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特表2022-524982バイオポリマー同定のためのデバイスおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-11
(54)【発明の名称】バイオポリマー同定のためのデバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220428BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20220428BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20220428BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20220428BHJP
   C07K 17/14 20060101ALN20220428BHJP
   C07K 14/36 20060101ALN20220428BHJP
   C12N 15/115 20100101ALN20220428BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20220428BHJP
   C12N 9/24 20060101ALN20220428BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N9/10
C07K14/705
C07K16/00
C07K17/14
C07K14/36
C12N15/115 Z
C12N9/16 Z
C12N9/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021552243
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(85)【翻訳文提出日】2021-10-29
(86)【国際出願番号】 US2020020504
(87)【国際公開番号】W WO2020180732
(87)【国際公開日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】62/812,736
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521391748
【氏名又は名称】ユニバーサル シーケンシング テクノロジー コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, ペイミン
(72)【発明者】
【氏名】レイ, ミン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B050
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA23
4B029AA27
4B029BB20
4B029FA12
4B050CC07
4B050KK07
4B050LL03
4H045AA40
4H045CA11
4H045DA50
4H045DA75
4H045DA89
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、in vitroでのテンプレートによって方向づけられた酵素による複製または合成に基づいて生体分子を配列決定または同定するためのナノ構造体デバイスおよび方法を提供する。1つの実施形態では、図8に示すように、10~20nmのナノギャップを、半導体ナノファブリケーションテクノロジーによって、2つの電極間に作製し、これらの電極は、周囲が非特異的吸着を防止するための不活性化学物質で不動態化されており、ナノギャップの内部領域が化学反応のために露出されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオポリマーを同定、特徴付け、または配列決定するためのシステムであって、
(a)非伝導性基材;
(b)前記非伝導性基材上に相互に隣り合わせに配置された第1の電極および第2の電極によって形成されたナノギャップ;
(c)化学結合によって一方の端部を前記第1の電極に、そして他方の端部を前記第2の電極に付着させることによって前記ナノギャップを架橋しているナノ構造体であって、ここで、前記ナノ構造体が、デオキシリボ核酸(DNAナノ構造体)もしくはリボ核酸(RNAナノ構造体)のいずれかの核酸またはその組み合わせを含み、ここで、前記核酸の塩基が、いずれかの非天然型核酸塩基であるか、前記核酸が、非天然型核酸塩基と天然型核酸塩基との混合物を含む、ナノ構造体;
(d)前記ナノ構造体に付着した生化学反応を行う酵素;
(e)前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加されるバイアス電圧;
(f)前記ナノ構造体に付着した前記酵素によって惹起されたコンフォメーション変化によって引き起こされる前記ナノ構造体内の歪みに起因する前記ナノ構造体を介した電流変動を記録するためのデバイス;ならびに
(g)前記バイオポリマーまたは前記バイオポリマーのサブユニットを同定するか特徴付けるデータ解析用ソフト
を含む、システム。
【請求項2】
前記非伝導性基材が、ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素(silicon a nitride)、ガラス、二酸化ハフニウム、他の金属酸化物、任意の非伝導性ポリマー薄膜、酸化ケイ素または窒化ケイ素または他の非伝導性コーティングを有するケイ素、窒化ケイ素コーティングを有するガラス、他の非伝導性有機材料、任意の非伝導性無機材料、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記バイオポリマーが、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、ポリサッカリド、前記バイオポリマーのうちのいずれかの天然型、改変型、または合成型のいずれか、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記酵素が、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、DNAヘリカーゼ、DNAリガーゼ、DNAエキソヌクレアーゼ、逆転写酵素、RNAプライマーゼ、リボソーム、スクラーゼ、ラクターゼ、前記酵素のうちのいずれかの未変性のもの、変異されたもの、発現されたもの、または合成されたもののいずれか、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記酵素が、T7 DNAポリメラーゼ、Taqポリメラーゼ、DNAポリメラーゼY、DNAポリメラーゼPol I、Pol II、Pol III、Pol IV、およびPol V、Pol α(アルファ)、Pol β(ベータ)、Pol σ(シグマ)、Pol λ(ラムダ)、Pol δ(デルタ)、Pol ε(イプシロン)、Pol μ(ミュー)、Pol Ι(イオタ)、Pol κ(カッパ)、pol η(イータ)、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ、テロメラーゼ、前記酵素のうちのいずれかの未変性のもの、変異されたもの、発現されたもの、または合成されたもののいずれか、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記DNAポリメラーゼが、未変性のもの、変異されたもの、発現されたもの、または合成されたもののいずれかのφ29DNAポリメラーゼである、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記ナノギャップを形成する2つの電極が、約3nm~約1000nmの距離で分離されており;
ここで、前記電極の端部が、幅約3nm~約1000nmおよび深さ約2nm~約1000nmの実質的に矩形の表面を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記ナノギャップを形成する2つの電極が、約5nm~約50nmの距離で分離されており;
ここで、前記電極の端部が、幅約10nm~約30nmおよび深さ約5nm~約20nmの実質的に矩形の表面を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記電極が、
a)チオール、アミン、セレノール、および別の有機官能基と反応することができる金属電極;
b)係留分子と反応して共有結合を形成することができる自己組織化単分子膜によって表面上で官能化され得る金属電極;
c)前記係留分子と反応して共有結合を形成することができるシランで官能化され得る金属酸化物電極;または
