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特表2022-525193PRPF31遺伝子発現ノックダウンによる、インビトロで分化したヒト細胞の生存の改善
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  • 特表-PRPF31遺伝子発現ノックダウンによる、インビトロで分化したヒト細胞の生存の改善 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-11
(54)【発明の名称】PRPF31遺伝子発現ノックダウンによる、インビトロで分化したヒト細胞の生存の改善
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/34 20150101AFI20220428BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20220428BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20220428BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20220428BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220428BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220428BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
A61K35/34
C12N15/113 Z ZNA
C12N5/077
C12N5/078
C12N5/10
C12N15/63 Z
A61P9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021555433
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(85)【翻訳文提出日】2021-11-10
(86)【国際出願番号】 US2020022679
(87)【国際公開番号】W WO2020190739
(87)【国際公開日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】62/818,979
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517025822
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】マリー チャールズ イー.
(72)【発明者】
【氏名】デュプラ サラ
(72)【発明者】
【氏名】ラマッチア ジョン
(72)【発明者】
【氏名】フガテ ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】マクレラン ウィリアム ロブ
(72)【発明者】
【氏名】パボン リル
(72)【発明者】
【氏名】ティース スコット
(72)【発明者】
【氏名】土田 洋
(72)【発明者】
【氏名】タック ステファニー エイ.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC12
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZA40
(57)【要約】
インビトロで分化したヒト細胞の生存および生着を改善する方法、およびその方法に関連する組成物、ならびにそれらの使用が、本明細書において記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞からインビトロで分化したヒト細胞、およびプレmRNAプロセシング因子31 (PRPF31) のレベルまたは活性を低下させる作用物質を含む、組成物。
【請求項2】
幹細胞からインビトロで分化した細胞が心筋細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
幹細胞からインビトロで分化した細胞が中胚葉系列のものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
インビトロで分化した細胞が、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、腎細胞、内皮細胞、皮膚細胞、副腎皮質細胞、骨細胞、白血球、およびミクログリア細胞より選択される細胞型のものである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
インビトロで分化したヒト細胞が、人工多能性幹細胞 (iPSC) から、または胚性幹細胞から分化したものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
幹細胞が健常対象に由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
作用物質が、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
作用物質が、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
RNAi分子がSEQ ID NO: 1の核酸配列を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
レシピエントに移植するための移植用組成物であって、
PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させた、インビトロで分化したヒト心筋細胞、および
薬学的に許容される担体
を含む、前記移植用組成物。
【請求項12】
作用物質が、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターより選択される、請求項11に記載の移植用組成物。
【請求項13】
作用物質が、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする、請求項11に記載の移植用組成物。
【請求項14】
ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される、請求項12に記載の移植用組成物。
【請求項15】
RNAi分子がSEQ ID NO:1の核酸配列を含む、請求項13に記載の移植用組成物。
【請求項16】
インビトロで分化したヒト心筋細胞が、人工多能性幹細胞 (iPSC) から、または胚性幹細胞から分化したものである、請求項11に記載の移植用組成物。
【請求項17】
心筋細胞が、移植レシピエントに由来するiPSCから分化したものである、請求項11に記載の移植用組成物。
【請求項18】
インビトロで分化したヒト心筋細胞を移植する方法であって、
PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させた、インビトロで分化したヒト心筋細胞を、対象の心臓組織に移植する段階
を含む、前記方法。
【請求項19】
接触させた心筋細胞が、作用物質と接触させていない心筋細胞よりも大幅に、移植後に生存する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
対象が心筋梗塞に罹患している、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
作用物質が、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターである、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
作用物質が、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
RNAi分子がSEQ ID NO: 1の核酸配列を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
ヒト心筋細胞が、人工多能性幹細胞 (iPSC) から、または胚性幹細胞から分化したものである、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
iPSCが対象に由来する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
iPSCが健常ドナーに由来する、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
移植された、ヒトのインビトロで分化した心筋細胞の生存および/または生着を促進する方法であって、
ヒトのインビトロで分化した心筋細胞を、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させる段階、および
該細胞をその必要があるヒト対象の心臓組織に移植する段階
を含む、前記方法。
【請求項29】
対象が心筋梗塞に罹患している、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
作用物質が、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターである、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
作用物質が、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
RNAi分子がSEQ ID NO: 1の核酸配列を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
移植された中胚葉系細胞の生存および/または生着を促進する方法であって、
対象におけるPRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させるかまたはそれで処理した中胚葉系細胞を、その必要がある対象に投与する段階
を含む、前記方法。
【請求項35】
中胚葉由来細胞が、インビトロで分化した中胚葉系細胞である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
中胚葉系細胞が、iPS細胞または胚性幹細胞からインビトロで分化したものである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
作用物質が、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターである、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
作用物質が、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
RNAi分子がSEQ ID NO: 1の核酸配列を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
iPSCが対象に由来する、請求項36に記載の方法。
【請求項42】
iPSCが健常ドナーに由来する、請求項36に記載の方法。
【請求項43】
移植される中胚葉系細胞が、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、腎細胞、内皮細胞、皮膚細胞、副腎皮質細胞、骨細胞、白血球、およびミクログリア細胞より選択される細胞型のものである、請求項34に記載の方法。
【請求項44】
レシピエントに移植するための移植用組成物であって、
PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させるかまたはそれで処理した、インビトロで分化した中胚葉系細胞、および
薬学的に許容される担体
を含む、前記移植用組成物。
【請求項45】
作用物質が、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターより選択される、請求項44に記載の移植用組成物。
【請求項46】
作用物質が、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする、請求項44に記載の移植用組成物。
【請求項47】
ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される、請求項45に記載の移植用組成物。
【請求項48】
RNAi分子がSEQ ID NO: 1の核酸配列を含む、請求項46に記載の移植用組成物。
【請求項49】
インビトロで分化した中胚葉系細胞が、人工多能性幹細胞 (iPSC) から、または胚性幹細胞から分化したものである、請求項44に記載の移植用組成物。
【請求項50】
中胚葉系細胞が、移植レシピエントに由来するiPSCから分化したものである、請求項44に記載の移植用組成物。
【請求項51】
インビトロで分化した中胚葉系細胞を移植する方法であって、
PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させるかまたはそれで処理した、インビトロで分化した中胚葉系細胞を、対象の組織に移植する段階
を含む、前記方法。
【請求項52】
接触させた、インビトロで分化した中胚葉系細胞が、作用物質と接触させていないインビトロで分化した中胚葉系細胞よりも大幅に、移植後に生存する、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
対象が心筋梗塞に罹患している、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
作用物質が、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターである、請求項51に記載の方法。
【請求項55】
作用物質が、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする、請求項51に記載の方法。
【請求項56】
ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
RNAi分子がSEQ ID NO:1の核酸配列を含む、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
中胚葉系細胞が、人工多能性幹細胞 (iPSC) から、または胚性幹細胞から分化したものである、請求項51に記載の方法。
【請求項59】
iPSCが対象に由来する、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
iPSCが健常ドナーに由来する、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
移植される中胚葉系細胞が、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、腎細胞、内皮細胞、皮膚細胞、副腎皮質細胞、骨細胞、白血球、およびミクログリア細胞より選択される細胞型のものである、請求項51に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35 U.S.C. §119(e)の下で、2019年3月15日に出願された米国仮特許出願第62/818,979号の恩典を主張し、その内容は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出され、全体として参照により本明細書に組み入れられる配列表を含む。2020年3月13日に作成された該ASCIIコピーは、034186-094370WOPT_SL.txtと命名され、8,354バイトのサイズである。
【0003】
技術分野
本明細書に記載される技術は、インビトロで分化したヒト細胞の生存および生着を改善する方法、ならびにその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
西暦2000年の変わり目に、心血管疾患は、新たに発生した流行病として広く認識されるようになった。心不全および心筋梗塞の処置の大きな進歩にもかかわらず、ヒト細胞治療のアプローチは、心臓組織を修復するという期待される成果には至っていない。これは、幹細胞由来心筋細胞の移植後の生存の欠如、およびそのインビボでの安定性の欠如が原因である。したがって、心血管疾患、心臓損傷、または幹細胞療法もしくは細胞移植療法に依存するその他の疾患を有する患者の治療成績を改善するためには、インビトロで分化したヒト細胞の生存を改善するための新たなアプローチが必要である。
【発明の概要】
【0005】
概要
本明細書に記載される方法および組成物は、一部には、プレmRNAプロセシング因子31のレベルを低下させると、インビトロで分化した細胞の生存および/または生着が増強されるという発見に関する。
【0006】
1つの局面において、幹細胞からインビトロで分化したヒト細胞、およびプレmRNAプロセシング因子31 (PRPF31) のレベルまたは活性を低下させる作用物質を含む組成物が、本明細書に記載される。
【0007】
局面のいずれかの1つの態様において、組成物は移植用組成物である。
【0008】
別の態様において、幹細胞からインビトロで分化した細胞は心筋細胞である。
【0009】
別の態様において、幹細胞からインビトロで分化した細胞は、中胚葉系列のものである。
【0010】
別の態様において、インビトロで分化した細胞は、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、腎細胞、内皮細胞、皮膚細胞、副腎皮質細胞、骨細胞、白血球、およびミクログリア細胞より選択される細胞型のものである。
【0011】
別の態様において、インビトロで分化したヒト細胞は、人工多能性幹細胞 (iPSC) から、または胚性幹細胞から分化したものである。
【0012】
別の態様において、幹細胞は健常対象に由来する。
【0013】
別の態様において、作用物質は、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターである。
【0014】
別の態様において、作用物質は、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする。
【0015】
別の態様において、ベクターは、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される。
【0016】
別の態様において、RNAi分子はSEQ ID NO: 1の核酸配列を含む。
【0017】
別の局面において、レシピエントに移植するための移植用組成物であって、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させた、インビトロで分化したヒト中胚葉系細胞を含む組成物が、本明細書に記載される。局面のいずれかの1つの態様において、ヒト中胚葉系細胞は心筋細胞である。
【0018】
別の態様において、作用物質は、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターより選択される。
【0019】
別の態様において、作用物質は、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする。
【0020】
別の態様において、ベクターは、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される。
【0021】
別の態様において、RNAi分子はSEQ ID NO:1の核酸配列を含む。
【0022】
別の態様において、インビトロで分化したヒト中胚葉系細胞は、人工多能性幹細胞 (iPSC) から、または胚性幹細胞から分化したものである。
【0023】
別の態様において、中胚葉系細胞は、移植レシピエントに由来するiPSCから分化したものである。
【0024】
別の局面において、インビトロで分化したヒト中胚葉系細胞を移植する方法であって、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させた、インビトロで分化したヒト中胚葉系細胞を、対象の組織または器官の内部または上部に移植する段階を含む方法が、本明細書に記載される。局面のいずれかの1つの態様において、細胞は心筋細胞である。
【0025】
別の態様において、接触させた細胞は、作用物質と接触させていない細胞よりも大幅に、移植後に生存する。
【0026】
別の態様において、細胞は心筋細胞であり、対象は心筋梗塞に罹患している。
【0027】
別の態様において、作用物質は、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターである。
【0028】
別の態様において、作用物質は、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする。
【0029】
別の態様において、ベクターは、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される。
【0030】
別の態様において、RNAi分子はSEQ ID NO: 1の核酸配列を含む。
【0031】
別の態様において、ヒト心筋細胞は、人工多能性幹細胞 (iPSC) から、または胚性幹細胞から分化したものである。
【0032】
別の態様において、iPSCは対象に由来する。
【0033】
別の態様において、iPSCは健常ドナーに由来する。
【0034】
別の局面において、移植された、ヒトのインビトロで分化した心筋細胞の生存および/または生着を促進する方法であって、ヒトのインビトロで分化した心筋細胞を、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させる段階、および該細胞をその必要があるヒト対象の心臓組織に移植する段階を含む方法が、本明細書に記載される。
【0035】
1つの態様において、対象は心筋梗塞に罹患している。
【0036】
別の態様において、作用物質は、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターである。
【0037】
別の態様において、作用物質は、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする。
【0038】
別の態様において、ベクターは、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される。
【0039】
別の態様において、RNAi分子はSEQ ID NO: 1の核酸配列を含む。
【0040】
別の局面において、移植された中胚葉系細胞の生存および/または生着を促進する方法であって、対象におけるPRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させるかまたはそれで処理した中胚葉系細胞を、その必要がある対象に投与する段階を含む方法が、本明細書に記載される。
【0041】
1つの態様において、中胚葉由来細胞は、インビトロで分化した中胚葉系細胞である。
【0042】
別の態様において、中胚葉系細胞は、iPS細胞または胚性幹細胞からインビトロで分化したものである。
【0043】
別の態様において、作用物質は、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターである。
【0044】
