物の葉、葉頂、未成熟花序、房、未熟な穂、及び絹糸に由来する胚を含む、様々な植物由来の外植片を使用することができる。一態様では、本開示の方法で使用される外植片は、成熟した穂由来の種子、葉基、成熟した植物体の葉、葉頂、未成熟花序、房、未成熟の穂、及び絹糸に由来し得る。本開示の方法で使用される外植片は、本明細書に記載のいずれかの植物に由来し得る。
【0071】
本開示は、単離されたか又は実質的に精製された核酸組成物を包含する。「単離された」若しくは「精製された」核酸分子又はタンパク質若しくはその生物学的に活性な部分は、その天然に存在する環境において見出されるような核酸分子若しくはタンパク質に通常付随するか若しくは相互作用する他の細胞物質又は成分を実質的に含まないか、或いは組換え技術により生成される場合には培養培地を実質的に含まず、又は化学的に合成される場合には化学的前駆体若しくは他の化学物質を実質的に含まない。「単離された」核酸は、この核酸が由来する生物のゲノムDNAにおいて、天然ではこの核酸に隣接している配列(例えばタンパク質コード配列)(すなわち、この核酸の5’末端及び3’末端に位置する配列)を実質的に含まない。例えば、様々な態様では、単離された核酸分子は、この核酸が由来する細胞のゲノムDNAにおいて、天然ではこの核酸分子に隣接しているヌクレオチド配列を、約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kb、又は0.1kb未満含み得る。細胞物質を実質的に含んでいないタンパク質として、夾雑タンパク質が約30%、20%、10%、5%、又は1%未満(乾燥重量で)であるタンパク質調製物が挙げられる。本開示の方法に有用なタンパク質、又はその生物学的に活性な部分が組換え技術によって作られた場合には、培養培地は、最適には、約30%、20%、10%、5%又は1%未満(乾燥重量で)の化学的前駆体又は非目的タンパク質化学物質を示す。本開示の方法に有用な配列は、それぞれの転写開始部位に隣接している5’非翻訳領域から単離し得る。本開示は、本開示の方法に有用な、単離されたか又は実質的に精製された核酸又はタンパク質組成物を包含する。
【0072】
本明細書で使用される場合、用語「断片」は、核酸配列の一部を指す。本開示の方法に有用な配列の断片は、核酸配列の生物学的活性を保持する。或いは、ハイブリダイゼーションプローブとして有用なヌクレオチド配列の断片は、必ずしも生物学的活性を保持し得ない。本明細書で開示されるヌクレオチド配列のフラグメントは、少なくとも約20、25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、800、825、850、875、900、925、950、975、1000、1025、1050、1075、1100、1125、1150、1175、1200、1225、1250、1275、1300、1325、1350、1375、1400、1425、1450、1475、1500、1525、1550、1575、1600、1625、1650、1675、1700、1725、1750、1775、1800、1825、1850、1875又は1900ヌクレオチドから対象配列の完全長までの範囲にあり得る。ヌクレオチド配列の生物学的に活性な部分は、この配列の一部を単離し、その部分の活性を評価することにより調製し得る。
【0073】
本開示の方法に有用な、ヌクレオチド配列の断片及び改変体、並びにそれらによりコードされるタンパク質もまた、包含される。本明細書で使用される場合、用語「断片」は、ヌクレオチド配列の一部、したがってそれによってコードされるタンパク質、又はアミノ酸配列の一部を指す。ヌクレオチド配列の断片は、天然タンパク質の生物学的活性を保持しているタンパク質断片をコードし得る。或いは、ハイブリダイゼーションプローブとして有用なヌクレオチド配列の断片は、生物学的活性を保持しているタンパク質断片を一般にコードしない。したがって、ヌクレオチド配列の断片は、少なくとも約20個のヌクレオチド、約50個のヌクレオチド、約100個のヌクレオチドから、本開示の方法で有用なタンパク質をコードする完全長のヌクレオチド配列までの範囲であり得る。
【0074】
本明細書で使用される場合、用語「改変体」は、本明細書に開示の配列と実質的類似性を有する配列を意味する。改変体は、天然のポリヌクレオチド若しくはポリペプチドの1つ若しくは複数の内部部位における1つ若しくは複数のヌクレオチド若しくはペプチドの欠失及び/若しくは付加、並びに/又は天然のポリヌクレオチド若しくはポリペプチドの1つ若しくは複数の部位における1つ若しくは複数のヌクレオチド若しくはペプチドの置換を含む。ポリヌクレオチドでは、保存的改変体は、遺伝コードの縮重のために、本明細書で開示されている形態形成遺伝子及び/又は目的の遺伝子/ポリヌクレオチドの内の1つのアミノ酸配列をコードする配列を含む。改変体ポリヌクレオチドにはまた、合成的に誘導されたポリヌクレオチド(例えば、部位特異的変異誘発を使用して生成されるが、それでもなお本明細書で開示されている形態形成遺伝子及び/又は目的の遺伝子/ポリヌクレオチドのタンパク質をコードするポリヌクレオチド)も含まれる。一般に、本明細書で開示されている特定の形態形成遺伝子及び/又は目的の遺伝子/ポリヌクレオチドの改変体は、本明細書の他の箇所で記載されている配列アラインメントプログラム及びパラメータにより決定した場合に、その特定の形態形成遺伝子及び/又は目的の遺伝子/ポリヌクレオチドに対して少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はより高い配列同一性を有するであろう。
【0075】
本明細書で使用される場合、「天然の」ヌクレオチド配列又はペプチド配列は、それぞれ、天然に存在するヌクレオチド配列又はペプチド配列を含む。ヌクレオチド配列では、天然に存在する改変体を、公知の分子生物学的手法(例えば、ポリヌクレアーゼ連鎖反応(PCR)、及び本明細書で概説されているようなハイブリダイゼーション手法)を使用して同定し得る。本開示の方法に有用なタンパク質の生物学的活性を有する改変体は、その天然のタンパク質と、僅かに1~15個のアミノ酸残基、僅かに1~10個、例えば6~10個、僅かに5個、僅かに4個、3個、2個、又はたった1個のアミノ酸残基が異なり得る。
【0076】
改変体ヌクレオチド配列はまた、合成的に誘導されたヌクレオチド配列(例えば、部位特異的変異誘発を使用して生成されたものなど)も含む。一般に、本明細書で開示されているヌクレオチド配列の改変体は、本明細書の他の箇所で説明されている配列アラインメントプログラム(デフォルトパラメーターを使用)で測定した場合に、そのヌクレオチド配列に対して少なくとも40%、50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%~95%、96%、97%、98%、99%、又はより高い配列同一性を有するであろう。本明細書で開示されているヌクレオチド配列の生物学的に活性な改変体も包含される。生物学的活性を、ノーザンブロット解析、転写融合体で行うレポーター活性測定などの手法を使用して測定し得る。例えば、Sambrook,et al.,(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2d ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor, N.Y.)(以下、「Sambrook」)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。或いは、ヌクレオチド断片又は改変体に作動可能に連結されたプロモーターの制御下で生成される緑色蛍光タンパク質(GFP)又は黄色蛍光タンパク質(YFP)又は同類のものなどのレポーター遺伝子のレベルを測定し得る。例えば、Matz et al.(1999)Nature Biotechnology 17:969-973;米国特許第6,072,050号明細書(この全体が参照により本明細書に組み込まれる);Nagai,et al.,(2002)Nature Biotechnology 20(1):87-90を参照されたい。改変体ヌクレオチド配列にはまた、DNAシャフリングなどの変異組換え手順により生成される配列も包含される。そのような手順により、1つ又は複数の異なるヌクレオチド配列を操作して、新たなヌクレオチド配列を作製し得る。このようにして、実質的な配列同一性を有し且つインビトロ又はインビボで相同的に組換えられ得る配列領域を含む関連配列のポリヌクレオチドの集団から、組換えポリヌクレオチドのライブラリが作られる。そのようなDNAシャフリングのための戦略は、当該技術分野で既知である。例えば、Stemmer,(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:10747-10751;Stemmer,(1994)Nature 370:389 391;Crameri,et al.,(1997)Nature Biotech.15:436-438;Moore,et al.,(1997)J.Mol.Biol.272:336-347;Zhang,et al.,(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:4504-4509;Crameri,et al.,(1998)Nature 391:288-291、並びに米国特許第5,605,793号明細書及び同第5,837,458号明細書(これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0077】
変異誘発及びヌクレオチド配列改変の方法は当該技術分野で公知である。例えば、Kunkel,(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488-492、Kunkel,et al.,(1987)Methods in Enzymol.154:367-382、米国特許第4,873,192号明細書、Walker and Gaastra,eds.(1983)Techniques in Molecular Biology(MacMillan Publishing Company,New York)、及びこれらに引用されている参考文献(これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。目的のタンパク質の生物学的活性に影響を及ぼさない適切なアミノ酸置換に関するガイダンスは、Dayhoff et al.(1978)Atlas of Protein Sequence and Structure(Natl.Biomed.Res.Found.,Washington,D.C.)(参照により本明細書に組み込まれる)のモデルにおいて見出され得る。1つのアミノ酸を類似の特性を有する別のものと交換するなどの保存置換が最適であり得る。
【0078】
本開示のヌクレオチド配列を使用して、他の生物(具体的には他の植物、より具体的には他の単子葉植物又は双子葉植物)から対応する配列を単離し得る。このようにして、PCR、ハイブリダイゼーションなどの方法を使用して、本明細書に記載されている配列に対する配列相同性に基づいて、そのような配列を同定し得る。本明細書に記載されている全配列又はその断片に対する配列同一性に基づいて単離された配列は、本開示に包含される。
【0079】
PCR法では、任意の目的の植物から抽出されたcDNA又はゲノムDNAからの対応するDNA配列を増幅するPCR反応に使用するためのオリゴヌクレオチドプライマーを設計し得る。PCRプライマーを設計する方法及びPCRクローニングの方法は当該技術分野で一般に知られており、Sambrook(前出)で開示されている。また、Innis,et al.,eds.(1990)PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications(Academic Press,New York);Innis and Gelfand,eds.(1995)PCR Strategies(Academic Press,New York);及びInnis and Gelfand,eds.(1999)PCR Methods Manual(Academic Press,New York)(これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)も参照されたい。既知のPCR方法として、以下に限定されないが、対合プライマー、ネステッドプライマー、単一特異的プライマー、縮重プライマー、遺伝子特異的プライマー、ベクター特異的プライマー、部分的にミスマッチのプライマーなどを使用する方法が挙げられる。
【0080】
ハイブリダイゼーション手法では、既知のヌクレオチド配列の全て又は一部を、選択された生物からのクローン化ゲノムDNA断片又はcDNA断片の集団(すなわち、ゲノムライブラリ又はcDNAライブラリ)に存在する他の対応するヌクレオチド配列に選択的にハイブリダイズするプローブとして使用する。ハイブリダイゼーションプローブは、ゲノムDNA断片、cDNA断片、RNA断片、又は他のオリゴヌクレオチドであり得、且つ32P又は任意の他の検出マーカーなどの検出可能な基で標識され得る。そのため、例えば、ハイブリダイゼーション用のプローブを、本開示の配列をベースとする合成オリゴヌクレオチドを標識することにより作製し得る。ハイブリダイゼーション用のプローブの調製方法、及びゲノムライブラリの構築方法は、当該技術分野で一般に知られており、Sambrook(前出)で開示されている。
【0081】
一般に、活性を有し、且つ本明細書中で開示されている配列にハイブリダイズする配列は、開示されている配列と、少なくとも40%~50%相同であり、約60%、70%、80%、85%、90%、95%~98%以上相同である。換言すると、配列の配列類似性は、少なくとも約40%~50%、約60%~70%、及び約80%、85%、90%、95%~98%の配列類似性を共有する範囲であり得る。
【0082】
比較のための配列のアラインメント方法は、当該技術分野においてよく知られている。したがって、任意の2つの配列間の配列同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを使用して達成し得る。このような数学的アルゴリズムの非限定的な例は、Myers and Miller,(1988)CABIOS4:11-17のアルゴリズム、Smith、et al.,(1981)Adv.Appl.Math.2:482のアルゴリズム、Needleman and Wunsch,(1970)J.Mol.Biol.48:443-453のアルゴリズム、Pearson and Lipman,(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.85:2444-2448のアルゴリズム、Karlin and Altschul,(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 872:264(Karlin and Altschul,(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877におけるように改変)のアルゴリズムであり、これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。これらの数学的アルゴリズムのコンピュータへの実装は、当技術分野でよく知られており、配列の比較に利用して配列の同一性を決定することができる。
【0083】
2つの核酸配列又はポリペプチド配列に関連する「配列同一性」又は「同一性」は、本明細書で使用する場合、ある特定の比較ウィンドウに最大の対応でアラインしたときに同じである2つの配列の残基をいう。配列同一性のパーセンテージをタンパク質に関して使用する場合、同一でない残基位置がしばしば保存的アミノ酸置換により異なることが認識される。ここで、アミノ酸残基は、類似の化学特性(例えば、電荷又は疎水性)を有する他のアミノ酸残基で置換され、それゆえ、分子の機能特性は変化しない。保存的置換で配列が異なる場合、置換の保存的性質を補正するために、配列同一性パーセントを高める方向に調節してもよい。そのような保存的置換によって相異する配列は、「配列類似性」又は「類似性」を有すると言われる。このような調節を行う方法は、当業者にはよく知られている。一般的には、これには、保存的置換を、完全ミスマッチとしてではなく部分的ミスマッチとして採点し、それにより、配列同一性パーセントを高める方法が含まれる。したがって、例えば、同一のアミノ酸に1のスコアを与え、非保存的置換に0のスコアを与える場合、保存的置換には0と1との間のスコアを与える。保存的置換のスコア付けは、例えば、プログラムPC/GENE(Intelligenetics、Mountain View、Calif.)において実行されるように算出される。
【0084】
本明細書で使用される場合、「配列同一性のパーセンテージ」は、比較ウィンドウに最適にアラインされた2つの配列を比較することにより決定される値を意味し、ここで、比較ウィンドウにおけるポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントについて、参照配列(これは、付加も欠失も含まない)と比較して、付加又は欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る。パーセンテージは、両方の配列内で同一の核酸塩基又はアミノ酸残基が発生する位置の数を決定してマッチ位置数を得、そのマッチ位置数を比較ウィンドウ内の位置の総数で除し、その結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを得ることによって算出される。
【0085】
ポリヌクレオチド配列の「実質的同一性」という用語は、標準的なパラメータを使用するアラインメントプログラムを使用し、参照配列と比較して、ポリヌクレオチドが少なくとも70%の配列同一性、最適には少なくとも80%、より最適には少なくとも90%、最も最適には少なくとも95%を有する配列を含むことを意味する。当業者であれば、これらの値が、コドンの縮重、アミノ酸類似性、リーディングフレームの位置決めなどを考慮することにより、2つのヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質の対応する同一性を決定するために、適切に調整され得ることは認識していよう。これらの目的のためのアミノ酸配列の実質的同一性は、通常、少なくとも60%、70%、80%、90%、及び少なくとも95%の配列同一性を意味する。
【0086】
ヌクレオチド配列が実質的に同一であるという別の指標は、2つの分子がストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズするか否かである。一般に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度及びpHで特定の配列のTmと比べて約5℃低く選択される。しかしながら、ストリンジェントな条件は、Tmと比べて約1℃~約20℃低い範囲の温度を含み、別途本明細書中で限定されるように、所望するストリンジェンシーの程度により変わる。ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズしない核酸は、それらがコードするポリペプチドが実質的に同一であるならば、なお実質的に同一である。このことは、例えば、核酸のコピーが、遺伝コードにより許容される最大のコドン縮重を使用して作製される場合に起こり得る。2つの核酸配列が実質的に同一であるという1つの指標は、第1の核酸によりコードされるポリペプチドが、第2の核酸によりコードされるポリペプチドと免疫学的に交差反応性である場合である。
【0087】
本明細書で開示されている配列及び遺伝子、並びにその改変体及び断片は、植物の遺伝子操作に有用であり、例えば、形質転換植物又はトランスジェニック植物を作製するのに有用であり、目的の表現型を発現させるのに有用である。本明細書で使用される場合、「形質転換植物」及び「トランスジェニック植物」という用語は、ゲノム内に異種ポリヌクレオチドを含む植物を指す。一般に、異種ポリヌクレオチドは、このポリヌクレオチドが何世代にもわたって伝えられるように、トランスジェニック植物又は形質転換植物のゲノムに安定して組み込まれる。異種ポリヌクレオチドは、ゲノムに単独で組み込まれてもよいし、組換えDNAコンストラクトの一部として組み込まれてもよい。本明細書で使用される場合、用語「トランスジェニック」は、異種核酸の存在によって遺伝子型が改変されているあらゆる細胞、細胞系、カルス、組織、植物部分又は、植物体(例えば、これらの最初にそのように改変されたトランスジェニック体、及びこの最初のトランスジェニック体から有性交配又は無性繁殖により作られたもの)が含まれることを理解しなければならない。
【0088】
トランスジェニック「イベント」は、目的の遺伝子を含む核酸発現カセットを含む異種DNAコンストラクトで植物細胞を形質転換し、植物体のゲノムへ導入遺伝子を挿入することにより植物体の集団を再生し、特定のゲノム位置への挿入により特徴付けられた植物体を選択することによって作製される。イベントは、挿入遺伝子の発現により、表現型で特徴付けられる。遺伝子レベルでは、イベントは、植物体の遺伝子構造の一部である。「イベント」という用語はまた、形質転換体と別の植物との間の有性交配により作製された子孫を指し、この子孫は、異種DNAを含む。
【0089】
形質転換プロトコル、及びヌクレオチド配列を植物に導入するためのプロトコルは、形質転換の標的の植物又は植物細胞の種類により変わり得、すなわち、単子葉植物であるか又は双子葉植物であるかにより変わり得る。ヌクレオチド配列を植物細胞に導入し、続いて植物ゲノムに挿入する好適な方法としては、マイクロインジェクション法(Crossway et al.(1986)Biotechniques 4:320-334)、エレクトロポレーション法(Riggs et al.(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:5602-5606、アグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介形質転換法(Townsendらの米国特許第5,563,055号明細書、Zhaoらの米国特許第5,981,840号明細書)、遺伝子直接導入法(Paszkowski et al.(1984)EMBO J.3:2717-2722)、及び弾道粒子加速法(例えば、Sanfordらの米国特許第4,945,050号明細書、Tomesらの米国特許第5,879,918号明細書、Tomesらの米国特許第5,886,244号明細書、Bidneyらの米国特許第5,932,782号明細書、Tomes et al.(1995)「Direct DNA Transfer into Intact Plant Cells via Microprojectile Bombardment,」in Plant Cell,Tissue,and Organ Culture:Fundamental Methods,ed.Gamborg and Phillips(Springer-Verlag,Berlin)(トウモロコシ)、McCabe et al.(1988)Biotechnology 6:923-926を参照)、及びLec1形質転換法(国際公開第00/28058号パンフレット)が挙げられる。また、Weissinger et al.(1988)Ann.Rev.Genet.22:421-477、Sanford et al.(1987)Particulate Science and Technology 5:27-37(タマネギ)、Christou et al.(1988)Plant Physiol.87:671-674(ダイズ)、McCabe et al.(1988)Bio/Technology 6:923-926(ダイズ)、Finer and McMullen(1991)In Vitro Cell Dev.Biol.27P:175-182(ダイズ)、Singh et al.(1998)Theor.Appl.Genet.96:319-324(ダイズ)、Datta et al.(1990)Biotechnology 8:736-740(イネ)、Klein et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:4305-4309(トウモロコシ)、Klein et al.(1988)Biotechnology 6:559-563(トウモロコシ)、米国特許第5,240,855号明細書(Tomes)、米国特許第5,322,783号明細書及び同第5,324,646号明細書(Buisingら)、Klein et al.(1988)Plant Physiol.91:440-444(トウモロコシ)、Fromm et al.(1990)Biotechnology 8:833-839(トウモロコシ)、Hooykaas-Van Slogteren et al.(1984)Nature(London)311:763-764、米国特許第5,736,369号明細書(Bowenら)(穀類)、Bytebier et al.(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:5345-5349(ユリ科(Liliaceae))、De Wet et al.(1985)The Experimental Manipulation of Ovule Tissues,ed.Chapman et al.(Longman,New York)の中、pp.197-209(花粉)、Kaeppler et al.(1990)Plant Cell Reports 9:415-418及びKaeppler et al.(1992)Theor.Appl.Genet.84:560-566(ウィスカー媒介形質転換)、D’Halluin et al.(1992)Plant Cell 4:1495-1505(エレクトロポレーション)、Li et al.(1993)Plant Cell Reports 12:250-255、Christou and Ford(1995)Annals of Botany75:407-413(イネ)、Osjoda et al.(1996)Nature Biotechnology 14:745-750(トウモロコシ、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)による)、並びに米国特許出願公開第2017/0121722号明細書(迅速な植物形質転換)(これらの文献は全て参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)も参照されたい。
【0090】
ナノキャリア媒介遺伝子送達は、最初、哺乳動物系において開発されたが、植物細胞への核酸の送達について急速に注目を集めている。植物における実現可能性は、遺伝子銃送達のために金粒子に結合されたメソポーラスシリカナノ粒子(~200nm直径)を使用して最初に実証された(Torney et al.(2007)Nat Nanotechnol 2:295-300)。植物形質転換における開発には、また、担体としてポリエチレンイミン被覆Fe3O4磁性ナノ粒子(MNP)を使用し、MNP-DNA複合体を綿の花粉粒に向けるために磁力を加えるDNAの送達が含まれる(Zhao et al.(2017)Nat Plants 3:956-964)。粒子を植物細胞に移行させるために外力を必要とする上記の2つの方法とは対照的に、カーボンナノチューブ(CNT)は植物細胞中へ拡散することが示されており、核(Demirer et al.(2019)Nat Nanotechnol doi.org/10.1038/s41565-019-0382-5)又は葉緑体のいずれかへのDNA送達のために化学的に修飾することができる(Kwak et al.(2019)Nat Nanotechnol https://doi.org/10.1038/s41565-019-0375-4)。さらに、CNTは、siRNAを植物細胞に送達するために成功裡に使用されている(Demirer et al.(2019)SSRN https://doi.org/10.2139/ssrn.3352632;Zhang(2019)Proc Natl Acad Sci 116,7543-7548)。これらの最近の研究ではまた、植物細胞への送達のために核酸をナノチューブに同伴させることは、DNA及びRNAカーゴを分解から保護し、潜在的にカーゴ寿命を延ばすことが示されている。
【0091】
本明細書で提供される方法のいくつかは、目的のヌクレオチド配列が組み込まれた再生可能な植物細胞を作製するために、細菌媒介及び/又は遺伝子銃媒介遺伝子導入を使用している。本開示の方法に有用な細菌株には、以下に限定されないがAGL-1、EHA105、GV3101、LBA4404、LBA4404 THY-、及びLBA4404 THY-Tn904-を含む無毒化アグロバクテリウム(Agrobacterium)、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)細菌(米国特許出願公開第20180216123A1号明細書を参照)又はリゾビウム科(Rhizobiaceae)細菌(米国特許第9,365,859号明細書を参照)が含まれるが、これらに限定されない。
【0092】
本方法において有用なオクロバクテリウム属(Ochrobactrum)の菌株としては、表2に列挙されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
【0094】
本方法において有用なリゾビウム科(Rhizobiaceae)の菌株としては、表3に列挙されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
【0096】
ポリヌクレオチドは、植物をウイルス又はウイルスの核酸と接触させることにより植物内に導入することができる。一般に、このような方法は、本開示のヌクレオチドコンストラクトをウイルス性DNA又はRNA分子に組み込むことを含む。ウイルス性DNA又はRNA分子を含むポリヌクレオチドを植物に導入し、それによりコードされるタンパク質を発現させる方法は、当該技術分野で知られている。例えば、米国特許第5,889,191号明細書、同第5,889,190号明細書、同第5,866,785号明細書、同第5,589,367号明細書、同第5,316,931号明細書、及びPorta,et al.,(1996)Molecular Biotechnology 5:209-221を参照されたい(これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0097】
本開示の方法は、植物にポリペプチド又はポリヌクレオチドを導入することを含む。本明細書で使用される場合、「導入する」は、ポリヌクレオチド又はポリペプチドを、その配列がこの植物の細胞内部に侵入する方法で、植物に提示することを意味する。本開示の方法は、植物に配列を導入する特定の方法に依存することはなく、この植物の少なくとも1つの細胞の内部にポリヌクレオチド又はポリペプチドを単に侵入させるだけである。ポリヌクレオチド又はポリペプチドを植物に導入する方法は、当該技術分野で既知であり、安定した形質転換方法、一過性の形質転換方法、及びウイルス媒介方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
「安定な形質転換」とは、植物に導入されるヌクレオチドコンストラクト又は発現カセットが植物のゲノムに組み込まれ、その子孫によって受け継がれ得る形質転換をいう。「一過性形質転換」は、ポリヌクレオチド又は発現カセットが植物に導入されるが、植物のゲノムに組み込まれないか、又はポリペプチドが植物に導入されることを意味する。
【0099】
レポーター遺伝子又は選択マーカー遺伝子もまた、本明細書に開示される発現カセットに含まれ得、そして本開示の方法において使用され得る。当該技術分野で既知の好適なレポーター遺伝子の例は、例えば、Jefferson,et al.,(1991)in Plant Molecular Biology Manual,ed.Gelvin,et al.,(Kluwer Academic Publishers),pp.1-33;DeWet,et al.,(1987)Mol.Cell.Biol.7:725-737;Goff,et al.,(1990)EMBO J.9:2517-2522;Kain,et al.,(1995)Bio Techniques 19:650-655;及びChiu,et al.,(1996)Current Biology 6:325-330(これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)に見出され得る。
【0100】
選択マーカーは、多くの場合には特定の条件下で、ある分子若しくはこの分子を含む細胞を同定するか、選択する、又はこの分子若しくはこの分子を含む細胞を除外して同定するか、選択することを可能にするDNAセグメントを含む。これらのマーカーは、活性(例えば、以下に限定されないが、RNA、ペプチド、若しくはタンパク質の産生)をコードし得るか、又はRNA、ペプチド、タンパク質、無機化合物及び有機化合物、若しくは組成物などに対して結合部位を提供し得る。選択マーカーの例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:制限酵素部位を含むDNAセグメント;他の毒性化合物に耐性を示す産物をコードするDNAセグメント(例えば抗生物質、例えば、スペクチノマイシン、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、Basta、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NEO)、及びハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(HPT));受容細胞において他の方法で欠失している産物をコードするDNAセグメント(例えば、tRNA遺伝子、栄養要求性マーカー);容易に同定され得る産物をコードするDNAセグメント(例えば、表現型マーカー、例えば、β-ガラクトシダーゼ、GUS;蛍光タンパク質、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、シアン色蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP);及び細胞表面タンパク質);新しいPCR用プライマー部位の生成(例えば、以前は並置されていない2つのDNA配列の並置);制限エンドヌクレアーゼ又は他のDNA修飾酵素、化学物質などの作用を受けていないか又は作用を受けたDNA配列の包含、並びに、同定を可能にする特異的修飾(例えばメチル化)に必要なDNA配列の包含。
【0101】
形質転換された細胞又は組織を選択するための選択マーカー遺伝子として、抗生物質耐性又は除草剤耐性を付与する遺伝子が挙げられ得る。好適な選択マーカー遺伝子の例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:クロラムフェニコールに対する耐性をコードする遺伝子(Herrera Estrella,et al.,(1983)EMBO J.2:987-992);メトトレキサートに対する耐性をコードする遺伝子(Herrera Estrella,et al.,(1983)Nature 303:209-213;Meijer,et al.,(1991)Plant Mol.Biol.16:807-820);ハイグロマイシンに対する耐性をコードする遺伝子(Waldron,et al.,(1985)Plant Mol.Biol.5:103-108;及びZhijian,et al.,(1995)Plant Science 108:219-227);ストレプトマイシンに対する耐性をコードする遺伝子(Jones,et al.,(1987)Mol.Gen.Genet.210:86-91);スペクチノマイシンに対する耐性をコードする遺伝子(Bretagne-Sagnard,et al.,(1996)Transgenic Res.5:131-137);ブレオマイシンに対する耐性をコードする遺伝子(Hille,et al.,(1990)Plant Mol.Biol.7:171-176);スルホンアミドに対する耐性をコードする遺伝子(Guerineau,et al.,(1990)Plant Mol.Biol.15:127-36);ブロモキシニルに対する耐性をコードする遺伝子(Stalker,et al.,(1988)Science 242:419-423);グリホサートに対する耐性をコードする遺伝子(Shaw,et al.,(1986)Science 233:478-481;並びに米国特許出願第10/004,357号明細書及び同第10/427,692号明細書);ホスフィノトリシンに対する耐性をコードする遺伝子(DeBlock,et al.,(1987)EMBO J.6:2513-2518)(これらの全体は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0102】
除草化合物に対する耐性を付与する選択マーカーとして、除草化合物(例えば、グリホサート、スルホニル尿素、グルホシネートアンモニウム、ブロモキシニル、イミダゾリノン、及び2,4-ジクロロフェノキシアセテート(2,4-D))に対する抵抗性及び/又は耐性をコードする遺伝子が挙げられる。一般的に、Yarranton(1992)Curr.Opin.Biotech.3:506-511;Christopherson et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6314-6318;Yao et al.(1992)Cell 71:63-72;Reznikoff(1992)Mol.Microbiol.6:2419-2422;Barkley et al.(1980)in The Operon,pp.177-220;Hu et al.(1987)Cell 48:555-566;Brown et al.(1987)Cell 49:603-612;Figge et al.(1988)Cell 52:713-722;Deuschle et al.(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:5400-5404;Fuerst et al.(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:2549-2553;Deuschle et al.(1990)Science 248:480-483;Gossen(1993)Ph.D.Thesis,University of Heidelberg;Reines et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:1917-1921;Labow et al.(1990)Mol.Cell.Biol.10:3343-3356;Zambretti et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:3952-3956;Baim et al.(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:5072-5076;Wyborski et al.(1991)Nucleic Acids Res.19:4647-4653;Hillen and Wissman(1989)Topics Mol.Struc.Biol.10:143-162;Degenkolb et al.(1991)Antimicrob.Agents Chemother.35:1591-1595;Kleinschnidt et al.(1988)Biochemistry 27:1094-1104;Bonin(1993)Ph.D.Thesis,University of Heidelberg;Gossen et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547-5551;Oliva et al.(1992)Antimicrob.Agents Chemother.36:913-919;Hlavka et al.(1985)Handbook of Experimental Pharmacology,Vol.78(Springer-Verlag,Berlin);Gill et al.(1988)Nature 334:721-724)を参照されたい。これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0103】
