(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-11
(54)【発明の名称】運動ニューロン疾患を処置するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
C07H 19/048 20060101AFI20220428BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20220428BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220428BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20220428BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220428BHJP
A61K 31/09 20060101ALI20220428BHJP
A61K 31/437 20060101ALI20220428BHJP
C07C 43/23 20060101ALI20220428BHJP
A61K 31/198 20060101ALN20220428BHJP
【FI】
C07H19/048 CSP
A61K31/706
A61P21/00
A61P25/02
A61P43/00 121
A61K31/09
A61K31/437
C07C43/23 C
A61K31/198
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021545301
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(85)【翻訳文提出日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 US2020019600
(87)【国際公開番号】W WO2020176445
(87)【国際公開日】2020-09-03
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521341617
【氏名又は名称】ウニベルシタット デ バレンシア―エストゥディ ジェネラル
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAT DE VALENCIA-ESTUDI GENERAL
(71)【出願人】
【識別番号】517302343
【氏名又は名称】エリシウム ヘルス, インコ―ポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】エストレラ アリグエル, ホセ マリア
(72)【発明者】
【氏名】オブラドール プラ, マリア エレナ
(72)【発明者】
【氏名】サルヴァドール, ロサリオ
(72)【発明者】
【氏名】デリンジャー, ライアン ダブリュー.
【テーマコード(参考)】
4C057
4C086
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C057BB02
4C057DD01
4C057LL05
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CB05
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA22
4C086ZA94
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
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4C206JA59
4C206KA01
4C206MA03
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA22
4C206ZA94
4C206ZC75
4H006AA01
4H006AB21
4H006GP03
4H006GP12
(57)【要約】
ニコチンアミドリボシド、プテロスチルベン、及びPDE4阻害剤、例えばイブジラストを含むホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤を含み、且つチオール/システイン供与体、例えばアセチルシステインも含む組成物を対象に投与する(例えば対象に経口投与する)ことにより、対象における運動ニューロン疾患、例えばALSを処置することに関連する方法及び組成物が、本明細書に提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量の式I又は式IIの化合物、式IIIの化合物及びホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤を、それを必要とする対象に順次、同時若しくは別個に投与する、又は共投与として投与するステップを含む、前記対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療又は予防する方法における使用のための式IIIの化合物及びホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤と組み合わせた式I又は式IIの化合物。
【請求項2】
最初に投与された化合物の治療効果が、後続の化合物が投与されたとき完全に消失していない、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項3】
式I又は式IIの化合物がニコチンアミドリボシドである、請求項1又は2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
式IIIの化合物がプテロスチルベンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
PDE阻害剤が、PDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10又はPDE11阻害剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤がPDE4阻害剤である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤がイブジラストである、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤がイブジラストであり、式IIIの化合物がプテロスチルベンであり、式Iの化合物がニコチンアミドリボシドである、請求項7に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
方法が、脂肪酸補助食品を対象に投与するステップを更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項10】
化合物が、1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と一緒に製剤化された、治療有効量の式I又は式IIの化合物、式IIIの化合物及びホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤を含む薬学的に許容できる組成物に含まれる、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項11】
式I又は式IIの化合物及び式IIIの化合物が、1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と一緒に製剤化されており、ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤が、1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と共に別個に製剤化されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項12】
式I又は式IIの化合物、式IIIの化合物及びホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤が、1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と共にそれぞれ別個に製剤化されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項13】
1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と共に製剤化された、治療有効量の式I又は式IIの化合物、式IIIの化合物及びホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤を含む、薬学的に許容できる組成物。
【請求項14】
1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と一緒に製剤化された、治療有効量の式I又は式IIの化合物及び式IIIの化合物を含む薬学的に許容できる組成物、並びに1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と共に治療有効量のホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤を含む更なる薬学的に許容できる組成物を含む、キットオブパーツ。
【請求項15】
1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と共に治療有効量の式I又は式IIの化合物を含む、第1の薬学的に許容できる組成物;1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と共に治療有効量の式IIIの化合物を含む第2の薬学的に許容できる組成物;並びに1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と共に治療有効量のホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤を含む第3の薬学的に許容できる組成物を含む、キットオブパーツ。
【請求項16】
ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤がPDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10又はPDE11阻害剤であり、式IIIの化合物がプテロスチルベンであり、式I又は式IIの化合物がニコチンアミドリボシドである、請求項13に記載の薬学的に許容できる組成物。
【請求項17】
ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤がPDE4であり、式IIIの化合物がプテロスチルベンであり、式I又は式IIの化合物がニコチンアミドリボシドである、請求項16に記載の薬学的に許容できる組成物。
【請求項18】
PDE4阻害剤がイブジラストである、請求項17に記載の薬学的に許容できる組成物。
【請求項19】
プテロスチルベンが約250mgで存在し、ニコチンアミドリボシドが約50mgで存在する、請求項16~18のいずれか一項に記載の薬学的に許容できる組成物。
【請求項20】
化合物が経口投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項21】
チオール/システイン供与体を更に含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項22】
チオール/システイン供与体が、アセチルシステイン、N-アセチルシステインアミド、(R)-2-アセトアミド-N-シクロヘキシル-3-(メチルチオ)プロペンアミド、(R)-N-シクロヘキシル-3-(メチルチオ)-2-プロピオンアミドプロパンアミド、化合物7a-(R)-2-アセトアミド-3-(メチルチオ)-N-フェニルプロパンアミド、N-アセチルシステインベンジルエステル及びN-アセチルシステインエチルエーテルからなる群から選択される、請求項21に記載の使用のための化合物。
【請求項23】
チオール/システイン供与体がアセチルシステインである、請求項22に記載の使用のための化合物。
【請求項24】
チオール/システイン供与体を更に含む、請求項13に記載の薬学的に許容できる組成物。
【請求項25】
チオール/システイン供与体が、アセチルシステイン、N-アセチルシステインアミド、(R)-2-アセトアミド-N-シクロヘキシル-3-(メチルチオ)プロペンアミド、(R)-N-シクロヘキシル-3-(メチルチオ)-2-プロピオンアミドプロパンアミド、化合物7a-(R)-2-アセトアミド-3-(メチルチオ)-N-フェニルプロパンアミド、N-アセチルシステインベンジルエステル及びN-アセチルシステインエチルエーテルからなる群から選択される、請求項24に記載の薬学的に許容できる組成物。
