(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-12
(54)【発明の名称】切替可能な広帯域波長板
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20220502BHJP
G02F 1/141 20060101ALI20220502BHJP
G02F 1/1347 20060101ALI20220502BHJP
G02F 1/13363 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/141
G02F1/1347
G02F1/13363
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021541044
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(85)【翻訳文提出日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 US2020024411
(87)【国際公開番号】W WO2020198199
(87)【国際公開日】2020-10-01
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515046968
【氏名又は名称】フェイスブック・テクノロジーズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】FACEBOOK TECHNOLOGIES, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110002974
【氏名又は名称】特許業務法人World IP
(72)【発明者】
【氏名】ゴーリエ, ジャック
(72)【発明者】
【氏名】ルー, ルー
(72)【発明者】
【氏名】ペン, フェンリン
【テーマコード(参考)】
2H088
2H189
2H291
【Fターム(参考)】
2H088EA10
2H088EA42
2H088EA47
2H088GA04
2H088JA18
2H088KA06
2H088MA10
2H189AA22
2H189AA24
2H189AA32
2H189JA19
2H189LA16
2H189LA18
2H189MA15
2H291FA30X
2H291FA30Y
2H291FA30Z
2H291FB05
2H291HA20
2H291KA05
2H291LA40
2H291PA42
2H291PA44
2H291PA83
2H291PA87
(57)【要約】
光学波長板が提供される。光学波長板は、共に重ね合わされた複数の液晶(「LC」)層を含む。複数のLC層のうちの少なくとも1つは、種々の位相遅延の状態間で光学波長板を切り替えるように外部場によって面内切替可能であるLC分子を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共に重ね合わされた複数の液晶(「LC」)層
を備える光学波長板であって、
前記複数のLC層のうちの少なくとも1つは、種々の位相遅延の状態間で前記光学波長板を切り替えるように外部場によって面内切替可能であるLC分子を含む、光学波長板。
【請求項2】
前記LC分子の方位角は、前記外部場によって前記LC分子の面内切替を介して切替可能である、請求項1に記載の光学波長板。
【請求項3】
前記複数のLC層のうちの前記少なくとも1つは、前記外部場によって面内切替可能であるFLC分子を含む強誘電性液晶(「FLC」)層である、請求項1に記載の光学波長板。
【請求項4】
前記FLC層の有効屈折率楕円体の方位角は、前記外部場によって前記FLC分子の面内切替を介して切替可能である、請求項3に記載の光学波長板。
【請求項5】
前記FLC層は、電気的に抑制されたヘリックス強誘電性液晶(「ESHFLC」)モードの下で動作可能である、請求項3に記載の光学波長板。
【請求項6】
前記FLC層は、前記外部場を前記FLC層に加えるように構成された2つの電極間に挟まれている、請求項3に記載の光学波長板。
【請求項7】
前記複数のLC層のうちの少なくとも1つは、能動LC層である、請求項1に記載の光学波長板。
【請求項8】
前記複数のLC層のうちの少なくとも1つは、前記外部場によって面内切替可能であるFLC分子を含む能動FLC層であり、前記能動FLC層は、前記外部場を前記FLC層に加える2つの電極間に挟まれている、請求項1に記載の光学波長板。
【請求項9】
前記複数のLC層のうちの少なくとも1つは、一定の位相遅延を与えるように構成された不動態層を含む、請求項1に記載の光学波長板。
【請求項10】
前記不動態層は、液晶ポリマー層を含む、請求項9に記載の光学波長板。
【請求項11】
前記複数のLC層は、順次重ね合わされた4つのFLC層を含み、
前記4つのFLC層は、前記光学波長板のほぼゼロの位相遅延の状態について、|Ψ1-Ψ2|=90°および|Ψ3-Ψ4|=90°を満たし、
Ψ1、Ψ2、Ψ3、およびΨ4はそれぞれ、それぞれの前記FLC層の有効屈折率楕円体の方位角を表す、
請求項1に記載の光学波長板。
【請求項12】
前記複数のLC層の2つ以上は、前記種々の位相遅延の状態間で前記光学波長板を切り替えるように前記外部場によって面内切替可能であるLC分子を含む、請求項1に記載の光学波長板。
【請求項13】
前記複数のLC層のうちの前記少なくとも1つにおける前記LC分子の方位角、および前記複数のLC層のうちの前記少なくとも1つの厚さは、前記複数のLC層が、波長の範囲および入射角の範囲にわたって実質的に独立した波長である位相遅延の量を与えるように構成されている、請求項1に記載の光学波長板。
【請求項14】
前記複数のLC層の各々のLC分子の方位角、および前記複数のLC層の各々の厚さは、前記複数のLC層が、波長の範囲および入射角の範囲にわたって実質的に独立した波長である位相遅延の量を与えるように構成されている、請求項1に記載の光学波長板。
【請求項15】
光学レンズと、
前記光学レンズに結合された光学波長板と
を備える光学レンズ組立体であって、
光学波長板は、
共に重ね合わされた複数の液晶(「LC」)層を含み、
前記複数のLC層のうちの少なくとも1つは、種々の位相遅延の状態間で前記光学波長板を切り替えるように外部場によって面内切替可能であるLC分子を含む、光学レンズ組立体。
【請求項16】
前記LC分子の方位角は、前記外部場によって前記LC分子の面内切替を介して切替可能である、請求項15に記載の光学レンズ組立体。
【請求項17】
前記複数のLC層のうちの前記少なくとも1つは、前記外部場によって面内切替可能であるFLC分子を含む強誘電性液晶(「FLC」)層である、請求項15に記載の光学レンズ組立体。
【請求項18】
前記FLC層の有効屈折率楕円体の方位角は、前記外部場によって前記FLC分子の面内切替を介して切替可能である、請求項17に記載の光学レンズ組立体。
【請求項19】
前記FLC層は、電気的に抑制されたヘリックス強誘電性液晶(「ESHFLC」)モードの下で動作可能である、請求項17に記載の光学レンズ組立体。
【請求項20】
