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特表2022-524666硫黄を開始剤として使用した化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜とその製造方法及び製造装置
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  • 特表-硫黄を開始剤として使用した化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜とその製造方法及び製造装置 図1
  • 特表-硫黄を開始剤として使用した化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜とその製造方法及び製造装置 図2a
  • 特表-硫黄を開始剤として使用した化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜とその製造方法及び製造装置 図2b
  • 特表-硫黄を開始剤として使用した化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜とその製造方法及び製造装置 図3
  • 特表-硫黄を開始剤として使用した化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜とその製造方法及び製造装置 図4
  • 特表-硫黄を開始剤として使用した化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜とその製造方法及び製造装置 図5
  • 特表-硫黄を開始剤として使用した化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜とその製造方法及び製造装置 図6
  • 特表-硫黄を開始剤として使用した化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜とその製造方法及び製造装置 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-10
(54)【発明の名称】硫黄を開始剤として使用した化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜とその製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/448 20060101AFI20220427BHJP
   C08G 75/14 20060101ALI20220427BHJP
   C23C 14/12 20060101ALI20220427BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20220427BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20220427BHJP
   C08G 75/02 20160101ALI20220427BHJP
【FI】
C23C16/448
C08G75/14
C23C14/12
C23C14/06 D
C23C16/30
C08G75/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2020570153
(86)(22)【出願日】2020-09-15
(85)【翻訳文提出日】2020-12-16
(86)【国際出願番号】 KR2020012422
(87)【国際公開番号】W WO2021167194
(87)【国際公開日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】10-2020-0021570
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0097375
(32)【優先日】2020-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514291196
【氏名又は名称】コリア アドバンスト インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】イム ソンケプ
(72)【発明者】
【氏名】キム ドフン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ウォンテ
(72)【発明者】
【氏名】チェ コォンウ
【テーマコード(参考)】
4J030
4K029
4K030
【Fターム(参考)】
4J030BA05
4J030BA26
4J030BA42
4J030BB07
4J030BB18
4J030BC02
4J030BG25
4J030BG30
4K029AA02
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA51
4K029BC07
4K029CA11
4K029JA02
4K030AA09
4K030AA24
4K030BA50
4K030CA02
4K030CA04
4K030CA06
4K030CA07
4K030CA12
4K030CA17
4K030EA01
4K030FA10
4K030FA17
4K030GA05
4K030JA01
4K030JA09
4K030JA10
4K030JA11
4K030KA39
(57)【要約】
本発明は気相状態の硫黄を開始剤として使用し、硫黄と単量体の高分子重合によって高分子膜を製造する、硫黄を開始剤として使用した化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜の製造方法に関するものであり、前記製造された高分子膜は多様な単量体を硫黄と共重合体から重合することができ、硫黄含量が高く、屈折率及び透明度に優れた高分子膜を製造することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の段階を含む、硫黄を開始剤として使用する化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜の製造方法:
(a)sCVD反応器に気相状態の単量体と固相状態の硫黄を流入させる段階と、
(b)固相状態の硫黄を加熱によって気化させて、気相状態の硫黄を得て、気相状態の硫黄と単量体を混合する段階と、
(c)基板を加熱して基板上に硫黄と単量体を吸着及び重合させて硫黄含有高分子を蒸着させる段階。
【請求項2】
前記硫黄含有高分子は、ポリ(サルファー-co-1,4-ブタンジオールジビニルエーテル)(poly(sulfur-co-1,4-butanediol divinyl ether、SBDDVE)、ポリ(サルファー-co-ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル)(poly(sulfur-co-di(ethylene glycol)divinyl ether、SDEGDVE)、ポリ(サルファー-co-ジビニルベンゼン)(poly(sulfur-co-divinyl benzene、SDVB)、ポリ(サルファー-co-1,9-デカジエン)(poly(sulfur-co-1,9-decadiene、SDDE)、ポリ(サルファー-co-1,11-ドデカジエン)(poly(sulfur-co-1,11-dodecadiene、SDDDE)、ポリ(サルファー-co-1,3,5-トリビニル-1,3,5-トリメチルシクロトリシロキサン)(poly(sulfur-co-1,3,5-trivinyl-1,3,5-trimethyl cyclotrisiloxane、SV3D3)、ポリ(サルファー-co-1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン)(poly(sulfur-co-1,3,5,7-tetravinyl-1,3,5,7-tetramethylcyclotetrasiloxane、SV4D4)又はポリ(サルファー-co-ヘキサビニルシロキサン(poly(sulfur-co-hexavinyldisiloxane、SHVDS)であることを特徴とする、請求項1に記載の高分子膜の製造方法。