本方法に有用な特定の選択マーカーとして、以下に限定されないが、スルホニル尿素及びイミダゾリノンに対する耐性を付与するトウモロコシHRA遺伝子(Lee et al.,1988,EMBO J 7:1241-1248)、グリホサートに対する耐性を付与するGAT遺伝子(Castle et al.,2004,Science 304:1151-1154)、スペクチノマイシンに対する耐性を付与するaadA遺伝子などの遺伝子(Svab et al.,1990,Plant Mol Biol.14:197-205)、並びにグルホシネートアンモニウムに対する耐性を付与するbar遺伝子(White et al.,1990,Nucl.Acids Res.25:1062)が挙げられ、PAT(又はトウモロコシのmoPAT、Rasco-Gaunt et al.,2003,Plant Cell Rep.21:569-76を参照されたい)、及びマンノース含有培地での成長を許容するPMI遺伝子(Negrotto et al.,2000,Plant Cell Rep.22:684-690)は、本方法の体細胞胚形成及び胚成熟に含まれる短い経過時間中の急速な選択に非常に有用である。しかしながら、使用される選択マーカー、及び形質転換される作物、近交系、又は種に応じて、野生型エスケープ(wild-type escape)の割合は変わり得る。トウモロコシ及びソルガムでは、HRA遺伝子は、野生型エスケープ(wild-type escape)の頻度の低減に有効である。
【0104】
トランスジェニックイベントの回収において有用性を有し得る他の遺伝子として下記が挙げられるが、これらに限定されない:例えば、GUS(ベータ-グルクロニダーゼ;Jefferson,(1987)Plant Mol.Biol.Rep.5:387)、GFP(緑色蛍光タンパク質;Chalfie,et al.,(1994)Science 263:802)、ルシフェラーゼ(Riggs,et al.,(1987)Nucleic Acids Res.15(19):8115;及びLuehrsen,et al.,(1992)Methods Enzymol.216:397-414)、遠赤色、赤色、橙色、黄色、緑色、青緑色、及び青色にわたる代替発光最適条件のスペクトルを有する様々な蛍光タンパク質(Shaner et al.,2005,Nature Methods 2:905-909)、並びにアントシアニン産生をコードするトウモロコシ遺伝子(Ludwig et al.,(1990)Science 247:449)(これらの全体は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0105】
上に掲げた選択マーカーは、それらに限定することを意図するものではない。本開示の方法では、任意の選択マーカーを使用することができる。
【0106】
一態様では、本開示の方法は、ポジティブな成長選択を可能にする形質転換方法を提供する。従来の植物形質転換法は、抗生物質又は除草剤(ネガティブ選択剤)を使用して、形質転換されていない細胞又は組織を阻害するか又は死滅させ、トランスジェニック細胞又は組織は、耐性遺伝子の発現に起因して成長し続けるという、上記で説明されているようなネガティブ選択スキームに主に依存していることを、当業者は認識し得る。対照的に、本開示の方法を、ネガティブ選択剤を適用することなく使用し得る。そのため、野生型細胞は阻害されずに成長し得るが、比較すると、形態形成遺伝子発現の制御の影響を受けた細胞は、周囲の野生型組織と比較して成長速度が速いため、容易に識別され得る。単に成長の速さを観察できることに加えて、本開示の方法は、形質転換されていない細胞と比べて急速な形態形成を示すトランスジェニック細胞を提供する。したがって、そのような成長及び形態形成の発達の差によって、トランスジェニック植物構造体を、周囲の非形質転換組織から容易に識別することができ、そのプロセスを、本明細書では「ポジティブ成長選択」と称する。
【0107】
本開示は、効率良く且つ高速でトランスジェニック植物を生産する方法、及び、一連の遺伝的多様性を示し、顕著な商業的有用性を有する形質転換近交系を含む様々な出発組織型を用いて、多数の近交系において、有意により高い形質転換率及び優位により多い品質イベント(ベクター(プラスミド)バックボーンを持たない形質遺伝子発現カセットの1コピーを含むイベント)を提供する方法を提供する。本開示の方法は、良好な形質及び特性を与えるポリヌクレオチドをさらに含み得る。
【0108】
本明細書で使用される場合、「形質」は、植物、又は特定の植物材料若しくは植物細胞の生理学的、形態学的、生化学的又は物理的特性を指す。いくつかの場合には、この特性は、種子又は植物体の大きさなど、ヒトの目で視ることができ、或いは、種子若しくは葉に含まれるタンパク質、デンプン若しくは油の量を検出するなどの生化学的手法により測定することができ、又は、例えば、二酸化炭素の取り込み量を測定することにより、代謝若しくは生理的プロセスを観察することにより測定することができ、又は、例えば、ノーザン解析、RT-PCR、マイクロアレイ遺伝子発現アッセイ、若しくはレポーター遺伝子発現システムを使用して、1つ若しくは複数の遺伝子の発現レベルを観察することにより測定することができ、又は、ストレス耐性、収量、病原体耐性などの農学的観察により測定することができる。
【0109】
油、デンプン、及びタンパク質の含有量などの農学的に重要な形質は、伝統的な育種法を使用することに加えて、遺伝子的に改変し得る。改変には、オレイン酸、飽和及び不飽和油含有量の増加、リシン及び硫黄レベルの上昇、必須アミノ酸の提供、そしてまたデンプンの改変が含まれる。ホルドチオニンタンパク質改変は、米国特許第5,703,049号明細書、同第5,885,801号明細書、同第5,885,802号明細書、及び同第5,990,389号明細書に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。別の例は、米国特許第5,850,016号明細書に記載されている、ダイズ2Sアルブミンによりコードされるリシン及び/又は硫黄に富む種子のタンパク質、並びにWilliamson et al.(1987)Eur.J.Biochem.165:99-106に記載がある、オオムギ由来のキモトリプシン阻害剤である(これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0110】
コード配列の誘導体は、部位特異的変異誘発法により、コードされたポリペプチド中の、予め選択したアミノ酸のレベルを上昇させることにより作製し得る。例えば、ヒマワリの種子(Lilley et al.(1989)Proceedings of the World Congress on Vegetable Protein Utilization in Human Foods and Animal Feedstuffs,ed.Applewhite(American Oil Chemists Society,Champaign,Ill.),pp.497-502;この文献は参照により本明細書に組み込まれる);トウモロコシ(Pedersen et al.(1986),J.Biol.Chem.261:6279;Kirihara et al.(1988)Gene 71:359;これらの両文献は、参照により本明細書に組み込まれる);及びイネ(Musumura et al.(1989)Plant Mol.Biol.12:123、この文献は、参照により本明細書に組み込まれる)などからのメチオニンリッチ植物タンパク質を使用できるであろう。他の農学的に重要な遺伝子は、ラテックス、Floury 2、成長因子、種子貯蔵因子、及び転写因子をコードする。
【0111】
多くの農学的形質、例えば、限定はされないが、植物丈、莢の数、植物体における莢の位置、節間部の数、莢の破損の発生率、穀粒サイズ、根粒形成効率及び窒素固定効率、栄養の吸収効率、生物的ストレス及び非生物的ストレスに対する耐性、炭素同化、植物構造、耐倒伏性、種子の発芽率、苗の成長力、並びに若齢形質が、「収穫」に影響を及ぼし得る。収穫に影響を及ぼし得る他の形質としては、発芽効率(ストレス条件下での発芽を含む)、成長速度(ストレス条件下での成長速度を含む)、穂の数、穂1個当たりの種子数、種子の大きさ、種子の組成(デンプン、油、タンパク質)、登塾特性が挙げられる。全植物の収穫量を増大させるか否かはわからないが、所望の表現型特性を示すトランスジェニック植物の世代もまた目的とされる。そのような特性として、植物形態学的増強、植物生理学的増強、又はトランスジェニック植物から収穫される成熟種子の成分の改善が挙げられる。
【0112】
本開示のトランスジェニック植物の「収穫量の増大」は、多くの方法、例えば、テスト重量、1植物体当たりの種子数、種子重量、単位面積当たりの種子数(すなわち、1エーカー当たりの種子、若しくは種子重量)、1エーカー当たりのブッシェル数、1エーカー当たりのトン数、及び1へクタール当たりのキロ数で証明し測定することができる。例えば、トウモロコシの収穫量は、例えば、1エーカー当たりのブッシェル数又は1へクタール当たりのメートルトン数を単位とした、生産面積1単位当たりの、皮を剥いたトウモロコシ粒の産生量として測定することができ、それは、多くの場合、水分調節ベースで、例えば、水分15.5%で報告される。収穫量の増大は、キーとなる生化学化合物、例えば、窒素、リン及び炭水化物などの利用の改善、又は、環境ストレス、例えば、寒さ、熱、乾燥、塩分、及び害虫若しくは病原体の攻撃に対する耐性の向上によりもたらされ得る。形質強化組換えDNAはまた、植物成長調節物質の発現の改変、又は細胞周期若しくは光合成経路の変更の結果として、成長及び発達が改善され、ひいては収穫量が増大するトランスジェニック植物を提供するために使用することができる。
【0113】
本開示の態様の記載の中で使用する「形質の強化」には、水使用効率又は乾燥耐性の改善又は強化、浸透圧ストレス耐性、高塩分ストレス耐性、熱ストレス耐性、低温発芽耐性などの耐寒性の強化、収穫量の増大、種子品質の改善、窒素利用効率の強化、植物の早い成長及び発達、植物の遅い成長及び発達、種子タンパク質の強化、並びに種子油の生産性の強化が含まれる。
【0114】
本開示の方法では、任意の目的のポリヌクレオチド又は形質遺伝子を使用することができる。目的遺伝子又は形質遺伝子によって付与される表現型の様々な変化としては、植物中の脂肪酸組成の変更、植物のアミノ酸含有量、デンプン含有量又は炭水化物含有量の改変、植物の病原体防御機構の改変、実サイズの改変、スクロース付加の改変などに対する変化が挙げられる。目的遺伝子又は形質遺伝子はまた、栄養の取り込みの調節、及びフィチン酸塩遺伝子の発現の調節、特に、種子中のフィチン酸塩濃度を低下させるような調節に関与し得る。これらの結果は、植物において異種産物を発現させることにより、又は内因性産物の発現を増大させることにより得ることができる。或いは、これらの結果は、1種以上の内因性産物、特に、植物中の酵素又は補因子の発現を低減させることにより得ることができる。これらの変化は、形質転換植物の表現型の変化をもたらす。
【0115】
本明細書で使用される場合、「形質遺伝子」は、稔性のトランスジェニックT0植物体を作製するために、植物ゲノムに組み込まれる目的遺伝子を意味する。高耐性アセト乳酸合成酵素(HRA)などの選択マーカー及び蛍光タンパク質遺伝子などの視覚マーカーが、例として本明細書で使用される。形質遺伝子は、付加価値のある農学的、生理学的、生化学的、又は物理的な表現型を与える任意の遺伝子(又は遺伝子の組み合わせ)であり得る。
【0116】
目的遺伝子/形質遺伝子は、商業市場、及び作物の開発に従事している者の関心を反映している。目的の作物及び市場は変化し、開発途上国が世界市場を広げるにつれ、新しい作物や技術もまた出現してくるであろう。さらに、収穫量や雑種強勢などの農学的形質や特性に対する理解が深まるにつれ、形質転換のための遺伝子や形質の選択もそれに応じて変化するであろう。本開示の方法に有用な目的のヌクレオチド配列若しくは遺伝子又は形質遺伝子の一般的な種類としては、例えば、ジンクフィンガーなどの情報に関与する遺伝子、キナーゼなどの伝達に関与する遺伝子、及び熱ショックタンパク質などのハウスキーピングに関与する遺伝子が挙げられる。導入遺伝子のより具体的な種類として、例えば、農学上の重要な形質、昆虫耐性、病害耐性、除草剤耐性、不稔性、環境ストレス耐性(寒冷、塩分、乾燥などに対する耐性の変化)、穀粒特性、及び商品性をコードする遺伝子が挙げられる。
【0117】
本明細書で開示されている方法により形質転換されたプロモーター配列により発現される異種コード配列、異種ポリヌクレオチド、及び目的のポリヌクレオチドを使用して、植物の表現型を変化させ得る。目的の表現型の様々な変化としては、植物における遺伝子発現の改変、植物の病原体又は昆虫に対する防御機構の改変、植物の除草剤に対する耐性の増大、環境ストレスに応答する植物の発達の改変、塩、温度(高温及び低温)、乾燥に対する植物の応答の調節などが挙げられる。これらの結果は、適切な遺伝子産物を含む目的の異種ヌクレオチド配列の発現により達成され得る。特定の態様では、目的の異種ヌクレオチド配列は、その発現レベルが植物体又は植物部で上昇する内因性の植物配列である。結果は、1種若しくは複数種の内因性遺伝子産物(特に、ホルモン、レセプター、シグナル伝達分子、酵素、トランスポーター、若しくは補因子)の発現を改変することにより得ることができるか、又は植物の栄養摂取に影響を及ぼすことにより得ることができる。これらの変化は、形質転換植物の表現型の変化をもたらす。導入遺伝子のさらに他の種類として、植物及び他の真核生物、並びに原核生物からの酵素、補因子及びホルモンなどの外因性産物の発現を誘発する遺伝子が挙げられる。
【0118】
目的の任意の遺伝子、目的のポリヌクレオチド、形質遺伝子、又は目的の複数の遺伝子/ポリヌクレオチド/形質は、例えば、1つ以上のさらなるインプット形質遺伝子(例えば、除草剤耐性、真菌耐性、ウイルス耐性、ストレス耐性、病害耐性、雄性不稔性、茎強度など)又はアウトプット形質遺伝子(例えば、収穫量の増大、デンプンの改変、油プロファイルの改善、バランスのとれたアミノ酸、高リシン若しくは高メチオニン、消化性の増大、繊維品質の改善、乾燥耐性など)が積み重ねられ得る昆虫耐性形質遺伝子は、プロモーターに作動可能に連結され、本明細書に開示される方法によって形質転換される植物において発現され得ることが確認された。
【0119】
プロモーターは、本明細書に開示の方法によって形質転換される植物で発現させるための、穀粒の品質、例えば、油のレベル(オレイン酸の含量の増加)及びタイプ、飽和及び不飽和、必須アミノ酸の品質及び量、リシン及び硫黄のレベルの増加、セルロースのレベル、並びにデンプン及びタンパク質含量に影響を及ぼす、農学的に重要な形質遺伝子に作動可能に連結することができる。プロモーターは、本明細書に開示の方法によって形質転換される植物で発現させるための、ホルドチオニンタンパク質改変を提供する形質遺伝子に作動可能に連結することができる。そのような遺伝子は、米国特許第5,990,389号明細書、同第5,885,801号明細書、同第5,885,802号明細書及び同第5,703,049号明細書に記載されており、これらの文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本明細書に開示の方法によって形質転換される植物で発現させるためにプロモーターを作動可能に連結することができる形質遺伝子の別の例は、米国特許第5,850,016号明細書に記載されているダイズ2Sアルブミンによってコードされるリシン及び/又は硫黄リッチ種子タンパク質、及びオオムギ由来のキモトリプシン阻害剤(Williamson,et al.,(1987)Eur.J.Biochem 165:99-106)であり、これらの開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0120】
プロモーターは、本明細書に開示される方法によって形質転換される植物で発現させるための、根切り虫、ヨトウムシ、ヨーロッパアワノメイガなどの収穫量の低下をもたらす害虫に対する耐性をコードする昆虫耐性形質遺伝子に作動可能に連結することができる。このような遺伝子としては、例えば、バチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)毒性タンパク質遺伝子、米国特許第5,366,892号明細書、同第5,747,450号明細書、同第5,736,514号明細書、同第5,723,756号明細書、同第5,593,881号明細書、及びGeiser,et al.,(1986)Gene 48:109(これらの開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)が挙げられる。本明細書に開示される方法によって形質転換される植物で発現させるための、プロモーターに作動可能に連結することができる病害耐性形質をコードする形質遺伝子としては、例えば、フモニシンを解毒する遺伝子などの解毒遺伝子(米国特許第5,792,931号明細書)、非病原性(avr)及び病害耐性(R)遺伝子(Jones,et al.,(1994)Science 266:789、Martin,et al.,(1993)Science 262:1432、及びMindrinos,et al.,(1994)Cell 78:1089)が挙げられる(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0121】
本明細書に開示される方法によって形質転換される植物で発現させるための、プロモーターに作動可能に連結することができる除草剤耐性形質遺伝子としては、アセト乳酸合成酵素(ALS)の働きを阻害するように作用する除草剤、特に、スルホニル尿素系除草剤に対する耐性をコードする遺伝子(例えば、そのような耐性に導く変異、特にS4及び/又はHra変異を含むアセト乳酸合成酵素(ALS)遺伝子)、グルタミン合成酵素の働きを阻害するように作用する除草剤、例えば、ホスフィノトリシン若しくはバスタに対する耐性をコードする遺伝子(例えば、bar遺伝子)、グリホサートに対する耐性をコードする遺伝子(例えば、EPSPS遺伝子及びGAT遺伝子;例えば、米国特許出願公開第2004/0082770号明細書、国際公開第03/092360号パンフレット及び国際公開第05/012515号パンフレット(参照によりこれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい)、或いは当該技術分野で知られる他のそのような遺伝子が挙げられる。bar遺伝子は除草剤のバスタに対する耐性をコードし、nptII遺伝子は抗生物質のカナマイシン及びジェネティシンに対する耐性をコードし、ALS-遺伝子変異体は除草剤のクロルスルフロンに対する耐性をコードしており、そのいずれもが、本明細書で開示されている方法により形質転換された植物で発現させるためにプロモーターに作動可能に連結され得る。
【0122】
グリホサート耐性は、変異型5-エノールピルビル-3-ホスフィキメート合成酵素(EPSPS)遺伝子及びaroA遺伝子により付与され、これらの遺伝子は、本明細書で開示されている方法により形質転換された植物で発現させるために、プロモーターに作動可能に連結され得る。例えば、Shahらの米国特許第4,940,835号明細書(グリホサート耐性を付与し得るEPSPSの形態のヌクレオチド配列が開示されている)を参照されたい。Barryらの米国特許第5,627,061号明細書ではまた、本明細書で開示されている方法により形質転換された植物で発現させるために、プロモーターに作動可能に連結され得るEPSPS酵素をコードする遺伝子も記載されている。米国特許第6,248,876B1号明細書;同第6,040,497号明細書;同第5,804,425号明細書;同第5,633,435号明細書;同第5,145,783号明細書;同第4,971,908号明細書;同第5,312,910号明細書;同第5,188,642号明細書;同第4,940,835号明細書;同第5,866,775号明細書;同第6,225,114B1号明細書;同第6,130,366号明細書;同第5,310,667号明細書;同第4,535,060号明細書;同第4,769,061号明細書;同第5,633,448号明細書;同第5,510,471号明細書;米国再発行特許第36,449号明細書、同第37,287E号明細書、及び米国特許第5,491,288号明細書、並びに国際公開第97/04103号パンフレット;同第97/04114号パンフレット;同第00/66746号パンフレット;同第01/66704号パンフレット;同第00/66747号パンフレット、及び同第00/66748号パンフレット(これらは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)も参照されたい。グリホサート耐性はまた、米国特許第5,776,760号明細書、及び同第5,463,175号明細書(これらは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)により詳しく説明されているように、本明細書で開示されている方法により形質転換された植物で発現させるためにプロモーターに作動可能に連結され得る、グリホサート酸化還元酵素をコードする遺伝子を発現する植物に付与される。グリホサート耐性は、本明細書で開示されている方法により形質転換された植物で発現させるためにプロモーターに作動可能に連結され得る、グリホサートN-アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の過剰発現によっても植物に付与し得る。例えば、米国特許出願公開第2004/0082770号明細書、国際公開第03/092360号パンフレット、及び同第05/012515号パンフレット(これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0123】
本明細書で開示されている方法により形質転換された植物で発現させるために、プロモーターに作動可能に連結された不稔遺伝子もまた、DNAコンストラクトにおいてコードされ得、物理的雄穂除去の代替法を提供し得る。そのような方法に使用される遺伝子の例として、雄性組織優先的遺伝子、及び米国特許第5,583,210号明細書(この全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているQMなどの雄性不稔性表現型を有する遺伝子が挙げられる。本明細書で開示されている方法により形質転換された植物で発現させるために、プロモーターに作動可能に連結され得る他の遺伝子として、キナーゼ、及び雄性又は雌性の配偶体の成長に有害な化合物をコードするものが挙げられる。
【0124】
商業的形質もまた、本明細書で開示されている方法により形質転換された植物で発現させるために、プロモーターに作動可能に連結された1つ又は複数の遺伝子であって、例えばエタノール生産用デンプンを増加させる可能性があるか又はタンパク質の発現を提供する可能性がある遺伝子又は遺伝子群によってコードされる。形質転換植物の別の重要な商業利用は、米国特許第5,602,321号明細書(この全体が参照により本明細書に組み込まれる)で記載されているようなポリマー及びバイオプラスチックの生成である。ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)の発現を促進するβ-ケトチオラーゼ、PHBアーゼ(ポリヒドロキシ酪酸合成酵素)、及びアセトアセチル-CoA還元酵素などの遺伝子は、本明細書で開示されている方法により形質転換された植物で発現させるために、プロモーターに作動可能に連結され得る(Schubert,et al.,(1988)J.Bacteriol.170:5837-5847(この全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
【0125】
本明細書に開示される方法によって形質転換される植物で発現させるために、プロモーターに作動可能に連結することができる、他の利用可能な形質遺伝子及びそれらの関連する表現型の例としては、ウイルス外皮タンパク質及び/若しくはRNAをコードする遺伝子、又はウイルス耐性を与える他のウイルス若しくは植物遺伝子、真菌耐性を付与する遺伝子、収穫量増大を促進する遺伝子、並びに、乾燥、熱及び塩分、有毒金属若しくは微量元素などによって生じる寒冷、乾燥などのストレスに対する耐性を与える遺伝子が挙げられる。
【0126】
多数の形質遺伝子が当該分野で知られており、本明細書に開示される方法で使用することができる。説明のためであって、限定することを意図するものではないが、昆虫若しくは疾患に対する耐性を付与する形質遺伝子、除草剤に対する耐性を付与する形質遺伝子、変化した脂肪酸、変化したリン含有量、変化した炭水化物若しくは炭水化物組成物、変化した抗酸化剤含有量若しくは組成物、又は変化した必須種子アミノ酸含有量若しくは組成物などの変化した穀物特性を付与するか或いはそれらに寄与する形質遺伝子は、本明細書に開示される方法によって形質転換された植物における発現のために、プロモーターに作動可能に連結することができる形質遺伝子のタイプの例である。本明細書に開示される方法に有用な発現カセットには、本技術分野で知られるさらなる遺伝子が含まれ得る。非限定的な例としては、部位特異的DNA組み込みのための部位を作り出す遺伝子、非生物的ストレス耐性(限定されるわけではないが、開花、穂及び種子の発達、窒素利用効率の向上、窒素応答性の変化、乾燥抵抗性又は耐性、寒冷抵抗性又は耐性、並びに塩分抵抗性又は耐性)及びストレス下での収量の増加に影響する遺伝子、又は収量、開花、植物成長及び/若しくは植物構造などの植物成長並びに農学的形質に影響する他の遺伝子及び転写因子が挙げられる。
【0127】
本明細書で使用される場合、「アンチセンス配向」は、アンチセンス鎖が転写される方向に、プロモーターに作動可能に連結しているポリヌクレオチド配列への参照を含む。アンチセンス鎖は、内因性転写産物に十分に相補的であり、そのため内因性転写産物の翻訳は多くの場合抑制される。「作動可能に連結している」とは、単一の核酸断片上の2つ以上の核酸断片が、1つの断片の機能が他の断片に影響されるような関係にあることを指す。例えば、プロモーターがコード配列の発現に影響を及ぼすことができる(すなわち、コード配列がプロモーターの転写制御下にある)とき、そのプロモーターはコード配列に作動可能に連結している。コード配列は、センス配向又はアンチセンス配向で調節配列に作動可能に連結され得る。
【0128】
本明細書で開示されている方法に有用な、プロモーターに作動可能に連結されている異種ヌクレオチド配列、及びそれに関連する生物学的活性を有する断片又は改変体は、標的遺伝子のアンチセンス配列であり得る。「アンチセンスDNAヌクレオチド配列」という専門用語は、このヌクレオチド配列の5’から3’という通常の方向に対して逆方向である配列を意味することが意図されている。植物細胞に送達されると、アンチセンスDNA配列の発現は、標的遺伝子のDNAヌクレオチド配列の正常な発現を妨げる。アンチセンスヌクレオチド配列は、標的遺伝子のDNAヌクレオチド配列の転写により生じた内因性メッセンジャーRNA(mRNA)に相補的であり且つハイブリダイズし得るRNA転写産物をコードする。この場合には、標的遺伝子によりコードされる天然タンパク質の産生が阻害されて、所望の表現型応答が得られる。アンチセンス配列は、対応するmRNAにハイブリダイズしてその発現を妨げる限りにおいて改変され得る。このように、対応するアンチセンス配列に対して70%、80%、85%の配列同一性を有するアンチセンス構築物を使用し得る。さらに、アンチセンスヌクレオチドの部分は、標的遺伝子の発現を妨げるために使用され得る。一般に、少なくとも50個のヌクレオチド、100個のヌクレオチド、200個のヌクレオチド、又はより多くの配列を使用し得る。そのため、プロモーターは、アンチセンスDNA配列に作動可能に連結されて、本明細書で開示されている方法により形質転換された場合に、植物における天然タンパク質の発現を低減させ得るか又は阻害し得る。
【0129】
「RNAi」は、遺伝子発現を減少させる一連の関連手法を指す(例えば、米国特許第6,506,559号明細書(この全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。他の名称で呼ばれる旧手法は、今日、同じメカニズムに依っていると考えられるが、文献では異なる名称が付されている。これには、「アンチセンス阻害」、すなわち、標的タンパク質の発現を抑制し得るアンチセンスRNA転写産物の産生、及び、同一の又は実質的に類似の外来性又は内因性の遺伝子の発現を抑制し得るセンスRNA転写産物の産生を指す「コサプレッション」又は「センスサプレッション」が含まれる(米国特許第5,231,020号明細書(この全体が参照により本明細書に組み込まれる))。そのような手法は、1本の鎖がサイレンシングする標的遺伝子に相補的な、二本鎖RNAの蓄積を生じるコンストラクトの使用に依存している。
【0130】
本明細書で使用される場合、用語「プロモーター」又は「転写開始領域」は、TATAボックス、又はRNAポリメラーゼIIを誘導して特定のコード配列に適切な転写開始部位でRNA合成を開始させ得るDNA配列を通常は含むDNAの調節領域を意味する。プロモーターは、TATAボックスの上流若しくは5’に一般的に位置する他の認識配列、又はRNAポリメラーゼIIを誘導してRNA合成を開始させ得るDNA配列(転写開始速度に影響を及ぼす上流プロモーターエレメントと呼ばれる)をさらに含み得る。
【0131】
転写開始領域(すなわちプロモーター)は、宿主に対してネイティブ(すなわち同種)であってもよいし、外来(すなわち異種)であってもよいか、又は天然配列若しくは合成配列の可能性がある。外来とは、転写開始領域が導入される野生型宿主には、この転写開始領域が見出されないことが意図されている。目的のコード配列に関しては、ネイティブプロモーター又は異種プロモーターが使用され得る。
【0132】
転写(発現)カセットは、転写の5’-3’方向に、植物内で機能する、転写及び翻訳開始領域、目的DNA配列/形質遺伝子、並びに転写及び翻訳終止領域を含む。終止領域は、転写開始領域と共にネイティブであっても、目的DNA配列と共にネイティブであっても、又は他のソース由来であってもよい。使いやすい終止領域は、ジャガイモプロテイナーゼ阻害剤(PinII)遺伝子から、又はノパリンシンターゼ、オクトピンシンターゼ及びオパリンシンターゼ終止領域などの、A.ツメファシエンス(A.tumefaciens)のTi-プラスミドの配列から得ることができる。Guerineau et al.,(1991)Mol.Gen.Genet.262:141-144;Proudfoot(1991)Cell 64:671-674;Sanfacon et al.(1991)Genes Dev.5:141-149;Mogen et al.(1990)Plant Cell 2:1261-1272;Munroe et al.(1990)Gene 91:151-158;Ballas et al.(1989)Nucleic Acids Res.17:7891-7903;Joshi et al.(1987)Nucleic Acid Res.15:9627-9639も参照されたい。
【0133】
発現カセットは、発現カセットコンストラクト中に5’リーダー配列をさらに含み得る。そのようなリーダー配列は、翻訳を促進するよう作用し得る。翻訳リーダーは当技術分野で既知であり、下記が挙げられる:ピコルナウイルスリーダー、例えば、EMCVリーダー(脳心筋炎5’非コード領域)(Elroy-Stein、O.,Fuerst,T.R.,and Moss,B.(1989)PNAS USA,86:6126-6130);ポティウイルスリーダー、例えば、TEVリーダー(タバコエッチ病ウイルス)(Allison et al.(1986);MDMVリーダー(トウモロコシ萎縮モザイクウイルス);(Virology,154:9-20)、及びヒト免疫グロブリン重鎖結合タンパク質(BiP)、(Macejak,D.G.,and P.Sarnow(1991)Nature,353:90-94);アルファルファモザイクウイルスの外皮タンパク質MARNAの非翻訳リーダー(AMV RNA 4)、(Jobling,S.A.,and Gehrke,L.,(1987)Nature,325:622-625;タバコモザイクウイルスリーダー(TMV)、(Gallie et al.(1989)Molecular Biology of RNA,pages 237-256、Gallie et al.(1987)Nucl.Acids Res.15:3257-3273;トウモロコシ退緑斑紋ウイルスリーダー(MCMV)(Lornmel,S.A.et al.(1991)Virology 81:382-385)。Della-Cioppa et al.(1987)Plant Physiology,84:965-968;及び内因性トウモロコシ5’非翻訳配列も参照されたい。翻訳を促進すること及びmRNAの安定性を高めることが知られている他の方法、例えば、トウモロコシユビキチンイントロンなどのイントロン(Christensen and Quail,(1996)Transgenic Res.5:213-218;Christensen,et al.,(1992)Plant Molecular Biology 18:675-689)又はトウモロコシAdhIイントロン(Kyozuka,et al.,(1991)Mol.Gen.Genet.228:40-48;Kyozuka,et al.,(1990)Maydica 35:353-357)(これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)なども使用することができる。
【0134】
発現カセットは、形質転換植物に導入されて発現される1つ又は複数の遺伝子又は核酸配列を含み得る。そのため、各核酸配列は、5’及び3’の調節配列に作動可能に連結されるだろう。或いは、複数の発現カセットが提供され得る。
【0135】
本開示の方法に有用な発現カセットの調製では、DNA配列は、各種DNA断片が、適切な配向で、必要に応じて適切なリーディングフレーム内で提供されるように操作され得る。この目標に向かって、アダプター又はリンカーがDNA断片の結合に使用され得るか、又は適当な制限酵素部位、不要なDNAの除去、制限酵素部位の除去、若しくは同類のものを提供するために他の操作が行われ得る。この目的のために、インビトロでの変異誘発、プライマー修復、制限、アニーリング、再置換、例えばトランジション及びトランスバージョンが行われ得る。
【0136】
開示された方法によって外植片に導入された、目的の形態形成遺伝子及び/又は形質遺伝子/ポリヌクレオチドは、好適なプロモーターに作動可能に連結され得る。「植物プロモーター」は、それが植物細胞由来であるか否かに関わりなく、植物細胞において転写を開始することができるプロモーターである。例示的な植物プロモーターとして、植物、植物ウイルス、及び植物細胞で発現される遺伝子を含む、アグロバクテリウム(Agrobacterium)又はリゾビウム属(Rhizobium)などの細菌から得られるものが挙げられるが、これらに限定されない。発生制御下のプロモーターの例として、葉、根、又は種子などの特定の組織で優先的に転写を開始するプロモーターが挙げられる。このようなプロモーターは「組織優先的」と呼ばれる。特定の組織でのみ転写を開始するプロモーターは、「組織特異的」と呼ばれる。「細胞型」特異的プロモーターは、1種以上の器官の特定の細胞型、例えば根又は葉の血管細胞における発現を主に駆動する。組織特異的プロモーター、組織優先的プロモーター、細胞型特異的プロモーター、及び誘導性プロモーターは、「非構成的」プロモーター類を構成する。
【0137】
「誘導性」又は「抑制性」プロモーターは、環境制御又は外的制御下にあるプロモーターであり得る。誘導性プロモーターによる転写に影響を及ぼし得る環境条件の例として、嫌気的条件、又は特定の化学物質、又は光の存在が挙げられる。或いは、誘導性プロモーター又は抑制性プロモーターの外的制御は、標的ポリペプチドとの相互作用によりプロモーターを誘導するか又は抑制する好適な化学物質又は他の薬剤を与えることにより影響され得る。誘導性プロモーターとしては、熱誘導性プロモーター、エストラジオール応答性プロモーター、化学誘導性プロモーターなどが挙げられる。病原体誘導性プロモーターとして、病原体の感染後に誘導される病原性関連タンパク質(PRタンパク質)(例えば、PRタンパク質、SARタンパク質、ベータ-1,3-グルカナーゼ、キチナーゼなど)からのものが挙げられる。例えば、Redolfi et al.(1983)Neth.J.Plant Pathol.89:245-254;Uknes et al.(1992)The Plant Cell 4:645-656;及びVan Loon(1985)Plant Mol.Virol.4:111-116を参照されたい。本方法に有用な誘導性プロモーターとして、GLB1、OLE、LTP2、HSP17.7、HSP26、HSP18A、及びXVEプロモーターが挙げられる。
【0138】
化学誘導性プロモーターは、テトラサイクリンリプレッサー(TETR)、エタメツルフロンリプレッサー(ESR)、又はクロルスルフロンリプレッサー(CSR)により抑制することができ、脱抑制は、テトラサイクリン関連リガンド又はスルホニル尿素リガンドの付加により起こる。リプレッサーはTETRであり得、テトラサイクリン関連リガンドは、ドキシサイクリン又はアンヒドロテトラサイクリンである。(Gatz、C.,Frohberg、C.and Wendenburg,R.(1992)Stringent repression and homogeneous de-repression by tetracycline of a modified CaMV 35S promoter in intact transgenic tobacco plants,Plant J.2,397-404)。或いは、リプレッサーはESRであり得、スルホニル尿素リガンドは、エタメツルフロン、クロルスルフロン、メトスルフロンメチル、スルホメツロンメチル、クロリムロンエチル、ニコスルフロン、プリミスルフロン、トリベヌロン、スルホスルフロン、トリフロキシスルフロン、ホラムスルフロン、ヨードスルフロン、プロスルフロン、チフェンスルフロン、リムスルフロン、メソスルフロン、又はハロスルフロンである(全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2011/0287936号明細書)。リプレッサーがCSRであれば、CSRリガンドはクロルスルフロンである。米国特許第8,580,556号明細書(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0139】
「構成的」プロモーターは、ほとんどの条件下で活性を有するプロモーターである。本開示に有用なプロモーターとして、国際公開第2017/112006号パンフレットで開示されているもの、及び米国仮特許出願第62/562,663号明細書で開示されているものが挙げられる。植物の遺伝子発現で使用される構成的プロモーターは、当該技術分野で既知である。そうしたプロモーターとして下記が挙げられるが、これらに限定されない:カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター(Depicker et al.(1982)Mol.Appl.Genet.1:561-573;Odell et al.(1985)Nature 313:810-812)、ユビキチンプロモーター(Christensen et al.(1992)Plant Mol.Biol.18:675-689)、リブロースビスリン酸カルボキシラーゼ(De Almeida et al.(1989)Mol.Gen.Genet.218:78-98)、アクチン(McElroy et al.(1990)Plant J.2:163-171)、ヒストン、DnaJ(Baszczynski et al.(1997)Maydica42:189-201)などの遺伝子からのプロモーターなど。様々な態様において、本開示の方法に有用な構成的プロモーターとしては、UBI、LLDAV、EVCV、DMMV、BSV(AY)PRO、CYMV PRO FL、UBIZM PRO、SI-UB3 PRO、SB-UBI PRO(ALT1)、USB1ZM PRO、ZM-GOS2 PRO、ZM-H1B PRO(1.2KB)、IN2-2、NOS、35Sの-135バージョン、及びZM-ADF PRO(ALT2)プロモーターが挙げられる。
【0140】
下記表4に列挙される、本開示に有用なプロモーターは、米国特許出願公開第2017/0121722号明細書、米国特許出願公開第2018/0371480号明細書、及び米国特許第8,710,206号明細書(これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)に開示されるものを含む。
【0141】
【0142】
本開示の方法に有用なさらなるプロモーターを、下記表5に列挙する。
【0143】
【0144】
本明細書で使用される場合、用語「調節エレメント」は、常にではないが通常は、特定の部位で転写を開始するのに必要なRNAポリメラーゼ及び/又は他の因子を認識することにより、コード領域の発現を制御する配列を含む、構造遺伝子のコード配列の上流(5’)側のDNA配列も指す。特定の部位で確実に開始させるRNAポリメラーゼ又は他の転写因子を認識する調節エレメントの一例は、プロモーターエレメントである。プロモーターエレメントは、転写の開始に関与しているコアプロモーターエレメント、及び遺伝子発現を変化させる他の調節エレメントを含む。イントロン内に又はコード領域配列の3’側に位置しているヌクレオチド配列も、目的のコード領域の発現の調節に寄与し得ることを理解しなければならない。好適なイントロンの例としては、トウモロコシIVS6イントロン、又はトウモロコシアクチンイントロンが挙げられるが、これらに限定されない。調節エレメントはまた、転写開始部位の下流(3’)側に、若しくは転写領域内に、又はそれらの両方に位置するエレメントも含み得る。本開示の方法との関連では、転写後の調節エレメントとして、転写開始の後に活性なエレメント、例えば、翻訳エンハンサー及び転写エンハンサー、翻訳リプレッサー及び転写リプレッサー、並びにmRNA安定性決定因子が挙げられ得る。