別の態様において、作用物質は、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする。
【0045】
別の態様において、ベクターは、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される。
【0046】
別の態様において、RNAi分子はSEQ ID NO: 1の核酸配列を含む。
【0047】
別の態様において、iPSCは対象に由来する。
【0048】
別の態様において、iPSCは健常ドナーに由来する。
【0049】
別の態様において、移植される中胚葉系細胞は、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、腎細胞、内皮細胞、皮膚細胞、副腎皮質細胞、骨細胞、白血球、およびミクログリア細胞より選択される細胞型のものである。
【0050】
定義:
便宜上、本明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲において用いられるいくつかの用語および語句の意味を以下に提供する。特に記載のない限り、または文脈から暗に示されない限り、以下の用語および語句は以下に提供される意味を含む。技術の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定されるため、定義は、特定の態様の記載を助けるために提供するものであって、主張する技術を限定することは意図されない。特に定義されない限り、本明細書において用いられるすべての技術および科学用語は、本技術が属する技術分野の当業者によって共通に理解されている意味と同じ意味を有する。当技術分野における用語の用法と本明細書において提供されるその定義との間に明白な矛盾が存在する場合、本明細書内で提供される定義が優先する。
【0051】
細胞生物学および分子生物学ならびに生化学における一般用語の定義は、The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, 20th Edition、Merck Sharp & Dohme Corp刊行、2018 (ISBN 9780911910421, 0911910425);Robert S. Porter et al. (eds.), The Encyclopedia of Molecular Cell Biology and Molecular Medicine、Blackwell Science Ltd.刊行、2008 (ISBN 3527305424, 9783527305421);およびRobert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference、VCH Publishers, Inc.刊行、1995 (ISBN 1-56081-569-8);Immunology by Werner Luttmann、Elsevier刊行、2006;Janeway's Immunobiology, Kenneth Murphy, Allan Mowat, Casey Weaver (eds.), Taylor & Francis Limited, 2016 (ISBN 9780815345510, 0815345518);Lewin's Genes XI、Jones & Bartlett Publishers刊行、2014 (ISBN-1449659055);Michael Richard Green and Joseph Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., USA (2012) (ISBN 1936113414);Davis et al., Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier Science Publishing, Inc., New York, USA (2012) (ISBN 044460149X);Laboratory Methods in Enzymology: DNA, Jon Lorsch (ed.) Elsevier, 2013 (ISBN 0124199542);Laboratory Methods in Enzymology: RNA, Jon Lorsch (ed.) Elsevier, 2013 (ISBN: 9780124200371, 0124200370);Current Protocols in Molecular Biology (CPMB), Frederick M. Ausubel (ed.), John Wiley and Sons, 2014 (ISBN 047150338X, 9780471503385)、Current Protocols in Protein Science (CPPS), John E. Coligan (ed.), John Wiley and Sons, Inc., 2005;およびCurrent Protocols in Immunology (CPI) (John E. Coligan, ADA M Kruisbeek, David H Margulies, Ethan M Shevach, Warren Strobe, (eds.) John Wiley and Sons, Inc., 2003 (ISBN 0471142735, 9780471142737)、Immunological Methods, Ivan Lefkovits, Benvenuto Pernis, (eds.) Elsevier Science, 2014 (ISBN: 9781483269993, 148326999X) の中に見出すことができ、その内容はすべて、全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0052】
本明細書で用いられる場合、「移植用組成物」は、インビトロで分化した細胞またはその集団を含む組成物を指す。この組成物は、移植体として対象に投与するために製剤化することができる。移植用組成物は、薬学的に許容される担体を含み、任意に、細胞のためのマトリックスまたは足場を含み得る。移植用組成物は、注射による、または例えば外科的植え込みによる投与のために製剤化することができる。
【0053】
「患者」、「対象」、および「個体」という用語は、本明細書において互換的に使用され、予防的処置を含む処置が提供される動物、特にヒトを指す。本明細書で用いられる「対象」という用語は、ヒトおよび非ヒト動物を指す。「非ヒト動物」および「非ヒト哺乳動物」という用語は、本明細書において互換的に使用され、すべての脊椎動物、例えば、哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類(特に高等霊長類)、ヒツジ、イヌ、齧歯類(例えば、マウスまたはラット)、モルモット、ヤギ、ブタ、ネコ、ウサギ、ウシなど、および非哺乳動物、例えば、ニワトリ、両生類、爬虫類等などを含む。局面のいずれかの1つの態様において、対象は哺乳動物である。局面のいずれかの別の態様において、対象はヒトである。局面のいずれかの別の態様において、対象は、実験動物または疾患モデルとしての動物代用物である。局面のいずれかの別の態様において、対象は、コンパニオンアニマル(例えば、イヌ、ネコ、ラット、ブタ、モルモット、ハムスター等)を含む飼い慣らされた動物である。対象は、以前に疾患の処置を受けたことがあってもよいし、または疾患の処置を受けたことがなくてもよい。対象は、以前に疾患を有すると診断されたことがあってもよいし、または疾患と診断されたことがなくてもよい。
【0054】
本明細書で用いられる「健常対象」という用語は、少なくとも、処置されるべき疾患または障害のマーカーまたは症状を欠いている対象を指す。
【0055】
本明細書で用いられる場合、「ヒト幹細胞」という用語は、自己再生し、少なくとも1つの異なる細胞型に分化することができるヒト細胞を指す。「ヒト幹細胞」という用語は、ヒト幹細胞株、ヒト由来人工多能性幹 (iPS) 細胞、ヒト胚性幹細胞、ヒト多能性幹細胞、ヒト複能性幹細胞、羊膜幹細胞、胎盤幹細胞、またはヒト成体幹細胞を包含する。局面のいずれかの1つの態様において、ヒト幹細胞はヒト胚に由来しない。
【0056】
幹細胞に関して用いられる「~に由来する」という用語は、分化した細胞を幹細胞表現型に再プログラム化することによって幹細胞が作製されたことを意味する。分化した細胞に関して用いられる「~に由来する」という用語は、その細胞が幹細胞の分化、例えばインビトロ分化の結果であることを意味する。一例として、「iPSC-CM」または「人工多能性幹細胞由来の心筋細胞」は、互換的に用いられて、幹細胞のインビトロ分化によって人工多能性幹細胞から導出された心筋細胞を指す。
【0057】
本明細書で用いられる場合、「インビトロで分化した細胞」は、典型的にはヒト胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、初期中胚葉細胞、外肺葉細胞、もしくは内胚葉細胞、または前駆細胞などの前駆体細胞から段階的分化により、培養において作製された細胞を指す。したがって、例えば、「インビトロで分化した心筋細胞」は、典型的にはヒト胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、初期中胚葉細胞、側板中胚葉細胞、または心臓前駆細胞などの前駆体細胞から段階的分化により、培養において作製された心筋細胞である。
【0058】
「作用物質」という用語は、通常は存在しないか、または細胞、組織、器官、もしくは対象に投与されるレベルでは存在しない、細胞、組織、器官、または対象に投与されるか、またはそれらと接触させる任意の実体を指す。作用物質は、化学物質;低分子;核酸、核酸類似体;タンパク質;ペプチド;ペプチド模倣物;ペプチド誘導体;ペプチド類似体;アプタマー;抗体;イントラボディ;生体高分子;またはそれらの機能的断片からなる群より選択され得る。核酸は、RNAまたはDNAであってよく、一本鎖または二本鎖であってよく、核酸には、例えば、関心対象のタンパク質をコードする核酸、および遺伝子発現またはタンパク質機能を阻害するRNA干渉もしくは低分子干渉RNA分子、アンチセンスRNA分子、またはアプタマーなどの核酸が含まれ得る。核酸には、オリゴヌクレオチド、および核酸類似体、例えば、ペプチド核酸 (PNA)、偽相補性PNA (pc-PNA)、およびロックド核酸 (LNA)、等が含まれ得る。
【0059】
核酸には、例えば、転写リプレッサーとして作用するタンパク質をコードする配列、およびアンチセンス分子、リボザイム、低分子阻害性核酸、例えば、これらに限定されないが、RNAi、shRNAi、siRNA、マイクロRNAi (mRNAi)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、等をコードする配列が含まれ得る。タンパク質および/もしくはペプチドまたはそれらの断片は、関心対象の任意のタンパク質、例えば、これらに限定されないが、例えば、通常は存在しないかまたは細胞内で低レベルで発現するドミナントネガティブ変異タンパク質を含む、変異タンパク質、治療用タンパク質、または切断型タンパク質であってよい。タンパク質にはまた、変異タンパク質、遺伝子操作されたタンパク質、組換えタンパク質、キメラタンパク質、抗体、ミディボディ、トリボディ、ヒト化タンパク質、ヒト化抗体、キメラ抗体、修飾タンパク質、およびそれらの断片が含まれ得る。作用物質は細胞培養液に適用または導入することができ、作用物質はそこで細胞と接触し、その効果を誘導する。あるいは、作用物質は、作用物質をコードする核酸の細胞への導入およびその転写による、細胞内での核酸および/またはタンパク質作用物質の産生の結果として、細胞内にあってよい。いくつかの態様において、作用物質は、非限定的に、合成および天然の非タンパク質性実体を含む、任意の化学物質、実体、または部分である。ある特定の態様において、作用物質は低分子である。低分子は、マクロライド、レプトマイシン、およびそれらの関連天然産物または類似体を含む、非置換または置換のアルキル、芳香族、またはヘテロ環部分を含む化学部分を含み得る。いくつかの態様において、作用物質は、細菌、植物、真菌、または動物の細胞もしくは組織などの生体物質から作製された抽出物であってよい。いくつかの態様において、作用物質は、天然もしくは合成組成物、またはそれらの機能的断片であってよい。作用物質は、所望の活性および/もしくは特性を有することが公知であってよく、または多様な化合物のライブラリーから選択され得る。
【0060】
「薬学的に許容される」という語句は、健全な医学的判断の範囲内で、妥当な利益/リスク比に釣り合って、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を引き起こすことなく、ヒトおよび動物の組織と接触して用いるのに適している作用物質、化合物、材料、組成物、および/または剤形を指すために、本明細書において用いられる。
【0061】
本明細書で用いられる場合、「基材」は、細胞の接着および増殖に適した表面を提供する生体適合性材料を含む構造を指す。ナノパターン化基材は、力学的な安定性および支持をさらに提供することができ、例えば、インビトロで分化した筋肉細胞またはインビトロで分化した心筋細胞などのインビトロで分化した細胞の成熟を促進することができる。ナノパターン化基材を含むが必ずしもこれに限定されない基材は、増殖細胞の集団がとる3次元の形状もしくは形態に影響を及ぼすかまたはその範囲を定めるように、特定の形状または形態であってよい。そのような形状または形態には、フィルム(例えば、第3次元よりも実質的に大きい2次元を有する形態)、リボン、コード、シート、平坦な円板、円柱、球体、3次元の無定形形状、等が含まれるが、これらに限定されない。
【0062】
本明細書で用いられる場合、「投与すること」は、所望の効果が生じるように(例えば、PRPF31レベルまたは活性の低下)、所望の部位、例えば、インビトロで分化した細胞、心臓、腎臓、血液、皮膚、またはそれらの領域において、作用物質の少なくとも部分的局在をもたらす方法または経路によって、本明細書に記載される作用物質(例えば、低分子)を細胞、組織、器官、または対象の上部または内部に留置するという文脈において用いられる。本明細書に記載される作用物質は、対象内の所望の位置への送達をもたらす任意の適切な経路によって投与することができる。対象への投与後の作用物質の半減期は、数分、数時間、または数日、例えば24時間と短いものから、数日、数年と長いもの、すなわち長期であってよい。「投与すること」はまた、本明細書に記載される作用物質で処理された、インビトロで分化した細胞の、組織、臓器、または対象への留置も指し得る。この文脈において、「投与すること」は「移植すること」に等しい。
【0063】
本明細書で用いられる場合、「移植すること」という用語は、所望の効果が生じるように、損傷部位または修復部位などの所望の部位において導入細胞の少なくとも部分的局在をもたらす方法または経路によって、細胞、例えば本明細書に記載されるインビトロで分化した細胞を対象に留置するという文脈において用いられる。いくつかの態様において、細胞、例えば心筋細胞は、器官の内部もしくは上部に直接植え込むかもしくは注入することができ、またはその代わりに対象内の所望の位置への送達をもたらす任意の適切な経路によって投与することができ、その位置において、植え込まれた細胞または細胞の構成成分の少なくとも一部は生存したままである。対象への投与後の細胞の生存期間は、数時間、例えば24時間と短いものから、数日、数年またはそれ以上と長いもの、すなわち長期生着であってよい。当業者が認識するように、多くの成熟成体細胞(例えば、心筋細胞)は、細胞死を含む急性損傷から器官(例えば、心臓)が治癒し得る程度まで増殖しないため、インビトロで分化した細胞の長期生着は望ましい。
【0064】
本明細書において言及される障害または疾患(例えば、心血管疾患)の「処置」は、処置領域において細胞、組織、もしくは器官の機能を向上させ、かつ/または生着を増強し、かつ/または移植体もしくは移植片の脈管化を増強し、そのようにして組織または器官、非限定的な例として心臓の機能を改善する治療的介入を指す。すなわち、「処置」は、処置される組織もしくは器官の機能(例えば、心臓の梗塞領域内の機能の向上)および/または本明細書に記載される組成物で処置された他の部位の機能に向けられる。有効な処置は、有効な処置と見なされるために、疾患もしくは障害を治癒する必要はなく、またはその基礎となる原因に直接影響を及ぼす必要もない。例えば、心臓の機能を例えば収縮力または律動の観点で改善する治療アプローチは、必ずしも梗塞または不整脈の原因を処置しなくても、有効な処置であり得る。
【0065】
本明細書で用いられる場合、「疾患」または「障害」という用語は、部分的または完全に、直接的または間接的に、対象のゲノム、生理機能、行動、または健康における1つまたは複数の異常によって引き起こされる疾患、症候群、または障害を指す。
【0066】
疾患または障害は、心臓の疾患または障害であってよい。心疾患の非限定的な例には、心筋症、心不整脈、心不全、不整脈源性右室異形成 (ARVD)、QT延長症候群、カテコラミン誘発性多形性心室頻拍 (CPVT)、バース症候群、およびデュシェンヌ型筋ジストロフィーにおける心臓障害が含まれる。
【0067】
本明細書で用いられる場合、疾患、障害、またはそれらの症状に関連して用いられる場合の「予防」または「予防すること」とは、個体が、疾患または障害、例えば一例としてではあるが心筋梗塞の後の心不全を発症する可能性の減少を指す。疾患または障害を発症する可能性は、例えば、疾患または障害に関する1つまたは複数の危険因子を有する個体が、同じ危険因子を有するが、本明細書に記載される処置を受けていない集団と比較して、統計学的に言って、障害を発症しない、またはそのような疾患もしくは障害を後になって発症するかもしくはより低い重症度で発症する場合に、減少する。疾患の症状を発症しないこと、または症状の発症が減少(例えば、その疾患もしくは障害に関する臨床的に許容されるスケールで少なくとも10%)もしくは遅延(例えば、数日、数週間、数カ月、もしくは数年)することは、有効な予防と見なされる。
【0068】
「減少する」、「低下した」、「低下」、「より少ない程度まで」、または「阻害する」という用語はすべて、特性、レベル、または他のパラメータが統計的に有意な量だけ減少するまたは少なくなることを意味するために、本明細書において用いられる。いくつかの態様において、「低下した」、「低下」、「減少する」、または「阻害する」は典型的に、参照レベル(例えば、所与の処置を行わないこと)と比較して少なくとも10%の減少を意味し、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、またはそれ以上の減少を含み得る。本明細書で用いられる場合、「低下」または「阻害」は、参照レベルと比較した場合の完全な阻害または低下を包含しない。「完全な阻害」とは、参照レベルと比較した場合の100%の阻害である。減少は、好ましくは、所与の障害のない個体の正常範囲内として許容されるレベルまで下がることであり得る。
【0069】
「増加した」、「増加する (increase)」、「増加する (increases)」または「増強する」または「活性化する」または「より大きな程度まで」という用語はすべて、特性、レベル、または他のパラメータが統計的に有意な量だけ増加することを一般に意味するために、本明細書において用いられ;疑義を避けるために付言すると、「増加した」、「増加する」、「より大きな程度まで」、「増強する」、または「活性化する」という用語は、参照レベルと比較して少なくとも10%の増加、例えば、参照レベルと比較して少なくとも約20%、もしくは少なくとも約30%、もしくは少なくとも約40%、もしくは少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約90%の増加、もしくは最大で100%およびそれを含む増加、もしくは10~100%の間の任意の増加、または参照レベルと比較して少なくとも約2倍、もしくは少なくとも約3倍、もしくは少なくとも約4倍、もしくは少なくとも約5倍、もしくは少なくとも約10倍の増加、少なくとも約20倍の増加、少なくとも約50倍の増加、少なくとも約100倍の増加、少なくとも約1000倍の増加、もしくはそれ以上を指し得る。
【0070】
本明細書で用いられる場合、「参照レベル」とは、正常な、そうでなければ影響を受けていない細胞集団または組織(例えば、健常対象から採取された細胞、組織、もしくは生体試料、または以前の時点で対象から採取された生体試料、例えば、疾患と診断される前に患者から採取された細胞、組織、もしくは生体試料、または本明細書に開示されるような作用物質もしくは組成物と接触していない生体試料)におけるマーカーまたはパラメータのレベルを指す。あるいは、参照レベルはまた、例えば、作用物質を用いた、または移植用組成物の投与を介した処置を行う前の、対象、器官、組織、または細胞における所与のマーカーまたはパラメータのレベルを指し得る。
【0071】
本明細書で用いられる場合、「適切な対照」とは、所与の処理と接触した、または所与の処理で処理された細胞、組織、生体試料、または集団に対する、未処理の、その他の点では同一の細胞、対象、生物、または集団(例えば、本明細書に記載される作用物質または組成物と接触しなかった細胞、組織、または生体試料)を指す。例えば、適切な対照は、本明細書に記載される作用物質と接触していない、または本明細書に記載される細胞を投与されていない細胞、組織、器官、または対象であってよい。
【0072】
「統計学的に有意な」または「有意に」という用語は、統計的有意性を指し、一般に2標準偏差 (2SD) またはそれ以上の差異を意味する。
【0073】
本明細書で用いられる場合、「含む」という用語は、表示される定義された要素に加えて、他の要素もまた存在し得ることを意味する。「含む」の使用は、限定ではなくむしろ包含を示す。
【0074】
「~からなる」という用語は、本態様のその説明において列挙されていないいかなる要素も除外した、本明細書に記載される組成物、方法、およびその各構成成分を指す。
【0075】
本明細書で用いられる場合、「本質的に~からなる」という用語は、所与の態様に必要とされる要素を指す。本用語は、本発明のその態様の基本的でかつ新規なまたは機能的な特徴に実質的な影響を及ぼさない付加的な要素の存在を容認する。
【0076】
「1つの (a)」、「1つの (an)」、および「その (the)」という単数形は、文脈が明確に他のことを示していない限り、複数の参照物も含む。同様に、「または」という語は、文脈が明確に他のことを示していない限り、「および」を含むことが意図される。本明細書において記載されるものと同様または同等の方法および材料を、本開示の実施または試験において用いることができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。「例えば (e.g.)」という略語は、ラテン語のexempli gratiaに由来し、非限定的な例を示すために本明細書において用いられる。したがって、「例えば (e.g.)」という略語は、「例えば (for example)」という用語と同義である。
【0077】
さらに、文脈によって別段必要とされない限り、単数形の用語は複数を含むものとし、複数形の用語は単数を含むものとする。
【0078】
操作実施例以外において、または別に指示される場合を除き、本明細書において用いられる成分の数量または反応条件を表すすべての数値は、いかなる場合にも「約」という用語で修飾されていると理解されるべきである。「約」という用語は、割合と関連して用いられる場合、±1%を意味し得る。
