IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナイアガラ・ボトリング・エルエルシーの特許一覧

特表2022-524650再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料
<>
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図1
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図2
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図3
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図4
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図5
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図6
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図7
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図8
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図9A
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図9B
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図10
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図11A
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図11B
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図12
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図13
  • 特表-再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-09
(54)【発明の名称】再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20220426BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K3/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559057
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(85)【翻訳文提出日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 US2020026184
(87)【国際公開番号】W WO2020205977
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】16/837,626
(32)【優先日】2020-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/827,439
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513116896
【氏名又は名称】ナイアガラ・ボトリング・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェイ・クラーク・ハナン
(72)【発明者】
【氏名】サディール・バンドラ
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CF061
4J002DA026
4J002FA016
4J002FD016
4J002GG00
4J002GM00
4J002GN00
(57)【要約】
グラフェン-PET容器を形成するために、グラフェン強化ポリエチレンテレフタレート組成物を提供する。このグラフェン強化ポリエチレンテレフタレート組成物は、ポリエチレンテレフタレートを含む連続マトリックス、及びグラフェンナノプレートレットを含む分散強化相を含む。グラフェンナノプレートレットは、直径が5μm~10μmの範囲であり、表面積が約15m/g~約150m/gの範囲である。いくつかの実施形態において、グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートは、グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートの実質的に3%質量分率である濃度のグラフェンナノプレートレットを含む。グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートは、容器を成形するために適したグラフェン-PETプリフォームへと射出成形されるように構成されている。グラフェン-PETプリフォームは、そのガラス転移温度より高温に再加熱され、型の中に吹き込まれて、そうしてグラフェン-PETプリフォームを容器に成形するように構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートを含む連続マトリックス;及び
グラフェンナノプレートレットを含む分散された強化相
を含む、グラフェン強化ポリエチレンテレフタレート組成物。
【請求項2】
グラフェンナノプレートレットが、最小の数の二次元単原子炭素シートの層を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
層の数が実質的に1層~7層の範囲である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