前記光学レンズは、パンチャラトナム・ベリー位相(「PBP」)液晶(「LC」)レンズである、請求項15に記載の光学レンズ組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年3月27日に出願した米国出願第62/824,971号、および2020年3月19日に出願した米国出願第16/824,641号の優先権を主張する。米国出願第62/824,971号および米国出願第16/824,641号の内容全体は、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、光デバイスに関し、より詳細には、切替可能な広帯域波長板に関する。
【背景技術】
【0003】
波長板は、偏光制御のための多くの機器および光学系に実装されてきた。波長板は、直交成分に対して偏光の成分(または、偏光成分)を遅延させる(または遅らせる)ことによって偏光を制御する。遅延は、高速軸に沿って投射される偏光成分と低速軸に沿って投射される直交成分との間の位相シフトである(したがって、「遅延」は、「位相遅延」とも呼ばれ得る)。調節可能な複屈折材料、例えば、液晶(「LC」)波長板を利用する波長板は、遅延を非機械的に調節するという利点を有する。ポーラリメトリックイメージングシステムの場合、LC波長板は、可視(「VIS」)領域から近赤外(「NIR」)領域までの範囲の波長などを対象に含む広帯域性能、大きい受光角(すなわち、大きい入射角)、低残留遅延、高速応答、および種々の状態間、例えば、ほぼゼロ遅延と非ゼロ遅延の値(例えば、半波長遅延、1/4波長遅延)の間で切り替えられる能力を有することが非常に望ましい。
【0004】
ネマティックLC分子の傾斜角を操作することによって遅延が調整されるネマティックLCに基づくLC波長板は、上述した特徴を同時に実現することができない。例えば、ネマティックLC波長板の応答時間は、ミリ秒(「ms」)のオーダーであり、残留遅延は、ネマティックLC分子が外部電場に沿って完全には向きが変えられない可能性があるため大きい。強誘電性液晶(「FLC」)は、典型的には100マイクロ秒(「μs」)未満である高速スイッチング、優れた視野角、および固有の面内切替挙動による低残留遅延をもたらし得る。したがって、FLCは、強化された切替可能LC波長板のための解決策を提供することができる。
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様は、光学波長板を提供する。光学波長板は、共に重ね合わされた複数の液晶(「LC」)層を含む。複数のLC層のうちの少なくとも1つは、種々の位相遅延の状態間で光学波長板を切り替えるように外部場によって面内切替可能であるLC分子を含む。
【0006】
本開示の別の態様は、光学レンズ組立体を提供する。光学レンズ組立体は、光学レンズと、光学レンズに結合された光学波長板とを含む。光学波長板は、共に重ね合わされた複数の液晶(「LC」)層を含む。複数のLC層のうちの少なくとも1つは、種々の位相遅延の状態間で光学波長板を切り替えるように外部場によって面内切替可能であるLC分子を含む。
【0007】
本開示の他の態様は、本開示の明細書、特許請求の範囲、および図面に鑑みて、当業者により理解され得る。前述の一般的な説明、および以下の詳細な説明は例示的および説明的なものにすぎず、特許請求の範囲の限定ではない。
【0008】
以下の図面は、様々な開示された実施形態に従って例示のために与えられ、本開示の範囲を限定するものではない。図面は、以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態による光学波長板の概略断面図である。
【
図2】本開示の一実施形態による強誘電性液晶(「FLC」)セルの概略断面図である。
【
図3】本開示の一実施形態によるFLC分子の概略図である。
【
図4A-4C】本開示の一実施形態によるFLCセルの有効屈折率楕円体である。
【
図5A】本開示の一実施形態による第1の状態における光学波長板の概略図である。
【
図5B】本開示の一実施形態による第2の状態における光学波長板の概略図である。
【
図6】
図5Aに示された光学波長板の広帯域および大きい受光角性能を示すシミュレーション結果を示す図である。
【
図7】
図5Aに示された光学波長板の広帯域および大きい受光角性能を示すシミュレーション結果を示す図である。
【
図8】
図5Bに示された光学波長板の広帯域および大きい受光角性能に関するシミュレーション結果である。
【
図9】
図5Bに示された光学波長板の広帯域および大きい受光角性能に関するシミュレーション結果である。
【
図10A】本開示の一実施形態によるニアアイディスプレイ(「NED」)の概略図である。
【
図10C】本開示の一実施形態による可変焦点ブロック概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示と一致する実施形態は、添付図面を参照して説明され、これは例示の目的のための例にすぎず、本開示の範囲を限定するものではない。可能な限り、同じ参照番号が、同じまたは類似する部分を指すために図面全体を通して使用され、その詳細な説明は省略され得る。
【0011】
さらに、本開示では、開示された実施形態、および開示された実施形態の特徴は、組み合わされてもよい。説明される実施形態は一部であり、本開示の実施形態の全部ではない。開示された実施形態に基づいて、当業者は、本開示と一致する他の実施形態を引き出すことができる。例えば、開示された実施形態に基づいて、修正、適合、置換、付加、または他の変形がなされてもよい。開示された実施形態のそのような変形は、それでも本開示の範囲内にある。したがって、本開示は、開示された実施形態に限定されない。代わりに、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定められる。
【0012】
本明細書中で使用されるとき、用語「結合する」、「結合される」、「結合」などは、光学的結合、機械的結合、電気的結合、電磁的結合、またはそれらの組合せを包含し得る。2つの光学要素間の「光学的結合」は、2つの光学要素が光学的直列で配置され、一方の光学要素から出力される光が、他方の光学要素によって直接または間接的に受け取られ得る構成を指す。光学的直列は、一方の光学要素から出力される光が、他方の光学要素の1つまたは複数によって透過、反射、回折、変換、修正、または他の方法で処理もしくは操作され得るように光経路内に複数の光学要素を光学的に配置することを指す。いくつかの実施形態では、複数の光学要素が配置される順序は、複数の光学要素の全出力に影響を及ぼす場合もまたは影響を及ぼさない場合もある。結合は、直接結合であってもよく、または間接結合(例えば、中間要素を介した結合)であってもよい。
【0013】