d)前記係留分子と反応して共有結合を形成することができる有機試薬で官能化され得る炭素電極を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記電極および前記基材が、前記ナノギャップに面する端部表面を除いて絶縁層で不動態化されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記絶縁層が、不活性化学物質の単分子膜または多分子層のいずれかを含むか、不活性化学物質の単分子膜または多分子層によって不動態化されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記不活性化学物質が、金属表面の不動態化のための11-メルカプトウンデシル-ヘキサエチレングリコール(CR-1)、ならびに基材表面の不動態化のためのアミノプロピルトリエトキシシラン(aminopropyltriethoxysaline)(CR-2)およびN-ヒドロキシスクシンイミジル2-(ω-O-メトキシ-ヘキサエチレングリコール)アセタート(CR-3)を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記非天然型核酸塩基が、以下:
(a)ハチモジ核酸塩基;
(b)サイズを拡大したヌクレオベース;
(c)非水素結合ヌクレオベース;
(d)ユニバーサル塩基;および
(e)その組み合わせ
からなる群より選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記核酸ナノ構造体が、以下:
(a)対合されなかったか対合しない核酸塩基;または
(b)有機超伝導体
のうちの1つまたはその組み合わせを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記核酸ナノ構造体が、直鎖状もしくは環状のDNA(DNAナノ構造体)、または直鎖状もしくは環状のRNA(RNAナノ構造体)、またはその組み合わせのいずれかから自己組織化する、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記核酸ナノ構造体が、以下:
(a)らせん型または非らせん型のいずれかの直鎖状DNA二重鎖構造体、直鎖状RNA二重鎖構造体、直鎖状核酸分子ワイヤ、またはその組み合わせが含まれるが、これらに限定されない実質的に一次元の幾何学的配置;
(b)実質的に矩形の構造体、実質的に正方形の構造体、実質的に三角形の構造体、実質的に円形の構造体、またはその組み合わせが含まれるが、これらに限定されない実質的に二次元の幾何学的配置;および
(c)実質的に円柱形の構造体、実質的に中空管の構造体、実質的に柱形様の構造体、実質的に束ねた柱様の(bundle-of-column)構造体を含む幾何学的配置、実質的にスタッキングされた二次元構造体を含む幾何学的配置、実質的に折りたたまれたオリガミ様構造体を含む幾何学的配置、またはその組み合わせが含まれるが、これらに限定されない実質的に三次元の幾何学的配置
の構成のうちの1つまたはその組み合わせを有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記ナノ構造体が以下:
a.アミド結合、グアニジニウム結合、またはトリアゾール結合を含む非リン酸骨格;
b.糖修飾されたヌクレオシドまたはヌクレオシドアナログ;
c.ヌクレオベース修飾されたヌクレオシドまたはヌクレオシドアナログ;および/または
d.ヌクレオベースアナログ
を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記ナノ構造体が以下:
a.電極に付着するように構成された官能基;および/または
b.前記酵素を固定するように構成された官能基
を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
前記電極に付着するように構成された官能基が、以下:
(a)ヌクレオシドの糖環上のチオール;
(b)ヌクレオシドのヌクレオベース上のチオールおよびセレノール;
(c)ヌクレオシド上の脂肪族アミン;および/または
(d)ヌクレオシド上のカテコール;
(e)RXHまたはRXXRであって、式中、Rは、脂肪族または芳香族の基であり;Xはカルコゲンであり、SおよびSeが好ましい、RXHまたはRXXR;および/または
(f)塩基カルコゲン化ヌクレオシド
を含み、
前記酵素を固定するように構成された官能基が、以下:
(a)化学合成または酵素合成によってDNAまたはRNAに組み込まれるアミン官能化ヌクレオシド;
(b)化学合成または酵素合成によってDNAおよびRNAに組み込まれるシクロオクチンおよび/または誘導体で官能化されたヌクレオシド;および/または
(c)化学合成または酵素合成によってDNAおよびRNAに組み込まれるカテコール官能化ヌクレオシド
を含む、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記係留分子が、以下:
(a)多価結合を介して金属表面と相互作用するように構成された分子;
(b)三価結合を介して金属表面と反応するように構成されたトライポッド構造体;および
(c)テトラフェニルメタンコアから構成される分子であって、ここで、そのフェニル環のうちの3つが、-CHSHまたは-CHSeHで官能化されており、第4のフェニル環が、アジド、カルボン酸、ボロン酸、および/またはDNAおよび/またはRNAナノ構造体に組み込まれた官能基と反応するように構成された有機基で官能化されている、分子
のうちの1つまたはその組み合わせを含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項21】
前記係留分子が、以下:
(a)N-複素環カルベン(NHC);
(b)溶液中で電気化学的方法によってカソード電極に選択的に堆積されるように構成された金属錯体中のN-複素環カルベン(NHC);
(c)有機溶液および/または水溶液中で両方の金属電極上に堆積されるように構成されたN-複素環カルベン(NHC);および
(d)アミン、カルボン酸、チオール、ボロン酸、および/または付着するように構成された任意の有機基を含む官能基を含むN-複素環カルベン(NHC)
のうちの1つまたはその組み合わせを含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項22】
前記金属錯体が、Au、Pd、Pt、Cu、Ag、Ti、および/または別の遷移金属を含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記核酸ナノ構造体を支持し、かつ安定化するために前記ナノギャップの底部に固定されるように構成されたタンパク質をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項24】
前記ナノギャップの非伝導性底部が、タンパク質を固定するための化学試薬で官能化されており、ここで、前記化学試薬が、
(a)酸化物表面と反応するように構成されたシラン;
(b)酸化物表面と反応するように構成されたシラトラン;
(c)シラトランおよび官能基を含むマルチアームリンカー;
(d)アダマンタンコアを含む4アームリンカー;
(e)2つのシラトランおよび2つのビオチン部分を含む4アームリンカー;および/または
(f)アダマンタンコアならびにシラトランおよび有機官能基を含む4アームリンカー
を含む、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記タンパク質が、抗体、受容体、アプタマー、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項23に記載のシステム。
【請求項26】
前記タンパク質がストレプトアビジンまたはアビジンであり、前記核酸ナノ構造体がビオチンで官能化されている、請求項23に記載のシステム。
【請求項27】
前記酵素が、前記ナノ構造体に付着されるように構成された直交性官能基を含む組換えDNAポリメラーゼまたは組換え逆転写酵素である、請求項1に記載のシステム。
【請求項28】
前記組換えDNAポリメラーゼが以下:
(a)前記DNAナノ構造体上のクリック反応のために構成されたN末端および/またはC末端の有機基;
(b)前記DNAナノ構造体上のクリック反応のために構成された非天然型、修飾型、または合成型のアミノ酸;
(c)前記DNAナノ構造体上のクリック反応のために構成されたN末端および/またはC末端のアジド基;および/または
(d)前記DNAナノ構造体および/またはRNAナノ構造体上のクリック反応のために構成された2-アミノ-6-アジドヘキサン酸(6-アジド-L-リジン)
を含む、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記核酸ナノ構造体が以下:
