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特表2022-524904分散型水素化脱硫触媒用組成物およびその製造方法
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  • 特表-分散型水素化脱硫触媒用組成物およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-11
(54)【発明の名称】分散型水素化脱硫触媒用組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/19 20060101AFI20220428BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20220428BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20220428BHJP
   B01J 27/188 20060101ALI20220428BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20220428BHJP
   C10G 45/08 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
B01J27/19 M
B01J37/02 101D
B01J37/08
B01J27/188 M
B01J35/10 301B
C10G45/08 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021534728
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(85)【翻訳文提出日】2021-06-25
(86)【国際出願番号】 IN2020050728
(87)【国際公開番号】W WO2021161328
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】202041005951
(32)【優先日】2020-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519421190
【氏名又は名称】ヒンドゥスタン ペトロリアム コーポレーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カンナ,ナラシンハラオ
(72)【発明者】
【氏名】ダール,プラデュット
(72)【発明者】
【氏名】グナナセカラン,ヴァラヴァラス
(72)【発明者】
【氏名】ボジャ,ラマチャンドララオ
【テーマコード(参考)】
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA02A
4G169BA03A
4G169BA04A
4G169BA07A
4G169BA21C
4G169BB01A
4G169BB04A
4G169BB08C
4G169BB10C
4G169BB14C
4G169BC59A
4G169BC59B
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BD02A
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169BD12C
4G169BE08C
4G169BE11C
4G169CC02
4G169DA06
4G169EC03X
4G169EC03Y
4G169EC06X
4G169EC06Y
4G169EC14X
4G169EC14Y
4G169EC15X
4G169EC15Y
4G169EC27
4G169EC30
4G169FB13
4G169FB19
4G169FB30
4G169FB57
4G169FC04
4G169FC07
4G169FC09
4G169ZA04A
4H129AA02
4H129CA05
4H129DA17
4H129KA07
4H129KB03
4H129KB05
4H129KB06
4H129KB07
4H129KB08
4H129KC03X
4H129KC03Y
4H129KC04X
4H129KC05X
4H129KC10X
4H129KC13X
4H129KD15X
4H129KD15Y
4H129KD16X
4H129KD16Y
4H129KD22X
4H129KD22Y
4H129KD24X
4H129KD24Y
4H129KD37X
4H129KD37Y
4H129KD42X
4H129KD44X
4H129KD44Y
4H129NA02
4H129NA37
(57)【要約】
本開示は、水素化脱硫(HDS)触媒に関する。本開示はまた、前記水素化脱硫触媒の製造方法、および本開示の前記水素化脱硫触媒を使用した炭化水素原料の水素化脱硫方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化脱硫触媒であって、
(a)触媒の総重量に対して4~9重量%の第1の金属酸化物、
(b)触媒の総重量に対して15~26重量%の第2の金属酸化物、
(c)触媒の総重量に対して4~7重量%の第3の金属酸化物、
(d)触媒の総重量に対して40~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体、および
(e)触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤、
を含み、
BET表面積が155~210m2/gである水素化脱硫触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の水素化脱硫触媒であって、
前記第1の金属酸化物は酸化リンであり、
前記第2の金属酸化物は、酸化モリブデン、酸化タングステン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記第3の金属酸化物は、酸化コバルト、酸化ニッケル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、水素化脱硫触媒。
【請求項3】
水素化脱硫(HDS)触媒であって、
(a)触媒の総重量に対して4~9重量%の酸化リン、
(b)触媒の総重量に対して15~26重量%の酸化モリブデン、
(c)触媒の総重量に対して4~7重量%の酸化ニッケル、
(d)触媒の総重量に対して40~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体、および
