(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-10
(54)【発明の名称】自己抗体を検出するための組成物、キット、及び方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6897 20180101AFI20220427BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220427BHJP
C12N 15/85 20060101ALN20220427BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220427BHJP
【FI】
C12Q1/6897 Z ZNA
C12Q1/02
C12N15/85 Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021553379
(86)(22)【出願日】2020-03-11
(85)【翻訳文提出日】2021-10-29
(86)【国際出願番号】 US2020022140
(87)【国際公開番号】W WO2020185926
(87)【国際公開日】2020-09-17
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516282776
【氏名又は名称】クイデル コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】イーガン,リチャード エル.
(72)【発明者】
【氏名】ミアオ,リン イホン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハンナ ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QR48
4B063QR59
4B063QR80
4B063QR90
4B063QS33
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
自己抗体が関与する甲状腺疾患の診断において有用なキット、組成物、及び方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
(i)キメラ甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体をコードするヌクレオチド配列を含む第1の発現ベクター、及び
(ii)レポーターをコードする合成ヌクレオチド配列を含む第2の発現ベクターであって、前記合成ヌクレオチド配列が、
(1)cAMP誘導性プロモーターに作動可能に結合しており;及び/又は
(2)異種cAMP結合タンパク質をさらにコードし、前記cAMP結合タンパク質が、前記レポーターに融合している第2の発現ベクター
により安定的に形質移入されたトランスジェニック細胞と;
(b)細胞溶解剤を有さない反応緩衝液であって、任意選択で前記レポーターの基質を含む反応緩衝液と
を含むキットであって、
前記レポーターの発現が、細胞内シグナルと関連する、キット。
【請求項2】
cAMPの存在が前記レポーターの発現を増加させ、それにより前記シグナルを向上させる、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記異種結合部位へのcAMPの結合が、前記シグナルを向上させる前記レポーターの立体構造変化を誘導する、請求項1に記載のキット。
【請求項4】
前記キメラTSH受容体が、ヒトTSH受容体配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のキット。
【請求項5】
前記キメラTSH受容が、ChR4である、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
前記レポーターが、ルシフェラーゼポリペプチドを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のキット。
【請求項7】
前記ルシフェラーゼポリペプチドが、改変されたルシフェラーゼである、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
前記改変されたルシフェラーゼが、循環置換されたルシフェラーゼである、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記基質が、ルシフェリンを含む、請求項6~8のいずれか一項に記載のキット。
【請求項10】
前記細胞内シグナルが、発光を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のキット。
【請求項11】
前記トランスジェニック細胞が、哺乳類細胞を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のキット。
【請求項12】
前記哺乳類細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はヒトRD細胞を含む、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記トランスジェニック細胞が、前記レポーターの基質をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のキット。
【請求項14】
前記反応緩衝液が、ポリエチレングリコール及びスクロースを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のキット。
【請求項15】
前記反応緩衝液が、アルブミンをさらに含む、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
前記アルブミンが、ウシ血清アルブミンを含む、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
細胞溶解剤を含まない、請求項1~16のいずれか一項に記載のキット。
【請求項18】
サンプル中の甲状腺刺激及び/又は甲状腺遮断自己抗体を検出する方法であって、
(a)トランスジェニック細胞を、甲状腺刺激及び/又は甲状腺遮断自己抗体を含むことが疑われるサンプルと接触させること、ここで、前記トランスジェニック細胞が、
(i)キメラ甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体をコードするヌクレオチド配列を含む第1の発現ベクター及び
(ii)レポーターをコードする合成ヌクレオチド配列を含む第2の発現ベクターであって、前記合成ヌクレオチド配列が、
(1)誘導性cAMP誘導性プロモーターに作動可能に結合しており、及び/又は
(2)異種cAMP結合タンパク質をさらにコードし、前記cAMP結合タンパク質は、前記レポーターに融合している第2の発現ベクター
により安定的に形質移入されている;及び
(b)前記レポーターの発現と関連する細胞内シグナルを検出すること、
を含む方法。
【請求項19】
前記トランスジェニック細胞が、前記レポーターの基質をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記接触ステップが、前記レポーターの基質を含む緩衝液中で接触させることを含む、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記緩衝液が、細胞溶解剤を含まない、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記トランスジェニック細胞を、前記接触ステップ前に前記レポーターについての前記基質に曝露するステップをさらに含む、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記接触ステップが、非希釈サンプルと接触させることを含む、請求項18~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
検出ステップが、前記接触の240分後未満、180分後未満、90分後未満、60分後未満又は30分後未満に実施される、請求項18~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記トランスジェニック細胞及び前記サンプルを含む組成物から前記細胞内シグナルを検出する、請求項18~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物中の前記トランスジェニック細胞の少なくとも75%が、検出時においてインタクトである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記接触ステップが室温で実施される、請求項18~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記トランスジェニック細胞を、前記接触ステップ前に解凍することをさらに含む、請求項18~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記接触ステップが、前記解凍の120分後未満、90分後未満、60分後未満、30分後未満又は5分後未満に実施される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記接触ステップが、前記トランスジェニック細胞を対照の甲状腺刺激剤と接触させることをさらに含む、請求項18~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記トランスジェニック細胞を前記サンプルと接触させる前に、前記トランスジェニック細胞が前記対照の甲状腺刺激剤と接触される、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001] 本出願は、参照により全体として本明細書に援用される2019年3月12日に出願された米国仮特許出願第62/817,458号の利益を主張する。
【0002】
技術分野
[0002] 本明細書に記載の主題は、自己抗体が関与する甲状腺疾患の診断において有用なキット、組成物、及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
[0003] 甲状腺機能不全は、一般集団における成人の推定1~10パーセントを冒す。多くの甲状腺疾患、例としてグレーブス病、橋本甲状腺炎、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症(新生児甲状腺機能低下症を含む)、非甲状腺腫性甲状腺機能低下症、甲状腺機能正常又は甲状腺機能低下自己免疫性甲状腺炎、及び原発性粘液水腫、及び特発性粘液水腫は、甲状腺上に存在する受容体を認識し、それに結合する自己抗体(甲状腺刺激免疫グロブリン(TSI)及び/又は甲状腺遮断免疫グロブリン(TBI)の作用を伴い、甲状腺ホルモン産生の不所望な変化をもたらす。
【0004】
[0004] 診断技術はそれらの自己抗体を検出するために利用可能である一方、それらの技術の多くは、煩雑で労力を要し、TSIとTBIとを区別し得ず、及び/又は十分な感度及び/又は特異度を欠く。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
簡単な概要
[0005] 以下に記載され、説明される以下の態様及びその実施形態は、例示的及び説明的なものであり、範囲を限定するものではないことを意図している。
【0006】
[0006] 本開示は、甲状腺刺激抗体(TSI)及び甲状腺遮断抗体(TBI)を検出し、及び/又はそれらを区別するためのキット、組成物、及び方法を提供する。
【0007】
[0007] 一態様において、第1の発現ベクター及び第2の発現ベクターにより安定的に形質移入されたトランスジェニック細胞と、細胞溶解剤を有さない反応緩衝液であって、任意選択でレポーターについての基質を含む反応緩衝液とを含むキットが提供される。これらの提供されるキットにおいて、第1の発現ベクターは、キメラ又は野生型TSH受容体をコードするヌクレオチド配列を含む一方、第2の発現ベクターは、レポーターをコードする合成ヌクレオチド配列を含み、合成ヌクレオチド配列は、(1)誘導性cAMP誘導性プロモーターに作動可能に結合しており、及び/又は(2)異種cAMP結合タンパク質をさらにコードし、cAMP結合タンパク質は、レポーターに融合している。これらの提供されるキットにおいて、レポーターの発現は、検出される細胞内シグナルと関連する。
【0008】
