(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-11
(54)【発明の名称】部分的リサイクルポリアリールエーテルケトン粉末を焼結により生成する方法
(51)【国際特許分類】
C08L 71/08 20060101AFI20220428BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20220428BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220428BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220428BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20220428BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20220428BHJP
B33Y 40/00 20200101ALI20220428BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20220428BHJP
B29C 64/357 20170101ALI20220428BHJP
【FI】
C08L71/08
C08K3/32
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
B29C64/153
B33Y40/00
B29C64/314
B29C64/357
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021555519
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(85)【翻訳文提出日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 FR2020050535
(87)【国際公開番号】W WO2020188202
(87)【国際公開日】2020-09-24
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ギヨーム・ル
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・ブリュル
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・カルミオー
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
【Fターム(参考)】
4F213AA32
4F213AA35
4F213AC04
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL12
4F213WL24
4J002CH091
4J002DH046
4J002HA09
(57)【要約】
本発明は、電磁照射を用いたPAEKをベースとする粉末の焼結による、三次元物品の層毎の製造方法であって、粉末が少なくとも1種のPAEKと少なくとも1種のホスフェートとを含み、前記粉末が少なくとも部分的にリサイクル粉末である、製造方法に関する。リサイクル粉末は、同じ組成の粉末を厳密に粉末のガラス転移温度Tgと融点Tfの間の一定又は一定ではない温度で少なくとも6時間の期間にわたり連続又は非連続加熱することによって得ることができるものである。本発明はまた、この方法によって得られる物品、及びPAEKをベースとする組成物におけるホスフェートの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁照射を用いたポリアリールエーテルケトン(PAEK)をベースとする粉末の焼結による、三次元物品の層毎の製造方法であって、
前記粉末が、粉末の全質量に対して少なくとも50質量%の少なくとも1種のPAEKと、少なくとも1種のホスフェートとを含み、前記粉末が、少なくとも部分的にリサイクル粉末であり;
前記リサイクル粉末が、同じ組成の粉末を、厳密に粉末のガラス転移温度Tgと融点Tmの間の一定又は一定ではない温度で少なくとも6時間の期間にわたり連続又は非連続加熱することによって得ることができるものである、
製造方法。
【請求項2】
リサイクル粉末が、電磁照射を用いた粉末焼結による少なくとも一つ前の三次元物品の層毎の構築に由来する粉末であり、前の構築の層の焼結が構築温度Tcで行われたものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
リサイクル粉末の少なくとも一部が、電磁照射を用いた粉末焼結による前の三次元物品の層毎の構築の少なくとも2回のリサイクル、又は少なくとも3回のリサイクル、又は少なくとも5回のリサイクル、又は少なくとも10回のリサイクル、又は少なくとも25回のリサイクル、又は少なくとも50回のリサイクル、又は少なくとも100回のリサイクルに由来するものである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
Tcが、境界値を含めて(Tm-50)℃から(Tm-10)℃の間であり、Tcが、境界値を含めて(Tg+20)℃から(Tg+70)℃の間である、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
電磁照射を用いた粉末焼結による少なくとも一つ前の三次元物品の層毎の構築に由来する粉末が、前の構築の構築期間中、構築温度Tcから(Tc-40)℃以上の温度まで変化する、好ましくは構築温度Tcから(Tc-25)℃以上の温度まで変化する、より好ましくは構築温度Tcから(Tc-10)℃以上の温度まで変化する温度に供されたものである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記粉末が、粉末の全質量に対して少なくとも30%、優先的には少なくとも40%、非常に優先的には少なくとも50%のリサイクル粉末を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種のホスフェートが塩である、請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ホスフェートの塩が、アンモニウムのリン酸塩、ナトリウムのリン酸塩、カルシウムのリン酸塩、亜鉛のリン酸塩、カリウムのリン酸塩、アルミニウムのリン酸塩、マグネシウムのリン酸塩、ジルコニウムのリン酸塩、バリウムのリン酸塩、リチウムのリン酸塩、希土類元素のリン酸塩、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記リン酸塩が、下記式:
【化1】
