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特表2022-525209細胞外小胞(EV)の血管新生促進能力の予測方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-11
(54)【発明の名称】細胞外小胞(EV)の血管新生促進能力の予測方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20220428BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20220428BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220428BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220428BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220428BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220428BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220428BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20220428BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220428BHJP
   A61K 35/14 20150101ALI20220428BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220428BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20220428BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220428BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20220428BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20220428BHJP
【FI】
C12Q1/68
A61P17/02 ZNA
A61P9/10
A61P9/00
A61P3/04
A61P3/10
A61P13/12
A61K35/12
A61K31/7105
A61K35/14 Z
C12Q1/686 Z
C12N5/071
G01N33/53 M
G01N33/53 D
A61K38/19
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021555496
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(85)【翻訳文提出日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 IB2020052286
(87)【国際公開番号】W WO2020188433
(87)【国際公開日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】19163194.4
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518361044
【氏名又は名称】ユニシテ エーファウ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ブリッツィ マリア フェリーチェ
(72)【発明者】
【氏名】カムッシ ジョヴァンニ
(72)【発明者】
【氏名】カヴァラリ クラウディア
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ15
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS10
4B063QS13
4B063QS25
4B063QS33
4B063QS36
4B065AA93X
4B065BD15
4B065CA46
4C084BA44
4C084DB61
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA701
4C084ZA702
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZC351
4C084ZC352
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA70
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZC35
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB34
4C087BB35
4C087BB63
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZA70
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZC35
(57)【要約】
本発明は、細胞外小胞(EV)、好ましくは血液由来EVの調製物の血管新生促進活性を予測するためのインビトロ方法であって、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)及びマイクロRNA-130aの含量の併用決定に基づく、前記方法に関する。強い血管新生促進活性を有すると予測される細胞外小胞(EV)の調製物を製造する方法、ならびに心血管疾患の危険性と関連する虚血性疾患、虚血性傷害及び病的状態の治療的処置に、又は創傷治療で使用するのに有効なそれらのEV調製物も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外小胞(EV)の組成物が血管新生促進活性を有するかどうかを予測する方法であって、
(a)EVの組成物中のmiR-130aマイクロRNA含量を定量化するステップ、及び
(b)EVの組成物中のトランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)含量を定量化するステップ、
(c)miR-130a含量が第1の所定の値より高く、TGFβ含量が第2の所定の値より高いかどうかを判定するステップ
を含み、
miR-130a含量が前記第1の所定の値より高く、TGFβ含量が前記第2の所定の値より高い場合に、EVの組成物が血管新生促進活性を有すると予測される、前記方法。
【請求項2】
miR-130a含量が、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイムPCR)によってCt値として定量化され、miR-130a含量とCt値の間に逆相関がある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の所定の値がCt値<30である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