語句「AまたはBのうちの少なくとも1つ」は、AおよびBの全ての組合せ、例えば、Aのみ、Bのみ、またはAおよびBを包含することができる。同様に、語句「A、B、またはCのうちの少なくとも1つ」は、A、B、およびCの全ての組合せ、例えば、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AおよびB、AおよびC、BおよびC、またはAおよびBおよびCを包含することができる。語句「A、および/またはB」は、語句「AまたはBのうちの少なくとも1つ」のものと同様に解釈することができる。例えば、語句「Aおよび/またはB」は、AおよびBの全ての組合せ、例えば、Aのみ、Bのみ、またはAおよびBを包含することができる。同様に、語句「A、B、および/またはC」は、語句「A、B、またはCのうちの少なくとも1つ」の意味と同様の意味を有する。例えば、語句「A、B、および/またはC」は、A、B、およびCの全ての組合せ、例えば、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AおよびB、AおよびC、BおよびC、またはAおよびBおよびCを包含することができる。
【0014】
第1の要素が、第2の要素へ、第2の要素上に、第2の要素に、または第2の要素中に少なくとも部分的に「取り付けられる」、「設けられる」、「形成される」、「貼られる」、「装着される」、「固定される」、「接続される」、「接合される」、「記録される」、または「配設される」と説明されるとき、第1の要素は、任意の適切な機械的または非機械的なやり方、例えば、堆積、被覆、エッチング、ボンディング、接着、ねじ留め、圧入、スナップフィット、締め付けなどを用いて、第2の要素へ、第2の要素上に、第2の要素に、または第2の要素中に少なくとも部分的に「取り付けられる」、「設けられる」、「形成される」、「貼られる」、「装着される」、「固定される」、「接続される」、「接合される」、「記録される」、または「配設される」ことができる。加えて、第1の要素は、第2の要素と直接接触されてもよく、または第1の要素と第2の要素の間の中間要素があってもよい。第1の要素は、第2の要素の任意の適切な側、例えば、左、右、前、後、上、または下などに配設されてもよい。
【0015】
第1の要素が第2の要素「上に」配設または配置されると図示または説明されるとき、用語「上に」は、第1の要素と第2の要素の間の相対的向きの一例を指し示すために使用されるのにすぎない。説明は、図に示された基準座標系に基づくことができ、または図に示された現在の眺めまたは例示の構成に基づくことができる。例えば、図に示された眺めが説明されるとき、第1の要素は、第2の要素「上に」配設されると説明されてもよい。用語「上に」は、第1の要素が垂直の重力方向に第2の要素の真上にあることを必ずしも示唆しない場合があることが理解される。例えば、第1の要素および第2の要素の組立体が180度ひっくり返されるとき、第1の要素は、第2の要素の「下に」あることができる(または、第2の要素は、第1の要素の「上に」あることができる)。したがって、第1の要素が第2の要素「上に」あることを図が示すとき、この構成は単に例示的な例であることが理解される。第1の要素は、第2の要素に対して任意の適切な向きに(例えば、第2の要素の真上または上方、第2の要素の下方または下、第2の要素の左、第2の要素の右、第2の要素の背後、第2の要素の前方などに)配設または配置され得る。
【0016】
本明細書中で使用される用語「プロセッサ」は、任意の適切なプロセッサ、例えば、中央処理装置(「CPU」)、グラフィックスプロセッシングユニット(「GPU」)、特定用途向け集積回路(「ASIC」)、プログラマブルロジックデバイス(「PLD」)、またはそれらの組合せを包含し得る。上に列挙されていない他のプロセッサも、使用することができる。プロセッサは、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェア、またはそれらの組合せとして実装されてもよい。
【0017】
用語「コントローラ」は、デバイス、回路、光学要素などを制御するための制御信号を生成するように構成される任意の適切な電気回路、ソフトウェア、またはプロセッサを包含し得る。「コントローラ」は、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェア、またはそれらの組合せとして実装することができる。例えば、コントローラは、プロセッサを含むことができ、またはプロセッサの一部として含まれてもよい。
【0018】
用語「非一時的な コンピュータ可読媒体」は、データ、信号、または情報を記憶する、転送する、通信する、配信する、または伝送するための任意の適切な媒体を包含し得る。例えば、非一時的なコンピュータ可読媒体は、メモリ、ハードディスク、磁気ディスク、光ディスク、テープなどを含み得る。メモリは、リードオンリメモリ(「ROM」)、ランダムアクセスメモリ(「ROM」)、フラッシュメモリなどを含み得る。
【0019】
本開示は、可視(「VIS」)領域から近赤外(「NIR」)領域までの範囲の波長などを対象に含む広帯域性能、大きい受光角(例えば、大きい入射角)、低残留遅延、高速応答、および種々の状態間、例えば、ほぼゼロ遅延(または同等の全波長遅延、例えば、1全波長遅延、2全波長遅延など)とゼロでない分数波長の遅延(例えば、半波長遅延、1/4波長遅延)との間で切り替えられる能力を有する光学波長板を提供する。光学波長板は、共に重ね合わされた複数の液晶(「LC」)層を含む。複数のLC層のうちの少なくとも1つは、種々の遅延の状態間で光学波長板を切り替えるために外部場(例えば、電圧などの電場)によって面内切替可能であるLC分子を含むことができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、光学波長板がゼロでない分数波長位相遅延を与えるとき、複数のLC層は、波長の範囲および入射角の範囲にわたって広帯域光(例えば、多色光)の偏光を回転させるように構成され得る。複数のLC層のうちの1つまたは複数におけるLC分子の方位角、および/あるいは複数のLC層のうちの1つまたは複数の厚さは、広帯域光が複数のLC層の各々を連続的に通過し、複数のLC層によって引き起こされる位相遅延の量が波長の範囲および入射角の範囲にわたって実質的に独立した波長であり得るように構成され得る。いくつかの実施形態では、広帯域光内の光の全帯域についての偏光の累積回転により、第1の偏光が第1の偏光とは異なる第2の偏光へ変換される結果となり得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、光学波長板がほぼゼロ遅延(または同等の全波長遅延、例えば、1全波長遅延、2全波長遅延など)を提供するときに、複数のLC層は、波長の範囲および入射角の範囲にわたって広帯域光(例えば、多色光)の偏光を実質的に維持するように構成され得る。いくつかの実施形態では、複数のLC層の相対的向きも、構成され得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、光学波長板は、各FLCセルがFLC層を含む共に重ね合わされた複数の強誘電性液晶(「FLC」)セルを含むことができる。FLC層のうちの少なくとも1つは、外部電場を受けたときに面内切替可能であるように構成されたFLC分子を含むことができる。面内切替によって、FLC層の有効屈折率楕円体の方位角は、構成され得る。それによって種々の遅延の状態間で光学波長板を切り替える。