[0008] 一部の実施形態において、細胞内シグナルは、トランスジェニック細胞を溶解させずに検出する。他の実施形態において、細胞内シグナルは細胞内で産生させ、細胞外で検出する。他の実施形態において、レポーターは、基質との触媒反応時にシグナルを細胞内で産生するレポーターを生成するために継続的に発現されるタンパク質である。
【0009】
[0009] 別の態様において、サンプル中の甲状腺刺激及び/又は甲状腺遮断自己抗体を検出する方法であって、(a)トランスジェニック細胞を、甲状腺刺激及び/又は甲状腺遮断自己抗体を含むことが疑われるサンプルと接触させ、トランスジェニック細胞は、第1の発現ベクター及び第2の発現ベクターにより安定的に形質移入されていることと、(b)レポーターの発現と関連する細胞内シグナルを検出することとを含む方法が提供される。これらの提供される方法において、第1の発現ベクターは、キメラ又は野生型TSH受容体をコードするヌクレオチド配列を含む一方、第2の発現ベクターは、レポーターをコードする合成ヌクレオチド配列を含み、合成ヌクレオチド配列は、(1)cAMP誘導性プロモーターに作動可能に結合しており、及び/又は(2)異種cAMP結合タンパク質をさらにコードし、cAMP結合タンパク質は、レポーターに融合している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図面の簡単な説明
【
図1】[0010]
図1は、TSI/TBIについての本開示のインビボアッセイから得られた無溶媒サンプル対希釈サンプル(正常、低TSI、及び高TSI)についてのシグナル対バックグラウンド比(S/B)を示す(実施例1参照)。
【
図2】[0011]
図2は、洗浄ステップを含むプロトコルと洗浄ステップを除外するプロトコルとを比較する実験からの結果を示す。
図2は、TSI/TBIについての本開示のインビボアッセイから得られたサンプル(正常、低TSI、及び高TSI)についてのシグナル対バックグラウンド比を示す(実施例1参照)。
【
図3A】[0012]
図3Aは、一晩の細胞播種ステップを含むプロトコルと2時間の細胞播種ステップを含むプロトコルとを比較する実験からの結果を示す。
図3Aは、抗体スタンダード(甲状腺刺激抗体M22)を使用したタイトレーション曲線及び計算EC
50値を示す。
【
図3B】[0012]
図3Bは、一晩の細胞播種ステップを含むプロトコルと2時間の細胞播種ステップを含むプロトコルとを比較する実験からの結果を示す。
図3Bは、4つの陰性(NS1、NS2、NS3、及びNS4)及び4つの陽性(PS1、PS2、PS3、及びPS4)サンプルについてのシグナル対参照比を示す。
【
図3C】[0012]
図3Cは、一晩の細胞播種ステップを含むプロトコルと2時間の細胞播種ステップを含むプロトコルとを比較する実験からの結果を示す。
図3Cは、陰性サンプルの平均値に対する倍率応答として計算されたそれぞれの陽性サンプルについての応答を示す(実施例1参照)。
【
図4A】[0013]
図4Aは、2時間の細胞播種ステップを含むプロトコルと細胞を解凍直後又はすぐ後に使用するプロトコルとを比較する実験からの結果を示す。
図4Aは、M22スタンダードから得られたタイトレーション曲線及び計算EC
50値を示す。
【
図4B】[0013]
図4Bは、2時間の細胞播種ステップを含むプロトコルと細胞を解凍直後又はすぐ後に使用するプロトコルとを比較する実験からの結果を示す。
図4Bは、4つの陰性(NS1、NS2、NS3、及びNS4)及び4つの陽性(PS1、PS2、PS3、及びPS4)についてのシグナル対参照比を示す。
【
図4C】[0013]
図4Cは、2時間の細胞播種ステップを含むプロトコルと細胞を解凍直後又はすぐ後に使用するプロトコルとを比較する実験からの結果を示す。
図4Cは、陰性サンプルの平均値に対する倍率応答として計算されたそれぞれの陽性サンプルについての応答を示す(実施例1参照)。
【
図5A】[0014]
図5Aは、M22スタンダードから得られたタイトレーション曲線及び計算EC50値を示す(実施例1参照)。
【
図5B】[0015]
図5Bは、4つの陰性及び4つの陽性サンプルについてのシグナル対参照比を示す。
【
図5C】[0016]
図5Cは、陰性サンプルの平均値に対する倍率応答として計算されたそれぞれの陽性サンプルについての応答を示す(実施例1参照)。
【
図6】[0017]
図6は、本開示のTSIアッセイの特異度を評価するための実験からの結果を示し、甲状腺遮断抗体(K170)又は甲状腺刺激抗体(M22)の段階希釈物に対して実施された本開示のTSIアッセイを使用して観察されたシグナル応答比(SRR)を示す(実施例1参照)。
【
図7】[0018]
図7は、迅速TSIアッセイからの結果のリアルタイム測定値を示す。正常血清及び3つのTSI陽性サンプルを、本開示の迅速アッセイにより試験した。結果(%SRR)は、10分ごとに90分まで測定されたRLUデータを使用して計算した(実施例1参照)。
【
図8】[0019]
図8は、TSHR遮断抗体がChR4キメラTSHR受容体とも反応するか否かを評価するための実験からの結果を示す。
図8は、本開示のTSIアッセイにおいて観察された甲状腺遮断抗体K170、3H10、及び4C1の阻害パーセントを示す(実施例2参照)。
【
図9】[0020]
図9は、異なるインキュベーション時間(10分間、20分間、30分間、40分間、50分間、60分間、70分間、80分間、又は90分間)を有するプロトコルを比較する実験からの結果を示す。それぞれの時点についての最初の3つのバー(サンプルDLS004、DLS052、及びDLS034)は正常サンプルからのシグナルに対応し;それぞれの時点についての最後の4つのバー(サンプルDLS079、DLS060、DLS016、及びDLS122)はTSI陽性サンプルからのシグナルに対応する(実施例2参照)。
【
図10】[0021]異なる密度のCHO-ChR4/22Fトランスジェニック細胞に対するTSHR遮断抗体K170から得られたタイトレーション曲線及び計算IC
50値を示す(実施例3参照)。
【
図11A】[0022]
図11Aは、本開示の方法の感度を決定するために設計された実験からの結果を示す。
図11Aは、本開示のアッセイについて、及びTHYRETAIN(登録商標)TSIアッセイについてのタイトレーション曲線及び計算EC
50値を示す。本開示の方法を使用してM22スタンダードから得られたシグナルは、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイを使用して得られたものよりも約10倍高かった。2つのアッセイの分析的感度は類似していた(実施例4参照)。
【
図11B】[0022]
図11Bは、本開示の方法の感度を決定するために設計された実験からの結果を示す。
図11Bは、本開示のアッセイについて、及びTHYRETAIN(登録商標)TSIアッセイについてのタイトレーション曲線及び計算EC
50値を示す。本開示の方法を使用してM22スタンダードから得られたシグナルは、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイを使用して得られたものよりも約10倍高かった。2つのアッセイの分析的感度は類似していた(実施例4参照)。
【
図12】[0023]
図12は、異なるインキュベーション条件(1)室温で90分間(「RT90」)又は(2)37℃で1時間、次いで室温で30分間(「37℃-60/RT30」)を使用した臨床(ヒト血清)サンプルにおける結果を示す。比較のため、
図12は、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイを使用した同じサンプルに対する結果も示す(実施例5参照)。
【
図13】[0024]
図13は、CHO-ChR4/22Fトランスジェニック細胞又は予備平衡CHO-ChR4/22Fトランスジェニック細胞のいずれかを使用したアッセイからのエンドポイント測定値、及び比較のため、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイからの結果を示す(実施例5参照)。
【
図14A】[0025]
図14Aは、CHO-ChR4/22Fトランスジェニック細胞又は予備平衡CHO-ChR4/22Fトランスジェニック細胞のいずれかを使用したアッセイからの速度論的測定値、及び比較のため、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイからの結果を示し、速度論的測定値は、インキュベーション時間の5~90分間の種々の時点において採取した(実施例5参照)。
【
図14B】[0025]
図14Bは、CHO-ChR4/22Fトランスジェニック細胞又は予備平衡CHO-ChR4/22Fトランスジェニック細胞のいずれかを使用したアッセイからの速度論的測定値、及び比較のため、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイからの結果を示し、速度論的測定値は、インキュベーション時間の5~90分間の種々の時点において採取した(実施例5参照)。
【
図14C】[0025]
図14Cは、CHO-ChR4/22Fトランスジェニック細胞又は予備平衡CHO-ChR4/22Fトランスジェニック細胞のいずれかを使用したアッセイからの速度論的測定値、及び比較のため、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイからの結果を示し、速度論的測定値は、インキュベーション時間の5~90分間の種々の時点において採取した(実施例5参照)。
【
図14D】[0025]
図14Dは、CHO-ChR4/22Fトランスジェニック細胞又は予備平衡CHO-ChR4/22Fトランスジェニック細胞のいずれかを使用したアッセイからの速度論的測定値、及び比較のため、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイからの結果を示し、速度論的測定値は、インキュベーション時間の5~90分間の種々の時点において採取した(実施例5参照)。
【
図15A】[0026]
図15Aは、130個の抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体陽性血清サンプルにおける%SRRを示す。THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイからの結果を示す
図15Aにおいて、黒色点線は、140%SRRのアッセイカットオフを示す。
【
図15B】[0026]
図15Bは、130個の抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体陽性血清サンプルにおける%SRRを示す。本開示のTSIアッセイからの結果を示す
図15Bにおいて、紫色点線は、31%SRRの仮アッセイカットオフを示す(実施例6参照)。
【
図16】[0027]
図16は、本開示のTSIアッセイの使用についてTSIの世界保健機関(World Health Organization)(WHO)国際スタンダードを使用して作成された標準曲線を示す(実施例7参照)。
【
図17】[0028]
図17は、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイの結果のまとめを提供する表4を示す(実施例5参照)。
【
図18】[0029]
図18は、CHO-ChR4/22F細胞を使用したTHYRETAIN(登録商標)TSIアッセイの結果のまとめを提供する表5を示す(実施例5参照)。
【
図19】[0030]
図19は、予備平衡CHO-ChR4/22F細胞を使用したTHYRETAIN(登録商標)TSIアッセイの結果のまとめを提供する表6を示す(実施例5参照)。
【
図20】[0031]
図20は、配列番号1に提供されるChR4キメラ甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)をコードする合成人工核酸のヌクレオチド配列を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
[0032] 本開示は、甲状腺ホルモン遮断免疫グロブリン(TBI)及び/又は甲状腺刺激免疫グロブリン(TSI)を検出するためのキット、組成物、及び方法を提供する。TSI及び/又は甲状腺遮断免疫グロブリン(TBI)を検出する当該技術分野において公知の方法と比較して、本開示の方法は、少ないステップ及び短い検査所要時間を伴う一方、TSI及び/又はTBIについての感度及び特異度を保持する。例えば、本開示のキット、組成物、及び方法は、TSI及び/又はTBIの検出を細胞溶解なしで可能とし、そのことは、処理時間を低減させるだけでなく、エンドポイント測定に加えて経時的な速度論的測定も可能とする。