(式中、Rは、R'と同一であるかR'とは異なり、R及びR'は、1~9個の炭素を有する1つ又は複数の基によって任意選択で置換されていてもよい1つ又は複数の芳香族基によって形成されており、R及びR'が、互いに結合するか、下記の基、即ち-CH
2-;-C(CH
3)
2-;-C(CF
3)
2-;-SO
2-;-S-、-CO-;及び-O-から選ばれる少なくとも1つの基によって分離されて結合していることが可能であって、Mは、周期表のIA又はIIA族からの元素を表す)
を有する、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記リン酸塩が、H
2PO
4
-の塩、HPO
4
2-の塩、PO
4
3-の塩、又はそれらの混合物であり、優先的にはナトリウムイオン、カリウムイオン又はカルシウムイオンを対イオンとして有する、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記リン酸塩がリン酸一ナトリウムである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項12】
前記粉末が、粉末の全質量に対して少なくとも75質量%、又は少なくとも80質量%、又は少なくとも85質量%、又は少なくとも90質量%、又は少なくとも92.5質量%、又は少なくとも95質量%、又は少なくとも97.5質量%、又は少なくとも98質量%、又は少なくとも98.5質量%、又は少なくとも99質量%、又は少なくとも99.5質量%のPAEKを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記粉末中の前記少なくとも1種のホスフェートの割合が、500ppm以上、又は750ppm以上、又は1000ppm以上、又は1500ppm以上、又は2000ppm以上、又は2500ppm以上である、請求項1から12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記少なくとも1種のPAEKが、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(PEEEK)、ポリエーテルジフェニルエーテルケトン(PEDEK)、これらのコポリマー、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記少なくとも1種のPAEKが、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)である、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記粉末が、少なくとも2種のPAEK、より詳細にはPEKKと、PEKKに加えて、下記のポリマー、即ち、PEK、PEEKEK、PEEK、PEEKK、PEKEKK、PEEEK、PEDEKのうちの少なくとも1種を含み、含有量が前記組成物の全質量に対して50質量%未満、好ましくは組成物の30質量%以下である、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
一度もリサイクルされたことがなく、リサイクルが可能なものである未使用粉末が、組成物の全質量に対して少なくとも50質量%を構成するホスフェートを含まない組成物と、前記ホスフェートとの乾式ブレンディング又は湿式含浸によって、優先的には湿式含浸によって得られる、請求項1から16のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の方法から得ることができる三次元物品。
【請求項19】
粉末の全質量に対して少なくとも50質量%の少なくとも1種のPAEKを含むPAEKをベースとする組成物におけるホスフェートの使用であって、組成物を、厳密に組成物のガラス転移温度と融点の間の温度で加熱する際に、組成物の色を安定化させるための使用。
【請求項20】
粉末の全質量に対して少なくとも50質量%の少なくとも1種のPAEKを含むPAEKをベースとする組成物におけるホスフェートの使用であって、組成物を、厳密に組成物のガラス転移温度と融点の間の温度で加熱する際に、組成物のPAEKの平均分子量を安定化させるための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、電磁照射を用いた粉末焼結の方法、特にレーザー粉末焼結方法の分野である。
【0002】
特に、本発明は、PAEKをベースとする組成物を含む粉末の電磁照射による焼結方法における使用であって、粉末が少なくとも部分的にリサイクル粉末である、使用に関する。
【0003】
電磁照射は、レーザー焼結の場合、レーザービームであってもよく、赤外線照射若しくはUV照射、又は他の任意の照射源であってもよい。本明細書において、「焼結」という用語は、照射の種類に関係なく、これらの方法全てを含む。
【背景技術】
【0004】
ポリアリールエーテルケトンは、周知の高性能エンジニアリングポリマーである。それらは、温度に関して、及び/又は機械的制約、更には化学的制約に関して制限の多い用途に使用できる。それらはまた、優れた耐火性や、煙及び他の有毒ガスの放出が少ないことが要求される用途に使用できる。最後に、それらは、良好な生体適合性を有する。これらのポリマーは、航空及び航空宇宙部門、海洋掘削、自動車、鉄道部門、海洋部門、風力部門、スポーツ、建設、電子機器又は医療用インプラント等、多岐にわたる分野で見られる。それらは、熱可塑性樹脂が使用される全ての技術、例えば鋳造、圧縮、押し出し、紡糸、粉末塗装又は焼結試作において使用できる。
【0005】
電磁照射を用いた粉末焼結の場合、三次元物品の構築時には、粉末の大部分は使用されない。三次元物品の構築はまた、「実行」という用語によっても示される。典型的には、焼結機に導入される粉末のおよそ85~90質量%は、三次元物品の構築時に電磁照射の影響を受けない。したがって、経済的理由から、次回の構築又は実行時にこの粉末が再利用、即ち、リサイクルできることが不可欠であると考えられる。
【0006】
一般に、レーザー焼結構築時、構築中の層のPAEK粉末は、構築環境において、「構築温度」として公知の温度Tcに加熱される。構築中の層の下の層の温度は、チャンバーが均一な温度に維持される場合、Tcに等しくなり得る。しかし、ほとんどの場合、構築中の層の下の層の温度は、構築温度よりもわずかに低く、その差はおよそ数度から数十度である。構築環境の下部は、最下層が「タンク底温度」として一般に公知の温度Tb未満の温度に冷えることがないよう、特に温度調節が可能である。構築温度、該当する場合のタンク底温度は、PAEK粉末のガラス転移温度Tgと融点Tmの間である。
【0007】
したがって、焼結による構築時、周囲の粉末、即ち、電磁照射の影響を受けない粉末は、数時間、典型的には6時間、構築すべきパーツの複雑さによっては数十時間もの間、粉末のガラス転移温度と融点の間の温度に保たれ、それは、特に分子量の増加と色の変化を伴う粉末の構成ポリマーの構造の変化につながる可能性がある。