(e)触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤、
を含み、
BET表面積が155~210m2/gである水素化脱硫触媒。
【請求項4】
請求項1または3に記載の水素化脱硫触媒であって、
表面酸性度が0.3~0.5mmol/gである水素化脱硫触媒。
【請求項5】
請求項1または3に記載の水素化脱硫触媒であって、
全細孔容積が0.3~0.45cm3/gであり、
平均孔径が6~12nmである水素化脱硫触媒。
【請求項6】
請求項1または3に記載の水素化脱硫触媒であって、
前記少なくとも1つの多孔質担体は、Al23 TiO2、SiO2、SiO2-Al23、およびゼオライト-Yから選択される水素化脱硫触媒。
【請求項7】
請求項1または3に記載の水素化脱硫触媒であって、
前記少なくとも1つのキレート剤は、クエン酸、グルタミン酸、ニトリロ酢酸、グルタル酸、およびコハク酸から選択される水素化脱硫触媒。
【請求項8】
請求項7に記載の水素化脱硫触媒であって、
前記少なくとも1つのキレート剤は、クエン酸およびグルタミン酸の組み合わせである水素化脱硫触媒。
【請求項9】
請求項3に記載の水素化脱硫触媒の製造方法であって、
(a)少なくとも1つの多孔質担体に酸化リン前駆体を含浸させた後、乾燥および焼成して、第1前駆体を得るステップと、
(b)少なくとも1つのキレート剤の存在下で、酸化モリブデン前駆体を前記第1前駆体上に分散させた後、エージング、乾燥、および焼成して、第2前駆体を得るステップと、
(c)少なくとも1つのキレート剤の存在下で、酸化ニッケル前駆体を前記第2前駆体に含浸させた後、乾燥させて、前記水素化脱硫触媒を得るステップと、
を含む方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
前記酸化リン前駆体は、オルトリン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、次亜リン酸、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記酸化モリブデン前駆体は、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、モリブドリン酸、酸化モリブデン、塩化モリブデン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記酸化ニッケル前駆体は、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、塩化ニッケル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法であって、
少なくとも1つの多孔質担体への前記酸化リン前駆体の含浸を、pH2~5.5で、スプレー含浸によって行う方法。
【請求項12】
請求項9に記載の方法であって、
前記ステップ(a)の乾燥および焼成を、400~500℃で行う方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法であって、
前記第1金属前駆体上への前記酸化モリブデン前駆体の分散を、少なくとも2つのキレート剤の存在下で、pH2~5.5で行う方法。
【請求項14】
請求項9に記載の方法であって、
前記ステップ(b)のエージングを25~35℃で2~5時間行い、
前記ステップ(b)の乾燥を80~100℃で行い、
前記ステップ(b)の焼成を450~600℃で行う方法。
【請求項15】
請求項9に記載の方法であって、
前記少なくとも1つのキレート剤の存在下で、前記第2前駆体への前記酸化ニッケル前駆体の含浸を、pH4.5~5.5で、スプレー含浸によって行う方法。
【請求項16】
請求項9に記載の方法であって、
前記ステップ(c)の乾燥を80~100℃で、5~8時間行う方法。
【請求項17】
炭化水素原料の水素化脱硫方法であって、
請求項1~8のいずれか一項に記載の水素化脱硫触媒と、少なくとも1つの硫黄含有炭化水素化合物を含む炭化水素原料とを水素ガスの存在下で接触させ、前記少なくとも1つの硫黄含有炭化水素化合物を水素化脱硫して、硫化水素および水素化脱硫炭化水素化合物を形成することを含み、
前記炭化水素原料を200~500℃で前記水素化脱硫触媒と接触させる方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、
前記水素ガスの圧力が2~10MPaである方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法であって、
前記炭化水素原料と請求項1~8のいずれか一項に記載の水素化脱硫触媒との重量比が500g~3000g:1000gである方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、石油産業の分野に関する。特に、石油産業における炭化水素燃料/原料の水素化脱硫を改良するための触媒およびその性能に関する。
【背景技術】
【0002】
石油原料は、メルカプタン、チオフェンなどの少量の硫黄化合物を含むことが多い。このような化合物は、特に、テトラエチル鉛などのアンチノック化合物を増量して添加したガソリンにおいて、非常に望ましくないことが知られている。水素化脱硫は、石油原料の硫黄含有量を減らし、有機硫黄化合物を水素化触媒の存在下で水素と反応させて、硫黄を硫化水素に変換する主要な手段であり、硫化水素がより容易に除去される。一般的に、そのような水素化触媒は、Ni、Co、Mo、Wの金属酸化物を含む。次に、これらの金属酸化物は、活性触媒を得るために硫化されるアルミナ担体上に担持される。これらの金属の担持は、押出成形物への金属溶液の湿式含浸によって行われる。
【0003】
さらに、γ-Alは水素化処理触媒の触媒担体として広く使用されているが、単層四面体配位で活性相金属(MoO)と強く相互作用する。この相互作用は活性相の還元を抑制し、結果的に八面体のモリブデンと比較して触媒活性を低下させる。
【0004】
US20180100107には、シリカ源、構造指向性界面活性剤、酸性水溶液、および活性触媒材料を含む金属前駆体を含む水熱前駆体を水熱処理することによって水素化脱硫触媒を製造するシングルポット法が開示されている。多額の資本や運用コストなど、水素化脱硫触媒の性能と使用に関連する多くの問題がある。
【0005】
これとは別に、混雑した都市での大気汚染を防ぐために、硫黄濃度が10ppm以下に低減された超低硫黄燃料が必要とされている。硫黄の排出をゼロにすることが望ましい目標である。これらの厳しい要件には、高度な水素化脱硫方法および触媒が必要となる。
【0006】
