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特表2022-525203脂肪酸シンターゼ、その阻害剤および修飾、ならびにその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-11
(54)【発明の名称】脂肪酸シンターゼ、その阻害剤および修飾、ならびにその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20220428BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20220428BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220428BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220428BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220428BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220428BHJP
   A61P 31/06 20060101ALI20220428BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220428BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220428BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
C12N15/54
C12N9/10 ZNA
C12N1/19
A61K45/00
A61P35/00
A61P31/00
A61P31/06
A61P3/04
A61P31/04
A61P31/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021555473
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(85)【翻訳文提出日】2021-10-27
(86)【国際出願番号】 EP2020057741
(87)【国際公開番号】W WO2020188074
(87)【国際公開日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】19163958.2
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598165611
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】シャリ,アシュウィン
(72)【発明者】
【氏名】シュターク,ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】シン,カシシュ
(72)【発明者】
【氏名】グラフ,ベンヤミン・モリッツ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4C084
【Fターム(参考)】
4B050CC05
4B050CC08
4B050DD01
4B050DD04
4B050FF01
4B050LL01
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA701
4C084ZA702
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB311
4C084ZB312
4C084ZB351
4C084ZB352
(57)【要約】
第一の側面において、本発明は、脂肪酸シンターゼタンパク質複合体の新規に同定されたガンマ・サブユニット由来の新規組換えポリペプチドに関する。さらに、これらの新規組換えポリペプチドを含む脂肪酸シンターゼタンパク質複合体、ならびにこれらのポリペプチドをコードする核酸分子を開示する。さらに、本発明記載のポリペプチドをコードする核酸分子を含有するか、または本発明記載のポリペプチドを発現する宿主細胞を記載する。さらに、新規に同定されたそのガンマ・サブユニットを含有する単離脂肪酸シンターゼタンパク質複合体を開示する。さらに、FASタンパク質複合体中に存在するケトレダクターゼ、エノイルレダクターゼまたはマロニル/パルミトイルトランスフェラーゼのいずれかを阻害可能な候補化合物の適切性を決定するための方法、および前記酵素の阻害剤を設計するための方法を開示する。最後に、本発明は、阻害剤、および医薬適用におけるその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸の少なくとも部分を含有する組換えポリペプチドであって、配列番号1のaa1~aa112、配列番号1のaa112よりもC末端に位置する挿入物であって、長さ少なくとも25アミノ酸である前記挿入物を含み、随意に、配列番号1のaa113~aa150のaaの少なくとも1つを前記挿入物のC末端に有する、前記組換えポリペプチド。
【請求項2】
配列番号1のアミノ酸1~アミノ酸112のアミノ酸を含む組換えポリペプチドであって、少なくとも25アミノ酸の挿入物をさらに含有する前記組換えポリペプチド、または前記組換えポリペプチドの機能的断片、またはその相同体。
【請求項3】
請求項2記載の、少なくとも25アミノ酸の挿入物を含有する配列番号1のアミノ酸を含む組換えポリペプチド、またはその機能的断片、またはその相同体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項記載の組換えポリペプチドであって、N末端からC末端に
-配列番号1のアミノ酸1~アミノ酸112を含む、第一のユニット;
-配列番号1のアミノ酸113~132で構成される第二のユニットであって、配列番号1のアミノ酸112~132の1つの後に挿入される挿入物を含有する、前記の第二のユニット;および
-随意に、配列番号1のアミノ酸133~150を含む第三のユニット
で構成される、前記組換えポリペプチド;
または前記ポリペプチドの機能的断片、またはその相同体。
【請求項5】
先行する請求項のいずれか一項記載の組換えポリペプチドであって、N末端からC末端に、配列番号1のaa1~aa112、少なくとも25アミノ酸、例えば少なくとも50アミノ酸の挿入物、および配列番号2のaa133~aa150からなる、前記組換えポリペプチド。
【請求項6】
請求項1または5の組換えポリペプチドであって、挿入物が酵素であり、特に酵素がデサチュラーゼ、チオエステラーゼ、オキシゲナーゼ、ヒドロキシラーゼ、シクロゲナーゼ、脂肪酸リアーゼより選択される、前記組換えポリペプチド。
【請求項7】
挿入物のサイズが最大60kDa、例えば最大40kDaである、請求項1~6のいずれか一項の組換えポリペプチド。
【請求項8】
酵素、例えば脂肪酸シンターゼタンパク質複合体中に存在する酵素に対する調節活性を有するポリペプチドであって
iv)配列番号2の少なくとも6つの連続アミノ酸、例えば少なくとも8つの連続アミノ酸、例えば少なくとも10の連続アミノ酸、またはその機能的断片、またはその相同体;あるいは
v)配列番号3の少なくとも5つの連続アミノ酸、例えば少なくとも6つの連続アミノ酸、例えば少なくとも8つの連続アミノ酸、またはその機能的断片、またはその相同体;あるいは
vi)配列番号4の少なくとも6つの連続アミノ酸、例えば少なくとも8つの連続アミノ酸、例えば配列番号4の少なくとも10、12もしくは14の連続アミノ酸、またはその機能的断片、またはその相同体
からなる、前記ポリペプチド。
【請求項9】
配列番号1のアミノ酸1~132で構成される組換えポリペプチド、またはその機能的断片、またはその相同体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項記載の組換えポリペプチドを含む、脂肪酸シンターゼタンパク質複合体。
【請求項11】
脂肪酸およびバイオ燃料の産生において使用するための、特に遊離脂肪酸、ケト脂肪酸、脂肪酸アルコール、環状脂肪酸および伸長脂肪酸の生物学的産生において使用するための、請求項1~請求項9の少なくとも1つの組換えポリペプチドを含有する、請求項10の脂肪酸シンターゼタンパク質複合体。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項記載のポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項13】
請求項12記載の核酸分子を含有し、そして/または請求項1~9のいずれか一項記載のポリペプチドを発現する宿主細胞であって、特に、I型脂肪酸シンターゼを含有する微生物、例えば酵母である、前記宿主細胞。
【請求項14】
ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体中に存在するケトレダクターゼを阻害可能な候補化合物の適切性を決定するための方法であって:
-水溶性ポリマー、特に非イオン性ポリマーまたはゼロ正味荷電のポリマー、例えばポリアルキレングリコール、ポリアミン、またはポリカルボキシレート、特にポリエチレングリコールを含有するリザーバー溶液中で、候補化合物を含有する、ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質を結晶化するか、あるいは候補化合物を含有する、結晶化ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体を提供し;
-ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体の結晶構造を、2.8Åまたはそれ未満の解像度での回折分析によって決定し;
-前記分析に基づき、ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体のケトレダクターゼの阻害剤としての候補化合物の適切性を決定するか、あるいは
-ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体中に存在するケトレダクターゼを阻害可能な候補化合物を含有する、ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体を、低温電子顕微鏡分析のために調製し;
-前記ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体で、低温電子顕微鏡検査を実行し;
-ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体のケトレダクターゼの阻害剤としての候補化合物の適切性を決定する
工程を含む、前記方法。
【請求項15】
エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体中に存在するエノイルレダクターゼを阻害可能である候補化合物の適切性を決定するための方法であって:
-水溶性ポリマー、特に非イオン性ポリマーまたはゼロ正味荷電のポリマー、例えばポリアルキレングリコール、ポリアミン、またはポリカルボキシレート、特にポリエチレングリコールを含有するリザーバー溶液中で、候補化合物を含有する、エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質を結晶化するか、あるいは候補化合物を含有する、結晶化エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体を提供し;
-エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体の結晶構造を、2.8Åまたはそれ未満の解像度での回折分析によって決定し;
-前記分析に基づき、エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体のエノイルレダクターゼの阻害剤としての候補化合物の適切性を決定するか、あるいは
-エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体中に存在するエノイルレダクターゼを阻害可能な候補化合物を含有する、エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体を、低温電子顕微鏡分析のために調製し;
-前記エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体で、低温電子顕微鏡検査を実行し;
-エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体のエノイルレダクターゼの阻害剤としての候補化合物の適切性を決定する
工程を含む、前記方法。
【請求項16】
マロニル/パルミトイルトランスフェラーゼ(MPT)、特にFASタンパク質複合体中に存在するMPTを阻害可能である候補化合物の適切性を決定するための方法であって:
-水溶性ポリマー、特に非イオン性ポリマーまたはゼロ正味荷電のポリマー、例えばポリアルキレングリコール、ポリアミン、またはポリカルボキシレート、特にポリエチレングリコールを含有するリザーバー溶液中で、候補化合物を含有する、MPT、特にFASタンパク質を結晶化するか、あるいは候補化合物を含有する、結晶化MPT、特にFASタンパク質複合体を提供し;
-MPT、特にFASタンパク質複合体の結晶構造を、2.8Åまたはそれ未満の解像度での回折分析によって決定し;
-前記分析に基づき、MPT、特にFASタンパク質複合体のMPTの阻害剤としての候補化合物の適切性を決定するか、あるいは
-MPT、特にFASタンパク質複合体中に存在するMPTを阻害可能な候補化合物を含有する、MPT、特にFASタンパク質複合体を、低温電子顕微鏡分析のために調製し;
-前記MPT、特にFASタンパク質複合体で、低温電子顕微鏡検査を実行し;
-MPT、特にFASタンパク質複合体のMPTの阻害剤としての候補化合物の適切性を決定する
工程を含む、前記方法。
【請求項17】