【0145】
「異種ヌクレオチド配列」、「目的の異種ポリヌクレオチド」、「異種ポリヌクレオチド」、又は「異種形質遺伝子」は、本開示全体を通して使用される場合、プロモーターと共に天然に存在せず、またプロモーターに作動可能に連結もしていない配列である。このヌクレオチド配列又は形質遺伝子は、プロモーター配列に対し異種であるが、宿主植物に対しては、同種若しくはネイティブ又は異種若しくは外来種であり得る。同様に、プロモーター配列は、宿主植物及び/又は目的のポリヌクレオチドに対して、同種若しくはネイティブ又は異種若しくは外来種であり得る。
【0146】
発現調節エレメントは、本開示の方法に有用である。本明細書で使用される「発現を調節するエレメント/発現調節エレメント」又は「EME」は、1つ以上の植物遺伝子の発現をアップレギュレート又はダウンレギュレートするヌクレオチド配列をいう。EMEは、ヘッドトゥーヘッド、テールトゥーヘッド、若しくはヘッドトゥーテール、又はそれらの配置の組み合わせにアレンジされた同一配列の1つ又は複数のコピーを有し得る。EMEは、植物配列、又は細菌若しくはウイルスのエンハンサーエレメントに由来する。発現調節エレメントは、作動可能に連結されたヌクレオチド配列の発現を増加又は減少させる。
【0147】
本開示の方法に有用なキメラEME及び改変体EMEの構築方法は、異なるEMEのEMEエレメントを組み合わせる工程、又は1つ以上のEMEの部分若しくは領域を複製する工程を含むが、これらに限定されない。当業者は巨大分子(例えば、ポリヌクレオチド分子及びプラスミド)の構築、操作、及び単離、並びに組換え生物の発生、並びにポリヌクレオチド分子のスクリーニング及び単離のための特定の条件及び手順を記載した標準的な資料資源に精通している。
【0148】
組換えDNA構築物は、本明細書で開示されるEMEの核酸フラグメント、又は配列番号107~174に示されるヌクレオチド配列の任意の部分に実質的に類似且つ機能的に同等であるフラグメントを、異種核酸フラグメントに作動可能に連結することによって構築することができる。任意の異種核酸断片を使用することができる。異種核酸フラグメントの選択は、所望の応用又は達成されるべき所望の表現型に依存する。適切な方向の核酸配列が提供されるように、種々の核酸配列を操作することができる。
【0149】
本開示の方法に有用なEMEには、表6に列挙したEMEが挙げられるが、これらに限定されない。
【0150】
【0151】
本開示の方法に有用なDNAコンストラクト/発現カセットはまた、必要に応じて、エンハンサー(翻訳エンハンサー又は転写エンハンサーのいずれか)をさらに含み得る。これらのエンハンサー領域は当業者によく知られており、ATG開始コドン及び隣接配列を含み得る。開始コドンは、全配列の翻訳を確かにするため、コード配列のリーディングフレームと同調していなければならない。翻訳制御シグナル及び開始コドンは、天然及び合成の両方の様々な起源に由来し得る。翻訳開始領域は、転写開始領域の供給源から提供され得るか、又は構造遺伝子から提供され得る。この配列はまた、遺伝子発現のために選択された調節エレメントに由来し得、特に、mRNAの翻訳を増大させるように改変され得る。転写レベルを高めるために、プロモーター領域と組み合わせてエンハンサーを使用し得ることが認められている。転写レベルを高めるために、プロモーター領域と組み合わせてエンハンサーを使用し得ることが認められている。エンハンサーは、プロモーター領域の発現を増加させるように作用するヌクレオチド配列である。エンハンサーは当該技術分野で既知であり、SV40エンハンサー領域、35Sエンハンサーエレメントなどが挙げられる。複数のエンハンサー又は同じエンハンサーの複数のコピーが、本開示の方法に有用である。いくつかのエンハンサーはまた、通常のプロモーター発現パターンを、例えば、プロモーターを構成的に発現させることにより変化させることが知られている(エンハンサーがない場合には、同一のプロモーターが1つ又は少数の特定の組織でのみ発現される)。本開示の方法に有用なエンハンサーを、下記表7に列挙する。
【0152】
【0153】
一般に、「弱プロモーター」は、コード配列の発現を低レベルで駆動するプロモーターを意味する。「低レベル」の発現とは、約1/10,000転写産物~約1/100,000転写産物~約1/500,000転写産物のレベルでの発現を意味することが意図されている。逆に、強プロモーターは、高レベルで、すなわち約1/10転写産物~約1/100転写産物~約1/1,000転写産物でコード配列の発現を駆動する。
【0154】
本開示の方法に有用な配列は、その天然のコード配列と共に使用され得、それによって形質転換植物の表現型の変化を生じることが認められている。本明細書で開示される形態形成遺伝子及び目的の遺伝子、並びにそれらの改変体及び断片は、任意の植物の遺伝子操作のための本開示の方法に有用である。用語「作動可能に連結されている」は、異種ヌクレオチド配列の転写又は翻訳が、プロモーター配列の影響下にあることを意味する。
【0155】
本開示の一態様では、発現カセットは、形態形成遺伝子及び/又は異種ヌクレオチド配列に作動可能に連結されている転写開始領域又はその改変体若しくは断片を含む。そのような発現カセットは、調節領域の転写調節下にヌクレオチド配列を挿入するための複数の制限酵素部位を備え得る。この発現カセットは、選択マーカー遺伝子及び3’終止領域をさらに含み得る。
【0156】
発現カセットは、転写の5’-3’方向に、宿主生物において機能する、転写開始領域(すなわち、プロモーター又はその改変体若しくは断片)、翻訳開始領域、形態形成遺伝子及び/又は目的の異種ヌクレオチド配列、翻訳終止領域並びに、任意選択により転写終止領域を含み得る。本開示の方法に有用な調節領域(すなわち、プロモーター、転写調節領域、及び翻訳終止領域)、形態形成遺伝子及び/又は目的のポリヌクレオチドは、宿主細胞に対して、又は相互にネイティブ/類似であり得る。或いは、調節領域、形態形成遺伝子及び/又は目的ポリヌクレオチドは、宿主細胞に対して、又は相互に異種であり得る。本明細書で使用される場合、配列に関連した「異種」は、外来種を起源とする配列であるか、又は同種からのものであれば、組成及び/又はゲノム遺伝子座が意図的な人的介入によりネイティブの形態から実質的に改変されている配列である。例えば、異種ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターは、このポリヌクレオチドが由来した種と異なる種からのものであるか、又は同一/類似種からのものであれば、一方若しくは両方が元の形態及び/若しくはゲノム遺伝子座から実質的に改変されているか、又はこのプロモーターが、作動可能に連結されたポリヌクレオチドのネイティブプロモーターではない。
【0157】
終止領域は転写開始領域とネイティブであってもよく、作動可能に連結された形態形成遺伝子とネイティブであってもよく、及び/若しくは作動可能に連結された目的のDNA配列とネイティブであってもよく、宿主植物とネイティブであってもよく、又は別の供給源由来(すなわち、プロモーター、形態形成遺伝子及び/若しくは発現されるDNA配列、宿主植物、又はそれらの任意の組み合わせに対して外来性又は異種)であってもよい。適切な終止領域は、オクトピン合成酵素終止領域及びノパリン合成酵素終止領域などのA.ツメファシエンス(A.tumefaciens)のTiプラスミドから入手可能である。また、Guerineau,et al.,(1991)Mol.Gen.Genet.262:141-144;Proudfoot,(1991)Cell 64:671-674;Sanfacon,et al.,(1991)Genes Dev.5:141-149;Mogen,et al.,(1990)Plant Cell 2:1261-1272;Munroe,et al.,(1990)Gene 91:151-158;Ballas,et al.,(1989)Nucleic Acids Res.17:7891-7903;及びJoshi,et al.,(1987)Nucleic Acid Res.15:9627-9639(これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0158】
形態形成遺伝子に作動可能に連結し、且つ/又は、任意選択により、さらに、異種ヌクレオチド配列、目的の異種ポリヌクレオチド、異種ポリヌクレオチドヌクレオチド、目的の配列、若しくは形質遺伝子に作動可能に連結したプロモーターを含む発現カセットを使用して、任意の植物を形質転換することができる。或いは、プロモーターに作動可能に連結された目的の異種ポリヌクレオチド、異種ポリヌクレオチドヌクレオチド、目的の配列、又は形質遺伝子は、トランスファーDNA(T-DNA)の外に配置された別個の発現カセット上にあり得る。このようにして、遺伝子組換えが行われた植物体、植物細胞、植物組織、種子、根などを得ることができる。本開示の配列を含む発現カセットはまた、生物に同時形質転換される、遺伝子、異種ヌクレオチド配列、目的の異種ポリヌクレオチド、又は異種ポリヌクレオチドの少なくとも1つの追加のヌクレオチド配列も含み得る。或いは、この追加のヌクレオチド配列を、別の発現カセットに供してもよい。
【0159】
適切な場合には、プロモーター配列の制御下で発現するヌクレオチド配列/形質遺伝子、及び任意の追加のヌクレオチド配列は、形質転換植物における発現を増加させるために最適化することができる。すなわち、発現を改善するために、これらのヌクレオチド配列を、植物優先コドンを使用して合成し得る。例えば、宿主優先コドンの利用についての考察には、Campbell and Gowri(1990)Plant Physiol.92:1-11(この全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。植物優先遺伝子を合成する方法は、当該技術分野で利用可能である。例えば、米国特許第5,380,831号明細書、同第5,436,391号明細書、及びMurray,et al.,(1989)Nucleic Acids Res.17:477-498(これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0160】
細胞宿主中での遺伝子発現を増強するために、追加的に配列を改変することが知られている。この改変には、遺伝子発現に有害であり得る、疑似ポリアデニル化シグナルをコードする配列、エクソン-イントロンスプライス部位シグナルをコードする配列、トランスポゾン様リピートをコードする配列、及び他のそのようなよく特徴付けられた配列の除去が含まれる。異種ヌクレオチド配列のG-C含量を、宿主細胞において発現された既知の遺伝子を参照することにより算出される、所与の細胞宿主の平均レベルに調節し得る。可能であれば、予想されるヘアピン二次mRNA構造を避けるように配列を改変する。
【0161】
本明細書で使用される場合、「ベクター」は、ヌクレオチドコンストラクト(例えば発現カセット)を宿主細胞に導入するためのDNA分子(例えば、プラスミド、コスミド、又はバクテリオファージ)を指す。クローニングベクターは、一般的には、外来DNA配列を特定可能な方法で、ベクターの必須の生物学的機能を失わずに挿入し得る1つ又は少数の制限エンドヌクレアーゼ認識部位と、クローニングベクターで形質転換された細胞の識別及び選択に使用するのに好適なマーカー遺伝子とを含む。マーカー遺伝子として、一般的には、テトラサイクリン耐性、ハイグロマイシン耐性、又はアンピシリン耐性を与える遺伝子が挙げられる。
【0162】
一態様では、染色体の倍加を促進するために、一倍体細胞を一定量の染色体倍加剤と接触させ、続いて処理された一倍体細胞からホモ接合性二倍体植物を再生させることができる。一倍体小胞子細胞は、小胞子胚形成又は胚成熟の開始前、開始中、又は開始後に倍加剤と接触させることができる。染色体の倍加後、倍加した一倍体胚は父性由来の染色体を2コピー含むことになる。一倍体胚から倍加一倍体植物を得るプロセスの効率は、10%、20%、30%、50%、60%、70%、80%、又は90%よりも大きくなり得る。一倍体細胞と染色体倍加剤との接触時間は様々である。接触は、24時間未満、例えば4~12時間~約1週間であり得る。接触時間は、一般に約8時間~2日間である。
【0163】
染色体倍加の方法は、Antoine-Michard,S.et al.,Plant cell,tissue organ cult.,Cordrecht,the Netherlands,Kluwer Academic Publishers,1997,48(3):203-207;Kato,A.,Maize Genetics Cooperation Newsletter 1997,36-37;及びWan,Y.et al.,TAG,1989,77:889-892.Wan,Y.et al.,TAG,1991,81:205-211に開示されている。これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。典型的な倍加法は、ホモ接合性の倍加一倍体細胞を作製するために、細胞をコルヒチン、抗微小管剤若しくは抗微小管除草剤、プロナミド、亜酸化窒素、又は任意の有糸分裂阻害剤と接触させる工程を含む。培地中で使用されるコルヒチンの量は一般に、0.01%~0.2%又は約0.05%のアミプロホス-メチル(APM)(5~225μM)が使用され得る。コルヒチンの量は、約400~600mg/Lの範囲又は約500mg/Lであり得る。培地中のプロナミドの量は、約0.5~20μMである。有糸分裂阻害剤の例は表8に含まれる。倍加効率を改善するために、有糸分裂阻害剤と共に他の薬剤を使用し得る。このような薬剤には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アジュバント、界面活性剤などが含まれる。
【0164】
【0165】
形質転換されている細胞を、従来の方法に従って植物体に成長させ得る。例えば、McCormick,et al.,(1986)Plant Cell Reports 5:81-84(この全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。その後、この植物を成長させ、同じ形質転換株又は異なる株と授粉させ、それにより得られた、所望の表現型の特性を発現した子孫が確認され得る。所望の表現型特性の発現が安定して維持されて受け継がれるのを確実にするため、2世代以上生育させ、その後、所望の表現型特質の発現が達成されていることを確実にするため、種子を収穫し得る。このように、本開示は、ゲノムに安定に組み込まれた、本開示の方法に有用なヌクレオチドコンストラクト(例えば本開示の方法に有用で、ゲノムに安定的に組み込まれた発現カセット)を有する形質転換種子(「トランスジェニック種子」とも称される)を提供する。
【0166】
植物組織から植物を再生する様々な方法がある。再生の特定の方法は、出発植物組織と再生する特定の植物種に依存するだろう。単一植物プロトプラスト形質転換体又は種々の形質転換された外植片からの植物の再生、発達及び栽培は、当該技術分野でよく知られている(Weissbach and Weissbach、(1988)In:Methods for Plant Molecular Biology,(Eds.),Academic Press,Inc.,San Diego,Calif.(この文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。この再生及び育成プロセスには、通常、形質転換細胞を選択し、それらの個別の細胞を、胚の通常発生段階から小植物を根付かせる段階まで育成する工程を含む。トランスジェニック胚及び種子も同様に再生される。得られる根付いたトランスジェニックシュートをその後、土壌などの適切な植物育成培地に植え付ける。好ましくは、再生植物を自家授粉させてホモ接合のトランスジェニック植物を提供する。さもなければ、再生植物から得た花粉を、農学的に重要な系の種子から育った植物と交雑させる。逆に、これらの重要な系の植物の花粉を、再生植物への授粉に使用する。本開示の方法によって作製され、目的の所望のポリヌクレオチドを含有するトランスジェニック植物は、当業者によく知られた方法を用いて栽培される。
【0167】
植物ゲノムの特定の位置におけるポリヌクレオチドのターゲティング性挿入方法は、当該技術分野で既知である。ゲノムの所望の位置でのポリヌクレオチドの挿入は、部位特異的組換えシステムを使用して行われる。例えば、国際公開第99/25821号パンフレット、同第99/25854号パンフレット、同第99/25840号パンフレット、同第99/25855号パンフレット、及び同第99/25853号パンフレット(これらは全て、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。簡単に述べると、2つの非同一組換え部位が隣接する目的のポリヌクレオチドは、T-DNAトランスファーカセットに含まれ得る。T-DNAトランスファーカセットは、トランスファーカセットの部位に対応する2つの非同一組換え部位が隣接している標的部位がそのゲノムに安定に組み込まれた植物に導入される。適切なリコンビナーゼが提供され、トランスファーカセットは標的部位に組み込まれる。それにより、目的のポリヌクレオチドが、植物ゲノムの特定の染色体上の位置に組み込まれる。
【0168】
本開示の方法を使用して、外植片由来植物のゲノム改変のための特定の部位を標的とするのに有用な、ポリヌクレオチドを外植片に導入し得る。本開示の方法により導入され得る部位特異的改変として、部位特異的改変を導入する任意の方法により生成されたものが挙げられ、例えば、以下に限定されないが、遺伝子修復オリゴヌクレオチドの使用(例えば、米国特許出願公開第2013/0019349号明細書)、又は二本鎖切断技術(TALEN、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、CRISPR-Casなど)の使用によるものが挙げられる。例えば、植物体又は植物細胞のゲノム中の標的配列のゲノム修飾のために、植物体を選択するために、塩基又は配列を欠失させるために、遺伝子編集のために、そして目的ポリヌクレオチドを植物体又は植物細胞のゲノムに挿入するために、本開示の方法を使用して、CRISPR-Casシステムを植物細胞又は植物体に導入し得る。そのため、本開示の方法を、CRISPR-Casシステムと共に使用して、植物体、植物細胞、又は種子のゲノム中の標的部位及び目的のヌクレオチドを変更するか又は改変するのに有効なシステムを提供し得る。Casエンドヌクレアーゼ遺伝子は、植物最適化Cas9エンドヌクレアーゼであり、この植物最適化Cas9エンドヌクレアーゼは、植物ゲノムのゲノム標的配列に結合し、そこで二本鎖切断を引き起こし得る。
【0169】
Casエンドヌクレアーゼは、ガイドヌクレオチドによりガイドされて認識し、任意選択により特定の標的部位において細胞のゲノムに二本鎖切断を導入する。CRISPR-Casシステムは、植物体、植物細胞、又は種子のゲノム中での標的部位の改変に有効なシステムを提供する。さらに、細胞のゲノム中の標的部位の改変、及び細胞のゲノム中のヌクレオチド配列の編集に有効なシステムを提供するために、ガイドポリヌクレオチド/Casエンドヌクレアーゼシステムを用いる方法が提供される。ゲノム標的部位が特定されると、様々な方法を用いて、様々な目的ポリヌクレオチドを含むように標的部位をさらに改変し得る。本開示の方法を使用して、細胞のゲノム中のヌクレオチド配列を編集するためにCRISPR-Casシステムを導入し得る。編集されるヌクレオチド配列(目的のヌクレオチド配列)は、Casエンドヌクレアーゼにより認識される標的部位中に又は標的部位外に位置し得る。
【0170】
CRISPR遺伝子座(クラスター化等間隔短鎖回文リピート)(SPIDR-スペーサー散在型ダイレクトリピートとしても既知である)は、最近特定されたDNA遺伝子座のファミリーを構成する。CRISPR遺伝子座は、短く且つ高度に保存されたDNAリピート(一般的には、1~140回繰り返される24~40bp-CRISPRリピートとも呼ばれる)から構成され、部分的に回文を形成している。繰り返し配列(通常、種に固有である)は、一定の長さの可変配列(一般的には、CRISPR遺伝子座に依存して20~58)によって間隔があけられている(2007年3月1日公開の国際公開第2007/025097号パンフレット)。
【0171】
Cas遺伝子として、一般にフランキングCRISPR遺伝子座に結合して、関連して、又は近接して若しくは隣接して存在する遺伝子が挙げられる。用語「Cas遺伝子」及び「CRISPR関連(Cas)遺伝子」は、本明細書では互換的に使用される。
【0172】
別の態様では、Casエンドヌクレアーゼ遺伝子は、Casコドン領域上流のSV40核標的シグナル、及びCasコドン領域下流の二分VirD2核定位シグナル(Tinland et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7442-6)に作動可能に連結される。
【0173】
Casエンドヌクレアーゼに関連して、用語「機能的断片」、「機能的に等価である断片」及び「機能的に等価な断片」は、本明細書では互換的に使用される。これらの用語は、二本鎖切断を起こす能力が保持されている、Casエンドヌクレアーゼ配列の一部又は部分配列を指す。
【0174】
Casエンドヌクレアーゼに関連して、用語「機能的改変体」、「機能的に等価である改変体」及び「機能的に等価な改変体」は、本明細書では互換的に使用される。これらの用語は、二本鎖切断を起こす能力が保持されている、Casエンドヌクレアーゼの改変体を指す。断片及び改変体を、部位特異的変異誘発法及び合成構築法などにより得ることができる。
【0175】
一態様では、Casエンドヌクレアーゼ遺伝子は、N(12-30)NGG型の任意のゲノム配列を認識し得る植物コドン最適化ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9遺伝子であり、原則として標的とされ得る。
【0176】
エンドヌクレアーゼは、ポリヌクレオチド鎖のリン酸ジエステル結合を切断する酵素であり、塩基を損傷することなく特定の部位でDNAを切断する制限エンドヌクレアーゼを含む。制限エンドヌクレアーゼは、I型、II型、III型及びIV型エンドヌクレアーゼを含み、これらはさらに亜型を含む。I型及びIII型系においては、メチラーゼ活性及び制限活性の両活性が単一複合体内に含まれる。エンドヌクレアーゼはまた、ホーミングエンドヌクレアーゼ(HEアーゼ)としても知られるメガヌクレアーゼを含み、この酵素は、制限エンドヌクレアーゼのように、特定の認識部位に結合し切断するが、メガヌクレアーゼの認識部位は通常長く、約18bp以上である(2012年3月22日出願のPCT出願第PCT/US12/30061号明細書)。メガヌクレアーゼは、保存された配列モチーフに基づいて4つのファミリーに分類されている。これらのモチーフは、金属イオンの配位及びリン酸ジエステル結合の加水分解に関与する。メガヌクレアーゼは、その長い認識部位と、そのDNA基質の配列多型性を許容していることで知られている。メガヌクレアーゼの命名規則は、他の制限エンドヌクレアーゼの規則と類似している。メガヌクレアーゼはまた、それぞれ独立ORF、イントロン及びインテインによってコードされる酵素に対して付される接頭辞のF-、I-又はPI-で特徴付けられる。遺伝子組換えプロセスの1つの工程は、認識部位又はその近傍でのポリヌクレオチドの切断を含む。この切断活性は、二本鎖の切断に使用され得る。部位特異的リコンビナーゼ及びその認識部位のレビューについては、Sauer(1994)Curr Op Biotechnol 5:521-7、及びSadowski(1993)FASEB 7:760-7を参照されたい。いくつかの例では、リコンビナーゼは、インテグラーゼファミリー又はリゾルバーゼファミリーに由来する。TALエフェクターヌクレアーゼは、配列特異的ヌクレアーゼの新しいクラスであり、植物又は他の生物のゲノム中の特定の標的配列での二本鎖切断に使用することができる。(Miller,et al.(2011)Nature Biotechnology 29:143-148)。ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、ジンクフィンガーDNA結合ドメイン及び二本鎖切断誘発物質ドメインを有する人工の二本鎖切断誘発物質である。認識部位特異性は、通常、例えばC2H2構造を有する2つ、3つ若しくは4つのジンクフィンガーを含むジンクフィンガードメインによって与えられるが、他のジンクフィンガー構造も知られており、設計されている。ジンクフィンガードメインは、選択されたポリヌクレオチド認識配列に特異的に結合するポリペプチドの設計に適している。ZFNとしては、非特異的エンドヌクレアーゼドメインに結合した人工DNA結合ジンクフィンガードメイン、例えば、FoklなどのMs型エンドヌクレアーゼ由来のヌクレアーゼドメインが挙げられる。さらなる機能性は、転写活性化因子ドメイン、転写抑制因子ドメイン及びメチラーゼを含む、ジンクフィンガー結合ドメインに融合することができる。いくつかの例では、切断活性にヌクレアーゼドメインの二量体化が要求される。各ジンクフィンガーは、標的DNAの3つの連続する塩基対を認識する。例えば、3フィンガードメインは、ヌクレアーゼの二量体化要件で、9個の連続するヌクレオチドからなる配列を認識し、2組のジンクフィンガートリプレットが、18個のヌクレオチド認識配列に結合するために使用される。
【0177】
本明細書で使用される場合、「デッドCAS9」(dCAS9)は、転写リプレッサードメインを供給するために使用される。dCAS9は、もはやDNAを切断できないように変異されている。dCAS0は、gRNAによって配列にガイドされた場合、依然結合することができ、リプレッサーエレメントに融合することもできる。本明細書に記載があるように、リプレッサーエレメントに融合したdCAS9は、dCAS9~REPと略され、リプレッサーエレメント(REP)は、植物で特徴付けられている既知の、任意のリプレッサーモチーフであり得る。発現したガイドRNA(gRNA)は、dCAS9~REPタンパク質に結合し、dCAS9-REP融合タンパク質のプロモーター(T-DNA内のプロモーター)内の特定の所定のヌクレオチド配列への結合を標的とする。例えば、これがZM-UBI PRO::dCAS9~REP::PINII TERMカセットをU6-POL PRO::gRNA::U6 TERMカセットと共に使用して、境界を越えて発現し、gRNAがdCAS9-REPタンパク質をガイドして、T-DNA内の発現カセットSB-UBI PRO::moPAT::PINII TERMに結合するように設計されているなら、境界配列を越えて配列を組み込んだイベントはビアラホス感受性となる。T-DNAのみを組み込んだトランスジェニックイベントは、moPATを発現し、ビアラホス耐性となるであろう。(TETR又はESRとは対照的に)リプレッサーに融合したdCAS9タンパク質を用いる利点は、T-DNA内の任意のプロモーターに対しこれらのリプレッサーを標的とする能力である。TETR及びESRは、同種のオペレーター結合配列に限定される。或いは、リプレッサードメインに融合した合成ジンクフィンガーヌクレアーゼを、上記のように、gRNA及びdCAS9~REPに代えて使用し得る(Urritia et al.,2003,Genome Biol.4:231)。
【0178】
細菌由来のII型CRISPR/Casシステムは、CasエンドヌクレアーゼをDNA標的へガイドするのにcrRNA及びtracrRNAを使用する。crRNA(CRISPR RNA)は、二本鎖DNA標的の一方の鎖に相補的な領域と、CasエンドヌクレアーゼにDNA標的を切断するよう指示する、RNA二本鎖を形成するtracrRNA(trans活性化CRISPR RNA)を有する塩基対とを含む。本明細書で使用される場合、用語「ガイドヌクレオチド」は、2つのRNA分子、可変標的ドメインを含むcrRNA(CRISPR RNA)及びtracrRNAの合成的融合に関連している。一態様では、ガイドヌクレオチドは、12~30ヌクレオチド配列からなる可変標的ドメインと、Casエンドヌクレアーゼと相互作用し得るRNA断片とを含む。
【0179】
本明細書で使用される場合、用語「ガイドポリヌクレオチド」は、Casエンドヌクレアーゼと複合体を形成することができ、CasエンドヌクレアーゼがDNA標的部位を認識し、任意選択により切断することを可能にするポリヌクレオチド配列に関連している。このガイドポリヌクレオチドは一本鎖分子であっても二本鎖分子であってもよい。ガイドポリヌクレオチド配列は、RNA配列、DNA配列、又はこれらの組み合わせ(RNA-DNA組み合わせ配列)であってよい。任意選択により、ガイドポリヌクレオチドは、少なくとも1個のヌクレオチド、リン酸ジエステル結合又は連結修飾、例えば、以下に限定されないが、ロックド核酸(LNA)、5-メチルdC、2,6-ジアミノプリン、2’-フルオロA、2’-フルオロU、2’-O-メチルRNA、ホスホロチオエート結合、コレステロール分子への連結、ポリエチレングリコール分子への連結、スペーサー18(ヘキサエチレングリコール鎖)分子への連結、又は環化をもたらす5’から3’への共有結合による連結を含むことができる。リボ核酸のみを含むガイドポリヌクレオチドもまた、「ガイドヌクレオチド」と称される。
【0180】
ガイドポリヌクレオチド、VTドメイン、及び/又はCERドメインのヌクレオチド配列改変は、5’キャップ、3’ポリアデニル化テイル、リボスイッチ配列、安定性制御配列、dsRNA二本鎖を形成する配列、ガイドポリヌクレオチドの標的を細胞内位置に設定する改変若しくは配列、トラッキングを提供する改変若しくは配列、タンパク質用の結合部位を提供する改変若しくは配列、ロックド核酸(LNA)、5-メチルdCヌクレオチド、2,6-ジアミノプリンヌクレオチド、2’-フルオロAヌクレオチド、2’-フルオロUヌクレオチド;2’-O-メチルRNAヌクレオチド、ホスホロチオエート結合、コレステロール分子への連結、ポリエチレングリコール分子への連結、スペーサー18分子への連結、5’から3’への共有結合的連結、又はこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得るが、これらに限定されない。これらの改変は、少なくとも1種の追加の有利な特徴をもたらし得、この追加の有利な特徴は、安定性の変更又は調節、細胞内ターゲティング、トラッキング、蛍光標識、タンパク質用又はタンパク質複合体用の結合部位、相補的な標的配列に対する結合親和性の変更、細胞分解に対する耐性の変更、及び細胞透過性の増大の群から選択される。
【0181】
一態様では、ガイドヌクレオチドとCasエンドヌクレアーゼとは、CasエンドヌクレアーゼがDNA標的部位に二本鎖切断を導入するのを可能にする複合体を形成し得る。
【0182】
本開示の一態様では、可変標的ドメインの長さは、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30ヌクレオチドである。
【0183】
本開示の一態様では、ガイドヌクレオチドは、II型Casエンドヌクレアーゼと複合体を形成し得るII型CRISPR/CasシステムのcRNA(又はcRNA断片)及びtracrRNA(又はtracrRNA断片)を含み、このガイドヌクレオチドCasエンドヌクレアーゼ複合体は、Casエンドヌクレアーゼを植物ゲノム標的部位へと誘導し得、Casエンドヌクレアーゼがこのゲノム標的部位に二本鎖切断を導入することを可能にする。ガイドヌクレオチドを、当該技術分野で既知の任意の方法(例えば、以下に限定されないが、微粒子銃法又は局所適用法)により、植物体又は植物細胞に直接導入し得る。
【0184】
一態様では、ガイドヌクレオチドを、植物細胞中でガイドヌクレオチドを転写し得る植物特異的プロモーターに作動可能に連結された、対応するガイドDNA配列を含む組換えDNA分子を導入することにより、間接的に導入し得る。用語「対応するガイドDNA」には、RNA分子の各「U」が「T」に置き替えられている以外はRNA分子と同じDNA分子が含まれる。
【0185】
一態様では、ガイドヌクレオチドは、微粒子銃法により、又は植物U6ポリメラーゼIIIプロモーターに作動可能に連結された、対応するガイドDNAを含む組換えDNAコンストラクトの、アグロバクテリウム(Agrobacterium)の形質転換のための本開示の方法を使用して導入される。
【0186】
一態様では、RNA Cas9エンドヌクレアーゼ複合体をガイドするRNAは、二本鎖crRNA-tracrRNAを含む二本鎖RNAである。二本鎖crRNA-tracrRNAに対してガイドヌクレオチドを使用する利点の1つは、融合ガイドヌクレオチドを発現させるために作製する必要がある発現カセットが1種のみであるということである。
【0187】
用語「標的部位」、「標的配列」、「標的DNA」、「標的遺伝子座」、「ゲノム標的部位」、「ゲノム標的配列」及び「ゲノム標的遺伝子座」は、本明細書では互換的に使用され、Casエンドヌクレアーゼによって植物細胞ゲノムに二本鎖切断が誘発される、植物細胞ゲノム中のポリヌクレオチド配列(葉緑体DNA及びミトコンドリアDNAを含む)を指す。標的部位は植物ゲノム中の内因性部位であるか、又は代わりに標的部位は植物体に対して異種であり得るため、ゲノム中に天然には存在していないか、又は標的部位は天然で生じる場所と比較して異種のゲノム位置に見出すことができる。
【0188】
本明細書で使用される場合、用語「内因性標的配列」及び「ネイティブ標的配列」は、本明細書では互換的に使用され、植物ゲノムに対して内因性又はネイティブであり、且つ植物ゲノム中の標的配列の内因性又はネイティブの位置に存在する標的配列を指す。
【0189】
「人工標的部位」又は「人工標的配列」は、本明細書では互換的に使用され、植物のゲノム中に導入された標的配列を指す。そのような人工標的配列は、植物ゲノム中の内因性標的配列又はネイティブ標的配列と配列では同じであるが、植物ゲノム中の異なる場所(すなわち、非内因性又は非ネイティブの場所)に存在し得る。
【0190】
「改変標的部位」、「改変標的配列」、「変更標的部位」及び「変更標的配列」は、本明細書では互換的に使用され、非改変標的配列と比較した場合に、少なくとも1つの改変を含む本明細書に開示の標的配列を指す。このような「改変」としては、例えば、(i)少なくとも1つのヌクレオチドの置換、(ii)少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、(iii)少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、又は(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせが挙げられる。
【0191】
一態様では、本開示の方法を使用して、植物における標的遺伝子の遺伝子抑制に有用なポリヌクレオチドを植物に導入し得る。植物における遺伝子操作のいくつかの態様では、特定の遺伝子の活性低下(遺伝子サイレンシング又は遺伝子抑制としても既知である)が望まれる。アンチセンス技術(これに限定されない)を含む多くの遺伝子サイレンシング技術が当業者に公知である。
【0192】
一態様では、本開示の方法を使用して、植物へのヌクレオチド配列のターゲティング組み込みに有用なポリヌクレオチドを植物に導入し得る。例えば、本開示の方法を使用して、標的部位を含む植物体を形質転換するために使用される、非同一組換え部位が隣接する目的ヌクレオチド配列を含むT-DNA発現カセットを導入するのに使用することができる。一態様では、標的部位は、T-DNA発現カセット上のそれに対応する、非同一組換え部位を少なくとも1セット含む。組換え部位が隣接するヌクレオチド配列の置換は、リコンビナーゼの影響を受ける。このように、本開示の方法は、ヌクレオチド配列のターゲティング組み込みのためのT-DNA発現カセットの導入に使用することができ、非同一組換え部位が隣接するT-DNA発現カセットは、認識し、非同一組換え部位で組換えを行うリコンビナーゼにより認識される。したがって、本開示の方法及び組成物を使用して、非同一組換え部位を含む植物の成長の効率及び速度を改善し得る。
【0193】
そのため、本開示の方法は、外因性ヌクレオチドの形質転換植物への、方向性を有するターゲティング組み込みを行うための方法をさらに含み得る。一態様では、本開示の方法は、所望の遺伝子及びヌクレオチド配列の、既に標的植物ゲノムに導入された対応する組換え部位への方向性を有するターゲティングを促進する遺伝子ターゲティングシステムにおいて、新規の組換え部位を使用する。
【0194】
一態様では、2つの非同一組換え部位が隣接するヌクレオチド配列が、目的のヌクレオチド配列の挿入のために標的部位が設けられた、標的生物のゲノム由来の外植片の1つ又は複数の細胞に導入される。安定した植物体又は培養組織が確立されると、標的部位に隣接している組換え部位に対応する部位が隣接した第2のコンストラクト、すなわち目的のヌクレオチド配列が、リコンビナーゼタンパク質の存在下で、安定して形質転換された植物体又は組織に導入される。このプロセスで、標的部位の非同一組換え部位とT-DNA発現カセットの間でヌクレオチド配列の置換が起こる。
【0195】
この方法で調製された形質転換植物体は、複数の標的部位、すなわち非同一組換え部位のセットを含み得ることが認められている。この方法では、形質転換植物体の標的部位に対して複数の操作を行い得る。形質転換植物体の標的部位には、形質転換植物体のゲノムに挿入されており且つ非同一組換え部位を含むDNA配列が意図されている。
【0196】
開示された方法で使用するための、組換え部位の例は知られている。大部分の天然に存在するサッカロミケス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)株で見出される2ミクロンのプラスミドは、2つの反転リピート間のDNAの反転を促進する、部位特異的リコンビナーゼをコードする。この反転は、プラスミドのコピー数の増幅で中心的な役割を果たす。
【0197】
タンパク質、指定されたFLPタンパク質は、部位特異的組換えイベントを触媒する。最小の組換え部位(FRT)が定義されており、非対称8bpスペーサーを挟んだ2つの反転13塩基対(bp)のリピートを含む。FLPタンパク質は、リピートとスペーサーとの接合部で部位を切断し、3’末端リン酸エステルによりDNAに共有結合する。FLPのような部位特異的リコンビナーゼは、特定の標的配列でDNAを切断し、再ライゲートして、2つの同一部位間で正確に定義された組換えをもたらす。機能させるには、システムは組換え部位とリコンビナーゼとを必要とする。補助的因子は必要でない。このようにして、システム全体を植物細胞に挿入して機能させ得る。酵母のFLP\FRT部位特異的組換えシステムが植物で機能することが示されている。今日では、このシステムは、不要なDNAの切除に利用されている。Lyznik et at.(1993)Nucleic Acid Res.21:969-975を参照されたい。対照的に、本開示は、植物ゲノムにおけるヌクレオチド配列の置換、ターゲティング、配置、挿入、及び発現の制御に、非同一FRTを使用する。
【0198】
一態様では、ゲノムに組み込まれる標的部位を含む目的の形質転換生物(例えば、植物体からの外植片)が必要とされる。この標的部位は、非同一組換え部位が隣接するという特徴を有する。形質転換生物の標的部位に含まれる部位に対応する非同一組換え部位が隣接するヌクレオチド配列を含む、ターゲティングカセットがさらに要求される。非同一組換え部位を認識し且つ部位特異的組換えを触媒するリコンビナーゼが要求される。
【0199】
リコンビナーゼは、当該技術分野で既知の任意の手段で提供され得ると認識されている。すなわち、リコンビナーゼは、生物中でリコンビナーゼを発現し得る発現カセットで生物を形質転換することにより、一過性発現により、又はリコンビナーゼ若しくはリコンビナーゼタンパク質のメッセンジャーRNA(mRNA)を提供することにより、生物又は植物細胞中に提供され得る。
【0200】
「非同一組換え部位」とは、隣接する組換え部位の配列が同一でなく、組換えが生じないか、又は部位間の組換えが最少になるであろうことを意味する。すなわち、1つの隣接する組換え部位がFRT部位で、第2の組換え部位が変異したFRT部位であり得る。本開示の方法で使用される非同一組換え部位は、2つの隣接する組換え部位間の組換え、及びそこに含まれるヌクレオチド配列の切除を妨げるか、又は大きく抑制する。したがって、本開示においては、FRT及び変異FRT部位、FRT及びlox部位、lox及び変異lox部位、並びに当該技術分野で知られている他の組換え部位を含む、任意の適切な非同一組換え部位を使用し得ると認められる。
【0201】
適切な非同一組換え部位とは、活性なリコンビナーゼの存在下に、2つの非同一組換え部位間の配列の削除がなされるとしても、植物ゲノムへのヌクレオチド配列の組換えによる標的配置の置換よりもかなり低い効率で生じることを意味する。このように、本開示で使用される適切な非同一部位には、部位間の組換え効率が低い部位、例えば、効率が約30~約50%未満、好ましくは約10~約30%未満、より好ましくは約5~約10%未満の部位が含まれる。