【図面の簡単な説明】
【0079】
図1】RUES2胚性幹細胞株由来のhPSC-CMにおける遺伝子ノックダウンを実証する。48時間のLipofectamine RNAiMax (Thermo Fisher) インキュベーションを用いて、hPSC-CMに5 nM siRNAをトランスフェクトした。対照は、処理しないか、または陰性対照のスクランブルsiRNAをトランスフェクトした。ノックダウンの効率を、定量的rtPCRにより確認した。得られた細胞は、移植のために凍結保存した。
図2】PRPF31をノックダウンしたhPSC-CMの生存が、未処理のhPSC-CMおよび対照siRNAで処理したhPSC-CMと比較して増加したことを実証する(それぞれp=0.008およびp=0.007;対応のないt検定)。
【発明を実施するための形態】
【0080】
詳細な説明
本明細書に記載される方法および組成物は、一部には、プレmRNAプロセシング因子31 (PRPF31) のレベルまたは活性を低下させるように処理された中胚葉系列のヒト多能性幹細胞由来の細胞が、組織、器官、または対象に移植された場合に、未処理の細胞よりも良好に生存するという発見に関連する。特に、ヒト多能性幹細胞由来の心筋細胞 (hPSC-CM) は、心臓組織への移植後に、効率を増して、そのような組織において生存および/または生着することが判明した。
【0081】
したがって、移植された中胚葉系細胞の生存および/または生着を促進する方法であって、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質で処理された中胚葉系細胞を、その必要がある対象に投与する段階を含む方法が、本明細書に記載される。
【0082】
ある特定の態様において、細胞は、数ある中でも、インビトロで分化した心筋細胞を含むがこれに限定されない、インビトロで分化したものである。細胞を移植し、そのような細胞の生存を促進するための方法に加えて、本明細書に記載される技術は、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質で処理された細胞を含む組成物、およびそのような作用物質と混合された細胞を含む。
【0083】
記載される技術の実施に関連する考察を以下に記載する。
【0084】
細胞調製:
ある特定の態様において、本明細書に記載される方法および組成物は、インビトロで分化した細胞を使用する。そのような細胞は、人工多能性幹細胞 (iPSC) から、または胚性幹細胞から分化させることができる。
【0085】
対象への移植または生着のための細胞を調製するために使用することができる様々な供給源および幹細胞を以下に記載する。
【0086】
幹細胞は、有糸細胞分裂を通して自身を再生する能力を保持し、より特殊化した細胞型に分化することができる細胞である。哺乳動物幹細胞の3つの大まかな種類には、胚盤胞において見出される胚性幹 (ES) 細胞、体細胞から再プログラム化された人工多能性幹細胞 (iPSC)、および成体組織において見出される成体幹細胞が含まれる。幹細胞の他の供給源には、例えば、羊膜由来幹細胞または胎盤由来幹細胞が含まれ得る。多能性幹細胞は、3胚葉のいずれかに由来する細胞に分化することができる。
【0087】
本明細書に記載される組成物および方法において有用な細胞は、数ある中でも、胚性幹細胞および人工多能性幹細胞の両方から分化させることができる。
【0088】
1つの態様において、本明細書において提供される組成物および方法は、胚性幹細胞から分化したヒト心筋細胞を含むがこれに限定されない中胚葉系細胞を使用する。あるいは、いくつかの態様において、本明細書において提供される組成物および方法は、生存ヒト胚から採取された細胞に由来する分化したヒト細胞の作製または使用を包含しない。
【0089】
胚性幹細胞:胚性幹細胞およびそれらの回収のための方法は、例えば、Trounson A. O. Reprod. Fertil. Dev. (2001) 13: 523、Roach M L Methods Mol. Biol. (2002) 185: 1、およびSmith A. G. Annu Rev Cell Dev Biol (2001) 17:435に記載されている。「胚性幹細胞」という用語は、胚性胚盤胞の内部細胞塊の多能性幹細胞を指すために用いられる(例えば、米国特許第5,843,780号、第6,200,806号を参照されたい)。そのような細胞は、体細胞核移入に由来する胚盤胞の内部細胞塊からも同様に得ることができる(例えば、米国特許第5,945,577号、第5,994,619号、第6,235,970号を参照されたい)。胚性幹細胞のマーカーには、例えば、Oct3、Nanog、SOX2、SSEA1、SSEA4、およびTRA-1-60のうちのいずれか1つまたはそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0090】
胚供給源に由来する細胞には、幹細胞バンクまたは他の公認の保管施設から得られた胚性幹細胞または幹細胞株が含まれ得る。幹細胞株を生成する他の手段には、胚盤胞を形成する前の初期胚(およそ8細胞期)からの割球細胞の使用を含む方法が含まれる。そのような技法は、例えば、生殖補助クリニックで日常的に行われている着床前遺伝子診断技法において除去された単一細胞を使用する。単一の割球細胞を、確立されたES細胞株と共培養し、次いでそれらから分離すると、完全にコンピテントなES細胞株を形成する。
【0091】
未分化の胚性幹 (ES) 細胞は、当業者によって容易に認識され、典型的には、2次元の顕微鏡像において高い核/細胞質比および顕著な核小体を有する細胞のコロニーとして出現する。胚性幹細胞のマーカーには、例えば、Oct3、Nanog、SOX2、SSEA1、SSEA4、およびTRA-1-60のうちのいずれか1つまたはそれらの任意の組み合わせが含まれる。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法および組成物において使用するための分化したヒト細胞は、胚性幹細胞または胚起源の任意の他の細胞に由来しない。
【0092】
人工多能性幹細胞 (iPSC):いくつかの態様において、本明細書に記載される組成物および方法は、人工多能性幹細胞からインビトロで分化したヒト心筋細胞または他のヒト中胚葉系細胞を利用する。本明細書に記載される組成物および方法のための細胞を作製するためにiPSCを使用することの利点は、そのように所望されるのであれば、その細胞が、分化した細胞を投与しようとする対象と同じ対象に由来し得る点である。すなわち、体細胞を対象から得て、人工多能性幹細胞に再プログラム化し、次いでヒト心筋細胞または他のヒト中胚葉系細胞に再分化させて対象に投与することができる(すなわち、自己細胞)。細胞およびそれらの分化した子孫は本質的に自己供給源に由来するため、生着拒絶またはアレルギー反応のリスクは、別の対象または対象群からの細胞を用いる場合と比較して減少する。これはiPS細胞の利点であるが、代替的な態様において、本明細書に記載される方法および組成物に有用な心筋細胞および他のヒト中胚葉系細胞は、非自己供給源に由来する(すなわち、同種細胞)。加えて、iPSCを用いることで、胚供給源から得られた細胞の必要がなくなる。
【0093】
分化は一般的に生理的状況下で不可逆的であるが、近年、体細胞を人工多能性幹細胞に再プログラム化するためのいくつかの方法が開発されている。例示的な方法は当業者に公知であり、本明細書において以下に簡潔に説明する。
【0094】
再プログラム化は、分化した細胞(例えば、体細胞)の分化状態を変化または逆転させる過程である。言い換えれば、再プログラム化は、細胞の分化をより未分化なまたはより原始的な種類の細胞へと逆向きに駆動する過程である。多くの初代細胞を培養下に置くと、完全に分化した特徴の一部が失われ得ることに留意されたい。しかしながら、分化した細胞という用語に含まれるそのような細胞の単純な培養によって、これらの細胞が非分化細胞または多能性細胞になるわけではない。分化細胞の多能性への移行は、分化細胞を培養下に置いた場合に分化特徴の部分的喪失をもたらす刺激を超える再プログラム化刺激を必要とする。再プログラム化された細胞はまた、一般的に培養において限られた回数だけ分裂する能力を有する初代細胞の親と比較して、成長能を失うことなく長期間継代できるという特徴を有する。
【0095】
再プログラム化しようとする細胞は、再プログラム化の前に、部分的に分化していてもよいし、または最終分化していてもよい。したがって、再プログラム化しようとする細胞は、最終分化した体細胞および成体幹細胞または体性幹細胞であってよい。
【0096】
いくつかの態様において、再プログラム化は、分化細胞(例えば、体細胞)の分化状態の、多能性状態または複能性状態への完全な逆転を包含する。いくつかの態様において、再プログラム化は、分化細胞の分化状態の、未分化細胞(例えば、胚様細胞)への完全なまたは部分的な逆転を包含する。再プログラム化は細胞による特定の遺伝子の発現を引き起こすことができ、その発現が再プログラム化にさらに寄与する。本明細書に記載されるある特定の態様において、分化細胞の再プログラム化により、分化細胞は、自己再生し、3胚葉系列すべての細胞に分化する能力を有する未分化状態をとる。これらは人工多能性幹細胞(iPSCまたはiPS細胞)である。
【0097】
体細胞をiPS細胞に再プログラム化する方法は、例えば、米国特許第8,129,187 B2号;第8,058,065 B2号;US特許出願第2012/0021519 A1号;Singh et al. Front. Cell Dev. Biol. (February, 2015);およびPark et al., Nature 451: 141-146 (2008) に記載されており;これらは全体として参照により組み入れられる。具体的には、iPSCは、再プログラム化転写因子の組み合わせを導入することにより、体細胞から作製される。再プログラム化因子は、例えば、タンパク質、核酸(mRNA分子、それらをコードするDNA構築物もしくはベクター)、またはそれらの任意の組み合わせとして導入することができる。低分子もまた、導入された転写因子を増強または補完し得る。付加的な因子が、例えば再プログラムの効率に影響を与えることが判明しているが、体細胞を人工多能性状態に再プログラム化するために十分な、4つの再プログラム因子の組み合わせの標準的なセットには、Oct4(オクタマー結合転写因子4)、SOX2(性決定領域Y)-ボックス2、Klf4(クルッペル様因子-4)、およびc-Mycが含まれる。LIN28 + Nanog、Esrrb、Pax5 shRNA、C/EBPα、p53 siRNA、UTF1、DNMT shRNA、Wnt3a、SV40 LT(T)、hTERTを含むがこれらに限定されない付加的なタンパク質もしくは核酸因子(もしくはそれらをコードする構築物)、またはBIX-01294、BayK8644、RG108、AZA、デキサメタゾン、VPA、TSA、SAHA、PD0325901 + CHIR99021(2i)、およびA-83-01を含むがこれらに限定されない低分子化学剤は、4つの再プログラム化因子の基本セットもしくは標準セットからのどれか1つの再プログラム化因子と置き換わるか、または再プログラム化の効率を向上させることが判明している。
【0098】
体細胞(例えば、生殖系列細胞を除外した身体の任意の細胞;線維芽細胞、等)から多能性幹細胞を作製するために用いられる特定のアプローチまたは方法は、特許請求される本発明にとって重要ではない。したがって、体細胞を多能性表現型に再プログラム化するいかなる方法も、本明細書に記載される方法において用いるのに適している。
【0099】
出発細胞の集団に由来する再プログラム化の効率(すなわち、再プログラム化された細胞の数)は、Shi, Y., et al (2008) Cell-Stem Cell 2:525-528、Huangfu, D., et al (2008) Nature Biotechnology 26(7):795-797、およびMarson, A., et al (2008) Cell-Stem Cell 3:132-135によって示されるように、様々な低分子の添加によって向上させることができる。再プログラム化効率を向上させる作用物質のいくつかの非限定的な例には、数ある中でも、可溶性Wnt、Wnt馴化培地、BIX-01294(G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ)、PD0325901(MEK阻害剤)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) 阻害剤、バルプロ酸、5'-アザシチジン、デキサメタゾン、スベロイルアニリド、ヒドロキサム酸 (SAHA)、ビタミンC、およびトリコスタチン (TSA) が含まれる。
【0100】
本明細書に記載される方法と共に用いるための多能性幹細胞の誘導を確認するために、単離されたクローンを1つまたは複数の幹細胞マーカーの発現に関して試験することができる。体細胞由来の細胞におけるそのような発現により、細胞は人工多能性幹細胞であると同定される。幹細胞マーカーには、数ある中でも、SSEA3、SSEA4、CD9、Nanog、Oct4、Fbx15、Ecat1、Esg1、Eras、Gdf3、Fgf4、Cripto、Dax1、Zpf296、Slc2a3、Rex1、Utf1、およびNat1が含まれ得るが、これらに限定されない。1つの態様において、NanogおよびSSEA4を発現する細胞は、多能性であると同定される。そのようなマーカーの発現を検出するための方法には、例えば、RT-PCR、およびウェスタンブロットまたはフローサイトメトリー解析などの、コードされるポリペプチドの存在を検出する免疫学的方法が含まれ得る。細胞内マーカーはRT-PCRによって最も良好に同定され得るが、細胞表面マーカーは例えば免疫細胞化学的検査によって容易に同定される。
【0101】
単離された細胞の多能性幹細胞特性は、iPSCが3胚葉の各々の細胞に分化する能力を評価する試験によって確認することができる。一例として、ヌードマウスにおけるテラトーマ形成を用いて、単離されたクローンの多能性特性を評価することができる。細胞をヌードマウスに導入し、その細胞から生じた腫瘍に関して、異なる生殖系系列のマーカーに特異的な抗体を使用する組織学的検査および/または免疫組織化学的検査を行う。内胚葉、中胚葉、および外肺葉の3胚葉すべてからの細胞を含む腫瘍が成長すれば、細胞が多能性幹細胞であることがさらに示されるかまたは確認される。
【0102】
成体幹細胞:成体幹細胞は、出生後もしくは新生児期後の生物の、または成体生物からの組織に由来する幹細胞である。成体幹細胞は、胚性幹細胞と比較してそれが発現するかまたは発現しないマーカーの点だけでなく、後成的な差、例えばDNAメチル化パターンの差の存在によっても、構造的に胚性幹細胞とは異なる。成体幹細胞から分化した心筋細胞および/またはニューロンもまた、本明細書に記載される方法に使用できることが企図される。成体幹細胞を分離する方法は、例えば、米国特許第9,206,393 B2号;およびUS出願第2012/0021519 A1号に記載されており;これらは全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0103】
インビトロ分化
本明細書に記載されるある特定の方法および組成物は、幹細胞からインビトロで分化した中胚葉系細胞を使用する。一般的に、分化過程を通して、多能性細胞は、特定の発生系列、例えば、一次胚葉‐外胚葉、中胚葉、または内胚葉に沿った発生経路をたどる。
【0104】
胚性胚葉は、すべての組織および器官の由来元の供給源である。中胚葉は、例えば、心筋を含む平滑筋および横紋筋、結合組織、血管、心血管系、血液細胞、骨髄、骨格、生殖器官、および排泄器官の供給源である。
【0105】
「胚葉」は、特定のバイオマーカーの発現および遺伝子発現によって同定することができる。これらのバイオマーカーを検出するためのアッセイには、例えば、RT-PCR、免疫組織化学的検査、およびウェスタンブロッティングが含まれる。初期中胚葉細胞によって発現されるバイオマーカーの非限定的な例には、数ある中でも、HAND1、ESM1、HAND2、HOPX、BMP10、FCN3、KDR、PDGFR-α、CD34、Tbx-6、Snail-1、Mesp-1、およびGSCが含まれる。初期外胚葉細胞によって発現されるバイオマーカーには、数ある中でも、TRPM8、POU4F1、OLFM3、WNT1、LMX1A、およびCDH9が含まれるが、これらに限定されない。初期内胚葉細胞によって発現されるバイオマーカーには、数ある中でも、LEFTY1、EOMES、NODAL、およびFOXA2が含まれるが、これらに限定されない。当業者は、細胞型、およびその細胞の発生における由来元の胚葉に基づいて、分化プロトコールの実施中にどの系列マーカーをモニターすべきかを決定することができる
【0106】
インビトロでの特定の発生系列の誘導は、系列の拘束を促進する特定の作用物質またはその組み合わせの存在下で幹細胞を培養することによって達成される。一般的に、本明細書に記載される方法は、細胞培養液への作用物質(例えば、低分子、増殖因子、サイトカイン、ポリペプチド、ベクター、等)の段階的添加、または分化を促進する作用物質と細胞を接触させる段階を含む。特に、中胚葉の形成は、転写因子、ならびにVegT、Wntシグナル伝達(例えば、β-カテニンを介する)、骨形成タンパク質 (BMP) 経路、線維芽細胞増殖因子 (FGF) 経路、およびTGFβシグナル伝達(例えば、アクチビンA)を含むがこれらに限定されない増殖因子シグナル伝達によって誘導される。
【0107】
細胞個体発生の文脈において、「分化する」または「分化すること」という用語は、「分化した細胞」が、その前駆体細胞よりも発生経路のさらに下方へと進行している細胞であることを意味する相対的用語である。したがって、いくつかの態様において、再プログラム化された細胞は、系列拘束前駆体細胞(中胚葉幹細胞など)に分化することができ、次にこれは経路のさらに下方の他の種類の前駆体細胞(組織特異的前駆体など、例えば心筋細胞前駆体など)に分化することができ、次いでこれは、ある特定の組織型において特徴的役割を果たし、さらに増殖する能力を保持してもよいしまたは保持しなくてもよい最終段階分化細胞に分化することができる。
【0108】
一般的に、インビトロで分化した細胞は、段階的な過程を通して、多能性マーカー(例えば、HNF4-α、AFP、GATA-4、およびGATA-6)の下方制御を示し、系列特異的なバイオマーカー(例えば、中胚葉、外胚葉、または内胚葉マーカー)の発現の増加を示す。例えば、ヒト多能性幹細胞株の特徴決定および特定の系列に沿った分化について記載している、Tsankov et al. Nature Biotech (2015) を参照されたい。当技術分野で公知の多くの方法によって、分化過程を効率についてモニターすることができる。これは、標準的な技法、例えば、免疫細胞化学的検査、RT-PCR、フローサイトメトリー、機能アッセイ、光学的追跡、等を用いて、胚葉バイオマーカーの存在を検出する段階を含む。
【0109】
局面のいずれかのいくつかの態様において、インビトロで分化した細胞は、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、腎細胞、肝細胞、内皮細胞、皮膚細胞、副腎皮質細胞、骨細胞、白血球、およびミクログリア細胞より選択される中胚葉系細細胞型のものである。
【0110】
心筋細胞の分化:
本明細書に記載される方法および組成物のいくつかの態様において、幹細胞からインビトロで分化した細胞は心筋細胞である。ESCまたはiPSCから心筋細胞を分化させるための方法は、当技術分野において公知である。局面のいずれかのいくつかの態様において、心筋細胞は、例えば、本明細書に記載されるように、または当技術分野で公知のように、移植レシピエントに由来するiPSCから分化したものである。
【0111】
ある特定の態様において、ESCまたはiPSCの心筋細胞への段階的分化は、以下の順序で進行する:ESCまたはiPSC>心原性中胚葉>心臓前駆細胞>心筋細胞(例えば、Lian et al. Nat Prot (2013);米国出願第2017/0058263 A1号;第2008/0089874 A1号;第2006/0040389 A1号;米国特許第10,155,927 B2号;第9,994,812 B2号;および第9,663,764 B2号を参照されたく、そのそれぞれの内容は全体として参照により本明細書に組み入れられる)。全体として参照により本明細書に組み入れられる、LaFlamme et al., Nature Biotech 25:1015-1024 (2007) もまた参照されたい。これらの分化プロトコールでは、作用物質を細胞培養液に添加するかまたは細胞培養液から除去して、心筋細胞への分化を段階的様式で指示することができる。心筋細胞の分化を促進し得る因子および作用物質の非限定的な例には、低分子(例えば、Wnt阻害剤、GSK3阻害剤)、ポリペプチド(例えば、増殖因子)、核酸、ベクター、およびパターン化基材(例えば、ナノパターン)が含まれる。線維芽細胞増殖因子2 (FGF2)、トランスフォーミング増殖因子β (TGFβ) スーパーファミリー増殖因子であるアクチビンAおよびBMP4、血管内皮増殖因子 (VEGF)、およびWnt阻害剤DKK-1を含むがこれらに限定されない、心血管発生に必要な増殖因子の添加もまた、心臓系列に沿った分化を指示する上で有益であり得る。心筋細胞の分化の促進を助ける因子および条件の付加的な例には、数ある中でも、インスリンを欠いたB27サプリメント、細胞馴化培地、外部からの電気的ペーシング、およびナノパターン化基材が含まれるが、これらに限定されない。
【0112】
単に一例として、胚性幹細胞またはiPS細胞を、胚性線維芽細胞馴化培地(例えば、マウス、MEF-CM)中で培養し、細胞外マトリックス(例えば、Engelbreth Holm-Swarm (EHS) マウス肉腫細胞によって分泌されるゼラチンタンパク質混合物であるMatrigel(登録商標))上に播種することができる。心筋細胞の分化を開始するために、細胞に、塩基性線維芽細胞増殖因子 (bFGF) を含む新たな培地を約6~7日間投与する。7日後、線維芽細胞馴化培地を、B27サプリメントを含むRoswell Park Memorial Institute 1640培地(本明細書ではRPMI-B27と称される)と交換し、以下のようにサイトカインを補充する:(a) 100 ng/mlヒト組換えアクチビンAで約24時間処理し、続いて(b) 10 ng/mlヒト組換えBMP4で約4日間処理する。次いで、培地を、補足サイトカインを含まないRPMI-B27培地に交換し、さらに2~3週間の間、培養物に2~3日ごとに新たな培地を与えることができる。
【0113】
一般的に、心筋細胞に分化している細胞は、アクチビンAを添加してから約12日後に、培養下で拍動および収縮を開始する。これは、標準的な細胞培養および顕微鏡技法を用いてモニターすることができる。
【0114】