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのFLC層は、FLCの光軸の向きを面内切替することによって種々の遅延の状態間で光学波長板を切り替えるように方位角を構成するよう、外部電場によって制御可能であり得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、光学波長板がゼロでない分数波長位相遅延を提供するとき、複数のFLC層は、波長の範囲および入射角の範囲にわたって広帯域光(例えば、多色光)の偏光を回転させるように構成され得る。いくつかの実施形態では、複数のFLC層のうちの1つまたは複数の有効屈折率楕円体の方位角、および/あるいは複数のFLC層のうちの1つまたは複数の厚さは、広帯域光が複数のFLC層の各々を連続的に通過し、複数のFLC層によって引き起こされる位相遅延の量は、波長の範囲および入射角の範囲にわたって実質的に独立した波長であり得るように構成され得る。広帯域光内の光の全帯域についての偏光の累積回転により、第1の偏光が第1の偏光とは異なる第2の偏光へ変換される結果となり得る。いくつかの実施形態では、光学波長板がほぼゼロ遅延(または同等の全波長遅延、例えば、1全波長遅延、2全波長遅延など)を提供するとき、複数のFLC層は、波長の範囲および入射角の範囲にわたって広帯域光(例えば、多色光)の偏光を実質的に維持するように構成され得る。いくつかの実施形態では、複数のFLC層の相対的向きも、構成され得る。
【0024】
図1は、本開示の一実施形態による光学波長板100の概略図である。光学波長板100は、共に重ね合わされた複数のセルを含むことができる。例示的な目的のために、
図1は、光学波長板100が4つのセル101、102、103、および104を含むことを示す。光学波長板100は、任意の適切な個数(例えば、2つ、3つ、5つ、6つなど)のセルを含むことができる。セル101、102、103、または104のうちの少なくとも1つ(例えば、それぞれ)は、個々のリターダとして機能することができ、互いに対向して配置された2つの基板と、2つの基板間に配設された複屈折媒体層とを含むことができる。いくつかの実施形態では、複屈折媒体層は、少なくともFLC層、すなわち、FLCの層を含むことができる。いくつかの実施形態では、セル101、102、103、または104のうちの少なくとも1つ(例えば、それぞれ)は、FLCの光軸を面内切替することによってFLC層の有効屈折率楕円体の方位角を構成するように外部電場(例えば、外部電圧)によって独立して制御することができ、これによって、FLC層の電気的に誘導された二軸性(例えば、面内複屈折)の切替が構成され得る。FLCの光軸を面内切替することによってFLC層の有効屈折率楕円体の方位角を構成することの詳細は、
図2~
図4Cを参照して以下に説明される。
【0025】
本開示では、セル(例えば、セル101、102、103、または104のうちの1つ)内のFLCの電気的に誘導された二軸性(例えば、面内複屈折)、およびセルの厚さを構成することによって、セルは、様々な遅延、例えば、λ/4 遅延、λ/2 遅延、またはλ遅延を与えるように構成することができ、ただし、λは光学波長板100の入射光の波長を表す。いくつかの実施形態では、あるセルについて、セルに含まれるFLC層の有効屈折率楕円体の方位角を構成することによって様々な遅延が実現され得る。したがって、共に重ね合わされた複数のセル101、102、103、および104を含む光学波長板100については、遅延の様々な組合せが、種々の電場を種々のセルに加えることによって実現され得る。例えば、少なくとも2つセルへ加えられる少なくとも2つ電場は、異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、全てのセルに加えられる電場は、異なっていてもよい。セル101、102、103、および104によって与えられる遅延の種々の組合せは、光学波長板100の種々の遅延という結果になり得る。いくつかの実施形態では、遅延の種々の組合せは、セル101、102、103、および104のうちの1つまたは複数へ加えられる1つまたは複数の電場を調整することによって組合せごとに切り替えることができる。結果として、光学波長板100は、種々の遅延値を有する種々の状態間で切替可能であり得る。状態ごとに、光学波長板100は、光学波長板100に含まれるセル101、102、103、および104によって与えられる遅延の合計であり得る遅延に関連し得る。例えば、光学波長板100の状態は、ほぼゼロ遅延状態、半波長板遅延状態、1/4波長板遅延状態、1波長板遅延状態などを含むことができる。いくつかの実施形態では、光学波長板100は、ゼロオーダー波長板であり得る。いくつかの実施形態では、光学波長板100は、マルチオーダー波長板であり得る。
【0026】
FLCの光軸の面内切替は、高速スイッチング速度、優れた視野角特性、および低残留遅延を伴う光学波長板100を与えることができる。さらに、FLCの遅延の分散が外部電場に依存し得る(例えば、電圧依存性であり得る)とき、セル101、102、103、または104のうちの少なくとも1つに加えられた電場(例えば、電圧)を調整することにより光学波長板100に含まれるセル101、102、103、または104のうちの少なくとも1つの遅延の分散を調節することによって光学波長板100の波長依存性は、広帯域光学波長板として動作するように補償され得る。
【0027】
図2は、光学波長板100に含まれるセル200の概略断面図を示し、
図3は、本開示の一実施形態によるFLC分子210の概略図を示す。セル200は、
図1に示されたセル101、102、103、または104のいずれかの一実施形態であり得る。
図2に示されるように、セル200は、互いに対向して配置された2つの基板202を含むことができる。基板202は、可視帯域(約380nmから約700nm)内で実質的に透明であり得る。いくつかの実施形態では、基板202は、赤外(「IR」)帯域(約700nmから約1mm)の少なくとも一部において透明とすることもできる。基板202は、上に挙げた波長範囲内の波長を有する光に対して実質的に透明である適切な材料、例えば、SiO
2、プラスチック、サファイアなどを含み得る。基板202は、硬質、半硬質、可撓性、または半可撓性であり得る。いくつかの実施形態では、基板202は、別の光デバイスまたは別の光電気デバイスの一部であってもよい。例えば、基板202は、表示画面などの機能デバイスの一部であり得る。いくつかの実施形態では、基板202は、光学レンズ組立体、例えば、光学レンズ組立体のレンズ基板の一部であり得る。例えば、酸化インジウムスズ(「ITO」)に基づいて形成された電極204は、基板202の対向した面ごとに配設されてもよく、電場を加えるように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、配向構造206は、2つの電極204の対向した面ごとに配設され得る。FLC層208は、2つの配向構造206の間に挟まれていてもよい。FLC層208を含むセル200は、以下の説明においてFLCセル200と呼ばれ得る。