【請求項26】
チオール/システイン供与体がアセチルシステインである、請求項25に記載の薬学的に許容できる組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ニコチンアミドリボシド、プテロスチルベン及びPDE4阻害剤を含むホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤、例えばイブジラストを含む組成物を対象に投与する(例えば対象に経口投与する)ことによる、対象における運動ニューロン疾患、例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置することに関連する方法及び組成物が本明細書に提供される。更なる実施形態において、チオール/システイン供与体、例えばアセチルシステインも、処置を更に増強するために、組成物に添加及び/又は対象に投与され得る。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルにおける運動機能を評価する最近の実験では、ニコチンアミドリボシド(NR)及びプテロスチルベンPTの連携の投与によるプラスの効果が示された(国際出願PCT/US18/32932)。Cheng Y,Di S,Fan C,Cai L,Gao C,Jiang P,Hu W,Ma Z,Jiang S,Dong Y,Li T,Wu G,Lv J,Yang Y.SIRT1 activation by pterostilbene attenuates the skeletal muscle oxidative stress injury and mitochondrial dysfunction induced by ischemia reperfusion injury.Apoptosis.2016年8月;21(8):905~16は、プテロスチルベンによるSIRT1活性化が、虚血再灌流障害により誘発される骨格筋酸化ストレス障害及びミトコンドリア機能不全を減じることを示した。Mendelsohn及びLarrick(2014)は、中年のマウス(第1段階のOXPHOSの欠陥)をニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)前駆体であるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)で1週間処置すると、酸化的リン酸化活性及び骨格筋におけるミトコンドリア機能の他のマーカーが回復することを示した。更に、NAD+ホメオスタシスの喪失が、骨格筋の進行性且つ可逆性の変性をもたらし(Frederick DW,Loro E,Liu L,Davila A Jr,Chellappa K,Silverman IM,Quinn WJ 3rd,Gosai SJ,Tichy ED,Davis JG,Mourkioti F,Gregory BD,Dellinger RW,Redpath P,Migaud ME,Nakamaru-Ogiso E,Rabinowitz JD,Khurana TS,Baur JA. Loss of NAD Homeostasis Leads to Progressive and Reversible Degeneration of Skeletal Muscle. Cell Metab.2016年8月9日;24(2):269~82)、NAD+の補充が、PARP/NNMT遺伝子発現シグネチャーを特徴とする筋ジストロフィー又は他の神経筋変性状態を有する患者に有益であり得ることが示された(Ryu D,Zhang H,Ropelle ER,Sorrentino V,Mazala DA,Mouchiroud L,Marshall PL,Campbell MD,Ali AS,Knowels GM,Bellemin S,Iyer SR,Wang X,Gariani K,Sauve AA,Canto C,Conley KE,Walter L,Lovering RM,Chin ER,Jasmin BJ,Marcinek DJ,Menzies KJ,Auwerx J. NAD+ repletion improves muscle function in muscular dystrophy and counters global PARylation. Sci Transl Med.2016年10月19日;8(361):361ra139)。
【0003】
ALS関連運動ニューロン変性は、軸索損傷、グリア細胞活性化及び炎症細胞の存在を伴う。累積エビデンスは、神経炎症がALSの特質である神経変性に寄与することを示唆している(Ransohoff RM. How neuroinflammation contributes to neurodegeneration. Science 2016年; 353: 777~783)。神経炎症は、反応性星状細胞及びミクログリアの存在、末梢免疫細胞の中程度の浸潤、並びに炎症性メディエーターのレベルの上昇を特徴とし、神経炎症は、孤発性ALS及び家族性ALSにおいてCNSの運動領で一貫して観察されており、疾患の特質を構成する(Liu J,Wang F. Role of Neuroinflammation in Amyotrophic Lateral Sclerosis:Cellular Mechanisms and Therapeutic Implications. Front Immunol.2017年8月21日;8:1005)。
【0004】
幾つかの臨床試験は、ALSにおける様々な抗炎症薬(例えばグルココルチコイド又はシクロオキシゲナーゼ2阻害剤)(https://clinicaltrials.gov)の効果を検証した。しかし、抗ALS治療薬としてのグルココルチコイドの使用に関して専門家と患者の間で多くの議論がなされたが(例えば様々なALS関連フォーラムhttps://www.als.net/forum/yaf_postst49865_dexamethasone.aspx等を参照のこと)、これらの試験では、その臨床診療への置き換えを正当化する治療上の利点が見出されなかった。ただし、幾つかの興味深い所見は、潜在的なプラスの効果を示唆する。例えば、CNSを標的とする抗炎症剤2B3-201(リポソームメチルプレドニゾロン)が治療可能性を有し、ALSのマウスモデルであるSOD1G93Aにおいて脳幹の病態を減少させるか(Evans MC,Gaillard PJ,de Boer M,Appeldoorn C,Dorland R,Sibson NR,Turner MR,Anthony DC,Stolp HB.CNS-targeted glucocorticoid reduces pathology in mouse model of amyotrophic lateral sclerosis. Acta Neuropathol Commun.2014年6月13日;2:66)、又はペニシリンG及びヒドロコルチゾンでの処置がALSに関連する症状(3人の患者の症例シリーズ)を低減することが示された(Tuk B,Jousma H,Gaillard PJ.Treatment with penicillin G and hydrocortisone reduces ALS-associated symptoms: a case series of three patients)。比較による経口グルココルチコイドの効力は、デキサメタゾンが最も高い効力を呈することを示している(Chrousos G,Pavlaki AN,Magiakou MA(2011).「Glucocorticoid Therapy and Adrenal Suppression」.PMID 25905379)。
【0005】
イブジラスト(開発コード:AV-411又はMN-166)は、主に日本で用いられている抗炎症薬であり、ホスホジエステラーゼ阻害剤として作用し、PDE4サブタイプを最大限阻害するが、他のPDEサブタイプの有意な阻害も示す。イブジラストは気管支拡張、血管拡張及び神経保護の効果を有し、喘息及び発作の処置に主に用いられる。イブジラストは血小板凝集を阻害し、多発性硬化症の処置にも有用であり得る。興味深いことに、抗神経炎症特性を示すイブジラストは、ALSの処置にも提案された(Kalafer等、2014、米国特許第9,314.452 B2号)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
特定の態様によれば、式I又は式IIの化合物(例えばニコチンアミドリボシド)、式IIIの化合物(例えばプテロスチルベン)及びホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤(例えばイブジラスト)を、対象に投与する(例えば対象に経口投与する)ことにより、対象における運動ニューロン疾患(例えば筋萎縮性側索硬化症、即ちALS)を処置することに関連する方法及び組成物が本明細書に提供される。特定の実施形態において、運動ニューロン疾患としてはALS、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、原発性側索硬化症(PLS)、進行性筋萎縮症(PMA)、進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺又は脊髄性筋萎縮症がある。更なる実施形態において、アセチルシステインは、処置を増強するために、組成物に添加及び/又は対象に投与され得る。
【0007】
特定の態様において、本明細書に提供される方法及び組成物は、式I又は式IIの化合物(例えばニコチンアミドリボシド)、式IIIの化合物(例えばプテロスチルベン)及びPDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10並びにPDE11阻害剤、並びに例示的な実施形態においてはPDE4阻害剤、例えばイブジラストを含むホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤、を対象に投与する(例えば対象に経口投与する)ことにより、対象における運動ニューロン変性の進行を遅延又は逆転させることに関連する。幾つかの実施形態において、対象は運動ニューロン疾患(例えばALS、HSP、PLS、PMA、PBP、仮性球麻痺又は脊髄性筋萎縮症)を有する。更なる実施形態において、アセチルシステインは、処置を増強するために、組成物に添加及び/又は対象に投与され得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】様々な組成物で処置したSOD1 G93Aマウスの生存アッセイを示すグラフである。WT、即ち野生型。EH301[ニコチンアミドリボシド(NR)及びプテロスチルベン(PT)]を経口投与した:185mgのニコチンアミドリボシド及び/又は30mgのプテロスチルベン/Kg×日。イブジラスト(IBU)を経口投与した:12mg/Kg×日。この図において、EH301及びイブジラストの組み合わせが、SOD1
G93AALSマウスの生存期間を延長することが示される。
【
図2A】(A)ALSFRS-Rスコアにおけるベースラインからの個々の試験参加者の4カ月間の変化の概要を示すグラフである。試験に登録した全参加者は、評価項目のうちの少なくとも1つにおいて陽性応答を示した。
【
図2B】(B)FVC(%)におけるベースラインからの個々の試験参加者の4カ月間の変化の概要を示すグラフである。試験に登録した全参加者は、評価項目のうちの少なくとも1つにおいて陽性応答を示した。
【
図2C】(C)MRCスケール指標におけるベースラインからの個々の試験参加者の4カ月間の変化の概要を示すグラフである。試験に登録した全参加者は、評価項目のうちの少なくとも1つにおいて陽性応答を示した。
【
図3A】ニコチンアミドリボシド(NR)及びプテロスチルベン(PT)で処置したFUS R521Cマウスの生存期間を示すグラフである。
【
図3B】ニコチンアミドリボシド(NR)、プテロスチルベン(PT)及びイブジラストで処置したFUS R521Cマウスの生存期間を示すグラフである。
【
図3C】ニコチンアミドリボシド(NR)、プテロスチルベン(PT)、イブジラスト及びN-アセチル-システイン(NAC)で処置したFUS R521Cマウスの生存期間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[定義]
本発明を詳細に記載する前に、本発明が特定の投与様式、患者集団等に限定されず、添付の説明及び図面から明らかなように、本発明自体が変化し得ると理解されるべきである。
【0010】
本明細書及び意図される特許請求の範囲で用いられる単数形「1つの(a)、(an)」及び「その(the)」は、別段の文脈による明確な指示がない限り、複数の指示対象を含むことに留意されるべきである。したがって、例えば「1つの薬物」についての言及は、単一の薬物及び2つ以上の同じ又は異なる薬物を含み、「任意選択の賦形剤」についての言及は、単一の任意選択の賦形剤及び2つ以上の同じ又は異なる任意選択の賦形剤等を指す。