【0008】
分子量の増加は粘度の上昇につながり、それは、連続実行時に粉末粒子同士の合体の障害となる。したがって、粉末を焼結することが不可能となる又はこのようなリサイクル粉末の焼結によって得られる三次元パーツの機械的特性が、例えば、焼結したパーツにおける多孔性の存在のために結果的に低下し不十分となるため、粉末をリサイクルすることは、困難であり、不可能でさえある。
【0009】
加えて、色の変化、特に黄変は、多くの産業用途において望ましくないものである。しかし、長期間酸素の存在下にあると、粉末は、色が変化する可能性もある。そうすると、均質で均一な色を有する物体を得ることは困難である。
【0010】
現在、レーザー焼結に使用できる、EOS社によりPEEK HP3の名称で販売されているようなPAEK粉末が市場に出回っている。しかし、これらの粉末は、最初の実行から始まるそうした熱劣化、特に平均分子量の大幅な増加を受け、そのため、三次元物品の2回目の構築にそれらを再利用することは不可能である。結果として、これらの粉末の焼結による三次元物品の製造は、非常に高価であり、工業規模で検討することはできない。
【0011】
文献US2013/0217838は、レーザー焼結に使用したPAEK粉末のリサイクルを可能にするための解決策を提案する。より詳細には、PEKK粉末のリサイクルの可能性について記載するが、連続実行時に、構築温度を285℃から300℃に上昇させ、粉末をリサイクルするたびにレーザービームのパワーを上げることを条件とする。実際、使用するPEKK粉末は温度安定性がなく、焼結プロセスにおける最初の使用後に融点が上昇することをこの文献は記載している。粉末のこの不安定さを解消できるように、焼結機のパラメーターが修正される。特に、実行毎にレーザービームのパワーを上昇させる。実行毎にこれらの焼結パラメーターを変化させる必要があるという事実は、工業生産の速度を低下させ、生産をより困難にする。更に、非リサイクル粉末とリサイクル粉末との混合は、構築パラメーターの調節が複雑となるため、困難に思われる。最後に、実行毎にパラメーターを修正する必要がある、特に構築温度を上昇させる必要がある、という事実は、ポリマー粉末の劣化につながり、そのため、粉末のリサイクルの回数は依然として非常に限られたままであり、粉末をもっとリサイクルできれば経済的に有利となる。
【0012】
文献WO2017/149233は、260℃から290℃の間の一定温度で5分から120分の間の期間の事前等温熱処理によって、焼結プロセスに数回使用できるPAEK粉末を記載する。事前等温熱処理の利点は、粉末の融点が安定し、レーザー焼結に使用する場合に少なくとも数回の実行にわたりリサイクル可能となることである。一方、この技法では、多数の実行回数にわたって粉末をリサイクルすることが可能である。粉末がリサイクル操作の過程で未使用粉末の色と比較して急速に黄変するという別の欠点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】US2013/0217838
【特許文献2】WO2017/149233
【特許文献3】出願公開第EP2776224号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、先行技術の欠点の少なくとも1つを克服することである。
【0015】
特に、本発明の目的は、電磁照射を使用する改善された粉末焼結製造方法であって、実行時に使用される粉末が少なくとも部分的にリサイクル粉末である、方法を提供することである。
【0016】
特に、本発明の目的は、リサイクル粉末のリサイクル回数に関係なく、かつ、使用する粉末中のリサイクル粉末の割合に関係なく、パラメーターがほとんど変化しない、或いは不変のままである焼結製造方法を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、こうした方法によって得ることができ、リサイクル粉末のリサイクル回数に関係なく、かつ、使用する粉末中のリサイクル粉末の割合に関係なく、満足のいく実質的に一定の機械的特性を有する三次元物品を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、こうした方法によって得ることができ、リサイクル粉末のリサイクル回数に関係なく、かつ、使用する粉末中のリサイクル粉末の割合に関係なく、色が実質的に同じ三次元物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、電磁照射を用いた粉末の焼結による、三次元物品の層毎の製造法に関する。粉末は、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)をベースとする粉末であり、少なくとも1種のPAEKと、少なくとも1種のホスフェートとを含む。粉末は、少なくとも部分的にリサイクル粉末である、即ち、同じ組成の粉末を、厳密に粉末のガラス転移温度Tgと融点Tmの間の一定又は一定ではない温度で少なくとも6時間の期間にわたり連続又は非連続加熱することによって得ることができるものである。
【0020】
本発明者らは、PAEKをベースとする組成物にホスフェートを使用することにより、組成物を厳密に粉末のガラス転移温度と融点の間の一定又は一定ではない温度で連続又は非連続加熱した場合に、色、粘度及び/又は平均分子量の安定化が可能になることを実証した。この温度範囲における安定化は、少なくとも6時間の期間にわたり有効である。
【0021】
ある特定の実施形態において、リサイクル粉末は、電磁照射を用いた粉末焼結による少なくとも一つ前の三次元物品の層毎の構築からの粉末のリサイクルに由来するものであり、前の構築の層の焼結は、構築温度Tcで行われたものである。更に、リサイクル粉末の少なくとも一部は、電磁照射を用いた粉末焼結による前の三次元物品の層毎の構築の少なくとも2回のリサイクル、又は少なくとも3回のリサイクル、又は少なくとも5回のリサイクル、又は少なくとも10回のリサイクル、又は少なくとも25回のリサイクル、又は少なくとも50回のリサイクル、又は少なくとも100回のリサイクルに由来するものであってもよい。
【0022】
ある特定の実施形態において、Tcは、境界値を含めて(Tf-50)℃から(Tf-10)℃の間である。
【0023】
ある特定の実施形態において、Tcは、境界値を含めて(Tg+20)℃から(Tg+70)℃の間である。
【0024】
ある特定の実施形態において、電磁照射を用いた粉末焼結による少なくとも一つ前の三次元物品の層毎の構築に由来する粉末は、前の構築の構築期間中、構築温度Tcから(Tc-40)℃以上の温度まで変化する、好ましくは構築温度Tcから(Tc-25)℃以上の温度まで変化する、より好ましくは構築温度Tcから(Tc-10)℃以上の温度まで変化する温度に供されたものである。
