(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-10
(54)【発明の名称】プリンヌクレオチドを生産する微生物及びそれを用いたプリンヌクレオチドの生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20220427BHJP
C12P 19/32 20060101ALI20220427BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20220427BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P19/32
C12N15/31
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533143
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(85)【翻訳文提出日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 KR2021002150
(87)【国際公開番号】W WO2021167414
(87)【国際公開日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】10-2020-0021383
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジ ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】バーク,ソ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】クォン,ヒ ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,デ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジ ヒェ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE01
4B064CA03
4B064CA19
4B064CC24
4B064CD13
4B064DA01
4B064DA10
4B065AA24X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BD50
4B065CA23
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム属微生物及び前記微生物を用いてプリンヌクレオチドを生産する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pstSCABオペロンによりコードされるリン酸流入システムの活性が強化された、プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物。
【請求項2】
前記リン酸流入システムの活性強化は、pstS、pstC、pstA及びpstBからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子によりコードされるタンパク質の活性が強化されるものである、請求項1に記載のコリネバクテリウム属微生物。
【請求項3】
前記pstS遺伝子によりコードされるタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含むものである、請求項2に記載のコリネバクテリウム属微生物。
【請求項4】
前記pstC遺伝子によりコードされるタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列を含むものである、請求項2に記載のコリネバクテリウム属微生物。
【請求項5】
前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)又はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項1に記載のコリネバクテリウム属微生物。
【請求項6】
前記プリンヌクレオチドは、5'-イノシン酸(5'-inosine monophosphate,IMP)、5'-キサンチル酸(5'-xanthosine monophosphate,XMP)及び5'-グアニル酸(5'-guanosine monophosphate,GMP)からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載のコリネバクテリウム属微生物。
【請求項7】
pstSABCオペロンによりコードされるリン酸流入システムの活性が強化された、プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム属微生物を培地で培養するステップを含む、プリンヌクレオチドの生産方法。
【請求項8】
前記方法は、培養した培地又は微生物からプリンヌクレオチドを回収するステップをさらに含む、請求項7に記載のプリンヌクレオチドの生産方法。
【請求項9】
前記プリンヌクレオチドは、5'-イノシン酸、5'-キサンチル酸及び5'-グアニル酸からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項8に記載のプリンヌクレオチドの生産方法。
【請求項10】
pstSABCオペロンによりコードされるリン酸流入システムの活性が強化されたコリネバクテリウム属微生物を含むプリンヌクレオチド生産用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム属微生物及び前記微生物を用いてプリンヌクレオチドを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンヌクレオチド、例えば5'-イノシン酸(5'-inosine monophosphate;以下、IMP)、5'-キサンチル酸(5'-xanthosine monophosphate;以下、XMP)及び5'-グアニル酸(5'-guanosine monophosphate;以下、GMP)は、核酸生合成代謝系の中間物質であり、体内で生理的に重要な役割を果たし、食品、医薬品などに広く用いられている。具体的には、IMPはそれ自体が牛肉の旨味を呈し、XMPに由来するGMPはきのこの旨味を呈することが知られており、どちらの物質もグルタミン酸ナトリウム(MSG)の風味を強化することから、呈味性核酸系調味料として脚光を浴びている。
【0003】
リン酸は、プリンヌクレオチドの構成物質であり、微生物の生長に必要なエネルギーを提供し、細胞膜のリン脂質や核酸及びタンパク質生合成における必須の要素である。また、細胞シグナル伝達過程においても主な役割を果たす。
【0004】
リン酸は、主に無機リン酸(inorganic orthophosphate;以下、Piという)の形態で細胞内に吸収される。微生物のPi流入は、細胞膜に存在するインポーター(importer)の機能に依存する。従来から知られているPiインポーターとしては、細胞の外部のPi濃度を認知して発現が調節される高親和性(high-affinity)Pi流入システムであるPstシステム、Pi濃度に関係なく発現して金属イオンとの混合形態でPiを流入するPitシステム、有機リン酸の形態であるグリセロール-3-リン酸及びグルコース-6-リン酸を流入するアンチポーター(antiporter)輸送システムなどが挙げられる。
【0005】
前記リン酸流入システムのうちPstシステムを調節してアミノ酸生産に用いるいくつかの方法が報告されているが(特許文献1及び2)、Pstシステムの影響力は用いる微生物又は目的とする産物によって異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/050276号
【特許文献2】国際公開第2003/008607号
【特許文献3】韓国登録特許第10-0620092号公報
【特許文献4】韓国登録特許第10-1950141号公報
【特許文献5】韓国登録特許第10-1956510号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sambrook et al., supra, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【非特許文献2】Pearson et al (1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【非特許文献3】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【非特許文献4】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【非特許文献5】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【非特許文献6】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【非特許文献7】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【非特許文献8】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【非特許文献9】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【非特許文献10】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【非特許文献11】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【非特許文献12】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【非特許文献13】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York