【0028】
図2および
図3を参照すると、強誘電スメクチックC
*相(シンボル「
*」は、キラルの性質を指す)内で、FLC層208に含まれるFLC分子210は、スメクチック層が基板202に直交する層状の幾何学的形状に配置され得る。FLC分子210は、FLCセル200の配向方向(例えば、例えば、
図2のx軸に沿った配向構造206のラビング方向)によって定めることができる直角な層に対して傾斜していることができる。FLC分子210は、平均して局所的な単位配向子d=cosθh+sinθcに沿って並べることができ、ただしθはスメクチック傾斜角であり、hはスメクチック層に直角かつx方向に平行な螺旋(例えば、ねじれ)軸であり、cはc配向子である。
図3に示されるように、FLC分子210の配向子dは、スメクチックコーン214上にあることができ、FLC螺旋を形成する均一なねじれ軸hのまわりに螺旋状に回転することができる。この回転は、コーン214のまわり方位角ψによって説明され、ただし、方位角 ψは、hに直交する平面内のc配向子(c=cosφy+sinφz)の向きを特定する。
【0029】
いくつかの実施形態では、FLCセル200は、電気的に抑制されたヘリックス強誘電性液晶(「ESHFLC」)モードの下で動作することができる。例示の目的のために、
図2は、均質の配向または平面配向、例えば、反平行平面配向を伴うESHFLCセルを示す。いくつかの実施形態では、ESHFLCセルは、平行平面配向などの別のタイプの配向で構成され得る。ESHFLCの螺旋ピッチ(
図2の「P」)は、基板202に平行であり得る。螺旋ピッチPは、FLCセル200の厚さ(
図2の「D
FLC」)以下の小ささであり得る。フォトニック応用におけるFLCを実施するための課題の1つは、強誘電性ドメイン、およびFLC螺旋の周期構造により生じる固有の回折である。いくつかの実施形態では、FLC螺旋およびアンカリングエネルギーに関する制約は、固有の回折なしでESHFLCモードが高コントラスト比および高速電気光学応答を与えることができるように課され得る。ESHFLCのための高い光学品質を実現するために、ESHFLC螺旋のアンカリングエネルギー(「W」)および弾性エネルギー(「K
2」)は、K
2≧2W/D
FLCを満たすように構成されている。特定のFLC材料およびFLCセル200の厚さについて所望のアンカリングエネルギーWを実現するために、いくつかの実施形態では、光配向技術が、照射量を制御することによってアンカリングエネルギーWを調節するために使用され得る。例えば、配向構造206は、光配向構造であり得る。いくつかの実施形態では、配向構造206は、省略され得るとともに、バルク中のFLCは、外部場、例えば、(例えば、光配向された)光場、電場、または磁場によって配向され得る。
【0030】
図4A~
図4Cは、ESHFLC モードの下で動作するFLC層208の有効屈折率楕円体を示す。
図4Aに示されるように、E=0(すなわち、ゼロ電場)で、電場のない有効屈折率楕円体は、螺旋軸(x方向)に平行な光軸を有する一軸異方性であり得る。屈折率n
hおよびn
pは、それぞれ螺旋軸に沿ったおよび螺旋軸に直交する光軸に対応する。
図4Bに示されるように、外部電場がFLCセル200間に加えられるとき、電場により誘導された異方性は、方位角Ψ
dによって回転される2つの面内光軸d
+およびd
-に関して2軸であり得る。低電場範囲内で、方位角Ψ
dの電場依存は、実質的に線形、すなわち、Ψ
d∝Eであり得る(方位角はEに線形で比例している)とともに、主要な屈折率n
±およびn
zの電気的に誘導された部分は、典型的には、E
2に比例するカーのような非線形項によって支配される。法線入射光については、電気的に誘導された二軸性(例えば、面内複屈折)とも呼ばれる屈折率差が、Δn=n
+-n
-≒K
kerrE
2として計算することができ、ただし、K
kerrは、FLC材料のカー定数を表し、インデックスn
+およびn
p-は、それぞれ光軸d
+およびd
-に対応する。
【0031】
図4Cを参照すると、いくつかの実施形態では、外部電場の方向を逆にすることによって、FLC分子を配向方向から離れるように他方の側へはじくことができる。例えば、FLCセル200の有効屈折率楕円体の方位角が外部電場+Eの下でΨ
dであるとき、FLCセルの有効屈折率楕円体の方位角は、外部電場-Eの下で-Ψ
dであり得る。2つのポジションは、電場Eの極性を切り替えることによってあるものから別のものへ切り替えることができ、これによりFLCの固有の面内切替を与える。
図4Bおよび
図4Cを参照すると、FLCの面内切替は、螺旋軸および光軸d(例えば、d
+またはd
-)によって形成される平面内のFLC層の有効屈折率楕円体の方位角208の切替とも呼ばれる。
【0032】
図5Aは、第1の状態における光学波長板100の概略図であり、
図5Bは、第1の状態から切り替えられた第2の状態における光学波長板100の概略図である。1つまたは複数のFLCセル101、102、103、または104に含まれるFLC層の有効屈折率楕円体の方位角の変化を引き起こすために、電場が加えられてもよく(図示せず)、これにより光学波長板100は第1の状態と第2の状態との間で切り替えられることが可能になる。第1の状態および第2の状態は、上述した状態のいずれであり得る。第1の状態は、第2の状態とは異なり得る。
【0033】
例示の目的のために、
図5Aに示された第1の状態における光学波長板100は、円偏光入射光の旋光性を逆にし得る半波長板として機能することができる。例えば、光学波長板100は、右旋円偏光入射光から左旋円偏光へ変換することができ、逆も同じであり得る。
図5Bに示された第2の状態における光学波長板100は、ほぼゼロ遅延を有することができ、入射光は、光学波長板100を通って伝播した後、実質的に、同じ偏光状態のままであり得る。いくつかの実施形態では、ほぼゼロ遅延は、自己補償構成によって実現することができる。
【0034】
いくつかの実施形態では、同じFLC材料は、FLCセル101、102、103、および104内に含まれ得る。他の実施形態では、セル101、102、103、および104内に含まれるFLC材料は、異なっていてもよいと理解される。議論の目的のために、FLCセル101、102、103、および104の厚さは、それぞれ1.37μm、1.37μm、2.74μm、および2.74μmであると想定される。セルは任意の他の適切な厚さを有してもよいことが理解される。同じFLC材料がセル101、102、103、および104に含まれるとともに、厚さがそれぞれ1.37μm、1.37μm、2.74μm、および2.74μmである一例では、
図5Aに示された第1の状態では、FLCセル101、102、103、および104におけるFLC層の有効屈折率楕円体の方位角は、半波長遅延を実現するために、それぞれΨ1=0°、Ψ2=0°、Ψ3=60°、Ψ4=0°となるように(ゼロ電場、すなわち、電場を加えないことを含む)適切な電場を各セルに加えることによって構成され得る。
