(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-11
(54)【発明の名称】尋常性ざ瘡の治療のための新規組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/16 20060101AFI20220428BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220428BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220428BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20220428BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220428BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220428BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20220428BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220428BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20220428BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20220428BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20220428BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20220428BHJP
【FI】
C12N9/16 Z ZNA
A61P43/00 111
A61P31/04
A61P31/10
A61P17/00
A61P17/02
A61K38/46
A61K9/08
A61K47/44
A61P17/04
C12N15/55
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549903
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(85)【翻訳文提出日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 SE2020050290
(87)【国際公開番号】W WO2020190203
(87)【国際公開日】2020-09-24
(32)【優先日】2019-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521375379
【氏名又は名称】ヴァコナ アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】アレクセーエフ,オレグ
【テーマコード(参考)】
4B050
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4B050CC01
4B050CC03
4B050DD02
4B050FF11E
4B050FF14E
4B050LL01
4C076AA12
4C076CC18
4C076CC19
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4C076FF01
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4C084AA02
4C084AA03
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4C084BA01
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4C084NA14
4C084ZA891
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4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC191
4C084ZC192
(57)【要約】
【課題】バイオフィルム形成は、ざ瘡の病因における重要な因子であると考えられている。
【解決手段】本発明は、感染性皮膚疾患の治療及び予防のためのタンパク質、より具体的には、P.グラニュロサム(P.granulosum)DNアーゼの使用に関し、より具体的には、尋常性ざ瘡の治療及び予防に関する。このタンパク質は、病原菌によって形成されたバイオフィルム、例えばP.アクネス(P.acnes)によって形成されたバイオフィルムを破壊することができることが実証されている。
【選択図】
図3-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬に使用するための、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する単離されたタンパク質、並びに配列番号2と少なくとも50%のアミノ酸配列同一性を有し、pH7及び32℃でのデオキシリボヌクレアーゼ活性の定量アッセイにおいて配列番号2に記載のタンパク質のDNアーゼ活性の少なくとも80%を有するその機能的バリアント。
【請求項2】
前記タンパク質が、1種以上のバイオフィルム形成細菌及び/又は真菌の感染によって引き起こされるか、又は併発される疾患の治療及び/又は予防に使用するためのものである、請求項1に記載の使用のためのタンパク質。
【請求項3】
前記疾患が、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)、P.エルギノーサ(P.aeruginosa)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、大腸菌(E.coli)、S.ピオゲネス(S.pyogenes)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、シェワネラ・オネイデンシス(Shewanella oneidensis)、S.ヘモリチカス(S.heamolyticus)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、H.インフルエンザ(H.influenza)、B.バクテリオヴォルス(B. bacteriovorus)、S.アウレウス(S.aureus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)。肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumonia)、B.リケニホルミス(B.licheniformis)、S.エピデルミディス(S.epidermidis)、スタフィロコッカス・サリバリウス(Staphylococcus salivarius)、スタフィロコッカス・コンステラタス(Staphylococcus constellatus)、スタフィロコッカス・ルグドゥネシス(Staphylococcus lugdunesis)、スタフィロコッカス・アンギノーサス(Staphylococcus anginosus)、大腸菌(E.coli)、ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、及び枯草菌(Bacillus subtilis)の感染によって引き起こされるか、又は併発される、請求項2に記載の使用のためのタンパク質。
【請求項4】
前記疾患が、皮膚の疾患である、請求項3に記載の使用のためのタンパク質。
【請求項5】
前記皮膚の疾患が、尋常性ざ瘡、カンジダ症、水疱性膿痂疹、酒さ及び落葉状天疱瘡からなる群から選択される、請求項4に記載の使用のためのタンパク質。
【請求項6】
前記タンパク質が、創傷の治癒を促進するために使用するためのものである、請求項2に記載の使用のためのタンパク質。
【請求項7】
前記創傷が、糖尿病性足部潰瘍、褥瘡、血管性潰瘍、虚血性創傷、熱傷創傷、及び外科的創傷から選択される、請求項6に記載の使用のためのタンパク質。
【請求項8】
請求項1に記載の単離されたタンパク質又はその機能的バリアントと、任意選択的に薬学的に許容可能な賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項9】
脂質担体系及び/又は水性pH緩衝液を更に含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記脂質担体系が、固体形態又は結晶形態の脂質を含む、請求項9に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、感染性皮膚疾患の治療及び予防に関し、より具体的には、尋常性ざ瘡の治療及び予防に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
尋常性ざ瘡は脂腺毛包の一般的な炎症性疾患であり、若年期の青年の80%超が罹患するが、成人期まで持続する場合もある。キューティバクテリウム・アクネス(Cutibacterium acnes)とも呼ばれることがあるプロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)は、グラム陽性多形桿菌であり、従来、正常なヒト皮膚微生物叢の一部と見なされており、毛包脂腺系に本質的に存在する。プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)は、尋常性ざ瘡の発生において、脂腺と共に重要な役割を果たしている。