【0012】
[0033] これらの特徴部は、とりわけ、本開示のキット、組成物、及び方法の大規模使用を可能とする。さらに、本開示のキット、組成物、及び方法は、種々の状況においてより広範な潜在的使用者によりアクセス可能である。
【0013】
I.定義
[0034] 数値に関して本明細書において使用される用語「約」及び「およそ」は、本明細書において、特に記述がない限り、又は文脈から特に明らかでない限りその数値(超の又は未満の)いずれかの方向の20%、10%、5%、又は1%の範囲内に収まる数を含めるために使用される(そのような数が考えられる値の100%を超過する場合を除く)。
【0014】
[0035] 本明細書において使用される用語「ポリペプチド」は、一般に、少なくとも3つのアミノ酸のポリマーのその当該技術分野において認識される意味を有する。しかしながら、この用語は、具体的な機能クラスのポリペプチド、例えば、ルシフェラーゼポリペプチドなども指す。それぞれのそのようなクラスについて、本明細書は、定義された配列を有する既知の参照ポリペプチドを指し得る。しかしながら、当業者は、用語「ポリペプチド」が、参照ポリペプチドの完全配列を有するポリペプチドを包含するだけでなく、そのような完全ポリペプチドの機能的断片(すなわち、少なくとも1つの活性を保持する断片)を表すポリペプチドも包含するように十分に一般的であることを認識する。さらに、当業者は、タンパク質配列が一般に、活性の破壊なしの多少の置換を許容することを理解する。さらに、タンパク質配列の循環置換も活性を保持し得る。したがって、活性を保持し、少なくとも約30~40%の全体的な配列同一性(例として、循環置換)、多くの場合約50%、60%、70%、又は80%超を共有し、さらに通常は非常に高い同一性、多くの場合1つ以上の高度に保存された領域において90%、又はさらには95%、96%、97%、98%、若しくは99%超の少なくとも1つの領域を含み、通常、同じクラスの別のポリペプチドとともに、少なくとも3~4つ、多くの場合最大20個以上のアミノ酸を包含する任意のポリペプチドは、本明細書において使用される関連用語「ポリペプチド」に包含される。当業者は、本明細書に参照される種々のポリペプチドの配列を分析することにより類似及び/又は同一の他の領域を同定することができる。
【0015】
II.キット
[0036] 一態様において、甲状腺刺激免疫グロブリン(TSI)及び/又は甲状腺遮断免疫グロブリン(TBI)を検出するためのキットが提供される。キットは、一般に、(a)第1の発現ベクター及び第2の発現ベクターにより安定的に形質移入されたトランスジェニック細胞及び/又は(b)細胞溶解剤を有さない反応緩衝液を含む。一般に、第1の発現ベクターは、キメラ甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体をコードするヌクレオチド配列を含み、第2の発現ベクターは、レポーターをコードし、(i)cAMP誘導性プロモーターに作動可能に結合しており、及び/又は(ii)異種cAMP結合タンパク質をさらにコードする合成ヌクレオチド配列を含み、cAMP結合タンパク質は、レポーターに融合している。一部の実施形態において、提供されるキットは、さらに1つのスタンダード又は対照試薬をさらに含む。提供されるキットは、一部の実施形態において細胞溶解剤を含まず、細胞溶解剤とともに使用されるものではない。
【0016】
[0037] キットを本明細書にさらに記載される方法に従って使用する場合、トランスジェニック細胞は、キメラTSHRをその細胞表面上に発現する。TSI及び/又はTBIへの結合時、トランスジェニック細胞中のcAMPレベルは増加し、それは、(1)レポーターの発現及び/又は(2)レポーターを含む融合タンパク質へのcAMPの結合をもたらす。一部の実施形態において、融合タンパク質へのcAMPの結合はレポーターの立体構造変化をもたらし、立体構造変化はレポーターの検出を可能とし、又はレポーターの検出可能性を増加させる。
【0017】
A.トランスジェニック細胞
1.第1の発現ベクター
[0038] 第1の発現ベクターは、キメラ甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体(キメラTSHR)をコードするヌクレオチド配列を含む。一般に、そのようなキメラTSHRは、TSI、TBI、又はその両方に結合する。一部の実施形態において、キメラTSHRは、ヒトTSHR(hTSHR)の一部及び別の受容体の一部を含む。例えば、キメラTSHRは、ヒトTSHR(hTSHR)及び黄体形成ホルモン絨毛性ゴナドトロピン受容体(LH-CGR)のキメラであり得る。好適なhTSHR/LH-CGRキメラ受容体の非限定的な例としては、(1)ラットLH-CGRからの等価残基により置換されているアミノ酸残基8~165を有するキメラ受容体(以下、「ChR1」);(2)ラットLH-CGRからの等価残基により置換されているアミノ酸残基90~165を有するキメラ受容体)(以下、「ChR2」)、(3)ラットLH/CGRからの等価残基により置換されているhTSHRのアミノ酸残基262~335を有するキメラ受容体(以下、「ChR3」);及び(4)ラット黄体形成ホルモン/絨毛性ゴナドトロピン受容体(LH/CGR)からの残基262~334により置換されているhTSHRのアミノ酸残基262~368を有するキメラ受容体、以下、「ChR4」)が挙げられる(例えば、全内容が参照により本明細書に援用される米国特許第9,739,775号参照)。好適なTSHRの非限定的な例は、ヌクレオチド配列が配列番号1の及び
図20にも提供されるヌクレオチド配列と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97.5%、又は100%同一であるTSHRである。
【0018】
[0039] 一般に、キメラTSHRは、プロモーターに作動可能に結合している。一部の実施形態において、プロモーターは、構成的プロモーターである。
【0019】
2.第2の発現ベクター
[0040] 第2の発現ベクターは、本明細書にさらに記載されるレポーターをコードする合成ヌクレオチド配列を含む。
【0020】
[0041] 一般に、合成ヌクレオチド配列は、プロモーターに作動可能に結合している。一部の実施形態において、合成ヌクレオチド配列は、構成的プロモーターに作動可能に結合している。
【0021】
[0042] 一部の実施形態において、合成ヌクレオチド配列は、cAMP誘導性プロモーターに作動可能に結合しており;したがって、一部の実施形態において、cAMPの存在はレポーターの発現を誘導する。
【0022】
[0043] 一部の実施形態において、合成ヌクレオチド配列は、異種cAMP結合タンパク質をさらにコードし、cAMP結合タンパク質は、レポーターに融合している。一部のそのような実施形態において、cAMPの存在はcAMP結合タンパク質への結合によりレポーターの立体構造変化を誘導し、立体構造変化はレポーターの活性増加に対応する。
【0023】
3.細胞系
[0044] 安定的形質移入細胞を生成するために多数の細胞系、例として、タンパク質発現系の構成成分として使用される細胞系が好適である。一部の実施形態において、トランスジェニック細胞は、哺乳類細胞を含む。好適な哺乳類細胞系の非限定的な例としては、腺癌ヒト肺胞基底上皮細胞(例えば、A549細胞)、アフリカザル(African monkey)腎細胞(例えば、COS及びVero細胞)、ベビーハムスター腎(BHK)細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、マウス骨髄腫細胞(例えば、J558L、NS0、及びSp2/0細胞)、ヒト骨肉腫細胞(例えば、U2OS)、ヒト乳癌細胞(例えば、MCF-7)、ヒト子宮頸癌細胞(例えば、HeLa)、ヒト胎児腎細胞(例えば、HEK293)、ヒト線維肉腫細胞(例えば、HT1080)、ヒト肝癌細胞(例えば、HepG2)、ヒト横紋筋肉腫RD細胞(「ヒトRD細胞」)、ヒト網膜芽細胞腫細胞(例えば、SO-Rb5及びY79)、マウス胚性癌細胞(例えば、P19)、マウス線維芽細胞(例えば、L929及びNIH3T3)、マウス神経芽腫細胞(例えば、N2a)、及び上記細胞系の任意の誘導体が挙げられる。
【0024】
[0045] 一部の実施形態において、哺乳類細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(その任意の誘導体を含む)又はヒトRD細胞(その任意の誘導体を含む)を含む。CHO細胞系誘導体の非限定的な例としては、CHO-K1、CHO pro-3、及びDHFR欠損細胞系、例えば、DUKX-X11及びDG44が挙げられる。
【0025】
[0046] 一部の実施形態において、トランスジェニック細胞は、レポーターについての基質をさらに含む。
【0026】
B.レポーター及び基質
[0047] 一部の実施形態において、レポーターの存在は、トランスジェニック細胞を溶解させずに検出することができる。例えば、レポーター自体が、検出可能部分、例えば、蛍光標識を含み得る。或いは又はさらに、レポーターは基質に結合し、又は作用し得、基質へのレポーターの結合又は作用は細胞内で検出可能である。例えば、レポーターは、基質への作用が細胞内で検出可能な酵素を含み得る。
【0027】
[0048] 一部の実施形態において、レポーターは、光放出レポーター、例えば、化学発光又は生物発光レポーターである。例えば、レポーターは、基質への作用が光放出する酵素を含み得る。
【0028】
[0049] 例えば、レポーターは、ルシフェラーゼポリペプチド、例えば、限定されるものではないが、ホタルルシフェラーゼ(例えば、フォティヌス・ピラリス(Photinus pyralis)ルシフェラーゼ)、ウミシイタケ属(Renilla)ルシフェラーゼ(例えば、ウミシイタケ(Renilla reformis)ルシフェラーゼ)、ガウシア属(Gaussia)ルシフェラーゼ(例えば、ガウシア・プリンセプス(Gaussia princeps)ルシフェラーゼ)、オキヒオドシエビ属(Oplophorus)ルシフェラーゼ(例えば、オキヒメヒオドシエビ(Oplophorus gracilirostris)ルシフェラーゼ)、又はそのバリアント若しくは組み合わせを含み得る。一部の実施形態において、レポーターは、改変されたルシフェラーゼである。改変されたルシフェラーゼの例としては、限定されるものではないが、それぞれの全内容が参照により本明細書に援用される米国特許第5,670,356号;同第7,729,118号;及び同第8,008,006号に記載のものが挙げられる。一部の実施形態において、改変されたルシフェラーゼは、循環置換されたルシフェラーゼである。
【0029】
[0050] 一部の実施形態において、ルシフェラーゼポリペプチドの立体構造変化は、ルシフェラーゼ活性の増加と関連する。
【0030】
[0051] 一部の実施形態において、提供されるキットは、レポーターについての基質をさらに含む。基質は、別個の試薬として提供することができる。或いは又はさらに、基質は、別の試薬の一部として提供することができる。例えば、本明細書に挙げられるトランスジェニック細胞は、基質を含み得る。
【0031】
[0052] レポーターに適切な任意の基質を使用することができる。一部の実施形態において、基質は、細胞膜を介して細胞質中に拡散し得る。一部の実施形態において、基質は、細胞膜を介して細胞質中に能動的に輸送される。
【0032】
[0053] 例えば、レポーターがルシフェラーゼポリペプチドを含む場合、基質は、任意の対応するルシフェリンであり得る。ルシフェラーゼポリペプチドがルシフェリンを酸化して励起分子(例えば、オキシルシフェリン)を生成し得、次いでそれが基底状態に緩和する場合に光放出する場合、ルシフェリンは「対応するルシフェリン」である。
【0033】
[0054] 例えば、D-ルシフェリン又はその誘導体は、種々のルシフェラーゼポリペプチド、例として、ホタルルシフェラーゼについての基質であり得る。別の例として、セレンテラジン又はその誘導体は、種々のルシフェラーゼポリペプチド、例として、ウミシイタケ属(Renilla)ルシフェラーゼ、ガウシア属(Gaussia)ルシフェラーゼ、及びオキヒオドシエビ属(Oplophorus)ルシフェラーゼについての基質であり得る。
【0034】
C.反応緩衝液