【0025】
ある特定の実施形態において、粉末は、粉末の全質量に対して少なくとも30%、優先的には少なくとも40%、非常に優先的には少なくとも50%のリサイクル粉末を含む。
【0026】
ある特定の実施形態において、前記少なくとも1種のホスフェートは、塩である。好ましくは、リン酸塩は、アンモニウムのリン酸塩、ナトリウムのリン酸塩、カルシウムのリン酸塩、亜鉛のリン酸塩、カリウムのリン酸塩、アルミニウムのリン酸塩、マグネシウムのリン酸塩、ジルコニウムのリン酸塩、バリウムのリン酸塩、リチウムのリン酸塩、希土類元素のリン酸塩、及びこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。
【0027】
ある特定の実施形態において、リン酸塩は、有機金属リン酸塩であってもよい。リン酸塩は、特に下記式:
【0028】
【0029】
(式中、Rは、R'と同一であるかR'とは異なり、R及びR'は、1~9個の炭素を有する1つ又は複数の基によって任意選択で置換されていてもよい1つ又は複数の芳香族基によって形成されており、R及びR'が、互いに結合するか、下記の基、即ち-CH2-;-C(CH3)2-;-C(CF3)2-;-SO2-;-S-、-CO-;及び-O-から選ばれる少なくとも1つの基によって分離されて結合していることが可能であって、Mは、周期表のIA又はIIA族からの元素を表す)
を有していてもよい。
【0030】
ある特定の実施形態において、前記リン酸塩は、H2PO4
-の塩、HPO4
2-の塩、PO4
3-の塩、又はこれらの混合物であり、優先的には、ナトリウムイオン、カリウムイオン又はカルシウムイオンを対イオンとして有する。特に、リン酸塩は、リン酸一ナトリウムであってもよい。
【0031】
粉末は、前記粉末の全質量に対して少なくとも50質量%のPAEKを含む。ある特定の実施形態において、粉末は、前記粉末の全質量に対して少なくとも75質量%、又は少なくとも80質量%、又は少なくとも85質量%、又は少なくとも90質量%、又は少なくとも92.5質量%、又は少なくとも95質量%、又は少なくとも97.5質量%、又は少なくとも98質量%、又は少なくとも98.5質量%、又は少なくとも99質量%、又は少なくとも99.5質量%のPAEKを含む。
【0032】
ある特定の実施形態において、粉末中の前記少なくとも1種のホスフェートの割合は、500ppm以上、又は750ppm以上、又は1000ppm以上、又は1500ppm以上、又は2000ppm以上、又は2500ppm以上である。
【0033】
ある特定の実施形態において、前記少なくとも1種のPAEKは、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(PEEEK)、ポリエーテルジフェニルエーテルケトン(PEDEK)、これらのコポリマー、及びこれらの混合物からなる群から選択される。前記少なくとも1種のPAEKは特に、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)であってもよい。
【0034】
ある特定の実施形態において、粉末は、少なくとも2種のPAEK、より詳細には、PEKKと、PEKKに加えて、下記のポリマー、即ち、PEK、PEEKEK、PEEK、PEEKK、PEKEKK、PEEEK、PEDEKのうちの少なくとも1種を含み、含有量は、前記組成物の全質量に対して50質量%未満、好ましくは組成物の30質量%以下である。
【0035】
ある特定の実施形態において、未使用粉末は、一度もリサイクルされたことがなく、リサイクルが可能なものであり、組成物の全質量に対して少なくとも50質量%を構成するホスフェートを含まない組成物と、前記ホスフェートとの乾式ブレンディング又は湿式含浸によって、優先的には湿式含浸によって得られる。
【0036】
本発明はまた、上述したような方法から得ることができる三次元物品に関する。
【0037】
最後に、本発明は、粉末の全質量に対して少なくとも50質量%の少なくとも1種のPAEKを含むPAEKをベースとする組成物におけるホスフェートの使用であって、組成物を厳密に組成物のガラス転移温度と融点の間の温度で少なくとも6時間の期間加熱する際に、組成物の色及び/又は平均分子量を安定化させるための使用に関する。
【0038】
本発明は、以下に続く本発明の非限定的実施形態の詳細な説明、及び下記の図に関してより明確に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明による、焼結によって三次元物品を層毎に構築する方法を実行するための装置を示す概略図である。
【
図2】窒素雰囲気下285℃で7日間加熱したPEKKベースの組成物の、「YI(D65)」とも示される黄色度指数(D65)の変動を、組成物中のホスフェートの様々な含有量(x軸)について示すグラフである。
【
図3】窒素雰囲気下285℃で7日間加熱した同じPEKKベースの組成物の粘度の変動を、組成物中のホスフェートの様々な含有量(x軸)について示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
定義
Tgと表記される「ガラス転移温度」という用語は、少なくとも部分的に非晶質のポリマーがゴム状からガラス状へと、又はその逆に変化する温度を示すものと理解され、NF ISO 11357規格、パート2に従い、20℃/分の加熱速度を用いて示差走査熱量測定(DSC)によって測定されるものである。本発明において、ガラス転移温度に言及する場合、より詳細には、別段の指示がない限り、この規格に規定される工程の中間点でのガラス転移温度である。本発明におけるPAEKをベースとする粉末は、DSC分析において場合により、特に数種のPAEKの存在に起因するいくつかのガラス転移段階を呈することがある。この場合、ガラス転移温度は、最高温度のガラス転移段階に対応するガラス転移温度を意味するものと理解される。
【0041】
Tmと表記される「融点」という用語は、少なくとも部分的に結晶質のポリマーが粘稠液の状態へと変化する温度を示すものと理解され、NF EN ISO 11357規格、パート3に従い、20℃/分の加熱速度で示差走査熱量測定(DSC)によって測定されるものである。本発明において、融点に言及する場合、より詳細には、別段の指示がない限り、この規格に規定されるピーク融点である。本発明におけるPAEKをベースとする粉末は、DSC分析において場合により、PAEKの様々な結晶形態の存在及び/又は数種の異なるPAEKの存在に起因するいくつかの溶融ピークを呈することがある。この場合、粉末の融点は、最高温度の溶融ピークに対応する融点を意味するものと理解される。
【0042】
「平均分子量」という用語は、ポリマーの高分子の重量平均分子量を示すものと理解される。