TGFβ含量がイムノアッセイによって、好ましくは酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって測定される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の所定の値が23pg/1010EVのTGFβの量である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
以下のステップ:
-BrdU細胞増殖アッセイによってEVの組成物を試験することにより、組成物の値を得るステップ;
-BrdU細胞増殖アッセイによって陰性対照を試験することにより、陰性対照の値を得るステップ;
-BrdU細胞増殖アッセイによって陽性対照を試験することにより、陽性対照の値を得るステップ;
-以下の式を適用することによって、BrdU細胞増殖アッセイにおけるEVの組成物の血管新生促進活性%を計算するステップ:
【数1】
を含む、
力価試験によってEVの組成物の血管新生促進活性を定量化するステップ(d)をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
以下のステップ:
-管形成アッセイによってEVの組成物を試験することにより、組成物の値を得るステップ;
-管形成アッセイによって陰性対照を試験することにより、陰性対照の値を得るステップ;
-管形成アッセイによって陽性対照を試験することにより、陽性対照の値を得るステップ;
-以下の式を適用することによって、管形成アッセイにおけるEVの組成物の血管新生促進活性%を計算するステップ:
【数2】
を含む、
力価試験によってEVの組成物の血管新生促進活性を定量化するステップ(d)をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項6に記載のBrdU細胞増殖アッセイと請求項7に記載の管形成インビトロアッセイの両方を含む力価試験によって、EVの組成物の血管新生促進活性を定量化するステップ(d)をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
EV組成物が、少なくとも50%の血管新生促進活性を有すると決定される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
EVがヒト細胞由来である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
血管新生促進性細胞外小胞(EV)の調製物を製造する方法であって、
-体液の複数の調製物から、又は細胞培養の条件培地からEVを単離するステップ;
-単離したEVから、1つ又は複数の所定の濃度のEV試料を調製するステップ;
-請求項1~10のいずれか1項に記載の方法を用いて、各EV試料の血管新生促進活性を予測するステップ;
-miR-130a含量が第1の所定の値より高く、TGFβが第2の所定の値より高い試料を選択するステップを含み;及び
任意に2つ以上の活性なEV試料をプールするステップを含んでもよく、
それによって、血管新生促進EVの調製物を得る、前記方法。
【請求項12】
miR-130a含量がリアルタイムPCRによってCt値として定量化され、前記第1の所定の値がCt値<30である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の所定の値が23pg/1010EVのTGFβ量である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
EV調製物が、少なくとも50%の血管新生促進活性を有すると決定される、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
EVがヒト細胞由来である、請求項11~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
血管新生促進療法によって正の影響を受ける疾患もしくは傷害の治療的処置で使用するための、又は創傷治療で使用するための、請求項11~15のいずれか1項に記載の方法によって得ることができる血管新生促進性細胞外小胞(EV)の調製物であって、リアルタイムPCRによってCt値として測定される調製物中のmiR-130a含量がCt<30であり、調製物中のTGFβ含量が>23pg/1010EVである、調製物。
【請求項17】
血管新生促進療法によって正の影響を受ける疾患もしくは傷害の治療的処置で使用するための、又は創傷治療で使用するための、リアルタイムPCRによってCt値として測定されるCt<30のmiR-130a含量及び/又はTGFβ含量>23pg/1010EVを有する、血管新生促進性細胞外小胞(EV)の調製物。
【請求項18】
EV調製物が、少なくとも50%の血管新生促進活性を有する、請求項16又は17に記載の調製物。
【請求項19】
EVが、生物学的流体に由来するか、又は細胞培養もしくは組織培養の条件培地に由来する、請求項16~18のいずれか1項に記載の使用のための調製物。
【請求項20】
生物学的流体が全血、血漿又は血清である、請求項19に記載の使用のための調製物。
【請求項21】
EVが健常なドナーの血清から、又は心血管危険因子を有する患者の血清から調製される、請求項20に記載の使用のための調製物。
【請求項22】
疾患又は傷害が血管疾患もしくは傷害、又は心血管疾患の危険性と関係がある状態である、請求項16~21のいずれか1項に記載の使用のための調製物。
【請求項23】
疾患又は傷害が急性心筋梗塞、急性脳血管疾患、急性及び慢性の末梢動脈疾患、急性腎臓虚血、肥満及び糖尿病からなる群から選択される、請求項16~22のいずれか1項に記載の使用のための調製物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外小胞(EV)調製物(preparation)の血管新生促進活性(proangiogenic)の予測方法、そのEV調製物及びその治療適用に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞外小胞(EV)は、正常状態と病的状態の両方のほとんどすべての細胞型が放出する小さな小胞である。これは、細胞原形質膜の出芽によって生成される微小胞、及びエキソサイトーシスによってエンドソーム膜コンパートメントから生じるエキソソームを主に含む。最近の証拠により、EVが様々な病態生理学的プロセスの媒介物として働き得ることが示唆される。循環EVレベルの増大は、特に、糖尿病及び急性冠動脈症候群を有する患者において、血管の機能障害及び凝固性亢進と関係があり、これにより、心血管疾患に至らせる役割が示唆される。さらに、主に血小板及び内皮細胞に起源がある循環EVのレベルの増大は、細胞機能障害の顕著な特徴として提唱されている。EVは生物学的に活性なベクターとして働き、循環細胞と多くの細胞型、例えば内皮細胞との間の情報交換に関与することが広く報告されている。実際に、血小板に由来するEVはアテローム性動脈硬化症の病的発生で役割を果たすことも提唱されている。
EVは、主に、典型的にはEVカーゴと称される、タンパク質、活性脂質及び細胞外RNAを送達することによって、生物学的媒介体として働く(Pathan M., et al. Vesiclepedia 2019: a compendium of RNA, proteins, lipids and metabolites in extracellular vesicles. (2019) Nucleic Acids Res. 47: D516-D519)。しかし、最も研究されているEV媒介性の生物学的プロセスはmiR移行に依拠していた。miRは、遺伝子発現を転写後調節する小分子非コードRNAのクラスである。miRは血清/血漿で安定して発現しており、その独特な発現パターンは、多くの臨床背景で疾患フィンガープリントとしての機能を果たすことが提唱されている。さらに、活性化された血小板が、EVを使用して、機能的miRを血管細胞中に移行させることができることが示されている。これは、次に、ICAM-1の発現及び血管の炎症反応を調節する。実際に、循環EVカーゴの変化は、糖尿病における内皮及び平滑筋の細胞機能障害に関連することが示されている。