【0202】
上述のように、ターゲティングカセットの組換え部位は、形質転換した植物体の標的サイトのそれに対応する。すなわち、形質転換植物体の標的部位が、FRT及び変異FRTという隣接する非同一組換え部位を含む場合には、ターゲティングカセットは、同じFRT及び変異FRTの非同一組換え部位を含むだろう。
【0203】
さらに、本開示の方法で使用されるリコンビナーゼは、形質転換植物体及びターゲティングカセットの標的部位の組換え部位に依存するであろうことが認識されている。すなわち、FRT部位が使用される場合、FLPリコンビナーゼが必要になるであろう。同様に、lox部位が使用される場合、Creリコンビナーゼが必要になる。非同一組換え部位がFRT及びlox部位の両方を含む場合、植物細胞中にFLP及びCreの両リコンビナーゼが必要になるだろう。
【0204】
FLPリコンビナーゼは、DNA複製時に、S.セレビシアエ(S.cerevisiae)の2ミクロンプラスミドのコピー数の増幅に関与する部位特異的反応を触媒するタンパク質である。FLPタンパク質はクローン化されて発現されている。例えば、Cox(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.80:4223-4227を参照されたい。本開示で使用されるFLPリコンビナーゼは、サッカロミケス属(Saccharomyces)から得ることができる。目的の植物体での最適な発現のために、植物体に望ましいコドンを使用してリコンビナーゼを合成することが好ましいでろう。例えば、1997年11月18日出願の、発明の名称が「Novel Nucleic Acid Sequence Encoding FLP Recombinase」である米国特許出願第08/972,258号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0205】
バクテリオファージリコンビナーゼCreは、2つのlox部位間の部位特異的組換えを触媒する。Creリコンビナーゼは、当該技術分野で既知である。例えば、Guo et al.(1997)Nature 389:40-46;Abremski et al.(1984)J.Biol.Chem.259:1509-1514;Chen et al.(1996)Somat.Cell Mol.Genet.22:477-488;及びShaikh et al.(1977)J.Biol.Chem.272:5695-5702を参照されたい。これらは全て、参照により本明細書に組み込まれる。そのようなCre配列はまた、植物体に望ましいコドンを使用しても合成され得る。
【0206】
適切な場合には、植物ゲノムに挿入されるヌクレオチド配列は、形質転換植物における発現を増加させるために最適化され得る。本開示において哺乳動物、酵母又は細菌の遺伝子が使用される場合、発現改善のために、植物体に望ましいコドンを使用してそれらを合成することができる。単子葉植物における発現では、単子葉植物に望ましいコドンを使用して双子葉植物の遺伝子も合成できると認められる。植物に望ましい遺伝子を合成するために、当該技術分野における各種方法が利用できる。例えば、米国特許第5,380,831号明細書、同第5,436,391号明細書,及びMurray et al.(1989)Nucleic Acids Res.17:477-498(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。植物に望ましいコドンは、目的の植物で発現されるタンパク質において、より頻繁に使用されるコドンから決定され得る。単子葉植物又は双子葉植物に望ましい配列は、特定の植物種にとってその植物に望ましい配列と同様に構築され得ると認識されている。例えば、欧州特許出願公開第A0359472号明細書;欧州特許出願公開第A0385962号明細書;国際公開第91/16432号パンフレット;Perlak et al.(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:3324-3328;及びMurray et al.(1989)Nucleic Acids Research,17:477-498.米国特許第5,380,831号明細書;同第5,436,391号明細書など(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。さらに、遺伝子配列の全て又は任意の部分が、最適化されてもよいし、合成されてもよいことが認識されている。すなわち、完全に最適化されたか又は部分的に最適化された配列も使用し得る。
【0207】
配列のさらなる改変が、細胞宿主中で遺伝子発現を促進することが知られており、本開示で使用することができる。これらには、遺伝子発現に有害であり得る、疑似ポリアデニル化シグナルをコードする配列、エクソン-イントロンスプライス部位シグナルをコードする配列、トランスポゾン様反復配列、及び他のそのような特徴を有する配列の削除が含まれる。配列のG-C含有量は、宿主細胞中で発現される既知の遺伝子を参照することによって算出される、所与の細胞宿主の平均的なレベルに調節され得る。可能であれば、配列を、予想されるヘアピン二次RNA構造を避けるように改変する。
【0208】
本開示はまた、新規のFLP組換え標的部位(FRT)も包含する。FRTは、8塩基スペーサーで分けられた2つの13塩基対リピートを含む最小配列として特定されている。2つの13塩基リピートが8個のヌクレオチドで分離されている限り、スペーサー領域のヌクレオチドを、ヌクレオチドの組み合わせで置換し得る。スペーサーの実際のヌクレオチド配列は重要ではないが、しかしながら、本開示の実施のためには、スペース領域のヌクレオチドのいくつかの置換は、他の領域の置換より良く機能し得る。8塩基対のスペーサーは、鎖置換時のDNA-DNAの対合に関与する。この領域の非対称性は、組換えイベントの部位アラインメントの方向を決定し、これは、その後、逆位になるか又は切除されるかに繋がる。上述のように、スペーサーの大部分は、機能を失うことなく変異され得る。例えば、Schlake and Bode(1994)Biochemistry 33:12746-12751(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0209】
新規のFRT変異部位は、本開示の方法の実施で使用され得る。そのような変異部位は、PCRをベースとした変異誘発により構築され得る。変異FRT部位は既知である(国際公開第1999/025821号パンフレットの配列番号2、3、4、及び5を参照されたい)が、本開示の実施には別の変異FRT部位を使用し得ることが認識されている。本開示は、特定のFRT又は組換え部位の使用に制限されず、むしろ、植物ゲノム中のヌクレオチド配列のターゲティング挿入及び発現に、非同一組換え部位又はFRT部位を使用し得る。そのため、本開示に基づいて、他の変異FRT部位が構築され、使用され得る。
【0210】
上で論じたように、リコンビナーゼの存在下に、非同一組換え部位を有する標的部位を含むゲノムDNAを、対応する非同一組換え部位を有するT-DNA発現カセットを含むベクターと一緒にすると、組換えが起こる。隣接する組換え部位の間に位置するT-DNA発現カセットのヌクレオチド配列は、隣接する組換え部位の間に位置する標的部位のヌクレオチド配列と置換される。このようにして、目的のヌクレオチド配列を、宿主のゲノムに正確に組み込み得る。
【0211】
本開示の多くの変形を実施することができると認められる。例えば、複数の非同一組換え部位を有する標的部位を構築することができる。このように、複数の遺伝子又はヌクレオチド配列を、植物ゲノムの正確な位置に積み重ねるか、又はオーダーすることができる。同様に、ゲノム内に標的部位が確立されたならば、T-DNA発現カセットのヌクレオチド配列内に追加の組換え部位を組み込み、その部位を標的配列に移入することにより、追加の組換え部位を導入することができる。このように、標的部位が確立されると、その後、組換えにより部位を追加するか又は部位を変更することが可能である。
【0212】
別の変形として、生物の標的部位に作動可能に連結したプロモーター又は転写開始領域を提供することが挙げられる。プロモーターは、最初の組換え部位の5’末端側にあることが好ましい。コード領域を含むT-DNA発現カセットで生物を形質転換することにより、コード領域の発現は、T-DNA発現カセットが標的部位に組み込まれたときに起こるであろう。この態様は、コード配列として選択マーカー配列を提供することにより、形質転換された細胞(特に植物細胞)を選択する方法を提供する。
【0213】
本システムの別の利点として、上で論じたT-DNA発現カセットを使用することによる、導入遺伝子又は導入DNAを生物に組み込むことの複雑さを軽減する能力、及び単純な組み込みパターンによる生物の選択が挙げられる。同様に、数種の形質転換イベントを比較することにより、ゲノム内の好ましい部位を特定し得る。ゲノム内の好ましい部位として、必須配列の発現を妨害せず且つ導入遺伝子配列を十分に発現させるものが挙げられる。
【0214】
本開示の方法はまた、ゲノム内の1ヵ所に複数の発現カセットを結合させる手段を提供する。ゲノム内の標的部位で、組換え部位を追加又は切除することができる。
【0215】
本開示においては、本システムの3つの成分を一緒にする、当該技術分野で知られた手段を使用することができる。例えば、植物を安定に形質転換し、そのゲノム内に標的部位を宿させることができる。リコンビナーゼを、一時的に発現させてもよいし、提供してもよい。或いは、リコンビナーゼを発現し得るヌクレオチド配列を、植物ゲノムに安定的に組み込み得る。対応する非同一組換え部位が隣接するT-DNA発現カセットは、対応する標的部位とリコンビナーゼの存在下に、形質転換植物のゲノムに挿入される。
【0216】
或いは、形質転換植物を有性交雑させることにより、本システムの成分を一緒にすることができる。この態様では、ゲノムに組み込まれた標的部位を含有する形質転換植物、すなわち第1の親は、第2の植物、すなわち第1の親に対応する隣接する非同一組換え部位を含有するT-DNA発現カセットで遺伝的に形質転換されている第2の親と有性交雑することができる。第1の植物又は第2の植物は、そのゲノム内にリコンビナーゼを発現するヌクレオチド配列を含有する。リコンビナーゼを構成的又は誘導性プロモーターの制御下に置くことができる。このようにして、リコンビナーゼの発現及びその後の組換え部位の活性を制御し得る。
【0217】
本開示の方法は、導入されるヌクレオチド配列を特定の染色体部位へ組み込むターゲティングに有用である。このヌクレオチド配列は、任意の目的のヌクレオチド配列をコードし得る。目的の特定の遺伝子としては、宿主細胞及び/又は生物に容易に分析可能な機能的特徴を提供するもの(例えばマーカー遺伝子)、並びに受容細胞の表現型を変える他の遺伝子などが挙げられる。このように、本開示では、植物の成長、高さ、病気に対する感受性、昆虫、栄養価などに影響する遺伝子を使用することができる。ヌクレオチド配列はまた、遺伝子の発現を停止又は改変させる「アンチセンス」配列をコードすることができる。
【0218】
ヌクレオチド配列は、機能性発現ユニット又はT-DNA発現カセットで使用できることが確認された。機能性発現ユニット又はT-DNA発現カセットとは、機能性プロモーター及び殆どの場合に終止領域を有する目的ヌクレオチド配列を意味する。本開示の実施の中で機能性発現ユニットを実現させるには各種の方法がある。本開示の一態様では、目的核酸は機能性発現ユニットとしてゲノムに導入又は挿入される。
【0219】
或いは、ヌクレオチド配列はゲノム内のプロモーター領域の3’末端側の部位へ挿入することができる。この後者の場合、プロモーター領域の3’末端側へのコード配列の挿入は、組み込み時に機能性発現ユニットを実現させるものである。T-DNA発現カセットは、目的ペプチドをコードする核酸に作動可能に連結した転写開始領域、又はプロモーターを含むであろう。そのような発現カセットは、目的の1つ又は複数の遺伝子の挿入が調節領域の転写調節下となるように、複数の制限酵素部位を備えている。
【0220】
以下に限定されないが、植物細胞から単離されたDNAの遺伝子型決定、植物細胞から単離されたRNA転写産物の測定、植物細胞から単離されたクロマチンのヌクレオソーム量又は密度の測定、植物細胞から単離されたクロマチンのヒストンタンパク質の翻訳後改変の測定、植物細胞から単離されたDNA又はRNAのエピジェネティック改変の測定、植物細胞から単離されたクロマチンのタンパク質:DNA相互作用の測定、及び植物細胞から単離されたタンパク質:RNA相互作用又は複合体の測定を含む植物細胞を特徴付ける方法は、本開示の方法に有用である。
【0221】
本開示の方法で生成された植物細胞からの特徴情報及びデータは、植物細胞の表現型性能を予測し、成長過程における早期の育種の決定を容易にするために使用される。植物細胞のDNAシーケンシングによる遺伝子型決定に基づくゲノムデータの使用、植物細胞のアッセイによる遺伝子型決定に基づくゲノムデータの使用、植物細胞の既知の又は予測される発現状態に基づくゲノムデータの使用、植物細胞の既知又は予測されるクロマチン状態に基づくゲノムデータの使用、植物細胞の既知の又は予測されるエピジェネティックな調節状態に基づくゲノムデータの使用、並びに植物細胞の共有された一倍体ゲノムデータの及び/或いは植物細胞の系統履歴データの遺伝型インピュテーションの使用を含むが、これらに限定されない植物細胞の表現型性能を予測する方法は、本開示の方法に有用であり、植物育種プロセスを促進する。
【0222】
植物細胞を特徴付け、表現型性能を予測する方法は当該分野で知られており、米国特許第6399855号明細書、米国特許第8039686号明細書、米国特許第8321147号明細書、米国特許第10031116号明細書、米国特許第10102476号明細書、米国特許出願公開第2016/0321396号明細書、米国特許出願公開第2017/0245446号明細書、米国特許出願公開第2017/0359978号明細書、及び米国特許出願公開第2018/0363069号明細書に開示されている(これらの全ては、これらの全体を参照により本明細書に組み込まれる)。
【実施例】
【0223】
実施例1:プラスミド
実施例で参照される表示成分を含むプラスミドの説明については表9を参照されたい。プラスミド番号の後に「+」が続くものは、表示成分を含むT-DNAとT-DNA左境界配列(LB)を越えて位置する追加の表示成分とを含む。当業者の範囲内であるように、追加の成分は代替としてT-DNA右境界配列(RB)を越えて位置してもよい。
【0224】
【0225】
実施例2:培養培地
実施例において参照される形質転換用、選択用及び再生用の培地構成の説明は表10~15を参照されたい。
【0226】
【0227】
【0228】
ダイズの形質転換、組織培養、及び再生に使用される種々の培地組成の概要を表12に示す。この表において、培地M1は、これが形質転換のための出発物質である場合、懸濁培養の開始のために使用される。培地M2及びM3は、上に列挙した外植片の全範囲のアグロバクテリウム(Agrobacterium)形質転換に有用な代表的な共培養培地を示す。培地M4は選択に有用であり(適切な選択剤と共に)、M5は体細胞胚成熟に使用され、培地M6は発芽に使用されてT0小植物体を作出する。
【0229】
【0230】
【0231】
【0232】
【0233】
実施例3:トウモロコシのアグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介形質転換
A.アグロバクテリウム(Agrobacterium)マスタープレートの調製。
バイナリードナーベクターを宿すアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を、-80℃の凍結アリコートから固体12R培地上にストリークし、28℃の暗所で2~3日間培養し、マスタープレートを作った。
【0234】
B.固体培地上でのアグロバクテリウム(Agrobacterium)の培養。
アグロバクテリウム(Agrobacterium)の単一コロニー又は複数のコロニーをマスタープレートから採取し、810K培地を含有する第2のプレートにストリークし、28℃の暗所で一晩インキュベートした。
【0235】
フード中で、アグロバクテリウム(Agrobacterium)感染培地(700A;5ml)及び100mMの3’-5’-ジメトキシ-4’-ヒドロキシアセトフェノン(アセトシリンゴン;5μL)を14mLのコニカルチューブに加えた。白金耳約3杯の、第2のプレートからのアグロバクテリウム(Agrobacterium)をチューブに懸濁させ、その後、チューブをボルテックスして、均一な懸濁液とした。懸濁液(1ml)を分光光度計のチューブに移し、懸濁液の光学濃度(550nm)を約0.35~1.0の読みに調節した。アグロバクテリウム(Agrobacterium)の濃度は約0.5~2.0×109cfu/mLであった。2mLのマイクロ遠心チューブのそれぞれが懸濁液1mLを含有するように、最終のアグロバクテリウム(Agrobacterium)懸濁液を分取した。その後、できるだけ速やかに懸濁液を使用した。
【0236】
C.アグロバクテリウム(Agrobacterium)の液体培地での培養。
或いは、アグロバクテリウム(Agrobacterium)は、液体培地での培養により形質転換用として調製することができる。感染の1日前に、30mlの557A培地(10.5g/lのリン酸水素二カリウム、4.5g/lのリン酸水素一カリウム無水物、1g/lの硫酸アンモニウム、0.5g/lのクエン酸ナトリウム脱水物、10g/lのスクロース、1mMの硫酸マグネシウム)、並びに30μLのスペクチノマイシン(50mg/mL)及び30μLのアセトシリンゴン(20mg/mL)が入った125mlのフラスコを準備した。白金耳に半量の、第2のプレートからのアグロバクテリウム(Agrobacterium)をフラスコに懸濁させ、200rpmに設定したオービタルシェーカーにセットし、28℃で一晩インキュベートした。アグロバクテリウム(Agrobacterium)の培養物を5000rpmで10分間遠心分離した。上清を除去し、アセトシリンゴン溶液を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)の感染培地(700A)を加えた。ボルテックスして細菌を再懸濁させ、アグロバクテリウム(Agrobacterium)懸濁液の光学濃度(550nm)を約0.35~2.0の読みに調節した。
【0237】
D.トウモロコシの形質転換。
Tween20を1滴加えた20%(体積/体積)漂白剤(5.25%次亜塩素酸ナトリウム)中で、トウモロコシ(ゼア・マイズ・L.(Zea mays L.))の品種の雌穂表面を15~20分間滅菌し、続いて滅菌水で3回洗浄した。未成熟胚(IE)を雌穂から分離し、アセトシリンゴン溶液を含む2mlのアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染培地(700A)に移した。胚の最適サイズは近交系により変化するが、WUS2及びODP2による形質転換では、幅広いサイズの未成熟胚を使用することができるであろう。全ての胚を回収した後、700A培地を除去し、1mLのアグロバクテリウム(Agrobacterium)懸濁液を胚に添加し、チューブを5~10秒間ボルテックスし、滅菌条件下で約5分間インキュベートした。次に、処理した胚を562V(又は710I)共培養培地(実施例2を参照)に移し、過剰の液体を1.0mLピペットチップを用いて手作業で除去した。各胚を平らな面を下にして置いた。各プレートは、暗条件下の共培養で1~3日間、21℃でインキュベートした。24時間後、処理した胚を、選択せずに休止培地(605J培地)に移した。
【0238】
E.染色体倍加
好ましくは、処理された一倍体胚は、染色体倍加剤(又は有糸分裂阻害剤)、例えば、0.1~1.0g/mlのコルヒチン濃度を有する休止培地(605J培地)に移し、染色体倍加剤を含まない休止培地(605J培地、又は優先的に605T培地)に移す前に、例えば、24時間、微小管組織を妨害することによって分裂中期に分裂細胞の有糸分裂停止を引き起こし、続いて暗条件下、28℃でインキュベートすることができる。3~7日後、選択せずに、胚を成熟培地(289Q培地)に移した。
【0239】
実施例4:トウモロコシ一倍体胚の遺伝的に多様な集団の獲得
遺伝的に異なる2つの近交系親株の交雑受精から得られた、F1ハイブリッドトウモロコシ植物の種子を播き、そのF1ハイブリッド植物を雌親植物(花粉の受容体)として用いた。遺伝的多様性は胚珠毎に作られ、それぞれの胚珠は巨大配偶子形成の際の減数分裂時の組換えによる独特の遺伝的実体である。ストック6、RWS、KEMS、KMS、ZMS、又は関連する誘導体などの、一倍体誘導体系統からの種子を植え、得られた植物を雄親植物(花粉供与体)として使用した。雌親植物の穂は、絹糸が出現する前にシュートバッグで包んだ。雌親植物の植物上の穂の絹糸に、雄親植物(一倍体誘導体植物)の葯から採取した生きた花粉粒を授粉させた。この受粉は、外来花粉による汚染を回避するために、トウモロコシ育種プログラムで正式に使用される方法によって制御された。
【0240】
これにより、使用する一倍体誘導体系統の選択毎に異なることが知られている頻度で、1個の穂当たり全胚の約2~30%が一倍体胚となるような生産がもたらされる。受粉後約9~14日目に、未成熟の穂を収穫した。穂は、30%Clorox漂白剤+0.5%Micro洗剤中で20分間表面滅菌し、滅菌水で2回濯ぎ、次いで未成熟胚を各耳から単離するために使用した。
【0241】
一倍体胚を、誘導体系統中の可視マーカー遺伝子の同定に基づいて単離した。例えば、誘導体系統が蛍光レポーター遺伝子を有する安定な形質転換系列であり、且つ/又はアントシアニンレポーター遺伝子、例えばR1-scm遺伝子を受け継いでいる場合(米国特許第8,859,846号明細書(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)、初期発生段階の胚における蛍光タンパク質及び/又はアントシアニン合成を可能にするプロモーターによる遺伝子調節は、倍数性決定を可能にする。トランスジェニック法では、有用な典型的プロモーターにはトウモロコシオレオシンプロモーター又はゼア・マイズ(Zea mays)ユビキチンプロモーターが含まれる。父性ゲノムの除去後、母性の一倍体胚は胚細胞中に雌親からの1組の染色体しかもたず、これらの一倍体胚は可視マーカー遺伝子の存在を検査すると陰性とでる。この種の可視マーカーを用いることにより、一倍体胚は、蛍光レポーター遺伝子及び/又はR1-scm発現のないものとして同定され、蛍光タンパク質又はアントシアニン色素沈着を発現する二倍体胚から選択される。
【0242】
ここでは、ゼア・マイズ(Zea mays)ユビキチンプロモーター(ZmUBIpro)に作動可能に連結された、ZsYELLOW蛍光タンパク質をコードする発現カセットで安定に形質転換された、R1-scm対立遺伝子を有する一倍体誘導体を花粉供与体として用い、典型的には未成熟胚の約25%が一倍体胚となる結果をもたらした。これらの一倍体胚を、本明細書に記載の実験で使用した。
【0243】
実施例5:トウモロコシ一倍体胚のクローン繁殖の活性化
以下の実験では、WUS2を含むプラスミドの送達が、野生型、非形質転換倍加一倍体のクローン繁殖を改善することが示された。さらに、以下の実験では、形態形成遺伝子カセットを制御する調節配列及び形態形成タンパク質自体の変異の両方が、トランスジェニック植物又は非トランスジェニック植物の再生頻度に影響を及ぼすことが示された。
【0244】
トウモロコシF1ハイブリッドの未成熟胚を、実施例4に記載のようにして、一倍体誘導体と交雑させ、実施例3に記載のようにして、表9に記載のT-DNAを含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)株LBA4404 THY-で形質転換した(米国特許第8,334,429号明細書(この全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。具体的には、2つの「形質」発現カセット(ZS-GREEN及びZM-HRA)を含むプラスミドPHP86491(配列番号183)を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)(Agro1)を、対照処理として単独で使用した。3X強化ゼア・マイズ(Zea mays)PLTP(ZmPLTP)調節エレメントに作動可能に連結されたWUS発現カセット及びNOSプロモーター調節エレメントに作動可能に連結されたCRC発現カセットを含むプラスミドPHP88158(配列番号182)を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)(Agro2)を、陽性対照として使用した。処理3では、ZmPLTPプロモーターTATAボックスの近くに三連(3XEME)で配置されたトウモロコシ由来エンハンサーエレメント(EME)を有する3X強化ZmPLTP調節エレメントに作動可能に連結されたWUS発現カセットと、NOSプロモーター調節エレメントに作動可能に連結されたCRC発現カセットとを含むプラスミドRV020636(配列番号186)(Agro3)を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)を使用した。処理4では、3X増強ZmPLTP調節エレメントに作動可能に連結された、WUSCHELタンパク質及びアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)GALLSタンパク質(ZM-WUS2:GALLSC27)のC末端27アミノ酸を含む翻訳融合ペプチドをコードするWUS発現カセット、並びにNOSプロモーター調節エレメントに作動可能に連結されたCRC発現カセットを含むプラスミドRV022819(配列番号187)(Agro4)を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)を使用した。処理5では、3X増強ZmPLTP調節エレメントに作動可能に連結された、WUSCHELタンパク質及びアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)ビルレンスF(virF)タンパク質(ZM-WUS2:virFC127)のC末端127アミノ酸を含む翻訳融合ペプチドをコードするWUS発現カセット、並びにNOSプロモーター調節エレメントに作動可能に連結されたCRC発現カセットを含むプラスミドRV022820(配列番号188)(Agro5)を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)を使用した。
【0245】
実施例3に記載したような、各一倍体胚のトウモロコシ形質転換に続いて、各処理の一倍体外植片上の体細胞胚形成が活性化された。約6~10日後に、処理された各一倍体胚の繁殖中のカルス組織を解体し、解体組織の各部を0%のコルヒチンを有する成熟培地(289Q)に移し、暗条件下、26~28℃で培養した。約6~10日後、継代培養した組織を、良好な根を有する健康な小植物が発育するまで、26℃の明るい培養室に移した。約7~14日後、小植物を培養土を入れた浅い箱に移し、グロースチャンバー中で1週間栽培し、その後、温室中でさらに1~2週間栽培し、次いで、植木鉢の土に移植し温室条件下で栽培した。
【0246】
再生植物を土壌で栽培した後、各クローン植物から葉の組織サンプルを採取し、DNAを単離し、診断PCRベースのアッセイを実施して、形態形成遺伝子発現カセットの存在/不在を検出し、異なる各形態形成遺伝子発現カセットを使用した処理に応答したトランスジェニック植物の数を決定した。さらに、PCRベースの遺伝子マーカーアッセイを用いた遺伝子型決定のために、単離したDNAを使用した。
【0247】
遺伝子型データを用いて、ゲノムワイドマーカー遺伝子座で遺伝した対立遺伝子の状態を決定した。遺伝子型データを用いて、クローン由来グループ間及びクローン由来グループ内の遺伝的距離を表す系統樹又は「クローンセット」を作成し、それによりアッセイ状態ごとの対立遺伝子のスコアを用いて測定した、遺伝距離をグラフにプロットして近縁性を表した。10のトウモロコシ染色体の物理地図にわたって、親の対立遺伝子の遺伝を示すイデオグラムを用い、対立遺伝子状態の遺伝パターンについてもクローンセット内で調べた。
【0248】
形質転換レベルは、サンプリングされた植物の総数に対して、形態形成遺伝子発現カセットの配列の存在を試験して陽性であることが示された植物の数(トランスジェニック%)を計算することによって決定した。結果を表16に示した。
【0249】
(PHP88158(配列番号182))を用いた陽性対照処理の結果は、低い割合の植物を示した。再生植物の2パーセント(2%)が、形態形成遺伝子発現カセットの存在を試験した結果、陽性であった。WUSCHEL-GALLS(GSC27)翻訳融合(RV022819(配列番号187))及びWUSCHEL-virFC127翻訳融合(RV022820(配列番号188))を含む形態形成タンパク質変異体を使用するクローン植物についての結果は、比較的高い再生植物レベルを示し、形態形成遺伝子発現カセットの存在試験で陽性が示されたクローン植物は、9~47%の範囲であった。
【0250】
RV020636(配列番号186)を用いた処理の結果は、元のWUSCHELペプチドをコードする形態形成遺伝子発現カセット中のWUS遺伝子に、作動可能に連結されたZmPLTP調節配列中の改変発現トウモロコシ要素(3XEME)の使用により、非トランスジェニック野生型一倍体植物の再生が改善されることを示した。ここでは、試験した269の植物組織で、形態形成遺伝子発現カセットを試験して陽性であった植物は皆無であり、野生型一倍体植物の作製のための有用性の改善が示された。
【0251】
【0252】
RV020636(配列番号186)を用いて処理した一倍体外植片毎に生産されたクローン植物の分布を決定した。220個の一倍体胚を処理した後、処理した一倍体胚1個当たり平均して4.85個のクローン植物が観察された(
図1を参照)。これらの結果を考慮すると、RV020636プラスミド(配列番号186)を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)は、野生型の非トランスジェニック一倍体植物のクローン生産を得るための優先的な処理方法として特定された。
【0253】
7000以上の遺伝子マーカー遺伝子座を用いてスコア化した77のRV020636処理一倍体胚に由来する253のサンプリングされたクローン個体についての遺伝子型決定アッセイの結果は、遺伝子型決定されたサンプルの92%(253件中233件)がクローン群内で99%以上の遺伝的同一性を有することを示した。遺伝的関連性を計算し、系統樹を用いてグラフで表した場合、クローンセットのクラスタリングが観察され、これらのクローンが高度に類似したゲノムを有して、安定に生産されることが示された(データは示さず)。10のトウモロコシ染色体の物理地図にわたって、親の対立遺伝子の遺伝を示す対立遺伝子状態の遺伝パターンから、クローンセットの中で、処理したウモロコシ一倍体胚1個当たりにクローン植物を得るためのこの方法の有用性が確認された(データは示さず)。
【0254】
これらの実験から、特定の「利他主義」プラスミドが野生型又はトランスジェニック植物のいずれかを生産する際に変異を示すことが確認された(表16を参照)。プラスミドRV020636(配列番号186)は、非トランスジェニック野生型一倍体植物の集団を作製するための例示的な「利他主義」プラスミドとして同定され、これは、実施例6に記載されるように、倍加すると、所与の倍加一倍体(DH)集団で作製される選択可能な個体の数を最大にする。これらの方法は、育種集団の有効集団サイズを改善するために使用された。
【0255】
実施例6:クローン倍加一倍体トウモロコシ植物の作製
実施例5に記載した形態形成発達タンパク質を用いてRV020636形質転換法を行い、その約8~72時間後、処理した一倍体胚を、染色体倍加剤であるコルヒチンを含む培地に移し、暗組織培養室(28℃)に置いた。培地中で使用されるコルヒチンの量は、一般に0.01%~0.2%(400~600mg/L)である。具体的には、これらの実験では0.05%(500mg/L)のコルヒチンを使用した。染色体倍加処理の8~72時間後、処理した胚を移し、染色体倍加剤を含まない培地、例えば成熟培地(289Q培地)を用いて培養した。
【0256】
文献により以前に報告された20~25%(データは示さず)と比較して、本明細書に開示の方法を使用すると、60%を超える一倍体胚がコルヒチン倍加剤に首尾よく応答した。加えて、染色体を倍加したクローン一倍体トウモロコシ胚の繁殖は、自家受精(受精)の成功率の改善をもたらした。これらの実験では、各々が2つのクローンの、第1世代(D0)植物を含む51のクローンセットを、標準的な温室条件を用いて栽培した。繁殖成功とは、各植物の自家受精後における個体の種子、D1種子の生産であると定義された。表17に示されるように、文献により以前に報告された8~10%(データは示さず)に比べて、60%を超える二倍体化一倍体胚が首尾よく自家受精(受精)している。表17は、これら51のDHクローンセットの繁殖適合性スコアも提供している。
【0257】
【0258】
これらの結果を考慮すると、本開示の方法は、繁殖の成功を増加させることによって、例えば、クローンが互いに繁殖面で補完する場合に、クローンセット内で他家受精を行うことによって、生産性のさらなる改善を提供することが期待される。さらに、表17において、一緒にすると累積14%の表現型の観察が示されている、雌性不稔、雄性不稔+Runt、及び非同期開花表現型は、同様に、繁殖の成功をさらに増加させることによって生産性の改善のために使用され得る。例えば、複数のクローンが増殖し、そのようなクローンが互いに生殖的に補完することができる場合、この結果は、クローンセット内でのクローン間の交雑受精が、DH株の次世代の種子の繁殖において84%までの成功レベルで、生産性(種子の生産)をさらに改善し得ることを示す。この結果は、これまでに報告されている僅かに10%までの結果と比較して改善されている。
【0259】
これらのD0植物を栽培している間に、多くのクローンセットが、植物丈、葉縁幅、穂の長さ、房の出現、シュートの出現及び絹糸の出現などの特徴を含む、セット内の形態学的表現型の均一性を示したことが注目された(データは示さず)。対照的に、当該技術分野で報告されているように、コルヒチンによる染色体倍加処理は、クローンセット内で負の多面発現効果を生じる。クローンセット内で均一な表現型を観察することに加えて、分離個体F2世代の植物の遺伝的に多様な集団の予想される変異と一致する仕方で、クローンセット間に形態学的変異があることも本方法を用いて観察された。これらの結果は、当該分野で実施されている現在の方法と比較して、本開示の方法がさらなる改善を提供したことを示している。
【0260】
実施例7:最適なゲノム推定育種価によるクローン倍加一倍体の選択
以下の実験は、繁殖努力のために、所望のクローンDH株を同定し、選択し、そして繁殖させるために、クローン外植片に由来する細胞の遺伝子型を決定する工程を包む方法を示す。
【0261】
ゲノム選択法は、表現型のない個体に対するゲノム推定育種価(GEBV)を計算するために、ゲノムワイドな分子マーカーの効果を推定する。例えば、GEBVは、ゲノムワイドな遺伝子座における対立遺伝子状態を測定する遺伝マーカーデータを用いて表現型の性能を予測することにより、選択基準として使用することができる。DH株組織をサンプリングし、組織サンプルからDNAを単離し、そして実施例5に記載されるように各サンプルの遺伝子型を決定することによって、DH株毎のGEBVを計算するために、ゲノムワイドな遺伝子座における対立遺伝子の遺伝パターンを決定することが可能である。
【0262】
育種プログラムは、一般的には、利用可能な育種資源に対する制約(例えば、植物を栽培するために利用可能な土地面積の制限)によって部分的に決定される、あるサイズのDH集団を使用する。実施例6に記載したように、現在の最先端技術における1つの問題は、例えば、代表的には、全てのサンプリングされた一倍体胚の3分の2まで又はそれを超える損失を伴う、DH生産時の生産性損失である。この損失によって引き起こされる1つのさらなる負の結果は、全てのサンプリングされた一倍体胚の遺伝子型を決定するためのコストの増加、及びこれらの遺伝子型が決定されたサンプルが稔性植物に発育しないリスクである。したがって、現在の技術水準では、遺伝子型の決定は、通常、DH集団全体を作り出すための商品原価を含むプロセスとして、後続の世代において実施される。
【0263】
実施例6において示されたように、処理された外植片の1つのセクションがDNA単離のために使用され、T-DNAの存在/不在を特徴付けるために使用された一方で、他のセクションは、処理された一倍体胚毎にクローンセットを得るために使用された場合、そのようなDNAは、理想的にはDH植物を成熟にまで栽培する前に、DH系統毎のGEBVを計算するための遺伝的データを得るために使用され得ると期待される。
【0264】
例えば、実施例4に記載した方法を用いて育種交雑を実施し、処理した一倍体胚の集団の遺伝子型を決定した(データは示さず)。遺伝的データセットを用いて、繁殖させる処理済み一倍体胚それぞれについてGEBVを、具体的には、湿度、収量、植物丈、及び穂の長さについてGEBVを計算した。得られたGEBVを、各形質についてのヒストグラム分布としてグラフ化し、形質毎の予測表現型値に対するDH株の数を示した。
図2は、遺伝的推定育種価(GEBV)のこれらのヒストグラム分布を示す。推定育種価(x軸)に対するDH系統数(y軸)のヒストグラム分布は、穀粒水分(
図2A)、穀粒収量(
図2B)、植物丈(
図2C)及び穂の長さ(
図2D)の表現型予測を示す。結果として、本開示の方法を使用すれば、GEBVを使用して倍加一倍体集団がどのように特徴付けられるかが示され、それによってGEBVに基づくさらなる植物育種のための選択が容易になる。
【0265】
本実施例の方法では、サンプリングした細胞から抽出したDNAを遺伝子マーカーの解析に用いた。別の態様では、サンプリングされた細胞はまた、以下に限定されないがRNA、タンパク質、クロマチン、及び/又は代謝産物の抽出を含む、他の方法を使用して特徴付けられることが理解される。
【0266】
本開示の方法を用いたこのような選択に基づく濃縮DH集団は、ランダムに作られた集団よりも表現型に関してパフォーマンスに優れていることが予想される。したがって、本明細書中に開示される方法は、育種プログラムにおける遺伝的獲得割合に有利な影響を及ぼすことが期待される。さらに、本明細書に開示される方法は、DH生産プロセスにおいて比較的早期に選択基準としてGEBVを使用する場合、投入コストを低減することができ、それによって育種プログラムの生産性が改善される。
【0267】
実施例8:人工種子の作製
以下の実験は、本明細書に記載の方法を使用して作製されたクローン繁殖体細胞胚が、人工種子、例えば、F1ハイブリッド交雑に由来するクローン体細胞胚を使用する人工種子を作製するために有用であることを示す。
【0268】
F1ハイブリッド胚は、一方の親が雌親(穂の供与体)であり、第2の親が雄親(花粉供与体)である2つの近交系の親株を交雑させることによって作られる。この2つの植物品種は、F1ハイブリッド胚を作るためのどんな異系交雑も妨げるような方法で他家受精させることができる。両親がゲノムワイドのすべての遺伝子座でそれぞれホモ接合である場合、得られた胚はゲノムワイドのすべての遺伝子座でヘテロ接合になると予想される。本開示の方法は、下記の処理のために未成熟F1ハイブリッド胚を収集する。
【0269】
F1胚を処理するのに上記の方法を用いると、クローン体細胞胚が作製されることが期待される。クローン体細胞胚は、形態形成期の完了まで培養することができる。成熟クローン体細胞胚は、その後、各クローン体細胞胚の収集を可能にするような方法で分離することができる。単離したクローン体細胞胚をインビトロ組織培養法を用いてさらに処理して、種子休眠(体細胞胚が実生発芽に不利な期間を生き延びることを可能にする無活動状態)の誘導をもたらす体細胞胚成熟を促進することができる。
【0270】
例えば、成熟胚を作製するための方法は、オーキシン、サイトカイニン、シクリトール及びそれらの混合物からなる群から選択される植物成長調節因子を含む改変基礎培地を使用して、前胚細胞の切断を促進することによって、前胚の胚への成長を増強することを含むことができる。
【0271】
成長した胚を、アブシジン酸及び濃度を減じた植物調節因子を含有する改変培地上、暗所又は弱い拡散光中で1~8週間継代培養すると、前胚形成がさらに阻害される。改変基本培地上で胚を連続光下で約7~8週間継代培養すると、伸長した体細胞胚が発生する。伸長した体細胞胚を成熟胚に変換するには、伸長した胚を改変基本培地上でさらに培養し、成熟胚を回収することにより行われる。
【0272】
人工種子は、天然種子のような好ましい条件下で発芽させるために、成熟体細胞胚を栄養層及び保護層でカプセル化する工程を含む方法を用いて作製される。人工種子は操作及び輸送時の機械的損傷から体細胞胚を保護するとともに、体細胞胚の発芽に対して、播種後の植物の成長及び発育を可能にする栄養的なサポートを提供することが期待される。