[0055] 反応緩衝液は細胞溶解剤を欠き、一般に、塩の混合物を含む。例えば、反応緩衝液は、CaCl2、KCl、KH2PO4、MgSO4、Na2HPO4、NaHCO3、NaCl、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸)、又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される塩を含み得る。一部の実施形態において、反応緩衝液は、CaCl2、KCl、KH2PO4、MgSO4、Na2HPO4、及びHEPESを含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、CaCl2、KCl、KH2PO4、MgSO4、Na2HPO4、NaHCO3、及びNaClを含む。
【0035】
[0056] 反応緩衝液は、塩の混合物に加え、1つ以上の成分も含み得る。例えば、一部の実施形態において、反応緩衝液は、スクロースをさらに含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、少なくとも5g/L、少なくとも10g/L、少なくとも15g/L、又は少なくとも20g/Lのスクロースを含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、多くとも100g/L、多くとも90g/L、多くとも80g/L、多くとも70g/L、多くとも60g/L、多くとも50g/L、多くとも40g/Lのスクロース、多くとも30g/L、又は多くとも20g/Lのスクロースを含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、5g/L~100g/L、10g/L~90g/L、10g/L~80g/L、10g/L~70g/L、10g/L~60g/L、10g/L~50g/L、10g/L~40g/L、10g/L間、又は10g/L~30g/Lのスクロースを含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、約5g/L、約7.5gL、約10g/L、約12.5g/L、約15g/L、約17.5g/L、約20g/L、約22.5g/L、約25g/L、約27.5g/L、約30g/L、約32.5g/L、約35g/L、約37.5g/L、約40g/L、約42.5g/L、約45g/L、約47.5g/L、約50g/L、約55g/L、約60g/L、約65g/L、約70g/L、又は約75g/Lのスクロースを含む。
【0036】
[0057] 一部の実施形態において、反応緩衝液は、少なくとも10mM、少なくとも20mM、少なくとも30mMのスクロース、少なくとも40mM、少なくとも50mM、少なくとも75mM、又は少なくとも100mMのスクロースを含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、多くとも300mM、多くとも275mM、多くとも250mM、多くとも225mM、多くとも200mM、多くとも175mM、多くとも150mM、少なくとも125mM、多くとも100mM、多くとも90mM、多くとも80mM、多くとも70mM、多くとも60mM、又は多くとも50mMのスクロースを含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、10mM~300mM、20mM~200、30mM~150mMのスクロース、30mM~125mM、又は30mM~100mMのスクロースを含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、約40mM、約45mM、約50mM、約60mM、約70mM、約80mM、約90mM、約100mM、約120mM、約140mM、約160mM、約180mM、約200mM、又は約220mMのスクロースを含む。
【0037】
[0058] 一部の実施形態において、反応緩衝液は、ポリエチレングリコール(PEG)、例えば、100~20,000の分子量を有するPEG(例えば、PEG-100、PEG-200、PEG-300、Peg-400、PEG-600、PEG-1000、PEG-1500、PEG-2000、PEG-2050、PEG-3000、PEG-3350、PEG-4000、PEG-4600、PEG-6000、PEG-8000、PEG-10,000、PEG-12,000、PEG-20,000又はそれらの混合物)をさらに含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、少なくとも0.5%のPEG、少なくとも1%のPEG、少なくとも2%のPEG、少なくとも3%のPEG、少なくとも4%のPEG、少なくとも5%のPEG、少なくとも6%のPEG、少なくとも7%のPEG、又は少なくとも8%のPEGを含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、多くとも12%のPEG、多くとも11%のPEG、多くとも10%のPEG、多くとも9%のPEG、多くとも8%のPEG、多くとも7%のPEG、多くとも6%のPEG、又は多くとも5%のPEGを含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、0.5%~12%のPEG、1%~10%のPEG、又は2%~6%のPEGを含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、約0.5%、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、又は約8%のPEGを含む。
【0038】
[0059] 一部の実施形態において、反応緩衝液は、アルブミン、例えば、ウシ血清アルブミンを含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、少なくとも0.5%、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、又は少なくとも5%のアルブミンを含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、多くとも12%、多くとも10%、多くとも8%、多くとも6%、多くとも4%、又は多くとも2%のアルブミンを含む。
【0039】
[0060] 一部の実施形態において、反応緩衝液は、塩、PEG、スクロース、及びアルブミンを含む。一部の実施形態において、反応緩衝液は、塩、PEG、及びスクロースを含むがアルブミンを含まない。一部の実施形態において、反応緩衝液は、塩及びPEGを含むが、スクロースもアルブミンも含まない。
【0040】
[0061] 反応緩衝液配合物の非限定的な例としては、全内容が参照により本明細書に援用される米国特許第9,739,775号(その中で「刺激媒体」と称される)に開示される配合物が挙げられる。
【0041】
[0062] 一部の実施形態において、反応緩衝液は、野生型又はキメラTSHR受容体へのTSHの結合を阻害し、それにより例えば、試験血液サンプル中の正常生理学的又は高レベルのTSHの存在に起因する偽シグナルを妨げる試薬を含む。TSH阻害剤は、TSHに特異的に結合する抗体、又は野生型若しくはキメラTSHRへのTSHの結合をTSHRに結合せずに遮断する他の薬剤であり得、したがってTSHからの干渉もTSH遮断試薬からの干渉もなしでアッセイの進行を可能とする。
【0042】
D.対照及びスタンダード
[0063] 一部の実施形態において、提供されるキットは、1つ以上の対照の甲状腺刺激剤及び/又は1つ以上の対照の甲状腺遮断剤をさらに含む。本明細書において使用される対照の甲状腺刺激剤という用語は、哺乳類細胞上で発現されるTSHRを刺激することが公知の薬剤を指す。TSHRへの対照の甲状腺刺激剤の結合は、cAMP上方調節を含む細胞内シグナリングイベントを誘導する。好適な対照の甲状腺刺激剤の例としては、限定されるものではないが、甲状腺刺激抗体(例えば、M22抗TSHR mAb及びNIBSC08/204(甲状腺刺激抗体についてのWHO国際スタンダード)及び甲状腺刺激ホルモン(TSH)(例えば、ウシTSH)が挙げられる。本明細書において使用される対照の甲状腺遮断剤という用語は、例えば、TSHRへのTSH結合を妨げることにより、又はTSHRに結合し、それにより刺激剤、例えば、TSI特異的抗体の結合を阻害することにより哺乳類細胞上で発現されるTSHRの作用を遮断することが公知の薬剤を指す。好適な対照の甲状腺刺激剤の例としては、限定されるものではないが、甲状腺遮断抗体、例えば、3H10及びK170が挙げられる。
【0043】
[0064] 一部の実施形態において、提供されるキットは、1つ以上の対照サンプル、例えば、TSI若しくはTBIを欠く対照陰性サンプル、対照の甲状腺遮断剤を含む対照陰性サンプル、及び/又はTSI、TBI、若しくは対照の甲状腺刺激剤を含む対照陽性サンプルを含む。好適な対照陰性サンプルの非限定的な例としては、TSI及びTBIについて陰性であることが既知の血清サンプル、臨床サンプル(例えば、ヒト血清サンプル)、TSI及びTBIを欠く人工組成物、対照の甲状腺遮断剤を含むことが既知の臨床サンプル、又は対照の甲状腺遮断剤を含む人工サンプルが挙げられる。好適な対照陽性サンプルの非限定的な例としては、TSI、TBI、若しくは対照の甲状腺刺激剤によりスパイクされた血清サンプル;TSI及び/又はTBIについて陽性であることが既知の臨床サンプル(例えば、ヒト血清サンプル)、又はTSI、TBI、若しくは対照の甲状腺刺激剤によりスパイクされた人工組成物が挙げられる。
【0044】
[0065] 一部の実施形態において、提供されるキットは、例えば、サンプル中のTSI及び/又はTBIの量を定量するための定量スタンダード又はスタンダードのセットを含む。スタンダードは、既知の量又は濃度の薬剤、例えば、対照の甲状腺刺激剤及び/又は対照の甲状腺遮断剤により特徴付けすることができる。キットは、スタンダードを希釈してスタンダードのセットを作製するための説明書を含み得、又はキットは、それぞれ異なる既知の量又は濃度の薬剤を有するスタンダードのセットを含み得る。
【0045】
[0066] 提供される方法に従って使用される場合、一部の実施形態において、少なくとも1つの対照サンプル又はスタンダードは、他のサンプルと並行して処理する。
【0046】
III.アッセイ法
[0067] 一態様において、甲状腺刺激免疫グロブリン(TSI)及び/又は甲状腺遮断免疫グロブリン(TBI)を検出する方法が提供される。提供される方法は、一般に、(a)トランスジェニック細胞(本明細書に記載)を、甲状腺刺激及び/又は甲状腺遮断自己抗体を含むことが疑われるサンプルと接触させるステップと、(b)レポーターの発現と関連する細胞内シグナルを検出するステップとを含む。
【0047】
[0068] 一部の実施形態において、接触ステップは、レポーターについての基質を含む緩衝液中で接触させることを含む。緩衝液は、一般に、細胞溶解剤を除外し、例えば、上記の任意の反応緩衝液であり得る。
【0048】
[0069] 一部の実施形態において、提供される方法は、トランスジェニック細胞を、接触ステップ前にレポーターについての基質に曝露するステップをさらに含む。
【0049】
[0070] サンプルは、本明細書にさらに記載される任意の対象から得ることができる。一部の実施形態において、サンプルは、血清を含む。一部の実施形態において、サンプルは、非希釈サンプルである。
【0050】
[0071] 一部の実施形態において、検出ステップは、接触ステップの240分後以下(約240分後又はそれ未満)、180分後以下、90分後以下、60分後以下、30分後以下、15分後以下、又は5分後以下に実施する。例えば、一部の実施形態において、検出ステップは、接触ステップの240分後未満、180分後未満、90分後未満、又は60分後未満に実施する。一部の実施形態において、検出ステップは、接触ステップの約5分~約60分後、例えば、約10分後、約15分後、20分後、約25分後、約30分後、約35分後、約40分後、約45分後、約50分後、約55分後、又は約60分後に実施する。
【0051】
[0072] 一部の実施形態において、検出ステップは、接触ステップ後にトランスジェニック細胞又はサンプルを添加も除去もせずに実施する。したがって、一部の実施形態において、細胞内シグナルは、トランスジェニック細胞及びサンプルを含む組成物から検出する。一部の実施形態において、組成物中のトランスジェニック細胞の少なくとも一部(例えば、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%)は、検出時においてインタクトである(すなわち、溶解していない)。
【0052】
[0073] 一部の実施形態において、検出ステップは、接触ステップ後に基質を添加も除去もせずに実施する。一部の実施形態において、検出ステップは、接触ステップ後に基質、トランスジェニック細胞、又はサンプルのいずれも添加も除去もせずに実施する。