(a)ヌクレオシドであって、その糖環またはヌクレオベースがクリック反応のために構成された有機基で官能化された、ヌクレオシド;および/または
(b)ヌクレオシドであって、その糖環またはヌクレオベースがクリック反応のために構成されたアセチレン基で官能化された、ヌクレオシド
を含む、請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
前記組換え逆転写酵素が以下:
(a)前記DNAナノ構造体上のクリック反応のために構成されたN末端および/またはC末端の有機基;
(b)前記DNAナノ構造体上のクリック反応のために構成された非天然型、修飾型、または合成型のアミノ酸;
(c)前記DNAナノ構造体上のクリック反応のために構成されたN末端および/またはC末端のアジド基;および/または
(d)前記DNAナノ構造体および/またはRNAナノ構造体上のクリック反応のために構成された2-アミノ-6-アジドヘキサン酸(6-アジド-L-リジン)
を含む、請求項27に記載のシステム。
【請求項31】
前記生化学反応が以下:
(a)テンプレートとしてのDNAおよび基質としてのDNAヌクレオチドを使用してDNAポリメラーゼによって触媒される反応;および/または
(b)テンプレートとしてのRNAおよび基質としてのDNAヌクレオチドを使用して逆転写酵素によって触媒される反応
を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項32】
前記DNAヌクレオチドが、
(a)DNA/RNAヌクレオシドのポリリン酸塩;
(b)有機分子でタグ付けされたDNA/RNAヌクレオシドのポリリン酸塩;
(c)インターカレーターでタグ付けされたDNA/RNAヌクレオシドのポリリン酸塩;
(d)副溝結合剤でタグ付けされたDNA/RNAヌクレオシドのポリリン酸塩;および/または
(e)薬物分子でタグ付けされたDNA/RNAヌクレオシドのポリリン酸塩
を含み、
ここで、前記ポリリン酸塩は2またはそれを超えるリン酸単位を含む、請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
前記ポリリン酸塩が、以下:
(a)前記DNAナノ構造体に結合する1,8-ナフタルイミドでタグ付けされたDNAヌクレオシドの六リン酸塩;または
(b)前記DNAナノ構造体に結合する1,8-ナフタルイミドの誘導体でタグ付けされたDNAヌクレオシドの六リン酸塩
のうちの1つまたはその組み合わせである、請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
複数のナノギャップを含み、各ナノギャップが、電極対、酵素、ナノ構造体、および請求項1に記載の単一のナノギャップに関連する任意の特徴を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項35】
前記複数のナノギャップが、約100~約1億個のナノギャップ、好ましくは約10,000個とおよそ100万個との間のナノギャップのアレイを含む、請求項34に記載のシステム。
【請求項36】
前記核酸ナノ構造体が、ホリディジャンクション(HJ)、マルチアームジャンクション、ダブルクロスオーバー(DX)タイル、トリプルクロスオーバー(TX)タイル、並行クロスオーバー(PX)、テンセグリティ・トライアングル、シックスヘリックスバンドル、および一本鎖環状DNA、およびその組み合わせのオリガミモチーフ、ならびに二重鎖、ヘアピン、90°-キンク、キッシング-ループ、オープン型三方向ジャンクション、オープン型四方向ジャンクション、スタッキング型三方向ジャンクション、または三方向ループ、およびその組み合わせを有するDNAタイル様構造体を含むDNAナノ構造体からなる群より選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項37】
バイオポリマーを同定するか、特徴付けるか、配列決定するための方法であって、
(a)非伝導性基材を提供する工程;
(b)第1の電極および第2の電極を前記基材上に隣り合わせに配置することによってナノギャップを構築する工程;
(c)前記ナノギャップを架橋するのに十分な長さのナノ構造体を提供する工程であって、ここで、前記ナノ構造体が、デオキシリボ核酸(DNAナノ構造体)またはリボ核酸(RNAナノ構造体)のいずれかの核酸またはその組み合わせを含み、ここで、前記核酸の塩基が、いずれかの非天然型核酸塩基であるか、前記核酸が、非天然型核酸塩基と天然型核酸塩基との混合物を含む、工程;
(d)前記バイオポリマーと生化学反応を行う酵素を提供する工程;
(e)前記ナノ構造体の一方の端部を前記ナノギャップの前記第1の電極に付着させ、他方の端部を前記第2の電極に付着させ、ここで、前記ナノギャップは架橋されており、次いで、前記酵素を前記ナノ構造体に付着させるか;あるいは、前記酵素を前記ナノ構造体に付着させ、次いで、前記ナノ構造体を前記ナノギャップに付着させる工程;
(f)前記第1の電極と前記第2の電極との間のバイアス電圧を提供する工程;
(g)前記ナノ構造体に付着した前記酵素によって惹起されたコンフォメーション変化によって引き起こされる前記ナノ構造体内の歪みに起因する前記ナノ構造体を介した電流変動を記録するためのデバイスを提供する工程;ならびに
(h)前記バイオポリマーまたは前記バイオポリマーのサブユニットを特徴付けるか同定するために使用されるデータ解析用ソフトを提供する工程
を含む、方法。
【請求項38】
前記非伝導性基材が、ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、ガラス、二酸化ハフニウム、別の金属酸化物、任意の非伝導性ポリマー薄膜、酸化ケイ素または窒化ケイ素または別の非伝導性コーティングを有するケイ素、窒化ケイ素コーティングを有するガラス、別の非伝導性有機材料、任意の非伝導性無機材料、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記バイオポリマーが、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、ポリサッカリド、前記バイオポリマーのうちのいずれかの天然型、改変型、または合成型のいずれか、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記酵素が、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、DNAヘリカーゼ、DNAリガーゼ、DNAエキソヌクレアーゼ、逆転写酵素、RNAプライマーゼ、リボソーム、スクラーゼ、ラクターゼ、前記酵素のうちのいずれかの未変性のもの、変異されたもの、発現されたもの、または合成されたもののいずれか、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記酵素が、T7 DNAポリメラーゼ、Tagポリメラーゼ、DNAポリメラーゼY、DNAポリメラーゼPol I、Pol II、Pol III、Pol IV、およびPol V、Pol α(アルファ)、Pol β(ベータ)、Pol σ(シグマ)、Pol λ(ラムダ)、Pol δ(デルタ)、Pol ε(イプシロン)、Pol μ(ミュー)、Pol Ι(イオタ)、Pol κ(カッパ)、pol η(イータ)、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ、テロメラーゼ、前記酵素のうちのいずれかの未変性のもの、変異されたもの、発現されたもの、または合成されたもののいずれか、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記DNAポリメラーゼが、未変性のもの、変異されたもの、発現されたもの、または合成されたもののいずれかのφ29DNAポリメラーゼである、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記ナノギャップを形成する2つの電極が、約3nm~約1000nmの距離で分離されており;
ここで、前記電極の端部が、幅約3nm~約1000nmおよび深さ約2nm~約1000nmの実質的に矩形の表面を有する、請求項37に記載の方法。
【請求項44】
前記ナノギャップを形成する2つの電極が、約5nm~約50nmの距離で分離されており;
ここで、前記電極の端部が、幅約10nm~約30nmおよび深さ約5nm~約20nmの実質的に矩形の表面を有する、請求項37に記載の方法。
【請求項45】
前記電極が、以下:
e)チオール、アミン、セレノール、および別の有機官能基と反応することができる金属電極;
f)係留分子と反応して共有結合を形成することができる自己組織化単分子膜によって表面上で官能化され得る金属電極;
g)前記係留分子と反応して共有結合を形成することができるシランで官能化され得る金属酸化物電極;または
h)前記係留分子と反応して共有結合を形成することができる有機試薬で官能化され得る炭素電極