インビトロで分化した心筋細胞の機能的な読み取り(例えば、拍動細胞)に加えて、インビトロで分化した心筋細胞はまた、成体心臓細胞に特異的なバイオマーカーを発現する。心筋細胞のバイオマーカーの非限定的な例には、心臓トロポニンT (cTnT)、α-アクチニン、またはミオシン重鎖が含まれる。付加的なタンパク質マーカー、および例えば心筋細胞の成熟の機能的特徴が存在することが好ましいが、少なくとも、本明細書に記載される方法および組成物において有用なインビトロで分化したヒト心筋細胞は、心臓トロポニンTを発現する。必要または所望であれば、心筋細胞は次いで、Percoll勾配または細胞選別技法(例えば、フローサイトメトリー)を使用して、心筋細胞バイオマーカー(例えば、トロポニンT、α-アクチニン、ミオシン重鎖、またはリアノジン受容体2)について濃縮することができる。心筋細胞の濃縮の例は、例えば、Xu et al. Circ Res. (2002);Laflamme et al. Am. J. Pathol. 167, 663-671 (2005);およびMiltenyi Biotec MACS(登録商標)Characterization by flow cytometry PSC-derived cardiomyocyte subtypes (2017)において見出され;これらは全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0115】
インビトロで分化した心筋細胞の成熟度は、細胞の電気的成熟度、細胞の代謝成熟度、またはインビトロで分化した細胞の収縮成熟度などの多くのパラメータによって評価することができる。心筋細胞の成熟タンパク質、生化学的および電気的成熟マーカーの例は、例えばWO2019/035032 A2において見出され、これは全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0116】
細胞の電気的成熟度を決定するためのそのような方法の非限定的な例には、数ある中でも、全細胞パッチクランプ(手動または自動)、多電極アレイ、電場電位刺激、カルシウムイメージング、および光学マッピングが含まれる。全細胞電流固定または電場電位記録中に細胞を電気的に刺激して、電気的および/または収縮反応を生じさせることができる。心筋細胞の電場電位および生体電位の測定を用いて、分化段階および細胞成熟度を決定することができる。
【0117】
心筋細胞に関して、電気的成熟度は、参照レベルと比較して、以下のマーカーのうちの1つまたは複数によって決定される:1つまたは複数のイオンチャネル遺伝子の遺伝子発現の増加、ナトリウム電流密度の増加、内向き整流性カリウムチャネル電流密度の増加、活動電位周波数の増加、カルシウム波周波数の増加、および電場電位周波数の増加。遺伝子発現を測定する方法は、例えばRT-PCRおよびトランスクリプトーム配列決定など、当技術分野において公知である。
【0118】
代謝アッセイを用いて、本明細書に記載されるインビトロで分化した細胞の分化段階および細胞成熟度を決定することができる。代謝アッセイの非限定的な例には、細胞生体エネルギーアッセイ(例えば、Seahorse Bioscience XF Extracellular Flux Analyzer)および酸素消費試験が含まれる。具体的には、細胞代謝は、数あるパラメータの中でも、酸素消費速度 (OCR)、脂肪酸ストレス試験中のOCR追跡、OCRの最大変化、FCCP添加後のOCRの最大変化、および最大呼吸能により定量化することができる。さらに、代謝負荷または乳酸濃縮アッセイは、細胞成熟度の尺度、またはそのような細胞の様々な処理の効果の尺度を提供し得る。
【0119】
例えば、インビトロで分化した心筋細胞の代謝成熟度は、参照レベルと比較して、以下のマーカーのうちの1つまたは複数によって決定される:インビトロで分化した未成熟な心筋細胞に対する、ミトコンドリア機能の活性の上昇、脂肪酸代謝の増加、酸素消費速度 (OCR) の上昇、リン酸化ACCのレベルまたは活性の上昇、脂肪酸結合タンパク質 (FABP) のレベルまたは活性の上昇、ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ-4 (PDK4) のレベルまたは活性の上昇、ミトコンドリア呼吸能の増加、ミトコンドリア容積の増加、およびミトコンドリアDNAのレベルの上昇。哺乳動物細胞は、一般的に、主なエネルギー源としてグルコースを使用する。しかしながら、心筋細胞は、乳酸または脂肪酸などの異なる供給源からのエネルギー生産が可能である。いくつかの態様において、乳酸を補充しかつグルコースを枯渇させた培養液、または乳酸もしくは脂肪酸をエネルギー源として使用する細胞の能力は、成熟した心筋細胞およびその機能の変動を同定するのに有用である。
【0120】
インビトロで分化した細胞(例えば、心筋細胞、骨格筋、または平滑筋)の収縮成熟度は、参照レベルと比較して、以下のマーカーのうちの1つまたは複数によって決定される:拍動頻度の増加、収縮力の増加、α-ミオシン重鎖 (α-MHC) のレベルまたは活性の上昇、サルコメアのレベルまたは活性の上昇、円形度指数の減少、トロポニンのレベルまたは活性の上昇、タイチンN2bのレベルまたは活性の上昇、細胞面積の増加、およびアスペクト比の増加。収縮性は、ビデオ解析などの光学的追跡法によって測定することができる。ビデオ追跡法では、組織または単一細胞の変位を測定して、収縮力、収縮頻度、等を決定することができる。
【0121】
付加的な細胞型:
本明細書に記載される方法および組成物はまた、骨格筋細胞、平滑筋細胞、腎細胞、内皮細胞、皮膚細胞、副腎皮質細胞、骨細胞、白血球、およびミクログリア細胞を含む、インビトロで分化した中胚葉系細胞を使用するか、またはそれらに適用可能である。
【0122】
幹細胞由来の骨格筋細胞、平滑筋、および/または脂肪細胞を分化させる方法は、例えば、米国特許第10,240,123 B2号;およびCheng et al. Am J Physiol Cell Physiol (2014) に記載されている。腎細胞を分化させる方法は、例えば、Tajiri et al. Scientific Reports 8:14919 (2018);Taguchi et al. Cell Stem Cell 14:53-67 (2014);および米国出願第2010/0021438 A1号に記載されている。内皮細胞(例えば、血管内皮)を分化させる方法は、例えば、米国特許第10,344,262 B2号、およびOlgasi et al., Stem Cell Reports 11:1391-1406 (2018) に記載されている。ホルモン産生細胞を分化させる方法は、例えば、米国特許第7,879,603 B2号、およびAbu-Bonsrah et al. Stem Cell Reports 10:134-150 (2018) に記載されている。骨細胞を分化させる方法は、例えば、Csobonyeiova et al. J Adv Res 8: 321-327 (2017)、米国特許第7,498,170 B2号;第6,391,297 B1号;およびUS出願第2010/0015164 A1号に記載されている。ミクログリア細胞を分化させる方法は、例えば、WO 2017/152081 A1に記載されている。上皮細胞および皮膚細胞を分化させる方法は、例えば、Kim et al., Stem Cell Research and Therapy (2018);米国特許第7,794,742 B2号;第6,902,881 B2号に記載されている。血液細胞および白血球を分化させる方法は、例えば、米国特許第6,010,696 Aおよび第6,743,634 B2号に記載されている。幹細胞由来のβ細胞を分化させる方法は、例えばWO 2016/100930A1に記載されている。上記の参考文献はそれぞれ、全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0123】
特定の細胞型を濃縮する方法:
本明細書に記載される幹細胞、前駆細胞、および/またはインビトロで分化した細胞は、マウス胚性線維芽細胞 (MEF) フィーダー細胞層、マトリゲル(登録商標)、コラゲナーゼIV、または所望の細胞型のインビトロ分化を実質的に促進し、かつ/もしくは所望の細胞の成熟、生存、表現型を維持する任意の他のマトリックスもしくは足場上で培養することができる。いくつかの態様においては、所与のマーカーまたはマーカーのセットに特異的な抗体または類似の作用物質を用いて、蛍光活性化細胞選別 (FACS)、パニング法、磁気粒子選択、粒子選別機選択、ならびに密度分離(Xu et al. (2002) Circ. Res. 91:501;U.S.S.N. 20030022367)および他の物理的特性に基づく分離(Doevendans et al. (2000) J. Mol. Cell. Cardiol. 32:839-851)を含む当業者に公知の他の方法を使用して、所望の細胞を分離および単離することができる。例えば、線維芽細胞マーカー、上皮細胞マーカー等の、望ましくないマーカーまたは特徴を有する細胞を選択および除去する段階を含む陰性選択を行うことができる。
【0124】
未分化ES細胞は、未分化細胞の存在を検出するためのマーカーとして使用され得る遺伝子を発現する。例示的なES細胞マーカーには、ステージ特異的胚抗原 (SSEA)-3、SSEA-4、TRA-I-60、TRA-1-81、アルカリホスファターゼ、または例えば、それぞれが全体として参照により本明細書に組み入れられるU.S.S.N. 2003/0224411;もしくはBhattacharya (2004) Blood 103(8):2956-64に記載されているものが含まれる。心臓前駆細胞上に発現される例示的なマーカーには、TMEM88、GATA4、ISL1、MYL4、およびNKX2-5が含まれるが、これらに限定されない。このようなマーカーを評価するかまたは使用して、例えばインビトロで分化した心筋細胞の集団において、未分化細胞または前駆細胞の存在を除去または決定することができる。同様に、胚性マーカーであるかそうでないかにかかわらず、未分化細胞のマーカーの存在を用いて、本明細書に記載される方法および組成物において有用な他の中胚葉系細胞型の集団を評価することができる。
【0125】
PRPF31のレベルおよび/または活性を低下させる作用物質
U4/U6核内低分子リボ核タンパク質Prp31;hPRP31、またはPRPF31とも称されるプレmRNAプロセシング因子31は、遺伝子PRPF31によってコードされるスプライソソームの構成成分である。PRPF31は、スプライソソーム複合体を活性化する、遍在的に発現する61-kDaのスプライシング因子タンパク質である。スプライソソーム複合体は、RNAスプライシング過程において、転写されたプレRNAの非コード領域であるイントロンを除去するように機能するポリペプチドおよび核内低分子RNA (snRNA) からなる。PRPF31の添加は、スプライソソーム複合体の活性化状態への移行に必要である(例えば、Liu et al., 2007、およびSchaffert et al. EMBO J. (2014) を参照されたく、これらは全体として参照により本明細書に組み入れられる)。
【0126】
PRPF31の遺伝子、mRNA、およびアミノ酸配列は、例えば、ヒトPRPF31遺伝子(NCBI GeneID:26121)、ヒトmRNA転写物(NCBI参照配列:NM_015629.4 (SEQ ID NO: 4))、およびヒトアミノ酸配列(NCBI参照配列:NP_056444.3 (SEQ ID NO: 5))など、当技術分野において公知である。
【0127】
ある特定の態様において、本明細書に記載される方法および組成物は、移植用の細胞または細胞調製物、例えば移植用のインビトロで分化した細胞におけるPRPF31のレベルまたは活性を阻害するかまたは減少させる1つまたは複数の作用物質の使用を含む。
【0128】
PRPF31のレベルは、当技術分野において公知の方法、例えば、免疫沈降またはその他のプルダウンアッセイ、ウェスタンブロッティング、qPCR、RT-PCR、および免疫細胞化学的検査によって決定することができる。したがって、これらの方法を用いて、所与の処理または作用物質がPRPF31タンパク質、mRNA、またはその両方のレベルを低下させるかどうかを判定することができる。RT-PCR用のプライマーは、mRNA配列に基づいて、例えばSEQ ID NO: 5に基づいて調製することができる。ヒトPRPF31と特異的に結合する抗体は、例えば、Novus Biologicals(登録商標)(Centennial, CO)、Santa Cruz Biotechnology(登録商標)(Dallas, TX)、およびAbcam(登録商標)(Cambridge, MA)から入手可能であり、これを用いて、例えば、数ある中でも心筋細胞などのインビトロで分化した中胚葉系細胞における、PRPF31のレベルを低下させる作用物質による処理後のPRPF31の変化を検出することができる。
【0129】
いくつかの態様において、作用物質はPRPF31の活性を低下させる。いくつかの態様において、作用物質は、適切な対照と比較して、PRPF31の活性を少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、またはそれ以上低下させる。
【0130】
PRPF31の活性は、当技術分野で公知の任意の方法によって決定することができる。例えば、スプライシングにおけるPRPF31の活性は、全体として参照により本明細書に組み入れられるWilke et al., Mol. Vis. 14:683-690 (2008) によって記載されているようなトランスフェクションベースのアッセイのために構築されたミニ遺伝子を用いてアッセイすることができる。理論によって縛られることは望まないが、移植された細胞の生存または生着の促進に対するPRPF31阻害の効果は、mRNAスプライシングにおけるPRPF31の活性に関連していることが企図される。PRPF31は、U4/U6 snRNP複合体中のU4 snRNPに結合し、U5特異的なPRPF6タンパク質に結合することにより、U4/U6 di-snRNPとU5の間の架橋を形成すると考えられている。例えば、Makarova et al., EMBO J. 21:1148-1157 (2002) を参照されたい。したがって、別のアプローチでは、細胞またはインビトロのいずれかにおいて、例えば、共免疫沈降またはPRPF31/PRPF6複合体形成に関する他のアッセイを介して、PRPF6とのその相互作用をアッセイすることにより、PRPF31活性を評価することができる。
【0131】
生存および/または生着を促進する際のPRPF31の活性は、スプライシングにおける該因子の活性に依存しないことが代わりに企図される。例えば、PRPF31に結合するか、またはPRPF31の修飾を促進する作用物質を、PRPF31活性の阻害について評価することができる。
【0132】
1つの態様において、PRPF31活性を低下させる作用物質の効果は、インビトロで分化した細胞、例えば中胚葉系の細胞、例えばインビトロで分化した心筋細胞を作用物質と接触させ、その細胞を適切な動物モデルに移植することによって確認することができる。未処理の細胞と比較して、移植された細胞の生存を促進する作用物質は次いで、PRPF31活性を低下させる作用物質であることが確認される。
【0133】
Wilkeらの論文はまた、この複合体形成を測定するプルダウンアッセイ、およびスプライシングにドミナントネガティブな様式で作用するA216Pミスセンス変異を有する変異PRPF31ポリペプチドについて記載している。A216P変異タンパク質の一過性発現を用いて、本明細書に記載される方法および組成物における、移植に使用されるインビトロで分化した細胞におけるPRPF31活性を低下させることができることが企図される。
【0134】
局面のいずれかのいくつかの態様において、作用物質は、低分子、ポリペプチド、抗体、核酸分子、RNAi、核酸分子を含むベクター、アンチセンスオリゴヌクレオチド、または遺伝子編集システムである。
【0135】
いくつかの態様において、作用物質はPRPF31のレベルを低下させる。いくつかの態様において、作用物質は、適切な対照と比較して、PRPF31のレベルを少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、またはそれ以上低下させる。
【0136】
いくつかの態様において、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質は、低分子である。低分子は、有機または無機分子であり、これには、ペプチド、ペプチド模倣物、アミノ酸、アミノ酸類似体、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド類似体、アプタマー、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、1モル当たり約10,000グラム未満の分子量を有する有機または無機化合物(例えば、ヘテロ有機化合物および有機金属化合物を含む)、1モル当たり約5,000グラム未満の分子量を有する有機または無機化合物、1モル当たり約1,000グラム未満の分子量を有する有機または無機化合物、ならびにそのような化合物の塩、エステル、およびその他の薬学的に許容される形態が含まれ得るが、これらに限定されない。「低分子」の例には、参照により本明細書に組み入れられる、Goodman and Gillmanの「The Pharmacological Basis of Therapeutics」13 ed. (2018) に記載されている化合物が含まれるが、これらに限定されない。低分子をスクリーニングするための方法は当技術分野で公知であり、これを用いて、所望の標的(例えば、PRPF31ポリペプチド)を考慮して、例えばPRPF31のレベルまたは活性を調節するのに効率的な低分子を同定することができる。
【0137】
局面のいずれかのいくつかの態様において、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質は、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする。
【0138】
局面のいずれかのいくつかの態様において、阻害性核酸は阻害性RNAまたはRNA干渉分子 (RNAi)である。
【0139】
干渉RNA (iRNA) とも称されるRNAiは、RNA(または例えば本明細書において以下に記載されるような修飾核酸)を含み、高度に保存されたRNA誘導サイレンシング複合体 (RISC) 経路を介してRNA転写物の標的切断を媒介する作用物質のクラスのいずれかである。局面のいずれかのいくつかの態様において、本明細書に記載されるiRNAは、標的、例えばPRPF31の発現および/または活性の阻害をもたらす。局面のいずれかのいくつかの態様においては、細胞を阻害剤(例えば、iRNA)と接触させると、細胞内の標的mRNAレベルが、iRNAの存在しない細胞において見出される標的mRNAレベルの少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約99%、最大で100%およびそれを含めて減少する。
【0140】
局面のいずれかのいくつかの態様において、iRNAはdsRNAであってよい。dsRNAは、dsRNAが使用される条件下でハイブリダイズして二重鎖構造を形成するのに十分に相補的な2本のRNA鎖を含む。dsRNAの一方の鎖(アンチセンス鎖)は、標的配列に実質的に相補的な、および一般的に完全に相補的な相補性領域を含む。標的配列は、標的の発現中に形成されるmRNAの配列に由来してよく、例えば、それは1つまたは複数のイントロン境界をまたいでよい。他方の鎖(センス鎖)は、アンチセンス鎖に相補的な領域を含み、その結果、2本の鎖は、適切な条件下で組み合わされるとハイブリダイズし二重鎖構造を形成する。1つの態様において、iRNAは、自己相補性によってそれ自体の上に折り返されて、関心対象の転写物を標的とする塩基対合二重鎖を形成する一本鎖のRNAであってよく、またはそれを含み得る。これらは低分子ヘアピン型RNAまたはshRNAと称され、所望であれば、細胞に導入される構築物によってコードされ得る。一般的に、二重鎖構造は、15~30塩基対長(両端の値を含む)、より一般的には18~25塩基対長(両端の値を含む)、さらにより一般的には19~24塩基対長(両端の値を含む)、および最も一般的には19~21塩基対長(両端の値を含む)である。同様に、標的配列に対する相補性領域は、15~30塩基対長(両端の値を含む)、より一般的には18~25塩基対長(両端の値を含む)、さらにより一般的には19~24塩基対長(両端の値を含む)、および最も一般的には19~21塩基対長のヌクレオチド長(両端の値を含む)である。局面のいずれかのいくつかの態様において、dsRNAは15~20ヌクレオチド長(両端の値を含む)であり、他の態様において、dsRNAは25~30ヌクレオチド長(両端の値を含む)である。当業者が認識するように、切断の標的とされるRNAの標的化領域は、ほとんどの場合、より大きなRNA分子、しばしばmRNA分子、の一部である。関連する場合、mRNA標的の「一部」は、RNAi指示切断(すなわち、RISC経路を介する切断)の基質となるのに十分な長さのmRNA標的の連続する配列である。9塩基対程度の短い二重鎖を有するdsRNAは、ある状況下において、RNAi指示RNA切断を媒介することができる。ほとんどの場合、上記のように、標的は少なくとも15ヌクレオチド長、好ましくは15~30ヌクレオチド長である。
【0141】
阻害性核酸の種類の例示的な態様は、例えば、当技術分野で公知であるsiRNA、shRNA、miRNA、および/またはamiRNAを含み得る。当業者は、PRPF31 mRNAを標的とするRNAi作用物質を設計し、試験することができる。公的に利用可能なRNAi設計ソフトウェアにより、当業者は、標的遺伝子発現の効率的なノックダウンを媒介する、または媒介する可能性が高い、所与の標的転写物内の1つまたは複数の配列を選択することができ、またRNAi作用物質の設計および調製の両方のための商業的供給源が存在する。局面のいずれかのいくつかの態様において、RNAi分子は、SEQ ID NO: 1またはSEQ ID NO: 2の核酸配列を含む。
【0142】
局面のいずれかのいくつかの態様において、iRNAのRNA、例えばdsRNAは、安定性または他の有益な特徴を増強するために化学的に修飾される。本明細書に記載される核酸は、参照により本明細書に組み入れられる「Current protocols in nucleic acid chemistry,」Beaucage, S.L. et al. (Edrs.), John Wiley & Sons, Inc., New York, NY, USAに記載されているような、当技術分野において十分に確立された方法によって合成および/または修飾され得る。修飾には、例えば、(a) 末端修飾、例えば、5'末端修飾(リン酸化、コンジュゲーション、逆結合、等)、3'末端修飾(コンジュゲーション、DNAヌクレオチド、逆結合、等)、(b) 塩基修飾、例えば、安定化塩基、不安定化塩基、もしくはパートナーの拡張レパートリーと塩基対を形成する塩基との置換、塩基の除去(脱塩基ヌクレオチド)、または共役塩基、(c) 糖修飾(例えば、2'位もしくは4'位における修飾)または糖の置換、および (d) ホスホジエステル結合の修飾または置換を含む骨格修飾が含まれる。本明細書に記載される態様において有用なRNA化合物の具体例には、修飾骨格を含むか、または天然のヌクレオシド間結合を含まないRNAが含まれるが、これらに限定されない。修飾骨格を有するRNAには、数ある中でも、骨格中にリン原子を有さないものが含まれる。本明細書の目的のために、および当技術分野において時々参照されるように、ヌクレオシド間骨格中にリン原子を有さない修飾RNAもまた、オリゴヌクレオシドと見なされ得る。局面のいずれかのいくつかの態様において、修飾RNAは、そのヌクレオシド骨格中にリン原子を有する。
【0143】