層の数が実質的に1層~4層の範囲である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリエチレンテレフタレートが、混ぜ物のないPETからなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリエチレンテレフタレートが、リサイクルされたPETからなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートが、容器を形成するために適したグラフェン-PETプリフォームへと射出成形されるように構成されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
グラフェン-PETプリフォームが、そのガラス転移温度より高温に再加熱され、型中に吹き込まれて、グラフェン-PETプリフォームを容器へと成形するように構成されている、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートが、グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートの実質的に0.1%質量分率~15%質量分率の範囲の濃度のグラフェンナノプレートレットを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートが、グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートの実質的に3%重量分率である濃度のグラフェンナノプレートレットを含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
グラフェンナノプレートレットは、直径が5μm~10μmの範囲であり、表面積が約15m/g~約150m/gの範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
グラフェンナノプレートレットは、直径が約10μmであり、表面積が約30m/g~約60m/gの範囲である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
強化ポリエチレンテレフタレート製品を形成するための方法であって、以下のステップ:
PET樹脂を形成するステップ;
グラフェンナノプレートレットを前記PET樹脂中に分散させて、グラフェン強化PET樹脂を形成するステップ;
前記グラフェン強化PET樹脂をペレットにするステップ;
前記ペレットを再加熱して溶融液体を形成するステップ;及び
前記溶融液体を所望の製品へと成形するステップ、
を含む方法。
【請求項14】
前記PET樹脂を形成するステップが、エチレングリコール及びテレフタル酸を高温かつ低真空圧下で混合して、所望の製品を製造するのに適した混ぜ物のないPET樹脂を形成するステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記PET樹脂を形成するステップが、所望の製品を製造するのに適したリサイクルPET樹脂を形成するためのリサイクルPETを取得するステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
グラフェン強化PET樹脂をペレットにするステップが、所望の製品の1つ又は複数の製造業者にペレットを分配するステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2020年4月1日に出願された米国特許出願第16/837,626号及び2019年4月1日に出願された「再加熱エネルギー消費を改善するためのグラフェン・ポリエチレンテレフタレート複合材料」の表題がつけられた出願番号第62/827,439号の米国仮出願の利益及び優先権を主張し、前記の出願の全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
ここで開示する分野は、一般に、ポリマー複合材料に関する。より具体的には、本発明の分野は、グラフェン・ポリエチレンテレフタレート組成物及び再加熱エネルギー消費を改善するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
複合材料は多相材料として定義され、これは自然に生じることもありえるし、製造されることもありえる。製造された複合材料は、通常、複合材料を構成する材料によって個別には示されない特性を達成するように選択された1つ又は複数の材料の配合物である。複合材料は、連続マトリックスのタイプと、分散相、例えば強化材に基づいて分類できる。 少なくとも1つの連続相、主に、1~100ナノメートル(nm)のオーダーの少なくとも1つのディメンションを有する分散相を含む複合材料は、「ナノ複合材料」(ナノコンポジット)とよばれる。ナノ複合材料は、カテゴリー(例えば、有機又は無機)、並びにナノスケール補強材の形状に基づいてさらに分類することができる。天然に存在するナノコンポジットのいくつかのよく知られた例には、人間の骨、貝殻、クモの糸、及び装甲魚が含まれる。理解されるように、これらのナノ複合材料のそれぞれは構造的階層(すなわち、複数の長さスケールでの構造)を含み、それが、同様の化学の他の材料と比較して、ナノ複合材料を非常に良好に機能させる。
【0004】
複合材料の材料特性は、マトリックスと分散相の間の相互作用によって決まることが知られている。ナノスケールでの単位体積あたりの大きな表面積は、一般に、ナノ材料がそのバルクの対応物とは異なって機能することを引きおこす。マトリックスと分散相の間の相互作用が大きくなると、ナノ複合材料は従来の複合材料よりも比較的優れていると考えられ、強度や耐久性などの既存の有益な特性を損なうことなく、新しい有利な特性をもたらす。
【0005】
