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特表2022-525278排気ガスを処理するための排気ガス処理システム及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-12
(54)【発明の名称】排気ガスを処理するための排気ガス処理システム及びその使用
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20220502BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20220502BHJP
   B01J 23/889 20060101ALI20220502BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20220502BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20220502BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20220502BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20220502BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20220502BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
B01J35/02 G ZAB
B01J35/04 301Z
B01J23/889 A
B01J23/745 A
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 228
B01D53/94 280
B01D53/96 500
F01N3/24 L
F01N3/28 301P
F01N3/20 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549620
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(85)【翻訳文提出日】2021-08-24
(86)【国際出願番号】 IB2020052914
(87)【国際公開番号】W WO2020194252
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】1904299.3
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】キルマーティン、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】パスクイ、アンドレア エヴァ
(72)【発明者】
【氏名】シマンス、ケリー
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA17
3G091AA18
3G091AB02
3G091AB03
3G091AB05
3G091AB13
3G091AB14
3G091BA03
3G091BA13
3G091BA14
3G091BA15
3G091BA19
3G091CA04
3G091CA17
3G091CA18
3G091GA06
3G091GA16
3G091GB01X
3G091GB05W
3G091GB06W
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3G091GB13X
3G091GB17X
3G091HA08
3G091HA45
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4G169BC31B
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4G169BC62B
4G169BC66A
4G169BC66B
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4G169BC69A
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4G169CA07
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4G169CA13
4G169CA14
4G169CA15
4G169DA06
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EA08
4G169EA18
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC28
4G169EE03
4G169EE06
4G169EE09
4G169FC08
(57)【要約】
【解決手段】 排気ガス処理システム(1)は、排気ガスを処理するための触媒物品(5)であって、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子(45)を含む非金属基材(20)を含む触媒物品(5)と、複数の触媒活性磁性粒子を、交流磁界を印加することによって誘導加熱するための誘導加熱器(70)と、を備える。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスを処理するための触媒物品であって、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子を含む非金属基材を含む前記触媒物品と、
前記複数の触媒活性磁性粒子を、交流磁界を印加することによって誘導加熱するための誘導加熱器と、を備える、排気ガス処理システム。
【請求項2】
前記非金属基材が、セラミック基材であり、好ましくはSiC、チタン酸アルミニウム又はコーディエライトを含む、請求項1に記載の排気ガス処理システム。
【請求項3】
前記複数の触媒活性磁性粒子が、強磁性又は超常磁性である、請求項1又は2に記載の排気ガス処理システム。
【請求項4】
前記複数の磁性粒子が、1nm~10μm、好ましくは10~500nmの平均粒径を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の排気ガス処理システム。
【請求項5】
前記複数の磁性粒子が、遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の排気ガス処理システム。
【請求項6】
前記複数の触媒活性磁性粒子が、好ましくは1つ以上の白金族金属を含む更なる触媒材料で表面コーティングされている、請求項1~4のいずれか一項に記載の排気ガス処理システム。