を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項46】
前記電極および前記基材を、前記ナノギャップに面する端部表面を除いて絶縁層で不動態化する工程をさらに含む、請求項37に記載の方法。
【請求項47】
前記絶縁層が、不活性化学物質の単分子膜または多分子層を含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記不活性化学物質が、金属表面の不動態化のための11-メルカプトウンデシル-ヘキサエチレングリコール(CR-1)、ならびに基材表面の不動態化のためのアミノプロピルトリエトキシシラン(aminopropyltriethoxysaline)(CR-2)およびN-ヒドロキシスクシンイミジル2-(ω-O-メトキシ-ヘキサエチレングリコール)アセタート(CR-3)を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記非天然型核酸塩基が、以下:
(a)ハチモジ核酸塩基;
(b)サイズを拡大したヌクレオベース;
(c)非水素結合ヌクレオベース;および
(d)ユニバーサル塩基
のうちの1つまたはその組み合わせを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項50】
前記核酸ナノ構造体が、以下:
(a)対合されなかったか対合しない核酸塩基;および
(b)有機超伝導体
のうちの1つまたはその組み合わせを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項51】
前記核酸ナノ構造体が、直鎖状もしくは環状のDNA(DNAナノ構造体)、または直鎖状もしくは環状のRNA(RNAナノ構造体)、またはその組み合わせのいずれかから自己組織化する、請求項37に記載の方法。
【請求項52】
前記核酸ナノ構造体が、以下:
(d)らせん型または非らせん型のいずれかの直鎖状DNA二重鎖構造体、直鎖状RNA二重鎖構造体、直鎖状核酸分子ワイヤ、またはその組み合わせが含まれるが、これらに限定されない実質的に一次元の幾何学的配置;
(e)実質的に矩形の構造体、実質的に正方形の構造体、実質的に三角形の構造体、実質的に円形の構造体、またはその組み合わせが含まれるが、これらに限定されない実質的に二次元の幾何学的配置;および
(f)実質的に円柱形の構造体、実質的に中空管の構造体、実質的に柱形様の構造体、実質的に束ねた柱様の構造体を含む幾何学的配置、実質的にスタッキングされた二次元構造体を含む幾何学的配置、実質的に折りたたまれたオリガミ様構造体を含む幾何学的配置、またはその組み合わせが含まれるが、これらに限定されない実質的に三次元の幾何学的配置
の構成のうちの1つまたはその組み合わせを有する、請求項37に記載の方法。
【請求項53】
前記ナノ構造体が以下:
a.アミド結合、グアニジニウム結合、またはトリアゾール結合を含む非リン酸骨格;
b.糖修飾されたヌクレオシドまたはヌクレオシドアナログ;
c.ヌクレオベース修飾されたヌクレオシドまたはヌクレオシドアナログ;および/または
d.ヌクレオベースアナログ
を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項54】
前記ナノ構造体が以下:
a.電極に付着するように構成された官能基;および/または
b.前記酵素を固定するように構成された官能基
を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項55】
前記電極に付着するように構成された官能基が、以下:
(a)ヌクレオシドの糖環上のチオール;
(b)ヌクレオシドのヌクレオベース上のチオールおよびセレノール;
(c)ヌクレオシド上の脂肪族アミン;および/または
(d)ヌクレオシド上のカテコール;
(e)RXHまたはRXXRであって、式中、Rは、脂肪族または芳香族の基であり;Xはカルコゲンであり、SおよびSeが好ましい、RXHまたはRXXR;
(f)塩基カルコゲン化ヌクレオシド
を含み、
前記酵素を固定するように構成された官能基が、以下:
(a)化学合成または酵素合成によってDNAおよびRNAに組み込まれるアミン官能化ヌクレオシド;
(b)化学合成または酵素合成によってDNAおよびRNAに組み込まれるシクロオクチンおよび/または誘導体で官能化されたヌクレオシド;および/または
(c)化学合成または酵素合成によってDNAおよびRNAに組み込まれるカテコール官能化ヌクレオシド
を含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記係留分子が、以下:
(a)多価結合を介して金属表面と相互作用するように構成された分子;
(b)三価結合を介して金属表面と反応するように構成されたトライポッド構造体;および
(c)テトラフェニルメタンコアから構成される分子であって、ここで、そのフェニル環のうちの3つが、-CHSHおよび-CHSeHで官能化されており、第4のフェニル環が、アジド、カルボン酸、ボロン酸、および/またはDNAおよび/またはRNAナノ構造体に組み込まれた官能基と反応するように構成された有機基で官能化されている、分子
のうちの1つまたはその組み合わせを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項57】
前記係留分子が、以下:
(a)N-複素環カルベン(NHC);
(b)溶液中で電気化学的方法によってカソード電極に選択的に堆積されるように構成された金属錯体中のN-複素環カルベン(NHC);
(c)有機溶液および/または水溶液中で両方の金属電極上に堆積されるように構成されたN-複素環カルベン(NHC);および
(d)アミン、カルボン酸、チオール、ボロン酸、および/または付着するように構成された任意の有機基を含む官能基を含むN-複素環カルベン(NHC)
のうちの1つまたはその組み合わせを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項58】
前記金属錯体が、Au、Pd、Pt、Cu、Ag、Ti、および/または別の遷移金属を含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記核酸ナノ構造体を支持し、かつ安定化するために前記ナノギャップの底部に固定されるように構成されたタンパク質を提供する工程をさらに含む、請求項37に記載の方法。
【請求項60】
前記ナノギャップの非伝導性底部を、タンパク質を固定するための化学試薬で官能化する工程をさらに含み、ここで、前記化学試薬が、
(g)酸化物表面と反応するように構成されたシラン;
(h)酸化物表面と反応するように構成されたシラトラン;
(i)シラトランおよび官能基を含むマルチアームリンカー;
(j)アダマンタンコアを含む4アームリンカー;
(k)2つのシラトランおよび2つのビオチン部分を含む4アームリンカー;および/または
(l)アダマンタンコアならびにシラトランおよび有機官能基を含む4アームリンカー
を含む、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記タンパク質が、抗体、受容体、アプタマー、およびその組み合わせからなる群より選択される、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記タンパク質がストレプトアビジンまたはアビジンであり、前記核酸ナノ構造体がビオチンで官能化されている、請求項59に記載の方法。
【請求項63】
前記酵素が、前記ナノ構造体に付着されるように構成された直交性官能基を有する組換えDNAポリメラーゼまたは組換え逆転写酵素である、請求項37に記載の方法。
【請求項64】
前記組換えDNAポリメラーゼが以下:
(a)前記DNAナノ構造体上のクリック反応のために構成されたN末端および/またはC末端の有機基;
(b)前記DNAナノ構造体上のクリック反応のために構成された非天然型、修飾型、または合成型のアミノ酸;
(c)前記DNAナノ構造体上のクリック反応のために構成されたN末端および/またはC末端のアジド基;および/または
(d)前記DNAナノ構造体および/またはRNAナノ構造体上のクリック反応のために構成された2-アミノ-6-アジドヘキサン酸(6-アジド-L-リジン)
を含む、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記核酸ナノ構造体が以下:
(a)ヌクレオシドであって、その糖環またはヌクレオベースがクリック反応のために構成された有機基で官能化された、ヌクレオシド;および/または
(b)ヌクレオシドであって、その糖環またはヌクレオベースがクリック反応のために構成されたアセチレン基で官能化された、ヌクレオシド
を含む、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記組換え逆転写酵素が以下:
(a)前記DNAナノ構造体上のクリック反応のために構成されたN末端および/またはC末端の有機基;
(b)前記DNAナノ構造体上のクリック反応のために構成された非天然型、修飾型、または合成型のアミノ酸;
(c)前記DNAナノ構造体上のクリック反応のために構成されたN末端および/またはC末端のアジド基;および/または
(d)前記DNAナノ構造体および/またはRNAナノ構造体上のクリック反応のために構成された2-アミノ-6-アジドヘキサン酸(6-アジド-L-リジン)
を含む、請求項63に記載の方法。
【請求項67】
前記生化学反応が以下:
(a)テンプレートとしてのDNAおよび基質としてのDNAヌクレオチドを使用してDNAポリメラーゼによって触媒される反応;および/または
(b)テンプレートとしてのRNAおよび基質としてのDNAヌクレオチドを使用して逆転写酵素によって触媒される反応
を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項68】
前記DNAヌクレオチドが、
(a)DNA/RNAヌクレオシドのポリリン酸塩;
(b)有機分子でタグ付けされたDNA/RNAヌクレオシドのポリリン酸塩;
(c)インターカレーターでタグ付けされたDNA/RNAヌクレオシドのポリリン酸塩;
(d)副溝結合剤でタグ付けされたDNA/RNAヌクレオシドのポリリン酸塩;および/または
(e)薬物分子でタグ付けされたDNA/RNAヌクレオシドのポリリン酸塩
を含み、
ここで、前記ポリリン酸塩は2またはそれを超えるリン酸単位を含む、
請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記ポリリン酸塩が、以下:
(c)前記DNAナノ構造体に結合する1,8-ナフタルイミドでタグ付けされたDNAヌクレオシドの六リン酸塩;および
(d)前記DNAナノ構造体に結合する1,8-ナフタルイミドの誘導体でタグ付けされたDNAヌクレオシドの六リン酸塩
のうちの1つまたはその組み合わせである、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記核酸ナノ構造体が、ホリディジャンクション(HJ)、マルチアームジャンクション、ダブルクロスオーバー(DX)タイル、トリプルクロスオーバー(TX)タイル、並行クロスオーバー(PX)、テンセグリティ・トライアングル、シックスヘリックスバンドル、および一本鎖環状DNA、またはその組み合わせのオリガミモチーフ、ならびに二重鎖、ヘアピン、90°-キンク、キッシング-ループ、オープン型三方向ジャンクション、オープン型四方向ジャンクション、スタッキング型三方向ジャンクション、または三方向ループ、またはその組み合わせを有するDNAタイル様構造体を含むDNAナノ構造体からなる群より選択される、請求項37に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電子信号を用いたバイオポリマーの配列決定または同定のためのシステム、方法、デバイス、および組成物に関する。より具体的には、本開示は、酵素活性(複製が含まれる)に電子的に基づいてバイオポリマーを検出するためのシステムの構築を教示する実施形態を含む。本発明のバイオポリマーには、天然型または合成型のいずれかのDNA、RNA、DNAオリゴ、タンパク質、ペプチド、ポリサッカリドなどが含まれるが、これらに限定されない。酵素には、天然型、変異型、または合成型のいずれかのDNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、DNAヘリカーゼ、DNAリガーゼ、DNAエキソヌクレアーゼ、逆転写酵素、RNAプライマーゼ、リボソーム、スクラーゼ、ラクターゼなどが含まれるが、これらに限定されない。以下において、主にDNAポリメラーゼおよびDNAポリメラーゼを考察し、本発明の概念を説明するために使用する。
【背景技術】
【0002】
酵素合成によるDNA配列決定は、サンガーのDNA鎖伸長停止法まで遡ることができ、この方法は、標的配列のin vitro複製中にDNAポリメラーゼによってDNAにジデオキシヌクレオチドを選択的に組み込むというものである1,2。この酵素アプローチは、ハイスループットまたはリアルタイムの次世代配列決定(NGS)に発展している3,4。NGSはヒトゲノムの配列決定にかかるコストを1000ドルの範囲まで削減したが、最近のデータではこのコスト削減は下限に達している(https://www.genome.gov/27565109/the-cost-of-sequencing-a-human-genome)。制限因子の1つとしては、NGSが精巧な機器を必要とする光学的なシグナル検出に依存しており、この機器はかさ高く、かつ高価であることが挙げられる。
【0003】
ポリメラーゼによるDNA合成の電気的読み取りはラベルフリー検出によって後押しされ、ゲノム配列決定で使用されるプラットフォームにまで進展している。近年の進歩は、電気的アプローチがMinlONシークエンサー(www.nanoporetech.com)などの携帯型デバイスで有り得、このデバイスは、DNA配列決定のためにタンパク質ナノポアを通過したイオン電流の変化を測定し、ナノポアを通過するDNAのトランスロケーションの制御にDNAヘリカーゼを使用することを示す。しかしながら、タンパク質ナノポアによる配列決定は、低い精度でしか実現できていない(1回の読み取りで85%)。Gundlachおよびその同僚らは、Mycobacterium smegmatisポーリンA(MspAとして公知)から構成されるタンパク質ナノポアにおけるイオン電流の遮断が4つのヌクレオチド(クアドロマー)の収集された事象であって、したがって4(すなわち、256)種類のクアドロマーが存在する可能性があり、このことが、かなりの数の冗長な電流レベルを発揮することを実証した9,10。イオン電流がナノポアの内側の範囲を超えるヌクレオチドに影響を受けるので11、配列決定のための原子レベルの薄さのナノポアでは、単一ヌクレオチドの解像度を達成できるとは考えられないかもしれない。
【0004】
Collinsおよびその同僚らは、DNA合成をモニタリングするためのDNAポリメラーゼIのクレノウ断片が係留された単層カーボンナノチューブ(SWCNT)電界効果トランジスタ(FET)デバイスが報告されている12,13。この方法では、ヌクレオチドがDNA鎖に組み込まれたときに、平均ベースライン電流未満のΔI(t)の短期間の逸脱が記録された。酵素によって異なるヌクレオチドが組み込まれることによりΔIが変化する。この方法を、DNAの配列決定に使用できる可能性がある。カーボンナノチューブは、六角格子に固定されたたった1層の炭素原子から作製された材料である。剛性の化学構造のために、その感知は、主に、タンパク質付着部位付近の荷電側鎖の静電気的なゲーティングの挙動に依存し得る。しかしながら、デバイスに使用されるカーボンナノチューブの長さは0.5~1.0μmであり14、単一のタンパク質分子をデバイス上に再現可能にマウントすることは困難である。先行技術の発明(WO2017/024049号)は、DNA配列決定のためのナノスケールの電界効果トランジスタ(nanoFET)を権利主張しており、前述のトランジスタは、DNAポリメラーゼが固定されており、そのヌクレオチド出口領域が、組み込まれたヌクレオチドを識別するために標識されたポリリン酸を有するヌクレオチド組を有するカーボンナノチューブゲートに配向されている(図1)。
【0005】
別の発明(US2017/0044605号)は、2つの個別の電極を架橋するバイオポリマー上に固定されたポリメラーゼを使用してDNAおよびRNAを配列決定するための電子センサデバイスを権利主張している(図2)。また、回路を完成させるために単一の酵素を陽極および陰極の両方に直接配線することができ、その結果、全ての電流が分子を流れるはずである(US2018/0305727号、WO2018/208505号)。それにもかかわらず、酵素は、電極に対して2つを超える接続点を有し得る。
【0006】