ポリエチレンテレフタレート(PET)は、1940年代初頭に最初に合成された芳香族半結晶性熱可塑性ポリエステルである。図1はPETの分子構造を示す化学式である。ポリエチレンテレフタレートは、その強度及び靭性、高いガラス転移温度及び高い融点、高い耐化学薬品性、及び高い光学特性についてよく知られている。ポリエチレンテレフタレートは、その比較的低いコストによって、コモディティ及びエンジニアリング用途に一般的に使用されている。ポリエチレンテレフタレートは、長さ方向の伸縮が、高い分子鎖配向をもつ強い繊維を形成し、それとともに、2軸方向の伸縮が強いフィルムを形成する微細構造によって特徴付けられる。線状のPETは生来、半結晶性である。熱的及び機械的履歴、例えば、冷却速度や延伸速度は、PETをアモルファス又はより結晶性へと至らせ、そうしてその機械的特性に影響を及ぼすことができる。PETは繊維、包装、ろ過、及び熱成形などの産業において利用されているが、PETの広汎な使用は、その他の汎用ポリエステルと比較して遅い結晶速度及び限定されたバリア性能によって制約を受けている。
【0006】
幅広い産業、例えば、包装、自動車、及び航空宇宙にわたって使用するための軽量材料を開発する必要性が長い間感じられてきており、したがって、材料加工のより良い制御及び補強材(強化材)の添加によって材料特性を向上させる試みがなされてきたことが理解される。たとえば、PETの結晶化度を高くすることは、その機械特性及びバリア特性を向上させる。しかしながら、結晶化速度などの材料に伴う制限、並びに結晶化度を最大にする工業プロセス、例えば、冷却速度、サイクル時間、及び延伸プロセスに伴う制限は、PETの材料特性を向上させる試みを制限してきた。しかし、ナノ材料の分野における進歩は、PETの物理的特性を向上させるPETナノコンポジットの発展をもたらし、それにより、PETを、自動車、航空宇宙、及び保護衣料工業における用途において、より有効なものにしている。さまざまなタイプのナノ補強材、例えば、粘土(クレー)、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、二酸化ケイ素(SiO)などが、PETの多くの特性、例えば、機械的、熱的、バリア性、電気的、難燃性、光学的、表面特性、PETの結晶化動力学などを向上させることが判明している。
【0007】
理解されるように、個々の実体中でのナノ補強材の剥離及びポリマーマトリックス中へのそれらの均一な分散は、ポリマーナノコンポジットの成功に必須である。ポリマー中でのナノ補強材の均一な分散は、様々なアプローチによって達成されることができ、それには、溶融コンパウンディング(溶融配合)、イン・サイチュ(in situ)での重合、ナノ補強材の表面処理などが含まれるが、これらに限定されない。カーボンナノ材料、例えば、図2に示す、カーボンナノファイバー、カーボンスフェア、カーボンナノチューブ、及びグラフェンは、それらの優れた材料特性と及び単純な化学によって、一般的に有利である。多種多様な特性の向上が、ポリマー中へのカーボンナノ材料の分散によって達成されうる。
【0008】
グラフェンは、ジッパーを開くようにして開かれた単層カーボンナノチューブに似た単層の炭素原子を含む比較的新しいナノ材料である。単層グラフェンは一般に、ポリマーを強化することにおいてカーボンナノチューブの2倍の効果があり、なぜなら、グラフェンは、ポリマー相互作用のための2つの平坦な表面を有するのに対して、カーボンナノチューブはポリマー相互作用のために1つの外面しか含んでいないからである。新しいグラフェンベースのナノ材料、例えば、酸化グラフェン、膨張黒鉛、及びグラフェンナノプレートレットの導入と併せたグラフェン合成法の開発が、グラフェンを商業的に実施可能したことが理解されよう。しかし、ポリマーナノコンポジットの製造におけるグラフェンベースのナノ材料の適用は、強化ポリマー中のグラフェンナノ材料の影響に関する限られた情報のために妨げられてきた。
【0009】
溶融配合(溶融コンパウンディング)及びイン・サイチュ重合は、PET-グラフェンナノコンポジットを調製するための最も研究された技術である。グラフェンを分散させることについてはイン・サイチュ重合が有効であるが、所望する分子量を達成することの困難さ、及び高額な反応器の必要性によって、イン・サイチュ重合の使用はこれまで限定されていた。溶融コンパウンディングは、せん断混合を伴う直接的なアプローチであるが、それだけで、いくつかの試験済みポリマーシステム中にグラフェンを分散させるのに有効であることは見出されていない。理解されるように、PET中でのグラフェンナノプレートレットの均一な分散を達成することは、バルク特性を向上させるために重要である。しかし、PET中にグラフェンを分散させることは簡単ではなく、なぜなら、PETは一般に溶融温度は260℃~280℃で、高粘度(500~1000Pas)だからである。したがって、高温において且つ高粘度の材料を使用しての作業を容易にするプロセスを選択することが必要である。
【0010】
ポリマーナノコンポジット用途の実施のための別の重要な側面は、結果として生じる材料の特性を予測し、それによって製造プロセスを設計する際の柔軟性をもたらし、かつ開発コストを削減するための能力である。従来の複合材料モデルは、ナノ複合材料(ナノコンポジット)の特性を予測することにおいて正確ではなかった。連続体理論に基づくマイクロメカニカルモデルは、短繊維複合材料の推定に有効であることが判明しているが、ナノ複合材料へのこれらのモデルの適用性を報告している研究はほとんどない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、グラフェンナノプレートレット(graphene nanoplatelet)をPET中に均一に分散させることができ、それにより、改善された熱的特性、例えば、低減された再加熱エネルギー消費を示す強化バルクPET複合材料を提供することができる、効果的かつ信頼性のあるプロセスを開発することが引き続き望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
<まとめ>