【0011】
本発明を記載し権利を主張する際に、下記の専門用語が、以下に記載される定義に従って用いられる。
【0012】
「薬学的に許容できる賦形剤又は担体」は、本発明の組成物に任意選択で含まれ得、患者に重大な有害毒性作用を引き起こさない賦形剤を指す。
【0013】
「薬学的に許容できる塩」としては、アミノ酸塩、無機酸で調製される塩、例えば塩化物、硫酸塩、リン酸塩、二リン酸塩、臭化物及び硝酸塩、若しくは前記のいずれかの対応する無機酸形態から調製される塩、例えば塩酸塩等、又は有機酸で調製される塩、例えばリンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、エチルコハク酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、メタンスルホン酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、パラ-トルエンスルホン酸塩、パルモ酸塩、サリチル酸塩及びステアリン酸塩、並びにエストレート、グルセプテート及びラクトビオン酸塩が挙げられるがこれらに限定されない。同様に、薬学的に許容できるカチオンを含有する塩としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、リチウム及びアンモニウム(置換アンモニウムを含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
本明細書に記載される「活性分子」又は「活性薬剤」は、少なくともプテロスチルベン、ニコチンアミドリボシド及びイブジラストを含むホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤を含む。
【0015】
「実質的に」又は「本質的に」は、ある所定の量のほぼ全量又はほぼ完全、例えば95%以上を意味する。
【0016】
「任意選択の」又は「任意選択で」は、その後に記載される状況が起こる場合も、又は起こらない場合もあることを意味し、したがって説明は、状況が起こる場合の例及び状況が起こらない場合の例を含む。
【0017】
「中枢神経系」又は「CNS」という用語は、脊椎動物の脳及び脊髄の全ての細胞及び組織を含む。したがって、該用語は神経細胞、グリア細胞、星状細胞、脳脊髄液(CSF)、間質腔等を含むが、これらに限定されない。
【0018】
「グリア細胞」は、ミクログリア、星状細胞及びオリゴデンドロサイトとしても公知のCNSの様々な細胞を指す。
【0019】
「対象」、「個体」又は「患者」という用語は、本明細書において相互に言い換え可能に用いられ、脊椎動物、好ましくは哺乳動物を指す。哺乳動物としては、マウス、齧歯類、サル、ヒト、家畜、競技用動物及びペットが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に提供される組成物又は薬剤の「薬理学的有効量」又は「治療有効量」という用語は、非毒性であるが、例えばALSの低減又は回復等の所望の応答をもたらすのに十分な組成物又は薬剤の量を指す。必要とされる正確な量は、対象の種、年齢及び全身状態、処置される状態の重症度、使用する特定の薬物(複数可)、投与様式等に応じて対象ごとに異なる。任意の個々の症例における適切な「有効」量は、本明細書に提供される情報に基づき、常套的な実験を用いて当業者により決定され得る。
【0020】
特に所定の量に関連して「約」という用語は、プラス又はマイナス5%の偏差を包含することを意味する。
【0021】
進行性神経変性疾患の「処置」又はこれを「処置する」は、進行性神経変性疾患の症状の進展を阻止すること又は回復させることを含む。
【0022】
進行性神経変性疾患の処置のための本発明の方法は、以下の分子:プテロスチルベン、ニコチンアミドリボシド、及びホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤、例えばイブジラストの投与に基づく。
【0023】
「ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤」は、3’-炭素のリン酸エステル結合の加水分解を触媒して、対応する5’-ヌクレオチド一リン酸を生成する化合物のクラスを指す。したがって、これらは環状ヌクレオチドの細胞濃度を調節する。多くのホルモン及び神経伝達物質の細胞外受容体は、セカンドメッセンジャーとして環状ヌクレオチドを利用し、PDEはまた、これらの細胞外シグナルに対する細胞応答を調節する。少なくとも8クラスのPDE:Ca2+/カルモジュリン依存性PDE(PDE1)、cGMP刺激性PDE(PDE2)、cGMP阻害PDE(PDE3)、cAMP特異的PDE(PDE4)、cGMP結合性PDE(PDE5)、光受容体PDE(PDE6)、高親和性cAMP特異的PDE(PDE7)及び高親和性cGMP特異的PDE(PDE9)が存在する。PDE阻害剤はまた、環状ヌクレオチドに対するこれらの触媒の選択性に基づき3つの大まかな群:環状AMP特異的PDE(PDE4、PDE7及びPDE8)、環状GMP特異的PDE(PDE5、PDE6及びPDE9)及び両方の環状ヌクレオチドを加水分解する特異性を欠くPDE(PDE1、PDE2、PDE3、PDE10及びPDE11)に分割できる。
【0024】
実施形態において、本明細書に記載される方法及び組成物において有用なPDE阻害剤は、PDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10又はPDE11阻害剤である。PDE4阻害剤は、環状アデノシン一リン酸(cAMP)に対するホスホジエステラーゼ4の分解作用を妨げる化合物である。PDE4は、中枢神経系における細胞内環状AMPの主要な負の調節因子として作用し、環状AMPシグナル伝達区画化を維持する際にPDE4の重要な活性であり、広範な神経疾患及び損傷に関与している。
【0025】
イブジラストは、以下に示す構造を有する小分子薬物(分子量230.3)である。
【0026】
【0027】
イブジラストは、ChemBank ID 3227、CAS番号50847-11-5及びBeilstein Handbook Reference No. 5-24-03-00396でも見つけられる。その分子式はC14H18N2Oに対応する。イブジラストは2-メチル-1-(2-(1-メチルエチル)ピラゾロ(1,5-a)ピリジン-3-イル)1-プロパノン;3-イソブチリル-2-イソプロピルピラゾロ(1,5-a)ピリジン];及び1-(2-イソプロピル-ピラゾロ[1,5-a]ピリジン-3-イル)-2-メチル-プロパン-1-オンを含む様々な化学名でも公知である。イブジラストの他の同義語としては、Ibudilastum(ラテン語)、BRN0656579、KC-404及びMN-166が挙げられる。その商標名はケタス(Ketas)(登録商標)である。本明細書で言及されているように、イブジラストは、その投与のために意図された製剤における使用に適当であるとして、任意のあらゆる薬学的に許容できる塩形態、プロドラッグ形態(例えば対応するケタール)、溶媒和物等を含むことが意図される。
【0028】
イブジラストは、環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(PDE)3A、4、10A1及び11A1の選択的阻害剤であり(Gibson等、Eur J Pharmacol 538: 39~42、 2006年)、ロイコトリエンD4及びPAF拮抗活性を有することも報告されている。イブジラストは、炎症細胞(例えばグリア細胞)に対する作用を介して炎症を抑制するように作用し、その結果、炎症促進性メディエーターの放出と神経刺激性メディエーターの放出の両方を抑制する。イブジラストはまた、炎症促進性サイトカイン(IL-1β、TNF-α)の産生を抑制でき、抗炎症性サイトカイン(IL-4、IL-10)の産生を増強できる。前記に関連する参考文献としては以下が挙げられる:Obernolte,R等(1993年)「The cDNA of a human lymphocyte cyclic-AMP phosphodiesterase(PDE IV)reveals a multigene family」 Gene 129: 239~247; Rile,G.等(2001年)「Potentiation of ibudilast inhibition of platelet aggregation in the presence of endothelial cells」 Thromb. Res. 102: 239~246; Souness, J. E.等(1994年)「Possible role of cyclic AMP phosphodiesterases in the actions of ibudilast on eosinophil thromboxane generation and airways smooth muscle tone」 Br. J. Pharmacol. 111: 1081~1088; Suzumura, A.等(1999年)「Ibudilast suppresses TNF.alpha.production by glial cells functioning mainly as type III phosphodiesterase inhibitor in CNS」 Brain Res. 837: 203~212; Takuma, K.等(2001年)「Ibudilast attenuates astrocyte apoptosis via cyclic GMP signaling pathway in an in vitro reperfusion model」 Br. J. Pharmacol. 133: 841~848。
【0029】
本明細書に記載される方法に利用できる更なるPDE阻害剤としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:
PDE1阻害剤ビンポセチン、IC224、IC86340、IC295、ジオクレイン、ニカルジピン、フェノチアジン、カルミダゾリウム、SCH51866、ニモジピン及びアマンタジン;
PDE2阻害剤ルテオリン、エキシスリンド、オキシインドール、IC933、BAY60-7550及びEHNA;
PDE3阻害剤シロスタゾール、ミルリノン、シロスタミド、ピモベンダン、IBMX、トレキンシン、ザルダベリン、シグアゾダン、エノキシモン及びPQ-10;
PDE4阻害剤アプレミラスト、シロミラスト、クリサボロール、ジアゼパム、ルテオリン、メセンブレノン、ピクラミラスト、ロフルミラスト、ロリプラム、ペントキシフィリン、エタゾレート、トラフェントリン、オグレミラスト、GSK256066、IBMX、メセンブリン、AWD12-281、SCH351591、V-11294A、HT0712、デンブフィリン、RO 20-1724、BPN14770、IC486051、エタゾレート、GEBR-7b、GSK356278、MK-0952及びL-454560;
PDE5阻害剤ミロデナフィル、ジルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル及びアバナフィル、シルデナフィル、シルデナフィルクエン酸塩、タダラフィル、イカリイン、ウデナフィル、DA-8159、SK&F96231、ザプリナスト及びシロミラスト;
PDE7阻害剤としてはキナゾリン、BRL 50481、ジピリダモール、チアジアゾール、ASB16165、S14及びVP1.15が挙げられる;
PDE9阻害剤SCH81566、ザプリナスト、BAY 73-6691及びPF-04447943;
PDE10阻害剤TAK-063、ザプリナスト、ジピリダモール、パパベリン、PQ-10、TP-10及びPF-02545920;並びに
PDE11阻害剤タダラフィル、BC11-38、ザプリナスト及びジピリダモール。
【0030】
幾つかのこれらのPDE阻害剤、及び神経変性障害の処置におけるPDE阻害剤の使用の考察は、Umar及びHoda「Selective inhibitors of phosphodiesterases: therapeutic promise for neurodegenerative disorders」, Med. Chem. Commun. 6:2063~2080(2015年);並びにKnott等「Phosphodiesterase Inhibitors as a Therapeutic Approach to Neuroprotection and Repair」 International Journal of Molecular Sciences 18:696(2017年)に記載されている(それぞれのPDE阻害剤の開示は、特に神経変性障害の処置における使用のための例示的なPDE阻害剤の開示のために、本明細書での参照によりPDE阻害剤全体に組み込まれる)。