図5Bに示された第2の状態では、FLCセル101、102、103、および104におけるFLC層の有効屈折率楕円体の方位角は、ゼロ遅延を実現するために、それぞれΨ1=0°、Ψ2=90°、Ψ3=60°、Ψ4=-30°となるように(ゼロ電場、すなわち、電場を加えないことを含む)適切な電場を各セルに加えることによって構成され得る。概して、ほぼゼロ遅延を実現するための設計原理は、|Ψ1-Ψ2|=90°および|Ψ3ーΨ4|=90°といったようになり得る。角度Ψ1、Ψ2、Ψ3、およびΨ4は、上記の式を満たす任意の適切な値であり得る。第2の状態は、自己補償構成とも呼ばれ得る。
【0035】
したがって、方位角Ψ1、Ψ2、Ψ3、およびΨ4を調整するために各セルに適切な電場を加えることによって、光学波長板100は、第1の状態と第2の状態の間で、例えば、半波長板としての動作とほぼゼロ遅延波長板としての動作との間で切り替えることができる。したがって、円偏光が光学波長板100上へ入射するとき、伝播された円偏光旋光性は、(
図5Aに示された第1の状態におけるように)逆にされ、または(
図5Bに示された第2の状態として)維持され得る。
【0036】
半波長遅延(すなわち、光学波長板100が半波長板であるとき)、およびほぼゼロ遅延が、それぞれ
図5Aおよび
図5Bに示された本開示を説明するために一例として使用されるが、当業者は、FLCセルに含まれるFLC材料、FLCセルの厚さ、およびFLCセル内のFLC層の有効屈折率楕円体の方位角を構成することによって、
図5Aに示された第1の状態における光学波長板100は、半波長遅延ではない遅延を有することができ、および/または
図5Bに示された第2の状態における光学波長板100は、ほぼゼロ遅延ではない遅延を有し得ることを理解できる。
【0037】
FLC層の有効屈折率楕円体の方位角が外部電場によって調整できるとき、すなわち、FLCセルの遅延が外部電場によって調整できるとき、FLCセルは、能動セルと呼ばれ得る。光学波長板100は、1つまたは複数の電場が対応するFLC層の有効屈折率楕円体の方位角を構成するように1つまたは複数の能動セルに加えられ得る1つまたは複数の能動セルを含むことができる。いくつかの実施形態では、能動セルに加えて、または能動セルの代替として、光学波長板100は、一定の遅延を有する1つまたは複数の受動セルを含むことができる。1つまたは複数の受動セルは、所定の遅延を伴ってそれぞれ構成され得る。1つまたは複数の能動セルの遅延および1つまたは複数の受動セルの遅延の組合せにより、光学波長板100が特定の性能を有する結果となり得る。一方で、能動セルと受動セルの両方を有する光学波長板100は、所定の遅延に関して種々の状態間でそれでも切替可能であり得る。他方で、光学波長板100の製造プロセスおよび費用、消費電力、ならびに/または厚さは減少させることができる。
【0038】
例えば、
図5Aおよび
図5Bを参照すると、光学波長板100が
図5Aに示された第1の状態と
図5Bに示された第2の状態との間で切り替えられるとき、セル102および104内のFLC層の有効屈折率楕円体の方位角のみが変更され、一方で、セル101および103内のFLC層の有効屈折率楕円体の方位角は変更されない(すなわち、Ψ1は0°のままであり、Ψ3は60°のままである)。すなわち、光学波長板100が
図5Aに示された第1の状態と
図5Bに示された第2の状態との間で切り替えられるとき、セル101および103の遅延は、一定であり得、固定され得、または維持され得る。したがって、いくつかの実施形態では、セル101および103は、光学波長板100の性能に影響を及ぼすことなく、所定の一定の遅延および/または遅延の分散を伴う(電場が加えられていない)受動セルとして構成され得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、受動セルは、所定の遅延および/または遅延の分散を伴う液晶ポリマー(「LCP」)層を含むことができる。いくつかの実施形態では、受動セルは、Aプレートなどの所定の遅延および/または遅延の分散を伴う補償膜を含むことができる。正のAプレートはnx>ny=nzを有することができ、負のAプレートはnx<ny=nzを有することができ、ただし、nx、ny、nzは、それぞれAプレートの屈折率楕円体のx軸、y軸、およびz軸における屈折率である。本開示は、受動セルが特定の遅延および/または遅延の分散を与え得る限り受動セルのタイプを限定せず、所定の性能、例えば、VISからNIR領域までの範囲の波長を対象に含むような広帯域性能、大きい受光角、低残留遅延、高速応答、および種々の状態間、例えば、ほぼゼロ遅延と非ゼロ遅延値の間などで切り替えることができる能力を伴う光学波長板を実現するために能動セルと共に機能することができる。
【0040】
光学波長板100の広帯域および大きい受光角性能に関するシミュレーション結果は、
図6~
図9を参照して説明され、ここでは、光学波長板100へ入射する光(すなわち、入力光)は、ストークスパラメータS3=-1.0である左旋円偏光であることが想定される。
【0041】
図6および
図7は、それぞれ、
図5Aに示された第1の状態における光学波長板100の大きい受光角および広帯域性能に関するシミュレーション結果を示す。
図6は、極角(例えば、入射角)と光学波長板100を通って伝送される光、すなわち、出力光のストークスパラメータS3との関係を示すシミュレーション結果を示す。
図6に示されるように、水平軸は極角であり、垂直軸はストークスパラメータS3である。極角とストークスパラメータS3の間の関係は、それぞれ、450nm、550nm、および650nmの波長で決定される。
図6は、450nm、550nm、および650nmの波長において、極角の幅広い範囲(例えば、0°から約35°)にわたって、出力光のストークスパラメータS3が、1.0近くである0.9以上に留まり得ることを示す。
【0042】
右旋円偏光がストークスパラメータS3=1.0を有することを当業者は理解する。ストークスパラメータS3は1に近づくにつれて、出力光は、右旋円偏光に近づく。
図6に示されるように、極角の幅広い範囲にわたって、第1の状態における光学波長板100の出力光は、右旋円偏光出力光(S3=1.0)、または実質的に右旋円偏光出力光 (S3≒1.0、例えば、S3≧0.9)であり得る。すなわち、第1の状態における光学波長板100は、入射角の幅広い範囲にわたって、左旋円偏光入射光(S3=-1.0)の旋光性を逆にするように構成され得る。
【0043】
図7は、光学波長板100からの出力光の波長とストークスパラメータS3との間の関係を示すシミュレーション結果を示す。
図7に示されるように、水平軸は波長(nm)であり、垂直軸はストークスパラメータS3である。
図7は、波長の幅広い範囲(例えば、約450nmから約700nm)にわたって、出力光のストークスパラメータS3は1.0近くである0.99以上であることを示す。したがって、
図7に示されるように、波長の幅広い範囲、例えば、VIS領域からNIR領域までにわたって、第1の状態における光学波長板100の出力光は、右旋円偏光出力光(S3=1.0)、または実質的に右旋円偏光出力光(S3≒1.0、例えば、S3≧0.99)であり得る。すなわち、第1の状態における光学波長板100は、波長の幅広い範囲、例えば、VIS領域からNIR領域までにわたって、左旋円偏光入射光(S3=-1.0)の旋光性を逆にするように構成され得る。言い換えれば、第1の状態における光学波長板100は、広帯域性能を有することができる。