グラフェン-PET容器を形成するための、グラフェンで強化されたポリエチレンテレフタレート組成物(グラフェン強化ポリエチレンテレフタレート組成物)のための組成物及び方法を提供する。グラフェン強化ポリエチレンテレフタレート組成物は、ポリエチレンテレフタレートを含む連続マトリックス、及びグラフェンナノプレートレット(graphene nanoplatelet)を含む分散された強化相(dispersed reinforcement phase)を含む。グラフェンナノプレートレットは直径が5μm~10μmの範囲であり、表面積が約15m/g~約150m/gの範囲である。いくつかの実施形態において、グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートは、そのグラフェン強化ポリエチレンテレフタレートの実質的に3%質量分率の濃度のグラフェンナノプレートレットを含む。グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートは、容器を形成するために適したグラフェン-PETプリフォームへと射出成形されるように構成されている。グラフェン-PETプリフォームは、そのガラス転移温度より高温まで再加熱され、型に吹き込まれ、それによってグラフェン-PETプリフォームを容器へと成形するように構成されている。
【0013】
例示の実施形態では、グラフェン強化ポリエチレンテレフタレート組成物は、以下のものを含む:ポリエチレンテレフタレートを含む連続マトリクス;及び、グラフェンナノプレートレットを含む分散された強化相。
【0014】
別の例示の実施形態では、グラフェンナノプレートレットは、最低限の数の二次元単原子カーボンシート層を含む。別の例示の実施形態では、その層の数は、実質的に1層~7層の範囲である。別の例示の実施形態では、その層の数は、実質的に1層~4層の範囲である。
【0015】
別の例示の実施形態では、グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートは、容器を形成するのに適したグラフェン-PETプリフォームへと射出成形されるように構成される。別の例示の実施形態では、グラフェン-PETプリフォームは、そのガラス転移温度よりも高い温度に再加熱されて、型の中に吹き込まれ、それによってグラフェン-PETプリフォームを容器へと成形するように構成される。別の例示の実施形態では、ポリエチレンテレフタレートは、混ぜ物のないPET(neat PET)を含む。別の例示の実施形態では、ポリエチレンテレフタレートは、リサイクルされたPETを含む。
【0016】
別の例示の実施形態では、グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートは、グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートの実質的に0.1%質量分率~15%質量分率の範囲の濃度のグラフェンナノプレートレットを含む。別の例示的な実施形態では、グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートは、グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートの実質的に3%質量分率である濃度のグラフェンナノプレートレットを含む。
【0017】
別の例示的な実施形態では、グラフェンナノプレートレットは、直径が5μm~10μmの範囲であり、表面積が約15m/g~約150m/gの範囲である。別の例示の実施形態では、グラフェンナノプレートレットは、約10μmの直径とともに約30m/g~約60m/gの範囲の表面積を有する。
【0018】
例示の実施形態では、強化ポリエチレンテレフタレート製品を形成するための方法は、以下のステップを含む:PET樹脂を形成させるステップ;グラフェンナノプレートレットをそのPET樹脂に分散させて、グラフェン強化PET樹脂を形成させるステップ;そのグラフェン強化PET樹脂をペレットにするステップ;そのペレットを再加熱して溶融液体を形成させるステップ;及び、その溶融液体を所望の製品へと成形するステップ。
【0019】
別の例示の実施形態では、PET樹脂を形成するステップは、エチレングリコール及びテレフタル酸を高温かつ低真空圧下(low vacuum pressure)で混合し、所望の製品を製造するために適した混ぜ物のないPET(neat PET)樹脂を形成するステップを含む。別の例示の実施形態では、PET樹脂を形成するステップは、リサイクルされたPETを取得し、所望の製品を製造するために適したリサイクルされたPET樹脂を形成するステップを含む。別の例示の実施形態では、グラフェン強化PET樹脂をペレットにするステップは、そのペレットを所望の製品の1つ又は複数の製造業者に分配するステップをさらに含む。
【0020】
図面は、ここでの開示の態様を参照しており、以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、ここでの開示によるポリエチレンテレフタレートの分子構造を示す化学式である。
図2図2は、ここでの開示による炭素同素体の独特の構造を示している。
図3図3は、ここでの開示による六角形構造を有する二次元の単原子厚さの炭素同素体を含むグラフェンの分子構造を示している。
図4図4は、ここでの開示による、グラフェンナノプレートレットの顕微鏡写真画像を含む。
図5図5は、ここでの開示による、エチレングリコール中にグラフェンナノプレートレットを分散させるための例示の超音波処理プロセスを示す概略図である。
図6図6は、ここでの開示による、溶媒中にグラフェンナノプレートレットを分散させるための例示の超音波処理及び遠心分離プロセスを示す概略図である。
図7図7は、ここでの開示による、超音波処理時間及び遠心速度とそれに応じたエチレングリコール中のグラフェンナノプレートレット分散液の濃度の関係を示す表である。
図8図8は、24時間、48時間、及び96時間のあいだ超音波処理され、次いで実質的に1500RPMの回転速度で遠心分離された後の、エチレングリコール中に分散されたグラフェンナノプレートレットの透過型電子顕微鏡写真画像を含む。