石油原料から硫黄を触媒除去するために過去に多くの試みがなされてきたが、改善された活性および/または安定性を有する触媒を使用する水素化脱硫のためのより経済的で単純なプロセスを開発する必要性が依然として存在する。従来の水素化脱硫触媒の2倍以上の活性を有する水素化脱硫触媒は、目下の急務である。
【発明の概要】
【0007】
本開示の一態様では、(a)触媒の総重量に対して4~9重量%の第1の金属酸化物、(b)触媒の総重量に対して15~26重量%の第2の金属酸化物、(c)触媒の総重量に対して4~7重量%の第3の金属酸化物、(d)触媒の総重量に対して40~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体、および(e)触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤を含み、BET表面積が155~210m/gである、水素化脱硫(HDS)触媒が提供される。
【0008】
本開示の一態様では、(a)触媒の総重量に対して4~9重量%の酸化リン、(b)触媒の総重量に対して15~26重量%の酸化モリブデン、(c)触媒の総重量に対して4~7重量%の酸化ニッケル、(d)触媒の総重量に対して40~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体、および(e)触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤を含み、BET表面積が155~210m/gである、水素化脱硫(HDS)触媒が提供される。
【0009】
本開示の別の態様では、(i)触媒の総重量に対して4~9重量%の酸化リン、(ii)触媒の総重量に対して15~26重量%の酸化モリブデン、(iii)触媒の総重量に対して4~7重量%の酸化ニッケル、(iv)触媒の総重量に対して40~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体、および(v)触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤を含み、BET表面積が155~210m/gである水素化脱硫触媒の製造方法であって、(a)少なくとも1つの多孔質担体に酸化リン前駆体を含浸させ、その後、乾燥および焼成して第1前駆体を得るステップと、(b)少なくとも1つのキレート剤の存在下で前記第1金属前駆体上に酸化モリブデン前駆体を分散させ、その後、エージング、乾燥、および焼成して第2前駆体を得るステップと、(c)少なくとも2つのキレート剤の存在下で前記第2前駆体に酸化ニッケル前駆体を含浸させ、その後乾燥させて触媒を得るステップと、を含む製造方法が提供される。
【0010】
本開示のさらに別の態様では、炭化水素原料を水素化脱硫する方法が提供され、当該方法は、(i)触媒の総重量に対して4~9重量%の酸化リン、(ii)触媒の総重量に対して15~26重量%の酸化モリブデン、(iii)触媒の総重量に対して4~7重量%の酸化ニッケル、(iv)触媒の総重量に対して40~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体、および(v)触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤を含み、BET表面積が155~210m/gである水素化脱硫触媒と、少なくとも1つの硫黄含有炭化水素化合物を含む炭化水素原料とを接触させ、水素ガスの存在下で前記少なくとも1つの硫黄含有炭化水素化合物を水素化脱硫して、硫化水素および水素化脱硫炭化水素化合物を形成することを含み、前記炭化水素原料を200~500℃で水素化脱硫触媒と接触させる方法である。
【0011】
本発明のこれらの特徴、態様、および利点、並びに他の特徴、態様、および利点は、以下の記載および添付の特許請求の範囲を参照することにより、より理解されるであろう。この概要は、簡略化された形式で概念の選択を紹介するために提供される。この概要は、本発明の主要な特徴または本質的な特徴を特定することを意図しておらず、本発明の範囲を制限するために使用されることを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
この詳細な説明について、添付の図を参照して説明する。図において、参照番号の左端の数字は、参照番号が最初に現れる図を特定する。図面全体を通して同じ番号を用いて類似の特徴や構成要素を参照する。
【0013】
図1】本開示の実施による、触媒上の金属分散を確認する透過型電子顕微鏡画像を示している。
図2】本開示の実施による、本開示の方法によって製造した触媒および従来の湿式含浸法によって製造した触媒のUVスペクトル分析を示している。
図3】本開示の実施による、(i)本開示の触媒のX線光電子分光分析、および(ii)従来の湿式含浸法によって製造した触媒のX線光電子分光分析を示している。
図4】本開示の実施による、水素による昇温還元で得られたグラフを示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
当業者であれば気付くであろうが、本開示は、具体的に説明したもの以外の変形例および修正例も対象とする。また、本開示がそのような変形例および修正例のすべてを含むことを理解されたい。本開示はまた、本明細書において個別にまたは集合的に言及または示唆したそのようなすべてのステップ、特徴、構成および化合物、ならびにそのようなステップまたは特徴のいずれかまたはさらに多くの、任意のおよびすべての組み合わせを含む。
【0015】
定義
便宜上、本開示のさらなる説明の前に、本明細書で使用した特定の用語および例がここに集められている。これらの定義は、本開示の残りの部分に照らして読まれ、かつ、当業者によって理解されるべきである。本明細書で使用する用語は、当業者に認識されて知られている意味を有するが、便宜上および完全を期すために、特定の用語およびそれらの意味について以下で説明する。
【0016】
冠詞「a」、「an」、および「the」は、冠詞の文法的目的語の1つまたは複数(つまり、少なくとも1つ)を指すために使用される。
【0017】
「備える(comprise)」および「備える(comprising)」という用語は、包括的でオープンな意味で使用され、追加の部品が含まれてもよいことを意味する。「~のみからなる」と解釈されることを意図するものではない。
【0018】
この明細書全体を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「備える(comprise)」という単語、および「備える(comprises)」および「備える(comprising)」などの変形は、記載された部品またはステップまたは部品ならびにステップの集まりを含むことを意味すると理解されるが、他の任意の部品またはステップの除外を意味するものではない。