【請求項3】
90~140℃の基板温度及び500~1500mTorrの圧力で5分~2時間遂行することを特徴とする、請求項1に記載の高分子膜の製造方法。
【請求項4】
前記(b)段階の後、反応器内部のフィラメントを330~380℃の温度に加熱する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の高分子膜の製造方法。
【請求項5】
前記(c)段階で、基板を110~130℃の温度に加熱することを特徴とする、請求項1に記載の高分子膜の製造方法。
【請求項6】
前記単量体は、ブタンジオールジビニルエーテル(butanediol divinyl ether、BDDVE)、ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル(di(ethylene glycol)divinyl ether、DEGDVE)、ジビニルベンゼン(divinyl benzene、DVB)、1,9-デカジエン(1,9-decadiene、DDE)、1,11-ドデカジエン(1,11-dodecadiene、DDDE)、1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリビニルシクロトリシロキサン(1,3,5-trimethyl-1,3,5-trivinyl cyclotrisiloxane、V3D3)、1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン(1,3,5,7-tetravinyl-1,3,5,7-tetramethylcyclotetrasiloxane、V4D4)及びヘキサビニルジシロキサン(hexavinyldisiloxane、HVDS)からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の高分子膜の製造方法。
【請求項7】
前記硫黄含有高分子の厚さは1nm~10μmであることを特徴とする、請求項1に記載の高分子膜の製造方法。
【請求項8】
1.7~1.9の屈折率及び可視光線領域での90~99.9%透明度を有し、硫黄の含量が60~80wt%であり、硫黄結合長が2.0~8.0であり、ポリ(サルファー-co-1,4-ブタンジオールジビニルエーテル(SBDDVE)、ポリ(サルファー-co-ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル)(SDEGDVE)、ポリ(サルファー-co-ジビニルベンゼン)(SDVB)、ポリ(サルファー-co-1,9-デカジエン)(poly(sulfur-co-1,9-decadiene、SDDE)、ポリ(サルファー-co-1,11-ドデカジエン)(poly(sulfur-co-1,11-dodecadiene、SDDDE)、ポリ(サルファー-co-1,3,5-トリビニル-1,3,5-トリメチルシクロトリシロキサン)(SV3D3)、ポリ(サルファー-co-1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン)(SV4D4)及びポリ(サルファー-co-ヘキサビニルシロキサン(SHVDS)からなる群から選択される1種の硫黄共重合体が1nm~10μmの厚さにコーティングされていることを特徴とする、硫黄含有共重合体の高分子膜。
【請求項9】
硫黄を開始剤として使用する化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜の製造装置(1)であって:
(a)sCVD反応器(10)と、
(b)sCVD反応器(10)の下端に設けられ、反応器(10)の内部に固体硫黄をローディングすることができ、工程中に加熱されて硫黄を蒸発させる硫黄ローディングソースセル(100)と、
(c)sCVD反応器10の上端に連結され、単量体を気相で注入するために加熱した後、500~1500mtorr範囲の工程圧力を有するようにsCVD反応器(10)の内部に移動させる単量体ローディング部と、
(d)高温の金属合金線から構成され、前記硫黄ローディングソースセル(100)から蒸発した気相硫黄の結合長を短くし、気化した硫黄が基板(400)に移動するようにするフィラメント(300)と、
(e)上面がsCVD反応器(10)の下方に向かうように装着され、前記(c)の単量体ローディング部(200)からsCVD反応器(10)の内部に移動した単量体が上面に吸着し、蒸発した硫黄と高分子の合成反応が進行される基板(400)と
を含む、高分子膜の製造装置(1)。
【請求項10】
前記(b)の硫黄ローディングソースセル(100)の周辺に温度及び昇温速度を調節するラインヒーターを備えていることを特徴とする、請求項9に記載の硫黄を開始剤として使用する化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜の製造装置(1)。
【請求項11】
前記(c)の単量体ローディング部(200)と前記sCVD反応器(10)との連結ラインの上側に単量体の流量を調節するボールバルブ(ball valve)及びニードルバルブ(needle valve)を備えていることを特徴とする、請求項9に記載の硫黄を開始剤として使用する化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜の製造装置(1)。
【請求項12】
前記sCVD反応器(10)の内部に単量体の注入量を設定するバラトロンセンサー(baratron sensor)を備えていることを特徴とする、請求項9に記載の硫黄を開始剤として使用する化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜の製造装置(1)。
【請求項13】
前記(e)の基板(400)は回転可能であることを特徴とする、請求項9に記載の硫黄を開始剤として使用する化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜の製造装置(1)。
【請求項14】
前記(d)のフィラメント(300)及び(e)の基板(400)の高さはそれぞれ調節可能であることを特徴とする、請求項9に記載の硫黄を開始剤として使用する化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜の製造装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫黄を開始剤として使用した化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜とその製造方法及び製造装置に関するもので、より詳しくは気相状態の硫黄を開始剤として使用して硫黄と多様な単量体をよく混合させ、高分子重合によって高分子を蒸着させて屈折率及び透明度に優れた高分子膜を製造する、硫黄を開始剤として使用した化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜とその製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硫黄元素は原油精製過程で全世界的に約600万トン程度の非常に豊かな量で発生しており、最近優れた光学的特徴と、リチウム-硫黄電池の電極物質などの優れた物性によって新しく脚光を浴びて多くの分野への活用可能性を有している。硫黄の豊かな量と優れた物性にもかかわらず、大きく二つの問題のため、実際に産業に適用するのに限界を有している。一つ目は加工性の問題である。硫黄は160℃以上に加熱されて液状に溶けたときに熱可塑性物質となるが、温度を下げて冷やせばよく壊れて荒い特性を現し、非常に低い溶解性を有して加工過程が難しい。二つ目は安全性である。硫黄は8個の硫黄原子が環状構造を成しているが、この構造は非常に安定した状態であるので、加工後にも再びS8の形態に戻る現象を現す。このような問題を解決し、硫黄を高価値の物質に還元する方案が必要である。