【請求項7】
前記複数の触媒活性磁性粒子が、スピネル型微細構造を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の排気ガス処理システム。
【請求項8】
前記磁性粒子が、MnFe3-x、CoFe3-x、CuFe3-x[式中、x>0及びx≦1である]、又はこれらの2つ以上の混合物を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の排気ガス処理システム。
【請求項9】
前記磁性粒子が、前記触媒物品の一端から延びる領域上にのみ提供されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の排気ガス処理システム。
【請求項10】
前記複数の触媒活性磁性粒子が、SCR活性、ASC活性、DOC活性、尿素加水分解活性、発熱活性又はTWC活性を有し、好ましくは、前記物品が、同じ種類の触媒活性を有する更なる組成物を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の排気ガス処理システム。
【請求項11】
前記複数の触媒活性磁性粒子が、前記非金属基材上のウォッシュコートとして提供されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の排気ガス処理システム。
【請求項12】
前記交流磁界が100kHz~1Mhzの周波数を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の排気ガス処理システム。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の排気ガス処理システムを備える内燃機関。
【請求項14】
排気ガスを処理するための方法であって、
排気ガスを、請求項1~13のいずれか一項に記載の排気ガス処理システムに接触させることと、
前記複数の触媒活性磁性粒子を、前記複数の触媒活性磁性粒子を誘導加熱するための前記誘導加熱器によって生成される交流磁界を用いて誘導加熱することと、を含む、方法。
【請求項15】
排気ガス、好ましくはコールドスタートエンジンからの排気ガスを処理するための、誘導加熱された触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、排気ガスを処理するための排気ガス処理システムに関するものである。特に、本開示は、コールドスタート時に内燃機関からのガスの処理を改善するための誘導加熱可能な触媒に関するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
従来の触媒システムでは、典型的には、例えばエンジンのコールドスタート時に動作温度に達するまでに数分を要する。動作温度に達する前に、望ましくないガス状汚染物質の漏出が発生することがある。
【0003】
触媒の低温での動作に通常伴う望ましくないガス状汚染物質の漏出を低減するために、触媒活性材料を間接的に加熱することが知られている。国際公開第2017/195107号では、エンジン流出物を処理するための触媒組成物を開示している。触媒組成物は、触媒活性粒子と、印加された交流電磁界に応答して誘導加熱可能な磁性材料との混合物を含む。触媒活性粒子は、誘導加熱された磁性材料から熱を伝導することによって間接的に加熱される。また、国際公開第2017/195107号では、触媒材料を加熱するのに適合したシステムを開示している。このシステムは、物品の各チャネルに付着した触媒層を有する触媒物品を備える。触媒層は、その内部に分散された磁性材料を有する触媒活性材料を含む。磁性材料は、印加された交流電磁材料に応答して誘導加熱することができる。システムは、電流を受けて交流電磁界を発生させるための導体を更に備える。導体は、電磁界が磁性材料の少なくとも一部分に印加されるように位置付けられている。また、国際公開第2017/195107号では、内燃機関からの排出物を処理する方法を開示している。
【0004】
国際公開第2017/195107号では、触媒活性粒子が、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジンの排出制御システムに通常用いられる触媒活性材料で形成できることを開示している。触媒活性粒子は、一酸化炭素の酸化、炭化水素の酸化、NOxの酸化、アンモニアの酸化、NOxの選択的触媒還元、及びNOx吸蔵/還元のうちの1つ以上に適合した組成物の一部であり得る。国際公開第2017/195107号では、磁性材料が、触媒組成物に容易に分散可能な微粒子形態であることを開示している。国際公開第2017/195107号では、磁性材料が、超常磁性酸化鉄ナノ粒子、又はネオジム-鉄-ホウ素若しくはサマリウム-コバルト粒子を含む希土類含有微粒子材料を含むことを開示している。国際公開第2017/195107号では、磁性材料が超常磁性酸化鉄(III)ナノ粒子を含み得ることを開示している。
【0005】
国際公開第2017/195107号では、基材をコーティングする前に、磁性材料を触媒材料と混合することを開示している。例えば、磁性材料をウォッシュコートスラリーに添加し、コーティング前に触媒材料内に分散させることができる。その代わりに、磁性材料は、触媒活性材料の担体材料として機能することができる。あるいは、磁性材料は、触媒物品の基材に埋め込まれるか、触媒活性成分の担体として機能する層としてコーティングされ得る。
【0006】
国際公開第2017/195107号では、触媒活性粒子の加熱は、誘導加熱された磁性材料から触媒活性材料への熱伝導に依存している。その結果、誘導によって発生した熱の全てが触媒活性材料に伝わらず、触媒活性粒子の加熱効率が低下してしまう。
【0007】
また、一部のスピネル構造化合物は、触媒活性を有し得ることも知られている。米国特許出願公開第2015/0105245号では、三元触媒(TWC)システム用のゼロ白金族金属及びゼロ希土類(Zero Platinum Group Metals and Zero Rare Earth、ZPGM-ZRE)触媒システムを開示している。ZPGM触媒は、白金族金属(PGM)及び希土類金属(RE)を含まず、基材、ウォッシュコート、及びオーバーコートを含む。ウォッシュコートはAlを含む。オーバーコートは、PGM及び希土類金属を実質的に含まない。オーバーコートは、少なくとも1つの酸素吸蔵材料を含み、この酸素吸蔵材料は、ニオブ-ジルコニア担持酸化物を有するCu-Mnスピネルを含む。
【0008】