【0003】
ますます増える証拠によって、EVが潜在的な治療的、診断的及び予後的ツールとして働くことができることが示唆される。
心血管イベントの危険性の増大は、糖尿病及び肥満を患っている患者の共通の特色である。血管形成の障害は、これらの臨床背景において異常な血管再構築を説明する、関連する機構であると依然として考えられる。したがって、傷害組織の新血管新生を高めることは、患者の転帰を向上させるために必須であり続けている。心血管危険因子を有する患者において血管再構築を向上させるために、様々な治療手段が提案されてきている。しかし、これらは本当の利益を提供することができず、これによって、新規な処置選択が依然として必要とされることが示唆される。
WO2018069408は、強い血管新生促進活性を特徴とする、血液由来EVの組成物を開示する。さらに、WO2018069408は、EVの血管新生促進能力を測定することを可能にする試験を教示し、この試験は、インビトロで細胞増殖及び/又は管様構造形成を誘導するその能力についてEVを分析することを含む。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、EVカーゴの組成が、これらの小胞が血管新生促進活性を示すかどうかの信頼できる予測的指標に相当するという発見に基づく。驚いたことに、以下の実験セクションで詳細に例示される本発明者らが行った実験的研究によって、miR-130aの測定値と組み合わせて使用されるトランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)の含量に基づいて、血管新生促進活性を有するEVを不活性な小胞と区別できることが明らかになった。実際に、ROC解析から推定されるように、前述の測定値の組み合わせに基づいた試験は、感度と特異性の両方の点からEVの血管新生促進活性の識別の強い予測力を示し、それによって、血管新生促進療法によって正の影響を受ける疾患又は傷害の治療的処置で有効なEVの正確な選択を可能にする。
【0005】
したがって、本発明の第1の態様は、細胞外小胞(EV)の組成物が血管新生促進活性を有するかどうかを予測する方法であって、
(a)EVの組成物中のmiR-130aマイクロRNA含量を定量化するステップ、及び
(b)EVの組成物中のトランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)含量を定量化するステップ、
(c)miR-130a含量が第1の所定の値より高く、TGFβ含量が第2の所定の値より高いかどうかを判定するステップ
を含み、
miR-130a含量が前記第1の所定の値より高く、TGFβ含量が前記第2の所定の値より高い場合に、EVの組成物が、血管新生促進活性を有すると予測される、前記方法である。
【0006】
本明細書で使用する場合、用語「血管新生促進活性」は、血管新生及び/又は内皮細胞増殖の刺激又は増強を指す。
以下でさらに詳細に説明するように、本発明者らは、健常なドナー及び心血管危険因子を有する患者の血液から単離した血管新生促進に有効及び無効なEVにおいてマイクロRNA(miRNA)のマイクロアレイベースの発現プロファイリングを行い、驚いたことに、これらの小胞の血管新生促進活性とmiR-130aの含量の間に有意な相関を見出した。さらなる研究によって、血管新生促進活性を有するEVは、非活性的なEVと比較して高い量のTGFβタンパク質を含むことが明らかになった。
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、血管新生プロセスの促進においてmiR-130aが果たす役割は、本発明者らが行ったIPA Ingenuityバイオインフォマティクス解析によって明らかになったように、この分子と血管新生プロセスに関与するいくつかの遺伝子、例えば、KDR、HOXA5、ROCK1、及びEPHB6との相互作用によって説明することができると信じる。さらに、この解析の結果として、TGFβ及びTGFBR1もmiR-130aの制御下にある遺伝子の中に見出され、これにより、生物学的に活性なEVの血管新生促進活性の推進におけるmiR-130aとTGFβの間の協力がさらに確証される。
【0007】
本発明によれば、miR-130aのヌクレオチド配列は、ヌクレオチド配列5’-CAGUGCAAUGUUAAAAGGGCAU-3’(配列番号1)を含むか又はこれからなる。
本発明による方法では、EV組成物中のmiR-130aの定量化は、好ましくは核酸ベースの増幅技法によって、より好ましくはリアルタイムPCRによって行われる。
好ましい実施形態では、リアルタイムPCRによって評価されるEVの組成物中のmiR-130含量は、閾値サイクル(Ct)値として測定される。
典型的には、リアルタイムPCRによる核酸定量化は、対数スケールでサイクル数に対して増幅シグナル、例えば蛍光をプロットすることに依拠する。本明細書で使用する場合、用語「Ct値」は、増幅シグナルが核酸増幅反応の指数関数的フェーズの間にバックグラウンドレベルより高い強度に達するのに必要とされるPCRサイクル数を指す。したがって、Ct値は、逆に、試料中に最初に存在する標的核酸の量に関係しており、すなわち、標的核酸の存在量が大きいほど、Ct値は小さくなる。リアルタイムPCR反応でバックグラウンドレベルを決定するための方法は十分に確立されており、当業者に既知である。
より詳細には、本発明者らは、健常な対象由来と患者由来の両方の血清EV(sEV)においてCt>30のCt値として測定されるmiR130aの含量が、血管新生促進無効小胞を予測する(インビトロ力価試験で測定される場合<50%)ことを観察した。
【0008】
したがって、本発明の方法におけるEV組成物は、所定の値より高いmiR130a含量を有すると決定される。好ましくは、本発明の方法におけるEV組成物は、35以下のCt、より好ましくは33以下のCt、さらにより好ましくは30以下のCt、さらにより好ましくは、例えば、10、11、12、13、14、15、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28又は29などの10~29の範囲内に含まれるCtのCt値として測定される場合に、miR130a含量を有すると決定される。
好ましい実施形態では、本発明の方法におけるEV組成物は、Ct<30のCt値として測定される場合に、miR130a含量を有すると決定される。
好ましい実施形態では、EV中のmiR-130a内容物の量は、2-(ΔCt)方法を適用することによってCt値として決定され、この方法は、Livak KJ and Schmittgen TD, “Analysis of relative gene expression data using real-time quantitative PCR and the 2(-Delta Schnittger C(T)) method” (2001) Methods 25: 402-408に記載されているように、試料の相対的倍数遺伝子発現を計算することを可能にする式に基づく。以下の実施例で詳細に例示されるように、デルタ-デルタCt方法を使用するために、調べられるすべての遺伝子及びハウスキーピング遺伝子について測定されたCt値を本発明者らは考慮した。全解析は異なるハウスキーピング遺伝子に基づいていたので、すべてのハウスキーピング遺伝子のCt値(ヒトU&snRNA、RNU43 snoRNA、Hm/Ms/RT U1 snRNA)の平均を先に作製した。