【0003】
近来硫黄元素を再活用する方案として、逆硫化(inverse vulcanization)という新しい方法が提示された。これは、160℃以上に硫黄を加熱して液状にラジカル化させ、これを液状の単量体と混合することにより高硫黄含量を有する網状構造の硫黄基盤のプラスチック物質を得るものである。架橋状態の高分子を重合することにより、冷えた後にも硫黄が壊れなくて安定的な形態のプラスチックを開発した。これにより、光学レンズ、Li-Sバッテリー、重金属吸着などの多くの分野に活用可能な硫黄高分子の合成に成功し、これに関連して特許及び多くのジャーナルが開示された(米国公開特許第20140199592号;Chung, Woo Jin, et al., Nature chemistry 5.6 (2013): 518-524;Griebel, Jared J., et al.;Advanced Materials 26.19 (2014): 3014-3018)。参考した従来の技術では、単量体としてDIB(diisopropenylbenzene)を使い、70%以上の硫黄含量を有する硫黄高分子を合成するのに成功した。これを用いてLi-Sバッテリーの性能を向上させ、IR領域帯で高い透明度及び屈折率を有するレンズの製作に活用した。しかし、従来研究の最大の問題としては、工程で液状の硫黄と単量体が混合されなければならないという点と、合成された硫黄高分子内の硫黄結合の長さが長くて長期安全性が良くなく、可視光線領域の波長の吸光によって黄色を現すから、多様なアプリケーションに適用するのには限界を有しているため改善が必要である。
【0004】
したがって、本発明者らは前記問題点を解決するために鋭意努力した結果、気相状態の硫黄を開始剤として用いた化学気相蒸着工程であるsCVD工程を用い、硫黄と単量体の高分子重合によって高分子を蒸着させて高分子膜を製造する場合、硫黄との混和性が低い単量体とも重合が可能であり、短い硫黄結合長を有する高分子を合成した。その結果として、非常に高い屈折率及び透明度を有する高分子を製造することができることを確認し、本発明を完成することになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、未反応の硫黄が存在しなく、単量体と硫黄がよく混合され、短い硫黄結合長を有して非常に高い屈折率及び透明度を有する高分子を製造することができる、硫黄を開始剤として使用した化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜の製造方法と前記方法によって製造された高分子膜及びこれを製造する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、(a)sCVD反応器に気相状態の単量体と固相状態の硫黄を流入させる段階と、(b)固相状態の硫黄を加熱及び気化させて気相状態の硫黄と単量体を混合する段階と、(c)基板を加熱して基板上に硫黄と単量体を吸着及び重合させて硫黄含有高分子を蒸着させる段階とを含む、硫黄を開始剤として使用する化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜の製造方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、1.7~1.9の屈折率及び可視光線領域での90~99.9%透明度を有し、硫黄の含量が60~80wt%であり、硫黄結合長が2.0~8.0であり、ポリ(サルファー-co-1,4-ブタンジオールジビニルエーテル)(poly(sulfur-co-1,4-butanediol divinyl ether、SBDDVE)、ポリ(サルファー-co-ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル)(poly(sulfur-co-di(ethylene glycol)divinyl ether、SDEGDVE)、ポリ(サルファー-co-ジビニルベンゼン)(poly(sulfur-co-divinyl benzene、SDVB)、ポリ(サルファー-co-1,9-デカジエン)(poly(sulfur-co-1,9-decadiene、SDDE)、ポリ(サルファー-co-1,11-ドデカジエン)(poly(sulfur-co-1,11-dodecadiene、SDDDE)、ポリ(サルファー-co-1,3,5-トリビニル-1,3,5-トリメチルシクロトリシロキサン)(poly(sulfur-co-1,3,5-trivinyl-1,3,5-trimethyl cyclotrisiloxane、SV3D3)、ポリ(サルファー-co-1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン)(poly(sulfur-co-1,3,5,7-tetravinyl-1,3,5,7-tetramethylcyclotetrasiloxane、SV4D4)及びポリ(サルファー-co-ヘキサビニルシロキサン(poly(sulfur-co-hexavinyldisiloxane、SHVDS)からなる群から選択される1種の硫黄共重合体が1nm~10μmの厚さにコーティングされていることを特徴とする硫黄含有共重合体の高分子膜を提供する。
【0008】
また、本発明は、(a)sCVD反応器(10)と、(b)sCVD反応器(10)の下端に設けられ、反応器(10)の内部に固体硫黄をローディングすることができ、工程中に加熱されて硫黄を蒸発させる硫黄ローディングソースセル(100)と、(c)sCVD反応器(10)の上端に連結され、流入した単量体を十分な蒸気圧を有するように加熱した後、気相の単量体をsCVD反応器(10)の内部に移動させる単量体ローディング部(200)と、(d)高温の金属合金線から構成され、前記硫黄ローディングソースセル(100)から蒸発した気相硫黄の結合長を短くし、気化した硫黄が基板(400)に移動するようにするフィラメント(300)と、(e)上面がsCVD反応器(10)の下方に向かうように装着され、前記(c)の単量体ローディング部(200)からsCVD反応器(10)の内部に移動した単量体が上面に吸着され、蒸発した硫黄と高分子の合成反応が進行される基板(400)とを含む、硫黄を開始剤として使用する化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜の製造装置(1)を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例によるsCVD工程を概括的に示す模式図である。
図2a】本発明の一実施例によるナイロンメッシュ上にSBDDVEを蒸着したSEM&EDS断面イメージ(a)及びAFMイメージ(b)を示す図である。