【0043】
「粘度」という用語は、ISO 307規格に従い、96wt%硫酸水溶液において、25℃の溶液で測定した粘度を示すものと理解される。
【0044】
「黄色度指数」又は「YI」という用語は、ASTM E313-96規格に従いD65を光源として測定した無色又は白色から黄色への色偏差を示すものと理解される。この指数は、Konica Minolta社CM-3610d分光光度計を使用して測定できる。
【0045】
「ポリマーブレンド」という用語は、巨視的に均質なポリマー組成物を示すことを意図している。この用語は、マイクロメートルスケールで分散した相互に混和しない相で構成されるような組成物も包含する。
【0046】
「コポリマー」という用語は、コモノマーと呼ばれる化学的に異なる少なくとも2種類のモノマーの重合によって得られるポリマーを示すことを意図している。したがって、コポリマーは、少なくとも2種の繰り返し単位から形成される。3種以上の繰り返し単位から形成することもできる。
【0047】
「安定化させる」という用語は、ポリマーがそのガラス転移温度と融点の間の温度で加熱された際に、ポリマーの物理化学的特性のいくつか、特に平均分子量、粘度又は色が限られた範囲内でのみ変化することを許容する事実を示すものと理解される。
【0048】
本特許出願において記載する範囲全てにおいて、特に断らない限り、境界値は含まれる。
【0049】
ポリアリールエーテルケトン
本発明による方法で使用される粉末のポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、下記式:
(-Ar-X-)及び(-Ar1-Y-)
(式中:
Ar及びAr1は、それぞれ2価の芳香族基を示し;
Ar及びAr1は、好ましくは1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、4,4'-ビフェニレン、1,4-ナフチレン、1,5-ナフチレン及び2,6-ナフチレンから選ばれてもよく;
Xは、電子吸引基を示し;好ましくはカルボニル基及びスルホニル基から選択されてもよく、
Yは、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、例えば-CH2-、及びイソプロピリデンから選ばれる基を示す)
の単位を含む。
【0050】
これらのX及びY単位において、X基の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より詳細には少なくとも80%がカルボニル基であり、Y基の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より詳細には少なくとも80%が酸素原子を表す。
【0051】
好ましい実施形態によると、X基の100%がカルボニル基を示し、Y基の100%が酸素原子を表す。
【0052】
より優先的には、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、以下:
- 特に式IAの単位(「I単位」としても公知である、例えばイソフタル単位)、若しくは式IBの単位(「T単位」とも呼ばれる、例えばテレフタル単位)、又はこれらの混合物を含む、PEKKとも呼ばれるポリエーテルケトンケトン:
【0053】
【0054】
- 式IIA、若しくは式IIB、若しくは式IIC、若しくは式IIDの単位、又はこれらの混合物を含む、PEEKとも呼ばれるポリエーテルエーテルケトン:
【0055】
【0056】
- 式IIIA、若しくは式IIIB、若しくは式IIICの単位、又はこれらの混合物を含む、PEKとも呼ばれるポリエーテルケトン:
【0057】
【0058】
- 特に式IVの単位を含む、PEEKKとも呼ばれるポリエーテルエーテルケトンケトン:
【0059】
【0060】
- 特に式Vの単位を含む、PEEEKとも呼ばれるポリエーテルエーテルエーテルケトン:
【0061】
【0062】
及び
- 特に式VIの単位を含む、PEDEKとも呼ばれるポリエーテルジフェニルエーテルケトン:
【0063】
【0064】
上記単位式において、フェニレン基のメタ又はパラ位におけるカルボニル基と酸素原子の他の配置構成は示されていないが、それも可能である。
【0065】
上記単位式において、ジフェニル基がフェニル基を置きかえる他の配置構成は示されていないが、それも可能である。ジフェニル基は、互いに連結した2つのフェニレン基からなり、各フェニレンが1,3又は1,4型であることが可能である。
【0066】
PAEKはまた、上述したような様々な単位を含むコポリマーであってもよい。PAEKは特に、PEEK-PEDEKコポリマーであってもよく、それは、特に式IIA及び/又は特に式IIB、IIC及びIIDを有するその異性体のPEEK単位と、特に式VI及び/又は特にジフェニル基が1,3又は1,4型のフェニレン基を含むその異性体のPEDEK単位とを含むものである。
【0067】
加えて、欠陥、末端基及び/又はモノマーが、それらの性能に悪影響を及ぼさない限り非常に少量で上記のようなポリマーに組み込まれていてもよい。
【0068】
本発明による方法に使用される粉末は、PAEKをベースとするものである。したがって、一般には、粉末の全質量に対して少なくとも50質量%の単一のPAEK、又はPAEKの混合物を含む。ある特定の実施形態において、粉末は、粉末の全質量に対して少なくとも75質量%、又は少なくとも80質量%、又は少なくとも85質量%、又は少なくとも90質量%、又は少なくとも92.5質量%、又は少なくとも95質量%、又は少なくとも97.5質量%、又は少なくとも98質量%、又は少なくとも98.5質量%、又は少なくとも99質量%、又は少なくとも99.5%のPAEKを含む。
【0069】
代替的な一実施形態によると、PAEKベースの粉末は、粉末中の唯一のPAEKとしての下記のポリマー、即ちPEEK、PEEKK、PEKEKK、PEEEK、PEDEK又はPEEK-PEDEKコポリマーのうちの1種をベースとする粉末であってもよい。
【0070】
別の代替例によると、PAEKベースの粉末は特に、粉末中のPAEKのファミリーの唯一の種類としてのPEKKをベースとする粉末であってもよい。ある特定の実施形態によると、PEKKは特に、様々なPEKKコポリマーの混合物であってもよい。特に、PEKKは、式IAの単位と式IBの単位の比が異なるPEKKコポリマーの混合物であってもよい。他の実施形態によると、PEKKは、単一の種類のPEKKコポリマーであってもよい。
【0071】
更に別の代替例によると、PAEKベースの粉末はまた、PAEKのファミリーからのポリマーの混合物をベースとする粉末であってもよい。したがって、粉末は特に、PEKKベースの粉末であって、PEKKに加えて、下記のポリマー、即ちPEK、PEEKEK、PEEK、PEEKK、PEKEKK、PEEEK、PEDEK、PEEK-PEDEKコポリマーのうちの少なくとも1種を含んでもよく、その含有量は、粉末の50質量%未満、好ましくは粉末の30質量%以下である。