【非特許文献14】Introduction to Biotechnology and Genetic Engineering, A. J. Nair., 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、プリンヌクレオチドを微生物発酵により生産する過程で、重要構成物質であるリン酸の流入量が重要であることを確認した。よって、リン酸インポーターの発現量を微生物内で調節することによりプリンヌクレオチド生産が向上することを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、リン酸インポーター(importer)の活性が強化された、プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、リン酸インポーターの活性が強化された、プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム属微生物を培地で培養するステップを含む、プリンヌクレオチドの生産方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リン酸インポーターの活性を強化することにより、プリンヌクレオチド生産の重要な成分であるリン酸の微生物内への流入を円滑にすることができる。こうすることにより、プリンヌクレオチドを生産する微生物は、プリンヌクレオチドを効率的に生産することができ、プリンヌクレオチドを産業的規模で生産する際のコスト低減に大きく寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本明細書で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本明細書で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0013】
前記目的を達成するための本発明の一態様は、リン酸インポーター(importer)の活性が強化された、プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物を提供する。
【0014】
本発明における「リン酸インポーター(importer)」とは、細胞内にリン酸を吸収する機能を有するタンパク質を意味する。リン酸は主に無機リン酸(inorganic orthophosphate;以下、Piという)の形態で細胞内に吸収されるが、それは細胞膜に存在するインポーターの機能に依存することが知られている。具体的には、従来から知られているPiインポーターとしては、Pstシステム、Pitシステム、有機リン酸の形態であるグリセロール-3-リン酸及びグルコース-6-リン酸を流入するアンチポーター(antiporter)輸送システムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
本発明の目的上、前記リン酸インポーターはPstシステムであるが、これに限定されるものではない。
【0016】
本発明における「Pstシステム」とは、リン酸インポーター、すなわちPiインポーターの一種であるリン酸アデノシン三リン酸結合カセット輸送システムを意味し、Piに親和性が高く、リン酸結合タンパク質(Phosphate binding protein;以下、PstS)、リン酸アデノシン三リン酸結合カセット輸送体の内膜サブユニット(Phosphate ATP-binding cassette transporter, inner membrane subunit;以下、PstC)、リン酸アデノシン三リン酸結合カセット輸送体のパーミアーゼ(Phosphate ABC transporter,permease protein;以下、PstA)、リン酸アデノシン三リン酸結合カセット輸送体のアデノシン三リン酸結合タンパク質(Phosphate ABC transporter, ATP-binding protein;以下、PstB)からなるpstオペロンにより発現することが知られている(Aguena et al.,2002)。具体的には、PstSは、細胞の外部のPi濃度を認識してPiを細胞の内部に輸送する機能を果たすことが知られており(Surin et al.,2002)、PstCとPstBは、膜横断タンパク質であり、Piが細胞の内部に移動する通路として用いられることが知られており、PstBは、アデノシン三リン酸と結合し、それによりPi流入のためのエネルギーを得る機能を果たすことが知られている(Webb et al.,1992; Chan and Torriani,1996)。一般に、pstオペロンは、細胞の外部のPi濃度が高いときは抑制された状態が維持され、細胞の外部のPi濃度がマイクロモル(μM)以下に低くなると発現が強化されることが報告されている(Surin et al.,1985; Magota K et al.,1982)。
【0017】
本発明において、前記PstSは配列番号1のアミノ酸配列を含むものであってもよく、前記PstCは配列番号3のアミノ酸配列を含むものであってもよく、前記PstAは配列番号5のアミノ酸配列を含むものであってもよく、前記PstBは配列番号7のアミノ酸配列を含むものであってもよい。具体的には、配列番号1、配列番号3、配列番号5又は配列番号7は、pstS、pstC、pstA又はpstB遺伝子によりコードされるPstS、PstC、PstA又はPstBの活性を有するタンパク質配列であってもよい。配列番号1、配列番号3、配列番号5又は配列番号7のアミノ酸は、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列が得られる。例えば、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)由来のものが挙げられるが、これに限定されるものではなく、前記アミノ酸と同じ活性を有する配列であればいかなるものでもよい。また、本発明におけるPstS、PstC、PstA又はPstBの活性を有するタンパク質は、たとえ配列番号1、配列番号3、配列番号5又は配列番号7のアミノ酸を含むタンパク質であると定義したとしても、配列番号1、配列番号3、配列番号5又は配列番号7のアミノ酸配列の前後の無意味な配列付加、自然発生する突然変異、又はその非表現突然変異(silent mutation)を除外するものではなく、配列番号1、配列番号3、配列番号5又は配列番号7のアミノ酸配列を含むタンパク質と同一又は相当する活性を有するものであれば、本発明のPstS、PstC、PstA又はPstBの活性を有するタンパク質に含まれることは当業者にとって自明である。具体的には、本発明のPstS、PstC、PstA又はPstBの活性を有するタンパク質は、配列番号1、配列番号3、配列番号5もしくは配列番号7のアミノ酸配列、又はそれらと80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上もしくは99%以上の相同性もしくは同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。また、そのような相同性又は同一性を有し、前記タンパク質に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本発明のタンパク質に含まれることは言うまでもない。
【0018】
すなわち、本発明に「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質又はポリペプチド」、「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はポリペプチド」と記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であっても本発明に用いられることは言うまでもない。例えば、「配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド」は、それと同一又は相当する活性を有するものであれば、「配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド」に属することは言うまでもない。
【0019】
また、本発明における配列番号1、配列番号3、配列番号5又は配列番号7のアミノ酸配列は、例えばそれぞれ配列番号2、配列番号4、配列番号6又は配列番号8の塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされるものであってもよい。
【0020】
本発明における「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド単量体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)であって、所定の長さより長いDNA又はRNA鎖を意味する。本発明における前記ポリヌクレオチドは、配列番号1、配列番号3、配列番号5又は配列番号7のアミノ酸配列を有するPstS、PstC、PstA又はPstBの活性を示すポリペプチドをコードするものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0021】
前記ポリヌクレオチドは、本発明によるPstS、PstC、PstA又はPstBの活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであればいかなるものでもよい。本発明におけるPstS、PstC、PstA又はPstBのアミノ酸配列をコードする遺伝子は、それぞれpstS、pstC、pstA又はpstB遺伝子であり、前記遺伝子は、コリネバクテリウム・スタティオニス由来のものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0022】