図2b】本発明の一実施例によるsCVDで使用した単量体リストである。
図3】本発明の一実施例によってsCVDで合成した硫黄共重合体のFT-IR、XPS分析結果を示す図である。
図4】本発明の一実施例によるsCVDで合成した硫黄共重合体のXPS分析結果によって高分子内の硫黄結合長を示すグラフである。
図5】本発明の一実施例によるsCVDで合成した硫黄共重合体のXRD、DSC、TGA分析結果を示す図である。
図6】本発明の一実施例によるsCVDで合成した硫黄共重合体の屈折率及び吸光係数(左側)、透明度(中間)、厚さ対平均屈折率(400nm~700nmの屈折率平均値)グラフ(右側)である。
図7】本発明の一実施例による硫黄を開始剤として使用する化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜の製造装置1の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
他の式に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術的及び科学的用語は本発明が属する技術分野で熟練した専門家によって通常的に理解されるものと同じ意味を有する。一般的に、本明細書で使用される命名法は当該技術分野でよく知られて通常的に使われるものである。
【0011】
本発明では、気相状態の硫黄を開始剤として用いた化学気相蒸着工程であるsCVD工程を使用し、硫黄と単量体の高分子重合によって高分子を蒸着させて高分子膜を製造する場合、混和性の低い単量体とも重合が可能であり、短い硫黄結合を有して非常に高い屈折率及び透明度を有する高分子を製造することができることを確認した。
【0012】
したがって、本発明は、一観点で、(a)sCVD反応器に気相状態の単量体と固相状態の硫黄を流入させる段階と、(b)固相状態の硫黄を加熱及び気化させて気相状態の硫黄と単量体を混合する段階と、(c)基板を加熱して基板上に硫黄と単量体を吸着及び重合させて硫黄含有高分子を蒸着させる段階とを含む、硫黄を開始剤として使用する化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜の製造方法に関するものである。
【0013】
また、本発明は、他の観点で、1.7~1.9の屈折率及び可視光線領域での90%以上の透明度を有し、硫黄の含量が60~80wt%であり、硫黄結合長が2.0~8.0であり、ポリ(サルファー-co-1,4-ブタンジオールジビニルエーテル)(poly(sulfur-co-1,4-butanediol divinyl ether、SBDDVE)、ポリ(サルファー-co-ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル)(poly(sulfur-co-di(ethylene glycol)divinyl ether、SDEGDVE)、ポリ(サルファー-co-ジビニルベンゼン)(poly(sulfur-co-divinyl benzene、SDVB)、ポリ(サルファー-co-1,9-デカジエン)(poly(sulfur-co-1,9-decadiene、SDDE)、ポリ(サルファー-co-1,11-ドデカジエン)(poly(sulfur-co-1,11-dodecadiene、SDDDE)、ポリ(サルファー-co-1,3,5-トリビニル-1,3,5-トリメチルシクロトリシロキサン)(poly(sulfur-co-1,3,5-trivinyl-1,3,5-trimethyl cyclotrisiloxane、SV3D3)、ポリ(サルファー-co-1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン)(poly(sulfur-co-1,3,5,7-tetravinyl-1,3,5,7-tetramethylcyclotetrasiloxane、SV4D4)及びポリ(サルファー-co-ヘキサビニルシロキサン(poly(sulfur-co-hexavinyldisiloxane、SHVDS)からなる群から選択される1種の硫黄共重合体が10nm~2μmの厚さにコーティングされていることを特徴とする硫黄含有共重合体の高分子膜に関するものである。
【0014】
本発明では、気相状態の硫黄と単量体を一緒にチャンバーで混合させることにより、開始剤なしにも気相での高分子蒸着に成功した。既存の液状工程とは違い、真空状態での硫黄を気相で単量体と混合する気相工程であるので、液相硫黄と混じらない多様な単量体を高分子に重合することができ、薄い高分子フィルムを蒸着するとき、多様な基板に損傷なしに適用可能である。また、非常に薄膜を製造することができ、液相工程では不可能な複雑な構造に蒸着することが可能である。
【0015】
本発明では、硫黄を加工して多様な高分子物質を合成するために、気相状態の硫黄を使って高分子重合を引き起こすことを特徴とする。図1は硫黄を開始剤として用いた化学気相蒸着(sCVD)工程の全般的な模式図及び反応工程(scheme)を示す。室温で環(ring)状態で存在する硫黄を加熱して気化させ、開環(ring opening)を引き起こしてラジカル状態の線形(linear)硫黄に変化させることにより、高分子重合を開始する開始剤として使用する。既存の液相状態での逆硫化(inverse vulcanization)反応とは違い、単量体と硫黄ラジカルが気相で混合されるから、相分離が起こる危険がないことが大きな利点である。したがって、多様な単量体を硫黄と重合させて共重合体にすることができ、2種以上の単量体を一緒に流すことにより、多様な高分子の合成が可能である。さらに、硫黄を単純に開始剤としての役割ではなくて、高分子重合での共重合体単位体として使うことにより、架橋結合可能な単量体とともに蒸着するとき、高硫黄含有量の高分子を生産することができる。
【0016】
図2aに示したように、ナノサイズ(nano size)のパターンにも等角の(conformal)フィルムが形成され、AFM分析によって非常に平坦なフィルムが合成されたことを確認した。これは、開始剤を用いて多様な構造の3D基板に均一な薄膜を蒸着することができる化学気相蒸着(iCVD)、原子層蒸着(ALD)などの気相蒸着を用いた他の方式と同様に、sCVDも気相蒸着の利点を生かすことができることを意味する。
【0017】
図2bは本発明で合成に成功した単量体を系列別に整理したものである。すなわち、ブタンジオールジビニルエーテル(butanediol divinyl ether、BDDVE)、ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル(di(ethylene glycol)divinyl ether、DEGDVE)、ジビニルベンゼン(divinyl benzene、DVB)、1,9-デカジエン(1,9-decadiene、DDE)、1,11-ドデカジエン(1,11-dodecadiene、DDDE)、1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリビニルシクロトリシロキサン(1,3,5-trimethyl-1,3,5-trivinyl cyclotrisiloxane、V3D3)、1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン(1,3,5,7-tetravinyl-1,3,5,7-tetramethylcyclotetrasiloxane、V4D4)又はヘキサビニルジシロキサン(hexavinyldisiloxane、HVDS)を用いて成功的に多様な硫黄共重合体を合成し、薄膜形態の高分子を蒸着することに成功した。