【0044】
図8および
図9は、
図5Bに示された第2の状態における光学波長板100の大きい受光角および広帯域性能に関するシミュレーション結果をそれぞれ示す。
図8は、極角(例えば、入射角)と光学波長板100からの出力光のストークスパラメータS3との間の関係を示すシミュレーション結果を示す。
図8に示されるように、水平軸は極角であり、垂直軸はストークスパラメータS3である。極角とストークスパラメータS3の間の関係は、それぞれ450nm、550nm、および650nmの波長で決定される。
図8は、450nm、550nm、および650nmの波長で、極角の幅広い範囲(例えば、0°から約35°)にわたって、出力光のストークスパラメータS3は、-1.0の近くである-0.9以下のままであり得ることを示す。したがって、
図8に示されるように、極角の幅広い範囲にわたって、第2の状態における光学波長板100の出力光は、左旋円偏光出力光(S3=-1.0)、または実質的に左旋円偏光出力光(S3≒-1.0、例えば、S3≧-0.9)として維持され得る。すなわち、第2の状態における光学波長板100は、入射角の幅広い範囲にわたって左旋円偏光入射光(S3=-1.0)の旋光性を維持するように構成され得る。
【0045】
図9は、光学波長板100からの出力光の波長とストークスパラメータS3との間の関係を示すシミュレーション結果を示す。
図9に示されるように、水平軸は波長(nm)であり、垂直軸はストークスパラメータS3である。
図9は、波長の幅広い範囲(例えば、約450nmから約650nm)にわたって、出力光のストークスパラメータS3は約1.0で一定のままであることを示す。したがって、
図8によれば、波長の幅広い範囲、例えば、VIS領域からNIR領域までにわたって、第2の状態における光学波長板100の出力光は、左旋円偏光(S3=-1.0)、または実質的に左旋円偏光(S3≒-1.0)であり得る。すなわち、第2の状態における光学波長板100は、波長の幅広い範囲にわたって、例えば、VIS領域からNIR領域までの波長の幅広い範囲にわたって、左旋円偏光入射光(S3=-1.0)の旋光性を維持するように構成することができ、言い換えれば、第2の状態における光学波長板100は、広帯域性能を有することができる。
【0046】
開示された光学波長板は、様々な機器および光学系における幅広い応用、例えば、仮想現実(「VR」)、拡張現実(「AR」)、および/または混合現実(「MR」)応用のためのニアアイディスプレイ(「NED」)を有し得る。
図10Aは、本開示の一実施形態によるニアアイディスプレイ(「NED」)1000の概略図を示し、
図10Bは、
図10Aに示されたニアアイディスプレイの前部体の断面図を示す。NED1000は、開示された光学波長板(例えば、波長板100)の1つまたは複数を含むことができる。
【0047】
図10Aに示されるように、NED1000は、前部体1005と、バンド1010とを含むことができる。前部体1005は、電子ディスプレイ(図示せず)の1つまたは複数の電子ディスプレイ要素、慣性測定装置(「IMU」)1015、1つまたは複数のポジションセンサ1020、および1つまたは複数の位置決め装置1025を含むことができる。
図10Aに示された実施形態では、1つまたは複数のポジションセンサ1020が、IMU1015内に位置することができ、IMU1015もポジションセンサ1020も、ユーザには見えないものとすることができる。NED1000は、VR、AR、および/またはMRデバイスとして機能することができる。NED1000がARまたはMRデバイスとして機能するとき、NED1000の一部およびその内部構成要素は、少なくとも部分的に透明とすることができる。
【0048】
図10Bに示されるように、前部体1005は、射出瞳1070に画像光を共に与える電子ディスプレイ1055および可変焦点ブロック1060を含むことができる。射出瞳1070は、ユーザの目1065が位置する前部体1005の位置であり得る。加えて、NED1000は、アイトラッキングシステム(図示せず)を含むことができる。NED1000は、NED1000を焦点距離に着用するユーザに電子ディスプレイ1055を介して電子的コンテンツを提示することができる。可変焦点ブロック1060は、NED1000からの命令に従って、例えば、ユーザの目の適合的眼球離反運動の不一致を緩和するように焦点距離を調整するように構成することができる。焦点距離は、可変焦点ブロック1060に関連した光パワーを調整することによって、例えば、可変焦点ブロック1060内の1つまたは複数の光学レンズに関連した光パワーを調整することによって調整され得る。
【0049】
図10Cは、開示の一実施形態による可変焦点ブロック1060の概略図を示す。いくつかの実施形態では、可変焦点ブロック1060は、パンチャラトナム・ベリー位相(「PBP」)液晶(「LC」)レンズ1061、1063、および1065と、交互に配置された切替可能半波長板(「SHWP」)1062および1064とを含むことができる。いくつかの実施形態では、PBP LCレンズ(1061、1063、または1065)は、右旋円偏光(「RHCP」)を受け取るときに(光パワーを可変焦点ブロック1060に付加することができる)付加的な状態で動作することができる。いくつかの実施形態では、PBP LCレンズ(1061、1063、または1065)は、左旋円偏光(「LHCP」)を受け取るときに(可変焦点ブロック1060から光パワーを減じることができる)減状態で動作することができる。
【0050】
SHWP1062および1064の各々は、動作状態に従って特定の旋光性の偏光を透過する半波長板であり得る。可変焦点ブロック1060は、SHWPの動作状態に従って円偏光の旋光性を制御することができる。SHWPの動作状態は、切替状態および非切替状態を含み得る。いくつかの実施形態では、切替状態のSHWPは、円偏光入射光の旋光性を逆にするように半波長遅延を与えることができ、非切替状態のSHWPは、ほぼゼロ遅延を与え、円偏光の旋光性を維持することができる。したがって、入射光の経路内でPBP LCレンズ(1061、1063、または1065)の上流に置かれたSHWPは、PBP LCレンズ(1061、1063、または1065)上へ入射する円偏光の旋光性を制御することによってPBP LCレンズ(1061、1063、または1065)が付加的状態または減状態で機能するかを制御するように構成することができる。したがって、PBP LCレンズ(1061、1063、または1065)は、PBP LCレンズ(1061、1063、または1065)の上流に置かれたSHWPを切り替えることによって付加的な状態と減状態の間で切替可能であり得る。各PBP LCレンズ(1061、1063、または1065)は、PBP LCレンズ(1061、1063、または1065)の上流に置かれたSHWPの動作状態を制御することによって付加的な状態または減状態にあるように構成することができ、したがって、各PBP LCレンズ(1061、1063、または1065)は、正または負の光パワーを与えることができる。したがって、3つのPBP LCレンズ(1061、1063、および1065)は光パワーの複数の組合せを与えることができ、光パワーの複数の組合せは可変焦点ブロック1060のために光パワーの調整範囲をもたらすことができる。したがって、可変焦点ブロック1060は、人間の目の適合的眼球離反運動に適合するように光パワーの調整範囲をもたらすことができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、SHWP1062および1064の各々は、