図9A図9Aは、超音波処理時間及び実質的に1500RPMの遠心分離速度に応じた、エチレングリコール中に分散されたグラフェンナノプレートレットの平均の長さ及び幅を示すグラフである。
図9B図9Bは、超音波処理時間及び実質的に4500RPMの遠心分離速度に応じた、エチレングリコール中に分散されたグラフェンナノプレートレットの平均の長さ及び幅を示すグラフである。
図10図10は、24時間、48時間、及び96時間のあいだ超音波処理され、次いで実質的に1500RPMの回転速度で遠心分離された、エチレングリコール中に分散されたグラフェンナノプレートレットのラマン分析を含む。
図11A図11Aは、ここでの開示による、PETモノマー及び過剰のメタノールを形成する、テレフタル酸ジメチル(DMT)とエチレングリコール(EG)の間でのエステル交換反応を示す化学式である。
図11B図1IBは、ここでの開示による、図11AのPETモノマーによる、PETポリマー鎖及び過剰のエチレングリコールの形成を示す化学式である。
図12図12は、ここでの開示による、エステル交換反応を実施するための反応器を示す概略図である。
図13図13は、ここでの開示による重縮合反応を実施するための反応器を示す概略図である。
図14図14は、ここでの開示による、様々な重合バッチについての反応時間及びポリマー収率を挙げた表である。
【0022】
ここでの開示は、様々な修正及び代替形態の対象となるが、その特定の実施形態を例として図面に示し、本明細書で詳細に説明している。本発明は、開示された特定の形態に限定されず、逆に、意図していることは、ここでの開示の精神及び範囲内にあるすべての修正、均等物、及び代替物を網羅することであることが理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の説明では、ここでの開示の完全な理解を提供するために、多くの特定の詳細が示されている。しかしながら、本明細書に開示される本発明がこれらの特定の詳細なしに実施されうることは当業者には明らかであろう。他の例では、特定の数値による参照、例えば「第1フェーズ」が行われる場合がある。しかし、特定の数値参照は、文字通りの順序として解釈されるべきではなく、「第1フェーズ」は「第2フェーズ」とは異なると解釈されるべきである。したがって、記載されている特定の詳細は単なる例示にすぎない。具体的な詳細は、ここでの開示の精神及び範囲からは変動しうるが、それでもなおその範囲内であると考えることができる。「カップリングされた」という用語は、その構成要素に直接、又は別の構成要素によってその構成要素に間接的に結合されていることを意味する。さらに、本明細書で使用される場合、任意の数値又は範囲についての「約」、「ほぼ」、又は「実質的に」という用語は、構成要素又は構成要素の集まりが本明細書に記載されている意図した目的のために機能することを可能にする適切な許容範囲を示す。
【0024】
一般に、ポリエチレンテレフタレート(PET)は、2段階のプロセスによって容器に成形される。第1のステップにおいて、チューブ形状のプリフォームが射出成形される。第2のステップにおいて、プリフォームはそのガラス転移温度より高い温度まで再加熱され、高圧空気を用いて型の中に吹き込まれて、プリフォームがボトルなどの所望の容器へと成形される。実験による観察によれば、PET中にグラフェンを組み込むことは、高速再加熱添加剤として適切に機能し、再加熱時の吸収とエネルギー消費の顕著な低下を示すことを実証されている。一実施形態では、例えば、PET及び0.0015%(15ppm)のグラフェンの組成物は、約10%のエネルギーの節約をもたらした。さらに、従来の高速再加熱法時の吸収及びエネルギー節約は、レットダウン比(let-down ratio, LDR)の関数であることが知られている。一実施形態では、例えば、0.1%のLDRでニートPTEにグラフェンを含ませることは、グラフェンがない場合のPETと比較して、40%より大きなエネルギー節約をもたらすことが観察された。
【0025】
リサイクルされたPET(rPET)と共にグラフェンを含むことは、添加物を含まない(ニート)PET中でグラフェンを用いて観察されるものと同様のエネルギー節約をもたらすと考えられる。しかしながら、理解されるように、rPETストリームにおける潜在的な色の不一致により、rPETはより困難である。たとえば、rPETは通常、知られていない熱履歴、及びCSD、ホットフィル(Hot Fill)、水、及びその他の種類の容器にわたる原料によって、さまざまな色及び混合された添加剤を有するので、rPETを使用する製造プロセスは、効率の変化を示す傾向がある。したがって、プロセスレシピが、入ってくる材料の熱特性にもはや最適な一致をしなくなったときは、スクラップの割合が高くなる(例えば、3%を超える)のに従って、製造プロセスを調節しなければならない。いくつかの実施形態では、rPETにおける色の不一致の影響は、洗浄の改善、溶融濾過の改善、及びより低いLDRの発見によって軽減されることができ、その場合、吸収は、rPETが所望のエネルギーの節約を示すように十分に低い。いくつかの実施形態では、グラフェンの高速再熱特性を利用して、rPETの一貫性のない吸収特性を覆い隠して、スクラップを低減することができる。さらに、グラフェンの相互作用はブロー成形に対して非常に強いので、グラフェンを用いることは、入ってくる材料の変化による製造プロセスの調整を潜在的に不要にすることができる。グラフェンは、加工助剤としてインジェクション時に製造現場でrPET中に組み込まれ、エネルギーとスクラップの両方を低減し、それによって製造業者の効率を高めることができると考えられる。
【0026】