【0003】
P.アクネス(P.acnes)は、リパーゼ、走化性因子、メタロプロテアーゼ及びポルフィリンを分泌する。いずれも、ケラチノサイトの損傷及び炎症を引き起こす、毒性のある還元酸素種及びフリーラジカルを発生する分子状酸素と相互作用する(Bruggemann. 2005. Insights in the pathogenic potential of Propionibacterium acnes from its complete genome. Semin Cutan Med Surg 24: 67-72)。
【0004】
バイオフィルム形成は、微生物が表面に不可逆的に付着してそこで増殖し、接着及びマトリックス形成を容易にする細胞外ポリマーを産生する際のプロセスである。このプロセスは、生物の増殖速度及び遺伝子転写に関する、生物の表現型の変化を生じさせる。
【0005】
バイオフィルム形成は、ざ瘡の病因における重要な因子であると考えられている(Burkhart & Burkhart. 2007. Expanding the microcomedone theory and acne therapeutics: Propionibacterium acnes biofilm produces biological glue that holds corneocytes together to form plug. J Am Acad Dermatol 57: 722-724.)。P.アクネス(P.acnes)によって作り出されたバイオフィルムは、角質細胞の結合をもたらす接着剤の形成に寄与し、微小面皰を生じさせる。面皰は、皮膚における詰まった毛包又は皮膚孔である。ケラチン、又は皮膚残骸は、油と結合して毛包又は毛穴を塞ぐ。面皰は、黒色面皰とも呼ばれる開放型である場合もあれば、白色面皰とも呼ばれる皮膚に閉じ込められている場合もあり、ざ瘡の有無に関わらず生じる。面皰と、炎症性の丘疹(papule)及び膿疱、又は丘疹(pimple)の両方を通常含む慢性炎症状態は、ざ瘡と呼ばれる。
【0006】
P.アクネス(P.acnes)バイオフィルムで覆われた細胞は、より多くの細胞外リパーゼを産生するとともに、浮遊細胞と比較して、抗菌剤に対してより耐性があることが実証されている。(Coenye et al. 2007. Biofilm formation by Propionibacterium acnes is associated with increased resistance to antimicrobial agents and increased production of putative virulence factors. Res Microbiol 158: 386-392)。この知見から、ある程度の数の抗生物質療法の失敗を説明することが可能である。他の研究では、P.アクネス(P.acnes)によるバイオフィルム形成が、健康な皮膚から単離した場合に、生体材料関連感染症と比較して少ないことが示された。(Holmberg et al. 2009. Biofilm formation by Propionibacterium acnes is a characteristic of invasive isolates. Clin Microbiol Infect 15: 787-795)。
【0007】
最近の症例対照研究により、ざ瘡病変の生検によって顔面上のP.アクネス(P.acnes)の出現及び局在がインビボで調査され、38名のざ瘡患者及び適合する対照におけるP.アクネス(P.acnes)の系統型が特徴付けられた:バイオフィルム内のP.アクネス(P.acnes)は、ざ瘡患者で著しく高頻度(対照試料の13%に対してざ瘡患者の37%)であった(Jahns et al. 2012. An increased incidence of Propionibacterium acnes biofilms in acne vulgaris: a case-control study. Br J Dermatol 167: 50-58)。
【0008】
バイオフィルム形成は、アトピー性皮膚炎、カンジダ症、水疱性膿痂疹及び落葉状天疱瘡などの、他の多くの皮膚疾患においても確認されている(Nusbaum et al. 2012. Biofilms in Dermatology. Skin Therapy Letter 17: 7)。
【0009】
Rumbaugh, et al.(D. Fleming, K.P. Rumbaugh, Approaches to Dispersing Medical Biofilms, Microorganisms 5(2) (2017))に記載されているように、バイオフィルム関連感染症は、バイオフィルムの保護内に滞留することにより、病原体の抗生物質及び抗菌物質に対する耐性並びに宿主免疫応答からの保護が大幅に増大するという点で、医学界に複雑な問題を提起する。ヒトの細菌感染症の80%もがバイオフィルム関連であることから、多くの研究者がバイオフィルム構造を特異的に標的とし、それにより微生物細胞をより脆弱な浮遊性の生態に分散させる治療法の調査を開始した。
【0010】
従来、感染症は原因病原体を直接標的とすることによって治療されてきた。しかしながら、バイオフィルムは、大幅に増大した抗菌物質からの保護を微生物に提供することによって状況を大きく転換させ、有効濃度を危険なレベルまで上昇させる。したがって、一部の研究者は、分散事象、即ち分散剤につながる化合物及び戦略の抗バイオフィルム剤試験に焦点を移した。
【0011】
臨床的には、分散は、バイオフィルム関連微生物をより脆弱な浮遊性の状態に遊離させる、受動的又は能動的のいずれかの大規模な分散事象を誘発するための、酵素、低分子、又は任意の他の手段を利用することによって達成され得る。
【0012】
Rumbaugh, et al.(D. Fleming, K.P. Rumbaugh, Approaches to Dispersing Medical Biofilms, Microorganisms 5(2) (2017))に更に記載されているように、多くのバイオフィルムにおいて、細胞外DNA(eDNA)はEPS内の構造的足場として機能し、細菌の接着、凝集、及び遺伝子水平伝播を促進するのに役立ち得る。当初、バイオフィルム内に見出されたDNAは、単に溶解細胞の残遺物であると想定されており、eDNAが細菌バイオフィルムの極めて重要な寄与成分であり得ることを示した最初の研究は、2002年にWhitchurchらによって行われた(Whitchurch C.B., Tolker-Nielsen T., Ragas P.C., Mattick J.S. Extracellular DNA required for bacterial biofilm formation. Science. 2002;295:1487. doi:10.1126/science.295.5559. 1487.)。著者らは、外因的に添加されたデオキシリボヌクレアーゼ(DNアーゼI)が、細菌生存率に著しい影響を及ぼすことなく、インビトロでP.エルギノーサ(P.aeruginosa)バイオフィルムの形成を阻害することができることを示した。更に、彼らは、構築されたP.エルギノーサ(P.aeruginosa)バイオフィルムのDNアーゼIによる最大60時間の処理が分散をもたらすことを見出した。この知見は、バイオフィルム感染症を根絶する手段として、様々なDNアーゼを用いたeDNAを標的とする研究の高まりを引き起こした。表1に、現在までバイオフィルム破壊活性を有することが示されているDNアーゼの多くを要約する。
【0013】
【0014】
Kuehnast, et al.(T. Kuehnast, F. Cakar, T. Weinhaupl, A. Pilz, S. Selak, M.A. Schmidt, C. Ruter, S. Schild, Comparative analyses of biofilm formation among different Cutibacterium acnes isolates, Int J Med Microbiol 308(8) (2018) 1027-1035)に記載されているように、バイオフィルム形成が皮膚疾患及びインプラント関連感染症のP.アクネス(P.acnes)の病因についての重要な特徴であるということが、ますます明らかになりつつある。P.アクネス(P.acnes)分離株は、高い遺伝的不均一性を特徴とし、これにより異なる系統型及びサブタイプへの分類が可能となる。Kuehnastらは、系統型(IA1、IA2、IB、IC、II及びIII)、IA1 SLSTサブタイプ及び解剖学的分離部位(皮膚及びインプラント)によって分類される標本を含む、P.アクネス(P.acnes)分離株の包括的な収集物を使用して、インビトロでのバイオフィルム形成能の最初の比較分析を提供した。よりストリンジェントな洗浄工程を用いたマイクロタイタープレートアッセイでは、皮膚由来及びインプラント由来のIA1分離株は、他の系統型と比較して2~8倍高いバイオフィルム形成能を示した。特に、SLSTサブタイプA1及びA2は、高いバイオフィルム形成能を示し、これは、これらのサブタイプが軽度から重度のざ瘡とより強い関連を有することが示されたことを考慮すると、興味深い知見である。バイオフィルム形態の顕微鏡分析により、三次元バイオフィルム構造の可視化及び評価が可能となった。これにより、系統型IA1、IB、及びICにより形成された十分に構造化された成熟バイオフィルムを有する、多種多様なP.アクネス(P.acnes)分離株によるバイオフィルム形成のより厳密な評価を得た。一致して、これらの分離株はまた、非生物表面への最も高い付着率を示した。全体として、同じ系統型の皮膚由来分離株とインプラント由来分離株との間で、バイオフィルム形成に一貫した差異は観察され得なかった。注目すべき例外は、両方のアッセイにおいてインプラント由来分離株のバイオフィルム値が皮膚由来分離株と比較してわずかに高い、IA1系統型である。プロテイナーゼK感受性アッセイ及びDNアーゼI感受性アッセイは、eDNA及びタンパク質のいずれも非生物表面への初期付着に重要であり、タンパク質が全ての系統型によって形成される成熟バイオフィルムの重要な構成成分であることを明らかにした。対照的に、成熟P.アクネス(P.acnes)バイオフィルムのDNアーゼI感受性における系統型依存性差異が観察され得た。総合すると、結果は、P.アクネス(P.acnes)によるバイオフィルム形成が主に系統型によって、そしてはるかに低い程度で分離の解剖学的部位によって決定付けられることを示した。