ケトレダクターゼ活性、特にFASタンパク質複合体中のケトレダクターゼ活性の阻害剤を設計するための方法であって
-請求項6 i)記載のポリペプチドのアミノ酸の少なくとも1つのランダムまたは部位特異的突然変異によって、請求項6 i)に定義されるようなポリペプチドを突然変異させ
-ケトレダクターゼ活性、特にFASタンパク質複合体のケトレダクターゼ活性を阻害する適切性を決定する
工程を含む、前記方法。
【請求項18】
エノイルレダクターゼ活性、特にFASタンパク質複合体中のエノイルレダクターゼ活性の阻害剤を設計するための方法であって
-請求項6 ii)記載のポリペプチドのアミノ酸の少なくとも1つのランダムまたは部位特異的突然変異によって、請求項6 ii)に定義されるようなポリペプチドを突然変異させ
-エノイルレダクターゼ活性、特にFASタンパク質複合体のエノイルレダクターゼ活性を阻害する適切性を決定する
工程を含む、前記方法。
【請求項19】
MPT活性、特にFASタンパク質複合体中のMPT活性の阻害剤を設計するための方法であって
-請求項6 iii)記載のポリペプチドのアミノ酸の少なくとも1つのランダムまたは部位特異的突然変異によって、請求項6 iii)に定義されるようなポリペプチドを突然変異させ
-MPT活性、特にFASタンパク質複合体のMPT活性を阻害する適切性を決定する
工程を含む、前記方法。
【請求項20】
ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体中に存在するケトレダクターゼの阻害剤であって、請求項6 i)のポリペプチド、あるいは請求項14または17にしたがって、ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体中に存在するケトレダクターゼの阻害剤として適切であると決定された候補化合物を含む、前記阻害剤。
【請求項21】
エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体中に存在するエノイルレダクターゼの阻害剤であって、請求項6 ii)のポリペプチド、あるいは請求項15または18にしたがって、エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体中に存在するエノイルレダクターゼの阻害剤として適切であると決定された候補化合物を含む、前記阻害剤。
【請求項22】
MPT、特にFASタンパク質複合体中に存在するMPTの阻害剤であって、請求項6 ii)のポリペプチド、あるいは請求項16または19にしたがって、MPT、特にFASタンパク質複合体中に存在するMPTの阻害剤として適切であると決定された候補化合物を含む、前記阻害剤。
【請求項23】
癌、感染性疾患、結核または肥満、細菌感染に対する抗生物質、特に結核、または酵母感染の予防または治療に使用するための、単独の、または組み合わせた、請求項20~22のいずれか一項記載の阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1つの側面において、本発明は、脂肪酸シンターゼタンパク質複合体の新規に同定されたガンマ・サブユニットに由来する、新規組換えポリペプチドに関する。さらに、これらの新規組換えポリペプチドを含む脂肪酸シンターゼタンパク質複合体、ならびにこれらのポリペプチドをコードする核酸分子を開示する。さらに、本発明記載のポリペプチドをコードする核酸分子を含有するか、または本発明記載のポリペプチドを発現する宿主細胞を記載する。さらに、新規に同定されたそのガンマ・サブユニットを含有する単離脂肪酸シンターゼタンパク質複合体を開示する。さらに、FASタンパク質複合体中に存在するケトレダクターゼ、エノイルレダクターゼまたはマロニル/パルミトイルトランスフェラーゼのいずれかを阻害することが可能な候補化合物の適切性を決定するための方法、および前記酵素の阻害剤を設計するための方法を開示する。最後に、本発明は、阻害剤および医薬適用におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸シンターゼは、脂肪酸合成を触媒する多酵素タンパク質である。これまでに、酵母における前記酵素は、アルファサブユニットにコードされるACPドメインによって、1つの機能ドメインから次の機能ドメインへと基質が渡される、2つの多機能サブユニットで構成される酵素系であると記載されている。脂肪酸シンターゼ(FAS)は、NADPHの存在下で、アセチル-CoAおよびマロニル-CoAからのパルミテートの合成を触媒する。
【0003】
2つのクラスのFASが記載される。すなわち、I型FAS系は、単一のまたは2つの巨大な多機能ポリペプチドを利用し、そして動物および真菌の両方に一般的である。I型脂肪酸シンターゼ系はまた、細菌のサブグループ、すなわちコリネバクテリウム(corynebacteria)、マイコバクテリウム(mycobacteria)、およびノカルジア(nocardia)でも見られうる。これらの細菌において、FAS I系は、パルミチン酸を産生し、そして以下に記載するFAS II系と協同で、より多様な脂質産物を産生する。
【0004】
II型FASは、古細菌および細菌で見られ、そして脂肪酸合成のための別個の単一機能酵素の使用によって特徴づけられる。FAS IIのこの経路の阻害剤は、抗生物質の可能性があるものとして、調べられている。I型FASとしての酵母脂肪酸シンターゼは、2.6MDaの樽型複合体として記載されており、そして2つのユニークな多機能サブユニット、αおよびβで構成される。前記αおよびβユニットは、αβ構造で配置されると記載される。この酵素複合体の触媒活性は、α-およびβ-サブユニット間の酵素反応の協同系を伴う。酵素複合体は、脂肪酸合成の6つの機能中心からなると示されている。一般的に、FASは、例えば乳癌等において上方制御されるため、癌を含む多様な疾患を治療するために適切なターゲットと見なされる。
【0005】
多数の研究室による構造研究によって、I型真菌脂肪酸シンターゼ(FAS)が、長さ270Åおよび幅250Åの樽型粒子を形成するD3対称2.6MDaメガ酵素複合体であることが強固に確立されている(例えば、Jenniら, Science. 316, 254-61(2007))。これらの初期の構造研究は、S.セレビシエ(S. cerevisiae)FASが、赤道中心ホイールを形成する210kDa α-サブユニットの6コピー(α6)、および粒子のドームを形成する230kDa β-サブユニットの6コピー(β6)で構成されることを示す(I. B. Lomakin, Y. Xiong, T. A. Steitz, Cell. 129, 319-32(2007))。飽和C16~C18脂肪酸鎖の合成に必要なすべての酵素活性は、α-およびβ-サブユニット内に存する。α-サブユニットは、ケトレダクターゼ(KR)、ケトシンターゼ(KS)およびホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPT)ドメインを含有し、β-サブユニットは、アセチルトランスフェラーゼ(AT)、エノイルレダクターゼ(ER)およびデヒドラターゼ(DH)ドメインを宿する。マロニル/パルミトイルトランスフェラーゼ(MTP)ドメインは、β-サブユニットのまさにC末端側の部分によっておおむね形成されるが、α-サブユニットのN末端によって完成される。脂肪酸合成中、成長中の脂肪酸鎖は、これらの個々の酵素活性部位各々へ、アシルキャリアータンパク質(ACP)ドメイン(α-サブユニット中に存する)によって反復シャトルされると考えられる。脂肪酸合成機構の学術的興味に加えて、脂肪酸は、ファインケミカルのバイオテクノロジー産生および再生可能資源由来のバイオ燃料の価値あるプラットフォーム化合物として浮上してきている。実際、酵母FASの構築を伴うものを含めて、I型FASメガ酵素は、タンパク質工学に供されて、例えば短鎖脂肪酸およびポリケチドの生成に成功してきている(J. Gajewskiら, Nat. Commun. 8, 1-8(2017))。しかし、今日まで、反復シャトルプロセスに関する機械的および構造的詳細は明らかでないままであり、そしてその構造的決定要因はまったく捉えられておらず、これらのバイオテクノロジー的な努力に役立てるにはこうした詳細が必要である。最後に、脂肪酸生合成はまた、癌および肥満のような病気に関与することが知られており、したがって、脂肪酸合成に直接影響を及ぼすことができれば、実質的に橋渡し的に関与する(D. Wang, R. N. Dubois, J. Natl. Cancer Inst. 104, 343-5(2012))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jenniら, Science. 316, 254-61(2007)
【非特許文献2】I. B. Lomakin, Y. Xiong, T. A. Steitz, Cell. 129, 319-32(2007)
【非特許文献3】J. Gajewskiら, Nat. Commun. 8, 1-8(2017)
【非特許文献4】D. Wang, R. N. Dubois, J. Natl. Cancer Inst. 104, 343-5(2012)
【発明の概要】
【0007】
1つの側面において、本発明は、配列番号1のアミノ酸1~132の組換えポリペプチド、またはその機能的断片、またはその相同体に関する。さらに、配列番号1のアミノ酸を含み、少なくとも20アミノ酸、例えば25アミノ酸の挿入物をさらに含有する組換えポリペプチド、またはその機能的断片、またはその相同体を提供する。
【0008】
さらに、
i)配列番号2の少なくとも6つの連続アミノ酸、例えば少なくとも8つの連続アミノ酸、例えば少なくとも10の連続アミノ酸、またはその機能的断片、またはその相同体;あるいは
ii)配列番号3の少なくとも5つの連続アミノ酸、例えば少なくとも6つの連続アミノ酸、例えば少なくとも8つの連続アミノ酸、またはその機能的断片、またはその相同体;あるいは
iii)配列番号4の少なくとも6つの連続アミノ酸、例えば少なくとも8つの連続アミノ酸、例えば配列番号4の少なくとも10、12もしくは14の連続アミノ酸、またはその機能的断片、またはその相同体
からなるポリペプチドを提供する。
【0009】
前記ポリペプチドは、酵素、例えばFAS複合体中に存在する酵素に対して改変する活性を有する。
さらに、本明細書に記載するような組換えポリペプチドを含む脂肪酸シンターゼタンパク質複合体を開示する。
【0010】
さらに、本発明記載のポリペプチドをコードする核酸分子、ならびに前記核酸分子を含有し、そして/または本発明記載のポリペプチドを発現する宿主細胞を記載する。さらに、記載するα-およびβ-サブユニットならびに配列番号1のポリペプチドを含有する単離脂肪酸シンターゼタンパク質複合体を請求する。前記単離脂肪酸シンターゼタンパク質複合体は、
a)脂肪酸シンターゼタンパク質複合体を含有する未精製試料を提供し;
b)25,000~35,000xgで、細胞破片を分離するため、第一の遠心分離工程を行い;
c)第一の遠心分離工程から得た上清に、0%~25%(w/v)の量のオスモライト、および随意にシステインのチオールアルキル化を可能にする化合物を補充し;
d)50,000~150,000xg、例えば80,000~120,000xgでの遠心分離によって、第二の遠心分離工程を行い;
e)第二の遠心分離工程から得た上清を、沈殿のため、水溶性ポリマー、特に非イオン性ポリマーまたはゼロ正味荷電のポリマー、例えばポリアルキレングリコール、ポリアミン、またはポリカルボキシレートで処理し;
f)前記ポリマー、例えばポリアルキレングリコールを含有しない緩衝剤中に再懸濁した後、ポリマーに基づく沈殿物、例えばポリアルキレングリコールに基づく沈殿物とともに、オスモライトを用いて密度勾配遠心分離を行い;
g)随意に、工程e)およびf)を1回または複数回反復し
h)精製された脂肪酸シンターゼタンパク質複合体を得るため、脂肪酸シンターゼタンパク質複合体の水溶性ポリマーに基づく沈殿、例えばポリアルキレングリコールに基づく沈殿によって濃縮する
工程を含む方法によって得られうる。
【0011】
さらに、ケトレダクターゼ(KR)またはエノイルレダクターゼ(ER)またはマロニル/パルミトイルトランスフェラーゼ(MPT)を阻害可能な候補化合物の適切性を決定するための方法、ならびに前記酵素の阻害剤、特に該酵素がFASタンパク質複合体の一部である場合の阻害剤を開示する。最後に、癌、感染性疾患を含むがまた、結核または肥満も含む多様な疾患の予防または治療における前記阻害剤の使用を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】Tma17pは、酵母脂肪酸シンターゼの真のγ-サブユニットを構成する。α-およびβ-サブユニットは、全体で、脂肪酸合成に必要なすべての酵素活性を含有する。アシルキャリアータンパク質(ACP、黄色)、ケトレダクターゼ(KR、金色)、ケトシンターゼ(KS、橙色)およびホスホパンテテイントランスフェラーゼ(PPT、マゼンタ)ドメインはα-サブユニット上に存する一方、アセチルトランスフェラーゼ(AT,青色)、エノイルレダクターゼ(ER、ティール)、デヒドラターゼ(DH、緑色)はβ-サブユニット上に存する。マロニル/パルミトイルトランスフェラーゼ(MPT、カーキ)ドメインは、α-およびβ-サブユニットの両方によって構築される。
図2-1】図2A:野生型S.セレビシエ株由来のFAS精製のSDS-PAGE分析。S30(レーン2)およびS100(レーン3)抽出物のアリコット、再懸濁PEGカット(レーン4)、第一、第二および第三のスクロース勾配のプール(レーン5、6および7)ならびに最終精製タンパク質調製(レーン7)および分子量マーカー(レーン1)を示す。20kDaの見かけの分子量を持つタンパク質の明らかな同時精製に注目されたい。
図2-2】図2B:Δtma17 S.セレビシエ株由来のFAS精製のSDS-PAGE分析。(D)におけるものと同じ分画のアリコットを装填した。20kDaの見かけの分子量を持つタンパク質が存在しないことが注目され、これが実際にTma17pであることが示される。