固有の塩基スタッキング構造のために、DNAを、電荷移動(CT)のための微細な分子ワイヤにするので、DNAは分子エレクトロニクスにおいて多くの注目を集めている。また、DNAの配列および長さはプログラム可能であり、エラーのない自己組織化したナノ構造体(DNAオリガミ(DNA origami)など)を形成することができ、高価な微細加工技術を必要としないので、ナノスケールの集積回路の理想的な候補となる。この10年間で、ナノ構造体の構築のための核酸(DNAおよびRNA)のプログラミングされた自己組織化が開発されている15,16。一般に、複雑なDNAナノ構造体は、ホリディジャンクション(Holliday junction)17,18、マルチアームジャンクション(multi-arm junction)19、ダブル(DX)およびトリプルクロスオーバー(TX)タイル20,21、並行クロスオーバー(paranemic crossover))(PX)22、テンセグリティ・トライアングル(tensegrity triangle)23、シックスヘリックスバンドル(six-helix bundle)24、および一本鎖環状DNAまたはDNAオリガミなどの分子モチーフから出発して組み立てられる(図325。これらのDNAモチーフを用いて、種々のサイズおよび形状の調整可能なナノ構造体を容易に構築することができる。DNAナノ構造体は、カーボンナノチューブより剛性が低いが、DNA二重鎖または分子ワイヤよりも剛性が高い。また、DNAナノ構造体を、DNA二重鎖と同様に官能化することができる。DNAナノ構造体は、所望の伝導率、電流変動、または他の電気的性質を有するように設計された構造を有する電子バイオセンサの構築のための固有のブレッドボードを提供する。10×60nmのTXタイルナノ構造体は、相対湿度90%の45~55nmのナノギャップ内のコンダクタンスの測定値は約70pSであった26。したがって、DNAナノ構造体によって架橋されたナノギャップを使用して、分子の電子的検出または同定のためのナノバイオデバイスを構築することができる。DNAナノ構造体の伝導率をその配列、構成、および構造力学によって調整することができると考えられる。同様に、RNAナノ構造体は、RNAモチーフ(図4)を用いた自己組織化によって構築される27,28。RNAは、DNAと比較して構造および機能がさらに一層多用途であり、その二重鎖はDNA対応物より熱力学的に安定である。したがって、RNAナノ構造体は、対応するDNAナノ構造体の代替物であり得る。RNAが電子移動を媒介することもできることが実証されている29
【0007】
標準的なヌクレオベースを超えるDNAをプログラミングするために、最近、Steven Bennerおよびその同僚らは、ハチモジシステム(Hachimoji system)と呼ばれる8ヌクレオチドDNA/RNA遺伝子システムを作出した56。4つの天然に存在するDNAヌクレオチドA、C、G、およびTに加えて、Steven Bennerらは、さらに4つの非天然型DNAヌクレオチドP、B、S、Zを作製した。前述のヌクレオチドにおいて、G:C対およびA:T対と同様にPはZと対合し(P:Z)、BはSと対合し(B:S)、ここで、PおよびBはプリンアナログであり、ZおよびSはピリミジンアナログであり、Pは2-アミノ-8-(1’-β-D-2’-デオキシリボフラノシル)-イミダゾ-[1,2a]-1,3,5-トリアジン-[8H]-4-オンであり、Bは6-アミノ-9[(1’-β-D-2’-デオキシリボフラノシル)-4-ヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)-オキソラン-2-イル]-1H-プリン-2-オンであり、Sは3-メチル-6-アミノ-5-(1’-β-D-2’-デオキシリボフラノシル)-ピリミジン-2-オンであり、Zは6-アミノ-3-(1’-β-D-2’-デオキシリボフラノシル)-5-ニトロ-1H-ピリジン-2-オンである(図5および参考文献番号56を参照のこと)。これらの新規のヌクレオチドは、4つの天然型ヌクレオチドに類似の二重らせんを形成することができ、これらを混合して8種の塩基GACTZPSBを有するDNA二重らせんを形成することもでき、これをDNAポリメラーゼによって複製することができる。天然型DNAでは、G:C対は3つの水素結合を有するが、A:T対は2つの水素結合のみを有する。対照的に、P:Z対およびB:S対は両方とも3つの水素結合を有し(図5)、そのため、これらの非天然型塩基を用いて形成されたDNA二重鎖は、天然型DNAを用いて形成されたDNA二重鎖より安定かつ伝導性が高いと予想することができる。非天然型ヌクレオチドから作製されたRNAについても同じことが言え、4つのDNA塩基PBSZ(P:2-アミノ-8-(1’-β-D-リボフラノシル)-イミダゾ-[1,2a]-1,3,5-トリアジン-[8H]-4-オン、B:6-アミノ-9[(1’-β-D-リボフラノシル)-4-ヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)-オキソラン-2-イル]-1H-プリン-2-オン、S:2-アミノ-1-(1’-β-D-リボフラノシル)-4(1H)-ピリミジノン、およびZ:6-アミノ-3-(1’-β-D-リボフラノシル)-5-ニトロ-1H-ピリジン-2-オン、ここで、Sは天然型RNAにおけるUに似ている)がRNA塩基になる(参考文献番号56を参照のこと)。
【0008】
最近の研究において、溶液中のDNAポリメラーゼIはPXモチーフに結合した場合のKが約220nMであり、DXモチーフに結合した場合のKが約13μMであることが報告されている30。それにもかかわらず、PXモチーフは、ポリメラーゼ伸長のための基質として機能することができなかった。DNA配列決定のために、φ29DNAポリメラーゼは、種々のプラットフォームで使用される酵素である9,31,32。アミノ酸配列の類似性および特異的な阻害剤に対するその感受性に基づいて、φ29DNAポリメラーゼは、DNA依存性DNAポリメラーゼの真核生物タイプファミリーBに属する33。任意の他のDNAポリメラーゼのように、φ29DNAポリメラーゼは、伸長中のDNA鎖の3’-OH基上にdNMP単位をテンプレートに方向づけて逐次的に付加し、ミスマッチしたdNMP挿入を10~10倍区別できる34。さらに、φ29DNAポリメラーゼは、3’-5’エキソヌクレオリシス(すなわち、ミスマッチしたプライマー-末端が優先的に分解されるDNA鎖の3’末端からのdNMP単位の放出)を触媒し、複製忠実度をさらに向上させる35~37。φ29DNAポリメラーゼのプルーフリーディング活性、鎖置換、および処理能力は、その固有の構造に起因し得る(図638~40
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際出願第2017/024049号
【特許文献2】国際出願第2018/208505号
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1-1】図1は、DNA配列決定のための先行技術のナノスケールの電界効果トランジスタ(nanoFET)および識別可能な荷電伝導性標識を保有するヌクレオチドアナログの例示的なセットである。
図1-2】図1は、DNA配列決定のための先行技術のナノスケールの電界効果トランジスタ(nanoFET)および識別可能な荷電伝導性標識を保有するヌクレオチドアナログの例示的なセットである。
【0011】
図2-1】図2は、DNAポリメラーゼを電極に接続するためのバイオポリマーを使用する先行技術である。
図2-2】図2は、DNAポリメラーゼを電極に接続するためのバイオポリマーを使用する先行技術である。
【0012】
図3図3は、DNAナノ構造体の構築のための例示的なDNAモチーフである。
【0013】
図4図4は、RNAナノ構造体の構築のための例示的なRNAモチーフである。
【0014】
図5図5は、ハチモジが水素結合した塩基対のDFTモデルならびにHOMOエネルギーおよびLUMOエネルギーの計算値である。
【0015】
図6図6は、φ29DNAポリメラーゼのドメイン構成のリボン図である。
【0016】
図7図7は、核酸ベースの分子ワイヤの構築のための人工ヌクレオベースの構造体である。
【0017】
図8図8は、単一分子のDNA配列決定デバイスの概要図である。
【0018】
図9図9は、DNAポリメラーゼのコンフォメーション変化を伴うヌクレオチドの結合および組み込みの動態機序である。
【0019】
図10図10は、不動態化基材、不動態化ナノワイヤ、およびナノギャップ領域内の酸化ケイ素露出表面を有するナノギャップの作製プロセスの図である。
【0020】
図11図11は、金属電極に付着させるためにDNAナノ構造体の末端に使用した5’-メルカプト-ヌクレオシドの化学構造である。
【0021】
図12図12は、塩基カルコゲン化ヌクレオシドの化学構造である。
【0022】
図13図13は、(a)金属電極へのDNAナノ構造体の付着のためのアンカーとしてカルボキシル官能基を含むトライポッド;(b)ヌクレオシドの各ヌクレオベースにアミノ官能基を含むヌクレオシドの化学構造である。
【0023】
図14図14は、ヌクレオベースカルコゲン化ヌクレオシドの化学構造である。
【0024】
図15図15は、ヌクレオベースカルコゲン化ヌクレオシドの化学構造である。
【0025】
図16図16は、N-複素環カルベンを使用したナノギャップの電極(カソード)の電気化学的官能化である。
【0026】
図17図17は、DNAタイルを電極に付着させるためのナノギャップ内のストレプトアビジン上のDNAタイルの固定を示す概要図である。
【0027】
図18図18は、(a)2つのビオチンおよび2つのシラトラン官能基を含む4アームリンカーの化学構造;(b)分子力学計算によるその3D構造である。