【0031】
ニコチンアミドリボシドは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)に対する前駆体として働くナイアシン(即ち、ビタミンB3)のピリジン-ヌクレオシド形態である。本明細書で使用されるように、「ニコチンアミドリボシド」は、ニコチンアミドリボシド塩、例えば塩化ニコチンアミドリボシドも含む。ニコチンアミドリボシドの化学構造を以下に示す:
【0032】
【0033】
プテロスチルベンは、スチルベノイドであり、親油性及び経口吸収を向上させることを可能にする2つのメトキシ基の存在による良好なバイオアベイラビリティ、及び酸化の低下によるより長い半減期を有する、ポリフェノールレスベラトロールの類似体である。プテロスチルベンの化学構造を以下に示す:
【0034】
【0035】
前述の通り、本明細書に記載される薬物、特にプテロスチルベン、ニコチンアミドリボシド及びイブジラストのうちのいずれか1つ又は複数についての言及は、該当する場合、あらゆるエナンチオマー、ラセミ混合物を含むエナンチオマーの混合物、プロドラッグ、薬学的に許容できる塩形態、水和物(例えば一水和物、二水和物等)、溶媒和物及び様々な物理的形態を包含することを意味する。
【0036】
更なる実施形態において、チオール/システイン供与体、例えばアセチルシステインは、処置を増強するために、組成物に添加及び/又は対象に投与され得る。
【0037】
[発明の説明]
NAD+依存性ヒストン脱アセチル化酵素であるサーチュインは、ALSの治療標的として新たに台頭しつつある。サーチュインは、ALSに関与する細胞プロセス、具体的にはミトコンドリア機能の維持を調節する。重要なことに、サーチュインレベルの変化がALSマウスモデル及びALS患者からの組織で観察され、ミトコンドリア新生、機能及びターンオーバーに悪影響をもたらした。したがって、サーチュイン活性を維持するための手段は、ALSに対する有望な治療戦略となる。Elysium Healthは、NAD+レベルを上昇させ、サーチュイン活性を支持する、2つの活性成分-ニコチンアミドリボシド(250mg)及びプテロスチルベン(50mg)-を含有するEH301を開発した。EH301は、ALS患者におけるプラセボ対照二重盲検ヒトパイロット試験において有効であった。4カ月間の処置後、全てのALS特異的評価項目において、EH301処置群ではプラセボと比較して4カ月の時点で大幅な改善が観察され、これは以下を含む:
ALSFRS-Rスコア:プラセボ群での5.5ポイントの低下と比較して、EH301群で2.5ポイント改善(4カ月の時点でのプラセボとEH301との差=6.1ポイント)
FVC:プラセボ群での16.6%の低下と比較して、EH301群で2.5%改善(4カ月の時点でのプラセボとEH301との差=19.4%)
MRCスケール指標:プラセボ群での11ポイントの低下と比較して、EH301群で17ポイント改善(4カ月の時点でのプラセボとEH301との差=23ポイント)
【0038】
これらの結果は、筋電図検査で測定した三頭筋内の筋活動における著しい改善を伴った。この試験において、全参加者はリルゾールも服用していた。被験薬に起因する副作用は、この用量においていずれの試験参加者にも観察されなかった。
【0039】
開示された組成物及び方法に関して本明細書に記載されるように、EH301の治療上の利点は、PDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10及びPDE11阻害剤並びに実施形態においてはPDE4阻害剤、例えばイブジラストを含むホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤の添加により更に向上する。イブジラストは、比較的非特異的PDEであると考えられるが、イブジラストはPDE4サブタイプを最大限阻害する。実際に、ニコチンアミドリボシド及びプテロスチルベン(EH301)、更にイブジラストで50日目から処置したSOD1-G93Aマウス(平均生存期間=191日)では、EH301(平均生存期間=153日)又はイブジラスト(平均生存期間=137日)のいずれかで処置したマウスと比較して、生存期間の著しい改善が観察された(P<0.01)(
図1及び表1を参照のこと)。
図1に例示されるように、これらの知見は、EH301とイブジラストとの間の相乗的相互作用を示し、平均生存期間はEH301単独と比べて38日、及びイブジラスト単独と比べて54日延長する。これらは驚くべき且つ予想外の結果であり、ALSの処置のための先行治療法に勝る、本明細書により提供される無類の利点を表す。
【0040】
EH301--2つの活性成分、ニコチンアミドリボシド及びプテロスチルベンを含有する--と、PDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10及びPDE11阻害剤並びに例示的な実施形態においてはPDE4阻害剤を含むPDE阻害剤との組み合わせは、運動ニューロン疾患及び障害(例えばALS)の改善された生存期間、処置及び/若しくは予防を提供し、並びに/又は運動ニューロン変性を遅延若しくは回復させるための、ALSに特有の処置戦略となる。
【0041】
したがって、式I又は式IIの化合物(例えばニコチンアミドリボシド)、式IIIの化合物(例えばプテロスチルベン)、及びPDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10又はPDE11阻害剤などのホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤、好適には、例えばイブジラストを含む組成物を、これを必要とする対象(例えばALSを有する対象)に投与することによる、運動ニューロン疾患及び障害(例えばALS)を治療及び/若しくは予防すること、並びに/又は運動ニューロン変性を遅延若しくは回復させることに関する方法及び組成物が本明細書に提供される。
【0042】
したがって、このような併用療法は、本発明の上記の前記化合物の順次、同時及び別個又は共投与を含む。実施形態において、最初に投与された化合物の治療効果は、後続の化合物が投与されたとき完全に消失していない。即ち、式I及び/又は式IIの化合物(単独又は組み合わせのいずれか)の治療効果は、PDE阻害剤を含む後続の化合物が投与されたとき完全に消失していない。
【0043】
本明細書に提供されるように、式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容できる塩を含む医薬組成物は、以下の一般的化学構造:
【化4】
(式中、独立的にそれぞれの存在において、
R
1、R
2及びR
3は、水素、ハロゲン、-CN、-NO
2、-OR
14、-N(R
14)
m、-R
13、置換又は非置換(C
1~C
6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
R
4及びR
5は、水素、ハロゲン、-CN、-NO
2、-OR
14、-N(R
14)
m、置換又は非置換(C
1~C
6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
R
6、R
8、R
11及びR
12は、水素、(C
1~C
6)アルキル、-((C
1~C
6)アルキレン)N(R
14)
m、-C(O)((C
1~C
6)アルキレン)N(R
14)
m、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアラルキル、-OR
14及び-N(R
14)
mから選択され、
R
7、R
9及びR
10は、-((C
1~C
6)アルキレン)N(R
14)
m、-OR
14及び-N(R
14)
mから選択され、
R
13は、-OR
14、-N(R
14)
m、-C(O)(R
14)、-C(O)(OR
14)、-C(O)N(R
14)
m、-S(O)
2(OR
14)、-S(O)OR
14及び-S(O)
2N(R
14)
mから選択され、
R
14は、水素、(C
1~C
6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
XはO、S又はN(R
14)であり、
mは2又は3であり、
但し、R
1、R
2及びR
3のうちの少なくとも1つはR
13である)
を有する化合物を含む。
【0044】
幾つかの実施形態において、R1はR13である。幾つかの実施形態において、R2はR13である。幾つかの実施形態において、R3はR13である。
【0045】
幾つかの実施形態において、R13は、-OR14、-N(R14)m、-C(O)(R14)、-C(O)(OR14)及び-C(O)N(R14)mから選択される。幾つかの実施形態において、R13は、-C(O)(R14)、-C(O)(OR14)及び-C(O)N(R14)mである。幾つかの実施形態において、R13は-C(O)N(R14)mである。
【0046】
幾つかの実施形態において、R
7、R
9及びR
10は、それぞれ独立的に-OR
14又は-N(R
14)
mである。幾つかの実施形態において、R
7、R
9及びR
10は、-OR
14である。
幾つかの実施形態において、式(I)の化合物は、式(II):
【化5】
(式中、独立的にそれぞれの存在において、
R
2及びR
3は、水素、ハロゲン、-CN、-NO
2、-OR
14、-N(R
14)
m、-R
13、置換又は非置換(C
1~C
6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
R
4及びR
5は、水素、ハロゲン、-CN、-NO
2、-OR
14、-N(R
14)
m、置換又は非置換(C
1~C
6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
R
6、R
8、R
11及びR
12は、水素、-OR
14、-N(R
14)
m、置換又は非置換(C
1~C
6)アルキル、-((C
1~C
6)アルキレン)N(R
14)
m、-C(O)((C
1~C
6)アルキレン)N(R
14)
m、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
R
13は、-OR
14、-N(R
14)
m、-C(O)(R
14)、-C(O)(OR
14)、-C(O)N(R
14)
m、-S(O)
2(OR
14)、-S(O)OR
14及び-S(O)
2N(R
14)
mから選択され、
R
14は、水素、(C
1~C
6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
mは2又は3である)
で表されるか、又はその薬学的に許容できる塩である。
【0047】
式(I)又は(II)の化合物の幾つかの実施形態において、R1、R2及びR3は、それぞれ独立的に、存在する場合、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-OR14、-N(R14)m、-R13及び置換又は非置換(C1~C6)アルキルから選択される。幾つかの実施形態において、R1、R2及びR3は、それぞれ独立的に、存在する場合、水素、-OR14、-N(R14)m及び非置換(C1~C6)アルキルから選択される。幾つかの実施形態において、R1、R2及びR3は、それぞれ独立的に、存在する場合、置換又は非置換(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択される。幾つかの実施形態において、R1、R2及びR3は、それぞれ独立的に、存在する場合、水素である。
【0048】
式(I)又は(II)の化合物の幾つかの実施形態において、R4及びR5は、それぞれ独立的に、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-OR14、-N(R14)m及び置換又は非置換(C1~C6)アルキルから選択される。幾つかの実施形態において、R4及びR5は、それぞれ独立的に、水素、-OR14、-N(R14)m及び非置換(C1~C6)アルキルから選択される。幾つかの実施形態において、R4及びR5は、それぞれ独立的に、置換又は非置換(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択される。幾つかの実施形態において、R4及びR5は、それぞれ水素である。
【0049】