図3】ΔTma17p-FASおよび組換えTma17pでのFASホロ酵素の再構築。上部左は、クーマシー染色非変性ゲルを示し、ΔTma17p-FASおよびTma17pの移動位置を示す。下部左パネルは、ゲルのΔTma17p-FAS領域の蛍光検出を示し、FASに結合したTma17pを視覚化し、右パネルは、蛍光シグナルの定量的分析を示す。
図4】ガンマ-サブユニットの結合に際してFASホロ酵素において誘発される構造相違。架橋質量分析(XL-MS)は、FASホロ酵素(回転)コンホメーションにおいて見られるさらなる密集状態の解釈を可能にする。γ-サブユニットのN末端領域は、MPTドメインに近い中央部分でERドメインに位置する一方、C末端部分はKRおよびKSドメインと接触するようである。
図5】FASホロ酵素におけるγ-サブユニットの機能。基質NADPHに関するFASの基質濃度依存性。左のパネルは、NADPH濃度に対するΔTma17p-FAS初期速度のプロットを示す。ΔTma17p-FASのNADPH依存性は双曲線性ではなく、そして基質活性化を示唆する。この振る舞いを記載するために利用される動力学モデルを、挿入図に示す。右のパネルは、NADPH濃度に対するΔTma17p-FAS(黒色)およびFASホロ酵素(赤色)初期速度の重ね合わせを示す。FASホロ酵素の場合の飽和動力学の変化に、そしてNADPHに関するKappの増加に注目されたい(ΔTma17p-FAS:Kapp=9.1±1.8μM、FASホロ酵素Kapp=155±29μM)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1つの側面において、組換えポリペプチドを提供する。本発明の1つの態様において、配列番号1のアミノ酸1~132からなる組換えポリペプチド、またはその機能的断片、またはその相同体を提供する。組換えポリペプチドは、それによって配列番号1の133~150が存在しなくなるように、さらなるアミノ酸をさらに有してもよい。
【0014】
本明細書において、用語「その機能的断片」は、それぞれ、言及されるポリペプチドまたは核酸分子と同じ機能性を有するポリペプチドを指す。すなわち、機能的断片は、本明細書に記載するようなポリペプチドの機能を有意に改変することなく、少なくとも1つのアミノ酸残基または少なくとも1つの核酸残基の欠失または置換を含有してもよい。
【0015】
本発明記載のポリペプチドには、誘導体として知られる断片もまた含まれ、ここで、単一のアミノ酸分子が異なるアミノ酸残基で置換されていてもよい。例えば、2位のアミノ酸は、システインの代わりにセリンであってもよい。さらに、単一の置換には、保存的アミノ酸置換が含まれる。当業者は、組換えポリペプチドの活性を有意に改変することのない、適切な置換をよく知っている。
【0016】
本明細書において、用語「含んでいる(comprising)」、「含む(comprises)」および「構成される(comprised of)」は、「含まれている(including)」、「含まれる(includes)」または「含有している(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、そして包括的または無制限(open ended)であり、そしてさらなる、言及されていないメンバー、要素および方法工程を排除しない。用語「含んでいる」、「含む」および「構成される」ならびに「含まれている」、「含まれる」または「含有している」、「含有する」は、本明細書において、用語「からなっている(consisting of)」、「なる(consist)」および「からなる(consist of)」ならびに「構成される」を含むことが認識されるであろう。
【0017】
本明細書に引用されるすべての参考文献は、その全体が本明細書に援用される。特に、本明細書が特に言及するすべての参考文献の解説は、本明細書に援用される。
別に同定しない限り、技術的および科学的用語を含む本発明を開示する際に用いるすべての用語は、本発明が属する技術分野の一般の当業者によって理解されるような意味を有する。さらなる指針によって、用語定義は、本発明の解説をよりよく認識するために含まれる。
【0018】
本明細書において、類似の型、「a」、「an」および「the」には、背景が別に明らかに示さない限り、単数および複数の参照対象の両方が含まれる。
用語「その相同体」は、他の種由来である、特に、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から得られた配列番号1の本明細書に記載するようなγ-ユニットとは別の酵母種に属する、本明細書に請求するような組換えポリペプチドを指す。その相同体には、他のサッカロミセス属種由来の、ならびに他の真核種、特に酵母および細菌種、例えばカンジダ(candida)、アスペルギルス(aspergillus)、ヤロウィア(yarrowia)、ペニシリウム(penicillum)、ロドスピリジウム(Rhodospiridium)、マイコバクテリウム(mycobacteria)、ケトミウム(chaetomium)が含まれる。
【0019】
用語「組換え」は、天然には存在しないか、または以前、天然からは単離されていない、ポリペプチドを指す。
用語「候補化合物」は、小分子、化学的または生物学的分子であり、特にアミノ酸残基で構成されるかまたはアミノ酸残基を含む、分子を指す。
【0020】
用語「結晶」は、空間的に反復する方式での、任意の所定の単一分子または分子種の超分子集合を指す。それによって、分子または分子種は、原子が共有結合および/または非共有結合によって連結されていてもいなくても、任意の化学部分として定義されうる。
【0021】
本明細書において、用語「オスモライト」は、浸透圧に影響を及ぼす化合物を指す。例には、限定されるわけではないが、グリセロール、スクロース、糖一般、トリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)およびエチレングリコールが含まれる。
【0022】
用語「ゼロ正味荷電のポリマー」は、数百ダルトンのサイズ範囲で、反復化学ユニットの連続共有付着によって構築されるポリマーを指す。ゼロ正味荷電の定義は、理想的には電子電荷をまったく持たない(陽性でも陰性でもない)反復ユニットの特性によって満たされる。電子電荷が存在する場合、これらはバランスが取れた方式で現れなければならず、すなわち2の値を持つ陽性電荷は、2の値を持つ陰性電荷によって拮抗されなければならない。拮抗電子電荷をもつこうした分子は、双性イオン種または双性化学物質と称される。
【0023】
用語「非イオン性ポリマー」は、数百ダルトンのサイズ範囲で、反復化学ユニットの連続共有付着によって構築される分子を指す。化学ユニットが電子電荷をまったく持たない場合、生じるポリマーは、非イオン性ポリマーと称される。
【0024】
非共有結合の例には、限定されるわけではないが、水素結合、静電相互作用およびファンデルワールス力が含まれる。結晶中の1つの分子の別のものに対する関係は、ブラベー格子に基づく厳密な対称ルールによって記載されうる。
【0025】
本明細書において、用語「阻害剤」は、生物学的活性を減少させることが可能な生物学的または化学的実体を含む化合物を指す。本発明の背景において、阻害剤は、ケトレダクターゼ活性、エノイルレダクターゼ活性および/またはMPT活性を減少させる生物学的または化学的分子である。特に、阻害剤は、少なくとも10倍、例えば少なくとも20倍、特に少なくとも50倍、前記生物学的実体の「通常の」活性を減少させる実体である。
【0026】
別に示さない限り、用語FASタンパク質複合体またはFASは、FAS Iタンパク質複合体を指す。
用語「FASタンパク質複合体」は、少なくとも3つの分子、すなわちFAS IのFASタンパク質複合体のα-サブユニット、β-サブユニット、および第三のユニット、例えば候補化合物、配列番号1のガンマ-サブユニットまたはその断片またはその相同体を含む本明細書に定義するようなポリペプチドで構成されるタンパク質複合体を指す。
【0027】
配列番号1のポリペプチドは、サッカロミセス・セレビシエ由来のTMA 17分子を指す。これまで、前記ポリペプチドは、ストレスに際して誘導され、そしてプロテアソーム集合に関連すると記載されてきている。
【0028】
本発明者らは、配列番号1のアミノ酸1~132の組換えポリペプチドまたはその機能的断片またはその相同体が、FAS複合体中に存在した際、配列番号1の全長アミノ酸配列を含有するFAS複合体に比較して、より高いケトレダクターゼ活性を示すことを認識した。すなわち、本発明者らは、配列番号1のアミノ酸133~150がFASタンパク質複合体中のケトレダクターゼとの相互作用配列に相当すると認識した。以下に示すように、配列番号1の全長ポリペプチドの存在は、FASタンパク質複合体中に存在する多様な酵素の活性において、制御性の役割を有する。
【0029】
さらなる態様において、配列番号1のaa1~aa112を含む配列番号1の少なくとも部分、および配列番号1のaa112よりC末端側に位置する挿入物を含有する、組換えポリペプチドを提供する。前記挿入物は、長さ少なくとも25アミノ酸であり、随意に、前記組換えポリペプチドは、前記挿入物のC末端側に、配列番号1のaa113~aa150のaaの少なくとも1つを有する。
【0030】
本発明のさらなる態様において、配列番号1のアミノ酸を含む組換えポリペプチドは、少なくとも15、例えば少なくとも20、例えば少なくとも23、25、28、30またはそれより多いアミノ酸の挿入物またはその機能的断片またはその相同体をさらに含有する。例えば、挿入物は、サイズが5kDa~25kDaのものである。
【0031】
すなわち、配列番号1のアミノ酸1~アミノ酸112のアミノ酸を含み、少なくとも25のアミノ酸の挿入物をさらに含有する組換えポリペプチド、前記組換えポリペプチドの機能的断片、またはその相同体を提供する。
【0032】
組換えポリペプチドの1つの態様において、該ポリペプチドは、N末端からC末端に
-配列番号1のアミノ酸1~アミノ酸112を含む、第一のユニット;
-配列番号1のアミノ酸113~132で構成される第二のユニットであって、配列番号1のアミノ酸112~132の1つのアミノ酸の後に挿入される挿入物を含有する、前記の第二のユニット;および
-随意に、配列番号1のアミノ酸133~150を含む第三のユニット;
で構成される挿入物を有するポリペプチド、または前記ポリペプチドの機能的断片、またはその相同体である。
【0033】
本発明によって、配列番号1のアミノ酸112の後および配列番号1のアミノ酸132の前のいずれか1つに挿入物があることが、残りのアミノ酸の相互作用特性に対する負の影響も回避するために特に有益でありうると認識されてきている。1つの態様において、記載する組換えポリペプチドには、前記挿入物を含有するアミノ酸113~132で構成される第二のユニットにおいて、アミノ酸113~132のアミノ酸の少なくとも1つまたはすべてが存在しない可能性があるポリペプチドが含まれる。1つの態様において、配列番号1の113~132のaaは存在しない。
【0034】
さらに、組換えポリペプチドは、N末端からC末端に、配列番号1のaa1~aa112、少なくとも25のアミノ酸、例えば少なくとも50のアミノ酸の挿入物、および配列番号1のaa133~aa150からなる。
【0035】
本発明の1つの態様において、本発明記載の組換えポリペプチド中に存在する挿入物は酵素である。特に、酵素は、デサチュラーゼ、チオエステラーゼ、オキシゲナーゼ、ヒドロキシラーゼ、シクロゲナーゼ、脂肪酸リアーゼより選択される。
【0036】
本発明記載のポリペプチド中に存在する挿入物は、最大60kDa、例えば最大50kDa、例えば40kDa、35kDa、30kDa、最大25kDa、最大20kDaのサイズを有してもよい。挿入物は、少なくとも上に言及するようなサイズを有し、すなわち少なくとも15アミノ酸である。例えば、挿入物のサイズは、少なくとも2kDa、例えば少なくとも2.5kDa、例えば少なくとも3kDaである。
【0037】
本発明の1つの態様において、ポリペプチドは、
i)配列番号2の少なくとも6つの連続アミノ酸、例えば少なくとも8つの連続アミノ酸、例えば少なくとも10の連続アミノ酸、またはその機能的断片、またはその相同体;あるいは
ii)配列番号3の少なくとも5つの連続アミノ酸、例えば少なくとも6つの連続アミノ酸、例えば少なくとも8つの連続アミノ酸、またはその機能的断片、またはその相同体;あるいは
iii)配列番号4の少なくとも6つの連続アミノ酸、例えば少なくとも8つの連続アミノ酸、例えば配列番号4の少なくとも10、12もしくは14の連続アミノ酸、またはその機能的断片、またはその相同体
からなる。
【0038】
i)~iii)下に言及するポリペプチドは、酵素活性を改変する、特に酵素活性を阻害するペプチドに相当する。前記酵素活性は、特に、FAS複合体の酵素活性である。
配列番号2のアミノ酸は、FASタンパク質複合体中に存在するケトレダクターゼとの相互作用界面に相当する。配列番号2のアミノ酸は、エノイルレダクターゼと相互作用するガンマ-ユニット中に存在するアミノ酸に相当し、そして配列番号4のアミノ酸は、FASタンパク質複合体のMPTと相互作用するガンマ-ユニットのアミノ酸に相当する。
【0039】
すなわち、配列番号2、3および4に言及する、上に定義するようなポリペプチドは、FASタンパク質複合体の他のサブユニット中に存在するそれぞれの酵素活性と相互作用する、そしてしたがってこれらを制御する部分に相当する。
【0040】
本発明者らによって立証されるように、TMA 17としてもまた知られるガンマ-サブユニットは、FASタンパク質複合体の他のサブユニット、すなわちα-およびβ-サブユニットとの多様な相互作用部位を有する。
【0041】
さらなる側面において、本発明者らは、本発明記載の組換えポリペプチドを含む脂肪酸シンターゼタンパク質複合体を提供する。さらに、本発明記載の脂肪酸シンターゼタンパク質複合体は、当該技術分野に記載されるようなα-およびβ-サブユニットを含有する。
【0042】
以下に示すように、本発明者らは、驚くべきことに、FASタンパク質複合体(FAS I)中に存在するさらなるサブユニット、すなわち、以前は、プロテアソームまたはリボソームのみと相互作用することが知られていたTma17ポリペプチドを同定する。