【0009】
別の好ましい実施形態では、EV中のmiR-130a含量の定量化は、既知の量のmiR-130aの検量線を使用し、未知の試料においてリアルタイムPCRによって決定されたCt値を、検量線を用いて内挿することによって達成される。
リアルタイムPCRについて言及されるが、当技術分野で既知であるように、核酸増幅の他の方法が本発明の範囲内で使用され得ることが理解される。そのような方法としては、限定されないが、核酸配列ベース増幅(NASBA)及びデジタルPCRが挙げられる。
それらの研究で、本発明者らは、所定の値より低い、好ましくは23pg/1010EVより低いTGFβの含量を有する、健常な対象由来と患者由来の両方のsEVは、血管新生促進不活性であると予測されることを見出した。
したがって、本発明の方法におけるEV組成物は、所定の値より高い、好ましくは、20pg/1010EV~50pg/1010EVの範囲内に含まれる値より高い、より好ましくは、23pg/1010EV~40pg/1010EVの範囲内の値より高い、さらにより好ましくは例えば、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、又は35pg/1010EVなどの25pg/1010EV~35pg/1010EVの範囲内の値より高いTGFβの含量を有すると決定される。
【0010】
好ましい実施形態では、本発明の方法におけるEV組成物は、少なくとも23pg/1010EVのTGFβの含量を有すると決定される。
本発明の方法によれば、EV中のTGFβタンパク質の定量化は、タンパク質分野で既知のものなど、任意の適切な方式で行うことができる。
好ましくは、EVのTGFβ含量はイムノアッセイによって測定される。例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)ラジオイムノアッセイ(RIA)、沈殿イムノアッセイ、粒子イムノアッセイ、競合的結合アッセイなどの任意の適切なイムノアッセイを使用することができる。より好ましくは、本発明の方法で使用されるイムノアッセイはELISAアッセイである。明らかに、選択が当業者の技能内にある任意のタイプのイムノアッセイ形式の使用は、本発明の範囲内である。
上記の実施形態のすべてにおいて、EVがヒト細胞に由来することも好ましい。
【0011】
本発明の方法の一実施形態によれば、EVの組成物の血管新生促進活性は、インビトロ力価試験で定量化され、この試験は、BrdU細胞増殖アッセイもしくは管形成インビトロアッセイ、又はBrdU細胞増殖アッセイと管形成インビトロアッセイの両方によってEVを試験することを含む。
好ましい実施形態では、力価試験は、以下のステップ:
-BrdU細胞増殖アッセイによってEV組成物の活性を測定するステップ;
-BrdU細胞増殖アッセイによって陰性対照の活性を測定するステップ;
-BrdU細胞増殖アッセイによって陽性対照の活性を測定するステップ;
-以下の式を適用することによって、BrdU細胞増殖アッセイにおける組成物の活性%を計算するステップ:
【数1】
を含む。
【0012】
本実施形態によれば、本発明の方法は、以下のステップ:
-組成物の値を得るために、BrdU細胞増殖アッセイによってEVの組成物を試験するステップ;
-陰性対照の値を得るために、BrdU細胞増殖アッセイによって陰性対照を試験するステップ;
-陽性対照の値を得るために、BrdU細胞増殖アッセイによって陽性対照を試験するステップ;
-以下の式を適用することによって、BrdU細胞増殖アッセイにおけるEVの組成物の血管新生促進活性%を計算するステップ:
【数2】
を含む力価試験によってEV組成物の血管新生促進活性を定量化するステップ(d)をさらに含む。
【0013】
BrdUアッセイは、好ましくは、マトリゲルに播種されたHMEC細胞を使用する。BrdU細胞増殖アッセイでは、血清(好ましくは10%血清)が陽性対照に添加される。陰性対照は陽性対照と同じ培地であるが、血清の添加がない。BrdUアッセイは、好ましくは標的細胞あたり10000個のEVの濃度に基づく。
別の好ましい実施形態では、力価試験は、以下のステップ:
-管形成アッセイによって、EV組成物の活性を測定するステップ;
-管形成アッセイによって、陰性対照の活性を測定するステップ;
-管形成アッセイによって、陽性対照の活性を測定するステップ;
-以下の式を適用することによって、管形成アッセイにおける組成物の活性%を計算するステップ:
【数3】
を含む。
【0014】
本実施形態によれば、本発明の方法は、以下のステップ:
-組成物の値を得るために、管形成アッセイによってEVの組成物を試験するステップ;
-陰性対照の値を得るために、管形成アッセイによって陰性対照を試験するステップ;
-陽性対照の値を得るために、管形成アッセイによって陽性対照を試験するステップ;
-以下の式を適用することによって、管形成アッセイにおけるEVの組成物の血管新生促進活性%を計算するステップ:
【数4】
を含む力価試験によってEV組成物の血管新生促進活性を定量化するステップ(d)をさらに含む。
管形成インビトロアッセイは、好ましくは、HUVEC細胞を使用する。管形成インビトロアッセイでは、VEGF、好ましくは10ng/mlのVEGFが陽性対照に添加される。陰性対照は陽性対照と同じ培地であるが、VEGF添加がない。管形成インビトロアッセイは、好ましくは、標的細胞あたり50000個のEVの濃度に基づく。
【0015】
より好ましい実施形態では、陽性対照の活性と比較して所与のEV組成物の活性を試験するために、BrdU細胞増殖アッセイと管形成インビトロアッセイの両方が使用され、この場合、BrdU細胞増殖アッセイ及び管形成アッセイからの平均活性値%が比較される。
本実施形態によれば、本発明の方法は、上記のようなBrdU細胞増殖アッセイと管形成インビトロアッセイの両方を含む力価試験によって、EVの組成物の血管新生促進活性を定量化するステップ(d)をさらに含む。
EVの測定された活性が、陽性対照の測定された活性の所定のパーセンテージを超える、例えば、陽性対照の測定された活性の>50%である場合、試験したEV調製物は活性であると考えられる。
したがって、本発明の方法におけるEV組成物は、好ましくは、少なくとも50%の血管新生促進活性を有すると決定される。
さらに、上記の予測的試験は、体液の複数の調製物から、又は細胞培養の条件培地から単離されたEVをスクリーニングするのに、及びさらなる処理のために血管新生促進的に活性な調製物を特定するのに適している。
【0016】
したがって、本発明の第二の態様は、血管新生促進性細胞外小胞(EV)の調製物を製造する方法であって、
-体液の複数の調製物から、又は細胞培養の条件培地からEVを単離するステップ;
-所定の濃度のEVで、単離したEVから1つ又は複数の試料を調製するステップ;
-上記の方法を用いて、各EV試料の血管新生促進活性を予測するステップ;
-miR-130a含量が前記第1の所定の値より高く、TGFβが前記第2の所定の値より高い試料を選択するステップ;及び任意に
-2つ以上の活性なEV試料をプールするステップ
を含み、
それによって、血管新生促進EVの調製物を得る、方法である。
健常なドナー又は心血管危険因子を有する患者の血清又は他の血液成分に由来するEVは、インビトロ及びインビボで血管新生促進シグナルを誘導することができ、この効果は、sEVがプールされている場合でさえも失われない。