【0015】
DNアーゼI処理及びプロテイナーゼK処理の影響もまた、マイクロタイタープレートバイオフィルムアッセイにおいてKuehnastらによって評価された。このハイスループットアッセイを使用して、彼らはいくつかの異なる酵素濃度の影響を試験することができた。しかしながら、IA1分離株のみがマイクロタイタープレートにおいて適切なバイオフィルム形成を示したため、アッセイはIA1分離株に限定された。フローセルベースのアッセイとは対照的に、マイクロタイタープレート中のIA1バイオフィルムは、DNアーゼI処理とプロテイナーゼK処理の両方の影響を受けやすかった。模擬処理した対照と比較して、バイオフィルム量の著しい低減が観察され、プロテイナーゼK濃度が1.9μg/mlに低下し、DNアーゼI濃度が1.9ng/mlに低下した。したがって、Kuehnastらは、マイクロタイタープレートアッセイの際により強力な洗浄工程と組み合わせたDNアーゼI処理が、顕微鏡チャンバー内部のアッセイ条件下で実施された同じ処理と比較して、バイオフィルムの接着特性に対してより強い負の影響を及ぼすと推測した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の概要
本発明者は、プロピオニバクテリウム・グラニュロサム(Propionibacterium granulosum)が存在する場合、P.アクネス(P.acnes)のバイオフィルムを形成する能力が負の影響を受けることを発見した。本発明者は更に、P.グラニュロサム(P.granulosum)がP.アクネス(P.acnes)バイオフィルムを破壊するタンパク質を分泌することを明らかにすることができた。P.グラニュロサム(P.granulosum)タンパク質は、単離され、DNアーゼ活性を有することが同定されている。
【0017】
したがって、本発明の一態様は、医薬に使用するための、配列番号2に従うアミノ酸配列を有する単離されたタンパク質、並びに配列番号2と少なくとも50%のアミノ酸配列同一性を有し、pH7及び32℃でのデオキシリボヌクレアーゼ活性の定量アッセイにおいて配列番号2に従うタンパク質のDNアーゼ活性の少なくとも80%を有するその機能的バリアントを提供する。
【0018】
このタンパク質は、更に、1種以上のバイオフィルム形成細菌及び/又は真菌の感染によって引き起こされるか、又は併発される疾患の治療及び/又は予防のための方法に使用するためのものであり得る。
【0019】
タンパク質は、上記に従う使用のためのものであり得、前記疾患は、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)、P.エルギノーサ(P.aeruginosa)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、大腸菌(E.coli)、S.ピオゲネス(S.pyogenes)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、シェワネラ・オネイデンシス(Shewanella oneidensis)、S.ヘモリチカス(S.heamolyticus)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、H.インフルエンザ(H.influenza)、B.バクテリオヴォルス(B. bacteriovorus)、S.アウレウス(S.aureus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)。肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumonia)、B.リケニホルミス(B.licheniformis)、S.エピデルミディス(S.epidermidis)、スタフィロコッカス・サリバリウス(Staphylococcus salivarius)、スタフィロコッカス・コンステラタス(Staphylococcus constellatus)、スタフィロコッカス・ルグドゥネシス(Staphylococcus lugdunesis)、スタフィロコッカス・アンギノーサス(Staphylococcus anginosus)、大腸菌(E.coli)、ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、及び枯草菌(Bacillus subtilis)の感染によって引き起こされるか、又は併発される。
【0020】
タンパク質は、上記に従う使用のためのものであり得、疾患は、皮膚の疾患である。
【0021】
タンパク質は、上記に従う使用のためのものであり得、皮膚の疾患は、尋常性ざ瘡、カンジダ症、水疱性膿痂疹、酒さ及び落葉状天疱瘡からなる群から選択される。
【0022】
タンパク質は、上記に従う使用のためのものであり得、前記タンパク質は、創傷の治癒を促進するための方法に使用するためのものである。
【0023】
タンパク質は、上記に従う使用のためのものであり得、創傷は、糖尿病性足部潰瘍、褥瘡、血管性潰瘍、虚血性創傷、熱傷創傷、及び外科的創傷から選択される。
【0024】
更に、本開示は、上記に従うタンパク質と、任意選択的に薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0025】
上記に従う医薬組成物は、脂質担体系及び/又は水性pH緩衝液を更に含み得る。
【0026】
上記に従う医薬組成物の一実施形態によれば、脂質担体系は、固体形態又は結晶形態の脂質を含む。
【0027】
本明細書で更に提供されるのは、1種以上のバイオフィルム形成細菌及び/又は真菌の感染によって引き起こされるか、又は併発される疾患の治療及び/又は予防のための方法であって、上記に従うタンパク質又は医薬組成物を前記感染に罹患した対象に投与することを含む、方法である。タンパク質又は医薬組成物は、好ましくは、バイオフィルムを低減させるのに有効な量でバイオフィルム形成細菌及び/又は真菌の部位に投与される。
【0028】
前記疾患は、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)、P.エルギノーサ(P.aeruginosa)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、大腸菌(E.coli)、S.ピオゲネス(S.pyogenes)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、シェワネラ・オネイデンシス(Shewanella oneidensis)、S.ヘモリチカス(S.heamolyticus)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、H.インフルエンザ(H.influenza)、B.バクテリオヴォルス(B. bacteriovorus)、S.アウレウス(S.aureus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)。肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumonia)、B.リケニホルミス(B.licheniformis)、S.エピデルミディス(S.epidermidis)、スタフィロコッカス・サリバリウス(Staphylococcus salivarius)、スタフィロコッカス・コンステラタス(Staphylococcus constellatus)、スタフィロコッカス・ルグドゥネシス(Staphylococcus lugdunesis)、スタフィロコッカス・アンギノーサス(Staphylococcus anginosus)、大腸菌(E.coli)、ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、及び枯草菌(Bacillus subtilis)の感染によって引き起こされるか、又は併発され得る。
【0029】
前記方法の一実施形態によれば、疾患は、皮膚の疾患である。
【0030】
前記方法の一実施形態によれば、皮膚の疾患は、尋常性ざ瘡、カンジダ症、水疱性膿痂疹、酒さ及び落葉状天疱瘡からなる群から選択される。
【0031】
前記方法の一実施形態によれば、この方法は、創傷の治癒を促進するためのものである。更なる実施形態によれば、創傷は、糖尿病性足部潰瘍、褥瘡、血管性潰瘍、虚血性創傷、熱傷創傷、及び外科的創傷から選択される。
【0032】
上記に従うタンパク質は、配列番号2の配列を有するP.グラニュロサム(P.granulosum)DNアーゼPG_1116、P.グラニュロサム(P.granulosum)DSM20700株(GenBankアクセッション番号WP_021104654に由来する相同DNアーゼ、又はP.グラニュロサム(P.granulosum)TM11株(GenBankアクセッション番号ERF66724)に由来する相同DNアーゼであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図面の簡単な説明