【0043】
本発明の1つの態様において、脂肪酸およびバイオ燃料の産生において使用するための、特に、遊離脂肪酸、ケト脂肪酸、脂肪酸アルコール、環状脂肪酸および伸長脂肪酸の生物学的産生において使用するための、本明細書に記載するような組換えポリペプチドを含有する、脂肪酸シンターゼタンパク質複合体を提供する。すなわち、特に挿入物を含有する、定義するような組換えポリペプチドを用いると、記載する配列内にさらなる酵素活性を導入することが可能である。前記酵素活性は、脂肪酸に対して作用して、したがって、FASタンパク質複合体の産物をさらに変化させることを可能にする。本発明にしたがった、FASタンパク質複合体上に存在する酵素の少なくとも1つに対して阻害活性を有する本発明記載のポリペプチドの場合、該複合体で行われる脂肪酸合成の工程の1つを阻害し、したがって、得られる産物を変化させることも可能である。
【0044】
当業者は、修飾されたまたは改変された脂肪酸残基に到達するための適切な挿入物をよく知っている。
さらなる態様において、本発明は、本発明記載のポリペプチドをコードする核酸分子に関する。核酸分子は、DNA、RNA、または他の分子、例えばPNA等を含む、当該技術分野に知られる核酸で構成されてもよい。さらに、記載するようなペプチドをコードする本発明記載の核酸配列を含むベクターを提供する。当業者は、適切なベクター系およびベクター、特に酵母ゲノム内への形質転換および組換えを含めて、真核細胞のトランスフェクションおよび形質導入を可能にするベクターをよく知っている。
【0045】
さらに、本発明は、本発明記載の核酸を含有し、そして/または本発明記載のポリペプチドを発現する宿主細胞に関する。1つの態様において、宿主細胞は、I型脂肪酸シンターゼ(FAS I)を含有する微生物、例えば酵母である。
【0046】
さらなる態様において、単離脂肪酸シンターゼタンパク質複合体は:
a)脂肪酸シンターゼタンパク質複合体を含有する未精製試料を提供し;
b)25,000~35,000xgで、細胞破片を分離するため、第一の遠心分離工程を行い;
c)第一の遠心分離工程から得た上清に、0%~25%(w/v)の量のオスモライト、および随意にシステインのチオールアルキル化および/または還元を可能にする化合物を補充し;
d)50,000~150,000xg、例えば80,000~120,000xgでの遠心分離によって、第二の遠心分離工程を行い;
e)第二の遠心分離工程から得た上清を、沈殿のため、水溶性ポリマー、特に非イオン性ポリマーまたはゼロ正味荷電のポリマー、例えばポリアルキレングリコール、ポリアミン、またはポリカルボキシレートで処理し;
f)前記ポリマー、例えばポリアルキレングリコールを含有しない緩衝液中に再懸濁した後、ポリマーに基づく沈殿物、例えばポリアルキレングリコールに基づく沈殿物とともに、オスモライトを用いて密度勾配遠心分離を行い;
g)随意に、工程e)およびf)を1回または複数回反復し
h)精製された脂肪酸シンターゼタンパク質複合体を得るため、脂肪酸シンターゼタンパク質複合体の水溶性ポリマーに基づく沈殿、例えばポリアルキレングリコールに基づく沈殿によって濃縮する
工程を含む方法によって得られうると記載される。
【0047】
すなわち、本明細書に完全に含まれるWO 2017/211775 A1に詳細に記載されるように、該方法は、本明細書に記載するような、新規に同定されたガンマ-サブユニットを含むFASタンパク質複合体を単離することを可能にする。
【0048】
先行技術はFASタンパク質複合体を2つのサブユニットのみで構成される複合体と記載しているが、本発明者らは、WO 2011/211775 A1に記載される方法を実行して、第三のサブユニットを含有するFASタンパク質複合体を得た。該サブユニットがTma17ポリペプチドである。
【0049】
1つの態様において、ホスフィンに基づく還元剤、例えばトリカルボキシエチルホスフィン(TCEP)の使用によって、システインの還元を行う。さらに、密度勾配を、室温、例えば18℃~22℃で行う。さらに、本発明の1つの態様において、精製工程中の塩濃度(組み合わせたNaClおよびKCl)を150mM未満に維持して、ガンマ-ユニットの解離を最小限にする。
【0050】
さらに、本発明は、ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体中に存在するケトレダクターゼを阻害可能な候補化合物の適切性を決定するための方法であって:
-水溶性ポリマー、特に非イオン性ポリマーまたはゼロ正味荷電のポリマー、例えばポリアルキレングリコール、ポリアミン、またはポリカルボキシレート、特にポリエチレングリコールを含有するリザーバー溶液中で、候補化合物を含有する、ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質を結晶化するか、あるいは候補化合物を含有する、結晶化ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体を提供し;
-ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体の結晶構造を、2.8Åまたはそれ未満の解像度での回折分析によって決定し;
-前記分析に基づき、ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体のケトレダクターゼの阻害剤としての候補化合物の適切性を決定するか、あるいはそれとは別にまたは組み合わせて、
-ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体中に存在するケトレダクターゼを阻害可能な候補化合物を含有する、ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体を、低温電子顕微鏡分析のために調製し;
-前記ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体で、低温電子顕微鏡検査を実行し;
-ケトレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体のケトレダクターゼの阻害剤としての候補化合物の適切性を決定する
工程を含む、前記方法に関する。
【0051】
さらに、本発明は、エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体中に存在するエノイルレダクターゼを阻害可能である候補化合物の適切性を決定するための方法であって:
-水溶性ポリマー、特に非イオン性ポリマーまたはゼロ正味荷電のポリマー、例えばポリアルキレングリコール、ポリアミン、またはポリカルボキシレート、特にポリエチレングリコールを含有するリザーバー溶液中で、候補化合物を含有する、エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質を結晶化するか、あるいは候補化合物を含有する、結晶化エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体を提供し;
-エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体の結晶構造を、2.8Åまたはそれ未満の解像度での回折分析によって決定し;
-前記分析に基づき、エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体のエノイルレダクターゼの阻害剤としての候補化合物の適切性を決定するか、あるいはそれとは別にまたは組み合わせて
-エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体中に存在するエノイルレダクターゼを阻害可能な候補化合物を含有する、エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体を、低温電子顕微鏡分析のために調製し;
-前記エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体で、低温電子顕微鏡検査を実行し;
-エノイルレダクターゼ、特にFASタンパク質複合体のエノイルレダクターゼの阻害剤としての候補化合物の適切性を決定する
工程を含む、前記方法に関する。
【0052】
さらに、本発明は、マロニル/パルミトイルトランスフェラーゼ(MPT)、特にFASタンパク質複合体中に存在するMPTを阻害可能である候補化合物の適切性を決定するための方法であって:
-水溶性ポリマー、特に非イオン性ポリマーまたはゼロ正味荷電のポリマー、例えばポリアルキレングリコール、ポリアミン、またはポリカルボキシレート、特にポリエチレングリコールを含有するリザーバー溶液中で、候補化合物を含有する、MPT、特にFASタンパク質を結晶化するか、あるいは候補化合物を含有する、結晶化MPT、特にFASタンパク質複合体を提供し;
-MPT、特にFASタンパク質複合体の結晶構造を、2.8Åまたはそれ未満の解像度での回折分析によって決定し;
-前記分析に基づき、MPT、特にFASタンパク質複合体のMPTの阻害剤としての候補化合物の適切性を決定するか、あるいはそれとは別にまたは組み合わせて
-MPT、特にFASタンパク質複合体中に存在するMPTを阻害可能な候補化合物を含有する、MPT、特にFASタンパク質複合体を、低温電子顕微鏡分析のために調製し;
-前記MPT、特にFASタンパク質複合体で、低温電子顕微鏡検査を実行し;
-MPT、特にFASタンパク質複合体のMPTの阻害剤としての候補化合物の適切性を決定する
工程を含む、前記方法に関する。
【0053】
すなわち、それぞれの酵素(ケトレダクターゼ、エノイルレダクターゼおよびMPT)を阻害可能な、特にFASタンパク質複合体中に存在する前記酵素を阻害可能な候補化合物を同定するために記載される方法には、前記酵素または前記酵素を含有するタンパク質複合体の結晶化、あるいはこれとは別にまたはこれと組み合わせて、低温電子顕微鏡によってそれぞれの酵素と相互作用する前記候補化合物を調べる工程のいずれかが含まれる。
【0054】
1つの態様において、候補化合物は、言及する酵素の少なくとも2つを阻害する、例えばケトレダクターゼおよびエノイルレダクターゼの両方を阻害する化合物であってもよい。
【0055】
例えば、候補化合物は、本明細書に記載するような、言及する阻害性ペプチド配列を含有するペプチドライブラリーであって、それによって、これらの配列がランダム突然変異または部位特異的突然変異によってランダム化されている前記ライブラリーから得られてもよい。問題の酵素、特に酵素、ケトレダクターゼ、エノイルレダクターゼまたはMPTの1つに結合する候補化合物を選択し、そしてガンマ-サブユニット内に導入し、こうして、それぞれの酵素に対する阻害活性を決定することを可能にする。もちろん、候補化合物にはまた、ガンマ-サブユニットの天然阻害ユニットの阻害性干渉を安定化させる化合物も含まれる。当業者は、候補化合物の有用性を決定するためのライブラリーおよび方法をよく知っている。
【0056】
別の側面において、FASタンパク質複合体中に存在する酵素活性の阻害剤の設計のための方法を同定する。すなわち、ケトレダクターゼ活性、特に、FASタンパク質複合体中のケトレダクターゼ活性の阻害剤の設計のための方法であって、
-配列番号2の少なくとも6つの連続アミノ酸、例えば少なくとも8つの連続アミノ酸、例えば少なくとも10の連続アミノ酸のポリペプチド、またはその機能的断片、またはその相同体を、前記ポリペプチドのアミノ酸の少なくとも1つのランダムまたは部位特異的突然変異によって突然変異させ、
-ケトレダクターゼ活性、特にFASタンパク質複合体のケトレダクターゼ活性を阻害する適切性を決定する
工程を含む、前記方法を提供する。
【0057】
別の態様において、エノイルレダクターゼ活性、特に、FASタンパク質複合体中のエノイルレダクターゼ活性の阻害剤の設計のための方法であって、
-配列番号3の少なくとも5つの連続アミノ酸、例えば少なくとも6つの連続アミノ酸、例えば少なくとも8つの連続アミノ酸のポリペプチド、またはその機能的断片、またはその相同体を、前記ポリペプチドのアミノ酸の少なくとも1つのランダムまたは部位特異的突然変異によって突然変異させ、
-エノイルレダクターゼ活性、特にFASタンパク質複合体のエノイルレダクターゼ活性を阻害する適切性を決定する
工程を含む、前記方法を提供する。
【0058】
最後に、MPT活性、特に、FASタンパク質複合体中のMPT活性の阻害剤の設計のための方法であって、
-配列番号4の少なくとも6つの連続アミノ酸、例えば少なくとも8つの連続アミノ酸、例えば配列番号4の少なくとも10、12もしくは14の連続アミノ酸のポリペプチド、またはその機能的断片、またはその相同体を、前記ポリペプチドのアミノ酸の少なくとも1つのランダムまたは部位特異的突然変異によって突然変異させ、
-MPT活性、特にFASタンパク質複合体のMPT活性を阻害する適切性を決定する
工程を含む、前記方法を提供する。
【0059】
設計には、本明細書に定義するようなポリペプチドの改変または修飾が含まれる。すなわち、こうしたものとしてのアミノ酸残基が異なるアミノ酸残基で置換されてもよいし、あるいは核酸残基が修飾されてもよい。さらなる修飾には、アミノ酸残基の少なくとも1つの化学的修飾が含まれ、これはクリックケミストリーを可能にし、したがって、酵素中に存在する相互作用対応物への共有結合を構築する。したがって、一過性または永続的阻害が達成されてもよい。さらに、マイケル反応またはマイケル付加における受容体を含むように阻害剤を修飾してもよい。さらに、阻害剤は、それぞれの酵素の相互作用対応物に存在するLysまたはHisと反応可能なシッフ塩基構築部分を含有してもよい。
【0060】
さらに、本発明は、ケトレダクターゼ、エノイルレダクターゼおよび/またはMPTの阻害剤を提供する。前記阻害剤は、言及する酵素活性を阻害する、すなわち、KR、ERおよびMPT活性を阻害する3つの阻害部分すべてを含有する阻害剤であってもよい。前記阻害剤の設計は、それぞれの部分が酵素的対応物と相互作用しうるようなものである。これは、特に、FASタンパク質複合体中に存在する酵素活性の少なくとも2つ、例えばMPTおよびERまたはMPTおよびKR、ならびにERおよびKRの組み合わせ、あるいは3つの酵素活性すべての阻害剤に関して当てはまる。