米国特許出願公開第2015/0148215号では、触媒成分を最適化する方法を開示している。この方法は、第1のウォッシュコート及び第2のウォッシュコート/オーバーコートを適用することを含む。第1のウォッシュコートはAlを含み、第2のウォッシュコート/オーバーコートは、Cu-Mnを含む少なくとも1つの活性相触媒と、Nb-ZrOを含む担持酸化物とを有する。
【0009】
米国特許出願公開第2016/0263526号では、TWC用途、より具体的には、相乗作用のある白金族金属(PGM)TWC触媒構成用の触媒材料を開示している。米国特許出願公開第2016/0263526号では、少なくとも2つの触媒部分を含む第1の触媒装置と、少なくとも1つの触媒部分を含む第2の触媒装置と、を備える、触媒システムを開示している。第1の触媒装置の少なくとも2つの触媒部分のうちの1つは、少なくとも1つの二成分スピネル組成物を含む。第1の触媒装置の他の触媒部分は、密結合触媒を含む。第2の触媒装置の少なくとも1つの触媒部分は、白金族金属を含む。
【0010】
先行技術の欠点に取り組んだ、コールドスタートエンジン用の改善された排気ガス処理システムを提供すること、又は少なくともその商業的に有用な代替物を提供することが目的である。より具体的には、エンジンのコールドスタートに通常伴う望ましくないガス状汚染物質の漏出をより効率的に低減する排気ガス処理システムを提供することが目的である。
【0011】
したがって、第1の実施形態では、排気ガスを処理するための触媒物品であって、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子を含む非金属基材を含む触媒物品と、
複数の触媒活性磁性粒子を、交流磁界を印加することによって加熱するための誘導加熱器と、を備える排気ガス処理システムが提供される。
【0012】
ここで、本発明を更に説明する。以下の節において、本発明の異なる態様は、より詳細に定義される。そのように定義された各態様は、別途明確に示されていない限り、任意の他の態様又は複数の態様と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であると示された任意の特徴は、好ましい又は有利であると示された任意の他の特徴又は複数の特徴と組み合わせることができる。
【0013】
本発明は、排気ガス処理システムに関するものである。排気は、ディーゼルエンジン又はガソリンエンジンからのものであり得る。典型的には、コールドスタートの問題に最も影響されるので、固定式エンジンではなく移動式エンジンである。
【0014】
排気ガス処理システムは、排気ガスを処理するための触媒物品を備える。本明細書で使用される触媒物品とは、排気ガスを処理するための触媒活性を有する排気ガスシステムの構成要素を指す。このような触媒物品は、触媒と接触させたガスを処理するための担持触媒を提供する。本明細書に記載の触媒物品は、本明細書に記載の複数の下位成分を含む。
【0015】
触媒物品は、非金属基材を含む。本明細書で使用するとき、非金属基材とは、金属の特性を有さない構成要素を指し、具体的には、非金属基材は熱の良導体ではない。好ましくは、非金属基材はセラミック基材であり、好ましくはSiC、チタン酸アルミニウム又はコーディエライトを含む。
【0016】
好ましくは、非金属基材は、フロースルーハニカムモノリス又はウォールフローフィルタである。フロースルーモノリスは当該技術分野において周知であり、典型的には、排気ガスが使用中に流れる複数のチャネルを含む。チャネルは、排ガスを処理するための触媒材料を備えている。チャネルには、典型的には、排気ガスを処理することができる触媒の表面積を増加させるための多孔質壁が設けられている。非金属基材、特にウォールフローフィルタは、40~75%、例えば45~70%(例、45~65%)又は50~60%の多孔率を有し得る。
【0017】
非金属基材は、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子を含む。これらは、共押出成分などの基材の一体部分であるか、又はウォッシュコートとして提供され得る。好ましくは、複数の触媒活性磁性粒子は、非金属基材上にウォッシュコートとして提供される。共押出成分として提供される場合、触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、押出成形体の一部を形成し、これは、触媒のチャネル壁が触媒活性材料を含むことを意味する。ウォッシュコートとして提供される場合、触媒的に不活性な押出成形された(例えば、セラミックの)基材が、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子でコーティングされている。これは、例えば、押出された担体を、触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子を含有する懸濁液に浸漬することによって、又は国際公開第99/47260号に記載のJohnson Mattheyの精密コーティングプロセスを使用することによって行われる。ウォッシュコーティング技術は、当該技術分野でよく知られている。
【0018】
複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、0.1~4g/inの担持量、好ましくは1~3g/inの担持量で存在する。これは、排気ガスを処理するための基材上での触媒活性に適した範囲を表す。
【0019】
本明細書で使用するとき、用語「複数の粒子」とは、多数の粒子を指す。粒径は、典型的には、粒子が使用される形態(すなわち、ウォッシュコート適合性)によって定義される。
【0020】
好ましくは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、1nm~10μm、好ましくは10~500nmの平均粒径を有する。粒径は、レーザー回折及びTEM技術などの既知の技術で測定することができる。
【0021】
本明細書で使用するとき、用語「触媒活性」は、粒子が、動作条件下で排気ガスの少なくとも1つの望ましくない成分を処理(すなわち、その量を低減)できることを意味する。このような成分としては、例えば、炭化水素、NOx、CO、粒子状物質、及びアンモニアが挙げられる。
【0022】