【
図1A】プラスミドDNAに対するPG_1116のDNアーゼ活性。P.アクネス(P.acnes)ゲノムDNAを、37℃で22時間、(1)PBS、(2)PG_1116精製タンパク質、又は(3)95℃で10分間熱失活させたPG_1116精製タンパク質で処理し、(M)分子量マーカーと共に1%アガロースエル(agarose el)で泳動させた。
【
図1B】プラスミドDNAに対するPG_1116のDNアーゼ活性。プラスミドDNAを、EDTAの存在下又は非存在下で、37℃で5分間、異なる濃度(濃度はmg/mL)のDNアーゼI(D)、PG-1116精製タンパク質(P)、又は95℃で10分間熱失活させたPG-1116精製タンパク質(PI)で処理した。試料を、(M)分子量マーカーと共に1%アガロースエル(agarose el)で泳動させた。
【
図2】無細胞P.グラニュロサム(P.granulosum)はDNアーゼ活性を有する。I.P.グラニュロサム(P.granulosum)馴化無細胞培地の50kDa画分は、DNアーゼ活性を有する。II.このDNアーゼ活性は、MG
2+によって更に増強されていない。III.EDTAはDNアーゼ活性を阻害する。
【
図3】DNアーゼ活性アッセイA)DNアーゼIの酵素カイネティクスグラフ。B)PG_1116の酵素カイネティクスグラフ。C)NucBの酵素カイネティクスグラフ。D)NucBについて、25℃での酵素活性の0~8分間で再プロットしたグラフ。E)PG_1116について、25℃での酵素活性の0~8分間で再プロットしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0034】
配列表
以下の配列が、配列表に含まれる。
配列番号1:配列番号2に従う単離されたタンパク質をコードするDNA配列。
配列番号2:DNアーゼ活性を有する、プロピオニバクテリウム・グラニュロサム(Propionibacterium granulosum)由来の単離されたタンパク質。このタンパク質は、「PG_1116」とも称される。
【0035】
発明の詳細な説明
本発明によるDNアーゼ活性を有するタンパク質は、プロピオニバクテリウム・グラニュロサム(Propionibacterium granulosum)種の細菌から単離することができ、及び/又は当該技術分野において周知の組換えDNA技術によって産生することができる。本明細書で使用する場合、「単離された」という用語は、タンパク質がその天然環境から単離されていることを反映する。
【0036】
本発明は、配列番号2に従うアミノ酸配列を有する単離されたタンパク質、及び配列番号2のタンパク質と同じDNアーゼ活性、即ちデオキシリボ核酸(DNA)を分解する能力を保持しているか、又は本質的に有する、このタンパク質の機能的バリアントに関する。機能的バリアントは、1つ以上の位置において、保存的又は非保存的のいずれかのアミノ酸挿入、欠失、又は置換がされているタンパク質である(但し、そのような変化が、DNアーゼ活性に関連する機能が著しく保持されているタンパク質を生じる場合に限る)。この文脈において、「著しく」とは、機能的バリアントがデオキシリボヌクレアーゼI(EC 3.1.21.1)活性の定量アッセイにおいて、配列番号2に従うタンパク質のDNアーゼ活性の少なくとも80%、例えば85%、90%、95%、100%以上を有することを意味する。機能的バリアントは、保持されたDNアーゼ活性について、例えばpH7及び32℃又はpH6及び25℃で評価され得る。このような定量アッセイは当該技術分野で公知であり、また、以下の実施例セクションにも記載されている。機能的バリアントは、好ましくは配列番号2と少なくとも50%、例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0037】
したがって、配列番号2に従うアミノ酸配列を有する単離されたタンパク質の機能的バリアントは、そのDNアーゼ活性、及びバイオフィルムを破壊する能力を保持する。
【0038】
「保存的置換」とは、群Gly、Ala;Val、Ile、Leu;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr;Lys、Arg;及びPhe、Tyrの内部での置換を意図する。
【0039】
このようなバリアントは、当該技術分野で周知のタンパク質工学及び部位特異的変異導入の方法を使用して作製され得る。
【0040】
医薬に使用される場合、本発明のDNアーゼは、従来の医薬組成物の形態で投与され得る。
【0041】
医薬組成物は、水溶液の形態であり得る。水溶液とは、pH、イオン強度、等張性などに関して生理学的又は薬学的に許容可能な特性を有する溶液を指す。例として、水及び他の生体適合性溶媒の等張液、水溶液(例えば、生理食塩水及びグルコース溶液)、並びにヒドロゲル形成材料を挙げることができる。水溶液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などで緩衝することができる。
【0042】
医薬組成物は更に、組成物中の微生物の増殖を防止するための保存剤、抗酸化剤、等張剤、着色剤などの薬学的に許容可能な賦形剤を含み得る。水性懸濁液では、組成物は、懸濁化剤及び安定化剤と組み合わされ得る。医薬組成物は、抗生物質などの更なる薬学的に活性な化合物を更に含み得る。
【0043】
組成物のコロイド性により、最終無菌濾過工程を使用することによって、組成物を無菌的に調製することができる。
【0044】
ゲルを形成するために、タンパク質は、好ましくはヒドロゲル形成材料と共に製剤化され得る。ヒドロゲル形成材料の例は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrolidone)、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポロキサマーブロックコポリマーなどの合成ポリマー;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルタロース(methylhydroxypropylcelltalose)及びエチルヒドロキシエチルセルロースなどを含むセルロースエーテルなどの半合成ポリマー;アカシア、カラギナン(carragenan)、キトサン、ペクチン、デンプン、キサンタンガムなどの天然ゴムである。
【0045】
粘膜接着性であるヒドロゲルを使用することが有利である。その点に関して、粘膜に強く接着することが知られている、ヒアルロン酸及びその誘導体、カルボマー型及びポリカルボフィル型の架橋ポリアクリル酸、ゲルを容易に形成するポリマーを使用することが特に有用である。
【0046】
ポロキサマー型のブロックコポリマー、即ちポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのブロックからなるポリマーを使用することも有利である。水中に分散された特定のポロキサマーは熱可逆性であり、室温では低粘性であるが、高温で顕著な粘性増加を示し、体温でゲル形成を生じる。これにより、比較的温かい皮膚に投与される医薬製剤の接触時間が延長され得、そのため、導入されたDNアーゼの有効性が改善され得る。
【0047】
本発明の医薬組成物は局所投与又は経腸投与、即ち、経口投与、頬側投与、舌下投与、粘膜投与、経鼻投与、気管支投与、直腸投与、及び膣内投与用に製剤化され得る。
【0048】
本発明の好ましい一実施形態では、投与経路は、局所であり得る。
【0049】
局所投与用の医薬組成物の非限定的な例は、液剤、スプレー剤、懸濁剤、エマルション、ゲル、及び膜である。必要に応じて、医薬組成物が添加された包帯又は絆創膏又は硬膏剤を使用することができる。錠剤、カプセル剤、液剤又は懸濁剤を経腸投与に使用することができる。
【0050】
投与様式に応じて、医薬組成物は、本発明の一実施形態によれば、本発明のタンパク質の0.05重量%(重量パーセント)から99重量%、代替実施形態によれば、0.10から50重量%を含む(全ての重量パーセントは、全組成物を基準とする)。
【0051】
本発明の実施のための治療有効量は、個々の患者の年齢、体重及び応答などの公知の基準を使用することにより決定され得、当業者によって、治療されているか又は予防されている疾患の文脈内で解釈され得る。
【0052】
本発明に従う使用のためのタンパク質は、組換えDNA技術によって産生され得る。
【0053】
プラスミド、ベクター及び発現系の構築並びに細胞のトランスフェクションのための技術は当該技術分野において周知であり、当業者は、特定の条件及び手順を記載する標準的なリソース資料に精通している。
【0054】
本発明のプラスミド、ベクター及び発現系の構築は、当該技術分野において周知の標準的なライゲーション及び制限技術を用いる(一般的に、例えば、Ausubel, et al, Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience, 1989;Sambrook and Russell, Molecular Cloning, A Laboratory Manual 3rd ed. 2001を参照されたい)。単離されたプラスミド、DNA配列、又は合成されたオリゴヌクレオチドは、所望の形態に切断され、調整され、分類される。DNA構築物の配列は例えば、DNA配列分析のための標準的方法を使用して確認され得る(例えば、Sanger et al. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci., 74, 5463-5467を参照されたい)。
【0055】