具体的には、前記PstS、PstC、PstA又はPstBの活性を示すポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号1、配列番号3、配列番号5又は配列番号7で表されるアミノ酸をコードする塩基配列を含むものであってもよい。前記ポリヌクレオチドは、コドンの縮退(degeneracy)により、又は前記ポリペプチドを発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、ポリペプチドのアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。前記ポリヌクレオチドは、例えば配列番号2、配列番号4、配列番号6又は配列番号8の塩基配列を含むものであるか、それと相同性が80%以上、具体的には90%以上の塩基配列を含むものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0023】
また、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば前記塩基配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることにより、配列番号1、配列番号3、配列番号5又は配列番号7のアミノ酸配列をコードする配列であればいかなるものでもよい。前記「ストリンジェントな条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は文献(例えば、非特許文献1)に具体的に記載されている。例えば、相同性又は同一性の高い遺伝子同士、40%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性又は同一性を有する遺伝子同士をハイブリダイズし、それより相同性又は同一性の低い遺伝子同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーション(southern hybridization)の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。
【0024】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格さに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本出願には、実質的に類似した核酸配列だけでなく、全配列に相補的な単離された核酸断片が含まれてもよい。
【0025】
具体的には、相同性又は同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて探知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0026】
ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切な厳格さはポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野で公知である(非特許文献1参照)。
【0027】
本発明における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が関連する程度を意味し、百分率で表される。相同性及び同一性は、しばしば相互交換的に用いられる。
【0028】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準的な配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全体又は全長の少なくとも約50%以上、60%以上、70%以上、80%以上又は90%以上ハイブリダイズする。そのハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドがコドンの代わりに縮退コドンを有するようにするものであってもよい。
【0029】
任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献2のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献3)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献4)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献5)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献6,7,8)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0030】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献9に開示されているように、非特許文献4などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)二進法比較マトリクス(同一性は1、非同一性は0の値をとる)及び非特許文献10に開示されているように、非特許文献11の加重比較マトリクス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリクス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップ開放ペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含む。
【0031】
また、任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、定義されたストリンジェントな条件下にてサザンハイブリダイゼーション実験で配列を比較することにより確認することができ、定義される好適なハイブリダイゼーション条件は当該技術の範囲内であり、当業者に周知の方法(例えば、非特許文献12、13)で決定されてもよい。
【0032】
本発明における前記リン酸流入システムの活性強化は、pstS、pstC、pstA及びpstBからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子によりコードされるタンパク質の活性が強化されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
前記pstS遺伝子によりコードされるタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含むものであるが、これに限定されるものではない。
【0034】
前記pstC遺伝子によりコードされるタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列を含むものであるが、これに限定されるものではない。
【0035】
前記pstA遺伝子によりコードされるタンパク質は、配列番号5のアミノ酸配列を含むものであるが、これに限定されるものではない。
【0036】
前記pstB遺伝子によりコードされるタンパク質は、配列番号7のアミノ酸配列を含むものであるが、これに限定されるものではない。
【0037】
本発明におけるタンパク質活性の「強化」とは、タンパク質の活性を内在性活性に比べて増加させることを意味する。前記「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する場合に、形質変化の前に親株又は非改変微生物が本来有していた特定タンパク質の活性を意味する。これは、「改変前の活性」と混用される。タンパク質の活性が内在性活性に比べて「増加」するとは、形質変化の前に親株又は非改変微生物が本来有していた特定タンパク質の活性に比べて向上することを意味する。
【0038】
前記「活性の増加」は、外来タンパク質の導入により達成してもよく、内在性タンパク質の活性強化により達成してもよいが、具体的には内在性タンパク質の活性強化により達成する。前記タンパク質の活性が強化されたか否かは、当該タンパク質の活性の程度、発現量、又は当該タンパク質から生産される産物の量の増加により確認することができる。
【0039】
本発明における前記活性強化の対象となるタンパク質、すなわち標的タンパク質は、リン酸インポーターであり、具体的にはPstシステムであり、より具体的にはPstS、PstC、PstA及びPstBからなる群から選択される少なくとも1つであるが、これらに限定されるものではない。本発明の目的上、前記活性強化の対象となるリン酸インポーターは、前述したi)PstS、ii)PstC、並びにiii)PstS及びPstCの組み合わせから選択される少なくとも1つであり、PstA又はPstBがさらに含まれてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0040】
また、本発明における前記当該タンパク質から生産される産物は、プリンヌクレオチドであるが、これに限定されるものではない。
【0041】
前記タンパク質の活性の強化には、当該分野で周知の様々な方法を適用することができ、標的タンパク質の活性を改変前の微生物より強化できるものであれば、いかなるものでもよい。前記方法は、これらに限定されるものではないが、遺伝子工学又はタンパク質工学を用いたものである。
【0042】