【0028】
図19図19は、ビオチン化ヌクレオシドの化学構造である。
【0029】
図20図20は、277位および479位にp-アジドフェニルアラニンを含み、その2つの末端に2つのタグを有するφ29DNAポリメラーゼの変異体ならびに277位および479位にp-アジドフェニルアラニンを含む変異体。Protein Data Bank(PDB ID:1 XHX)38の未変性の構造体を採用しているである。
【0030】
図21図21は、ペプチドをφ29DNAポリメラーゼの末端に付着させるプロセスである。
【0031】
図22図22は、プライマー-テンプレートDNAおよび入来ヌクレオチド基質と複合体化したφ29DNAポリメラーゼの結晶構造(PDB ID:2PYL)である。
【0032】
図23図23は、アセチレンを含むヌクレオシドの化学構造である。
【0033】
図24図24は、DNAインターカレーターでタグ付けされたヌクレオシド六リン酸の化学構造である。
【0034】
図25図25は、直接RNA配列決定のための単一分子デバイスの概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、バイオポリマーの配列決定または同定のためのナノ構造体デバイスおよび方法を提供する。本開示は、種々の実施形態の説明を通して本発明を実証するために単一のDNA分子の配列決定を使用する。また、本発明は、異なる実施形態において種々の代表的なデバイス、装置、および方法の具体的な技術的詳細を提供しているが、これらは説明のみを目的とし、物理的な寸法および配置、化学的な組成および構造、処理の手順およびパラメーター、または任意の他の適用可能な条件を制限することを意図せず、本出願の範囲を決して制限するものではない。
【0036】
1つの実施形態では、図8に示すように、10~20nmのナノギャップを、半導体ナノファブリケーションテクノロジーによって、2つの電極間に作製し、これらの電極は、周囲が非特異的吸着を防止するための不活性化学物質で不動態化されており、ナノギャップの内部領域が化学反応のために露出されている。DNAタイル構造は、ナノギャップを架橋するために電極に係留されており、DNAタイル構造上にDNAポリメラーゼ(例えば、φ29DNAポリメラーゼ)が固定されている。配列決定のために、標的DNA(テンプレート)がデバイス内で複製される。複製プロセス中に、ヌクレオチドが、DNAポリメラーゼによって伸長中のDNA鎖に組み込まれる。機械的には、ヌクレオチドの組み込みは、ポリメラーゼのコンフォメーション変化が伴う(図941。ポリメラーゼがDNAタイルに直接付着するので、コンフォメーション変化がタイルの構造を妨害し、それによって電流の変動が起こり、この変動を異なるヌクレオチドの組み込みを同定するためのシグネチャとして使用する。
【0037】
いくつかの実施形態では、本発明は、2つの電極の間に3nm~1000nm、好ましくは5nm~100nm、より好ましくは10nm~30nmの範囲のサイズのナノギャップを作製する方法を提供する。第1に、本発明は、電子ビームリソグラフィ(EBL)を使用して、非伝導性基材の上部に金属ナノワイヤ(Au(金)、Pd(パラジウム)、およびPt(白金)のナノワイヤなど)を生成する。例えば、図10に示すように、1000×10×10nm(長さ×幅×高さ)の寸法の金ナノワイヤ(3)を、EBLによって酸化ケイ素(SiO)基材(1)上または窒化ケイ素(Si)の層でコーティングしたケイ素基材上に作製し、標準的なフォトリソグラフィ技術によって大型の金属接点パッド(2)に接続する。ナノワイヤの長さは、100nm~100μm、好ましくは1μm~10μmであり;幅は、5nm~100nm、好ましくは10nm~30nmであり;高さ(厚さ)は、3nm~100nm、好ましくは5nm~20nmである。また、ナノワイヤのアレイを、ナノインプリンティング42または他のナノファブリケーション技術によって作製することができる。その後に、金属表面を11-メルカプトウンデシル-ヘキサエチレングリコール(CR-1)43との反応によって不動態化して単分子膜を形成させ、酸化ケイ素表面を、アミノプロピルトリエトキシシラン(aminopropyltriethoxysaline)(CR-2)で最初に処理し、その後にN-ヒドロキシスクシンイミジル2-(ω-O-メトキシ-ヘキサエチレングリコール)アセタート(CR-3)と反応させる。最後に、不動態化したナノワイヤをEBLまたはヘリウム収束イオンビームミリング(He-FIB)44によって切断して10~20nmのナノギャップを生成し、切断領域内の酸化ケイ素および電極の側壁を露出させる。あるいは、ナノワイヤまたは複数のナノワイヤを、不動態化の代わりに絶縁薄層で被覆するか、絶縁薄層で被覆した後に不動態化することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、DNAナノ構造体を使用して、ナノギャップを架橋する。図8に示すように、10nmのナノギャップを4鎖DNAタイルによって架橋する45。自己組織化によって溶液中で異なる形状およびサイズを有するDNAナノ構造体を形成させる方法は多数存在する46~48
【0039】
1つの実施形態では、非天然型DNA塩基(PBSZ)を使用して、ナノギャップを架橋するナノ構造体を構築する。G/C塩基を有する二重らせんDNAがAおよびTヌクレオチドのみを含むものよりも良好な導体であることが周知である。グアニン塩基の容易な酸化により、電荷担体(ホール)を作製することが可能である。DNAを介した電荷輸送は、塩基の最高被占分子軌道(HOMO)を介したホール輸送に支配されると考えられ、これは、これらの軌道が塩基の最低空分子軌道(LUMO)よりも電極のフェルミ準位に近いからである57図5に示すように、非天然型の塩基対Z:Pは、そのエネルギーがA:T塩基対のエネルギーより高いHOMOを有し、塩基対S:Bは、そのエネルギーがG:C塩基対のエネルギーより高いHOMOを有する。したがって、これらの非天然型塩基対から構成されるDNA分子の伝導率は、天然型塩基対から構成されるDNA分子より高い。
【0040】
1つの実施形態では、非天然型DNA塩基(PBSZ)を使用して、ナノギャップを架橋する伝導性線状分子ワイヤを構築する。線状分子ワイヤは、簡潔ならせんDNA二重鎖(二本鎖DNA)から作製される。線状分子ワイヤは、ポリメラーゼまたは他の酵素を付着または接続するための修飾型ヌクレオチド(複数可)を含み得る。分子ワイヤの構築に非天然型DNA塩基を使用することの1つの利点は、その伝導率がより高い可能性があることである。
【0041】
1つの実施形態では、非天然型DNA塩基(PBSZ)を、二次元または三次元のいずれかで、分離不可能な単一構造または分離可能な多重構造の複合体のいずれかのより複雑な伝導性分子ナノ構造体の構築において使用する。
【0042】
別の実施形態では、非天然型DNA塩基(PBSZ)を天然型塩基(ACGT)と混合して、簡潔な線状伝導性分子ワイヤ、または二次元もしくは三次元のいずれかで、分離不可能な単一構造もしくは分離可能な多重構造の複合体のいずれかのナノギャップを架橋するより複雑な伝導性分子ナノ構造体のいずれかを構築する。例えば、HOMOエネルギーが高いという特徴を活用するために天然型C:G対+非天然型S:B対を使用してDNAナノ構造体を構築することができ;さらに、DNAナノ構造体の望ましい構造変化を誘導するための比較的弱い塩基対合エネルギー状態を使用するために、天然型A:T対を含めて6ヌクレオチドDNAナノ構造体を形成することができる。別の例は、より複雑な(より調整可能であるか、高精度の配列決定を達成する可能性が高まることを意味する)8ヌクレオチドDNAナノ構造体を形成することである。
【0043】
いくつかの実施形態では、本発明は、核酸ベースの分子ワイヤ(かならずしもらせん型ではない)を形成するための非天然型のサイズが拡大された核塩基を提供する(図758。天然に存在するヌクレオベースと比較して、これらのサイズが拡大された塩基は、より大きなπ共役を有し、それにより良好なヌクレオベーススタッキングを提供し、より効率的な電荷輸送をもたらす。
【0044】
いくつかの実施形態では、本発明は、核酸ベースの分子ワイヤの一部としての非水素結合ヌクレオベースを提供する(図7)。これらのヌクレオベースはその周囲の変化に対する感度がより高く、分子ワイヤを生物検知または化学検知により感受性にする。
【0045】
1つの実施形態では、本発明は、これらのヌクレオベースのうちのいずれかと無差別に塩基対合することができるユニバーサル塩基としてピレン(Py、図7)を使用する。その大きなπ共役のために、伝導率を増加させるために水素結合ヌクレオベースの代わりにピレンを分子ワイヤに挿入することができる。
【0046】
1つの実施形態では、バイオポリマーの配列決定または同定に好ましい構造変化を達成するために、対合されなかったか対合しない核酸塩基(複数可)をDNAナノ構造体に挿入して、意図的に構造を不連続にすることができる。