式(I)又は(II)の化合物の幾つかの実施形態において、R6、R8、R11及びR12は、水素、-OR14、-N(R14)m、非置換(C1~C6)アルキル、-((C1~C6)アルキレン)N(R14)m、-C(O)((C1~C6)アルキレン)N(R14)m、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択される。幾つかの実施形態において、R6、R8、R11及びR12は、それぞれ独立的に、水素、-OR14、-N(R14)m、非置換(C1~C6)アルキル、-((C1~C6)アルキレン)N(R14)m及び-C(O)((C1~C6)アルキレン)N(R14)mから選択される。幾つかの実施形態において、R6、R8、R11及びR12は、それぞれ独立的に、水素、-OR14及び-N(R14)mから選択される。幾つかの実施形態において、R6、R8、R11及びR12は、それぞれ独立的に、非置換(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択される。幾つかの実施形態において、R6、R8、R11及びR12は、それぞれ水素である。
【0050】
幾つかの実施形態において、R7、R9及びR10は、それぞれ独立的に、-OR14又は-N(R14)mである。幾つかの実施形態において、R7、R9及びR10はそれぞれ-OR14である。幾つかの実施形態において、R7、R9及びR10はそれぞれ-OHである。
【0051】
式(I)又は(II)の化合物の幾つかの実施形態において、R14は、水素又は(C1~C6)アルキルである。
【0052】
式(I)又は(II)の化合物の幾つかの実施形態において、XはO又はN(R14)である。幾つかの実施形態において、XはOである。
【0053】
式(I)又は(II)の化合物の幾つかの実施形態において、化合物は
【化6】
である。
【0054】
幾つかの実施形態において、式(III):
【化7】
(式中、独立的にそれぞれの存在において、
R
15はハロゲン、-CN、-NO
2、-OR
16、-N(R
16)
p、-S(O)
2(OR
16)、-S(O)OR
16、置換又は非置換(C
1~C
6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
R
16は水素、(C
1~C
6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
nは0~5の整数であり、
pは2又は3であり、
但し、少なくとも1つのnは1であり、少なくとも1つのR
15は-OR
16であり、
但し、式(III)の化合物は
【化8】
ではない)
で表される化合物又はその薬学的に許容できる塩を含む医薬組成物が本明細書に提供される。
【0055】
式(III)の化合物の幾つかの実施形態において、R15はハロゲン、-CN、-NO2、-OR16、-N(R16)p及び置換又は非置換(C1~C6)アルキルから選択される。幾つかの実施形態において、R15は-OR16、-N(R16)p及び非置換(C1~C6)アルキルから選択される。幾つかの実施形態において、R15は置換又は非置換(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択される。幾つかの実施形態において、R15は-OR16である。幾つかの実施形態において、R15は-OR16であり、R16は水素又は(C1~C6)アルキルである。幾つかの実施形態において、R15は-OR16であり、R16は(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルである。幾つかの実施形態において、R15は-OR16であり、R16は(C1~C6)アルキルである。幾つかの実施形態において、R15は-OR16であり、R16は(C1~C6)アルキル、シクロアルキル又はヘテロシクロアルキルである。
【0056】
幾つかの実施形態において、nは1、2又は3である。幾つかの実施形態において、nは1又は2である。
【0057】
幾つかの実施形態において、pは2である。幾つかの実施形態において、pは3である。
【0058】
したがって、本発明は、1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と共に製剤化された、治療有効量の式I又は式IIの化合物(例えばニコチンアミドリボシド)、式IIIの化合物(例えばプテロスチルベン)及びPDE4阻害剤、例えばイブジラストを含むホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤、例えばPDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10又はPDE11阻害剤を含む、薬学的に許容できる組成物について言及することが留意される。別の態様において、本発明は、1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と共に製剤化された、治療有効量の式I又は式IIの化合物(例えばニコチンアミドリボシド)及び式IIIの化合物(例えばプテロスチルベン)を含む、薬学的に許容できる組成物、並びに1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と共に、治療有効量のPDE4阻害剤、例えばイブジラストを含むホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤、例えばPDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10又はPDE11阻害剤を含む、更なる薬学的に許容できる組成物を含む、キットオブパーツについて言及する。別の態様において、本発明は、1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と共に、治療有効量の式I又は式IIの化合物(例えばニコチンアミドリボシド)を含む、第1の薬学的に許容できる組成物;1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と共に、治療有効量の式IIIの化合物(例えばプテロスチルベン)を含む、第2の薬学的に許容できる組成物;並びに1つ又は複数の薬学的に許容できる担体(添加剤)及び/又は希釈剤と共に、治療有効量のPDE4阻害剤、例えばイブジラストを含むホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤、例えばPDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10又はPDE11阻害剤を含む、第3の薬学的に許容できる組成物を含む、キットオブパーツについて言及する。
【0059】
したがって、本明細書に記載される薬剤、好ましくはニコチンアミドリボシド、プテロスチルベン及びPDE阻害剤、例えばイブジラストが、そのまま投与されてもよく、又は薬学的に許容できる担体との混合物で投与されてもよく、また他の薬剤と組み合わせて投与されてもよいことが留意される。したがって、併用療法は、本発明の上記化合物の順次、同時及び別個又は共投与を含む。実施形態において、最初に投与された化合物の治療効果は、後続の化合物が投与されたとき完全に消失していない。これは、ニコチンアミドリボシド及びプテロスチルベンを別個及び一緒に投与した場合、またPDE阻害剤をニコチンアミドリボシド及びプテロスチルベンと一緒に又はこれらとは別個に投与した場合の実施形態を含む。
【0060】
以下に詳細に記載されるように、本明細書に記載される医薬組成物は、以下:(1)経口投与、例えば水薬(水溶液若しくは非水溶液、又は水性若しくは非水性の懸濁液)、錠剤、例えば頬側、舌下及び全身吸収を標的とするもの、ボーラス剤、散剤、顆粒剤、舌に塗布するためのペースト剤;(2)例えば滅菌溶液若しくは懸濁液、又は徐放性製剤としての、例えば皮下、筋肉内、静脈内又は硬膜外注射による非経口投与;或いは(3)舌下に適合するものを含む、固体又は液体形態での投与のために特別に製剤化され得る。
【0061】
幾つかの実施形態において、組成物(複数可)は追加の薬剤を含む。例えば、組成物(複数可)は、栄養剤、例えば抗酸化剤を含み得る。薬学的に許容できる抗酸化剤の例としては(1)水溶性抗酸化剤、例えばアスコルビン酸、システイン塩酸塩、硫酸水素ナトリウム、メタ亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等、(2)油溶性抗酸化剤、例えばパルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ-トコフェロール等、及び(3)金属キレート剤、例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等が挙げられる。
【0062】
例示的な実施形態において、本明細書に記載される組成物は、チオール/システイン供与体を更に含み得る。実施形態において、更なるチオール/システイン供与体であるアセチルシステインが含まれ得る。N-アセチル-L-システイン(NAC)又はN-アセチルシステインとしても公知のアセチルシステインは、アミノ基に結合したアセチル基を伴うアミノ酸L-システイン(Cys)であり、以下の構造:
【化9】
を有する。
【0063】
アセチル基の付加はCysの水溶性を高め、経口摂取されたCysの吸収及び分布を加速するように機能する。アセチル基はまた、チオール(-SH)の反応性を低下させるので、Cysと比べてNACは毒性が低く、酸化されにくいものになる。NACはより高い用量でも安全であり、Cys自体より良好なCys源である。NACによる経口補給は、細胞内Cysの増加を介して細胞内グルタチオン(GSH)をブーストすることが見出された。NACは、経口投与後迅速に吸収され、約6時間の半減期で2~3時間以内に最大血漿レベルに達する。NACは細胞に容易に侵入し、システインに加水分解される。
【0064】
本明細書に記載される組成物及び方法はまた、例えばNACアミド、NACエチルエステル等を含む、様々なNAC誘導体及びその薬学的に許容できる塩を含み得る。例えば、チオール/システイン供与体は、その開示がその全体において参照により本明細書に組み込まれる例えばPatel等「N-acetylcysteineamide Preserves Mitochondrial Bioenergetics and Improves Functional Recovery Following Spinal Trauma」, Exp. Neurol. 257:95~105(2014年)に開示されるN-アセチルシステイン(NACA)であり得る。
【0065】
本明細書に記載される組成物、製剤及び方法において利用できる更なる好適なシステイン誘導体は、その開示が参照により本明細書に組み込まれるMiura等「Antioxidant activities of cysteine derivatives against lipid oxidation in anhydrous media」, Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 78: 1452~1455(2014年)に記載され、以下の構造:
【化10】
を含む。
【0066】
更なるN-アセチルシステイン誘導体は、その開示がその全体において参照により本明細書に組み込まれる、Liu等「Identification of novel N-acetylcysteine derivatives for the treatment of hepatocellular injury」、Med. Chem. Commun. 8:2238~2247(2017)に開示される。Liu等は、
図4の図式に概説される幾つかのNAC誘導体を開示する。
【0067】
特に、化合物6a、6b及び7aは、本明細書に記載される組成物及び方法において利用できる。化合物6a-(R)-2-アセトアミド-N-シクロヘキシル-3-(メチルチオ)プロペンアミド;化合物6b-(R)-N-シクロヘキシル-3-(メチルチオ)-2-プロピオンアミドプロパンアミド;及び化合物7a-(R)-2-アセトアミド-3-(メチルチオ)-N-フェニルプロパンアミド。これらの化合物を調製する方法は、Liu等に完全に概説される。
【0068】
更に更なる実施形態において、チオール/システイン供与体は、その開示がその全体において参照により本明細書に組み込まれる、例えばUemura等「Protective Effects of Brain Infarction by N-Acetylcysteine Derivatives」, Stroke 49:1727~1733(2018年)に開示されるように、N-アセチルシステインベンジルエステル又はN-アセチルシステインエチルエーテルであり得る。これらのNAC誘導体の合成はUemura等に開示される。その構造を以下に例示する:
【化11】
【0069】
本明細書に記載される組成物に含まれ得るチオール/システイン供与体、好適にはアセチルシステイン又はその誘導体の量は、当業者により決定され得、一般に約25mg~約1000mg、約100mg~約1000mg、約25mg~約500mg、約25mg~約200mg、約25mg~約250mg、約30mg~約225mg、約40mg~約200mg、約45mg~約250mg又は約25mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約110mg、約120mg、約130mg、約140mg又は約150mgの範囲である。