本明細書で使用するとき、用語「遷移金属ドープ酸化鉄粒子」は、鉄、酸素、及び1つ以上の遷移金属の原子を含有する結晶格子を含む組成物から形成される粒子を意味する。結晶格子は酸化鉄によって形成され、その場合、遷移金属イオンは鉄イオンの格子位置の一部を占める。本明細書で使用するとき、用語「遷移金属」とは、任意の一般的な酸化状態で部分的に充填されたd又はfのサブシェルを有する元素、すなわち、部分的に充填されたdサブシェルを有する元素、又は不完全なdサブシェルを有するカチオンを生じさせることができる元素を指す。例としては、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag及びCdが挙げられる。マンガン及び銅は、遷移金属の好ましい例である。「遷移金属ドープ酸化鉄粒子」のそれぞれは、1つの遷移金属を含む組成物で形成されていてもよいし、複数の異なる遷移金属を含む組成物で形成されていてもよい。遷移金属ドープ酸化鉄粒子は全て、全て同じ組成を有していてもよいし、本明細書の定義を満たす2つ以上の異なるこのような粒子の混合物から構成されていてもよい。
【0023】
好ましくは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、スピネル型微細構造を有する。スピネル型微細構造とは、組成物A3-x[式中、Aは電荷状態+2のカチオン、Bは電荷状態+3のカチオン、Oは酸素イオンを表す]を有する面心立方構造を意味する。本明細書に記載されるように、複数の粒子は、遷移金属ドープ酸化鉄粒子である。したがって、Aは遷移金属イオンを表し、Bは電荷状態+3の鉄イオンを表す。スピネル型微細構造は、通常のスピネル微細構造であり得、その場合、Aは四面体部位(4つの酸素イオンによって囲まれている)上に位置するカチオンを表し、Bは八面体部位(6個の酸素イオンによって囲まれている)上に位置するカチオンを表す。あるいは、スピネル型微細構造は、逆スピネル微細構造であり得、その場合、Bで表されるカチオンの半分は四面体部位を占め、Bで表されるカチオンの残りの半分及びAで表されるカチオンの全ては八面体部位を占める。スピネルのB部位に遷移金属をドープして、式A3-x-yB’(yは、3未満かつ0超、例えば0.5~2.5)を得ることもできる。
【0024】
好ましくは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、MnFe3-x、CoFe3-x、CuFe3-x[式中、x>0及びx≦1である]、又はこれらの2つ以上の混合物を含む。これらの組成物により、通常のスピネル微細構造が得られる。一実施形態では、x=1である。
【0025】
「磁性」粒子という用語は、室温及び使用条件(すなわち、少なくともエンジンのコールドスタート時、好ましくはエンジンの動作中の動作温度まで、及びそれを含む条件)において、外部磁界に対してゼロでない磁化率を有する粒子を意味する。
【0026】
好ましくは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、強磁性又は超常磁性である。複数の触媒活性磁性粒子はまた、常磁性又は反磁性であり得る。複数の触媒活性磁性粒子の磁気特性は、室温及び使用条件(すなわち、エンジンのコールドスタート時及びエンジンの動作中)におけるものである。
【0027】
強磁性材料としては、外部磁界に対して大きな正の磁化率を有する任意の材料が挙げられる。電子スピンが外部磁界に整列すると、強磁性材料は磁化される。強磁性材料は、典型的には、磁界に対する強い引力を示し、外部磁界が除去された後もその磁気特性を維持することができる。本開示の範囲において、一部の電子スピンが反整列して全体の正味の磁化を低減する場合であっても、正味の磁化を有する材料は、強磁性材料(フェリ磁性材料と呼ばれることもある)と見なされるものとする。したがって、本発明の範囲で使用される「強磁性材料」という用語は、フェリ磁性材料も含む。キュリー温度として知られる臨界温度を超えると、強磁性体は、その強磁性特性を失う。すなわち、キュリー温度は、それを超えると強磁性材料がその強磁性特性の全てを失う温度である。したがって、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子の組成は、排気ガス処理システムの動作中に到達した温度を超えるキュリー温度を有する強磁性材料から選択され得る。交流磁界の存在下では、強磁性材料の電子スピンは、磁界の方向が変わるにつれて反転する。電子スピンが反転する時間よりも磁界反転時間が短い交流磁界に曝されると、ヒステリシス損失によって熱が発生する。その結果、強磁性材料は、交流磁界の印加によって直接誘導加熱することができる。
【0028】
常磁性材料としては、外部磁界に対して小さな正の磁化率(例えば10-5)を有する材料が挙げられる。反磁性材料としては、外部磁界に対して小さな負の磁化率(例えば-10-5)を有する材料が挙げられる。常磁性材料の場合、外部磁界に対して電子スピンが部分的に整列する。反磁性材料の場合、外部磁界に対して電子スピンが部分的に反対方向に整列する。交流磁界の存在下では、磁界の方向が変わるにつれて、常磁性材料及び反磁性材料の電子スピンが反転する。その結果、ヒステリシス損失による熱が発生する。したがって、常磁性材料及び反磁性材料は、交流磁界の印加によって直接誘導加熱することができる。
【0029】
超常磁性は、単一磁区から構成される、小さな強磁性ナノ粒子又は強磁性ナノ粒子中に存在する磁気の形態である。単一磁区という用語は、粒子全体の磁化が均一である必要はないが、磁区の壁がないことを指す。超常磁性材料は、常磁性材料よりも外部磁界に対する磁化率がはるかに大きい。超常磁性粒子はまた、残留磁化を有さず、その磁化曲線は、ヒステリシスではない。超常磁性材料の電子スピンは、短時間でランダムに方向を反転(磁気モーメントの緩和)させることができ、2つの方向の反転の間の時間は、ネール緩和時間と呼ばれる。超常磁性材料の磁化は、外部磁界が印加されていないときに、平均してゼロになる。外部磁界が印加されると、超常磁性材料の電子スピンは外部磁界に整列し、正味の磁化をもたらす。交流磁界の存在下では、磁界の方向が変わるにつれて、超常磁性材料の電子スピンが反転する。磁界反転時間が粒子の磁気緩和時間よりも短い交流磁界に曝されると、ネール緩和によって熱が生成する。したがって、超常磁性材料は、交流磁界の印加によって直接誘導加熱され得る。
【0030】
今回、本発明者らは、粒子自体が触媒活性であり、誘導加熱可能な粒子を提供することが可能であることを見出した。したがって、触媒活性粒子は、交流磁界の印加によって直接加熱され得る。このように、触媒活性粒子の加熱は、熱源から粒子への熱伝導に依存しない。したがって、伝導中の熱の損失は回避され、触媒活性粒子の加熱効率が最大化される。それゆえに、コールドスタート時に触媒活性粒子がその動作温度に達するまでにかかる時間が短縮される。したがって、コールドスタート時、すなわち、触媒物品全体が動作温度まで温められる前に、排気ガスの変換は起こり得る。その結果、低温での触媒の動作に通常伴う望ましくないガス状汚染物質の漏出も低減される。
【0031】