理解されるように、PETの基本的な構成要素(ビルディングブロック)は、エチレングリコール及びテレフタル酸であり、これらは、PET樹脂供給者によって結合されて、PETの樹脂ペレットが形成されうる。次に、この樹脂ペレットを容器製造業者に輸送し、加熱されて溶融液体にされ、それは任意の所望する形状の物品、例えば、容器又はボトルへと容易に押し出しされ、成形されることができる。そのように、いくつかの実施形態では、PET樹脂供給者は、反応器中で、グラフェンをニートPET及び/又はrPET中に有利に組み込んで、グラフェン強化PETを含む樹脂ペレットを形成することができることが考えられる。次に、そのグラフェン強化PETは、1つ又は複数の容器製造者に出荷されて、所望の容器又はボトルに成形することができる。
【0027】
図3は、0.142nmのC-C結合距離を有する平面sp混成構造を有する2次元の単原子の厚さの炭素同素体を含むグラフェンの分子構造を示している。単一のグラフェンシートの厚さは、実質的に0.335nmであると見積もられる。単層グラフェンの密度は0.77mg・m-2と計算されている。1.02±0.03TPaのヤング率、及び130±10GPaの強度を有しており、グラフェンは容易に感知できるサイズをもつ最強の材料と考えられることが理解される。さらに、グラフェンは、0~300Kの温度範囲にわたって負の熱膨張係数α=-4.8±1.0×10-6-1、及び3000WmK-1の非常に高い熱伝導率を示す。グラフェンシートは疎水性であり、室温において46.7mJ・m-2の表面エネルギーを有することが判明している。
【0028】
いくつかの実施形態において、グラフェンナノプレートレット(GNP)の形態のグラフェンは、様々な商業的供給業者のいずれかを経由して入手することができる。市販されているグラフェンナノプレートレットは、一般に2つの異なる平均表面積を含む。いくつかの実施形態では、5マイクロメートル(μm)の平均直径、6nm~8nmの範囲の厚さ、及び120~150m/gの平均表面積を有するグラフェンナノプレートレットを使用して、ナノコンポジットを調製することができる。いくつかの実施形態では、2μmの平均直径、750m/gの平均表面積をもつグラフェンナノプレートレットを、イン・サイチュ重合のために使用することができる。いくつかの実施形態では、グラフェンナノプレートレットは、直径が5μm~10μmの範囲で、表面積が約15m/g~約150m/gの範囲であることができる。さらに、いくつかの実施形態では、グラフェンナノプレートレットは、直径が約10μmであり、表面積が約30m/g~約60m/gの範囲であることできる。さらに、いくつかの実施形態では、グラフェンナノプレートレットは、最初に乾燥した凝集粉末形態で得ることができ、ここでそれぞれの凝集したプレートレットはいくつかのナノプレートレットを含み、それは図4に示すとおりである。理解されるように、ナノプレートレットは一般に均一ではなく、不均一な端部を含む。
【0029】
本明細書で論じるように、イン・サイチュ重合(in-situ polymerization)は、ポリマーナノコンポジット、例えば、グラフェン強化PETを調製するために使用することができる。理解されるように、イン・サイチュ重合は一般に2つのステップを含む。第1のステップは、相容性のあるポリマー前駆体又は溶媒を用いて、溶液相中にナノスケール強化材をインターカレーションさせることを含む。第2のステップでは、ナノプレートレットをインターカレーションした溶液を使用して重合を行う。理解されるように、ナノプレートレットを化学的に相容性があり且つ低粘度の物質中に分散させることは、ナノプレートレットを高粘度のポリマー溶融物と直接混合するよりも効率的である。そのように、エチレングリコール(EG)は、PETの重合に使用される原料であるから、エチレングリコールは、グラフェンナノプレートレットを分散させるための溶媒として有利に用いることができることが理解されよう。しかしながら、本明細書に開示されるPETの重合は、グラフェンナノプレートレットを分散させるための溶媒としてエチレングリコールを使用することに限定されず、むしろその他の適切な溶媒を、グラフェンナノプレートレットを分散させるために用いることができ、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、鉱油、PET用液体着色剤及び添加剤のために使用される担体システム、イソプロパノール(IPA)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの溶媒であるがこれらに限定されない。
【0030】
図5は、ここでの開示による、エチレングリコール中にグラフェンナノプレートレットを分散させるための例示の超音波処理プロセスを示す概略図である。図5に示すように、いくつかの実施形態では、グラフェンナノプレートレットを試薬グレードのエチレングリコールに1mg/mlの濃度(すなわち、0.1%の質量分率)で添加し、適切なサイズの溶液ビーカーに入れ、次に、所定の周波数において浴型超音波照射装置(バスソニケーター)を使用して特定の時間のあいだ超音波処理をする。一実施形態では、その浴型超音波照射装置は、40kHzの周波数において106時間稼働して、エチレングリコール内でのグラフェンナノプレートレットの均一な分散を確実にする。いくつかの実施形態では、その周波数は超音波であることでき、その時間は少なくとも24時間、48時間、96時間、又はエチレングリコール内にグラフェンナノプレートレットを均一に分散させるのに適切であると考えられる任意の時間であることができる。図5に示す超音波処理プロセスのあいだ、溶液ビーカーは、大気中の酸素への暴露を防ぐために、アルミホイルで覆った。
【0031】
さらに、いくつかの実施形態では、分散液は、低表面積又は高表面積のグラフェンナノプレートレットのいずれかを用いて調製することができる。例えば、いくつかの実施形態では、グラフェンナノプレートレットは、直径が5μm~10μmの範囲であり、表面積が約15m/g~約150m/gの範囲である。いくつかの実施形態では、グラフェンナノプレートレットは、直径が約10μmであり、表面積が約30m/g~約60m/gの範囲である。グラフェンナノプレートレットの濃度は、上述した0.1%質量分率には限定されず、むしろその他の濃度とすることもでき、例えば、非限定的な例として、最大で2%、5%、10%、及び15%質量分率までの任意の濃度であってよいことをさらに理解すべきである。しかしながら、好ましくは、グラフェンナノプレートレットの濃度は、PET-グラフェンナノコンポジットの実質的に3%の重量分率である。