前記遺伝子工学を用いてタンパク質の活性を強化する方法は、例えば1)前記タンパク質をコードする遺伝子の細胞内コピー数を増加させる方法、2)前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子の発現調節配列を活性が強力な配列に置換する方法、3)前記タンパク質の開始コドン又は5'UTR領域の塩基配列を改変する方法、4)前記タンパク質活性が増加するように染色体上のポリヌクレオチド配列を改変する方法、5)前記タンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチド又は前記ポリヌクレオチドのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドを導入する方法、6)前記方法の組み合わせなどにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
前記タンパク質工学を用いてタンパク質活性を強化する方法は、例えばタンパク質の三次構造を分析し、露出部分を選択して改変する方法や、化学的に修飾する方法などにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
前記1)タンパク質をコードする遺伝子の細胞内コピー数を増加させる方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば当該タンパク質をコードする遺伝子が作動可能に連結された、宿主に関係なく複製されて機能するベクターを宿主細胞内に導入することにより行うことができる。あるいは、前記遺伝子が作動可能に連結された、宿主細胞内の染色体内に前記遺伝子を挿入することのできるベクターを宿主細胞内に導入することにより行うことができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
本発明における「ベクター」とは、好適な宿主内で標的タンパク質を発現させることができるように、好適な発現調節配列に作動可能に連結された前記標的タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含有するDNA産物を意味する。前記発現調節配列には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれてもよい。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製又は機能することができ、ゲノム自体に組み込まれてもよい。
【0046】
本発明に用いられるベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられてもよい。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、λMBL3、λMBL4、λIXII、λASHII、λAPII、λt10、λt11、Charon4A、Charon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pDZ系、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pET系などを用いることができる。本発明に使用可能なベクターは、特に限定されるものではなく、公知の発現ベクターを用いることができる。
【0047】
本発明における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターを宿主細胞内に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、それらが全て含まれるものである。
【0048】
また、前記「作動可能に連結」されたものとは、本発明の標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記遺伝子配列が機能的に連結されたものを意味する。
【0049】
前記2)タンパク質をコードする染色体上の遺伝子の発現調節配列を活性が強力な配列に置換する方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記発現調節配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行うこともでき、より強い活性を有する核酸配列に置換することにより行うこともできる。前記発現調節配列には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列などが含まれてもよい。前記方法は、具体的には、本来のプロモーターに代えて強力な異種プロモーターを連結するものであるが、これに限定されるものではない。
【0050】
公知の強力なプロモーターの例としては、cj7プロモーター(特許文献3)、cj1プロモーター(特許文献3)、lacプロモーター、Trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター及びtetプロモーターが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
前記3)タンパク質の開始コドン又は5'UTR領域の塩基配列を改変する方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記タンパク質の内在性開始コドンを前記内在性開始コドンに比べてタンパク質の発現率が高い他の開始コドンに置換するものであるが、これに限定されるものではない。
【0052】
前記4)前記タンパク質活性が増加するように染色体上のポリヌクレオチド配列を改変する方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記ポリヌクレオチド配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行うこともでき、より強い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に置換することにより行うこともできる。前記置換は、具体的には相同組換えにより前記遺伝子を染色体内に挿入するものであるが、これに限定されるものではない。
【0053】
ここで、用いられるベクターは、染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択、すなわち導入する遺伝子が挿入されたか否かを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面タンパク質の発現などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられるが、これらに限定されるものではない。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0054】
前記5)前記タンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチドを導入する方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記タンパク質と同一/類似の活性を示すタンパク質をコードする外来ポリヌクレオチド、又はそのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドを宿主細胞内に導入することにより行うことができる。前記外来ポリヌクレオチドは、前記タンパク質と同一/類似の活性を示すものであれば、その由来や配列が限定されるものではない。また、宿主細胞内で最適化された転写、翻訳が行われるように、導入された前記外来ポリヌクレオチドのコドンを最適化して宿主細胞に導入してもよい。前記導入は、公知の形質転換方法を当業者が適宜選択して行うことができ、宿主細胞内で前記導入されたポリヌクレオチドが発現することにより、タンパク質が産生されてその活性が増加する。
【0055】
最後に、6)前記方法の組み合わせは、前記1)~5)の少なくとも1つの方法を共に適用することにより行うことができる。
【0056】
このようなタンパク質活性の強化は、対応するタンパク質の活性又は濃度が野生型タンパク質や改変前の微生物の菌株で発現したタンパク質の活性又は濃度に比べて増加するものであるか、当該タンパク質から生産される産物の量が増加するものであるが、これらに限定されるものではない。本発明における「改変前の菌株」又は「改変前の微生物」とは、微生物に自然に発生し得る突然変異を含む菌株を除外するものではなく、天然菌株自体、又は自然要因もしくは人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する前の菌株を意味する。本発明における前記形質変化とは、リン酸インポーターの活性強化であってもよい。前記「改変前の菌株」又は「改変前の微生物」は、「非変異菌株」、「非改変菌株」、「非変異微生物」、「非改変微生物」又は「基準微生物」と混用される。
【0057】
本発明における前記基準微生物は、プリンヌクレオチドを生産することが知られている野生型微生物であってもよく、例えばコリネバクテリウム・スタティオニスATCC6872であってもよい。あるいは、前記基準微生物は、プリンヌクレオチドを生産することが知られている微生物であり、例えばCJX1664(KCCM12285P,特許文献4)、CJX1665(CJX1664::purA(G85S),KCCM12286P,特許文献4)、CJI2335(KCCM12278P,特許文献5)であるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本発明における「プリンヌクレオチドを生産する微生物」とは、自然に弱いプリンヌクレオチド生産能を有する微生物、又はプリンヌクレオチド生産能のない親株に自然の又は人為的な遺伝的改変が行われてプリンヌクレオチド生産能が付与された微生物を意味する。前記微生物は、培地で培養される場合に、微生物内でプリンヌクレオチドを生産、蓄積したり、それを培地中に分泌、蓄積する能力を有するものであってもよい。当該プリンヌクレオチド生産能力は、コリネバクテリウム属微生物の野生株の性質として有するものであってもよく、遺伝子改良により付与されるか、増強されたものであってもよい。本発明における前記「プリンヌクレオチドを生産する微生物」は、「プリンヌクレオチド生産能を有する微生物」、「プリンヌクレオチド生産菌株」と混用される。