特定の核酸分子を単離するための更に別の好都合な方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(Mullis et al. Methods Enzymol 155:335-350, 1987)又は逆転写PCR(RT-PCR)によるものである。特定の核酸配列は、RT-PCRによってRNAから単離され得る。RNAは、当業者に公知の技術によって、例えば、細胞、組織、又は生物全体から単離される。次いで、相補的DNA(cDNA)が、ポリ-dTプライマー又はランダムヘキサマープライマー、デオキシヌクレオチド、及び適切な逆転写酵素を使用して生成される。次いで、所望のポリヌクレオチドが、生成されたcDNAからPCRによって増幅され得る。或いは、目的のポリヌクレオチドは、適切なcDNAライブラリーから直接増幅され得る。目的のポリヌクレオチド配列の5’末端及び3’末端の両方とハイブリダイズするプライマーが合成され、PCRに使用される。プライマーはまた、容易な消化のため、及び同様に制限消化されたプラスミドベクターへの増幅配列のライゲーションのために、5’末端に特定の制限酵素部位を含み得る。
【0056】
以下の実施例から明らかなように、本発明者は、配列番号2に従うアミノ酸配列を有するタンパク質であるP.グラニュロサム(P.granulosum)DNアーゼPG_1116が、P.アクネス(P.acnes)によって生成されたバイオフィルムをpH7で分解するのにNucBよりも著しく有効であることを示している。正常皮膚の表面上のpHは、4~5.5の範囲である。しかし、ざ瘡に罹患した皮膚は通常、罹患していない皮膚よりも高いpHを有し、ざ瘡患者の平均値はpH6.4であるが、一部の患者は、10以上のpHレベルに達する(Prakash, C. et al 2017 Skin Surface pH in Acne Vulgaris: Insights from an Observational Study and Review of the Literature. J Clin Aesthet Dermatol. 10: 33-39)。結果として、PG_1116は、P.アクネス(P.acnes)によって生成されたバイオフィルムを分解するためにざ瘡に罹患した皮膚を治療する際に、同じ目的に使用される他の酵素、例えばNucBよりも効率的である。
【0057】
したがって、本開示は、配列番号2に従うアミノ酸配列を有する単離されたタンパク質、及びDNアーゼ活性を保持するその機能的バリアントを提供する。
【0058】
上記に従う単離されたタンパク質は、医薬に使用するためのものであり得る。このタンパク質は、更に、1種以上のバイオフィルム形成細菌及び/又は真菌の感染によって引き起こされるか、又は併発される疾患の治療及び/又は予防に使用するためのものであり得る。
【0059】
前記疾患は、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)、P.エルギノーサ(P.aeruginosa)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、大腸菌(E.coli)、S.ピオゲネス(S.pyogenes)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、シェワネラ・オネイデンシス(Shewanella oneidensis)、S.ヘモリチカス(S.heamolyticus)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、H.インフルエンザ(H.influenza)、B.バクテリオヴォルス(B. bacteriovorus)、S.アウレウス(S.aureus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)。肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumonia)、B.リケニホルミス(B.licheniformis)、S.エピデルミディス(S.epidermidis)、スタフィロコッカス・サリバリウス(Staphylococcus salivarius)、スタフィロコッカス・コンステラタス(Staphylococcus constellatus)、スタフィロコッカス・ルグドゥネシス(Staphylococcus lugdunesis)、スタフィロコッカス・アンギノーサス(Staphylococcus anginosus)、大腸菌(E.coli)、ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、及び枯草菌(Bacillus subtilis)の感染によって引き起こされるか、又は併発され得る。これらは全て、バイオフィルム形成細菌又は真菌である。
【0060】
タンパク質は、上記に従う使用のためのものであり得、疾患は、皮膚の疾患である。前記皮膚の疾患は、尋常性ざ瘡、カンジダ症、水疱性膿痂疹、酒さ及び落葉状天疱瘡からなる群から選択され得る。
【0061】
好ましくは、タンパク質は、尋常性ざ瘡の治療及び/又は予防に使用するためのものであり得る。更に、タンパク質は、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)(P.アクネス(P.acnes))によって形成されたバイオフィルムの分解に使用するためのものであり得る。タンパク質は、更に、サブタイプI1AのP.アクネス(P.acnes)によって形成されたバイオフィルムの分解に使用するためのものであり得る。
【0062】
ペースメーカー装置などのインプラント上に形成されたバイオフィルムは、バイオフィルム関連感染症を引き起こすことが示されている。これらの感染症は、対処するのが困難な場合があり、適切に治癒しない外科的創傷をもたらす可能性がある。一般に、バイオフィルムは免疫系による分解が困難であり、これにより、あらゆる創傷が適切に治癒しなくなる可能性がある。Okuda et al.(K.I. Okuda, R. Nagahori, S. Yamada, S. Sugimoto, C. Sato, M. Sato, T. Iwase, K. Hashimoto, Y. Mizunoe, The Composition and Structure of Biofilms Developed by Propionibacterium acnes Isolated from Cardiac Pacemaker Devices, Front Microbiol 9 (2018) 182)は、5つの分離株によるバイオフィルム形成に対する、P.アクネス(P.acnes)バイオフィルムマトリックス成分を標的とする酵素の有効性を調査した。彼らは、DNA、タンパク質、及びポリ-N-アセチルグルコサミン(ポリ-GlcNAc)をそれぞれ消化するDNアーゼI、プロテイナーゼK、及びディスパーシンBを使用し、DNアーゼIが心臓ペースメーカー装置から単離された株についてバイオフィルム形成を著しく阻害することを示した。したがって、本発明によるタンパク質は、上記に従う使用のためのものであり得、前記タンパク質は、創傷の治癒を促進するために使用するためのものである。前記創傷は、糖尿病性足部潰瘍、褥瘡、血管性潰瘍、虚血性創傷、熱傷創傷、及び外科的創傷から選択され得る。
【0063】
更に、本開示は、上記に従うタンパク質と、任意選択的に薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0064】
上記に従う医薬組成物は、脂質担体系及び/又は水性pH緩衝液を更に含み得る。
【0065】
上記に従う医薬組成物の一実施形態によれば、脂質担体系は、固体形態又は結晶形態の脂質を含む。
【0066】
上述の通り、上記の組成物は、pH緩衝液、好ましくは水ベースのpH緩衝液を含み得る。上記の通り、ざ瘡に罹患した皮膚は、罹患していない皮膚よりも高いpHを有する。組成物中にpH緩衝液を含むことによって、ざ瘡に罹患した皮膚上のpHをP.アクネス(P.acnes)にとって不利であるpHに緩衝することができ、したがって、このような組成物によるざ瘡の治療の結果を更に改善する。但し、以下の実施例セクションから明らかなように、本発明のタンパク質の効率が低下するpHまでpHが低下しないように注意しなければならない。
【0067】
このように、タンパク質はバイオフィルムを分解することができ、一方、pH緩衝液は、ざ瘡を引き起こすP.アクネス(P.acnes)の細菌感染が治癒するのに役立ち得るレベルまでpHを緩衝することができる。したがって、本開示による組成物は、2つの作用機序を有し得る。主要な機序は、ざ瘡に罹患した皮膚と通常一致する比較的高いpHでバイオフィルムを効率的に分解することであり、これにより組成物がざ瘡に伴う面皰に浸透することが可能になる。二次的な機序は、pHを緩衝することであり、これによりP.アクネス(P.acnes)の増殖条件を最適ではないものにする。したがって、上記に従う組成物は、医薬に使用するために提供され得る。上記に従う組成物は、1種以上のバイオフィルム形成細菌及び/又は真菌の感染によって引き起こされるか、又は併発される疾患の治療及び/又は予防に使用するためのものであり得る。上記に従う組成物の多くは、使用するためのものであり、前記疾患は、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)、P.エルギノーサ(P.aeruginosa)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、大腸菌(E.coli)、S.ピオゲネス(S.pyogenes)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、シェワネラ・オネイデンシス(Shewanella oneidensis)、S.ヘモリチカス(S.heamolyticus)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、H.インフルエンザ(H.influenza)、B.バクテリオヴォルス(B. bacteriovorus)、S.アウレウス(S.aureus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)。肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumonia)、B.リケニホルミス(B.licheniformis)、S.エピデルミディス(S.epidermidis)、スタフィロコッカス・サリバリウス(Staphylococcus salivarius)、スタフィロコッカス・コンステラタス(Staphylococcus constellatus)、スタフィロコッカス・ルグドゥネシス(Staphylococcus lugdunesis)、スタフィロコッカス・アンギノーサス(Staphylococcus anginosus)、大腸菌(E.coli)、ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、及び枯草菌(Bacillus subtilis)の感染によって引き起こされるか、又は併発される。