【0072】
PEKKをベースとする粉末において、PEKKのT及びI単位の合計に対するT単位の質量比は、0%~5%;又は5%~10%;又は10%~15%;又は15%~20%;又は15%~20%;又は20%~25%;又は25%~30%;又は30%~35%;又は35%~40%;又は40%~45%;又は45%~50%;又は50%~55%;又は55%~60%;又は60%~65%;又は65%~70%;又は70%~75%;又は75%~80%;又は80%~85%;又は85%~90%;又は90%~95%;又は95%~100%の範囲であってもよい。
【0073】
35%~100%、とりわけ45%~85%、更により具体的には50%~80%の範囲が特に好適である。好ましくは、使用するPEKKは、T及びI単位の合計に対するT単位の質量比が、およそ60%である。
【0074】
T及びI単位の合計に対するT単位の質量比の選択は、PEKKの融点及び所定温度での結晶化速度の調節を可能にする要因の1つである。T及びI単位の合計に対するT単位の所定の質量比は、重合時の反応物質それぞれの濃度をそれ自体公知の方法で調節することによって得ることができる。
【0075】
PEEK-PEDEKコポリマーをベースとする粉末において、IIA及びVI単位の合計に対するIIA単位のモル比は、0%~5%;又は5%~10%;又は10%~15%;又は15%~20%;又は15%~20%;又は20%~25%;又は25%~30%;又は30%~35%;又は35%~40%;又は40%~45%;又は45%~50%;又は50%~55%;又は55%~60%;又は60%~65%;又は65%~70%;又は70%~75%;又は75%~80%;又は80%~85%;又は85%~90%;又は90%~95%;又は95%~100%の範囲であってもよい。
【0076】
35%~100%、とりわけ45%~85%、更により具体的には50%~80%の範囲が特に好適である。
【0077】
IIA及びVI単位の合計に対するIIA単位の質量比の選択は、PEEK-PEDEKコポリマーの融点及び所定温度での結晶化速度の調節を可能にする要因の1つである。
【0078】
ホスフェート
ホスフェートは、リン酸塩若しくはそのエステルの塩、又は塩の形態ではないリン酸エステルのいずれかである。ホスフェートは、共通して四面体の4個の酸素原子に囲まれたリン原子を有する。
【0079】
1又は複数種のホスフェートを、PAEKをベースとする粉末に組み込んでもよい。
【0080】
優先的には、ホスフェートは、塩である。これは特に、PAEKをベースとする粉末に水性形態で組み込むことができるという利点を有する。
【0081】
リン酸塩は、有利にはアンモニウムのリン酸塩、ナトリウムのリン酸塩、カルシウムのリン酸塩、亜鉛のリン酸塩、アルミニウムのリン酸塩、カリウムのリン酸塩、マグネシウムのリン酸塩、ジルコニウムのリン酸塩、バリウムのリン酸塩、リチウムのリン酸塩又は希土類元素の1種(以上)のリン酸塩から選ばれてもよい。
【0082】
ある特定の実施形態によると、リン酸塩は、1種(以上)の有機金属リン酸塩である。
【0083】
ある特定の実施形態によると、有機金属リン酸塩は、下記式:
【0084】
【0085】
(式中、Rは、R'と同一であるかR'とは異なり、R及びR'は、1~9個の炭素を有する1つ又は複数の基によって任意選択で置換されていてもよい1つ又は複数の芳香族基によって形成されており、R及びR'が、互いに結合するか、下記の基、即ち-CH2-;-C(CH3)2-;-C(CF3)2-;-SO2-;-S-、-CO-;及び-O-から選ばれる少なくとも1つの基によって分離されて結合していることが可能であって、Mは、周期表のIA又はIIA族からの元素を表す)
を有していてもよい。
【0086】
ある特定の実施形態によると、前記少なくとも1種のリン酸塩は、H2PO4
-の塩、HPO4
2-の塩、PO4
3-の塩、又はこれらの混合物である。
【0087】
混合物の中で、H2PO4
-の塩とHPO4
2-の塩の混合物、及びHPO4
2-の塩とPO4
3-の塩の混合物が特に好適である。これらの混合物の対イオンは、優先的にはナトリウムイオン、カリウムイオン又はカルシウムイオンであり、より好ましくは、ナトリウムイオンである。
【0088】
リン酸塩が1種のホスフェートのみを含む実施形態において、リン酸塩は、有利にはナトリウム、カリウム又はカルシウムのH2PO4
-塩である。好ましくは、リン酸塩は、リン酸一ナトリウムである。
【0089】
ホスフェート、又はホスフェートの混合物は、500ppm以上、又は750ppm以上、又は1000ppm以上、又は1500ppm以上、又は2000ppm以上、又は2500ppm以上の割合で粉末に組み込まれる。有利には、ホスフェート、又はホスフェートの混合物は、50000ppm以下、又は25000ppm以下、又は20000ppm以下の割合で粉末に組み込まれる。特に、ホスフェート、又はホスフェートの混合物は、1000ppmから5000ppmの間、又は5000ppmから10000ppmの間、又は10000ppmから15000ppmの間、又は15000ppmから20000ppmの間の割合で粉末に組み込むことができる。
【0090】
発明者らは、上記のようにホスフェート又はホスフェートの混合物を特に粉末形態のPAEKをベースとする組成物に添加すると、組成物を厳密に組成物のガラス転移温度と融点の間の温度で加熱する場合に、組成物の色の安定化に有利に使用できることを実証した。
【0091】
特に、組成物を窒素雰囲気下、その融点よりも約20℃低い温度で7日間加熱する場合、組成物の黄色度指数の変動が100%以下、又は90%以下、又は80%以下、又は70%以下、又は60%以下、又は50%以下、特に25%以下であれば、色の効果的な安定化が得られると考えられる。
【0092】
同様に、本発明者らは、組成物を厳密にそのガラス転移温度と融点の間の温度で加熱する場合、ホスフェート又はホスフェートの混合物を特に粉末形態のPAEKをベースとするこのような組成物に添加すると、ポリアリールエーテルケトンをベースとする組成物中のポリアリールエーテルケトン(PAEK)の粘度の安定化に有利に使用できることも実証した。
【0093】
組成物を窒素雰囲気下、その融点よりも約20℃低い温度で7日間加熱する場合、96wt%硫酸水溶液において、25℃の溶液で測定した組成物の粘度の変動が20%以下、又は15%以下、又は10%以下、特に5%以下、非常に特に-5%から+10%の間であれば、特に粘度の効果的な安定化が得られると考えられる。
【0094】