【0273】
実施例9:標的ゲノム改変によるクローン性倍加一倍体の作製
以下の実験では、植物細胞におけるWUS2タンパク質の発現によって、植物細胞における体細胞胚形成が刺激されることを示した。ここで、体細胞胚形成を受けるように刺激された植物細胞は、WUS2タンパク質を発現する植物細胞ではない。この方法では、体細胞胚形成を受けるように刺激された植物細胞は、WUS2タンパク質活性が、第1のT-DNAを発現する第1の植物細胞により、例えば、実施例5に記載のプラスミドRV020636(配列番号186)(形態形成遺伝子発現カセット)から提供される、第2の植物細胞である。第2の植物細胞には、第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)由来のT-DNAが同時に提供される。第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)によって提供される第2のT-DNAは、ゲノム修飾発現カセットを含み、それにより、ゲノム修飾倍加一倍体クローンセットの回収を可能にする。これらの植物細胞は、ゲノム修飾されたものであるが、形態形成遺伝子発現カセットからのT-DNAを含まない。
【0274】
具体的には、実施例4に記載のようにして、一倍体誘導体と交雑させたトウモロコシF1ハイブリッドの未成熟一倍体胚を、実施例3に記載されているようにして、アグロバクテリウム(Agrobacterium)株LBA4404 THY-で形質転換した(米国特許第8,334,429号明細書(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
【0275】
A.)プラスミドRV020636(配列番号186)及びRV006010(配列番号189)を用いたインビトロ遺伝子編集並びにクローン倍加一倍体の生産
プラスミドRV020636(配列番号186)を含む第1のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を実施例5に記載のように使用し、プラスミドRV006010(配列番号189)を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株と混合した。アグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物は、プラスミドRV006010(配列番号189)を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を95%、プラスミドRV020636(配列番号186)を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を5%の割合で含有した。アグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物を用いて、一倍体胚を形質転換した。RV006010T-DNA(配列番号189)は、機能的Cas9タンパク質を発現するポリヌクレオチド、ZM-NAC7(配列番号343)で2つの標的部位を切断するための2つのgRNA、胚発現シアン蛍光タンパク質、カナマイシンに耐性を付与するネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(nptII)遺伝子、及びトウモロコシ最適化Creリコンビナーゼを含む。この構築物では、Cre活性はCas9タンパク質をコードするT-DNAポリヌクレオチド配列、2つのgRNA、及びCreリコンビナーゼコード配列を切除し、シアン色マーカー及びカナマイシン耐性を付与するT-DNAをもたらした。
【0276】
この実施例9並びに実施例5及び6に記載の方法の後に、16クローンセットを土壌中に鉢植えにし、ここで各クローンセットは、処理した一倍体胚1個当たり4つのクローン植物を含んだ。土壌への移植で生き残った植物は、葉の組織サンプリングに使用した。
【0277】
実施例6に記載のように、小植物を再生した後、葉の組織をサンプリングし、Cas媒介遺伝子編集の証拠を得るためにZM-NAC7標的部位(配列番号343)の配列を決定した。
【0278】
一倍体胚がこのアグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物に同時感染し、実施例6に記載のように二倍体化されたとき、89体のD0/T0植物が計21のクローンセットから再生された(各クローンセットは、処理した一倍体胚1個当たり生産されたクローン植物を1つ以上有した)。RV020636(配列番号186)及びRV006010(配列番号189)T-DNAのコピー数について各植物を試験した。
【0279】
4つのクローン倍加一倍体植物を含むクローンセットは、WUS含有T-DNA(RV020636)を組み込んでおらず、RV006010T-DNA(ゲノム修飾発現カセット)の単一コピーのみを含むことが確認された。
【0280】
4つのクローン植物(4.6%)についてのZM-NAC7標的部位(配列番号343)での配列決定分析は、サンプリングされた各植物内に存在する最小SDN-1変異のスペクトルによって証明されるように、標的部位での遺伝子編集活性を示した(表18を参照)。4つの植物のうち3つは、2つのgRNA標的部位間のDNA配列の逆位によって証明されるように、又はここでは「脱落」と呼ばれる2つのgRNA標的部位間のDNA配列の欠失によって示されるように、非相同末端結合(NHEJ)機構(表18を参照)によって修復された可能性が高い、両方のgRNAが標的部位に動員されている証拠を示した。変異対立遺伝子を有する2つのクローン植物は、機能的なCas9-rRNAリボ核タンパク質複合体が、この方法を用いて標的部位のDNAを修飾したことを示した。
【0281】
ある種の変異は、生殖系列を経て次世代に伝えられ、これは、形態形成発現カセットを有するT-DNAを欠く、ゲノム修飾された倍加一倍体クローンセットを得るのに有用であると予想される。
【0282】
B.)プラスミドRV022820(配列番号188)及びRV006010(配列番号189)を用いたインビトロ遺伝子編集並びにクローン倍加一倍体の生産
表16に示すように、異なるプラスミドを含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)株は、形態形成遺伝子発現カセットを有するT-DNAを有する、体細胞胚の誘導及び再生植物体の頻度の両方に影響を及ぼした。これらの結果は、プラスミドRV020636(配列番号186)T-DNAにおいて見出されるような、より強力な調節エレメント(例えば、プロモーター内の3XEME配列の存在による増強)が、生成されたクローン植物の総数を増加させ、安定に組み込まれた形態形成遺伝子発現カセットT-DNAの挿入を有する植物の頻度を減少させることを示した。或いは、表16に示されるように、WUS融合タンパク質(例えば、RV022819(配列番号187)及びRV022820(配列番号188))をコードする発現カセットを有するプラスミドを含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)株は、作製されたクローン植物の総数を増加させ、安定な形態形成遺伝子発現カセットT-DNA挿入を有する植物の頻度を増加させた。
【0283】
さらなる実験を行って、RV020636(配列番号186)以外のプラスミドが、ZM-NAC7ゲノム標的部位(配列番号343)での遺伝子編集に必要なCas9媒介「形質」を含むプラスミドRV006010T-DNA(配列番号189)によって提供される所望の遺伝子編集を含むクローン倍加一倍体植物の回収にどのように影響を及ぼしたかを調べた。この実験では、RV020636(配列番号186)ではなく、RV022820(配列番号188)を用いて体細胞胚形成を刺激した。RV022820T-DNA(配列番号188)は、エンハンサー修飾ZmPLTPプロモーターに作動可能に連結したWUS-virFC127融合体をコードするポリヌクレオチドを含む。具体的には、プラスミドRV022820(配列番号188)を含む第1のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を実施例5に記載のように使用し、プラスミドRV006010(配列番号189)を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株と混合した。アグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物は、プラスミドRV006010(配列番号189)を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を95%、プラスミドRV022820(配列番号188)を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を5%の割合で含有した。
【0284】
この実施例9並びに実施例5及び6に記載の方法の後に、13クローンセットを土壌中に鉢植えにし、ここで各クローンセットは、処理した一倍体胚1個当たり2つのクローン植物を含んだ。23の植物が土壌への移植で生き残り、葉の組織をサンプリングした。DNAを単離し、診断アッセイを行って、体細胞胚形成を刺激するために使用される形態形成遺伝子カセットを含むRV022820プラスミド(配列番号188)由来のT-DNAの存在/不在について最初に試験した(クローン繁殖処理)。プラスミドRV022820T-DNAが不在とスコア付けされた個体は、遺伝子編集の証拠のために、標的部位ZM-NAC7(配列番号343)での配列決定分析へと進められた。
【0285】
土壌に植えた後、配列決定のためにサンプリングした23植物のうち、各植物は、体細胞胚形成を刺激するために使用した形態形成遺伝子カセットを含むRV022820T-DNAを欠いているとスコア付けされ、したがって、ゲノム改変が可能であったクローンD0植物とみなした。ZM-NAC7ゲノム標的部位で得られた配列解析(配列番号343)は、2つのクローンセット(計4植物;17.4%)で遺伝子編集の証拠を示し、表18に報告されているように、この結果にはいかなる欠失すなわち「脱落」の証拠も観察されなかった。
【0286】
1つの一倍体胚に由来する2つの植物からなる第1のクローンセットでは、解析により、2つの植物はCas9標的部位で同じ変異を有することが示され、両植物は安定なRV006010T-DNAの組み込みを有するとスコア化された。
【0287】
1つの一倍体胚に由来する2つの植物からなる第2のクローンセットでは、解析により、2つの植物はCas9標的部位で変異し、各植物は異なる変異を有することが示された。しかしながら、このクローンセットでは、1つの植物は安定なRV006010T-DNA組み込みイベントを有すると特徴付けられたが、第2の植物はRV006010T-DNAの安定な組み込みを欠いているとスコア付けされた。この結果は、本明細書で使用するインビトロ処理が、遺伝子修飾形質をコードするRV006010T-DNAの安定な組み込みなしに、ゲノム修飾植物を生産することを示した。任意の1つの理論に束縛されることは望まないが、このような結果はT-DNAの一過性の発現から得られたものであり、それによって、ゲノム標的部位に変異が生じたと考えられる。このような遺伝子編集植物の再生は特に、WUS含有T-DNA(RV022820)の検出なしに達成されたものであり、したがって、WUSタンパク質活性と接触して刺激されたのである。その結果、外来DNAで安定に形質転換されていない植物細胞由来の遺伝子編集D0植物体が得られた。
【0288】
ある種の変異は、生殖系列を経て次世代に伝えられ、これは、形態形成発現カセットを有するT-DNAを欠くゲノム修飾倍加一倍体クローンセットを得るのに有用であると予想される。D0植物が、植物細胞に提供されたWUSタンパク質、Cas9タンパク質及びgRNAのみによって一時的に接触された植物細胞に由来するとするならば、本開示の方法により、
ゲノム修飾倍加一倍体植物が、その植物のゲノムにポリヌクレオチドを導入するプロセスなしに得られたことになる。
【0289】
C.)プラスミドRV020636(配列番号186)及びRV036376(配列番号317)を用いたインビトロ遺伝子編集及びクローン倍加一倍体の作製
この実施例9のセクションA)及びセクションB)に記載のように、標的ゲノム修飾を有するクローン倍加一倍体植物を得るための方法が記載され、標的ゲノム修飾を有するクローン倍加一倍体植物が得られた。胚形成及び標的ゲノム修飾を有するクローン植物の繁殖をさらに刺激することにより、この能力をさらに改善するために追加の実験が実施された。
【0290】
この目的のために、プラスミドRV036376(配列番号317)を構築した。要するに、RV036376プラスミド(配列番号317)のT-DNAは、RV006010プラスミド(配列番号189)において使用されるのと同じ遺伝子編集成分を有するが、プラスミドRV036376(配列番号317)はまた、Z.マイズ(Z.mays)PLTPプロモーターに作動可能に連結した、完全長BBM/ODP2ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、シアン蛍光タンパク質関連配列を欠く。この構築物において、Cre活性は、Cas9タンパク質、2つのgRNA、Creリコンビナーゼ、及びBBM/ODP2をコードするT-DNAポリヌクレオチド配列を切除し、カナマイシン耐性のみを付与するT-DNAをもたらした。
【0291】
この実施例9に記載のように、胚を処理した。具体的には、プラスミドRV020636(配列番号186)を含む第1のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を実施例5に記載のように使用し、プラスミドRV036376(配列番号317)を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株と混合した。プラスミドRV036376(配列番号317)を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を95%、プラスミドRV020636(配列番号186)を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を5%の割合で含有する、アグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物で胚を処理した。
【0292】
プラスミドRV036376を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)で植物細胞を同時感染させると、予想されるリボヌクレオチドタンパク質複合体(RNP)活性と共にBBM/ODP2ペプチドの同時発現により、ZM-NAC7ゲノム標的部位(配列番号343)にCas9媒介遺伝子編集を有するクローン植物の繁殖が改善された。具体的には、同時に提供されたWUSCHEL及びベビーブーム(BABYBOOM)/ODP2組み合わせタンパク質の、植物細胞に対する活性は、再生植物へのクローン由来胚の繁殖及びそれら再生植物の編集頻度を改善した。
【0293】
別の態様では、本開示に有用な他のこのようなタンパク質は、他の形態形成遺伝子(例えば、LEC1及び/又はジェミニウイルスRepA遺伝子、並びに本明細書中に開示される他の形態形成遺伝子)(これに限定されない)を含むことが予想される。
【0294】
この実施例9に記載の方法の後に、16個のクローンセットを土壌中に植えた(各クローンセットは、処理された一倍体胚1個当たり6つのクローン植物を含む(合計96個の植物体))。これらの植物から、葉の組織サンプルを収集し、DNAを単離し、そして診断アッセイを実施して、RV020636プラスミド(配列番号186)由来のT-DNAの存在/不在について最初に試験する。RV020636T-DNAが不在であるとスコア付けられた個体は、遺伝子編集の証拠のために標的部位での配列決定分析へと進められる。
【0295】
得られた植物はクローン内交雑育種のために、例えば、下記のような対立遺伝子系列の回収のための植物を得る方法において使用され得る。
【0296】
セクションA.)及びB.)の実験結果は、標的ゲノム修飾を含むクローン倍加一倍体植物を得ることを記述した。具体的には、上記の方法における植物細胞を、WUS2タンパク質活性のみを提供する第1のアグロバクテリウム(Agrobacterium)由来の第1のT-DNAで処理し、それによって体細胞胚形成を刺激し、一方、その植物細胞に提供された、第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)由来の第2のT-DNAはゲノム修飾能力を付与した。母性トウモロコシ一倍体細胞由来の遺伝子編集D0植物は、比較的低い割合で観察され、例えば、D0植物の約3%~17%が標的部位の変異を有した(上記セクションA.)及びB.)を参照)。
【0297】
上記のセクションA)及びB)における上記の結果とは対照的に、本明細書中の結果は、標的ゲノム修飾を含むクローン倍化一倍体植物を再生する能力がプラスミドRV036376を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)を使用してさらに改善されたことを示し、ここで、RV036376プラスミド由来の第2のT-DNAは、BBM/ODP2ペプチドのゲノム修飾能力及び形態形成遺伝子発現の両方を付与した。
【0298】
プラスミドRV036376(配列番号317)を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株とプラスミドRV020636(配列番号186)を含む第1のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株の混合物で処理した後、16のクローンセットを作製した。作成した16のクローンセットでは、各クローンセットは処理胚1個当たり6個の植物体を有し、合計83個の植物体が再生、移植され、葉の組織がサンプリングされた。標的部位での配列決定分析に用いた単離DNAは、これら83個の植物体のうち40個にCas9媒介の遺伝子編集(83個のうちの40個、48.2%)がなされ、特に、これら40個の植物体のうち13個が遺伝子編集SDN-2「脱落」変異に対応する変異を含むことを示した(表18を参照)。
【0299】
【0300】
このように、結果は、プラスミドRV036376を用いることがクローンの繁殖自体を改善するだけでなく、標的ゲノム修飾を有するクローン倍加一倍体植物を得る能力を改善することを示した。変異は、形態形成遺伝子発現カセットを有するT-DNAを欠く、ゲノム修飾倍加一倍体クローンセットを提供する次世代の植物に、生殖系列を介して伝達されることが期待される。
【0301】
また、他のこのような形態形成遺伝子の同時発現、又は胚形成の促進に有用な任意の遺伝子産物は、クローンの繁殖自体及びT-DNAの組み込みを欠くゲノム修飾植物の回収の両方を改善するために、本明細書に記載の方法で使用できることが予想される。
【0302】
本開示の方法を用いて得られた結果から、ゲノム修飾倍加一倍体植物を得る方法が示された。本発明の方法は、以前に文献で報告されている方法に対して顕著な改善を提供した。例えば、以前に報告されたように、一倍体誘導体植物由来の花粉を用いて一倍体後代を編集する方法(この方法では、誘導体がDNA修飾酵素を発現し、任意選択により少なくとも1つのガイドRNAを発現する)では、形質転換一倍体誘導体系統が、トウモロコシ一倍体子孫において標的部位で修飾を引き起こす能力は4.7%から8.8%の範囲であり、SDN-1変異以外の結果は報告されなかった。対照的に、本明細書に記載の方法を使用すると、遺伝子編集効率及び得られた編集の範囲が著しく改善された。
【0303】
一倍体誘導編集技術(HI編集)のために、本明細書で開示される方法は、植物育種方法に有用であり、単交雑によるエリート近交系の直接編集を可能にする。育種プログラムで本開示の方法を用いると、本方法は新しいゲノム修飾がエリート育種系統又は育種集団に導入されるたびに、ゲノム修飾標的1つ当たりの構築物1つ当たりの新しいイベントの評価及び選択を必要としないため、人件費及び時間を節約する。
【0304】
本明細書で開示される方法は、遺伝子編集効率を改善し、例えば、SDN-1及びSDN-2変異の両方が当該分野において以前に報告されたよりもより高い効率で達成されたが、それだけでなく、本開示の方法はまた、意外にも、安定に形質転換されたいかなる外来DNAも欠くゲノム修飾植物も提供した。本開示の方法は、これらの結果を、当該分野において以前に報告された方法よりも、比較的短い時間で、はるかに高い機敏性で、そしてエリート生殖質の表現型性能を改善し続けるための、植物育種プログラムの未解決の必要性を満たすための適切なスケーラビリティで提供した。
【0305】
D.)クローンの選択、クローンの繁殖及び対立遺伝子系列の回収
それぞれの半接合性の単一コピー植物は、T-DNA(上記のT-DNAなど)がゲノム中のランダムな位置に挿入されることが予想される。さらに、「形質」T-DNA中にコードされている遺伝子編集形質(上記のT-DNAなど)の発現により、部位特異的ヌクレアーゼとgRNAを含むリボヌクレオチド複合体が発現し、ヌクレアーゼ標的部位に特異的なターゲティングの変化が生じることが期待される。例えば、CAS9ヌクレアーゼと複合体を形成するgRNAの発現は、部位特異的変異を引き起こすことができる。さらに、一連の細胞における変異誘発は、一連の対立遺伝子変異セットをもたらすことができ、この場合、1つの細胞に由来する各個体は特定の変異を有することができる。
【0306】
クローンセット内で、この方法は、他家受精のために個体を同定し、選択することを可能にし、それによりクローンセット内でF1ハイブリッドを作り、この場合、F1ハイブリッドゲノムは、次を除いて、ゲノムワイドに同一且つホモ接合であると予想される:i)T-DNAに対して半接合性であるT-DNA(例えば、親株として使用される2つのクローン兄弟姉妹から受け継いだ2つの独立した遺伝子座に組み込まれた「形質」T-DNAを有するT-DNA)の可能な組み込み部位、及びii)ゲノムはCRIPSP-CAS9標的部位における2つの生殖系列の遺伝性変異についてヘテロ接合性であること(この場合、各部位特異的変異は、もともと独特の変異イベントに由来する)。
【0307】
このように、このようなF1ゲノムの自家受精により、そしてこの植物の種子を育てることにより、次世代の子孫を解析し、T-DNA挿入部位に関して野生型対立遺伝子を受け継いだ分離個体の子孫を選択することができる。これらの個体の間では、標的部位における遺伝性変異の遺伝子解析により、遺伝性生殖系列変異についてホモ接合体の個体を同定し、選択することが可能である。平均すると、このような変異は、遺伝性の2つの生殖系列の変異に関して1:2:1に分離すると予想される。したがって、2つのそれぞれのホモ接合クラスを回収することにより、植物の育種目的に有用な一対の対立遺伝子系列の変異をもつクローン性倍加一倍体植物を得ることができる。
【0308】
ヌクレアーゼ標的部位で独立した変異対立遺伝子について、それぞれホモ接合であるクローン系列の数を増やすために、1つのクローンセット内から追加のクローン系列を使用してこの過程を繰り返し行うことができる。
【0309】
ここで述べた方法は、倍加一倍体系統のクローンセット内に対立遺伝子系列の変異を生成することを可能にする。
【0310】
一態様では、本開示の方法は、サンプリング及び開花前の標的部位での修飾の配列確認を可能にし、したがって、制御された様式で選択された植物をスクリーニングし、選択し、そして交雑するための選択肢を提供する。例えば、ここでは「クローン内交雑育種」と称されるクローンセット内で、ランダムに挿入されたT-DNA組み込み部位を、クローン内F1交雑から生産された子孫の中で選択することができると期待される。T-DNAを検出するための診断アッセイは、クローン内F1交雑において半接合性となる親のT-DNA組み込み部位に関して、野生型対立遺伝子のみを受け継いだ子孫の同定を達成できることが期待される。
【0311】
クローン内交雑育種のための第2の目的は、親のT-DNA組み込み部位に関して野生型対立遺伝子のみを有する子孫の自家受精時に、遺伝子編集をホモ接合に固定できるという期待である。このようにして、クローン内交雑育種は、クローンセット内の対立遺伝子系列の変異を提供することができる。
【0312】
この方法は、形質の組み込みに明らかな利点を提供する。例えば、形質遺伝子座の戻し交雑が一般的に使用され、その方法は、形質転換可能なトウモロコシ系統で最初に編集を行う必要がある。その系統が作出された後、その系統は、レシピエント系統への一連の戻し交雑の間、「反復」親として使用され、「ドナー」親として使用される。戻し交雑の目的は、「ドナー」親からの遺伝子修飾標的部位遺伝子座の遺伝子移入のみで、反復親ゲノムの回収を達成することである。本開示と比較して、従来の戻し交雑法はより労働集約的であり、特に、親変換の数が増加することにつれて、例えば、本明細書に記載されるように、集団内で各倍加一倍体系統に所望の変異を導入する努力と比較すると、より多くの育種時間を必要とする。
【0313】
したがって、ここに記載する方法は、集団レベルでの遺伝子修飾形質の「前方」育種のための新規な方法を提示する。
【0314】
量的遺伝学の観点から、標的部位における対立遺伝子系列の変異を誘導する能力は、遺伝子型-表現型因果関係を研究するための他の有用な利点をもたらす。最初に、クローンセット内の1つの対立遺伝子の系列が、実施できる1つのレベルの遺伝子解析を提供する。次に、複数のクローンセットに対する複数の対立遺伝子系列は、実施できる1つの育種集団、又は二者択一的に多数の集団にわたる第2のレベルの遺伝子解析を含む。
【0315】
両者を合わせて、これらの結果は、最新技術に対する改良である新規な植物育種方法をサポートすることが期待される。
【0316】
実施例10:相同組換え修復(HDR)を使用するトウモロコシクローン性倍加一倍体の作製
以下の実験は、部位特異的ゲノム標的部位、又は領域での二本鎖切断(DSB)、及び相同組換え修復(HDR)を含む遺伝子ターゲティングシステムを用いて、一倍体植物ゲノムの対応する相同組換え部位への所望のヌクレオチド配列の方向性組み込みを促進することを示す。
【0317】
実施例4の記載のようにして、一倍体誘導体と交雑させたトウモロコシF1ハイブリッドの未成熟胚を、実施例3に記載のようにして、アグロバクテリウム(Agrobacterium)株LBA4404 THY-で形質転換した(米国特許第8,334,429号明細書(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
【0318】
プラスミドRV020636(配列番号186)を含む第1のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を実施例5に記載のように使用し、プラスミドRV006010(配列番号189)を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株と混合した。アグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物は、プラスミドRV006010プラスミド(配列番号189)を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を95%、プラスミドRV020636(配列番号186)を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を5%の割合で含有した。この実験では、アグロバクテリウム(Agrobacterium)形質転換法が、別のアグロバクテリウム(Agrobacterium)(ここでは、複数の「形質」(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、形質遺伝子をコードするドナー切除テンプレート、及びアントシアニンカラーマーカー、表9を参照)を含むT-DNAを有する遺伝子標的プラスミドを含む)との混合物の一部として、実施例3に記載されるように実施される。
【0319】
処理のために、アグロバクテリウム(Agrobacterium)株は、95%の形質含有プラスミド(例えば、PHP91522(配列番号190)又はPHP90308(配列番号191))対5%のWUS含有プラスミド(RV020636(配列番号186)、表9を参照)の比で混合される。一倍体胚にこのアグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物を同時感染させると、WUS含有T-DNA(RV020636)の組み込みを伴わない「形質」T-DNA(PHP91522又はPHP90308)の単一コピーのみを含有するトランスジェニックT0植物が再生される。形質T-DNA(PHP91522又はPHP90308)が発現すると、増強されたジンクフィンガーヌクレアーゼ(EZFN)の活性により、「形質」T-DNAにコードされたドナーテンプレートが切除され、それにより、標的二本鎖切断部位での、相同組換え修復及び安定した導入遺伝子組み込みが可能となる。
【0320】
切除されたドナーテンプレートを有する外植片は、ZmGlob1調節配列からの遺伝子調節を可能にするために、ドナーテンプレートの切除から生じたアントシアニン調節タンパク質によって発現されるアントシアニンの、形態学的検出を用いて検出することができる。安定なトランスジェニック植物は、例えば、それぞれPHP91522及びPHP90308については、グルホシネート又はハロキシホップに対する除草剤耐性を有する植物を同定することによって、ポジティブ選択を用いて同定される。実施例6に記載されるように、染色体倍加剤の存在下でこのような植物を培養することにより、染色体の倍加及び安定なトランスジェニック倍加植物の二倍体化が促進されると期待される。
【0321】
さらに、除草剤耐性を有する各半接合性単一コピー植物は、ゲノム中の標的部位に挿入された「形質」遺伝子と、ゲノム中のランダムな位置に挿入された、修復されたT-DNA配列を含むレムナント「形質」T-DNAとを有することが期待される。
【0322】
クローンセット内で、この方法は、他家受精させるためにクローン個体を同定し、選択することを可能にし、それによって、成長することができる、この交雑の種子を作ることができる。子孫の一部は、標的導入遺伝子組み込み部位での遺伝子ターゲティングイベントが成功した、両親配偶子からの対立遺伝子の遺伝的形質も有する、修復された「形質」T-DNA配列を含む各ランダムT-DNA挿入部位について分離する遺伝子座において野生型であると予想される。このような植物をさらに増殖させると、標的部位に「形質」遺伝子を2コピーもつクローン性倍加一倍体として分離するであろう。
【0323】
本開示の方法は、一倍体誘導育種法を用いて形質遺伝子移入を加速することにより、現状の技術に改善を提供し、したがって、戻し交雑媒介形質遺伝子移入の必要なしに、倍加一倍体に部位特異的導入遺伝子を組込むための前方育種能力を可能にする。
【0324】
実施例11:トランスジェニック植物の頻度を減らしたクローン倍加一倍体の作製
以下の実験は、母性一倍体細胞に由来する非トランスジェニック、野生型クローン倍加一倍体植物を生産するための、トランスジェニック細胞又はそれから得られたトランスジェニック植物の選択を、負の選択システムを用いて示す。
【0325】
形質転換細胞の死をもたらす、植物細胞における負の選択法は、本開示の方法に有用である。条件付き選択法は、本開示の方法において有用であり、例えば、非毒性物質を形質転換細胞の死をもたらす毒性物質に変換するのに有用な遺伝子を発現する、トランスジェニック細胞を含む基質依存性の選択系に有用である。この目的のために植物細胞で使用される遺伝子は、非毒性5-フルオロシトシンを毒性化合物5-フルオロウラシルに変換する細菌シトシンデアミナーゼ(codA)遺伝子、又は非毒性スルホニル尿素プロ除草剤R7402を植物毒性物質に変換するストレプトミセス・グリセオルス(Streptomyces griseolus)シトクロムP450モノオキシゲナーゼ遺伝子CYP105A1を含むが、これらに限定されず、これらは本開示の方法に有用である。興味深いのは、このような非毒性物質を含まない増殖培地中で、処理された外植片を最初に培養し、それによって形質転換細胞及び非形質転換細胞の両方の増殖を可能にし、続いてこのような非毒性物質を含む増殖培地に移し、それによって形質転換細胞に対する選択、及び結果として生じる非形質転換細胞の増殖を促進する能力である。
【0326】
本発明の開示の方法では、条件付き負の選択を付与する遺伝子を、例えば、細菌シトシンデアミナーゼ(codA)遺伝子をプラスミドにクローニングする。形質転換は、トウモロコシ形質転換及び染色体倍加を介した同じ工程を使用して上記のように実施され、続いて、このような胚を、選択を伴う成熟培地、例えば、5-フルオロシトシンを補充した289Q培地に移す。或いは、条件付き選択方法はまた、処理された一倍体胚それぞれの繁殖中のカルス組織が解体される間又はその後に実施することができる。例えば、解体された、移される組織の各部分を5-フルオロシトシンを補充した成熟培地(289Q)に移し、暗条件下、26~28℃で培養することによって。
【0327】
非毒性物質を補充した増殖培地への移行は、形質転換細胞の選択及びその結果生じる非形質転換細胞の増殖を促進し、それにより、トランスジェニック植物の頻度が減少し、非トランスジェニック、野生型植物の頻度が上昇して、クローン性倍加一倍体集団の作製を促進することが期待される。
【0328】
実施例12:応答性小胞子由来細胞からのクローン性倍加一倍体の作製
以下の実験は、父性一倍体細胞に由来する非トランスジェニック、野生型クローン倍加一倍体植物を生産するための、トランスジェニック細胞又はそれから得られたトランスジェニック植物の選択を、負の選択システムを用いて示した。
【0329】
この方法では、胚形成の成長は非形質転換細胞、特に小胞子由来細胞で刺激され、したがって、本開示の方法は小胞子由来クローン倍加一倍体の集団を作製するのに有用である。小胞子を、このような配偶子細胞を生産するドナー組織又は器官から抽出し、単離し、そして精製した。これらの細胞を増殖培地中で培養して、胚形成応答を誘導した。本開示の方法は、応答性小胞子由来胚の頻度が改善されたトウモロコシ小胞子由来胚の作製を、遺伝子型に依存しない様式で提供する。
【0330】
本開示の方法は、ATCC40520トウモロコシ小胞子を使用して実施され(米国特許第5,602,310号明細書(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)、9%スクロース誘導培地中で、暗条件下、28℃で、7~21日間、好ましくは培養開始後14日間、ペトリ皿中で培養された。トウモロコシの小胞子胚形成の初期段階では、細胞応答により細胞分裂が繰り返され、それにより多細胞構造(MCS)が形成される。発育が続くと、MCSは成長し、外膜として知られる元の小胞子壁内に包まれた胚様構造を生じ、外膜はその後、特徴的に分解して、一倍体胚へのさらなる発育と小植物体の再生を可能にする。
【0331】
MCSを液体培養物から移し、Fisherブランドの70μm細胞ストレーナー(Thermo Fisher Scientificカタログ番号FBH#22-363によるfisher scientific)で回収し、0.75mLの9%スクロース誘導培地で3回洗浄した。MCSを細胞ストレーナーから、最終2.25mL容量の9%スクロース誘導培地にMCS細胞を懸濁させて、滅菌した50mLポリプロピレン円錐遠心管(Thermo Fisher Scientificカタログ番号14-432-22)に移した。
【0332】
アグロバクテリウム(Agrobacterium)マスター植物の調製及び上記のような固体培地上でのアグロバクテリウム(Agrobacterium)の増殖を含む、MCS細胞のアグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介形質転換を実施例3に記載のように実施した。2つのプラスミドを本方法で使用し(表9を参照)、各細菌を、光学密度が550nmのアグロバクテリウム(Agrobacterium)の懸濁液でボルテックスすることによって、液体感染培地に再懸濁し、次いで0.5ODの読み取り値に調節した。2つの株を混合物(95%PHP86491(配列番号183)及び5%PHP87078(配列番号181))中で一緒にした。
【0333】
0.5mLの懸濁MCS細胞及び0.05mLの一緒にしたアグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物を使用して、MCS及び一緒にしたアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、懸濁液状態で一緒にし、無菌条件下で5分間インキュベートし、固体培地(例えば、605J)に移し、暗条件下、21℃でインキュベートした。負の対照として、0.5mLの懸濁MCS細胞を、記載したのと同じ様式であるが、一緒にしたアグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物を溶液中に加えずに培養した。24時間後、各プレートを28℃に移し、暗条件下でインキュベートした。
【0334】
この実験の結果は、72時間後に、処理した父性一倍体細胞を選択せずに605J培地に移すと、複合アグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物処理に応答して、小胞子胚形成が刺激されたことを示した。
【0335】
別の例では、本開示の方法は、抗生物質を含む固体培地(例えば、605T)に移された、アグロバクテリウム(Agrobacterium)処理MCSを用いて、上記のように実施することができる。
【0336】
さらに別の例では、本開示の方法は、条件付き負の選択を付与する遺伝子、例えば、実施例11に記載の細菌シトシンデアミナーゼ(codA)遺伝子を同時発現する、表9に示したプラスミドを使用することができる。形質転換のための方法は、トウモロコシ形質転換工程及び染色体倍加工程、そしてその後の、父性一倍体細胞由来の繁殖中カルス組織を、選択を伴う成熟培地、例えば、5-フルオロシトシンを補充した289Q培地に移す工程までを通した、同じ工程を使用して上記のように実施することができる。条件付き選択方法はまた、処理された小胞子由来の胚それぞれの、増殖カルス組織が解体される間又はその後に実施することができる。例えば、解体された組織の各部分を5-フルオロシトシンを補充した成熟培地(289Q)に移し、暗条件下、26~28℃で培養することによって。
【0337】
実施例13:インビトロ植物育種方法
減数分裂は二倍体生殖細胞から一倍体配偶子を形成する過程であり、有性生殖を行う種が遺伝情報を次世代に伝えるための本質的な過程である。減数分裂には、1回のDNA合成とそれに続く2回の連続したM期からなる特殊な細胞周期が必要で、親細胞の染色体数が半分に減少する。減数分裂が起こった後、それぞれの一倍体細胞は、独立組合せの原理に従い、母性ゲノムと父性ゲノムから受け継いだ遺伝子の混合物を含む。独立組合せは、第一減数分裂の間、同定され、対合とよばれる対応関係がある相同染色体を必要とする。対応する対は、交換又は交差とも呼ばれる組換えによって物理的に連動しなければならず、2本の相同染色体間で減数分裂組換えが起こり、それによって組換え型配偶子がつくられる。細胞の有糸分裂-減数分裂経路の調節の制御を操作する方法は、本開示にとって、特に、細胞の減数分裂移行への関与を促進する分子機構の制御にとって興味深い。
【0338】
育種目的では、ヘテロ接合である染色体領域を含む細胞を使用することができ、そこでは、所望する結果は減数分裂組換え細胞の生産である。二親性交雑から得られるF1ハイブリッド胚の使用は、この方法のための例示的な細胞型である。他の細胞型、例えば、後の世代からの、又は戻し交雑などの他の育種アプローチからの細胞型は、下記のように、作製され、得られ、そして処理のために使用され得ることが理解される。
【0339】
減数分裂移行への関与は、i)有糸分裂細胞周期からの離脱、及びii)交互の減数分裂細胞周期プログラムの誘導の2つの部分からなる。本明細書に記載されるように、有糸分裂細胞周期活性を誘導するための前者の工程は、例えば実施例5に記載のように、形態形成発生遺伝子の発現に応答して刺激され、そこでは、このような処理は、体細胞胚形成の誘導を生じる比較的高い有糸分裂活性を特徴的に引き起こす。交互の減数分裂細胞周期プログラムの誘導は、あまりよくキャラクタライズされていないが、本明細書の本開示では細胞の減数分裂移行への関与を制御するのに有用な処理について述べる。
【0340】
減数分裂に移行するための有用な処置は、環境的又は化学的手段のいずれかによって、低酸素を増加させる処理及び/又は細胞の過酸化水素レベルを低下させる処理を抑制することへの応答を含むが、これらに限定されない。細胞の減数分裂への移行に関与するために有用な遺伝子産物の活性を提供する細胞処理もまた興味深い。
【0341】
現在の方法では、F1胚の細胞をレドックス調節条件に曝露することが興味深い。
【0342】