修飾RNA骨格は、例えば、通常の3'-5'結合を有するホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、3'-アルキレンホスホネートおよびキラルホスホネートを含むメチルおよび他のアルキルホスホネート、ホスフィネート、3'-アミノホスホルアミデートおよびアミノアルキルホスホルアミデートを含むホスホルアミデート、チオノホスホルアミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、およびボラノホスフェート、これらの2'-5'結合類似体、ならびに隣接するヌクレオシド単位の対が3'-5'から5'-3'にまたは2'-5'から5'-2'に結合している逆極性を有するものを含み得る。様々な塩、混合塩、および遊離酸形態もまた含まれる。その中にリン原子を含まない修飾RNA骨格は、短鎖アルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合されたヘテロ原子およびアルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、または1つもしくは複数の短鎖ヘテロ原子もしくは複素環ヌクレオシド間結合によって形成された骨格を有する。これらには、モルホリノ結合(部分的にヌクレオシドの糖部分から形成される);シロキサン骨格;スルフィド、スルホキシド、およびスルホン骨格;ホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格;メチレンホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格;アルケン含有骨格;スルファメート骨格;メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノ骨格;スルホネートおよびスルホンアミド骨格;アミド骨格;混合されたN、O、S、およびCH2構成成分部分を有する他のものを有するもの、ならびにヘテロ原子骨格、特に、--CH2--NH--CH2--、--CH2--N(CH3)--O--CH2--[メチレン(メチルイミノ)またはMMI骨格として公知である]、--CH2--O--N(CH3)--CH2--、--CH2--N(CH3)--N(CH3)--CH2--、および--N(CH3)--CH2--CH2--[この場合、天然ホスホジエステル骨格は--O--P--O--CH2--として表される]を有するオリゴヌクレオシドが含まれる。
【0144】
iRNAに使用するのに適したまたは企図される他のRNA模倣物では、ヌクレオチド単位の糖およびヌクレオシド間結合の両方、すなわち骨格が、新規な基で置き換えられる。塩基単位は、適切な核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのために維持される。1つのそのようなオリゴマー化合物である、優れたハイブリダイゼーション特性を有することが示されているRNA模倣物は、ペプチド核酸 (PNA) と称される。PNA化合物では、RNAの糖骨格が、アミド含有骨格、特にアミノエチルグリシン骨格で置き換えられる。核酸塩基は保持され、骨格のアミド部分のアザ窒素原子に直接または間接的に結合している。
【0145】
iRNAのRNAはまた、1つまたは複数のロックド核酸 (LNA) を含むように修飾され得る。ロックド核酸は、リボース部分が2'炭素と4'炭素を接続する追加の架橋を含む修飾リボース部分を有するヌクレオチドである。この構造は、リボースを3'-endo構造立体配座内に効果的に「固定」する。ロックド核酸をsiRNAに付加すると、血清中のsiRNAの安定性が増加し、オフターゲット効果が減少することが示されている(Elmen, J. et al., (2005) Nucleid Acids Research 33(1):439-447;Mook, OR. et al., (2007) Mol Canc Ther 6(3):833-843;Grunweller, A. et al., (2003) Nucleic Acids Research 31(12):3185-3193)。
【0146】
修飾RNAはまた、1つまたは複数の置換糖部分を含み得る。本明細書に記載されるiRNA、例えばdsRNAは、2'位に以下のうちの1つを含み得る:OH;F;O-、S-、もしくはN-アルキル;O-、S-、もしくはN-アルケニル;O-、S-、もしくはN-アルキニル;またはO-アルキル-O-アルキル、この場合、アルキル、アルケニル、およびアルキニルは、置換または非置換のC1~C10アルキルまたはC2~C10アルケニルおよびアルキニルであってよい。例示的な適切な修飾には、O[(CH2)nO]mCH3、O(CH2).nOCH3、O(CH2)nNH2、O(CH2)nCH3、O(CH2)nONH2、およびO(CH2)nON[(CH2)nCH3)]2、式中、nおよびmは1から約10である、が含まれる。局面のいずれかのいくつかの態様において、dsRNAは、2'位に以下のうちの1つを含み得る:C1~C10低級アルキル、置換低級アルキル、アルカリル、アラルキル、O-アルカリルもしくはO-アラルキル、SH、SCH3、OCN、Cl、Br、CN、CF3、OCF3、SOCH3、SO2CH3、ONO2、NO2、N3、NH2、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリル、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA切断基、レポーター基、インターカレーター、iRNAの薬物動態特性を改善するための基、またはiRNAの薬力学特性を改善するための基、および類似の特性を有する他の置換基。局面のいずれかのいくつかの態様において、修飾には、2'-メトキシエトキシ(2'-O-(2-メトキシエチル)または2'-MOEとしても公知の2'-O--CH2CH2OCH3)(Martin et al., Helv. Chim. Acta, 1995, 78:486-504)、すなわちアルコキシ-アルコキシ基が含まれる。別の例示的な修飾は、本明細書の以下の実施例に記載される、2'-DMAOEとしても公知の2'-ジメチルアミノオキシエトキシ、すなわちO(CH2)2ON(CH3)2基、およびやはり本明細書の以下の実施例に記載される2'-ジメチルアミノエトキシエトキシ(当技術分野において2'-O-ジメチルアミノエトキシエチルまたは2'-DMAEOEとしても公知である)、すなわち2'-O--CH2--O--CH2--N(CH2)2である。
【0147】
他の修飾には、2'-メトキシ(2'-OCH3)、2'-アミノプロポキシ(2'-OCH2CH2CH2NH2)、および2'-フルオロ(2'-F)が含まれる。同様の修飾はまた、iRNAのRNA上の他の位置、特に3'末端ヌクレオチド上または2'-5'連結dsRNA中の糖の3'位、および5'末端ヌクレオチドの5'位においてもなされ得る。iRNAはまた、ペントフラノシル糖の代わりにシクロブチル部分などの糖模倣物を有してもよい。
【0148】
阻害性核酸はまた、核酸塩基(当技術分野において単に「塩基」と称される場合が多い)の修飾または置換を含み得る。本明細書で用いられる場合、「非修飾」または「天然」核酸塩基には、プリン塩基であるアデニン (A) およびグアニン (G)、ならびにピリミジン塩基であるチミン (T) 、シトシン (C) およびウラシル (U) が含まれる。修飾核酸塩基には、その他の合成および天然核酸塩基、例えば、5-メチルシトシン (5-me-C)、5-ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2-アミノアデニン、アデニンおよびグアニンの6-メチルおよび他のアルキル誘導体、アデニンおよびグアニンの2-プロピルおよび他のアルキル誘導体、2-チオウラシル、2-チオチミンおよび2-チオシトシン、5-ハロウラシルおよびシトシン、5-プロピニルウラシルおよびシトシン、6-アゾウラシル、シトシン、およびチミン、5-ウラシル(シュードウラシル)、4-チオウラシル、8-ハロ、8-アミノ、8-チオール、8-チオアルキル、8-ヒドロキシル、および他の8-置換アデニンおよびグアニン、5-ハロ、特に5-ブロモ、5-トリフルオロメチル、および他の5-置換ウラシルおよびシトシン、7-メチルグアニンおよび7-メチルアデニン、8-アザグアニンおよび8-アザアデニン、7-デアザグアニンおよび7-デアザ (daaza) アデニン、ならびに3-デアザグアニンおよび3-デアザアデニンなどが含まれる。これらの核酸塩基のいくつかは、本発明において特徴とされる阻害性核酸の結合親和性を増加させるのに特に有用である。これらには、2-アミノプロピルアデニン、5-プロピニルウラシル、および5-プロピニルシトシンを含む、5-置換ピリミジン、6-アザピリミジン、ならびにN-2、N-6、および0-6置換プリンが含まれる。5-メチルシトシン置換は、核酸二重鎖の安定性を0.6~1.2℃上昇させることが示されており (Sanghvi, Y. S., Crooke, S. T. and Lebleu, B., Eds., dsRNA Research and Applications, CRC Press, Boca Raton, 1993, pp. 276-278)、さらにいっそう特に2'-O-メトキシエチル糖修飾と組み合わせた場合、例示的な塩基置換である。
【0149】
上記の修飾核酸、骨格、および核酸塩基の調製は、当技術分野において公知である。
【0150】
本発明において特徴とされる阻害性核酸の別の修飾は、阻害性核酸を、iRNAの活性、細胞分布、薬物動態特性、または細胞取り込みを増強する1つまたは複数のリガンド、部分、またはコンジュゲートに化学的に連結することを伴う。そのような部分には、コレステロール部分 (Letsinger et al., Proc. Natl. Acid. Sci. USA, 1989, 86: 6553-6556)、コール酸 (Manoharan et al., Biorg. Med. Chem. Let., 1994, 4:1053-1060)、チオエーテル、例えばベリル-S-トリチルチオール(Manoharan et al., Ann. N.Y. Acad. Sci., 1992, 660:306-309;Manoharan et al., Biorg. Med. Chem. Let., 1993, 3:2765-2770)、チオコレステロール (Oberhauser et al., Nucl. Acids Res., 1992, 20:533-538)、脂肪族鎖、例えばドデカンジオールもしくはウンデシル残基(Saison-Behmoaras et al., EMBO J, 1991, 10:1111-1118;Kabanov et al., FEBS Lett., 1990, 259:327-330;Svinarchuk et al., Biochimie, 1993, 75:49-54)、リン脂質、例えばジ-ヘキサデシル-rac-グリセロールもしくはトリエチル-アンモニウム1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-ホスホネート(Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 1995, 36:3651-3654;Shea et al., Nucl. Acids Res., 1990, 18:3777-3783)、ポリアミンもしくはポリエチレングリコール鎖(Manoharan et al., Nucleosides & Nucleotides, 1995, 14:969-973)、またはアダマンタン酢酸 (Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 1995, 36:3651-3654)、パルミチル部分 (Mishra et al., Biochim. Biophys. Acta, 1995, 1264:229-237)、またはオクタデシルアミンもしくはヘキシルアミノ-カルボニルオキシコレステロール部分 (Crooke et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 1996, 277:923-937) などの脂質部分が含まれるが、これらに限定されない。
【0151】
局面のいずれかの1つの態様において、PRPF31を減少させる作用物質は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、例えば、標的mRNA配列に相補的な配列を有する核酸である。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、典型的には、DNAまたはRNA標的にハイブリダイズし、転写、翻訳、またはスプライシングのレベルで発現を停止させることにより、標的の発現を阻止するように設計される。本明細書に記載されるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、典型的な細胞内条件下で標的にハイブリダイズするように設計される。したがって、所望の効果をもたらすように、標的に十分に相補的な、すなわち、細胞環境の観点から十分な特異性で十分にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドが選択される。例えば、PRPF31のレベルを低下させるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ヒトPRPF31遺伝子(例えば、SEQ ID NO: 4~5)のコーディング配列の一部にそれぞれ相補的な少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、またはそれ以上の塩基を含み得る。
【0152】
局面のいずれかのいくつかの態様において、作用物質はアプタマーである。アプタマーは一般的に、典型的には20~80ヌクレオチド長、例えば、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも30ヌクレオチド、少なくとも40ヌクレオチド、少なくとも50ヌクレオチド、少なくとも60ヌクレオチド、少なくとも70ヌクレオチド、もしくは80ヌクレオチド、またはそれ以上の比較的短いオリゴヌクレオチドからなる。アプタマーは、例えばアプタマーの一方の末端または他方の末端において、より長い配列に結合させることができるが、アプタマーの二次構造に影響を及ぼす付加配列は、アプタマーの機能に影響を及ぼし得る。アプタマーの機能的活性、すなわち所与の標的分子への結合は、アプタマー中の部分または要素と標的分子上の部分または要素との間の相互作用を伴う。アプタマーは一般に、静電的相互作用、疎水性相互作用、および/またはそれらの相補的形状を含むがこれらに限定されない、タンパク質などの標的との非共有結合性相互作用によって特定の標的に結合する。当業者は、当技術分野において公知のインシルコモデル、例えば、UNPACK、APTANI、3D-DART、ModeRNA、もしくはUnified Nucleic Acid Foldingおよびハイブリダイゼーションパッケージ (UNAFold)、または任意の他のオリゴヌクレオチド構造予測モデルを用いて、PRPF31を標的とするアプタマーを最初に設計することができる。このような設計の後、分子を合成し、当技術分野で公知のように結合および阻害活性について試験することができる。所望の場合、アプタマーは、細胞内で、アプタマー配列をコードする構築物から発現させることができる。
【0153】
PRPF31のレベルまたは活性を低下させる本明細書に記載される核酸は、市販されているものであってよく、例えばヌクレオシドホスホロアミダイトもしくは他のアプローチを用いて化学合成することができ、またはDNAもしくはRNA抽出法により生体試料から単離することができる。これらの単離方法には、カラム精製、エタノール沈殿、フェノールクロロホルム抽出、または酸性グアニジニウムチオシアネート-フェノールクロロホルム抽出 (AGPC) が含まれるが、これらに限定されない。
【0154】
ある特定の態様において、ベクターは、1つまたは複数のポリペプチド、ペプチド、リボザイム、ペプチド核酸、siRNA、もしくはRNAi分子(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスポリヌクレオチド、siRNA、shRNA、マイクロRNA、およびそれらのアンチセンス対応物(例えば、antagoMiR)を含む)、抗体、抗原結合断片、またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない、本明細書に記載されるインビトロで分化した細胞におけるPRPF31のレベルまたは活性を低下させる、本明細書に記載される作用物質を発現させるのに有用である。
【0155】
ベクターは、宿主細胞への送達、または異なる宿主細胞間の遺伝物質の導入のために設計された核酸構築物である。本明細書で用いられる場合、ベクターはウイルス性または非ウイルス性であってよい。「ベクター」という用語は、適切な制御エレメントと結合した場合に複製が可能であり、かつ遺伝物質を細胞に導入することができる任意の遺伝要素を包含する。ベクターには、クローニングベクター、発現ベクター、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、人工染色体、ウイルス、ビリオン、等が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0156】
局面のいずれかのいくつかの態様において、ベクターは、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される。
【0157】
発現ベクターは、ベクター上の転写調節配列に連結された、その中に含まれる核酸配列からのRNAまたはポリペプチド(例えば、抗PRPF31抗体)の発現を指示するベクターである。発現される配列は、必ずしもそうではないが多くの場合、その細胞にとって異種である。発現ベクターは付加的なエレメントを含んでよく、例えば発現ベクターは2つの複製系を有してよく、それによって、2種類の生物において、例えば発現のためのヒト細胞において、ならびにクローニングおよび増幅のための原核生物宿主において維持されることが可能になる。「発現」は、適用可能であれば、例えば、転写、転写物プロセシング、翻訳、ならびにタンパク質のフォールディング、修飾、およびプロセシングを含むがこれらに限定されない、RNAおよびタンパク質の産生、ならびに必要に応じてタンパク質の分泌に関与する細胞過程を指す。「発現産物」には、遺伝子から転写されたRNA、および遺伝子から転写されたmRNAの翻訳によって得られたポリペプチドが含まれる。
【0158】
組込み型ベクターによって、送達されたRNA/DNAは宿主細胞染色体に永久に組み込まれる。非組込み型ベクターはエピソームのままであり、エピソームは、その中に含まれる核酸が宿主細胞染色体に決して組み込まれないことを意味する。組込み型ベクターの例には、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ハイブリッドアデノウイルスベクター、および単純ヘルペスウイルスベクターが含まれる。
【0159】
非組込み型ベクターには、非組込み型ウイルスベクターが含まれる。非組込み型ウイルスベクターはそのゲノムを宿主DNAに組み込まないため、組込み型レトロウイルスがもたらす主要なリスクの1つを排除する。一例は、限られた自己複製が可能であり、哺乳動物細胞において機能することが公知であるエプスタインバーoriP/核抗原-1(「EBNA1」)ベクターである。エプスタイン・バーウイルスに由来する2つのエレメントであるoriPおよびEBNA1を含むため、EBNA1タンパク質がウイルスレプリコン領域oriPに結合することで、哺乳動物細胞においてプラスミドが比較的長期間わたってエピソームで存在することが維持される。oriP/EBNA1ベクターは、この特有の特徴のために、組込みがない宿主細胞を作製するのに理想的である。他の非組込み型ウイルスベクターには、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルス (AAV) ベクターが含まれる。
【0160】
別の非組込み型ウイルスベクターはRNAセンダイウイルスベクターであり、これは、感染細胞の核に入ることなくタンパク質を産生することができる。F欠損センダイウイルスベクターは、2~3継代にわたって感染細胞の細胞質に留まるが、素早く希釈除去され、数継代(例えば、10継代)後に完全に失われる。これにより、標的細胞における、選択された1つまたは複数の異種遺伝子の自己限定的な一過性発現が可能になる。
【0161】
非組込み型ベクターの別の例は、ミニサークルベクターである。ミニサークルベクターは、プラスミド骨格が放出されて、真核生物プロモーターおよび発現されるべきcDNAしか残っていない環状化ベクターである。
【0162】
上記のように、いくつかの態様において、本明細書に記載される作用物質は、細胞内でウイルスベクターから発現される。「ウイルスベクター」は、ウイルス起源の少なくとも1つのエレメントを含み、かつウイルスベクター粒子にパッケージングされる能力を有する核酸ベクター構築物を含む。ウイルスベクターは、必須ではないウイルス遺伝子の代わりに、本明細書に記載されるポリペプチド作用物質をコードする核酸を含むことができる。ベクターおよび/または粒子は、インビトロまたはインビボのいずれかで核酸を細胞に移入する目的で利用することができる。
【0163】
いくつかの態様においては、本明細書に記載される核酸およびベクターを使用して、インビトロまたはインビボで細胞に、アンチセンス核酸、RNAi、アプタマー、または核酸を含むベクターを提供することができる。本明細書に記載される核酸は、任意のトランスフェクション試薬、または核酸の細胞への侵入を容易にする他の物理的手段を用いて送達することができる。細胞に核酸を投与する、送達する、または接触させるための方法および組成物は、例えば、リポソーム、ナノ粒子、エクソソーム、ナノカプセル、コンジュゲート、アルコール、ポリリジンリッチ化合物、アルギニンリッチ化合物、リン酸カルシウム、マイクロベシクル、マイクロインジェクション、およびエレクトロポレーションなど、当技術分野で公知である。「細胞取り込みを増加させる作用物質」とは、分子、例えば、核酸、またはペプチドもしくはポリペプチド、またはその他の方法では脂質膜を介して細胞膜を効率的に通過しない他の分子などの輸送を容易にする分子である。例えば、核酸は、親油性化合物(例えば、コレステロール、トコフェロール、等)、細胞浸透性ペプチド (CPP)(例えば、ペネトラチン、TAT、Syn1B、等)、またはポリアミン(例えば、スペルミン)にコンジュゲートことができる。細胞取り込みを増加させる作用物質のさらなる例は、例えば、Winkler (2013). Oligonucleotide conjugates for therapeutic applications. Ther. Deliv. 4(7); 791-809に開示されている。
【0164】
当技術分野で公知のアッセイを用いて、インビトロで分化した細胞または組織への核酸送達の効率を試験することができる。導入の効率は、所望の導入遺伝子のmRNAおよび/またはタンパク質レベルを測定することにより(例えば、逆転写PCR、ウェスタンブロット解析、および酵素結合免疫吸着アッセイ (ELISA) による)、当業者によって評価され得る。いくつかの態様において、本明細書に記載されるベクターは、例えば、蛍光顕微鏡または発光プレートリーダーによってレポータータンパク質の発現を調べることにより、所望の導入遺伝子の発現を評価するために使用され得るレポータータンパク質を含む。
【0165】