【0061】
さらに、組み合わせて、本明細書に定義するようなポリペプチドまたは阻害剤の両方を含有するFASタンパク質複合体を想定することが可能である。すなわち、FASタンパク質複合体は、挿入物を含有する組換えポリペプチドのガンマ・サブユニットを含むFASタンパク質複合体であってもよく、同時に言及する酵素活性の少なくとも1つの阻害剤が存在してもよい。さらに、本発明のさらなるポリペプチドには、配列番号1のポリペプチド中に、配列番号2、3および4の配列またはその断片の少なくとも1つが存在しないポリペプチドが含まれる。前記ポリペプチドは、根底にあるガンマ-サブユニットの構造を維持するために、さらなるセグメント(単数または複数)を含有してもよい。当業者は、望ましい阻害特性を有するそれぞれのポリペプチドの適切性を確実にするために存在する必要があるアミノ酸をよく知っている。例えば、MPT阻害部位は、中性、塩基性および/または極性アミノ酸残基で置換される。
【0062】
最後に、本発明は、癌、感染性疾患、結核、肥満、細菌感染に対する抗生物質、特に結核、または酵母感染の予防または治療において使用するための本発明記載の阻害剤を提供する。
【0063】
FASタンパク質複合体、FAS IまたはFAS IIのいずれかの阻害剤の適切性が当該技術分野において論じられる。その結果、本発明の阻害剤は、疾患の治療に適した阻害剤に相当し、ここでFASタンパク質複合体は、前記疾患または障害の予防または治療のためのターゲット分子である。
【0064】
酵母脂肪酸シンターゼ・ガンマ・サブユニットの発見
酵母FASによる反復シャトルを支配する構造的決定要因をメカニズム的に調べるため、本発明者らはまず、酵母、S.セレビシエ由来の、高い活性の生化学的および構造的に均質なFASを生じるであろう生化学的精製法を確立することを試みた。この目的のため、本発明者らは、本発明者らが20Sおよび26Sプロテアソームに関して以前報告したクロマトグラフィ不使用精製法をFASに適応させた(J. Schraderら, Science. 353, 594-8(2016))。このアプローチは、直交精製工程として、分画PEG沈殿および密度勾配遠心分離に頼る。例えばWO2017/211775 A1を参照されたい。これは、一定の(低い)イオン強度で非常に穏やかな精製を可能にし、S.セレビシエ細胞の223gの湿重量から、15~20mgの電気泳動的に純粋なFASを生じる。驚くべきことに、これらの精製条件下で、本発明者らは、20kDaの見かけの分子量を持つタンパク質が、再現可能にFASと同時精製されることを見出した(図2a)。トリプシン消化物のタンデム質量分析は、このタンパク質をTma17pと同定した。
【0065】
FASの生化学的研究の50年間近く、酵母FASのさらなるタンパク質サブユニットは記載されてこなかった。Tma17pは、以前、細胞翻訳またはプロテアソーム集合に関与することが記載されてきている(T. C. Fleischerら, Genes Dev. 20, 1294-1307(2006))。しかし、勾配の40S領域中のFASとTma17pの同時精製および同時沈降は、直接の生化学的相互作用を示唆する。したがって、本発明者らは、Tma17pが実際にFASの真の相互作用因子であることを確立するため、一連の対照実験を行った。まず、本発明者らは、FASと同時精製される20kDaタンパク質がTma17pであることの同定を交差検証した。このため、本発明者らはΔtma17ノックアウト酵母株を生成し、そして上記と同じプロトコルを用いて、この株からFASを精製し、匹敵する量のFASを得た。しかし、図2bに示すように、Δtma17株からFASを精製した際、精製FAS分画からは20kDaバンドが欠けており、タンデム-MS結果を裏付けた。次に、本発明者らは、FASとTma17pの相互作用の生化学的安定性を調べた。この目的のため、野生型株から精製したFASを、50mM KCl、150mM KCl、または250mM KClのいずれかを含有する密度勾配上に装填した。Tma17pは、250mM KClでFASから定量的に解離し、これは、組換えTma17pと同じ方式で、スクロース密度勾配の上部分画中のTma17pの沈降を生じる。150mM KClでは、FASと同時精製されたTma17pのおよそ半量が解離する一方、50mM KClでは、同時精製されたTma17pはFASと堅固に会合したままであり、そして40S領域中にFASとともに同時沈降した。第三に、本発明者らは、ΔTma17p-FASへの組換えTma17pの添加が、FAS-Tma17p複合体を再構成しうるかどうかを調べた。このため、ΔTma17p-FASを、増加する量の蛍光標識した組換えTma17pとインキュベーションし、そしてアガロースゲル上の非変性ゲル電気泳動によって分析した後、FAS結合したTma17pの蛍光を定量化した。この設定において、標識Tma17pは前線の近くに移動する一方、FASの移動は2.6MDaの天然分子量のため、かなり遅延していた。FASにTma17pが結合すると、その移動度はFASと共移動する位置へのシフトを生じる。この実験によって、FASへのTma17pの正の協同結合が明らかになり、K0.5=2.1±0.2μMであり、そしてn=2.1±0.3のヒル係数であり、多数コピーのTma17pが1つのFAS分子に同時に結合可能であることが示唆される。総合すると、これらの実験は、Tma17pが酵母FASの弱く会合する複合的な(integral)サブユニットであることを示す。Tma17pは酵母において広く保存されており、そしてFASを精製するために当該技術分野で以前、比較的高塩の条件が使用されていたため、FASサブユニットと同定されるのを逃れていたようである。これ以降、本発明者らはTma17pをFAS γ-サブユニットと称し、そしてγ-サブユニットに結合したFASをFASホロ酵素と称する。
ガンマ・サブユニットは回転FASコンホメーションを安定化させる
Tma17pがFASの真正のγ-サブユニットを構成することが確立されたため、本発明者らは、γ-サブユニットの結合がFASの構造に影響を及ぼすかどうかを検討した。したがって、本発明者らは、ΔTma17p-FASの結晶を成長させ、該結晶は単純単斜晶系空間群P2に属し、単位格子定数はa=217.6Å、b=347.6Å、c=265.3Å、β=107.9°であり、非対称単位中に単一のΔTma17p-FASを含有し、そしてX線を2.9Åに回折させた。以前報告された(M. Leibundgutら, Science. 316, 288-90(2007))3.1ÅのS.セレビシエ構造を用いて分子置換によって構造を解き、そしてPPTおよびACPドメインを含む分子全体で優れた電子密度が明らかになった。STARANISOサーバーでの回折データの分析は、穏やかな異方性を示した。データの異方性切り捨て(truncation)は、モデルの精密化を改善し、より低い平均B因子および19.2%/21.1%のR/Rfreeを生じた。本発明者らはまた、低温EMによって、包括的解像で、144,526の粒子からΔTma17p-FAS構造を得ることが可能であり、0.143 FSC基準を用いて、適用(applied)D3対称で2.9Å、適用C3対称で3.0Å、そして非対称再構築で3.3Åであり、小規模の局所解像相違があった。ΔTma17p-FAS結晶モデルを、3つのEMマップすべてに対して精密化し、そして結晶構造に関して1Åの全体のr.m.s.d.であるが、異なる対称再構築で0.2Å未満のr.m.s.d.のモデルを生じた。次いで、本発明者らは図3において、上述のような組換えγ-サブユニットとともにΔTma17p-FASを再構成することによって、FASホロ酵素の構造を決定した。γ-サブユニットの飽和条件で、本発明者らは、包括的解像で、110,597の単一粒子から低温EM構造を再構築可能であり、0.143 FSC基準を用いて、適用D3対称で2.8Å、適用C3対称で2.9Å、そして非対称再構築で3.2Åであり、小規模の局所解像相違があった。FASホロ酵素低温EM構造の品質はΔTma17p-FAS構造のものに匹敵し、そして等しく信頼性があるモデル構築が可能であった。本発明者らはまた、FASホロ酵素の結晶を得ることも可能であり、これは、単純単斜晶系空間群P2に属し、単位格子定数はa=234.9Å、b=430.3Å、c=422.6Å、β=97°であり、非対称単位中に2つのFASホロ酵素を含有し、そしてX線を4.6Å解像に回折させた。本発明者らは、Cαトレースの信頼性があるモデリングを可能にする、上述のΔTma17p-FAS結晶構造を用いた分子置換によって、FASホロ酵素の結晶構造を解いた。3つの(対称および非対称)低温EMマップすべてに対して精密化したFASホロ酵素のモデルは、結晶構造に関して0.8Åの全体のr.m.s.d.であるが、異なる対称再構築で0.2Å未満のr.m.s.d.のモデルを生じた。ΔTma17p-FASおよびFASホロ酵素の両方の低温EMおよびX線結晶から得られるモデルの間の類似性は、γ-サブユニット結合の構造的影響の、信頼性があり、そして決定的な解釈を可能にする。これらの知見は、低温EM構造の決定において、結晶の接触および課される(imposed)対称性からは独立しており、そして構造データのロバストな交差検証を提供する。
ガンマ・サブユニットによる動的ACPドメインの移動
ΔTma17p-FASとFASホロ酵素の低温EMおよび結晶構造両方の構造比較によって、いくつかの相違が明らかになった:1)FASホロ酵素構造のβ-サブユニットは、隣接するβ-サブユニットが出会うドーム頂上で、中央3倍対称軸に対して~15°回転する。これは、ATドメインの内向きのシフト、MPTドメインの外向きのシフト、および10ÅのFASホロ酵素構造の全体の圧縮を生じる。FAS β-サブユニットのこの回転は、FASホロ酵素の酵素ドメイン内のコンホメーション変化よりも、主に、剛体運動によって駆動されるようである。2)ΔTma17p-FAS構造において、すべてのACPドメインはKS部位の近傍に見られ、これは以前、FAS結晶構造において報告されたものと同じ位置である(P. Johanssonら, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 105, 12803-12808(2008))。驚くべきことに、対照的に、FASホロ酵素低温EM構造において、すべてのACPドメインがATドメイン近傍に見られる。このACPドメイン位置は、FASホロ酵素結晶構造の陽性差密度マップ(positive difference density map)およびオミットマップ(omit map)によって容易に検証される。3)本発明者らは、FASホロ酵素低温EM構造中のACPドメインの直下にコイルドコイルセグメントとしてモデリング可能なさらなる密度があることを見出し、これはΔTma17p-FAS低温EMおよびX線結晶構造には欠けていた。この観察を、FASホロ酵素結晶構造の陽性差密度マップおよびオミットマップで交差検証し、そしてこれはγ-サブユニットに相当するようである。本発明者らは、FASホロ酵素の架橋質量分析(XL-MS)によって、この仮説を試験した(図4)。XL-MSは、γ-サブユニットのN末端部分とERドメインの相互作用、MPTドメインに対するγ-サブユニットの中央部分の空間的近接、およびγ-サブユニットのC末端部分とKRおよびKSドメインの会合を明らかにした。XL-MS結果、および低温EMマップにおける側鎖密度に対応する構造特徴によって導かれ、本発明者らはFASと会合するγ-サブユニットの原子モデルを構築可能であった。FASホロ酵素内のγ-サブユニットの相互作用の様式をより詳しく検討すると、N末端部分はER活性部位を塞ぐ一方、γ-サブユニットのC末端18残基はKRドメイン活性部位を占め、両ドメインにおけるNADPH結合に対する立体競合が示唆された。さらに、γ-サブユニットの2つのα-らせんを連結する16アミノ酸のループセグメントは、FASホロ酵素のEMおよび結晶構造マップのどちらにおいてもほとんど解像されていないが、MPTドメインに隣接する位置を占める可能性が高い。
ガンマ・サブユニットの機能的およびコンホメーション的影響
では、FASホロ酵素におけるγ-サブユニットの生化学的機能とは何だろうか。今日までの酵母FASの大部分の酵素研究は、γ-サブユニットの非存在下で行われているため、このタンパク質は、酵素活性自体には必要ではない。FASホロ酵素内のγ-サブユニットの結合の構造様式は、損なわれていない基質結合を通じたFASホロ酵素内の酵素活性の部分的阻害を示唆し、そしてしたがって、レダクターゼ活性に最も顕著な影響を有すると予期される。これを試験するため、本発明者らは、定常状態動力学を分析し、そしてすべての基質、特にアセチル-CoA、マロニル-CoAおよびNADPHの多様な濃度に関して、ΔTma17p-FASの基質代謝回転速度を測定した。この分析によって、アセチル-CoAおよびマロニル-CoAの両方に関する飽和動力学が明らかになり、その結合は、γ-サブユニットの飽和量を添加することによって部分的に阻害された。γ-サブユニットの結合は、アセチル-CoAに関して2倍減少したアフィニティ、そしてマロニル-CoAの場合は4倍減少したアフィニティを生じた。対照的に、NADPHの異なる濃度での速度の分析はより複雑であり、そしてE(酵素)、S(基質)、ES(同族酵素基質複合体)、SE(非同族または弱いアフィニティの酵素基質複合体)、SES(同時に存在する非同族/弱いアフィニティおよび同族酵素基質複合体)を伴うΔTma17p-FASの場合の基質依存性活性化モデルを示唆した(図5)。しかし、FASホロ酵素は、NADPHに関する古典的な双曲線性ミカエリス・メンテン依存性を示した。γ-サブユニットの飽和濃度では、NADPHのK appはΔTma17p-FASに比較して増加する(図5)。総合すると、本明細書に記載する動力学データおよび構造知見によって、細胞代謝の相違に順応するために、NADPH基質依存性のダイナミックレンジが広がるように、FASホロ酵素内の酵素活性、特にレダクターゼ活性に、γ-サブユニットが部分的に影響を及ぼすことが示される。これは、細胞が、NADPHおよびNADPの増進された濃度レジームに渡ってFAS活性を制御することを可能にする。