F1胚の細胞をレドックス調節条件に曝露することは、低酸素インキュベーターチャンバー(StemCell(商標)Technologies、カタログ番号27310)の使用、又は体細胞胚形成の誘導前、誘導中、又は誘導後に三次元低酸素微小環境を提供することができる低酸素誘導性(HI)ヒドロゲルなどの酸素制御生体材料の使用などの低酸素誘導組織培養系への処理細胞の移動を含む。この方法では、処理細胞を、細胞の酸化還元電位を変化させる条件下で培養し、それによって有糸分裂細胞周期を離脱する際の生殖細胞の運命の獲得を促進する。
【0343】
別の態様では、胚細胞をレドックス調節条件に曝露する方法は、細胞レドックス条件を操作するために、F1ハイブリッド二倍体胚細胞を、体細胞胚形成の誘導の前、中、又は後に化学処理と接触させ、それによって生殖細胞の運命の獲得を促進させるF1ハイブリッド胚の処理を含む。
【0344】
例えば、化学処理は気体、液体、又は固体の形態であり得、これには液体中に溶解した、又は液体中に存在する粒子としてのレドックス調節化合物が含まれるが、これらに限定されない。生殖細胞の運命の獲得を促進するのに有用な化学的処理は、細胞をヨウ化カリウム溶液(KI、10mM)と48時間まで接触させることを含む。生殖細胞運命の獲得を促進するために有用な別の化学的処理は、窒素ガス(N2)及び/又は二酸化炭素(CO2)などのガスを、例えば酸素が19.5パーセント未満の大気レベルとなるまで供給することによって達成される低酸素雰囲気条件下で、細胞をニトロプルシドナトリウム(SNP、20μM)と接触させること、並びにSNP化学的処理を含む。このような処理に応答して、処理した細胞はそれにより、変化した生殖細胞運命の獲得を伴って培養される。
【0345】
別の態様では、減数分裂特異的遺伝子産物は、細胞の減数分裂移行への関与の制御を変化させることができると考えられる。したがって、細胞の減数分裂への移行に関与する機能的活性を付与する、1つの遺伝子又は複数の遺伝子と細胞を接触させる方法は興味深い。本方法で有用なこのような遺伝子には、A型サイクリン及び/又は単一のB型サイクリン(CYCB3;1)の異所性発現及び生物学的活性が含まれるが、これらに限定されず、減数分裂関連プロセスに寄与することが示される。減数分裂細胞周期への移行を促進するのに有用な遺伝子の他の例には、TAM(遅発性非同期減数分裂、CYCA1;2としても知られる)、OSD1(第二分裂の省略)、TDM(三分裂変異体)、及びSMG7(生殖器に形態形成作用を有するサプレッサー7)の異所性過剰発現が含まれる。例示的な候補配列を表19に示す。
【0346】
【0347】
すでに報告されているように、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)における有糸分裂から減数分裂への移行を制御する調節ネットワークは、細胞を有糸分裂に維持するキナーゼであるPat1に関係する複数のフィードバックループと共に、接合と減数分裂への移行に必要なRNA結合タンパク質であるMei2、及び性分化に必要な転写活性化因子であるSte11の調節を含む。S・ポンベ(S.pombe)におけるMei2及びSte11活性に重要な役割を有し、相同体が高等植物に存在するとすれば、このような減数分裂特異的遺伝子産物もまた、本開示の方法に有用であると考えられる。減数分裂特異的遺伝子産物を細胞に提供することは、細胞を減数分裂特異的タンパク質及び/又は減数分裂特異的RNA分子と接触させることを含む。例えば、減数分裂の開始に必須のRNA結合タンパク質である減数分裂タンパク質mei2(Mei2)は、sme2遺伝子から転写される「meiRNA」と呼ばれる長い非コードRNA(lncRNA)などの、減数分裂メッセンジャーRNAの選択的除去に拮抗する。したがって、本開示の方法は、そのようなタンパク質、又はそのようなRNA分子、又は優先的には2つの成分の組み合わせを細胞に提供することができる。
【0348】
S・ポンベ(S.pombe)がモデルシステムとして使用されたとすると、リン酸化部位を減少させるために、保存されたアミノ酸残基の例示的な変異を含む、表20に示された、本開示の方法に有用な例示的なゼア・マイズ(Zea mays)配列が提供される。RNA結合タンパク質はRNA認識モチーフ(RRM)をコードすることができ、減数分裂開始にはC末端RRMを必要とするなか、本開示の方法に有用であり得る。RRM含有タンパク質もまた、興味深い。8アミノ酸コンセンサス配列を含む1つのRRMは、「RNP-1」とも呼ばれるRRM-1であり(PFAMモチーフPF00076を参照)、6アミノ酸コンセンサス配列を含む第2のRRMは、「RNP-2」とも呼ばれるRRM-2であり(PFAMモチーフPF04059を参照)、これらは本開示の方法に有用であり得る。より一般的には、このようなタンパク質は、RNA結合ドメイン又はRNA認識モチーフを含むことができる。
【0349】
【0350】
Mei2タンパク質の活性は、PAT1キナーゼ仲介リン酸化によって不活性化され、プロテアソームによるMei2の分解を引き起こす。これまでに、リン酸化されず、したがって分解されないMei2の変異体は異所的に減数分裂を開始することが示されている。このような変異対立遺伝子は、プロリンに変化したセリン438、アルギニンに変化したトリプトファン442、及びアラニンに変化したアルギニン524、又はセリンに変化したアルギニン524を含む置換を有した。したがって、減少したリン酸化部位を有し、それ故、改善された安定性及び減数分裂を開始する能力を有する減数分裂特異的タンパク質の改変された形態を細胞に提供することを、本開示の方法で使用することは興味深い。例示的な配列には、トウモロコシ最適化Z.マイズ(Z.mays)MEI2様相同体dpzm10g029750(配列番号267)が提供され、ここでは多くのタンパク質-セリン/トレオニンキナーゼ(配列番号279;配列番号280)に特徴的な標的部位を消失させるために、プロリンに置換された573位に保存されたセリンを有する。
【0351】
植物MIE2様タンパク質のプロテアソーム仲介分解に必要な、キナーゼ標的部位の喪失をもたらす他のアミノ酸置換を含む配列もまた、本開示の方法に使用することができる。例えば、表20に提供される他のペプチドに対する同様の修飾は、本開示の方法に有用であると考えられる。
【0352】
減数分裂特異的タンパク質であるRNA結合タンパク質を提供する方法について、減数分裂特異的RNA分子を提供することは、本開示の方法に有用であると思われる。例えば、Mei2は、sme2遺伝子から転写された「meiRNA」と呼ばれる長い非コードRNA(lncRNA)などの、減数分裂メッセンジャーRNAの選択的除去に拮抗する。細胞にmeiRNAを提供する本開示の方法を用いると、単独で、又はMIE2様タンパク質と組み合わせて、減数分裂細胞周期プログラムの誘導の改善が促進されるであろう。
【0353】
性発達の重要な調節因子であるSte11転写因子などのように、S.ポンベ(S.pombe)における減数分裂中の他の遺伝子活性に重要な役割があるとすれば、表21に示すように、本開示の方法に有用なタンパク質として、さらなる減数分裂遺伝子産物が提供される。表19、20、若しくは21に提供されるような遺伝子産物を単独で、又はそれらの組み合わせで共発現することは、減数分裂への移行に対する細胞の関与を制御するために有用であり得る。
【0354】
【0355】
F1ハイブリッド胚が単離された後、有糸分裂細胞周期の活性化は、実施例3及び5に記載の方法を使用して開始され、そしてこのプロセスの間、細胞は、細胞の減数分裂への移行に関与するのに有用な遺伝子産物と接触させることを同時に含むことができる(実施例14を参照)、上記のレドックス調節条件に曝露され得、それによって、減数分裂細胞周期プログラムへの移行を促進して、生殖細胞の運命を獲得する。このような条件下で休止培地を用いたインキュベーションの後、新たな一倍体配偶子と同等の減数分裂性組換えゲノムを含む誘導された胚を、個々に再生培地(289Q)上に移す。
【0356】
この方法によって作製された減数分裂性組換え細胞は、発芽中の胚を分離するためにボルテックスを使用して優先的に分離され得る。例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)感染後20日目に、発育中の組織を、約20mLの液体を含有する滅菌50ml遠心管に移し、ボルテックスし、組織を再生培地(289Q)に移す。胚を、シュート及び根の形成が開始されるまで暗条件下で培養し、次いで、小植物再生のための明条件下で移した。
【0357】
一態様では、解体された一倍体胚は、染色体倍加剤(又は有糸分裂阻害剤)、例えば、0.1~1.0g/mlのコルヒチン濃度を有する休止再生培地(605J又は289Q培地)に移して、例えば、24時間、微小管組織を妨害することによって分裂中期に分裂細胞の有糸分裂停止を引き起こし、染色体倍加剤を含まない再生休止培地(例えば605J、289Q培地、又は優先的に605T培地)に移し、続いて暗条件下、28℃でインキュベートすることができる。3~7日後、選択せずに胚を成熟培地(289Q培地)に移す。
【0358】
別の態様では、減数分裂性組換え一倍体細胞を単離することができ、2つのこのような細胞を電気的又は化学的に融合させることができ、このような培養産物は稔性植物に成長することが示されている。
【0359】
このような染色体倍加処理又は細胞融合処理を完了した後、継代培養した組織は、良好な根が発達した健康な小植物に発育するまで、26℃の光培養室に移される。約7~14日後、小植物を土壌に移し、一般的には栽培チャンバー中で1週間栽培し、続いて温室中でさらに1~2週間栽培し、その後土壌に移植し、成熟するまで栽培する。
【0360】
再生された植物をさらに発育させた後、葉の組織サンプルを植物毎に採取し、DNAを単離し、診断PCRに基づくアッセイを実施して、T-DNA及び/又は任意の関連するプラスミドDNA配列の存在/不在を検出し、且つ/又は実施例6に記載のようにゲノム推定育種価(GEBV)を計算する。
【0361】
新規な遺伝的実体の作製は、有糸分裂の開始前、開始中、又は開始後に、減数分裂組換えを異所的に活性化することによって達成され、したがって、「インビトロ苗床」育種活動を行うための新規なアプローチを提供する。得られた体細胞胚がクローン体細胞胚である実施例5に示された結果とは対照的に、ここでの方法は、植物育種に有用な稔性植物を作製するために使用される非クローン配偶子細胞を生成する。
【0362】
減数分裂への移行は2つの部分、すなわちi)有糸分裂細胞周期からの離脱、及びii)交互減数分裂細胞周期プログラムの誘導を含み、ここでは、本開示の方法は例えば、実施例5に示されるような有糸分裂細胞周期活性に応答して、減数分裂細胞周期プログラムへの移行を促進する。環境的方法及び/又は化学的方法を使用して、低酸素及び/又は低細胞過酸化水素レベルを増加させる細胞処理、並びに遺伝子産物の活性を提供する細胞処理を含む減数分裂細胞周期プログラムへの移行を刺激する方法は、細胞の減数分裂への移行への関与に有用であると期待され、さらに、これらの方法の組み合わせがより大きな効果をもたらすと期待される。
【0363】
同様に、減数分裂細胞周期プログラムの誘導に有用な2つ以上の遺伝子産物(例えば、以下に限定されないが、表19、20及び/又は21に記載されるタンパク質)を同時に提供することにより、減数分裂細胞周期プログラムの誘導により大きな効果をもたらし、それにより、減数分裂性組換えによって産生されるゲノムを有する胚形成細胞を得る、本明細書に開示の方法の生産性を改善することができると期待される。
【0364】
したがって、2つの近交系植物間の二親性受精の結果生じたF1胚などの処理胚外植片を培養して、それぞれ減数分裂性組換えの産物であるゲノムをもつ胚形成細胞を作ることができると期待される。本明細書に開示の方法を使用した後、胚形成細胞は、植物育種に有用な新規な遺伝的実体を含むゲノムを有する植物を生産することができると期待される。
【0365】
実施例14:インビトロ植物育種のための減数分裂遺伝子の一過性発現
実施例13に記載の減数分裂細胞周期プログラムへの移行を刺激する方法は、細胞の減数分裂への移行への関与に有用な遺伝子産物の活性を提供することを含む。
【0366】
このような減数分裂遺伝子を一過性で発現させる方法について以下記載する。具体的には、この実験では、表16に示すようなプラスミド、例えば、RV020636(配列番号186)を有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)を用いて、植物細胞における有糸分裂活性及び胚形成を刺激することができる。ここでは、「減数分裂誘導」タンパク質をコードするポリヌクレオチドを有する発現カセットを含むプラスミドを有する第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を使用する。より具体的には、この発現カセットは、表19、20及び/又は21に記載されるような遺伝子産物をコードする1つ以上のポリヌクレオチド配列を有し得る。
【0367】
一態様では、減数分裂誘導発現カセットはアグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介タンパク質発現用に設計することができ、ここで、ポリヌクレオチドは植物のゲノムに組み込まれず、植物はベクター(プラスミド)骨格を含まない。
【0368】
1つの方法は、「境界を越える」プラスミド設計を含む。
【0369】
別の方法は、植物細胞へのアグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介一過性タンパク質送達を使用し、ここでは、特に、実施例13に記載されるような減数分裂特異的遺伝子産物の植物細胞への送達のために使用される。ここで、この方法は、アグロバクテリウム(Agrobacterium)を使用して、表19、20、及び/又は21に記載されるポリペプチドの合成及び送達の両方を達成することを含む。
【0370】
タンパク質、例えば、β-グルクロニダーゼ(GUS)の機能的送達は、GUSタンパク質をコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたvirFをコードするポリヌクレオチドを使用することによって達成される。アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)において複製するT-DNA境界を有さないレプリコン上に、virF-gusA(virF-uidAも)融合コンストラクトを配置した。レプリコンにおいて、VirF及びGUSをコードするポリヌクレオチドは、作動可能に連結された。この構築物はvirFプロモーターの制御下に置かれ、その結果、フェノール誘導性virレギュロンの一部としてvirA/virG遺伝子によって調節された。レプリコンを野生型オクトピン株A.ツメファシエンス(A.tumefaciens)A348に導入した。アグロバクテリウム(Agrobacterium)におけるvirF-gusA融合コンストラクトの発現は、アセトシリンゴン(AS)誘導とは部分的に無関係であった。しかし、完全なAS依存性がなくとも、ASによるVirF-GUS発現の誘導は、GUS蛍光分析による測定で、アグロバクテリウム(Agrobacterium)において有意に増加した。
【0371】
本開示の方法を使用して、実施例5に記載のようなプラスミドRV020636を有する第1のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を使用する。感染すると、このプラスミドは第1の植物細胞にT-DNAを提供し、それによって第1の植物細胞がWUSタンパク質を発現できるようになる。WUSタンパク質は非細胞自律的に移動することができ、それによって、タンパク質は第2の植物細胞に提供される。本発明の方法では、第2の植物細胞は、T-DNAの存在に曝されない。
【0372】
第2の植物細胞がWUSタンパク質と接触すると、第2の植物細胞は同時に減数分裂特異的遺伝子産物と接触する。これは第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株による同時感染に起因する。ここでは、第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株は、表19、20、及び/又は21に記載されるペプチドに融合したVir転座ペプチドドメインを含む翻訳融合タンパク質を発現することによって、第2の植物細胞への転座を提供する。本方法では、翻訳融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、virFプロモーターに作動可能に連結され、その結果、フェノール誘導性virレギュロンの一部としてvirA/virG遺伝子によって調節される。ここでは、A.ツメファシエンス(A.tumefaciens)株、例えば、T-DNA境界のないAGL1 THY-に導入したvirF-減数分裂誘導レプリコンを用いて、植物細胞に減数分裂誘導蛋白質を一過性で発現させ、異所的に送達した。
【0373】
具体的には、上記のような2つのアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を用いた同時感染は、i)有糸分裂細胞周期活性、及びii)減数分裂組換えによって産生されたゲノムを有する一倍体の胚形成細胞の発生をもたらすための代替の減数分裂細胞周期プログラムの誘導の組み合わせを提供する。
【0374】
本開示の方法において、未成熟F1ハイブリッド胚は、以下の処理のために使用される例示的な外植片である。上記の2つのアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を使用して、2つの異なる株を混合物、例えば、WUSタンパク質発現カセット(Agro1)をコードする第1のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株及び減数分裂誘導発現カセット(Agro2)をコードする第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株との混合物に混合される。Agro1:Agro2の比は、95:5、又は90:10、及び他の比であり得る。F1ハイブリッド二倍体胚の細胞を処理するために、約1000:1の細菌/植物細胞比が使用される。
【0375】
24時間後、植物細胞を洗浄し、アグロバクテリウム(Agrobacterium)を死滅させるために、培地をチメンチンを含有する培地に置き換える。優先的に、アグロバクテリウム(Agrobacterium)の同時感染の前、同時感染の間、又は同時感染の後に、実施例13に記載のような環境的及び/又は化学的処理を使用して細胞を培養することができる。共培養後、体細胞胚形成応答を示す各二倍体胚を培養し、小植物を実施例13に記載のように再生する。
【0376】
本明細書に記載される一過性発現方法は、植物外植片、例えば、未成熟F1ハイブリッド胚を同時に感染される方法を提供する。本明細書に記載されるこのような方法は、減数分裂遺伝子の早期発現、及びこのような異所性活性(例えば、実施例13に記載のタンパク質活性)の植物細胞への輸送の両方に有用である。また、細胞の酸化還元電位を変化させることにより、記載した同時感染プロセスに対する減数分裂細胞周期プログラムの誘導をさらに改善することができると期待される。したがって、この方法は、F2世代等価物である体細胞胚に由来する植物を作製する能力を可能にし、それによって「インビトロ苗床」育種活動に有用な新規な方法を提供することが期待される。
【0377】
実施例15:相同組換え修復(HDR)によるコムギのクローン性倍加一倍体の作製
以下の実験は、コムギ(トリーティクム・アエスティウム(Triticum aestivum))一倍体細胞の3組の対になった(相同である)染色体の各々の対応する相同組換え部位への所望の遺伝子及びヌクレオチド配列の方向性のあるターゲティングを促進する遺伝子ターゲティングシステムを用いて実証する。
【0378】
未成熟コムギ一倍体胚を、例えば、広範なハイブリダイゼーション法を用いて作製する。AP2ドメイン転写因子の発現は、一倍体誘導を誘導することができる。このようなAP2ドメイン転写因子法では、安定なアグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介安定植物形質転換が用いられる。例えば、植物に導入されたODP2ヌクレオチド配列は、一倍体細胞又は組織において活性である組織特異的プロモーター、又は雄性又は雌性配偶子形成期間の間、活性であるプロモーターの制御下にある。或いは、ODP2ヌクレオチド配列は、誘導性プロモーターの制御下にあり、インデューサーの適用はその中でのODP2配列の発現を可能にする。或いは、使用されるプロモーターは、誘導性及び組織優先的の両方であり得る。例えば、プロモーターは、一倍体組織特異的及び誘導性の両方であり得る。
【0379】
優先的には、本開示の方法はさらに、そのようなプロモーター(すなわち、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、又は誘導性プロモーター)に作動可能に連結されたこのようなODP2発現カセットと組み合わせて、部位特異的組換えシステムを使用することができる。例えば、ODP2発現カセットに隣接する第1のlox部位及び第2のlox部位を使用することによって(ここで、プロモーターは、雄性又は雌性配偶子形成期間の間、活性であるように、ODP2ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されている)。
【0380】
植物の卵細胞に発現するプロモーターは、ODP2発現を調節して母性の一倍体誘導を促進するのに有用であり、その結果、親と比較して半数の染色体を有する一倍体となる子孫が一定の割合で得られる。例えば、以下に限定はされないが、AT-DD5、AT-DD31、AT-DD65、又はより優先的にはZM-DD45プロモーターを含む例示的なプロモーターを使用する。さらに、ODP2タンパク質をコードするポリヌクレオチド及びゼア・マイズ(Zea mays)卵細胞遺伝子由来の3’UTRに作動可能に連結されたゼア・マイズ(Zea mays)卵細胞プロモーターが使用され得る。
【0381】
本開示の方法は、実施例3に記載されるように、F1ハイブリッドコムギ胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)株LBA4404 THY-(その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,334,429号明細書を参照)で形質転換することをさらに含む。F1ハイブリッドコムギ胚の形質転換を行って、卵細胞プロモーターに作動可能に連結されたODP2発現カセットを含む安定した半接合性トランスジェニック植物を作出する。生殖期に移行すると、植物は自家受精し、母性の一倍体胚を採取することができる。
【0382】
遺伝子ターゲティングと組み合わせたクローン倍加一倍体植物のクローン増殖は、次に上記したようなアグロバクテリウム(Agrobacterium)形質転換法を用いて母性一倍体胚を形質転換することによって行われる。現在の方法では、別のアグロバクテリウム(Agrobacterium)(ここでは、複数の「形質」(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、形質遺伝子をコードするドナー切除テンプレート、及びアントシアニンカラーマーカー;表9を参照されたい)を含むT-DNAを有する遺伝子ターゲティングプラスミドを含む)との混合物を使用することができる。
【0383】
アグロバクテリウム(Agrobacterium)株を、95%の形質含有プラスミド(例えば、PHP90670(配列番号192)対5%のWUS含有プラスミド(RV020636(配列番号186))の比で混合する。一倍体胚にこのアグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物を同時感染させると、WUS含有T-DNA(RV020636)の組み込みを伴わない「形質」T-DNA(PHP90670)の単一コピーのみを含有するトランスジェニックT0植物が再生される。形質T-DNA(PHP90670)が発現すると、増強されたジンクフィンガーヌクレアーゼ(EXZFN)の活性により、「形質」T-DNAにコードされたドナーテンプレートが切除され、それにより、標的二本鎖切断部位での、相同組換え修復及び安定した導入遺伝子組み込みが可能となる。
【0384】
切除されたドナーテンプレートを有する形質転換細胞は、ドナーテンプレートの切除から生じた機能性B-Peru遺伝子によって発現されるアントシアニンの形態学的検出を用いて検出することができ、それによってZmGlob1調節配列からのB-Peru遺伝子調節が可能になる。安定なトランスジェニック植物は、例えばハロキシホップに対する除草剤耐性を有する植物を同定することによって、正の選択を用いて同定される。
【0385】
実施例6に記載されるように、染色体倍加剤の存在下でこのような植物を培養することにより、染色体の倍加、及び安定なトランスジェニック倍加植物の二倍体化が促進されると期待される。
【0386】
除草剤耐性を有する各半接合性単一コピー植物は、ゲノム中の標的部位に挿入された「形質」遺伝子と、ゲノム中のランダムな位置に挿入された、修復されたT-DNA配列を含むレムナント「形質」T-DNAとを有することが期待される。
【0387】
標的部位に挿入された「形質」遺伝子をもつ倍加一倍体クローンセット内で、他家受精させるためのクローン個体を選択し、それによってこの交雑の種子を作り、増殖させる。子孫の一部は、標的導入遺伝子組み込み部位での遺伝子ターゲティングイベントが成功した、両親配偶子からの対立遺伝子の遺伝的形質も有する、修復された「形質」T-DNA配列を含む各ランダムT-DNA挿入部位について分離する遺伝子座において野生型であると予想される。修復された「形質」T-DNAをもたない個体を選択する一方で、標的導入遺伝子組み込み部位での遺伝子ターゲティングイベントが成功した対立遺伝子をもつ個体を自己受精させることができる。このような植物をさらに増殖させると、各相同染色体の標的部位に「形質」遺伝子のホモ接合性コピーを有するクローン性倍加一倍体として分離するであろう。
【0388】
RV036376(配列番号317)などの、遺伝子ターゲティングコンストラクト中の成分としてCREリコンビナーゼをコードする発現カセットを使用する方法は、第1のlox部位及び第2のlox部位がODP2発現カセットに隣接している場合に、ODP2発現カセットを切除するために使用することができると予想される。このようにして得られた、各相同染色体の標的部位に「形質」遺伝子のホモ接合性コピーを有する倍加一倍体植物は、修復された「形質」T-DNA配列を含むランダムT-DNA挿入部位なしで再生され、さらに母性一倍体誘導を付与するために必要であったODP2発現カセットを欠いている。
【0389】
遺伝子ターゲティングイベントを有するクローン倍加一倍体子孫の増殖と組み合わせた母性一倍体誘導のための上記の方法は、父性一倍体誘導システムとともに使用することができると期待される。例えば、小胞子形成期間の間、活性であるプロモーター、例えば、実施例12に記載されるような方法を使用して、父性配偶子に由来する細胞を処理するためのトウモロコシPG47プロモーター)に作動可能に連結されたODP2発現カセットを使用することができる。本開示においては、アグロバクテリウム(Agrobacterium)株を、95%の形質含有プラスミド(例えば、PHP90670(配列番号192))対5%のWUS含有プラスミド(RV020636(配列番号186))の比で混合し、各相同染色体の標的部位に「形質」遺伝子のホモ接合性コピーを有するクローン性倍加一倍体を作製する。
【0390】
優先的には、ODP2発現カセットに隣接する第1のlox部位及び第2のlox部位の使用、並びにCREリコンビナーゼタンパク質をコードする発現カセットの存在は、父性一倍体誘導を付与するために必要とされたODP2発現カセットを切除するために使用され得る。
【0391】
本開示の方法は、現状の技術を改善するものであり、コムギの一倍体誘導育種法を用いて形質遺伝子移入を加速し、それにより、戻し交雑媒介形質遺伝子移入の必要なしに、コムギ倍加一倍体に部位特異的導入遺伝子を組込むための前方育種能力を可能にする。
【0392】
実施例16:WUS2発現を駆動するトウモロコシPLTPプロモーターとともにウイルスエンハンサーを使用することにより、コムギにおける非トランスジェニック体細胞胚及び植物の回収が促進される
a)実験1.収穫した新鮮なコムギの未成熟粒を、真空下、50%の漂白剤及び0.1%のTween-20で30分間滅菌し、その後、滅菌水で3回洗浄した。病原性プラスミドPHP71539(配列番号184)を含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)株LBA4404 THY-を、全ての処理に使用した。第1の処理(対照)では、PHP71539(配列番号184)(T-DNAを含まない)を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、液体716B培地中、1.0のOD(600nm)に調整し、このアグロバクテリウム(Agrobacterium)懸濁液に未成熟コムギ胚を室温(25℃)で20分間添加した。第2の処理では、PHP71539(配列番号184)及びPHP88158(配列番号182)(RB+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-WUS2::IN2-1 TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LB)の両方を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)のみを含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合し、両方のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株懸濁液を、最初に1.0のOD(600nm)に調整し、次いで、90%PHP71539単独(配列番号184)対10%PHP71539(配列番号184)+PHP88158(配列番号182)の比率で混合した。15分間の液体感染処理の後、未成熟胚を液体培地から取り出し、固体606培地上に移し、胚盤側を上に向けて、21℃の暗所で一晩培養した。胚を再び、新鮮な休止培地(606)に移し、10日後、暗所の選択再生培地689Eに移した。次いで、組織を、明所の選択再生培地689E上に移し、産生された植物の数を表にした。
【0393】
第1の処理(対照)では、春コムギ品種SBC0456Dの未成熟胚56個にアグロバクテリウム(Agrobacterium)を感染させた。未成熟胚のうち8個は胚盤由来の体細胞胚から1つの植物体を生産し、6個の未成熟胚はそれぞれ2個の植物体を生産し、7個の未成熟胚は出発未成熟胚1個当たり3個以上の植物体を生産し、合計で41個以上の植物体を生産した(PCRにより、全ての植物体が非トランスジェニックであると確認された)。第2の処理では、合計69個の未成熟胚を感染させた。20個の未成熟胚はそれぞれ1個の胚盤由来の植物体を生産し、22個の未成熟胚はそれぞれ2個の植物体を生産し、27個以上の未成熟胚はそれぞれ3個以上の植物体を生産し、合計で144個以上の植物体を生産した(PCRにより、全ての植物体が非トランスジェニックであると確認された)。第2の処理により非トランスジェニック植物のマイクロプロパゲーションが実質的に改善され、植物を温室へ移行させる準備が整う。最終的な分子分析により、この方法によって生成された植物体が、非トランスジェニックであって、形態形成発現カセットを有するT-DNAを含まず、且つ(両プラスミドに存在する)アグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格配列が組み込まれていないことが確認された。
【0394】
最後に、ZM-WUS2遺伝子の発現に用いられるプロモーターは、ZM-PLTPプロモーターからオオムギLTP2プロモーターに交換することができる。いずれの植物プロモーターも、3種の別々のウイルスの、ゴマノハグサモザイクウイルス、ラッカセイクロロティックストリークウイルス、ミラビリスモザイクウイルス由来の3つのプロモーターエンハンサーエレメントが前に位置している。この新しいプロモーターを用いると、未成熟胚の胚盤からの非トランスジェニック体細胞胚の刺激がさらに増強され、非トランスジェニック植物がより多く生産されることが期待される。
【0395】
b)実験2.コムギ未成熟胚を収穫し、アグロバクテリウム(Agrobacterium)を用いて形質転換し、この実施例16の上記実験1に記載のように培養した。4つの処理の結果を
図3~6に要約する。
【0396】
第1の処理(対照)(
図3)では、春コムギ品種SBC0456Dの26個の未成熟胚を、病原性プラスミドPHP71539(配列番号184)を含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させ、合計19個が応答しなかった。残りの7個の未成熟胚のうち、3個はそれぞれ1個のR0植物を生産し、3個はそれぞれ2個のR0植物を生産し、1個の未成熟胚は4個のR0植物を生産し、合計7個のR0植物を生産した(PCRにより、全ての植物体が非トランスジェニックであると確認された)。したがって、第1の処理(対照)では、R0増殖頻度は27%(7個のR0植物体/26個の胚)であった。
【0397】
第2の処理(
図4)では、PHP71539(配列番号184)及びPHP88158(配列番号182)(RB+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-WUS2::IN2-1 TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LB)の両方を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)のみを含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合し、合計35個のコムギ未成熟胚を感染させた。しかし、未成熟胚の大部分が応答を示さなかった対照処理とは対照的に、WUS2含有T-DNA(PHP88158(配列番号182))の送達は、35個の胚のうち2個のみが非応答性であり(
図4)、R0植物を生産しなかった。この処理では、3個の未成熟胚が1個のR0植物体を生産する一方、1個、5個又は4個の未成熟胚がそれぞれ2個、3個又は4個のR0植物体/胚を生産した。さらに、35個の感染未成熟胚のうち合計15個の胚が、出発胚1個当たり6~12個のR0植物体を生産した。この処理では、合計182個のR0植物が産生され、R0増殖頻度は520%(182個のR0植物体/35個の胚)であった。
【0398】
第3の小麦処理(
図5)では、PHP71539(配列番号184)及びPHP25340(配列番号193)(RB+UBI PRO::CFP::PINII TERM 3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-ODP2::IN2-1 TERM+LB)の両方を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)のみを含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合し、合計38個のコムギ未成熟胚を感染させた。22個の未成熟胚は応答を示さなかった(R0シュートの生産は0個であった)。残りの16個の未成熟胚のうち、5個の胚はそれぞれ1個の植物体を生産し、4個の胚はそれぞれ2個の植物体を生産し、4個の胚はそれぞれ3個の植物体を生産し、3個の単一胚はそれぞれ4個、6個又は8個の植物体/胚を生産した。したがって、合計43個のR0植物が、合計38個の処理された未成熟胚から生産され、R0増殖頻度は113%(43個のR0植物体/38個の胚)であった。
【0399】
コムギに対する最後の処理(
図6)では、PHP71539(配列番号184)及びPHP91539(配列番号194)(RB+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-WUS2::IN2-1TERM+ZM-PLTP1PRO::ZM-ODP2::OS-T28TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LB)の両方を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)のみを含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合したが、R0植物増殖率は再び極似したものとなった(
図6を参照)。この処理では、合計38個のコムギ未成熟胚を処理し、3個の未成熟胚のみがR0植物体を生産しなかった。3個の胚はそれぞれ1個のR0植物体を生産し、残りの32個の未成熟胚はそれぞれ複数のR0植物体/未成熟胚を生産し、その応答は2個の植物体/胚から11個の植物体/胚の範囲であった。この処理では、R0植物増殖頻度は442%(168個のR0植物体/38個の胚)であった。
【0400】
コムギにおいて、ODP2、WUS2、又はODP2/WUS2が導入された3つの処理の全てで、出発胚数に応じて、生産されるR0植物体の総頻度が対照と比較して実質的に増加したことが観察された。3種類全ての形態形成遺伝子処理で観察されたR0植物の増殖の実質的な改善を、(未成熟胚の出発数に対する)総R0増殖頻度の点で表22にまとめ、対照処理に対する増加倍数として表23に示す。表22は、T-DNAを保有しない(配列番号184)、又は3XENH::PLTP::ODP2(配列番号193)、3XENH::PLTP::WUS2(配列番号182)若しくは又は3XENH::PLTP::WUS2+PLTP::ODP2(配列番号194)を含むT-DNAを保有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後のR0増殖頻度を示す。表23は、PLTP::ODP2(ODP2)、3XENH::PLTP::WUS2(WUS)又は3XENH::PLTP::WUS2+PLTP::ODP2(WUS/ODP2)を含むT-DNAを保有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後のR0増殖頻度(%)の、アグロバクテリウム(Agrobacterium)にT-DNAが含まれていない(対照)対照処理に対する増加倍数を示す。
【0401】
【0402】
【0403】
このコムギの実験では、第1の処理(対照)(合計7個)と第3の処理(合計43個)からのR0植物の全て、及び第2の処理と最後の処理(第2の処理と最後の処理のそれぞれ57個)からの植物のサブセットをqPCR分析のためにサンプリングし、第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)のT-DNA内部の配列のコピー数を測定し、特に、ZM-WUS2/IN2-1接合部及びT-DNA左境界配列に加えて2つの合成PCR分析配列(PSB1とPSA2)のコピー数、又は第1及び第2の両アグロバクテリウム(Agrobacterium)株のアグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格にのみ見られる配列であるVIRGのコピー数について試験した。分析した164個のR0植物のうち、1個だけがWUS2に対する陽性バンドを有し、これはT-DNAに対する他の3つのqPCRマーカーが陰性であったことから偽陽性の可能性があった。分析した残りの163個の植物は、T-DNAを含まず、またアグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格配列も含まないと決定された(ヘルパープラスミド骨格(配列番号184)は第1及び第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)の両方に存在した)。丈夫なシュート及び根を有するこれらのR0植物が導入遺伝子フリーであることを確認した後、それらを温室へ移す準備が整う。
【0404】
実施例17:WUS2発現を駆動するトウモロコシPLTPプロモーターとともにウイルスエンハンサーを使用することにより、ソルガムにおける非トランスジェニック体細胞胚及び植物の回収が促進される
a)実験1.収穫した新鮮なソルガムの未成熟粒を、真空下、50%の漂白剤及び0.1%のTween-20で30分間滅菌し、その後、滅菌水で3回洗浄した。病原性プラスミドPHP71539(配列番号184)を含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)株LBA4404 THY-を、全ての処理に使用した。第1の処理(対照)では、PHP71539(配列番号184)(T-DNAを含まない)を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)を液体700A培地中、0.4のOD(550nm)に調整し、このアグロバクテリウム(Agrobacterium)懸濁液に未成熟ソルガム胚を室温(25℃)で15分間添加した。第2の処理では、PHP71539(配列番号184)及びPHP88158(配列番号182)(RB+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-WUS2::IN2-1 TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LB)の両方を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)のみを含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合し、両方のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株懸濁液を、最初に0.4のOD(550nm)に調整し、次いで、90%PHP71539単独(配列番号184)対10%PHP71539(配列番号184)+PHP88158(配列番号182)の比率で混合した。15分間の液体感染処理の後、未成熟胚を液体培地から取り出し、固体562V培地上に移し、胚盤側を上に向けて、21℃の暗所で一晩培養した。