いくつかの態様において、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質は、ポリペプチドをコードする核酸またはポリペプチドをコードするベクターである。ポリペプチドは、単数形の「ポリペプチド」および複数形の「ポリペプチド」を包含してよく、2個またはそれ以上のアミノ酸の任意の1つまたは複数の鎖を含む。ポリヌクレオチドおよびポリペプチド構造に関して、当技術分野において慣習的な命名法が存在する。例えば、アミノ酸を記載するために、1文字および3文字の略語が広く用いられている:アラニン(A;Ala)、アルギニン(R;Arg)、アスパラギン(N;Asn)、アスパラギン酸(D;Asp)、システイン(C;Cys)、グルタミン(Q;Gln)、グルタミン酸(E;Glu)、グリシン(G;Gly)、ヒスチジン(H;His)、イソロイシン(I;Ile)、ロイシン(L;Leu)、メチオニン(M;Met)、フェニルアラニン(F;Phe)、プロリン(P;Pro)、セリン(S;Ser)、スレオニン(T;Thr)、トリプトファン(W;Trp)、チロシン(Y;Tyr)、バリン(V;Val)、およびリジン(K;Lys)。本明細書において提供されるアミノ酸残基は、「L」異性体型であることが好ましい。しかしながら、ポリペプチドの所望の特性が保持されるのであれば、「D」異性体型の残基を任意のL-アミノ酸残基の代わりに用いてもよい。
【0166】
いくつかの態様において、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質は、融合ポリペプチドである。いくつかの態様において、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質は、抗体、イントラボディ、抗体をコードする核酸、イントラボディをコードする核酸、またはそれらの断片である。いくつかの態様において、抗体、イントラボディ、またはそれらの断片は、細胞内のPRPF31を標的とすることにより、スプライソソームの組み立てを阻害するかまたは減少させる。
【0167】
本明細書に記載される「抗体」は、任意の抗体もしくは抗体断片(すなわち、機能的抗体断片)、または所望の抗原もしくはエピトープ、例えばPRPF31への抗原結合活性を保持する抗原結合断片を包含する。1つの態様において、抗体またはその抗原結合断片は、免疫グロブリン鎖またはその断片および少なくとも1つの免疫グロブリン可変ドメイン配列を含む。抗体の例には、scFv、Fab断片、Fab'、F(ab')2、単一ドメイン抗体 (dAb)、重鎖、軽鎖、重鎖および軽鎖、完全抗体(例えば、Fc、Fab、重鎖、軽鎖、可変領域等の各々を含む)、二重特異性抗体、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体、イントラボディ、モノクローナル抗体、キメラ抗体、または多量体抗体が含まれるが、これらに限定されない。加えて、抗体は、任意の哺乳動物、例えば、霊長類、ヒト、ラット、マウス、ラマ、ウマ、ヤギ等に由来し得る。1つの態様において、抗体はヒトのものであるかまたはヒト化されている。いくつかの態様において、抗体は改変抗体である。いくつかの態様において、抗体の構成成分は、2つまたはそれ以上のタンパク質構成成分の発現後に抗体が自己組織化するように、別々に発現させることができる。1つの態様において、抗体またはその抗原結合断片は、フレームワーク領域またはFc領域を含む。抗体断片は、完全抗体の活性の10~99%(例えば、10~90%、10~80%、10~70%、10~60%、10~50%、10~40%、10~30%、10~20%、50~99%、50~90%、50~80%、50~70%、50~60%、20~99%、30~99%、40~99%、60~99%、70~99%、80~99%、90~99%、またはそれらの間の任意の活性)を保持し得る。機能的抗体断片が、無傷の抗体の活性よりも高い(例えば、少なくとも2倍またはそれ以上の)活性を含むこともまた、本明細書において企図される。別の態様において、抗体断片は、同じ標的(例えば、エピトープ)に対する無傷の抗体の親和性と実質的に同様であるその標的に対する親和性を含む。
【0168】
本明細書に記載される抗体または免疫グロブリン分子は、当業者によって理解されるように、免疫グロブリン分子の任意の型(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2)、またはサブクラスのものであってよい。さらに、ヒトにおいて、軽鎖はカッパ鎖またはラムダ鎖であってよい。
【0169】
抗体分子の抗原結合ドメインは、抗原結合に関与する、抗体分子、例えば免疫グロブリン (Ig) 分子の一部である。抗体の抗原結合部位は典型的に、重 (H) 鎖および軽 (L) 鎖の可変 (V) 領域のアミノ酸残基によって形成される。重鎖および軽鎖の可変領域内の3つの高度に多様なひと続きは、超可変領域と称され、「フレームワーク領域」(FR) と称される、より保存された隣接するひと続きの間に配置されている。FRは、免疫グロブリンにおいて、超可変領域の間およびそれに隣接して天然に見出されるアミノ酸配列である。典型的な抗体分子において、軽鎖の3つの超可変領域および重鎖の3つの超可変領域は、3次元空間において互いに対して配置されて、結合した抗原の3次元表面に相補的な抗原結合表面を形成する。重鎖および軽鎖のそれぞれの3つの超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」と称される。フレームワーク領域およびCDRは、例えば、Kabat, E. A., et al. (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No.91-3242、およびChothia, C. et al. (1987) J. Mol. Biol.196:901-917において定義され、記載されている。各可変鎖(例えば、可変重鎖および可変軽鎖)は典型的に、3つのCDRおよび4つのFRから構成されており、アミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4のアミノ酸順序で配置されている。抗体可変領域内のCDRは、抗原の特異性および結合親和性をもたらす。一般に、各重鎖可変領域には3つのCDR(HCDR1、HCDR2、HCDR3)が存在し、各軽鎖可変領域には3つのCDR(LCDR1、LCDR2、LCDR3)が存在する。所与のCDRの正確なアミノ酸配列の境界は、Kabat et al. (1991), 「Sequences of Proteins of Immunological Interest,」 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.(「Kabat」の番号付けスキーム)、Al-Lazikani et al., (1997) JMB 273,927-948(「Chothia」の番号付けスキーム)によって記載されるものを含む、いくつかの公知のスキームのいずれかを用いて決定され得る。「Chothia」番号スキームに従って定義されるCDRは、「超可変ループ」と称される場合もある。例えば、Kabatの下では、ヒト重鎖可変ドメイン (VH) 内のCDRアミノ酸残基は、31~35 (HCDR1)、50~65 (HCDR2)、および95~102 (HCDR3) と番号付けされ;ヒト軽鎖可変ドメイン (VL) 内のCDRアミノ酸残基は、24~34 (LCDR1)、50~56 (LCDR2)、および89~97 (LCDR3) と番号付けされている。Chothiaの下では、VH内のCDRアミノ酸は、26~32 (HCDR1)、52~56 (HCDR2)、および95~102 (HCDR3) と番号付けされ;VL内のアミノ酸残基は、26~32 (LCDR1)、50~52 (LCDR2)、および91~96 (LCDR3) と番号付けされている。各VHおよびVLは、典型的には3つのCDRおよび4つのFRを含み、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。
【0170】
全長抗体は一般に、例えば、天然に存在し、通常の免疫グロブリン遺伝子断片組換え過程よって形成される免疫グロブリン (Ig) 分子(例えば、IgG、IgE、IgM抗体)である。
【0171】
機能的抗体断片または抗原結合断片は、無傷の(例えば、全長)抗体によって認識されるものと同じ抗原またはエピトープに結合する。「抗体断片」または「機能的断片」という用語はまた、重鎖および軽鎖の可変領域からなる「Fv」断片などの、可変領域からなる単離された断片、または軽鎖および重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって連結された組み換え一本鎖ポリペプチド分子(「scFvタンパク質」)を含む。いくつかの態様において、抗体断片は、Fc断片または単一アミノ酸残基などの、抗原結合活性のない抗体の部分を含まない。いくつかの態様において、機能的抗体断片は、例えば、標的タンパク質(例えば、PRPF31)の阻害の程度を測定することにより評価して、無傷または全長抗体の活性の少なくとも20%を保持する。他の態様において、機能的抗体断片は、無傷の抗体に対して少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、またはさらには100%(すなわち、実質的に同様)の活性を保持する。機能的抗体断片が、無傷の抗体と比較して増加した活性(例えば、少なくとも1倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも100倍、またはそれ以上)を含むこともまた、本明細書において企図される。
【0172】
イントラボディが所望される場合、すなわち、細胞内抗原、例えばPRPF31を標的とするために細胞内で発現される抗体が所望される場合、抗PRPF31抗体または融合タンパク質をコードする核酸または遺伝子は、典型的には分泌配列をコードしない。イントラボディはscFvを含み得る。場合によっては、イントラボディは分泌配列をコードし得るが、意図された標的化配列もまた有する。他の態様において、イントラボディ遺伝子は、別の細胞内標的化配列、例えば核局在化配列をコードする。したがって、イントラボディは、C末端のER保持シグナル、ミトコンドリア標的化配列、核局在化配列、等などのシグナリングモチーフを組み入れることによって、特定の細胞区画に指向させることができる。
【0173】
いくつかの態様において、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質は、PRPF31のドミナントネガティブ変異体、または1つもしくは複数の点変異を含むPRPF31である。この種のPRPF31の変異は当技術分野で公知であり、例えば、Vithana et al., Mol Cell. (2001);Deery et al. Hum Mol Gen. (2002);Waseem et al. Invest. Ophtal. Vis. Sci. (2007);およびRio Frio Clin Invest. (2008)に記載されており、これらはそれぞれ全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0174】
移植用組成物
1つの局面において、移植された、ヒトのインビトロで分化した細胞の生存および/または生着を促進する方法であって、ヒトのインビトロで分化した細胞を、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させる段階、および該細胞をその必要がある対象の組織に移植する段階を含む方法が、本明細書に記載される。いくつかの態様において、インビトロで分化した細胞は中胚葉系の細胞である。いくつかの態様において、インビトロで分化した細胞は心筋細胞である。インビトロで分化した細胞は、上記のもののいずれか、または当技術分野において本明細書で公知のようにインビトロで分化した他の中胚葉系細胞であってよい。
【0175】
PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質による細胞の処理に関して、作用物質による処理の製剤化、投与量、およびタイミングは、作用物質の性質によって異なる。例えば、細胞の形質膜を通過する低分子または他の作用物質は、細胞が維持されている培養液に単に投与することができ、形質膜を容易に通過しない低分子または他の作用物質は、細胞内への送達を容易にする部分を用いて製剤化することができる。所与の作用物質が、例えば受動的輸送によりそれ自体で形質膜を通過するかどうか、またはそれが、膜通過を促進するかもしくは容易にする別の作用物質もしくは実体との製剤化を必要とするかどうかを決定する要因については、例えば、Yang & Hinner, Methods Mol. Biol. 1266: 29-53 (2015) による総説「Getting Across the Cell Membrane: An Overview for Small Molecules, Peptides, and Proteins」に記載されており、これは全体として参照により本明細書に組みれられる。著者らは、酸素、二酸化炭素、および窒素などの小さな非極性ガス、およびエタノールなどの小さな極性分子は、膜を容易に通過するが、尿素およびグリセロールなどのもう少し大きな代謝物は透過性が低く、形質膜は、より大きな非荷電極性分子、およびイオンを含むすべての荷電分子に対して実質的に不透過性であることを記述している。したがって、多くのペプチド、ポリペプチド、オリゴまたはポリヌクレオチド、ならびに多くの有機化合物および低分子については、他の機構を利用したアプローチを検討する必要がある。
【0176】
糖類(グルコース、ガラクトース、フルクトース)、アミノ酸、およびヌクレオチドを含む多くの分子は、膜輸送タンパク質によって細胞膜を介して輸送される。膜を介して輸送したい作用物質を輸送体タンパク質の天然基質とコンジュゲートすることは、いくつかの作用物質をサイトゾルに送達するのに有効であり得る。例えば、Dahan et al., Expert Opin. Drug Deliv. 9: 1001-1013 (2012)、およびMajumdar et al., Adv. Drug Deliv. Rev. 56: 1437-1452 (2004) に記載されており、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる。
【0177】
膜の限定的な機械的破壊は、低分子からタンパク質に及ぶ作用物質を細胞に導入するのに有用であり得る。したがって、エレクトロポレーション、所望の作用物質を含有する溶液中で細胞をマイクロ流体チャネルを通過させる装置(例えば、Sharei et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110: 2082-2087 (2013) を参照されたい)、および細胞膜に穴を開けるシリコンナノワイヤー (Shalek et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 107: 1870-1875 (2010)) は、培養細胞による作用物質の取り込みを促進し得る。
【0178】
作用物質の細胞透過性ペプチド (CPP) へのコンジュゲーションもまた、タンパク質を含む高分子の取り込みを促進し得る。CPPの例には、ウイルスのTATペプチド(例えば、Fawell et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91: 664-668 (1994)、Nagahara et al., Nat. Med. 4: 1449-1452 (1998)、およびLangel, Handbook of cell-penetrating peptides. 2nd. Boca Raton: CRC Press (2010)を参照されたい)、ならびに両親媒性Pep-1ペプチド(例えば、Morris et al., Nat. Biotechnol. 19: 1173-1176 (2001) を参照されたい)が含まれる。コンジュゲートされたカーゴタンパク作用物質の取り込みを促進し得る他のタンパクには、例えば自己抗体3E10が含まれ、これは細胞膜を介して移動することができ、核に侵入することが提唱されており(例えば、Hansen et al., Sci. Transl. Med. 4 157ra142 (2012) を参照されたい)、かつ外因性のホスファターゼ酵素を細胞膜を介して送達することが示されている(例えば、Lawlor et al., Hum. Mol. Genet. 22: 1525-1538 (2013) を参照されたい)。あるいは、タンパク質作用物質をウイルス様粒子にパッケージングするか、またはそれらを操作されたバクテリオファージT4頭部に付着させることは、サイトゾル送達を促進することが報告されている(例えば、Kaczmarczyk et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 108: 16998-17003 (2011)、およびTao et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110: 5846-5851 (2013) を参照されたい)。引用された参考文献はそれぞれ、参照により本明細書に組み入れられる。
【0179】
細胞膜を介して作用物質を送達するための脂質およびポリマーベースの製剤には、作用物質をリポソームに封入したもの、または作用物質と脂質を複合化したものが含まれる。このようなアプローチは、核酸(例えば、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマー、タンパク質作用物質をコードする構築物、shRNA、アンチセンス発現カセット、アプタマー等)を細胞に導入するために十分に確立されている。リポフェクションのための市販の調製物は容易に入手可能であり、例えば、数ある中でもLIPOFECTAMINE(商標)(ThermoFisher Scientific) トランスフェクション試薬がある。陽イオン性脂質と中性脂質の混合物は、負荷電タンパク質を移動させることが報告されている(例えば、Zelphati et al., J. Biol. Chem. 276: 35103-35110 (2001)、およびTorchilin, Drug Discov. Today Technol. 5: e95-e103 (2008) を参照されたく、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる)。ポリエチレンイミン (PEI) およびポリ-β-アミノエステルナノ粒子を含むポリマーベースの製剤は、細胞に投与された場合に、タンパク質を含むカーゴのエンドソーム脱出を増強する(例えば、Behr, Chim. Int. J. Chem. 51: 34-36 (1997)、およびSu et al., Biomacromolecules 14: 1093-1102 (2013) を参照されたく、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる)。送達製剤のさらなる例には、多重層小胞 (MLV)、単層小胞 (UMV)、PEGコーティングリポソーム、エクソソーム、ナノ粒子、およびFuGENE(登録商標)(Promega Corporation、Madison WI) が含まれるが、これらに限定されない。
【0180】
当技術分野で公知のこれらまたは他のアプローチまたは製剤のいずれかを、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質を本明細書に記載されるインビトロで分化した細胞に導入するために、所与の作用物質に適用することができる。
【0181】
本明細書に記載される作用物質を送達する文脈において、「接触すること」、「送達すること」、または「送達」という用語は、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質の細胞外からの送達、および例えば核酸構築物またはベクターからの発現による細胞内からの送達の両方を包含することが意図される。例えば、本明細書に記載される作用物質は、本明細書に記載されるインビトロで分化した細胞がその中で維持または増殖される細胞培養培液に作用物質を添加することによって、細胞外から導入することができる。あるいは、本明細書に記載される作用物質は、外因性構築物、例えばウイルスまたは他の発現ベクターからの細胞内での発現によって送達することができる。このような構築物は、エピソームであってよく、または細胞のゲノム内に安定的に組み込まれ得る。1つの態様において、インビトロで分化した中胚葉系細胞または心筋細胞を本明細書に記載される作用物質と接触させる段階は、構築物から作用物質を安定的に発現する細胞の使用を含む。別の態様において、インビトロで分化した細胞または心筋細胞を本明細書に記載される作用物質と接触させる段階は、構築物から作用物質を一過性に発現する細胞の使用を含む。
【0182】
投与量に関して、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質の使用量は、作用物質および製剤の性質に依存する。したがって、別の作用物質とのコンジュゲーションまたは複合体形成を必要とせずに細胞膜を通過する作用物質は、ピコモルからマイクロモルの濃度で培養細胞に適用することができ、この濃度は用量反応滴定による直接的な様式で最適化することができる。膜貫通型送達のために別の作用物質とのコンジュゲーションまたは複合体形成を必要とする作用物質もまた、PRPF31のmRNA、タンパク質、または活性の効果的なノックダウンに関して、ある濃度範囲にわたって滴定することができる。PRPF31のレベルまたは活性をノックダウンする作業範囲が同定されたならば、処理された細胞を例えば動物モデルに注射するかまたはその他の方法で投与するインビボ実験を使用して、生存および/または移植に関して最良の結果をもたらす投与量を同定することができる。
【0183】
5ナノモル (nM) 濃度の、PRPF31(例えば、SEQ ID NO: 1)を標的とするsiRNAは、本明細書の実施例において、リポフェクションによって導入された場合に、インビトロで分化した心筋細胞に対して有益な効果をもたらすことが実証される。実際には、濃度は、例えば0.5 nMから50 nMの間またはその間の任意の濃度で変動し得る。
【0184】
タイミングに関して、所与の作用物質または製剤による細胞の処理の期間、および処理された細胞の対象への投与に対するそのような処理のタイミングもまた、作用物質の性質および細胞の性質(例えば、心筋細胞 対 腎臓、骨、または他の中胚葉系細胞型)に応じて変動し得る。しかしながら、当業者は、所与の作用物質および製剤について、最適なPRPF31の阻害またはノックダウンを達成するために細胞をどのくらいの期間処理するか、および対象への細胞投与のどのくらい前に細胞の処理を開始するかを決定することができる。一般に、ノックダウンまたは阻害を達成するのに、より時間がかかる作用物質は、細胞投与の計画時間に関して、より早く投与すべきである。局面のいずれかのいくつかの態様において、インビトロで分化した細胞は、細胞を対象に投与する前の1~48時間の範囲で、例えば、細胞を対象に投与する1~36時間前、1~24時間前、1~18時間前、1~12時間前、1~6時間前、1~4時間前、または1~2時間前に、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させる。局面のいずれかのいくつかの態様において、細胞は、細胞を対象に投与する少なくとも1時間前、少なくとも2時間前、少なくとも3時間前、少なくとも4時間前、少なくとも6時間前、少なくとも8時間前、少なくとも10時間前、少なくとも12時間前、少なくとも14時間前、少なくとも16時間前、少なくとも18時間前、少なくとも24時間前、少なくとも30時間前、少なくとも36時間前、少なくとも42時間前、または少なくとも48時間前に、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させる。