合成された高分子は次のように名付けた。ポリ(サルファー-co-1,4-ブタンジオールジビニルエーテル)(poly(sulfur-co-1,4-butanediol divinyl ether、SBDDVE)、ポリ(サルファー-co-ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル)(poly(sulfur-co-di(ethylene glycol)divinyl ether、SDEGDVE)、ポリ(サルファー-co-ジビニルベンゼン)(poly(sulfur-co-divinyl benzene、SDVB)、ポリ(サルファー-co-1,9-デカジエン)(poly(sulfur-co-1,9-decadiene、SDDE)、ポリ(サルファー-co-1,11-ドデカジエン)(poly(sulfur-co-1,11-dodecadiene、SDDDE)、ポリ(サルファー-co-1,3,5-トリビニル-1,3,5-トリメチルシクロトリシロキサン)(poly(sulfur-co-1,3,5-trivinyl-1,3,5-trimethyl cyclotrisiloxane、SV3D3)、ポリ(サルファー-co-1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン)(poly(sulfur-co-1,3,5,7-tetravinyl-1,3,5,7-tetramethylcyclotetrasiloxane、SV4D4)及びポリ(サルファー-co-ヘキサビニルシロキサン(poly(sulfur-co-hexavinyldisiloxane、SHVDS)である。特に、使用された単量体は、2個以上のビニル(vinyl)基が硫黄と結合するとき、網状構造の架橋結合が可能な架橋高分子である。
【0018】
高分子蒸着のために、単量体を加熱して気相状態で真空状態のチャンバー内に流入させ、同時に固相状態の硫黄をチャンバーの内部で加熱して気化させることにより、硫黄と単量体の2種の気体を気相で混合する。チャンバーの内部のフィラメントを熱く加熱させることで、気化した硫黄がラジカルをもっとよく生成するようにし、ターゲット基板を他の部分より低い110~130℃程度に加熱させることにより、硫黄と単量体を吸着して高分子重合が起こるようにする。
【0019】
本発明において、前記高分子は、ポリ(サルファー-co-1,4-ブタンジオールジビニルエーテル)(poly(sulfur-co-1,4-butanediol divinyl ether、SBDDVE)、ポリ(サルファー-co-ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル)(poly(sulfur-co-di(ethylene glycol)divinyl ether、SDEGDVE)、ポリ(サルファー-co-ジビニルベンゼン)(poly(sulfur-co-divinyl benzene、SDVB)、ポリ(サルファー-co-1,9-デカジエン)(poly(sulfur-co-1,9-decadiene、SDDE)、ポリ(サルファー-co-1,11-ドデカジエン)(poly(sulfur-co-1,11-dodecadiene、SDDDE)、ポリ(サルファー-co-1,3,5-トリビニル-1,3,5-トリメチルシクロトリシロキサン)(poly(sulfur-co-1,3,5-trivinyl-1,3,5-trimethyl cyclotrisiloxane、SV3D3)、ポリ(サルファー-co-1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン)(poly(sulfur-co-1,3,5,7-tetravinyl-1,3,5,7-tetramethylcyclotetrasiloxane、SV4D4)又はポリ(サルファー-co-ヘキサビニルシロキサン(poly(sulfur-co-hexavinyldisiloxane、SHVDS)であることができる。
【0020】
前記工程は、90~140℃の基板温度、好ましくは110~130℃、及び500~1500mTorrの圧力で5分~2時間遂行することができる。ここで、温度が90℃未満の場合はぼんやりと(foggy)蒸着されることができ、140℃を超える場合は反応物が吸着しなくてフィルムが形成されない問題があり、前記反応器内のチャンバーの圧力が500mTorr未満であるか1500mTorrを超える場合、蒸着ができないか又は蒸着したフィルムが汚くなる問題がある。そして、硫黄の量は蒸着の厚さに比例し、反応条件によってフィルムで再結晶が起こる問題点がある。
【0021】
また、本発明において、前記(b)段階の後、反応器内部のフィラメントを330~380℃の温度に加熱する段階をさらに含むことができる。また、前記(c)段階で、基板を110~130℃の温度に加熱することができる。
【0022】
本発明において、前記単量体はビニル基を有する単量体であり、ブタンジオールジビニルエーテル(butanediol divinyl ether、BDDVE)、ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル(di(ethylene glycol)divinyl ether、DEGDVE)、ジビニルベンゼン(divinyl benzene、DVB)、1,9-デカジエン(1,9-decadiene、DDE)、1,11-ドデカジエン(1,11-dodecadiene、DDDE)、1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリビニルシクロトリシロキサン(1,3,5-trimethyl-1,3,5-trivinyl cyclotrisiloxane、V3D3)、1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン(1,3,5,7-tetravinyl-1,3,5,7-tetramethylcyclotetrasiloxane、V4D4)及びヘキサビニルジシロキサン(hexavinyldisiloxane、HVDS)からなる群から選択される1種以上を使うが、これに限定されるものではない。
【0023】
前記(a)段階で流入した硫黄の量に比例して厚さと屈折率が増加する。
【0024】
前記高分子の厚さは10nm~2μmの範囲で調節可能である。
【0025】
前記基板は、シリコンウエハー(silicon wafer)、ガラス(glass)、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate、PET)、ポリエチレンナフタレート(polyethylene naphthalate、PEN)、ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane、PDMS)、ポリイミド(polyimide、PI)、ラテックス(latex)、多孔性ステンレススチールメッシュ(porous stainless steel mesh)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane)、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone、PES)、ポリスルホン(polysulfone、PSF)及びポリビニリデンフルオリド(poly(vinylidenedifluoride)、PVDF)からなる群から選択される1種であることができる。
【0026】