【0019】
「含む(including)」という用語は、「含むがこれに限定されない」の意味で使用され、「含む」および「含むがこれに限定されない」は同じ意味で使用できる。
【0020】
比率、濃度、量、およびその他の数値データは、範囲形式(range format)で本明細書に示されてもよい。そのような範囲形式は単に便宜と簡潔さのために使用されるものであり、範囲の境界として明示的に記載された数値だけでなく、個々の数値とサブ範囲とが明示的に記載されているように、その範囲内に含まれるすべての個々の数値またはサブ範囲を含むように柔軟に解釈されるべきであることは理解されたい。例えば、約40~65重量%は、明示的に示された約40%から約65%の境界だけでなく、45%、50%、55%などのサブ範囲や、45.2%、50.5%、55.7%などの範囲内の小数を含む個々の量などのサブ範囲も含むものと解釈されるべきである。
【0021】
「BET表面積」という用語は、本開示の水素化脱硫触媒の表面積を指す。触媒の表面積は、触媒活性の重要な要素である。望ましい表面積を得るために重要なのは、製造方法である。本開示の水素化脱硫触媒のBET表面積は、155~210m/gである。
【0022】
「表面酸性度」という用語は、触媒のブレンステッド酸性度を指す。一般的に、添加剤の性質により、表面の酸性度に変化がみられる。表面酸性度が高いほど、触媒の性能が優れている。本開示の触媒の製造方法においては、表面酸性度をかなり改善する活性金属を採用している。本開示の触媒の表面酸性度は、0.3~0.5mmol/gである。
【0023】
「炭化水素原料」という用語は、炭化水素の供給源を指す。炭化水素原料は、油井、特にサワーガス油井から生産される原油である。あるいは、炭化水素原料は、沖合または陸上の油井から直接供給されるガス流、または硫黄含有の液体またはガス流、例えば水素化脱硫が必要な製油所または石油化学プラントのガス状エタン、液体ガソリン、液体ナフサなどである。
【0024】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または均等の方法および材料を本開示の実施または試験に使用することができるが、ここでは好ましい方法および材料について説明する。本明細書に記載されているすべての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
本開示は、例示のみを目的とする、本明細書に記載の特定の実施形態による範囲内に限定されない。機能的に均等な製造物、組成物、および方法は、本明細書に記載されているように、明らかに本開示の範囲内にある。
【0026】
背景技術で述べたように、石油原料からの硫黄の触媒除去については数多くの試みがなされてきたが、高い性能での作業を実現するためには依然として非常に正確に調整をする必要がある。例えば、アルミナ担体は、金属と担体との相互作用を改善する大きな可能性を備えた相補的な表面特性を持つ新しい添加剤を組み込むことによって態様変更できる。これにより、活性相およびサイトの形態が改善され、より優れた選択性と長期安定性がもたらされる。このように、本開示は、モリブデンがスプレー含浸によって特定のpH枠でアルミナ担体上に担持された水素化脱硫触媒を提供するものである。モリブデンを担持させる工程において、分散を高めるためにキレート剤も添加した。担体上でのモリブデンの分散を改善するために、スプレー含浸と、クエン酸およびグルタミン酸等のキレート剤との組み合わせを採用した。分散の改善により、キレート剤を使用しない湿式含浸と比較して硫化温度が低下する。さらに、ニッケルは、キレート剤(クエン酸およびグルタミン酸の組み合わせ)とともに、モリブデンを担持させた後に多孔質基体に含浸された。湿式含浸法が触媒の製造に使用され、最終触媒が焼成される従来のプロセスとは異なり、本開示の触媒はスプレー含浸によって製造され、最終触媒は焼成されない。スプレー含浸されたニッケルは、キレート剤および未焼成の最終触媒とともに、NiSの形成を遅らせ、明らかにMoSが最初に形成され、その後、端で(at edges)ニッケルが置換された。本開示の触媒の製造方法は、ニッケル、モリブデン、およびアルミナの間の相互作用を減少させた。これは昇温還元において明らかであった。触媒を製造するための従来の湿式含浸法と比較して、本開示の方法によって製造された触媒では、担体と活性相との間の相互作用が小さいことが明らかとなった。
【0027】
本開示の一実施形態は、(a)触媒の総重量に対して4~9重量%の第1の金属酸化物、(b)触媒の総重量に対して15~26重量%の第2の金属酸化物、(c)触媒の総重量に対して4~7重量%の第3の金属酸化物、(d)触媒の総重量に対して40~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体、および(e)触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤、を含む水素化脱硫触媒であって、BET表面積が155~210m/gである水素化脱硫触媒である。
【0028】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の水素化脱硫触媒が提供され、ここで、前記第1の金属酸化物は酸化リンであり、前記第2の金属酸化物は、酸化モリブデン、酸化タングステンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記第3の金属酸化物は、酸化コバルト、酸化ニッケル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0029】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の水素化脱硫触媒が提供され、ここで、前記水素化脱硫触媒は、とりわけ、第1の金属酸化物、第2の金属酸化物、第3の金属酸化物を含む。前記第1の金属酸化物は、第1の金属酸化物前駆体から製造される。第1の金属酸化物前駆体は、オルトリン酸、リン酸水素二アンモニウム、またはリン酸二水素アンモニウム、次亜リン酸からなる群から選択される。前記第2の金属酸化物は、第2の金属酸化物前駆体から製造される。前記第2の金属酸化物前駆体は、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、モリブデンリン酸、酸化モリブデン、塩化モリブデン、メタタングステン酸アンモニウム、または塩化タングステンから選択される。前記第3の金属酸化物は、第3の金属酸化物前駆体から製造される。前記第3の金属酸化物前駆体は、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、塩化ニッケル、硝酸コバルト、酢酸コバルト、またはコバルトアセチルアセトナートから選択される。