【0405】
胚を感染後、次の連続した工程に供した:(1)共培養:胚を感染後、PHI-T培地で3日間、暗所にて25℃で培養した;(2)休止:胚をPHI-T培地+100mg/lカルベニシリンで4日間、暗所にて28℃で培養した;(3)選択:胚をPHI-U培地で2週間培養した後、PHI-V培地で選択プロセスの残りの期間、暗所にて28℃で、2~3週間隔で継代培養した;(4)再生:カルスを暗所で2~3週間、PHI-X培地で、シュート発生を刺激するために培養し、続いて、16時間の光(40~120μEm-2s-1)及び25℃で8時間の暗所の条件下で1週間培養し、最後にPHI-Z培地で2~3週間、光(16時間、40~120μEm-2s-1)下で継代培養して根の増殖を刺激した。再生小植物体を表にし、土壌に移植し、温室で生育させる準備が整う。
【0406】
第1の処理(対照)では、ソルガム品種Tx430の73個の未成熟胚を、病原性プラスミドPHP71539(配列番号184)(T-DNAなし)を含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させた。処理された未成熟胚は、元の各未成熟胚から様々な数の非トランスジェニック植物体を生産し、合計116個の植物体が生産された。第2の処理では、合計74個の未成熟胚を、90%PHP71539(配列番号184)と10%PHP71539(配列番号184)+PHP88158(配列番号182)の比率のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株の混合物に感染させ、これらの感染させた未成熟胚のそれぞれから再生された植物の数は実質的に増加し、当初処理された未成熟胚の半分は胚盤から2個以上の植物体を生産し、合計222個(221個)の植物が生産された(表24を参照)。第2の処理は、最終の非トランスジェニック植物体数の実質的な改善を提供し、温室へ移行させる準備が整った非トランスジェニック植物体を生産するマイクロプロパゲーションの実質的な改善を提供した。最終的な分子分析により、この方法によって生成された植物体が、非トランスジェニックであって、形態形成発現カセットを有するT-DNAを含まず、且つ(両プラスミドに存在する)アグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格配列が組み込まれていないことが確認された。表24は、胚盤由来の体細胞胚から様々な数の非トランスジェニック植物体を生産したアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染未成熟胚の数を示す。
【0407】
【0408】
b)実験2.ソルガム未成熟胚を収穫し、アグロバクテリウム(Agrobacterium)を用いて形質転換し、この実施例17の実験1に記載のように培養した。4つの処理の結果を
図7~10に要約する。
【0409】
第1の処理(対照)(
図7)では、ソルガム品種Tx430の56個の未成熟胚を、病原性プラスミドPHP71539(配列番号184)を含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させ、合計28個が応答を生じなかった。残りの28個の未成熟胚のうち、5個はそれぞれ1個のR0植物を生産し、6個はそれぞれ2個のR0植物を生産し、17個の未成熟胚はそれぞれ、出発未成熟胚1個当たり3個以上のR0植物を生産し、1個の出発胚に対して8個のR0植物に及んだ。qPCRにより、生産された全てのR0植物が非トランスジェニック(アグロバクテリウム(Agrobacterium)配列が組み込まれていない)であると確認された。処理された56個の出発未成熟胚に対して102個生産された全R0植物体を表にすると、総R0増殖頻度は182%(102個のR0植物体/56個の胚)となった。
【0410】
第2の処理(
図8)では、PHP71539(配列番号184)及びPHP88158(配列番号182)(RB+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-WUS2::IN2-1 TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LB)の両方を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)のみを含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合し、合計33個のソルガム未成熟胚を感染させ、合計9個の未成熟胚がそれぞれR0植物を産生しなかった(
図8)。この処理における残りの未成熟胚では、生産されたR0植物体の数/胚は、1個の出発胚に対し、1個のR0植物体(3個の出発胚のそれぞれで観察された)から9個のR0植物体までの範囲であった。この処理では、合計103個のR0植物が生産され、R0増殖頻度は312%(103個のR0植物体/33個の胚)であった。
【0411】
第3のソルガム処理(
図9)では、PHP71539(配列番号184)及びPHP25340(配列番号193)(RB+UBI PRO::CFP::PINII TERM+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-ODP2::IN2-1 TERM+LB)の両方を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)のみを含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合し、合計75個のコムギ未成熟胚を感染させた。35個は応答を示さなかった(R0植物は生産されなかった)。残りの40個の未成熟胚のうち、産生されたR0植物体/胚の数は1~9個の範囲であり、この範囲の中央に位置する未成熟胚の数が最も多かった(
図9)。この処理では、処理された合計75個の未成熟胚から合計187個のR0植物体が生産され、R0増殖頻度は249%(187個のR0植物体/75個の胚)であった。
【0412】
ソルガムに対する最後の処理(
図10)では、PHP71539(配列番号184)及びPHP91539(配列番号194)(RB+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-WUS2::IN2-1 TERM+ZM-PLTP1 PRO::ZM-ODP2::OS-T28 TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LB)の両方を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)のみを含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合したが、R0植物増殖率を再び極似したものとなった(
図10を参照)。この処理では、合計66個のTx430未成熟胚を処理し、10個の未成熟胚のみがR0植物体を生産しなかった。残りの56個の出発未成熟の4個の胚はそれぞれ1個のR0植物体を生産し、6個の胚はそれぞれ2個のR0植物体を生産し、12個の胚はそれぞれ3個のR0植物体を生産し、16個の胚はそれぞれ4個のR0植物体を生産し、9個の胚はそれぞれ5個のR0植物体を生産し、7個の胚はそれぞれ6個のR0植物体を生産し、そして2個の胚はそれぞれ7個のR0植物体を生産した。この処理では、66個の出発未成熟胚から合計217個のR0植物体が生産され、R0植物増殖頻度は329%(217個のR0植物体/66個の胚)であった。
【0413】
ソルガムにおいて、ODP2、WUS2、又はODP2/WUS2が導入された3つの処理の全てで、出発胚数に応じて、生産されるR0植物体の総頻度が対照と比較して実質的に増加したことが観察された。3種類全ての形態形成遺伝子処理で観察されたR0植物の増殖の実質的な改善を、(未成熟胚の出発数に対する)総R0増殖頻度の点で表22にまとめ、対照処理に対する増加倍数として表23に示す。表22は、T-DNAを保有しない(配列番号184)、又は3XENH::PLTP::ODP2(配列番号193)、3XENH::PLTP::WUS2(配列番号182)若しくは又は3XENH::PLTP::WUS2+PLTP::ODP2(配列番号194)を含むT-DNAを保有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後のR0増殖頻度を示す。表23は、PLTP::ODP2(ODP2)、3XENH::PLTP::WUS2(WUS)又は3XENH::PLTP::WUS2+PLTP::ODP2(WUS/ODP2)を含むT-DNAを保有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染後のR0増殖頻度(%)の、アグロバクテリウムにT-DNAが含まれていない(対照)対照処理に対する増加倍数を示す。
【0414】
この実験で生産された全ての植物をqPCR解析のためにサンプリングし、第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)のT-DNA内部の配列のコピー数、又はアグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格のみに見られる配列(VIRG-これは第1及び第2の両アグロバクテリウム(Agrobacterium)株に存在する)を決定した。回収したすべての植物について、分子分析により、この方法によって生成されたR0植物体は形態形成遺伝子発現カセットを有するT-DNAを含まないか、又はアグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格配列を含まない(ヘルパープラスミド骨格は第1及び第2の両方のアグロバクテリウム(Agrobacterium)に存在している)非トランスジェニックであることが確認された。
【0415】
実施例18:WUS2発現を駆動するトウモロコシPLTPプロモーターとともにウイルスエンハンサーを使用することにより、トウモロコシにおける非トランスジェニック体細胞胚及び植物の回収が増強される
a)実験1.トウモロコシ胚を上記のように調製する。病原性プラスミドPHP71539(配列番号184)を含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)株LBA4404 THY-を、全ての処理に使用した。第1の処理(対照)では、PHP71539(配列番号184)(T-DNAを含まない)を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)を液体700A培地中、0.4のOD(550nm)に調整し、このアグロバクテリウム(Agrobacterium)懸濁液に未成熟トウモロコシ胚を室温(25℃)で15分間添加した。第2の処理では、PHP71539(配列番号184)及びPHP88158(配列番号182)(RB+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-WUS2::IN2-1 TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LB)の両方を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)のみを含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合し、両方のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株懸濁液を、最初に0.4のOD(550nm)に調整し、次いで、90%PHP71539単独(配列番号184)対10%PHP71539(配列番号184)+PHP88158(配列番号182)の比率で混合した。第3の処理では、PHP71539(配列番号184)及びRV025340(配列番号193)(RB+UBI PRO::CFP::PINII TERM+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-ODP2::IN2-1 TERM+LB)を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)のみを含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合し、両方のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株懸濁液を、最初に0.4のOD(550nm)に調整し、次いで、90%PHP71539単独(配列番号184)対10%RV025340(配列番号193)+PHP71539(配列番号184)の比率で混合した。第4の処理では、PHP71539(配列番号184)+PHP91539(配列番号194)(RB+3XENH::ZM-PLTP PRO)::ZM-WUS2::IN2-1 TERM+ZM-PLTP1 PRO::ZM-ODP2::OS-T28 TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LB)を含有する第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)のみを含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合し、両方のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株懸濁液を、最初に0.4のOD(550nm)に調整し、次いで、90%PHP71539単独(配列番号184)対10%PHP91539(配列番号194)+PHP71539(配列番号184)の比率で混合した。15分間の液体感染処理の後、未成熟胚を液体培地から取り出し、固体562V培地上に移し、胚盤側を上に向けて、21℃の暗所で一晩培養した。
【0416】
4つの処理全てで、トウモロコシ近交系PH1V69の未成熟胚50個を感染させる。病原性プラスミドPHP71539(配列番号184)(T-DNAを含まない)を含む第1の処理(対照)では、処理された未成熟胚が胚盤由来の体細胞胚から発芽した非トランスジェニック植物体を生産する数は少数であると予想される。90%PHP71539(配列番号184)対10%PHP88158(配列番号182)+PHP71539(配列番号184)の比率のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株の混合物による第2の処理において感染した50個の未成熟胚では、感染した未成熟胚のそれぞれからのR0植物体の数は実質的に増加すると予想される。非トランスジェニック植物の最終的な数の改善は、温室へ移行させる準備が整った非トランスジェニック植物のマイクロプロパゲーション生産の実質的な改善を示す。90%PHP71539(配列番号184)対10%RV025340(配列番号193)(RB+UBI PRO::CFP::PINII TERM+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-ODP2::IN2-1 TERM+LB)+PHP71539(配列番号184)の比率のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株の混合物を用いた第3の処理では、生産されるR0植物体の数は、PHP71539単独(配列番号184)での第1の処理(対照)よりも多いと予想される。PLTP::WUS2及びPLTP1::ODP2の両方を含有する、90%PHP71539(配列番号184)対10%PHP71539(配列番号184)+PHP91539(配列番号194)の比率でのアグロバクテリウム(Agrobacterium)株の混合物による第4の処理では、生産されるR0植物体の数は、第2の処理(90%PHP71539(配列番号184)対10%PHP71539(配列番号184)+PHP88158(配列番号182)の比率でのアグロバクテリウム(Agrobacterium)株の混合物)で生産されるR0植物体の数と同じくらい多いと予想される。最終的な分子分析により、この方法によって生成される植物体が、非トランスジェニックであって、形態形成発現カセットを有するT-DNAを含まず、且つ(両プラスミドに存在する)アグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格配列も含まないことが確認されると予想される。
【0417】
b)実験2.トウモロコシ近交系PH1V69未成熟胚を収穫し、アグロバクテリウム(Agrobacterium)を用いて形質転換し、この実施例18の上記実験1に記載のように培養した。4つの処理の結果を
図11~14に要約する。
【0418】
第1の処理(対照)(
図11)では、トウモロコシ近交系PH1V69の50個の未成熟胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させ、合計40個が応答を示さなかった(0個のR0植物体)。残りの10個の未成熟胚のうち、9個はそれぞれ1個のR0植物体を生産し、1個の未成熟胚は4個のR0植物体を生産した。出発未成熟生の総数(50個)に対して生産された全R0植物体(13個)を表にすると、総R0増殖頻度は26%(13個のR0植物体/50個の胚)となった。
【0419】
第2の処理(
図12)では、PHP71539(配列番号184)及びPHP88158(配列番号182)(RB+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-WUS2::IN2-1 TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LB)を含有する第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)に、全50個のトウモロコシ未成熟胚を感染させ、合計11個の未成熟胚がR0植物体を生産しなかった。この処理の残りの未成熟胚では、生産されたR0数/胚は、14個の出発胚がそれぞれ1つのR0植物体を生産し、18個の出発胚がそれぞれ2個のR0植物体を生産し、4個の出発胚がそれぞれ3個のR0植物体を生産し、2個の出発胚がそれぞれ4個のR0植物体を生産し、そして1個の出発胚がそれぞれ7個のR0植物体を生産した。この処理では、合計77個のR0植物体が生産され、R0増殖頻度は154%(77個のR0植物体/50個の胚)であった。
【0420】
第3のトウモロコシ処理(
図13)では、PHP71539(配列番号184)及びRV025340(配列番号193)(RB+UBI PRO::CFP::PINII TERM+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-ODP2::IN2-1TERM+LB)を含有する第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)に合計50個のトウモロコシ未成熟胚を感染させ、合計39個の未成熟胚がR0植物体を生産しなかった。残りの11個の未成熟胚のうち、8個の未成熟胚がそれぞれ1個のR0植物体を生産し、2個の胚がそれぞれ2個の植物体を生産し、1個の未成熟胚が3個のR0植物体を生産した。この処理では、合計15個のR0植物体が生産され、R0増殖頻度は30%(15個のR0植物体/50個の胚)となった。
【0421】
トウモロコシの第4の処理(
図14)では、第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)はPHP71539(配列番号184)+PHP91539(配列番号194)(RB+3XENH::ZM-PLTP PROZM-WUS2::IN2-1 TERM+ZM-PLTP1 PRO::ZM-ODP2::OS-T28 TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LB)を含有し、R0植物増殖率を再び極似したものとなった。この処理では、アグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物で処理した50個のPH1V69未成熟胚のうち、わずかに6個の胚だけがR0植物体を生産しなかった。残りの44個の出発未成熟胚のうち、11個の未成熟胚がそれぞれ1個のR0植物体を生産し、15個の未成熟胚がそれぞれ2個のR0植物体を生産し、10個の未成熟胚がそれぞれ3個のR0植物体を生産し、5個の未成熟胚がそれぞれ4個のR0植物体を生産し、1個の未成熟胚が5個のR0植物体を生産し、1個の未成熟胚が6個のR0植物体を生産し、1個の未成熟胚が7個のR0植物体を生産した。この処理では、50個の出発未成熟胚から合計109個のR0植物体が生産され、R0植物増殖頻度は218%(109個のR0植物体/50個の胚)であった。
【0422】
表22及び23に要約するように、3種類全ての形態形成遺伝子処理で観察されたR0植物の増殖の実質的な改善を、(未成熟胚の出発数に対する)総R0増殖頻度の点で表22にまとめ、対照処理に対する増加倍数として表23に示す。
【0423】
この実験で生産された全てのR0植物体をqPCR解析のためにサンプリングし、第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)のT-DNA内部の配列のコピー数、又はアグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格のみに見られる配列(VIRG-これは第1及び第2の両アグロバクテリウム(Agrobacterium)株に存在する)を決定した。4種類の処理の全てで、分子分析により、この方法によって生成された全てのトウモロコシR0植物体が、形態形成遺伝子発現カセットを有するT-DNAを含まず、アグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格配列も含まない(ヘルパープラスミド骨格は第1及び第2の両方のアグロバクテリウム(Agrobacterium)に存在している)非トランスジェニックであることが確認された。
【0424】
実施例19:複製起点の異なるT-DNAプラスミドの、プラスミドコピー数を調節するための使用
これらの実験では、2つの異なるT-DNAを1つの細菌細胞から、複製起点(ORI)の異なる2つのプラスミド(ORI)にこれらのT-DNAを保持することにより、(互いに相対的に)様々な比率で送達する。異なるORIは、細菌細胞で維持されるプラスミドの数が相異する。異なるORIを使用して、プラスミドコピー数を滴定し、同じ細菌細胞中のプラスミドの異なる比率を達成することができる。この実験では、以下のORIから選択される1つ以上のORIを有するプラスミドを設計する:同じ細菌細胞内に存在する、BBR1 ORI;PSA ORI;PSA+PARDE ORI;PVS1 ORI;repABC ORI;RK2 ORI;RK2+PARDE ORI;又はRSF1010 ORI(表25を参照)。これらの種々のORI内で、アグロバクテリウム(Agrobacterium)においては、pVS1が高いプラスミドコピー数(約20コピー/細胞)を付与し、repABCは低いコピー数(約1~2コピー/細胞)を付与することが以前に見出された。
【0425】
【0426】
この概念を検証するために、第1のプラスミドを、高いプラスミドコピー数をもたらすORI(pVS1)と、ZS-GREEN及びHRAなどの形質遺伝子発現カセットを含むT-DNAを用いて構築する。第2のプラスミドは、低いコピー数をもたらすORI(repABC)及び形態形成遺伝子発現カセット(WUS2)を含むT-DNAで構築する。両方のプラスミドを単一のアグロバクテリウム(Agrobacterium)に導入する。同じ細菌細胞内に存在するプラスミドが同じ植物細胞内に同時送達されると、送達されたT-DNAの相対比は、アグロバクテリウム(Agrobacterium)におけるこれらのプラスミドの安定な比を反映する。
【0427】
このようにして、形質遺伝子発現カセットT-DNA又は形態形成遺伝子発現カセットT-DNAを含有する2つの異なるアグロバクテリウム(Agrobacterium)を混合する(すなわち、アグロバクテリウム(Agrobacterium)1とアグロバクテリウム(Agrobacterium)2の90%/10%混合物)方法と比較すると、同様の効果が生じる。アグロバクテリウム(Agrobacterium)混合法と同様に、同じ菌株からのプラスミド混合物の送達は、両方のT-DNAを受容する細胞の頻度がより高くなり、より高い形質転換率を可能にし得る。形質転換に用いると、より高い頻度で急速に体細胞胚が形成され、その結果、単一コピー形質遺伝子発現カセットT-DNAを含み、ベクター(プラスミド)DNAを持たず、形態形成遺伝子発現カセットT-DNAの組み込みのないT0植物体が生産されると予想される。
【0428】
実施例20:非応答性小胞子由来細胞からクローン性倍加一倍体を作製
実施例12では、応答性トウモロコシ近交系に由来する細胞における小胞子胚形成を改善するために有用な方法が示された。その方法では、Z.マイズ(Z.mays)PLTPプロモーター(これは、胚形成性細胞運命を有する細胞においては比較的強いプロモーターであり、非胚形成性細胞運命を有する細胞においては比較的弱い活性である)に作動可能に連結された発現カセットを含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)に応答して、胚形成の改善が観察された。
【0429】
実施例12の方法は応答系から単離された小胞子由来細胞における小胞子胚形成を改善することができることが示されたが、その方法が非応答系から単離された小胞子由来細胞における小胞子胚形成を同様に改善することは観察されなかった(データは示さず)。したがって、特に不応性小胞子胚形成表現型を有するトウモロコシ近交系に対して、遺伝子型に依存しない方法で小胞子胚形成を誘導するために有用な方法をさらに改善する必要性が残されている。
【0430】
本開示の方法は、部分的又は非胚形成性細胞運命を有する細胞において比較的強い活性を有するプロモーターに作動可能に連結された発現カセットを含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)を使用して、不応性近交系から単離された培養小胞子に由来する多細胞構造を処理する方法を記載する。
【0431】
本発明の方法に興味深いプロモーターは、植物細胞において活性であることが知られているプロモーター配列を含む調節エレメントであり、これには、以下に限定されないが、「構成的」又は「誘導性」植物プロモーター、例えば、表4及び5に列挙されるプロモーターが含まれる。このような調節エレメントには、表6に開示されるEMEをコードするポリヌクレオチド配列、及び/又は表7に開示される翻訳若しくは転写エンハンサーをコードする配列が含まれ得る。
【0432】
本開示にとって興味深いのは、父性配偶子細胞において比較的強力なプロモーター活性を有するプロモーター配列を含む調節エレメントである。本開示において有用なプロモーター配列の例を、以下の表26に列挙する。
【0433】
【0434】
特に核期中期の発育中の花粉の発現に高い特異性を提供する別のプロモーター配列は、P67プロモーター(米国特許第7,915,398B2号明細書を参照されたい。この文献は参照によりその全体が本明細書に組みこまれる。)であり、非応答性近交系由来の父性配偶子細胞の処理のための本開示の方法において使用することができる。このコンストラクトでは、T-DNAポリヌクレオチドは、プラスミドRV020636(配列番号186)において使用されているZM-PLTPプロモーター配列を、P67プロモーター配列(RV038288において、ZM-PME10 PROと命名されている)で置換し、プラスミドRV038288(配列番号185)を生じる。
【0435】
本開示においては、栄養要求株、例えば、条件付きチミジン要求性変異株(Thy A-)であるアグロバクテリウム(Agrobacterium)株、及び/又は、例えば実施例11に記載されているように、細菌性シトシンデアミナーゼ(codA)遺伝子を用いて、条件付きネガティブ選択を付与する遺伝子を共発現する株に、プラスミドRV038288を形質転換することが重要である。
【0436】
この方法では、プラスミドRV038288由来のT-DNAを含む第1の細胞によって提供されるWUSCHELタンパク質活性に応答して、非形質転換小胞子由来細胞において胚形成成長を刺激する。さらに、T-DNAからのWUSCHELタンパク質の発現は、特に前記条件付きネガティブ選択法を使用する場合に、第1の細胞にとって致死となり、それによって、T-DNAを有する細胞に対して選択しながら、非形質転換小胞子由来細胞の小胞子胚形成を改善する。したがって、本発明の方法は、小胞子由来の倍化一倍体植物の作製に使用することができる。より優先的には、前記方法は、処理した組織からクローン性の小胞子由来の倍加一倍体植物を生成することができる。
【0437】
処理の対象となる組織は、実施例12に記載の方法を用いて、特にATCC40520より応答性の低いトウモロコシ系からの細胞培養物を用いて得られる多細胞構造(MCS)である。
【0438】
MCS細胞のアグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介形質転換を、ここでは2種のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を組み合わせた混合物(例えば、95%PHP86491及び5%RV038288)として使用して、実施例12に記載されるように行う。濾過したMCS及びアグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物を、0.5mLの懸濁MCS細胞及び0.5mLの組み合わせたアグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物を使用して懸濁液中で合わせ、無菌条件下で5分間インキュベートし、固体培地(例えば、605J)に移し、暗条件下、21℃でインキュベートする。24時間後、各プレートを28℃に移し、暗条件下でインキュベートする。
【0439】
優先的には、この方法は染色体倍加処理の使用を含む、実施例12に記載のように実施することができる。増殖カルス組織を、選択を伴う成熟培地、例えば、5-フルオロシトシンを補充した289Q培地に移すことができる。任意選択により、条件付き選択方法はまた、処理された小胞子由来の胚それぞれの、増殖カルス組織が解体される間又はその後に実施することができる。例えば、解体された、移される組織の各部分を5-フルオロシトシンを補充した成熟培地(289Q)に移し、暗条件下、26~28℃で培養することによって。
【0440】
また、2つ以上の形態形成発生遺伝子の共発現は、例えば、WUSCHEL及びBABYBOOM/ODP2の両方のタンパク質活性を小胞子由来細胞に提供することにより、遺伝子型に依存しない方法で小胞子胚形成応答を改善することができると考えられる。本開示に有用な他のこのようなタンパク質としては、LEC1及び/又はジェミニウイルスRepA遺伝子などの他の形態形成発生遺伝子を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0441】
この方法は、培養トウモロコシ小胞子から父性由来の倍加一倍体植物を再生する能力を改善すると期待される。
【0442】
特定の遺伝子型に由来する細胞に対する小胞子胚形成応答は、調節エレメントのポリヌクレオチド配列内のEME及び/又は翻訳又は転写エンハンサーの特定の組み合わせを使用することによって改善することができると期待される。
【0443】
小胞子の胚形成応答は、小胞子由来の細胞に1つ以上の他の形態形成発生遺伝子活性を、例えば、2つ以上の形態形成発生遺伝子を、特に遺伝子型に依存的に小胞子の胚形成応答を促進するために必要に応じて組み合わせて共発現させることによって提供することにより、さらに改善することができると期待される。
【0444】
実施例21:前から存在する組み込み導入遺伝子を含むトウモロコシ二倍体細胞由来の体細胞胚を用いる植物の再生
実施例5~7は、母性一倍体胚を使用する新規な植物育種方法を記載し、実施例12及び20は父性一倍体小胞子を使用する植物育種に対する新規方法の有用性を記載し、そして実施例18は、非トランスジェニック二倍体胚を処理することによって植物の再生を改善する方法を記載する。具体的には、実施例18の方法は、形態形成発現カセットを有するT-DNAを含まず、アグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格配列(両方のプラスミドに存在する)も含まない非トランスジェニック植物を得る能力を提供する。
【0445】
本開示の方法では、クローン植物を得る方法が記載され、その方法では、最初の植物細胞は安定に組み込まれたT-DNAを含み、したがって、トランスジェニック植物細胞と考えられ、この細胞が、クローンのトランスジェニック植物を再生し得る体細胞胚を作製するために処理される。特に、前記トランスジェニック植物は、元の安定に組み込まれたT-DNAのみを含み、形態形成発現カセットを有するT-DNAも、アグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格配列(どのプラスミドにも存在する)も含まない。
【0446】
トウモロコシ胚を上述したように調製する。病原性プラスミドPHP71539(配列番号184)を含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)株LBA4404 THY-を、全ての処理に使用した。第1の処理(対照)では、T-DNAを含まないPHP71539(配列番号184)を液体700A培地中、0.4のOD(550nm)に調整し、このアグロバクテリウム(Agrobacterium)懸濁液に未成熟トウモロコシ胚を室温(25℃)で15分間添加した。第2の処理では、PHP71539(配列番号184)及びPHP88158(配列番号182)(RB+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-WUS2::IN2-1 TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LB)の両方を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)を含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合し、両方のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株懸濁液を、最初に0.4のOD(550nm)に調整し、次いで、90%PHP71539(配列番号184)対10%PHP88158(配列番号182)+PHP71539(配列番号184)の比率で混合した。第3の処理では、PHP71539(配列番号184)及びRV025340(配列番号193)(RB+UBI PRO::CFP::PINII TERM+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-ODP2::IN2-1 TERM+LB)を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)を含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合し、両方のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株懸濁液を、最初に0.4のOD(550nm)に調整し、次いで、90%PHP71539(配列番号184)対10%RV025340(配列番号193)及びPHP71539(配列番号184)の比率で混合した。第4の処理では、PHP71539(配列番号184)+PHP91539(配列番号194)(RB+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-WUS2::IN2-1 TERM+ZM-PLTP1 PRO::ZM-ODP2::OS-T28 TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LB)を含有する第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)を含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合し、両方のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株懸濁液を、最初に0.4のOD(550nm)に調整し、次いで、90%PHP71539(配列番号184)対10%PHP91539(配列番号194)及びPHP71539(配列番号184)の比率で混合した。15分間の液体感染処理の後、未成熟胚を液体培地から取り出し、固体562V培地上に移し、胚盤側を上に向けて、21℃の暗所で一晩培養した。
【0447】
4つの処理全てについて、安定に組み込まれたT-DNA(本明細書中、トランスジェニック「形質」と呼ぶ)を含むトウモロコシ系PH1V69の50個の未成熟胚を、アグロバクテリウム(Agrobacterium)に感染させる。病原性プラスミドPHP71539(配列番号184)(T-DNAを含まない)を含む第1の処理では、処理された未成熟胚が胚盤由来の体細胞胚から非トランスジェニック植物体を生産する数は少数であると予想される。90%PHP71539(配列番号184)対10%PHP88158(配列番号182)+PHP71539(配列番号184)の比率のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株に感染させた50個の未成熟胚では、感染した未成熟胚のそれぞれから発生する植物体の数は実質的に増加すると予想される。クローンに由来する植物体の最終的な数は、増殖する植物(ここでは、安定に組み込まれたT-DNA(例えば、トランスジェニック「形質」)を含む)における実質的な改善を表す。RV025340(配列番号193)RB+UBI PRO::CFP::PINII TERM+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-ODP2::IN2-1 TERM+LBによる処理では、PHP71539(配列番号184)単独による第1の処理より、生産される植物体の数は多いと予想され、PLTP::WUS2及びPLTP1::ODP2の両方を含有するPHP71539(配列番号184)+PHP91539(配列番号194)による最後の処理は、PHP71539(配列番号184)+PHP88158(配列番号182)処理と同じ多さであろう。
【0448】
最終的な分子解析により、この方法によって生成される植物が、最初の安定に組み込まれたT-DNA(例えば、トランスジェニック「形質」)に関してのみトランスジェニックであり、形態形成発現カセットを有するT-DNAも、(両プラスミドに存在する)アグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格配列も含まないことが確認されると予想される。
【0449】
実施例22:前から存在するゲノム改変を含むトウモロコシ二倍体細胞由来の体細胞胚を用いる植物の再生
実施例5~7は、母性一倍体胚を使用する新規な植物育種方法を記載し、実施例12及び20は父性一倍体小胞子を使用する植物育種に対する新規方法の有用性を記載し、そして実施例18は、非トランスジェニック二倍体胚を処理することによって植物の再生を改善する方法を記載する。具体的には、実施例18の方法は、形態形成発現カセットを有するT-DNAを含まず、アグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格配列(両方のプラスミドに存在する)も含まない非トランスジェニック植物を得る能力を提供する。逆に、実施例21は、クローン植物を得る方法を記載し、その方法では、最初の植物細胞が安定に組み込まれたT-DNAを含み、したがって、トランスジェニック植物細胞と考えられ、この細胞が、クローンのトランスジェニック植物を再生し得る体細胞胚を作製するために処理される。
【0450】