【0070】
本明細書に記載される組成物及び製剤に含まれ得る更なる化合物としては、例えばアカンプロセート、バクロフェン、シナカルセト、メキシレチン、スルフィソキサゾール、トラセミド及びリルゾールがある。
【0071】
本明細書に記載される化合物の製剤は、単位剤形で提供され得、薬学分野で周知の任意の方法により調製され得る。担体材料と組み合わせて、単一剤形を製造することができる活性成分の量は、処置される宿主及び特定の投与様式に応じて異なる。担体材料と組み合わせて、単一剤形を製造することができる活性成分の量は、一般に治療効果をもたらす薬剤の量である。
【0072】
特定の実施形態において、本明細書に記載される製剤は、シクロデキストリン、リポソーム、ミセル形成剤、例えば胆汁酸、及びポリマー担体、例えばポリエステル及びポリ無水物を含むがこれらに限定されない賦形剤、並びに本発明の薬剤を含む。幾つかの実施形態において、上記製剤は本発明の薬剤を経口でバイオアベイラブルにする。これらの製剤又は組成物を調製する方法は、本発明の化合物と担体及び任意選択で1つ又は複数の副成分とを連携させることを含み得る。
【0073】
本明細書に提供される製剤の経口投与のための液体剤形としては、薬学的に許容できるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシルが挙げられる。液体剤形は、活性成分に加えて、当技術分野で一般に用いられる不活性希釈剤、例えば水又は他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(特に綿実油、落花生油、コーン油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタン脂肪酸エステル等、並びにこれらの混合物を含有し得る。
【0074】
経口組成物は、不活性希釈剤に加えて、アジュバント、例えば湿潤剤、乳化剤及び懸濁化剤、甘味剤、香味剤、着色剤、香料及び保存剤も含み得る。
【0075】
懸濁液は、活性化合物に加えて、懸濁化剤、例えばエトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天及びトラガカント等、並びにこれらの混合物を含有し得る。
【0076】
経口投与に好適な本明細書に提供される製剤は、カプセル、カシェ、丸薬、錠剤、ロゼンジ(風味を付けた基剤、通常スクロース及びアカシア又はトラガカントを使用)、散剤、顆粒の形態で、又は水性若しくは非水性液体中の溶液若しくは懸濁液として、又は水中油型若しくは油中水型の液体エマルジョンとして、又はエリキシル若しくはシロップとして、又はパステル剤として(不活性基剤、例えばゼラチン及びグリセリン、又はスクロース及びアカシアを使用)、及び/又は洗口液として等であり得、それぞれが活性成分として所定量の本発明の化合物を含有する。本発明の化合物は、大型丸薬、舐剤又はペーストとしても投与できる。
【0077】
経口投与のための本発明の固体剤形(例えばカプセル、錠剤、丸薬、糖衣錠、散剤、顆粒等)において、活性成分は、1つ若しくは複数の薬学的に許容できる担体、例えばクエン酸ナトリウム若しくはリン酸二カルシウム、並びに/又は以下のいずれか:(1)充填剤若しくは増量剤、例えばデンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール及び/若しくはケイ酸等;(2)結合剤、例えばカルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース及び/若しくはアカシア等;(3)保水剤、例えばグリセロール;(4)崩壊剤、例えば寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモデンプン若しくはタピオカデンプン、アルギン酸、特定のケイ酸塩及び炭酸ナトリウム;(5)溶解遅延剤、例えばパラフィン;(6)吸収促進剤、例えば4級アンモニウム化合物;(7)湿潤剤、例えばセチルアルコール、モノステアリン酸グリセロール及び非イオン界面活性剤等;(8)吸収剤、例えばカオリン及びベントナイトクレイ;(9)滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム及びこれらの混合物;並びに(10)着色剤と混合される。カプセル、錠剤及び丸薬の場合、医薬組成物は緩衝化剤も含み得る。同様のタイプの固体組成物はまた、ラクトース又は乳糖、及び高分子量ポリエチレングリコール等の賦形剤を使用して、軟質及び硬質殻ゼラチンカプセルにおける充填剤として使用できる。
【0078】
錠剤は、任意選択で1つ又は複数の副成分と共に圧縮又は成形することにより製造され得る。圧縮された錠剤は、結合剤(例えばゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えばグリコール酸ナトリウムデンプン又は架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤又は分散剤を用いて調製され得る。成形された錠剤は、好適な機械中で、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を成形することにより製造され得る。
【0079】
本明細書に記載される医薬組成物の錠剤及び他の固体剤形、例えば糖衣錠、カプセル、丸薬及び顆粒は、任意選択で刻み目が入れられてもよく、又はコーティング及び殻、例えば腸溶性コーティング及び医薬製剤化分野で周知の他のコーティングで調製されてもよい。これらはまた、所望の放出プロファイル、他のポリマーマトリックス、リポソーム及び/又はミクロスフェアを提供するために、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースを様々な割合で用いて、本明細書の活性成分の遅延放出又は制御放出をもたらすように製剤化され得る。本明細書に記載される組成物はまた、凍結乾燥等、即時放出用に製剤化され得る。これらは、例えば細菌保持フィルターによる濾過により、又は使用直前に滅菌水若しくは幾つかの他の滅菌注射可能な媒体に溶解され得る滅菌固体組成物の形態の滅菌剤を組み込むことにより滅菌され得る。これらの組成物はまた、任意選択で不透明化剤を含有し得、活性成分(複数可)のみを、又はこれを優先的には胃腸管の特定の部分において任意選択で遅延した方式で放出する組成物であり得る。使用できる埋め込み組成物の例としては、ポリマー物質及びワックスが挙げられる。活性成分はまた、適当な場合、上記賦形剤のうちの1つ又は複数と共にマイクロカプセル化形態であり得る。
【0080】
非経口投与に好適な本明細書に提供される医薬組成物(複数可)は、1つ又は複数の薬学的に許容できる滅菌等張水溶液若しくは非水溶液、分散剤、懸濁液若しくはエマルジョン、又は滅菌注射可能な溶液若しくは分散剤に使用直前に再構成され得る滅菌散剤と組み合わせて、1つ又は複数の本発明の化合物を含み、これらは糖、アルコール、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質、又は懸濁化剤若しくは増粘剤を含有し得る。
【0081】
本発明の医薬組成物において使用できる好適な水性及び非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)及びこれらの好適な混合物、ココナッツ油、植物油、例えばオリーブ油、及び注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルが挙げられる。適切な流動性は、例えばコーティング材料、例えばレシチンの使用により、分散剤の場合には必要な粒径の維持により、及び界面活性剤の使用により維持され得る。
【0082】
(治療方法)
治療有効量の式I又は式IIの化合物(例えばニコチンアミドリボシド)、式IIIの化合物(例えばプテロスチルベン)及びPDE4阻害剤、例えばイブジラストを含むホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤、例えばPDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10又はPDE11阻害剤を対象(例えばそれを必要とする対象)に投与することにより、対象における運動ニューロン疾患又は障害を処置する方法が、本明細書に提供される。更なる実施形態において、チオール/システイン供与体、例えばアセチルシステインを含む更なる化合物も、NR、PT及びPDE4阻害剤と共に投与され得る。したがって、このような投与は、本発明の上記化合物の順次、同時及び別個又は共投与を含む併用療法を意味すべきである。実施形態において、最初に投与された化合物の治療効果は、後続の化合物が投与されたとき完全に消失していない。
【0083】
幾つかの態様において、治療有効量の式I又は式IIの化合物(例えばニコチンアミドリボシド)、式IIIの化合物(例えばプテロスチルベン)及びPDE4阻害剤、例えばイブジラストを含むホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤、例えばPDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10又はPDE11阻害剤を対象(例えばそれを必要とする対象)に投与するステップを含む、対象における運動ニューロン変性の進行を遅延又は回復させる方法が、本明細書に提供される。幾つかの実施形態において、運動ニューロン変性は、ニューロン死及び/又はニューロン機能の喪失を指す。
【0084】
幾つかの実施形態において、対象は運動ニューロン疾患(例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)、例えば髄質ALS又は脳幹ALS)を有するか又はこれに罹患しやすい可能性がある。運動ニューロン疾患又は障害は、運動ニューロンの機能又は構造に影響を及ぼす、任意の疾患又は障害であり得る。本明細書で使用する運動ニューロン疾患は、脳及び脊髄における運動ニューロン又は神経の機能喪失をもたらす進行性疾患を含む。運動ニューロン疾患の例としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、原発性側索硬化症(PLS)、進行性筋萎縮症(PMA)、進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺又は脊髄性筋萎縮症が挙げられる。運動ニューロン疾患は、上位運動ニューロン又は下位運動ニューロンに影響を及ぼし得る。
【0085】
本明細書に開示される組成物の実際の投与量レベル及び投与レジメンは、患者に毒性でなく、特定の患者、組成物及び投与様式に対して所望の治療応答を達成するのに有効である、一定量の式I又は式IIの化合物(例えばニコチンアミドリボシド)、式IIIの化合物(例えばプテロスチルベン)及びPDE4阻害剤、例えばイブジラストを含むホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤、例えばPDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10又はPDE11阻害剤を得るために変更され得る。投与され得るチオール/システイン供与体、例えばアセチルシステインの投与量も、患者に毒性でなく、特定の患者、組成物及び投与様式に対して所望の治療応答を達成するのに有効であり、一般に約50~200mg/kg、好適には約80~150mg/kg又は約100mg/kgの範囲である。
【0086】
幾つかの実施形態において、組成物の投与は、1つ又は複数の用量(複数可)での組成物の投与を含む。幾つかの実施形態において、組成物の投与は、1つ又は複数、5以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、100以上又は1000以上の用量(複数可)での組成物の投与を含む。幾つかの実施形態において、用量は少なくとも100mg、少なくとも200mg、少なくとも300mg、少なくとも400mg、少なくとも500mg、少なくとも600mg、少なくとも700mg、少なくとも800mg、少なくとも900mg、少なくとも1000mg、少なくとも1100mg、少なくとも1200mg、少なくとも1300mg、少なくとも1400mg、少なくとも1500mg、少なくとも1600mg、少なくとも1700mg、少なくとも1800mg、少なくとも1900mg、少なくとも2000mg、少なくとも2100mg、少なくとも2200mg、少なくとも2300mg、少なくとも2400mg、少なくとも2500mg、少なくとも2600mg、少なくとも2700mg、少なくとも2800mg、少なくとも2900mg又は少なくとも3000mgの式I又は式IIの化合物(例えばニコチンアミドリボシド)を含む。幾つかの実施形態において、用量は少なくとも5mg、少なくとも10mg、少なくとも20mg、少なくとも30mg、少なくとも40mg、少なくとも50mg、少なくとも60mg、少なくとも80mg、少なくとも100mg、少なくとも120mg、少なくとも140mg、少なくとも160mg、少なくとも180mg、少なくとも200mg、少なくとも220mg、少なくとも240mg、少なくとも260mg、少なくとも280mg、少なくとも300mg、少なくとも320mg、少なくとも340mg、少なくとも360mg、少なくとも380mg、少なくとも400mg、少なくとも500mg、少なくとも600mg、少なくとも700mg、少なくとも800mg、少なくとも900mg又は少なくとも1000mgの式IIIの化合物(例えばプテロスチルベン)を含む。