【0053】
[0074] 一部の実施形態において、接触ステップは、室温において(例えば、完全に室温において)実施する。一部の実施形態において、方法は完全に室温において実施し、すなわち、方法における全てのステップを室温において実施する。
【0054】
[0075] 一部の実施形態において、提供される方法は、トランスジェニック細胞を接触ステップ前に解凍することをさらに含む。一部の実施形態において、接触ステップは、前記解凍の120分後未満、90分後未満、60分後未満、又は30分後未満に実施する。
【0055】
[0076] 一部の実施形態において、提供される方法は、マルチウェルプレート、例えば、96ウェルプレート、384ウェルプレートなど、例えば、黒色、白色、透明底を有する白色プレート又は透明プレートを使用して実施する。一部の実施形態において、提供される方法は、白色プレートを使用して実施する。一部の実施形態において、提供される方法は、非コート又は非処理プレート上で実施する。
【0056】
A.TSIの検出
[0077] 一部の実施形態において、提供される方法を使用してTSIを検出する。これらの実施形態において、キメラTSHRはTSIに結合し、さらにTBIに結合しても結合しなくてもよく、サンプルはTSIを含むことが疑われ、TBIも含むことが疑われていても疑われていなくてもよい。
【0057】
[0078] 提供される方法を使用してTSIを検出する場合、TSIを含むことが疑われるサンプルからのシグナルは、一般に、対照ベースライン値に対して比較する。対照ベースライン値よりも大きいシグナルは、TSIの存在を示し得る。
【0058】
[0079] 対照ベースライン値は(例えば、提供されるキット中に含まれる説明書において)提供することができ、又はそれは、トランスジェニック細胞及び基質を含有するが、TSIを含有しない対照ウェルから得ることができる。例えば、対照ウェルは、(1)TSIを含まず、TSIを含むことが疑われるサンプルと並行して処理することが意図される対照サンプル;及び/又は(2)TSIを含むことが疑われるサンプルと並行して処理されることを必要としない組成物を含む。或いは又はさらに、対照ウェルはサンプルを欠き得るが、他の点ではTSIを含むことが疑われるサンプルと並行して処理する。
【0059】
B.TBIの検出
[0080] 一部の実施形態において、提供される方法を使用してTBIを検出する。これらの実施形態において、キメラTSHRはTBIに結合し、さらにTSIに結合しても結合しなくてもよく、サンプルは、TBIを含むことが疑われ、さらにTSIを含むことが疑われていても疑われなくてもよい。
【0060】
[0081] 一般に、提供される方法を使用してTBIを検出する場合、接触ステップは、トランスジェニック細胞を、第1の発現ベクターによりコードされるキメラTSHRに結合する対照の甲状腺刺激剤(本明細書にさらに記載)と接触させることをさらに含む。一部の実施形態において、トランスジェニック細胞をサンプルと接触させる前に、トランスジェニック細胞を対照の甲状腺刺激剤と接触させる。
【0061】
[0082] 一般に、アッセイを実施してTBIを検出する場合、TBIを含むことが疑われるサンプルからのシグナルは、対照ベースライン値に対して比較する。サンプルと関連するシグナルが対照ベースライン値と比較して低減する場合、サンプルは、TBIを含み得る。
【0062】
[0083] 対照ベースライン値は(例えば、提供されるキット中に含まれる説明書において)提供することができ、又はそれは、甲状腺刺激剤、トランスジェニック細胞、及び基質を含有するが、TBIを含有しない対照ウェルから得ることができる。例えば、対照ウェルは、(1)TBIを含まず、TBIを含むことが疑われるサンプルと並行して処理されることが意図される対照サンプル;及び/又は(2)TBIを含むことが疑われるサンプルと並行して処理されることを必要としない組成物を含む。或いは又はさらに、対照ウェルはサンプルを欠き得るが、他の点ではTBIを含むことが疑われるサンプルと並行して処理することができる。
【0063】
IV.用途
[0084] 本明細書に提供されるキット、組成物、及び方法を使用して甲状腺刺激免疫グロブリン(TSI)及び/又は甲状腺遮断抗体(TBI)を検出することができる。この検出は、TSHRに対する自己抗体、例えば、TSI及び/又はTBIの存在と関連する1つ以上の疾患の診断において有用であり得る。
【0064】
[0085] 一部の実施形態において、サンプルは、自己免疫性甲状腺疾患を有することが疑われ、又はそれを発症するリスクがある対象から得る。一部の実施形態において、自己免疫性甲状腺疾患は、TSIの存在と関連する。一部の実施形態において、自己免疫性甲状腺疾患は、TBIの存在と関連する。一部の実施形態において、自己免疫性甲状腺疾患は、TSI及びTBIの両方の存在と関連する。一部の対象は2つ以上の障害を有し得、又はそれらの障害は経時的にも変化し得、その結果、それらの系中の任意の自己抗体のプロファイルは経時的に変化し、例えば、優勢なあるタイプの自己抗体から別のタイプに(例えば、TSIからTBIに又はその逆)スイッチする。
【0065】
[0086] 例えば、甲状腺機能亢進症は、TSIの産生と関連することが多い。甲状腺機能亢進症により特徴付けられる疾患の非限定的な例は、グレーブス病である。
【0066】
[0087] 一部の甲状腺機能低下障害は、TBIと関連する。甲状腺機能低下障害の例としては、限定されるものではないが、橋本病、新生児甲状腺機能低下症、非甲状腺腫性甲状腺機能低下症、原発性粘液水腫、及び特発性粘液水腫が挙げられる。
【0067】
[0088] 一部の実施形態において、サンプルを得る対象は、哺乳類である。一部の実施形態において、対象は、ヒトである。
【0068】
[0089] 一部の実施形態において、サンプルは、血液又は血清サンプルである。
【0069】
V.関連キット及び方法
[0090] 当業者は、本開示が、TSHシグナリング活性を改変するTSHR自己抗体に加え、他の生物分子の検出及びスクリーニングのためのさらに他の産物を作出するための十分な指針を提供することを認識する。例えば、本明細書の教示に照らして、当業者は、Gタンパク質共役細胞表面受容体(GPCR)を介して効果を付与する細胞内シグナリングに対する効果を有し、細胞内cAMPレベルの変化をもたらす刺激若しくは遮断抗体、又は他の刺激若しくは遮断剤を検出するための細胞ベースレポーターアッセイ系を構築することができる。
【0070】
[0091] GPCRは、種々の細胞外刺激に応答する統合膜タンパク質の大きなファミリーである。それぞれのGPCRは特異的リガンドに結合し、その刺激により活性化され、それは小分子カテコールアミン、脂質、又は神経伝達物質から大型タンパク質ホルモンまでサイズが変動する。GPCR、例えば、TSH受容体がその細胞外リガンドTSHにより活性化される場合、立体構造変化が受容体において誘導され、それは付着細胞内へテロ三量体Gタンパク質複合体に伝達される。cAMP依存性経路において、活性化されたタンパク質Gsアルファサブユニットは、アデニリルシクラーゼと呼ばれる酵素に結合し、それを活性化させ、次いでそれはATPの環状アデノシン一リン酸(cAMP)への変換を触媒する。
【0071】
[0092] セカンドメッセンジャーcAMPの濃度の増加又は減少は、例えば、関連GPCRも発現する宿主トランスジェニック細胞内のcAMP誘導性プロモーターレポーター構築物により検出することができる。或いは、cAMPの濃度の増加又は減少は、改変/異種cAMP結合タンパク質の使用により検出することができ、cAMP結合タンパク質は、検出及び/又は定量することができるレポーター部分に融合している。
【0072】
[0093] 広範なペプチド及びポリペプチド部分を、受容体のシグナル伝達活性を実質的に破壊せずにGPCR分子のN又はC末端のいずれかに付加することができることが公知である。その観察は、本開示に記載のTSHR系に加え、他の検出系の構築を許容する。
【0073】
[0094] 一態様において、GPRCが1つ以上の結核菌(Mycobacterium tuberculosis)(TB)抗原を有する融合タンパク質を含むように改変される場合、シグナリングカスケード(例えば、cAMPシグナル)を誘発するための改変/キメラGPCRを用いる本明細書に記載の細胞ベース検出系を使用することが可能である。次いで、この系は、例えば、対象の血液中に存在し得る抗体を検出し得、抗TB抗体は、レポーター細胞の表面上のキメラGPCR融合受容体のTB抗原部分に結合し得、抗TB抗体結合は、融合タンパク質のGPCRシグナリング部分の活性化又は抑制をもたらし、cAMP産生の増加又は減少を誘発する。
【0074】
[0095] キメラGPCR分子上のTB抗原に結合する抗TB抗体に応答するcAMP産生の増加又は減少の評価は、例えば、cAMP感受性プロモーターレポーター構築物、或いは好適なレポーター部分に融合している環状AMP結合タンパク質を使用することにより検出することができる。
【0075】
[0096] さらに他の実施形態において、この同じ原理を使用して、トランスジェニック検出器細胞がT細胞特異的応答を誘発するTB抗原により活性化された特異的T細胞を検出することを可能とする本明細書に記載の系の改変バージョンを使用することが可能である。このアプローチは、細胞媒介免疫応答を開始させる任意の抗原について機能する。
【0076】
[0097] インターフェロン-γ(IFN-γ又はガンマ)放出アッセイ(IGRA)、例えば、潜在性(LTBI)及び活動性結核(TB)の両方の診断のためのIGRAも、本明細書に記載の方法及びキットとともに使用される場合、使用される。IGRAは、Tリンパ球が特異的抗原に曝露された場合にIFN-γを放出し、それをELISAタイプアッセイにより定量するという事実に依存する。種々の市販のIGRAが、TB感染の診断に利用可能である。例えば、QIAGEN(登録商標)QuantiFERON(登録商標)-TB Goldアッセイは、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)抗原に対応する2つの合成ペプチドの混合物に応答して産生されるIFN-γの量を定量するための全血試験である。さらに、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)特異的抗原への曝露に応答して血液サンプル中でインターフェロン-ガンマを産生する抗抗酸菌エフェクターT細胞の数を計数するOxford Immunotec Ltd. T-SPOT.TB(商標)IGRAも利用可能である。
【0077】
VI.阻害抗TSHR自己抗体(TBI)の同定
[0098] 甲状腺遮断免疫グロブリン(TBI)は、甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)に結合し、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の作用を阻害する自己抗体である。TBIの存在は橋本病をもたらすが、TBIは橋本病の唯一の原因ではない。
【0078】
[0099] 甲状腺刺激免疫グロブリン(TSI)と甲状腺遮断免疫グロブリン(TBI)とを区別する能力は、簡易な免疫アッセイではなく生物学的試験系を要求する。それというのも、TSI及びTBI自己抗体の両方がTSHRに結合し、ゆえに阻害生物学的効果と刺激生物学的効果とを区別するものとしてこのタイプの血清学的検出系を無効にするためである。TSHRに対する自己抗体の生物学的効果について試験する生物学的試験系が要求される。
【0079】
[0100] 本開示は、本明細書に記載の細胞ベース生物学的アッセイプロトコルの改変を提供し、改変プロトコルは、TSI自己抗体と対照的にTBI自己抗体を特異的に区別する。これらのプロトコルは、以下の改変を含む。
【0080】
[0101] (1)細胞ベースアッセイ時、制御数のTSI特異的モノクローナル抗体(MAb)を、患者血清の小アリコートを含有する試験ウェルに添加する。
【0081】
[0102] (2)患者試験血清中のTBI自己抗体の不存在下で、細胞ベース生物学的試験系の刺激/活性化及びレポーターの検出が存在し、陰性シグナルと命名される所定のレポーターシグナル範囲をもたらす。
【0082】
[0103] (3)患者試験血清中のTBI自己抗体の存在下で、アッセイは、30%以上のレポーターシグナルの損失(シグナルの阻害)を示す。レポーター活性のこの低減は、対象の血清中のTBI自己抗体の存在を示す。
【0083】