本開示の方法は、クローン植物を得る方法であって、最初の植物細胞のゲノムが、プログラム可能な部位特異的ヌクレアーゼの以前の活性から生じた標的ゲノム改変を含む方法を記載する。このようなゲノム改変は、修復テンプレートを付加せず、例えば、DNA塩基対の欠失を引き起こす二本鎖切断(DSB)の修復(SDN-1法);2つの標的部位での切断によって引き起こされるDSBの非相同末端結合修復、例えば、遺伝子「ノックアウト」(SDN-2法);又は
DSB標的部位へトランスファーされ、細胞の自然修復プロセスにより修復される、遺伝子若しくは他の遺伝物質の配列を含むテンプレートを用いる相同組換え修復を伴うゲノムDNAの標的部位でのDSBは遺伝子ターゲティングを例示する(SDN-3法)、を含む改変であり得る。
【0451】
前から存在するゲノム改変を含むトウモロコシ二倍体細胞に由来する体細胞胚を使用してクローン植物を再生する能力は、実施例21に記載の方法を使用して達成され得ると予想される。
【0452】
最終的な分子解析により、この方法によって生成される植物が、部位特異的改変に関してのみゲノム改変されており、形態形成発現カセットを有するT-DNAも、(両プラスミドに存在する)アグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格配列も含まないことが確認されると予想される。
【0453】
実施例23:一倍体胚における利他的マイクロプロパゲーションによるFLP媒介SSIの使用によるクローン性固定SSIイベントの急速な生成
トランスジェニック遺伝子座を含むPioneer近交系PH184Cを部位特異的統合(SSI)標的系として使用する。トランスジェニック標的遺伝子座は、RB+UBI1ZM PRO::UBI1ZM INTRON1::FRT1::PMI::PINII TERM+FRT6+LBを含む。この近交系は、標的遺伝子座のホモ接合体で、一倍体誘導系統と受粉させ、一倍体胚を作る。未成熟の穂をPH184Cから採取し、2.0mmの未成熟胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介形質転換の日に仁から採取し、アントシアニンと蛍光マーカーの両方に基づいて、一倍体胚のみが強化されるように胚を選別する。
【0454】
2種のアグロバクテリウム(Agrobacterium)「株」を形質転換のために調製し、一方の株(Agro1)を、T-DNAがRB+FMV ENH:PSCV ENH:MMV ENH:ZM-PLTP PRO::ZM-WUS2::IN2-1 TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LBを含むプラスミドPHP88158(配列番号182)で形質転換し、第2の株(Agro2)を、RB+UBI1ZM PRO::UBI1ZM INTRON1::FLPM-EXON1::ST-LS1 INTRON2-V2::FLPM-EXON2::PINII+FRT1+NPTII::PINII TERM+UBI1ZM PRO::UBI1ZM INTRON1::DS-RED2(ALT1)::PINII TERM+FRT6+LBの構成のT-DNA含有プラスミド(PHV00003)(配列番号345)で形質転換する。したがって、Agro1は体細胞胚形成を刺激する利他的WUSカセットを有するT-DNAを送達し、Agro2はFLPリコンビナーゼ発現カセット+SSIドナー配列+DS-RED2マーカー配列を有するT-DNAを送達するのであろう。2つのアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を、前に記載したように、新鮮な培養プレート上に画線し、一晩培養する。
【0455】
新たに単離した一倍体胚を、全ての一倍体胚が採取され、形質転換の準備ができるまで、700A培地に入れる。一晩増殖させた固体プレートから2種のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株を回収し、700A液体培地に再懸濁する。両株の密度をOD500nm=0.4に調整し、次いで、その2つの株を10%Agro1(WUS)対90%Agro2(SSIドナー)の比率で混合する。次いで、胚をアグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物中に懸濁し、静かに2回反転させて懸濁液を混合し、その後、最初のアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染が起こるように室温で15分間放置する。懸濁液(アグロバクテリウム(Agrobacterium)混合物及び葉組織を含む)を滅菌ステンレス鋼メッシュに通して、葉組織を回収し、次いで、この組織を新鮮な培養培地(選択なしの休止培地)の表面に置いた濾紙上に移す。休止期の終わりに、葉切片を支持する濾紙を、150mg/lのG418を含有する培養培地上に移す。2週間の選択後、新しく形成された体細胞胚を成熟培地に移してシュート形成を刺激し、最後にシュートを2週間発根培地に移し、その後、小植物体を温室の土壌に移植することができる。
【0456】
小植物体の段階で、元の標的遺伝子座のFRT1部位とFRT6部位とに挟まれた内部の遺伝子がもはや存在せず、且つドナーカセット中の新しい遺伝子が標的遺伝子座に正しく組み換えられていることを確認するために、PCR分析用として葉の組織を試料とし、そして正確なRMCE(リコンビナーゼ媒介カセット交換)イベントが確認される。この方法の使用により、i)5%を超える頻度(出発未成熟胚数に対する確認されたSSI T0植物体の数に基づく)でSSIイベントが回収され、ii)利他的WUSアグロバクテリウム(Agrobacterium)の使用は、SSI+体細胞胚の急速な増殖と、複数のクローンSSI+T0植物体を形成するための発芽をもたらし、且つiii)成功したSSI後の過程の初期におけるコルヒチン誘導倍加により、多くのSSI+T0植物体が組換えSSI遺伝子座のホモ接合体であることが予想される。
【0457】
実施例24:複倍数体植物の再生を改善する方法
ワイドハイブリダイゼーションは、通常は互いに有性生殖しない関連する種又は属の交配からハイブリッドを生成するために使用される、種間ハイブリダイゼーション及び遺伝子間ハイブリダイゼーションの両方を含む植物育種ツールであり、本明細書では「遠縁交配」と呼ばれる。ワイドハイブリダイゼーションは、「外来」種と呼ばれることも多い、野生種からの望ましい形質を、前記形質の好ましい表現型を欠く栽培種に導入し移入する最初の工程である。
【0458】
遺伝子移入には次の2つの重要な工程がある:野生又は「外来」ゲノムを培養バックグラウンドに持ち込む有性ハイブリダイゼーション、並びに栽培種における適合性の低下を引き起こす有害な対立遺伝子及び/又は遺伝子を排除又は置換するための相同及び/又は同祖組換え。しかし、野生の「外来」種から移入された有益な遺伝子とともに移入された有害な遺伝子が生じる可能性がある。このように、野生の遺伝子源を用いる場合の大きな欠点は、両親由来の二倍体染色体を含む第一代ハイブリッドの複倍数体が、当該技術分野で報告されているように、「外来」種から移入された有害な遺伝子により適合性を低下させる可能性があることである。
【0459】
このため、複倍数体を栽培種と交配させて、栽培種の親のものにより近い遺伝的同一性を有する子孫を得る戻し交配がしばしば行われる。それぞれの戻し交配世代では、「外来」ゲノムからの有益な遺伝子は維持され、一方、好ましくない形質を与える遺伝子は選択除外される。有益な形質と好ましくない形質を与える遺伝子間のこのような連鎖を「壊す」新規な組換え体を得るためには、各世代の間に組換えが必要である。複数世代にわたる戻し交配は、栽培種の元の農学的適合性を有し、理想的には、前記形質に対して改善された表現型性能を与える「外来」種から移入された移入遺伝子のみを有する植物を得るために、通常、栽培種を「反復」親として用いて実施される。
【0460】
このように、在来種、地方品種及び関連種の表現型の多様性は、作物改良に有用な遺伝的変異の源であり、したがって、現在の農業生産方法の持続可能性を改善するのに有用である。しかし、植物育種プログラムにおいて種間ハイブリダイゼーションを使用する際の本質的な問題は、親種からの遺伝子の所望の組み合わせを1つの個体において得る確率が低いことである。したがって、所望の結果を得るためのこの確率を改善する方法が、当該技術分野で必要とされている。
【0461】
明らかに、植物育種方法は上記のような戻し交配方法のみに限定されない。他の方法としては、染色体セグメント置換系統、組換え染色体置換系統、準同質遺伝子系統、並びに染色体付加及び染色体転座系統などの集団の作出を挙げることができる。
【0462】
さらに、これらの態様は、植物の育種にとって興味深い多くの種間及び属間ハイブリダイゼーションの組み合わせを含む;ここではこのような興味あることの全てを完全に記載することはしない。第2に、ワイドハイブリダイゼーションの使用が新しい概念ではないことは理解されている。
【0463】
本明細書に記載するように、多くの合成コムギ系統がこのような方法を使用して作製され、そして新規な遺伝的多様性が世界中のコムギ育種プログラムに組み込まれ続けていることを考慮すると、コムギ族(Triticeae)の例は、例示的なモデルと考えられる。それはまた、そのような形質を改善するための遺伝物質が、コムギの一次、二次、及び三次遺伝子プールを含むコムギ族(Triticeae)の種の多様な集合として記載されることを考慮すると有用である。これらの遺伝子プールには、エギロプス属(Aegilops)、アグロピロン属(Agropyron)、アンビロピラム属(Ambylopyrum)、ダシピラム属(Dasypyrum)、エリムス属(Elymus)、ホルデウム属(Hordeum)、レイムス属(Leymus)、ロホピラム属(Lophopyrum)、サチロスタキス属(Psathyrostachys)、シュドロエギネリア属(Pseudoroegneria)、セケイル属(Secale)、チノピラム属(Thinopyrum)、及びトリチクム属(Triticum)内の野生及び栽培種が含まれる。
【0464】
栽培種との関係では、2つの親系統間の進化的距離が、例えば、ゲノムレベルでのDNA配列の違いによって特徴付けられるように、交配がどのくらい「遠縁」かに比例すると考えられている。
【0465】
遺伝的利得に既存の生物多様性が利用できる可能性があるにもかかわらず、ゲノムレベルでの相違は、遠縁交配法の使用の成功に影響を及ぼす障壁を作り出す基礎的因子であると考えられている。このような障壁の例としては、以下に限定はされないが、二倍体ハイブリッドにおける減数分裂対合特性、例えば、染色体対合の欠如、配偶子致死遺伝子を有する染色体の優先的伝播、不稔性によるハイブリダイゼーション不適合性、及び一般的にはシンテニーの欠如による組換えの抑制が挙げられる。その結果、いくつかの非常に大きな成功があるにもかかわらず、遺伝子移入は手間と時間がかかり、それは形質の複雑さの遺伝的基盤が増加することにつれてますます増加するため、今日の栽培エリート作物遺伝子プールは利用可能な生物多様性のほんの一部しか含んでいないと考えられている。
【0466】
このような障壁を克服する方法としては、転座を生成するための放射線照射の使用、及び誘導された染色体切断のための配偶子致死遺伝子の使用が挙げられる。組織培養の改善もまた、このような障壁を克服するのに有用である。
【0467】
このような改善にもかかわらず、複倍数体種子は欠陥があるままであり、正常な条件下で発芽することができない。最新技術におけるささやかではあるが主要な進歩は、胚救出の使用による、未成熟の複倍数体胚からの植物の再生であった。このような複倍数体胚が本来なら種子としてさらに発達させられた後に死滅するであろう場合に、胚救出法は複倍数体植物を得る確率を高め、したがって、他の遺伝子プールに存在するより大きな遺伝的多様性へのアクセスを向上させた。
【0468】
本開示にとって興味深いのは、関連する植物集団間の遺伝的交換を制限又は阻止する、残存する障壁を改善又は回避するために有用な方法である。ここで、本開示は、複倍数体胚を救出し、本明細書に記載のように処理する、最新技術に対する新規な改善を記載する。例えば、複倍数体胚を実施例3、8、及び16~18の方法を用いて処理して、処理未成熟胚1個当たり2個以上の複倍数体植物体を得る能力を含む、複倍数体植物を再生する能力をさらに向上させることができる。
【0469】
本開示の方法において、遠縁交配によって作製された新たに収穫された未成熟種子、例えば、2種のコムギ族(Triticeae)種間の幅広い交配から得られた未成熟種子を、50%漂白剤及び0.1%Tween-20で真空下30分間滅菌し、次いで、滅菌水で3回すすぐ。病原性プラスミドPHP71539(配列番号184)を含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)株LBA4404 THY-を、全ての処理に使用する。第1の処理では、T-DNAを含まないPHP71539(配列番号184)を液体716B培地中、1.0のOD(600nm)に調整し、このアグロバクテリウム(Agrobacterium)懸濁液に未成熟複倍数体胚を室温(25℃)で20分間添加した。第2の処理では、PHP71539(配列番号184)及びPHP88158(配列番号182)(RB+3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-WUS2::IN2-1 TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LB))の両方を含む第2のアグロバクテリウム(Agrobacterium)を、PHP71539(配列番号184)のみを含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)と混合し、両方のアグロバクテリウム(Agrobacterium)株懸濁液を、最初に1.0のOD(600nm)に調整し、次いで、90%PHP71539単独(配列番号184)対10%PHP71539(配列番号184)+PHP88158(配列番号182)の比率で混合した。
【0470】
15分間の液体感染処理の後、未成熟胚を液体培地から取り出し、固体培地606培地に移し、胚盤側を上に向けて、21℃の暗所で一晩培養する。胚を再び、新鮮な休止培地(606)に移し、10日後、暗所の選択再生培地689Eに移す。次いで、組織を、明所の選択再生培地689Eに移す。
【0471】
実施例6に記載のように、コルヒチンを用いる染色体倍加法を用いて、アグロバクテリウム(Agrobacterium)共感染工程の前、工程中、又は工程後に染色体倍加剤に曝露した処理胚は、両親、又は複倍数体植物由来の染色体の二倍体を含む1つ以上の第一世代雑種植物体を生産することができる。発芽後、生産された植物体を土壌に植え付け、処理胚1個当たりのクローン植物の数を記録する。
【0472】
組織は植物体から収集することができ、DNA、RNA、タンパク質、及び/又は代謝産物などの生体分子を、診断分析のために単離することができる。このような診断方法としては、以下に限定されないが、DNA配列決定方法、DNAポリメラーゼ連鎖反応増幅、転写物プロファイリング法、プロテオミクス、メタボロミクス、及びエピゲノミクス、並びに各診断方法を支持するそれぞれの分析方法が挙げられる。
【0473】
別の態様では、本開示は、例えば、実施例9に記載されるような方法で処置される遠縁交配に由来する未成熟胚を処理することによって、遺伝子移入をさらに改善し得ることが考えられる。より具体的には、本方法は、WUSタンパク質に接触した細胞に、標的部位変異、例えば、外来ゲノム内の有害な対立遺伝子をコードするゲノム標的部位変異を可能にする少なくとも1つのゲノム改変酵素及び少なくとも1つのgRNAを提供する。未成熟胚を表18に記載されるようなプラスミドの組み合わせで処理する、実施例9の方法を使用する。ここで、このような方法は、改善された活力を有する遠縁交配ハイブリッドを回収する利点を提供すると考えられる。
【0474】
別の態様では、本方法は、WUSタンパク質に接触した細胞に、2つ以上の標的部位変異、例えば、培養種のゲノム内の少なくとも1つのゲノム標的部位、及び外来種内の少なくとも1つのゲノム標的部位の変異を可能にする、少なくとも1つのゲノム改変酵素及び少なくとも1つのgRNAを提供して、そのような標的化ゲノム領域での組換えを促進するために使用することができると考えられる。優先的には、ドナーテンプレートを外来種のゲノムから得るために、少なくとも2つのgRNAを、外来種内の2つのゲノム標的部位について設計することができる。したがって、このような方法は、外来種から培養種の二本鎖切断部位にゲノムDNAを移入する容易さ及び頻度を改善する利点を提供すると考えられる。
【0475】
この実施例24の結果は、遠縁交配によって作出された未成熟胚から非トランスジェニック複倍数体植物を得る能力の改善を提供すると期待される。優先的には、この植物は、形態形成発現カセットからのT-DNAを含まず、アグロバクテリウム(Agrobacterium)プラスミド骨格配列も含まない。より優先的には、前記方法は未成熟な遠縁交配胚からクローン性の非トランスジェニック複倍数体植物を得る新規な能力を可能にすると期待される。
【0476】
したがって、一態様においては、ワイドハイブリダイゼーション交配の効率が改善され、植物育種プログラムにより、在来種、地方品種及び関連種に存在する新規な遺伝的改変体をより効率よく導入し評価し得ると期待される。
【0477】
別の態様においては、本方法の結果は、有害な対立遺伝子の頻度が減少した、遠縁交配子孫の作出及び選択を改善すると期待される。このような方法は、配偶子致死遺伝子を保有する染色体の優先的伝播を減少させると期待され得る。したがって、本開示の方法は、遠縁交配における野生遺伝子源を使用する能力を改善すると期待される。
【0478】
別の態様では、本開示の方法は、染色体対合の欠如によって引き起こされる障壁、不稔性によるハイブリダイゼーション不適合性、又はシンテニーの欠如によって引き起こされる組換えの抑制などの、遠縁交配に対する他の障壁を克服するために使用することができる。ここに記載された、栽培種ゲノムのゲノム中に標的化二本鎖切断を起こす一方、同時に外来種からのドナーテンプレートを提供する方法は、「外来」遺伝子移入を有する遠縁交配子孫を回収する頻度を高めることができると期待される。このような能力は、染色体セグメント置換系統、組換え染色体置換系統、準同質遺伝子系統、並びに染色体付加及び染色体転座系統などの集団を作出する方法を改善すると期待される。
【0479】
同時に、本開示の結果は、今日の栽培エリート作物遺伝子プール内の利用可能な生物多様性の幅を広げることを目的とする育種方法に必要とされる時間及び労力の量を減少させると期待される。さらに本開示の方法は、植物育種の他の方法と組み合わせることにより、遠縁交配で使用される親種からの遺伝子の所望の組み合わせを1つの個体において得る確率を増加させると期待される。
【0480】
実施例25:AMPのためのナノ粒子媒介送達の使用(未成熟胚又は苗由来葉セグメントにおいて)
a)DNAの送達。カーボンナノチューブリンを、WUS2発現カセットを含むプラスミドDNAで、最初にカーボンナノチューブリンをポリエチレンイミン(PEI)で処理し、次いでPEIに誘引されるプラスミドDNAと共にインキュベートし、DNAを不可逆的にナノチューブリンに効果的に結合させることによって官能化する。例えば、これらのPEI官能化ナノチューブリンにプラスミドDNAカーゴ(3XENH::PLTP::WUS2+UBI::ZS-GREEN発現カセットを含む)をロードする。DNAが付着したなら、新たに採取したトウモロコシ未成熟胚をナノチューブリン/DNA混合物に懸濁する。ナノチューブリン/タンパク質複合体を植物細胞に移動する。植物細胞に入り、次いで核に入ると、プラスミドを含む遺伝子は、WUS2及びZS-GREENタンパク質の両方をコードするように発現し、緑色蛍光体細胞胚のデノボ形成を刺激する。DNAは、ナノチューブリンになお結合し保護されながら、発現し続け、緑色蛍光体細胞胚形成を刺激し続ける。
【0481】
b)RNAの送達。カーボンナノチューブリンをWus2及びZS-GREEN RNAで、最初にカーボンナノチューブリンをポリエチレンイミン(PEI)で処理し、次いでインビトロ転写RNAと共にインキュベートし、RNAを不可逆的にナノチューブリンに効果的に結合させることによって官能化する。例えば、これらのPEI官能化ナノチューブリンにRNAカーゴ(WUS2及びZS-GREEN RNAの両方)をロードする。RNAが付着したなら、新たに採取したトウモロコシ未成熟胚をナノチューブリン/RNA混合物に懸濁する。ナノチューブリン/タンパク質複合体は植物細胞に移動する。植物細胞に入り、次いで核に入ると、RNAは、WUS2及びZS-GREENタンパク質の両方をコードするように転写され、緑色蛍光体細胞胚のデノボ形成を刺激する。RNAは、ナノチューブリンになお結合し保護されている間、発現し続け、緑色蛍光体細胞胚形成を刺激し続ける。
【0482】
c)タンパク質の送達。カーボンナノチューブリンを、共有結合又は非共有結合のいずれかによってタンパク質で官能化する。例えば、ナノチューブリンの表面を、核酸又はポリペプチドなどの他の有機分子とエステル結合を形成することができる官能基を表面に付加するように共有結合的に改変する。次いで、これらの官能化されたナノチューブリンを、WUS2などのタンパク質と共にインキュベートする。タンパク質が付着したなら、新たに採取したトウモロコシ未成熟胚をナノチューブリン/タンパク質液体中に懸濁する。ナノチューブリン/タンパク質融合体は植物細胞に移動する。植物細胞に入ると、内因性エステラーゼタンパク質がWUS2タンパク質とナノチューブリンとの間のエステル結合を切断し、その結果、タンパク質が放出されて核内に拡散し、他の遺伝子の転写を調節し、デノボ体細胞胚形成を刺激する。
【0483】
d)Cas9媒介ゲノム編集と体細胞胚形成のWUS2/ODP2刺激を同時に行うナノチューブリン送達の柔軟性により、クローン的に繁殖した編集植物が急速に生産される。上述した処理のバリエーションを使用し、DNA、RNA、タンパク質、又はリボ核タンパク質(RNP)を予めロードしたナノチューブリンの混合物を用いる。
【0484】
実施例26:FLPのナノチューブリン送達、RMCEドナーカセット、及びWUS遺伝子の部位特異的統合のための使用
カーボンナノチューブリンを、i)SSIドナー配列を含有するプラスミドDNA、ii)FLPリコンビナーゼ発現カセットを有するプラスミド、及びiii)WUS2発現カセットを含有するプラスミドで、最初にカーボンナノチューブリンをポリエチレンイミン(PEI)で処理し、次いでPEIに誘引されるプラスミドDNAと共にインキュベートし、DNAを不可逆的にナノチューブリンに効果的に結合させることによって官能化する。例えば、プラスミドPHV00002(配列番号344)内のSSIドナー配列は、FRT1+NPTII::PINII TERM+LB+UBI1ZM PRO::UBI1ZM INTRON1::ZS-GREEN1::PINII TERM+FRT6を含み、FLPリコンビナーゼプラスミドは、発現カセットZM1UBI PRO::FLPm::PINII TERM(PHV00004、配列番号346)を含み、WUS2プラスミドは、3XENH::PLTP PRO::WUS2::IN2-1 TERM(PHV00005、配列番号347)を含む。これらの3つのプラスミドの各々について、PEI官能化ナノチューブリンの別々のアリコートに、粒子の各バッチのための1つのプラスミドDNAカーゴをロードする。プラスミドが付着したなら、3つのナノチューブリン/プラスミド複合体を異なる比率で混合して、部位特異的統合の最適な頻度のための最適な比率を決定することができる。
【0485】
予め組み込まれた組換え標的部位(すなわち、染色体1上のRTL-45、ZM1UBI PRO::PMI::PINII TERM+ZM1UBI PRO::AM-CYAN::PINII TERMを有する)を含む近交系の新鮮な収穫トウモロコシ未熟胚を採取する。次いで、未成熟胚をナノチューブリン/DNA混合物(それぞれを45:45:10のモル比で含むDONOR:FLP:WUS2プラスミド混合物を含む)に懸濁する。ナノチューブリン/DNA複合体は植物細胞中に移動する。植物細胞に入り、次いで核に入ると、プラスミド含有発現カセットはFLPとWUS2蛋白質の両方をコードし、FLPはドナープラスミドとRTL-45標的部位間のリコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)を触媒し、WUS2は体細胞胚のデノボ形成を刺激する。DNAは、ナノチューブリンになお結合して保護されながら、発現し続け、SSIと体細胞胚の繁殖を成功させる機会を与え続ける。ナノチューブリンによって送達されたDNAは放出されないので、ランダムな組み込みは起こらない。
【0486】
実施例27:新エリート近交系の新しいSSI標的部位を迅速に作るための一倍体胚への組換え標的遺伝子座のためのCas9、gRNA及び新しいテンプレートの送達
Cas9媒介相同組換え修復(HDR)のための成分を有するT-DNAを含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)株LBA4404 THY-を用いる。T-DNAは、RB+LOXP+AXIG1::WUS2::IN2-1 TERM+PLTP::ODP2::PINII TERM::CZ19B1 TERM+ZM1UBI PRO::ZM1UBI 5UTR::ZM1UBI INTRON1::NLS::CAS9 EXON1::ST-LS1 INTRON2::CAS9 EXON2::VIRD2 NLS::PINII TERM+ZM-U6 POLIII CHR8 PRO::ZM-CHR1-52.56-8CR1::GUIDE RNA::ZM-U6 POLIII CHR8 TERM+ZM-HSP18A PRO::MO-CRE EXON1::ST-LS1 INTRON2::MO-CRE EXON2::PINII TERM+HR1+LOXP+ZM1UBI PRO::FRT1::NPTII::PINII TERM+FRT6+HR2+LB(PHV00007、配列番号348)を含む。HR1及びHR2は、エリートゲノムHDR標的部位における相同アームを表し、Cas9切断部位は各相同アームのまさに近位に位置する。アグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介形質転換及びCas9媒介HDRにより、テンプレートHR1+LOXP+ZM1UBI PRO::ZM1UBI 5UTR::ZM1UBI INTRON1::FRT1::NPTII::PINII TERM+FRT6+HR2(PHV00008、配列番号349)がT-DNA遺伝子座から切断され、相同性依存組換えを介してエリート近交標的部位に組み込まれる。10日間の休止期間の後、未成熟胚を45℃の熱処理に2時間曝露する。トランスジェニックイベントの染色体倍加及びクローン増殖は、高い効率で部位特異的統合に使用できる組換え標的部位(RTL)に対して今やホモ接合性である新しいエリート近交系をもたらす。
【0487】
実施例28:粒子衝撃法
衝撃に先立って、受粉から10~12日後(10~12DAP)にPioneer近交系PH184Cの穂から未熟胚を分離し、16%スクロースを加えた培養培地上に3時間置き、胚盤細胞を原形質分離した。
【0488】
典型的には、所望の結果に応じて、異なるタイプのプラスミドを各粒子衝撃に使用した:1)近接若しくは隣接する細胞の胚形成を刺激する、3xENH::PLTP::WUS2::In2-1などの形態形成遺伝子発現カセットを含むプラスミド(PHV00005、(配列番号347));2)発現カセットUBI PRO::FLPm::pinIIを含むプラスミド(PHV00004、(配列番号346))、及びリコンビナーゼ媒介カセット交換のためのFRT隣接ドナーカセットを含む第2のプラスミド(PHV00002、(配列番号344));又は3)発現カセットUBI PRO::CAS9::pinIIを含むプラスミド(PHV00009、(配列番号352))、及びU6PRO:gRNA::U6 TERMを有する発現カセット(PHV00010、(配列番号353))、及び、適用可能な場合、相同依存性組換えのためのドナーカセット(PHV00011、(配列番号354))。典型的には、合計約40ngのプラスミド混合物を0.6μmの金粒子に加え、低結合マイクロチューブ(Sorenson Bioscience 39640T)に各プラスミド10μlを加えることによって4種のプラスミドを混合し、合計40μlとした。この懸濁液に0.6μmの金粒子50μl(30μg/μl)と1.0μlのTransit 20/20(カタログ番号 MIR5404、Mirus Bio LLC)を加え、懸濁液をロータリーシェーカー上に10分間置いた。10,000RPM(約9400×g)で懸濁液を遠心分離し、上清は捨てた。120μlの100%エタノール中に金粒子を再懸濁させ、低出力で短時間の超音波処理を行い、ピペットで10μlを各フライヤー上に採った。次いで、フライヤーを空気乾燥して、全ての残留エタノールを除去した。200PSIラプチャーディスクを使用し、水銀柱28インチでBiolistics PDF-1000装置により粒子衝撃を実施した。
【0489】
実施例29:形態形成因子の隣接細胞へのアグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介送達は一倍体の標的細胞のRNP媒介ポリヌクレオチド改変を改善する
この実施例は、トウモロコシ未成熟胚細胞へのWUSタンパク質をコードするT-DNA配列のアグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介送達が、標的変異/欠失があり且つWUS遺伝子組み込みのない植物の実用的な頻度での胚発生及び再生を支持するのに十分であることを実証する。
【0490】
以前は、植物形質転換及びゲノム編集のアプローチには、遺伝子編集実験における「ドナー」DNA-一本鎖若しくは二本鎖オリゴヌクレオチド、又は相同組換え修復(HDR)経路による二本鎖切断(DSB)の結果としての挿入のための調節エレメント(プロモーター及びターミネーター)を有する遺伝子の一部又は全体を含むプラスミドDNAに加えて、二本鎖切断試薬(例えば、メガヌクレアーゼ、ZFN、TALEN、又はCas9ヌクレアーゼ及びガイドRNA(gRNA))、選択マーカー、形態形成因子(例えば、ODP2及びWUS)を含む、種々の「ヘルパー」成分をコードする様々なDNAベクターの送達を必要とした。
【0491】
複数の共送達されたDNA分子は、非相同末端結合(NHEJ)修復経路によりDSB部位に共統合される傾向があり、使用可能なイベントの頻度を有意に減少させる。さらに、CRISPR成分の安定な組み込みは、植物キメラ現象をもたらし、オフサイト変異誘発の機会を増加させ得る。上記の「ヘルパー」DNA分子の標的細胞への導入を最小限にし、ドナーDNAへの送達を制限することは、有益であり、より高頻度の品質イベント(QE)に導き得る。
【0492】
以前に、本発明者らは、金微粒子を使用するリボ核タンパク質(RNP)の形態のCas9-gRNA送達の方法を記載した。本発明者らはまた、DNAベクター又はRNP複合体としてのCas9-gRNA送達における非相同末端結合(NHEJ)機構による、破壊された予め組み込まれた選択マーカー遺伝子を活性化する方法を記載した(その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2018/0327785(A1)号明細書を参照されたい)。
【0493】
形態形成因子遺伝子(「発生遺伝子」又は「形態形成遺伝子」とも呼ばれる)には、例えば、以下に限定されないが、ODP2及びWUSが含まれ、それらは形質転換プロセスの所望の成分である。植物細胞へのそれらの送達は、細胞分裂を促進し、形質転換率を有意に増加させる。さらに、これらの遺伝子は多くのエリート遺伝子型の形質転換の成功を可能にし、この形質転換は、そうでなければ、効果的に達成され得ない。しかし、形態形成因子遺伝子(例えば、ODP2及びWUS)の標的細胞ゲノムへの安定した組み込みは、植物の再生能及び繁殖力に有害な影響を及ぼす可能性がある。
【0494】
ここで、本発明者らは、以前に記載したような未成熟胚に衝突させた、配列番号350及び配列番号351のゲノムDNA配列を標的とする2つのガイドRNA(gRNA)分子の混合物と複合化したCas9を含有するリボヌクレオチドタンパク質複合体(RNP)の遺伝子銃送達を行う。RNPの粒子送達後、未成熟胚を、ヘルパープラスミドPHP71539(配列番号184)及びT-DNA含有プラスミドPHP88158(RB+FMV ENH:PSCV ENH:MMV ENH:ZM-PLTP PRO::ZM-WUS2::IN2-1 TERM+NOS PRO::CRC::SB-GKAF TERM+LB、(配列番号182))を含有するアグロバクテリウム(Agrobacterium)株LBA4404 THY-の懸濁液に懸濁する。これにより、DSB及び編集成分を受けた細胞から植物体再生が可能となり、隣接するアグロバクテリウム(Agrobacterium)感染細胞からくるWUSタンパク質分子により細胞分裂及び胚形成が刺激される。
【0495】
2つの部位:
部位1 配列番号350 GGATTCCGCGGAAATGGGTG(PAM:CGG);及び
部位2 配列番号351 GTCAAGGACATACGAGACC(PAM:AGG)
を標的とする2つのRNP複合体に複合化されたCAS9タンパク質でコーティングされた0.6μMの金粒子を使用するトウモロコシ未成熟胚の粒子衝撃から開始して、約21kbのサイズの遺伝子欠失が生じ、RecQ4欠失が生じる。植物を選択なしで再生し、PCR及びシーケンシングによって、また欠失及びWUS組み込みそれぞれの存在についてqPCRによって分析する。表27で予測されるような結果が期待される。
【0496】
【0497】
このような結果は、効率的な、高効率の「DNAフリー」遺伝子欠失を示している。
【0498】
実施例30:WUS2発現を駆動するトウモロコシPLTPプロモーターとともにウイルスエンハンサーを粒子送達することにより、トウモロコシにおける非トランスジェニック体細胞胚及び植物の回収が増強される
トウモロコシ胚を上記のように調製する。粒子衝撃装置を使用して、発現カセット3XENH::ZM-PLTP PRO::ZM-WUS2::IN2-1 TERM及びNOS PRO::CRC::SB-GKAF TERMを含有するPHP88158(配列番号182)を、トウモロコシ未成熟胚の胚盤表面に送達し、選択せずに上記のように培養する。対照として、未成熟胚を、形態形成遺伝子を有さないプラスミド(PHP86491、配列番号183)を含む金/DNA混合物で衝撃する。
【0499】
トウモロコシ近交系PH1V69の未成熟胚をPHP88158(配列番号182)で衝撃し、胚形成培養培地上で培養すると、WUS2及びCRCを発現する細胞に隣接する細胞において増殖能の高い胚形成が起こり、これらの新たに形成された非トランスジェニック体細胞胚が容易に発芽して植物を生産すると予想される。対照プラスミドが導入された未成熟胚では、体細胞胚や植物体はほとんど生産されないであろう。
【0500】
実施例31:隣接細胞への形態形成因子の粒子送達は、一倍体標的細胞のRNP媒介ポリヌクレオチド改変を改善する
この実施例は、個別の金粒子上のWUSタンパク質をコードするDNAベクターのトウモロコシ未成熟胚細胞への粒子送達が、標的変異/欠失があり且つWUS遺伝子組み込みのない植物の実用的な頻度での胚発生及び再生を支持するのに十分であることを実証する。
【0501】
以前は、植物形質転換及びゲノム編集のアプローチには、遺伝子編集実験における「ドナー」DNA-一本鎖若しくは二本鎖オリゴヌクレオチド、又は相同組換え修復(HDR)経路による二本鎖切断(DSB)の結果としての挿入のための調節エレメント(プロモーター及びターミネーター)を有する遺伝子の一部又は全体を含むプラスミドDNAに加えて、二本鎖切断(DSB)試薬(例えば、メガヌクレアーゼ、ZFN、TALEN、又はCas9ヌクレアーゼ及びガイドRNA(gRNA))、選択マーカー、形態形成因子(例えば、ODP2及びWUS)を含む、種々の「ヘルパー」成分をコードする様々なDNAベクターの送達を必要とした。
【0502】
複数の共送達されたDNA分子は、非相同末端結合(NHEJ)修復経路によりDSB部位に共統合される傾向があり、使用可能なイベントの頻度を有意に減少させる。さらに、CRISPR成分の安定な組み込みは、植物キメラ現象をもたらし、オフサイト変異誘発の機会を増加させ得る。上記の「ヘルパー」DNA分子の標的細胞への導入を最小限にし、ドナーDNAへの送達を制限することは、有益であり、より高頻度の品質イベント(QE)に導き得る。
【0503】
以前に、本発明者らは、金微粒子を使用するリボ核タンパク質(RNP)の形態のCas9-gRNA送達の方法を記載した。本発明者らはまた、DNAベクター又はRNP複合体としてのCas9-gRNA送達における非相同末端結合(NHEJ)機構による、破壊された予め組み込まれた選択マーカー遺伝子を活性化する方法を記載した(その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2018/0327785(A1)号明細書を参照されたい)。
【0504】
形態形成因子遺伝子(「発生遺伝子」又は「形態形成遺伝子」とも呼ばれる)には、例えば、以下に限定されないが、ODP2及びWUSが含まれ、それらは形質転換プロセスの所望の成分である。植物細胞へのそれらの送達は、細胞分裂を促進し、形質転換率を有意に増加させる。さらに、これらの遺伝子は多くのエリート遺伝子型の形質転換の成功を可能にし、この形質転換は、そうでなければ、効果的に達成され得ない。しかし、形態形成因子遺伝子(例えば、ODP2及びWUS)の標的細胞ゲノムへの安定した組み込みは、植物の再生能及び繁殖力に有害な影響を及ぼす可能性がある。
【0505】
ここで、本発明者らは、形態形成因子遺伝子(「発生遺伝子」又は「形態形成遺伝子」)の再生植物のゲノムへの組み込みの防止を可能にする方法について記載する。まず、本発明者らは、強力なプロモーター(例えば、PLTP)下での2つの形態形成因子遺伝子(WUS)のうちの1つのみの送達が、試験した遺伝子型のほとんどで胚形成を刺激するのに十分であることを実証した。第2に、WUSタンパク質は、天然に存在する膜透過性ペプチド(CPP)モチーフを有し、したがって、細胞壁を透過する能力を有する。したがって、WUSをコードするベクターDNAが細胞内に送達されると、WUSタンパク質の発現及びその隣接細胞への移動が引き起こされ、細胞分裂が刺激される。さらに、標的細胞におけるWUS蛋白質の過剰発現は、通常、有害であり、長期の細胞分裂、胚形成及び植物体再生を妨げる。これらの観察に基づいて、本発明者らは、第1の金粒子群でRNP及びドナーDNAの遺伝子銃送達(第1の粒子衝撃)を行い、続いて別の金粒子群でWUS発現カセットを含むベクターDNAの送達(第2の粒子衝撃)を行う。これにより、DSB及び編集成分を受けた細胞から植物体再生が可能となり、隣接する細胞からくるWUSタンパク質分子により細胞分裂及び胚形成が刺激される。
【0506】
2つの部位:
部位1 配列番号350 GGATTCCGCGGAAATGGGTG(PAM:CGG)
部位2 配列番号351 GTCAAGGACATACGAGACC(PAM:AGG)
を標的とする2つのRNP複合体に複合化されたCAS9タンパク質でコーティングされた0.6μMの金粒子を使用するトウモロコシ未成熟胚の粒子衝撃から開始して、約21kbのサイズの遺伝子欠失が生じ、欠失が生じる。その後、直ちに、未成熟胚を、WUSをコードするDNAベクター(ポリヌクレオチド 配列番号182、PHP88158)でコーティングされた第2の金粒子群で粒子衝撃する。植物を選択なしで再生し、PCR及びシーケンシングによって、また欠失及びWUS組み込みそれぞれの存在についてqPCRによって分析する。表28で予測されるような結果が期待される。
【0507】
【0508】
このような結果は、効率的な、高効率の「DNAフリー」遺伝子欠失を示している。
【0509】
本明細書では、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は別途文脈が明確に指示しない限り複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「1つの細胞(a cell)」への言及は、そのような細胞を複数種含み、「そのタンパク質(the protein)」への言及は、1つ以上のタンパク質及び当業者に知られたその均等物を含む。別途明確な指示がない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者により一般に理解される意味と同一の意味を有する。
【0510】
本明細書で言及した全ての特許、刊行物及び特許出願は、本開示が属する技術分野の当業者の水準を示すものである。全ての特許、刊行物及び特許出願は、あたかも個々の特許、刊行物又は特許出願が、明確に且つ個々に参照により全体的に組み込まれるよう指示されているのと同程度に、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0511】
以上の開示は、理解を明確にする目的で、図面及び実施例を使ってある程度詳しく説明してきたが、添付の請求項の範囲内で一定の変更及び修正を行うことができる。
【配列表】
【国際調査報告】