【0087】
例示的な実施形態において、ニコチンアミドリボシド又はその等価物は、単独で又はプテロスチルベン若しくはその等価物と組み合わせて、約50mg~約1500mg、約100mg~約1500mg、約100mg~約1000mg、約125mg~約900mg、約150mg~約850mg、約200mg~約700mg、約200mg~約500mg、約1000mg~約1500mg、又は約100mg、約150mg、約200mg、約250mg、約300mg、約350mg、約400mg、約450mg、約500mg、約550mg、約600mg、約650mg又は約700mgの量で(単一の組成物を介して、又は複数の別個の組成物でのいずれかで)患者に投与される。好適には、これらの量は、単一の組成物又は複数の組成物の形態で患者に毎日投与される。
【0088】
例示的な実施形態において、プテロスチルベン又はその等価物は、単独で又はニコチンアミドリボシド若しくはその等価物と組み合わせて、1日あたり約25mg~約1000mg、約100mg~約1000mg、約25mg~約500mg、約25mg~約200mg、約25mg~約250mg、約30mg~約225mg、約40mg~約200mg、約45mg~約250mg、又は約25mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約110mg、約120mg、約130mg、約140mg又は約150mgの量で(単一の組成物を介して、又は複数の別個の組成物でのいずれかで)患者に投与される。好適には、これらの量は、単一の組成物又は複数の組成物の形態で患者に毎日投与される。
【0089】
幾つかの実施形態において、用量は、約30mg~240mg、約30mg~180mg、60mg~120mg又は20mg~80mgの範囲の量のPDE4阻害剤、例えばイブジラストを含むホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤、例えばPDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10又はPDE11阻害剤を含む。例えばPDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10又はPDE11阻害剤を含むPDE阻害剤、例えば本明細書に記載されるものは、これらの範囲内の値及び範囲を含む、約10mg~500mg、約20mg~約400mg、約30mg~約300mg、約40mg~約200mg、約50mg~約100mg、約20mg~約200mg、約20mg~約100mg、約20mg~約50mg、又は約10mg、約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約110mg、約120mg、約130mg、約140mg、約150mg、約160mg、約170mg、約180mg、約190mg、約200mgの量で投与され得る。
【0090】
幾つかの実施形態において、投与量は、約30mg~240mg、約30mg~180mg、60mg~120mg又は20mg~80mgの範囲の量のチオール/システイン供与体、例えばアセチルシステインを含む。
【0091】
本明細書に開示される組成物は、患者に毒性でなく、特定の患者、組成物及び投与様式に対して所望の治療応答を達成するのに有効な任意の期間にわたり投与され得る。期間は少なくとも1日、少なくとも10日、少なくとも20日、少なくとも30日、少なくとも60日、少なくとも3カ月、少なくとも6カ月、少なくとも1年、少なくとも3年、少なくとも5年又は少なくとも10年であり得る。用量は、必要とされる場合、散発的に、又は定期的な間隔で投与され得る。例えば、用量は毎月、毎週、2週間ごと、3週間ごと、1日1回又は1日2回投与され得る。
【0092】
幾つかの実施形態において、対象には、運動ニューロン疾患の一般的な進行又は症候性進行を測定するための試験が行われる。幾つかの実施形態において、対象には運動機能試験、並びに/又は認知及び行動機能試験が行われる。運動機能試験は、改定筋萎縮性側索硬化症機能評価スケール(ALSFRS-R)であり得る。認知及び行動試験は、Complutense言語学習試験(TAVEC)、記号数字モダリティ試験(SDMT)、言語流暢性試験、数唱(ウエクスラー記憶検査III)、D2注意力試験、文字及び数に関するウエクスラー記憶検査III、ロンドン塔試験、ストループ試験、前頭葉機能に関する行動評価尺度(FrSBe)並びに/又は簡易試験(主観的行動)であり得る。幾つかの実施形態において、対象には運動機能試験と認知機能試験の両方が行われる。運動機能試験又は認知機能試験は、対象に1回又は複数回行われ得る。
【0093】
幾つかの実施形態において、方法は、対象における特徴(例えば炎症に関連する特徴)を測定することを更に含む。幾つかの実施形態において、特徴は血液検査で測定される。試験され得る特徴の例としては、サイトカインのレベル、アミロイドAタンパク質のレベル、マクロファージ活性化マーカーネオプテリンのレベル、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)のレベル、赤血球沈降速度のレベル、C反応性タンパク質のレベル、血漿粘度及び/又は白血球数がある。幾つかの実施形態において、サイトカインは炎症促進性サイトカインである。幾つかの実施形態において、サイトカインは抗炎症性サイトカインである。サイトカインの例としては、TNFα、IFNγ、IL-1、IL-6、IL-8又はTGFβが挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
幾つかの実施形態において、本方法は、対象に脂肪酸補助食品を投与するステップを更に含む。幾つかの実施形態において、脂肪酸補助食品は油を含む。油は加工(例えば精製、漂白又は脱臭)され得る。他の実施形態において、油は未加工又はバージンオイルである。幾つかの実施形態において、脂肪酸補助食品は、分離された脂肪酸を得るために供給源から誘導又は分画される。幾つかの実施形態において、油はココナッツ油である。本明細書で使用するココナッツ油は、ココヤシの実から生成される任意の油を含み得る。本明細書に開示される補助食品中に見出される脂肪酸は、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸であり得る。補助食品中に見出され得る例示的な脂肪酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸及び/又はリノレン酸が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に開示される脂肪酸補助食品は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、一不飽和脂肪酸及び/又は多不飽和脂肪酸を含み得る。幾つかの実施形態において、脂肪酸補助食品は硬化油を含み得る。脂肪酸補助食品は、1つ又は複数の脂肪酸(複数可)を含み得る。本明細書に開示される脂肪酸補助食品の実際の投与量レベル及び投与レジメンは、患者に毒性でなく、特定の患者、組成物及び投与様式に対する所望の治療応答を達成するのに有効である脂肪酸補助食品の量を得るために変更され得る。
【0095】
本明細書に記載されるように、更なる実施形態において、組成物及び方法は、チオール/システイン供与体、例えばアセチルシステインの投与を更に含む。実施例に示すように、驚くべきことに、チオール/システイン供与体、例えばアセチルシステインの添加は、単独で又は組み合わせて、個々の化合物(即ち、ニコチンアミドリボシド、プテロスチルベン)のいずれか、ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤及び/又はアセチルシステインにより経験したものを上回る運動ニューロン疾患の処置の一般的な進行又は症候性進行のより一層の改善をもたらす。この相乗的な知見は、本明細書に記載される組成物及び方法の驚くべき且つ予想外の利点である。
【0096】
以下の実施例は、単に例示目的のためであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0097】
[用語集]
プテロスチルベン(PT)、ニコチンアミドリボシド(NR)、EH301[ニコチンアミドリボシド(NR)及びプテロスチルベン(PT)]、デキサメタゾン(DXM)及びイブジラスト(IB)。
【0098】
[目的]
これらの実施例の目的は、潜在的な抗神経炎症薬、例えばデキサメタゾン又はイブジラストが、ALSのマウスモデルの運動機能においてニコチンアミドリボシド(NR)及びプテロスチルベン(PT)の効果を更に改善又は増強できるか否かを調査することである。
【0099】
[材料/方法及び結果]
マウス
1.B6.Cg-Tg(SOD1*G93A)1Gur/J(https://www.jax.org/strain/004435)
SOD1-G93A(G93A-SOD1とも称される)導入遺伝子に対してヘミ接合性のマウスは、生存可能であり、繁殖性であり、ヒトSOD1のG93A変異体形態のトランスジェニック発現を有する。この創始株(G1Hと称される場合が多い)は、高い導入遺伝子コピー数を有することが報告されている。ヘミ接合体は、ヒトにおける筋萎縮性側索硬化症(ALS)に類似する表現型を示し、脊髄からの運動ニューロンの喪失による麻痺で1本又は複数の四肢が麻痺した状態になる。運動ニューロン変性は、神経系の主要なグリア細胞型である星状細胞の機能及び/又は変性と関連していた。トランスジェニックマウスは寿命が短い:50%が157.1+/-9.3日生存する(50%の生存が128.9+/-9.1日で観察される混合B6SJL背景と比較)。雌のヘミ接合体は、繁殖力が低く、疾患の発症前に1匹超の同腹仔を産むことはほとんどない。LPS誘導ミクログリア及び活性化M1/M2マクロファージと比較して、疾患進行により活性化される脊髄ミクログリアは、M1(神経毒性)表現型又はM2(保護性)表現型のいずれかに対する偏向を示す遺伝子をアップレギュレートしない。SOD1G93A活性化ミクログリアにおける遺伝子発現のパターンは、特有のALS特異的シグネチャーを表す。したがって、これらのSOD1-G93A(G93A-SOD1とも呼ばれる)トランスジェニックマウスは、筋萎縮性側索硬化症を含む神経筋障害を研究するのに有用である。
【0100】
SOD1-G93A導入遺伝子を、その内因性ヒトSOD1プロモーターにより誘導される変異体ヒトSOD1遺伝子(コドン93でアラニンへのグリシンの単一アミノ酸置換を内包する)を用いて設計した。この導入遺伝子を、受精したB6SJLF1マウス卵子に注入し、創始動物を得た。混合B6SJL遺伝子背景にあるトランスジェニックマウスをジャクソン研究所に(保管番号002726として)送った。到着すると、数匹のマウスを、少なくとも10世代に対してC57BL/6Jに戻し交配して、このコンジェニック系統(保管番号004435)を生産した。戻し交配は2002年7月に終了した。
【0101】
2.FUS-R521Cマウス
FUS-R521Cマウス(ALSモデル;B6SJL卵母細胞に注入された導入遺伝子。C57BL/6で維持したので、その後の世代は、C57BL/6をより高いパーセンテージで有する)を、アセチルシステインの添加効果を調べる方法のために選択した。
【0102】
[対照/非担体]
B6SJLF1/J(https://www.jax.org/strain/100012)。C57BL/6J(B6)雌マウスとSJL/J(SJL)雄マウスとの間の交配により生産。B6SJLF1/Jマウスは、そのゲノムにおける全ての遺伝子座のB6及びSJLアレルに対してヘテロ接合性である。この系統は、トランスジェニックマウスの生産に用いられることが多い。
【0103】
[処置]