【0032】
理解されるように、超音波処理が維持されている時間の長さにかかわらず、溶液中のグラフェンナノプレートレットの一部のみがエチレングリコール内に適切に分散されるであろう。したがって、遠心分離機を使用して、エチレングリコール内に適切に分散されていないグラフェンナノプレートレットのより大きな部分を除去することができる。図6は、超音波処理及び遠心分離を含む例示的なプロセスであり、それによって、より大きなグラフェンナノプレートレットの部分が除去され、したがって、分散されたグラフェンナノプレートレットを有するエチレングリコールの上澄み溶液が残るプロセスを示す概略図である。遠心分離後、エチレングリコール及び分散されたグラフェンナノプレートレットの上清溶液を、本明細書に記載されているように、PETの重合に使用するためにデカンテーションをすることができる。
【0033】
遠心分離は、適切と思われる任意の回転速度で、必要に応じて任意の時間、実施することができることを理解すべきである。いくつかの実施形態では、遠心分離は、少なくとも1500回転/分(RPM)の回転速度で実施されうる。いくつかの実施形態において、遠心分離の回転速度は、少なくとも2500RPMであることができる。いくつかの実施形態において、遠心分離の回転速度は、少なくとも3500RPMであることができる。さらに、いくつかの実施形態では、遠心分離は、少なくとも4500RPMの回転速度で実施することができる。当業者は、上澄み中の残留物質の濃度は、グラフェンの吸光度を測定し、次いで、光吸光度(A)を、ベール-ランベールの法則であるA=αClによって、遠心分離後のグラフェンの濃度(C)と関連付けることによって評価できることを認識するであろう。図7は、本明細書に記載しているように、超音波処理時間の関数として、エチレングリコール中のグラフェンナノプレートレット分散液の濃度と遠心速度の関係を示す表である。図7は、いくつかの実施形態では、超音波処理及び遠心分離が、グラフェンナノプレートレットを最大0.11mg/mLの濃度でエチレングリコール中に分散させることを示している。
【0034】
いくつかの実施形態では、透過型電子顕微鏡法(TEM)を使用して、エチレングリコール内のグラフェンナノプレートレットの剥離の程度を決定することができる。理解されるように、エチレングリコールとグラフェンナノプレートレットの間の電子密度の違いが、透過型電子顕微鏡写真において目に見えるコントラストをもたらす。グラフェンナノプレートレットは、エチレングリコールの密度と比較してその比較的高い密度によって、暗い領域として見える。したがって、TEMは、剥離したグラフェンナノプレートレットに関する2次元情報、例えば、ナノプレートレットの厚さ、長さ、及び直径などを提供することができる。図8は、24時間、48時間、及び96時間超音波処理し、次に実質的に1500RPMの回転速度で遠心分離したグラフェン分散サンプルのTEM画像を示す3つの顕微鏡写真を含む。
【0035】
理解されるように、図8に示されるような透過型電子顕微鏡写真は、分散されたグラフェンナノプレートレットのシートサイズと超音波処理の継続時間との間の関係の詳細に説明することを容易にする。図9Aは、超音波処理時間及び1500RPMの遠心分離速度の関数としての、分散されたグラフェンナノプレートレットの平均の長さ及び幅を示すグラフである。図9Bは、図9Bに示されるグラフに示されるグラフェン分散サンプルが実質的に4500RPMの回転速度で遠心分離されたことを除いて、図9Aに示されるグラフに実質的に類似したグラフである。図9A及び9Bは、超音波処理の継続時間を長くするのに伴って、ナノプレートレットの平均の長さ及び幅が低下することを示している。
【0036】
図8に示されている透過型電子顕微鏡写真は、分散されたグラフェンナノプレートレットの平均の長さ及び幅に関する情報を提供するが、ナノプレートレットの厚さ(すなわち、層の数)に関する情報が、エチレングリコール内でのグラフェンナノプレートレットの剥離の程度をより良く決定するために必要である。ラマン分光法は、グラフェンの特性解析をするために広く使用されている技術であることが理解されよう。単層グラフェンの特徴的なラマンスペクトルは、sp炭素材料のC-C伸縮に対応する1580cm-1付近にピーク(Gバンド)を有することが知られている。2680cm-1付近の別のピーク(G’バンド)は、対応するより高次のモードである。いくつかの場合には、グラフェン中の欠陥の存在が、1350cm-1付近にラマンピーク(Dバンド)を生じさせることが知られており、これはグラフェンの性質を分析するのに有用である。多層グラフェンの場合、Gバンド(~1580cm-1)の強度を使用して、1層~7層の範囲の厚さを含むグラフェンナノプレートレットを識別しうる。さらに、いくつかの実施形態では、G ’バンド(~2680cm-1)の形状、あるいは2Dバンドを使用して、1層から実質的に4層の範囲の厚さを含むグラフェンナノプレートレットを識別することができる。
【0037】
図10は、図8のTEM画像に供されたグラフェン分散サンプルのラマン分析を含む。理解されるように、I2D/Iの比は、分散されたグラフェンナノプレートレットを構成する層の数を表す。図10のラマン分析を、図8に示し、図9A及び9BにプロットしたTEMデータと組み合わせると、超音波処理の時間を長くすることは、分散されたグラフェンナノプレートレットを個々の層によりよく分離するが、超音波処理はまた、ナノプレートレットの平均シートサイズを低下させるように作用することが明らかになる。
【0038】