【0066】
さらに、本明細書記載の構造データは、γ-サブユニットの結合が、FASメガ酵素のコンホメーション・ランドスケープに影響を及ぼすことを示す。軸方向に配置されたACPドメインを伴う、回転し、圧縮されたコンホメーションは、γ-サブユニットの存在下で支持され、一方、赤道面に位置するACPドメインを伴う非回転コンホメーションは、γ-サブユニットの非存在下で採用される。この仮説に取り組むため、本発明者らは、まず、ΔTma17p-FAS内へのγ-サブユニットの滴定が、回転し、圧縮されたコンホメーションを採用する単一粒子の分画の増加を引き起こすかどうかを調べた。この目的に向けて、本発明者らは、γ-サブユニットの異なる量で再構成されたFASホロ酵素のいくつかの低温EMデータセットを収集した。本発明者らは、次いで、各個々のデータセットから3D構造を精密化し、そして非回転または回転コンホメーションのいずれかの集団に対応する粒子の相対存在量を分析した。定量化によって、再構成に用いたγ-サブユニットの量と回転コンホメーションの明らかな相関が示された。ΔTma17p-FAS試料において、選択した粒子の2%は回転状態に対応する一方、これはγ-サブユニットの6倍過剰で88%に、そして12倍モル過剰で95%に増加する。
【0067】
定量的方式で、γ-サブユニットの結合によって誘導されるコンホメーション変化を評価するため、本発明者らは、次に、エネルギー・ランドスケープの計算と組み合わせた、以前、本発明者らが確立した3D分類の低温EM法を適用した(D. Haselbachら, Cell. 172, 454-458.e11(2018))。この目的のため、本発明者らは、中央ホイールに相当するマスクで、個々のデータセットの3D構造をまず精密化したところ、非回転および回転構造の両方において、コンホメーションの区別は不能であった。各個々のデータセットにおいて、ドームによって占められるコンホメーション空間に関する洞察を得るため、本発明者らは、次いで、以前得られた中央ホイールのアラインメントパラメータにもっぱら頼り、各6,500の粒子のバッチにおいて、アラインメントなしに3D分類を行った。こうして得られた個々の3Dクラスを、個々に精密化して、その有効性を確実にし、そして続いて、3D主成分分析(PCA)に供した。この3D PCAの第一の固有ベクトルは、ドームの圧縮を記載する一方、第二の固有ベクトルは、ドームの顕著な回転を示す。本発明者らは、各3Dクラス中の粒子数の正確な知識を持っているため、本発明者らはPCAの第一および第二の固有ベクトルによって定義される座標系内で、ボルツマン補間(Boltzmann interpolation)を実行することによって、エネルギー・ランドスケープをマッピング可能である。各個々のデータセットに関するエネルギー・ランドスケープは、γ-サブユニットの結合および後に続くFASホロ酵素の形成が、回転コンホメーションの採用を生じるという観察を再現した。さらに、エネルギー・ランドスケープは、γ-サブユニットの結合が、非回転コンホメーションへのアクセスを制限するエネルギー障壁の形成を生じることを示す。
【0068】
最初の原理証明実験を行い、γ-サブユニットが実際に、FASチャンバー内にタンパク質を導入する足場として用いられうることが明らかに示されている。この実験の論理的根拠は以下のとおりである:γ-サブユニットのコイルドコイルおよびKR結合セグメントの間(残基、114~132)の柔軟なリンカーセグメントを、小分子蛍光タンパク質UnaGの単一(サイズ15kDa)コピー、または2(サイズ30kDa)コピーのいずれかで置換した。生じたUnaG-γ-サブユニット融合タンパク質を、次いで、Δγ-FASと再構成し、そして混合物をスクロース密度勾配上で分画した。UV照射下で勾配を画像化し、分画し、そして個々の分画をSDS-PAGEに供して、40S範囲中で、FASと同時沈降するそれぞれのUnaG-γ-サブユニット融合タンパク質の比率を明らかにした。対照においては、FASとともに沈降するタンパク質はなかった。対照的に、単一UnaG-γ-サブユニット融合構築物の場合、緑色蛍光の実質的な増加が見られると同時に、UnaG-γ-サブユニット融合タンパク質のかなりの比率は、SDS-PAGE中、FASと同時沈降することが見出されている。二重UnaG-γ-サブユニット融合タンパク質の場合、蛍光のある程度の増加を見ることが可能であり、FAS対照に比較して増加しているが、単一UnaG-γ-サブユニット融合構築物の場合よりも少なかった。二重UnaG-γ-サブユニット融合タンパク質Δγ-FAS再構成実験のSDS-PAGE分析によって、FASと再構成された二重UnaG-γ-サブユニット融合タンパク質の量は、単一UnaG-γ-サブユニット融合タンパク質に比較して減少していることが明らかになっている。
【0069】
総合すると、この原理証明実験によって、FASドーム内に酵素モジュールを導入する足場としてγ-サブユニットを用いる戦略は、原理上、タンパク質に関して働くことが明らかになっている。
【0070】
この原理証明実験をさらに行った。大腸菌(E. coli)チオエステラーゼA(TesA)をコードする配列でγ-サブユニットの残基114~132を置換することにより、TesA-γ-サブユニット融合物を生成した。チオエステラーゼの機能は、アシルキャリアータンパク質に共有結合している脂質鎖の認識、および触媒加水分解後の遊離脂肪酸(FFA)への放出にある。FFAは、産業的に、ファインケミカルの非常に重要な合成前駆体に相当する。TesA-γ-サブユニット融合タンパク質構築物を大腸菌において組換え的に産生し、そしてほぼ均一に精製した。TesA-γ-サブユニット融合タンパク質は、上述の単一UnaG-γ-サブユニット融合タンパク質と類似の効率で、Δγ-FASと再構成可能であった。活性アッセイは、Δγ-FASと再構成された上述のTesA-γ-サブユニット融合タンパク質において、TesAの活性を決定する。
結論
本明細書において、酵母FASメガ酵素複合体の新規γ-サブユニットの同定を示し、該サブユニットは、FASを精製するために比較的高い塩条件が使用されていたため、これまでに検出を逃れてきた可能性が最も高い。以前はリボソームに会合するとして(Tma17pとして)、またはプロテアソーム集合に関与するとして(Adc17pとして)のいずれかで特徴づけられてきたγ-サブユニットは、現在、酵母において細胞脂肪酸生合成と関連して確固として提案されうる。γ-サブユニットとFASの観察される弱い相互作用は、潜在的に、非特異的結合を示唆しうる。しかし、これは以下の実験的証拠から確固として排除されうる:1)低温EMおよびX線結晶の両方による構造的解明によって、γ-サブユニットが、FASによって採用されるコンホメーション・ランドスケープに直接影響を及ぼし、γ-サブユニットの非存在下では優先的に非回転状態が占め、そしてγ-サブユニットの結合によって回転状態が安定化されることが示される。γ-サブユニットの結合は、FASが非回転コンホメーションを達成するためのエネルギー障壁を導入するようである。2)非回転および回転状態をより緊密に調べると、前者は当該技術分野に以前記載されたようなKSドメインに隣接した位置を占めるACPドメインと関連する一方、ATドメインに隣接するACP位置は後者の状態の特徴であることが示される。3)回転状態構造の徹底的な研究によって、ATドメインに配置されるACPドメインの近傍にさらなる密度が同定された。XL-MSおよびモデル構築を用いて、本発明者らは、γ-サブユニットに対して、このコイルドコイル形状の密度を明確に割り当てることが可能であった。本発明者らはさらに、γ-サブユニットのN末端の24残基が、ER活性部位を立体的に塞ぐと決定することが可能であり、そしてγ-サブユニットのC末端の18残基が、KR活性部位を占め、そしてNADPH結合に関して立体的に競合すると突き止めることが可能であった。4)これらの知見は、FASホロ酵素のレダクターゼ活性の調節を示唆し、本発明者らは図5における定常状態酵素動力学によってこれを確認可能であった。FASホロ酵素に関して、本発明者らは、γ-サブユニットの存在下で、NADPHに対する結合アフィニティの15倍の減少および飽和の提示、ならびに古典的ミカエリス・メンテン動力学を見出した。γ-サブユニットの非存在下では、動力学機構はより複雑であり、そしてNADPHに対するアフィニティはより強い。これらの結果は、γ-サブユニットのさらなる機能が、脂肪酸合成をNADPHの細胞存在量にカップリングさせることでありうることを示す。
【0071】
結論として、FASホロ酵素のγ-サブユニットの同定から生じる機械的関連に加えて、いくつかの明らかに重要なバイオテクノロジー的な関連が生じる。1)FASレダクターゼ活性に関する、γ-サブユニットによって誘発される阻害効果を考慮すると、γ-サブユニット遺伝子の遺伝子欠失を含む酵母株は、酵母による脂肪酸およびバイオ燃料のバイオテクノロジー的産生に有益であろう。2)野生型脂肪酸シンターゼ、例えばデサチュラーゼが存在しない、既知のおよび設計された酵素モジュールを、FAS反応チャンバー内に導入するため、天然γ-サブユニット構造足場を利用することが予見されうる。特に、コイルドコイルのC末端およびKR結合セグメントの間のリンカーセグメントの置換が、この目的のために運命づけられているようである。3)遺伝子操作、セグメント化およびアフィニティ成熟によって、γ-サブユニットのERおよびKR結合セグメントが汎用脂肪酸シンターゼ阻害剤内に含まれるよう操作し、そして利用することが可能になりうる。こうした化合物は、結核、肥満および癌を含む多様な病気の治療に有益であろう。
方法
FASに対するγ-サブユニットの結合アフィニティ
FASに対するγ-サブユニットの結合アフィニティを決定するため、製造者の推奨にしたがって、γ-サブユニットをNHS-ローダミン(Thermo Fisher Scientific)で標識した後、脱塩カラムを通過させて、過剰な未反応色素を除去した。異なる濃度のNHS-ローダミン標識γ-サブユニットを、総反応体積40μlで、アッセイ緩衝液中、15.38pmolのΔTma17p-FASに対して滴定した。混合物を30℃で30分間インキュベーションした。次いで、各反応10μlを1.5%(w/v)アガロースゲル(0.5XTBE、2mM MgCl)上に装填し、そして75mA、4℃で2時間泳動した。γ-サブユニット-FAS複合体からの蛍光シグナルを、Amersham imager 600(GE Healthcare)を用いて画像化し、そしてImageJを用いて定量化した(J. Schindelinら, Nat. Methods. 9, 676-682(2012))。ヒル等式を用いて、γ-サブユニットの解離定数を計算した。
γ-サブユニットの塩濃度依存性解離
0、100、または200mM KClのいずれかを補充し、10mM DTTを含有する精製緩衝液中、線形10~45%(w/v)スクロース勾配上に、FASホロ酵素(0.52mg)を装填した。勾配を120,000xg、4℃で16時間遠心分離し、そして200μl分画で採取した。次いで、3つの塩濃度での勾配のすべての分画をSDS-PAGEによって分析した。
FASホロ酵素の調製用再構成
FASホロ酵素の再構成のため、100倍過剰のγ-サブユニットを4μM ΔTma17p-FASに添加し、そして30℃で30分間インキュベーションした。次いで、タンパク質を、10mM DTTを含有する精製緩衝液中、10~45%(w/v)スクロース勾配上に装填し、そして次いで64,000xg、4℃で16時間遠心分離した。勾配を400μl分画で採取した。次いで、本発明者らはSDS-PAGEを用いて、FASホロ酵素を含有する分画を同定した。選択した分画をプールし、そして40%(v/v)PEG400の添加によって沈殿させた。遠心分離(30,000xg、30分)後、上清を除去し、そして沈殿物を、10%(w/v)スクロース、10mM DTTおよび0.01%(w/v)LMNGを含有する精製緩衝液中に再懸濁して、最終濃度を10mg/mlとした。
EM試料調製
ΔTma17p-FASおよびFASホロ酵素複合体の両方を、タンパク質濃度0.5mg/mlで用いて、EMグリッドを調製した。Quantifoil(3、5/1)(Quantifoil、ドイツ・イエナ)グリッドに付着させた連続カーボンフィルムに、粒子を4℃で2分間吸着させた。次いで、グリッドを、Vitrobot Mark IV(Thermofisher、ドイツ)プランジ・フリーザーに移し、ここで、4℃および100%湿度で8秒間、ブロッティングした後、ガラス化した(vitrified)。γ-サブユニット滴定実験のため、1.5mg/mlのΔTma17p-FAS溶液を用い、そして組換え精製γ-サブユニットを0、2、6、24、および96倍過剰で滴定した。タンパク質混合物を30℃で30分間インキュベーションし、そして次いで、4℃に維持した。各試料4μlを、新鮮にグロー放電したQuantifoil R1.2/1.3穴あきカーボングリッド(Quantifoil Micro Tools、ドイツ・イエナ)に適用した後、上述のようにプランジ凍結した。
低温EMデータ収集および画像プロセシング