図3はsCVDで合成した硫黄共重合体のFT-IRとXPS分析結果を示す。FT-IRでは、単量体、iCVDで蒸着した高分子、及びsCVDで蒸着した高分子の吸収ピーク(peak)を比較した。ただ、BDDVE、DEGDVE、DDE、DDDEの場合、ホモ重合(homo-polymerization)されない物質であるので、iCVDで蒸着することができないから除いた。単量体、iCVDで蒸着した高分子、及びsCVDで蒸着した高分子が共に各単量体の作用基部分がよく観測され、sCVDで蒸着した高分子でのみ、480cm-1付近でS-Sストレッチングピーク(stretching peak)が、1080cm-1でC-Sストレッチングピークが観測された。これは、sCVD工程によって全ての単量体が硫黄と成功的に反応したことを意味する。XPS分析によって、sCVDで合成したSBDDVE高分子の構成元素定量分析を行い、それぞれ元素の高解像度測定によって結合状態を確認した。C 1sピーク、O 1sピークでC-C-O、C-C-C、C-C-S、及びO-C-Sピークを確認した。これは、BDDVEの単量体が損傷なしに高分子に合成されたことを意味する。S2pピークの高解像度測定によって、S-S結合とS-C結合が共存していることを確認した。FT-IRとXPS結果によって、作られた高分子薄膜の成分が、モノマーの変性又は熱による自己蒸着ではなくて硫黄と単量体の化学的結合によって作られた物質であることを確認することができる。
【0027】
本発明において、硫黄結合長(sulfur rank)とは硫黄結合自体の長さを意味するものではなく、高分子内の単量体と単量体を連結する結合に何個の硫黄原子が結合されているかを意味するものであり(単位なし)、好ましくは2.0~8.0、より好ましくは3.0~7.5の範囲である。
【0028】
図4はXPS分析結果とS2p高解像度グラフによって計算した、sCVDで重合した高分子内の硫黄結合長を示している。S2p高解像度グラフをデコンボリューション(deconvolution)したとき、高分子C-S/S-Sの比を得ることができ、これから高分子内の硫黄結合長を計算することができる(From S2p)。また、一つのビニル基が2個のC-S結合を形成し、重合後に単量体に残ったビニル基がないと仮定するとき、元素の比によって高分子内の平均硫黄結合長を計算することができる(From survey)。デコンボリューション(deconvulution)によって計算した硫黄結合長と、元素の比によって計算した硫黄結合長の差がほとんどないことが分かる。これは、先立って仮定した合成された高分子内に未反応ビニル基がほとんど残っていなく、形成された硫黄結合長が短く、高い架橋度を示すことを意味する。これにより、本発明で開発したsCVD工程通により、逆硫化反応で問題となった、長い結合長による低い長期安全性、色が現れる問題を解決することができることを示す。
【0029】
図5はsCVDで合成した硫黄共重合体のXRD、TGA及びDSC分析結果を示す。XRD分析では、硫黄の場合は結晶性を有しているから、特定の角度で結晶性ピークを示す反面、sCVDで合成したSBDDVEの場合は全ての角度で結晶性がなく、非晶質(amorphous)性質を示す。DSC結果では、硫黄の場合は110℃~130℃付近で融点を有しているから、熱を吸収するピークが現れるが、sCVDで合成したSBDDVEの場合は該当ピークが現れないことを確認した。また、Tg値も、-30℃付近で有する硫黄に比べ、非常に高い値を示す。TGA結果では、硫黄の場合は300℃及び400℃で全て分解(decompose)して質量%が0%まで到逹するが、SBDDVEの場合は500℃以上でも質量%が残っていることが分かる。これは、S-S結合は全て分解するがC-C/C-S結合が残っていることを意味する。この三つの分析結果は、sCVDで合成した硫黄高分子は未反応の硫黄が存在しなく、反応物が単量体とよく結合していることを意味する。
【0030】
本発明において、sCVDで合成した高分子の光学的特性を分析した結果から、sCVDで合成した高分子は高分子物質であり、非常に高い屈折率を有しており、可視光領域で吸光がほとんどないことが分かる。実際に、1μm以上の厚さで透明度を測定したとき、90%以上の透明度を示すことを確認した。これは、既存の逆硫化によって合成された硫黄高分子とは違う特徴であり、気相で均質に(homogenous)混合されて現れる特徴と予想される。透明度は90%以上、好ましくは90~99.9%の透明度を有することができる。
【0031】
また、sCVD工程によって屈折率と厚さを調節することができる。屈折率の場合は1.7前半から1.9前半程度であり、高分子物質としては非常に高い値を有する。現在まで透明でありながらもこの範囲の屈折率を有する高分子物質はない。
【0032】
本発明では、硫黄と単量体を気相で真空チャンバーに注入して高硫黄含量の高分子を蒸着することができる。このような技術は既存のバッテリー、レンズ、絶縁膜などの多様な分野に新しく適用することができると展望される。
【0033】
本発明では、硫黄高分子を合成するために、図7のように設計した結果、硫黄を開始剤として使用する化学気相蒸着装備で製造した結果、優れた物性の硫黄高分子の合成が可能であることを確認した。
【0034】
したがって、本発明は、さらに他の観点で、(a)sCVD反応器10と、(b)sCVD反応器10の下端に設けられ、反応器10の下端に固体硫黄をローディングすることができ、工程中に加熱されて硫黄を蒸発させる硫黄ローディングソースセル100と、(c)sCVD反応器10の上端に連結され、流入した単量体を十分な蒸気圧を有するように加熱した後、気相の単量体をsCVD反応器10の内部に移動させる単量体ローディング部200と、(d)高温の金属合金線から構成され、前記硫黄ローディングソースセル100から蒸発した気相硫黄の結合長を短くし、気化した硫黄が基板400に移動するようにするフィラメント300と、(e)上面がsCVD反応器10の下方に向かうように装着され、前記(c)の単量体ローディング部200からsCVD反応器10の内部に移動した単量体が上面に吸着され、蒸発した硫黄と高分子の合成反応が進行される基板400とを含む、硫黄を開始剤として使用する化学気相蒸着(sCVD)を用いた高分子膜の製造装置1に関するものである。
【0035】
前記硫黄高分子を合成するための硫黄を開始剤として使用する化学気相蒸着装備は図7に示されている。本発明による装置は大別して四つの部分から構成されている。
【0036】
(A)硫黄ローディングソースセル100
この構成は硫黄をローディングするソースセル(source cell)部分である。本発明によるシステムでは、元素硫黄を~3gまでローディングすることができ、高温を耐えるためにセラミック素材から構成されている。ソースセルの周辺にはラインヒーター(line heater)があり、このヒーターはソースセルの温度を調節することができる。使用されるヒーターは昇温速度も設定することができ、最大350℃程度の温度に上げることができる。昇温速度と温度は硫黄の蒸発速度と蒸発量に影響を与え、適切な昇温速度及び温度で硫黄が基板に均一に伝達され、優れた物性の硫黄高分子が合成される。
【0037】
(B)単量体ローディング部200
硫黄と反応する単量体をローディングする部分である。単量体はSUSから構成される小さな容器に最大で30ml程度まで入れ、反応器から出たラインに締結して使用する。硫黄より蒸気圧が低い単量体を使い、気相で反応器に注入するために、ヒーターを使って充分に加熱する。加熱温度は使用される単量体ごとに異なり、20~120℃程度の範囲で加熱する。前記sCVD反応器10との連結ラインの上側にはボールバルブ(ball valve)とニードルバルブ(needle valve)が備えられている。