好ましくは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子からなる。「からなる」とは、複数の磁性粒子が遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子のみを含み、粒子が他の触媒材料で表面コーティングされていないことを意味する。
【0032】
代替の実施形態によれば、好ましくは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、好ましくは1つ以上の白金族金属(PGM)を含む更なる触媒材料で表面コーティングされている。更なる触媒材料は、動作条件下で排気ガスの成分を処理することができる。典型的には、更なる触媒材料は、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子の活性と同じ触媒活性を有する。
【0033】
このシステムは、交流磁界を印加することによって、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子を誘導加熱するための誘導加熱器を備えている。誘導加熱器は、誘導加熱器コイルであり得る。好ましくは、交流磁界は、100kHz~1Mhz、より好ましくは200~400KHzの周波数を有する。好適な誘導加熱器及び周波数は、電力供給、目標温度、及び粒子に基づいて容易に決定することができる。
【0034】
好ましくは、磁性粒子は、触媒物品の一端から延びる領域上にのみ提供されている。これにより、エネルギーを効率的に使用して、触媒物品の先端(又は上流)の縁部を加熱することができる。
【0035】
好ましくは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、選択的触媒還元(SCR)活性を有する。これは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子が、窒素化合物(アンモニア又は尿素など)又は炭化水素(リーンNO還元)との反応によって、NOをNに還元できることを意味する。
【0036】
好ましくは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、アンモニアスリップ触媒(ASC)活性を有する。これは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子が、NHをNに変換できることを意味する。
【0037】
好ましくは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、ディーゼル酸化触媒(DOC)活性を有する。これは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子が、COをCO及び気相炭化水素(HC)に酸化し、ディーゼル微粒子の有機成分(可溶性有機成分)をCO及びHOに酸化できることを意味する。本発明で使用するために適合され得る鉄含有DOCの詳細には、国際公開第2018/042167(A1)号、すなわち、触媒領域及び基材を含むディーゼルエンジンによって生成される排気ガスを処理するための酸化触媒が含まれる。該触媒領域は触媒材料を含み、該触媒材料は、鉄(Fe)又はその酸化物と;(i)白金(Pt)、(ii)パラジウム(Pd)、及び(iii)白金(Pt)とパラジウム(Pd)からなる群から選択される白金族金属(PGM)と;アルミナを含む耐火性酸化物である担体材料と;を含み、白金族金属(PGM)及び鉄(Fe)又はその酸化物は、それぞれ担体材料上に担持されている。
【0038】
好ましくは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、尿素加水分解活性を有する。これは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子が、CHOをNHに変換できることを意味する。
【0039】
好ましくは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、発熱活性を有する。これは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子が、典型的には炭化水素燃料を燃焼させることによって発熱(すなわち、熱を放出)することができることを意味する。
【0040】
好ましくは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、三元触媒(TWC)活性を有する。これは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子が、典型的には、平均化学量論的条件下で、NOをNに、一酸化炭素をCOに、炭化水素をCO及びHOに変換できることを意味する。
【0041】
好ましくは、物品は、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子と同じ種類の触媒活性を有する更なる組成物を更に含む。例えば、物品は、SCR活性を有する複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子と、SCR活性を有する更なる組成物とを含み得る。更なる例として、物品は、ASC活性を有する複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子と、ASC活性を有する更なる組成物とを含み得る。複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、更なる組成物と比較して、触媒の異なる領域にあり得る。例えば、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、上部に更なる組成物を有する領域よりも上流の触媒の領域に提供され得る。このような配置では、エンジンから流れる排気ガスは、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子と接触した後、更なる組成物と接触する。
【0042】
理解されるように、物品は、代替的に又は追加的に、上記のように、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子と異なる種類の触媒活性を有する更なる組成物を含み得る。
【0043】