図5Aおよび
図5Bに示された切替可能な構成を有するものなどの開示された光学波長板(例えば、波長板100)のいずれか1つであり得る。開示された光学波長板(例えば、波長板100)が、広帯域性能、大きい受光角、低残留遅延、高速応答、および遅延の種々の状態間で切り替えられる能力を有するので、可変焦点ブロック1060は、幅広い範囲の入射角および幅広い範囲の入射波長にわたって高速で正確なやり方で人間の目の適合的眼球離反運動に適合するように様々な光パワーを与えるように構成され得る。
図10Cに示されるような積み重ねられたPBP LCレンズ1061、1063、および1065の構造を含む可変焦点ブロック1060の設計は、例示の目的のためにすぎず、可変焦点ブロック1060の他の設計が様々な用途のシナリオに従って使用されてもよい。
【0052】
NEDにおける光学波長板(例えば、波長板100)の上述した応用は、例示のためのものにすぎない。いくつかの実施形態では、開示された光学波長板は、アイトラッキング構成要素、ディスプレイ解像度強化構成要素(例えば、増加している画素密度)、および瞳操作要素などを実現するために使用することもできる。光学波長板は、VISからNIR領域までの波長を対象に含むような広帯域性能、大きい受光角(すなわち、大きい入射角)、低残留遅延、高速応答、および例えば、ほぼゼロ遅延と非ゼロ遅延値の間で切り替えられる能力を有する。したがって、光学波長板は、NEDの光学性能をかなり改善するためのNEDにおける多機能光学部品として実施され得る。
【0053】
本開示の実施形態の前述の説明は、例示の目的のために示されてきた。それは、網羅的であること、または本開示を開示された正確な形態に限定することは意図されていない。当業者は、上記の開示に鑑みて修正および変形が可能であることを理解することができる。
【0054】
本説明のいくつかの部分は、情報に関する演算のアルゴリズムおよび記号表現という観点で本開示の実施形態を説明することができる。これらのアルゴリズムの説明および表現は、データ処理分野の当業者が自らの仕事の内容を他の当業者に有効に伝えるために一般に使用される。機能的、計算的、または論理的に説明されるこれらの演算は、コンピュータプログラムまたは等価な電気回路、マイクロコードなどによって実施されることが理解される。さらに、一般性を失うことなく、これらの演算構成をモジュールと呼ぶことも、時には便利であることも分かっている。説明される演算およびその関連したモジュールは、ソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、またはそれらの任意の組合せで具体化され得る。
【0055】
本明細書に説明されるステップ、操作、またはプロセスのいずれも、1つまたは複数のハードウェアモジュールおよび/またはソフトウェアモジュールの単独または他のデバイスとの組合せで実行または実施され得る。1つの実施形態では、ソフトウェアモジュールは、記載されたステップ、演算、または処理のいずれかまたは全部を実行するコンピュータプロセッサによって実行できるコンピュータプログラムコードを収容するコンピュータ可読媒体を含むコンピュータプログラム製品で実施される。いくつかの実施形態では、ハードウェアモジュールは、デバイス、システム、光学要素、コントローラ、電気回路、論理ゲート等などのハードウェア構成要素を含み得る。
【0056】
本開示の実施形態は、本明細書中の演算を実行するための機器に関するものでもあり得る。この機器は、特定の目的のために特に構築されてもよく、および/あるいはコンピュータに記憶されたコンピュータプログラムによって選択的に起動または再構成される汎用コンピューティングデバイスを含んでもよい。そのようなコンピュータプログラムは、非一時的な有形のコンピュータ可読記憶媒体、またはコンピュータシステムバスに結合され得る電子的な命令を記憶するのに適した任意のタイプの媒体に記憶することができる。非一時的なコンピュータ可読記憶媒体は、プログラムコードを記憶することができるいずれかの媒体、例えば、磁気ディスク、光ディスク、リードオンリメモリ(「ROM」)、またはランダムアクセスメモリ(「RAM」)、電気的プログラマブルリードオンリメモリ(「EPROM」)、電気的消去可能なプログラマブルリードオンリメモリ(「EEPROM」)、レジスタ、ハードディスク、ソリッドスレートディスクドライブ、スマートメディアカード(「SMC」)、SDカード(「SD:Secure Digital card」)、フラッシュカードなどであり得る。さらに、本明細書に説明されたいずれのコンピューティングシステムも、単一のプロセッサを含むことができ、または計算能力向上のために複数のプロセッサを用いるアーキテクトなどであってもよい。プロセッサは、中央処理装置(「CPU」)、グラフィックスプロセッシングユニット(「GPU」)、またはデータを処理するように構成されるおよび/またはデータに基づいて計算を実行する任意の処理デバイスであり得る。プロセッサは、ソフトウェア構成要素とハードウェア構成要素の両方を含むことができる。例えば、プロセッサは、ハードウェア構成要素、例えば、特定用途向け集積回路(「ASIC」)、プログラマブルロジックデバイス(「PLD」)、またはそれらの組合せを含むことができる。PLDは、複合プログラマブルロジックデバイス(「CPLD」)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(「FPGA」)なであり得る。
【0057】
本開示の実施形態は、本明細書に記載された計算プロセスによって生成される製品にも関連し得る。そのような製品は、情報が非一時的な有形のコンピュータ可読記憶媒体に記憶される計算プロセスから生じる情報を含み得るとともに、本明細書に記載されたコンピュータプログラム製品または他のデータの組合せの任意の実施形態を含み得る。
【0058】
様々な実施形態が、例示の実施を示すために説明されてきた。開示された実施形態に基づいて、当業者は、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な他の変更、修正、再配置、および置換を行うことができる。したがって、本開示は上記実施形態を参照して詳細に説明されているが、本開示は、説明された上記実施形態に限定されない。本開示は、本開示の範囲から逸脱することなく他の均等物の形で具体化されてもよい。本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲に定められる。
【国際調査報告】