【0068】
上記に従う組成物は、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)(P.アクネス(P.acnes))によって形成されたバイオフィルムの分解に使用することが意図され得る。上記に従う組成物は、更に、サブタイプI1AのP.アクネス(P.acnes)によって形成されたバイオフィルムの分解に使用することが意図され得る。
【0069】
上記に従う組成物は、使用のためのものであり得、疾患は皮膚疾患である。皮膚の疾患は、尋常性ざ瘡、カンジダ症、水疱性膿痂疹、酒さ及び落葉状天疱瘡からなる群から選択され得る。
【0070】
上記に従う組成物は、更に、創傷の治癒を促進するために使用するためのものであり得る。創傷は、糖尿病性足部潰瘍、褥瘡、血管性潰瘍、虚血性創傷、熱傷創傷、外科的創傷から選択され得る。
【0071】
脂質担体系は、固体形態又は結晶形態の脂質を含み得る。好ましくは、脂質は、結晶形態である。結晶形態の脂質は、例えば、モノグリセリドであり得る。一般に、酵素活性は、脂質の存在によって少なくとも部分的に阻害されることが既に認められている。先行技術による酵素の多くは、酵素が不活化されているため、pH及び脂質の存在の両方に対して感度が高い。これはまた、皮脂がざ瘡皮膚を有する患者の皮膚上に存在するので問題となる。しかし、本発明のタンパク質を使用することによって、この問題は克服される。前記タンパク質は脂質の存在によって不活化されないため、製剤中で脂質と共に、及び皮脂が存在する場合であっても皮膚上で、活性であり得る。
【0072】
アミノ酸配列同一性
2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、以下のように決定される。最初に、アミノ酸配列を、例えば、BLASTNバージョン2.0.14及びBLASTPバージョン2.0.14を含む、BLASTZのスタンドアロンバージョンからのBLAST2配列(Bl2seq)プログラムを使用して、配列番号2と比較する。このBLASTZのスタンドアロンバージョンは、米国政府の国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)のウェブサイト(ncbi.nlm.nih.gov)から入手することができる。Bl2seqプログラムの使用方法を説明する説明書は、BLASTZに付属しているreadmeファイルに見出すことができる。Bl2seqは、BLASTPアルゴリズムを使用して2つのアミノ酸配列間の比較を行う。2つのアミノ酸配列を比較するために、Bl2seqのオプションは以下のように設定される:-iは、比較される第1のアミノ酸配列を含むファイル(例えば、C:\seq1.txt)に設定される;-jは、比較される第2のアミノ酸配列を含むファイル(例えば、C:\seq2.txt)に設定される;-pは、blastpに設定される;-oは、任意の所望のファイル名(例えば、C:\output.txt)に設定される;全ての他のオプションはそれらのデフォルト設定のままとする。例えば、次のコマンド:C:\Bl2seq -i c:\seq1.txt -j c:\seq2.txt -p blastp -o c:\output.txt.を使用して、2つのアミノ酸配列間の比較を含む出力ファイルを生成することができる。2つの比較された配列が相同性を共有する場合、指定された出力ファイルは、アラインメントされた配列としてそれらの相同性の領域を提示する。2つの比較された配列が相同性を共有しない場合、指定された出力ファイルは、アラインメントされた配列を提示しない。アラインメントされると、同一のヌクレオチド又はアミノ酸残基が両方の配列中に提示される位置の数を計数することによって、一致の数が決定される。
【0073】
同一性パーセントは、一致の数を、同定された配列に示される配列の長さで除し、続いて得られた値に100を乗じることによって決定される。例えば、配列が配列番号Aに示される配列と比較され(配列番号Aに示される配列の長さは10である)、一致の数が9である場合、配列は、配列番号Aに示される配列に対して90%(即ち、9/10×100=90)の同一性パーセントを有する。
【実施例】
【0074】
実施例
使用株及び培養条件
プロピオニバクテリウム・グラニュロサム(Propionibacterium granulosum)DSM 20700を、German collection of microorganismsから入手した。この株を、血液寒天ペトリ皿上の固形培地上で、又は2g/Lグルコースを補充したBHI中の液体培地中のいずれかで、37℃で嫌気的に増殖させた。浮遊培養物を振盪(200rpm)しながら増殖させる一方で、バイオフィルムを隔日で培地を交換しながら静置フラスコ中で増殖させた。
【0075】
P.グラニュロサム(P.granulosum)のゲノムシーケンシング
P.グラニュロサム(P.granulosum)のゲノムDNAを、GenElute(商標)Bacterial Genomic DNA Kit(Sigma-Aldrich Chemie GmbH, Steinheim, Germany)を使用して液体培養物から単離した。Illumina HiSeq 2000で、P.グラニュロサム(P.granulosum)のシーケンシングを2×100bpのペアードエンドとして実施し、およそ100倍の生の塩基対全体のカバレッジを得た。生のシーケンシングデータを、FastQCバージョン0.10.1(http://www.bioinformatics.bbsrc.ac.uk/projects/fastqc)を使用して品質管理した。SOAPDenovoバージョン1.05(Li et al. 2010. De novo assembly of human genomes with massively parallel short read sequencing.” Genome Res 20(2): 265-272)を使用して、生のリードを用いたデノボアセンブリを実施した。ペアードエンドリードのための標準パラメータを使用した。最大のN50を有する足場配列を生成するK-mer設定は、77であった。ギャップ閉鎖(gap closure)のために、Quakeバージョン0.3.4(Kelley et al. 2010. Quake: quality-aware detection and correction of sequencing errors.” Genome Biol 11(11): R116)を使用して、生リード上でK-merエラーの訂正を実施した。全ゲノムサイズは2,488,918bpであり、最長配列は702,365bp、N50は359,503bpであった。アノテーションの前に、生のコンティグ配列をトリミングし(≧300bp)、配列長に従って逆ソートした。遺伝子アノテーションを、CloVRパイプラインバージョン1.0-RC4(Angiuoli et al. 2011. CloVR: A virtual machine for automated and portable sequence analysis from the desktop using cloud computing. Bmc Bioinformatics 12)を使用して実施した。具体的には、rRNAアノテーションを、RNAmmer(Lagesen et al. 2007. RNAmmer: consistent and rapid annotation of ribosomal RNA genes. Nucleic Acids Research 35(9): 3100-3108)を使用して実施した。tRNAアノテーションを、tRNAscan-SE(Lowe et al. 1997. tRNAscan-SE: a program for improved detection of transfer RNA genes in genomic sequence. Nucleic Acids Res 25(5): 955-964)を使用して実施し、タンパク質コード化領域(CDS)の予測を、Glimmer(Delcher et al. 2007. Identifying bacterial genes and endosymbiont DNA with Glimmer. Bioinformatics 23(6): 673-679)を使用して実施した。IGSアノテーションエンジン(http://ae.igs.umaryland.edu/cgi/ae_pipeline_outline.cgi)を使用してCDSの機能的アノテーションを実施した。PG_1116は、96kDaの分子量を有する939個のアミノ酸(配列番号2)の予測タンパク質であり、BLAST相同性により、予測細胞外ヌクレアーゼを含有するCOG2347に帰属させた。PG_1116は、DNアーゼIドメインを含有し、これは、推定上の触媒性で活性のあるDNA結合部位、リン酸結合部位及びMg結合部位をそのC末端に、並びにラミンテールドメイン(Lamin-tail domain)をそのN末端に含む。Sec経路を介したタンパク質分泌のためのTATペプチドもまた、その遠位N末端で同定した。依然として十分に明らかにされていない2つの更なるドメイン、即ち、特定のパターンの認識に重要であり得るOBフォールドドメインのサブファミリーに対応するYhcR-OBFドメイン、及び未知の機能の非特異的真菌ドメインも存在する。