【0030】
本開示の一実施形態は、(a)触媒の総重量に対して4~9重量%の酸化リン、(b)触媒の総重量に対して15~26重量%の酸化モリブデン、(c)触媒の総重量に対して4~7重量%の酸化ニッケル、(d)触媒の総重量に対して40~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体、および(e)触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤、を含む水素化脱硫(HDS)触媒であって、BET表面積が155~210m/gである水素化脱硫触媒である。本開示の別の実施形態は、(a)触媒の総重量に対して4~7重量%の酸化リン、(b)触媒の総重量に対して15~20重量%の酸化モリブデン、(c)触媒の総重量に対して4~6重量%の酸化ニッケル、(d)触媒の総重量に対して45~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体、および(e)触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤、を含む水素化脱硫(HDS)触媒であって、BET表面積が155~210m/gである水素化脱硫触媒である。本開示のさらに別の実施形態は、(a)触媒の総重量に対して4~7重量%の酸化リン、(b)触媒の総重量に対して15~20重量%の酸化モリブデン、(c)触媒の総重量に対して4~6重量%の酸化ニッケル、(d)触媒の総重量に対して45~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体、および(e)触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤、を含む水素化脱硫(HDS)触媒であって、BET表面積が155m~210m/gである水素化脱硫触媒である。
【0031】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の水素化脱硫触媒が提供され、ここで、前記触媒の表面酸性度は0.3~0.5mmol/gである。
【0032】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の水素化脱硫触媒が提供され、ここで、前記触媒の全細孔容積は0.3~0.45cm/gであり、平均孔径は6~12nmである。
【0033】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の水素化脱硫触媒が提供され、ここで、前記少なくとも1つの多孔質担体は、Al TiO、SiO、SiO-Al、またはゼオライト-Yから選択される。
【0034】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の水素化脱硫触媒が提供され、ここで、前記少なくとも1つの多孔質担体は、γ-Al、TiO、SiO、SiO-Al、またはゼオライト-Yから選択される。
【0035】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の水素化脱硫触媒が提供され、ここで、前記少なくとも1つの多孔質担体は、γ-Alである。
【0036】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の水素化脱硫触媒が提供され、ここで、前記少なくとも1つのキレート剤は、クエン酸、グルタミン酸、ニトリロ酢酸、グルタル酸、またはコハク酸から選択される。
【0037】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の水素化脱硫触媒が提供され、ここで、前記少なくとも1つのキレート剤は、クエン酸、グルタミン酸、ニトリロ酢酸、またはグルタル酸から選択される。
【0038】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の水素化脱硫触媒が提供され、ここで、前記少なくとも1つのキレート剤はクエン酸である。
【0039】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の水素化脱硫触媒が提供され、ここで、前記少なくとも1つのキレート剤はグルタミン酸である。
【0040】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の水素化脱硫触媒が提供され、ここで、前記少なくとも1つのキレート剤は、クエン酸およびグルタミン酸の組み合わせである。
【0041】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の触媒の製造方法が提供される。ここで前記方法は、(a)少なくとも1つの多孔質担体に酸化リン前駆体を含浸させ、その後、乾燥および焼成して第1前駆体を得るステップと、(b)少なくとも1つのキレート剤の存在下で、酸化モリブデン前駆体を前記第1金属前駆体上に分散させ、その後、エージング、乾燥、および焼成して、第2前駆体を得るステップと、(c)少なくとも1つのキレート剤の存在下で酸化ニッケル前駆体を前記第2前駆体に含浸させ、その後、乾燥させて触媒を得るステップと、を含む。
【0042】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の触媒の製造方法が提供され、ここで、前記方法は、(a)少なくとも1つの多孔質担体に酸化リン前駆体を含浸させ、その後、乾燥および焼成して、第1前駆体を得るステップと、(b)少なくとも2つのキレート剤の存在下で、酸化モリブデン前駆体を前記第1金属前駆体上に分散させ、その後、エージング、乾燥、および焼成して、第2前駆体を得るステップと、(c)少なくとも2つのキレート剤の存在下で、酸化ニッケル前駆体を前記第2前駆体に含浸させ、その後、乾燥させて、触媒を得るステップと、を含む。本開示の別の実施形態では、前記少なくとも2つのキレート剤は、クエン酸およびグルタミン酸の組み合わせである。