EH301[ニコチンアミドリボシド(NR)及びプテロスチルベン(PT)]を経口投与した:185mgのニコチンアミドリボシド及び30mgのプテロスチルベン/Kg×日(Estrela JM, De La Rubia JE, Dellinger RW. Treating and preventing motor neuron disease using nicotinamide riboside. 国際出願PCT/US 18/32932, 2018年)。
【0104】
デキサメタゾン(DXM)を、実験時間と平行して次の順次の4週サイクルで腹腔内投与した:1mg/Kg×日(第1週)、0.5mg/Kg×日(第2週)、0.25mg/Kg×日(第3週)、0.0mg/Kg×日(第4週)。1mg/Kgの用量は、Kurkowska-Jastrzebska I, Litwin T, Joniec I, Ciesielska A, Przybylkowski A, Czlonkowski A, Czlonkowska A. Dexamethasone protects against dopaminergic neurons damage in a mouse model of Parkinson’s disease. Int Immunopharmacol. 2004年10月;4(10~11):1307~18に基づき選択された。サイクル用量レジメンを、治療上の利点を最適化するように設計し、可能性のある副作用を最小限に抑えた。
【0105】
イブジラスト(IB)を経口投与した:12mg/Kg×日(Wang H, Mei Zl, Zhong KL, Hu M, Long Y, Miao MX, Li N, Yan TH, Hong H. Pretreatment with antiasthmatic drug ibudilast ameliorates Aβ 1-42-induced memory impairment and neurotoxicity in mice. Pharmacol Biochem Behav. 2014年9月;124:373~9)。
【0106】
アセチルシステイン(NAC)を腹腔内(IP)投与した:1日あたり100mg/kg、NACの添加効果を調べる実験において30週目に開始。
【0107】
1日用量のNR、DXM及びIBを、75μLの生理食塩水に溶解して一緒に投与した。PTは実験動物の固形飼料に含まれていた。PT用量を動物の体重及び1日あたりの食物摂取量に基づき調整した。
【0108】
【0109】
【0110】
この神経学的スコアは、Weydt等のスケールに基づいている(Weydt, P., Hong, S.Y., Kliot, M., Moller, T. 2003年. Assessing disease onset and progression in the SOD1 mouse model of ALS. NeuroReport 14, 1051~1054)。「0」から「5」までのスコアを以下のように定義する:「0」はALSの典型的徴候がない健常マウスを示す;「1」は疾患の早期に発生する後肢における振戦の存在を示す;「2」は、マウスをその尾部で吊り下げたとき、マウスが後肢を離すことが困難であることを示し、これは筋力低下を示している;「3」は、マウスが、よろめく又はぐらつくかのいずれかで歩行が困難であることを示す場合に付与される;「4」は、マウスが四肢全てで歩行できず、後肢を引きずった場合に付与される;「5」は、マウスが30秒後に再び立ち直れない場合に付与される。動物が「4」のスコアに達したとき、全てのトランスジェニックマウスに対してケージ床にフードペレットを設置することにより、食餌及び水への接触を促進する。「5」のスコアに達したとき、動物を倫理的理由から安楽死させる。発症は、マウスが症状(スコア<4)を示した場合の最短期間と定義される。異なる群における経時的変化を毎週モニタリングした。1週間あたりに試験した動物数は、各群について表1に示した数と同一であった。
【0111】
【0112】
とりわけ実験薬の効果の試験において、試験の機能としては、対象のバランス、握力及び運動協調を評価することが挙げられる。この試験(ロータロッド、Harvard Apparatus、Holliston、MA)については、各動物に3回の試験を行い、動物が落下せずに回転軸(直径3.5cm、回転速度: 15rpm)に留まることができた最大期間(秒)を測定した。各マウスに、1200秒の任意限界に対して最大3回の試みを行い、最長期間を記録した。異なる群における経時的な変化を毎週モニタリングした。1週間あたりに試験した動物数は、各群について表1に示した数と同一であった。
【0113】
ニコチンアミドリボシド(NR)、プテロスチルベン(PT)、イブジラスト(IBU)及びN-アセチルシステイン(NAC)で処置したFUS-R521Cマウスの生存期間を
図3A~3Cに例示する。
図3Aに示すように、NR及びPTの組み合わせでの処置は、生存期間を約35週に延長し、いずれかの薬物単独では生存期間を約28~32週に延長する。
図3Bにおいて、NR、PT及びイブジラストの組み合わせは、生存期間を約45週に延長し、イブジラスト単独では、約30週の生存期間を示す。
図3Cにおいて、NR、PT、イブジラスト及びN-アセチルシステイン(NAC)の組み合わせは、45週(試験終了)を超える生存期間を示し、約2/3のマウスが全試験期間生存する。NR、PT及びNACの組み合わせは、約39~40日の生存期間、NAC単独では約32日の生存期間を示す。これらは驚くべき且つ予想外の結果であり、NR、PT、IBU及びNACの組み合わせがマウスモデルの生存期間を劇的に延長し、任意の他の組み合わせ及び任意の他の単一の化合物を大幅に上回ることを示している。
【0114】
(統計学)
データは、異なる実験数の平均値±SDで表される。統計解析を、スチューデントt検定を用いて行った。
*P<0.05及び**P<0.01 全SOD1群対WT(野生型)を比較。
+P<0.05及び++P<0.01 EH301、DXM、IB又はこれらの組み合わせで処置した全SOD1群対SOD1未処置対照とを比較。
aP<0.05及びaaP<0.01 SOD1+EH301+DXM又はSOD1+EH301+IB群対SOD1+EH301を比較。
bP<0.05及びbbP<0.01 SOD1+EH301+DXM又はSOD1+EH301+IB群対SOD1+DXMを比較。
cP<0.05及びccP<0.01 SOD1+EH301+DXM又はSOD1+EH301+IB群対SOD1+IBを比較。
【0115】
[結論]
本明細書に示された結果は、国際出願PCT/US18/32932に示された所見を確認し、EH301が、SOD1マウスの生存期間を大幅に延長し、運動ニューロン依存性機能を改善することを示す。一方で、DXM又はIBの投与は、対照の未処置SOD1-G93Aマウスと比較して、生存期間と運動協調性の両方において若干の改善を示す。EH301での処置は、DXM又はIBより良好な結果をもたらす。
【0116】
EH301及びDXMの組み合わせを用いた結果は、EH301単独と比較して有意差はなかった。しかし、注目すべきことに、且つ本実施例に示すように、EH301及びIBの組み合わせを用いた結果は、EH301単独よりも著しく良好であった。
【0117】
図1に示すように、EH301、更にイブジラスト(平均生存期間=191日)で50日目から処置したSOD1-G93Aマウスでは、EH301(平均生存期間=153日)又はイブジラスト(平均生存期間=137日)のいずれかで処置したマウスと比較して、生存期間の大幅な改善が観察された(P<0.01)。
【0118】
本明細書に示される結果が、現在患者に投与されたか又は実験的に試験されている、任意の他のオプションよりも非常に優れたEH301及びIBの相乗効果を明確に示唆していることが強調されるべきである。ALSの特別な特徴(治癒なし、有効な処置なし、更にはその致死的進行を停止又は顕著に遅延させる方法なし)を考慮すると、EH301及びIBの連携は、この疾患の処置のための有望な新しい有効な治療法となり得る。
【0119】
[PDE阻害剤での処置]
EH301[ニコチンアミドリボシド(NR)及びプテロスチルベン(PT)]を経口投与する:185mgのニコチンアミドリボシド及び30mgのプテロスチルベン/Kg×日。
【0120】
PDE阻害剤(PDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10又はPDE11阻害剤を含む)を、約1mg~50mg/Kg×日の範囲の量で経口又は腹腔内(化合物の種類に応じて)投与する。
【0121】
1日用量のNR及びPDE阻害剤を、生理食塩水に溶解して一緒に投与する。PTは実験動物の固形飼料に含まれる。PT用量を動物の体重及び1日あたりの食物摂取量に基づき調整する。
【0122】
他の実験は、PDE阻害剤の別個の投与と同時に、単一の組成物中のNR及びPTの投与を調べるように設計される。更なる実験において、NR、PT及びPDE阻害剤は、同じ組成物に含むことができ、同時に一緒に投与することができる。
【0123】
単一の組成物中のNR及びPTが投与される実施形態において、約500mgのニコチンアミドリボシド及び約100mgのプテロスチルベンを含む組成物を含む、ニコチンアミドリボシド200mg~約700mgとプテロスチルベン約25mg~約200mgの組み合わせを含む組成物を患者に投与する。
【0124】
他の実施形態において、ニコチンアミドリボシド約250mgとプテロスチルベン約50mgの組み合わせを含む組成物を患者に投与する。更なる実施形態において、約500mgのニコチンアミドリボシドと約100mgのプテロスチルベンの合計が患者に毎日投与されるように、2つ以上の用量のこのような組成物を投与してもよい。
【0125】
PDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9、PDE10又はPDE11阻害剤を含むPDE阻害剤を、約1mg~50mg/Kg×日の範囲の量で経口又は腹腔内(化合物の種類に応じて)投与する。
【0126】
健常ボランティア及びALS患者の脳脊髄液中の炎症促進性サイトカインのレベルを、EH301単独及びイブジラストと組み合わせたEH301での処置の結果として求めた。手順の開始時、健常ボランティア及びALS患者の平均年齢は、各々51.7±3.6歳及び55.4±4.8歳であった。健常ボランティア及びALS患者の性別分布(男性/女性)は8/4(健常ボランティア)、6/4(プラセボで処置した対照ALS患者)、5/2(EH301で処置したALS患者)、4/3(EH301及びイブジラストで処置したALS患者)であった。ALS患者を異なる群間でランダムに分布した。全てのALS患者は腰椎発症を有していた。手順の開始時、ALS患者における症状の持続期間は15~24カ月であった。ALSFRS-R(改定ALS機能評価スケール)スコアは、手順開始時、全ての症例において30~40であった。CSF試料を処置開始前(0カ月目)及び6カ月目で採取した。
【0127】
表4において以下に示すデータは、ボランティア数又は患者数の平均値±SDである。データを、二元配置分散分析(ANOVA)(Windows用SPSS9.0ソフトウェア; SPSS Inc., Chicago, IL)により分析した。分散の均質性を、ルビーン検定により分析した。F値がP>0.05で有意でない試験の全ての値について、帰無仮説を採用した。F値が有意であるデータを、P<0.05でテューキーの検定により調べた。行内の様々な文字は差P<0.05(a>b>c)を示す。
【0128】
【0129】
このデータは、EH301とイブジラストの組み合わせが、神経炎症に対して有効であることを示している。
【0130】
特定の実施形態を本明細書に例示し記載してきたが、特許請求の範囲が、記載され示された部分の特定の形態又は配置に限定されるべきでないことを理解されるべきである。明細書において、例示的な実施形態が開示されており、特定の用語が用いられているが、これらは一般的及び説明的意味でのみ用いられ、限定目的ではない。実施形態の修正及び変形は、上記の教示を考慮して可能である。したがって、実施形態は、具体的に記載されたのと異なる方法で実施されてもよいことが理解されるべきである。
【0131】
様々な実施形態を上に記載してきたが、これらは、本技術の例示及び例としてのみ提示されており、限定する手段として提示されているものではないことが理解されるべきである。当業者には、形態及び詳細の様々な変更が、本技術の精神及び範囲から逸脱せずに行うことができることが明らかである。したがって、本技術の広さ及び範囲は、上記実施形態のいずれかにより限定されるべきではなく、添付の特許請求の範囲及びその等価物に従ってのみ定義されるべきである。本明細書で考察される各実施形態及び本明細書で引用される各参考文献の各特徴は、任意の他の実施形態の特徴と組み合わせて使用できることも理解されるであろう。本明細書で考察される全ての特許及び刊行物はその全体において参照により本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】