Falcon3(統合モード)カメラまたはK2サミット(計測モード)カメラ(Gatan, Inc.)のいずれかを用い、300kVで操作するTitan Krios(Thermo Fisher Scientific)上でデータを獲得した。データ収集およびプロセシング統計を表S3に要約する。獲得した動画をモーション補正し、そしてすべてのフレームを5x5パッチに分割して、Motion cor2(S. Q. Zhengら, Nat. Methods. 14, 331-332(2017))を用いて照射量加重した(dose weighted)。アラインメントしたフレームを用いて、顕微鏡写真ごとにGCTF(K. Zhang, J. Struct. Biol. 193, 1-12(2016))を用いたCTF推定を行った。Gautomatch(https://www.mrc-lmb.cam.ac.uk/kzhang/Gautomatch/)を用いて、粒子選択を行った。別に明記しない限り、すべての続く画像プロセシング工程を、Relion 3.0(J. Zivanovら, Elife. 7(2018)、doi:10.7554/eLife.42166)を用いて実行した。抽出した粒子を、3ラウンドの参照なしの2D分類に供して、劣った/空の画像を除去した。残った粒子を、D3対称性を用い、中央ホイール周囲のマスクで精密化した。EMDB-1623に、30Åまでの低域フィルターをかけ、そしてこれをすべての3D精密化および3D分類法の参照として用いた。次いで、2つのドーム周囲のマスクを伴い、精密化粒子をアラインメントなしに分類した。ドームのコンホメーションは、得られた異なるクラス間で一定であったが、分類のために用いた粒子の~50~60%からなる1つのクラスのみでよく解像された。最適解像を示す3Dクラス由来の粒子を選択し、そして以前行ったように、3D精密化および分類のもう1回のラウンドに用いた。データをさらに3つの主なクラスに分類した。それぞれのクラスに属する粒子を精密化して、3.5Åまたはそれ未満の解像度で構造を生じた。3つのクラスすべてが匹敵する解像度であったが、局所解像度は、特に分子のドーム領域中では非常に異なっていた。1つのクラスのみが、分子全体で高い解像度詳細を示した。最後に、このクラスに属する粒子を選択し、そしてCTF精密化(およびFASホロ酵素データセットに関する粒子洗練)、その後、3D精密化を実行するために用いた。異なる対称性(C1、C3またはD3対称性)を適用することによって最終精密化工程を実行して、適用される対称性のために導入されうるいかなる構造的アーチファクトに関してもチェックした。
エネルギー・ランドスケープ
最初の分類工程まで、上述のようにデータをプロセシングした。この分析のため、~100,000の粒子のバッチを15のクラスに分類した。各クラスに属する粒子を選択し、そしていかなるマスクも適用することなく、再び精密化した。各データセット(総数165)由来の精密化3D体積を次いで、以前記載されたようなコンホメーション・ランドスケープ分析に用いた(D. Haselbachら, Nat. Commun. 8, 1-8(2017))。分子の中央ホイールを参照ポイントとして、3D体積をまず、USCF Chimera中でアラインメントした(E. F. Pettersenら, J. Comput. Chem. 25, 1605-1612(2004))。さらなる工程をCOWソフトウェアパッケージソフト(www.cow-em.de)中で行った。3D体積を標準化し、そして20Åにフィルタリングした。次いで、本発明者らは3D主成分分析(PCA)を実行して、異なる試料間のモーションの主な様式を得た。データにおける分散に相当する、生じた固有ベクトルを、有意性減少に基づいてソーティングし、そして次いで、以下の等式
【0072】
【化1】
【0073】
式中、すべての体積
【0074】
【化2】
【0075】
は平均体積
【0076】
【化3】
【0077】
、および線形係数ai,jを乗じた固有ベクトルeの線形結合として記載される
を用いて、各3D体積を記載するために用いた。コンホメーション・ランドスケープを計算するため、それぞれ、FASドームの圧縮および回転のモーションを示す、第一(e)および第二(e)の固有ベクトルを選択した。各クラスに属する粒子数を用いて、ボルツマン因子(κT)の倍数として自由エネルギーを計算した。
【0078】
【化4】
【0079】
式中、Tは絶対温度であり、κはボルツマン定数であり、pは状態iの粒子数であり、そしてpは最も多い状態の粒子の数である。インプット3D体積に寄与する等式(1)にしたがって計算されるeおよびeの一次係数は、ランドスケープのxおよびy座標に相当する一方、z軸は各クラスの自由エネルギーに相当する。
結晶化および安定化
Crystalgen懸滴拡散プレート(Jena Bioscience、ドイツ)中、1μlタンパク質+1μl結晶化緩衝液Aを、結晶化緩衝液Aの750μlのリザーバー上で混合することによって、10%スクロース(w/v)、10mM DTTおよび0.01%(w/v)LMNGを含有する精製緩衝液中のΔTma17p-FASを7mg/mlで結晶化した。FASホロ酵素に関しては、7倍モル過剰のγ-サブユニット(ΔTma17p-FASに用いた緩衝液中)をΔTma17p-FASの7mg/mlタンパク質溶液に添加し、そして30℃で30分間インキュベーションした。次いで、Chryschemシッティングドロップ蒸気拡散プレート(Hampton Research、米国アリソヴィエホ)中、1μlタンパク質+1μl結晶化緩衝液Bを、結晶化緩衝液Bの500μlのリザーバー上で混合することによって、再構成された複合体を結晶化した。結晶は成長するために18℃で3~7日間を要し、そして通常、サイズはおよそ150x200x200μmであった。
【0080】
Rumed(登録商標)E100インキュベーター(Rubarth Apparate GmbH、ドイツ)を用いて、48時間に渡って、線形方式で温度を次第に下げることによって、得られた結晶を4℃に移した。以下のように、安定化および脱水法を行った:1)ドロップを開封し、そして2μlのリザーバー溶液をドロップに添加した。次いで、2μlの結晶安定化緩衝液(ΔTma17p-FASに関してはA、FASホロ酵素に関してはB)を添加した。2)5%(v/v)エチレングリコールを含有する結晶安定化緩衝液2μlを添加した後、ドロップから溶液2μlを除去した。次いで、5%(v/v)エチレングリコールを含有する結晶安定化緩衝液2μlを再びドロップに添加した。10%そして次いで20%(v/v)エチレングリコールを含有する結晶安定化緩衝液でこの方法を反復した。3)リザーバー溶液を、25%(v/v)エチレングリコールを含有する結晶安定化緩衝液に対して交換し、そしてドロップを再密封した。次いで、16時間、過剰な蒸気拡散によって、結晶を平衡化させた。
X線回折データ収集
磁気ピン上にマウントしたSpine Litholoops(Molecular Dimensions、英国サフォーク、またはJena Bioscience、ドイツ・イエナ)中に結晶を採取し、そして液体窒素中でプランジ冷却することによってガラス化した。MD3垂直スピンドル回折計(EMBLおよびArinax、フランス・モアラン)およびEIGER 16M検出装置(Dectris、スイス・バーデン)を用いて、PETRA IIIストレージリング(DESY、ドイツ・ハンブルグ)で、EMBLビームラインP14上でデータを収集した。白色ビーム回折レンズ・トランスフォーケーター(transfocator)およびスリットを用いて、結晶寸法にマッチする均質なX線ビームを得た(J. Schraderら, Science. 353, 594-8(2016))。XDSプログラムパッケージで、回折データをスケーリングし、そして統合した(W. Kabsch, IUCr, XDS. Acta Crystallogr. Sect. D Biol. Crystallogr. 66, 125-132(2010))。
X線構造決定
サッカロミセス・セレビシエFAS構造(PDB ID:2UV8)を用いて、MOLREP(A. Vagin, A. Teplyakov, Acta Crystallogr. Sect. D Biol. Crystallogr. 66, 22-25(2010))で分子置換を実行することによって、ΔTma17p-FASの初期相を決定した。モデルを構築し、そしてCoot(P. Emsley, K. Cowtan Acta Crystallogr. Sect. D Biol. Crystallogr. 60, 2126-2132(2004))中で反復手動モデル構築を、そしてRefmac5(G. N. Murshudovら, Acta Crystallogr. D. Biol. Crystallogr. 67, 355-67(2011))中で精密化を数ラウンド行って最適化した。最後に、TLS精密化を行い、ここで、個々の酵素ドメインによって、各TLSドメインを定義した。得られた構造は、19.4%/21.4%(R/Rfree)で優れた立体化学を示す。STARANISOサーバーでの回折データの分析は、穏やかな異方性を示した。これは、異方性スケーリングおよびデータの切り捨てがモデルのより優れた精密化を可能にするはずであることを示唆した。これは実際に当てはまり、そしてより低い平均のB因子および19.2%/21.1%(R/Rfree)の最終モデルを生じた。
【0081】
精密化ΔTma17p-FAS結晶構造を用いて、FASホロ酵素回折データに関するMOLREPでの分子置換によって、初期相を決定した。得られた密度マップは、ΔTma17p-FAS構造よりも、FASホロ酵素モデルにより優れて相関することが見出された(低温EMで決定した場合)。したがって、本発明者らは、X線データの初期精密化において、FASホロ酵素低温EMモデル由来のα-およびβ-サブユニットのモデルを用いた。特に、精密化前に、ACPドメインおよびγ-サブユニットを構造から除去して、相バイアスが導入されるのを回避した。Refmac5における数ラウンドの剛体精密化後、それぞれ、ATおよびERドメインに隣接するACPドメインおよびγ-サブユニットに相当する差密度は容易に同定可能であった。次いで、欠けているドメインをそれぞれの密度内に配置した後、CootおよびRefmac5を用いて、さらなる精密化ラウンドを行った。FASホロ酵素構造の解像のため、本発明者らはポリ-Alaトレースのみとして、構造をデポジットすることを選択した。
EMモデル構築
結晶学ΔTma17p-FASモデルを、低温EMによって決定されたΔTma17p-FASおよびFASホロ酵素構造の両方の最初のモデルとして用いた。これを、UCSF Chimeraを用いて、剛体としてEM密度内にドッキングさせた。上記を参照されたい。次いで、Refmac5中で、さらなるラウンドの剛体精密化を行った。次いで、モデルは、Cootにおける手動モデリングおよびRefmac5における精密化を数ラウンド経た。Robetta(D. E. Kimら, Nucleic Acids Res. 32, W526-31(2004))予測サーバーを用いて、配列相同性に基づいて、γ-サブユニットのいくつかのモデルを生成した。これらのすべてを、UCSF Chimeraを用い、FASホロ酵素中、「追加密度」内にドッキングした。次いで、ベストフィットを含むモデルを、架橋データならびに可視である側鎖密度に基づいて、密度内に手動モデリングした。確信を持ってはモデリング不能である非構造化領域(60~76、114~132)がこのタンパク質には2つあった。
【0082】
モデルの最終精密化および検証のため、本発明者らは、最高の解像度を有するため、D3対称性を用いて再構築されたマップを用いた。精密化モデルおよびマップの間のフーリエシェル相関(FSC)を計算した(FSCsum)。また、第一の非フィルターハーフマップを用いて、モデルを精密化した。次いでこのモデルを、第一のハーフマップ(FSCwork)ならびに第二のハーフマップ(FSCfree)に比較して、過剰適合の徴候をチェックした。Pymol(L. Schrоedinger、バージョン1.8”(2015))、ChimeraおよびChimeraX(T. D. Goddardら, Protein Sci. 27, 14-25(2018))を用いて、すべての図を作成した。
材料
標準的な化学物質をSigma Aldrich(ドイツ・タウフキルヘン)から得た。界面活性剤をAnatrace(米国モーミー)から得て、結晶化プレートをHampton Research(米国アリソヴィエホ)およびJena Bioscience(ドイツ・イエナ)から得て、LitholoopsをMolecular Dimensions(英国サフォーク)およびJena Bioscience(ドイツ・イエナ)から得た。Rubarth Apparate GmbH(ドイツ・ハノーバー)のRumed(登録商標)E100インキュベーターを用いて、結晶化プレートを4℃に移した。EMグリッドはQuantifoil(ドイツ・イエナ)のものであった。S.セレビシエ細胞を、Infors GmbH(ドイツ・デリッチ)の250L発酵装置中で増殖させ、酵母細胞をRetsch(ドイツ・ハーン)のZM200ミル中ですりつぶし、Avestin(ドイツ・マンハイム)のEmulsiflex C3流動化装置(fluidizer)を用いて大腸菌細胞を破壊し、そしてAmersham imager 600(GE Healthcare、ドイツ・ミュンヘン)を用いて、非変性ゲルからの蛍光を測定した。
方法
酵母培養
標準プロトコル(27)にしたがって、すべての酵母操作を行った。サッカロミセス・セレビシエ株BJ2168(MATa prc1-407 prb1-1122 pep4-3 leu2 trp1 ura3-52 gal2)およびtma17Δ BJ2168(MATa prc1-407 prb1-1122 pep4-3 leu2 trp1 ura3-52 gal2 tma17::kanMX)を本研究に用いた。Infors 250リットル発酵装置中、YPD培地中で細胞を増殖させ、そして9~10のOD600の後期対数期に採取した。続いて、細胞を冷ddHOで洗浄し、そして次いで、細胞1グラム当たり2mlの緩衝液を添加するように、20%(w/v)スクロースを含有する2X精製緩衝液中に再懸濁した。次いで、細胞をビーズとして、液体窒素中でフラッシュ凍結し、そしてさらなる使用まで、-80℃で保存した。
酵母FASの精製