【0038】
反応器と単量体の締結部位を連結するラインに気化した単量体が吸着することを防ぐために、締結部分から反応器まで連結されるラインもヒーターを使って80~110℃程度の範囲で加熱する。sCVD反応器10の内部にバラトロンセンサー(baratron sensor)を備え、当該センサーが測定する圧力で単量体の注入量を設定する。
【0039】
(C)フィラメント300
フィラメントは気化した硫黄が通る部分であり、Cr/Ni線から構成される。フィラメントの温度は400℃まで加熱可能である。フィラメントは前記硫黄ローディングソースセル100から蒸発した気相硫黄の結合長を短くする。また、この装備でフィラメントの高さ(硫黄ローディングソースセルから基板までの距離)を流動的に調節することができ、適切な位置で優れた物性の硫黄分子が合成される。
【0040】
(D)基板400
一般的に、10*10のサイズを有するSUS基板が使われ、この装備に対して付着及び脱着可能である。目標物質を基板に固定した後、下方に向かうように基板を装着する方式で装備が構成されている。装着された基板の位置もフィラメントと同様に流動的に調節可能であり、回転可能に設計されている。基板の回転により、下側のソースセルから蒸発した硫黄が均一に蒸着されることができ、これにより優れた物性の硫黄高分子を合成することができる。
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないことは当該分野で通常の知識を有する者に明らかであろう。
【0042】
[実施例]
製造例1:sCVDによるポリ(サルファー-co-1,4-ブタンジオールジビニルエーテル)(poly(sulfur-co-1,4-butanediol divinyl ether、SBDDVE)の製造
【0043】
単量体ブタンジオールジビニルエーテル(BDDVE)10mlを60℃に加熱して気相状態で真空状態のチャンバー内に流入させ、同時に固相状態の硫黄0.01g~1.5gをチャンバーの内部で180℃に加熱して気化させることにより、硫黄と単量体の2種の気体を気相で混合した。チャンバーの内部にフィラメントを熱く(350℃)加熱させ、気化した硫黄がラジカルをよりよく生成するようにし、ターゲット基板を110~130℃程度に加熱させて硫黄と単量体を重合させることにより、SBDDVEが蒸着した高分子膜を製造した。チャンバーの内部圧力を500-1500mTorrに維持した。
【0044】
製造例2:ポリ(サルファー-co-ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル)(poly(sulfur-co-di(ethylene glycol)divinyl ether、SDEGDVE)の製造
【0045】
製造例1で単量体としてジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル(DEGDVE)を使ってSDEGDVEの蒸着した高分子膜を製造したことを除き、製造例1と同様に実施した。
【0046】
製造例3:ポリ(サルファー-co-ジビニルベンゼン)(poly(sulfur-co-divinyl benzene、SDVB)の製造
【0047】
製造例1で単量体としてジビニルベンゼン(DVB)を使ってSDVBの蒸着した高分子膜を製造したことを除き、製造例1と同様に実施した。
【0048】
製造例4:ポリ(サルファー-co-1,9-デカジエン)(poly(sulfur-co-1,9-decadiene、SDDE)の製造
【0049】
製造例1で単量体として1,9-デカジエン(DDE)を使ってSDDEの蒸着した高分子膜を製造したことを除き、製造例1と同様に実施した。
【0050】
製造例5:ポリ(サルファー-co-1,11-ドデカジエン)(poly(sulfur-co-1,11-dodecadiene、SDDDE)の製造
【0051】
製造例1で単量体として1,11-ドデカジエン(DDDE)を使ってSDDEの蒸着した高分子膜を製造したことを除き、製造例1と同様に実施した。
【0052】
製造例6:ポリ(サルファー-co-1,3,5-トリビニル-1,3,5-トリメチルシクロトリシロキサン)(poly(sulfur-co-1,3,5-trivinyl-1,3,5-trimethyl cyclotrisiloxane、SV3D3)の製造
【0053】
製造例1で単量体として1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリビニルシクロトリシロキサン(V3D3)を使ってSV3D3の蒸着した高分子膜を製造したことを除き、製造例1と同様に実施した。
【0054】
製造例7:ポリ(サルファー-co-1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン)(poly(sulfur-co-1,3,5,7-tetravinyl-1,3,5,7-tetramethylcyclotetrasiloxane、SV4D4)の製造
【0055】
製造例1で単量体として1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン(V4D4)を使ってSV4D4の蒸着した高分子膜を製造したことを除き、製造例1と同様に実施した。
【0056】
製造例8:ポリ(サルファー-co-ヘキサビニルシロキサン(poly(sulfur-co-hexavinyldisiloxane、SHVDS)の製造
【0057】
製造例1で単量体としてヘキサビニルジシロキサン(HVDS)を使ってSHVDSの蒸着した高分子膜を製造したことを除き、製造例1と同様に実施した。
【0058】
比較例1:iCVDによるポリ(ジビニルベンゼン)(poly(divinyl benzene、pDVB))の製造
【0059】
単量体ジビニルベンゼン(divinyl benzene、DVB、99%、Aldrich社、米国)と開始剤tert-ブチルペルオキシド(tert-butyl peroxide(TBPO)、98%、Aldrich社、米国)を用いて重合を実施した。単量体及び開始剤を精製せずに使った。蒸気化した単量体及び開始剤をiCVD反応器(Daeki Hi-Tech Co.、Ltd)に注入した。蒸気フローを得るために、TBPOは常温に維持し、DVBを40度に加熱した。
【0060】
DVB及びTBPOの投入速度をそれぞれ1.679及び0.613sccmに設定し、反応器圧力と基板温度を250mtorr及び38℃に維持した。フィラメント温度を140℃に設定した
【0061】
比較例2:iCVDによるポリ(1,3,5-トリビニル-1,3,5-トリメチルシクロシロキサン)(poly(1,3,5-trivinyl-1,3,5-trimethyl cyclotrisiloxane)、pV3D3)の製造
【0062】
ポリ(1,3,5-トリビニル-1,3,5-トリメチルシクロシロキサン)(poly(1,3,5-trivinyl-1,3,5-trimethyl cyclotrisiloxane、pV3D3))重合体を製造するために、iCVD反応器内にV3D3及びTBPOの蒸気フローを得るために、TBPOは常温に維持し、V3D3を40℃に加熱し、投入速度をそれぞれ4.12及び1.61sccmに設定した。反応器の圧力と基板温度を300mtorr及び40℃に維持した。フィラメント温度を140℃に設定した。
【0063】
比較例3:iCVDによるポリ(1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン)(poly(1,3,5,7-tetravinyl-1,3,5,7-tetramethylcyclotetrasiloxane)、pV4D4)の製造