したがって、コールドスタート時には、低温の排気ガスが、誘導加熱された複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子によって処理されることになる。時間の経過と共に、エンジンからの熱及び誘導加熱された複数の触媒活性磁性粒子からの熱伝導により、更なる組成物がその動作温度に到達すると、排気ガスもまた、更なる組成物によって処理されることになる。複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子を上部に有する領域は、更なる組成物を有する領域と重なっていても、重なっていなくてもよい。複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子が、更なる組成物とは別のものである場合、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、更なる組成物の上流に位置付けられる傾向がある。
【0044】
更なる実施形態によれば、本明細書に記載される排気ガス処理システムを備える内燃機関が提供される。更に、本開示は、本明細書に記載されるエンジンを備える、乗用車などの車両を含むことができる。
【0045】
更なる実施形態によれば、排気ガスを処理するための方法が提供される。該方法は、
排気ガスを、本明細書に記載の排気ガス処理システムに接触させることと、
複数の触媒活性磁性粒子を、複数の触媒活性磁性粒子を誘導加熱するための誘導加熱器によって生成される交流磁界を用いて誘導加熱することと、を含む。
【0046】
更なる実施形態によれば、排気ガス、好ましくはコールドスタートエンジンからの排気ガスを処理するための、誘導加熱された触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子の使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
これから、以下の非限定的な図に関連して本発明を説明する。
図1図1は、本明細書に記載の触媒物品を有する排気ガス処理システムを示す。
図2図2は、図1の触媒物品の性能を試験するために用いられる装置を示す。
図3図3は、実験1の過程での時間(秒)に対する、NO、NO、NO及びNHの濃度(ppm)のプロットを示す。
図4図4は、実験1の過程でのNOのNO、N、及びNOへの変換に対する、誘導コイル70に供給される電力の棒グラフを示す。
図5図5は、実験1の過程での電力(アンペア)に対する、NO及びNO濃度(ppm)のプロットを示す。
図6図6は、実験2の過程でのNOのNO、N、及びNOへの変換に対する、誘導コイル70に供給される電力の棒グラフを示す。
図7図7は、実験2の過程での電力(アンペア)に対する、NO及びNO濃度(ppm)のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1は、触媒物品5を備える排気ガス処理システム1を示している。内燃機関10は、触媒物品5とガス連通している。触媒物品1は更に、排気ガス処理システム1の残部15とガス連通しており、排気ガス処理システム1は、少なくとも周囲への出口を含むが、他の触媒物品も含むことができる。触媒物品5は、内燃機関10の下流、及び排気ガス処理システム1の残部15の上流に配置されている。上流とは、使用時に、エンジンから出る排気ガスの流れに対して、触媒物品5がエンジンマニホールドに近いことを意味する。同様に、触媒物品5は基材20を有し、これは使用時に、エンジンマニホールドにより近いため「上流」の端部を有する。これは、機関10を出る排気ガスが、基材20の上流端25とまず接触することを意味する。基材20の下流端30は、排気ガスが触媒物品5を出て、排気ガス処理システム1の残部15を通って進行する場所である。
【0049】
触媒物品5の基材20は、コーディエライト製のモノリシックハニカムフロースルーフィルタである。基材20は、概して上流端25及び下流端30を有する略円筒形状を有する。基材20は、上流端25から下流端30まで延びる壁40によって内部に形成された複数のチャネル35を有する。チャネル35は、ガスがそこを通じて上流端25から下流端30へ流れることを可能にするように構成されている。壁40はそれぞれ、そこを通じて流れる排気ガスに接触するための表面を有する。
【0050】
複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子45(本明細書では複数の粒子45と称される)は、触媒物品5の第1の領域50における壁40にウォッシュコートとして適用される。触媒物品5の第1の領域50は、基材20の上流端25から延びている。複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子は、SCR活性、ASC活性、DOC活性、尿素加水分解活性、発熱活性、又はTWC活性を有し得る。
【0051】
複数の粒子45と同じ種類の活性を有する更なる触媒活性組成物55が、触媒物品5の第2の領域60における壁40にウォッシュコートとして適用される。触媒物品5の第2の領域60は、下流端30から延びている。第2の領域60は、第1の領域50に重ならないように示されているが、第2の領域60は、第1の領域と重なるように配置され得る。第1の領域50は、第2の領域60よりも長さが短いものとして示されている。第1の領域50は、第2の領域60と同じ長さであってもよい。第1の領域50は、第2の領域60より長くてもよい。
【0052】
排気ガス処理システム1は、触媒物品5の少なくとも第1の領域を囲む誘導コイル70を更に備える。誘導コイル70は、誘導コイル70に交流電流を供給することができる電源(図示せず)に電気的に接続されている。
【0053】
使用時には、コールドスタート時に、電源から誘導コイル70に交流電流が印加され、それによって、触媒物品5の第1の領域に交流磁界を発生させる。交流磁界により、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子45が誘導加熱される。この加熱により、複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子45が、コールドスタート時にその動作温度に到達することを可能にする。用語「動作温度」とは、粒子が触媒活性に寄与する温度を指す。
【0054】
燃焼機関10からの低温排気ガスは、機関10から触媒物品5へと通過する。次いで、排気ガスは、触媒物品5の第1の領域50に提供される誘導加熱された複数の粒子45と接触する。複数の粒子45がその動作温度まで誘導加熱されているため、複数の粒子45は、エンジンから受け取った低温の排気ガスを処理することができる。
【0055】
次いで、高温の排気ガスは、触媒物品5の第2の領域60に提供される更なる触媒活性組成物55と接触する。更なる触媒活性組成物55は、電磁界によって誘導加熱されない。しかし、複数の粒子45から更なる触媒活性組成物55への熱伝導によって、及び高温の排気ガスによって、更なる組成物は加熱され得る。したがって、複数の粒子45は、更なる触媒活性組成物の加熱を加速して、その動作温度に到達し得、その結果、更なる触媒活性組成物55は、エンジンのコールドスタートに続いて排気ガスをより迅速に処理することができる。