[0104] 所定の「TBI陰性シグナル」と比較したレポーターシグナルの30%の低減は、一実施形態にすぎない。それというのも、レポーター活性の任意の統計的に有意な低減は、患者血清中のTBI自己抗体の存在についての陽性試験としても企図されるためである。例えば、TBI自己抗体の存在を示す他の定量的閾値としては、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、又は少なくとも80%のレポーター活性の任意の低減を挙げることができる。
【実施例】
【0084】
実施例
実施例1
甲状腺刺激免疫グロブリン(TSI)を検出するためのアッセイ
[0105] この実施例は、サンプル中の甲状腺刺激免疫グロブリン(TSI)を検出する改善方法の開発を記載する。本明細書に開示される改善方法において、サンプルを、(1)細胞表面上でキメラ甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)受容体と、(2)cAMP結合タンパク質に融合している改変されたルシフェラーゼとを発現する二重トランスジェニック細胞とインキュベートする。例えば、サンプル中の甲状腺刺激免疫グロブリンへのキメラTSHR受容体の結合は、トランスジェニック細胞内のcAMPシグナリングをもたらす。cAMPはcAMP結合タンパク質に結合し、それは改変されたルシフェラーゼの立体構造変化を引き起こし、それは改変されたルシフェラーゼの活性を向上させる。改変されたルシフェラーゼがその基質を開裂させる場合、光シグナルが生成される。次いで、シグナルをインキュベーション混合物から細胞を溶解させずに読み取る。
【0085】
[0106] したがって、この方法は、とりわけ、経時的な速度論的測定(例えば、均一リアルタイムアッセイ)を可能とする。さらに、この方法は自動化と適合性であり、他のTSI及び/又は甲状腺遮断免疫グロブリン(TBI)検出アッセイよりもかなり短い検査所要時間を有する。例えば、この方法に従って実施されるアッセイは、プロトコルの開始から90分間以下で結果の読取を可能とし得る。
【0086】
A.材料及び方法
[0107] チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に、2つのプラスミドを一過的に形質移入した:GLOSENSOR(商標)(Promegaから入手可能)ルシフェラーゼ及びcAMP受容体(「p22F」)をコードする第1のプラスミド、並びに甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)をコードする第2のプラスミド。あるCHO細胞セットに、野生型TSHRをコードするプラスミド(pTSHR-WT)を形質移入し;別のCHO細胞セットに、ChR4、ヒトTSHR配列を含むキメラTSHR及びラット黄体形成ホルモン受容体(LHR)配列をコードするプラスミド(「pChR4」)を形質移入した。ChR4は、それぞれの内容が参照により本明細書に援用される米国特許第8,986,937号及び米国特許第9,739,775号に記載されている。
【0087】
[0108] 両方のタイプの形質移入細胞(wt TSHRにより形質移入された細胞及びChR4により形質移入されたものに対して並行アッセイを実施した。以下のサンプルを試験した:2mIU/mLのbTSHを含み、含有するサンプル、3つのTSI陽性血清サンプル、及び陰性対照としての正常血清サンプル。3つのTSI陽性サンプルは、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイからの結果に基づき選択し、それらは285%、376%及び501%の%SRR値を示した(THYRETAIN(登録商標)TSIカットオフは140%SRRである)。6%のcAMP試薬を有する反応緩衝液をアッセイブランクとして使用し、結果をシグナル対ブランク(S/B)比として報告した。p22F/pTSHR-wtにより形質移入された細胞は、p22F/pChR4により形質移入された細胞よりもbTSH刺激に対する有意に高い生物学的応答を示したが、両方の受容体は、低TSI陽性サンプルを用いて試験した場合、類似の活性を示した(データ示さず)。
【0088】
[0109] 中又は高TSI陽性サンプルを用いると、TSHR-wt形質移入細胞よりもTSHR-ChR4形質移入細胞について高いS/B比が観察された。この実験を繰り返した場合、類似の結果が得られた(データ示さず)。一過的形質移入結果に基づき、TSHR-ChR4受容体を本アッセイにおけるさらなる開発のために選択した。
【0089】
[0110] ルシフェラーゼレポーター及びChR4受容体の両方を発現する安定的形質移入細胞系を生成するため、p22F及びpChR4プラスミドを制限酵素消化により直鎖化し、CHO K1細胞中に同時形質移入した。選択後、細胞をTSHR刺激アッセイにおいてTsAb Mab M22を使用してスクリーニングした。6つのクローンを、M22誘導発光のレベルに基づき限定希釈によるさらなるクローニングのために選択した。単一クローン(2C1E3)が最大のシグナル対バックグラウンド比を有し、それをアッセイ開発のために選択した。細胞を、アッセイにおける後続の使用のためにバイアル又はマイクロタイタープレートウェル(例えば、黒色又は白色96ウェルプレート)中のいずれかで冷凍した。
【0090】
[0111] ChR4受容体のゲノム統合は、全長TSHR遺伝子に基づき設計されたプライマーを使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅及び増幅産物のシーケンシングにより確認した。PCR産物は、2.1kbの予測サイズを有するTSHR-ChR4安定的細胞系のテンプレートのみから得た。受容体配列を確認するため、PCR産物をシーケンシングし、Clone Managerソフトウェアを使用して分析した。PCR産物の推定アミノ酸配列を、予測TSHR ChR4タンパク質配列及びTSHR野生型(wt)タンパク質配列に対してアラインした。配列アラインメント結果は、細胞系のゲノム中のTSHR-ChR4遺伝子の統合を裏付けた。細胞を解凍し、基質を含有する反応緩衝液と混合し、96ウェルマイクロタイタープレートに移し、又はその中で保持し、実験に応じて以下にさらに記載されるとおり取り扱った。パートB~Eに記載の実験の多くについて、白色96ウェルプレートを使用した。
【0091】
[0112] TSI陰性(「正常」)、低TSI、及び高TSI血清サンプルを非希釈(「無溶媒」)、1:2希釈、又は1:4希釈で試験した。TSIレベルをTHYRETAIN(登録商標)TSI Reporter Bioassay Kit(Quidel Corporation, Athens, Ohio)(「THYRETAIN(登録商標)」TSIアッセイ)により決定し、表1に従って「正常」、「低TSI」、「中TSI」、又は「高TSI」と割り当てた。
【0092】
【0093】
B.サンプル希釈
[0113] サンプル希釈ステップが必要とされたか否かを試験するため、CHO-ChR4/22F細胞をプレート上に一晩(約17~18時間)播種し、CHO成長培地中でインキュベートし、次いで培地を除去した。反応緩衝液中100マイクロリットルの6%のGLOSENSOR(商標)基質をそれぞれのウェルに添加した。10マイクロリットルのサンプルをそれぞれのウェルに2つ組で添加した。本実施例において試験されたサンプルは正常血清、低TSI、又は高TSIであり、それぞれを非希釈(「無溶媒」)、1:2希釈、及び1:4希釈で試験した。
【0094】
[0114] プレートを37℃において1時間までインキュベートし、次いで室温に移した。次いで、ルミノメーターの読取値をそれぞれのウェルから採取した。
【0095】
[0115] 表2及び
図1は、全てのサンプルからの結果を示す。100超のシグナル対バックグラウンド比が全ての高TSIサンプル(「無溶媒」サンプルを含む)から得られた一方、比は低TSI及び正常血清サンプルについて有意により低かった。さらにアッセイは、アッセイが希釈サンプルにおいて区別し得るものと少なくとも同程度に、非希釈(「無溶媒」)サンプルにおいてサンプル(例えば、高TSI対低TSI又は低TSI対正常)を区別した。
【0096】
【0097】
[0116] したがって、このアッセイはサンプル希釈ステップを要求しない。
【0098】
C.細胞播種後の洗浄
[0117] CHO-ChR4/22F細胞を、実施例1のパートBに上記のとおり播種した。10マイクロリットルの非希釈サンプルを、それぞれのウェルに2つ組で添加した。一部のウェルについて、播種された細胞単層を、サンプルを添加する前に反応緩衝液により洗浄した。他のウェルについて、サンプルを添加する前に洗浄ステップを使用しなかった。プレートを37℃において1時間までインキュベートし、次いで室温に移した。室温において30分後、ルミノメーターの読取値をそれぞれのウェルから採取した。
【0099】
[0118]
図2は、この実験からの結果を示す。
図2が示すとおり、洗浄ステップの排除は正常サンプルと低TSIサンプルと高TSIサンプルとを区別するアッセイの能力に影響しなかった。したがって、このアッセイは洗浄ステップを要求しない。
【0100】
D.細胞播種
[0119] 播種時間の低減がアッセイ性能に影響するか否かを評価するため、CHO-ChR4/22F細胞を実施例1、パートBに記載のとおり一晩又は2時間のいずれかで播種した。10マイクロリットルの非希釈正常又はTSI陽性サンプルを、それぞれのウェルに2つ組で添加した。さらに、タイトレーション曲線を作成するため、M22スタンダードを1つのウェルセットに添加した。プレートを37℃において1時間までインキュベートし、次いで室温に移した。室温において30分後、次いで、ルミノメーターの読取値をそれぞれのウェルから採取した。
【0101】
[0120]
図3Aは、M22スタンダードから得られたタイトレーション曲線及び計算EC50値を示す。
図3Bは、4つの陰性及び4つの陽性サンプルについてのシグナル対参照比を示す。
図3Cは、陰性サンプルの平均値に対する倍率応答として計算されたそれぞれの陽性サンプルについての応答を示す。両方のアッセイ(一晩又は2時間の細胞播種)は、TSI陽性サンプルから正常サンプルを区別し得た(
図3B)。さらに、TSI陽性サンプルについてのシグナルの倍率増加は、両方のアッセイ間で同等であった(
図3C)。
【0102】
[0121] したがって、アッセイは、2時間の低減細胞播種時間を用いても適切に機能した。
【0103】
[0122] 任意の細胞播種が必要かどうかを評価するため、同様の実験セットを実施し、但し一部のCHO-ChR4/22F細胞を基質及び反応緩衝液とのインキュベーションの2時間前に播種した一方、一部のCHO-ChR4/22F細胞を解凍直後に基質及び反応緩衝液中で直接懸濁させた。
【0104】
[0123]
図4Aは、M22スタンダードから得られたタイトレーション曲線及び計算EC50値を示す。
図4Bは、4つの陰性及び4つの陽性サンプルについてのシグナル対参照比を示す。
図4Cは、陰性サンプルの平均値に対する倍率応答として計算されたそれぞれの陽性サンプルについての応答を示す。両方のアッセイは、正常サンプルとTSI陽性サンプルとを区別する能力に関して(
図5B)、及び正常サンプルからの値に対する倍率変化に関して(
図5C)同等に機能した。
【0105】
[0124] これらの結果は、本開示の方法が細胞播種ステップを要求しないことを示唆する。
【0106】
E.インキュベーション条件
[0125] インキュベーション条件を最適化するため、CHO-ChR4/22F細胞を基質及び反応緩衝液とインキュベートするための2つの条件を比較する実験セットを実施した。解凍直後、CHO-ChR4/22F細胞を反応緩衝液中で6%のGLOSENSOR(商標)中で再懸濁させ、マイクロウェルに添加した。10マイクロリットルの非希釈正常又はTSI陽性サンプルをそれぞれのマイクロウェルに添加し、得られた混合物を(1)37℃において1時間、次いで室温において30分間又は(2)室温において90分間のいずれかでインキュベートした。ルミノメーターの読取値をインキュベーション期間の終了時に読み取った。実施例1のパートC及びDに記載の実験に関して、M22スタンダードもアッセイしてタイトレーション曲線を確立した。
【0107】
[0126]
図5Aは、M22スタンダードから得られたタイトレーション曲線及び計算EC50値を示す。
図5Bは、4つの陰性及び4つの陽性サンプルについてのシグナル対参照比を示す。
図5Cは、陰性サンプルの平均値に対する倍率応答として計算されたそれぞれの陽性サンプルについての応答を示す。両方のインキュベーション条件下、アッセイは正常サンプルとTSI陽性サンプルとを区別し得(
図5B)、正常サンプルからの値に対する倍率変化は2つのアッセイ条件間で同等であった(
図5C)。
【0108】