【0076】
更なるBLAST分析により、PG_1116配列が、P.グラニュロサム(P.granulosum)DSM20700の対応する公開されているゲノム配列と97%の同一性を有し、P.グラニュロサム(P.granulosum)TM11と94%の同一性を有することが明らかとなった。このタンパク質は他のプロピオニバクテリウム種においてもP.アビダム(P.avidum)として保存されている(87%のカバーで61%の同一性、真菌ドメインは欠損している)。興味深いことに、このタンパク質には、NCBIデータベース上に存在する全てのP.アクネス(P.acnes)のアノテーションが存在せず、最大カバーは35%であり、記載されたドメインの1つのみを常に含んでいた。したがって、この特定のドメイン配置は、タンパク質の潜在的な抗P.アクネス(P.acnes)バイオフィルム活性に重要であり得る。
【0077】
PG_1116の過剰発現及び精製
PG_1116遺伝子を、PCRによって増幅し、NcoI及びHindIIIに対応する制限部位を使用してpET-ZZ1aにクローニングした。PG_1116を過剰発現させ、NiNTA及びQ-セファロース(TEVで切断)カラムを使用して精製し、緩衝液50mM NaP 8.0、500mM NaCl、20mMイミダゾール中で溶出させた。0.5から1mg/mLの濃度のタンパク質のアリコートを、-80℃で凍結した。
【0078】
DNアーゼ活性試験
P.アクネス(P.acnes)DNA(1μg)又はプラミド(plamid)DNA(1.5μg)を、2mM CaCl2及び2mM MgCl2を補充したpH7.4の20mM TrisHCl中に希釈し、その他は記載の通りとした。6μgの適切な酵素、即ちDNアーゼI、PG_1116若しくは95℃で10分間熱失活させたPG_1116と共に、又はそれらを伴わずに、水浴中37℃でインキュベーションを行った。EDTA含有6×DNA Loading Dye緩衝液(Thermo Scientific(商標))を添加することにより、反応を適切な時点で停止させた。異なる試料のアリコート(5μL)及び分子量マーカー(GeneRuler 1kb DNAラダー、Thermo Scientific(商標))を、100Vの定電流下で40分間、1%アガロースミニゲル上で泳動させた。DNAを、GelRed(商標)Nucleic Acid Gel Stain(Biotium)及びGel Doc(商標)イメージャー(BioRad)を使用して明らかにした。
【0079】
P.アクネス(P.acnes)バイオフィルムの培養及び破壊試験
P.アクネス(P.acnes)IBの48時間の浮遊前培養物を、2g/Lグルコースを補充したBHI中で5% v/vに希釈し、2mLを24ウェルプレート(Thermo Scientific(商標)Nunc(商標)Non-Treated Multidishes 144530)の各ウェルに分注した。プレートを、静置嫌気性条件下、37℃でインキュベートした。培地を隔日で更新した。異なる物質の効果を、6日目に培地を物質の適切な希釈物で置き換えることによって、既存の6日目のバイオフィルムを試験した。後続のインキュベーションのいずれも、半好気性条件下で行った。
【0080】
PG_1116 DNアーゼが、実際にP.アクネス(P.acnes)バイオフィルムを破壊することができるP.グラニュロサム(P.granulosum)上清のエフェクタータンパク質であるかどうかを試験するために、まず、バイオフィルムを6日間増殖させ、次いで異なる条件でPG_1116と共にインキュベートした。バイオフィルムを、PBS、DNアーゼI、PG_1116、又はタンパク質緩衝液と共に1時間又は2時間インキュベートした。PG_1116及びDNアーゼIは、P.アクネス(P.acnes)の6日目のバイオフィルムを破壊することができ、この活性はまた、EDTAの添加によって障害された。PG_1116と共にインキュベートしたバイオフィルムは、試験した両方の時点で、特に、PG_1116と共にインキュベートしたバイオフィルムがかろうじて検出可能であった2時間後に、DNアーゼIと共にインキュベートしたバイオフィルムよりも高度に破壊された。
【0081】
興味深いことに、P.グラニュロサム(P.granulosum)馴化培地のインキュベーションは、DNアーゼ様の活性及びDNAの破壊を示した(
図1B)。同様に、P.グラニュロサム(P.granulosum)馴化培地とP.アクネス(P.acnes)バイオフィルムとの共インキュベーションにより、バイオフィルムが破壊された。
【0082】
PG_1116は、P.アクネス(P.acnes)からのバイオフィルム形成を妨害する
PG_1116タンパク質への曝露がP.アクネス(P.acnes)細胞によるバイオフィルムの形成を防止するかどうかを試験するために、P.アクネス(P.acnes)の浮遊培養物を増殖させ、異なる時間(30分、1時間及び2時間)PG_1116に曝露させ、洗浄し、次いでバイオフィルム形成のための前培養物として処理した。全ての細菌は次にフラスコの底に薄いバイオフィルムを形成することができたが、PG_1116に曝露された細菌によって形成されたバイオフィルムは、最短の時間(30分)であっても、PBS又は緩衝液に予め曝露された細菌によって形成されたバイオフィルムよりもはるかに脆弱であった。更に、細胞を洗浄せず、曝露後及びバイオフィルム形成前に希釈のみ行った場合、PG_1116に曝露した細胞からはバイオフィルム形成は見られなかったが、緩衝液のみに曝露した細胞は通常のバイオフィルムに隣接して形成した。
【0083】
異なる培養環境におけるPG_1116及びNucBのバイオフィルム分解活性の比較
皮膚分離株のP.アクネス(P.acnes)株KPA171202を、全ての実験の参照株として使用した(The complete genome sequence of Propionibacterium acnes, a commensal of human skin. Brueggemann H, Henne A, Hoster F, Liesegang H, Wiezer A, Strittmatter A, Hujer S, Duerre P, Gottschalk G. Science. 2004 Jul 30;305(5684):671-3)。まず、嫌気性条件下で、嫌気性血液寒天プレート上で細菌を培養した。プレートで増殖させた細菌を、ブレインハートインフュージョンブロス(BHI)中で液体培養物として更に増殖させた。これらの前培養物を、嫌気的に24時間又は48時間増殖させた主要培養物の接種材料として使用した。バイオフィルム培養物をT-25細胞培養フラスコ(Sarstedt, Nuembrecht, Germany)中で10mlブロスと共に増殖させ、隔日で培地を交換しながら7日間インキュベートした(Transcriptomic analysis of Propionibacterium acnes biofilms in vitro.Jahns AC, Eilers H, Alexeyev OA. Anaerobe. 2016 Dec;42:111-118)。
【0084】
培地中のNucB及びPG_1116のバイオフィルム分解/分散活性の比較
7日間のインキュベーション後、0.1mg/mL(等モル比)の濃度のPG_1116タンパク質及びNucBタンパク質を添加し、更に24時間インキュベートした。培地中のP.アクネス(P.acnes)バイオフィルムに対するPG_1116及びNucBの効果を、24時間後に試験した。PG_1116と共にインキュベートしたバイオフィルムは、NucBと比較して3倍小さいと推定された。
【0085】
人工皮脂を補完した培地中のNucB及びPG_1116のバイオフィルム分解/分散活性の比較
インキュベーションの7日後、150mgの皮脂(Pickering Laboratories, Inc., Mountain View, CA, USA)、10%アラビアゴム及び20mM Tris-HCLからなる5%皮脂エマルションを、毛包環境を模倣する目的でフラスコに添加した。皮脂を添加後、0.1mg/mL(等モル比)の濃度のPG_1116タンパク質及びNucBタンパク質を各フラスコに添加し、24時間インキュベートした。24時間のインキュベーション後、皮脂様環境におけるPG_1116及びNucBのバイオフィルム分解/分散活性を比較した。皮脂エマルション中でP.アクネス(P.acnes)バイオフィルムと共にインキュベートしたPG_1116及びNucBの効果を、24時間後に試験した。PG_1116と共にインキュベートしたバイオフィルムは、NucBと比較して3倍から4倍小さいと推定された。
【0086】
P.アクネス(P.acnes)バイオフィルムに対するPG_1116のDNアーゼ活性