【0064】
ポリ(1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン)(poly(1,3,5,7-tetravinyl-1,3,5,7-tetramethylcyclotetrasiloxane))重合体を製造するために、iCVD反応器内にV4D4及びTBPOの蒸気フローを得るために、TBPOは常温に維持し、V4D4を70℃に加熱し、投入速度をそれぞれ0.93及び0.67sccmに設定した。蒸気圧力と基板温度を145mtorr及び40℃に維持した。フィラメント温度を140℃に設定した。
【0065】
比較例4:iCVDによるポリ(ヘキサビニルシロキサン(poly(hexavinyldisiloxane)、pHVDS)の製造
【0066】
ポリ(ヘキサビニルシロキサン(poly(hexavinyldisiloxane)、pHVDS)重合体を製造するために、iCVD反応器内にHVDS及びTBPOの蒸気フローを得るために、TBPOは常温に維持し、HVDSを40℃に加熱し、投入速度をそれぞれ0.99及び0.74sccmに設定した。蒸気圧力と基板温度を200mtorr及び30℃に維持した。フィラメント温度を140℃に設定した。
【0067】
実施例1:sCVDとiCVDを用いて製造された高分子の分析
【0068】
図2はsCVDで合成したフィルムのAFM分析結果である。相イメージで相分離が発生しなく、フィルムがよく合成されたことを示し、高さイメージで0.365nmの低い表面粗さを有して非常に平たいフィルムが形成されたことが分かる。図3はsCVDで合成した硫黄共重合体のFT-IRとXPS分析結果である。FT-IRでは、単量体、iCVDで蒸着した高分子、及びsCVDで蒸着した高分子の吸収ピーク(peak)を比較した。ただ、BDDVE、DEGDVE、DDE、DDDEの場合、ホモ重合(homo-polymerization)されない物質であるので、iCVDで蒸着することができないから除いた。単量体、iCVDで蒸着した高分子、及びsCVDで蒸着した高分子が共に各単量体の作用基部分がよく観測され、sCVDで蒸着した高分子でのみ、480cm-1付近でS-Sストレッチングピーク(stretching peak)が、1080cm-1でC-Sストレッチングピークが観測された。これは、sCVD工程によって全ての単量体が硫黄と成功的に反応したことを意味する。XPS分析により、sCVDで合成したSBDDVE高分子の構成元素定量分析を行い、それぞれの元素の高解像度測定により結合状態を確認した。C 1sピーク、O 1sピークでC-C-O、C-C-C、C-C-S、及びO-C-Sピークを確認した。これは、BDDVEの単量体の損傷なしに高分子が合成されたことを意味する。S 2pピークの高解像度測定により、S-S結合とS-C結合が共存していることを確認した。FT-IRとXPS結果により、製造された高分子薄膜の成分がモノマーの変性又は熱による自己蒸着ではなくて硫黄と単量体の化学的結合によって作られた物質であることを確認することができる。
【0069】
実施例2:sCVDを用いて製造された高分子の硫黄結合長の分析
【0070】
図4はXPS分析結果とS2p高解像度グラフによって計算した、sCVDで重合した高分子内の硫黄結合長を示している。S2p高解像度グラフをデコンボリューション(deconvolution)したとき、高分子C-S/S-Sの比を得ることができ、これから高分子内の硫黄結合長を計算することができる(From S2p)。また、一つのビニル基が2個のC-S結合を形成し、重合後に単量体に残ったビニル基がないと仮定するとき、元素の比によって高分子内の平均硫黄結合長を計算することができる(From survey)。デコンボリューション(deconvulution)によって計算した硫黄結合長と元素の比によって計算した硫黄結合長の差がほとんどないことが分かる。これは、先立って仮定した合成された高分子内に未反応のビニル基がほとんど残っていなく、形成された硫黄結合長が短く、高い架橋度を示すことを意味する。これにより、本発明で開発したsCVD工程により、逆硫化反応で問題となった、長い結合長による低い長期安全性、及び色が現れる問題を解決することができることを示す。
【0071】
実施例3:sCVDを用いて製造された高分子の結晶性分析
【0072】
図5はsCVDで合成した硫黄共重合体のXRD、TGA、DSC分析結果を示す。XRD分析では、硫黄の場合は結晶性を有して特定の角度で結晶性ピークを示す反面、sCVDで合成したSBDDVEの場合は全ての角度で結晶性がなく、非晶質(amorphous)性質を示す。DSC結果では、硫黄の場合は110℃~130℃付近で融点を有して熱を吸収するピークが現れるが、sCVDで合成したSBDDVEの場合は該当ピークが現れないことを確認した。また、Tg値も、-30℃付近で有する硫黄に比べ、非常に高い値を示す。TGA結果で、硫黄の場合は300℃及び400℃で全て分解(decompose)して質量%が0%まで到逹するが、SBDDVEの場合は500℃以上でも質量%が残っていることが分かる。これは、S-S結合は全て分解するがC-C/C-S結合が残っていることを意味する。この三つの分析結果は、sCVDで合成した硫黄高分子は未反応の硫黄が存在しなく、反応物が単量体とよく結合していることを意味する。
【0073】
実施例4:sCVDを用いて製造された高分子の光学的特性分析
【0074】
図6はsCVDで合成した高分子の光学的特性を示している。sCVDで合成した高分子は高分子物質であり、非常に高い屈折率を有し、可視光領域で吸光がほとんどないことを示している。実際に透明度を測定したとき、1μm以上の厚さでも90%以上の透明度を示すことを確認した。これは、既存の逆硫化によって合成された硫黄高分子とは違う特徴であり、気相で均質に(homogenous)混合されて現れる特徴であると予想される。また、図5の右側グラフから分かるように、sCVD工程によって屈折率と厚さを調節することができた。屈折率は1.7前半から1.9後半程度であり、高分子物質としては非常に高い値であり、現在まで透明でありながらこの範囲の屈折率を有する高分子物質はない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によるsCVDを用いた高分子膜の製造方法は、既存の液相状態での逆硫化反応とは違い、単量体と硫黄ラジカルが気相で混合されるから、相分離が発生する危険がなく、多様な単量体を硫黄と重合させて共重合体にすることができ、2種以上の単量体を一緒に流すことにより、多様な高分子の合成が可能である。さらに、硫黄を単に開始剤としての役割だけではなく、高分子重合での共重合体単位体として使うことにより、架橋結合が可能な単量体とともに蒸着するとき、高硫黄含有量の高分子を生産することができる。
【0076】
また、硫黄と単量体を気相で真空チャンバーに注入することにより、多様な単量体を用いて硫黄含量の高い高分子を蒸着することができ、透明な硫黄高分子を合成することができる。これは、既存のバッテリー、レンズ、絶縁膜などの多様な分野に新しく適用することができる。
【0077】
以上で本発明内容の特定部分を詳細に説明したが、当該分野の通常の知識を有する者にとってこのような具体的説明はただ好適な実施様態であるだけ、これによって本発明の範囲が制限されるものではない点は明らかであろう。よって、本発明の実質的な範囲は添付した特許請求の範囲とそれらの等価物によって定義されると言える。
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】