前述のように、それらの研究で、本発明者らは、それぞれ、第1及び第2の所定の値より高いmiR-130a及びTGFβの含量を有すると決定されたEV組成物は、強い血管新生促進性状を有すると予測されることを見出した。これらの特色は、EV組成物を、心血管疾患の危険性と関連する虚血性疾患、虚血性傷害及び病的状態の処置で使用するのに、又は創傷治療における使用に特に適したものにする。
【0017】
したがって、本発明の第三の態様は、リアルタイムPCRによってCt値として測定された調製物中のmiR-130a含量が35以下のCtであり、TGFβ含量が20pg/1010EV~50pg/1010EVの範囲内に含まれる値より高い、血管新生促進療法によって正の影響を受ける疾患もしくは傷害の治療的処置で使用するための、又は創傷治療で使用するための、血管新生促進性細胞外小胞(EV)の調製物である。
好ましくは、本発明の血管新生促進EVの調製物中のTGFβ含量は、23pg/1010EV~40pg/1010EVの範囲内、より好ましくは、例えば、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、又は35pg/1010EVなどの25pg/1010EV~35pg/1010EVの範囲内に含まれる値より高い。
好ましい実施形態では、本発明の血管新生促進EVの調製物中のTGFβ含量は、>23pg/1010EVである。
好ましくは、リアルタイムPCRによってCt値として測定された、本発明の血管新生促進EVの調製物中のmiR-130a含量は、33以下のCt、さらにより好ましくは、30以下のCt、さらにより好ましくは、例えば、10、11、12、13、14、15、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28又は29などの10~29の範囲内に含まれるCtである。
【0018】
好ましい実施形態では、リアルタイムPCRによってCt値として測定された、本発明の血管新生促進EVの調製物中のmiR-130a含量はCt<30である。
より好ましい実施形態では、本発明による血管新生促進EVの調製物において、リアルタイムPCRによってCt値として測定されたmiR-130a含量はCt<30であり、TGFβ含量は>23pg/1010EVである。
本発明の第四の態様は、前述の製造方法によって得ることができる、上記で定義された本発明に従った使用のための血管新生促進性細胞外小胞(EV)の調製物である。
本発明によるEV調製物で処置される心血管疾患の危険性と関係がある状態は、好ましくは血管再構築の障害、より好ましくは、肥満、糖尿病、脂質異常症又は高血圧を特徴とする。
好ましい実施形態では、本発明によるEV調製物は、急性心筋梗塞、急性脳血管疾患、急性及び慢性の末梢動脈疾患、急性腎臓虚血、肥満及び糖尿病からなる群から選択される疾患の処置において使用するのに適する。
【0019】
細胞外小胞は多くの異なる細胞型-いわゆるドナー細胞-によって生成され、生物学的流体(biological fluid)及び細胞又は組織培養物中に遍在的に存在する。したがって、本発明によれば、EVの組成物は、任意の適切な細胞型から、好ましくは有核哺乳動物細胞から、より好ましくは幹細胞から、さらにより好ましくは成体幹細胞から得ることができる。
本明細書の文脈内で、表現「成体幹細胞」は、胚盤胞の内部細胞塊から単離される「胚性幹細胞」とは対照的に、成体組織から単離される幹細胞を意味することが意図される。成体幹細胞は「体性幹細胞」としても知られている。
代替の実施形態によれば、本発明に従った使用のためのEV調製物は、生物学的流体から、又は細胞もしくは組織培養条件培地から単離される。
好ましくは、本発明に従った使用のためのEV調製物は、血液成分、より好ましくは全血、血漿又は血清(sEV)から単離される。
一実施形態では、血管新生促進EVは健常なドナーの献血から調製される。
別の実施形態では、血管新生促進EVは、患者の献血、より好ましくは心血管危険因子を有する患者から調製される。
【0020】
より好ましい実施形態では、心血管危険因子を有する患者の血液から調製される血管新生促進EVは、同じ患者の処置のための医薬としての使用に適する。
さらに、上記の実施形態のすべてにおいて、本発明の調製物は医薬調製物でもよく、これは、上記で定義された血管新生促進EVならびに医薬的に許容可能な賦形剤及び/又は担体及び/又は希釈剤を含む。担体、ビヒクル又は希釈剤及び任意の他の賦形剤の選択は、特に、選択される医薬剤形、投与経路及び投与レジメン、ならびに患者の特徴及び治療される疾患を考慮すれば、当業者の技能の範囲内である。
本発明は、例示のためのみに提供され、添付の図面を参照する以下の実施例からより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1-1】NanosightによるsEVの特徴付けの結果を示す図である。(A)患者の個々の群(健常なドナー(H)、肥満(D)、糖尿病(O)、糖尿病/肥満(O/D)及び虚血性(IC)患者)に言及するNTA解析の代表的な画像。
図1-2】NanosightによるsEVの特徴付けの結果を示す図である。(B)個々の対象のそれぞれ(健常なドナー、肥満(D)、糖尿病(O)、糖尿病/肥満(O/D)及び虚血性(IC)患者)に対する平均サイズ値をともなう、NTAサイズ分布を示すドットプロットグラフ。(C)患者の個々の群からの血清から回収されたEVの数を報告するヒストグラム。D=糖尿病;O=肥満;OD=肥満/糖尿病;IC=虚血性患者。*p<0.05肥満及び虚血性患者対健常な対象;(一元配置ANOVA、それに続く多重比較検定)(n=9患者/群)。
図2】健常なドナー及び患者からの血清EVのインビトロ及びインビボでの血管新生促進活性を示す図である。(A)有効sEV及び無効sEVに応答した血管形成を示す代表的な顕微鏡写真。各数は個々の対象から調製されたsEVを示す(上部パネル=無効sEV;下部パネル=有効sEV)(ODを除いて群ごとにn=3。3回の独立した実験で同じ試料を使用した)。(B)血管形成のインビボ定量解析の結果。各実験条件について、マトリゲルの10切片で血管を数えた。データは、未処置マウス(C)(n=3)において、又はEVの以下の調製物で処置したマウスにおいて数えた血管の平均数を示す:健常なドナーからの血管新生促進無効sEV(i-sEV)、健常なドナーからの血管新生促進有効sEV(e-sEV);糖尿病患者からの血管新生促進無効sEV(D i-sEV)、糖尿病患者からの血管新生促進有効sEV(D e-sEV);肥満患者からの血管新生促進無効sEV(O i-sEV)、肥満患者からの血管新生促進有効sEV(O e-sEV);糖尿病/肥満患者からの血管新生促進無効sEV(OD i-sEV)、糖尿病/肥満患者からの血管新生促進有効sEV(OD e-sEV);虚血性患者からの血管新生促進無効sEV(IC i-sEV)、虚血性患者からの血管新生促進有効sEV(IC e-sEV)。*p<0.05健常なe-sEV対健常なi-sEV;§p<0.05糖尿病e-sEV対糖尿病i-sEV;#p<0.05肥満e-sEV対肥満i-sEV;゜p<0.05糖尿病/肥満のe-sEV対糖尿病/肥満i-sEV;+p<0.05虚血性e-sEV対虚血性i-sEV虚血性;(一元配置ANOVA、それに続く多重比較検定)。(ODを除いて群ごとにn=3。3回の独立した実験で同じ試料を使用した)。(原倍率:×200;スケールバー:12μm)。