【0059】
本発明の目的上、前記プリンヌクレオチドを生産する微生物は、本発明のリン酸インポーターの活性を示すポリペプチド、それをコードするポリヌクレオチド、及びそれを含むベクターの少なくとも1つを含み、前述したタンパク質の活性を強化する方法により前記ポリペプチドの活性が内在性活性より強化され、プリンヌクレオチドの生産量が野生型又は改変前の微生物より増加したものであってもよい。これは、野生型微生物がプリンヌクレオチドを生産することができないか、プリンヌクレオチドを生産したとしても極微量しか生産できないのに対して、本発明のリン酸インポーターの活性を示すポリペプチドを導入してその活性を強化することにより、微生物におけるプリンヌクレオチド生産量を増加させることができることに意義がある。
【0060】
具体的には、前記リン酸インポーターは、PstS、PstC、PstA及びPstBからなる群から選択される少なくとも1つであり、より具体的には、PstS、PstC、PstS及びPstCから選択される少なくとも1つであるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
本発明のプリンヌクレオチドを生産する微生物は、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物であるが、プリンヌクレオチドを生産するものであれば特に限定されるものではない。前記コリネバクテリウム属微生物としては、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・クルジラクチス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム・デセルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウム・シングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・ストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウム・ポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウム・イミタンス(Corynebacterium imitans)、コリネバクテリウムテス・テスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)コリネバクテリウム・フラベッセンス(Corynebacterium flavescens)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、並びにこれらを親株として作製した菌株、例えばコリネバクテリウム・スタティオニスKCCM12285P及びKCCM12286P(特許文献4)、コリネバクテリウム・スタティオニスKCCM12278P(特許文献5)、コリネバクテリウム・スタティオニスKCCM12280P(特許文献4)が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、具体的には、コリネバクテリウム・スタティオニス又はコリネバクテリウム・グルタミカム菌株である。前記プリンヌクレオチドを生産する微生物は、自然の又は人為的な遺伝的改変が行われて野生型微生物、例えばATCC6872よりプリンヌクレオチドを多く生産する微生物を意味するが、これらに限定されるものではない。
【0062】
本発明における「プリンヌクレオチド」は、具体的には5'-イノシン酸(5'-inosine monophosphate;以下、IMP)、5'-キサンチル酸(5'-xanthosine monophosphate;以下、XMP)及び5'-グアニル酸(5'-guanosine monophosphate;以下、GMP)からなる群から選択される少なくとも1つのヌクレオチドであってもよい。前記IMPとは、アデニンが脱アミノ化された化合物であり、ヒポキサンチン、リボース、リン酸各1分子ずつで構成されたヌクレオチドを意味する。5'-ホスホリボシル-1-ピロリン酸(5-phosphoribosyl-1-pyrophosphate;PRPP)から生合成することができ、具体的にはPRPPの1位の炭素に結合されているピロリン酸基が窒素原子に置換され、9段階にわたってイミダゾール環とピリミジン環を構成することにより形成される。前記XMPとは、IMPが脱水素化されたヌクレオチドを意味する。IMPデヒドロゲナーゼ(inosine-5'-monophosphate dehydrogenase)によりIMPから合成することができる。前記GMPとは、グアノシン分子内のリボース部分にリン酸基がエステル結合した構造を有するヌクレオチドを意味する。前記GMPは、GMPシンターゼ(GMP synthase)によりXMPにアンモニア分子が付加されて合成されてもよい。XMPからGMPを作製する方法及び/又は前記方法に用いられる手段は、公知の技術から選択されてもよい。
【0063】
本発明の他の態様は、リン酸インポーターの活性が強化された、プリンヌクレオチドを生産するコリネバクテリウム属微生物を培地で培養するステップを含む、プリンヌクレオチドの生産方法を提供する。
【0064】
前記リン酸インポーター、微生物及びプリンヌクレオチドについては前述した通りである。
【0065】
本発明における「培養」とは、前記微生物を適宜調節した環境条件で生育させることを意味する。本発明の培養過程は、当該技術分野で公知の好適な培地と培養条件で行うことができる。このような培養過程は、当業者であれば選択される菌株に応じて容易に調整して用いることができる。具体的には、前記培養は、回分、連続及び流加培養であるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
本発明における「培地」とは、前記微生物を培養するために必要な栄養物質を主成分として混合した物質を意味し、生存及び発育に不可欠な水をはじめとする栄養物質や発育因子などを供給する。具体的には、本発明の微生物の培養に用いられる培地及び他の培養条件は、通常の微生物の培養に用いられるものであればいかなるものでもよく、好適な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地中で好気性条件下にて温度、pHなどを調節して本発明の微生物を培養することができる。
【0067】
本発明における前記炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトースなどの炭水化物、マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコール、ピルビン酸、乳酸、クエン酸などの有機酸、グルタミン酸、メチオニン、リシンなどのアミノ酸などが挙げられる。また、デンプン加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米糠、キャッサバ、バガス、トウモロコシ浸漬液などの天然の有機栄養源を用いることができ、具体的にはグルコースや殺菌した前処理糖蜜(すなわち、還元糖に変換した糖蜜)などの炭水化物を用いることができ、その他適量の炭素源であればいかなるものでも用いることができる。これらの炭素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
前記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源と、グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのアミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類又はその分解生成物、脱脂大豆ケーキ又はその分解生成物などの有機窒素源とを用いることができる。これらの窒素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
前記リン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム又はそれらに相当するナトリウム含有塩などが挙げられる。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどを用いることができ、それ以外に、アミノ酸、ビタミン及び/又は好適な前駆体などを用いることができる。これらの構成成分又は前駆体は、培地に回分式又は連続式で添加することができるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
本発明において、微生物の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などの化合物を培地に好適な方法で添加することにより、培地のpHを調整することができる。また、培養中には、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制することができる。さらに、培地の好気状態を維持するために、培地中に酸素又は酸素含有気体を注入してもよく、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体を注入しなくてもよく、窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0071】
培地の温度は、20℃~50℃、具体的には30℃~37℃であるが、これらに限定されるものではない。培養期間は、有用物質の所望の生成量が得られるまで続けられ、具体的には10時間~100時間であるが、これに限定されるものではない。
【0072】