【0185】
本明細書に記載される移植用組成物は、薬学的に許容される担体と混合された、それらの細胞におけるPRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質で処理されたインビトロで分化した細胞を含む。移植用組成物は、例えば、修復または機能増強を必要とする組織または器官への注射による投与のために製剤化することができる。あるいは、移植用組成物は、例えば、移植された細胞を所与の物理的位置に保持するのを助けるために、または生存および/もしくは生着をさらに増強するために、本明細書に記載されるかまたは当技術分野で公知の足場上または足場内に製剤化することができる。足場と結合された細胞はまた、例えば足場が流動性の粘度を有するゲルまたは他のマトリックスである場合、注射用に製剤化することもできる。あるいは、足場がより固体である場合、足場と結合された細胞は、組織もしくは器官に適用するため、または組織もしくは器官の内部もしくは上部に外科的に植え込むために製剤化することができる。
【0186】
当業者は、例えば、修復すべき損傷の程度および細胞型に応じて、移植体または移植片に必要な細胞の数を決定することができる。例えば、本明細書に記載されるインビトロで分化した心筋細胞を、心臓機能の改善を必要とする対象に投与することができる。いくつかの態様において、約1,000万~約100億個の心筋細胞が対象に投与される。本明細書に記載される様々な局面における使用のために、ヒト心筋細胞の有効量は、移植体または移植片のための、少なくとも1×107個、少なくとも2×107個、少なくとも3×107個、少なくとも4×107個、少なくとも5×107個、少なくとも6×107個、少なくとも7×107個、少なくとも8×107個、少なくとも9×107個、少なくとも1×108個、少なくとも2×108個、少なくとも3×108個、少なくとも4×108個、少なくとも5×108個、少なくとも6×108個、少なくとも7×108個、少なくとも8×108個、少なくとも9×108個、少なくとも1×109個、少なくとも2×109個、少なくとも3×109個、少なくとも4×109個、少なくとも5×109個、少なくとも6×109個、少なくとも7×109個、少なくとも8×109個、少なくとも9×109個、少なくとも1×109個、少なくとも1×1010個、またはそれ以上の細胞を含み得る。同様の数の他のインビトロで分化した中胚葉系細胞を、異なる組織への移植体または移植片のために使用することができる。
【0187】
移植体または移植片のための本明細書に記載される細胞は、一般的に完全に分化しており、増殖能が限られている可能性があり、このことは、長期的な生存および/または生着が好ましく、細胞におけるPRPF31のレベルまたは活性を低下させる処理が、そのような生存および生着を促進し得ることを意味する。多能性幹細胞から、所望の細胞型よりも発生的に上流の中胚葉系の幹細胞または前駆体細胞にインビトロで分化した細胞を、いくつかの態様においては、PRPF31のレベルまたは活性を低下させるために本明細書に記載されるように処理し、投与することができ、その結果、処理された細胞が対象への投与後に数が拡大して分化することもまた企図される。
【0188】
本明細書に記載される移植用組成物は、いくつかの態様において、PRPF31のレベルを低下させる作用物質を欠いているか、または実質的に欠いている。すなわち、細胞をインビトロにおいて作用物質で一過性に処理し、次いで作用物質なしで移植のために製剤化することができる。この文脈における「実質的に欠く」により、移植用の組成物または製剤は、処理後および投与前または投与中に、細胞内に残存する作用物質のみを有することになる。必ずしも必要ではないが、いくつかの態様において、ならびに作用物質の性質およびそれと共に使用される送達製剤に応じて、移植のための製剤化の前に、培養中の接着細胞から作用物質を洗い流すかまたは除去することが有利であり得る。他の態様においては、細胞を製剤化し、例えば細胞と共に溶液または懸濁液中に作用物質を含む移植用組成物として投与することができることが企図される。
【0189】
足場組成物:
1つの局面において、本明細書に記載されるインビトロで分化した細胞は、細胞を支持する足場または基材を提供する調製物と混合することができ、または該調製物内もしくは該調製物上で成長させることができる。足場は、細胞を所望の位置に収容することができるが、生存および機能に必要な環境中の因子の侵入または拡散を許容する、ゲル、シート、マトリックス、または格子を含むがこれらに限定されない生体適合性材料を含む構造体である。足場に適したいくつかの生体適合性ポリマーが、当技術分野で公知である。
【0190】
そのような足場または基材は、例えば植え込み後に細胞を所与の位置に固定する上で物理的利点を提供し得ると共に、例えば、さらなる成熟、または例えば細胞が確立されるまでの表現型の維持のための細胞外合図を提供する上で生化学的利点を提供し得る。
【0191】
足場材料として使用され得るポリマー粒子を合成するために、生体適合性の合成、天然、および半合成ポリマーを用いることができる。一般的に、本明細書に記載される方法の実践に関して、植え込み前にインビトロで分化した細胞をポリマーから単離することができるように、または足場が対象内で経時的に分解し除去の必要がないように、足場は生分解することが好ましい。したがって、1つの態様において、足場は、インビトロで分化した細胞の成長、および/またはその必要がある対象への送達のための一時的構造を提供する。いくつかの態様においては、足場によって、ヒト細胞が、その必要がある対象への移植または投与に適した形状で成長することが可能となり、それによって植え込み前に足場を除去することが可能となり、足場自体によって惹起される拒絶反応またはアレルギー反応のリスクが減少する。
【0192】
使用され得るポリマーの例には天然および合成ポリマーが含まれるが、再現性および徐放性速度論のためには合成ポリマーが好ましい。使用され得る合成ポリマーには、生分解性ポリマー、例えば、ポリ(乳酸) (PLA)、ポリ(グリコール酸) (PGA)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド) (PLGAまたはPLA/PGAコポリマー)、および他のポリヒドロキシ酸、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリシアノアクリレート、ならびに生分解性ポリウレタンなど;非生分解性ポリマー、例えば、ポリアクリル酸、エチレン-酢酸ビニルポリマー、ならびに他のアシル置換酢酸セルロースおよびその誘導体など;ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリ(ビニルイミダゾール)、クロロスルホン化ポリオレフィン、およびポリエチレンオキシドが含まれる。生分解性の天然ポリマーの例には、タンパク質、例えば、アルブミン、コラーゲン、フィブリン、およびシルクなど、多糖類、例えば、アルギン酸、ヘパリン、および他の天然に存在する生分解性の糖単位のポリマーが含まれる。あるいは、上述のポリマーの組み合わせを用いることができる。1つの局面においては、一般的に細胞外マトリックス中に見出されない天然ポリマーを用いることができる。
【0193】
PLA、PGA、およびPLA/PGAコポリマーは、生分解性足場を形成するのに特に有用である。PLAポリマーは通常、乳酸の環状エステルから調製される。L(+)型およびD(-)型の乳酸の両方、ならびにD(-)乳酸とL(+)乳酸の光学的に不活性なDL-乳酸混合物を用いて、PLAポリマーを調製することができる。ポリ乳酸を調製する方法は、特許文献において十分に文書化されている。その教示が参照により本明細書に組み入れられる以下の米国特許は、適切なポリ乳酸、その特性およびその調製を詳細に記載している:Doroughに対する米国特許第1,995,970号 ;Schneider に対する米国特許第2,703,316号;Salzbergに対する米国特許第2,758,987号;Zeileに対する米国特許第2,951,828号;Higginsに対する米国特許第2,676,945号;およびTrehuに対する米国特許第2,683,136号;第3,531,561号。
【0194】
PGAは、グリコール酸(ヒドロキシ酢酸)のホモポリマーである。グリコール酸のポリ(グリコール酸)への変換の際には、グリコール酸を最初にそれ自体と反応させて環状エステルグリコリドを形成し、これを熱および触媒の存在下で高分子量の直鎖ポリマーに変換させる。PGAポリマーおよびその特性は、Cyanamid Research Develops World's First Synthetic Absorbable Suture」, Chemistry and Industry, 905 (1970) においてより詳細に記載されている。
【0195】
繊維は、融解紡糸、押し出し、鋳造、またはポリマー加工分野において周知の他の技法によって形成され得る。好ましい溶媒は、植え込み前に足場を除去するために用いるのであれば、加工によって完全に除去されるか、または加工後に残存する量で生体適合性である溶媒である。
【0196】
マトリックスにおいて用いるためのポリマーは、細胞のその後の成長および増殖に適切な支持を提供するのに必要な力学的および生化学的パラメータを満たすべきである。ポリマーは、Instronテスターを用いて引張強度などの力学的特性に関して、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC) によってポリマーの分子量に関して、示差走査熱量測定 (DSC) によってガラス転移温度に関して、および赤外 (IR) 分光法によって結合構造に関して特徴決定することができる。
【0197】
基材または足場は、足場上での心臓細胞または組織の成長を可能にし、かつ成熟を促進する溝および隆起を伴って、ナノパターン化またはマイクロパターン化することができる。足場は任意の所望の形状のものであってよく、本明細書に記載される方法に有用である広範囲の幾何学的形状を含み得る。形状の非制限的なリストには、例えば、数ある中でも、パッチ、中空粒子、チューブ、シート、円柱、球体、および繊維が含まれる。足場の形状またはサイズは、細胞成長、細胞分化、細胞増殖、または任意の他の細胞過程を実質的に妨害してはならず、また足場は、例えばアポトーシスもしくは壊死によって細胞死を誘導してはならない。加えて、細胞生存率が損なわれないように、集団中の細胞に周囲の培地からの栄養素が送達されるための適切な表面積が、足場の形状によって可能になることを確実にするよう注意するべきである。当業者の所望に応じて、足場の多孔性を変化させることもできる。
【0198】
いくつかの態様において、ポリマーへの細胞の付着は、基底膜構成成分、フィブロネクチン、寒天、アガロース、ゼラチン、アラビアゴム、I型、II型、III型、IV型、およびV型コラーゲン、ラミニン、グリコサミノグリカン、ポリビニルアルコール、それらの混合物、ならびに細胞培養または組織工学の当業者に公知の他の親水性材料およびペプチド付着材料などの化合物でポリマーをコーティングすることによって向上させる。ポリマー足場をコーティングするための材料の例には、ポリビニルアルコールおよびコラーゲンが含まれる。当業者によって認識されるように、Matrigel(商標)はヒト対象への投与には適しておらず、したがって本明細書に記載される組成物はMatrigel(商標)を含まない。
【0199】
いくつかの態様においては、足場に生物活性分子/因子を添加することが望ましいと考えられる。種々の生物活性分子を、本明細書に記載されるマトリックスを用いて送達することができる。
【0200】
1つの態様において、生物活性因子には増殖因子が含まれる。増殖因子の例には、血小板由来増殖因子 (PDGF)、トランスフォーミング増殖因子αまたはβ (TGFβ)、骨形成タンパク質4 (BMP4)、線維芽細胞増殖因子7 (FGF7)、線維芽細胞増殖因子10 (FGF10)、上皮増殖因子 (EGF/TGFα)、血管内皮増殖因子 (VEGF) が含まれ、それらのうちのいくつかはまた血管新生因子でもある。これらの因子は、当業者に公知であり、かつ市販されているかまたは文献に記載されている。生物活性分子をマトリックスに組み入れ、マトリックスの拡散および/もしくは分解によって経時的に放出させることができ、またはそれらを細胞懸濁液で懸濁することができる。
【0201】
薬学的に許容される担体:
PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質で処理されたインビトロで分化した細胞は、薬学的に許容される担体と混合することにより、移植用に製剤化することができる。本明細書で用いられる場合、「薬学的に許容される」、「生理的に認容される」という用語、およびそれらの文法上の変化形は、それらが組成物、担体、希釈剤、および試薬を指す場合、互換的に用いられ、その材料が、毒性、移植体拒絶、アレルギー反応、および同等のものなどの望ましくない生理的影響を生じることなく、哺乳動物にまたは哺乳動物に対して投与できることを表す。薬学的に許容される担体は、そのように所望されない限り、それと混合される作用物質に対する免疫応答の発生を促進しない。
【0202】
一般的に、本明細書に記載されるインビトロで分化した細胞を含む組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせて細胞を含む液体懸濁液製剤として投与される。当業者は、移植用組成物において用いられるべき薬学的に許容される担体が、対象に送達されるべき細胞の生存率を実質的に妨害する量の緩衝剤、化合物、凍結保護剤、保存剤、または他の作用物質を含まないことを認識するであろう。細胞を含む製剤は、例えば、細胞膜の完全性を維持できるようにする浸透圧緩衝剤、および任意に、投与に際して細胞生存率を維持するかまたは生着を増強するための栄養素を含み得る。そのような製剤および懸濁液は、当業者に公知であり、かつ/または日常的な実験を用いて、本明細書に記載される細胞と共に用いるために適合させることができる。
【0203】
移植用組成物は、任意に、投与される細胞、または任意に、組成物が投与される組織、器官、もしくは対象の生存、生着、または機能をさらに促進する付加的な生物活性成分を含み得る。例には、数ある中でも、増殖因子、栄養素、鎮痛剤、抗炎症剤、およびキナーゼ活性化剤などの低分子薬が含まれるが、これらに限定されない。
【0204】
移植用組成物のための細胞の懸濁液のための生理的に認容される担体には、細胞以外の付加的な材料を含有しないか、または生理的pH値のリン酸ナトリウムなどの緩衝剤を含有する滅菌生理的食塩水水溶液、例えばリン酸緩衝生理食塩水などが含まれる。なおさらに、水性担体は、複数の緩衝塩、ならびに塩化ナトリウムおよび塩化カリウムなどの塩、デキストロース、ポリエチレングリコール、および他の溶質を含有し得る。
【0205】
投与および有効性
心筋細胞を含むがこれに限定されない中胚葉系の細胞を含む、移植されるインビトロで分化したヒト細胞の生存および/または生着を促進する組成物および方法が、本明細書に記載される。PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質で処理された細胞の移植は、マトリックスまたは足場を伴うまたは伴わない、懸濁液中の細胞を含む移植用組成物の、所望の位置、例えば、修復を必要とする組織への注入を伴い得る。あるいは、移植は、マトリックス中または足場上の細胞を含む移植用組成物の、所望の位置、組織、または器官、例えば修復を必要とする組織または器官の上部または内部への外科的留置を伴い得る。
【0206】
移植された細胞の生存または生着は、当技術分野で公知の任意の方法によって、例えば移植後の組織または器官の機能をモニターすることによって、決定することができる。有効性に関して測定されるまたは測定可能なパラメータには、機能または疾患の臨床的に検出可能なマーカー、例えば、臨床または生物学的マーカーのレベルの上昇または低下、機能パラメータ、ならびに健康または疾患もしくは障害の症状またはマーカーの臨床的に許容されるスケールに関連したパラメータが含まれる。移植された細胞の生存および生着は、組織学的方法および分子的方法によって定量的または定性的に決定することができる。1つのアプローチでは、生存および生着は、適切な動物モデル、例えば本明細書の実施例において考察されるNOD scid γマウスモデルにおいて評価することができる。このようなモデルを用いて、ヒト細胞を注入し、次いでレシピエント組織、例えば心臓組織におけるヒト特異的マーカーを測定することにより、生存および生着について評価することができる。簡潔に説明すると、注入された細胞数と生着した細胞数の測定により、生着効率の尺度が提供される。組織内の生存可能な移植細胞の測定により、生存の尺度が提供される。生着した細胞の生存率は、例えば、組織学的検査および/またはヒトマーカーの免疫組織化学的検査を含む、いくつかの方法のいずれかによって決定または測定することができる。細胞が移植体に由来するという同定は、ヒトマーカーの存在に基づき、細胞の形態および/または組織におけるその組織化は細胞生存率を示し得る。一例としてではあるが、マッソン弾性トリクローム染色またはモバットペンタクローム組織学的染色は、心臓組織における収縮帯の存在に加えて、間質性線維症、心筋の壊死および錯綜配列を評価するのに特に有用である。あるいは、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションおよびヒトDNA配列(例えば、ヒトALU反復配列)の定量化を使用することができる。移植片の生存を評価するためのさらに別の代替方法として、ホモジナイズされた組織、例えば心臓組織においてヒトDNA配列を定量化することができる。例えば、PRPF31の阻害剤を伴ってまたは伴わずに処理された細胞、例えば心筋細胞を、複数のマウスの組織、例えば心臓組織に移植することができる。移植後の選択された時点で、個々のマウスから組織を採取し、移植された細胞の維持または持続性の尺度として、ヒトDNAの存在および/または量を評価することができる。
【0207】
本明細書で用いられる「有効量」という用語は、損傷、疾患、または障害を含むがこれらに限定されない疾患または障害の少なくとも1つまたは複数の症状を軽減するために必要な、本明細書に記載されるように処理されたインビトロで分化した細胞の集団の量を指す。「有効量」は、投与される細胞型および対処される疾患または障害に応じて、所望の効果を提供するのに十分な組成物の量、例えば、心筋梗塞の後の梗塞域を有する対象を処置するため、心筋細胞の生着を改善するため、心臓損傷後の心不全の発症を予防するため、移植片の脈管化を増強するため、腎機能を増強するため、等に必要な量に関連する。「治療有効量」という用語はしたがって、数ある中でも、心臓疾患を有するかまたはそのリスクがある対象などの典型的な対象に投与された場合に、特定の効果を促進するのに十分である、PRPF31のレベルもしくは活性を低下させる作用物質で処理されたヒトのインビトロで分化した細胞、またはそのような細胞を含む組成物の量を指す。本明細書において用いられる有効量にはまた、疾患の症状の発生を防ぐもしくは遅延させる、疾患症状の経過を変化させる(例えば、疾患の症状の進行を遅らせる、がこれに限定されない)、または疾患の症状を逆転させるのに十分な量が含まれる。いかなる所与の場合に関しても、適切な「有効量」は、日常的な実験を用いて当業者によって決定され得ることが理解される。
【0208】
いくつかの態様において、対象は、本明細書に記載される方法による細胞の投与の前に、インビトロで分化した型の細胞を含む組織または器官に影響を及ぼす疾患または障害を有すると最初に診断される。いくつかの態様において、対象は、細胞の投与の前に、疾患(例えば、心筋損傷もしくは腎臓疾患後の心不全)または障害を発症するリスクがあると最初に診断される。
【0209】
上記のように、本明細書に記載される様々な局面における使用のために、ヒト心筋細胞の有効量は、移植体または移植片のための、少なくとも1×107個、少なくとも2×107個、少なくとも3×107個、少なくとも4×107個、少なくとも5×107個、少なくとも6×107個、少なくとも7×107個、少なくとも8×107個、少なくとも9×107個、少なくとも1×108個、少なくとも2×108個、少なくとも3×108個、少なくとも4×108個、少なくとも5×108個、少なくとも6×108個、少なくとも7×108個、少なくとも8×108個、少なくとも9×108個、少なくとも1×109個、少なくとも2×109個、少なくとも3×109個、少なくとも4×109個、少なくとも5×109個、少なくとも6×109個、少なくとも7×109個、少なくとも8×109個、少なくとも9×109個、少なくとも1×109個、少なくとも1×1010個、またはそれ以上の細胞である。同様の数の他のインビトロで分化した中胚葉系細胞を、異なる組織への移植体または移植片のために使用することができる。細胞またはそれらを含む移植用組成物の有効量は、適切な動物モデルを用いて最初に推定することができる。一例としてではあるが、心筋梗塞のマウス、イヌ、およびブタモデルが公知であり、処置に有効な細胞またはそれらを含む移植用組成物の量を計測するために使用することができる。
【0210】
いくつかの態様において、PRPF31レベルまたは活性を低下させる作用物質で処理されたヒトのインビトロで分化した細胞を含む組成物は、そのような細胞がそのような処理なしで投与された場合の生着よりも少なくとも20%高い効率で、所望の組織または器官における細胞の生着を可能にし;他の態様において、そのような効率は、細胞がそのような処理なしで細胞を投与された場合の生着の効率よりも少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも1倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも100倍、またはそれ以上高い。
【0211】
細胞がインビトロで分化した心筋細胞である場合、心筋細胞の有効量は、心臓内投与または送達によって対象に投与される。この文脈において、「心臓内」投与または送達は、心筋細胞の集団が、直接心臓注射、心筋内注射、梗塞域内注射、虚血域もしくは虚血周辺域注射、壁菲薄化の領域への注射、不適応性心臓リモデリングのリスクがある領域への注射、手術中(例えば、心臓バイパス手術、心臓ミニポンプまたはペースメーカーの植え込み中、等)の注射または移植を含むがこれらに限定されない、これらの細胞と対象の心筋との直接接触をもたらす方法で投与される、すべての投与経路を指す。いくつかのそのような態様において、細胞は心筋(例えば、心筋細胞)内に、または心房および/もしくは心室の腔内に注射される。いくつかの態様において、細胞の心臓内送達には、細胞が、例えば細胞懸濁液として、心臓の所望の領域への単回注射または頻回「ミニ」注射を介して、手術を受けている対象に投与される投与方法が含まれる。
【0212】