グラフェンナノプレートレットがエチレングリコール内に適切に分散されると、その溶液は、グラフェン強化ポリエチレンテレフタレートのイン・サイチュ重合(in-situ polymerization)に用いることができる。いくつかの実施形態において、エチレングリコール及びテレフタル酸ジメチル中に分散されたグラフェンナノプレートレットのイン・サイチュ重合は、2段階反応によって実施することができる。第1のステップは、図11Aに示されているエステル交換反応(EI)であり、ここで、PETモノマー及び過剰のメタノールが形成される。図11Bに示されている第2のステップにおいて、PETポリマー鎖及び過剰のエチレングリコールが、重縮合反応(PC)によって形成される。
【0039】
図12は、図11Aに示したエステル交換反応を実施するための反応器104の例示の実施形態を示す概略図である。反応器104は、一般に、断熱反応チャンバー108、メタノール収集器112、及びS字形コンデンサー(gooseneck condenser)116を含む。図12に示した実施形態では、粉末化されたテレフタル酸ジメチル(DMT)が重合に用いられる。分散されたグラフェンナノプレートレットを伴うエチレングリコール及び粉末化されたDMTを、過剰のエチレングリコールとともに、2.3:1のモル比で窒素パージ下において反応チャンバー108に投入する。エステル交換反応用の触媒である酢酸マンガン(Mn(CHCOO))、及び重縮合反応用の触媒である三酸化アンチモン(Sb)もまた、それぞれ82ppm(百万部当たりの部数)及び300ppmでそのバッチに添加し、次に、そのバッチを、一定の撹拌下で実質的に175℃のバッチ温度に加熱する。
【0040】
バッチが約170℃の温度に近づくとメタノールの収集が始まり、それはエステル交換反応が開始したことを示す。したがって、メタノールの収集が始まったら、窒素パージを閉じてもよい。いくつかの実施形態では、バッチ温度は、バッチ温度が実質的に235℃に達するまで、段階的に、例えば15℃のステップで上昇させることができる。エステル交換反応が進行しているあいだ、S字形コンデンサー116内の温度は、室温から60℃より高温まで上昇することになる。S字形コンデンサーの温度が60℃を下回り、メタノール収集器112が300mlの理論収量に達したら、エステル交換反応は実質的に終了したと考えることができる。いくつかの実施形態では、S字形コンデンサー116を取り外し、ポリリン酸(HPO)を38ppmでバッチに添加して、エステル交換反応を停止させてもよい。当業者は、全エステル交換反応が、実質的に3~4時間の内に、反応装置104によって実施することができることを理解するであろう。
【0041】
図13は、図11Bに示される重縮合反応を実施するための反応装置120の例示的な実施形態を示す概略図である。図13に示す実施形態では、反応装置120は、反応チャンバー108、過剰のEG収集コンデンサー124、及び真空ポンプ128を含む。重縮合反応中、反応チャンバー108内の温度は、実質的に285℃まで上昇する可能性があり、かつ所望の粘度のPETが得られるまで真空下(~30mmHg)に保たれる。いくつかの実施形態において、イソフタル酸(C(COH))及び安定化されたコバルトが、重縮合反応の開始時にそのバッチにそれぞれ20グラム及び65ppmで添加することができる。イソフタル酸は、PETの結晶化度を制限し、したがって、PETを加工しやすくすることが理解されよう。安定化されたコバルトは、PETの最終的な色を制御するように働く。
【0042】
重縮合反応が進行するにつれて、PETの分子量は反応チャンバー108内で高くなり、かつエチレングリコールはEG収集コンデンサー124中に放出される。いくつかの実施形態では、EG収集コンデンサー124は、ドライアイスで囲まれた丸いフラスコを含むことができ、そうして、集められたエチレングリコールを固化し、それによってエチレングリコールが真空ポンプ128中に流入することを防ぐことができる。
【0043】
PETの生成量が増加するにつれて、反応チャンバー108内のバッチの粘度が対応して変化することが理解されるであろう。PETの量が増えるにつれて、バッチの粘度は上昇し、それにより、バッチを撹拌するためのより増大した量の機械力が必要となる。したがって、その増加したPETは、チャンバー内の撹拌機132を駆動するために必要とされる電流に影響を及ぼす。したがって、撹拌機132に流れる電流を監視することは、重縮合反応の進行の指標を提供する。一つの例示の実施形態では、撹拌機132に流れる電流は、15分間隔で変化が監視される。2回の連続した読み取りで電流の変化が検出されなくなったら、重縮合反応は実質的に終了したと考えることができる。次に、真空ポンプ128を停止し、得られたポリマー溶融物を反応器120の底部の開口部136から押し出すことができる。いくつかの実施形態では、ポリマー溶融物を開口部136から氷水浴中へ押し出し、ストランドチョッパーを使用してペレット化することができる。図14は、図12及び図13にそれぞれ示された反応器104、120によって実施される例示のバッチ重合の反応時間及び収率を示している。さらに、例示のバッチ重合の1つは、グラフェンナノプレートレットがなく、したがって、対照バッチ重合としての役割を果たしている。
【0044】
本発明を、特定の変形例及び説明のための図について説明してきたが、当業者は、本発明が説明された変形例又は図に限定されないことを認識するであろう。さらに、上述した方法及びステップが特定の順序で生じる特定の事象を示す場合、当業者は、特定のステップの順序が変更されうること、及びそのような変更が本発明の変形に従うことものであることを認識するであろう。さらに、特定のステップは、可能な場合には並列プロセスで同時に実施することも、上述したように順次実施することもできる。ここでの開示の精神の範囲内であるか又は特許請求の範囲に見られる発明と均等である本発明の変形がある範囲まで、本特許がそれらの変形も同様に包含することが意図されている。したがって、ここでの開示は、本明細書に記載した特定の実施形態によって限定されず、添付した特許請求の範囲によってのみ限定されるものと理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
【国際調査報告】