前記培養により生産されたプリンヌクレオチドは、培地中に排出されるか、排出されずに細胞に残留する。
【0073】
前記方法は、培地中に酵素を追加するステップ、又は前記酵素を発現する微生物を追加するステップをさらに含んでもよい。例えば、前記方法は、XMPを生産する微生物を培養するステップの後に、XMPをGMPに変換する酵素又は前記酵素を発現する微生物を追加するステップ、及び/又は前記微生物を培養するステップをさらに含んでもよい。
【0074】
前記方法は、培養した培地又は微生物からプリンヌクレオチドを回収するステップをさらに含んでもよい。
【0075】
本発明の前記培養ステップで生産されたプリンヌクレオチドを回収する方法は、培養方法に応じて、当該分野で公知の好適な方法を用いて培養液からプリンヌクレオチドを回収(collect)するものであってもよい。例えば、遠心分離、濾過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化、HPLCなどが用いられ、当該分野で公知の好適な方法を用いて培地又は微生物からプリンヌクレオチドを回収することができる。前記培養液は、発酵液ともいう。
【0076】
また、前記回収ステップは、精製工程を含んでもよく、当該分野で公知の好適な方法を用いて行うことができる。よって、前述したように回収されるプリンヌクレオチドは、精製された形態であってもよく、プリンヌクレオチドを含有する微生物発酵液であってもよい(非特許文献14)。
【0077】
本発明のさらに他の態様は、リン酸インポーターの活性が強化されたコリネバクテリウム属微生物を含むプリンヌクレオチド生産用組成物を提供する。
【0078】
前記リン酸インポーター、微生物及びプリンヌクレオチドについては前述した通りである。
【0079】
前記プリンヌクレオチド生産用組成物は、前記リン酸インポーターを用いてpstSCABオペロンによりコードされるリン酸流入システムであって、pstS、pstC、pstA及びpstBからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子によりコードされるタンパク質の活性が強化される構成であればいかなるものでもよく、それについては前述した通りである。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。これは、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0081】
実施例1
pstS開始コドン置換菌株の作製及びXMP生産能の評価
1-1.pstS開始コドン置換組換えベクター及びXMP生産菌株の作製
XMP生産菌株であるCJX1664(コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)ATCC6872由来のXMP生産株,KCCM12285P,特許文献4)及びそのpurA(G85S)変異株であるCJX1664::purA(G85S)(KCCM12286P,特許文献4)の内在性pstS遺伝子の活性が強化された菌株を作製するために、pstSの内在性開始コドンであるGTGをタンパク質の発現率が相対的に高い開始コドンであるATGに置換する実験を行った。
【0082】
コリネバクテリウム・スタティオニスの野生型であるATCC6872菌株の染色体遺伝子をG-スピントータルDNA抽出ミニキット(G-spin Total DNA extraction mini kit, Cat. No 17045,Intron)によりキット添付のプロトコルに従って分離し、配列番号9と配列番号10のプライマー対、及び配列番号11と配列番号12のプライマー対を用いて、重合酵素連鎖反応により1対の遺伝子断片(pstS(ATG)-A,pstS(ATG)-B)をそれぞれ得た。PCRは、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を20サイクル行い、その後72℃で7分間の重合反応を行うものとした。その結果、それぞれ769bp、766bpのポリヌクレオチドが得られた。
【0083】
2つの断片を鋳型とし、2次PCRを行うことにより1.5kbpのポリヌクレオチド鋳型が得られた。得られた遺伝子の断片を制限酵素XbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)で切断した。その後、T4リガーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)を用いて、XbaI制限酵素で切断した線状のpDZベクターに前記遺伝子断片をライゲーションした。作製したベクターをpDZ-pstS(ATG)と命名した。
【0084】
前記XMP生産能を有するCJX1664及びCJX1664::purA(G85S)に前記pDZ-pstS(ATG)ベクターをエレクトロポレーション(Electroporation)法で形質転換し、その後カナマイシン25mg/Lを含有する選択培地で染色体上に変異遺伝子とベクターが共に挿入された菌株を1次候補群として選択した。その後、既存の染色体上の遺伝子とベクターにより挿入された遺伝子の相同性を用いた2次交差過程を経て、染色体上の内在性pstSの開始コドンがATGに置換され、カナマイシン耐性遺伝子を含むベクターが除去された最終菌株を得た。開始コドンが置換された遺伝子は、配列番号13と配列番号12、及び配列番号14と配列番号12のプライマーを用いたミスマッチ(mismatch)PCRにより1次確認し、その後遺伝子配列分析により最終確認した。前記方法で得られたpstS開始コドン置換菌株をそれぞれCJX1664_pstS(g1a)、CJX1664::purA(G85S)_pstS(g1a)と命名した。
【0085】
上で用いたプライマーの配列はそれぞれ次の通りである。
【0086】
【0087】
1-2.pstS開始コドン置換菌株のXMP生産能の評価
作製した菌株のXMP生産能を測定するために、フラスコ評価を行った。次の種培地2.5mlを含有する14mlのチューブにCJX1664、CJX1664_pstS(g1a)、CJX1664::purA(G85S)、CJX1664::purA(G85S)_pstS(g1a)を接種し、30℃にて170rpmで24時間振盪培養した。次の生産培地32ml(本培地24ml+別途殺菌培地8ml)を含む250mlのコーナーバッフルフラスコに0.7mlの種培養液を接種し、30℃にて170rpmで75時間振盪培養した。
【0088】
前記種培地、本培地及び別途殺菌培地の組成は次の通りである。
XMPフラスコ種培地
グルコース30g/L,ペプトン15g/L,酵母エキス15g/L,塩化ナトリウム2.5g/L,尿素3g/L,アデニン150mg/L,グアニン150mg/L,pH7.0(培地1L中)
XMPフラスコ生産培地(本培地)
グルコース50g/L,硫酸マグネシウム10g/L,塩化カルシウム100mg/L,硫酸鉄20mg/L,硫酸マンガン10mg/L,硫酸亜鉛10mg/L,硫酸銅0.8mg/L,ヒスチジン20mg/L,シスチン15mg/L,β-アラニン15mg/L,ビオチン100ug/L,チアミン5mg/L,アデニン50mg/L,グアニン25mg/L,ナイアシン15mg/L,pH7.0(培地1L中)
XMPフラスコ生産培地(別途殺菌培地)
リン酸二水素カリウム18g/L,リン酸水素二カリウム42g/L,尿素7g/L,硫酸アンモニウム5g/L(培地1L中)
【0089】
培養終了後に、HPLCを用いた方法によりXMPの生産量を測定した。その結果を表2に示す。
【0090】
【0091】
実施例2
pstC開始コドン置換菌株の作製及びIMP生産能の評価
2-1.pstC開始コドン置換組換えベクター及びIMP生産菌株の作製
IMP生産菌株であるCJI2335(コリネバクテリウム・スタティオニスATCC6872由来のIMP生産株,KCCM12278P,特許文献5)の染色体遺伝子を分離し、配列番号15と配列番号16のプライマー対、及び配列番号17と配列番号18のプライマー対を用いて、重合酵素連鎖反応により遺伝子断片(pstC(ATG)-A,pstC(ATG)-B)をそれぞれ得た。PCRは、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を20サイクル行い、その後72℃で7分間の重合反応を行うものとした。その結果、それぞれ771bp、766bpのポリヌクレオチドが得られた。
【0092】
2つの断片を鋳型とし、2次PCRを行うことにより1.5kbpのポリヌクレオチド鋳型が得られた。得られた遺伝子の断片を制限酵素XbaIで切断した。その後、T4リガーゼを用いて、XbaI制限酵素で切断した線状のpDZベクターに前記遺伝子断片をライゲーションした。作製したベクターをpDZ-pstC(ATG)と命名した。
【0093】
IMP生産能を有する菌株であるCJI2335及びCJI2332::purA(G85S)(コリネバクテリウム・スタティオニスATCC6872由来のIMP生産株のpurA(G85S)変異株,KCCM12280P,特許文献4)に前記pDZ-pstC(ATG)ベクターをエレクトロポレーション法で形質転換し、その後カナマイシン25mg/Lを含有する選択培地で染色体上に変異遺伝子が挿入された菌株を1次候補群として選択した。その後、実施例1と同様に2次交差過程を経て、染色体上の内在性pstCの開始コドンがATGに置換された菌株を得た。開始コドンが置換された遺伝子は、配列番号19と配列番号18のプライマー対、及び配列番号20と配列番号18のプライマー対を用いたミスマッチPCRにより1次確認し、その後遺伝子配列分析により最終確認した。前記方法で得られたpstC開始コドン置換菌株をCJI2335_pstC(g1a)、CJI2332::purA(G85S)_pstC(gla)と命名した。
【0094】
上で用いたプライマーの配列はそれぞれ次の通りである。
【0095】
【0096】
2-2.pstC遺伝子の開始コドン置換菌株のIMP生産能の評価