【0047】
また、本発明は、前述のDNAナノ構造体を電極に付着させる方法を提供する。1つの実施形態では、図11に示すように、DNAナノ構造体は、その5’末端に5’-メルカプトヌクレオシドを保有し、その3’末端に3’-メルカプトヌクレオシドを保有する。ヌクレオシドは、デオキシリボヌクレオシド(R=H)およびリボヌクレオシド(R=OH)である。さらに、硫黄原子を、電子輸送のためのより良好なアンカーであり得るセレンに置換することができる49
【0048】
別の実施形態では、本発明は、DNAナノ構造体の末端をRXHおよびRXXR(式中、Rは、脂肪族または芳香族の基であり;Xはカルコゲンであり、SおよびSeが好ましい)で官能化する方法を提供する。
【0049】
いくつかの実施形態では、本発明は、電極へ付着させるためにDNAナノ構造体に組み込むことができる塩基カルコゲン化ヌクレオシドを提供する(図12)。ヌクレオベースを介してDNAを電極に接続すると糖部分を介した場合よりも電気的接触が効率的になることが実証されている50
【0050】
1つの実施形態では、本発明は、金属電極への付着のための係留原子としての硫黄(S)またはセレン(Se)のいずれかおよびDNAナノ構造体の付着のためのカルボキシル基を有するテトラフェニルメタンを含むトライポッドアンカーを提供する(図13、a)。一方で、DNAナノ構造体の末端を、トライポッドへの付着のためのアミノ官能化ヌクレオシド(図13、b)で修飾する。
【0051】
また、本発明は、アジド-アルキンクリック反応を介して金属電極をDNAナノ構造体に付着することが可能なアジドで官能化された別のトライポッド(図14、a)を提供する。したがって、本発明は、DNAナノ構造体の末端を修飾するためのシクロオクチンで官能化されたヌクレオシド(図14、b)を提供する。
【0052】
また、本発明は、ボロン酸で官能化されたトライポッド(図15、a)およびDNAナノ構造体の末端を修飾するためのジオールで官能化されたヌクレオシド(図15、b)を提供する。したがって、以前の開示(米国仮特許出願第62/772,837号)に開示のように、DNAナノ構造体は、ボロン酸のジオールとの反応を介して金属電極に付着される。
【0053】
1つの実施形態では、本発明は、ナノギャップ内で2つの電極のうちの1つをN-複素環カルベン(NHC)で選択的に官能化する方法を提供する。図16に示すように、5-カルボキシ-1,3-ジイソプロピル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-カルベンは、溶液中でのその金属錯体の電気化学的還元によって金電極に堆積される51。NHCのカルボキシル基は、カルボキシル基が活性化エステルに変換されることによる係留点として使用される。したがって、アミンおよびチオールでそれぞれ官能化された末端を有するDNAナノ構造体は、NHC電極と反応するためのそのアミン官能化末端および、裸の金電極と直接反応するためのそのチオール官能化末端によってナノギャップに架橋する。
【0054】
本発明は、ナノ構造体がナノギャップの底部に接触することを防止する方法を提供する。図17に示すように、単一のストレプトアビジン分子を、ビオチン化DNAタイルをストレプトアビジンに接続することができるように、ビオチン化4アームリンカーを介してナノギャップに固定し、次いで、上記の方法のうちの1つによって電極に付着させる。また、本発明は、4アームリンカーであって、ストレプトアビジンの固定のために、そのうちの2つのアームがビオチンで官能化されており、他の2つがシラトランで官能化されている、4アームリンカー(図18、a)を提供する。4アームリンカーは、分子力学計算によると四面体の幾何学的配置を有するようである(図18、b)。2つのビオチン部分は、ストレプトアビジンと相互作用して二価の複合体を形成する。ストレプトアビジン固定のために、シラトラン部分は、最初に酸化ケイ素と反応して4アームリンカーを表面上に固定し、その後にストレプトアビジンが表面に付加される。
【0055】
別の実施形態では、本発明は、DNAナノ構造体の構築のためにホスホルアミダイト化学を介してDNAに組み込むことができるビオチン化ヌクレオシドを提供する(図19)。
【0056】
いくつかの実施形態では、本発明は、DNAポリメラーゼをDNAナノ構造体に付着させる方法を提供する。本発明は、複数の特異的部位でDNAポリメラーゼの標準的なアミノ酸の代わりに非天然型アミノ酸(UAA)を用いるために多部位特異的変異誘発法52および遺伝暗号拡大技術53の両方を使用する。図20に示すように、W277(10)およびK479(11)の代わりにp-アジドフェニルアラニンを用いたφ29DNAポリメラーゼ変異体が発現される。UAA p-アジドフェニルアラニンを、クリック反応によるポリメラーゼ固定のための係留部位として使用し、aaRSは、その組み込みが容易になるように既に進化されている53,54。φ29DNAポリメラーゼ変異体は、N末端にMLVPRG(12)およびC末端にLPXTG-His6(13)のペプチド配列を有するようにさらに発現される。このような方法で、酵素のその2つの末端をペプチドで修飾することができる。図21は、ソルターゼAを使用して酵素にペプチドを付着させるプロセスを示す55。プライマー-テンプレートDNAおよび入来ヌクレオチド基質と複合体化したφ29DNAポリメラーゼの構造を観察することにより、タンパク質のC末端(14)がDNAに非常に近接していることが認められ(図22)、それにより、タンパク質中のDNAの任意の移動がDNAナノ構造体にドミノ効果を引き起こし、その結果として電流が変動し得ることが示唆され、これをDNAヌクレオチド組み込み事象のシグネチャとして使用することができる。したがって、DNAナノ構造体を微調整すれば単一塩基解像度を達成し得る。
【0057】
1つの実施形態では、本発明は、銅触媒の存在下でクリック反応を介してDNAポリメラーゼを付着するためのDNAナノ構造体を構築するためにDNAに組み込むことができるアセチレンを含むヌクレオシドを提供する(図23)。
【0058】
1つの実施形態では、本発明は、DNAナノ構造体と相互作用する異なるDNAインターカレーターでタグ付けされた修飾型ヌクレオチド(dN6P)を提供する(図24)。これらの修飾型ヌクレオチドを、DNA内にDNAヌクレオチドを組み込むためのDNAポリメラーゼの基質として使用する。第1に、DNAポリメラーゼは、標的DNAテンプレートおよびヌクレオシドポリリン酸塩と複合体を形成し、これはインターカレータータグのDNAナノ構造体との相互作用も安定化させる。ヌクレオチドが標的DNAに組み込まれた場合、ヌクレオチドはインターカレーターでタグ付けされた五リン酸塩を放出する。静電反発力がインターカレーターのDNAとの相互作用を不安定化するので、タグ付けされた五リン酸塩が溶液中に放出される。かかるプロセスは、DNAナノ構造体のコンダクタンスを変化させるであろう。各dN6Pが異なるインターカレーターを保有するので、異なるヌクレオチドが組み込まれると異なる電流変動が生じると考えられ、この電流変動をDNAに組み込まれたヌクレオチドを同定するために使用することができる。
【0059】
上記開示の実施形態における方法のほとんどは、RNA配列決定に適用される。1つの実施形態では、図25に示すように、再度操作されたモロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素(M-MLV RT)を、RNA逆転写のためにDNAタイルに固定する。ポリ(dT)でプライミングしたRNA標的がデバイスに導入されたとき、DNAヌクレオチドはポリ(dT)プライマーに組み込まれる。このプロセスでは、各組み込みによってポリメラーゼのコンフォメーションが変化し、それにより、電流が変動する。組み込みを継続すると一連の電気信号が記録され、解析プログラムを使用してこの記録からRNA配列を推定する。
総論:
本明細書中に記載の全ての刊行物、特許、および他の文書は、その全体が参考として援用される。
【0060】
別段の定義がない限り、本明細書中で使用した全ての技術用語および科学用語は、本発明に属する当業者によって一般的に理解されている意味を有する。本発明を種々の実施形態によって説明し、これらの実施形態がかなり詳細に説明されているが、出願人は本出願の範囲を制限することを意図してない。さらなる利点および修正点が当業者に明らかであろう。したがって、本発明は、そのより広い態様において、詳細な情報、代表的なデバイス、装置、および方法、ならびに表示および記載した例に制限されない。したがって、出願人の一般的な発明に関する概念の主旨を逸脱することなく、かかる詳細な情報から逸脱してよい。
参考文献
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【国際調査報告】