PG_1116 DNアーゼ活性がバイオフィルムの分解に関連するかどうかを試験するために、公知の酵素阻害剤(EDTA)を使用することができる。PG_1116及びEDTAを補完したPG_1116を、P.アクネス(P.acnes)バイオフィルムと共に培地中で2時間インキュベートした。PG_1116のバイオフィルム分解/分散活性は、EDTAが添加された場合に阻害されたため、PG_1116のバイオフィルム分解/分散活性はDNアーゼ活性によるものである。
【0087】
DNアーゼ活性の判定のための分析アッセイ
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
Sigma Aldrichによって開発された手順に基づいて、酵素活性の測定のための簡便な方法を設定した。このアッセイでは、DNアーゼは、以下の反応に従ってDNAの分解を触媒する:
【化1】
【0092】
第1の実験(
図3A)では、酢酸緩衝液のpHを変化させるが(pH5.0、6.0及び7.0)、他の全てのパラメータを一定に保つことによって、3つの異なるインキュベーション緩衝液をファルコンチューブ中で調製した。インキュベーション緩衝液に添加した各成分の容積は以下の通りであった:
・1.25mlの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0、6.0、7.0)(10%)
・0.625mlのMgSO4(5%)
・9.125mlの精製水(73%)
・1.5mlのDNA溶液(緩衝液のpHを調整してから最後に添加した)。DNA溶液をプロトコルに従って(0.33mg/mlの濃度に)再構成した
【0093】
SigmaのDNアーゼを1mlの0.85% NaCl溶液で再構成し、使用直前に0.85% NaClで1:5に更に希釈した。100μlの0.85% NaCl溶液を500μlのインキュベーション緩衝液(プロトコルに従う試薬カクテル)と混合することによって、各インキュベーション緩衝液と共にブランク試料を調製した。UV分光光度計をブランクでゼロ調整してから、DNアーゼ反応の実測を開始した。この測定では、100μlのDNアーゼを、DNAを含有する500μlのインキュベーション緩衝液と(石英キュベット中で)混合し、測定値を15分間、毎分記録した。実験は室温(約25℃)で実施した。各緩衝液(pH5.0~7.0)毎に、酵素カイネティクスを表すグラフについて、260nmでの測定吸光度を時間に対してプロットした(
図3Aを参照されたい)。グラフから、pH6及び7の緩衝液中で6分後に基質が消費されることが分かる(平坦化した曲線)。酵素反応は、曲線の視覚的評価によるとpH5の緩衝液でわずかに遅い。しかし、この実験はPG_1116及びNucBの分析に使用することのできる実験室でのアッセイを確立することを目的として実施したものであり、したがって、更なるデータ分析を実施せず、このアッセイは、酵素活性の更なるスクリーニングというその目的に適合すると結論付けた。
【0094】
PG_1116及びNucBにおける酵素活性に対するpHの影響
この実験では、PG_1116及びNucBの活性を異なるpHで評価した。実験作業を、上記の「DNアーゼ活性の判定のための分析アッセイ」に記載した通りに実施した。この実験における1つの主な違いは、PG_1116及びNucBの異なる濃度に起因して、酵素の希釈物及びブランク試料の調製物を以下に記載の通りに調製したことであった:
PG_1116ブランク試料-100μlの0.85% NaCl+500μlインキュベーション緩衝液
PG_1116試料(1mg/ml)-0.85%NaClで1:5から0.2mg/mlに希釈してから、インキュベーション緩衝液と混合した。最終反応緩衝液は、100μlの0.2mg/ml PG_1116+500μlインキュベーション緩衝液を含有する
NucBブランク試料(0.2mg/ml)-100μlのNucB保存緩衝液+500μlインキュベーション緩衝液
NucB試料-0.2mg/mlのNucB 100μl+500μlインキュベーション緩衝液
【0095】
両方のタンパク質の酵素活性のプロットについては、
図3B及び3Cを参照されたい。PG_1116の曲線を視覚的に観察することにより、至適活性がpH6.0で達成されることが明らかに分かる。この曲線はまた、8分後に平坦化し、これは、基質がこの段階で消費されることを示している。活性をより正確に評価するために、酵素活性もまた、Sigmaのプロトコルに従って算出した。基質がpH6.0で消費されたときの部分を除外するために、グラフを0から8分間に再プロットした。
図3D及び3Eは、再プロットしたグラフを示し、表2は、各酵素(NucB及びPG_1116)の酵素活性の算出結果を示す。NucB活性のプロットは、曲線の平坦化が見られないことから、わずかに異なるように見える。PG_1116における開始吸光度と比較して、酵素反応はより高いpHで明らかにより緩徐であり、バックグラウンド吸光度はより高い。酵素速度及びその測定に影響を及ぼし得るいくつかの異なるパラメータが存在するが、この段階では開始時に検出されたより高い吸光度に関して明確な結論を下すことはできない。1つの考えられる解釈は、NucBの比較的低い純度プロファイル(純度85%)に起因して、260nmでの測定に干渉するプロセス関連不純物が試料中に存在するということである。プロセス関連不純物が高レベルのプラスミドDNA断片を含有する場合、これはまた、DNA溶液である基質の濃度がその後増加するにつれて、反応に影響を及ぼし得る。0分での開始吸光度もまた、異なるpHの間で異なり、
図3Cにおいてより明らかである。測定値の読み取りもまた数秒を要するという事実から、この時間中に反応が既に開始され、0分での実際の読み取り値がこの時点における真の値よりもわずかに高い可能性がある。
【0096】
各再プロット曲線について線形回帰分析を実施し、各回帰直線の勾配(酵素反応の速さ(speed)/速度(rate))を比較した。データ分析(表2)及び
図3D~3Eから、NucBの最高比率はpH5.0で得られ、一方、PG_1116の最高比率はpH6.0で得られることが分かる。pH7.0では、PG_1116がNucBよりも著しく高い活性を有する。異なるインキュベーション条件間の差異をより良好に概観するために、活性の比較もまた表5に要約する。
【0097】
【0098】
酵素活性の算出結果の更なる詳細については、以下の算出結果の例を参照されたい。
酵素活性の算出結果、NucBの例、25℃、pH5.0
・勾配はpH5.0で0.0588である。勾配=ΔA260/分
・Sigmaの手順によると、ΔA260の0.001/分/ml=1ユニット
・我々の試料の単位=0.0588/0.001=58.8ユニット/ml
・0.2mg/mlの濃度が試薬カクテルで6倍に希釈されるため、反応緩衝液中の最終濃度は0.033mg/mlタンパク質である
・mg当たりの活性は、58.8/0.033=1781ユニット/mgに等しい
【0099】
酵素活性に対する温度の影響
酵素活性に対する温度の影響を調査するために、PG_1116及びNucBの両方についての至適活性のための条件を更に最適化することを目的として、新規実験を設計した。この場合では、32℃の温度が、皮膚の表面の温度であるため最も興味深い温度であった。実験作業を、以下に記載する軽微な逸脱を除いて、上記の「DNアーゼ活性の判定のための分析アッセイ」に記載した通りに実施した。
・測定を6回のみ行った
・最終反応緩衝液入りのキュベットを、測定と測定の間に32℃で加熱キャビネット中でインキュベートしたため、測定の回数を低減させることがより現実的であった
【0100】
この実験の結果を表6に示す。
【0101】
【0102】
温度の影響は、pH7.0、25℃で観察されるよりもわずかに低い活性を有することになったpH7.0を除いて、NucB活性に正の影響を及ぼした。pH5.0での活性は、より高い温度で著しく高く、25℃で1781ユニット/mgに対して、32℃で2521ユニット/mgであった。一方、PG_1116の活性は、25℃でのpH5.0と比較してpH5.0、32℃で非常に類似しており、333ユニット/mgに対して327であった。pH6.0及び7.0での活性は、より高い温度でより低かった。しかしながら、この実験の目的は、同じアッセイにおいて、32℃の皮膚温度でのNucB及びPG_1116の活性を比較することであった。この評価の最も意外で興味深い結果は、NucBと比較して、pH7.0で観察されるPG_1116のおよそ3倍高い活性である。ざ瘡に罹患した皮膚は正常皮膚よりもわずかに高いpHを有するため、このデータを、ざ瘡治療に使用するためのPG_1116の更なる評価のための基礎として使用することができる。
【0103】
この試験の目的は、ざ瘡治療に使用するためのPG_1116の可能性を評価することであったため、方法の再現性にはさほど重点を置いていない。2つのタンパク質を、同じ日に同じアッセイで比較し、他の全てのパラメータを一定に保ったが、異なる日に実施したアッセイの間で、データが変動する場合があった。測定値に影響を及ぼし得る1つのパラメータは、異なるバイアル間で変動し得るDNA基質の濃度である。しかしながら、アッセイはルーチン分析に使用され、各バイアルはバイアルにラベル付けされている通り1mgのDNAを含有すると考えられるので、このパラメータの影響はごくわずかであると考えられる。今後の分析及びより徹底した調査のために、Sigmaプロトコル及びアッセイの最低限の適格性に従ってDNA濃度の確認を実施することが推奨される。
【0104】
結論
この評価試験の最も興味深い結果は、市販のNucBと比較した、pH7.0でのPG_1116のより高い活性である。活性は、25℃及び32℃の両方の温度でおよそ3倍高かった。一方、pH5.0、25℃ではNucBはPG_1116より5倍高い活性を有し、32℃では、NucBに見られる活性はほぼ8倍高かった。しかしながら、ざ瘡に罹患した皮膚のpHがわずかに高い(>6.5)という事実から、pH7での活性が活性の評価により適切である。
【配列表】
【国際調査報告】