図3-1】sEVの血管新生促進活性が、そのTGFβ含量と相関することを示す図である。グラフは、各群(健常なドナー、糖尿病)の個々の対象から調製した血清EVの試料から得られたデータを報告する。患者の各群について、上部の曲線はpg/1010EVとしてのsEVで測定されたTGFβ含量を指し、一方で、下部の曲線はインビトロ力価試験で測定された血管新生促進活性の%を指す。点線は、血管新生促進に有効及び無効なsEVに対するTGFβ>23pg/1010EVのカットオフを示す。各数は個々の患者に対応する(群ごとにn=3)。
図3-2】sEVの血管新生促進活性が、そのTGFβ含量と相関することを示す図である。グラフは、各群(肥満及び虚血性患者)の個々の対象から調製した血清EVの試料から得られたデータを報告する。患者の各群について、上部の曲線はpg/1010EVとしてのsEVで測定されたTGFβ含量を指し、一方で、下部の曲線はインビトロ力価試験で測定された血管新生促進活性の%を指す。点線は、血管新生促進に有効及び無効なsEVに対するTGFβ>23pg/1010EVのカットオフを示す。各数は個々の患者に対応する(群ごとにn=3)。
図4-1】sEVにおけるmiRNA発現プロファイリングの結果を示す。(A)個々の患者及び健常な対象からの血管新生促進に有効(黒丸)及び無効(白丸)なsEVにおいてmiR-130aについて測定したCt値の分布。40-Ctとして結果を報告する。
図4-2】sEVにおけるmiRNA発現プロファイリングの結果を示す。(B)経路のネットワーク解析はmiR-130aと正に相関した。データはDIANA miRpath解析から得た。少なくとも15遺伝子を含む経路のみを選択した。
図5】(A)miR-130aとmRNA標的の間のネットワーク解析を示す図である。線は、IPAソフトウェアによって予測される遺伝子とmiR-130aの間の相互作用を示す:間接的相互作用(点線)、直接的相互作用(実線)。四角はTGFβ及びTGFBRを含む。円は血管新生に関与する遺伝子(KDR、EPHB6、ROCK1、HOXA5)を含む。(B)受信者動作特性(Receiving Operating Characteristic)(ROC)曲線及び対応する曲線下面積(AUC)は、miR-130a及びTGFβが無効小胞から血管新生促進有効sEVを区別する予測能力を有することを示す。ROC解析については、すべての患者及び健常な対象からのsEVから得られた結果を考慮した。AUC値ならびに標準誤差、P値及び閾値をROC曲線の下の表に報告する。
【実施例
【0022】
1.方法
1.1患者
本発明者らが行った研究では、心血管危険因子を有する36人の患者及び9人の性別が一致した健常なボランティアを含んでいた。特に、9人の糖尿病患者(D:n=9)、9人の肥満患者(O:n=9)、9人の糖尿病及び肥満患者(OD:n=9)、ならびに9人の虚血性患者(下肢虚血について外科的処置を受けている患者)(IC:n=9)を調べた。すべての糖尿病患者は、インスリンで処置されていなかった。すべてのヒト実験は、欧州の指針及び方針に従って行い、University of Turin、Italyの倫理委員会によって承認された。すべての患者からの血清は、クリニックへの入院後に(D、O、OD)、及び虚血性患者(IC)については外科手術の前に得た。インフォームドコンセントをすべての患者から得た。健常なドナー(n=9)からのヒト血清は、インフォームドコンセント及び血液バンクの内部審査会による承認の後に、「Citta della Salute e della Scienza di Torino」の血液バンクによって提供された。
【0023】
1.2.研究の承認
動物研究は、実験動物の管理と使用に関するイタリア国立衛生研究所の指針(Italian National Institute of Health Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)(プロトコール番号:490/2105-PR)に従って行った。マウスは、欧州実験動物科学協会連盟の指針(Federation of European Laboratory Animal Science Association Guidelines)及びUniversity of Turinの倫理委員会に従って飼育した。すべての実験は、関連する指針及び規制に従って行った。
【0024】
1.3.血清EVの単離
ヒトの血液は、健常ドナー及び患者ドナーから静脈穿刺によって得た。ドナーごとに合計で9mlの血清を各ドナーから回収し、-80℃で保存した。解凍後、3000gで遠心分離して残屑を除去した後、100.000×gで2時間の超遠心分離によって全EVを単離し、精製した。ペレットをPBSで1回洗浄し、100.000×g、4℃で1時間遠心分離した。試料は、新鮮な状態で使用したか、又は80℃で保存した後に解凍した。
【0025】
1.4 ナノ粒子追跡解析
405nmのレーザー及びNTA2.3解析ソフトウェアを備えたNanoSight LM10システム(NanoSight Ltd.、Amesbury、UK)を使用して、ナノ粒子追跡解析(NTA)によって、sEVを解析して、それらの寸法及びプロファイルを明らかにした。14のカメラレベル設定ですべての取得を行い、各試料について、30秒の持続時間の3つのビデオを記録した。1mlの小胞非含有生理溶液(Fresenius Kabi、Runcorn、UK)中にsEVを希釈した(1:1000)。NTAの取得後設定を最適化し、試料全体にわたって一定に維持し、次いで、各ビデオを解析して、EVのサイズ、分布及び濃度を測定した。
【0026】
1.5 sEVの血管新生アッセイ
一次大血管内皮細胞(EC)及び毛細血管内皮細胞(HMEC)をLonza(Basel、Switzerland)から購入し、製造者の指示書に記載されているように培養した。インビトロ血管新生力価試験及びインビボ血管新生試験は、以前に記載されているように(Cavallari C. et al, “Serum-derived extracellular vesicles (EVs) impact on vascular remodeling and prevent muscle damage in acute hind limb ischemia” (2017) Sci Rep. 7(1):8180)行った。手短に言えば、5×104sEV/標的細胞をインビトロ研究全体を通して施した。BrdU及びインビトロ管形成アッセイを使用して、単一試料からのsEVをその血管新生促進活性について評価した。50%の%カットオフ値に従って、すべての解析群のEVを、血管新生促進活性EV又は血管新生促進不活性EVに分類した。
インビボ血管新生は、以前に記載されているように(Lopatina T. et al, “Platelet-derived growth factor regulates the secretion of extracellular vesicles by adipose mesenchymal stem cells and enhances their angiogenic potential” (2014) Cell Commun Signal. 12:26)、血管の増殖を測定することによって評価した。手短に言えば、EC(1×106細胞/注射)をsEV(1×106個のECあたり5×1010EV)と一晩インキュベートした。次いで、雄の重症複合免疫不全症(SCID)マウス(6週齢)に皮下注射した。同数の非刺激ECを陰性対照として使用した。マトリゲルプラグを7日目に回収し、固定し、トリクローム染色方法を使用して染色した。以前に記載されているように(Lopatina T. et al, “Platelet-derived growth factor regulates the secretion of extracellular vesicles by adipose mesenchymal stem cells and enhances their angiogenic potential” (2014) Cell Commun Signal. 12:26)、血管管腔領域を決定した。