ヒト20Sおよび26Sプロテアソームの精製のために以前開発されたプロトコルから、精製戦略を適応させた(D. Haselbachら, Nat. Commun. 8, 1-8(2017))。本発明者らは700gの凍結細胞ビーズ(酵母の233g湿細胞重量に対応する)で開始して、Retsch ZM200ミルを用いて、これを液体窒素中で細かい粉末になるまですりつぶした。すりつぶした粉末を37℃の水槽中で融解し、10xストックから0.33x濃度まで精製緩衝液を補充し、その後、スクロース粉末を20%(w/v)まで、塩化ベンズアミジンを10mMまで、そしてPMSFを1mMまで(プロパノール中の100mMストック溶液から)添加した。抽出物を磁気スターラー上、25℃で30分間インキュベーションした後、4℃、30,000xgで30分間遠心分離した。遠心分離後、各3層のチーズクロスおよびミラクロス(miracloth)を通じて上清をろ過してS30酵母細胞抽出物を得た。これに対して、オクチルグルコースネオペンチルグリコール(OGNG)(10%(w/v)ストックから)を最終濃度0.2%(v/v)まで添加して、そして抽出物を30℃で30分間インキュベーションした後、100,000xg、4℃で1時間遠心分離した。上清を再び、各3層のチーズクロスおよびミラクロスを通じてろ過した。こうして清澄化したS100抽出物をポリエチレングリコール(olythylenelycol)400(PEG;数字はPEGポリマーの平均分子量を示す)で示差的沈殿に供した。PEG400を20%(v/v)の濃度で酵母S100抽出物に添加しながら18℃で攪拌し、そして30分間インキュベーションした。沈殿したタンパク質を30,000xg、4℃で30分間遠心分離することによって除去した。次いで、上述のように、PEG400の濃度を30%(v/v)に上昇させることによって、上清を沈殿させた。FASを含有するこの工程の沈殿物を、30,000xg、4℃で30分間遠心分離することによって回収し、そして2%(w/v)スクロース、10mM DTTおよび0.01%(w/v)ラウリルマルトースネオペンチルグリコール(LMNG)を含有する精製緩衝液中に、軌道振盪装置中、18℃で再懸濁した。再懸濁された物質を、10mM DTTを含有する精製緩衝液中、10~45%(w/v)線形スクロース勾配上に装填し、100,000xg、4℃で16時間遠心分離した。勾配を1ml分画で採取した。SDS-PAGEを利用して、FASを含有する分画を同定した。選択した分画をプールし、そして40%(v/v)PEG400を添加することによって沈殿させた。遠心分離(30,000xg、30分間)後、上清を除去し、そして沈殿物を、2%(w/v)スクロース、10mM DTTおよび0.01%(w/v)LMNGを含有する精製緩衝液中に再懸濁した。再懸濁された物質を、10mM DTTを含有する精製緩衝液中、線形10~45%(w/v)スクロース勾配上に装填し、そして79,000xg、4℃で16時間遠心分離した。FASを含有する分画をSDS-PAGEによって同定し、プールし、そして50μMマロニルCoAおよび100μM NADPHの存在下、18℃で30分間サイクリングした。タンパク質を沈殿させ、そして40%(v/v)PEG400の添加によって濃縮し、そして2%(w/v)スクロース、10mM DTTおよび0.01%(w/v)LMNGを含有する精製緩衝液中に再懸濁した。別のラウンドの、10mM DTTを含有する精製緩衝液中、線形10~45%(w/v)スクロース勾配を行い、60,000xg、4℃で16時間遠心分離し、そして続いて40%(v/v)PEG400でFAS分画を再沈殿させることが必要であり、10%スクロース(w/v)、10mM DTTおよび0.01%(w/v)LMNGを含有する精製緩衝液中に、~15mg/mlの最終精製タンパク質調製物を得た。BSA標準を用いたブラッドフォードアッセイ(BioRad、ドイツ・ミュンヘン)によって、タンパク質濃度を決定した。この方法は、再現性を伴って、15~20mgの精製酵母FASの収量を生じた。
γ-サブユニットの発現および精製
γ-サブユニットを、pET151/D-TOPO(登録商標)プラスミド(Geneart、レーゲンスブルク)内に合成遺伝子としてクローニングし、そしてBL21 Star(DE3)コンピテント細胞において、N末端His-TEVタグとともに発現させた。0.5のOD600に到達するまで、180rpmで振盪しながら、形質転換細胞を37℃で増殖させ、次いで、温度を18℃に下げ、そして温度低下の1時間後、0.5mM IPTGの添加によって、γ-サブユニットの発現を誘導した。γ-サブユニットを18℃および180rpmで16時間発現させた。遠心分離(5000xg、15分間、4℃)によって細胞を採取し、冷ddHOで洗浄し、そして-80℃で保存した。
【0083】
精製のため、7グラムの細胞を42mlの再懸濁緩衝液(20mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、10mMイミダゾール、0.2mM PMSF、10mMベンズアミジン)に再懸濁した。2U/ml DNアーゼおよび0.33mg/mlリゾチームを添加した後、懸濁物を4℃で30分間インキュベーションした。Avestin Emulsiflex C3流動化装置(Avestin、ドイツ・マンハイム)に、15,000PSIで2回通過させることによって、細胞を溶解した。得られた溶解物を遠心分離し(30分間、50,000g、4℃)、そして0.45μm孔サイズ(Sartorius)のMinisart NML Plusセルロースアセテートフィルターを通じてろ過した。清澄化された溶解物を、20カラム体積(CV)の再懸濁緩衝液であらかじめ平衡化されたNi-NTA重力カラム(5mlベッド体積)上に装填した。カラムを20CV再懸濁緩衝液で洗浄した後、20CVの洗浄緩衝液(20mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、20mMイミダゾール、0.2mM PMSF、10mMベンズアミジン)で洗浄した。結合したγ-サブユニットを溶出させるため、5CVの溶出緩衝液(20mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、500mMイミダゾール、0.2mM PMSF、10mMベンズアミジン)を適用し、そして2ml分画で収集した。溶出分画をSDS-PAGEで分析し、γ-サブユニット含有分画をプールし、そしてタンパク質濃度を測光法で決定した(MW=17.4kDa、ε280=5960)。N末端His-TEVタグを切断するため、TEV-プロテアーゼを1:50の酵素対タンパク質比でタンパク質に添加した後、5l透析緩衝液(20mM Tris-HCl pH8.0、5mM β-ME、100mM NaCl)中、4℃で一晩透析した。消化されたγ-サブユニットを、20CV透析緩衝液であらかじめ平衡化されたNi-NTAカラムに適用した。フロースルーを2ml分画に収集し、そして単一分画をSDS-PAGEによって分析した。純粋γ-サブユニットを含有する分画をプールし、そして10kDa MWCO Amicon Ultra 15遠心分離濃縮装置(Millipore)を用いて、最終濃度20mg/mlに濃縮した。最終タンパク質をアリコットし、液体窒素中で凍結し、そして-80℃で保存した。
【0084】
さらなる動力学および構造研究のため、精製γ-サブユニットを融解し、そして6~8kDa MWCO透析装置ミニD-チューブ(Millipore)を用いて、4℃で動力学アッセイ緩衝液中に透析した。
定常状態動力学
基質代謝回転中、NADPH消費を監視することによって、V-750 UV-可視光分光光度計(Jasco Instruments)で動力学測定を行った。本発明者らは3つのFAS基質:NADPH、アセチル-CoAおよびマロニル-CoAすべてに関する基質濃度依存性を分析した。商業的アセチル-CoAおよびマロニル-CoAを、調製用カラム(MN Nucleodur(登録商標)100-5-C18、250mmx21mm、5μm、流速:10ml/分)を用いた逆相(RP)-HPLC(AEKTA BASIC 900、GE Healthcare Life Sciences)によってさらに精製した。UV吸収を215nm、260nmおよび280nmで検出し、そしてA(水+0.1%(v/v)TFA)からB(79.9%アセトニトリル(v/v)+20% ddH2O+0.1%(v/v)TFA)の線形勾配で精製を行った。対応する基質のピーク分画を収集し、凍結乾燥し、そして使用するまで-80℃で保存した。
【0085】
本発明者らは基質ストック濃度を測光的に決定した(NADPH:ε340=6220M-1cm-1、ε371=2631.8±6.5M-1cm-1;アセチル-CoA:ε260=15.400M-1cm-;マロニル-CoA:ε260=15400M-1cm-1)。
【0086】
λ=340nmでのNADPH吸収における時間依存性変化の測定によって、多様なアセチル-およびマロニル-CoA濃度での脂肪酸合成初期速度を決定した。アセチル-CoAに関する濃度依存性を研究するため、マロニル-CoA(120μM)、およびNADPH(360μM)を一定に維持する一方、アセチル-CoA濃度を0~180μMまで変化させた。マロニル-CoAの場合、アセチル-CoA(180μM)およびNADPH(360μM)を一定に維持する一方、マロニルCoA濃度を0~180μMまで変化させた。NADPHの対応する分析に関しては、NADPH飽和は、高い吸光度のために340nmでは分析不能であるため、本発明者らはλ=371nmの波長で測定を実行しなければならなかった。254μMのγ-サブユニットを含みまたは含まずに、30℃で30分間、0.254μM FASを含有するタンパク質ストック溶液をインキュベーションすることによって、すべての動力学測定を行った。単一酵素反応は、12.7μM γ-サブユニットを含むまたは含まない12.7nM FAS、非特異的緩衝タンパク質としての0.2mg/mlリゾチーム、動力学アッセイ緩衝液、それぞれの必要な基質濃度および10%(w/v)スクロースを含有した。単一反応をあらかじめ混合し、そしてインキュベーションした(1分間、30℃)。マロニル-CoAを添加することによって酵素反応を開始し、そして30℃で測定した。得られたデータを、ミカエリス・メンテン等式、ヒル等式、または基質活性化を実装する修飾ミカエリス・メンテン等式を含む異なる動力学モデルに適合させた。
架橋質量分析
本発明者らは、架橋質量分析によって、精製FASホロ酵素を分析した。タンパク質複合体を、1mMのBS3架橋剤(DMSO中の100mMストックより)と30℃で30分間インキュベーションした。100mM Tris-HCl pH8.0(1Mストックより)で反応をクエンチした。10mMジチオスレイトールおよび40mMヨードアセトアミドで、それぞれ、タンパク質を還元し、そしてアルキル化した。1M尿素の存在下、1:50の酵素対タンパク質比で、タンパク質をトリプシンによって37℃で一晩消化した。最終濃度0.5%(v/v)まで添加されたトリフルオロ酢酸(TFA)でペプチドを酸性化し、製造者の指示にしたがってMicroSpinカラム(Harvard Apparatus)上で脱塩し、そして真空乾燥させた。50μLの50%アセトニトリル/0.1%(v/v)TFA中にペプチドを再懸濁した後、ペプチドサイズ排除(SuperdexPeptide 3.2/300カラム、GE Healthcare)によって、架橋された種を濃縮した。50μLの分画を収集し、そして最初に溶出したもの、および架橋されたペプチド対を含有するものを、LC-MS/MSによって分析した。
【0087】
社内パッキングしたC18カラム(ReproSil-Pur 120 C18-AQ、1.9μm孔サイズ、75μm内径、30cm長、Dr. Maisch GmbH)を装備したDionex UltiMate 3000 UHPLC系にカップリングしたOrbitrap Fusion Lumos Tribrid質量分析計(どちらもThermo Fisher Scientific)上、技術的2つ組で、第一の複製物の架橋ペプチドを測定した。以下の勾配を適用することによって試料を分離した:可動相Aは、0.1%ギ酸(v/v)からなり、可動相Bは80%アセトニトリル/0.08%ギ酸(v/v)からなった。5%Bで開始し、12、15または20%Bまで3分以内に増加させ(分画による)、その後、48%Bに45分以内に連続増加させ、次いで、Bを90%で8分間一定に維持した。各流動後、カラムを再び5%Bに2分間平衡化させた。流速を300nL/分に設定した。120,000の解像度、60msの注入時間(IT)および5x10の自動化利得制御(AGC)ターゲットで、オービトラップ(OT)中、MS1調査スキャンを獲得した。ダイナミックエクスクルージョン(DE)を10sに設定し、そして3~8の間のチャージ状態のみを断片化に関して考慮した。20の最も豊富な前駆体イオンのOT中、解像度30,000、IT 120msおよびAGCターゲット5x10で、MS2スペクトルを獲得した。30%標準化衝突エネルギー(NCE)で、より高いエネルギーの衝突解離(HCD)によって断片化を強制した。第二の複製物を以下の変化を伴って処理した:本発明者らはQ Exactive HF-X質量分析計(Thermo Fisher Scientific)を用い、MS1では、ITを50msに、そしてAGCターゲットを1x10に設定した。MS2では、ITを128msに、そしてAGCターゲットを1x10に設定した。DEは30msを含んだ。ここで、30の最も豊富な前駆体イオンを断片化に関して考慮した。
【0088】
.rawファイルを.mgf形式(シグナル対ノイズ比1.5、1000~10000Da前駆体質量)に変換するために、ProteomeDiscoverer 1.4(Thermo Fisher Scientific)を用いた。生成された.mgfファイルをpLink v.1.23(B. Yangら, Nat. Methods. 9, 904-906(2012))に供して、架橋ペプチドを同定した。ここで、固定されたものとしてシステインのカルバミドメチル化を、可変修飾としてメチオニンの酸化を伴い、デフォルトセッティングを適用し、FDRは0.01にセットされた。第一の複製物内のFASおよびTMA17の間の内部架橋のスペクトルを手動で評価した。第二の複製物に関して、3のスコアカットオフ(元来のpLinkスコアの-lоg10変換)を適用し、そして1より多い架橋ペプチドスペクトルマッチ(CSM)によって支持される架橋のみを考慮した。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
【配列表】
2022525203000001.app
【国際調査報告】