実施例2-1で作製したpstC開始コドン置換菌株であるCJI2335_pstC(g1a)、CJI2332::purA(G85S)_pstC(gla)におけるIMP生産能の向上を確認するために、次の実験を行った。
【0097】
加圧殺菌した直径18mmの試験管に種培地5mlを接種し、30℃の温度で24時間振盪培養して種培養液として用いた。発酵培地29mlを250ml振盪用三角フラスコに分注し、121℃の温度で15分間加圧殺菌し、その後種培養液2mlを接種して3日間培養した。培養条件は、回転数170rpm、温度30℃、pH7.8に調節した。
【0098】
前記種培地及び発酵培地の組成は次の通りである。
IMP種培地
グルコース1%,ペプトン1%,肉汁1%,酵母エキス1%,塩化ナトリウム0.25%,アデニン100mg/L,グアニン100mg/L,pH7.2(培地1L中)
IMPフラスコ発酵培地
グルタミン酸ナトリウム0.1%,塩化アンモニウム1%,硫酸マグネシウム1.2%,塩化カルシウム0.01%,硫酸鉄20mg/L,硫酸マンガン20mg/L,硫酸亜鉛20mg/L,硫酸銅5mg/L,L-システイン23mg/L,アラニン24mg/L,ニコチン酸8mg/L,ビオチン45μg/L,チアミン塩酸塩5mg/L,アデニン30mg/L,リン酸(85%)1.9%,グルコース4.2%,原糖2.4%(培地1L中)
【0099】
培養終了後に、HPLCを用いた方法によりIMP生産量を測定した。CJI2335_pstC(g1a)、CJI2332::purA(G85S)_pstC(g1a)の培養結果を表4に示す。
【0100】
【0101】
実施例3
pstC開始コドン置換菌株の作製及びXMP生産能の評価
3-1.pstC開始コドン置換組換えベクター及びXMP生産菌株の作製
XMP生産能を有する菌株であるCJX1664、CJX1664::purA(G85S)に実施例2-1で作製したpDZ-pstC(ATG)ベクターをエレクトロポレーション法で形質転換し、その後カナマイシン25mg/Lを含有する選択培地で染色体上に変異遺伝子が挿入された菌株を1次候補群として選択した。その後、2次交差過程を経て、染色体上の内在性pstCの開始コドンがATGに置換された菌株を得た。開始コドンが置換された遺伝子は、実施例2-1と同様に確認した。前記方法で得られたpstC開始コドン置換菌株をCJX1664_pstC(g1a)、CJX1664::purA(G85S)_pstC(g1a)と命名した。
【0102】
3-2.pstC開始コドン置換菌株のXMP生産能の評価
前記CJX1664_pstC(g1a)、CJX1664::purA(G85S)_pstC(g1a)菌株のXMP生産能を測定するために、実施例1-2の方法でフラスコ評価を行った。培養結果を表5に示す。
【0103】
【0104】
実施例4
pstS及びpstC開始コドン同時置換菌株の作製及びIMP生産能の評価
4-1.pstS及びpstC開始コドン同時置換IMP生産菌株の作製
高い活性を示す開始コドン(ATG)をpstSとpstCの2つ遺伝子の両方に導入した菌株を作製するために、実施例2-1で作製した菌株であるCJI2335_pstC(g1a)、CJI2332::purA(G85S)_pstC(g1a)に、実施例1-1の方法で作製したベクターpDZ-pstS(ATG)を挿入した。ベクターが挿入された菌株の選択方法は、実施例1-1と同様にした。この過程を経て、pstSとpstCの開始コドンが置換組換えベクターで形質転換された菌株を選択し、2次選択過程を経て、菌株の作製を完了した。作製した菌株をCJI2335_pstS(g1a)_pstC(g1a)、CJI2332::purA(G85S)_pstS(g1a)_pstC(g1a)と命名した。
【0105】
4-2.pstS及びpstC開始コドン同時置換菌株のIMP生産能の評価
前記CJI2335_pstS(g1a)_pstC(g1a)、CJI2332::purA(G85S)_pstS(g1a)_pstC(g1a)菌株のIMP生産能を測定するために、実施例2-2と同様にフラスコ評価を行った。
【0106】
培養終了後に、HPLCを用いた方法によりIMP生産量を測定した。CJI2335_pstS(g1a)_pstC(g1a)、CJI2332::purA(G85S)_pstS(g1a)_pstC(g1a)の培養結果を表6に示す。
【0107】
【0108】
表6に示すように、CJI2335_pstS(g1a)_pstC(g1a)、CJI2332::purA(G85S)_pstS(g1a)_pstC(g1a)は、親株に比べてIMP生産量がそれぞれ13%、18%増加することが確認された。
【0109】
実施例5
pstSC強化のためのpstSCABオペロン強化IMP生産菌株の作製及び評価
5-1.コリネバクテリウム・スタティオニス由来pstSC強化のためのpstSCAB遺伝子オペロンのコピー数が増加したベクターの作製及びIMP生産菌株の作製
pstSCの活性強化のためにコピー数を増加させた微生物を作製し、IMPの生産能を評価した。
【0110】
コリネバクテリウム・スタティオニスの野生型であるATCC6872菌株の染色体を実施例1と同様のキットにより分離し、それを鋳型としてPCRを行った。重合酵素としては、Maxime PCR PreMix(i-pfu)高信頼DNAポリメラーゼ(Intron)を用いた。PCRは、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、54℃で30秒間のアニーリング、72℃で9分30秒間の重合を24サイクル行うものとした。その結果、プロモーター部位を含むpstSCAB遺伝子2対(pstSCAB-A,pstSCAB-B)が得られた。pstSCAB-Aは、4960bpの大きさであり、配列番号21と配列番号22をプライマーとして用いて増幅したものである。また、pstSCAB-Bは、4960bpの大きさであり、配列番号21と配列番号23をプライマーとして増幅したものである。前記pstSCAB-A及びpstSCAB-Bの各末端に含まれる制限酵素(pstSCAB-A:XbaI,pstSCAB-B:XbaI及びSpeI)で処理してXbaI及びSpeIで直線化したpDZベクターに3断片ライゲーションによりクローニングし、最終的にpstSCAB遺伝子が2つ連続してクローニングされたpDZ-2pstSCAB組換えベクターを作製した。
【0111】
前記pDZ-2pstSCABベクターをIMP生産菌株であるCJI2335、CJI2332::purA(G85S)にエレクトロポレーション法で形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上の内在性pstSCAB遺伝子の隣に1つのpstSCAB遺伝子をさらに挿入し、総数を2つに増加させた菌株を得た。連続して挿入されたpstSCAB遺伝子は、2つのpstSCAB連結部位を増幅する配列番号24と配列番号25のプライマーを用いたPCRにより最終確認した。この過程を経て、pstSCAB遺伝子オペロンcopy数増加ベクターで形質転換された菌株が選択された。作製した菌株をCJI2335_2pstSCAB、CJI2332::purA(G85S)_2pstSCABと命名した。
【0112】
上で用いたプライマーの配列はそれぞれ次の通りである。
【0113】
【0114】
5-2.コリネバクテリウム・スタティオニス由来pstSCAB遺伝子オペロンのコピー数が増加した菌株のIMP生産能の評価
コリネバクテリウム・スタティオニス由来pstSCがコピー数増加により活性強化されたCJI2335_2pstSCAB、CJI2332::purA(G85S)_2pstSCAB菌株、親株であるCJI2335、CJI2332::purA(G85S)を用いて、実施例2-2のフラスコ評価方法でIMP生産能を評価した。その結果を表8に示す。
【0115】
【0116】
表8に示すように、前述したフラスコ発酵評価において、CJI2335_2pstSCAB、CJI2332::purA(G85S)_2pstSCABは、親株に比べてIMP生産能がそれぞれ26%、27%向上することが確認された。
【0117】
実施例6
pstSC強化のためのpstSCABオペロン強化XMP生産菌株の作製及び評価
6-1.コリネバクテリウム・スタティオニス由来pstSCAB遺伝子オペロンのコピー数が増加したXMP生産菌株の作製
実施例5-1で作製したpDZ-2pstSCABベクターが導入されたXMP生産菌株であるCJX1664、CJX1664::purA(G85S)にエレクトロポレーション法で形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上の内在性pstSCAB遺伝子の隣に1つのpstSCAB遺伝子をさらに挿入し、総数を2つに増加させた菌株を得た。連続して挿入されたpstSCAB遺伝子は、2つのpstSCAB連結部位を増幅する配列番号24と配列番号25のプライマーを用いたPCRにより最終確認した。前記方法で得られたpstSCABコピー数が増加した菌株をCJX1664_2pstSCAB、CJX1664::purA(G85S)_2pstSCABと命名した。
【0118】
6-2.コリネバクテリウム・スタティオニス由来pstSCAB遺伝子オペロンのコピー数が増加した菌株のXMP生産能の評価
前記CJX1664_2pstSCAB、CJX1664::purA(G85S)_2pstSCAB菌株のXMP生産能を測定するために、実施例1-2と同様にフラスコ評価を行った。
【0119】
培養終了後に、HPLCを用いた方法によりXMP生産量を測定した。CJX1664、CJX1664::purA(G85S)、CJX1664_2pstSCAB、CJX1664::purA(G85S)_2pstSCABの培養結果を表9に示す。
【0120】
【0121】
表9に示すように、CJX1664_2pstSCAB、CJX1664::purA(G85S)_2pstSCABは、親株に比べてXMP生産能がそれぞれ9%、7%向上した。