【0027】
1.6 TGFβ ELISAアッセイ
製造者の指示書に従って、固相サンドイッチ酵素結合免疫吸着測定法(ELISA、Invitrogen Multispecies TGF-β1キット、Germany)を使用して、健常な対象及び患者の血清試料から単離されたEV中のTGFβ含量を測定した。実験は、1x1011EVを含む試料に対して3連で行った。アッセイで得られた着色生成物の強度は、450nmの吸光度でELISA iMark(商標)マイクロプレート吸光度リーダー(Bio Rad、Switzerland)を用いて決定した。EV調製物中に存在するTGFβの濃度は、pg/1010EVとして表した。
【0028】
1.7 miRNA発現プロファイリング
sEVに含まれるmiRNAの発現プロファイル(いわゆる、miRNome)は、製造者によって推奨されるプロトコールに従って、miRNome microRNA Profilers QuantiMir(SBI、System Biosciences)を使用して、1140種のマイクロRNAに対してリアルタイムPCRによって評価した。キットは、各プレート上に標準化シグナルとして3種の内在参照RNA(ヒトU6 snRNA、核小体低分子RNA RNU43及びHm/Ms/Rt U1 snRNA)を含む、ヒトマイクロRNAについて予めフォーマットされたプレート中でのアッセイを含む。
【0029】
手短に述べると、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems、Foster City、California、USA)を使用して、100ngのRNAを逆転写した。すべてのqRT-PCR反応は、以下の条件下で、StepOnePlus(商標)リアルタイムPCRシステムで行った:95℃で15秒(PCRの最初の活性化ステップ)、続いて40サイクルにわたって3ステップサイクル(94℃で15秒、55℃で30秒、70℃で30秒)。スクリーニングでは、上記の力価試験で血管新生促進活性(n=3)及び血管新生促進不活性(n=3)と評価された健常な対象の血清から収集されたsEVについて、miRNomeをプロファイリングした。解析する各sEV試料に対して、miRNAに対するCt値を外挿した。有効なsEV集団と無効なsEV集団の両方の異なる試料(n=3)からのCtの平均を示すCtを内在参照RNAに対して標準化し、2-(ΔCt)値に変換した(Livak KJ and Schmittgen TD, “Analysis of relative gene expression data using real-time quantitative PCR and the 2(-Delta Delta C(T)) method” (2001) Methods 25: 402-408)。
【0030】
miScript SYBR Green PCR Kit(Qiagen、Valencia、CA、USA)を使用して、健常なドナー及び患者からのsEVに対してmiRNAの検証を行った。手短に言えば、sEV試料から単離した100ngの投入RNAをmiScript Reverse Transcription Kitを使用して逆転写し、このようにして得られたcDNAを使用して、目的のmiRNAを検出及び定量化した。実験は、製造業者のプロトコール(Qiagen)によって記載されているように、反応ごとに3ngのcDNAを使用して3連で実施した。すべての患者由来のsEVで以下のmiRNAがスクリーニングされた:miR-126(配列番号2)、miR-21(配列番号3)、miR-296-3p(配列番号4)、miR-210(配列番号5)、miR-130a(配列番号1)、miR-27a(配列番号6)、miR-29a(配列番号7)、miR-191(配列番号8)。内部対照としてRNU6B及びRNU43参照遺伝子を使用して、qRT-PCRで得られた増幅データを標準化した。標的配列及び内在対照の増幅効率は、ほぼ等しいことが示された。
【0031】
1.8 miRNA EV内容物の経路及び標的予測解析
EV miRNAの標的予測及び生物学的経路濃縮解析を行うために、ウェブベースのプログラムDIANAmirPathを使用した(Collino F. et al, “Exosome and Microvesicle-Enriched Fractions Isolated from Mesenchymal Stem Cells by Gradient Separation Showed Different Molecular Signatures and Functions on Renal Tubular Epithelial Cells” (2017) Stem Cell Rev.(2):226-43)。microT-CDSアルゴリズムを選択して、デフォルトの閾値(microT=0.8)を使用してEV由来miRNAの標的を予測した。すべての既知の京都遺伝子ゲノム百科事典(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)(KEGG)経路に対してP値<0.01を示す生物学的経路のみを、有意に濃縮されたと考えた。Ingenuity IPA経路解析を使用して、miR-130aに対する標的遺伝子を予測した。本発明者らは、miRNA Target Filter tool on IPA (Qiagen: http://www.qiagen-bioinformatics.com/products/ingenuity-pathway-analysis/)をセットアップして、miR-130aを予測されるmRNA標的と関連付けた。
【0032】
1.9 ROC解析
主要なデータは、参照標準(RS)とみなされる2つの調査群「真の血管新生促進活性sEV」/「真の血管新生促進不活性sEV」に対する平均、標準偏差(SD)、中央値及び95%信頼区間として提示される。miR-130a及びTGFβに対する予測性を評価するために、ROC曲線を使用してRSの達成を評価した(Grund B and Sabin C. “Analysis of biomarker data: logs, odds ratios, and receiver operating characteristic curves” (2010) Curr Opin HIV AIDS 5(6):473-9)。Ct値として測定されたmiR-130aの含量及びpg/1010EVとして測定されたTGFβの含量に基づいて、sEV組成物を以下のカテゴリーに分類した:
1.miR-130a Ct値≧30を示すsEVは、血管新生促進無効sEVと考えられた;
2.TGFβ含量<23pg/1010EVを示すsEVは、血管新生促進無効sEVと考えられた。
RSで定義された「真の血管新生促進不活性sEV」を予測するための上記の基準に対するROC曲線解析に基づくカットオフスコアの「優秀さ」を評価するために、予測能力を2つの基準のそれぞれについて別々に、及び「シリーズ」アプローチによって2つの基準を組み合わせることの両方によって評価した(「血管新生促進無効sEV」は、両方の測定について血管新生促進無効であるsEV、「非血管新生促進無効sEV」は、2つの基準のうちの少なくとも1つについて「非血管新生促進無効sEV」である小胞とする)。