【0056】
次いで、排気ガスは、触媒物品5を出て、排気ガス処理システム1の残部15に入り、その内部で任意選択による更なる処理が行われる。
【0057】
触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子45の性能を、図2に示す装置75を用いて試験した。試験の結果を以下に説明する。装置75は、その内部に石英で形成された管80を有する密閉筐体(図示せず)を備える。管80は、入口85及び出口87を有する。管80の入口85は、管80の上流で、密閉筐体の外側に位置する排気ガス供給部90とガス連通している。管80の出口87は、管の下流で、密閉筐体の外側に位置するフーリエ変換赤外(FTIR)分光器100とガス連通している。管80は、その内部に複数の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子45と、複数の粒子45を固定化するように構成された石英ウール110とを含む。装置は、複数の粒子45を収容する管80の少なくとも一部を囲む誘導コイル70を備える。誘導コイル70には、電源(図示せず)が電気的に接続されている。電源は、誘導コイル70に交流電流を供給することができる。誘導コイル70は水冷されており、その温度が、後述する管80内の複数の粒子45の温度の測定に影響を及ぼさないようにしている。
【0058】
図3は、実験1の過程での時間(秒)に対する、NO、NO、NO及びNHの濃度(ppm)のプロットを示す。NO及びNOの濃度(ppm)は、左軸のy軸上に示される。NO及びNHの濃度(ppm)は、右側のy軸上に示される。時間(秒)は、x軸上に示される。時間65~75秒では、図3に示される線の相対的なピークの高さは、最も高いピークがNO濃度、2番目に高いピークがNH濃度、3番目に高いピークがNO濃度、最も低いピークがNO濃度である。
【0059】
図4は、実験1の過程でのNOのNO、N、及びNOへの変換に対する、誘導コイル70に供給される電力の棒グラフを示す。NO、NO及びNのパーセンテージが、y軸に示される。電力(アンペア)が、x軸上に示される。各バーの上部は、Nのパーセンテージを表す。各バーの底部は、NOのパーセンテージを表す。各バーの中央部は、NOのパーセンテージを表す。
【0060】
図5は、実験1の過程での電力(アンペア)に対する、NO及びNO濃度(ppm)のプロットを示す。NO及びNOの濃度が、y軸上に示される。電力(アンペア)が、x軸上に示される。400アンペアにおける2本の線の下側は、NOの濃度を表し、もう1本の線はNOの濃度を表す。
【0061】
図6は、実験2の過程でのNOのNO、N、及びNOへの変換に対する、誘導コイル70に供給される電力の棒グラフを示す。NO、NO及びNのパーセンテージが、y軸に示される。電力(アンペア)が、x軸上に示される。各バーの上部は、Nのパーセンテージを表す。各バーの底部は、NOのパーセンテージを表す。各バーの中央部は、NOのパーセンテージを表す。
【0062】
図7は、実験2の過程での電力(アンペア)に対する、NO及びNO濃度(ppm)のプロットを示す。NO及びNOの濃度が、y軸上に示される。電力(アンペア)が、x軸上に示される。150アンペアにおける2本の線の下側は、NOの濃度を表し、もう1本の線はNOの濃度を表す。
【実施例
【0063】
これから、以下の非限定的な実施例に関連して、本発明を説明する。
【0064】
上述した図2の装置を用いて、内燃機関からの排気ガスを処理する際の性能について、2種類の触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子を試験した。実験1は、MnFeで形成された触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子を用いて行った。実験2は、CuFeで形成された触媒活性遷移金属ドープ酸化鉄磁性粒子を用いて行った。各実験の手順を以下に示す。
【0065】
実験方法
各実験では、複数の粒子45を管80の内側に配置し、石英ウール110で固定した。排気ガス供給部90からの室温(約25℃)の排気ガスは、入口85を介して管80に流入し、複数の粒子45と接触して、出口87を介して管80から流出し、分析用のMKS MultiGas(商標)2030FTIR分光器100に流入する。シミュレートされた部分ディーゼル排気ガス供給部90は、400ppmのNO、400ppmのNH、5%のCO、10%のO、及び残部Nで構成されているHiden Analytical Catlab製の機器であった。各実験中に管80を通るガスの流量は、約1L/分であった。交流電流は、長さ1.5インチ×直径1.5インチのマルチターン螺旋コイルを備えたAmbrell EasyHeat(登録商標)0224機器によって供給された。
【0066】
管80を通るガス流が安定したら、電源をオンにし、電源によって誘導コイル70に交流電流を印加した。交流電流により、複数の粒子45を内部に有する管80の領域に交流磁界を発生させた。誘導コイル70に交流電流を5分間印加した。交流磁界により、管80内の複数の粒子45を誘導加熱した。この加熱により、複数の粒子45がその動作温度に到達することが可能になる。
【0067】
管80を通って流れる排気ガスを、誘導加熱された複数の粒子45と接触させる。次いで、排気ガスは、出口87を介して管80を出て、分析用のFTIR分光器100に入る。FTIR分光器100によって得られたスペクトルを使用して、実験の過程での排気ガスの成分の濃度を求めた。
【0068】
実験1
上述のように、実験1は、管80内の複数の粒子がMnFeで形成されている状態で、上記手順を用いて行われた。管80を通る排気ガスの流れを、時間0秒で開始し、誘導コイル70への交流電流の供給を、時間65秒で開始し、誘導コイル70への交流電流の供給を、時間365秒で停止した。
【0069】
実験の過程でのMnFeの粒子の温度を測定するために、交流電流を誘導コイルに120秒間印加した後(すなわち、時間185秒)に、密閉筐体を開放し、密閉筐体内にIR熱画像カメラを配置した。MnFe粒子の測定温度は200℃であり、それによってMnFe粒子が誘導加熱可能であることが確認された。熱画像カメラを挿入するために筐体を開く際に一定の熱損失が生じ得るため、時間185秒のMnFe粒子の温度は、200℃を超える可能性があることに留意されたい。それにもかかわらず、この温度測定は、MnFe粒子が誘導加熱可能であることを示している。