組成物のPAEKの特に色及び粘度を安定化させると、厳密にそのガラス転移温度と融点の間の温度で数時間加熱した後に、PAEKをベースとする粉末の色及び粘度の変動が小さくなることが保証される。したがって、色が均質で均一であり、均質で均一な機械的特性を有する物体を得ることができる。
【0095】
したがって、本発明者らは、少なくとも部分的にリサイクルされたものである、PAEKをベースとする粉末を使用する、電磁照射を用いた粉末焼結のための改善された方法を提案した。
【0096】
粉末
粉末は、少なくとも1種のPAEKと、少なくとも1種のホスフェートとを含む。
【0097】
粉末は、PAEKのファミリーに属さない1又は複数種の他のポリマー、特に他の熱可塑性ポリマーを更に含有してもよい。
【0098】
粉末はまた、親水性又は疎水性の流動剤を含んでもよい。ある特定の実施形態において、粉末は、0.01質量%~0.4質量%の流動剤、好ましくは0.01質量%~0.2質量%の流動剤、より好ましくは0.01質量%~0.1質量%の流動剤を含む。粉末は、例えば、0.01質量%~0.05質量%の流動剤、又は0.05質量%~0.1質量%の流動剤、又は0.1質量%~0.2質量%の流動剤、又は0.2質量%~0.3質量%の流動剤、又は0.3質量%~0.4質量%の流動剤を含んでもよい。
【0099】
粉末は、ホスフェートではない添加剤及び/又はフィラーを更に含んでもよい。
【0100】
フィラーの中では、補強用フィラー、とりわけ無機フィラー、例えばカーボンブラック、カーボン又は非カーボンナノチューブ、及び繊維(ガラス、炭素等)が挙げられ、これらは、粉砕されていてもされていなくてもよい。したがって、PEKK粉末は、粉末の全質量に対して50質量%未満のフィラー、好ましくは40質量%未満のフィラーを含んでもよい。
【0101】
添加剤の中では、安定剤(光、特にUV、及び熱安定剤)、蛍光増白剤、染料、顔料、及びエネルギー吸収添加剤(UV吸収剤を含む)、又はこれらのフィラー若しくは添加剤の組み合わせを挙げることができる。
【0102】
したがって、粉末は、5質量%未満の添加剤、好ましくは1質量%未満の添加剤を含んでもよい。
【0103】
本発明による粉末は、任意の公知の方法によって調製することができ、PAEKをベースとする組成物を含有し、少なくとも1種のホスフェートと、場合により他の添加剤、フィラー、又は他のポリマーを含む均質な混合物を得ることが可能である。こうした方法は、乾式ブレンディング(例えば、ロールミルを使用)、溶融押出、配合、又は他の湿式含浸若しくはポリマーの合成過程中の含浸といった技法から選ばれてもよい。
【0104】
優先的には、粉末は、PAEKをベースとするホスフェートを含まない組成物と、前記少なくとも1種のホスフェートとを乾式ブレンディングの技法、又は湿式含浸の技法によって調製される。これらの2つの方法は、組成物を、融点を超える温度に加熱しないという利点を有する。より好ましくは、粉末は、湿式含浸技法によって得られ、これは一般に、乾式ブレンディング技法よりも良好な分散が可能である。
【0105】
粉末は、電磁照射を用いた焼結に好適である。この種の粉末は一般に、レーザー回折、例えばMalvern社製回折計で測定すると、中央径「d50」が体積基準で厳密に100μm未満となるような粒径分布を有する。「d50」は、体積基準での累積粒径分布関数が50%に等しくなるような粒子径値を表す。優先的には、粉末は、d10>15μm、50<d50<80μm、及び120<d90<180μmの粒径分布を有する。「d10」及び「d90」はそれぞれ、累積関数が10%及び90%に等しくなるような直径に対応する。こうした粉末を得ることを可能にする粉砕方法は、それ自体公知である。特に有利な一方法が、出願公開第EP2776224号に記載されている。
【0106】
粉末は、330℃未満、好ましくは320℃以下、より好ましくは310℃以下の融点を有してもよい。
【0107】
ある特定の実施形態において、電磁照射によって引き起こされる焼結により三次元物品を層毎に構築する方法での使用が意図されている粉末は、最初の使用前に、等温熱処理に供してもよい。この場合、熱処理は、粉末の融点よりも低い温度で行われ、焼結品質に悪影響を与える可能性のあるPAEKのいくつかの結晶形態(異なる融点を有する)が共存する場合に有用となり得る。ただし、このような熱処理の持続時間は、典型的には6時間未満である。一般には4時間以下、優先的には2時間以下である。
【0108】
PAEKをベースとする粉末がPEKKをベースとする粉末であり、特に唯一のPAEKとしてのPEKKをベースとする粉末である変形形態によると、事前の等温熱処理は、260℃~290℃、好ましくは280℃~290℃の温度で行うことができる。焼結工程前の等温熱処理は、安定した結晶モルフォロジーの粉末、即ち、構築温度まで溶融する粉末を得ることを可能にする。等温熱処理の持続時間は、典型的には6時間未満である。一般には4時間以下、優先的には2時間以下である。
【0109】
ある特定の実施形態において、粉末は、コアの融点がシェルの融点よりも高いコアシェル構造を有してもよい。これらの実施形態において、コアの組成物及びシェルの組成物はそれぞれ、PAEKをベースとするものであり、それぞれ少なくとも1種のホスフェートを含有する。
【0110】
焼結方法
上記のようなPAEKをベースとする粉末は、例えば
図1に概略的に示すような装置1において、電磁照射によって引き起こされる焼結により三次元物品を層毎に構築する方法に使用される。粉末は、以下に説明するように、リサイクル粉末と、場合により未使用粉末からなる。
【0111】
電磁照射は、例えば、赤外線照射、紫外線照射、又は好ましくは、レーザー照射であってもよい。特に、
図1に概略的に示すような装置1では、電磁照射は、赤外線照射100とレーザー照射200の組み合わせを含んでもよい。
【0112】
焼結方法は、三次元物品80を構築するための層毎に製造する方法である。
【0113】
装置1は、PAEKをベースとする粉末を含有する供給タンク40が配置された焼結チャンバー10、構築時に三次元物品80を支持するための水平プレート30、及びレーザー20を備える。
【0114】
この方法によると、供給タンク40から粉末を取り出し、水平プレート30上に堆積させ、構築中の三次元物品80を構成する粉末の薄層50を形成する。所定の構築温度Tcに等しい実質的に均一な温度に到達させるため、構築中の粉末層50を赤外線照射100によって加熱する。
【0115】
構築温度Tcは、粉末の融点Tmより低くてもよく、その差は50℃未満、好ましくは40℃未満、より好ましくは30℃未満、より好ましくは約20℃である。Tcは、有利にはTmより低く、その差は10℃を超える。
【0116】
或いは、Tcは、粉末のガラス転移温度より高くてもよく、その差は70℃未満、好ましくは60℃未満、より好ましくは50℃未満、好ましくは40℃未満、より好ましくは約30℃である。Tcは、有利にはTgより高く、その差は20℃を超える。