解析は、感度(Se)、特異性(Sp)及び陽性尤度比(LH+)[「真の血管新生促進有効sEV」と比較して、「血管新生促進無効sEV」「真の血管新生促進無効sEV」として特定する確率]ならびに相対的95%信頼区間値に基づいていた。
【0033】
1.10 統計解析
データは、GraphPad Prism 6.0 Demoプログラムを使用して解析した。結果は、そうでないと報告されない限り、平均±SD又は±SEMとして表す。統計解析は、一元配置ANOVA、続いて、チューキーの事後又は多重比較、2群比較のためのスチューデントのt検定、及び必要に応じてニューマン-クールズ多重比較検定を使用して行った。統計的有意性のカットオフはp<0.05(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)に設定した。
【0034】
2.結果
2.1 血清EVの特徴付け
本発明者らが行った研究では、健常個体に由来するsEVの9試料及び患者コホートに由来するsEVの36試料をそれらの数及びサイズについて調べた。sEVのサイズの分布は、健常個体と患者の間でいかなる有意差も示さなかった(図1A及びB)。観察された平均粒径は約138nmであった。患者のsEVの数は健常な対象よりも高かった(図1C)。肥満及び虚血性患者で、有意に高いレベルのsEVが検出された(図1C)。
【0035】
2.2患者に由来する血清EVの血管新生促進活性
異なる患者群に由来するsEVの血管新生活性をインビトロで評価するために、上記の実施例1.3に記載されているように力価試験を行った。50%を超える平均値を示すsEVの組成物を血管新生促進活性と考えた。
異なる患者群からの血管新生促進に有効及び無効なsEVを使用して、血管新生力価試験の結果をインビボで検証した(図2A~B)。
【0036】
2.3 sEV中のTGFβ含量及びその血管新生能力
sEV中のTGFβ含量が、その血管新生能力を説明することができるかどうかを調査するために、本発明者らは、健常な対象ならびに患者(糖尿病、肥満、糖尿病/肥満及び虚血性患者)の血清試料から単離されたEVに対してELISAアッセイを行った。図3に示すように、sEV組成物中で測定されたTGFβの含量は、患者コホート及び健常なドナーにおいて、これらの小胞の血管新生促進能力と有意に相関する。23pg/1010EVのTGFβの濃度に相当するカットオフ値を、TGFβ含量<23pg/1010EVを有するEVは血管新生促進不活性である可能性が高いという知見に基づいて、血管新生促進有効EVと無効小胞を区別すると判断した。
【0037】
2.4 sEVのmiRNomeプロファイル
健常なドナー(各3試料)からの血管新生促進に有効及び無効なsEVに対する、本発明者らが行ったmiRNome解析は、最も差次的に発現しているとして8種の血管-miRNA、miR-126、miR-21、miR-296-3p、miR-210、miR-130a、miR-27a、miR-29a、miR-191を特定した。特に、血管新生促進能を有するsEVにおいて、miR-126、miR-130a、miR-27a及び296-3pはアップレギュレートされていたが、miR-21、miR-29a、miR-191及びmiR-210はダウンレギュレートされていた。
EVにおけるmiRNA発現レベルの観察された違いが、それらの機能活性と関連するかどうかを調査するために、本発明者らは、個々の健常なドナー及び患者に由来するsEVにおける選択されたmiRNAの発現を、インビトロ力価試験で測定したこれらの小胞の血管新生促進活性のレベルと比較することによって研究を行った。発現解析はリアルタイムPCR(カットオフCt値30)によって行った。図4Aに示すように、個々の対象(健常なドナー及び患者)からのEV中のmiR-130aについて測定したCt値の分布は、これらのEV試料に対して行った血管新生力価試験の結果と有意に相関する。特に、Ct>30のCt値として測定されたmiR130aの含量を有するEVは、血管新生促進無効である確率がより高いことが観察された。
【0038】
興味深いことに、本発明者らは、Shalaby SM. et al, “Serum miRNA-499 and miRNA-210: A potential role in early diagnosis of acute coronary syndrome” IUBMB Life. 2016;68(8):673-82で以前に記載されているように、患者に由来するsEV中でmiR-210の濃縮も見出した。しかし、sEV中のmiR-210含量とこれらの小胞の血管新生促進活性の間に、有意な相関は検出されなかった。
DIANA mirpath解析は、少なくとも15遺伝子を含む経路を選択することによって、miR-130aを使用して調べた。再度、数ある中で、TGFβ経路に関与する遺伝子の有意な濃縮が検出された(図4B)。
miR-130a標的遺伝子に対するIPAによって予測されたネットワークは、血管新生プロセスに強く関係するいくつかの遺伝子、例えば、KDR、HOXA5、ROCK1、EPHB6を特定した(図5A)。さらに、TGFβ及びTGFBR1遺伝子がmiR-130a相互作用体の中に見出された。全体的に見て、上記の結果は、sEV媒介性作用機構におけるTGFβシグナリング経路の寄与をさらに裏付ける。
【0039】
2.5 sEV中のmiR-130a及びTGFβの含量は「真の血管新生促進無効」sEVを特定するための有用な予測マーカーに相当する。
本発明者らは、受信者動作特性(Receiver Operator Characteristic)(ROC)解析を行って、sEV中のmiR-130a及びTGFβの含量が血管新生促進能を示すsEVと無効小胞を区別する予測能力を有するかどうかを評価した。図5Bに図示されるROC曲線から推測されるように、miR-130aとTGFβの両方が、RSによって特定される「真の血管新生促進無効sEV」の優れた予測基準であり、統計学的に有意なAUC値を示す。
【0040】
両方の基準は、「血管新生促進無効」、RSによって特定される「真の血管新生促進無効sEV」として特定するために、優れた感度を示した。これは、LH+=1.88 IC95% 1.49~2.27、miR-130aに対して(Se=0.94 0.73~0.99のIC95%)及びTGFβに対して(Se=0.88 IC95% 0.66~0.97)によって、特に明らかであり、さらに強調される。しかし、両方の測定について低い特異性値が検出された(miR-130a:Sp=0.50;TGFβ Sp=0.64)。
2つの基準を「シリーズで」組み合わせることによって、すなわち、両方の基準で「血管新生促進無効」と定義されるsEVを「血管新生促進無効」とみなすことによって、優れたレベルの感度及び特異性値の増加が検出された(Sp=0.75;Se=0.82)。以下の表1に報告するLH+値はこれらの結果をさらに裏付ける。
【0041】
表1
miR-130a及びTGFβ1を「シリーズで」組み合わせる試験。2つの基準を「シリーズで」組み合わせて得られた値のリスト(miR-130aとTGFβ1の両方の基準でEV「血管新生促進無効」と定義されるsEVを「血管新生促進無効」とみなす)。
【表1】
図1-1】
図1-2】
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5
【配列表】
2022525209000001.app
【国際調査報告】