【0070】
図3は、MnFeで形成された管80内の複数の粒子45(本明細書ではMnFe粒子と称される)で実施される実験の過程でFTIR100によって得られたデータを含み、誘導コイル70に供給される電力は、0~400アンペア(0~2400ワット)である。図3は、実験の過程での時間(秒)に対する、NO、NO、NO及びNHの濃度(ppm)のグラフである。
【0071】
図3から分かるように、時間65秒で誘導加熱を開始すると、NO及びNHの濃度が急上昇している。この観察結果に関しては、複数の粒子を誘導加熱する前に管80に排気ガスを流し始めると、複数の粒子45の表面にNO及びNHが吸着する、との1つの説明がなされている。時間65秒での急上昇は、誘導加熱の開始時に粒子45の表面からのNO及びNHが脱着した結果であると考えられる。複数の粒子45を誘導加熱する前に管80に排気ガスを流し始めると、窒化アンモニウム及び硝酸アンモニウムが形成され、複数の粒子45の表面に吸着する、との別の説明もなされている。誘導加熱を開始すると、窒化アンモニウム及び硝酸アンモニウムの分解により、NOが生成される。これらの説明のどれがより妥当であるかを判断する方法は、適切な分析技術を用いて、誘導加熱がない状態で排気ガスに曝された後の複数の粒子45の特性を調べることである。複数の粒子45への、NO若しくはNHの吸着を回避する方法、又は窒化アンモニウム若しくは硝酸アンモニウムの生成及び吸着を回避する方法は、実験装置にバイパスガス流を導入することである。バイパスガス流は、独立して、排気ガス供給が複数の粒子45に接触する前に、複数の粒子45を誘導加熱し、排気ガス供給を安定させることを可能にする。
【0072】
図3のこの急上昇は、加熱前にNO及びNHに事前に曝されることがないため、エンジンでは見られないと予想される。時間95秒で、NO及びNHの濃度は0ppmに低下した。したがって、MnFe粒子が誘導加熱された30秒間で、複数の粒子45によってNO及びNHの100%変換が行われた。30秒という時間には、NO及びNHの脱着が行われる時間も含まれることに留意されたい。このような脱着がない場合、NO及びNHが100%完全に変換されるまでの時間は、約20秒となり得る。誘導加熱を時間365秒で停止したところ、MnFe粒子による変換が行われず、NOの濃度が上昇した。それに伴い、NO生成量及びNO生成量もこの時点で減少した。
【0073】
要約すると、図3は、時間185秒での温度測定と共に、MnFeの粒子が、誘導加熱可能で動作温度に到達し、誘導加熱されたときにSCR活性を有することを示している。
【0074】
図4は、1回目の実験の過程でのNOのNO、N及びNOへの変換に対する、誘導コイル70に供給される電力のグラフである。図4から、誘導コイル70に供給される電力が50アンペアに達すると、MnFeの粒子はSCR触媒活性を有することが分かる。したがって、MnFe粒子が十分に誘導加熱されて、その動作温度に達すると、MnFe粒子によるNOの変換が起こることが分かる。MnFe粒子の触媒活性は、誘導コイル70への電力供給の増加に伴って増加する。したがって、MnFe粒子の温度が上昇するにつれて、MnFe粒子の触媒活性が高くなる。NOのNO、N、及びNOへの変換率は95%に達し、電力供給が100アンペアに達するとその値で安定する。
【0075】
要約すると、図4は、MnFeの粒子が、誘導加熱されるとSCR触媒活性を有することを示している。誘導コイル70に供給される電力が100アンペアに達すると、MnFe粒子の触媒活性は最大になる。
【0076】
図4のNO及びNO生成データは、図5の線グラフとして示されている。図4及び図5の両方から、排気ガスの反応の選択性は、誘導コイル70に供給される電力の増加(したがって、誘導加熱されたMnFe粒子の温度の上昇)とともに変化することが分かる。電力供給が75アンペアに達すると、NOの生成が始まる。誘導コイル70に供給される電力を100アンペアから125アンペアに増加させると、NOの生成量が急激に増加する。誘導コイル70に供給される電力を増加させると、複数の粒子45が到達する温度が上昇し、触媒活性が高まると考えられる。誘導コイル70に供給される電力が150アンペアに達すると、NOの生成量が最大になり、安定する。NOの生成は、誘導コイル70に供給される電力が50アンペアに達すると始まり、約300アンペアに達すると安定する。したがって、排気ガスの反応の選択性は、MnFe粒子の温度に依存する。
【0077】
実験2
上述したように、実験2は、管80内の複数の粒子45がCuFe(本明細書ではCuFe粒子と称される)で形成されたことを除いて、実験1と同じ手順を用いて行われた。
【0078】
図6は、2回目の実験の過程で、NOのNO、N、NOへの変換に対する誘導コイル70に供給される電力のグラフである。図6から、誘導コイル70に供給される電力が75アンペアに達すると、CuFeの粒子がSCR触媒活性を有することが分かる。したがって、図6は、CuFe粒子が十分に誘導加熱されて、その動作温度に達すると、CuFe粒子によるNOの変換が起こることを示している。NOのNO、N、NOへの変換率は最大で72%に達し、電力供給が100アンペアに達するとその値で安定する。要約すると、図6は、誘導コイル70に少なくとも75アンペアの電力を供給することによって誘導加熱されると、CuFeの粒子が触媒活性を有することを示している。CuFe粒子は、MnFe粒子と比較して活性が低下していることに留意されたい。それでもなお、活性が実証された。
【0079】
図6のNO及びNO生成データは、図7の線グラフとして示されている。図6及び図7に示すように、誘導コイル70に供給される電力の増加に伴って、排気ガスの反応の選択性が変化する。誘導コイル70に供給される電力を75アンペアから増加させると、NOの生成割合が大幅に増加する。誘誘導コイル70に供給される電力が125アンペアに達すると、NOの生成割合が安定する。したがって、CuFe粒子の温度が高いほど、NOが生成割合が高くなる。誘導コイルに供給される電力が75アンペアに達すると、NOの生成が始まる。誘導コイルに供給される電力が75アンペアを超えても、NOの生成量は安定している。
【0080】
本発明の好ましい実施形態について本明細書で詳細に説明してきたが、本発明の範囲又は添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、変形がなされ得ることが当業者には理解されるであろう。
【0081】
いずれの疑義も回避するために、本明細書に引用される全ての文書及び全ての文書の内容全体が、参照により本出願に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】