製剤の選択は、用いられる特定の組成物および投与されるべき処理された細胞の数に依存し;そのような製剤は、当業者によって調整され得る。しかしながら、一例として、組成物が薬学的に許容される担体中の心筋細胞を含む場合、組成物は、溶液1 mL当たりに有効濃度の細胞の、適切な緩衝液(例えば、生理食塩水緩衝液)中の細胞の懸濁液であってよい。製剤はまた、細胞の生存率を維持するための細胞栄養素、単純な糖(例えば、浸透圧を調節するため)、または他の構成成分を含み得る。あるいは、上記のように、製剤は、本明細書に記載されるかまたは当技術分野で公知の生分解性足場などの足場を含み得る。
【0213】
いくつかの態様においては、対象の処置に役立つ付加的な作用物質を、記載される細胞による処置の前または後に投与することができる。そのような付加的な作用物質を用いて、例えば細胞を投与するための標的組織を調製することができる。あるいは、付加的な作用物質を細胞の後に投与して、投与された細胞の組織または器官中への生着および成長を支持することができる。いくつかの態様において、付加的な作用物質は、VEGF、PDGF、FGF、aFGF、bFGF、IGF、またはNotchシグナル伝達化合物などの増殖因子を含む。他の例示的な作用物質を用いて、例えば、心筋細胞が生着している間の心臓への負担を軽減することができる(例えば、β遮断薬、血圧を下げるための薬物、等)。
【0214】
局面のいずれかのいくつかの態様において、付加的な作用物質は、処理された細胞の投与の少なくとも1時間、少なくとも5時間、少なくとも10時間、少なくとも15時間、少なくとも20時間、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも8日、少なくとも9日、少なくとも10日前に開始して投与される。局面のいずれかのいくつかの態様において、付加的な作用物質は、処理された細胞の投与と同時にまたは投与後に投与される。
【0215】
処置の有効性は、熟練の臨床医によって判定され得る。しかしながら、疾患、例えば、心臓疾患、心不全、心臓損傷または心臓障害、腎臓疾患または障害、等の症状、または他の臨床的に許容される症状もしくはマーカーのいずれか1つまたはすべてが、本明細書に記載される処理された細胞を含む移植用組成物の投与後に、例えば少なくとも10%、および例えば少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、またはそれ以上を含めて減少するのであれば、処置は、本用語が本明細書で用いられる場合の「有効な処置」と見なされる。これらの指標を測定する方法は、当業者に公知であり、かつ/または本明細書に記載される。
【0216】
移植される細胞が心筋細胞である場合、心臓疾患もしくは心臓障害または心臓損傷の指標には、機能的指標またはパラメータ、例えば、一回拍出量、心拍数、左室駆出率、心拍リズム、血圧、心臓容積、逆流、等、および生化学的指標、例えば、数ある中でも血清乳酸脱水素酵素または血清トロポニンなどの心臓損傷のマーカーの減少などが含まれる。一例として、心筋虚血および再灌流は心臓機能の低下に関連している。虚血性心臓イベントを患ったことがある対象および/または再灌流療法を受けたことがある対象は、虚血および/または再灌流の前と比較して心臓機能が低下している。心臓機能の尺度には、例えば駆出率および短縮率が含まれる。駆出率は、心拍ごとに心室から送り出される血液の割合である。駆出率という用語は、右心室および左心室の両方に適用される。LVEFは左室駆出率 (LVEF) を指す。短縮率は、拡張末期径と収縮末期径との差を拡張末期径で除したものを指す。
【0217】
心臓機能パラメータを評価するために使用され得る臨床検査の非限定的な例には、心エコー検査(ドップラー血流イメージングを伴うかもしくは伴わない)、心電図 (EKG)、運動負荷検査、ホルターモニタリング、またはナトリウム利尿ペプチド(例えば、心房性ナトリウム利尿ペプチド)の測定が含まれる。
【0218】
必要であればまたは望ましければ、損傷または疾患の動物モデルを用いて、本明細書に記載される特定の組成物の有効性を計測することができる。例えば、単離された実用的ウサギもしくはラット心臓モデル、またはイヌもしくはブタのいずれかにおける冠動脈結紮モデルを用いることができる。心臓機能の動物モデルは、梗塞域、冠動脈灌流、電気伝導、左室拡張末期圧、左室駆出率、心拍数、血圧、肥大の程度、拡張期弛緩機能、心拍出量、心拍変動、および心室壁の厚さ、等をモニターするのに有用である。
【0219】
移植された細胞の生着または生存をモニターするために、例えば、これらに限定されないがGFPもしくは他の蛍光タンパク質またはエピトープタグなどのマーカーの発現を指示する構築物を導入することにより、細胞を標識するかまたは細胞にタグを付けることができる。このようなマーカーを発現する細胞が動物モデルに投与された場合、任意の細胞に関して機能パラメータを計測することができるが、細胞投与後に組織を取り出し、蛍光顕微鏡または免疫組織化学的検査により、マーカーの発現について試験またはアッセイすることもできる。したがって、そのような動物モデルを使用して、細胞の生存および/または生着を増強または促進する上での本明細書に記載される細胞処理の有効性を計測するために、マーカー発現の持続性またはレベルを用いることができる。
【0220】
細胞が心筋細胞である場合、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質による細胞の処理に加えて、移植された心筋細胞の生存、生着、成熟、および/または機能を促進または増強するための当技術分野で公知の他のアプローチまたは処理を、処理された細胞の投与の前に、投与と同時にもしくは並行して、または投与の後に実施することができる。例えば、数ある中でも、心外膜細胞のインビトロ分化およびインビトロで分化した心筋細胞とのその同時移植について記載しているWO2018/170280を参照されたい。このような処理はまた、心筋細胞の生着を促進すること、および移植した際の心臓機能を増強することが判明した。WO2018/170280は、全体として参照により本明細書に組み入れられるが、心筋細胞の移植、心筋細胞の成熟度のマーカーおよび測定、心外膜細胞との同時移植、移植体の生着、生存、および/または機能の測定、ならびにそのような移植体の有効性の測定について、その中に記載されている方法に特に留意されたい。
【0221】
他の態様において、本明細書に記載される移植用組成物は、疾患を処置するため、または生存率を改善するため、例えば、心血管疾患の発症、発生率、または重症度を減少させるために使用することができる。治療的処置の有効性は、機能出力(例えば、心拍出量もしくは腎機能の測定)、マーカー、レベルもしくは発現(例えば、心臓酵素の血清レベル、虚血、腎機能、もしくは不全のマーカー)、および/または電気記録手段(例えば、心電図)による疾患の症状の有無によって評価することができる。さらに、当業者によって理解されるように、本明細書に記載される移植用組成物に変更を加える能力により、対象の特定の症状のセットおよび/または疾患の重症度に基づいて処置をカスタマイズすることが可能になり、さらに副作用または毒性を最小限にすることが可能になる。
【0222】
本明細書に記載される組成物および方法のいくつかの態様は、以下の番号付き項目のいずれかに従って定義され得る。
【0223】
1. 幹細胞からインビトロで分化したヒト細胞、およびプレmRNAプロセシング因子31 (PRPF31) のレベルまたは活性を低下させる作用物質を含む、組成物。
2. 幹細胞からインビトロで分化した細胞が心筋細胞である、パラグラフ1の組成物。
3. 幹細胞からインビトロで分化した細胞が中胚葉系列のものである、パラグラフ1~2のいずれかの組成物。
4. インビトロで分化した細胞が、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、腎細胞、内皮細胞、皮膚細胞、副腎皮質細胞、骨細胞、白血球、およびミクログリア細胞より選択される細胞型のものである、パラグラフ1~3のいずれかの組成物。
5. インビトロで分化したヒト細胞が、人工多能性幹細胞 (iPSC) から、または胚性幹細胞から分化したものである、パラグラフ1~4のいずれかの組成物。
6. 幹細胞が健常対象に由来する、パラグラフ1~5のいずれかの組成物。
7. 作用物質が、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターである、パラグラフ1~6のいずれかの組成物。
8. 作用物質が、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする、パラグラフ1~7のいずれかの組成物。
9. ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される、パラグラフ7の組成物。
10. RNAi分子がSEQ ID NO: 1の核酸配列を含む、パラグラフ8の組成物。
11. レシピエントに移植するための移植用組成物であって、
PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させた、インビトロで分化したヒト心筋細胞、および
薬学的に許容される担体
を含む、前記移植用組成物。
12. 作用物質が、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターより選択される、パラグラフ11の移植用組成物。
13. 作用物質が、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする、パラグラフ11~12のいずれかの移植用組成物。
14. ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される、パラグラフ12の移植用組成物。
15. RNAi分子がSEQ ID NO:1の核酸配列を含む、パラグラフ13の移植用組成物。
16. インビトロで分化したヒト心筋細胞が、人工多能性幹細胞 (iPSC) から、または胚性幹細胞から分化したものである、パラグラフ11~15のいずれかの移植用組成物。
17. 心筋細胞が、移植レシピエントに由来するiPSCから分化したものである、パラグラフ11~16のいずれかの移植用組成物。
18. インビトロで分化したヒト心筋細胞を移植する方法であって、
PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させた、インビトロで分化したヒト心筋細胞を、対象の心臓組織に移植する段階
を含む、前記方法。
19. 接触させた心筋細胞が、作用物質と接触させていない心筋細胞よりも大幅に、移植後に生存する、パラグラフ18の方法。
20. 対象が心筋梗塞に罹患している、パラグラフ18~19のいずれかの方法。
21. 作用物質が、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターである、パラグラフ18~20のいずれかの方法。
22. 作用物質が、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする、パラグラフ18~20のいずれかの方法。
23. ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される、パラグラフ21の方法。
24. RNAi分子がSEQ ID NO: 1の核酸配列を含む、パラグラフ22の方法。
25. ヒト心筋細胞が、人工多能性幹細胞 (iPSC) から、または胚性幹細胞から分化したものである、パラグラフ18~24のいずれかの方法。
26. iPSCが対象に由来する、パラグラフ25の方法。
27. iPSCが健常ドナーに由来する、パラグラフ25の方法。
28. 移植された、ヒトのインビトロで分化した心筋細胞の生存および/または生着を促進する方法であって、
ヒトのインビトロで分化した心筋細胞を、PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させる段階、および
該細胞をその必要があるヒト対象の心臓組織に移植する段階
を含む、前記方法。
29. 対象が心筋梗塞に罹患している、パラグラフ28の方法。
30. 作用物質が、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターである、パラグラフ28~29のいずれかの方法。
31. 作用物質が、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする、パラグラフ28~30のいずれかの方法。
32. ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される、パラグラフ30の方法。
33. RNAi分子がSEQ ID NO: 1の核酸配列を含む、パラグラフ31の方法。
34. 移植された中胚葉系細胞の生存および/または生着を促進する方法であって、
対象におけるPRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させるかまたはそれで処理した中胚葉系細胞を、その必要がある対象に投与する段階
を含む、前記方法。
35. 中胚葉由来細胞が、インビトロで分化した中胚葉系細胞である、パラグラフ34の方法。
36. 中胚葉系細胞が、iPS細胞または胚性幹細胞からインビトロで分化したものである、パラグラフ35の方法。
37. 作用物質が、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターである、パラグラフ34~36のいずれかの方法。
38. 作用物質が、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする、パラグラフ37の方法。
39. ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される、パラグラフ37の方法。
40. RNAi分子がSEQ ID NO: 1の核酸配列を含む、パラグラフ38の方法。
41. iPSCが対象に由来する、パラグラフ36~40のいずれかの方法。
42. iPSCが健常ドナーに由来する、パラグラフ36~40のいずれかの方法。
43. 移植される中胚葉系細胞が、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、腎細胞、内皮細胞、皮膚細胞、副腎皮質細胞、骨細胞、白血球、およびミクログリア細胞より選択される細胞型のものである、パラグラフ34~42のいずれかの方法。
44. レシピエントに移植するための移植用組成物であって、
PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させるかまたはそれで処理した、インビトロで分化した中胚葉系細胞、および
薬学的に許容される担体
を含む、前記移植用組成物。
45. 作用物質が、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターより選択される、パラグラフ44の移植用組成物。
46. 作用物質が、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする、パラグラフ44~45のいずれかの移植用組成物。
47. ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される、パラグラフ45の移植用組成物。
48. RNAi分子がSEQ ID NO: 1の核酸配列を含む、パラグラフ46の移植用組成物。
49. インビトロで分化した中胚葉系細胞が、人工多能性幹細胞 (iPSC) から、または胚性幹細胞から分化したものである、パラグラフ44~48のいずれかの移植用組成物。
50. 中胚葉系細胞が、移植レシピエントに由来するiPSCから分化したものである、パラグラフ44~49のいずれかの移植用組成物。
51. インビトロで分化した中胚葉系細胞を移植する方法であって、
PRPF31のレベルまたは活性を低下させる作用物質と接触させるかまたはそれで処理した、インビトロで分化した中胚葉系細胞を、対象の組織に移植する段階
を含む、前記方法。
52. 接触させた、インビトロで分化した中胚葉系細胞が、作用物質と接触させていないインビトロで分化した中胚葉系細胞よりも大幅に、移植後に生存する、パラグラフ51の方法。
53. 対象が心筋梗塞に罹患している、パラグラフ51~52のいずれかの方法。
54. 作用物質が、低分子、ポリペプチド、核酸分子、または核酸分子を含むベクターである、パラグラフ51~53のいずれかの方法。
55. 作用物質が、PRPF31またはそのRNA転写物を標的とするアンチセンス配列、アプタマー、またはRNA干渉分子 (RNAi) を含む核酸分子を含むかまたはコードする、パラグラフ51~54のいずれかの方法。
56. ベクターが、プラスミドおよびウイルスベクターからなる群より選択される、パラグラフ54の方法。
57. RNAi分子がSEQ ID NO:1の核酸配列を含む、パラグラフ55の方法。
58. 中胚葉系細胞が、人工多能性幹細胞 (iPSC) から、または胚性幹細胞から分化したものである、パラグラフ51~57のいずれかの方法。
59. iPSCが対象に由来する、パラグラフ58の方法。
60. iPSCが健常ドナーに由来する、パラグラフ58の方法。
61. 移植される中胚葉系細胞が、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、腎細胞、内皮細胞、皮膚細胞、副腎皮質細胞、骨細胞、白血球、およびミクログリア細胞より選択される細胞型のものである、パラグラフ51~60のいずれかの方法。
【0224】
特に説明されない限り、本明細書において用いられるすべての技術および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって共通に理解されている意味と同じ意味を有する。
【0225】
本開示は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコール、および試薬、等に限定されず、したがって変動し得ることが理解されるべきである。本明細書において用いられる専門用語は、特定の態様を説明する目的のために過ぎず、特許請求の範囲によってのみ定義される本開示の範囲を限定することは意図されない。
【0226】
特定されるすべての特許および他の出版物は、例えば、本開示と関連して使用され得る、そのような出版物中に記載された方法論を説明および開示する目的で、参照により本明細書に明確に組み入れられる。これらの出版物は、本出願の出願日よりも前にそれらが開示されたというだけの理由で提供される。この点に関するいかなるものも、本発明者らが、先行開示または任意の他の理由でそのような開示を先行する資格がないことを認めるものと解釈されるべきでない。日付に関するすべての記載またはこれらの文書の内容に関する表現は、本出願者らに利用可能な情報に基づいており、日付の正確さまたはこれらの文書の内容に関していかなる承認も構成しない。
【実施例
【0227】
実施例1:PRPF31遺伝子発現ノックダウンによる、生着した幹細胞由来心筋細胞の生存の改善
背景
LaMacchiaら (2015) は、低浸透圧および低酸素ストレス条件下での線虫 (C.elegans) の生存に対する一連の遺伝子のノックダウンの効果について記載している。ヒト多能性幹細胞由来の心筋細胞 (hPSC-CM) におけるノックダウン効果を試験するために、遺伝子の候補リストを選択した。以下の基準に基づいて、6つの候補遺伝子を選択した。第一に、線虫モデルにおいて堅固な効果を示した。第二に、ヒトの相同体が線虫遺伝子に対して高い配列同一性を示した。以下の表1には、解析のために選択された6つの候補遺伝子が含まれる。
【0228】
(表1)候補遺伝子
【0229】
遺伝子ノックダウン
RUES2胚性幹細胞株由来のhPSC-CMにおいて、遺伝子ノックダウンを行った。関心対象の各遺伝子について、48時間のLipofectamine RNAiMax (Thermo Fisher) インキュベーションを用いて、hPSC-CMに5 nM siRNAをトランスフェクトした。対照は、処理しないか、または陰性対照のスクランブルsiRNAをトランスフェクトした。ノックダウンの効率を、定量的rtPCRにより確認した。得られた細胞は、移植のために凍結保存した(図1)。
【0230】
移植
移植のために、雄のNOD scid γ (NSG) マウスを、左前下行枝の永久閉塞による心筋梗塞に供した。梗塞直後に、10μL RPMI培養液中の2.5×105個の細胞を、梗塞部位の左室壁に注入した。注入の3日後に、マウスを屠殺し、心臓を摘出し、その後の解析のために液体窒素中で瞬時凍結した。
【0231】
組織解析
心臓組織由来のDNAを、製造業者の説明書に従って、DNeasy血液および組織キット (Qiagen) を用いて単離した。結果として得られたDNA試料を、SYBRマスターミックス (Applied Biosystems) およびCFX Connect PCR装置 (BioRad) を用いる定量的PCRにより、ヒトALU配列の存在についてアッセイした。ヒトALUエレメントのプライマーは、Robeyら (2008) に記載されている、GTC AGG AGA TCG AGA CCA TCC C(フォワード)およびTCC TGC CTC AGC CTC CCA AG(リバース)であった。100 ngのナイーブマウス心臓DNAに1~100,000 pgのヒトDNAを添加したものを使用して、各アッセイにおいて検量線を作成した。
【0232】
結果
PRPF31をノックダウンしたhPSC-CMの生存は、未処理のhPSC-CMおよび対照siRNAで処理したhPSC-CMと比較して増加した(それぞれp=0.008およびp=0.007;対応のないt検定)(図2)。
【0233】
結果の概要
6種類の異なる遺伝子のそれぞれが、ノックダウンすることで線虫において生存の堅固な増強を示したのに対して、マウスモデルでは、1つ、PRPF31のみが、移植された心筋細胞の生存に恩恵をもたらしたことが注目される。結果に基づき、PRPF31発現の下方制御は、インビトロで分化したhPSC-CMなどの移植された哺乳動物細胞の生着/生存を改善することができる。
【0234】
参考文献
LaMacchia JC, Frazier HN, III, Roth MB (2015) Glycogen fuels survival during hyposmotic-anoxic stress in Caenorhabditis elegans. Genetics 201:65-74.
Robey TE, Saiget MK, Reinecke H, Murry CE (2008) Systems approaches to preventing transplanted cell death in cardiac repair. J Mol Cell Cardiol 45(4):567-581.
【0235】
配列
SEQ ID NO: 1 siRNA配列
代替物として、SEQ ID NO: 1の3'末端のTTオーバーハングを、UUによって置換することができる (SEQ ID NO: 3)。
【0236】
SEQ ID NO: 2 siRNAアンチセンス鎖
【0237】
SEQ ID NO: 4 ホモサピエンス (Homo sapiens) プレmRNAプロセシング因子31 (PRPF31)、mRNA
NCBI参照配列:NM_015629.4
【0238】
SEQ ID NO: 5 U4/U6核内低分子リボ核タンパク質Prp31[ホモサピエンス]
NCBI参照配列:XP_006723200.1
図1
図2
【配列表】
2022525193000001.app
【国際調査報告】