【0122】
実施例7
pstSC強化のためのpstSCAB遺伝子プロモーター置換IMP生産菌株の作製及び評価
7-1.pstSCAB遺伝子プロモーター置換組換えベクターの作製及びIMP生産菌株の作製
リン酸流入因子Pstシステムの構成要素タンパク質をコードするpstSCの発現量を増加させるために、染色体内のpstS自己プロモーターを活性が強いことが知られているcj7プロモーター(特許文献3)に置換した。
【0123】
まず、cj7プロモーターを含み、前記プロモーターの両末端部位は染色体上の本来の配列を有する相同組換えベクターを作製した。
【0124】
具体的には、pstS遺伝子にcj7プロモーターを挿入するベクターの作製のために、コリネバクテリウム・スタティオニスの野生型であるATCC6872菌株の染色体を実施例1の方法により分離した。それを鋳型とし、マクシム(Maxime)PCRプレミックス(i-pfu)高信頼DNAポリメラーゼ(Intron)を用いてPCRを行った。PCRは、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、54℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分30秒間の重合を24サイクル行うものとした。その結果、2種類の異なるPCR生成物(PstSpro-A,PstSpro-B)が得られた。PstSpro-Aは、981bpの大きさであり、配列番号26、配列番号27をプライマーとして用いて増幅したものである。また、PstSpro-Bは、2026bpの大きさであり、配列番号28、配列番号29をプライマーとして用いて増幅したものである。前述した2種類の増幅産物を鋳型とし、ソーイング(sewing)PCR法により2次PCRを行った。PCRは、前記と同じ条件で行った。BamHI及びNdeI制限酵素サイトを含む2988bpのpstS遺伝子のPCR生成物が得られた。その後、前記増幅産物の両末端に位置する制限酵素位置(PstSpro-A及びPstSpro-B:XbaI)を用いて切断し、次いでT4リガーゼの活性を用いてpDZベクターにクローニングすることによりpDZ-PstSproベクターが得られた。
【0125】
前述したように得られたベクターを用いて、CJI2335、CJI2332::purA(G85S)染色体上のpstS遺伝子のプロモーターがcj7プロモーターに置換されるベクターを作製した。
【0126】
具体的には、コリネバクテリウム・スタティオニスの野生型であるATCC6872ゲノムを鋳型とし、次のようにPCRを行った。重合酵素としては、Maxime PCR PreMix(i-pfu)高信頼DNAポリメラーゼ(Intron)を用いた。PCRは、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、54℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分30秒間の重合を24サイクル行うものとした。その結果、cj7プロモーター遺伝子の両末端にBamHI及びNdeI制限酵素サイトを有する遺伝子が得られた。この遺伝子は、491bpの大きさであり、配列番号30、配列番号31をプライマーとして用いて増幅したものである。この遺伝子と前記pDZ-PstSproベクターをBamHI及びNdeI制限酵素で処理し、その後T4遺伝子リガーゼを用いてクローニングすることによりpDZ-pCJ7/PstSCABベクターが得られた。
【0127】
前述したように作製したpDZ-pCJ7/PstSCABベクターをIMP生産菌株であるコリネバクテリウム・スタティオニスCN01-1811菌株にエレクトロポレーション法で形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上の内在性pstSCABのプロモーターがcj7プロモーターに置換された菌株を作製した。置換されたcj7プロモーターは、cj7プロモーターとpstS遺伝子の一部を連結して増幅する配列番号32、配列番号33をプライマー対としたPCRにより最終確認した。前記方法で得られた菌株をCJI2335_Pcj7/pstS、CJI2332::purA(G85S)_Pcj7/pstSと命名した。
【0128】
上で用いたプライマーの配列はそれぞれ次の通りである。
【0129】
【0130】
7-2.pstSCAB遺伝子プロモーター置換菌株のIMP生産能の評価
コリネバクテリウム・スタティオニス由来pstSCのcj7プロモーター適用により活性が強化されたCJI2335_Pcj7/pstS、CJI2332::purA(G85S)_Pcj7/pstS菌株、親株であるCJI2335、CJI2332::purA(G85S)を用いて、実施例2-2のフラスコ評価方法によりIMP生産能を評価した。その結果を表11に示す。
【0131】
【0132】
表11に示すように、pstSCAB遺伝子のプロモーターを強化した菌株CJI2335_Pcj7/pstS、CJI2332::purA(G85S)_Pcj7/pstSは、フラスコ発酵において、親株に比べてIMP生産能がそれぞれ21%、28%向上した。
【0133】
実施例8
pstSC強化のためのpstSCAB遺伝子プロモーター置換XMP生産菌株の作製及び評価
8-1.pstSCAB遺伝子プロモーター置換XMP菌株の作製
実施例7-1で作製したpDZ-pCJ7/PstSCABベクターをXMP生産菌株であるCJX1664、CJX1664::purA(G85S)菌株にエレクトロポレーション法で形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上の内在性pstSCABのプロモーターがcj7プロモーターに置換された菌株を作製した。置換されたcj7プロモーターは、cj7プロモーターとpstS遺伝子の一部を連結して増幅する配列番号32、配列番号33をプライマー対としたPCRにより最終確認した。前記方法で得られた菌株をCJX1664_Pcj7/pstS、CJX1664::purA(G85S)_Pcj7/pstSと命名した。
【0134】
8-2.pstSCAB遺伝子プロモーター置換菌株のXMP生産能の評価
コリネバクテリウム・スタティオニス由来pstSCのcj7プロモーター適用により活性が強化されたCJX1664_Pcj7/pstS、CJX1664::purA(G85S)_Pcj7/pstS菌株、親株であるCJX1664、CJX1664::purA(G85S)を用いて、実施例1-2のフラスコ評価方法でXMP生産能を評価した。その結果を表12に示す。
【0135】
【0136】
表12に示すように、pstSCAB遺伝子のプロモーターを強化した菌株CJX1664_Pcj7/pstS、CJX1664::purA(G85S)_Pcj7/pstSは、フラスコ発酵において、親株に比べてXMP生産能がそれぞれ14%、12%向上した。
【0137】
前記CJX1664_Pcj7/pstSをCJX1911と命名し、CJX1664::purA(G85S)_Pcj7/pstSをCJX1912と命名し、ブダペスト条約上の受託機関である韓国微生物保存センターに2019年12月20日付けで受託番号KCCM12647P、KCCM12648Pとして寄託した。
【0138】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2021-06-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
本発明における「Pstシステム」とは、リン酸インポーター、すなわちPiインポーターの一種であるリン酸アデノシン三リン酸結合カセット輸送システムを意味し、Piに親和性が高く、リン酸結合タンパク質(Phosphate binding protein;以下、PstS)、リン酸アデノシン三リン酸結合カセット輸送体の内膜サブユニット(Phosphate ATP-binding cassette transporter, inner membrane subunit;以下、PstC)、リン酸アデノシン三リン酸結合カセット輸送体のパーミアーゼ(Phosphate ABC transporter, permease protein;以下、PstA)、リン酸アデノシン三リン酸結合カセット輸送体のアデノシン三リン酸結合タンパク質(Phosphate ABC transporter, ATP-binding protein;以下、PstB)からなるpstオペロンにより発現することが知られている(Aguena et al.,2002)。具体的には、PstSは、細胞の外部のPi濃度を認識してPiを細胞の内部に輸送する機能を果たすことが知られており(Surin et al.,2002)、PstCとPstAは、膜横断タンパク質であり、Piが細胞の内部に移動する通路として用いられることが知られており、PstBは、アデノシン三リン酸と結合し、それによりPi流入のためのエネルギーを得る機能を果たすことが知られている(Webb et al.,1992; Chan and Torriani,1996)。一般に、pstオペロンは、細胞の外部のPi濃度が高いときは抑制された状態が維持され、細胞の外部のPi濃度がマイクロモル(μM)以下に低くなると発現が強化されることが報告されている(Surin et al.,1985; Magota K et al.,1982)。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格さに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデニンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本出願には、実質的に類似した核酸配列だけでなく、全配列に相補的な単離された核酸断片が含まれてもよい。
【国際調査報告】