【0117】
次いで、粉末層50内の様々な地点で粉末粒子を焼結するのに必要なエネルギーが、平面(xy)内を移動可能なレーザー20からのレーザー照射200により、物体の形状に対応する形状で供給される。溶融した粉末は再固化して焼結済部55を形成し、一方、層50の残部は、未焼結粉末56の形態で残る。ある特定の場合には、数回のレーザー照射200が必要なこともある。
【0118】
次に、水平プレート30を軸(z)に沿って粉末の1層の厚さに対応する距離だけ下げ、新たな層を堆積させる。レーザー20による、物体のこの新しい一片に対応する形状の粉末粒子を焼結するのに必要なエネルギーの供給等が行われる。物体80全体が製造されるまでこの手順が繰り返される。
【0119】
構築中の層より下の層の焼結チャンバー10内の温度は、構築温度より低くてもよい。しかし、この温度は一般に、粉末のガラス転移温度を上回ったままである。チャンバーの底部の温度が「タンク底温度」と呼ばれる温度Tbに維持され、TbがTcよりも低く、その差が40℃未満、好ましくは25℃未満、より好ましくは10℃未満となるようにすることが特に有利である。したがって、粉末焼結による三次元物品80の構築が終了した時点で、焼結されなかった粉末部分56は、構築期間中に、可変であるが、厳密に粉末のガラス転移温度と融点の間の温度で数時間のオーダー、平均で少なくとも6時間のオーダーの熱処理に供される。
【0120】
物体80が完成すると、水平プレート30から取り外され、未焼結粉末56は、篩にかけた後に、少なくとも部分的に供給タンク40に戻されてリサイクル粉末として利用することができる。
【0121】
「未使用粉末」という用語は、上記のような焼結方法で初めて使用するのに適した粉末を意味するものと理解される。
【0122】
これに対し、「リサイクル粉末」は、未使用粉末と同じ初期組成であり、特に焼結による前の構築時に熱処理を受けた粉末である。したがって、「リサイクル粉末」は、ここでは、同じ組成の粉末、特に未使用粉末を厳密に粉末のガラス転移温度Tgと融点Tmの間の一定又は一定ではない温度で少なくとも6時間の期間にわたり連続又は非連続的加熱することによって得ることができる粉末であると定義される。
【0123】
粉末がコアシェル構造を有する特定の実施形態において、粉末のガラス転移温度Tg及び融点Tmは、本発明の意味の範囲内では、それぞれシェルのガラス転移温度及び融点であると理解しなければならない。
【0124】
リサイクル粉末は、電磁照射を用いた粉末焼結による少なくとも一つ前の三次元物品の層毎の構築からの粉末のリサイクルに由来するものであってもよい。
【0125】
粉末は、有利には、少なくとも2回、又は少なくとも3回、又は少なくとも5回、又は少なくとも10回、又は少なくとも25回、又は少なくとも50回、又は少なくとも100回リサイクルすることができる。
【0126】
リサイクル粉末は、そのまま使用してもよく、或いは他のリサイクル粉末又は未使用粉末との混合物として使用してもよい。
【0127】
有利には、本発明の焼結方法に使用される粉末は、粉末の全質量に対して少なくとも30%、優先的には少なくとも40%、非常に優先的には少なくとも50%のリサイクル粉末を含む。
【0128】
換言すれば、nが1以上の整数である場合に、所与の構築nに関する「n回リサイクルされた」粉末は、完了した前の構築(n-1)に由来する可能性のある粉末である。
【0129】
n=1である場合、構築1における「1回リサイクルされた」粉末は、構築0で最初に使用されただけの未使用粉末のリサイクルに由来する可能性がある。
【0130】
n=2である場合、構築2における「2回リサイクルされた」粉末は、構築1で使用された、最初の1回リサイクルされただけの粉末、又は1回リサイクルされた粉末と未使用粉末との初期混合物のリサイクルに由来する可能性がある。
【0131】
一般に、2以上のnの場合、構築nにおいて「n回リサイクルされた」粉末は、構築(n-1)で使用された、最初の(n-1)回リサイクルされただけの粉末、又は(n-1)回リサイクルされた粉末と未使用粉末との初期混合物のリサイクルに由来する可能性がある。
【0132】
したがって、「n回」リサイクルされた粉末は、少なくとも部分的に、連続する構築0、…、(n-1)に対応する加熱を受けている。更に、「n回」リサイクルされた粉末は、全体として、少なくとも構築(n-1)の加熱を受けている。
【0133】
リサイクル粉末を使用する本発明による方法は、使用される構築温度を、未使用粉末のみを使用する方法と実質的に同じにできるという利点を有する。
【実施例】
【0134】
下記の実施例の目的は、PAEKをベースとする組成物にホスフェートを添加することが、組成物を厳密にそのガラス転移温度と融点の間の温度で加熱する際に、組成物の安定性に及ぼす影響を実証することである。本発明の範囲は、単にこの例を示すだけで縮小されるものではない。
【0135】
Kepstan(登録商標)PEKK 6000、PLグレードとリン酸一ナトリウム塩とを様々な割合で含むいくつかの組成物を調製した。
【0136】
Kepstan(登録商標)PEKK 6000は、Arkema社が販売するポリエーテルケトンケトンである。T及びI単位の合計に対するT単位の質量比は、60%である。融点は300℃から305℃の間である。ガラス転移温度は、160℃に等しい。使用したグレードは、d50が50μmであり、285℃で4時間の事前等温熱処理を受けた粉末である。初期粘度は0.98dL/gである。
【0137】
リン酸一ナトリウム水溶液中での湿式含浸と、その後の粉末の乾燥によって、Kepstan(登録商標)PEKK 6000粉末にホスフェートを含浸させた。
【0138】
ホスフェートを含まない対照粉末と、リン酸一ナトリウム塩をそれぞれ385ppm、775ppm、1550ppm及び2500ppmを含む4種の粉末を調製した。粉末を窒素下285℃で7日間、媒質中に入れておいた。それらの黄色度指数と粘度をt=0及びt=7日の時点で測定した。
【0139】
図2に示すように、リン酸一ナトリウムを添加すると、7日後の黄色度指数の上昇が緩和された(それぞれ775ppm、1550ppm及び2500ppmのホスフェートを含む粉末の場合の+100%未満の変動と比較して、対照粉末の黄色度指数は、+150%の変動であった)。
【0140】
図3に示すように、リン酸一ナトリウムを添加すると、7日後の粘度の上昇が制限された(それぞれ1550ppm及び2500ppmのホスフェートを含む粉末の場合の+15%未満の変動と比較して、対照粉末の粘度は+20%の変動であった)。
【符号の説明】
【0141】
1 装置
10 焼結チャンバー
20 レーザー
30 水平プレート
40 供給タンク
50 粉末層
55 焼結済部
56 未焼結粉末
80 三次元物品
100 赤外線照射
200 レーザー照射
【国際調査報告】