【0043】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の触媒の製造方法が提供され、ここで、前記酸化リン前駆体は、オルトリン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、次亜リン酸、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記酸化モリブデン前駆体は、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、モリブドリン酸、酸化モリブデン、塩化モリブデン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記酸化ニッケル前駆体は、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、塩化ニッケル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0044】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の触媒の製造方法が提供され、ここで、前記少なくとも1つの多孔質担体への前記酸化リン前駆体の含浸を、pH2~5.5で、スプレー含浸によって行う。
【0045】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の触媒の製造方法が提供され、ここで、ステップ(a)の乾燥および焼成を、400~500℃で行う。
【0046】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の触媒の製造方法が提供され、ここで、前記少なくとも1つのキレート剤の存在下で、前記第1金属前駆体上への前記酸化モリブデン前駆体の分散を、pH2~5.5で行う。
【0047】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の触媒の製造方法が提供され、ここで、前記少なくとも2つのキレート剤の存在下で、前記第1金属前駆体上への前記酸化モリブデン前駆体の分散を、pH2~5.5で行う。
【0048】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の触媒の製造方法が提供され、ここで、ステップ(b)のエージングを25~35℃で2~5時間行い、ステップ(b)の乾燥を80~100℃で行い、ステップ(b)の焼成を450~600℃で行う。
【0049】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の触媒の製造方法が提供され、ここで、前記少なくとも1つのキレート剤の存在下での、前記第2前駆体への前記酸化ニッケル前駆体の含浸を、pH4.5~5.5で、スプレー含浸によって行う。
【0050】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の触媒の製造方法が提供され、ここで、前記少なくとも2つのキレート剤の存在下での、前記第2前駆体への前記酸化ニッケル前駆体の含浸を、pH4.5~5.5で、スプレー含浸によって行う。
【0051】
本開示の一実施形態として、本明細書に記載の触媒の製造方法が提供され、ここで、ステップ(c)の乾燥を、80~100℃で5~8時間行う。
【0052】
本開示の一実施形態として、炭化水素原料の水素化脱硫方法が提供される。当該方法は、(a)触媒の総重量に対して4~7重量%の酸化リン、(b)触媒の総重量に対して15~20重量%の酸化モリブデン、(c)触媒の総重量に対して4~6重量%の酸化ニッケル、(d)触媒の総重量に対して45~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体、および、(e)触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤を含み、BET表面積が155~210m/gである水素化脱硫触媒と、少なくとも1つの硫黄含有炭化水素化合物を含む炭化水素原料とを水素ガスの存在下で接触させることにより、前記少なくとも1つの硫黄含有炭化水素化合物を水素化脱硫して、硫化水素および水素化脱硫炭化水素化合物を形成することを含み、前記炭化水素原料を200~500℃で水素化脱硫触媒と接触させる方法である。
【0053】
本開示の一実施形態として、前記水素ガスの圧力が2~10MPaである、炭化水素原料の水素化脱硫方法が提供される。
【0054】
本開示の一実施形態として、前記水素ガスの圧力が3~10MPaである、炭化水素原料の水素化脱硫方法が提供される。
【0055】
本開示の一実施形態として、前記水素ガスの圧力が3~8MPaである、炭化水素原料の水素化脱硫方法が提供される。
【0056】
本開示の一実施形態として、炭化水素原料の水素化脱硫方法が提供され、ここで、炭化水素原料と本明細書に記載の水素化脱硫触媒との重量比は、500g~3000g:1000gである。
【0057】
本開示について、特定の実施形態に関連して説明してきたが、当該説明は限定的な意味で解釈されることを意味するものではない。詳細な説明の記載を参照すれば、当業者には、開示された実施形態の様々な変更、および本開示の他の実施形態が明らかになるであろう。したがって、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく変更を行うことが可能である。
【実施例
【0058】
以下、本開示について実施例とともに説明する。この実施例は、本開示の作用を説明することを意図するものであり、本開示の範囲について任意に限定することを意図するものではない。別段の定義がない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、本開示の属する当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載したものと類似するまたは均等の方法および材料を、開示した方法および組成物の実施に用いることはできるが、例示的な方法、装置および材料は本明細書に記載されている。なお、本開示は、説明した特定の方法や実験条件に限定されず、そのような方法および条件が適用されてもよいということを理解されたい。
【0059】