[0127] インキュベーション期間の短縮がアッセイ性能に影響を与えるか否かを評価するため、一連の実験に、室温における種々のインキュベーション時間(10分間、20分間、30分間、40分間、50分間、60分間、70分間、80分間、又は90分間)を用いた。
図6は、これらの実験からの結果を示す。それぞれの時点についての最初の3つのバー(サンプルDLS004、DLS052、DLS034)は正常サンプルからのシグナルに対応し;それぞれの時点についての最後の4つのバー(サンプルDLS079、DLS060、DLS016、及びDLS122)は、TSI陽性サンプルからのシグナルに対応する。
図6が示すとおり、TSI陽性サンプルからのシグナルは、室温においてわずか30分程度のインキュベーション時間でTSI陰性サンプルからのシグナルと区別することができる。予測されるとおり、正常及びTSI陽性サンプル間の分離は、一般に、試験された時点にわたりインキュベーション時間の増加につれて増加した。
【0109】
F.迅速TSIアッセイの開発
[0128] M22及びTSI陽性血清サンプルの両方を使用して最適な細胞密度、サンプル容量、アッセイ温度、及びインキュベーション時間を決定した。2mIU/mLにおけるbTSHを使用してアッセイ参照対照を調製し、アッセイ結果をシグナル対参照比(%SRR)として報告した。アッセイを均一フォーマットで3つの主要なステップのみを用いて実施した。最初に、10μlのそれぞれのサンプルを白色96ウェルプレートの2つ組ウェルに添加する。次いで、CHO-ChR4/22F細胞の1つのバイアルを37℃において解凍し、6%のルシフェラーゼ基質を含有する10mLの反応緩衝液に移す。最後に、100μlの細胞懸濁液(6.5×10
5個の細胞/ml)をそれぞれのウェル中に分注する。プレートを室温において保持し、発光を10分ごとに90分まで測定する。
図7のデータは、TSAb陽性サンプルについての%SRR値が時間を増加させる一方、陰性サンプルの%SRR値が一定のままであることを示す。
【0110】
G.まとめ
[0129] 本開示の方法は、他のTSI又はTBI検出アッセイに特徴的ないくつかのステップを除去し、TSI及び/又はTBIを短い検査所要時間及び簡便なプロトコルで検出する。本開示の方法の総検査所要時間は、他のTSI又はTBI検出アッセイに特徴的な21~22時間の検査所要時間と比較して約60分間又は60分未満まで有意に減少する。
【0111】
実施例2
甲状腺刺激抗体を検出するためのアッセイの特異度
[0130] 実施例1に記載の本開示のTSIアッセイの特異度を評価するため、甲状腺遮断抗体(K170)及び甲状腺刺激抗体(M22)の段階希釈物を同時に試験した。
図8に示されるとおり、本開示のTSIアッセイはM22刺激に極めて感受性であり、50ng/mLにおいてプラトーに達した。対照的に、K170は1000ng/mLの最大試験濃度においても本開示のTSIアッセイにおいてルシフェラーゼ活性を誘導しなかった(
図8)。
【0112】
[0131] ChR4受容体は、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイにおいて刺激抗体M22及び遮断抗体K170の両方と相互作用することが示されている。甲状腺遮断抗体が本開示のTSIアッセイにおいてChR4受容体と相互作用するか否かを決定するため、10ng/mLのM22を段階希釈(1000ng/mL~2ng/mL)K170並びに2つの他のマウスTSHR遮断抗体3H10(DSMZ, Braunschweig, Germany)及び4C1(Santa Cruz BioTech, Dallas, Taxes)と混合した。3つ全ての遮断抗体は、ChR4受容体のM22誘導活性に対する阻害効果を有したが、K170の遮断活性は他の2つのマウス遮断抗体と比較して有意に強力であった(
図9)。
【0113】
[0132] これらの結果は、Furmaniak et al. (Auto Immun Highlights, 2013, 4(1):11-26)及びNunez et al. (J Mol. Endocrinol. 2012, 49(2):137-151)により示される、異なる機能活性を有するTSHR抗体がTSHRの凹表面上の重複結合部位を有するという結論を支持する。TSHR遮断抗体はcAMPの細胞内濃度の変化を引き起こさないため、本開示のTSIアッセイはTSHR阻害抗体、又はTBIの正味阻害効果のみを、両方のタイプの抗体がサンプル中に共存する場合、検出し得る。
【0114】
[0133] しかしながら、これらの結果は、本開示のアッセイを迅速均一TBIアッセイとして使用し、又はそれに発展させることができることを実証する。
【0115】
実施例3
甲状腺遮断自己抗体を検出するためのアッセイ
[0134] 本実施例は、サンプル中の甲状腺遮断免疫グロブリン(TBI)を検出する方法を実証する。
【0116】
[0135] サンプル及び3つのアッセイ対照(参照、陽性及び陰性)をマルチウェルマイクロタイタープレートに2つ組で添加する(ウェル当たり10μL)。最適濃度のウシTSHを含有する反応緩衝液(RB)を、プレートのそれぞれのウェルに添加する(ウェル当たり50μL)。
【0117】
[0136] 実施例1に記載のとおり生成されたCHO-ChR4/22F細胞を解凍し、12%のGLOSENSOR(商標)基質を含有するRB中で再懸濁させる。50マイクロリットルの細胞懸濁液をプレートのそれぞれのウェルに添加し;GLOSENSOR(商標)基質の最終濃度は6%である。
【0118】
[0137] ルミノメーターの読取値を実施例1に記載のとおりそれぞれのウェルから採取し、但し以下の改変を施す。
【0119】
[0138] サンプルを添加した後、ウシTSH(甲状腺刺激ホルモン)をそれぞれのウェルに添加する(1つ以上の対照ウェルを除く)。以下の対照も使用する:
(1)「陽性対照」:サンプルを含まないが、TSHR遮断抗体(例えば、3H10又はK170)、CHO細胞、GLOSENSOR(商標)基質、及び反応緩衝液を含む少なくとも1つのウェル。
(2)「陰性対照」:TSHR遮断抗体もいかなるサンプルも含まないが、CHO細胞、GLOSENSOR(商標)基質、正常血清、及び反応緩衝液を含む少なくとも1つのウェル。
(3)「参照対照」:TSHR遮断抗体もいかなるサンプルも含まないが、ウシTSH、CHO細胞、GLOSENSOR(商標)基質、及び反応緩衝液を含む少なくとも1つのウェル。
【0120】
[0139] サンプルを含有するウェルからのシグナルを、以下の式1を使用して参照対照ウェルからのシグナルと比較する。陰性対照に対するシグナルの減少は、サンプル中のTBIの存在を示す。
【数1】
【0121】
[0140]
図10は、K170 TSHR遮断抗体を含有するサンプルに対するアッセイから得られたタイトレーション曲線及び計算IC
50値を示す。それぞれの曲線は、異なる密度のCHO-ChR4/22Fトランスジェニック細胞に対するタイトレーション曲線を表す。
【0122】
実施例4
アッセイの再現性及び感度
[0141] 本開示の方法の再現性及び感度を決定するため、アッセイを以下のサンプル1)反応緩衝液のみ(ブランク)、2)2mIU/mLにおける正常ヒト血清中ウシTSH(「参照サンプル」);3)正常(TSI陰性)サンプル;4)TSI陽性サンプル;及び5)正常血清中3ng/mLのM22を含有するサンプルのレプリケートに対して繰り返した。
【0123】
[0142] アッセイを実施例1のパートEに記載のとおり実施し(以下「改変TSIアッセイ」)、インキュベーション期間は全て室温において10分間~90分間の範囲であった。
【0124】
[0143] 表3は、%CVを含む結果のまとめを提示する。表3に示されるとおり、RLU及び%SRRの両方についての%CVは、それぞれのサンプルについて8.1%以下であった。
【0125】
【0126】
[0144] 本開示のアッセイの感度を評価するため、1)実施例1のパートEに記載のとおり実施され、インキュベーション期間が室温における60分間であるアッセイを使用して;及び2)THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイを製造業者のプロトコルに従って使用してM22スタンダードを評価した。
【0127】
[0145] 100ng/mLの量のM22抗体を7つの濃度に段階希釈し、両方のアッセイにおいて同時に試験した。
【0128】
[0146]
図11A~11Bは、それぞれ本開示のアッセイについて及びTHYRETAIN(登録商標)TSIアッセイについてのタイトレーション曲線及び計算EC
50値を示す。本開示の方法を使用してM22抗体スタンダードから得られたシグナルは、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイを使用して得られたものよりも約10倍高かったが、2つのアッセイからの用量応答曲線は極めて類似していた。改変TSIアッセイについてのEC
50値は4.7ng/mLであり、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイについては約5.5ng/mLであり、2つのアッセイの分析的感度が類似することを示した。
【0129】
[0147] これらの結果は、本開示の方法が再現性があり、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイと同程度に感受性であることを示す。
【0130】
実施例5
臨床サンプルにおけるTSI検出
[0148] 臨床サンプルに対する本開示の方法の性能を評価するため、及びアッセイ条件を最適化するため、アッセイを臨床血清サンプルに対して実施例1のパートEに記載のとおり実施し、但し以下に説明されるとおりわずかに改変した。比較のため、THYRETAIN(登録商標)TSI Reporter Bioassay Kit(Quidel, Athens, Ohio)(「THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイ」)も使用してそれぞれのサンプルを試験した。
【0131】
サンプル
[0149] 本実施例に記載の実験は、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイにより決定されたヒト患者からの9つの「正常」(TSIについて陰性)血清サンプル、9つの「低TSI」血清サンプル、5つの「中TSI」血清サンプル、及び5つの「高TSI」血清サンプルを使用した(表1参照)。
【0132】
インキュベーション条件
[0150] ある実験セットにおいて、CHO-ChR4/22Fトランスジェニック細胞をサンプル(並びにGLOSENSOR(商標)基質及び反応緩衝液)と(1)室温において90分間(「RT90」)又は(2)37℃において1時間、次いで室温において30分間(「37℃-60/RT30」)インキュベートした。他の条件は実施例1のパートEに記載のとおりとした。
【0133】
[0151]
図12は、両方のインキュベーション条件について及びTHYRETAIN(登録商標)TSIアッセイについての結果を示す。
図12が示すとおり、正常及び「低TSI」サンプル間の分離は、37℃-60/RT30アッセイよりもRT90アッセイについて明らかだった。さらに、RT90及び37℃-60/RT30アッセイの両方は、一般に、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイよりも良好に「高TSI」サンプルを区別した。
【0134】
予備平衡
[0152] 別の実験セットにおいて、アッセイを臨床血清サンプルに対して(1)CHO-ChR4/22F細胞(実施例1に記載)及び(2)6%のGLOSENSOR(商標)基質により2時間予備平衡し、次いで冷凍し、続いてアッセイにおける使用のために解凍したCHO-ChR4/22F細胞を使用して実施した。この実験セットにおいて、細胞を室温において90分間インキュベートした。
【0135】
[0153]
図13及び
図14A~14Dは、CHO-ChR4/22F細胞又は予備平衡CHO-ChR4/22F細胞を使用した実施例1に記載のアッセイからの測定値を示す。比較のため、
図13及び14A~Dは、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイからの結果も示す。
図10はエンドポイント測定値を示し、
図14A~14Dは、5~90分間のインキュベーション時間の間の種々の時点において採取された速度論的測定値を示す。表4~6(
図17~19)は、THYRETAIN(登録商標)TSI Reporter BioAssayキットを使用して得られた(表4;