一般的に、担体の性質は、製造された触媒の形態、分散、および明らかに触媒活性において重要な役割を果たす。担体の相互作用が少ないほど、触媒の活性が高まる。担体の効果は、硫化物クラスターが表面とどのように相互作用するかを明らかにすることで解明できる。硫化プロセス中に、Mo-O-M結合が切断され、Mo-S-M結合に変換される。ここで、Mは、担体中の金属を指す。本開示において、モリブデンは、スプレー含浸により特定の範囲のpHでアルミナ担体上に担持された。モリブデンを担持させる際に、分散性を向上するため、さらにキレート剤を添加した。担体上でのモリブデンの分散性を向上するために、スプレー含浸とクエン酸やグルタミン酸などのキレート剤の組み合わせを採用した。分散性の向上によって、キレート剤を使用しない湿式含浸と比較して硫化温度が低下する。さらに、ニッケルは、キレート剤(クエン酸およびグルタミン酸の組み合わせ)とともに、モリブデンを担持させた後に多孔質基体に含浸された。湿式含浸法を使用して触媒を製造し、最終触媒を焼成する従来のプロセスとは異なり、本開示はスプレー含浸を使用して触媒を製造し、最終触媒は焼成されない。スプレー含浸されたニッケルは、キレート剤および未焼成の最終触媒とともに、NiSの形成を遅らせ、明らかにMoSが最初に形成され、その後、端でニッケルが置換された。
【0060】
したがって、本開示は、(a)触媒の総重量に対して4~9重量%の酸化リン、(b)触媒の総重量に対して15~26重量%の酸化モリブデン、(c)触媒の総重量に対して4~7重量%の酸化ニッケル、(d)触媒の総重量に対して40~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体、および(e)触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤、を含む水素化脱硫(HDS)触媒であって、BET表面積が155~210m/gである水素化脱硫触媒を提供するものである。
【0061】
実験の詳細
オルトリン酸をリン前駆体として使用し、ヘプタモリブデン酸アンモニウムまたはモリブドリン酸をモリブデン前駆体として使用し、酢酸ニッケル、または硝酸ニッケル、またはニッケルアセチルアセトナート、または塩化ニッケルをニッケル前駆体として使用した。材料は市販のものを調達し、追加の精製をすることなく、入手したときの状態で使用した。本開示で使用するアルミナは、市販のものを調達したγ-アルミナであって、追加の精製をすることなく、入手したときの状態で使用した。
【0062】
実施例1:
触媒の製造方法
触媒の製造方法は、以下のステップを含む。
(a)第1前駆体の合成:pH2~3で、スプレー含浸により、リンをアルミナ上に担持させ、リン担持アルミナを得た。前記リン担持アルミナを乾燥させ、450℃で焼成し、第1前駆体を得た。この手順は、酸化リン前駆体(オルトリン酸(HPO))13.1gをγ-アルミナ75gにpH2~3で混合し、第1前駆体中に6.55wt%の金属を得ることを含む。当該方法を室温で3時間行った。この混合物を2時間攪拌し、その後、60~70℃でゆっくりと蒸発させて乾燥させ、450℃で最終焼成した。次に、前記第1前駆体を100℃で12時間乾燥させた。
(b)第2前駆体の合成:前記第1前駆体にモリブデンをスプレー含浸させて、2段階で第2前駆体を合成した。スプレー含浸工程では、酸化モリブデン前駆体(ヘプタモリブデン酸アンモニウム(27.58g))およびキレート剤(クエン酸とグルタミン酸の組み合わせ)1.27gを、2つの別々の工程でP-アルミナ(75g;第1前駆体)上に担持させた。キレート剤とともにモリブデンをスプレー含浸させている間、含浸溶液のpHは5~5.2を維持した。得られた材料を室温でエージングし、90℃で乾燥させた。上記と同様の手順で、さらにモリブデンの2回目の担持を行った。その後、得られた最終材料を500℃で焼成した。
(c)触媒の合成:最後に、pH5且つキレート剤(クエン酸とグルタミン酸の組み合わせ)の存在下で、前記第2前駆体へのニッケルの担持を、1段階のスプレー含浸で行った。その後、85℃で6時間乾燥させた。
【0063】
実施例2:他の水素化脱硫触媒の製造方法:
他の触媒の製造方法は、酸化モリブデン前駆体および酸化リン前駆体を含む溶液を調製することを含む。酸化モリブデン前駆体の代わりに、酸化タングステン前駆体を使用することもできる。この溶液を、少なくとも1つのキレート剤の存在下でγ-アルミナに含浸させ、その後、500℃で焼成して、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、モリブドリン酸、酸化モリブデン、塩化モリブデンの第2前駆体を得た。酸化タングステン前駆体は、メタタングステン酸アンモニウムまたは塩化タングステンから選択することができる。少なくとも1つのキレート剤は、クエン酸、グルタミン酸、またはクエン酸とグルタミン酸の組み合わせから選択することができる。酸化ニッケル前駆体は、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、塩化ニッケルから選択することができる。酸化コバルト前駆体は、硝酸コバルト、酢酸コバルト、またはコバルトアセチルアセトナートから選択することができる。
【0064】
一例において、水素化脱硫触媒は、触媒の総重量に対して4~9重量%の酸化リン、触媒の総重量に対して15~26重量%の酸化モリブデン、触媒の総重量に対して4~7重量%の酸化ニッケル、触媒の総重量に対して40~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体すなわちγ-アルミナ、および、触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤すなわちクエン酸またはグルタミン酸、またはクエン酸とグルタミン酸の組み合わせ、を含むものである。前記水素化脱硫触媒のBET表面積は155~210m/gであった。上記の成分の重量パーセントが下限および上限を超えて変動すると、多孔質骨格内への活性相の取り込みが著しく損なわれる。すなわち、BET表面積が小さくなり、触媒性能に影響を及ぼす。また、上記の成分の重量パーセントが規定値を超えると、ヘプタモリブデート種(活性部位)の含有量が低くなることがわかった。UV分光法により、金属の担持量が少ないと、最終的に触媒の全体的な活性に影響を及ぼすことが確認された。金属酸化物の重量パーセントが上限を超えて増えると、触媒の細孔径が損なわれた。すなわち、過剰な金属の担持が再び最終的な活性に悪影響を及ぼしたために、触媒の細孔径が最小化された。したがって、水素化脱硫触媒は、触媒の総重量に対して4~9重量%の酸化リン、触媒の総重量に対して15~26重量%の酸化モリブデン、触媒の総重量に対して4~7重量%の酸化ニッケル、触媒の総重量に対して40~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体すなわちγ-アルミナ、および触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤すなわちクエン酸またはグルタミン酸、またはクエン酸とグルタミン酸の組み合わせのいずれかを含むことが、触媒のより高い活性を維持するために重要である。
【0065】
実施例3:合成触媒(脱硫触媒)のテクスチャー特性の解析
合成触媒のBET表面積、細孔径、および細孔容積を、-196℃におけるN吸脱着を用いるQuantachrome Autosorb IQで測定した。測定前に、サンプルを250℃で3時間脱気し、不純物や水分を除去した。Brunauer-Emmett-Teller(BET)法を使用して触媒の表面積を計算したところ、155~210m/gであった。Barret-Joyner-Halenda(BJH)脱着法を使用して、細孔径分布を計算した。BJH脱着法により、触媒の全細孔容積は0.3~0.45cm/g、平均細孔径は6~12nmであることがわかった。本開示の方法によって合成された触媒は、効率的な触媒性能のための高度に分散した活性相を提供する。
【0066】
さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)分析を使用して、硫化物触媒中の金属分散を確認した。JEOL透過型電子顕微鏡で硫化触媒の微細構造分析を行ったものが図1である。図1は、MoSのスラブが触媒内に十分に分散していることを明確に示している。
【0067】
実施例4:UVスペクトル分析
図2は、(i)本開示のプロセスによって作製された触媒のUVスペクトル分析、および(ii)従来の湿式含浸法により作製された触媒のUVスペクトル分析を示す。湿式含浸法により製造された触媒と比較して、本開示の方法により製造された触媒において、重要な前駆体であるヘプタモリブデート種の存在は、約30%増加した。
【0068】
実施例5:X線光電子分光分析
XPS分析を使用して、触媒の表面組成、すなわちγ-アルミナ表面上の遷移金属の種の識別および化学状態に関する情報を取得した。図3に、水素化脱硫プロセス後の触媒のX線光電子分光を示す。図3は(i)本開示及び(ii)従来技術の、脱硫Mo3dにおけるモリブデン種を示す。水素化脱硫の活性部位はMoSであった。XPSを使用して、触媒中のMoSを定量化した。Moの+4酸化状態はMoSを指し、+6酸化状態はMoO相を指す。硫化後の触媒中のMoOは不活性サイトであった。図3から、MoSの量がMoOサイトに比べて多いことが明らかである。
【0069】
実施例6:合成触媒(水素化脱硫触媒)の水素による昇温還元(TPR-H)分析
昇温還元(TPR)は、金属酸化物、混合金属酸化物、および担体上に分散した金属酸化物の特性評価に広く使用されているツールである。図4は、(i)キレート剤としてクエン酸とグルタミン酸の組み合わせを使用した本開示の方法、(ii)キレート剤としてクエン酸を使用した本開示の方法、および(iii)キレート剤としてクエン酸を用いた従来の湿式含浸法、により作製した水素化脱硫触媒の水素による昇温還元(H-TPR)の結果を示している。図4から、触媒の還元温度Tmaxは次の順序であることが明らかである。
(i)<(ii)<(iii)
【0070】
したがって、キレート剤としてクエン酸とグルタミン酸の組み合わせを使用した本開示の方法によって作製された触媒は、他のキレート剤の組み合わせおよび含浸技術と比較して、硫化の間、より低い温度でMoSを形成することが明らかである。従来の含浸技術では、活性相と担体の間の相互作用が強いため、MoSの形成が遅くなり、より高温にシフトするため、結果的に、最終触媒中のMoS含有量に影響を与える。
【0071】
実施例7:水素化脱硫触媒の性能評価
合成触媒の性能評価を、炭化水素原料を使用して容量200mLの固定床反応器で行った。不活性物質に触媒50gを担持させた。水素化脱硫触媒の実際の作用に近づけるために、触媒を硫化剤であるジメチルジスルフィドで硫化した。1%のジメチルジスルフィドを炭化水素原料(ディーゼル)に添加し、250℃、5MPaの水素圧力で4時間、および350℃、5MPaの水素圧力で5時間、本開示の水素化脱硫触媒と共に硫化した。例えば、炭化水素原料を500g~3000gの重量割合の範囲で変え、上記原料の範囲に対して使用した水素化脱硫触媒は1000gであった。活性サイトである硫化物状態に変換された触媒中に存在する金属酸化物、およびその硫黄のppmレベルを計算し、表1および表2に記載した。
【0072】
炭化水素原料の初期硫黄含有量は5000~15000ppmであった。処理条件は、WHSV:0.6hr-1、H/HC:575Nm/m、圧力:2~10MPaであった。表1は、種々の反応温度での生成物の硫黄含有量を示しており、表2は、種々の時間での生成物の硫黄含有量を示している。表2の操作条件は表1と同じであったが、温度は343℃、圧力は8MPaであった。
【0073】
【表1】

*WABT=加重平均床温
**従来=湿式含浸法により水素化脱硫触媒を作製
【0074】
比較例として、触媒を従来の方法で作製した。すなわち、P、MoO、およびNiOの活性金属前駆体をキレート剤とともに一段階で湿式含浸法を用いてアルミナ上に担持し、最終的に焼成して触媒を得た。
【0075】
炭化水素原料の水素化処理中、コークスが触媒表面に堆積するため、生産中の時間経過とともに触媒活性は減少する。しかし、表2に示す生産中の時間毎の解析から、本開示の触媒は、直接的な水素化脱硫に関して優れた触媒性能および選択性を有することは明らかである。
【0076】
【表2】

生産中の時間毎の解析
【0077】
これらの結果は、合成触媒の性能に有意な差異を表しており、これは、製造方法(キレート剤の存在下/非存在下での金属の含浸順序、含浸方法(スプレー含浸))、焼成温度、およびpHの影響を示している。
【産業上の利用可能性】
【0078】
概して、本開示は、(a)触媒の総重量に対して4~9重量%の酸化リン、(b)触媒の総重量に対して15~26重量%の酸化モリブデン、(c)触媒の総重量に対して4~7重量%の酸化ニッケル、(d)触媒の総重量に対して40~65重量%の少なくとも1つの多孔質担体、および(e)触媒に対して1~7重量%の少なくとも1つのキレート剤を含み、BET表面積が155~210m/gである水素化脱硫(HDS)触媒と、その製造方法とを開示するものである。本開示の水素化脱硫触媒は、様々な精油所で用途を見出すことができる。また、水素化脱硫触媒およびその製造方法は、湿式含浸技術によって製造された触媒と比較した場合、活性中心の形成が相対的に高いことに関して、より効果的に機能することにより、既存の技術の有用性を高めることができる。本開示の水素化脱硫触媒の製造方法は、植物油を航空燃料に変換するための触媒設計にも適用することができる。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】