図17)、並びにCHO-ChR4/22F細胞及び予備平衡CHO-ChR4/22F細胞を使用した本開示のアッセイについてのシグナル対応答比についてのまとめデータを示す;それぞれ表5(
図18)及び表6(
図19)参照。
【0136】
[0154]
図13並びに表4(
図17)及び表5(
図18)が示すとおり、基質による細胞の予備平衡は、アッセイの感度を増加させた。
図14において、陰性サンプルからのシグナルは経時的に減少する傾向がある一方、TSI陽性サンプルからのシグナルは経時的に増加する傾向があった。さらに、両方のアッセイ(CHO-ChR4/22F細胞及び予備平衡CHO-ChR4/22F細胞を使用)は、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイと少なくとも同程度に機能した。「高TSI」サンプルについて、本開示のアッセイはTHYRETAIN(登録商標)TSIアッセイよりも大きいシグナルを生じさせた;
図13参照、並びに表4(
図17)及び表5(
図18)を表3と比較されたい。
【0137】
結論
[0155] したがって、本開示の方法は、正常、低TSI、中TSI、及び高TSI臨床サンプルを、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイの結果と質的に類似し、又はそれよりも良好な結果で区別し得る。これらの結果は、(1)本方法が細胞を室温においてインキュベートする場合でも正常サンプルとTSI陽性臨床サンプルとを区別し得ること;及び(2)基質による細胞の予備平衡がアッセイ感度の向上をもたらしたことも実証する。
【0138】
実施例6
臨床サンプルに対する本開示のTSIアッセイからの結果と、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイからの結果との間の相関
[0156] 臨床サンプルに対する本開示のTSIアッセイの性能をさらに評価するため、THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイにおいて陰性と試験された145個のヒト血清サンプルを測定することにより本開示のTSIアッセイについての暫定カットオフ値を決定した。本開示のTSIについてのこの暫定アッセイカットオフは31%SRR(145個の正常血清サンプルの平均%SRR値+2×標準偏差)であると計算され、この値をカットオフとして使用してTSI陽性サンプルを同定した。
【0139】
[0157] 自己免疫性甲状腺疾患(AITD)を有する非選択患者からのサンプルに対する本開示のアッセイの性能を評価するため、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体について陽性の130個のヒト血清サンプルを、本開示のTSI及びTHYRETAIN(登録商標)TSIアッセイの両方により試験した。31%超の%SRR値を有するサンプルを、本開示のTSIアッセイにおいてTSIについて陽性と同定した。THYRETAIN(登録商標)TSIアッセイ説明書に従い、140%超の%SRR値を有するサンプルをTSIについて陽性と同定した。2つのアッセイからの結果は、それら130個のサンプルについて同等であり、それは2つのバイオアッセイ間の陽性及び陰性一致率(PPA及びNPA)がそれぞれ96%(95%CI:0.79~0.99)及び95%(95%CI:0.90~0.98)であったという事実により証明されるとおりであった(表7並びに
図15A及び15B)。2つのアッセイからの結果は強力な相関を示し、本開示のTSIアッセイにより生成された%SRR値が同じ高TSI陽性サンプルについてTHYRETAIN(登録商標)アッセイにより生成されたものよりもかなり高いという事実にかかわらず、相関係数R値は0.71であった(データ示さず)。
【0140】
【0141】
実施例7
本開示のTSIアッセイによる甲状腺刺激抗体の定量的検出
[0158] 本開示のTSIアッセイを使用してTSIを定量的に検出することができるか否かを決定するため、TSIについての3つの濃度のWHO国際スタンダードを使用して3点スタンダードパネルを開発した。正常血清をマトリックスとして使用してスタンダードパネルを調製し、TSI陽性血清サンプルとともに4日間試験した。それぞれのTSI陽性サンプルのTSI濃度を、同じプレートにおいて作成された標準曲線から導いた式に基づき計算し、4つの異なる日に実施された4つの実験から得られたデータについて%CVを決定した。4日間で作成された4つ全ての標準曲線は再現性があり、決定係数値は0.99超であった(
図16)。低、中及び高(TSI)陽性サンプルについての計算TSI濃度はまた、10%未満の%CV値と一致した(表8)。これらのデータは、本開示のTSIアッセイが患者サンプルにおけるTSIの定量的測定に使用される潜在性を有することを示す。
【0142】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2021-01-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
(i)キメラ甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体をコードするヌクレオチド配列を含む第1の発現ベクター、及び
(ii)レポーターをコードする合成ヌクレオチド配列を含む第2の発現ベクターであって、前記合成ヌクレオチド配列が、
(1)cAMP誘導性プロモーターに作動可能に結合しており;及び/又は
(2)異種cAMP結合タンパク質をさらにコードし、前記cAMP結合タンパク質が、前記レポーターに融合している第2の発現ベクター
により安定的に形質移入された
、凍結されているトランスジェニック細胞と;
(b)細胞溶解剤を有さない反応緩衝液であって、任意選択で前記レポーターの基質を含む反応緩衝液と
を含むキットであって、
前記レポーターの発現が、細胞内シグナルと関連する、キット。
【請求項2】
cAMPの存在が前記レポーターの発現を増加させ、それにより前記シグナルを向上させる、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記異種結合部位へのcAMPの結合が、前記シグナルを向上させる前記レポーターの立体構造変化を誘導する、請求項1に記載のキット。
【請求項4】
前記キメラTSH受容体が、ヒトTSH受容体配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のキット。
【請求項5】
前記キメラTSH受容が、ChR4である、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
前記レポーターが、ルシフェラーゼポリペプチドを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のキット。
【請求項7】
前記ルシフェラーゼポリペプチドが、改変されたルシフェラーゼである、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
前記改変されたルシフェラーゼが、循環置換されたルシフェラーゼである、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記基質が、ルシフェリンを含む、請求項6~8のいずれか一項に記載のキット。
【請求項10】
前記細胞内シグナルが、発光を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のキット。
【請求項11】
前記トランスジェニック細胞が、哺乳類細胞を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のキット。
【請求項12】
前記哺乳類細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はヒトRD細胞を含む、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記トランスジェニック細胞が、前記レポーターの基質をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のキット。
【請求項14】
前記反応緩衝液が、ポリエチレングリコール及びスクロースを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のキット。
【請求項15】
前記反応緩衝液が、アルブミンをさらに含む、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
前記アルブミンが、ウシ血清アルブミンを含む、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
細胞溶解剤を含まない、請求項1~16のいずれか一項に記載のキット。
【請求項18】
サンプル中の甲状腺刺激及び/又は甲状腺遮断自己抗体を検出する方法であって、
(a)
(i)キメラ甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体をコードするヌクレオチド配列を含む第1の発現ベクター及び
(ii)レポーターをコードする合成ヌクレオチド配列を含む第2の発現ベクターであって、前記合成ヌクレオチド配列が、
(1)誘導性cAMP誘導性プロモーターに作動可能に結合しており、及び/又は
(2)異種cAMP結合タンパク質をさらにコードし、前記cAMP結合タンパク質は、前記レポーターに融合している第2の発現ベクター
により安定的に形質移入されている
トランスジェニック細胞を解凍すること;
(b)解凍されたトランスジェニック細胞を、甲状腺刺激及び/又は甲状腺遮断自己抗体を含むことが疑われるサンプルと接触させること;及び
(
c)前記レポーターの発現と関連する細胞内シグナルを検出すること、
を含む方法。
【請求項19】
前記トランスジェニック細胞が、前記レポーターの基質をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記接触ステップが、前記レポーターの基質を含む緩衝液中で接触させることを含む、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記緩衝液が、細胞溶解剤を含まない、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記トランスジェニック細胞を、前記接触ステップ前に前記レポーターについての前記基質に曝露するステップをさらに含む、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記接触ステップが、非希釈サンプルと接触させることを含む、請求項18~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
検出ステップが、前記接触の240分後未満、180分後未満、90分後未満、60分後未満又は30分後未満に実施される、請求項18~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記トランスジェニック細胞及び前記サンプルを含む組成物から前記細胞内シグナルを検出する、請求項18~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物中の前記トランスジェニック細胞の少なくとも75%が、検出時においてインタクトである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記接触ステップが室温で実施される、請求項18~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記トランスジェニック細胞を、前記接触ステップ前に解凍することをさらに含む、請求項18~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記接触ステップが、前記解凍の120分後未満、90分後未満、60分後未満、30分後未満又は5分後未満に実施される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記接触ステップが、前記トランスジェニック細胞を対照の甲状腺刺激剤と接触させることをさらに含む、請求項18~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記トランスジェニック細胞を前記サンプルと接触させる前に、前記トランスジェニック細胞が前記対照の甲状腺刺激剤と接触される、請求項30に記載の方法。
【国際調査報告】